(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】構造的に無秩序な配列に特異的な抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/44 20060101AFI20231228BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231228BHJP
C07K 4/00 20060101ALI20231228BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20231228BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20231228BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20231228BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20231228BHJP
A61K 39/44 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C07K16/44 ZNA
C12N15/13
C07K4/00
C07K14/00
C07K1/22
A61K39/39
A61K47/68
A61K39/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539757
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2021087365
(87)【国際公開番号】W WO2022136582
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523238911
【氏名又は名称】イクスエル-プロテイン・ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】504150162
【氏名又は名称】テクニシェ ユニバーシタット ミュンヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,ヨナス
(72)【発明者】
【氏名】ビンデル,ウーリ
(72)【発明者】
【氏名】フリードリッヒ,ラース
(72)【発明者】
【氏名】ゲバウアー,ミカエラ
(72)【発明者】
【氏名】シュラプシー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】スケラ,アルネ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA38
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB43
4C085EE01
4C085FF13
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA13
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045BA20
4H045BA21
4H045BA50
4H045BA60
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA50
4H045EA60
4H045FA33
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、動物において、特に哺乳動物において、免疫学的に不活性であり、免疫原性を欠く傾向がある天然変性タンパク質(IDP)および/または天然変性タンパク質のドメインに対する特異的結合部分を生成および/または取得するための方法に関する。本発明はまた、構造的に無秩序な配列および/または天然変性配列に、特にPro/Alaリッチ配列(PAS)に特異的に結合するそのような特異的結合部分、特に抗体および/またはそれらの抗原結合断片にも関する。これらの結合部分、抗体、抗原結合断片は、そのような「天然変性タンパク質」、特にPASポリペプチドにも含まれるような無秩序なペプチドまたはポリペプチド断片に結合し/それらを認識するので、ファーストインクラスである。本発明の結合部分、抗体、抗原結合断片は、限定するものではないが、診断の場面ならびに研究ツールにおいて特に有用である。本発明は、動物において、特に哺乳動物において、免疫学的に不活性であり、免疫原性を欠く傾向がある天然変性タンパク質(IDP)および/または天然変性タンパク質のドメインに対する特異的結合部分を生成および/または取得するための方法に関する。本発明はまた、構造的に無秩序な配列および/または天然変性配列に、特にPro/Alaリッチ配列(PAS)に特異的に結合するそのような特異的結合部分、特に抗体および/またはそれらの抗原結合断片にも関する。これらの結合部分、抗体、抗原結合断片は、そのような「天然変性タンパク質」、特にPASポリペプチドにも含まれるような無秩序なペプチドまたはポリペプチド断片に結合し/それらを認識するので、ファーストインクラスである。本発明の結合部分、抗体、抗原結合断片は、限定するものではないが、診断の場面ならびに研究ツールにおいて特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた抗原結合分子、好ましくは抗体またはその抗原結合断片を生成するための方法であって、非ヒト哺乳動物を抗原で免疫するステップを含み、
前記抗原は、免疫アジュバントと1つまたは複数のP/Aペプチドとのコンジュゲートであり、
各P/Aペプチドは独立して約5個~約100個のアミノ酸残基からなるペプチドであり、前記ペプチドのアミノ酸残基のうちの少なくとも60%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、保護基R
Nが前記ペプチドのN末端アミノ基に結合している、方法。
【請求項2】
各P/Aペプチドは独立してペプチドR
N-(P/A)-R
Cであり、
ここで、(P/A)は、約8個~約90個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも70%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含み、
R
Nは、(P/A)のN末端アミノ基に結合している保護基であり、
R
Cはアミノ酸残基であって、そのアミノ基を介して(P/A)のC末端カルボキシ基に結合され、そのアミノ基とそのカルボキシ基との間に少なくとも1個の炭素原子を含む、アミノ酸残基であり、
各P/Aペプチドは、P/AペプチドのC末端アミノ酸残基R
Cのカルボキシ基と免疫アジュバントの遊離アミノ基とから形成されるアミド結合を介して免疫アジュバントにコンジュゲートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原中の(P/A)は、約10個~約80個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも70%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも95%はプロリン、アラニンおよびセリンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗原中の(P/A)は、プロリン、アラニンおよびセリンから独立して選択される20個~40個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも70%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
(P/A)に含まれるプロリン残基の数と(P/A)に含まれるアミノ酸残基の総数との割合が、≧10%および≦70%、好ましくは≧20%および≦50%、より好ましくは≧25%および≦40%である、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗原中の(P/A)は、(i)ASPA(配列番号86)、APAP(配列番号87)、SAPA(配列番号88)、AAPA(配列番号89)およびAPSA(配列番号84)から独立して選択される5つ以上の部分配列、ならびに(ii)任意選択で、プロリン、アラニンおよびセリンから独立して選択される1個、2個または3個のさらなるアミノ酸残基からなる、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(P/A)は、(i)配列ASPA-APAP-ASPA-APAP-SAPA、(ii)配列AAPA-APAP-AAPA-APAP-AAPA、(iii)配列APSA-APSA-APSA-APSA-APSA、(iv)前述の配列のいずれかの重複、または(v)前述の配列のうちの2つの組み合わせからなる、請求項2から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
R
Nは、ピログルタモイル(Pga)、ホモピログルタモイル、ホルミル、アセチル、ヒドロキシアセチル、メトキシアセチル、エトキシアセチル、プロポキシアセチル、プロピオニル、2-ヒドロキシプロピオニル、3-ヒドロキシプロピオニル、2-メトキシプロピオニル、3-メトキシプロピオニル、2-エトキシプロピオニル、3-エトキシプロピオニル、ブチリル、2-ヒドロキシブチリル、3-ヒドロキシブチリル、4-ヒドロキシブチリル、2-メトキシブチリル、3-メトキシブチリル、4-メトキシブチリル、グリシンベタイニル(glycine betainyl)、o-アミノベンゾイル、-NH-(C
1~6アルキル)、-N、N(C
1~8アルキル)
2、N,N,N-トリ(C
1~6-アルキル)
3、N,N-テトラメチレン、およびN,N-ペンタメチレンから選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
R
CはH
2N-(C
1~12ヒドロカルビル)-COOHであり、R
Cは、H
2N-(CH
2)
1~10-COOH、H
2N-フェニル-COOH、およびH
2N-シクロヘキシル-COOHから選択されることが好ましく、R
Cは、H
2N-CH
2-COOH(Gly)、H
2N-(CH
2)
2-COOH(β-Ala)、H
2N-(CH
2)
3-COOH、H
2N-(CH
2)
4-COOH、H
2N-(CH
2)
5-COOH、H
2N-(CH
2)
6-COOH、H
2N-(CH
2)
7-COOH、H
2N-(CH2)
8-COOH、p-アミノ安息香酸、および4-アミノシクロヘキサンカルボン酸から選択されることがより好ましく、R
CはH
2N-(CH
2)
5-COOHであることがさらにより好ましい、請求項2から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記抗原に含まれるP/Aペプチドはランダムコイルコンフォメーションをとり、かつ/または前記抗原に含まれるP/Aペプチドは荷電残基を欠く、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
免疫アジュバントは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、オボアルブミン(OVA)、およびウシ血清アルブミン(BSA)から選択され、好ましくは、免疫アジュバントはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の抗原。
【請求項13】
非ヒト哺乳動物の免疫を含む、天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた抗原結合分子、好ましくは抗体またはその抗原結合断片の生成のための請求項12に記載の抗原の非治療的使用。
【請求項14】
前記天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインは、Pro/Alaリッチ配列であり、
好ましくは、前記Pro/Alaリッチ配列は、ランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも20個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)から、好ましくはPro(P)およびAla(A)から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法、または請求項13に記載の非治療的使用。
【請求項15】
前記Pro/Alaリッチ配列は、構造
(P/S)A(A/S)P;および/または
PA(A/S)P
の少なくとも1つのエピトープを含み、
好ましくは、前記エピトープは、PAAP、PASP、PAPASP、PAPAAP、PASPAAP、およびAPSAからなる群から選択されるエピトープストレッチを含む、請求項14に記載の方法または非治療的使用。
【請求項16】
請求項1から11、14または15のいずれか一項に記載の方法によって取得可能である、天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた抗原結合分子、好ましくは抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
a)配列番号35において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 1.1]と、
配列番号36において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 1.1]と、
配列番号37において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 1.1]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号38において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 1.1]と、
配列番号39において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 1.1]と、
配列番号40において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 1.1]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(a)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
b)配列番号41において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 1.2]と、
配列番号42において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 1.2]と、
配列番号43において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 1.2]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号44において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 1.2]と、
配列番号45において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 1.2]と、
配列番号46において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 1.2]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(b)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
c)配列番号47において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 2.1]と、
配列番号48において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 2.1]と、
配列番号49において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 2.1]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号50において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 2.1]と、
配列番号51において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 2.1]と、
配列番号52において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 2.1]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(c)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
d)配列番号53において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 2.2]と、
配列番号54において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 2.2]と、
配列番号55において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 2.2]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号56において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 2.2]と、
配列番号57において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 2.2]と、
配列番号58において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 2.2]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(d)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
e)配列番号59において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 3.1]と、
配列番号60において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 3.1]と、
Trp-Gly-Argのアミノ酸配列を含むか、その配列からなるCDR-H3[抗PA(S) MAb 3.1]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号62において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 3.1]と、
配列番号63において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 3.1]と、
配列番号64において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 3.1]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(e)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
ならびに
f)配列番号65において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 3.2]と、
配列番号66において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 3.2]と、
配列番号67において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 3.2]と;
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号68において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 3.2]と、
配列番号69において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 3.2]と、
配列番号70において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 3.2]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(f)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片
からなる群から選択される、請求項16に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項18】
抗体またはその抗原結合断片であり、
(a)配列番号11[抗PA(S) MAb 1.1]、配列番号13[抗PA(S) MAb 1.2]、配列番号:15[抗PA(S) MAb 2.1]、配列番号17[抗PA(S) MAb 2.2]、配列番号19[抗PA(S) MAb 3.1]もしくは配列番号21[抗PA(S) MAb 3.2]のアミノ酸配列、
もしくは配列番号11、13、15、17、19もしくは21と85%、好ましくは87%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列
を含む可変重(VH)鎖配列を含み;かつ/もしくは
配列番号12[抗PA(S) MAb 1.1]、配列番号14[抗PA(S) MAb 1.2]、配列番号16[抗PA(S) MAb 2.1]、配列番号18[抗PA(S) MAb 2.2]、配列番号20[抗PA(S) MAb 3.1]もしくは配列番号22[抗PA(S) MAb 3.2]のアミノ酸配列、
もしくは配列番号12、14、16、18、20もしくは22と85%、好ましくは87%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列
を含む可変軽(VL)鎖配列を含むか;
または
(b)(a)の抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、
抗体またはその抗原結合断片である、請求項16または17に記載の抗原結合分子。
【請求項19】
Fab断片、F(ab’)
2断片、Fv断片またはscFv断片から選択される抗原結合断片である、請求項17または18に記載の抗原結合分子。
【請求項20】
レポーター分子および/または標識にコンジュゲートまたは融合される、請求項17から19のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項21】
マトリクスベースのタンパク質/ペプチドの精製または固定化において用いられる、請求項16から20のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物において、特に哺乳動物において、免疫学的に不活性であり、免疫原性を欠く傾向がある天然変性タンパク質(IDP)および/または天然変性タンパク質のドメインに対する特異的結合部分を生成および/または取得するための方法に関する。本発明はまた、構造的に無秩序な配列および/または天然変性配列に、特にPro/Alaリッチ配列(PAS)に特異的に結合するそのような特異的結合部分、特に抗体および/またはそれらの抗原結合断片にも関する。これらの結合部分、抗体、抗原結合断片は、そのような「天然変性タンパク質」、特にPASポリペプチドにも含まれるような無秩序なペプチドまたはポリペプチド断片に結合し/それらを認識するので、ファーストインクラスである。本発明の結合部分、抗体、抗原結合断片は、限定するものではないが、診断の場面ならびに研究ツールにおいて特に有用である。
【0002】
本発明は、具体的にはおよび特定の一実施形態では、天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた抗原結合分子、好ましくは抗体またはその抗原結合断片を生成するための方法であって、非ヒト哺乳動物を抗原で免疫するステップを含み、前記抗原は、免疫アジュバントと1つまたは複数のP/Aペプチドとのコンジュゲートであり、各P/Aペプチドは独立して約5個~約100個のアミノ酸残基からなるペプチドであり、前記ペプチドのアミノ酸残基のうちの少なくとも60%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、保護基RNが前記ペプチドのN末端アミノ基に結合している、方法に関する。
【0003】
本発明はまた、本発明の特異的結合部分/抗体/抗体断片をコードする核酸配列、ならびに/または、前記本発明の特異的結合部分/抗体/抗体断片の可変領域(可変重鎖配列および/もしくは可変軽鎖配列など)および/もしくは相補性決定領域(CDR)をコードする核酸配列を含む、構造明確な特異的ハイブリドーマにも関する。本発明はさらに、本発明の抗体のCDRおよび/または軽鎖可変領域もしくは重鎖可変領域をコードする核酸分子、ならびに前記核酸分子を含むベクターに関する。本発明はまた、本発明のベクターを含む宿主細胞に、ならびに、本発明の結合部分/抗体/抗体断片の生産方法であって、適切な条件下で、本発明の宿主細胞および/または本発明のハイブリドーマを培養するステップと、生産された結合部分/抗体/抗体断片を単離するステップとを含む生産方法にも関する。したがって、本発明はまた、本発明の結合部分/抗体/抗体断片を発現するハイブリドーマおよび/または宿主細胞にも関する。
【0004】
