(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-12
(54)【発明の名称】メカニスティックイオン交換クロマトグラフィモデル較正
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20240104BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
G01N30/86 P
G01N30/02 B
G01N30/86 B
G01N30/86 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532725
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 IB2021061322
(87)【国際公開番号】W WO2022123412
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】513105328
【氏名又は名称】アムジェン リサーチ (ミュニック) ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレーザー,ユリアーネ・ドロテーア
(57)【要約】
方法であって、カラム前に第1の分散プラグフロー反応器(DPFR)及び連続攪拌槽反応器(CSTR)及びカラム後に第2のDPFRを含むクロマトグラフィ機で、第2のDPFRと関連する幾何学的測定値を取得することと、プロセッサにより、幾何学的測定値に基づいて第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送モデルパラメータを生成することと、クロマトグラフィ機にトレーサ分子を供給することと、クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づいて、1つ又は複数のトレーサ分子測定値を捕捉することと、プロセッサにより、第2のDPFRと関連する輸送モデル及びクロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの1つ又は複数の輸送モデルパラメータを推定することとを含む方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
カラム前に第1の分散プラグフロー反応器(DPFR)及び連続攪拌槽反応器(CSTR)及びカラム後に第2のDPFRを含むクロマトグラフィ機で、前記第2のDPFRと関連する幾何学的測定値を取得することと、
プロセッサにより、前記幾何学的測定値に基づいて前記第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送モデルパラメータを生成することと、
前記クロマトグラフィ機にトレーサ分子を供給することと、
前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記トレーサ分子に基づいて、1つ又は複数のトレーサ分子測定値を捕捉することと、
前記プロセッサにより、前記第2のDPFRと関連する前記輸送モデル及び前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記トレーサ分子に基づく前記1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、前記第1のDPFR及び前記CSTRと関連する輸送モデルの1つ又は複数の輸送モデルパラメータを推定することと、
を含む方法。
【請求項2】
実験試料を前記クロマトグラフィ機に供給することと、
前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記実験試料に基づいて1つ又は複数の実験測定値を捕捉することと、
前記プロセッサにより、前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記実験試料に基づく前記1つ又は複数の実験測定値、前記第1のDPFR及び前記CSTRと関連する前記輸送モデルの前記推定された1つ又は複数の輸送モデルパラメータ、並びに前記第2のDPFRと関連する前記輸送モデルの前記輸送パラメータに基づいて、前記実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記幾何学的測定値は、前記第2のDPFRと関連する管直径測定値及び管長測定値を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ又は複数のトレーサ分子測定値は、前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記トレーサ分子と関連するクロマトグラムに基づいて捕捉される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ又は複数の実験測定値は、前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記実験試料と関連するクロマトグラムに基づいて捕捉される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記プロセッサにより、前記実験試料と関連する前記吸着モデルに基づいて前記実験試料を識別することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記実験試料と関連する前記吸着モデルの前記1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することは、まず、前記実験試料と関連する第1の吸着モデルの第1の1つ又は複数の吸着パラメータを推定することであり、前記方法は、
前記プロセッサにより、前記実験試料と関連する前記第1の吸着モデルの前記第1の1つ又は複数の結合パラメータと関連する範囲に基づいて、前記実験試料と関連する第2の吸着モデルの第2の1つ又は複数の吸着パラメータを第2に推定することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記プロセッサにより、前記実験試料と関連する前記第2の吸着モデルに基づいて前記実験試料を識別することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記カラム前の前記第1のDPFR及びCSTR並びに前記カラム後の前記第2のDPFRは、前記クロマトグラフィ機の流入路の一部であり、前記クロマトグラフィ機は、試料流路カラム前の第1のDPFR及びCSTR並びに前記試料流路カラム後の第2のDPFRを有する試料流路を更に含み、請求項1に記載の工程は、前記試料流路カラム前の前記第1のDPFR及び前記CSTR並びに前記試料流路カラム後の前記第2のDPFRで更に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記実験試料は第1の実験試料であり、前記方法は、
第2の実験試料を前記クロマトグラフィ機に供給することと、
前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記第2の実験試料に基づいて1つ又は複数の第2の実験測定値を捕捉することと、
前記プロセッサにより、前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記第2の実験試料に基づく前記1つ又は複数の第2の実験測定値に基づいて、前記第1のDPFR及び前記CSTRと関連する前記輸送モデルの前記推定される1つ又は複数の輸送モデルパラメータ、前記第2のDPFRと関連する前記輸送モデルの前記輸送パラメータ、前記第2の実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することと、
を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の実験試料は前記第1の実験試料とは別個である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記輸送モデルパラメータは、DPFRにおける分散係数、DPFRの容積、DPFRの断面積、及びCSTRの容積の1つ又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記吸着モデルパラメータは、吸着係数、脱着係数、特性電荷、及び遮蔽因子の1つ又は複数を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記プロセッサにより、前記第1のDPFR及び前記CSTRと関連する前記輸送モデル、前記第2のDPFRと関連する前記輸送モデル、及び前記クロマトグラフィ機を通って移動している前記トレーサ分子に基づく前記1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、前記クロマトグラフィ機の前記カラムと関連するカラム特有輸送モデルの1つ又は複数のカラム特有輸送モデルパラメータを推定することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記カラム特有輸送モデルパラメータは、カラム有孔率及びカラム分散率の1つ又は複数を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記プロセッサにより、前記カラム特有輸送モデル、前記第1のDPFR及び前記CSTRと関連する前記輸送モデル、前記第2のDPFRと関連する前記輸送モデル、及び前記クロマトグラフィ機を通って移動する前記トレーサ分子に基づく前記1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、前記クロマトグラフィ機の樹脂粒子と関連する樹脂輸送モデルの1つ又は複数の樹脂輸送パラメータを推定することを更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記樹脂輸送パラメータは、各成分のフィルム輸送係数及びポア有孔率の1つ又は複数を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することは、カラム特有輸送モデル又は樹脂輸送モデルの1つ又は複数に更に基づく、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記トレーサ分子はデキストランである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記トレーサ分子はNaClである、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記トレーサ分子はDNA分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記トレーサ分子はナノ粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
プロセッサと、前記プロセッサにより実行されると、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法の工程をコンピュータシステムに実行させる命令を記憶した1つ又は複数のメモリとを含むコンピュータシステム。
【請求項24】
プロセッサにより実行されると、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法の工程を前記プロセッサに実行させる命令を記憶した非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年12月9日付けで出願された「Mechanistic Ion-Exchange Chromatography Model Calibration」という名称の係属中の米国仮特許出願第63/123,170号の優先権を主張するものであり、この仮特許出願の全開示は参照により本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、一般的には、クロマトグラフィ機のメカニスティックイオン交換クロマトグラフィモデルの較正に関する。
【背景技術】
【0003】
生物製薬業界は、大量のデータの記憶及び解釈が可能な強力なプロセッサ及び大容量ハードドライブの導入に伴い、ここ数十年間でデジタルバイオマニュファクチャリングの分野で大きく進歩した。プロセス開発及び分析を支援するデジタルツールが急速に進化して、プロセスの性能及び効率を改善してきた。予測モデルの適用により、プロセス開発中の設計空間のin silico探索が可能になるとともに、製造環境でのリアルタイムでの制御戦略の改善が可能になる。
【0004】
クロマトグラフィは、生体分子の下流処理中、分子の分離及び精製に使用される方法であり、生物製剤の精製における重要な工程である。クロマトグラフィを使用し、生体分子の質量、サイズ、又は電荷の違いに基づいて異なる分子を分離する多孔性充填ベッドを使用して生体分子溶液を精製し、濃縮することができる。イオン交換(IEX)クロマトグラフィは、クロマトグラフィ材料と分子との間のイオン相互作用に基づく精製工程であり、充填材料の表面上の帯電部位を使用し、表面上の帯電部位に基づいて生体分子を吸着することを含む。陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィは、吸着体の表面上の負帯電部位を使用して、生体分子表面上の正帯電部位に基づいて生体分子を吸着するイオン交換クロマトグラフィモードである。吸着された生体分子は、イオン強度を上げたバッファー溶液の使用を通して分子の表面親和性を下げることによって溶離することができる。
【0005】
2004年に米国食品医薬品局(FDA)によって記述されたクオリティバイデザイン(QbD)手法は、プロダクトクオリティ要件構築の概念を生産プロセスに導入する。それに続く数年で、医薬品規制調和国際会議(ICH)がQbD手法を承認し、創薬プロセスの系統的手法及び科学原理を定義する指針を導入した。
【0006】
CEX工程の生物製薬プロセス開発の規制当局監視要件は別にして、技術的問題も生じ、より大きな規模への技術的移行、プロセス改善、及びプロセス特徴付けはリソース集約的なタスクになる。
【0007】
