(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ポリマー支持材を修飾する方法、こうした方法によって得られるポリマー支持材、クロマトグラフィーカラム、クロマトグラフ分離法、およびポリマー支持材の使用
(51)【国際特許分類】
B01J 20/281 20060101AFI20231228BHJP
B01J 20/285 20060101ALI20231228BHJP
B01J 20/283 20060101ALI20231228BHJP
B01J 20/284 20060101ALI20231228BHJP
B01J 20/282 20060101ALI20231228BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20231228BHJP
B01J 41/20 20060101ALI20231228BHJP
B01J 39/26 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B01J20/281 X
B01J20/285 M
B01J20/285 T
B01J20/283
B01J20/284
B01J20/282 E
B01J20/281 G
G01N30/02 B
B01J41/20
B01J39/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538112
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2021087072
(87)【国際公開番号】W WO2022136422
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515090684
【氏名又は名称】メトローム・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】METROHM AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザティラカ,アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】エシュリマン,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ブラント,バスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ラマーズ,ブリジット
(57)【要約】
本発明は、分析プロセスまたは分取プロセスにおいて固定相として使用するための支持材、特にポリマー支持材を修飾する方法に関する。方法は、支持材を用意するステップ、上記支持材をオリゴアミンまたはポリアミンで被覆するステップ、ならびに支持材を、アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、第1の官能基ならびにイオン交換基を含む化合物と反応させるステップを含む。本発明はまた、支持材、クロマトグラフィーカラム、分析物のクロマトグラフ分離法、およびこうした支持材の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析プロセスまたは分取プロセスにおいて固定相として使用するための支持材、特にポリマー支持材を修飾する方法であって、以下のステップ:
a)支持材を用意するステップと、
b)前記支持材をオリゴアミンまたはポリアミンで被覆するステップと、
c)前記支持材を
- アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、第1の官能基、好ましくはエポキシ基、ならびに
- イオン交換基、好ましくは、主族Vの第四級有機元素、好ましくは第四級アンモニウム基
を含む化合物と反応させるステップと
を含み、
ステップb)およびステップc)は、逐次的にまたは同時に実施する、方法。
【請求項2】
ステップc)に続いて、架橋ステップ
d)ステップc)から得られる反応生成物を、1種または複数の多官能価化合物、特に
- アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、少なくとも1種の第1の官能基、好ましくはエポキシ基、ならびに
- アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、少なくとも1種の第2の官能基、好ましくはエポキシ基
を有する化合物で処理するステップ
を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)における前記オリゴアミンまたは前記ポリアミンが、ポリアリルアミン、直鎖状または分枝鎖状のポリエチレンイミン(PEI)、ポリ(2-メチルアジリジン)からなる群から選択され、好ましくは分枝鎖状PEIである、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
ステップc)で使用される前記化合物が、化学式I
【化1】
(式中、
Rは、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはエーテル基であり;
R1、R2、またはR3のそれぞれは、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキル、またはR1とR2との間、もしくはR2とR3との間、もしくはR1とR3との間に形成される、5員複素環もしくは6員複素環からなる群から独立に選択され、
Xは、アミンおよび/またはヒドロキシル基と反応性である官能基、好ましくはエポキシ基またはハロゲン化物である)
のものである、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、化学式Iのものであり、Rが、-(CH
2)
n-または-(CH
2)
n-O-(CH
2)
n-(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から選択される)からなる直鎖状または分枝鎖状の前記アルキル基または前記エーテル基から選択され;
式中、R1、R2、およびR3がそれぞれ、または独立に、
- -CH
3および-(CH
2)
n-CH
3(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から選択される)からなる群から選択されるアルキル基;または
- 直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキルアルコールの群から選択されるアルキルアルコール基、好ましくは、-(CH
2)
n-OH(n=1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から選択される)からなる群から選択されるアルキルアルコール基
である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が、化学式II、化学式III、または化学式IV
【化2】
(式中、Rは、-(CH
2)
n-または-(CH
2)
n-O-(CH
2)
n-(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から選択される)からなる直鎖状または分枝鎖状の前記アルキル基または前記エーテル基から選択される)
のものである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ステップc)で使用される前記化合物が、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド;グリシジルメチルジエタノールアンモニウムクロリド;およびグリシジルトリエチルアンモニウムクロリドからなる群から選択される化学式(I)のものである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
ステップc)で使用される前記化合物が、
(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、
(2-クロロエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、
(2-ブロモエチル)トリメチルアンモニウムブロミド、
(3-ブロモプロピル)トリメチルアンモニウムブロミド、
(5-ブロモペンチル)トリメチルアンモニウムブロミド
からなる群から選択される(ハロゲノアルキル)トリアルキルアンモニウムハロゲン化物である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
ステップd)で使用される前記多官能価化合物(複数可)が、
- エポキシド、特に、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、リゾルシノールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリシドール;
- ハロゲンアルカン、特に、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、1,1’-オキシビス[2-(2-クロロエトキシ)エタン]、1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタン、ビス(2-クロロエチル)エーテル、1-クロロ-3-ヨードプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,3-ジブロモプロパン;