さらに、本発明は、本発明の方法によって取得可能な結合部分/抗体/抗体断片に、本発明の少なくとも1つの結合部分、抗体または抗原結合断片を含む組成物に、本発明のハイブリドーマおよび/もしくは宿主細胞、本発明の核酸分子、本発明のベクター、本発明のハイブリドーマ/宿主細胞、または本発明の方法によって生産される結合部分、抗体もしくは抗原結合断片に関する。本発明はまた、天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメイン、特にPAS配列および/またはPAS配列を含む分子を検出、定量化および/または識別するための、本発明の結合部分、抗体または抗原結合断片の使用に関する。このような検出、定量化または識別はまた、本発明による生体試料に関して、例えば血液試料もしくは血漿試料に関して、または脳脊髄液、眼の硝子体、組織切片の試料等に関して実施され得る。本発明はまた、PAS化生物製剤の前臨床および臨床開発のための研究ツールおよび/または診断試薬も提供する。また、本明細書では、そのようなPAS化生物製剤、すなわち、生物学的に活性な(タンパク質)薬物と、例えば小さい残基Pro、AlaおよびSer、またはProおよびAlaのみを含むPro/Alaリッチ配列(PAS)とを含む薬物コンジュゲートで処置された対象、特にヒト患者から取得された生体試料のスクリーニングのための手段および方法も提供される。前記薬物コンジュゲートは、タンパク質薬物または生物製剤に限定されず、「小分子」薬物および化学薬物、ならびに炭水化物薬物および核酸薬物も含むことができる。
【0005】
本発明はまた、診断の場面における、実験室での使用のための、前臨床開発もしくは臨床開発を含む研究および/または開発における、精製方法における等の、手段の調製のための、本発明の結合部分、抗体または抗原結合断片の使用にも関する。例えば、本発明の結合部分、抗体または抗原結合断片は、マトリクスベースのタンパク質/ペプチドの精製または固定化において用いられ得る。とりわけ、天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメイン、特にPAS配列および/またはPAS配列を含む分子の精製のためのアフィニティーマトリクスが、本発明の抗体またはそれらの抗原結合断片など、本明細書で提供される本発明の化合物を用いて調製され得る。
【0006】
本明細書では、特許出願および製造業者のマニュアルを含むいくつかの文献が引用される。これら文献の開示は、本発明の特許性に関連があるものとみなされないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、あらゆる参照文献は、それぞれ個々の文献が参照により組み込まれると具体的かつ個別に指示されているかのように同程度まで、参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0007】
天然変性のタンパク質またはタンパク質のドメイン(IDP)は、自然において普通であり、例えば、シナプトジャニンまたはRelAの転写活性化ドメインの場合のように(Snead & Eliezer、2019;Tantosら、2012;Wright & Dyson、2015)、シグナル伝達およびタンパク質トラフィキングにおいて重要な役割を担う。このようなIDPはまた、広範囲の病原体に多量に存在しており、したがって、感染症と闘うための可能性を秘める標的である(Fengら、2006)。構造化タンパク質との特異的な相互作用とは対照的に、無秩序なペプチドまたはポリペプチドのセグメント(IDPにも含まれるような)の特性は、同族抗体の生成において免疫系に難題をもたらすことがしばしばであるが、免疫応答を回避するために病原体によって活用されるという特徴である(Giriら、2016;Gohら、2016)。
【0008】
抗原はほとんどがタンパク質またはペプチドであり、これらの表面エピトープは特異的な抗体認識のための相互作用点として働く。エピトープは一般に、(i)その一次構造によって定義される線状エピトープ、および(ii)キーとなるアミノ酸はアミノ酸配列内では非連続であるが、(構造明確な)三次元フォールド内では極めて接近されている、構造的エピトープ(Barlowら、1986)の2つのカテゴリーに分類される。エピトープは圧倒的に非連続であると長い間想定されてきた(Barlowら、1986);実際、より最近の分析が示唆するところは、構造的エピトープが、天然タンパク質に存在するあらゆるB細胞エピトープの約90%を占めることである(Huang & Honda、2006)。
【0009】
無秩序なタンパク質間の相互作用は詳細に解析されてきたが(Fongら、2009;Meszarosら、2007;Uversky、2019)、少数の研究のみが、無秩序なタンパク質抗原と抗体などの構造明確な結合パートナーとの間の複合体形成の構造的側面について、取り組んできた(Fassolariら、2013;MacRaildら、2016)。一般に、ペプチドは、多くの場合ペプチド骨格が関与するが、水素結合によって支配される、抗体とのインターフェースを形成し、タンパク質よりも平面様式で結合する傾向がある(Londonら、2010)。さらに、IDPは折りたたまれた抗原よりも小さいエピトープを提示し、接触残基あたりの自由エネルギー利得の点でより効率的であるように見える(MacRaildら、2016)。タンパク質抗原の構造解析が示したところは、無秩序なエピトープ内の残基は、構造的エピトープ内の残基よりも水素結合および塩橋に関与する傾向が強いことである(MacRaildら、2016)。より具体的には、先行技術が仮定したように、ペプチドとのインターフェースは通常、結合のためのホットスポットとして機能する、Phe、Leu、Trp、Tyr、およびIleなどの、大きな疎水性側鎖に富んでいる(Londonら、2010)。
【0010】
過去10年間で、構造的に無秩序な人工ポリペプチドは、製薬バイオテクノロジーの分野で注目を集めており、この分野では、高親水性の化学ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)の機能的代替物として、タンパク質融合パートナーまたは薬物コンジュゲートのin vivo特性を目的に合わせるために、使用される(Schellenbergerら、2009;Schlapschyら、2013)。例えば、3つの小さいアミノ酸Pro、Ala、および/またはSerを含む長いポリペプチドとの、薬理学的に活性なタンパク質もしくはペプチドのまたは(「小」)分子のコンジュゲーションは、PASylation(登録商標)として知られるが、流体力学的容積を劇的に増大し、腎臓ろ過を遅延させることにより血漿半減期を延長する(Binder & Skerra、2017)。したがって、Pro/Alaリッチ配列(PAS)ポリペプチドは、血漿半減期が延長されたバイオ医薬品を生成するために、ポリエチレングリコール(PEG)の生物学的代替品として開発された。化学巨大分子PEGと同じくらい、組換えPASポリペプチドは立体構造的に無秩序であり、水中で高溶解性を示す。実際、いかなる荷電側鎖または明白な疎水性側鎖をも欠くこれらの生合成ポリマーは、IDPの極端な例である。
【0011】
上で論じられているように、PASylation(登録商標)アプローチは、Pro/Alaリッチ配列(PAS)、すなわち小さい残基Pro、AlaおよびSerまたはProおよびAlaのみを含む、増大した流体力学的容積を有する立体構造的に無秩序なポリペプチド鎖に依拠する。こういったPAS配列は、薬物へのその化学コンジュゲーションが血漿半減期延長のための確立された方法であるPEGと、非常に似た生物物理学的特性を有する親水性で非荷電の生体ポリマーである。PEGとは対照的に、PASポリペプチドは、遺伝子レベルで治療用タンパク質またはペプチドへの単純な融合を行うことができ、その結果、大腸菌(Escherichia coli)または他の宿主細胞での十分に活性な治療用タンパク質の産生を可能にし、in vitroでのカップリングまたは修飾のステップを不要とすると記載される(Binder & Skerra、2017)。さらに、Pro/Alaリッチ配列(PAS)/PASポリペプチドは生分解性であり、したがって、臓器蓄積を回避するが、一方、血清中での安定性を示すとともに毒性がない。PASylation(登録商標)技術のさらなる利点の一つは、実際、免疫学的に不活性であり、したがって医療用および治療用途にとって大きく有利であるPASポリペプチドを提供することである。しかし、免疫原性の欠如はまた、かかる天然変性タンパク質(IDP)および/または天然変性タンパク質のドメインに対する抗体が当技術分野でまったく記載されていない、理由でもある。しかし、そのような特異的抗体は、特に研究ツールとして、および患者の層別化および/または処置応答のモニタリングを含む診断の場面において所望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、天然変性のタンパク質またはタンパク質のドメイン、特に、アミノ酸残基ProおよびAlaならびに/またはPro、AlaおよびSer(PAS)を含む増大した流体力学的容積を有する無秩序なポリペプチド鎖を特異的に結合する、結合部分、特に抗体および/または抗体断片の調製のための手段および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本技術的課題は、本明細書において提供される実施形態によっておよび添付の特許請求の範囲において解決される。
第1の実施形態では、本発明は、天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた抗原結合分子、好ましくは抗体またはその抗原結合断片を生成するための方法であって、
非ヒト哺乳動物を抗原で免疫するステップを含み、
前記抗原は、免疫アジュバントと1つまたは複数のP/Aペプチドとのコンジュゲートであり、各P/Aペプチドは独立して約5個~約100個のアミノ酸残基からなるペプチドであり、前記ペプチドのアミノ酸残基のうちの少なくとも60%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、保護基RNが前記ペプチドのN末端アミノ基に結合している、方法に関する。
【0014】
本発明の文脈においてまた実施例で例示されるように、驚くべきことに、本発明者らが発見したところは、本明細書において開示されるような免疫スキームと組み合わせて、KLHなどの免疫アジュバント/高免疫原性キャリアタンパク質にコンジュゲートされる場合、このKLHは、約5メガダルトン(5MDa)超の分子質量を有するタンパク質複合体を好ましくは形成するが、非ヒト哺乳動物において、特にマウスにおいて、PASポリペプチドがPAS指向性抗体応答を誘発することができることである。このことは、予想外であり、本明細書において開示されるような手段および方法によって可能になる。一般に、免疫アジュバントへのコンジュゲーションはさらなるT細胞エピトープを提供し、したがって、コンジュゲートのペプチド部分の免疫原性を高めると考えられる。したがって、免疫系の能力が高められて、そういったペプチドに特異的に結合する抗体を生成すると思われる。しかし、本発明において使用された同じBALB/cマウス系統において先に示されたところは(Schlapschyら、2013)、ヒトIFNα2bなどのタンパク質部分へのPAS部分のコンジュゲーションそしてマウスを繰り返し免疫することは、免疫増強剤(ブースター)としてフロイントのアジュバンをたとえ使用しても、PAS特異的抗体の生成をまったくもたらさず、それよりも、IFNα2b特異的抗体の生成をもたらしたことである。同様に、PAS-hGHで繰り返し処置されていたマウスの血漿試料では、ヒト成長ホルモン(hGH)部分に対して反応性のIgGがウエスタンブロットで検出可能であったが、他のタンパク質に融合されたPAS配列との交差反応性はなかった、そして、このことが指摘するところは、PASポリペプチド自体が免疫原性ではないことである(Schlapschyら、2013)。実際、タンパク質部分に融合された場合でも、PAS指向性免疫原性に関するこういった完全な欠如は、PASylation技術のキーとなる特徴であり、この特徴は、かかるPA(S)ペプチドを構成する小さく生化学的に不活性なアミノ酸Pro、AlaおよびSerの本質にまたはProおよびAlaに直接帰するとし得る。
【0015】
先行技術が仮定したところは、ペプチドとのインターフェースは通常、結合のためにホットスポットとして機能する、Phe、Leu、Trp、TyrおよびIle(キャリアタンパク質へのコンジュゲーションに使用されたペプチドに含有される)などの大きな疎水性側鎖に富んでいることである(Londonら、2010)。反対に、したがって驚くべきことに、本発明の結合部分の添付の結晶構造が明らかにするところは、PA(S)ペプチドの認識におけるAlaの特に関連があり前例のない役割である。これは特に驚くべきことであり、なぜなら、PA(S)ペプチドに含まれるアミノ酸のすべてが免疫学的に/化学的に不活性な側鎖を有し、強力な疎水性および/または静電的相互作用を形成する可能性のあるいかなる荷電側鎖および/または明白な疎水性側鎖をも欠くからである。加えて、生理学的条件下でのPA(S)(ポリ)ペプチドのランダムコイル挙動は、抗体などの結合タンパク質との複合体形成時の無秩序-秩序転移にあたり相当のエントロピーコストを引き起こす。このことはまた、PAS化抗体断片を用いる多数のin vivoイメージング研究によってならびにタンパク質の反復投薬を伴う前臨床動物実験においても証明されており、この場合、非標的組織または臓器へのいかなる非特異的結合もPAS特異的免疫応答もどちらも検出可能ではなかった(Bolzeら、2016;Harariら、2014;Mendlerら、2015;Richterら、2020)。まとめると、こういったPAS特異的配列/構造の特徴は、したがって、PA(S)特異的抗体を生成するための独特かつ重要な難題を提起するが、この難題は、本明細書において開示されるような本発明の方法およびペプチド/抗原によって克服された。相当する例示的P/Aペプチド/抗原も本明細書において以下に記載される。
【0016】
本発明は、特定の実施形態では、天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチドに対して向けられた特異的結合部分、特に抗原結合分子を生成するための方法であって、非ヒト哺乳動物を抗原で免疫するステップを含み、
これによって、前記抗原は、免疫アジュバントと1つまたは複数のP/Aペプチドとのコンジュゲートであり、
ここで、各P/Aペプチドは独立してペプチドRN-(P/A)-RCであり、
(P/A)は、約5個~約100個のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも60%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含み、
RNは、(P/A)のN末端アミノ基に結合している保護基であり、
RCはアミノ酸残基であって、そのアミノ基を介して(P/A)のC末端カルボキシ基に結合され、そのアミノ基とそのカルボキシ基との間に少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個の炭素原子を含むアミノ酸残基であり、
各P/Aペプチドは、P/AペプチドのC末端アミノ酸残基RCのカルボキシ基と免疫アジュバントの遊離アミノ基とから形成されるアミド結合を介して免疫アジュバントにコンジュゲートされる、方法に関する。
【0017】
好ましい実施形態では、本明細書において記載されるような前記抗原結合分子、好ましくは前記抗体または前記その抗原結合断片(天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた)を生成するための方法は、前記P/Aペプチドを用いる非ヒトの免疫方法であり、
ここで、P/Aペプチドは、独立してペプチドRN-(P/A)-RCであり、約8個~約90個のアミノ酸残基からなるペプチドであり、
(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも70%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含み、
RNは、(P/A)のN末端アミノ基に結合している保護基であり、
RCはアミノ酸残基であって、そのアミノ基を介して(P/A)のC末端カルボキシ基に結合され、そのアミノ基とそのカルボキシ基との間に少なくとも1個の炭素原子を含む、アミノ酸残基であり、
各P/Aペプチドは、P/AペプチドのC末端アミノ酸残基RCのカルボキシ基と免疫アジュバントの遊離アミノ基とから形成されるアミド結合を介して免疫アジュバントにコンジュゲートされる。
【0018】
本明細書で使用される場合、「特異的結合部分(単数/複数)」という用語は、特に、本明細書で論じられている、記載される抗原結合分子、抗体およびそれらの抗原結合断片を含む。しかし、上記用語はまた、前記天然変性ペプチド/タンパク質を特異的に結合することができるが、普通の抗体フォーマットではない他の分子も含む。そのような「結合部分」は、とりわけ、本明細書において提供される手段および方法を用いて取得可能な抗体に基づくまたはそれに由来する結合部分を含む融合タンパク質または(タンパク質)構築物のような分子を含むことができる。このような構築物は、とりわけ、本明細書において提供される、および/または本発明の方法を用いて取得可能な抗体/抗体断片の少なくとも1つ、少なくとも2つまたは3つの相補性決定領域(CDR)を含むことができる。
【0019】
特定の実施形態では、本発明は、天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた抗原結合分子、好ましくは抗体またはそれらの抗原結合断片を生成するための手段および方法を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、天然変性ペプチド/タンパク質(IDP)および/または天然変性タンパク質のドメインに対して向けられた、かつ/またはそれらに特異的に結合する、特にPro/Alaリッチ配列(「PAS」)、「PAS」配列/「PAS」部分に特異的に結合する抗体および/またはそれらの抗原結合断片を生成するための手段および方法を提供する。
【0020】
Pro/Alaリッチ配列(「PAS」)、「PAS」配列/「PAS」部分については本明細書において定義されており、WO2008/155134およびWO2011/144756にも記載されている。これらの「PAS」部分は、(Schlapschyら、2013)または(Binder & Skerra、2017)にさらに記載されるように、ランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも7個のアミノ酸残基からなるペプチドにも関連し、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)から、またはPro(P)およびAla(A)から選択される。とりわけ、タンパク質性薬物コンジュゲートに含まれるようなPro/Alaリッチ配列は、例えばWO2018/234455において「(P/A)」配列としても記載される。こういった(P/A)配列、すなわち、ここではPro/Alaリッチ配列は、約7個~約1200個のアミノ酸残基からなることができ、ここで、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも80%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む。さらに、本明細書の開示から明らかであり、当技術分野でも知られるように、「Pro/Alaリッチ配列(PAS)」、「PAS」、「PAS部分」、または「PAS配列」という用語は、天然変性タンパク質/ペプチド(IDP)ならびに/またはProおよびAlaのみを含むランダムコイルコンフォメーションを形成するタンパク質/ペプチドに限定されるものと解釈されるべきではない。上記用語はまた、主にPro、Ala、およびSerから構成される相応するタンパク質/ペプチドも包含する。また、とりわけ上記のWO2008/155134、WO2011/144756またはWO2018/234455(すべて参照により組み込まれる)にも開示されるように、わずかな程度までさらなるアミノ酸が含まれてもよい。
【0021】
本明細書において論じられるように、そのような(P/A)配列および/またはPro/Alaリッチ配列(PAS)との薬物のコンジュゲーションは、PASylation(登録商標)としても知られ、これは、流体力学的容積を劇的に増大し、in vivoでの腎臓ろ過を遅延させることにより血漿半減期を延長する(Griffithsら、2019;Langinら、2018;Richterら、2020)。
【0022】
したがって、本発明は、構造的に無秩序な配列および/または天然変性配列、特にPro/Alaリッチ配列(PAS)に特異的に結合する特異的結合部分、特に抗体および/またはそれらの抗原結合断片を取得するための手段および方法を提供する。先行技術は、構造的に無秩序な配列および/または天然変性配列、特にPro/Alaリッチ配列に対して向けられた抗体および/または抗原結合断片を何一つ提供しておらず、これらについて何一つ記載もしていない。さらに、先に記載されたところは、Pro、AlaおよびSerから、またはさらにはProおよびAlaのみから、構成される組換えポリペプチドは、正確なアミノ酸配列にかかわらず - ある特定の反復パターンまたは長いホモアミノ酸ストレッチが回避される場合、高新水性および構造的に無秩序であることである(Breibeck & Skerra、2018;Schlapschyら、2013)。とりわけ、そのアミノ酸配列が遺伝子レベルで正確に定義されるPASポリペプチドは完全に中性であるが、一方、その側鎖は - 特にSerを含まないP/A配列の場合 - 明白な極性基を欠く。したがって、Pro/Alaリッチ配列(PAS)の強力な親水性は、堅固な二次構造の非存在下での水性溶媒へのペプチド基の曝露によって説明される(Breibeck & Skerra、2018)。最後にといっても大事なことであるが、明白な極性基の欠如に起因して、Pro/Alaリッチ配列/(PAS)配列は動物では、特に哺乳動物では免疫原性を欠く。この低免疫原性は実際、製薬分野および医療分野ではPASylation(登録商標)技術のホールマークの1つである。
【0023】
PASylation(登録商標)技術において用いられるようなPASポリペプチドは、哺乳動物において、特にマウス、ラットまたはウサギのようなげっ歯類、すなわち(モノクローナル)抗体の調製にルーチンに使用される動物において、免疫原性を欠く(「免疫学的に不活性」である)と知られる。実際、その制限されたアミノ酸組成の結果として、PASポリペプチドは、とりわけ免疫応答において分子認識の役割を正常に担う荷電側鎖と嵩高い疎水性側鎖の両方を欠く。加えて、生理学的条件下でのそのランダムコイル挙動は、抗体などの結合タンパク質との複合体形成時の無秩序-秩序転移にあたり莫大なエントロピーコストを引き起こす。このことはまた、PAS化抗体断片を用いる多数のin vivoイメージング研究によってならびにタンパク質の反復投薬を伴う前臨床動物実験においても証明されており、この場合、非標的組織または臓器へのいかなる非特異的結合もPAS特異的免疫応答もどちらも検出可能ではなかった(Bolzeら、2016;Griffithsら、2019;Harariら、2014;Mendlerら、2015;Richterら、2020)。
【0024】
しかし、本発明者らは、以前の動物研究におけるPro/Alaリッチ配列(PAS)の免疫原性に関するこういった欠如にもかかわらず、異なるPro/Alaリッチ配列(PAS)、特に(モノクローナル)抗体に特異的に結合する結合部分を生成することに成功した。本成功は、非ヒト動物の免疫において用いられる特異的抗原の新規で進歩性のある手立てに基づく。前記進歩性のある抗原は、本明細書では、(P/A)配列[(P/A)はアミノ酸配列である]または(P/A)抗原[本明細書において定義されるフォーマットRN-(P/A)-RCのフォーマットでの]を含んで表されるが、これらは、例えばキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)など、高免疫原性のキャリアタンパク質(「免疫アジュバント」)とのそれらのコンジュゲーションによって特徴付けられる。(P/A)配列または(P/A)抗原は、(P/A)配列/抗原のC末端アミノ酸またはリンカー残基のカルボキシ基(本明細書では「RC」)と免疫アジュバントの1個または複数の遊離アミノ基との間に形成されるアミド結合を介して前記免疫アジュバントにコンジュゲートされる。さらに、本発明の文脈において用いられる(P/A)配列/抗原は、N末端がブロックされる、すなわち、前記(P/A)配列/抗原のN末端アミノ基に結合しており「RN」と本明細書では表される保護基によってブロックされる。このことはまた、N末端特異的抗体の形成を不要とする。
【0025】
本発明の方法は、本明細書において開示されるようなそして特に本明細書で論じられるRN-(P/A)-RC形態で提供されるような、(P/A)ペプチド/配列/抗原による非ヒト哺乳動物(特にマウス(単数または複数))の免疫を含む。これらの(P/A)配列/抗原は、本明細書において定義される免疫原、すなわちN末端にての保護基「RN」およびC末端に連結された免疫アジュバントを含む免疫原として、直接使用される。しかし、免疫に使用される抗原が複数の前記(P/A)ペプチド/配列/抗原を含むことも想定される。したがって、本発明の文脈において使用される抗原は、免疫アジュバントと、本明細書において開示されるような1つまたは複数の(P/A)ペプチド/配列/抗原とのコンジュゲートである。
【0026】
好ましい(P/A)ペプチド/配列/抗原は:
約5個~約100個のアミノ酸残基、より好ましくは約8個~約90個のアミノ酸残基からなる、アミノ酸配列/抗原であって、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも60%、少なくとも70%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む、アミノ酸配列/抗原;
約5個~約100個のアミノ酸残基、より好ましくは約10個~約80個のアミノ酸残基からなる、アミノ酸配列/抗原であって、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも70%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも95%がプロリン、アラニンおよびセリンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む、アミノ酸配列/抗原;ならびに/または
