(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】高速硬化樹脂組成物及びそれを含有する複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20231228BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08G59/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537271
(86)(22)【出願日】2021-12-19
(85)【翻訳文提出日】2023-08-16
(86)【国際出願番号】 US2021064251
(87)【国際公開番号】W WO2022146731
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】レストゥッシア, カルメロ ルカ
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
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4F072AH43
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4J036AA01
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4J036FB14
4J036FB15
4J036JA11
(57)【要約】
熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性樹脂組成物を含浸させた補強繊維を含有する複合材料。熱硬化性樹脂組成物は、(a)多官能性エポキシ樹脂の組合せ;(b)エポキシ樹脂用の硬化剤としての4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン);及び(c)熱可塑性成分を含有し、ここで、熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と反応するいかなる触媒又は促進剤も欠けている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)二官能性、三官能性及び四官能性ポリエポキシドから選択される多官能性エポキシ樹脂の組合せからなるエポキシ樹脂成分と;
(B)4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)を含む硬化剤成分と;
(C)熱可塑性成分と
を含む熱硬化性樹脂組成物を含浸させた補強繊維を含む複合材料であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、前記エポキシ樹脂と反応するいかなる触媒又は促進剤も欠けている複合材料。
【請求項2】
4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)は、前記熱硬化性樹脂組成物中の唯一の硬化剤である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂組成物中の前記硬化剤成分は、1つ以上の他のアミン硬化剤と組み合わせた4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)からなり、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)のモル含有量は、前記熱硬化性樹脂組成物中の全アミンの全モル量の50%以上である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物中の前記成分の、重量百分率(重量%)での、相対量は、次の通り:前記熱硬化性樹脂組成物の総重量を基準として、30~75重量%のA、20~30重量%のB、及び5~40重量%のCである、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
熱可塑性成分はポリアリールスルホンポリマーである、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記熱可塑性成分は、ポリアミド粒子及びポリアリールスルホンポリマーを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記多官能性エポキシ樹脂は、アミノフェノールのグリシジルエーテル、及びジアミノジフェニルメタンのグリシジルエーテルから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂成分は、
(i)三官能性エポキシ樹脂、好ましくは、トリグリシジルp-アミノフェノール(TGPAP)若しくはトリグリシジルm-アミノフェノール(TGMAP);及び/又は
(ii)四官能性エポキシ樹脂、好ましくは、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)を、
(iii)二官能性エポキシ樹脂、好ましくは、ビスフェノールAエポキシ樹脂若しくはビスフェノールFエポキシ樹脂と組み合わせて
含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂組成物の総重量を基準として、0.1~10重量%の無機充填材を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項10】
前記無機充填材は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、及びグラフェンなどの、導電性充填材である、請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
前記他のアミン硬化剤は、芳香族アミン、好ましくは
3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS);4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS);1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)-2-フェニルベンゼン;1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン;4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン;4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン;2,2’-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニルプロパン;4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン;1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン;及び4,4’-1,4-フェニレンビス(1-メチルエチルインデン)ビスアニリン
