(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】培養細胞から細胞由来産物を抽出するためのバイオリアクタ及び方法並びにナノ構造セルロース品
(51)【国際特許分類】
C12M 1/12 20060101AFI20240105BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240105BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240105BHJP
C12N 11/12 20060101ALI20240105BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20240105BHJP
【FI】
C12M1/12
C12N1/00 K
C12N5/0775
C12N11/12
A61K35/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540580
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 FI2021050576
(87)【国際公開番号】W WO2022144489
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シアード、ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】キウル、トニー
(72)【発明者】
【氏名】パーソネン、ラウリ
(72)【発明者】
【氏名】ストールベリ、ルーサ
(72)【発明者】
【氏名】ミッコネン、ピーア
(72)【発明者】
【氏名】メリルオト、アン
(72)【発明者】
【氏名】パルヴァニアン、セピーデ
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、チェン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
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4B065CA44
4C087AA03
4C087BB63
(57)【要約】
本開示は、容器と、細胞培養培地を容器に投入するための入口と、細胞由来産物を含む細胞培養培地を容器から排出するための出口と、を備え、容器が、細胞を受容するように構成されたナノ構造セルロースを含む区画を備えるか、又はそれに接続され、上記区画が、ナノ構造セルロースを出口から分離し、細胞由来産物を含む細胞培養培地が第1の分離表面を通過することを可能にする第1の分離表面を備える、培養細胞から細胞由来産物を抽出するためのバイオリアクタを提供する。本開示はまた、培養細胞から細胞由来産物を分離する方法、及びナノ構造セルロース品を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器(12)と、
細胞培養培地を前記容器に投入するための入口(14)と、
細胞由来産物を含む細胞培養培地を前記容器から排出するための出口(16)と、
を備え、
前記容器(12)が、細胞を受容するように構成されたナノ構造セルロースを含む区画(18)を備えるか、又はそれに接続され、前記区画が、前記ナノ構造セルロースを前記出口から分離し、細胞由来産物を含む細胞培養培地が第1の分離表面(20)を通過することを可能にする第1の分離表面(20)を備え、ガス交換のためのさらなる分離表面(30)を任意に備える、培養細胞から細胞由来産物を抽出するためのバイオリアクタ(10)。
【請求項2】
前記第1の分離表面(20)が、前記細胞由来産物を含む細胞培養培地に対して透過性であり、細胞及びナノ構造セルロースに対して不透過性である膜若しくはメッシュなどの構造、例えば、0.4~3.0μmの範囲内の平均細孔径を有する膜を備えるか、又はその形態である、請求項1に記載のバイオリアクタ。
【請求項3】
前記区画(18)内の前記ナノ構造セルロースと細胞とを混合するための手段(24)を備え、例えば、混合するための前記手段が、ミキサ、培地の流れを提供するための手段、及び/又は前記容器若しくは区画の容積を調整するための手段を備える、請求項1又は請求項2に記載のバイオリアクタ。
【請求項4】
前記入口(14)及び/又は前記出口(16)を介して細胞培養培地の流れを提供するための手段、好ましくはナノ構造セルロースを含む前記区画(18)を通る前記手段、例えば灌流バイオリアクタを得るための前記手段、を備える、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項5】
ナノ構造セルロースを含む前記区画(18)が、1又は複数の表面上に、細胞培養ゲル、例えば、アガロース、コラーゲン若しくはヒアルロン酸又はそれらの誘導体を含むゲル、例えば、0.3~1.0%(w/w)の濃度を有するゲル、のコーティング層を備える、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項6】
ナノ構造セルロースを含む前記区画(18)が、前記容器(12)とは別個のユニット(36)、例えば、固定床リアクタである、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項7】
前記第1の表面が、中空糸の形態である、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項8】
前記容器が、フラスコ又はボトルを備える、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項9】
前記第1の分離表面が、前記ナノ構造セルロースの表面によって形成される、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項10】
前記ナノ構造セルロースが、ヒドロゲルビーズ及び/又は多孔質ビーズなどの別個の実体の形態である、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項11】
前記ナノ構造セルロースが、200nm以下の数平均直径を有するセルロースフィブリル及び/若しくはフィブリル束を含むナノフィブリル状セルロースを含み、並びに/又は前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散した場合、22±1℃の水性培地中で0.5重量%の稠度で回転レオメータにより決定される、100~50000Pa・sの範囲内、例えば、300~8000Pa・sの範囲内のゼロ剪断粘度と、1~50Paの範囲内、例えば、2~15Paの範囲内の降伏応力とを提供する、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項12】
前記ナノフィブリル状セルロースが、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロース又はカチオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースなどの化学的に改質されたナノフィブリル状セルロースである、請求項11に記載のバイオリアクタ。
【請求項13】
前記ナノフィブリル状セルロースが、化学的に改質されていないナノフィブリル状セルロース、好ましくはまた、酵素的に改質されていないナノフィブリル状セルロースである、請求項11に記載のバイオリアクタ。
【請求項14】
前記ナノフィブリル状セルロースが、2~50nm、例えば、2~20nmの範囲内の数平均直径を有するセルロースフィブリル及び/又はフィブリル束を含み、前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散した場合、22±1℃の水性培地中で0.5重量%の稠度で回転レオメータにより決定される、1~50Paの範囲内、例えば、2~15Paの範囲内の降伏応力を提供し、好ましくは、前記ナノフィブリル状セルロースが、化学的に改質されていないナノフィブリル状セルロースである、請求項11~請求項13のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項15】
前記ナノ構造セルロースが、2~40nm、例えば、2~20nmの範囲内の数平均フィブリル直径と、100nm以上、例えば、100~400nmの範囲内の数平均フィブリル長とを有するナノ結晶セルロースを含む、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項16】
前記ナノ構造セルロースが、0.1~10μm
2、例えば、0.3~2.0μm
2の範囲内の中心細孔径を有する、請求項1~請求項15のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項17】
前記細胞由来産物が、1000nm以下の数平均直径を有する、請求項1~請求項16のいずれか一項に記載のバイオリアクタ。
【請求項18】
請求項1~請求項17のいずれか一項に記載のバイオリアクタ(10)を提供すること、
細胞培養培地、好ましくは無血清、動物起源不含、フィーダー不含及び/又は異種物不含の細胞培養培地を提供すること、
細胞を提供すること、
ナノ構造セルロースを含む区画内で前記細胞をインキュベートして細胞由来産物を形成し、任意に前記ナノ構造セルロースと前記細胞とを混合すること、
細胞由来産物が前記細胞から前記細胞培養培地中に拡散することを可能にすること、
好ましくは前記細胞由来産物を含む前記細胞培養培地を抽出するための出口を介して、前記細胞由来産物を含む前記細胞培養培地を前記バイオリアクタから採取して、前記インキュベートされた細胞から前記細胞由来産物を分離すること、
を含む、培養細胞から細胞由来産物を抽出する方法。
【請求項19】
前記方法が連続的な方法であり、好ましくは、前記方法が、細胞由来産物を含む前記細胞培養培地が前記バイオリアクタから採取される速度と等しい速度で新しい細胞培養培地を前記バイオリアクタに添加することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞由来産物が、エキソソームなどの細胞外小胞を含み、好ましくは、前記細胞が、ヒト細胞などの哺乳動物細胞であり、例えば、前記細胞が、幹細胞、例えば、間葉系幹細胞などの初代細胞であり、及び/又は前記細胞が、スフェロイドなどの凝集体として存在する、請求項18又は請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞由来産物が、1000nm以下の数平均直径を有する、請求項18~請求項20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞が、マウス胚由来脂肪前駆細胞(APC)などの脂肪組織から得られた幹細胞である、請求項20又は請求項21に記載の方法。
【請求項23】
