(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】熱分解リグノセルロース系充填剤を含む大規模積層造形材料
(51)【国際特許分類】
B27N 3/02 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
B27N3/02 B
B27N3/02 C
B27N3/02 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539755
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2021087585
(87)【国際公開番号】W WO2022136679
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523238874
【氏名又は名称】カーボガニック
【氏名又は名称原語表記】CARBOGANIC
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】タンバイセル,バルト ピーテル
【テーマコード(参考)】
2B260
【Fターム(参考)】
2B260AA07
2B260AA12
2B260BA07
2B260BA11
2B260BA15
2B260BA18
2B260BA19
2B260CB01
2B260CB04
2B260CD02
2B260CD06
2B260DA12
2B260EA05
2B260EA07
2B260EA11
2B260EB02
2B260EB19
2B260EB21
(57)【要約】
第1の態様では、本発明は、(i)ポリマーマトリックスと、(ii)ポリマーマトリックス中に分散した熱分解リグノセルロース系充填剤とを含む材料(20)の、大規模積層造形のための使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i.ポリマーマトリックスと、
ii.前記ポリマーマトリックス中に分散した熱分解リグノセルロース系充填剤と、を含む材料(20)の、
大規模積層造形のための使用。
【請求項2】
前記熱分解リグノセルロース系充填剤が、焙焼された又は炭化したリグノセルロース系充填剤である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスが、熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーから選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項4】
前記大規模積層造形が、粒状材料ベースの積層造形である、先行請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
大規模積層造形材料(20)を形成するための方法であって、
a.熱分解リグノセルロース系充填剤を提供することと、
b.前記熱分解リグノセルロース系充填剤をポリマーマトリックス及び任意選択の添加剤と配合することと、を含む、方法。
【請求項6】
前記熱分解リグノセルロース系充填剤が、1~5000μm、好ましくは5~1000μm、より好ましくは10~750μm、更により好ましくは20~500μm、最も好ましくは30~250μmの平均粒径を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程bが、0.1~65重量%の前記熱分解リグノセルロース系充填剤を、好ましくは1~60重量%、より好ましくは5~50重量%、更により好ましくは10~40重量%、最も好ましくは20~30重量%の前記ポリマーマトリックス及び任意選択の添加剤と配合することを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
工程aが、
a1.リグノセルロース系バイオマスを熱分解することを含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記リグノセルロース系バイオマスを熱分解することが、220~1000℃、好ましくは230~900℃、より好ましくは240~850℃、更により好ましくは250~800℃の温度で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記リグノセルロース系バイオマスが、木材、亜麻、及び竹から選択される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程aが、
a2.前記熱分解リグノセルロース系バイオマスを粉砕して、前記熱分解リグノセルロース系充填剤を得ることを更に含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
大規模積層造形材料(20)であって、
i.ポリマーマトリックスと、
ii.前記ポリマーマトリックス中に分散した熱分解リグノセルロース系充填剤と、を含む、大規模積層造形材料(20)。
【請求項13】
前記材料(20)が、粒状材料である、請求項12に記載の大規模積層造形材料(20)。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の大規模積層造形材料(20)の大規模積層造形によって製品(30)を形成するための方法であって、
a.前記大規模積層造形材料(20)を大規模積層造形システム内に供給することと、
b.前記大規模積層造形システムを使用して前記製品(30)を印刷することと、を含む、方法。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の大規模積層造形材料(20)の大規模積層造形によって得ることのできる、製品(30)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、積層造形材料に関し、より具体的には、リグノセルロース系バイオマスに由来する充填剤を含む、大規模積層造形のためのポリマーベースの積層造形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
リグノセルロース系バイオマス(例えば、木材又は作物)は、持続的に大量に栽培され得る原料であり、それにより、現在進行中の、より持続可能な未来の探求において大きな可能性を有する、かなり豊富に入手可能な再生可能資源である。リグノセルロース系バイオマスの主な用途は、依然としてエネルギー(例えば、石炭と一緒に燃やす)及び製紙であるが、他の用途の数は、増加し続けている。例えば、粉末形態のリグノセルロース系バイオマスが、例えば、熱可塑性製品及び紙製品の充填剤として使用される用途の数が、増大している。更に、そのような粉末化したリグノセルロース系バイオマスを利用するための新規な方法を見つけるために、エネルギー及び/又は化学物質の生産のための、その酵素変換、化学変換、及び/又は熱化学変換など、かなりの研究が継続中である。
【0003】
リグノセルロース系バイオマスを粉末化された形態にすることは、典型的には、その保管及び搬送特性、並びに特定の用途での使用のためのその加工性及び適合性に、かなりの利益をもたらし得る。しかしながら、リグノセルロース系バイオマスを制御された方法で粉末に分画することは、比較的複雑な課題であるが、リグノセルロース系バイオマスが、巨視的レベル及び微視的レベルの両方で複合材料である傾向があるためでは決してない。リグノセルロース系バイオマスを構成する繊維は、典型的には、リグニンが豊富な中間ラメラによって一緒に接着された細胞状構造から形成される。加えて、個々の繊維は、リグニンマトリックス内の(ヘミセルロースによって一緒に架橋された)セルロースマイクロフィブリルの様々に整列された層で一般的に構成されるため、複合材料そのものである。更に、リグノセルロース系バイオマスは、レオロジー的には粘弾性材料である。粘性挙動は、内部摩擦を引き起こし、その結果、リグノセルロース系バイオマスに課せられたほとんどの機械的エネルギーが、熱に変換される。
