(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】X線管及び関連する製造プロセス
(51)【国際特許分類】
H01J 35/06 20060101AFI20240105BHJP
H01J 35/16 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H01J35/06 B
H01J35/16
H01J35/06 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539983
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2021082343
(87)【国際公開番号】W WO2023088565
(87)【国際公開日】2023-05-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506382253
【氏名又は名称】コメット ホールディング アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リエド、エイドリアン
(57)【要約】
本発明は、10-7ミリバール以下の圧力に排気された真空密閉管ハウジング10と、定義された動作温度範囲内に含まれる温度で加熱されたときに電子を放出するように適合された電子エミッタ50を備えるハウジング内の陰極アセンブリ40と、少なくとも20重量%、特に少なくとも30重量%、さらにとりわけ少なくとも50重量%の量の炭素を含有する少なくとも1つの構成要素42、44、48であって、好ましくは、エミッタを保持するように設計された少なくとも1つの構成要素と、電子エミッタ50によって放出された電子を受け取るためのターゲット層34を備えるハウジング内の陽極アセンブリ30と、を備えるX線管100に関し、電子エミッタは、好ましくはホウ化物、好ましくは六ホウ化ランタン(LaB6)を含み、陰極アセンブリは、エミッタ温度が動作温度範囲内に含まれる場合のように設計されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10
-7ミリバール以下の圧力に排気された真空密閉管ハウジング(10)と、
定義された動作温度範囲内に含まれる温度で加熱されるときに電子を放出するように適合された電子エミッタ(50)と、少なくとも20重量%、特に少なくとも30重量%、さらにとりわけ少なくとも50重量%の量で炭素を含有する少なくとも1つの構成要素(42、44、48)とを備える前記ハウジング内の陰極アセンブリ(40)であって、前記少なくとも1つの構成要素が、好ましくは、前記エミッタを保持するように設計されている、陰極アセンブリ(40)と、
前記電子エミッタ(50)によって放出された電子を受け取るためのターゲット層(34)を備える前記ハウジング内の陽極アセンブリ(30)と、
を備えるX線管(100)であって、
前記電子エミッタは、好ましくはホウ化物、特に六ホウ化ランタン(LaB
6)を含むことを特徴とし、
前記陰極アセンブリは、前記エミッタ温度が前記動作温度範囲内に含まれる場合、
前記ハウジング内の炭素の蒸気分圧、特に、前記少なくとも1つの構成要素に含有される前記炭素の前記蒸気分圧が、10
-4ミリバール未満、好ましくは10
-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10
-6ミリバール未満のままであるように設計されることを特徴とする、X線管(100)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの構成要素が前記エミッタを保持している、請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記真空密閉管ハウジングが、470ケルビンより高い、有利には520ケルビンより高い、さらにより有利には570ケルビンより高いベークアウト温度に適した材料を使用して密閉され、好ましくは、前記真空密閉管ハウジングが、もっぱらこれらの材料を使用して密閉される、請求項1又は2に記載のX線管。
【請求項4】
前記真空密閉管ハウジングが、金属、有利にはステンレス鋼、又は銅、及びセラミックを含む、請求項1から3までのいずれか一項に記載のX線管。
【請求項5】
前記真空密閉管ハウジングが、470ケルビンより高い、有利には520ケルビンより高い、さらにより有利には570ケルビンより高い温度でベークアウト後に密閉される、請求項1から4までのいずれか一項に、特に請求項3又は4に記載のX線管。
【請求項6】
前記ハウジング内の酸素、特に分子酸素の分圧が、前記ベークアウト及びポンピング手順後は、10
