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特表2024-501205尿中のトレハラーゼを測定するための溶液及びその溶液を使用した測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】尿中のトレハラーゼを測定するための溶液及びその溶液を使用した測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/34 20060101AFI20231228BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20231228BHJP
   C13K 13/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C12Q1/34
G01N33/493 A
C13K13/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536098
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 TR2021051187
(87)【国際公開番号】W WO2022146320
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】2020/22438
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523217178
【氏名又は名称】アーゲロン メディカル アラスティルマ サナイ ヴェ ティカレット アノニム シルケティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビディ、ブレント
(72)【発明者】
【氏名】オルグン、アブドラー
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB03
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ35
4B063QR43
4B063QR57
4B063QS28
(57)【要約】
尿中のトレハラーゼを測定するための溶液及びその溶液を使用した測定方法本発明は、腎臓の損傷のマーカーとして尿中トレハラーゼ酵素活性を測定するための、インビトロでの診断(生化学的医療診断)という分野での尿糖測定キットと共に使用するためのトレハロース溶液、及び溶液が使用される測定方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生化学的診断分野での、尿中トレハラーゼ酵素活性を測定するための尿糖測定キットと共に使用するためのトレハロース溶液。
【請求項2】
0.2~68.9g/dLの濃度でトレハロースを含む、請求項1に記載のトレハロース溶液。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のトレハロース溶液を含む尿中トレハラーゼ測定キット。
【請求項4】
尿中のトレハラーゼ酵素を測定するための方法であって、
a)トレハロース溶液及び尿サンプルを混合する段階、
b)予め定められた温度及び持続時間で混合物をインキュベートする段階、
c)選択された尿を用いた、グルコース測定キットによる混合物中のグルコースの測定段階、
d)前の各段階の等価の状態での脱イオン水添加の尿混合物におけるグルコースの測定段階、及び
e)2回のグルコース測定間の結果の相違の評価段階
という処理段階を備える、方法。
【請求項5】
40g/dLの濃度でトレハロースを含む、処理段階「a」の前記トレハロース溶液を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
処理段階「a」において、1単位体積のトレハロース溶液が、尿39単位体積と混合される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
処理段階「d」において、1単位体積の脱イオン水が、尿39単位体積と混合される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
処理段階「e」において、トレハロース溶液及び脱イオン水が混合され、2つの異なる尿糖測定値間の相違がトレハラーゼ活性として算出される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
処理段階「e」において、トレハラーゼ酵素により形成されるグルコース濃度から、トレハロース活性の結果がU/Lとして算出される、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
