(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-12
(54)【発明の名称】ヒトキメラ抗原受容体好中球、組成物、キット、および使用の方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0787 20100101AFI20240104BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240104BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240104BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240104BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
C12N5/0787
A61K35/15
A61P35/00
C12N15/09 110
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535301
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 US2021062734
(87)【国際公開番号】W WO2022125850
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598063203
【氏名又は名称】パーデュー・リサーチ・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】バオ,シャオピン
(72)【発明者】
【氏名】デン,キン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ユン
(72)【発明者】
【氏名】モード サブリ,リミザ シャヒラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB12
4B065CA43
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本開示は、定義の培地および関連する組成物を使用して、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から好中球、例えば、キメラ抗原受容体発現(CAR発現)好中球(例えば、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞)の集団を製造するための段階特異的プロセス、キット、ならびに使用の方法(例えば、標的がん免疫療法)に関する。化学的に定義されたフィーダーフリーのプラットフォームおよび段階特異的モルフォゲン、細胞株、医薬組成物、がんを治療する方法、ならびにキットを使用して、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から好中球およびキメラ抗原受容体(CAR)好中球を生成するための段階特異的プロセスは、本開示の範囲内である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)hPSCを調製するステップと、
(b)グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)阻害物質で前記hPSCを刺激して、CD34+造血内皮細胞の集団を生成するステップと、
(c)形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質で前記CD34+造血内皮細胞を刺激して、CD45+造血細胞の集団を生成するステップと、
(d)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)およびレチノイン酸受容体アゴニストで前記CD45+造血細胞を刺激して、CD11b+/CD16+好中球の集団を得るステップと
を含む、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から好中球の集団を製造するための段階特異的プロセス。
【請求項2】
前記hPSCが、ヒト胚性幹細胞(hESC)および誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む、請求項1に記載の段階特異的プロセス。
【請求項3】
前記GSK3β阻害物質が、CHIR99021、CHIR98014または類似の化学物質である、請求項1に記載の段階特異的プロセス。
【請求項4】
前記TGFβ阻害物質が、SB431542、A83-01または類似の化学物質である、請求項1に記載の段階特異的プロセス。
【請求項5】
前記レチノイン酸受容体アゴニストが、AM80、AM50または類似の化学物質である、請求項1に記載の段階特異的プロセス。
【請求項6】
ステップbを血管内皮増殖因子(VEGF)の存在下で実行する、請求項1に記載の段階特異的プロセス。
【請求項7】
ステップcを幹細胞因子(SCF)およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)の存在下で実行する、請求項1に記載の段階特異的プロセス。
【請求項8】
(a)CRISPR/Cas9媒介相同組換えにより、ヒト多能性幹細胞(hPSC)においてアデノ随伴ウイルスS1(AAVS1)プラスミドのAAVS1セーフハーバー部位に、CAR発現遺伝子構築物をノックインするステップと、
(b)標的化に成功した単一細胞由来hPSCコロニーまたはhPSC細胞混合物を単離して、安定なCAR発現hPSC細胞株を得るステップと、
(c)前記安定なCAR発現hPSC細胞株からhPSCを調製するステップと、
(d)グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)阻害物質で前記hPSCを刺激して、CD34+造血内皮細胞の集団を生成するステップと、
(e)形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質で前記CD34+造血内皮細胞を刺激して、CD45+造血細胞の集団を生成するステップと、
(f)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)およびレチノイン酸受容体アゴニストで前記CD45+造血細胞を刺激して、CAR好中球の集団を得るステップと
を含む、キメラ抗原受容体(CAR)好中球の集団を製造するための段階特異的プロセス。
【請求項9】
(a’)CAR発現遺伝子構築物を調製するステップと、(a’’)AAVS1プラスミドを構築するステップとの初期ステップをさらに含む、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項10】
前記CARが、クロロトキシンもしくはIL13、または他の細胞外シグナル伝達ドメイン、CD4、CD28、CD32aもしくはNKG2Dの膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン2B4、およびCD3ζもしくはFcγRドメインの細胞内ドメインを含む、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項11】
前記CARが、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項10に記載の段階特異的プロセス。
【請求項12】
前記CARが、配列番号1または3のアミノ酸配列を有する、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項13】
前記hPSCが、ヒト胚性幹細胞(hESC)および誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項14】
前記hESCが、H9、H1または他のヒト胚性幹細胞を含む、請求項13に記載の段階特異的プロセス。
【請求項15】
前記iPSCが、6-9-9、19-9-11または他の誘導多能性幹細胞を含む、請求項13に記載の段階特異的プロセス。
【請求項16】
前記GSK3β阻害物質が、CHIR99021、CHIR98014または類似の化学物質である、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項17】
前記TGFβ阻害物質が、SB431542もしくはA83-01または類似の化学物質である、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項18】
前記レチノイン酸受容体アゴニストが、AM80もしくはAM50または類似の化学物質である、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項19】
ステップbを血管内皮増殖因子(VEGF)の存在下で実行する、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項20】
ステップcを幹細胞因子(SCF)およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)の存在下で実行する、請求項8に記載の段階特異的プロセス。
【請求項21】
(a)CAR発現遺伝子を含むPiggyBacトランスポゾンプラスミドを構築するステップと、
(b)ヌクレオフェクション/エレクトロポレーションによりヒト多能性幹細胞内にPiggyBacプラスミドを送達するステップと、
(c)標的化に成功した単一細胞由来ヒト多能性幹細胞(hPSC)コロニーまたはhPSC細胞混合物を単離して、安定なCAR発現hPSC株を得るステップと、
(d)請求項1に記載のプロセスに従ってCAR発現好中球を生成するステップと
を含む、ヒト多能性幹細胞(hPSC)からキメラ抗原受容体(CAR)好中球の集団を製造するためのプロセス。
【請求項22】
前記hPSCが、ヒト胚性幹細胞(hESC)および誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記hESCが、H9、H1または他のヒト胚性幹細胞を含む、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記iPSCが、6-9-9、19-9-11または他の誘導多能性幹細胞を含む、請求項22に記載のプロセス。
【請求項25】
前記CARが、クロロトキシンもしくはIL13、または他の細胞外シグナル伝達ドメイン、CD4、CD28、CD32aもしくはNKG2Dの膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン2B4、およびCD3ζもしくはFcγRドメインの細胞内ドメインを含む、請求項21に記載のプロセス。
【請求項26】
前記CARが、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
前記CARが、配列番号1または3のアミノ酸配列を有する、請求項21に記載のプロセス。
【請求項28】
配列番号1のアミノ酸配列を有するキメラ抗原受容体(CAR)を含む、ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の改変好中球細胞株。
【請求項29】
クロロトキシンもしくはIL13、または他の細胞外シグナル伝達ドメイン、CD4、CD28、CD32aもしくはNKG2Dの膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン2B4、およびCD3ζもしくはFcγRドメインの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む、ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の改変好中球細胞株。
【請求項30】
前記CARが、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項29に記載の改変好中球細胞株。
【請求項31】
配列番号3のアミノ酸配列を有するキメラ抗原受容体(CAR)を含む、ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の改変好中球細胞株。
【請求項32】
請求項8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26もしくは27のいずれか一項に記載の方法に従って得られた単離好中球の集団、または請求項28、29、30もしくは31のいずれか一項に記載の細胞株由来の好中球の集団、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項33】
治療有効量の(a)請求項8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26もしくは27のいずれか一項に記載の方法に従って得られた好中球の集団、またはこれおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物、あるいは(b)請求項28、29、30もしくは31のいずれか一項に記載の細胞株由来の好中球の集団、またはこれおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を対象に投与し、その上で前記対象のがんを治療するステップを含む、それを必要とする対象におけるがんを治療する方法。
【請求項34】
前記がんが、脳腫瘍、前立腺がん、または他のがんである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記脳腫瘍が、神経膠腫である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記神経膠腫が、神経膠芽腫である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記がんが、タンパク質マトリックスメタロペプチダーゼ2、IL-13受容体、PSMAまたは他のがん抗原を発現する、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
好中球の前記集団またはこれを含む前記医薬組成物を全身的または頭蓋内に投与する、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
(a)任意選択で、培地の一部として、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)阻害物質、
(b)任意選択で、培地の一部として、血管内皮増殖因子(VEGF)、
(c)任意選択で、培地の一部として、形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質、
(d)任意選択で、培地の一部として、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン3(IL-3)およびインターロイキン6(IL-6)、ならびに
(e)任意選択で、培地の一部として、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)およびレチノイン酸アゴニスト
を含む、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から好中球を調製するためのキット。
【請求項40】
(c)および(d)において幹細胞因子(SCF)およびFlt3:FMS様チロシンキナーゼ3/胎性肝臓キナーゼ2(Flt3)リガンド、ならびに(e)においてGlutaMAXおよびExCyteをさらに含む、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
配列番号1~3、8~10のタンパク質またはこの機能性断片をコードする、対応するDNA配列。
【請求項42】
前記DNA配列が、配列番号11~16を有する、請求項41。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願では、2020年12月11日出願の米国特許仮出願第63/124,125号の優先権を主張する。この特許仮出願および添付の内容は、その全体を参照により本明細書に組み込む。
本発明は、国立衛生研究所によって授与された認可番号GM119787のもと、政府の支援で行った。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
配列表の記載
配列表のコンピュータに読込み可能な形式(CRF)は、本出願と同時に提出する。2021年12月6日に作成され、39キロバイトのファイルサイズを有する69243-02_Seq_Listing_ST25_txtのファイルは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。出願人は、コンピュータに読込み可能な形式の内容が同一であり、コンピュータに読込み可能な形式に記録された情報が文書の配列表と同一であると述べている。
【0003】
本開示は、定義の培地および関連する組成物を使用して、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から好中球、例えば、キメラ抗原受容体発現(CAR発現)好中球(例えば、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞)の集団を製造するための段階特異的プロセス、キット、ならびに使用の方法(例えば、標的がん免疫療法)に関する。
【背景技術】
【0004】
本節では、本開示のより良い理解を容易とするのに役立ち得る態様を紹介する。したがって、このような記載は、この観点から解読すべきであり、先行技術であるか否かについての承認として理解されるべきではない。
【0005】
ヒトにおいて最も豊富な循環する白血球である好中球は、多く型の腫瘍に蓄積し、腫瘍浸潤細胞の大部分を占める(Eruslanov et al., 2017;Ilie et al., 2012;Jaillon et al., 2020;Zhao et al., 2020)。腫瘍微小環境(TME)におけるこれらの不均一性および可塑性のため、好中球は、腫瘍の進展中に、相反する腫瘍促進効果および抗腫瘍効果を示している。例えば、腫瘍関連好中球(TAN)は、固形がんに対する直接または抗体依存性細胞毒性を提示するが(Kargl et al., 2019;Matlung et al., 2018)、一方、これらはまた、TMEにおいて血管新生を容易とし、腫瘍細胞の遊走を促進し、他の免疫細胞の抗腫瘍機能を抑制する(Coffelt et al., 2015, 2016;Huo et al., 2019)。腫瘍促進性好中球の存在によって、新興の免疫療法を含む多くのがん療法の有効性が制限されたことが(Itatani et al., 2020)、前臨床試験および臨床試験の両方において種々のがんを治療するための抑制的好中球標的戦略の開発につながった(Zhao et al., 2020)。しかし、複雑なTMEにおける好中球の高い不均一性を考慮すると(Lecot et al., 2019;Sagiv et al., 2015)、小分子または抗体に基づく手法による全身的抑制により、腫瘍促進性好中球および抗腫瘍性好中球の両方が除去され、好中球標的療法の有効性が低下し得る。その上、がん患者において好中球減少症(McDermott et al., 2010)のような有害作用を発症し、感染症のリスクが上昇し得る(Xie et al., 2020)。したがって、代替的な好中球標的手法が、がん治療におけるこれらの十分な可能性を実現するのに必要とされている。
【0006】
過去10年では、キメラ抗原受容体(CAR)が開発され、種々の血液系悪性腫瘍および固形腫瘍に対するこれらの抗腫瘍作用を強化するためにTおよびナチュラルキラー(NK)細胞において広く使用され(Feins et al., 2019;June and Sadelain, 2018;June et al., 2018;Mehta and Rezvani, 2018;Zhu et al., 2018)、がん免疫療法の分野が改革された。さらに最近では、CARを含む初代マクロファージの遺伝子改変により、それらは、in vitroおよびin vivoの両方において抗腫瘍エフェクター細胞としてプログラムされ、維持されている(Klichinsky et al., 2020)。マクロファージに対するこれらの類似性および先天的抗腫瘍応答の共有を考慮すると(Yan et al., 2014)、我々は、ヒト好中球が、CAR改変後に種々の方法で殺腫瘍活性の増強を提示し得ると仮定した。このような手法は主に、これらの半減期が短く、ゲノム編集が困難であるため、好中球には未だ適用されていない。このような満たされていない医学的必要性に対する解決策を提供するために、我々は、CAR好中球の代替的細胞源の探索に迫られている。
【0007】
前述を考えると、標的がん免疫療法、例えば、脳腫瘍の治療のための新たな材料および方法の必要性が残存している。このような材料(例えば、CAR好中球)および方法を提供することが、本開示の目的である。このおよび他の目的ならびに利点だけでなく本発明の特徴は、本明細書において提供する記載および図面から明らかとなる。
