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特表2024-501660系譜限定多能性幹細胞から得られるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】系譜限定多能性幹細胞から得られるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240105BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240105BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240105BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20240105BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALN20240105BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240105BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240105BHJP
【FI】
C12N5/10
A61P25/00
A61P25/16
A61P43/00 111
A61K35/545
C12N5/0797
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538001
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2021086866
(87)【国際公開番号】W WO2022136306
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20215929.9
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21198825.8
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514318301
【氏名又は名称】オーフス ユニバーシテット
【氏名又は名称原語表記】AARHUS UNIVERSITET
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デンハム, マーク
(72)【発明者】
【氏名】ムイシエ, マイマイティリ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZA02
(57)【要約】
本発明は、特定の遺伝子ノックアウトによって、ドーパミン作動性神経前駆細胞及びその誘導体とは異なる細胞系譜に分化する能力が限られている多能性幹細胞に関する。具体的には、本発明は、それらの系譜限定多能性幹細胞から得られるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体、及びその使用に関する。
【選択図】 図5B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GBX2、CDX1、CDX2及びCDX4が不活性化されていることを特徴とする多能性幹細胞。
【請求項2】
GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1、HOXB2、HOXA3、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.1、NKX2.2、PAX6、BRN3A、PHOX2A、PHOX2B、PITX2、DBX1、及びSIM1からなる群より選択される1つ又は複数の遺伝子が、さらに不活性化されている請求項1に記載の多能性幹細胞。
【請求項3】
GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1が、さらに不活性化されている請求項1又は2に記載の多能性幹細胞。
【請求項4】
前記遺伝子が、遺伝子ノックアウト若しくは未成熟終止コドンの導入によって、例えばCRISPRによって、又は前記遺伝子の転写若しくは翻訳を阻止することによる遺伝子サイレンシングによって、例えばsiRNA、CRISPR阻害によって、又は前記遺伝子のドミナントネガティブ型の導入によって、好ましくはCRISPRを使用して不活性化されている請求項1~3のいずれかに記載の多能性幹細胞。
【請求項5】
NANOG、POU5F1及び/又はSOX2、好ましくはNANOG、POU5F1及びSOX2である請求項1~4のいずれかに記載の多能性幹細胞。
【請求項6】
前記多能性幹細胞の細胞系譜限定細胞分化のための、且つ/又はドーパミン作動性神経前駆細胞若しくはその細胞誘導体の生成のための請求項1~5のいずれかに記載の前記多能性幹細胞の使用。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の多能性幹細胞から分化させたドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項8】
GBX2、CDX1、CDX2及びCDX4が不活性化されていることを特徴とするドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項9】
FOXA2、LMX1A、OTX2、EN1、及び/又はTHを発現する請求項7~8のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項10】
FOXA2、LMX1A、OTX2、EN1、SPRY1、WNT1、CNPY1、PAX8、ETV5、PAX5、SP5、及び/又はTLE4陽性細胞を発現する請求項7~9のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項11】
中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞、中脳ドーパミン作動性前駆神経細胞、中脳底板前駆細胞、及び尾側中脳前駆細胞からなる群より選択される請求項7~10のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項12】
前記その細胞誘導体が、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞である請求項7~11のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項13】
前記神経細胞が凍結保存される請求項7~12のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項14】
医薬品として使用するための請求項7~13のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項15】
幹細胞治療に使用するための請求項7~14のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項16】
神経変性疾患、好ましくはパーキンソン病の治療、予防又は緩和に使用するための請求項7~15のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項17】
前記神経変性疾患が、パーキンソン病、レビー小体病からなる群より選択され、好ましくはパーキンソン病である請求項16に記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項18】
前記神経変性疾患がパーキンソン病である請求項16~17のいずれかに記載のドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体。
【請求項19】
インビトロ薬物スクリーニングアッセイにおける請求項7~13のいずれかに記載の前記ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体の使用。
【請求項20】
請求項1~5のいずれかに記載の多能性幹細胞を提供する方法であって、多能性幹細胞においてGBX2、CDX1、CDX2及びCDX4を不活性化させることを含む方法。
【請求項21】
前記不活性化遺伝子が、遺伝子ノックアウト若しくは未成熟終止コドンの導入によって、例えばCRISPRによって、又は前記遺伝子の転写若しくは翻訳を中断させることによって、例えば遺伝子サイレンシングによって、siRNAによって、若しくはCRISPR阻害によって、又は前記遺伝子のドミナントネガティブ型の発現によって、好ましくはCRISPRを使用して不活性化されている請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の方法によって得られる/得ることができる多能性幹細胞。
【請求項23】
ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体を提供する方法であって、
- 請求項1~5又は22のいずれかに記載の多能性幹細胞を提供すること;及び
- 前記提供された多能性幹細胞を、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に分化させること
を含む方法。
【請求項24】
前記提供されたドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体が凍結保存される請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体が、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞、中脳ドーパミン作動性前駆神経細胞、中脳底板前駆細胞、及び尾側中脳前駆細胞からなる群より選択される請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記その細胞誘導体が、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞である請求項25に記載の方法。
【請求項27】
インビトロ及び/又は生体外で行われる請求項23~26のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の遺伝子ノックアウトによって、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体とは異なる細胞系譜に分化する能力が限られている多能性幹細胞に関する。具体的には、本発明は、それらの系譜限定多能性幹細胞から得られるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
中脳ドーパミン作動性(mDA)神経細胞の発生は、近年研究が盛んな領域である。部分的にはこれは、再生医療への関心が高まっていること、及びmDA神経細胞が生体内でどのように特化され、分化し、維持されるかをより良く理解することによってそれらの神経細胞に影響を与えるパーキンソン病(PD)などの疾患の治療が容易になるかもしれないという期待による。その知見は、インビトロでmDA神経細胞を作り出す取り組みを指導する(instruct efforts)のに役立つ可能性があり、これは細胞補充療法だけでなく、疾患モデリングや創薬にも有望である。
【0003】
ヒト多能性幹細胞は、からだのあらゆる細胞種に分化することができる。そのため、多能性幹細胞は、細胞補充療法のため、又はインビトロでの疾患をモデル化するために、特定の細胞種を生成する方法として活発に研究されている。したがって、この分野のアンメットニーズは、多能性幹細胞を、確実に且つ効率的に、目的の細胞種に誘導できるようにすることである。現在までに、多能性幹細胞を様々な細胞種に分化させるための多数のプロトコールが論文報告されてきているが、それらのいずれも、1つの細胞種の純粋な集団を確実に作り出す生じさせることはできない。
【0004】
中脳ドーパミン作動性(mesDA)神経細胞は、神経管の腹側中脳から発生する。モルフォゲンSHH及びWNTファミリーのメンバーは、特化に重要な役割を果たし、胚の背腹軸及び前後軸をそれぞれ確立するのに不可欠である(Castelo-Branco et al., 2003; Hynes et al., 1995)。中脳ドーパミン作動性神経細胞では、神経板の腹側神経上皮細胞を底板アイデンティティに特化するには、脊索からの高いSHHシグナル伝達が必要であり、胚の後方領域から発せられる段階的なWNTシグナル伝達は後神経前駆体を生成する。中脳領域の神経前駆体は、中脳アイデンティティへの細胞のパターン形成に関与するWNT1及びFGF8を峡部オーガナイザーからから受け取る。峡部オーガナイザーは、腹側中脳及び前菱脳の尾側領域に細胞のアイデンティティを精緻化及び誘導する上で不可欠である。ヒト多能性幹細胞(hPSC)を用いてこれらの発生段階をインビトロで再現することは、パーキンソン病の細胞移植治療の焦点となっている。
【0005】
幹細胞分化プロトコールにおいて、早期及び高濃度のSHHは、神経前駆細胞を底板のアイデンティティに特化するのに十分である(Fasano et al., 2010)。しかし、A-P(吻側-尾側とも呼ばれる)軸の場合、正確な濃度範囲内で調整されたWNT濃度が、細胞を尾側中脳に特化するのに必要である(Kirkeby et al., 2012)。濃度が高すぎると菱脳細胞種になり、低い濃度では前中脳が結果として生じる。また、FGF8のタイミングのよい送達が、尾側中脳への特化を向上させることが示されている(Kirkeby et al., 2017)。幹細胞分化プロトコールのこれらの進歩にもかかわらず、細胞株のばらつき、及びmesDA神経細胞の全収率は、これらの細胞の臨床での使用を今なお妨げている(Nolbrant et al., 2017)。
【0006】
多能性からmesDA神経細胞に至る複雑な発生の間、細胞が成熟するにつれて変化する転写因子が次々と発現し、特徴的なトランスクリプトームプロファイルが特定の成熟段階を規定する(La Manno et al., 2016)。
【0007】
国際公開2016/162747(A1)号には、神経変性疾患の治療に使用するための幹細胞由来ドーパミン作動性細胞を作製する方法が開示されている。ラミニン-111/121/521/421又は511でコーティングされた基質にプレーティングすることによって、細胞は所望の系譜に向けられる。
【0008】
したがって、幹細胞由来ドーパミン作動性細胞を作製するための改良された方法は有利であり、特に、大量又はより純粋な集団の幹細胞由来のドーパミン作動性細胞を作製するためのより効率的で且つ/又は信頼できる方法は有利であることになる。
【発明の概要】
【0009】
