(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-11
(54)【発明の名称】木材を原料とする製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27K 1/00 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
B27K1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563337
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2021087767
(87)【国際公開番号】W WO2022144377
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523242354
【氏名又は名称】エムエム ボード アンド ペイパー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100081466
【氏名又は名称】伊藤 研一
(72)【発明者】
【氏名】フリーデル アントン
(72)【発明者】
【氏名】レーア マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ミルトナー マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴコビッツ ヴァルター
【テーマコード(参考)】
2B230
【Fターム(参考)】
2B230AA30
2B230BA01
2B230BA05
2B230EA05
(57)【要約】
木材を原料とする製品を製造する方法であって,木材粒子の形態の木材を,溶媒または溶媒と水との有機-水性混合物中の1種以上の有機溶媒からなる抽出剤を使用する抽出処理に付し,溶媒を使用する木材粒子の抽出処理によって,木材粒子中の脂肪酸の含量を,ヘキサナ-ル含量(重量%)として測定して,少なくとも70%減少させるが,セルロ-ス,ヘミセルロ-スおよびリグニンの含量は,この抽出処理中もほぼ維持されることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を原料とする製品の製造方法であって,木材粒子の形態をした木材に,溶媒の有機/水性混合物又は水を含む溶媒中に一種以上の有機溶媒を含む抽出剤を用いた抽出処理を行うものであり,木材粒子の抽出剤を用いた抽出処理によって,木材粒子中の脂肪酸の含有量を,90℃で72時間の加速熟成後にヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定した値として少なくとも70%削減される一方で,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス及びリグニンの含有量が,この抽出処理において実質的に維持されることを特徴とする方法。
【請求項2】
木材粒子が最大2mmの大きさで存在し,粒径は,好ましくは,国立再生可能エネルギ-研究所(NREL:National Renewable Energy Laboratory)の研究所分析手順(LAP:Laboratory Analytical Procedure)NREL/TP-510-42620「組成分析のためのサンプルの調製」にしたがって,サンプル調製のためのカッティングミルの2mmのスクリ-ンメッシュによって定義され,木材粒子が,好ましくは繊維,チップ,又はそれらの混合物の形態をとることを特徴とする,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
木材粒子が,機械的及び/又は熱的及び/又は化学的消化によりほぐれた木材であり,特に,平均繊維長が0.5~2mm,平均繊維径が10~50μmの木材繊維であり,平均繊維長及び平均繊維径が,浮遊繊維を光学的な手段で決定される長さ平均に関連することを特徴とする,請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抽出物の液相の濃度として測定される,抽出剤中の有機/水性溶媒混合物の溶媒部が,0~95wt%のエタノ-ル,好ましくは50~90wt%のエタノ-ル,0~99wt%のアセトン,好ましくは30~90wt%のアセトン,0~70wt%のn-プロパノ-ル,0~85wt%のイソiso-プロパノ-ル,及び/又は,0~99wt%のメタノ-ルからなることを特徴とする,請求項1~3のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項5】
抽出処理において,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス,及びリグニンの含有量が,10%未満,好ましくは5%未満,特に4%未満減少するものであり,この減少が,好ましくは,基本材料である木材粒子に関連する抽出された固体塊として確認されるものであることを特徴とする,請求項1~4のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項6】
木材粒子が,針葉樹木材粒子,好ましくはトウヒ木材粒子,モミ木材粒子,マツ木材粒子,若しくはカラマツ木材粒子,落葉樹木材粒子,とくにブナ木材粒子,ポプラ木材粒子,カバ木材粒子,若しくはユ-カリ木材粒子,又は,それらの混合物から選択されることを特徴とする,請求項1~5のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項7】
木材粒子が,抽出剤を用いた処理後,抽出剤を用いて一回又は複数回精製され,好ましくは,抽出剤の濃度と同程度か,又は同一の濃度の有機/水性混合溶媒により精製されることを特徴とする,請求項1~6のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項8】
木材粒子中の脂肪酸含有量が,抽出剤を用いて木材粒子を抽出することにより,90℃で72時間加速熟成後,抽出された木材粒子と比較して,基本材料中の木材粒子のヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定した値で,少なくとも75%,好ましくは少なくとも80%,特に少なくとも90%削減されることを特徴とする,請求項1~7のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項9】
木材粒子中の脂肪酸含有量が,抽出剤を用いて木材粒子を抽出することにより,90℃で72時間加速熟成後の抽出された木材粒子の質量部としてヘキサナ-ル含有量を測定した値で,2mg/kg乾燥重量未満,好ましくは1mg/kg乾燥重量未満,特に0.5mg/kg乾燥重量未満に削減されることを特徴とする,請求項1~8のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項10】
抽出により,脂肪酸の他に樹脂酸も抽出されることを特徴とする,請求項1~9のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項11】
抽出剤により抽出された脂肪酸,樹脂酸,及び/又は,任意のさらなる抽出物が,有機溶媒を有機/水性抽出剤から熱分離後,さらなる精製方法に,好ましくは機械的分離技術に供されるものであって,脂溶性抽出物,特に脂肪酸及び樹脂酸が沈殿分離され,親水性抽出物,特にリグナンが濃縮された液相が得られ,親水性抽出物が,好ましくは,熱分離技術,特に膜分離法及び/又は吸着を用いたその後の処理によってさらに濃縮されることを特徴とする,請求項1~10のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項12】
抽出剤を事前に膜濾過することにより,抽出物の濃縮度をさらに高めることを特徴とする,請求項11に記載の方法。
【請求項13】
キレ-ト剤,特に,多価及び多官能性カルボン酸,アミノメチルカルボン酸,アミノメチルホスホン酸,及びこれらの化合物,EDTA,DTPA EGTA,EDDS,及びこれらの塩,ポリフェノ-ル,タンニン,アミノ酸,ペプチド,タンパク質,ポリカルボン酸塩,リン酸塩,ポリリン酸塩,ホスホン酸,ポリホスホン酸塩,リン酸塩,ホスホニル化ポリマ-,硫酸化ポリマ-,及びスルホン酸化ポリマ-から選択されるキレ-ト剤が,抽出方法の過程,特に,木材粒子から製造される製品の製造方法全体の過程において,木材粒子に添加されないことを特徴とする,請求項1~12のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項14】
抽出剤,及び,任意に使用される洗浄液,特に水が,再利用のために再生されることを特徴とする,請求項1~13のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項15】
ヘキサナ-ル含有量の削減に加えて,サンプルシ-トの引張指数をNm/g単位で測定した値として,抽出された木材粒子の機械的強度を,抽出処理によって,少なくとも10%,好ましくは少なくとも15%,特に少なくとも25%増加させるものであって,°SR単位で測定される粉砕度における変化が10%未満であることを特徴とする,請求項1~14のいずれか一つ以上に記載の方法。
【請求項16】
請求項11及び12に記載の方法で得られた脂溶性抽出物画分を,動物飼料サプリメントとして使用することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は,木材を原料とする製品の製造方法,特に木材の前処理方法に関する。
【0002】
木材を原料とする製品(木質繊維板や段ボ-ルなど)の工業的処理に用いる原料としての木材には,主成分であるセルロ-ス,ヘミセルロ-ス,リグニンのほか,脂肪酸,樹脂酸,フェノ-ル,及びテルペンなどのさまざまな低分子・高分子材料が含まれる。こうした物質は,熱水及び/又は有機溶媒を用いて木材から抽出することができるため,いわゆる抽出原料(又は抽出物)に分類される(Koch,Raw Material for Pulp,Sixta編,Handbook of Pulp(2006),Weinheim:Wiley-VCH Verlag GmbH&Co. KGaA,p.21-68)。こうした抽出物の多くは「感覚刺激関連物質」である。なぜなら,それらは,木材粒子を原料とする製品において,それぞれの最終用途に関連する環境(例えば,包装用段ボ-ルの場合は食品,木質繊維板の場合は室内の空気)との嗅覚及び風味面での相互作用及び障害をもたらす恐れがあるためである。その原因となっているのは,揮発性炭化水素(例えば,テルペン)のような特徴的な臭気を本質的に有する抽出物の他に,とりわけアルデヒド(特にヘキサナ-ル)であるが,これらは木材中に天然に存在する脂肪酸の自己触媒酸化によって生成される(Schreiner et al.,Resolving the smell of wood-identification of odour-active compounds in Scots pine(Pinus sylvestris L.)(2018),Scientific Reports 8:8294)。
【0003】