加速した厳密なタイムラインにより、プロセスロバスト性及び最大分子回収のための厳密な制約を満たしながら、最大の収率及び純度を可能にするプロセスパラメータを見つけるためにプロセス設計空間を綿密に探索する余地は略残されない。人類初(FIH)の研究の初期段階においてそのような条件下で開発されたプロセスは、その時点で要求された全ての制約を満たしているが、後に品質、量、又はコストの需要が変化した場合、スケーラビリティを欠く可能性がある。
【0008】
結果として、材料の消費を低減するとともに、収率及び分子純度等のプロセス性能を上げるクリティカルプロセスパラメータを識別するために、高リソースレベルを必要とする反復実験が必要となる。最も有望なプロセスパラメータ範囲前後に的を絞った実験を可能にする初期プロセス開発段階に統合することができる方法は、加速したタイムライン条件下で性能及びスケーラビリティに関してより最適なプロセスへ導くために役立つことができる。
【0009】
メカニスティックモデルは、クロマトグラフィ分離プロセスの知識ベースのプロセス開発、プロセス最適化、予測プロセス制御、及びプロセス理解の獲得に使用されるツールである。メカニスティックモデルは、広いプロセス範囲にわたる重要なプロセス出力及びプロセス性能指標の予測を提供する。特に、メカニスティックCEXクロマトグラフィモデリングは、分子の輸送及び溶出挙動を記述し、クロマトグラフィ工程の挙動を予測する第1原理に基づく有用なツールである。装入因子又は溶出勾配等のプロセスパラメータの設計空間を探索するためにプロセス開発においてCEXクロマトグラフィモデルを適用することで、反復実験の労力を低減することができる。更に、メカニスティックモデリングは、治療用タンパク質とその不純物の分離に影響するメカニズムについての洞察を獲得する機会を提供する。この知識は、開発中に意思決定のために情報を与え、生産品質及びプロセス性能を最適化するために使用することができる。基本的に、メカニスティックモデリングは、プロセスの設計及び最適化に有用な科学に基づくツールを提供する。一例では、メカニスティックCEXクロマトグラフィモデリングは、勾配傾き、収集基準、及び装入因子等のCEX工程パラメータについての決定を行うために利用することができる。しかしながら、メカニスティックモデルは、小規模及び大規模分離プロセスで十分な予測性を提供するために、事前知識及び綿密な較正プロセスを必要とする。特に、メカニスティックモデルは、各プロセス工程の十分に定義された数学的記述を必要とする。プロセス最適化、プロセス調査、及び性能査定又はモデルベースの制御にメカニスティックモデルを使用し、メカニスティックモデルのワークフローを示唆する幾つかの研究が存在している。
【0010】
生物製薬のクロマトグラフィ工程を記述することができる幾つかのモデルが利用可能である。クロマトグラフィプロセスの最初の数学的記述の1つは、経験式を用いて石炭及びシリカゲルへのCO2の吸着を記述した。それ以降、クロマトグラフィモデルは、第1原理に基づいて物質移動動力学への多くの考えられる寄与を含むように更に発展した。重要な工程は一般率モデル(GRM)の開発である。GRMは、液体クロマトグラフィシステムにおける強制対流(圧送による)等の動力学的輸送現象、分子拡散、及び分子吸着の組合せを記述する。それにより、以前の簡易化版(例えば理想的なモデル及びトーマスモデル)よりもクロマトグラフィカラム内の輸送現象を詳細に記述することが可能になる。クロマトグラフィ材料の孔サイズよりも小さな分子の場合、集中孔モデル(POR:lumped pore model)はGRMの適した簡易化であることができる。
【0011】
吸着体への生体分子の吸着は、吸着モデルによって記述することができる。ここでも、クロマトグラフィに適用可能であると証明されている膨大な数のモデルが利用可能である。初期吸着モデルは、有限容量を有する表面への濃度依存吸着を可能にするラングミュアモデルである。吸着挙動モデリングにおける更なる節目は、立体質量作用(SMA)モデルである。その方程式では、イオン強度、結合部位の立体遮蔽、及び分子混合物の吸着挙動へのイオン相互作用によって生じるクロマトグラフィ材料への生体分子の親和性の影響が可能である。幾つかの研究では、イオン交換クロマトグラフィへのSMAモデルの適用成功が示されている。高カラム装入等の非理想的なプロセス条件下であっても、非直観的吸着挙動を記述することができる詳細なモデルが利用可能である。産業クロマトグラフィ工程のモデル開発活動は、既に存在している輸送及び吸着モデルに頼ることができる。しかしながら、適用前、メカニスティックモデルを較正する必要がある。即ち、モデルが所望のプロセスを説明するような、適したモデルパラメータを識別する必要がある。
【0012】
しかしながら、較正プロセス-即ちモデル開発及びモデルパラメータの推定-はなお非常に時間のかかる工程である。
【0013】
即ち、モデルパラメータは一般に、光学顕微鏡法等を使用して測定し、孔輸送係数を特定することによって取得することができる。しかしながら、モデルパラメータの直接測定は可能ではないことが多く、又は非常に労力がかかり、したがって、再帰的パラメータ推定が、クロマトグラフィモデリングで使用されることが多い方法である。
【0014】
競合吸着及びイオン強度の影響に加えて、追加のカラム容積における物質移動が、絶対溶出時間及びクロマトグラムシミュレーションにおけるピーク形状に影響する。更に、管、弁、又は混合チャンバの構成も、各成分の滞留時間に影響する。吸着中、パラメータ推定は、溶出開始から、各溶出成分が吸着パラメータに反映されるまでの時間にわたり再帰法を使用することを含む。したがって、追加のカラム容積を考慮せずに推定されたパラメータは、規模依存であり、より大きな若しくは小さな規模のシステム又はシステム構成が変化する場合には適さないことがある。クロマトグラムに対するこの影響は、特にカラムサイズが追加のカラム容積と比べて小さい場合に大きい可能性がある。しかしながら、多くの場合、吸着モデルパラメータを推定する際、この影響は考慮されてこなかった。
【0015】
調査のスケールアップは、従来調査されてきたイオン交換クロマトグラフィモデルの応用である。この分野でのこの発見の一欠点は、物質移動係数が流速に依存し、したがって、流速への適合が必要なことである。
【0016】
研究において、SMA吸着モデルのパラメータ識別について複数のモデル較正法を比較し、その目的にリバース法がより適切であることが判明した。一例では、吸着モデルパラメータはニューラルネットワークを使用して識別し得、ニューラルネットワークは、トレーニング期間後、クロマトグラム逆当てはめと比較してパラメータ識別を加速化させる。ロバストなモデル較正ワークフローは、1組14の実験を含み、二重特異性抗体の多成分SMAモデルを較正することが示唆されている。それらの14の実験は、吸着モデルの較正に使用され、カラムを特徴付けるためにその実験に追加され、追加のカラム特徴付けが必要とされる。このワークフローに基づいて、プロセスロバスト性調査の、調査のためのメカニスティックモデルの値を実証し得る。
【0017】
しかしながら、クロマトグラフィ機器に固有の追加のカラム容積における輸送挙動が較正ワークフローにおいていかに考慮されるかについての説明はない。多くの物理過程が分子のクロマトグラフィ挙動に影響する。競合吸着及びイオン強度の影響を別にして、追加のカラム容積における物質移動は、絶対溶出時間及びクロマトグラムシミュレーションにおけるピーク形状に影響する。管、弁、又は混合チャンバの構成は、各成分の絶対滞留時間に影響する。その結果、再帰法を使用した吸着パラメータ推定中、溶出開始から各成分が溶出するまでに過ぎる時間は、吸着モデルパラメータの推定値に影響することになる。したがって、追加のカラム容積を考慮せずに推定されるパラメータは、スケール依存であり、より大きな若しくは小さなシステム規模又は変化するシステム構成には適さないことがある。この効果は、特にカラムサイズが追加のカラム容積と比較して小さい場合、クロマトグラムに大きな影響を有し得る。適切な追加カラム容積表現の重要さは、先の公開物で示されてこなかった。しかしながら、多くの寄与において、この効果をモデル較正ワークフローでいかに考慮することができるかは対処されてこなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
産業プロセス開発の時間及び尽力の利益のために、モデル較正に必要な追加の実験数を可能な限り少数に減らすことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本開示は、最小組の実験を使用してCEXモデル較正のワークフローを提供する。本開示により提供されるモデルは、追加のカラム容積における物質移動を考慮に入れ、クロマトグラフィカラム前の当てはめられたデッドボリュームモデルとクロマトグラフィカラム後の管の幾何学的値からのみセットアップされるモデルとの組合せを伴うモデルシーケンスを含む。更に、本開示により提供されるモデルにおいて、物質移動を反映するモデル入力パラメータ及び分子特有吸着挙動を反映するモデル入力パラメータは、切り離されて特定される。本開示は、吸着パラメータがプロセスサイズにわたりスケーリング可能であることを示すとともに、スケールアッププロセスランに十分な予測品質を示す。有利なことに、本開示は、モデルの正確性及びアジリティが増大したクロマトグラフィモデル較正手法を提供する。
【0020】
較正は、輸送モデルの部分及び吸着モデルの部分を違いから切り離す順次パラメータ推定の3つの部分に構造化される。まず、クロマトグラフィスキッドの単位動作表現及びそのユソパラメータが識別される。次に、充填ベッドの輸送モデルが識別される。最後に、吸着モデルパラメータが推定される。
【0021】
図1Aは、AKTA(商標)Avant等のクロマトグラフィスキッド及び機械で一般に使用される流路表現の一例を示す。
図1Aに示されるように、カラム前に様々なデッドボリュームが存在する。このデッドボリュームは溶出開始時点に対するピーク位置に影響するため、ピーク位置にも影響する吸着挙動からこの影響を切り離すために、デッドボリュームをモデルで可能な限り精密に説明する必要がある。
【0022】
可能な表現は、簡単な時間シフトから、内蔵されている管及び弁の容積のメカニスティック表現まで及ぶ。BiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャ)抗体構築体の場合、DPFRモデルとCSTRモデルとの組合せが、カラム前のデッドボリュームを表すのに使用される。カラム出口からUVまでに存在するデッドボリューム及び導電率センサは、DPFRモデルによっても同様に表される。
【0023】
管モデルと弁モデルとの組合せは、各試料ポンプからUVセンサまでの流路及び入口ポンプから導電率センサまでの流路を表すのに使用される。両流路とも、カラム前の当てはめDPFRモデル及びCSTRモデルとベンダーにより提供される幾何学的仕様からのDPFRモデルセットアップとの組合せである。カラムモデルの別個のモデル部分を識別した後、入口流路及び試料流路のデッドボリュームの2つの表現が組み合わせられ、より複雑なモデルになる。カラムに続く2つのDPFRモデルは、ベンダーによって指定される管の直径及び長さによって指定される。それらの2つのDPFRモデルの分散係数のみが、カラム前のDPFRの推定値に設定される。
【0024】
特定順序の工程は、まず、例えば測定により又はベンダー仕様に基づいてカラム後の管の幾何学的値(管の直径、長さ)を取得し、次いで、トレーサ分子を所望の場所からシステムに供給する実験を行うことを含む。次に、一連のDPFR-CSTR-DPFRモデルがセットアップされ、カラム後のDPFRモデルは、特定の管の幾何学的値に従って指定される。即ち、カラム後のこのDPFRの幾何学的仕様は固定であるが、DPFRの分散特性を指定するパラメータは固定ではなく、カラム前のDPFR及びCSTRの特性と一緒に推定される。全体で、推定は、カラム前のDPFR及びCSTRの幾何学的パラメータ並びにカラム前及びカラム後のDPFRの、分散等の輸送係数を推定することを含む。推定に含まれないパラメータは、カラム後のDPFRの幾何学的パラメータである。この工程は、試料経路フロー(
図1Aにおいて青色)及び入口流路(
図1Aにおいて緑色)の両方で実行される。全ての輸送パラメータが推定されると、結合パラメータを推定することができる。モデルによりシミュレートすべきピークと同数の成分をモデルに含むことができる。次いで、モデリングされる各成分のパラメータを推定し得る。推定されるパラメータの範囲は、クロマトグラムピークの1つ又は複数を形成するより多くの成分を包含するために使用し得、結合パラメータはここでも、パラメータの密な境界を使用して推定し得る。
【0025】
このシーケンスにおける第1の革新は、特定の管の幾何学的値に従ってカラム後のDPFRモデルを指定することにある。これには、当てはめモデルと幾何学的仕様に基づいてセットアップされたモデルとの組合せが、開始時にカラムに衝突する輸送効果のレベルを識別するのに使用されることが付随する。したがって、点試料及び溶出バッファーがカラムに衝突する時間は、経路を分けるより複雑なバイパス実験を行わずに、カラム前及びカラム後の両流路を一緒にまとめるよりも正確に識別し得る。更に、本明細書に提供される方法を使用して、バッファーの輸送挙動を分子溶液の輸送挙動から分離することが可能である。
【0026】
従来技術では、モデルベースのプロセス開発の焦点は、モデルがプロセス設計及び最適化をいかにサポートするかに置かれている。モデル較正手順は記述されないことが多い。モデル較正に焦点を置く場合、大半の従来技術は、吸着パラメータを推定する新しい方法を含むが、カラム前のデッドボリュームを推定する新しい方法を含まない。
【0027】
このシーケンスでの第2の革新は、吸着モデルパラメータが、縮小数の成分を有するモデルを使用して大まかに推定されることである。この工程が終わるとき、より多くの成分がモデルに追加される。UV和信号(UV sum signal)が1つのピークとして現れるような近傍で溶出する幾つかの分子種があるため、これはBiTE(登録商標)及び多くの場合、抗体に必要である。ここで、このより複雑なモデルは、より多数の成分を用いて再較正する必要があり、その結果、推定される吸着パラメータ数ははるかに多くなる。しかしながら、複雑性のより低いモデルから先に大まかに推定された吸着パラメータに起因して、今回はより小さなパラメータ空間をパラメータ推定に適用することができ、それにより推定手順は加速する。
【0028】