第1の分離表面が、前記ナノ構造セルロースの表面によって形成される、請求項18~請求項22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記ナノ構造セルロースが、2~50nm、例えば、2~20nmの範囲内の数平均直径を有するセルロースフィブリル及び/又はフィブリル束を含むナノフィブリル状セルロースであり、前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散した場合、22±1℃の水性培地中で0.5重量%の稠度で回転レオメータにより決定される、1~50Paの範囲内、例えば、2~15Paの範囲内の降伏応力を提供し、好ましくは、前記ナノフィブリル状セルロースが、化学的に改質されていないナノフィブリル状セルロースである、請求項18~請求項23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記ナノ構造セルロースが、0.1~10μm
2、例えば、0.3~2.0μm
2の範囲内の中心細孔径を有するナノ構造セルロースヒドロゲルを含む、請求項18~請求項24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
培養細胞から細胞由来産物を抽出するためのナノ構造セルロース品であって、0.1~10μm
2、例えば、0.3~2.0μm
2の範囲内の中心細孔径を有するナノ構造セルロースヒドロゲルを含むナノ構造セルロース品。
【請求項27】
ナノ構造セルロースが、2~50nm、例えば、2~20nmの範囲内の数平均直径を有するセルロースフィブリル及び/又はフィブリル束を含むナノフィブリル状セルロースであり、前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散した場合、22±1℃の水性培地中で0.5重量%の稠度で回転レオメータにより決定される、1~50Paの範囲内、例えば、2~15Paの範囲内の降伏応力を提供する、請求項26に記載のナノ構造セルロース品。
【請求項28】
前記ナノフィブリル状セルロースが、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロース又はカチオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースなどの化学的に改質されたナノフィブリル状セルロースである、請求項26又は請求項27に記載のナノ構造セルロース品。
【請求項29】
前記ナノフィブリル状セルロースが、化学的に改質されていないナノフィブリル状セルロース、好ましくはまた、酵素的に改質されていないナノフィブリル状セルロースである、請求項26又は請求項27に記載のナノ構造セルロース品。
【請求項30】
好ましくは請求項18~請求項25のいずれか一項に記載の方法を用いて、インキュベートされた細胞から細胞由来産物を抽出するための、請求項26~請求項29のいずれか一項に記載のナノ構造セルロース品の使用。
【請求項31】
例えば、小胞の数平均直径が、200nm以下、さらに具体的には150nm以下、又は130nm以下、例えば、90~200nm、90~150nm、90~130nm、100~200nm、100~150nm、若しくは100~130nmの範囲内である、請求項18~請求項25のいずれか一項に記載の方法を用いて得られた細胞外小胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、バイオリアクタ、及び培養細胞から細胞由来産物を分離する方法に関する。さらに詳細には、本出願は、細胞培養マトリックスとしてナノ構造セルロースを利用するバイオリアクタ及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生細胞は、細胞外小胞(EV)と呼ばれる小胞を局所環境に放出する。一般に、EVの3つの主要なサブクラス、すなわち、微小胞、アポトーシス小体及びエキソソームが存在する。微小胞は、細胞膜から直接放出され、50~1000nmの範囲内の直径を有する。アポトーシス小体は、死細胞に由来し、50~4000nmの範囲内の直径を有する。エキソソームは、細胞膜からではなく多胞体(MVB)から放出され、20~150nmの範囲内の直径を有する。エキソソームは、RNA、DNA及びタンパク質分子を含有し得る。エキソソームは、生物活性タンパク質及び一般材料を細胞間で移送する伝達ビヒクルである。
【0003】
EVは、RNA及びタンパク質の指示的合図を伝達することができ、これを医療目的に潜在的に使用することができるため、細胞シグナル伝達のメディエーターとして作用することができる。EVが、再生を刺激する又は病的状態を調節する可能性があり、したがって、EVを治療方法の新たな潜在的な治療剤として使用することができるという証拠も存在する。EVはまた、例えば、固有のmiRNAプロファイル、及び病理学的作用に関連する他のカルボに基づいて、癌などの疾患の診断バイオマーカーとして使用され得る。EVはまた、それらが感染特異的要素を伝達するという事実に基づいて、感染性疾患のバイオマーカーとして使用され得る。さらに、EVは、例えば、癌の治療のための標的薬物送達ビヒクルとして利用することができる。
【0004】
しかし、臨床的に重要な量のEVを生成するための実際的な製造プロセスは存在しない。効率的で費用効果の高い産生方法を得ることができない限り、人工的に産生されたEVの現実的な治療的使用を実施することは困難である。特に、細胞培養方法をスケールアップし、大規模幹細胞培養としてエキソソームを産生することが望ましい。現在、これらは、治療用途のための生成品を送達するための律速段階にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノフィブリル状セルロースなどのナノ構造セルロースを細胞培養のためのマトリックスとして使用する、バイオリアクタ内の細胞培養時に細胞由来産物を効率的に産生することができる方法と、細胞由来産物を細胞から分離し、それによって採取することができる方法とが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願は、
容器12と、
細胞培養培地を容器に投入するための入口14と、
細胞由来産物を含む細胞培養培地を容器から排出するための出口16と、を備え、
容器12が、細胞を受容するように構成されたナノ構造セルロースを含む区画18を備えるか、又はそれに接続され、上記区画が、ナノ構造セルロースを出口から分離し、細胞由来産物を含む細胞培養培地が第1の分離表面20を通過することを可能にする第1の分離表面20を備える、培養細胞から細胞由来産物を抽出するためのバイオリアクタ10を提供する。
【0007】
また、本出願は、
バイオリアクタを提供すること、
細胞培養培地、好ましくは無血清、動物起源不含、フィーダー不含及び/又は異種物不含の細胞培養培地を提供すること、
細胞を提供すること、
ナノ構造セルロースを含む区画内で細胞をインキュベートして細胞由来産物を形成し、任意にナノ構造セルロースと細胞とを混合すること、
細胞由来産物が細胞から細胞培養培地中に拡散することを可能にすること、
好ましくは細胞由来産物を含む細胞培養培地を抽出するための出口を介して、細胞由来産物を含む細胞培養培地をバイオリアクタから採取して、インキュベートされた細胞から細胞由来産物を分離すること、を含む、培養細胞から細胞由来産物を抽出する方法を提供する。
【0008】
本出願は、培養細胞から細胞由来産物を抽出するためのナノ構造セルロース品であって、0.1~10μm2、例えば、0.3~2.0μm2の範囲内の中心細孔径を有するナノ構造セルロースヒドロゲルを含むナノ構造セルロース品を提供する。
【0009】
本出願は、培養細胞から細胞由来産物を抽出する方法を用いて得られた細胞外小胞を提供する。
【0010】
主な実施形態は、独立請求項において特徴付けられる。様々な実施形態が従属請求項に開示されている。本明細書に開示される実施形態及び例は、特に明記されない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【0011】
ナノ構造セルロースは、ナノフィブリル状セルロース又はナノ結晶セルロースであり得る。これらの異なる材料は、異なる及び/又は調整可能な特性を有し、異なる用途に適した生成品、バイオリアクタ及び方法を提供することを可能にする。
【0012】
ナノフィブリル状セルロース又はナノ結晶セルロースは、ヒドロゲルとして存在する場合、細胞のための親水性間質マトリックスを形成することができ、このマトリックスは非毒性で生体適合性であり、生分解性でもある。マトリックスは、例えば、セルラーゼを添加することによって酵素的に分解され得る。一方、ヒドロゲルは、生理学的条件で安定であり、追加の作用物質を使用して架橋される必要はない。ヒドロゲルの多孔性及び透過性などの特性は、ナノ構造セルロースの化学的及び/又は物理的特性を調整することによって制御され得る。
【0013】
ナノフィブリル状セルロースなどのナノ構造セルロースを含むヒドロゲルの特定の有利な特性には、例えば、入口又は出口を通る搬送、及び混合など、材料の培養及び取扱いのための様々なバイオリアクタの使用を可能にする可撓性、弾性及び再成形性(remouldability)が含まれる。ヒドロゲルは、3D細胞貯蔵及び2D細胞貯蔵、又は培養マトリックスとしても使用される最適な弾性、剛性、剪断応力、機械的接着及び多孔性を有する。細胞は、使用されるヒドロゲルのマトリックス内に接着し得るか又は埋め込まれ得る。ヒドロゲルはまた、産生中に細胞を保護する。
【0014】
ヒドロゲルは多くの水を含有するため、分子に対して良好な透過性も示す。実施形態のヒドロゲルはまた、高い保水能力及び分子拡散特性速度を提供する。
【0015】
本明細書に記載のナノ構造セルロースヒドロゲルは、ナノ構造セルロースを含む材料が生体と接触している医学的及び科学的用途に有用である。本明細書に記載のナノ構造セルロースを含有する生成品は、生体物質と高度に生体適合性であり、いくつかの有利な効果を提供する。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、非常に高い比表面積、したがって、高い保水能力を有する非常に親水性のナノ構造セルロースを含むヒドロゲルは、細胞に適用された場合、細胞とナノ構造セルロースを含むヒドロゲルとの間に好ましい湿った環境を提供すると考えられる。ナノ構造セルロース内の多量の遊離ヒドロキシル基は、ナノ構造セルロースと水分子との間に水素結合を形成し、ナノ構造セルロースのゲル形成及び高い保水能力を可能にする。ナノ構造セルロースヒドロゲルは、多量の水を含有し、流体及び/又は物質、特に活性形態の生物活性物質の移動も可能にする。驚くべきことに、ナノ構造セルロース内の遊離ヒドロキシル基の量が多いにもかかわらず、材料は、細胞によって産生された生物製剤と有害に相互作用せず、したがって、生物製剤を抽出のためにナノ構造セルロースから放出させることができることが見出された。
【0016】
