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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-12
(54)【発明の名称】弁輪形成装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528621
(86)(22)【出願日】2021-10-31
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2021080228
(87)【国際公開番号】W WO2022101041
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】20207665.9
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523175801
【氏名又は名称】エイチブイアール カーディオ オーワイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケラネン,オリ
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC05
4C097CC13
4C097DD10
4C097SB09
(57)【要約】
弁輪形成装置が開示され、弁輪形成装置は、第1の支持リングおよび第2の支持リングであって、第1の支持リングおよび第2の支持リングが中心軸線を中心にコイルとして配置される、コイル状構成を有する、第1の支持リングおよび第2の支持リングを備え、第1の支持リングおよび第2の支持リングは、心臓弁の生来の心臓弁尖の両側に配置されるように構成され、弁輪形成装置は、第1の支持リングおよび/または第2の支持リングの少なくとも一部の周囲に配置されたステントを備え、ステントは保持ユニットを備える。欠陥のある心臓弁を修復する関連方法も開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁輪形成装置(100)であって、
第1の支持リング(101)および第2の支持リング(102)であって、前記第1の支持リングおよび前記第2の支持リングが中心軸線(103)を中心にコイルとして配置される、コイル状構成を有する、第1の支持リング(101)および第2の支持リング(102)
を備え、
前記第1の支持リングおよび前記第2の支持リングが、心臓弁の生来の心臓弁尖(301)の両側に配置されるように構成され、
前記弁輪形成装置(100)が、前記第1の支持リングおよび/または前記第2の支持リングの少なくとも一部の周囲に配置されたステント(105、105a、105b、105c)
を備え、
前記ステントが保持ユニット(104、104’)を備える、弁輪形成装置(100)。
【請求項2】
前記保持ユニットが前記ステントの材料から形成されることにより前記保持ユニットが前記ステントと一体化される、請求項1に記載の弁輪形成装置。
【請求項3】
前記保持ユニットが形状記憶材料を含み、前記形状記憶材料が作動すると、前記保持ユニットを後退状態(p)から拡張状態(p)に移行させる、請求項1または2に記載の弁輪形成装置。
【請求項4】
前記保持ユニットが、後退状態(p)から拡張状態(p)に弾性的に可動である、請求項1~3のいずれかに記載の弁輪形成装置。
【請求項5】
前記保持ユニットが、前記拡張状態(p)から前記後退状態(p)に屈曲するように可撓性である、請求項4に記載の弁輪形成装置。
【請求項6】
前記保持ユニットが、前記後退状態で前記ステントの外径(D)と本質的に面一に整列される、請求項5に記載の弁輪形成装置。
【請求項7】
前記ステントが、クローズドセル(122)からなるステントフレームワークを形成する複数の支持要素(108)を備え、セル(122)の前記複数の支持要素のうちの第1の支持要素(108a)が、前記ステントの長手方向(L)に垂直な半径方向(R)に沿って保持ユニット(104、104’)として可動である、請求項1~6のいずれかに記載の弁輪形成装置。
【請求項8】
前記ステントは、前記ステントが前記第1の支持リングおよび/または前記第2の支持リングに力(F)を及ぼすように、前記ステントの長手方向(L)に垂直な半径方向(R)に沿って半径方向に収縮可能である、請求項1~7のいずれかに記載の弁輪形成装置。
【請求項9】
前記ステントが形状記憶材料を含み、前記形状記憶材料が作動すると、前記ステントを半径方向(R)に沿って小径に収縮させて、前記第1の支持リングおよび/または前記第2の支持リングに前記力を加える、請求項8に記載の弁輪形成装置。
【請求項10】
前記ステントは、前記ステントの外径(D、D)が拡張径(D)と収縮径(D)との間で可変であるのに対して、前記ステントの所定の長さ(L)が本質的に維持されるように、収縮可能かつ拡張可能であるように構成された支持要素(108)を備える、請求項1~9のいずれかに記載の弁輪形成装置。
【請求項11】
前記支持要素が、本質的に前記ステントの長手方向(L)に沿って延びる細長い主フレーム(121)を備え、前記細長い主フレームが前記ステントの前記所定の長さ(L)を規定することにより、前記細長い主フレームは、前記ステントの前記外径が前記拡張径(D)と前記収縮径(D)との間で変化するときに、前記長手方向(L)に本質的に決まった位置をとる、請求項10に記載の弁輪形成装置。
【請求項12】
前記第1の支持リングおよび/または前記第2の支持リングの少なくとも一部の周囲に配置されたカバー(106)を備え、
前記ステントが前記カバーの少なくとも一部の周囲に配置される、請求項1~11のいずれかに記載の弁輪形成装置。
【請求項13】
前記ステントは、前記カバーが前記ステントと前記第1の支持リングおよび/または前記第2の支持リングとの間に挟まれるように前記カバーに力を及ぼす、請求項12に記載の弁輪形成装置。
【請求項14】
前記第1の支持リングが、第1の後方弓形部(113)および第1の前方部分(114)を備え、
前記第2の支持リングが、第2の後方弓形部(113’)および第2の前方部分(114’)を備え、
前記第1の後方弓形部および前記第2の後方弓形部が、前記心臓弁の後態様に適合するように構成され、前記第1の前方部分および前記第2の前方部分が、前記心臓弁の前態様に適合するように構成され、
前記第1の前方部分(114)が前方ステント(105c)を備え、前記前方ステントが複数の保持ユニットを備え、
前記第2の前方部分(114’)が保持ユニットのない滑らかな表面を備える、請求項1~13のいずれかに記載の弁輪形成装置。
【請求項15】
前記第1の後方弓形部(113)が、第1の複数の保持ユニットを備える第1の後方ステント(105a)を備え、
前記第2の後方弓形部(113’)が、前記第1の複数の保持ユニットに向かう方向に延びる第2の複数の保持ユニットを備える第2の後方ステント(105b)を備える、請求項14に記載の弁輪形成装置。
【請求項16】
前記第1の支持リングが、移行部(120)を経由して前記第2の支持リングへ移行し、前記移行部が、前記心臓弁尖の交連部(302、302’)に配置されるように構成され、
前記第1の支持リングおよび前記第2の支持リングがそれぞれ、前記中心軸線に対して本質的に垂直である第1のコイル平面(101’)および第2のコイル平面(102’)内に延び、
前記移行部は、前記第1のコイル平面が移行領域において前記中心軸線に沿って前記第2のコイル平面から距離(d)だけ隔てられるように、前記中心軸線に沿って少なくとも部分的に屈曲する、請求項1~15のいずれかに記載の弁輪形成装置。
【請求項17】
欠陥のある心臓弁を修復する方法(200)であって、
弁輪形成装置(100)の第1の支持リング(101)を前記心臓弁の心室側に配置すること(201)と、
