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特表2024-501237絶縁トレンチゲート電極を有するパワー半導体デバイスおよびパワー半導体デバイスを製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】絶縁トレンチゲート電極を有するパワー半導体デバイスおよびパワー半導体デバイスを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20231228BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H01L29/78 655E
H01L29/78 653A
H01L29/78 652M
H01L29/78 652C
H01L29/78 652J
H01L29/78 655G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023537636
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2021086590
(87)【国際公開番号】W WO2022136179
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20216115.4
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ-ミキエリス,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】グプタ,ガウラブ
(72)【発明者】
【氏名】ビターレ,ボルフガング・アマデウス
(72)【発明者】
【氏名】ブイトラゴ,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】コルバシェ,キアラ
(57)【要約】
エミッタ電極(51)を有するエミッタ側(21)と、エミッタ側(21)とは反対側のコレクタ側(22)との間で鉛直方向に延在する半導体本体(2)を有するパワー半導体デバイス(1)が規定され、パワー半導体デバイス(1)は、第1の導電型のドリフト層(26)と、ドリフト層(26)とエミッタ側(21)との間に延在する、第1の導電型とは異なる第2の導電型のベース層(28)と、ベース層(28)のドリフト層(26)とは反対側に配置された第1の導電型のソース領域(29)と、エミッタ側(21)からドリフト層(26)内に延在する少なくとも1つの第1のトレンチ(3)と、第1のトレンチ(3)内に延在する絶縁トレンチゲート電極(30)と、エミッタ側(21)からドリフト層(26)内に延在する少なくとも1つの第2のトレンチ(4)であって、少なくとも1つの第1のトレンチ(3)のソース領域(29)とは反対側に配置された少なくとも1つの第2のトレンチ(4)と、第2のトレンチ(4)内に延在する導電層(41)であって、ベース層(28)およびドリフト層(26)から電気的に絶縁される導電層(41)とを備え、少なくとも1つの第2のトレンチ(4)の少なくとも1つの第1のトレンチ(3)とは反対側に配置されたベース層(28)の部分(281)は、少なくとも1つの第2のトレンチ(4)と少なくとも同じ深さでエミッタ側(21)から鉛直方向にコレクタ側(22)に向かって延在し、少なくとも1つの第1のトレンチ(3)と少なくとも1つの第2のトレンチ(4)との間に延在するパワー半導体デバイス(1)のサブ領域(6)は、ベース層(28)に電気的に接続された電荷キャリア抽出コンタクト(61)を備える。また、パワー半導体デバイス(1)を製造する方法が規定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッタ電極(51)を有するエミッタ側(21)と、前記エミッタ側(21)とは反対側のコレクタ側(22)との間で鉛直方向に延在する半導体本体(2)を有するパワー半導体デバイス(1)であって、前記パワー半導体デバイス(1)は、
第1の導電型のドリフト層(26)と、
前記ドリフト層(26)と前記エミッタ側(21)との間に延在する、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型のベース層(28)と、
前記ベース層(28)の前記ドリフト層(26)とは反対側に配置された前記第1の導電型のソース領域(29)と、
前記エミッタ側(21)から前記ドリフト層(26)内に延在する少なくとも1つの第1のトレンチ(3)と、
前記第1のトレンチ(3)内に延在する絶縁トレンチゲート電極(30)と、
前記エミッタ側(21)から前記ドリフト層(26)内に延在する少なくとも1つの第2のトレンチ(4)であって、前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)の前記ソース領域(29)とは反対側に配置された少なくとも1つの第2のトレンチ(4)と、
前記第2のトレンチ(4)内に延在する導電層(41)であって、前記ベース層(28)および前記ドリフト層(26)から電気的に絶縁される導電層(41)と
を備え、
前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)の前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)とは反対側に配置された前記ベース層(28)の部分(281)は、前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)と少なくとも同じ深さで前記エミッタ側(21)から前記鉛直方向に前記コレクタ側(22)に向かって延在し、
前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)と前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)との間に延在する前記パワー半導体デバイス(1)のサブ領域(6)は、前記ベース層(28)に電気的に接続された電荷キャリア抽出コンタクト(61)を備える、パワー半導体デバイス(1)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)は電気的に不活性であり、
前記第1の導電型の増強層(27)が、前記ドリフト層(26)と前記ベース層(28)との間の領域に配置され、前記増強層(27)は前記ドリフト層(26)よりも高濃度にドープされ、
