(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】脱細胞化された哺乳動物細胞外マトリックスモルセル、その製造方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20231228BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20231228BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20231228BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61L27/36 130
C12N1/00 F
A61L27/50
A61L27/36 400
A61L27/36 410
A61L27/38 120
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538045
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 US2021064834
(87)【国際公開番号】W WO2022140530
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】512241232
【氏名又は名称】ブラウン ユニバーシティ
【住所又は居所原語表記】350 Eddy Street, Box 1949, Providence, RI 02903 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アイピー,ブランシェ シー.
(72)【発明者】
【氏名】モーガン,ジェフリー アール.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B065AA90
4B065BC46
4B065BD05
4B065CA02
4B065CA44
4C081AB11
4C081AB13
4C081AB36
4C081BA12
4C081CD34
4C081DA14
(57)【要約】
組織の再生および修復における使用のための脱細胞化ヒト細胞外マトリックス(ECM)モルセルが記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)を含む、カスタマイズされた流動性組成物であって、
物理的特性、生化学的/化学的特性、機械的特性、またはコラーゲン構造の少なくとも1つにおいて、インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルを含むECMを含む、カスタマイズされた流動性組成物。
【請求項2】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、異なる物理的特性を含む、請求項1に記載のカスタマイズされた流動性組成物。
【請求項3】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、異なる生化学的/化学的特性を含む、請求項1に記載のカスタマイズされた流動性組成物。
【請求項4】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、異なる機械的特性を含む、請求項1に記載のカスタマイズされた流動性組成物。
【請求項5】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、異なるコラーゲン構造を含む、請求項1に記載のカスタマイズされた流動性組成物。
【請求項6】
カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)モルセルを生産する方法であって、以下のステップ:
培養哺乳動物細胞をマイクロウェルに播種するステップであって、前記培養哺乳動物細胞が、前記培養哺乳動物細胞およびECMから構成されるECM微小組織を生成する、ステップ;
前記ECM微小組織を収集するステップ;ならびに
前記ECM微小組織を脱細胞化するステップ、を含み、
ここで、前記カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物ECMモルセルが、物理的特性、生化学的/化学的特性、機械的特性、またはコラーゲン構造のうちの少なくとも1つにおいて、インビボ由来のECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルを含む、方法。
【請求項7】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト細胞が、心臓細胞および肺細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト細胞が心臓細胞を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒト細胞が肺細胞を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記脱細胞化するステップが、前記微小組織を界面活性剤、緩衝液、DNAse、またはRNaseのうちの少なくとも1つと混合するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記ECM微小組織が球状粒子を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記ECM微小組織が、800μm未満または800μmに等しい直径を有する球状粒子を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が組換えヒト細胞を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、心臓線維芽細胞、心筋細胞、および心臓微小血管内皮細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
培養哺乳動物細胞をマイクロウェルに播種するステップであって、前記培養哺乳動物細胞が、前記培養哺乳動物細胞およびECMから構成されるECM微小組織を生成する、ステップ;
前記ECM微小組織を収集するステップ;ならびに
前記ECM微小組織を脱細胞化するステップ、を含む方法によって作製された脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)を含む、カスタマイズされた流動性組成物であって、
物理的特性、生化学的/化学的特性、機械的特性、またはコラーゲン構造のうちの少なくとも1つにおいて、インビボ由来のECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルを含むECMを含む、カスタマイズされた流動性組成物。
【請求項17】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記ヒト細胞が、心臓細胞および肺細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記ヒト細胞が心臓細胞を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記ヒト細胞が肺細胞を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記脱細胞化するステップが、前記哺乳動物細胞を界面活性剤、緩衝液、DNAse、またはRNaseのうちの少なくとも1つと混合するステップを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
前記方法が、前記混合物をシリンジに通過させるステップをさらに含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記シリンジが27Gの針を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記細胞が組換えヒト細胞を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項25】
前記細胞が、心臓線維芽細胞、心筋細胞、および心臓微小血管内皮細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項26】
心血管系の損傷を治療する方法であって、前記損傷の領域に脱細胞化ECM組成物を投与することを含む方法。
【請求項27】
前記心血管系の損傷が心筋梗塞の結果である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ECMがヒト細胞由来である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒト細胞が、心臓細胞および肺細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ヒト細胞が心臓細胞を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ヒト細胞が肺細胞を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
美容状態を治療する方法であって、脱細胞化ECM組成物を所望の治療領域に投与するステップを含む方法。
【請求項33】
前記ECMがヒト細胞由来である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記マイクロウェルに足場がない、請求項6に記載の方法。
【請求項35】
前記マイクロウェルに足場がない、請求項16に記載の組成物。
【請求項36】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、哺乳動物細胞の起源、哺乳動物細胞の年齢、哺乳動物細胞の疾患状態、または哺乳動物細胞の培養条件のうちの少なくとも1つの改変によって達成される、請求項6に記載の方法。
【請求項37】
前記改変が、細胞培養培地の組成、培養時間、酸素レベル、または追加の生物学的因子の存在もしくは量のうちの少なくとも1つを調整することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項38】
前記追加の生物学的因子が、成長因子、サイトカイン、および薬物のうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項39】
カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)モルセルを生産する方法であって、以下のステップ:
培養哺乳動物細胞をマイクロウェルに播種するステップであって、前記培養哺乳動物細胞が、前記培養哺乳動物細胞およびECMから構成されるECM微小組織を生成する、ステップ;
前記ECM微小組織を収集するステップ;ならびに
前記ECM微小組織を脱細胞化するステップ、を含み、
ここで、前記カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物ECMモルセルが、所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルを含む、方法。
【請求項40】
前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、物理的特性、生化学的/化学的特性、機械的特性、またはコラーゲン構造のうちの少なくとも1つを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、哺乳動物細胞の起源、哺乳動物細胞の年齢、哺乳動物細胞の疾患状態、または前記哺乳動物細胞の培養条件のうちの少なくとも1つの改変により達成される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、細胞培養培地の組成、培養時間、酸素レベル、および追加の生物学的因子の存在または量のうちの少なくとも1つを改変することによって達成される、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、成長因子、サイトカイン、および薬物のうちの少なくとも1つを含む生物学的因子を添加することによって前記哺乳動物細胞の前記培養条件を改変することによって達成される、請求項40に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、組織の再生および修復の分野に関し、特に、脱細胞化ヒトECMモルセル(morsel)などの脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)モルセルを利用することに関する。
