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特表2024-501657IL-31に結合する抗体可変ドメイン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】IL-31に結合する抗体可変ドメイン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240105BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20240105BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240105BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/24 ZNA
C07K16/46
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P37/08
A61P37/06
A61P29/00
A61P17/04
A61K39/395 U
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537576
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2021087568
(87)【国際公開番号】W WO2022136672
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20216938.9
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20216957.9
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20216928.0
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515310984
【氏名又は名称】ヌマブ セラピューティクス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ユリア ティーツ
(72)【発明者】
【氏名】テア グンデ
(72)【発明者】
【氏名】マリア ヨハンソン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン バルムート
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル シモナン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ヘス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、IL-31に特異的に結合する抗体可変ドメインと多重特異性抗体とに関し、前記多重特異性抗体は、1つ又は2つの前記抗体可変ドメインと、IL-31とは異なる標的に特異的に結合する少なくとも1つのさらなる結合ドメインとを含む。本発明はさらに、前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体をコードする1つの核酸又は2つの核酸と、前記核酸若しくは前記複数の核酸を含むベクターと、前記核酸若しくは複数の核酸又は前記1つ又は複数のベクターとを含む1つ又は複数の宿主細胞と、及び前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体を産生する方法とに関する。さらに本発明は、前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体を含む医薬組成物と、その使用方法とに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-31に特異的に結合する、抗体可変ドメインであって、
a)配列番号5、6、及び7から選択される配列を有するVH鎖、及び
b)配列番号12及び37から選択される配列を有するVL鎖、
を含む、抗体可変ドメイン。
【請求項2】
以下:
a)配列番号5の配列を有するVH鎖と配列番号12の配列を有するVL鎖、又は
b)配列番号6の配列を有するVH鎖と配列番号12の配列を有するVL鎖、又は
c)配列番号7の配列を有するVH鎖と配列番号7の配列を有するVL鎖、又は
d)配列番号5の配列を有するVH鎖と配列番号5の配列を有するVL鎖、
を含む、請求項1に記載の抗体可変ドメイン。
【請求項3】
FAB、Fv、scFv、及びDSFvから選択される、請求項1又は2に記載の抗体可変ドメイン。
【請求項4】
配列番号27~29及び31のscFv抗体から選択される、請求項3に記載の抗体可変ドメイン。
【請求項5】
以下:
a)請求項1~4のいずれか1項で定義される1つ又は2つの抗体可変ドメイン;
b)IL-31とは異なる標的に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン、
を含む多重特異性抗体。
【請求項6】
免疫グロブリンFc領域を含まない、請求項5に記載の多重特異性抗体。
【請求項7】
タンデム型scDb(Tandab)、直鎖ダイマーscDb(LD-scDb)、環状ダイマーscDb(CD-scDb)、タンデム型トリ-scFv、トリボディ(Fab-(scFv))、Fab-Fv、トリアボディ、scDb-scFv、テトラボディ、ジ-ダイアボディ、タンデム-ジ-scFv、及びMATCHからなる群から選択されるフォーマットである、請求項6に記載の多重特異性抗体。
【請求項8】
IgGサブクラスであるIgG1及びIgG4から、特にIgG4から選択される免疫グロブリンFc領域を含む、請求項5に記載の多重特異性抗体。
【請求項9】
前記多重特異性抗体のフォーマットが、KiHベースのIgG、DVD-Ig、CODV-IgG、及びモリソン(IgG CH-scFv融合体(モリソン-H)又はIgG CL-scFv融合体(モリソン-L))から、特にモリソン-H及びモリソン-Lから選択される。請求項8に記載の多重特異性抗体。
【請求項10】
IL-31とは異なる第2の標的に特異的に結合する、請求項1~4のいずれか1項で定義される2つの抗体可変ドメインと、2つの結合ドメインとを含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体可変ドメイン、又は請求項5~10のいずれか1項に記載の多重特異性抗体をコードする、1つの核酸又は2つの核酸、
【請求項12】
請求項11に記載の前記1つの核酸又は前記2つの核酸を含む1つのベクター又は2つのベクター。
【請求項13】
請求項12に記載の前記1つのベクター又は前記2つのベクターを含む1つの宿主細胞又は複数の宿主細胞。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体可変ドメイン又は請求項5~10のいずれか1項に記載の多重特異性抗体と、医薬的に許容し得る担体とを含む医薬組成物。
【請求項15】
医薬として使用するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体可変ドメイン又は請求項5~10のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【請求項16】
疾患、詳しくはヒト疾患、より詳しくはアレルギー疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患から、詳しくは掻痒誘発性アレルギー疾患、掻痒誘発性炎症性疾患、及び掻痒誘発性自己免疫疾患から選択されるヒト疾患の治療に使用するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体可変ドメイン又は請求項5~10のいずれか1項に記載の多重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL-31に特異的に結合する抗体可変ドメインと多重特異性抗体とに関し、前記多重特異性抗体は、1つ又は2つの前記抗体可変ドメインと、IL-31とは異なる標的に特異的に結合する少なくとも1つのさらなる結合ドメインとを含む。本発明はさらに、前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体をコードする1つの核酸又は2つの核酸と、前記核酸若しくは前記複数の核酸を含むベクターと、前記核酸若しくは複数の核酸又は前記1つ又は複数のベクターとを含む1つ又は複数の宿主細胞と、及び前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体を産生する方法とに関する。さらに本発明は、前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体を含む医薬組成物と、その使用方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン31は、病原体に対する細胞性免疫の誘発を助ける炎症性サイトカインである。IL-31はTH2細胞により優先的に産生される。IL-31は、免疫細胞及び上皮細胞で発現される、インターロイキン31受容体アルファ(IL-31RA又はIL31RA)及びオンコスタチンM受容体β(OSMRβ)を含むヘテロダイマー受容体複合体(IL-31R又はIL31R)を介してシグナルを送る。この受容体複合体へのIL-31の結合は、JAK/STAT及びP13K/AKTシグナル伝達経路の活性化をもたらし、及び異なるMAPK経路(ERK、p38、及びJNK)も活性化する。
【0003】
IL-31は、様々な慢性炎症性疾患と関連していることが示されている。例えば、マウスにおけるIL-31の過剰発現は皮膚炎様症状を引き起こすことがわかっている(Dillon, et al, Nature Immunol. 5 (2004):752-760を参照)。さらに、例えばアトピー性皮膚炎(AD)などの多くの慢性炎症性疾患では、IL-31が患者の皮膚内の神経線維の活性化を媒介し、その結果、攻撃的なかゆみ表現型を引き起こし、患者が引っかくことによりこれらの疾患の症状を悪化させる。例えば Oetjen et al., Cell 171 (2017) 217-228 を参照。引っかくことは皮膚バリアの破壊を引き起こし、微生物病原体の皮膚への侵入を引き起こし、その部位での炎症をさらに促進する可能性がある。
【0004】
アトピー性皮膚炎(AD)は、強い掻痒(すなわち重度のかゆみ)及び鱗状で乾燥した湿疹性病変を特徴とする慢性炎症性皮膚疾患である。重度の疾患は、重大な心理的問題、顕著な睡眠不足、生活の質の低下などにより、非常に困難な状態に陥り、高い社会経済的コストをもたらす可能性がある。ADは多くの場合、5歳未満の小児期に始まり、成人期まで持続する場合がある。
【0005】
ADの病態生理学は、免疫グロブリンE(IgE)媒介感作、免疫系、及び環境因子の間の複雑な相互作用により影響される。主要な皮膚欠陥は、IgE媒介感作を引き起こす免疫障害となる場合があり、遺伝的突然変異と局所炎症の両方の結果である上皮バリア機能不全を伴う可能性がある。
【0006】
また、IL-31は、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、炎症性腸疾患、悪性腫瘍、及び骨粗鬆症に関与しているとされている(Bagci et al., J Allergy Clin Immunol. 141 (2018):858-866を参照)。
【0007】
例えば抗IL-31RA抗体ネモリズマブなどの抗IL-31RA抗体によるIL-31/IL-31RAシグナル伝達の遮断は、ADに罹患している患者のかゆみを軽減するのに有効であることが臨床的に証明されている(Ruzicka et al., N Engl J Med. 376 (2017):2092-2093を参照)。
【0008】
さらに、IL-31中和抗体BMS-981164は、慢性掻痒性皮膚状態の治療のための有効な標的療法を提供するために開発された(Lewis et al, J Eur Acad of Dermatol Venereol. 31 (2017)142-150を参照)。
【0009】
これらの抗IL-31療法は、例えばADなどの掻痒を引き起こす疾患で発生するかゆみ症状の治療に有効であるように思われるが、通常、これらの疾患の根本的な原因には対処していない。IL-31シグナル伝達の不均衡に関連するアレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患でさえも、これらの抗IL-31療法の有効性は多くの場合限定的であり、及び/又はその応答率は低~中程度であり、これはIL-31シグナル伝達の不均衡がこれらの疾患の唯一の原因ではないことを示している。従って、これらの治療法の応答率及び/又は有効性を高めるためには、他のシグナル伝達経路にも対処する必要がある。従って、そのようなアレルギー性、炎症性、及び自己免疫疾患を抱えている患者のための、さらなるIL-31に基づく治療選択肢が決定的に必要とされている。
【0010】
より具体的には、他のシグナル伝達経路をさらに妨害する、多重特異性抗体フォーマットに容易に組み込むことができる安定かつ強力な抗IL-31抗体構成要素を手元に有することが望ましい。前記抗IL-31構成要素は、IL-31媒介シグナル伝達を阻害する高い効力を有していなければならない。さらに、前記構成要素は、医薬品開発に適した多重特異性抗体へのそれらの効率的な組み込みを促進するために、特に高い安定性などの優れた生物物理学的特性を有していなければならない。
【0011】
特に、前記抗IL-31構成要素、すなわち抗体結合ドメインは、以下の最小限の特徴を示さなければならない:
- これは、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した場合、5nM以下の一価の解離定数(K)でヒトIL-31に結合しなければならない、
- これは、Path Hunter IL-31RA/0SMRbダイマー化アッセイで測定した場合、ヒトIL-31誘導性シグナル伝達を、30ng/ml以下のIC50で阻害しなければならない、
- 開始濃度が10mg/mlであり、及び150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製された場合、4℃又は40℃で少なくとも4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%以下でなければならない。
【0012】
さらに、前記抗IL-31構成要素は、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製された場合、示差走査蛍光測定で決定される融解温度(T)が65℃以上であることが望ましい。
【0013】
上述の基準のうちの1つ又は2つを満たす抗IL-31抗体可変ドメインを同定する方法は従来技術において知られているが、これらの基準のすべてを満たすそのような抗体可変ドメインの同定は、以下の項目7に言及されている基準のほとんど又はすべては言うまでもなく、困難であり結果は予測できない。
【発明の要約】
【0014】
本発明の目的は、IL-31に特異的に結合し、IL-31媒介活性を効率的に低減又は除去することができ、かつ同時に、非常に安定していて多重特異性抗体フォーマットに容易に組み込むことができる、新規抗体可変ドメインを提供することである。
【0015】
本発明者らは驚くべきことに、モノクローナルウサギ抗体クローン50-09-D07に基づくscFvが、IL-31シグナル伝達を強力に遮断できる一方、優れた安定性を発揮することを発見した。この抗体クローンは、高い親和性でIL-31に結合することが確認されている広範な免疫キャンペーンから得られた限られた数のモノクローナルウサギ抗体クローンの1つである。特に、1nMをはるかに下回る解離定数(KD)を有するクローン50-09-D07に由来するscFvは、30nM未満のIC50でIL-31誘導性シグナル伝達を中和することができ、及び10mg/mlの濃度で4週間にわたって4℃及び40℃で保存しても、タンパク質含有量とモノマー含有量が大幅に減少することがない。これは、他のクローンから産生されたscFvのいずれも良好な薬理学的活性を示さず、同時に高い安定性を示さないという事実を考慮すると、特に驚くべきことである。これらのscFvの薬理学的活性の最適化は、ほぼ例外なく安定性の悪化をもたらし、その逆も同様である。
【0016】
従って、クローン50-09-D07に基づくscFvは、モリソンフォーマットなどの多重特異性抗体フォーマットに容易に組み込むことができる適切な構成要素である。
【0017】
従って、第1の態様において本発明は、IL-31に特異的に結合する、以下を含む抗体可変ドメインに関する:
a)配列番号5、6、及び7から選択される配列を有するVH鎖、及び
b)配列番号12及び37から選択される配列を有するVL鎖。
【0018】
第2の態様において、本発明は、
a)本明細書で定義される1つ又は2つの抗体可変ドメイン、
b)IL-31とは異なる標的に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン、を含む多重特異性抗体に関する。
【0019】
第3の態様において、本発明は、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体をコードする1つの核酸又は2つの核酸に関する。
【0020】
第4の態様において、本発明は、本発明の前記核酸又は前記2つの核酸を含む1つのベクター又は2つのベクターに関する。
【0021】
第5の態様において、本発明は、本発明の前記ベクター又は前記2つのベクターを含む1つの宿主細胞若しくは複数の宿主細胞に関する。
【0022】
第6の態様において、本発明は、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を産生する方法であって、(i)本発明の核酸若しくは2つの核酸、又は本発明のベクター若しくは2つのベクターを提供し、前記核酸若しくは前記2つの核酸、又は前記ベクター若しくは複数のベクターを発現させ、及び発現系から前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体を収集する工程、又は(ii)本発明の1つの宿主細胞若しくは複数の宿主細胞を提供し、前記宿主細胞若しくは前記複数の宿主細胞を培養し、及び細胞培養物から前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体を収集する工程を含む、上記方法に関する。
【0023】
第7の態様において、本発明は、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体と医薬的に許容し得る担体とを含む医薬組成物に関する。
【0024】
第8の態様において、本発明は、医薬として使用するための本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体に関する。
【0025】
第9の態様において、本発明は、疾患、特にヒトの疾患、より詳しくはアレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患から選択されるヒトの疾患、特に炎症性疾患及び自己免疫性疾患の治療に使用するための本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体に関する。
【0026】
第10の態様において、本発明は、疾患、特にヒトの疾患、より詳しくはアレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患、特に炎症性疾患及び自己免疫疾患から選択されるヒトの疾患の治療方法であって、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体をそれを必要とする患者に提供する工程を含む上記方法に関する。
【0027】
以下の項目に要約される本発明の態様、有利な特徴及び好ましい実施態様は、それぞれ単独で又は組み合わせて、本発明の目的の解決にさらに貢献する。
1.IL-31に特異的に結合する、以下を含む抗体可変ドメイン:
a)可変重鎖(VH)、
ここで可変重鎖は、N末端からC末端へ、領域HFW1-HCDR1-HFW2-HCDR2-HFW3-HCDR3-HFW4を含み、ここで各HFWは重鎖フレームワーク領域を示し、各HCDRは重鎖相補性決定領域を示し、及びここで
前記HCDR1は配列番号1の配列を有し、
前記HCDR2は配列番号2又は3から選択される配列を有し、及び
前記HCDR3は配列番号4の配列を有する、
b)可変軽鎖(VL)、
ここで可変軽鎖は、N末端からC末端へ、領域LFW1-LCDR1-LFW2-LCDR2-LFW3-LCDR3-LFW4を含み、ここで各LFWは軽鎖フレームワーク領域を示し、各LCDRは軽鎖相補性決定領域を示し、及びここで
前記LCDR1は配列番号9又は36から選択される配列を有し、
前記LCDR2は、配列番号10の配列を有し、及び
前記LCDR3は、配列番号11の配列を有する。
2.前記可変重鎖がVH3鎖であり、及び/又は前記可変軽鎖がVκ1軽鎖である、項目1に記載の抗体可変ドメイン。
3.項目1に記載の抗体可変ドメインであり、ここで
- 前記可変重鎖はVH3鎖であり、
- LFW1、LFW2、及びLFW3はVκ1軽鎖サブタイプに属し、かつ
- LFW4は、配列番号16~23から選択されるヒトVλ配列を有する。
4.項目1~3のいずれか1つに記載の抗体可変ドメインであり、ここで前記抗体可変ドメインは、Fab、Fv、scFv、DSFv、及びscABから、好ましくはFab、Fv、scFv、及びDSFvから、特にFab、scFv、及びDSFvから選択される。
5.前記抗体可変ドメインが以下を含む、項目1~4のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン:
a)配列番号5、6、及び7から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99パーセント同一の配列を有するVH鎖、及び
b)配列番号12及び37から選択されるアミノ酸配列のいずれか1つと少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99パーセント同一の配列を有するVL鎖。