【0004】
木材-プラスチック複合材料(WPC)などの天然繊維プラスチック複合材料(NFPC)は、天然繊維(例えば、木材、亜麻、又は竹)及び熱可塑性プラスチックで作製された複合材料である。NFPCは、(熱帯)堅木の代替として開発された比較的最近の材料であり、堅木に比較して、より多くの処理の可能性を有する。NFPCは、例えば、テラスの構成要素、手すり、フェンス、壁装飾パネルなどの用途に用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他の多くの材料と同様に、印刷NFPCは、既に積層造形の分野で探求されているが、まだ初期段階である。また一方、大きな欠点が、詰まり及び低い印刷速度の問題が一般的に発生することであるそれにもかかわらず、印刷材料としてのNFPCの潜在的利点は、強度、耐久性などの点で魅力的であるため、建築業者及び積層造形システムのユーザは、この分野の更なる発展を楽しみにしている。したがって、当該技術分野において、より良好なNFPCベースの積層造形材料に対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明の目的は、大規模積層造形のための良好な材料を提供することである。本発明の更なる目的は、当該材料に関連する良好な使用、方法、及び製品を提供することである。この目的は、本発明による大規模積層造形材料、使用、方法、及び製品によって達成される。
【0007】
本発明の実施形態の利点は、本積層造形材料が本材料のレオロジーに顕著な効果を示すことである。本発明の実施形態の更なる利点は、本製品が、かなり高いオーバーハング角度(例えば、最大60°以上)で印刷され得ることである。
【0008】
本発明の実施形態の利点は、本積層造形材料が比較的低い水分含量及び/又は水分取り込み量を有することである。本発明の実施形態の更なる利点は、熱分解された(例えば、焙焼された)リグノセルロース系バイオマスの疎水性が高く、それ故に、その親水性が低いことである。
【0009】
本発明の実施形態の利点は、異なる層間の良好な接着、及び収縮、反り、象の脚などの最小限の印刷欠陥を有するうまく印刷された製品が達成され得ることである。
【0010】
本発明の実施形態の利点は、本積層造形材料が比較的低い粘度を有することである。本発明の実施形態の更なる利点は、本製品が比較的高速で印刷され得ることである。
【0011】
本発明の実施形態の利点は、熱分解リグノセルロース系バイオマスが、非熱分解天然繊維と比較して、より容易に粉砕されることである。本発明の実施形態の更なる利点は、熱分解リグノセルロース系充填剤が、容易に取り扱われ、保管され、輸送され、投与され、処理され、配合され得ることなどである。本発明の実施形態のなお更なる利点は、本印刷製品が良好な均一性及び/又は等方性を有することである。
【0012】
本発明の実施形態の利点は、本積層造形材料が効果的なカーボンシンクであり得るため、低減されたカーボンフットプリントを有する製品が印刷され得ることである。
【0013】
本発明の実施形態の利点は、熱分解リグノセルロース系充填剤が、かなり熱安定性であることである。本発明の実施形態の更なる利点は、熱分解リグノセルロース系充填剤が、比較的高い温度で、例えば、ポリエステル又はポリアミドなどの高い溶融温度を有するポリマーマトリックスと配合され得ることである。更に、結果として得られる熱可塑性複合材料は、複数の印刷サイクルで再利用可能であり、他の用途でもリサイクル可能である。また、処理により、材料は、低減された臭気及びVOC放出量、並びに機器(例えば、プリンタノズル)上の汚染物質のより少ない浸出を有する。
【0014】
本発明の実施形態の利点は、様々なリグノセルロース系バイオマス供給原料及び/又はポリマーマトリックスが使用され得ることである。
【0015】
本発明の実施形態の利点は、結果として得られる材料(例えば、熱可塑性複合材料)が、プラスチックと比較して、強化された「触れて感じる体験」を有することであり、ブラッシングにより、木材模倣効果がもたらされる。本発明の実施形態の更なる利点は、強化された剛性及び充填剤の実装が、結果として得られる材料の音響効果にプラスの効果を有することである。
【0016】
本発明の実施形態の利点は、熱分解リグノセルロース系充填剤が、無機充填剤又は繊維に関して、結果として得られる材料の熱的特徴にプラスの影響を有することである。低減された熱伝導率により、印刷中の材料のより速い局所加熱、並びに部品全体のより遅い冷却速度が可能になり、ポリマーマトリックス内の過剰な残留応力が、回避される。
【0017】
本発明の実施形態の利点は、材料が、熱分解リグノセルロース系充填剤の存在により、高い熱たわみ温度(HDT)を有し、例えば、印刷プロセス中の材料のより高い負荷が可能になる。
【0018】
第1の態様では、本発明は、(i)ポリマーマトリックスと、(ii)ポリマーマトリックス中に分散した熱分解リグノセルロース系充填剤と、を含む材料を大規模積層造形のために使用することに関する。
【0019】
第2の態様では、本発明は、大規模積層造形材料を形成するための方法に関し、方法は、(a)熱分解リグノセルロース系充填剤を提供することと、(b)熱分解リグノセルロース系充填剤をポリマーマトリックス及び任意選択の添加剤と配合することと、を含む。
【0020】
第3の態様では、本発明は、(i)ポリマーマトリックスと、(ii)ポリマーマトリックス中に分散した熱分解リグノセルロース系充填剤と、を含む、大規模積層造形材料に関する。
【0021】
第4の態様では、本発明は、第3の態様の任意の実施形態による大規模積層造形材料の大規模積層造形により製品(例えば、物品又は部品)を形成するための方法に関し、方法は、(a)大規模積層造形材料を大規模積層造形システム内に供給することと、(b)大規模積層造形システムを使用して製品を印刷することと、を含む。
【0022】
第5の態様では、本発明は、第3の態様の任意の実施形態による大規模積層造形材料の大規模積層造形によって得ることのできる製品に関する。
【0023】
本発明の特定の及び好ましい態様が、添付の独立及び従属請求項に記載されている。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴と、及び他の従属請求項の特徴と適宜組み合わされ得、特許請求の範囲に明示的に記載されるだけではない。
【0024】
この分野では、デバイスの絶え間ない改善、変化、及び進化があったが、本発明の概念は、従来の慣行からの逸脱を含む、実質的に新規かつ斬新な改善を表し、より効率的で安定的かつ信頼性の高いこの種のデバイスの提供をもたらすと考えられる。
【0025】
本発明の上記及び他の特性、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明を、本発明の原理を例示により示している添付の図面と併せて参照することから明らかになるであろう。この説明は、本発明の範囲を限定することなく、例としてのみ与えられる。以下に引用する参考図は、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態による方法のフローチャートである。
【
図2】粉砕中の異なる応力タイプ:単一衝撃(
図2)を概略的に示す。
【
図3】粉砕中の異なる応力タイプ:二重衝撃(
図3)を概略的に示す。
【
図4】粉砕中の異なる応力タイプ:遅い圧縮(
図4)を概略的に示す。
【
図5】粉砕中の異なる応力タイプ:せん断衝撃(
図5)を概略的に示す。
【
図7】本発明の例示的な実施形態で使用される熱分解リグノセルロース系充填剤のふるい分け分析(粒度分布)のグラフである。
【
図8】積層造形における象の脚の問題を概略的に示す。
【
図9】本発明の例示的な実施形態による熱重量分析(TGA)結果を示すグラフである。
【
図10】水分を含有するPA6を使用した印刷部の写真である。
【
図11】かなり乾燥したPA6を使用した印刷部の写真である。
【
図12】横(L)及び直交(O)方向の表示を伴う、試験用ダンベルの印刷を概略的に示す。
【