前記弁輪形成装置の第2の支持リング(102)を前記心臓弁の心房側に配置することにより、前記第1の支持リングおよび前記第2の支持リングが前記心臓弁の交連部(302、302’)を通って延びるコイルとして配置される、配置すること(202)であって、前記第1の支持リングおよび/または前記第2の支持リングが、前記第1の支持リングおよび/または前記第2の支持リングの少なくとも一部の周囲に配置されたステント(105、105a、105b、105c)を備え、前記ステントが保持ユニット(104、104’)を備える、配置すること(202)と、
前記保持ユニットが前記心臓弁の組織内に係合される(204)ように、前記ステントを前記一部に沿って弁組織に当接して配置すること(203)と
を含む、方法(200)。
【請求項18】
前方ステント(105c)を前記心房側に前記第1の支持リングの第1の前方部分(114)に沿って配置すること(2031)と、
第1の後方ステント(105a)を前記心房側に前記第1の支持リングの第1の後方弓形部(113)に沿って配置すること(2032)と、
第2の後方ステント(105b)を前記心室側に前記第2の支持リングの第2の後方弓形部(113’)に沿って配置すること(2033)と
を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記前方ステントの保持ユニットを前記心房側の弁組織内に係合させること(2041)と、
前記第1の後方ステントの保持ユニットおよび前記第2の後方ステントの保持ユニットをそれぞれ、前記心房側の弁組織および前記心室側の弁組織に係合させて、前記弁輪形成装置を前記心臓弁に固着すること(2042)と
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
送達カテーテルから前記第1の支持リングおよび前記第2の支持リングを取り出すこと(2021)によって、前記第1の支持リングおよび前記第2の支持リングをそれぞれ、前記心臓弁の前記心房側および前記心室側に配置することにより、前記第1の支持リングおよび前記第2の支持リングが前記送達カテーテルから取り出されるにつれて前記保持ユニットが後退状態(p)から拡張状態(p)に移動すること
を含む、請求項17~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記保持ユニットは、前記第1の支持リングおよび前記第2の支持リングが前記送達カテーテルに沿って移動するときに、前記後退状態で前記ステントの外径(D)と本質的に面一に整列される、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、心臓弁修復の分野に関する。より詳細には、本発明は、心臓弁輪に配置するための弁輪形成リングや弁輪形成らせんなどの弁輪形成装置、および欠陥のある心臓弁を修復する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
罹患した僧帽弁および三尖弁は、頻繁に置換または修復を必要とする。僧帽弁および三尖弁の弁尖または支持腱索は、変性し弱くなることがある、または弁輪が拡張して弁漏れを引き起こすことがある。僧帽弁および三尖弁の置換および修復は、弁輪の直径を減少させるか、または他の方法で弁輪の形状を変更するために、あるいは弁置換または弁修復の処置中に概して支持する構造として補助するために使用される弁輪形成リングを用いて頻繁に行われる。弁輪形成リングは、通常、心臓弁の弁輪の周囲に埋め込まれる。
【0003】
従来技術の弁輪形成インプラントに関する問題は、心臓弁における正しい配置を達成し、インプラントを正しい位置に固定することである。弁輪形成インプラントのための縫合装置には、正しい位置で縫合することを困難にし、それによって不十分な縫合強度をもたらし、さらに、患者にとってリスクを高める非常に時間のかかる処置をもたらすという欠点がある。さらに、縫合装置は、カテーテルベースの処置のために十分にはコンパクトでないことが多い。弁輪形成インプラントを配置するためにクリップを使用しても、特に心臓弁の両側に配置されることになるらせんリングを埋め込むときに、課題を伴う。固定構造は経時的に装置の正しい位置を確保しなければならないので、そのようなインプラントの固定が不十分だと外傷性効果を引き起こす。したがって、従来技術のさらなる問題は、心臓弁の弁輪における確実な固定を達成することでもある。弁輪形成インプラントは、何年にもわたって機能するためのものであり、したがって、この点で長期安定性を有することが非常に重要である。
【0004】
上記の問題は、患者および健康管理システムにとって悲惨な結果をもたらし得る。患者のリスクが増大する。
【0005】
したがって、弁輪形成インプラントまたは装置が改良されれば有利であろう、特に、上述の問題および妥協のより多くを回避すること、特に埋め込み段階中に弁輪形成装置の確実な固定を確実にすることが可能になり、あまり複雑でない処置、および患者の安全性の向上に加えて、長期に機能することも可能になるであろう。関連する方法も有利であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の例は、好ましくは、添付の特許請求の範囲による装置を提供することにより、単独で、または任意の組合せで、上記のような、当技術分野における1つまたは複数の欠陥、欠点または問題を軽減、緩和または排除しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様によれば、弁輪形成装置が提供され、弁輪形成装置は、第1の支持リングおよび第2の支持リングであって、第1の支持リングおよび第2の支持リングが中心軸線を中心にコイルとして配置される、コイル状構成を有する、第1の支持リングおよび第2の支持リングを備え、第1の支持リングおよび第2の支持リングは、心臓弁の生来の心臓弁尖の両側に配置されるように構成され、弁輪形成装置は、第1の支持リングおよび/または第2の支持リングの少なくとも一部の周囲に配置されたステントを備え、ステントは保持ユニットを備える。
【0008】
第2の態様によれば、欠陥のある心臓弁を修復する方法が提供される。本方法は、弁輪形成装置の第1の支持リングを心臓弁の心室側に配置することと、弁輪形成装置の第2の支持リングを心臓弁の心房側に配置することにより、第1の支持リングおよび第2の支持リングが心臓弁の交連部を通って延びるコイルとして配置される、配置することであって、第1の支持リングおよび/または第2の支持リングが、第1の支持リングおよび/または第2の支持リングの少なくとも一部の周囲に配置されたステントを備え、ステントが保持ユニットを備える、配置することと、保持ユニットが心臓弁の組織内に係合されるように、ステントを前記一部に沿って弁組織に当接して配置することと、を含む。
【0009】
本発明の他の例は、従属請求項に定義されており、第1の態様の特徴は第2の態様のために実装されてもよく、その逆も同様である。
【0010】
本開示のいくつかの例は、心臓弁における弁輪形成装置の容易な配置を提供する。
【0011】
本開示のいくつかの例は、心臓弁における弁輪形成装置の容易な固定を提供する。
【0012】
本開示のいくつかの例は、標的部位への弁輪形成術の時間のかからない固定を提供する。
【0013】
本開示のいくつかの例は、弁輪形成装置の長期的な機能および位置を確保することを提供する。
【0014】
本開示のいくつかの例は、弁輪や弁尖などの心臓の解剖学的構造を損傷するリスクの低減を提供する。
【0015】
本開示のいくつかの例は、狭い解剖学的構造における弁輪形成装置のより確実な埋め込みを提供する。
【0016】