さらに,木材粒子は樹脂を含んでおり,これが凝固することで,木材粒子を加工する際に粘着性のある粒子になることがあり,これは木材中に天然に存在する脂肪及びワックスによっても増強される。こうした樹脂を含む粒子は,「ピッチ」又は「スティッキ-」とも呼ばれ,紙/段ボ-ルの表面にも不都合な影響を及ぼし,紙/段ボ-ルをさらに加工する(例えば,型押しする)際にさらなる問題を引き起こす恐れがある。こうした材料は,機械部品,ロ-ラ-,カバ-部品などに沈着を引き起こすという点で,製造工程に破壊的な影響を及ぼす恐れもある(Sixta et al.,Chemical Pulping Processes,Sixta編,Handbook of Pulp(2006),Weinheim:Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA,p.109-509;Bjorklund Jansson et al.,Wood Extractives,Ek et al.編,Wood Chemistry and Wood Biotechnology,1(2009),Walter de Gruyter GmbH&Co.KG,Berlin,pp.147-171)。
【0004】
現時点では,例えば段ボ-ルや木質繊維板のような木材粒子を原料とする製品において,木材粒子から脂肪酸を除去することは行われていない。その代わりに,触媒として作用する重金属イオンが,エチレンジアミン四酢酸(EDTA:ethylenediaminetetraacetic acid)又はジエチレントリアミン五酢酸(DTPA:diethylenetriaminepentaacetic acid)のようなキレ-ト剤を添加することによって,木材粒子製品の中で結合することで,このような脂肪酸の自己酸化が抑制又は遅延される。しかしながら,EDTA及びその金属錯体は,廃水を浄化する際に分解されにくく,かつゆっくりとしか分解されないため,現在,環境的に深刻な問題であると考えられており,特に,木材粒子を原料とする製品の製造工場から排出される廃水については,ますます大きな問題を引き起こしている。
【0005】
感覚刺激特性を改善するためにこれまで報告されている他の方法では,漂白(例えば,ドイツ特許DE 10 2004 050 278 A1),脱リグニン(例えば,ドイツ特許DE 28 18 320 A1),酸化又は還元(例えば,ドイツ特許DE 33 44 239 C2,国際公開WO2006/039914 A1,ドイツ特許DE 10 2006 020 612 A1)を担う化学物質が使用される。
【0006】
ドイツ特許DE 10 2014 114 921 A1は,「排出削減された」硬質木材製品,又は基本材料を含む「排出削減された」木材を製造する方法に関するもので,pHが6以上の「緩衝溶液」で処理することにより,(実質的に揮発性有機化合物(VOC)の)排出量を明確に「削減」することができる一方で,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス及びリグニンが実質的に維持されないことは明らかであり,この方法により脂肪酸の含有量をどの程度まで削減できるかは開示されていない。国際公開WO2006/032267 A1によれば,硬質木材又は木材粒子は,その中に含まれる脂肪酸エステルが「阻害,開裂,又は酸化」されるように処理されるが,抽出はされない。国際公開WO93/20279 A1には,セルロ-ス・パルプ(したがって木材粒子ではない)を有機溶剤で処理する方法が開示されているが,この有機溶媒はこの処理の後で再び分離される。国際公開WO2020/000008 A1には,リグニン粒子の製造が開示されている。国際公開WO00/34568 A1は,木材チップから化学パルプを製造する方法に関するもので,ヘミセルロ-ス及びリグニンが分離される。欧州特許EP 2 138 528 A1は,木材抽出物の含有量が削減されたセルロ-ス材料の製造方法に関するものである。ドイツ特許DE 10 2013 001 678 A1には,木材を酸化剤で処理する方法が開示されている。欧州特許EP 2 356 977 A1は,セルライトを治療するためのアメリカサイカチ材抽出物の使用に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ドイツ特許公開第10 2004 050 278号公報
【特許文献2】ドイツ特許公開第28 18 320号公報
【特許文献3】ドイツ特許第33 44 239号明細書
【特許文献4】国際公開WO2006/039914号公報
【特許文献5】ドイツ特許公開第10 2006 020 612号公報
【特許文献6】ドイツ特許公開第10 2014 114 921号公報
【特許文献7】国際公開WO2006/032267号公報
【特許文献8】国際公開WO93/20279号公報
【特許文献9】国際公開WO2020/000008号公報
【特許文献10】国際公開WO00/34568号公報
【特許文献11】欧州特許公開第2 138 528号公報
【特許文献12】ドイツ特許公開第10 2013 001 678号公報
【特許文献13】欧州特許公開第2 356 977号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Koch,Raw Material for Pulp,Sixta編,Handbook of Pulp(2006),Weinheim:Wiley-VCH Verlag GmbH&Co. KGaA,21-68頁
【非特許文献2】Schreiner et al.,Resolving the smell of wood-identification of odour-active compounds in Scots pine(Pinus sylvestris L.)(2018),Scientific Reports 8:8294
【非特許文献3】Sixta et al.,Chemical Pulping Processes,Sixta編,Handbook of Pulp(2006),Weinheim:Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA,109-509頁
【非特許文献4】Bjorklund Jansson et al.,Wood Extractives,Ek et al.編,Wood Chemistry and Wood Biotechnology,1(2009),Walter de Gruyter GmbH&Co.KG,Berlin,47-171頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって,本発明の目的は,木材中に天然に存在する脂肪酸の自己酸化によって,段ボ-ルや木質繊維板のような木材粒子を原料とする製品中の,放出可能な臭気及び風味活性を持つアルデヒドの含有量を削減することである。これは,キレ-ト剤を使用したり添加したりすることなく実現される。
【0010】
本発明のさらなる目的は,漂白,脱リグニン,酸化,又は還元を担う化学物質を使用したり添加したりすることなく,本方法にしたがって製造される製品が臭気負荷を有しないか,または低い臭気負荷しか有さないように,木材粒子及び熟成木材粒子の感覚刺激特性を大幅に改善することである。本発明による方法により,木材粒子を熟成させた後(最大6ヶ月),これに接触する食品において,この熟成過程で発生する望ましくない臭気及び風味の変化を,特に防止することができる。
【0011】
最後に,本発明の好ましい目的は,意図される製品において望ましくない成分,例えば樹脂酸を,木材粒子からさらに除去することである。
【0012】
したがって,本発明は,木材を原料とする製品の製造方法に関するものであり,木材粒子の形態をした木材に,有機/水性混合物中の一種以上の有機溶媒,又は,溶媒若しくは水を含有する溶媒を含む抽出剤を用いた抽出処理を行うものであって,抽出剤による木材粒子の抽出処理によって,木材粒子中の脂肪酸の含有量が,90℃で72時間の加速熟成後にヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定した値として少なくとも70%減少し,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス及びリグニンの含有量が,この抽出処理において実質的に維持されることを特徴とする。
【0013】
本発明の過程で明らかなように,本発明によって原料から感覚刺激の面で重要な物質を抽出すると,キレ-ト剤を添加することなく木材粒子の感覚刺激特性を大幅に改善することができるが,これは,潜在的なアルデヒド源である,特に脂肪酸を除去することによって達成される。しかしながら,アルデヒド源として,さらには木材粒子による感覚刺激障害の原因としての脂肪酸は,多大な労力を要する測定技術によってのみ満足のいく定量が可能なことが知られている。したがって,本発明による抽出の成否の評価は,熟成後の木材粒子のヘキサナ-ル含有量が使用された。この指標は,紙,段ボ-ル,木質繊維板などを原料とする製品の感覚刺激特性を評価する上で信頼できるパラメ-タであるということが証明されており,(非常に時間のかかる)伝統的な熟成の試みと非常に良い相関を示す(これについては,以下の実施例の部分の研究及び証拠を参照されたい)。
【0014】
本発明の方法により,木材材料に含まれる物質(セルロ-ス,ヘミセルロ-ス,及びリグニン)を著しく損なうことなく,脂肪酸及び他の懸念物質(樹脂酸など)の大部分を抽出できることが明らかになっている。したがって,木材原料からの脂肪酸除去が改善すれば,それがどんな形であれ利点を生むが,本方法を用いて大規模に適した経済的な活用を行えば,少なくとも70%の関連物質削減が容易に可能となる。しかしながら,本発明による処理は,好ましくは,それによって所望の削減がいずれにしても達成され,少なくとも70%,好ましくは少なくとも90%,特に少なくとも95%の削減が達成されるように選択される。これに応じて,本発明により適用される条件は,例えば,木材又は抽出剤の特性に基づいて,本発明にしたがったヘキサナ-ルの削減がいずれにせよ達成されるように選択することができる。これにより,ヘキサナ-ルの絶対含有量の最大値についても,好ましい値に調整することができる。ヘキサナ-ルの含有量が2mg/kg乾燥重量(TM)である木材粒子も特定の用途に使用することができるが,絶対値は1mg/kgTM未満であることが好ましい。本発明の実施例の過程において適用された特に厳格な指針により,ヘキサナ-ル含有量0.5mg/kgTMのヘキサナ-ル(乾燥木材に関連して)が実験的に確認された値として達成されたが,これよりも低い値では感覚刺激障害は実験的に,もはや感知できない。したがって,本発明による方法の好ましい実施形態は,木材粒子のヘキサナ-ル含有量が0.5mg/kgTM以下となるように抽出することに関する。木材粒子のヘキサナ-ル含有量が0.5mg/kgTMを超える場合,ヘキサナ-ル含有量の増加に伴って木材粒子の感覚刺激障害のリスクも増加するものと判断できる。
【0015】
本発明の目的のために,ヘキサナ-ル含有量は,疑義が生じた場合には,ヘッドスペ-ス・ガスクロマトグラフィ-(HS-GC:headspace gas chromatography)を用いて測定することができる。このとき,約0.2gの風乾させた木材粒子(90~95wt%(=重量%)乾燥物質含有量(TSG))をヘッドスペ-ス・バイアルに充填する。脂肪酸を酸化してヘキサナ-ルにするには,木材粒子をバイアルに密封し,室温(約20℃)で6ヶ月間熟成させる必要がある。これには非常に長い時間がかかり,それによって抽出の成否の迅速な評価ができないため,DIN ISO 5630-2に従った本発明による加速熟成によって,ヘキサナ-ル含有量を測定する。実施例の実験では,このようにしてヘキサナ-ル含有量を測定した(明示的に別段の記載がない限り)。この方法は,疑義がある場合には,本発明の目的のためのヘキサナ-ル含有量の測定にも関連する。その際,木材粒子をHS-GCバイアルに密封し,90℃で72時間熟成した後,ヘキサナ-ル含有量をHS-GCを用いて確認した。
【0016】
