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特表2024-501572スイッチングペプチド及びそれを用いた免疫分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-12
(54)【発明の名称】スイッチングペプチド及びそれを用いた免疫分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/532 20060101AFI20240104BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240104BHJP
   C07K 1/13 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
G01N33/532 Z
C07K7/08 ZNA
C07K1/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540594
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 KR2022000864
(87)【国際公開番号】W WO2022154632
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】10-2021-0006850
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519122725
【氏名又は名称】オプトレーン テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】OPTOLANE Technologies Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ピョン,ジェ‐チョル
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA70
4H045EA50
(57)【要約】
電気化学的免疫分析方法に適用可能なスイッチングペプチドが開示される。スイッチングペプチドは、結合抗体に可逆的に結合することができるペプチド化合物;及びペプチド化合物に結合された化学的標識物質;を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合抗体に可逆的に結合することができるペプチド化合物と、
前記ペプチド化合物に結合された化学的標識物質と、を含む、スイッチングペプチド。
【請求項2】
前記ペプチド化合物は、前記結合抗体のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合することを特徴とする、請求項1に記載のスイッチングペプチド。
【請求項3】
前記ペプチド化合物は、前記結合抗体の軽鎖または重鎖の第1ないし第4フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)のうち1つ以上と特異的に、そして、可逆的に結合することができるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1に記載のスイッチングペプチド。
【請求項4】
前記ペプチド化合物は、前記軽鎖の第2フレームワーク領域(VL-FR2)のアミノ酸配列と相同性を有する第1アミノ酸配列を有する第1ペプチド化合物と、
前記軽鎖の第3または第4フレームワーク領域(VL-FR3、VL-FR4)のアミノ酸配列と相同性を有する第2アミノ酸配列を有する第2ペプチド化合物と、
前記重鎖の第2フレームワーク領域(VH-FR2)のアミノ酸配列と相同性を有する第3アミノ酸配列を有する第3ペプチド化合物と、
前記重鎖の第3または第4フレームワーク領域(VH-FR3、VH-FR4)のアミノ酸配列と相同性を有する第4アミノ酸配列を有する第4ペプチド化合物と、からなるグループから選択された1つ以上を含むことを特徴とする、請求項3に記載のスイッチングペプチド。
【請求項5】
前記ペプチド化合物は、14~20個のアミノ酸を含むことを特徴とする、請求項4に記載のスイッチングペプチド。
【請求項6】
前記ペプチド化合物は、1650~2500Daの分子量を有することを特徴とする、請求項5に記載のスイッチングペプチド。
【請求項7】
前記化学的標識物質は、試料溶液内で可逆的に酸化または還元される物質を含むことを特徴とする、請求項1に記載のスイッチングペプチド。
【請求項8】
前記化学的標識物質は、フェロセン、フェロセンメタノール、フェロセンジメタノール、α-メチルフェロセンメタノール、フェロシアン化イオン、フェリシアン化イオン、六アミン化ルテニウム(Ru)イオン、ヒドロキノン、アスコルビン酸、ドーパミン、フェロセンカルボン酸、フェロセンジカルボン酸、及びフェロセンアルデヒドからなるグループから選択された1つ以上を含むことを特徴とする、請求項7に記載のスイッチングペプチド。
【請求項9】
基板にスイッチングペプチドが結合された結合抗体を固定させるか、前記基板に結合抗体を固定した後、前記スイッチングペプチドを結合抗体に結合させる第1段階と、
前記結合抗体を検出試料溶液で処理する第2段階と、
前記処理後の検出試料溶液に対して電気化学的分析を行って、前記検出試料溶液内の前記結合抗体と特異的に反応するターゲット抗原を定量的に分析する第3段階と、を含み、
前記スイッチングペプチドは、前記結合抗体のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合することができるアミノ酸配列を有するペプチド化合物及びこれに結合され、前記検出試料溶液内で酸化還元が可能な化学的標識物質を含むことを特徴とする、免疫分析方法。
【請求項10】
前記第2段階で、前記検出試料溶液内に前記ターゲット抗原が存在する場合、前記ターゲット抗原が前記結合抗体に結合されれば、前記スイッチングペプチドは、前記結合抗体と反応した前記ターゲット抗原の量に依存して定量的に前記結合抗体から遊離されることを特徴とする、請求項9に記載の免疫分析方法。
【請求項11】
前記電気化学的分析は、アンペロメトリー、クロノアンペロメトリー、ボルタンメトリー、サイクリックボルタンメトリー、ディファレンシャルポテンシャルボルタンメトリー、クロノポテンショメトリー、及びポーラログラフィーからなるグループから選択された1つの方法で行われることを特徴とする、請求項10に記載の免疫分析方法。
【請求項12】