クロマトグラムでの輸送効果と吸着効果とを切り離すことにより、より正確なクロマトグラフィモデルが可能になる。更に、モデルは適用分野に関してより柔軟である。それは、樹脂が同じである限り、他のプロセスの仕様は変化するが、吸着モデルパラメータは同じままであることができることを意味する。これは、実施されないことが多い洞察である。しかしながら、より短いモデル較正手順、即ちプロセスが変わる都度、新たなモデル較正を実行するのと比較してより短いモデル較正手順を可能にする。モデルベースのプロセス開発は、この速度改善から恩恵を受けることができる。更に、モデルは、輸送効果を吸着パラメータから区別することが難しいものと比較して、より正確である。
【0029】
本明細書に提供される方法は、デッドボリュームに従って溶出開始時点をシフトする又はバイパス実験に基づいてデッドボリュームを特定する等のクロマトグラフィスキッド及び機械におけるデッドボリュームをモデリングする従来の方法よりも柔軟且つ正確である。従来の両方法とも、カラム前に説明されたデッドボリュームとして、カラム出口後のデッドボリュームを含む。
【0030】
最終的に、本明細書に提供される方法は、輸送効果からの影響の程度を低くして、吸着パラメータを推定することができる。この手法は、従来の方法よりも効率的にクロマトグラムにおいて輸送効果と吸着効果とを切り離す。これは、分子の輸送に影響するプロセス仕様が変わる場合、有益である。これは、スケールアップ用途の場合に該当する。そのような場合、管、流量等のスケールアップの影響は、モデルの別個の部分で説明することができ、吸着モデルは同じままであり、変更されたプロセス条件下で再び較正される必要はない。
【0031】
一態様において、方法であって、カラム前に第1の分散プラグフロー反応器(DPFR)及び連続攪拌槽反応器(CSTR)及びカラム後に第2のDPFRを含むクロマトグラフィ機で、第2のDPFRと関連する幾何学的測定値を取得することと、プロセッサにより、幾何学的測定値に基づいて第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送モデルパラメータを生成することと、クロマトグラフィ機にトレーサ分子を供給することと、クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づいて、1つ又は複数のトレーサ分子測定値を捕捉することと、プロセッサにより、第2のDPFRと関連する輸送モデル及びクロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの1つ又は複数の輸送モデルパラメータを推定することとを含む方法が提供される。
【0032】
幾つかの例において、本方法は、実験試料をクロマトグラフィ機に供給することと、クロマトグラフィ機を通って移動している実験試料に基づいて1つ又は複数の実験測定値を捕捉することと、プロセッサにより、クロマトグラフィ機を通って移動している実験試料に基づく1つ又は複数の実験測定値、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの推定された1つ又は複数の輸送モデルパラメータ、並びに第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送パラメータに基づいて、実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することとを含み得る。
【0033】
更に、幾つかの例において、幾何学的測定値は、第2のDPFRと関連する管直径測定値及び管長測定値を含み得る。
【0034】
更に、幾つかの例において、1つ又は複数のトレーサ分子測定値は、クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子と関連するクロマトグラムに基づいて捕捉される。同様に、幾つかの例において、1つ又は複数の実験測定値は、クロマトグラフィ機を通って移動している実験試料と関連するクロマトグラムに基づいて捕捉される。
【0035】
更に、幾つかの例において、本方法は、プロセッサにより、実験試料と関連する吸着モデルに基づいて実験試料を識別することを含み得る。
【0036】
更に、幾つかの例において、実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することは、まず、実験試料と関連する第1の吸着モデルの第1の1つ又は複数の吸着パラメータをまず推定することであり得、本方法は、プロセッサにより、実験試料と関連する第1の吸着モデルの第1の1つ又は複数の結合パラメータと関連する範囲に基づいて、実験試料と関連する第2の吸着モデルの第2の1つ又は複数の吸着パラメータを第2に推定することを更に含み得る。更に、幾つかの例において、本方法は、プロセッサにより、実験試料と関連する第2の吸着モデルに基づいて実験試料を識別することを含み得る。
【0037】
更に、幾つかの例において、カラム前の第1のDPFR及びCSTR並びにカラム後の第2のDPFRは、クロマトグラフィ機の流入路の一部であり、クロマトグラフィ機は、試料流路カラム前の第1のDPFR及びCSTR並びに試料流路カラム後の第2のDPFRを有する試料流路を更に含み、請求項1に記載の工程は、試料流路カラム前の第1のDPFR及びCSTR並びに試料流路カラム後の第2のDPFRで更に実行される。
【0038】
更に、幾つかの例において、実験試料は第1の実験試料であり、本方法は、第2の実験試料をクロマトグラフィ機に供給することと、クロマトグラフィ機を通って移動している第2の実験試料に基づいて1つ又は複数の第2の実験測定値を捕捉することと、プロセッサにより、クロマトグラフィ機を通って移動している第2の実験試料に基づく1つ又は複数の第2の実験測定値に基づいて、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの推定される1つ又は複数の輸送モデルパラメータ、第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送パラメータ、第2の実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することとを更に含み得る。例えば、幾つかの例において、第2の実験試料は第1の実験試料とは別個である。
【0039】
更に、幾つかの例において、輸送モデルパラメータは、DPFRにおける分散係数、DPFRの容積、DPFRの断面積、及びCSTRの容積の1つ又は複数を含む。更に、幾つかの例において、吸着モデルパラメータは、吸着係数、脱着係数、特性電荷、及び遮蔽因子の1つ又は複数を含む。
【0040】
更に、幾つかの例において、本方法は、プロセッサにより、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデル、第2のDPFRと関連する輸送モデル、及びクロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、クロマトグラフィ機のカラムと関連するカラム特有輸送モデルの1つ又は複数のカラム特有輸送モデルパラメータを推定することを更に含む。更に、幾つかの例において、カラム特有輸送モデルパラメータは、カラム有孔率及びカラム分散率の1つ又は複数を含む。
【0041】
更に、幾つかの例において、本方法は、プロセッサにより、カラム特有輸送モデル、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデル、第2のDPFRと関連する輸送モデル、及びクロマトグラフィ機を通って移動するトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、クロマトグラフィ機の樹脂粒子と関連する樹脂輸送モデルの1つ又は複数の樹脂輸送パラメータを推定することを更に含む。更に、幾つかの例において、樹脂輸送パラメータは、各成分のフィルム輸送係数及びポア有孔率の1つ又は複数を含む。
【0042】
更に、幾つかの例において、実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することは、カラム特有輸送モデル又は樹脂輸送モデルの1つ又は複数に更に基づく。
【0043】
更に、幾つかの例において、トレーサ分子はデキストランである。幾つかの例において、トレーサ分子はNaClである。更に、幾つかの例において、トレーサ分子はDNA分子である。更に、幾つかの例において、トレーサ分子はナノ粒子である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1A】クロマトグラフィ機(例えばAKTA(商標)Avant等)の流路表現を示し、
図1Aに示されるように、ラインプライミング手順に応じて異なる場所からの流路は、試料又は溶出バッファーがカラムに入る様々な時点を示している。
【
図1B】移動相が充填ベッドカラムを通っていかに移動するかの一例を示す。
【
図1C】パラメータの意味を含め、立体質量作用モデルの視覚化を示す。
【
図2】幾つかの例による、合成データを使用した二乗差分和(SSD)アライメント問題のグラフを示す。
【
図3】幾つかの例による、標準位置ペナルティメトリックと初期低下位置ペナルティメトリックとの比較のグラフを示す。
【
図4】モデル開発の例示的なステージ毎の手法を示す。
【
図5】幾つかの例による勾配溶出に使用される流路の図を示す。
【
図6】CEXモデルのクロマトグラフィ機システム表現を示し、一般モデル構築、分散プラグフロー反応器(DPFR)、及び連続攪拌槽反応器(CSTR)の単位動作は、カラム(弁、センサ、混合チャンバ)を含まないシステムで生じるピーク遅延及びピークブロード化を表し、塩及び分子は、異なる管又は弁系を経験し得、したがって、それらの単位動作と関連するパラメータは、タンパク質及び塩種間で異なり得る。
【
図7A】クロマトグラフィスキッド内の輸送のカラム前モデルの較正を示し、
図7Aは、試料ポンプからのデキストラントレーサブレークスルーを示し、一方、
図7Bは入口ポンプ尾からのNaClトレーサを示す。
【
図7B】クロマトグラフィスキッド内の輸送のカラム前モデルの較正を示し、
図7Aは、試料ポンプからのデキストラントレーサブレークスルーを示し、一方、
図7Bは入口ポンプ尾からのNaClトレーサを示す。
【
図8A】カラム輸送モデルパラメータの較正を示し、
図8Aはテキストランブレークスルートレーサ(孔貫通なし)を示し、
図8Bはデキストランパルストレーサ(孔貫通なし)を示し、
図8CはBiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャ)抗体構築体ブレークスルー(孔貫通あり)のFVIPを示す。
【
図8B】カラム輸送モデルパラメータの較正を示し、
図8Aはテキストランブレークスルートレーサ(孔貫通なし)を示し、
図8Bはデキストランパルストレーサ(孔貫通なし)を示し、
図8CはBiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャ)抗体構築体ブレークスルー(孔貫通あり)のFVIPを示す。
【
図8C】カラム輸送モデルパラメータの較正を示し、
図8Aはテキストランブレークスルートレーサ(孔貫通なし)を示し、
図8Bはデキストランパルストレーサ(孔貫通なし)を示し、
図8CはBiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャ)抗体構築体ブレークスルー(孔貫通あり)のFVIPを示す。
【
図9A】溶出状況下の実験とシミュレーションとの間のクロマトグラム及び分画データセットの比較を示し、
図9Aは5mM/CV勾配ランでの最良当てはめを示し、一方、
図9Bは11mM/CV勾配ランでの最良当てはめを示す。
【
図9B】溶出状況下の実験とシミュレーションとの間のクロマトグラム及び分画データセットの比較を示し、
図9Aは5mM/CV勾配ランでの最良当てはめを示し、一方、
図9Bは11mM/CV勾配ランでの最良当てはめを示す。
【
図10A】様々な装入因子、勾配、及び停止収集基準を有するプロセススケール実験でのモデル検証を示し、
図10Aは、ベンチトップスケールカラムでの8mM/CV勾配及び25g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Bは、30%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び25g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Cは、45%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び15g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Dは、30%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び5g/L装入因子でのモデル検証を示す。
【
図10B】様々な装入因子、勾配、及び停止収集基準を有するプロセススケール実験でのモデル検証を示し、
図10Aは、ベンチトップスケールカラムでの8mM/CV勾配及び25g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Bは、30%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び25g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Cは、45%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び15g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Dは、30%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び5g/L装入因子でのモデル検証を示す。
【
図10C】様々な装入因子、勾配、及び停止収集基準を有するプロセススケール実験でのモデル検証を示し、
図10Aは、ベンチトップスケールカラムでの8mM/CV勾配及び25g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Bは、30%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び25g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Cは、45%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び15g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Dは、30%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び5g/L装入因子でのモデル検証を示す。