図13】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図13)の写真である。
【
図14】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図14)の写真である。
【
図15】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図15)の写真である。
【
図16】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図16)の写真である。
【
図17】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図17)の写真である。
【
図18】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図18)の写真である。
【
図19】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図19)の写真である。
【
図20】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図20)の写真である。
【
図21】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図21)の写真である。
【
図22】本発明の実施形態による、大規模積層造形材料を使用した3つの異なる概念実証型印刷製品(
図22)の写真である。
【0027】
異なる図において、同じ参照符号は、同じ又は類似の要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(例示的な実施形態の説明)
本発明は、特定の実施形態に関して、及び特定の図面を参照して説明されるが、本発明は、それらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載された図面は、概略に過ぎず、限定するものではない。図面では、要素のうちのいくつかのサイズは誇張され得、例示目的のために縮尺どおりに描かれていない。寸法及び相対寸法は、本発明の現実の実施化に対応しない。
【0029】
更に、明細書及び特許請求の範囲における第1、第2、第3などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも時間的に、空間的に、ランク付けにおける、又は任意の他の方法における順序を記載するために使用されるわけではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であること、及び本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載又は図示される以外の順序で動作することが可能であることを理解されたい。
【0030】
更に、明細書及び特許請求の範囲における頂部、底部、上、下などの用語は、説明目的で使用され、必ずしも相対的位置を記載するために使用されるわけではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で、それらの反意語と交換可能であること、及び本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載又は図示される以外の配向で動作することが可能であることを理解されたい。
【0031】
特許請求の範囲で使用される「備える」という用語は、その後に列挙される手段に限定されると解釈されるべきではなく、他の要素又は工程を除外するものではないことに留意されたい。したがって、この用語は、言及されるような記載された特徴、整数、工程、又は構成要素の存在を指定するものとして解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、若しくは構成要素、又はそれらのグループの存在又は追加を排除するものではない。したがって、「備える」という用語は、記載された特徴のみが存在する状況、及びこれらの特徴及び1つ以上の他の特徴が存在する状況をカバーする。したがって、「手段A及びBを備えるデバイス」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなるデバイスに限定されるものと解釈されるべきではない。これは、本発明に関して、デバイスの唯一の関連する構成要素がA及びBであることを意味する。
【0032】
本明細書全体を通して「一実施形態(one embodiment)」又は「一実施形態(an embodiment)」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な場所での「一実施形態では(in one embodiment)」又は「一実施形態では(in an embodiment)」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指しているわけではないが、同じ実施形態を指している場合がある。更に、特定の特徴、構造、又は特性は、本開示から当業者に明らかであろうように、1つ以上の実施形態において任意の好適な様式で組み合わされ得る。
【0033】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、本発明の様々な特徴は、開示を簡潔化し、様々な発明の態様のうちの1つ以上の理解を助ける目的で、単一の実施形態、図、又はその説明において一緒にグループ化されることがあることを理解されたい。しかしながら、この開示の方法は、特許請求される発明が、各請求項に明示的に記載されるよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映するものとして解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の態様は、単一の前述の開示された実施形態の全ての特徴よりも少ない。したがって、発明を実施するための形態に続く特許請求の範囲は、これによって、この発明を実施するための形態に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別々の実施形態として自立している。
【0034】
更に、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが、他の特徴は含まず、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、当業者によって理解されるであろうように、本発明の範囲内であり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、以下の特許請求の範囲では、特許請求された実施形態のいずれかが、任意の組み合わせで使用され得る。
【0035】
本明細書に提供される説明において、多数の具体的な詳細が、記載される。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの特定の詳細なしに実施され得ることが理解される。他の場合には、周知の方法、構造、及び技術は、この説明の理解を曖昧にしないために、詳細に示されていない。
【0036】
以下の用語は、本発明の理解を助けるためにのみ提供される。
【0037】