好ましくは,木材粒子は2mm未満のサイズであり,好ましくは繊維,チップ,又はそれらの混合物の形態をとる。この粒子の特徴(「粒径」としての)は,国立再生可能エネルギ-研究所(NREL:National Renewable Energy Laboratory)の研究所分析手順(LAP:Laboratory Analytical Procedure)NREL/TP-510-42620「組成分析のためのサンプルの調製」にしたがって定義されるが,これには,NREL LAP NREL/TP-510-42619「バイオマス中の抽出物の測定」も関連する。この粒径の粒子の特徴は,サンプル調製用のカッティングミルのスクリ-ンメッシュ(2mm)により適宜調製される。
【0017】
木材粒子は,好ましくは,繊維,チップ,又はそれらの混合物の形態をとる。NREL法NREL/TP-510-42620においても予め設定されているように,粒径を2mmに制限することにより,比較的アクセスしやすい樹脂チャネルに加え,脂肪酸が存在する比較的アクセスしにくい柔細胞にも,抽出を行う上で十分に到達しやすくなるという大きな利点が得られる(Lehr et al.,Removal of wood extractives as pulp (pre-)treatment,a technological review(2021),SN Applied Sciences 3:886)。
【0018】
好ましい実施形態によれば,木材粒子は,機械的及び/又は熱的及び/又は化学的消化によりほぐされた木材であって,特に,平均繊維長が0.5~2mm,平均繊維径が10~50μmの木材繊維である。ここでは,平均繊維長及び平均繊維径は,浮遊繊維を光学的な手段で決定される長さ平均に関連する。この光学測定は通常,(選択した方法論及び分析装置とは無関係に)同一の結果をもたらすが,PulpEye(http://www.pulpeye.com/products/pulpeye/)及び,特に,MorFi繊維分析器(http://www.techpap.com/fiber-and-shive-analyzer-morfi-neo,lab-device,31.html)が,装置としてとりわけ適していることが証明されている。
【0019】
本発明による方法を用いて抽出できる有機化合物の量は,木材の種類,及び,木材粒子が得られる樹木(心材/辺材)の成分によって異なる。例えば,マツは心材に最大9wt%の抽出性材料を含むが,モミの辺材は通常,最大でも1%しか抽出性材料を含まない(Bjorklund Jansson et al.,Wood Extractives,Ek et al.編,Wood Chemistry and Wood Biotechnology,1(2009),Walter de Gruyter GmbH&Co.KG,Berlin,pp.147-171;Nisula Wood Extractives in Conifers,A Study of Stemwood and Knots of Industrially Important Species(2018),Abo Akademi University Press,Abo)。特に,マツ,カバ,ライム,ポプラのような種類の木材は,脂肪酸エステルを多量に含んでおり(カバで2315mg/kg,ライムで7544mg/kg,マツで5807mg/kgの脂肪酸,ドイツ特許DE 10 2009 046 127 A1),こうした木材から製品を製造する際には,技術的パラメ-タを変更することによっても防止できず,脂肪酸エステルがアルデヒド及び有機酸に分解される可能性がある。さらに,脂肪酸及びトリグリセリドの含有量は,個々の樹木の産地,樹齢,断面高によって,また,心材と辺材の間でも,大きなばらつきが見られる。
【0020】
ドイツ特許DE 10 2009 046 127 A1には,木材繊維材料の製造方法が記載されており,この方法では,中性からアルカリ性のpH値に調整するための少なくとも一つの化合物(NaOHなど),及び,少なくとも一つのキレ-ト剤(EDTA又はDTPAなど)で木材を処理することで,揮発性有機化合物(「VOC: Volatile Organic Compound」),脂肪族及び芳香族アルデヒド,特に,ヘキサナ-ル及びフルフラ-ルが削減される。ここで強調されているのは,こうした製造においては,漂白,脱リグニン,酸化,又は還元を担う化学物質を使用しないこと,そして,木材又は木材チップの可塑化を行う前に,液剤の圧搾を行わないということである。しかしながら,前述したように,EDTAやDTPAのようなキレ-ト剤を使用すると,廃水及び環境に対する深刻な問題が生じる。したがって,本発明は,木材チップを亜硫酸ナトリウム及びEDTAと混合する,それ自体は公知である純粋な化学的・熱的・機械的消化(CTMP: chemical-thermal-mechanical digestion)に関しても,すなわち,環境面に関しても,また,原料から脂肪酸を効率的に削減させるという本発明による効果に関しても,決定的な利点をもたらす。
【0021】
米国特許5,698,667 Aでは,有機溶媒(例えば,アセトン)を用いた抽出によるリグニン含有セルロ-ス含有材料の前処理で,材料のリグノセルロ-ス構成成分の完全性を実質的に損なうことなく,揮発性有機化合物(VOC)や高分子ピッチ成分のような木材抽出物を除去する方法,が開示されている。しかしながら,その中に含まれる望ましくない成分に関して,工業的に利用可能なほどの削減は達成できなかった(ピッチとVOCの最大低減率は,それぞれ54.4%と65%(アセトン-水溶液(80/20)と100%アセトンによる二回抽出後),純アセトンでは最大78.2%であったが,このとき使用された方法論では,抽出物から溶媒を除去する際に揮発性成分が気相に移行することを保証できないため,その低減率は抽出物の蒸発残渣による定量では,さらに低く見積もられることになる)。
【0022】
これに対して,本発明による方法では,木材粒子(例えば,木材繊維など)を溶媒又は溶媒と水との有機/水性混合溶媒中で,有機溶媒を用いて抽出前処理をすることにより,木材中に天然に存在する脂肪酸の大部分を,(例えば,それらを段ボ-ル又は木材繊維板に)さらに加工する前にあらかじめ除去する。さらに,例えば樹脂酸,フェノ-ル,テルペンのような,さらなる抽出物は,この前処理によって木材材料中で大幅に減少する。本発明によれば,ヘキサナ-ル含有量は,特に木材粒子の加速熟成(90℃で72時間)後に確認される場合,木材中に天然に存在する脂肪酸自己酸化の指標となることが証明されている。本発明によれば,このヘキサナ-ル含有量は,潜在的な基本原料に関連して少なくとも70%削減され(絶対含有量においても同様),好ましくは0.5mg/kgTM以下まで低減される。これにより,木材粒子を原料とする製品において,それぞれの最終用途に関連する環境(例えば,包装用段ボ-ルの場合は食品,木質繊維板の場合は室内の空気)との嗅覚及び風味面での相互作用を,本発明により大幅に低減することができる。同時に,木材粒子は,前処理によってその組成が実質的に変化しない,すなわち,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス,及びリグニンが,無視できる範囲(いずれの場合も,10%以下,好ましくは6%以下,特に4%以下)にしか,抽出及び/又は分解されないため,この削減は,好ましくは,基本材料である木材粒子に関連した抽出固体塊として確認される。木材粒子中の感覚刺激関連成分の割合の減少に加えて,特に紙及び段ボ-ルの製造において,本発明によってさらに重要な製品及び工程上の利点が得られる。
【0023】
ピッチ(スティッキ-,樹脂など)は工程から除去され,それにより,機械部品,ロ-ラ-,及びカバ-部品などへの沈着が発生しないか又は減少するので,製造工程に問題を起こすことはなくなる。
【0024】
このようにして,本発明により,紙/段ボ-ルの表面への不都合な影響も低減され,その結果,紙/段ボ-ルのさらなる加工における問題(例えば,型押しする)も大幅に低減される。紙/段ボ-ルの表面及び内部においてこうした成分の割合が大幅に低減されることにより,機械的強度が増加するなど,製品品質がさらに向上する。
【0025】
本発明により抽出された木材粒子から製造される製品の製品特性が,上述のように改善されることにより,現在,繊維成分がパルプ及び/又は処理されたBCTMP(漂白ケミサ-モメカニカルパルプ,bleached chemi-thermo-mechanical pulp)に由来する紙/段ボ-ル(例えば,高品質の包装用段ボ-ル)でしか対応できない,又は,現在パルプでしか達成できない特にデリケ-トな用途のための,新しい応用分野を開拓することもできる。
【0026】
さらに,本発明による抽出前処理により,工程の廃水のCSB(化学的酸素要求量,Chemischer Sauerstoffbedarf=COD)負荷も大幅に低減され,廃水中のCSB負荷を一定に保ちながら,,より大きな生産能力が実現される。
【0027】
本発明によれば,木材中に天然に存在する脂肪酸の自己酸化によって,段ボ-ルや木質繊維板のような木材粒子を原料とする製品中の,臭気及び風味活性を持つアルデヒドの放出も,キレ-ト剤を添加しなくても完全に実現することができる。したがって,木材粒子を原料とする製品の製造において,こうしたの製品の嗅覚負荷及び風味負荷を低減するためにEDTA又はDTPAのようなキレ-ト剤を添加する必要がなくなり,それにより,廃水のEDTA/DTPA負荷が取り除かれるため,木材粒子を原料とする製品の製造による(地下)水に関連する環境への影響が軽減され,製品自体のEDTA/DTPA負荷が回避される。さらに,脂肪酸に加えて,他の抽出物も大幅に削減され,それにより,工程から負荷が取り除かれ,木材粒子の製造における工程で使用する水の抽出負荷が減少し,したがって,廃水の浄化/処理に対する要求事項を引き下げることができる。工程で使用する水の抽出負荷が低減されると,木材粒子を原料とする製品の製造工程における問題が低減され,製品の品質を向上させることができる(例えば,段ボ-ル製造におけるピッチ/スティッキ-の問題を回避する)という利点も得られる。したがって,この変形例は,本発明の特に環境に優しい実施形態である。
【0028】
脂肪酸の少なくとも70%を抽出し,ヘキサナ-ルの絶対値を最大で2mg/kg乾燥重量未満,好ましくは1mg/kg乾燥重量未満,特に0.5mg/kg乾燥重量未満(それぞれ,90℃で72時間の加速熟成後に抽出された木材粒子のヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定)に設定するために,特定の木材の種類又は特定の木材材料に対して,それぞれ実際に必要とされる具体的な方法における条件(木材粒子の粒径,形状,乾燥物質の含有量,抽出剤の選択,水分含有量,温度,処理時間,pH,抽出剤の量(木材に対する割合),圧力,抽出の段階数,抽出剤と固体との接触のバリエ-ション,操作モ-ドなど)は,それぞれ,ここで開示された教示に基づき,特に実施例の部分に記載された結果を考慮すると,特に木材の基本材料の有機材料(脂肪酸,樹脂酸,フェノ-ル,テルペンなど)の(通常知られている)量,木材の特性(心材,辺材,混合材など),及び最終製品の要求事項(段ボ-ル,紙,木質繊維板,特定の分野における用途(食品,医薬品,動物飼料など))の観点から,さらなる発明の支援なしに,直ちに決定することができる。
【0029】
特に,本発明は,比較的容易に既存の製造工場に組み入れることができ,それぞれの既存の工場で活用できる。
【0030】
本発明によれば,請求項1の特徴を有する方法によって,上記設定された一つ以上の目的を解決することができる。本発明の利便性のある発展を伴う有利な構成は,それぞれの従属請求項に明記されている。
