(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】非晶質固体分散体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/503 20060101AFI20231228BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231228BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20231228BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20231228BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231228BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231228BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20231228BHJP
A61P 31/16 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
A61K31/503
A61K47/32
A61K9/72
A61K9/48
A61K9/20
A61K9/14
A61K9/10
A61P31/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536977
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 CN2021142759
(87)【国際公開番号】W WO2022143844
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522084935
【氏名又は名称】太景生物科技股分有限公司
【氏名又は名称原語表記】TAIGEN BIOTECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7F, 138, Shin Ming Road, Neihu District, Taipei City, 11470 Taiwan
(71)【出願人】
【識別番号】522464230
【氏名又は名称】太景医薬研発北京有限公司
【氏名又は名称原語表記】TAIGEN BIOPHARMACEUTICALS CO. (BEIJING), LTD.
【住所又は居所原語表記】Suite 2312, A Tower, Full Link Building, No.18, Chaoyangmenwaidajie, Chaoyang Dist. Beijing, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】嚴 啓峰
(72)【発明者】
【氏名】田 芳維
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA29
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA93
4C076BB01
4C076CC35
4C076EE07
4C076EE11
4C076EE12
4C076EE13
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE32
4C076EE33
4C076EE48
4C076FF04
4C076FF05
4C076FF06
4C076FF09
4C076FF33
4C076FF37
4C076FF43
4C076FF51
4C076FF52
4C076FF53
4C076FF57
4C086AA01
4C086AA10
4C086CB09
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA23
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA56
4C086NA02
4C086ZB33
(57)【要約】
本開示は、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩は、薬学的に許容されるポリマーから形成されるマトリックス中に分散される、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤またはその薬学的に許容される塩を含有する経口投与用の非晶質固体分散体を提供する。さらに開示されるのは、上記非晶質固体分散体を調製するための方法、およびウイルス感染を治療するためのその使治療上有効量
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中
Gは、水素原子、又はプロドラッグ基であり、
R
1は、ハロゲン、重水素、又はC
1-
4のアルキル基であり、
mは、1~9の整数であり、
アスタリスク(*)は、キラル中心を示す]
で示される化合物又はその薬学的に受容可能な塩と、薬学的に受容可能なポリマーとを含む非晶質固体分散体。
【請求項2】
前記薬学的に受容可能なポリマーが、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステル(HPMCP)、ポリエチレングリコール(PEG)、又はKollidon SRであることを特徴とする請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項3】
前記薬学的に受容可能なポリマーが、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)であることを特徴とする請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項4】
前記薬学的に受容可能なポリマーが、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、HPC-SSL、HPMCAS-MG、又はHPMCAS-HGであることを特徴とする請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項5】
前記式(I)において、
化学式
【化2】
により示された環状構造の部分が、以下の構造式:
【化3】
のいずれか一つにより示された環状構造であり、