【発明の概要】
【0008】
ヒト多能性幹細胞(hPSC)から好中球の集団を製造するための段階特異的プロセスを提供する。方法は、(a)hPSCを調製するステップと、(b)グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)阻害物質でこのhPSCを刺激して、CD34+造血内皮細胞の集団を生成するステップと、(c)形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質でこのCD34+造血内皮細胞を刺激して、CD45+造血細胞の集団を生成するステップと、(d)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)およびレチノイン酸受容体アゴニストでこのCD45+造血細胞を刺激して、CD11b+/CD16+好中球の集団を得るステップとを含む。hPSCは、ヒト胚性幹細胞(hESC)および誘導多能性幹細胞(iPSC)を含み得る。GSK3β阻害物質は、CHIR99021、CHIR98014または類似の化学物質であり得る。TGFβ阻害物質は、SB431542、A83-01または類似の化学物質であり得る。レチノイン酸受容体アゴニストは、AM80、AM50または類似の化学物質であり得る。ステップ(b)は、血管内皮増殖因子(VEGF)の存在下で実行することができる。ステップ(c)は、幹細胞因子(SCF)およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)の存在下で実行することができる。
【0009】
また、キメラ抗原受容体(CAR)好中球の集団を製造するための段階特異的プロセスを提供する。方法は、(a)CRISPR/Cas9媒介相同組換えにより、ヒト多能性幹細胞(hPSC)においてアデノ随伴ウイルスS1(AAVS1)プラスミドのAAVS1セーフハーバー部位に、CAR発現遺伝子構築物をノックインするステップと、(b)標的化に成功した単一細胞由来hPSCコロニーまたはhPSC細胞混合物を単離して、安定なCAR発現hPSC細胞株を得るステップと、(c)この安定なCAR発現hPSC細胞株からhPSCを調製するステップと、(d)グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)阻害物質でこのhPSCを刺激して、CD34+造血内皮細胞の集団を生成するステップと、(e)形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質でこのCD34+造血内皮細胞を刺激して、CD45+造血細胞の集団を生成するステップと、(f)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)およびレチノイン酸受容体アゴニストでこのCD45+造血細胞を刺激して、CAR好中球の集団を得るステップとを含む。プロセスは、(a’)CAR発現遺伝子構築物を調製するステップと、(a’’)AAVS1プラスミドを構築するステップとの初期ステップをさらに含み得る。CARは、クロロトキシン、CD4の膜貫通ドメインおよびCD3ζの細胞内ドメインを含み得る。CARは、配列番号2のアミノ酸配列を有し得る。CCARは、配列番号1または3のアミノ酸配列を有し得る。hPSCは、hESC、例えば、H9またはH1、およびiPSC、例えば、6-9-9または19-9-11を含み得る。GSK3β阻害物質は、CHIR99021、CHIR98014または類似の化学物質であり得る。TGFβ阻害物質は、SB431542、A83-01または類似の化学物質であり得る。レチノイン酸受容体アゴニストは、AM80、AM50または類似の化学物質であり得る。ステップ(b)は、VEGFの存在下で実行することができる。ステップ(c)は、SCFおよびFLT3Lの存在下で実行することができる。
【0010】
(a)CAR発現遺伝子を含むPiggyBacトランスポゾンプラスミドを構築するステップと、(b)ヌクレオフェクション/エレクトロポレーションによりヒト多能性幹細胞内にPiggyBacプラスミドを送達するステップと、(c)標的化に成功した単一細胞由来ヒト多能性幹細胞(hPSC)コロニーまたはhPSC細胞混合物を単離して、安定なCAR発現hPSC株を得るステップと、(d)hPSCから好中球の集団を製造するための上記の段階特異的プロセスに従ってCAR発現好中球を生成するステップとを含む、hPSCからCAR好中球の集団を製造するためのプロセスをさらに提供する。hPSCは、hESCおよびiPSCを含み得る。hESCは、H9、H1または他のヒト胚性幹細胞を含み得る。iPSCは、6-9-9、19-9-11または他の誘導多能性幹細胞を含み得る。CARは、クロロトキシン、CD4の膜貫通ドメインおよびCD3ζの細胞内ドメインを含み得る。CARは、配列番号2のアミノ酸配列を有し得る。CARは、配列番号1または3のアミノ酸配列を有する。
【0011】
hPSC由来の改変好中球細胞株をなおさらに提供する。実施形態では、改変好中球細胞株は、配列番号1のアミノ酸配列を有するCARを含む。別の実施形態では、改変好中球細胞株は、クロロトキシン、CD4の膜貫通ドメインおよびCD3ζの細胞内ドメインを含むCAR、例えば、配列番号2のアミノ酸配列を有するCARを含む。また別の実施形態では、改変好中球細胞株は、配列番号3のアミノ酸配列を有するCARを含む。
【0012】
医薬組成物をまたなおさらに提供する。医薬組成物は、上記の方法に従って得られた単離CAR好中球の集団または上記の細胞株由来の好中球の集団を含む。医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0013】
また、それを必要とする対象における、がんを治療する方法を提供する。方法は、治療有効量の(a)上記の方法に従って得られた好中球の集団、もしくはこれおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物、または(b)上記の細胞株由来の好中球の集団、もしくはこれおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を対象に投与するステップを含む。がんは、脳腫瘍であり得る。脳腫瘍は、神経膠腫であり得る。神経膠腫は、神経膠芽腫であり得る。がんは、タンパク質マトリックスメタロペプチダーゼ2を発現し得る。好中球の集団またはこれを含む医薬組成物は、全身的または頭蓋内に投与することができる。
【0014】
最終的には、hPSCから好中球を調製するためのキットを提供する。キットは、(a)任意選択で、培地の一部として、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)阻害物質、(b)任意選択で、培地の一部として、血管内皮増殖因子(VEGF)、(c)任意選択で、培地の一部として、形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質、(d)任意選択で、培地の一部として、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン3(IL-3)およびインターロイキン6(IL-6)、ならびに(e)任意選択で、培地の一部として、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)およびレチノイン酸アゴニストを含む。キットは、(c)および(d)においてSCFおよびFlt3:FMS様チロシンキナーゼ3/胎性肝臓キナーゼ2(Flt3)リガンド、ならびに(e)においてGlutaMAXおよびExCyteをさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1-1】hPSC由来好中球が、初代好中球に類似の分子および機能性表現型を取ることを示す図である。(
図1A)化学的に定義された条件下でのhPSCからの好中球分化の最適化の模式図である。(
図1B)指示日数における細胞形態の代表的明視野画像である:D0 hPSC、D3中胚葉、D6造血内皮細胞、D12造血幹および前駆細胞(HSPC)、D15ミエロイド前駆細胞、ならびにD21好中球。スケールバーは100μmである。
【
図1-2】hPSC由来好中球が、初代好中球に類似の分子および機能性表現型を取ることを示す図である。(
図1C)生成好中球のフローサイトメトリー解析を示す。プロットは、非染色対照(青色)および特異的抗体(赤色)のヒストグラムを示す。初代末梢血(PB)好中球を陽性対照として使用した。
【
図1-3】hPSC由来好中球が、初代好中球に類似の分子および機能性表現型を取ることを示す図である。(
図1D)hPSC由来好中球によるpHrodoGreen大腸菌(E. coli)粒子の食作用を示す。(
図1E)化学誘引物質(10nMおよび100nMのfMLP)の非存在または存在下でのhPSC由来好中球のトランズウェル(transwell)遊走解析を示す。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。*p<0.05。
【
図1-4】hPSC由来好中球が、初代好中球に類似の分子および機能性表現型を取ることを示す図である。(
図1F)化学遊走におけるヒトPBおよびhPSC由来好中球の代表的追跡、平均速度および化学遊走指数を示す。(
図1G)ホルボール12-ミリステート13-アセテート(phorbol 12-myristate 13-acetate、PMA)処理有りまたは無しのhPSC由来および初代PB好中球の反応性酸素種(ROS)産生を示す。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。*p<0.05。
【
図2-1】キメラ抗原受容体(CAR)ノックインhPSCに由来する好中球が、抗腫瘍細胞毒性の増強を呈することを示す図である。(
図2A~2B)CLTX-T-CAR構築物の模式図およびAAVS1セーフハーバー部位における標的ノックイン戦略を(
図2A)に示す。CLTX-T-CARは、シグナルペプチド(SP)、神経膠芽腫標的細胞外ドメインクロロトキシン(CLTX)、FcドメインIgG4(SmP)、膜貫通ドメインCD4-tmおよび細胞内シグナル伝達ドメインCD3ζからなる。垂直矢印は、AAVS1標的sgRNAを示す。赤色および青色の水平矢印は、標的効率およびホモ接合性を定量するためのプライマーをそれぞれ示す。(
図2B)ピューロマイシン選択後のhPSCクローンのPCR遺伝子型決定を示す。AAVS1部位の正確な標的化のために予想されたPCR産物は、991bpであり(赤色の矢印)、合計5種のうちの4種のクローンの効率を有する。ホモ接合性アッセイは、ノックインしたクローンに対して実施し、約240bpのPCR産物を有しないクローンは、ホモ接合性であった(青色の矢印)。
【
図2-2】キメラ抗原受容体(CAR)ノックインhPSCに由来する好中球が、抗腫瘍細胞毒性の増強を呈することを示す図である。(
図2C~2D)IL-13-T-CAR構築物の模式図およびAAVS1セーフハーバー部位における標的ノックイン戦略を(
図2C)に示す。IL-13-T-CARは、シグナルペプチド(SP)、細胞外ドメインTQM-13、FcドメインIgG4(SmP)、膜貫通ドメインCD4-tmおよび細胞内シグナル伝達ドメインCD3ζからなる。(
図2D)ピューロマイシン選択後のhPSCクローンのPCR遺伝子型決定を示す。AAVS1部位の正確な標的化のために予想されたPCR産物は、991bpであり(赤色の矢印)、合計24種のうちの15種のクローンの効率を有する。ホモ接合性アッセイは、ノックインしたクローンに対して実施し、約240bpのPCR産物を有しないクローンは、ホモ接合性であった(青色の矢印)。
【
図2-3】キメラ抗原受容体(CAR)ノックインhPSCに由来する好中球が、抗腫瘍細胞毒性の増強を呈することを示す図である。(
図2E)野生型およびCARノックインhPSC上でのIL-13およびCLTX-IgG4発現の代表的RT-PCR解析を示す。(
図2F)U87MG神経膠芽腫に対する細胞毒性アッセイを、指示する好中球を使用して種々の好中球対腫瘍標的比で実施した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。*p<0.05。
【
図2-4】キメラ抗原受容体(CAR)ノックインhPSCに由来する好中球が、抗腫瘍細胞毒性の増強を呈することを示す図である。(
図2G)U87MG細胞有り無しで同時培養した種々の好中球の反応性酸素種(ROS)産生を測定した。(
図2H)10:1の比率による、CLTX-T-CAR hPSC好中球の種々の腫瘍細胞に対する細胞毒性能を示す。神経膠芽腫U87MG細胞株、初代成人GBM43および小児SJ-GBM2細胞を利用した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。*p<0.05。神経膠芽腫対非神経膠芽腫。
【
図3-1】CLTX-T-CAR hPSC好中球がトロゴトーシスにより神経膠芽腫細胞を殺傷することを示す図である。(
図3A~3C)CAR好中球と腫瘍細胞との間の界面における極性化Fアクチンの蓄積により示す免疫シナプスの代表的画像を(A)に示し、指示する好中球と腫瘍細胞との間に形成された免疫シナプスの数を(
図3B)に定量した。Neu:好中球、Tu:腫瘍細胞。スケールバーは10μmである。(
図3C)CLTX-T-CAR hPSC好中球と指示細胞との間に形成された免疫シナプスの数を定量した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。
【
図3-2】CLTX-T-CAR hPSC好中球がトロゴトーシスにより神経膠芽腫細胞を殺傷することを示す図である。(
図3D~3E)好中球による神経膠芽腫細胞のトロゴサイトーシスにより、がん細胞細胞質標識の減少が経時的に引き起こされた。カルセインAM標識腫瘍細胞のトロゴトーシスによる破壊の代表的明視野(bright)および蛍光画像(
図3D)、ならびに腫瘍トロゴサイトーシスにおけるCLTX-T-CAR hPSC好中球のフローサイトメトリー解析(
図3E)を示した。スケールバーは10μmである。
【
図3-3】CLTX-T-CAR hPSC好中球がトロゴトーシスにより神経膠芽腫細胞を殺傷することを示す図である。(
図3F)CLTX-T-CAR hPSC由来好中球による腫瘍細胞のトロゴトーシスによる破壊における反応性酸素種(ROS)産生も定量した。(
図3G)CLTX-T-CAR hPSC由来好中球による腫瘍細胞のトロゴトーシスによる破壊の模式図である。
【
図4-1】CLTX-T-CAR hPSC好中球が膜タンパク質MMP2により神経膠芽腫に特異的に結合することを示す図である。(
図4A)腫瘍細胞における標的化遺伝子の誘導性ノックダウンのための一体型Cas13dPiggyBacトランスポゾンプラットフォームの模式図である。
【
図4-2】CLTX-T-CAR hPSC好中球が膜タンパク質MMP2により神経膠芽腫に特異的に結合することを示す図である。CLCN3(
図4B)、ANXA2(
図4C)標的Cas13d gRNAをトランスフェクトした腫瘍細胞をドキシサイクリン(DOX)処理有りまたは無しでRT-PCR解析に供した。このような修飾腫瘍細胞に対するCLTX-T-CAR hPSC好中球の抗腫瘍細胞毒性および相対ROS産生を10:1の好中球対標的比によりDOX処理有りまたは無しで定量した。野生型腫瘍細胞を陽性対照として使用した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。
【
図4-3】CLTX-T-CAR hPSC好中球が膜タンパク質MMP2により神経膠芽腫に特異的に結合することを示す図である。MMP2(
図4D)標的Cas13d gRNAをトランスフェクトした腫瘍細胞をドキシサイクリン(DOX)処理有りまたは無しでRT-PCR解析に供した。このような修飾腫瘍細胞に対するCLTX-T-CAR hPSC好中球の抗腫瘍細胞毒性および相対ROS産生を10:1の好中球対標的比によりDOX処理有りまたは無しで定量した。野生型腫瘍細胞を陽性対照として使用した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。
【
図4-4】CLTX-T-CAR hPSC好中球が膜タンパク質MMP2により神経膠芽腫に特異的に結合することを示す図である。(
図4E)CLTX-T-CARおよびCLTX-NK-CAR hPSC好中球の細胞溶解物におけるSyk-Erkシグナル伝達経路の全体的およびリンタンパク質解析を、ウエスタンブロットにより腫瘍細胞の同時インキュベーション有り無しで実施した。(
図4F)MMP2に結合後のCAR好中球における活性化細胞Syk-Erkシグナル伝達経路の模式図である。
【
図5-1】in vitroでの神経膠芽腫(GBM)微小環境模倣モデルを使用したCLTX-T-CAR hPSC好中球の機能性評価を示す図である。(
図5A)in vitroでの血液脳関門(BBB)モデルの模式図である。100nMのfMLP処理有りまたは無しの野生型およびCLTX-T-CAR hPSC好中球のトランズウェル遊走解析(
図5B)ならびにこれらの抗GBM細胞毒性(
図5C)をBBBモデルにより評価した。BBBを通じた種々のhPSC好中球の第2の遊走の模式図(
図5D)および定量(
図5E)を示した。
【
図5-2】in vitroでの神経膠芽腫(GBM)微小環境模倣モデルを使用したCLTX-T-CAR hPSC好中球の機能性評価を示す図である。(
図5F)in vitroでの好中球浸潤3次元(3D)腫瘍モデルの模式図である。
【
図5-3】in vitroでの神経膠芽腫(GBM)微小環境模倣モデルを使用したCLTX-T-CAR hPSC好中球の機能性評価を示す図である。(
図5G)3D腫瘍モデルにおける浸潤野生型およびCLTX-T-CAR hPSC好中球の代表的蛍光画像および定量を示した。DAPIを使用して細胞核を染色し、CD45を使用して好中球を染色した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。*p<0.05。(
図5H)3D腫瘍モデルの生/死染色を好中球浸潤から24時間後に実施し、対応する腫瘍殺傷効率を定量した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。*p<0.05。スケールバーは200μmである。
【
図6-1】腫瘍内注射により評価したCLTX-T-CAR hPSC好中球およびCLTXナチュラルキラー(NK)細胞のin situでの抗腫瘍活性を示す図である。(
図6A)in vivoでの抗腫瘍細胞毒性試験のための指示するhPSC好中球またはNK細胞の腫瘍内注射の模式図である。ルシフェラーゼ(Luci)発現U87MG細胞5×10
5細胞をNSGマウスの右前脳内に定位的に移植した。3時間後、PBS、野生型またはCLTX-T-CAR hPSC好中球5×10
6細胞、野生型またはCLTX-NK-CARhPSC-NK細胞5×10
6細胞を同一の位置に注射した。
【
図6-2】腫瘍内注射により評価したCLTX-T-CAR hPSC好中球およびCLTXナチュラルキラー(NK)細胞のin situでの抗腫瘍活性を示す図である。指示日数において生物発光イメージング(BLI)により経時的腫瘍量を決定して(
図6B)定量した(
図6C)。(sB)のマウスについてのデータは、平均値±s.d.である。*n=3。
【
図6-3】腫瘍内注射により評価したCLTX-T-CAR hPSC好中球およびCLTXナチュラルキラー(NK)細胞のin situでの抗腫瘍活性を示す図である。指示日数において生物発光イメージング(BLI)により経時的腫瘍量を決定して(
図6B)定量した(
図6C)。(sB)のマウスについてのデータは、平均値±s.d.である。*n=3。(
図6D)指示する実験マウスの体重を毎週測定して記録した。(
図6E)実験群の生存を実証するKaplan-Meier曲線を示した。
【
図7-1】hPSC由来CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。(
図7A)in vivoでの抗腫瘍細胞毒性試験のためのCAR好中球および/またはCAR-NK細胞の静脈内注射の模式図である。ルシフェラーゼ(Luci)発現U87MG細胞5×10
5細胞をNSGマウスの右前脳内に定位的に移植した。4日後、マウスにPBS、野生型好中球、CAR好中球、野生型NK細胞および/またはCAR-NK細胞5×10
6細胞を毎週約1か月間静脈内に処置した。
【
図7-2】hPSC由来CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。指示日数において生物発光イメージング(BLI)により経時的腫瘍量を決定して(
図7B)定量した(
図7C)。(B)のマウスについてのデータは、平均値±s.d.である(n=6)。
【
図7-3】hPSC由来CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。指示日数において生物発光イメージング(BLI)により経時的腫瘍量を決定して(
図7B)定量した(
図7C)。(B)のマウスについてのデータは、平均値±s.d.である(n=6)。(
