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特表2024-501376フィブリリン-1の新規組換えフラグメント及びその使用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】フィブリリン-1の新規組換えフラグメント及びその使用法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20231228BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20231228BHJP
   C12N 15/79 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/78 ZNA
C12N15/79
A61K38/16
A61K45/00
A61P9/10
A61P43/00 121
A61P9/00
A61P27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563152
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2021086848
(87)【国際公開番号】W WO2022136297
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20217170.8
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.Alexa Fluor
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】515010235
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド ボルドー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BORDEAUX
【住所又は居所原語表記】35, Place Pey Berland, F-33000 Bordeaux, France
(71)【出願人】
【識別番号】523239963
【氏名又は名称】ロイヤル インスティテューション フォー ジ アドバンスメント オブ ラーニング/マ ギル ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】ROYAL INSTITUTION FOR THE ADVANCEMENT OF LEARNING/MC GILL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】845 Sherbrooke Street West, Montreal, Quebec H3A 0G4, CANADA
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ジェノ,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】アロンソ,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ラインハルト,ディーター
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084DC50
4C084MA32
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA58
4C084MA63
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA401
4C084ZA422
4C084ZA512
4C084ZA542
4C084ZC332
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、フィブリリン-1タンパク質に由来する新規組換えフラグメント(このフラグメントは、その血管新生促進特性及び血管の標準化特性のために特に有用である)、該フラグメントを含む医薬組成物並びに血管疾患の予防及び/又は処置のための使用方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すアミノ酸配列又は、配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列からなる単離されたポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項3】
請求項2の核酸を含むベクター。
【請求項4】
前記核酸分子が、宿主真核細胞における前記ポリペプチドの発現を可能とする発現制御配列と作動可能に連結された請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
医薬品として使用するための請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
有効量の請求項1に記載のポリペプチド並びに少なくとも1つの医薬的に許容されるキャリア及び/又はビヒクルを含む医薬組成物。
【請求項7】
さらに抗凝固薬、抗血栓剤、抗血小板剤、繊維素溶解剤、高脂血症治療薬、降圧剤及び/又は抗虚血剤を含む請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
虚血、虚血性疾患又は血管疾患の処置及び/又は予防に使用するための、配列番号1に示すアミノ酸配列又は、配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項9】
前記虚血性疾患が末梢性虚血性疾患、虚血性心疾患、網膜症、加齢黄斑変性症(AMD)、血管腫、静脈瘤、動脈瘤、脳血管疾患/奇形、炎症性及び糖尿病性血管障害である請求項8に記載の方法で使用されるポリペプチド。
【請求項10】
前記末梢性虚血性疾患が、末梢動脈疾患、末梢閉塞性動脈疾患、下肢動脈虚血性疾患、遠位肢虚血性疾患、血管塞栓症、静脈血栓症、深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、動脈塞栓症又は糖尿病患者の創傷治癒である請求項9の方法で使用されるポリペプチド。
【請求項11】
前記虚血性心疾患が循環器疾患、冠動脈疾患、冠動脈血栓、心筋梗塞、狭心症、急性冠症候群、心房細動、虚血性突然死又は一過性脳虚血性発作である請求項9の方法で使用されるポリペプチド。
【請求項12】
前記虚血性疾患が、糖尿病性網膜症、眼虚血、虚血性脳血管疾患、脳動脈血栓症、脳梗塞、腎臓塞栓症、肺塞栓症並びに
(a)人工弁又はそのほかの移植物;
(b)留置カテーテル;
(c)ステント;
(d)人工心肺;
(e)血液透析;又は
(f)血栓症を促進する人工表面に血液が曝されるその他の処置
が原因で生じる虚血及び/又は塞栓症である請求項8の方法で使用されるポリペプチド。
【請求項13】
非経口、経口、経粘膜、局所、点眼、経皮による投与経路により投与される、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法で使用されるポリペプチド。
【請求項14】
創傷被覆材中で局所経路により投与される、請求項13の方法で使用されるポリペプチド。
【請求項15】
さらに、血管新生促進剤、血管形成剤、抗凝固薬、抗血栓薬、抗血小板剤、繊維素溶解剤、高脂血症治療薬、降圧剤及び/又は抗虚血剤の追加投与を含む請求8~14のいずれか1項に記載の方法で使用されるポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[1] 本発明は、フィブリリン-1タンパク質に由来する新規組換えフラグメント(このフラグメントは、その血管新生促進性及び血管正常化特性のために特に有用である)、該フラグメントを含む医薬組成物並びに虚血若しくは虚血性疾患及び/又は血管疾患の予防及び/又は処置のための使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
[2] フィブリリン-1は、約350kDaの大きなシステインリッチ糖タンパク質であり、8つのシステイン含有ドメインが割り込んだ複数のカルシウム結合上皮細胞成長因子様(cbEGF)ドメインのタンデムリピートによって特徴づけられるモジュール構成を有する。フィブリリン-1及びフィブリリン-2及びファイブリン-4は、弾性線維及びミクロフィブリルの分子成分である。弾性線維及びミクロフィブリルは、血管、肺、皮膚、靱帯及び腱、並びに眼の結合組織に特に豊富な安定な構造である。より具体的には、フィブリリン-1は、エラスチン沈着のための足場を提供するミクロフィブリルを構築する細胞外マトリックス(ECM)タンパク質である。モノマーは、ヘッド→テイルで配列され、特徴的なビーズ-オン-ストリングミクロフィブリル構造を形成する。このタンパク質はまた、他のECM成分(MAGP1及びMAGP2、フィブロネクチン、バーシカン、パールカン、いくつかのファイブリン及びエラスチンを含む)、いくつかのADAMTSタンパク質、並びにインテグリン(α5β1、αvβ3、αvβ6及びα8β1)と相互作用する。フィブリリン-1はまた、TGFβ結合タンパク質(LTBP)とのその相互作用を介した潜在型トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)のための、及び直接的な相互作用を介したいくつかの骨形成タンパク質(BMP)のための貯蔵庫として機能する。結果として、フィブリリン-1ミクロフィブリルの構造、組立て又は安定性に影響を及ぼす変異は、生化学的組織特性、細胞-マトリックス相互作用又はサイトカインバイオアベイラビリティに影響を及ぼすことができる。さらに、フィブリリン-1変異は、細胞の正常な機械的感受性に影響を及ぼすことが予想される。したがって、フィブリリン-1は、細胞外情報を細胞のシグナル伝達及び機能に中継することに寄与する。
【0003】
[3] マルファン症候群(MFS;Online Mendelian Inheritance in Man [OMIM] #154700)は、フィブリリン-1遺伝子(FBN1)の変異によって引き起こされる遺伝性結合組織疾患である。この症候群は、重篤な循環器異常、骨格異常及び眼球異常に関連する。MFSにおいて、欠陥ミクロフィブリルは、弾性組織、例えば、大動脈壁の統合性に影響を及ぼし、動脈瘤及び解離を導く大動脈直径の進行性拡大をもたらす。眼において、フィブリリン-1リッチな毛様小帯の欠陥は、患者の半数超において水晶体脱臼を引き起こす。興味深いことに、MFS患者はまた、一般集団よりも網膜剥離の発生率が高く(最大26%)、その病因は不明である。マウスモデルは、MFSについての我々の理解を進歩させるのに役立ってきた。一方のアレル(Fbn1C1041G/+)におけるcbEGFモチーフ中の必須のシステイニル残基が置換されたヘテロ接合体マウスは、ヒトMFSのいくつかの態様を再現する。これらのマウスは、近位大動脈瘤、僧帽弁肥厚、肺胞中隔形成異常、軽度胸部脊柱後弯症及び骨格筋症を発症する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[4] 数十年にわたって、ますます多くの疾患が、上流血管閉塞に関連する又は病理学的リモデリングに関連する又は血管細胞疾患に関連する血管の劣化及び/又は希薄化に起因することが示されている。血液及び酸素を奪われた組織は、虚血性壊死又は梗塞を受け、臓器の不可逆損傷を受ける可能性がある。血液及び酸素の流れが臓器又は組織に回復すると(再灌流)、臓器は虚血前の正常状態に直ちには戻らない。血流の再灌流は、虚血性の又は低酸素性の組織又は臓器を蘇生させるために必要である。適時の再灌流は、細胞救助を容易にし、罹患率及び死亡率を減少させる。虚血の処置を提供するための努力において、現在、多数の血管新生技術が臨床試験中であり、これには、遺伝子治療及び側副血管産生を誘導するか又は増大するための増殖因子(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)又は塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF))の使用が挙げられる。しかしながら、進行段階にある候補処置のほとんどは、前臨床モデルで得られた結果と比較して不十分な結果を示す。これらの相違は、特に用量及び動態に関して、増殖因子に対する耐性、それらの放出の不十分な制御に起因しているかもしれない。これらのアプローチでは、不適切な場所で血管新生を刺激し、出血を促進するリスクとしての望ましくない効果の発生の可能性及びまだ診断されていない腫瘍の増殖を刺激する可能性を考慮に入れるべきである。それゆえに、新たな安全かつ有効な治療法に対する満たされていないニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[5] 本発明は、網膜症、加齢黄斑変性症(AMD)、血管腫、静脈瘤、動脈瘤及び脳血管疾患/奇形、炎症誘発性及び糖尿病誘発性血管疾患を処置及び/又は予防するための、血管の形成を刺激し(血管新生促進)、虚血領域の血行再建、創傷修復中の再生組織の血管新生を促進し、並びに細動脈の構造及び統合性に対する保護効果を提供して血管の質及び構造を改善する効率的な新規の治療選択肢を提供する。