ナノ構造セルロースは、細胞由来産物の産生時に細胞のためのマトリックスとして使用され得、したがって、細胞を保護し、それらの生存能を維持するのを助ける環境を提供する。間質マトリックスと呼ばれ得る形成されたマトリックスは、ECMに物理的に類似し、所望の細孔径を提供することができる網状マトリックスを提供する。ナノ構造セルロース、特にセルロースナノフィブリルのネットワークの寸法は、コラーゲンナノフィブリルの天然のECMネットワークに非常に近い。これにより、細胞の構造的支持と、効率的な細胞移動並びに細胞及び細胞由来の細胞由来産物への栄養素の移送のための相互接続された細孔のネットワークとが提供される。ナノ構造セルロースは、連続バイオリアクタ系で使用される流れに耐えることができ、細胞は、ナノ構造セルロースマトリックス内に維持され、例えば、それらの位置に維持され、所望の状態、例えば、幹細胞の場合には未分化の所望の状態に維持される。これにより、全産生時間中に同じ細胞由来産物を得ることが可能になる。
【0017】
さらに、ナノ構造セルロースは、非動物系材料であり、したがって、異種物不含であるため、疾患移入又は拒絶のリスクはない。特にヒト細胞が関係する場合、形成された系は、セルロース及びおそらく少量の添加物に加えて、ヒト由来成分のみを含み得るため、外来の動物又は微生物種由来の材料を何ら含有しない。
【0018】
セルロースナノフィブリル及びナノ結晶は、無視できるほどの蛍光バックグラウンドを有する。本発明の材料により、細胞のための透明で多孔質のマトリックスを得ることが可能であり、材料の取扱いは代替物と比較して容易である。
【0019】
セルロースは、存在するとしても中程度の外来性応答のために生体適合性であり、特に幹細胞用途に安全であり、知られている毒性はない。セルロースはまた、生物耐久性である。細胞はセルロースを分解するのに必要なセルラーゼを合成することができないことから、セルロースの再吸収は遅い。
【0020】
本発明の解決策は、EV分泌などのインビボ様生物製剤分泌の刺激、及び生物製剤の持続的産生の探索に特に適している。例えば、エキソソームのために培養される細胞の多くは足場依存性であり、したがって、細胞を組み込むことができるNFCヒドロゲル、ビーズ又は同様の実体若しくは形態は、エキソソーム分泌細胞の培養に特に適している。これは、分泌又は排出された生物製剤などの他の種類の細胞由来産物にも同様に当てはまる。1つの解決策では、ナノ構造セルロースと細胞との混合物が維持されながら、細胞由来産物富化培地が新しい培地の添加に等しい速度で採取される。膜又はフィルタなどの透過処理された構造又は半透過性構造を使用して、ナノ構造セルロース及び細胞を細胞由来産物富化培地から分離することができる。細胞外小胞などの細胞由来産物は、いずれかの好適な方法を使用することによって、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを使用することなどによってそれらのサイズに基づいて、及び/又はEV表面タンパク質に結合する生体分子などの機能性分子を使用することによって採取され得る。
【0021】
本発明のナノ構造セルロース材料は、例えば、小胞のさらに狭いサイズ分布を得るために、細胞外小胞の特性、例えば、活性及びサイズ分布を制御することを可能にした。実質的に均一なサイズの細胞産物を得ることができ、これにより、さらに制御されたそれらの分離、及び用途での使用が可能になった。得られた細胞産物は、インビボ様かつ高度に機能的であり、他の細胞を効率的に処理するために使用することができることが分かった。
【0022】
本発明の材料及び構成は、効率的な増殖及び細胞培養産生を促進するのに適した形態で細胞を培養することを可能にする。細胞は、例えば、スフェロイドなどの凝集体として増殖させてもよく、これは細胞培養産生目的では望ましい場合がある。スフェロイド培養物は、ナノ構造セルロースヒドロゲル中で数週間、さらには数ヶ月間維持され得、バイオリアクタ内の細胞の効率的な利用を可能にする。間質マトリックスとしてのナノ構造セルロースの使用は、細胞又は細胞スフェロイドの望ましくない凝集を防止又は低減し得、細胞の所望の表現型と、産生された細胞由来産物のスペクトルとを維持するのに役立ち得る。
【0023】
また、ナノ構造セルロースは、細胞及び細胞由来産物を保護し、これは、細胞由来産物が小胞などの脆弱な構造である場合に、バイオリアクタ内で流体力学的剪断力に関連する問題を低減するプロセス中に特に重要である。ナノ構造セルロースは、液体の流れ、及び物質、例えば、細胞培養産物だけでなく、栄養素、代謝産物、又はプロセスに影響を及ぼす他の物質の拡散を促進するような形態で提供され得る。
【0024】
培養表面積は、スケールアップ技術、例えば、撹拌タンクリアクタ内のマイクロキャリア、又は固定床若しくは中空糸バイオリアクタ内の培養を使用することによって最大化され得る。フラスコ内での2区画培養も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、区画内にナノフィブリル状セルロースを含むバイオリアクタの一例を示す。
【
図2】
図2は、区画内にナノフィブリル状セルロースを含むバイオリアクタの一例を示す。
【
図3】
図3は、区画内にナノフィブリル状セルロースを含むバイオリアクタの一例を示す。
【
図4A-4D】
図4は、0.5重量%で測定された天然ナノフィブリル状セルロースの決定されたフィブリル直径及び細孔径を示す。
【
図5A-5D】
図5は、0.5重量%で測定されたアニオン性ナノフィブリル状セルロースの決定されたフィブリル直径及び細孔径を示す。
【
図6】
図6は、細胞培養フラスコに実装されたバイオリアクタの一例を示す。
【
図7A-7C】
図7は、細胞を固定するための別個の固定床リアクタを備えるバイオリアクタの一例を示す。
【
図8A-8B】
図8は、(A)4日後のAPC及びHDFスフェロイド形成の代表的な画像を示す。APC及びHDFをDiIによって染色し、それぞれ0.2%及び0.4%NFC内で培養した。蛍光顕微鏡を使用して、スフェロイドIIの形成を可視化した。バー:100μm。(B)4日間の培養後のHDFスフェロイド形成のライブイメージングビデオのスクリーンショット。6ウェル超低接着プレートのウェル内で、3×10
5細胞/100μl培地を1mlのNFC(それぞれAPC及びHDFについて0.2%及び0.4%)と混合した。懸濁液を37℃で30分間インキュベートし、次いで、1mlの培地をヒドロゲルの上部にゆっくりと添加した。
【
図9A-9C】
図9は、APC 2D(A)培養物及びAPC 3D(B)培養物からのナノ粒子トラッキング解析(NTA)による単離されたエキソソームのサイズ分布測定を示す(モード値を示す)。初期細胞密度として3×10
5細胞/ウェルを6ウェルプレートに播種した。2Dから70%コンフルエントになった後、及び3Dから5日後に、エキソソームを単離した。(C)エキソソームの濃度(粒子/ml)。2D培養物及び3D培養物由来のAPCエキソソームの平均±SEを示す(n=3)。**P<0.01
【
図10A-10B】
図10は、(A)蛍光顕微鏡画像、並びに(B)2D APC培養物及び3D APC培養物由来のPHK67標識エキソソームの定量分析を示す。定量は、PKH67標識エキソソームの緑色蛍光強度に基づくものであった。2D培養物及び3D培養物から単離された各エキソソーム100μlをPKH67色素によって染色し、次いで、96ウェルプレートのウェルに挿入した。試料の蛍光画像を撮影し、ImageJソフトウェアを使用して蛍光強度を測定した。全画像について最大投影強度を使用した。データを表面積に対して正規化し、平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。スケールバー=10μm。***P<0.001。
【
図11A-11C】
図11は、TEM(A)及び(B)ウエスタンブロット分析による、2D APC培養物及び3D APC培養物から単離されたエキソソームの特性評価を示す。CD81、CD9及びHsp70を含むエキソソームマーカーをウエスタンブロッティングによって検出した(C)BCAキットを使用して、2D APC培養物及び3D APC培養物から単離されたエキソソーム濃度を測定した(n=3)。***P<0.001。
【
図12A-12D】
図12は、(A)処理の24時間後のそれぞれ2D HDF及び3D HDFによる2D-APC-Exo及び3D-APC-Exo(100μg/ml)取込みの代表的な画像、続いて共焦点顕微鏡観察を示す。スケールバー=100μm。(B)3D-APC-Exo(100μg/ml)による24時間処理中の3D HDFスフェロイドによるエキソソーム取込みの代表的な画像、続いて共焦点顕微鏡観察。スケールバー=200μm。(C)3D HDFによる3D-APC-Exo取込みの定量。データを表面積に対して正規化し、平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。6時間後のエキソソーム取込みを、データの正規化のための対照と考えた***P<0.01。D)24時間の処理後の内在化PHK67標識エキソソームの定量分析。定量は、PKH67標識エキソソームの緑色蛍光強度に基づくものであった。データを表面積に対して正規化し、平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。2D HDF+2D APC-Exoを、データの正規化のための対照処理と考えた。**P<0.01、***P<0.01。
【
図13A-13C】
図13は、バイオリアクタ培養物(A)及びNFCバイオリアクタ培養物(B)からのナノ粒子トラッキング解析(NTA)による単離されたエキソソームのサイズ分布測定を示す。初期細胞密度として25×10
6個の細胞をバイオリアクタに播種した。10日後にエキソソームを単離した。(C)エキソソームの濃度(粒子/ml)。バイオリアクタ培養物及びNFCバイオリアクタ培養物由来のAPCエキソソームの平均±SEを示す(n=3)。***P<0.001
【
図14A-14B】
図14は、(A)蛍光顕微鏡画像、並びに(B)バイオリアクタ培養物及びNFC-バイオリアクタ培養物由来のPHK67標識エキソソームの定量分析を示す。定量は、PKH67標識エキソソームの緑色蛍光強度に基づくものであった。単離された各エキソソーム100μlをPKH67色素によって染色し、次いで、96ウェルプレートのウェルに挿入した。試料の蛍光画像を撮影し、ImageJソフトウェアを使用して蛍光強度を測定した。全画像について最大投影強度を使用した。データを表面積に対して正規化し、平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。スケールバー=10μm。***P<0.001。
【
図15A-15C】
図15は、TEM(A)及び(B)ウエスタンブロット分析による、バイオリアクタ培養物及びNFC-バイオリアクタ培養物から単離されたエキソソームの特性評価を示す。CD81、CD9及びHsp70を含むエキソソームマーカーをウエスタンブロッティングによって検出した。(C)処理の24時間後のそれぞれHDFによるバイオリアクタ(左カラム)及びNFCバイオリアクタ(右カラム)(100μg/ml)からの単離されたエキソソームの取込みの代表的な画像、続いて共焦点顕微鏡観察。スケールバー=100μm。
【
図16】
図16は、2D(プレート内の通常の細胞培養)、3D(NFCを使用した細胞培養)、バイオリアクタ培養、及びNFCと組み合わせたバイオリアクタ培養を含む4つの細胞培養方法によるAPC増殖の定量を示す。各時点について、データを2D培養の結果に対して正規化した。データを平均±平均値の標準誤差として表した(n=5)。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図17】