【0002】
政府ライセンス権
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた助成金番号R03 EB028056の下で政府の支援を受けてなされた。政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
疾患または外傷に起因する臓器不全は、社会に重大な健康とコストの問題を引き起こす。例えば、治療を成功させるには、しばしば臓器の修復や移植が必要となるが、移植可能な臓器の不足のために、米国だけでも10万人を超える患者の待機リストが発生している。心血管疾患の患者にとって状況は特に悲惨である;毎年、およそ79万人のアメリカ人が心筋梗塞(MI)を患っている。MI患者の最大50%は生存する一方で、全員が進行性の心臓組織損傷を負い、この進行性損傷は世界中のMI生存者の主な死亡原因となっている。実際、生存者の多くはその後心不全を発症し、5年生存率はわずか50%である。
【0004】
現在の治療法では、MI後の心不全を防ぐことはできない;末期心不全のための選択肢は、心臓移植および左心室補助デバイスのみである。どちらの選択肢も高価であり、ドナー臓器の不足を含む、制限がある。
【0005】
心臓は、内因性および外因性の幹細胞および前駆細胞集団に由来する再生の可能性を持っているが、基本的な再生能力は治療レベルには達していないようである。この限界は最初、心筋損傷後の心筋形成能を持つ細胞の欠如に起因するものとされていた。しかしながら、疾患の心臓においては心筋細胞前駆細胞の数が増加していることが、最近の研究により実証されている。限界要因は細胞の量ではなく、むしろ機能的な心筋細胞の充足であると思われることを考えると、前駆細胞の分化を阻害する潜在的なメカニズムを理解することが重要である。心臓病治療における関心の高い分野は、疾患の心臓でECMの組成および機械的特性の両方が変化する、細胞外マトリックス(ECM)リモデリングである。
【0006】
組織工学を利用した代替治療は、利用可能な臓器と、生存のために新しい臓器を必要とする患者との間のギャップの橋渡しをするのに役立つ可能性がある。例えば、天然の足場であるECMは、組織の修復と再生をサポートすることができる。動物からの脱細胞化器官組織は、注射部位でゲルに固化する、注射可能な液体に加工することができる。しかしながら、動物のECMは、有効性を制限したり、さらなる組織損傷を引き起こしたりする免疫反応を誘発する可能性がある、ヒトにとって外来の生体分子とタンパク質配列で構成されている。同時に、ヒト由来組織からECMを抽出することは困難であり、ヒト組織のさまざまな病状および死後劣化もまた、組織修復のためには受け入れられないECM材料となっている。
【0007】
したがって、組織の修復および再生に使用する脱細胞化哺乳動物、例えばヒト、のECMモルセル(スフェロイド状の微小組織)を調製する新規の供給源および方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、部分的には、新規な供給源、組成物、および脱細胞化哺乳動物ECM粒子またはモルセルを調製ならびに使用する方法に関する。一般に、本明細書に開示される方法および組成物は、例えば治療または美容処置における、組織の修復および再生を目的としたヒトECMの使用に関する。
【0009】
開示される実施形態は、特定の患者および適応症に適した特別に調整された微小組織を操作するための三次元(3D)インビトロ細胞培養システムを含む。実施形態において、三次元(3D)インビトロ細胞培養システムは、足場を含まないシステムを含む。
【0010】
開示された組織は、脱細胞化されて、例えば直径800μmに等しいか直径800μm未満の小さな多孔質粒子またはモルセルの形態で、脱細胞化された哺乳動物の細胞外マトリックス(ECM)を作製することができ、このようにして、例えば、針のようなカニューレで投与できる「流動性」組成物を提供することができる。開示された組成物は、ECM粒子/モルセルのサイズおよび形状により、注射によって投与することができる。
【0011】
得られた脱細胞化哺乳動物ECM粒子/モルセルは、組織再生のサポートを含むがこれに限定されない、多くの臨床的な応用を有することができる。
【0012】
本明細書には、カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物ECM組成物が開示される。例えば、実施形態では、開示された組成物は培養ヒト細胞に由来する。実施形態において、ヒト細胞は心臓細胞または肺細胞を含むことができる。実施形態において、ヒト細胞は、組換えヒト細胞を含むことができる。
【0013】
本明細書では、カスタマイズされた脱細胞化ECM組成物、例えば哺乳動物ECM組成物を生成する方法が開示される。例えば、実施形態において、開示される方法は、培養ヒト細胞に由来するECMの生成を含む。実施形態において、ヒト細胞は心臓細胞または肺細胞を含むことができる。実施形態において、ヒト細胞は、組換えヒト細胞を含むことができる。開示された方法は、当該技術分野において以前に知られている方法と比較して、より速く、より効率的な脱細胞化を提供する。
【0014】
本明細書においては、カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物ECM組成物を使用する方法が開示される。例えば、実施形態において、開示された使用方法は、例えば、ヒトなどの哺乳動物における、例えば、心血管系の損傷の修復および再生を含む。実施形態において、開示された使用方法は、開示されたECM組成物を治療領域、例えば心臓へ投与することを含むことができる。実施形態において、開示された組成物は、注射によって、エアロゾルのような液体として、または含浸パッチとして投与することができる。実施形態において、開示された流動性組成物は、針のようなカニューレ、例えばシリンジを使用して投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】三次元(3D)構造に配置されたタンパク質、プロテオグリカン、および糖タンパク質の繊維状ネットワークであるECM(
図1A)、ならびに心筋梗塞などの損傷の後のヒト組織再生におけるその使用(
図1B)を示す図である。
【
図2-1】ヒトECMモルセルを作製するためのスフェロイド形状の微小組織を生成する方法を示す図である。このプロセスは、非接着性マイクロモールドプラットフォーム技術を使用して、培養ヒト細胞をマイクロウェルに播種することから始まる(
図2Aおよび2B)。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,361,781号(モーガンら)を参照されたい。播種された細胞は、凝集、合成、集合し、ヒトECMを堆積する。各マイクロウェル(各々、直径およそ400~800μm)内で得られたECM微小組織またはスフェロイド(各々、直径およそ50~300μm)を
図2Cおよび
図2Dに示す。
【
図2-2】ヒトECMモルセルを作製するためのスフェロイド形状の微小組織を生成する方法を示す図である。このプロセスは、非接着性マイクロモールドプラットフォーム技術を使用して、培養ヒト細胞をマイクロウェルに播種することから始まる(
図2Aおよび2B)。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,361,781号(モーガンら)を参照されたい。播種された細胞は、凝集、合成、集合し、ヒトECMを堆積する。各マイクロウェル(各々、直径およそ400~800μm)内で得られたECM微小組織またはスフェロイド(各々、直径およそ50~300μm)を
図2Cおよび
図2Dに示す。
【
図3】マスターモールドの概略図(
図3A)、ならびに対応する3Dプリントモールド、シリコーンネガティブ、およびマイクロウェル内にECM微小組織を有するアガロースモールドの画像を含む、開示された非接着性マイクロモールドプラットフォーム技術を示す図である。
図3Bは、リング状およびハニカム状のモールド、アガロース中の対応するネガティブ複製、ならびにアガロースゲルから除去して、生細胞をカルセイン-AM(calcein-AM)で染色した、得られたリング状およびハニカム状の3DヒトECM微小組織(600万個の細胞、直径2cm)を含む別の実施形態を示す図である。また、ヒト皮膚線維芽細胞(1,400万個の細胞)の脱細胞化されたハニカム形状の3D組織も示され、わずか3日後にECMが作成されたことを示す;直径2センチメートル。
【
図4】脱細胞化ヒトECMモルセルを生成する方法を示す図である。
図4において、胎児および成人のヒト心臓細胞または成人肺細胞を培養し、マイクロウェルに播種してECM微小組織またはスフェロイドを生成することができる。ECMスフェロイド微小組織は、マイクロウェル内で脱細胞化することができる。得られた脱細胞化された胎児および成人のヒト心臓またはヒト肺ECMモルセルは、脱細胞化処置後もそのスフェロイドの形状を維持する。スケールバー=200μm。
【
図5】脱細胞化ヒトECMモルセルを生成する追加のまたは代替の方法を示す図である。
図5において、胎児および成人のヒト心臓細胞を培養し、マイクロウェルに播種して、ECM微小組織またはスフェロイドを生成することができる。ECMスフェロイド微小組織は、収集、脱細胞化、および、例えば、ボルテックスにより混合することができる。得られた脱細胞化された胎児および成人のヒト心臓ECMモルセルは、脱細胞化処置後もそのスフェロイドの形状を維持する。
【
図6】27Gシリンジを10回通過させた前後の脱細胞化ヒト胎児ECMモルセル(A)、または27Gシリンジを1回通過させた前後の10倍の対物レンズを備えた明視野における倒立顕微鏡での画像(B)を示す図である。
【
図7-1】
図7Aは、トランスフォーミング増殖因子ベータ1で処理または未処理の、特発性肺線維症(IPF)患者由来の細胞または健康な細胞のいずれかからの、ヒト肺細胞からの染色されたECMスフェロイド微小組織を示す、一実施形態を示す図であり、
図7Bは、成人および胎児のヒト心臓細胞からのECMスフェロイド微小組織(線維芽細胞のみ、または心筋細胞および微小血管内皮細胞と共培養)を示す図である。線維芽細胞のみの成人または胎児心臓ECM微小組織は3、6、9、または12日間培養されたが、三種培養物(tri-cultures)は6日間のみ培養された。脱細胞化前のヘマトキシリンおよびエオシン(hematoxylin and eosin)(H&E)またはシリウス・レッド(SIRIUS RED)(商標)で染色した明視野におけるECMスフェロイド微小組織の画像が示されており、脱細胞化後の成人および胎児のヒト心臓細胞または成人肺細胞からのECMスフェロイド微小組織も示されている。スケールバー=50μm。
【
図7-2】
図7Aは、トランスフォーミング増殖因子ベータ1で処理または未処理の、特発性肺線維症(IPF)患者由来の細胞または健康な細胞のいずれかからの、ヒト肺細胞からの染色されたECMスフェロイド微小組織を示す、一実施形態を示す図であり、
図7Bは、成人および胎児のヒト心臓細胞からのECMスフェロイド微小組織(線維芽細胞のみ、または心筋細胞および微小血管内皮細胞と共培養)を示す図である。線維芽細胞のみの成人または胎児心臓ECM微小組織は3、6、9、または12日間培養されたが、三種培養物(tri-cultures)は6日間のみ培養された。脱細胞化前のヘマトキシリンおよびエオシン(hematoxylin and eosin)(H&E)またはシリウス・レッド(SIRIUS RED)(商標)で染色した明視野におけるECMスフェロイド微小組織の画像が示されており、脱細胞化後の成人および胎児のヒト心臓細胞または成人肺細胞からのECMスフェロイド微小組織も示されている。スケールバー=50μm。
