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特表2024-501272フケ防止剤としての短鎖脂肪酸の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】フケ防止剤としての短鎖脂肪酸の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/36 20060101AFI20231228BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20231228BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K8/36
A61K8/37
A61K8/99
A61Q5/00
A61Q19/00
A61Q5/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538123
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2021086855
(87)【国際公開番号】W WO2022136302
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10202012868V
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(31)【優先権主張番号】2106639
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506222889
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティ
【氏名又は名称原語表記】NANYANG TECHNOLOGICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】50 Nanyang Avenue, Singapore 639798 (SG)
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(71)【出願人】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
【氏名又は名称原語表記】L’OREAL
【住所又は居所原語表記】14 Rue Royale,75008 PARIS,France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】タラン・チョプラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィドゥタライ・ラシードカーン・レジナ
(72)【発明者】
【氏名】スコット・ライス
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AC271
4C083AC272
4C083AC351
4C083AC792
4C083AD092
4C083AD352
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC31
4C083CC38
4C083DD08
4C083DD11
4C083DD22
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE13
4C083EE23
4C083FF01
(57)【要約】
本発明は、化粧分野に関し、特に、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はこのような短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られた調整培養培地の美容用途であって、フケ防止剤としての、皮膚上でのマラセチア属の酵母の過度の増殖と関連する皮膚の落屑性障害予防及び/又は処置するための、並びに皮膚のエコフローラを正常レベルに維持及び/又は修復するための、特にマラセチア属による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによる及び/又はキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介することによる、美容用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の、フケ防止剤としての美容用途。
【請求項2】
i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の美容用途であって、マラセチア属の酵母の増殖と関連する皮膚の落屑性障害、例えばフケ及び/又は脂漏性皮膚炎を予防及び/又は処置するための、美容用途。
【請求項3】
i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の美容用途であって、皮膚のエコフローラを正常レベルに維持及び/又は修復するための、特にマラセチア属の酵母による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによる及び/又はキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介することによる、美容用途。
【請求項4】
前記短鎖脂肪酸が、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、吉草酸ナトリウム、及びそれらの混合物から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の美容用途。
【請求項5】
前記短鎖脂肪酸が、キューティバクテリウム・アクネス種の少なくとも1種の微生物から、好ましくはキューティバクテリウム・アクネス株ATCC6919の少なくとも1種の微生物から得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の美容用途。
【請求項6】
前記調整培養培地が、以下の工程:
i)1種又は複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物、好ましくはキューティバクテリウム・アクネス種の微生物、例えば、キューティバクテリウム・アクネスATCC6919を培養する工程と、
ii)バイオマスから、特に遠心分離によって培養上清を分離する工程と、
iii)培養上清を回収する工程と、
iv)必要に応じて、例えば濾過及び/又はオートクレーブ処理によって培養上清を安定化させる工程と
を含む方法によって得られる、請求項1から3のいずれか一項に記載の美容用途。
【請求項7】
マラセチア属の酵母の増殖と関連する皮膚の落屑性障害、例えばフケ及び/又は脂漏性皮膚炎を予防及び/又は処置することを意図された美容方法であって、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の、有効量を含む化粧用組成物を、毛髪及び/又は皮膚に塗布する工程を含む、美容方法。
【請求項8】
皮膚のエコフローラを正常レベルに維持及び/又は修復することを意図された、特にマラセチア属の酵母による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによる及び/又はキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介することによる美容方法であって、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の、有効量を含む化粧用組成物を、毛髪及び/又は皮膚に塗布する工程を含む、美容方法。
【請求項9】
前記短鎖脂肪酸又は前記調整培養培地が、組成物の総質量に対して0.01質量%~5質量%となる量で、好ましくは組成物の総質量に対して0.3質量%~1質量%となる量で存在している、請求項7又は8のいずれか一項に記載の美容方法。
【請求項10】
前記化粧用組成物が、シャンプー、クリーム、ムース、ペースト、ジェル、エマルジョン、ローション又は更にはスティックの形態である、請求項7から9のいずれか一項に記載の美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧分野に関し、特に、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はこのような短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られた調整培養培地の美容用途であって、フケ防止剤としての、皮膚上でのマラセチア属の酵母の過度の増殖と関連する皮膚の落屑性障害を予防及び/又は処置するための、並びに皮膚のエコフローラ(ecoflora)を正常レベルに維持及び/又は修復するための、特にマラセチア属の酵母による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによる及び/又はキューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)の増殖を媒介することによる、美容用途に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の落屑性障害、例えば、フケ(dandruff)又は脂漏性皮膚炎は、世界人口の最大で50%に影響を及ぼしている。この障害は、男性及び女性の両方に影響を及ぼし、非常にマイナスの心理社会的影響があるものとして受け取られている。フケの外観は、審美的にも、それが不快感(特にピリピリ感又はそう痒)を引き起こすことからも不愉快なものであり、そのため、この問題に直面している多くのヒトが、フケを効率的且つ永久的に排除したいと望んでいる。
【0003】
これらの障害は、上皮細胞の過度に急速な増殖及びそれらの異常な成熟から生じる、目に見える過度の皮膚の落屑に相当する。この現象は、特に過度に激しい皮膚又はヘアトリートメント、過酷な気候条件、ストレス、食事、疲労及び汚染によって引き起こされうる。フケ及び脂漏性皮膚炎状態は、通常、皮膚のミクロフローラの障害から、より特にはマラセチア属の酵母ファミリーに属する真菌、特にマラセチア・レストリクタ(Malassezia restricta)種による過度のコロニー形成、及び健康な頭皮と比較して少ないキューティバクテリウム・アクネスの存在量から生じる。
【0004】
皮膚からマラセチア酵母を根絶することを主目的として、多くの処置が開発されてきた。したがって、現在使用されている活性剤、例えば亜鉛ピリチオン、ピロクトンオラミン又はセレンジスルフィドの活性は、主にそれらの殺真菌特性に基づいている。しかし、これらの従来の薬剤の多くは、それらの抗菌効果がその他の細菌の少なくとも1種に対して及んでおり、したがって、マラセチア属の酵母、特にマラセチア・レストリクタ種に対して選択的ではなく、したがってそれにより、有益な(benficial)皮膚共生ミクロフローラを死滅させうる又は損ないうることが周知である。
【0005】
したがって、マラセチア属の酵母(皮膚の落屑性障害の原因であることが公知である)、特にマラセチア・レストリクタ種に対して選択的な増殖阻害活性を有している新規な活性剤を見出す解決策は、健康な皮膚ミクロフローラを維持及び/又は修復するためには、大きな困難となっており、したがって消費者の求めに応えるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、皮膚のマイクロバイオームの大部分を全体で構成する他の細菌、特にスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、及び/又はスタフィロコッカス・カピティス(Staphylococcus capitis)、及び/又はキューティバクテリウム・アクネスに対してその抗菌効果が及ぶことなく、マラセチア属の酵母(皮膚の落屑性障害の原因である)、特にマラセチア・レストリクタ種の増殖を阻害するのに有効な活性剤を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、特にマラセチア属の酵母による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによって及び/又はキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介することによって、皮膚のエコフローラを正常レベルに維持及び/又は修復することができる活性剤を提案することである。