【0031】
本発明による抽出物の液相(ここでは抽出剤と呼ぶ)の選択は,関連する木材の種類(及び,その抽出物の天然含有量)にも依存する。しかしながら,抽出剤中の溶媒又は溶媒混合物も,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス,及びリグニンの著しい損失が起こらず,それでいて処理時間が過度に長くならないように選択する必要がある。ここでは,抽出剤中の有機/水性溶媒として,本発明によるエタノ-ル,アセトン,及び水の混合物であって,エタノ-ル0~95wt%,好ましくはエタノ-ル50~90wt%及びアセトン0~99wt%,好ましくはアセトン30~90wt%を含むのものが,特有利であることが証明されている。工業規模において,エタノ-ル又はアセトンの代わりに(又は特定の目的のために必要に応じてエタノ-ル又はアセトンと共に)抽出剤に使用できるさらなる有機溶媒は,例えば,メタノ-ル,n-プロパノ-ル,及びiso-プロパノ-ルである。
【0032】
本発明による方法において,抽出剤と固体乾燥物質の好ましい比率は,5:1~25:1(w/w),好ましくは8:1~17:1(w/w)である。
【0033】
ここで示された抽出剤中の比率及び濃度には,次の考察が適用される。抽出剤100%とは,常に,抽出後に存在する抽出剤の総量を意味する。すなわち,抽出剤は木材粒子から抽出された材料と木材の基本材料中(木材粒子中)に含有される水分を含む。しかしながら,ここでは,木材の基本材料の量は,通常「木材乾燥重量」として示され,木材から抽出される物質は,通常,抽出剤の全質量に対して1%未満であるため,抽出前の比率は,実質的に(わずかに±1%),抽出後の比率とも一致する(木材の基本材料中に任意に存在する水分は,大部分が効率的に搾取可能な状態で存在するため,ここでは,常に既に抽出剤に含まれる)。このことから,アセトン濃度100wt%の抽出剤を1:10(固体:抽出剤)で使用した場合,したがって,木材乾燥重量1kgとアセトン10kgとなる。アセトン濃度70wt%の抽出剤を1:10(固体:抽出剤)で使用した場合は,例えば,木材乾燥重量1kg,アセトン7kg,と水3kgとなる。抽出された材料は前述のように,加算されるが,経験的には,抽出剤中の1wt%をはるかに下回る濃度であり,したがって無視することができる。基本材料中に含まれる水分により,少なくとも10%の水,好ましくは少なくとも7.5%の水,特に少なくとも5%の水が,本発明による溶媒の有機/水性混合物又は溶媒に含まれていることが好ましく,いずれの場合も,単一の抽出ステップによる方法,又は(例えば,少なくとも二つの抽出ステップを有する方法において)第一の抽出ステップにおいて含まれることが好ましい。
【0034】
抽出温度は,残りの木材,及び工程パラメ-タに基づき特に高温が必要となる場合のエネルギ-投入量も考慮して決定することができる。本発明の好ましい方法によれば,処理は20~150℃,好ましくは40~120℃,特に50~110℃の抽出温度で実施される。
【0035】
好ましい実施形態によれば,本発明による方法は常圧で操作されるが,場合によっては,加圧下での抽出が有利な場合もある(圧力をかけることによるエネルギ-面の費用が生じるが)。したがって,本発明によれば,好ましい実施形態にしたがって,1~5bar,好ましくは1~1.49barの絶対抽出圧力で処理が実施される。
【0036】
また,本発明による抽出方法の持続時間に関しては,残りの工程パラメ-タに基づいて,脂肪酸の低減が達成されるのに必要な持続時間を決定することができる。好ましくは,本発明による処理は,10分~8時間,好ましくは30分~7時間,特に1~5時間の抽出時間で実施される。
【0037】
本方法は,主として,感覚刺激特性が重要な役割を果たす,木材を原料とするすべての製品に適している。本発明による方法は,特に,長時間使用される製品,食品の包装に使用される製品,又は,室内で使用される製品に適している。したがって,本発明による方法は,段ボ-ル,紙,木質繊維板,チップボ-ド,実用品(例えば(又は疑問がある場合には)オ-ストリアの食品安全・消費者保護法(LMSV,BGBl.I No.13/2006,2020年10月1日版)の定義に基づく),医療製品(例えば(又は疑問がある場合には)オ-ストリア医療製品法(MPG,BGBl.No.657/1996,2020年10月1日版)の定義に基づく)の(大規模な)製造,特に段ボ-ルの製造に適している。
【0038】
本発明による抽出処理において,特に有利な方法パラメ-タは,以下のものから選択される。
-少なくとも65wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも65℃で少なくとも3時間の処理
-少なくとも65wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも85℃で少なくとも30分の処理
-少なくとも70wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも105℃で少なくとも30分の処理
-少なくとも45wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも105℃で少なくとも5時間の処理
-少なくとも50wt%の濃度のアセトンを用いた,少なくとも40℃で少なくとも30分の処理
-少なくとも50wt%の濃度のアセトンを用いた,少なくとも20℃で少なくとも15分の処理
【0039】
本発明の範囲内では,バッチ抽出と連続・半連続抽出の両方が可能であり,特に,抽出ステップあたりの部分滞留時間が最大で1時間であれば,抽出結果に有利に作用することさえ可能であることが判明した。
【0040】
方法パラメ-タを決定するにあたっては,木質部が実質的に損失されない(つまり,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス,リグニンの含有量が低下しない)条件を選択することも不可欠である。したがって,本発明による処理において,使用する木材粒子の乾燥物質の含有量を10%未満,好ましくは5%未満,特に4%未満減少させることも可能であり,この減少は,好ましくは,基本材料,すなわち,木材粒子に関連する抽出固体塊として確認される。
【0041】
既に上述したとおり,木材によってVOCの含有量は異なる。本発明による具体的な方法パラメ-タも,適宜調整されるべきである。しかしながら,これは,ここに記載される本発明の開示により,工業的に関連する木材の種類の全てについて可能となるため,木材粒子は,好ましくは,工業的に関連する木材の種類,したがって,例えば,針葉樹木材粒子,トウヒ木材粒子,モミ木材粒子,マツ木材粒子,若しくはカラマツ木材粒子,落葉樹木材粒子特にブナ木材粒子,ポプラ木材粒子,カバ木材粒子,若しくはユ-カリ木材粒子,又は,それらの混合物から選択することができる。
【0042】
好ましい実施形態によれば,木材粒子は抽出剤による処理中に混合される。
【0043】
既に上述したように,本発明による方法の好ましい実施形態では,抽出剤を用いた処理後,木材粒子を絞り,抽出剤を除去する。好ましくは,木材粒子は,抽出剤を用いて一回又は複数回洗浄することができ,さらに好ましくは,抽出剤を用いた(抽出)処理の後,抽出剤の濃度と同程度か,又は同一濃度の有機/水性混合溶媒を用いて洗浄することができる。抽出及び/又は洗浄に用いられる抽出剤は,水及び/又は水蒸気ストリッピング及び/又は乾燥による複数回の洗浄によって木材粒子から除去することができ,水蒸気ストリッピング及び/又は乾燥が特に好ましい。抽出剤と洗浄水は,いずれも好ましくは,本発明による方法後に,再利用のために再生される。ここでは,前述のように,抽出物,特に脂肪酸及び樹脂酸を抽出剤から分離し,副生成物として使用することができる。
【0044】
本発明による方法を用いることで,木材原料から製造される製品が感覚刺激的に不利な特性を持たないように,木材粒子中の脂肪酸の含有量を削減した木材粒子を調製することができる。好ましくは,木材粒子中の脂肪酸の含有量は,本発明による抽出剤を用いて木材粒子を抽出することにより,90℃で72時間の加速熟成後に,それぞれ抽出された木材粒子と比較して,基本材料中の木材粒子のヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定した値で,少なくとも75%,好ましくは少なくとも80%,特に少なくとも90%削減される。
【0045】
このようにして得られた木材粒子は,好ましくは,90℃で72時間加速熟成した後,抽出された木材粒子の質量部としてヘキサナ-ル含有量を測定した値で,木材粒子中の脂肪酸の含有量が2mg/kg乾燥重量未満,好ましくは1mg/kg乾燥重量未満,特に0.5mg/kg乾燥重量未満となる。
【0046】
ヘキサナ-ル含有量の削減に加えて,本発明による方法によれば,サンプルシ-トの引張指数をNm/g単位で測定した値として,抽出木材粒子の機械的強度を,少なくとも10%,好ましくは少なくとも15%,特に少なくとも25%増加させることもできるが,この場合,°SR単位で測定した粉砕度の変化は10%未満である。
【0047】
本発明によれば,本発明による方法を用いた脂肪酸の抽出に加えて,樹脂酸(他のVOCに加えて)も抽出できることが明らかになっている。好ましい実施形態の範囲内で,抽出剤に抽出された脂肪酸,樹脂酸及び/又は任意のさらなる抽出物は,さらなる精製方法に供され,その後,抽出され,必要に応じてさらに精製された形態で,製造における副生成物として提供することができる。特に,このことは,有機/水性抽出剤から有機溶媒を熱分離した後に,機械的分離技術により,沈殿した脂溶性抽出物(脂肪酸及び樹脂酸など)を分離し,親水性抽出物(リグナンなど)が濃縮された水相を得ることができ,親水性抽出物は,その後の熱分離技術(例えば,膜分離法及び/又は吸着)を用いた処理によってさらに濃縮できる(Lindemann et al.,Selective recovery of polyphenols from MDF process waters by adsorption on a macroporous,cross-linked pyrrolidone-based resin(2019),Holzforschung volume 74 magazine 2)。得られる抽出物の濃縮度は,抽出剤を事前に膜濾過することにより,さらに高めることができる(Shi et al.,Separation of vegetable oil compounds and solvent recovery using commercial organic solvent nanofiltration membranes(2019),Journal of Membrane Science 588;Weinwurm et al.,Lignin Concentration by Nanofiltration and Precipitation in a Lignocellulose Biorefinery(2015),Chemical Engineering Transactions 45,pp.901-906)。この方法により得られた脂溶性抽出画分の使用は,動物飼料サプリメントとして適している(国際公開WO2015/071534 A1,米国特許10,092,610 B2)。その理由は,脂溶性抽出画分に含まれる樹脂酸が,動物の消化器官における有害な細菌の増殖を阻害し,したがって,消化障害を防止するためであり,このことは,とくに家禽についてはさまざまな研究によって既に明らかにされている(Kettunen et al.,Natural resin acid-enriched composition as a modulator of i