【0006】
[6] 本発明は、配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は100%同一又は相同なアミノ酸配列を含むフィブリリン-1タンパク質に由来する新規な単離フラグメントを提供する。該ポリペプチド又はペプチドフラグメントは、医薬品として、より具体的には血管新生促進薬として及び/又は血管正常化剤として特に有用である。
【0007】
[7] 本発明はまた、前記フラグメントを含む医薬組成物、並びに新たな血管の形成(血管新生促進)を刺激し、既存の成熟した分化血管又は細動脈の構造及び統合性を改善するための該フラグメントの使用法を提供する。
【0008】
[8] 本発明はさらに、虚血又は虚血性疾患又は血管疾患(例えば、虚血性心疾患、冠動脈疾患、心筋梗塞、狭心症、虚血性脳血管疾患、末梢虚血性疾患又は末梢動脈疾患(例えば、下肢動脈虚血性疾患又は遠位肢虚血性疾患)、糖尿病性網膜症、眼虚血)を処置及び/又は予防するための、特に糖尿病患者における創傷治癒を刺激するための、並びに加齢黄斑変性症(AMD)、血管腫、静脈瘤、動脈瘤及び脳血管疾患/奇形、炎症誘発性及び糖尿病誘導性血管疾患を処置及び/又は予防するための、該フラグメントの使用法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】[9] フィブリリン-1(FBN1)は、発生中のマウス網膜の微小血管系内で発現する。A.発生中の微小血管網を可視化するために内皮マーカーイソレクチンB4(IB4)について染色したWTマウスのフラットマウントP6網膜の画像。B.WTマウスのフラットマウントP6網膜の単一ペタル(petal)におけるFBN1(右パネル)及びIB4(左パネル)染色。C.(B)の枠で囲んだ領域の高倍率画像:血管新生前端部(上)及び細動脈(下):FBN1(右パネル)及びIB4(左パネル)。より高倍率の対応する挿入図(黒枠)。(n=10のWTマウス)。D.P6 WTマウスのIB4(左パネル)及びELN(エラスチン)(右パネル)染色網膜血管。より高倍率の対応する挿入図(黒枠)。黒い矢印;tip細胞、A;細動脈及びV;細静脈。(n=3のWTマウス)。
図2】[10] FBN1におけるミスセンス変異は、発生中のマウス網膜におけるFBN1発現の低下をもたらす。A.WT(左パネル)と比較した、P6でのFbn1C1041G/+マウス網膜(右パネル)のIB4(上パネル)及びFBN1(下パネル)染色血管新生前端部。IB4陽性面積に対するFBN1陽性面積の定量化を示す。(n=4のWTマウス及びn=4のFbn1C1041G/+マウス)。B.細動脈のレベルで分析した(A)と同じ実験設定。黒い矢印;tip細胞、A;細動脈。データは、少なくとも3回の独立した実験を表す。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。WTマウスに対して*P<0.05;**P<0.01(スチューデントt検定)。
図3】[11] FBN1におけるミスセンス変異は、発生中のマウス網膜における血管新生に影響を与える。A.WT(左パネル)と比較した、P6でのFbn1C1041G/+マウス(右パネル)のIB4(黒色)染色網膜ホールマウント。血管被覆率(黒線で描かれた領域)及び半径方向の伸長の定量化が示されている。(n=8のWT及びn=7のFbn1C1041G/+マウス)。B.P6WT及びFbn1C1041G/+網膜からの血管新生前端部での高倍率画像。毛細血管密度、血管芽(白色#)の数、並びに分岐点及びメッシュの数の定量的評価を示す。(n=6のWT及びn=6のFbn1C1041G/+マウス)。C.P6WT及びFbn1C1041G/+網膜における内皮tip細胞の高解像度画像。血管前端部の長さあたりのtip細胞及び糸状仮足の数の定量化を示す。(n=7のWT及びn=6のFbn-1C1041G/+マウス)。データは、少なくとも3回の独立した実験を表す。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。WTマウスに対して*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001(スチューデントt検定)。
図4】[12] FBN1ミスセンス変異は、tip細胞ポドソーム形成及び機能を損なう。A.コルタクチン(上パネル)、F-アクチン(Lifeact-EGFP、上パネル)及びCol IV(下パネル)について標識されたWT及びFbn1C1041G/+/Lifeact-EGFP P6網膜の血管前端部の代表的な画像。tip細胞ポドソーム(白い矢印)は、Col IV染色を欠く領域におけるF-アクチン及びコルタクチン染色によって強調されている。B.(A)の枠で囲まれた2つの領域(a及びb)からの単一染色として示される高倍率画像。白い矢印;ポドソーム。ポドソーム濃度、ポドソーム面積及びCol IVによる新生血管の被覆率の定量分析を示す。(n=4のWT/Lifeact-EGFP及びn=4のFbn1C1041G/+/Lifeact-EGFPマウス)。データは、少なくとも3回の独立した実験を表す。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。WTマウスに対して*P<0.05(スチューデントt検定)。
図5】[13] WT網膜に対するFbn1C1041G/+P6網膜におけるEC増殖の減少。A.WT(左パネル)及びFbn1C1041G/+マウス(右パネル)のP6網膜における血管新生前端部のIB4(上パネル)及びEC核マーカーERG1/2/3(下パネル)の二重標識。視野あたりのIB4及びERG1/2/3二重陽性ECの数の定量化を示す。(n=4のWT及びn=4のFbn1C1041G/+マウス)。B.IB4(上パネル)及び有糸分裂マーカーPH3(下パネル)について(A)と同じ。視野あたりのPH3陽性ECの数の定量化を示す。(n=5のWT及びn=7のFbn-1C1041G/+マウス)。データは、3回の独立した実験を表している。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。WTマウスに対して**P<0.01;***P<0.001(スチューデントt検定)。
図6】[14] FBN1ミスセンス変異は、網膜細動脈の統合性及び機能性を徐々に損なう。A.WT(左パネル)と比較した、P6Fbn1C1041G/+網膜(右パネル)のIB4(上パネル)及びSMA(下パネル)染色細動脈。B~C.4月齢(B)及び1年齢(C)のWT(左パネル)及びFbn1C1041G/+(右パネル)マウスの網膜におけるIB4(上パネル)、SMA(中間パネル)及び血清アルブミン(下パネル)染色細動脈。D~F.WT及びFbn1C1041G/+マウスにおける年齢に応じた、網膜細動脈直径(A~Cの白線)(D)、IB4陽性面積に対するSMA陽性面積(E)及び視野あたりのアルブミン陽性面積(F)の定量的評価。A;細動脈。データは、3回の独立した実験を表している。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。それぞれのWTマウスに対して、*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。それぞれのP6マウスに対して、°°°P<0.001。それぞれの4月齢マウスに対して、&&P<0.01(一元配置ANOVA、続いてチューキーの事後検定)。
図7】[15] WT網膜に対するFbn1C1041G/+網膜における細動脈基底膜の不安定化。A.WT(左パネル)と比較した、4ヶ月でのFbn1C1041G/+網膜(右パネル)のIB4(上パネル)及び基底膜マーカーCol IV(下パネル)染色細動脈。IB4陽性面積に対するCol IV陽性面積の定量化を示す。(n=5のWT及びn=5のFbn1C1041G/+マウス)。B.IB4(上のパネル)及び基底膜マーカーラミニン-ガンマ-1(上のパネル)について(A)と同じ。(n=4のWT及びn=4のFbn-1C1041G/+マウス)。C.WT(左パネル)と比較した、4ヶ月でのFbn1C1041G/+網膜(右パネル)のIB4染色細静脈。網膜細静脈直径(白線)の定量化を示す。(n=4のWT及びn=4のFbn1C1041G/+マウス)。A;細動脈及びV;細静脈。データは3つの独立した実験からの代表値である。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。WTマウスに対して*P<0.05(スチューデントt検定)。
図8】[16] EC新芽形成に対する本発明によるヒト組換えFBN1フラグメントのインビトロ効果。A.この設定でマトリゲル及びVEGF-A勾配に曝されたHMVECのtip細胞様細胞表現型を示すインビトロ血管新生浸潤アッセイ(AIA)及び位相差写真の概略図。B.TBS(ビヒクル)(左パネル)、ヒトC末端FBN1フラグメント(hfrag1487-2725、中央パネル)又はN末端FBN1フラグメント(hfrag17-1527、右パネル)のいずれかを補充したマトリゲル中に突出するHMVECの高倍率位相差画像。異なる状況下でのEC新芽形成(白色矢印)の定量分析を示す。データは5回の独立した実験からの代表的なものである。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。TBSに対して**P<0.01。(一元配置ANOVA、続いてチューキーの事後検定)。C.TBS(左パネル)又はhfrag1487-2725フラグメント(右パネル)のいずれかを補充したマトリゲル中に突出しているtip細胞様ECのF-アクチン/コルタクチン二重染色であり、細胞突出部におけるポドソーム(黒色病巣)を示す。より高倍率の対応する挿入図(黒枠、反転シグナル)。ポドソームの数及びサイズの定量分析を示す。データは5回の独立した実験からの代表的なものである。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。TBSに対して**P<0.01。(スチューデントt検定)。
図9】[17] 内皮細胞(EC)分岐に対する本発明によるヒト組換えFBN1フラグメントのインビトロ効果。A.インビトロ管形成アッセイの概略図。B.TBS(左パネル)又はヒトFBN1フラグメント、例えばhfrag1487-2725、右パネルのいずれかを補充したマトリゲル中に形成されたHMVEC毛細血管様構造の低倍率位相差画像。接合部(分岐点)の数及びメッシュの数の定量分析を示す。データは5回の独立した実験からの代表的なものである。グラフは、平均値±SD(バー)として提示されている。TBSに対して*P<0.05;**P<0.01。(スチューデントt検定)。
図10】[18] 本発明によるマウス組換えフィブリリン-1フラグメント、例えばmfrag1489-2727のインビボ効果。A.mfrag1489-2727フラグメントの硝子体内投与のプロトコールの概略図。B.P4にTBS(ビヒクル)又はmfrag1489-2727フラグメントを硝子体内注射したP6WT及びFbn1C1041G/+マウスのIB4(黒色)染色網膜ホールマウント。血管被覆率(黒い線で区切られている、上のパネル)、半径方向の伸長(黒い矢印、中央のパネル)、毛細血管密度及び新芽形成(下のパネル)の定量化及び代表的な画像を示す。(n=6のTBS注射WT;n=6のmfrag1489-2727注射WT;n=4のTBS注射Fbn1C1041G/+;n=4のmfrag1489-2727注射Fbn1C1041G/+マウス)。データは3つの独立した実験からの代表値である。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。それぞれのWTマウスに対して、*P<0.05;**P<0.01。それぞれのTBS注射マウスに対して、°P<0.05;°°P<0.01(一元配置ANOVA、続いてチューキーの事後検定)。