「備える(comprises)/備える(comprising)」という用語は、本明細書で使用されるとき、記載された特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を特定すると解釈されるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、構成要素、またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではないことは強調されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の実施形態が可能であるこれらおよび他の態様、特徴および利点は、添付の図面を参照して、本発明の実施形態の以下の説明から明らかになり、解明されるであろう。
【0018】
図1】本開示の一例による、第1の支持リングおよび第2の支持リングの少なくとも一部の周囲にステントが配置されている弁輪形成装置の概略斜視図である。
図2】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは複数の保持ユニットを有する。
図3】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの一部のさらに詳細な概略図である。
図4a】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの一部の詳細概略図であり、ステントの保持ユニットが後退状態にある。
図4b】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの一部の詳細概略図であり、ステントの保持ユニットが拡張状態にある。
図4c】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの一部の概略図であり、ステントの保持ユニットの正面図において、保持ユニットは後退状態にある。
図4d】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの一部の詳細概略図であり、ステントの保持ユニットは後退状態にある。
図4e】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの一部の詳細概略図であり、ステントの保持ユニットが拡張状態にある。
図5a】本開示の一例による、ステントの保持ユニットが拡張状態にある弁輪形成装置の断面概略図である。
図5b】本開示の別の例による、ステントの保持ユニットが拡張状態にある弁輪形成装置の断面概略図である。
図6】本開示の例による、第1の支持リングおよび第2の支持リングが移行領域によって隔てられている弁輪形成装置の側面概略図である。
図7a】本開示の一例による弁輪形成装置の側面概略図であり、弁輪形成装置は弁尖の上方および下方に配置されている。
図7b】本開示の一例による弁輪形成装置の上から見た概略図である。
図8a】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは半径方向に拡張されている。
図8b】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは半径方向に後退されている。
図9a】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは半径方向に拡張されている。
図9b】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは半径方向に後退されている。
図10a】本開示の一例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは複数の保持ユニットを有する。
図10b】本開示の別の例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは複数の保持ユニットを有する。
図10c】本開示の別の例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは複数の保持ユニットを有する。
図10d】本開示の別の例による弁輪形成装置のステントの概略図であり、ステントは複数の保持ユニットを有する。
図11a】本開示の一例による、欠陥のある心臓弁を修復する方法のフローチャートである。
図11b】本開示の一例による、欠陥のある心臓弁を修復する方法の別のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の具体的な実施形態について、添付の図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、様々な形で具体化されてもよく、本明細書に記載されている実施形態に限定されると解釈されるべきではない、むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。添付の図面に示される実施形態の詳細な説明で使用される用語は、本発明を限定することを意図するものではない。図面において、同様の番号は同様の要素を指す。
【0020】
以下の説明は、弁輪形成リングなどの心臓弁インプラントに適用可能な本発明の実施形態に焦点を当てる。しかしながら、本発明は本出願に限定されるものではなく、例えば置換弁を含む多くの他の弁輪形成インプラントおよび心臓弁インプラント、ならびに他の医療用植込み型装置に適用され得ることが理解されよう。
【0021】
図1は、第1の支持リング101および第2の支持リング102を備える弁輪形成装置100の一例を概略的に示しており、両支持リングは、図1に示すように、中心軸線103を中心にコイル状構成でコイルとして、すなわち、らせん形状に配置されるように構成される。装置100は、少なくとも、装置100を形成している材料が弛緩状態にあるときに、すなわち装置100に作用する外力がないときに、コイル状構成で配置される。コイル形状の装置100は、2つの自由端116、116’を有する。第1の支持リング101および第2の支持リング102ならびにそれぞれの自由端116および116’は、図7aの側面図に示すように、心臓弁の生来の心臓弁尖301の両側に配置されるように構成される。図7aに示すように、第1の支持リング101は心臓弁の心房側に配置されてもよく、第2の支持リング102は心室側に配置されてもよい(第2の支持リング102はまた、図7bの上から見た図に破線で示されており、弁尖は省略されている)。第2の支持リング102は破線で示されており、これらの例では心臓弁の心室側に配置されているのに対して、第1の支持リング101は心臓弁の心房側に配置されている(図7bに実線で示されている)。したがって、第1の支持リング101は、心房側の心臓弁の弁輪に沿って延びることができる。第1の支持リング101および第2の支持リング102は、一体的な連続リングとして、コイル形状またはリング形状のリングを形成するように接続される。コイルは、弁の交連部302、302’で弁開口部を通って延びる。図7bの例では、コイルは302’として示されている交連部を通って延びているが、他の例では、弁輪形成装置100は302として示されている交連部を通って延び得ることが理解されるべきである。したがって、第1の支持リング101および第2の支持リング102は、埋め込まれた状態にあるときにもコイル状構成をとることができる。以下でさらに説明するように、装置100は形状記憶材料を含むことができ、したがって、装置100は、カテーテル(図示せず)から標的部位に送達された後、カテーテルの細長い構成に一時的に拘束された後でコイル状構成を再びとる。弁輪形成装置100、すなわち弁輪形成インプラント100は、NiTiNol(ニチノール)などの形状記憶材料、または熱処理手順において規定の形状に、すなわち外部の作用力がない規定の弛緩した形状にヒートセットされ得る別の適切な生体適合性合金を含むことができる。弁輪形成装置100は、第1の支持リング101と第2の支持リング102との間に、すなわち中心軸線103と平行に作用する力で弁尖301の組織を挟むことができる。