Gが水素原子、又は-C(R
2R
2’)-O-C(=O)-O-R
3であって、
ここで、
R
2とR
2’は、それぞれ独立して水素原子又はC
1-4のアルキル基であり、
R
3は、C
1-4のアルキル基である
請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項6】
前記化合物が、[1-((11S)-7,8-ジフルオロ(6H,11H-ジベンゾ[c,f]チエピン-11-イル))-4,6-ジオキソスピロ[1,2,3,9-テトラヒドロピリジノ[1,2-e]ピリダジン-3,1’-シクロプロパン]-5-イルオキシ]メチルメトキシホルマート、又は1’-((11S)-7,8-ジフルオロ-6,11-ジヒドロジベンゾ[b,e]チエピン-11-イル)-1’,2’-ジヒドロ-5’-ヒドロキシ-スピロ[シクロプロパン-1,3’-(3H)ピリド[1,2-b]ピリダジン-4’,6’-ジオンであることを特徴とする請求項5に記載の非晶質固体分散体。
【請求項7】
前記薬学的に受容可能なポリマーが、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)であることを特徴とする請求項6に記載の非晶質固体分散体。
【請求項8】
前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩と、前記薬学的に受容可能なポリマーとの重量比は、約1:1から約1:5の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項9】
前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩と、前記薬学的に受容可能なポリマーとの重量比は、約1:1から約1:3の範囲内にあることを特徴とする請求項8に記載の非晶質固体分散体。
【請求項10】
前記薬学的に受容可能なポリマーが、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)であることを特徴とする請求項8に記載の非晶質固体分散体。
【請求項11】
前記非晶質固体分散体において、前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩の重量パーセントは、10wt%~60wt%であることを特徴とする請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項12】
前記非晶質固体分散体において、前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩の重量パーセントは、15wt%~50wt%であることを特徴とする請求項11に記載の非晶質固体分散体。
【請求項13】
前記薬学的に受容可能なポリマーが、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)であることを特徴とする請求項11に記載の非晶質固体分散体。
【請求項14】
請求項1に記載の非晶質固体分散体と、1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項15】
前記薬学的に受容可能なポリマーが、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステル(HPMCP)、ポリエチレングリコール(PEG)、又はKollidon SRであることを特徴とする請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩と、前記薬学的に受容可能なポリマーとの重量比は、約1:1から約1:5の範囲内にあることを特徴とする請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
カプセル、錠剤、粉末剤、丸薬、懸濁液、顆粒、又は吸入剤の形態であることを特徴とする請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記薬学的に受容可能な賦形剤は、バインダー、滑剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、酸化防止剤、希釈剤、界面活性剤、崩壊剤、潤滑剤、充填剤、湿潤剤、甘味料、着色剤、香料、又はそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は抗インフルエンザ化合物を含む非晶質固体分散体(amorphous solid dispersion、ASD)とその製造方法に関する。また、本開示は前記非晶質固体分散体を含む医薬組成物とそのインフルエンザウイルス感染の治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスにとって、キャップ依存性エンドヌクレアーゼはメッセンジャーRNA(mRNA)の合成において必要不可欠な酵素である。ウイルスキャップ依存性エンドヌクレアーゼに対する阻害剤は、A型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスとの両方に対して有効であることが知られている。幾つかの化合物は、インフルエンザウイルスに対して、キャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を阻害することにより抗ウイルス活性の効能を示している。国際公開公報WO2019/144089は、新規複素環式化合物のキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤としての効能を初めて開示した。しかしながら、これら複素環式化合物の主な欠点の一つとして、水溶解度が低いことが挙げられる。この難水溶性のため、複素環式化合物は経口投与可能な薬剤としての開発が課題である。経口投与は、製造コストが一般的に低いこと、患者や介護者に好まれていること、そして服薬遵守率が全体的に高いことから、未だに最も望ましい投薬形態である。そのため、新しい原薬について、経口製剤としての適切な剤形を開発の過程において見付けることが重要である。本開示は、国際公開公報WO2019/144089に開示の複素環式化合物の固体経口製剤の開発に関する。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、経口投与のために、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤若しくはその薬学的に受容可能な塩、又はそのプロドラッグを含む非晶質固体分散体を提供する。一つの側面においては、それらを作製するための方法も提供する。
