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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】組換えタンパク質を精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/765 20060101AFI20240105BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20240105BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240105BHJP
【FI】
C07K14/765
C07K1/16
C07K19/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518533
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(85)【翻訳文提出日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2020134385
(87)【国際公開番号】W WO2022120547
(87)【国際公開日】2022-06-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522062494
【氏名又は名称】通化安睿特生物製薬股▲フェン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】項 ▲イ▼
(72)【発明者】
【氏名】岳 志蕾
(72)【発明者】
【氏名】趙 洪志
(72)【発明者】
【氏名】▲ショウ▼ 聡偉
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA02
4H045DA11
4H045DA15
4H045DA30
4H045DA70
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA21
4H045GA23
(57)【要約】
本発明は、(a)アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を、組換えタンパク質を含有するサンプルに添加するステップと、(b)得られたサンプルに対して、アミノグアニジンを含有するクロマトグラフィー緩衝液で、クロマトグラフィーを行うステップと、を含む、組換えタンパク質、特に組換えヒトアルブミンを精製する方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を、組換えタンパク質を含有するサンプルに添加するステップと、
(b)得られたサンプルに対して、アミノグアニジンを含有するクロマトグラフィー緩衝液で、クロマトグラフィーを行うステップと、を含む、
組換えタンパク質を精製する方法。
【請求項2】
ステップ(a)における前記アミノグアニジンの濃度は、2~100mmol/g(組換えタンパク質)である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中長鎖脂肪酸は、オクタン酸、カプリン酸、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)のうちの1つ又は複数、及びそれらの塩から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記中長鎖脂肪酸の濃度は、2~300mmol/g(組換えタンパク質)であり、好ましくは6~150mmol/g(組換えタンパク質)である、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記クロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィー及び疎水性クロマトグラフィーを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおけるクロマトグラフィー平衡化液、洗浄液又は溶出緩衝液中のアミノグアニジンの濃度は、1~200mmol/Lである、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおけるクロマトグラフィー平衡化液及び洗浄液のpHは、4.0~6.0の間にあり、好ましくは4.0~5.5の間にあり、溶出液のpHは、7.0~9.5の間にあり、好ましくは7.0~8.5の間にある、
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおけるクロマトグラフィー平衡化液及び洗浄液の導電率は、15ms/cm以下であり、好ましくは10ms/cm以下であり、溶出液の導電率は、30ms/cm以下であり、好ましくは25ms/cm以下である、