【0022】
弁輪形成装置100は、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の少なくとも一部の周囲に配置されたステント105、105a、105b、105cをさらに備える。図1は、3つのステント105a、105b、105cが第1の支持リング101および第2の支持リング102の各部分の周囲に配置されている例を示す。図2図4は、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の少なくとも一部の周囲に配置されるように構成されたステント105の他の詳細図である。弁輪形成装置100は、弁輪形成装置100の特定のインプラント部位に応じて様々な数のステント105を備えることができることが理解されるべきである。さらに、ステント105、105a、105b、105cによって覆われる第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の全長の比は、弁輪形成装置100の配置に応じて変わり得る。本開示ではステント105を参照しているが、図1に例示されるステント105a、105b、105cはいずれも、図2図10に関連してステント105について説明する特徴を含み得ることが理解されるべきである。ステント105の格子またはフレームワークは、NiTinolや他の生体適合性金属合金などの管状材料をレーザ切断することによって形成され、次いで、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に押し当てられてもよい。したがって、ステント105は、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102を収容するための中空内部を有する。ステントは、図1に概略的に示し、図3図5図10の詳細図に示すように、保持ユニット104、104’を備える。保持ユニット104、104’は、心臓弁の組織内に穿刺するように成形される。保持ユニット104、104’はステント105に対して固定され、ステント105は第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に対して固定され、ステント105は、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102上に配置される。したがって、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の少なくとも一部の周囲にステント105a、105b、105cが配置されると、弁輪形成装置100を弁組織に保持ユニット104、104’で固着することが可能になる。したがって、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102には、ステント105、105a、105b、105cを保持ユニット104、104’のための中間固定構造として利用することにより、強固な固着機構が設けられ、それにより、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に保持構造を直接取り付ける必要がなくなる。したがって、ステント105は、特に保持ユニット104、104’が後述するようにステント105と一体化される例では、互いに接合される必要がある別個の構造の数を減らすことができるので、弁輪形成装置100の固着機構の信頼性を高めることを提供する。したがって、弁輪形成装置100の長期信頼性を向上させることができる。したがって、別個の要素の数が最小限に抑えられるので、弁輪形成装置100の製造も容易になり得る。したがって、製造公差を順守するのがより容易になり得るとともに、全体的な複雑さおよび関連コストが低減され得るので、より実行可能な弁輪形成インプラント100が提供される。ステント105、105a、105b、105cおよび関連する保持ユニット104、104’を有する弁輪形成装置100があると、第1の支持リング101および第2の支持リング102のコア構造に、特定の用途に応じて様々な構成および形状の保持ユニット104、104’を有するステント105、105a、105b、105cを設けることができる、モジュール式弁輪形成装置100も提供される。したがって、弁輪形成装置100は、特定の患者および解剖学的状況に合わせてより容易に作ることができ、患者の安全性をさらに高めることができる。
【0023】
上で説明したように、保持ユニット104、104’は、ステント105の材料から形成され得る。したがって、保持ユニット104、104’はステント105と一体化され得る。図4cの詳細図は、保持ユニット104がステント105のフレームワークの一部としてどのように形成されるかの概略的な例である。したがって、保持ユニット104は、ステント105の構造フレームワーク内に自由先端107を有する細長い構造として切断され得る。図4cの例では、保持ユニット104は、ステント105の支持要素108によって囲まれている。図2図4の例は、菱形パターンまたはクローズドセル122で配置された支持要素108を示し、保持ユニット104は、ステント105の長さに沿った規定の位置で個々の菱形またはセル122の空隙内に延びる。したがって、ステント105は、図4d~図4eに示す例にさらに概略的に示されているように、クローズドセル122からなるステントフレームワークを形成する複数の支持要素108を備えることができる。セル122の複数の支持要素108のうちの第1の支持要素108aが、図4d~図4eに概略的に示されているように、ステント105の長手方向(L)に垂直な半径方向(R)に沿って保持ユニット104、104’として可動であり得る。したがって、図4d~図4eに示す保持ユニット104は、クローズドセル122を形成する支持要素108の一部であり得る。図4d~図4eは、それぞれ後退状態(p)(図4d)および拡張状態(p)(図4e)に配置された保持ユニット104、すなわち第1の支持要素108aを示す。保持ユニット104、または第1の支持要素108aは、拡張状態(p)で半径方向(R)に弓状構造のように拡張され得る。したがって、第1の支持要素108aの弓状の形状は、弁組織内に圧力を加え、弁輪におけるステント105の保持力を増大させるように構成され得る。保持ユニット104、または第1の支持要素108aは、図4dに例示されるように、後退状態(p)では波状形状に、またはそうでなければ湾曲形状もしくは折畳み形状に折り畳まれてもよい。
【0024】
支持要素108は、様々なパターンを形成するように切断され得ることが理解されるべきである。保持ユニット104、104’をステント105のフレームワークの一体構造として形成すると、堅牢で強固な保持ユニット104、104’となり、保持ユニットが経時的に転位または変形するリスクを最小限に抑えることができる。したがって、弁輪形成装置100の全体的に堅牢で信頼性の高い固定機構が提供される。上述したように、組立てを必要とする弁輪形成装置100の別個の要素の数が最小限に抑えられるので、製造も容易になる。保持ユニット104、104’は、組織内への把持力を最適化するための様々な形状を形成するように切断され得る。保持ユニット104、104’は、レーザ切断技術などの様々な切断技術によって形成され得る。
【0025】
保持ユニット104、104’は、保持ユニット104の拡張状態(p)を示す図4bまたは図4eの例に概略的に示されているように、規定の屈曲形状をとるようにヒートセットされ得る。したがって、拡張状態(p)は、保持ユニット104が外力によって作用されていない、保持ユニットの弛緩状態に対応することができる。保持ユニット104は、保持ユニット104が拡張状態(p)で規定の形状をとるように、製造中に曲げられ、熱処理され得る。したがって、保持ユニット104は、弛緩した拡張状態(p)になることを試みることにより、拡張状態(p)に向けて偏倚することができる。