【
図10D】様々な装入因子、勾配、及び停止収集基準を有するプロセススケール実験でのモデル検証を示し、
図10Aは、ベンチトップスケールカラムでの8mM/CV勾配及び25g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Bは、30%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び25g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Cは、45%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び15g/L装入因子でのモデル検証を示し、
図10Dは、30%停止収集基準を有するプロセススケールでの8mM/CV勾配及び5g/L装入因子でのモデル検証を示す。
【
図11】本明細書に提供される幾つかの例による例示的な方法の流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
定義
本明細書で使用される場合、「クロマトグラフィ」とは、下流プロセスで分子を分離し精製する方法を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「イオン交換クロマトグラフィ」(「IEX」)とは、分子とクロマトグラフィ材料との間のイオン相互作用に基づくクロマトグラフィ工程を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「陽イオン交換」(「CEX」)とは、分子とクロマトグラフィ材料との間の陽イオン相互作用に基づくクロマトグラフィ工程を指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、「陰イオン交換」(「AEX」)とは、分子とクロマトグラフィ材料との間の陰イオン相互作用に基づくクロマトグラフィ工程を指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、「AKTA(商標)」とは、Cytiva(商標)クロマトグラフィ機の製品名を指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「分散プラグフロー反応器」(「DPFR」)とは、傾きが穏やかなフロープロファイルではなくプラグフロープロファイルを有する対流層流を有する円筒管を指す。
【0051】
本明細書で使用される場合、「連続攪拌槽反応器」(「CSTR」)とは、完全に混合される流体が充填された槽反応器を指す。
【0052】
本明細書で使用される場合、「混合チャンバ」とは、AKTA(登録商標)等のクロマトグラフィ機内でバッファー溶液を混合するための小型槽(約1~10mL)を指す。
【0053】
本明細書で使用される場合、「弁」とは、AKTA(商標)等のクロマトグラフィ機内の全ての部品を結合する弁を指す。これらの弁は、多くの入力と出力との間で切り替えることができ、小容量(約1~1000μL)を有することができる。
【0054】
本明細書で使用される場合、「モデル較正」とは、未知のモデルパラメータを推定するための手順を指す。
【0055】
本明細書で使用される場合、「吸着」とは、固体が薄いフィルムとしてガス、液体、又は溶質の分子を保持する過程を指す。
【0056】
本明細書で使用される場合、「デッドボリューム」とは、液体で充填されるクロマトグラフィ機内の空隙を指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「ラインプライミング」とは、プロセス開始前に必要な流体(例えばバッファー)で管/弁を充填することを指す。
【0058】
本明細書で使用される場合、「当てはめ」とは、シミュレーションを測定値と比較することにより未知のモデルパラメータを繰り返し推定する手順を指す。
【0059】
本明細書で使用される場合、「溶出」とは、クロマトグラフィ材料から吸着した分子を除去するプロセスを指す。
【0060】
理論
一般に、本明細書に提供されるカラムモデルは、カラム内の溶質中に吸着された状態で存在する対イオン及び分子の重要な輸送及び吸着効果を記述する。多様な吸着モデルを選択することができるが、最も重要な吸着モデルは、移動相モジュレータとして塩イオンがいかに分子の吸着動力学に影響しているかを記述する。そのようなプロセスは、秒時間尺度並びにマイクロメートル及びメートル長尺度で記述される。簡易化一般率モデル(GRM)及び立体質量作用モデルは、標的分子及び高分子量(HMW)不純物種の酸性、主要、及び基本チャージバリアントの輸送及び溶出挙動をシミュレートするために使用される。
【0061】
輸送モデル
図1Bに示されるように、移動相は、長さLを有する充填ベッドカラムを通って移動する。移動は、体積流量、カラム断面積、及びカラム有孔率(充填ビーズ間の空隙率)によって記述することができる。この移動は強制対流であり、カラム長zに沿った対流項によって記述される。間隙容量l(液体移動相内のビーズ間の空隙)には効果、例えば、フィックの拡散、壁面効果、又はピークのブロード化に繋がる、ベッドを通る異なる経路を移動する分子が存在し、これらは一緒にまとめられ、モデルでは分散項によって記述される。間隙容量からベッドの多孔性粒子容量pへの分子流は妨げられ得、これはモデルにより、フィルム物質移動モデルにより考慮される。ビーズ孔内部で、拡散輸送は、孔への物質移動よりもはるかに高速であると仮定され、したがって、瞬時であると仮定される。その結果、集中孔、集中孔拡散(POR)モデルを有する簡易化一般率モデル(GRM)方程式に繋がるビーズ半径に沿った濃度勾配は存在しない。輸送を記述するモデルは、吸着容量又は固体相への分子吸着を記述するモデルから独立している。カラム充填及びビーズサイズは非常に均質であると仮定され、第1に、カラム径方向における濃度勾配は無視され、第2に、充填ベッドの有孔率及びビーズの有孔率はカラム軸及びビーズ半径に沿って変化しないという仮定に繋がる。
【0062】
GRMは、対流、分散、及び拡散に起因した多孔性充填ベッドを通る生体分子の輸送を記述するのに使用される。対流とは、システムを囲むバルク流体の運動に起因したシステムを通る種の移動である。分散は、混合物の粘度、管壁又は粒子との衝突、及び充填ベッドを通る移動に起因したピークブロード化を記述する。更なる物質移動:バルク液体から孔への輸送及び孔内部の拡散がGRMにより記述される。バルク液体から孔への拡散は、分子サイズ及び孔サイズの割合に応じた空間的閉じ込めに起因した速度制限工程であり得る。この輸送が生じる速度は、フィルム物質移動係数に比例して記述される。第2の成分は孔を通した拡散であり、これは各種の拡散係数を用いて記述される。これは通常、フィルム物質輸送よりも高速で生じる。この仮定に起因して、GRMの方程式は、孔内の径方向濃度勾配が無視されるように簡易化され、それにより、集中孔モデルに繋がる。
【0063】
任意の種濃度の簡易化GRMはci∈[0,N
c]であり、N
cは成分数を示し、tは秒単位の時間を示し、zはカラム長Lに沿った軸座標を示し、rはビーズ半径r
pに沿った径方向ビーズ座標を示す。
【数1】
【0064】
Danckwerts境界条件が適用される:
【数2】
【0065】
【0066】
l、p、sは、間隙容量(ビーズ間の空隙)、孔容量(ビーズ内の空隙)、及び固体体積(吸着された分子を含む固体部分)を示す。間隙流速はm/s単位のuで示され、軸方向分散係数はm2/s単位のDaxで示され、カラム有孔率(間隙空隙とベッド総容量との容量比率)はεcで示され、ビーズ有孔率(液体孔容量とビーズ総容量との比率)はεpで示され、フィルム物質移動係数はm/s単位でkf,iで示される。
【0067】
分散プラグフロー反応器(DPFR)のモデルを使用して、管内の分子輸送を記述した。DPFRの方程式は、フロープロファイルを無視して、円筒管内の対流層流を記述する。モデル方程式は
【数4】
により記述される。
【0068】
ここで、
【数5】
は管内部の濃度u
tubを示し、
【数6】
は、管内部の間隙速度及び分散係数を示す。
【0069】
連続拡散層反応器(CSTR)モデルを使用して、弁及び混合チャンバのクロマトグラフィシステム内部の混合効果を記述した。即ち、入口及び出口並びに一定容積を有する槽モデルを使用して、複数の成分を一緒に混合するとき、複数の成分の濃度がいかに変化するかを記述する。モデル方程式は
【数7】
により記述される。
【0070】
【0071】
ここで、
【数9】
は、槽内部の濃度を示し、m
3単位のV
mは槽容積を示し、Q
in,w及びQ
outは槽内及び槽外へのm
3/s単位の体積流量を示す。
【0072】
立体質量作用モデル
立体質量作用(SMA)モデルは、樹脂とのタンパク質の吸着、脱着、及び立体相互作用を記述する。樹脂とのこれらの相互作用は4つのパラメータを用いて特徴付けられる:吸着係数、脱着係数、立体因子、及び特性電荷。これらのパラメータは、モデリングされる各種に特有である。輸送パラメータとは異なり、結合パラメータは、樹脂及び分子が同じままである限り、異なるスケール及びシステム間で移動する。
【0073】
吸着係数及び脱着係数は、分子の吸着(結合)及び樹脂からの分子の脱着(溶出)の速度を記述する。それらは、モデリングされる種の結合動力学を記述し、塩濃度により影響される。立体因子及び特性電荷パラメータは、結合動力学に対する分子のサイズ及び表面電荷の影響をそれぞれ記述する。立体因子は、分子が樹脂上の結合から「遮蔽」される空間数を記述する。特性電荷は、分子が樹脂と有する電荷ベースの相互作用数を記述する。立体因子及び特性電荷の和は、樹脂上の分子で占められる結合部位の総数を示す。これらの4つの因子の視覚化を
図1Cに示す。
【0074】
立体因子及び特性電荷に加えて、樹脂へのタンパク質の結合容量を特定するために樹脂のイオン容量も必要である。SMAモデルは樹脂上の中性電荷バランスに基づき、したがって、全ての帯電部位は、対イオン又は逆帯電タンパク質で占められる。イオン容量は、方法セクションで詳述される滴定実験から特定することができる。
【0075】
SMAモデルの方程式系について以下説明する。
【数10】
【0076】
式中、Λはmol/m
3単位で総カラム容量を示し、ν
iは特性電荷を示し、σ
iは立体因子を示し、k
a,iは
【数11】
単位であり、k
d,iは1/s単位であり、
【数12】
は分子吸着(遮蔽されない)に利用可能な対イオンの濃度を示し、
【数13】
は樹脂に吸着した対イオンの総量である。
【0077】
SMA等温線の主な制限は、結合パラメータ値が、それらが特定されたpHでしか適用できないことである。pHはCEX工程において重要なプロセスパラメータであるため、これは予測メカニスティックモデルのロバスト性を制限する。現在のSMAモデルを拡張し、ロバスト性を改善するために、pH依存性に対処することができる関数が必要とされる。
【0078】
モデル較正の実験を標準プロセスに従って実行し、唯一の違いはバッファー及び装入材料のpHであった。
【0079】
数値ソルバ
解析解は利用できないため、上記全ての方程式系の数値解が計算される。一般的手法は、特殊変数に沿って偏微分方程式(PDE)を離散化することであり、それにより、幾つかの常微分方程式(ODE)が生じる。次いで、時間ステップアルゴリズムを使用してODE系を解くことができる。
【0080】
クロマトグラフィモデルの特殊離散化は、有限体積法を使用することにより達成することができる。ここで、カラム長z及びビーズ半径rに沿った幾つかの均一有限体積要素の質量平衡等式がセットアップされる。各細胞体積中の濃度は平均され、それにより、各細胞体積と関連付けられた新しい組の状態変数が生成される。数値積分が、それらの平均された体積濃度の離散化方程式を解く。カラム入口及び出口における境界条件(方程式(3)及び(4))は、最初及び最期の有限体積において離散化方程式に積分される。加重本質的非振動(WENO:weighted essentially non-oscillatory)スキームが、有限体積境界における濃度の近似に使用される。
【0081】
ここで使用される時間ステップソルバ又はODEソルバはCADETフレームワークの一部であり、後退差分式(BFD)法を時間積分に使用している。CADET実装は、SUNDIALSパッケージに含まれる陰的微分代数(IDA)ソルバを使用している。ソルバ許容差は、10-6のAbstol、10-6のAlgtol、10-8のReltol、及び10-4として初期ステップサイズを用いて設定された。
【0082】
パラメータ推定アルゴリズム
目標システム
本開示は、クロマトグラフィモデルパラメータを推定する新しい目標システムを導入する。ここで、目標とは形状の影響を受ける1組のメトリックを意味する。各メトリックは、ピーク最大におけるシミュレーションと実測との間の時間差、ピーク最大における高さ差等の単一のスカラー値である。メトリックは、モデリングされるプロセス及び実測データにおける典型的な誤差の特定の知識に基づいて定義される。目標内のメトリックは多目的検索アルゴリズムに渡すことができ、又は1つの目的に組み合わせて、単一目的検索アルゴリズムに渡すことができる。
【0083】
複数のメトリックは、一般に適用される二重差分和(SSD)が検索戦略を導くことができる(単一目的)よりも所望の最適に向けて検索戦略をはるかによく導くことができる(多目的)。メトリックはスコアにグループ化されて、CADET-Matchにおける異なるパラメータ推定手順に向けて目標の仕様を編成する。適した目標は、当てはめ品質が改善するにつれて、少なくとも1つのメトリックの値が低下しなければならず、当てはめ品質が悪化するにつれて、少なくとも1つのメトリックの値が増加しなければならないという性質を持たなければならない。この性質を持たない目標は、検索アルゴリズムを誤った方向に導く恐れがある。これは些細なことに見え得るが、極めて重要であり、新しい目標を何故作成しなければならないかの核心である。競合結合及び他の複雑なメカニズムに起因して、多くのモデルパラメータは、シミュレートされるクロマトグラムに非線形結合的に影響する。したがって、モデルパラメータが正しい値に近づいている間、SSD等の習慣的に適用されるメトリックによっては増大するものがある。
【0084】