請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおけるクロマトグラフィー平衡化液及び洗浄液は、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液又はTris緩衝液であり、好ましくはリン酸緩衝液又は酢酸緩衝液である、
請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおける媒体基材は、ポリアクリレート基材、ポリスチレン-ジビニルベンゼン基材、アガロース基材、変性セルロース基材から選択され、好ましくは親水性に変性されたポリアクリレート基材又はポリスチレン-ジビニルベンゼン基材である、
請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおける媒体に、高耐塩性のSepharose Capto MMCを含む疎水性陽イオンリガンドがカップリングされている、
請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおける媒体は、Uni-SP系、UniGel-SP系、NanoGel-SP系、MonoMix-HC SP系、MonoMix-MC SP系、アガロースのSepharose系又はBestarose系から選択される、
請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記疎水性クロマトグラフィーにおける媒体は、親水性に変性されたアガロース、ポリアクリレート、ポリスチレン-ジビニルベンゼン基材微小球であり、それにPhenyl又はButyl系の疎水性リガンドがカップリングされており、或いは、前記疎水性クロマトグラフィーにおける媒体は、親水性ポリメタクリレート基材であり、それにPhenyl又はButyl系の疎水性リガンドがカップリングされている、
請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記疎水性クロマトグラフィーにおける媒体は、UniHR Phenyl系、NanoHR Phenyl系、UniHR Butyl系、NanoHR Butyl系、MonoMix-MC Butyl系又はMonoMix-MC Phenyl系、アガロースのSepharose系又はBestarose系から選択される、
請求項5に記載の方法。
【請求項15】
前記疎水性クロマトグラフィーにおけるpHは、6.0~8.5の間にあり、好ましくは6.5~8.0の間にある、
請求項5に記載の方法。
【請求項16】
前記疎水性クロマトグラフィーにおける導電率は、30ms/cm以下であり、好ましくは25ms/cm以下である、
請求項5に記載の方法。
【請求項17】
前記疎水性クロマトグラフィーにおけるローディング溶液中のアミノグアニジンの濃度は、1~100mmol/g(組換えタンパク質)である、
請求項5に記載の方法。
【請求項18】
前記アミノグアニジンは、その塩の形態であり、好ましくはその塩酸塩である、
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記組換えタンパク質は、組換えヒトアルブミンである、
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記組換えタンパク質は、G-CSF、GLP-1、インターフェロン、成長ホルモン、インターロイキン、それらの類似体、及び上記タンパク質とアルブミンとの融合タンパク質である、
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記組換えタンパク質を含有するサンプルは、発酵上澄み液である、
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質の精製方法に関する。具体的には、本発明は、組換えタンパク質、特に組換えヒトアルブミンを含有するサンプルから組換えタンパク質を効率的に精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトアルブミンの構造は、ハート形構造の一本鎖非グリコシル化タンパク質であり、585個のアミノ酸、17対のジスルフィド結合、1つの遊離チオール基を有し、分子量が66438ダルトンである。ヒトアルブミンの人体における半減期は、19~21日間である。ヒトアルブミンのハート形構造は、3つの主なドメインと、17個のジスルフィド結合で包まれた6つのサブドメインとで構成され、それらがファンデルワールス力により緩く結合される。その結晶構造から分かるように、ジスルフィド架橋は、螺旋状の球状構造に剛性を与えるとともにタンパク質が周囲の媒体の変化に応じて構造変化を行うことができるように十分な柔軟性を提供する。
【0003】