【
図8】3日目から12日目までのヒト胎児心臓微小組織のサイズの増加は、コラーゲン(μg)および硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG) (μg)含有量の増加と関連しているが、DNA含有量(ng/mL)の変化とは関連しないことを示す図である。
【
図9】線維状コラーゲン構造を三次元で捕捉するための、多光子共焦点第二高調波発生(SHG)顕微鏡下での肺および心臓ECM微小組織を示す図である。ヒト成人健康肺ECM微小組織(
図9A)は、ヒト成人線維化肺ECM(
図9B)およびヒト成人健康心臓ECM微小組織(
図9C)とは異なる線維状コラーゲン構造を明らかにする。
【
図10】培養ヒト胎児心臓ECMの機械的剛性は、健康なヒトの心臓組織と同等であることを示す図である。成人肺(L-A)、成人心臓(H-A)、および胎児心臓(H-F)の培養ヒトECM弾性率(平均±SD kPa)を、健康なヒト心臓の剛性範囲(赤色の陰影)ならびに別の研究室からの公表された研究で報告された、ゲル化コラーゲン(Col)、マトリゲル(Matrigel) (Mat)、非架橋ブタ心臓ECM (Pig - N)、および架橋ブタ心臓ECM (Pig - C)の同等の弾性率と比較したグラフ表示。N = 9/グループ。
【
図11】培養ECMがインビトロで生体適合性であることを示す図である。細胞播種24時間後、固定前に48時間(HCM)または24時間(HCMEC)、EdU (5-エチニル-2’-デオキシウリジン)とともにインキュベートした、培養ヒト成人または胎児心臓ECMを含むかまたは含まないマイクロウェルに播種されたヒト心筋細胞(HCM)または微小血管内皮細胞(HCMEC)の固定および包埋切片の代表的な画像。切片を、H&EまたはClick-iT(商標)EdU細胞増殖キット(Cell Proliferation Kit)で染色し、増殖細胞はAlexa Fluor(商標)488色素(赤)で標識し、全ての核をHoechst 33342 (青)で対比染色した。N = 3。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
以下にいくつかの定義が提供される。それにも関わらず、定義は以下の「実施形態」セクションに記載される場合があり、上記のヘッダー「定義」は、「実施形態」セクションにおけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0017】
「投与」または「投与する」は、医療デバイス、材料、または薬剤を対象に与える(すなわち、投与する)ステップを意味する。本明細書に開示される物質は、多くの適切な経路を介して投与することができるが、典型的には外科的処置に関連して使用される。
【0018】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「コンポーネント」または「前記コンポーネント」への言及には、2つ以上のコンポーネントが含まれる。
【0019】
「Xおよび/またはY」の文脈で使用される「および/または」という用語は、「X」、または「Y」、または「XおよびY」として解釈されるべきである。同様に、「XまたはYの少なくとも1つ」は、「X」、または「Y」、または「XおよびY」と解釈されるべきである。
【0020】
「ECMの物理的特性」とは、ECMモルセル/粒子の形状、サイズ、表面粗さ、多孔度、線維状コラーゲンの二次元構造、線維状コラーゲンの三次元構造を含むがこれらに限定されない特性を指す。
【0021】
「ECM生化学的特性」とは、生化学分子(アミノ酸、ペプチド、タンパク質、修飾タンパク質、炭水化物、脂肪酸、グリコサミノグリカン、酵素、シグナル伝達分子(トランスフォーミング成長因子ベータ1)、サイトカイン、ホルモンなど)の種類(アイデンティティ)および含有量(相対量)、ならびにECMモルセル/粒子の分解性および生体適合性を含むがこれらに限定されない特性を指す。
【0022】
「ECM機械的特性」とは、ECMモルセル/粒子の引張強度、圧縮強度、弾性率、せん断弾性率を含むがこれらに限定されない特性を指す。
【0023】
「インビボECM特性」とは、天然に存在するECMに関連する物理的、生化学的、または機械的特性を指す。
【0024】
「カスタマイズされたECM」とは、天然に存在するECMに関連するものとは異なる物理的、生化学的、または機械的特性を有するECMを指し、そのような違いは開示された方法の結果である。
【0025】
「ECM微小組織」とは、細胞およびECMを含む3D組成物を指す。
【0026】
「ECMモルセル」または「ECM粒子」は、脱細胞化されたECM微小組織を指す。
【0027】
本明細書において、範囲は、「約」または「およそ」1つの特定の値、および/または「約」または「およそ」から別の特定の値までとして表現され得る。そのような範囲が表現される場合、別の実施形態には、1つの特定の値からおよび/または他の特定の値までが含まれる。同様に、先行詞「約」または「およそ」を使用することによって、値が近似値として表現される場合、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されよう。
【0028】
「対象」および「患者」という用語は、互換的に使用され、投与または治療の標的となる任意の個人を指す。「対象」は、哺乳動物などの脊椎動物であり得る。「対象」は、ヒトまたは獣医の患者であり得る。「患者」という用語は一般に、臨床医、例えば内科医または医療専門家の治療を受けている「対象」を指す。
【0029】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために互換的に使用される。
【0030】
「治療上有効な」という用語は、疾患または障害の1つまたは複数の原因または症状を寛解させるのに十分な量である、使用される組成物の量を指す。そのような寛解は、低減または変更が必要であるのみであり、必ずしも消失する必要はない。さらに、「治療上有効な」という用語には、使用される組成物の量が、身体の組織または器官の修復プロセスを開始および/またはサポートするのに十分な量であることが含まれる。
【0031】
「治療」という用語は、疾患、病理学的状態、または障害を治癒、寛解、安定化、予防することを意図とした患者の医学的管理を指す。さらに、「治療」という用語は、損傷、組織損傷、臓器損傷の修復、再生、または身体の修復または再生プロセスのサポートを提供することを意図とした患者の医学的管理を指す。この用語には、積極的な治療、すなわち、疾患、損傷、傷害、病理学的状態、または障害の改善に、特に向けた治療が含まれる。さらに、この用語には、緩和的治療、すなわち、疾患、病理学的状態、または障害の治癒ではなく、症状の緩和をデザインした治療;予防的治療、すなわち、関連する疾患、病理学的状態、損傷、または障害の発症を最小限に抑えるか、または部分的もしくは完全に阻害することに向けた治療;ならびに支持的療法、すなわち、関連する疾患、病理学的状態、損傷、または障害の改善に向けた別の特定の療法を補完するために利用される治療が含まれる。
【0032】
対象への「投与」という用語には、対象に薬剤を導入または送達する任意の経路が含まれる。「投与」は、経口、局所、静脈内、皮下、経皮、筋肉内、関節内、非経口、細動脈内、皮内、脳室内、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内、直腸内、膣内、吸入による、埋め込みリザーバー経由、非経口(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、くも膜下腔内、腹腔内、肝臓内、病巣内、および頭蓋内の注射または注入技術)などを含むがこれらに限定されない、任意の適切な経路によって行うことができる。
【0033】
本明細書で使用される「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、「治療(treatment)」という用語、およびその文法的変形には、1つまたは複数の疾患もしくは状態の強度または頻度、疾患もしくは状態の症状、または疾患もしくは状態の根本的な原因を、部分的または完全に予防、遅延、治癒(curing)、治癒(healing)、修復、再生、緩和(alleviating)、緩和(relieving)、変更、治療(remedying)、寛解、改善、安定化、軽減(mitigating)、および/または軽減(reducing)する意図または目的を持った組成物の投与が含まれる。本発明による治療は、予防的に(preventively)、予防的に(prophylactically)、緩和的に、または治療的に適用することができる。
【0034】
実施形態
本開示による組成物のさまざまな非網羅的、非限定的な態様は、単独で、または本明細書に記載される1つまたは複数の他の態様と組み合わせて有用であり得る。開示されたシステム、組成物、および方法は、患者および医師の両方に独特の利点を提供する。例えば、開示された実施形態は、特定の患者に対する使用および/または特定の治療のために特に調整された、カスタマイズされた3D微小組織を作成することができる。実施形態において、これらの微小組織を使用して、肺線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、心臓線維芽細胞、心臓微小血管内皮細胞、異なる年齢(成人、胎児、若年者など)の心筋細胞を含むがこれらに限定されない、哺乳動物細胞の多くの異なるタイプおよび組み合わせから脱細胞化哺乳動物ECM粒子/モルセルを作製することができる。したがって、本明細書では、インビボ組織から作製できないECMを含む、カスタマイズ可能なECMをインビトロで作成する方法が提供される。
【0035】
微小組織内の哺乳動物細胞によって生成されるECM粒子/モルセルの生化学的/化学的組成(生化学/化学種および/またはその内容の両方)、コラーゲン構造、および機械的特性は、使用される哺乳動物細胞のタイプ(組織起源、年齢、疾患状態など)に独自に依存する。したがって、特定の細胞を利用して、所望のECM特性を達成することができる。
【0036】
微小組織内の哺乳動物細胞によって生成されるECM粒子/モルセルの生化学的/化学的組成(生化学/化学種および/またはその内容の両方)、コラーゲン構造、および機械的特性は、微小組織を形成するため、哺乳動物細胞の培養条件にさらに依存する。例えば、細胞培養培地の組成、培養時間、酸素レベル、および成長因子、サイトカイン、薬剤などを含むがこれらに限定されない追加の生物学的因子の存在または量は、所望のECM特性を産生するように調整できる。
【0037】
微小組織中の哺乳動物細胞によって生成される開示されたECM粒子/モルセルの生化学的/化学的組成(生化学/化学種および/またはそれらの内容の両方)、コラーゲン構造、および機械的特性は、自然界に見られる哺乳動物組織(例えば、豚の心臓、人間の心臓など)から抽出されたECMとは異なる可能性がある。
【0038】
開示されたECM粒子/モルセルは、取り付けた針を備えたシリンジを通過することができる流動性組成物を形成することができ、針の内径(ID)はECM粒子/モルセルのサイズに依存すると思われる。例えば、直径が約200μmのECM粒子/モルセルは、27Gの針のID (ID = 210μm)に等しいかそれを超えるIDを持つ針を通過することができる。
【0039】
開示されたECM粒子は、動物またはヒトの組織および器官から抽出されたECMよりも少ないステップを使用して作製することができる。開示されたECM粒子は、無菌条件を使用して作製することができる。
【0040】
開示された脱細胞化哺乳動物ECM粒子/モルセルは、インビトロで生体適合性があり、その結果、脱細胞化哺乳動物ECM粒子/モルセル上に置かれた哺乳動物細胞は生存し、増殖することができる。
【0041】