-8ミリバール未満、好ましくは、5・10
-9ミリバール未満である、請求項1から5までのいずれか一項に、特に請求項5に記載のX線管。
【請求項7】
前記X線管が、圧着ポンプ管、特に銅製圧着ポンプ管を備える、請求項1から6までのいずれか一項に、特に請求項5又は6に記載のX線管。
【請求項8】
前記電子エミッタの直径が、100μmより大きく、好ましくは150μmより大きく、有利には200μmより大きく、さらにより有利には300μmより大きい、請求項1から7までのいずれか一項に記載のX線管。
【請求項9】
前記動作温度範囲が、1400ケルビン~2100ケルビン、有利には1500ケルビン~1800ケルビンである、請求項1から8までのいずれか一項に記載のX線管。
【請求項10】
前記少なくとも1つの構成要素が、前記陽極アセンブリに向かって突出している細長い部分(48)の形態であり、前記細長い部分は、それが固定された第1の端部(48A)と第2の自由端(48B)との間の長手方向に延在し、前記電子エミッタ(50)が、前記第2の自由端に配置されている、請求項1から9までのいずれか一項に記載のX線管(100)。
【請求項11】
前記細長い部分(48)は、前記陰極アセンブリ内を流れる電流が、順電流支持部内の前記細長い部分(48)に沿ってその前記第2の自由端に向かって長手方向に流れ、逆電流支持部内でその第1の端部に向かって戻るように構成され、前記順電流及び逆電流支持部が、好ましくは、前記ハウジング内の炭素の前記蒸気分圧、特に前記少なくとも1つの構成要素に含有される前記炭素の前記蒸気分圧を10
-4ミリバール未満、好ましくは10
-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10
-6ミリバール未満に保つように設計される、請求項10に記載のX線管(100)。
【請求項12】
前記細長い部分(48)が、端部で、好ましくは前記電子エミッタ(50)に隣接する位置で接合された2つの導電性経路を区切る電気絶縁層(49)又は間隙を備える、請求項10又は11に記載のX線管(100)。
【請求項13】
前記エミッタが、前記細長い部分(48)に埋め込まれ、前記エミッタの前記電子放出面が、好ましくは、前記ターゲット層(34)に面する平坦な放出面を備え、前記平坦な放出面が、好ましくは、前記細長い部分の前記第2の自由端と同一平面上にある、請求項10から12までのいずれか一項に記載のX線管(100)。
【請求項14】
前記エミッタ(50)を加熱するための前記陰極アセンブリに電流を送達するように適合された電源を備え、前記電源は、好ましくは、動作中に前記エミッタ温度が前記動作温度範囲内に含まれるように電力を送達するように構成される、請求項1から13までのいずれか一項に記載のX線管。
【請求項15】
前記電子エミッタが、前記少なくとも1つの構成要素を含む導電性支持ベース(42)によって支持され、前記導電性支持ベース(42)が、前記エミッタを抵抗加熱するように設計され、前記電子エミッタ及び前記導電性支持ベース(42)は、前記動作温度範囲内に含まれる前記エミッタの温度において、前記少なくとも1つの構成要素(42、44、48)に含有される前記炭素の前記蒸気分圧が10
-4ミリバール未満、好ましくは10
-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10
-6ミリバール未満のままであるように設計される、請求項1から14までのいずれか一項に記載のX線管。
【請求項16】
前記導電性支持ベース(42)が、前記導電性支持ベース(42)に電流を送達するために前記電源に作動連結される、請求項15に記載のX線管(100)。
【請求項17】
前記陰極アセンブリ、特に前記電子エミッタ(50)及び前記導電性支持ベース(42)は、0.5A~3Aの間に含まれる、好ましくは1A~2Aの間に含まれる加熱電流によって、前記エミッタ温度が前記動作温度範囲内に含まれるように設計される、請求項1から16までのいずれか一項に記載の、特に、請求項15又は16に記載のX線管。
【請求項18】
前記陰極アセンブリ、特に前記電子エミッタ(50)及び前記導電性支持ベース(42)は、前記エミッタ温度が前記動作温度範囲内に含まれるときに、前記少なくとも1つの構成要素の前記温度が前記電子エミッタ(50)の前記温度とできるだけ近いように構成される、請求項1から17までのいずれか一項に記載の、特に、請求項15から17までのいずれか一項に記載のX線管(100)。
【請求項19】
前記陰極アセンブリ、特に前記電子エミッタ(50)及び前記導電性支持ベース(42)は、前記エミッタ温度が前記動作温度範囲内に含まれるときに、前記少なくとも1つの構成要素と前記電子エミッタとの間の前記温度差が、300ケルビン未満、好ましくは150ケルビン未満、有利には100ケルビン未満であるように設計される、請求項18に記載のX線管(100)。