前記増強層(27)は、前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)と前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)との間に配置される、請求項1に記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項3】
前記電荷キャリア抽出コンタクト(61)は、前記パワー半導体デバイス(1)の動作中に、前記エミッタ電極(51)とは別に電気的にアドレス指定可能であるように構成される、請求項1または2に記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項4】
前記電荷キャリア抽出コンタクト(61)は、前記エミッタ電極(51)に電気的に接続される、請求項1または2に記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項5】
前記導電層(41)は、前記パワー半導体デバイス(1)の動作中に、前記エミッタ電極(51)と同じ電圧または前記エミッタ電極(51)に対して正の電圧にあるように構成される、先行する請求項のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項6】
前記電荷キャリア抽出コンタクト(61)は、複数のセグメント(610)に細分され、前記セグメント(610)は、前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)の主延在方向(L)に平行に延びる方向に並んで配置される、先行する請求項のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)と前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)との間のエッジ間距離(s1)は、0.5μm以上5μm以下である、先行する請求項のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)および前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)は、前記鉛直方向において同じ深さを有する、先行する請求項のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項9】
前記部分(281)は、前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)に向かって前記少なくとも1つの第2のトレンチの下に延在する、先行する請求項のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項10】
前記ベース層(2)の前記部分(281)は、前記パワー半導体デバイス(1)の断面視において、前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)の2つの部分領域(41)の間で横方向に延在する、先行する請求項のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項11】
前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)は、前記第2のトレンチ(4)の前記2つの部分領域(41)を連続して形成する、請求項10に記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項12】
前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)は、前記鉛直方向に見たときに前記ベース層(28)の前記部分(281)を囲む閉ループを形成する、請求項11に記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項13】
前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)の前記2つの部分領域(41)は、前記パワー半導体デバイス(1)の断面視において、前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)の2つの部分領域(39)の間に配置される、請求項10~12のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項14】
前記パワー半導体デバイス(1)は絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)である、先行する請求項のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項15】
a)エミッタ側(21)と、前記エミッタ側(21)とは反対側のコレクタ側(22)との間に鉛直方向に延在する半導体本体(2)を設けるステップと、
b)前記エミッタ側(21)から前記半導体本体(2)内に延在する少なくとも1つの第1のトレンチ(3)を形成するステップと、
c)前記エミッタ側(21)から半導体本体(2)内に延在する少なくとも1つの第2のトレンチ(4)を形成するステップと、
d)前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)内に延在する導電層(41)を形成するステップと
を含む、パワー半導体デバイス(1)を製造する方法であって、
前記パワー半導体デバイス(1)は、
前記エミッタ側(21)のエミッタ電極(51)と、
第1の導電型のドリフト層(26)と、
前記ドリフト層(26)と前記エミッタ側(21)との間に延在する、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型のベース層(28)と、
前記ベース層(28)の前記ドリフト層(26)とは反対側に配置された前記第1の導電型のソース領域(29)と、
前記第1のトレンチ(3)内に延在する絶縁トレンチゲート電極(30)と
を備え、
前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)は前記エミッタ側(21)から前記ドリフト層(26)内に延在し、
前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)は前記エミッタ側(21)から前記ドリフト層(26)内に延在し、前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)は、前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)の前記ソース領域(29)とは反対側に配置され、