異なるECMの特徴(例えば、物理的特性、生化学的/化学的組成、コラーゲン構造、機械的特性、およびそれらの組み合わせを含む)は、インビボで移植されると、周囲の組織に異なる影響を及ぼす可能性があり、あらゆる数の臨床状態について、カスタマイズされたECMの開発が可能になる。
【0042】
ECM組成物
本明細書では、その特性を特定の患者(または患者群)および特定の適応症に適合するように特に調整することができる、カスタマイズされた脱細胞化組成物、例えば脱細胞化哺乳動物ECM組成物が開示される。
図1は、三次元(3D)構造に配置されたタンパク質、プロテオグリカン、および糖タンパク質の繊維状ネットワークであるECM(
図1A)、ならびに心筋梗塞などの損傷の後のヒト組織再生におけるその使用を示す(
図1B)。組織の再生および/または修復に外来の非ヒト脱細胞化ECMを使用すると、対象において免疫反応が生じやすい可能性がある。脱細胞化ヒトECMモルセルは、ECMがヒトのものであるため、免疫反応の問題を克服する。したがって、実施形態において、脱細胞化細胞はヒト細胞である。実施形態において、ヒト細胞は、心臓細胞または肺細胞を含むことができる。実施形態において、ヒト細胞は、組換えヒト細胞を含むことができる。実施形態において、ヒト細胞は、心臓線維芽細胞、心筋細胞、および心臓微小血管内皮細胞のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0043】
実施形態において、開示される組成物は、脱細胞化ヒトECMモルセルを形成するために使用される培養ヒト細胞に由来する。ECMは、プロテオグリカン、酵素、および成長因子とともに、コラーゲンおよびエラスチンなどの構造タンパク質の複雑な3D構造を含むことができる(
図1A)。実施形態において、ECMは、構造的サポート、ならびに組織再生のためのシグナルを提供する(
図1B)。
【0044】
ECM組成物- 製造方法
本明細書では、所望の物理的または化学的特性を有するカスタマイズされた脱細胞化哺乳動物由来ECM組成物を製造する方法が開示される。例えば、実施形態において、開示された方法は培養ヒト細胞に由来する。
【0045】
開示された方法は以下のステップを含むことができる:
1.培養細胞(哺乳動物細胞など)をマイクロウェルに播種するステップであって、培養哺乳動物細胞は3D微小組織を生成し、各微小組織は培養哺乳動物細胞および細胞分泌された可溶性ECMおよび不溶性ECMから構成される、ステップ;
2.微小組織を収集するステップ;ならびに
3.ECMモルセルまたは粒子を形成するために、微小組織を界面活性剤、緩衝液、DNase、およびRNaseと混合し、混合物を混合/ボルテックスすることを含むステップを用いて、微小組織を脱細胞化するステップ。
【0046】
開示された脱細胞化ヒトECMモルセルの供給源として、さまざまなヒト細胞株を利用することができる。実施形態において、ヒト細胞は、例えば、心臓細胞または肺細胞を含むことができる。実施形態において、ヒト細胞は、組換えヒト細胞を含むことができる。例えば、実施形態において、供給源として利用されるヒト細胞株は、心臓線維芽細胞、心筋細胞、心臓微小血管内皮細胞、および肺線維芽細胞を含むことができる。さらに、他のヒト細胞タイプおよび異なる成熟度のヒト細胞をECMモルセルの供給源として使用することもできる。実施形態において、脱細胞化ECMモルセルの供給源として使用されるヒト細胞株は、成人細胞、若年細胞、または胎児細胞など、異なる成熟度のものであってもよい。
【0047】
実施形態において、ヒトECM微小組織またはスフェロイドを作製する方法が提供される。実施形態において、開示される方法は、非細胞接着性マイクロモールドプラットフォーム技術を使用して、例えばヒトなどの培養哺乳動物細胞を、例えばマイクロウェルに播種するステップを含む。
【0048】
図2は、ヒトECMモルセルを作製するためのスフェロイド形状の微小組織を生成するための開示された方法を示す図である。このプロセスは、非接着性マイクロモールドプラットフォーム技術を使用して、培養ヒト細胞をマイクロウェルに播種することから始まる(
図2Aおよび2B)。播種された細胞は、凝集、合成、集合し、ヒトECMを堆積する。各マイクロウェル(各々、直径およそ400~800μm)内で得られたECM微小組織またはスフェロイド(各々、直径およそ50~300μm)を
図2Cおよび
図2Dに示す。
【0049】
実施形態において、マイクロウェルは、アガロースなどの任意の適切な材料から生成することができる。例えば、2%アガロースを使用して、生きたヒト細胞などの細胞が凝集して合成、集合し、ヒトECMを堆積することができるマイクロウェルを生成できる。
【0050】
図3は、マスターモールドの概略図(
図3A)、ならびに対応する3Dプリントモールド、シリコーンネガティブ、およびマイクロウェル内にECM微小組織を有するアガロースモールドの画像を含む、開示された非接着性マイクロモールドプラットフォーム技術を利用した実施形態を示す図である。
図3Bは、リング状およびハニカム状のモールド、アガロース中の対応するネガティブ複製、ならびにアガロースゲルから除去して、生細胞をカルセイン-AM(calcein-AM)で染色した、得られたリング状およびハニカム状の3DヒトECM微小組織(600万個の細胞、直径2cm)を使用した、別の実施形態を示す図である。また、ヒト皮膚線維芽細胞(1400万個の細胞)の脱細胞化されたハニカム形状の3D組織も示され、わずか3日後にECMが作成されたことを示す;直径2センチメートル。
【0051】
図4は、脱細胞化ヒトECMモルセルを生成するさらなる方法を示す図である。
図4の実施形態において、胎児および成人のヒト心臓細胞または成人肺細胞を培養し、マイクロウェルに播種してECM微小組織またはスフェロイドが生成される。ECMスフェロイド微小組織は、マイクロウェル内で脱細胞化することができる。得られた脱細胞化された胎児および成人のヒト心臓またはヒト肺ECMモルセルは、脱細胞化処置後もそのスフェロイドの形状を維持する。スケールバー= 200μm。
【0052】
図5は、脱細胞化ヒトECMモルセルを生成する追加のまたは代替の方法を示す図である。
図5において、胎児および成人のヒト心臓細胞を培養し、マイクロウェルに播種して、ECM微小組織またはスフェロイドを生成することができる。ECMスフェロイド微小組織は、収集、脱細胞化、および、例えば、ボルテックスされることにより混合することができる。得られた脱細胞化された胎児および成人のヒト心臓ECMモルセルは、脱細胞化処置後もそのスフェロイドの形状を維持する。
【0053】
実施形態において、マイクロモールドされた非接着性の細胞凝集デバイスは、例えば窪みまたはトラフの形状の複数の細胞凝集凹部を含むことができる。実施形態において、ヒドロゲル材料としてアガロースを利用することができ、実施形態において、以下のように細胞凝集凹部を確立することができる。トラフは幅400μm、底は例えば200μmの半径で丸くすることができる。開示された実施形態は、ゲル当たり長さが増加するトラフの列を含むことができる。例えば、一実施形態において、各列は11個のトラフを有することができ、そのうちの2個は400μmの長さであり、次いで600μmから1800μmの各1個が200μmずつ長さが増加し、次に2200μmのトラフが2個となることができる。実施形態において、円環状の凹部は、深さが800μmであり、円形トラックの幅が400μmであり得る。実施形態において、凹部の底は200μmの半径を含むことができる。
【0054】
実施形態において、細胞が哺乳動物、例えばヒトのECM微小組織またはスフェロイドに集合し、ECMの生成を開始するまでに、例えば約4時間~約24時間かかり得る(
図2C)。例えば、実施形態において、細胞の集合には、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、26時間、28時間などかかり得る。
【0055】
実施形態において、細胞の集合には、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも14時間、少なくとも16時間、少なくとも18時間、少なくとも20時間、少なくとも22時間、少なくとも24時間、少なくとも26時間、少なくとも28時間などかかり得る。
【0056】
マイクロモールド技術を使用して哺乳動物、例えばヒトECM微小組織またはスフェロイドを生成する開示された方法は、高い細胞密度で3DヒトECM微小組織またはスフェロイドを形成するための、安定した、長期間の、再現可能な培養プラットフォームを提供する(
図2C)。さらに、マイクロモールド技術は、足場材料を使用する必要がなく、したがって、実施形態において、スフェロイド形状の微小組織を生成するためには、培養細胞、例えばヒト細胞のみをマイクロウェルに加えればよい。このアプローチにより、最適な細胞から細胞へのコミュニケーションおよび移動が可能になり、複雑な3D形態学的変化および分化を起こしながら、異なるタイプの細胞の混合物が相互作用することが可能になる。マイクロモールド技術により、細胞培養培地を交換しながらマイクロウェル内の細胞を静的に培養できるため、細胞から分泌されたECMを分泌部位に濃縮できる。さらに、マイクロモールドは、初期モールドの幾何学形状に基づいて、多種多様な組織の形状およびサイズに合わせてカスタマイズ可能である(
図3Aおよび3B)。さらに、モールドの幾何学形状は細胞の整列と組織化を指示し、その後、ECMの微細構造および整列、ならびにバルクの機械的特性に影響を及ぼす。したがって、足場ベースの方法または細胞シートの方法とは異なり、マイクロモールド技術を使用すると、ECMの整列を促進して天然の組織をよりよく模倣でき、細胞の接着および遊走を促進することによって、治療効果を増加することができる。播種された細胞がヒトECMを十分に生成するのに必要な時間は、細胞のタイプならびに増殖条件に依存している。一実施形態において、播種されたヒト心臓線維芽細胞は、約3日から約12日でECMを生成することができる。例えば、実施形態において、播種されたヒト心臓線維芽細胞は、約3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日などでECMを生成することができる。
【0057】
実施形態において、ヒトECM微小組織をその後、収集して脱細胞化するか、またはマイクロモールド内で直接脱細胞化することができる。脱細胞化は、中性界面活性剤で処理し、続いてDNAを除去する処理によって達成することができる(
図3)。開示されたECM微小組織は、例えばピペッティングによってマイクロウェルから収集することができ、任意の凍結融解ステップに供されて、塩溶液および中性界面活性剤で処理され、続いてヒト微小組織からのDNAとRNAを除去するために、酵素DNaseおよびRNaseでの処理を使用することができる。
【0058】
実施形態において、脱細胞化が成功すると、細胞が死滅し、細胞物質の大部分が除去され、DNAの大部分が除去または破壊され、年齢に特異的な三次元構造および機械的剛性のヒトECMが組織に残される。得られた組成物は、脱細胞化ヒトECMモルセルまたはヒトECMの小さな多孔質球体を含み、小さな直径の皮下注射針を自由に通過することができ(
図4)、したがって、組織の修復または再生が必要な器官または組織に容易に注入することができる。開示された脱細胞化ヒトECMモルセルは、当業者に既知である技術を使用してDNAの存在について評価することができる。DNAを含まない脱細胞化ECMは、副作用を最小限に抑えながらインビボで建設的なリモデリングを受けることができる。
図6は、27Gシリンジを10回通過させた前後の脱細胞化ヒト胎児ECMモルセルを示す図である。
【0059】
図7Aは、特発性肺線維症(IPF)患者由来の細胞および健康な細胞の両方の、ヒト肺細胞からの染色されたECMスフェロイド微小組織を含む、一実施形態を示す図であり、
図7Bは、成人および胎児のヒト心臓細胞からのECMスフェロイド微小組織(線維芽細胞のみ、または心筋細胞および微小血管内皮細胞と共培養)を示す図である。線維芽細胞のみの成人または胎児心臓ECM微小組織は3、6、9、または12日間培養されたが、三種培養物(tri-cultures)は6日間のみ培養された。脱細胞化前のヘマトキシリンおよびエオシン(hematoxylin and eosin)(H&E)またはシリウス・レッド(商標)で染色した明視野におけるECMスフェロイド微小組織の画像が示されており、脱細胞化後の成人および胎児のヒト心臓細胞または成人肺細胞からのECMスフェロイド微小組織も示されている。スケールバー=50μm。