本明細書で使用される場合、別段の指定がない限り、大規模積層造形は、製造された製品(又は「物品」)が1m以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2m以上、更により好ましくは2.5m以上、最も好ましくは3m以上の少なくとも1つの寸法を有する積層造形(「3D印刷」とも呼ばれる)のタイプである。例えば、製造された製品は、1m以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2m以上、更により好ましくは2.5m以上、最も好ましくは3m以上の2つ又は更には3つの寸法(例えば、互いに垂直な)を有し得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、別段の指定がない限り、熱分解は、不活性雰囲気(例えば、低酸素条件下)で材料(例えば、リグノセルロース系バイオマス)を熱的に分解するプロセスである。使用される温度範囲に応じて、異なるタイプの熱分解が、区別され得る。本明細書では、約340℃までの熱分解は、焙焼と呼ばれる。340℃を超えると、典型的には気体生成物(例えば、合成ガス)及び炭(例えば、バイオ炭)を生成する炭化(「ガス化」とも呼ばれる)と呼ばれることがある。炭は、いくつかの用途では(例えば、合成ガス生成では)副産物(例えば、廃棄物)とみなされ得、本発明の文脈では、関心の一次ガス化生成物である。焙焼及び炭化の両方が、より大きな工業的容量に発展する可能性がある高度なプロセスになっている。
【0039】
第1の態様では、本発明は、(i)ポリマーマトリックスと、(ii)ポリマーマトリックス中に分散した熱分解リグノセルロース系充填剤とを含む材料を大規模積層造形のために使用することに関する。
【0040】
実施形態では、熱分解リグノセルロース系充填剤は、焙焼された又は炭化したリグノセルロース系充填剤であり得る。実施形態では、熱分解リグノセルロース系充填剤は、粉末粒子又は繊維(無傷の繊維、壊れた繊維、融着繊維などを含み得る)などの粒子で構成され得る。
【0041】
添付の実施例でも例示されるように、熱分解リグノセルロース系充填剤の使用は、未処理のリグノセルロース系充填剤又はリグノセルロース系充填剤なしを超えるいくつかの利点を有する。積層造形では、印刷することが困難なことが多いオーバーハング及びブリッジに対処する必要があることが、よく知られている。特に、例えば、オーバーハングの角度が増加するにつれて、下層からの支持が、ますます減少し、構造が、カール、層間剥離、たるみ、及び/又は崩壊しやすくなる。実現可能なオーバーハング角度を改善するための手段のうちの1つが、ポリマーマトリックスに繊維状充填剤が添加された複合材料を使用することである。そのような繊維状充填剤は、押出し後かつ固化前の印刷材料の強度を高めることができ、それにより、達成され得る最大オーバーハング角度を増加させるだけでなく、象の脚(
図8)などの他の印刷欠陥を減少させる。更に、繊維状充填剤はまた、最終製品を強化させることができる(例えば、その剛性を増加させる)。驚くべきことに、熱分解リグノセルロース系充填剤が、その目的に特に適していることが、本発明内で見出された。より具体的には、これらの熱分解リグノセルロース系充填剤ベースの複合材料を使用して、顕著ないわゆるビンガム効果が達成され得ることが観察された。すなわち、それらの複合材料は、低応力時に剛体として挙動し、粘性流体として挙動する前に最小限のせん断速度を必要とする。この最小値は、印刷中に超えられるが、本発明による積層造形材料で観察されるように、プリントベッド上に位置付けられた後には達成されず、特に有利な解決策が、達成される。加えて、熱分解リグノセルロース系充填剤はまた、複合材料に対して増粘効果を有する。ビンガム効果及び増粘効果の両方が、複合材料のレオロジーを大幅に改善する。
【0042】
更に、リグノセルロース系充填剤は、印刷製品に組み込まれるとカーボンシンクとして有利に機能する天然の炭素ベースの生成物である。そのようなカーボンシンクの必要性がますます増大し、例えば、建設業界などを含むますます多くの分野に拡大していることが知られている。そのため、本大規模積層造形材料は、この点で特に有益であり得る。リグノセルロース系充填剤は、更に、より軽量であり、他の一般的な繊維状強化材料(例えば、鋼、炭素繊維、又はガラス繊維)よりも高い比強度を有する。
【0043】
リグノセルロース系充填剤が(大規模)積層造形材料中に使用される場合、水分が印刷プロセスに著しく干渉するため、吸湿性及び水分含量は、価値がある。失敗した印刷及び印刷製品で可能性がある水分含量の指標としては、例えば、印刷製品内の穴(例えば、それらの頂部);印刷製品が柔らかく、脆くなり、容易に壊れる;変数の明らかな変化なしに、繰り返されるビルドが一貫していないか失敗しているように見える(すなわち、再現性の問題);材料がノズルを通って押されるときに材料が、亀裂するか、又はポッピングノイズを発する;押出機の先端が、蒸気の小さな噴出を伴って泡立つ;印刷された材料が、プリントベッドに付着しないか、又は悪く付着する;押出機は停止するが、印刷材料が出続ける;押出機モーターは始動するが、押出が遅れる;押出機が詰まるなどが挙げられ得る。
図10及び
図11は、例えば、水分を含有するPA6及びかなり乾燥したPA6を使用して得られた印刷部の写真をそれぞれ示す。したがって、低い水分含量及び限られた水分吸収によって特徴付けられる熱分解リグノセルロース系充填剤(これは、特に焙焼されたリグノセルロース系充填剤に当てはまり、一般に、本質的に疎水性である)は、例えば、典型的にはかなりの水分含量及び水分吸収を有する未処理のリグノセルロース系充填剤を超える利点を有する。上記のレオロジー効果と組み合わせて、例えば、
図13~
図22から明らかなように、本積層造形材料は、有利には、良好な層間接着及び最小限の収縮並びに/又は反りを有する製品を印刷することを可能にする。
【0044】
未処理のリグノセルロース系充填剤と比較して、熱分解リグノセルロース系充填剤はまた、かなりより高い熱安定性を特徴とし、より高い温度で配合されることを可能にする。これは、ポリアミド及び/又はポリエステルなどのより高い溶融温度を有するポリマーマトリックスの場合に特に興味深い。任意の熱分解リグノセルロース系充填剤が、典型的には、未処理のリグノセルロース系充填剤に対して少なくともいくぶん改善された熱安定性を示し得るにもかかわらず、この効果は、熱分解が、320~800℃又は400~700℃などの320℃以上の温度で行われた場合に、特に顕著である。理論に束縛されるものではないが、繊維は、より低い温度での熱分解と比較して、より高い温度でより多くの変化を受け、そのプロセスでより多くの揮発性有機化合物(VOC)を失い、著しく向上した熱安定性を有するリグノセルロース系充填剤を生じる。
【0045】
複合材料での印刷の更なる課題が、最終製品における均一性及び等方性特性の保証である。この点でも、熱分解リグノセルロース系バイオマスからの充填剤は、そのような熱分解バイオマスが、より小さな粒子により容易に粉砕されるので、有利である。更に、熱分解リグノセルロース系充填剤は、未処理のリグノセルロース系充填剤よりも凝集性が低いことが見出され、これは、理論に束縛されるものではないが、暫定的に、それらの形態学的構造及び/又はより低い極性(例えば、より少ない表面ヒドロキシル基)に帰せられる。より小さい粒径及び低減された凝集性の両方が、配向の傾向の低下(例えば、溶融流における)、及びポリマーマトリックス全体に均一に拡散する能力の向上をもたらし、ひいては、印刷製品の均一性及び等方性に、大幅に恩恵をもたらす。
【0046】
実施形態では、ポリマーマトリックスは、熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーから選択され得る。実施形態では、熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーは、剛性又はエラストマーのいずれかであり得る。実施形態では、熱可塑性ポリマーは、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP))、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン系コポリマー(例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、スチレンアクリロニトリル樹脂(SAN)、又はアクリロニトリルスチレンアクリレート(ASA))、ポリアミド(例えば、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン666(PA666)、ナイロン12(PA12)、又は芳香族ポリアミド)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、又はそのコポリマー、ポリエチレン2,5-フランジカルボキシレート(PEF)、又はポリ乳酸(PLA))、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、又はポリスルホン(例えば、ポリエーテルスルホン(PES))であり得る。実施形態では、材料は、熱可塑性プラスチックのブレンド、例えば、熱可塑性エラストマーブレンドであり得る。実施形態では、熱硬化性ポリマーは、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリ尿素、又はポリウレタンであり得る。