【請求項20】
前記陰極アセンブリ、特に前記電子エミッタ(50)及び前記導電性支持ベース(42)は、前記エミッタ温度が前記動作温度範囲内に含まれるときに、前記少なくとも1つの構成要素の前記温度が、2500ケルビン未満、有利には2300ケルビン未満、特に2100ケルビン未満であるように設計される、請求項1から19までのいずれか一項に記載の、特に、請求項15から19までのいずれか一項に記載のX線管(100)。
【請求項21】
a.ハウジング内で陰極アセンブリ(40)を提供するステップであって、前記陰極アセンブリが、定義された動作温度範囲内に含まれる温度で加熱されたときに電子を放出するように適合された電子エミッタ(50)と、少なくとも20重量%、特に少なくとも30重量%、さらにとりわけ少なくとも50重量%の量の炭素を含有する少なくとも1つの構成要素(42、44、48)とを備え、前記少なくとも1つの構成要素は、好ましくは前記エミッタを保持するように設計され、前記電子エミッタは、好ましくはホウ化物、特に六ホウ化ランタン(LaB
6)を含む、ステップと、
b.前記電子エミッタ(50)によって放出された電子を受け取るためのターゲット層(34)を備える前記ハウジング内で陽極アセンブリ(30)を提供するステップと、
c.前記ハウジングを排気するステップと、
d.前記ハウジング内の酸素の分圧が10
-8ミリバール未満に達するのに十分な温度で前記X線管をベークアウトするステップであって、前記X線管が、有利には、少なくとも470ケルビンの温度でベークアウトされる、ステップと、
e.前記ハウジングを密閉するステップと、
を備える、請求項1から20までのいずれか一項に記載のX線管(100)を製造するための方法。
【請求項22】
前記ハウジングは、前記ハウジングがそれを通して排気されるポンピング・チューブ、有利には銅製のポンピング・チューブを閉じること、好ましくは圧着することによって密閉される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記陽極アセンブリに向かって電子を放出するために、定義された動作温度範囲内に含まれる温度に達するように前記電子エミッタが加熱され、前記ハウジング内の炭素の前記蒸気分圧、特に前記少なくとも1つの構成要素に含有される前記炭素の前記蒸気分圧が10
-4ミリバール未満、好ましくは10
-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10
-6ミリバール未満に保たれる、X線を生成するための請求項1から20までのいずれか一項に記載のX線管の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管の技術分野に関する。本発明は、特に、真空密閉管ハウジングと、好ましくはホウ化物、特に六ホウ化ランタンを含み、定義された動作温度範囲内に含まれる温度で加熱されたときに電子を放出するように適合された電子エミッタを備えるハウジング内の陰極アセンブリと、を備えるX線管に関する。本発明は、このようなX線管の製造プロセス、及び、X線を生成するためのこのようなX線管の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
X線管は、さまざまな工業及び医療用途で幅広く使用されている。このような照射システムは、診断システムにおいて、又は患部組織の放射線照射のための治療システムとともに適用されるが、例えば、血又は食料品などの物質の滅菌のためにも使用される。他の応用分野は、例えば、旅行カバン及び/又は輸送コンテナのX線撮影、又は、例えば鉄筋コンクリートなどのワークピースの非破壊試験などの古典的なX線技術においてさらに見出すことができる。
【0003】
X線管は、典型的には、陰極ヘッド又は陰極アセンブリと呼ばれる電子発生部と、陽極アセンブリと呼ばれるX線発生部とを保有する。
【0004】
動作中、陰極アセンブリで発生した電子は、高電界によって、最終的に電子が衝突する陽極アセンブリのX線管ターゲット層に向かって加速される。ターゲット層の材料の原子との相互作用による電子の運動エネルギーの損失によって、X線の照射が発生する。ターゲット層の材料に応じて、さまざまなエネルギーを有するX線が発生し得る。
【0005】
X線管は、内部チャンバを画定する表面を有するハウジングを備え、陰極及び陽極アセンブリは、上記チャンバの内部に含まれる。上記チャンバの内部の圧力は、気圧よりも低く、通常は10-6ミリバール未満である。
【0006】
管は、密閉することができる。すなわち、製造中に排気され、環境から封鎖される。このタイプの管は、以下の明細書では、「閉管」又は「真空密閉」と呼ばれる。