図11】[19] mfrag1489-2727フラグメントのインビボ効果(続き)。A.P4にTBS又はmfrag1489-2727フラグメントを硝子体内注射したP6WT及びFbn1C1041G/+マウスのIB4(上パネル)、MAGP1(中間パネル)及びCol IV(下パネル)染色血管新生前端部。黒い矢印;tip細胞。IB4陽性面積に対するMAGP1及びCoI IV陽性面積の定量化を示す。(n=3のTBS-及びn=3のmfrag1489-2727注射WT並びにn=3のTBS-及びn=3のmfrag1489-2727注射Fbn1C1041G/+マウス)。B.P4にTBS又はmfrag1489-2727フラグメントを硝子体内注射したP6WT及びFbn1C1041G/+マウスのIB4(上のパネル)及びMAGP1(下のパネル)染色網膜細動脈。A;細動脈。黒い矢印;MAGP1の喪失。細動脈直径及びIB4陽性面積に対するMAGP1陽性面積の定量化を示す。(n=4のTBS-及びn=4のmfrag1489-2727注射WT並びにn=3のTBS-及びn=3のmfrag1489-2727注射Fbn1C1041G/+マウス)。データは3つの独立した実験からの代表値である。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。それぞれのWTマウスに対して、*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。それぞれのTBS注射マウスに対して、°P<0.05;°°P<0.01(一元配置ANOVA、続いてチューキーの事後検定)。
図12】[20] インビボでの、発生中のマウス網膜脈管系に対するヒト組換えFBN1 C末端フラグメント(hfrag1487-2725)の効果。A.hfrag1487-2725フラグメントの硝子体内投与のプロトコールの概略図。B.P4にTBS又はhfrag1487-2725フラグメントを硝子体内注射したP6WT及びFbn1C1041G/+マウスのIB4(黒色)染色網膜ホールマウント。血管被覆率(黒い線で区切られている、上のパネル)、半径方向の伸長(黒い矢印、中央のパネル)、毛細血管密度及び新芽形成(下のパネル)の定量化及び代表的な画像を示す。(n=4のTBS注射WT;n=5のhfrag1487-2725注射WT;n=5のTBS注射Fbn1C1041G/+;n=5のhfrag1487-2725注射Fbn1C1041G/+マウス)。データは3つの独立した実験からの代表値である。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。それぞれのWTマウスに対して、*P<0.05;**P<0.01。それぞれのTBS注射マウスに対して、°P<0.05;°°P<0.01(一元配置ANOVA、続いてチューキーの事後検定)。
図13】[21] インビボでの、発生中のマウス網膜脈管系に対するヒト組換えFBN1 C末端フラグメント(hfrag1487-2725)の効果(続き)。A.P4にTBS又はhfrag1487-2725フラグメントを硝子体内注射したP6WT及びFbn1C1041G/+マウスのIB4(上パネル)、MAGP1(中間パネル)及びCol IV(下パネル)染色血管新生前端部。黒い矢印;tip細胞。IB4陽性面積に対するMAGP1及びCoI IV陽性面積の定量化を示す。(n=4のTBS-及びn=5のhfrag1487-2725注射WT並びにn=5のTBS-及びn=5のhfrag1487-2725注射Fbn1C1041G/+マウス)。B.P4にTBS又はhfrag1487-2725フラグメントを硝子体内注射したP6WT及びFbn1C1041G/+マウスのIB4(上のパネル)及びMAGP1(下のパネル)染色網膜細動脈。A;細動脈。黒い矢印;MAGP1の喪失。細動脈直径及びIB4陽性面積に対するMAGP1陽性面積の定量化を示す。(n=4のTBS-及びn=5のhfrag1487-2725注射WT並びにn=5のTBS-及びn=5のhfrag1487-2725注射Fbn1C1041G/+マウス)。データは3つの独立した実験からの代表値である。グラフは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)として提示されている。それぞれのWTマウスに対して、*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。それぞれのTBS注射マウスに対して、°P<0.05;°°P<0.01(一元配置ANOVA、続いてチューキーの事後検定)。
図14】[22] 配列番号1に示すフィブリリン-1フラグメントのアミノ酸配列を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[23] 本発明は、一般に、フィブリリン-1タンパク質のC末端部分に由来する新規組換えフラグメントに関し、さらに、該組換えフラグメントの予想外の血管新生促進特性及び血管の標準化特性に関する。したがって、本発明は、1239個のアミノ酸を含み、ヒトフィブリリン-1タンパク質のアミノ酸配列を参照してアミノ酸残基1487~アミノ酸残基2725(したがって、本明細書において以下でhfrag1487-2725と指定される)に由来するか、又はマウスフィブリリン-1タンパク質を参照してアミノ酸残基1489~アミノ酸残基2727(したがって、本明細書において以下でmfrag1489-2727と指定される)に由来する単離された組換えポリペプチドフラグメントを提供する。
【0011】
[24] より正確には、本発明によるフィブリリン-1フラグメントは、配列番号1に示すアミノ酸配列、配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%同一又は相同なアミノ酸配列、その前駆体、塩及び/又は誘導体を含む。
[25] あるいは、本発明によるフィブリリン-1フラグメントは、配列番号1に示すアミノ酸配列、配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%同一又は相同なアミノ酸配列、その前駆体、塩及び/又は誘導体からなる。
【0012】
[26] 本発明によるフィブリリン-1フラグメントは、ヒト又はマウスフィブリリン-1タンパク質に由来してもよく、配列番号1に示すアミノ酸配列を含んでもよい。本発明によるフィブリリン-1フラグメントは、配列番号1との配列同一性を有し、下記の類似の治療活性を有する他の種のフィブリリン-1タンパク質に由来してもよい。
[27] 本発明の基盤原理は、血管の形成を刺激し、宿主組織内の生物学的移植物の微小血管統合を促進し、成熟分化脈管又は細動脈の構造及び統合性を増加させる、フィブリリン-1に由来する活性組換えポリペプチドフラグメントの血管新生特性の予想外の知見に基づく。該フラグメントは、血管新生並びに血管新生及び/又は脈管形成に関連する状態に影響を及ぼすのに特に有用である。
【0013】
[28] 本出願人らは、上記のフィブリリン-1フラグメント(RGD細胞結合ドメインを含有するC末端領域に対応)が、基底材料様マトリックスエレメント(マトリゲル)に添加された場合、インビトロ血管新生アッセイにおいて血管新生促進活性を示すことを発見した。より具体的には、本発明によるポリペプチドフラグメントは、微小血管管形成のモデルにおいて血管網の密度を増加させるのに有用であった。この活性は、マウスの新生仔網膜においてインビボで同定されたネットワークの複雑さを調節する際のフィブリリン-1の役割と一致した。hfrag1487-2725フラグメントは、微小血管内皮細胞がマトリックス環境に面している3D浸潤アッセイにおいて血管芽の伸長を刺激することが示され、これは、内皮新芽形成及びマウスの新生仔網膜においてインビボで同定されたtip細胞表現型の維持におけるフィブリリン-1の役割と一致する。本出願人らはまた、hfrag1487-2725フラグメント又はマウスフラグメント(例えば、hfrag1487-2725フラグメントに対応するmfrag1489-2727)のいずれかが、フィブリリン-1「ミスセンス」変異C1041Gを保有するマウスにおける眼内注射後に網膜における血管網の成長を促進したことを見出した。さらに、本出願人らは、本発明によるフィブリリン-1フラグメントが、C1041Gフィブリリン-1変異体マウスにおいて観察される細動脈直径の増大及びMAGP1発現の低下を補正することを発見した。したがって、本発明によるこれらのフィブリリン-1フラグメントの投与は、インビボで血管新生を刺激することを可能にしただけでなく、特に血管の構造及び質を改善することによって、成熟血管、例えば、細動脈の統合性に対する保護効果も有していることが初めて立証された。したがって、本発明によるポリペプチドは、虚血又は虚血性疾患又は血管疾患を処置及び/又は予防するのに特に有用である。
【0014】
[29] 本発明において利用される組換えタンパク質、細胞培養及び分子クローニング技術は、当業者に周知の標準的な手順である。このような技術は、以下のような情報源の文献を通して記載され、説明されている:J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T. A. Brown(編), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D. M. Glover and B. D. Hames (編), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995及び1996)、F. M. Ausubelら(編), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までのすべてのアップデートを含む)、Harlow and David Lane(編) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988)、及びJ. E. Coliganら(編) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons(現在までのすべてのアップデートを含む)。
【0015】
[30] 本明細書で互換的に使用される「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」という用語は、コードされているアミノ酸及びコードされていないアミノ酸、並びに化学的又は生化学的に修飾又は誘導体化されたアミノ酸を含む、高分子形態の任意の長さのアミノ酸を含む。該用語はまた、修飾されたポリマー(例えば、修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチド)を含む。タンパク質は、「N末端」及び「C末端」を有すると言われる。「N末端」という用語は、遊離アミン基(-NH2)を有するアミノ酸を末端とする、タンパク質又はポリペプチドの開始に関する。「C末端」という用語は、遊離カルボキシル基(-COOH)を末端とするアミノ酸鎖(タンパク質又はポリペプチド)の末端部に関する。
【0016】
[31] タンパク質及び核酸に関して「単離(された)」という用語は、通常インサイチュで存在し得る他の細菌、ウイルス又は細胞成分に対して比較的(上限、タンパク質及びポリヌクレオチドの実質的に純粋な調製物まで)精製されたタンパク質及び核酸を含み、タンパク質及びポリヌクレオチドの実質的に純粋な調製物を含む。「単離(された)」という用語はまた、天然に存在する対応物を有さないか、化学的に合成されているために他のタンパク質若しくは核酸が実質的に混入していないか、又は天然に共存する他のほとんどの細胞成分(例えば、他の細胞タンパク質、ポリヌクレオチド又は細胞成分)から分離若しくは精製されている、タンパク質及び核酸を含む。「単離(された)ポリヌクレオチド」(センス配向若しくはアンチセンス配向又はその両方の組合せで、一本鎖又は二本鎖の、DNA、RNA又はその組合せを含む)によって、本発明者らは、その天然型の状態で結合又は連結しているポリヌクレオチド配列から少なくとも部分的に分離されているポリヌクレオチドを意味する。好ましくは、単離(された)ポリヌクレオチドは、天然に関連している他の成分を少なくとも60%含まず、好ましくは少なくとも75%含まず、最も好ましくは少なくとも90%含まない。
【0017】
[32] 2つのポリペプチド配列の文脈における「配列同一性」又は「同一性」は、特定の比較ウィンドウにわたって最大の一致が得られるように整列させた場合に同じである2つの配列中の残基をいう。配列同一性のパーセンテージがタンパク質に関して使用されるとき、同一でない残基位置は、しばしば、保存的アミノ酸置換によって異なり、この場合、アミノ酸残基は、類似の化学的特性(例えば、電荷又は疎水性)を有する他のアミノ酸残基で置換され、したがって、分子の機能的特性を変化させないことが認識される。配列が保存的置換で異なる場合、配列同一性パーセントを、高い方向に調整して置換の保存的性質を補正してもよい。このような保存的置換によって異なる配列は、「配列類似性」又は「類似性」を有すると言われる。この調整を行うための手法は当業者に周知である。典型的には、これは、保存的置換を完全なミスマッチではなく部分的なミスマッチとしてスコアリングし、これにより配列同一性のパーセンテージを増加させることを伴う。したがって、例えば、同一のアミノ酸に1のスコアが与えられ、そして非保存的置換に0のスコアが与えられる場合、保存的置換には、0と1との間のスコアが与えられる。保存的置換のスコアリングは、例えば、プログラムPC/GENE(Intelligenetics, Mountain View, CA)において実行されるように算出する。