【0060】
上述の各態様または任意の態様と組み合わせて使用することができる、本開示の別の非限定的な態様に従って、脱細胞化哺乳動物、例えばヒトのECMモルセルの組成物は、それを必要とする特定の患者のためにデザインすることができる。実施形態において、脱細胞化されたヒトECMモルセル組成物は、脱細胞化ヒトECMモルセルを生成するために、所望の細胞型を選択するか、または異なる細胞型の組み合わせもしくは混合物を選択することによって生成することができる。開始細胞型としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:心臓線維芽細胞、心筋細胞、および心臓微小血管内皮細胞を組み合わせて使用して、それを必要とする特定の患者に投与できる脱細胞化ヒトECMを生成することができる。これらの「デザイナー」ECM組成物は、天然の組織または器官全体には存在しない独特の組成物および効力を含み、したがって、特定の患者の所望の治療のために特に適合した組成物をデザインおよび製造する能力を医師に提供する。
【0061】
前述したように、異なる細胞型を選択するか、異なる細胞型を組み合わせて開始ECM微小組織を形成することに加えて、「デザイナー」ECM組成物は、ECMの生産およびその品質を変更および/または改善することができる成長因子および/または薬物で、開始3D ECM微小組織を処理することによって生成することもできる。いくつかの実施形態において、増殖因子、サイトカインおよび薬物などの培地への添加物は、細胞によって産生されるECMの量およびタイプに影響を与える可能性がある。微小組織を例えばインターロイキン4、インターロイキン10、インターロイキン11またはインターロイキン13などの抗炎症性メディエーターとインキュベートすることにより、微小組織に影響を与えて「抗炎症性デザイナー」ECMを生成することができる。さらなる「デザイナー」ECM組成物は、組換え細胞、例えばサイトカインを産生する組換え細胞から生成されるECMを含むことができる。
【0062】
さらに、または代替的に、前述したように、脱細胞化ヒトECMモルセルの所望のサイズ(すなわち、直径)および/または形状は、マイクロモールドに播種された細胞の数、初期マイクロモールドの幾何学形状、またはヒト細胞で作られたECMモルセルの培養時間の長さによって、変更または調整することができる。特定のマイクロモールドを使用して、正確なサイズの3D ECMスフェロイド微小組織を生成することができ、投与中に所望の必要なサイズを通過できる脱細胞化ヒトECMモルセルを生成できる。
【0063】
本開示の別の非限定的な態様に従って、培養細胞から脱細胞化ヒトECMモルセルを生成する方法は、自動プロセスを使用して実行することができる。
【0064】
組織修復および再生に使用するために、培養細胞から脱細胞化ヒトECMモルセルを生成する本開示の方法は、出発材料が一般に、脂肪、筋膜もしくは結合組織、細菌、および/または臓器全体を汚染する可能性のあるその他の物質を含まずにより高度に定義されているため、より純粋なECM組成物をもたらすことができる。また、臓器全体よりも培養細胞に由来するECM組成物のバッチ間のばらつきが少なくなる可能性もある。さらに、培養細胞由来の脱細胞化ヒトECMモルセルは、臓器全体または培養細胞シート由来の脱細胞化ヒトECMモルセルと比較して、必要なステップが少ない、機能を維持できるより穏やかなプロセスである。脱細胞化ヒトECMモルセルを製造するための開示されたプロセスは、典型的にはより手間がかかり、コストがかかり、および最も重要なことには、ECMの構造およびその効力を破壊する、凍結乾燥、消化、および再構成のステップを省く。
【0065】
ECM組成物-使用方法
本明細書では、開示されカスタマイズされた脱細胞化ヒトECM組成物を使用する方法が開示される。例えば、実施形態において、開示された使用方法は、例えば心臓病の治療を含む。
【0066】
ECMの構造的、生化学的、機械的な手がかりは、細胞の接着、遊走、シグナル伝達を促進し、その全てが組織の再生および修復に不可欠であることが示されている。健康な心筋と同様の剛性が、心臓組織工学には理想的であるという仮説が立てられている。
図10は、脱細胞化ヒト胎児心臓ECMモルセルが健康な心臓組織と同等の機械的剛性(弾性率)を有し、したがって心臓治療での使用に理想的な機械的特性を提供することを示している。
【0067】
一態様では、組織修復、組織再生、および組織増大を目的とした治療としての脱細胞化ヒトECMモルセルを使用する方法が本明細書に開示される。脱細胞化ヒトECM組成物は、注射剤、パッチ、および/またはエアロゾルとして製剤化されてもよい。パッチ基材を含む実施形態において、パッチは生分解性材料、すなわち、しばらくすると患者の体に自然に吸収される生分解性材料を含むことができる。実施形態において、生分解性材料は生体適合性であり、すなわち、材料が投与される患者に悪影響を与えることはない。したがって、生体適合性マトリックスは、タンパク質または多糖類などの生体高分子、例えばコラーゲン、ゼラチン、フィブリン、多糖類、例えば、ヒアルロン酸、キトサンおよびその誘導体、コラーゲン、キトサンなどの生体材料から選択される生体材料であり得る。
【0068】
別の実施形態において、カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物、例えばヒトのECMモルセルを皮膚に注射して、組織修復のための戦略としてだけでなく、例えば唇の治療、頬の治療、額の治療、ダーマルフィラー治療などの美容的応用および治療としての増大を達成することができる。例えば、一実施形態において、ヒアルロン酸を含む開示されたECM組成物を対象の唇に投与して膨満感を加えることができる。
【0069】
開示される実施形態は、皮膚などの組織に対する老化の影響を減少するための治療を含むことができる。例えば、時間の経過とともに、さまざまな身体構造が予測できない順序で機能を失う。ECMは、これらの複雑なプロセス間に共通性を提供し、したがって、開示される方法は、皮膚に対する加齢の影響を低減するための治療を含むことができる。
【0070】
さらに、別の実施形態において、脱細胞化ヒトECMモルセルを、例えば溶液、ゲル、またはパッチとして、創傷治癒を助けるために局所的に適用することができる。
【0071】
他の態様と組み合わせて使用され得る、本開示の別の非限定的な態様に従って、脱細胞化ヒトECMモルセルの組成物は、幹細胞と混合され、投与された細胞を安全に移植するための細胞担体として使用されてもよく、注射などによる送達剤として治療用化合物/薬物と混合することができることが記載されている。
【0072】
また、投与した脱細胞化ヒトECMモルセルが、インビボで細胞生存能、細胞増殖、細胞遊走、走化性、および/または毛細血管形成を促進する能力も本明細書で開示される。
【0073】
本明細書に記載された実施形態に対するさまざまな変更および修正が当業者には明らかであることを理解されたい。このような変更および修正は、本発明の主題の精神および範囲から逸脱することなく、またその意図された利点を損なうことなく行うことができる。したがって、そのような変更および修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
【0074】
本発明の範囲から逸脱することなく、上記の情報源および方法にさまざまな変更を加えることができるため、上記の説明および以下に示す実施例に含まれる全ての事項は、限定的でなく、例示的な意味として解釈されることが意図されている。
【実施例】
【0075】
実施例1
カスタマイズされた脱細胞化ヒトECMモルセルを作成する例示的な方法が、実施例1に示される。
【0076】
材料および方法
細胞培養、マイクロモールド作製、微小組織(単一多細胞構造)の形成。
【0077】
ヒト肺線維芽細胞(LF、ATCC CRL-4058)を、0.625~10ng/mLの組換えヒトトランスフォーミング成長因子ベータ1 (TGF-β1)タンパク質(R&D systems、ミネソタ州ミネアポリス、240-B)の存在下または非存在下で処理した、線維芽細胞増殖キット-低血清(ATCC-201-041)および0.3μg/mLの濃度のピューロマイシン(Gibco A1113803)を添加した線維芽細胞基本培地(ATCC PCS-201-030)で増殖させた。特発性線維症患者(IPF、ATCC PCS-201-020)からのヒト肺線維芽細胞を、0.625~10ng/mLの組換えヒトTGF-β1タンパク質(R&D systems、240-B)の存在下または非存在下で処理した、線維芽細胞増殖キット-低血清(ATCC-201-041)を添加した線維芽細胞基本培地(ATCC PCS-201-030)で増殖させた。
【0078】
慢性閉塞性肺疾患(COPD、ATCC PCS-201-017)患者からのヒト肺線維芽細胞を、線維芽細胞増殖キット-低血清(ATCC-201-041)を添加した線維芽細胞基本培地(ATCC PCS-201-030)中で増殖させた。ヒト心臓線維芽細胞(HCF; Promocell C-12375)を線維芽細胞増殖培地3 (C-23025)で増殖させた。ヒト心筋細胞(HCM; Promocell C-12810)をミオサイト増殖培地3 (C-22070)で増殖させた。ヒト心臓微小血管内皮細胞(HCMEC; Promocell C-12285)を内皮細胞増殖培地MV (C-22020)中で増殖させた。ヒト胎児心臓線維芽細胞(HFCF、Cell Applications Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ、306-05f)をHCF増殖培地(Cell Applications 316-500)で増殖させた。細胞をトリプシン処理し、計数し、各実験のために所望の細胞密度になるように再懸濁した。
【0079】
本発明者らは、Napolitanoら(2007) Biotechniques 43(4):494、496~500ページによって以前に記載されているように、3Dペトリディッシュ(登録商標)マイクロモールド(Microtissues、 Inc.、プロビデンス、ロードアイランド州、米国)からアガロースゲルをキャストした。アガロースゲルは、オートクレーブ滅菌した粉末アガロース(低EEO/多目的/分子生物学グレード、Fisher BioReagents、Thermo Fisher Scientific)を、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS、HyClone SH30256.FS)に1.5~2%(重量/体積)になるまで溶解して作成した。円形マイクロウェルを備えたマイクロモールドを使用して、スフェロイド形状の微小組織を作成した。スフェロイドのための円形マイクロウェルは直径400~800μmで、ゲルごとに35、96、または256個のマイクロウェルが含まれていた。
【0080】
追加として、または代替的に、組織工学分野の当業者であれば、コンピュータ支援デザイン(例えば、Solid Works、マサチューセッツ州コンコード)を使用して、所望のゲル特徴のテンプレート(例えば、細胞播種チャンバー、半球底状の底を持つ721個のマイクロウェル、深さ800μm×幅600μm)を作成することができるであろう。次いで、プロトタイピングマシン(例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)プラスチック(Protolabs)で構成される)を使用して、ネガティブプラスチックモールドを生成することができる。次に、ネガティブを充填して(例えば、シリコーンゴムコンパウンド;MOLDMAX(商標)25、Smooth-On、Macungie、PA)ポジティブ複製を作成することができる。ポジティブ複製物は使用前に洗浄され(例えば、70%エタノールを用い、その後、蒸留水でリンスされる)、オートクレーブされる。その後、組織工学の当業者は、例えばNapolitanoら(2007) Biotechniques 43(4):494、496~500ページの方法に従って、無菌環境において、溶融した1.5~2%アガロースPBS溶液の4mLアリコートを、各シリコンモールドにピペッティングすることによって、シリコンモールドから直接マイクロウェルを備えたアガロースゲルをキャストすることができる。