プロリン、アラニンおよびセリンから独立して選択される約20~約40個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列/抗原であって、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも70%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む、アミノ酸配列/抗原
を含むことができる。
【0027】
本発明の一実施形態では、非ヒト哺乳動物の免疫のために本明細書において提供される方法で使用される(P/A)ペプチド/配列/抗原は、前記(P/A)に含まれるプロリン残基の数と(P/A)に含まれるアミノ酸残基の総数との割合が、≧約10%および≦約70%、好ましくは≧約20%および≦約50%、より好ましくは≧約25%および≦約40%である、(P/A)配列/抗原であり得る。
【0028】
上記に従って、本発明の文脈において用いられる(P/A)ペプチド/配列/抗原は、(i)「ASPA」、「APAP」、「SAPA」、「AAPA」および「APSA」から独立して選択される5つ以上の部分配列、ならびに(ii)任意選択で、プロリン(P)、アラニン(A)およびセリン(S)から独立して選択される1個、2個または3個のさらなるアミノ酸残基からなる(P/A)ペプチド/配列/抗原であり得る。(P/A)ペプチド/配列/抗原はまた、「ASPA」、「APAP」、「SAPA」、「AAPA」および「APSA」から独立して選択されるこれらの部分配列のマルチマーならびに組み合わせも含むことができる。一実施形態では、前記(P/A)ペプチド/配列/抗原は、(i)配列ASPA-APAP-ASPA-APAP-SAPA(配列番号1)、(ii)配列AAPA-APAP-AAPA-APAP-AAPA(配列番号2)、(iii)配列APSA-APSA-APSA-APSA-APSA(配列番号3)、(iv)前述の配列のいずれかの重複、または(v)前述の配列のうちの少なくとも2つの組み合わせからなる。
【0029】
かかるペプチド/配列/抗原の非限定的な例は、(i)配列ASPA-APAP-ASPA-APAP-SAPA-ASPA-APAP-ASPA-APAP-SAPA、(ii)配列AAPA-APAP-AAPA-APAP-AAPA-AAPA-APAP-AAPA-APAP-AAPA、または(iii)配列APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSAからなる(P/A)である。また、これらの配列のマルチマーも本発明の要旨に含まれ、本明細書において提供される非ヒト動物の免疫方法において用いられ得る。実施形態の非限定的な例も、「PAS#1」、「P/A#1」、または「APSA」として実験部において提供される。実験部では、(「免疫アジュバント」)にコンジュゲートされ、N末端がブロックされたかかる20マーペプチド(または配列番号5、6または7に例示される40マーなど、そのマルチマー)を例示的な例として用いた。驚くべきことに、PAS配列モチーフに対する高結合活性および高特異性を有するいくつかのモノクローナル抗体(MAb)が、本明細書において開示される新規で進歩性のある方法を用いて取得された。
【0030】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、前記抗原結合分子、前記抗体および/または前記抗原結合断片を生成するための方法は、1つまたは複数のP/Aペプチドを含む抗原による非ヒト動物の免疫を含み、
ここで、前記P/Aペプチドは独立してペプチド
RN-(P/A)-RC
であり、
前記P/Aペプチドは約5個~約100個のアミノ酸残基からなるペプチドであり、(P/A)中のアミノ酸残基の数の少なくとも70%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、(P/A)は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含み、
RNは、(P/A)のN末端アミノ基に結合している保護基であり、
RCはアミノ酸残基であって、そのアミノ基を介して(P/A)のC末端カルボキシ基に結合され、そのアミノ基とそのカルボキシ基との間に少なくとも1個の炭素原子を含む、アミノ酸残基であり、
各P/Aペプチドは、P/AペプチドのC末端アミノ酸残基RCのカルボキシ基と免疫アジュバントの遊離アミノ基とから形成されるアミド結合を介して免疫アジュバントにコンジュゲートされる。
【0031】
また、本発明のこの好ましい実施形態の文脈では、上で本明細書において提供されたP/Aペプチド/抗原および/または(P/A)についての説明がここでも当てはまる。
上で本明細書において論じられているように、本発明者らは、驚くべきことに、とりわけ、既知のPASylation(登録商標)アプローチ/技術において用いられるような、天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチドに対して、特にPAS配列に対して向けられた(非ヒト)モノクローナル抗体(MAb)の生成にあたり、本明細書で提供される手段および方法により、成功を収めた。PASylation(登録商標)技術において用いられるようなこういった天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチドまたはPASポリペプチドは、哺乳動物において、特にマウス、ラットまたはウサギのようなげっ歯類、すなわち(モノクローナル)抗体の調製にルーチンに使用される動物において、免疫原性を欠く(「免疫学的に不活性」である)と知られる。本成功は、本明細書でならびに添付の実験部で、実施例でおよび添付の図で例示されるように、本明細書に定義されるP/Aペプチド/抗原または(P/A)(またはそれらのマルチマー)からなるかおよび/またはそれらを含む、免疫のための抗原の使用の結果である。本明細書において論じられているように、前記P/Aペプチド/抗原は、ランダムコイルコンフォメーションをとることができる。さらに、抗原は、本明細書において定義される2つ以上の「P/Aペプチド」を含むことができる。前記抗原に含まれるP/Aペプチドは、「ASPA」、「APAP」、「SAPA」、「AAPA」および「APSA」から独立して選択される非限定的な配列など、本明細書において定義されたとおり、同じP/A配列の多重のコピーであり得る。例が本明細書において提供され、配列番号5、6または7のような配列においても例示される。ここでも、本発明の文脈において用いられる抗原は、免疫アジュバントと1つまたは複数のP/Aペプチドとの抗原コンジュゲートであり、ここで、各P/Aペプチドは独立して構造
RN-(P/A)-RC
のペプチドである。
【0032】
本発明の文脈において、RNは、本明細書で定義される(P/A)アミノ酸配列のN末端アミノ基に結合している保護基である。前記RNは、ピログルタモイル(Pga;2-ピロリドン-5-カルボン酸または5-オキソプロリンとして知られる)、ホモピログルタモイル、ホルミル、アセチル、ヒドロキシアセチル、メトキシアセチル、エトキシアセチル、プロポキシアセチル、プロピオニル、2-ヒドロキシプロピオニル、3-ヒドロキシプロピオニル、2-メトキシプロピオニル、3-メトキシプロピオニル、2-エトキシプロピオニル、3-エトキシプロピオニル、ブチリル、2-ヒドロキシブチリル、3-ヒドロキシブチリル、4-ヒドロキシブチリル、2-メトキシブチリル、3-メトキシブチリル、4-メトキシブチリル、グリシンベタイニル(glycine betainyl)、o-アミノベンゾイル、-NH-(C1~6アルキル)、-N、N(C1~8アルキル)2、N,N,N-トリ(C1~6アルキル)3、N,N-テトラメチレン、およびN,N-ペンタメチレンから選択され得る。
【0033】
RNが、N-(C1~6アルキル)基、N,N-ジ(C1~6アルキル)基、またはN,N,N-トリ(C1~6アルキル)基である場合、保護される(P/A)部分のアミノ基の窒素原子に結合される1個、2個または3個のC1~6アルキル基が存在することになることを理解されたい。窒素原子に結合された2個または3個のアルキル基の場合では、それぞれのアルキル基はそれぞれ独立してC1~6アルキル基であり、したがって、同一でも異なっていてもよい。3個のアルキル基の場合では、前記窒素原子はアンモニウム基である。
【0034】
さらに、RNがN,N-テトラメチレン基またはN,N-ペンタメチレン基である場合、テトラメチレンまたはペンタメチレンの炭素鎖の両端は、保護される同じアミノ基の窒素原子に結合すること、および、したがって、それらが結合する窒素原子と一緒になって、飽和の5員環または6員環(すなわち、ピロリジン環またはピペリジン環)を形成することになることを理解されたい。
【0035】
本明細書で使用される場合、「RC」とは、そのアミノ基を介して本明細書で定義される(P/A)アミノ酸配列のC末端カルボキシ基に結合されるアミノ酸残基であり、「RC」は、そのアミノ基とそのカルボキシ基との間に少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個または6個の炭素原子を含む。好ましい実施形態では、前記「RC」は、H2N-(C1~12ヒドロカルビル)-COOHであり得る。別の好ましい実施形態では、「RC」は、H2N-(CH2)1~10-COOH、H2N-フェニル-COOH、およびH2N-シクロヘキシル-COOHからなる群から選択され得る。さらにより好ましいのは、「RC」は、H2N-CH2-COOH(Gly)、H2N-(CH2)2-COOH(β-Ala)、H2N-(CH2)3-COOH、H2N-(CH2)4-COOH、H2N-(CH2)5-COOH、H2N-(CH2)6-COOH、H2N-(CH2)7-COOH、H2N-(CH2)8-COOH、p-アミノ安息香酸、および4-アミノシクロヘキサンカルボン酸からなる群から選択されることである。最も好ましいのは、RCはH2N-(CH2)5-COOH(アミノヘキサン酸)であることである。
【0036】
好ましい実施形態では、そして添付の実施例に例示されるように、本発明の手段および方法において用いられる抗原に含まれるP/Aペプチドは、ランダムコイルコンフォメーションをとる。さらに、前記抗原に含まれる前記P/Aペプチドは荷電残基を欠く。本明細書において論じられるように、また、とりわけ上記のWO2008/155134、WO2011/144756またはWO2018/234455(すべて参照により組み込まれる)にも開示されるように、わずかな程度までさらなるアミノ酸が含まれてもよい。また、こういったさらなるアミノ酸は、いかなる荷電残基をも欠くこと、および/またはいかなる明白な疎水性側鎖をも欠くことが好ましい。例示的な非限定的なアミノ酸はグリシンであり得る。
【0037】
本発明の文脈において用いられ、本明細書において提供されるような抗原は、免疫アジュバントと本明細書において定義される1つまたは複数のP/Aペプチドとのコンジュゲートである。このような「免疫アジュバント」は当技術分野で知られ、高免疫原性キャリアタンパク質として記載されるが、この高免疫原性キャリアタンパク質は、これが投与される対象に対して排他的にではないが好ましくは外来性(すなわち、異なる種に由来する)である。好ましくは、そして実施例に例示されるように、そのような免疫アジュバントは、約5メガダルトン(5 000 000Da)を超える分子質量を有するタンパク質複合体を形成する。このような免疫アジュバントの好ましい例はKLHである。同様に、こういった高免疫原性のキャリアタンパク質は、「免疫アジュバント」/高免疫原性キャリアタンパク質自体に対して向けられた検出可能な抗体力価(すなわち、それらに結合する抗体)を誘導する。本発明の文脈では、本明細書において定義されるP/Aペプチドまたは(P/A)アミノ酸配列は、リジン残基のε-アミノ基または前記免疫アジュバントの遊離N末端アミノ基にコンジュゲートされる。免疫アジュバントは、限定されないが、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、オボアルブミン(OVA)、およびウシ血清アルブミン(BSA)からなる群から選択され得る。好ましくは、前記免疫アジュバントはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である。
【0038】
上記に従って、本発明の抗原のおよび本明細書において提供される手段および方法の文脈において用いられる抗原の非限定的な例は:
Pga-PAS#1(40)-Ahx:(Pga-ASPA-APAP-ASPA-APAP-SAPA-ASPA-APAP-ASPA-APAP-SAPA-Ahx;配列番号5);
Pga-P/A#1(40)-Ahx:(Pga-AAPA-APAP-AAPA-APAP-AAPA-AAPA-APAP-AAPA-APAP-AAPA-Ahx;配列番号6);
Pga-APSA(40)-Ahx:(Pga-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-APSA-Ahx;配列番号7)
である。
【0039】
Pgaはピログルタミル残基(2-ピロリドン-5-カルボン酸または5-オキソプロリンとしても知られる)を意味し、Ahxはアミノヘキサン酸を意味する。したがって、これらの例示的な40マー「P/A」ペプチドは、相当する「PAS反復配列」の少なくとも2つのコピーを包含するように設計される。上記ペプチドは化学的に不活性な側鎖のみを含有し、ブロックされたN末端を有し、その単一のC末端カルボキシレート基(実際には、Ahxリンカー残基のうちの一つ)が選択的に活性化され、免疫アジュバント、すなわち、添付の例ではKLHのLys側鎖のε-アミノ基への特異的化学コンジュゲーションに使用される。
【0040】
したがって、本発明は、一実施形態では、新規で進歩性のある抗原を提供するが、この抗原は、非ヒト動物において、特にマウスやラットのようなげっ歯類において、非限定的にウマ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ科動物等を含む他の哺乳動物においても、天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチドに対して向けられた抗原結合分子(特に抗体)を生成するための本発明の方法においてとりわけ例外なく用いられ得る。したがって、本発明はまた、本明細書において定義および提供される抗原にも関する。また、本発明の要旨は、本発明の方法におけるこういった(単数/複数の)抗原の使用でもある。それ故、本発明はまた、非ヒト哺乳動物の免疫を含む、天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた抗原結合分子、好ましくは抗体またはその抗原結合断片を生成するための、本明細書において提供されるような抗原の非治療的使用にも関する。
【0041】
本発明によって取得可能であり取得されるような、結合部分、特に抗原結合分子、最も特に抗体またはそれらの抗原結合断片は、天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチドに対して向けられる。これらの結合部分、抗原結合分子、抗体またはそれらの抗原結合断片も本発明の一部であり、それらは、本技術分野においてまた知られるように、構造的に無秩序な配列および/または天然変性配列に、特にPro/Alaリッチ配列(PAS)に好ましくかつ特異的に結合する。このようなPro/Alaリッチ配列(PAS)は、本明細書において定義され、また、WO2008/155134およびWO2011/144756に記載もされる。上で論じられるように、これらの「PAS」部分は、(Schlapschyら、2013)または(Binder & Skerra、2017)にさらに記載されるように、ランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも7個のアミノ酸残基および約2000個までのアミノ酸残基からなるペプチドにも関連し、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)、またはPro(P)およびAla(A)から選択される。本明細書で提供される抗原結合分子の、最も特に抗体またはそれらの抗原結合断片の「結合標的」は、したがって、好ましい実施形態では、天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインであるが、これらは、Pro/Alaリッチ配列(PAS)であり、かつ/または、ランダムコイルコンフォメーションを形成する、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも40個、少なくとも50個、少なくとも60個、少なくとも80個、少なくとも100個、少なくとも120個、少なくとも140個、少なくとも160個、少なくとも180個、少なくとも190個、少なくとも200個、または約200個、約250個、約300個、約350個、約400個、約450個、約500個、約550個、約600個、約650個、約700個、約750個、約800個、約850個、約900個、約950個、約1000個、約1500個または約2000個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)から選択されるか、またはPro(P)およびAla(A)である。ランダムコイルコンフォメーションを形成するPro/Alaリッチ配列(PAS)に関するさらなる定義および説明は、とりわけ、WO2008/155134およびWO2011/144756に提供されており、これらの両方が参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
本発明のさらなる実施形態では、結合部分、特に抗原結合分子、最も特に抗体またはそれらの抗原結合断片は、Pro/Alaリッチ配列(PAS分子;「PAS」)に結合することができ、ここで、前記PASは、約7個~約2000個の、好ましくは約7個~約1200個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり得、「PAS」中のアミノ酸残基の数の少なくとも80%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、前記「PAS」は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む。前記PASはまた、約8個~約400個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり得、ここで、「PAS」中のアミノ酸残基の数の少なくとも85%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、「PAS」中のアミノ酸残基の数の少なくとも95%はプロリン、アラニン、グリシンおよびセリンから独立して選択され、「PAS」は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む。本発明の結合部分はまた、Pro/Alaリッチ配列(PAS分子;「PAS」)に特異的に結合することができ、ここで、「PAS」は、プロリン、アラニン、グリシンおよびセリンから独立して選択される10個~60個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、「PAS」中のアミノ酸残基の数の少なくとも95%はプロリンおよびアラニンから独立して選択され、「PAS」は少なくとも1個のプロリン残基および少なくとも1個のアラニン残基を含む。相当する「PAS分子」は、参照によりまた組み込まれるWO2018/234455にも記載される。
【0043】
したがって、特定の実施形態では、本発明の結合部分、抗原結合分子または抗体(もしくはそれらの抗原結合断片)は、Pro/Alaリッチ配列(PAS)に、および/または、ランダムコイルコンフォメーションを形成する、少なくとも20個、好ましくは少なくとも40個、好ましくは少なくとも60個、好ましくは少なくとも80個、より好ましくは少なくとも100個、より好ましくは少なくとも120個、より好ましくは少なくとも140個、より好ましくは少なくとも160個、より好ましくは少なくとも180個、より好ましくは少なくとも200個、より好ましくは、より好ましくは少なくとも300個~約1200個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に、特異的に結合し、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)から選択されるか、またはPro(P)およびAla(A)である。したがって、本発明の結合部分の好ましい標的Pro/Alaリッチ配列(PAS分子;「PAS」)は、アラニン、セリンおよびプロリンを含むかもしくはそれらからなる、または、アラニンおよびプロリンを含む。
【0044】
本発明の一実施形態では、本発明の結合部分、特に抗原結合分子、最も特に抗体またはそれらの抗原結合断片は、前記PAS標的配列上の少なくとも1つのエピトープに結合し、かつ/またはそれを検出することができる。本エピトープは線状エピトープであってもよいが、三次元構造によってもたらされるエピトープであってもよい。添付の非限定的な実施例は、エピトープマッピング、SPOTエピトープ解析、抗原親和性測定(例えばELISAによる)、表面プラズモン共鳴(SPR)リアルタイム測定、ウエスタンブロッティングを含めて、抗原結合断片(特にFab断片)の共結晶化等によっても、相応する結合研究に対する十分な証拠を提供する。限定するものではないが、本発明の一実施形態では、本発明の抗原結合分子は、最も特に抗体またはそれらの抗原結合断片は、構造
(P/S)A(A/S)P;および/または
PA(A/S)P
の少なくとも1つのエピトープを含む、Pro/Alaリッチ配列を結合することができる。
【0045】
前記エピトープは、PAPAAP(配列番号8)、PAPASP(配列番号9)、PASPAAP(配列番号10)、PSAAPS(配列番号79)、ASPAAP(配列番号80)、PASPAA(配列番号81)、PAAP(配列番号82)、PASP(配列番号83)、APSA(配列番号84)およびPSAA(配列番号85)からなる群から選択されるエピトープストレッチであってもよく、またはこれを含んでもよい。
【0046】
本明細書で添付の実施例に、および以下に例示されるように、本発明は、複数の新規で進歩性のある抗体またはその抗原結合断片を提供する。ここでも、限定することなく、理論に拘束されることなく、
「PAAP」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 2.2、抗PA(S) MAb 2.1、抗PA(S) MAb 1.1および抗PA(S) MAb 1.2に対して推定される;
「PASP」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 2.2、抗PA(S) MAb 2.1、抗PA(S) MAb 1.1および抗PA(S) MAb 1.2に対して推定される;
「PAPASP」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 2.2および抗PA(S) MAb 2.1に対して推定される;
「PAPAAP」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 2.2および抗PA(S) MAb 2.1に対して推定される;
「PASPAAP」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 1.1および抗PA(S) MAb 1.2に対して推定される;
「PASPAA」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 1.1に対して推定される;
「ASPAAP」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 1.1および抗PA(S) MAb 1.2に対して推定される;
「APSA」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 3.1および抗PA(S) MAb 3.2に対して推定される;
「PSAA」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 3.1および抗PA(S) MAb 3.2に対して推定される;
「PSAAPS」のエピトープ検出が、抗PA(S) MAb 3.2に対して推定される。
【0047】
また、本明細書において提供される抗原結合分子(Fab断片)の添付の、非限定的であるが高度に例示的な(共)結晶化データのとおり、実施例のさらなるエピトープ研究が例示するところは、本発明の抗原結合分子(すなわち、抗体/それらの抗原結合断片)は、アラニン残基(A、Ala)を含むエピトープに結合する。興味深いことに、Pro/Alaリッチ配列のうちの少なくとも1個のAla残基は、抗PAS Fabとの適切な相互作用に関与する;したがって、限定するものではないが、アラニンは、Pro/Alaリッチ配列内のPASエピトープとの本発明の抗体の相互作用のための「ホットスポット」と考えられ得る。本発明に至るまで、最小の側鎖を有するアミノ酸であるAlaは、タンパク質-タンパク質/ペプチド認識において取るに足りない役割を担うとされてきた。事実、アラニンスキャニング突然変異誘発の戦略(Cunningham & Wells、1989)は、受容体-リガンド結合または抗体-抗原結合にクリティカルな残基を精査するための幅広い応用を見出し、その結果、分子相互作用に対するAlaメチル側鎖の準不活性な役割を想定した。予想外なことに、本発明が明らかにするところは、特に本発明の文脈において提供される結晶構造研究によって例示されるように、Alaが実際に抗原認識において中心的な役割を取ることができることである。
【0048】
これに関連して、本発明はまた、本発明の結合部分、抗原結合分子、抗体/その抗原結合断片と、Pro/Alaリッチ配列(PAS)分子および本明細書において提供されるようなエピトープ、特にアラニンを含むエピトープとの間の複合体を提供する。これらのエピトープは、(P/S)A(A/S)Pおよび/またはPA(A/S)Pのような構造を含むことができる。例が本明細書において提供される。
【0049】