ntestinal microbiota and performance enhancer in broiler chicken(2015),Journal of Applied Animal Nutrition Vol.3;Kettunen et al.,Dietary resin acid composition as a performance enhancer for broiler chickens(2017),Journal of Applied Animal Nutrition Vol.5,pp.349-355;Vienola et al.,Tall oil fatty acid inclusion in the diet improves performance and increases ileal density of lactobacilli in broiler chickens(2018)British Poultry Science Vol.59 No.3)。好ましい実施形態によれば,キレ-ト剤,特に,多価及び多官能性カルボン酸,アミノメチルカルボン酸,アミノメチルホスホン酸及びこれらの化合物,EDTA,DTPA EGTA,EDDS及びこれらの塩,ポリフェノ-ル,タンニン,アミノ酸,ペプチド,タンパク質,ポリカルボン酸塩,リン酸塩,ポリリン酸塩,ホスホン酸,ポリホスホン酸塩,リン酸塩,ホスホニル化ポリマ-,硫酸化ポリマ-及びスルホン酸化ポリマ-から選択されるキレ-ト剤は,抽出方法の過程,特に,木材粒子を原料として製造される製品の製造方法全体の過程において,木材粒子に添加されない。この実施形態において,本発明による方法は,生態学的な理由のみにおいても,すでに極めて有益な実践指向の変形例を表すものである。
【0048】
本発明のさらなる特徴は,特許請求の範囲,図,及び図の説明から明らかである。記載内容において上述した特徴及び特徴の組み合わせ,さらには,図の説明において以下に述べる,及び/又は,図においてのみ示される特徴,並びに特徴の組み合わせは,それぞれ指定された組み合わせだけでなく,本発明の範囲から逸脱することなく,他の組み合わせにおいても利用できる。したがって,実施態様もまた,本発明に包含され開示されているものとみなされるものであり,これらの実施態様は明示的に図示されたり説明されたりしていないが,説明されている実装態様とは別個の特徴の組み合わせから生じ,それによって生成することができる。実装態様及び特徴の組み合わせも開示されているものとみなされるべきであり,したがって,当初策定された独立請求項の特徴のすべてを含むわけではない。さらに,実装態様及び特徴の組み合わせは,特に,請求項の関係において規定された特徴の組み合わせを超えて拡張するか,又は逸脱する,上述の実装態様によって,開示されているものとみなされるべきである。特に,本発明について,以下の実施例及び図に基づいてより詳細に説明するが,もちろんこれらに限定されるものではない。以下のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は,抽出温度70℃におけるヘキサナ-ル含有量である。x軸は抽出時間を時間位(h)で示したもの,y軸は抽出された砕木中のヘキサナ-ル含有量をmg/kgTM単位で示したものである。
【
図2】
図2は,抽出温度90℃におけるヘキサナ-ル含有量である。x軸は抽出時間を時間単位(h)で示したもの,y軸は抽出された砕木中のヘキサナ-ル含有量をmg/kgTM単位で示したものである。
【
図3】
図3は,抽出温度110℃におけるヘキサナ-ル含有量である。x軸は抽出時間を時間単位(h)で示したもの,y軸は抽出された砕木中のヘキサナ-ル含有量をmg/kgTM単位で示したものである。
【
図4】
図4は,抽出温度70℃におけるヘキサナ-ル含有量の減少を示すものである。x軸は抽出時間を時間単位(h)で示したもの,y軸は乾燥基本材料に関連するヘキサナ-ル含有量の減少率を%単位で示したものである。
【
図5】
図5は,抽出温度90℃におけるヘキサナ-ル含有量の減少を示すものである。x軸は抽出時間を時間単位(h)で示したもの,y軸は乾燥基本材料に関連するヘキサナ-ル含有量の減少率を%単位で示したものである。
【
図6】
図6は,抽出温度110℃におけるヘキサナ-ル含有量の減少を示すものである。x軸は抽出時間を時間単位(h)で示したもの,y軸は乾燥基本材料に関連するヘキサナ-ル含有量の減少率を%単位で示したものである。
【実施例】
【0050】
本特許において開発された方法の目的は,この方法にしたがって製造される木材粒子及び熟成された木材粒子の感覚刺激特性を大幅に改善することである。とくに木材粒子の熟成(最長6ヶ月)後に発生する好ましくない臭気,及び,これに接触する食品の風味は,特にアルデヒド(特にヘキサナ-ル)によりもたらされるもので,これは,木材中に天然に存在する脂肪酸の自己触媒酸化によって生成される。この自己触媒酸化は,上述したように,現在,工業的には,例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなキレ-ト剤の添加によって,触媒として作用する木材粒子中に存在する金属イオンとの錯体生成によって防止,又は大幅に減速されている。本特許の方法によれば,キレ-ト剤を添加することなく木材粒子の感覚刺激特性が大幅に改善されるが,これは,潜在的アルデヒド源,特に脂肪酸を除去することによって達成される。
【0051】
アルデヒド源として,さらには木材粒子による感覚刺激障害の原因となる脂肪酸は,多大な労力を要する測定技術を用いないと満足に定量化できないため,熟成後の木材粒子のヘキサナ-ル含有量を,本特許の実験における抽出の成否を評価するために使用した。このとき,ヘキサナ-ルの0.5mg/kgTM(乾燥木材に関連する)は,経験的に確認された値であり,それ以下では感覚刺激障害は経験的に知覚できなくなることに留意されたい。木材粒子のヘキサナ-ル含有量が0.5mg/kgTMを超える場合,ヘキサナ-ル含有量が高いほど,木材粒子の感覚刺激障害が強くなる。
【0052】
ヘキサナ-ル含有量は,ヘッドスペ-ス・ガスクロマトグラフィ-(HS-GC:headspace gas chromatography)を用いて測定することができ,約0.2gの風乾させた木材粒子(90~95wt%TSG)をヘッドスペ-ス・バイアルに充填する。このバイアル中で木材粒子を室温(約20℃)で6ヶ月間密閉熟成させ,脂肪酸をヘキサナ-ルに酸化させる必要がある。これには非常に長い時間がかかり,したがって,抽出の成否をすぐに評価することができないため,本実験では,DIN ISO 5630-2に従った加速熟成を実施した(明示的に別段の記載がない限り)。木材粒子をHS-GCバイアルに密封し,90℃で72時間熟成させた後,ヘキサナ-ル含有量をHS-GCを用いて確認した。この加速熟成の基準規格は廃止されたが,表1に示す抽出実験の結果によれば,加速熟成による方法でも同等の値が得られ,さらに加速熟成を行った場合のヘキサナ-ル値はそれぞれ平均でより高く,抽出成功に関する安全性も提供する。
【0053】
【0054】
ヘキサナ-ル含有量は,経験的に木材粒子の感覚刺激障害の主な影響因子であることが示されていることから,本発明によるすべての実験で抽出を成功させるためにこれを使用した。TAPPI規格T204に従ったソックスレ-抽出法による抽出物含有量は,表2に示すように,ここではあまりにも不正確である。ここで,本特許のすべての実験における木材粒子の抽出物含有量を測定する上で,TAPPI規格T204ではなく,T204に非常に類似したNREL法NREL/TP-510-42619が適用され,基本材料として木粉塵の代わりに砕木又は2mmサイズの木材粒子を用いたことに留意されたい。
【0055】
【0056】
表2から明らかなように,エタノ-ルを用いたソックスレ-抽出とアセトンを用いたソックスレ-抽出では,ヘキサナ-ル含有量において有意な差が見られたが,抽出物含有量においては有意な差は見られなかった。このことは,例えば,二つの異なるやり方で抽出した木材粉子が,抽出物含有量に有意な差がないにもかかわらず,異なる感覚刺激特性を持つ可能性があることを意味する。したがって,熟成後の木材粒子のヘキサナ-ル含有量は,抽出物含有量よりも実質的に高く,感覚刺激障害の指標としてより正確であるため,本発明による抽出を成功させるために使用した。さらに,基本材料のヘキサナ-ル含有量,及び,結果として生ずるヘキサナ-ル含有量の削減が,すべての実験について示されたが,それは,基本材料はスナップショットであり,したがって,ヘキサナ-ル含有量はかなり大きく変動する可能性があるためである。
【0057】
それでも,抽出した抽出物の質量(抽出物の蒸発残渣として確認される)は,ごく一部の揮発性の高い化合物を除き,抽出によって除去された固体塊をほぼすべて含むため,抽出による固体塊の減少を示す重要な指標である。したがって,抽出物の蒸発残渣は,抽出した木材粒子のヘキサナ-ル含有量とともに,抽出の選択性を評価する重要な尺度となる。
【0058】
実験:ソックスレ-抽出に基づく溶媒比較
溶媒を事前に選定するため,砕木サンプルを三種類の溶媒で抽出した。NRELの手順NREL/TP-510-42619にしたがって,風乾した砕木3gをそれぞれソックスレ-法によって24時間抽出した。結果を表3に示す。
【0059】
【0060】
表3から,ヘキサナ-ル含有量が高い基本材料においても,抽出はエタノ-ルが最も良く,次いでアセトンが良いことがわかる。シクロヘキサンの抽出が圧倒的に悪いが,これは,完全に非極性溶媒が脂肪酸抽出には不向きであることを意味する。Reichardt and Welton(Reichardt and Welton,Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry4(2011),Weinheim:Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA,pp.550-552)によれば,実験的に測定されたシクロヘキサンの極性は,アセトンの0.355,及びエタノ-ルの0.654に対し,0(非常に非極性)である。それにもかかわらず,シクロヘキサンを用いて抽出を行った場合にも,ヘキサナ-ル含有量を79%減少させることができた。
【0061】
実験1:乾燥砕木の抽出
エタノ-ル(EtOH)を用いた風乾砕木(トウヒ約95%,マツ約5%)の抽出に基づいて,溶媒濃度,温度,及び抽出時間といったパラメ-タの影響を調べた。ここで,風乾した砕木約2gを,エタノ-ル/水混合液中,固形分:抽出剤比1:10w/w,エタノ-ル濃度50,70,及び90wt%,温度70,90,及び110℃で,それぞれ0.5,1,2,4,及び8時間,小型オ-トクレ-ブ中で抽出した。抽出後,砕木を絞り,エタノ-ルで洗浄し,再度絞り,脱塩水でもう一度洗浄した後,乾燥,熟成,分析を行った。
図1~3において,抽出温度及び溶媒濃度を変化させ,抽出によって得られたヘキサナ-ル含有量を抽出時間に対してプロットしている。
【0062】
図1~3から,エタノ-ル70又は90wt%における抽出の成功度は,特に低温において,エタノ-ル50wt%における抽出成功度よりも大幅に向上していることがわかる。エタノ-ル濃度が70又は90wt%の場合,ヘキサナ-ル含有量は同等のレベルまで減少する。抽出温度については,90℃と110℃ではほぼ同じようにヘキサナ-ル含有量が減少するのに対し,70℃ではあまり減少しないことがわかる。90wt%のエタノ-ルでは,ヘキサナ-ル含有量は90℃以上では0.5mg/kgTM未満にまで減少させることができ,この条件下で抽出した砕木は,実験的に,もはや感覚刺激障害を示さない。抽出時間の違いに基づくと,ヘキサナ-ル含有量は,抽出開始時,特に最初の4時間で最も激しく減少することがわかる。このことは,