6.前記抗体可変ドメインがIL31のインターロイキン31受容体アルファ(IL-31RA)/オンコスタチンM受容体(OSMR)複合体(IL-31RA/OSMR複合体)への結合を遮断する、項目1~5のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン。
7.前記抗体可変ドメインが、scFvフォーマットである場合、以下の特徴a.~d.のうちの少なくとも2つを示す、項目1~5のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン:
a.表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定すると、ヒトIL-31に5nM以下の一価の解離定数(K)、特に5pM~5nM、特に5pM~2nM、特に5~1000pMの一価Kで結合し、
b.カニクイザル(Macaca fascicularis)IL-31と交差反応性であり、特に、SPRで測定すると、カニクイザルIL-31に、5nM以下の一価K、特に5pM~5nM、特に5pM~2nM、特に5~1000pMの一価Kで結合し、
c.Path Hunter IL-31RA/0SMRbダイマー化アッセイで測定すると、ヒトIL-31誘導性シグナル伝達を、0.1~30ng/mlのIC50、特に0.1~20ng/mlのIC50、特に0.1~10ng/mlのIC50で阻害し、
d.競合ELISAで測定すると、ヒトIL-31のヒトIL-31Rへの結合を、0.1~20ng/mlのIC50で、特に0.1~10ng/mlのIC50で、特に0.1~6ng/mlのIC50で遮断し、
及び、ここで前記抗体可変ドメインは、scFvフォーマットである場合、以下の特徴e.~i.の少なくとも2つをさらに示す:
e.示差走査蛍光測定法で測定すると、少なくとも65℃の、好ましくは少なくとも67℃の、より好ましくは少なくとも69℃の融解温度(Tm)を有し、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
f.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、4℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
g.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、40℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
h.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、3回の凍結-融解サイクル後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び特に、ここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
i.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、4℃又は40℃で4週間保存した後のタンパク質含量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び特に、ここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製される。
8.前記抗体可変ドメインが、scFvフォーマットである場合、少なくとも特徴a.、c.、f.、及びg.を示す、項目7に記載の抗体可変ドメイン。
9.前記抗体可変ドメインが、scFvフォーマットである場合、少なくとも特徴a.、c.、d.、e.、f.、及びg.、特に少なくとも特徴a.~i.を示す、項目7に記載の抗体可変ドメイン。
10.以下を含む、項目1~9のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン:
a)配列番号5、6、及び7から選択される配列を有するVH鎖、及び
b)配列番号12及び37から選択される配列を有するVL鎖。
11.以下を含む、項目1~10のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン:
a)配列番号5の配列を有するVH鎖と配列番号12の配列を有するVL鎖、又は
b)配列番号6の配列を有するVH鎖と配列番号12の配列を有するVL鎖、又は
c)配列番号7の配列を有するVH鎖と配列番号12の配列を有するVL鎖、又は
d)配列番号5の配列を有するVH鎖と配列番号37の配列を有するVL鎖。
12.配列番号27~29及び31から選択される配列を有するscFv抗体である、項目1~11のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン。
13.以下を含む多重特異性抗体:
a)項目1~12のいずれか1つに定義される1つ又は2つの抗体可変ドメイン;
b)IL-31とは異なる標的に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン。
14.免疫グロブリンFc領域を含まない、項目13に記載の多重特異性抗体。
15.多重特異性抗体が、タンデム型scDb(Tandab)、直鎖ダイマーscDb(LD-scDb)、環状ダイマーscDb(CD-scDb)、タンデム型トリ-scFv、トリボディ(Fab-(scFv))、Fab-Fv、トリアボディ、scDb-scFv、テトラボディ、ジ-ダイアボディ、タンデム-ジ-scFv、及びMATCHからなる群から選択されるフォーマットである、項目14に記載の多重特異性抗体。
16.CH1及び/又はCL領域を含まない、項目14に記載の多重特異性抗体。
17.前記多重特異性抗体が、scDb-scFv、トリアボディ、テトラボディ、又はMATCHフォーマットであり、特に、ここで前記多重特異性抗体が、MATCH又はscDb-scFvフォーマットであり、より具体的には、前記多重特異性抗体が、MATCHフォーマット、より具体的にはMATCH3若しくはMATCH4フォーマットである、項目16に記載の多重特異性抗体。
18.免疫グロブリンFc領域を含む、項目13に記載の多重特異性抗体。
19.前記免疫グロブリンFc領域が、IgGサブクラス、特にIgGサブクラスであるIgG1及びIgG4、特にIgG4から選択される、項目18に記載の多重特異性抗体。
20.項目19に記載の多重特異性抗体であって、前記多重特異性抗体のフォーマットが、二価二重特異性IgGフォーマット、三価二重特異性IgGフォーマット、及び四価二重特異性IgGフォーマットから選択され、
より具体的には、前記多重特異性抗体のフォーマットが、KiHベースのIgG;DVD-Ig;CODV-IgG及びモリソン(IgG CH-scFv融合体(モリソン-H)又はIgG CL-scFv融合体(モリソン-L))、さらにより詳しくはDVD-Ig及びモリソン(IgG CH-scFv融合体(モリソン-H)又はIgG CL-scFv融合体(モリソン-L))から選択される。上記抗体。
21.前記多重特異性抗体のフォーマットがモリソン-Hフォーマット及びモリソン-Lフォーマットから選択される、項目20に記載の多重特異性抗体。
22.前記多重特異性抗体が、項目1~12に記載のいずれか1つに定義される2つの抗体可変ドメインと、IL-31とは異なる第2の標的に特異的に結合する2つの結合ドメインとを含む、項目13~21に記載のいずれか1つに記載の多重特異性抗体。
23.項目1~12に記載のいずれか1つの抗体可変ドメイン、又は項目13~22のいずれか1つの多重特異性抗体をコードする1つの核酸又は2つの核酸。
24.項目23に記載の前記核酸又は前記2つの核酸を含む1つのベクター又は2つのベクター。
25.項目24に記載の前記ベクター又は前記2つのベクターを含む1つの宿主細胞又は複数の宿主細胞。
26.項目1~12のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン又は項目13~22に記載の多重特異性抗体を産生する方法であって、(i)項目23に記載の前記核酸若しくは前記2つの核酸、又は項目24に記載の前記ベクター若しくは前記2つのベクターを提供し、前記核酸若しくは前記2つの核酸、又は前記ベクター若しくは前記2つのベクターを発現させ、そして発現系から前記抗体可変ドメイン若しくは前記多重特異性抗体を収集すること、又は(ii)項目25に記載の1つの宿主細胞若しくは複数の宿主細胞を提供し、前記宿主細胞若しくは前記複数の宿主細胞を培養し、そして前記抗体可変ドメイン若しくは前記多重特異性抗体を細胞培養物から収集することを含む、前記方法。
27.項目1~12のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン又は項目13~23のいずれか1つに記載の多重特異性抗体と、医薬的に許容し得る塩担体とを含む、医薬組成物。
28.医薬として使用するための、項目1~12のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン、又は項目13~22のいずれか1つに記載の多重特異性抗体。
29.疾患、特にヒト疾患、より具体的にはアレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患から、特に掻痒を引き起こすアレルギー疾患、掻痒を引き起こす炎症性疾患、及び掻痒を引き起こす自己免疫疾患から選択されるヒトの疾患の治療に使用するための、項目1~12のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン又は項目13~22のいずれか1つに記載の多重特異性抗体。
30.前記疾患が、アトピー性皮膚炎、急性アレルギー性接触皮膚炎、慢性自然蕁麻疹、水疱性類天疱瘡、円形脱毛症、皮膚筋炎、結節性痒疹、乾癬、及びアトピー性喘息から選択され、特に前記疾患がアトピー性皮膚炎である、項目29に記載の使用のための抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体。
31.疾患、特にヒトの疾患、より具体的には、アレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患から、特に炎症性疾患及び自己免疫疾患から選択されるヒトの疾患の治療方法であって、項目1~12のいずれか1つに記載の抗体可変ドメイン、又は項目13~22のいずれか1つに記載の多重特異性抗体を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、上記方法。
33.前記疾患が、アトピー性皮膚炎、急性アレルギー性接触皮膚炎、慢性自然蕁麻疹、水疱性類天疱瘡、円形脱毛症、皮膚筋炎、結節性痒疹、乾癬、及びアトピー性喘息から選択され、特に前記疾患がアトピー性皮膚炎である、項目31に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイにおいて、IL-31誘導性シグナル伝達を中和する3つのscFVの効力を示す。(A)PRO1641(50-03-H07-sc03)、(B)PRO1643(50-09-D07-sc03)、及び(C)PRO1650(50-35-B03-sc03)は、IL-31誘導性シグナル伝達の中和に関してBMS-981164と同等のIC50値を有する強力な阻害剤である。
【0029】
図2図2は、競合ELISAにおいて、IL-31とIL-31RAとの相互作用を阻害するscFvの効力を示す。デュピルマブとの比較で、最高ランクのscFvである(A)PRO1641(50-03-H07-sc03)、(B)PRO1643(50-09-D07-sc03)、及び(C)PRO1650(50-35-B03-sc03)は、BMS-981164と同等のIC50値を有するIL-31/IL-31RA相互作用の強力な阻害剤である。
【0030】
図3図3は、IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイにおいて、IL-31誘導性シグナル伝達を中和するPRO1643(50-09-D07-sc03)に基づく最適化されたscFvの効力を示す。(A)PRO1900(50-09-D07-sc04)及びPRO1901(50-09-D07-sc05)、並びに(C)PRO1903(50-09-D07-sc07)は、IL-31誘導性シグナル伝達の中和において、BMS-981164と同等のIC50値を有する強力な阻害剤である。(B)PRO1902(50-09-D07-sc06)は、最適化プロセスのために阻害効力を失った。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
抗IL-31治療法は、掻痒症を引き起こす疾患で生じるかゆみ症状の治療に有効であるように思われるが、通常、これらの治療法は疾患の根本的な原因には対処していない。さらにこれらの疾患がIL-31シグナル伝達の不均衡に関連している場合であっても、これらの抗IL-31治療法の有効性は、多くの場合、アレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患に罹患している患者では限定的で、応答率は低から中等度である。従って、前記アレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患を抱えて生きている患者にとって、追加のIL-31ベースの治療選択肢が非常に必要とされている。
【0032】
本発明は、特定のVL鎖及びVH鎖を含む新規な抗IL-31抗体可変ドメインを提供する。前記可変ドメインは、モノクローナルウサギ抗体クローン50-09-D07に基づく。このクローンは、広範な免疫キャンペーンで同定され、高い親和性でIL-31に結合することが判明した限られた数のウサギモノクローナル抗体から選択された。前記モノクローナルウサギ抗体クローン50-09-D07由来のscFvは、1nMより遙かに低い解離定数(K)でIL-31に結合し、30ng/ml未満のIC50でIL-31誘導性シグナル伝達を中和することができ、また、タンパク質含有量とモノマー含有量を大幅に損なうことなく、10mg/mlの濃度で4℃及び40℃で4週間にわたって保存することができる。
【0033】
本発明者らの知る限り、従来技術にはそのような有利な特性を有する抗IL-31抗体可変ドメインは存在しない。
【0034】
本発明の抗体可変ドメインは、さらにIL-4Rを標的とする多重特異性抗体フォーマットにうまく組み込むことができた。これらの抗IL-4R×IL-31多重特異性抗体は、高い親和性でIL-31に結合し、IL-31媒介シグナル伝達を強力に阻害することができる一方、100mg/mlをはるかに超える抗体濃度で、非常に有利な生物物理学的特性、特に優れた調製及び保存安定性を示す。これは、本発明の抗体可変ドメインが多重特異性抗体フォーマットに組み込まれた場合に、有利な生物学的及び生物物理学的特性も提供することも証明している。
【0035】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0036】
「含む(comprising)」及び「含む(including)」という用語は、本明細書では、他に明記されない限り、無制限かつ非限定的な意味で使用される。従って、このような後者の実施態様に関して、用語「含む」は、より狭い用語「からなる」を含む。
【0037】
本発明の説明の文脈(特に後述の特許請求の範囲の文脈)における「a」、「an」、「the」という用語、及び同様の言及は、本明細書で別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに矛盾していない限り、単数形と複数形の両方を包含するものと解釈されるべきである。例えば、「細胞」という用語は、複数の細胞を含み、それらの混合物も含む。化合物、塩などに複数形が使用される場合、これは単一の化合物、塩なども意味するものとみなされる。
【0038】
1つの態様において、本発明は
a)配列番号5、6、及び7から選択される配列を有するVH鎖、及び
b)配列番号12及び37から選択される配列を有するVL鎖を含む、IL-31に特異的に結合する抗体可変ドメインに関する。
【0039】
本明細書で使用される「抗体」などの用語は、抗体全体又はその1本鎖;及び任意の抗原結合断片(すなわち「抗原結合部分」)又はその単鎖;及び抗体CDR、VH領域、又はVL領域を含む分子(特に限定されるものではないが、及びABCDR、VH領域又はVL領域(限定されるものではないが多重特異性抗体を含む)を含む分子を含む。天然に存在する「全抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖とを含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)及び重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2、CH3の3つのドメインで構成されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1つのドメインCLで構成されている。VH及びVL領域はさらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域に隣接した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に細分化できる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置された3つのCDRと4つのFRで構成されている。重鎖及び軽鎖の可変領域には、抗原と相互作用する結合ドメインが含まれている。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む宿主の組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0040】
本明細書で使用される「抗体可変ドメイン」という用語は、所定の抗原(例えばIL-31)に特異的に結合する能力を有する無傷の抗体の1部又はそれ以上の部分を指す。これは、無傷の抗体又はその単鎖の任意の抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)、及び抗体のCDR、VH領域又はVL領域を含む分子であり得る。具体的には、本発明の多重特異性抗体の場合、本明細書で使用される「抗体可変ドメイン」という用語は、Fab断片、すなわち、VL、VH、CL、及びCH1ドメインからなる一価の断片;抗体の単一アームのVLドメインとVHドメインからなるFv断片(Fv);ジスルフィド安定化Fv断片(DSFv);単鎖Fv断片(scFv);及びそれに融合された追加の軽鎖定常ドメイン(C)を有する単鎖Fv断片(scAB)を指す。好ましくは、本発明の抗体可変ドメインは、Fab断片、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(DSFv)、及びscFv断片から選択される。より好ましくは、本発明の抗体可変ドメインは、Fab断片、ジスルフィド安定化Fv断片(DSFv)、及びscFv断片から選択される。特定の実施態様において、本発明の抗体可変ドメインは単鎖Fv断片(scFv)である。他の特定の実施態様において、scFv断片のVLドメイン及びVHドメインは、ドメイン間ジスルフィド結合によって安定化され、特に前記VHドメインは、位置51(AHoナンバリング)に単一のシステイン残基を含み、及び前記VLドメインは、位置141(AHo番号付け)に単一のシステイン残基を含む。
【0041】
「相補性決定領域」(「CDR」)という用語は、Kabat et al. (1991), “Sequences of Proteins of Immunological Interest,” 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (“Kabat” 番号付けスキーム); Al-Lazikani et al., (1997) JMB 273, 927-948 (“Chothia” 番号付けスキーム); ImMunoGenTics (IMGT) 番号付け (Lefranc, M.-P., The Immunologist, 7, 132-136 (1999); Lefranc, M.-P. et al., Dev. Comp. Immunol., 27, 55-77 (2003)) (“IMGT” 番号付けスキーム);及びHonegger & Pluckthun, J. Mol. Biol. 309 (2001) 657-670 (“AHo” 番号付け)によって記載されたスキームを含む多くの周知のスキームのいずれかを使用して決定される境界を有するアミノ酸配列を指す。例えば、古典的なフォーマットの場合、Kabatでは、重鎖可変ドメイン(VH)のCDRアミノ酸残基は、31~35(HCDR1)、50~65(HCDR2)、及び95~102(HCDR3)と番号付けされ、軽鎖可変ドメイン(VL)のCDRアミノ酸残基は、24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)、及び89~97(LCDR3)と番号付けされている。Chothiaでは、VHのCDRアミノ酸は、26~32(HCDR1)、52~56(HCDR2)、及び95~102(HCDR3)と番号付けされ、VLのアミノ酸残基は24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)、及び89~97(LCDR3)と番号付けされている。KabatとChothiaの両方のCDR定義を組み合わせると、CDRは、ヒトVHのアミノ酸残基26~35(HCDR1)、50~65(HCDR2)、及び95~102(HCDR3)と、ヒトVLのアミノ酸残基24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)、及び89~97(LCDR3)で構成される。IMGTでは、VHのCDRアミノ酸残基は、約26~35(HCDR1)、51~57(HCDR2)、及び93~102(HCDR3)と番号付けされ、VLのCDRアミノ酸残基は、約27~32(LCDR1)、50~52(LCDR2)、及び89~97(LCDR3)(「Kabat」に基づく番号付け)と番号付けされている。IMGTでは、抗体のCDRは、プログラム IMGT/DomainGapAlign を使用して決定することができる。
【0042】