【0018】
[33] 「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウにわたって2つの最適に整列された配列を比較することによって決定される値を含み、アミノ酸配列の比較ウィンドウ中の部分は、該2つの配列の最適な整列のために、参照配列(付加又は欠失を含まない)に対して付加又は欠失(すなわち、ギャップ)を含んでいてもよい。パーセンテージは、同一のアミノ酸残基が両方の配列中に存在する位置の数を決定して一致した位置の数を得、一致した位置の数を比較ウィンドウ中の位置の総数で除し、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。
【0019】
[34] 特に明記しない限り、配列同一性/類似性の値は、以下のパラメータを使用してGAPバージョン10を使用して得られる値を含む。アミノ酸配列についての同一性%及び類似性%、したがって、配列同一性は、典型的には、以下のパラメータを用いたClustalW(Thompsonら, 1994, 前出)を用いて評価した場合に、示された値を有する配列をいう。ペアワイズアライメントパラメータ-方法:正確、マトリックス:PAM、ギャップオープンペナルティ:10.00、ギャップ伸長ペナルティ:0.10;複数のアライメントパラメータ-マトリックス:PAM、ギャップオープンペナルティ:10.00、遅延についての同一性%:30、末端部ギャップにペナルティを科す:オン、ギャップ分離距離:0、負のマトリックス:なし、ギャップ伸長ペナルティ:0.20、残基特異的ギャップペナルティ:オン、親水性ギャップペナルティ:オン、親水性残基:G、P、S、N、D、Q、E、K。特定の残基における配列同一性は、単に誘導体化された同一の残基を含むことが意図される。
【0020】
[35] 相同配列は、本明細書において言及される。相同配列は、ペプチド内の治療用「部分」配列を表し得るか、又は本発明のペプチド中の第2の(残りの)配列であり得る。相同配列は、本明細書で言及される特定の配列のいずれかと相同であり得る。相同体は、元の配列と比較して、1又は2以上(例えば、少なくとも2、3、4又は5)の付加及び/又は欠失及び/又は置換を有する。相同配列は、元の配列の長さにわたって、又は元の配列の4、6、10、15若しくは20アミノ酸にわたって、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも95%、96%、97%、98%又は少なくとも99%のアミノ酸同一性を含んでいてもよい。
【0021】
[36] 相同配列は、元の配列と比較して1、2、3、4、5若しくは6以上、又は10までのアミノ酸置換を有していてもよい。置換は、好ましくは保存的置換である。これらは、下記表1に従って作製してもよい。第2欄の同じブロック、好ましくは第3欄の同じ行のアミノ酸を互いに置換してもよい。
[37] 表1
【表1】
【0022】
[38] 好ましくは、ポリペプチドフラグメントfrag1489-2727のアミノ酸配列は、配列番号1と80%、85%、87%、90%、93%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸同一性有し、該フラグメントは、典型的な血管新生促進インビトロ試験(例えば、マトリゲル試験など)によって示される血管新生促進活性を保持し、及び/又は成体網膜脈管系の分析(例えば、コラーゲンIV及びラミニンの免疫染色などの成熟網膜脈管系の免疫化学及びその定量分析)によって示される血管正常化又は安定化活性を保持する。相同性の好適なレベルは、相同性に関する下記の節において議論され、そして例えばそのアナログ又は保存的バリアントを含む。ポリペプチドフラグメントに関して、上記で提供されたものより高い同一性%の数値が好ましい実施形態を包含することが理解されるであろう。したがって、適用可能な場合、同一性%の最小数値の観点から、ポリペプチドフラグメントは、配列番号1に示すアミノ酸配列と、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.1%、より好ましくは少なくとも99.2%、より好ましくは少なくとも99.3%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、さらにより好ましくは少なくとも99.9%同一であるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0023】
[39] ポリペプチドのバリアント又は誘導体及びそれらの任意の組合せもまた、本発明に含まれる。「フラグメント」又は「バリアント」という用語は、本発明のポリペプチド及びタンパク質を指す場合、配列番号1の参照ポリペプチドフラグメントの特性(例えば、血管新生促進活性及び/又は血管正常化若しくは安定化活性)の少なくともいくつかを保持する任意のポリペプチド又はタンパク質を含む。バリアントには、アミノ酸の置換、欠失又は挿入により変化したアミノ酸配列を有する上記のフラグメントが含まれる。バリアントは、天然又は非天然に存在し得る。非天然に存在するバリアントは、当該分野で公知の変異誘発技術を使用して作製することができる。バリアントは、保存的又は非保存的アミノ酸置換、欠失又は付加を含むことができる。「誘導体」は、天然のポリペプチド又はタンパク質には見出されない更なる特徴を示すように改変されたポリペプチドフラグメントである。
【0024】
[40] したがって、本発明は、配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号1と少なくとも80%若しくは少なくとも90%若しくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる単離された組換えフィブリリン-1ポリペプチドフラグメント、医薬としてのfrag1489-2727の使用、及び有効量の該ポリペプチドを含む医薬組成物を提供する。
[41] 本発明はまた、本明細書において以下に記載される虚血、虚血性疾患又は血管疾患の治療及び/又は予防に使用するための、配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドを提供する。
【0025】
[42] これらの新規組換えフィブリリン-1フラグメントは、効率的な血管新生促進活性並びに血管正常化又は安定化活性を有する効率的な新規血管形成剤を構成し、虚血性組織の血管再生(例えば、創傷修復中の血管新生又は組織生物工学における生物学的移植物の血管新生)を刺激することができ、並びに細動脈の統合性及び構造を保護又は改善することができる。したがって、これらの新規フィブリリン-1組換えフラグメントは、新たな治療的血管新生戦略及び薬物を表し、血管新生促進薬及び血管正常化又は安定化剤として特に有用である。
[43] したがって、本発明はまた、活性成分として上記の該組換えフィブリリン-1フラグメントを含む医薬組成物、並びに虚血性組織の血行再建、創傷治癒中の血管新生を刺激するため、並びに網膜症、加齢黄斑変性症(AMD)、血管腫、静脈瘤、動脈瘤及び脳血管疾患/奇形、炎症及び糖尿病誘発性血管疾患における血管構造及び統合性を改善するためのその使用法に関する。
【0026】
[44] 本発明はまた、再生医療の分野、特に、移植物内に血管網を構築するための、すなわち、組織生物工学において生物学的移植物を血管形成するための及び/又は2つの血管網(移植物の血管網及び宿主の血管網)を接続するための組織生物工学における用途がある。実際、成体組織内での大量の再生は、自然発生的には起こらない。その後、再生医療は、組織修復のための生物学的代替物を設計するために組織工学を使用する。この方法は、天然では不十分にしか血管形成されない皮膚又は軟骨の再生のために意図された組織工学製品には申し分なく機能する。生着のために血管新生に大きく依存する他の組織については、移植物の統合が宿主/移植物微小血管網の接続に依存するという限定的なステップが残る。
【0027】
[45] 医薬組成物は、治療有効量の上記のポリペプチドと、少なくとも1つの医薬的に許容されるキャリア及び/又はビヒクルとを含んでいてもよい。該組成物は、有効量の、抗凝固剤、抗血栓剤、抗血小板剤、線維素溶解剤、高脂血症治療薬、降圧剤及び/又は抗虚血剤の中から選択される少なくとも1つの治療剤をさらに含んでいてもよい。
[46] したがって、本発明は、虚血性疾患、血管疾患を処置及び/又は予防するか、又は創傷治癒を刺激する方法であって、それを必要とする対象に、治療有効量の上記のフィブリリン-1ポリペプチドフラグメント、その生理学的に許容されるバリアント、フラグメント、前駆体、塩又は誘導体を投与することを含む方法を提供する。
[47] 虚血性疾患の例として、本発明者らは、循環器疾患又は虚血性心疾患(例えば、冠動脈疾患、冠動脈血栓、心筋梗塞、狭心症、急性冠症候群、心房細動、虚血性突然死又は一過性脳虚血性発作)を挙げ得る。本発明者らはまた、末梢虚血性疾患又は末梢動脈疾患(例えば、末梢閉塞性動脈疾患、下肢動脈虚血性疾患、遠位肢虚血性疾患、血管塞栓症、静脈血栓症、深部静脈血栓症、血栓性静脈炎、動脈塞栓症又は糖尿病患者の創傷治癒)を挙げ得る。
【0028】
[48] 本発明によるポリペプチドフラグメント又は医薬組成物の投与によって有利に処置及び/又は予防され得る他の虚血性疾患としては、糖尿病性網膜症、眼虚血、虚血性脳血管疾患、脳動脈血栓症、脳梗塞、腎臓塞栓症、肺塞栓症並びに(a)人工弁又はそのほかの移植物;(b)留置カテーテル;(c)ステント;(d)人工心肺;(e)血液透析;又は(f)血栓症を促進する人工表面に血管が曝されるその他の処置が原因で生じる虚血及び/又は塞栓症が挙げられる。
【0029】
[49] したがって、上記のように、本発明の1つの目的は、上記のような組換えフィブリリン-1フラグメントの血管新生促進特性を用いて、血管の形成(血管新生)を刺激し、これにより虚血領域の血行再建、創傷修復中の再生組織の血管新生を促進すること、並びに細動脈構造及び統合性に対する保護効果を提供して血管の質及び構造を改善することである。
[50] したがって、本発明はまた、上記のフィブリリン-1フラグメントの使用、並びに血管統合性の喪失に関連する疾患及び血管正常化が促進されるべき状況を処置及び/又は予防する方法、特に加齢黄斑変性症(AMD)、血管腫、静脈瘤、動脈瘤及び脳血管疾患/奇形、炎症誘発性及び糖尿病誘発性血管疾患を処置及び/又は予防するための方法を提供する。
[51] 虚血又は虚血性疾患又は血管疾患を処置及び/又は予防する方法が、さらなる血管新生促進剤、抗凝固薬、抗血栓剤、抗血小板剤、線維素溶解剤、高脂血症治療薬、降圧剤及び/又は抗虚血剤をさらに投与することを含む併用療法もまた、範囲内である。
【0030】
[52] 本発明によるポリペプチド及び医薬組成物はまた、創傷を処置及び/若しくは予防する方法、並びに/又は創傷治癒を刺激する方法に使用するために特に効率的である。したがって、それらは、創傷被覆材中に存在しており、血行再建を刺激し、壊死を減少させ、したがってさらなる合併症及び感染を予防しながら治癒を促進するために、創傷と直接接触させて使用される。本発明によるポリペプチド及び医薬組成物は、創傷治癒を刺激し、同時に出血を停止させ、凝固を開始させ、過剰の血液、血漿を吸収し、創傷清浄化を可能にする様々なタイプの創傷被覆材中に含有されていてもよい。
[53] 本発明によるポリペプチドフラグメントの考えられる投与経路は、非経口、経口、経粘膜、局所、点眼及び経皮を含む。したがって、上記の医薬組成物は、任意の適切な投与様式(例えば、局所(例えば、経皮又は点眼)、経口、頬側、鼻腔、腟内、直腸内又は非経口投与を含む)のために製剤化されていてもよい。
【0031】
[54] 本明細書で使用される非経口という用語は、皮下、皮内、血管内又は静脈内、筋肉内、脊髄、頭蓋内、髄腔内、眼内、眼周囲、眼窩内、滑液嚢内及び腹腔内注射、並びに任意の類似の注射又は注入技術を含む。組成物はまた、例えば、懸濁液、エマルジョン、徐放性製剤、クリーム、ゲル又は散剤とすることができる。当該組成物は、従来のバインダー及びトリグリセリドのようなキャリアとともに、坐剤として製剤化することができる。
[55] 一例では、医薬組成物は、液体製剤、例えば、緩衝等張水溶液の形態であってもよい。別の例では、医薬組成物は、生理学的であるか、又は生理学的に近いpHを有する。他の例では、水性製剤は、生理学的又は生理学的に近いオスモル濃度及び塩分を有する。それは、塩化ナトリウム及び/又は酢酸ナトリウムを含有することができる。いくつかの例では、本発明の組成物は凍結乾燥される。
[56] 上記のように、医薬組成物は、創傷被覆材の形態であってもよい。このような創傷被覆材の例としては、布タイプの被覆材、発泡体被覆材、透明被覆材、親水コロイド被覆材、ハイドロゲル、アルギン酸塩被覆材及び/又はコラーゲン創傷被覆材が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
