(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】薄膜の作製方法、特にゾル-ゲル法による方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/02 20060101AFI20240105BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240105BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20240105BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20240105BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240105BHJP
G02B 1/111 20150101ALI20240105BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05D7/24 301E
B05D3/02 Z
G02B1/18
G02B1/14
G02B1/111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023539039
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-08-23
(86)【国際出願番号】 FR2021052253
(87)【国際公開番号】W WO2022136759
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・マーチャン
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・バルティン
(72)【発明者】
【氏名】ベルトラン・ベルトゥッシ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ベルヴィル
(72)【発明者】
【氏名】カリーヌ・ヴァレ
(72)【発明者】
【氏名】クレマン・サンチェス
【テーマコード(参考)】
2K009
4D075
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009AA15
2K009CC02
2K009CC03
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4D075EC54
(57)【要約】
固体基材の少なくとも1つの表面上に薄膜を調製するための方法であって、以下の連続する工程:a)表面上に以下を噴霧する工程:溶媒中に分散された無機化合物の固体ナノ粒子(又はコロイド)を含むコロイド懸濁液、これによってコロイド懸濁液の湿潤層が表面上に得られ;又は、溶媒中のポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、これによってポリマー状の無機化合物の懸濁液の湿潤層が表面上に得られ;又は、溶媒中の有機ポリマーの溶液又は懸濁液、これによって、有機ポリマーの溶液又は懸濁液の湿潤層が表面上に得られる、工程;b)湿潤層を乾燥する工程;c)任意選択的に、乾燥工程を経た湿潤層を熱処理する工程を含み、これによって薄膜が得られ;溶媒は、少なくとも95重量%の水、好ましくは100重量%の水を含み、乾燥は、静的雰囲気、特に、表面上及びその周囲に空気又は他の気体の循環又は流れがない状態で行われ、好ましくは、乾燥は、密閉された密閉容器内で行われ、この密閉容器内では、空気又はその他の気体の循環又は流れはないことを特徴とする方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体基材の少なくとも1つの表面上に薄層を調製するための方法であって、以下の連続する工程:
a)前記表面上に以下を噴霧する工程、
溶媒中に分散された無機化合物の固体ナノ粒子(又はコロイド)を含むコロイド懸濁液、これによって前記コロイド懸濁液の湿潤層が前記表面上に得られ、又は
溶媒中にポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、これによって前記ポリマー状の無機化合物の懸濁液の湿潤層が前記表面上に得られ、又は
溶媒中の有機ポリマーの溶液又は懸濁液、これによって前記有機ポリマーの溶液又は懸濁液の湿潤層が前記表面上に得られる、工程
b)湿潤層を乾燥する工程、
c)任意選択的に、前記乾燥工程を経た前記湿潤層を熱処理する工程
を含み、これによって前記薄層が得られ、
溶媒は、少なくとも95質量%の水、好ましくは100質量%の水を含み、
乾燥は、静的雰囲気、特に、前記表面上及びその周囲に空気又は他の気体の循環、流れがない状態で行われ、好ましくは、乾燥は、密閉された密閉容器内で行われ、この密閉容器内では、空気又は他の気体の循環、流れがない
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記薄層の厚さが、5nm~300nm、好ましくは80~220nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薄層が、50nm以上の薄層の厚さに対して、その厚さの変動が前記表面全体にわたって5nm以下、好ましくは2nm以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記無機化合物が、無機酸化物、無機フッ化物、無機オキシ水酸化物又はそれらの混合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記無機酸化物が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化トリウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化ランタン、酸化鉛、酸化ホウ素、酸化セリウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化バナジウム、P
2O
5、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、前記酸化物の混合物及び前記元素の2種以上の混合酸化物から選択され、前記無機フッ化物は、アルカリ土類金属フッ化物から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記コロイド溶液中の無機化合物のナノ粒子の濃度、又は前記ポリマー状の無機化合物を含む懸濁液中のポリマー状の無機化合物の濃度、又は前記有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液中の有機ポリマーの濃度が、0.1質量%~1質量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記コロイド溶液、又は前記ポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、又は前記有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液が、20~73mN・m
-1の表面張力を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記コロイド溶液、又は前記ポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、又は前記有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液が、界面活性剤、増粘剤及び流動剤から特に選択される添加剤を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記コロイドゾルが、ポリビニルアルコール(PVA)のような水溶性バインダーポリマーを更に含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記表面のサイズが、少なくとも400cm
2である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記湿潤層の厚さが、10μm~150μm、好ましくは10μm~120μmである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程a)において、均質な厚さの連続湿潤層を形成するために、以下のパラメータ:噴霧が行われるスプレーヘッドへ供給する際の、前記コロイド溶液、又は前記ポリマー状の有機化合物を含む懸濁液、又は前記有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の流量、前記スプレーヘッドの変位速度、前記スプレーヘッドと前記表面との距離、スプレーヘッドが描く軌跡、のうち1種又は複数、好ましくはパラメータの全てが制御される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
乾燥が、18~50℃の温度で、10分~90分、好ましくは30分~60分、より好ましくは30分~40分の時間にわたって行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記薄層が、光学特性を有する層、疎水性層、親水性層、防曇層、又は耐摩耗性若しくは耐傷性を有する層である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記光学特性が、反射防止特性又は反射特性又は偏光特性である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記薄層が、レーザー放射又は他の放射を受ける表面のコーティングの反射防止層である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
固体基材の少なくとも1つの表面上に複数の層を含むコーティングを調製する方法であって、層の少なくとも1層、例えば反射防止層が、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法によって堆積される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄層の作製方法、特にゾル-ゲル法による作製方法に関する。
【0002】
薄層とは、本件の場合、5nm~300nm、好ましくは80~220nmの厚さの層を意味する。
【0003】
これらの薄層は、特に光学特性を有する薄層、或いは疎水性、親水性、防曇性、耐摩耗性、耐傷性を有する層となり得る。
【0004】
これらの薄層は、有機又は無機の鉱物基材、例えば有機ポリマーでできた基材や鉱物ガラスでできた基材に堆積することができる。
【0005】
光学特性は、例えば反射防止特性や反射特性であり得る。
【0006】
このような薄層には多くの用途がある。
【0007】