前記第3段階で、前記結合抗体から遊離されたスイッチングペプチドの化学的標識物質とアンペロメトリーまたはボルタンメトリーのための作動電極との間に酸化還元反応が起こることを特徴とする、請求項11に記載の免疫分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫反応を用いてターゲット抗原物質の分析に使われるスイッチングペプチド及びそれを用いた免疫分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ技術分野において、多様な免疫診断検査または環境モニタリングのようなバイオ検査のために、イムノアッセイ(Immunoassay)が使われている。前記イムノアッセイは、抗原-抗体反応の特異性を用いて特定ターゲット物質の定量的分析が可能であり、他の分析方法に比べて高い感度を有するという利点がある。
【0003】
前記イムノアッセイは、癌マーカー、感染性疾患、甲状腺機能、貧血、アレルギー、妊娠、薬物乱用、痛風の診断のような多様な診断に用いられる。前記イムノアッセイを多種の抗原の診断または分析に利用するためには、前記抗原のそれぞれに対して特異的な反応性を有する抗体を調製しなければならない。
【0004】
しかし、このような方法は、最近、急速に多様化されている現代化された疾病または多数の突然変異種を有するウイルスの感知に限界点がある。特に、前記ウイルスの場合、前記ウイルスと特異的結合性を有する抗体を確保することが不可能な場合も多数ある。
【0005】
また、前記抗原-抗体反応を用いる場合、前記抗体を標識物質と結合させる追加的な段階が要求される。前記標識物質と前記抗体との結合性が低下する場合、イムノアッセイ分析の精度または信頼度が低下する。
【0006】
前述したような問題点によって、多様な抗体に対して結合することができる多種の標識物質をそれぞれ開発しなければならないという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一目的は、結合抗体のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合することができるペプチド化合物と検出試料溶液内で酸化還元が可能な化学的標識物質とを備えて電気化学的免疫分析方法に適用可能なスイッチングペプチドを提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、前記スイッチングペプチドを利用した免疫分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施例によるスイッチングペプチドは、結合抗体に可逆的に結合することができるペプチド化合物;及び前記ペプチド化合物に結合された化学的標識物質;を含む。
【0010】
一実施例において、前記ペプチド化合物は、前記結合抗体のFab(フラグメント抗原結合:Fragment antigen-binding)領域に選択的に、そして、可逆的に結合することができる。
【0011】
一実施例において、前記ペプチド化合物は、前記結合抗体の軽鎖または重鎖の第1ないし第4フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)のうち1つ以上と特異的に、そして、可逆的に結合することができるアミノ酸配列を有しうる。
【0012】
一実施例において、前記ペプチド化合物は、前記軽鎖の第2フレームワーク領域(VL-FR2)のアミノ酸配列と相同性(homology)を有する第1アミノ酸配列を有する第1ペプチド化合物;前記軽鎖の第3または第4フレームワーク領域(VL-FR3、VL-FR4)のアミノ酸配列と相同性を有する第2アミノ酸配列を有する第2ペプチド化合物;前記重鎖の第2フレームワーク領域(VH-FR2)のアミノ酸配列と相同性を有する第3アミノ酸配列を有する第3ペプチド化合物;及び前記重鎖の第3または第4フレームワーク領域(VH-FR3、VH-FR4)のアミノ酸配列と相同性を有する第4アミノ酸配列を有する第4ペプチド化合物;からなるグループから選択された1つ以上を含みうる。
【0013】
一実施例において、前記ペプチド化合物は、14~20個のアミノ酸を含みうる。
【0014】
一実施例において、前記ペプチド化合物は、1650~2500Daの分子量を有しうる。
【0015】
一実施例において、前記化学的標識物質は、試料溶液内で可逆的に酸化または還元される物質を含みうる。
【0016】
一実施例において、前記化学的標識物質は、フェロセン(ferrocene)、フェロセンメタノール(ferrocenemethanol)、フェロセンジメタノール(ferrocenedimethanol)、α-メチルフェロセンメタノール、フェロシアン化(ferrocyanide)イオン、フェリシアン化(ferricyanide)イオン、六アミン化ルテニウム(ruthenium、Ru)イオン、ヒドロキノン(hydronquinone)、アスコルビン酸(ascorbic acid)、ドーパミン(dopamine)、フェロセンカルボン酸(ferrocene carboxylic acid)、フェロセンジカルボン酸(ferrocene dicarboxylic acid)、及びフェロセンアルデヒド(ferrocene aldehyde)からなるグループから選択された1つ以上を含みうる。
【0017】
本発明の実施例による免疫分析方法は、基板にスイッチングペプチドが結合された結合抗体を固定させるか、前記基板に結合抗体を固定した後、前記スイッチングペプチドを結合抗体に結合させる第1段階;前記結合抗体を検出試料溶液で処理する第2段階;及び前記処理後の検出試料溶液に対して電気化学的分析を行って、前記検出試料溶液内の前記結合抗体と特異的に反応するターゲット抗原を定量的に分析する第3段階;を含み、前記スイッチングペプチドは、前記結合抗体のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合することができるアミノ酸配列を有するペプチド化合物及びこれに結合され、前記検出試料溶液内で酸化還元が可能な化学的標識物質を含む。
【0018】
一実施例において、前記第2段階で、前記検出試料溶液内に前記ターゲット抗原が存在する場合、前記ターゲット抗原が前記結合抗体に結合されれば、前記スイッチングペプチドは、前記結合抗体と反応した前記ターゲット抗原の量に依存して定量的に前記結合抗体から遊離される。
【0019】
一実施例において、前記電気化学的分析は、アンペロメトリー(amperometry)、クロノアンペロメトリー(chronoamperometry)、ボルタンメトリー(voltammetry)、サイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)、ディファレンシャルポテンシャルボルタンメトリー(differential potential voltammmetry)、クロノポテンショメトリー(chronopotentiometry)、及びポーラログラフィー(polarography)からなるグループから選択された1つの方法で行われる。
【0020】