【0081】
マイクロウェルを備えたアガロースゲルに、スフェロイドマイクロウェル当たり500~4000細胞の密度で、トリプシン処理し、計数した細胞を播種した。細胞はアガロースゲル内の各マイクロウェル内で凝集し、細胞播種後4~24時間で、マイクロウェル当たり1つのスフェロイド形状の微小組織に自己集合した。
【0082】
マイクロウェル内の細胞は、細胞播種後3、6、9または12日間、5%CO2、37℃の加湿インキュベーター内で、3日ごとに培地を交換しながら培養された。
【0083】
微小組織の視覚検査。
【0084】
アガロースゲル中の微小組織を、カメラ付き倒立型光学顕微鏡(例えば、Nikon Ti2、Zeiss Axio Observer Z1または同等装置)で検査し、微小組織のサイズを調べた。微小組織の断面積は、ImageJ (米国国立衛生研究所、メリーランド州ベセスダ)を使用して測定した。
【0085】
微小組織の組織学を検査する。
【0086】
異なる日数、培養した微小組織を、アガロースゲル中、10%緩衝ホルマリン(Fisher 427098)で固定し、パラフィン包埋し、5μmで切片化した後、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)またはシリウス・レッド(商標)(Polyscience、ペンシルベニア州ウォリントン、24901-250)で染色し、それぞれ微小組織の形態または線維状コラーゲンの沈着を検査した。
【0087】
線維状コラーゲン構造微小組織を検査する。
【0088】
異なる日数、培養した微小組織を、アガロースゲル中、10%緩衝ホルマリン(Fisher 427098)で固定した。線維状コラーゲンは、線維状コラーゲンの第二高調波信号を選択するため、励起波長が790nmに設定されたMai Tai HP波長可変レーザーおよび405/40フィルターキューブを備えたオリンパスFV-1000-MPE多光子顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を使用して視覚化された。10%緩衝ホルマリンで固定した微小組織を、PBSに浸した25倍(開口数1.05、作動距離2mm)の対物レンズを使用してアガロースゲル中で画像化した。
【0089】
微小組織のプロテオミクスを検査する。
【0090】
アガロースゲル中の微小組織をPBSで3回洗浄し、その後チューブに収集した。微小組織のプロテオミクス分析のために、Nabaら(2015) J Vis Exp、2015(101):p. e53057によって以前に記載されているようにECM濃縮およびプロテオミクス処置を使用して、微小組織を脱細胞化し、ECMタンパク質を濃縮した。データ依存取得(data dependent acquisition)(DDA)による質量分析およびProteome Discoverer 2.3 (1% FDR)を用いたデータ分析を、ECMタンパク質のプロテオミクス分析に使用した。Schwanhausserら(2011) Nature、2011. 473(7347):337~42ページによって記載されている確立されたiBAQアルゴリズムを使用して、個々のタンパク質の総強度を長さ6~30アミノ酸の間のトリプシンペプチドの理論数で割ることにより、ECM成分を半定量化した(総ECMタンパク質の%モル) (PeptideMass、SIB Swiss Institute of Bioinformatics)。
【0091】
微小組織の脱細胞化。
【0092】
アガロースゲル中の微小組織をPBSで3回洗浄した。微小組織の脱細胞化は、微小組織がアガロースゲル内に残った状態で完了するか、または微小組織がチューブに収集された後に完了する。ゲルまたはチューブ内の微小組織は、最初に、プロテアーゼ阻害剤(PI; ThermoFisher Scientific、PI78439)を含む滅菌PBS中の20mM NH4OH (MilliporeSigma、09859)中の0.5% Triton-X100 (MilliporeSigma、ミズーリ州セントルイス、T9284)で、インキュベーションごとに60rpmで45分間、3ラウンド処理し、その後、滅菌PBS + PIで、インキュベーションごとに60rpmで45分間、3ラウンド洗浄し、その後DNase I (MilliporeSigma、4716728001) +RNase A (Qiagen、ヒルデン、ドイツ、19101) + PIを用い、60rpm回転、72時間で、1ラウンドのインキュベーションに供し、その後、滅菌PBS + PIで、インキュベーションごとに60rpm回転で45分間、3ラウンド洗浄する。得られた脱細胞化微小組織ECMモルセルは、目視検査および機械的試験のために滅菌PBS中、4℃で保存され、組織学的分析のために10%緩衝ホルマリンで固定されるか、またはその後の生化学分析のために液体窒素中で瞬間凍結され、-80℃で保存された。
【0093】
脱細胞化微小組織ECMモルセルの目視検査。
【0094】
アガロースゲル中の脱細胞化微小組織ECMモルセルを、脱細胞化微小組織ECMモルセルのサイズおよび構造を調べるため、以前に記載したようにカメラを備えた倒立光学顕微鏡で検査した。滅菌PBS中のチューブ内の脱細胞化微小組織ECMモルセルをボルテックスしてからiPhoneで写真撮影するか、または滅菌24ウェルプレート(Corning、 NY、 3527)に移し、その後、以前に記載のように倒立光学顕微鏡で画像化した。
【0095】
脱細胞化微小組織ECMモルセルの組織学を検査する。
【0096】
アガロースゲル中の脱細胞化微小組織ECMモルセルをアガロースゲル中、10%緩衝ホルマリン(Fisher 427098)で固定し、パラフィン包埋し、5μmで切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)またはシリウス・レッド(商標)(Polyscience、ペンシルベニア州ウォリントン、24901-250)を用いて染色し、脱細胞化微小組織ECMモルセルの細胞核または線維状コラーゲン沈着の存在をそれぞれ検査する。
【0097】
脱細胞化微小組織ECMモルセルのdsDNA濃度を検査する。
【0098】
脱細胞化微小組織ECMモルセルのDsDNA濃度は、Blahetaら(1998) J Immunol Methods 1998年2月1日;211(1~2):159~69ページによって以前に記載されているように測定された。チューブに収集した脱細胞化微小組織ECMモルセルをソニケーター内でパパイン溶液(MilliporeSigma、P4762、125μg/mL)中、65℃で72時間消化した。消化されたECMのdsDNA濃度は、製造業者のプロトコールに従って、QUANT-IT(商標)PICOGREEN(商標)dsDNAアッセイキット(Thermo Fisher Scientific、P7589)を使用して測定された。
【0099】
微小組織のコラーゲン含有量を検査する。
【0100】
微小組織のコラーゲン含有量は、Cissellら(2017) Tissue Eng Part C Methods 2017年4月; 23(4):243~250ページによって以前に記載されているように測定された。微小組織は10%ホルマリンで固定され、さらに処理されるまで4℃で保存された。固定した微小組織をチューブに収集し、1X PBSで3回洗浄し、パパイン溶液(MilliporeSigma、P4762、125μg/mL)中でソニケーター内、65℃で10日間消化した。消化された微小組織は、Cissellら(2017年)によって記載された修飾ヒドロキシプロリンアッセイを使用して測定された。
【0101】
微小組織の硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)含有量を検査する。
【0102】
微小組織のsGAG含有量は、Farndaleら、(1982) Connect Tissue Res 9(4):247~248ページ、およびWhitleyら、(1989) Clin Chem 35(3):374~379ページによって記載された1,9-ジメチルメチレンブルー(DMMB)アッセイを使用して測定された。微小組織は10%ホルマリンで固定され、さらに処理されるまで4℃で保存された。固定した微小組織をチューブに収集し、1X PBSで3回洗浄し、パパイン溶液(MilliporeSigma、P4762、125μg/mL)中でソニケーター内、65℃で10日間消化した。消化された微小組織は、Farndaleら、(1982年)およびWhitleyら、(1989年)によって記載されるようにDMMBアッセイを使用して測定された。
【0103】
脱細胞化微小組織ECMモルセルのプロテオミクスを検査する。
【0104】
チューブに収集された脱細胞化微小組織ECMモルセルは、微小組織のプロテオミクス分析のために、Nabaら、(2015) J Vis Exp、2015(101): p. e53057によって以前に記載されるようにプロテオミクス処置を受けた。データ依存取得(DDA)による質量分析およびProteome Discoverer 2.3 (1% FDR)によるデータ分析をECMタンパク質のプロテオミクス分析に使用した。Schwanhausserら(2011) Nature、2011. 473(7347):337~42ページによって記載されている確立されたiBAQアルゴリズムを使用して、個々のタンパク質の総強度を長さ6~30アミノ酸の間のトリプシンペプチドの理論数で割ることにより、ECM成分を半定量化した(総ECMタンパク質の%モル) (PeptideMass、SIB Swiss Institute of Bioinformatics)。
【0105】
ECMモルセルの機械的剛性を検査する。
【0106】
試験されたサンプルは脱細胞化プロセスを経て、コラーゲンでコーティングされたカバースリップ上にプレーティングされ、試験前にカバースリップ上で、4℃で48時間インキュベートされた。力の測定は、Nikon Eclipse Ti-U落射蛍光顕微鏡(Nikon、シカゴ、イリノイ州)に接続された原子間力顕微鏡(AFM、MFP-3D-BIO、Asylum Research、カリフォルニア州サンタバーバラ)を使用して収集された。使用したカンチレバーのバネ定数は0.03N/mであった。系統的な誤差を考慮するために、さまざまなサンプルに対して複数の試験セッションが実行された。フォース対押し込みのデータは、ヘルツ接触モデルを利用したカスタムMATLABスクリプト(The MathWorks、マサチューセッツ州ナティック)を使用して分析された。
【0107】
全ての実験は、室温の流体環境で行われた。偏向レーザーおよび/またはピエゾドリフトを最小限に抑えるために、試験前にAFMを平衡化させた。コンタクトモードでのフォースマッピング技術を使用して、さまざまなサンプルについてフォースマップが収集された。簡単に述べると、目的領域にわたる離散点で個々のフォースカーブが取得された。分析中、データの空間配置は、弾性率値のマトリックスを作成するために保持された。フォース-押し込みのデータは、5kHz、10μm/秒の接近速度でサンプリングされた。全てのサンプルに対して、約4nNのトリガーフォースを使用し、たわみを100nMに設定した。使用したスキャンサイズは5μm、解像度は4×4ポイントであった。
【0108】
ECMモルセルの注射可能性を試験する。
【0109】
胎児心臓微小組織を単一のチューブに収集し、脱細胞化した。チューブ内の脱細胞化培養胎児心臓ECMをボルテックス後、カメラで画像化した(
図6A)。その後、チューブ内の培養胎児心臓ECMを27ゲージのシリンジ(内径0.21mm)に10回通過させ、シリンジ通過後、再度チューブ内の培養ECMを画像化した。
