(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】バッテリの充電状態および健全状態を推定する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20240105BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240105BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240105BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240105BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240105BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240105BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 A
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 X
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513394
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 IN2021050823
(87)【国際公開番号】W WO2022044046
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】202021037245
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518287272
【氏名又は名称】セデマック メカトロニクス プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】パッブ スラジュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】ワデガオンカール アメイ ピー
(72)【発明者】
【氏名】ジョシ アナイクマール
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA07
2G216BA21
2G216BA54
2G216CB11
5G503BA03
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA08
5G503FA06
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
バッテリの充電状態および健全状態を推定する方法およびシステムが提供される。本発明は、バッテリ(10)の充電状態および健全状態を推定する方法(200)およびシステム(100)に関する。第1のベクトル(x)および第2のベクトル(Θ)を初期化する。第2のベクトル(Θ)の固定値を推測した上で第1の状態空間フィルタを利用した第1の等価回路ソルバによって第1のベクトル(x)を推定して更新する。電気化学モデルに基づき、そして次に第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによって第2のベクトル(Θ)を推定して更新する。電気化学モデルおよび第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによって第2のベクトル(Θ)の更新済み値をマージする。充電状態を第1のベクトル(x)の更新済み値から得るとともに健全状態を第2のベクトル(Θ)のマージされた更新済み値から得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ(10)の充電状態および健全状態を推定する方法(200)であって、
前記バッテリの一般的に知られている電圧値および一般的に知られている充電状態ならびに前記バッテリ(10)のインピーダンスおよび電荷容量(Q)に基づいて第1のベクトル(x)および第2のベクトル(Θ)を初期化するステップと、
前記第2のベクトル(Θ)の固定値を推測した上で第1の状態空間フィルタを利用した第1の等価回路ソルバによって前記第1のベクトル(x)を推定して更新するステップと、
電気化学モデルに基づいて前記第2のベクトル(Θ)を全体的にまたは部分的に推定して更新するステップと、
第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによって前記第2のベクトル(Θ)を全体的にまたは部分的に推定して更新するステップと、
前記電気化学モデルおよび前記第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによる前記第2のベクトル(Θ)の更新済み値をマージするステップと、