から選択される芳香族アミンである、請求項3に記載の複合材料。
【請求項12】
前記補強繊維は、連続の、一方向に整列した繊維又は織布の形態にある、請求項1~11のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項13】
前記補強繊維は炭素繊維である、請求項1~12のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項14】
前記熱硬化性樹脂組成物は、樹脂層の形態にあり、前記補強繊維は、前記樹脂層に埋め込まれている、請求項1~13のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項15】
複合部品の製造方法であって、
請求項1~14のいずれか一項に記載の複合材料から1つ以上のプリプレグ層を形成する工程と;
前記1つ以上のプリプレグ層をツール表面上に置く工程と;
前記1つ以上のプリプレグ層を、160℃~180℃の範囲の温度で15~120分間硬化させて85%超の硬化度の硬化複合部品を製造する工程と
を含む、複合部品の製造方法。
【請求項16】
硬化は、160℃~170℃の範囲の温度で15~60分間実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記硬化複合部品は、EN6032によって測定されるように、乾燥条件で、180℃以上、好ましくは、180℃~200℃のガラス転移温度(T
g)及び70℃/85%湿度で2週間の状態調節後に高温/多湿条件で、150℃以上、好ましくは150℃~160℃のT
gを有する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
(A)二官能性、三官能性及び四官能性ポリエポキシドから選択される多官能性エポキシ樹脂の組合せからなるエポキシ樹脂成分と;
(B)前記多官能性エポキシ樹脂用の唯一の硬化剤としての4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)と;
(C)熱可塑性成分と
を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂と反応するいかなる触媒又は促進剤も欠けている熱硬化性樹脂組成物。
【請求項19】
(A)二官能性、三官能性及び四官能性ポリエポキシドから選択される多官能性エポキシ樹脂の組合せからなるエポキシ樹脂成分と;
(B)1つ以上の他の芳香族アミンと組み合わせた4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)からなる硬化剤成分と;
(C)熱可塑性成分と
を含む熱硬化性樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂と反応するいかなる触媒又は促進剤も欠けている熱硬化性樹脂組成物。
【請求項20】
前記他の芳香族アミンは、
3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS);4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS);1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)-2-フェニルベンゼン;1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン;4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン;4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン;2,2’-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニルプロパン;4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン;1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン;及び4,4’-1,4-フェニレンビス(1-メチルエチルインデン)ビスアニリン
から選択される、請求項19に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明を実施するための形態】
【0001】
繊維補強ポリマー複合材料は、耐荷重性構造物を製造するために使用されてきた。航空機及び自動車車体部品の一次及び二次構造物などの高性能構造物は、熱硬化性プリプレグの多層を金型表面上にレイアップし、これに圧密及び硬化が続いて製造され得る。各熱硬化性プリプレグは、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含む、マトリックス樹脂を含浸した又はそれに埋め込まれた補強繊維の層からなる。エポキシ樹脂は、それらの耐熱性及び耐化学薬品性について知られているので使用される。
【0002】
航空宇宙構造物に使用するための複合材料の設計は、典型的には、硬化材料の高温/多湿性能考慮に入れる。高温/多湿性能は、比較的高い温度及び高い湿度条件への長期暴露後に試験されたときの材料の機械的特性を指す。航空機の製造において、航空機が、湿度レベルは未知であるが高温を数時間経験し得るので、高温及び高レベルの湿度などの極限環境因子を考慮しなければならない。したがって、航空宇宙用途向けの複合材料は、通常、高温及び多湿条件での使用について評価される。
【0003】
プリプレグに関して、考慮されるべきプリプレグの1つの特性は、その「アウトライフ」又は貯蔵寿命であり、それは、未硬化プリプレグが室温(20℃~25℃)で貯蔵することができる、且つそのようなプリプレグから許容できる品質の複合部品の製造を可能にするのに十分なタック及びドレープ(又は柔軟性)を依然として保持することができる時間の長さを指す。未硬化プリプレグの「タック」は、未硬化プリプレグがそれ自体に及び金型表面に付着する能力の測定結果であり、レイアップ及び成形操作中の重要な因子であり、同操作中にプリプレグの多数の層がラミネートを形成するためにレイアップされ、ラミネートはその後複合部品を形成するために硬化させられる。