加えて、産業大規模用途から測定されたクロマトグラムは多くの場合、モデルが、実際には可能ではないことが多い遅延の原因を捕捉しない限り、実測信号とシミュレート信号との間で時間オフセットを生じさせ得るポンプ遅延等の系統的誤差による影響を受ける。これを説明するために良好な目標が必要であり、何故ならばそうでなければ、シミュレートされたピークが正しい場所ではあるが誤った形状になってしまうためである。誤った形状は一般に、モデルの根底にある物理学の誤りを示す。したがって、良好なメトリックは、オフセットはないが形状が誤っているピークよりも、略合った形状を有するが小さなオフセットを有するピークを好むべきである。
【0085】
二乗差分和
SSDの場合、シミュレートされたクロマトグラムと実測クロマトグラムとの間の二乗差分は、時間点にわたって合算される(以下のセクション16参照)。正規化二乗平均平方根差分(NRMSD)の場合、SSDは時点数で除算されてから二乗平方根をとり、結果を測定データの最大で除算する(以下のセクション17参照)。この変換の単調性に起因して、SSD及びNRMSDは同じ最小を有する。これらのメトリックはクロマトグラム全体J={1;…;N
d}又はデータのサブセットJ⊂{1;…;N
d}に適用することができる。SSDは、勾配降下検索アルゴリズムを用いて最も一般に適用される。したがって、ここでは比較のために含められる。理論は、独立した一様分布のランダム測定誤差での最大尤度推定フレームワークで十分に画定されている。しかしながら、これらの前提条件は一般に、供給変動、ポンプ遅延、及び流量変動等の系統的誤差が典型的には検出器ノイズで優勢な大規模準備クロマトグラフィのモデリングでは有効ではない。結果を解釈するためには、NRMSDがSSDよりも適する。何故ならば、分子がデータと同じ単位を有し、分母により最大濃度に関連するためである。
【数14】
【0086】
SSDは、パラメータ変化に対する感度を有し、検索アルゴリズムを最適に向けて導くためには、シミュレートされたクロマトグラムと実測クロマトグラムとの間に十分な重複を必要とする。これは、特にシャープなピーク及び/又は小さなピークで、適した開始点の選択を複雑にする恐れがある。表1に示されるパラメータを有する合成例を使用して、SSDの更なる欠点を
図2に示す。シナリオ2のパラメータはグラウンドトゥルースにはるかに近く、特性電荷νに比較的小さなずれがあるだけであるが、それにもかかわらず、シナリオ1はより小さなSSDを有し、したがって通常、よりよい適合と見なされる。加えて、シナリオ2のピーク形状はグラウンドトゥルースにより似るが、アライメントがずれている。
【0087】
実際の実験では、そのような時間オフセットは多くの場合、メカニスティックモデルによって説明することができないポンプ遅延によって生じる。この場合、SSDは、人間の目にはピーク形状が完全に誤っていることが明らかであっても、右位置にあるピークを好む。モデルは、正しいピーク形状を再現することもできるが、右位置ではなく、SSDははるかに大きい。ピーク形状は主に結合モデルパラメータによって決まるため、SSDは非物理的なパラメータ値に繋がる。したがって、ここで、位置よりもピーク形状を支持し、適した開始点の選択への需要がより低い代替のメトリックを導入する。
【0088】
【0089】
代替のメトリック
クロマトグラムの形状及び位置は、カラム及び外部容量を含め、システム全体を通る質量輸送及び官能化樹脂への結合によって決まる。SSDの欠点は、ベースライン分離を必要とせずに個々のピークの形状、位置、及び高さを別個に測定することによって回避される。ピーク位置のメトリックは、各モデルパラメータの変化の影響を受けやすく、シミュレーションと実測データとのピーク重複から独立している。これは、産業用途でのオートメーションにとって極めて重要な検索アルゴリズムの開始点の選択に関して柔軟性及びロバスト性を提供する。個々のピークに焦点を合わせることにより、プロセス変動及びモデルに完全には含まれない更なる成分の影響を低減することができる。例えば、ポンプ洗浄又は圧力アラームは偽ピークを生じさせ得、産業供給は通常、多数の多かれ少なかれ性質不明の不純物を含む。そのような場合、別個のメトリックを標的成分並びに高及び低分子量の不純物の区別できるが部分的に分離したピークに割り当てることができる。別個のメトリックはまた、どの成分がどのピークに影響するかについてより精密な情報を(多目的)検索アルゴリズムに提供するのに役立つ。全てのメトリックは、シミュレーションと実験とが完全に一致する場合、ゼロをもたらす。
【0090】
ピーク形状
形状メトリックは、新しいメトリックの最も革新的なメトリックであり、略全てのスコアのコア構成要素である。それは、連続範囲の時間オフセットにわたる実測クロマトグラムとシミュレーションクロマトグラムとの間のピアソン相関のうちの1つと最大との間の差分である(以下の式18参照)。このメトリックを評価するために、シミュレートされたクロマトグラムは時間的にシフトされる。
【数15】
式(18)における最大は、初期グリッド検索後にパウエル法を続けることによって特定される。SSDが実測データと同じグリッドでクロマトグラムをシミュレートすることが賢明であるが、連続オフセットはシミュレーションデータの補間を必要とする。これは5次スプラインを使用してCADET-Matchにおいて実施される。補間は、SSDで必要とされるよりも高密度のグリッドでクロマトグラムをシミュレートすることにより改善することができ。離散測定グリッドから独立した連続時間オフセットを可能にすることは、平滑なメトリックの生成に極めて重要である。しかしながら、それによりパラメータ感度の解析的追跡は複雑になる。形状メトリックは典型的には、クロマトグラムからスライスされた個々のピークに適用される。必要に応じて、シミュレーションと実験とが完全に一致する場合にはゼロであり、一致が悪化するほど増大する。設計により、このメトリックは形状類似性のみを説明し、シミュレーションと実測データとの間の時間オフセット及び高さ差を測定するために2つの他のメトリックを必要とする。
【数16】
【0091】
ピーク位置
位置メトリックは、最初に出現したときよりも複雑であり得る。位置メトリックは、以下の式(19)を最大化することから得られる時間オフセットt
sに基づく。
【数17】
【0092】
標準位置メトリックは時間オフセットに即時ペナルティを与え(以下の式20参照)、アライメントからずれた場合、t
rにより1まで線形に上昇する。ここで、t
rは測定時間間隔の長さである。十分な開始点が検索アルゴリズムに提供される場合、これは非結合トレーサの滞留時間で置換することができる。結果セクションに示されるように、このメトリックは、カラム及び粒子の有孔率を推定するのに良好な選択である。しかしながら、遅延が可能な限り少なく、アラームが即時キャンセルされることを保証するように、実験の実行において注意を払う必要がある。そのような遅延は、カラム及び粒子の有孔率変化と全く略同じようにクロマトグラムに影響する。先に考察したように、そのような遅延がある場合、パラメータ推定手順が、シミュレートされたピークと実測ピークとの間で形状及び高さを一致させながら、シミュレートされたピークと実測ピークとのアライメントを妥協することが有利であることができる。したがって、まず、1/10t
r未満の範囲内でペナルティを1/2だけ低減し、次いでアライメントからずれる場合、t
rによって1まで線形に上昇する代替の位置メトリックが導入される。以下の式(21)参照。
図3は、標準位置ペナルティメトリックと初期低下位置ペナルティメトリックとの間の違いを示す。初期低下1/2及び範囲1/10は、実験により選ばれ、ユーザにより変更することができる。
【数18】
【0093】
ピーク高さ
ピーク高さメトリックは、シミュレートされたクロマトグラムの最大濃度を実測データのものに関連付ける(式(18)参照)。このメトリックは、いずれかの方向での差が100%よりも大きい場合、1まで上昇する。
【数19】
【0094】
結合スコア
先に導入したメトリックは、シミュレートされたクロマトグラムと実測データとの間の差を定量化するスコアを作成するための構築ブロックとして機能する。スコアは、個々の成分に定義され、フルクロマトグラム、個々のピーク、又はピークの前部のみ等のピークの一部を標的とすることができる。各スコアは、成分のインデックスi及び1組の考慮された時点Jに依存する1組のメトリックである。目標は、1つ又は幾つかのスコアで構成されることになり、1つ又は幾つかのスコアを結合して1つの目的にしてもよく、又は多目的検索アルゴリズムに渡してもよい。
【0095】
二乗差分和
SSDスコアは、シミュレートされたクロマトグラムデータと実測クロマトグラムデータとの間の1組の差分である。以下の式(23)参照。技術的理由により、各差分は別個のメトリックとして解釈される。セクション8において、目標はこれらのメトリックの二乗和として定義される。
SSSD={Xi,j-Yi,j|j∈J} (23)
【0096】
フルピーク
新しいスコアのうち最も簡単なものは、ピークの形状、位置、及び高さの組合せS
ガウスである。このスコアは通常、略ガウス形の単一ピークを含むインデックスセットJによって指定される時間間隔に適用される。この時間間隔は自動的には検出されないが、ユーザにより指定する必要がある。より詳細なスコアS
ピークは、時間導関数の形状、最小、及び最大を更に説明し、非ガウスピークの当てはめにより適する。ピーク形状をその導関数の形状と組み合わせることにより、このスコアはクロマトグラムの曲率に高い感度を有する。ピーク及び傾きにおける時間オフセットは、等しいように技術的に制約されない。実際には、それらは、不良な開始点を用いた検索アルゴリズムの一番最初の反復の場合を除き、殆ど異なることはない。スコア
【数20】
は、位置(X
i,Y
i)
Jの代わりに位置*(X
i,Y
i)
Jを用いても同様に定義される。結果セクションで示されるように、標準位置ペナルティを有するスコアS
ピークは輸送パラメータの推定に特に有用であり、一方、初期低下位置ペナルティを有するスコア
【数21】
は、結合パラメータの推定により適する。
S
ガウス={形状(X
i,Y
i)
J;位置(X
i,Y
i)
J;高さ(X
i,Y
i)
J} (24)
【数22】
S
ピーク=S
ガウスUS
傾き (25)
【0097】
ピーク前部
幾つかの場合、ピークの前部のみをパラメータ推定に使用することができ、ピークの他の部分は、カラム又は管とのトレーサ分子の不特定の相互作用により劣化する。デキストランは、強力なテーリング及びピーク高さの低下に繋がるそのような非理想的な挙動の顕著な例である。他方、デキストランは、粒子孔を貫通しないトレーサとして一般に適用される。実験実行における誤差も、ピークの後部をパラメータ推定に使用できないようにする恐れがある。これらの状況は、ピークの形状及び位置は考慮するが、ピークの高さは考慮しないスコアS前部によって対処される。このスコアは典型的には、かなり短い時間間隔及び少数のデータ点と併用される。
S前部={形状(Xi,Yi)J;位置(Xi,Yi)J} (26)
【0098】
ピーク前部スコアは、クロマトグラムから可能な限り多くの使用可能な情報を抽出するように設計される。このスコアの教師なし適用では、カット点が高精度な状態で非理想的な部分をロバストに除去しながら、使用可能な時間間隔を自動的に決定する必要がある。デキストランデータの場合、この間隔の後端部は、実測クロマトグラムの最初の変曲点で選ばれ、即ち、上部カット点は時間導関数の最初の最大にある。非理想的な相互作用は主にピークの高さ及びテーリングに影響するため、実験により、これは良好な選択である。下部カット点は、実測クロマトグラムが、上部カット点における濃度の0.1%を越える分、ベースラインから異なり始める場所で選ばれる。実験により、0.1%はこの閾値にロバストな選択である。これらのカット点の厳密な位置は、セクション5からの連続スプライン近似に対してパウエル法を使用して決定される。次いで、離散測定データの最近傍時点が、Jにより指定される時間間隔の境界として使用される。
【0099】
分画データ
典型的にクロマトグラムの測定に適用される光学検出器は通常、異なる化学成分を区別することができない。その代わり、光学検出器は単一の和信号を送達し、個々の成分の寄与は消衰係数によって重み付けられる。そのような信号は、関連成分のピークが十分に分離されている場合を除き、単独ではパラメータ推定に使用することができない。例えば、モノクローナル抗体の酸性、主要、及び基本成分は多くの場合、単一のピークにおいて完全に重なる。この状況は通常、分画により、即ちカラムの流出物を一連のバイアルにプールすることにより対処される。次いで、これらの各バイアルをオフラインで解析して、関心のある成分を定量化し、専用パラメータ推定スコアをセットアップするための追加情報を提供する。
【0100】
先に導入したメトリックは一般に、対応する収集間隔の中心を時点として使用して各バイアル内の濃度に適用することができる。精密な比較のために、対応する成分毎のシミュレーションは、メトリックが分画データに適用される場合、同じ収集間隔にわたり平均計算される。その結果生成される情報は多くの場合、疎であり、ピーク毎に5~10の分画があり、分画時間及び容量における追加の誤差を有し得る。収集間隔の小さなシフトも、特にシャープなピークの場合、解析される分画間の成分の分布に大きな変化をもたらす恐れがある。セクション5からの平滑化手順は、そのような疎な測定値に適さない。それにもかかわらず、サブグリッド正確性を維持するため、時間オフセットt
sを特定するために、シフトされ実質的に分画される前、スプライン近似を元のシミュレーションデータに適用しなければならない。このオフセットに基づいて、スコア
【数23】
は、それらの即時ペナルティ版と共に計算することができる。同様に、SSDスコアも、収集間隔にわたりシミュレーションの平均を計算することにより、分画に適用することができる。
【0101】
検索戦略
上述したスコアは、成分毎に定義されているが、和信号に適用することもできる。複数の成分のスコアを併合して、適用された検索戦略の目標を作成することができる。和信号上のスコアを含むことにより、利用可能な全ての情報を使用することが賢明である。CADET-Matchは2つの代替の検索戦略、即ち勾配降下及び多目的遺伝アルゴリズムを使用する。勾配降下の場合、全てのメトリックを結合して1つのスカラー値にする必要があり、一方、遺伝アルゴリズムは複数のメトリックに対して動作することができる。
【0102】
勾配降下