前記バッテリ(10)の前記充電状態を前記第1のベクトル(x)の前記更新済み値から得るとともに前記バッテリの前記健全状態を前記第2のベクトル(Θ)の前記マージされた更新済み値から得るステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記第1のベクトル(x)は、前記バッテリ(10)の電圧変数および充電状態を含む状態ベクトルである、請求項1記載の方法(200)。
【請求項3】
前記第2のベクトル(Θ)は、前記バッテリ(10)のインピーダンス要素および電荷容量(Q)を含むパラメータベクトルである、請求項1記載の方法(200)。
【請求項4】
前記第1の等価回路ソルバおよび前記第2の等価回路ソルバに対応した等価回路が、既知の推定インピーダンスを備えた1つ以上のRC素子、およびセルの開回路電圧(Voc)を呈する電圧源を含む、請求項1記載の方法(200)。
【請求項5】
前記等価回路の前記セルの前記開回路電圧(Voc)は、前記セルの前記充電状態の非線形関数である、請求項4記載の方法(200)。
【請求項6】
前記第1の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである、請求項1記載の方法(200)。
【請求項7】
前記第2の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである、請求項1記載の方法(200)。
【請求項8】
前記電気化学モデルは、電解液型拡張単一粒子モデル(Enhanced Single Particle Model)である、請求項1記載の方法(200)。
【請求項9】
バッテリ(10)の充電状態および健全状態を推定するシステム(100)であって、
前記バッテリ(10)のセルにかかる電圧を検出する電圧検出回路系(110)と、
前記バッテリ(10)のセルを通る電流を検出する電流検出回路系(120)と、
前記バッテリの一般的に知られている電圧値および一般的に知られている充電状態ならびに前記バッテリ(10)のインピーダンスおよび電荷容量(Q)に基づいて第1のベクトル(x)および第2のベクトル(Θ)を初期化し、第2のベクトル(Θ)の固定値を推測した上で第1の状態空間フィルタを利用した第1の等価回路ソルバによって前記第1のベクトル(x)を推定して更新し、電気化学モデルに基づいて前記第2のベクトル(Θ)を全体的にまたは部分的に推定して更新し、第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによって前記第2のベクトル(Θ)を全体的にまたは部分的に推定して更新し、前記電気化学モデルおよび前記第2の状態空間フィルタを利用した等価回路ソルバによる前記第2のベクトル(Θ)の更新済み値をマージし、前記バッテリ(10)の前記充電状態を前記第1のベクトル(x)の前記更新済み値から得るとともに前記バッテリの前記健全状態を前記第2のベクトル(Θ)の前記マージされた更新済み値から得るよう構成された中央処理ユニット(140)とを含む、システム(100)。
【請求項10】
前記第1のベクトル(x)は、前記バッテリ(10)の電圧変数および充電状態を含む状態ベクトルである、請求項9記載のシステム(100)。
【請求項11】
前記第2のベクトル(Θ)は、前記バッテリ(10)のインピーダンス要素および電荷容量(Q)を含むパラメータベクトルである、請求項9記載のシステム(100)。
【請求項12】
前記第1の等価回路ソルバおよび前記第2の等価回路ソルバに対応した等価回路が、既知の推定インピーダンスを備えた1つ以上のRC素子、およびセルの開回路電圧(Voc)を呈する電圧源を含む、請求項9記載のシステム(100)。
【請求項13】
前記等価回路の前記セルの前記開回路電圧(Voc)は、前記セルの前記充電状態の非線形関数である、請求項12記載のシステム(100)。
【請求項14】
前記第1の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである、請求項9記載のシステム(100)。
【請求項15】
前記第2の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである、請求項9記載のシステム(100)。
【請求項16】
前記電気化学モデルは、電解液型拡張単一粒子モデル(Enhanced Single Particle Model)である、請求項9記載のシステム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの充電状態および健全状態の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