一実施例において、前記第3段階で、前記結合抗体から遊離されたスイッチングペプチドの化学的標識物質とアンペロメトリーまたはボルタンメトリーのための作動電極(working electrode)との間に酸化還元反応が起こりうる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスイッチングペプチド及びそれを用いた免疫分析方法によれば、結合抗体のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合し、化学的標識物質を備えるスイッチングペプチドを用いて、光学系が要求されない電気化学的分析方法を通じてターゲット抗原を定量分析することができるので、分析機器の小型化及び低価格化を可能にし、これにより、臨床現場での診断用機器に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例によるスイッチングペプチドを説明する図面である。
図2】結合抗体を説明する図面である。
図3A】本発明の実施例による免疫分析方法を説明するフローチャートである。
図3B図3Aに示された免疫分析方法の一実施例を説明する模式図である。
図3C図3Aに示された免疫分析方法の一実施例を説明する模式図である。
図4A】L1及びH2ペプチドの間の特異的相互作用、そして、L2及びH1ペプチドの間の特異的相互作用を確認する方法及び測定結果を示す図面である。
図4B】PyMOLソフトウェアを使用して分析されたL1及びH2ペプチドの間の特異的相互作用、そして、L2及びH1ペプチドの間の特異的相互作用を説明する図面である。
図5】マイクロプレート上にそれぞれ分離固定されたヒト、ウサギ、ヤギ及びラットからのIgG、そして、これらと異なるタンパク質(ヒトB型肝炎抗原、C反応性タンパク質、プロテインA、BSA)を蛍光ラベルされた実施例1から合成された4種のペプチド化合物(H1、H2、L1、L2)と反応させた後、マイクロプレートの底面から測定された蛍光強度を示すグラフである。
図6A】実施例1の4種のペプチドがそれぞれ結合された抗体をタンパク質分解酵素(protease)であるパパイン(papain)で処理前及び後の状態を示す模式図である。
図6B】前記パパイン処理後、マイクロプレートの底面(B)及び溶液内(S)から測定された蛍光強度を示すグラフである。
図7A】蛍光ラベルされた実施例1のペプチド化合物を利用した免疫分析方法を説明する模式図である。
図7B図7Aに示された免疫分析方法で測定された抗原の濃度による溶液内及びマイクロプレートの底面での蛍光強度を示すグラフである。
図7C図7Aに示された免疫分析方法で測定された抗原の濃度による溶液内及びマイクロプレートの底面での蛍光強度を示すグラフである。
図8A】フェロセンで標識されたスイッチングペプチドを分析した結果である。
図8B】フェロセンで標識されたスイッチングペプチドを分析した結果である。
図8C】フェロセンで標識されたスイッチングペプチドを分析した結果である。
図9A】L1スイッチングペプチドを含有する試料溶液に対してDPA(ディファレンシャルパルスボルタンメトリー:Differential pulsed voltammetry)方法で測定されたL1スイッチングペプチドの濃度による電流値の変化を示すグラフである。
図9B】H2スイッチングペプチドを含有する試料溶液に対してDPA方法で測定されたH2スイッチングペプチドの濃度による電流値の変化を示すグラフである。
図10】本発明のL1及びH2スイッチングペプチドと結合した結合抗体のヒトB型肝炎抗原(hHBsAg)に対するワンステップイムノアッセイ分析を行った結果である。
図11A】HBsAg抗原を含有する検出試料溶液に対して第1 L1スイッチングペプチド(フェロセンが末端に結合されたL1ペプチド化合物)を利用した電気化学的免疫分析方法、第2スイッチングペプチド(蛍光ラベルされたL1ペプチド化合物)を利用した光学的免疫分析方法、従来のELISAキットを利用した化学発光基盤の免疫分析方法及び従来のELISAキットを利用したクロモジェニック免疫分析方法を通じて測定された抗原の濃度による分析結果を示すグラフである。
図11B】HBsAg抗原を含有する検出試料溶液に対して第1 L1スイッチングペプチド(フェロセンが末端に結合されたL1ペプチド化合物)を利用した電気化学的免疫分析方法、第2スイッチングペプチド(蛍光ラベルされたL1ペプチド化合物)を利用した光学的免疫分析方法、従来のELISAキットを利用した化学発光基盤の免疫分析方法及び従来のELISAキットを利用したクロモジェニック免疫分析方法を通じて測定された抗原の濃度による分析結果を示すグラフである。
図12A】実施例2のペプチド化合物を使用した免疫分析の従来の方法との比較のためのブランド-アルトマン(Bland-Altman)テスト及びパッシング-バブロック(Passing-Bablok)回帰分析を行ったグラフである。
図12B】実施例2のペプチド化合物を使用した免疫分析の従来の方法との比較のためのブランド-アルトマン(Bland-Altman)テスト及びパッシング-バブロック(Passing-Bablok)回帰分析を行ったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施例について詳しく説明する。本発明は、多様な変更を加え、さまざまな形態を有しうるので、特定実施例を図面に例示し、本明細書で詳細に説明する。しかし、これは、本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる、あらゆる変更、均等物または代替物を含むものと理解しなければならない。各図面を説明しながら類似の参照符号を類似の構成要素に対して使用した。添付図面において、構造物の寸法は、本発明の明確性を期するために実際よりも拡大して図示したものである。
【0024】
本明細書で使用した用語は、単に特定の実施例を説明するために使われたものであって、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上、取り立てて明示しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載の特徴、数字、段階、動作、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在するということを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素またはこれらを組み合わせたものの存在、または付加可能性をあらかじめ排除しないものと理解しなければならない。
【0025】
取り立てての定義がない限り、技術的や科学的な用語を含んで、ここで使われるあらゆる用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有している。一般的に使われる辞書に定義されているような用語は、関連技術の文脈上の意味と一致する意味を有すると解釈されなければならず、本明細書で明白に定義しない限り、理想的であるか、過度に形式的な意味として解釈されない。