【0004】
典型的には、熱硬化性プリプレグからの硬化複合構造物の製造は、比較的長ったらしいプロセスである。プリプレグレイアップの硬化は、多くの場合、合計所要時間への主要なコントリビュータである。大きい航空宇宙構造物を製造するために使用されるプリプレグの大半は、典型的には、大きい加圧オーブンである、オートクレーブ中で硬化させられる。そのようなシナリオでは、硬化サイクルは周囲温度から所望の硬化温度までの温度ランプで始まることが通常である。温度がランプされる速度は、典型的には、0.5℃/分~2℃/分であり、最終硬化温度は、多くの場合、約180℃以上である。最終硬化温度でのドウェル時間(又は保持時間)は、通常、約2~3時間であり、次いでそれに、2℃/分~3℃/分の速度で室温まで硬化材料を冷却する工程が続く。硬化サイクルの全継続時間は、典型的には、それ故7~12時間の範囲にある。最終硬化温度へのゆっくりした加熱ランプ及び高温での長いドウェル時間が、高い硬化度及び望ましい熱機械特性を達成するために必要とされる。
【0005】
より高いランプ速度は、大きいツールが必要とされる場合又は厚い複合構造物が硬化させられる場合、制御されない発熱又は複合部品の厚さの全体にわたる硬化度の非一様性の発生が起こり得るために、必ずしも達成できないか又は望ましくない。180℃未満の温度で及び2時間未満のドウェル時間でオートクレーブ中で硬化させることができる、エポキシ系プリプレグを配合しようとする様々な試みが行われた。
【0006】
硬化温度又は硬化サイクルの継続時間を低減するために、前反応エポキシ樹脂、触媒、共硬化剤又はそれらの組合せが、通常、主アミン硬化剤と組み合わせられる。前反応エポキシ又は触媒若しくは共硬化剤の存在は、タック、ドレープ、貯蔵時間、及びアウトライフなどの、周囲条件でのプリプレグのハンドリング及び処理機能への望ましくない影響をもたらし得る。或いはまた、4,4’-メチレンジアニリンなどの、非常に反応性の高い芳香族硬化剤が、過去に使用されてきたが、それらは、現在、発がん性物質及び/又は変異原物質としていくつかの政府当局によって分類され、それ故、将来応用にとって望ましくない。180℃未満の温度において2時間未満で硬化することができる触媒エポキシ樹脂組成物は、150℃未満の高温/多湿Tgで通常特徴付けられる硬化材料をもたらすこと、及び高温/多湿機械的性能の実質的な低下をもたらす、標準180℃/2時間硬化サイクルによって硬化させられる硬化エポキシ系材料よりも多い水分を吸収する性向を有することが分かった。高温/多湿Tgは、サンプルが飽和に達するまで高い相対湿度(例えば、85%~95%)での及び高められた温度(例えば、70℃~90℃)での長期の状態調節に前もってかけられた硬化複合材のガラス転移温度を指す。そのような高温/多湿Tgは、EN6032によって測定することができる。高反応性の触媒エポキシ樹脂組成物はまた、それらが厚い複合構造物を製造するために使用される場合に、局所の非制御発熱を生み出す性向を有する。非制御発熱は、製造プロセスを安全でないものにするか、又は硬化部品のトップから中心部分まで非一様な硬化度の複合構造物をもたらす。100℃~140℃の温度で、可変継続時間、例えば、0.5~2時間の中間ドウェルを、そのような問題を軽減するために用いることができるが、これは、硬化サイクルの継続時間を更に長くし、且つ触媒を樹脂組成物に添加する目的にそぐわないであろう。
【0007】
熱硬化性プリプレグを処理するための硬化サイクル及びそのようなプリプレグから製造された硬化複合部品の高温/多湿性能に関連する上述の問題に対処するための解決策が、本明細書で開示される。そのような解決策には、異なるエポキシ樹脂の組合せと、主アミン硬化剤としてのオルトメチル置換芳香族ジアミンと、1つ以上の熱可塑性成分と、任意選択的に、いくつかの充填材とを含有する、複合材料、特に、繊維補強プリプレグを製造するための熱硬化性樹脂組成物を提供することが含まれる。「主」アミン硬化剤は、そのようなアミンが、熱硬化性樹脂組成物中の全アミン硬化剤の全モル量の50%以上のアミンモル含有量を構成することを意味する。いくつかの実施形態において、オルトメチル置換芳香族ジアミンは、組成物中の唯一のアミン硬化剤である。
【0008】
熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂は、好ましくは、1分子当たり2つ以上のエポキシ基を有する多官能性エポキシ樹脂である。
【0009】
熱硬化性樹脂組成物の熱可塑性成分には、熱可塑性ポリマー及び熱可塑性粒子から選択される1つ以上の強化剤が含まれる。いくつかの実施形態において、熱可塑性ポリマーと熱可塑性粒子との組合せが、樹脂組成物中に存在する。
【0010】
オルトメチル置換芳香族ジアミン(主アミン)は、1分子当たり2個の1級アミノ基及び各アミノ基のオルト位に2個のメチル基置換基を含有する。好ましい芳香族ジアミンは、以下の化学構造:
【化1】
で表される、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)の同義語である。
【0011】
好ましい芳香族ジアミンは、116℃の融点の結晶性固体であり、周囲温度及び湿度で安定であり、80℃~130℃の範囲の温度で典型的に実施される、プリプレグ製造プロセス中に、熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂のいかなる顕著な前進も引き起こさない。それ故に、そのような芳香族ジアミンの存在は、未硬化プリプレグのタック、処理能力、貯蔵寿命及び成形性に影響を及ぼさない。用語「成形性」は、これに関連して、3次元ツール表面上に適合する又はドレープする材料の能力を指す。
【0012】
4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)は、1級アミンのオルト位のメチル基が、立体効果、誘起効果及び超共役効果のためにエチル又はイソプロピル基と比較してより強い電子供与性であり、且つ立体障害がより少ないという点において、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)又は4,4’-メチレンビス(2,6ジイソプロピルアニリン)と区別できる。アルキル基は、それらがアミン基のオルト位にある場合、全て弱い電子活性化基として考えることができるけれども、それらは、1級アミンにごく接近している脂肪族基の立体障害のために芳香族ジアミンの塩基性に大きく寄与しない。そのような効果は、嵩高いエチル又は2-イソプロピル基の場合に(Lonzacure(登録商標)M-DEA、M-MIPA及びM-DIPA芳香族アミンの場合に)より顕著である。