最新型の電気自動車およびハイブリッド電気自動車は、典型的には、エネルギー貯蔵ユニットとして電気化学電池(セル)、例えばリチウムイオン電池(セル)を用いている。適当な直列と並列の組み合わせ状態に構成された複数のかかるセル(すなわち素電池)は、バッテリ(組電池)を形成する。かかるバッテリは、典型的には、バッテリマネジメントシステム(BMS)に結合され、BMSは、適当なセンサを用いて測定されるセル電圧、電流および温度をモニタするよう構成されている。BMSの主要な機能のうちの1つは、バッテリおよびその構成要素としてのセルの充電状態(SOC)および健全状態(SOH)を推定することにある。BMSのもう一つの重要な機能は、バッテリが所定の「安全動作域」で動作するようにすることであり、その目的は、例えば、セルの過充電、充電不足、温度過昇などの状態を回避することにある。セルの安全動作域は、一般に、セルの動作電圧、温度、およびセルを通って流れる電流に対して上および下しきい値を課す。バッテリは、あらゆるセルが「安全動作域」内にある場合にのみ、「安全動作域」で動作しているといえる。バッテリマネジメントシステムの他の重要な機能として、セル相互間の充電のバランスを取ってセル寿命を延ばす機能および、自動車ネットワークにおいて情報を他のコントローラに伝達する機能が挙げられる。
【0003】
バッテリ中の残存エネルギーを算定するとともに、バッテリを現在の負荷状況に基づいて動作させることができる時間を算定するために、正確な充電状態の予測が必要とされる。バッテリの充電状態はまた、バッテリの再充電をスケジュール設定するための良好な判断を運転手に提供する。バッテリの充電状態は、短期的なバッテリパラメータと見なされるが、健全性状態は、長期的なパラメータと見なされ、と言うのは、バッテリの劣化がその寿命全体にわたって次第に起こるからである。バッテリのSOHは、典型的には、バッテリの全電荷貯蔵容量によって特徴付けられる。SOHを特徴付けるために用いられるもう1つのパラメータは、バッテリの有効出力電力に主要な役割を果たすバッテリの内部インピーダンスである。正確な健全状態予測は、SOCの推定精度を向上させ、と言うのは、SOCの推定精度は、バッテリのモデルパラメータで決まるからである。健全状態予測はまた、バッテリの劣化に関する情報を提供するとともにバッテリの交換をスケジュール決定するのを助ける。
【0004】
SOCを推定するための従来方法の1つは、バッテリを経時的に通る電流を積分することである。しかしながら、この方法は、電流測定ノイズおよび測定オフセット誤差のためにドリフトする恐れがある。SOCを推定するためのもう1つの従来方法は、バッテリのSOCと開回路セル電圧との既知の単調な関係を活用することである。しかしながら、この方法では、バッテリは、相当な期間にわたって電流がバッテリを通って流れていない緩和(relaxed)状態にあることが必要である。より正確なSOCおよびSOH推定方法は、バッテリの正確な等価モデルを活用する。バッテリモデルについて大きくは2つのカテゴリが一般的であり、すなわち、第1のカテゴリは、「等価回路モデル」であり、これは、等価な抵抗器‐キャパシタネットワークによりバッテリ内の基本的な化学現象を模倣するものである。等価回路モデルの例は、直列抵抗モデル、1RC等価回路、2RC等価回路である。第2のカテゴリは、「電気化学モデル」、例えば、DFN(Doyle-Fuller-Newman )モデル、SPM(単一粒子モデル)である。電気化学モデルは、モデル化における基礎をなす複雑さのために計算を多用し、かくして、実用的なBMSシステムでは一般的には用いられていない。一般に、等価回路モデルは、電気化学モデルよりも精度が低いが、実用的なBMSにおける具体化には適している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かくして、少なくとも上述の問題に取り組むバッテリの充電状態および健全状態を推定する方法が当該技術分野において要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点では、本発明は、バッテリの充電状態および健全状態を推定する方法に関する。この方法は、バッテリの一般的に知られている電圧値および一般的に知られている充電状態ならびにバッテリのインピーダンスおよび電荷容量に基づいて第1のベクトルおよび第2のベクトルを初期化するステップと、第2のベクトルの固定値を推測した上で第1の状態空間フィルタを利用した第1の等価回路ソルバによって第1のベクトルを推定して更新するステップと、「電気化学モデル」に基づいて第2のベクトルを全体的にまたは部分的に推定して更新するステップと、第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによって第2のベクトルを全体的にまたは部分的に推定して更新するステップと、電気化学モデルおよび第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによる第2のベクトルの更新済み値をマージするステップと、バッテリの充電状態を第1のベクトルの更新済み値から得るとともにバッテリの健全状態を第2のベクトルのマージされた更新済み値から得るステップとを含む。
【0007】
本発明の一実施形態では、第1のベクトルは、バッテリの電圧変数および充電状態を含む状態ベクトルである。
【0008】
本発明の別の実施形態では、第2のベクトルは、バッテリのインピーダンス要素および電荷容量を含むパラメータベクトルである。
【0009】
本発明の別の実施形態では、第1の等価回路ソルバおよび第2の等価回路ソルバに対応した等価回路が、既知の推定インピーダンスを備えた1つ以上のRC素子、およびセルの開回路電圧を呈する電圧源を含む。
