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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-12
(54)【発明の名称】抗FGFR2抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240104BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240104BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240104BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240104BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240104BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240104BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240104BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240104BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N5/10
C12N1/19
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/62 Z
A61K39/395 T
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/12
A61P35/00
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540213
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 CN2021142321
(87)【国際公開番号】W WO2022143728
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】202011600351.8
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521440736
【氏名又は名称】深▲せん▼福沃薬業有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チュ,チョンガン
(72)【発明者】
【氏名】シュ,リャンリャン
(72)【発明者】
【氏名】ドン,ジエシェン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,チャオチュン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シュエン
(72)【発明者】
【氏名】ペン,ファンリ
(72)【発明者】
【氏名】リ,イエチン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チャオラ
(72)【発明者】
【氏名】バオ,リミン
(72)【発明者】
【氏名】ミン,シャンヤン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA16
4C085BB01
4C085BB33
4C085BB34
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB43
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
抗FGFR2抗体、当該抗体をコードする核酸、当該抗体の発現および産生のためのベクターおよび宿主細胞、抗体-薬物複合体、ならびに当該抗体を含む医薬組成物を提供する。本発明はさらに、当該抗体分子のFGFR2経路関連異常によって引き起こされる癌を診断するための薬剤の製造における使用、および当該抗体または抗体-薬物複合体のFGFR2経路関連異常によって引き起こされる癌、特に胃癌を治療するための医薬の製造のための使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGFR2IIIbに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を含み、前記重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3がそれぞれ、FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の同一性を有する、FGFR2IIIbに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域および軽鎖可変領域が、FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは98%の同一性を有する、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域配列を含む、請求項3に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
重鎖と軽鎖を含み、前記重鎖と軽鎖がそれぞれ、FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖配列および軽鎖配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは90%、最も好ましくは少なくとも95%、98%、99%の同一性を有する、請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920