- アルデヒド、特に、グルタルアルデヒド
から選択される、請求項2から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップc)から得られる前記反応生成物が、1種または複数の一官能価化合物、特に、アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である官能基を有する化合物で処理され、前記一官能価化合物(複数可)が、好ましくは、置換または非置換のアルキル、置換または非置換のヘテロアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、最も好ましくは、ハロゲンアルカンまたはエポキシアルカン、特に、ヨードオクタンまたは1,2-エポキシオクタンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記PEIが、前記支持材に共有結合され、好ましくは、前記PEIが、スペーサー分子によって、好ましくはポリマー支持材である前記支持材に結合される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記スペーサーが、アルコール/アミンと反応性である基、およびポリアミンと反応性である、他の基を有する多官能価分子である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップa)で用意される前記支持材が、基材端部の前記スペーサー分子と反応性である基を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)で用意される前記支持材が、エポキシドと反応性である基、特にヒドロキシル基を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ステップa)で用意される前記支持材が、炭化水素系化合物、特に芳香族炭化水素系化合物;PVA;糖系化合物;無機化合物、特に、シリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニアからなる群から選択される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ステップb)の前に、
- 前記ポリマー支持基材の酸化処理;およびその後の
- 還元処理または加水分解処理
のステップを含むプロセスによって、前記支持材の上/中にヒドロキシ基を生じるステップを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記支持材が、
- 少なくとも2個のビニル置換基またはアリル置換基を有する芳香族炭化水素化合物に部分的に由来し、好ましくは、ジビニルベンゼンモノマーに少なくとも部分的に由来し;かつ
- エチルビニルベンゼン、酢酸ビニル、スチレン、およびその任意の組合せの群から選択されるモノマーに部分的に由来し;
少なくとも2個のビニル置換基またはアリル置換基を有する芳香族炭化水素化合物の相対量、好ましくは、ジビニルベンゼン由来モノマーの相対量が、好ましくは少なくとも50重量%である
ことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ステップc)またはステップd)に続いて、ステップ
e)官能化され、架橋された材料をアルカリ溶液中で加熱するステップ
を行う、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
分析プロセスまたは分取プロセス、特にクロマトグラフィー法において固定相として使用するための、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法によって得られる支持材。
【請求項20】
ステップa)で用意される支持材が、ミクロ多孔質またはメソ多孔質である、請求項19に記載の支持材。
【請求項21】
特に、1MのNaOH溶液を用いた1回のすすぎ洗浄および/または1MのHNO
3溶液を用いた1回のすすぎの後の、その充填されたカラムにおける硫酸イオンの保持時間と、こうしたすすぎの前の硫酸イオンの保持時間との差が、8%を超えない、好ましくは5%を超えない、特に好ましくは3%を超えないように、前記材料が、pH範囲0~14において安定である、請求項19または20に記載のポリマー支持材。
【請求項22】
請求項19から21のいずれか1項に記載の支持材が充填された、クロマトグラフィーカラム、特にイオン交換クロマトグラフィーカラム。
【請求項23】
分析物をクロマトグラフ分離する方法であって、前記分析物を含有する溶液を、請求項19から21のいずれか1項に記載のポリマー支持材と接触させ、特に、請求項22に記載のクロマトグラフィーカラムを通過させることを特徴とする、方法。
【請求項24】
分析物の分析または分取のための、特に、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、および/またはHILICクロマトグラフィーにおける使用のための、請求項19から21のいずれか1項に記載のポリマー支持材および/または請求項1から21のいずれか1項に記載の方法によって得られるポリマー支持材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析プロセスまたは分取プロセスにおいて固定相として使用するためにポリマー支持材を修飾する方法に関する。本発明はさらに、こうした方法で得られるポリマー支持材に関する。本発明はさらに、ポリマー支持材が充填されたクロマトグラフィーカラム、分析物をクロマトグラフ分離する方法、ならびに分析物の分離のためのこうしたポリマー支持材の使用、特に、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、および/またはHILICクロマトグラフィーにおける使用にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換体は、通常、粒子材料で作製され、粒子材料は、その表面に電荷を帯び、イオンを保持することを可能にする。アニオン交換体は、しばしば、カチオン性アンモニウム化合物に基づくが、ホスホニウムイオンおよびアルソニウムイオンもまた知られている。純粋な静電相互作用について、保持時間はクーロンの法則によって決定される。したがって、アニオン電荷のみが、その保持時間に影響を及ぼすべきである。しかし、イオンクロマトグラフィーが水溶液中で実施される場合、アニオンの水和および交換基の水和などの、他の因子が保持挙動に影響を及ぼす。関係するイオンの分極率および分析物と交換基材との間のより弱い二次相互作用もまた役割を果たす。
【0003】
炭酸塩溶液および水酸化物溶液は、サプレッサー方式アニオン交換クロマトグラフィーで使用される、最も一般的な溶離剤であるが、この10年で、トレンドは、水酸化物選択性アニオン交換カラムの開発に対してますますシフトした。炭酸塩溶離剤と比較された水酸化物溶離剤の利点は、以下の通りである:弱く保持された化合物および強く保持された化合物の同時分離のためのグラジエント溶離を使用できること、より低いバックグラウンド電気伝導度、ゆえに分析のより高い感度。別の利点は、水酸化物溶離剤により、ボイド体積からのフッ化物イオンの良好な分解能がもたらされることであり、それは、炭酸塩溶離剤を使用する場合しばしば問題となる。また、水中の消毒副生成物を監視するための一部の規準は、水酸化物溶離剤を推奨する。
【0004】
水酸化物溶離剤を用いたサプレッサー方式ICモードでの使用のためのカラムは、14までの高いpHで安定であるべきであり、芳香族基材、例えば、DVBベースコポリマーを使用して通常用意され、それぞれのアニオン交換被覆Vによってもたらされる高い表面親水性を有し、水酸化物イオンの溶離力および高度に分極可能なアニオン、例えば、硝酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオンなどのカラム効率を増す。
【0005】
親水性アニオン交換被覆を有する芳香族コポリマーに基づいた充填材は、Analytica Chimica Acta、964巻(2017)187頁に開示される。この参照文献は、リンカーである1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルによって基材に結合したアニオン交換被覆が、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルと反応することにより、ポリエチレンイミンを結合させ、それを架橋させ、四級化することによって形成される、PS-DVBベースアニオン交換体を説明する。こうした材料は、標準無機アニオンおよび一部の有機酸の分離のかなり良好な選択性を有するが、樹脂の容量は、ポリエチレンイミンと1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルとの架橋度によって定められ、それゆえに、提案された製造方法におけるカラム選択性から独立に調節することができない。
【0006】
極めて同様の、ポリエチレンイミンベース被覆を有する充填材は、国際公開第2020/044813(A1)号に開示され、ポリエチレンイミン被覆基材は、その後、ジグリシジルエーテルおよび第三級アミンと反応する。しかし、提案された手法において、望ましい官能性は、ポリエチレンイミンとジグリシジルエーテルとのある特定の比が使用される場合に形成されるだけであり、架橋は、記載された反応条件の下、極めて可能性が高い。これにより、ポリエチレンイミンのアミノ基の、避けられない四級化ゆえに、選択性に影響が及び、追加の容量が生じ、ゆえに選択性および容量は、独立に変化することができない。また、最適化された試験条件の下、報告された充填材での2価の硫酸イオンの早期の溶離は、実際の試料において、はるかにより低い量で存在する、近接の分析物(例えば、ClO3