代わりの(alternate)系譜点(lineage points)における転写因子発現の制御により、細胞運命の選択を操作することができる。
【0010】
本研究では、中脳ドーパミン作動性(mesDA)の運命への分化を高めることを目的として、細胞の運命を限定し、非ドーパミン作動性細胞系譜を阻止する方法として、遺伝子ノックアウトアプローチの効果を利用することを選択した。具体的には、発生の初期段階で代わりの(alternate)細胞運命選択が行われる主要なポイントを調べ、どの転写因子決定因子がそれらの系譜にとって重要であるが、mesDA運命には必要ではないかを探った。代わりの(alternate)系譜に発現される系譜決定因子の遺伝子を欠失させることによって、多能性幹細胞の分化をドーパミン作動性アイデンティティに偏らせることができた。多能性状態では増殖することができるが、分化するときにはその能力が限られている多能性幹細胞を作製した。これらを「系譜限定多能性幹細胞」(LR-PSC)と名付けた。具体的には、中脳ドーパミン作動性前駆体が漸増発現を必要とすることから、発生中の神経管のA-P軸に注目し、菱脳及び脊髄の細胞運命を調節する転写因子を調べた。前菱脳はGbx2を必要とすることが示されており、脊髄はCdxファミリーメンバーに依存している。それらの遺伝子を除去することによって、中脳アイデンティティを取る細胞の割合を増加させ、脊髄運命への特化を阻んだ。結果は、そのアプローチが、特定濃度の外因性因子を厳密に必要とせずに、機能的mesDA神経細胞を確実に生成できることを示している。図7~10は、細胞から特定の遺伝子を欠失させることでどのようにして系譜限定幹細胞が生成できるかを示す。
【0011】
まとめると、本発明は、特定の遺伝子ノックアウトによってドーパミン作動性神経前駆細胞及びその誘導体とは異なる細胞系譜に分化する能力が限られている多能性幹細胞に関する。具体的には、本発明は、それらの系譜限定多能性幹細胞から得られるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体、及びその使用に関する。
【0012】
したがって、本発明の目的は、その分化能が限定された幹細胞を提供することに関する。
【0013】
具体的には、医療用途のある中脳ドーパミン作動性(mesDA)神経細胞を提供することが、本発明の目的である。
【0014】
したがって、本発明の最も広い態様では、本発明は、「系譜限定」多能性幹細胞だけでなく、系譜限定多能性幹細胞から得られるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体及びその使用に関する。一実施形態では、系譜限定は、多能性幹細胞における1つ又は複数のマスターレギュレーター遺伝子を不活性化させることによって得られる。マスターレギュレーター遺伝子の例は、本発明の様々な態様及び実施形態で示されている。
【0015】
さらに、1つ又は複数のマスターレギュレーター遺伝子の不活性化により、1つ又は複数のマスターレギュレーター遺伝子が不活性化されていない類似の細胞種と比較して、多能性幹細胞は、多くの細胞種((ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体とは異なる))にもはや分化できない(又は少なくとも分化が阻害される)結果となる。
【0016】
要するに、1つ又は複数の「マスターレギュレーター」遺伝子が不活性化された細胞株が「系譜限定」となる。
【0017】
したがって、本発明の一態様は、GBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1、HOXB2、HOXA3、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.1、NKX2.2、PAX6、BRN3A(POU4F1)、PHOX2A、PHOX2B、PITX2、DBX1、及びSIM1からなる群より選択される1つ又は複数の遺伝子が不活性化されていることを特徴とする多能性幹細胞に関する。
【0018】
本発明の別の態様は、多能性幹細胞の細胞系譜限定細胞分化のための、本発明による多能性幹細胞の使用に関する。
【0019】
さらに別の態様は、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体の生成のための本発明による多能性幹細胞の使用に関する。
【0020】
さらに本発明の別の態様は、本発明による多能性幹細胞から分化させたドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体を提供することである。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、GBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1、HOXB2、HOXA3、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.1、NKX2.2、PAX6、BRN3A(POU4F1)、PHOX2A、PHOX2B、PITX2、DBX1、及びSIM1からなる群より選択される1つ又は複数の遺伝子が、不活性化されていることを特徴とするドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に関する。
【0022】
本発明のさらに別の態様は、幹細胞治療においてなど、医薬品として使用するための本発明によるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体を提供することである。
【0023】
別の態様では、本発明は、神経変性疾患の治療、予防又は緩和に使用するための、本発明によるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に関する。
【0024】
一態様では、本発明は、薬物スクリーニングアッセイにおける本発明によるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体の使用に関する。
【0025】
さらに本発明の一態様は、本発明による多能性幹細胞を提供方法であって、多能性幹細胞において、GBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1、HOXB2、HOXA3、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.1、NKX2.2、PAX6、BRN3A(POU4F1)、PHOX2A、PHOX2B、PITX2、DBX1、及びSIM1からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子を不活性化させることを含む方法に関する。
【0026】
さらに、本発明のさらなる態様は、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体を提供するための方法であって、
- 本発明による多能性幹細胞を提供すること;及び
- 提供された多能性幹細胞をドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に分化させること
を含む方法に関する。
【0027】
本発明による細胞の利点は、少なくとも以下の通りである:
- 限定された分化は正しい(神経)細胞の量を増加させる(例えば実施例2~5を参照)。
- 限定された分化は、患者の移植後の危険な望ましくない分化のリスクを限定する。
- 限定された分化は、最適濃度以下の成長因子若しくは小分子が使用された場合又はそれらが存在しない場合、正しい神経細胞の細胞種を得ることができる(例えば実施例3~4を参照)。
- 限定された分化は、電気生理学的に成熟した神経細胞の発生を可能にする(例えば実施例8を参照)。
- 限定された分化は、生体内パーキンソン病ラットモデルにおけるmesDA神経細胞の強固な(robust)集団を可能にし、急速な運動回復をもたらす(例えば実施例9を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A図1 4日目の尾側神経前駆体への分化。A)4日目のCNP分化プロトコール概略図。B)4日目のCNPのH9、GBX2及び4xKO条件におけるOTX2のQPCR解析。C)H9、GBX2及び4xKO条件におけるCDX2のQPCR解析。D)4日目のCNPにおけるH9 GBX2株及び4xKO株の前方、中脳、菱脳及び脊髄領域を表す多能性遺伝子と神経遺伝子のヒートマップ。E)CRISPR改変hESCの単一細胞クローン選択を含む4xKO細胞株の生成の概略図。F)4xKO細胞株からの8xKOノックアウト細胞株の生成。4XKO細胞株は、GBX1、HOXA1、HOXA2及びHOXB1を標的とするガイド鎖を含有するレンチウイルスを形質導入された。
図1B図1の続き
図1C図1の続き
図1D図1の続き
図1E図1の続き
図1F図1の続き
図2A図2 11日目の尾側神経前駆体への分化。A~P)中脳遺伝子OTX2、PAX2、PAX5、PAX8及びEN1;菱脳遺伝子IRX3、HOXA2、HOXB2、HOXB1、KROX20、MAFB、HOXA3、HOXA4;並びに脊髄遺伝子HOXC6、HOXB8及びHOXC10のRNA発現解析。Q)11日目のCNP分化プロトコールの概略図。
図2B図2の続き
図2C図2の続き
図2D図2の続き
図2E図2の続き
図2F図2の続き
図2G図2の続き
図2H図2の続き
図2I図2の続き
図2J図2の続き
図2K図2の続き
図2L図2の続き
図2M図2の続き
図2N図2の続き
図2O図2の続き
図2P図2の続き
図2Q図2の続き
図3A図3 腹側中脳前駆体への分化。A)尾側中脳分化プロトコールの概略図。B~G)GSK3i(CHIR99021)濃度の範囲にわたる、16日目のH9及び4xKO細胞におけるOTX2、LMX1A、FOXA2、EN1、CNPY1及びHOXA2の発現。
図3B図3の続き
図3C図3の続き
図3D図3の続き
図3E図3の続き
図3F図3の続き
図3G図3の続き
図4図4 1μM神経前駆体の単一細胞シーケンシング。1μMのGSK3i(CHIR99021)を使用した中脳分化の16日目におけるH9及び4xKO細胞のA-P軸に沿って発現される遺伝子の検討。
図5A図5 8xKO細胞株の生成。A)4日目のCNP分化プロトコール。B)3μMのGSK3i下で分化させた4日目のCNPのH9、4xKO、8xKOにおけるOTX2発現。C)3μMのGSK3i下で分化させた4日目のCNPにおけるOTX2を発現する細胞の割合。D~E)H9 hESC、4日目のH9、4日目の4xKO及び4日目の8xKOにわたる、選択した遺伝子のlog2中心(log2 centered)発現を示すヒートマップ。
図5B図5の続き
図5C図5の続き
図5D図5の続き
図5E図5の続き
図6A図6 A:ドーパミン作動性神経細胞分化プロトコールの16日目における、対照(H9)細胞株と比較した、4xKO細胞株の単一細胞解析。背腹軸に沿った細胞種を示す遺伝子を発現する細胞の割合が示されている。FOXA2は底板の細胞に発現している。外側底板及び基板は、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.2、PHOX2A及びPHOX2Bのいずれかの発現で示される。 B:ドーパミン作動性神経細胞分化プロトコールの28日目における、4xKO細胞株及び対照(H9)の単一細胞解析。4X細胞とH9細胞を合わせたドーパミン系分化の28日目の単一細胞解析では、15個の細胞クラスターが見られた。前腹側マーカーNKX2.1及び背腹側軸の内側マーカーPAX6の発現を調べた。
図6B図6の続き
図7図7 hESCのドーパミン作動性神経細胞への分化を示す図式的な概要。細胞種及び成長因子などの外的因子の例が示されている。
図8図8 hESCのドーパミン作動性神経細胞への分化を示す図式的な概要。図7と比較して、細胞運命を制御する転写因子の例も含まれている。
図9図9 hESCのドーパミン作動性神経細胞への分化を示す図式的な概要。図8と比較して、特定の転写因子を欠失させることが、ある特定の細胞運命をいかに遮断するかを例示している。
図10図10 hESCのドーパミン作動性神経細胞への分化を示す図式的な概要。図9と比較して、追加の特定の転写因子を欠失させることにより、さらに一層限定された分化能がいかに達成されるかを例示している。
図11A図11 62DIVにおける単一細胞解析。A)クラスターのアイデンティティを示す選択された遺伝子の発現のヒートマップ。B)62DIVのクラスターにおけるLMX1A、TH、FOXA2及びEN1のバイオリンプロット。C)62DivのクラスターにおけるPDLIM1及びSEMA3Cのバイオリンプロット。D)62DIVにおけるTHサブクラスターのNR4A2、EN1、KCNJ6、CALB1及びFOXA2のバイオリンプロット。
図11B図11の続き
図11C図11の続き
図11D図11の続き
図12A図12 インビトロでの機能的な腹側中脳DA神経細胞の生成。A)長期(62DIV)神経細胞分化プロトコールの概略図。B)反復活動電位の発火を示す脱分極電流注入(下のトレース)に対する代表的な応答(上のトレース)。C)静止膜電位-45mVでバースト様(burst-like)事象を示す自発発火の例。閾値以下の膜振動の周期が散在する群では、オーバーシュートしたスパイクが発生した。D)1Hz~5Hzの範囲の発火頻度を示す自発細胞発火の頻度分布(n=16細胞)。E)HPLCで測定した、79DIVにおける4X及びH9細胞のドーパミン含量(タンパク質濃度に対して正規化(normatilized))。データは平均値±SD;n=3で示されている。対応のないt検定を使用して群間を比較した。**P<0.01。
図12B図12の続き
図12C図12の続き
図12D図12の続き
図12E図12の続き