図7D)実験群の生存を実証するKaplan-Meier曲線を示した。死んだマウスから回収した臓器を生物発光イメージングに供し(
図7E)、(
図7F)において定量した。
【
図7-4】hPSC由来CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。(
図7E)のマウスについてのデータは、平均値±s.d.である(n=6)。
【
図7-5】hPSC由来CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。(
図7G)マウス末梢血中のヒト腫瘍壊死因子α(TNFα)およびIL-6のレベルをELISAにより測定した。
【
図7-6】hPSC由来CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。(
図7H)野生型およびCAR好中球を、全身注射後24時間にマウス血液から単離し、抗腫瘍N1および腫瘍促進N2マーカーのRT-PCR解析に供した。
【
図8-1】大動脈様CD34+SOX17+造血内皮細胞(HE)ならびに造血幹および前駆細胞(HSPC)の生成を示す図である。(
図8A)hPSCからのHEおよびHSPC生成の模式図である。(
図8B~8C)hPSC由来の5日目培養物を、CD34/SOX17についてフローサイトメトリー解析に供し、(
図8C)において定量した。(
図8D)5日目のSOX17およびVEcadについての免疫染色の代表的画像である。スケールバーは50μmである。
【
図8-2】大動脈様CD34+SOX17+造血内皮細胞(HE)ならびに造血幹および前駆細胞(HSPC)の生成を示す図である。(
図8E~8H)hPSCを(
図8A)に例示するように分化させた。種々の時点のH9hPSCにおけるCD45/CD43発現の代表的フロープロットを(
図8E)に示し、(
図8F)に定量した。指示日数のH9培養物におけるCD44/CD43(
図8G)およびH9RUNX1c-GFP(Ng et al., 2016)培養物におけるCD34/RUNC1c(
図8H)の代表的フロープロットを示した。
【
図8-3】大動脈様CD34+SOX17+造血内皮細胞(HE)ならびに造血幹および前駆細胞(HSPC)の生成を示す図である。(
図8I~8J)凍結前後の細胞生存率を、カルセインAM染色によるフローサイトメトリーによって評価した。
【
図9-1】hPSC由来ミエロイド前駆細胞の多能性評価を示す図である。(
図9A~9C)指示日数における分化中のマクロファージ(CFU-M)および顆粒球-マクロファージコロニー形成単位(CFU-GM)解析の模式図を(
図9A)に示した。指示日数に採取したhPSC由来ミエロイド前駆細胞により形成されたGおよびGMコロニーの代表的画像を(
図9B)に示し、(
図9C)に定量した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。スケールバーは100μmである。
【
図9-2】hPSC由来ミエロイド前駆細胞の多能性評価を示す図である。(
図9D~9E)hPSC由来ミエロイド前駆細胞の単球/マクロファージ分化能を、GM-CSF処理を適用することにより評価した。種々の培養条件下でのCD14およびCD45の代表的フロープロットを(
図9D)に示し、(
図9E)に定量した。
【
図9-3】hPSC由来ミエロイド前駆細胞の多能性評価を示す図である。(
図9F~9H)G-CSFおよびAM580処理による指示日数のhPSC由来ミエロイド前駆細胞の好中球分化能評価の模式図を(
図9F)に示した。指示日数に採取した細胞培養物におけるCD11bおよびCD16の発現をフローサイトメトリーにより評価し(
図9G)、(
図9H)において定量した。hPSC由来および初代末梢血(PB)好中球の代表的ライトギムザ(Wright-Giemsa)染色を(
図9I)に示した。スケールバーは10μmである。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。
【
図9-4】hPSC由来ミエロイド前駆細胞の多能性評価を示す図である。(
図9F~9H)G-CSFおよびAM580処理による指示日数のhPSC由来ミエロイド前駆細胞の好中球分化能評価の模式図を(
図9F)に示した。指示日数に採取した細胞培養物におけるCD11bおよびCD16の発現をフローサイトメトリーにより評価し(
図9G)、(
図9H)において定量した。hPSC由来および初代末梢血(PB)好中球の代表的ライトギムザ(Wright-Giemsa)染色を(
図9I)に示した。スケールバーは10μmである。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。
【
図10-1】CARノックインhPSCの構築および特性決定を示す図である。(
図10A~10B)CLTX-NK-CAR構築物の模式図およびAAVS1セーフハーバー部位における標的ノックイン戦略(
図10A)である。CLTX-NK-CARは、シグナルペプチド(SP)、神経膠芽腫標的細胞外ドメインクロロトキシン(CLTX)、FcドメインIgG4(SmP)、膜貫通ドメインNKG2D-tm、共刺激ドメイン2B4および細胞内シグナル伝達ドメインCD3ζからなる。垂直矢印は、AAVS1標的sgRNAを示す。赤色および青色の水平矢印は、標的効率およびホモ接合性を定量するためのプライマーをそれぞれ示す。(
図10B)ピューロマイシン選択後のhPSCクローンのPCR遺伝子型決定を示す。AAVS1部位の正確な標的化のために予想されたPCR産物は、991bpであり(赤色の矢印)、合計13種のうちの4種のクローンの効率を有する。ホモ接合性アッセイは、ノックインしたクローンに対して実施し、約240bpのPCR産物を有しないクローンは、ホモ接合性であった(青色の矢印)。
【
図10-2】CARノックインhPSCの構築および特性決定を示す図である。(
図10C~10F)CARhPSCの表現型および機能性評価を実施した。OCT4およびSSEA4発現の代表的蛍光画像(
図10C)およびフロープロット(
図10D)を示した。スケールバーは50μmである。
【
図10-3】CARノックインhPSCの構築および特性決定を示す図である。(
図10E~10F)野生型hPSCを3つの胚葉系列:中胚葉、内胚葉および外胚葉に分化させた。cTnT、HNF4Aおよびβ-IIIチューブリンの代表的免疫染色画像を(
図10E)に示した。スケールバーは100μmである。(
図10F)CAR好中球をCLTX-T-CAR hPSCから得、野生型H9hPSC、hPSC由来中胚葉、内胚葉および外胚葉とともに指示する好中球対標的比でインキュベートした。生細胞の数を定量した。データは、3つの独立的再現の平均値±s.d.として表す。
【
図11-1】PiggyBacトランスポゾンに基づくCas13d系を使用した腫瘍細胞における誘導性遺伝子ノックダウンを示す図である。神経膠芽腫U87MG細胞に指示する一体型Cas13d gRNA構築物をhyPBaseプラスミドとともにトランスフェクトした。ドキシサイクリン(DOX)処理後のeGFPシグナルの代表的明視野および蛍光画像(
図11A)ならびにフロープロット(
図11B)を示した。スケールバーは100μmである。
【
図11-2】PiggyBacトランスポゾンに基づくCas13d系を使用した腫瘍細胞における誘導性遺伝子ノックダウンを示す図である。(
図11C)CLTX-T-CAR hPSC由来好中球を、DOXの存在または非存在下で、指示する遺伝子ノックダウン神経膠芽腫細胞とともにインキュベートした。好中球と指示腫瘍細胞との間の免疫シナプス形成を定量し、(
図11C)に示した。野生型U87MG細胞を陰性対照として使用した。
【
図12-1】CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。(
図12A)in vivoでの細胞追跡試験のためのCy5標識hPSC好中球の静脈内注射の模式図である。ルシフェラーゼ(Luci)発現U87MG細胞5×10
5細胞をNSGマウスの右前脳内に定位的に移植した。4日後、マウスにPBS、Cy5標識野生型またはCLTX-T-CAR hPSC好中球5×10
6細胞を静脈内に処置した。全身(
図12B)、脳(
図12C)および他の臓器(
図12D)におけるCy5+好中球の経時的体内分布を、指示時間に蛍光イメージングにより決定して定量した。
【
図12-2】CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。(
図12E)実験マウスの体重を毎週測定した。(
図12F)指示マウスから単離した神経膠芽腫異種移植片の代表的明視野およびH&E染色画像を示した。腫瘍領域は、破線で囲んだ。
【
図12-3】CLTX-T-CAR好中球およびCLTX-NK-CAR NK細胞のin vivoでの抗腫瘍活性を、静脈内注射により評価したことを示す図である。(
図12G)全身注射後24時間にマウス血液から単離した野生型およびCAR好中球を、抗腫瘍N1および腫瘍促進N2マーカーのRTPCR解析に供して定量した。
【
図13-1】hPSCに由来する抗PSMA CAR好中球により、癌性株が特異的に認識され、殺傷されることを示す図である。(
図13A)PSMA-CAR設計の模式図、および内因性AAVS1セーフハーバー部位におけるCas9媒介相同性特異的修復(HDR)によるノックイン戦略である。PSMA-CARは、シグナルペプチド、抗PSMA J591scFVまたはナノボディ、IgG4-Fc(EQ)、CD4膜貫通(tm)およびCD3ζ(CD3z)からなる。(
図13B)計13種のうち12種のクローンおよび計15種のうち13種のクローンの標的効率をそれぞれ有するhPSCにおけるCARノックインの遺伝子型決定を示す。
【
図13-2】hPSCに由来する抗PSMA CAR好中球により、癌性株が特異的に認識され、殺傷されることを示す図である。(
図13C)CAR好中球を、U87MG神経膠芽腫(GBM)およびLNCaP前立腺がん細胞とともに指示細胞比により16時間同時培養し、好中球の細胞毒性を算出した。
【
図14】CLTX NK-CARプラスミドマップを示す図である。
【
図15】CLTX T-CARプラスミドマップを示す図である。
【
図16】IL-13 T-CARプラスミドマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の原理の理解を促進する目的では、図において例示する実施形態に、ここで言及し、特定の言語を使用してこれを記載する。本明細書によって本開示の範囲を制限することは意図しないことが、やはり理解される。
【0017】
本開示では、好中球のさらに有効かつ迅速な生成のための材料および方法を提供しようと努める。革新的プラットフォームでは、in vitroで種々の腫瘍細胞に対する優れた特異的細胞毒性を提示し得る、「off-the-shelf(容易に入手可能な)」機能性好中球の大規模生成が可能となる、堅牢な段階特異的分化プロセスを利用する。重要なことには、このような好中球により、脳腫瘍細胞殺傷能の増強が実証される。その上、クロロトキシン(CLTX)T-CAR修飾好中球により、正常細胞に対する最小限の細胞毒性が実証され、これにより、神経膠芽腫療法における将来の臨床適用に対する大きな可能性がもたらされる。好中球は、限定されないが、キメラ抗原受容体(CAR)による腫瘍細胞へのナノ医薬の送達および固形がん(例えば、腫瘍)の標的免疫療法を含む、種々の臨床的治療適用において利用することができる。
【0018】
定義
次の用語および句は、以下に記載の意味を有するものとする。他に定義しない限り、本明細書において使用するすべての技術的および科学的用語は、当業者に一般に理解されるものと同一の意味を有する。
【0019】
「約」の用語では、値または範囲、例えば、20%以内、10%以内、5%以内または1%以内の表示の値または表示の制限範囲における、ある程度の可変性を考慮することができる。
【0020】
「実質的」の用語では、値または範囲、例えば、80%以内、90%以内、95%以内または99%以内の表示の値または表示の制限範囲における、ある程度の可変性を考慮することができる。
【0021】
「a」、「an」または「the」の用語は、文脈上明らかに他に指示しない限り、1つまたは2つ以上を含むように使用する。「または」の用語は、他に指示しない限り、非排他的な「または」を指すために使用する。加えて、本明細書において利用し、他に定義しない表現または用語法は、単なる記載目的のためであり、制限のためではないことが理解されるべきである。節の見出しの任意の使用は、本文書の解読を助けることを意図し、所与の節の見出しの下に記載する開示に制限するものとして解釈されるべきではない。したがって、節の見出しに関連する情報は、この特定の節の内または外に存在し得る。その上、本文献において言及するすべての公表文献、特許および特許文書は、参照により個々に組み込むことと同様に、それらの全体を本明細書に参照により組み込む。本文書と、このように参照により組み込む文書との間で矛盾して使用する場合では、組み込んだ参照における使用は、本文書の使用の捕捉であると考えるべきであり、相容れない矛盾(例えば、本文書に記載の配列と配列表に記載の配列との間で)においては、本文書における使用により規制する。
【0022】
好中球の集団を製造する方法
hPSCから好中球の集団を製造するための段階特異的プロセスを提供する。方法は、(a)hPSCを調製するステップと、(b)グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)阻害物質でこのhPSCを刺激して、CD34+造血内皮細胞の集団を生成するステップと、(c)形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質でこのCD34+造血内皮細胞を刺激して、CD45+造血細胞の集団を生成するステップと、(d)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)およびレチノイン酸受容体アゴニストでこのCD45+造血細胞を刺激して、CD11b+/CD16+好中球の集団を得るステップとを含む。hPSCは、ヒト胚性幹細胞(hESC)および誘導多能性幹細胞(iPSC)を含み得る。GSK3β阻害物質は、CHIR99021、CHIR98014または類似の化学物質であり得る。TGFβ阻害物質は、SB431542、A83-01または類似の化学物質であり得る。レチノイン酸受容体アゴニストは、AM80、AM50または類似の化学物質であり得る。ステップ(b)は、血管内皮増殖因子(VEGF)の存在下で実行することができる。ステップ(c)は、幹細胞因子(SCF)およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)の存在下で実行することができる。
【0023】
また、キメラ抗原受容体(CAR)好中球の集団を製造するための段階特異的プロセスを提供する。「CAR好中球」は、好中球の表面上にCARを発現するように分子生物学的方法により修飾した好中球である。CARは、所望の標的、例えば、マトリックスメタロペプチダーゼ2(MMP2)、例えば、神経膠腫、例えば、神経膠芽腫上のMMP2に対する所定の結合特異性を有するポリペプチドである。CARは、他のドメイン、例えば、種々のシグナル伝達ドメイン、共刺激ドメイン、スペーサーおよび/またはヒンジを含み得る。
【0024】
CAR結合特異性に関する用語および句、例えば、「特異性により結合する」、「高い親和性で結合する」、または「特異的に」もしくは「選択的に」結合する、の使用は、好中球上のCAR、例えば、CLTXを含むCARと、標的細胞、例えば、がん細胞、例えば、腫瘍が含まれる細胞または他の異常細胞上に存在する標的分子、例えば、タンパク質、例えば、受容体、酵素(例えば、MMP2)または細胞表面マーカーとの間の結合反応を示す。したがって、標的細胞、例えば、がん細胞または他の異常細胞上に存在する標的分子とのCAR好中球の結合に貢献するか、容易とするか、または促進する結合条件下では、CAR好中球は、著しくは結合しないとしても、正常な健常細胞上に存在する他の分子、例えば、タンパク質、例えば、受容体、酵素および細胞表面マーカーに対してである。特異的結合または高親和性による結合は、他の任意の非標的分子の結合よりも少なくとも25%高く、より頻繁には、少なくとも50%高く、最も頻繁には、少なくとも100%(2倍)高く、正常には、少なくとも10倍高く、より正常には、少なくとも20倍高く、最も正常には、少なくとも100倍高くなり得る。
【0025】
CARは、好ましくは、組換えDNA技術を使用して生成するが、当技術分野において公知の任意の手段により生成することができる。CARのいくつかの領域をコードする核酸配列は、分子クローニングの標準技術(ゲノムライブラリースクリーニング、PCR、プライマー補助ライゲーション、部位特異的変異誘発、および遺伝子編集技術、例えば、CRISPR等)により調製して、完全コード配列に構築することができる。このような技術は、Sambrook et al., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual,” 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, (2001)およびGreen and Sambrook, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual,” 4th Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, (2012)に詳細に記載されており、これらはともに、その全体(集合的に、「プロトコール」)を参照により本明細書に組み込む。
【0026】
生じたコード領域は、発現ベクターに挿入した後、レシピエント細胞、例えば、hPSCに導入することができる。「ベクター」の用語は、目的の核酸を保有、内包または発現するように機能する任意の核酸を意味する。核酸ベクターは、特殊機能、例えば、発現、パッケージング、シュードタイピングまたは形質導入を有し得る。また、ベクターは、クローニングまたはシャトルベクターとしての使用のために構成する場合、操作機能を有し得る。ベクターの構造は、生成するのに実現可能かつ特定の使用に望ましい、任意の所望の形態を含み得る。このような形態は、例えば、環状形態、例えば、プラスミドおよびファージミド、ならびに直鎖状または分枝鎖状形態を含み得る。核酸ベクターは、例えば、DNAまたはRNAからなるだけでなく、ヌクレオチド誘導体、類似体または模倣体を部分的または完全に含み得る。このようなベクターは、天然源から得るか、組換えまたは化学合成により生成することができる。
【0027】
CAR発現は、任意の適するプロモーター、例えば、本明細書において例示するものを使用して駆動することができる。プロモーターの例としては、種々の構成的および誘導性プロモーター、例えば、構成的CAGプロモーター、EF1aプロモーター、UBC構成的プロモーターまたはTeton-3G誘導性プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
融合タンパク質における認識領域の配置は一般に、細胞外部領域の呈示が達成されるように配置する。望ましい場合は、CARは、さらなるエレメント、例えば、融合タンパク質を細胞表面へ適切に輸送することを確実とするシグナルペプチド(例えば、CD8αシグナルペプチド)、融合タンパク質を内在性膜タンパク質(例えば、CD3ζ膜貫通ドメイン)として維持することを確実とする膜貫通ドメイン、ならびに認識領域に可動性を付与し、標的部位への強力な結合が可能となるヒンジおよび/またはスペーサードメインをも含み得る。
【0029】
当技術分野において公知であり、本明細書において例示する任意の適する方法、例えば、プラスミドを使用して、hPSC内に、CARコード核酸を送達することができる。方法の例としては、ヌクレオフェクション/エレクトロポレーション、LipofectamineStem(ThermoFisher社、STEM00001)もしくは類似のトランスフェクション試薬によるトランスフェクション、またはレンチウイルス、レトロウイルス、sleeping beauty、piggyback(非ウイルス媒介CAR遺伝子送達系を含むトランスポゾン/トランスポゼース系)もしくはアデノ随伴ウイルス(AAV)媒介送達が挙げられるが、これらに限定されない。プラスミドおよびCRISPR/Cas9を使用する方法を例示し、トランスポゾン、リボヌクレオタンパク質および二本鎖DNAをも使用して、hPSCゲノム内の、例えば、AAVS1セーフハーバー部位またはCLYBL部位にCARを組み込むことができる。
【0030】
核酸は、別の核酸配列と機能的に関連するように配置される場合、「動作可能に結合」する。例えば、プレ配列または分泌性リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現する場合、ポリペプチドのDNAに動作可能に結合し、プロモーターまたはエンハンサーは、翻訳を容易とするように配置する場合、コード配列に動作可能に結合する。一般には、「動作可能に結合」は、結合するDNA配列が近接していることを意味し、リーダーの場合では、近接し、リーディング相にあることを意味する。しかし、エンハンサーは、必ずしも近接していなくてはならないとは限らない。結合は、好都合な制限部位におけるライゲーションにより達成し得る。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを、従来の慣例に従って使用し得る。