[57] さらに、上記のアミノ酸配列を有するフィブリリン-1に由来するポリペプチドフラグメントをコードする核酸分子、発現ベクター、組換え宿主細胞、トランスジェニック動物細胞、トランスジェニック動物、該ポリペプチドフラグメントの産生方法、並びに該方法によって得ることができる融合フラグメントが提供される。
[58] 本発明による核酸分子は、配列番号1に示すアミノ酸配列、又はこれと少なくとも80%、85%、90%若しくは95%同一であるアミノ酸配列を有するフィブリリン-1ポリペプチドフラグメントをコードする。
【0033】
[59] 本明細書で互換的に使用される「核酸配列」及び「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド又はその類似体若しくは修飾型を含む、任意の長さの高分子形態のヌクレオチドを含む。それらには、一本鎖、二本鎖及び多重鎖のDNA又はRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、並びにプリン塩基、ピリミジン塩基又は他の天然の、化学的に修飾された、生化学的に修飾された、非天然の若しくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれる。核酸は、「5'末端」及び「3'末端」を有すると言われるが、その理由は、1つのモノヌクレオチドペントース環の5'リン酸が一方向に隣接するモノヌクレオチドペントース環の3'酸素にリン酸ジエステル結合を介して結合する様式で複数のモノヌクレオチドが反応してオリゴヌクレオチドを構成しているからである。オリゴヌクレオチドの端部は、その5'リン酸がモノヌクレオチドペントース環の3'酸素に連結していない場合、「5'末端」と呼ばれる。オリゴヌクレオチドの端部は、その3'酸素が別のモノヌクレオチドペントース環の5'リン酸に連結していない場合、「3'末端」と呼ばれる。核酸配列は、より大きなオリゴヌクレオチドの内部にある場合も、5'末端及び3'末端を有すると言われることもある。線状DNA分子でも環状DNA分子でも、個別のエレメントは、「下流」エレメント又は3'エレメントの「上流」側又は5'側にあると呼ばれる。
【0034】
[60] 該核酸分子は、フィブリリン-1の活性を保持するポリペプチドフラグメントをコードしていてもよく、これは、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;(b)アミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%又は少なくとも90%、少なくとも95%同一であるフィブリリン-1をコードする核酸分子;(c)配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも50%同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子;(d)(a)~(c)の核酸分子に対して縮重である核酸分子;又は(e)少なくとも1つの塩基が他の塩基に置換された、(a)~(d)のいずれかの核酸分子に対応する核酸分子である。さらに、b)高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするか;又はc)配列番号1のポリペプチドフラグメントをコードする核酸と、少なくとも約10~30ヌクレオチドの長さにわたって少なくとも約85%の同一性を示す精製された核酸が提供される。
【0035】
[61] 核酸及び結果として生じるポリペプチドは、外因性配列を含んでいてもよく、細胞系における最適な発現のためにコドン最適化されていてもよいことに留意されたい。「外因性」分子又は配列は、その形態では細胞中に通常存在しない分子又は配列を含む。正常な存在には、細胞の特定の発生段階及び環境条件に関する存在が含まれる。外因性分子又は配列は、例えば、細胞内の対応する内因性配列の変異バージョン(例えば、内因性配列のヒト化バージョン)を含むことができるか、又は細胞内の内因性配列に対応する配列であるが、異なる形態である(すなわち、染色体内にはない)配列を含むことができる。対照的に、内因性分子又は配列は、特定の環境条件下で特定の発生段階にある特定の細胞中にその形態で通常存在する分子又は配列を含む。「コドン最適化」は、一般に、天然型アミノ酸配列を維持しながら、天然型核酸配列の少なくとも1つのコドンを、宿主細胞の遺伝子においてより頻繁に又は最も頻繁に用いられるコドンで置き換えることによって、特定の宿主細胞における発現増強のために核酸配列を改変するプロセスを含む。例えば、ポリヌクレオチドは、天然に存在する核酸配列と比較して、細菌細胞、酵母細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳動物細胞、げっ歯類細胞、マウス細胞、ラット細胞、ハムスター細胞、又は任意の他の宿主細胞を含む所与の真核細胞において、より使用頻度の高いコドンに置換するように修飾することができる。コドン使用頻度表は、例えば、「コドン使用頻度データベース」において容易に入手可能である。Nakamuraら(2000) Nucleic Acids Research 28:292(全ての目的のためにその全体が本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。特定の宿主における発現のための特定の配列のコドン最適化のためのコンピュータアルゴリズムもまた利用可能である。
【0036】
[62] 本発明による発現ベクターは、配列番号1に示すアミノ酸配列、配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよく、該核酸分子は、当該ポリペプチドの宿主真核細胞における発現を可能とする発現制御配列と作動可能に連結されている。
[63] 本明細書で使用される「発現ベクター」とは、その発現又は複製のいずれかのために、異種核酸を細胞に導入するために使用される別の遺伝エレメントをいう。このようなビヒクルの選択及び使用は、十分に当業者の技術の範囲内である。組換え発現ベクターは、制御配列(例えば、このような核酸配列の発現を引き起こすことができるプロモーター領域)と作動可能に連結された核酸を発現することができるベクターを含む。したがって、発現ベクターは、適切な宿主細胞へ導入すると、クローン化された核酸配列の発現をもたらす組換えDNA又はRNA構築物(例えば、プラスミド、ファージ、組換えウイルス又は他のベクター)を指す。適切な発現ベクターは、当業者に周知であり、エピソームのままであるもの又は宿主細胞ゲノムに組み込まれるものを含む、真核細胞において複製可能であるものを含む。
【0037】
[64] 「作動可能な連結」又は「作動可能に連結された」とは、成分が正常に機能して、該成分の少なくとも1つが、その他の成分の少なくとも1つに対して発揮される機能を媒介できる可能性を許容するような2又は3以上の成分(例えば、プロモーター及び別の配列エレメント)の並置を含む。例えば、プロモーターが、1又は2以上の転写調節因子の有無に応答してコード配列の転写レベルを制御する場合、該プロモーターは該コード配列に作動可能に連結することができる。作動可能な連結は、互いに近接しているか又はトランスで作用するような配列を含み得る(例えば、制御配列は、遠位で作用してコード配列の転写を制御することができる)。
[65] 「プロモーター」は、特定のポリヌクレオチド配列の適切な転写開始部位でRNA合成を開始するようにRNAポリメラーゼIIに指示することができるTATAボックスを通常含むDNAの制御領域である。プロモーターは、転写開始速度に影響を及ぼす他の領域をさらに含んでいてもよい。
【0038】
[66] 核酸分子は、いくつかの市販の発現ベクターに挿入してもよい。非限定的な例としては、原核生物プラスミドベクター(例えば、pUC-シリーズ、pBluescript(Stratagene)、pET-シリーズの発現ベクター(Novagen)又はpCRTOPO(Invitrogen))、並びにpREP(Invitrogen)、pcDNA3(Invitrogen)、pCEP4(Invitrogen)、pMC1neo(Stratagene)、pXT1(Stratagene)、pSG5(Stratagene)、EBO-pSV2neo、pBPV-1、pdBPVMMTneo、pRSVgpt、pRSVneo、pSV2-dhfr、pIZD35、pLXIN、pSIR(Clontech)、pIRES-EGFP(Clontech)、pEAK-10(Edge Biosystems)、pTriEx-Hygro(Novagen)及びpCINeo(Promega)のような哺乳動物細胞における発現に適合するベクターが挙げられる。ピキア・パストリス(Pichia pastoris)に好適なプラスミドベクターの例は、例えば、プラスミドpAO815、pPIC9K及びpPIC3.5K(全てInvitrogen)を含む。非限定的な例としては、pET32、pET41、pET43が挙げられる。ベクターはまた、正確なタンパク質のフォールディングを容易にする1又は2以上のシャペロンをコードする更なる発現可能なポリヌクレオチドを含有していてもよい。好適な細菌発現宿主は、例えば、BL21(例えば、BL21(DE3)、BL21(DE3)PlysS、BL21(DE3)RIL、BL21(DE3)PRARE)又はRosetta(登録商標)に由来する株を含む。好ましい実施形態では、本発明による発現ベクターは、宿主真核細胞を形質転換し、該TRPチャネル融合サブユニットの安定した又は一過性の発現をもたらすことができるDNA又はRNAベクターであり、該ベクターは、プラスミド、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AVV)、レンチウイルス、エプスタイン・バー、単純ヘルペス、パピローマ、ポリオーマ、レトロ、SV40、ワクシニアのようなウイルス、任意のレトロウイルスベクター、インフルエンザウイルスベクター及び裸のDNAを含む他の非ウイルスベクター又はリポソームである。ウイルスベクターの他の例としては、以下のウイルス由来の核酸配列が挙げられるが、これらに限定されない:レトロウイルス(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルス及びラウス肉腫ウイルス);アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン-バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;及びRNAウイルス(例えば、レトロウイルス)。当業者は、当該分野で周知の他のベクターを容易に採用することができる。あるウイルスベクターは、非必須遺伝子が目的の遺伝子で置換されている非細胞変性真核生物ウイルスに基づく。非細胞変性ウイルスにはレトロウイルスが含まれ、その生活環は、ゲノムウイルスRNAのDNAへの逆転写と、それに続く宿主細胞DNAへのプロウイルスの組込みを含む。レトロウイルスは、ヒト遺伝子治療試験のために承認されている。最も有用なのは、複製欠損である(すなわち、所望のタンパク質の合成を導くことができるが、感染性粒子を量産することはできない)レトロウイルスである。このような遺伝子改変されたレトロウイルス発現ベクターは、インビボでの遺伝子の高効率な形質導入のための一般的な有用性を有する。複製欠損レトロウイルスを産生するための標準的なプロトコール(プラスミドへの外因性遺伝物質の組み込み、プラスミドでのパッケージング細胞株のトランスフェクション、パッケージング細胞株による組換えレトロウイルスの産生、組織培養培地からのウイルス粒子の収集、及びウイルス粒子での標的細胞の感染のステップを含む)は、Kriegler, M., Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, W.H. Freeman Co., New York (1990)及びMurry, E. J., Methods in Molecular Biology, Vol. 7, Humana Press, Inc., Cliffton, N.J. (1991)に定められている。
【0039】
[67] 原核細胞又は真核細胞における発現を確実にする転写制御エレメント(発現カセットの一部)は、当業者に周知である。これらのエレメントは、転写の開始を確実にする制御配列(例えば、翻訳開始コドン、プロモーター、エンハンサー及び/又はインスレーター)、内部リボソーム進入部位(IRES)、並びに必要に応じて、転写の終結及び転写物の安定化を確実にするポリAシグナルを含む。さらなる制御エレメントとしては、転写エンハンサー及び翻訳エンハンサー、並びに/又は天然に結合しているプロモーター領域若しくは異種プロモーター領域が挙げられてもよい。発現ベクターは、さらなる制御エレメントとして分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列をさらに含んでいてもよい。このような配列は、当業者に周知である。さらに、使用される発現系に依存して、発現したポリペプチドフラグメントを細胞区画に導くことができるリーダー配列が、本発明のポリヌクレオチドのコード配列に付加されていてもよい。このようなリーダー配列は、当該分野で周知である。