前記導電層(41)は、前記ベース層(28)および前記ドリフト層(26)から電気的に絶縁され、
前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)の前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)とは反対側に配置された前記ベース層(28)の部分(281)は、前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)と少なくとも同じ深さで前記エミッタ側(21)から前記鉛直方向に前記コレクタ側(22)に向かって延在し、
前記少なくとも1つの第1のトレンチ(3)と前記少なくとも1つの第2のトレンチ(4)との間に延在する前記パワー半導体デバイス(1)のサブ領域(6)は、前記ベース層(28)に電気的に接続された電荷キャリア抽出コンタクト(61)を備える、方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載のパワー半導体デバイス(1)が製造される、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁トレンチゲート電極を有するパワー半導体デバイス、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、およびパワー半導体デバイスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第9,825,158号および米国特許出願公開第2020/0006539号は、絶縁トレンチゲート電極を有する絶縁ゲートバイポーラトランジスタに関する。
【0003】
ゲート酸化物へのホットキャリア注入は、トレンチIGBTの長期安定性の損失に関連する典型的なトレンチ劣化メカニズムであることがわかっている。注入された電荷キャリアは、シリコン半導体材料とトレンチ酸化物との間の界面、特にトレンチ底部にトラップされ得る。ターンオフ中、電流は大部分が空乏層の膨張中に変位するホールからなる。ホールは、空乏層内の高電界によって、特にハードターンオフスイッチング事象の過電圧段階中にトレンチ底部に向かって加速される。
【0004】
解決されるべき目的は、長期安定性が向上したパワー半導体デバイスを提供し、そのようなデバイスを確実に製造することができる方法を提供することである。
【0005】
本開示の例示的な実施形態、とりわけ、例えば請求項1に記載のパワー半導体デバイスおよび請求項15に記載の方法は、上記の欠点に対処する。さらなる構成および開発は、従属請求項の主題である。
【0006】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、パワー半導体デバイスは、エミッタ電極を有するエミッタ側と、エミッタ側とは反対側のコレクタ側との間で鉛直方向に延在する半導体本体を備える。パワー半導体デバイスは、第1の導電型のドリフト層と、ドリフト層とエミッタ側との間に延在する、第1の導電型とは異なる第2の導電型のベース層とを備える。パワー半導体デバイスは、ベース層のドリフト層とは反対側に配置された第1の導電型のソース領域と、エミッタ側からドリフト層内に延在する少なくとも1つの第1のトレンチとをさらに備え、絶縁トレンチゲート電極が第1のトレンチ内に延在する。パワー半導体デバイスは、エミッタ側からドリフト層内に延在する少なくとも1つの第2のトレンチをさらに備え、導電層が第2のトレンチ内に延在し、導電層はベース層およびドリフト層から電気的に絶縁される。少なくとも1つの第2のトレンチは、少なくとも1つの第1のトレンチのソース領域とは反対側に配置される。少なくとも1つの第2のトレンチの少なくとも1つの第1のトレンチとは反対側に配置されたベース層の部分は、少なくとも1つの第2のトレンチと少なくとも同じ深さでエミッタ側から鉛直方向にコレクタ側に向かって延在する。
【0007】
第1のトレンチとは反対に、第2のトレンチは電気的に不活性であり、ダミートレンチとも呼ばれ得る。例えば、電気的に不活性であるとは、パワー半導体デバイスのオン状態において、少なくとも1つの第2のトレンチに沿って形成された導電性チャネルがないことを意味する。例えば、少なくとも1つの第1のトレンチは、第2のトレンチが第1のトレンチを介してソース領域から分離されるように、ソース領域と少なくとも1つの第2のトレンチとの間に配置される。コレクタ側に向かって比較的深く延在するベース層の部分は、例えばベース層の深さが第2のトレンチの両側で同じである設計と比較して、活性トレンチとして作用する第1のトレンチ付近のアバランシェ強度を大幅に低減するのに役立つことがわかった。
【0008】
ベース層の部分のドーピング濃度が、例えばドーパントの注入テイルに起因して鉛直方向に急激に減少しない場合、その鉛直位置を使用して部分の深さを決定することができ、第2の導電型の部分のドーピング濃度は、ドリフト層内の第1の導電型のドーパントのドーピング濃度まで減少している。
【0009】
第1の導電型はp型であってもよく、第2の導電型はn型であってもよく、またはその逆であってもよい。
【0010】
例えば、トレンチの底部は、領域内のベース層の部分に直接隣接する。
絶縁トレンチゲート電極は、例えば、半導体本体および導電層の少なくとも一方から電気的に絶縁される。導電層は、例えば、少なくとも1つの第2のトレンチと直接電気的に接触していない。
【0011】
パワー半導体デバイスのターンオフ中に、電荷キャリア、例えばp型ベース層の場合にはホールが、電荷キャリア抽出コンタクトを介して抽出されてもよい。言い換えれば、電荷キャリア抽出コンタクトは、第1のトレンチ付近のアバランシェ発生をさらに低減するのに役立つプラズマ制御特徴部を表す。
【0012】
電荷キャリア抽出コンタクトの存在下では、かなりの量の注入されたホールが、活性トレンチとして作用する第1のトレンチから迂回され得ることが分かっている。さらに、第2のトレンチは、活性トレンチを静電的に遮蔽し、それによって第1のトレンチを絶縁トレンチゲート電極で保護することができる。サブ領域は、第1のトレンチおよび第2のトレンチによって静電的に遮蔽されてもよく、これにより、静電損失を過度に損なうことなく、ターンオフスイッチング事象中の制御されたプラズマ抽出が容易になる。その結果、デバイス性能に大きな影響を与えることなく、劣化の少ない堅牢なパワー半導体デバイスを得ることができる。
【0013】