【0004】
他の側面において、本開示は、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤若しくはその薬学的に受容可能な塩、又はそのプロドラッグの非晶質固体分散体を含む経口医薬組成物を提供する。
【0005】
更に他の側面において、本開示は、ウイルス感染症/疾患(例えばインフルエンザ)を治療又は予防するための方法を提供する。前記方法は、治療上有効量の非晶質固体分散体又は経口医薬組成物を、それを必要とする対象者に投与する工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書における開示の理解を容易にするために、幾つかの文言を以下に定義する。
【0007】
一般的には、本明細書において採用された命名法、及び、有機化学、医薬品化学と薬理学に関する実験方法は、当該分野において一般的に知られ、採用されるものである。特に定義がなされていない限り、本明細書において採用された全ての技術的、科学的用語は、当業者が理解するものと同様の意味をもつ。
【0008】
「約」という用語は、所定の値について、当業者が判断する合理的な誤差範囲内にあることを意味する。当該誤差範囲は、当該値の計測方法や決定方法(例えば、計測システムの限界など)に依存するものでもある。本明細書において、例えば数量、時間的間隔、濃度、比率など、計測又は計算された値についての言及は、明記された値からの±20%、±10%、±5%、±1%、又は、±0.1%の変動を含んでもよく、当該変動は本明細書に開示の方法の実施に適切である。
【0009】
本明細書における「治療する(treat)」、「治療している(Treating)」、「治療(Treatment)」という用語は、障害、疾患若しくは病態、又は当該障害、疾患若しくは病態に関連した1つ以上の症候を緩和させ又は解消させるという意味、又は当該障害、疾患若しくは病態の原因を緩和させ又は根絶させるという意味を含む。
【0010】
本明細書における「予防(prevent)」、「予防している(preventing)」、「予防(prevention)」という用語は、障害(disorder)、疾患(disease)若しくは病態(condition)、及び/又はそれに伴う症候の発病等を遅延させ又は解消させる方法、対象者が障害、疾患若しくは病態に罹患することを回避させる方法、又は対象者が障害、疾患若しくは病態に罹患するリスクを低減させる方法という意味を含む。
【0011】
本明細書における「患者」、「個体」、又は「対象者」という用語は、人間、又は人間でない哺乳類のことを指す。この意味において、「患者」、「個体」と「対象者」は本文において交換的に使用してもよい。一つの実施態様において、患者、個体、又は対象者は人間である。
【0012】
本明細書における「治療上有効量」という用語は、治療中の障害、疾患若しくは病態の1つ以上の症状の進行を防止し、又は所定の程度まで緩和させるために十分な活性化合物の量のことを指す。
【0013】
本明細書における「薬学的に受容可能な担体」という用語は、患者において、又は患者に対して有用な化合物を運搬又は輸送することに関与する材料又は媒体のことであり、投与された化合物の生物学的活性を打ち消さずに意図された機能を果たし得るもののことを指す。一つの実施態様において、薬学的に受容可能な担体はポリマーである。
【0014】
本明細書における「1つ以上」という用語は、1、又は1よりも多くの数(例えば、2、3、4、5、6、7、又は更に多くの数など)のことを指す。本明細書において、「1つ以上」と「1つ又は複数の」という用語は、互換的に使用されてもよい。
【0015】
本明細書における「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のことを指す。
【0016】
本明細書における「C1―4のアルキル基」又は「C1―8のアルキル基」という用語は、1~4(例えば、1~2と1~3)又は1~8(例えば1~3、1~4、1~5、1~6と1~7)の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖飽和炭化水素基のことを指す。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、n―プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec―ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが含まれる。
【0017】
本明細書における「C1―4のアルコキシ基」という用語は、―ORaという構造のことを指す。ここで、RaはC1―4のアルキル基である。C1―4のアルコキシ基の例には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n―ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基などが含まれる。
【0018】
本明細書における「C1―4のアルキルアミノ基」という用語は、―NHRbという構造のことを指す。ここで、RbはC1―4のアルキル基である。C1―4のアルキルアミノ基の例には、メチルアミノ基、エチルアミノ基、イソプロピルアミノ基などが含まれる。
【0019】
本明細書における「炭素環」という用語は、環員数が3~16の環式炭化水素のことを指し、非芳香族炭素環と芳香族炭素環とを含む。
【0020】
本明細書における「芳香族炭素環」という用語は、単環、又は2つ以上の環を有する多環を含み、芳香族性を示す環式炭化水素のことを指す。芳香族炭素環の例には、ベンゼン、ナフタレンとアントラセンが含まれる。
【0021】
本明細書における「非芳香族炭素環」とは、飽和炭素環、又は、単環若しくは2つ以上の環からなり、芳香族性を示さない不飽和炭素環のことを指す。2つ以上の環からなる「非芳香族炭素環」は、単環式又は2つ以上の環からなる非芳香族炭素環が、前述した「芳香族炭素環」の環と縮合してなる縮合環を含む。また、2つ以上の環からなる「非芳香族炭素環」は、架橋環系とスピロ環系をも含む。
【0022】
本明細書における「複素環」という用語は、芳香族複素環と非芳香族複素環を含む。
【0023】