【0040】
[68] 本明細書で使用される遺伝子発現制御配列は、任意の制御ヌクレオチド配列(例えば、プロモーター配列又はプロモーター-エンハンサーの組合せ)であり、これは、それが作動可能に連結されるコード核酸の効率的な転写及び翻訳を容易にする。遺伝子発現制御配列は、例えば、哺乳動物プロモーター又はウイルスプロモーター(例えば、構成的プロモーター又は誘導性プロモーター)であってもよい。構成的哺乳動物プロモーターとしては、以下の遺伝子のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない:ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、アデノシンデアミナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、β-アクチンプロモーター及び他の構成的プロモーター。真核細胞において構成的に機能する例示的なウイルスプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、シミアンウイルス(例えば、SV40)、パピローマウイルス、アデノウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ラウス肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルスの長末端反復(LTR)及び他のレトロウイルス由来のプロモーター、並びに単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーターが挙げられる。他の構成的プロモーターは、当業者に公知である。本発明の遺伝子発現配列として有用なプロモーターには、誘導性プロモーターも含まれる。誘導性プロモーターは、誘導剤の存在下で発現する。例えば、メタロチオネインプロモーターは、ある金属イオンの存在下で転写及び翻訳を促進するように誘導される。他の誘導性プロモーターは、当業者に公知である。
【0041】
[69] 転写の開始を確実にする制御エレメントの考えられる例は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、lacZプロモーター、ヒト伸長因子1αプロモーター、CMVエンハンサー、CaMキナーゼプロモーター、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)多核多角体病ウイルス(AcMNPV)多面体プロモーター又はSV40エンハンサーを含む。原核生物における発現のために、例えばtac-lac-プロモーター、lacUV5又はtrpプロモーターを含む多数のプロモーターが記載されている。原核細胞及び真核細胞におけるさらなる制御エレメントの例は、ポリヌクレオチドの下流に、転写終結シグナル(例えば、SV40-ポリA部位若しくはtk-ポリA部位)又はSV40、lacZ及びAcMNPV多面体ポリアデニル化シグナルを含む。
【0042】
[70] 本発明はさらに、上記のようなポリペプチドフラグメントの発現のための発現ベクターを含有する組換え宿主細胞に関する。したがって、本発明による組換え細胞は、該発現ベクターで遺伝子操作されて、該ポリペプチドフラグメントを発現する。当該細胞又は宿主は、任意の原核細胞又は真核細胞であってもよく、好ましくは安定な細胞株であってもよい。好適な真核生物宿主は、哺乳動物細胞、両生類細胞、魚類細胞、昆虫細胞、真菌細胞又は植物細胞であってもよい。真核細胞は、昆虫細胞、例えば、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞、酵母細胞、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)若しくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞、真菌細胞、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)細胞又は脊椎動物細胞であってもよい。適切な原核生物は、E. coli(例えば、E. coli株HB101、DH5a、XL1Blue、Y1090及びJM101)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、バークホルデリア・グルマエ(Burkholderia glumae)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatis)又はバチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)であってもよい。
【0043】
[71] 次いで、発現ベクター(単数又は複数)は、好適な標的細胞にトランスフェクト又は同時トランスフェクトされ、これが当該ポリペプチドを発現させる。当該分野で公知のトランスフェクション技術としては、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーション及びリポソームベースの試薬が挙げられるが、これらに限定されない。種々の宿主-発現ベクター系が、真核細胞を含む本明細書に記載のタンパク質を発現させるために利用されてもよい。これらとしては、微生物、例えば、適切なコード配列を含有する組換えバクテリオファージDNA又はプラスミドDNA発現ベクターで形質転換させた細菌(例えば、E. coli);適切なコード配列を含有する組換え酵母又は真菌発現ベクターで形質転換させた酵母又は糸状菌;適切なコード配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)で感染させた昆虫細胞系;組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス又はタバコモザイクウイルス)で感染させたか、又は適切なコード配列を含有する組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換させた植物細胞系;又は哺乳動物細胞(例えば、HEK 293、CHO、Cos、HeLa、HKB11及びBHK細胞)を含む動物細胞系が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
[72] 典型的には、宿主細胞は、真核細胞であり、例えば、脊椎動物、例えば哺乳動物の細胞、及び無脊椎動物、例えば昆虫の細胞を含み得る。植物の真核細胞としては、具体的には、酵母細胞を挙げることができるが、これに限定されない。真核細胞は、哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞、例えばヒト胚性腎細胞株である哺乳動物細胞株HEK 293細胞)であってもよい。HEK 293細胞は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(Manassas, Va.)からCRL-1533として、及びInvitrogen(Carlsbad, Calif.)から293-H細胞、カタログ番号11631-017又は293-F細胞、カタログ番号11625-019として入手可能である。あるいは、哺乳動物細胞は、網膜由来のヒト細胞株であるPER.C6(登録商標)細胞であってもよい。PER.C6(登録商標)細胞は、Crucell(Leiden, The Netherlands)から入手可能であるか、又はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(CHO細胞は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(Manassas, Va.)からアクセッション番号CHO-Kl;CCL-61で入手可能である)、又はベビーハムスター腎臓(BHK)細胞(BHK細胞は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(Manassas, Va.)からアクセッション番号CRL-1632で入手可能である)、又はHEK293細胞とヒトB細胞株とのハイブリッド細胞株であるHKB11細胞である。宿主細胞は、当業者に公知の従来の技術を使用して、安定な細胞株として選択及び維持することができるように、安定にトランスフェクトされる。
【0045】
[73] ポリペプチドフラグメントをコードする核酸分子を含有する組換え宿主細胞は、適切な増殖培地中で増殖される。本明細書で使用される、「適切な増殖培地」という用語は、細胞の増殖に必要な栄養素を含有する培地を意味する。細胞増殖に必要な栄養素には、炭素源、窒素源、必須アミノ酸、ビタミン、ミネラル及び増殖因子が含まれ得る。必要に応じて、当該培地は、1つ又は複数の選択因子を含有することができる。培養された哺乳動物細胞は、一般に、市販の血清含有培地又は無血清培地(例えば、MEM、DMEM、DMEM/F12)中で増殖させる。適切な培地の例としては、CD293(Invitrogen, Carlsbad, CA)又はCD17(Invitrogen, Carlsbad, CA)が挙げられる。使用される特定の細胞株に適切な培地の選択は、当業者のレベルの範囲内である。
【0046】
[74] したがって、本発明によるポリペプチドフラグメントを産生するためのプロセスは、核酸又はベクターが発現する条件下で、ベクター又は該ポリペプチドフラグメントをコードする核酸を用いて組換え細胞を遺伝子操作することと、該核酸又はベクターによってコードされたポリペプチドフラグメントを培養物から回収することとを含んでいてもよい。トランスジェニック動物細胞は、本発明のポリペプチドフラグメントの発現レベルが増強又は低減した、本発明によるベクター又は核酸分子で形質転換され得る。
[75] インビトロ産生は、本発明の所望の改変されたポリペプチドフラグメントを大量に得るためのスケールアップを可能にする。組織培養条件下での哺乳動物細胞培養のための技術は、当技術分野で公知であり、例えば、エアリフト反応器若しくは連続撹拌反応器中での均一懸濁培養、又は例えば、ホローファイバー、マイクロカプセル中、アガロースマイクロビーズ若しくはセラミックカートリッジ上での固定化細胞培養若しくは捕捉細胞培養を含む。必要であれば及び/又は所望であれば、ポリペプチドの溶液は、通例のクロマトグラフィー法、例えば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC、DEAE-セルロース上でのクロマトグラフィー又はアフィニティークロマトグラフィー)によって精製することができる。
【0047】
[76] 本発明の実施は、特に断りのない限り、当該分野の技術の範囲内である、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の従来の技術を採用する。このような技術は、文献に完全に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd Ed., Sambrookら編, Cold Spring Harbor Laboratory Press: (1989);Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrookら編, Cold Springs Harbor Laboratory, New York (1992), DNA Cloning, D. N. Glover編, Volumes I and II (1985);Oligonucleotide Synthesis, M. J. Gait編(1984);Mullisら、米国特許第4,683,195号;Nucleic Acid Hybridization, B. D. Hames & S. J. Higgins編(1984);Transcription And Translation, B. D. Hames & S. J. Higgins編(1984);Culture Of Animal Cells, R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., (1987);Immobilized Cells And Enzymes, IRL Press, (1986);B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984);the treatise, Methods In Enzymology, Academic Press, Inc., N.Y.;Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells, J. H. Miller and M. P. Calos編, Cold Spring Harbor Laboratory (1987);Methods In Enzymology, Vols. 154 and 155 (Wuら編);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology, Mayer and Walker編, Academic Press, London (1987);Handbook Of Experimental Immunology, Volumes I-IV, D. M. Weir and C. C. Blackwell編(1986);Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1986);及びAusubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Baltimore, Md. (1989)を参照。