図13A図13 パーキンソン病モデルラットに移植した細胞の生体内での解析。A)生体内研究の概要。片側性の6-OHDA誘発MFB病変を生じさせ(-4週目)、3週後にシリンダー試験及びアンフェタミン誘発回転試験で確認した。回転試験の平均スコアが類似する3つの群に動物を細分した。病変形成の4週間後(0週目)に、それらのサブ群のうち2つに25万個の細胞(H9又は4X細胞)を移植し、第3の群(6-OHDA病変群)には移植を行わなかった。移植後8週目及び18週目に回転試験を再度行い、18週目にシリンダー試験を再度行った。移植後19週目(病変発生から23週目)に動物を死亡させ、組織学的解析を行った。B~C)6-OHDA病変形成ラットの病変形成後3週間目のアンフェタミン誘発回転(B)とシリンダー試験(C)。移植前に細分した6-OHDA、H9及び4X群の間で同等の行動を示している。B~C)では、6-OHDAについてはN=8、H9についてはN=9、4XについてはN=10。D)アンフェタミン誘発回転非対称性。二元配置反復測定分散分析及びそれに続くシダックの多重比較検定;時間:F(1.689、35.46)=19.50、P<0.0001;投与:F(2、21)=15.23、P<0.0001。同じ時点での4X細胞移植群に対して**P<0.01及び****P<0.0001。-1週目の同じ群に対して§§P<0.01及び§§§§P<0.0001。E)シリンダー試験における各前肢(対側又は同側)及び両前肢の使用は、時間及び群を変数とする二元配置反復測定分散分析及びそれに続くシダックの多重比較検定で分析がなされた。時間×群:両方:F(2、22)=5.785、P=0.009;同側:F(2、22)=8.800、P=0.001;対側:F(2、22)=4.642、P=0.021。-1週目の同じ群に対して*P<0.05及び**P<0.01。同じ時点での6-OHDA病変群に対して$P<0.05及び$$P<0.01。同じ時点でのH9細胞移植群に対して£P<0.05及び££P<0.01。D)及びE)のデータは平均値±SEMで示されている。6-OHDA病変群にはn=7のラット、4X細胞移植群にはn=9のラット、及びH9細胞移植群にはn=8のラット)。F)THについて免疫染色された3群すべての冠状切片の代表的な写真。フレーム内の領域の高倍率画像は右側に表示されている。スケールバー、列(column)内の3枚の写真すべてについて50μm。G)は、移植片内のTH陽性細胞の推定数を示す。H)は、10万個の移植細胞あたりのTH陽性神経細胞の収量を示す。I)はTH移植片の体積を示す。J)4X細胞移植片内のGIRK2/THとCALB1/THの二重陽性細胞の割合を示す免疫蛍光データの定量解析。データは平均パーセンテージ±SD(n=9のラット)で示されている。
図13B図13の続き
図13C図13の続き
図13D図13の続き
図13E図13の続き
図13F図13の続き
図13G図13の続き
図13H図13の続き
図13I図13の続き
図13J図13の続き
【0029】
以下、本発明をより詳細に説明していく。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本発明をさらに詳細に説明する前に、まず以下の用語及び慣例を明確にする。
【0031】
ドーパミン作動性神経前駆細胞
本発明に文脈において、「ドーパミン作動性神経前駆細胞」は、中脳前駆体ドーパミン作動性神経細胞、尾側中脳前駆体、中脳底板前駆体などを含む、ドーパミン作動性神経細胞になりうる細胞として理解されるべきである。
【0032】
ドーパミン作動性神経細胞は他の種類の細胞を含む細胞集団であることもある。細胞集団は、好ましくは、セロトニン神経細胞を含まない細胞集団である。ドーパミン作動性神経細胞は、好ましくは、FOXA2、LMX1A、EN1及びTH陽性細胞を含む細胞集団である。
【0033】
一実施形態では、ドーパミン作動性神経前駆細胞は、好ましくは、FOXA2、LMX1A、OTX2、EN1、SPRY1、WNT1、CNPY1、PAX8、ETV5、PAX5、SP5、及び/又はTLE4陽性細胞を含む細胞集団である。
【0034】
ドーパミン作動性神経前駆細胞の誘導体
本発明に文脈において、「ドーパミン作動性神経前駆細胞の誘導体」は、ドーパミン作動性神経細胞、中脳ドーパミン作動性神経細胞など、「ドーパミン作動性神経前駆細胞」がなりうる細胞として理解されるべきである。
【0035】
中脳ドーパミン作動性神経細胞
本発明に文脈において「中脳ドーパミン作動性神経細胞」という用語は、発生中の脳の中脳領域に由来する細胞を意味する。したがって、中脳ドーパミン作動性神経細胞は、ドーパミン作動性神経細胞のサブセットである。
【0036】
系譜限定
本発明に文脈において、「系譜限定」という用語は、多能性幹細胞などの、「系譜限定」されていない類似の細胞種と比較して、もはや多くの細胞種に分化できない(又は分化することが少なくとも抑制されている)細胞を意味する。
【0037】
本発明に文脈において、「系譜限定」は、特許請求の範囲で画定されるように、細胞株の1つ又は複数の遺伝子を不活性化させること(遺伝子ノックアウトによるなど)によって達成される。
【0038】
幹細胞
幹細胞は、その後に、特化した細胞がそれから生じる未分化の細胞である。
【0039】
本発明で使用できる多能性幹細胞は、生体に存在するあらゆる細胞に分化することができる多能性を有する幹細胞であり、多能性幹細胞は増殖能も有する。多能性幹細胞の例としては、胚性幹(ES)細胞、核移植によって得られたクローン胚に由来する胚性幹細胞(「ntES細胞」)、胚性生殖細胞(「GS細胞」)、胚芽細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、並びに培養線維芽細胞及び骨髄幹細胞に由来する多能性細胞(Muse細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。多能性幹細胞は、好ましくは、ES細胞、ntES細胞又はiPS細胞である。
【0040】
本発明で使用される多能性幹細胞は、その過程において、ヒトのクローンを作らず、ヒト胚を工業的又は商業的に使用しないという条件付きで生成される。
【0041】
胚性幹細胞は、広範な自己再生能及び多能性をもつ、3つの胚葉のすべてに分化する能力をもつ。それらは治療目的に有用であり、組織代替療法、薬物スクリーニング、機能ゲノミクス及びプロテオミクスに無限の細胞源をもたらす可能性がある。
【0042】
人工多能性幹細胞(iPS細胞又はiPSCとも呼ばれる)は、体細胞から直接生成することができる多能性幹細胞の一種である。
【0043】
なお、本発明の代替的な態様では、多能性幹細胞は、アストロサイト又はリプログラミングされた/リプログラミング可能なアストロサイトも含むと考えられることに留意されたい。アストロサイトは、神経細胞などの他の細胞種に分化するようにリプログラミングできることは周知である。
【0044】
マスターレギュレーター
遺伝学において、「マスターレギュレーター」は、特に細胞運命及び分化に関連する調節経路における、遺伝子制御階層の頂点にある遺伝子である。マスターレギュレーター遺伝子は、「細胞アイデンティティ決定因子」又は「細胞種決定因子」とも呼ばれうる。したがって、本発明に従って不活性化される可能性のある遺伝子は、マスターレギュレーター遺伝子を包含すると考えることが可能である。
【0045】
神経変性疾患
変性神経疾患は、バランスや、動作、会話、呼吸、心臓の機能など、体の多くの活動に影響を及ぼす。これらの疾患の多くは遺伝的なものである。原因が、アルコール依存症、腫瘍、脳卒中などの病態であることもある。その他の原因として、毒素、化学物質、及びウイルスなどが挙げられうる。原因がわからないこともある。
【0046】
本発明に文脈において、「神経変性疾患」という用語は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、ハンチントン病、レビー小体病、パーキンソン病及び脊髄性筋萎縮症を含む。
【0047】
神経変性は、神経細胞の死滅を含む、神経細胞の構造又は機能が進行性に失われることである。筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びプリオン病を含む、多くの神経変性疾患が神経変性過程の結果として発症する。
【0048】
パーキンソン病(PD)は、中脳ドーパミン作動性(DA)神経細胞の減少に起因する神経変性疾患である。パーキンソン病は、特定の種類の中脳ドーパミン(mesDA)神経細胞の比較的局所的な変性起因しており、幹細胞に基づく治療の標的として特に注目されている。パーキンソン病に対する細胞補充療法の概念的な証明が、数多くの治験で得られてきている。パーキンソン病(PD)は、中脳ドーパミン作動性(DA)神経細胞の減少に起因する神経変性疾患である。
【0049】
好ましい実施形態では、本発明による生成されたドーパミン作動性神経前駆細胞は、パーキンソン病の治療又は緩和に使用するためのものである。
【0050】
系譜限定多能性幹細胞
上記で概説されたように、本発明の一部は、特定の遺伝子ノックアウトによって、ドーパミン作動性神経前駆細胞及びその誘導体とは異なる細胞系譜に分化するその能力が限られている多能性幹細胞(複数可)に関する。具体的には、本発明は、それらの系譜限定多能性幹細胞から得られるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体及びその使用に関する。したがって、本発明の一態様は、GBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1、HOXB2、HOXA3、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.1、NKX2.2、PAX6、BRN3A(POU4F1)、PHOX2A、PHOX2B、PITX2、DBX1、及びSIM1からなる群より選択される1つ又は複数の遺伝子が不活性化されていることを特徴とする多能性幹細胞に関する。
【0051】
好ましい実施形態では、GBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2及びHOXB1からなる群より選択される1つ又は複数の遺伝子は不活性化されている。実施例の項で概説されるように、1、4又は8個の遺伝子がノックアウトされた細胞株が作製された。それらの細胞種は、ドーパミン作動性神経前駆細胞及びその誘導体以外の系譜への分化が抑えられていた。
【0052】
一実施形態では、列挙した遺伝子の1つ又は複数の両方のアレルは不活性化されている。両方のアレルが不活性化されている場合が最も効率的と考えられる。
【0053】
さらなる一実施形態では、GBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1及びHOXB2からなる群より選択される少なくとも2つの遺伝子は不活性化されている、例えば少なくとも3つの遺伝子、好ましくは例えば少なくとも4つの遺伝子、例えば少なくとも5つの遺伝子、例えば少なくとも6つの遺伝子、例えば少なくとも7つの遺伝子、又はより好ましくは例えば少なくとも8つの遺伝子は不活性化されている。
【0054】
別の好ましい実施形態では、少なくともGBX2及びCDX2は不活性化されている。それらの遺伝子を不活性化することによって、尾側神経上皮系分化が阻止される。GBX2のデータは、例えば図1及び図2に示されている。さらに、CDX2は脊髄の大部分で発現しており、3つのCDX遺伝子のなかでおそらく最も重要であると考えられている。
【0055】
さらなる一実施形態では、CDX1、CDX2及びCDX4の少なくとも1つは不活性化されている、例えばCDX1、CDX2及びCDX4の少なくとも2つは不活性化されている、例えばCDX1及びCDX2は不活性化されている、例えばCDX2及びCDX4は不活性化されている、又はCDX1及びCDX4は不活性化されている、又は好ましくは、例えば少なくともCDX1、CDX2及びCDX4は不活性化されている。それらの遺伝子のうちの1つ又は複数を不活性化させることによって、尾側神経前駆細胞の分化は阻止される。
【0056】
さらに別の実施形態では、HOXA1、HOXA2、HOXB1及びHOXB2の少なくとも1つは不活性化されている、例えばHOXA1、HOXA2及びHOXB1の少なくとも2つは不活性化されている、例えばHOXA1及びHOXA2は不活性化されている、例えばHOXA2及びHOXB1は不活性化されている、又は例えばHOXA1及びHOXB1は不活性化されている、又は好ましくは、例えば少なくともHOXA1、HOXA2及びHOXB1は不活性化されている。それらの遺伝子のうちの1つ又は複数を不活性化させることによって、菱脳細胞の分化は阻止される。
【0057】
さらに別の実施形態では、少なくともGBX2、CDX1、CDX2、及びCDX4は不活性化されている。実施例2~4では、そのような細胞株に関するデータが示されている(4xKO細胞株)。
【0058】
別の実施形態では、少なくともGBX2、CDX1、CDX2、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2及びHOXB1は不活性化されている。実施例5では、そのような細胞株に関するデータが示されている(8xKO細胞株)。
【0059】
さらなる一実施形態では、少なくとも以下の遺伝子は不活性化されている:
- GBX2、CDX1、CDX2及びCDX4;又は
- GBX2、HOXA1、HOXA2及びHOXB1;又は
- GBX2、HOXA1、HOXA2、HOXB1及びHOXB2;又は
- GBX2、CDX2、HOXA1、HOXA2、HOXB1及びHOXB2。
【0060】
さらに別の実施形態では、以下の遺伝子のうちの1つ又は複数は不活性化されている:
- PAX6、HOXB2、HOXA3、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.1、NKX2.2、PAX6、BRN3A(POU4F1)、PHOX2A、PHOX2B、PITX2、DBX1、及びSIM1。
【0061】
実施例6では、それらの遺伝子を不活性化する根拠をさらに詳しく説明する。要するに、列挙した遺伝子は背腹軸に沿った細胞種を表している。
【0062】
様々な遺伝子が様々な方法によって不活性化される。したがって、一実施形態では、少なくとも1つの遺伝子は、遺伝子ノックアウト若しくは未成熟終止コドンの導入によって、例えばCRISPRによって、又は遺伝子の転写若しくは翻訳を阻止することによる遺伝子サイレンシングによって、例えばsiRNA、CRISPR阻害によって、又は遺伝子のドミナントネガティブ型(version)の導入によって、好ましくはCRISPRを使用して不活性化されている。実施例の項では、不活性化はCRISPRによって行われており、インデル変異を遺伝子(複数可)に導入し、フレームシフト変異又は配列の一部の欠失のいずれかがもたらされ、結果として1つ又は複数のアミノ酸が失われるものである。
【0063】
様々な多能性幹細胞が本発明に使用されうる。したがって、一実施形態では、多能性幹細胞は、胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞からなる群より選択され、好ましくは哺乳動物由来、さらにより好ましくはヒト由来である。
【0064】
多能性幹細胞は、様々な遺伝子の発現パターンによって明らかにすることができる。したがって、一実施形態では、本発明による多能性幹細胞は、NANOG、POU5F1(OCT4)及び/又はSOX2、好ましくはNANOG、POU5F1(OCT4)及びSOX2である。当業者は、当該技術分野で公知の他の発現パターンを特定してもよい。
【0065】