、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖および軽鎖配列を含む、請求項5に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
IgA、IgGおよびIgDである、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
Fab断片、F(ab’)断片、Fv断片、F(ab’)2断片、一本鎖抗体(scFV)、およびダイアボディから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗原結合断片。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする、単離された核酸。
【請求項11】
請求項10に記載の単離された核酸を含む、発現ベクター。
【請求項12】
請求項10に記載の単離された核酸または請求項11に記載の発現ベクターを含む宿主細胞、好ましくは真核生物宿主細胞、より好ましくは哺乳動物宿主細胞。
【請求項13】
FGFR2関連疾患または障害を治療するための医薬組成物であって、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、請求項10に記載の単離された核酸、請求項11に記載の発現ベクター、または請求項12に記載の宿主細胞を含み、さらに医薬用担体を含む、医薬組成物。
【請求項14】
第1の核酸および第2の核酸を含む組成物であって、前記第1の核酸が請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体の重鎖をコードし、前記第2の核酸が請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体の軽鎖をコードする、組成物。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、および薬物を含む、抗体-薬物複合体。
【請求項16】
FGFR2経路関連異常によって引き起こされる癌、好ましくは胃癌、最も好ましくはFGFR2IIIb遺伝子の増幅がFGFR2IIIbの過剰発現をもたらす胃癌を治療するための医薬の製造のための、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片または請求項15に記載の抗体-薬物複合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体分子、具体的にヒト抗FGFR2抗体分子,特に抗FGFR2IIIb抗体分子に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞増殖因子受容体2(fibroblast growth factor receptor 2、FGFR2)はチロシンキナーゼ受容体の一つであり、2つの免疫グロブリン様ドメイン(β-異性体)(それぞれD2およびD3ドメイン)または3つの免疫グロブリン様ドメイン(α-異性体)(それぞれD1、D2およびD3ドメイン)を有する細胞外領域を有し、細胞外領域は膜貫通領域および細胞内のジチロシンキナーゼサブドメインに連結している。FGFR2はエクソンの由来によって、主にD3ドメインで異なるIIIbとIIIcのサブタイプに分けられる。IIIbサブタイプは、細胞外領域の免疫グロブリン様構造の数により、FGFR2αIIIb(3つの免疫グロブリン様ドメインD1、D2、D3を有する)とFGFR2βIIIb(2つの免疫グロブリン様ドメインD2、D3を有する)に分けられる。また、IIIbサブタイプは主に上皮組織に、IIIcサブタイプは主に間葉系組織に発現し、これら2つの受容体の一部のFGFリガンドは、逆の発現パターンを有する。例えば、FGFR2IIIbに結合するFGF7、FGF10およびFGF22は間葉系組織で発現し、FGFR2IIIcに結合するFGF4、FGF5およびFGF6は上皮系細胞で発現する。したがって、FGFR2は上皮-間葉系移行において重要な役割を果たしていると考えられる。
【0003】
配列の相同性によると、FGFR1、FGFR3、FGFR4もFGFR2と同じファミリーに属する。このファミリーのシグナル伝達経路の活性化には、リガンドとして線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factors、FGF)が必要であり、FGFは主に受容体のD2およびD3ドメインを介して受容体FGFR2に結合する一方、ヘパラン硫酸プロテオグリカンにも結合し、FGFRの二量体化を引き起こし、さらに自己リン酸化し、FGFR基質2(FGFR substrate 2、FRS2)およびカルモジュリンシグナル伝達経路PLCAを介したRAS-ERKおよびPI3K-AKTシグナル伝達カスケード、ならびにDAG-PKCおよびIP3シグナル伝達カスケードにも関与する。FGFRシグナルの異常な活性化は様々な悪性腫瘍に関与している。
【0004】
正常細胞では、FGFR2は染色体10q26に位置し、主に組織の修復と発生における細胞の分化、増殖、アポトーシスに関与する。マウスでFGFR2IIIb遺伝子をノックアウトすると胚致死が起こることが研究で示されている。さらに、FGFR2またはFGFの過剰発現と、遺伝子増幅、遺伝子融合および再配列、遺伝子の点突然変異および染色体転座などの遺伝子の変化が、FGFR2シグナル伝達経路の調節異常につながり、調節異常したFGFR/FGFシグナル伝達経路が細胞のがん化に密接に関与していることが、多くの証拠により示されている。子宮内膜癌、卵巣癌、乳癌、肺癌、胃癌、食道癌、膀胱癌、胆管癌など様々な癌種において、既にFGFR2の過剰発現、ミスセンス変異の活性化、異常なタンパク質融合が報告されている。例えば、FGFR2IIIbは40%の胃癌組織サンプルで高発現しており、FGFR2IIIb遺伝子の増幅は胃癌患者集団で最大で15%の変異頻度を有している。FGFR2IIIb遺伝子増幅のない患者と比較して、FGFR2IIIb遺伝子増幅によりFGFR2IIIbが過剰発現している胃癌患者は著しリンパ節転移に伴い、これは低分化胃腺癌と有意に関連しており、生存率が低いことから、FGFR2IIIb遺伝子増幅は胃癌患者の非常に悪い予後の指標である。FGFR2遺伝子の融合と再配列は、胆管癌患者の約9%~14%に認められる。