【0026】
図1は、本発明の実施例によるスイッチングペプチドを説明する図面であり、図2は、結合抗体を説明する図面である。
【0027】
図1及び図2を参照すれば、本発明の実施例によるスイッチングペプチド100は、結合抗体10に可逆的に結合することができるペプチド化合物110及び前記ペプチド化合物110に結合された化学的標識物質120を含みうる。前記スイッチングペプチド100は、ターゲット抗原と特異的に結合する前記結合抗体10に可逆的に結合することができて、前記ターゲット抗原が前記結合抗体に特異的に結合する場合、定量的に前記結合抗体10から遊離され、その結果、前記結合抗体10から遊離された前記スイッチングペプチド100の化学的標識物質120を介した酸化還元反応によって、前記ターゲット抗原を含む検査試料の電気化学的特性が変化することができる。
【0028】
前記結合抗体10は、前記ターゲット抗原のエピトープ(epitope)のような特異的な抗原決定基に結合されるか、前記抗原決定基と反応することにより、免疫学的エフェクターメカニズムを誘導することができる化合物である。前記結合抗体は、単一特異性(monospecific)を有しても、多特異性(polyspecific)を有しても良い。
【0029】
一実施例において、前記結合抗体10は、抗体、抗体誘導体またはその断片を含みうる。前記結合抗体10は、完全な(intact)免疫グロブリン分子でもあり、これとは異なって、Fab、Fab´、F(ab´)2、Fc、F(v)、N-グリカン構造、パラトープのような完全な抗体の構成部分または前記構成部分のうち少なくとも一部を含むこともある。
【0030】
一実施例において、前記結合抗体は、ヒト抗体、非ヒト抗体またはヒト化された非ヒト抗体である。
【0031】
前記ヒト抗体は、ヒトによって生産された抗体または任意の技術を用いて合成されたアミノ酸配列を保有する合成抗体を含みうる。ヒト抗体のこのような定義は、特に、非ヒト抗原-結合残基を含むヒト化抗体を排除する。前記ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーを含む当該技術に公知の多様な技術を用いて生成されうる。前記非ヒト抗体は、多様な種の供給源、例えば、げっ歯類、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ヒトを除いた哺乳動物または鳥類から獲得された抗体である。前記非ヒト抗体の「ヒト化された」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含有するキメラ抗体である。一実施例において、前記ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が目的特異性、親和度及び/または能力を有する前述した非ヒト抗体(ドナー抗体)の超可変領域に置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の場合に、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク残基は、相応する非ヒト残基によって置き換えられる。また、前記ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体から見つけられない残基を含みうる。これらの変形は、抗体の性能、例えば、結合親和度を追加精錬するために製造可能である。
【0032】
一実施例において、前記結合抗体10は、前記抗体分子、免疫グロブリン分子、その断片またはこれらのうち1つ以上の集合体である。前記結合抗体10は、前記ターゲット抗原に対する特異的な結合を可能にする独特な構造を有することができ、それぞれの結合抗体10は、2個の同じ構造の軽鎖(light chain)及び2個の同じ構造の重鎖(heavy chain)を含みうる。前記重鎖及び軽鎖は、それぞれ可変領域(variable region)及び不変領域(constant region)を含みうる。前記重鎖と軽鎖との可変領域が結合して抗原結合部位(antigen binding site)を形成しうる。前記結合抗体10は、パパインのようなタンパク質分解酵素によってターゲット抗原が結合する部分は、Fab(抗体結合フラグメント:antibody binding fragment)領域及び結晶化された支柱部分であるFc(フラグメント結晶化可能:Fragment crystallizable)領域に分離され、前記抗原結合部位は、前記抗体のFab領域に含まれる。
【0033】
一方、前記重鎖及び軽鎖の可変領域のそれぞれは、超可変領域(hypervariable region;HVR)である3個の相補性決定領域(Complementarity-determining regions、CDRs)及び前記相補性決定領域を構造的に支持する4個のフレームワーク領域(Frame regions、FRs)領域が交互に配列された構造を有しうる。前記相補性決定領域は、抗体ごとに異なるアミノ酸配列を有して、それぞれの抗原と特異的に結合することができる一方、前記フレームワーク領域は、生物のサブファミリー(Subfamilies)によって保存されたアミノ酸配列を有しており、同じサブファミリーに属する生物の抗体は、同一または類似したアミノ酸配列を有する。
【0034】
以下、説明の便宜上、前記結合抗体10の軽鎖の可変領域において、N末端から順次に離隔して配された4個のフレームワーク領域をそれぞれ第1ないし第4軽鎖フレームワーク領域(VL-FR1、VL-FR2、VL-FR3及びVL-FR4)とし、前記第1ないし第4軽鎖フレームワーク領域(VL-FR1、VL-FR2、VL-FR3及びVL-FR4)の間にそれぞれ位置し、前記N末端から順次に配された3個の相補性決定領域をそれぞれ第1ないし第3軽鎖相補性決定領域(VL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3)と称する。そして、前記結合抗体10の重鎖の可変領域において、N末端から順次に離隔して配された4個のフレームワーク領域をそれぞれ第1ないし第4重鎖フレームワーク領域(VH-FR1、VH-FR2、VH-FR3及びVH-FR4)とし、前記第1ないし第4重鎖フレームワーク領域(VH-FR1、VH-FR2、VH-FR3及びVH-FR4)の間にそれぞれ位置し、前記N末端から順次に配された3個の相補性決定領域をそれぞれ第1ないし第3重鎖相補性決定領域(VH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3)と称する。
【0035】
前記ペプチド化合物110は、前記結合抗体10のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合することができるアミノ酸配列を有しうる。
【0036】