上記でも概説したように、本発明の代替的な態様では、多能性幹細胞はアストロサイト又はプログラミングされた/プログラミング可能なアストロサイトも含むと考えられることに留意されたい。アストロサイトはプログラミングされて、神経細胞などの他の細胞種に分化できることがよく知られている。例えば、アストロサイトは特定の遺伝子の過剰発現によって中脳ドーパミン作動性神経細胞に変換できることが示されている(Rivetti et al., 2017)。また、Cortiら(Corti et al 2012)は、神経運命をもつ前駆細胞及び成熟細胞を得るための、ヒト皮質アストロサイトの神経幹/前駆体表現型への脱分化を示した。
【0066】
したがって、ヒトのアストロサイトからの多分化能の回復は、神経障害における内在性中枢神経系細胞の細胞リプログラミングにおいて潜在的な可能性がある。本発明と組み合わせることで、この可能性をさらに探究することができる。
【0067】
したがって、遺伝子をノックアウトしてその能力を限定することによってドーパミン作動性神経細胞の生成を増強する方法は、(リプログラミングされた/リプログラミング可能な)アストロサイトの中脳ドーパミン作動性神経細胞への変換にも適用できる可能性がある。
【0068】
この態様は、本発明の他の態様と組み合わせできることも理解されるべきである。
【0069】
多能性幹細胞の使用
本発明による多能性幹細胞は様々な目的に使用することができる。したがって、本発明の一態様は、多能性幹細胞の細胞系譜限定細胞分化のための、本発明による多能性幹細胞の使用に関する。
【0070】
別の態様は、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体の生成のための、本発明による多能性幹細胞の使用に関する。
【0071】
一実施形態では、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞、中脳ドーパミン作動性前駆神経細胞、尾側中脳前駆細胞、及び中脳底板前駆細胞からなる群より選択される。
【0072】
別の実施形態では、前記(said)その細胞誘導体は、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞である。
【0073】
ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体
具体的には、本発明は、本発明による系譜限定多能性幹細胞から得られるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に関する。したがって、一態様はさらに、本発明による多能性幹細胞から分化させたドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に関する。ここでもやはり、実施例の項で概説されるように、本発明の系統限定幹細胞は、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に効率よく分化することができる。
【0074】
したがって、さらに別の態様では、本発明は、GBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1、HOXB2、HOXA3、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.1、NKX2.2、PAX6、BRN3A(POU4F1)、PHOX2A、PHOX2B、PITX2、DBX1、及びSIM1からなる群より選択される1つ又は複数の遺伝子が不活性化されていることを特徴とするドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に関する。
【0075】
一実施形態では、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は、GBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2及びHOXB1からなる群より選択される1つ又は複数の遺伝子は不活性化されている。
【0076】
別の実施形態では、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞、中脳ドーパミン作動性前駆神経細胞、中脳底板前駆細胞、及び尾側中脳前駆細胞からなる群より選択される。
【0077】
関連する実施形態では、前記その細胞誘導体は、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞である。
【0078】
多能性幹細胞に関する態様のために示した不活性化遺伝子のリストはこの態様にも適用されることが理解されるべきである。
【0079】
ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は、特有の発現パターンによって明らかにすることができる。一実施形態では、神経細胞(ドーパミン作動性神経前駆細胞)は、FOXA2、LMX1A、EN1及び/又はTHを発現する。
【0080】
関連する実施形態では、ドーパミン作動性神経前駆細胞は、(高いレベルの)FOXA2、LMX1A、OTX2、EN1、SPRY1、WNT1、CNPY1、PAX8、ETV5、PAX5、SP5、及び/又はTLE4を発現する。
【0081】
生成された細胞が使用前に保存できれば、有利である可能性がある。したがって、一実施形態では、神経細胞は凍結保存される。
【0082】
医療用途
本発明による生成された神経細胞には、様々な医療用途がありうる。したがって、本発明の一態様は、幹細胞治療においてなど、医薬品として使用するための本発明によるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に関する。
【0083】
別の態様では、本発明は、神経変性疾患の治療、予防又は緩和に使用するための、本発明によるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に関する。
【0084】
一実施形態では、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は、対象、好ましくは哺乳動物対象、より好ましくはヒト対象の脳に移植される。
【0085】
別の実施形態では、神経変性疾患は、パーキンソン病、レビー小体病からなる群より選択され、好ましくはパーキンソン病である。好ましい実施形態では、神経変性疾患はパーキンソン病である。
【0086】
ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は、様々な形態の移植片に使用することができる。したがって、一実施形態では、その使用は、自家移植、異種移植又は同種移植としてである。
【0087】
インビトロでの使用
本発明によるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は、インビトロで使用することもできる。したがって、本発明の一態様は、薬物スクリーニングアッセイにおける本発明によるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体の使用に関する。酸化ストレスを防ぐ薬物や、ミトコンドリアの損傷を防ぐ薬物、ミスフォールドしたタンパク質の分解を促進する薬物、ミスフォールドしたタンパク質の分泌を防ぐ薬物、神経を保護する薬物など。
【0088】
系譜限定多能性幹細胞を提供するための方法
さらに、本発明の一態様は、本発明による多能性幹細胞を提供するための方法であって、多能性幹細胞においてGBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2、HOXB1、HOXB2、HOXA3、NKX6.1、NKX6.2、NKX2.1、NKX2.2、PAX6、BRN3A(POU4F1)、PHOX2A、PHOX2B、PITX2、DBX1、及びSIM1からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子を不活性化させることを含む方法に関する。
【0089】
一実施形態では、多能性幹細胞においてGBX2、CDX2、CDX1、CDX4、GBX1、HOXA1、HOXA2及びHOXB1からなる群より選択される1つ又は複数の遺伝子は不活性化されている。
【0090】
ここでもやはり、多能性幹細胞に関する態様で示した不活性化遺伝子のリストはこの態様にも適用されることが理解されるべきである。
【0091】
さらなる一実施形態では、少なくとも1つの不活性化遺伝子を含む提供された多能性幹細胞(複数可)は、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体とは異なる細胞系譜に分化するその能力が限られている。
【0092】
関連する実施形態では、少なくとも1つの不活性化遺伝子を含む提供された多能性幹細胞は、尾側神経前駆細胞、脊髄前駆細胞、菱脳前駆細胞、後脳前駆細胞、及び髄脳前駆細胞からなる群より選択される細胞系譜に分化するその能力が限られている。
【0093】
一実施形態では、少なくとも1つの遺伝子は、遺伝子ノックアウト若しくは未成熟終止コドンの導入によって、例えばCRISPRによって、又は遺伝子の転写若しくは翻訳を中断させることによって、例えば遺伝子サイレンシングによって、siRNAによって、若しくはCRISPR阻害によって、又は遺伝子のドミナントネガティブ型(version)の発現によって、好ましくはCRISPRを使用して不活性化されている。
【0094】
本発明のさらなる態様は、本発明による方法によって得られる/得ることができる多能性幹細胞に関する。
【0095】
ドーパミン作動性神経前駆細胞を提供するための方法
さらに、本発明のさらなる態様は、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体を提供するための方法であって、
- 本発明による多能性幹細胞を提供すること;及び
- 提供された多能性幹細胞を、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体に分化させること
を含む方法に関する。
【0096】
本発明による方法の利点は、細胞分化培地中の様々な成分の量があまり制限されない可能性があることである。例えば、実施例3に示されるように、CHIR99021の濃度はあまり制限されない。したがって、最適でない濃度の成長因子又は小分子が使用された場合でも、所望の細胞種を生成することができる。
【0097】
さらなる一実施形態では、提供されたドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は凍結保存される。
【0098】
別の実施形態では、ドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体は、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞、中脳ドーパミン作動性前駆神経細胞、中脳底板前駆細胞、及び尾側中脳前駆細胞からなる群より選択される。
【0099】
さらなる実施形態では、前記その細胞誘導体は、中脳ドーパミン作動性神経細胞などのドーパミン作動性神経細胞である。
【0100】
さらに別の実施形態では、本発明の方法は、インビトロ及び/又は生体外(ex vivo)で行われる。
【0101】
本発明の他の態様
本発明のさらなる態様は、神経変性疾患に罹患した対象を治療又は緩和するための方法であって、本発明によるドーパミン作動性神経前駆細胞又はその細胞誘導体を対象の脳に移植することを含む方法に関する。
【0102】
本発明の1つの態様の文脈で記載された実施形態及び特徴は、本発明の他の態様にも適用されることに留意すべきである。
【0103】
本願で引用されている特許及び非特許の参考文献はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0104】
以下、本発明を次の非限定的な例においてさらに詳細に説明していく。
【実施例
【0105】
実施例1 - 材料と方法
ヒト多能性幹細胞の培養
ヒト胚性幹細胞(hESCs;H9細胞株、WiCell)を、1%非必須アミノ酸(NEAA)、2mMグルタミン、0.1mMβ-メルカプトエタノール、0.5%ペン/ストレップ及び20%ノックアウト血清代替を補充したDMEM/栄養混合F-12からなるKSR培地中の照射ヒト線維芽細胞上で維持した。KSR培地に、FGF2(15ng/ml;Peprotech)及びアクチビンA(15ng/ml;R&Dシステムズ)を補充した。7日ごとに細胞を手動で継代し、照射線維芽細胞が入った、新しく調製したゼラチンコーティングディシュに断片を移した。
【0106】
4日目及び11日目の尾側神経前駆体への分化
以前に記載されたように(Denham et al., 2015)、hESCを尾側神経前駆体に分化させた。簡潔に言うと、フィーダー(CCD-1079 Sk、ATCC)で増殖しているコロニーからhESC断片を切り出し、N2サプリメント1%、B27サプリメント-ビタミンA1%、インスリン/トランスフェリン/セレニウム-A(ITS-A)1%、グルコース0.3%、グルタマックスサプリメント1%、ペニシリン/ストレプトマイシン0.5%を補充した1:1のNeurobasal培地(NBM)及びDMEM/F-12を含むN2B27培地中でビトロネクチンコーティングプレートにプレーティングした(すべてライフテクノロジーズ製)。培地に、SB431542(SB;10μM、Tocris Bioscience)及びLDN193189(LDN;100nM、Stemgent)及びCHIR99021(CHIR;3μM、Stemgent)で4日間補充した。11日目の尾側神経前駆体の場合、細胞を上記のように4日目まで培養し、次いでコロニーを0.5mm片に切断し、FGF2(20ng/ml;Peprotech)及び400nMのSAG(ミリポア)を補充したN2B27培地で低接着96ウェルプレート(コーニング、コーニング、ニューヨーク州、米国、www.corning.com)で浮遊培養した。
【0107】
中脳ドーパミン作動性神経細胞への分化
mesDA神経細胞の生成は、以前に報告されたプロトコールを若干の修正を加えて(Nolbrant et al., 2017)、実施することによって達成した。簡潔に言うと、0日目から9日目まで、10μMのSB431542、CHIR99021(0.5~1μM)、0.1μMのLDN-193189(Stemgent)、及び400nMのSAG(ミリポア)を補充したN2B27培地で細胞を増殖させた。4日目にコロニーを断片に切り、浮遊培養した。9~11日目に、培地のサプリメントをFGF8(100ng/ml;R&Dシステムズ)に変更した。11日目から培地に、FGF8(100ng/ml)、LM22A4(2μM)、及びアスコルビン酸(200μMの場合;シグマ)を補充した。16日目以降、細胞をアキュターゼで分離させ、ポリオルニチン、フィブロネクチン及びラミニン(すべてシグマ製)でコーティングされた培養プレート上で培養した。神経分化培地はB27 1%、ペン/ストレップ25U/mL、グルタマックス0.5%からなる。NDMに、200μMのアスコルビン酸、LM22A4(2μM)、1μMのDAPT(Tocris bioscience)、GDNF(10ng/ml)、dcAMP(500μM)を補充した。実験終了まで1日おきに培地を交換した。あるいは、16日目に、浮遊培養を保ってオルガノイドを生成させた。