【0009】
本出願人は、驚くべきことに、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される、5個以下の炭素原子を含む鎖長を有している少なくとも1種の短鎖脂肪酸の美容用途が、本願の実施例3に示されているカプロン酸、カプリル酸、カプロン酸エチル、モノカプリル酸グリセリル、モノカプリル酸プロピレングリコールとしての、6個を超える炭素原子を含む鎖長を有している中鎖脂肪酸、及びプロピオン酸亜鉛としての単鎖脂肪酸の金属塩とは対照的に、スタフィロコッカス・エピデルミディス及びキューティバクテリウム・アクネスに対して抗菌効果を有することなく、マラセチア属の酵母の増殖と関連するフケ及び/又は脂漏性皮膚炎状態の有効な処置を可能にすることを発見した。
【0010】
前記短鎖脂肪酸は、マラセチア属に対する選択性に加えて、フケ及び脂漏性皮膚炎状態において低減される皮膚共生細菌であるキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介する。
【0011】
したがって、これらの効果は、皮膚のエコフローラのバランスを取り戻す効果に寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明の主題は、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の、フケ防止剤としての美容用途である。
【0013】
本発明の別の主題は、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の美容用途であって、マラセチア属の酵母、より特にはマラセチア・レストリクタ種の増殖と関連する皮膚の落屑性障害、例えばフケ及び/又は脂漏性皮膚炎を予防及び/又は処置するための、美容用途である。
【0014】
本発明はまた、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の美容用途であって、皮膚のエコフローラを正常レベルに維持及び/又は修復するための、特にマラセチア属の酵母、より特にはマラセチア・レストリクタ種による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによる及び/又はキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介することによる、美容用途に関する。
【0015】
本発明の別の主題は、マラセチア属の酵母、より特にはマラセチア・レストリクタ種の増殖と関連する皮膚の落屑性障害、例えばフケ及び/又は脂漏性皮膚炎を予防及び/又は処置することを意図された美容方法であって、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の、有効量を含む化粧用組成物を、毛髪及び/又は皮膚に塗布する工程を含む、美容方法である。
【0016】
本発明の別の主題は、特にマラセチア属の酵母、より特にはマラセチア・レストリクタ種による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによって及び/又はキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介することによって、皮膚のエコフローラを正常レベルに維持及び/又は修復することを意図された美容方法であって、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の、有効量を含む化粧用組成物を、毛髪及び/又は皮膚に塗布する工程を含む、美容方法である。
【0017】
定義
本明細書で使用される場合、「処置する」又は「処置」という用語は、個体の心地良さ又は健康を改善することを目的とした任意の動作を指す。したがってこの用語は、フケ又は脂漏性皮膚炎の症状を減弱、緩和又は抑制することを網羅しているが、化粧的処置に限定されない。
【0018】
本発明の目的では、「非金属塩」という用語は、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、銅イオン、鉄イオン、及びそれらの混合物等の金属イオンを含まない塩を指す。
【0019】
本発明の目的では、「皮膚」という用語は、頭皮を含む全身の皮膚、好ましくは頭皮及び顔面皮膚、例えば、前頭部、鼻、頬、頤、胸部、頸部の皮膚を意味する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「皮膚のエコフローラ」という用語は、健康な皮膚上に自然に存在する微生物叢、特に、例えばスタフィロコッカス・エピデルミディス、及び/又はスタフィロコッカス・カピティス、及び/又はキューティバクテリウム・アクネスとしての皮膚共生微生物を意味する。
【0021】
本発明の目的では、「予防する」という用語は、ある現象、特に本発明の文脈では、フケ及び脂漏性皮膚炎の顕在化リスクを低減することを意味する。
【0022】
本発明の目的では、「有効量」という用語は、期待される効果を得るのに十分な量を意味する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「化粧用組成物」という用語は、皮膚上に塗布するのに適した組成物、特に生理学的に許容される培地を含む組成物を意味する。
【0024】
「生理学的に許容される培地」という用語は、組成物の局所投与に適している、すなわち顔、身体及び頭皮の皮膚と適合性がある培地を意味する。
【0025】
本発明の目的では、「短鎖脂肪酸」という用語は、3~5個の炭素原子を含む脂肪族鎖を有しているカルボン酸、好ましくは3個の炭素原子を有する脂肪族鎖を有しているカルボン酸を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】マラセチア・レストリクタの増殖に対するSCFAの効果を示すグラフである。
