(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-12
(54)【発明の名称】気化ガスを消費して推進する形式の液化ガス輸送船舶の管理支援方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20240104BHJP
F17C 9/02 20060101ALI20240104BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
F17C13/00 302A
F17C9/02
B63B25/16 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533587
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2021084268
(87)【国際公開番号】W WO2022117872
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515220317
【氏名又は名称】ギャズトランスポルト エ テクニギャズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボルデ ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ハナット フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ジェンティリーニ エリック
(72)【発明者】
【氏名】ヴォリュート ミカエル
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB03
3E172AB04
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB02
3E172BB13
3E172BD02
3E172HA04
3E172HA08
(57)【要約】
本発明は、液化ガスを収容する少なくとも1つのタンク(3)と、タンクから放出される気化ガスを船舶の推進エンジン(40)または船舶に搭載されたガス燃焼ユニット(30)に送達することができ、タンク内に含まれる液相の一部を取り出し、この部分を気化させて推進エンジン(40)に送達することができる気相処理システム(10)とを備える、船舶の管理支援方法に関する。
本方法は、船舶の軌道に沿ったタンク内に含まれる気相の圧力の変化を定義する、少なくとも1つのタンク管理シナリオを生成するステップ(305)と、少なくとも、当該軌道に沿ってタンク内で発生した気化ガスの総量に依存するコスト関数を計算するステップ(404)と、計算されたコスト関数に基づいて、タンク管理シナリオをユーザに表示するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガス輸送船舶(1)の管理を支援するためのコンピュータ実装方法であって、前記船舶は、液化ガスを収容するように構成された少なくとも1つのタンク(3)と、気相処理システム(10)であって、前記気相処理システム(10)は、前記タンク(3)から放出されるボイルオフガスを前記船舶の推進エンジン(40)または前記船舶に搭載されたガス燃焼ユニット(30)に送達することができ、前記気相処理システム(10)はさらに、前記タンク(3)内に含まれる液相(3L)の一部を取り出し、前記部分を気化させて前記推進エンジン(40)に送達することができる、気相処理システム(10)と、を備え、前記方法は、
-前記タンクの初期状態を提供するステップ(301)であって、前記タンクの前記初期状態は、前記タンク(3)内に含まれる前記気相(3G)の初期圧力および前記タンク(3)内に含まれる前記液相(3L)の初期温度を含む、ステップ(301)と、
-前記船舶(1)の予測経路(80)を提供するステップ(302)と、
-気象予報に基づいて、前記予測経路(80)に沿った前記船舶の少なくとも1つの環境パラメータを求めるステップ(303)と、
-前記予測経路(80)に沿った前記船舶(1)の速度曲線を求めるステップ(304)と、
-前記予測経路(80)進行中の前記タンク内に含まれる前記気相(3G)の前記圧力の変化を定義するタンク管理シナリオ(50、50A)を生成するステップ(305)であって、このように生成された前記タンク管理シナリオに基づいて、
a)前記船舶の前記速度曲線と前記少なくとも1つの環境パラメータとの関数として、前記予測経路(80)に沿って前記推進エンジン(40)から出力することが必要となる動力の曲線を推定するステップ(401)、
b)前記予測経路に沿って前記船舶(3)内で発生した前記ボイルオフガス量の曲線を推定するステップ(402)、
c)前記必要動力曲線と前記ボイルオフガス発生量の曲線とに基づいて、前記タンクから取り出すべき前記ガス量の曲線と、前記ガス燃焼ユニット(30)内で燃焼させるべき前記ボイルオフガス量の曲線とを推定するステップ(403)、および
d)前記予測経路(80)に沿って前記タンク内で発生したボイルオフガスの総量に少なくとも依存するコスト関数を計算するステップ(404)を行う、タンク管理シナリオを生成するステップ(305)と、
-前記計算されたコスト関数の関数として、前記タンク管理シナリオ(50、50A)をユーザに表示するステップ(310)と、
を含む、液化ガス輸送船舶(1)の管理を支援するためのコンピュータ実装方法。
【請求項2】
複数のタンク管理シナリオ(50、50A)が生成され、ステップa)~d)が各タンク管理シナリオごとに実行され、前記タンク管理シナリオのうちの少なくとも1つが、前記タンク管理シナリオに対して前記計算されたコスト関数の関数として前記ユーザに表示される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンク管理シナリオ(50、50A)のうちの少なくとも1つを前記ユーザに表示する前記ステップ(310)の前に、前記タンク管理シナリオは、前記コスト関数を第1の目的関数として使用する第1の進化的アルゴリズムによって何度も反復的に再生成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記予測経路(80)が、2つのウェイポイント(83)および前記2つのウェイポイント間の進行方向によってそれぞれ画定される経路ステップ(84)を含み、ステップa)において、前記予測経路(80)に沿って前記推進エンジン(40)から出力することが必要となる前記動力の曲線が、前記進行方向と、前記船舶の前記速度曲線と、前記少なくとも1つの環境パラメータとの関数として推定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記船舶の前記速度曲線が、前記予測経路(80)に沿って前記タンク内で発生した前記ボイルオフガスの前記総量、および前記目的地への到着所要時間と前記目的地への到着予定時間との間の差に依存する第2の目的関数を使用する、第2の進化的アルゴリズムによって、前記予測経路(80)および前記少なくとも1つの環境パラメータから求められる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記船舶の予測経路(80)を提供する前記ステップ(302)が、前記船舶の前記目的地の搬出ターミナルが必要とする搬出圧力および/または搬出温度を提供するステップを含み、ステップd)において、前記コスト関数が、前記予測経路(80)の終端で前記タンク(3)内に含まれる前記気相(3G)の前記圧力と前記搬出圧力との間の差、および/または前記予測経路(80)の前記終端で前記タンク(3)内に含まれる前記液相(3L)の前記温度と前記搬出温度との間の差にさらに依存する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)において、前記必要動力曲線が第1の統計モデルを使用して推定され、前記第1の統計モデルが、少なくとも船舶速度設定点と前記少なくとも1つの環境パラメータとの関数として前記推進エンジン(40)から出力することが必要となる動力を推定することができ、前記第1の統計モデルが、教師あり機械学習手法によって訓練されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記予測経路(80)に沿って前記タンク(3)内で発生した前記ボイルオフガス量の曲線を推定する前記ステップ(402)を含む前記ステップb)が、前記タンク内に含まれる前記気相(3G)の現在の圧力と前記船舶内に含まれる前記液相(3L)の現在の温度との関数として、前記タンク内で発生した第1のボイルオフガス量を推定するステップと、前記タンク内に含まれる前記気相(3G)の現在の圧力と前記少なくとも1つの環境パラメータとの関数として、前記タンク内で発生した第2のボイルオフガス量を推定するステップとを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記タンク(3)内で発生した前記第2のボイルオフガス量が、第2の統計モデルを使用して推定され、前記第2の統計モデルが、教師あり機械学習手法によって訓練されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記初期状態が、前記タンクに内に収容された前記液化ガスの初期組成を含み、前記予測経路(80)に沿って前記タンク(3)内で発生