【0005】
以上のことから、FGFR2は腫瘍治療の可能な標的となり得、治療中で抗体などの遮断剤を用いてFGFとFGFR2の結合を遮断することによって、FGFR/FGFシグナル伝達経路の機能を阻害する治療法は、他のチロシンキナーゼ(HER2やEGFRなど)陽性腫瘍においても有効であることが既に証明されている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、一連のFGFR2IIIbに対する新規抗体を提供する。本発明はまた、本発明の抗FGFR2IIIb抗体を含む医薬組成物、および本発明の抗体の胃癌、特にFGFR2IIIb遺伝子の増幅がFGFR2IIIbの過剰発現をもたらす胃癌を診断または治療するための医薬の製造のための使用を提供する。
【0007】
具体的には、本発明は抗FGFR2IIIb抗体を提供する。本発明の好ましい実施形態は、FGFR2IIIbに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を含み、前記重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3が、FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3配列とそれぞれ少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有する、FGFR2IIIbに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。より好ましくは、本発明は、FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖CDR1、CDR2およびCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3を含む、FGFR2IIIbに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0008】
本発明のより好ましい実施形態は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含むFGFR2IIIbに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、前記重鎖可変領域および軽鎖可変領域が、FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは98%の同一性を有する、FGFR2IIIbに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。さらに好ましくは、本発明は、FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1923、FWB1924およびFWB1925からなる群から選択される抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域配列を含む、FGFR2IIIbに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0009】
本発明の特に好ましい実施形態は、本明細書でFWB1913、FWB1914、およ
びFWB1925と称される抗体分子の3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含む抗体である。
【0010】
本発明はまた、本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする単離された核酸を提供する。
【0011】
本発明はまた、本発明の単離された核酸を含む発現ベクターを提供する。本発明はまた、本発明の核酸または発現ベクターを含む宿主細胞を提供し、ここで宿主細胞は好ましくは真核生物宿主細胞であり、より好ましくは哺乳動物宿主細胞である。
【0012】
本発明はまた、第1の核酸および第2の核酸を含む組成物であって、前記第1の核酸が本発明に記載の抗体の重鎖をコードし、前記第2の核酸が本発明に記載の抗体の軽鎖をコードする、組成物を提供する。
【0013】
本発明は、FGFR2IIIb関連疾患または障害を治療するための医薬組成物であって、本発明の抗体またはその抗原結合断片、単離された核酸、発現ベクター、または宿主細胞を含み、さらに医薬用担体を含む、医薬組成物を提供する。好ましくは、FGFR2IIIb関連疾患または障害は、胃癌、特に、FGFR2IIIb遺伝子の増幅がFGFR2IIIbの過剰発現をもたらす胃癌である。
【0014】
本発明はまた、抗体-薬物複合体(antibody-drug conjugate、ADC)に関する。本発明はまた、抗体-薬物複合体および医薬担体を含む医薬組成物に関する。前記抗体-薬物複合体は、本発明の抗体またはその抗原結合断片と薬物とを含む。
【0015】
本発明はまた、FGFR2経路関連異常によって引き起こされる癌、好ましくは胃癌、最も好ましくはFGFR2IIIb遺伝子の増幅がFGFR2IIIbの過剰発現をもたらす胃癌を治療するための医薬の製造のための、本発明に記載の抗体もしくはその抗原結合断片または抗体-薬物結合体の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、別途内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「分子」への言及は、2つ以上のかかる分子の組み合わせなどを任意に含む。