図2】キューティバクテリウム・アクネスの増殖に対するSCFAの効果を示すグラフである。
図3】スタフィロコッカス(Stahylococcus)・エピデルミディスの増殖に対するSCFAの効果を示すグラフである。
図4】蛍光染色を使用して定量化された、マラセチア・レストリクタの増殖に対する脂肪酸(50mM)の効果を示すグラフである。
図5】ATPを測定することによって定量化された、マラセチア・レストリクタの増殖に対する脂肪酸エステル及び金属塩(50mM)の効果を示すグラフである。
図6】キューティバクテリウム・アクネスの増殖に対する脂肪酸、エステル、及び金属塩の効果を示すグラフである。
図7】スタフィロコッカス・エピデルミディスの増殖に対する脂肪酸、エステル、及び金属塩の効果を示すグラフである。
図8】キューティバクテリウム・アクネスが、好気条件でスタフィロコッカス・エピデルミディスと共培養で培養された場合の、キューティバクテリウム・アクネスの増殖に対するSCFAの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
短鎖脂肪酸(SCFA)
既に記述されている通り、本発明の主題は、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の、フケ防止剤としての、美容用途である。
【0028】
本発明はまた、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の美容用途であって、マラセチア属の酵母、より特にはマラセチア・レストリクタ種の増殖と関連する皮膚の落屑性障害、例えばフケ及び/又は脂漏性皮膚炎を予防及び/又は処置するための、美容用途に関する。
【0029】
本発明はまた、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の美容用途(cosmetic)であって、皮膚のエコフローラを正常レベルに維持及び/又は修復するための、特にマラセチア属の酵母、より特にはマラセチア・レストリクタ種による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによる及び/又はキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介することによる、美容用途に関する。
【0030】
本発明に従う短鎖脂肪酸の非金属塩が、特に好ましく、この塩は、このような酸の安全で有効な任意の非金属塩でありうる。例として、ある特定の好ましい塩には、カルシウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、及びカリウム塩が含まれうるが、特に最も好ましいのはナトリウム塩である。
【0031】
更なる例として、アミノ酸塩が利用されうる。例えば、本発明に従う短鎖脂肪酸のカルニチン又はリシン塩が利用されうる。当業者は、様々な他のアミノ酸も同様に利用されうることを認識されよう。
【0032】
プロピオン酸、酪酸、又は吉草酸のエステルの例として、このような酸の安全で有効な任意のエステルが利用されうる。例えば、SCFAがプロピオン酸のエステルである場合、成分は、以下の通り表されうる。
【0033】
【化1】
【0034】
式中、R1=CH3であり、R2は、プロピオン酸のエステル鎖又はエステルである。
【0035】
例として、選択された酸のエステル鎖は、直鎖又は分岐鎖の炭素原子でありうるが、典型的に、約8個又はそれ未満の炭素原子を含有している。このエステル鎖は、より好ましくは、1~約5個の炭素原子を含有しており、やはり直鎖(例えば、n-プロピル)であっても分岐鎖(例えば、イソ-プロピル)であってもよい。非常に好ましいエステル鎖には、メチルエステル(すなわち、R2は-CH3である)、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソ-プロピルエステル、n-ブチルエステル、イソ-ブチルエステル、及びそれらの混合物を形成するものが含まれる。例として、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸イソ-プロピル、プロピオン酸n-ブチル、プロピオン酸イソ-ブチルは、本明細書で使用されうるプロピオン酸のエステルの例である。このようなプロピオン酸、酪酸又は吉草酸のエステルも同様に選択されうる。
【0036】
短鎖脂肪酸の例として、Sigma社によって販売されているプロピオン酸ナトリウム(参照番号P1880)、酪酸ナトリウム(参照番号303410)、吉草酸(参照番号75054)を挙げることができる。
【0037】
特定の実施形態では、短鎖脂肪酸は、1種又は複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られる。1種又は複数の短鎖脂肪酸を生成することができる前記少なくとも1種の微生物は、ラクトバチルス種、ビフィドバクテリウム種、ルミノコッカス種、ロゼブリア種、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、フィーカリバクテリウム種、ユーバクテリウム・レクターレ(Eubacterium rectale)、及びキューティバクテリウム・アクネス、好ましくはラクトバチルス種、ビフィドバクテリウム種、及びキューティバクテリウム・アクネス、より好ましくはキューティバクテリウム・アクネス、例えばキューティバクテリウム・アクネスATCC6919株の群から選択することができる。
【0038】
別の実施形態では、本発明に従う短鎖脂肪酸は、1種又は複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られた調整培養培地(又は上清)に含有されている。
【0039】
1種又は複数の短鎖脂肪酸を生成することができる前記少なくとも1種の微生物は、ラクトバチルス種、ビフィドバクテリウム種、ルミノコッカス種、ロゼブリア種、アッカーマンシア・ムシニフィラ、フィーカリバクテリウム種、ユーバクテリウム・レクターレ、及びキューティバクテリウム・アクネス、好ましくはラクトバチルス種、ビフィドバクテリウム種、及びキューティバクテリウム・アクネス、より好ましくはキューティバクテリウム・アクネス、例えばキューティバクテリウム・アクネスATCC6919株の群から選択することができる。