図17は、BCAキットを使用した、2D(プレート内の通常の細胞培養)、3D(NFCを使用した細胞培養)、バイオリアクタ培養、及びNFCと組み合わせたバイオリアクタ培養を含む4つの細胞培養方法によって産生されたAPCからのエキソソーム産生の定量を示す。各時点について、データを2D培養の結果に対して正規化した。データを平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書では、パーセンテージ値は、特に明記しない限り、重量(w/w)に基づく。いずれかの数値範囲が提供される場合、範囲は上限値及び下限値も含む。オープン用語「含む(comprise)」はまた、1つの選択肢としてのクローズド用語「からなる(consisting of)」を含む。本明細書に開示される直径は、特に明記しない限り、最小直径を指し、平均直径又は数平均直径として定義されてもよく、顕微鏡によって決定されてもよい。
【0027】
本明細書に記載される材料及び生成品は、医療及び/又は科学材料並びに医療及び/又は科学生成品、例えば、ライフサイエンス材料及びライフサイエンス生成品であり得、例えば、本明細書に記載の生細胞及び/又は生物活性材料若しくは物質を伴う方法及び用途に使用され得る。
【0028】
本発明の方法及び装置は、細胞由来産物を産生及び/又は分離、単離及び/又は採取するために使用され得る。細胞由来産物は、細胞から得られる、すなわち、細胞は、細胞由来産物を提供又は産生する。細胞由来産物は、細胞外小胞、例えば、エキソソームなどの小胞を含み得るが、他の適用可能な細胞由来産物、例えば、巨大分子、細胞小器官、ウイルス及び/又はウイルス様粒子、並びに細胞から得られる同様の物質及び/又は実体も含み得る。これらは生物活性物質と考えられ得る。本発明の方法は、細胞外小胞、さらに具体的にはエキソソームに関連して主に説明されるが、実施形態及び例は、他の細胞由来産物にも適用され得る。
【0029】
細胞由来産物は、細胞外小胞(EV)を含み得るか、又は細胞外小胞(EV)であり得る。EVを得るためには、2つの主な経路、すなわち、生体流体及び細胞培養がある。EV産生、例えば、エキソソーム産生のための細胞培養馴化培地環境を使用することにより、さらに制御された環境を提供することが可能になる。
【0030】
先行技術の主な技術的限界は、細胞及び得られた細胞由来産物、例えば、細胞外小胞、例えば、エキソソームの表現型が変化しないように、リアクタ内の環境パラメータを制御する必要があることである。
【0031】
本発明の方法及び系では、細胞由来産物を産生するために、インキュベーション、及び/又は細胞の培養を可能にする三次元細胞系が提供される。三次元細胞系は、細胞外小胞などのインビボ様細胞由来産物の分泌を刺激するため、三次元(3D)細胞系を使用することが望ましい。したがって、産生される細胞由来産物の量は、2D系と比較して3D細胞系の方が多い。例えば、三次元スフェロイド系は、間葉系幹細胞からのエキソソーム分泌を増加させる。3D系由来EVは、2D系由来EVと比較して、分泌動態及びシグナル伝達分子含有量(RNA及びDNA)に関して顕著に異なるプロファイルを示すことが観察された。しかし、特にバイオリアクタなどの環境では、効率的かつ信頼性の高い方法でそのような三次元細胞培養を実施することには課題があった。3D系であっても、剪断応力に起因する細胞レベルでの表現型変化のリスクが問題となっている。
【0032】
細胞の生存能及び健全性は、系を通してモニタリングされ得、分析及び下流適用のための目的の細胞由来産物及び廃棄物の均等かつ安定した流出とともに、ナノ構造セルロースを有する培地及び/又は細胞の本発明の安定した流入によって可能になる。
【0033】
細胞由来産物、細胞及び/又はいずれかの他の材料、例えば、細胞培養材料の保存、分離、採取及び回収が望まれる。培養中、及び分離、採取及び回収を含むさらなる工程中に、細胞及び細胞由来産物、特に、小胞タイプの生成品又は他の脆弱な巨大分子の構造を維持及び保護することが重要であることが分かった。これは、本明細書に開示される材料、系及び方法を使用することによって達成された。
【0034】
本発明の方法は、幹細胞系などの拡張可能な大規模細胞系、及びエキソソームなどのEVの上流産生のための方法を提供するために使用され得る。これにより、治療用途のための安定で強力な生成品を大量に送達することが可能になる。これは、ナノ構造セルロースと細胞との混合物を維持し、細胞由来産物に富む培地を採取することを可能にする方法によって達成される。これは、新しい培地の添加に等しい速度で行われてもよい。実施形態の解決策は、実際に、インビボ様エキソソーム分泌、エキソソームの持続的な上流産生を刺激する。本明細書に開示及び説明される方法及び細胞系は、細胞をインキュベートすることによって目的の細胞由来産物を産生することを目的とするが、細胞培養物及び細胞培養も伴う。したがって、用語「細胞培養」及び「細胞系」は、区別なく使用され得る。
【0035】
エキソソームを産生するために細胞培養をスケールアップするための追加の制限には、最適な細胞増殖のための動物血清への継続的な強い依存がある。例えば、ウシ胎児血清(FBS)では内因性エキソソームが多く、細胞培養前に除去されない場合、FBS汚染物質に起因するプロセス関連不純物が最終生成品に混入する可能性があり、これは医薬製品の規制上の観点からは完全に好ましくない。したがって、治療グレードであると予測され得る同等の細胞特性及びエキソソーム産物特性を保存するという条件で、異種物不含培養培地成分が望ましい。
【0036】
ナノ構造セルロースは、異種物不含品(生成品)であり、したがって、臨床グレードの細胞由来産物の産生に非常に適している。細胞は、担体材料として機能するナノ構造セルロースに効率的に固定され得、長期間培養され得、したがって、目的の細胞由来産物の効率的な産生及び放出も可能にする。例えば、間葉系幹細胞(MSC)は、薬物送達のためのエキソソームの効率的な大量産生体である。本発明者らは、NFCなどのナノ構造セルロースが、MSC培養に非常に適していることを示した。
【0037】
ナノ構造セルロースヒドロゲルもまた、そのような3Dスフェロイド培養に非常に適した材料である。ナノ構造セルロースを利用するバイオリアクタを実装し、本明細書で説明される問題を克服する方法が見出された。
【0038】
本発明の方法は、本明細書に提示されるバイオリアクタを使用することによって行われ得、バイオリアクタは、容器と、本明細書に開示されるものなどのいずれかのさらなる部品及び物質とを備えるバイオリアクタ系であり得る。培養細胞から細胞由来産物を抽出するためのバイオリアクタは、
容器と、
細胞培養培地を容器に投入するための入口と、
細胞由来産物を含む細胞培養培地を容器から排出するための出口と、を備えてもよく、
容器は、細胞を受容するように、又は細胞を含有するように構成された、ナノ構造セルロースを含む区画を備えるか、又はそれに接続され、上記区画は、ナノ構造セルロースを出口から分離し、細胞産物を含む細胞培養培地を通過させる第1の分離表面を備え、ガス交換のためのさらなる分離表面を任意に備える。
【0039】
容器は、いずれかの好適な容器であってよく、容器のサイズ、容積及び/又は形状は、培養のサイズ、細胞の種類、細胞由来産物の種類、ナノ構造セルロースの種類、及び/又は同様の特性に従って選択されてもよい。容器は、3D細胞培養を可能にする槽、リアクタ、ボトル、フラスコ、細胞培養プレート、バッグなどであってもよい。1又は複数の容器が使用されてもよく、例えば、2つ以上の容器が並列に配置されてもよい。三次元での細胞培養(3D細胞培養)とは、細胞が三次元全部に配置される細胞培養を指し、これは、細胞が層として、例えば、ペトリ皿又は同様の表面上に配置され培養される従来の2D培養と区別することを意図している。3D細胞培養は、プラスチック足場を使用することによって一般的に実施されるが、本発明の方法では、細胞培養は、ナノ構造セルロースを含むか、又はナノ構造セルロースからなるマトリックス内で行われる。ナノ構造セルロースヒドロゲル、又はナノ構造セルロースから形成された実体は、細胞由来産物を効率的に産生することができ、また、細胞由来産物を細胞培養物から放出、分離及び採取することができるように、細胞由来産物のために細胞を培養するのに特に適していることが見出された。
【0040】
細胞培養培地を容器又は区画に投入するための入口は、細胞由来産物を含む細胞培養培地を容器から抽出するための出口とは異なっていてもよい。入口及び/又は出口は、容器内の物理的な入口及び/又は出口として、例えば、容器又は区画内に形成された、埋め込まれた、又は接続されたチューブ、弁、アパーチャ又はそれらの組合せとして形成されてもよい。入口及び/又は出口は、チューブ、ホース、又は液体及び/若しくは固体培地を容器、リアクタ及び/若しくは区画に搬送する及び/又は容器、リアクタ及び/若しくは区画から搬送する他の好適な方法に接続され得るか又は接続可能であってよい。ナノ構造セルロース及び/又は細胞由来産物などの他の物質を含有し得る細胞培養培地などの液体の流れは、好ましくは、液体を搬送する手段、及び/又は液体の流れを提供する手段を使用することによって、例えば、ポンプ又は同様の装置を使用することによって、入口に向かって、及び/又は出口から配置され得る。これにより、細胞由来産物の連続産生が可能になる。培地などの液体の流れが提供される場合、細胞は、生物製剤の安定した産生を可能にするような状態で培養及び/又は維持され得る。流れがなければ、細胞は静止状態になる可能性があり、細胞、及び細胞によって産生された産物は分解及び/又は変化し得るため、産生は安定しない可能性があり、細胞由来産物のスペクトルは経時的に変化し得る。
【0041】
容器は、ナノ構造セルロース用の区画、若しくはナノ構造セルロースを含む区画を備えてもよいか、又は容器は、例えば、チューブ、ホースなどの好適な接続手段を使用することによって、別個の区画のように接続されてもよい。この区画は、第1の区画と呼ばれ得、第2の区画及び/若しくはさらなる区画、又は入口及び/若しくは出口などの他の部分に接続されてもよい。第1の区画は、ナノ構造セルロースの固定床を備え得る。第2の区画は、第1の分離表面によって、及び任意に1又は複数のさらなる面によって第1の区画から分離された区画であってよい。第2の区画は、第1の区画から分離された細胞由来産物を受容するように構成され、出口は、第2の区画に直接接続され得る。
【0042】
細胞を受容するように構成されたナノ構造セルロースとは、本明細書に開示されるように、細胞を受容するのに適した形態のナノ構造セルロースを指す。さらに具体的には、ナノ構造セルロースは、本明細書で説明されるように、細胞に結合し、細胞に接着し、細胞を埋め込み、細胞をカプセル化し、細胞を保護し、細胞を支持し、及び/又は細胞を維持することができるように細胞を受容することができるものとする。例えば、ナノ構造セルロースは、好ましくは、細胞が放出されないように、細胞を受容してそれらを埋め込むように構成され得る。そのようなナノ構造セルロースは、好適な多孔性、直径及び/若しくは比などのフィブリル寸法、ナノ構造タイプ、濃度、化学的、酵素的及び/若しくは機械的改質度などの改質度、及び/若しくはフィブリル化度などのタイプ、1若しくは複数のレオロジー特性及び同様の特性、又はそれらの組合せを有し得る。