電荷キャリア抽出は、電荷キャリア抽出コンタクトに印加される電圧を介して制御することができる。印加電圧は、エミッタ電極における電圧に対応していてもよいし、エミッタ電極における電圧と異なっていてもよい。
【0014】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、パワー半導体デバイスの動作中に、電荷キャリア抽出コンタクトは、エミッタ電極とは別に電気的にアドレス指定可能である。したがって、印加電圧は、エミッタ電極における電圧から独立していてもよい。言い換えれば、電荷キャリア抽出コンタクトおよびエミッタ電極は、2つの別個のコンタクト要素で構成される。例えば、電荷キャリア抽出コンタクトに印加される電圧は、エミッタ電極に対して正であるか、またはエミッタ電極における電圧と同じである。例えば、電荷キャリア抽出コンタクトにおける電圧は、動作中の異なる状態に対して異なる。例えば、オン状態中の正電圧は、過剰な電荷キャリア抽出を防止することができる。オフ状態またはオフ状態への切り替え中、電荷キャリア抽出を強化するために、電荷キャリア抽出コンタクトの電圧はエミッタ電極に対して負であってもよい。
【0015】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、電荷キャリア抽出コンタクトは、エミッタ電極に電気的に接続される。したがって、電荷キャリア抽出コンタクトの電圧は、エミッタ電極の電圧に対応する。
【0016】
パワー半導体デバイスに対する第2のトレンチの影響は、第2のトレンチ内の導電層に印加される電圧を介してさらに制御することができる。
【0017】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、導電層は、パワー半導体デバイスの動作中に、エミッタ電極と同じ電圧またはエミッタ電極に対して正の電圧にある。例えば、導電層は、エミッタ電極に印加される電圧または絶縁トレンチゲート電極に印加される電圧にある。しかしながら、印加電圧は、絶縁トレンチゲート電極およびエミッタ電極の両方の電圧と異なっていてもよい。
【0018】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、電荷キャリア抽出コンタクトは、複数のセグメントに細分される。例えば、セグメントは、少なくとも1つの第1のトレンチの主延在方向に平行に延びる方向に並んで配置される。しかしながら、セグメントのない単一電荷キャリアコンタクトを使用することもできる。
【0019】
例えば、少なくとも1つの第1のトレンチの主延在方向に平行に延びる直線に沿って電荷キャリア抽出コンタクトのセグメントによって覆われるエミッタ側の割合は、少なくとも0.1%または少なくとも10%または少なくとも30%および/または高々90%または高々80%になる。
【0020】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、サブ領域およびソース領域は、エミッタ側に向かって見たときに互いに横方向に並んで配置される。言い換えれば、第1のトレンチと第2のトレンチとの間にソース領域は存在しない。
【0021】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの第1のトレンチと少なくとも1つの第2のトレンチとの間のエッジ間距離は、0.5μm以上5μm以下である。第1のトレンチと第2のトレンチとの間の間隔が増加するにつれて、第2のトレンチによって共有されるアバランシェ発生の割合が減少することがわかった。したがって、第2のトレンチを第1のトレンチの可能な限り近くに配置することは、第1のトレンチの保護の点で有利であろう。しかしながら、間隔が小さすぎると、ターンオフ損失が高くなる可能性がある。
【0022】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの第1のトレンチおよび少なくとも1つの第2のトレンチは、鉛直方向において同じ深さを有する。その結果、少なくとも1つの第1のトレンチおよび少なくとも1つの第2のトレンチは、共通のプロセスステップで生成することができる。
【0023】
「同じ深さ」という用語は、製造公差内の深さのわずかな違いも含む。ただし、第1のトレンチと第2のトレンチの深さは、適宜異なっていてもよい。
【0024】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、第1の導電型の増強層が、ドリフト層とベース層との間の領域に配置され、増強層はドリフト層よりも高濃度にドープされる。
【0025】
例えば、増強層の最大ドーピング濃度は、ドリフト層の最大ドーピング濃度よりも少なくとも50倍または100倍大きい。
【0026】
増強層は、電荷キャリア障壁として作用し、それによってオン状態損失を低減することができる。
【0027】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、増強層は、少なくとも1つの第1のトレンチと少なくとも1つの第2のトレンチとの間に配置される。したがって、増強層の一部は、サブ領域にも存在し得る。第1のトレンチと第2のトレンチとの間のサブ領域に配置された増強層によって、電荷キャリア抽出コンタクトを介したオン状態損失をさらに低減することができる。しかしながら、第1のトレンチと第2のトレンチとの間のサブ領域はまた、増強層を含まなくてもよい。
【0028】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、部分は、少なくとも1つの第1のトレンチに向かって少なくとも1つの第2のトレンチの下に延在する。例えば、第2のトレンチは、鉛直方向に見たときに、部分と完全に重なる。例えば、部分は、第1のトレンチに向かって見たときに第2のトレンチを越えて延在するが、鉛直方向に見たときに電荷キャリア抽出コンタクトと重ならない。部分は、第1のトレンチに向かってさらに延在してもよい。例えば、サブ領域は、鉛直方向に見たときに、部分と完全に重なる。例えば、第1のトレンチは、鉛直方向に見たときに、部分と完全にまたは少なくとも一部の領域で重なる。
【0029】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、ベース層の部分は、パワー半導体デバイスの断面視において、少なくとも1つの第2のトレンチの2つの部分領域の間で横方向に延在する。2つの部分領域は、1つの連続する第2のトレンチまたは2つの別個の第2のトレンチによって形成されてもよい。例えば、少なくとも1つの第2のトレンチの部分は、互いに平行に延在し、例えば、少なくとも1つの第1のトレンチの主延在方向に垂直に走る方向に互いに離間している。