【0013】
加えて、エチル及びイソプロピル基は、それぞれ、3個の水素原子を有するメチル基とは反対に、芳香環に直接結合したα-炭素原子に結合した2個又は1個の水素原子を有するにすぎないので、エチル又はイソプロピル基における超共役効果は、メチル基の場合におけるよりも少なく、エチル又はイソプロピル基よりも多いメチル基の電子供与力をもらすであろう。記載された効果は、オルト位にメチル基を含む1級芳香族アミンのエポキシ樹脂へのより高い反応性を決定し、それ故に、複合材レベルでのより高い反応速度を達成することができる。
【0014】
最後に、本メチレンジアニリン分子での2,6-オルト置換基の存在は、分子の揮発性及びオペレータによるその潜在的な吸入と関係がある安全性及び労働衛生リスクを大きく低減する。したがって、ヒト肝臓毒及び動物発がん物質として機能するメチレンジアニリン分子の性向は、実質的に低減され、それによって、この硬化剤を、航空宇宙用途向けの樹脂配合物及び複合材料に使用するためのより好適な化合物にする。
【0015】
いくつかの実施形態において、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)は、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)のモル含有量が全芳香族アミンの全モル量の50%以上であることを条件として、別の芳香族アミン又は複数の他の芳香族アミンと組み合わせて使用される。組み合わせて使用され得る他の芳香族アミンには、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS);4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS);1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)-2-フェニルベンゼン;1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン;4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン;4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン;2,2’-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニルプロパン;4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン;1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン;及び4,4’-1,4-フェニレンビス(1-メチルエチルインデン)ビスアニリンが含まれる。
【0016】
比較的少量の他の芳香族アミン、特に、芳香族ジアミンの添加は、未硬化及び硬化状態でのエポキシ-アミン樹脂マトリックス中の/マトリックスと一緒のある種の強化剤の溶解性及び相溶性に影響を及ぼすことができよう。例えば、熱可塑性ポリマー(例えば、ポリエーテルスルホン)が、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)を含有するエポキシ樹脂マトリックスの靱性を改善するために使用される場合、4,4’又は3,3’-ジアミノジフェニルスルホンなどのより相溶性がある芳香族アミンの比較的少量の添加は、硬化時により均一な及びより少ない相分離のブレンドの形成に貢献することができよう。そのようなシナリオでは、エポキシ樹脂中へ分散した分離熱可塑性ドメインのサイズを低減することができようし、場合により、より望ましいモルフォロジ(例えば、5ミクロンよりも小さい熱可塑性ドメインの微粒子化モルフォロジ)を達成することができよう。硬化時に、一般にそのような硬化ポリマーマトリックス中に埋め込まれた補強繊維を含有する硬化ポリマーマトリックス又は複合部品は、靱性/衝撃特性、高温多湿性能及び攻撃的な溶媒への耐性の良好なバランスを有するとして特徴付けることができよう。
【0017】
いくつかの実施形態において、本開示の熱硬化性樹脂組成物は、以下の成分:
(A)(i)二官能性ポリエポキシドと(ii)三官能性ポリエポキシド及び/又は四官能性ポリエポキシドとの組合せ;
(B)ポリエポキシド用の主アミン硬化剤としての4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)を含む硬化剤成分;
(C)好ましくは、熱可塑ポリマーと熱可塑性粒子との組合せを含む、強化成分
を含み、
ここで、成分の、重量百分率(重量%)での、相対量は、樹脂組成物の総重量を基準として、30~75重量%のA、20~30重量%のB、及び5~40重量%のCである。成分Bに関して、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)は、唯一のアミン硬化剤であり得るか、又は1つ以上の他の芳香族アミン、好ましくは、芳香族ジアミンと組み合わせて使用され得る。アミン硬化剤の組合せが成分Bのために使用される場合、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)のモル含有量は、熱硬化性樹脂組成物.中の全アミンの全モル量の50%以上である。
【0018】
成分AとBとの相対量は、エポキシ対アミンのモル比が0.9~1.1であるようなものである。この熱硬化性樹脂組成物は、多官能性ポリエポキシドと反応する、いかなる触媒又は促進剤も欠けている。任意選択的に、この樹脂組成物は、樹脂組成物の総重量を基準として0.1~10重量%の量で、導電性充填材などの、無機充填材を更に含み得る。
【0019】
好ましい実施形態において、熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂と反応する、いかなる触媒又は促進剤も含まない。そのような触媒又は促進剤には、ビスウレア、カルボキシレート配位子との金属錯体、三フッ化ホウ素若しくはそれの錯体、又は3級アミン、イミダゾール、ホスホニウムハロゲン化物、及びポリエポキシドとの付加体などの任意の共硬化剤が含まれる。そのような3級アミンには、トリス(ジメチルアミノ-メチル)フェノール及びベンジルジメチルアミンが含まれる。そのような3級アミンを含有するエポキシ系樹脂組成物は、貯蔵安定性に欠けており、ほとんどの場合に、これらの共硬化剤(促進剤としての)の添加後の24時間以内に使用されなければならない、さもないと混合物は、通常の貯蔵条件下で硬化し始める。ホスホニウムハロゲン化物には、ヨウ化エチルトリフェニルホスホニウムが含まれる。ポリエポキシドとの付加体には、(i)4,4’-イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)のポリグリシジルエーテルとのN-メチル-、N-(2-ヒドロキシエチル)-、N-オクチル-、N-フェニル-及びN-ベンジルピペラジン及びN-メチルホモピペラジン付加体;並びに(ii)モノペルオキシド、ポリエポキシド又はフェノール/ノボラック樹脂とのイミダゾール付加体、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのグリシジルポリエーテルとの2-エチル-4-メチルイミダゾール付加体が含まれる。そのような触媒/促進剤及び共硬化剤の存在は、周囲条件での未硬化プリプレグのタック、ドレープ、貯蔵時間、及び貯蔵寿命などの、特性への望ましくない影響をもたらし得る。