【0007】
他のタイプの管は、容積式真空ポンプ又はゲッタ・ポンプなどの真空ポンプ素子を含む、いわゆる開管であり、少なくとも電子発生部の動作中に、このような真空ポンプ素子は、チャンバ内の圧力を気圧よりも低く低下させる、及び/又は、気圧よりも低く維持する。
【0008】
また、陰極アセンブリは、さまざまなタイプのものであってもよい。
【0009】
従来の陰極アセンブリは、それが作られる材料、例えば、タングステン、トリウム添加タングステン又は六ホウ化ランタンに応じて、動作温度が非常に高い、通常は1000℃~2500℃の間に含まれた熱イオン・エミッタを備える、いわゆる熱陰極アセンブリである。通常、電子エミッタ材料は、熱電子又は熱イオン電子を放出するために、支持材を通って流れる電流の抵抗損失によって加熱される支持材によって支持される。このような熱陰極アセンブリ内の熱イオン・エミッタは、非常に高温に達する(六ホウ化ランタンで作られた電子エミッタは、理想的には、約1760ケルビンの動作温度を有する必要がある)ので、その支持要素などの周囲部分も、そのような高温に耐えるように設計されなければならない。したがって、炭素などの高融点を有する材料は、このような熱陰極アセンブリで使用される。
【0010】
さまざまなタイプの陰極アセンブリは、電界放射の原則に従って動作する電界エミッタとも呼ばれるコールド・エミッタを備えた、いわゆる冷陰極アセンブリである。すなわち、エミッタ表面の電界が非常に高いので、電子が常温で放出され、それゆえ「冷」と呼ばれる。冷陰極アセンブリの典型例は、エミッタ又は鋭いタングステン針を形成するために束ねられたカーボン・ナノ・チューブを備える。
【0011】
本発明は、上記の従来の熱型の陰極アセンブリを含むX線管に関し、より具体的には、電子エミッタ材料が好ましくはホウ化物、特に六ホウ化ランタン(LaB6)を含む熱陰極アセンブリを備えているこのような管に関し、その材料は電子の放出において特に効率的であることが証明されている。LaB6は、スキャニング又は透過型電子顕微鏡法、表面分析及び度量衝学などの多くの小さなスポット・サイズの用途に、並びに、マイクロ波管、リソグラフィ、電子ビーム溶接機、X線源、及び自由電子レーザなどの高電流の用途に理想的である。LaB6の特異的な性質は、2.65eVに近い仕事関数を有する安定した電子放出媒体を提供する。低い仕事関数は、タングステンよりも低い陰極温度でより高い電流をもたらし、それによって、輝度がより高くなり、陰極が長寿命化する。
【0012】
このような熱陰極アセンブリ内の熱イオン・エミッタは、非常に高温に達する(六ホウ化ランタンで作られた電子エミッタは、理想的には、約1760ケルビンの動作温度を有する必要がある)ので、その支持要素などの周囲部分も、そのような高温に耐えるように設計されなければならない。残念なことに、LaB6エミッタを含む熱陰極アセンブリは、密封X線管内で長時間動作することが証明されたことはなく、今まで、もっぱら開管内で使用されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本出願人は、この度、このような陰極アセンブリが、閉鎖X線管及び開放X線管において異なる反応をする理由を見出し、それらのアセンブリを閉管内で持続可能に動作させるための解決策を特定した。したがって、本発明の目的は、真空密閉X線管と、好ましくはホウ化物、特に六ホウ化ランタン(LaB6)を含む電子エミッタの使用を可能にする、対応する製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的の少なくともいくつかは、3つの独立請求項によって、特に、10-7ミリバール以下の圧力に排気された真空密閉管ハウジングと、定義された動作温度範囲内に含まれる温度で加熱されたときに電子を放出するように適合された電子エミッタを備えるハウジング内の陰極アセンブリと、少なくとも20重量%、特に少なくとも30重量%、さらにとりわけ少なくとも50重量%の量の炭素を含有する少なくとも1つの構成要素であって、好ましくは、エミッタを保持するように設計された少なくとも1つの構成要素と、電子エミッタによって放出された電子を受け取るためのターゲット層を備えるハウジング内の陽極アセンブリと、を備えるX線管によって達成され、電子エミッタは、好ましくはホウ化物、特に六ホウ化ランタンを含み、陰極アセンブリは、エミッタ温度が動作温度範囲内に含まれる場合、ハウジング内の炭素の蒸気分圧、特に少なくとも1つの構成要素内に含有される炭素の蒸気分圧が、10-4ミリバール未満、好ましくは10-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10-6ミリバール未満のままであるように設計される。