【0108】
レンチウイルスの作製
第3世代レンチウイルスは、以前に報告されたように生成した(Gill and Denham, 2020)。手短に言えば、5つのレンチウイルスプラスミド、pLV-4gRNA-GBX2-RFP、pLV-hUbC-GBX2-CDX124-Cas9-T2A-GFP、pLV-HOXA1+2-HOXB1-hUbC-dsRED、pLV-Puro-U6-GBX1-G3-U6-GBX1-G1及びlentiCas9-Blast(Addgene#52962)を使用してレンチウイルスを作製した。
【0109】
ノックアウト細胞株の生成
遺伝子ノックアウト細胞株を生成するために、多重CRISPR/Cas9をベースとするシングルレンチウイルスベクター系を使用した(Kabadi et al., 2014)。ガイド配列を含有するレンチウイルスプラスミドの構築には、ゴールデンゲート(Golden Gate)クローニング法を使用する必要があった。具体的には、次のドナープラスミドph7SK-gRNA、phU6-gRNA、pmU6-gRNA、phH1-gRNA及びデスティネーションベクターpLV hUbC-Cas9-T2A-GFP、pLV GG hUbC-dsRED(Addgene;53189、53188、53187、53186、53190、84034)を使用した。ドナープラスミドをBbsIで消化し、遺伝子のゲノム標的配列を含有する一対の一本鎖オリゴを一緒にアニールして、プラスミドにクローニングした。次いで、4つのゴールデンゲート互換ドナーベクターのセットを選択、使用して最終的なデスティネーションベクターを生成した。簡潔に言うと、選択したドナーベクター及びデスティネーションベクターをすべてBsmBIで消化し、T4リガーゼと共に断片をライゲーションし、形質転換し、アンピシリンを用いてコロニーを選択した。生成された最終的なデスティネーションベクターは、pLV-GBX2-CDX1+2+4-hUbC-Cas9-T2A-GFP及びpLV-HOXA1+2-HOXB1-hUbC-dsREDであった。GBX1の場合、レンチウイルスデュアルガイドピューロマイシンベクターであるpLV-Puro-U6-GBX1-G3-U6-GBX1-G1を設計し、Vectorbuilder(ベクターID:VB190322-1078gcv)から購入し、表1のガイド配列とした。
【0110】
手短に言えば、GBX2ノックアウト細胞株であるH9細胞に、LV-4gRNA-GBX2-RFP及びlentiCas9-Blastを形質導入し、3日後に10μg/mlのブラストサイジンを使用して形質導入細胞を6日間選択した。次いで、FACSAriaIII(BD Biosciences、サンノゼ、カリフォルニア州)の561nmレーザーを用いて、FACSを使用して単一のRFP陽性細胞を96ウェルプレートで分離した。クローン中の対応する標的部位のインデルは、ゲノムPCRで解析した。4Xノックアウト細胞株を生成するため、H9細胞にLV-hUbC-GBX2-CDX124-Cas9-T2A-GFPを感染させ、7日後、FACSにより単一GFP陽性細胞を選別した。8Xノックアウト細胞株を同様の方法で生成した。アレル特異的変異を、全エクソーム解析を使用して確認した。全エクソーム解析及びマッピングは、BGI(BGI、コペンハーゲン)によって行われた。Integrated Genome Browser V2.10.0を使用して、アレル特異的変異を明らかにした。アライメントツールでマッピングできなかった大きな欠失を明らかにするために、Grepを使用してFastQファイルから個々のシーケンシングリードを抽出し、手動で解析した。
【0111】
上記に基づいて、当業者であれば、リストにはあるが、本明細書(here)では試験されていない他の関連遺伝子のノックアウト細胞株を設計することができるであろう。
【0112】
【表1】
【0113】
QPCR及びナノストリング
QPCR及びナノストリングの実験は当業者に一般的に知られているように行った。手短に言えば、キアゲンRNeasyミニキットを使用してRNAを抽出し、標準的なプロトコールに従ってDNase Iで処理した。cDNAを、Superscript IIIとランダムプライマーを使用して、500ngのト-タルRNAから製造業者の説明書に従って生成した。QPCRでは、UNGを含まないTaqMan UniversalマスターミックスII及びTaqManプローブを使用した。ナノストリング実験は、ナノストリングnCounter SPRINT(ナノストリングテクノロジーズ)を使用して、製造業者の説明書に従って行った。簡潔に言うと、200ngのト-タルRNAを使用した。レポータープローブを65℃で20時間ハイブリダイゼーションした。目的遺伝子の100個のヌクレオチドを標的とするよう設計されたキャプチャープローブ及びレポータープローブのパネル並びにハウスキーピング遺伝子のパネルからなるカスタムデザインのナノストリングCodeSetを使用した。RNA発現データはハウスキーピング遺伝子の発現に対して正規化した。
【0114】
免疫蛍光法
免疫蛍光法を、当業者に一般的に知られているように行った。手短に言えば、ガラスカバーリップ上で培養した細胞、又はスフェロイドとして培養プレートに懸濁した細胞を集めた。試料をPBSで2回洗浄し、PBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて4℃で15分間(ガラスカバースリップ)又は2時間(スフェロイド)固定し、PBSで3回、各10分間洗浄した。スフェロイドをPBS中の20%スクロースに移し、4℃で一晩インキュベートし、OCT(Tissue-Tek)に包埋した。-20℃でクライオスタット(Crostar NX70)を使用して、切片を10μmの厚さに切った。カバースリップ及び切片をPBS中の0.25%トリトンX(PBST)で10分間インキュベートし、PBST中の5%ロバ血清(Almeco)で室温にて1時間ブロッキングした。次の一次抗体を4℃で一晩適用した:ヤギ抗OTX2(1:500、R&Dシステムズ、カタログ番号AF1979)、マウス抗CDX2(1:200、BioGenex、カタログ番号MU392-UC)、マウス抗エングレイルド1(EN1、1:40、DSHB、カタログ番号4G11-s)、ウサギ抗EN1(1:50、メルク、カタログ番号HPA073141)、ウサギ抗FOXA2(1:500、Cell Signaling、カタログ番号8186)、ヤギ抗FOXA2(1:200、R&Dシステムズ、カタログ番号AF2400)、ウサギ抗LMX1A(1:5000、ミリポア、カタログ番号AB10533)、マウス抗TH(1:2000、ミリポア、カタログ番号MAB318)、ウサギ抗TH(1:1000、Pel Freez、カタログ番号P40101-150)、ウサギ抗GIRK2(1:500、アルモン、カタログ番号APC-006)、マウス抗CALB1(1:5000、SWANT、カタログ番号300)、ウサギ抗コラーゲン3A1(1:1000、NovusBio、カタログ番号NB120-6580)、ヒツジ抗hCOL1A1(1:200、R&Dシステムズ、カタログ番号AF6220)、及びマウス抗HNA(1:200、アブカム、カタログ番号ab191181)。細胞をPBSTで3回、各10分間洗浄した後、対応する二次抗体(1:200、Jackson ImmunoResearch Laboratories又は1:1000、インビトロジェン)を室温で1時間適用した。二次抗体を除去した後、細胞を暗所にてPBSTで3回、各10分間洗浄した。核をDAPI(1μg/ml、Sigma)でカウンターステインし、PBSで3回、各5分間洗い流した。スライド又はカバースリップをPVA-DABCOでマウントした。画像は共焦点顕微鏡(ツァイスLSM780)及びZenソフトウェアで撮影した。
【0115】
フローサイトメトリー解析
フローサイトメトリー解析を、当業者に一般的に知られているように行った。手短に言えば、細胞をPBS-で2回洗浄し、アキュターゼで分離させて単一細胞を得た。300×gで4分間遠心分離し、4%PFAに室温で10分間再懸濁した。次いで、細胞をPBS-で洗浄し、遠心分離し、PBSTに再懸濁し、再度遠心分離し、5%ロバ血清で室温にて30分間ブロッキングした。ブロッキング液中の一次抗体を細胞に添加し、室温で2時間インキュベートした。PBSTで1回洗浄し、ブロッキング液中の二次抗体に再懸濁し、暗所で室温にて30分間インキュベートした。細胞をPBSTで4℃にて一晩洗浄し、NovoCyte Quanteon analyzer(Acea Biosciences Inc.、サンタクララ、カリフォルニア州)を使用したフローサイトメトリーに向けてPBSに再懸濁した。データはFlowJoソフトウェア(v.10、アシュランド、オレゴン州)を用いて解析した。
【0116】
免疫蛍光画像の定量
免疫蛍光画像の定量を、当業者に一般的に知られているように行った。手短に言えば、培養中又は移植片内のいずれかのOTX2/DAPI二重陽性、GIRK2/TH二重陽性及びCALB1/TH二重陽性細胞の割合を、半自動オブジェクトベース共局在解析(Lunde et al., 2020)によってImageJ software(1.53)を用いて定量した。Colocalization Image Creator Pluginを使用して、マルチチャンネル免疫蛍光画像をマルチチャンネル2値出力画像及びグレースケール出力画像に処理した。自動局所強度閾値、半径外れ値除去(radius outlier removal)、流域分割(watershed segmentation)、浸食(eroding)、穴埋め(hole filling)、ガウスぼかし、最大アルゴリズムを適用したImageJのフィルターの入力チャンネルを処理することによって2値出力画像を生成した。さらに、不適切に小さいサイズの2値化オブジェクトを、定義された最小エリアサイズによって出力画像から除去した。共局在シグナルの可視化を向上させるため、オブジェクトの重なりを細胞の核に限定した。2値化オブジェクトのセグメンテーションの精度を、グレースケールの出力画像を介して視覚的に検証した。検証した後、個々に標識した細胞又は共標識した細胞を表す2値化オブジェクトを、Colocalization Object Counterプラグインを使用して自動的に定量した。すべての免疫蛍光画像を、保存した2値化オブジェクトのセグメンテーション設定で解析した。培養中のOTX2陽性細胞の定量には、20倍及び63倍で撮影した最低4つの無作為に選んだ視野(random fields)を使用した。動物1頭につき移植片2つの切片から20倍で撮った4枚の非重複画像を解析することによって、移植片内のGIRK2/TH二重陽性細胞及びCALB1/TH二重陽性細胞の定量を盲検的に(blindly)行った。
【0117】
RNAシークエンシング及びデータ解析
RNAシークエンシング及びデータ解析を、当業者に一般的に知られているように行った。手短に言えば、ライブラリーの構築、シーケンシング、アダプター除去を含む初期データのフィルタリングは、BGIヨーロッパゲノムセンター(BGI Europe Genome Center)によって行われた。ト-タルRNAをオリゴdTベースのmRNA濃縮に供した。100bpペアエンドリードのシーケンシングをDNBseqプラットフォームで実施した。1試料あたり2,000万回より多くのクリーンリードが得られた。HISAT2アライナー(v2.1.0)を使用して、ヒトゲノムビルドhg38(アンサンブルリリース92)にアライメントしました。転写物の定量を、FeatureCount(v1.6.4)を使用して行い、リードカウントを有効遺伝子長及びシーケンス深度で正規化し、Transcripts per kilobase million(TPM)を得た。edgeR(v3.32)を使用してカウントテーブルから発現変動遺伝子を同定した。TPM値にセンタリングと単位分散スケーリング(univ variance scaling)を適用してヒートマップを構築し、インピュテーションを伴うSVDを使用したClustvisによる主成分分析(PCA)を行った(Metsalu et al., 2015)。
【0118】
単一細胞RNA-seq及びデータ解析
単一細胞RNA-seq及びデータ解析を、当業者に一般的に知られているように行った。手短に言えば、16、28及び62日目に、アキュターゼを使用して培養細胞を単一細胞に分離させた。16日目にニューロスフィア(細胞株あたりn=10の生物学的反復)を一緒にプールし、28日目に細胞株あたり4つの生物学的反復を一緒にプールし、62日目に細胞株あたり4つの生物学的反復を一緒にプールした。ライブラリーを構築するために、10x Genomics Chromium Next GEM Single Cell 3’キットv3.1を標準的なプロトコールに従って使用した。6つの群(16日目のH9細胞、16日目の4X細胞、28日目のH9細胞、28日目の4X細胞、62日のH9細胞及び62日の4X細胞)のそれぞれをChromiumコントローラーの別々のレーンで実行し、1レーン当たり合計8000個の細胞を載せた。次世代シーケンシングをIllumina NovaSeq装置で行った。デマルチプレックス、バーコード処理及び単一細胞3′遺伝子カウントには、Cell Ranger Single-Cell Software Suite(v3.1.0)を使用した。リードをヒトGRCh38参照ゲノムにアライメントした。クオリティフィルタリング、次元圧縮、標準的な教師なしクラスタリングアルゴリズムの適用を含むさらなる解析を、Seurat Rパッケージ(v3.2.1)を使用して行った。外れ値細胞を除外するために、各細胞で発現した遺伝子の数を試料ごとにプロットして、細胞1つあたりの最適な許容最小遺伝子数を選択した。細胞1つあたりの最小遺伝子数を、16日目のH9細胞については3000、16日目の4X細胞については2000、62日のH9細胞については3000、62日の4X細胞については3000に設定した。また、ミトコンドリア遺伝子にマッピングされたリードの割合が高い細胞も除去した。16及び28日目の試料については、10%より多いミトコンドリアRNAをもつすべての細胞を除去し、62日目については、15%を限度とした。RパッケージDoubletFinder(v.2.0.3)を使用して、単一細胞トランスクリプトームデータから細胞のダブレットを除去し、ダブレット細胞の予想割合を7.5%に設定した。各細胞の遺伝子カウントをその細胞の総数で割り、スケーリング係数10,000を乗じ、自然対数変換することによって単一細胞データを正規化した。UMAP法を使用して次元圧縮を行った。FindClusters関数を用いたSeuratのグラフベースクラスタリング法によって、解像度を0.6に設定してクラスタリングを行った。RのSeuratを使用して様々な単一細胞のプロットを作成した。