-およびNO2
-)の定量化について問題を引き起こし得る。
【0007】
サプレッサー方式イオンクロマトグラフィーにおいて水酸化物溶離剤と共に使用される、芳香族基材用の親水性被覆を製造するための別の方法は、Journal of Chromatography A1213巻(2008)37頁および米国特許出願公開第2005/0181224号において提案され、第一級アミンとジグリシジルエーテルとの反応を含める修飾サイクルを繰り返すことによって、スルホン化EVB-DVBの表面に正荷電高分岐層の段階的成長を含める。製造された材料は、良好な選択性および高い容量を有し、それは、修飾サイクルの数(分岐度)を増やすことによって増大され得る。しかし、サイクル数を増やすことは、架橋プロセスがより起こり易くなるゆえに、容量だけでなく、選択性の変化ももたらす。したがって、それらのパラメータは、互いに独立に制御することができない。また、良好な選択性をもたらす、こうした被覆の製造は、多くの合成ステップ(通常、8より多い)を含め、それにより、被覆の再現性がより難しくなる。
【0008】
特に安定な支持粒子、好ましくは、分離プロセスにおいて、ある特定の望ましい特性を実現するために(表面)修飾され得る疎水性コアを有する支持粒子を提供する試みがなされてきた。例えば、PCT/EP2020/059908は、調節可能な親水性、バランスのとれた容量、数多くの理論段、化学的不活性、および高い機械的安定性を有する、分離法において使用するための修飾支持材を教示する。上記の文献による修飾支持材は、炭酸塩溶離剤を使用したイオンクロマトグラフィー分離で十分に機能するが、水酸化物溶離剤の使用は、炭酸塩と共に十分に分解される、一部の2種の分析物の共溶出をもたらし、それは、産業において、主要な分析課題を解決するための、こうした材料の適用性を限定する。
【0009】
米国特許出願公開第2008/203029号には、適切な反応物でさらに官能化されたポリエチレンイミンで誘導体化されたポリマー粒子を使用することによって製造された、生物分離用のポリマークロマトグラフ媒体が開示される。EP2060316には、クロマトグラフ用途のための媒体が開示され、媒体は、ポリエチレンイミンで被覆された表面を有する、ウイルスのクロマトグラフ精製用の膜である。固定化したPEIは、電荷修飾剤で修飾されて、媒体に第四級アンモニウム官能性を付与する。CN105396628は、2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド修飾PEIグラフト修飾PS/DVBイオンクロマトグラフ充填に関する。PS/DVBミクロスフェアは、担体基材として機能する。それらは、初めに、メタクリル酸グリシジルエステルで修飾されて、さらなる反応ステップのためにエポキシ基をもたらす。米国特許第6780327号は、親水性多孔質基材を含む正荷電ミクロ多孔質膜およびペンダントカチオン基を含む架橋された被覆を提供する。これらの文献のいずれも、イオン交換クロマトグラフィーに好適であり、かつ親水性、容量、および選択性が互いに独立に構成され得るような方法で生産される、機械的安定な、かつ化学的安定な粒子を提供しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、当分野の技術水準における不利な点を克服することである。特に、本発明の目的は、材料の親水性を、ポリマーコア基材の酸素含有率とは独立に調節することができ、その結果、バッチ間で再現性のある特性を十分に提供しながら、機械的に安定な、かつ堅牢な粒子をもたらすように修飾されたポリマー支持材を提供することである。さらに、化学的に、大部分で不活性である、ポリマー支持材に基づいたイオン交換体が提供されるべきであり、親水性、容量、および選択性が、互いに独立に構成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
その目的は、独立項の特長を有する、修飾方法、ポリマー支持材、クロマトグラフィーカラム、分離法、およびポリマー支持材の使用によって実現される。しかし、本発明の適用性は、水酸化物溶離剤のみに限定されない。
【0012】
本発明の第1の態様は、分析プロセスまたは分取プロセスにおいて固定相として使用するための支持材、特にポリマー支持材を修飾する方法に関する。その方法は、以下のステップ:
a)支持材を用意するステップ、
b)支持材をオリゴアミンまたはポリアミンで被覆するステップ、ならびに
c)支持材を
- アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、第1の官能基、好ましくはエポキシ基、ならびに
- イオン交換基、好ましくは、主族Vの第四級有機元素、好ましくは第四級アンモニウム基
を含む化合物と反応させるステップ
を含む。
【0013】
ステップb)およびステップc)は、逐次的に、または同時に、好ましくは逐次的に実施される。同時実施に関して、支持材は、オリゴアミンまたはポリアミンと、アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、第1の官能基、好ましくはエポキシ基、ならびにイオン交換基、好ましくは主族Vの第四級有機元素、好ましくは第四級アンモニウム基を含む化合物と1つのステップで混合される。あるいは、第1のステップにおいて、オリゴアミンまたはポリアミンと、アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、第1の官能基、好ましくはエポキシ基、ならびにイオン交換基、好ましくは、主族Vの第四級有機元素、好ましくは第四級アンモニウム基を含む化合物とが混合され、第2のステップにおいて、支持材がその混合物に添加される。
【0014】
ステップb)における被覆は、共有結合による被覆または静電被覆であってもよい。
以下にさらに詳細に概説されるように、ステップa)で用意される支持材は、好ましくは、いずれもポリアミンで直接被覆されるか、またはスペーサーが、支持材とポリアミンとの間に提供され得る。ポリアミンは、ポリアリルアミン、直鎖状または分枝鎖状のポリエチレンイミン(PEI)、ポリ(2-メチルアジリジン)からなる群から選択され、好ましくは分枝鎖状PEIであり得る。分枝鎖状PEI、特に好ましくは、平均分子量Mw600~1800Da(光散乱LSによる)および平均Mn400~1600Da(ゲル浸透クロマトグラフィーGPCによる)を有する分枝鎖状PEIを使用することができる。1個の分子のいくつかのアミン基が、アミン基と反応性である基と反応することができるので、PEIのそれぞれの分子は、いくつかの結合点を有することができる。反応基は、ステップaで用意される支持材によってもたらされ得る。
【0015】
本発明による方法の利点は、高い再現性のあるポリマー支持材を得られることである。アミン被覆、特にPEI被覆ゆえに、疎水性コアの表面を親水化する、先のステップは、得られる材料の特性および性能に最小限の影響のみを及ぼし、その一方で、依然として機械的安定な、かつ堅牢な粒子をもたらす。
【0016】
ポリマー支持材が、アニオン交換クロマトグラフィーの固定相として使用されるようにさらに処理され得ることは、ポリマー支持材の特に有利な点である。しかし、粒子の使用は、決してこれに限定されない。あるいは、粒子は、他の分析法および分取法、例えば、カチオン交換クロマトグラフィー、他の吸着クロマトグラフィー法、HILICクロマトグラフィー(親水性相互作用液体クロマトグラフィー)、逆相クロマトグラフィー、固相抽出などにおいて使用され得る。
【0017】
親水性、容量、および選択性は、こうしたイオン交換材において独立に調節可能である。イオン交換基は、ポリマー支持材の表面の荷電基、とりわけ、荷電された、アミン基またはホスフィン基、特に第四級アンモニウム基である。
【0018】
イオン交換基の量を変えることによって、分離材の容量を調節し、かつ加減することができる。支持材は、イオン交換相互作用、特に、イオン交換クロマトグラフィーに好適な材料に変わる。
【0019】
PEIとの反応ゆえに、ポリマー支持材に基づくイオン交換材の容量および選択性を互いに独立に調節することができる。
【0020】
加えて、PEIとの反応ゆえに、前述されたポリマー支持材に基づくイオン交換体材料は、オキソハロゲン化物およびある種のハロ酢酸、例えば、DCA(ジクロロ酢酸)、MCA(モノクロロ酢酸)、MBA(モノブロモ酢酸)、DCA(ジクロロ酢酸)、DBA(ジブロモ酢酸)、TCA(トリクロロ酢酸)に関して、問題となる共溶出を回避する。実際に、本発明によるポリマー支持材は、好ましくは、KOHを用いたグラジエント溶離を使用することによって、無機標準イオンおよびオキソハロゲン化物に加えて、5種のハロ酢酸の分離を可能にするアニオン交換体を生産する基体としての役割を果たすことができる。本発明者の知る限り、ClO2
-、MCA、BrO3
-、およびMBAのベースライン分離をもたらすカラムが初めて報告される。
【0021】
当分野で主張される、いくつかの他の問題もまた克服され得る。ポリマー粒子を主に1,4-BDDGEによって被覆する効果は、かなり支配的であることが分かり、それゆえに、無機アニオンに対する選択性を制御することが難しい。これらの問題は、本発明で開示される支持材によって解決された。DCAが塩素酸イオン(KOH溶離剤中、メチルモルホリン(MM)-四級化物質)と共に共溶出する傾向が改善される。亜塩素酸イオンおよび臭素酸イオンが、他の官能性(N-メチルピロリドン(NMP)、N-メチル-ジエタノールアミン(MDEA))の存在下で分離される場合に現れる同様の問題は、本発明で開示された支持材によって克服される。とりわけBr-、NO3