【0040】
「培養上清」は、「調整培養培地」とも呼ばれ、典型的に、微生物の生存及び/又は増殖に適した培地に濃縮された微生物を培養し、次に微生物と接触させられた培地を収集するように培地と微生物を分離することによって得られる。好ましくは、培養は、微生物に、所望のフケ防止特性を有している活性剤、特に本発明に従う短鎖脂肪酸を培地中に放出させる可能性が高い期間にわたって、且つそのような条件下で行われる。
【0041】
微生物の生存及び/又は増殖に適した環境は、微生物の生存及び/又は培養に適した任意の栄養培地である。その培地は、通常、十分な量の炭素及び窒素の供給源、例えば、アミノ酸、糖、タンパク質、脂肪酸、リン酸塩、硫酸塩、ミネラル及び成長因子及びビタミン等を含有している。
【0042】
本願の目的では、「調整培養培地」又は「培養上清」という用語は、当該の微生物の培養後に得られた培養上清全体、又は透析、分取、相分離、濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、沈殿、濃縮、凍結乾燥等によって得られた上清の任意の画分若しくは亜化合物を指定するために、区別せずに使用される。
【0043】
本発明の文脈では、本発明に従う1種又は複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られる調整培養培地は、以下の工程:
i)1種又は複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物、好ましくはキューティバクテリウム・アクネス種の微生物、例えば、キューティバクテリウム・アクネスATCC6919を培養する工程と、
ii)バイオマスから、特に遠心分離によって培養上清を分離する工程と、
iii)培養上清を回収する工程と、
iv)必要に応じて、例えば濾過及び/又はオートクレーブ処理によって培養上清を安定化させる工程と
を含む方法によって得られる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「バイオマス」という用語は、工程i)を実施した後に得られたキューティバクテリウム・アクネスの細胞を指す。
【0045】
好ましくは、濾過は、0.2μmから0.45μmの間の細孔径のシリンジフィルタを用いて実施される。
【0046】
本発明に従う短鎖脂肪酸又は調整培養培地は、組成物の総質量に対して0.01質量%~5質量%となる量で、好ましくは組成物の総質量に対して0.3質量%~1.0質量%となる量で使用される。
【0047】
本発明の別の主題は、マラセチア属の酵母、より特にはマラセチア・レストリクタ種の増殖と関連する皮膚の落屑性障害、例えばフケ及び/又は脂漏性皮膚炎を予防及び/又は処置することを意図された美容方法であって、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地の、有効量を含む化粧用組成物を、毛髪及び/又は皮膚に塗布する工程を含む、美容方法である。
【0048】
本発明の別の主題は、特にマラセチア属の酵母、より特にはマラセチア・レストリクタ種による皮膚での過度のコロニー形成を予防することによって及び/又はキューティバクテリウム・アクネスの増殖を媒介することによって、皮膚のエコフローラを正常レベルに維持及び/又は修復することを意図された美容方法であって、i)プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸、又はii)1種若しくは複数の短鎖脂肪酸を生成することができる少なくとも1種の微生物から得られ、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、その非金属塩、そのエステル及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸を含む調整培養培地、の有効量を含む化粧用組成物を、毛髪及び/又は皮膚に塗布する工程を含む、美容方法である。
【0049】
好ましくは、前記化粧用組成物は、化粧的に許容される培地、換言すればケラチン物質、特に皮膚への局所塗布と適合性がある培地を含む。
【0050】
好ましくは、前記化粧用組成物のpHは、6から8の間、特に6.5から7.5の間、特に7.0の中性pHである。
【0051】
有利なことには、本発明に従う短鎖脂肪酸又は調整培養培地は、組成物の総質量に対して0.01質量%~5質量%となる量で、好ましくは組成物の総質量に対して0.3質量%~1質量%となる量で存在している。
【0052】
第1の好ましい実施形態では、前記化粧用組成物は、頭皮のための組成物であり、この組成物は、すすぎ落とされるか又は残ったままにされる組成物でありうる。組成物は、好ましくは、シャンプー、クリーム、ムース(エアロゾル又は非エアロゾル)、ペースト、ジェル、エマルジョン、ローション又は更にはスティックの形態である。好ましくは、毛髪のための組成物は、シャンプー、ジェル又はローションである。
【0053】
第2の好ましい実施形態では、前記化粧用組成物は、皮膚のための組成物であり、この組成物は、程度の差はあるが流体でありえ、白色の又は着色されたクリーム、軟膏、乳液、ローション、美容液、ペースト又はフォームの外観を有することができる。この組成物は、必要に応じてエアロゾル形態で皮膚に塗布されうる。この組成物はまた、固体形態、例えばスティック又は化粧用コンパクトの形態であってもよい。特に、前記化粧用組成物は、特に、アフタシェーブジェル又はローション、身体用衛生組成物、例えばシャワージェル、固体組成物、例えば石けん又はクレンジングバー、皮膚をケア又はクレンジングするための組成物の形態でありうる。
【0054】