本発明のさらなる実施形態では、本明細書において提供される手段および方法によって取得可能であるような特異的結合部分、特に本発明の抗原結合分子(抗体およびそれらの抗原結合断片など)と、Pro/Alaリッチ配列/(PAS)分子との間の、複合体が本明細書で提供され、特許請求される。また、本発明の結合部分または抗原結合分子(抗体およびそれらの抗原結合断片など)と、Pro/Alaリッチ配列((PAS)分子)を含む融合タンパク質および/または薬物コンジュゲートとの間の複合体は、本発明の一部である。本発明のそのような「抗「PAS」複合体」は、限定するものではないが、診断、スクリーニングの方法において、また本明細書において提供される研究ツールとしても特に有用である。
【0050】
上で論じられているように、そして添付の実施例で例示されているように、本発明者らは、初めて、天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチド、特に、Pro/Alaリッチ配列(PAS)分子および/またはこういったPro/Alaリッチ配列(PAS)分子によって構成されるかまたはそれらによって形成されるエピトープを特異的に結合する結合部分、抗原結合分子、抗体/それらの抗原結合断片を提供する。
【0051】
したがって、本発明は、本明細書で提供される手段、特に方法によって取得可能であるようなおよび/または取得されるような結合部分、抗原結合分子、抗体/それらの抗原結合断片を含む。したがって、本発明はまた、本明細書において提供される方法によって取得可能な、特異的結合部分、好ましくは抗原結合分子、より好ましくは抗体、ならびに/または、天然変性タンパク質および/もしくは天然変性タンパク質のドメインに、または前記天然変性タンパク質および/もしくは天然変性タンパク質のドメインの抗原性部分に、特異的に結合する、特異的結合部分、好ましくは抗原結合分子、より好ましくは抗体を提供し、
(i)ここで、前記天然変性タンパク質および/もしくは天然変性タンパク質のドメインは、Pro/Alaリッチ配列(PAS)であり、および/またはランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも20個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)から選択されるか、またはPro(P)およびAla(A)であり、ならびに/または
(ii)前記特異的結合部分、好ましくは前記抗原結合分子は、構造:(P/S)A(A/S)Pおよび/またはPA(A/S)Pのエピトープに結合する。このようなエピトープは、PAPAAP(配列番号8)、PAPASP(配列番号9)、PASPAAP(配列番号10)、PSAAPS(配列番号79)、ASPAAP(配列番号80)、PASPAA(配列番号81)、PAAP(配列番号82)、PASP(配列番号83)、APSA(配列番号84)およびPSAA(配列番号85)からなる群から選択され得る。
【0052】
本発明の結合部分は、抗原結合分子ならびに抗体(MAb)またはそれらの抗原結合断片(例えば、Fab)であり得る。前記抗原結合分子は、免疫グロブリン(Ig)、抗体、その抗原結合断片、二重特異性抗体、IgG抗体、ラクダ/ラマ重鎖抗体(ラクダ科動物の抗体)、免疫グロブリン新規抗原受容体(IgNAR)または抗体模倣物であり得る。本発明はまた、本発明の結合部分、抗原結合分子ならびに抗体またはそれらの抗原結合断片に基づいて組換え手段を介して操作され、かつ、本明細書において提供される手段および方法によって取得可能であるような、抗体、抗体構築物のそれらの抗原結合断片を含む。例えば、抗原結合分子の相当する配列情報は、そのような操作された/組換え結合部分/抗原結合分子の構築において用いられ得る。このような操作された/組換え結合部分/抗原結合分子は、とりわけ、本発明の方法によって取得される、または本明細書において例示的に提供されるような、抗体のCDR配列に基づくことができる。
【0053】
本発明はまた、モノクローナル抗体、キメラ抗体、組換え抗体、および組換え抗体またはキメラ抗体の抗原結合断片からなる群から選択され得る抗原結合分子/抗体も提供する。発明にかかわる抗原結合断片は、限定するものではないが、Fab断片、Fab’断片、(Fab’)2断片、単鎖可変断片(scFv)、単一ドメイン抗体またはVHHドメインもしくはナノボディなどの断片であり得る。本明細書において使用されるような「抗体」という用語は、ヒト化抗体、またはファージ、酵母細胞、細菌細胞もしくは哺乳動物細胞の表面で提示される抗体も含む。本発明の抗体は、IgG1、IgG2、IgG2aもしくはIgG2b、IgG3またはIgG4の各抗体であり得る。
【0054】
本発明のPAS結合部分/抗体(抗PA(S) MAb)は、構造的に無秩序なPAS配列、配列ストレッチ、(ポリ)ペプチドセグメントまたはタンパク質のドメインを欠くタンパク質との交差反応性を実質的に示さないか、または非常に低い交差反応性を示す。具体的には、前記抗PA(S) MAbは、ヒト血漿タンパク質および/または霊長類、哺乳動物、げっ歯類由来の、特にサル、マカク、ヒヒ、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ由来の血漿タンパク質とまったく交差反応性を示さないか、または非常に低い交差反応性を示す。さらに、別の実施形態では、前記抗PA(S) MAbは、組換えタンパク質生産、遺伝子工学またはバイオテクノロジーの分野において通常に用いられるような生産生物体、例えば、大腸菌、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)もしくはシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)のような細菌、または、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)もしくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)のような酵母、またはCHO、HEK、NS0もしくはCOSの各細胞のような哺乳動物細胞由来の宿主細胞タンパク質との交差反応性をまったく示さないか、または非常に低い交差反応性を示す。
【0055】
本発明によるPAS結合部分/抗体(抗PA(S) MAb)は、PAS配列、PASポリペプチドおよび/またはPAS融合タンパク質もしくはコンジュゲートに対して高親和性/低解離定数(KD値)を示す。このようなKD値は、当技術分野でよく知られる多くの技法を使用して、例えば、下に本明細書においてさらに開示される実施例に例示されるようなELISAまたはSPR測定を使用して決定され得る。注目すべきことに、かかる測定は、インタクトな抗体(MAb)についてまたはそれらの抗原結合断片について、例えば、Fab断片、Fv断片またはscFv断片について実施され得、相当するKD値は、抗体タンパク質のタイプ(インタクトなまたは断片)および使用されるまさにそのアッセイ(ELISA、SPR、蛍光滴定等)に応じて異なることができる。一般に、好ましいKD値は、500μM未満、200μM未満、100μM未満、50μM未満、10μM未満、より好ましくは1μM未満、500nM未満、200nM未満、100nM未満、50nM未満、20nM未満、10nM未満、5nM未満、2nM未満、さらにより好ましくは1nM未満、500pM未満、200pM未満または100pM未満である。生物分析アッセイまたは診断アッセイにおける本発明による抗PA(S) MAbの使用の場合、特に低いKD値が好ましいが、例えば、10nM未満、5nM未満または2nM未満、さらにより好ましくは1nM未満、500pM未満、200pM未満または100pM未満である。
【0056】
理論に拘束されることなく、添付の実施例にも示されるように、本発明の結合部分/抗体の見かけの親和性は、アビディティ効果によって影響され、多重のエピトープを含有する長いPAS反復配列と相互作用する場合、二価MAbに対して最も明白であると思われる。その同族のPASエピトープペプチドと複合体を形成した本発明の抗体の組換えFab断片のX線構造解析が明らかにしたところは、その相互作用は、ペプチド骨格による水素結合ネットワークならびに密接な形状相補性からもたらされる多重のファンデルワールス相互作用によって支配されることである。上で論じられているように、そして最も驚くべきことに、最小の側鎖を有するアミノ酸であるAlaが(側鎖を欠くGlyは別として)、本発明の結合部分/抗体の抗原認識にとって極めて重要な機能として浮かび上がった。前記Alaは、さまざまな「抗PAS複合体」のパラトープの中心で大きな貢献をもたらす。
【0057】
本発明はまた、本発明の結合部分/抗原結合分子/抗体および/またはこれらの本発明の抗体の抗原結合断片の具体的であるが非限定的な例も提供する。また、これに関連して、「抗原結合分子」という用語は抗原結合断片を含むが、一方、上記用語は特に、本明細書において提供され、本明細書において記載されるような天然変性ペプチド/タンパク質および/または天然変性ペプチド/タンパク質のドメインに対して向けられた、および/または、本発明の方法によって取得可能である、本発明の抗体の抗原結合断片も好ましくは含む。
【0058】
したがって、本発明は、
a)配列番号35において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 1.1]と、
配列番号36において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 1.1]と、
配列番号37において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 1.1]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号38において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 1.1]と、
配列番号39において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 1.1]と、
配列番号40において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 1.1]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または、
(a)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
b)配列番号41において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 1.2]と、
配列番号42において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 1.2]と、
配列番号43において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 1.2]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号44において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 1.2]と、
配列番号45において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 1.2]と、
配列番号46において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 1.2]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(b)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
c)配列番号47において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 2.1]と、
配列番号48において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 2.1]と、
配列番号49において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 2.1]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号50において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 2.1]と、
配列番号51において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 2.1]と、
配列番号52において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 2.1]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(c)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
d)配列番号53において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 2.2]と、
配列番号54において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 2.2]と、
配列番号55において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 2.2]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号56において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 2.2]と、
配列番号57において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 2.2]と、
配列番号58において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 2.2]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(d)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
e)配列番号59において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 3.1]と、
配列番号60において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 3.1]と、
アミノ酸Trp-Gly-Argを含むかまたはそれからなるCDR-H3と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号62において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 3.1]と、
配列番号63において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 3.1]と、
配列番号64において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 3.1]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(e)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片;
ならびに
f)配列番号65において定義されるCDR-H1[抗PA(S) MAb 3.2]と、
配列番号66において定義されるCDR-H2[抗PA(S) MAb 3.2]と、
配列番号67において定義されるCDR-H3[抗PA(S) MAb 3.2]と
を含む可変重(VH)鎖、および/もしくは
配列番号68において定義されるCDR-L1[抗PA(S) MAb 3.2]と、
配列番号69において定義されるCDR-L2[抗PA(S) MAb 3.2]と、
配列番号70において定義されるCDR-L3[抗PA(S) MAb 3.2]と
を含む可変軽(VL)鎖を含むか、または
(f)のCDRのいずれか1つもしくは複数を含む抗体と同じエピトープに結合する抗体またはその抗原結合断片である、抗体またはその抗原結合断片
からなる群から選択される、抗原結合ドメインも提供する。
【0059】
抗PA(S)Mab3.1を構成するような配列「Trp-Gly-Arg」は、本明細書では配列番号61として指示される。しかし、添付の配列表では、この配列番号は「000」として表されるが、なぜなら、本配列は3個のアミノ酸のみからなり、BiSSAPは3個のアミノ酸残基のみを有する配列を含めることを許可しないからであることを理解されたい。また、ST.25規格が指示するところは、長さが4個以上のアミノ酸残基を有する配列のみが対応する配列表に含まれるものとすることである。
【0060】
一実施形態では、本発明は、本発明の抗体もしくは抗原結合断片のいずれかと同じエピトープに結合する、または本発明の手段および方法によって取得可能であるような、抗原結合分子に関する。本発明の特定の一実施形態では、前記抗原結合分子は、(a)~(f)により上に本明細書において定義される抗体または抗原結合断片のいずれかと同じエピトープに結合する。
【0061】
上で本明細書において論じられているように、本発明はまた、本発明の抗体の抗原結合断片である抗原結合分子を含む。これらの抗原結合断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、Fv断片またはscFv断片からなる群から選択され得る。このような抗原結合断片は、タンパク質結晶学からのデータおよびエピトープ結合に関するデータをも含めて、添付の実施例に例示される。また、エピトープの解明のためとともにエピトープ結合のための、他の手段および方法も、添付の実験部に十分に提供される。相当する技法は、ELISAおよびウエスタンブロットのような免疫学的アッセイ、ならびにエピトープマッピングのためのSPOTアッセイ、さらには、例えば、組換えFab断片とPASエピトープペプチドの間の複合体に関するX線構造解析のようなより複雑な技法も含む。しかし、当業者であれば、抗体および/またはその抗原結合断片を含めて、所定の抗原結合分子のエピトープ結合を容易に推定することができる立場にいる。
【0062】
本発明の文脈では、「同じエピトープへの結合」という用語は、線状エピトープに限定されず、本用語は、同じ三次元立体構造へのまたは「立体構造」エピトープへの結合も含むことができる。
【0063】
さらなる実施形態では、本発明は、抗原結合分子、特に抗体またはその抗原結合断片に関し、ここで、前記抗原結合分子、抗体またはその抗原結合断片は、
(a)配列番号11[抗PA(S) MAb 1.1]、配列番号13[抗PA(S) MAb 1.2]、配列番号:15[抗PA(S) MAb 2.1]、配列番号17[抗PA(S) MAb 2.2]、配列番号19[抗PA(S) MAb 3.1]もしくは配列番号21[抗PA(S) MAb 3.2]のアミノ酸配列、
もしくは配列番号11、13、15、17、19もしくは21と85%、好ましくは87%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列
を含む可変重(VH)鎖配列;ならびに
配列番号12[抗PA(S) MAb 1.1]、配列番号14[抗PA(S) MAb 1.2]、配列番号16[抗PA(S) MAb 2.1]、配列番号18[抗PA(S) MAb 2.2]、配列番号20[抗PA(S) MAb 3.1]もしくは配列番号22[抗PA(S) MAb 3.2]のアミノ酸配列、
もしくは配列番号12、14、16、18、20もしくは22と85%、好ましくは87%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する配列
を含む可変軽(VL)鎖配列を含むか;または、
(b)(a)の抗体と同じエピトープに結合する抗体である。
【0064】
これに関して、配列番号11、13、15、17、19または21は、例示的な抗体の重鎖可変領域/可変重(VH)鎖配列を提供し、一方、配列番号12、14、16、18、20または22は、例示的な抗体の軽鎖可変領域/軽重(VL)鎖配列を提供する。注目すべきことに、配列番号19に示されるような重鎖配列番号19[抗PA(S) MAb 3.1]のCDR-H3は比較的短く、単に3個のアミノ酸、すなわちアミノ酸Trp-Gly-Arg(配列番号61;「抗PA(S) MAb 3.1」についての添付の配列プロトコルにおけるプレースホルダーとして「000」配列によって特徴付けられる)を含む。
【0065】
本発明の特に好ましい抗原結合分子または抗体、すなわち、抗PA(S) MAb 1.1として本明細書において表される抗体は、
a)配列番号35において定義されるCDR-H1と、配列番号36において定義されるCDR-H2と、配列番号37において定義されるCDR-H3とを含む可変重(VH)鎖、および、配列番号38において定義されるCDR-L1と、配列番号39において定義されるCDR-L2と、配列番号40において定義されるCDR-L3とを含む可変軽(VL)鎖配列を含むか、または、
b)(a)の抗体と同じエピトープに結合する抗体である、
抗原結合分子または抗体である。
【0066】
本発明のさらに好ましい抗原結合分子または抗体、すなわち、抗PA(S) MAb 1.2として本明細書において表される抗体は、
a)配列番号41において定義されるCDR-H1と、配列番号42において定義されるCDR-H2と、配列番号43において定義されるCDR-H3とを含む可変重(VH)鎖、および、配列番号44において定義されるCDR-L1と、配列番号45において定義されるCDR-L2と、配列番号46において定義されるCDR-L3とを含む可変軽(VL)鎖配列を含むか、または
b)(a)の抗体と同じエピトープに結合する抗体である、
抗原結合分子または抗体である。
【0067】
本発明のさらに好ましい抗原結合分子または抗体、すなわち、抗PA(S) MAb 2.1として本明細書において表される抗体は、
a)配列番号47において定義されるCDR-H1と、配列番号48において定義されるCDR-H2と、配列番号49において定義されるCDR-H3とを含む可変重(VH)鎖、および、配列番号50において定義されるCDR-L1と、配列番号51において定義されるCDR-L2と、配列番号52において定義されるCDR-L3とを含む可変軽(VL)鎖配列を含むか、または
b)(a)の抗体と同じエピトープに結合する抗体である、
抗原結合分子または抗体である。
【0068】
本発明のさらに好ましい抗原結合分子または抗体、すなわち、抗PA(S) MAb 3.1として本明細書において表される抗体は、
a)配列番号59において定義されるCDR-H1と、配列番号60において定義されるCDR-H2と、アミノ酸配列Trp-Gly-Argを含むかまたはそれからなるCDR-H3とを含む可変重(VH)鎖、および、配列番号62において定義されるCDR-L1と、配列番号63において定義されるCDR-L2と、配列番号64において定義されるCDR-L3とを含む可変軽(VL)鎖配列を含むか、または
b)(a)の抗体と同じエピトープに結合する抗体である、
抗原結合分子または抗体である。
【0069】
本発明の結合部分/抗体は、「免疫学的に不活性」として知られる抗原(PAS配列など)に対する抗体が、本明細書において提供されるような免疫アプローチを介してどのように取得され得るかということへの、貴重な洞察を提供する。さらに、本発明はまた、明白な疎水性側鎖もしくは荷電側鎖を欠く、および/または明確な二次構造がない、および/またはランダムコイルのコンフォメーションもしくは立体配置を含む、「特徴のないペプチド」に特異的に結合するかつ/またはそれを認識する結合部分/抗体が取得され得る、手段および方法も提供する。本発明の文脈において提供され、本明細書において特徴付けられるような結合部分/抗体はまた、PAS化生物製剤またはPAS化(小分子)薬物のような - 「PAS化」とはPAS分子/配列(ポリ)ペプチドとコンジュゲートされることを意味する - 薬物コンジュゲートの前臨床および臨床開発のための貴重なツールも提供する。
【0070】