-、ClO3
-、およびDCAについての選択性を制御する課題が軽減された。
【0022】
イオン交換固定相としてポリマー支持材を使用することによって、高いシグナル対称性(非対称性<1.5)を有する、7種の標準アニオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、亜硝酸イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、および硫酸イオン)についてのカラムメートル当たりの高い理論段数(>50000TP/m)を得ることができる。前述された全てのイオンは、クロマトグラフィーの短い全実行時間で、クロマトグラムにおいて互いに分離したベースラインを現す。
【0023】
好ましくは、ステップc)に続いて、ステップc)から得られる反応生成物を1種または複数の多官能価化合物、特に
- アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、少なくとも1種の第1の官能基、好ましくはエポキシ基、ならびに
- アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、少なくとも1種の第2の官能基、好ましくはエポキシ基
を有する化合物で処理する、架橋ステップd)を行う。
【0024】
このステップは、こうしたイオン交換体によって得られるクロマトグラムにおいて、選択性の有意なシフトを引き起こす。Br-/NO3
-およびDCA/ClO3
-の分解能は、ステップd)の後に得られるポリマー支持材を、特にKOH溶離剤中においてイオン交換体材料として使用することによって、可能になり、最適化される。
【0025】
ステップb)、ステップc)、およびステップd)が、指示された順序で逐次的に実施されることが特に好ましい。逐次プロセスにおいて、ステップd)がステップc)の前に実施される場合、容量は極端に低くなり、対象となる全てのイオンは、互いに共溶出する。これは、ポリマー材料が、初めに、架橋剤分子と反応する場合に、イオン交換部分の利用可能な反応性部位の欠如によるものである。それらの部位の利用可能性は、架橋剤分子のPEIへの共有結合により低減され、架橋は、シェルの網目構造形成を生じ、PEIがイオン交換分子と反応することを遮る。
【0026】
ステップb)、ステップc)、およびステップd)が、例えば、分子量600Da~1800Daの間のポリアミンとのワンポット反応で、および0.90~1.33%N、好ましくは1.00~1.28%N、特に好ましくは1.15~1.25%Nがポリマー材料上で反応するような反応時間で同時に実施される場合、得られるポリマー支持材は、DCA、塩素酸イオン、および臭化物イオンが共溶出し、亜塩素酸イオンが、臭素酸イオンと共に共溶出するクロマトグラムを与える。共溶出物は、逐次プロセスから得られる材料によって溶解され得る。さらに、容量は、同時プロセスにおいて低くなり、生成物は、逐次プロセスから得られた生成物と比較して、それほど再現性のあるものではない。
【0027】
ステップb)およびステップc)が、分子量600Da~1800Daの間のポリアミン、好ましくはPEIとのワンポット反応で、および0.90~1.33%N、好ましくは1.00~1.28%N、特に好ましくは1.15~1.25%Nがポリマー材料上で反応するような反応時間で、それらのステップに続くステップd)において同時に実施される場合、同等の容量を有するカラム材料が得られるが、選択性の変化が得られて、DCAおよびNO2
-の共溶出をもたらす。
【0028】
さらに、ClO2
-、MCA、BrO3
-、およびMBAの完全な分離は不可能であるので、上記の2つのワンポット手順は、KOHによるグラジエント溶離における、全ての5種のハロ酢酸、無機標準イオンおよびオキソハロゲン化物の分離に好適ではないイオン交換体をもたらす。
【0029】
好ましくは、ステップc)で使用される化合物は、化学式I
【0030】
【0031】
のものである。
Rは、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはエーテル基であってもよい。1個または複数のエーテル部分、好ましくは2個のエーテル部分を有するエーテル基をもたらすことが可能である。
【0032】
R1、R2、もしくはR3は、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキル、またはR1とR2との間、もしくはR2とR3との間、もしくはR1とR3との間に形成される、5員複素環もしくは6員複素環からなる群から独立に選択され得る。
【0033】
Xは、アミンおよび/またはヒドロキシル基と反応性である官能基、好ましくはエポキシ基またはハロゲン化物であってもよい。しかし、トシレートまたはメシレートなどの他の反応基も可能である。
【0034】
有利なことに、化合物は化学式Iのものであり、Rは、-(CH2)n-または-(CH2)n-O-(CH2)n-(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から選択される)からなる直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはエーテル基から選択される。R1、R2、およびR3はそれぞれ、または独立に、
- -CH3および-(CH2)n-CH3(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から選択される)からなる群から選択されるアルキル基;または
- 直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキルアルコールの群から選択されるアルキルアルコール基、好ましくは、-(CH2)n-OH(n=1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から選択される)からなる群から選択されるアルキルアルコール基
であってもよい。
【0035】
化合物は、化学式II、化学式III、または化学式IV
【0036】
【0037】
(式中、Rは、-(CH2)n-または-(CH2)n-O-(CH2)n-(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10から選択される)からなる直鎖状または分枝鎖状のアルキル基またはエーテル基から選択される)
のものであってもよい。
【0038】
好ましくは、ステップc)で使用される化合物は、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド;グリシジルメチルジエタノールアンモニウムクロリド;およびグリシジルトリエチルアンモニウムクロリドからなる群から選択される化学式(I)のものである。
【0039】
好ましくは、ステップc)で使用される化合物は、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(2-クロロエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、(2-ブロモエチル)-トリメチルアンモニウムブロミド、(3-ブロモプロピル)トリメチルアンモニウムブロミド、(5-ブロモペンチル)トリメチルアンモニウムブロミドからなる群から選択される(ハロゲノアルキル)トリアルキルアンモニウムハロゲン化物である。
【0040】
架橋ステップd)は、方法のステップc)の後に続くことができる。上記で概説したように、ステップc)から得られる反応生成物は、1種または複数の多官能価化合物、特に
- アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、少なくとも1種の第1の官能基、好ましくはエポキシ基、ならびに
- アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である、少なくとも1種の第2の官能基、好ましくはエポキシ基
を有する化合物で処理され得る。
【0041】
この場合、多官能価化合物(複数可)は、好ましくは、
- エポキシド、特に、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、リゾルシノールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリシドール;
- ハロゲンアルカン、特に、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、1,1’-オキシビス[2-(2-クロロエトキシ)エタン]、1,2-ビス(2-クロロエトキシ)エタン、ビス(2-クロロエチル)エーテル、1-クロロ-3-ヨードプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,3-ジブロモプロパン;
- アルデヒド、特に、グルタルアルデヒド
から選択される。
【0042】
このステップの効果は、こうしたイオン交換体によって得られるクロマトグラムにおいて選択性の有意なシフトを示す。Br-/NO3
-およびDCA/ClO3
-の分解能は、KOH溶離剤中で、イオン交換体材料として、ステップd)において得られるポリマー支持材を使用して実現される。BDDGEの利点は、クロマトグラムにおけるイオンの選択性の調整を可能にする、その親水性である。