【0047】
実施形態では、大規模積層造形材料は、ペレット、顆粒、又は粉末などの粒状材料であり得る。実施形態では、大規模積層造形材料は、粒状材料ベースの積層造形であり得る。原則として小規模積層造形に使用可能であるが、驚くべきことに、本積層造形材料は、大規模積層造形に特に適していることが、本発明の中で見出された。例えば、それらは、ミリメートル又はセンチメートル程度の粒径を有する粒状材料に配合されることに特に適している。更に、大規模積層造形では、かなりの重量が、印刷材料の重なり合う層によって下層に及ぼされる。より高い重量は、より高いせん断応力、したがってより高いせん断速度を意味し、ひいては、より多くの変形(例えば、象の脚、反り、収縮など)につながる。このように、小規模積層造形のための典型的な印刷材料は、大規模積層造形には適さない。しかしながら、熱分解リグノセルロース系充填剤の使用は、それと配合された積層造形材料を有利に強化し(上記参照)、大規模積層造形に特に適していることが、本発明で見出された。実施形態では、粒状材料ベースの積層造形は、溶融粒状製造(FGF)(溶融粒子製造(FPF)とも呼ばれる)又は粉末床溶融結合(PBF)であり得る。粒状製造の溶融粒子製造は、溶融したプラスチック顆粒が、層ごとにベッド上に堆積されて印刷製品を形成する積層造形方法である。このプロセス中、プラスチック顆粒は、(垂直)押出スクリューに供給され、この押出スクリューが、顆粒を回転させ、加熱し、溶融した均質なプラスチック塊まで押圧される。塊は、ノズルを通して押圧され、流れは、通路の直径及び形状によって制御される。各層の後、ビルディングプラットフォームが、典型的には下げられ(又はノズルが持ち上げられ)、次の層が、追加される。必要に応じて、オーバーハングを可能にするために、支持構造も印刷され、次いで、これらの支持構造の除去の形態の後処理が、典型的には必要である。粉末床溶融結合では、粒状材料(すなわち、粉末に限定されない)の薄い層が、プリントベッドの上に広がり、エネルギー源(例えば、レーザー又は電子ビーム)が使用されて、粒状材料を局所的に一緒に結合する。次に、粉末の新しい層が、前の層の上に広がり、プロセスが繰り返されて、製品を層ごとに築き上げる。プロセスの最後に、非融合粉末が全て、後処理で除去される。印刷中、非融合粉末は、有利には、オーバーハングを支持するのに役立ち得る。
【0048】
実施形態では、第1の態様の任意の実施形態の任意の特徴が、独立に、他の態様のうちのいずれかの任意の実施形態について、対応するように記載され得る。
【0049】
第2の態様では、本発明は、大規模積層造形材料を形成するための方法に関し、方法は、(a)熱分解リグノセルロース系充填剤を提供することと、(b)熱分解リグノセルロース系充填剤をポリマーマトリックス及び任意選択の添加剤と配合することと、を含む。特定の任意選択の工程(以下を参照)を含む方法のフローチャートを
図1に示す。
【0050】
実施形態では、熱分解リグノセルロース系充填剤は、1~5000μm、好ましくは5~1000μm、より好ましくは10~750μm、更により好ましくは20~500μm、最も好ましくは30~250μmの平均粒径を有し得る。実施形態では、熱分解リグノセルロース系充填剤は、1000~10000μm、好ましくは2000~5000μmの最大粒径を有し得る。実施形態では、熱分解リグノセルロース系充填剤は、粒子の少なくとも90、好ましくは少なくとも95%が、1~5000μm、好ましくは5~1000μm、より好ましくは10~750μm、更により好ましくは20~500μm、最も好ましくは30~250μmの粒径を有するような粒径分布を有し得る。熱分解リグノセルロース系バイオマスは、一般に、有利には、未処理のリグノセルロース系バイオマスよりも脆く、したがって、より容易に粉砕され(以下を参照)、その結果、前者の粒径(例えば、平均、最小並びに/若しくは最大粒径、及び/又は粒径分布)は、典型的には、後者の粒径よりも小さい。別の角度から見ると、所与の目標粒径に関して、高められた脆性は、未処理のリグノセルロース系バイオマスと比較して、熱分解リグノセルロース系バイオマスを粉砕するために、より少ないエネルギー(例えば、半分、以下を参照)が必要であることを伴う。産業用グラインダーは、自動的に運転されて、それらの寿命にわたって処理することができる量に対して比較的コストがかからないが、それらのエネルギー消費は、かなりの経済的要因であり続けているので、これは、粉砕プロセスに大きな影響を及ぼす。
【0051】
実施形態では、工程bは、0.1~65重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤を、好ましくは1~60重量%、より好ましくは5~50重量%、更により好ましくは10~40重量%、最も好ましくは20~30重量%のポリマーマトリックス及び任意選択の添加剤と配合することを含み得る。
【0052】
実施形態では、工程aは、(a1)リグノセルロース系バイオマスを熱分解することを含み得る。実施形態では、リグノセルロース系バイオマスを熱分解することは、220~1000℃、好ましくは230~900℃、より好ましくは240~850℃、更により好ましくは250~800℃の温度で行われ得る。実施形態では、リグノセルロース系バイオマスを熱分解することは、10分~5時間、好ましくは15分~4時間、より好ましくは20分~3時間、最も好ましくは25分~2時間、例えば、30分~45分又は45分~1時間の持続時間にわたって行われ得る。
【0053】
好ましい実施形態では、リグノセルロース系バイオマスを熱分解することは、リグノセルロース系バイオマスを焙焼することであり得る。リグノセルロース系バイオマスを焙焼することは、例えば、220~340℃、好ましくは240~320℃、より好ましくは250~310℃、例えば、285又は290℃の温度で行われ得る。他の実施形態では、リグノセルロース系バイオマスを熱分解することは、リグノセルロース系バイオマスを炭化する(すなわちガス化する)ことであり得る。リグノセルロース系バイオマスを炭化することは、例えば、400~1000℃、好ましくは500~900℃、より好ましくは600~850℃、更により好ましくは700~800℃の温度で行われ得る。特定の実施形態では、リグノセルロース系バイオマスを熱分解することは、最初にリグノセルロース系バイオマスを焙焼し、続いてリグノセルロース系バイオマスを炭化することを含み得る。これらの実施形態では、焙焼すること及び炭化することの各々は、上記のような持続時間にわたって(例えば、10分~5時間など)及び上記のようなそれぞれの温度で行われ得る。例えば、リグノセルロース系バイオマスは、最初に290℃で30~45分間焙焼され、続いて約700℃で約15分間炭化され得る。そうする際に、焙焼は、リグノセルロース系バイオマスをより良好に均質化し、改良されたガス化/炭化のためにリグノセルロース系バイオマスを調整する前処理工程として機能し得る。したがって、焙焼されたリグノセルロース系バイオマスのそのような炭化は、有利には、より効率的に行われ得、より均質でより高品質の炭をもたらす。このより高品質の炭は、例えば、より少ないVOC(上記参照)を含み、粉砕が(更に)より容易であり、低い密度を有し、より良好な紫外線耐性を有し、より熱安定性であり得る。とりわけ、低いVOC含有量は、例えば、自動車内装用途の文脈において有利であり得る。同様に、低い密度は、自動車用途のための複合材料におけるなど、製品の質量が重要である場合に、特に有利である。