本明細書における「芳香族複素環」という用語は、単環、又は2つ以上の環からなり、O、SとNから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む芳香族環のことを指す。2つ以上の環を有する「芳香族複素環」は、単環式又は2つ以上の環からなる芳香族複素環が、前述した「芳香族炭素環」の環と縮合してなる縮合環を含む。
【0024】
本明細書における「非芳香族複素環」という用語は、単環、又は2つ以上の環からなり、O、SとNから独立して選択される1つ以上のヘテロ原子を含む脂肪族環のことを指す。2つ以上の環からなる「非芳香族複素環」は、単環式又は2つ以上の環からなる非芳香族複素環が、前述した「芳香族炭素環」、「非芳香族炭素環」、及び/又は「芳香族複素環」の環と縮合してなる縮合環を含む。また、2つ以上の環からなる「非芳香族複素環」は、架橋環系とスピロ環系をも含む。
【0025】
本明細書における「薬学的に受容可能な塩」という用語は、本明細書に開示の化合物に係る塩のうち、人間と下等動物の組織と接触する使用に適し、信頼性のある医学的評価の得られる範囲内において不適切な毒性、刺激やアレルギー反応などを惹起しないもののことを指す。薬学的に受容可能な塩は薬学的に受容可能な酸付加塩と塩基付加塩を含み、特定の目的における使用としては効果的であり、本明細書に記載の化合物とも適合性をもち得る。薬学的に受容可能な塩については、S. M. Birge et al., J. Pharm. Sci., 1977, 66, 1-19にも言及されている。
【0026】
本明細書における「プロドラッグ」という用語は、薬物分子の生物学的に可逆の誘導体のことを指し、酵素変換、及び/又は化学変換を経て活性親薬物を放出することで所望の薬理効果を奏する。例えば、本明細書において採用された化合物は、エステル、アミド、炭酸基、カルボニル基、カルバミン酸基などの基をプロドラッグ形成部位として用いてヒドロキシル官能基にてプロドラッグを形成し得る。
【0027】
本明細書における「非晶質」という用語は、結晶性のない分子、及び/又はイオンの固体形態のことを指す。非晶質固体はシャープな最大値をもった明確なX線回折パターンを示さない。
【0028】
本明細書における「固体分散体」という用語は、化合物、特に薬学的に受容可能な担体(例えばポリマー)における原薬の分子分散体のことを指す。固体分散体という文言は、少なくとも2の成分からなり、その1の成分がその他の成分において十分に均一に分散している固体系のことを一般的に意味する。例えば、固体分散体は、不活性担体又はマトリクスの固体状態における1つ以上の活性成分の分散体であり、噴霧乾燥(スプレードライング)、溶融混練(ホットメルトエクストルーション)、流動床又は凍結乾燥などの方法によって作製することができる。固体分散体の形成は、粒子のサイズをほぼ分子レベルまで縮小させる方法を提供し得る。
【0029】
本明細書において、ポリビニルピロリドン(PVPとも言う)とは、N-ビニル-2-ピロリドンを重合させて得られる高分子化合物のことを指す。ポリビニルピロリドンの例には、PVP-K17、PVP-K25、PVP-K30、PVP-K40、PVP-K50、PVP-K60、PVP-K70、PVP-K80、PVP-K85、PVP-K90、PVP-K120などが含まれる。
【0030】
本明細書において、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体(PVP-VAとも言う)とは、ビニルピロリドン(VP)と酢酸ビニル(VA)モノマーの共重合体のことを指す。ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体の例には、PVP-VA64などが含まれる。
【0031】
本明細書において、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体とは、アクリル酸とメタクリル酸のエステルから誘導された共重合体のことを指す。Eudragit(登録商標)は、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの多岐にわたった共重合体の商品名である。メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体の例には、Eudragit(登録商標) EPO、Eudragit(登録商標) E100、Eudragit(登録商標) RS100、Eudragit(登録商標) RL100、Eudragit(登録商標) L100、Eudragit(登録商標) NE、Eudragit(登録商標) NM、Eudragit(登録商標) FSなどが含まれる。
【0032】
本明細書において、ポリエチレングリコール(PEGとも言う)とは、―O-CH2-CH2-といった構造をもったエチレングリコールモノマーユニットを含むポリマーのことを指す。ポリエチレングリコールの例には、PEG1000、PEG1500、PEG2000、PEG2500、PEG3000、PEG3350、PEG3500、PEG4000、PEG5000、PEG6000、PEG8000などが含まれる。
【0033】
本明細書において、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体とは、オキシエチレンモノマーユニットとオキシプロピレンモノマーユニットとを両方有する共重合体のことを指す。適切なポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体は任意の鎖長や分子量を有してもよく、また分枝を含んでもよい。その鎖の末端に、遊離のヒドロキシル基、又は、低級アルキル基若しくはカルボキシル基を用いてエーテル化された1つ以上のヒドロキシル基をもち得る。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体は、共重合され、且つ主鎖の一部をなす他のモノマーをも含んでもよい。特定の実施態様において、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体は、BASFパフォーマンス・ケミカルズ社から商品名Pluronic(登録商標)として市販されており、CTFA名ではPoloxamer 108、124、188、217、237、238、288、338、407、101、105、122、123、124、181、182、183、184、212、231、282、331、401、402、185、215、234、235、284、333、334、335と403で表記される一群の界面活性剤を含む。