【0043】
あるいは、その効果は、多官能価化合物による架橋ステップが、ステップc)からの反応生成物を、1種または複数の一官能価化合物、特に、アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性である官能基を有する化合物で処理するステップに置き換わる場合に実現されることもある。一官能価化合物(複数可)は、好ましくは、置換または非置換のアルキル、置換または非置換のヘテロアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリール、置換または非置換のヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、最も好ましくは、ハロゲンアルカンまたはエポキシアルカン、特に、ヨードオクタンまたは1,2-エポキシオクタンから選択される。
【0044】
PEIは、支持材に共有結合することができる。これにより、pH14まで安定であるポリマー材料がもたらされる。好ましくは、PEIは、スペーサー分子によって、好ましくはポリマー支持材である支持材に結合される。
【0045】
スペーサー分子は、アルコール/アミン(基材官能性)と反応性である基およびポリアミンと反応性である他の基を有する多官能価分子であってもよい。
【0046】
好ましくは、ステップa)で用意される支持材は、基材表面のスペーサー分子と反応性である基を含む。
【0047】
本発明の解釈上、スペーサー分子(またはスペーサー)は、前述されたように、少なくとも2個の官能基を含む分子を意味し、分子は、少なくとも3個の原子、好ましくは3~20個の原子の空間を、支持材とオリゴアミンまたはポリアミン、好ましくはPEIとの間に確保する。スペーサー分子の官能基は、OH基またはアミン基による求核攻撃に対して影響を受けやすい官能基、例えば、ハロゲン化炭化水素、エポキシド、トシレート、メチルスルフィド、またはその組合せであってもよい。スペーサー原子は、炭素原子によって構築され得るが、炭素鎖は、エーテル基またはチオエーテルをもたらすためにヘテロ原子を含めることもできる。スペーサー分子は、支持材と、ポリマー、モノマー、または修飾体、例えばイオン交換基の外層との間に空間を作る。スペーサー分子は、分析物とポリマー支持基材との間の相互作用を妨げ、ゆえに上記のポリマー支持材で得られるクロマトグラムにおける、望ましくないピークのブロード化を減らす。エーテル基で間隔を空けた炭素鎖は、そのより高い親水性ゆえに好ましい。一例として、スペーサーは、アミンおよび/またはヒドロキシ基と反応性であるグリシジル基、例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルを有することができる。
【0048】
好ましくは、ステップa)で用意される支持材は、エポキシドと反応性である基、特にヒドロキシル基を含む。
【0049】
ステップa)で用意される支持材は、炭化水素系化合物、特に芳香族炭化水素系化合物;PVA;糖系化合物;無機化合物、特に、シリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニアからなる群から選択され得る。
【0050】
サプレッサー方式イオンクロマトグラフィーモードにおいて調製された材料を使用する可能性をもたらすために、支持粒子は、pH14までを有する、高濃度の水酸化物溶離剤と相溶性であるべきである。この理由のために、最も好適な支持粒子は、高い架橋度(DVBモノマー含有率により定められる)を有する芳香族ジビニルベンゼンベースコポリマーである。しかし、このような芳香族基材の高い疎水性は、より良好なカラム効率を実現し、官能層の結合用のアンカー基を導入するために実行されるべき親水化手順を必要とする。両方の態様を組み合わせた手順は、PCT/EP2020/059908において開示される。
【0051】
方法は、ステップb)の前に、
- ポリマー支持基材の酸化処理;およびその後の
- 還元処理または加水分解処理
のステップを含むプロセスによって、支持材の上/中にヒドロキシ基を生じるステップを含むことができる。
【0052】
酸化処理は、好ましくは、メタクロロ過安息香酸、過ギ酸、過酢酸、ペルオキシトリフルオロ酢酸の群から選択される、過酸による処理、KMnO4による処理、酸素プラズマによる処理、またはその組合せであってもよい。
【0053】
過酸を使用することによって、二重結合は酸化され、その後の還元または加水分解を容易にした。その効果はまた、当業者に既知の他の酸化プロセス、例えばオゾン分解によって実現され得ることは言うまでもない。高い酸素含有率が実現され得るゆえに、過酸が使用されることが特に好ましい。元素分析によって測定可能であるように、酸素プラズマを用いて、支持基材表面の酸素含有率2.0%が実現され得るが、m-CPBAを用いて、例えば、酸素含有率3.2%以上が実現され得る。過酸が使用される場合、過酸は、懸濁液中でポリマーに添加され得るか、または酸および過酸化水素からin situ形成され得る。好ましくは、m-CPBAは、懸濁させたコアポリマー支持基材、例えば、PS/DVBポリマー基材に添加される。元素分析によって測定可能であるように、酸素含有率少なくとも2%を実現することができる。
【0054】
好ましい一実施形態において、反応生成物の還元処理は、好ましくは、金属水素化物による、極性結合の還元用の試薬によって実施される。例えば、NaBH4、BH3、LAH、NaH、CaHを使用することができる。水素化物の使用は、溶解した試薬が粒子の孔中に浸透することができるという利点を有する。これは、例えば、活性炭素上のパラジウムを用いた場合可能ではない。エポキシドをヒドロキシレンに加水分解する、塩酸による加水分解と比較して、金属水素化物による還元もまた、カルボニルおよびカルボキシルを変換することができる。還元は、形成された酸化生成物をアルコールに変換する。水素化アルミニウムリチウムは、好ましくは、エーテル中で使用される。例えば、無水テトラヒドロフラン(THF)中の1~20%w/vのポリマー懸濁液に、水素化アルミニウムリチウムのポリマー(乾燥)5~100%w/wを添加することができる。好ましくは、無水THF中の5~15%w/vのポリマー懸濁液に、水素化アルミニウムリチウムのポリマー(乾燥)5~20%w/wを添加することができる。典型的な温度は、25~70℃の範囲であり、THFの沸点がとりわけ好ましく、反応時間1分~72時間、とりわけ好ましくは、反応時間3時間~48時間である。
【0055】
有利なことに、還元処理または加水分解処理の後で得られる反応生成物は、圧力220バール以下で、好ましくは圧力250バール以下で、特に好ましくは圧力300バール以下で圧力安定である。ここで、圧力安定性は、流量の関数としての圧力増加が線形のみであることを意味すると理解される。良好な圧力安定性は、以下に説明するように、粒子構造の小さな粒径およびミクロ多孔性/メソ多孔性によるものである。
【0056】
支持材は、好ましくは
- 少なくとも2個のビニル置換基またはアリル置換基を有する芳香族炭化水素化合物に部分的に由来し、好ましくは、ジビニルベンゼンモノマーに少なくとも部分的に由来し;かつ
- エチルビニルベンゼン、酢酸ビニル、スチレン、およびその任意の組合せの群から選択されるモノマーに部分的に由来する。
【0057】
少なくとも2個のビニル置換基またはアリル置換基を有する芳香族炭化水素化合物の相対量、好ましくは、ジビニルベンゼン由来モノマーの相対量は、好ましくは少なくとも50重量%である。
【0058】
こうした支持材は、酸素原子を含有しない化合物に、本質的に、完全に由来し、したがってサプレッサー方式イオンクロマトグラフィーに存在する、高濃度の水酸化物溶離剤と相溶性である、機械的に安定な、かつ化学的に安定な粒子コアが得られる。
【0059】
好ましい一実施形態において、前述された方法のステップc)またはステップd)に続いて、ステップe)官能化され、架橋された材料をアルカリ溶液中で加熱するステップを行う。これにより、前のステップからのイオン交換材の選択性および容量を調節することができる。処理は、以下で除去と称され、特に、アルカリ水溶液中で交換基を与えられた粒子を加熱するステップ、特に好ましくは、アルカリまたはアルカリ土類金属の水酸化物または炭酸塩の水溶液中で、例えば、水酸化ナトリウム溶液中で加熱するステップからなる。NaOHの好ましい濃度は、塩基0.1~5mol/Lの範囲であり、塩基0.2~2mol/Lが特に好ましい。反応温度は20~100℃であってもよく、20~40℃が特に好ましく、処理時間は0.1~150時間であり、特に好ましくは12~24時間である。
【0060】
除去するステップは、基材と個々のイオンとの相互作用の相対強度を変える。特に、分極性分析物との二次相互作用を低減することができる。こうした二次相互作用により観測される、シグナルピークのテーリングが減少し、ゆえに分極性イオンもまた対称的に溶離する。同時に、カラムの静電相互作用能もまた、除去後に低減され、イオン交換材の全容量が減少する。
【0061】
本発明の第2の態様は、分析プロセスまたは分取プロセス、特にクロマトグラフィー法において固定相として使用するための、前述された方法によって得られる支持材に関する。
【0062】
有利なことに、ステップa)で用意される支持材は、ミクロ多孔質および/またはメソ多孔質である。
【0063】