ヒトアルブミンは、一般的に、ヒト血清から抽出し分離して精製されることで製造され、ヒト血清アルブミンと総称される。ヒト血液由来のヒトアルブミンは、血漿源の数量制限、血漿提供者によるウイルス汚染、個体抗体及びタンパク質の差異の影響を受けるため、臨床使用において大きなリスクが存在する。従って、多くの国のヒト血清アルブミンの使用説明書には、いずれも、例えば、「ヒト血液又は血漿製品を使用することによる感染を予防するために講じた標準的な措置は、供血者の選択、単回の提供された血液のスクリーニング又は血漿プールの特別な感染マークのスクリーニング及びウイルス不活性化/除去のための効果的な製造工程の使用を含む。それにもかかわらず、血液又は血漿から製造された医薬製品を使用する場合、感染性病原因子により感染する可能性を排除することができない。これは、未知の、又は新たに現れるウイルス及び他の病原体を含む」というウイルス安全性についての説明がある。従って、遺伝子組換え方法を用いることは、ウイルスの汚染がないアルブミンを効果的に得る最適な経路である。
【0004】
現在、微生物発現による遺伝子組換えヒトアルブミンを大量生産可能な最も一般的な方式は、主に酵母発現系であり、出芽酵母及びピキア酵母が最も成熟している。しかしながら、ヒトアルブミンは、大容量の注射剤に属するため、毎回の注射用量が5~30gに達することができる。従って、毎回の注射用量の全体的な宿主タンパク質の残留量及び製造過程における汚染物質のELISA検査結果が1ng/ml(200mg/ml-rHA)以下に要求しなければならない。どのような方式で組換えヒトアルブミンの製造を行うかにもかかわらず、その免疫原性は、グリコシル化、酸化、多量化及び凝集などのタンパク質の翻訳後修飾をさらに含む。従って、効率的で特異的な精製は、高純度の組換えヒトアルブミンを得るプロセスの重要な要素である。
【0005】
従来の精製プロセスは、既存の精製媒体を用い、そのプロセスが複雑であり、一般的に超高純度の組換えヒトアルブミンを得ることができない。中国特許出願第1127299号には、発酵液と菌体を共に加熱して酵母活性を不活性化したプロテアーゼが開示され、そのSepharose-Streamline-SPを用いる第1ステップの濃縮及び精製において約20~30%以上の二量体が現れ、加熱還元して解重合し、次にHIC疎水性クロマトグラフィーで45KDaのアルブミン断片を除去し、さらにSepharose-DEAEクロマトグラフィーで色素を除去する必要がある。当該出願において、発酵液と菌体を58~65℃以上で加熱してプロテアーゼを不活性化するため、酵母菌に熱ショックタンパク質、組換えヒトアルブミン及び宿主タンパク質の架橋が発生し、その後のクロマトグラフィー精製が困難になる。また、菌体と発酵液が共に流動層を通って流れるSepharose-Streamline-SPクロマトグラフィーの分離精製及び動作効率はいずれも低い。
【0006】
中国特許出願第101768206号、第1854155及び第1496993号には、高耐塩性のSepharose HSL型陽イオン媒体を用いて発酵液中の組換えヒトアルブミンを濃縮し捕捉し、次にSepharose phenylのHIC媒体を用いてアルブミン断片を除去し、さらにSepharose DEAEをSepharose aminobutyl陰イオン交換クロマトグラフィー媒体に置き換えることにより、収率を向上させることが開示されている。
【0007】
中国特許出願第1810834号、第1550504号及び第1880334号に、Sepharose SP FFを用いて組換えヒトアルブミンを捕捉し濃縮し、次にDeltaブルーカラムによるアフィニティークロマトグラフィーでアルブミンを吸着して45KDaのアルブミン断片及び酵母の宿主タンパク質を除去することが開示され、ブルーカラムはブルー染料のリガンド脱落及び安全性の欠点を有し、アフィニティークロマトグラフィーで組換えヒトアルブミンを分離するプロセス設計が精製の効率を低下させる。その後に用いられるSー200HRのモレキュラーシーブも精製効率が低いステップである。
【0008】
上記開示されている特許により、高純度組換えヒトアルブミンを効果的に得ることができるが、精製の初期段階での捕捉及び濃縮過程において生成される重合体の量が大きく、再び解重合が必要となり、当該解重合プロセスにはミスマッチなどの、免疫原性を含有する組換えヒトアルブミンが現れる可能性がある。
【0009】
従って、本分野では、組換えタンパク質、特に組換えヒトアルブミンを効率的に精製する方法について、持続的な需要が存在する。これにより、重合体の生成が減少し、宿主タンパク質、色素及び糖類物質と組換えタンパク質との相互作用が抑制される。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、
(a)アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を、組換えタンパク質を含有するサンプルに添加するステップと、