これらの薄層の応用分野としては、太陽光発電、熱電池及び光電池の応用、統合光学システムでの応用、建築用途、例えば外用グレージングパネルへの応用を特に挙げることができる。
【0008】
そのため、これらの薄層は、レーザーや天文機器等の光学システムにおいて一般的に使用され、反射による放射損失を最小限に抑えたり、光エネルギーを集中・集束させたり、特定の吸収要素を保護したりする。
【背景技術】
【0009】
基材上に堆積して薄層を製造する方法には、様々なものがある。
【0010】
これらの方法の中で、特にゾル-ゲル堆積法を挙げることができる。
【0011】
これらの方法は「ソフトケミストリー」と呼ばれ、高温での熱処理工程を必要としないという大きな利点がある。
【0012】
これらのゾル-ゲル堆積法のうち、1つの方法は、コロイド処理溶液を調製し、この溶液を基材上に堆積させることからなる。
【0013】
より正確には、この方法は、液体溶媒中に分散した固体粒子(すなわちコロイド)、特に金属酸化物又はシリカのような半金属酸化物の安定で均質な懸濁液を調製することからなり、この懸濁液は「ゾル」と呼ばれるものを構成する。このゾルを基材上に堆積させ、その後、ゾル中の溶媒を除去して蒸発し、基材上に「ゲル」を形成させる。
【0014】
薄層が作られるためには、使用する溶媒が十分に揮発性で、容易に蒸発し、基材上に固体粒子を堆積させる必要がある。
【0015】
光学特性を持つ層の場合、この固体粒子堆積物の屈折率がその光学特性を決定する。
【0016】
ゾル堆積に使われる技術は数多くある。
【0017】
これらの技術のうち、ディップコーティング、スピンコーティング、ラミナーフローコーティング、スプレーコーティング、スリップキャスティング、テープキャスティング、ドクターブレードコーティング等を挙げることができる。
【0018】
文献[1]に示されているように、ディップコーティング、スピンコーティング、ラミナーコーティングは、ゾル-ゲル法によって光学特性を持つコーティングを調製するために使用される3つの主要な技術であり、堆積されたゾルの厚さを数ナノメートル以内に正確に制御することができる。
【0019】
これらの3つの技術により、大型シリカ基材(400x400mm2)上に、反射防止薄膜層を作ることができ、この反射防止薄膜層は、入射光の99.5%以上の光透過率を達成でき、351nm又は1053nmの対象波長で満足のいく透過均質性を持つ。
【0020】
上記の3つの技術を用いて薄層を作る場合、一般的に選択される溶媒はエタノールであり、それは、エタノールが、コロイド合成によく使われる溶媒であり、速乾性の溶媒だからである。
【0021】
更に、文献[1]は、光学特性を有する薄層を製造する方法を記載しており、この方法では、コロイド溶液、例えばシリカコロイド溶液が調製される。
【0022】
ここでも、コロイド溶液の溶媒は、エタノール等の、1~4C脂肪族アルコールから選択される。
【0023】
コロイド溶液は、コーティングローラーを平行移動する手段によって、基材上に堆積される。コロイド懸濁液のメニスカスが、コーティングローラーの外縁に形成され、基材上にコロイド懸濁液の薄層が確実に堆積される。
【0024】
しかし、上記の3つの技術や文献[1]の方法において、溶媒として使用されるエタノール等のアルコールには、引火性があるという欠点がある。
【0025】
そのため、文献[2]は、コロイダルシリカゾル中のエタノールを水とエタノールをベースとした混合物に置き換えることを示しているが、溶媒の変更は、先に述べた3つの技術での堆積品質に悪影響を及ぼす。
【0026】
文献[3]は、反射防止コーティングを成膜する水性技術を記載しており、この反射防止膜は、色素増感太陽電池の導電性酸化物ガラスにディップコーティングにより作られている。
【0027】
使用される溶液は、酸化ケイ素SiO2と酸化ナトリウムNa2Oとを含み、SiO2/Na2Oのモル比は異なる。堆積物は、水洗され、最終堆積物中のナトリウムイオンの存在が低減する。1面の透過利得(3.2%)では、パワーレーザー(最低透過利得4%)に要求される品質は得られない。
【0028】
可燃性又は有毒溶媒の使用に関する上述の欠点に加え、スピンコート法には他にも多くの欠点がある。実際、コーティングされる基材は寸法が小さいものに限られ、正方形や長方形の基材の角は適切にコーティングされない。
【0029】
ディップコーティング技術の欠点は、処理する基材を浸すために大量の溶液を調製しなければならないことである。
【0030】
最後に、ラミナーコーティング技術は、基本的に平面基材へのコーティングに限定される。
【0031】
更に、ディップコーティング、スピンコーティング、ラミナーコーティングに加え、もう一つの堆積技術が多くの研究の対象となっており、それはスプレーコーティング技術である。この技術では溶液の消費量が非常に少なく、様々な形状の基材、特に非平面基材をコーティングすることができる。
【0032】
したがって、有機太陽電池の分野では、文献[4]と[5]によれば、スプレーコーティング技術が経済的であることが示されている。これは、この技術で使用される溶液の量が少なく、先に述べた3つの技術で使用される溶液の量よりも少ないからである。
【0033】
文献[4]によると、導電性ポリマーを40nm堆積させる場合、スプレーコーティング技術、より正確には超音波スプレーコーティング技術によって、スピンコーティングで堆積させた層と同等の均質性を持つ層が得られる。平均二乗粗さは、スプレーコーティング技術で堆積した層では3.6nmであるのに対し、スピンコーティング技術で成膜した層では1.2nmである。
【0034】
このような結果を得るために、使用される溶媒は特にイソプロパノールとエチレングリコールの混合物からなり、界面活性剤の使用を避けている。
【0035】
文献[6]は、基材上に均一な厚さの光学層を作製する方法に関するものであり、ゾル-ゲル法によって調製され、無機化合物又は有機変性無機化合物及び高沸点溶媒を含む液相を含むコーティング組成物を、基材上に噴霧する。こうして湿潤膜が形成され、これが熱処理されて光学層が形成されるが、この光学層の厚さは100nm~10μmであり得る。
【0036】
有機変性無機化合物は、重合性又は重縮合性表面基が存在する無機酸化物ナノサイズ粒子からなり得る。
【0037】
溶媒は、グリコール、グリコールエーテル、ポリグリコール、ポリグリコールエーテル、ポリオール、テルペン及びそれらの混合物から選択することができる。
【0038】
文献[7]は、ガラス基材にゾルを噴霧することによる、SiO2反射防止コーティングの調製を記載している。
【0039】
ゾルは、TEOS、エタノール、脱イオン水、アンモニアを混合して調製し、塩基触媒ゾルを得る。噴霧ゾルは、塩基触媒ゾルをエタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、1,3-ブタンジオールと混合して、合成する。
【0040】
21cm×30cmの石英基材上に、波長740nmを中心とし、透過率が99.61%である堆積物が得られた。スプレーコーティングで得られた堆積物とディップコーティングで得られた堆積物とを比較した。
【0041】
スプレーコーティング又はディップコーティングで作られても、得られる堆積物の粗さは同等であり、スプレーコーティングで得られる堆積物は1.42nm、ディップコーティングで得られる堆積物は1.55nmである。
【0042】
しかし、スプレーコーティングで得られる堆積物には欠陥が発生し、その原因はまだ定かではない。これらの欠陥は、光学グレード、すなわち、例えば表面積が400cm2のような大型部品において、堆積物全体にわたって数ナノメートル以内の平滑で、均一で、均質な厚さの堆積物を得るための大きな障害となっている。
【0043】
文献[8]は、スプレーコーティング技術によるアルコキシド系ゾルからのSiO2層の調製を記載している。ゾルが溶媒としてエタノールだけを含む場合、得られるコーティングは不均一な構造を持ち、特にクラックが発生する。1,3-ブタンジオール、エチレングリコール、グリセロール等の高沸点添加剤を使用することで、表面粗さの低い、クラックのないコーティングを調製することができる。
【0044】
したがって、スプレーコーティング技術では、良好な透過特性を持つ光学薄層を得ることはできるが、特に大型基材上では、欠陥のない光学品質の膜を得ることはできないようである。加えて、この技術では可燃性及び/又は有毒の溶媒が使用される。
【0045】
以上のように、先行技術の方法の欠点、欠陥、制限及び不利益を有さず、先行技術の方法で遭遇する問題の解決策を提供する、スプレーコーティング技術を使用したゾル-ゲル法による、薄層を調製する方法の必要性がある。
【0046】
特に、不燃性で無毒のゾル溶媒を使用するような方法の必要性がある。
【0047】
更に、堆積ゾルの厚さを正確に制御し、それによって、数ナノメートル以内、特に5nm以下、より好ましくは2nm以下(50nm以上の層厚の場合)の厚さ精度に制御された、均一で均質な厚さの薄層を調製できるような方法の、必要性がある。
【0048】
更に、大きな基材、例えば400cm2以上の表面積を有する基材、及び/又は複雑な形状を有する非平面基材であっても、クラック等の欠陥のない、高品質の連続層を得ることができるような方法にも、必要性がある。
【0049】
特に、大型基材及び/又は非平面基材上において、特に高い透過率を有する「光学グレード」層を得ることを可能にする方法には、必要性がある。
【0050】
特に、大型基材上でも欠陥のない光学グレードのコーティングを安全に調製できる方法は、これまで存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】FR-A1-2 963 558.
【特許文献2】US-B1-6,463,760 B1
【非特許文献】
【0052】
【非特許文献1】X.LeGuevel. “Elaboration de sols de silice colloidale en milieu aqueux : fonctionnalisation, proprietes optiques et de detection chimique des revetements correspondants”, Universite Francois Rabelais Tours, Thesis to obtain the degree of Doctor of the University of Tours submitted and publicly defended on 30 March 2006:s.n.,2006.
【非特許文献2】Q.Z.Huang, J.F.Shi, L.L.Wang, Y.J.Li, L.W.Zhong, G.Xu. “Study on sodium water glass-based anti-reflective film and its application in dye-sensitized solar cells”, Thin Solid Films, 2016, 610, pp.19-25.