した前記ボイルオフガス量の曲線を推定する前記ステップ(402)を含むステップb)が、前記タンク内で発生した前記ボイルオフガスの組成を推定するステップをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記環境パラメータが、流向、流速、風速、風向、平均波高、波向、および波周期のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記気相処理システム(10)が、前記タンク(3)から放出されるボイルオフガスを再液化し、このようにして再液化された前記ボイルオフガスを前記タンクに戻すことができる再液化プラント(75)をさらに備え、前記ステップc)が、前記必要動力曲線および前記ボイルオフガス発生量の前記曲線に基づいて、前記タンクから取り出すべき前記ガス量の曲線と、前記ガス燃焼ユニット(30)内で燃焼させるべき前記ボイルオフガス量の曲線と、前記再液化プラント(75)に送達すべき前記ボイルオフガス量の曲線とを推定するステップ(403)を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記気相処理システム(10)が、前記船舶(3)内に含まれる前記液相(3L)の一部を過冷却することができ、このようにして過冷却された前記部分を前記タンクに戻すことができるサブクーラ(77)をさらに備え、前記ステップc)が、前記必要動力曲線および前記ボイルオフガス発生量の前記曲線に基づいて、前記タンクから取り出すべき前記ガス量の曲線と、前記ガス燃焼ユニット(30)内で燃焼させるべき前記ボイルオフガス量の曲線と、前記タンクから取り出して前記サブクーラ(77)に送達すべき前記液相量の曲線とを推定するステップ(403)を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の前記方法の前記ステップが、一定の間隔で、および/または気象予報を新たに受信した際に繰り返される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
液化ガス輸送船舶の管理支援システム(100、200)であって、前記船舶(1)は、液化ガスを収容するように構成された少なくとも1つのタンク(3)と、気相処理システム(10)であって、前記気相処理システム(10)は、前記タンク(3)から放出されるボイルオフガスを前記船舶の推進エンジン(40)または前記船舶に搭載されたガス燃焼ユニット(30)に送達することができ、前記気相処理システム(10)はさらに、前記タンク(3)内に含まれる液相(3L)の一部を取り出し、前記部分を気化させて前記推進エンジン(40)に送達することができる、気相処理システム(10)と、を備え、前記管理支援システム(100、200)は、
-前記タンクの前記初期状態および前記船舶の予測経路(80)を取得するように構成された取得ユニット(42)であって、前記タンクの前記初期状態は、前記タンク(3)内に含まれる前記気相(3G)の初期圧力および前記タンク(3)内に含まれる前記液相(3L)の初期温度を含む、取得ユニット(42)と、
-気象予報プロバイダから気象予報を取得するように構成された第1の通信ユニット(130)と、
-前記予測経路(80)に沿った前記船舶の速度曲線を求め(304)、前記予測経路(80)に沿った前記タンク(3)内に含まれる前記気相(3G)の前記圧力の変化を定義するタンク管理シナリオ(50、50A)を生成する(305)ように構成された計算ユニット(110)であって、前記計算ユニット(110)は、このように生成された前記タンク管理シナリオに基づいて、
a)前記船舶の前記速度曲線と前記少なくとも1つの環境パラメータとの関数として、前記予測経路(80)に沿って前記推進エンジン(40)から出力することが必要となる前記動力の曲線を推定し(401)、
b)前記予測経路に沿って前記タンク(3)内で発生した前記ボイルオフガス量の曲線を推定し(402)、
c)前記必要動力曲線と前記ボイルオフガス発生量の前記曲線とに基づいて、前記船舶から取り出すべき前記ガス量の曲線と、前記ガス燃焼ユニット(30)内で燃焼させるべき前記ボイルオフガス量の曲線とを推定し(403)、
d)前記予測経路(80)に沿って前記タンク内で発生したボイルオフガスの総量に少なくとも依存するコスト関数を計算する(404)ように構成されている、計算ユニット(110)と、
-前記計算されたコスト関数の関数として、前記タンク管理シナリオ(50、50A)をユーザに表示するように構成された表示ユニット(41)と、
を備える、液化ガス輸送船舶の管理支援システム(100、200)。
【請求項16】
前記予測経路(80)が、2つのウェイポイント(83)および前記2つのウェイポイント間の進行方向によってそれぞれ画定される経路ステップ(84)を含み、前記計算ユニット(110)が、a)前記予測経路(80)に沿って前記推進エンジン(40)から出力することが必要となる前記動力の曲線を、前記進行方向と、前記船舶の前記速度曲線と、前記少なくとも1つの環境パラメータとの関数として推定する(401)ように構成されている、請求項15に記載のシステム(100、200)。
【請求項17】
前記取得ユニット(42)と前記表示ユニット(41)とが前記船舶に搭載され、前記第1の通信ユニット(130)と前記計算ユニット(110)とが地上局(1000)に配置され、前記システムが、前記取得ユニット(42)と前記計算ユニット(110)とを接続するように構成された第2の通信ユニット(230)をさらに備える、請求項15または16に記載のシステム(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイルオフガスを消費して推進する形式の液化ガス輸送船舶の分野に関する。より具体的には、本発明は、そのような船舶の管理支援方法およびシステムを提案する。
【背景技術】
【0002】
密閉断熱タンクは、一般に、大気圧下で約-162℃で液化天然ガス(LNG)を輸送するために使用される。これらのタンクは、液化ガスを輸送することを目的とし得る。多くの液化ガス、具体的にはメタン、エタン、プロパン、ブタン、アンモニア、二水素またはエチレンも想定され得る。
【0003】
船舶タンクは、大気圧下の輸送を可能にする単一または二重密閉膜式タンクであり得る。これらの密閉膜は通常、ステンレス鋼薄板またはインバー薄板から作製されている。膜は通常、液化ガスと直接接触している。
【0004】
液化ガスは、周囲温度よりも大幅に低い温度で輸送されるため、当該ガスは、タンクを断熱しているにもかかわらず、そのようなタンクの1つまたは複数を備える船舶によって輸送されるときに、自ずと徐々に加熱される傾向がある。この加熱により発生するガスは、一般にボイルオフガス(BOG)と称される。一例として、LNGを大気圧下で約-162℃で輸送する場合、タンクに最初に収容されるLNGの体積の0.05%~0.15%程度のBOGの発生を1日当たり観察することができる。
【0005】
BOGを活用するために、BOGを消費することができる船舶の推進エンジンにBOGを送達することによって、BOGの全部または一部が船舶の推進に使用されることが知られている。船舶は、公知の方法により、典型的には、船舶の推進エンジンによって消費することができなかった余剰BOGを燃焼させるガス燃焼ユニット(GCU)をさらに備えている。
【0006】
船舶が通る経路に沿ってGCU内で燃焼されるBOGは、船舶には送達されず、何の利益もなく消費されるため、損失を表すことになる。したがって、船舶の所与の経路に沿ったBOGの損失量を最小限に抑えることが望ましい。その上、船舶の推進エンジンに送達されるBOGを利用したとしても、船舶の目的地に送達される量の減少を表すことにもなる。
【0007】
さらに、GCU内で燃焼されるBOG量および船舶の推進エンジンに送達されるBOG量を制限するために、タンク内で発生するBOGの総量を制限できるようにする船舶の管理を支援するための解決策が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の背後にある1つの着想は、船舶のタンク内で発生したボイルオフガスの少なくとも総量を推定するために、船舶の予測経路および船舶の稼働モデルに沿った気象予報を使用することである。本発明の背後にある別の着想は、当該予測経路に沿ったタンク内に含まれる気相の圧力の変化を定義する少なくとも1つ、好ましくはいくつかのタンク管理シナリオに対してこの推定を実行することである。本発明の背後にあるさらに別の着想は、当該予測経路に沿ってタンク内で発生するボイルオフガスの総量に少なくとも依存するコスト関数の関数として、当該タンク管理シナリオのうちの少なくとも1つをユーザに表示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態によれば、本発明は、液化ガス輸送船舶の管理を支援するためのコンピュータ実装方法を提供するものであり、当該船舶は、液化ガスを収容するように構成された少なくとも1つのタンクと、気相処理システムであって、当該気相処理システムは、タンクから放出されるボイルオフガスを船舶の推進エンジンまたは船舶に搭載されたガス燃焼ユニットに送達することができ、当該気相処理システムはさらに、タンク内に含まれる液相の一部を取り出し、当該部分を気化させて推進エンジンに送達することができる、気相処理システムと、を備え、本方法は、