本発明の文脈では、他に明記されない限り、Honegger & Pluckthunによって提案された番号付けシステム(「AHo」)が使用される(Honegger & Pluckthun, J. Mol. Biol. 309 (2001) 657-670)。特に、以下の残基は、AHo番号付けスキームに従ってCDRとして定義される:LCDR1(CDR-L1とも呼ばれる):L24~L42;LCDR2(CDR-L2とも呼ばれる):L58~L72;LCDR3(CDR-L3とも呼ばれる):L107~L138;HCDR1(CDR-H1とも呼ばれる):H27~H42;HCDR2(CDR-H2とも呼ばれる):H57~H76;HCDR3(CDR-H3とも呼ばれる):H108~H138。明確にするために、Honegger & Pluckthunによる番号付けシステムでは、異なるVHサブファミリーとVLサブファミリーの両方、特にCDRにある天然に存在する抗体に見られる長さの多様性が考慮されており、配列中のギャップが提供されている。従って、特定の抗体可変ドメインでは、通常1位~149位までの必ずしもすべての位置がアミノ酸残基によって占められるわけではない。
【0043】
本明細書で使用される「結合特異性」という用語は、個々の抗体が1つの抗原決定基と反応するが、異なる抗原決定基とは反応しない能力を指す。本明細書で使用される「に特異的に結合する」又は「に特異的である」という用語は、標的と抗体との結合などの測定可能でかつ再現可能な相互作用を指し、これは、生体分子を含む分子の不均一な集団の存在下での標的の存在を決定するものである。例えば、標的(エピトープであり得る)に特異的に結合する抗体は、他の標的に結合するよりも高い親和性、結合力で、より容易に、及び/又はより長い持続時間、この標的に結合する抗体である。最も一般的な形態では(及び定義された参照が言及されていない場合)、「特異的結合」とは、例えば当技術分野で公知の特異性アッセイ方法に従って測定される、目的の標的と無関係の分子とを区別する抗体の能力を指す。このような方法には、特に限定されるものではないが、ウェスタンブロット、ELISA、RIA、ECL、IRMA、SPR(表面プラズモン共鳴)試験、及びペプチドスキャンが含まれる。例えば、標準的なELISAアッセイを実施することができる。スコア付けは、標準的な発色(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼを用いた2次抗体、及び過酸化水素を用いたテトラメチルベンジジン)によって実施することができる。特定のウェル内の反応は、例えば450nmでの光学密度によってスコア化される。典型的なバックグラウンド(=陰性反応)は約0.1ODである。典型的な陽性反応は約1ODである。これは、正のスコアと負のスコアの比率が10倍以上になる可能性があることを意味する。さらなる例では、バックグラウンドとシグナルとの少なくとも10倍、特に少なくとも100倍の差が特異的結合を示すSPRアッセイを実施することができる。通常、結合特異性の決定は、単一の参照分子ではなく、粉乳、トランスフェリンなどの約3~5個の無関係な分子のセットを使用して実施される。
【0044】
さらなる態様において、本発明は、以下を含む多重特異性抗体に関する:
a)本明細書で定義される1つ又は2つの抗体可変ドメイン;
b)IL-31とは異なる標的に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメイン、特に、ここで前記少なくとも1つの結合ドメインは、hSA-BD及び/又はIL4R-BDである。
【0045】
特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体は免疫グロブリンFc領域を含まない。
【0046】
これらの特定の実施態様において、前記多重特異性抗体は、好ましくは、タンデム型scDb(Tandab)、直鎖ダイマーscDb(LD-scDb)、環状ダイマーscDb(CD-scDb)、タンデム型トリ-scFv、トリボディ(Fab-(scFv))、Fab-Fv、トリアボディ、scDb-scFv、テトラボディ、ジ-ダイアボディ、タンデム-ジ-scFv、及びMATCHからなる群から選択されるフォーマットである(国際公開第2016/0202457号;Egan T., et al., MABS 9 (2017) 68-84に記載されている)。特に、本発明の多重特異性抗体はMATCHフォーマットである。より具体的には、本発明の多重特異性抗体は、MATCH3、MATCH4、又はMATCH5フォーマットである。
【0047】
本明細書中で使用される「免疫グロブリンFc領域」又は「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域、すなわち重鎖定常領域のCH2及びCH3ドメインを定義するために使用される。「Fc領域」という用語は、天然配列Fc領域及び変種Fc領域、すなわち、特定の所望の特性を示すように工学操作されたFc領域、例えば改変されたFc受容体結合機能及び/又は低減又は抑制されたFabアーム交換などを含む。このような工学操作されたFc領域の例は、ノブイントゥホール(KiH)技術である(例えば、Ridgway et al., Protein Eng. 9:617-21 (1996) and Spiess et al., J Biol Chem. 288(37):26583-93 (2013)Ridgway et al., Protein Eng. 9:617-21 (1996) and Spiess et al., J Biol Chem. 288(37):26583-93 (2013)を参照)。天然配列Fc領域は、ヒトIgG1、IgG2(IgG2A、IgG2B)、IgG3、及びIgG4を含む。「Fc受容体」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を表す。特に、FcRは天然配列のヒトFcRであり、これはIgG抗体(ガンマ受容体)に結合し、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIサブクラスの受容体(これらの受容体のアレレ変種及び選択的スプライス形態を含む)、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害性受容体」)を含むFcγRII受容体を含み、これらは、主にその細胞質ドメインが異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を含む。阻害性受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ(ITIM)を含む(M. Daeron, Annu. Rev. Immunol. 5:203-234 (1997)を参照)。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9: 457-92 (1991); Capet et al, Immunomethods 4: 25-34 (1994); and de Haas et al, J. Lab. Clin. Med. 126: 330-41 (1995)で概説されている。将来同定されるものを含む他のFcRは、本明細書における「FcR」という用語に包含される。「Fc受容体」又は「FcR」という用語には、胎児への母親のIgGの輸送を担う新生児受容体FcRnも含まれる。Guyer et al., J. Immunol. 117: 587 (1976) and Kim et al., J. Immunol. 24: 249 (1994).FcRnへの結合を測定する方法は公知である(例えば、Ghetie and Ward, Immunol. Today 18: (12): 592-8 (1997); Ghetie et al., Nature Biotechnology 15 (7): 637-40 (1997); Hinton et al., J. Biol. Chem. TJI (8): 6213-6 (2004); 国際公開第2004/92219 号(Hinton et al))。インビボでのFcRnへの結合及びヒトFcRn高親和性結合ポリペプチドの血清半減期は、例えばトランスジェニックマウス、又はヒトFcRnを発現するトランスフェクトされたヒト細胞株、又は変種Fc領域を有するポリペプチドが投与される霊長類でアッセイすることができる。国際公開第2004/42072号(Presta)は、FcRへの結合を改善又は減少させる抗体変種を記載している。例えば、Shields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001) 参照。
【0048】
他の特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体は免疫グロブリンFc領域を含む。
【0049】
さらに特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体はIgG領域を含む。
【0050】
本明細書で使用される「IgG領域」という用語は、免疫グロブリンGの重鎖及び軽鎖、すなわち上記で定義したFc領域、並びにVL、VH、CL、及びCH1ドメインからなるFab領域を指す。「IgG領域」という用語は、天然配列IgG領域、例えばヒトIgG1、IgG2(IgG2A、IgG2B)、IgG3、及びIgG4、並びに、例えばFc領域について上記で定義した特性などの特定の所望の特性を示す工学作成されたIgG領域を含む。
【0051】
特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体に含まれる免疫グロブリンFc領域は、IgGサブクラスのFc領域から、特にIgGサブクラスであるIgG1及びIgG4のFc領域から、特にIgG4のFc領域から選択される。
【0052】
本明細書で使用される抗体の「結合ドメイン」、「その抗原結合断片」、「抗原結合部分」などの用語は、特定の抗原に特異的に結合する能力を保持する無傷の抗体の1つ又はそれ以上の部分を指す。抗体の抗原結合機能は、無傷の抗体の断片によって行われる。具体的には、本発明の多重特異性抗体の場合、本明細書で使用される「結合ドメイン」、「その抗原結合断片」、「抗原結合部分」などの用語は、Fab断片、すなわちVL、VH、CL、及びCH1ドメインからなる1価の断片;抗体の単一アームのVLドメインとVHドメインからなるFv断片;ジスルフィド安定化Fv断片(DSFv);及び1本鎖Fv断片(scFV)を指す。好ましくは、本発明の多重特異性抗体の結合ドメインは、互いに独立して、Fab断片、Fv断片、scFv断片、及び単鎖Fv断片(scFv)から選択される。特定の実施態様において、本発明の抗体の結合ドメインは、互いに独立して、Fab断片及び単鎖Fv断片(scFv)から選択される。他の特定の実施態様において、scFv断片のVLドメイン及びVHドメインは、ドメイン間ジスルフィド結合によって安定化され、特に、前記VHドメインは、位置51(AHo番号付け)に単一のシステイン残基を含み、及び前記VLドメインは、位置141(AHo番号付け)に単一のシステイン残基を含む。
【0053】
適切には、本発明の抗体可変ドメインは単離された可変ドメインである。同様に、本発明の多重特異性抗体は単離された抗体である。本明細書で使用される「単離された可変ドメイン」又は「単離された抗体」という用語は、異なる抗原特異性を有する他の可変ドメイン又は他の抗体を実質的に含まない可変ドメイン又は抗体を指す(例えば、IL-31に特異的に結合する単離された抗体可変ドメインは、IL-31以外の抗原に特異的に結合する抗体可変ドメインを実質的に含まない)。さらに、単離された抗体可変ドメイン又は単離された抗体は、他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まない可能性がある。
【0054】
適切には、本発明の抗体可変ドメイン及び多重特異性抗体はモノクローナル抗体可変ドメイン及び抗体である。本明細書で使用される「モノクローナル抗体可変ドメイン」又は「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同一のアミノ酸配列を有するか又は同じ遺伝子源に由来する可変ドメイン又は抗体を指す。モノクローナル可変ドメイン又は抗体は、特定のエピトープに対する結合特異性及び親和性、又は複数の特定のエピトープに対する複数の結合特異性及び複数の親和性を示す。
【0055】
本発明の抗体可変ドメイン及び多重特異性抗体には、特に限定されるものではないが、キメラ抗体、ヒト抗体、及びヒト化抗体可変ドメイン及び抗体が含まれる。
【0056】
本明細書で使用される「キメラ抗体」又は「キメラ抗体可変ドメイン」という用語は、(a)抗原結合部位(可変領域)が異なるか又は改変されたクラス、エフェクター機能、及び/又は種の定常領域に連結されるように、定常領域又はその一部が改変、置換、又は交換されており、又は(b)可変領域又はその一部が、異なる又は改変された抗原特異性を有する可変領域で改変、置換、又は交換されている、抗体分子又は抗体可変ドメインを指す。例えばマウス抗体は、その定常領域をヒト免疫グロブリンの定常領域で置き換えることによって修飾することができる。ヒト定常領域による置換のために、キメラ抗体は、抗原を認識する特異性を保持することができる一方、元のマウス抗体と比較してヒトにおける抗原性が低下している。
【0057】
本明細書で使用される「ヒト抗体」又は「ヒト抗体可変ドメイン」という用語は、フレームワーク領域とCDR領域の両方がヒト起源の配列に由来する可変領域を有する抗体又は抗体可変ドメインを含むことを意図する。さらに、抗体又は抗体可変ドメインが定常領域を含む場合、その定常領域もそのようなヒト配列、例えばヒト生殖系列配列又はヒト生殖系列配列の変異バージョンに由来する。本発明のヒト抗体及び抗体可変ドメインは、ヒト配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでの部位特異的突然変異誘発又はインビボでの体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含み得る。ヒト抗体又は抗体可変ドメインのこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体又は抗体可変ドメインを特に除外する。ヒト抗体及び抗体可変ドメインは、当該分野で公知の様々な技術、例えばファージ表示ライブラリー(Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol, 227:381 (1992); Marks et al, J. Mol. Biol, 222:581 (1991))を使用して生成することができる。またヒトモノクローナル抗体及びヒトモノクローナル抗体可変ドメインの調製には、Cole et al, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985); Boemer et al, J. Immunol, 147(l):86-95 (1991)に記載の方法も利用することができる。また、van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol, 5: 368-74 (2001)も参照されたい。ヒト抗体及びヒト抗体可変ドメインは、抗原攻撃に応答してそのような抗体及び抗体可変ドメインを産生するように改変されているが、その内因性遺伝子座が無効にされているトランスジェニック動物、例えば免疫化されたゼノマウスに、抗原を投与することによって調製することができる(例えば、XENOMOUSE(商標)技術に関する米国特許第6,075,181号及び第6,150,584号を参照)。また、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体については、例えば Li et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557- 3562 (2006) を参照されたい。
【0058】
本明細書で使用される「ヒト化」抗体又は「ヒト化」抗体可変ドメインという用語は、非ヒト抗体又は抗体可変ドメインの反応性を保持するが、ヒトにおいて免疫原性が低い抗体又は抗体可変ドメインを指す。これは、例えば非ヒトCDR領域を保持し、抗体又は抗体可変ドメインの残りの部分をヒト対応物(すなわち、定常領域、並びに可変領域のフレームワーク部分)で置き換えることによって達成できる。さらなるフレームワーク領域の修飾は、ヒトフレームワーク配列内で、並びに別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列内で行うことができる。本発明のヒト化抗体及び抗体可変ドメインは、ヒト配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的突然変異誘発によって、又はインビボでの体細胞突然変異によって導入された突然変異、あるいは安定性若しくは製造を促進するための保存的置換によって導入された突然変異)を含み得る。例えば、モリソン et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855, 1984; モリソン and Oi, Adv. Immunol., 44:65-92, 1988; Verhoeyen et al., Science, 239: 1534-1536, 1988; Padlan, Molec. Immun., 28:489-498, 1991; 及び Padlan, Molec. Immun., 31: 169-217, 1994を参照。人間工学技術の他の例としては、特に限定されるものではないが、米国特許第5,766,886号に開示されているXoma技術が挙げられる。
【0059】
本明細書で使用される「組換えヒト化抗体」又は「組換えヒト化抗体可変ドメイン」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製、又は単離されたすべてのヒト抗体及びヒト抗体可変ドメイン、例えば、ヒト化抗体又はヒト抗体可変ドメインを例えばトランスフェクトーマ(transfectoma)から発現するように形質転換された宿主細胞から単離された抗体及びヒト抗体可変ドメイン、及びヒト免疫グロブリン遺伝子、配列のすべて又は一部を他のDNA配列にスプライシングすることを含むその他の手段によって調製、発現、作成、又は単離された抗体及びヒト抗体可変ドメインを含む。
【0060】
好ましくは、本発明の抗体可変ドメイン及び多重特異性抗体はヒト化されている。より好ましくは、本発明の抗体可変ドメイン及び多重特異性抗体はヒト化されており、ウサギ由来のCDRを含む。
【0061】
本明細書で使用される「多重特異性抗体」という用語は、少なくとも2つ又はそれ以上の異なる標的(例えばIL-31とIL-4R)上の2つ又はそれ以上の異なるエピトープに結合する抗体を指す。好ましくは、本発明の多重特異性抗体は二重特異性である。本明細書で使用される「二重特異性抗体」という用語は、2つの異なる標的(例えば、IL-31とIL-4R)上の少なくとも2つの異なるエピトープに結合する抗体を指す。
【0062】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合できるタンパク質決定基を意味する。エピトープは通常、アミノ酸や糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面グループで構成され、通常、特定の3次元構造特性並びに特定の電荷特性を有する。「立体構造」エピトープと「線状」エピトープは、変性溶媒の存在下では前者への結合は失われるが、後者への結合は失われないという点で区別される。
【0063】
本明細書で使用される「立体構造エピトープ」という用語は、ポリペプチド鎖が折りたたまれて天然タンパク質を形成するときに、表面で集合する抗原のアミノ酸残基を指す。
【0064】
「線状エピトープ」という用語は、タンパク質と相互作用分子(抗体など)とのすべての相互作用点がタンパク質の1次アミノ酸配列に沿って直線的に(連続的に)存在するエピトープを指す。
【0065】
本明細書で使用される「認識する」という用語は、その立体構造エピトープを見つけてそれと相互作用する(例えば、結合する)抗体又はその抗原結合部分を指す。
【0066】
適切には、本発明の多重特異性抗体は、本明細書で定義される、IL-31に特異的に結合する1つ又は2つの抗体可変ドメインを含む。特に、本発明の多重特異性抗体は、明細書で定義される、IL-31に特異的に結合する2つの抗体可変ドメインを含む。
【0067】
「IL-31」又は「IL31」という用語は、特にUniProt ID番号Q6EBC2を有するヒトIL-31を指す。本発明の抗体可変ドメインはヒトIL-31を標的とする。特に本発明の抗体可変ドメインは、ヒト及びカニクイザル(Macaca fascicularis)IL-31を標的とする。
【0068】
本発明の抗体可変ドメインは、scFvフォーマットである場合、以下のパラメータによって特徴付けられる:
a.表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定すると、ヒトIL-31に5nM以下の一価の解離定数(K)、特に5pM~5nM、特に5pM~2nM、特に5~1000pMの一価Kで結合し、
b.Path Hunter IL-31RA/0SMRbダイマー化アッセイで測定すると、ヒトIL-31誘導性シグナル伝達を、0.1~30ng/mlのIC50、特に0.1~20ng/mlのIC50、特に0.1~10ng/mlのIC50で阻害し、
c.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、4℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、及び
d.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、40℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製される。
【0069】
具体的な実施態様において、本発明の抗体可変ドメインは、scFvフォーマットである場合、以下のパラメータによって特徴付けられる:
a.表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定すると、ヒトIL-31に5nM以下の一価の解離定数(K)、特に5pM~5nM、特に5pM~2nM、特に5~1000pMの一価Kで結合し、