(b)得られたサンプルに対して、アミノグアニジンを含有するクロマトグラフィー緩衝液で、クロマトグラフィーを行うステップとを含む、組換えタンパク質、特に組換えヒトアルブミンを効率的に精製する方法を提供する。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記組換えタンパク質を含有するサンプルは、発酵上澄み液である。好ましくは、遠心分離、固液分離、加熱による不活性化、中空繊維限外濾過又は/及び深層濾過による清澄化分離という一般的な技術を用いて、発酵液から澄んだ上澄み液を取得する。
【0012】
本発明の一実施形態において、遠心分離機を用いて固液分離を行って、発酵菌体と上澄み液を迅速に分離することにより、発酵液の均一性を保持することができ、発酵液に対して固液分離を行った後、オクタン酸ナトリウムなどの熱安定剤の条件下で、発酵上澄み液を55℃~68℃で加熱して、再び固液分離を行い、次に300~500KDaの平膜カセット若しくは中空糸膜、又は膜孔径が0.1~2μmの間にある中空繊維を用いて清澄化処理を行う。清澄化処理は、加熱による不活性化の前後でそれぞれ1回行ってもよい。
【0013】
本発明の別の実施形態において、上記ステップ(a)における前記アミノグアニジンの濃度は、2~100mmol/g(組換えタンパク質)であり、好ましくは3~80mmol/g(組換えタンパク質)である。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記中長鎖脂肪酸は、オクタン酸、カプリン酸、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)のうちの1つ又は複数、及びそれらの塩から選択される。一実施形態において、前記中長鎖脂肪酸の濃度は、2~300mmol/g(組換えタンパク質)である。好ましくは、前記中長鎖脂肪酸の濃度は、6~150mmol/g(組換えタンパク質)である。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記クロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィー及び疎水性クロマトグラフィーを含む。
【0016】
他の実施形態において、前記組換えタンパク質は、G-CSF、GLP-1、インターフェロン、成長ホルモン、インターロイキン、それらの類似体、及び上記タンパク質とアルブミンとの融合タンパク質であってもよい。
【0017】
従来技術とは異なり、本願の発明者は、組換えヒトアルブミンを含有するサンプルにアミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を添加し、次に陽イオンクロマトグラフィー及び疎水性クロマトグラフィー(アミノグアニジンを含有するクロマトグラフィー緩衝液で実行)を行うことで、以下の効果を達成できる。第一、アミノグアニジンは、従来の陽イオン交換媒体では二量体、多量体及びヘテロマーを生成しやすいという現象を阻止し減少させることができ、中長鎖脂肪酸は、能動的で強いリガンドとして、大部分の宿主タンパク質、色素及び糖類物質とアルブミンとの相互作用を抑制する。従って、本発明の実施形態により、陽イオン交換クロマトグラフィーに一般的に存在する重合体、ヘテロマー、色素及び宿主タンパク質が大幅に減少する。第二、アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸の存在で、45KDa分子量の組換えアルブミン断片間の相互ジスルフィド結合重合を抑制することにより、多くの折り畳み不能なタンパク質断片の疎水領域が露出し、疎水性クロマトグラフィーで組換えヒトアルブミンの小分子断片及び大量の疎水性不純物がより徹底的に除去され、強い疎水性構造を有する酵母色素が除去される。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおけるクロマトグラフィー平衡化液、洗浄液又は溶出緩衝液中のアミノグアニジンの濃度は、1~200mmol/Lであり、好ましくは1~150mmol/Lである。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおけるクロマトグラフィー平衡化液及び洗浄液のpHは、4.0~6.0の間にあり、好ましくは4.0~5.5の間にあり、溶出液のpHは、7.0~9.5の間にあり、好ましくは7.0~8.5の間にある。
【0020】