【0010】
本発明の別の実施形態では、等価回路のセルの開回路電圧は、セルの充電状態の非線形関数である。
【0011】
本発明の別の実施形態では、第1の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである。一実施形態では、第2の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである。一実施形態では、電気化学モデルは、電解液型拡張単一粒子モデル(Enhanced Single Particle Model)である。
【0012】
もう一つの観点では、本発明は、バッテリの充電状態および健全状態を推定するシステムに関する。本システムは、バッテリのセルにかかる電圧を検出する電圧検出回路系と、バッテリのセルを通る電流を検出する電流検出回路系とを含む。本システムは、バッテリの一般的に知られている電圧値および一般的に知られている充電状態ならびにバッテリのインピーダンスおよび電荷容量に基づいて第1のベクトルおよび第2のベクトルを初期化し、第2のベクトルの固定値を推測した上で第1の状態空間フィルタを利用した第1の等価回路ソルバによって第1のベクトルを推定して更新し、電気化学モデルに基づいて第2のベクトルを全体的にまたは部分的に推定して更新し、第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによって第2のベクトルを全体的にまたは部分的に推定して更新し、電気化学モデルおよび第2の状態空間フィルタを利用した第2の等価回路ソルバによる第2のベクトルの更新済み値をマージし、バッテリの充電状態を第1のベクトルの更新済み値を得るとともにバッテリの健全状態を第2のベクトルのマージされた更新済み値から得るよう構成された中央処理ユニットをさらに含む。
【0013】
本発明の一実施形態では、第1のベクトルは、バッテリの電圧変数および充電状態を含む状態ベクトルである。
【0014】
本発明の別の実施形態では、第2のベクトルは、バッテリのインピーダンス要素および電荷容量を含むパラメータベクトルである。
【0015】
本発明の別の実施形態では、第1の等価回路ソルバおよび第2の等価回路ソルバに対応した等価回路が、既知の推定インピーダンスを備えた1つ以上のRC素子、およびセルの開回路電圧を呈する電圧源を含む。
【0016】
本発明の別の実施形態では、等価回路のセルの開回路電圧は、セルの充電状態の非線形関数である。
【0017】
本発明の別の実施形態では、第1の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである。一実施形態では、第2の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである。一実施形態では、電気化学モデルは、電解液型拡張単一粒子モデルである。
【0018】
本発明の実施形態を参照し、これら実施形態の実施例が添付の図に示されているといえる。これらの図は、本発明の例示であって、限定ではない。本発明を一般的にはこれらの実施形態との関連で説明するが、理解されるべきこととして、本発明の範囲をこれらの特定の実施形態に限定することは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に従って、バッテリの充電状態および健全状態を推定するシステムを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に従って、バッテリの充電状態および健全状態を推定する方法を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る等価回路ソルバを示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に従って、カルマンフィルタを利用した第1のベクトル推定によるカルマンフィルタを利用した第2のベクトル推定およびeSPMを利用した第2のベクトル推定の仕方を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る等価回路ソルバのための2RC等価回路を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る電気化学電池の内部構造およびそのeSPM等価構造を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に従って、2RCモデルをセルとみなす負電極と関連したキャパシタンスのプロット図である。
【
図8】本発明の一実施形態に従って、2RCモデルをセルとみなす正電極と関連したキャパシタンスのプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、バッテリの充電状態および健全状態を推定する方法およびシステムに関する。特に、本発明は、バッテリの充電状態および健全状態を推定する方法およびシステムであって、バッテリが1つ以上の電気化学電池を含むことを特徴とする方法およびシステムに関する。