【0034】
本明細書において、ヒドロキシプロピルセルロースとは、HPCとも呼ばれる。ヒドロキシプロピルセルロースの例には、その平均分子量によって、HPC-SSL、HPC-SL、HPC-L、HPC-M、HPC-Hなどが含まれる。
【0035】
本明細書において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとは、HPMCとも呼ばれる。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの例には、その粘度によって、HPMC E3、HPMC E5、HPMC E6、HPMC E16、HPMC E30、HPMC E50、HPMC E50Lvなどが含まれる。
【0036】
本明細書において、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCASとも言う)とは、酢酸とヒドロキシプロピルメチルセルロースのモノコハク酸エステルの混合物のことを指す。一つの実施態様において、HPMCASは、HPMCAS-LF、HPMCAS-LG、HPMCAS-MF、HPMCAS-MG、HPMCAS-HF、HPMCAS-HGなど、様々な種類からなる。
【0037】
本明細書において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステルとは、HPMCPとも呼ばれる。HPMCPの例には、HPMCP HP-50、HPMCP HP-55、HPMCP HP-55Sなどが含まれる。
【0038】
一つの側面において、本明細書の開示は、経口投与のためのキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤を含む非晶質固体分散体を提供する。当該キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤は、下記式(I)又はその薬学的に受容可能な塩により示される。
【化1】
但し、前記式(I)において、
Gは、水素原子、又はプロドラッグ基であり、
R
1は、ハロゲン、重水素、又はC
1-
4のアルキル基であり、
mは、1~9の整数であり、
アスタリスク(*)は、キラル中心を示す。
【0039】
一つの実施態様において、R1はハロゲン、重水素又はメチル基である。他の実施態様において、R1はハロゲン又は重水素である。更に他の実施態様において、R1はフッ素又は重水素である。
【0040】
一つの実施態様において、前記式(I)において化学式
【化2】
により示された環状構造の部分は、化学式
【化3】
により示された環状構造であり、Gは、水素原子又は-C(R
2R
2’)-O-C(=O)-O-R
3である。R
2とR
2’は、それぞれ独立して水素原子又はC
1―4のアルキル基であり、R
3は、C
1―4のアルキル基である。
【0041】
一つの実施態様において、mは1、2、3、4、5、6、7、8又は9である。
【0042】
一つの実施態様において、Gは水素原子、
―C(R
2R
2’)-O-C(=O)-R
3、-C(R
2R
2’)-O-C(=O)-O-R
3、-C(R
2R
2’)-O-C(=O)-C(R
2R
2’)-NR
4-C(=O)-O-C(R
2R
2’)-R
3’、-C(R
2R
2’)-C(R
2R
2’)-O-C(=O)-R
3、-C(R
2R
2’)-R
3’、-C(=O)-R
3、-C(=O)-NR
3R
4、及び
【化4】
からなる群から選択される。但し、R
2、R
2’とR
4は、それぞれ独立して水素原子又はC
1-
8のアルキル基であり、R
3とR
3’は、それぞれ独立してC
1-
8のアルキル基、C
3-
10の炭素環基又はC
3-
10の複素環基である。他の実施態様において、Gは水素原子、-C(R
2R
2’)-O-C(=O)-R
3、-C(R
2R
2’)-O-C(=O)-O-R
3、-C(R
2R
2’)-R
3’、-C(=O)-R
3、及び-C(=O)-NR
3R
4からなる群から選択される。更に他の実施態様において、Gは水素原子又は-C(R
2R
2’)-O-C(=O)-O-R
3である。
【0043】
一つの実施態様において、R2、R2’とR4は、それぞれ独立して水素原子又はC1-4のアルキル基である。他の実施態様において、R2、R2’とR4は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基である。
【0044】
一つの実施態様において、R3はC1―4のアルキル基である。他の実施態様において、R3はメチル基、エチル基、プロピル基又はヘプチル基である。
【0045】
一つの実施態様において、R3’はC3-10の炭素環基である。他の実施態様において、R3’はアリール基である。更に他の実施態様において、R3’はフェニル基である。
【0046】
一つの実施態様において、Gは水素原子、
【化5】
からなる群から選択される。
【0047】
一つの実施態様において、前記式(I)の化合物は、1’-((11S)-7,8-ジフルオロ-6H,11H-ジベンゾ[b,e]チエピン-11-イル)-1’,2’-ジヒドロ-5’-ヒドロキシ-スピロ[シクロプロパン-1,3’-(3H)ピリド[1,2-b]ピリダジン-4’,6’-ジオン、又はその薬学的に受容可能な塩である。
【0048】
一つの実施態様において、前記式(I)の化合物は、[1-((11S)-7,8-ジフルオロ(6H,11H-ジベンゾ[c,f]チエピン-11-イル))-4,6-ジオキソスピロ[1,2,3,9-テトラヒドロピリジノ[1,2-e]ピリダジン-3,1’-シクロプロパン]-5-イルオキシ]メチルメトキシホルマート、又はその薬学的に受容可能な塩である。
【0049】
特定の実施態様において、本明細書に開示の化合物は、国際公開公報WO2019/144089又はWO2021/239126に開示の方法や手順により作製することができる。それら公報の記載内容全体を引用として本明細書に組み込んだこととする。
【0050】
一つの実施態様において、本明細書の開示は、前記式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩と、薬学的に受容可能なポリマーとを含む非晶質固体分散体を提供する。
【0051】