【非特許文献3】J.Griffin, A.J.Ryan, D.G.Lidzey. “Solution modification of PEDOT:PSS inks for ultrasonic spray coating”, Organic Electronics, 2017, pp.245-250.
【非特許文献4】C.Girotto, B.P.Rand, J.Genoe, P.Heremans. “Exploring spray coating as a deposition technique for the fabrication of solution-processed solar cells”, Solar Energy Materials & Solar Cells, 2009, 93, pp.454-458.
【非特許文献5】H.Xiong, Y.Tang, L.Hu, B.Shen, H.Li. “Preparation of Si02 antireflective coatings by spray deposition”, Proceedings of SPIE. 2019, Vol. 11170, 14th National Conference on Laser Technology and Optoelectronics (LTO 2019), 117037 (17 May 2019).
【非特許文献6】C.Loser, C.Russel. “Effect of additives on the structure of Si02 sol-gel spray coatings”, Glastech, Ber, Glass Science Technology 7, 2000, 9, pp.270-275.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0053】
本発明の目的は、とりわけ、上記の必要性を満たすゾル-ゲル法による薄層の調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0054】
この目的及び他の目的は、本発明に従って、固体基材の少なくとも1つの表面上に薄層を調製するための方法であって、以下の連続する工程:
a)表面上に以下を噴霧する工程、
溶媒中に分散された無機化合物の固体ナノ粒子(又はコロイド)を含むコロイド懸濁液、これによってコロイド懸濁液の湿潤層が表面上に得られ、又は
溶媒中にポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、これによってポリマー状の無機化合物の懸濁液の湿潤層が表面上に得られ、又は
溶媒中の有機ポリマーの溶液又は懸濁液、これによって有機ポリマーの溶液又は懸濁液の湿潤層が表面上に得られる、工程
b)湿潤層を乾燥する工程、
c)任意選択的に、乾燥工程を経た湿潤層を熱処理する工程
を含み、これによって薄層が得られ、
溶媒は、少なくとも95質量%の水、好ましくは100質量%の水を含み、
乾燥は、静的雰囲気、特に、表面上及びその周囲に空気又は他の気体の循環、流れがない状態で行われ、好ましくは、乾燥は、密閉された密閉容器内で行われ、この密閉容器内では、空気又はその他の気体の循環、流れはない
ことを特徴とする方法によって達成される。
【0055】
溶媒、例えば純水(溶媒が水を100質量%とする場合、水からなる)は、溶媒中に分散された無機化合物の固体ナノ粒子(又はコロイド)を含むコロイド懸濁液、又は溶媒中にポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の総質量の少なくとも95質量%、好ましくは少なくとも96質量%、97質量%、98質量%、99質量%、99.9質量%を占める。
【0056】
溶媒中に分散した無機化合物の固体ナノ粒子(又はコロイド)を含むコロイド懸濁液は、一般にコロイドゾル、例えばシリカコロイドゾルと呼ばれる。コロイドゾルという用語は、この技術分野で広く使われており、広く受け入れられている意味を持つ。
【0057】
溶媒中にポリマー状の無機化合物を含む懸濁液は、一般にポリマー状ゾル、例えばシリカポリマー状ゾルやポリマー状シリカゾルと呼ばれる。「ポリマー状ゾル」という用語は、この技術分野で広く使用されており、広く受け入れられている意味を持つ。
【0058】
ポリマー状ゾルにおいて、無機化合物は、無機-有機ハイブリッドポリマーの形をしている。これは、スプレーコーティングの瞬間に見られる形態である。このハイブリッド化合物は、乾燥中及びその後の熱処理の間に無機化合物への変換が完了する。
【0059】
溶媒中の有機ポリマーの溶液又は懸濁液は、有機懸濁液又は溶液と呼び得る。
【0060】
工程c)の任意選択的な熱処理は、特に、工程a)において、溶媒中にポリマー状の無機化合物を含む懸濁液の噴霧が行う場合、換言すれば、ポリマー状ゾルを噴霧する場合に、行い得る。
【0061】
コロイドゾル又はポリマー状ゾルを表面にスプレーコーティングする場合、本発明による方法は、ゾル-ゲル技術によって薄層を調製する方法と定義することができる。
【0062】
コロイドゾルのナノ粒子は、一般に、球状又は球状粒子の場合、5~40nm、好ましくは5~20nm、更に好ましくは10~18又は19nmの平均直径等、より大きな平均寸法を有することができる。
【0063】
有利には、薄層の厚さは5nm~300nm、好ましくは80nm~220nmでもよい。
【0064】
本発明による方法は、特に上述した文献に示される従来技術のような、薄層を調製するための方法、特にゾルゲル技術によって薄層を調製するための方法と、無機化合物のコロイド状若しくは又はポリマー状の懸濁液、又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液の堆積を実施するために、特定の技術、すなわちスプレーコーティング技術を行うという点で基本的に異なり、更に、このコロイド状若しくはポリマー状の懸濁液、又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液の溶媒が、特定の溶媒、すなわち、少なくとも95質量%の水、好ましくは100質量%の水を含む水性溶媒であるという点で異なる。
【0065】
薄層、特に光学グレードの薄層を、特に大きな基材(すなわち、ゾル堆積が行われる表面積が400cm2を超えるサイズ)上に調製するためのスプレーコーティング技術における水性ゾル又は水溶液若しくは懸濁液の使用は、特に上述の文献に代表されるように、従来技術には記載も示唆もされていない。
【0066】
本発明による方法は、先行技術の方法、特に先行技術のスプレーコーティング堆積法の欠点、欠陥、制限及び不利益な点を有さず、先行技術の方法の問題点の解決策を提供する。
【0067】
本発明による方法は、驚くべきことに、水性コロイド若しくはポリマー懸濁液、又は有機ポリマーの水溶液若しくは懸濁液を用いたスプレーコーティング技術を実施し、薄層、特に均質で均一な厚さを有する薄層、特に光学グレードの薄層の調製を可能にする。
【0068】
この薄層の厚さの制御は、本発明による方法を従来技術の方法と根本的に区別する本質的かつ有利な特徴である。本発明によれば、薄層の厚さのこの制御は、静的雰囲気中、特に表面上及びその周囲に空気又は他の気体の循環、流れがない状態で行われる乾燥工程中に、溶媒、すなわち本質的には水の蒸発を制御することによって可能となる。好ましくは、乾燥は、以下に記載するように、密閉された密閉容器中で行われ、この密閉容器内では、空気又は他の気体の循環、流れはない。
【0069】
本発明による、静的雰囲気中で行われる乾燥工程は、特に上述の文献に代表されるように、従来技術には記載も示唆もされていない。
【0070】
静的雰囲気で行われるこのような乾燥工程は、予期せぬ効果と利点をもたらし、それによって、薄層、特に均質で均一な厚さを有する薄層、特に光学グレードの薄層を調製することを可能にする。
【0071】
均質で均一な厚さを有する層とは、一般に、50nm以上の薄膜の厚さについて、その厚さのばらつきが、表面領域全体にわたって5nmを超えない、好ましくは2nmを超えない層を意味する。
【0072】
「光学グレード」の薄層とは、一般に次のようなものを意味する:
この層は、上記で定義したように、均質で均一な厚さを有し、及び
この層は散乱がない。
【0073】
散乱をなくすためには、例えばコロイドゾルを噴霧する場合には、ナノ粒子は、層がその機能を確保しなければならない波長に対して十分に小さくなければならない。
【0074】
例えば、ナノ粒子の平均サイズ、例えば、平均直径は、層が曝露され、使用される実働波長の最小値より少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍小さくなければならない。
【0075】
したがって、この波長が370nmである場合、ナノ粒子の直径等の平均サイズは37nmを超えないことが望ましく、好ましくは18.5nmを超えない。
【0076】