【0110】
培養胎児心臓ECMの一部を、滅菌したトランスファーピペット(広い開口部を持つ)を使用して、2% (w/v)アガロースの薄層を敷いた24ウェルプレートの清潔なウェルに移し、10倍の対物レンズを備えたニコン製の顕微鏡下でイメージングした(
図6B)。外科的な培養ECM注射プロセスを模倣するために、1mL滅菌シリンジのプランジャーを取り外し、滅菌したトランスファーピペットを用いて培養胎児心臓ECMを27ゲージの針に接続した1mLシリンジの開口端に移した。その後、シリンジプランジャーを、培養ECMを含むシリンジの開口端に戻した。その後、培養胎児心臓ECMを27ゲージの針に通過させて、2% (w/v)アガロースの薄層を敷いた24ウェルプレートの未使用のウェルに直接1回入れ、10倍の対物レンズを備えたニコン製の顕微鏡下でイメージングした(
図6B)。
【0111】
ECMモルセルのインビトロ生体適合性を検査する。
【0112】
脱細胞化した成人または胎児の心臓ECMモルセルにHCMまたはHCMECを播種し、24時間インキュベートした。増殖を検査するために、細胞播種の24時間後にヌクレオシドアナログEdU (5-エチニル-2’-デオキシウリジン)を添加した。EdU中のECMモルセル上の細胞をさらに24時間(HCMEC)または48時間(HCM)培養した後、製造業者のプロトコールに従って、Click-iT(商標)EdU細胞増殖キット(Thermo Fisher Scientific)を使用して免疫組織化学的評価のために10%ホルマリンで固定した。
【0113】
実施例2
結果
さまざまなヒト細胞から作られたスフェロイド状のECM微小組織はECMを沈着する。
【0114】
8つの異なるタイプのヒト微小組織が、TGF-β1を含むかまたは含まないヒト肺線維芽細胞(LF)、TGF-β1を含むかまたは含まない線維化ヒト肺線維芽細胞(IPF)、COPDヒト肺線維芽細胞(COPD)、成人ヒト心臓線維芽細胞(HCF)、胎児ヒト心臓線維芽細胞(HFCF)、HCFとヒト心筋細胞(HCM)およびヒト心臓微小血管内皮細胞(HCMEC)との三種培養物、ならびに以前に記載のHFCF、HCMおよびHCMECの三種培養物から生成された。
図4は、播種6日後の明視野における9つの異なるタイプのECM微小組織のうちの8つを示し、
図7は、8つのECM微小組織全てにおける線維状コラーゲン(一般的なタイプのECM)の存在についてH&Eおよびシリウス・レッド(商標)で染色した微小組織切片を示す。
図7Bおよび
図8は、成人の心臓微小組織ではなくヒト胎児の心臓微小組織のサイズが成長し、培養時間にわたって線維状コラーゲンの沈着が増加し、より大きな線維状コラーゲンのリモデリングを示したことを説明する図である。
【0115】
図9は、多光子共焦点第二高調波発生(SHG)顕微鏡下で、ヒト成人健康肺ECM微小組織(
図9A)が、ヒト線維化肺(
図9B)およびヒト成人健康心臓ECM微小組織(
図9C)とは異なる原線維状コラーゲン構造を持っていたことを示す図である。
【0116】
プロテオミクス分析により、ECMタンパク質組成物微小組織は、微小組織の作成に使用される細胞のタイプに依存することが示された。
【0117】
微小組織のECM濃縮後、プロテオミクスを実行して、さまざまなヒトECM微小組織のECM組成物を分析した。表1は、9つのタイプのヒトECM微小組織のうち7つについて、各タンパク質のクラスの割合を示している。
【0118】
【0119】
ヒトECM微小組織のコラーゲンおよびsGAG含有量は、組織および年齢に特異的である。ECM微小組織の消化後、修正ヒドロキシプロリンアッセイおよびDMMBアッセイをそれぞれ使用して、コラーゲンおよびsGAGの含有量を評価した。表2は、8つのタイプのヒトECM微小組織のうち5つについて、スフェロイド微小組織の細胞100万個当たりのコラーゲンおよびsGAG含有量をマイクログラム単位で示している。
【0120】
【0121】
スフェロイド形状の微小組織は、マイクロウェルを備えたアガロースゲル内で脱細胞化され、ECMをモルセル幾何学形状に保持しながら細胞核を効率的に除去できる。以前に記載したように、6つの異なるタイプの脱細胞化ヒトECMモルセルは、TGF-β1を含むかまたは含まないヒトLF、TGF-β1を含むかまたは含まないIPF、HCF、およびHFCFから生成された。
図4は、播種6日後の明視野における個々のマイクロウェル内の6つの異なるタイプの脱細胞化ECMモルセルを示し、
図7は、6つ全ての脱細胞化ECMモルセルにおける、細胞核の不在を示すH&Eを用いて染色した脱細胞化モルセル切片、および脱細胞化後の線維状コラーゲン(一般的なタイプのECM)の存在を示すシリウス・レッド(商標)を示す。
【0122】
スフェロイド状の微小組織はチューブに収集され、その後、脱細胞化されモルセルとして保持される。
【0123】
図5は、胎児および成人のヒト心臓ECMスフェロイド微小組織を1つのチューブに収集し、脱細胞化し、混合した場合、得られた脱細胞化された胎児および成人のヒト心臓ECMモルセルは、脱細胞化処置後に、さらなる処理を行わずにそのスフェロイド形状を維持することを示す。
【0124】
脱細胞化された胎児ヒト心臓ECMモルセルをさらに処理することなく27Gシリンジに10回通過させた
図6。
【0125】
成人または胎児心臓線維芽細胞で作成された脱細胞化微小組織ECMモルセルは、50ng/mg未満のECM乾燥重量dsDNAを有していた。
【0126】
脱細胞化微小組織ECMモルセルの機械的剛性は、組織および年齢に特異的である。
【0127】
脱細胞化微小組織ECMモルセルの機械的剛性(弾性率)を、AFMを使用して測定した。
図10は、9つのタイプのヒト脱細胞化微小組織ECMモルセルのうちの3つについてのkPa単位の弾性率、Zile MRら、(2015)Circulation. 2015;131(14):1247~59ページおよびGuimaraes CFら、(2020) Nature Reviews Materials. 2020;5(5):351~70ページによって引用された健康なヒト心臓組織の範囲、ならびにSingelyn JMら、(2011) Macromol Biosci. 2011;11(6):731~8ページに引用されるように固化した注射可能なハイドロゲルの等価弾性率(コラーゲン、マトリゲル、0.1%グルタルアルデヒドで架橋したかまたは架橋していないブタ心筋ECM)を示している。Nemir Sら、(2010) Ann Biomed Eng. 2010;38(1):2~20ページで引用されているように、ポアソン比ν~0.5を仮定すると、等価弾性率は貯蔵弾性率のレオロジー測定値の3倍となる。
【0128】
培養ECMはインビトロにおいて生体適合性である。
【0129】
生体適合性を試験するために、胎児心臓微小組織を個々のアガロースマイクロウェル内に置いたまま脱細胞化し、洗浄した(インサイツ脱細胞化)。得られた脱細胞化培養ヒト胎児心臓ECMは、マイクロウェル内に留まった(
図11)。その後、ヒト心筋細胞(HCM)および心臓微小血管内皮細胞(HCMEC)をアガロースモールド上に播種した。細胞は重力によって培養されたECM上に沈降した。細胞は容易に接着し、ECM上で生存した(
図11)。細胞はまた、ECMなしで培養した場合よりも大きな増殖を示した(
図11)。
【0130】
その後、プロテオミクスを実行して、脱細胞化されたECMモルセルのECM組成物を分析した。
【0131】
実施例3
本明細書に開示されるECM組成物は、MIを治療する方法において使用される。組成物はエアロゾルの形態で患部に適用される。心臓組織は16週間以内に再生する。
【0132】
実施例4
本明細書に開示されるECM組成物は、MIを治療する方法において使用される。組成物はパッチの形態で患部に適用される。心臓組織は12週間以内に再生する。
【0133】
実施例5
本明細書に開示されるECM組成物は、MIを治療する方法において使用される。この組成物は、注射によって患部に適用される。心臓組織は24週間以内に再生する。
【0134】
実施例6
本明細書に開示されるECM組成物は、創傷を治療する方法において使用される。この組成物は、注射によって患部に適用される。組織は20週間以内に再生する。
【0135】
実施例7
本明細書に開示されるECM組成物は、創傷を治療する方法において使用される。組成物は患部に局所的に適用される。組織は32週間以内に再生する。
【0136】
実施例8
本明細書に開示されるECM組成物は、創傷を治療する方法において使用される。組成物はパッチの形態で患部に適用される。組織は16週間以内に再生する。
【0137】
実施例9
本明細書に開示されるECM組成物は、美容状態を治療する方法において使用される。組成物は、注射によって所望の治療領域に適用される。
【0138】
最後に、本明細書の態様は、特定の実施形態を参照することによって強調されているが、当業者であれば、これらの開示された実施形態が、本明細書に開示される主題の原理の単なる例示にすぎないことを容易に理解するであろうことが理解されるべきである。したがって、開示された主題は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコール、および/または試薬などに決して限定されないことが理解される。したがって、本明細書の精神から逸脱することなく、本明細書の教示に従って、開示された主題のさまざまな修正または変更、または代替的な構成を為すことができる。最後に、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としているのであって、特許請求の範囲によってのみ定義される本開示の範囲を限定することを意図するものではない。したがって、本開示の実施形態は、正確に図示され説明されたものに限定されない。
【0139】
本明細書に記載の方法およびデバイスを実行するための発明者が知る最良のモードを含む特定の実施形態が本明細書に記載される。もちろん、これらの記載された実施形態の変形は、前述の説明を読めば当業者には明らかであろう。したがって、本開示は、適用される法律によって認められる、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載された主題の全ての変更および均等物を含む。さらに、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、上述の実施形態のあらゆる可能な変形における任意の組み合わせが本開示に包含される。
【0140】
本開示の代替的な実施形態、要素、またはステップのグループ化は、限定として解釈されるべきではない。各グループメンバーは、個別に、または本明細書に開示された他のグループメンバーとの任意の組み合わせで参照および請求され得る。利便性および/または特許性の理由から、グループの1つまたは複数のメンバーが、グループに含まれたり、グループから削除されたりする場合があることが予想される。このような包含または削除が行われた場合、本明細書は変更されたグループを含むものとみなされ、したがって、添付の特許請求の範囲で使用される全てのマーカッシュグループの記述を満たすものとみなされる。
【0141】
別段の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される特徴、項目、量、パラメータ、特性、期間などを表す全ての数値は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。本明細書で使用される「約」という用語は、そのように修飾された特徴、項目、数量、パラメータ、特性、または期間が、記載された特徴、項目、数量、パラメータ、特性、または期間の値の上下にプラスマイナス10パーセントの範囲を包含することを意味する。したがって、別段の指示がない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、変動する可能性がある近似値である。少なくとも、特許請求の範囲に均等論の適用を制限する試みではないが、各数値表示は、少なくとも報告された有効桁数を考慮して、通常の丸め手法を適用して解釈されるべきである。本開示の広範な範囲を示す数値範囲および数値が近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値範囲および数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、いかなる数値範囲または値にも、それぞれの試験測定で見出された標準偏差から必然的に起因する一定の誤差が本質的に含まれている。本明細書における値の数値範囲の記載は、その範囲内にある各々の個別の数値を個別に参照する簡単な方法としての役割を単に意図するものである。本明細書に別段の指示がない限り、数値範囲の個々の値は、あたかも本明細書に個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0142】