免疫学の一般的基本原理を記載する標準的な参照研究としては、Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, New York;Klein, J., Immunology: The Science of Self-Nonself Discrimination, John Wiley & Sons, New York (1982);Roitt, I., Brostoff, J. and Male D., Immunology, 6th ed. London: Mosby (2001);Abbas A., Abul, A. and Lichtman, A., Cellular and Molecular Immunology, Ed. 5, Elsevier Health Sciences Division (2005);及びHarlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press (1988)が挙げられる。
【0048】
[77] 本出願を通じて、様々な参考文献が参照され、これらの刊行物の開示全体が、本発明が属する技術状態をより完全に説明するために、参照により本出願に組み込まれる。
【実施例
【0049】
実施例1:発生中の網膜脈管系における空間位置が制限されたフィブリリン-1の検出
フィブリリン-1を、フラットマウントした野生型マウス網膜(P6)の免疫蛍光染色によって、発生中の網膜脈管系において検出した(図1A)。内皮マーカーであるイソレクチンB4(IB4)で染色した網膜において、当該タンパク質は視神経乳頭から成長する細動脈に関連付けられたが、予想外にも、tip細胞が先導する内皮スプラウトにおいても見出された(図1B)。血管新生前端部におけるフィブリリン-1特異的局在を、P2、P4及びP6網膜において検証した(データは示さず)。より高い倍率では、フィブリリン-1は細動脈の周囲で観察されたが、むしろ、tip細胞を取り囲むようにtip細胞の細胞体及び突起に沿ってマトリックス沈着物として検出された(図1C)。エラスチン染色により、フィブリリン-1の細動脈に関連付けられた分布が確認された(図1D、下パネル)。しかしながら、エラスチンは、フィブリリン-1が豊富であった血管新生前端部の発芽領域では検出されなかった(図1D上パネル)。P6で試験したフィブリリン-1変異体マウスにおいて、血管新生前端部(図2A)及び細動脈(図2B)でのフィブリリン-1免疫染色は、野生型マウスと比較して減少し、このモデルにおいて報告されたフィブリリン-1ハプロ不全を反映していた。MFSマウスの網膜脈管系を、フィブリリン-1が豊富な組織分布的位置でより詳細に調査した。
【0050】
実施例2:フィブリリン-1の変異が網膜において発生的血管新生を減少させたとの決定
網膜脈管系発生の初期拡大期の間、網膜表面を覆う神経叢の全体直径は、血管新生の減少又は増加の指標であった。IB4について染色されたフラットマウント網膜(P6)の分析により、網膜の血管被覆率及び血管網の半径方向の伸長が共に、Fbn1C1041G/+マウスにおいて、野生型同腹仔コントロールと比較して顕著に減少したことが明らかとなった(図3A)。血管新生前端部では、毛細血管の密度並びに発芽、毛細血管分岐点及びメッシュの数もまた、Fbn1C1041G/+マウスにおいて減少した(図3B)。tip細胞は、糸状仮足を用いて、細胞遊走のためにマトリックスに接着し、ポドソームは、このプロセスを、血管新生の発芽ステップ、分岐ステップ及び吻合ステップの間にBMを分解することによって容易にする。網膜周辺に向かう血管伸長の減少は、遊走異常を示唆した。発芽/tip細胞の数が変異体網膜で減少するにつれて、血管新生前端部の境界を画定する線は、あまり凹んでいないように見えたが(図3B、C)、血管セグメント長あたりの糸状仮足の数は、全体的に減少した(図3C)。Fbn1C1041G/+網膜血管の発芽及び分岐の障害はまた、ポドソーム形成の異常に起因し得る。当該構造は、糸状仮足が前縁から発芽する遠位tip細胞端部で皮質下アクチンフィラメント網目構造と混ざり合ったクラスターを形成する。導入遺伝子の発現が内皮組織にほぼ制限されているLifeact-EGFP-トランスジェニックマウスを用いて、Spuulら(Cell Rep 2016 Oct 4;17(2):484-500; doi: 10.1016/j.celrep.2016.09.016)に記載されるようにコルタクチン及びCol IV標識により検出を容易にした。共焦点Zスタックの最大強度投影は、ポドソームがCol IV染色におけるギャップと一致したことを示した(図4A、B)。P6 Lifeact-EGFP/Fbn1C1041G/+網膜において、ポドソーム密度及びポドソームサイズの顕著な減少が観察された(図4A)。tip細胞のレベルでのBM-Col IV染色の定量化により、コントロールマウスと比較してタンパク質被覆率の増加が明らかになった(図4A、B)。まとめると、これらの結果は、ポドソーム形成の減少を示し、Fbn1C1041G/+動物の発生中の網膜脈管系における血管新生前端部でのタンパク質分解活性の減少を示唆した。
【0051】
実施例3:Fbn1C1041G/+変異が内皮細胞の増殖に影響を及ぼしたとの決定
血管密度の低下は、多くの場合、stalk細胞増殖の減少と関連しているので、全体的な血管密度は、EC転写因子ERG1/2/3及び有糸分裂マーカーホスホヒストン-H3(PH3)を定量することによって対処した。両シグナルは、変異体マウスの血管叢において顕著に減少した(図5A、B)。したがって、変異体フィブリリン-1は、血管新生前端部(フロント)及び一次叢の両方で血管新生を損なった。
【0052】
実施例4:Fbn1C1041G/+変異が網膜細動脈の統合性に影響を及ぼしたとの決定。
次いで、成熟網膜脈管系を分析した。動脈/静脈分化は、細動脈及び細静脈の半径方向に交互するパターン形成のために、網膜脈管系において特に目立った(図1A)。野生型同腹子コントロールと比較して、Fbn1C1041G/+マウスにおける網膜細動脈の進行性肥大が観察された(図6A~D)。対照的に、静脈直径は影響を受けないことが分かった(図7C)。多くの場合で細動脈肥大に関連する動静脈奇形は検出されていない。細動脈肥大の原因を調査するために、フィブリリン-1におけるC1041G変異が収縮性VSMC被覆率に影響を及ぼすかどうかを最初に調べた。図6A~Cの結果のデータは、網膜細動脈が、野生型網膜において、収縮性VSMCマーカーαSMA及び内皮細胞マーカーIB4に対して均一な免疫反応性を呈したことを示した(左パネル)。P6、4月齢及び1年齢のFbn1C1041G/+マウスでは、網膜細動脈に沿ったαSMA被覆率の局所損失が明らかであったが、IB4染色は均一なままであった(右パネル)。これらのパラメータの定量分析は、ヘテロ接合性C1041G変異が、網膜細動脈と比較して、収縮性VSMC被覆率の損失及びαSMA欠損ギャップの数の増加を招いたことを示した(図6E)。これらの病変が機能的異常と関連するかどうかを調査するために、アルブミンについて免疫染色を行った。アルブミンは、コントロールの野生型網膜における血管の周囲では検出されなかったが(図6B、C、左パネル)、4月齢及び1年齢のFbn1C1041G/+マウスの代表画像(図6B、C、右パネル)は、細動脈の周囲、より具体的には、不十分なVSMC被覆率に対応する領域において散在するアルブミン染色を示し、Fbn1C1041G/+網膜における漏出性血管からの血漿タンパク質溢出を示した(図6F)。
さらに、Col Iv及びラミニン(γ1鎖)染色の定量分析は、野生型マウスと比較して、4月齢のFbn1C1041G/+マウスの網膜細動脈における全体的レベルの低減を示し(図7A、B)、基底膜の統合性が変化していることが示された。まとめると、これらの結果は、変化したBM統合性及びVSMCの限局性又は分節性の損失が、Fbn1C1041G/+マウスの網膜において検出された血管透過性に関与していることを示唆した。
【0053】
実施例5:ヒトフィブリリン-1フラグメントhfrag1487-2725のインビトロ血管新生促進特性
フィブリリン-1が発芽性血管新生及び血管分岐に寄与することを示唆するデータの証拠に基づいて、組換えヒトC末端又はN末端フィブリリン-1サブフラグメント(hfrag1487-2725及びhfrag17-1527)を、tip細胞の生物発生の状況を模倣したインビトロアッセイにおいて試験した。VEGF-Aを含有するマトリゲルプラグを培養皿に入れ、初代内皮細胞(ヒト微小血管内皮細胞、HMVEC)を播種して、その周囲に単層を形成させた(図8A)。細胞単層-マトリゲル界面で、tip細胞様内皮細胞は、ポドソームを構築し、糸状仮足をVEGF-A源に向かって突出させ、マトリゲルに浸潤した。内皮細胞の発芽は、マトリゲルにヒトフィブリリン-1フラグメントhfrag1487-2725を補充したときに選択的に刺激された(図8B)。同様に、ポドソーム形成は、コントロールと比較して、この状況におけるポドソームの数及びサイズの増加によって反映されるように、より頑強であった(図8C)。次いで、ヒトフィブリリン-1フラグメントhfrag1487-2725を、原始的な微小血管網の形成を模倣するインビトロアッセイにおいて試験した。HMVECを、マトリゲルでコーティングされた細胞培養皿上に播種し、相互接続する毛細血管様構造を自発的に形成させた(図9A)。このプロセスは、マトリゲルにhfrag1487-2725を補充したときに選択的に増強された(図9B)。総合すると、これらの結果により、内皮細胞が本発明のフィブリリン-1フラグメントの標的であったこと、並びにこれらのフラグメントが発芽及び分岐を刺激することによって内皮細胞に対して血管新生促進効果を呈することが立証された。
【0054】
実施例6:マウスフィブリリン-1フラグメントmfrag1489-2727は、Fbn1C1041G/+マウスの網膜血管異常を回復させた。
C1041G変異によって引き起こされるフィブリリン-1欠損を克服する試みにおいて、mfrag1489-2727の硝子体内注射を、P4にWT及びFbn1C1041G/+動物の眼において実施した(図10A)。新血管新生をP6まで許容し、血管新生パラメータを評価した。図10、11に示されるデータは、血管新生がこれらの条件下で回復したことを示す。Fbn1C1041G/+マウス由来のmfrag1489-2727を注射した眼において、網膜の血管被覆率、半径方向の伸長及び当該メッシュの血管密度を刺激して、野生型同腹仔コントロール値に達した(図10B)。重要なことに、Fbn1C1041G/+網膜において、コントロール網膜より弱く見えたフィブリリン結合MAGP1免疫染色は、mfrag1489-2727を注射したFbn1C1041G/+網膜において回復し、コントロール値に達した(図11A)。さらに、Fbn1C1041G/+網膜においてコントロール網膜より増加したように見えたCol IV被覆率は、mfrag1489-2727を注射したFbn1C1041G/+眼において部分的に回復した(図11A)。mfrag1489-2727フラグメントの投与がより成熟した血管、例えば網膜細動脈に対して効果を有するかどうかについても取り組んだ。図11Cに示されるデータは、Fbn1C1041G/+マウスのmfrag1489-2727を注射した眼において、細動脈径及びMAGP1発現が正常化されたことを示した。
総合すると、データは、本発明によるマウスフィブリリン-1フラグメントmfrag1489-2727が、MarfanマウスのFbn1C1041G/+モデルにおける網膜の血管新生の間に欠陥フィブリリン-1が原因で生じるほとんどの異常を救済したことを示す。これらにより、当該フラグメントの内皮細胞に対する血管新生促進効果及び成熟血管に対する保護効果も明らかとなった。
【0055】
実施例7:ヒトフィブリリン-1フラグメントhfrag1487-2725は、Fbn1C1041G/+マウスの網膜血管異常を回復させた。