特許請求の範囲に記載のポリマー支持材は、ミクロ多孔質および/またはメソ多孔質であるポリマー支持基材に基づくことが特に好ましい。ポリマー支持基材が疎水性であることが特に好ましい。本明細書において、疎水性は、ポリマー支持材が非極性である、すなわち、双極子モーメント>0.2Dを有するモノマー単位がないことを意味する。本明細書において、ミクロ多孔質および/またはメソ多孔質は、ポリマー支持材が、BJHモデルにおける窒素吸着によって測定可能である、平均孔径せいぜい50nmを有することを意味する。
【0064】
支持材は、好ましくは粒子として、より好ましくは球状粒子として、特に好ましくは平均粒子サイズ1~50μm、より好ましくは平均粒子サイズ2~25μm、特に好ましくは平均粒子サイズ3~9μmを有する球状粒子として存在する。本明細書において、粒子サイズは、走査電子顕微鏡(SEM)および自動化された画像評価によって測定可能である、粒子の中心を通る、最長の直線と最短の直線との間の平均値として定められる。
【0065】
粒子のサイズは、好適な撹拌速度、溶媒の選択、ポリマーの溶媒中濃度などによって調節することができる。手順は、技術者に既知である。この形状およびこのサイズのポリマー支持材は、交換容量について特に有利であると明らかになった体積/表面積比を有する。それは、孔中に高い拡散性を表し、充填し易い。
【0066】
好ましくは、特に、1MのNaOH溶液を用いた1回のすすぎおよび/または1MのHNO3溶液を用いた1回のすすぎの後の、その充填されたカラムにおける硫酸イオンの保持時間と、こうしたすすぎの前の硫酸イオンの保持時間との差が、8%を超えない、好ましくは5%を超えない、特に好ましくは3%を超えないように、ポリマー支持材は、pH範囲0~14において安定である。pH安定性の測定方法は以下のように実施される:試料をクロマトグラフィーカラムに充填し、硫酸イオンの保持時間をNa2CO36mmol/LおよびNaHCO31mmol/Lの溶離剤を用いた10回の測定から求める。次いで、カラムをNa2CO36mmol/LおよびNaOH1mol/L(pH14)の溶離剤を用いて0.8mL/分で14時間すすぐ。次いで、硫酸イオン保持時間の追加の10回の測定を、Na2CO36mmol/LおよびNaHCO31mmol/Lの溶離剤を用いて実施する。次いで、カラムを、Na2CO36mmol/LおよびHNO31mol/L(pH0)の溶離剤を用いて0.8mL/分で14時間洗い流す。次いで、硫酸イオン保持時間の追加の10回の測定を、Na2CO36mmol/LおよびNaHCO31mmol/Lの溶離剤を用いて実施する。それぞれの回で、溶離剤を変え、カラムは、沈殿を避けるために、水で1時間すすぐ。起こり得る変化は、硫酸イオンの保持時間およびプレート番号に基づいて調査され;両方のパラメータは、塩基性処理および酸性処理の両方の後、元々求められた値から最大3%ずれた。
【0067】
前述されたポリマー支持材は、
- 少なくとも2個のビニル置換基またはアリル置換基を有する芳香族炭化水素化合物に由来するモノマー単位、好ましくは、ジビニルベンゼンに由来するモノマー単位;
- エチルビニルベンゼンに由来するモノマー単位;
- スチレンに由来するモノマー単位;
- その組合せ
の群から選択されるモノマー単位で実質的に、全体的に構成されるポリマー支持基材に由来することができる。
【0068】
「~で実質的に、全体的に構成される」は、ステップaで用意されるポリマー支持材における、列挙されたモノマー単位の全割合が、少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%、特に好ましくは少なくとも99重量%の量になることを意味する。言い換えれば、モノマー単位は、酸素原子を含有しない化合物に、本質的に、完全に由来することができ、ゆえに疎水性粒子コアが得られる。
【0069】
ポリマー支持基材は、BJHモデルにおける窒素吸着によって測定可能である、平均孔半径1~50nm、好ましくは平均孔半径2~25nm、特に好ましくは平均孔半径2~10nmを有することができる。測定は、実施例で記載されるように実施される。
【0070】
好ましくは、ポリマー支持基材は、BETモデルにおける窒素吸着によって測定可能である、比表面積80~1000m2/g、好ましくは比表面積100~800m2/g、さらにより好ましくは比表面積200~600m2/gを有する。測定は、実施例で記載されるように実施される。
【0071】
高比表面積は、とりわけ標準イオンなどの小さなイオンを分離する場合に、カラムの容量および分解能を増大する。
【0072】
方法のステップa)で用意されるように、支持材を得るためのポリマー支持基材の修飾は、PCT/EP2020/059908に記載され、その内容は、その全体を参照によって本明細書に含める。
【0073】
本発明は、PCT/EP2020/059908に記載されたように、材料に、オリゴアミンまたはポリアミン、特にポリエチレンイミンPEIによる被覆を施すことによってさらに改善されて、支持粒子の酸素含有率の選択性への影響を低減し、ゆえに全体の修飾手順のバッチ間再現性についての制御が単純化され得るという考えに少なくとも部分的に基づく。PEIによる被覆は、基材を追加的に保護し、ゆえに下層の表面との相互作用が低減される。同時に、本発明は、PCT/EP2020/059908の利点、例えば、高い化学的安定性および高い機械的安定性、ならびに良好なカラム性能を共有し、その一方で、様々な修飾ステップで互いに独立に、選択性およびカラム容量を制御する可能性をもたらす。
【0074】
ポリマー支持基材は、典型的には、粒子として、好ましくは球状粒子として、特に好ましくは、平均粒子サイズ(メジアン)1~50μm、さらにより好ましくは平均粒子サイズ2~25μm、特に好ましくは平均粒子サイズ3~9μmを有する球状粒子として提供され得る。しかし、他のポリマー支持材、とりわけ、膜またはモノリスの形態のポリマー支持材もまた想定される。球状とは、粒子が、球形度の値
【0075】
【0076】
少なくとも0.80、好ましくは少なくとも0.90、より好ましくは少なくとも0.95を有すること意味し、式中、Vpは粒子の体積であり、Apは粒子の表面積である。
【0077】
ポリマー支持材の表面の酸素含有率は、初期の酸化および還元または加水分解によって増加され得る。修飾によって、ヒドロキシ基は、検出可能な酸素含有率を有さないコアポリマー支持基材の上/中に最初に生じ得る。増加した酸素含有率は、二次相互作用の種類および特徴、とりわけ得られたポリマー支持材の親水性に影響を及ぼし得る。初期の酸化および還元/加水分解に続く、一連のステップによって、容量は、表面の酸素含有率とは独立に、調節され得る。
【0078】
ポリマー支持材またはポリマー支持材表面の表面は、本明細書で、特に、溶液によって接触され得る、ポリマー支持材構造の外面およびこの外面に直接隣接する、1~30nmの層を意味すると理解される。溶液によって接触され得る外面は、ミクロ構造、例えば、多孔質ミクロ構造に部分的に配置され得る。特に、溶液によって接触され得る、多孔質構造または非多孔質構造を有するポリマー支持基材粒子の外面が想定される。
【0079】
化学的安定性および機械的安定性への第1の寄与は、ポリマー支持材と被覆との間の共有結合によってなされ得る。これは、純粋な静電相互作用が、基材に相対する交換基の位置および配向をもたらす、ラテックスベースイオン交換体の使用とは対照的である。高い化学的不活性は、共有結合により確実なものになる。機械的安定性への第2の寄与は、コアポリマー支持材が、好ましくは、少なくとも2個のビニル置換基またはアリル置換基を有する芳香族炭化水素化合物から少なくとも部分的に形成され、好ましくは、ジビニルベンゼンモノマーから少なくとも部分的に形成されることによってなされ得る。このコアポリマー支持基材の安定性は、前処理ステップ、例えば、酸化処理および還元処理および加水分解処理のいずれかによって作用されない。コアポリマー支持基材は、好ましくは単分散である。
【0080】
粒子の高い堅牢性の利点は、上記の方法によって得られたポリマー支持材で充填されたカラムに、圧力-流量試験を施す場合に特に明らかになる。圧力-流量試験において、カラムにおける圧力の変化は、連続して増加する、移動相の流量の関数として求められる。本発明によるカラムにおいて、圧力は、流量に対して線形に依存する。これは、相当な酢酸ビニル含有率を有する、従来の親水性pDVB基材で充填されたカラムで得られた結果とは対照的である。従来のカラムについて、圧力は、流量が増えるにつれて、線形を超えて増加する。例えば、双曲線の関数がもたらされ得る。これは、例えば、Caglayan等(J Sep Sci 2006、29巻、940頁)の文献において示される。文献によれば、こうした基材で充填されたカラムが増加した流量を受ける場合、酢酸ビニル由来モノマーの増加した量、ゆえに加水分解粒子基材におけるOH基の増加した量により、背圧の急増がもたらされる。
【0081】
本発明の第3の態様は、前述された支持材が充填されたクロマトグラフィーカラム、特にイオン交換クロマトグラフィーカラムに関する。
【0082】
本発明の第4の態様は、分析物をクロマトグラフ分離する方法に関する。分析物を含有する溶液は、前述されたように修飾されたポリマー支持材と接触させ、特に、本発明の一態様によるクロマトグラフィーカラムを通過させる。
【0083】
本発明の第5の態様は、分析物の分析または分取のための、特に、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、および/またはHILICクロマトグラフィーにおける使用のための、前述されたポリマー支持材、および/または前述された方法によって得られるポリマー支持材の使用に関する。ポリマー支持材は、サプレッサー方式イオンクロマトグラフィーにおける使用に特に好適である。
【0084】