例示的なPAS化タンパク質またはペプチドとしては、それらに限定されないが、以下が挙げられる:アデノシンデアミナーゼ、アガルシダーゼアルファ、アルファヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド、アミリンまたはアナログ、抗HIV融合阻害剤(エンフルビチドなど)、アスパラギナーゼ(カラスパルガーゼなど)、Bドメイン欠損第VIII因子(ベロクトコグアルファまたはオクトファクターなど)、エンドリシンおよびエクトリシンを含むバクテリシン、二環式ペプチド(TG-758など)、ブラジキニンアンタゴニスト(イカチバントなど)、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNPまたはB型ナトリウム利尿ペプチド)、カルシトニン、CD19アンタゴニスト、CD20アンタゴニスト(Rituxanなど)、CD3受容体アンタゴニスト、CD40アンタゴニスト、CD40Lアンタゴニスト(ダピロリズマブまたはアントバなど)、セレブロシドスルファターゼ、絨毛性ゴナドトロピン、凝固第IV因子、凝固第IX因子、凝固第VIIa因子(エプタコグアルファなど)、凝固第VIII因子(スソクトコグアルファなど)、凝固第Xa因子、凝固XIII因子(カトリデカコグなど)、補体成分5aアンタゴニスト、補体因子C3阻害剤、Cペプチド、クリサンタスパーゼ、CTLA-4アンタゴニスト、C型ナトリウム利尿ペプチド、デオキシリボヌクレアーゼI(ドルナーゼアルファなど)、EGFR受容体アンタゴニスト、エリスロポエチン(エリスロポエチンアルファまたはエリスロポエチンゼータなど)、エキセンディン-4、エキセンディン-4アナログ(エキセンディン9-39など)、FcγIIB受容体アンタゴニスト、線維芽細胞増殖因子1(ヒト酸性線維芽細胞増殖因子)、線維芽細胞増殖因子18、線維芽細胞増殖因子2(ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子)、線維芽細胞増殖因子21、線維芽細胞増殖因子受容体2アンタゴニスト(FPA144など)、卵胞刺激ホルモン(フォリトロピンアルファまたはフォリトロピンベータなど)、胃抑制ポリペプチド(GIP)、GIPアナログ、GLP-1、GLP-1アナログ(リキシセナチド、リラグルチドまたはセミグルチドなど)、GLP-2、GLP-2アナログ(テドゥグルチドなど)、グルカゴンまたはアナログ、グルコセレブロシダーゼ(イミグルセラーゼなど)、ゴナドレリン、ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(ゴセレリン、ブセレリン、トリプトレリン、ロイプロリド、プロチレリン、レシレリン、フェルチレリンまたはデシオレリン)、ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニスト(アバレリクス、セトロレリクス、デガレリクス、ガニレリクスまたはテベレリクスなど)、gp120、gp160、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、グレリン、成長ホルモン(ヒト、ネコ、ウシまたはブタの成長ホルモンなど)、ヘマタイド、肝細胞増殖因子、ヘプシジンアンタゴニスト、hsp70アンタゴニスト、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(絨毛性ゴナドトロピンアルファなど)、ヒト副甲状腺ホルモン、ヒアロシダーゼまたはボブヒアルロニダーゼ、ヒアルロニダーゼ(ヒトヒアルロニダーゼPH-20など)、グルコセレブロシダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、インスリン、インスリンアナログ、インスリン様増殖因子1、インスリン様増殖因子2、インテグリンα4β1アンタゴニスト、インターフェロンタウ、インターフェロン-アルファ、インターフェロン-アルファアンタゴニスト、インターフェロン-アルファスーパーアゴニスト、インターフェロン-アルファ-n3(アルフェロンN注射液など)、インターフェロン-ベータ、インターフェロン-ガンマ、インターフェロン-ラムダ、インターロイキン、インターロイキン2融合タンパク質(DAB(389)IL-2など)、インターロイキン受容体アンタゴニスト(インターロイキン1受容体アンタゴニスト、EBI-005またはアナキンラなど)、インターロイキン-11(オプレレブキンなど)、インターロイキン-12、インターロイキン-17受容体アンタゴニスト、インターロイキン-18結合タンパク質、インターロイキン-2、インターロイキン-22、インターロイキン-22受容体サブユニットアルファ(IL-22ra)アンタゴニスト、インターロイキン-38(IL-38)、インターロイキン-4、インターロイキン-6受容体アンタゴニスト、インターロイキン-7、キヌレニナーゼ、L-アルギニン分解酵素(アルギナーゼまたはアルギニンデイミナーゼなど)、レプチン、L-イズロニダーゼ、L-フェニルアラニン分解酵素(フェニルアラニンヒドロキシラーゼまたはフェニルアラニンアンモニアリアーゼなど)、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ(エロスルファーゼアルファなど)、ナノフィチン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、アンチカリン、オクトレオチド、オルニトドロス・モウバタ(Ornithodoros moubata)補体阻害剤(OmCI/コバーシン)、パラソルモン(PTH)、PD1アンタゴニスト、PD1Lアンタゴニスト、PDGFアンタゴニスト、(PYY3-36)、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(バリアーゼなど)、ファイロマー、血小板由来増殖因子、リラキシン、リラキシンアナログ、セクレチン、RGDペプチド、セリンプロテアーゼ阻害剤(コネスタットアルファなど)、可溶性CD64、可溶性DCC(結腸直腸がんで欠失)受容体、可溶性Fc受容体(CD16、CD32、CD64など)、可溶性腫瘍壊死因子I受容体(sTNF-RI)、可溶性腫瘍壊死因子II受容体(sTNF-RII)、可溶性VEGF受容体、ソマトスタチン、ソマトスタチンアナログ(パシレオチドまたはCAP-232など)、ストレスコピン、T細胞受容体リガンド、テリパラチド(PTH1-34)、チモシンアルファ1、チモシンベータ4、チモシンベータ15、腫瘍壊死因子(TNFアルファ)、腫瘍壊死因子アルファアンタゴニスト、ウリカーゼ(ラスブリカーゼまたはペガドリカーゼなど)、ウロコルチン、血管作動性腸管ペプチド、バソプレシン、バソプレシンアナログ(デスモプレシン、フェリプレシンまたはテリプレシンなど)、VEGFアンタゴニスト(ランビズマブまたはベバシズマブなど)、VEGFアンタゴニスト、アドネクチン、PDGFアンタゴニスト、DARPin、フォン・ヴィレブランド因子(ヴォニコグアルファなど)。
【0071】
例示的なPAS化小分子薬物としては、それらに限定されないが、アマニチン、オーリスタチン、カリケアマイシン、カンプトテシン、ジゴキシゲニン、フルオレセイン、ドキソルビシン、フマギリン、デキサメタゾン、ゲルダナマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、シクロスポリン、ブプレノルフィン、ナルトレキソン、ナロキソン、ビンデシン、バンコマイシン、リスペリドン、アリピプラゾール、パロノセトロン、グラニセトロン、シタラビン、核酸(アンチセンス核酸など)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miR)阻害剤、マイクロRNA模倣物、DNAアプタマー、RNAアプタマー、LNA(ロックド核酸)、RNAワクチン、DNAワクチン、ワクチンの調製に適した炭水化物、例えば腫瘍関連炭水化物抗原(TACA、α-GalNAc-O-Ser/Thr)、シアリルTn抗原(例えばNeuAcα(2,6)-GalNAcα-O-Ser)/Thr)、トムセン・フリーデンライヒ抗原(Galβ1-3GalNAcα1)、ルイスY(例えば、Fucα(1,2)-Galβ(1,4)-[Fucα(1,3)]-GalNAc)、シアリル-ルイスXまたはシアリル-ルイスAが挙げられる。
【0072】
特定の文脈では、例えば研究目的の場合、診断ツールとして、患者層別化等を含めて、スクリーニング方法において、本発明の抗原結合分子、特に抗体またはその抗原結合断片は、タグおよび/またはラベルを含むことが、有用である場合がある。したがって、本発明はまた、本発明の手段および方法によって取得可能であるような、および/または本明細書において提供されるような抗原結合分子/抗体/それらの抗原結合断片にも関し、ここで、前記抗原結合分子/抗体/その抗原結合断片は、レポーター分子(単数または複数の)、タグ(単数または複数の)、および/または標識(単数または複数の)にコンジュゲートされるかまたは融合される。このようなレポーター分子、タグおよび/または標識は、当技術分野で非常によく知られており、とりわけ、キサンテン誘導体、例えばフルオレセイン、ローダミン、Alexa488のようなAlexa色素などの、化学的に活性化された様式で例えば適用される小分子蛍光色素(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、イソチオシアネート、ヨードアセテートまたはマレイミドを含む)、Cy3またはCy5などのシアニン誘導体、4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン(BODIPY)などの有機ホウ素化合物、ビオチンまたはジゴキシゲニンなどの小分子(ハプテン)、緑色蛍光タンパク質もしくはその誘導体、赤色蛍光タンパク質もしくはその誘導体またはアロフィコシアニンなどの蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素、またはルシフェラーゼなどの可視光放射(生物発光)を触媒する酵素を含む。
【0073】
本発明はまた、本発明の抗原結合分子、特に抗体または抗原結合断片の可変重(VH)鎖配列および/または可変軽(VL)鎖配列の少なくとも1つをコードする、ポリヌクレオチドも提供する。本発明の好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドは、以下の少なくとも1つをコードする:Pro/Alaリッチ配列(PAS)および/またはランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも4個もしくは少なくとも10個もしくは少なくとも20個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に、特異的に結合することができ、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)から選択されるか、またはPro(P)およびAla(A)であり、あるいは、その抗原性部分に特異的に結合することができる、抗原結合分子、特に抗体またはその抗原結合断片の可変重(VH)鎖配列および/または可変軽(VL)鎖配列。本発明のポリヌクレオチドは、構造:
(P/S)A(A/S)P;および/または
PA(A/S)P
のエピトープに結合することができる抗原結合分子(またはその断片)をコードすることができる。
【0074】
本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは、本明細書において提供されるような抗原結合分子、特に抗体または抗原結合断片の可変重(VH)鎖配列の少なくとも1つおよび/または可変軽(VL)鎖配列の少なくとも1つをコードする。好ましくは、前記抗原結合分子、特に抗体または抗原結合断片は、天然変性タンパク質上のおよび/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチド上のエピトープを結合する。好ましくは、前記天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチドは、Pro/Alaリッチ配列(PAS)を含むか、またはそれらからなる。前記エピトープは、本明細書において開示されるようなエピトープ/エピトープストレッチを含むことができ、PAPAAP(配列番号8)、PAPASP(配列番号9)、PASPAAP(配列番号10)、PSAAPS(配列番号79)、ASPAAP(配列番号80)、PASPAA(配列番号81)、PAAP(配列番号82)、PASP(配列番号83)、APSA(配列番号84)およびPSAA(配列番号85)からなる群から選択され得る。
【0075】
DNAまたはRNAを含めて、相当するポリヌクレオチド分子/核酸分子は、当業者に知られ、添付の実施例にも例示されるようなルーチンの配列決定法を介して容易に取得され得る。このような配列決定技法のソースとして、本発明の方法に従って免疫された非ヒト動物由来のB細胞が使用され得る。このような細胞は、例えば(Harlow & Lane、1988)など、モノクローナル抗体の生成に関するマニュアルに例示されるように、例外なく生産され得る「ハイブリドーマ細胞」を含む。DNAまたはRNAを含めて、そのような本発明のポリヌクレオチド分子/核酸分子の例は、寄託されたクローンDSM ACC3365、DSM ACC3366またはDSM ACC3367に含まれるDNAを含めて、上記ポリヌクレオチド分子/核酸分子である。これらの寄託されたクローンは、本発明の例示的なモノクローナル抗体(抗PA(S) MAb)、それぞれ、抗PA(S) Mab 1.1、抗PA(S) Mab 2.1および抗PA(S) Mab 3.1をコードすることができるポリヌクレオチドを含む、ハイブリドーマである。
【0076】
同封の寄託受領書から明白なように、これら3つのハイブリドーマはBudapest Treatyの規定に基づいて、2020年11月13日(2020-11-13)に「DSMZ」(Leibnitz-Institut DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)に寄託され、前記International Depository Authorityからの受託番号:DSM ACC3365(抗PA(S)Mab 1.1);DSM ACC3366(抗PA(S)Mab 2.1)およびDSM ACC3367(抗PA(S)Mab 3.1)を受領した。
【0077】
本発明はまた、これらの寄託物、したがってハイブリドーマDSM ACC3365、DSM ACC3366およびDSM ACC3367にも関する。
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド、すなわち、本発明の、抗原結合分子、特に抗体または抗原結合断片の可変重(VH)鎖配列および/または可変軽(VL)鎖配列の少なくとも1つをコードする、ポリヌクレオチドを含む宿主細胞に関する。本発明の(宿主)細胞はまた、DSM ACC3365、DSM ACC3366またはDSM ACC3367など、本明細書において提供されるようなハイブリドーマに含まれるポリヌクレオチドを発現する細胞でもあり得る。前記ハイブリドーマはまた、本発明の宿主細胞でもあり得る。
【0078】
また、本明細書では、本発明の抗原結合分子、特に抗体または抗原結合断片を生産するための方法であって、本発明のハイブリドーマを培養するステップ、および/または本発明の宿主細胞、例えば細菌細胞もしくは哺乳動物細胞を培養するステップを含む、方法も提供される。前記本発明の抗原結合分子の前記生産は、本発明の宿主細胞および/またはハイブリドーマのルーチンの培養ステップを含んでもよい。本発明の、抗原結合分子、特に抗体または抗原結合断片を産生するさらなるハイブリドーマは、本明細書において定義される天然変性タンパク質および/または天然変性タンパク質のドメインもしくはペプチドに対して向けられたかつ/またはそれらに特異的に結合する、結合部分、特に抗原結合分子を生成するための本明細書において提供される手段および方法によって、例外なく取得され得る。本発明の抗原結合分子の生産方法はまた、培養系からの、例えば宿主細胞/ハイブリドーマの培養ブロスからの前記抗原結合分子の単離または精製も含むことができる。
【0079】
一実施形態では、本発明はまた、本明細書において定義されるPro/Alaリッチ配列(PAS)にまたはその抗原性部分に特異的に結合する抗体を生産するための方法を提供し、前記方法は、非ヒト哺乳動物に、Pro/Alaリッチ配列(PAS)、および/または
ランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも20個、好ましくは40個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を投与するステップを含み、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)から選択されるか、またはPro(P)およびAla(A)であるか、またはその抗原性部分に対するものであり、
(i)前記Pro/Alaリッチ配列(PAS)および/またはランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも20個、好ましくは40個のアミノ酸残基からなる前記アミノ酸配列は、
構造:
(P/S)A(A/S)Pおよび/または
PA(A/S)P
の少なくとも1つのエピトープ/エピトープストレッチを含み、
(ii)前記Pro/Alaリッチ配列(PAS)および/またはランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも20個、好ましくは40個のアミノ酸残基からなる前記アミノ酸配列は、N末端に結合している保護基を含み;
(iii)免疫アジュバントが、前記Pro/Alaリッチ配列(PAS)および/またはランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも20個、好ましくは40個のアミノ酸残基からなる前記アミノ酸配列に、C末端に連結される。
【0080】
一実施形態では、上記のようなPro/Alaリッチ配列(PAS)に特異的に結合する抗体を生産するための前記方法において、(i)の前記エピトープは、PAPAAP(配列番号8)、PAPASP(配列番号9)、PASPAAP(配列番号10)、PSAAPS(配列番号79)、ASPAAP(配列番号80)、PASPAA(配列番号81)、PAAP(配列番号82)、PASP(配列番号83)、APSA(配列番号84)およびPSAA(配列番号85)からなる群から選択されるエピトープ/エピトープストレッチを含む。さらなる実施形態では、そのエピトープ/エピトープストレッチは、RN-(P/A)-RCとして上で本明細書において定義されるペプチドに含まれる。
【0081】
本発明はまた、天然変性タンパク質のドメインまたはペプチドを特異的に結合することができる、本発明の手段および方法によって生成されるような、結合部分、特に抗原結合分子を含む組成物にも関する。特許請求される組成物はまた、前記本発明の方法によって取得可能であるような結合部分、特に抗原結合分子、ならびに、上で本明細書において提供される方法によって生産された結合部分への、特に抗原結合分子への、結合部分を含むことができる。
【0082】
また、本発明には、免疫アジュバントと上で定義される1つまたは複数のP/Aペプチドとのコンジュゲートである本明細書において定義される特異的抗原を含む組成物も含まれ、ここで、前記P/Aペプチドのそれぞれは、独立して、構造RN-(P/A)-RCのペプチドであり得る。
【0083】
本発明の結合部分、特に抗原結合分子/抗体またはそれらの抗原結合断片は、研究ツールとしておよび生物分析ツールとして特に有用である。それらは、PAS化の薬物および/またはタンパク質で処置された個体から取得された血液試料など、患者試料のin vitroスクリーニングにも使用され得る。他方、PAS化の薬物および/またはタンパク質を決して受けたことがない個体から得られた試料も、本発明の結合部分、特に抗原結合分子/抗体またはそれらの抗原結合断片を用いてin vitroで試験され得る。これは「陰性対照」とみされ得、本発明の抗体の偽陽性反応を評価するのにまたは回避するのに役立つであり得る。したがって、本発明の組成物は、特に、抗原結合分子/抗体またはそれらの抗原結合断片を含む組成物は、(患者)のスクリーニングにおいて、および/またはPAS化の(小分子)薬物および/またはタンパク質/ペプチド薬物による前記患者/個体の(併用の)処置に関する時間経過を追跡するのに有用であり得る。したがって、本発明はまた、診断用組成物にも関する。
【0084】
上記に従って、本発明はまた、生体試料中の、
(i)Pro/Alaリッチ配列(PAS)、
(ii)タンパク質、ペプチドもしくは小分子薬物とPro/Alaリッチ配列(PAS)とのコンジュゲート、ならびに/または
(iil)タンパク質、ペプチドもしくは小分子薬物と、ランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも20個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であって、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基はPro(P)、Ala(A)およびSer(S)から選択されるか、またはPro(P)およびAla(A)である、アミノ酸配列との、コンジュゲート
を検出する方法も提供する。
【0085】
したがって、特許請求された方法は、PAS化薬物および/またはタンパク質/ペプチドにより処置されたかまたはそれらにより処置されることになっている、個体から、特に哺乳動物から、好ましくはヒトから取得された、生体試料を使用するin vitro方法であり得る。
【0086】
前記in vitro法は、前記生体試料を、(i)もしくは(ii)の前記Pro/Alaリッチ配列(PAS)へのおよび/または(iii)の前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基への、抗原結合分子および/または抗体の結合に許容的な条件下で、本発明の抗原結合分子および/または抗体と接触させるステップを含むことができる。前記方法はまた、さらなる工程として、前記抗原結合分子および/または前記抗体と、前記Pro/Alaリッチ配列(PAS)および/または前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基との間で複合体が形成されるかどうかの検出も含むことができる。前記生体試料中のPro/Alaリッチ配列(PAS)および/または前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基の(陽性)検出が指示し得るところは、例えば、Pro/Alaリッチ配列(PAS)を含む薬物/タンパク質、すなわち「PAS化(小分子)薬物および/またはタンパク質薬物またはペプチド薬物」が、当該個体の体内にまだ存在しているかどうかということである。これは定性的なアッセイであると思われる。しかし、こういった生体試料中のPro/Alaリッチ配列(PAS)を含む薬物/タンパク質の時間経過および/または定量化も想定される。このようなアッセイはまた、個体の生体試料の「スクリーニングアッセイ」も含む。
【0087】
本発明の結合部分、特に抗原結合分子/抗体またはそれらの抗原結合断片と、前記Pro/Alaリッチ配列(PAS)および/またはこのようなPro/Alaリッチ配列(PAS)を含むタンパク質/ペプチド薬物/小薬物の前記コンジュゲートとの間に、形成される複合体のin vitroでの検出は、当業者にとってルーチンワークである。形成された複合体のそのような検出は、免疫組織化学、免疫蛍光イメージング、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ウエスタンブロット法、電気化学発光(ECL)イムノアッセイ(ECLIA)、表面プラズモン共鳴(SPR、Biacore)、ラテラルフローイムノアッセイ、紙ベースのイムノアッセイ、音波ベースのイムノアッセイ、干渉法ベースのイムノアッセイ、ナノマテリアルおよびマイクロマテリアルベースのイムノアッセイ、マイクロカンチレバーベースのセンサー、水晶微量天秤ベースのセンサー、電気化学的免疫センサー、Lab-on-a-Chip(LOC)イムノアッセイ、スマートフォンベースのイムノアッセイ、質量分析ベースのイムノアッセイ(MSIA、Immuno-MALDI、Immuno-MRM、SISCAPA)または免疫沈降など、既知の技法を含むことができる。また、例えば、当技術分野でよく知られるような、放射性物質による本発明の結合部分の相当する標識後の、X線検査法およびイメージングも想定される。
【0088】
結合部分、特に抗原結合分子/抗体またはそれらの抗原結合断片が、例えば研究の場面において、個体に関してin vivoで使用され、これによって、非ヒト動物がこれらの本発明の化合物および組成物を用いて試験およびスクリーニングされることも想定される。
【0089】
上記に従って、本発明はまた、PAS化薬物コンジュゲートによる対象または動物の処置に対する応答をモニタリングするための方法に関し、前記方法は、
(a)Pro/Alaリッチ配列(PAS)との、タンパク質もしくはペプチドもしくは小分子薬物のコンジュゲート、ならびに/または、
(b)ランダムコイルコンフォメーションを形成する少なくとも20個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列であって、これによって、前記ランダムコイルコンフォメーションを形成する前記アミノ酸残基は、Pro(P)、Ala(A)およびSer(S)から選択されるか、またはPro(P)およびAla(A)である、アミノ酸配列との、タンパク質薬物もしくはペプチドもしくは小分子のコンジュゲート
を用いる、対象/患者または非ヒト試験個体の処置前の1つまたは複数の時点にての、および、それらを用いる処置後の1つまたは複数の時点にての、血液試料中の、好ましくは血漿試料または血清試料中の、循環しているPro/Alaリッチ配列(PAS)分子ならびに/またはPro/Alaリッチ配列(PAS)分子を含む融合タンパク質および/もしくは薬物コンジュゲートのレベルを測定するためのおよび/またはそれらを測定する上での、本発明の、抗原結合分子および/もしくは抗体または組成物の使用を含む。
【0090】
本方法はまた、特に、上掲の(a)または(b)において定義されるコンジュゲートのいずれかによる前記対象/患者または前記非ヒト被験個体の前記処置後のさまざまな時点で採取される試料がスクリーニングされる場合、時間経過および/または時間-投薬量の関係の検出も含むことができる。
【0091】
また、本発明の結合部分、特に抗原結合分子/抗体またはそれらの抗原結合断片と、前記Pro/Alaリッチ配列(PAS)および/またはこのようなPro/Alaリッチ配列(PAS)を含むタンパク質薬物/小薬物の前記コンジュゲートとの間に形成される複合体の検出はルーチンワークであり、上で本明細書において提供される実施形態はまた、必要な変更を加えて本「モニタリングの方法」に適用する。
【0092】
本発明は、以下の非限定的な図および実施例によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】本発明の抗PAS抗体のV
H(A)ドメインおよびV
L(B)ドメインのアミノ酸配列アラインメント(サブクローニングのための隣接する制限部位の導入前)の図である。CDRは黒の外郭線で標識される。各アラインメントの上部に示される抗PA(S) MAb 1.1のV
H配列およびV
L配列に関して同一のアミノ酸位置は“・”として図示され、アミノ酸配列アラインメントにおけるギャップは“-”として指示される。
【
図2】本発明のさまざまな抗PAS抗体が相当するPAS化融合タンパク質に特異的に結合することを実証する例示的なウエスタンブロット解析の図である。(A)抗PA(S) MAb 2.2、(B)抗PA(S) MAb 2.1、(C)精製抗PA(S) MAb 2.1、(D)抗PA(S) MAb 3.1、(E)抗PA(S) MAb 3.2、(F)抗PA(S) MAb 1.1、(G)抗PA(S) MAb 1.2の各ハイブリドーマクローン、および(H)対照としての抗マウスIgG Fc特異的アルカリホスファターゼ(ヤギで製造、Sigma-Aldrich)二次抗体からの細胞培養上清とともにインキュベートされたウエスタンブロット。以下の試料をウエスタンブロッティング用にSDS-PAGEに適用した:M - PageRuler Prestained Protein Ladder、10~180kDa(Thermo Fisher Scientific);1 - PAS#1(200)-IL1Ra(配列番号72);2 - P/A#1(200)-IL1Ra(配列番号73);3 - APSA(200)-IL1Ra(配列番号74);4 - プールされたヒト血清(SEQENS IVD/H2B)、ddH