【0119】
電気生理学
4X細胞の電気生理学的記録を80~84DIVで行った。13mmφのカバースリップ上でアストロサイトと共培養した4X細胞を、培養培地から人工脳脊髄液(aCSF)に段階的に移行した後、培養培地に5滴(各200μL)のaCSFを20秒かけて添加することによって記録チャンバーに移した。記録チャンバーに移した後、カバースリップを、NaClを119、KClを2.5、NaHCOを26、NaH2POを1、D-グルコースを11、CaClを2、及びMgClを2(pH7.4に調整)含有するaCSFで室温にて連続灌流した。
【0120】
記録チャンバーを、デジタルカメラ(QImaging Exi Aqua)に連結した正立顕微鏡(Scientifica)に取り付けた。63倍の水浸対物レンズ(オリンパス、LumiPlan)を用いて4X細胞を見えるようにした。電気生理学的記録に選択した細胞は、細かく枝分かれした神経突起をもつ神経細胞様の形態を呈した。集合した細胞のクラスターは避けた。Digidata1550Aデジタイザー(モレキュラーデバイス)を介してMulticlamp700B増幅器に接続したClampex10.6ソフトウェアを使用して、電流クランプモードにてホールセル構成で取得(Acquisitions)を行った。データは200Hzでローパスフィルターをかけ、10kHzでデジタル化し、ホールセル電気容量を補正した。パッチピペット(5~10MOhmの抵抗)に、グルコン酸カリウムを153、HEPESを10、NaClを4.5、KClを9、EGTAを0.6、MgATPを2、及びNaGTPを0.3(単位mM)含有する内液を充填した。内液のpH及び浸透圧は、生理的条件に近かった(pH7.4、浸透圧297mOsm)。試料における細胞のアクセス抵抗は、~30MOhmであった。得られた30個の神経細胞の記録のうち、16個を解析用に保持した。残りの記録は、脱分極ステップに反応しない神経細胞(推定アストロサイト)、不安定な神経細胞、又は自発活動を示さない神経細胞にいずれかからであり、したがってそれらの記録を解析から除外した。
【0121】
自発興奮性シナプス後電位(sEPSP)を、電流クランプギャップフリーモード(-45mVでクランプ)で記録した。誘発活動電位の電流クランプ記録(-60mV)を、振幅(20pA)を増加させながら電流パルス(800ms)を繰り返し印加することによって行った。
【0122】
Clampfit 10.6ソフトウェア(モレキュラーデバイス)を使用してデータ解析を行った。発火頻度の分布を可視化するために、電流クランプモードでの1秒当たりの自発スパイクの数を、Clampfitソフトウェアの閾値ツールを使用して1分間にわたってカウントし、幅が1に等しい(1Hzに相当)ビン(bins)に分類した。データは、グラフパッドプリズムV9ソフトウェアの度数分布モードを使用して可視化した。
【0123】
ドーパミン含量のHPLC分析
80DIVで、試料あたり1~2つのオルガノイドを集め、100μlの0.2M HClOでホモジナイズした。次いで、試料を遠心分離し、上清を集め、0.2μmのスピンフィルター(Costar Spin-X、メルク)を通して14000×g、4℃で1分間スピンし、HPLCシステム(サーモサイエンティフィックUltimate3000)に載せた。移動相は、12.5%アセトニトリルバッファー(pH3.0、86mMリン酸二水素ナトリウム、0.01%トリエチルアミン、2.08mM 1-オクタンスルホン酸ナトリウム塩、及び0.02mMEDTA)であった。移動相の流速を1.5ml/分に調整した。外部DA標準を使用して作成した標準曲線を用いてドーパミンのレベルを算出した(標準曲線決定係数は0.99946)。次いで、ドーパミン含量をタンパク質濃度で正規化し、nmol/gで表した。
【0124】
生体内移植用の細胞の調製
単一細胞のバッチごとに、それぞれの細胞株(H9及び4X)に由来する16DIVで10個のニューロスフェアを集め、PBSで2回洗浄した。次いで、500μlのアキュターゼ(100μg/ml DNaseを補充)を加え、細胞を37℃で10分間インキュベートした。ニューロスフェアを、まず1mlピペットで、続いて200μlピペットでピペッティングし、単一細胞の溶液を得た。500マイクロリットルの洗浄培地(1%ヒト血清アルブミン補充DMEM/F12)を加え、細胞を400×gで室温にて5分間スピンダウンした。細胞ペレットをHBSS(100μg/ml DNaseを補充)に10万個/μlの濃度で再懸濁し、氷上で保った。細胞懸濁液を氷上で最大3時間保ち、その後新しいバッチの細胞を調製した。
【0125】
生体内移植
タコニックバイオサイエンシズA/Sから購入した成体(9週齢)雄(225~300g)(n=30)NIH(NTac:NIH-Foxn1rnu)ヌードラットを、クリーンルーム内の換気ケージで12時間の明暗サイクル下において集団で飼育し(grouped-housed)、自由に無菌飼料及び水にアクセスさせた。ラットの標準的な飼料にくわえ、ピーナッツを与えてカロリー摂取量を増やした。
【0126】
イソフルラン(導入には5%、維持には2~3%)、1.2L/分のO、及び0.6L/分の大気でラットに麻酔をかけ、定位固定フレーム(Stoelting)に置き、ガラスカニューレが取り付けられたハミルトンシリンジを使用して、6-OHDA(シグマアルドリッチA/S)(0.02%アスコルビン酸を含有する生理食塩水中の7μg/μl遊離塩基の2μl)(Tentilier et al., 2016)を、右MFB(前後(AP)、-4.4;内外方向(ML)-1.1;背腹(DV)、-7.6;切歯バー(tooth bar)、3.3)に片側注射した。注入後、カニューレを5分間そのまま置いてから、ゆっくりと引き戻した。切開部を縫合し、鎮痛剤としてブプレノルフィン(0.36mg/kg)を動物に注射した。動物が完全に目を覚ますと、ウェット飼料及び水中0.009mg/mlのTemgesicを入れたケージに戻した。
【0127】
手術後3週間目にアンフェタミン誘発回転試験を使用して病変形成効率を評価し、>5回転/分を示した動物をさらなる実験に使用した。選択したラットを、アンフェタミン誘発回転数の平均値が近い次の3群に分けた:6-OHDA病変(移植なし)群(n=8)、H9細胞移植群(n=9)、4X細胞移植群(n=9)(図13B~C)。病変形成の4週間後、H9細胞移植群及び4X細胞移植群の動物に、上記のものと同様のプロトコールを用いて、各細胞種の25万個の細胞を2.5μlの量で線条体(AP、+0.5;ML、-3;DV、-4.6/4.8)に、定位的に注入した。これらの3群はすべて、病変形成後22週目(すなわち移植の18週間後)に犠牲にした(sacrificed)。2頭の移植ラットは試験を完了せず、健康上の問題により安楽死させた:4X細胞移植群の1頭は尾の骨折により(移植後8週目)、H9細胞移植群の1頭は後肢麻痺による(移植後17週目)。
【0128】
アンフェタミン誘発回転試験
移植の1週間前並びに移植後8週目及び18週目に、以前に報告されたように(Bjorklund et al., 2019)アンフェタミン誘発回転試験を行って病変の影響を評価した。動物に腹腔内投与(i.p.)で5mg/kgのD-アンフェタミンを注射し、LE3806マルチカウンター(PanLab、ハーバードアパレイタス)に連結したロータメーター(LE902、PanLab、ハーバードアパレイタス)を接続した。90分間にわたって体回転の数を記録した。
【0129】
データは1分間の全身回転の最終的な数として表し、同側回転は正の値、対側回転は負の値を有する。>5回転/分を示す動物を病変形成が成功したとみなした。1頭のラットは回転試験の1つで技術的な問題があり、その行動テストから除外した。
【0130】
シリンダー試験
病変形成の3週間後(移植の1週間前)及び移植の18週間後に、シリンダー試験を用いて肢使用非対称性を評価した。動物を透明なプレキシグラスのシリンダー(高さ30cm、直径20cm)に入れ、シリンダーの表面が完全に見えるようにシリンダーの後ろに2つの鏡を置いた。
【0131】
自発活動を合計5分間ビデオで記録した。以前に報告されたように(Schallert et al, 2000)、スローモーションでVCL Media Playerソフトウェアを使用して、群について知らされていない(blinded to the groups)研究者が、データ解析を行った。動物の探索的運動活動の大部分は最初の2分間に限られ、この時点以降はほとんど動きがなかったため、最初の2分間の活動を解析し、この時点以降の活動は動物が10回未満の動き(壁接触及び後肢立ち)を示した場合にのみ解析した。
【0132】
前肢使用の非対称性の程度を判定するために以下の行動をスコア化した(Schallert et al., 2009):a)完全に後肢立ちをしている間の壁への接触時又は後肢立ち後の床への着地時に左前肢又は右前肢を単独で使用、並びにb)完全に後肢立ちをしている間のシリンダーの壁への接触、壁に沿った横方向の動き(ウォールステッピング(wall stepping))、及び後肢立ち後の床への着地に左前肢と右前肢の両方を同時に使用。データは、すべての動き(壁と床)に対する各前肢(左若しくは右)又は両方の前肢が使用された時間の割合として表す。
【0133】
脳切片の免疫組織化学的解析
ラットを、6-OHDA誘発病変形成の23週間後にペントバルビタール(50mg/kg腹腔内投与)の過量投与によって死亡させた。呼吸停止中に、上行大動脈から氷冷生理食塩水、続いて4%冷PFA(0.1M NaPB、pH7.4中)で灌流した。脳を抽出し、PFAで2時間ポストフィックスし(postfixed)、25%スクロース溶液(0.02M NaPB中)に一晩移した。脳を凍結ミクロトーム(Microm HM 450、Brock and Michelsen)で厚さ35μmの冠状切片に切り出し、連続冠状切片(線条体及び黒質では8連(series of 8))に分け、-20℃で保存した。
【0134】
免疫組織化学的染色を、次の一次抗体を使用してフリーフローティング脳切片で行った:マウス抗ラットTH(1:4000、MAB318、メルクミリポア)、ウサギ抗Girk2(1:500、APC-006、アルモン)、ウサギ抗TH(1:1000、PelFreeze)、マウスIgG1抗CALB1(1:5000、28k、SWANT)、マウスIgG1抗HNA(1:200、151181、アブカム)、ヤギ抗FOXA2(1:200、AF2400)、ヒツジ抗hCOL1A1(1:200、R&Dシステムズ)、ウサギ抗hCOL3A1(1:1000)、ウサギ抗EN1(1:50)、及びウサギ抗LMX1A(1:5000)。
【0135】
アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(ABS Elite、Vector Laboratories)及び3,3-ジアミノベンジジン(DAB)を発色体として用いて、以前に報告されたように(Tentilier et al, 2016)免疫組織化学を行ってシグナルを可視化した。クロムミョウバンゼラチンをコーティングしたスライドに切片をマウントし、脱水後、カバースリップで覆った。スライドをオリンパスVS120Slide Scanner(正立広視野蛍光)を使用して20倍の対物レンズで解析した。
【0136】
免疫蛍光法では、フリーフローティング切片を、KBPS中の0.25%トリトンX-100中の5%正常ロバ血清でブロッキングし、次いでKBPS中の2.5%ロバ血清及び0.25%トリトンX-100中の選択した一次抗体と室温で一晩インキュベートした。切片をKPBSで洗浄し、KPBS中の1%ロバ血清及び0.25%トリトンX-100で10分間プレブロッキングし(preblocked)、ロバで作られた次の種特異的フルオロクロム標識二次抗体と2時間インキュベートした:Alexa Fluor488標識抗マウスIgG(1:200、Jackson ImmunoResearch)、Alexa Fluor568標識抗ヤギIgG(1:1000、A11057、インビトロジェン)、Alexa Fluor647標識抗ウサギIgG(1:200、Jackson ImmunoResearch)、Alexa Fluor568標識抗ウサギIgG(1:1000、A10042、インビトロジェン)、Alexa Fluor647標識抗マウスIgG(1:1000、A-31571、インビトロジェン)及びAlexa Fluor568標識抗マウスIgG1(1:1000、A10037、インビトロジェン)、Alexa Fluor568標識抗ヒツジIgG(1:1000、インビトロジェン)。DAPI(1:2000、シグマアルドリッチA/S)を核染色に使用した。切片を、ダコ蛍光封入剤を用いて、クロムミョウバンゼラチンをコーティングしたスライドにマウントした。
【0137】
顕微鏡による分析(TH陽性細胞の数及び収量及び移植片体積)
各動物の冠状切片(1:8)をTHについて免疫染色し、移植片のDA神経細胞を分析した。オリンパスVS120 Slide Scanner(正立広視野蛍光)を使用して、20倍の対物レンズを用いてスライドの画像を取得した。移植片が視認できるすべての切片を選択した:H9細胞移植動物1頭当たり3~5つの切片及び4X細胞移植動物1頭当たり4~8つの切片。TH陽性細胞の数を定量した領域は、線条体及び淡蒼球を含み、皮質及び脳梁のTH陽性細胞は含まなかった。画像は、QuPathソフトウェアを使用して対象領域(ROI)内の細胞を特定することによって分析した(Bankhead et al, 2017)。設定を染色に応じて各切片に合わせて変え、次の設定を使用した:検出画像=光学密度和(optical density sum)、要ピクセルサイズ=0.5μm、背景半径=15~30μm、閾値=0.15~0.3、フィルター半径中央値=0~3μm、シグマ=0.7~2μm、最小面積=85~130μm、最大面積=500~1200μm、最大背景強度=2、セル拡張(cell expansion)=2μm。細胞を、細胞核の形状含む形状によって分類し、境界を平滑化した。
【0138】
全移植片中の細胞の数を推定するために、動物当たりのTH陽性細胞の総数をQuPathソフトウェアで求め、8倍し、アバクロンビー(Abercrombie)法(Abercrombie, 1946)を使用して2つ以上の切片にまたがる細胞の二重カウントを補正した。各群のアバクロンビー係数(factor)は、切片あたりの平均厚さを(平均厚さ+平均TH陽性細胞サイズ)で割って算出した。これらの数は、各群につき3頭の異なる動物から、1頭あたり3つの切片、18個の細胞をサンプリングして算出した。移植片の細胞の総数は、アバクロンビー係数×TH陽性細胞の総数×8として計算した。移植細胞10万個当たりの生存細胞の数(収量)を推定した。各移植片の体積は、V=A1T1+A2T1+…+AT1として推定し、式中、Vは推定体積、T1は1/8連(series)(8×35μm)のサンプリング間隔、及びA(n)は切片(n)のTH陽性領域の面積である(Piao et al., 2021)。