本発明による方法によって、驚くべきことに、大きな表面領域、すなわち、400cm2以上の大きさの表面領域、例えば200ミリメートル以上の長さの辺によって画定される正方形の表面領域の全体にわたって、薄層、特に均質で均一な厚さを有する薄層、特に光学グレードの薄層を調製することが可能になる。このような精密な厚さ(例えば、50nm以上の薄層では5nm以内、よければ2nm以内に制御)、特に光学的グレードを持つ層を、「小さな」表面領域だけでなく、大きな表面領域で得ることは、これまで不可能であった。
【0077】
本発明による方法によって調製された薄層は、一般に連続的であり、表面全体が薄層で良好に被覆される。
【0078】
本発明による方法は、従来技術の方法に比べて、多くの利点がある。
【0079】
本発明による方法の第一の利点の一つは、従来技術の方法においてエタノール等の可燃性溶媒を使用することによる、引火性のリスクを完全に排除できることである。
【0080】
実際、本発明に従って実施されるコロイド溶液若しくはポリマー状の溶液、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液は、少なくとも95質量%の水、好ましくは100質量%の水を含む水性溶媒を含有する。したがって、この溶媒は60℃以上の引火点を有し、CLP規則(EC規則番号1272/2008修正)に従って、不燃性溶媒のカテゴリーに入る。
【0081】
本発明による方法で実施される水性溶媒は、毒性も有害性もない。
【0082】
更に、エタノール等のこれまで使用されていた溶媒と比べて、溶媒として揮発性の低い水系溶媒を使用することによって、より良好な堆積品質を確保できる。
【0083】
実際、本発明に従って実施されるコロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の溶媒の少なくとも95質量%を構成する水は、エタノールよりも室温での沸騰温度及び気化エンタルピーが高く、それによって、同じ体積のゾル、溶液又は懸濁液の場合、乾燥を遅くすることができる。より遅い乾燥によって、残留応力が制限でき、したがって、より高品質の層が得られる。
【0084】
最後に、スプレーコーティング技術は、他の技術より、はるかに少量のゾル、懸濁液、溶液を消費するため、この方法のコストを削減することができる。
【0085】
したがって、一例として、数ミリリットルのゾル、懸濁液又は溶液により、一度に1つの面だけをコーティングすることができ、非対称のコーティングが可能になる。
【0086】
実際、スプレーコーティング技術では、堆積に厳密に必要な量のゾル、溶液、懸濁液しか使用しない。
【0087】
これは、特に、基材の両面をコーティングするために大量のゾル、溶液又は懸濁液を使用するディップコーティング技術と比較すると、スプレーコーティング技術の大きな利点である。
【0088】
更に、ディップコーティング技術では、基材の両面上の堆積される層は、両面のそれぞれで全く同じ組成及び厚さを持つ。言い換えれば、全く同じ層が基材の各面に堆積される。
【0089】
対照的に、スプレーコーティング技術よって、異なる厚さ及び/又は組成の層を各面に堆積させることが可能になり、その結果、多様な堆積が可能になる。
【0090】
この点で、スプレーコーティング技術はスピンコーティングに似ている。
【0091】
有利には、無機化合物は、金属又は半金属酸化物のような無機酸化物、金属又は半金属酸フッ化物のような無機フッ化物、金属又は半金属酸オキシ水酸化物のような無機オキシ水酸化物、又はそれらの混合物でもよい。
【0092】
酸化物は混合酸化物も含み、フッ化物は混合フッ化物も含み、オキシ水酸化物は混合オキシ水酸化物も含む。
【0093】
有利には、無機酸化物は、SiO2等の酸化ケイ素、酸化アルミニウム、TiO2等の酸化チタン、ZrO2等の酸化ジルコニウム、HfO2等の酸化ハフニウム、ThO2等の酸化トリウム、Ta2O5等の酸化タンタル、Nb2O5等の酸化ニオブ、イットリウム酸化物、スカンジウム酸化物、ランタン酸化物、鉛酸化物、ホウ素酸化物、セリウム酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、バナジウム酸化物、P2O5、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、前記酸化物の混合物、及び上記元素の2種以上の混合酸化物から選択することができ、無機オキシ水酸化物は、AlOOH等の金属オキシ水酸化物から選択することができ、無機フッ化物は、CaF2及びMgF2等のアルカリ土類金属フッ化物から選択することができる。
【0094】
有利には、有機ポリマーは、ポリビニルアルコール又はPluronic(登録商標)F-108のようなポロキサマーのような合成可能又は水溶性ポリマー、及びラテックスタイプの懸濁ポリマーから選択することができる。
【0095】
有利には、コロイド溶液の無機化合物のナノ粒子の濃度、又はポリマー状の無機化合物を含む懸濁液のポリマー状の無機化合物の濃度、又は有機ポリマーの溶液又は懸濁液の有機ポリマーの濃度は、0.1質量%~1質量%とし得る。
【0096】
有利には、コロイド溶液、又はポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液は、20~73mN・m-1の表面張力を有し得る。
【0097】
有利には、コロイド溶液、又はポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液は、特に界面活性剤、増粘剤及び流動剤から選択される添加剤を更に含んでもよい。
【0098】
界面活性剤は、例えば、Triton(商標)X-100(ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル)又はBrij(登録商標)L4(ポリエチレングリコールドデシルエーテル)から選択することができる。
【0099】
湿潤剤(界面活性剤)は、スプレーコーティング技術の範囲内で最も重要である。しかし、増粘剤や流動剤等、他の添加剤も役割を果たすことがあり、これらは、ゾルの粘度に影響し、堆積物の品質に響く。
【0100】
ポロキサマーのような有機ポリマーは、既に界面活性特性を有し得、その場合は界面活性剤の添加は必要ない。
【0101】
コロイドゾルを実施する場合、このコロイドゾルは、ポリビニルアルコール(PVA)のような水溶性バインダーポリマーを更に含み得る。
【0102】
有利には、表面は大きな表面、すなわち少なくとも400cm2の表面である。例えば、少なくとも200mmの辺を持つ正方形の表面でもよい。
【0103】
有利には、工程a)において、(コロイド懸濁液の、又はポリマー状の有機化合物を含む懸濁液の、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の)均一な厚さの連続湿潤層を形成するために、以下のパラメータ(噴霧パラメータ):噴霧が行われるスプレーヘッドへ供給する際の、コロイド懸濁液、ポリマー状の有機化合物を含む懸濁液、有機ポリマーの溶液又は懸濁液の流量、スプレーヘッドの変位速度、スプレーヘッドと表面との距離、スプレーヘッドが描く軌跡、のうち1種又は複数、好ましくはパラメータの全てを制御し得る。
【0104】
有利には、コロイド懸濁液、ポリマー状の有機化合物を含む懸濁液、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の湿潤層の厚さは、10~150μm、好ましくは10μm~120μmでもよい。
【0105】
有利には、乾燥は18~50℃の温度で、10分~90分、好ましくは30~60分、より好ましくは30~40分の時間にわたって行い得る。
【0106】
本発明によれば、乾燥は、静的な雰囲気、特に、表面やその周囲に空気又はその他の気体の循環、流れがない状態で行われる。
【0107】
好ましくは、乾燥は、密閉された密閉容器内で行われ、この密閉容器内では、空気やその他のガスの循環、流れはない。
【0108】
この密閉容器は、特に隅に、1個又は複数個の詰め物で塞がれた扉を含み得、空気の流れを妨げるバリア(空気バリア)がこの扉又はこれらの扉の後ろに配置され得る。
【0109】
任意選択的に、乾燥工程に続いて、乾燥工程を経た湿潤層の熱処理を行うことができ、特に、工程a)の間に、ポリマー状の有機化合物を含む懸濁液を噴霧する工程が実施される場合である。ポリマー状のゾルが噴霧された場合、この熱処理工程により、無機-有機ハイブリッドポリマーを完全な無機ミネラルポリマーに変化させることができる。
【0110】
この熱処理は、一般に乾燥とは異なっていて違い、乾燥に使用される温度よりも高い温度で行われる。したがって、この熱処理は、100~200℃、好ましくは100~150℃の温度で、30分~2時間、好ましくは60分間の期間で行われ得る。特に、適切な投射パラメータの使用、濃度及び表面張力の点で適合した水性ゾル、溶液又は懸濁液の使用、及び湿潤層の制御された乾燥条件の使用が、上述した問題の解決策を提供し、特に、所望の特性、特に欠陥、亀裂がない、均質で均一な厚さ及び光学的グレートを有する最終乾燥薄層を得ることを可能にする。
【0111】