【0026】
したがって、保持ユニット104、104’は、後退状態(p)から拡張状態(p)に弾性的に可動であり得る。例えば、例えば送達カテーテル(図示せず)がステント105および関連する保持ユニット104上に圧縮力を加える場合、図4aに例示されるように、保持ユニットが屈曲し後退位置または後退状態(p)をとるように保持ユニット104に力を加えることができる。ステント105が送達カテーテルから取り出されるときに、弁輪形成装置100が送達カテーテルから展開されると、圧縮力が除去され、保持ユニット104の弾性が保持ユニットを拡張状態(p)に向かって移動させる。これは、弁輪形成装置100の第1の支持リング101および第2の支持リング102が送達カテーテルから取り出されるときに、保持ユニット104、104’の効果的な展開を提供する。したがって、保持ユニット104、104’は、拡張し、弁組織内に穿刺することができる。弁輪形成装置100の断面は、保持ユニット104、104’が送達カテーテルの内側に配置されたときに後退状態(p)をとることができるので、最小化され得る。断面がさらに小さくなると、心臓内の標的部位への弁輪形成装置100の誘導が容易になる。送達カテーテルはまた、保持ユニット104、104’が送達カテーテル内で後退状態(p)をとると、先端107と送達カテーテルの内腔との間の摩擦を低減させることができるので、保持ユニットから受ける摩滅および摩耗を低減することができる。摩擦が減少すると、送達カテーテルに沿って弁輪形成装置100を移動させるのも容易になるので、必要な力が小さくなり、制御量が向上する。
【0027】
したがって、保持ユニット104、104’は、拡張状態(p)から後退状態(p)に屈曲するように可撓性であり得る。これにより、埋め込みが中止されるかまたは再配置が必要とされる場合に備えて、弁輪形成装置100を送達カテーテル内へ引き込めば保持ユニット104、104’が後退状態(p)にたわむことも可能になる。したがって、弁輪形成装置100は、コンパクトな断面プロファイルを再びとることができる。
【0028】
一例では、保持ユニット104、104’は、形状記憶材料を含むことができ、形状記憶材料が作動すると、保持ユニット104、104’を後退状態(p)から拡張状態(p)に移行させる。例えば、形状記憶材料は、保持ユニット104、104’が体温まで加熱されたときに拡張状態(p)に向かって移動するように、温度作動することができる。これは、いくつかの用途において、保持ユニット104、104’の有利な展開を提供する。
【0029】
保持ユニット104、104’は、図4aまたは図4dに概略的に示すように、後退状態(p)でステント105の外径(D)と本質的に面一に整列され得る。これは、弁輪形成装置100のコンパクトな断面プロファイル、ならびに送達カテーテルの内腔に対する保持ユニット104、104’の高圧および摩耗のリスクの低減を提供する。
【0030】
ステント105は、ステント105が第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に力(F)を及ぼすように、ステント105の長手方向(L)に垂直な半径方向(R)に沿って半径方向に収縮可能であり得る。ステント105の半径方向(R)および長手方向(L)は、図3に概略的に示されている。図5a~図5bに示す例は、弁輪形成装置100の断面図であり、第1の支持リング101または第2の支持リング102の周囲に配置されたステント105と拡張状態(p)の保持ユニット104とを示す。したがって、ステント105は、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に向かって半径方向に収縮可能であり、それにより、図5a~図5bの説明図に矢印Fで示されているように、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に力(F)を及ぼすことができる。したがって、ステント105は、力(F)がステント105と第1の支持リング101および/または第2の支持リング102との間に摩擦を生じさせるので、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に対して定位置をとることができる。したがって、ステント105のフレームワークは、半径方向(R)の動きを可能にするために切断され得る、すなわち、フレームワークの支持要素108が互いに対して移動することが可能になり、したがって、図8a~図8bおよび図9a~図9bを参照してさらに説明するように、ステント105の直径(D)は可変である。ステント105は、ステント105が半径方向に伸長された状態に拡張され得るように、半径方向(R)に弾性的に拡張可能であり得る。次いで、ステント105は、内径が半径方向に伸長された状態での内径よりも小さい収縮された弛緩状態になることを試みることができる。半径方向に伸長された状態での内径は、d(例えば、図5a~図5b参照)で表されてもよく、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の外径(d)以上であってもよい。したがって、ステント105は、半径方向に伸長された状態にあるとき、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の上に配置され得る。したがって、ステント105は、小内径を有する収縮された弛緩状態になることを試み、それに応じて、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に前述の力(F)を及ぼす。これは、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に対するステント105の位置の容易な固定を提供する。図5aの例は、以下でより詳細に説明するように、ステント105と第1の支持リング101および/または第2の支持リング102との間のカバー106を示す。したがって、dとdとの差は、この場合はさらに大きい。
【0031】
ステント105は、一例では形状記憶材料を含むことができる。形状記憶材料が作動すると、ステント105を半径方向Rに沿って小径に収縮させて、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に力(F)を加えることができる。例えば、形状記憶材料は、ステント105が体温まで加熱されたときに小内径になることを試みるように、温度作動することができる。これは、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に及ぼされる力(F)を増大させて、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102へのステント105の確実な固定を実現することを提供する。
【0032】