本発明の一実施形態において、陽イオン交換クロマトグラフィーにおけるクロマトグラフィー平衡化液及び洗浄液の導電率は、15ms/cm以下であり、好ましくは10ms/cm以下であり、溶出液の導電率は、30ms/cm以下であり、好ましくは25ms/cm以下である。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおけるクロマトグラフィー平衡化液及び洗浄液は、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液又はTris緩衝液であり、好ましくはリン酸緩衝液又は酢酸緩衝液である。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおける媒体基材は、ポリアクリレート基材、ポリスチレン-ジビニルベンゼン基材、アガロース基材、変性セルロース基材である。
【0023】
本発明の一実施形態において、前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおける媒体に、高耐塩性のSepharose Capto MMCを含む疎水性陽イオンリガンドがカップリングされている。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記陽イオン交換クロマトグラフィーにおける媒体は、Uni-SP系、UniGel-SP系、NanoGel-SP系、MonoMix-HC SP系、MonoMix-MC SP系、アガロースのSepharose系又はBestarose系から選択される。
【0025】
本発明の一実施形態において、前記疎水性クロマトグラフィーにおける媒体は、親水性に変性されたアガロース、ポリアクリレート、ポリスチレン-ジビニルベンゼン基材微小球であり、それにPhenyl又はButyl系の疎水性リガンドがカップリングされており、或いは、疎水性クロマトグラフィーにおける媒体は、親水性ポリメタクリレート基材であり、それにPhenyl又はButyl系の疎水性リガンドがカップリングされている。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記疎水性クロマトグラフィーにおける媒体は、UniHR Phenyl系、NanoHR Phenyl系、UniHR Butyl系、NanoHR Butyl系、MonoMix-MC Butyl系、MonoMix-MC Phenyl系、アガロースのSepharose系又はBestarose系から選択される。
【0027】
陽イオン交換クロマトグラフィー及び疎水性クロマトグラフィーに対して、好ましくは、親水性に表面変性されたポリアクリレート、ポリスチレン-ジビニルベンゼン又はポリメタクリレート基材微小球に陽イオンリガンド又は疎水性リガンドがカップリングされている分離媒体を選択する。
【0028】
本発明に用いられる親水性に変性されたポリアクリレートポリマー微小球基材の分離媒体は、さらに例えばメルクミリポア社製のFractogel(登録商標)型の親水性に変性されたイオン交換、疎水性相互作用及びアフィニティークロマトグラフィーフィラー製品のポリメタクリレート基材であり、陽イオン交換媒体Fractogel(登録商標) EMD SO3-(S) Resin系、Fractogel(登録商標) SO3-(strong CEX)系、Fractogel(登録商標) SE Hicap(strong CEX)系又はEshmuno(登録商標) S(strong CEX)系などを含むが、これらに限定されない。
【0029】
本発明は、同じ基材媒体を合成した後に親水性に変性された陽イオンと疎水性分離媒体を含むが、これらに限定されない。
【0030】
本発明において、好ましくは、上記のようなメルクミリポア社製のFractogel(登録商標)型の親水性に変性されたポリメタクリレート基材の分離媒体、及び蘇州Nanomicrotech社又はセパックステクノロジーズ社(Sepax Technologies,Inc)により製造された上記親水性に変性されたポリアクリレート又はポリスチレン-ジビニルベンゼン基材微小球のカップリング及び分離媒体を選択し、最も好ましくは、蘇州Nanomicrotech社又はセパックステクノロジーズ社(Sepax Technologies,Inc)により製造された上記親水性に変性されたポリアクリレート又はポリスチレン-ジビニルベンゼン基材微小球のカップリング及び分離媒体である。
【0031】
本発明の各クロマトグラフィーステップの間の緩衝液交換及び濃縮過程は、分離孔径が分子量1KDa~30KDaの間にある中空糸膜及び平膜カセットなどの装置及び機械を用いて実施してもよく、使用順序及び交差使用を含むが、これらに限定されない。
【0032】
本発明のクロマトグラフィーステップの間の緩衝液交換について、Sephadex G25又はSuperdex G75を用いて緩衝液交換処理を行ってもよい。
【0033】