一実施例において、前記ペプチド化合物110は、前記結合抗体10の軽鎖または重鎖の第1ないし第4フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)のうち1つ以上と特異的に、そして、可逆的に結合することができるアミノ酸配列を有しうる。例えば、前記ペプチド化合物110は、前記結合抗体10の軽鎖または重鎖の第1ないし第4フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)のうち1つ以上と相同性を有するアミノ酸配列を含み、この場合、前記ペプチド化合物110は、前記軽鎖または重鎖の第1ないし第4フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)のうち1つ以上と可逆的に結合することができ、これにより、ターゲット抗原が前記結合抗体10に結合する場合、前記結合抗体10に結合された前記ペプチド化合物10は、前記結合抗体10に結合される抗原の量によって定量的に前記結合抗体10から遊離される。
【0037】
一実施例として、前記ペプチド化合物110は、前記第2軽鎖フレームワーク領域(VL-FR2)のアミノ酸配列と相同性を有する第1アミノ酸配列を有する第1ペプチド化合物(L1)、前記第3または第4軽鎖フレームワーク領域(VL-FR3、VL-FR4)のアミノ酸配列と相同性を有する第2アミノ酸配列を有する第2ペプチド化合物(L2)、前記第2重鎖フレームワーク領域(VH-FR2)のアミノ酸配列と相同性を有する第3アミノ酸配列を有する第3ペプチド化合物(H1)及び前記第3または第4重鎖フレームワーク領域(VH-FR3、VH-FR4)のアミノ酸配列と相同性を有する第4アミノ酸配列を有する第4ペプチド化合物(H2)の中から選択された1つ以上を含みうる。
【0038】
前記結合抗体10の前記第2軽鎖フレームワーク領域(VL-FR2)と前記第3または第4重鎖フレームワーク領域(VH-FR3、VH-FR4)は、互いに隣接して位置して相互作用し、前記第3または第4軽鎖フレームワーク領域(VL-FR3、VL-FR4)と前記第2重鎖フレームワーク領域(VH-FR2)は、互いに隣接して位置して相互作用するので、前記結合抗体10の第2軽鎖フレームワーク領域(VL-FR2)と相同性がある第1アミノ酸配列を有する前記第1ペプチド化合物(L1)は、前記結合抗体10の第3または第4重鎖フレームワーク領域(VH-FR3、VH-FR4)と選択的に相互作用することができ、前記結合抗体10の第3または第4軽鎖フレームワーク領域(VL-FR3、VL-FR4)と相同性を有する第2アミノ酸配列を有する前記第2ペプチド化合物(L2)は、前記結合抗体10の第2重鎖フレームワーク領域(VH-FR2)と選択的に相互作用することができ、前記結合抗体10の第2重鎖フレームワーク領域(VH-FR2)と相同性を有する第3アミノ酸配列を有する前記第3ペプチド化合物(H1)は、前記結合抗体10の第3または第4軽鎖フレームワーク領域(VL-FR3、VL-FR4)と選択的に相互作用することができ、前記結合抗体10の第3または第4重鎖フレームワーク領域(VH-FR3、VH-FR4)と相同性を有する第4アミノ酸配列を有する前記第4ペプチド化合物(H2)は、前記結合抗体10の第2軽鎖フレームワーク領域(VL-FR2)と選択的に相互作用することができる。
【0039】
一実施例において、前記結合抗体10がヒトを含む動物のサブファミリーに属する生物から由来した場合、前記ペプチド化合物110は、約10~25個のアミノ酸を含み、約1600~3000Daの分子量を有しうる。例えば、前記ペプチド化合物110は、約14~20個のアミノ酸を含み、約1650~2500Daの分子量を有しうる。一実施例として、前記第1ないし第4ペプチド化合物(L1、L2、H1、H2)は、下記表1に記載のようなアミノ酸配列を含みうる。
【0040】
【表1】
【0041】
一方、抗体の軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3、FR4)は、生物のサブファミリーによって保存されたアミノ酸配列を有するので、前記ペプチド化合物110は、同じサブファミリーに属する他の種の生物から由来した抗体に対して共通して適用されるので、前記ペプチド化合物110がヤギ、ラット、ウサギなどの抗体から合成された場合であっても、ヒトの抗体に対しても前述したものと同じ作用及び効果を示すことができる。
【0042】
前記化学的標識物質120は、前記ペプチド化合物110に結合され、検出試料内で可逆的に酸化及び還元される。一実施例として、前記化学的標識物質120は、フェロセン、フェロセンメタノール、フェロセンジメタノール、α-メチルフェロセンメタノール、フェロシアン化イオン、フェリシアン化イオン、六アミン化ルテニウム(Ru)イオン、ヒドロキノン、アスコルビン酸、ドーパミン、フェロセンカルボン酸、フェロセンジカルボン酸、フェロセンアルデヒドなどからなるグループから選択された1つ以上を含みうる。
【0043】
図3Aは、本発明の実施例による免疫分析方法を説明するフローチャートであり、図3B及び図3Cは、図3Aに示された免疫分析方法の一実施例を説明する模式図である。
【0044】
図3Aないし図3Cを参照すれば、本発明の実施例による免疫分析方法は、基板にスイッチングペプチドが結合された結合抗体を固定させるか、前記基板に結合抗体を固定した後、前記スイッチングペプチドを結合抗体に結合させる第1段階(ステップS110);前記結合抗体を検出試料溶液で処理する第2段階(ステップS120);及び前記処理後の検出試料溶液に対して電気化学的分析を行って、前記検出試料溶液内のターゲット抗原を定量的に分析する第3段階(ステップS130);を含む。
【0045】
前記第1段階(ステップS110)において、前記スイッチングペプチドは、前記結合抗体のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合することができるアミノ酸配列を有するペプチド化合物及びこれに結合され、前記検出試料溶液内で酸化還元が可能な化学的標識物質を含みうる。一実施例として、前記スイッチングペプチドとしては、図1及び図2を参照して説明したスイッチングペプチド100が使われるので、これについての重複された詳細な説明は省略する。
【0046】
一実施例において、前記結合抗体と前記スイッチングペプチドとの場合、まず、前記基板に結合抗体を固定した後、固定された前記結合抗体に前記スイッチングペプチドが結合されても、これとは異なって、前記スイッチングペプチドを前記結合抗体に結合させた後、前記結合抗体を前記基板に固定させることもできる。
【0047】
前記結合抗体を前記基板に固定させる方法は、特に制限されない。例えば、前記結合抗体は、前記基板に直接結合されても、リンカー化合物を通じて前記基板に結合されて固定されてもよい。
【0048】