【0031】
キメラ抗原受容体(CAR)好中球の集団を製造するための段階特異的プロセスは、(a)CRISPR/Cas9媒介相同組換えにより、ヒト多能性幹細胞(hPSC)においてアデノ随伴ウイルスS1(AAVS1)プラスミドのAAVS1セーフハーバー部位に、CAR発現遺伝子構築物をノックインするステップと、(b)標的化に成功した単一細胞由来hPSCコロニーまたはhPSC細胞混合物を単離して、安定なCAR発現hPSC細胞株を得るステップと、(c)この安定なCAR発現hPSC細胞株からhPSCを調製するステップと、(d)GSK3β阻害物質でこのhPSCを刺激して、CD34+造血内皮細胞の集団を生成するステップと、(e)形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質でこのCD34+造血内皮細胞を刺激して、CD45+造血細胞の集団を生成するステップと、(f)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)およびレチノイン酸受容体アゴニストでこのCD45+造血細胞を刺激して、CAR好中球の集団を得るステップとを含む。プロセスは、(a’)CAR発現遺伝子構築物を調製するステップと、(a’’)AAVS1プラスミドを構築するステップとの初期ステップをさらに含み得る。CARは、CLTX、CD4の膜貫通ドメインおよびCD3ζの細胞内ドメインを含み得る。CARは、配列番号2のアミノ酸配列を有し得る。CCARは、配列番号1または3のアミノ酸配列を有し得る。hPSCは、hESC、例えば、H9またはH1、およびiPSC、例えば、6-9-9または19-9-11を含み得る。GSK3β阻害物質は、CHIR99021、CHIR98014または類似の化学物質であり得る。TGFβ阻害物質は、SB431542、A83-01または類似の化学物質であり得る。レチノイン酸受容体アゴニストは、AM80、AM50または類似の化学物質であり得る。ステップ(b)は、VEGFの存在下で実行することができる。ステップ(c)は、SCFおよびFLT3Lの存在下で実行することができる。
【0032】
(a)CAR発現遺伝子を含むPiggyBacトランスポゾンプラスミドを構築するステップと、(b)ヌクレオフェクション/エレクトロポレーションによりヒト多能性幹細胞内にPiggyBacプラスミドを送達するステップと、(c)標的化に成功した単一細胞由来ヒト多能性幹細胞(hPSC)コロニーまたはhPSC細胞混合物を単離して、安定なCAR発現hPSC株を得るステップと、(d)hPSCから好中球の集団を製造するための上記の段階特異的プロセスに従ってCAR発現好中球を生成するステップとを含む、hPSCからCAR好中球の集団を製造するためのプロセスをさらに提供する。hPSCは、hESCおよびiPSCを含み得る。hESCは、H9、H1または他のヒト胚性幹細胞を含み得る。iPSCは、6-9-9、19-9-11または他の誘導多能性幹細胞を含み得る。CARは、CLTX、CD4の膜貫通ドメインおよびCD3ζの細胞内ドメインを含み得る。CARは、配列番号2のアミノ酸配列を有し得る。CARは、配列番号1または3のアミノ酸配列を有し得る。
【0033】
配列番号1は、CLTX NK-CARアミノ酸配列である。
【0034】
【0035】
配列番号2は、CLTX T-CARアミノ酸配列である。
【0036】
【0037】
配列番号3は、IL-13 T-CARアミノ酸配列である。
【0038】
【0039】
配列番号8は、CLTX CD32FcγR-CARアミノ酸配列である。
【0040】
【0041】
配列番号9は、抗PSMAナノボディT-CARアミノ酸配列である。
【0042】
【0043】
配列番号10は、抗PSMA J-591-scFV T-CARアミノ酸配列である。
【0044】
【0045】
「核酸」は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、ならびに一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のこのポリマーおよびこの補体を指す。この用語は、公知のヌクレオチド類似体もしくは修飾骨格残基、または合成、天然、非天然であり、参照核酸と類似の結合特性を有し、参照ヌクレオチドと類似の方法で代謝される結合を含む核酸を包含する。
【0046】
配列番号1~3および8~10の対応するタンパク質をコードするDNA配列(配列番号11~16)は、主張するものであり、本開示の範囲内に含まれる。
【0047】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」の用語は、アミノ酸残基のポリマー、ポリペプチド、もしくはポリペプチドの断片、ペプチド、または融合ポリペプチドを指すために(他に明示的に示さない限り)本明細書において互換的に使用する。この用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工的化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーに適用する。
【0048】
さらに、本開示では、hPSCへのCARの導入の後、好中球への分化を例示するが、hPSC由来造血内皮、造血前駆細胞および好中球、例えば、本明細書に記載の方法に従って生成されたものは、直接標的化してCAR好中球を生成することが可能であることが当業者により理解および認識される。
【0049】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、生物医学的研究の多くの分野において、単球を駆動するために日常的に使用する。しかし、顆粒球採取のロジスティックは複雑である。例えば、ドナーは、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)またはステロイドで前処置する必要を有する(Gea-Banacloche, Granulocyte transfusions: A concise review for practitioners. Cytotherapy (2017). doi:10.1016/j.jcyt.2017.08.012;Adrover et al., Immunity 50: 390-402.e10 (2019);およびGurlek Gokcebay et al., Granulocyte transfusions in the management of neutropenic fever: A pediatric perspective. Transfusion and Apheresis Science (2018). doi:10.1016/j.transci.2018.02.009)。加えて、十分な数の良質な細胞を採取することは困難であり、保存時間は、およそ24時間に制限される(Ginhoux et al., Developmental pathways and tissue homeostasis, Nature Reviews Immunology (2014). doi:10.1038/nri3671)。このような因子により、好中球減少症の治療に対する顆粒球輸注の有用性が妨げられ、臨床試験において不確定な結果が観察される一因となることが多い(Brok-Volchanskaya et al., Stem Cell Reports 13: 1099-1110 (2019);およびCao et al., Stem Cell Reports 12: 1281-1297 (2019))。
【0050】
ヒト多能性幹細胞(hPSC)は、代替的かつ拡張可能な顆粒球源として作用する可能性をもたらす(Seaki et al., A feeder-free and efficient production of functional neutrophils from human embryonic stem cells, Stem Cells (2009). doi:10.1634/stemcells.2007-0980)。これまでの研究によってhPSCによる好中球生成の実現可能性が実証されたが、血清およびフィーダーまたは胚様体形成の利用により、これらの広範な適用が制限されている(Trump et al., Stem Cells Transl Med 8: 557-567 (2019))。
【0051】
これまでの研究では、血管内皮カドヘリン+(VECad+)により標識された造血内皮細胞(HE)ならびに造血マーカーCD43およびCD45を発現するCD34+細胞および初期造血前駆細胞にhPSCが分化可能であることが示された。このような造血細胞により、広範な赤血球およびミエロイド分化能を有する赤血球ミエロイド前駆細胞(EMP)様細胞が生じ得る(Ivanovs et al., Development 144: 2323-2337 (2017);Dou et al., Medial HOXA genes demarcate haematopoietic stem cell fate during human development, Nat Cell Biol (2016). doi:10.1038/ncb3354;およびHwang et al., Controlled differentiation of stem cells. Adv Drug Deliv Rev (2008). doi:10.1016/j.addr.2007.08.036)。その後、ミエロイド前駆細胞は、G-CSFおよびレチノイン酸アゴニストAm580の存在下で成熟好中球に分化し得る。
【0052】
改変好中球細胞株
hPSC由来の改変好中球細胞株をなおさらに提供する。実施形態では、改変好中球細胞株は、配列番号1のアミノ酸配列を有するCARを含む。別の実施形態では、改変好中球細胞株は、CLTX、CD4の膜貫通ドメインおよびCD3ζの細胞内ドメインを含むCAR、例えば、配列番号2のアミノ酸配列を有するCARを含む。また別の実施形態では、改変好中球細胞株は、配列番号3のアミノ酸配列を有するCARを含む。
【0053】
配列番号1~3は、参照ポリペプチド配列と考えることができる。換言すれば、アミノ酸配列における一部の差異(例えば、最大10%、例えば、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%)(例えば、保存的および中性のアミノ酸置換)が、許容され、これにより類似の結果が達成され得る。一部の場合では、アミノ酸配列における一部の差異により、より良い結果が達成され得る。参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列をアラインメントし、ギャップを導入して、必要に応じて、配列同一性の一部としていかなる保存的置換をも考慮せずに最大のパーセント配列同一性を達成した後、参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一の候補配列のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義する。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的におけるアラインメントは、当分野の技術の範囲内の種々の方法、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して、達成することができる。当業者は、比較する完全長配列にわたって最大アラインメントを達成するのに必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントに適切なパラメータを決定することができる。
【0054】
医薬組成物
医薬組成物をまたなおさらに提供する。医薬組成物は、上記の方法に従って得られた単離CAR好中球の集団または上記の細胞株由来の好中球の集団を含む。医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0055】
「単離」の用語は、その元来の環境、例えば、それが天然である場合、天然環境から物質を除去することを意味する。例えば、生体内に存在する天然好中球は、単離されたものではないが、天然系に共存する物質の一部または全部から分離した同一の好中球は、単離されたものである。
【0056】
「薬学的に許容される」の用語およびこの文法的異型は、これらが組成物、担体、希釈剤、試薬等を指す場合、互換的に使用し、合理的なリスク対効果比に釣り合うように、過度の毒性、刺激作用、アレルギー応答および/または望ましくない生理学的作用の生成、例えば、悪心、眩暈、急性胃蠕動等を生じずに、物質を哺乳動物にまたは哺乳動物に対して投与可能であることを示す。換言すれば、これは、生物学的またはその他により不適当ではない物質である。すなわち、物質は、例えば、望ましくないいかなる生物学的作用をも生じることなく、または医薬組成物の他の成分のいずれかと著しく有害に相互作用することなく、CAR好中球とともに個体に投与し得る。
【0057】
「薬学的に許容される担体」の用語は、当技術分野において認識されており、組成物またはこの成分の保有または輸送に関与する薬学的に許容される物質、組成物または媒体、例えば、液体または固体のフィラー、希釈剤、賦形剤、ソルベントまたは封入物質を指す。各担体は、対象組成物およびこの成分と適合し、患者に対して非傷害性であるという意味において「許容され」なければならない。薬学的に許容される担体として作用し得る物質の一部の例としては、(1)糖類、例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロース、(2)デンプン、例えば、コーンスターチおよびジャガイモデンプン、(3)セルロースおよびこの誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース、(4)トラガント粉末、(5)モルト、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)賦形剤、例えば、カカオバターおよび坐剤ワックス、(9)油、例えば、ピーナツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油および大豆油、(10)グリコール、例えば、プロピレングリコール、(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール、(12)エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル、(13)アガー、(14)緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム、(15)アルギン酸、(16)発熱物質不含水、(17)等張食塩水、(18)リンゲル液、(19)エタノール、(20)リン酸緩衝液、ならびに(21)医薬製剤に利用する非毒性の適合する他の物質が挙げられる。
【0058】
利用する特定の製剤は、特定の投与経路に少なくとも部分的に依存する。例えば、全身的、例えば、静脈内投与に適する製剤は、頭蓋内投与に適する製剤とは異なり得る。このような修飾形態は、当業者の技術の範囲内である。
【0059】
治療の方法
また、それを必要とする対象における、がんを治療する方法を提供する。方法は、治療有効量の(a)上記の方法に従って得られた好中球の集団、もしくはこれおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物、または(b)上記の細胞株由来の好中球の集団、もしくはこれおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を対象に投与するステップを含む。
【0060】
がんは、任意のがんであり得る。「がん」は、体の他の部分に浸潤または拡散(すなわち、転移)する可能性を有する細胞増殖の異常に関与する疾患群を含み得るが、これらに限定されない。例としては、脳、甲状腺、肺、膵臓、腎臓、胃のがん、消化管間質腫瘍、子宮内膜、乳房、子宮頚部、卵巣、結腸、前立腺のがん、白血病、リンパ腫、他の血液関連がん、または頭頸部がんが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、治療するがんは、腫瘍である。特定の実施形態では、がんは、悪性である。がんは、脳腫瘍であり得る。脳腫瘍は、神経膠腫であり得る。神経膠腫は、神経膠芽腫であり得る。がんは、タンパク質マトリックスメタロペプチダーゼ2を発現し得る。好中球の集団またはこれを含む医薬組成物は、全身的または頭蓋内に投与することができる。
【0061】
方法により、全身的およびオフターゲットの毒性を低下、さらに実質的に低下させることができる。「オフターゲット毒性」は、臓器もしくは組織の損傷、または医師もしくは対象を治療する他の個人にとって望ましくない、対象の体重の減少、あるいは治療する医師に対する潜在的有害指標である、対象に対する他の任意の作用を意味する(例えば、B細胞形成不全、発熱、血圧の低下または肺水腫)。
【0062】
「治療(treat、treating、treatedおよびtreatment)」の用語(疾患または症状、例えば、がんに関する)は、有益または所望の結果、例えば、臨床結果を得るための方法を記載するために使用し、この結果は、疾患と関連する症状の改善、疾患の治癒、疾患の重症度の低減、疾患に罹患しているヒトの生活の質の向上、生存の延長および/または予防的治療の1つまたは複数を含み得るが、これらに限定されない。加えて、がんに言及する場合、特に、「治療(treat、treating、treatedまたはtreatment)」の用語は、腫瘍サイズの低下、腫瘍の完全もしくは部分的除去(例えば、完全もしくは部分的奏効)、疾患の安定、がんの増悪の予防(例えば、無増悪生存)、または医師によってがんの治療的または予防的処置であるとされる、がんに対する他の任意の作用を意味し得る。より詳細には、治癒的治療は、徴候/症候の軽減、回復および/または除去、低減および/または安定(例えば、さらなる進行期に増悪しないこと)ならびに特定の障害の徴候/症候の増悪における遅延のいずれかを指す。予防的治療は、次:発病の停止、発症リスクの低下、発症率の低下、発病の遅延、発症の減少および特定の障害の症候の発病時間の延長のいずれかを指す。治療の望ましい作用としては、疾患の発生または再発の予防、症候の軽減、疾患の直接または間接的な任意の病理学的帰結の減少、転移の予防、疾患増悪率の低下、病状の回復または緩和、および寛解または予後の改善が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、組成物は、疾患および/もしくは腫瘍の発症を遅延させるか、または疾患の増悪および/もしくは腫瘍の増殖を遅延(もしくはさらに停止)させるために使用する。
【0063】
「患者」または「対象」の用語は、ヒトおよび非ヒト動物、例えば、ペット(イヌおよびネコ等)ならびに家畜を含む。家畜は、食物生産のために飼育した動物である。治療する対象は、好ましくは、哺乳動物、特に、ヒトである。
【0064】
本明細書において使用する場合、「投与」の用語は、好中球およびこれを含む医薬組成物を患者に導入するすべての手段を含む。例としては、経口(po)、非経口、全身/静脈内(iv)、筋肉内(im)、皮下(sc)、経皮、胸骨内、動脈内、腹腔内、硬膜外、尿道内、鼻腔内、頬側、眼内、舌下、膣内、直腸内等が挙げられるが、これらに限定されない。脳への投与経路は、実質内、脳室内、頭蓋内等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
非経口投与の例示的手段は、針(マイクロニードルを含む)注射器、針なし注射器および注入技術、ならびに当技術分野において認識される他の任意の非経口投与手段を含む。非経口製剤は、典型的には、賦形剤、例えば、塩、炭水化物および緩衝剤(好ましくは、約3~約9の範囲のpH)を含み得る水溶液である。無菌条件下の非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な薬学的技術を使用して容易に達成し得る。
【0066】
「治療有効量」の用語は、本明細書において使用する場合、研究者、獣医師、医学博士または他の臨床医により探求される、組織系、動物またはヒトにおける生物学的または医学的応答を誘発する改変好中球の量を指し、この反応は、治療する疾患または障害の症候の軽減を含む。一態様では、治療有効量は、任意の医学的治療に適用可能な合理的リスク対効果比により疾患または疾患の症候を治療または軽減し得る量である。しかし、改変好中球の1日の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内において主治医により決定し得ることが理解されるべきである。任意の特定の患者のための特定の治療有効用量レベルは、治療する障害および障害の重症度;利用する特定の組成物;患者の年齢、体重、一般的健康、性別および食事;投与時間および経路;治療期間;改変好中球と組み合わせてまたは同時に使用する薬物;ならびに通常の研究者、獣医師、医学博士または他の臨床医に周知の類似の因子を含む、多様な因子に依存する。したがって、所与の単位剤形に含まれる改変好中球の絶対量は、広く変動し、対象の年齢、体重および健康状態、ならびに投与方法のような因子に依存し得る。