有利には、薄層は、光学特性を有する層、疎水性層、親水性層、防曇層、又は耐摩耗性若しくは耐傷性を有する層でもよい。
【0112】
光学特性は、例えば、反射防止特性、反射特性、偏光特性等であり得る。
【0113】
当業者は、所望の特性、例えば所望の光学特性を有する薄層を得るために、本発明による方法の条件、特に無機化合物及び層の厚さを選択する方法を知っているであろう。特に、当業者は、この屈折率によって決定される所望の光学特性に応じて、所望の屈折率を有する薄層を得るために、本発明による方法の条件を選択することができるであろう。
【0114】
したがって、例えば、反射防止層は一般にシリカ層である。
【0115】
このような薄層は多くの用途がある。
【0116】
本発明による方法によって調製される薄層は、特に反射防止層であり得る。これらの反射防止層は、レーザー放射又は他の放射(可視、IR、UV等)を受けるコーティングの反射防止層であり得る。
【0117】
本発明による方法によって、実際に、レーザーへの応用に適合する反射防止コーティングをスプレーコーティング技術によって製造することができる。
【0118】
本発明は、固体基材の少なくとも1つの表面上に複数の層を含むコーティング(多層コーティング)を調製するための方法であって、層の少なくとも1層、例えば反射防止層が、上述の本発明による方法によって堆積される、方法にも関する。
【0119】
好ましくは、コーティングの全ての層は、本発明による方法によって調製される。
【0120】
全体として、これらの多層コーティングは、反射防止、反射性、偏光性等の特性を持つことができる。
【0121】
多層反射コーティングを作製するには、交互に堆積した透明誘電体材料(酸化物)を使用し、低屈折率層と高屈折率層の連続したスタックを構成する。これらの各層は、本発明による方法を使用して、調製し得る。特に、一般にコロイダルシリカをベースとする低屈折率層は、本発明による方法で調製することができる。
【0122】
本発明は、本発明の特定の実施形態に関する以下の詳細な説明を読めば、よりよく理解されるであろう。
【0123】
この詳細な説明は、添付図面を参照して、例示的かつ非限定的に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【
図1】基材を完全にコーティングするために、スプレーヘッドが描く軌跡の一例を示すグラフである。
【
図2】基材の1つの面上のコーティングの外観を示す写真である。このコーティングは、本発明による方法によって、実施例1で調製した層からなる。
【
図3】基材の2つの面上の対称的なコーティングの外観を示す写真である。このコーティングは、本発明による方法によって、実施例1で調製した層からなる。
【
図4】コーティングされていない基材の透過スペクトル(実線の下の曲線)と、本発明による方法に従って、実施例1で調製した層でその2つの面を対称的にコーティングした基材の透過スペクトル(点線の上の曲線)を示すグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)を示す。
【
図5】基材の2つの面上の対称的なコーティングの外観を示す写真である。このコーティングは、本発明による方法によって、実施例2で調製した層からなる。
【
図6】コーティングされていない基材の透過スペクトル(実線の下の曲線);熱処理前の、本発明による方法に従って、実施例2で調製した層でその2つの面を対称にコーティングした基材の透過スペクトル(破線の上の曲線);及び熱処理後の、本発明による方法に従って、実施例2で調製した層でその2つの面を対称にコーティングした基材の透過スペクトル(点線の中間の曲線)を示すグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)を示す。
【
図7】基材の2つの面上の対称的なコーティングの外観を示す写真である。このコーティングは、本発明による方法によって、実施例3で調製した層からなる。
【
図8】
図7と同じ写真だが、コントラストを悪化させ、明るさを落としたものである。
【
図9】コーティングされていない基材の透過スペクトル(実線の上の曲線)と、本発明による方法に従って、実施例3で調製した層でその2つの面を対称にコーティングした基材の透過スペクトル(点線の下の曲線)を示すグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)を示す。
【
図10】基材の2つの面上の対称的なコーティングの外観を示す写真である。このコーティングは、本発明による方法によって、実施例4で調製した層からなる。
【
図11】
図10と同じ写真だが、コントラストを悪化させ、明るさを落としたものである。
【
図12】コーティングされていない基材の透過スペクトル(実線の上の曲線)と、本発明による方法に従って、実施例4で調製した層でその2つの面を対称にコーティングした基材の透過スペクトル(点線の下の曲線)を示すグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0125】
以下の詳細な説明において、本発明による方法は、コロイド状ゾル又はポリマー状のゾルが実施される一実施形態において説明される。しかしながら、この記載は、当業者の手の届く範囲内で可能な若干の適合を伴って、有機ポリマーの溶液又は懸濁液が実施される本発明の方法の実施形態にも適用され得る。
【0126】
本発明による方法は、特に、少なくとも95質量%の水、好ましくは100質量%の水を含む特定の溶媒中に分散された無機化合物のナノ粒子(又はコロイド)を含むコロイド懸濁液又はゾルを実施する。
【0127】
本発明による方法で使用されるコロイド懸濁液又はゾルは、一般に再結晶によって精製される酸塩のようなイオン性前駆体、又は一般に再結晶によって精製されるアルコキシドのような分子性前駆体から誘導することができる。
【0128】
イオン性前駆体は、塩化物、オキシ塩化物、過塩素酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩及び金属酢酸塩、並びに塩化物、オキシ塩化物、過塩素酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩及び半金属酢酸塩から選択することができる。
【0129】
分子前駆体は、式M(OR)nのアルコキシドから選択することができ、Mは金属又は半金属を表し、ORは炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、nは金属又はメタロイドの原子価を表す。
【0130】
本発明による方法で使用されるコロイド懸濁液又はゾルは、以下の著作物の方法に従って調製することができる:
SiO2ゾルについては、Stober(J. Colloid Interface Sci., 26, pp. 62-69, 1968)
TiO2ゾルについては、Thomas(Appli. Opt. 26, 4688, 1987)
ZrO2ゾル及びHfO2ゾルについては、Clearfield(Inorg. Chem., 3, 146, 1964)
ThO2ゾルについては、0’ Connor(US-A-3,256,204, 1966)
AlOOHゾルについては、Yoldas(Am. Cer. Soc. Bull. 54, 289, 1975)
Ta2O5ゾル及びNb2O5ゾルについては、S.Parraud(MRS, Better Ceramics Through Chemistry, 1991)
CaF2ゾル及びMgF2ゾルについては、Thomas(Appl. Opt., 27, 3356, 1988)
【0131】
これらの方法では、前駆体を加水分解又はフッ素化した後、エタノール等の選択した合成溶媒中で不溶性のナノ粒子が得られるまで重合させる。
【0132】
例えば、シリカゾルは、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)のようなアルコキシド前駆体を、エタノールのような脂肪族アルコールを溶媒とする塩基性アルコール媒体中で、Stoberに記載された方法に従って加水分解することによって得ることができる。
【0133】
ゾルはポリマーゾル、例えばポリマー状のシリカゾルでもよい。
【0134】
ポリマーゾルは巨大分子(ポリマー)を含み、任意選択的にポリマー鎖の凝集体や小粒を形成することもあり得るが、これらは固体粒子ではない。
【0135】
上記のように合成されたコロイド状ゾル又はポリマー状ゾルは、合成溶媒で希釈され、一般に、ナノ粒子又はポリマー状の無機化合物の濃度は、特に0.2~1質量%、例えば0.8質量%になる。
【0136】
この濃度は透析中に少し減少するが、透析後は、水を加えることで、噴霧時に、使用するゾルの濃度に調整される(下記参照)。
【0137】
エタノール等の合成溶媒(水でない場合)は、コロイド状ゾル又はポリマー状ゾルの溶媒が少なくとも95質量%、更には100質量%の所望の含水率になるまで、水と置換、交換される。
【0138】
この交換は、水中での透析によって行うことができる。
【0139】