前記スイッチングペプチドは、前述したように、前記結合抗体のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合されうる。
【0049】
前記第2段階(ステップS120)において、前記基板に固定された結合抗体上に検出試料溶液を塗布することができる。
【0050】
一実施例において、前記検出試料溶液内に前記結合抗体と特異的に反応するターゲット抗原が存在する場合、前記検出試料溶液を前記結合抗体上に塗布すれば、前記ターゲット抗原が前記結合抗体に結合され、この場合、前記スイッチングペプチドは、前記結合抗体と反応した前記ターゲット抗原の量に依存して定量的に前記結合抗体から遊離される。
【0051】
前記第3段階(ステップS130)において、前記結合抗体上に前記検出試料溶液を塗布し、一定時間経過後、前記検出試料溶液に対する電気化学的分析を行って、前記検出試料溶液内の前記ターゲット抗原を定量的に分析することができる。
【0052】
一実施例として、前述したように、前記ターゲット抗原が前記結合抗体と反応する場合、前記ペプチド化合物は、前記結合抗体と反応したターゲット抗原の量に依存して定量的に前記結合抗体から遊離され、この場合、前記処理後の検出試料溶液内の前記スイッチングペプチドの濃度が増加し、前記スイッチングペプチドの化学的標識物質の酸化または還元によって、前記検出試料溶液の電気化学的特性が変化することができる。
【0053】
一実施例において、前記処理後の検出試料溶液に対する電気化学的分析は、特に制限されない。例えば、前記電気化学的分析は、アンペロメトリー、クロノアンペロメトリー、ボルタンメトリー、サイクリックボルタンメトリー、ディファレンシャルポテンシャルボルタンメトリー、クロノポテンショメトリー、ポーラログラフィーなどの方法で行われる。
【0054】
一実施例において、図3A及び図3Bに示したように、前記スイッチングペプチドの化学的標識物質がフェロセンであり、ディファレンシャルポテンシャルボルタンメトリーの方法で前記電気化学的分析を行う場合、前記スイッチングペプチドのフェロセンは、作動電極に電子を伝達することにより、フェロセンイオンに酸化され、これにより、前記検出試料溶液の電気化学的特性が変化することができ、その結果、基準電極(Reference electrode)とカウンター電極(Counter electrode)との間に流れる電流値が変化することができる。前記処理後の検出試料溶液に含まれた前記スイッチングペプチドの濃度は、結合抗体と結合するターゲット抗原の量によって変化するので、本発明では、前記電流値の変化を測定して、前記ターゲット抗原を定量的に分析することができる。一方、前記フェロセンイオンは、前記作動電極から電子を供給されてフェロセンに還元される。
【0055】
本発明のスイッチングペプチド及びそれを用いた免疫分析方法によれば、結合抗体のFab領域に選択的に、そして、可逆的に結合し、化学的標識物質を備えるスイッチングペプチドを用いて、光学系が要求されない電気化学的分析方法を通じてターゲット抗原を定量分析することができるので、分析機器の小型化及び低価化を可能にし、これにより、臨床現場での診断用機器に適用可能である。
【0056】
以下、本発明の具体的な実施例について詳述する。但し、下記の実施例は、本発明の一部の実施形態に過ぎないものであって、本発明の範囲が、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0057】
[実施例1]
表1に記載のような4種のペプチド(H1、H2、L1、L2)を合成した。具体的に、H1ペプチドは、重鎖のFR2領域と相同性があるアミノ酸配列を有するように合成され、H2ペプチドは、重鎖のFR3またはFR4領域と相同性があるアミノ酸配列を有するように合成され、L1ペプチドは、軽鎖のFR2領域と相同性があるアミノ酸配列を有するように合成され、L2ペプチドは、軽鎖のFR3またはFR4領域と相同性があるアミノ酸配列を有するように合成された。
【0058】
ギブス自由エネルギーの変化(△G)は、H1ペプチド化合物に対しては-17.91kcal/mol、H2ペプチドに対しては-17.19kcal/mol、L1ペプチドに対しては15.37kcal/mol、L2ペプチドに対しては-13.05kcal/molであった。
【0059】
[実験例1]
図4Aは、L1及びH2ペプチドの間の特異的相互作用、そして、L2及びH1ペプチドの間の特異的相互作用を確認する方法及び測定結果を示す図面であり、図4Bは、PyMOLソフトウェアを使用して分析されたL1及びH2ペプチドの間の特異的相互作用、そして、L2及びH1ペプチドの間の特異的相互作用を説明する図面である。この際、L1及びL2ペプチドの末端には、第1蛍光標識物質であるFAM(λex=488nm、λem=532nm)が修飾され、H1及びH2ペプチドの末端には、第2蛍光標識物質であるTAMRA(λex=532nm、λem=570nm)が修飾された。一方、第1ペプチド(L1またはL2)は、パリレン-Hのホルミル基とペプチドとのうち、リジン残基(lysine residue)の1次アミン基の間の共有結合を通じてパリレン-Hコーティングされたマイクロプレートに固定され、第2ペプチド(H2またはH1)は、固定された第1ペプチド(L1またはL2)と共に培養されて、これらの間の特異的相互作用が許容された。一方、固定された第1ペプチド(L1またはL2)とこれと共に培養された第2ペプチド(H2またはH1)との間の特異的相互作用は、第2ペプチドに修飾されたTAMRA(λem=570nm)からの緑色蛍光発光を有したFRET効果がマイクロプレートの底面から観察されるか否かによって判別されるというが分かり、第1及び第2ペプチドの間の特異的相互作用が発生する場合、FRET効果がマイクロプレートの底面から観察される。
【0060】
図4Aを参照すれば、L1及びH2ペプチドの間の相互作用は、L1ペプチドの濃度を変化させることによって観察され、FRET強度は、L1ペプチドの濃度の増加と共に増加した。このような結果は、L1とH2ペプチドとの間の特異的相互作用が発生したことを示す。
【0061】
そして、H1とL2ペプチドとの間の相互作用は、H1ペプチドの濃度を変化させることによって観察され、FRET強度は、H1ペプチドの濃度が増加するにつれて増加すると観察された。このような結果も、H1とL2ペプチドとの間の特異的相互作用が発生したことを示す。
【0062】
以上の結果から、L1ペプチドは、重鎖のFR3またはFR4領域(H2ペプチドに対応)に選択的に、そして、可逆的に結合し、L2ペプチドは、重鎖のFR2領域(H1ペプチドに対応)に選択的に、そして、可逆的に結合し、H1ペプチドは、軽鎖のFR3またはFR4領域(L2ペプチドに対応)に選択的に、そして、可逆的に結合し、H2ペプチドは、軽鎖のFR2領域(L1ペプチドに対応)に選択的に、そして、可逆的に結合することが分かる。