本発明は、以下の例によってより十分に理解される。しかし、当業者は、改変が可能であり、本開示の範囲内に十分にあることを認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図2】イオン交換基を露出させた化合物による修飾の概略図である。
【
図4】イソクラティックモードにおいて実施例6.2によるポリマー支持材で得られるクロマトグラムを示す図である。
【
図5】実施例5.1で使用されたGTMAの量に応じた保持係数k’の変化を示す図である。
【
図6A】実施例5.1および実施例6.1によるポリマー支持材の性能の比較のクロマトグラムを示す図である。
【
図6B】実施例5.1および実施例6.1によるポリマー支持材の性能の比較のクロマトグラムを示す図である。
【
図7A】ある特定のイオンを分離することにおける、比較例Aによるポリマー支持材のクロマトグラムを示す図である。
【
図7B】ある特定のイオンを分離することにおける、比較例Aによるポリマー支持材のクロマトグラムを示す図である。
【
図8A】被覆の低い架橋度および高い架橋度を有する、実施例6.2によるポリマー支持材で得られる比較のクロマトグラムを示す図である。
【
図8B】被覆の低い架橋度および高い架橋度を有する、実施例6.2によるポリマー支持材で得られる比較のクロマトグラムを示す図である。
【
図9】グラジエントモードにおいて実施例6.2によるポリマー支持材を使用することによって得られるクロマトグラムを示す図である。
【
図10】ステップa)による本発明のポリマー支持材が充填されたクロマトグラフィーカラムで測定された圧力-流量プロファイルを示す図である。
【
図11】SEMによる粒子サイズ解析の結果(直径[μm]についての数)を示す図である。
【
図12】
図4と同じイオンを分離することにおける、実施例14によるポリマー支持材のクロマトグラムを示す図である。
【実施例】
【0086】
実施例1:ポリマー支持基材を用意するステップ
ポリスチレンシード粒子は、ポリビニルピロリドンで安定化させ、アゾ-ビス-イソ-ブチロ-ニトリルによって開始された、スチレンのエタノール中分散重合によって調製された。したがって、平均直径1.5μmを有するポリスチレン粒子(Mn=15kg/mol、Mw=55kg/mol)を得た。ポリビニルアルコールで安定化させ、アゾ-ビス イソ-ブチロ-ニトリルによって開始された重合は、ジビニルベンゼン(DVB)55wt%、エチルビニルベンゼン(EVB)45%、トルエンの水/イソアミルアルコール中エマルジョンにおいて続けられた。ゆえに、平均半径4.6μm、比表面積540m2/g、および多孔度1cm3/gを有する、多孔質の、高架橋されたポリ(DVB-EVB)粒子を得た。
【0087】
実施例1.1:ポリマー支持基材の平均孔半径および比表面積を求めるステップ
始めのポリマー支持基材の平均孔半径は、BJH(Barret、Joyner、Halenda)モデルにおける窒素吸着によって求められた。比表面積は、BETモデル(Brunauer、Emmett、Teller)における窒素吸着によって求められた。両方の分析について、PS/DVBポリマー支持基材0.10945gの試料が使用された。試料物質の密度は、1.105g/ccであった。測定は、Autosorb iQ S/N:14713051301装置で、9mmセルにおいて実施された。槽温度は77.35Kであった。最終の脱気温度は60℃であった。測定の評価は、Quantachrome ASiQwin3.01版で実施された。測定は、浸漬時間80分の1回、浸漬時間40分の1回の2回実施された。ガス放出速度は、それぞれ1.0℃/分および20.0℃/分であった。孔体積に基づいたBJH法から得られる平均孔半径は、5.1060nmであった。多点BETプロットによる比表面積は、540.0m2/gであると計算された。
【0088】
実施例1.2:ポリマー支持材の圧力安定性を求めるステップ
過酸化水素による酸化および水素化アルミニウムリチウムによる還元は、始めのポリマー支持基材で行われた。得られた粒子に圧力試験を施した。圧力試験について、250×4mmカラムを粒子で充填し、水を、増加した流量でカラムに通過させた。
図10は、室温で測定された圧力-流量プロファイルを示す。y軸は、システムの圧力(バール)を示す。x軸は、流量(mL/分)を示す。それぞれ30秒の8間隔を測定し、0.2ml/分から1.6ml/分まで段階的に流量を増やした。図から分かるように、圧力は、圧力400バールまたは40MPaまで、流量に線形に依存する。
【0089】
実施例1.3:平均粒子サイズを求めるステップ
真円度および平均粒径を、ステップaで用意される始めのポリマー支持材の試料について求めた。試料を、単一の粒子層で走査型電子顕微鏡担体に塗布し、Vacubrand RZ6真空ポンプに接続されたLOT型AutomaticSputterCoater MSC1のスパッタコーターを使用して金で被覆した。一連の27個の画像を、走査型電子顕微鏡(Phenom ProX)を使用して撮り、個々の粒子を同定し、Olympus Imaging Solutions Scandiumを使用して測定した。同定された粒子を球状直径および丸みについて解析した。全ての画像は、同じ閾値および同じ測定設定で、バッチ処理において解析された。真円度≧0.8を有する、合計6039個の粒子を測定した。測定結果を
図11に示す。
図11は、y軸に粒子の数を、x軸に直径(μm)を示す。最小の測定半径は0.8μmであり、最大の測定半径は10μmまでであった。平均直径(メジアン)は、相対標準偏差6.2%を有する4.6μmであった。多分散性指数PDI(Mw/Mn)は、1.04であることが分かった。
【実施例】
【0090】
実施例2.1:ヒドロキシ基を生じるステップ
酢酸による酸化:実施例1の生成物61.7gを、サーモスタットに接続された1L反応器において酢酸382mL中に懸濁させた。反応混合物を80℃まで加熱した。過酸化水素(35%)121mLをゆっくりと添加した。反応混合物を24時間撹拌し、次いで、冷却し、ろ過した。ろ過ケーキを中性pHまで超純水で洗浄して、エタノールで洗い流した。ろ過ケーキを真空オーブンで乾燥させて、生成物66gを生じた。
【0091】
水素化アルミニウムリチウムによる還元:乾燥させた酸化生成物51.7gを1L反応器において無水THF196mL中に懸濁させ、サーモスタットを用いて5℃まで冷却した。2.4M水素化アルミニウムリチウムのTHF中溶液92mlを撹拌しながら慎重に添加した。反応混合物を55℃まで加熱し、48時間撹拌した。反応を、60分以内で0℃まで冷却し、水80mlを添加することによって停止させた。その後、反応混合物を希釈し、硫酸150mlを撹拌しながら添加した。反応混合物を80℃まで1時間加熱し、その後ろ過した。それを、中性pHまで水で洗浄し、アセトンで洗い流した。ろ過ケーキを乾燥させて、生成物約50gを生じた。全体の手順は2回繰り返された。
【0092】
実施例2.2:ヒドロキシ基を生じるステップ:
酢酸による酸化:実施例1の生成物41gを、サーモスタットを備えた1L反応器において酢酸300mL中に懸濁させた。反応を80℃まで加熱した。過酸化水素(35%)79mLを2時間以内でゆっくりと添加した。反応混合物を18時間撹拌し、次いで、過酸化水素79mlの別の分量を添加し、混合物をさらに4時間撹拌した。反応混合物を冷却し、ろ過し、中性pHまで超純水で洗浄し、エタノールで洗い流した。ろ過ケーキを真空オーブンで乾燥させて、酸化生成物45.1gを生じた。
【0093】
水素化アルミニウムリチウムによる還元:酸化させた乾燥生成物41.3gを、1L反応器において無水THF434mL中に懸濁させ、サーモスタットを用いて0℃まで冷却した。水素化アルミニウムリチウム5.1gを撹拌しながら慎重に添加した。反応混合物を55℃まで加熱し、20~24時間撹拌した。反応を、60分以内で0℃まで冷却し、水300mlを添加することによって停止させた。次いで、反応混合物をろ過し、残留物を再度懸濁させ、32%塩酸41.3mlを撹拌しながら添加した。反応混合物を終夜80℃まで加熱し、次いでろ過し、中性pHまで水で洗浄し、アセトンで洗い流した。ろ過ケーキを乾燥させて、生成物約39.8gを生じた。全体の手順を2回繰り返した。
【実施例】
【0094】
実施例3.1:リンカーに末端エポキシ基を与えるステップ
実施例2.1の反応生成物25gを、ジメチルスルホキシド93.75mLおよび1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル65.5mL中に懸濁させた。フラスコに、3回の真空/アルゴンサイクルを施した。一定の撹拌の下、NaOH(0.6M水溶液)37.5mLを添加し、反応混合物を28℃で26時間撹拌した。生成物をろ過し、水およびエタノールで洗い流した。
【0095】
実施例3.2:リンカーに末端エポキシ基を与えるステップ
実施例2.2の反応生成物10gを、ジメチルスルホキシド37.5mLおよび1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル25mL中に懸濁させた。フラスコに、3回の真空/アルゴンサイクルを施した。一定の撹拌の下、NaOH(0.6M水溶液)25mLを添加し、反応混合物を28℃で22時間撹拌した。生成物をろ過し、水およびエタノールで洗い流した。
【実施例】
【0096】
実施例4.1:PEI層を用意するステップ
実施例3.1の生成物(基材)を、エタノールおよび水の混合物中に懸濁させた。ポリエチレンイミンPEI(CAS25987-06-8)を水中に溶解させ、撹拌し、超音波処理を施した。懸濁させた粒子および溶解させたPEIを合わせて、60℃で23.5時間撹拌した。使用された、PEIの基材に対する重量比は、1g当たり0.4gであった。生成物をろ過し、水で洗い流した。合成の概略図を