-タンクの初期状態を提供するステップであって、タンクの当該初期状態は、タンク内に含まれる気相の初期圧力およびタンク内に含まれる液相の初期温度を含む、ステップと、
-船舶の予測経路を提供するステップと、
-気象予報に基づいて、当該予測経路に沿った船舶の少なくとも1つの環境パラメータを求めるステップと、
-当該予測経路に沿った船舶の速度曲線を求めるステップと、
-当該予測経路進行中のタンク内に含まれる気相の圧力の変化を定義するタンク管理シナリオを生成するステップであって、このように生成されたタンク管理シナリオに基づいて、
a)船舶の当該速度曲線と当該少なくとも1つの環境パラメータとの関数として、当該予測経路に沿って推進エンジンから出力することが必要となる動力の曲線を推定するステップ、
b)当該予測経路に沿ってタンク内で発生したボイルオフガス量の曲線を推定するステップ、
c)当該必要動力曲線と当該ボイルオフガス発生量の曲線とに基づいて、タンクから取り出すべきガス量の曲線と、ガス燃焼ユニット内で燃焼させるべきボイルオフガス量の曲線とを推定するステップ、および
d)当該予測経路に沿ってタンク内で発生したボイルオフガスの総量に少なくとも依存するコスト関数を計算するステップを行う、タンク管理シナリオを生成するステップと、
-計算されたコスト関数の関数として、タンク管理シナリオをユーザに表示するステップと、
を含む。
【0010】
これらの特徴により、タンク管理シナリオは、コスト関数を計算することによって評価することができ、意思決定支援を提供する目的で当該シナリオをユーザに表示することができる。
【0011】
いくつかの実施形態によれば、そのような方法は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0012】
一実施形態によれば、複数のタンク管理シナリオが生成され、ステップa)~d)が各タンク管理シナリオごとに実行され、当該タンク管理シナリオのうちの少なくとも1つが、当該タンク管理シナリオに対して計算されたコスト関数の関数としてユーザに表示される。
【0013】
したがって、コスト関数を計算することによって相当数のタンク管理シナリオを評価することができ、意思決定支援を提供することを目的として、コスト関数を最も最小化する1つまたは複数のタンク管理シナリオをユーザに表示することができる。
【0014】
一実施形態によれば、当該タンク管理シナリオのうちの少なくとも1つをユーザに表示するステップの前に、当該タンク管理シナリオは、コスト関数を第1の目的関数として使用する第1の進化的アルゴリズムによって何度も反復的に再生成される。
【0015】
「進化的アルゴリズム」という用語は、典型的にはコンピュータによって実施される方法を意味すると理解され、解決策のグループが生成され、次いで各解決策が目的関数によって評価され、目的関数を最も最小化する解決策のいくつかが選択され、このように選択された解決策から新しい解決策のグループが生成され、停止基準が検証されない限り、これらのステップが繰り返される。本発明の範囲内で、各タンク管理シナリオが解決策であり、コスト関数は進化的アルゴリズムの目的関数として機能する。
【0016】
様々な種類の進化的アルゴリズムは、それら自体公知である。一実施形態では、進化的アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムである。進化的アルゴリズムは、最適化問題に特によく適している。
【0017】
上記で述べたように、進化的アルゴリズムは、より最適な解の探索を停止するタイミングを決定するために、停止基準を使用する必要がある。一実施形態によれば、停止基準は、本方法によって所与の計算時間の終わりに1つまたは複数の最適化されたタンク管理シナリオを確実にユーザに表示する、計算時間基準である。
【0018】
一実施形態によれば、船舶の予測経路は連続する時間間隔に分割され、1つまたは各タンクシナリオは、当該連続する時間間隔の各々の間にタンク内に含まれる気相の圧力の平均値を定義する。
【0019】
一実施形態によれば、ユーザに表示される当該少なくとも1つのタンク管理シナリオは、当該連続する時間間隔の各々の間に、タンク内に含まれる気相の圧力の最小値および/またはタンク内に含まれる気相の圧力の最大値と共に表示される。
【0020】
一実施形態によれば、当該予測経路は、2つのウェイポイントおよび当該2つのウェイポイント間の進行方向によってそれぞれ画定される経路ステップを含み、ステップa)において、当該予測経路に沿って推進エンジンから出力することが必要となる動力の曲線は、当該進行方向と、船舶の当該速度曲線と、当該少なくとも1つの環境パラメータとの関数として推定される。
【0021】
このようにして、タンク管理シナリオの評価はまた、推進エンジンから出力することが必要となる動力に対する船舶の進行方向の影響を考慮に入れる。実際、一例として、船舶の進行方向と、流向、風向および波向との間の角度に応じて、この動力はより大きくなるか、またはより小さくなる可能性がある。
【0022】
一実施形態によれば、船舶の当該速度曲線は、当該予測経路に沿ってタンク内で発生した当該ボイルオフガスの総量、および目的地への到着所要時間と目的地への到着予定時間との間の差に依存する第2の目的関数を使用する、第2の進化的アルゴリズムによって、当該予測経路および当該少なくとも1つの環境パラメータに基づいて求められる。
【0023】
このようにして、推進エンジンから出力することが必要となる動力の推定は、船舶の到着所要時間を考慮に入れ、当該時間は、ユーザが入力パラメータとして指定することができる。
【0024】
液化ガスを搬出するためのターミナルは、タンクが所与の搬出圧力および/または搬出温度を有することを体系的に必要とする。一実施形態によれば、船舶の予測経路を提供するステップは、船舶の目的地の搬出ターミナルが必要とする搬出圧力および/または搬出温度を提供するステップを含み、ステップd)において、コスト関数は、当該予測経路の終端でタンク内に含まれる気相の圧力と当該搬出圧力との間の差、および/または当該予測経路の終端でタンク内に含まれる液相の温度と当該搬出温度との間の差にさらに依存する。
【0025】
このようにして、タンク管理シナリオは、目的地点に位置する搬出ターミナルが、搬出ターミナルが必要とするものに近似する搬出圧力および/または搬出温度に到達できるようになる場合に、さらに一層受容可能になると考えられる。
【0026】
一実施形態によれば、ステップa)において、必要動力曲線は第1の統計モデルを使用して推定され、第1の統計モデルは、少なくとも船舶速度設定点と当該少なくとも1つの環境パラメータとの関数として推進エンジンから出力することが必要となる動力を推定することができ、第1の統計モデルは、教師あり機械学習手法によって訓練されている。
【0027】
「教師あり機械学習手法」または「教師あり学習」という用語は、注釈付きの例に基づいて予測関数を学習するステップを含む機械学習手法を意味するものと理解される。すなわち、教師あり機械学習手法では、予測すべき応答が既知である複数の例から予測可能なモデルを構築することができる。教師あり機械学習手法は通常、コンピュータによって実施されるため、第1の統計モデルの訓練は通常、コンピュータによって実施される。
【0028】
当然ながら、「テストデータのセットに対して教師あり機械学習手法を使用して統計モデルを訓練する」と述べる文または特徴において、「テストデータのセット」はまた、「実際の」活動から導出されたデータ、すなわち、液化ガスの輸送装置およびユーザとして行き来する船舶で取得または記録されたデータを含むか、またはそれらのデータから構成され得ることが理解される。
【0029】
一実施形態によれば、当該予測経路に沿って船舶内で発生したボイルオフガス量の曲線を推定するステップを含む上記のステップb)は、船舶内に含まれる気相の現在の圧力と船舶内に含まれる液相の現在の温度との関数として、船舶内で発生した第1のボイルオフガス量を推定するステップと、タンク内に含まれる気相の現在の圧力と当該少なくとも1つの環境パラメータとの関数として、タンク内で発生した第2のボイルオフガス量を推定するステップとを含む。
【0030】
したがって、タンク内で発生したボイルオフガス量を推定するステップは、タンク内で液相と気相とが共存することに関連しているボイルオフガスの発生と、船舶が経験する動きによって液相が撹拌されることに起因したボイルオフガスの発生との両方を考慮に入れる。
【0031】
一実施形態によれば、タンク内で発生した第2のボイルオフガス量は、第2の統計モデルを使用して推定され、第2の統計モデルは、教師あり機械学習手法によって訓練されている。
【0032】
一実施形態によれば、初期状態は、タンク内に収容された液化ガスの初期組成を含み、当該予測経路に沿ってタンク内で発生したボイルオフガス量の曲線を推定するステップを含むステップb)は、タンク内で発生したボイルオフガスの組成を推定するステップをさらに含む。
【0033】
液化ガスのカーゴが化学的に純粋であることはほぼないため、このカーゴは通常、いくつかの液化ガスの混合物であり、一方は主として重量であり、他方(単数または複数)は不純物の形態で存在する。しかしながら、カーゴの初期組成は通常、液化ガスがタンクに搬入される際に液化ガスの供給元によって示される。液化ガスの初期組成を示し、タンク内で発生したボイルオフガスの組成を推定することにより、液化ガスのカーゴを形成するガスの様々な気化特性に起因して、ボイルオフガスの組成が予測経路に沿って変化するという事実が考慮される。