【0021】
図1は、バッテリ10の充電状態および健全状態を推定するシステム100を示している。このシステムは、1つ以上のセルスタックを有するバッテリパック10、バッテリ10のセルを通る電流を検出する電流検出回路系120、およびバッテリ10のセルにかかる電圧を検出する電圧検出回路系110を含む。一実施形態では、各セルスタックは、直列および並列の組み合わせ状態に適切に接続された一組のセルを含む。一実施形態では、セルスタックはまた、バッテリのサーマルマップ(温度地図)を得るために1つ以上の温度センサをさらに含む。このシステムでは、電流検出回路系120、電圧検出回路系110、および温度検出回路系130は、セルスタックおよび中央処理ユニット(中央処理装置)140に結合されている。
【0022】
一実施形態では、バッテリ10の電圧、電流および温度データの測定は、バッテリ10に組み込まれた関連のセンサを用いて定期的にサンプリングされる。電圧検出回路系110は、セル電圧をサンプリングするためにセル端子に接続され、温度検出回路系130は、温度データをサンプリングするためにセルスタックの温度センサに接続されている。電流検出回路系120は、バッテリ10中の電流センサを用いて電流データをサンプリングするよう構成されている。中央処理ユニット140は、以下に説明するように、バッテリ10のセルの充電状態(SOC)および健全状態(SOH)を推定するよう構成されている。
【0023】
図2は、バッテリ10の充電状態および健全状態を推定する方法200の方法ステップを示している。ステップ2Aでは、バッテリの一般的に知られている電圧値および一般的に知られている充電状態ならびにバッテリ10のインピーダンスおよび電荷容量(Q)に基づいて第1のベクトル(x)および第2のベクトル(Θ)を初期化する。一実施形態では、第1のベクトル(x)は、バッテリ(10)の電圧変数および充電状態を含む状態ベクトルである。別の実施形態では、第2のベクトル(Θ)は、バッテリ(10)のインピーダンス要素および電荷容量(Q)を含むパラメータベクトルである。
【0024】
ステップ2Bでは、第2のベクトル(Θ)の固定値を推測した上で第1の状態空間フィルタを利用した等価回路ソルバによって第1のベクトル(x)を推定して更新する。
図3は、本発明における基礎をなす第1の等価回路ソルバを示している。第1の等価回路ソルバは、既知の推定インピーダンスを備えた1つ以上のRC素子、およびセルの開回路電圧を呈する電圧源を含む。RC素子のインピーダンスは、第2の状態空間フィルタを利用した等価回路ソルバによって推定され、これについてはさらに説明する。理解されるように、源前後の電圧(Voc)は、充電状態の非線形関数であり、この場合、SOCは、電流“I
cell”および電荷容量(Q)の関数である。等価回路ソルバのインピーダンスは、複数の抵抗および容量(RC)素子で構成される。電流I
cellおよび端子電圧V
tは、セル端子に接続された負荷で決まり、これら変数は両方とも、
図1に示すように電流検出回路系120および電圧検出回路系110を用いて測定される。
【0025】
上述したように、本発明は、
図3に示すような、等価回路ソルバと関連した変数を、状態ベクトル(x)およびパラメータベクトル(Θ)にカテゴライズする。上述したように、一実施形態では、状態ベクトル(x)は、セル内の比較的短期の動力学的特徴を捕捉し、パラメータベクトル(Θ)は、セル内の比較的長期の動力学的特徴を捕捉する。一例として、状態ベクトル“x”は、電圧変数V
1~V
nおよびSOCで構成され、パラメータベクトルは、インピーダンス要素R
0,R
1~R
n,C
1~C
nおよび電荷容量Qで構成される。
【0026】
ステップ2Cでは、電気化学モデルに基づいて第2のベクトル(Θ)を全体的にまたは部分的に推定して更新する。ステップ2Dでは、第2の状態空間フィルタを利用した等価回路ソルバによって第2のベクトル(Θ)を全体的にまたは部分的に推定して更新し、この第2のベクトル(Θ)は、インピーダンスに対する負荷の長期作用効果を捕捉する。
【0027】
図5を参照すると、図示の実施形態では、電気化学電池(例えば、リチウムイオン電池)の2RC等価回路ソルバが示されており、この場合、
図3のインピーダンスのRC部品の数は、2つである。源前後の電圧は、セルの開回路電圧(Voc)がセル中に存在する電荷量の直接的な指標であることを意味している。開回路電圧は、Vocによって表され、この開回路電圧は、充電状態の非線形関数である。インピーダンスは、直列に接続されたDCインピーダンスR
0および2つのACインピーダンス成分によって特徴付けられる。各AC成分は、抵抗RとキャパシタンスCの並列組み合わせである。
【0028】
図5のV
nとV
pは、それぞれのRC部品前後の電圧降下である。
図5の放電電流“I
cell”は、回路端子が負荷に接続されたときの電流の流れ方向を示している。電圧と電流の関係は、次式によって表され、すなわち、
上式において、Voc(SOC)は、セルの化学的特性に特有の所定の関数であり、SOC、V
n、V
pに関する表現は、次の通りである。