【0043】
ナノ構造セルロースを含む区画は、1又は複数の表面上に、細胞培養ゲル、例えば、アガロース、コラーゲン若しくはヒアルロン酸又はそれらの誘導体を含むゲルのコーティング層を備え得る。ナノ構造セルロースを含む区画は、0.3~1.0%(w/w)、例えば、約0.5%(w/w)の濃度を有するゲルなど、1又は複数の表面上のそのようなゲルの層によってコーティングされてもよい。ゲル層は、0.1~3mm、例えば、0.1~1mmの範囲内の厚さを有し得る。そのようなゲル層は、例えば、細胞培養フラスコに使用されてもよく、ナノ構造セルロース内に細胞を固定し、ガス及び物質の流れを増強し、そうでなければプロセスを増強するのに役立ち得る。具体的な一例では、ゲルは、アガロース若しくはその誘導体を含むか、又はアガロースゲル若しくはその誘導体である。
【0044】
一実施形態では、ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画は、容器とは別個のユニットである。一実施形態では、ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画は、容器の内側にある。ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画は、固定床リアクタであり得るか若しくは固定床リアクタを備え得るか、又は固定床リアクタは、ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画を備え得る。
【0045】
区画は、第1の表面20を備え、第1の表面20は、第1の分離表面などの露出表面又は分離表面と呼ばれてもよく、細胞からの細胞由来産物を含む細胞培養培地を出口及び/又は別の区画に提供するように設計される。したがって、第1の表面は、細胞培養培地及び細胞由来産物を通過させるように配置されるが、特に区画に提供された形態の細胞及びナノ構造セルロースが通過することを好ましくは防止する。第1の表面は、バリアであってよいか、又はナノ構造セルロース及び/若しくは細胞を区画内に保持することができる選択的バリアなどのバリアとして機能してもよい。バリアは、フィルタであってよいか、又はフィルタとして機能してもよい。第1の表面の特性は、関心物が通過する場合に細胞由来産物のみを特に通過させるように構成され得る。第1の表面は、剛性又は可撓性であってよい。第1の表面は、第1の区画から出口への物質の流れを制御する、例えば、制限又は選択するための手段として設計される、及び/又はそれらを備える。これは、選択的透過性などの選択的特性を有する膜、フィルタ、メッシュ又は同様の構造若しくは層を提供することによって実施され得る。膜は、細胞、生体分子、又は本発明の方法で使用される他の材料の非特異的接着を阻害する材料、例えば、コーティングとして含み得る(微細な)多孔質膜、特に、低接着膜、例えば、超低接着膜であってよい。例えば、第1の区画に配置される細胞及び/又はナノ構造セルロースに対して透過性ではない透過処理された及び/又は半透過性多孔質膜を提供してもよい。ただし、(所望の)細胞由来産物は、通常は細胞培養培地などの液体中で膜を通過することができるため、細胞から分離され得、異なる区画及び/又は出口に搬送され得、回収され得る。同様の特性が同様に適用され得る好適なフィルタ。あるいは、第1の表面は、選択的透過性などの上記選択的特性を提供することができる、ナノ構造セルロースの表面を備えてもよい。そのような特定のナノ構造セルロース表面は、追加の選択表面として提供されてもよい。これは、例えば、機械的、化学的及び/又は酵素的に得られ得る濃度、フィブリル化度、多孔性、化学組成及び/又は他の改質度などの選択された特性を有するナノ構造セルロースを提供、使用及び/又は調製することによって得られ得る好適な濃度、多孔性及び/又は粘度を有するナノ構造セルロースヒドロゲルを提供することによって得られ得る。
【0046】
一実施形態では、第1の表面は、細胞由来産物を含む細胞培養培地に対して透過性であり、細胞及びナノ構造セルロースに対して不透過性である膜、フィルタ又はメッシュなどの層であり得る構造を備える。そのような選択された透過性は、細胞及び/又はナノ構造セルロースが構造を通過することができないように、膜、フィルタ又は他の同様の構造の細孔径又はメッシュ径などのカットオフサイズを選択することによって得られ得る。第1の表面はまた、ナノ構造セルロース自体の表面によって形成されてもよいか、又はそのような表面は、第2若しくは第3の分離表面などのさらなる表面30であってよい。ナノ構造セルロースが別個の実体として提供される場合、実体のサイズ(最小直径)は、通常、細胞のサイズ(最小直径)よりもはるかに大きいため、細胞直径は、多孔質の構造若しくは層の細孔径若しくはメッシュ径を選択するための制限要素、又は他の好適な制限要素であり得る。そのような場合、細孔径は、細胞の最小平均直径よりも小さくてよい。ただし、細胞は、細胞培養培地に放出されないようにナノ構造セルロースの内部で培養され得るため、そのような場合、特にナノ構造セルロース実体が大きい場合、例えば、顆粒若しくはビーズなどの大きな球状形態、又は細長い形態である場合、非常に大きな細孔径又はメッシュ径を使用することができる。細孔径又はメッシュ径などの大きなカットオフサイズは、液体及び物質のさらに良好な流れを可能にし、これにより、細胞培養、並びに細胞由来産物の産物及び分離が容易になる。細孔径は、0.1~3μm、例えば、0.4~3μmの範囲内であり得る。
【0047】
一例では、第1の表面は、0.1~3μm、例えば0.4~3μmの範囲内の平均細孔径を有する膜、フィルタ又はメッシュを備える。細孔直径は、好適な画像化ソフトウェアを使用することによって顕微鏡を用いて決定され得る平均細孔径又は平均細孔直径であってよい。これにより、細胞外小胞並びにさらに小さな物質及び分子などのほとんどの細胞由来産物が膜を通過することが可能になるため、それらを細胞及びナノ構造セルロースから分離することができ、最終的に回収することができる。ナノ構造セルロースの形態に応じて、細孔径はさらに大きくてもよい。例えば、数ミリメートルまでの最小直径を有し得る比較的大きなナノ構造セルロース実体が使用される場合、例えば、100μmまで、又はさらには300μm若しくは500μmまでの細孔径を有する膜、メッシュ又は他の構造が、球状又は球形の実体であっても使用され得る。繊維又はフィラメントなどの細長い実体では、さらに大きな細孔径を使用することが可能であり得る。第1の区画と第2の区画との間の分割構造のさらに大きなメッシュ径、細孔径又はアパーチャサイズを使用することにより、構造を通る培地のさらに良好な流れが可能になり、これにより、物質の移動、並びに細胞由来産物の分離及び回収が容易になる。様々な手段によって、例えば、好適なミキサ24、ポンプ40及び/若しくは他のアクチュエータを使用することによって、又は区画の容積を変更することによって、例えば、調節可能な容積を有する容器、例えば、可動部分、例えば、変形可能な部分、例えば、ベローなどを備えた容器、若しくはプランジャなどのピストン状部分を使用することによって、培地の混合及び/又は流れを得ることが可能であり、容器の容積は、例えば、可動部分に接続されたアクチュエータによって可動部分を動作させることによって変更される。
【0048】
第1の表面に適した細孔径又はカットオフサイズを選択することが可能である。好適なサイズにより、それらのサイズに従って様々な細胞由来産物を分離することが可能である。細胞由来産物を含む細胞培養培地に対して透過性であり、細胞及びナノ構造セルロースに対して不透過性である第2の表面又はさらなる表面を提供することが可能である。そのような表面は、異なるカットオフサイズ又は細孔径を有してもよいため、それらは、細胞由来産物に対して異なる透過性を有する。それぞれが異なる細孔径又はカットオフサイズを有する第1の表面、第2の表面及び任意に好適な数のさらなる表面を提供することによって、細胞由来産物をそれらのサイズに従って異なる画分に分離することが可能である。これにより、所望の細胞由来産物の分離が容易になる。第1の表面及びさらなる表面は、類似の、又は異なる構造、例えば、1又は複数の膜、1又は複数の限外濾過膜を備え得る1又は複数のフィルタ、1又は複数のメッシュ、及びそれらの組合せを備え得る。これらの表面は、例えば、最も高い透過性を有する表面(最も高いカットオフサイズ又は細孔径を有する)を最初に提供し、次いで、低い透過性を示すためにさらなる表面を提供することによって、細胞由来産物をそれらのサイズに従って分離することができるような順序で配置され得る。
【0049】
例えば、細胞外小胞の平均サイズ、すなわち、最小直径は、主に50~300nmの範囲内であり得るため、例えば、500nm、400nm、300nm、250nm、200nm、150nm、100nm及び50nmからの第1の分離表面及び任意にさらなる分離表面のための1又は複数の細孔径又はカットオフサイズを選択することが可能である。第1及びさらなる分離表面は、第2及びさらなる区画を画定してもよく、そこから異なる画分が採取されてもよい。
【0050】
一実施形態では、第1の表面は、中空糸の形態である。その場合、リアクタは、中空糸リアクタであってよい。細胞及びNFCは繊維の表面にあってよく、細胞由来産物は繊維の壁を通過し、繊維内を流れる液体に入ることができ、したがって、細胞及びナノ構造セルロースから分離され、回収され得る。
【0051】
区画は、ガス交換表面と呼ばれ得、ガス交換を可能にするように設計されたさらなる表面30をさらに備えてもよい。ガス交換表面は、ガス源並びに/若しくはガス入口及び/若しくは出口に接続されてもよいか、又はそれと接触して配置されてもよい。ガス交換表面は、第1の表面と同一であり得るか又は類似していてもよく、例えば、膜又は同様の構造を備えてもよい。ただし、ガス交換表面は、ガス交換に特に適合されてもよく、そのため、例えば、細孔又は同様の透過性構造がガスに適合されてもよい。したがって、細孔径は、第1の表面と比較して小さくてよい。したがって、バイオリアクタは、ガス交換表面に、ガスに対して透過性であり、細胞及びナノ構造セルロースに対して不透過性であり、好ましくは水性液体又は水溶液などの液体に対しても不透過性である表面又は膜を備えてもよい。
【0052】
バイオリアクタ又は第1の区画は、区画内のナノ構造セルロースと細胞とを混合するための手段を備えてもよい。混合するための手段は、ミキサ、撹拌機を備えてもよいか、又は混合は、第1の区画及び/若しくはリアクタへの、及び/若しくは第1の区画及び/若しくはリアクタを通る液体の好適な流れを提供することによって実施されてもよい。ミキサ又は撹拌機は、混合物を混合するための1又は複数の好適な突出部、例えば、ラダーなどを備えてもよく、好ましくは、混合は、細胞及びナノ構造セルロース、並びに/又は細胞由来産物が損傷しないように配置される。混合は、例えば、ミキサの速度、及び/又はリアクタ若しくは区画内の流れを制御することによって制御され得る。
【0053】