処理段階「e」において、1分あたり1μmolのトレハロースから2μmolのグルコースを生成するトレハラーゼ活性が、1単位(U)と推定される、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓の損傷を表すものとして尿中トレハラーゼ酵素活性を測定するための、インビトロでの診断(生化学的医療診断)という分野での尿糖測定キットと共に使用するためのトレハロース溶液、及びその溶液が使用される測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トレハラーゼは、分子量75kDaの糖タンパク質構造酵素であり、腎近位尿細管及び腸に存在している。尿中トレハラーゼ測定は、腎近位尿細管で生じた損傷のスクリーニング、診断及びモニタリングのために使用できる(1、2)。たとえタンパク尿及び糖尿が糖尿病の早期の段階から陰性であったときでもトレハラーゼ活性は対照群よりも高く、また、糖尿病の後期で、活性は近位尿細管の刷子縁の消失のために低下するということが報告されている(3)。それは、何らかの環境的な毒素に起因する早期の腎臓の損傷を示すことができる。トレハラーゼ活性が鉛を溶かす労働者の対照群と比較して増大しており、血中鉛濃度及び尿中トレハラーゼ活性の間には正の線形関係があったことが示された。また、環境的にカドミウムに暴露した場合において、活性の同様な増大が認められた(4~6)。乳幼児にアンピシリン及びトブラマイシン抗生物質を使用することが、尿中トレハラーゼ活性を増大させたことが報告された(7)。慢性糸球体疾患、特にネフローゼ症候群において、尿中トレハラーゼ活性の増大が認められた(8)
【0003】
現在、尿中のトレハラーゼを測定するために使用される様々な方法が存在している。それらの方法は、2つの主要な群、すなわちトレハラーゼ酵素活性を測定するもの(比色分析的)、及び質量測定をするもの(免疫化学的)に分けられる。しかしながら、定型の診断検査室で一般的に使用されるキットとして開発された例はない。そのため、特に、早期の速く広範囲で安価な、腎臓の損傷の診断を実現する方法が必要とされている。
【0004】
結果として、上に記載された欠点、及び存在している解決策が不充分であることに起因して、関連技術の発展がなされることが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、上で言及した必要性を満たし、全欠点を除去し、何らかの追加の利点を提供する、尿中トレハラーゼ測定に関する。
【0006】
本発明の主要な目的は、尿中トレハラーゼ活性測定をするための尿糖の測定のために既に使用されているキットの使用もまた実現し、それにより、トレハラーゼの測定に対する必要性を極めて速くまた広く満たすようにすることである。なぜなら、尿中トレハラーゼ測定と対照的に、尿糖測定は、全世界でほぼすべての医療診断研究所でなされている定型的な測定だからである。本発明はまた、尿中トレハラーゼ活性測定をするための広く使用されている尿糖測定を使用することを可能にする。この目的のため使用されている他の生成物は存在していない。
【0007】
上で言及した目的を達成させるために、本発明は、生化学的診断分野での、尿中トレハラーゼ酵素活性を測定するための尿糖測定キットと共に使用するためのトレハロース溶液である。本発明の好ましい適用において、前記溶液は、0.2~68.0g/dLという濃度の範囲、好ましくは40g/dLでトレハロースを含む。本発明はまた、前記溶液を含む尿中トレハラーゼ測定キットを含む。
【0008】
上で言及した目的を達成するため、本発明は、尿中トレハラーゼ酵素測定方法であり、前記溶液が使用され、下記の処理段階:
a)トレハロース溶液及び尿サンプルを混合する段階、
b)予め定められた温度及び持続時間で混合物をインキュベートする段階、
c)選択された尿を使用した、グルコース測定キットによる混合物中のグルコースの測定段階、
d)前の段階の等価の状態での脱イオン水添加の尿混合物におけるグルコースの測定段階、及び
e)2つのグルコース測定の結果の間にある相違の評価段階
を含む。
【0009】
本発明の適用によると、処理段階「a」の前記トレハロース溶液は、0.2~68.9g/dLという濃度の範囲、好ましくは40g/dLでトレハロースを含む。
【0010】
本発明の適用によると、処理段階「a」の1単位体積のトレハロース溶液が、尿39単位体積と混合される。
【0011】
本発明の適用によると、処理段階「d」の1単位体積の脱イオン水が、尿39単位体積と混合される。
【0012】
本発明の適用によると、処理段階「e」で、トレハロース溶液及び脱イオン水が混合され、これら2つの異なる尿糖測定値間の相違がトレハラーゼ活性として算出される。
【0013】
本発明の適用によると、処理段階「e」で、トレハラーゼ酵素により形成されるグルコースの濃度から、トレハロース活性の結果がU/Lとして算出される。
【0014】
本発明の適用によると、処理段階「e」で、1分あたり1μmolのトレハロースから2μmolのグルコースを生成するトレハラーゼ活性が、単位(U)と推定される。
【0015】
本発明の構造的及び特徴的な特色及びすべての利点は、以降で得られる詳細な説明においてより良く理解され、そのため、図面及び詳細な説明を考慮に入れ評価がなされるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この詳細な説明において、本発明及び本発明の好ましい適用が、事項をより良く理解するという目的で、いかなる制限的効果も形成しない様式で記載されている。