透析は、コロイド又はポリマー溶媒が所望の含水率、少なくとも95質量%、或いは100質量%になるまで、定期的に水を交換しながら、6~72時間、例えば48時間かけて行うことができる。
【0140】
透析工程での加熱は、交換を促進することができるが、加熱は粒子の凝集を促進することもある。したがって、たとえ時間がかかっても、透析は室温(例えば20℃)で行うのが好ましい。
【0141】
透析のように、合成溶媒を交換する置換工程は、特にシリカナノ粒子溶液に適用されるが、エタノール中の懸濁液であれば、ポリマー状のシリカゾルにも適用され、任意選択的に有機ポリマーの懸濁液又は溶液にも適用される。
【0142】
合成溶媒を水に置換するこの工程の後、特に透析によって、界面活性剤等の添加剤を加えることが可能である(上記参照)。
【0143】
既に上記で規定したように、この界面活性剤は、例えば、Triton(商標)X-100(ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル)又はBrij(登録商標)L4(ポリエチレングリコールドデシルエーテル)から選択し得る。
【0144】
界面活性剤は、より良好な湿潤を可能にし、その結果、コロイドゾル又はポリマー状ゾルの、処理される表面へのより良好な拡散を可能にする。
【0145】
コロイドゾルを実施する場合、ポリビニルアルコール(PVA)のような水溶性バインダーポリマーをコロイドゾルに添加することができる。このようなポリマーは、乾燥薄層中のナノ粒子間のバインダー又はセメントとして作用する。このようなポリマーは、層の凝集力を補強し、これらの層の多孔性を塞ぐ。
【0146】
合成溶媒を水に置換する工程、及び界面活性剤等の添加剤を加える任意選択的な工程に続いて、最終的に得られるコロイド懸濁液(コロイドゾル)又はポリマー状ゾルは、金属又は半金属酸化物等の無機化合物、又はポリマー状の無機化合物、すなわち乾燥抽出物のナノ粒子の濃度は、一般に、0.1質量%~1質量%、例えば0.2質量%である。
【0147】
このような濃度により、特に50nm~100nm、例えば70nmほどの厚さの乾燥層を作ることができる。
【0148】
有機ポリマーの溶液又は懸濁液が実施される場合、このポリマーは、一般に、所望の濃度を得るために、少なくとも95質量%の水を含む水性溶媒に単に溶解又は懸濁される。
【0149】
溶液又は懸濁液には、任意で界面活性剤等の添加剤を加えることができる。
【0150】
薄層が堆積される少なくとも1つの表面を有する固体基板は、有機材料若しくは無機材料、又は有機/無機ハイブリッド材料で作製し得る。
【0151】
基材材料は、特に有機ガラス、又はホウケイ酸ガラスやシリカ等のミネラルガラスであり得る。
【0152】
本発明による方法によって薄層が調製される表面は、平面であり得るが、複雑な形状、幾何学的形状、例えば、凹部及び/又は凸部、起伏及び/又はくぼみ、引っ込んだ場所、収納部等を有する曲面又は湾曲面であることもできる。
【0153】
本発明による方法で実施されるスプレーコーティング技術は、上述した他の堆積方法とは異なり、複雑な形状や幾何学的形状を有する表面上でさえ、コロイド状ゾル又はポリマー状のゾル又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液をうまく堆積させることができる。
【0154】
薄層は、基材の1つの表面のみ、又は基材の複数の表面、更には基材の全表面に調製することができる。
【0155】
ここでも、本発明による方法で実施されるスプレーコーティング技術は、上述の他の堆積方法とは異なり、コロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液を、一回の操作で、基材の複数の面、例えば平面基材の両方の面に堆積させるだけでなく、コロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液を、そのような基材の一つの面のみに堆積させることを可能にし、したがって懸濁液を節約する。
【0156】
上記の方法を使用して、薄層を調製する表面は、どのような大きさでもよい。
【0157】
上述した他の堆積方法とは異なり、本発明による方法で実施される噴霧技術により、コロイド状ゾル又はポリマー状のゾル又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液を、広い表面積、すなわち少なくとも400cm2の表面積にも堆積させることが可能になる。例えば、これは少なくとも200mmの辺を有する正方形の表面積であってもよい。
【0158】
特に上記のように調製されたコロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液を基材の表面に噴霧する、本発明による方法の工程a)の前に、この表面を準備するための工程を実施することができる。
【0159】
この準備工程の目的は、本質的に表面を濡れやすくすること、つまり、水との接触角を5°未満にすることである。
【0160】
このような工程は従来から一般的に行われており、当業者であればその条件を決定するのに困難はないであろう。
【0161】
この工程は、化学的及び/又は物理的及び/又は機械的洗浄工程であってもよい。
【0162】
一般的に言って、この洗浄工程は基本的に化学的である。
【0163】
化学洗浄に使用できる化学薬品は、石鹸、酸、塩基、有機溶媒等から選択し得る。
【0164】
超音波は、上記の化学薬品による液相での化学洗浄を補助し得る。超音波は、洗浄を支配する現象を促進する。
【0165】
洗浄には、オゾン処理やプラズマ洗浄も利用できる。
【0166】
一例として、この洗浄工程は、以下の処理を実施することで行える:
まず、エタノールに浸したポリエステル製の布で、表面に付着した手で触れた跡や潜在的なホコリを取り除く;
その後、表面を0.4質量%の希フッ化水素酸水溶液に接触させる。
これは、フッ化水素酸水溶液に浸した布と表面を接触させることによって、実施することができる。浸した布は、任意選択的に、機械的に動かしてもよい:
その後、純水で表面をすすぎ、微量の酸を中和する;
表面の乾燥を促進するために、最後にエタノールですすぎ得る。
【0167】
これらの処理は、例えば、シリカ製でもホウケイ酸製でも、平面基材の片面又は両面に行うことができる。
【0168】
準備工程は、文献[1]77頁7行目~18行目に記載されているもの、文献[1]請求項7に記載されているもの(水性洗剤溶液とエタノール溶液を使用して表面を洗浄する)、又は文献[9]7頁16行目~18行目に記載されているもの(希釈したHFと洗剤溶液を使用して表面を洗浄する)等の他のプロトコルに従って実施することもできる。
【0169】
コロイド状ゾル又はポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液が上記で開示したように調製されると、任意に、既に上記で規定された界面活性剤を添加することができる。
【0170】
この界面活性剤は、例えば、Triton(商標)X-100(ポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテル)又はBrij(登録商標)L4(ポリエチレングリコールドデシルエーテル)から選択することができる。
【0171】
界面活性剤の添加は、コロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の表面張力を低下させる。
【0172】
コロイド状ゾル又はポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液を不安定にしないために、界面活性剤は臨界ミセル濃度以下の濃度で加えるのが好ましい。
【0173】
この濃度では、表面張力に対する界面活性剤の効果は、ミセルを形成することなく、最適である。
【0174】
言い換えれば、コロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の界面活性剤濃度は、界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)と同程度に高くし得る。界面活性剤濃度は、任意にCMCを超え得るが、10%を超えてはならない。
【0175】
実際、界面活性剤濃度がCMCを超えすぎると、ゾル、又は溶液又は懸濁液の安定性が損なわれ、1ヶ月以内にゾルのゲル化が観察される。
【0176】
コロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の表面張力は、20~73mN.m-1でもよい。
【0177】
例えば、Triton X-100を使用すると、38mN.m-1の表面張力を達成することができる。
【0178】
上記のように調製され、任意選択的に界面活性剤を含む、コロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液は、次に液滴の形で噴霧され、この液滴は推進用ガスによって表面に投射される。
【0179】