【0139】
統計解析
統計解析はすべて、グラフパッドプリズムv9.1.1.225を使用して行った。一元配置分散分析又は二元配置分散分析を行い、適切な場合にはシダックのテストを事後解析に使用した。移植群のみを比較する場合、対応のない両側t検定を使用した。データは、平均値±平均値の標準誤差(SEM)又は±標準偏差(SD)(表示通り)で表す。P<0.05を有意とみなした。
【0140】
実施例2 - GBX2及びCDX1/2/4を欠失させることは中脳アイデンティティの増加をもたらす
研究の目的
GBX2及びCDX1/2/4を欠失させることが中脳アイデンティティの増加をもたらすかどうかを明らかにすること。
【0141】
材料と方法
実施例1を参照されたい。
【0142】
結果
hESCのドーパミン作動性神経細胞への分化を増強するために、A-P軸に沿って細胞運命を制御する転写因子をノックアウトすることに着目した。最初に、hESC(H9細胞系)でGBX2-/-をノックアウトすることで、菱脳及び脊髄の細胞種を生じることが知られている条件下で分化させたときに、中脳の細胞種が増加することになるかどうかを調べた。GBX2-/-ヒト胚性幹細胞株を生成した。未分化の状態では、その細胞株は対照hESCと転写的に区別不能であり、神経前駆体に分化することが可能であった。
【0143】
GBX2-/-
以前に論文報告した、尾側神経前駆体(CNP;(Denham et al., 2015))を作製する本発明の発明者らのプロトコールを使用して、GBX2-/-細胞を4日間CNPに分化させ、それらをhESC由来のCNPと比較した(図1A)。4日目のH9 CNPの免疫染色は、OTX2の発現を示さず、CDX2陽性染色を示した。4日目のGBX2-/-CNPは、OTX2陽性細胞が少なく、CDX2陽性染色を示した。4xKO CNPは、少数の細胞がOTX2に陽性であり、CDX2が陽性な細胞はなかった(細胞の写真は示されていない)。実際、菱脳及び脊髄を生じることが知られている濃度(3μM)のGSK3B阻害剤(GSK3i;CHIR99021)の存在下で分化させると、GBX2-/-株は、H9と比較して前脳/中脳マーカーOTX2のわずかではあるが有意な増加(図1B)及びCDX2転写物の有意な減少(図1C)を示した。OTX2の増加にもかかわらず、GBX2CNPは菱脳及び脊髄の細胞種に関連するHOX遺伝子を依然として発現していた(図1D)。さらに、FACS解析からは、OTX2陽性細胞の数のわずかな増加及びCDX2陽性細胞の割合のわずかな減少が見られたのみであった(データは示されていない)。
【0144】
GBX2-/-CDX1,2,4-/-
GBX2-/-株からの結果に基づいて、CDX遺伝子ファミリーをノックアウトすることによって、A-P軸に沿った細胞の可能性をさらに限定しようと試みた。Cdx2は後方Hox遺伝子の上流制御因子であり、脊髄の重要な決定因子である(Skromne et al., 2007)。他のCDXファミリーメンバーからの発現も補償もないことを確かめるために、3つのCDXファミリーメンバーCDX1/2/4すべてのホモノックアウトを、CRISPRを使用してそれらのDNA結合ドメインを標的とすることによって生成した(図1E)。結果として得られたhESC株GBX2-/-CDX1,2,4-/-(以下、4xKOと呼ぶ)を、同じCNPプロトコールを使用して4日間分化させた(図1A)。予想通り、4xKO CNPでは、CDX2転写物もCDX2陽性細胞も検出することができなかった(図1C)。際だったことに、4xKOの4日目の神経前駆体は、H9及びGBX2-/-由来のCNPと比較して、OTX2転写物の有意な増加を示した(図1B)。
【0145】
遺伝子発現に対する影響をさらに理解するために、3つの細胞株(H9、GBX2-/-及び4xKO)のすべてのCNPのRNAシーケンシングを行った。HOX遺伝子プロファイルを検討したところ、4xKO CNPは、尾側HOX遺伝子の発現に大きな制限を有し、HOXA13よりも後方ではHOXA4遺伝子もHOX遺伝子も発現しなかった(図1D)。これらの結果は、4xKO細胞系が、ロンボメアR4に関連し、それに対して尾側の前駆体細胞種を生成できなかったことを示す。
【0146】
次に、前方遺伝子にどの程度の変化があるのかを知りたいと考えた。まず、4xKO CNPの前脳遺伝子の発現を調べ、SIX3、DLX2及びFOXG1の発現に有意な変化はないことがわかった。しかし、前脳/中脳遺伝子OTX2の転写物は、H9及びGBX2-/-と比較して有意に増加した。中脳遺伝子PAX2、PAX5、EN1/2も、H9及びGBX2-/-と比較して有意に増加した(図1C)。興味深いことに、GBX2-/-細胞では、EGR2やMAFBなどの前菱脳遺伝子の減少が見られたが、4xKOでは、後方HOX遺伝子の減少と一致してこれらの遺伝子は増加した。全体として、4xKO細胞株は、ロンボメアR4と同等の後方限界(posterior limit)を示し、中脳及び前菱脳遺伝子の有意に高い発現を示した(図1C)。
【0147】
4xKO株の能力をさらに探るため、4xKO細胞及びGBX2-/-株を腹側化条件下で11日目CNPに分化させた(図2Q)。4日目の時点と同様に、4xKO株ではH9又はGBX2-/-と比較して、OTX2の転写物が多いことがわかった(図2A)。さらに、4xKOでは、H9及びGBX2-/-と比較して、中脳遺伝子PAX2、PAX5、PAX8がすべてアップレギュレートしたことがわかった(図2B、C、E)。また、発生過程において尾側中脳及びロンボメアR1にまたがるEN1も、H9及びGBX2と比較して(それぞれp<0.01及びp<0.05;図2D)、4xKOでは有意にアップレギュレートした。ロンボメアR3及びR5に発現する菱脳遺伝子KROX20の場合、そえは有意にアップレギュレートし(p<0.01;図2J)、ロンボメアR5及びR6のマーカーであるMAFBは有意に変化しなかった(図2K)。IRX3は依然として存在したが、H9及びGBX2-/-と比較して、4xKOでは転写物が有意に少なかった(図2F)。これらの結果は、HOXプロファイルがやはり4xKOにおいてHOXA3までの後方限界に限られることを示したが、HOXA3の転写物は少なく、より後方のHOX遺伝子は検出されなかった(図2L、M、N、O、P)。興味深いことに、前方のHOX遺伝子であるHOXA2(図2G)は4xKOの11日目CNPにおいてその発現を維持し、HOXB2(図2H)及びHOXB1(図2I)はH9と比較して有意にアップレギュレートしていた。これらの結果は、細胞が中脳又は前菱脳のアイデンティティを優先的に得る、集団の前方へのシフトがあったことを示す。
【0148】
免疫蛍光染色により、中脳のイデンティティに向けた集団の変化が裏付けられた。11日目の4xKO細胞でOTX2/EN1陽性の尾側中脳前駆体の存在が見られたが、H9対照細胞では検出されなかった(データは示されていない)。
【0149】
これらの結果は、CNPを生成することが知られている分化条件下において、4xKO株は脊髄運命を生成することができず、ロンボメアR4までの限られたHOXプロファイルを有することを示す。さらに、細胞種の分布は、OTX2+/EN1+細胞の存在によって前方にシフトしたことが示され、それはCNP分化条件下の対照細胞株では検出されなかった。
【0150】
結論
得られたデータは、単独でノックアウトすること(GBX2-/-細胞株を生成)又は4つの遺伝子GBX2、CDX1、CDX2及びCDX4ノックアウトすること(GBX2-/-CDX1、2、4-/-細胞株を生成)によって、より効率的に中脳ドーパミン作動性神経細胞前駆体又は中脳ドーパミン作動性神経細胞を生成できる、分化能が限られた細胞株が生成されたことを示す。
【0151】
実施例3 - 系譜限定PSCは尾部中脳前駆体を効率的に生成する
研究の目的
ドーパミン作動性神経細胞プロトコールを使用して分化させたとき、4xKO株が、より効率的にmesDA神経細胞を生成しうるかどうかを明らかにすること。
【0152】
材料と方法
再度実施例1及び2を参照されたい。
【0153】
結果
H9と4xKOを比較し、最新のmesDAプロトコールの1つ(Nolbrant et al, 2017)を使用してそれらを分化させた(図3A)。まず、GSK3iの濃度を0.5μMから1μMまで調整し、H9を用いてmesDA前駆体を生成するのに最適な濃度を決定することから始めた。H9及び4xKO細胞を16日目まで分化させた(細胞の図は示されていない)。
【0154】
本発明の発明者らの研究室において、H9の最適濃度は0.6μMであることが明らかになり、この濃度で16日目に評価すると、OTX2転写物のレベルは0.6μMで最大であり、より高いGSK3iの濃度では減少した(図3B)。さらに、HOXA2の転写物レベルは、0.5~0.6μMのGSK3iで最も低かった(図3G)。尾側中脳マーカーCNPY1の濃度は、0.5μM~0.6μMで最も高く、1uMに達すると有意に低下した(図3F)。EN1も0.5~0.6μMで有意により高く、0.7μM及び1μMから有意に低下した(図3E)。これらの結果は、GSK3iの1uM未満の濃度が中脳の特化に必要であり、濃度が1μM以上に近づくと菱脳アイデンティティへの劇的なシフトがもたらされることを示した過去の報告(Kirkeby et al., 2012)と一致した。
【0155】
同じGSK3i濃度で4xKO細胞を比較したところ、H9に対する際だった違いが見られた。4xKO株は、H9と比較して、0.5μMから最大で1μMを含むすべての濃度にわたって、OTX2及びEN1及びLMX1Aの転写物が有意に多かった(図3B、3E及び3C)。尾側中脳マーカーCNPY1は、H9と比較して、0.65μMから最大で1μMを含む範囲で有意に高かった(図3F)。これらの結果は、4xKO株の能力の限定は、結果としてGSK3iのより広い濃度にわたって中脳前駆体の生成をもたらすことを示した。さらに、4xKO株はまた、最適濃度で、H9が生成できるよりも有意に多くの中脳転写物を生成することができた(細胞の図は示されていない)。
【0156】
最適条件下においてでさえも4xKOがH9より効率的である理由をさらに探るために、最も最適な(the most optimal)条件下でも生成される細胞種を制御するA-P軸に沿った細胞種の範囲を調べた。対照細胞が、菱脳に対応するHOXA2の転写物を依然として発現し(図3G)、最適化されたプロトコールを用いても、H9株は菱脳細胞種を含む、A-P軸に沿った細胞種の大きい分布を生じたことがわかった。これらの結果は、最適濃度でも細胞株の菱脳細胞種の発現を示す既報と一致した(Kirkeby et al., 2012)。しかし、4xKO細胞は、H9と比較して、有意に低い濃度のHOXA2を発現した。さらに、H9のHOXA2レベルは、より高い濃度のGSK3iを使用したとき有意に増加したが、4xKO株では、全濃度を通してHOXA2のレベルは不変のままであった(図3G)。
【0157】
免疫蛍光染色により上記の結果が裏付けられ、4xKO株ではGSK3iの濃度が0.6μMから1μMにおいてEN1陽性細胞が豊富に存在したことが示された(データは示されていない)。しかし、H9株ではEN1陽性細胞は0.6μMという限られた濃度にとどまり、H9細胞ではA-P軸に沿った細胞のより広い分布が生じることが示された。
【0158】
結論
これらの結果から、4xKOは脊髄細胞種が生じることができず、細胞の大部分は中脳及び前菱脳アイデンティティに限定され、結果としてGSK3iの最適濃度以下であっても、mesDA前駆体の割合がより高くなることが示された。
【0159】
実施例4 - 菱脳条件で分化させた系譜限定PSCは、中脳前駆体及びmesDA神経細胞を生成する
研究の目的
通常菱脳細胞種を主に生じさせる条件下において4xKO株で作られる細胞種を明らかにすること。
【0160】
材料と方法
再度実施例1~3を参照されたい。
【0161】
結果
GSK3i阻害剤の濃度1μMでのH9細胞及び4xKO細胞を、16日目に単一細胞解析で比較した。予想された通り、どちらの条件でも、有意な割合の細胞が底板に対して腹側にあることが明らかになった(H9 48%、4xKO 73%)。しかし、2つの細胞株間で、A-P軸に沿った細胞の分布に有意に大きな違いが見られた(p<0.00001;図4)。4xKO細胞では、前方遺伝子OTX2を発現する細胞が有意に多かった(H9 1%;4xKO 43%)。さらに、4xKO条件では、尾側中脳細胞が非常に豊富に存在した(OTX2+/En1+;H9 0%;4xKO 35%)。ロンボメアR1に対応する細胞(Otx2-/En1+)もまた、4xKO細胞に豊富に存在した(H9 3%;4xKO 39%)。HOX遺伝子の発現によって示される菱脳及びより尾側の細胞種は、4xKO細胞と比較して、H9において有意に高く(H9 85%;4xKO 2%)、H9の細胞の大部分が菱脳のアイデンティティに対応するのに対し、4xKO細胞の分布は尾側中脳及び前菱脳に対応することを示している(図4)。
【0162】
次に、4xKO細胞株が、これらの尾側化条件下でmesDA神経細胞を産生できるかどうかを知りたいと考えた。単一細胞解析によって、1μMのGSK3iにおいて、対象の2.8%に対し、4xKO株では約11.6%のドーパミン作動性神経細胞を生成できたことがわかった。また、H9及び4xKOの100日目のオルガノイドの免疫蛍光分析では、ドーパミン作動性神経細胞の大部分は腹側マーカーFOXA2も発現し、mesDA神経細胞の生成が成功していることを示している。4xKOオルガノイドには、ドーパミン作動性神経細胞TH及びFOXA2陽性が含まれる。H9オルガノイドでは、FOXA2とTHの二重陽性の細胞は検出することができなかった(データは示されていない)。1μMのGSK3i、4xKOオルガノイドを使用して、4xKO及びH9から分化させた100日目の中脳オルガノイドは、ドーパミン作動性神経細胞TH及びFOXA2陽性が含まれる。H9オルガノイドでは、FOXA2とTHの二重陽性の細胞は検出することができなかった。
【0163】
結論
これらのデータにより、GBX2-/-CDX1、2、4-/-細胞株から出発すると、対照細胞株と比較して、より効率的にmesDA神経細胞を生成することが可能であることがさらに裏付けられている。
【0164】
実施例5 - 前方HOX遺伝子のノックアウトは、PSCの能力をさらに限定し、中脳細胞種を増加させる - 8xKO
研究の目的
前方HOX遺伝子のノックアウトが、PSCの能力をさらに限定することになり、中脳細胞種を増加させるかどうかを明らかにすること。
【0165】
材料と方法
再度実施例1~4を参照されたい。