b.Path Hunter IL-31RA/0SMRbダイマー化アッセイで測定すると、ヒトIL-31誘導性シグナル伝達を、0.1~30ng/mlのIC50、特に0.3~20ng/mlのIC50、特に0.1~10ng/mlのIC50で阻害し、
c.示差走査蛍光測定法で測定すると、少なくとも65℃の、好ましくは少なくとも67℃の、より好ましくは少なくとも69℃の融解温度(Tm)を有し、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
d.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、4℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、及び
e.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、40℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製される。
【0070】
より具体的な実施態様において、本発明の抗体可変ドメインは、scFvフォーマットである場合、以下のパラメータによって特徴付けられる:
a.表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定すると、ヒトIL-31に5nM以下の一価の解離定数(K)、特に5pM~5nM、特に5pM~2nM、特に5~1000pMの一価Kで結合し、
b.Path Hunter IL-31RA/0SMRbダイマー化アッセイで測定すると、ヒトIL-31誘導性シグナル伝達を、0.1~30ng/mlのIC50、特に0.1~20ng/mlのIC50、特に0.1~10ng/mlのIC50で阻害し、
c.競合ELISAで測定すると、ヒトIL-31のヒトIL-31Rへの結合を、0.1~20ng/mlのIC50、特に0.1~10ng/mlのIC50、特に0.1~6ng/mlのIC50で遮断し、
d.示差走査蛍光測定法で測定すると、少なくとも65℃、好ましくは少なくとも67℃、より好ましくは少なくとも69℃の融解温度(Tm)を有し、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
e.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、4℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、及び
f.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、40℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製される。
【0071】
より具体的な実施態様において、本発明の抗体可変ドメインは、scFvフォーマットである場合、以下のパラメータによって特徴付けられる:
a.表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定すると、ヒトIL-31に、5nM以下の一価K、特に5pM~5nM、特に5pM~2nM、特に5~1000pMの一価Kで結合し、
b.カニクイザル(Macaca fascicularis)IL-31と交差反応性であり、特に、SPRで測定すると、カニクイザルIL-31に、5nM以下の一価K、特に5pM~5nM、特に5pM~2nM、特に5~1000pMの一価Kで結合し、
c.Path Hunter IL-31RA/0SMRbダイマー化アッセイで測定すると、ヒトIL-31誘導性シグナル伝達を、0.1~30ng/mlのIC50、特に0.1~20ng/mlのIC50、特に0.1~10ng/mlのIC50で阻害し、
d.競合ELISAで測定すると、ヒトIL-31のヒトIL-31Rへの結合を、0.1~20ng/mlのIC50、特に0.01~10ng/mlのIC50、特に0.1~6ng/mlのIC50で阻害し、
e.示差走査蛍光測定法で測定すると、少なくとも65℃、好ましくは少なくとも67℃、より好ましくは少なくとも69℃の融解温度(Tm)を有し、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
f.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、4℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
g.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、40℃で4週間保存した後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
h.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、3回の凍結-融解サイクル後のモノマー含有量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び特に、ここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製され、
i.前記scFvの開始濃度が10mg/mlである場合、4℃又は40℃で4週間保存した後のタンパク質含量の損失が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、好ましくは1%未満であり、及び、特にここで前記scFvは、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸クエン酸緩衝液中で調製される。
【0072】
本明細書で使用される「HEK-Blue細胞」又は「HEK-Blue」という用語は、NF-κB転写因子によって誘導されるプロモーターの制御下で、最適化された分泌型胎児性アルカリホスファターゼ(SEAP)レポーター遺伝子でトランスフェクトされかつ安定して発現される、市販のヒト胎児性腎細胞を指す。培地中に放出されたSEAPタンパク質のレベルは、通常、NF-κB活性化の尺度として使用される。
【0073】
本明細書で使用される「親和性」という用語は、単一の抗原性部位における抗体又は抗体可変ドメインと抗原との相互作用の強さを指す。各抗原性部位内では、抗体又は抗体可変ドメイン「アーム」の可変領域が、弱い非共有結合力を介して多くの部位で抗原と相互作用する。相互作用が多ければ多いほど、親和性は強くなる。
【0074】
「結合親和性」は、一般に分子(例えば、抗体又は抗体可変ドメイン)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原、又はより詳しくは抗原上のエピトープ又は抗原)との非共有結合性相互作用の総和の強さを指す。他に明記されない限り、本明細書で使用される「結合親和性」、「に結合する(bind to)」、「に結合する(binds to)」、又は「に結合する(binding to)」は、結合対のメンバー(例えば、抗体可変ドメインと抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数(K)で表すことができる。親和性は、本明細書に記載される方法を含む当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。低親和性抗体及び抗体可変ドメインは一般に抗原との結合が遅く、容易に解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は一般に抗原とより速く結合し、結合状態が長く続く傾向がある。結合親和性を測定する様々な方法が当技術分野で知られており、そのいずれも本発明の目的に使用することができる。結合親和性、すなわち結合強度を測定するための具体的な例示的な実施態様を以下に記載する。
【0075】
本明細書中で使用される「Kassoc」、「K」又は「Kon」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指すことを意図しており、一方、本明細書中で使用される「Kdis」、「K」又は「Koff」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことを意図している。1つの実施態様において、本明細書で使用される「K」という用語は、K対Kの比(すなわち、K/K)から得られ、モル濃度(M)数で表される解離定数を指すことを意図している。本発明による「K」又は「K値」又は「KD」又は「KD値」は、1つの実施態様において、表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。
【0076】
組換えヒトIL-31及び組換えカニクイザルIL-31に対する親和性は、段落[0189](scFv)及び[0225](多重特異性分子)に記載されているように、表面プラズモン共鳴(SPR)測定によって測定された。
【0077】
本発明の抗体可変ドメインは、IL-31の拮抗剤として作用する。言い換えれば、本発明の抗体可変ドメインは、IL-31媒介シグナル伝達の阻害剤である。本明細書で使用される「遮断剤」又は「阻害剤」又は「拮抗剤」という用語は、結合する抗原の生物学的活性を阻害又は低下させる抗体又は抗体可変ドメインを指す。本発明の抗体可変ドメインはIL-31に結合し、それによってIL-31のIL-31Rへの結合を遮断し、これによりIL-31R機能が低下する。
【0078】
DSFは既に記載されている(Egan, et al., MAbs, 9(1) (2017), 68-84; Niesen, et al., Nature Protocols, 2(9) (2007) 2212-2221)。scFv構築物の熱アンフォールディングの遷移の中点は、蛍光色素SYPRO(登録商標)オレンジを使用する示差走査蛍光法によって決定される(Wong & Raleigh, Protein Science 25 (2016) 1834-1840を参照)。リン酸-クエン酸緩衝液(pH6.4)中の試料は、最終タンパク質濃度50μg/mlで調製され、総量100μl中に最終濃度5×SYPRO(登録商標)オレンジが含まれる。調製した試料25μlを、白壁のAB遺伝子PCRプレートに三重で加える。このアッセイは、サーマルサイクラーとして使用されるqPCRマシンで実施され、ソフトウェアのカスタム色素較正ルーチンを使用して蛍光発光が検出される。試験試料を含むPCRプレートを25℃から96℃まで1℃ずつ昇温し、各温度上昇後に30秒の一時停止を行う。総アッセイ時間は約2時間である。Tmは、ソフトウェアGraphPad Prismによって、曲線の変曲点を計算する数学的2次導関数法を使用して計算される。報告されるTmは3回の測定の平均である。
【0079】
モノマー含有量の損失は、SE-HPLCクロマトグラムの曲線下面積計算によって決定される。SE-HPLCは、米国薬局方(USP)、第621章に概要が記載されている固体固定相と液体移動相に基づく分離技術である。この方法は、疎水性固定相と水性移動相を利用して、分子のサイズと形状に基づいて分子を分離する。分子の分離は、特定のカラムの空隙容積(V)と総浸透容積(V)の間で起きる。SE-HPLCによる測定は、自動試料注入と280nmの検出波長に設定されたUV検出器とを備えたChromaster HPLCシステム(Hitachi High-Technologies Corporation)で行われる。この装置は、結果のクロマトグラムの分析もサポートするソフトウェアEZChrom Elite(Agilent Technologies、バージョン3.3.2SP2)によって制御される。タンパク質試料は遠心分離によって清澄にされ、オートサンプラー内で4~6℃の温度に保たれた後、注入される。scFv試料の分析には、カラムShodex KW403-4F(Showa Denko Inc.、#F6989202)を標準化緩衝化生理食塩水移動相(50mMリン酸ナトリウムpH6.5、300mM塩化ナトリウム)を用いて推奨流量0.35ml/分で使用される。1注入あたりの標的試料の量は5μgであった。試料は280nmの波長でUV検出器によって検出され、データは適切なソフトウェアスイートによって記録される。得られたクロマトグラムは、V~Vの範囲で分析され、それにより、溶出時間が10分を超えるマトリックス関連ピークが除外される。
【0080】
適切には、本発明の抗体可変ドメインは、本開示で提供される結合ドメインである。これらは、ウサギ抗体クローン50-09-D07に由来し、特に限定されるものではないが、その配列が表1に列挙されているヒト化抗体可変ドメインが含まれる。
【0081】
「多価抗体」という用語は、複数の価数を有する単一の結合分子を指し、「価数」は、標的分子上のエピトープに結合する抗原結合部分の数として記載される。従って、単一の結合分子は、対応する抗原結合部分の複数のコピーの存在により、標的分子上の複数の結合部位及び/又は複数の標的分子に結合することができる。多価抗体の例としては、特に限定されるものではないが、2価抗体、3価抗体、4価抗体、5価抗体、6価抗体などが挙げられる。
【0082】
本明細書で使用される「1価抗体」という用語は、単一の標的分子、より詳しくは標的分子上の単一のエピトープに結合する抗体を指す。また、本明細書で使用される「結合ドメイン」又は「1価の結合ドメイン」という用語は、標的分子上の単一のエピトープに結合する結合ドメインを指す。
【0083】
特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体は、本明細書で定義される、IL-31に特異的に結合する1つの抗体可変ドメイン、及びIL-31とは異なる標的に結合する1つの結合ドメインを含み、すなわち本発明の多重特異性抗体は、IL-31及びIL-31とは異なる標的の両方に関して1価である。
【0084】
さらに特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体は、本明細書で定義される、IL-31に特異的に結合する1つの抗体可変ドメイン、及び同じ結合特異性を有し、IL-31とは異なる標的に結合する2つの結合ドメインを含み、すなわち本発明の多重特異性抗体は、IL-31特異性については1価であり、IL-31とは異なる標的については2価である。
【0085】
さらに特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体は、本明細書で定義される、IL-31に特異的に結合する2つの抗体可変ドメイン、及びIL-31とは異なる標的に結合する1つの結合ドメインを含み、すなわち本発明の多重特異性抗体は、IL-31特異性については2価であり、IL-31とは異なる標的については1価である。
【0086】
好適な実施態様において、本発明の多重特異性抗体は、本明細書で定義される、IL-31に特異的に結合する2つの抗体可変ドメイン、及び同じ結合特異性を有し、IL-31とは異なる標的に特異的に結合する2つの結合ドメインを含み、すなわち本発明の多重特異性抗体は、IL-31特異性については2価であり、IL-31とは異なる標的については2価である。
【0087】
本発明の多重特異性抗体が2つの結合ドメインを含み、これらが同じ結合特異性を有し、IL-31とは異なる標的に特異的に結合する場合、前記2つの結合ドメインは、前記標的分子上の同じエピトープ若しくは異なるエピトープに結合する。好ましくは、前記2つの結合ドメインは、標的分子の同じエピトープに結合する。
【0088】
本明細書で使用される「同じエピトープ」という用語は、複数の抗体に特異的に結合することができるタンパク質上の個々のタンパク質決定基を指し、ここで、その個々のタンパク質決定基は同一であり、すなわち前記抗体のそれぞれについて同一の3次元構造特性並びに同一の電荷特性を有するアミノ酸又は糖側鎖のような分子の、同一の化学的に活性な表面グループからなる。
【0089】
特定のタンパク質標的に関連して本明細書で使用される「異なるエピトープ」という用語は、それぞれが異なる抗体に特異的に結合することができるタンパク質上の個々のタンパク質決定基を指し、ここでこれらの個々のタンパク質決定基は、異なる抗体に対して同一ではなく、すなわち異なる3次元構造特性並びに異なる電荷特性を有するアミノ酸又は糖側鎖のような分子の、同一でない化学的に活性な表面グループから構成される。これらの異なるエピトープは、重複している場合もあれば、重複していない場合もある。
【0090】
特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体は二重特異性及び2価である。
【0091】
さらに特定の実施態様において、本発明の多重特異性抗体は二重特異性及び3価である。
【0092】
好ましくは、本発明の多重特異性抗体は二重特異性及び4価であり、すなわちIL-31については2価、及びIL-31と異なる標的については2価である。
【0093】
特定の態様において、本発明は、以下を含む多重特異性抗体に関する:
a)本明細書で定義される2つの抗体可変ドメイン;
b)IL-31と異なる標的に対して同じ結合特異性を有し、特異的に結合する2つの結合ドメインであり、特に、ここで前記結合ドメインはhSA-BD又はIL4R-BDであり、
ここで、前記多重特異性抗体はIgG領域を含む。
【0094】
本発明で使用される他の可変ドメインは、変異しているが、CDR領域において、表1に記載の配列に示されるCDR領域と、少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99パーセントの同一性を有するアミノ酸配列を含むが、ただし、そのような他の可変ドメインは段落0068の及び任意選択的、追加的に段落0069~0071の機能的特徴を示す。本発明で使用される他の可変ドメインは、変異アミノ酸配列を含み、ここで、表1に記載の配列に示されるCDR領域と比較すると、1、2、3、4、又は5個以下のアミノ酸はCDR領域内で変異しているが、ただし、そのような他の可変ドメインは段落0068の及び任意選択的、追加的に段落0069~0071の機能的特徴を示す。
【0095】
適切には、本発明の結合ドメインのVHドメインは、VH3又はVH4ファミリーに属する。1つの実施態様において、本発明で使用される結合ドメインは、VH3ファミリーに属するVHドメインを含む。本発明の文脈において、「VHxファミリー(又はVLxファミリー)に属する」という用語は、フレームワーク配列FR1~FR3が前記VHxファミリー(又はそれぞれVLx)に対して最も高い相同性を示すことを意味する。VH及びVLファミリーの例は、Knappik et al., J. Mol. Biol. 296 (2000) 57-86、又は国際公開第2019/057787号に記載されている。VH3ファミリーに属するVHドメインの具体例は配列番号13で示され、VH4ファミリーに属するVHドメインの具体例は配列番号14に示される。特に、配列番号13からのフレームワーク領域FR1~FR3は、VH3ファミリーに属する(表2、非太字でマークされた領域)。適切には、本明細書で使用されるVH3ファミリーに属するVHは、配列番号13のFR1~FR3と、少なくとも90%、より詳しくは少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するFR1~FR3を含むVHである。VH3及びVH4配列の代替例、及び他のVHx配列の例は、Knappik et al., J. Mol. Biol. 296 (2000) 57-86、又は国際公開第2019/057787号に見いだされる。
【0096】
適切には、本発明で使用される結合ドメインのVLドメインは、VκフレームワークFR1、FR2、及びFR3、特にVκ1又はVκ3フレームワーク、特にVκ1フレームワークFR1~FR3、及びVκ FR4から選択されるフレームワークFR4を含む。前記結合ドメインがscFvフォーマットである場合、前記結合ドメインは、VκフレームワークFR1、FR2、及びFR3、特にVκ1又はVκ3フレームワーク、特にVκ1フレームワークFR1~FR3、及びVκ FR4及びVλ FR4、特にVλ FR4から選択されるフレームワークFR4を含む。
【0097】
適切なVκ1フレームワークFR1~FR3並びに例示的なVλ FR4を配列番号15に示す(表2、FR領域は非太字でマークされている)。Vκ1配列の代替例、及びVκ2、Vκ3、又はVκ4配列の例は、Knappik et al., J. Mol. Biol. 296 (2000) 57-86中に見いだされる。適切なVκ1フレームワークFR1~FR3は、FR1~FR3に対応し配列番号15から得られるアミノ酸配列に対して少なくとも80、90、95パーセントの同一性を有するアミノ酸配列を含む(表2、FR領域は非太字でマークされている)。適切なVλ FR4は配列番号16~配列番号22、及び配列番号23に記載され、及び特に、ドメイン間ジスルフィド結合の形成のために、第2の単一システインが、対応するVH鎖、特にVHの51位(AHo番号付け)に存在する場合、単一のシステイン残基を含む。1つの実施態様において、本発明の結合ドメインのVLドメインは、scFvフォーマットである場合、配列番号16~配列番号23のいずれか、特に配列番号16又は23から選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも80、90、95パーセントの同一性を有するアミノ酸配列を含むVλ FR4を含む。
【0098】
本発明の抗体可変ドメインは、表1に列挙されるVHドメインを含む。適切には、本発明の抗体可変ドメインは、表1に列挙されるVHアミノ酸配列を含み、ここで、フレームワーク配列(すなわち、CDR配列ではない配列)内の5個以下のアミノ酸、特に4個以下のアミノ酸、特に3個以下のアミノ酸、特に2個以下のアミノ酸、特に1個以下のアミノ酸は変異している(ここで、変異とは、様々な非限定的な例として、付加、置換、又は欠失である)。本発明で使用される他の結合ドメインには、変異しているが、VH領域において、表1に記載される対応する配列に示されるVH領域と、少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99パーセントの同一性を有するアミノ酸を含み、表1に示される配列の1つの少なくとも位置5~140(AHo番号付け)、特に少なくとも位置3~145を含むVLドメインを含むが、ただし、そのような他の可変ドメインは段落[0068]の、及び任意選択的、追加的に段落[0069]~[0071]の機能的特徴を示す。
【0099】