【0017】
本明細書で使用される「約」という用語は、当業者に容易に知られているそれぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書における「約」値またはパラメータへの言及は、その値またはパラメータ自体を対象とする実施形態を含む(かつ説明する)。
【0018】
本明細書で使用される用語は、特に断らない限り、当該技術分野において一般的に知られている意味を有する。
【0019】
特に断らない限り、本明細書で言及されるFGFR2IIIbは、通常、ヒトFGFR2IIIbを指し、本明細書のいくつかの部分では、「抗原」とも呼ばれる。本発明は、ヒトFGFR2IIIbに対する抗体を提供する。抗FGFR2IIIb抗体は、FGFR2IIIb、特に哺乳動物(例えば、ヒト)のFGFR2IIIbに特異的に結合する抗体であり得る。抗体分子は、単離された抗体分子であり得る。
【0020】
本出願に記載されるいずれの実施形態ではも、抗体は、FGFR2IIIbに結合し、
FGFR2IIIcに結合しなくてもよい。
【0021】
一実施形態では、抗FGFR2IIIb抗体分子は重鎖と軽鎖を含む。抗FGFR2IIIb抗体の抗原結合断片は、Fab断片、F(ab’)断片、Fv断片、F(ab’)2断片、一本鎖抗体(scFV)、およびダイアボディである。
【0022】
本発明の抗FGFR2IIIb抗体分子は、ヒトに有効な抗体分子、ヒト抗体分子、ヒト化抗体分子、CDRグラフト抗体分子、キメラ抗体分子、変異抗体分子、アフィニティー成熟抗体分子、脱免疫抗体分子、合成された抗体分子、またはインビトロで産生された抗体分子であり得る。一実施形態では、抗FGFR2IIIb抗体はヒト化抗体である。別の実施形態では、抗体分子は、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgDおよびIgEの重鎖定常領域、特にIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の重鎖定常領域、より特にIgG1(例えば、ヒトIgG1)の重鎖定常領域から選択される重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、一般にヒト定常領域またはヒト定常領域の改変型である。別の実施形態では、抗体分子は、LambdaまたはKappa(好ましくは、ヒトLambdaなどのLambda)軽鎖定常領域などから選択される軽鎖定常領域を有する。一実施形態では、抗体分子の特性を改変するために、定常領域を改変(例えば変異)させることができる(例えば、以下の1つ以上を増加または減少させる: Fc受容体結合、抗体のグリコシル化、システイン残基の数、エフェクター細胞機能、または補体機能)。
【0023】
本発明は、本発明に記載の抗FGFR2IIIb抗体の胃癌を治療するための医薬の製造のための使用を提供する。いくつかの実施形態では、胃癌は、FGFR2遺伝子増幅を含む。いくつかの実施形態では、FGFR2増幅は、>3のFGFR2:CEN10(10番染色体のセントロメア)比を含む。いくつかの実施形態では、癌はFGFR2を過剰発現する。いくつかの実施形態では、>3のFGFR2IIIb:CEN10(10番染色体のセントロメア)比を含むFGFR2増幅を含む癌について、FGFR2IIIbの過剰発現の程度は、FGFR2IIIcの過剰発現の程度よりも高い。いくつかの実施形態では、FGFR2増幅を含む癌について、FGFR2IIIb発現の正規化レベルは、FGFR2IIIc発現のそれを2、3、5または10倍上回る。いくつかの実施形態では、発現レベルは、GUSBに対して正規化される。いくつかの実施形態では、癌は、FGFR2IIIbを過剰発現するが、FGFR2遺伝子増幅を含まない。いくつかの実施形態では、FGFR2IIIbの発現または過剰発現は、IHCによって決定される。いくつかの実施形態では、IHCによる腫瘍細胞の1+、2+または3+染色は、FGFR2IIIbの過剰発現を示す。いくつかの実施形態では、IHCによる腫瘍細胞の2+または3+染色は、FGFR2IIIbの過剰発現を示す。
【0024】
抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate、ADC)は、生物学的活性を有する低分子薬物を化学的結合によってモノクローナル抗体に連結されてなるものであり、モノクローナル抗体は、低分子薬物を標的細胞に標的化輸送するビヒクルとして機能する。本発明の抗体-薬物複合体は、本発明の抗FGFR2IIIb抗体を薬物に化学的に連結することにより製造される。
【0025】
FGF/FGFRシグナル伝達経路は、細胞の増殖、分化、アポトーシス、遊走に関与し、腫瘍細胞におけるFGFRの活性化変異やリガンド/レセプターの過剰発現は、そのシグナル伝達経路の持続的な活性化をもたらし、様々な悪性腫瘍の発生、増殖、予後不良などに密接に関与しているだけでなく、腫瘍の血管新生、腫瘍の浸潤、転移などにおいても重要な役割を果たしている。本発明の抗FGFR2IIIb抗体は、FGFR2IIIbとそのリガンドであるFGF(FGF1、FGF7(KGF)、およびFGF3、FGF10、FGF22などのFGF7サブファミリーの他のメンバーを含むリガンド)への
FGFR2IIIbの結合を阻害することにより、腫瘍細胞の増殖、腫瘍血管内皮細胞の新生、分化、遊走を阻害する。
【0026】
表1および表2に、本発明の抗体の6つのCDRの配列を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
【表7】
【0034】
【表8】
【0035】
【表9】
【0036】
【表10】
【0037】
【表11】
【0038】
【表12】