一実施形態では、バイオリアクタは、入口及び/又は出口を介して細胞培養培地の流れを提供するための手段、好ましくは(第1の)区画を通る手段を備える。細胞は、区画内のナノ構造セルロースに保持され、(連続的な)流れは、細胞、ナノ構造セルロース及び/又は区画を通って配置される。このように、本明細書で説明される目的、特に、細胞由来産物の連続的かつ安定した産生に適した灌流バイオリアクタ、連続バイオリアクタ又はフローバイオリアクタを得ることが可能であり、これらの用語は本明細書では区別なく使用され得る。細胞培養培地の流れを提供するための手段は、制御可能であり得る、例えば、制御ユニットに動作可能に接続され得るポンプ、ミキサ、撹拌機、プロペラ又は同様のアクチュエータを備え得る。流量又は流速は制御されてもよく、所望のレベル又は範囲に維持されてもよい。細胞培養培地の流れを提供するための手段はまた、容器又は区画の容積を調整するための手段を備え得る。流れを提供するための手段と混合するための手段とは、同じ手段であってよいか、又は異なる手段であってよい。
【0054】
バイオリアクタは、バイオリアクタから、例えば、第1の区画及び/又は第2若しくはさらなる区画からの1又は複数のパラメータをモニタリングするための1又は複数のセンサを備え得る。パラメータは、温度、pH、流量、導電率、酸素含有量、二酸化炭素含有量のうちの1又は複数であってよい。1又は複数のセンサは、制御ユニットに動作可能に接続されてもよい。したがって、制御ユニットは、バイオリアクタなどの系からのパラメータをモニタリングするように構成されてもよい。制御ユニットは、1又は複数のモニタリングされるパラメータ及び/又は所定の、例えば、プログラムされた動作に基づき得る1又は複数の制御動作を行うように構成されてもよい。
【0055】
バイオリアクタは、バイオリアクタを制御するための装置に接続された1又は複数のアクチュエータ、例えば、ポンプ、ミキサ、ヒータ、エアレータ、液体及び/又は試薬を添加するための手段、弁、撹拌器などを備えてもよい。アクチュエータ及び装置は、制御ユニットに動作可能に接続されてもよい。制御ユニットは、アクチュエータ及び装置を動作させるように、好ましくは、特に1若しくは複数の測定値若しくは条件へのフィードバックとして、及び/又は1若しくは複数の所定の動作への応答として、バイオリアクタ内の条件を制御するように構成されてもよい。例えば、制御ユニットは、所定のプログラムに従ってバイオリアクタによって細胞培養及び/又は他の動作を行うようにプログラムされてもよく、所定のプログラムは、例えば、リアクタ内の温度を指定された範囲に維持すること、指定された期間にわたって培養又は他の動作を行うこと、培地の流速を指定された範囲に維持すること、pH、酸素レベル及び/又は二酸化炭素レベルを指定された範囲に維持すること、並びに同様の動作を含み得る。
【0056】
細胞
バイオリアクタ内で本発明の方法によってインキュベート及び培養される細胞は、目的の細胞由来産物を産生するか、又は目的の細胞由来産物の供給源であり得るいずれかの適用可能な細胞であり得る。
【0057】
一般に、細胞は、ナノ構造セルロース内で培養又はインキュベートされ得、動物若しくはヒトに基づく作用物質、又は細胞外に由来する培地を用いることなく、ナノ構造セルロース上又はナノ構造セルロース内で維持及び増殖され得る。細胞は、ナノ構造セルロースヒドロゲル若しくはナノ構造セルロース実体上又はナノ構造セルロースヒドロゲル若しくはナノ構造セルロース実体内に均一に分散され得る。本明細書に開示される産生目的のためにナノ構造セルロース内でインキュベートされた細胞は、細胞系を形成する。
【0058】
最初に、細胞は、第1の培地中の別個の培養物中で前培養され得、回収され得、第1の培地と同様であっても異なっていてもよい新しい培地に移され得る。細胞懸濁液が得られる。これを第1の区画のナノ構造セルロースと組み合わせ及び/又は混合して、選択された形態の、細胞とナノ構造セルロースとの混合物である細胞系又は細胞組成物を得てもよいか又は形成してもよい。細胞が細胞系で培養される場合、細胞培養物、好ましくは、ナノ構造セルロース内の系又は培養物を指す3D系又は培養物が形成され、細胞は、三次元全部で増殖及び/又は相互作用することができる。ナノ構造セルロースヒドロゲルマトリックスは、天然の細胞外マトリックス構造を模倣し、栄養素、ガスなどの効率的な輸送を提供する。細胞インキュベーション又は培養を開始する場合、1又は複数の増殖工程が、産生目的に最適な細胞培養物又は細胞系を得るために必要であり得る。これは、好適な細胞密度が得られるまでの細胞の接種及び増殖を含み得る。この後、実際の産生を開始することができる。
【0059】
一実施形態では、細胞は、幹細胞などの初代細胞である。細胞は、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞及び/又は非ヒト動物細胞であり得る。一実施形態では、細胞はヒト初代細胞である。一実施形態では、幹細胞はヒト幹細胞である。
【0060】
用語「細胞培養」又は「細胞の培養」は、細胞又は組織の維持、輸送、単離、培養、増殖、移動及び/又は分化のうちの1又は複数を指し得る。「細胞系」は細胞培養を含み得るが、細胞系は細胞を維持し、細胞由来産物を産生することを主に目的とする。細胞を分化させることは望ましくない場合があり、細胞の増殖は制御及び/又は制限され得る。産生中に細胞を輸送すること、単離すること、及び/又は移動させることも望ましくない場合がある。細胞は、例えば、個々の細胞、単層、細胞クラスター及び/若しくはスフェロイドとして、又は組織として、いずれかの好適な構成で維持され得る。一実施形態では、細胞は、スフェロイドなどの凝集体として存在する。バイオリアクタ内の本発明のナノ構造セルロース材料及びその配置は、細胞系を維持すること、例えば、細胞を所望の構成に維持すること、及び所望の表現型を示すことを容易にする。
【0061】
細胞、特に真核細胞は、幹細胞又は分化細胞、例えば、ヒト又は動物の体に由来する細胞であり得る。細胞の具体例には、幹細胞、未分化細胞、前駆体細胞、並びに完全分化細胞及びそれらの組合せが挙げられる。いくつかの例では、細胞は、ケラトサイト、ケラチノサイト、線維芽細胞、上皮細胞及びそれらの組合せからなる群から選択される細胞型を含む。いくつかの例では、細胞は、幹細胞、前駆細胞、前駆体細胞、結合組織細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、平滑筋細胞、間質細胞、間葉系細胞、免疫系細胞、造血細胞、樹状細胞、毛包細胞及びそれらの組合せからなる群から選択される。細胞は、癌細胞又は癌幹細胞であり得る。細胞は、遺伝子改変細胞、例えば、トランスジェニック細胞、シスジェニック細胞若しくはノックアウト細胞、又は病原性細胞であり得る。そのような細胞は、例えば、薬物研究のために、又は治療物質を提供するためなどの治療用途に使用され得る。特に幹細胞は治療用途に使用され得、そのような場合、本明細書に開示される材料、装置及び方法を使用することによって、プロセス中に細胞及び得られた細胞由来産物を保護することが特に重要である。
【0062】
真核細胞は、哺乳動物細胞などの動物細胞であり得る。動物細胞及び哺乳動物細胞の例には、ヒト細胞及び非ヒト動物細胞、例えば、マウス細胞、ラット細胞、ウサギ細胞、サル細胞、ブタ細胞、ウシ細胞、ニワトリ細胞などが挙げられる。
【0063】
一実施形態では、細胞は、非ヒト幹細胞、多能性幹細胞、複能性幹細胞、少能性幹細胞又は単能性幹細胞であり得る幹細胞、例えば、全能性幹細胞である。幹細胞は、細胞分裂によって自身を再生することができる細胞であり、多系統細胞に分化することができる。これらの細胞は、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、及び組織特異的幹細胞又は体性幹細胞とも呼ばれる成体幹細胞として分類され得る。幹細胞は、成体幹細胞などの非胚性起源であり得るヒト幹細胞であり得る。これらは、分化後に全身に見られる未分化細胞である。それらは、例えば、器官再生に関与し、多能性又は複能性状態で分裂し、分化細胞系統に分化することができる。幹細胞は、例えば、Cell Stem Cell.2008 Feb 7;2(2):113-7に記載されているように、胚を破壊することなく生成されたヒト胚性幹細胞株であり得る。幹細胞は、骨髄、脂肪組織又は血液などの自己成体幹細胞の供給源から得られ得る。
【0064】
幹細胞の例には、間葉系幹細胞(MSC)、複能性成体前駆細胞(MAPC(登録商標))、人工多能性幹細胞(iPS)及び造血幹細胞が挙げられる。
【0065】
ヒト幹細胞の場合、細胞は、胚を破壊することなく誘導された非胚性細胞又は胚性細胞、例えば、hESC(ヒト胚性幹細胞)であり得る。ヒト胚性幹細胞の場合、細胞は、寄託された細胞株に由来し得るか、又はヒト胚が破壊されないように、未受精卵、すなわち、「単為生殖」卵若しくは単為生殖的に活性化された卵から作製され得る。
【0066】
一実施形態では、細胞は間葉系幹細胞(MSC)である。間葉系幹細胞(MSC)は、ヒト及び動物の供給源、例えば、哺乳動物から単離され得る成体幹細胞である。間葉系幹細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞及び脂肪細胞を含む様々な細胞型に分化することができる複能性間質細胞である。間葉自体は、中胚葉に由来し、造血組織及び結合組織に分化する胚性結合組織である。しかし、間葉系幹細胞は造血細胞に分化しない。間葉系幹細胞及び骨髄間質細胞という用語は、長年にわたって区別なく使用されてきたが、どちらの用語も十分に説明的ではない。間質細胞は、組織の機能性細胞が存在する支持構造を形成する結合組織細胞である。これはMSCの1つの機能に関する正確な説明であるが、この用語は、組織の修復に果たすMSCの比較的最近発見された役割を伝えることができない。この用語は、胎盤、臍帯血、脂肪組織、成体筋肉、角膜実質、又は乳歯の歯髄などの他の非骨髄組織に由来する複能性細胞を包含する。この細胞は、器官全体を再構成する能力を有しない。
【0067】
International Society for Cellular Therapyは、MSCを定義するための最小基準を提案している。これらの細胞は、(a)可塑性の接着を示すべきであり、(b)細胞表面マーカーの特定のセット、すなわち、分化クラスター(CD)73、D90、CD105を有し、CD14、CD34、CD45及びヒト白血球抗原-DR(HLA-DR)の発現を欠き、(c)インビトロで脂肪細胞、軟骨細胞及び骨芽細胞に分化する能力を有する。これらの特徴はあらゆるMSCについて有効であるが、様々な組織起源から単離されたMSCにはほとんど差が存在しない。MSCは、胎児組織だけでなく、ほとんど例外なく多くの成体組織にも存在する。MSCの効率的な集団が骨髄から報告されている。MSCの特徴を示す細胞が、脂肪組織、羊水、羊膜、歯組織、子宮内膜、肢芽、月経血、末梢血、胎盤及び胎膜、唾液腺、皮膚及び包皮、羊膜下臍帯内膜(sub-amniotic umbilical cord lining membrane)、滑液並びにウォートンジェリーから単離されている。