【0020】
プリプレグを製造する目的のためには、未硬化熱硬化性樹脂組成物の粘度は、80℃で50~1500ポアズ又は120℃~170℃範囲の温度で1~500ポアズの範囲にあり得る。
【0021】
熱硬化性プリプレグは、補強繊維の層に、本明細書で開示される熱硬化性樹脂組成物を含浸させることによって製造され得、ここで、樹脂組成物は、プリプレグの総体積を基準にして体積分率(%)で、30%~80%、又は30%~65%、好ましくは、40%~50%を構成する。
【0022】
本開示の熱硬化性樹脂組成物を使用して製造されたプリプレグは、85%超の硬化度及びEN6032によって測定されるように、乾燥条件で180℃以上(より具体的には、180℃~200℃)、高温/多湿条件で(70℃/85%湿度で2週間の状態調節後に)、150℃以上(より具体的には、150℃~160℃)のガラス転移温度及(Tg)の硬化複合材料を製造するために160℃~180℃で15~120分間硬化させることができる。いくつかの実施形態において、硬化は、160℃~170℃で15~60分間実施される。
【0023】
熱硬化性樹脂組成物又はプリプレグの硬化度は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。熱硬化性樹脂組成物は、硬化中に不可逆化学反応を受ける。樹脂系中の成分が硬化するときに、熱が樹脂により発生し、それは、DSC機器によってモニターされる。硬化熱は、樹脂材料のパーセント硬化を求めるために用いれられ得る。例として、以下の単純計算が、パーセント硬化情報を提供することができる:
%硬化=[ΔH未硬化-ΔH硬化]/[ΔH未硬化]×100%
ここで、ΔHは、未硬化サンプル又は硬化サンプルにより発生するエンタルピーである。
【0024】
本開示の熱硬化性樹脂組成物を含浸させた補強繊維を含有するプリプレグ又はプリプレグレイアップについての好適な硬化サイクルは、以下の通りである:1℃/分での室温(20℃~25℃)から160℃までのランプ、60分間160℃でのドウェル及び3℃/分での60℃までのランプダウン。樹脂組成物の安定性は、0.5℃/分~2℃/分の範囲でのランプ速度で160~170℃に温度をランプする前にプリプレグ/プリプレグレイアップを支える金型を80℃~90℃までの温度に予熱することによって硬化サイクル継続時間の更なる短縮を可能にすることができよう。
【0025】
硬化サイクルの全継続時間は、それ故に、同等の熱機械性能を達成しながら、7~12時間の業界標準から3~5時間に短縮することができる。
【0026】
本開示の熱硬化性樹脂組成物は、制御された反応性で特徴付けられ、厚い複合部品(56mmまでの厚さを有する)が0.5℃/分~2℃/分の業界標準温度ランプを用いて硬化させられるときに、中間温度ドウェル工程(30~60分間100℃~140℃の範囲の温度に保持する)を必要としない。
【0027】
本開示の熱硬化性樹脂組成物を使用することから誘導される硬化複合材料は、EN2378によって測定されるように低い水吸収、例えば1.5%未満、及び高温/多湿条件での優れた熱機械特性で特徴付けられる。そのような熱機械特性は、EN6035によって測定されるような充填孔引張強度、EN6037によって測定されるようなボルト支圧強度、及びEN6038によって測定されるような衝撃後圧縮強度(CAI)を指す。
【0028】
本明細書で用いられるような用語「硬化する(cure)」及び「硬化すること(curing)」は、主成分の混合、高温での加熱、又は紫外線及び放射線への暴露によってもたらされるポリマー材料の重合及び/又は架橋を包含する。
【0029】
熱硬化性樹脂
本開示の熱硬化性樹脂組成物は、硬化可能な又は熱硬化可能な樹脂組成物である。好ましい実施形態において、硬化性の熱硬化性樹脂組成物は、多官能性エポキシ樹脂又はポリエポキシドの組合せを含有する。本明細書で用いるところでは、用語「多官能性」エポキシ樹脂は、2つ以上の官能性を有する樹脂である。用語「ポリエポキシド」は、本開示では「エポキシ樹脂」と同じ意味で用いられる。好ましい多官能性樹脂は、より大きい官能性を有するエポキシ樹脂、例えば5又は6つのエポキシ基を有するものもまた使用され得るけれども、二官能性、三官能性及び四官能性エポキシ樹脂である。用語「多官能性」は、非整数官能性を有する樹脂、例えば、エポキシフェノールノボラック(EPN)樹脂を包含する。
【0030】
好適なエポキシ樹脂には、芳香族ジアミン、芳香族モノ1級アミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール、ポリカルボン酸のポリグリシジル誘導体が含まれる。好適なエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールC、ビスフェノールS及びビスフェノールKなどのビスフェノールのポリグリシジルエーテル;並びにクレゾール及びフェノール系ノボラックのポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0031】
好適な二官能性エポキシ樹脂には、ビスフェノールF、ビスフェノールA(任意選択的に臭素化された)のジグリシジルエーテル、フェノール及びクレゾールエポキシノボラックのグリシジルエーテル、フェノール-アルデヒド付加体のグリシジルエーテル、脂肪族ジオールのグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族ポリグリシジルエーテル、エポキシ化オレフィン、臭素化樹脂、芳香族グリシジルアミン、複素環グリシジルイミジン及びアミド、グリシジルエーテル、フッ素化エポキシ樹脂、又はそれらの任意の組合せをベースとするものが含まれる。二官能性エポキシ樹脂は、好ましくは、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル(DGEBF)、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)、ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、又はそれらの任意の組合せから選択される。