【0063】
図4Bを参照すれば、PyMOLを通じてH1-L2ペプチドの間の水素結合及びH2-L1の間の水素結合を分析した結果、H1-L2ペプチドの間の場合、(1)グルタミン(H1ペプチドの残留数9)とチロシン(L2ペプチドの残留数3)との間で3.34Åの長さを有する水素結合及び(2)L2ペプチドからのペプチド結合のカルボニル基とH1ペプチドからのペプチド結合の電子不足水素との間で3.39Åの長さを有する水素結合が見つけら、H2-L1ペプチドの間の場合、(1)アミノ酸の間(相互作用I)、(2)ペプチド結合の間(相互作用II、III)、(3)アミノ酸とペプチド結合との間(相互作用IV)で2.49~3.93Åの長さを有する4個の水素結合が見つけられた。水素結合の数は、H1-L2ペプチドの間の相互作用がH2-L1ペプチドの間の相互作用よりもさらに強いということを示すことに対して、ギブス自由エネルギー変化の類似した値は、IgGに対するペプチド化合物の類似した結合親和度を暗示する。
【0064】
図5は、マイクロプレート上にそれぞれ分離固定されたヒト、ウサギ、ヤギ及びラットからのIgG、そして、これらと異なるタンパク質(ヒトB型肝炎抗原、C反応性タンパク質、プロテインA、BSA)を蛍光ラベルされた実施例1から合成された4種のペプチド化合物(H1、H2、L1、L2)と反応させた後、マイクロプレートの底面から測定された蛍光強度を示すグラフである。
【0065】
図5を参照すれば、ヒト、ウサギ、ヤギ及びラットからのIgGのみが著しく高い蛍光強度を示し、他の抗原性タンパク質は、ベースラインレベルの蛍光を示した。このような結果は、実施例1のペプチドが抗体に選択的に結合されることを示す。
【0066】
図6Aは、実施例1の4種のペプチドがそれぞれ結合された抗体をタンパク質分解酵素であるパパインで処理前及び後の状態を示す模式図であり、図6Bは、前記パパイン処理後、マイクロプレートの底面(B)及び溶液内(S)から測定された蛍光強度を示すグラフである。本実験の場合、抗体(ウサギ抗HRP抗体)をマイクロプレート上に固定した後、蛍光ラベルされたスイッチングペプチドで処理して抗体とスイッチングペプチドとの間の結合を誘導し、引き続き、非結合スイッチングペプチドを除去した後、タンパク質分解酵素であるパパインを添加して、前記固定された抗体からFab領域を加水分解した。
図6Aを参照すれば、蛍光ラベルされたスイッチングペプチドは、抗体のFab領域に結合されるために、マイクロプレートの底面(B)での蛍光は、パパイン反応後、減少し、スイッチングペプチドが結合されたFab領域が加水分解されて溶液内部に溶解されるので、溶液内の蛍光は増加すると予想され、このような予想は、図6Bのグラフによって事実であることが立証された。
【0067】
図6Bを参照すれば、4種のスイッチングペプチド(H1、H2、L1、L2)いずれもパパイン処理前に比べてパパイン処理後に、マイクロプレートの底面(B)での蛍光は減少し、溶液内(S)での蛍光は増加した。具体的に、マイクロプレートの底面での蛍光強度の場合、H1ペプチドは84.3%、H2ペプチドは58.7%、L1ペプチドは84.8%、L2ペプチドは72.5%減少したと評価された。そして、溶液内での蛍光強度の場合、H1ペプチドは2184%、H2ペプチドは2356%、L1ペプチドは1032%、L2ペプチドは2452%増加したと評価された。
【0068】
以上の結果から、実施例1の4種のスイッチングペプチドは、抗体のFab領域に結合されることが分かる。
【0069】
下記表2は、互いに異なる動物(ウサギ、ラット及びヤギ)からの抗体に対する実施例1の4種のペプチド化合物(H1、H2、L1、L2)の結合特性を評価した結果である。このような結果は、マイクロプレートに固定された抗体に蛍光ラベルされたスイッチングペプチドを結合させた後、未反応スイッチングペプチドを除去し、引き続き、ターゲット抗原(CRP for rabbit IgG、hCG for mouse IgG、HRP for rabbit IgG、HBsAg for goat IgG)をそれぞれ反応させた後に測定された蛍光強度値である。
【0070】
【表2】
【0071】
表2を参照すれば、それぞれの固定された抗体(IgG)は、対応する抗原の処理後、プレートの底面での蛍光強度は減少し、溶液内での蛍光強度は増加すると測定された。具体的に、ウサギからの抗HRP抗体の場合、H1、L1、H2及びL2ペプチドに対してプレートの底面での蛍光強度は、12.3%、12.7%、14.8%及び25.5%ほどそれぞれ減少し、溶液内での蛍光強度は、746%、357%、698%及び597%ほどそれぞれ増加した。ヤギからの抗HBsAg抗体の場合、H1、L1、H2及びL2ペプチドに対してプレートの底面での蛍光強度は、41.1%、48.7%、63.9%、及び35.2%ほどそれぞれ減少し、溶液内での蛍光強度は、410%、638%、412%、及び574%ほどそれぞれ増加した。
【0072】
このような結果は、実施例1から合成された4種のペプチド化合物は、ソース動物の種と無関係に固定された抗体(IgG)に結合できるだけではなく、実施例1の4種のペプチド化合物のそれぞれと抗体の可逆的な結合によって抗原が抗体の結合ポケットに結合された時、抗体から定量的に遊離されることを示す。
【0073】
図7Aは、蛍光ラベルされた実施例1のペプチド化合物を利用した免疫分析方法を説明する模式図であり、図7B及び図7Cは、図7Aに示された免疫分析方法で測定された抗原の濃度による溶液内及びマイクロプレートの底面での蛍光強度を示すグラフである。本実験で、結合抗体としてはマイクロプレートに固定されたウサギからの抗HRP抗体が使われ、抗原としてはHRPが使われた。
【0074】
図7Aないし図7Cを参照すれば、抗原HRPの濃度を0.3から100μMまで変化さながら免疫分析を行った結果、4種のスイッチングペプチド(H1、H2、L1、L2)に対して、抗原(HRP)の濃度と依存して溶液内での蛍光強度が増加することが観察された。
【0075】
H1、H2、L1、及びL2ペプチドの平衡遊離定数は、1.65、3.11、3.29、1.48μMであると評価されたが、各スイッチングペプチドに対する遊離定数の差は、各スイッチングペプチドが各抗原に対して他の検出領域を有することを意味する。HRP抗原の場合、H1ペプチドがHRP濃度領域で最も線形的に反応した。このような結果は、スイッチングペプチドが抗原の結合量によって固定された抗体から遊離され、スイッチングペプチドを使用したワンステップイムノアッセイで溶液内の蛍光強度に基づいて抗原の定量分析が可能であることを示す。
【0076】
一方、図7Cに示したように、4種のスイッチングペプチドいずれもで、マイクロプレートの底面での蛍光強度は、抗原の濃度に依存して減少すると表われた。このような結果は、スイッチングペプチドが抗原の量によって抗体から定量的に遊離され、溶液内だけではなく、マイクロプレートの底面での蛍光強度の変化を通じて抗原の定量分析が可能であることを示す。