図4~6からも明らかである。この一連の実験ではすべて,同一のバッチの基本材料を使用したため,これらの数値は
図1~3に示す抽出の成功を反映したものである。最悪のケ-ス(70℃で50wt%のエタノ-ルを用いて0.5時間)では,ヘキサナ-ル含有量は約20%しか減少しなかったが,90℃以上では90wt%のエタノ-ルにより95%超の減少が見られたことは明らかである。
【0063】
表4から,この一連の実験ではヘキサナ-ル含有量の大幅な削減が実現されたにもかかわらず,抽出された固体塊は最大で7wt%(基本材料に関連する)であるが,ほとんどの場合それをかなり下回っていることがわかる。これは,確認された基本材料の抽出物含有量が約3wt%であることから,ヘミセルロ-スもリグニンもほとんど抽出されていないことを意味する。
【0064】
【0065】
実験2:異なる条件下での湿潤砕木のエタノ-ル抽出
特に段ボ-ルの製造においては,実験1のような乾燥砕木の抽出よりも,湿潤砕木の抽出の方が,実際の条件をはるかに良く表している。さらに,この実験では,より意味のある結果を得るために,実験1よりも大幅に大きいサンプル質量(225倍)を用いた。機械的に脱水した砕木(約25wt%TSG,トウヒ約95%及びマツ約5%)約450gTMを,エタノ-ル/水混合液中,固形分:溶媒比1:10w/w,エタノ-ル濃度60wt%,温度70℃及び90℃,2及び4時間で,オ-トクレ-ブ中で抽出した。抽出後,砕木を絞り,エタノ-ルで洗浄し,再度絞り,脱塩水でもう一度洗浄した後,乾燥,熟成,分析を行った。表5にこれらの抽出結果を示す。
【0066】
【0067】
この実験により,機械的に脱水した木材材料,及びより大量のサンプル塊を用いた実験では,より少量の,特に風乾した木材材料の抽出と比較して,抽出した木材材料中のヘキサナ-ル含有量が高くなることがわかる。それにもかかわらず,各設定において,ヘキサナ-ル含有量の73%超の削減が実現された。
【0068】
実験3:三種類の有機溶媒を用いた湿潤砕木の抽出
実験3は,実際の抽出条件において,技術的に関連する三つの異なる溶媒を試験するために実施した。機械的に脱水した砕木(約25wt%TSG,トウヒ約95%及びマツ約5%)約450gTMを,溶媒/水混合液中,固形分:抽出剤比1:10w/w,溶媒濃度70wt%,温度70℃,4時間で,オ-トクレ-ブ中で抽出した。抽出後,砕木を絞り,抽出剤で洗浄し,再度絞り,脱塩水でもう一度洗浄した後,乾燥,熟成,分析を行った。表6にこれらの抽出結果を示す。
【0069】
【0070】
表6からわかるように,アセトンは,ヘキサナ-ル生成の原因となる不飽和脂肪酸を,非変性エタノ-ルよりも有意によく抽出する。しかしながら,ブタノンで不完全変性したエタノ-ルを用いた場合に,最良の抽出結果が得られた。ここで70wt%,70℃,4時間の抽出時間で得られたヘキサナ-ル含有量2.77mg/kgTMは,0.5mg/kgTMの限界をまだかなり上回っているものの,80%の削減に相当する。すべての抽出において,抽出物の蒸発残渣は基本材料乾燥重量に関連してわずか2.2~2.4wt%であり,確認された抽出分が3.6wt%であることから,これは,木材の主成分であるセルロ-ス,ヘミセルロ-ス及びリグニンは事実上攻撃されず,抽出が高い選択性を持っていることを意味する。この実験の抽出物のアビエチン酸含有量は,基本材料に関連して41~55%削減した。アビエチン酸は,ここでは樹脂酸類のリ-ド物質として選択されており,その含有量が約50%削減したことは,本特許の方法によって樹脂が大幅に削減されたことを示す。
【0071】
実験4:異なる固形分と抽出剤比を用いたアセトンによる湿潤砕木の抽出
この実験では,固形分と抽出剤の比率の違いが及ぼす影響を調べた。機械的に脱水した砕木(約25wt%TSG,トウヒ約95%及びマツ約5%)約200~450gTM(固形分:抽出剤比による)を,アセトン70%及び脱塩水30%からなるアセトン/水混合液中,固形分:抽出剤比1:10,1:15及び1:25w/w,温度50℃,1,2及び4時間,オ-トクレ-ブ中で抽出した。抽出後,砕木を絞り,抽出剤で洗浄し,再度絞り,脱塩水でもう一度洗浄した後,乾燥,熟成,及び分析を行った。これらの抽出結果を表7に示す。
【0072】
【0073】
表7に示すように,ヘキサナ-ル含有量はすべての抽出において80%を超えて削減されている(ただし,固形分:抽出剤比が1:10(w/w),基本材料のヘキサナ-ル含有量が14.07mg/kgTMの場合を除く)。10:1(w/w)を超える抽出剤:固形分比では,同一の抽出条件下におけるヘキサナ-ル含有量の削減率は比較的高く,基本材料のヘキサナ-ル含有量が異なっていても,常に70%をはるかに上回る。ここでは,抽出物の蒸発残渣は3%未満であり,これは,基本材料の確認された抽出物含有量が3.4~3.7wt%であると確認されたこの方法において,リグノセルロ-ス成分が定量的に維持されていることの証拠である。この実験からも,本特許の方法により,アビエチン酸含有量が基本材料に関連して31~54%削減することで,樹脂を大幅に削減できることが示されている。
【0074】
実験5:湿潤砕木のアセトンを用いた多段抽出
この実験では,多段抽出を行ったが,各段(=一段)ごとに新鮮な無負荷の抽出剤を使用した。砕木(約400~450gTM,約25wt%TSG)を,各抽出段の後に(約30wt%TSGまで)絞り,固形分:抽出剤比が1:10,抽出剤中のアセトン濃度が70wt%となるように,アセトン及び脱塩水(いずれも50℃の抽出温度に予備加熱)と混合した。抽出はオ-トクレ-ブ中で実施した。抽出後,砕木を絞り,抽出剤で洗浄し,再度絞り,脱塩水でもう一度洗浄した後,乾燥,熟成,及び分析を行った。これらの抽出結果を表8に示す。
【0075】
【0076】
表8に示すように,ヘキサナ-ル含有量は,すべての抽出において第一段後にすでに80%を超えて削減されているが,特にヘキサナ-ル含有量の高い基本材料では,なお0.50mg/kgTMを大幅に上回っている。しかしながら,第三段よりも後では,ヘキサナ-ル含有量は0.50mg/kgTMを下回り,本実験で抽出されたすべての砕木において,部分的に定量下限である0.20mg/kgTMをも下回っている。ここでは,抽出物の蒸発残渣は3~5%未満であり,これは,基本材料の確認された抽出物含有量が2.5~3.7wt%である本方法において,リグノセルロ-ス成分が定量的に保存されていることの証拠である。この実験からも,本特許の方法により,アビエチン酸含有量が基本材料に関連して55~100%削減されることで,特に抽出段数が増えるほど,樹脂を大幅に削減できることが示されている。
【0077】
実験6:粒径の異なる湿潤木材粒子のアセトンを用いた多段抽出
この実験では,さまざまな抽出パラメ-タを用いて,粒径の影響を調べた。約650gTMの木材チップ(約20mm,約55wt%TSG,トウヒ),約450gTMの細かく刻んだ木材チップ(カッティングミルのスクリ-ンメッシュ2mm,約60wt%TSG,トウヒ),及び,約400gTMの機械的に脱水した砕木(約25wt%TSG,トウヒ約95%及びモミ約5%)を,それぞれ50℃で二段階(各1時間),さらに,それぞれ21℃で二段階(各30分),オ-トクレ-ブ中で抽出した。多段抽出は,各抽出段の後で木材粒子を絞り,新鮮な無負荷の抽出剤と混合することにより,実験5と同様の方法で行った。ここでは,抽出パラメ-タは,50℃,各抽出段の抽出時間1時間,抽出剤中のアセトン濃度70wt%(抽出パラメ-タ1),さらに,21℃,各抽出段ごとの抽出時間30分,混合抽出剤として純粋アセトンを用い,抽出段及び粒径に応じてアセトン濃度70~99wt%(抽出パラメ-タ2)とした。固形分:抽出剤比は,木材粒子がちょうど抽出剤で覆われるように選択した(木材チップ及び砕木チップは1:6,砕木は1:10)。抽出後,木材粒子を絞り(抽出パラメ-タ1の抽出剤で洗浄),再度絞った後,乾燥,熟成,分析を行った。これらの結果を表9に示す。
【0078】
【0079】
表9に示すように,本発明による方法では,木材チップのヘキサナ-ル含有量は約20~30%しか減少させることができない。一方,NREL方法NREL/TP-510-42620にも定められているように,木材チップを2mmの粒径に粉砕すると,本発明による方法では,ヘキサナ-ル含有量は約1mg/kgTMまで減少させることができ,これは最初のヘキサナ-ル含有量21.36mg/kgTMに対して約95%の削減に相当する。例えば,砕木のように粒径がさらに小さい場合は,ヘキサナ-ル含有量の削減率は約97%とさらに高くなる。この二つの抽出パラメ-タでは,粒径が大きくてもヘキサナ-ル含有量は同程度である一方,粒径が小さい場合,特に砕木では,抽出パラメ-タ1(温度がより高く,抽出時間がより長い)の方が有意に良好な結果が得られた。基本材料のソックスレ-抽出の抽出物蒸発残渣に関連する抽出物蒸発残渣の減少については,両方の抽出パラメ-タで,すべての粒径においてより良い結果が得られる。表9では,基本材料のソックスレ-抽出の抽出物蒸発残渣に関連する抽出物蒸発残渣の減少は,意図した方法による抽出成否の指標としては使用できないことが,さらに明らかである。これは,例えば木材チップでは,73%という高い削減率を示した場合でも,ヘキサナ-ル含有量はわずか約20%しか削減されていなかったのに対し,基本材料のソックスレ-抽出の抽出物蒸発残渣に関連する抽出物蒸発残渣が75%減少した砕木では,ヘキサナ-ル含有量を約96%削減させることができたからである。
【0080】
実験7:本発明による砕木の抽出処理による機械的特性の変化
この実験は,抽出処理が抽出した木材粒子の機械的特性に及ぼす影響を調べるためのものである。ここで,機械的に脱水した砕木(約25wt%TSG)約300~450gTM(固形分:抽出剤比による)を,溶媒/水混合液中,固形分:抽出剤比1:10及び1:15w/w,溶媒濃度60及び70wt%,温度50℃,70℃及び90℃で抽出した。溶媒として,非変性エタノ-ル96vol%(純EtOH),ブタノンで不完全変性したエタノ-ル96vol%(変性EtOH),及びアセトンを用いた。抽出後,砕木を絞り,抽出剤で洗浄し,再度絞り,脱塩水でもう一度洗浄した後,サンプルシ-トを作製し,それに基づいて機械的特性を調べた。質量損失は,抽出物の蒸発残渣から生じ,基本材料乾燥重量に関係するものである。結果を表10に示す。
【0081】
【0082】
表10からわかるように,粉砕度,したがって砕木の脱水は抽出によってほとんど変化しないため,既存の製造工場を改良したり改造したりする必要がないという,さらなる加工(例えば,段ボ-ルへの加工)の可能性に関する利点が得られる。硬度指数も抽出によってほとんど変化しない一方,破断強度の尺度としての引張指数は,再現性良く大幅に増加する。この平均で20~41%という高い増加と比較して,抽出物蒸発残渣から得られる質量損失は約2%と非常に小さい。このことは,木材粒子は,質量損失の少ない抽出によって,過剰比例的に高い強度を得ることを意味しており,特に包装分野において軽量化がトレンドとなっているなか,非常に重要である。
【0083】
実験8:抽出した抽出物の精製
本実験では,機械的に脱水した砕木(約25wt%TSG,トウヒ約95%及びモミ約5%)を,固形分:抽出剤比1:10w/w,50℃,1時間,オ-トクレ-ブ中で抽出したが,抽出剤は70wt%のアセトンと30wt%の脱塩水からなる。抽出後,砕木を(約30wt%まで)絞り,こうして得られた抽出物を次のように処理した。
【0084】