【0030】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの第2のトレンチは、第2のトレンチの2つの部分領域を連続して形成する。しかしながら、第2のトレンチの2つの部分領域は、2つの別個の第2のトレンチによって形成されてもよい。
【0031】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの第2のトレンチは、鉛直方向に見たときにベース層の部分を囲む閉ループを形成する。ベース層の部分は、領域内で閉ループから離間していてもよい。例えば、閉ループの外側では、ベース層は、いかなる位置においても少なくとも1つの第2のトレンチほど鉛直方向に深くは延在していない。
【0032】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、パワー半導体デバイスの断面視において、少なくとも1つの第2のトレンチの2つの部分領域は、少なくとも1つの第1のトレンチの2つの部分領域の間に配置される。例えば、少なくとも1つの第1のトレンチの部分は、互いに平行に延在し、例えば、少なくとも1つの第1のトレンチの主延在方向に垂直に走る方向に互いに離間している。例えば、少なくとも1つの第1のトレンチは、第1のトレンチの2つの部分領域を連続的に形成する。しかしながら、第2のトレンチの2つの部分領域は、2つの別個の第1のトレンチによって形成されてもよい。例えば、少なくとも1つの第1のトレンチは、少なくとも1つの第2のトレンチを囲む閉ループを形成し、これは例えば閉ループとして形成することができる。
【0033】
パワー半導体デバイスの少なくとも1つの実施形態によれば、パワー半導体デバイスはトレンチIGBTである。
【0034】
トレンチIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)は、エミッタ側(ソース側とも呼ばれる)に、第1の導電型のソース領域(エミッタ層とも呼ばれる)と、第1の導電型とは異なる第2の導電型のベース層(井戸層とも呼ばれる)とを備える。エミッタ電極(ソース電極とも呼ばれる)の形態のコンタクトが、ソース領域およびベース層に接触する。絶縁トレンチゲート電極が、ソース領域およびベース層の側方のエミッタ側に配置される。
【0035】
本発明の概念は、従来のパンチスルーIGBT、非パンチスルーIGBT(NPT-IGBT)、逆阻止IGBTまたは逆導通IGBTなどの異なるタイプのIGBTに適用することができる。また、他の絶縁トレンチゲート電極付きパワー半導体デバイスに適用され得る。
【0036】
パワー半導体デバイスの半導体本体は、シリコンをベースとすることができる。しかしながら、他の半導体材料、例えば炭化ケイ素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ材料を使用することもできる。
【0037】
例えば、パワー半導体デバイスは、例えば少なくとも数百アンペアの大電流および/または少なくとも500Vの大電圧で動作するように構成される。
【0038】
また、パワー半導体デバイスを製造する方法が規定される。例えば、本方法を使用して、本明細書に記載のパワー半導体デバイスを製造することができる。パワー半導体デバイスに関連して開示された特徴は、方法についても開示されており、逆もまた同様である。
【0039】
本方法の少なくとも1つの実施形態によれば、本方法は、
a)エミッタ側と、エミッタ側とは反対側のコレクタ側との間に鉛直方向に延在する半導体本体を設けるステップと、
b)エミッタ側から半導体本体内に延在する少なくとも1つの第1のトレンチを形成するステップと、
c)エミッタ側から半導体本体内に延在する少なくとも1つの第2のトレンチを形成するステップと、
d)第2のトレンチ内に延在する導電層を形成するステップと
を含み、
パワー半導体デバイスは、エミッタ側のエミッタ電極と、第1の導電型のドリフト層と、ドリフト層とエミッタ側との間に延在する、第1の導電型とは異なる第2の導電型のベース層と、ベース層のドリフト層とは反対側に配置された第1の導電型のソース領域とを備える。パワー半導体デバイスは、第1のトレンチ内に延在する絶縁トレンチゲート電極をさらに備える。少なくとも1つの第1のトレンチはエミッタ側からドリフト層内に延在し、少なくとも1つの第2のトレンチはエミッタ側からドリフト層内に延在し、少なくとも1つの第2のトレンチは、少なくとも1つの第1のトレンチのソース領域とは反対側に配置される。導電層は、ベース層およびドリフト層から電気的に絶縁される。少なくとも1つの第2のトレンチの少なくとも1つの第1のトレンチとは反対側に配置されたベース層の部分は、少なくとも1つの第2のトレンチと少なくとも同じ深さでエミッタ側から鉛直方向にコレクタ側に向かって延在する。少なくとも1つの第1のトレンチと少なくとも1つの第2のトレンチとの間に延在するパワー半導体デバイスのサブ領域は、ベース層に電気的に接続された電荷キャリア抽出コンタクトを備える。
【0040】
例えば、ステップは示された順序で実行される。しかしながら、ステップの順序はまた変化し得る。例えば、ステップc)は、ステップb)の前に、またはステップb)と一緒に1つの共通ステップで実施され得る。したがって、少なくとも1つの第2のトレンチの形成は、少なくとも1つの第1のトレンチを形成するステップに加えて、必ずしも個別の製造ステップを必要としない。
【0041】
本開示のさらなる態様は、例示的な実施形態および図面の以下の説明から明らかになるであろう。例示的な実施形態および図において、同様または同様に作用する構成部品には同じ参照符号が付されている。一般に、個々の実施形態に関する相違点のみを説明する。特に明記しない限り、一実施形態における部分または態様の説明は、別の実施形態における対応する部分または態様にも適用される。
【0042】
図面において、
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1A】パワー半導体デバイスの例示的な実施形態の断面図である。
図1B】パワー半導体デバイスの例示的な実施形態を、関連する概略上面図の一部とともに示す断面図である。
図1C】パワー半導体デバイスの例示的な実施形態の概略上面図の一部を示す図である。
図1D】パワー半導体デバイスの例示的な実施形態の、図1Cの線DD’に沿った断面図である。
図1E】パワー半導体デバイスの例示的な実施形態の、図1Cの線EE’に沿った断面図である。