【0034】
一実施形態によれば、環境パラメータは、流向、流速、風速、風向、平均波高、波向、および波周期のうちの少なくとも1つを含む。
【0035】
一実施形態によれば、気相処理システムは、タンクから放出されるボイルオフガスを再液化し、このようにして再液化されたボイルオフガスをタンクに戻すことができる再液化プラントをさらに備え、上記のステップc)は、当該必要動力曲線および当該ボイルオフガス発生量の曲線に基づいて、タンクから取り出すべきガス量の曲線と、ガス燃焼ユニット内で燃焼させるべきボイルオフガス量の曲線と、再液化プラントに送達すべきボイルオフガス量の曲線とを推定するステップを含む。
【0036】
一実施形態によれば、気相処理システムは、船舶内に含まれる液相の一部を過冷却することができ、このようにして過冷却された部分をタンクに戻すことができるサブクーラをさらに備え、上記のステップc)は、当該必要動力曲線および当該ボイルオフガス発生量の曲線に基づいて、タンクから取り出すべきガス量の曲線と、ガス燃焼ユニット内で燃焼させるべきボイルオフガス量の曲線と、タンクから取り出してサブクーラに送達すべき液相量の曲線とを推定するステップを含む。
【0037】
一実施形態によれば、本方法のこれらのステップは、一定の間隔で、および/または気象予報を新たに受信した際に繰り返される。
【0038】
したがって、本方法は、船舶がその予測経路に沿って進行するにつれて、かつ気象予報を新たに入手した際に、タンク管理シナリオを定期的に再評価する。追加的または代替的に、本方法のステップは、ユーザによる指示に応じて繰り返すことができる。
【0039】
一実施形態によれば、本発明は、液化ガス輸送船舶の管理支援システムをさらに提供するものであり、当該船舶は、液化ガスを収容するように構成された少なくとも1つのタンクと、気相処理システムであって、当該気相処理システムは、タンクから放出されるボイルオフガスを船舶の推進エンジンまたは船舶に搭載されたガス燃焼ユニットに送達することができ、当該気相処理システムはさらに、タンク内に含まれる液相の一部を取り出し、当該部分を気化させて推進エンジンに送達することができる、気相処理システムと、を備え、本管理支援システムは、
-タンクの初期状態および船舶の予測経路を取得するように構成された取得ユニットであって、タンクの当該初期状態は、タンク内に含まれる気相の初期圧力およびタンク内に含まれる液相の初期温度を含む、取得ユニットと、
-気象予報プロバイダから気象予報を取得するように構成された第1の通信ユニットと、
-当該予測経路に沿った船舶の速度曲線を求め、当該予測経路に沿ったタンク内に含まれる気相の圧力の変化を定義するタンク管理シナリオを生成するように構成された計算ユニットであって、当該計算ユニットは、このように生成されたタンク管理シナリオに基づいて、
a)船舶の当該速度曲線と当該少なくとも1つの環境パラメータとの関数として、当該予測経路に沿って推進エンジンから出力することが必要となる動力の曲線を推定し、
b)当該予測経路に沿ってタンク内で発生したボイルオフガス量の曲線を推定し、
c)当該必要動力曲線と当該ボイルオフガス発生量の曲線とに基づいて、タンクから取り出すべきガス量の曲線と、ガス燃焼ユニット内で燃焼させるべきボイルオフガス量の曲線とを推定し、
d)当該予測経路に沿ってタンク内で発生したボイルオフガスの総量に少なくとも依存するコスト関数を計算するように構成されている、計算ユニットと、
-計算されたコスト関数の関数として、タンク管理シナリオをユーザに表示するように構成された表示ユニットと、
を備える。
【0040】
そのようなシステムは、上記の方法と同じ利点を提供するものである。
【0041】
一実施形態によれば、当該予測経路は、2つのウェイポイントおよび当該2つのウェイポイント間の進行方向によってそれぞれ画定される経路ステップを含み、計算ユニットは、a)当該予測経路に沿って推進エンジンから出力することが必要となる動力の曲線を、当該進行方向と、船舶の当該速度曲線と、当該少なくとも1つの環境パラメータとの関数として推定するように構成されている。
【0042】
一実施形態によれば、取得ユニットと表示ユニットとは船舶に搭載され、第1の通信ユニットと計算ユニットとは地上局に配置され、本システムは、取得ユニットと計算ユニットとを接続するように構成された第2の通信ユニットをさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0043】
本発明は、添付の図面を参照して、単に非限定的な例示として提供される本発明のいくつかの特定の実施形態の以下の説明を通してよりよく理解され、さらなる目的、詳細、特徴および利点がより明確に明らかになるであろう。
【0044】
【0045】
【
図2】
図1の船舶のタンク、ならびに気相処理システム、船舶の推進エンジン、および船舶に搭載されたガス燃焼ユニットを概略的に示すブロック図である。
【0046】
【
図3】
図1の船舶の管理支援システムのブロック図である。
【0047】
【
図4】
図3の代替実施形態による、
図1の船舶の管理支援システムのブロック図である。
【0048】
【
図5A】
図1の船舶の管理支援方法の第1のステップを示すブロック図であり、本方法は、
図3の管理支援システムによって実施することができる。
【0049】
【
図5B】
図5Aの方法の今後のステップを示すブロック図である。
【0050】
【
図6】船舶の予測経路の例を説明のために示す図である。
【0051】
【
図7】
図3の管理支援システムで生成されたタンク管理シナリオの例を説明のために示すグラフである。
【0052】
【
図8】所与のタンク管理シナリオを評価するために、
図3の管理支援システムによって使用されるモデルを説明のために示すブロック図である。
【0053】
【
図9】
図7と同様のタンク管理シナリオの例を説明のために示すグラフであり、タンク内の圧力の最小値および最大値が関連付けられている。
【0054】
【
図10】部分時間間隔に細分化された、
図7と同様のタンク管理シナリオの例を説明のために示すグラフである。
【0055】
【
図11】いくつかの実施形態において、
図3の管理支援システムで生成された速度管理シナリオの例を説明のために示すグラフである。
【0056】
【
図12】所与の速度管理シナリオを評価するために、
図3の管理支援システムによって使用されるモデルを説明のために示すブロック図である。
【0057】
【
図13】気相処理システムの代替実施形態を示す、
図2のブロック図と同様のブロック図である。
【0058】
【
図14】気相処理システムの別の代替実施形態を示す、
図2のブロック図と同様のブロック図である。
【0059】
【
図15】気相処理システムのさらに別の代替実施形態を示す、
図2のブロック図と同様のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下の実施形態は、複数の密閉断熱タンクが配置された支持構造を形成する二重船殻を備える船舶に関して述べたものである。このような支持構造では、タンクは一例として、例えば角柱形状などの多面体形状を有する。
【0061】
このような密閉断熱タンクは、例えば液化ガスを輸送するために設けられる。液化ガスは、このようなタンクにおいて低温で貯蔵かつ輸送されるため、液化ガスを当該温度に維持するために断熱タンク壁が必要になる。
【0062】
このような密閉断熱タンクは、船舶の二重船殻に固定され、少なくとも1つの密閉膜を支持する断熱障壁をさらに備える。一例として、そのようなタンクは、本出願人によるMarkIII(登録商標)またはNO96(登録商標)などの商標下で販売されている技術に従って製造することができる。
【0063】
図1は、4つの密閉断熱タンク2を備える船舶1を示す。4つのタンク2は、同一または異なる充填状態を有することができる。
【0064】
図2は、
図1の船舶の4つのタンク3、4、5、6を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、船舶1は、気相処理システム10と、エンジン40と、ガス燃焼ユニット(GCU)30とをさらに備える。
【0065】
エンジン40は、船舶1の推進に必要な動力を提供し、代替実施形態として、船舶1の推進に必要な当該動力と、船舶1の他の機器(一般に「ホテル負荷」と称される)に電気的に動力を供給するのに必要な動力との両方を供給することができる。それ自体公知の方法で、エンジン40は、タンク3、4、5、6から放出されるボイルオフガス(BOG)から発生し得るか、またはタンクから取り出された液化ガスを気化させるように意図されたヒータ60から発生し得る気相ガスを消費することができる。そのようなエンジン40はそれ自体公知であるため、本明細書ではこれに関して詳述しない。
【0066】
さらにそれ自体公知の方法で、GCU30は、エンジン40によって消費することができない余剰BOGが存在する場合、これを燃焼させることができる。そのようなGCU30はそれ自体公知であるため、本明細書ではこれに関して詳述しない。
【0067】
気相処理システム10は、必要に応じて、各タンク3、4、5、6から放出されるBOGをエンジン40またはGCU30に送達することができる。この目的のために、気相処理システム10は、タンク3、4、5、6の各々のための気相処理サブシステム13、14、15、16と、これらのサブシステム13、14、15、16と連通して、必要に応じてBOGがエンジン40またはGCU30に送達されるようにするBOG分配ユニット20とをそれぞれ備える。そのような気相処理システムおよびサブシステムはそれら自体公知であるため、本明細書ではこれに関して詳述しない。