【0032】
好適な三官能性エポキシ樹脂には、例として、フェノール及びクレゾールエポキシノボラック、フェノール-アルデヒド付加体のグリシジルエーテル、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族トリグリシジルエーテル、ジ脂肪族トリグリシジルエーテル、脂肪族ポリグリシジルエーテル、エポキシ化オレフィン、臭素化樹脂、トリグリシジルアミノフェノール(トリグリシジルp-アミノフェノール(TGPAM)及びトリグリシジルm-アミノフェノールを含む)、芳香族グリシジルアミン、複素環グリシジルイミジン及びアミド、グリシジルエーテル、フッ素化エポキシ樹脂、ヒドロキシルフェニルメタンのトリグリシジル誘導体、又はそれらの任意の組合せをベースとするものが含まれる。
【0033】
好適な四官能性エポキシ樹脂には、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM);テトラグリシジル-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン;テトラグリシジル-ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)-1,4-イソプロピルベンゼン、ヒドロキシフェニルエタンのテトラグリシジル誘導体及びテトラグリシジル-m-キシレンジアミンが含まれる。
【0034】
好ましい実施形態において、二官能性エポキシ樹脂は、三官能性エポキシ樹脂及び/又は四官能性エポキシ樹脂と組み合わせて使用される。
【0035】
強化剤
熱硬化性樹脂組成物で使用するための好適な強化剤(toughening agent)(つまり強化剤(toughener))には、粒子の形態で存在し得る、熱可塑性ポリマーが含まれる。本明細書中で用いられるような用語「粒子」は、球状及び非球状粒子を含むが、それらに限定されない様々な形状の粒状材料を包含する。いくつかの実施形態において、熱可塑性の強化粒子には、それの硬化中に熱硬化性樹脂組成物に実質的に不溶性である、且つ硬化後の硬化材料中に目立たない粒子として残る粒子が含まれる。本明細書での目的に好適である不溶性の熱可塑性粒子には、脂肪族ポリアミド(PA)、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリフタルアミド(PPA);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びポリエーテルエーテルケトン(PEKK)などの、ポリアリールエーテルケトン(PAEK);ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミドイミド、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド、それらのコポリマー、並びにそれらの誘導体の粒子が含まれる。これらの強化粒子は、金属などの導電性コーティングを持たない。
【0036】
不溶性の熱可塑性粒子は、高温/多湿性能の喪失を回避するための層間強化剤として有効であることが分かっている。これらの熱可塑性粒子は、硬化後のポリマーマトリックスに不溶性のままであるので、それらは、改善された靱性、損傷耐性、高温/多湿性能、処理、マイクロクラッキング耐性、及び溶媒感受性の低減を硬化ポリマーマトリックスに付与する。
【0037】
不溶性の熱可塑性粒子は、追加の強化剤として可溶性の熱可塑性ポリマーと組み合わせて使用され得る。そのような可溶性の熱可塑性ポリマーは、ポリアリールスルホン(例えばポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、PES-PEESコポリマー)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、熱可塑性フェノキシ樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリイミド(PI)から選択され得る。これらの可溶性の熱可塑性ポリマーは、組成物の調製中に又はプリプレグを形成するための補強繊維の含浸中に組成物が加熱されるときに樹脂組成物中へ溶解する、固体(例えば、粉末)として樹脂組成物に添加され得る。本明細書で用いるところでは、樹脂中へ「溶解する」は、樹脂と均一な又は連続的な相を形成することを意味する。
【0038】
強化剤はまた、硬化中に多官能性エポキシ樹脂と反応することができる官能基を持ったエラストメリックポリマーから選択され得る。好適な官能基には、-COOH、-NH、-NH2、-OH、-SH、-CONH2、-CONH-、-NHCONH-、-NCO、-NCS、及びオキシラン又はグリシジル基が含まれるが、それらに限定されない。例示的なエラストマーには、限定なしに、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、イソプレンブタジエンコポリマー、ネオプレン、ニトリルゴム、ブタジエン-アクリロニトリルコポリマー、ブチルゴム、ブチルニトリルゴム、ポリスルフィドエラストマー、アクリルエラストマー、アクリロニトリルエラストマー、シリコーンゴム、ポリシロキサン、ポリエステルゴム、ジイソシアネート連結縮合エラストマー、EPDM(エチレン-プロピレンジエンゴム)、クロロスルホン化ポリエチレン、フッ素化炭化水素、ポリブチルアクリレート-メチルメタクリレート(MAM)コポリマー、スチレン及びブタジエン又はイソプレンの(AB)及び(ABA)型ブロックコポリマーなどの熱可塑性エラストマー、並びにポリウレタン又はポリエステルの(AB)n型マルチセグメントブロックコポリマー等が含まれる。
【0039】
好ましい実施形態において、ポリアリールスルホン、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)が強化剤として使用される。別の好ましい実施形態において、不溶性ポリアミド粒子と可溶性ポリアリールスルホン、例えば、PESとの組合せが、熱硬化性樹脂組成物中の強化剤として使用される。
【0040】
強化成分は、熱硬化性樹脂組成物の総重量を基準として、5~23重量%などの、5~40重量%の範囲の量で存在し得る。
【0041】
他の添加剤
任意選択的に、本開示の熱硬化性樹脂組成物はまた、レオロジー制御剤、粘着性付与剤、無機若しくは有機充填材、安定剤、インヒビタ、顔料、染料、難燃剤、反応性希釈剤、導電性充填材及び硬化前又は硬化後の樹脂の特性を変性するための当業者に周知の他の添加剤から選択される1つ以上の添加剤を含有する。