【0067】
投与経路に応じて、広範な許容できる投薬量を本明細書において検討する。投薬量は、単一または分割であってもよく、q.d.(1日1回)、b.i.d.(1日2回)、t.i.d.(1日3回)またはさらに1日置き、週1回、月1回、四半期に1回等を含む多種多様なプロトコールに従って投与し得る。このような場合のそれぞれでは、本明細書に記載の治療有効量は、投与プロトコールの決定に応じて、投与の都度、あるいは1日、1週、1月または1四半期の総用量に対応することが理解される。
【0068】
がん、例えば、脳腫瘍、神経膠腫、神経膠芽腫、もしくはマトリックスメタロペプチダーゼ2(MMP2)を発現するがん、または他の疾患もしくは障害を治療するための改変好中球の投与した投薬量は、当業者により実行される投薬量およびスケジュールした治療計画による。典型的には、用量>109細胞/患者を、養子細胞移入療法を受ける患者に投与する。特に、本明細書に提供する開示の詳細を考慮すれば、有効量または用量の決定は十分、当業者の能力の範囲内である。
【0069】
対象に投与する改変好中球は、形質導入CAR-T細胞を約1×105~約1×1015または1×106~約1×1015細胞を含み得る。種々の実施形態では、約1×105~約1×1010、約1×106~約1×1010、約1×106~約1×109、約1×106~約1×108、約1×106~約2×107、約1×106~約3×107、約1×106~約1.5×107、約1×106~約1×107、約1×106~約9×106、約1×106~約8×106、約1×106~約7×106、約1×106~約6×106、約1×106~約5×106、約1×106~約4×106、約1×106~約3×106、約1×106~約2×106、約2×106~約6×106、約2×106~約5×106、約3×106~約6×106、約4×106~約6×106、約4×106~約1×107、約1×106~約1×107、約1×106~約1.5×107、約1×106~約2×107、約0.2×106~約1×107、約0.2×106~約1.5×107、約0.2×106~約2×107または約5×106細胞。
【0070】
対象に投与する改変好中球は、約100万、約200万、約300万、約400万、約500万、約600万、約700万、約800万、約900万、約1千万、約1千100万、約1千200万、約1千250万、約1千300万、約1千400万または約1千500万細胞を含み得る。細胞は、単回用量または複数回用量として投与することができる。改変好中球は、対象体重1kgあたりのCAR発現好中球数で投与することができる。
【0071】
キット
最終的には、hPSCから好中球を調製するためのキットを提供する。キットは、(a)任意選択で、培地の一部として、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)阻害物質、(b)任意選択で、培地の一部として、血管内皮増殖因子(VEGF)、(c)任意選択で、培地の一部として、形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害物質、(d)任意選択で、培地の一部として、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン3(IL-3)およびインターロイキン6(IL-6)、ならびに(e)任意選択で、培地の一部として、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)およびレチノイン酸アゴニストを含む。キットは、(c)および(d)においてSCFおよびFlt3:FMS様チロシンキナーゼ3/胎性肝臓キナーゼ2(Flt3)リガンド、ならびに(e)においてGlutaMAXおよびExCyteをさらに含み得る。
【0072】
GSK3β阻害物質含有培地の例としては、DMEMおよびLaSR基礎培地が挙げられるが、これらに限定されない。VEGF含有培地の例としては、LaSR基礎培地およびStemline IIが挙げられるが、これらに限定されない。TGFβ阻害物質含有培地の例としては、LaSR基礎培地およびStemline IIが挙げられるが、これらに限定されない。GM-CSF、IL-3およびIL-6を含む培地の例としては、Stemline IIおよびStemSpan H3000が挙げられるが、これらに限定されない。G-CSFおよびAM580を含む培地の例としては、Stemline IIおよびStemSpan H3000が挙げられるが、これらに限定されない。キットは、SCFおよびFLT3L(例えば、上記のステップ(c)および(d)における使用のため)ならびに/またはGlutaMAXおよびExCyte(例えば、上記のステップ(e)における使用のため)をさらに含み得る。
【0073】
結果
化学的に定義した条件により機能性好中球の堅牢な生成が可能となる
in vitroでの造血前駆細胞誘導は、hPSCから好中球を生成する第1のステップである(Brok-Volchanskaya et al., 2019a;Lachmann et al., 2015;Saeki et al., 2009;Sweeney et al., 2016;Trump et al., 2019)。多能性造血幹および前駆細胞(HSPC)は、内皮造血転換(EHT)により大動脈-性腺-中腎(AGM)領域の動脈脈管構造から生じる(Bertrand et al., 2010;Boisset et al., 2010;Kissa and Herbomel, 2010)。我々は、Wntシグナル伝達の小分子活性化によりhPSCから同種CD34+CD31+造血内皮細胞(HE)をこれまでに誘導した(
図8A~8B)(Bao et al., 2015;Lian et al., 2014)。重要なことには、生じたHEは、AGMの血管構造において発現し、AGMによるHSC生成に必要とされる転写因子であるSOX17をも発現した(
図8B~8D)(Clarke et al., 2013;Kim et al., 2007;Ng et al., 2016)。TGFβ阻害物質SB431542(SB)の利用により(Bertrand et al., 2010;Boisset et al., 2010;Kissa and Herbomel, 2010)、EHTプロセスが促進されて、最終的造血マーカーCD44(Fidanza et al., 2019;Oatley et al., 2020)(
図8G)およびRUNX1c(Ng et al., 2016)(
図8H)を同時発現するCD45+CD43+HSPCが生成された(
図8E~8F)。また、生じた15日目のhPSC由来HSPCは、凍結融解後に高い生存率を維持した(
図8I~8J)。
【0074】
ミエロイド前駆細胞および好中球の分化を誘導するために、9日目からhPSC由来HSPC培養物を顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、IL-3およびIL-6で処理した(Cao et al., 2019)(
図9A)。種々の日に採取した浮遊ミエロイド前駆細胞は、顆粒球マクロファージ(GM)およびマクロファージ(M)の両コロニー形成能を提示し(
図9B~9C)、これらは、12日目から18日目に増加して、後に減少した。好中球の特異化を促進するために、15日目のミエロイド前駆細胞を顆粒球CSF(G-CSF)で処理した。予想どおり、G-CSFでは、GM-CSFと比較してCD14+単球/マクロファージの数が有意に減少した(
図9D~9E)。好中球分化に最適なミエロイド前駆細胞を同定するために、12、15および18日目に採取した浮遊細胞を、ヒトCD34+細胞による好中球生成を促進するレチノイン酸アゴニストであるAM580とともにG-CSF処理に供した(
図9F)(Brok-Volchanskaya et al., 2019b;Li et al., 2016)。好中球分化の効率は、15日目から21日目に向上して、後に有意に減少し、これは、好中球の寿命が短いためであり得る(
図9G~9H)。また、我々は、15日目のミエロイド前駆細胞を、好中球分化のための最適条件としてG-CSFおよびAM580による6日の処理によって同定し、このためこれを、その後の我々の実験に利用した(
図1A)。12日目から動的形態学的変化が、造血系クラスターの出現とともに観察された(
図1B)。生じた21日目の好中球は、典型的な好中球形態を呈し(
図9I)、ヒト末梢血(PB)から単離したこれらの対応物と比較して高発現レベルの、CD16、CD11b、CD15、CD66b、CD18およびMPOを含む好中球特異的マーカーを示した(
図1C)。
【0075】
hPSC由来好中球の機能を評価するために、我々は、食作用および化学遊走アッセイを実施した。初代のPB好中球と同様に、hPSC由来好中球は、pHrodo大腸菌(E. coli)生体粒子を効率的に貪食し(
図1D)、トランズウェル(
図1E)およびマイクロ流体技術(
図1F)(Afonso et al., 2013)を使用する化学遊走モデルにおいて優れた遊出能を呈した。また、我々は、hPSC由来好中球による反応性酸素種(ROS)の産生を測定した。ホルボール12-ミリステート13-アセテート(phorbol 12-myristate 13-acetate、PMA)に応答して、hPSC由来好中球は、PB好中球と匹敵するROSを生成した(
図1G)。まとめると、我々は、1hPSCあたり約20好中球の収率を有する、hPSCによる機能性好中球の堅牢な生成のための新規の化学的に定義されたフィーダーフリーのプラットフォームを確立し、これにより、好中球生物学の研究および好中球減少症の治療におけるこの適用可能性が強調された。
【0076】
AAVS1標的CARノックインによってhPSC由来好中球の抗腫瘍細胞毒性が向上する
健常ドナー由来の初代好中球は、in vitroで種々のヒトがん細胞株に対する強力ながん殺傷活性を提示する(Yan et al., 2014)。したがって、我々は、hPSCに由来する新規の好中球が、腫瘍細胞を直接殺傷することが可能であるかどうか、およびキメラ抗原受容体(CAR)発現によって、標的免疫療法に対するこれらの抗腫瘍細胞毒性が増強可能かどうかを判定しようと探求した。好中球上でのCARの安定かつ均一な発現を達成するために、我々は、ヒト細胞における構成的導入遺伝子発現に広く使用される部位である、H9hPSCの内因性AAVS1セーフハーバー部位内に(Smith et al., 2008)、CRISPR/Cas9媒介相同組換えによりCAR構築物を直接ノックインした(
図2A~2H、
図10A~10F)。3つの異なるCAR構築物:CLTX-T-CAR(
図2A~B)、IL-13-T-CAR(
図2C~2D)およびCLTX-NK-CAR(
図10A~10B)を、Tまたはナチュラルキラー(NK)細胞特異的膜貫通および細胞内ドメインを使用して設計した。ヌクレオフェクション後、ピューロマイシン耐性(PuroR)単一細胞由来hPSCクローンを単離し、PCRにより遺伝子型決定を行った。CLTX-T-CAR(
図2A~B)、IL-13-T-CAR(
図2C~2D)およびCLTX-NK-CAR(
図10A~10B)について、一方のアレル(ヘテロ接合性)では、クローンのおよそ60%(5つのうち3つ)、58.3%(24個のうち14個)および7.7%(13個のうち1つ)が、両アレル(ホモ接合性)では、およそ20%(5つのうち1つ)、4.2%(24個のうち1つ)および23.1%(13個のうち3つ)が、それぞれ標的化された。遺伝子修飾hPSC上での合成CARの安定な発現が、CLTX-IgG4およびIL-13断片のRT-PCR解析により確認された(
図2E)。重要なことには、CAR発現hPSCでは、高発現レベルの多能性マーカーSSEA-4およびOCT-4が保持された(
図10C~10D)。
【0077】
好中球の抗腫瘍細胞毒性に対するCAR発現の作用を決定するために、CAR発現hPSCをCAR好中球に分化させ(
図1A)、次いでこれを、神経膠芽腫(GBM)U87MG細胞とin vitroで種々のエフェクター対標的比により同時培養した。野生型または他のCAR発現好中球と比較すると、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、優れた腫瘍殺傷活性を呈した(
図2F)。また、好中球は、細胞毒性ROSを放出して、標的細胞を殺傷する可能性があり(Yan et al., 2014)、種々の好中球におけるROS産生の動態は、これらの腫瘍殺傷能の上昇と非常に一致し(
図2G)、GBM細胞に対する好中球媒介細胞毒性におけるROSの潜在的関与を示した。加えて、抗腫瘍細胞毒性の増強は、CLTX-T-CAR hPSC好中球と、U87MG細胞株、初代成人GBM43および小児SJ-GBM2細胞を含むGBM細胞との同時インキュベーションにおいてのみ観察され(
図2H)、GBMに対するこれらの高特異性を示唆した。重要なことには、CLTX-T-CAR好中球は、正常hPSCまたはhPSC由来細胞を殺傷せず(
図10E~10F)、初代好中球が健常上皮細胞を殺傷しないというこれまでの報告と一致した(Yan et al., 2014)。まとめると、hPSC由来CAR好中球は、標的がん細胞に対する抗腫瘍細胞毒性の増強およびさらなるROSの産生をin vitroで示し、標的免疫療法におけるこれらの可能性が強調された。
【0078】
CLTX-T-CAR hPSC好中球は、トロゴトーシスによって神経膠芽腫細胞を殺傷する
好中球による細胞毒性に、密接な好中球-腫瘍コンジュゲート形成が必要とされるため(Matlung et al., 2018)、CAR好中球媒介抗腫瘍細胞毒性の根底にある機構を調査するために、直接的エフェクター標的相互作用を調べた。好中球と標的腫瘍細胞との間の免疫シナプスが、30分の同時培養後に形成され、インキュベーション時間に比例して増加した(
図3A~3B)。予想どおり、CLTX-T-CAR hPSC好中球と腫瘍細胞との間で、初代PBおよびhPSC好中球と比較してさらなるエフェクター標的相互作用が観察されたが(
図3B)、CAR好中球と正常hPSCまたはhPSC由来細胞との間で免疫シナプスは形成されず(
図3C)、腫瘍細胞に対するこれらの特異性が強調された。生細胞イメージングによって、CAR好中球が腫瘍細胞に活発に遊走し、標的細胞の細胞膜が破壊されることが明らかとなり、これは、同時インキュベーション後早くて30分の破壊された細胞の出現、および予め添加した細胞質色素カルセインAMによる好中球取込みにより示された(
図3D~3E)。これまでに報告された好中球トロゴトーシス、好中球の抗体依存性細胞毒性(ADCC)に関与するトロゴサイトーシス関連腫瘍壊死と一致して(Matlung et al., 2018)、好中球は、標的細胞とのコンジュゲート後に腫瘍細胞膜断片を貪食し、腫瘍細胞死を誘導した(
図3D~3E)。その上、ROS放出の動力学は、好中球トロゴサイトーシスの動態と十分に一致し(
図3F)、ROSおよびトロゴサイトーシスの好中球媒介腫瘍細胞殺傷における顕著な役割を示唆した。まとめると、これまでの報告と一致して(Matlung et al., 2018;Yan et al., 2014)、我々の結果によって、hPSC由来好中球が、標的細胞による免疫シナプス形成後にトロゴトーシスおよびROS放出により腫瘍細胞を殺傷可能であることが実証された(
図3G)。
【0079】
CLTX-T-CAR hPSC好中球は、MMP2により神経膠芽腫に特異的に結合する
腫瘍細胞に対するCLTX-T-CAR増強細胞毒性の根底にある分子機構をさらに調査するために、我々は、一体型の誘導性Cas13d媒介遺伝子ノックダウンプラットフォームを実行して(
図4A)、塩素イオンチャネル(CLCN3)、リン脂質タンパク質アネキシンA2(ANXA2)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP2)を含む(Wang et al., 2020a)、CLTX結合と関連する膜タンパク質を決定した。ピューロマイシン選択の後、トランスフェクトした神経膠芽腫細胞のおよそ78%が、eGFP発現により示すように、ドキシサイクリン(DOX)の存在下でCas13dを発現した(
図11A~11B)。RT-PCR解析では、U87MG GBM細胞におけるCLCN3(
図4B)、ANXA2(
図4C)およびMMP2(
図4D)のノックダウンの成功が確認された。注目すべきことには、CLCN3またはANXA2ではなく、MMP2のノックダウンにより、CLTX-T-CAR好中球媒介腫瘍細胞殺傷およびROS生成が有意に減少した(
図4B~4D)。CAR好中球とMMP2欠損腫瘍細胞との間の免疫シナプス形成の実質的減少も観察された(
図11C)。このような知見により、膜タンパク質MMP2が、腫瘍細胞を殺傷するための好中球のCLTX-T-CAR認識および活性化に必要とされることが実証される。ヒト正常組織上でのMMP2発現がごくわずかであることを考慮すると(Itoh, 2015)、これは、将来的臨床適用におけるCLTX-T-CAR好中球の安全性を示唆する。
【0080】
次いで、我々は、MMP2発現腫瘍細胞に結合後の活性化好中球における下流の細胞内シグナル伝達を調べた。初代好中球は、トロゴトーシスにより腫瘍細胞に対する抗体依存性細胞毒性(ADCC)を呈し、このトロゴトーシスは、Fcγ受容体およびこの下流のシグナル伝達経路により媒介され、チロシンキナーゼSykを含む(Matlung et al., 2018)。CLTX-T-CAR hPSC好中球は、GBM刺激時に、CLTX-NK-CARを有するこれらの対応物と比較して、Sykのより強力なリン酸化活性化(p-Syk)を呈した(
図4E)。注目すべきことには、リンパ球媒介細胞毒性に関与する鍵となるシグナル伝達媒介因子である(Li et al., 2018)細胞外シグナル制御キナーゼ(Erk)1/2(p-Erk1/2)の比率の有意な上昇も、我々のGBM刺激CLTX-T-CAR hPSC好中球において観察された。これは、CARhPSC-NK細胞における細胞内シグナル伝達を暗示する(Li et al., 2018)、活性化好中球におけるSyk-vav1-Erk経路の潜在的活性化を示す(
図4F)。
【0081】
CLTX-T-CAR hPSC好中球はin vitroでの生体模倣腫瘍モデルにおいて高い遊出および抗腫瘍細胞毒性活性を呈する
CAR好中球の活性をさらに評価するために、我々は、ヒト脳微小血管内皮細胞を使用してトランズウェルに基づく血液脳関門(BBB)モデルを実行した(
図5A)。CAR発現および野生型hPSC好中球が、N-ホルミルメチオニン-ロイシル-フェニルアラニン(fMLP)に応答してBBBを越える類似の遊出活性を呈する一方で(
図5B)、CAR好中球により、遊走後により高い腫瘍殺傷能が実証された(
図5C)。その上、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、炎症性腫瘍細胞に応答してBBBを越えるこれらの第2の輸送中に高い遊出能を保持し(
図5D~5E)、これによりin vivoでの炎症およびがんの多くの態様が再現された。また、単純な3次元(3D)GBMモデルを実行して、高密度細胞外マトリックスネットワークおよび多様性腫瘍細胞亜型を含むin vivoでの腫瘍適所様微小環境を構築した(
図5F)。野生型対照と比較した場合、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、3D腫瘍モデルにおいてより高い腫瘍浸潤(
図5G)および腫瘍殺傷(
図5H)活性を示した。まとめると、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、腫瘍適所模倣条件下で高い遊出能および抗腫瘍細胞毒性を保持し、標的免疫療法におけるこれらの適用可能性が強調された。
【0082】
CLTX-T-CAR hPSC好中球はin vivoで神経膠芽腫に対する活性の増強を呈する
CLTX-T-CAR hPSC好中球のin vivoでの機能を決定するために、我々は、免疫不全マウスの脳へのルシフェラーゼ発現GBM細胞5×10
5細胞の頭蓋内注射によりin situでの異種移植モデルを実行した(Wang et al., 2020b)。好中球は、腫瘍内(
図6A~6E)または静脈内(
図7A~7H)に投与して、これらのin vivoでの腫瘍殺傷活性を調べた。腫瘍内注射実験では、腫瘍細胞接種後3時間に腫瘍担持マウスに単回用量のPBS、野生型もしくはCLTX-T-CAR hPSC好中球またはhPSC-NK細胞5×10
6細胞を腫瘍内投与した(
図6A)。生物発光イメージング(BLI)を実施して、3日目の最初のイメージング後に毎週、腫瘍増殖を監視した(
図6B)。PBS処置マウスと比較した場合、好中球またはNK細胞による処置によって、腫瘍量が有意に減少した(
図6B~6C)。予想どおり、CLTX-T-CAR hPSC-NK細胞および好中球は、マウスにおいて野生型対照よりも高い抗腫瘍細胞毒性を呈し、これらのマウスは、安定な体重を維持した(