【0068】
さらにそれ自体公知の方法で、各サブシステム13、14、15、16はまた、所望される場合に、対応するタンク3、4、5、6内に含まれる液相の一部を取り出し、この部分をヒータ60に送達して気化させることができる。
【0069】
船舶1が4つのタンクを備えた状態が示されているが、船舶1が備えるタンク数は異なっていてもよく、具体的には単一のタンク、またはさらには任意の数のタンクを備え得ることが明確に理解される。
【0070】
以下では便宜上、タンク3を参照して管理支援方法300について説明するが、管理支援方法300は、いくつかのタンク3、4、5、6に対して、またはこれらの各々に対して同時に実施できることが理解される。
【0071】
図3は、船舶1に搭載された管理支援システム100の例を示す。本管理支援システム100は、通信インターフェース130、ヒューマンマシンインターフェース140、およびデータベース150に接続された中央ユニット110を備える。
【0072】
通信インターフェース130により、例えば気象データ、船舶の位置データなどを取得するために、中央ユニット110が遠隔装置と通信できるようになる。
【0073】
ヒューマンマシンインターフェース140は、表示手段41を含む。後述するように、表示手段41により、1つまたは複数のタンク管理シナリオ50をユーザに表示できるようになる。
【0074】
後述するように、ヒューマンマシンインターフェース140は、ユーザが中央ユニット110に定量を手動で供給できるようにする取得手段42をさらに含む。
【0075】
管理支援システム100は、データベース150をさらに備える。後述するように、このデータベース150は、モデル、具体的にはモデル61、62、63を格納するために使用することができる。
【0076】
図4は、陸上に配置され、船舶1と通信する管理支援システム200の例を示す。船舶1は、中央ユニット210と、ヒューマンマシンインターフェース140と、通信インターフェース230とを備える。中央ユニット1、通信インターフェース130、およびそれらの部分のデータベース150は、地上局1000に配置されている。管理支援システム200の動作は、管理支援システム100の動作と同様であり、地上の中央ユニット1によって実行された計算の結果を、通信インターフェース130および230を用いて船舶1に搭載されたヒューマンマシンインターフェース140に送信する点においてのみ異なっている。一例として、通信インターフェース130および230は、地上波または衛星無線周波数データ送信を使用することができる。
【0077】
ここで、
図5A~
図9を参照して、船舶1の管理支援方法300について説明するが、本方法は、管理支援システム100または200を使用して実施することができる。
【0078】
方法300は、タンク3の初期状態を提供することを含む、第1のステップ301を含む。この初期状態は、タンク3内に含まれる気相3Gの初期圧力と、タンク3内に含まれる液相3Lの初期温度とを含む。この情報は、例えば、ユーザが取得手段42を用いて入力する。
【0079】
好ましくは、初期状態は、タンク3内に収容された液化ガスの初期組成をさらに含む。この初期組成は通常、液化ガスがタンク3に搬入される際に、液化ガス供給元によって示される。この初期組成は、例えば、ユーザが取得手段42を用いて入力することができる。
【0080】
方法300は、船舶1の予測経路80を提供することを含むステップ302をさらに含む。
図6は、予測経路80の例を説明のために示す図である。この図に示すように、予測経路80は、出発地点81、目的地点82、および船舶1が通過することが想定される複数のウェイポイント83によって画定される。地点81、82、83は、例えば、ユーザが取得手段42を用いて入力する。地点81、82、83は、それ自体公知の方法でそれらの地理的座標によって画定される。
【0081】
連続するウェイポイント83の各対は、共に経路ステップ84を画定している。予測経路80はまた、経路ステップ84に沿った船舶1の進行方向によって画定することができる。
【0082】
方法300は、気象予報に基づいて、予測経路80に沿った船舶1の少なくとも1つの環境パラメータを求めることを含むステップ303をさらに含む。具体的には、中央ユニット110は、通信インターフェース130を使用して、気象予報プロバイダによって提供される気象予報を取得し、気象予報および予測経路80に基づいて、少なくとも1つの環境パラメータを求める。環境パラメータは、流向、流速、風速、風向、平均波高、波向、および波周期のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはこれらのパラメータのうちのいくつかを含むか、さらにはすべてを含む。なお、これらの環境パラメータのうちのいくつかは、気象予報プロバイダによって直接提供され得るが、他のパラメータは、中央ユニット10が、気象予報にあるモデルを適用することによって推定することができる。
【0083】
方法300は、予測経路80に沿った船舶1の速度曲線を求めることを含むステップ304をさらに含む。簡略化された実施形態では、速度曲線は、例えば、ユーザが取得手段41を用いることで、入力データとして簡単に提供され得る。
【0084】
方法300は、複数のタンク管理シナリオ50を生成することを含むステップ305をさらに含む。
【0085】
図7は、タンク管理シナリオ50の例を説明のために示すグラフである。この図に示すように、所与のタンク管理シナリオ50は、当該予測経路進行中の、時間tの関数としてタンク3内に含まれる気相3Gの圧力Pの変化を定義する。好ましい実施形態では、予測経路80が連続する時間間隔d1、d2、d3、d4、d5、d6などに分割され、タンク管理シナリオ50は、時間間隔d1、d2、d3、d4、d5、d6などにわたる圧力Pの平均値P1、P2、P3、P4、P5、P6などを定義する。時間間隔d1、d2、d3、d4、d5、d6などは、それぞれ具体的には1日に等しいものとすることができる。
【0086】
タンク管理シナリオ50は、例えば、ステップ305でランダムに生成することができる。
【0087】
ステップ305の後、方法300は、タンク管理シナリオ50の評価に進む(
図5Aおよび
図5BのAを参照されたい)。
【0088】
以下でさらに詳述する好ましい実施形態によれば、方法300は、目的関数として、予測経路80に沿ってタンク3内で発生したBOGの総量に少なくとも依存するコスト関数を使用する進化的アルゴリズムを実装する。この進化的アルゴリズムのコンテクスト内で、それ自体公知の方法で、タンク管理シナリオ50は複数回反復的に再生成され、タンク管理シナリオ50の新しい世代はそれぞれ、コスト関数を最も最小化する先行世代の一定数のタンク管理シナリオ50に基づいて生成される。
【0089】
図8は、以下の説明の理解を容易にするために、コスト関数を評価するために実装されるモデル61、62、63を示すブロック図である。これらのモデル61、62、63は、管理支援システム100のデータベース150に格納することができる。
【0090】
以下「エンジンモデル61」と称される第1のモデル61は、エンジン40から出力することが必要となる動力、より具体的にはエンジン40の出力軸40Aに必要な機械的動力を推定することができる(
図2を参照されたい)。この機械的動力は、船舶1の推進に必要な唯一の動力とすることができる。代替形態として、この機械的動力を、船舶1の推進に必要な動力と、船舶1の他の機器(一般に「ホテル負荷」と称される)に電気的に動力を供給するのに必要な動力との合計とすることができる。いずれの場合でも、エンジンモデル61は、船舶1の速度設定点と、少なくとも1つの環境パラメータと、任意選択で船舶1の進行方向との関数として、エンジン40から出力することが必要となる動力を推定することができる。
【0091】
特定の実施形態によれば、エンジンモデル61は、教師あり機械学習手法によって訓練された統計モデルである。この統計モデルは、テストデータのセットに基づいて訓練され、このテストデータのセットは、船舶の航行および以下の項目の測定を含む航行試験から取得することができ、
-一方で、船舶の速度、および波高、波周期、波向と船舶の進行方向との間の角度、風速、風向と船舶の進行方向との間の角度の中から選択される少なくとも1つの環境パラメータを測定し、
-他方では、船舶の速度を維持するために必要とされる、船舶のエンジンからの出力動力を測定する。
【0092】
以下「タンクモデル62」と称される第2のモデル62は、タンク3内で発生したBOG量を推定することができる。タンクモデル62は、以下の項目を別々に推定することにより、タンク内で発生したBOG量を推定するものであり、
-タンク3内に含まれる気相3Gの現在の圧力Pとタンク3内に含まれる液相3Lの現在の温度Tとの関数として、タンク3内で発生した第1のBOG量を求め、かつ
-気相3Gの現在の圧力Pと少なくとも1つの環境パラメータとの関数として、タンク3内で発生した第2のBOG量を求め、次いでこれら2つのBOG量を加算することによって推定する。
【0093】
第1のBOG量は、液相3Lと気相3Gとが共存することに関連したBOGの発生を反映している。第1のBOG量は、それ自体公知の熱力学モデル、例えばHertz-Knudsenモデルを使用して推定することができる。