【0077】
[実施例2]
L1、L2、H1、H2ペプチド化合物のそれぞれの末端にフェロセンを結合させて、スイッチングペプチドを合成した。この際、前記フェロセンは、カルボキシル基を通じて下記表3に記載のように、前記ペプチド化合物のそれぞれの末端に結合された。
【0078】
【表3】
【0079】
[実験例2]
図8Aないし図8Cは、フェロセンで標識されたスイッチングペプチドを分析した結果である。
【0080】
図8Aは、本発明のスイッチングペプチドの流体力学的半径(Hydrodynamic radius)を比較するために、動的レーザ散乱(DLS)を行った結果である。図8Aを参照すれば、単色レーザ光下で散乱光の強度測定を用いてDLSを行い、L1またはH2ペプチドと結合された結合抗体がL2またはH1ペプチドと結合された結合抗体よりも流体力学的半径がさらに小さいことを確認することができる。このようなスイッチングペプチドの流体力学的半径の差は、スイッチングペプチドの結合関係によって標識されたフェロセンと電極表面の接触を立体的に妨害することもできるということを示す。
【0081】
したがって、4種のスイッチングペプチドの幾何学的構造の差を分析するために、スイッチングペプチドの3次元構造をシミュレーションし、この結果を図8Bに示した。図8Bを参照すれば、L1及びH2ペプチドは、L2及びH1ペプチドに比べてさらに多くの水素結合を有し、双極子モーメント方向がフェロセンがさらに近いことを確認することができる。したがって、L1及びH2ペプチドは、分子内水素結合がさらに多い稠密な3次元構造を有しうる。
【0082】
図8Cは、CV分析で、本発明のスイッチングペプチドの拡散係数(Dox)を測定したグラフである。図8Cを参照すれば、L1及びH2ペプチドがH1及びL2ペプチドよりも拡散係数が相対的に高いと表われた。したがって、フェロセンで標識されたL1及びH2ペプチドが電気化学的免疫分析のための最適のプローブである。
【0083】
図9A及び図9Bは、L1スイッチングペプチドを含有する試料溶液に対してDPA方法で測定されたL1スイッチングペプチドの濃度による電流値の変化を示すグラフとH2スイッチングペプチドを含有する試料溶液に対してDPA方法で測定されたH2スイッチングペプチドの濃度による電流値の変化を示すグラフとである。この際、作動電極として熱分解された炭素電極(Pyrolyzed carbon electrode)が使われた。
【0084】
図9Aを参照すれば、DPA方法で測定された電流値は、L1スイッチングペプチドの濃度に依存して変化すると表われた。これは、L1スイッチングペプチドを利用したDPA基盤の免疫分析方法で抗原を定量的に分析することができるということを示す。図9Bを参照すれば、DPA方法で測定された電流値も、H2スイッチングペプチドの濃度に依存して変化すると表われた。これは、H2スイッチングペプチドを利用したDPA基盤の免疫分析方法で抗原を定量的に分析することができるということを示す。
【0085】
また、L1スイッチングペプチドの検出限界(LOD)は、5.9nMであり、H2スイッチングペプチドの検出限界は、10nMであることを確認することができる。したがって、L1及びH2スイッチングペプチドは、電気化学的免疫分析の定量的分析に使われる。
【0086】
図10は、本発明のL1及びH2スイッチングペプチドと結合した結合抗体のヒトB型肝炎抗原(hHBsAg)に対するワンステップイムノアッセイ分析を行った結果である。
【0087】
図10を参照すれば、H2スイッチングペプチドを利用した場合には、hHBsAgに対する免疫分析が不可能であり、L1スイッチングペプチドを利用する場合、可能であると確認された。このような結果は、L1スイッチングペプチドが抗原結合部位付近で密接に結合し、H2スイッチングペプチドの結合部位は、抗原結合部位から相対的に遠く位置するためである。したがって、hHBsAgの免疫分析のためには、L1スイッチングペプチドを選択することが望ましい。
【0088】
図11A及び図11Bは、HBsAg抗原を含有する検出試料溶液に対して第1 L1スイッチングペプチド(フェロセンが末端に結合されたL1ペプチド化合物)を利用した電気化学的免疫分析方法、第2スイッチングペプチド(蛍光ラベルされたL1ペプチド化合物)を利用した光学的免疫分析方法、従来のELISAキットを利用した化学発光基盤の免疫分析方法及び従来のELISAキットを利用したクロモジェニック免疫分析方法を通じて測定された抗原の濃度による分析結果を示すグラフである。前記第1 L1スイッチングペプチドを利用した電気化学的免疫分析方法の結果は、基板に固定され、L1スイッチングペプチドが結合された抗HBsAg抗体にHBsAg抗原を含有する検出試料溶液を処理した後、前記検出試料溶液に対してDPA方法で測定されたものである。
【0089】
図11A及び図11Bを参照すれば、前記第1 L1スイッチングペプチドを利用した電気化学的免疫分析方法は、従来に商用化されたELISAキット基盤の免疫分析方法と類似している範囲で測定が可能であると表われ、LOD(Limit of Detection)の場合、前記第1 L1スイッチングペプチドを利用した電気化学的免疫分析方法が、他の方法よりもさらに敏感であると表われた。
【0090】
図12Aないし図12Bは、実施例2のペプチド化合物を使用した免疫分析の従来の方法との比較のためのブランド-アルトマンテスト及びPassing-Bablok回帰分析を行ったグラフである。
【0091】
図12Aを参照すれば、ブランド-アルトマンテストでは、本発明のワンステップイムノアッセイとELISAとの結果が同一であり、95%(±1.96σ)の信頼範囲内で分布することを示した。図12Bで示すように、Passing-Bablok回帰分析結果、2つの方法の結果が95%の信頼レベル内で分布し、Spearman相関係数(ρ)は、0.975(P<0.0001)と計算された。0.5以上のSpearman相関係数(ρ)は、2つの方法の高い関連性を示すために、2種の統計分析の結果は、ELISAと本発明のスイッチングペプチドに基づいた免疫分析の結果が類似していることを示す。したがって、表面抗原(HBsAg)検出に基づいたヒトのB型肝炎診断が、本発明のスイッチングペプチドを用いて可能であることを示す。
【0092】
以上、本発明の望ましい実施例を参照して説明したが、当業者は、下記の特許請求の範囲に記載の本発明の思想及び領域から外れない範囲内で本発明を多様に修正及び変更させることができるということを理解できるであろう。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
【手続補正書】
【提出日】2023-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2024501572000001.app
【国際調査報告】