【0068】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)は、非常に高度の可塑性を示し、実質的にあらゆる器官に見られ、骨髄内で最も高い密度を有する。hMSCは、間葉系細胞の再生可能な供給源として役立ち、適切な刺激を受けた際にインビトロで、及び移植後のインビボで、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋細胞及び心筋細胞、内皮細胞並びにニューロンを含むいくつかの細胞系統に分化する多能性分化能を有する。
【0069】
一例では、この細胞は、骨髄、筋肉及び脳から採取され得る原始な細胞集団に由来する複能性成体前駆細胞(MAPC)である。MAPCは、間葉系幹細胞よりも原始な細胞集団であるが、それらは、細胞療法では、成体幹細胞の可能性を依然として保持する胚性幹細胞の特徴を模倣する。インビトロでは、MAPCは、脂肪生成系統、骨形成系統、神経原性系統、肝性系統、造血系統、筋原性系統、軟骨形成系統、上皮系統及び内皮系統に対する膨大な分化能を示した。MAPCの重要な特徴は、それらが表現型を失うことなくインビトロで大きな増殖能を示すことである。MAPCは、虚血性脳卒中、移植片対宿主病、急性心筋梗塞、臓器移植、骨修復及び骨髄形成異常などの様々な疾患を治療するために使用され得る。MAPCはまた、骨形成を促進し、血管新生を促進し、免疫調節効果を有する。
【0070】
人工多能性幹細胞(iPS)は、成体細胞から直接生成され得る多能性幹細胞の一種である。それらは、実質的に無限に増殖することができ、ニューロン、心臓、膵臓及び肝臓の細胞を含む、体内の他のあらゆる細胞型を生じさせ得る。人工多能性幹細胞は、成体組織から直接誘導することができ、患者に適合するように作製することができ、免疫拒絶のリスクを伴わず使用することができる特異的な細胞由来産物が得られ得る。ヒト人工多能性幹細胞は、特に興味深いものであり、例えば、ヒト線維芽細胞、ケラチノサイト、末梢血細胞、腎上皮細胞又は他の好適な細胞型から生成され得る。
【0071】
造血幹細胞(HSC)は、血液幹細胞とも呼ばれ、白血球、赤血球及び血小板を含むあらゆる種類の血液細胞に発達することができる細胞である。造血幹細胞は、末梢血及び骨髄に見られる。HSCは、血液細胞の骨髄系統及びリンパ系統の両方を生じさせる。骨髄系統及びリンパ系統の両方が、樹状細胞形成に関与している。骨髄細胞には、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、及び巨核球から血小板までが含まれる。リンパ球細胞には、T細胞、B細胞及びナチュラルキラー細胞が含まれる。
【0072】
一実施形態では、細胞は、マウス胚由来脂肪前駆細胞(APC)などの脂肪組織から得られた幹細胞である。
【0073】
幹細胞は、凝集していない単一若しくは別個の幹細胞であり得るか、又は幹細胞スフェロイド、例えば、幹細胞由来スフェロイドなど、凝集していてもよい。
【0074】
細胞スフェロイドとは、細胞外マトリックスによって一緒に連結された多細胞細胞凝集体、この場合、ナノ構造セルロースマトリックスによって一緒に連結された多細胞細胞凝集体を指す。スフェロイドは、動的な細胞-細胞相互作用及び細胞-マトリックス相互作用のために、別個の細胞として存在する単一の細胞よりも複雑であり、これにより、インビトロでインビボ組織微小環境を模倣するための重要なツールとなる。細胞スフェロイドは、マトリックス材料内で細胞を培養又はインキュベートして、多細胞凝集体又はスフェロイドを含有する三次元細胞培養系を形成することによって形成され得る。ナノフィブリル状セルロースをマトリックス材料として使用した場合、培養又はインキュベーションの3日後に、細胞スフェロイドを既に得ることができた。一般に、細胞スフェロイドの直径は、様々であり得、数十マイクロメートルからミリメートルを超える範囲内であり得る。しかし、本明細書では、培養及びマトリックス形成の材料及び条件を制御及び調整することによって、細胞由来産物の産生目的に適した制御された直径を有する細胞スフェロイドを得ることができた。細胞は、第1の培地中の別個の培養物中で前培養され得、次いで、それらは、ナノ構造セルロース、例えば、ナノフィブリル状セルロース内で、例えば、第1の区画内で凝集体に形成され、及び/又は細胞凝集体は、第1の区画内のナノ構造セルロース内で維持される。
【0075】
細胞由来産物の産生プロセスでは、フィブリル状セルロースネットワークによって安定化された多細胞凝集体は、細胞の活性、増殖及び分化を促進した。ナノ構造セルロースマトリックスは、そのような細胞凝集体のための最適条件を作り出した。本明細書に開示される方法で形成される細胞凝集体は、細胞スフェロイドの形態であってよいか、又は細胞凝集体は細胞スフェロイドを形成してもよい。
【0076】
本出願は、細胞由来産物を産生するために使用され得る細胞組成物を調製する方法であって、
細胞が細胞凝集体を形成することを可能にする条件で真核細胞を培養すること、
ナノ構造セルロースヒドロゲル中に細胞凝集体を提供すること、及び/又は細胞凝集体をナノ構造セルロースヒドロゲルと組み合わせて、ナノ構造セルロースヒドロゲル中に真核細胞を含む細胞組成物又は混合物などの細胞系を得ること、を含む方法を開示する。
細胞系は、第1の区画内に形成されてもよく、及び/又は配置されてもよい。
【0077】
該方法は、細胞を合体させる条件で細胞を培養することを含み得る。条件は、凝集体の合体及び/又は形成を可能にするのに適した時間を含む。条件は、液体培地及び/又はゲル培地などの好適な培養培地を含み得る。培養は、培養皿若しくはプレート内で、又はマルチウェルマイクロプレート内で行われ得る。細胞は、液体培養培地を好ましくは含有するナノフィブリル状セルロースヒドロゲルなどのナノ構造セルロースヒドロゲル中で培養され得る。ナノ構造セルロースヒドロゲルを使用すると、所望のサイズの細胞スフェロイドを得ることが容易になり得る。ヒドロゲルの濃度は、NFCなどのナノ構造セルロースゲルマトリックス材料の濃度が高すぎると、特に多能性幹細胞などの幹細胞によってスフェロイド形成が妨げられる可能性があるため、高すぎてはならない。ヒドロゲルの好適な濃度は、使用されるナノ構造セルロースの種類、及び/又は所望の細胞由来産物に依存し得、0.1~8%(w/w)、例えば、0.2~6%(w/w)の範囲内であり得る。好ましくは、ヒドロゲルの濃度は、ナノフィブリル状セルロースについては3%(w/w)以下、又は2.5%(w/w)以下である。例では、細胞は、約1%(w/w)のNFCヒドロゲル中、約1.5%(w/w)のNFCヒドロゲル中、又は約2%(w/w)のNFCヒドロゲル中で培養される。特定の細胞型は、最適な培養条件として、0.1~0.8%(w/w)などの低いヒドロゲル濃度を好む。例えば、MSCは、0.2~0.5%(w/w)のヒドロゲルに埋め込まれた状態で培養され得る。ナノ結晶セルロースが使用される場合、濃度は、さらに高くてもよく、5%まで、6%まで、7%まで、又は8%までであり得る。
【0078】
該方法は、0.1~3%(w/w)、0.2~2.2%(w/w)、0.1~2%、0.2~2%(w/w)、例えば、0.1~0.8%(w/w)、若しくは0.8~3%(w/w)、1.3~2.2%(w/w)、0.8~2%、1~2%(w/w)、例えば、0.8~1.5%(w/w)、又は約1%(w/w)、約1.5%(w/w)若しくは約2%(w/w)の範囲内の濃度を有するナノフィブリル状セルロースヒドロゲル中で真核細胞を培養することを含み得る。細胞は、1×105細胞/ml~1×107細胞/mlの密度、例えば、1×106~5×106細胞/mlの密度で細胞培養物に播種又は提供され得る。同じ濃度が、幹細胞であってもなくてもよい単一又は別個の細胞にも使用され得、ナノ結晶セルロースが使用される場合にも使用され得る。
【0079】
細胞スフェロイドであり得る細胞凝集体は、80~700μmの範囲内、例えば、80~300μmの範囲内の平均直径を有し得る。直径は、数平均直径であってよい。約2%(w/w)の濃度を有するNFC中で培養された及び/又はNFCと組み合わされたものなど、NFCを用いて生成された細胞スフェロイドは、さらに低い濃度のNFC内で生成された細胞スフェロイドよりも、80~250μmの範囲内など、さらに小さい平均直径を有したように思われる。直径も維持することができた。これは、エクスビボ及びインビボで細胞の生存率を増加させ得、効率的で生存可能な細胞調製物及び細胞由来産物を提供することを可能にする。形成された又は形成しつつある細胞スフェロイドの直径を調整すること、例えば、EDTA溶液又は同様の錯化試薬を添加することによって細胞の直径を減少させることも可能である。
【0080】
該方法はまた、細胞由来産物を培養及び/又は産生するためのものであり得るナノフィブリル状セルロースヒドロゲルなどのナノ構造セルロースヒドロゲルを提供することを含み得る。細胞凝集体は、ヒドロゲル中に提供されてもよく、及び/又はヒドロゲルと組み合わされてもよい。ヒドロゲルは、細胞及びヒドロゲルの均一な分布を得るために、並びに細胞又は細胞スフェロイドの破壊を回避するために、並びに気泡形成を回避するために、好ましくはピペットチップ又は同様のツールを用いて穏やかに混合することによって混合され得る。
【0081】
形成された細胞凝集体は、多細胞凝集体であり、本明細書では細胞スフェロイドと呼ばれる。培養は、少なくとも3日間、例えば、3~14日間、又は3~7日間行われ得る。特に、該方法は幹細胞に適している。凝集体の形成後、細胞を採取し、好適な培地若しくは緩衝液を用いて洗浄し、及び/又は先に開示されたように6~8の範囲内のpHを有する緩衝液若しくは培地などの好適な培地若しくは緩衝液に懸濁してもよい。この後、細胞凝集体をNFCヒドロゲルに移してもよい。NFCヒドロゲルは、細胞凝集体間に間質マトリックスを形成し、このマトリックスは構造を強化し、細胞を固定するが、マトリックスを通る作用物質の流れを可能にし、これにより、例えば、細胞シグナル伝達、栄養素の流れ、及び他の重要な機能が可能になる。実施形態のマトリックスとは、細胞を取り囲み、組織である、細胞外マトリックスに見られる間質マトリックスと機能的に類似する多孔質三次元格子を形成するマトリックスを指す。マトリックスは、組成物中及び/又は細胞間に均一に分布し得る。マトリックスは、少なくとも6時間、少なくとも12時間、又は少なくとも24時間などの好適な期間にわたって細胞がマトリックス内に存在した後に形成及び/又はさらに発現され得、すなわち、NFCは、細胞と反応してマトリックスを形成し得る。細胞は、ナノ構造セルロースヒドロゲル中で数日間又はさらには数週間にわたって保存及び/又はインキュベートされ得る。
【0082】
化学的に改質されていないか、又は化学的に改質された、特にアニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースは、細胞スフェロイドの形成を促進し、それらを安定化することが見出された。細胞スフェロイドは、細胞由来産物の産生に使用することができる。特に幹細胞スフェロイドとともに使用されるNFCヒドロゲルは、細胞がさらに凝集するのを減少させ、バイオリアクタ内での培養及び産生中に細胞を剪断力から隔離した。細胞が別個に存在する、すなわち、凝集していない場合にも、同じ効果が存在する。
【0083】