【0094】
第2のBOG量は、船舶1が経験する動きによって液相3Lが撹拌されることに起因した、タンク3内でのBOGの更なる発生を反映している。
【0095】
特定の実施形態によれば、第2のBOG量は、教師あり機械学習手法によって訓練された統計モデルによって推定される。この統計モデルは、テストデータのセットに基づいて訓練され、このテストデータのセットは、船舶の航行および以下の項目の測定を含む航行試験から取得することができ、
-一方で、タンク内に含まれる気相の圧力およびタンク内に含まれる液相の温度を測定し、
-他方では、船舶のタンク内で実際に発生したBOG量と、熱力学モデルによって推定されるBOGの推定量との差を測定する。
【0096】
さらに、上記で述べたように、ステップ301でタンク3内に収容された液化ガスの初期組成が提供された場合、タンクモデル62は、タンク3内で発生したBOGの組成を推定することもできる。この場合、第1のBOG量を推定するモデルと第2のBOG量を推定するモデルとはそれぞれ、タンク3内で発生したBOGの組成を推定する。
【0097】
以下「フローモデル63」と称される第3のモデル63は、気相処理サブシステム13によってタンク3から取り出すべきガス量と、GCU30内で燃焼させるべきBOG量とを推定することができる。より具体的には、フローモデル63は、モデル61によって推定された動力に基づいて、エンジン40に供給すべきBOG量を推定し、このエンジン40に供給すべきBOG量と、タンクモデル62によって推定されるタンク3内で発生したBOG量とを比較する。エンジン40に供給すべきBOG量がタンク3内で発生したBOG量よりも少ない場合、フローモデル63は、これら2つの量の差量をGCU30内で燃焼させるべきであると判定する。反対に、エンジン40に供給すべきBOG量がタンク3内で発生したBOG量よりも多い場合、フローモデル63は、これら2つの量の差量を気相処理サブシステム13によってタンク3から取り出すべきであると判定する。
【0098】
モデル61、62、63は、反復ごとに、気相3Gの圧力P、液相3Lの温度T、タンク3によって発生したBOG量(および適切な場合には、タンク3によって発生したBOGの組成)、およびエンジン40およびGCU30に供給すべきBOG量を推定するために、間隔d1、d2などの持続時間に対して非常に短い時間間隔で反復的に実施される。
【0099】
図5Bをさらに参照して、ここでコスト関数を正常に評価するためのステップについて説明する。Nは、ステップ305で生成されたタンク管理シナリオ50の数であり、方法300は、タンク管理シナリオ50の各々に対してN個の評価S1、S2、...、SNを実行する。
図5Bの図は、連続して実行される評価S1、S2、...、SNを表すが、これらは任意選択で同時に実行することができる。各評価S1、S2、...、SNは、後述するステップ401、402、403、404を含む。
【0100】
ステップ401で、ステップ304において求められた船舶1の速度曲線と、ステップ303において求められた少なくとも1つの環境パラメータとに基づいて、予測経路80に沿ってエンジン40から出力することが必要となる動力の曲線が、エンジンモデル61を使用して推定される。
【0101】
ステップ402で、予測経路80に沿ってタンク3内で発生したBOG量の曲線が、タンクモデル62を使用して推定される。
【0102】
ステップ403で、ステップ401において推定されたエンジン40から出力することが必要となる動力の曲線と、ステップ402において推定されたタンク3内のBOG発生量の曲線とに基づいて、タンク3から取り出すべきガス量の曲線と、GCU30内で燃焼させるべきBOG量の曲線とが、フローモデル63を使用して推定される。
【0103】
ステップ401~403の後、ステップ404でコスト関数が計算される。より具体的には、コスト関数は、ステップ401~403で実行された推定値に基づいて計算され、関連するタンク管理シナリオ50の受容性を定量化する実数である。
【0104】
簡易な実施形態では、コスト関数は、予測経路80に沿ってタンク3内で発生したBOGの総量のみに依存する。しかしながら、コスト関数が他の数量または基準にも依存することが好ましい。
【0105】
好ましい実施形態では、コスト関数は、
-予測経路80の終端でタンク3内に含まれる気相の圧力Pと、目的地点82に位置する搬出ターミナルが必要とする搬出圧力との間の差、および/または
-当該予測経路80の終端でタンク3内に含まれる液相の温度Tと、目的地点82に位置する搬出ターミナルが必要とする搬出温度との間の差、ならびに
-好ましくはこれら2つの差の両方にさらに依存する。このようにして、タンク管理シナリオ50は、目的地点82に位置する搬出ターミナルが、搬出ターミナルが必要とするものに近似する搬出圧力および搬出温度にある場合に、当該搬出ターミナルに船舶が到達できるようになると、一層受容可能になると考えられる。
【0106】
追加的または代替的に、コスト関数はまた、タンク管理シナリオ50による以下の基準の一部または全部の遵守に依存することができ、
-タンク3内に含まれる気相の圧力Pが最大安全圧力を下回ったままであり、この最大安全圧力は、事前に定義された設定値、またはさらには予測経路80に沿って船舶1が遭遇する環境条件に依存し、例えば嵐または他の潜在的に危険な航行条件の場合にはより低くなり得る変数値であってもよく、
-タンク3内に含まれる気相の圧力Pが最小圧力を上回ったままであり、この最小圧力は、事前に定義された設定値、またはさらにはフローモデル63によって推定されるような、エンジン40の必要BOG量に依存する変数値であってもよく、
-気相処理システム10を通るBOG流量は、閾値を下回ったままである。
【0107】
上記で述べたように、ステップ401~404の各々は、タンク管理シナリオ50の評価S1、S2、...、SNの各々のコンテクスト内で実行される。
【0108】
評価S1、S2、...、SN実行後、方法300は、停止基準が検証されるかどうかを確認することを含むステップ306に進む。一実施形態では、停止基準は計算時間基準である。換言すれば、停止基準は、事前に定義された計算時間に達するか、またはそれを超過する場合に検証されると考えられる。あるいは停止基準は、反復回数の基準とすることができる。
【0109】
いずれの場合も、停止基準が検証されない場合(
図5Bのステップ306の「N」を参照されたい)、方法300は、評価S1、S2、...、SN実行中に評価されたN個のタンク管理シナリオ50の中から、k個のタンク管理シナリオ50を選択することを含むステップ307に進み、k<Nである。ステップ307で選択されたk個のタンク管理シナリオ50は、ステップ404で計算されたコスト関数を最も最小化するものである。代替実施形態では、kは事前に設定された数である。別の代替実施形態では、kは事前に設定されず、選択されたk個のタンク管理シナリオ50は、ステップ404で計算されたコスト関数が閾値を下回るものである。
【0110】
ステップ307の後、方法300は、ステップ307で選択されたk個のタンク管理シナリオ50に基づいて、N個の新しいタンク管理シナリオ50を生成することを含むステップ308に進む。
【0111】
上記で述べたように、本実施形態では、方法300は、ステップ404で計算されたコスト関数を目的関数として使用して、進化的アルゴリズムを実装する。特定の実施形態では、進化的アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムである。進化的アルゴリズムを用いた最適化手法は、それ自体公知である。次いで、ステップ305は、N個のタンク管理シナリオ50をランダムに生成することにより、進化的アルゴリズムによって検討されたグループを初期化することを含み、ステップ308は、ステップ307で選択されたタンク管理シナリオを掛け合わせて新しい形態に変化させることにより、N個の新しいタンク管理シナリオ50を生成することを含む。
【0112】
反対に、停止基準が検証された場合(
図5Bのステップ306の「O」を参照されたい)、方法300は、評価S1、S2、...、SN実行中に評価されたN個のタンク管理シナリオ50の中から、p個のタンク管理シナリオ50を選択することを含むステップ309に進み、1≦p<Nである。ステップ307で選択されたタンク管理シナリオ50は、ステップ404で計算されたコスト関数を最も最小化するものである。代替実施形態では、pは事前に設定された数である。別の代替実施形態では、pは事前に設定されず、選択されたp個のタンク管理シナリオは、ステップ404で計算されたコスト関数が閾値を下回るものである。
【0113】
ステップ309の後、方法300は、ステップ309で選択されたタンク管理シナリオを、例えば表示手段41上でユーザに対して表示することを含むステップ310に進む。
【0114】
非常に簡略化された代替実施形態では、単一のタンク管理シナリオ50がステップ305で生成される。次に、ステップ401~404がこの単一のタンク管理シナリオ50に対して実行され、ステップ306、307、308は省略される。ステップ309は、ステップ404で計算されたコスト関数の関数として、タンク管理シナリオ50が受容可能であるかどうかを判定することを含む。受容可能である場合、ステップ310でこのタンク管理シナリオ50が表示される。
【0115】