【0042】
存在する場合、無機若しくは有機充填材は、樹脂組成物の総重量を基準として約0.1~10重量%を構成する。いくつかの実施形態において、導電性充填材が熱硬化性樹脂組成物に添加される。一般に、導電性充填材は、例えば、球形、楕円形、回転楕円形、円盤状、樹木状、棒、ディスク、立方体又は多面体などの、任意の好適な三次元形状を有し得る。
【0043】
熱硬化性樹脂組成物用の好適な導電性充填材には、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、カーボンナノニードル、カーボンナノシート、カーボンナノロッドなどのカーボンナノ材料、カーボンブラック、黒鉛ナノプレートレット若しくはナノドット、グラフェン、黒鉛、又は部分的な若しくは全体的な金属コーティング若しくは他のフラーレン材料あり若しくはなしのそれらの組合せ及びそれらの組合せが含まれるが、それらに限定されない。用語「カーボンナノ材料」は、本明細書で用いるところでは、約0.1マイクロメートルよりも小さい(<100ナノメートル)少なくとも1つの寸法を有する、及び分子スケールで、5角形若しくは6角形又は両方に配置された炭素原子から完全に若しくは大部分はなる材料を指す。
【0044】
補強繊維
高性能複合材料及びプリプレグを製造するために、好適な補強繊維は、高い引張強度、好ましくは、ASTM C1557-14に従って測定されるように500ksi(つまり3447MPa)超の引張強度を有する。この目的のために有用である繊維には、炭素繊維又は黒鉛繊維、ガラス繊維及び炭化ケイ素、アルミナ、ホウ素、石英等で形成された繊維、並びに例えばポリオレフィン、ポリ(ベンゾチアゾール)、ポリ(ベンズイミダゾール)、ポリアリレート、ポリ(ベンゾオキサゾール)、芳香族ポリアミド、ポリアリールエーテル等などの有機ポリマーから形成された繊維が含まれ、2つ以上のそのような繊維を有する混合物が含まれる。好ましくは、繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、及び商品名KEVLARでDuPont Companyによって販売される繊維などの、芳香族ポリアミド繊維から選択される。補強繊維は、連続一方向若しくは多方向テープとして、又は織布、不捲縮布、若しくは不織布として、不連続繊維の形態で使用され得る。織り形態は、平織、繻子織、又は綾織スタイルから選択され得る。不捲縮布は、多数の層及び繊維配向を有し得る。
【0045】
補強繊維は、各トウが多数のフィラメント、一方向若しくは多方向繊維、一方向繊維のテープ、又は不織布若しくは織布から構成される、連続トウの形態にあり得る。好ましい実施形態において、プリプレグ用の補強繊維は、一方向炭素繊維である。用語「一方向」は、平行の、相隔たる繊維の一方向位置、すなわち、同じ方向での配向を指す。
【0046】
プリプレグ及び複合構造物の製造
本明細書で用いられるような用語「プリプレグ」は、硬化性樹脂組成物を含浸させられている補強繊維のシート又は層を指す。プリプレグは、完全含浸プリプレグであっても、部分含浸プリプレグであってもよい。本明細書で用いられるような用語「含浸」は、含浸プロセスにかけられている繊維を指し、そのプロセスによって繊維は、樹脂によって部分的に取り囲まれるか又は、「マトリックス樹脂」とも言われる、樹脂のバルク中に完全に埋め込まれる。
【0047】
一般的には、乾燥繊維の層は、硬化性樹脂をその融解状態に加熱し、前記融解した硬化性樹脂を乾燥繊維の層上に及び層中へ導入することによって硬化性樹脂を含浸させることができる。典型的な含浸方法は、
(1)溶媒和した樹脂組成物の浴を通して補強繊維を連続的に移動させて繊維を完全に又は実質的にウエットアウトし;引き続き溶媒を蒸発させるために熱を加える工程;又は
(2)トップ樹脂フィルム及び/又はボトム樹脂フィルムを、高温下に補強繊維の層に向かってプレスする工程(ホットメルト技法)
を含む。
【0048】
プリプレグ層を製造するために、樹脂フィルムが、先ず本開示の熱硬化性樹脂組成物を剥離紙上へコートすることによって製造される。次に、そのような樹脂フィルムの1つ若しくは2つが、繊維に含浸させるために熱及び圧力の助けの下で補強繊維の層の一面若しくは両面上へ積層され、それによって特定の繊維目付(FAW)及び樹脂含有量の繊維補強樹脂層(又はプリプレグ層)を形成する。繊維フィラメント間の間隔よりも大きい粒径を有する強化粒子が存在する場合、それらは、積層プロセス中に濾別され、繊維層の外部にとどまる。
【0049】
複合構造物を形成するために、複数のプリプレグ層が「プリプレグレイアップ」を形成するために積層シーケンスでツール上にレイアップされ得る。レイアップ内のプリプレグ層は、互いに選択された配向で、例えば0°、±45°、90°等で配置され得る。プリプレグレイアップは、手動レイアップ、自動テープレイアップ(ATL)、先進的繊維配置(AFP)、及びフィラメント・ワインディングを含み得るが、それらに限定されない技法によって製造され得る。プリプレグレイアップは、次いで、本明細書で開示される硬化サイクルに従って硬化させられる。
【実施例】
【0050】
実施例1
エポキシ成分を70℃でプレブレンドすることによって下の表1によるエポキシ樹脂配合物(1a~1i)を調製し、ポリエーテルスルホン(PES)を次いで添加して混合物を形成し、それを次いで、PESの完全溶解が達成されるまで115℃で加熱した。混合物を次いで80℃まで冷却し、ポリアミド粒子、次いでアミン硬化剤を添加し、均一な組成物が得られるまで混合した。
【0051】
【0052】
DGEBPFは、ビスフェノールFをベースとするエポキシである。TGDDMは、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂である。TGPAPは、トリグリシジルパラ-アミノフェノールエポキシ樹脂である。DGEBPAは、ビスフェノールAをベースとするエポキシ樹脂である。4,4’-DDSは、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンである。ポリアミド粒子は、(DSCによって測定されるように)約250℃の融点を有した。
【0053】
結果として生じた配合物のそれぞれを、次いでスチール金型中でキャストし、表2に記載される硬化サイクルの1つに従ってオーブン中で硬化させて樹脂プラークを形成した。
【0054】
【0055】