図1に示す。
【0097】
実施例4.2:PEI層を用意するステップ
手順は、実施例4.1と同じものであるが、実施例3.2の生成物を基材として使用した。合成の概略図を
図1に示す。
【実施例】
【0098】
実施例5.1:イオン交換基を導入するステップ
実施例4.1の完成した生成物を、エタノール/水中に懸濁させ、撹拌し、超音波処理した。グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTMA、CAS3033-77-0)を添加し、反応混合物を60℃で4時間撹拌した。使用された、GTMAの基材に対する重量比は、1g当たり3.2gであった。生成物をろ過し、水で洗い流した。実施例5.1による合成の概略図を
図2に示す。
【0099】
実施例5.2:イオン交換基を導入するステップ
手順は実施例5.1と同じものであるが、実施例4.2の生成物を基材として使用し、使用されたGTMAの量は、基材1g当たり0.8gであった。合成の概略図を
図2に示す。
【実施例】
【0100】
実施例6.1:架橋ステップ
実施例5.1の完成した反応生成物を水中に懸濁させた。1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4-BDDGE、CAS2425-79-8)を添加し、混合物を60℃で2.5時間撹拌した。使用された、1,4-BDDGEの基材に対する重量比は、1g当たり2mlであった。生成物をろ過し、水で洗い流した。実施例6による合成の概略図を
図3に示す。
【0101】
実施例6.2:架橋ステップ
手順は実施例6.1と同じものであるが、実施例5.2の生成物を基材として使用した。合成の概略図を
図3に示す。
【実施例】
【0102】
実施例7:イオンクロマトグラフィー
250×4mmカラムを実施例6.2に従って得られたイオン交換材で充填し、フッ化物、酢酸塩、ギ酸塩、亜塩素酸塩、臭素酸塩、塩化物、亜硝酸塩、ジクロロ酢酸塩、塩素酸塩、臭化物、硝酸塩の溶液を、20℃で、流量0.8ml/分で移動相として9mMのKOHを使用して、カラムに通過させた。
図4は、こうしたカラムを使用して得られたクロマトグラムを示す。イオンは、それぞれ分かれて溶離し、明確な、狭いピークを生じる。
【実施例】
【0103】
実施例8:容量の制御
イオン交換材料の容量のばらつきは、実施例5.1に従った手順において、様々な量のGTMAを使用することによってもたらされた。使用されたGTMAの量を変える効果(0.4g、0.8g、1.6g、および3.2g)は、それに依存する、実施例7からの全ての無機分析物の保持係数k’を測定することによって確立された。結果を
図5に示す。
図5から分かるように、一価イオンの保持は、添加されるGTMAの量に線形に依存し、それにより、カラムの容量の制御が可能になる。同時に、試験された分析物に対する、全ての製造されたイオン交換体の選択性(分析物の保持係数を塩化物イオンの保持係数で割ったものとして測定された)は、容量に関係なく、ほぼ同じ(相対標準偏差<5%)であったことが示され、容量が、無機アニオンに対するカラム選択性に影響を及ぼさないことを示唆した。
【実施例】
【0104】
実施例9:選択性への基材およびリンカーの影響
塩化物イオンと比較した、ジクロロ酢酸イオンを除いた、実施例7からの全ての分析物についての選択性係数は、溶離剤としてKOHを使用して求められ、実施例6.1および実施例6.2に従って製造されたイオン交換材料について比較された。実施例6.2による材料を製造することについて、反応を16時間、19時間、22時間、および23.5時間で実行する場合、実施例3.2によって得られる基材が使用され、ポリアミン結合用のリンカーの異なる長さおよび異なる密度をもたらした。全ての分析物についての選択性係数は、全ての場合においてほぼ同じであり、相対標準偏差は5%未満であり、それにより、先のステップでもたらされるばらつき、または大規模製造プロセスにおける、基材修飾度およびリンカー長および密度の任意の潜在的なばらつきが、選択性に有意な影響を及ぼさないことが示唆された。
【実施例】
【0105】
実施例10:架橋の影響
架橋ステップ(実施例6.1参照)は、本発明による材料に基づいたイオン交換体の性能に有益なものとして、上記で説明された。実施例5.1および実施例6.1それぞれで得られるイオン交換体材料で充填された分離カラム(250×4)の比較研究が実施された。分析物は、フッ化物イオン、酢酸イオン、ギ酸イオン、亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、亜硝酸イオン、ジクロロ酢酸イオン(DCA)、塩素酸イオン、臭化物イオン、硝酸イオンであった(KOH溶離剤、40mM、1.0ml/分)。
図6Aは、実施例5.1による材料を使用することによって得られるクロマトグラムを示す。
図6Bは、実施例6.1によるポリマー支持材を使用することによって得られるクロマトグラムを示す。架橋により、DCA/塩素酸イオン対および臭化物イオン/硝酸イオン対を、分離して、別々に溶離することができる。
【0106】
比較例A:
ポリマー支持材は、N-メチルピロリドンを同量のN-メチルモルホリンで置き換えたことを除いて、欧州特許出願公開第3721998号の実施例4の教示に従って製造された。
図7Aは、KOH溶離剤を使用して、比較例Aによる材料を使用することによって得られるクロマトグラムを示す。
図7Bは、他の官能性(NMP、MDEA)の存在下で比較例Aによるポリマー支持材を使用することによって得られるクロマトグラムを示す。図から分かるように、比較例Aによるポリマー支持材を使用する場合、対象となる様々なイオンが共溶出されることが多い。
【実施例】
【0107】
実施例11:選択性制御:
架橋ステップ(実施例6.2参照)は、本発明による材料に基づいたイオン交換体の性能に有益なものとして、上記で説明された。低い架橋度は、多価アニオンの遅い溶離ゆえに、グラジエント溶離モードにおいてポリマー支持材を使用することを要する。高い架橋度により、イソクラティック溶離モードにおいてポリマー支持材を使用することが可能になる。それゆえに、このステップは、カラム選択性の制御に関係する。長い反応時間(25時間)によって保証される高い架橋度、および短い反応時間(2.5時間)によって得られる低い架橋度を有する、実施例6.2に従って得られるイオン交換体材料で充填された分離カラム(250×4)の比較研究が実施された。分析物は、フッ化物イオン、酢酸イオン/グリコール酸イオン、ギ酸イオン、亜塩素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、亜硝酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、塩素酸イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、およびリン酸イオンであり、KOHを溶離剤として使用した。
図8Aは、グラジエント溶離を使用しながら(分析中のKOH濃度を増やしながら)、被覆の低い架橋度を有するポリマー支持材を使用することによって得られるクロマトグラムを示す。
図8Bは、イソクラティック溶離を使用しながら、高い架橋度を有するポリマー支持材を使用することによって得られるクロマトグラムを示す。両方のクロマトグラムにより、対象となる分析物イオンの明らかな、別個の分離が可能になるが、高い架橋度を有する材料は、多価アニオンのより速い溶離を可能にし、グラジエントの使用を必要としない。
【実施例】
【0108】
実施例12:バッチばらつき実施例12
実施例6.1によるポリマー支持材の3つの異なるバッチが合成された。3つのカラム(250×4mm)が充填され、実施例7に記載の分析物の混合物が、サプレッサー方式イオンクロマトグラフィーモードにおいて、溶離剤としてKOHを使用して分離された。全ての分析物の保持時間の相対標準偏差(R.S.D)は5%未満であり、材料の、優れたバッチ間再現性が示唆される。
【実施例】
【0109】
実施例13:無機標準イオンおよびハロ酢酸の分離
本発明によるポリマー支持材は、好ましくは、KOHを用いたグラジエント溶離を使用することによって、無機標準イオンおよびオキソハロゲン化物に加えて、5種のハロ酢酸の分離を可能にするアニオン交換体を生産する基礎として役立つことができる。
図9は、実施例6.2によるポリマー支持材を使用することによって得られるクロマトグラムを示す。こうしたイオン交換体材料で充填された分離カラム(250×4)を準備し、無機標準イオン(F、Cl、ClO
2、ClO
3、Br、BrO
3、NO
2、NO
3、PO
4、SO
4)ならびに酢酸塩、ギ酸塩、および5種のハロ酢酸(MCA、MBA、DCA、DBA、およびTCA)を含む分析物溶液を、溶離剤としてKOHを用いて、グラジエント溶離モードを使用して、上記分離カラムに通過させた(サプレッサー方式イオンクロマトグラフィーモード)。
図9から分かるように、全ての分析物は、別々に溶離し、明確なピークを与える。
【実施例】
【0110】
実施例14:ステップd)およびステップc)の順序を変える影響
実施例4の完成した生成物(PEI結合)を、実施例6(BDGE)に従って処理し、続いて実施例5(GTMA)に従って処理した。
図12は、実施例14のポリマー支持材を使用することによって得られるクロマトグラムを示す。図から分かるように、実施例14によるポリマー支持材を使用する場合、対象となる全てのイオンの共溶出(
図4と同じイオン)がある。
【国際調査報告】