上式において、Qは、セルの電荷貯蔵容量である。
本発明のこの実施形態は、等価回路ソルバに関する基礎となる回路として上述の2RC等価回路を用いている。
【0029】
第1の状態空間フィルタの状態ベクトル“x”は、SOC、Vn、Vpで構成されている。電流検出回路系120および電圧検出回路系110を用いて変数Vt、Icellを得ることができる。他のパラメータR0、Rp、Rn、Cp、Cn、Qは、内部の化学構造をエミュレートするセルパラメータであり、そしてかかる他のパラメータは、パラメータベクトル“Θ”にされる。入力変数、例えばIcellは、入力ベクトル“U”にされる。
【0030】
一実施形態では、
図4を参照すると、等価回路ソルバのための第1の状態空間フィルタおよび等価回路ソルバのための第2の状態空間フィルタは、カルマンフィルタである。
図4に示されたブロックレベルアーキテクチャは、状態空間フィルタを示している。第1の等価回路ソルバおよび第2の等価回路ソルバは、セルパラメータを予測するためのエイジング(経年劣化)モデル、例えば既知の「ヌルモデル(Null model)」を前提とするカルマンフィルタを用いる。一実施形態では、カルマンフィルタは、さらに、予測ステップおよび補正ステップとして具体化できる。これらカルマンフィルタは両方とも、最適な出力を提供するために情報を交換することができる。
【0031】
図4および
図6を参照すると、一実施形態では、第2のベクトルの推定および更新のためのステップ2Dで言及した電気化学モデルは、電解液型の拡張単一粒子モデル(Enhanced Single Particle Model:eSPM)である。
図6に示すように、電解液型拡張単一粒子モデルの内部セル構造は、正電荷‐キャリヤ(例えば、リチウムイオン)の移動性の実現を容易にするために電解液で満たされた多孔質の負電極と多孔質の正電極を有する。これら電極は、正電荷‐キャリヤの移動性の実現を可能にする一方で、電子の流れを阻止するためのセパレータを用いて互いに離隔される。負荷を備えた外部の閉電気回路は、電子の流れを容易にし、かくして、電流の流れが作られる。各電極は、電子を移動させることができるように高伝導率の電流コレクタに直に接続されている。
【0032】
セル構造のeSPM等価例は、実際のセルの単一球形構造として等価濃度を有する電極の単一球形構造を採用している。これにより、セルの動力学的モデル化を著しく損なわないで、構造的複雑さが減少する。eSPMモデルはまた、イオン運動にほぼ受動的な役割を果たすセパレータをなくす。電極電流コレクタは、これらが電子の移動にとって欠くことができないので保持される。
【0033】
電極粒子インピーダンスを、
図5に示すような並列RCネットワークに近似させることができる。R
n、C
n成分は、負の電極インピーダンスを示し、R
p、C
p成分は、正電極のインピーダンスを示している。電流コレクタの両方が組み合わされた場合の抵抗は、R
0と関連している。eSPMモデルを利用した電気化学モデルは、C
n、C
pパラメータを、SOCおよび電荷容量Qを含む変数の関数として推定する。これは、正電荷‐キャリヤ(例えば、リチウムイオン)の流れを単一粒子電極相互間で駆動する内部セル拡散の概念を用いている。
図7は、C
nの代表的なプロットをSOCの関数として示し、
図8は、C
pの代表的なプロットをSOCの関数として示している。これらプロットの両方は、セルの経年劣化が続いているときにセルの電荷容量(Q)が悪化し続けることによる変動を示している。“Θ”をeSPMモデルに基づいて更新することにより、入力されたSOCおよび“Θ”パラメータに基づいてC
n、C
p値が予測される。
【0034】
ステップ2Eでは、上述したように電気化学モデルおよび第2の状態空間フィルタを利用した等価回路ソルバによる第2のベクトル(Θ)の更新済み値をマージすると、その結果として、第2のベクトル(Θ)のより正確な推定が得られる。最後に、ステップ2Fでは、上述したように、バッテリの充電状態を第1のベクトル(x)の更新済み値から得るとともにバッテリの健全状態を第2のベクトル(Θ)のマージされた更新済み値から得る。
【0035】
有利には、本発明は、等価回路モデルの単純性から恩恵を受ける一方で、電気化学モデルの精度からの恩恵をも受けるバッテリの充電状態および健全状態の推定方法を提供する。
【0036】
さらに、本発明のシステムおよび方法は、電気自動車またはハイブリッド自動車用のバッテリマネジメントシステムに組み込み可能であり、それにより、極めて正確なだけでなく、それほど計算しなくても済むバッテリの充電状態および健全状態の推定システムが提供される。バッテリの充電状態の正確な予測は、バッテリが充電される必要のある時期および電気自動車の走行可能範囲に関してユーザに示し、バッテリの健全状態の正確な予測は、バッテリを交換する必要のある時期に関してユーザに示す。
【0037】
本発明をある特定の実施形態に関して説明したが、当業者には明らかなように、以下の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更および改造を行うことができる。
【国際調査報告】