およそ2mm厚さの試験クーポンを次いで硬化樹脂プラークのそれぞれから摘出し、硬化樹脂プラークの開始Tgを、1Hzの周波数でEN6032に従ってガラス転移事象の開始の前後に貯蔵弾性率曲線上の点から引かれる外挿接線の交差点で測定した。湿潤クーポンを、EN2823に従って飽和まで70℃及び85%湿度での気候静的チャンバー(climatostatic chamber)中でプレ状態調節し、次いで動的機械分析(DMA)によって試験した。硬化樹脂の硬化度(EoC)を、示差走査熱量測定法(DSC)によって測定し、それぞれ、硬化樹脂及び未硬化樹脂の、J/g単位の反応熱間の比として計算し、百分率として表した。DSCは、-50℃~350℃温度範囲において10℃/分で行った。硬化樹脂のTg及びEoCデータを表3に報告する。
【0056】
【0057】
表2及び3に示されるように、160℃~170℃で30~60分間硬化させた、樹脂1a~1hにおける単一成分硬化剤としての4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)の使用は、より慣習的な4,4’-DDSを含有する、そして180℃(より高い温度)で2時間(より長いドウェル時間)硬化させた、樹脂1iのTgに等しいか若しくはそれより良好である、Tg数を、乾燥又はH/W条件の両方でもたらした。
【0058】
樹脂1iを160℃~170℃で30~60分間硬化させた場合、測定されたTgは、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)を使って硬化させた、樹脂1a~1hについてよりもおおよそ25℃~35℃低かった。加えて、4,4’-DDSを使用して71%~76%範囲の硬化度を達成することができたにすぎず、一方、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)を硬化剤として含有する組成物に由来する評価された硬化樹脂の全てが85%~91%範囲の転化度を達成した。
【0059】
実施例2
表1の樹脂配合物1aを剥離紙上へキャストして樹脂フィルムを形成した。そのような樹脂フィルムの2つを使用して一方向炭素繊維(帝人製のIMS65E23-24K-830tex)の層に含浸させて、268gsmの繊維目付(FAW)及び34%の樹脂含有量の一方向(UD)プリプレグを製造した。
【0060】
UDプリプレグを使用して試験パネルを製造した。各試験パネルは、プリプレグ層のラミネートであった。試験パネルを、EN2565に従って製造し、実施例1の表2に記載された硬化サイクル1に従ってオートクレーブ中で硬化させた。熱機械試験を硬化パネルに関して実施し、結果を表4に報告する。
【0061】
【0062】
表4において、ARは、「受け取ったまま」を表し、一方RTは室温(約25℃)を表す。70℃/WETは、試験クーポンの飽和を達成するための比較的高い温度(70℃)及び高い湿度レベル(85%)での状態調節プロセスを表す。
【0063】
Gicは、EN6033に従って測定された、モードIでの層破壊靱性の測定である。ILSSは、EN2563に従って測定された見かけ層間せん断強度である。CSAIは30ジュール衝撃後に及びEN6038に従って測定された衝撃後圧縮強度である。FHTは、EN6035によって測定されるようなノッチ付き引張強度である。BBSは、EN6037によって測定されたボルト支圧強度である。Tgは、硬化試験パネルの並びにDMAによって及びEN6032に従って測定されたガラス転移温度である。試験パネルの硬化度(EoC)は、DSCによって測定し、それぞれ、硬化試験パネルと未硬化プリプレグのJ/g単位での反応熱間の比として計算し、百分率として表した。50℃から350℃まで10℃/分の温度速度での温度ランプ実験を用いて反応熱を測定した。
【0064】
表4に示されるように、硬化パネルは、160℃で1時間硬化させた場合に90%超の硬化度及び155℃の高温/多湿(H/W)Tgに達した。硬化パネルはまた、546J/m2の高い剥離抵抗性及び215MPaの損傷耐性を示した。更に、CSAI又はFHTの低下は、70℃及び85%湿度で2週間の状態調節に曝した後に全く観察されなかった。BBS及びILSSの比較的低い低下がまた、そのようなH/W条件への暴露後に観察された。
【0065】
実施例3
表1の樹脂配合物1hを、シリコーン剥離紙上へ堆積させてフィルムを形成した。結果として生じた樹脂フィルムを使用してプリプレグ製造ライン上の一方向炭素繊維(SGL Sigrafil(登録商標)C T50 4.4/255 E100)の層に含浸させ、それは、35%の樹脂含有量で190g/m2の名目繊維目付のプリプレグを生み出した。
【0066】
プリプレグを使用して試験パネルを製造した。各試験パネルは、プリプレグ層のラミネートであった。試験パネルを、EN2565に従って製造し、実施例1の表2に記載された硬化サイクル1に従ってオートクレーブ中で硬化させた。熱機械試験を硬化パネルに関して実施し、結果を表4に報告する。
【0067】
【0068】
【0069】
実施例4-発熱
実施例3に記載されたプリプレグの発熱を、プリプレグから、それぞれ、30mm(パネル4.1)及び56mm(パネル4.2)の名目厚さの2つのラミネートを製造し、それらをオートクレーブ中で硬化させることによって実評価した。熱電対(TC2)を各ラミネートの中心に置き、一方、第2のもの(TC1)を同じ場所に、しかし2つのトップ層の間に置いた。各プリプレグラミネートを、実施例1の表2に開示された硬化サイクル1に従って硬化させた。評価結果を表5に報告する。
【0070】
【0071】
30mm厚さのパネル(パネル4.1)の場合に、ラミネートネーにおける中間層の中心(TC2)において正式に記録された最高温度は166℃であり、一方、162.4℃の最高温度がトップ2つの層間の熱電対(TC1)によって測定された。それ故、4℃未満の最高値の差が硬化サイクル中に測定された。硬化ラミネートの外側部分から中心部分まで1%未満の標準偏差で88%の平均硬化度が達成された。
【0072】
同様に、56mm厚さのパネル(パネル4.2)の場合に、TC2によって正式に記録された最高温度は、TC1によって読み取られた最高温度と比較してちょうど7.7℃の最高値の差で168.4℃であった。硬化ラミネートの外側部分から中心部分まで1%未満の標準偏差で89%の平均硬化度が達成された。
【0073】
本明細書で記載された実験は、アミン硬化剤、4,4’-メチレンビス(2,6-キシリジン)がマトリックス樹脂に使用される場合に、56mmの厚さまでの厚い複合構造物を、硬化サイクル中の長ったらしい中間ドウェル時間を必要とせずに製造することができ、且つ制御されない発熱の発生を防ぐことができることを実証している。制御される硬化は、ラミネートの厚さの全体にわたって非常に均一な硬化度、その結果として、均一な熱機械性能をもたらした。
【国際調査報告】