図6D)。注目すべきことには、PBS処置腫瘍担持マウスのうちの1匹は、レシピエント脳における腫瘍の異常増殖のため30日目に死んだ(
図6B、6E)。
【0083】
次いで我々は、腫瘍担持マウスへの好中球5×10
6細胞の毎週の静脈内投与によるCAR好中球のin vivoでの活性を調べた(
図7A)。CAR好中球のin vivoでの体内分布および輸送を追跡するために、我々は、Cy5で好中球を標識した後、全身的注射を行い、全身投与後1、5および24時間に蛍光イメージングを実施した(
図12A)。好中球は、1時間以内にマウスの全身を通行し、好中球注射後5時間以内に類似の体内分布を保持した(
図12B)。野生型好中球と比較して、CAR好中球は、BBBを効率的に通過し、24時間後にマウス脳のGBM異種移植片を通行した(
図12C~12D)。静脈内投与試験中の実験マウス群にわたって、体重の有意な変化は観察されなかった(
図12E)。腫瘍内投与試験と一致して、CAR好中球は、GBM異種移植片のBLI解析(
図7B~7C)ならびに明視野およびH&E染色画像(
図12F)によるマウスにおいてPBSおよび野生型対照よりも高い抗腫瘍細胞毒性を呈した。
【0084】
注目すべきことには、CLTX-T-CAR hPSC好中球で処置した腫瘍担持マウスにより、CAR-NK細胞で処置したマウスと比較して腫瘍量の有意な減少が実証され、マウスにおけるBBB通過およびGBM異種移植片浸透において好中球の優れた能力が示唆された。CAR好中球とは対照的に、野生型hPSC好中球または末梢血(PB)好中球の毎週の投与により、CARNK細胞有り無しの脳における腫瘍の増殖が有意に促進されて、早くて21日目に腫瘍担持マウスが死んだ(
図7D)。GBMの神経外転移が珍しく(約200の報告例(Rosen et al., 2018))、病態形成が未知である(Seo et al., 2012)にもかかわらず、ex vivoによる種々の臓器および/または組織のBLI画像により決定した場合、野生型hPSC由来またはPB好中球で処置した腫瘍担持マウスにおいて全身的転移が生じ(
図7E~7F)、ヒト患者GBMの頭蓋外転移における好中球の潜在的役割が示唆された(Liang et al., 2014;Wang et al., 2020c)。
【0085】
次いで我々は、TNFαおよびIL-6を含む、種々の実験マウス群の血漿中ヒトサイトカイン産生放出を測定した。すべての非PBS実験群において、5日目から26日目に血漿中に検出可能なTNFαおよびIL-6が産生され、CAR好中球は、最も高いレベルの両サイトカインを維持した(
図7G)。好中球媒介転移の根底にある機構をさらに調査するために、我々は、マウス血液からヒト好中球を回収し、抗腫瘍(N1)または腫瘍促進(N2)表現型解析に供した(Fridlender et al., 2009;Shaul et al., 2016)。野生型hPSCまたはPB好中球において、腫瘍異種移植により、iNOSおよびTNFαを含むN1特異的マーカーの発現が有意に減少し、VEGFおよびアルギナーゼを含む(Shaul et al., 2016)N2特異的マーカーが増加した(
図7H、
図12G)。反対に、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、高い発現レベルのN1マーカーを保持し、これは、腫瘍担持マウスにおける、これらの強力な抗腫瘍細胞毒性およびサイトカイン放出と一致する。まとめると、我々の知見により、hPSC由来CAR好中球が、抗腫瘍表現型を維持し、この試験において検査した種々の腫瘍適所様条件下で腫瘍細胞を効率的に殺傷可能であることが明らかに実証され、標的免疫療法におけるこれらの適用可能性が強調された。
【0086】
hPSCの維持および分化
H9をWiCell社から得、これまでに公表された方法に従ってマトリゲルまたはiMatrix511でコーティングしたプレート上のmTeSRplus培地に維持した。分化では、hPSCを1mMのEDTAで解離させ、10,000~80,000細胞/cm2の細胞密度で、iMatrix511でコーティングした24ウェルプレート上の5μMのY27632を加えたmTeSRplus培地に24時間播種した(-1日目)。0日目に、100μg/mLのアスコルビン酸を添加したDMEM培地(DMEM/Vc)中の6μMのCHIR99021(CHIR)で細胞を処理した後、1日目、2日目および3日目に培地をLasR基礎培地と交換し、2日目から4日目に50ng/mLのVEGFを培地に加えた。4日目に、10μMのSB431542を添加したStemline II培地(Sigma社)と培地を交換した。2日後、SB431542を含む培地を吸引し、50ng/mLのSCFおよびFLT3Lを加えたStemline II培地中に細胞を維持した。9日目および12日目に、培地を吸引し、50ng/mLのSCFおよびFLT3Lならびに25ng/mLのGM-CSFを含むStemline II培地に交換した。15日目に、浮遊細胞を穏やかに回収し、好中球の最終分化に使用した。浮遊細胞は、GlutaMAX100×、ExCyte(0.2%)、ヒトG-CSF(150ng/mL)およびAm580レチノイン酸アゴニスト(2.5μM)を添加したStemline II培地中で培養した。3日後、すべての成分およびサイトカインを加えた同一の培地を、既存の培養物の上に加えた。培養から5日後に上清から成熟した好中球を穏やかに回収した。
【0087】
これとは別に、同種のCD34+CD31+造血内皮細胞を、
図8A~8Cに示すように、Wntシグナル伝達の小分子分子活性化によりhPSCから誘導した。
図8Aは、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)からの好中球の分化の概要を示す模式図である。
図8Bは、CD34/SOX8発現についてのhPSC由来の5日目の培養物のフローサイトメトリー解析を示す。生じた造血内皮細胞は、SOX17を発現し、これは、AGMの血管構造において発現し、AGMからのヒト幹細胞の生成に必要とされる転写因子である。
図8Cは、H9ヒト胚性幹細胞(hESC)、H1hESC、19-9-11誘導多能性幹細胞(iPSC)および6-9-9誘導iPSC対CD34+SOX17+(%)の棒グラフである。
【0088】
図8D~8Hに示すように、TGFβ阻害物質SB431542の追加によって内皮造血転換が促進されて、CD45+CD43+HSPCの生成が生じ、これは、最終的造血マーカーCD44およびRUNX1cを同時発現した。
図8Aは、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)からの好中球の分化の概要を示す模式図である。
図8Bは、CD34/SOX17発現についてのhPSC由来の5日目の培養物のフローサイトメトリー解析を示す。
図8Cは、H9ヒト胚性幹細胞(hESC)、H1hESC、19-9-11誘導多能性幹細胞(iPSC)および6-9-9誘導iPSC対CD34+SOX17+(%)の棒グラフである。
図8Dは、種々の日数(D)のH9hPSC(
図8Aに従って分化)におけるCD45/CD43発現の代表的フローサイトメトリープロットを示す。
図8Eは、H9hESC、H1hESC、19-9-11iPSCおよび6-9-9iPSCについての%CD45+CD43+の定量の棒グラフを示す。
図8Fは、指示日数(D)のH9細胞培養物におけるCD44/CD43発現の代表的フローサイトメトリープロットを示す。
図8Gは、指示日数(D)のH9RUNX1c-GFP細胞培養物におけるCD34/RUNX1c発現の代表的フローサイトメトリープロットを示す。
【0089】
生じた15日目のhPSC由来HSPCも、
図8Iおよび8Jに示すように、凍結融解後に高い生存率を維持した。
図8Hは、カルセインAM染色により評価した場合の凍結前(新鮮)および後(凍結)の細胞生存率の代表的フローサイトメトリープロットを示す。
図8Iは、新鮮および凍結H9hPSCについての細胞生存率(%)の棒グラフである。
【0090】
ミエロイド前駆細胞および好中球分化を、
図9Aに示すように、9日目からGM-CSF、IL-3およびIL-6でhPSC由来HSPC培養物を処理することにより誘導した。
図9Aは、分化中の指示日数におけるマクロファージコロニー形成単位(CFU-M)および顆粒球マクロファージCFU(CFU-GM)解析の模式図である。
【0091】
浮遊ミエロイド前駆細胞は、種々の日数で採取した。浮遊ミエロイド前駆細胞は、顆粒球マクロファージおよびマクロファージコロニー形成能を提示し、この形成能は、12日目から18日目に上昇し、後に低下した。好中球特異化は、15日目のG-CSFによるミエロイド前駆細胞の処理により促進された。
図9B~9Cに示すように、G-CSF処理によってGM-CSFと比較してCD14+単球/マクロファージの数が有意に減少した。
図9Bは、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)または顆粒球マクロファージCSF(GM-CSF)で処理した細胞におけるCD14/CD45発現の代表的フローサイトメトリープロットを示す。
図9Cは、G-CSFまたはGM-CSFで処理した18日目(D18)および21日目(D21)の培養物についての%CD14+CD45+発現の定量の棒グラフである。
【0092】
好中球分化に最適なミエロイド前駆細胞は、
図9Dに示すように、12、15および18日目に浮遊細胞を採取し、G-CSF、およびヒトCD34+細胞からの好中球生成を促進するレチノイン酸アゴニストAM580でこれらを処理することにより同定した。
図9Dは、G-CSFおよびAM580処理による指示日数(D)のhPSC由来ミエロイド前駆細胞の好中球分化能評価の模式図である。
【0093】
好中球分化の効率は、
図9E~9Fに示すように、15日目から21日目に上昇し、おそらく好中球の寿命が短いため、後に有意に低下した。
図9Eは、3、6または9日間G-CSFおよびAM580で処理し、12、15または18日目に採取したミエロイド細胞培養物におけるCD11b/CD16発現の代表的フローサイトメトリープロットを示す。
図9Fは、12、15または18日目に採取し、15、18、21、24または27日目(D)に解析したミエロイド細胞についての%CD11b+CD16+発現の定量の棒グラフである。
【0094】
6日間G-CSFおよびAM580で処理した15日目のミエロイド前駆細胞を、好中球分化に最適であると同定した。
図9Hに示すように、好中球分化培養における選別したCD16-細胞の表現型(選別前後の好中球上のCD16の代表的フローサイトメトリー画像を示す、
図9Gを参照)を評価して、約20%のFcεR1α+好塩基球および約74%のEPX+好酸球から主になることを決定した。この
図9Hは、CD10、CD14、FcεR1αおよびEPXの発現について選別したCD16-細胞のフローサイトメトリー解析を示す。12日目から動的形態学的変化が、造血系クラスターの出現とともに観察された。
【0095】
生じた21日目の好中球は、典型的な好中球形態を呈し(
図9I~9J)、ヒト末梢血から単離したこれらの対応物と比較して高発現レベルの、CD16、CD11b、CD15、CD66b、CD18およびMPOを含む好中球特異的マーカーを示した。
図9Iは、hPSC由来および初代末梢血好中球の代表的ライトギムザ染色を示す。スケールバー=5μm。
図9Jは、hPSC由来および初代末梢血好中球のDAPIおよびCD16の代表的蛍光染色を示す。スケールバー=10μm。
【0096】
図13A~13C:hPSCに由来する抗PSMA CAR好中球により、癌性株が特異的に認識され、殺傷されることを示す図である。(
図13A)PSMA-CAR設計の模式図、および内因性AAVS1セーフハーバー部位におけるCas9媒介相同性特異的修復(HDR)によるノックイン戦略である。PSMA-CARは、シグナルペプチド、抗PSMA J591scFVまたはナノボディ、IgG4-Fc(EQ)、CD4膜貫通(tm)およびCD3ζ(CD3z)からなる。(
図13B)計13種のうち12種のクローンおよび計15種のうち13種のクローンの標的効率をそれぞれ有するhPSCにおけるCARノックインの遺伝子型決定を示す。(
図13C)CAR好中球を、U87MG神経膠芽腫(GBM)およびLNCaP前立腺がん細胞とともに指示細胞比により16時間同時培養し、好中球の細胞毒性を算出した。
【0097】
その上、説明のために、
図14は、例示的実施形態として示すCLTX NK-CARプラスミドマップを表す。
【0098】
図15は、CLTX T-CARプラスミドマップを表す。CLTX T-CARは、CLTX、CDRの膜貫通ドメインおよびCD3ζの細胞内ドメインをコードする。この構築物は、hPSC由来好中球の抗腫瘍細胞毒性の増強において他の2つよりも良好であった。生じたCLTX T-CAR好中球は、典型的な好中球表現型を提示し、MMP2を介する神経膠芽腫への特異的結合により標的腫瘍細胞を殺傷した。
【0099】
図16は、説明のための例示的実施形態として示すIL-13T-CARプラスミドマップを表す。
【0100】
血液系腫瘍を治癒させる免疫療法が開発されているが、標的がん療法に対する新規かつ後天的耐性が、好中球が鍵となる中心的存在である腫瘍微小環境(TME)が複雑かつ動的であるため、固形腫瘍において一般に観察されている(Devlin et al., 2020;Kalafati et al., 2020;Ponzetta et al., 2019)。TMEへの好中球の寄与の理解の向上により、がんを治療する代替的手法としての腫瘍促進好中球の再プログラミングおよび/または枯渇に対する関心が高まっている(Kalafati et al., 2020)。概念実証として、我々は、in vitroおよびin vivoの両方における抗腫瘍エフェクター細胞として好中球を計画および維持し、現在のがん治療を補完し、これらの有効性を強化し得る新規の好中球標的免疫療法を代表する、合成CARの使用の実現可能性をここで実証する。
【0101】
初代好中球の寿命が短く、これらがゲノム編集に抵抗性であるため、合成CARによるhPSCの改変は、容易に入手可能なCAR好中球を生成する理想的手法である。この目標を達成するために、ここで我々は、シグナル伝達経路調節因子を段階特異的に利用する、革新的で化学的に定義されたフィーダーフリーのプラットフォームを第1に実行してhPSCによる好中球の堅牢な生成を行った。次いで我々は、好中球媒介腫瘍殺傷活性の増強におけるNKまたはT細胞特異的膜貫通および細胞内活性化ドメインを有する3つの異なるCAR構築物を設計して評価した。GBM結合ペプチドであるクロロトキシン(Qin et al., 2014)およびT細胞特異的シグナル伝達ドメインを含むCLTX-T-CARにより、in vitroおよびin vivoの両方においてhPSC好中球の抗原特異的腫瘍細胞毒性が著明に上昇した。将来の研究において、好中球特異的膜貫通および活性化ドメインを、好中球特異的CAR構築物を確立するのに利用可能であるかどうかを調査することは興味深い。誘導性遺伝子ノックダウン系を使用して、我々は、好中球においてCAR活性化を引き起こすCLTX結合および認識の標的としてGBM細胞上に膜タンパク質MMP2を同定した。分子機構調査により、CLTX-T-CARにより、公知の下流細胞内シグナル伝達経路が引き起こされ、遺伝子発現により、腫瘍細胞に対するトロゴトーシス活性を媒介し、腫瘍適所様条件下でこれらの抗腫瘍N1表現型を維持する、好中球の特性が明らかとなることが明らかとなった。
【0102】
要約すれば、この試験において記載するCAR好中球改変プラットフォームは、がんおよび好中球減少症の治療における臨床適用のための潜在的標準化細胞生成物として容易に入手可能な好中球を生成する拡張可能な戦略として作用し得る。hPSCにおけるゲノム編集の相対的容易さを考慮すると、他の遺伝子修飾、例えば、多重CAR発現および/または阻害性受容体欠失をも実施して、CAR好中球における最適な治療作用を達成することができる。重要なことには、安定なCAR発現hPSC株をも使用して、臨床試験において現在使用する、容易に入手可能なCAR-TおよびNK細胞(Li et al., 2018)を生成することができる。
【実施例】
【0103】
次の実施例は、本開示を例示するように作用する。この実施例は、主張する本発明の範囲を制限することは決して意図しない。
【0104】
略称
HSPC:造血幹および前駆細胞
AGM:大動脈-性腺-中腎
NK細胞:ナチュラルキラー細胞
HSC:造血幹細胞
EHT:内皮造血転換
HE:造血内皮細胞
hESC:ヒト胚性幹細胞
hPSC:ヒト多能性幹細胞
BMP4:骨形成タンパク質4
VEGF:血管内皮増殖因子
EPO:エリスロポエチン
FGF2:線維芽細胞増殖因子2
CSF3:コロニー刺激因子3
IL-6:インターロイキン6
TPO:トロンボポエチン
PVA:ポリビニルアルコール
SCF:幹細胞因子
Flt3:FMS様チロシンキナーゼ3/胎性肝臓キナーゼ2
HEP:造血内皮前駆細胞
VEカドヘリン:血管内皮カドヘリン
OP9-DLL4:OP9-Notchリガンドデルタ様タンパク質4
CFU-E:赤血球コロニー形成単位
CFU-GM:顆粒球/マクロファージコロニー形成単位
CFU-M:マクロファージコロニー形成単位
CFU-GEMM:多能性前駆細胞コロニー形成単位
GSK3:グリコーゲン合成酵素キナーゼ3
DMEM:ダルベッコ修飾イーグル培地
TGFβ:形質転換増殖因子β
G-CSF:顆粒球コロニー刺激因子
GM-CSF:顆粒球マクロファージコロニー刺激因子
IL-3:インターロイキン3
IL-6:インターロイキン6
IL-13:インターロイキン13
CAR:キメラ抗原受容体
CLTX:クロロトキシン
BSA:ウシ血清アルブミン
PBS:リン酸緩衝食塩水
FBS:ウシ胎仔血清
fMLP:ホルミルメチオニル-ロイシル-フェニルアラニン
CFC:コロニー形成細胞
GBM:神経膠芽腫
MMP2:マトリックスメタロペプチダーゼ2
SOX17:SRYボックス転写因子17
【0105】
統計学的解析。データは、平均値±平均値の標準誤差(s.e.m)として提示する。統計学的有意性は、2群間のStudentのt検定(両側)により判定し、3群以上は、一元配置分散分析(ANOVA)により解析した。P<0.05は、統計学的に有意であると考えた。
【0106】
[実施例1]細胞培養培地
次の培地を使用して、幹細胞を培養および維持した。
(a)幹細胞培養および維持培地。mTeSR1(Stemcell Technologies社、05825)、mTeSR Plus(Stemcell Technologies社、85850)、E8(ThermoFisher社、A1517001)、StemFlex(ThermoFisher社、A3349401)等。
(b)DMEM+アスコルビン酸(0日目~1日目に使用)。DMEM(ThermoFisher社、11965またはCorning社、10-017-CM)に50~100μg/mlのアスコルビン酸(Sigma社、A8960)を添加した。
(c)LaSR基礎培地または類似の培地(0日目~4日目、0日目~6日目、0日目~15日目、1日目~4日目、1日目~6日目または1日目~15日目に使用)。LaSR基礎培地は、AdvancedDMEM/F12(ThermoFisher社、12634)、2.5mMのGlutaMAX(ThermoFisher社、35050061)および50~100μg/mlのアスコルビン酸(Sigma社、A8960)からなる。
(d)Stemline II(Sigma社、S0192)、StemSpan-XF(Stemcell Technologies社、#100-0073)または類似の培地(0日目~20日目、2日目~20日目、3日目~20日目または4日目~20日目に使用)。
【0107】
次の小分子および増殖因子を使用した。
(a)Y27632(5~10μM):ヒト多能性幹細胞培養物
CaymanChem社、10005583;Sigma社、Y0503;Selleckchem社、S1049
【0108】
【化7】
(b)CHIR99021(1~12μM):中-内胚葉特異化のためのGSK3阻害物質
CaymanChem社、13122;Sigma社、SML1046;Tocris社、4423
【0109】
【化8】
(c)SB431542(1~20μM):内皮造血転換のためのTGFβ阻害物質
CaymanChem社、13031;Selleckchem社、S1067;Tocris社、1614
【0110】
【化9】
(d)A83-01(1~20μM):内皮造血転換のためのTGFβ阻害物質
CaymanChem社、9001799;Sigma社、SML0788;Tocris社、2939
【0111】
【化10】
(e)内皮系特異化のための組換えヒトVEGF165(1~100ng/mL)
Peprotech社#100-20;R&Dsystems社、293-VE;Sigma社、H9166
(f)造血系特異化のための組換えヒトSCF(1~100ng/mL)
Peprotech社#300-07;R&Dsystems社、255-SC;Sigma社、S7901
(g)造血系特異化のための組換えヒトFlt3リガンド(1~100ng/mL)
Peprotech社#300-19;R&Dsystems社、308-FK;ThermoFisher社、PHC9415