図8a~図8bおよび図9a~図9bは、半径方向に収縮可能かつ拡張可能なステント105の例を示す。ステント105は、ステント105の外径(D、D)が拡張径(D)と収縮径(D)との間で可変であるのに対して、ステント105の所定の長さ(L)が本質的に維持されるように、収縮可能かつ拡張可能であるように構成された支持要素108を備えることができる。したがって、支持要素108が動きを受け、直径がDとDとの間で変化するときに、ステント105の全体の長さ(L)は固定され得る。図8a~図8bおよび図9a~図9bは、ステント105の一部分の長さLを示しているが、これは、ステント105の長手方向(L)の全体の長さ、すなわち全長に対応し得ることが理解されるべきである。したがって、ステント105は、直径(D、D)が変化するときに、長手方向(L)に限られた収縮を示すか、または収縮を示さない。ステント105は、ステント105の長さ(L)の変動を全く受けないかまたはほとんど受けずに、Dまで拡張され、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102上に配置され、続いてDまで後退されて半径方向内方に力を加え、それにより、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102上のステントの位置を固定することができる。これは、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102上でのステント105の容易でより正確な配置を提供する。したがって、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102を覆うステント105の位置および被覆率は向上した精度で予測され得るので、異なる寸法の第1の支持リング101および第2の支持リング102に合わせてステント105を作るのが容易になる。
【0033】
支持要素108は、主にステント105のフレームワーク全体の半径方向(R)の動きを、長手方向(L)の限られた動きでまたは動きなしに可能にするように構成された異なる形状を有することができる。図8a~図8bは、支持要素108がS字形状に湾曲している例を示す。S字形支持要素108は、半径方向(R)に力を加えると、ステント105が図8aにおいて拡張径(D)をとるように伸張される。外力が解放されると、S字形支持要素108は、ステント105が図8bにおいて収縮径(D)をとることができるように再び収縮することができる。ステント105の長さLは変わらない。ステント105の長さ(L)にほとんど影響しないはずのいくらかの動きが起こり得るが、半径方向(R)の動きは、長手方向(L)の動きよりも著しく大きいことが理解されるべきである。半径方向(R)の動きと長手方向(L)の動きとの比は、例えば、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102上でのステント105の特に有利で改善された固定のために5:1~10:1の範囲内とすることができる。支持要素108は、C字形状やZ字形状など、既述のように半径方向の動きを可能にする異なる形状に湾曲され得ることが考えられる。
【0034】
図9a~図9bは、支持要素108が弓形に湾曲している例を示す。弓形支持要素108またはS字形支持要素108は、ステント105の本質的に円筒形の形状を形成するように配置され得る。したがって、支持要素108は、概して、このような円筒形状の表面全体にわたって延びることができる。弓形支持要素108は、半径方向(R)に力を加えると、ステント105が図9aにおいて拡張径(D)をとり得るように伸張され得る。外力が解放されると、弓形支持要素108は、ステント105が図9bにおいて収縮径(D)をとり得るように再び収縮することができる。上述したように、ステント105の長手方向(L)の動きは、半径方向(R)の動きに比べて全くないか、またはほんのわずかである。
【0035】
図8a~図8bおよび図9a~図9bに例示されるように、支持要素108は、本質的にステント105の長手方向(L)に沿って延びる細長い主フレーム121を備えることができる。細長い主フレーム121は、ステント105の前述の所定の長さ(L)を規定することができる。したがって、細長い主フレーム121は、ステント105の外径が拡張径(D)と収縮径(D)との間で変化するときに、長手方向(L)に本質的に決まった位置をとることができる。これは、ステント105の長手方向(L)の長さを効果的に制御することを提供する。
【0036】
図10a~図10dは、異なる支持要素108および保持ユニット104を有するステント105の例を示す。図10a~図10bは、支持要素108がS字形をしている例を示す。保持ユニット104は、上述したように、また図10aに概略的に示すように、拡張可能な弓形部として成形され得る。後退状態(p)、ならびに弓形部が破線で示されている拡張状態(p)が示されている。保持ユニット104は、図4d~図4eに関連して説明したように、支持要素108の一部であり得る。既述のように、支持要素108は、細長い主フレーム121を備えることができる。後者の場合、保持ユニット104は、細長い主フレーム121の一部であり得る。図10bは、保持ユニット104が拡張可能なプロングまたはフック状構造として成形され得る例を示す。後退状態(p)、ならびにプロングまたはフック状構造が破線で示されている拡張状態(p)が示されている。図10c~図10dは、弓状(図10c)またはフック状(図10d)の保持ユニット104がステント105の弓状支持要素108上に配置されているさらなる例を示す。後退状態(p)ならびに拡張状態(p)が示されている。保持ユニット104は、ステント105が収縮した外径(D)を有するときに、例えば、ステント105を弁組織内に固着するために第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に固定されると、後退状態(p)と拡張状態(p)との間で可動であってもよい。
【0037】
弁輪形成装置100は、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の少なくとも一部の周囲に配置されたカバー106を備えることができる。カバー106は、弁輪形成装置100の上の内皮化および細胞の内方成長を促進するように構成され得る。例えば、カバー106は、弁輪形成装置100を覆う細胞の成長を促進する、第1の支持リング101および第2の支持リング102の表面よりも多孔性の表面を有することができる。カバー106は、織物またはポリマーの織布を備えることができる。ステント105は、カバー106の少なくとも一部の周囲に配置され得る。カバー106は、第1の支持リング101および第2の支持リング102の全長の周囲に配置され得る。
【0038】
ステント105は、図5aの概略図に例示されるように、カバー106がステント105と第1の支持リング101および/または第2の支持リング102との間に挟まれるようにカバー106に力を及ぼすことができる。ステント105と第1の支持リング101および/または第2の支持リング102との間に挟まれたカバー106を有することにより、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に対するカバー106およびステント105の位置の確実な固定を実現することが可能になる。したがって、ステント105は、力(F)が半径方向内方に及ぼされ、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の外面に対してカバー106を挟むように、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の周囲にカバー106が配置されるときに、カバーの外径よりも小さい内径になることを試みることができる。ステント105が温度作動形状記憶材料から形成される場合、ステント105は、ステント105が体温に加熱されるにつれて半径方向内方に力(F)を増大させることができ、これは、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102に対するステント105の固定の強度をさらに増大させる。
【0039】