勾配降下アルゴリズムは、探し求められるパラメータに関する導関数情報を使用して目標関数の局所最適を探す。勾配降下は、クロマトグラフィでのパラメータ推定に長い間使用されてきた。勾配降下は、探し求められる最適近くでは非常に効率的であるが、目標関数が平滑ではないか、又はヤコビアンが特異になる場合、失敗する恐れがある。更に、このアルゴリズムは、開始点から離れ得る局所最適にとらわれやすい。これは、ベイスンホッピング又はマルチスタート戦略により回避することができる。後者は、集団ベースの検索戦略の結果を改良する場合、適用されることが多い。
【0103】
遺伝アルゴリズム(GA)
遺伝アルゴリズム(GA)はバイオミミクリーの一例である。根本的には、遺伝アルゴリズムは、外部環境に適合する細菌のコロニーのように機能し、同じ特徴の多くを共有する。GAはあきれるほど相似する。初期集団が、多くの場合、ラテン超方格サンプリング又はソボル列等の準ランダム法を使用して作成される。次いで、集団の各メンバが、1つ又は複数の目的に基づいて評価される。各生成の終わりで、最適メンバが生き残り、再生して次世代を形成する。次世代は、生き残ったメンバの繁殖と変異の組合せにより作成される。この手順には、集団の多様性を維持し、次世代に含めるメンバを選び、繁殖及び変異がいかに実施されるかを変更するバリエーションがある。これらのバリエーションにより、NSGA2、NSGA3、及びSPEA2等の異なるアルゴリズムが生じる。ノーフリーランチ定理に鑑みて、異なるGAバリアントが多様な問題で試験、最適化されてから、単一目的問題ではNSGA2及び多目的問題ではNSGA3に落ち着いた。
【0104】
オンラインモニタリング
実験データを正しく適宜処理し、適した開始点を決定する複雑なモデルを構築することは、難しく骨の折れる作業であり得る。実験に基づいて、新しいモデル又は概念が一から正しく実施される可能性は低い。しかしながら、そのような問題は、モデルをデータに当てはめるよう試みることによってしか試験することができない。誤差は多くの場合、パラメータ推定プロセスの初期段階で識別することができるため、CADET-Matchは、ピークの高さ、形状、質量等の特定の指標の進行をモニタリングする機能を提供する。これは、開始点が妥当な結果をもたらすか否か及び検索アルゴリズムが目標を常時改善するか否かを観測できるようにする。オンラインモニタリングは、進行が不良であるか、又は結果が既に十分に良好な場合、早期中止できるようにする。これは、モデル、目標、開始点、及び停止基準の高速試験にとって極めて重要である。適した開始点は決定が難しいことがあるため、かなり大きな集団サイズのGAが一般に、初期試験に良好な選択である。マルチ開始勾配検索は、並列反復プロセスはモニタリングがより困難であるため、良好な代替ではない。
【0105】
パラメータ変換
大半の検索戦略は、探し求められるパラメータが数桁にわたって拡散するか、又は互いと相関する場合、苦労する。パラメータ変換は、このような問題を軟化させるのに役立ち得る。CADET-Matchは、クロマトグラフィシミュレータに渡されるモデルパラメータpと検索アルゴリズムに渡される推定パラメータP’との間の幾つかの変換規則、即ち一対一のマップを提供する。これらの変換は、モデルパラメータの上限
【数24】
及び下限
【数25】
に基づく。
【0106】
線形変換(以下の式27参照)は、元の範囲
【数26】
を[0,1]にマッピングする。これは通常、パラメータの上限及び下限の互いからの隔たりが3桁未満である場合、十分である。範囲がより広い場合、非線形変換(以下の式28参照)が賢明である。後者は、検索アルゴリズムのステップ幅を各モデルパラメータの大きさに自動的に適合させる。そうでなければ、同じステップは、あるパラメータには巨大であり得、他のパラメータには小さすぎることになり得る。
【数27】
【0107】
非線形パラメータ相関は、検出が難しいため、特に対処する必要がある。例えば、吸着及び平衡定数k
a及びk
eqは通常、吸着及び脱着定数k
a及びk
dよりもはるかに相関の程度が低い。関係k
eq=k
a/k
dは、検索アルゴリズムがk
a及びk
eqに対して動作しながら、k
a及びk
dをシミュレータに渡せるようにする。対応する変換(以下の式29及び30参照)は、大きなパラメータ範囲も説明する。これは結合率を濃度平衡から切り離す。
【数28】
【0108】
感度解析
作業点における入力に関するシステムの感度は、システム解の導関数として定義される。そのような入力は、モデルパラメータ又は供給濃度であることができる。感度は、特定のモデル入力の変化がモデル出力にどれくらい影響するかを測定する。
【0109】
任意のモデル入力の感度は、CADETライブラリにより計算することができ、.h5出力に書き込むことができる。CADETはアルゴリズム微分を使用している。解析導関数の数値近似は、MoChAツールにおいて同様に利用可能な有限差分法により取得することができる。
【0110】
パラメータ識別可能性
モデルパラメータは一般に、光学顕微鏡法等を使用して測定して、孔輸送係数を特定することにより取得することができる。しかしながら、モデルパラメータの直接測定値をとることは多くの場合、可能ではないか、又は非常に骨が折れ、したがって、再帰パラメータ推定が、クロマトグラフィモデリングで使用されることが多い方法である。パラメータ識別可能性は、既知の所与の入力及びモデル方程式に固有のモデルパラメータを見つける能力を記述する。クロマトグラフィの場合、モデルパラメータは、種々のパラメータセットが同じシミュレーションクロマトグラム又はずれがごくわずかなクロマトグラムを生じさせるとき、不良な識別可能性を有する。このことにより、パラメータ推定は難しくなる。パラメータ識別可能性は、特定のパラメータ値の適合品質を評価するために計算される目的値を描くことによって視覚化することができる。
【0111】
材料及び方法
新しいモダリティBiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャ)抗体構造体が、本明細書における系統的手法を提示するための一例として使用される。分子は、がん治療及び他の重症疾患で高い期待を受ける二重特異性抗体のクラスのメンバとしての半減期延長BiTE(登録商標)である。Amgenにより開発されたチャイニーズハムスター卵巣細胞株を使用することによりBiTE(登録商標)分子を製造し、次いでタンパク質A親和性工程により捕捉した。BiTE(登録商標)をタンパク質A親和性工程、続けてウイルス不活性化及び深層濾過により捕捉し、濾過済みウイルス不活性化プール(FVIP)を生成した。
【0112】
続けて、1Mの蟻酸を添加することにより、ウイルス不活性化を適用した。2Mのトリス系を使用してプールをpH5.0に中和し、非濾過ウイルス不活性化プール(nVIP)を生成した。Millistak+(登録商標)HCポッドデプスフィルタによりnVIPを濾過し、濾過済みウイルス不活性化プール(FVIP)を生成した。
【0113】
AKTA(商標)Avant150クロマトグラフィ機をUnicorn7.3ソフトウェアと共に使用して実験を実行した。クロマトグラフィ機に設置された標準UV、pH、及び導電率プローブを使用してインラインでpH、UV、及び導電率測定を実行した。読み取りを確認するために、SoloVPE(C Technologies,Inc.)、pHプローブ(ThermoFisher Scientific)、及び導電率プローブ(ThermoFisher Scientific)をそれぞれ使用してUV、pH、及び導電率のオフライン測定を行った。
【0114】
ベンチトップ実験
ベンチトップスケールランのために、Capto SP ImpRes樹脂(Cytiva(商標))をMillipore vantageカラム(内径 1.15cm及び高さ20.7cm)に圧縮率1.11で詰め込み、カラム容量を21.5mLにした。カラムの非対称因子は0.91であり、HETPは0.0203cmであった。
【0115】
デッドボリューム及び分散実験のトレーサ分子としてDextran Blue 2000溶液(Cytiva(商標))を使用した。デキストランブレークスルー及びパルス実験に向けて、ミリQ水中のデキストラン0.1g/Lの濃度で2L溶液を準備した。
【0116】
使用したCapto SP ImpReS樹脂のイオン容量は、Thiemo Huuk 2016により紹介された滴定方法によって取得した。同じロットのCapto SP ImpReSを詰め込んだ1.7mL CVの小型カラムを0.5mM塩酸(HCL)に約500CVで暴露した。次いで、カラムを水で洗浄して、残留している酸を除去した。カラムを0.01Mの水酸化ナトリウム(NaOH)に暴露した。最後に、対イオンを完全に交換するために必要な容量のNaOHを使用して、Thiemo Huuk 2016によりカラムのイオン容量を特定した。
【0117】
濾過済みウイルス不活性化プール(FVIP)材料をベンチトップスケールでのクロマトグラフィランに使用した。供給材料は同じ製造ロットからのものであり、供給特性を以下の表2に示す。
【0118】
【0119】
非結合パルスの供給材料の導電率は、4Mの塩化ナトリウムを使用して180mS/cmに調整した。
【0120】
全てのベンチトップ実験は、2.60ml/分の流量で実行した。クロマトグラフィ機のカラム入口管及び出口管をゼロ容量コネクタに接続することにより、ベンチトップバイパス実験を実行した。デキストラン溶液は、UV信号が安定化するまで2.60ml/分の流量で試料ポンプから流れた。同じ手順を1M NaCl溶液を用いて使用して、試料ポンプから導電率計までのホールドアップを特定した。
【0121】
カラムを含むデキストランブレークスルー及びパルストレーサ実験を行った。テキストラン溶液を試料ラインから装入した。まず、3CVの18%エタノールを流して、ベースラインUV及び導電率読み取り値を確立した。パルス実験では10mLのデキストランを装入し、一方、ブレークスルー実験では、安定したUV信号が達成されるまで装入を続けた。
【0122】
カラムが平衡し、非結合条件下で装入されるように導電率44mS/cmの平衡バッファー及び導電率調整済みFVIPプールを使用して、タンパク質ブレークスルー実験を行った。まず、高伝導率平衡バッファーを用いてカラムを3CVにわたって平衡し、次いで40mLの導電率調整済みFVIPプールをカラムに流した。装入後に再生を実行して、カラムに結合したタンパク質がないことを確認した。
【0123】
まず、5CVにわたって平衡し、FVIP材料を樹脂1L当たり25gで装入することにより、勾配溶出ランを行った。平衡バッファーを使用した洗浄工程を3CVにわたって行った。5、8、及び11mM/CVの勾配で溶出を行い、1ステップ溶出を行った。
【0124】
クロマトグラフィバッファーを以下の表3に列記する。
【0125】
【0126】
プロセスロバスト性実験
プロセスロバスト性ランのために、非濾過ウイルス不活性化プール(NVIP)材料を使用した。4.80g/Lの濃度の同じロットの材料を様々な装入及び勾配で注入した。
【0127】
全てのプロセスロバスト性実験は4.33mL/分の流量で実行された。これらの実験は、44mLカラム(内径1.6cm、長さ22cm)を含めて実行された。別記されない場合、最大主要ピーク値の%単位で30%の収集停止基準が、この事象の検出後、収集モードを停止し、即座に100%溶出バッファーに変更することによって適用された。この手法は、Unicornの自動クロマトグラフィ機制御システムの一部である。
【0128】
異なる溶出勾配、装入因子、及び収集基準を用いたタンパク質実験を実行した。表4に、プロセスロバスト性実験で使用したパラメータの組合せを示す。
【0129】
【0130】
アルゴリズム
オープンソースシミュレータであるChromatography Analysis and Design Toolkit(CADET)により、モデル方程式を解いた。ソフトウェアにより、クロマトグラフィ工程の様々な輸送及び吸着モデル並びにCSTR及びDPFRタイプ輸送モデルを組み合わせて、一連の単位動作を記述することができる。更に、ソフトウェアは、モデル入力パラメータに関する感度を提供する等、モデルベースの解析ツールを提供する。ソフトウェアパッケージは、https://github.com/modsim/CADETで入手可能である。CADETにはPythonインタフェースによりアクセスした。CADETエンジンに基づくオープンソースソフトウェアパッケージであるCADET-Matchによりパラメータ検索を実行し、これは、https://github.com/modsim/CADET-Matchで入手可能である。このツールで使用される推定アルゴリズムは、シミュレートされたクロマトグラムと実測クロマトグラムとの間の類似性を測定する多目的の最大化を使用する。これらの目的値の積が最高の結果を使用することにより、最良適合を識別した。
【0131】
結果及び考察
モデル開発の場合、段階毎の手法は以下であった。この手法を使用して、モデルにおいて、管及び弁内の分子の輸送によって生じるピーク遅延又はピークブロード化等の輸送効果を吸着効果から分離する。述べた輸送効果は、様々なカラムスケールでのモデル適用可能性を下げる再帰モデル較正により吸着係数にまとめることができるため、これは特に重要である。段階毎の手法を
図4に示す。
【0132】
段階1:プロセスシステムの捕捉
図1Aは、AKTA(商標)等の一般に使用されるクロマトグラフィスキッド及び機械の流路表現を示す。
図1Aは、カラム前の様々なデッドボリュームを示す。このデッドボリュームは、溶出開始に関して溶出中のピークシフトに影響するため、デッドボリュームをモデルで説明する必要がある。可能な表現は、溶出開始時の単純な時間シフトから、内蔵された管及び弁の容積のメカニスティック表現まで及ぶ。
【0133】
分子がクロマトグラフィ機において経験する経路の最も単純な表現を
図5に概説する。単位動作のこの組合せを使用して、勾配溶出に必要とされるプロセスの表現を作成した。
【0134】
その結果生成される単位動作モデルのシステムは、DPFR及びCSTRモデルとカラムモデルを組み合わせてセットアップされる。複数の単位動作が付随するモデルシーケンスを
図4に示す。
【0135】
管モデル及び槽モデルを使用して、管及びミキサ及び弁の効果をシミュレートする。式(1)~(7)に与えられるカラムモデル方程式が使用される。
【0136】
追加のカラム輸送パラメータの特定