【0015】
本出願人は、好ましくはホウ化物、特にLaB6を含むエミッタと、開放及び閉鎖X線管内に炭素を含む少なくとも1つの構成要素とを備える熱陰極アセンブリの使用における上記の違いを説明する重要な問題を特定してきた。ここで、「真空密閉管ハウジング」という用語によって、特にポンプを介してハウジングの外部と流体連通していないハウジングのことを意味していることに留意するのは重要である。重要な問題は、容積式真空ポンプによる連続的なポンピングによって、閉鎖(密閉)管内の残留酸素の量が非常に少ないことに比べて、開管内に酸素の残量が存在することであり、酸素は、好ましくはホウ化物、特にLaB6を含むエミッタと、炭素を含有する構成要素とが高温に達するときに活動を始める。さらに、開放システムは、閉鎖システムのように低いO2の分圧を有しておらず、そのためにシステム内により多くのO2が残っている。閉鎖されているが、チューブ・ハウジングを密閉するためにポリマー部分(例えばOリング)を使用するシステムでさえ、金属及びセラミック材料などの高いベークアウト温度に耐えることができる材料のみを使用するシステムよりも、その内部に多くのO2が残っている。さらに、例えば、Oリングは、深い真空に達するのに十分ではない約450ケルビンよりも高い温度に耐えることができない。
【0016】
電子が放出されるために、好ましくはホウ化物、特に六ホウ化ランタン(LaB6)を含む熱イオン・エミッタは、約1760ケルビンの最小限の動作温度よりも高い温度に加熱する必要がある。陰極アセンブリの少なくとも1つの炭素含有構成要素も、その構成要素がエミッタを搭載している場合は抵抗加熱、又は、その構成要素が陰極アセンブリの別の構成要素である場合は熱接触のいずれかによって加熱される。
【0017】
少なくとも1つの構成要素は、熱損失により、通常はエミッタと少なくとも同等の温度、及び通常はエミッタの温度よりも高い温度に達する。この温度は、各陰極アセンブリの幾何学的形状、熱伝導率、及び、それを作る材料の放射エネルギーに左右される。
【0018】
管の内部が、例えば、約10-7又は10-8ミリバールなどの気圧より低い圧力を有することを考慮すると、少なくとも1つの構成要素に含有される炭素は、その蒸気分圧が10-6ミリバールの閾値に到達するときに顕著に気相に移行し始める。
【0019】
開管又は酸素が多く残っている管において、少なくとも1つの構成要素が高温及び上記閾値に達するときに、気相に存在する炭素及び酸素は、CO2を形成するために管内で反応し、その後、CO2は真空ポンピング素子又はゲッタ・ポンプの動作によって排気されるため、電子の放出を妨げない。
【0020】
真空密閉管又は閉管において、以上に示されているように、管内の残留酸素の含有量は非常に少ない。炭素を含有する構成要素の温度が非常に高くなり、炭素が気相で放出されるとき、炭素は、開管内で起こることとは逆に、管には無い酸素と結合することはできない。ここで、炭素は、以下の関係(1)に従って、ホウ化物、特に六ホウ化ランタン(LaB6)と反応し、揮発性は高くないがLaB6と同様により高い仕事関数を有する炭化ホウ素及び炭化ランタンを形成する。炭化ホウ素及び炭化ランタンの層は、LaB6エミッタ上に重なり、特定の期間後に電子の放出を妨げ、したがって、管の不具合をもたらす。
2LaB6+7C→3B4C+2LaC2 (1)
【0021】
本発明によるX線管は、上記不具合を回避するように構成される。すなわち、炭素が気相に存在し、好ましくはホウ化物、特にLaB6であるエミッタの材料と反応することを回避するために、陰極アセンブリは、エミッタ温度が動作温度範囲内に含まれる場合、ハウジング内の炭素の蒸気分圧、特に少なくとも1つの構成要素内に含有される炭素の蒸気分圧が、10-4ミリバール未満、好ましくは10-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10-6ミリバール未満のままであるように設計される。管が、管内の真空レベルを十分に低く維持するためにいかなるポンプも備えないように構成されることに留意することが重要である。
【0022】
一実例として、少なくとも1つの構成要素は、例えば黒鉛又は熱分解黒鉛などの炭素の少なくとも1つの同素体から作られるか、又はそれを含む。
【0023】
本発明の第1の好ましい実施例では、少なくとも1つの構成要素は、エミッタを保持している。これは、炭素を含む構成要素が、ホウ化物、特にLaB6を含むエミッタを支持するように特によく適合しているため、有利である。
【0024】