より正確には、圧電ヘッドが超音波を発生させ、ヘッドの近くで液滴を形成する。その後、気体の流れ、一般的には空気の流れが、配合液滴を堆積方向に向ける。
【0180】
この噴霧は、任意の適切な装置によって実施できる。そのような装置は当業者に知られている。
【0181】
例えば、Ultrasonic Systems Inc.からPRISM Ultra-coatの名称で販売されているような超音波噴霧装置を使用し得る。
【0182】
噴霧工程a)の間、以下のパラメータの1種又は複数、好ましくは以下のパラメータの全てを、レベリング後に、コロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の連続的で均質な湿潤層を形成するように制御することができる(レベリングとは、堆積された液膜が重力によって静止し、このフィルムの厚さの均等化が起こることを意味する。言い換えれば、レベリング工程は、堆積された液膜が滑らかな外観を獲得する工程である。スプレー堆積は、実際には、分断された液膜を生成し、厚さの違いを示す小さな波紋があり、この波紋はレベリング中に滑らかになる):
噴霧が行われるスプレーヘッドに供給されるコロイド状ゾル若しくはポリマー状のゾル、又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液の流量。この流量は、特に1~20mL.min-1とすることができる。
スプレーヘッドの変位速度。この速度は、特に50~500mm.s-1とすることができる。
スプレーヘッドと表面との間の距離。この距離は、特に5mm~50mm、好ましくは20mmとすることができる。
スプレーヘッドが描く軌跡。
【0183】
この軌跡は、例えば
図1で説明したようなものとすることができ、基材を完全にカバーできるように、ピッチは1mmから25mmの間で調整可能である。
【0184】
ヘッドと基材間の距離が50mmを超えると、生成される液滴の移動距離が長すぎて、その軌跡が直線的にならない。このため、液滴のない区域が発生しやすくなり、結果として液滴が堆積しない。
【0185】
10mmを下回ると、推進用空気の噴出が液膜を乱し、ヘッドの進行方向に周期的な過度の厚み不良を伴う筋状の乾燥を発生させる可能性がある。
【0186】
流量、変位速度、ピッチは、噴霧される液体の量を調整する一連のパラメータを形成する。流量を増加させると液体の付着量が増加し、ヘッドのピッチ又は変位速度を増加させると液体の付着量が減少する。
【0187】
使用する投射ヘッドは25mmの液体の帯を作ることができるため、ピッチは一般的に25mm(スプレー帯の幅)以下であるべきである。これを超えると、液膜がカバーされず、堆積物のない区域が生じる。
【0188】
液滴の合体による液滴の形成を避けるため、流量は一般的に20mL.min-1未満に保たなければならない。その最小値は装置によって設定される。
【0189】
変位速度は堆積時間を決定する。好ましくは100mm.s-1より大きく、堆積段階を1分間に制限する。迅速な堆積により、堆積時間の関数としての早期乾燥を制限しながら、基材を覆うことができるからである。上限の500mm.s-1は、使用する装置の限界に相当する。
【0190】
工程a)は、温度18~22℃、相対湿度40~50%で、一般に行われる。
【0191】
本発明による方法の噴霧工程a)の終了時に、コロイド状若しくはポリマー状の懸濁液又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液の湿潤層が、表面に得られる。
【0192】
コロイド状若しくはポリマー状の懸濁液又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液の厚さは、10~150μm、好ましくは10~120μmであり得る。
【0193】
噴霧工程a)に続いて、本発明による方法の工程b)が行われ、その間に、コロイド懸濁液、ポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液の湿潤層の乾燥が行われる。
【0194】
コロイド懸濁液、又は有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液を使用する場合、最終的な乾燥薄層は工程b)の最後に表面に得られる。
【0195】
均一で、制御された厚さ、一般に300nm以下で、クラック等の欠陥がなく、特に光学グレードの薄膜を得るためには、厳密ではないにしても、乾燥を支配する以下のパラメータの1個又は複数個、又は全てを制御することによって、溶媒蒸発を制御することは重要である:
乾燥温度。
乾燥期間。
乾燥中に表面が置かれる雰囲気。
特に光学グレードの、均一で均質な厚さの層を得るためには、この乾燥工程での溶媒蒸発の制御が不可欠である。乾燥は一般に、高すぎない温度で行わなければならない。したがって、乾燥は18~50℃の温度で行い得る。
【0196】
乾燥は一般的に、短すぎない期間で行わなければならない。
【0197】
したがって、乾燥は10分~90分、好ましくは30分~60分、更に好ましくは30分~40分の時間で行うことができる。
【0198】
本発明に従って実施されるコロイド状ゾル若しくはポリマー状ゾル、及び有機ポリマーの溶液若しくは懸濁液の溶媒の少なくとも95%を構成する水は、エタノールよりも室温での沸騰温度及び気化エンタルピーが高く、そのため、同じ体積のゾル、溶液又は懸濁液の場合、乾燥を遅くできることに、再度留意すべきである。より遅い乾燥は、液膜を可能な限り均質かつ平滑にすることを可能にし、その結果、より良好な光学グレードの層を得ることができる。
【0199】
均質で、厚さが均一で、クラック等の欠陥のない乾燥層を得るために、本発明によれば、乾燥は、静的雰囲気中で、特に、表面上及びその周囲に空気又は他の気体の循環又は流れがない状態で行われ、好ましくは、密閉された密閉容器内で行われ、この密閉容器内では、空気又はその他の気体の循環又は流れがない。
【0200】
上記の乾燥条件は、コロイド懸濁液、ポリマー状の無機化合物を含む懸濁液、又は有機ポリマーの懸濁液若しくは溶液のいずれを実施する場合にも適用される。
【0201】
任意選択的に、乾燥工程に続いて、乾燥工程を経た湿潤層の熱処理を実施することができ、特に、工程a)の間に、ポリマー状の有機化合物を含む懸濁液の噴霧が実施される場合である。ポリマー状ゾルが噴霧された場合、この熱処理工程により、無機-有機ハイブリッドポリマーを完全な無機ミネラルポリマーに変化させることができる。
【0202】
この熱処理は、100~200℃、好ましくは100~150℃の温度で、30分~2時間、好ましくは60分間行い得る。
【0203】
本発明による方法によって、コーティング、特にコロイダルシリカ光学グレードのコーティング、すなわち、特に、数百ナノメートル未満の層厚、より正確には5nm~300nm、好ましくは80~220nmの層厚にわたって、5nm、更には2nm(50nm以上の厚さを有する層について)を超えない厚さのばらつきを有し、均質性、厚さにおける堆積の均一性を有するコーティングを製造することが可能になる。
【0204】
界面活性剤の使用はエッジ効果をもたらすことに注意すべきである。実際、0.5~1.5cmを超えると、乾燥しなくても液膜が収縮する。
【0205】
本発明による方法によって得られた薄層は、特に371nmの中心波長において、少なくとも99%の透過率を有し、99.5%を達成することができる(
図4参照)。
【0206】
このような透過率は、本発明による方法で得られた推定厚さ76nmのコロイダルシリカ層で得られる。
【0207】
ゾルが、芳香環含有界面活性剤:Triton(商標)X-100を含む場合、紫外線放射の吸収は、230nm未満の短波長で起こり得る。
【0208】
本発明による方法によって調製される薄層は、特に反射防止層とし得る。これらの反射防止層は、光学部品、特にレーザー放射を受けるシリカ光学部品の反射防止コーティングに特に有用である。
【0209】
本発明による方法で調製した有機ポリマーの薄層は、基材上の保護層とすることができる。
【0210】
次に、本発明を以下の例示的かつ非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0211】
コロイダルシリカ
使用した基材はシリカ製で、表面積は200×200mm2、厚さは5mmである。
【0212】
屈折率は600nmにおいて1.44である。
【0213】
基材は以下の手順を使用して洗浄した:0.4%のフッ化水素酸希薄溶液で表面を洗浄し、純粋な脱イオン水で十分にすすぐ。基材は、キャリアを使用してコーナーに垂直に置き、大気中で乾燥させる。
【0214】
1)Stober法に従って合成したコロイド状懸濁液を使用して、水中のコロイド状シリカの懸濁液(ゾル)を調製した。50.7gのテトラエチルオルソシリケートを、388.0gの無水エタノールに加えた。15分間の撹拌により、良好な均質化を確保する。13.4g、28質量%のアンモニアをそこに加える。更に15分間撹拌した後、溶液を室温で3週間熟成させる。粒度測定は、10±5nmのサイズのシリカコロイドの存在を示す。pHは10、Si02質量濃度は3.8%である。