他の実施態様において、前記式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩と、前記薬学的に受容可能なポリマーとを含み、前記薬学的に受容可能なポリマーがその固体状態において形成したポリマーマトリクスに、前記式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩が分散されている非晶質固体分散体が開示されている。
【0052】
本明細書に開示の非晶質固体分散体において採用された前記薬学的に受容可能なポリマーは、水溶性ポリマーである。適切な水溶性ポリマーは、水溶性担体として働き、活性成分を親水性にし、その溶解度を向上させることができる上、固体分散体を非晶質状態により保ちやすくすることもできる。水溶性ポリマーの一般的な例としては、ビニルポリマーとその共重合体、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体(PVP-VA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコールポリ酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンポリビニルアルコール共重合体、ポリビニルカプロラクタムとポリ酢酸ビニル、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体(Soluplusとも呼ばれる。)、アクリレートとメタクリレート共重合体、メタクリル酸とメタクリル酸メチル共重合体(例えばEudragit(登録商標))、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(ポロキサマーとも呼ばれる。)、セルロース誘導体、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステル(HPMCA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース酢酸エステル、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステル(HPMCP)、Kollidon SR(ポリ酢酸ビニル 80%とポリビニルピロリドン 20%)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸コハク酸セルロース(CAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルフタル酸エステル(HPMCAP)、酢酸トリメリット酸セルロース(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルトリメリット酸エステル(HPMCAT)、カルボキシメチルセルロース酢酸エステル酪酸エステル(CMCAB)、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
一つの実施態様において、前記薬学的に受容可能なポリマーは、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体(PVP-VA)、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体(Soluplus)、メタクリル酸とメタクリル酸メチル共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステル(HPMCP)、ポリエチレングリコール(PEG)、又はKollidon SRである。他の実施態様において、前記ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体はPVP-VA64であり、前記HPCはHPC-SSLであり、前記HPMCASはHPMCAS-MG又はHPMCAS-HGであり、前記HPMCPはHPMCP HP-55であり、前記PEGはPEG3350であり、前記メタクリル酸とメタクリル酸メチル共重合体はEudragit(登録商標) EPOである。
【0054】
一つの実施態様において、前記薬学的に受容可能なポリマーは、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)である。他の実施態様において、前記薬学的に受容可能なポリマーは、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、HPC-SSL、HPMCAS-MG、又はHPMCAS-HGである。更に他の実施態様において、前記薬学的に受容可能なポリマーは、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体、又はHPC-SSLである。
【0055】
一つの実施態様において、前記薬学的に受容可能なポリマーはポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフト共重合体である。他の実施態様において、前記薬学的に受容可能なポリマーはHPC-SSLである。
【0056】
一つの実施態様において、前記式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩と、前記薬学的に受容可能なポリマーとを含み、前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩と、前記薬学的に受容可能なポリマーとの重量比は、約4:1、3.5:1、3:1、2.5:1、2:1、1.5:1、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5、1:5、1:5.5、1:6、1:6.5、1:7、1:7.5、1:8、1:8.5、1:9、1:9.5、又は1:10である非晶質固体分散体が開示されている。他の実施態様において、前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩と、前記薬学的に受容可能なポリマーとの重量比は、前述した任意の二つの比の間、例えば、2:1~1:7、1:1~1:7、1:1~1:6.5、1:1~1:6、1:1~1:5.5、1:1~1:5、1:1~1:4.5、1:1~1:4、1:1~1:3.5、1:1~1:3、1:1~1:2.5、1:1~1:2、1:1.5~1:7、1:1.5~1:6.5、1:1.5~1:6、1:1.5~1:5.5、1:1.5~1:5、1:1.5~1:4.5、1:1.5~1:4、1:1.5~1:3.5、1:1.5~1:3、1:2~1:5、1:2~1:4、又は1:2~1:3の範囲内にある。