別の簡略化された代替実施形態では、ステップ308で複数のタンク管理シナリオ50が生成されるが、ステップ306、307、308は省略される。
【0116】
方法300のステップは、設定された間隔で、および/または通信インターフェース130によって気象予報を新たに受信した際に繰り返すことができる。追加的または代替的に、方法300のステップは、ユーザによる指示に応じて繰り返すことができる。
【0117】
いずれの場合でも、方法300は、ステップ310で、ステップ404において計算されたコスト関数の関数として、例えば表示手段41上でユーザに対して少なくとも1つのタンク管理シナリオ50を表示することになる。したがって、方法300により、ユーザに対して意思決定の支援を提供できるようになる。
【0118】
上記で述べたように、所与のタンク管理シナリオ50は、連続する時間間隔d1、d2、d3、d4、d5、d6などにわたる圧力Pの平均値P1、P2、P3、P4、P5、P6などを定義することができる。好ましい実施形態では、ステップ309の後およびステップ310の前に、当該ステップで選択された1つまたは複数のタンク管理シナリオ50は、連続する時間間隔d1、d2、d3、d4、d5、d6などにわたる圧力Pの最小値および最大値もユーザに表示するように後処理することができる。
【0119】
図9は、このように後処理されたタンク管理シナリオ50の例を、説明のために示すグラフである。この図に示すように、タンク管理シナリオ50は、間隔d1にわたって、平均値P1に加えて、最大値M1および最小値m1を定義し、圧力Pは最大値M1よりも大きくすることも、最小値m1よりも小さくすることもできない。同様に、各間隔d1、d2、d3、d4、d5、d6などにわたって、タンク管理シナリオ50は、最大値M2、M3、M4、M5、M6など、および最小値m2、m3、m4、m5、m6などをそれぞれ定義する。
【0120】
最大値M1は、平均値P1の関数として、およびタンク3に関する1つまたは複数の制約の関数として計算される。タンク3に関する制約は、タンクの最大安全圧力などのタンク3の安全制約を含むことができる。タンク3に関する制約の全部または一部は、ユーザが取得手段42を用いて入力することができる。
【0121】
最大値M2~M6は、平均値P2~P6とタンク3に関する1つまたは複数の制約との関数として、同様に計算される。
【0122】
最小値m1は、平均値P1と、ステップ403で推定された間隔d1の間にタンク3から取り出すべきガス量との関数として、フローモデル63を使用して計算される。
【0123】
最小値m2~m6は、平均値P2~P6と間隔d2~d6の間にタンク3から取り出すべきガス量との関数として同様に計算される。
【0124】
簡易な代替実施形態では、このように後処理された1つまたは複数のタンク管理シナリオ50を、ユーザに簡単に表示することができ、すなわち、最小値m1~m6と対応する最大値M1~M6とを共に表示することができる。これにより、ある値の範囲、すなわち圧力Pを間隔d1、d2などの範囲内で変化させることができる間隔[m1、M1]、[m2、m2]などをユーザにさらに表示することによって、さらなる意思決定支援をユーザに提供することができる。
【0125】
代替実施形態として、最大値M1~M6のみ、または最小値m1~m6のみを計算して表示することができる。
【0126】
特に好ましい代替実施形態では、このように後処理された1つまたは複数のタンク管理シナリオ50はまた、ステップ310の前に、d1、d2などの間隔の部分間隔にわたって圧力Pの最適値を求めることを目的とした、さらなる最適化のステップに進むことができる。
【0127】
図10は、このように最適化されたタンク管理シナリオ50Aの例を、説明のために示すグラフである。この図に示すように、時間間隔d1は、いくつかの連続する部分時間間隔i1、i2、i3、i4、i5、i6などに細分化される。時間間隔i2、i2、i3、i4、i5、i6などは、具体的にはそれぞれ1時間に等しくすることができる。タンク管理シナリオ50Aは、平均値P1および最小値m1および最大値M1に加えて、部分時間間隔i1、i2、i3、i4、i5、i6の各々に平均値Pi1、Pi2、Pi3、Pi4、Pi5、Pi6を定義する。同様に、この点は簡潔にするために
図10には示されていないが、時間間隔d2、d3、d4、d5、d6などもまた、いくつかの連続する部分時間間隔に細分化され、圧力Pの平均値はこれら部分間隔の各々に定義される。
【0128】
平均値Pi1、Pi2などは、時間間隔i1の間にタンク3内で発生したBOGの総量および以下の基準の遵守に少なくとも依存するコスト関数を目的関数として使用する、進化的アルゴリズムによって求められ、
-タンク3内に含まれる気相の圧力Pが最大値M1を下回ったままであり、
-タンク3内に含まれる気相の圧力Pが最小値m1を上回ったままであり、
-気相処理システム10を通るBOGの流量が、閾値を下回ったままである。
この平均値を求めることは、ステップ401~404~306~308と同様のステップを使用して行われるため、詳細は繰り返さない。次いで、1つまたは複数のタンク管理シナリオ50Aがユーザに表示される。
【0129】
上記で述べたように、速度曲線は、例えば、ステップ304でユーザが取得手段41を用いることで、入力データとして簡単に提供され得る。しかしながら、ステップ304で速度曲線が、予測経路80に沿ってタンク3内で発生したBOGの総量、および船舶1の目的地への到着所要時間と船舶1の目的地への到着予定時間との間の差に依存する目的関数を使用する、進化的アルゴリズムによって求められることが好ましい。船舶1の目的地への到着所要時間は、ユーザが取得手段42を用いて入力することができる。
【0130】
この進化的アルゴリズムのコンテクスト内で、それ自体公知の方法で、速度管理シナリオ550は複数回反復的に生成され、速度管理シナリオ550の新しい世代はそれぞれ、目的関数を最も最小化する先行世代のいくつかの速度管理シナリオ550から生成される。
【0131】
図11は、速度管理シナリオ550の例を説明のために示すグラフである。この図に示すように、予測経路80がy1、y2、y3、y4、y5などの移動距離の連続する区間に分割されている場合、所与の速度管理シナリオ550は、y1、y2、y3、y4、y5などの移動距離の連続する区間の各々にわたる速度Vの平均値V1、V2、V3、V4、V5などを定義することによって船舶1の速度Vの変化を定義する。移動距離の区間y1、y2、y3、y4、y5などは、有利には、予測経路80の地点81、82、83を参照して画定することができる。
【0132】
図12を参照して、進化的アルゴリズムを実施するステップをここで説明する。
【0133】
ステップ601の間に、例えば、複数の速度管理シナリオ550がランダムに生成される。
【0134】
Mはステップ601で生成された速度管理シナリオ550の数であり、ステップ601の後、M個の評価R1、R2、...、RMが速度管理シナリオ550の各々に対して実行される。
図12の図では、評価R1、R2、...、RMが連続して実行されるように示しているが、これらは任意選択で同時に実行することができる。各評価R1、R2、...、RMは、後述するステップ602、603、604、605、606を含む。
【0135】
ステップ602で、船舶1の流体力学モデルを使用して、船舶1の実効速度曲線が推定される。
【0136】
ステップ603で、ステップ602において推定された実効速度曲線に基づいて、海流モデルを使用して船舶1の実効軌道が推定される。
【0137】
ステップ604で、気象予報に基づいて、船舶1の実効軌道に沿って船舶1の少なくとも1つの環境パラメータが求められる。具体的には、中央ユニット110は、ステップ303と同様に通信インターフェース130を使用して、気象予報プロバイダによって提供される気象予報を取得し、気象予報と、ステップ603で推定された船舶1の実効軌道とに基づいて、少なくとも1つの環境パラメータを求める。
【0138】
ステップ605で、船舶1の実効軌道に沿ってタンク3内で発生したBOG量の曲線が、タンクモデル62を使用して推定される。
【0139】
ステップ601~605の後、ステップ606で目的関数が計算される。目的関数は、速度管理シナリオ550の受容性を定量化する実数である。上記で述べたように、目的関数は、予測経路80に沿ってタンク3内で発生したBOGの総量と、船舶1の目的地への到着所要時間と船舶1の目的地への到着予定時間との間の差とに依存する。
【0140】
評価R1、R2、...、RN実行後、本方法は、停止基準が検証されるかどうかを確認することを含むステップ607に進む。一実施形態では、停止基準は計算時間基準である。換言すれば、停止基準は、事前に定義された計算時間に達するか、またはそれを超過する場合に検証されると考えられる。あるいは、停止基準は、反復回数の基準とすることができる。
【0141】
いずれの場合も、停止基準が検証されない場合(
図12のステップ607の「N」を参照されたい)、本方法は、評価R1、R2、...、RM実行中に評価されたM個の速度管理シナリオ550の中から、k´個の速度管理シナリオ550を選択することを含むステップ608に進み、k´<Mである。ステップ608で選択されたk´個の速度管理シナリオ550は、ステップ606で計算された目的関数を最も最小化するものである。代替実施形態では、k´は事前に設定された数である。別の代替実施形態では、kは事前に設定されず、選択されたk´個の速度管理シナリオ550は、ステップ608で計算された目的関数が閾値を下回るものである。