まず,アセトンを蒸留によって分離した。蒸留フラスコを108℃まで加熱し,常圧で平衡状態まで蒸留した。残った残渣を7197gで10分間遠心分離し,沈降物を上清から分離した。上清を計量し,室温で緩やかに乾燥させることにより,その乾燥物質含有量を確認したが,これは,実質的に抽出された抽出物の含有量に相当する。沈降物も計量し,規定量の純アセトンに溶解した。上清と同様に,その乾燥物質含有量を測定した。蒸留で析出した沈殿物も純アセトンに溶解した。その乾燥物質含有量を沈降物と同様に測定した。抽出物,上清,アセトンに溶解した沈降物,及びアセトンに溶解した沈殿物から,ガスクロマトグラフィ-を用いて遊離脂肪酸(リノレン酸,リノ-ル酸,オレイン酸,及びステアリン酸,それぞれリノ-ル酸当量),樹脂酸(イソピマル酸,パルストリン酸,デヒドロアビエチン酸,及びアビエチン酸,それぞれアビエチン酸当量),並びに,リグナン(イソラリシレシノ-ル,セコイソラリシレシノ-ル,コニデンドリン酸,ヒドロキシマタイレシノ-ル,及びマタイレシノ-ル,それぞれヒドロキシマタイレシノ-ル当量)の含有量を確認した。実験1及び実験2(identパラメ-タを用いた反復)の結果を表11及び表12に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
表11及び表12からわかるように,主な抽出物の質量は,遠心分離された沈降物として生じる。選択された分離方法では,液体量が(抽出物から上清へ)約80%減少するにもかかわらず,上清中の乾燥物質含有量(ここでは,実質的に抽出物の質量に相当する)は,抽出物と同様に低いレベル(<1wt%)にすぎない。しかしながら,上清中の遊離脂肪酸及び樹脂酸の割合は非常に低いレベルまで減少する一方で,リグナンは濃縮された。これに対して,沈降物及び沈殿物中に,リグナンはほとんど,あるいは全く存在しないが,遊離脂肪酸及び樹脂酸は豊富に含まれている。ここで分析した抽出物(遊離脂肪酸,樹脂酸,及びリグナン)は,抽出物(及び,ここで見られた乾燥物質)の一部に過ぎないが,選択した熱的・機械的分離方法(蒸留と遠心分離)を用いると,液相(抽出物と上清それぞれ)から脂肪酸及び樹脂酸を最も広範に取り除くことができるだけでなく,脂溶性抽出物(例えば,脂肪酸及び樹脂酸)及び親水性抽出物(例えば,リグナン)をそれぞれ副生成物として高濃度に濃縮及び精製することができることが,極めて明白である。
【0088】
キ-ワ-ド:
STABW=標準偏差
TM=乾燥重量
TSG=乾燥物質含有量
【0089】
好ましい実施形態:
本発明の上記の記載を鑑み,本発明の好ましい実施形態を以下に開示する。
1.木材を原料とする製品の製造方法であって,木材粒子の形態をした木材を,溶媒の有機/水性混合物又は水を含む溶媒中に一種以上の有機溶媒を含む抽出剤による抽出処理に供するものであり,木材粒子の抽出剤を用いた抽出処理によって,木材粒子中の脂肪酸の含有量が,90℃で72時間の加速熟成後にヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定した値として,少なくとも70%削減される一方で,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス及びリグニンの含有量は,この抽出処理において実質的に維持されることを特徴とする。
【0090】
2.木材粒子の大きさが最大2mmの大きさであり,その粒径は,好ましくは,サンプル調製のためのカッティングミルの2mmのスクリ-ンメッシュにより,国立再生可能エネルギ-研究所(NREL:National Renewable Energy Laboratory)の研究所分析手順(LAP:Laboratory Analytical Procedure)NREL/TP-510-42620「組成分析のためのサンプルの調製」にしたがって定義されることを特徴とする,実施形態1に記載の方法。
【0091】
3.木材粒子が,繊維,チップ,又はそれらの混合物の形態をとることを特徴とする,実施形態1又は2に記載の方法。
【0092】
4.木材粒子が,機械的及び/又は熱的及び/又は化学的消化によりほぐされた木材であることを特徴とする,実施形態1~3のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0093】
5.木材粒子が,平均繊維長が0.5~2mm,平均繊維径が10~50μmの木材繊維であり,平均繊維長及び平均繊維径が,浮遊繊維を光学的な手段で決定される長さ平均に関連することを特徴とする,実施形態1~4のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0094】
6.抽出物の液相の濃度として測定される,抽出剤中の有機/水性溶媒混合物の溶媒部分が,0~95wt%のエタノ-ル,好ましくは50~90wt%のエタノ-ル,0~99wt%のアセトン,好ましくは30~90wt%のアセトン,0~70wt%のn-プロパノ-ル,0~85wt%のiso-プロパノ-ル,及び/又は,0~99wt%のメタノ-ルからなることを特徴とする,実施形態1~5のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0095】
7.抽出剤と固体乾燥物質の比が5:1~25:1(w/w),好ましくは8:1~17:1(w/w)であることを特徴とする,実施形態1~6のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0096】
8.抽出処理が,20~150℃,好ましくは40~120℃,特に50~110℃の抽出温度で実施されることを特徴とする,実施形態1~7のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0097】
9.抽出処理が,1~5bar,好ましくは1~1.49barの絶対抽出圧力で実施されることを特徴とする,実施形態1~8のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0098】
10.抽出処理が,10分~8時間,好ましくは30分~7時間,特に1~5時間の抽出時間で実施されることを特徴とする,実施形態1~9のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0099】
11.段ボ-ル,紙,木質繊維板,チップボ-ド,実用品,医療製品の製造,特に段ボ-ルの製造に使用されることを特徴とする,実施形態1~10のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0100】
12.抽出処理が,以下から選択されることを特徴とする,実施形態1~11のいずれか一つ以上に記載の方法。
-少なくとも65wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも65℃で,少なくとも3時間の処理
-少なくとも65wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも85℃で,少なくとも30分の処理
-少なくとも70wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも105℃で,少なくとも30分の処理
-少なくとも45wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも105℃で,少なくとも5時間の処理
-少なくとも50wt%の濃度のアセトンを用いた,少なくとも40℃で,少なくとも30分の処理
-少なくとも50wt%の濃度のアセトンを用いた,少なくとも20℃で,少なくとも15分の処理
【0101】
13.抽出剤を用いた処理が,バッチ抽出,連続抽出,又は半連続抽出として,好ましくは,抽出ステップあたりの最大1時間の部分滞留時間で実施されることを特徴とする,実施形態1~12のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0102】
14.セルロ-ス,ヘミセルロ-ス,及びリグニンの含有量が,抽出処理において,10%未満,好ましくは5%未満,特に4%未満減少するものであり,この減少が,好ましくは,基本材料である木材粒子に対する抽出された固体塊として確認されるものであることを特徴とする,実施形態1~13のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0103】
15.木材粒子が,針葉樹木材粒子,好ましくはトウヒ木材粒子,モミ木材粒子,マツ木材粒子,若しくはカラマツ木材粒子,落葉樹木材粒子,特にブナ木材粒子,ポプラ木材粒子,カバ木材粒子,若しくはユ-カリ木材粒子,又は,それらの混合物から選択されることを特徴とする,実施形態1~14のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0104】
16.木材粒子が抽出剤を用いて処理中に混合されることを特徴とする,実施形態1~15のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0105】
17.抽出剤を用いた処理後,木材粒子を絞り,抽出剤を除去することを特徴とする,実施形態1~16のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0106】
18.木材粒子が,抽出剤を用いた処理後,抽出剤で一回又は複数回精製され,好ましくは,抽出剤の濃度と同程度,又は同一の濃度の有機/水性混合溶媒で精製されることを特徴とする,実施形態1~17のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0107】
19.抽出剤が,水及び/又は水蒸気ストリッピング及び/又は乾燥,好ましくは,水蒸気ストリッピング及び/又は乾燥を用いた一回又は複数回の洗浄によって木材粒子から除去されることを特徴とする,実施形態1~18のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0108】
20.木材粒子の抽出剤を用いた抽出によって,木材粒子中の脂肪酸含有量が,90℃で72時間加速熟成後,抽出された木材粒子と比較して,基本材料中の木材粒子のヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定した値で,少なくとも75%,好ましくは少なくとも80%,特に少なくとも90%減少することを特徴とする,実施形態1~19のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0109】
21.木材粒子中の脂肪酸含有量が,抽出剤を用いた木材粒子の抽出によって,90℃で72時間加速熟成後の抽出された木材粒子の質量部としてヘキサナ-ル含有量を測定した値で,2mg/kg乾燥重量未満,好ましくは1mg/kg乾燥重量未満,特に0.5mg/kg乾燥重量未満に削減することを特徴とする,実施形態1~20のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0110】
22.抽出により,脂肪酸の他に樹脂酸も抽出されることを特徴とする,実施形態1~21のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0111】
23.抽出剤を用いて抽出された脂肪酸,樹脂酸,及び/又は,任意のさらなる抽出物が,有機溶媒を有機/水性抽出剤から熱分離した後,さらなる精製方法,好ましくは機械的分離技術に供されるものであって,脂溶性抽出物,特に脂肪酸及び樹脂酸が沈殿分離され,親水性抽出物,特にリグナンが濃縮された液相が得られ,親水性抽出物は,好ましくは,熱分離技術,とくに膜分離法及び/又は吸着を用いたその後の処理によってさらに濃縮されることを特徴とする,実施形態1~22のいずれか一つ又は二つ以上に記載の方法。