【0057】
一つの実施態様において、前記非晶質固体分散体における前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩の量は、通常10~60wt%、10~55wt%、10~50wt%、10~45wt%、10~40wt%、15~60wt%、15~55wt%、15~50wt%、15~45wt%、又は15~40wt%である。例えば、前記非晶質固体分散体における前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩の量(薬物負荷容量)は、約15wt%、25wt%、33wt%、40wt%、又は50wt%である。一つの実施態様において、前記非晶質固体分散体は、前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩の量を10~60%w/w(重量パーセント)、前記薬学的に受容可能なポリマーを40~90%w/w(重量パーセント)含む。他の実施態様において、前記非晶質固体分散体は、前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩の量を15~50%w/w(重量パーセント)、前記薬学的に受容可能なポリマーを50~85%w/w(重量パーセント)含む。
【0058】
他の側面において、本明細書に記載の非晶質固体分散体は、必要に応じて経口により対象者(例えば、人間)に投与し、インフルエンザなどの感染症を治療又は予防することが可能である。
【0059】
一つの実施態様において、本明細書に開示の非晶質固体分散体は、当該分野において周知の方法、例えば噴霧乾燥(スプレードライング)、溶融混練(ホットメルトエクストルーション)、流動床又は凍結乾燥により作製することができる。一つの実施態様において、前記非晶質固体分散体は噴霧乾燥方法により作製された。
【0060】
一つの実施態様において、本明細書に開示の非晶質固体分散体の作製のために、前記式(I)の化合物又は前記薬学的に受容可能な塩は十分な量の有機溶媒に溶解され、結果として得られた溶液は、前記薬学的に受容可能なポリマーを含んだ溶液と混合された。これにより、散布液が得られた。その後、前記溶媒は蒸発により除去され、薬物はマトリクスに分散/溶解されるようになった。前述した式(I)の化合物又は薬学的に受容可能な塩と、前述した薬学的に受容可能なポリマーとを溶解又は分散可能な有機溶媒は、前記有機溶媒として用いられることができる。前記有機溶媒の例には、低級アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、又はイソプロパノール)、ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、又はメチルイソブチルケトン)、ハロアルカン(例えばジクロロメタン、クロロホルム、又は四塩化炭素)、酢酸、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、DMSO、テトラヒドロフラン、及びそれらの混合物が含まれる。
【0061】
一つの実施態様において、前記非晶質固体分散体の作製は、下記工程を含む:(i)式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩と、薬学的に受容可能なポリマーとを溶媒に溶解させる工程、(ii)工程(i)において得られた溶液を乾燥させる工程。
【0062】
一つの実施態様において、工程(i)は、式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩を十分な量の有機溶媒に溶解させる工程、薬学的に受容可能なポリマーを溶媒に溶解させる工程、及び、それら二つの溶液を混合させる工程を含む。
【0063】
一つの実施態様において、工程(ii)は、噴霧乾燥工程を含む。他の実施態様において、工程(ii)は、噴霧乾燥と流動床とを併用する工程を含む。更に他の実施態様において、工程(ii)は、ロータリーエバポレーターを用いて前記溶媒を蒸発させる固定を含む。
【0064】
「噴霧乾燥」とは、従来、溶媒を液滴から蒸発させる強力な駆動力を備えた噴霧乾燥装置(例えば、ノズル)において、液体混合物を微細な液滴に分散させ(噴霧化させ)、混合物から溶媒を迅速に除去する方法に関わることを広範に指す。典型的な噴霧乾燥工程において、供給される液体は、ポンプにより輸送されることと、噴霧化されることが可能であれば、溶液、スラリー、エマルジョン、ゲル、又はペーストである。
【0065】
本明細書に開示の非晶質固体分散体の性質は、偏光顕微鏡法(PLM)、粉末X線回折(XPRD)、熱重量分析(TGA)、及び粒度分布(PSD)により評価することができる。前記非晶質固体分散体の熱化学性質は、示差走査熱量計(DSC)により分析された。その結果、前記式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩の非晶質固体分散体は、ガラス転移温度を一つのみ示しており、また、吸熱ピーク(融解ピーク)を示しておらず、即ち、前記非晶質固体分散体において、前記式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩は非晶質であることが確認された。その結果として得られた非晶質固体分散体は、高度なバイオアベイラビリティをもった医薬組成物に加工されることができる。
【0066】
他の側面において、本明細書は、非晶質固体分散体の形態で、且つ治療上有効量の式(I)の化合物又はその薬学的に受容可能な塩を含んだ医薬組成物をも開示している。一つの実施態様において、本明細書に開示の非晶質固体分散体を含んだ医薬組成物は、経口製剤又は吸入製剤であって、カプセル、錠剤(タブレット)、粉末剤、丸薬(例えばペレットやピルなど)、懸濁液、顆粒、又は吸入剤の形態である。前記医薬組成物の形態は、例えば腸溶コーティングなど、コーティングが施されていることも可能である。前記医薬組成物は、経口又は吸入によって、単回でも反復でも投与され得る。
【0067】