(h)好中球特異化のための組換えヒトG-CSF(1~200ng/ml)
Peprotech社#300-23;R&Dsystems社、214-CS;Sigma社、G0407
(i)AM580またはAM80(1~10μM):好中球特異化のためのレチノイン酸受容体アゴニスト
AM580:CaymanChem社、15261;Selleckchem社、S2933;Tocris社、0760
AM80:CaymanChem社、71770;Tocris社、3507
【0112】
【化11】
(j)造血系および好中球特異化のための組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)(1~100ng/mL)
Peprotech社#300-03;BioLegend社、572902;Sigma社、G5035
(k)造血系および好中球特異化のための組換えヒトIL-3(1~100ng/mL)
Peprotech社#200-03;BioLegend社、578002;Sigma社、SRP4134
(l)造血系および好中球特異化のための組換えヒトIL-6(1~100ng/mL)
Peprotech社#200-06;BioLegend社、715104;Sigma社、GF430-M
【0113】
[実施例2]種々のCAR構築物によるhPSCの生成、維持および分化
36個のアミノ酸および4つのジスルフィド結合を含み、3,996の相対分子量を有するペプチドであるCLTXを、オブトサソリ(Leiurus quinquestriatus)のサソリ毒から最初に単離した(Qin et al., Inhibition of metastatic tumor growth and metastasis via targeting metastatic breast cancer by chlorotoxin-modified liposomes. Mol Pharm (2014). doi:10.1021/mp40069lz)。CLTXは、神経膠芽腫および他の腫瘍に選択的に結合する(DeBin et al., Purification and characterization of chlorotoxin, a chloride channel ligand from the venom of the scorpion, Am J. Physiol-Cell Physiol 264 (1993))。CLTXは、無脊椎動物に対して高度に毒性であるが、哺乳動物に対しては非毒性である。CLTXは、この特異的結合および他の天然特性のため、腫瘍標的療法に対して有望なツールである。CLTXは、細胞毒性物質の腫瘍特異的送達について報告されており、CLTXは、前臨床適用における化学療法剤および小分子干渉RNAの送達のための多様な媒体のコーティングに使用されている。最近、Brown et al.は、CLTX特異的CAR-T細胞によって神経膠芽腫が特異的かつ効率的に標的とされたことを報告した。上の調査に基づいて、CLTX特異的CAR好中球によって、炎症性腫瘍領域への遊走後の腫瘍を標的とすることが可能であることが考えられる(Wang et al. (2020)、上記参照)。
【0114】
Cas9を使用して、3つの異なるCAR構築物(IL-13受容体α2(IL13Rα2)標的四重変異体IL-13(TQM13)T-CARであるIL-13T-CAR(Kim et al., Bioact Mater 5: 624-635 (2020))、CLTX T-CAR(Wang et al. (2020)、上記参照)およびCLTX NK-CAR)によりhPSCを改変し、改良免疫療法のためのCAR好中球にこれらを分化させた。遺伝子サイレンシングを回避するために、細胞周期レポーターを発現させるためにこれまでに行ったように(Chang et al., Fluorescent indicators for continuous and lineage-specific reporting of cell-cycle phases in human pluripotent stem cells. Biotechnol Bioeng bit.27352 (2020). doi:10.1002/bit.27352)、CAR構築物を、hPSCのアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)セーフハーバー部位にノックインした。
【0115】
ドナープラスミド構築
AAVS1部位を標的とするドナープラスミドを、これまでに記載のように構築した(Chang et al. (2020)、上記参照)。簡潔には、CAG-IL13T-CARプラスミドを生成するために、TQM-IL13CAR断片(Kim et al. (2020)、上記参照)を、Addgene社のプラスミド#154054から増幅し、次いで、AAVS1-PuroCAG-FUCCIドナープラスミド(Addgene社;#136934)にクローニングし、FUCCIを置換した。CAG-CLTX T-CARプラスミドでは、シグナルペプチドを含むCLTX配列を直接合成し(GeneWiz社)、CAG-IL13T-CARにおけるIL-13配列の置換に使用した。CAG-CLTX NK-CARプラスミドでは、コンジュゲートしたNKG2D、2B4およびCD3-ζ配列を直接合成し、CAG-CLTX T-CARにおけるCD4tmおよびCD3-ζ配列の置換に使用した。すべてのCAR構築物は、シーケンシングし、Addgene社に提出した(#157742、#157743および#157744)。
【0116】
[実施例3]in vitroでの解析
hPSCのヌクレオフェクションおよび遺伝子型決定
細胞生存率を上昇させるために、10μMのY27632を使用して、hPSCを3~4時間処理した後ヌクレオフェクションを行うか、またはhPSCを一晩処理した。次いで、細胞をアキュターゼ(Accutase)により8~10分間剥離し、hPSC1~2.5×106細胞に、ヒト幹細胞ヌクレオフェクション溶液(Lonza社;#VAPH-5012)100μlまたは室温のPBS-/-200μl中のAAVS1gRNA T2(Addgene社;#41818)3μg、pCas9GFP(Addgene社;#44719)4.5μgおよびCARドナープラスミド6μgを、Nucleofector2bのprogramB-016を使用してヌクレオフェクションした。ヌクレオフェクションした細胞は、マトリゲルでコーティングした6ウェルプレートのあるウェル内の、10μMのY27632を有する予熱したmTeSRplusまたはmTeSR1 3mlに播種した。24時間後、5μMのY27632を含む新鮮なmTeSRplusまたはmTeSR1と培地を交換した後、毎日の培地交換を行った。細胞が80%を超えてコンフルエントとなると、1μg/mlのピューロマイシン(Puro)により、およそ1週間、薬物選択を実施し、組織培養フード内で顕微鏡を使用して個々のクローンを選び、マトリゲルで予めコーティングした96ウェルプレートの各ウェルで2~5日間増殖させた後、PCRによる遺伝子型決定を行った。単一クローン由来hPSCのゲノムDNAを、QuickExtract(商標)DNA Extraction Solution(Epicentre社;#QE09050)40μlに細胞を掻き入れることにより抽出した。2×GoTaqGreenMasterMix(Promega社;#7123)を使用して、ゲノムDNA PCRを実施した。陽性遺伝子型決定では、次のプライマー対:CTGTTTCCCCTTCCCAGGCAGGTCC[配列番号4]およびTCGTCGCGGGTGGCGAGGCGCACCG[配列番号5]を65℃のアニーリング温度(Tm)で使用した。ホモ接合性スクリーニングでは、プライマー配列の次のセット:CGGTTAATGTGGCTCTGGTT[配列番号6]およびGAGAGAGATGGCTCCAGGAA[配列番号7]を60℃のTmで使用した。
【0117】
hPSCおよび健常初代好中球のトランスクリプトームによるhPSC由来好中球のバルクRNAシーケンシング解析の比較では(Perez et al., Blood 136: 199-209 (2020))、鍵となる表面マーカーのほとんどの発現パターンが示され、hPSC由来好中球および初代好中球では、転写因子は、未分化hPSCと比較して同一であった。フローサイトメトリー解析と一致して、RNAシーケンシングでは、hPSC由来および初代好中球においてCD11b、CD15、CD16、CD66b、CD18およびMPOの発現が確認された。成熟および未熟初代好中球における発現レベルと同様に、hPSC由来好中球により、相対的に低発現レベルのCEACAM8および高発現レベルのMPOがそれぞれ実証された。同様に、toll様受容体(TLR)を含む他の表面受容体、接着分子、例えば、SELLおよびITGAX、鍵となる転写因子、例えば、SPI1、CEBPAおよびCEBPE、機能性遺伝子、例えば、PRTN3およびMPO、ならびにROS産生に関与する遺伝子、例えば、NCF2およびNCF4は、初代未熟または成熟好中球に見出されるレベルと同様のレベルで発現した。
【0118】
類似性にもかかわらず、hPSC由来および初代好中球間の著しい差も明らかであった。例えば、初期ミエロイドまたは顆粒球前駆細胞と関連する転写因子、例えば、RUNX1およびGFI1は、hPSC由来好中球において高い発現レベルを維持し、好中球分化培養物の未熟な表現型および/または高い多様性を示した。C-X-Cモチーフケモカイン受容体(CXCR)およびホルミルペプチド受容体(FPR)を含むケモカインおよび化学誘引物質は、中間および成熟好中球よりも低い発現レベルを呈し、hPSC由来好中球が、初代好中球ほど化学誘引物質に対して感受性ではない可能性を示唆した。新鮮なhPSC好中球は、N1およびN2マーカーに関して成熟、初代好中球に類似の発現パターンを呈したが、これらがN1およびN2遺伝子のサブセットを高および低の両レベルで発現したため、N1またはN2のユニークな転写プロファイルは、すべての好中球において観察されず、N1またはN2ヒト好中球の追跡が可能となるさらに信頼できるマーカーの必要性が強調された。また、転写多様性が、未熟、中間および成熟初代好中球において観察され、好中球の動力学および柔軟性が示された。
【0119】
造血系コロニー形成アッセイおよびライトギムザ染色
採取した細胞をサイトカイン含有MethoCultH4434培地(StemCell Technologies社、バンクーバー)1.5mL中37℃で増殖させた。14日後、造血系コロニーをCFUについて細胞形態に従って点数化した。細胞形態を評価するために、細胞をスライドガラス上に固定し、ライトギムザ溶液(Sigma-Aldrich社)で染色した。
【0120】
フローサイトメトリー解析
分化細胞を穏やかにピペットで滴下し、50mLのチューブ上に配置した70または100μmの濾過器により濾過した。次いで、細胞を遠心分離により沈殿させ、1%のBSAを含むPBS-/-溶液で3回洗浄した。細胞を適切にコンジュゲートした抗体により室温の暗室で25分間染色し、BSA含有PBS-/-溶液による洗浄後にAccuriC6plusサイトメーター(BecktonDickinson社)によって解析した。FlowJoソフトウェアを使用して収集したフローデータを処理した。
【0121】
好中球分化培養物中の選別したCD16細胞は、約20%のFcεR1α+好塩基球および約74%のEPX+好酸球から主になった。
【0122】
種々の好中球分化段階における抗IgG4(SmP)-FITC(FITC=フルオレセインイソチオシアネート)およびIL13Rα2-FITCのフローサイトメトリー解析により、hPSCにおけるCARの安定な発現がさらに確認された。
【0123】
トランズウェル遊走アッセイ
簡潔には、分化細胞をHBSS緩衝液に再懸濁し、fMLP(10nMおよび100nM)に対して2時間遊走させた。下チャンバーに遊走した細胞を0.5MのEDTAにより放出し、AccuriC6plusサイトメーター(BecktonDickinson社)を使用して計数した。数は、各ウェルに加えた細胞の総数により正規化した。次いで、データを生細胞についてゲーティングし、FlowJoソフトウェアで解析した。
【0124】
ヒト脳微小血管内皮細胞の使用を含むトランズウェルに基づく血液脳関門(BBB)モデルを使用して、CAR好中球の活性をさらに評価した。CAR発現および野生型hPSC好中球が、fMLPに応答してBBBを越える類似の遊出活性を呈する一方で、CAR好中球により、野生型好中球よりも高い腫瘍殺傷能が実証された。その上、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、炎症性腫瘍細胞に応答してBBBを越える第2の輸送中に高い遊出能を保持し、これによりin vivoでの炎症およびがんの多くの態様が再現された。
【0125】
2-D化学遊走アッセイ
20mMのHEPESおよび0.5%のFBSを加えたHBBSに分化細胞を再懸濁し、コラーゲンコーティングIBIDI化学遊走μスライドに添加し、37℃で30分間インキュベートして細胞を接着させた。fMLP(1,000nMを15μL)を右リザーバー内に添加し、187nMの最終fMLP濃度を得た。細胞遊走は、LSM710(Ziess社EC Plan-NEOFLUAR10×/0.3対物レンズとともに)を使用して37℃で60秒毎に120分間記録した。細胞をImageJプラグインのMTrackJにより追跡した。
【0126】
食作用
製造者のプロトコールに従ってpHrodoGreen大腸菌(E. coli)BioParticlesコンジュゲートを使用して食作用を評価した。簡潔には、pHrodoGreen大腸菌(E. coli)ビーズをPBS 2mLに再懸濁し、超音波処理器で3回超音波処理した。アッセイ毎のビーズ(100mL)を、オプソニン化試薬と1:1の比率で混合することによりオプソニン化し、37℃で1時間インキュベートした。ビーズをmHBSS緩衝液により4℃の1,500RCFで15分間遠心分離することによって3回洗浄し、次いで最終的に、mHBSS緩衝液に再懸濁した。分化細胞をオプソニン化基礎液100μLに再懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞をAccuriC6plusサイトメーター(BecktonDickinson社、NJ)で解析した。
【0127】
好中球による腫瘍細胞の食作用は、食作用および好中球細胞外トラップ(NET)形成を阻害する化学物質であるサイトカラシンD(CytoD)5μMによる処理後に有意に減少した。NET阻害物質プロポフォールの非存在または存在下での好中球および腫瘍同時インキュベーション中のNET形成のPicoGreen染色により、3μg/ml以上のプロポフォールで処理した好中球におけるNET形成の有意な減少が実証された。CytoD、N-アセチルシステイン(NAC)およびプロポフォールによって、CAR好中球による腫瘍溶解が有意に遮断される一方で、神経膠芽腫によって、CytoDおよびNAC条件下でのより高い生存率が実証された。
【0128】
in vitroでの好中球媒介細胞毒性アッセイ
細胞生存率をフローサイトメトリーにより解析した。簡潔には、好中球細胞(90,000細胞/mL、150,000細胞/mL、300,000細胞/mL)100μLと混合した腫瘍細胞(30,000細胞/mL)100μLを96ウェルプレートに配置した。プレートは、5%CO2のインキュベーターで37℃に16時間維持した。懸濁培地を新たな丸底の96ウェルプレート内に移し、トリプシンEDTAを50μLウェルに加え、プレートを5分間37℃でインキュベートした後、分離した細胞を丸底の96ウェルプレートに移した。丸底の96ウェルプレートを300×g、4℃で4分間、遠心分離し、上清を廃棄した。沈殿物をフローBSA含有PBS-/-溶液200μLで洗浄し、CD45抗体およびカルセインAMを含むBSA含有PBS-/-溶液100μLに30分間室温で細胞を再懸濁した。次いで、試料をAccuriC6plusサイトメーター(BecktonDickinson社)により解析した。
【0129】
[実施例4]CLTX T-CAR hPSC好中球の結合特異性の解析
CLTX-T-CARにより増強される、腫瘍細胞に対する細胞毒性の根底にある分子機構をさらに調査するために、塩素イオンチャネル(CLCN3)、リン脂質タンパク質アネキシンA2(ANXA2)およびマトリックスメタロペプチダーゼ2(MMP2)を含む潜在的CLTXリガンドの生物学的機能を調べた。誘導性Cas13d媒介遺伝子ノックダウンプラットフォームを使用して、候補遺伝子発現を抑制した。ピューロマイシン選択後、トランスフェクトした神経膠芽腫細胞のおよそ78%が、ドキシサイクリン(DOX)存在下のeGFP発現により示すようにCas13dを発現した。RT-PCR解析では、U87MG GBM細胞におけるCLCN3、ANXA2およびMMP2のノックダウンの成功が確認された。非標的Cas13dシングルガイドRNA(sgRNA)を陰性対照として使用したところ(例えば、CLCN3およびAXAN2sgRNAをMMP2sgRNAの陰性対照として使用した)、明らかな交差遺伝子ノックダウン作用は観察されなかった。注目すべきことには、CLCN3またはANXA2ではなく、MMP2のノックダウンにより、CLTX-T-CAR好中球媒介腫瘍細胞殺傷が有意に減少した。
【0130】
CAR好中球活性とMMP2との間の関連性をさらに決定するために、種々の腫瘍細胞におけるANXA2、CLCN3およびMMP2の遺伝子発現レベルを評価した。予想どおり、U87MG、GBM43およびSJ-GBM細胞は、最も高いMMP2発現レベルを呈した。直線回帰解析により、CLTX-T-CAR好中球の腫瘍溶解が、MMP2発現に依存する可能性が最も高いことが実証された。GBM細胞と比較して、MMP2は、CAR好中球により媒介される溶解においてこれらのアポトーシスが最小限であることと一致して、正常SVGp12グリア細胞およびhPSC由来体細胞において低からごくわずかなレベルで発現する。このような知見により、膜タンパク質MMP2が、腫瘍細胞を殺傷するためのCLTX-T-CARの認識およびCAR好中球の活性化に必要とされることがさらに実証される。これは、ヒト正常組織上でのMMP2発現がGBMと比較して低いかまたはごくわずかであることを考慮すると、将来の臨床適用におけるCLTX-T-CAR好中球の安全性をも示唆する。
【0131】
[実施例5]MMP2発現腫瘍細胞に結合するCLTX T-CAR hPSC好中球における細胞内シグナル伝達の解析
GBM刺激時に、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、CLTX-NK-CARhPSC好中球よりも強力なSykのリン酸化活性化(p-Syk)を呈した。注目すべきことには、リンパ球媒介細胞毒性に関与する鍵となるシグナル伝達媒介因子である、細胞外シグナル制御キナーゼ(Erk)1/2(p-Erk1/2)の比率の有意な上昇も観察された。これは、活性化好中球におけるSyk-vav1-Erk経路の潜在的活性化を示す。
【0132】
[実施例6]in vivoでの解析
3次元(3-D)生体模倣GBMモデル
3-D生体模倣GBMモデルを構築して、高密度細胞外マトリックスおよび多様性腫瘍細胞亜型によりin vivoでの腫瘍適所様微小環境を模倣した。野生型対照と比較した場合、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、低酸素(3%O2)および正常酸素圧(21%O2)の条件下でより高い腫瘍浸潤および腫瘍殺傷活性を示した。単層細胞培養物における知見と一致して、可溶性MMP2およびサイトカラシンD(CytoD)による好中球の前処理よって、CAR好中球の腫瘍浸潤活性および腫瘍細胞毒性が有意に低下した。
【0133】
低酸素下の野生型およびCAR好中球の抗腫瘍および腫瘍促進活性の根底にある分子機構をさらに調査するために、N1およびN2表現型解析を、単離した好中球に対して実施した。正常酸素圧と比較して、低酸素では、ICAM-1、iNOS、TNFαおよびCCL3を含むN1特異的マーカーの発現が有意に減少し、CCL2、VEGF、CCL5およびアルギナーゼを含むN2特異的マーカーが、野生型hPSC好中球において上昇した。反対に、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、低酸素下で高い発現レベルのN1マーカーを保持した。
【0134】
ELISAを使用して、好中球-腫瘍同時培養後の培地において、腫瘍壊死因子α(TNFα)およびIL-6を含むヒトサイトカイン産生放出を検出した。野生型およびCAR好中球の両方は、腫瘍刺激後にTNFαおよびIL-6を産生し、CAR好中球は、低酸素および正常酸素圧下で、最も高レベルの両サイトカインを維持した。注目すべきことには、低酸素により、野生型好中球においてサイトカイン放出が有意に減少した。まとめると、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、腫瘍適所を模倣する低酸素条件下で、抗腫瘍表現型を維持し、高い遊出能および抗腫瘍細胞毒性を保持した。詳細な結果は、
図3および4に示す。
【0135】
GBM異種移植マウスモデル