なお、本願の発明者は、上記クロマトグラフィーにおいて、好ましくは、直径が10μm~150μmのポリアクリレート、ポリメタクリレート又はポリスチレン-ジビニルベンゼン微小球を用い、親水性被覆変性した後、陽イオン交換媒体のUni-SP系、UniGel-SP又はNanoGel-SP系、MonoMix-HC SP又はMonoMix-MC SP系などの陽イオン、疎水性クロマトグラフィーのUniHR Phenyl系、NanoHR Phenyl系、UniHR Butyl系及びNanoHR Butyl系、MonoMix-MC Butyl系又はMonoMix-MC Phenyl系などの疎水性リガンドをグラフト化し、このような分離精製媒体がポリアクリレート、ポリメタクリレート又はポリスチレン-ジビニルベンゼン自体或いはコーティングの疎水性をある程度保持することにより、アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を含有する組換えヒトアルブミンのクロマトグラフィーにおいて色素及び宿主タンパク質がより容易に除去される、ということを予想外に発見した。
【0034】
本発明の一実施形態において、前記疎水性クロマトグラフィーにおけるpHは、6.0~8.5の間にあり、好ましくは6.5~8.0の間にある。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記疎水性クロマトグラフィーにおける導電率は、30ms/cm以下であり、好ましくは25ms/cm以下である。
【0036】
本発明の一実施形態において、前記疎水性クロマトグラフィーにおけるローディング溶液中のアミノグアニジンの濃度は、1~100mmol/g(組換えタンパク質)である。
【0037】
本発明の一実施形態において、前記アミノグアニジンは、その塩の形態であり、好ましくはその塩酸塩である。
【0038】
本発明に係る方法は、主に酵母で発現された発酵上澄み液の精製プロセスの前期に応用され、発酵液の濃縮過程において精製精度を向上させて、後期の精製において効率を向上させ、収率を増加させ、コストを低減することに役立つ。
【0039】
本発明に係る方法は、精製プロセス、中間精製プロセスを含むが、これらに限定されない組換えヒトアルブミンの他のプロセスに応用されてもよい。
【0040】
本発明の他の具体的な実施形態に用いられる親水性に変性されたポリアクリレート、ポリメタクリレート又はポリスチレン-ジビニルベンゼン重合微小球は、その孔径が300Å~3000Åの間にあり、その直径が10μm~150μmの間にある。
【0041】
本発明の他の具体的な実施形態に用いられるポリアクリレート又はポリスチレン-ジビニルベンゼンポリマーで構成された10μm~150μmの間の微小球は、高強度ポリマー材料に属し、カラムベッドが100mm~800mmの間になるように充填される。好ましくは250mm~600mmの間になるように充填される。
【0042】
本発明の他の具体的な実施形態に用いられるポリアクリレート又はポリスチレン-ジビニルベンゼンポリマー微小球は、直径分布が均一であり、逆圧が相対的に低く、連続流クロマトグラフィーによる分離及び精製を行う。
【0043】
本発明の前記クロマトグラフィーの条件を汎用の指導マニュアルに従って一定に調整し変更することができる。
【0044】
本発明の前記クロマトグラフィーの間に、他のいくつかの一般的な方法で透析、限外濾過及び低温不活性化などのステップを行うことができ、本発明の実施効果に影響を与えない。
【0045】
組換えヒトアルブミンの精製について、任意に、上記クロマトグラフィーが最終的に完了した後、100KDa及び/又は30KDa及び/又は10KDaの平膜カセットを用いて、高分子凝集体を保持し、小分子物質を除去し、精製し続け、緩衝液を交換し、かつ濃度が20%より大きい組換えヒトアルブミン原液に濃縮することができる。なお、組換えヒトタンパク質を発現する宿主細胞は、酵母、サッカロミセス属を含む出芽酵母、Kluyreromyces属、ポリモルファ属及びピキア酵母属を含むが、これらに限定されない。
【0046】
特に定義されない限り、本明細書に使用される全ての専門用語及び科学用語は、当業者に通常理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本願の明細書が優先する以下、好ましい方法及び材料を説明するが、本明細書に記載されたものに類似又は同等のそれらの方法及び材料は、いずれも本発明の実施及び試験に適用できる。本明細書に開示されている材料、方法及び実施例は、例示的なものであり、限定するものではない。
【0047】
本明細書において、用語「組換えヒトアルブミン」は、「組換えヒト血清アルブミン(重組人血清白蛋白)」、「組換えヒト血清アルブミン(重組人血白蛋白)」、「rHA」及び/又は「rHSA」と呼ばれてもよい。用語「ヒト血清アルブミン」とは、ヒト血清から抽出されたヒトアルブミンを指し、「ヒト血清アルブミン」、「HSA」、「HA」及び/又は「pdHSA」と呼ばれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】アミノグアニジンを含有しない精製プロセスを用いて、第1ステップの濃縮及び精製を行う場合の量体生成状況を示す。