特に、本発明の抗体可変ドメインは、表1の1つに列挙されるVLドメインを含む。適切には、本発明の抗体可変ドメインは、表1に列挙されるVLアミノ酸配列を含み、ここで、フレームワーク配列(すなわち、CDR配列ではない配列)内の5個以下のアミノ酸、特に4個以下のアミノ酸、特に3個以下のアミノ酸、特に2個以下のアミノ酸、特に1個以下のアミノ酸が変異している(ここで、変異とは、様々な非限定的な例として、付加、置換、又は変異である)。本発明で使用される他の結合ドメインには、変異しているが、VL領域において、表1に記載される配列に示されるVL領域と、少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99パーセントの同一性を有するアミノ酸を含み、表1に示される配列の1つの少なくとも位置5~140(AHo番号付け)、特に少なくとも位置3~145を含むVLドメインを含むが、ただし、そのような他の可変ドメインは段落[0068]の、及び任意選択的、追加的に段落[0069]~[0071]の機能的特徴を示す。
【0100】
本発明の抗体可変ドメインの特異的であるが非限定的な例は、scFv PRO1643、PRO1900、PRO1901、及びPRO1903であり、これらの配列は表3に列挙されている。
【0101】
適切には、本発明の多重特異性抗体の少なくとも1つの結合ドメインは、Fab、Fv、DSFv、及びscFvからなる群から選択される。
【0102】
本発明の多重特異性抗体に含まれる抗体可変ドメイン及び結合ドメインは、それぞれの抗原又は受容体に同時に結合することができる。この関連で使用される「同時に」という用語は、IL-31に特異的に結合する抗体可変ドメインの少なくとも1つと、IL-31とは異なる標的に対する特異性を有する結合ドメインの少なくとも1つとの同時結合を指す。
【0103】
適切には、本発明の多重特異性抗体に含まれる抗体可変ドメイン及び結合ドメインは、作動可能に連結されている。
【0104】
本明細書で使用される「作動可能に連結される」という用語は、2つの分子(例えば、ポリペプチド、ドメイン、結合ドメイン)が、各分子が機能的活性を保持する方法で結合されていることを示す。2つの分子は、それらが直接的でも間接的でも(例えば、リンカーを介して、部分を介して、部分へのリンカーを介して)「機能的に結合」することができる。「リンカー」という用語は、本発明で使用される結合ドメイン又は抗体可変ドメイン間に任意選択的に位置するペプチド又は他の部分を指す。分子を共有結合させるために、多くの戦略が使用することができる。これらには、特に限定されるものではないが、タンパク質又はタンパク質ドメインのN末端とC末端とのポリペプチド結合、ジスルフィド結合を介する結合、及び化学架橋試薬を介する結合が含まれる。この実施態様の1つの態様において、リンカーは、組換え技術又はペプチド合成によって生成されるペプチド結合である。2つのポリペプチド鎖が接続される特定の場合に適したリンカーの選択は、特に限定されるものではないが、2つのポリペプチド鎖の性質(例えば、自然にオリゴマー化するかどうか)、既知の場合は接続されるN末端とC末端との距離、及び/又はタンパク質分解及び酸化に対するリンカーの安定性を含むさまざまなパラメータに依存する。さらにリンカーは、柔軟性を提供するアミノ酸残基を含んでいてもよい。
【0105】
本発明の文脈において、「ポリペプチドリンカー」という用語は、それぞれがリンカーの一端に結合している2つのドメインを接続しているペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の鎖からなるリンカーを指す。ポリペプチドリンカーは、2つの分子が相互に正しい立体構造をとり、所望の活性を保持するような方法で2つの分子を結合するのに十分な長さを有していなければならない。特定の実施態様において、ポリペプチドリンカーは、2~30個のアミノ酸残基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30アミノ酸残基)の連続した鎖を有する。さらに、ポリペプチドリンカーに含めるために選択されるアミノ酸残基は、ポリペプチドの活性を著しく妨げない特性を示さなければならない。従って、リンカーペプチドは全体として、ポリペプチドの活性と矛盾する電荷を示したり、内部折り畳みを妨げたり、又は受容体モノマードメインの結合をひどく妨げるような1つ以上のモノマーのアミノ酸残基と結合や他の相互作用を形成したりしてはならない。特定の実施態様において、ポリペプチドリンカーは非構造化ポリペプチドである。有用なリンカーには、グリシン-セリン、又はGSリンカーが含まれる。「Gly-Ser」又は「GS」リンカーは、連続したグリシンとセリンのポリマー(例えば、(Gly-Ser)、(GSGGS)(GGGGS)、及び(GGGS)を含み(ここで、nは少なくとも1の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、及び当業者に理解されている他の柔軟なリンカー(例えば、シェーカーカリウムチャネル用のテザー、及び他の多種多様な柔軟なリンカー)を意味する。グリシン-セリンポリマーは、これらのアミノ酸を含むオリゴペプチドが比較的構造化されていないため、従って成分間の中性のテザーとして機能する可能性があるため、好ましい。第2に、セリンは親水性であるため、球状のグリシン鎖である可能性のあるものを可溶化することができる。第3に、同様の鎖は、単鎖抗体などの組換えタンパク質のサブユニットを結合するのに効果的であることが示されている。
【0106】
実施態様の1つの群では、本発明の多重特異性抗体は、免疫グロブリンFc領域を含み、及び(scFv)-Fc-(scFv)融合体(ADAPTIR)、DVD-Ig、DART(商標)、及びTRIDENT(商標)から選択されるフォーマットである。「DART(商標)」という用語は、MacroGenicsによって開発された抗体フォーマットを指し、これは、免疫グロブリンFc領域ポリペプチドと、Fc領域の1つの重鎖のN末端に、又はFc領域の両方のN末端に、融合された1つ又は2つの二重特異性Fv結合ドメインとを含む。「TRIDENT(商標)」という用語は、MacroGenicsによって開発された抗体フォーマットを指し、これは、免疫グロブリンFc領域ポリペプチド、1つの二重特異性Fv結合ドメイン、及び1つのFab断片を含む。二重特異性Fv結合ドメインとFab断片の両方が、Fc領域ポリペプチドの2つの重鎖のそれぞれのN末端に融合されている。
【0107】
別の実施態様の群では、本発明の多重特異性抗体のフォーマットは、2価二重特異性IgGフォーマット、3価二重特異性IgGフォーマット、及び4価二重特異性IgGフォーマットから選択される。特に、前記多重特異性抗体のフォーマットは、KiHベースのIgG、例えばDuoBodies(Duobody技術によって調製された二重特異性IgG)(MAbs. 2017 Feb/Mar;9(2):182-212. doi: 10.1080/19420862.2016.1268307);DVD-Ig;IgG-scFv融合体、例えばCODV-IgG、モリソン(IgG CH-scFv融合体(モリソン-H)、又はIgG CL-scFv融合体(モリソン-L))、bsAb(軽鎖のC末端に結合したscFv)、Bs1Ab(軽鎖のN末端に結合したscFv)、Bs2Ab(重鎖のN末端に結合したscFv)、Bs3Ab(重鎖のC末端に結合したscFv)、Ts1Ab(重鎖と軽鎖の両方のN末端に結合したscFv)、及びTs2Ab(重鎖のC末端に結合したdsscFv)から選択される。より詳しくは、前記多重特異性抗体のフォーマットは、KiHベースのIgG、例えばDuoBodies;DVD-Ig;CODV-IgG、及びモリソン(IgG CH-scFv融合体(モリソン-H)又はIgG CL-scFv融合体(モリソン-L))、さらに詳しくはDVD-Igとモリソン(IgG CH-scFv融合体(モリソン-H)、又はIgG CL-scFv融合体(モリソン-L))から選択される。
【0108】
本発明の特定の実施態様において、前記多重特異性抗体のフォーマットはモリソンフォーマット、すなわちモリソン-Lフォーマット及びモリソン-Hフォーマットから選択される。本発明で使用されるモリソン-L及びモリソン-Hフォーマットは、IgGFc領域、特にIgG4 Fc領域を有する4価の二重特異性分子フォーマットである。2つの非常に安定なscFv結合ドメイン(軽鎖は、Vλ FR4(λcap)と組み合わせてVκ FR1~FR3を含み、ここではλcap scFvとも呼ばれる)は、リンカーL1を介して、重鎖(モリソン-H)又は軽鎖(モリソン-L)C末端に融合される。
【0109】
リンカーL1は、2~30アミノ酸、より詳しくは5~25アミノ酸、最も詳しくは10~20アミノ酸のペプチドである。特定の実施態様において、前記リンカーL1は、1つ又はそれ以上の単位の4つのグリシンアミノ酸残基と1つのセリンアミノ酸残基(GGGGS)を含み、ここでn=1、2、3、4、又は5、特にn=2である。
【0110】
本発明の特別な実施態様において、多重特異性抗体は、上で定義したモリソン-Lフォーマットを有する。本発明の別の特別な実施態様において、多重特異性抗体は、上で定義したモリソン-Hフォーマットを有する。
【0111】
本発明の多重特異性抗体に含まれる抗体可変ドメインがscFv断片の形態である場合、これらのscFv断片は、リンカーL2によって接続された可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)とを含む。
【0112】
リンカーL2は、10~40アミノ酸、より詳しくは15~30アミノ酸、及び最も詳しくは20~25アミノ酸のペプチドである。特定の実施態様において、前記リンカーL2は、4つのグリシンアミノ酸残基と1つのセリンアミノ酸残基(GGGGS)(ここで、n=1、2、3、4、5、6、7、又は8、特にn=4である)との1つ又はそれ以上の単位を含む。
【0113】
そこに含まれる抗体可変ドメインがFab断片である本発明の多重特異性抗体の具体的であるが非限定的な例は、モリソン-H抗体PRO2198、PRO2199であり、その配列を表4に列挙する。
【0114】
本発明の抗体可変ドメイン及び多重特異性抗体は、当技術分野で公知の任意の便利な抗体製造法を使用して産生することができる(二重特異性構築物の産生に関しては、例えば Fischer, N. & Leger, O., Pathobiology 74 (2007) 3-14;二重特異性ダイアボディ及びタンデムscFvに関しては、Hornig, N. & Farber-Schwarz, A., Methods Mol. Biol. 907 (2012)713-727 及び国際公開第WO99/57150号を参照されたい)。二重特異性構築物の適切な調製方法の具体例としてはさらに、特に、Genmab技術(Labrijn et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110 (2013) 5145-5150を参照)及びMerus技術(de Kruif et al., Biotechnol. Bioeng. 106 (2010) 741-750を参照)が含まれる。機能性抗体Fc部分を含む二重特異性抗体の産生方法も当技術分野で公知である(例えば、Zhu et al., Cancer Lett. 86 (1994) 127-134、及びSuresh et al., Methods Enzymol. 121 (1986) 210-228を参照)。
【0115】
これらの方法は典型的には、例えばハイブリドーマ技術を使用して、骨髄腫細胞を所望の抗原で免疫化されたマウスからの脾臓細胞と融合させる(例えば、Yokoyama et al., Curr. Protoc. Immunol. Chapter 2, Unit 2.5, 2006を参照)ことによる、又は組換え抗体工学(レパートリークローニング又はファージディスプレイ/酵母ディスプレイ)(例えば、Chames & Baty, FEMS Microbiol. Letters 189 (2000) 1-8を参照)による、モノクローナル抗体又はモノクローナル抗体可変ドメインの生成と、2種以上の異なるモノクローナル抗体の抗原結合ドメイン又は断片又はその一部を組み合わせて、公知の分子クローニング技術を使用して二重特異性又は多重特異性構築物を得ることを含む。
【0116】
本発明の多重特異性抗体は、当技術分野で公知の方法を使用して、構成要素の結合特異性を結合させることによって調製することができる。例えば、二重特異性分子の各結合特異性を別々に生成し、次に互いに結合させることができる。結合特異性がタンパク質又はペプチドである場合、共有結合にはさまざまなカップリング剤又は架橋剤を使用することができる。架橋剤の例には、プロテインA、カルボジイミド、N-スクシンイミジル-5-アセチル-チオアセテート(SATA)、5,5’-ジチオビス(2ニトロ安息香酸)(DTNB)、o-フェニレンジマレイミド(oPDM)、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、及びスルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC)が含まれる(例えば、Karpovsky et al., 1984 J. Exp. Med. 160: 1686; Liu, M A et al., 1985 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:8648を参照)。他の方法には、Paulus, 1985 Behring Ins. Mitt. No. 78, 118-132; Brennan et al., 1985 Science 229:81-83, 及び Glennie et al., 1987 J. Immunol. 139: 2367-2375 に記載されたものが含まれる。結合剤はSATA及びスルホ-SMCCであり、両方ともPierce Chemical Co. (Rockford, Ill, USA) から入手可能である。
【0117】
あるいは、2つ以上の結合特異性を同じベクター内にコード化して、同じ宿主細胞内で発現及び構築することができる。この方法は、二重特異性分子がmAb×Fab、mAb×scFv、mAb×DSFv、又はmAb×Fv融合タンパク質である場合に特に有用である。多重特異性抗体及び分子を調製する方法は、例えば、米国特許第5,260,203号;米国特許第5,455,030号;米国特許第4,881,175号;米国特許第5,132,405号;米国特許第5,091,513号;米国特許第5,476,786号;米国特許第5,013,653号;米国特許第5,258,498号;及び米国特許第5,482,858号に記載されている。
【0118】
抗体可変ドメイン及び多重特異性抗体のこれらの特異的標的への結合は、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定法(REA)、FACS分析、バイオアッセイ(例えば、増殖阻害)、又はウェスタンブロットアッセイによって確認することができる。これらのアッセイはそれぞれ、一般に、目的の複合体に特異的な標識試薬(例えば、抗体)を使用することによって、特に目的のタンパク質-抗体複合体の存在を検出する。
【0119】
さらなる態様において、本発明は、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体をコードする1つの核酸又は2つの核酸を提供する。このような核酸は、哺乳動物細胞での発現のために最適化することができる。
【0120】
本明細書中で使用される「核酸」という用語は、「ポリヌクレオチド」という用語と互換的に使用され、1本鎖又は2本鎖型の1つ又はそれ以上のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド及びそのポリマーを指す。この用語は、既知のヌクレオチド類似体又は修飾された主鎖残基又は結合を含む核酸を包含し、これらは、合成、天然、及び非天然であり、参照核酸と比較した場合に同様の結合特性を有し、参照ヌクレオチドと同様の方法で代謝される。このような類似体の例には、特に限定されるものではないが、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルリン酸、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)が挙げられる。他に明示されない限り、特定の核酸はまた、その保存的に修飾された変種(例えば、縮重コドン置換体)及び相補配列を有する核酸、並びに明示的に示された配列も暗示的に包含する。具体的には、以下に詳述するように、縮重コドン置換は、1つ又はそれ以上の選択された(又はすべての)コドンの3位が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換される配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081, 1991; Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608, 1985; 及び Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98, 1994)。
【0121】
本発明は、上記の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体のセグメント又はドメインを含むポリペプチドをコードする実質的に精製された核酸分子を提供する。適切な発現ベクターから発現される場合、これらの核酸分子によってコードされるポリペプチドは、本発明の多重特異性抗体の抗原結合能力を示すことができる。
【0122】
ポリヌクレオチド配列は、デノボ固相DNA合成によって、又は本発明の多重特異性抗体又はその可変ドメイン若しくは結合ドメインをコードする既存の配列(例えば、以下の実施例に記載の配列)のPCR突然変異誘発によって生成することができる。核酸の直接化学合成は、当該分野で公知の方法、例えば、Narang et al., 1979, Meth. Enzymol. 68:90 のホスホトリエステル法;Brown et al., Meth. Enzymol. 68: 109, 1979 のホスホジエステル法;Beaucage et al., Tetra. Lett., 22: 1859, 1981 のジエチルホスホルアミダイト法;及び米国特許第4,458,066号の固体支持体法によって達成され得る。PCRによりポリヌクレオチド配列に変異を導入する方法は、例えば PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification, H. A. Erlich (Ed.), Freeman Press, NY, N.Y., 1992; PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Innis et al. (Ed.), Academic Press, San Diego, Calif, 1990; Mattila et al., Nucleic Acids Res. 19:967, 1991; 及び Eckert et al., PCR Methods and Applications 1:17, 1991 に記載されたように実施することができる。
【0123】
また、本発明では、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を産生するための発現ベクター及び宿主細胞も提供される。
【0124】
「ベクター」という用語は、それが連結されている別のポリヌクレオチドを輸送することができるポリヌクレオチド分子を指すことを意図している。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントが連結される環状2本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターはウイルスベクターであり、ここで追加のDNAセグメントがウイルスゲノムに連結される場合がある。特定のベクターは、それらが導入された宿主細胞内で自律複製することができる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。
【0125】
さらに、特定のベクターは、それらが作動可能に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術で有用な発現ベクターは、プラスミドの形態であることがよくある。プラスミドはベクターの最も一般的に使用される形態であるため、本明細書では、「プラスミド」と「ベクター」は互換的に使用される場合がある。しかし本発明は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターを含むことを意図する。この特定の文脈において、「作動可能に連結された」という用語は、2つ以上のポリヌクレオチド(例えばDNA)セグメント間の機能的関係を指す。通常、それは転写調節配列と転写された配列の機能的関係を指す。例えば、プロモーター又はエンハンサー配列は、それが、適切な宿主細胞又は他の発現系においてコード配列の転写を刺激又は調節する場合、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、転写配列に作動可能に連結されたプロモーター転写調節配列は、転写配列に物理的に隣接しており、すなわちそれらはシス作用性である。しかし、エンハンサーなどの一部の転写調節配列は、それらが転写を増強するコード配列に物理的に隣接していたり、近接して配置されている必要はない。
【0126】
抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体鎖をコードするポリヌクレオチドを発現させるために、様々な発現ベクターを使用することができる。ウイルスベースの発現ベクターと非ウイルス発現ベクターの両方を使用して、哺乳類宿主細胞内で抗体又は抗体可変ドメインを産生することができる。非ウイルスベクター及びシステムには、プラスミド、典型的にはタンパク質又はRNAを発現するための発現カセットを有するエピソームベクター、及びヒト人工染色体が含まれる(例えば、Harrington et al., Nat Genet. 15:345, 1997を参照)。例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)細胞におけるIL-31結合性ポリヌクレオチド及びポリペプチドの発現に有用な非ウイルスベクターには、pThioHisA、B、及びC、pcDNA3.1/His、pEBVHisA、B、及びC(Invitrogen, San Diego, CA, USA)、MPSVベクター、及び他のタンパク質を発現するための当技術分野で公知の他の多数のベクターが含まれる。有用なウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、SV40に基づくベクター、パピローマウイルス、HBPエプスタインバーウイルス、ワクシニアウイルスベクター、及びセムリキ森林ウイルス(SFV)が含まれる。Brent et al., supra; Smith, Annu. Rev. Microbiol. 49:807, 1995; and Rosenfeld et al., Cell 68: 143, 1992を参照。
【0127】
発現ベクターの選択は、ベクターが発現される予定の宿主細胞に依存する。典型的には、発現ベクターは、多重特異性抗体鎖又は可変ドメインをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター及び他の調節配列(例えばエンハンサー)を含む。1つの実施態様において、誘導性プロモーターを使用して、誘導条件下を除いて、挿入配列の発現を防止する。誘導性プロモーターには、例えばアラビノース、lacZ、メタロチオネインプロモーター、又は熱ショックプロモーターが含まれる。形質転換された生物の培養物は、その発現産物が宿主細胞によりよく許容されるコード配列について集団に偏りを与えることなく、非誘導条件下で増殖させることができる。プロモーターに加えて、多重特異性抗体鎖又は可変ドメインの効率的な発現には他の調節要素も必要又は望ましい場合がある。これらの要素には通常、ATG開始コドン及び隣接するリボソーム結合部位又はその他の配列が含まれる。さらに、発現効率は、使用する細胞系に適切なエンハンサーを含めることによって増強することができる(例えば、Scharf et al., Results Probl. Cell Differ. 20: 125, 1994; and Bittner et al., Meth. Enzymol., 153:516, 1987 を参照)。例えば、SV40エンハンサー又はCMVエンハンサーを使用して、哺乳動物宿主細胞における発現を上昇させることができる。
【0128】
使用されるベクターは、典型的には、存在する場合は、定常領域又はその一部を含む抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体の軽鎖及び重鎖をコードする。このようなベクターは、可変領域を定常領域との融合タンパク質として発現させることを可能にし、それによって無傷の抗体及びその抗体可変ドメインの産生をもたらす。通常、そのような定常領域はヒトのものである。
【0129】
「組換え宿主細胞」(又は単に「宿主細胞」)という用語は、組換え発現ベクターが導入された細胞を指す。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫をも指すことを意図していることを理解されたい。突然変異又は環境の影響により、後続の世代で特定の修飾が生じる可能性があるため、そのような子孫は実際には親細胞と同一ではない可能性があるが、それでも本明細書で使用される「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。
【0130】
本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を保有及び発現するための宿主細胞は、原核生物又は真核生物のいずれかであり得る。大腸菌は、本発明のポリヌクレオチドのクローニング及び発現に有用な原核宿主の1つである。使用に適した他の微生物宿主には、枯草菌などの桿菌、及び他の腸内細菌科、例えばサルモネラ菌、セラチア菌、及び様々なシュードモナス種が含まれる。これらの原核生物宿主では、典型的には宿主細胞と適合する発現制御配列(例えば、複製開始点)を含む発現ベクターを作製することもできる。さらに、任意の数の様々な周知のプロモーター、例えばラクトースプロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系、ベータラクタマーゼプロモーター系、又はラムダファージ由来のプロモーター系が存在するであろう。プロモーターは典型的には、任意選択的にオペレーター配列とともに、発現を制御し、転写及び翻訳を開始及び完了するためのリボソーム結合部位配列などを有する。酵母などの他の微生物も、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を発現するために使用することができる。昆虫細胞をバキュロウイルスベクターと組み合わせて使用することもできる。
【0131】
1つの実施態様において、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を発現及び産生するために、哺乳動物宿主細胞が使用される。例えばこれらは、内因性免疫グロブリン遺伝子を発現するハイブリドーマ細胞株、又は外因性発現ベクターを有する哺乳動物細胞株のいずれかであり得る。これらには、任意の正常な死すべき細胞、又は正常若しくは異常な不死の動物若しくはヒトの細胞が含まれる。例えば、無傷の免疫グロブリンを分泌できる多くの適切な宿主細胞株が開発されており、これには、CHO細胞株、様々なCOS細胞株、HeLa細胞、骨髄腫細胞株、形質転換B細胞、及びハイブリドーマが含まれる。ポリペプチドを発現するための哺乳類組織細胞培養物の使用は、例えば、Winnacker, FROM GENES TO CLONES, VCH Publishers, N.Y., N.Y., 1987で概説されている。哺乳類宿主細胞用の発現ベクターは、発現制御配列、例えば、複製開始点、プロモーター、及びエンハンサー(例えば、Queen, et al., Immunol. Rev. 89:49-68, 1986を参照)、並びに必要なプロセシング情報部位、例えばリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写ターミネーター配列を含み得る。これらの発現ベクターには、通常、哺乳動物の遺伝子又は哺乳動物ウイルスに由来するプロモーターが含まれている。適切なプロモーターは、構成的、細胞型特異的、段階特異的、及び/又は調節可能若しくは制御可能であり得る。有用なプロモーターには、特に限定されるものではないが、メタロチオネインプロモーター、構成的アデノウイルス主要後期プロモーター、デキサメタゾン誘導性MMTVプロモーター、SV40プロモーター、MRPpolIIIプロモーター、構成的MPS Vプロモーター、テトラサイクリン誘導性CMVプロモーター(例えば、ヒト前初期CMVプロモーター)、構成的CMVプロモーター、及び当技術分野で公知のプロモーター-エンハンサーの組み合わせが含まれる。
【0132】
目的のポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを導入する方法は、細胞宿主の種類に応じて異なる。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションは一般に原核細胞に利用されるが、リン酸カルシウム処理又はエレクトロポレーションは他の細胞宿主に使用される場合がある(一般に、Green, M. R., and Sambrook, J., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Fourth Edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012) を参照)。他の方法には、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム処理、リポソーム媒介形質転換、注射及びマイクロインジェクション、弾道法、ビロソーム、免疫リポソーム、ポリカチオン-核酸複合体、裸のDNA、人工ビリオン、ヘルペスウイルス構造タンパク質VP22(Elliot and O'Hare, Cell 88:223, 1997)への融合、薬剤により増強されたDNAの取り込み、及びエクスビボ形質導入が含まれる。組換えタンパク質を長期にわたって高収率で生産するには、多くの場合、安定した発現が望まれる。例えば、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を安定して発現する細胞株は、ウイルス複製開始点又は内在性発現要素及び選択マーカー遺伝子を含む本発明の発現ベクターを使用して調製することができる。ベクターの導入後、細胞を富化培地で1~2日間増殖させた後、選択培地に切り替える。選択マーカーの目的は、選択に対する耐性を与えることであり、その存在により、選択培地中で導入された配列をうまく発現する細胞の増殖が可能になる。耐性があり、安定してトランスフェクトされた細胞は、細胞の種類に適した組織培養技術を使用して増殖させ得る。従って、本発明は、本発明の可変ドメイン又は多重特異性抗体を産生する方法を提供し、ここで前記方法は、本発明の抗体抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体をコードする核酸又はベクターを含む宿主細胞を培養する工程を含み、それにより、本開示の前記抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体又はその断片が発現される。
【0133】
1つの態様において、本発明は、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を産生する方法に関し、この方法は、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体をコードする核酸を発現する宿主細胞を培養する工程を含む。特に本発明は、本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を産生する方法に関し、この方法は、(i)本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体をコードする1つの核酸又は2つの核酸、又は本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体をコードする1つ又は2つのベクターを提供し、前記1つ若しくは複数の核酸又は前記1つ若しくは複数のベクターを発現させ、及び前記抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体を発現系から収集する工程、又は(ii)本発明の抗体可変ドメイン又は多重特異性抗体をコードする1つの核酸又は2つの核酸を発現する1つの宿主細胞若しくは複数の宿主細胞を提供し、前記1つの宿主細胞又は複数の宿主細胞を培養し、及び前記細胞培養物から前記抗体可変ドメイン又は前記多重特異性抗体を収集する工程を含む。
【0134】
さらなる態様において、本発明は、本発明の多重特異性抗体と医薬的に許容し得る担体とを含む医薬組成物に関する。「医薬的に許容し得る担体」とは、抗体の構造を妨げない媒体又は希釈剤を意味する。医薬的に許容し得る担体は、組成物を増強又は安定化し、又は組成物の調製を容易にする。医薬的に許容し得る担体には、生理学的に適合する溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが含まれる。
【0135】
このような担体のいくつかは、医薬組成物を、例えば、被験体による経口摂取用の錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液、及びトローチとして製剤化することを可能にする。このような担体のいくつかは、医薬組成物を注射、注入、又は局所投与用に製剤化することを可能にする。例えば、医薬的に許容し得る担体は、滅菌水溶液であり得る。
【0136】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で公知の様々な方法によって投与することができる。投与経路及び/又は投与方法は、所望の結果に応じて変化する。投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下であってもよく、あるいは標的部位の近傍に投与されてもよい。特定の実施態様において、投与は筋肉内、又は皮下、特に皮下である。医薬的に許容し得る担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄、又は表皮投与(例えば、注射又は注入による)、特に筋肉内又は皮下投与に適しているべきである。投与経路に応じて、活性化合物、すなわち本発明の多重特異性抗体は、化合物を不活性化し得る酸の作用及び他の自然条件から化合物を保護する材料でコーティングされ得る。
【0137】
本発明の医薬組成物は、当技術分野でよく知られ日常的に実施されている方法に従って調製することができる。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000; 及び Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J. R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照。医薬組成物は、好ましくはGMP条件下で製造される。典型的には、本発明の多重特異性抗体の治療有効用量又は有効用量が、本発明の医薬組成物に使用される。本発明の多重特異性抗体は、当業者に公知の従来の方法によっ、て医薬的に許容し得る剤形に調製される。投薬計画は、最適な所望の応答(例えば治療応答)を提供するように調整される。例えば、単回ボーラスを投与してもよいし、時間をかけて数回に分けて投与してもよいし、治療状況の緊急性によって示されるように、用量を比例的に減少又は増加させてもよい。投与の容易さ及び用量の均一性のために、非経口組成物を単位剤形で調製することが特に有利である。本明細書で使用される投与単位剤形とは、治療される被験体に対する単位投与量として適した物理的に別個の単位を指す。各単位には、必要な医薬担体と組み合わせて、所望の治療効果を生み出すように計算された所定量の活性化合物が含まれる。
【0138】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の用量レベルは、患者に毒性を与えることなく、特定の患者、組成物、及び投与方法に対して所望の治療応答を達成するのに有効な有効成分の量を得るために、変更することができる。選択される用量レベルは、様々な薬物動態学的因子、例えば使用される本発明の特定の組成物、又はそのエステル、塩、若しくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用される特定の化合物の排泄速度、治療期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬剤、化合物、及び/又は材料、治療を受ける患者の年齢、性別、体重、状態、一般的な健康状態と過去の病歴、及び同様の要因に依存する。
【0139】
本発明の多重特異性抗体は、通常、複数回投与される。単回投与の間隔は、毎週、毎月、又は毎年にすることができる。患者における本発明の多重特異性抗体の血中レベルの測定によって示されるように、間隔は不規則でもよい。あるいは、本発明の多重特異性抗体は、徐放性製剤として投与することができ、この場合、必要な投与頻度は少なくなる。投与量と投与頻度は、患者における抗体の半減期に応じて異なる。一般にヒト化抗体は、キメラ抗体や非ヒト抗体よりも長い半減期を示す。投与量と投与頻度は、治療が予防的であるか治療的であるかによって異なる。予防的用途では、比較的低用量が比較的低頻度の間隔で長期間にわたって投与される。患者の中には生涯治療を受け続ける人もいる。治療用途では、疾患の進行が軽減又は停止するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的又は完全な改善を示すまで、比較的短い間隔で比較的高用量の投与が必要となる場合がある。その後、患者に予防療法を施すことができる。
【0140】
1つの態様において、本発明は、薬剤として使用するための本発明の多重特異性抗体又は本発明の医薬組成物に関する。適切な実施態様において、本発明は、アレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患、特に炎症性疾患と自己免疫疾患から選択される疾患の治療に使用するための多重特異性抗体又は医薬組成物を提供する。
【0141】
別の態様において、本発明は、アレルギー性疾患、炎症性疾患、又は自己免疫疾患、特に炎症性疾患又は自己免疫疾患の治療用の薬剤の製造に使用するための医薬組成物を提供する。
【0142】
別の態様において、本発明は、アレルギー性疾患、炎症性疾患、又は自己免疫疾患を治療するための、特に、治療を必要とする被験体における炎症性疾患又は自己免疫疾患を治療するための、多重特異性抗体又は医薬組成物の使用に関する。
【0143】
別の態様において、本発明は、治療有効量の本発明の多重特異性抗体を被験体に投与することを含む、被験体を治療する方法に関する。適切な実施態様において、本発明は、被験体におけるアレルギー性疾患、炎症性疾患、又は自己免疫疾患の治療方法、特に炎症性疾患又は自己免疫疾患の治療方法であって、治療有効量の本発明の多重特異性抗体を被験体に投与することを含む方法に関する。
【0144】
「被験体」という用語には、ヒト及びヒト以外の動物が含まれる。
【0145】
「動物」という用語には、すべての脊椎動物、例えば非ヒト哺乳動物、及び非ヒト哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、及び爬虫類が含まれる。他に明記されない限り、「患者」又は「被験体」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0146】
本明細書で使用される「治療(treatment)」、「治療している(treating)」、「治療する(treat)」、「治療された(treated)」などの用語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを指す。この効果は、疾患及び/又は疾患に起因する副作用の部分的又は完全な治癒、又は疾患の進行の遅延という点で治療的であり得る。本明細書で使用される「治療」は、哺乳動物、例えばヒトにおける疾患のあらゆる治療を包含し、以下を含む:(a)疾患を阻害する、すなわち、その発症を阻止する、及び(b)疾患を軽減する、すなわち疾患を退行させる。
【0147】
「治療有効量」又は「有効量」という用語は、疾患を治療するために哺乳動物又は他の被験体に投与された場合、そのような疾患の治療に影響を与えるのに十分な薬剤の量を指す。「治療有効量」は、薬剤、疾患及びその重症度、並びに治療を受ける被験体の年齢、体重などによって異なる。
【0148】
1つの実施態様において、アレルギー疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患は、掻痒を引き起こすアレルギー疾患、掻痒を引き起こす炎症性疾患、及び掻痒を引き起こす自己免疫疾患から、特に掻痒を引き起こす炎症性疾患及び掻痒を引き起こす自己免疫疾患から選択される。「掻痒」及び「かゆみ」という用語は、本明細書では同義的に使用され、掻きたいという欲求又は反射を引き起こす感覚を指す。アトピー性皮膚炎、皮膚真菌症、乾癬、蕁麻疹などのかゆみを引き起こす慢性皮膚疾患の場合、掻きむしることは特に問題となる可能性があり、これは、永続的なかゆみの刺激により、患者は患部の皮膚領域を絶えず及び/又は過剰に掻くことになり、皮損の怪我や皮膚表面のさらなる悪化につながるためである。
【0149】
本明細書で使用される「アレルギー疾患」又は「アレルギー」という用語は、環境中の通常は無害な物質に対する免疫系の過敏性によって引き起こされる多数の状態を指す。
【0150】
本明細書で使用される「炎症性疾患」という用語は、膨大な数の炎症性障害、すなわち、慢性炎症として知られる長期にわたる炎症を特徴とする炎症性異常を指すことが多い。「炎症」という用語は、病原体、損傷した細胞、又は刺激物などの有害な刺激に対する身体組織の複雑な生物学的応答を指す。これは、免疫細胞、血管、分子メディエーターが関与する防御応答である。定期的な炎症反応は、細胞傷害の最初の原因を除去し、最初の傷害や炎症過程で損傷した壊死細胞や組織を除去し、そして組織修復を開始するために身体にとって不可欠であるが、炎症性疾患は一般に、有害な刺激がなくても炎症が続くことを特徴とする。
【0151】
本明細書で使用される「自己免疫疾患」という用語は、機能している体の部分に対する異常な免疫応答から生じる状態を指す。それは自己免疫、すなわち自己反応性免疫応答(例えば、自己抗体、自己反応性T細胞)の存在の結果であり、それに起因する損傷又は病状の有無にかかわらず、通常は特定の器官に限定されるか、さまざまな場所の特定の組織が関与する。
【0152】
特定の実施態様において、掻痒症を引き起こす炎症性疾患又は自己免疫疾患は、アトピー性皮膚炎、急性アレルギー性接触皮膚炎、慢性自然発生性蕁麻疹、水疱性類天疱瘡、円形脱毛症、皮膚筋炎、結節性痒疹、乾癬、及びアトピー性喘息から、特にアトピー性皮膚炎から選択される。
【0153】
別の態様において、アレルギー性、炎症性、及び自己免疫性疾患は、アトピー性皮膚炎、急性アレルギー性接触皮膚炎、慢性自然発生性蕁麻疹、水疱性類天疱瘡、円形脱毛症、皮膚筋炎、結節性痒疹、乾癬、及びアトピー性喘息から、特にアトピー性皮膚炎から選択される。
【0154】
別の実施態様において、アレルギー性疾患、炎症性疾患、及び自己免疫疾患は、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、炎症性気道疾患、再発性気道閉塞、気道過敏症、慢性閉塞性肺疾患、クローン病、慢性非ヒスタミン関連蕁麻疹、抗ヒスタミン非応答性肥満細胞症、慢性単純苔癬、脂漏性皮膚炎、乾皮症、疱疹状皮膚炎、扁平苔癬、及び潰瘍性大腸炎から選択される。
【0155】
別の実施態様において、本発明は、帯状疱疹後神経痛、帯状疱疹後かゆみ、感覚異常痛、多発性硬化症、及び腕橈骨掻痒症から選択される神経障害性掻痒症である疾患の治療に使用するための、本明細書で定義される多重特異性抗体又は医薬組成物を提供する。
【0156】