化粧用組成物は、好ましくは、水及び/又は1種若しくは複数の水混和性有機溶媒を含み、この溶媒は、直鎖又は分岐C1~C6モノアルコール、例えばエタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール又はn-ブタノール;ポリオール、例えばグリセロール、プロピレングリコール、へキシレングリコール(又は2-メチル-2,4-ペンタンジオール)及びポリエチレングリコール;ポリオールエーテル、例えばジプロピレングリコールモノメチルエーテル;並びにそれらの混合物から選択されうる。
【0055】
好ましくは、化粧用組成物は、組成物の総質量に対して30~98質量%、特に40~95質量%、より良くは50~90質量%の範囲の量の水を含む。
【0056】
好ましくは、化粧用組成物は、化粧用組成物の総質量に対して0.05~60質量%、好ましくは0.5~50質量%、更により良くは1~40質量%の範囲の量の有機溶媒を含む。
【0057】
本発明に従う前記化粧用組成物はまた、特に、植物、鉱物、動物性又は合成油;液体脂肪アルコール;液体脂肪エステル;固体脂肪物質、特にワックス、固体脂肪エステル、固体アルコール;アニオン性、カチオン性、両性及び非イオン性界面活性剤;アニオン性、非イオン性、両性及びカチオン性ポリマー;本発明に従う短鎖脂肪酸又は調整培養培地以外のフケ防止剤;抗酸化剤;抜け毛と戦うための薬剤;シリコーン;香料;ポリマー又は非ポリマー増粘剤、特に会合性ポリマー;必要に応じて防腐剤;キレート剤;着色剤から選択される、少なくとも1種の慣習的な化粧成分を含みうる。組成物は、当然のことながら、先の一覧に現れるいくつかの化粧成分を含むことができる。当業者は、本発明に従う組成物の有利な特性が、想定された添加によって有害な影響を受けないように又は実質的に受けないように、組成物を構成する成分及びその量を注意深く選択することになろう。
【0058】
毛髪及び/又は皮膚への前記短鎖脂肪酸又は調整培養培地又は組成物の塗布に続いて、例えば水を用いたすすぎ工程が行われても行われなくてもよい。
【0059】
特許請求の範囲を含む本説明を通して、「1つを含む(comprising a)」という表現は、反対のことが特定されていない限り、「少なくとも1つを含む(comprising at least one)」と同義であると理解されるべきである。
【0060】
加えて、「少なくとも1つ」という表現は、反対のことが特定されていない限り、「1つ又は複数」と同義であると理解されるべきである。
【0061】
「超」、「...から...の間」及び「...~...の範囲」という表現は、反対のことが特定されていない限り、両方の限界値が含まれていると理解されなければならない。
【0062】
以下の実施例及び図は、本発明の例として、本発明を限定することなく提示される。
【0063】
化合物は、適宜、化学名又はCTFA名(International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook)で挙げられる。
【0064】
本発明は、以下の実施例において、より詳細に示される。
【実施例
【0065】
(実施例1)
プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、及び吉草酸ナトリウム(本発明に従う)によるマラセチア・レストリクタ増殖の選択的阻害の評価
A)材料及び方法
生物及び増殖条件
M.レストリクタATCC MYA-4611、S.エピデルミディスATCC12228、及びC.アクネスATCC6919を、ATCCから購入した。M.レストリクタを、1リットルのdH2O中、36gの麦芽抽出物(Sigma社70167)、20gの乾燥させた(Dessicated)Oxbile(Sigma社70168)、6gのBacto(商標)ペプトン(BD社211677)、1%(v/v)Tween 40(Sigma社P1504)、0.2%(v/v)オレイン酸(Fluka社75096)、及び0.2%(v/v)グリセロール(Promega社H5433)から構成された改変ディクソン(MD)培地(pH6)中で、ルーチン的に培養した。C.アクネス及びS.エピデルミディスを、1リットルのdH2O中、37gのBHI基質(Accumedia社7116B)、0.4%(v/v)のTween-40(Sigma社P1504)、0.2%(v/v)のオレイン酸(Fluka社75096)、及び0.2%(v/v)のグリセロール(Promega社H5433)を含有している改変ブレインハートインフュージョン(MBHI)培地(pH7)中で培養した。M.レストリクタ及びS.エピデルミディスを、好気条件下でルーチン的に増殖させ、200rpmで振とうし、C.アクネスを、嫌気条件下で増殖させた。すべての生物を33℃で増殖させた。培地には、必要であればどこでも、酢酸ナトリウム(CH3COOH、Sigma社参照番号32319)、プロピオン酸ナトリウム(CH3CH2COOH、Sigma社参照番号P1880)、酪酸ナトリウム(CH3(CH2)2COOH、Sigma社参照番号303410)、吉草酸(CH3(CH2)3COOH、Fluka社参照番号75054)を補充した。吉草酸については、改変細胞培地のpHを、NaOH(水酸化ナトリウム、Sigma社283060)で中和した。
【0066】
SYTO9による総細胞数の定量化
1mlの培養物から得たM.レストリクタの細胞を、室温において10,000×gで5分間遠心分離することによって収集した。細胞を一度洗浄し、ペレット化し、0.9%NaCl溶液に再懸濁させた。同体積の先の細胞懸濁液及びSYTO 9ワーキングストック(0.9%NaCl溶液1mlで希釈した、Live/Dead BacLight細菌生存率キット、ThermoFisher Scientific社、L7012のSYTO 9成分3ul)を、十分に混合し、暗室で10分間インキュベートし、蛍光強度単位を、Tecan社マイクロプレートリーダーで励起/発光波長485/530nmを用いて測定した。蛍光単位及び濃度の相関についての標準を、光学顕微鏡の下で蛍光光度計(fluorimeter)及び血球計数器を使用して調製した。この標準曲線を使用して、総細胞数を計算した。
【0067】
増殖アッセイ