図1F】パワー半導体デバイスの例示的な実施形態を、関連する概略上面図のさらなる部分とともに示す断面図である。
図2A】記載されるパワー半導体デバイスならびにそれぞれ図2Bおよび図2Cに示される2つの基準設計R1およびR2の時間積分アバランシェ発生Aのシミュレーション結果を示す図である。
図2B】基準設計R1を示す図である。
図2C】基準設計R2を示す図である。
図3A】電荷キャリア抽出コンタクトありおよびなしの設計に対する、第1のトレンチおよび第2のトレンチの近くの時間積分アバランシェ発生Aのシミュレーション結果を示す図である。
図3B】電荷キャリア抽出コンタクトありおよびなしの設計に対する時間積分アバランシェ発生Aのシミュレーション結果と、第1のトレンチと第2のトレンチとの間のエッジ間距離s1の関数としての、第2のトレンチ付近および第1のトレンチ付近のアバランシェ発生の間の関連する比とを示す図である。
図4】パワー半導体デバイスのさらなる例示的な実施形態を示す図である。
図5】パワー半導体デバイスを製造する方法の例示的な実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図に示される要素およびそれらの互いのサイズ関係は、必ずしも縮尺通りではない。むしろ、個々の要素または層の厚さは、より良い表現可能性のために、および/またはより良い理解のために、誇張されたサイズで表され得る。
【0045】
パワー半導体デバイス1の詳細が、図1Aに概略断面図で示されている。図1Bおよび図1Fの図は、互いに横方向に並んで配置されたセルとして具現化されたパワー半導体デバイス1を示す。
【0046】
パワー半導体デバイス1は、エミッタ電極51を有するエミッタ側21と、エミッタ側21とは反対側のコレクタ側22との間で鉛直方向に延在する半導体本体2を備える。
【0047】
パワー半導体デバイス1は、第1の導電型のドリフト層26と、ドリフト層26とエミッタ側21との間に延在する、第1の導電型とは異なる第2の導電型のベース層28とを備える。ベース層28のドリフト層26とは反対側に、第1の導電型のソース領域29が配置される。
【0048】
例示的な実施形態の以下の説明では、第1の導電型はn型であり、第2の導電型はp型であり、したがってベース層28はp型層である。しかしながら、層はまた、それらの導電型に関して反転されてもよい。
【0049】
パワー半導体デバイス1は、第1のトレンチ3と、第2のトレンチ4とを備える。第1のトレンチ3および第2のトレンチ4は、エミッタ側21からドリフト層26内に延在する。絶縁トレンチゲート電極30は、導電性であるゲート電極層31と、ゲート絶縁層32とを備え、第1のトレンチ3内に延在する。ゲート電極層31は、半導体本体2と電気的に絶縁される。パワー半導体デバイス1の動作中に、第1のトレンチ3は、ゲート電圧の電位レベルにおける活性トレンチを表す。
【0050】
第2のトレンチ4は、第1のトレンチ3のソース領域29とは反対側に配置され、活性トレンチを表していない。導電層41が、第2のトレンチ4内に延在する。導電層41は、ドリフト層26およびベース層28から電気的に絶縁される。エミッタ電極51は、エミッタ側21に配置される。第1のトレンチ3および第2のトレンチ4は、共通のプロセスステップで形成することができるように、同じ深さを有することができる。
【0051】
図示の例示的な実施形態では、第2のトレンチ4は、絶縁トレンチゲート電極30から電気的に絶縁され、エミッタ電極51に電気的に接続される。
【0052】
しかしながら、導電層41は、エミッタ電極51から電気的に分離されていてもよい。例えば、導電層41は、パワー半導体デバイス1の動作中に、エミッタ電極51と同じ電圧またはエミッタ電極51に対して正の電圧にある。例えば、導電層41は、エミッタ電極に印加される電圧または絶縁トレンチゲート電極3に印加される電圧にある。しかしながら、印加電圧は、絶縁トレンチゲート電極3およびエミッタ電極の両方の電圧と異なっていてもよい。導電層41に印加される正電圧は、サブ領域6の改善された静電遮蔽を提供することができる。
【0053】
図1Aの例示的な実施形態では、エミッタ電極51は、エミッタ側21に形成された半導体本体2の凹部内のソース領域29の横でベース層28に電気的に接触する。エミッタ電極51は、ソース領域29と、ベース層28の残りの部分よりも高濃度にドープされたベース層28のコンタクト部分282とに直接隣接する。しかしながら、エミッタ電極51はまた、エミッタ側21に設けられてもよい。
【0054】
第2のトレンチ4の第1のトレンチ3とは反対側に、ベース層28は、第2のトレンチ4の深さd1よりも大きいか、または少なくともそれと同じ深さd2を有する部分281を備える。例えば、ベース層28の部分281は、エミッタ側21から鉛直方向に第2のトレンチ4よりもコレクタ側22に向かって深く延在する。例えば、差d2-d1は、0μm以上5μm以下である。部分281は、領域内で第2のトレンチ4の底部に直接隣接する。
【0055】
第1のトレンチ3と第2のトレンチ4との間に延在するパワー半導体デバイス1のサブ領域6は、電荷キャリア抽出コンタクト61を備え、それを介してベース層28が電気的に接続される。
【0056】
サブ領域6およびソース領域29は、第1のトレンチ3の両側に配置され、したがってサブ領域6はソース領域を含まない。図示の例示的な実施形態では、電荷キャリア抽出コンタクト61はエミッタ電極51に電気的に接続される。したがって、パワー半導体デバイス1の動作中に、電荷キャリア抽出コンタクト61は、エミッタ電圧Veにあってもよい。
【0057】
しかしながら、パワー半導体デバイス1の動作中に、電荷キャリア抽出コンタクト61はまた、エミッタ電極51とは別に電気的にアドレス指定可能であってもよい。したがって、印加電圧は、エミッタ電極51における電圧から独立していてもよい。例えば、電荷キャリア抽出コンタクト61に印加される電圧は、エミッタ電極51に対して正であるか、またはエミッタ電極51における電圧と同じである。例えば、電荷キャリア抽出コンタクト61における電圧は、動作中の異なる状態に対して異なる。
【0058】
第2のトレンチ4よりもコレクタ側22に向かって深く延在するベース層28の部分281とともにダミートレンチとして作用する第2のトレンチ4は、パワー半導体デバイス1のターンオフスイッチング中のアバランシェ発生の著しい低減をもたらすことが見出されている。このようにして、ホットキャリアによるゲート絶縁層32の劣化を解消または少なくとも低減することができる。
【0059】