本発明の別の好ましい実施例では、真空密閉管ハウジングは、470ケルビンより高い、有利には520ケルビンより高い、さらにより有利には570ケルビンより高いベークアウト温度に適した材料を使用して密閉され、好ましくは、真空密閉管ハウジングは、もっぱらこれらの材料を使用して密閉される。真空密閉管ハウジングのこのような高温ベーキングによって、長時間、電子の安定した放出を可能にするために十分に低く真空密閉管内の真空レベルを維持するための容積式ポンプ、チタン・ポンプ、イオン・ゲッタ・ポンプ、又は不揮発性ゲッタ・ポンプなどの任意のポンプを使用しないようにすることが可能である。
【0025】
本発明のさらなる好ましい実施例では、真空密閉管ハウジングは、金属、有利にはステンレス鋼、コバール、ニッケル、タングステン又は銅、及びセラミックを含む。これによって、真空密閉管は、長時間、安定した電子の放出を維持するためのいかなるポンプも使用しないよう、十分に低い真空レベルに達することができる材料で作られている。
【0026】
本発明のさらなる好ましい実施例では、真空密閉管ハウジングは、金属部品、有利にはステンレス鋼、コバール、ニッケル、タングステン又は銅、及び/又はセラミック部品によって、好ましくは、もっぱら、金属部品、有利にはステンレス鋼、コバール、ニッケル、タングステン又は銅、及び/又はセラミック部品によって密閉される。これらの材料によって、真空密閉管は、長時間、安定した電子の放出を維持するためのいかなるポンプも使用しないよう、十分に低い真空レベルに達して密閉することができる材料で作られている。
【0027】
本発明の別の好ましい実施例では、真空密閉管ハウジングは、470ケルビンより高い、有利には520ケルビンより高い、さらにより有利には570ケルビンより高い温度でベークアウト後に密閉される。これにより、真空密閉ハウジング内のより低い真空レベルに達することができる。
【0028】
さらに別の好ましい実施例では、ハウジング内の酸素、特に分子酸素の分圧は、ベークアウト及びポンピング手順後は、1・10-8ミリバール未満、好ましくは、5・10-9ミリバール未満である。
【0029】
さらなる好ましい実施例では、X線管、特に真空密閉管ハウジングは、圧着ポンプ管、特に銅製圧着ポンプ管を備える。これにより、ベークアウト後に、X線管と任意のポンプとを容易に分離することができる。
【0030】
その上さらに好ましい実施例では、電子エミッタの直径は、100μmより大きく、好ましくは150μmより大きく、有利には200μmより大きく、さらにより有利には300μmより大きい。これにより、高輝度のエミッタを有することが可能になる。さらに、陰極アセンブリ、特に電子エミッタ及び導電性支持ベースは、有利には、0.1mA~5mAの間の電子電流を放出するように設計されている。
【0031】
本発明の別の好ましい実施例では、動作温度範囲は、1400ケルビン~2100ケルビン、有利には1500ケルビン~1800ケルビンである。
【0032】
本発明のさらに別の好ましい実施例では、少なくとも1つの構成要素は、陽極アセンブリに向かって突出している細長い部分の形態であり、上記細長い部分は、それが固定された第1の端部と第2の自由端との間の長手方向に延在し、電子エミッタは、上記第2の自由端に配置されている。細長い部分によって、限定されたサイズで電子源を形成することができ、したがって、X線管の効率を高めることができる。
【0033】
本発明のさらに別の好ましい実施例では、細長い部分は、陰極アセンブリ内を流れる電流が、順電流支持部内の細長い部分に沿ってその第2の自由端に向かって長手方向に流れ、逆電流支持部内でその第1の端部に向かって戻るように構成され、順電流及び逆電流支持部は、好ましくは、ハウジング内の炭素の蒸気分圧、特に少なくとも1つの構成要素に含有される炭素の蒸気分圧を10-4ミリバール未満、好ましくは10-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10-6ミリバール未満に保つように設計される。
【0034】
さらなる好ましい実施例では、細長い部分は、端部で、好ましくは電子エミッタに隣接する位置で接合された2つの導電性経路を区切る電気絶縁層又は間隙を備える。これによって、少なくとも1つの構成要素の温度がエミッタの温度に近いことを保証しながら、動作温度範囲内に含まれる温度にエミッタを加熱することが可能である。電子は、10-6ミリバール以上のハウジング内の炭素の分圧をもたらすことになる温度よりもはるかに低い温度で、好ましくはホウ化物を含むエミッタから放出されるので、気体状炭素とエミッタの材料、特にホウ化物との反応が避けられる。
【0035】
本発明の別の好ましい実施例では、エミッタは、細長い部分に埋め込まれ、エミッタの電子放出面は、好ましくは、ターゲット層に面する平坦な放出面を備え、平坦な放出面は、好ましくは、細長い部分の第2の自由端と同一平面上にある。