本開示を説明する文脈(特に以下の特許請求の範囲の文脈)で使用される用語「a」、「an」、「the」および類似の指示対象は、別段の指示がない限り、または明らかに文脈と矛盾していない限り、単数形および複数形の両方を包含するものと解釈されるべきである。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。本明細書で提供されるあらゆる例、または例示的な文言(例えば、「など(のような)」)の使用は、単に開示をより良く説明することを意図したものであり、別途請求される範囲に制限を限定するものではない。本明細書のいかなる文言も、本明細書に開示された実施形態の実施に不可欠な非請求要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0143】
本明細書に開示される特定の実施形態は、特許請求の範囲において、からなる、またはから本質的になるという文言を使用して、さらに限定され得る。特許請求の範囲で使用される場合、出願されたものであるか、補正によって追加されたものであるかにかかわらず、「からなる」という移行用語は、特許請求の範囲で特定されていない要素、ステップ、または成分を除外する。「から本質的になる」という移行用語は、特許請求の範囲を特定の材料またはステップ、および基本的および新規な特徴に実質的に影響を与えないものに限定する。そのように請求される本開示の実施形態は、本質的にまたは明示的に本明細書に記載され、有効化される。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)を含む、カスタマイズされた流動性組成物であって、
物理的特性、生化学的/化学的特性、機械的特性、またはコラーゲン構造の少なくとも1つにおいて、インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルを含むECMを含む、カスタマイズされた流動性組成物。
【請求項2】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、異なる物理的特性を含む、請求項1に記載のカスタマイズされた流動性組成物。
【請求項3】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、異なる生化学的/化学的特性を含む、請求項1に記載のカスタマイズされた流動性組成物。
【請求項4】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、異なる機械的特性を含む、請求項1に記載のカスタマイズされた流動性組成物。
【請求項5】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、異なるコラーゲン構造を含む、請求項1に記載のカスタマイズされた流動性組成物。
【請求項6】
カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)モルセルを生産する方法であって、以下のステップ:
培養哺乳動物細胞をマイクロウェルに播種するステップであって、前記培養哺乳動物細胞が、前記培養哺乳動物細胞およびECMから構成されるECM微小組織を生成
し、前記哺乳動物細胞がヒト細胞を含み、前記ヒト細胞が、心臓細胞および肺細胞のうちの少なくとも1つを含む、ステップ;
前記ECM微小組織を収集するステップ;ならびに
前記ECM微小組織を脱細胞化するステップ、を含み、
ここで、前記カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物ECMモルセルが、物理的特性、生化学的/化学的特性、機械的特性、またはコラーゲン構造のうちの少なくとも1つにおいて、インビボ由来のECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルを含む、方法。
【請求項7】
前記ヒト細胞が心臓細胞を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト細胞が肺細胞を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項9】
前記脱細胞化するステップが、前記微小組織を界面活性剤、緩衝液、DNAse、またはRNaseのうちの少なくとも1つと混合するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ECM微小組織が球状粒子を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記ECM微小組織が、800μm未満または800μmに等しい直径を有する球状粒子を含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が組換えヒト細胞を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、心臓線維芽細胞、心筋細胞、および心臓微小血管内皮細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項14】
培養哺乳動物細胞をマイクロウェルに播種するステップであって、前記培養哺乳動物細胞が、前記培養哺乳動物細胞およびECMから構成されるECM微小組織を生成する、ステップ;
前記ECM微小組織を収集するステップ;ならびに
前記ECM微小組織を脱細胞化するステップ、を含む方法によって作製された脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)を含む、カスタマイズされた流動性組成物であって、
物理的特性、生化学的/化学的特性、機械的特性、またはコラーゲン構造のうちの少なくとも1つにおいて、インビボ由来のECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルを含むECMを含む、カスタマイズされた流動性組成物。
【請求項15】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞を含む、請求項
14に記載の組成物。
【請求項16】
前記ヒト細胞が、心臓細胞および肺細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項
15に記載の組成物。
【請求項17】
前記ヒト細胞が心臓細胞を含む、請求項
16に記載の組成物。
【請求項18】
前記ヒト細胞が肺細胞を含む、請求項
16に記載の組成物。
【請求項19】
前記脱細胞化するステップが、前記哺乳動物細胞を界面活性剤、緩衝液、DNAse、またはRNaseのうちの少なくとも1つと混合するステップを含む、請求項
14に記載の組成物。
【請求項20】
前記方法が、前記混合物をシリンジに通過させるステップをさらに含む、請求項
19に記載の組成物。
【請求項21】
前記シリンジが27Gの針を含む、請求項
20に記載の組成物。
【請求項22】
前記細胞が組換えヒト細胞を含む、請求項
15に記載の組成物。
【請求項23】
前記細胞が、心臓線維芽細胞、心筋細胞、および心臓微小血管内皮細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項
15に記載の組成物。
【請求項24】
心血管系の損傷を治療する方法であって、前記損傷の領域に脱細胞化ECM組成物を投与することを含む方法。
【請求項25】
前記心血管系の損傷が心筋梗塞の結果である、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
前記ECMがヒト細胞由来である、請求項
24に記載の方法。
【請求項27】
前記ヒト細胞が、心臓細胞および肺細胞のうちの少なくとも1つを含む、請求項
26に記載の方法。
【請求項28】
前記ヒト細胞が心臓細胞を含む、請求項
27に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒト細胞が肺細胞を含む、請求項
27に記載の方法。
【請求項30】
美容状態を治療する方法であって、脱細胞化ECM組成物を所望の治療領域に投与するステップを含む方法。
【請求項31】
前記ECMがヒト細胞由来である、請求項
30に記載の方法。
【請求項32】
前記マイクロウェルに足場がない、請求項6に記載の方法。
【請求項33】
前記マイクロウェルに足場がない、請求項
14に記載の組成物。
【請求項34】
前記インビボ由来ECMの物理的または生化学的/化学的プロファイルとは異なる前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、哺乳動物細胞の起源、哺乳動物細胞の年齢、哺乳動物細胞の疾患状態、または哺乳動物細胞の培養条件のうちの少なくとも1つの改変によって達成される、請求項6に記載の方法。
【請求項35】
前記改変が、細胞培養培地の組成、培養時間、酸素レベル、または追加の生物学的因子の存在もしくは量のうちの少なくとも1つを調整することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項36】
前記追加の生物学的因子が、成長因子、サイトカイン、および薬物のうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項37】
カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物細胞外マトリックス(ECM)モルセルを生産する方法であって、以下のステップ:
培養哺乳動物細胞をマイクロウェルに播種するステップであって、前記培養哺乳動物細胞が、前記培養哺乳動物細胞およびECMから構成されるECM微小組織を生成
し、
前記ECM微小組織が800μm未満または800μmに等しい直径を有する球状粒子を含む、ステップ;
前記ECM微小組織を収集するステップ;ならびに
前記ECM微小組織を脱細胞化するステップ、を含み、
ここで、前記カスタマイズされた脱細胞化哺乳動物ECMモルセルが、所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルを含む、方法。
【請求項38】
前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、物理的特性、生化学的/化学的特性、機械的特性、またはコラーゲン構造のうちの少なくとも1つを含む、請求項
37に記載の方法。
【請求項39】
前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、哺乳動物細胞の起源、哺乳動物細胞の年齢、哺乳動物細胞の疾患状態、または前記哺乳動物細胞の培養条件のうちの少なくとも1つの改変により達成される、請求項
38に記載の方法。
【請求項40】
前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、細胞培養培地の組成、培養時間、酸素レベル、および追加の生物学的因子の存在または量のうちの少なくとも1つを
改変することによって達成される、請求項
38に記載の方法。
【請求項41】
前記所望の物理的または生化学的/化学的プロファイルが、成長因子、サイトカイン、および薬物のうちの少なくとも1つを含む生物学的因子を添加することによって前記哺乳動物細胞の前記培養条件を改変することによって達成される、請求項
38に記載の方法。
【国際調査報告】