【0054】
実施形態では、リグノセルロース系バイオマスは、木材(例えば、堅木、軟木、再生木材など)、亜麻(例えば、亜麻シーブ)、又は竹から選択され得る。
【0055】
実施形態では、工程aは、(a2)得られた熱分解リグノセルロース系バイオマスを粉砕して、熱分解リグノセルロース系充填剤を得ることを更に含み得る。
【0056】
リグノセルロース系バイオマスの微粉砕には、インパクトミル、ボールメディアミル、エアジェットミル、ローラーミル、ディスクミルなど、いくつかの技術が、利用可能である。インパクトミル及びエアジェットミルは、単一の衝撃(
図2)に基づいている一方、ボールメディアミルは、金属表面間の二重衝撃を利用する(
図3)。ローラーミルは、圧縮に基づいており(
図4)、ディスクミルは、せん断衝撃に基づいている(
図5)。一般に、リグノセルロース系バイオマスの機械的粉砕は、印加されるエネルギー及び適用される粉砕機構、並びに粉砕条件及び原料特性に応じて、微細な粒径、様々な粒子形状(粒径分布)、高い比表面積、及び時には低いセルロース結晶化度をもたらす。したがって、リグノセルロース系バイオマスを粉砕することには、より良好な取り扱い性、保管及び輸送、改善された品質管理、他の材料との混合及び後処理の容易化、並びに/又は加工性の向上など、いくつかの利点があり得る。例えば、十分に粉砕されたリグノセルロース系バイオマスは、工程bで、容易に投与され、配合ユニットに実装され得る。この点で、リグノセルロース系バイオマスを熱分解すると、その脆性が高まり、それにより、リグノセルロース系バイオマスを粉砕する容易さが高まり、かつ/又はリグノセルロース系バイオマスが粉砕され得る粒径(及び/又は分布)が更に低減されることは、特に有利である。
【0057】
実施形態では、工程aは、(a3)得られた熱分解リグノセルロース系バイオマスをキャリブレーションして、選択された平均粒径及び/又は選択された粒径分布を得ることを更に含み得る。熱分解リグノセルロース系バイオマスをキャリブレーションすることは、例えば、熱分解リグノセルロース系バイオマスをふるい分けすることを含み得る。
【0058】
実施形態では、任意選択の添加剤は、酸化安定剤及び/又は熱安定剤(例えば、フェノール化合物及び/又はホスファイト)、UV安定剤、加水分解安定剤(例えば、カルボジイミド)、鎖延長剤(例えば、エポキシ誘導体)、パラフィン、更なる充填剤(CaCO3又はタルク)、カップリング剤(例えば、無水マレイン酸(MA)変性化合物)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸誘導体)、及び接着促進剤(例えば、ロジンエステル、ポリイソブチレン(PIB)若しくはその誘導体、又は熱可塑性ポリウレタン(TPU))のリストから選択される1つ以上であり得る。
【0059】
実施形態では、第2の態様の任意の実施形態の任意の特徴が、独立に、他の態様のうちのいずれかの任意の実施形態について、対応するように記載され得る。
【0060】
第3の態様では、本発明は、(i)ポリマーマトリックスと、(ii)ポリマーマトリックス中に分散した熱分解リグノセルロース系充填剤と、を含む、大規模積層造形材料に関する。
【0061】
実施形態では、材料は、粒状材料であり得る。
【0062】
実施形態では、第3の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、独立に、他の態様のうちのいずれかの任意の実施形態について、対応するように記載され得る。
【0063】
第4の態様では、本発明は、第3の態様の任意の実施形態による大規模積層造形材料の大規模積層造形により製品(例えば、物品又は部品)を形成するための方法に関し、方法は、(a)大規模積層造形材料を大規模積層造形システム内に供給することと、(b)大規模積層造形システムを使用して製品を印刷することと、を含む。実施形態では、大規模積層造形システムは、押出システム又は粉末床溶融結合システムであり得る。実施形態では、押出システムは、押出スクリューを備え得る。実施形態では、押出スクリューは、垂直又は水平押出スクリューであり得る。そのような押出システムの例が、
図6に概略的に描かれており、粒状大規模積層造形材料20で満たされたホッパーと、加熱されたシリンダ12と、回転しているアルキメデススクリュー13と、ビルディングプラットフォーム15上に印刷製品30を積層造形するための移動している押出ノズル14と、を備える押出システム10を示す。
【0064】
実施形態では、第4の態様の任意の実施形態の任意の特徴が、独立に、他の態様のうちのいずれかの任意の実施形態について、対応するように記載され得る。
【0065】
第5の態様では、本発明は、第3の態様の任意の実施形態による大規模積層造形材料の大規模積層造形によって得ることのできる製品に関する。
【0066】
実施形態では、第5の態様の任意の実施形態の任意の特徴が、独立に、他の態様のうちのいずれかの任意の実施形態について、対応するように記載され得る。
【0067】
ここで、本発明を、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明によって、説明する。本発明の他の実施形態は、本発明の真の技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成され得、本発明は、添付の特許請求の範囲の用語によってのみ限定されることは明らかである。
【実施例】
【0068】
実施例1:リグノセルロース系充填剤の調整
リグノセルロース系バイオマス
様々なタイプの木材(例えば、堅木、軟木、再生木材など)、亜麻シーブ、又は竹など、異なるタイプのリグノセルロース系バイオマス供給原料が、使用された。供給原料は、連続繊維、チップ、カーネル、又は固体ブロックとして送達された。平均水分取り込み量は、典型的には8~60%の範囲内で、リグノセルロース系バイオマスの起源及び性質に応じて変化した。例えば、粒径分布の供給業者目標仕様が、50mm超は最大3重量%、5.0mm未満は最大10重量%、5.0mm<P<15mmは最小30重量%、及び15mm<P<50mmは最大60重量%である市販のリグノセルロース系バイオマス供給原料が、使用され得る。熱分解の前に、リグノセルロース系バイオマスを0.1~50mmの最大サイズに粉砕した。
【0069】
熱分解
熱分解(すなわち、焙焼又は炭化)は、雰囲気組成(例えば、低酸素不活性雰囲気)、圧力、及び温度(周囲温度と900℃との間)を含むプログラム可能な条件を備えた高度な工業設備で、最大3時間行った。焙焼の場合、熱分解温度は、典型的には、250~310℃の範囲であり、炭化については、典型的には、700~900℃の範囲であった。例えば、1つの例示的なタイプのリグノセルロース系充填剤は、リグノセルロース系バイオマスを290℃で30~45分間焙焼することによって得られた。第2の例示的なタイプのリグノセルロース系充填剤は、最初に290℃で30~45分間焙焼し、続いて約700℃で15分間炭化することによって得られた。熱分解後、熱処理されたリグノセルロース系バイオマスを、任意選択で、半径5~20mm及び長さ0.1~100mmのサイズを有する円筒形又は正方形のペレットにペレット化した。
【0070】
材料特性
熱重量分析(TGA)及び熱分解測定を様々な熱分解リグノセルロース系バイオマス試料に対して行い、熱分解リグノセルロース系バイオマス試料が、同等の未処理(例えば、初期の)リグノセルロース系バイオマスよりも良好な熱安定性を有することが明らかになった。
【0071】
TGAを、各試料について、標準雰囲気(±80%N
2及び20%O
2)内で、約10分間かけて室温から200℃まで予熱し、続いて、200℃から300℃まで約10℃/分の速度で徐々に加熱し、その間に試料の質量を記録することによって行った。結果が、
図9及び下表に要約されている。