第1のトレンチ3付近のアバランシェ発生の低減は、図2Aに示すようなシミュレーションによって、パワー半導体デバイス1の第1のトレンチ3付近のターンオフスイッチング中の1平方センチメートル当たりの時間積分アバランシェ発生を、図2Bに示す第1の基準設計R1および図2Cに示す第2の基準設計R2と比較して、確認されている。基準設計R1は、第1のトレンチ3に対応する活性トレンチのみを含み、不活性トレンチを含まない。基準設計R2は、追加の電気的に不活性な第2のトレンチ4を含む。しかしながら、両方の基準設計において、ベース層28は、第2のトレンチ4の両側でベース層28の深さが同じになるように連続的な深さを有する。
【0060】
図2Aは、第2の基準設計R2およびパワー半導体デバイス1の2つの選択肢のシミュレーション結果を示しており、いずれの場合も、左側のバーは、電荷キャリア抽出コンタクトのない設計の第1のトレンチ3付近のターンオフスイッチング中の時間積分アバランシェ発生Aを示し、右側のバーは、電荷キャリア抽出コンタクト61のある設計の結果を示している。
【0061】
図2Aが示すように、時間積分アバランシェ発生Aは、電荷キャリア抽出コンタクトのない設計について、基準設計R2と比較して1桁を超える大きさだけ、および基準設計R1と比較して2桁の大きさだけ低減され得る。電荷キャリア抽出コンタクト61の追加は、2桁のさらなる低減をもたらす。
【0062】
図3Aは、図1Aに記載されているようなパワー半導体デバイス1のシミュレーション結果を棒線図で示しており、バー71および72は、電荷キャリア抽出コンタクト61のない設計に対する、第1のトレンチ3の近く(バー71)および第2のトレンチ4の近く(バー72)の時間積分アバランシェ発生Aを示す。バー73および74は、電荷キャリア抽出コンタクト61のある対応するシミュレーション結果を示す。これらのシミュレーションは、電荷キャリア抽出コンタクト61が、アバランシェ発生の大部分が第2のトレンチ4の近くで生じるようにプラズマ分布を制御することを可能にし、それによって第1のトレンチ3の近くのアバランシェ発生を低減することを明確に示す。
【0063】
図3Bは、第1のトレンチ3と第2のトレンチ4との間のエッジ間距離s1の関数として、図1Aに関連して説明したようなパワー半導体デバイスの時間積分アバランシェ発生Aのシミュレーション結果をさらに示し、曲線75は電荷キャリア抽出コンタクトのない設計を示し、曲線76は電荷キャリア抽出コンタクト61のある設計を示す。曲線75および76は、第1のトレンチ3付近のアバランシェ発生を示す。曲線77は、第2のトレンチ4の近傍の領域と第1のトレンチ3の近傍の領域との間のアバランシェ発生Aの比Rを示す。曲線75および76の両方について、アバランシェ発生Aは、エッジ間距離s1が減少するにつれて減少する。また、エッジ間距離s1が小さいほど、比Rは大きくなる。したがって、活性トレンチとして作用する第1のトレンチ3の保護の観点から、第2のトレンチ4を第1のトレンチ3のできるだけ近くに配置することが望ましい。しかしながら、第1のトレンチ3と第2のトレンチ4との間のより低いエッジ間距離s1は、ターンオフ損失を最小化するために好ましくない場合がある。したがって、第1のトレンチの保護と、パワー半導体デバイス1の用途要件に従って設計される必要があるパワー半導体デバイスセルのターンオフ損失との間にはトレードオフがある。
【0064】
パワー半導体デバイス1は、コレクタ層25をさらに備える。IGBTでは、コレクタ層25は第2の導電型である。コレクタ電極52が、パワー半導体デバイス1のコレクタ側22に配置される。コレクタ電極52は、コレクタ層25に直接隣接する。以下の図では、表現を容易にするために、パワー半導体デバイス1の上部のみが断面図に示される。
【0065】
パワー半導体デバイス1は、複数の領域においてドリフト層26とベース層28との間に配置された任意選択の増強層27をさらに備える。増強層27は、ドリフト層26のドーピング濃度よりも少なくとも50倍高い最大ドーピング濃度を有する層である。増強層27は、電荷キャリア障壁として、例えばn型増強層27のホール障壁として作用することができる。
【0066】
増強層27はまた、サブ領域6内にも存在し、それによって、増強層27は、電荷キャリア抽出コンタクト61における電荷キャリア抽出を低減し、それによってオン状態損失を低減する。
【0067】
電荷キャリア抽出コンタクト61は、ターンオフスイッチング中にプラズマへの追加の脱出経路を依然として提供するが、同時に、第1のトレンチ3および第2のトレンチ4によって提供されるサブ領域6の静電遮蔽によるオン状態損失を制限する。
【0068】
例えば、典型的な最大ドーピング濃度は、nドリフト層26については1*1012cm-3~1*1014cm-3、n増強層27については3*1016cm-3、pベース層28については1.5*1017cm-3、ベース層28の部分281については5*1017cm-3、ベース層28のpコンタクト部分282については1*1019cm-3であり得る。
【0069】
図1Bに示すように、パワー半導体デバイス1は、第1のトレンチ3の主延在方向L1に垂直な断面視において、第1のトレンチ3の2つの部分領域39と、第2のトレンチ4の2つの部分領域49とを備え、第2のトレンチ4の2つの部分領域49は、第1のトレンチ3の2つの部分領域39の間に配置される。第2のトレンチ4の深さd1よりも深い深さd2を有するベース層28の部分281が、第2のトレンチ4の2つの部分領域49の間に形成される。
【0070】
図1Fが示すように、第2のトレンチ4の部分領域49は、1つの連続する第2のトレンチ4によって形成されてもよい。例示的には、第2のトレンチ4は、エミッタ側21に向かって見たときに閉ループとして形成される。同様に、第1のトレンチ3の部分領域39は、1つの連続する第1のトレンチ3によって形成されてもよい。例示的には、第2のトレンチ4は、エミッタ側21に向かって見たときに閉ループとして形成される。
【0071】
ベース層28の部分281は、鉛直方向に見たときに、第2のトレンチ4によって形成された閉ループ内に完全に位置する。
【0072】
しかしながら、第1のトレンチ3の部分領域39および/または第2のトレンチ4の部分領域49はまた、他の設計の別個のトレンチによって形成されてもよい。
【0073】
図1Fは、セルの第1のトレンチ3内のゲート電極層31をゲート電位に電気的に接続するゲートコネクタ35と、セルの第2のトレンチ4内の導電層41をエミッタ電位Veに電気的に接続するコネクタ45とをさらに示す。しかしながら、コネクタ45はまた、導電層41を別の電位に接続するために使用されてもよい。