【0215】
2)水性ゾルを得るために、約23.7gのコロイド状シリカゾルを回収し、1質量%エタノールで希釈したゾル90gを調製する。そして、このゾルを、直径34mm、MWCO3.5kDaの透析膜に入れる(すなわち、シリカの場合、直径1.7nmの粒子を80%以上保持する)。この膜を4.5Lの純水を入れたタンクに入れ、磁気撹拌する。透析は最低48時間行い、終了後、表面張力を測定して、膜中のゾルの含水率を評価する。表面張力が70±3mN.m.-1の場合、ゾルは以下のTable I(表1)で規定されるように特性評価される:
【0216】
【0217】
3)56.12gの水溶液に、0.60gの1質量%希釈Triton(商標)X-100溶液を加える。このような量により、水中のTriton(商標)X-100を臨界ミセル濃度にすることが可能となり、その結果、3ヶ月間にわたって注目に値する時間経過がない粒度分布から明らかなように、ゾルの安定性に影響を与えることなく、表面張力を39.40mN.m-1まで低下させることができる。
【0218】
4)PRISM Ultra-coat 300スプレー装置の供給シリンジに、Triton(商標)水性シリカゾルを充填する。シリンジ内の小型スターラーが作動する。溶液の供給を初期化した後、基材をブースの中央に導入する。空気の循環を遮断するため、ブースのドアの後ろに空気バリアが設置されている。堆積手順を開始する前に、隅で、ドア自体を詰め物で塞ぐ。堆積パラメータは以下のTable II(表2)に示す:
【0219】
【0220】
堆積に有効な座標は、部品である基材の中心を中心としており、基材上に液体を完全にコーティングするために、部品である基材よりもわずかに大きな表面積を掃引することができる。
【0221】
堆積は、第一の面に行われ、約30分間乾燥させた後、同じ乾燥時間で、第二の面に繰り返される。堆積物をネガトスコープ光(広範な拡散光源、基材はこの光を反射し、光学的欠陥を悪化させる)の下で観察する。
図2及び
図3の写真はこれらの観察結果を示している。
【0222】
また、この例で調製した2面の対称コーティングの波長の関数として、透過率を測定した。
【0223】
【0224】
堆積膜の透過率は、370nmで99.5%に達し、コーティングされていないシリカ基材では93.1%であった。
【0225】
370nmにおけるシリカの指数は、1.47であった。作られた層の370nmにおける指数は、1.27であり、このことから層中の空隙率は48%であることが推測される。このような層は反射防止機能を果たし、ここでは中心波長370nmで最大の効果を発揮する。
【実施例2】
【0226】
ポリマーシリカ
使用した基材は、実施例1と同じである。
【0227】
1)以下の方法に従って、エタノール中で合成したゾルから、水中のポリマー状シリカ懸濁液を調製した。
【0228】
52gのテトラエチルオルソシリケートを、429.2gの無水エタノールに加えた。15分間の撹拌により、良好な均質化を確保する。0.1g、37%塩酸を18.0gの純水で希釈したものを加えた。更に15分間撹拌した後、溶液を3週間熟成させる。pHは2、SiO2の質量濃度は3.9%である。
【0229】
2)3.9%溶液から、71.4gのエタノール中の1%m希釈ポリマー状シリカ溶液を調製した。このようにして調製したポリマー状シリカ溶液について、実施例1に記載したように透析した。この透析の結果、97.6gのゾルが得られ、シリカ濃度は0.4%mであった。その表面張力は70.3mN.m-1であり、これは99%m以上の含水率と推定される。
【0230】
3)71.0gの水性ゾルに、1%m.のTriton(商標)X-100を含む溶液0.75gを加える。
【0231】
4)界面活性剤が加えられた水溶液を、実施例1と同様に、装置供給系に組み入れる。堆積容器も同様に準備する。堆積パラメータは実施例1と同じであり、以下のTable III(表3)に示す:
【0232】
【0233】
堆積は、基材の両面に対称に行われる。各堆積後の乾燥時間は、30分である。堆積後、部品である基材の透過率が測定され、その後、コーティングされた基材は130℃で1時間の熱処理を受ける。この処理により、シリカ膜が緻密化され、とりわけ機械的強度等が向上する。
【0234】
図5は、ネガトスコープ(拡散白色光)で、2つの面にコーティングを施した基材を観察しながら、撮影した写真である。
【0235】
写真は、肉眼では何も見えず、コーティングが光学グレードであることを示している。
【0236】
また、この実施例で調製した2つの対称面を持つコーティングについて、熱処理前と熱処理後の透過率を波長の関数として測定した。
【0237】
【0238】
この堆積物は、500nmで1.46の指数を有し、ディップコーティングやスピンコーティング等の他の堆積技術を用いるエタノール中でのポリマー状のシリカ堆積で観察される指数と類似している。このような層により、緻密なシリカ膜を形成することが可能となり、このシリカ膜は、基材の透明保護として機能し、任意選択で、実施例1のような後続の反射防止処理の担体として機能することができる。
【実施例3】
【0239】
コロイダルシリカとポリビニルアルコール(PVA)
この実施例では、PVAは単純な添加剤であり、層は本質的にコロイド状シリカからなる。
【0240】
PVAは、シリカ粒子のバインダーとして、言い換えればこれらの粒子のセメントとして作用する。PVAは界面活性剤としても作用する。
【0241】
基材は、実施例1で使用したものと同じである。
【0242】
1)コロイダルシリカは、実施例1と同様にして合成する。
【0243】
2)透析工程は、実施例1に記載したものと同じであるが、ゾルをエタノールで0.6%mに希釈し、その量を2倍にする。得られたゾルは100%水性で、その表面張力は、シリカ濃度0.1%mで、71.1mN.m-1である。この水性ゾル107.2gに、80%加水分解PVAを0.1g導入した。PVAの水での可溶化は遅いので、シリカ粒子の凝集を促進する危険性のある加熱による可溶化促進は行わず、全体を一晩撹拌下に置いた。
【0244】
3)得られたゾルの表面張力は、44.2mN.m-1であり、PVAは界面活性特性を有する。他の添加剤は加えていない。
【0245】
4)溶液を、実施例1と同様に、装置供給システムに組み入れる。堆積容器も同様に準備する。堆積パラメータを以下のTable IV(表4)に示す。
【0246】
【0247】
各堆積後に、30分間乾燥させた後、両面をコーティングした。実施例1と同じ特性評価を行った:
堆積物は、ネガトスコープ光(広範な拡散光源、基材はこの光を反射し、この反射は光学的欠陥を悪化させる)の下で観察した。
図7と
図8の写真は、これらの観察結果を示している。
図8は、
図7と同じ写真であるが、コントラストを悪化させ、明るさを落としている。
【0248】
この実施例で調製した2つの対称面を有するコーティングについても、波長の関数として、透過率を測定した。
【0249】
【0250】
この実施例は、ポリマー、特にコロイドと混合された水溶性ポリマーが、無機塩と同じ方法で、水性媒体中に噴霧堆積し得ることを示す。
【実施例4】
【0251】
ポロキサマー(ポリ(プロピレンオキシド)の中心ブロックとポリ(エチレンオキシド)の2つの外側ブロックを含む3ブロックコポリマー、(EO)x-(PO)y-(EO)x)。
【0252】
この実施例において、調製された層は、ポロキサマーで構成されており、そのため、ポロキサマーは単純な添加剤ではない。
【0253】
基材は、実施例1で使用したものと同じである。
【0254】
1)203.8gの純水に、0.3gのPluronic(登録商標)F-108(ポロキサマー)を溶解した。この溶液の表面張力は、44.9mN.m-1であり、Pluronic(登録商標)は界面活性特性を有する。
【0255】
この溶液47.8gを回収して、これに1質量%のトリトン溶液0.56gを加えた。このゾルの表面張力は、39mN.m-1である。
【0256】
2)溶液を、実施例1と同様に、装置供給システムに組み入れる。堆積容器も同様に準備する。堆積パラメータを以下のTable V(表5)に示す。
【0257】
【0258】
各堆積後に、30分間乾燥させた後、両面をコーティングした。実施例1と同じ特性評価を行った。
【0259】
堆積物は、ネガトスコープ光(広範な拡散光源、基材はこの光を反射し、この反射は光学的欠陥を悪化させる)の下で観察した。
図10と
図11の写真は、これらの観察結果を示している。
図11は、
図10と同じ写真であるが、コントラストを悪化させ、明るさを落としている。
【0260】
この実施例で調製した2つの面を持つ対称コーティングについても、波長の関数として透過率を測定した。
【0261】
【0262】
この実施例は、ポロキサマーのような純粋な有機コポリマー、特に水溶性のものが、無機塩と同じ方法で、水性媒体中に噴霧堆積し得ることを示す。
【0263】
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【国際調査報告】