別の実施態様において、本発明は、かゆみを伴う全身性疾患の治療のための鎮痒剤に使用するための多重特異性抗体又は医薬組成物を提供し、前記疾患は、胆汁うっ滞、慢性腎臓病、ホジキン病、皮膚T細胞リンパ腫及び慢性かゆみを伴う他のリンパ腫又は白血病、真性赤血球増加症、甲状腺機能亢進症、慢性節足動物後かゆみ(Id反応)、妊娠誘発性慢性かゆみ(例えばPUPPP)、好酸球性膿疱性毛包炎、薬物過敏反応、高齢者の慢性掻痒症又は乾燥性皮膚かゆみ(局所的、全身性)、及び火傷後の瘢痕部分のかゆみ(火傷後かゆみ)、遺伝性又は母斑性慢性かゆみ(例えば、ネザートン症候群、ダリエ病(モルバス・ダリエ)、ヘイリー・ヘイリー病、炎症性線状疣状表皮母斑(ILVEN)、家族性原発性皮膚アミロイドーシス、オルムステッド症候群)、水原性掻痒症、グラスファイバー皮膚炎、粘液性慢性かゆみ、化学療法誘発性かゆみ、及びHIVから選択される、配列表(AHo番号付けスキームに従って指定された変異;他に明記されない限り、NumabCDR定義に従って定義されたCDR)
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0157】
本出願の本文全体を通して、明細書の本文(例えば、表1~4)と配列表との間に矛盾がある場合には、明細書の本文が優先するものとする。
【0158】
明確にするために、別個の実施態様に関連して説明される本発明のいくつかの特徴は、単一の実施態様において組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔にするために単一の実施態様に関連して説明される本発明の様々な特徴は、個別に、又は任意の適切な部分組合わせで提供することもできる。本発明に係る実施態様のすべての組み合わせは、本発明に具体的に包含され、あたかもあらゆる組み合わせが個別に明示的に開示されているかのように本明細書に開示される。さらに、様々な実施態様及びその要素のすべての部分組合わせも本発明に具体的に包含され、あたかもそのような部分組合わせのそれぞれが本明細書に個別かつ明示的に開示されているかのように本明細書に開示される。
【0159】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施態様によって範囲が限定されるものではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な変更が、上記の説明から当業者には明らかとなるであろう。このような変更は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されている。
【0160】
それぞれの特許法に基づいて可能な範囲で、本明細書で引用したすべての特許、出願、刊行物、試験方法、文献、及びその他の資料は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0161】
以下の実施例は、上述の本発明を説明するものであるが、いかなる形でも本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者にそれ自体知られている他の試験モデルも、請求された発明の有益な効果を判定することができる。
【実施例
【0162】
実施例1:抗IL-31分子の生成と試験
プロジェクトの目的
このプロジェクトの目標は、ヒトIL-31に特異的に結合し、その生物学的作用を中和するヒト化モノクローナル抗体可変ドメインを特定することである。
【0163】
1.1.免疫
ヒトIL-31に対する最適な免疫応答を得るために、2つの異なる免疫化プロトコールを合計6匹のウサギに適用した。ウサギを、組換え産生され精製されたIL-31(Sino Biological、カタログ番号11557-H08H)で免疫した。免疫の前に、製造業者により組換えヒトIL-31の品質が、1)SDS-pageによる純度について、及び2)U87細胞においてSTAT3活性化を誘導する能力を測定することによる生物活性について、分析された。3匹のウサギからなる第1の群(プロトコール1)には、70日間を通してそれぞれ200μgを4回注射した。3匹のウサギからなる第2の群(プロトコール2)には、112日間を通してそれぞれ200μgを5回注射した。免疫の過程で、抗原に対するポリクローナル血清抗体の検出可能な結合を依然としてもたらす各ウサギの血清の最大希釈(力価)を決定することによって、抗原に対する体液性免疫応答の強度を定性的に評価した。固定化抗原(組換えヒトIL-31)に対する血清抗体力価は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用して評価された。精製ヒトIL-31で免疫された6匹のウサギすべてが、最大3×10のEC50という高い力価を示した。
【0164】
1.2.選別
ヒット特定手順の前に、プロテインGビーズを用いるフローサイトメトリーに基づく選別キャンペーンを、R-フィコエリトリン(RPE)標識IL-31の存在下で実施した。これにより、高親和性IL-31結合B細胞の特異的検出及び単離が可能となる。これらの2つの選別キャンペーンでは、4匹のウサギに由来する合計4.58×10個及び4.53×10個のリンパ球が分析された。これらのうち、IL-31特異的抗体(IgG)を発現するそれぞれ合計3,520個及び3,696個のB細胞が単離され、単一クローンとして3~4週間、個別に培養された。
【0165】
1.3.ヒットの特定
総論
ヒットの特定のために、直接ELISAスクリーニングを行って組換えヒトIL-31への結合を評価した。618個のクローンがヒトIL-31に結合することが判明した。カニクイザルIL-31及びマウスIL-31への結合はSPRのみによって評価した。全ての上清をさらに、IL-31誘導性シグナル伝達の生物活性を中和する能力について細胞ベースのIL-31RA/OSMRダイマー化アッセイで、及びヒトIL-31RAとヒトIL-31の相互作用の遮断について、競合ELISAで分析した。マウスIL-31との交差反応性が欠如しているため、マウスIL-31についてさらなる分析は行わなかった。
【0166】
ELISAによるヒトIL-31への結合
ヒットの特定、すなわちIL-31に結合する抗体を産生するB細胞クローンの特定については、上記2つの選別物の3,520個と3,696個のB細胞クローンの細胞培養上清を、セクション1.3に記載のようにELISAによって、ヒトIL-31に結合する抗体の存在についてスクリーニングした。618個のB細胞クローンの上清が、バックグラウンドを超えるシグナルを生成した。
【0167】
ヒトIL-31に対する結合親和性の測定
2次ヒット特定手順では、1次スクリーニング中に陽性と認定された618個のモノクローナルウサギ抗体のヒトIL-31に対する結合親和性に関する情報を、表面プラズモン共鳴(SPR)によって判定した。
【0168】
SPRによるこれらの親和性スクリーニングのために、ウサギIgGのFc領域に特異的な抗体を、標準的なアミンカップリング手順を使用してセンサーチップ(SPR-2親和性センサー、高容量アミン、Sierra Sensors)上に固定化した。B細胞上清中のウサギモノクローナル抗体は、固定化抗ウサギIgG抗体によって捕捉された。十分な捕捉を可能にするためには、B細胞上清中のIgG濃度を最小限にする必要がある。モノクローナル抗体を捕捉した後、ヒトIL-31を90nMの濃度でフローセルに3分間注入し、センサーチップ上に捕捉されたIgGからのタンパク質の解離を5分間進行させた。見かけの解離(k)速度定数及び会合(k)速度定数、並びに見かけの解離平衡定数(K)は、MASS-2分析ソフトウェア(Analyzer、Sierra Sensors)で1:1ラングミュア結合モデルを使用して算出された。
【0169】
584個の抗IL-31抗体について、ヒトIL-31に対する結合親和性を測定することができた。これらは、2.17×10-12M未満~2.11×10-5Mの範囲の解離定数(K)を示した。抗体の2.7%は0.5nM未満のKを示した。
【0170】
IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイ及び競合ELISAにおけるヒトIL-31の中和
効力を評価するために、細胞ベースのIL-31RA/OSMRダイマー化アッセイ(PathHunterアッセイ)及び受容体リガンド競合ELISAを開発し、B細胞上清での使用に適応された。細胞ベースのアッセイは、IL-31誘導性シグナル伝達の遮断の評価を可能にするが、競合ELISAでは、IL-31RAとIL-31の相互作用のみが評価される。これらのアッセイは、B細胞上清をマトリックスとして使用して実施でき、感度が高く正確であるため、両方のアッセイがスクリーニングに使用された。各B細胞上清の阻害活性は、単一ウェル分析を使用して試験された(用量応答は実施しなかった)。従って、観察された阻害の程度は、IgG特性のみではなく、B細胞上清中のウサギIgGの濃度にも依存する。
【0171】
遮断ELISAの分析により、多数の中和クローンが得られた。618個のクローンのうち166個がヒトIL-31とヒトIL-31RAとの相互作用を90%を超えて遮断し、143個のクローンが80%を超えて阻害した。>30%阻害の閾値に基づいて、PathHunterアッセイでは、103個のクローンがIL-31誘導性シグナル伝達を阻害した。
【0172】
種交差反応性(SPRによるカニクイザルIL-31への結合)
1次スクリーニングで特定された618個のヒットすべてを、カニクイザルIL-31に対する種交差反応性についてSPRによって分析した。結合親和性は、ヒトIL-31の代わりに90nMカニクイザルIL-31を使用したことを除いて、ヒトIL-31について上記したのと同様に、MASS-2 SPRデバイス(Sierra Sensors)を使用して表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定した。
【0173】
498個のクローン(80.5%)がカニクイザルIL-31への結合を示した。親和性について、オフレート(off-rate)は、SPCR装置の限界より低いか又はそれに近いため、5個の抗体について正確なK値を決定することができなかった。120個のクローンはカニクイザルIL-31に対する結合を示さなかった。結合抗体は、4.73×10-12M~3.39×10-5Mの範囲の平衡解離定数(K)を示した。分析したすべての抗体の3.8%が500pM未満のKを示した。ヒトIL-31に結合するウサギモノクローナル抗体の75.7%は、カニクイザルに対する親和性の10倍以上低かった。ヒトとカニクイザルIL-31の相関は良好であった。
【0174】
1.4.ヒット選択とヒット確認
ヒット選択とRT-PCR
ウサギ抗体のヒット確認、遺伝子配列解析、及びその後のヒト化の前提条件として、ウサギ抗体可変ドメインをコードする遺伝情報を検索する必要がある。これは、それぞれのメッセンジャーRNAを相補的DNA(cDNA)に逆転写(RT)し、続いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって二本鎖DNAを増幅することによって達成された。RT-PCRに供したB細胞クローンの選択は、主に500pM未満のヒトIL-31に対する親和性及びIL-31/IL-31RA競合ELISAにおける中和活性に基づいていた。500pMを超える親和性を有するが良好な中和特性も有するいくつかのクローンを選択に含めた。
【0175】
94個の独立したクローンに対応する94セットのウサギCDRを選択し、同定した。43個の独立したクローンに対応する43セットのウサギCDRが同定された。43個の配列決定されたクローンすべてのウサギCDR配列が系統樹にクラスター化された。40個の配列はCDR領域に基づく非重複配列であり、3個の配列は遊離システインを含有していた。同一の配列を有する3個のクローンが除外された。その結果、合計40個のクローンが、組換えIgGとして発現のために選択された。
【0176】
モノクローナル抗体のクローニングと製造
ヒット確認のためのクローンの選択に続いて、さらなる特性解析のためにウサギ抗体をクローン化し、発現させ、精製した。対応する軽鎖及び重鎖可変ドメインのクローニングには、適切な哺乳類発現ベクターへのDNA断片のインビトロ連結が必要であった。ウサギ抗体重鎖及び軽鎖の発現ベクターを、一過性の異種発現のために哺乳類懸濁細胞株にトランスフェクトした。続いて、分泌されたウサギIgGを親和性精製し、最終生成物をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、280nmでのUV吸光度、及びサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)によって分析して、同一性、含有量、及び純度を確認した。40個のクローンのうち37個を適切な哺乳動物発現ベクターにクローン化することができ、良好~高発現力価(3~19μgタンパク質/ml)と高率のモノマー含有量(94.7~99.5%)で製造することができた。
【0177】
1.5.モノクローナル抗体の薬理学的特性解析
ヒト及びカニクイザルIL-31に対する親和性
37個の精製モノクローナルウサギ抗体のヒト及びカニクイザルIL-31に対する結合動態を、SPR(MASS-2)分析によって決定した。カニクイザルIL-31は商業的に入手できなかったため、Sino Biologicalによってオンデマンドで製造された。各IgGは、カルボキシルメチル化デキストラン表面に結合した抗ウサギIgGを介して捕捉され、分析物の用量応答が測定された。2個のIgGを除いて全ての抗体がヒトIL-31に結合することが確認された。35個の標的結合抗体のうちの12個は、500pM未満のK値を示した。37個のIgGのうちの31個はカニクイザルIL-31に高親和性で結合し、23個のIgGは500pM未満のK値を示した。これらのうちの9個のIgGは、さらに10pM未満の値をを示した。
【0178】
IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイ(ヒトIL-31誘導性シグナル伝達の遮断)
さらに、IL-31RA/OSMR受容体を介するIL-13誘導性シグナル伝達に対する37個のウサギモノクローナル抗体の効果を、DiscoveryXからのPathHunterダイマー化アッセイで試験した。10ng/mlのIL-31によって誘導されるシグナル伝達を中和する効力(IC50)を、すべての抗体の連続希釈物について分析し、BMS-981164の効力と比較した。異なるアッセイプレートからのIgGを比較するために、相対的なIC50値を使用した。これらの値は、各アッセイプレートに含まれる参照分子BMS-981164に対するIgGのIC50値を較正することによって決定された(相対IC50:IC50、BMS-981164/IC50、試験抗体)。
【0179】
IgGは、BMS-981164よりも高い効力又は5倍以下の効力で、IL-31誘導性シグナル伝達を阻害した。2個のIgGがBMS-981164よりも優れた効力を示し、及び2個のさらなるIgGは、IC50について同様であった。
【0180】
競合ELISA(hIL-31RAへのhIL-31結合の阻害)
ヒトIL-31RAへのヒトIL-31の結合の阻害を、競合ELISAによって評価した。この目的のために、IL-31RAをELISAプレート上にコーティングした。ビオチン化IL-31をウサギモノクローナル抗体とプレインキュベートし、混合物をELISAプレートに添加して、IL-31RAに結合させた。次に、結合したビオチン化IL-31はストレプトアビジン-HRPを使用して検出された。
【0181】
競合ELISAは、効力に関してウサギ抗体を区別するのに十分な感度を有し、BMS-981164より低いIC50値を有する抗体が見つかった。2個のIgGを除いて、全ての抗体は、ヒトIL-31とIL-31RAとの相互作用を遮断し、いくつかは阻害が不完全であった。BMS-981164と比較して、20個のウサギ抗体は相互作用をより強力に阻害し、及び12個の抗体は同様の効力を示したか、又は5倍以上低くはないIC50値を示した。
【0182】
ヒト化scFvの生成のためのウサギIgGの選択
37個の特性解析されたウサギモノクローナル抗体の薬力学的特性に基づいて、最も優れた性能を示すクローンが、ヒト化及びリード候補生成のために選択された。クローンの選択基準は、i)IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイにおけるIL-31誘導性シグナル伝達の完全な遮断(1つの例外有り)、ii)ヒトIL-31に対する高い親和性、iii)競合ELISAにおけるヒトIL-31とヒトIL-31RAとの相互作用の中和、iv)SPRによるカニクイザルIL-31に対する交差反応性、及びv)配列多様性であった。これらの基準に加えて、37個のクローンすべての1次配列を、相補性決定領域(CDR)における不対システインの存在についてスクリーニングした。不対システインの同定では、CDR-H1とCDR-H2に一般的に存在するシステイン対は除外され、これは、ウサギの生殖系列レパートリーにコードされており、ジスルフィド架橋を形成すると考えられている。
【0183】
ほとんどの中和抗体は高い親和性を示したため、ヒト化のためのウサギ抗体の選択の焦点はIL-31RA/OSMRダイマー化アッセイであった。IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイにおいて、IL-31誘導性シグナル伝達を中和するために、IC50が50ng/ml以下である抗体がヒト化のために選択された。合計5個の有望なクローンが再フォーマット化及びヒト化のために選択された。
【0184】
1.6.scFvのヒト化
リード候補生成について、5個のウサギモノクローナル抗体クローンを選択した。これらのクローンのヒト化には、Numab独自のヒト可変ドメインアクセプター足場の1つにウサギCDRを転移することが含まれていた。このプロセスでは、6個のCDR領域のアミノ酸配列が、Numab CDR定義(表5)を使用して同定され、Numab独自の非常に安定した完全ヒトVk1/VH3ラムダキャップアクセプターフレームワークに移植され、「CDRグラフト」と呼ばれる構築物が得られた。
【表5】
【0185】
ヒトアクセプターフレームワークへのウサギCDRの排他的生着は、最も基本的な移植戦略である。しかし場合によっては、特定のCDRセットが、その完全な機能を維持するために、特定のウサギフレームワーク残基の変異を必要とする。従って、「CDRグラフト」に加えて、ウサギフレームワーク残基の定義されたパターンを含む追加のグラフティング変種が設計された。
【0186】
ヒト化scFv構築物を設計し、哺乳動物(CHO-S、pcDNA3.1)発現ベクターとして1mgスケールで、GeneUniversal(旧General Biosystems)に注文した。以下に記載するように、CHO-S細胞の一過性トランスフェクション用にプラスミドを使用した。
【0187】
1.7.ヒト化scFvの製造
哺乳類構築物の発現は、CHOgro一過性トランスフェクションキット(Mirus)を使用してCHO-S細胞で実施した。37℃で発現の5~7日後(細胞生存率が70%未満に達したとき)、遠心分離とそれに続く濾過によって培養物を採取した。タンパク質を、清澄化された培養上清から、プロテインL親和性クロマトグラフィーによって精製した。SE-HPLC分析による評価で、すべての分子が捕捉後のモノマー含有量>95%の少なくとも1つの親和性クロマトグラフィー画分を示したため、サイズ排除クロマトグラフィーによる仕上げを必要とする分子はなかった。試料を透析により最終緩衝液(150mM NaClを含む50mMリン酸-クエン酸緩衝液、pH6.4)に再緩衝化した。製造された物質の品質管理には、SE-HPLC、UV280、SDS-PAGEなどの標準的分析方法が適用された。多重特異性抗体フォーマットへの組み込みに適していると考えられた5個のsc03構築物(「完全グラフト」)の製造特性が表6に要約される。表7に、クローン50-35-B03の異なるグラフトの製造特性が要約される。
【表6】
【表7】
【0188】
1.8.適切な抗IL-31結合ドメイン(scFvフォーマット)の薬力学的特性解析
適切であると評価されたヒト化scFv抗体は、1次薬力学特性について解析された。
【0189】
ヒト及びカニクイザルIL-31に対する親和性
ヒト及びカニクイザルIL-31に対する7個のヒト化scFvの親和性を、T200装置(Biacore、GEHealthcare)でSPR分析によって測定した。カニクイザルIL-31は商業的に入手できなかったため、Sino Biologicalによってオンデマンドで製造された。ヒト及びカニクイザルIL-31-Hisは、カルボキシルメチル化デキストラン表面に結合した抗Hisタグ抗体を介して捕捉され、scFvが分析物として注入された。各分析物の注入サイクル後にセンサーチップが再生され、新しい抗原が捕捉された。scFvは、ランニング緩衝液で希釈した2つの濃度(30及び10nM)を用いる高処理能力モードで用量応答マルチサイクル動態アッセイを使用して測定された。得られたセンサーグラムは、1:1結合モデルを使用してフィッティングされた。
【0190】
表8に示されるように、全ての7個のヒト化scFvについて、ヒトIL-31への結合が確認された。
【表8】
【0191】
IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイ(ヒトIL-31誘導性シグナル伝達の遮断)
IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイを使用して、IL-31RA/OSMRヘテロダイマーを介してIL-31誘導性シグナル伝達を阻害するヒト化scFvの能力を試験した。ウェルあたり10,000個の細胞を96ウェルプレートに接種した。翌日、10ng/mlのIL-31の存在下で、scFv及び対照抗体BMS-981164の連続希釈物をプレートに添加した。37℃及び5%COで6時間インキュベートした後、検出溶液を加え、プレートをさらに1時間インキュベートし、発光を測定した。
【0192】
7個のscFvを、細胞アッセイで測定した。上述したように、分析された分子の効力がBMS-981164と比較された。
【0193】
相対的IC50値が、BMS-981164とscFvの質量単位(ng/ml)で計算された。効力データは表9に要約される。PRO1641、PRO1643、及びPRO1650の代表的な用量反応曲線は表1に示される。
【表9】
【0194】
競合ELISA(hIL-31RAへのhIL-31結合の阻害)