【0036】
本発明のさらなる好ましい実施例では、X線管は、エミッタを加熱するための陰極アセンブリに電流を送達するように適合された電源を備え、電源は、好ましくは、動作中にエミッタ温度が動作温度範囲内に含まれるように電力を送達するように構成される。
【0037】
本発明のさらに別の好ましい実施例では、電子エミッタは、少なくとも1つの構成要素を含む導電性支持ベースによって支持され、導電性支持ベースは、エミッタを抵抗加熱するように設計され、電子エミッタ及び導電性支持ベースは、動作温度範囲内に含まれるエミッタの温度において、少なくとも1つの構成要素に含有される炭素の蒸気分圧が10-4ミリバール未満、好ましくは10-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10-6ミリバール未満のままであるように設計される。
【0038】
本発明のさらなる好ましい実施例では、導電性支持ベースは、導電性支持ベースに電流を送達するために電源に作動連結される。
【0039】
本発明の別の好ましい実施例では、陰極アセンブリ、特に電子エミッタ及び導電性支持ベースは、0.5A~3Aの間に含まれる、好ましくは1A~2Aの間に含まれる加熱電流によって、エミッタ温度が動作温度範囲内に含まれるように設計される。
【0040】
本発明のさらに別の好ましい実施例では、陰極アセンブリ、特に電子エミッタ及び導電性支持ベースは、エミッタ温度が動作温度範囲内に含まれるときに、少なくとも1つの構成要素の温度が電子エミッタの温度とできる限り近いように構成される。電子は、10-6ミリバールより大きいハウジング内の炭素の分圧をもたらすことになる温度よりもはるかに低い温度で、好ましくはホウ化物を含むエミッタから放出されるので、二酸化炭素とエミッタの材料、好ましくはホウ化物との反応が避けられる。
【0041】
本発明のさらなる好ましい実施例では、陰極アセンブリ、特に電子エミッタ及び導電性支持ベースは、エミッタ温度が動作温度範囲内に含まれるときに、少なくとも1つの構成要素と電子エミッタとの間の温度差が、300ケルビン未満、好ましくは150ケルビン未満、有利には100ケルビン未満であるように設計される。
【0042】
本発明のその上さらなる好ましい実施例では、陰極アセンブリ、特に電子エミッタ及び導電性支持ベースは、エミッタ温度が動作温度範囲内に含まれるときに、少なくとも1つの構成要素の温度が、2500ケルビン未満、有利には2300ケルビン未満、特に2100ケルビン未満であるように設計される。
【0043】
第2の態様では、本発明の目的は、
a.ハウジング内で陰極アセンブリを提供するステップであって、陰極アセンブリは、定義された動作温度範囲内に含まれる温度で加熱されたときに電子を放出するように適合された電子エミッタと、少なくとも20重量%、特に少なくとも30重量%、さらにとりわけ少なくとも50重量%の量の炭素を含有する少なくとも1つの構成要素とを備え、少なくとも1つの構成要素は、好ましくはエミッタを保持するように設計され、電子エミッタは、好ましくはホウ化物、特に六ホウ化ランタン(LaB6)を含む、ステップと、
b.電子エミッタによって放出された電子を受け取るためのターゲット層を備えるハウジング内で陽極アセンブリを提供するステップと、
c.ハウジングを排気するステップと、
d.ハウジング内の酸素の分圧が10-8ミリバール未満に達するのに十分な温度でX線管をベークアウトするステップであって、X線管は、有利には、少なくとも470ケルビンの温度でベークアウトされる、ステップと、
e.ハウジングを密閉するステップと、
を備える、本発明によるX線管を製造するための方法によって達成される。
【0044】
本発明の第2の態様の第1の好ましい実施例では、ハウジングは、ハウジングがそれを通して排気されるポンピング・チューブ、有利には銅製のポンピング・チューブを閉じること、好ましくは圧着することによって密閉される。
【0045】
第3の態様では、本発明の目的は、本発明によるX線管の使用によって達成され、陽極アセンブリに向かって電子を放出するために、定義された動作温度範囲内に含まれる温度に達するように電子エミッタが加熱され、ハウジング内の炭素の蒸気分圧、特に少なくとも1つの構成要素に含有される炭素の蒸気分圧が10-4ミリバール未満、好ましくは10-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10-6ミリバール未満に保たれる。
【0046】
上記のさまざまな実施例が単独又は任意の組み合わせで実現できることを理解されたい。特に、前述の技術的特徴、及び以下に説明される技術的特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、示された組み合わせのみならず、他の組み合わせ又は単独で使用することができる。