【0166】
結果
単一細胞データに基づくと、4xKO細胞のmesDA前駆細胞への分化は、わずか1%のHOX遺伝子発現細胞を生じさせた。しかし、高度な尾側化条件下においてその細胞株は依然として菱脳HOX遺伝子を発現することができた(図1C)。CDX遺伝子ファミリーは、ロンボメアR2~R4の前方HOX遺伝子を制御しない。したがって、HOXA1/2及びHOXB1/2及びGBX1を、ノックアウトする追加遺伝子として選択した。HOXA1/2及びHOXB1及びGBX1を標的にすることに成功した(図1F)。それにもかかわらず、新しい4xKOとHOXを組み合わせたノックアウト細胞株(以下、8xKOと呼ぶ)を継続し、それらを4日目のCNPに分化させた(図5A)。4日目の8xKO細胞では、OTX2の転写物レベルが有意に増加し、4xKO細胞の2%と比較したOTX2陽性細胞の大幅な増加(30%)から裏付けられた(図5B~C)。さらに、RNAシークエンシングによる解析は、4xKO株と比較して、中脳遺伝子の発現が有意に増加したことを示した(図5D~E)。
【0167】
結論
HOXA1/2、HOXB1及びGBX1をさらにノックアウトし、それによりGBX2-/-CDX1、2、4-/-HOXA1、2-/-HOXB1-/-及びGBX1-/-である細胞株を生成することにより、4xKO株と比較して、中脳遺伝子の発現の有意な増加がもたらされる。
【0168】
実施例6 - 背腹軸に沿った細胞種を表す遺伝子
研究の目的
背腹軸に沿った細胞種を表す遺伝子の発現の影響を評価すること。
【0169】
材料及び方法
前述の実施例を参照されたい。
【0170】
結果
4xKO細胞株(GBX2、CDX1、CDX2及びCDX4のノックアウト)の解析から、前後軸に沿った細胞の特化が妨げられ、より多くの中脳細胞種を産生する細胞が結果として得られた。背腹軸に沿った細胞種を表す遺伝子の発現を解析したところ、対照及び4xKO細胞株は、生成される細胞の割合に大きな変化を示さなかった(図3D)。特に、NKX遺伝子ファミリーメンバー及びPHOX2A/Bの発現によって示されるように、両細胞株が基底板細胞を生成きることがわかった(図6A)。
【0171】
ドーパミン作動系分化の28日目の単一細胞解析では、4X細胞とH9細胞を合わせて15の細胞クラスターが見られた。前腹側マーカーNKX2.1がクラスター11及び6で主に発現し、背腹軸の内側マーカーPAX6がクラスター12で発現していた(図6B)。
【0172】
結論
中脳ドーパミン作動性神経細胞は、神経管で最も腹側の集団である底板から生じる。NKXファミリーメンバーは、神経管の外側(基板)集団に特化するのに重要である。
【0173】
提示のデータに基づいて、同じノックアウトアプローチをNKXファミリーメンバー及び他の基板マーカーに拡張して、それらの細胞種を抑え、中脳ドーパミン作動性神経前駆体への特化を強めることができると結論づけられる。
【0174】
実施例7 - LR-PSCは、菱脳のアイデンティティに好ましいい条件下でmesDA神経細胞を効率的に生成する
研究の目的
中脳底板前駆体がどの程度mesDA神経細胞を産生できるかを検討すること。
【0175】
材料及び方法
前述の実施例を参照されたい。
【0176】
結果
1μM GSK3iプロトコールを62DIVに拡張した。62DIVにおいて、2つの細胞株はほぼ完全に別々のクラスターを占めた(カイ二乗、P<0.0001)(データは示されていない)。4X細胞は大きく次の2つの主要な細胞種に分けられた:FOXA2、SHH、NETRIN1、SPON1及びEN1を発現する菱脳r1床板クラスター(クラスター4、5及び6)と、神経細胞クラスター(クラスター0及び8;図11A)。この神経細胞集団には、TH、FOXA2、LMX1A及びEN1の発現によって同定されるmesDA神経細胞が含まれていた(図11A~B)。クラスター0及び8は、ほぼ完全に4X細胞で構成されていた(4X:82%及び77%、H9:18%及び23%)(データは示されていない)。クラスター0と8の違いを詳しく調べると、視床下部神経細胞のマーカーであるNKX2.1を発現する、クラスター8内の細胞のサブセットが特定された。
【0177】
4X細胞とは対照的に、H9細胞は1つの主要な連結したクラスター(クラスター1、2、3、及び7)並びに2つの小さな孤立したクラスター(クラスター9及び10)を形成した(データは示されていない)。6つのクラスターはすべて、血管軟髄膜軟胞(VLMC)を示すマーカー、すなわちCOL3A1、IFITM2及びS100A11を発現する細胞によって主に占められていた(図11A)。興味深いことに、EN1はVLMCクラスターにほとんど存在しなかった(データは示されていない)。また、クラスター7には、STMN2、SEMA3C及びPDLIM1を発現する細胞の集団(41%)も含まれ(図11A及び11C)、単一細胞脳アトラス(atlas)によると、末梢性感覚神経細胞のサブタイプに対応した。
【0178】
次に、TH陽性ニューロンのサブクラスタリング(subclustering)を行うことによって、mesDA神経細胞のサブタイプを調べたいと考えた(データ示さず)。黒質と腹側被蓋領域(VTA)DA神経細胞を区別するために、GIRK2(KCNJ6としても知られている)及びカルビンジンD(CALB1)の発現を評価した。GIRK2はサブクラスター1及び3で高発現し、TH集団の38%を占め、わずかな割合のTH神経細胞のみがCALB1を発現した(13.6%;図11D)。
【0179】
単一細胞シーケンシングの結果をさらに裏付けるために、組織学的解析を行った。同じ成長因子パラダイムを使用したが、分化プロトコールを適応してオルガノイドを生成し、神経細胞の生存に最適な環境を与えた(図12A)。83DIVにおいて、4X細胞から作製したオルガノイド内にFOXA2/TH二重陽性のDA神経細胞の大きな集団が観察された(データは示されていない)。対照的に、TH陽性細胞は、H9細胞で作られたオルガノイド全体に時に散在した。しかし、FOXA2を共発現するTH陽性細胞はほとんど検出されなかった(データは示されていない)。これらの結果は、62DIVでの2次元培養の組織学的解析と一致した(データは示されていない)。TH陽性神経細胞のさらなる検討は、単一細胞のデータと一致して、4X細胞由来のTH神経細胞の最も豊富な集団はGIRK2を共発現すること(データは示されていない)及びCALB1/TH二重陽性神経細胞の小さい集団が存在することを示した(データは示されていない)。
【0180】
単一細胞シーケンシングデータによると、H9細胞の大部分はVLMC(クラスター1、2、3、7、9、10;H9細胞の93%)であった。この結果を確認するために、83DIVでオルガノイドのVLMCマーカーの発現を調べ、H9細胞の中に非神経細胞形態をもつCOL3A1/COL1A1二重陽性細胞の大きな集団が同定された(データは示されていない)。COL3A1又はCOL1A1が陽性な細胞は、4X細胞のなかでは見られなかった(データは示されていない)。
【0181】
結論
mesDA神経細胞は、尾側化条件下で4x細胞から生成することができる。
【0182】
実施例8 - 背腹軸に沿った細胞種を表す遺伝子 LR-PSC由来のDA神経細胞はペースメーカー活性を示す
研究の目的
DA神経細胞の電気生理学的特性を検討すること。
【0183】
材料及び方法
前述の実施例を参照されたい。
【0184】
結果
DIV80~DIV84で、ホールセルパッチクランプ構成でインビトロ電気生理学的記録を行った(データは示されていない)。体電流注入に際し反復活動電位を生じさせる能力で測定して、細胞が電気生理学的に成熟した神経細胞になったことが観察された(図12B)。電流クランプモードでの記録から、単一スパイクと相動性(phasic)バーストが混在するDA神経細胞アイデンティティに特徴的な自発ペースメーカー活性が明らかになった(図12C)。膜振動は-50mV未満の電位で減衰した(データは示されていない)。試料の発火頻度は1~5Hzの範囲であった(図12D)。さらに、細胞抽出物のHPLC分析は、4X細胞のDA含量はH9細胞のそれよりも有意に高かったことを示した(4X細胞の287.4nmol/g対H9細胞の65.1nmol/g、P=0.002;図12E)。
【0185】
結論
本データに基づいて、4X細胞から調製したドーパミン作動性神経細胞は、電気生理学的に成熟した神経細胞に発達することができると結論づけられた。
【0186】
実施例9 - 背腹軸に沿った細胞種を表す遺伝子 パーキンソン病ラットモデルにおける生体内での4X細胞の解析
研究の目的
現在のDA神経細胞分化プロトコールを使用した場合、mesDA前駆体の生体内移植時にDA神経細胞は移植片全体の細胞の数パーセントを占めるに過ぎない。パーキンソン病の齧歯類動物モデルに移植したとき、4X LR-PSCが生体内でどのような挙動を示すかを調べた。
【0187】
材料及び方法
前述の実施例を参照されたい。
【0188】
結果
単一細胞解析の結果を確認するため、GSK3iの好ましくない尾側化濃度(1μM)を用いて、同じ中脳分化プロトコールを使用した。
【0189】
病変形成の4週間後に、合計25万個の4X細胞又はH9細胞を、6-OHDA誘発内側前脳束(MFB)病変をもつヌードラットの線条体に移植した。移植を受けなかった病変形成ラットの第3の群を病変対照として使用した(6-OHDA、試験デザインについては図13Aを参照)。移植時、3群のラットはすべて、同じアンフェタミン誘発同側回転数/分(組み入れの限界(limit for inclusion):5回転/分、図13B)を示し、DA線条体神経支配の有意な減少を裏付けた。3群はすべて、シリンダー試験で前肢非対称性を示し、ラットはたいてい、同側の前肢を使って(6-OHDA 全体の52.4%;H9 70.4%及び4X 67.4%)、対側の前肢をほとんど使わずに(6-OHDA 全体の1.3%;H9 1.3%及び4X 0%)、後肢立ち後に壁に触れたる、又は床に着地し、6-OHDAによるDA欠欠乏の誘発をさらに裏付けた(図13C)。
【0190】
移植後8週目に、4X細胞を投与されたラットは、アンフェタミン誘発同側回転の完全な修正(complete correction)を示し(移植前:10.6回転/分 対8週目:0.35回転/分)、移植後18週目に観察された対側回転の数(-3.12回転/分)によって示唆されるように、十分量のドーパミンが線条体に放出されて、その行動を正常化した(図13D)、さらには過剰補償したことを示唆した。しかし、H9細胞移植ラットは、実験全体を通して、対照の6-OHDA病変群と統計的に同じ同側回転数を示し(移植前:9.8;8週目:9.7及び18週目:9.2回転/分)、18週目では移植前の値と比較して回転数の有意な減少を示しただけであった(H9移植前:11.5;8週目:12.6及び18週目:5.6回転/分、図13D)。シリンダー試験における自発運動行動の解析において、4X細胞移植ラットが18週目に試験中に対側の前肢を単独で(全体の9.7%)又は同側の前肢と一緒に(両方で46.3%)使用したことから、それらのラットにおける有意な改善が裏付けられた(図13E)。しかし、H9細胞移植ラットと6-OHDA病変ラットはともに、移植前に観察されたようにたいていの場合同側の前肢を使用し(それぞれ全体の76.1%及び79.3%)、両前肢を使用した時間が30%未満であったが、シリンダー内で飼育したとき障害を受けた対側の前肢はほとんど使用しなかった(図13E)。したがって、4X細胞移植は、MFBの6-OHDA誘発病変形成後の薬物誘発運動行動と自発運動行動の両方を有意に改善した。
【0191】
死後の脳の組織学的解析から、4X細胞を移植したラットは、移植片由来のTH陽性細胞を、注入領域、すなわち線条体、並びに淡蒼球、脳梁、及び線条体の上の皮質の領域に有したことが示された(図13F)。しかし、H9由来TH陽性細胞はほとんど線条体にとどまり、少数の動物では淡蒼球にも見られた。移植片由来TH陽性細胞の(線条体及び淡蒼球における)定量は、4X細胞移植ラット(移植片当たり平均23,520個のTH陽性細胞)は、H9細胞移植ラット(移植片当たり1,898個のTH陽性細胞)よりも移植片当たりのTH陽性細胞が有意に多く、その結果より高い収量が得られたこと(100,000個の移植4X細胞当たり9,408個のTH陽性細胞 対100,000個の移植H9細胞当たり759個のTH陽性細胞)を示した(図13G~H)。TH陽性4X細胞移植片は、6~8つの冠状A-P線条体切片にわたって(8連で(in a series of 8))広がり、一方でH9細胞移植片は4~5つの切片を占有した。したがって、推定移植片体積は、4X細胞移植ラット(20.46mm)において、H9細胞移植ラット(12.69mm)よりも61%大きかった(図13I)。TH陽性細胞数の増加は、4X細胞移植群において移植片中のTH細胞の有意により高い密度をもたらし(1,090±464個の細胞/mm対H9細胞移植群における143±49個の細胞/mm;P<0.0001)、4X細胞移植群で観察された急速且つ強固な(robust)行動回復と一致する。
【0192】
さらに移植片を調べたところ、4X及びH9細胞移植片内で見られたすべてのTH陽性神経細胞が、ヒト核マーカーであるヒト核抗原(HNA)を共発現することが示された(データは示されていない)。4X細胞移植ラットの移植片では、TH陽性ニューロンがFOXA2、LMX1A及びEN1を共発現し、それらがmesDA神経細胞であることが示された(データは示されていない)。A9神経細胞とA10神経細胞とを区別するために、GIRK2とCALB1を発現するTH陽性神経細胞の割合を計算し、75.4%±4.99のTH陽性神経細胞がGIRK2陽性であることがわかった(図13J)。
【0193】
興味深いことに、H9細胞由来のTH陽性神経細胞は、FOXA2、LMX1A及びEN1が陽性であることもわかった(データは示されていない)。これは、H9細胞由来のTH陽性神経細胞が、FOXA2をほとんど発現しなかったインビトロの実験とは対照的であり(データは示されていない)、インビトロ環境よりも生体内環境の方が、TH陽性神経細胞の発生及び生存により寛容(more permissive)であることを示唆している。インビトロのデータはH9細胞が多数のVLMCを生成したことを示したので、4X細胞移植ラットとH9細胞移植ラットの両方の移植片で血管マーカーの発現を調べた。H9細胞移植片では、COL3A1/COL1A1/HNAの三重陽性細胞の大きな集団が見られたが、4X細胞移植片は、マーカーHNAを共発現するCOL1A1陽性細胞をほとんど検出されなかった(データは示されていない)。
【0194】
結論
全体として、生体内の組織学的データは、4X細胞がmesDAニューロンの強固な集団を作り出すことができることを示し、8週目に見られた急速な運動回復と一致した。
【0195】
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【国際調査報告】