式(11)及び(12)に与えられる管モデル方程式と弁モデル方程式との組合せを使用して、試料ポンプからUVセンサへの流路及び入口ポンプから導電率センサまでの流路を表す。全ての経路は、当てはめられたカラム前のDPFR及びCSTRモデル(入口ポンプ(バッファー)経路及び試料ポンプ(分子)経路)並びにベンダーにより提供される幾何学的仕様(長さ及び直径)のみからのDPFRモデルセットアップの組合せとしてセットアップされる。本明細書に記載のように、カラム前の管モデル及びミキサ/弁モデルは、デキストランブレークスルーバイパス及び塩バイパスランに個々に当てはめられる。更に、管6及び管7のモデルは、それぞれ1mm直径並びに17cm及び10cmでAKTA(商標)Avant150マニュアルに従ってセットアップされる。それらの2つのモデルの分散係数は、バイパス実験で推定された分散係数に設定される。
【0137】
段階2:輸送及びカラム輸送特性の捕捉
バイパス輸送パラメータの特定
カラムからの輸送挙動を記述するパラメータは、カラムを迂回するデキストラン及び塩トレーサ実験を行うことにより、吸着から生じる効果から分離することができる。カラムの入口管及び出口管は、カラムがバイパス実験の流路から除外されるようにゼロ容量コネクタにより接続される。勾配溶出ランにとって重要な流路が
図6に示されている。この工程において推定されるパラメータのリストが与えられる。
【0138】
表5は、分子が経験している各経路で推定されたパラメータの名称、説明、及び範囲のリストを提供する。範囲は、推定器アルゴリズムに使用される限界に対応する。
【0139】
【0140】
デキストランで非理想的な挙動が観測されたことに留意することが重要である。考えられる原因は、管壁との相互作用又は強力な高密度勾配によって生じる圧力のずれである。そのような非理想的な挙動は、ブレークスルーの上昇時における種々の変曲点で観測することができる(
図7A参照)。この挙動に起因して、パラメータ推定アルゴリズムは、シミュレーションをブレークスルー又はピークの前部の開始に当てはめており、クロマトグラムにおける前の点を無視する。CADET-Matchでは、この手法は完全に自動化されている。このモデル較正工程の結果を
図7A及び
図7Bに示す。
【0141】
最終的なパラメータを表6A~表6Cに与える。
図7A及び
図7Bにおいて、デキストラン等のトレーサ分子の効果は明らかであり、
図7Aに示されるように、デキストランブレークスルーの最初の上昇部への当てはめが、デキストランブレークスルー全体の当てはめと比較して異なるパラメータに繋がることを示している。デキストランブレークスルー上昇時の小さなプレピークは、アーチファクトであると仮定され、推定アルゴリズムにより主に無視された。
図7Aにおける当てはめは、試料経路の単位動作のモデルパラメータを提供する(
図6参照)。
図7Bにおける較正結果は、入口経路のモデル表現を示す(
図6参照)。塩トレーサの理想的な挙動に近いことに起因して、当てはめられたモデルと導電率信号との間の無視できるずれのみが観測される。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
カラム輸送パラメータの特定
ラインにおけるカラムを用いて実行されたデキストランブレークスルー及びパルス実験を用いて、カラム特有輸送パラメータを特定した。カラム前及びカラム後の管によって生じるホールドアップ容量及び分散を知ることで、カラム特有輸送効果のより正確なパラメータ特定が可能である。Blue Dextran 2000は、Capto SP ImpReSの非孔貫通トレーサ分子として作用し、したがって、この最初の工程では、間隙相カラム輸送が較正される。デキストラン実験を用いて推定された輸送パラメータを表に与える。表7は、間隙相カラム輸送較正を受けたパラメータのリストを提供する。
【0146】
【0147】
ここでも、CADET-Matchツールをこの推定工程に使用した。結果当てはめを
図8A及び
図8Bに示す。
【0148】
シミュレートされたトレースブレークスルー及びパルスは、クロマトグラムの前部においてデキストラン実験に当てはめられ、以上に良好な適合を示す。その結果として生成されたモデルパラメータは表6A~表6Cに与えられている。
次の工程として、樹脂粒子に関連する輸送パラメータが推定される。それらのパラメータは、間隙容量から粒子内への物質輸送及び粒子有孔率を指す。表7において、推定手順に使用されたパラメータ及びパラメータ範囲が与えられている。粒子輸送較正工程の結果を
図8Cに示す。結果として生成されたモデルパラメータ値は表6A~表6Cに与えられている。
【0149】
【0150】
表7は、粒子輸送を受けたパラメータの名称及び範囲のリストを提供している。
【0151】
図8Cのクロマトグラムの上部における非理想性は、全容量までカラムに装入したことに起因した圧力警報によって生じ、パラメータ推定では無視される。ここでも、ブレークスルー前部の最初の部分のみが推定エンジンにより使用される。モデル較正のこの工程では、標的分子及び不純物を含むFVIP材料が使用される。したがって、この工程によって取得されたパラメータは、トレーサ分子ではなく実際に使用された分子の孔輸送を記述する。
【0152】
段階3:定量的吸着挙動の捕捉
ここで、クロマトグラフィ機の単位動作のシステムのモデル説明を段階3において使用して、標的分子の吸着挙動を特定することができる。異なる勾配傾き(5mM/CV、8mM/CV、11mM/CV、及び「ステップ」溶出)を用いた完全実験クロマトグラフィランを実行した。0.5CVの間隔で溶出容量を分画し、解析サイズ除外(SEC-HPLC)及び陽イオン交換(CEX-HPLC)クロマトグラフィにより分画を解析して、関心のある分子の含有量を取得した。
【0153】
モデリングされる種
分画データを使用して、モデリングされる種を決定した。関心のある標的クロマトグラムエリアは、主要ピーク及び不純物を有する後続ピークである。
【0154】
解析された分画に基づいて、主要ピークは、標的分子の全ての電荷バリアントを3つの電荷バリアント種:酸性バリアント、主要バリアント、及び基本バリアントにまとめることによりモデルで表される。分子量は、3つ全てのバリアントで等しいと見なされる。分画のSEC解析に基づいて、不純物のピークに含まれた全ての種は、単一の成分としてモデルで説明される。最後に、5成分モデル、即ち対イオンとしてナトリウムを記述する1つの塩種、酸性、主要、及び基本電荷バリアントを記述する4つのタンパク質成分、並びに高分子量(HMW)成分が取得される。
【0155】
モデルは、FVIP材料中のモデリングされる各種の濃度を入力パラメータとして使用し、これは、カラムに入る分子種の正確な表現のために、解析実験を行い、モデリングされる各種の供給装入タンパク質濃度を特定する必要があることを意味する。労力及び時系列のために、供給溶液の解析プロファイルの代わりにUVクロマトグラムと共に実験分画プールを使用することにより、装入タンパク質濃度を識別した。分画プールにおけるピークエリア間の比率及びUVクロマトグラムにおけるピーク間の比率が計算される。次いで、FVIP材料に存在する総タンパク質濃度を考慮することにより、供給材料中の各種の濃度が計算される。
【0156】
較正結果
5mM/CV及び11mM/CV勾配ランを結合パラメータ推定に並行して使用した。UV信号及び分画データを推定に使用した。推定を受けたパラメータ及びパラメータ範囲を表に列記する。
【0157】
表9は、推定を受けたパラメータの名称及び範囲のリストを提供する。モデリングされた各種の各パラメータが推定される。
【0158】
【0159】
イオン容量Λは、「ベンチトップ実験」セクションにおいて上述した手順に従って1339mMに設定された。得られた最良適合を
図9A及び
図9Bに示す。最終的な吸着モデルパラメータ値を表6A~表6Cに列記されている。
【0160】
モデル査定
モデル検証のためにモデル予測性を測定するために、プロセス性能指標(PPI)プール容量、収率、及びプール濃度を使用する。装入及び勾配が様々なプロセススケール(44mLカラム)及びベンチトップスケール(21.5mLカラム)での更なる勾配実験ランをモデル検証に使用する。カラム直径及びカラム長をプロセススケールカラムの指定された値に設定することにより、モデルスケールアップを実行した。更に、体積流量を2.60mL/分から4.33mL/分に変更した。全てのモデルパラメータは、モデル較正により推定されるものと同じに維持された。モデル許容性のPPI閾値は表9に列記される。プロセススケールについてのモデル予測及び実験データの視覚化を
図10A、
図10B、
図10C、及び
図10Dに提示する。
【0161】
【0162】
ベンチトップ及びプロセススケールにおける勾配ランをモデル検証に使用する。まず、25g/L装入因子でのランのPPIを比較し、結果を表10に示す。
【0163】
【0164】
表11に示されるように、モデルがベンチトップスケールプロセスのPPIを5%偏差範囲内で予測することが観測される。プロセススケールでのランのモデル予測は13%偏差範囲内である。5%及び13%は両方とも十分に、表10に与えられる予め定義された許容可能範囲内にある。
【0165】
更なるモデル検証活動は、様々な装入因子、勾配傾き、及び収集停止基準でのプロセススケールのモデル予測を比較することを含む。モデル検証の結果を表12及び表13において比較する。
【0166】
【0167】
【0168】
表12及び表13から、装入因子を変更している間、モデル予測が十分に、定義されたPPI範囲内にあることが観測される。しかしながら、モデルは、勾配傾きが変更される場合、勾配傾きが、モデル較正が実行された値に近い場合であっても、収率に関して予測性が低下するように見える。それらのランで、収率及びプール容量の全般的な過大評価を示す傾向を観測することができる。収率の過大評価の理由は、メカニスティッククロマトグラフィモデリングの全般的な問題である一モデル制限に結びつくピークエリアの全般的な過大評価に見出すことができる。これは、シミュレートされるカラムに装入された質量がクロマトグラムにおいてUV検出器により測定されたものよりも高く、約10%のピークエリアずれに繋がったことを示す。モデルはタンパク質装入に対して非常に高い感度を有するように見える。に供給された質量を決めるより正確な供給濃度は、このデータセットでは利用可能ではない。
【0169】
表12において、主要、基本、及び酸性電荷バリアントの収集されたプール中の電荷バリアントの部分は、予測値と実測値との間で比較される。全てのシミュレーション部分は、実験で取得された値から0~16.2%ずれる。値は、様々な装入因子及び勾配傾きでの電荷バリアントプロファイルを予測するのに十分なモデル正確性を示している。このことは、モデル較正ワークフローが、産業CEXプロセス開発のモデル較正活動に適切であることを示唆する。
【0170】
UV信号をAU単位からSI単位に移すために、分子量をモデリングされる各種に割り当てる必要があることに留意することに価値がある。SI単位はシミュレーション活動に好都合である。HMW種の分子量は精密には分からない。したがって、供給中のHMW種の量も同様に、精密には特定されない。モデル正確性を改善する工程において、HMWの分子量はより精密に考慮することができる。
【0171】
UV280及びUV300測定信号をより統合された様式で結合することにより、更なるモデル正確性改善を達成することができる。提示されたクロマトグラムの幾つかでの主要ピークの最大値が、UV280信号の線形範囲の上端部に非常に近いことが観測される。それは、クロマトグラムピークエリア及びシミュレートされたピークにおいて観測される偏差への寄与であり得る。ここで、UV280及びUV300のデータ信号を統合するに当たり柔軟であるデータ統合は、モデル正確性の改善に有価値であろう。
【0172】
まとめ及び結論
最終モデルを構築するために、モデルの段階毎の方法較正部分を3工程で示唆する製薬治療分子のモデル開発手法を紹介した。この手法は、輸送モデルの記述を吸着モデルから切り離すために使用することができる。
【0173】
複数の単位動作を含む、クロマトグラフィシステムのモデル表現が作成された。システムは、塩溶出工程中に試料分子又はバッファー分子のいずれかが経験する経路を記述し、これらの経路は両方ともカラムを別として弁及び管を含む。次の工程において、間隙カラム輸送を記述するモデルパラメータを推定する。行われる次の工程は、孔への物質移動を記述するパラメータを推定する。最後に、モデル較正の最後の段階において、吸着モデルパラメータを推定する。各パラメータ推定工程で、別個の実験セットが使用される。
【0174】
モデルの正確性は、様々なカラムスケールで実行された実験を使用することにより査定される。モデルは、許容可能な品質でプロセスロバスト性実験での溶出挙動を予測し、勾配傾き、装入因子、及び収集停止基準等の様々なプロセスパラメータを探索するのに使用することができる。
【0175】
それを用いて、示唆されたワークフローに、追加のカラム容量、カラム内輸送、及び吸着挙動についてモデル部分を構成するために必要な工程が付随すると結論付けることができる。本明細書に提供される方法の有益な特徴には以下がある:
・較正に必要な実験数が少なく、
・追加のカラム容量が特徴付けられ、各モデル部分は他の分子に再使用することができ、
・輸送モデルの較正と吸着モデルの較正との相対的な切り離しにより、モデルは機器変更を反映し、更に、様々なスケールにわたり使用することができる。
【0176】
モデルは、許容可能な品質でより大きな規模でプロセスを予測するが、一般的限界を明らかにする。それらの制限の1つは、多くの場合、モデリングされる各種の供給濃度は知られていないことであり、追加の解析実験が必要とされる。時間及び労力のために、UVクロマトグラム及び分画データから供給濃度を識別する代替の方法が示唆される。従来の研究では、メカニスティックモデルのこの欠点はこれまで明らかになっておらず、又はこの問題にいかに対処するかが説明されていない。本開示は、分割データ及びUVクロマトグラムから供給濃度を識別する手法を提供し、追加の実験が必要ないことが示唆される。時間及び労力のために、最小セットがモデルの較正及び検証に使用された。12個1セットの実験が、追加のカラム輸送モデルパラメータの特定からモデル検証までを含む完全なワークフローに使用される。9つ1セットの実験が、あるpH値での結合条件下でのモデル較正に使用され、4つ1セットの追加の実験が、カラム内及びカラム外への輸送の場合で輸送モデルパラメータを推定するために必要であった。更に、モデル検証実験を使用した。モデル許容可能性及び予測性が、モデル較正に役立つ知識及び実験の量に伴って増大することが一般に知られている。しかしながら、実験労力が増大するに伴い、モデルベースの方法をプラットフォームプロセス開発に統合する許容可能性。したがって、モデル較正に最小の実験セットを識別することが、クロマトグラフィモデリングを産業プロセス開発活動に統合するのをサポートする。
【0177】