図2】アミノグアニジンを添加することで二量体、多量体及びヘテロマーの生成を阻止し減少させることができる、本発明の一実施形態に係る方法を示す。
図3】中長鎖脂肪酸を添加しない場合の、疎水性クロマトグラフィーにより得られた液体のHPLC-C4検出スペクトルを示す。
図4】中長鎖脂肪酸を含有する場合の、疎水性クロマトグラフィーにより得られた液体のHPLC-C4検出スペクトルを示し、中長鎖脂肪酸が、能動的で強いリガンドとして、大部分の宿主タンパク質、色素及び糖類物質とアルブミンとの相互作用を抑制することを示す。
図5】実施例4の方法でアミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を含有しない/含有する精製プロセスで精製する場合の抗HCP-Western Blottingの還元スペクトルを示す。
図6】実施例4の方法でアミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を含有しない/含有する精製プロセスで精製する場合の抗HCP-Western Blottingの非還元スペクトルを示す。レーン1~6は、それぞれ陽イオン交換により得られた溶液-1、陽イオン交換により得られた溶液-3、陽イオン交換により得られた溶液-4、陽イオン交換により得られた溶液-5、陽イオン交換により得られた溶液-6及び陽イオン交換により得られた溶液-7であり(ローディング溶液の体積がいずれも0.14ulである)、そのうち、数字符号は、精製過程におけるサブバッチ番号であり、-2バッチの実験過程においてサンプルを残して他の実験を行い、-1/-3/-4は、アミノグアニジンを含有しない製造プロセスにより製造されたサンプルであり、-4/-5/-6は、本発明に従ってアミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を添加する製造プロセスにより製造されたサンプルである。
図7】実施例4に係る方法で同じ陽イオン交換クロマトグラフィーにより得られた液体に対して2種類の精製プロセスの比較検出を行って得られた非還元電気泳動SDS-PAGEスペクトルである。本実験において、同じバッチの陽イオン交換クロマトグラフィーにより得られた液体に対して、アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を含有する精製プロセスとアミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を含有しない精製プロセスとをそれぞれ行って、タンパク質を精製し、量体の生成状況を比較した。-1は、アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を添加しない精製製造プロセスにより精製されたサンプルを表し、2は、本発明に従ってアミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を添加する精製製造プロセスにより精製されたサンプルである。レーン1~10のローディング溶液の状況は以下のとおりである。 1 陽イオン交換クロマトグラフィーにより得られた液体 0.2ul 2 疎水性クロマトグラフィーにおけるローディングフロースルー溶液-1 5ul 3 疎水性クロマトグラフィーにより目標として得られた溶液-1 0.2ul 4 疎水性クロマトグラフィーにおける洗浄液-1 1ul 5 疎水性クロマトグラフィーにおける清浄液-1 5ul 6 疎水性クロマトグラフィーにおけるローディングフロースルー溶液1#サンプル-2 5ul 7 疎水性クロマトグラフィーにおけるローディングフロースルー溶液2#サンプル-2 0.5ul 8 疎水性クロマトグラフィーにより目標として得られた溶液-2 0.2ul 9 疎水性クロマトグラフィーにおける洗浄液-2 2ul 10 疎水性クロマトグラフィーにおける清浄液-2 2ul
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の発酵は、10L、20L、3000L及び100000Lという規模の機器で実施され、精製は、それぞれカラム直径が10cm、45cm、120cmの規模で実施され、その拡張性が高い。本実施例は、以上の規模を含むが、これらに限定されない。以下の実施例は、図面を参照して本発明の特徴及び利点をさらに理解するためのものであり、いずれかの方式で本発明から解釈される他の内容を限定するものではない。
【実施例1】
【0050】
発酵及び固液分離
【0051】
中国特許第102190722号の方法に従って、ピキア酵母菌を構築し、最適化された培地及び培養パラメータで発酵し、300時間発酵して、12g/Lの組換えヒトアルブミンの発酵液を得た。発酵液中の菌体を遠心分離して、上澄み液を得て、加熱安定剤(オクタン酸ナトリウム)を20mMの最終濃度まで、アミノグアニジンを30mMの最終濃度まで、システインを10mMの最終濃度まで、N-アセチルトリプトファンを5mMの最終濃度まで添加し、64℃で60分間加熱してプロテアーゼを不活性化した。0.22μmの中空糸膜で濾過して清澄化し、注射用水で洗浄した後、酢酸でpHを4.0~4.5の間に調整した。