【0017】
本発明は、生化学的診断分野での、尿中トレハラーゼ酵素活性を測定するための尿糖測定キットと共に使用するためのトレハロース溶液である。
【0018】
本発明のトレハロース溶液はまた、尿中トレハラーゼ活性測定のため全世界の医療診断研究所で定型的に尿糖測定のため使用されるキットの使用を実現する。
【0019】
本発明の溶液に含まれているトレハロースは尿に加えられる。これは尿中のトレハラーゼ酵素によりグルコースに変換される。
【0020】
尿中のグルコースを定型的に測定するために使用されるキットはまた、本発明の溶液又は脱イオン水を加えられている尿中のグルコースを測定できる。加えられた溶液及び脱イオン水での2つの異なる測定値の間にある相違が、トレハラーゼ活性を示す。
【0021】
本発明で使用されている尿糖測定キットはまた、尿分析反応性ディップスティックを含む。これは、本発明のトレハロース溶液で処置される尿において形成されたグルコースを測定する。医療診断研究所で定型的に使用されているあらゆる種類の市販キットが、本発明の溶液により尿中のグルコースを測定するために使用できる。
【0022】
本発明の溶液により実行される尿中のトレハラーゼ酵素を測定するための方法は、最も基本的な形態で以下の処理段階を含む。
-トレハロース溶液及び尿サンプルを混合する段階、
-予め定められた温度及び持続時間で混合物をインキュベートする段階、
-選択された尿を用いた、グルコース測定キットによる混合物中のグルコースの測定段階、
-前の段階の等価の状態での脱イオン水添加の尿混合物におけるグルコースの測定段階、及び
-2つの測定値の間にあるグルコースの結果の相違の評価段階。
【0023】
本発明のトレハロース溶液は、トレハラーゼ活性に影響を与えない様式で、脱イオン水又は別の溶液に溶解させた、0.2~68.9g/dLという濃度の範囲、好ましくは40g/dLのトレハロースを含む。この溶液の1単位体積は、39単位体積の尿と混合される。本発明の他の適用において、トレハロース溶液が40g/dLとは異なる濃度でトレハロースを含む場合、溶液及び尿の体積は、好ましくは0.1~5g/dLの範囲において1g/dLの最終的な濃度で、トレハロースを含むように変更される。それは、適切な温度で適切な時間保管される。溶液のトレハロースは、尿中のトレハラーゼ酵素によりグルコースに変換される。尿中のトレハラーゼ濃度が高ければ高いほど、グルコースがより多く生成される。
【0024】
尿中のグルコースを定型的に測定するために使用されるキットはまた、本発明の溶液を加えられている尿中のグルコースを測定できる。
【0025】
同じ測定がまた、溶液の代わりに、同じ体積の尿に加えられ、同じ条件(時間及び温度)でインキュベートされた脱イオン水を使用することによりなされた。この測定の結果は、空であるものと想定される。
【0026】
加えられた溶液及び脱イオン水による2つの異なる尿中グルコース測定の間にある相違が、トレハラーゼ活性を示す。
【0027】
トレハラーゼ酵素により形成されるグルコース濃度から、トレハロース活性の結果がU/Lで算出される。算出する際、溶液が尿によりインキュベートされている期間、希釈係数及び最終的なインキュベーションの量がまた考慮に入れられる。1分あたり1μmolのトレハロースから2μmolのグルコースを生成するトレハラーゼ活性が、1単位(U)と推定される。
【0028】
尿のトレハラーゼ活性測定の実施例1:
【0029】
尿サンプルの収集:
【0030】
患者からランダムな中間尿を収集した。尿サンプルは濁っているべきではない。尿サンプルは清潔で乾いたチューブに入れられた。代替的な適用では、サンプルは即座に分析されたわけではなく、閉じたチューブにおいて、2時間、+4℃で、48時間、-20℃で保管され得る。
【0031】
尿及び40%のトレハロース溶液の混合物及びインキュベーション:
【0032】
患者から取得された975μLの尿及び25μLの40%のトレハロース溶液がサンプルのチューブに入れられた。
患者から取得された975μLの尿及び25μLの脱イオン水がサンプルの空のチューブに入れられた。チューブは37℃で30分インキュベートされた。
【0033】
代替的な適用では、トレハロース溶液が異なる濃度である場合に、使用された尿及び溶液の体積は、適宜変更され得る。インキュベーションの期間及び温度は、実験室の条件に影響されて異なり得る。
【0034】
トレハラーゼ活性測定:
【0035】
測定原理は、トレハラーゼ酵素により尿中のトレハロースをグルコースに変換することにより形成されるグルコースの測定に基づく。
【0036】
尿中グルコースはキットの説明書に従って、比色分析方法により、Abbot Architect C8000(米国)デバイスで、ARCHITECTブランドのグルコースキット(参照番号:3L82、ドイツ)によって、測定された。
【0037】
グルコースは、トレハロース溶液添加の尿、及び脱イオン水添加の尿サンプルにおいて、別個に測定され、相違はトレハラーゼ活性として受け入れられた。
【0038】
尿糖測定実験の原理:
【0039】
グルコースは、アデノシン三リン酸(ATP)及びマグネシウムイオンのヘキソキナーゼの存在によってリン酸化され;グルコース-6-リン酸(G-6-P)及びアデノシン二リン酸(ADP)が発生する。グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ(G-6-PDH)はG-6-Pをホスホグルコン酸に酸化するが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)に変換される。1つのNADHが、各消費されたグルコース分子につき生成される。生成されたNADHは、340nmで光を吸収し、吸光度が増大すると分光測光で検出される。方法は線形で、最大<800mg/dL(44mmol/L)である。
【0040】
尿中トレハラーゼ活性の算出:
【0041】
トレハロース溶液添加の尿、及び脱イオン水添加の尿サンプルでの別個のグルコース測定後、後続の結果が得られた:
【0042】
トレハロース溶液添加の尿のグルコース濃度:115mg/dL
脱イオン水添加の尿のグルコース濃度:7mg/dL
相違=115mg/dL-7mg/dL=108mg/dL=1080mg/L=6mM=6000μM(注記:グルコースの分子量は180g/mol)1分あたり1μmolのトレハロースから2μmolのグルコースを生成するトレハラーゼ活性が、単位(U)と推定される。実験のインキュベーションの時間が30分であるため、1分で生成されたグルコースは:
【0043】
6000μM/30分=200μM/分/2=100U/Lトレハロース溶液は、測定前に39単位体積の尿に1単位体積加えられるので、その結果に「40÷39=1.025」を乗算して、希釈係数を訂正する:
尿中トレハラーゼ活性:100U/L×1.025尿中トレハラーゼ活性]:102.5U/L
参考文献1.Ishihara R, Taketani S, Sasai-Takedatsu M, Adachi Y, Kino M, Furuya A, et al. ELISA for urinary trehalase with monoclonal antibodies: A technique for assessment of tubular damage. Clin Chem. 2000;2.M. S-T, S. T, N. N, T. F, R. T, T. K. Human trehalase: Characterization, localization, and its increase in urine by renal proximal tubular damage. Nephron. 1996.3.NAKANO M, IGUCHI A, KURIMOTO H, SAKAMOTO N. Elevation of Urinary Trehalase and Maltase Activities with Maturity-Onset Diabetes Mellitus. J Clin Biochem Nutr. 2011;4.Skoczynska A, Martynowicz H, Poreba R, Antonowicz-Juchniewicz J, Sieradzki A, Andrzejak R. Urinary trehalase activity as an indicator of renal dysfunction in lead smelters. Med Pr. 2001;5.Nakano M, Aoshima K, Katoh T, Teranishi H, Kasuya M. Urinary trehalase activity and renal brush-border damage in inhabitants of a cadmium-polluted area(Jinzu River basin). Toxicol Lett. 1986;6.Iwata K, Katoh T, Morikawa Y, Aoshima K, Nishijo M, Teranishi H, et al. Urinary trehalase activity as an indicator of kidney injury due to environmental cadmium exposure. Arch Toxicol. 1988;7.Sasai-Takedatsu M, Kojima T, Taketani S, Ono A, Kitamura N, Kobayashi Y. Urinary Trehalase Activity Is a Useful Marker of Renal Proximal Tubular Damage in Newborn Infants. Nephron. 1995;8.Niwa T, Katsuzak T, Yazawa T, Tatemichi N, Emoto Y, Miyazaki T, et al. Urinary Trehalase Activity in Chronic Glomerulonephritis. Nephron. 1993;
【国際調査報告】