【0047】
本発明は、本発明の特定及び非限定的な実施例に関して、より詳細に説明される。図は、本発明のこれらの特定の実施例による、X線管又はその部品の簡略化されたノンスケール表示の概略図を示している。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明の一実施例によるX線管の全体概略図である。
【
図2】陰極アセンブリの細長い部分に取り付けられた電子エミッタを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、本発明の一実施例によるX線管100を概略的に示す。
【0050】
従来の方法では、X線管100は、典型的には、真空排気内部チャンバ14を画定するように排気された、軸Xのシリンダ12(多くの場合、ガラス又は金属シリンダ)で形成された真空密閉管10を備える。管内の圧力は、典型的には、約10-7又は10-8ミリバールであり、管は、有利には、10-8ミリバール未満の酸素の分圧に達するようにベークアウトされる。管10自体は、窓22を備えた金属筐体20によって取り囲まれ、管10から放射されるX線が窓22を通って外部空間に放出される。
【0051】
X線管100のX線発生部を形成する陽極アセンブリ30、及び電子発生部を形成する陰極アセンブリ40は、軸Xに沿って示すように、管10内に互いに対向して配置される。
【0052】
陽極アセンブリ30は、電子を数千電子ボルトの運動エネルギーに加速するために、従来の方法で、陰極アセンブリ40に対して電気的にバイアスされた金属片から作られている。陽極アセンブリは、典型的には、高導電性材料、例えば銅、モリブデン又は黒鉛のベース32と、カソード40に直接面した上部ターゲット層34とを備える。
【0053】
陰極アセンブリ40は、いわゆる熱型の陰極である。それは、好ましくはホウ化物、有利には六ホウ化ランタン(LaB6)を備え、約1760ケルビンの理想的な動作温度に加熱されたときに電子を放出するように適合された電子熱イオン・エミッタ50を含む。
【0054】
熱イオン・エミッタ50は、本発明の特定のコンテキストが少なくとも20重量%の炭素を含んでいる少なくとも1つの構成要素を含む導電性支持ベース42によって支持される。
【0055】
非限定的な図示の実例では、より具体的には、導電性支持ベース42は、2つの脚部44A、44Bを備え、その脚部44A、44Bは、例えば、モリブデン-レニウム合金又は炭素から作られており、セラミック材料で作られたベース18に堅固に固定され、逆V字型の中央に向かって曲がっている。脚部44A、44Bは両方とも、炭素を含有する少なくとも1つの構成要素をその遠位端に維持するクランプとして作用し、この実施例では、陽極アセンブリに向かって突出している細長い部分48の形態である。
【0056】
電源60は、抵抗加熱によって支持ベース42及び細長い部分48を、ひいては熱伝導率によってエミッタ50を加熱するために、電流を陰極アセンブリ40に供給する。
【0057】
別個の電源62は、
図1に示すように、電子エミッタ材料から既に出ている電子をターゲット層34に向かって加速するために、陽極アセンブリ30と陰極アセンブリ40との間に高電圧を供給する。
【0058】
熱イオン・エミッタ50は、細長い部分48との接触面を通る熱伝導率によって、及び、比較的程度は低いが、上記細長い部分48から放射される熱によって、大部分が加熱される。熱損失を考慮すると、細長い部分及び/又は導電性ベースの温度は、エミッタ50の温度より高くなければならない。しかしながら、本発明によれば、陰極アセンブリは、エミッタ温度が動作温度範囲内に含まれるときに、炭素を含有する陰極アセンブリの構成要素の温度が、ハウジング内の炭素の蒸気分圧、特に細長い部分48に含有される炭素の蒸気分圧が、10-4ミリバール未満、好ましくは10-5ミリバール未満、さらにより好ましくは10-6ミリバール未満のままであることを保証するには十分に低いように設計される。
【0059】
図2は、より詳細に、2つの脚部44A及び44Bと、エミッタ50が取り付けられた細長い部分48とを備える導電性支持ベース42についての可能な実施例を示す。この実施例では、細長い部分は、電子エミッタ50に隣接する位置で、端部で接合された2つの導電性経路1及び2を区切る電気絶縁層49又は間隙を備える。この図の矢印によって示すように、絶縁層49のおかげで、エミッタ50のほうへ電流Iが向けられ、細長い部分48の抵抗加熱を可能にし、細長い部分の温度が動作温度範囲内で維持されるときに、細長い部分の温度をエミッタ50の温度にできる限り近づけることができる。
【国際調査報告】