【0112】
24.抽出剤を事前に膜濾過することにより,抽出物の濃縮度をさらに高めることを特徴とする,実施形態23に記載の方法。
【0113】
25.キレ-ト剤,特に,多価及び多官能性カルボン酸,アミノメチルカルボン酸,アミノメチルホスホン酸,及びこれらの化合物,EDTA,DTPA EGTA,EDDS,及びこれらの塩,ポリフェノ-ル,タンニン,アミノ酸,ペプチド,タンパク質,ポリカルボン酸塩,リン酸塩,ポリリン酸塩,ホスホン酸,ポリホスホン酸塩,リン酸塩,ホスホニル化ポリマ-,硫酸化ポリマ-,及びスルホン酸化ポリマ-から選択されるキレ-ト剤が,抽出方法の過程,特に,木材粒子から製造される製品の製造方法全体の過程で,木材粒子に添加されないことを特徴とする,実施形態1~24のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0114】
26.抽出剤,及び,任意に使用される洗浄液,特に水が,再利用のために再生されることを特徴とする,実施形態1~25のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0115】
27.ヘキサナ-ル含有量の削減に加えて,サンプルシ-トの引張指数をNm/g単位で測定した値として,抽出された木材粒子の機械的強度も,抽出処理によって,少なくとも10%,好ましくは少なくとも15%,特に少なくとも25%増加する一方で,°SR単位で測定される粉砕度の変化が10%未満であることを特徴とする,実施形態1~26のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0116】
28.少なくとも10%の水,好ましくは少なくとも7.5%の水,特に少なくとも5%の水が,溶媒または溶媒の有機/水性混合物中に含まれることを特徴とする,実施形態1~27のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0117】
本発明のさらに好ましい実施形態は,以下の実施形態である。
1.木材を原料とする製品の製造方法であって,木材粒子の形態をした木材に,一種以上の有機溶媒,又は,溶媒の有機/水性混合物,若しくは,水を含有する溶媒を含む抽出剤で抽出処理を行うものであり,木材粒子を抽出剤で抽出処理することで,木材粒子中の脂肪酸の含有量を,90℃で72時間の加速熟成後にヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定した値として少なくとも70%削減させるが,この抽出処理により,セルロ-ス,ヘミセルロ
【0118】
2.木材粒子が5cm未満の大きさで存在し,粒径が好ましくは,四角メッシュスクリ-ン,特に5cm以下のメッシュを持つ四角メッシュスクリ-ンによるふるい分けによって確認されることを特徴とする,実施形態1に記載の方法。
【0119】
3.木材粒子が,繊維,チップ,ストランド,木材チップ,又はそれらの混合物の形態で存在することを特徴とする,実施形態1又は2に記載の方法。
【0120】
4.木材粒子が,機械的及び/又は熱的及び/又は化学的消化によりほぐれた木材であることを特徴とする,実施形態1~3のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0121】
5.木材粒子が,平均繊維長が0.5~2mm,平均繊維径が10~50μmの木材繊維であり,平均繊維長及び平均繊維径が,浮遊繊維を光学的な手段で決定される長さ平均に関連することを特徴とする,実施形態1~4のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0122】
6.抽出物の液相の濃度として測定される,抽出剤中の有機/水性溶媒混合物の溶媒部が,0~95wt%のエタノ-ル,好ましくは50~90wt%のエタノ-ル,0~99wt%のアセトン,好ましくは30~90wt%のアセトン,0~70wt%のn-プロパノ-ル,0~85wt%のiso-プロパノ-ル,及び/又は,0~99wt%のメタノ-ルからなることを特徴とする,実施形態1~5のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0123】
7.抽出剤と固体乾燥物質の比が5:1~25:1(w/w),好ましくは8:1~17:1(w/w)であることを特徴とする,実施形態1~6のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0124】
8.抽出処理が,抽出温度20~150℃,好ましくは40~120℃,特に50~110℃で実施されることを特徴とする,実施形態1~7のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0125】
9.抽出処理が,1~5bar,好ましくは1~1.49barの絶対抽出圧力で実施されることを特徴とする,実施形態1~8のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0126】
10.抽出処理が,10分~8時間,好ましくは30分~7時間,特に1~5時間の抽出時間で実施されることを特徴とする,実施形態1~9のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0127】
11.段ボ-ル,紙,木質繊維板,チップボ-ド,実用品,医療品の製造,とくに段ボ-ルの製造に使用されることを特徴とする,実施形態1~10のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0128】
12.抽出処理が,以下から選択されることを特徴とする,実施形態1~11のいずれか一つ以上に記載の方法。
-少なくとも65wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも65℃で少なくとも3時間の処理
-少なくとも65wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも85℃で少なくとも30分の処理
-少なくとも70wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも105℃で少なくとも30分の処理
-少なくとも45wt%の濃度のエタノ-ルを用いた,少なくとも105℃で少なくとも5時間の処理
-少なくとも50wt%の濃度のアセトンを用いた,少なくとも40℃で少なくとも30分の処理
【0129】
13.抽出剤を用いた処理が,バッチ抽出,連続抽出,又は半連続抽出として,好ましくは,抽出ステップあたりの部分滞留時間が最大1時間で実施されることを特徴とする,実施形態1~12のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0130】
14.抽出処理において,セルロ-ス,ヘミセルロ-ス,及びリグニンの含有量を,10%未満,好ましくは5%未満,特に4%未満減少するものであり,この減少が,好ましくは,基本材料である木材粒子に関連する抽出された固体塊として確認されるものであることを特徴とする,実施形態1~13のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0131】
15.木材粒子が,針葉樹木材粒子,好ましくはトウヒ木材粒子,モミ木材粒子,マツ木材粒子,若しくはカラマツ木材粒子,落葉樹木材粒子,特にブナ木材粒子,ポプラ木材粒子,カバ木材粒子,若しくはユ-カリ木材粒子,又は,それらの混合物から選択されることを特徴とする,実施形態1~14のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0132】
16.抽出剤による処理中に木材粒子が混合されることを特徴とする,実施形態1~15のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0133】
17.抽出剤による処理後,木材粒子を絞り,抽出剤を除去することを特徴とする,実施形態1~16のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0134】
18.木材粒子が,抽出剤を用いた処理後,抽出剤で一回又は複数回精製され,好ましくは,抽出剤の濃度と同程度か,又は同一の濃度の有機/水性混合溶媒を用いて精製されることを特徴とする,実施形態1~17のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0135】
19.抽出剤が,水又は乾燥,好ましくは乾燥を用いた一回又は複数回の洗浄によって木材粒子から除去されることを特徴とする,実施形態1~18のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0136】
20.木材粒子中の脂肪酸含有量が,抽出剤を用いて木材粒子を抽出することにより,90℃で72時間加速熟成した後,抽出された木材粒子と比較して,基本材料中の木材粒子のヘキサナ-ル含有量をwt%単位で測定した値で,少なくとも75%,好ましくは少なくとも80%,特に少なくとも90%削減されることを特徴とする,実施形態1~19のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0137】
21.木材粒子中の脂肪酸の含有量が,抽出剤を用いて木材粒子を抽出することにより,90℃で72時間加速熟成した後に,抽出された木材粒子の質量部としてヘキサナ-ル含有量を測定した値で,2mg/kg乾燥重量未満,好ましくは1mg/kg乾燥重量未満,特に0.5mg/kg乾燥重量未満の含有量に削減されることを特徴とする,実施形態1~20のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0138】
22.抽出により,脂肪酸の他に樹脂酸も抽出されることを特徴とする,実施形態1~21のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0139】
23.抽出剤を用いて抽出された脂肪酸,樹脂酸及び/又は任意のさらなる抽出物が,さらなる精製方法に供されることを特徴とする,実施形態1~22のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0140】
24.キレ-ト剤,特に,多価及び多官能性カルボン酸,アミノメチルカルボン酸,アミノメチルホスホン酸,及びこれらの化合物,EDTA,DTPA EGTA,EDDS,及びこれらの塩,ポリフェノ-ル,タンニン,アミノ酸,ペプチド,タンパク質,ポリカルボン酸塩,リン酸塩,ポリリン酸塩,ホスホン酸,ポリホスホン酸塩,リン酸塩,ホスホニル化ポリマ-,硫酸化ポリマ-,及びスルホン酸化ポリマ-から選択されるキレ-ト剤が,抽出方法の過程,特に,木材粒子から製造される製品の製造方法全体の過程において,木材粒子に添加されないことを特徴とする,実施形態1~23のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0141】
25.抽出剤,及び,任意に使用される洗浄液,特に水が,再利用のために再生されることを特徴とする,実施形態1~24のいずれか一つ以上に記載の方法。
【0142】
26.ヘキサナ-ル含有量の削減に加えて,サンプルシ-トの引張指数をNm/g単位で測定した値として,抽出された木材粒子の機械的強度も,抽出処理によって,少なくとも10%,好ましくは少なくとも15%,特に少なくとも25%増加させるものであって,°SR単位で測定される粉砕度における変化が10%未満であることを特徴とする,実施形態1~25のいずれか一つ以上に記載の方法。
【国際調査報告】