図9の実線の曲線は、異なる試料のTGAプロファイル(参照符号は、下表に示される通り)を示す一方、破線は、使用された温度勾配に対応する。「炭800℃」は、最初に焙焼され、次いで800℃で炭化された木粉試料であり、その後粉砕及びキャリブレーションされた。「炭B6」、「炭F」、及び「炭T6」は、異なる温度で形成され、粉砕はされなかった、伝統的に生成された(すなわち、一工程で、事前に焙焼することなく)バイオ炭であった。
【表1】
見て分かるように、全ての試料が、実験の開始時にいくらかの質量を失う。しかしながら、これらの温度では燃焼/分解は起こらないため、これは、小さな軽い粒子が測定カップから吹き出ることに起因すると考えられた。200~300℃の領域では、未処理の木粉試料のみが、質量の著しい減少を示した一方、炭化した試料(すなわち、1工程及び2工程の両方)は、測定可能な減少は示さなかった(実験誤差内)。質量のわずかな減少は、試料中のVOCの含有量がより低いことを示す。したがって、全体的に見て、熱分解され、特に炭化した試料は、高度な熱安定性を示す。
【0072】
熱分解測定のために、焙焼されかつ炭化した試料を、標準雰囲気(±80%N
2及び20%O
2)内で3つの異なる温度で、30分のより長期の熱分解に供した。結果は以下の通りであった。
【表2】
ここで、残留物は、実験開始時の事前の試料質量(100%)に対して表される、熱分解処理後に残った試料の量に対応する。結果は、高温へのこれらのより長期の曝露のために、より多くの質量損失が起こり、より高い温度については、ますますそうなることを示している。予想されたように、炭化した試料は、そのバイオマスの多くが、その熱分解処理中に既にガス化されていたため、比較的影響が少なかった。それにもかかわらず、これらの結果は、未処理のリグノセルロース系バイオマスに対する同様の実験と比較して勝っており、この場合もやはり、熱安定性が、リグノセルロース系バイオマスを熱分解することによって向上することを示す。
【0073】
更に、熱分解された(すなわち、焙焼された及び/又は炭化した)リグノセルロース系バイオマスは、同じ状況で、未処理のリグノセルロース系バイオマスよりも少ない水分を吸収することが観察された。プロセスからの最大水分含量は、例えば、新鮮な未処理のリグノセルロース系バイオマス(例えば、ポプラ木材チップ)の最大60%と比較して、焙焼されたリグノセルロース系バイオマス試料については、周囲条件で約0~2%であった。熱分解リグノセルロース系バイオマスのクラス内で、炭化したリグノセルロース系バイオマスは、典型的には、時間の経過とともに、焙焼されたリグノセルロース系バイオマスよりも多くの水を取り込むことが、見出された。これは、焙焼されたリグノセルロース系バイオマスが(より)疎水性であることに起因した。対照的に、炭化したリグノセルロース系バイオマスは、典型的には、例えば、その形態(例えば、その中のマクロ及びミクロ細孔)に起因して、より高い吸湿特性を有する。
【0074】
焙焼されたリグノセルロース系バイオマス、及び炭化したリグノセルロース系バイオマスの両方が、概して、増加した脆性を示し、このことが、粉砕プロセスを大いに容易にした(以下を参照)。これは、選択された平均粒径及び/又は粒径分布を達成するために加える必要がある、材料1kg当たりのエネルギーとして定量化され得る。未処理のリグノセルロース系バイオマスと比較して、熱分解リグノセルロース系バイオマスの粉砕中に、典型的には、50%のエネルギー消費の削減が、観察された。すなわち、同じ平均粒径及び/又は粒径分布を達成するために必要な、材料1kg当たりのエネルギーが、典型的には、半減した。
【0075】
粉砕及びふるい分け
熱分解リグノセルロース系バイオマス(例えば、粉末又はペレット)を、約0.1~1000μmで変化し、10000μmの最大長を有する平均サイズに粉砕した。ピンミリングなど、様々な粉砕技術(上記参照)が、うまく適用された。続いて、5000μmより大きいサイズを有する粒子を、ふるい分けによって除去した。ふるい分けプロセスは、分類器などの様々な技術を用いて実施され得る。粒径及び分布は、エアジェットシーブを用いて決定した。配合に使用された典型的な熱分解リグノセルロース系充填剤(以下を参照)の粒度分析結果を
図7に示す。
【0076】
実施例2:熱分解リグノセルロース系充填剤とポリマーマトリックスとの配合
実施例1によるリグノセルロース系繊維を、充填剤として、様々なポリマー材料に添加した。
【0077】
ポリマーマトリックス
メルトフローレート16.5(230℃、2.16kg、ISO 1133)及び熱たわみ温度(HDT)85℃(ISO 75-2/9)を有するポリプロピレン(PP)を使用した。メルトフローレート15(220℃、10kg、ISO 1133)及び熱たわみ温度(HDT)100℃(118MPa、ISO 75-2A)を有するアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)を使用した。粘度数243cm3/g(ISO 307、1157、1628)及び溶融粘度2250Pa.s(260℃)を有するナイロン6(PA6)(H 24グレード)を使用した。固有粘度0.78~0.82(ISO 1628-5)及びガラス転移温度80℃(ASTM D3410)を有するポリエチレンテレフタレート(PET)を使用した。全ての材料を、配合前に、技術データシートのガイドラインに従って乾燥させた。
【0078】
機器
配合実験には、L/D=36及び18.5mmのバレルサイズ(スクリュー径)を有するツインスクリューコンパウンダーを使用した。使用した処理温度(溶融温度)は、ポリマーメーカーの推奨に従って、毎回選択した(例えば、195~275℃の範囲内で)。コンパウンダーの他のパラメータは、概して、当該技術分野において一般的であるように、配合される材料に応じて選択/最適化された。典型的な値は、例えば、1.5~2.5kg/時の送り速度、100~200rpmのスクリュー速度、15~71barの溶融圧力、20~72%の押出機負荷、及び0.1~0.5barの真空度である。
【0079】
例示的な配合物
配合実験中に、異なるポリマーマトリックス及び添加剤を利用して、異なるリグノセルロース系バイオマス供給原料、熱分解処理(焙焼、炭化、並びに未処理)、及び充填剤充填量の様々な組み合わせが、構成された。いくつかの典型的な配合物を以下に列挙する。
【0080】
ポリオレフィン系天然繊維プラスチック複合材料(NFPC)は、10~95重量%のMFI15を有するPP(酸化安定剤及びUV安定剤も含有する)、0~5重量%の熱安定剤、0~7.5%のパラフィン、1~65重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤、0~30重量%の更なる充填剤(例えば、CaCo3、タルク)、0~10重量%のカップリング剤(例えば、無水マレイン酸(MA)-変性)、0~10重量%の潤滑剤(例えば、ステアリン酸誘導体)、及び0~10重量%の接着促進剤(例えば、ロジンエステル、ポリイソブチレン(PIB)若しくはその誘導体、又は熱可塑性ポリウレタン(TPU))を用いて配合した。典型的な処理温度は、240℃であった。
【0081】
ABSベースのNFPCは、10~95重量%のメルトフローインデックス(MFI)15を有するABS(酸化安定剤、熱安定剤、及びUV安定剤も含む)、1~65重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤、0~30重量%の更なる充填剤(例えば、CaCo3、タルク)、0~10重量%のカップリング剤(例えば、無水マレイン酸(MA)-変性)、0~10重量%の潤滑剤(例えば、ステアリン酸誘導体)、及び0~10重量%の接着促進剤を使用して配合した。典型的な処理温度は、240℃であった。
【0082】