一つの実施態様において、医薬組成物は、本明細書に開示の非晶質固体分散体に加えて、薬学的に受容可能で、生物学的活性を有せず、活性化合物とも反応しない1つ以上の賦形剤を任意に含む。薬学的に受容可能な賦形剤の例には、バインダー、滑剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、酸化防止剤、希釈剤、界面活性剤、崩壊剤、潤滑剤、充填剤、湿潤剤、甘味料、着色剤、香料、又はそれらの混合物が含まれる。特定の実施態様において、当該組成物が粉末剤である場合、前記薬学的に受容可能な賦形剤は、微粉化された活性成分との混合物における微粉化された固体である。特定の実施態様において、当該組成物がタブレットである場合、前記活性成分(即ち、非晶質固体分散体のことである。)は、適切な比率にて前記薬学的に受容可能な賦形剤と混合され、所望の形状とサイズに圧縮される。特定の実施態様において、当該組成物がカプセルである場合、当該カプセルの様々な種類は、当該分野において周知の通りである。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はゼラチンのカプセルは用いられ得る。
【0068】
本明細書における開示は、下記の実施例によって更に理解されることができるが、それら実施例は本開示を限定するものではない。
【0069】
[実施例1][1-((11S)-7,8-ジフルオロ(6H,11H-ジベンゾ[c,f]チエピン-11-イル))-4,6-ジオキソスピロ[1,2,3,9-テトラヒドロピリジノ[1,2-e]ピリダジン-3,1’-シクロプロパン]-5-イルオキシ]メチルメトキシホルマート(化合物A)の作製
[1-((11S)-7,8-ジフルオロ(6H,11H-ジベンゾ[c,f]チエピン-11-イル))-4,6-ジオキソスピロ[1,2,3,9-テトラヒドロピリジノ[1,2-e]ピリダジン-3,1’-シクロプロパン]-5-イルオキシ]メチルメトキシホルマート(化合物A)は、WO2019/144089(Hsuら)又はWO2021/239126(Chenら)に開示の合成ルート又はプロトコルによって作製された。化合物Aのマススペクトル(MS)及び核磁気共鳴(NMR)を以下に示す。
MS:m/z 541.0(M++1)
1H NMR(CDCl3) δ7.31(d,1H)、7.06~7.00(m,4H)、6.85~6.84(m,1H)、6.73(d,1H)、6.03(d,1H)、5.96(d,1H)、5.80(d,1H)、5.49(d,1H)、5.15(s,1H)、4.13(d,1H)、4.05(d,1H)、3.87(s,3H)、2.91(d,1H)、1.95~1.90(m,1H)、1.49~1.48(m,1H)、0.88~0.76(m,2H)
【0070】
[実施例2]非晶質固体分散体の作成
本明細書に開示の非晶質固体分散体は、当該分野において周知の噴霧乾燥方法により作製された。例えば、Singhら、Advanced Drug Delivery Reviews, 2016, 100, 27-50を参照されたい。異なる薬学的に受容可能なポリマー、例えばPVP-VA64、Soluplus、HPMCAS-MG、HPMCAS-HG、Eudragit(登録商標) EPO、HPC-SSL、HPMCP HP-55、Kollidon SR、及びPEG3350は、本明細書に開示の非晶質固体分散体の作製に用いられた。噴霧乾燥機4M8-Trixは、前記非晶質固体分散体の作製に用いられた。化合物Aの噴霧乾燥濃度は25 mg/mLに設定された。化合物Aは、幾つかの比率にて、異なる薬学的に受容可能なポリマーと混合され、ガラス瓶においてアセトンなど溶媒に溶解され、供給溶液に調製された。得られた供給溶液はノズルを通され、微細な噴霧として室に入った。前記室において、溶媒は素早く蒸発され、化合物Aとそれに対応するポリマーを含む粒子が生成された。残留溶媒を取り除くために、その結果として得られた噴霧乾燥後の粉末は静的乾燥機において更に乾燥された。
【0071】
[実施例3]溶解度評価
所定量の化合物A(約6 mg)と非晶質固体分散体(約6 mgの化合物Aに対応する量)を別々の8 mL瓶にて計量し、6 mLのFaSSIF(fasted state simulated intestinal fluid)を加えた(目標濃度は1.0 mg/mL)。懸濁液はサーモミキサーにより37℃、600 rpmにて撹拌され、予め設定された時間間隔(例えば5分)で200 μLの懸濁液が取り除かれ、その後遠心分離を14000 rpmにて4分間施された。次いで、沈殿を防止するために、100 μLの上澄み液が500 μLのACN(アセトニトリル)により希釈され、HPLCにより分析された。
FaSSIFは下記の工程により作製された。1)250 mLの全量フラスコに水酸化ナトリウムを0.1024 g、無水リン酸二水素ナトリウムを0.7518 g、塩化ナトリウムを1.5470 g入れ、水を約225 mL加え、1Nの水酸化ナトリウム又は1Nの塩酸を用いてpHを6.5に調整した。体積が250 mLになるように純水を足した。2)200 mLの容量のフラスコに、0.4480 gのSIF Powder Originalを、工程1)から由来の100mLの緩衝液と一緒に入れて溶解させ、水を容量になるまで加え、十分に混合させた。
5分と15分の時点で手動で収集したFaSSIFにおける化合物Aと非晶質固体分散体の溶解度を、表1に列挙する。
【0072】
【0073】
[実施例4]非晶質固体分散体の安定性調査
前記非晶質固体分散体は4℃(密閉)、20℃/60%RH(密閉と開放状態)、又は40℃/75%RH(密閉と開放状態)で保存された。10日後又は4週間後、試料はカメラにより観察され、XPRDにより評価され、HPLCにより純度と動力学的溶解度(kinetic solubility)を分析された。密閉保存された全ての試料は、ガスケットとスクリューキャップ付きの透明なガラスバイアルに入れられた。開放保存された全ての試料は、キャップなしの透明なガラスバイアルに入れられた。クロスコンタミネーション防止のために、前記バイアルの開口はピンホールの設けられたアルミホイルにより覆われた。
安定性試験が行われたASDのトータル不純物準位(即ち、TRS%;total relative substances)を表2に示す。表2における試料No.は表1におけるそれに対応する。
【0074】
【0075】
[他の実施態様]
本明細書に開示の全ての特徴は、任意の組み合わせられ方にて組み合わせられることができる。本明細書に開示の個々の特徴は、同じ、同等の、又は類似の目的を果たす代替手段により置換され得る。従って、特に言及されていない限り、本明細書に開示の個々の特徴は、同等の又は類似の一連の特徴における一例に過ぎない。以上の記載により、当業者は本明細書における開示の必要不可欠な特徴を特定することができる。
【国際調査報告】