更に、モデルが、実験が示唆するよりも装入されるタンパク質量により高い感度を有することが明らかになった。したがって、PPIは多くの場合、推定よりも過大評価される。ここで、2つの手法がモデル正確性の改善に役立つことができる。第1に、供給材料の特性を改善するための解析努力を増大させる。第2に、モデル査定にパラメータ不確実性推定を含める。ここで、推定パラメータは、供給材料濃度の変動に関して調べることができる。そのような類いの洞察は、プロセス最適化及びプロセスロバスト性実験を導くために有価値である。
【0178】
本明細書に提供される方法は、ソルバ及びアルゴリズムが公開されているため、他のモデラーにより使用され再現することができる。更に、モデルは、HDF5フォーマットでの使用に利用可能な1組の単位動作を含み、シミュレーションは再現可能である。本明細書に記載の結果は、モデル及びワークフロー機能の更なる調査及び強化に使用することができ、これは進化しつつあるクロマトグラフィコミュニティへの大きな貢献である。
【0179】
例示的な方法
図11は、本明細書に記載の方法の一例の流れ
図100を示す。カラム前に第1の分散プラグフロー反応器(DPFR)及び連続攪拌槽反応器(CSTR)を含み、カラム後に第2のDPFRを含むクロマトグラフィ機では、第2のDPFRと関連する幾何学的測定値を取得し得る(ブロック102)。例えば、第2のDPFRと関連する幾何学的測定値は、第2のDPFRと関連する管直径測定値及び管長測定値を含み得る。これらの測定値は、例えば、管直径及び管長を測定することに基づいて及び/又はクロマトグラフィ機の既知の製造仕様に基づいて取得し得る。
【0180】
例えば、プロセッサにより、幾何学的測定値に基づいて、第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送パラメータを生成し得る(ブロック104)。例えば、輸送モデルパラメータは、DPFRでの分散係数、DPFRの容量、DPFRの断面積等を含み得る。
【0181】
トレーサ分子(例えば、デキストラン、NaCl、又は別の適したトレーサ分子)をクロマトグラフィ機に供給し得る(ブロック106)。クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づいて、1つ又は複数のトレーサ分子測定値を捕捉し得る(ブロック108)。例えば、1つ又は複数のトレーサ分子測定値は、クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子と関連するクロマトグラムに基づいて捕捉し得る。
【0182】
第2のDPFRと関連する輸送モデル及びクロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、第1(及び第2)のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの1つ又は複数の輸送モデルパラメータを推定し得る(ブロック110)。例えば、輸送モデルパラメータは、DPFRでの分散係数、DPFRの容量、DPFRの断面積、CSTRの容量等を含み得る。
【0183】
更に、幾つかの例では、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルと、第2のDPFRと関連する輸送モデルと、クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値とに基づいて、クロマトグラフィ機のカラムと関連するカラム特有輸送モデルの1つ又は複数のカラム特有輸送モデルパラメータを推定し得る。例えば、カラム特有輸送モデルパラメータは、カラム有孔率、カラム分散等を含み得る。
【0184】
更に、幾つかの例では、カラム特有輸送モデルと、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルと、第2のDPFRと関連する輸送モデルと、クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値とに基づいて、クロマトグラフィ機の樹脂粒子と関連する樹脂輸送モデルの1つ又は複数の樹脂輸送パラメータを推定し得る。
【0185】
任意選択的に、実験試料をクロマトグラフィ機に供給し得る(ブロック112)。クロトマグラフィ機を通って移動している実験試料に基づく1つ又は複数の実験測定値を捕捉し得る(ブロック114)。例えば、クロマトグラフィ機を通って移動している実験試料と関連するクロマトグラムに基づいて、1つ又は複数の実験測定値を捕捉し得る。
【0186】
クロマトグラフィ機を通って移動している実験試料に基づく1つ又は複数の実験測定値、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの推定された1つ又は複数の輸送モデルパラメータ、並びに第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送パラメータに基づいて、例えばプロセッサにより、実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定し得る(ブロック116)。幾つかの例では、カラム特有輸送モデル及び/又は樹脂輸送モデルは、吸着モデルの吸着モデルパラメータを推定するに当たり使用される因子であることもできる。例えば、吸着モデルパラメータは、吸着係数、脱着係数、特性電荷、遮蔽因子等の1つ又は複数を含み得る。幾つかの例では、実験試料と関連する第2の吸着モデルの第2の組の吸着パラメータは、初期推定された吸着パラメータと関連する範囲に基づいて推定し得る。
【0187】
幾つかの例では、実験試料と関連する吸着モデル(及び/又は実験試料と関連する第2の吸着モデル)に基づいて、実験試料を識別し得る。
【0188】
更に、幾つかの例では、クロマトグラフィ機は、入口流路カラム前の第1のDPFR及びCSTR及び入口流路カラム後の第2のDPFRを含む入口流路と、試料流路カラム前の第1のDPFR及びCSTR及び試料流路カラム後の第2のDPFRを含む試料流路とを含み得、方法100は入口流路及び試料流路の両方に対して実行し得る。
【0189】
更に、幾つかの例では、第2の実験試料(例えば第1の実験試料とは別個)を使用するが、同じ推定輸送モデルパラメータを使用して、ブロック112、114、及び116を再び実行し得る。即ち、クロマトグラフィ機の輸送モデルが開発されると、その輸送モデルを使用して、複数の実験試料の吸着モデルパラメータの特定に使用し得る。
【0190】
態様
1.方法であって、カラム前に第1の分散プラグフロー反応器(DPFR)及び連続攪拌槽反応器(CSTR)及びカラム後に第2のDPFRを含むクロマトグラフィ機で、第2のDPFRと関連する幾何学的測定値を取得することと、プロセッサにより、幾何学的測定値に基づいて第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送モデルパラメータを生成することと、クロマトグラフィ機にトレーサ分子を供給することと、クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づいて、1つ又は複数のトレーサ分子測定値を捕捉することと、プロセッサにより、第2のDPFRと関連する輸送モデル及びクロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの1つ又は複数の輸送モデルパラメータを推定することとを含む方法。
【0191】
2.実験試料をクロマトグラフィ機に供給することと、クロマトグラフィ機を通って移動している実験試料に基づいて1つ又は複数の実験測定値を捕捉することと、プロセッサにより、クロマトグラフィ機を通って移動している実験試料に基づく1つ又は複数の実験測定値、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの推定された1つ又は複数の輸送モデルパラメータ、並びに第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送パラメータに基づいて、実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することとを更に含む、態様1に記載の方法。
【0192】
3.幾何学的測定値は、第2のDPFRと関連する管直径測定値及び管長測定値を含む、態様1又は2に記載の方法。
【0193】
4.1つ又は複数のトレーサ分子測定値は、クロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子と関連するクロマトグラムに基づいて捕捉される、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0194】
5.1つ又は複数の実験測定値は、クロマトグラフィ機を通って移動している実験試料と関連するクロマトグラムに基づいて捕捉される、態様2~4のいずれか1つに記載の方法。
【0195】
6.プロセッサにより、実験試料と関連する吸着モデルに基づいて実験試料を識別することを更に含む、態様2~5のいずれか1つに記載の方法。
【0196】
7.実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することは、まず、実験試料と関連する第1の吸着モデルの第1の1つ又は複数の吸着パラメータをまず推定することであり、方法は、プロセッサにより、実験試料と関連する第1の吸着モデルの第1の1つ又は複数の結合パラメータと関連する範囲に基づいて、実験試料と関連する第2の吸着モデルの第2の1つ又は複数の吸着パラメータを第2に推定すること
を更に含む、態様2~6のいずれか1つに記載の方法。
【0197】
8.プロセッサにより、実験試料と関連する第2の吸着モデルに基づいて実験試料を識別することを更に含む、態様7に記載の方法。
【0198】
9.カラム前の第1のDPFR及びCSTR並びにカラム後の第2のDPFRは、クロマトグラフィ機の流入路の一部であり、クロマトグラフィ機は、試料流路カラム前の第1のDPFR及びCSTR並びに試料流路カラム後の第2のDPFRを有する試料流路を更に含み、請求項1に記載の工程は、試料流路カラム前の第1のDPFR及びCSTR並びに試料流路カラム後の第2のDPFRで更に実行される、態様1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0199】
10.実験試料は第1の実験試料であり、方法は、第2の実験試料をクロマトグラフィ機に供給することと、クロマトグラフィ機を通って移動している第2の実験試料に基づいて1つ又は複数の第2の実験測定値を捕捉することと、プロセッサにより、クロマトグラフィ機を通って移動している第2の実験試料に基づく1つ又は複数の第2の実験測定値に基づいて、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデルの推定される1つ又は複数の輸送モデルパラメータ、第2のDPFRと関連する輸送モデルの輸送パラメータ、第2の実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することとを更に含む、態様2~9のいずれか1つに記載の方法。
【0200】
11.第2の実験試料は第1の実験試料とは別個である、態様10に記載の方法。
【0201】
12.輸送モデルパラメータは、DPFRにおける分散係数、DPFRの容積、DPFRの断面積、及びCSTRの容積の1つ又は複数を含む、態様1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0202】
13.吸着モデルパラメータは、吸着係数、脱着係数、特性電荷、及び遮蔽因子の1つ又は複数を含む、態様2~12のいずれか1つに記載の方法。
【0203】
14.プロセッサにより、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデル、第2のDPFRと関連する輸送モデル、及びクロマトグラフィ機を通って移動しているトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、クロマトグラフィ機のカラムと関連するカラム特有輸送モデルの1つ又は複数のカラム特有輸送モデルパラメータを推定することを更に含む態様1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0204】
15.カラム特有輸送モデルパラメータは、カラム有孔率及びカラム分散率の1つ又は複数を含む、態様14に記載の方法。
【0205】
16.プロセッサにより、カラム特有輸送モデル、第1のDPFR及びCSTRと関連する輸送モデル、第2のDPFRと関連する輸送モデル、及びクロマトグラフィ機を通って移動するトレーサ分子に基づく1つ又は複数のトレーサ分子測定値に基づいて、クロマトグラフィ機の樹脂粒子と関連する樹脂輸送モデルの1つ又は複数の樹脂輸送パラメータを推定することを更に含む態様14又は15に記載の方法。
【0206】
17.樹脂輸送パラメータは、各成分のフィルム輸送係数及びポア有孔率の1つ又は複数を含む、態様16に記載の方法。
【0207】
18.実験試料と関連する吸着モデルの1つ又は複数の吸着モデルパラメータを推定することは、カラム特有輸送モデル又は樹脂輸送モデルの1つ又は複数に更に基づく、態様2~17のいずれか1つに記載の方法。
【0208】
19.トレーサ分子はデキストランである、態様1~18のいずれか1つに記載の方法。
【0209】
20.トレーサ分子はNaClである、態様1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0210】
21.トレーサ分子はDNA分子である、態様1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0211】
22.トレーサ分子はナノ粒子である、態様1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0212】
23.プロセッサと、プロセッサにより実行されると、態様1~22のいずれか1つに記載の方法の工程をコンピュータシステムに実行させる命令を記憶した1つ又は複数のメモリとを含むコンピュータシステム。
【0213】
24.プロセッサにより実行されると、態様1~22のいずれか1つに記載の方法の工程をプロセッサに実行させる命令を記憶した非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【国際調査報告】