2Oで1:200希釈しIL1Ra(Kineret/Anakinra、SOBI)1μgを添加した;5 - 大腸菌BL21全細胞タンパク質、SDS試料緩衝液で溶解させた。
【
図3】本発明の抗PAS抗体を用いるPAS配列またはPAS化融合タンパク質を検出するためのELISA実験の例示的な結果の図である:(A)抗PA(S) MAb 2.1のFab断片と、試験物質としてのIL1Ra-PAS#1(800)(800)、PAS#1(600)-レプチンおよびP/A#1(600)-GMCSFならびに対照としてのBSAとを用いるELISA。(B)抗PA(S) MAb 2.2のFab断片と試験物質としてのP/A#1(600)とを用いるELISA。(C)試験物資としての、抗PA(S) MAb 1.2のFab断片と、IL1Ra-PAS#1(800)、PAS#1(600)-レプチンおよびP/A#1(600)-GMCSFの各試験物質ならびに対照としてのBSAとを用いるELISA。(D)抗PA(S) MAb 1.2のハイブリドーマ上清と、マイクロタイタープレートに予め吸着させたヤギ由来の抗マウスIgG Fc特異的を使用して捕捉されるが、試験物質としてのhu4D5-PAS#1(200)とを用いるELISA。
【
図4】本発明の抗PAS抗体を用いるPAS配列またはPAS化融合タンパク質を検出するためのELISA実験の例示的な結果を示す図である:(A)抗PA(S) MAb 3.1のFab断片と試験物質としてのAPSA(200)-IL1Raとを用いるELISA。(B)抗PA(S) MAb 3.2のFab断片と試験物質としてのAPSA(200)-IL1Raとを用いるELISA。(C)抗PA(S) MAb 1.1のFab断片と試験物質としてのPAS#1(600)-レプチンとを用いるELISA。(D)抗PA(S) MAb 2.1のハイブリドーマ上清と試験物質としてのhu4D5-P/A#1(200)とを用いるMAb捕捉ELISA(
図3Dを参照されたい)。
【
図5】抗PA(S) MAb 1.1および抗PA(S) MAb 1.2のハイブリドーマ培養上清のSPOTアッセイの結果を示す図である。それぞれ、配列番号5および6において1残基ずつそれぞれシフトした、PAS#1配列およびP/A#1配列からの連続する12マーペプチドを、親水性膜上にC末端固定で合成した。メンブレンの発色現像後、スポット強度を、ソフトウェアCLIQS ver.1.2.044(TotalLab)を用いてスキャンし、定量化したが、スポット強度は棒グラフとして表示される。エピトープ配列は太字体で強調表示される。
【
図6】抗PA(S) MAb 2.1のFab断片および抗PA(S) MAb 2.2のハイブリドーマ培養上清のSPOTアッセイの結果の図である。説明については、
図5を参照されたい。
【
図7】抗PA(S) MAb 3.1および抗PA(S) MAb 3.2のハイブリドーマ培養上清のSPOTアッセイの結果の図である。配列AAPSAAPSAAを含む10マーペプチドを、親水性膜上にC末端固定で合成し、これによって、位置3~8を、タンパク質原性の全20種のアミノ酸によって連続的に置換した。メンブレンの発色現像後、スポット強度を、ソフトウェアCLIQS ver.1.2.044(TotalLab)を用いてスキャンし、定量化したが、スポット強度は棒グラフとして表示される。元の配列AAPSAAPSAAの残基に相当するバーは塗りつぶされる。
【
図8】抗PA(S) MAb 3.1(被検物質としてAPSA(200)-IL1Ra)ならびに抗PA(S) MAb 1.1(被検物質としてPAS#1(200)-IL1Ra)および抗-PA(S) MAb 1.2(Biacore X 100機器で測定された被検物質としてPAS#1(200)-IL1Ra)の例示的SPRセンサーグラムの図である。ハイブリドーマ上清を、抗マウス抗体(Mouse Antibody Capture Kit;GE Healthcare)でコーティングされたCM3センサーチップ(GE Healthcare)に適用した。注入フェーズは、注入された被験物質の相当する濃度と一緒に、黒いバーで標識される。
【
図9】固定化抗PAS Fab 1.2を有するカラムを使用するPAS化タンパク質のアフィニティー精製の原理の図である。(A)PAS化タンパク質のワンステップ精製の概略図:(i)目的のPAS化タンパク質を含有する細胞抽出物の適用、(ii)ランニング緩衝液によるカラム洗浄、および(iii)L-プロリンアミドの1Mランニング緩衝液を適用することによる目的のPAS化タンパク質の溶出。(B)Fab 1.2のPAS#1エピトープペプチド(最上部にてスティックモデルとして示される)と複合体を形成したFab 1.2(模式ダイヤグラム)の結晶構造(PDB ID:7O31)。(C)Fab 1.2によって認識されるPAS#1ペプチドエピトープの関連部分。(D)L-プロリンアミドの化学構造。
【
図10】本発明の固定化抗PAS抗体を使用するPAS化タンパク質のアフィニティー精製の例示的なクロマトグラムの図である。抗PA(S) MAb 1.2のFab断片を、アフィニティーマトリクスとして機能するように、1mlのHiTrap HPカラム(GE Healthcare)に共有結合で固定化した。StrepII-eGFP-PAS#1(200)融合タンパク質(配列番号71)を、(A、C)事前に精製したタンパク質溶液、および、(B、D)StrepII-eGFP-PAS#1(200)を発現するBL21大腸菌細胞の全細胞抽出物から精製するための試験タンパク質として適用した。クロマトグラフィーカラムからのタンパク質の溶出は、280nmにての一般吸光度および488nmにてのeGFP発色団の比吸光度も並行して測定することによってモニタリングした(A、B)。タンパク質試料を適用し、緩衝液で洗浄した後、結合したPAS融合タンパク質をL-プロリンアミドの1M溶液で溶出したが、この溶液も280nmで強力な吸光度を示した(芳香族アミノ酸による汚染に起因する可能性がある)。SDS-PAGE解析(C、D)が明らかにしたところは、これらの溶出画分におけるStrepII-eGFP-PAS#1(200)の存在である。試料:M - Pierce Unstained Protein MW Marker (Thermo Fisher Scientific);0 - 純粋StrepII-eGFP-PAS#1(200);1 - 画分7~7.5ml;2 - 画分7.5~8ml;3 - 画分8~8.5ml;4 - 画分8.5~9ml;5 - 画分9~9.5ml;6 - 画分9.5~10ml;7 - 画分10~10.5ml。1* - StrepII-eGFP-PAS#1(200)を発現するBL21大腸菌細胞の全細胞溶解物;2* - 画分2~4ml;3* - 画分7~7.5ml;4* - 画分7.5~8ml;5* - 画分8~8.5ml;6* - 画分8.5~9ml;7* - 画分9~9.5ml;8* - 画分9.5~10ml;9* - 画分10~10.5ml。本実験が実証するところは、抗PASアフィニティーカラムが、PAS化試験タンパク質、StrepII-eGFP-PAS#1(200)を特異的に結合し、これが、L-プロリンアミド溶液を適用することにより穏和な条件下で溶出され得ることである。
【
図11】本発明の固定化抗PAS抗体を使用する、治療用関連PAS化タンパク質のワンステップPASアフィニティー精製を記録する例示的なクロマトグラムおよびSDS PAGE解析の図である。抗PA(S) MAb 1.2のFab断片を、アフィニティーマトリクスとして機能するように、1mlのHiTrap HPカラム(GE Healthcare)に共有結合で固定化した。C末端でPAS化のアンチカリンH1GA-PAS#1(200)-His
6(配列番号90)(A、B)およびN末端でPAS化のサイトカインPAS#1(800)-IL1Ra(配列番号91)(C、D)を、それぞれ大腸菌BL21の周辺質画分または細胞画分のいずれかから精製した。クロマトグラフィーカラムからのタンパク質の溶出は、280nmにての吸光度を測定することによってモニタリングした。タンパク質試料を適用し、緩衝液で洗浄した後、結合したPAS融合タンパク質をL-プロリンアミドの1Mランニング緩衝液で溶出した。SDS-PAGE解析(B、D)が明らかにしたところは、溶出画分におけるPAS化タンパク質の存在である。試料:Unstained Protein MW Marker(Thermo Fisher Scientific) - PE/CE(それぞれのタンパク質を発現する大腸菌BL21細胞の周辺質抽出物/全細胞抽出物) - FT(フロースルー) - 洗浄 - 溶出。矢印は、それぞれH1GA-PAS#1(200)-His
6およびPAS#1(800)-IL1Raに相当するタンパク質バンドを指示する。本実験が実証するところは、200~800残基を含むPASタグ担持のN末端にてのおよびC末端にてのPAS化タンパク質が、高選択性で精製され得ることである。
【
図12】本発明の固定化抗PAS抗体を使用するPAS化タンパク質のアフィニティー精製の例示的なクロマトグラムの図である。抗PA(S) MAb 1.2のFab断片を、アフィニティーマトリクスとして機能するように、1mlのHiTrap HPカラム(GE Healthcare)に共有結合で固定化した。予め精製したStrepII-eGFP-PAS#1(200)融合タンパク質(配列番号71)を、試験タンパク質として適用した。クロマトグラフィーカラムからのタンパク質の溶出は、488nmにてのeGFP発色団の比吸光度を測定することによってモニタリングした。タンパク質試料を適用し、緩衝液で洗浄した後、結合したPAS融合タンパク質を特に穏和な条件(1M L-プロリンアミド、100mMトリス、150mM NaCl、1mM EDTA、HClでpHを8.0に調整)下で溶出した。本実験が実証するところは、抗PASアフィニティーカラムがPAS化試験タンパク質、StrepII-eGFP-PAS#1(200)を定量的に結合し、これが、L-プロリンアミド溶液を適用することにより穏和な緩衝条件下で溶出され得ることである。
【
図13】本発明の抗PAS抗体の組換えFab断片と複合体を形成した合成PASエピトープペプチドの結晶構造の図である:(A)抗PA(S) MAb 2.2に結合されたP/A#1-エピトープペプチド、(B)抗PA(S) MAb 1.1に結合されたPAS#1-エピトープペプチド、(C)抗PA(S) MAb 1.2および(D)抗PA(S) MAb 3.1に結合されたPga-(APSA)
3ペプチド。エピトープペプチドはスティック(濃灰色)として示され、Fab重(中間の灰色)鎖および軽(明灰色)鎖はワイヤとして示される。
【
図14】ウイスターラットにおけるPAS化チモシンアルファ1の薬物動態(PK)研究の図である。(A)
図15に概略的に例示される、ELISAセットアップAを介する、ラット血漿試料中のPAS化チモシンアルファ1の定量化に使用された標準曲線の直線範囲。(B)PAS化チモシンアルファ1を、用量3.4mg/kg体重で雌性ウイスターラット(N=5)に皮下注射した。血漿中の融合タンパク質の濃度を、捕捉抗体として抗PA(S) MAb 2.1を、検出試薬としてアルカリホスファターゼコンジュゲート抗PA(S) MAb 1.2を使用するサンドイッチELISAによって定量化した。データを注射後のサンプリング時間に対してプロットし、1-コンパートメントモデルを使用して当てはめた。PKプロファイルが示すところは、PAS化ペプチド薬物の明確に異なる吸収相と排出相である(PKパラメータについては表1を参照されたい)。
【
図15】PAS化分子の検出のための例示的なELISAセットアップの図である。(A)PAS化分子を捕捉するためにマイクロタイタープレートに吸着させた抗PAS抗体と、検出試薬としてレポーター酵素にコンジュゲートされた第2の抗PAS抗体とを使用するサンドイッチELISA。(B)PAS化分子を捕捉するためにマイクロタイタープレートに吸着させた抗PAS抗体と、PAS化薬物の生物学的活性部分に対して向けられた第2の酵素カップリング抗体とを使用するサンドイッチELISA。(C)PAS化分子を捕捉するためにマイクロタイタープレートに吸着されたタンパク質、ペプチドまたは小分子薬物の結合パートナー(例えば、受容体、ここでは標的と称する)と、PAS化薬物を検出する本発明の酵素カップリング抗PAS抗体とを使用するELISA。(D)マイクロタイタープレートに吸着された抗PA(S) MAbの結合部位に対して、PAS化分子およびビオチン化分子と競合するPAS化被験物質分子を示す、競合ELISAの概略図。MAbに結合されたPAS化分子およびビオチン化分子は、ストレプトアビジン酵素コンジュゲートによって、次いで検出される。
【
図16】合成エピトープペプチドAbz-APAPAAPAによる、100mM Tris/HCl pH7.5中の1μMで適用された、抗PA(S)Mab2.2のFab断片の蛍光滴定の図である。RFU-相対蛍光単位(280nmにての蛍光励起、340nmにてのシグナル検出)。
【
図17】抗PA(S)Mab1.1を使用して、PAS化抗ガレクチンFab断片を捕捉し、その抗原ガレクチン-3に対するPAS-Fab結合動態を決定するBiacore X100装置(Cytiva、Freiburg、ドイツ)での表面プラズモン共鳴(SPR)分光法の図である。(A)CM5表面プラズモン共鳴(SPR)センサーチップ(Cytiva)上のPAS化抗体断片の固定化を示すセンサーグラム。(1)チップのデキストランヒドロゲル表面上のカルボキシレート基を、EDC/NHS化学を使用して、反応性N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)基に変換した。(2)抗PA(S)Mab1.1を、活性化NHSエステルを介してチップ表面に共有結合でコンジュゲートさせ、(3)未反応のNHSエステルを0.1Mエタノールアミンを使用して飽和させた。(B)(1)PAS化抗ガレクチンFabの非共有結合性の固定化、これに続く、(2)ガレクチン-3の1:2希釈系列(0.1nM~1.6nM)からの5回の連続注入ならびに2回の酸性再生ステップを示す単一サイクルの動態実験。(C)(B)からの単一サイクル動態実験の基準補正センサーグラムのベースラインをゼロ、ならびに開始時間=0秒に設定し、Biacore X100評価ソフトウェアを使用してグローバル1:1ラングミュア結合モデルに当てはめた。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0094】
実施例1:本発明において用いられる方法
A.免疫用のPASペプチドコンジュゲートの調製
異なる3つのペプチドを固相合成によって得たが(Pga-PAS#1(40)-AhxおよびPga-P/A#1(40)-Ahx:Peptide Specialty Laboratories - PSL、Heidelberg、ドイツ;Pga-APSA(40)-Ahx:Almac Sciences、Edinburgh、Scotland)、それぞれがブロックされたN末端を有する:Pga-PAS#1(40)-Ahx(Pga-ASPAAPAPASPAAPAPSAPA-ASPAAPAPASPAAPAPSAPA-Ahx;配列番号5);Pga-P/A#1(40)-Ahx(Pga-AAPAAPAPAAPAAPAPAAPA-AAPAAPAPAAPAAPAPAAPA-Ahx;配列番号6);Pga-APSA(40)-Ahx(Pga-APSAAPSAAPSAAPSAAPSA-APSAAPSAAPSAAPSAAPSA-Ahx;配列番号7)。
【0095】
Pgaとはピログルタミル残基(2-ピロリドン-5-カルボン酸または5-オキソプロリンとしても知られる)を意味し、Ahxとはアミノヘキサン酸を意味する;他のすべての残基は、それらの一文字略名により記述される標準的なタンパク質原性のL-アミノ酸である。40マーのPASペプチドを、相当するPAS反復配列の少なくとも2つのコピーを包含するように十分な長さをもって設計したが、一部の実施形態では、結果として、隣接する2つの反復配列の間の接合部の少なくとも1つのインスタンスも含めて、20個の残基を含んだ。注目すべきことに、そのような接合部はまた、より長い組換えPASポリペプチドにおいて可能性のあるエピトープも構成すると思われる。すべてのペプチドは化学的に不活性な側鎖のみを含有し、ブロックされたN末端を有したので、それらの単一のC末端カルボキシレート基(実際には、Ahxリンカー残基の一つ)を選択的に活性化し、KLHのLys側鎖のε-アミノ基への直接化学コンジュゲーションに使用したが、このKLHは、高免疫原性のキャリアタンパク質として用いたものである(Swaminathanら、2014)。この目的のため、各ペプチド50mgを、ジメチルスルホキシド(DMSO)1450μlに溶解し、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボレート(TBTU;Iris Biotech、Marktredwitz、ドイツ)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA;Sigma-Aldrich、Taufkirchen、ドイツ)、それぞれの10倍モル量で活性化した。KLH(Thermo Scientific、Waltham、MA)10mgを水に溶解し、PBS(4mM KH2PO4、16mM Na2HPO4、115mM NaCl)に対して透析し、4.35mlの容量で2.3mg/mlの濃度に調整し、活性化ペプチド溶液と混合した。氷上で30分間インキュベートした後、溶液を25mM Naホウ酸塩、pH9.0に対して透析し、コンジュゲートを同じ緩衝液で平衡化したSource 15Qカラム(GE Healthcare、Munich、ドイツ)での陰イオン交換クロマトグラフィーによって精製した。コンジュゲートを、ランニング緩衝液に適用させた0~500mM NaClの直線濃度勾配で溶出し、280nmでモニタリングした。メインピークの溶出画分をプールし、PBSに対して透析し、2mg/mlに濃縮し、0.22μm Millex-GVPVDFフィルター(Merck、Darmstadt、ドイツ)を通してろ過滅菌し、液体窒素中で瞬間凍結した。
B.マウスの免疫およびハイブリドーマ細胞の生成
抗原として上記のPASペプチド-KLHコンジュゲートを使用して、Balb/cマウスを免疫し、標準手順に従ってハイブリドーマを調製した(ProMab Biotechnologies、Richmond、CA)。各抗原について、Balb/cマウス5匹を、フロイントの完全アジュバント(CFA)と一緒に抗原50μgで皮下免疫した。プライミングの3週間後、3回のブースター注射(APSA(40)-KLHについては5回)を、それぞれ抗原25μgおよびフロイントの不完全アジュバント(IFA)を用いて、2週間の間隔で適用した。最後の上記ブーストの2週間後に、アジュバント無しで抗原50μgによる最終ブーストを腹腔内投与した。脾臓細胞を動物から採取し、当技術分野でよく知られる標準手順を使用してハイブリドーマクローン生成に向けてSp2/0骨髄腫細胞と融合させた。
【0096】
有望なハイブリドーマクローンを、10%v/vFCS(Ultra low IgG One Shot、Life Technologies、NY)、6mM L-アラニル-L-グルタミン(Biochrom)、1:100ペニシリン/ストレプトマイシン(Biochrom)を含有し10%v/vハイブリドーマプレミアム培地(ProMab Biotechnologies)を補充した、DMEM(Biochrom、Berlin、ドイツ)を使用して細胞培養で増殖させた。細胞培養上清中の分泌抗PAS MAbを、リアルタイム表面プラズモン共鳴(SPR)分光法および酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって特徴付けた。
【0097】
一部の研究については、Akta Explorer 10クロマトグラフィーワークステーション(GE Healthcare)を使用する1ml/分の流速で操作される1mlのHiTrap Protein G HPカラム(GE Healthcare)を使用して、抗PA(S) MAbをハイブリドーマ上清から精製した。ハイブリドーマ上清を、結合緩衝液(20mM NaPi pH7.0)で1:1の比で希釈し、結合緩衝液10カラム容量で予め平衡化しておいたカラムに適用した。結合緩衝液10カラム容量で洗浄した後、溶出緩衝液(0.1Mグリシン/HCl pH2.7)2カラム容量で抗体を溶出した。酸不安定性IgGの活性を保つために、分画の前に、収集容量1ml当たり1M Tris/HCl pH9.0 200μlを各コレクションチューブに添加した。続いて、アフィニティー精製のMAbを含有する画分を保存緩衝液(20mM KPi、125mM NaCl、50%グリセロール、pH7.2)200容量に対して透析し、-21℃で凍結した。タンパク質濃度を、280nmにての吸光度を測定することによって決定した(A280=1.4はIgG 1.0mg/mlの濃度に等しい)。
C.ELISAおよびSPRによるハイブリドーマMAbの特性評価
抗マウスIgG Fc特異的ヤギ抗体(Sigma-Aldrich)の5μg/mlのPBS溶液50μlでコーティングし、これに続いてPBSにより2回洗浄しかつ3%w/vウシ血清アルブミン(BSA)のPBS/T(PBS+0.1%v/v Tween 20)で1時間ブロッキングした、NUNC Maxisorp F 96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific、Munich、ドイツ)を使用して、ELISAによるハイブリドーマMAbの特性評価を実施した。PBS/Tで洗浄した後、ウェルを、PBS/Tで1:100に希釈した各ハイブリドーマ上清50μlとともに1時間インキュベートし、再度洗浄した。次いで、以下のPAS化タンパク質:hu4D5-PAS#1(200)(Schlapschyら、2013)、hu4D5-P/A#1(200)(WO2011/144756A1)またはAPSA(200)-IL1Ra(配列番号74)、(それぞれ8nM)50μl溶液をPBSで1:2希釈系列で適用し、1時間インキュベートしたが、これらPAS化タンパク質は、製造業者の取扱説明書に従って、DIG-NHS(Santa Cruz Biotechnology、Dallas、TX)で標識しておいたものである。PBS/Tで洗浄した後、抗ヒトカッパ軽鎖抗体アルカリホスファターゼコンジュゲート(Sigma-Aldrich)または抗DIG-Fabアルカリホスファターゼコンジュゲート(Roche Diagnostics)の1:1000希釈液50μlを各ウェルに適用し、1時間インキュベートした。PBSで最終洗浄した後、p-ニトロフェニルリン酸0.5mg/mlのAP緩衝液(100mM Tris/HCl pH8.8、100mM NaCl、5mM MgCl2)50μlを添加し、Synergy 2光度計(BioTek Instruments、Bad Friedrichshall、ドイツ)を使用して、405nmで1分間隔で15分間、シグナル発生を記録した。濃度依存シグナル(ΔA/Δt)を式:
[MAb・Ag]=[MAb]t・[Ag]t/(KD+Ag]t)
を使用して公開された手順(Voss & Skerra、1997)に従って評価した。 [MAb・Ag]は抗体/抗原複合体の検出可能な量であり、この量は、各ウェルについて測定されたΔA/Δtシグナルに比例する;[MAb]tは固定化した抗体の総量であり、この量は、結合曲線の漸近最大シグナルに相当する;[Ag]tは、各ウェルに適用されたPAS抗原の(可変)総濃度であり、KDは、KaleidaGraph(Synergy Software、Reading、PA)で評価された、曲線当てはめからもたらされる抗体/抗原複合体の解離定数である。
【0098】
SPR測定を、Biacore X 100またはBiacore T200 機器(GE Healthcare)のいずれかで、マウス抗体捕捉キットおよびCM3センサーチップ(両方ともGE Healthcare製)を使用して25℃で実施した。培養上清をHBS-ET緩衝液(0.01M HEPES/NaOH pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005%v/v Tween20)で1:5に希釈し、試料30μlを流速10μl/分で注入した。必要に応じて、以下の試験抗原の濃度系列を、シングルサイクルカイネティクス(Karlssonら、2006)を使用して、流速30μl/分でセンサーシップ上へと注入した:PAS#1(200)-IL1Ra(配列番号72)、P/A#1(200)-IL1Ra(配列番号73)、P/A#1(600)-GMCSF(配列番号75)、APSA(200)-IL1Ra(配列番号74)およびhu4D5-P/A#1(200)WO2011/144756A1。センサーチップを、10mMグリシン/HCl pH1.7で100秒間再生した。HBS-ET緩衝液で測定した参照チャンネルとブランクベースライからのシグナルの減算後、Biacore X100評価ソフトウェアver.2.0.1(GE Healthcare)および二価被験物質モデル(bivalent analyte model)を使用してデータを当てはめた。フィッティングアルゴリズムにより使用される速度方程式は以下のとおりである:
二価被験物質(A)がリガンド(B)に結合する。
【0099】
A(溶液)=濃度
A[0]=0
dA/dt=(tc*f^(1/3))*(濃度A)-((2*ka1)*A*B-kd1*AB)
B[0]=RMax
dB/dt=-((2*ka1)*A*B-kd1*AB)-(ka2*AB*B-(2*kd2)*AB2)
AB[0]=0
dAB/dt=((2*ka1)*A*B-kd1*AB)-(ka2*AB*B-(2*kd2)*AB2)
AB2[0]=0
dAB2/dt=(ka2*AB*B-(2*kd2)*AB2)
合計応答:
AB+AB2+RI
パラメータ:濃度、分析対象物濃度[M];tc、物質移動定数;f、フローセルを通る溶液の体積流量[m3・s-1];RMax、結合キャパシティ;RI、屈折率。
D.ハイブリドーマ細胞由来のV遺伝子のクローニング