グリセロールストック(MD培地中30%グリセロール)として保存したM.レストリクタの細胞を、MD寒天板上に蒔くことによって復活させ、33℃で2~3日インキュベートした。寒天平板上で増殖させた細胞の菌叢から前培養物を作製した。平板の1/4から細胞を擦り取り、250mlのバッフル付きエルレンマイヤーフラスコに入れた70mlのMD培地に懸濁させた後にホモジナイズし、33℃において200rpmで24時間インキュベートした。実験のために、107個の細胞/mlを、短鎖脂肪酸を含む又は含まないフレッシュMD培地に接種した。増殖を、24時間又は96時間まで、SYTO 9を用いて細胞密度を測定することによってモニタリングした。C.アクネス及びS.エピデルミディスを、それぞれOD6000.05及び0.25の出発細胞密度でMBHI培地に接種した。細菌増殖を、様々な時点でブレインハートインフュージョン寒天板上に連続希釈培養物を蒔くことによって測定し、コロニーを、C.アクネスについては72時間後に、S.エピデルミディスについては24時間後にカウントした。
【0068】
コロニー形成単位(CFU)の定量化
細菌増殖を、様々な時点でブレインハートインフュージョン寒天板上に連続希釈培養物を蒔くことによって定量化し、コロニーを、C.アクネスについては72時間後に、スタフィロコッカス種については24時間後にカウントした。
【0069】
B)結果
プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、及び吉草酸ナトリウムは、30mMの濃度でマラセチア・レストリクタの増殖を完全に阻害する。酢酸塩は、同じ濃度では効果が見られなかった(図1)。
【0070】
プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、及び吉草酸ナトリウムは、マラセチア・レストリクタの完全阻害が観察された濃度(30mM)では、C.アクネス及びS.エピデルミディスの増殖に影響を及ぼしていない(図2及び図3)。
【0071】
結論:プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム及び吉草酸ナトリウムは、マラセチア・レストリクタを選択的に阻害し、C.アクネス及びS.エピデルミディスとしてのその他の主な皮膚共生微生物の増殖には影響を及ぼしていない。
【0072】
(実施例2)
プロピオン酸ナトリウム(本発明に従う)によるキューティバクテリウム・アクネスの増殖促進の評価
A)材料及び方法
生物及び増殖条件
S.エピデルミディスATCC12228及びC.アクネスATCC6919を、ATCCから購入した。C.アクネス及びS.エピデルミディスを、1リットルのdH2O中、37gのBHI基質(Accumedia社7116B)、0.4%(v/v)のTween-40(Sigma社P1504)、0.2%(v/v)のオレイン酸(Fluka社75096)、及び0.2%(v/v)のグリセロール(Promega社H5433)を含有している改変ブレインハートインフュージョン(MBHI)培地(pH7)中で培養した。S.エピデルミディスを、好気条件下でルーチン的に増殖させ、200rpmで振とうし、C.アクネスを、嫌気条件下で増殖させた。すべての生物を33℃で増殖させた。培地には、必要であればどこでも、プロピオン酸ナトリウム(CH3CH2COOH、Sigma社参照番号P1880)を補充した。
【0073】
増殖アッセイ
C.アクネス及びS.エピデルミディスを、それぞれOD6000.05及び0.25の出発細胞密度でMBHI培地に接種した。細菌増殖を、様々な時点でブレインハートインフュージョン寒天板上に連続希釈培養物を蒔くことによって測定し、コロニーを、C.アクネスについては72時間後に、S.エピデルミディスについては24時間後にカウントした。
【0074】
共培養アッセイ
共培養のために、同体積の指数関数的に増殖する2種の細胞を、24ウェルのガラスボトムプレート中1ml当たり105個の細胞の細胞密度で混合した。共培養における各種の増殖を、寒天培地上に培養物懸濁液を蒔くことによって定量化した。共培養物における各細菌の選択的定量化のために、寒天板を、好気条件下で増殖させてS.エピデルミディスの選択的増殖を促進するか、又はS.エピデルミディスだけを死滅させるフラゾリドンを用いて嫌気的に増殖させて、C.アクネス(ances)を選択的に数え上げた。
【0075】
コロニー形成単位(CFU)の定量化
細菌増殖を、様々な時点でブレインハートインフュージョン寒天板上に連続希釈培養物を蒔くことによって定量化し、コロニーを、C.アクネスについては72時間後に、スタフィロコッカス種については24時間後にカウントした。
【0076】
B)結果
S.エピデルミディスを、バイオフィルムが形成されるまで24時間培養して、その増殖を最大限にし、次にC.アクネスの細胞を、プロピオン酸塩を含む又は含まない酸素飽和フレッシュ培地に添加した。C.アクネスの増殖は、C.アクネスを増殖させるための条件を作り出すことができるS.エピデルミディス層によってプロピオン酸塩が代謝されない限り、最小限である。
【0077】
C.アクネス及びS.エピデルミディスの増殖を、24時間、48時間及び72時間モニタリングし、C.アクネスの増殖がプロピオン酸塩の存在下で増大することが見出された(図8)。プロピオン酸塩の存在下で、好気条件下でのC.アクネスの著しくより高い増殖は、プロピオン酸塩が、スタフィロコッカス種の存在下でC.アクネスの増殖を促進することによって、皮膚のマイクロバイオームの群集動態をモジュレートできることを実証している。
【0078】
(実施例3)
中鎖脂肪酸:カプロン酸、カプリル酸、カプロン酸エチル、モノカプリル酸グリセリル、モノカプリル酸プロピレングリコール(本発明以外)及び短鎖脂肪酸の金属塩:プロピオン酸亜鉛(本発明以外)と比較した、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、及び吉草酸ナトリウム(本発明に従う)によるマラセチア・レストリクタ増殖の選択的阻害の評価
A)材料及び方法
生物及び増殖条件