第1の支持リング101は、第1の後方弓形部113および第1の前方部分114を備えることができる。第2の支持リング101は、第2の後方弓形部113’および第2の前方部分114’を備えることができる。第1の後方弓形部113および第2の後方弓形部113’は、心臓弁の後態様に適合するように、すなわち後尖に沿って構成されて、弓形の延長部を有することができる。第1の前方部分114および第2の前方部分114’はそれぞれ、より真っ直ぐな延長部、または少なくとも弓形後方側113、113’より屈曲が少ない延長部を有することができる。これは図7bに例示されている。したがって、第1の前方部分114および第2の前方部分114’は、心臓弁の前態様に適合するように、すなわち前尖に沿って構成され得る。既述のように、図7aに例示されるように、第1の支持リング101は、心臓弁の心房側に配置されるように構成されてもよく、第2の支持リング102は、心臓弁の心室側に配置されるように構成されてもよい。図7bは上から見た概略図を示し、第2のリング102は破線で示され、第1のリング101は実線で示されている。第1のリング101と第2のリング102との間の移行点は、図7bの例では302’で示された交連部にある。
【0040】
第1の前方部分114は、前方ステント105cを備えることができる。前方ステント105cは、図1に概略的に示すように、第2の支持リング102に向かって延びる複数の保持ユニット104を備え、保持ユニットは拡張状態(p)にある。第2の前方部分114’は、図1の例にさらに示すように、保持ユニット104のない滑らかな表面を備えることができる。これは、心房側で第1の前方部分114を組織内に確実に固着することを提供し、同時に、心室内で第2の前方部分114’に沿って組織が損傷するリスクが最小限に抑えられる。
【0041】
第1の後方弓形部113は、第1の後方ステント105aを備えることができる。第1の後方ステント105aは、図1に概略的に示すように、第2の支持リング102に向かって延びる第1の複数の保持ユニット104を備えることができ、保持ユニットは拡張状態(p)にある。第2の後方弓形部113’は、第2の後方ステント105bを備えることができる。第2の後方ステント105bは、第1の複数の保持ユニット104に向かう方向に延びる第2の複数の保持ユニット104’を備えることができる。したがって、第1の複数の保持ユニット104および第2の複数の保持ユニット104’は、軸線方向103に沿って相対する方向に延びることができる。第1の後方弓形部113および第2の後方弓形部113’に沿った両側に保持ユニット104、104’を有することにより、弁輪形成装置100が弁に固定されるようにする保持力および強度を高めることが可能になる。保持ユニット104、104’は、心臓弁の両側から組織に係合して、半径方向に、すなわち軸線方向103と垂直に強い保持力を生成する。第1の支持体101および第2の支持体102は、保持ユニット104、104’が組織内に押し込まれるように、弁の両側から組織を挟む。保持ユニット104、104’は、挟持力が低下しても所望されるように弁輪を成形することができる、というのは、保持ユニット104、104’は、前述の保持力により弁輪の形状を半径方向に固定することができるからである。これは、短期的にも長期的にも、心臓弁におけるさらに信頼性の高い埋め込みを提供する。
【0042】
各個々の保持ユニット104、104’は、組織への損傷を最小限にするために、短い距離で組織内に係合または穿孔することができる。すべての保持ユニット104、104’から生成された保持力と摩擦の和が、依然として組織内への強力な固定を提供する。各個々の保持ユニット104、104’の寸法は比較的小さいため、瘢痕の治癒は迅速である。これは、弁輪形成装置100の非外傷性で依然として確実な固定を提供する。したがって、保持ユニット104、104’は、弁輪形成装置100を横切る複数の点での組織固定を提供することができ、その結果、固定点あたりの力が低減され、かさばる縫合装置または結節形成装置が不要になる。さらに、冠動脈閉塞または冠静脈洞穿孔のリスクがない。したがって、弁輪形成装置100は、手術を容易にするとともに、縫合よりも時間のかからない処置を提供する。
【0043】
後方弓形部113、113’および第1の前方部分114に沿って複数の別個のステント105a、105b、105cが配置されると、それらの間に延びる中間部分109からステント105a、105b、105cを変位させることがさらに可能になる。図1に示されている中間部分109は、後方弓形部113、113’および前方部分114、114’よりも大きい曲率半径を有する。中間部分109から一定の距離を置いてステント105a、105b、105cが配置されると、第1の支持リング101および第2の支持リング102の中間部分109に沿ったより大きな可撓性と、中間部分に沿った容易な曲げと、を維持することが可能になる。
【0044】
保持ユニット104、104’は、図1および図2に例示されるように、ステント105、105a、105b、105cに沿って均等に離間され得る。固定点のこうした均等な分散は、組織への確実な固着を提供して、局所的な圧力ピークのリスクを最小限に抑える。しかしながら、保持ユニット104、104’のそれぞれの間の距離は、異なる解剖学的構造への弁輪形成装置100の固着を最適化するために変更され得ることが理解されるべきである。第1の前方部分114および/または第2の前方部分114’はそれぞれ、5~6個の保持ユニット104、104’を有することができる。第1の後方部分113および/または第2の後方部分113’はそれぞれ、6~8個の保持ユニット104、104’を有することができる。これは、全体的な組織穿通を最小限に抑えながら、組織への特に効率的な固定を提供することができる。しかしながら、保持ユニット104、104’の数は、異なる解剖学的構造および異なるサイズの弁への弁輪形成装置100の固着を最適化するために変更され得ることが理解されるべきである。一例では、保持ユニット104、104’の長さは、0.5~1.5mmの範囲内である。別の例では、保持ユニット104、104’の長さは、1.0mmなどの0.8~1.2mmの範囲内であり、これは、送達カテーテルを介して展開するのが容易でありながら、組織内への特に有利な固定を提供することができる。
【0045】
第1の支持リング101は、図6に示すように、移行部120を経由して第2の支持リング102へ移行することができる。ステント105は、より明確な説明のために図6から省略されている。移行部120は、図7bに示すように、心臓弁尖の交連部302、302’に、例えば交連部302’に配置されるように構成される。第1の支持リング101および第2の支持リング102はそれぞれ、中心軸線103に対して本質的に垂直である第1のコイル平面101’および第2のコイル平面102’内に延びる。移行領域120は、第1のコイル平面101’が移行領域120において中心軸線102に沿って(すなわち、中心軸線に平行な方向に沿って)第2のコイル平面102’から距離(d)だけ隔てられるように、中心軸線103に沿って少なくとも部分的に屈曲することができる。コイル平面101’、102’が距離(d)だけ局所的に変位しているところにかつ交連部302、302’の場所に対応する位置にそのような移行部120があると、特に心臓が鼓動するときに、第1の支持リング101および第2の支持リング102が弁の両側にある解剖学的構造に適応するのが改善される。これにより、ステント105、105a、105b、105cの保持ユニット104、104’は、第1の支持リング101および第2の支持リング102が解剖学的構造に適応するときに、組織内に効果的に穿刺することが可能になる。
【0046】