in situでのGBM異種移植マウスモデルでは、ルシフェラーゼ発現GBM細胞5×10
5細胞を免疫不全マウスの脳に頭蓋内注射した。好中球を腫瘍内または静脈内に投与して、これらのin vivoでの腫瘍殺傷活性を、hPSC由来CAR-NK細胞と比較して調べた。注目すべきことには、CLTX-T-CAR好中球は、GBM細胞の殺傷が、in vitroでCLTX-NK-CAR NK細胞よりも有効であり、CAR好中球とCAR-NK細胞との間の組合せによる作用は、観察されなかった。結果の詳細は、
図5A~5Hに示す。
【0136】
腫瘍内注射実験では、腫瘍細胞接種後3時間に腫瘍担持マウスに単回用量のPBS、5×10
6細胞のCLTX-T-CAR hPSC好中球、CLTX-NK-CARhPSC-NK細胞または対応する野生型対照を投与した。生物発光イメージング(BLI)を実施して、3日目の最初のイメージング後に毎週、腫瘍増殖を監視した。PBS処置マウスと比較した場合、hPSC由来好中球またはNK細胞による処置によって、腫瘍量が有意に減少した。hPSC由来CLTX-NK-CAR NK細胞およびCLTX-T-CAR好中球は、マウスにおいて野生型対照よりも高い抗腫瘍細胞毒性を呈し、これらのマウスは、安定な体重を維持した。注目すべきことには、PBS処置腫瘍担持マウスのうちの1匹は、レシピエント脳における腫瘍の異常増殖のため30日目に死んだ。結果は、
図6A~6Eに示す。
【0137】
静脈内注射実験では、CAR好中球5×106細胞を毎週、腫瘍担持マウスに投与した。CAR好中球のin vivoでの体内分布および輸送を追跡するために、Cy5で好中球を標識した後、全身的注射を行い、全身投与後1、5および24時間に蛍光イメージングを実施した。好中球は、1時間以内にマウスの全身を通行し、好中球注射後5時間に類似の体内分布を保持した。野生型好中球と比較して、CAR好中球は、BBBを効率的に通過し、24時間後にマウス脳のGBM異種移植片を通行した。静脈内投与試験中の実験マウス群にわたって、体重の有意な変化は観察されなかった。腫瘍内投与試験と一致して、CAR好中球は、GBM異種移植片のBLI解析ならびに明視野およびH&E染色画像によるマウスにおいてPBSおよび野生型対照よりも高い抗腫瘍細胞毒性を呈した。注目すべきことには、CLTX-T-CAR hPSC好中球で処置した腫瘍担持マウスにより、CAR-NK細胞で処置したマウスと比較して腫瘍量の有意な減少が実証され、マウスにおけるBBB通過およびGBM異種移植片浸透において好中球の優れた能力が示唆された。
【0138】
CAR好中球とは対照的に、野生型hPSC好中球または末梢血(PB)好中球の毎週の投与により、CAR-NK細胞有り無しの脳における腫瘍の増殖が有意に促進されて、早くて21日目に腫瘍担持マウスが死んだ。GBMの神経外転移が珍しく、病態形成が未知であるにもかかわらず、ex vivoによる種々の臓器および/または組織のBLI画像により決定した場合、野生型hPSC由来またはPB好中球で処置した腫瘍担持マウスにおいて全身的転移が生じ、ヒトGBMの頭蓋外転移における好中球の潜在的役割が示唆された。実験結果は、
図7A~7Hおよび
図12A~12Gに詳細に示す。
【0139】
TNFαおよびIL-6を含むヒトサイトカイン放出を、種々の実験マウス群の血漿において測定した。すべての非PBS実験群において、5日目から26日目に血漿中に検出可能なTNFαおよびIL-6が産生され、CAR好中球は、最も高いレベルの両サイトカインを維持した。
【0140】
好中球媒介転移の根底にある機構をさらに調査する努力において、マウス血液からヒト好中球を回収し、抗腫瘍(N1)または腫瘍促進(N2)表現型解析に供した。野生型hPSCまたはPB好中球において、腫瘍異種移植により、iNOSおよびTNFαを含むN1特異的マーカーの発現が有意に減少し、VEGFおよびアルギナーゼを含むN2特異的マーカーが増加した。反対に、CLTX-T-CAR hPSC好中球は、高い発現レベルのN1マーカーを保持し、これは、腫瘍担持マウスにおける、これらの強力な抗腫瘍細胞毒性およびサイトカイン放出と一致する。まとめると、データにより、hPSC由来CAR好中球が、種々の腫瘍適所様条件下で抗腫瘍活性を維持し、腫瘍細胞を効率的に殺傷し、末梢血好中球、hPSC好中球およびCLTX-NK CAR細胞と比較して動物の生存を延長することが可能であることが実証される。
【0141】
実験モデルおよび対象の詳細
ドナープラスミド構築。AAVS1部位を標的とするドナープラスミドを、これまでに記載のように構築した(Chang et al., 2020)。簡潔には、CAG-IL13T-CARプラスミドを生成するために、TQM-IL13CAR断片(Kim et al., 2020)を、Addgene社のプラスミド#154054から増幅し、次いで、AAVS1-PuroCAG-FUCCIドナープラスミド(Addgene社;#136934)にクローニングし、FUCCIを置換した。CAG-CLTX T-CARプラスミドでは、シグナルペプチドを含むクロロトキシン配列を直接合成し(GeneWiz社)、CAG-IL13T-CARにおけるIL-13配列の置換に使用した。CAG-CLTX NK-CARプラスミドでは、コンジュゲートしたNKG2D、2B4およびCD3-ζ配列を直接合成し、CAG-CLTX T-CARにおけるCD4tmおよびCD3-ζ配列の置換に使用した。すべてのCAR構築物は、シーケンシングし、Addgene社に提出した(#157742、#157743および#157744)。
【0142】
hPSCの維持および分化。H9、H1、6-9-9および19-9-11hPSC株をWiCell社から得、マトリゲルまたはiMatrix511でコーティングしたプレート上のmTeSRplus培地に維持した。好中球分化では、hPSCを0.5mMのEDTAで解離させ、10,000~80,000細胞/cm2の細胞密度で、iMatrix511でコーティングした24ウェルプレート上の5μMのY27632を加えたmTeSRplus培地に24時間播種した(-1日目)。0日目に、100μg/mLのアスコルビン酸を添加したDMEM培地(DMEM/Vc)中の6μMのCHIR99021(CHIR)で細胞を処理した後、1日目から4日目に培地をLasR基礎培地と交換した。2日目から4日目に50ng/mLのVEGFを培地に加えた。4日目に、10μMのSB431542、25ng/mLのSCFおよびFLT3Lを添加したStemline II培地(Sigma社)と培地を交換した。6日目に、SB431542を含む培地を吸引し、50ng/mLのSCFおよびFLT3Lを加えたStemline II培地中に細胞を維持した。9日目および12日目に、上半分の培地を吸引し、50ng/mLのSCF、50ng/mLのFLT3Lおよび25ng/mLのGM-CSFを含む新鮮なStemline II培地0.5mlと交換した。15日目の浮遊細胞を穏やかに回収し、濾過して、1×GlutaMAX、150ng/mLのG-CSFおよび2.5μMのレチノイン酸アゴニストAM580を添加したStemline II培地中で好中球の最終分化を行った。培地半分の交換を3日毎に実施し、成熟好中球を回収して、21日目から解析することができた。
【0143】
hPSCのヌクレオフェクションおよび遺伝子型決定。細胞生存率を上昇させるために、10μMのY27632を使用して、hPSCを3~4時間処理した後ヌクレオフェクションを行うか、またはhPSCを一晩処理した。次いで、細胞をアキュターゼにより8~10分間剥離し、hPSC1~2.5×106細胞に、ヒト幹細胞ヌクレオフェクション溶液(Lonza社;#VAPH-5012)100μlまたは室温のPBS-/-200μl中のSpCas9AAVS1gRNA T2(Addgene社;#79888)6μgおよびCARドナープラスミド6μgを、Nucleofector2bのprogramB-016を使用してヌクレオフェクションした。ヌクレオフェクションした細胞は、マトリゲルでコーティングした6ウェルプレートのあるウェル内の、10μMのY27632を有する予熱したmTeSRplusまたはmTeSR1 3mlに播種した。24時間後、5μMのY27632を含む新鮮なmTeSRplusまたはmTeSR1と培地を交換した後、毎日の培地交換を行った。細胞が80%を超えてコンフルエントとなると、1μg/mlのピューロマイシン(Puro)により、24時間、薬物選択を実施した。細胞を回収すると、1μg/mlのPuroを約1週間持続的に適用した。次いで、組織培養フード内で顕微鏡を使用して個々のクローンを選び、マトリゲルで予めコーティングした96ウェルプレートの各ウェルで2~5日間増殖させた後、PCRによる遺伝子型決定を行った。単一クローン由来hPSCのゲノムDNAを、QuickExtract(商標)DNA Extraction Solution(Epicentre社;#QE09050)40μlに細胞を掻き入れることにより抽出した。2×GoTaqGreenMasterMix(Promega社;#7123)を使用して、ゲノムDNA PCRを実施した。
【0144】
陽性遺伝子型決定では、次のプライマー対:CTGTTTCCCCTTCCCAGGCAGGTCC[配列番号4]およびTCGTCGCGGGTGGCGAGGCGCACCG[配列番号5]を65℃のアニーリング温度Tmで使用した。ホモ接合性スクリーニングでは、我々はプライマー配列の次のセット:CGGTTAATGTGGCTCTGGTT[配列番号6]およびGAGAGAGATGGCTCCAGGAA[配列番号7]を60℃のアニーリング温度Tmで使用した。
【0145】
造血系コロニー形成アッセイおよびライトギムザ染色。採取した細胞をサイトカイン含有MethoCultH4434培地(StemCell Technologies社、バンクーバー)1.5mL中37℃で増殖させた。造血系コロニーをコロニー形成単位(CFU)について細胞形態に従って点数化した。細胞形態を評価するために、好中球をスライドガラス上に固定し、ライトギムザ溶液(Sigma-Aldrich社)で染色した。
【0146】
フローサイトメトリー解析。分化細胞を穏やかにピペットで滴下し、50mLのチューブ上に配置した70または100μmの濾過器により濾過した。次いで、細胞を遠心分離により沈殿させ、1%のウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS-/-溶液で2回洗浄した。細胞を適切にコンジュゲートした抗体により室温の暗室で25分間染色し、BSA含有PBS-/-溶液による洗浄後にAccuriC6plusサイトメーター(BecktonDickinson社)によって解析した。FlowJoソフトウェアを使用して収集したフローデータを処理した。
【0147】
トランズウェル遊走アッセイ。分化好中球をHBSS緩衝液に再懸濁し、fMLP(10nMおよび100nM)に対して2時間遊走させた。下チャンバーに遊走した細胞を0.5MのEDTAにより放出し、AccuriC6plusサイトメーター(BecktonDickinson社)を使用して計数した。生きた好中球をゲーティングし、FlowJoソフトウェアにより解析した。次いで、好中球数は、各ウェルに加えた細胞の総数により正規化した。
【0148】
2D化学遊走アッセイ。20mMのHEPESおよび0.5%のFBSを加えたHBBSに分化好中球を再懸濁し、コラーゲンコーティングIBIDI化学遊走μスライドに添加し、次いで、これを37℃で30分間インキュベートして細胞を接着させた。1000nMのfMLPを15μL右リザーバー内に添加し、187nMの最終fMLP濃度を得た。細胞遊走は、LSM710(Ziess社EC Plan-NEOFLUAR10×/0.3対物レンズとともに)を使用して37℃で60秒毎に計120分間記録した。細胞をImageJプラグインのMTrackJにより追跡した。
【0149】
食作用。製造者のプロトコールに従ってpHrodoGreen大腸菌(E. coli)BioParticlesコンジュゲートを使用して食作用を評価した。簡潔には、pHrodoGreen大腸菌(E. coli)ビーズをPBS 2mLに再懸濁し、超音波処理器で3回超音波処理した。アッセイ毎のビーズ(100mL)を、オプソニン化試薬と1:1の比率で混合することによりオプソニン化し、37℃で1時間インキュベートした。ビーズをmHBSS緩衝液により4℃の1,500RCFで15分間遠心分離することによって3回洗浄し、mHBSS緩衝液に再懸濁した。分化好中球をオプソニン化基礎液100μLに再懸濁し、37℃で1時間インキュベートした後、AccuriC6plusサイトメーター(BecktonDickinson社)を使用してフローサイトメトリー解析を行った。
【0150】
in vitroでの好中球媒介細胞毒性アッセイ。細胞生存率をフローサイトメトリーにより解析した。簡潔には、腫瘍細胞(50000細胞/mL)100μLを、96ウェルプレート内で150,000、250,000および500,000細胞/mLの好中球100μLと混合し、次いで、37℃、5%CO2で24時間インキュベートした。すべての細胞を回収するために、第1に、細胞含有培地を新たな丸底の96ウェルプレート内に移し、トリプシンEDTAを50μL空のウェルに加えた。5分間37℃のインキュベーション後、接着した細胞を解離させ、懸濁培養物を有する丸底の96ウェルプレートの同一のウェル内に移した。細胞はすべて、96ウェルプレートを300×g、4℃で4分間遠心分離することにより沈殿させ、0.5%のBSAを含むPBS-/-溶液200μLで洗浄した。次いで、沈殿させた細胞混合物をCD45抗体およびカルセインAMにより30分間室温で染色し、AccuriC6plusサイトメーター(BecktonDickinson社)によって解析した。
【0151】
神経膠芽腫細胞における誘導性遺伝子ノックダウン。神経膠芽腫細胞における誘導性遺伝子ノックダウンを達成するために、PiggyBac(PB)に基づく一体型誘導性Cas13dプラスミド(Addgene社#155184)を実行した。CLCN3、ANXA2およびMMP2標的sgRNAを、オンラインツール(https://cas13design.nygenome.org/)を使用して設計し、Cas13d骨格にクローニングして一体型CLCN3、ANXA2およびMMP2標的プラスミドを生成した。次いで、生じたCas13dプラスミドをhyPBaseプラスミド(Dr. Pentao Liuにより寄贈)とともに、PEIトランスフェクションによりU87MG細胞内に導入した。2~4日後、トランスフェクトした細胞を5μg/mLのピューロマイシンで1または2日間処理して、薬物耐性腫瘍細胞を選択した。回収後、生存腫瘍細胞をピューロマイシン条件下で維持して、組み込んだ導入遺伝子の潜在的サイレンシングを回避した。
【0152】
コンジュゲート形成アッセイ。免疫シナプスを可視化するために、U87MG細胞(50,000細胞/mL)100μLを96ウェルプレートのウェル上に播種し、37℃で12時間インキュベートして、これらを接着させた。次いで、好中球(500,000細胞/mL)100μLを標的U87MG細胞上に加え、6時間インキュベートした後、4%のパラホルムアルデヒド(PBS中)で固定した。次いで、F-アクチンVisualizationBiochemKit(CytoskeletonInc.社)を使用して細胞骨格染色を実施した。
【0153】
トロゴサイトーシスアッセイ。腫瘍細胞から好中球への膜移入および細胞内含量を、顕微鏡およびフローサイトメトリー解析の両方を使用して調べた。標的腫瘍細胞は、カルセインAM(1μM)により30分間37℃で標識した。PBSによる洗浄後、カルセインAM標識腫瘍細胞を好中球とともに好中球対腫瘍細胞比10:1でインキュベートした。種々の時点で(0~6時間)、生じた同時培養試料をLeicaDMi-8蛍光顕微鏡により画像化した。浮遊する好中球を採取してCD45染色し、0.5%のBSAを含むPBS-/-溶液で洗浄後、AccuriC6plusフローサイトメーター(BecktonDickinson社)により解析した。
【0154】
好中球における反応性酸素種(ROS)産生の測定。U87MG細胞(30,000細胞/mL)100μLを96ウェルプレートのウェル内に播種して12時間後、好中球対腫瘍細胞比10:1で好中球を加えた。12時間の同時インキュベーション後、生じた細胞混合物を10μMのH2DCFDAにより37℃で50分間処理し、次いで、蛍光放射シグナル(480~600nm)をSpectraMax iD3マイクロプレートリーダー(MolecularDevices社、Sunnyvale、CA、USA)により励起波長475nmで収集した。
【0155】
血液脳関門(BBB)遊出アッセイ。in vitroでのBBBモデルをHBEC-5i細胞によりトランズウェル細胞培養プレートにおいて構築した。簡潔には、HBEC-5i細胞(1×105細胞/ウェル)を、24ウェルトランズウェルプレート(孔径8μm、直径6.5mm、Corning社)内のゼラチン(1%w:v)を予めコーティングしたトランズウェルの上チャンバー上に播種し、10%のFBSを含むDMEM/F12培地中に維持した。次いで、好中球2×105細胞を上チャンバーに加え、fMLP(10nM)有り無しのFBS不含培地を下チャンバーに加えた。3時間のインキュベーション後、上または下チャンバーから細胞培養物を採取して、好中球数を算出した。細胞毒性解析では、U87MG細胞2×104細胞を下チャンバーに播種して12時間後、好中球(2×105細胞)を上チャンバーに加え、次いで、fMLP(10nM)を有するFBS不含培地を下チャンバーに加えた。12時間のインキュベーション後、腫瘍細胞生存率をフローサイトメトリー解析により決定した。第2の遊走解析では、第1の遊走の下部チャンバーの好中球2×105細胞を、第2のトランズウェルBBBモデルの上チャンバー上に播種し、下部チャンバーの標的腫瘍細胞に遊走した好中球を定量した。
【0156】
3D腫瘍球状体の好中球浸潤。懸滴方法を使用して3D腫瘍球状体を得た。簡潔には、2×106細胞/mLのU87MG細胞を、10%のFBSおよび0.3%のメチルセルロースを加えたMEM培地に懸濁し、20μLのピペッターを使用して逆蓋の96ウェルプレート上に個々の液滴として沈着させた。次いで、PBSで満たした下部チャンバー上に覆蓋を戻し、37℃および5%CO2でインキュベートした。細胞凝集物が形成されるまで約5~7日の間、懸滴を毎日監視した。各細胞凝集物を24ウェルプレートの単一ウェルに移してサブストリーム解析を行った。CLTX T-CAR好中球の腫瘍浸透能を評価するために、好中球2×105細胞/ウェルを24ウェルプレートのウェルに加え、腫瘍球状体とともにインキュベートした。24時間の同時インキュベーション後、腫瘍球状体を固定し、CD45およびDAPIについて染色した。細胞毒性解析では、好中球および腫瘍球状体の混合物を、1μMのカルセインAMおよび1μMのプロピジウムヨウ化物(PI)で染色した。次いで、染色した細胞を、LeicaDMi-8蛍光顕微鏡を使用して画像化した。
【0157】
GBM異種移植試験。すべてのマウス実験は、パデュー動物実験委員会(Purdue Animal Care and Use Committee、PACUC)により認可された。免疫不全NOD.Cg-RAG1tm1MomIL2rgtm1Wjl/SzJ(NRG)マウスを繁殖させ、パデュー大学がん研究センター(Purdue University Center for Cancer Research)のBiologicalEvaluationCoreにより維持した。in situでの異種移植マウスモデルを、免疫不全マウスの脳へのルシフェラーゼ発現GBM細胞5×105細胞の頭蓋内注射により構築した。好中球5×106細胞を、腫瘍内または静脈内注射のいずれかにより投与して、これらのin vivoでの抗腫瘍活性を評価した。腫瘍量は、生物発光イメージング(BLI)により監視し、1週間に約1回、実験マウスの体重を測定した。
【0158】
統計学的解析。データは、平均値±標準偏差(SD)として表す。統計学的有意性は、2群間のStudentのt検定(両側)により判定し、3群以上は、一元配置分散分析(ANOVA)により解析した。P<0.05は、統計学的に有意であると考えた。
【0159】
当業者は、上記の特定の実行に多数の修飾を加えることが可能であることを認識する。実行は、記載する特定の制限に限定されるべきではない。他の実行も可能であり得る。
【0160】
本発明は、図面および前述の記載により詳細に例示および記載しているが、これは、特性の制限ではなく例示として考えるべきであり、特定の実施形態のみを指示および記載しており、本発明の趣旨に含まれるすべての変更および修飾を保護することが望ましいことが理解される。本発明の方法および装置の範囲が、次の特許請求の範囲により定義されることを意図する。ただし、本開示が、この趣旨または範囲から逸脱することなく、詳細に説明および例示されるだけでなく、実行され得ることが理解されなければならない。本明細書に記載の実施形態の種々の代替物が、次の特許請求の範囲に定義する趣旨および範囲から逸脱することなく、本特許請求の範囲の実行において利用され得ることが当業者には理解されるはずである。
【0161】
参考文献
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【配列表】
【国際調査報告】