PA6ベースのNFPCは、10~95重量%のPA6(酸化安定剤及びUV安定剤も含む)、0~5重量%の熱安定剤、0~7.5重量%の鎖延長剤、1~65重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤、0~30重量%の更なる充填剤(例えば、CaCo3、タルク)、0~10重量%のカップリング剤(例えば、無水マレイン酸(MA)-変性)、0~10重量%の潤滑剤(例えば、ステアリン酸誘導体)、及び0~10重量%の接着促進剤を使用して配合した。典型的な処理温度は、250℃であった。
【0083】
PETベースのNFPCは、10~95重量%のPET(加水分解安定剤、酸化安定剤、例えば、亜リン酸塩、及びUV安定剤も含む)、0~5重量%の熱安定剤、0~7.5重量%の鎖延長剤(例えば、カルボジイミド)、1~65重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤、0~30重量%の更なる充填剤(例えば、CaCo3、タルク)、0~10重量%のカップリング剤(例えば、無水マレイン酸(MA)-変性)、0~10重量%の潤滑剤(例えば、ステアリン酸誘導体)、及び0~10重量%の接着促進剤を使用して配合した。典型的な処理温度は、250℃であった。
【0084】
PLAベースのNFPCは、10~95重量%のPLA(加水分解安定剤、酸化安定剤、例えば、亜リン酸塩、及びUV安定剤も含む)、0~5重量%の熱安定剤、0~7.5重量%の鎖延長剤(例えば、カルボジイミド)、1~65重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤、0~30重量%の更なる充填剤(例えば、CaCo3、タルク)、0~10重量%のカップリング剤(例えば、無水マレイン酸(MA)-変性)、0~10重量%の潤滑剤(例えば、ステアリン酸誘導体)、及び0~10重量%の接着促進剤を使用して配合した。
【0085】
化合物の特性
NFPCの材料特性を、30重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤(以下の表では単に「充填剤」と称する)を有する上述の配合物について試験し、例示的な結果を下表に示す。より具体的には、以下に記載される配合及び印刷に関連する実験の各々における熱分解リグノセルロース系充填剤は、290℃で30~45分間にわたって焙焼されたリグノセルロース系充填剤であった。代替的に、(その結果は、以下で詳細に考察されていないが)同様の試験が、最初に290℃で30~45分間焙焼され、続いて約700℃で15分間炭化されたリグノセルロース系バイオマスを用いて行われた。材料試験は、対応する国際規格に従って、認定研究所で行われた。そのようなNFPC(すなわち、熱分解リグノセルロース系充填剤だけがその中に使用されているわけではない)は、未処理のリグノセルロース系充填剤ベースのNFPCと比較して、減少した水分吸収量を示した。更に、熱分解リグノセルロース系充填剤の脆性は、粉砕に有利であっただけでなく(上記参照)、配合プロセスを容易にし、かつ製造中の化合物の均質性を促進した。
【表3】
【0086】
実施例3:積層造形材料としての使用
NFPCを印刷するために、2000mm×2000mmのビルド面積及び1500mmのビルド高さを有する標準的な積層造形押出機を使用した。7.0mmのノズルで100mm/秒の印刷速度を、2.0mmの層高さと組み合わせて使用した。その後、材料を、材料のレオロジー挙動及び印刷挙動について試験した。測定は、いくつかの顕著な効果を示した。数個の異なる概念実証型印刷製品の写真を
図13~
図18、
図19、
図20、及び
図21、
図22に示す。驚くべきことに、異なる層が、印刷製品の外側にはっきりと視認可能なままであったにもかかわらず、内部の等方性が、顕著に改善された(以下を参照)。
【0087】
まず、熱分解リグノセルロース系充填剤ベースのNFPCは、同等の平均粒径及び粒径分布を有する未処理のリグノセルロース系充填剤ベースのNFPCと比較して、レオロジーの著しい違いを示した。より具体的には、粘度は、同一のせん断応力及び溶融温度で、より低かった。明らかに、熱分解リグノセルロース系充填剤は、誘導された複合材料中で潤滑効果を有する。
【0088】
第2に、熱分解リグノセルロース系充填剤ベースのNFPCは、いわゆるビンガム効果を示す。すなわち、熱分解リグノセルロース系充填剤ベースのNFPCは、低応力では剛体として挙動するが、高応力では粘性流体として挙動する。これを説明するために、キャピラリーレオロジーを使用して、異なるNFPC中の熱分解リグノセルロース系充填剤の量の関数で、溶融流を生じるために必要な最小せん断応力を測定し、その結果を下表に示す。
【表4】
見て分かるように、最小せん断応力は、いずれの場合も、10重量%と比較して、20重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤においてより高く、30重量%において更により高かった。ビンガム効果、及び非強化材料と比較して低下した粘度が、ひいては、印刷製品でより高い達成可能なオーバーハング角度をもたらす。したがって、最大オーバーハング角度を、熱分解リグノセルロース系充填剤含有量の関数で測定し、次の表に概説する。
【表5】
材料のレオロジー的特徴に対する充填剤の効果により、最大オーバーハング角度は、最小せん断速度と同じ傾向をたどり、いずれの場合も、0重量%から10重量%を超えて30重量%の熱分解リグノセルロース系充填剤まで、増加する。
【0089】
第3に、印刷製品の等方性は、マトリックス材料に熱分解リグノセルロース系充填剤を組み込むことによって(例えば、未処理のリグノセルロース系充填剤と比較して)改善された。印刷製品の等方性品質を試験するために、
図12に概略的に示されるように、20cm×20cmの正方形を単層構造で印刷した。続いて、機械的特性を測定するための試験用ダンベルを、主印刷方向(破線矢印)に関して横方向(L)及び直交方向(O)に切断することによって、製造した。下表は、様々な熱分解リグノセルロース系充填剤を有するNFPCの引張強度の観点から、等方性性能に対する平均粒径の影響を示す。
【表6】
【表7】
熱分解リグノセルロース系バイオマスは、より小さなサイズにより容易に粉砕され、より低い凝集性を示すため(上記参照)、熱分解は、より均一かつ等方性の製品を製造する能力を向上させる。この点に関して、熱分解リグノセルロース系充填剤を使用することによって、均一性が、主印刷方向に垂直な方向(すなわち、直交方向)に改善されることも、定性的に観察され得ることは、更に注目に値する。例えば、印刷製品の隣接するバンド/層間の識別(例えば、直交方向に切断されたダンベルを目視検査するとき)は、それほど顕著ではなく、これらは「より多く互いに流れ込んだ」。異なる層のそのようなブレンドはまた、有利には、それらの間の良好な接着をもたらす。
【0090】
最後に、既に上述したように、熱分解リグノセルロース系充填剤は、未処理のリグノセルロース系充填剤と比較して、水分含量及び/又は水分取り込み量の減少を示し、それにより、熱分解リグノセルロース系充填剤ベースのNFPCを印刷するときに、水分に関連する問題を回避することに積極的に貢献する。
【0091】
上記の効果の組み合わせは、著しく改善された材料をもたらし、より低い粘度は、同じプロセススクリュー速度及び温度で、より高い印刷出力を可能にする一方、材料のレオロジー的特徴に対する充填剤の効果は、より高いオーバーハング角度(例えば、最大60°以上)及び、それ故に、オーバーブリッジングも同時に可能にし(ひいては、印刷される製品を設計するときに、より高いレベルの自由度をもたらす)、結果として得られる印刷製品は、より均一かつ等方性であり、水分関連の問題の減少を伴う。
【0092】
本発明によるデバイスについて、好ましい実施形態、具体的な構造及び構成、並びに材料が、本明細書で論じられてきたが、本発明の範囲及び技術的教示から逸脱することなく、形態及び詳細の様々な変更又は修正を行うことができることを理解されたい。例えば、上記の任意の式は、使用され得る手順を表しているに過ぎない。機能は、ブロック図に追加、又はそれから削除され得、動作は、機能ブロック間で交換され得る。工程は、本発明の範囲内で説明される方法に追加、又はそれから削除され得る。
【国際調査報告】