さらに、分離距離(d)に起因して移行領域120にコイル平面101’、102’の降下部または「S字形状」もしくは「Z字形状」を有することにより、交連部302、302’における第1の支持リング101および第2の支持リング102のより良好な接合が提供される。すなわち、心房側にある第1の支持リング101の第1のコイル平面101’が、変位(d)に起因して移行領域120においてより短い距離で第2の支持リング102の第2のコイル平面102’へ移行するため、動いている弁尖が交連部302、302’で支持リング101、102のいずれかを引き寄せるリスクは最小限に抑えられる。これは、第1の支持リング101および第2の支持リング102が、交連部302、302’に近接する弁の両側により良好に適合し得ることを意味する。したがって、弁輪形成装置100は、転位のリスクを最小限に抑えながら、より安全な方法で弁に固定され得る。移行部120の位置は、どの交連部302、302’、第1の支持リング101/第2の支持リング102が弁尖を通って延びるかに応じて変更され得る。したがって、移行部120は、第1の支持リング101および第2の支持リング102の残りの部分に比べて、中心軸線103に対して増大した傾斜またはピッチを有することができる。
【0047】
移行部120は、第1の支持リング101および第2の支持リング102のコイル状構成の半径方向(r)に沿って少なくとも部分的に屈曲していてもよく、半径方向(r)は中心軸線103に対して垂直であり、したがって、移行部120は半径方向(r)に向かって凹状である。半径方向(R)に向かう移行部120のそのような凹状の屈曲、すなわち「C曲線」により、交連部302、302’に近接する弁解剖学的構造への第1の支持リング101および第2の支持リング102の接合をさらに改善することができる。交連部302、302’において、動いている弁尖と支持リング101、102のいずれかとの間に不利な力伝達または摩擦が生じるリスクが最小限に抑えられる。移行部120の凹状屈曲部により、交連部302、302’が弁輪よりも中心軸線103の近くに位置している解剖学的構造に適合することが可能になるので、第1の支持リング101および第2の支持リング102は、弁運動への影響を最小限に抑えて、交連部302、302’を通って延びながらできる限り弁輪に沿って延びることができる。したがって、弁輪形成装置100は、長期的な転移のリスクを最小限に抑えながら、さらに改善された方法で弁に固定され得る。
【0048】
第1の支持リング101および第2の支持リング102は、図1に示すように、それぞれ自由端116および116’を有することができる。自由端116、116’は、生来の心臓弁尖の両側に配置されるように構成され得る。2つの自由端116、116’は、コイル平面内に延びる周辺オフセット距離で互いに変位させられ得る。コイル平面は、第1の支持リング101および第2の支持リング102によって形成されるコイルの環状外周に実質的に平行であり、かつ軸線方向103に垂直である。したがって、コイル平面は、コイル状構成にあるときに装置100の環状外周がまたがる平面に対応する。したがって、2つの自由端116、116’の間の周辺オフセット距離は、中心軸線103に対して実質的に垂直に延びる。これは、装置100が心臓弁の弁輪の周囲に埋め込まれた状態で配置されると、2つの自由端116、116’が弁の平面に沿って分離されることを意味する。弁の平面内にそのようなオフセット117があると、第1の支持リング101または第2の支持リング102の長さが短くなるので、第1の支持リング101または第2の支持リング102が弁運動と干渉するリスクがあるかもしれないいくつかの解剖学的構造において有利であり得る。
【0049】
欠陥のある心臓弁を修復する方法200が開示される。本方法200は、図1図10に関連して図11aに概略的に示されている。ステップが記載されている順序は、限定するものと解釈されるべきではなく、ステップの順序は特定の処置に応じて変更され得ることが考えられる。本方法200は、弁輪形成装置100の第1の支持リング101を心臓弁の心室側に配置すること201と、弁輪形成装置の第2の支持リング102を心臓弁の心房側に配置すること202と、を含む。したがって、第1の支持リングおよび第2の支持リングは、心臓弁の交連部302、302’を通って延びるコイルとして配置される。第1の支持リング101および/または第2の支持リング102は、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の少なくとも一部の周囲に配置されたステント105、105a、105b、105cを備える。ステントは、保持ユニット104、104’を備える。本方法200は、保持ユニット104、104’が心臓弁の組織内に係合される204ように、第1の支持リング101および/または第2の支持リング102の前述の部分に沿って弁組織に当接してステント105を配置すること203を含む。本方法200は、弁輪形成装置100および図1図10に関して上述したように有利な利点を提供する。本方法200は、ステント105、105a、10b、105cおよびそれに固定された保持ユニット104、104’によって提供される堅牢で信頼性の高い固定機構により、弁輪形成装置100を心臓弁に容易に固着することを可能にする。
【0050】
別の方法200が、図11bに概略的に示されている。本方法200は、前方ステント105cを心房側に第1の支持リング101の第1の前方部分114に沿って配置すること2031と、第1の後方ステント105aを心房側に第1の支持リング101の第1の後方弓形部113に沿って配置すること2032と、を含むことができる。本方法200は、第2の後方ステント105bを心室側に第2の支持リング102の第2の後方弓形部113’に沿って配置すること2033をさらに含むことができる。
【0051】
本方法200は、前方ステント105cの保持ユニット104を心房側の弁組織内に係合させること2041と、第1の後方ステント105aの保持ユニット104および第2の後方ステント105bの保持ユニット104’をそれぞれ、心房側の弁組織および心室側の弁組織に係合させて、弁輪形成装置100を心臓弁に固着すること2042と、をさらに含むことができる。したがって、図1図10を参照してさらに上述したように、心臓弁尖の両側に弁輪形成装置を確実に固定することが提供される。
【0052】
本方法200は、送達カテーテル(図示せず)から第1の支持リングおよび第2の支持リングを取り出すこと2021によって、第1の支持リング101および第2の支持リング102をそれぞれ、心臓弁の心房側および心室側に配置し、そこで、第1の支持リング101および第2の支持リング102が送達カテーテルから取り出されるにつれて保持ユニット104、104’が後退状態(p)から拡張状態(p)に移動することを含むことができる。
【0053】
保持ユニット104、104’は、第1の支持リング101および第2の支持リング102が送達カテーテルの場合に管腔に沿って移動するときに、後退状態(p)でステント105、105a、105b、105cの外径(D)と本質的に面一に整列され得る。
【0054】
以上、本発明について特定の実施形態を参照して説明してきた。しかしながら、上述した以外の実施形態も、本発明の範囲内で等しく可能である。本発明の異なる特徴およびステップは、記載されたもの以外の組合せで組み合わせることができる。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。より一般的には、当業者なら、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示的であるものとすること、ならびに実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成が、本発明の教示が使用される特定の1つまたは複数の用途に依存すること、を容易に理解するであろう。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図5a
図5b
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図10a
図10b
図10c
図10d
図11a
図11b
【国際調査報告】