2つのヒト化scFvの効力は、競合ELISAを使用してさらに決定された。ヒトIL-31とヒトIL-31RAとの相互作用を阻害する各scFvの効力を、上述したものと同じ手順を使用するELISAによって評価した。IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイと同様に、各プレート上の個々のIC50値を、参照分子BMS-981164のIC50に対して較正した。完全グラフトscFvは、BMS-981164と同様の効力で、ヒトIL-31とヒトIL-31RAとの相互作用を阻害した。効力データは表10に要約される。PRO1641、PRO1643、及びPRO1650の代表的な用量応答曲線は表2に示される。
【表10】
【0195】
scFvの薬理学的特性解析と詳細な生物物理学的評価のための分子選択の概要
薬理学的特性解析の上記結果に基づき、PRO1645は最も低い結合親和性を示したため、PRO1645は除外された。他の6個のscFvは、その開発可能性と多重特異性抗体フォーマットへの取り込みの適切性を判断するための詳細な生物物理学的評価のために選択された。
【0196】
1.9.適切な抗IL-31結合ドメイン(scFvフォーマット)の生物物理学的特性解析
安定性測定用の安定性材料の製造
PRO1641、PRO1643、PRO1644、及びPRO1650は、安定性評価に十分な材料を生成するために、上記と同じ製造プロセスを使用して、わずかに大きなスケール(発現量0.25l)で再度生成された。安定性評価のために選択された他のタンパク質については、以前に生成された材料の量が安定性評価を行うのに十分であった。試料は、150mM NaClを含むpH6.4の50mMリン酸-クエン酸緩衝液(50mM NaCiP、pH6.4)中で調製された。精製と透析後、5MWCOの遠心濃縮チューブを使用してタンパク質試料を>10mg/mlに濃縮した。
【0197】
表11に示されるように、10mg/mlまで濃縮したときのモノマー損失は0.0~4.9%であった。
【表11】
【0198】
保存安定性試験
ヒト化scFvは、4週間の安定性試験で安定性試験に供され、ここでscFvは、水性緩衝液(最終緩衝液、50mM NaCiP、150mM NaCl、pH6.4)中で10mg/mlで調製され、<-80℃、4℃、及び40℃で4週間保存された。調製物中のモノマー及びオリゴマーの割合は、試験の異なる時点でSE-HPLCピーク面積の積分によって評価された。さらに、タンパク質濃度は、異なる時点でUV280測定によって決定された。表12は、試験のd14とd28に得られたエンドポイント測定値とを比較している。
【0199】
3つのscFv、すなわちPRO1641、調製PRO1643、及びPRO1644は、4℃で試験のd28でのモノマー含有量の損失は5%未満を示した。PRO1643は、40℃でd14とd28での保存でモノマー含有量の顕著な損失は示さない唯一のscFvであった。他の全てのscFvは、40℃ですでに14dの保存で、5%を大きく超える損失を示した。要約すると、クローン50-09-D07に基づくPRO1643は最大の保存安定性を示し、どの温度でもモノマー含有量とタンパク質含有量の大幅な損失を示さなかった。
【0200】
凍結-融解安定性
上記の保存安定性試験に加えて、凍結-融解(F/T)サイクルに関する6つの選択されたscFvの適合性(コロイド安定性)を評価した。
【0201】
F/T安定性評価では、保存安定性試験と同じ分析方法(SE-HPLC、UV-Vis)及びパラメータ(モノマー含有率%とモノマー損失%)を適用して、3回のF/Tサイクルにわたって分子の品質を追跡した。表13は、モノマー含有量(%)と3回のF/Tサイクルにわたる%モノマー含有量損失の経過を示す。専用の凍結-融解試験は実施されていないため、28日間にわたって取得された保存安定性試験の-80℃試料で得られた凍結-融解データが以下の表に示される。1試料につき3つの時点しか記録できなかったため、凍結-融解データは、3回のF/Tサイクルについてのみ入手可能である。
【0202】
熱アンフォールディング
6個のscFvの熱アンフォールディング測定を、示差走査蛍光法(DSF)を使用して実施した。PRO1698は、その保存安定性が悪かったため除外された。得られた熱アンフォールディングの中点(T)及び最大シグナルの10%で計算されたアンフォールディングの開始温度(Tonset 10%)値を、データをボルツマン方程式に当てはめることによって決定した。表14は、DSFによって測定された計算された融解温度をまとめたものである。
【表12】
【表13】
【表14】
【0203】
実施例2:多重特異性フォーマットのための抗IL-31分子の選択と最適化:
2.1.抗IL-31ドメインの選択に関する一般的な説明
抗IL-31ドメインPRO1643(50-09-D07-sc03:)は、所望の薬力学的特性と優れた安定性を示すため、さらなる開発のために最初に選択された。それにもかかわらず、抗IL-31結合ドメインPRO1643(50-09-D07-sc03)は、以下の2.2に示されるようにさらなる溶解度の改善を受けた。
【0204】
最終多重特異性抗体に適用された抗IL-31結合ドメインは、カニクイザルIL-31とは交差反応しない。
【0205】
2.2.抗IL-31ドメインの最適化
抗IL-31ドメインPRO1643(50-09-D07-sc03)は、多重特異性フォーマットに組み立てるためにさらに最適化された。
【0206】
PRO1643(50-09-D07-sc03)は、非常に安定な抗IL-31scFvであるが、溶解度、長期安定性、及び濃縮挙動に関して、さらに改善するための試みがなされた。従って、この分子の新しい変種が設計された。これらの変種は以下で説明される。簡単に説明すると、CDR又は前者のVH-CH境界面の疎水性パッチが、結合親和性を損なうことのない、及び重大な配列欠陥(化学修飾及び翻訳後修飾)、T細胞エピトープなどを導入することのない分子を設計することを目的として、詳細に分析された。
【0207】
全部で4個の変種が設計され、これらは表15に要約される。
【表15】
【0208】
2.3.最適化された抗IL-31結合ドメイン(scFvフォーマット)の生物物理学的特性解析
保存安定性試験
PRO1900、PRO1901、PRO1902、及びPRO1903は、セクション1.2.3で上述した保存安定性試験に供されたが、最後の読み取り値は14日目に得られ、F/T並びに-80℃での安定性は評価されなかった。
【0209】
表16に要約されているように、scFv PRO1900、PRO1901、PRO1902、及びPRO1903は優れた保存安定性を示した。4℃で14日間保存した後のモノマー含有量の損失は0.2%未満であり、40℃で14日間保存後は3%未満であった。また、これらの分子のいずれも、全ての温度及びデータ点でタンパク質含有量の大幅な損失を示さなかった。
【0210】
熱アンフォールディング
PRO1900、PRO1901、PRO1902、及びPRO1903の熱安定性は、NanoTemperを使用するナノダイナミック走査蛍光分析(nDSF)によって分析され、アンフォールディングの開始温度(Tonset)、アンフォールディングの中点(Tm1)、及び散乱開始温度を決定することができた。二重/三重測定のTm1及びTonset結果は表17に要約される。表17から推測できるように、PRO1900、PRO1901、PRO1902、及びPRO1903は高い融解温度を示した。
【表16】
【表17】
【0211】
濃縮溶解度試験
PRO1643、PRO1900、PRO1901、PRO1902、及びPRO1903を、本明細書に記載のように5MWCOの遠心濃縮管を使用して>10mg/ml及び>50mg/mlに濃縮した。
【0212】
表18に示されるように、それぞれ10mg/ml及び50mg/mlに濃縮してもモノマー含有量の実質的な損失はなかった。。
【0213】
保存安定性試験
PRO1900、PRO1901、PRO1902、及びPRO1903を、2週間の安定試験に供し、ここでscFvは水性緩衝液(最終緩衝液、50mM NaCiP、150mM NaCl、pH6.4)で50mg/mlに調製し、4℃及び40℃で2週間保存した。調製物中のモノマーとオリゴマーの断片を、試験の異なる時点でSE-HPLCピーク面積の積分により評価した。さらにタンパク質濃度を、異なる時点でUV280の測定により決定した。表19は、試験のd14の測定結果を示す。
【0214】
PRO1900、PRO1901、PRO1902、及びPRO1903は、50mg/mlで優れた保存安定性を示し、4℃で、しかし40℃でもモノマー含有量とタンパク質含有量の実質的な損失はなかった。
【0215】
2.4.最適化された抗IL-31結合ドメイン(scFvフォーマット)の薬力学的特性解析
ヒトIL-31に対する親和性
セクション1.8で上述したように、PRO1643と最適化された抗IL-31 scFvのヒトIL-31に対する親和性を、T200装置(Biacore、GEHealthcare)でSPR分析によって測定した。scFvは、ランニング緩衝液で希釈した2つの濃度(30と10nM)を用いて高処理能力モードで、用量応答マルチサイクル動態アッセイを使用して測定した。得られたセンサーグラムは、1:1結合モデルを使用してフィッティングされた。
【0216】
表20に示されるように、すべての最適化されたscFvについて、ヒトIL-31及びカニクイザルIL-31への結合が確認された。
【表18】
【表19】
【表20】
【0217】
Path Hunter IL-31RA/0SMRダイマー化アッセイ(ヒトIL-31誘導性シグナル伝達の遮断)
PRO1643及び最適化されたscFvを、IL-31RA/0SMRダイマー化アッセイを使用して、IL-31RA/0SMRヘテロダイマーを介するIL-31誘導性シグナル伝達を阻害する能力について試験した。このアッセイは、セクション1.8に記載のように実施された。分析された分子の効力をBMS-981164と比較した。
【0218】
相対的IC50値をBMS-981164とscFvの質量単位(ng/ml)で計算した。効力データは表21に要約される。表21に記載のように、PRO1643並びに最適化変種PRO1900、PRO1901、及びPRO1903は、IL-31誘導性シグナル伝達を強力に中和することができた。溶解度と安定性を最適化するために変種PRO1902に導入された変異は、明らかにIL-31誘導性シグナル伝達を阻害する能力の破壊を引き起こした。最適化されたscFv PRO1900、PRO1901、PRO1902、及びPRO1903の用量応答曲線は図3に示される。
【表21】
【0219】
実施例3:モリソン-H IgG4に基づく抗IL-4R×IL-31二重特異性抗体
次に、本発明の抗IL-31抗体可変ドメインが、多重特異性抗体フォーマットに組み込まれた場合に、有利な生物学的及び生物物理学的特性も提供するかどうかをさらに試験した。従って、多重特異性抗体は、本明細書で定義されるように、2個の抗IL-31抗体可変ドメインを含むモリソン-H IgG4フォーマットに基づいて設計された。IL-31とは異なる標的に特異的に結合する結合ドメインとして、2個のIL-4R結合ドメイン(IL4R-BD)が選択された。
【0220】
3.1.モリソンフォーマットの設計
モリソン-Hフォーマットを有する一連の抗IL-4R×IL-31二重特異性抗体が設計され、ここでFc領域はIgGサブクラスであるIgG4に由来する。
【0221】
カニクイザルIL-31に対するこれらの交差反応性、IL-31媒介シグナル伝達を遮断するこれらの優れた効力、及びこれらの優れた生物物理学的特性により、抗IL-31 scFv可変ドメイン50-09-D07-sc04が、モリソン-H抗体の重鎖のC末端に融合したscFvドメインとして選択された。同様に、これらの優れた生物学的特性及び生物物理学的特性により、抗IL-4R scFv可変ドメイン44-34-C10-sc08及び44-34-C10-sc09が、モリソン-H構築物のFabアーム結合ドメインとして選択された。
【0222】
ヒト化抗IL-4R結合ドメイン44-34-C10-sc08及び44-34-C10-sc09の同定、ヒト化、産生、及び最終的選択は、抗IL-31抗体可変ドメインについて上記したのと同じ方法を用いて実施した。
【0223】
2個のIgG4-(scFv)モリソン-H分子、すなわち表22に示されるPRO2198及びPRO2199が設計された(モリソン-H)。
【表22】
【0224】
多重特異性抗体PRO2198とPRO2199の発現は、一過性CHOgro発現システム(Mirus)を使用してFreeStyle CHO-S細胞で実施された。目的の遺伝子は哺乳類での発現用に最適化され、合成され、標準的なpcDNA3.1ベクターにクローン化された。発現培養物を、振盪フラスコを使用してバッチで37℃で6~7日間培養した(細胞生存率<70%)。遠心分離とその後の0.22μm滅菌濾過により、培養上清を細胞から分離した。標的タンパク質は、プロテインL又はA親和性クロマトグラフィーとそれに続くサイズ排除クロマトグラフィーの仕上げ工程(捕捉後に既に、SE-HPLCによって評価された適切なモノマー含有量を含む画分が入手できなかった場合)によって、清澄化した培養上清から捕捉された。製造された材料の品質管理には、SE-HPLC、SDS-PAGE、UV280などの標準的な分析方法が使用された。
【0225】
3.2.ヒト及びカニクイザルIL-31に対する親和性
二重特異性モリソン-H抗体PRO2198、PRO2199の組換えヒトIL-31タンパク質(Peprotech)への結合動態(親和性を含む)は、T200装置(Biacore, Cytiva)でSPR分析によって測定された。このSPR実験では、モリソン抗体は、ヒト組換えIL-4Rタンパク質(Fcタグを有するECD、R%D Systems)が固定化されたカルボキシルメチル化デキストラン表面(CM5センサーチップ;Biacore, Cytiva)に注入され、及び力価測定シリーズのヒトIL-31が分析物として注入された。ヒトIL-31への親和性は、ランニング緩衝液(ヘペス緩衝化生理食塩水、0.05%ツイーン-20、pH7.5)で希釈した0.05~30nMの範囲の5つの連続分析物濃度の注入を用いる単一サイクル動態アッセイを使用して、分析物の注入後のセンサーチップの再生なしで、測定した。動態及び見かけの解離平衡定数(K)の計算と曲線フィッティングの品質の測定は、IL-4Rについて上述したように行われた。結合レベルは、理論上のRmaxに対して正規化された達成された最大安定結合として計算された。カニクイザルIL-31に対する交差反応性は、ヒトIL-31親和性の分析と同じ設定を使用して測定したが、組換えカニクイザルIL-31(Hisタグ付きECD、Acro Biosystems)タンパク質をヒトIL-31の代わりの分析物として使用した点が異なる。
【0226】
組換えIL-31に対する結合動態を測定するために使用されるSPR設定の前提条件は、固定化ヒトIL-4Rを介するモリソン抗体の捕捉である。すでに試験された全てのモリソン抗体は、固定化ヒトIL-4Rに対して安定な結合を示し、従ってこの設定が有効であることが証明された。このSPR設定を使用する理論的根拠は、捕捉されたモリソン分子の均一な配向を保証する一方、IL-31結合部位の立体障害が最小化されることである。
【0227】
組換えヒトIL-4Rタンパク質を介するモリソン抗体の安定な捕捉が証明されたため、IL-31は分析物として注入され、捕捉されたモリソン分子へのIL-31の結合動態が計算された。
【0228】
表23に示されるように、モリソン-H抗体PRO2198及びPRO2199について、ヒトIL-31及びカニクイザルIL-31への高親和性結合が証明された。
3.3.ヒトIL-31誘導性受容体ダイマー化を阻害する効力の評価(PathHunter(商標)eXpress IL31RA/OSMRbアッセイ)
【0229】
PathHunter IL-31RA/OSMRbダイマー化アッセイ
IL-31RA/OSMRダイマー化アッセイで、モリソン-H抗体PRO2198及びPRO2199が、IL-31RA/OSMRを介してIL-31誘導性シグナル伝達を阻害する能力を評価した。ウェルあたり10,000個の細胞を96ウェルプレートに接種した。翌日10ng/mlのIL-31の存在下で、1,000~0.2ng/mlの濃度範囲の分子と対照抗体BMS-981164の3倍連続希釈物をプレートに添加し
た。37℃及び5%COで6時間インキュベートした後、検出溶液を加え、プレートをさらに1時間インキュベートし、発光を測定した。全ての抗体はまた、アッセイ培地中の過剰なIL-4R(50nMで)によるIL-31誘導性シグナル伝達の阻害について試験された。
【表23】
【表24】
ヒトIL-31の阻害
表24に、すべての効力データの要約が示される。反復分析からの平均相対IC50値(pM)も示される。両方のモリソン-H抗体は、BMS-981164と同等の効力で、IL-31誘導性シグナル伝達を阻害した。IL-31とIL-31Rとの相互作用の効率的な遮断は、抗IL-4RドメインがIL-4Rに結合している時に維持された。
【0230】
3.4.PRO2198及びPRO2199の生物物理学的特性解析:
3.4.1.熱安定性
PRO2198及びPRO2199を、pH5とpH8.5の間での熱安定性について分析した。熱的アンフォールディングと熱的凝集の開始の両方が測定された。熱的アンフォールディング中、分子のマルチドメイン構造により、すべての分子が複数回の遷移を示した。簡単にするために、最初の融解中間点のみを示す。結果は表25に要約される。
【表25】
【0231】
アンフォールディングの開始(Tonset)及び最初の融点(Tm1)は、すべての分子についてpH7で最も高かった。pH8.5に変更しても、熱安定性はわずかに低下するだけであった。pHが酸性になると、熱安定性が低下した。しかし、pH5では、アンフォールディングの開始はすべて55℃超であった。
【0232】
熱凝集は、pH7及びpH8.5でのみ観察された。pH5.0では、両方のモリソン抗体は、アンフォールディングされた状態であっても、より大きな凝集体を形成しなかった。中性及び塩基性pHでは、凝集の開始は最初の融点を超えており、非天然の凝集メカニズムを示唆している。
【0233】
3.4.2.高濃度安定性試験
高濃度安定性試験では、PRO2198を2つの調製緩衝液で調製した。
調製緩衝液F1:20mM酢酸塩、pH5.5;
調製緩衝液F2:20mMクエン酸塩、50mM NaCl、pH5.5。
【0234】
溶解度-タンパク質濃度
PRO2198は、沈殿の兆候や溶解度の限界に達することなく、100mg/ml以上に濃縮できた。さらに、PRO2198はタンパク質濃度の検出可能な減少を示さず、すなわちPRO2198は、十分に可溶性であり、4℃及び25℃で少なくとも4週間、100mg/mlを超える目標濃度に達し、その濃度を維持した。
【0235】
さまざまな温度でのモノマーの安定性
PRO2198をF1及びF2で調製し、100mg/ml超まで濃縮した。濃縮試料は4℃、25℃、及び40℃で最長4週間保存された。異なる時点で、モノマー含有量をSE-HPLCによって分析した。結果は表26に要約される。
【表26】
【0236】
3.5.PRO2198及びPRO2199の生物物理学的特性解析に使用される一般的方法
緩衝液交換
緩衝液交換は透析によって行った。抗体は、少なくとも200倍過剰の透析緩衝液を用いてSpectra Pro3透析膜(Spectrum Laboratories)中で透析した。
【0237】
抗体の濃縮
抗体は、10kDa又は30kDaの分子量カットオフ(MWCO)を備えた遠心濃縮機を使用して濃縮された。試料は、目標濃度に達するまで、22℃で5分ずつの工程で遠心分離された。工程間で試料は再懸濁される。
【0238】
タンパク質濃度の決定
タンパク質試料の濃度は、TecanプレートリーダーとNanoQuantプレートを使用して決定された。緩衝液は、280nmで測定された吸光度から差し引かれるブランクとして使用された。各測定値は、310nmで測定された可視粒子によって引き起こされる散乱について補正された。補正値は1cmの光路長に対して標準化され、対応するタンパク質の理論的吸光係数を使用して、タンパク質濃度が算出された。濃度が10mg/mlを超えるタンパク質試料の場合、試料を対応する緩衝液で少なくとも10倍、又は1mg/mlの公称濃度まで希釈した。
【0239】
保存
さまざまな温度でのタンパク質の安定性を評価するために、試料を4℃、25℃、及び40℃でインキュベートした。4℃保存は、公称温度4℃の冷蔵庫内で実施された。25℃及び40℃での保存では、試料をそれぞれ65%rH及び75%rHの湿度に制御されたキャビネットに置いた。
【0240】
動的光散乱
溶液中の分子及び粒子の拡散係数を決定するために、動的光散乱が使用される。 これは、溶液中の分子の流体力学半径 (Rh) の計算を可能にするほか、高次のオリゴマーの形成を検出する高感度な方法を提供する。
【0241】
高濃度安定性試験において、Rh及び多分散性が目標濃度で決定された。これにより、自己会合、オリゴマー化、及び粘度の潜在的な増加に関する情報が得られた。測定値は緩衝液又は試料の粘度について補正されず、代わりに水の粘度を使用して試料のRhが計算された。
【0242】
nanoDSFによる熱アンフォールディング
TSAを使用した熱アンフォールディングは、Syproオレンジの蛍光強度の変化によって決定された。色素の蛍光は疎水性相互作用に対して感受性である。タンパク質がアンフォールディングされると、疎水性アミノ酸が溶媒に曝露され、Syproオレンジの蛍光が増加する。得られた熱アンフォールディングの中点(T)及び最大シグナルの10%で算出された開始温度(Tonsetは、最小シグナルでの温度+0.1(最大シグナル-最小シグナル))は、データをボルツマン方程式にフィッティングすることによって決定された。
【0243】
SE-HPLCによるモノマー含有量
モノマー含有量は、Shodex KW403-4Fカラムを使用して、50mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、pH6.5を流して、分析用サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した。分析のために、5μgの試料を注入し、280nmで吸光度を記録した。試料の品質は、モノマーの相対的パーセント、HMWS、及びLMWSとして示される。
図1
図2
図3
【配列表】
2024501657000001.app
【国際調査報告】