【0052】
UniGel SPをカラムに充填し、カラムベッドの高さが400mmであり、pHが4.1である50mM HAc+50mM NaCl+10mM アミノグアニジンの平衡化液でクロマトグラフィーカラムを平衡化し、清澄化して分離された発酵液(30mmol/gアルブミンのオクタン酸ナトリウムを含む)をローディングし、平衡化液でクロマトグラフィーカラムを洗浄し、さらにpHが8.3である50mM PB+170mM NaCl+10mM アミノグアニジンの溶出液で標的タンパク質を溶出し、溶出が完了した後に、1M NaCl+0.5M NaOHの溶液及び水で媒体を徹底的に洗浄し再生させた。
【実施例2】
【0053】
疎水性クロマトグラフィー
【0054】
実施例1において得られた溶出液を、平衡化された疎水性クロマトグラフィーカラム(UniHR Phenyl-80L、カラムベッドの高さ400mm)に直接的にローディングし、平衡化液がpHが7.8である50mM PB+160mM NaCl+10mM アミノグアニジンであり、平衡化液でクロマトグラフィーカラムを洗浄し、組換えヒトアルブミン成分を含むサンプルを得て、0.01MのNaOH及び水で媒体を徹底的に洗浄し再生させた。
【実施例3】
【0055】
限外濾過によるアミノグアニジンの除去
【0056】
実施例2において得られたタンパク質溶液に対して、30KDa及び/又は10KDaの平膜カセットで溶液交換を行い、アミノグアニジンなどの安定剤を除去し、精製し続け、交換して、濃度が20%より大きい組換えヒトアルブミン原液に濃縮した。
【実施例4】
【0057】
本発明の精製プロセスと、アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を含有しない精製プロセスとの比較
【0058】
同じ発酵プロセスで製造された発酵液を、アミノグアニジン及び中長鎖脂肪酸を添加しない精製条件下で精製し、本発明の実施例1及び実施例2の方法に従ってアミノグアニジン及びオレイン酸ナトリウムを添加した条件下で精製し、精製効果の比較、液相検出の比較(図1図2図3図4)、電気泳動検出の比較(図5図6図7)、糖検出結果(表1)の比較をした結果、違いは明らかであった。
【0059】
【表1】
【実施例5】
【0060】
タンパク質精製過程における品質制御項目の検出方法
【0061】
1、HPLCアッセイ:クロマトグラフィーの主な検出方法は、HPLC-SECアッセイ/HPLC-C4アッセイであった。
【0062】
検出方法:『中国薬典』2015年版第3部通則3121におけるヒト血清アルブミンにおける多量体の測定法を参照して、対応する検出方法を確立して組換えヒトアルブミン溶液中の量体(多量体及び二量体を含む)を測定し、
検出方法:『中国薬典』2015年版第3部通則0512における高速液体クロマトグラフィーを参照して、対応する検出方法を確立して組換えヒトアルブミン溶液中の色素結合タンパク質及び一部の糖結合タンパク質を測定した。
【0063】
2、電気泳動検出法:疎水性クロマトグラフィーの主な検出方法は、SDS-PAGE電気泳動であった。
【0064】
検出方法:『中国薬典』2015年版第4部(通則0541第5法におけるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)を参照して、サンプル検出を行い、
『中国薬典』2015年版第4部(通則3401における免疫ブロット法)を参照して、関連するサンプルの検出を行った。
3、PAS法による糖含有量の検出:
【0065】
試験品溶液に塩酸溶液を添加して溶液のpHを酸性にし、過ヨウ素酸ナトリウムを添加し、十分に混合し、室温条件下で、試験品中の多糖類のシスのエチレングリコール基をアルデヒドに酸化し、氷浴で反応を停止させ、氷硫酸亜鉛及び水酸化ナトリウムを添加してタンパク質を沈殿させ、遠心分離機で8000回転で15分間遠心分離した後に上澄み液を吸引して、96ウェルプレートに入れ、さらに新たに調製されたアセチルアセトネート酢酸アンモニウムの混合液を添加し、37℃の条件下で1時間インキュベートした。全自動マイクロプレートリーダで405nmの波長で比色を行って、糖含有量を計算した。
【0066】
本発明のいくつかの特徴は本明細書に説明し記載されるが、当業者であれば、多くの修正、代替、変更及び同等物を想到することができる。従って、添付の特許請求の範囲は、本発明の実際の精神範囲内にある全てのこのような修正及び変更を含むことを意図することを理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】