【0039】
【表13】
【実施例
【0040】
実施例1:遺伝子工学的手法による抗体の作製
下記表5および表6に示す重鎖および軽鎖のアミノ酸配列に基づいてそれぞれの遺伝子配列を合成し、発現ベクターpcDNA3.4(Invitrogen社製)にクローニングした。二プラスミドをエレクトロポレーションによりHEK293細胞に共導入し、形質転換HEK293細胞が抗体を発現するようにした。37℃で1週間振盪培養した後、抗体を精製するために上清を回収した。精製はプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムを用いて行い、精製後の抗体の純度はそれぞれSDS-PAGEおよびSEC-HPLC検出法を用いて検出した。すべての抗体の純度は95%以上であった。FGFR2IIIbと高い結合活性を持つ候補抗体を得るために、25の候補抗体をELISAでスクリーニングした。
【0041】
【表14】
【0042】
【表15】
【0043】
全部の抗体の重鎖定常領域はいずれも:
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0044】
【表16】
【0045】
【表17】
【0046】
全部の抗体の軽鎖定常領域はいずれも:
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0047】
実施例2: ELISA法による抗FGFR2抗体の結合活性の測定
まず、96穴ELISAプレートに2μg/mLのrhFGFR2IIIb-Fc(組換えヒトFGFR2IIIb-Fc)100μLを4℃で一晩コートし、ブロッキング溶液(PBST中3%BSA)250μLとともに37℃で2時間インキュベートした後、PBSTで3回洗浄した。試験抗体の10倍希釈系列を10μg/mLから調製し、合計で8濃度点(ブランクコントロールを含む)とし、系列で希釈した抗体を1ウェル当たり100μLずつELISAウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートした後、PBSTでプレートを3回洗浄した。二次抗体として抗Fab HRPコンジュゲートを加え、37℃で1時間インキュベートした。最後にプレートをPBSTで3回洗浄し、100μLのTMBを加えて15分間反応させた。発色反応を 1N 塩酸(50 μL)で停止させ、450 nm の吸光度をマイクロプレートリーダー(M5)で検出し、各抗体のヒト FGFR2IIIb に対する結合活性(EC50)を算出した。表 7 に示したように、スクリーニングにより、最終的に以降の実験に使用するための、ヒトFGFR2IIIb、ヒトFGFR2βIIIbおよびマウスFGFR2IIIbに強い結合活性を有するが、ヒトFGFR2IIIc、FGFR3IIIb、FGFR3IIIc、FGFR4、FGFR1IIIbおよびFGFR1IIIcには結合しない抗体:FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922、FWB1925を選出した。
【0048】
【表18】
【0049】
実施例3:FACSによる抗FGFR2抗体の結合活性の測定
試験抗体は、FWB1904、FWB1905、FWB1906、FWB1907、FWB1908、FWB1910、FWB1911、FWB1912、FWB1913、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1918、FWB1919、FWB1920、FWB1921、FWB1922およびFWB1925とした。ウェルあたり2×105個の細胞(ATCCから購入したKATO IIIとSNU16、それらの細胞表面にFGFR2IIIb受容体が高発現している)をマイクロプレートに集め、遠心分離し、2%FBSを含むPBSで再懸濁した。抗体は30μg/mLを初期濃度として5倍系列で希釈し、対応する濃度の抗体またはブランクコントロールを100μLずつ各ウェルの細胞に加え、4℃で1時間インキュベートした。細胞を2%FBS含有PBSで2回洗浄した後、Alexa 488 ヤギ抗ヒト IgGを添加し、4℃、暗所で1時間インキュベートした。細胞を2%FBS含有PBSで2回洗浄した後、2%FBS含有PBS100μLで再懸濁し、最後にフローサイトメーターで細胞表面の蛍光シグナルを検出した。スクリーニングにより最終的に以降の実験に使用するための、KATO IIIおよびSNU16に対して強い結合活性を有するFWB1904、FWB1905、FWB1912、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1919
、FWB1921およびFWB1925を選出した。
【0050】
【表19】
【0051】
実施例4:FACSによる、細胞表面受容体FGFR2IIIbとそのリガンドFGF7との結合を阻害する抗体の活性の測定
試験抗体は、FWB1904、FWB1905、FWB1912、FWB1914、FWB1915、FWB1916、FWB1919、FWB1921およびFWB1925とした。ウェルあたり3×105個の細胞(KATO IIIおよびSNU16)をマイクロプレートに集め、遠心分離し、2%FBSを含むPBSで再懸濁した。抗体を30μg/mLを初期濃度として5倍系列で希釈し、対応する濃度の抗体またはブランクコントロールを100μLずつ各ウェルの細胞に加え、4℃で0.5時間インキュベートした後、0.32μg/mLのビオチン標識FGF7を100μLずつ加え、4℃で1時間インキュベートした。細胞を2%FBSを含むPBSで2回洗浄した後、Alexa 488ストレプトアビジンを添加し、4℃、暗所で0.5時間インキュベートした。細胞を2%
FBS含有PBSで2回洗浄した後、2%FBS含有PBS 100μLで再懸濁し、最後にフローサイトメーターで細胞表面の蛍光シグナルを検出した。
【0052】
【表20】
【国際調査報告】