M.レストリクタATCC MYA-4611、S.エピデルミディスATCC12228、及びC.アクネスATCC6919を、ATCCから購入した。M.レストリクタを、1リットルのdH2O中、36gの麦芽抽出物(Sigma社70167)、20gの乾燥させたOxbile(Sigma社70168)、6gのBacto(商標)ペプトン(BD社211677)、1%(v/v)Tween 40(Sigma社P1504)、0.2%(v/v)オレイン酸(Fluka社75096)、及び0.2%(v/v)グリセロール(Promega社H5433)から構成された改変ディクソン(MD)培地(pH6)中で、ルーチン的に培養した。C.アクネス及びS.エピデルミディスを、1リットルのdH2O中、37gのBHI基質(Accumedia社7116B)、0.4%(v/v)のTween-40(Sigma社P1504)、0.2%(v/v)のオレイン酸(Fluka社75096)、及び0.2%(v/v)のグリセロール(Promega社H5433)を含有している改変ブレインハートインフュージョン(MBHI)培地(pH7)中で培養した。M.レストリクタ及びS.エピデルミディスを、好気条件下でルーチン的に増殖させ、200rpmで振とうし、C.アクネスを、嫌気条件下で増殖させた。すべての生物を33℃で増殖させた。培地には、必要であればどこでも、50mMのプロピオン酸ナトリウム(CH3CH2COOH、Sigma社参照番号P1880)、酪酸ナトリウム(CH3(CH2)2COOH、Sigma社参照番号303410)、吉草酸(CH3(CH2)3COOH、Fluka社参照番号75054)を補充した。吉草酸については、改変細胞培地のpHを、NaOH(水酸化ナトリウム、Sigma社283060)で中和した。
【0079】
SYTO9によるM.レストリクタの総細胞数の定量化
1mlの培養物から得たM.レストリクタの細胞を、室温において10,000×gで5分間遠心分離することによって収集した。細胞を一度洗浄し、ペレット化し、0.9%NaCl溶液に再懸濁させた。同体積の先の細胞懸濁液及びSYTO 9ワーキングストック(0.9%NaCl溶液1mlで希釈した、Live/Dead BacLight細菌生存率キット、ThermoFisher Scientific社、L7012のSYTO 9成分3ul)を、十分に混合し、暗室で10分間インキュベートし、蛍光強度単位を、Tecan社マイクロプレートリーダーで励起/発光波長485/530nmを用いて測定した。蛍光単位及び濃度の相関についての標準を、光学顕微鏡の下で蛍光光度計及び血球計数器を使用して調製した。この標準曲線を使用して、総細胞数を計算した。
【0080】
増殖アッセイ
グリセロールストック(MD培地中30%グリセロール)として保存したM.レストリクタの細胞を、MD寒天板上に蒔くことによって復活させ、33℃で2~3日インキュベートした。寒天平板上で増殖させた細胞の菌叢から前培養物を作製した。平板の1/4から細胞を擦り取り、250mlのバッフル付きエルレンマイヤーフラスコに入れた70mlのMD培地に懸濁させた後にホモジナイズし、33℃において200rpmで24時間インキュベートした。実験のために、107個の細胞/mlを、50mM濃度の短鎖脂肪酸を含む又は含まないフレッシュMD培地に接種した。増殖を、24時間又は96時間まで、SYTO 9を用いて細胞密度を測定することによって又はATP濃度を推定することによって(以下参照)モニタリングした。C.アクネス及びS.エピデルミディスを、それぞれOD6000.05及び0.25の出発細胞密度でMBHI培地に接種した。細菌増殖を、様々な時点でブレインハートインフュージョン寒天板上に連続希釈培養物を蒔くことによって測定し、コロニーを、C.アクネスについては72時間後に、S.エピデルミディスについては24時間後にカウントした。
【0081】
ATPの推定
細胞のATPを、BacTiterGlo微生物細胞生存率(Promega社)キットを製造者プロトコールに従って使用して測定した。つまり、ATPを基質として利用するルシフェラーゼ活性を、細胞によって産生されたATPの直接測定値として推定した。
【0082】
B)結果
アッセイの読み取りを妨害する様々な化合物の様々な特徴に起因して、M.レストリクタの増殖の推定を、2つの異なる方法を使用して行った:
- すべての脂肪酸及びカプロン酸のエステルについては、72時間のインキュベーション後の全細胞数を、蛍光色素SYTO9で染色した細胞の蛍光測定によって定量化した(方法を参照されたい)。M.レストリクタの出発細胞密度は、1×107個の細胞/mlであった(図4)。
- カプリル酸のエステル及びプロピオン酸亜鉛については、24時間増殖させた細胞から調製した細胞溶菌液におけるATPの全量を推定することによって、細胞生存率を定量化した(これらの化合物は培地を不透明にしたため)。ATP測定値を、ATPの存在下で酵素ルシフェラーゼによって放出された発光の相対的発光単位(RLU)で表した(図5)。
【0083】
C.アクネスの増殖を、脂肪酸及びそれらのエステルを含有している培地中で72時間増殖させた後、コロニー形成単位(CFU)を推定することによって定量化した(図6)。
【0084】
S.エピデルミディスの増殖を、脂肪酸及びそれらのエステルを含有している培地中で24時間増殖させた後、コロニー形成単位(CFU)を推定することによって定量化した(図7)。結果を、以下のTable 1(表1)及びTable 2(表2)に提示する。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
結論:プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム及び吉草酸ナトリウム(本発明に従う化合物)は、皮膚共生生物の少なくとも1種を阻害することが見出されたカプロン酸、カプロン酸エチル、カプリル酸、モノカプリル酸グリセリル、モノカプリル酸プロピレングリコール、プロピオン酸亜鉛(本発明以外の化合物)とは対照的に、M.レストリクタを選択的に阻害し、C.アクネス及びS.エピデルミディスとしてのその他の主な皮膚共生微生物に影響を及ぼしていない。
【0088】
(実施例3)
顔用クリーム
下記の組成物を調製する。
【0089】
【表3】
【0090】
組成物を、脂漏性皮膚炎の状態の皮膚上に塗布する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】