ハイブリドーマ細胞を機械的に溶解し、RNeasy Mini Kit(Qiagen、Hilden、ドイツ)を使用して全RNAを抽出し、これに続いてオリゴ(dT)18プライマーを用いるFirst Strand cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用してcDNA合成を行った。軽鎖用のリバースプライマーRMK(5’-GAC CTC CAC GGA GTC AGC-3’;配列番号77)および重鎖用のRMG(5’-AGG TCG CCA CAC GTG TGG-3’;配列番号78)(Loersら、2014)と一緒に、すべてのマウス生殖系列VL/VH遺伝子セグメントをカバーする63のフォワードプライマーのセットを使用して、Q 5DNAポリメラーゼ(NewEnglandBiolabs、Frankfurt/M.ドイツ)を用いて、IgV遺伝子領域をそのcDNAからPCR増幅した(Chardesら、1999)。PCR反応数の必要数を減少させるために、そしてこのようなプールについてPCR産物を特定した後に個別に単一のPCR産物を生成するために、フォワードプライマーを5~15個のプールで最初に適用した。その後、適切なPCR産物を、Wizard SV GelおよびPCR Clean-Up System(Promega、Madison、WI)を使用するアガロースゲル電気泳動によって単離し、Mix2Seq Kit(Eurofins Genomics、Ebersberg、ドイツ)を使用して二本鎖DNA配列決定に供した。
E.Fab断片用の細菌発現プラスミドの構築
細菌発現ベクターpASK88(Schiweck & Skerra、1995)上でのV遺伝子のクローニングの場合、上記のV遺伝子増幅由来の産物を、先に公開されたルーチン手順(Loersら、2014;Peplauら、2020)に従って、適切な隣接制限部位を導入するように設計されたプライマー対を用いてPCR増幅した。生成するPCR産物を相当する制限酵素で切断し、アガロースゲル電気泳動により単離し、VH遺伝子およびVL遺伝子それぞれをpASK88に挿入したが、これは、相当する制限酵素を用いて、2回の連続ライゲーションにおいて、切断しておいたものである。抗PA(S) MAb 2.1、抗PA(S) MAb 1.2、および抗PA(S) MAb 3.1のコード領域を、ProMab Biotechnologiesによりこれらのハイブリドーマ向けに決定されたV遺伝子配列に基づいた適切な隣接制限部位(GeneArt、Regensburg、ドイツ)を用いる遺伝子合成によって取得した。
F.Fab断片の大腸菌産生および精製
抗PA(S) MAb 2.1、抗PA(S) MAb 2.2、抗PA(S) MAb 1.1、抗PA(S) MAb 1.2、抗PA(S) MAb 3.1および抗PA(S) MAb 3.2のV遺伝子を内部に持つpASK88派生体を使用して、大腸菌株JM83(Yanisch-Perronら、1985)を使用する6×2l振盪フラスコ培養において、または、KS272株(Meerman & Georgiou、1994)を使用するおよび公開された手順(Schiweck & Skerra、1995;Skerra、1994)に従った8l卓上発酵を介して、いずれかでキメラFab断片(ヒト定常ドメインに融合させたハイブリドーマ由来のマウス可変ドメイン)を発現させた。組換えタンパク質を、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、これに続いて、Resource S 6mlカラムでの陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)、およびHiLoad 16/60 Superdex75プレップグレードカラムでのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(両方ともGE Healthcare製)を介して、周辺質細胞抽出物から精製した。それぞれ、抗PA(S) MAb 2.1、抗PA(S) MAb 2.2、抗PA(S) MAb 1.1、抗PA(S) MAb 1.2、抗PA(S) MAb 3.1または抗PA(S) MAb 3.2のキメラFab断片について、88405M-1cm-1、89895M-1cm-1、77405M-1cm-1、66405M-1cm-1、6995M-1cm-1または57465M-1cm-1の算出された吸光係数(Gasteigerら、2003)を使用して280nmで吸光度を測定することによって、タンパク質濃度を決定した。タンパク質の完全性および純度について、SDS-PAGE(Fling & Gregerson、1986)およびmaXis Q-TOF装置(Bruker Daltonics、Bremen)でのエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)によってチェックした。
G.ELISA、蛍光滴定およびSPRによるFabの抗原親和性測定
抗PA(S)MAb 2.1および抗PA(S)MAb 2.2の組換えFab断片の場合には、P/A#1(600)polypeptide(Breibeck & Skerra、2018)10μg/mlのPBS 50μl、抗PA(S)MAb 1.1および抗PA(S)MAb 1.2のFab断片の場合には、PAS#1(600)-レプチン(Morath et al.、2015)10μg/mlのPBS 50μl、または、MAb 3.1および抗PA(S)MAb 3.2のFab断片の場合には、APSA(200)-IL1Ra(配列番号74)10μg/ml 50μl、のいずれかで、NUNC Maxisorp F 96ウェルプレートをコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。PBS/Tによる1回の洗浄ステップの後、ウェルを、3%w/v BSA(NeoFROXX、Einhausen、ドイツ)のPBS/Tで1時間ブロッキングし、これに続いて洗浄し、PBS/T中の精製Fab断片それぞれの適当な希釈系列50μlとともに1時間インキュベートした。ウェルを、PBS/Tで再度洗浄し、これに続いてアルカリホスファターゼ(Sigma-Aldrich)にコンジュゲートされた抗ヒトカッパ軽鎖ヤギ抗体の1:1000希釈液のPBS/T 50μlとともに1時間インキュベートした。PBS/TおよびPBSでそれぞれ2回の最終洗浄後、シグナルを、p-ニトロフェニルリン酸で発生させ、上に本明細書において記載されるように測定および評価した。
【0100】
蛍光滴定を、励起には280nm、検出には340nmの波長で、25℃に温度調節された2ml石英キュベットを備えるLS-50B発光分光計(Perkin Elmer、Norwalk、CT)を使用して、先に記載のように(Voss & Skerra、1997)実施した(5秒にわたってシグナルを積分)。100mM Tris/HCl pH7.5中に抗PA(S) MAb 2.2の精製Fab断片1μMを含む溶液2mlを、1μl~合計容量22μlまでの一定分量中のAbz-APAPAAPAペプチド(Peptide Specialty Laboratories-PSL、Heidelberg、ドイツ)(Abzはオルト-アミノベンゾイルを意味する)5mM溶液を用いて滴定した。データを、初期蛍光100%に正規化し、同じペプチドによるN-アセチル-トリプトファンアミドの滴定による内部フィルター効果の補正を含めて、記載されるように(Edwardrajaら、2017)、KaleidaGraph(Synergy Software、Reading、PA)を用いる非線形最小二乗回帰によって当てはめた。
【0101】
相当する抗PA(S) MAbのFab断片を用いるSPR測定を、Biacore X100機器(GE Healthcare)で25℃で実施した。PAS#1(200)-IL1Ra、P/A#1(200)-IL1Ra、またはチオレドキシンA-APSA(200)を、製造者の取扱説明書に従ってスクシンイミジル-6-(ビオチンアミド)ヘキサオネート(Sigma Aldrich)20倍モル量でビオチン化し、製造業者のプロトコルに従ってビオチンCAPtureチップ(GE Healthcare)上にリガンドとして個別に固定化した。各リガンドの固定化前に、120秒間の30%v/vアセトニトリル、0.25M NaOHならびに120秒間の6Mグアニジン/HCl、0.25M NaOHで2回の連続注入で、センサーチップを再生した。組換えFab断片の濃度系列を、シングルサイクルカイネティクスおよび流速30μl/分使用してセンサーチップ上へと注入した。HBS-ET緩衝液で測定した参照チャンネルとブランクベースラインの両方からのシグナルの減算後、1:1結合モデルを用いるBiacore X100評価ソフトウェアver.2.0.1(GE Healthcare)を使用してデータを当てはめた。フィッティングアルゴリズムにより使用される速度方程式は以下のとおりである:
A(溶液)=濃度
A[0]=0
dA/dt=(tc*f^(1/3))*(濃度A)-(ka*A*B-kd*AB)
B[0]=RMax
dB/dt=-(ka*A*B-kd*AB)
AB[0]=0
dAB/dt=(ka*A*B-kd*AB)
合計応答:
AB+RI
パラメータ:濃度、分析対象物濃度[M];tc、物質移動定数;f、フローセルを通る溶液の体積流量[m
3・s
-1];RMax、結合キャパシティ;RI、屈折率。
H.固定化ペプチドアレイのSPOT合成およびエピトープマッピング
PAS#1またはP/A#1のアミノ酸反復配列の全体のアミノ酸配列をカバーするオーバーラップする20個の12マーペプチドのアレイ、または、3~8位にてタンパク質原性の全20種のアミノ酸によって連続的に置換されている配列AAPSAAPSAAを含む10マーペプチドのアレイを、MultiPep SPOTシンセサイザー(Intavis、Koln、ドイツ)を使用して、標準プロトコル(Frank、2002)に従って親水性膜上で合成した。膜上の結合活性の検出については、精製Fab断片または分泌されたMAbを含有するハイブリドーマ細胞培養上清のいずれかとともに、これに続いて、それぞれ、抗ヒトカッパ軽鎖抗体アルカリホスファターゼコンジュゲート(Sigma-Aldrich)または抗マウスIgG Fc特異的抗体アルカリホスファターゼコンジュゲート(Sigma-Aldrich)とともに、インキュベートした後、公開された手順(Zanderら、2007)に従って実施した。
I.ウエスタンブロッティングによるPAS化タンパク質の検出
ハイブリドーマ上清由来の抗PA(S) MAbを、ウエスタンブロットでのPAS化タンパク質の検出について試験した。水で1:200希釈し、IL1Ra(Kineret/Anakinra;Swedish Orphan Biovitrum、Stockholm、スウェーデン)1μgと大腸菌BL21全細胞溶解物とを添加した、1セットのさまざまなPAS化タンパク質(PAS#1(200)-IL1Ra(配列番号72)、P/A#1(200)-IL1Ra(配列番号73)、APSA(200)-IL1Ra(配列番号74))ならびに対照の場合、ヒト血清(ヒト血清(PL)、プールされたもの、SEQENS IVD/H2B、Limoges、フランス)を、SDS-PAGEに供し、これに続いて、ニトロセルロース膜上でセミドライエレクトロトランスファーに供した。PBS/Tで洗浄した後、膜を、ハイブリドーマ上清として抗PAS MAbのPBS/T中1:2000希釈液、または精製した抗PA(S) MAb 2.1の場合で1:200000希釈液とともにインキュベートした。結合したMabを、アルカリホスファターゼとコンジュゲートされた抗マウスIgGFc特異的ヤギ抗体(Sigma-Aldrich)のPBS/T 1:50,000希釈液、これに続いて、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸塩(BCIP)およびニトロブルーテトラゾリウム(NBT)(両方ともCarl Roth製、Karlsruhe)との発色反応を使用して、検出した。
J.ラットにおける薬物動態解析
8~9週齢にての雌性ウイスターラットで薬物動態(PK)研究を、適用される動物福祉規制に準じてAurigon Toxicological Research Center(ATRC、Dunakeszi、ハンガリー)で実施した。ケージ当たり最大3匹の動物を、22±3℃にての、相対湿度50±20%、12時間明12時間暗での制御された環境に収容した。精製したPAS化チモシンアルファ1(配列番号76)(3.4mg/kg)を、ラットの背部領域への単回注射を介して皮下投与した。血液試料(100μl)を、さまざまな時点で5匹の動物それぞれから採取した。K3-EDTAチューブ(Greiner Bio-One、Frickenhausen、ドイツ)への採取に続いて、試料を室温で10分間遠心分離し(3000×g)、生成する血漿を-15~-30℃で保存した。これらの試料中のPAS化チモシンアルファ1を、サンドイッチELISAを使用して定量化した(方法Kおよび
図15Aを参照されたい)。動物またはヒト患者の血液または血漿/血清試料中のPAS化ペプチドまたはタンパク質の定量化に適切な、可能性のある代替ELISAセットアップを
図15、パネルB~Dに例示する。
K.ELISAによるラット血漿中のPAS化チモシンアルファ1の定量化
8~9週齢にての雌性ウイスターラット(n=5)(Aurigon Toxicological Research Center、Dunakeszi、ハンガリー)に、PAS化チモシンアルファ1(配列番号76)(3.4mg/kg)を皮下注射し、血液試料(100μl)を、さまざまな時点でK3-EDTAチューブ(GreinerBio-One、Frickenhausen、ドイツ)に採取した。ラットPK研究(方法J)において投与されたPAS化チモシンアルファ1の定量化の場合、Nunc Maxisorb ELISA96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific)を、抗PA(S) MAb 2.1のPBS 100μg/mlで4℃で一晩コーティングした。PBS/Tで2回洗浄した後、遊離の結合部位を、室温で1時間、3%w/v BSAのPBS/Tを用いてブロッキングした。
【0102】
次いで、プレートをPBS/Tで3回洗浄し、ラット血漿試料を、それぞれ1:2希釈系列で、PBS/T中に適用したが、このPBS/Tは、ラット血漿成分の一定の割合を維持するために、未処理の動物由来の0.5%(v/v)血漿を補充しておいたものである。同様に、試験試料と同量のラット血漿を含有するPBS/Tに含まれる規定濃度にての精製PAS化チモシンアルファ1の希釈系列を使用して、標準曲線を作製した。室温にての1時間のインキュベーション後、ウェルをPBS/Tで3回洗浄した。結合PAS化チモシンアルファ1を検出するために、抗PA(S) MAb 1.2の1μg/ml PBS/T溶液50μlとともに1時間、ウェルをインキュベートしたが、この抗PA(S) MAb 1.2は、Lightning-Linkアルカリホスファターゼ抗体標識キット(BioTechne、Wiesbaden、ドイツ)を使用してアルカリホスファターゼとコンジュゲートさせておいたものである。PBS/Tで2回、PBSで2回洗浄した後、酵素活性を、p-ニトロフェニルリン酸(0.5mg/ml)を使用して検出した。この目的のため、プレートを30℃で20分間インキュベートし、吸光度を、SpectraMax M5eマイクロタイタープレートリーダー(Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を使用して405nmで測定し、PAS化チモシンアルファ1濃度を標準曲線との比較により定量化した(
図14A)。
【0103】
データを、注射後のサンプリング時間に対してプロットし、Phoenix WinNonlin 6.3ソフトウェアを使用する1-コンパートメントモデルを使用して当てはめた。生成するPKパラメータ(表1)およびPKプロファイル(
図14B)は、長時間作用型ペプチド薬物に典型的なものであり、本発明の抗PAS抗体が哺乳動物血漿中のPAS化薬物の濃度の定量化に適していることを証明する。注目すべきことに、本方法に適用されるELISAセットアップ(
図15A)は、捕捉抗体として抗PAS抗体を使用する、したがって、ヒトペプチドと100%の配列同一性を共有する内在性ラットチモシンアルファ1の検出を回避する。代替のELISAセットアップは、例えば
図15に例示されており、当技術分野でよく知られる(Vashist & Luong、2018)。
【0104】
【0105】
L.PASペプチドとの抗PAS Fab断片の共結晶化、X線データ収集および分子モデルの建設
抗PA(S) MAb 2.2、抗PA(S) MAb 1.1、および抗PA(S) MAb 3.1の精製組換えFab断片を、それらの同族PASペプチドと直接共結晶化したが、一方、抗PA(S) MAb 1.2のFabの場合では、(Ereno-Orbeaら、2018)に記載の抗ヒトカッパVHHドメインとの複合体を最初に調製した。この目的のため、精製Fabを3倍モル量のVHHドメイン(Thermo Fisher Scientific)とともに4℃で1時間インキュベートした。タンパク質混合物をHiLoad 16/60 Superdex75プレップグレードカラムでSECに供し、Fab・VHH複合体を過剰な抗ヒトカッパVHHドメインから分離し、ランニング緩衝液として10mM HEPES/NaOH pH6.5、70mM NaClを使用してワンピークで単離した。
【0106】
さまざまなタンパク質溶液を、Amicon Ultracel遠心フィルターユニット(MWCO 10 kDa;Miiiipore、Billerica、MA)を使用して以下のように濃縮した:抗PA(S) MAb 2.2を20mM HEPES/NaOH pH6.5、80mM NaCl中9.6mg/mlまでに;抗PA(S) MAb 3.1を10mM HEPES、pH6.5、100mM NaCl中9.2mg/mlまでに;抗PA(S) MAb 1.1を8.4mg/mlまでにおよび抗PA(S) MAb 1.2を、Fab・VHHとして、13.7mg/mlまでに、両方とも10mM HEPES/NaOH pH6.5、70mM NaCl中で。共結晶化の場合、各濃縮タンパク質溶液を、水の>50mMストック溶液からの適当なペプチドと1:3(Fab:ペプチド)のモル比で混合し、4℃で1時間インキュベートした。次いで、タンパク質結晶化スクリーニングを、シッティングドロップ蒸気拡散法およびタンパク質とリザーバー溶液の等量混合物を介して実施し、結果として300~1000nlの範囲の総ドロップ容量をとした。有望な結晶化条件の精密化に当たっては、リザーバー容量1mlおよびタンパク質1μlとリザーバー溶液1μlから構成されるドロップレットを用いるハンギングドロップ蒸気拡散法を使用して、さらなるスクリーニングを設定した。表3に列記する条件下で20℃で1週間以内に結晶が出現した。タンパク質結晶を回収し、抗PA(S) MAb 2.2の場合は20%w/v PEG200、抗PA(S) MAb 1.1および抗PA(S) MAb 1.2 の場合は20%w/vエチレングリコール、または抗PA(S) MAb 3.1の場合は20%w/vグリセロールを補充した沈殿緩衝液に移し、液体窒素中で即座に凍結させた。
【0107】
単一波長X線シンクロトロンデータセットを、Helmholtz-Zentrum Berlin、ドイツにより運用されるBESSY IIのMXビームラインBL14.2で、または、抗PA(S) MAb 3.1のFab断片の場合は、Swiss Light Source(SLS)、Villigen-PSI、スイスのタンパク質結晶構造解析ビームラインX06SA-PXIで、各結晶から100Kで収集した。回折データ(表3)を、XDSプログラムパッケージ(Kabsch、2010)で整理し、分子置換を、検索モデルとしてFab 101F(PDB ID:3QQ9)の定常ドメインおよび可変ドメインを使用して、Phaser(McCoyら、2007)を用いて実施し、抗PA(S) MAb 2.2 Fab・P/A#1複合体の構造を解析した。抗PA(S) MAb 1.1 Fab・PAS#1および抗PA(S) MAb 1.2 Fab・PAS#1の構造を、後者の場合では抗ヒトカッパVHHドメイン(PDB ID:6ANA)も含めて、検索モデルとして抗PA(S) MAb 2.2のFabの精密構造との分子置換によって解析した。抗PA(S) MAb 3.1Fab・APSAの構造を、抗ヒトカッパVHHドメインを含めずに、検索モデルとして抗PA(S) MAb 1.2 Fabの精密構造との分子置換によって解析した。タンパク質モデルを、Coot(Emsleyら、2010)で手動で調整し、Refmac5(Murshudovら、2011)で精密化した。ペプチド分子と水分子を、精製化プロセスの過程でCoot内に手動で構成した。最終的な構造モデルを、MolProbityサーバーを使用して検証した(Wiiiiamsら、2018)。結晶の接触部位ならびに露出表面積および埋没表面積(それぞれASAおよびBSA)をPISA(Krissinel & Henrick、2007)(入力ファイル内で連続し非中断のアミノ酸鎖として接続した軽鎖および重鎖を用いて算出)を用いて解析した。分子グラフィックスを、静電気の算出のためにAPBSモジュール(Bakerら、2001)を使用して、PyMOL(Schrodinger、Cambridge、MA)を用いて作成した。原子間距離はCONTACT(Winnら、2011)を用いて算出した。
【0108】
ポリペプチドを、Ig軽鎖についてはL、Ig重鎖についてはH、結合PASペプチドそれぞれについてはPと記述し、一方、抗ヒトカッパVHHドメインに、鎖識別子Xを割り当てた。抗PA(S) MAb 1.1の場合、非対称ユニットに2つのFab・ペプチド複合体がある場合、より高い平均結晶学的B因子を有するものに、それぞれ鎖識別子A、B、Qを割り当てた。
M.セファロースカラム上に固定化した抗PAS Fabを使用するStrepII-eGFP-PAS#1(200)、H1GA-PAS#1(200)-His6およびPAS#1(800)-IL1Raのアフィニティー精製
抗PA(S) MAb 1.2の精製Fab断片合計5mgを、製造業者のプロトコルに従って、1mlのHiTrapNHS活性化HPカラム(GE Healthcare)上に共有結合で固定化した。簡潔に言うと、カラムを、氷冷1mM HClで洗浄し、その後、Fabのカップリング緩衝液(0.2M NaHCO3、0.5M NaCl、pH8.3)1mlを注入し、25℃で30分間、インキュベートした。過剰な反応基の洗浄および不活性化を、0.5Mエタノールアミン、0.5M NaCl、pH8.3と0.1M酢酸Na、0.5M NaCl、pH4との繰返し交互注入によって実施した。
【0109】
このカラム上のPAS化試験タンパク質、StrepII-eGFP-PAS#1(200)、H1GA-PAS#1(200)-His
6およびPAS#1(800)-IL1Raの精製を、流速1ml/分で操作するAKTA Pure 25クロマトグラフィーシステムを使用して実施した。カラムを、ランニング緩衝液(100mM Tris/HCl pH8、150mM NaCl、1mM EDTA)2mlで最初に平衡化し、これに続いて(i)純粋なStrepII-eGFP-PAS#1(200)(配列番号71)または(ii)StrepII-eGFP-PAS#1(200)を発現する大腸菌BL21細胞の全細胞溶解物、または(iii)H1GA-PAS#1(200)-His
6(配列番号90)を発現する大腸菌BL21細胞の周辺質抽出物、または(iv)PAS#1(800)-IL1Ra(配列番号91)を発現する大腸菌BL21細胞の全細胞溶解物のいずれかを注入した。非結合タンパク質をランニング緩衝液2mlでカラムから洗い落し、次いで、L-プロリンアミド(Sigma Aldrich)の1Mランニング緩衝液2~3mlを適用することによって、または代替的にpHをHClで8.0に調整した1M L-プロリンアミド、100mMトリス、150mM NaCl、1mM EDTAを適用することによって、結合タンパク質を溶出し、これに続いて、ランニング緩衝液によるカラム再生を行った。一般のタンパク質の存在とStrepII-eGFP-PAS#1(200)の特異的存在の両方をモニタリングするために、UV吸光度をそれぞれ280nmおよび488nmで検出した(
図10A、B)。SDS-PAGE解析が、純粋なPAS化タンパク質の特異的溶出を確認した(
図10C、D)。280nmでバックグラウンド吸収をもたらした市販のL-プロリンアミド物質中の見かけ上の不純物により、ブランククロマトグラム(PAS化タンパク質の適用なし)を記録し、減算に使用して、H1GA-PAS#1(200)-His
6およびPAS#1(800)-IL1Raの補正クロマトグラムを取得した(
図11A、C)。純粋なPAS化タンパク質の特異的溶出を、SDS-PAGE解析によって確認した(
図11B、D)。
N.PAS化試験タンパク質の調製
本明細書に記載の方法で使用される、さまざまな組成および長さを有するPAS配列に融合されたすべての試験タンパク質およびペプチドを、当技術分野において、例えば、WO2008/155134A1、WO2011/144756A1、WO2017/109087A1、WO2018/234455A1においてまたは、(Binder & Skerra、2017; Breibeck & Skerra、2018; Morathら、2015; Schlapschyら、2013)において、十分に記載されるルーチンの手順に従って、相当する合成遺伝子を内部に持つ従来の発現ベクターからの細胞質発現を介してまたは周辺質分泌を介して、大腸菌内で産生させた。
O.寄託
本発明の以下のMAbは、1991年2月28日に、動物およびヒトの細胞培養物の寄託に関するブダペスト条約に準じてInternational Depositary AuthorityとしてWorld Intellectual Property Organizationによって認められた、Leibniz Institute DSMZ - German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH、Inhoffenstrasse 7B、38124 Braunschweig、ドイツにての細胞培養物として、XL-protein GmbH、Lise-Meitner-Strasse 30、85354 Freising、ドイツによって、寄託されたものである。
【0110】