hfrag1487-2725フラグメントの硝子体内注射を、P4のWT及びFbn1C1041G/+動物の眼において実施した(図12A)。次いで、新血管新生をP6まで許容し、血管新生パラメータを評価した。図12、13に示すデータは、ヒトフィブリリン-1フラグメントhfrag1487-2725が、mfrag1489-2727フラグメントと類似の効果を発揮したことを示した。マウスフラグメントに関しては、血管新生(図12B、13A)及び細動脈統合性(図13B)が共に、Fbn1C1041G/+マウスのhfrag1487-2725を注射した網膜において回復した。これらのデータは、両フラグメントが、血管新生促進効果及び血管保護効果を発揮したことを示唆する。
【0056】
実験手順
マウス
Lifeact-EGFPトランスジェニックマウス及びFbn1C1041G/+マウスを上記実施例において用いた。両系統をC57BL/6バックグラウンドで維持した。Fbn1C1041G/+マウスは、B6.129-Fbn1tm1Hcd/Jマウス系統(012885-B6.129-Fbn1<tm1Hcd>/J(jax.org))に相当し、本明細書中でFbn1C1039G/+マウスと呼ばれることもある。この2つの名称は、本発明者らがそれぞれマウス変異を指すのかヒト変異を指すのかに応じて本明細書中に共存している。
マウスを用いた全ての実験手順は、プロジェクトライセンス#7313の権限下でフランス保健省のガイドラインに従って、ボルドー大学の動物実験倫理委員会によって承認されたプロトコールを用いて実施した。マウス及びヒトFBN1 C末端組換えフラグメントの投与のために、WT及びFbn1C1041G/+マウス仔の左目に、0.8μg/μlの最終濃度まで滅菌TBS中で再構成した1μLのmfrag1489-2727又はhfag1487-2725を硝子体内注射した。前述のように、UMP3ポンプコントローラ(World Precision Instruments)によって制御される10μlのNanofilシリンジに設置された33ゲージ針を用いて、注射を実施した。TBSをコントロールとして対側の眼に注射した。注射の48時間後、動物を安楽死させ、眼を取り出し、網膜フラットマウントを分析した。雄性及び雌性マウスをP6まで区別せず、4月齢及び1年齢では雄性マウスを用いた。分析したマウスの数を各実験で示した。
【0057】
フィブリリン-1フラグメントの作製
マウスフィブリリン-1フラグメント(mfrag1489-2727)、ヒトフィブリリン-1フラグメント(hfrag1487-2725)及びヒトフィブリリン1のN末端側半分(hfrag17-1527)を組換え発現させた。簡潔には、組換えタンパク質をヒト胚性腎細胞において発現させ、その後、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。N末端配列決定により、組換えタンパク質の正確な配列が確認された。

網膜全体の免疫組織化学
P6、4月齢及び1年齢のマウスを屠殺し、摘出し、眼を4℃で2時間、4%パラホルムアルデヒド中で固定した。網膜を解体し、次いでブロッキング緩衝液(PBS、2%BSA、0.2%Triton X-100)中、室温で2時間インキュベートした。Pblec緩衝液(1mM MgCl2、1mM MnCl2、1mM CaCl2及び1%TritonX-100を補充したPBS)中で20分間の洗浄を3回行った後、網膜をフルオレセイン標識イソレクチンB4(IB4;Vector Laboratories、FL-1201、1:25)及びブロッキング緩衝液で希釈した抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。網膜をブロッキング緩衝液で3回洗浄し、ブロッキング緩衝液で希釈した種特異的Alexa488-、546-又は647-標識二次抗体(Jackson Laboratories、1:100)と共に室温で2時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、網膜全体を、Hoechst33342を含有するProLong Gold Antifade試薬(Life Technologies)中にフラットマウントし、落射蛍光顕微鏡(Nikon TE-2000)又はレーザー走査型蛍光顕微鏡(Zeiss LSM 510 Meta inverted)で分析した。
【0058】
免疫組織化学のための抗体
マウスフィブリリン-1に対するポリクローナル抗血清をウサギで産生させた。抗フィブリリン-1抗体をアフィニティー精製し、フィブロネクチンと交差反応する抗体を吸収によって除去して、単一特異性抗フィブリリン-1抗体を得た。コルタクチン(クローン4F11、#05-180)及びPH3(#06-570)に対する抗体は、Milliporeから入手した。ERG1/2/3に対する抗体(ab92513)はAbcam製であった。ラミニンガンマ-1(3E10)抗体(sc-65643)はSanta Cruz Biotechnology, Inc.から購入した。SMAに対する抗体(クローン1A4、C6198)はSigmaから購入した。Col IV抗体はBioRad(#2150-1470)から入手した。MAGP1(AF4977)及び血清アルブミン(AF3329)に対する抗体はR&D Systemsから購入した。トロポエラスチン抗体はRobert P. Mecham博士から贈与された。二次検出のために、種特異的Alexa Fluor 488-、546-又は647-標識二次抗体(Jackson Laboratories)を用いた。
【0059】
新生仔網膜脈管系の分析
新生仔網膜内の血管進行を定量するために、NIS-エレメントソフトウェアの「ラージイメージ(large image)」機能を用いて蛍光顕微鏡(Nikon TE-2000)で4倍の倍率で取得した個々の画像をスティッチングすることによって、IB4標識網膜のモザイク画像を得た。これらの写真から、血管被覆率(網膜の総面積に対して規格化したIB4陽性網膜面積)、血管の半径方向の伸長(視神経からネットワーク末端までの距離;網膜の各四分の一で測定)、及び血管新生前端部での血管密度(網膜の各四分の一のROIで決定された、視野あたりのIB4陽性面積のパーセンテージ)を、画像Jソフトウェアを用いて定量した。血管新生前端部におけるROIあたりの発芽、tip細胞及び糸状仮足の数を、手動計数によって決定した。画像Jソフトウェア上の血管新生アナライザープラグインを用いて、血管新生前端部における血管網の幾何学的形状(分岐点及びメッシュの数)を自動的に分析した。
血管新生前端部での内皮細胞増殖を定量するために、5つの光学切片(x/y/z=575.85×575.85×2μm)のzスタック共焦点シリーズを、10×対物レンズを備えたZeiss LSM Meta 510共焦点顕微鏡で取得した。共焦点スタックの最大強度投影に対して実施される画像J「Analyze Particles」機能を用いて、血管前端部の出芽形成領域における視野あたりのIB4+PH3+及びERG1/2/3+細胞の数を自動的に決定した。
【0060】
血管新生前端部におけるポドソーム数、平均ポドソームサイズ及びCol-IV被覆率を定量するために、z-stack共焦点シリーズの20の光学切片(x/y/z=146.25×146.25×0.15μm)を、63倍油浸レンズを用いて取得した。取得は、発生中の網膜脈管系の前端部で実施した。内皮細胞1μm2あたりのポドソームの密度を決定するために、血管長あたりのポドソーム(F-アクチン/コルタクチン陽性(黄色)病巣)の平均数及びサイズを、デコンボリューション(AutoQuant X3ソフトウェア)及びLifeact-EGFP陽性表面積(対応するチャネルの閾値化された画像から決定される)への規格化後に共焦点スタックの最大強度投影に対して実施される画像J「Analyze Particles」機能を用いて計算した。網膜血管のCol IV被覆率を決定するために、視野あたりのCol IV陽性表面積を閾値化された画像上で決定し、前述のようにLifeact-EGFP陽性表面積に対して規格化した。
血管前端部におけるFBN1及びMAGP1を定量化するために、63倍油浸レンズを用いて、20の光学切片(x/y/z=182.81×182.81×0.25μm)のzスタック共焦点シリーズを取得した。共焦点スタックの閾値化された最大強度投影から決定された陽性表面積を、画像Jソフトウェアを用いて定量し、IB4陽性面積に対して規格化した。
【0061】
細胞及び細胞培養
ヒト肺微小血管内皮細胞(HMV EC、Lonza)を、抗生物質を含有する完全内皮細胞増殖培地(EGM-MV;Promocell、VEGFを含有しない培養培地)中、37℃、5%CO2加湿雰囲気中で維持し、2~7継代の間で使用した。刺激のために、ヒト組換えVEGF-A(特に断りのない限り、全ての実験において25ng/mlで使用した)を、Promocellから入手した。
【0062】
血管新生浸潤アッセイ(AIA)
切断した黄色チップを、3.5cmのMatTek皿(MatTek Corporation, USA)の中央に配置し、そして50μlの純粋なグロースファクターリデューストマトリゲル(商標)(約9mg/ml)及びVEGF-Aで満たして、Spuulら(Cell Rep 2016 Oct 4;17(2):484-500; doi: 10.1016/j.celrep.2016.09.016)によって記載されるように、BM様マトリックスバリアを作製した。いくつかの実験では、マトリゲル+VEGFプラグに、ヒトC末端組換えフィブリリン-1フラグメントhfrag1487-2725又はヒトN末端組換えフラグメントhfrag17-1527を50μg/mLの最終濃度で補充した。次いで、マトリゲルプラグを37℃で30分間重合させた。このステップの後、黄色ピペットチップを慎重に除去した。細胞(5×104)を周囲に播種して、マトリゲルの周囲に環状領域を作製した。細胞を37℃で90分間接着させ、次いで2mlの完全培地を上部に重層した。皿を37℃に12時間戻した。次いで、AIA中の細胞を2%PFA中で30分間固定し、その後、50mM NH4Clでクエンチし、0.2%Triton X-100中で1時間透過処理し、3%BSA中でブロッキングした。コルタクチンに対する一次モノクローナル抗体(クローン4F11、#05-180、Millipore)を、ブロッキング緩衝液中1/100希釈で用いた。4℃で16時間後、細胞をPBS中で徹底的に洗浄し、次いで、マウスIgGに対するAlexa fluor-546結合二次抗体を、Alexa fluor-488標識ファロイジン及びDAPIと一緒にブロッキング緩衝液中に1/100希釈で室温で3時間添加した。次いで、この系に抗退色試薬(Molecular Probes)をマウントした。
マトリゲルプラグに浸潤する発芽の数を定量するために、NIS-エレメントソフトウェアの「ラージイメージ(large image)」機能を用いて自動顕微鏡(Nikon TE-2000)で4倍の倍率で取得した個々の位相差画像をスティッチングすることによってモザイク画像を得た。内皮細胞中のポドソーム数及び平均ポドソームサイズを定量するために、63倍油浸レンズを備えたレーザー走査型蛍光顕微鏡(Zeiss LSM 510 Meta inverted)を用いて、10の光学切片のzスタック共焦点シリーズ(x/y/z=146.25×146.25×0.15μm)を取得した。発芽あたりのポドソーム(F-アクチン/コルタクチン陽性(黄色)病巣)の平均数及びサイズを、共焦点スタックの最大強度投影に対して実施される画像J「Analyze Particles」機能を用いて計算した。
【0063】
成人網膜脈管系の分析
網膜細動脈及び細静脈の直径並びにCol IV、ラミニン、SMA、血清アルブミン及びMAGP1を定量するために、63倍油浸レンズを用いて30の光学切片のzスタック共焦点シリーズ(x/y/z=146.25×146.25×0.3μm)。視神経乳頭から始まる最初の側副血管分岐部の領域で取得を行った。共焦点スタックの最大強度投影を、画像Jソフトウェアを用いて分析した。網膜細動脈及び細静脈の直径を、第1の側副血管分岐部で血管軸に対して垂直に実施した3つの異なる長さ測定から計算した。視野あたりの陽性表面積を、閾値化した画像上で測定し、IB4陽性表面積に対して規格化した。
【0064】
統計
統計分析は、GraphPad Prism 6(GraphPad Software, Inc., San Diego)を用いて行った。データは、平均値±SD(バー)及び個々の値(ドット)(バーを伴う散布図)として提示されている。スチューデントのt検定又は一元配置ANOVA、続いてチューキーの事後検定を用いることによって、有意性を決定した。P値<0.05を統計的に有意であるとみなした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
【配列表】
2024501376000001.app
【国際調査報告】