【0142】
ステップ608の後、本方法は、ステップ608で選択されたk’個の速度管理シナリオ550に基づいて、M個の新しいタンク管理シナリオを生成することを含むステップ609に進む。
【0143】
特定の実施形態では、進化的アルゴリズムは遺伝的アルゴリズムである。次いで、ステップ601は、M個の速度管理シナリオ550をランダムに生成することにより、進化的アルゴリズムによって検討されたグループを初期化することを含み、ステップ609は、ステップ608で選択された速度管理シナリオ550を掛け合わせて新しい形態に変化させることにより、M個の新しい速度管理シナリオ550を生成することを含む。
【0144】
反対に、停止基準が検証された場合(
図12のステップ607の「O」を参照されたい)、本方法は、ステップ606で計算された目的関数を最も最小化する速度管理シナリオ550を選択することを含むステップ610に進む。最後に、ステップ611で、この速度管理シナリオ550は、当該予測経路に沿った船舶1の速度曲線として指定され、その後、ステップ305~310と評価S1、S2、...、SNとは、すでに上記で述べたように実施することができる。
【0145】
図2に示す気相処理システム10の構成は一例にすぎない。他の構成も可能である。
【0146】
図示されていないいくつかの代替実施形態では、船舶1は2つ以上のエンジン40を備えることができる。この場合、エンジンモデル61は、船舶1の速度設定点と、少なくとも1つの環境パラメータと、任意選択で船舶1の進行方向との関数として、エンジン40から出力することが必要となる動力を推定することができる。
【0147】
図2に関して上記で述べたように、エンジン40は、船舶1の推進に必要な動力と、船舶1の他の機器(一般に「ホテル負荷」と称される)に電気的に動力を供給するのに必要な動力との両方を供給することができる。しかしながら、
図13に示すように、船舶1は、この「ホテル負荷」動力を供給するように意図された補助エンジン49を備えることができる。補助エンジン49は、エンジン40と同様に、BOG分配ユニット20から発生するBOG、またはヒータ60から発生するBOGを消費することができる。この場合、エンジンモデル61は、船舶1の速度設定点と、少なくとも1つの環境パラメータと、任意選択で船舶1の進行方向との関数として、エンジン40および補助エンジン49から出力することが必要となる動力を推定することができる。また、代替実施形態として、いくつかの補助エンジン49を設けることができることも明記すべきであり、この場合、同様に、エンジンモデル61は、エンジン40および補助エンジン49から出力することが必要となる動力を推定することができる。
【0148】
図14は、再液化プラント75をさらに備える気相処理システム10の別の代替実施形態を示す。
【0149】
それ自体公知の方法で、再液化プラント75は、BOG分配ユニット20から発生するBOGを受け取り、このBOGを再液化し、次いでこのBOGをタンク3、4、5、6に戻すことができる。そのような再液化プラント75はそれ自体公知であるため、本明細書ではこれに関して詳述しない。
【0150】
図14には示されていないが、再液化プラント75の稼働に必要な動力(例えば、電力)が、エンジン40によって、または補助エンジン49によっても提供され得ることを明記すべきである。図示されていないいくつかの代替実施形態では、再液化プラント75が、タンク3、4、5、6のうちの1つまたはいくつかにのみ再液化BOGを送達できることも明記すべきである。
【0151】
当然ながら、本代替実施形態では、フローモデル63は再液化プラント75の存在を考慮に入れる。
【0152】
より具体的には、フローモデル63は、気相処理サブシステム13によってタンク3から取り出すべきガス量、GCU30内で燃焼させるべきBOG量、およびさらには再液化プラント75に送達すべきBOG量を推定することができる。より具体的には、フローモデル63は、モデル61によって推定された動力に基づいて、エンジン40に供給すべきBOG量を推定し、このエンジン40に供給すべきBOG量と、タンクモデル62によって推定されるタンク3内で発生したBOG量とを比較する。エンジン40に供給すべきBOG量がタンク3内で発生したBOG量よりも多い場合、フローモデル63は、これら2つの量の差量を気相処理サブシステム13によってタンク3から取り出すべきであると判定する。反対に、エンジン40に供給すべきBOG量がタンク3内で発生したBOG量よりも少ない場合、フローモデル63は、これら2つの量の差量を好ましくは再液化プラント75に送達すべきであり、再液化プラント75の再液化能力が不十分である場合にのみ、当該差量をGCU30内で燃焼させるべきであると判定する。
【0153】
また、本代替実施形態では、ステップ403で、ステップ401において推定されたエンジン40から出力することが必要となる動力の曲線と、ステップ402において推定されたタンク3内のBOG発生量の曲線とに基づいて、タンク3から取り出すべきガス量の曲線と、GCU30内で燃焼させるべきBOG量の曲線と、再液化プラント75に送達すべきBOG量の曲線とが、フローモデル63を使用して推定されることも理解される。
【0154】
図15は、サブクーラ77をさらに備える気相処理システム10のさらに別の代替実施形態を示す。
【0155】
それ自体公知の方法で、サブクーラ77は、気相処理サブシステム13からタンク3内に含まれる液相3Lの一部を受け取り、その温度を低下させることができる(例えば、液化ガスが大気圧下のLNGである場合、約5℃~約10℃だけ、すなわち約-162℃から約167℃~-172℃まで低下させる)。サブクーラ77はまた、このようにして過冷却された液相を、それ自体公知である混合ノズル79を用いて液相3L内に直接、またはそれ自体公知である噴射ランプ78を用いて液滴の形態で気相3G内に噴霧することにより、間接的にタンク3に戻すことができる。
【0156】
図15には示されていないが、サブクーラ77の稼働に必要な動力(例えば、電力)が、エンジン40によって、または補助エンジン49によっても提供され得ることを明記すべきである。図示されていないいくつかの代替実施形態では、サブクーラ77が、いくつかの、または場合によってはすべてのタンク3、4、5、6から液相を取り出して、過冷却状態でこの液相をそれぞれのタンクに戻すことができることも明記すべきである。
【0157】
当然ながら、本代替実施形態では、フローモデル63はサブクーラ77の存在を考慮に入れる。
【0158】
より具体的には、フローモデル63は、気相処理サブシステム13によってタンク3から取り出すべきガス量、GCU30内で燃焼させるべきBOG量、およびさらにはサブクーラ77に送達すべき液相量を推定することができる。より具体的には、フローモデル63は、モデル61によって推定された動力に基づいて、エンジン40に供給すべきBOG量を推定し、このエンジン40に供給すべきBOG量と、タンクモデル62によって推定されるタンク3内で発生したBOG量とを比較する。エンジン40に供給すべきBOG量がタンク3内で発生したBOG量よりも多い場合、フローモデル63は、これら2つの量の差量を気相処理サブシステム13によってタンク3から取り出すべきであると判定する。反対に、エンジン40に供給すべきBOG量がタンク3内で発生したBOG量よりも少ない場合、フローモデル63は、これら2つの量の差量を、好ましくはサブクーラ77を稼働することによって経時的に低減すべきであり、サブクーラ77の過冷却能力が不十分である場合にのみ、余剰BOGが存在すれば、これをGCU30内で燃焼させるべきであると判定する。
【0159】
また、本代替実施形態では、ステップ403で、ステップ401において推定されたエンジン40から出力することが必要となる動力の曲線と、ステップ402において推定されたタンク3内のBOG発生量の曲線とに基づいて、タンク3から取り出すべきガス量の曲線と、GCU30内で燃焼させるべきBOG量の曲線と、タンク3から取り出してサブクーラ77に送達すべき液相量の曲線とが、フローモデル63を使用して推定されることも明確に理解される。
【0160】
最後に、図示されていないいくつかの代替実施形態では、サブクーラ77が、タンク3、4、5、6のうちの1つから液相を取り出して、過冷却状態でタンク3、4、5、6のうちの1つまたは複数にこの液相を戻すことができることも明記すべきである。この場合、上記で述べたように、管理支援方法300がタンク3、4、5、6のうちのいくつかまたは各々に対して同時に実施されると、所与のタンクに関するフローモデル63は、1つまたは複数の他のタンクから発生する、サブクーラ77から受け取るべき過冷却液相の量をさらに推定する。
【0161】
本発明をいくつかの特定の実施形態を参照して説明したが、これらが本発明の範囲内にある場合には、本発明が決してそれらに限定されるものではなく、記載された手段のすべての技術的均等物、およびそれらの組合せを含むことは明らかである。
【0162】
動詞「備える(comprise)」または「含む(include)」およびそれらの活用形の使用は、特許請求の範囲に記載されているもの以外の要素またはステップの存在を排除するものではない。
【0163】
特許請求の範囲において、括弧内のいかなる参照符号も、特許請求の範囲の限定として解釈されてはならない。
【国際調査報告】