・抗PA(S)Mab 1.1=DSM ACC3365
・抗PA(S)Mab 2.1=DSM ACC3366
・抗PA(S)Mab 3.1=DSM ACC3367
実施例2:モノクローナル抗PAS抗体の生成およびPAS配列のその特異的検出
異なる3つのPASペプチド配列、PAS#1(配列番号1)、P/A#1(配列番号2)およびAPSA(配列番号3)に対する抗体をマウスにおいて産生させた。この目的のため、動物を、上で本明細書に実施例1に記載のように、相当する合成N末端保護40マーペプチドで免疫したが、この40マーペプチドは、高免疫原性のT細胞依存性キャリア抗原/「免疫アジュバント」として海洋養殖キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に、C末端カルボキシレート基を介して化学的にカップリングされたものである(Swaminathanら、2014)。PAS#1およびP/A#1の場合、40マーは設計した20マー反復配列の2コピーを正確にカバーしたが(Breibeck & Skerra、2018;Schlapschyら、2013)、一方、「APSA」ペプチドは4残基モチーフの10コピーを構成したが、これは、一種の単純化Pro/Alaリッチ配列パターンと考えられ得る。
【0111】
これらの2×20マーおよび/または40マーPASペプチドを、結果として、隣接する2つの反復配列間の接合部の少なくとも1コピーを含めて、相当するPAS反復配列の少なくとも2コピーを包含するように設計したが、これはまた、より長い組換えPASポリペプチドにおいて可能性のあるエピトープも構成する。それぞれ抗原25~50μgによる4~6ラウンドの免疫ならびに最終ブーストの後、脾臓細胞を、抗原当たり5匹のマウスから分離し、Sp2/0骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを生成した。各免疫キャンペーンについて、40個のハイブリドーマクローン由来の抗体を、相当するPASポリペプチド(200~600残基)を含む組換え融合タンパク質を使用するELISAによって特徴付けたが、この場合(i)PAS配列の配列特異性認識および状況独立性認識、ならびに(ii)異なるPAS配列間の可能性のある交差反応性を示す抗体の特定を、スクリーニングすることを目標とする。ハイブリドーマ培養上清を用いるMAb捕捉ELISAを実施し、濃度依存性様式でPAS融合タンパク質を適用して、解離定数(KD)を決定した。有望な候補のハイブリドーマ培養上清を、リアルタイム表面プラズモン共鳴(SPR)分光法により、抗原親和性および結合動態に関して特徴付けた。相当する方法は例1に記載される。
【0112】
ELISAおよびSPRの測定によるそのK
D値に基づいて、また濃度依存ELISAの吸収振幅も考慮して、明確に異なる特性を有する8つのクローンを、PAS#1(40)-KLHおよびP/A#1(40)-KLHの免疫からそれぞれ選択し、Synthetic Peptides On Transferメンブレン(SPOT)技法(Frank、2002)を使用して、合成ペプチドアレイ上の線状エピトープの認識について試験した。本アッセイが明らかにしたところは、抗PA(S) MAb 2.1および2.2のエピトープ配列としての「PAPAAP」(配列番号8)および「PAPASP」(配列番号9)であり、一方、抗PA(S) MAb 1.1および1.2は、ペプチドモチーフ「PASPAAP」(配列番号10)を優勢に認識したことである(
図5および6を参照されたい)。APSA配列の反復性がより単純であることから、この抗原に対してSPOT置換解析を実施した(
図7)。したがって、3~8位にて本質的な全20種のアミノ酸に連続的に置換されている配列AAPSAAPSAAを含む10マーペプチドを、親水性膜上にC末端固定で合成した。興味深いことに、PAS#1(40)-KLHによる免疫によって生成した抗体は、PAS#1ポリペプチド配列(抗PA(S) MAb 1.1および1.2)のみを認識したが、一方、P/A#1(40)-KLH免疫由来の一部のMAbはまた、P/A#1エピトープを超えてPAS#1(抗PA(S) MAb 2.1)との交差反応性も示した。驚くべきことに、本発明のすべての抗PA(S) MAbによって認識される一般化配列モチーフが、「(P/S)A(A/S)P」としてまたはPA(A/S)Pとして浮上した。
【0113】
PAS化融合タンパク質の検出における本発明のモノクローナル抗体の適用性について検証するために、ハイブリドーマ上清由来の抗PA(S) MAbをウエスタンブロッティング実験で試験し、ここで、PAS化融合タンパク質の特異的検出が確認された。さらに、非PAS化タンパク質バージョン、ヒト血清タンパク質、または大腸菌全細胞溶解物中のタンパク質に対する非交差反応性はまったく検出されなかった(
図2)。
【0114】
実施例3:MAbのV遺伝子配列のクローニングおよびFab生産
各抗原について、標的配列へのその親和性ならびに他のPAS配列への交差反応性に基づいて、さらなる解析のために最も有望な2つのハイブリドーマクローン(抗PA(S) MAb 2.1および抗PA(S))を選択した:P/A#1の場合は抗PA(S) MAb 2.1および抗PA(S) MAb 2.2;PAS#1の場合は抗PA(S) MAb 1.1および抗PA(S) MAb 1.2、APSAの場合は抗PA(S) MAb 3.1および抗PA(S) MAb 3.2。mRNA/cDNAからのそれらのV遺伝子配列を決定するために、上で本明細書に実施例1に記載のように、各VHドメインおよびVLドメインのコード領域を逆転写し、適切なオリゴデオキシヌクレオチドプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した。クローン化したV遺伝子配列(抗PA(S) MAb 2.2、抗PA(S) MAb 1.1、および抗PA(S) MAb 3.2の場合)、または、代替的に、相当する合成DNA断片(抗PA(S) MAb 2.1、抗PA(S) MAb 1.2、および抗PA(S) MAb 3.1の場合)を、第1のヒトIgG1重鎖およびκ軽鎖定常領域をコードする細菌発現ベクターに次いで挿入して、相当するキメラFab断片の発現を可能にした(Schiweck & Skerra、1995;Skerra、1994)。Fab断片を、振盪フラスコと卓上型発酵槽スケールの両方で大腸菌における周辺質分泌によって機能的な状態で産生させ、IMAC、CEXおよびSECによって均一に精製した(実施例1を参照されたい)。
【0115】
以下のアミノ酸配列を取得した(
図1を参照されたい;(Kabatら、1991)による定義に従ったCDRは黒枠で標識される):
VH抗PA(S) MAb 1.1(配列番号23):
VL抗PA(S) MAb 1.1(配列番号24):
VH抗PA(S) MAb 1.2(配列番号25):
VL抗PA(S) MAb 1.2(配列番号26):
VH抗PA(S) MAb 2.1(配列番号27):
VL抗PA(S) MAb 2.1(配列番号28):
VH抗PA(S) MAb 2.2(配列番号29):
VL抗PA(S) MAb 2.2(配列番号30):
VH抗PA(S) MAb 3.1(配列番号31):
VL抗PA(S) MAb 3.1(配列番号32):
VH抗PA(S) MAb 3.2(配列番号33):
VL抗PA(S) MAb 3.2(配列番号34):
注目すべきことに、異種間の配列多様性に大部分基づいている、CDRを決定するための方法(Kabatら、1991)とは別に、抗原抗体複合体の結晶学的研究に基づいている、当技術分野でよく知られる少なくとも1つの他のアプローチがある(Al-Lazikaniら、1997;Chothiaら、1989)。本明細書で使用される場合、CDRとは、Kabat(上掲)による定義を優先的に指すが、他の前記アプローチによってまたは両アプローチの組み合わせによって定義されるCDRを指す場合もある。連続番号を使用してアミノ酸を番号付けした。
【0116】
実施例4:結合親和性の特性評価(抗PASモノクローナル抗体および抗PAS Fab)
本発明のモノクローナル抗体(MAb)および本明細書において提供される方法および実施例によって取得されるようなモノクローナル抗体(MAb)、ならびに相当する組換え抗PAS Fabについて、さまざまなPASポリペプチドに対してのそれらのKD値を正確に決定するために、定量的ELISAおよびリアルタイムSPRの測定で調査した(表2も参照されたい)。これらの測定は、予備的なハイブリドーマスクリーニングからの知見を本質的に確認した。PAS抗原の各タイプについて、特に高親和性を有する少なくとも1つのMAbが特定されたが、ここでは、Fabについて測定された1桁のナノモル範囲のKD値から明白である:抗PA(S) MAb 2.1についてはP/A#1に対して2nM;抗PA(S) MAb 1.1についてはPAS#1に対して23nM;抗PA(S) MAb 3.1についてはAPSAに対して2nM。以前に調査したインタクトのMAbと比較して、Fabについて測定された親和性は通常1~2桁より弱かったが、このことは、アビディティ効果による可能性が最も高く、この効果は、エピトープの多重のコピー(例えば、600残基のPASポリペプチドにおける、30コピーの反復的な20個のPAS#1アミノ酸ストレッチ)を内部に持つ長いPASポリペプチドと二価Mabが相互作用する場合に起こる。抗P/A#1Fabは、P/A#1配列に特異的であるか、またはPAS#1配列とも交差反応性であるかいずれかであったが、一方、抗PAS#1FabはPAS#1配列に対してのみ特異性を示した。抗APSA抗体断片は、APSA配列に特異的であるか、またはPAS#1およびP/A#1のポリペプチドと交差反応性であるかいずれかであった(以下の表2を参照されたい)。
【0117】
【0118】
それらのエピトープ配列に対する抗PA(S) MAb 2.1および抗PA(S) MAb 2.2の一価の親和性を決定するために、相当する組換えFab断片および合成ペプチドAbz-APAPAAPA(配列番号4)(蛍光共鳴エネルギー転移プローブとしてN末端o-アミノベンゾイル基を担持する)を用いて、蛍光滴定(FT)実験を実施した。抗PA(S) MAb 2.1のFabについては信頼できるK
D値を導出することはできなかったが、抗PA(S) MAb 2.2のFabについてはK
D=9.2±0.1μMを決定した(
図16)。この値は、ELISAで純粋なP/A#1(600)抗原について測定されたK
D=8±1nMと比較せねばならず、これはおよそ1000倍高かった(表2を参照されたい)。この差異は、抗PA(S) MAb 2.1のFabについてはさらにより高いとせねばならず、このことが指示するところは、アビディティ効果だけでなく、エピトープペプチドの正確な分子近傍または多数の反復配列を有するポリペプチド内のエピトープ密度などの、より特異な側面もまた、見かけの親和性に相当に影響を及ぼし得ることである。
【0119】
実施例5:抗PAS Fabとの共結晶化によるPASペプチド結合の構造特性評価
本発明の抗PA(S) MAbの一部による抗原認識の構造メカニズムを、X線結晶構造解析を使用して解析した。したがって、上で本明細書に実施例1に記載の方法を使用して調製した組換え抗PA(S)Fab断片を、それらの同族合成ペプチドとの共結晶化実験に供したが、その配列は、上記のようなSPOTアッセイによって決定されたエピトープ配列に基づくものであるか、または、単純なAPSAモチーフの場合は、3つのAPSA反復を有する12個のアミノ酸のストレッチを含んだ。より長い(ポリ)ペプチドストレッチでは非存在であると思われる、N末端にての荷電を回避するために、これらをピログルタミン酸(Pga)でまたはアセチル化によってブロックした。抗PA(S) MAb 2.2 Fab・P/A#1および抗PA(S) MAb 1.1 Fab・PAS#1のFab・ペプチド複合体について、回折品質の結晶が得られた(添付の表3を参照されたい)。抗PA(S) MAb 2.1および抗PA(S) MAb 1.2の場合、本発明者らは、抗ヒトカッパ軽鎖VHHドメインを利用して(本発明者らのキメラの)Fab断片の(共)結晶化を促進する最近公表された戦略を適用した(Ereno-Orbeaら、2018)。実際、このアプローチは、PAS#1エピトープペプチドと複合体を形成した抗PA(S) MAb 1.2のFabの結晶をもたらし、この結晶はシンクロトロンX線源で1.55Åの高分解能で回折した。抗PA(S) MAb 2.2 Fab・P/A#1複合体の構造を、検索モデルとして機能的に非関連の抗ヒトRSV Fab 101F(PDB ID:3QQ9)の定常ドメインおよび可変ドメインを使用する分子置換によって解析した。続いて、複合体、抗PA(S) MAb 1.1 Fab・PAS#1および抗PA(S) MAb 1.2 Fab・PAS#1・VHHの構造を、検索モデルとしてFab 3F3E2抗PA(S) MAb 2.2の精密構造、ならびに後者の場合では抗ヒトカッパ軽鎖VHHドメイン(PDB ID:6ANA)の精密構造を用いる分子置換によって、解析した。抗PA(S) MAb 3.1 Fab・(APSA)3の構造を、この場合では、抗ヒトカッパVHHドメインを含めずに、検索モデルとして抗PA(S) MAb 1.2 Fabの精密構造を用いる分子置換によって解析した。PAS#1、P/A#1および(APSA)3の各ペプチドのマニュアルでの位置決めの後、結晶学的精製を完了させ、結果的にRfree値23~27%となった(表3)。
【0120】
【0121】
これらの結晶構造のさらなる解析が示したところは、PASペプチドは、多少とも緩和したコンフォメーションで4つのFabすべてに結合され、その結果、6つの相補性決定領域(CDR)のうちの少なくとも4つが関与した状態で、抗原結合部位の広い領域をカバーすることである。極性側鎖の欠如が理由で - PAS#1エピトープペプチドの1個のSer残基と(APSA)3ペプチドの3個のSer残基を除いて - 相互作用は、ペプチド主鎖の原子との水素結合(添付の表4を参照されたい)および一部の局所的な疎水性相互作用を含むファンデルワールス接触(添付の表5を参照されたい)を通して優勢に媒介されるが、一方、予想どおり塩橋は完全に非存在である。興味深いことに、いずれの場合も、PASペプチドのうちの少なくとも1個のAla残基が抗PAS Fabとの適切な相互作用に関与する;したがって、AlaはPASエピトープにおける抗体相互作用のホットスポットと考えられ得る。これまでに、最小の側鎖を有するアミノ酸であるAlaは、タンパク質-タンパク質/ペプチド認識において取るに足りない役割を担うとされてきた。事実、アラニンスキャニング突然変異誘発の戦略(Cunningham & Wells、1989)は、受容体-リガンド結合または抗体-抗原結合にクリティカルな残基を精査するための幅広い応用を見出し、その結果、分子相互作用に対するAlaメチル側鎖の準不活性な役割を想定した。予想外なことに、本発明が明らかにするところは、特に2つの結晶構造、抗PA(S) MAb 2.2 Fab・P/A#1および抗PA(S) MAb 1.1 Fab・PAS#1により例示されるように、Alaが事実、抗原認識において中枢的な役割を取ることができることである。実際、AlaP5は、結合ポケットに完全に埋め込まれ、そのカルボニル酸素が2つの水素結合に関与し、複合体項PA(S) MAb 2.2 Fab・P/A#1の抗体-ペプチドインターフェースにおいて「ホットスポット」残基として働く(Clackson & Wells、1995)。同様に、抗PA(S) MAb 1.1 Fabの構造が明らかにするところは、抗原結合部位の中央にあるホールであり、このホールは、AlaP7のメチル基を収容するように完全に成形され、それによって、高い形状相補性および密集したインターフェースを可能にする。
【0122】
(APSA)3ペプチドと複合体を形成した抗PA(S) MAb 3.1 Fabの構造が明らかにするところは、VH鎖とVL鎖の間のパラトープにある特徴的なグルーブであり、そこで、ペプチドが伸長した形状で結合される。結合にはペプチド内の3つのAPSA反復すべてからの残基が関与し、結合は、ペプチド主鎖の原子またはペプチドのSer側鎖との水素結合、ならびにペプチドのPro側鎖およびAla側鎖の疎水性相互作用によって主に媒介される。抗PA(S) MAb 2.2 Fab・P/A#1および抗PA(S) MAb 1.1 Fab・PAS#1の構造と同様に、エピトープ内のAla残基は水素結合およびファンデルワールス接触を媒介する上で、重要な役割を担う(表4および5)。
【0123】
予想外なことに、PAS#1エピトープペプチドと複合体を形成した抗PA(S) MAb 1.2 Fabの場合、ペプチドのN末端ピログルタミル残基もまた、3つの水素結合による複合体形成に寄与する。こういった水素結合は、Pga残基の位置がProによって占められることになる、より長いPAS#1(ポリ)ペプチドとの複合体では不可能であると思われる。Pro残基は結晶構造においてこの位置に完全にフィットすることになるが、一方、より長いポリペプチド鎖のさらなるN末端コースはFabとの立体障害をもたらすことになる。
【0124】
抗PA(S) MAb 1.1 Fabまたは抗PA(S) MAb 1.2 Fabとの複合体中の結合したPAS#1ペプチドの間の任意の立体構造の類似性を解明するために、それら構造間の重ね合わせを実施した。実際、SerP5~AlaP8の4個の残基は、これらのCα位置の優れたマッチングを示したが、この場合、二乗平均平方根偏差(RMSD)はわずか0.15Åであった。STRIDEによる二次構造解析(Frishman & Argos、1995)は、この4残基ストレッチの間にI型β-ターンを特定した。SerP5のカルボニル酸素とAlaP8アミド水素の間の分子内水素結合とは別に、このターンは、SerP5ヒドロキシル基とAlaP7アミド水素の間の水素結合によって安定化される。このタイプのβターンは、SPXXターンとして分類され、遺伝子調節タンパク質において発生するが、そこにおいて、このターンがDNA結合モチーフとして働く(Suzaki & Yagi、1991)。しかし、2つの Fab複合体におけるこれらの相互の類似性にもかかわらず、こういったターンはさまざまな配向性で結合される:抗PA(S) MAb 1.1 Fab・PAS#1の複合体では、このターンは結合ポケットに寄り添うが、一方、抗PA(S) MAb 1.2 Fab・PAS#1との複合体では溶媒に晒される。注目すべきことに、STRIDEを用いる同様の解析は、抗P/A#1MAb 2.2 Fabとの複合体中のP/A#1エピトープペプチドについても、抗PA(S) MAb 3.1 Fabと複合体を形成した(APSA)3ペプチドについても、二次構造の特徴を特定しなかった。
【0125】
本発明の文脈では、異なる3つの配列:すなわち、配列番号1、2および3で提供されるような配列を有する構造的に無秩序なPro/Alaリッチ(ポリ)ペプチド中の線状エピトープを特異的に認識するMAbが、本明細書において提供されるような手段および方法によって生成される。本発明の抗PA(S) MAb、またはその組換えバージョンおよび断片は、臨床研究に適したアッセイを含めて、PAS化薬物候補の生化学研究ならびに生物医薬品開発のための貴重な生物解析ツールおよび診断ツールを提供する(Binder & Skerra、2017;Gebauer & Skerra、2018;Richterら、2020)。
【0126】
【0127】
【0128】
本明細書において提供されるすべての結晶化 Fab複合体では、パラトープにおける高存在量のTyr残基が明白である。こういった残基は疎水性接触の大部分を担い(添付の表5を参照されたい)、したがって、荷電側鎖または極性側鎖に乏しい抗原を結合するのに十分に適する表面を創り出す。実際、≦4.0Åの全接触のうちの62%、49%、43%、および23%が、それぞれ、抗PA(S) MAb 2.2、抗PA(S) MAb 1.2、抗PA(S) MAb 1.1および抗PA(S) MAb 3.1中のTyrによって媒介される。興味深いことに、抗PA(S) MAb 2.2は、高Tyr含有量を明らかにし、結晶化複合体のうちで高親和性も有した。このことは以前の解析と一致するが、この解析が指示するところは、抗体パラトープ中の高含量のTyrが、増強した抗原特異性および親和性に全体的に寄与することである(Birtalanら、2008;Birtalanら、2010)。
【0129】
本明細書において提供されるデータは、抗体による無秩序なエピトープの分子認識のメカニズムに光を当てる。評価したすべてのFab構造においてPASエピトープペプチドから生じる塩橋および明白な側鎖相互作用がない状況では、複合体の形成は、ペプチド骨格が関与する水素結合(添付の表4)ならびに一部の局所的な疎水性相互作用を含むファンデルワールス接触(添付の表5)によって主に駆動される。PASペプチドの単調性に起因して、極性相互作用が可能な少数の原子団が効率的に活用されることが求められる。このことは、抗PA(S) MAb 1.2の構造によりうまく実証されるが、例えば、この場合、PAS#1ペプチドとの骨格水素結合ネットワークの短いセグメントが逆平行βシートに似ている。1個のSer残基を含むPAS#1エピトープペプチドとの2つのFab複合体では、両方の抗体は水素結合の形成に利用可能な唯一の極性側鎖と係合する。同じことが抗PA(S) MAb 3.1の構造にも当てはまり、この場合、3つのSer側鎖のうちの2つが水素結合に関与する。それにもかかわらず、競合する水性環境におけるそのような水素結合の限定されたエネルギー利得と一致して(Gaoら、2009)。実際、抗PA(S) MAb 1.1および1.2は、抗P/A#1に対して産生された最良のMAbと比較してのその著しくより低い親和性を考慮すると、この相互作用から大して恩恵を受けないと思われる(表2を参照されたい)。6つのCDRのうち少なくとも4つが、評価したすべての Fab複合体においてペプチド-抗体相互作用に関与するという観察結果(表6を参照されたい)が強調するところは、拡張したインターフェースを関わらせて、構造的に柔軟な抗原を多少とも緊密に結合することの必要性である。
【0130】
【0131】
実施例6:抗PA(S)Mab1.1を使用して、PAS化抗ガレクチンFab断片を捕捉し、その抗原ガレクチン-3に対するPAS-Fab結合動態を決定する、SPR分光法
本発明の抗PA(S)Mab1.1抗体を、表面プラズモン共鳴(SPR)センサーチップ上でのPAS化ヒト化抗ガレクチンFab断片(Peplauら、2021)の非共有結合での安定した捕捉のためのツールとして使用して、その断片の抗原であるガレクチン-3へのそのFabの親和性を決定した。流速30μl/分にてのランニング緩衝液としてHBS/T(10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA、0.005%v/v Tween20)で運転の、Biacore X100装置(Cytiva、Freiburg、ドイツ)に、カルボキシメチルデキストランコーティングのCM5センサーチップ(Cytiva)を装入した。両フローチャネル内のデキストランヒドロゲルのカルボキシレート基を、483mM 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)と100mM N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の1:1混合物を流速5μl/分で430秒間注入することによって、アミンカップリングキット(Cytiva)を使用して、反応性N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基に変換した。次に、Genscript(Piscataway、NJ、米国)から入手したプロテインAアフィニティー精製組換え抗PA(S)Mab1.1を、10mM酢酸Na pH4.5に含まれる抗PA(S)Mab1.1の溶液100μg/mlの、流速5μl/minにての600秒間の注入によりチップ表面上へと共有結合で固定した。未反応NHSエステル基を、0.1Mエタノールアミン溶液の流速5μl/分にての430秒間の注入によって最終的にブロックした。この手順(
図17)は、概13500共鳴単位(ΔRU)の抗PA(S)Mab1.1表面密度をもたらした。
【0132】
C173T突然変異およびC末端Strep-tag II(配列番号94)を担持する組換えガレクチン-3(Uniprot Identifier P17931)に対する抗ガレクチン-PAS(200)Fab断片(配列番号92および配列番号93)の結合動態を調査するため、精製PAS化 Fab断片を、HBS/Tで3.57μg/mlに希釈し、流速5μl/分で40秒間フローチャネル2に注入し、これに続いて600秒間、緩衝液をフローさせた。これは、概580共鳴単位(ΔRU)のPAS- Fab表面密度をもたらしたが、この表面密度は±7%以内で安定したままであった(
図17B)。続いて、流速30μL/分にての、それぞれ60秒間の抗原ガレクチン-3の1:2希釈系列(1.6nM~0.1nM)からの5回連続注入使用して、最終的にこれに続いて3600秒の解離期間を使用して、シングルサイクルカイネティクス実験を実施した。その後、流速30μl/分にての60秒間の、10mMグリシン/HCl、pH2.4の2回連続注入よってチップを再生した。こういった再生手順により、2か月超にわたるPAS化タンパク質を用いるさらなる測定のために、同じMAb官能化センサー表面の再利用が可能となった。
【0133】
参照補正のセンサーグラム(
図17C)が示したところは、抗ガレクチン-PAS(200)Fab断片とその抗原ガレクチン-3との間の二分子反応に関しての典型的な結合曲線である。これらのデータを、Biacore X100評価ソフトウェア(Cytiva)を使用してグローバル1:1ラングミュア結合モデルに当てはめたが、会合速度は7.9×10
6M
-1s
-1、解離速度3.0×10
-5s
-1、平衡解離定数(K
D値)は3.8pMという結果であった。
【0134】
これらの発見が実証するところは、本発明の高特異性抗PAS1.1MAbが、SPRセンサーチップ上でPAS化タンパク質の非共有結合での安定した捕捉のため貴重なツールを提供することである。さらに、10mMグリシン/HCl pH2.4を使用する弱酸性再生は、PAS化タンパク質を、そのリガンドと一緒に、完全に除去し、その結果、同じMAb官能化センサー表面をPAS化タンパク質のさらなる測定に再利用する能力を提供した。
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