【0074】
図1Cに示すように、電荷キャリア抽出コンタクト61は、複数のセグメント610に分割することができる。用途の必要性に応じて、セグメント610間の平均中心間間隔、および主延在方向L1に平行に走る方向のそれらの延在は、広い範囲内で変化させることができる。例えば、主延在方向L1に平行に走る方向の延在は、少なくとも0.1%または少なくとも10%または少なくとも20%および/または高々95%または高々80%、例えば30%~50%である。
【0075】
例えば、セグメント610の数は、主延在方向L1に平行な方向において、一ミリメートル当たり20個以上200個以下である。しかしながら、代わりに単一のセグメントを使用することもできる。
【0076】
例えば、パワー半導体デバイス1は、主延在方向L1に沿って0.5~3mmの長さを有するストライプトレンチIGBTを提供するセル設計を有する。図1Bに示すように、主延在方向L1に垂直な方向における隣り合うパワー半導体デバイス1の中心間距離であるセルピッチc1は、例えば10μm以上500μm以下である。
【0077】
しかしながら、提案された設計は、他のパワー半導体デバイスおよび他の設計形状にも適用することができる。
【0078】
図4に示す例示的な実施形態は、図1A図1Fに関連して説明したものに本質的に対応する。
【0079】
そこから出発して、パワー半導体デバイス1では、部分281は、第1のトレンチ3に向かう方向に第2のトレンチ4の下に延在する。第2のトレンチ4は、鉛直方向に見たときに、部分と完全に重なる。例えば、部分281は、第1のトレンチ3に向かって見たときに第2のトレンチ4を越えて延在するが、鉛直方向に見たときに電荷キャリア抽出コンタクト61と重ならない。これは、第2のトレンチ4に面する側の電荷キャリア抽出コンタクト61のエッジを示す線62を使用して示されている。
【0080】
図示の実施形態とは異なり、部分281は、第1のトレンチ3に向かってさらに延在してもよい。例えば、サブ領域6は、鉛直方向に見たときに、部分281と完全に重なる。この場合、サブ領域281は、完全に第2の導電型であってもよい。あるいは、ドリフト層26の一部および/または増強層27の一部は、部分281のエミッタ側21に面する側に位置してもよい。
【0081】
さらに、第1のトレンチ3であっても、鉛直方向に見たときに、部分281と一部または全部が重なっていてもよい。
【0082】
図5は、パワー半導体デバイスを製造する方法の例示的な実施形態の概略図を示す。形成された個々の要素の参照符号は、上記の例示的な実施形態の対応する要素を指す。
【0083】
ステップS11で、エミッタ側21と、エミッタ側21の反対側のコレクタ側22との間に鉛直方向に延在する半導体本体2が設けられる。
【0084】
ステップS12で、エミッタ側21から半導体本体2内に延在する少なくとも1つの第1のトレンチ3が形成される。これは、例えばエッチングによって行うことができる。
【0085】
ステップS13で、エミッタ側21から半導体本体2内に延在する少なくとも1つの第2のトレンチ4が形成される。図5とは異なり、ステップS12およびS13は、共通のエッチングプロセスステップで、または逆順で実行されてもよい。
【0086】
ステップS14で、少なくとも1つの第2のトレンチ4内に延在する導電層41が形成される。例えば、導電層は、例えば化学気相成長(CVD)または物理気相成長(PVD)によって金属層として堆積される。
【0087】
例えば、このようにして製造されたパワー半導体デバイス1は、エミッタ側21のエミッタ電極51と、第1の導電型のドリフト層26と、ドリフト層26とエミッタ側21との間に延在する、第1の導電型とは異なる第2の導電型のベース層28と、ベース層(28)のドリフト層26とは反対側に配置された第1の導電型のソース領域29と、第1のトレンチ3内に延在する絶縁トレンチゲート電極30とを備える。少なくとも1つの第1のトレンチ3は、エミッタ側21からドリフト層26内に延在する。少なくとも1つの第2のトレンチ4はエミッタ側21からドリフト層26内に延在し、少なくとも1つの第2のトレンチ4は、少なくとも1つの第1のトレンチ3のソース領域29とは反対側に配置される。導電層41は、ベース層28およびドリフト層26から電気的に絶縁される。少なくとも1つの第2のトレンチ4の少なくとも1つの第1のトレンチ3とは反対側に配置されたベース層28の部分281は、少なくとも1つの第2のトレンチ4と少なくとも同じ深さでエミッタ側21から鉛直方向にコレクタ側22に向かって延在する。少なくとも1つの第1のトレンチ3と少なくとも1つの第2のトレンチ4との間に延在するパワー半導体デバイス1のサブ領域6は、ベース層28に電気的に接続された電荷キャリア抽出コンタクト61を備える。
【0088】
半導体本体2の層または部分のドーピングは、ステップS12およびS13の少なくとも一方の前または後に行われてもよい。
【0089】
本特許出願は、欧州特許出願第20216115.4号の優先権を主張し、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0090】
なお、ここで説明する開示は、例示的な実施形態を用いて説明した内容に限定されるものではない。むしろ、本開示は、この特徴またはこの組合せ自体が請求項または例示的な実施形態において明示的に示されていなくても、特に請求項における特徴の任意の組合せを含む、任意の新規な特徴および特徴の任意の組合せを包含する。
【0091】
符号の説明
1 パワー半導体デバイス
2 半導体本体
21 エミッタ側
22 コレクタ側
25 コレクタ層
26 ドリフト層
27 増強層
28 ベース層
281 ベース層の部分
282 ベース層のコンタクト部分
29 ソース領域
3 第1のトレンチ
30 絶縁トレンチゲート電極
31 ゲート電極層
32 ゲート絶縁層
35 ゲートコネクタ
39 第1のトレンチの部分領域
4 第2のトレンチ
41 導電層
42 電気的絶縁層
45 コネクタ
49 第2のトレンチの部分領域
51 エミッタ電極
52 コレクタ電極
6 サブ領域
61 電荷キャリア抽出コンタクト
610 セグメント
71,72,73,74 バー
75,76,77 曲線
c1 セルピッチ
d1 第2のトレンチの深さ
d2 ベース層の深さ
L1 主延在方向
R1 第1の基準設計
R2 第2の基準設計
s1 エッジ間距離
S11,S12,S13,S14 ステップ
Ve エミッタ電位
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
【国際調査報告】