ヒドロゲルの光学特性のために、細胞及び細胞スフェロイドは、ナノ構造セルロースヒドロゲル中で視覚的に、例えば、顕微鏡的に試験され得る。マトリックスが分子物質の流れを可能にすることから、細胞がヒドロゲルマトリックス内にある間に他の試験を行うこともできる。細胞又は細胞スフェロイドは、ヒドロゲルを酵素的に分解することによって、例えば、1又は複数のセルラーゼ酵素を使用することによって、ヒドロゲルから放出され得る。
【0084】
細胞由来産物
細胞由来産物は、いずれかの適用可能な細胞由来産物、例えば、本明細書で説明されるもののうちの1又は複数であり得る。細胞由来産物は、細胞によって排出及び/若しくは分泌され、並びに/又は細胞から放出されるなど、細胞に由来するいずれかの産物であり得る。細胞は、細胞由来産物ではない。細胞由来産物は、好ましくは生物活性物質であり、生物活性物質は、一般に「生物製剤」と呼ばれ得るため、本明細書で使用される細胞由来産物及び生物製剤は互換的な用語である。そのような物質の生物活性を維持することが望ましい。
【0085】
細胞由来産物は、細胞外小胞などの小胞であり得るか、又はそれらを含み得る。一実施形態では、細胞由来産物はエキソソームであるか、又はエキソソームを含み、好ましくは、細胞は哺乳動物細胞である。細胞由来産物はまた、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸、抗体、ホルモン、他の適用可能な分子、例えば、組換え分子、及び/若しくはウイルス若しくはその一部などの(巨大)分子であり得るか、又はそれらを含み得る。細胞由来産物は、セクレトームであり得るか、又はセクレトームを含み得、セクレトームとは、1つの定義によれば、生物によって発現され、細胞外空間に分泌される一連のタンパク質である。
【0086】
本発明の細胞由来産物は、1000nm以下、800nm以下又は500nm以下の数平均直径、例えば、5~1000nm、例えば、20~1000nm、又は20~500nm、若しくはそれ以下の範囲内の数平均直径を有し得、比較的狭いサイズ分布を有し得る。本発明の細胞由来産物は、細胞外小胞と、本明細書で言及されるもののうちの1又は複数などのさらに小さな物質及び/又は分子とを含み得る。
【0087】
一例では、細胞由来産物は、ウイルス、その一部、ウイルス様粒子、ウイルス産物及び/若しくはウイルスベクターを含むか、又はそれらである。これらは、例えば、ワクチンの製造、又は遺伝子療法に使用され得る。そのような場合、細胞は、ウイルスの宿主細胞である。
【0088】
細胞由来産物は、分子及び/若しくは細胞外小胞などの生物活性物質であり得るか、又はそれらを含み得る。
【0089】
一例では、細胞由来産物は、タンパク質、例えば、治療用タンパク質、例えば、抗炎症性サイトカイン及び他の分子、インスリン、ホルモンなどを含むか、又はそれらである。
【0090】
一例では、細胞由来産物は、抗体であるか、又は抗体を含む。そのような場合、該方法は、抗体を産生、分離及び/又は回収する方法であり得る。特に実体の上部の細胞を培養することによって、抗体を産生するためにナノ構造セルロース実体を使用することが望ましい場合があり、そのため、細胞が増殖するために利用可能な表面がさらに多くなる。これは、本明細書に開示される他の細胞由来産物の産生にも適用され得る。
【0091】
赤血球、白血球及び/又は血小板などの血球は、細胞産物から除外されてもよく、細胞由来産物とみなされなくてもよい。既に最小の血球である血小板(栓球)は、2~3μmの最大直径を有し、赤血球及び白血球はさらに大きい。しかし、これらが先に説明された細胞由来産物よりも顕著に大きいとしても、場合によっては、血球を抽出するためにも本発明の材料及び方法を使用することが可能であり得る。
【0092】
細胞由来産物のサイズは、ナノ構造セルロース又は他の材料における移動速度及び効率に影響を及ぼし得る。例えば、小胞、ウイルス及び同様の実体は、例えば、特定の巨大分子よりも大きく、脂質単層若しくは脂質二重層を含有する実体として、それらは脆弱であり得るか、又はマトリックス材料がそのような細胞由来産物の移動及び維持に実質的な影響を及ぼし得るような動的構造であり得る。したがって、ナノ構造セルロース実体の表面上の、及び/若しくは実体に埋め込まれたそのような細胞由来産物のために細胞を培養すること、並びに/又は細胞由来産物の移動を可能にするそのような種類のナノ構造セルロースを使用することが望ましい場合がある。
【0093】
ナノフィブリル状セルロース
ナノ構造セルロースは、ナノフィブリル状セルロースを含み得るか、又はナノフィブリル状セルロースであり得る。ナノフィブリル状セルロースは、例えば、高アスペクト比及び/又は保存されたフィブリルが望ましい場合、特定の使用にとって好ましい場合がある。これらは、例えば、材料の構造及びレオロジー特性、並びに細胞と相互作用し、所望の細胞産物を産生し、その放出を促進する能力に影響を及ぼす。
【0094】
好ましくは、NFCヒドロゲルの濃度は、3%(w/w)以下、又は2.5%(w/w)以下である。例では、細胞は、約1%(w/w)のNFCヒドロゲル中、約1.5%(w/w)のNFCヒドロゲル中、又は約2%(w/w)のNFCヒドロゲル中でインキュベートされる。該方法は、0.5~3%(w/w)、1~3%(w/w)、0.5~2.5%(w/w)、1~2.2%(w/w)、0.6~2%、1~2%(w/w)、例えば、0.6~1.5%(w/w)、又は約1%(w/w)、約1.5%(w/w)若しくは約2%(w/w)の範囲内の濃度を有するナノフィブリル状セルロースヒドロゲル中で細胞をインキュベートすることを含み得る。細胞は、1×105細胞/ml~1×107細胞/mlの密度、例えば、1×106~5×106細胞/mlの密度で細胞系に播種又は提供され得る。ヒドロゲルの粘度は、0.2%(w/w)未満、0.5%(w/w)未満又は0.8%(w/w)未満の濃度では低すぎる可能性があることから、濃度を低くすべきではないことが分かった。一方、ヒドロゲルマトリックス内及び/若しくはヒドロゲルマトリックスからの物質の流れが減少し得るか、又は遮断さえされ得るため、濃度は、5%(w/w)超、又は3%(w/w)超、又は2.5%(w/w)超など、高すぎてはならない。既に2%(w/w)超又は2.5%(w/w)超の濃度では、ヒドロゲルの細孔径は100nm未満など低すぎる傾向があり、ヒドロゲルは剛性が高すぎる可能性があり、これにより、細胞由来産物、特に小胞などの比較的大きな細胞産物の捕捉が引き起こされる可能性がある。したがって、高すぎる濃度及び高すぎる剛性又は高密度のヒドロゲルは、細胞由来産物の移動及び/又は細胞培養培地の流れを妨げる可能性がある。
【0095】
上記濃度は、本明細書で説明されるように、実質的に均質及び/若しくは連続的なヒドロゲルとして存在し得るヒドロゲル形態のNFC、又は別個の実体に形成されたNFCに適用される。ただし、別個の実体では、最大3%(w/w)、5%(w/w)又はさらには最大8%(w/w)などのさらに高い濃度が使用され得る。そのようなさらに高い濃度は、実体の表面上、又は表面のすぐ下で細胞をインキュベートすることを容易にし得、それにより、実体への、及び実体から周囲培地への物質の移動が容易になり得る。例えば、大きな細胞由来産物の移動が促進され得、その結果、細胞由来産物の産生及び回収が増強され得る。
【0096】
ナノフィブリル状セルロースは、所望の特性及び効果が得られるように、十分なフィブリル化度を有するべきである。一実施形態では、ナノフィブリル状セルロースは、1~200nmの範囲内のフィブリル及び/又はフィブリル束の数平均直径を有する。ナノフィブリル状セルロースは、粘度及び/又は降伏応力などのレオロジー特性によってさらに特徴付けられ得る。
【0097】
一実施形態では、ナノフィブリル状セルロースセルロースは、水に分散した場合、22±1℃の水性培地中で0.5重量%の稠度で回転レオメータにより決定される、100~50000Pa・sの範囲内、例えば、300~8000Pa・sの範囲内のゼロ剪断粘度と、1~50Paの範囲内、例えば、2~15Paの範囲内の降伏応力とを提供する。そのような材料は、そのような程度までフィブリル化され、細胞培養、インキュベーション、及び細胞由来産物の産生を特に促進するような特性を有する。特に、300~8000Pa・sの範囲内のゼロ剪断粘度と、2~15Paの範囲内の降伏応力とが、本発明のバイオリアクタ用途に特に適している。例えば、細胞由来産物は、細胞からヒドロゲル中に、及びヒドロゲルから培地中に拡散することができ、その結果、それらを効率的に分離及び回収することができた。特に有利な実施形態では、ナノフィブリル状セルロースは、2~100nm、例えば、2~50nm、2~20nm、又は10~50nmの範囲内の数平均直径を有するセルロースフィブリル及び/又はフィブリル束を含み、ナノフィブリル状セルロースは、水に分散した場合、22±1℃の水性培地中で0.5重量%の稠度で回転レオメータにより決定される、1~50Paの範囲内、例えば、2~15Paの範囲内の降伏応力を提供する。
【0098】
ナノフィブリル状セルロースは、バイオリアクタ内及び/若しくは第1の区画内、並びに/又はヒドロゲル中及び/又は実体内の唯一のマトリックス材料、例えば、唯一のポリマー材料及び/又は唯一のセルロース系材料であり得る。ただし、NFCに加えて他のポリマー材料、例えば、ナノ結晶セルロース、ヒアルロナン、ヒアルロン酸及びその誘導体、ペプチド系材料、タンパク質、他の多糖類、例えば、アルギネート又はポリエチレングリコールを含むことも可能である。ナノフィブリル状セルロースが構造安定性を提供する、半相互浸透性ネットワーク(半IPN)を形成する組成物を得てもよい。乾燥重量としての組成物全体中の他のポリマー材料の含有量は、20~80%(w/w)、例えば、40~60%(w/w)、又は10~30%(w/w)、又は10~20%(w/w)の範囲内であり得る。
【0099】
ヒドロゲルを形成するための出発材料は、ナノセルロースとも呼ばれるナノフィブリル状セルロースであってよく、ナノフィブリル状セルロースとは、セルロース原料に由来する単離されたセルロースフィブリル及び/又はフィブリル束を指す。ナノフィブリル状セルロースは、自然界に豊富に存在する天然ポリマーに基づく。ナノフィブリル状セルロースは、水中で粘性ヒドロゲルを形成する能力を有する。ナノフィブリル状セルロース生成技術は、繊維状原料の崩壊、例えば、ナノフィブリル化セルロースを得るためのパルプ繊維の水性分散液の粉砕に基づき得る。粉砕又は均質化プロセスの後、得られたナノフィブリル状セルロース材料は、希薄粘弾性ヒドロゲルである。
【0100】
得られた材料は、通常、崩壊条件に起因して水中に均一に分布して比較的低濃度で存在する。出発材料は、0.2~10%(w/w)、例えば、0.2~5%(w/w)の濃度の水性ゲルであり得る。ナノフィブリル状セルロースは、セルロース繊維などの繊維状原料の崩壊から直接得られ得る。市販のナノフィブリル状セルロースヒドロゲルの例には、UPMによるGrowDex(登録商標)変種が挙げられる。
【0101】
ナノフィブリル状セルロースは、そのナノスケール構造のために、従来の非ナノフィブリル状セルロース、又は例えば、合成繊維若しくは合成フィブリルが提供することができない機能性を可能にする固有の特性を有する。従来の生成品、又は従来のセルロース系材料若しくは他のポリマー材料を使用した生成品とは異なる特性を示す材料及び生成品を調製することが可能である。ただし、ナノスケール構造のために、ナノフィブリル状セルロースも困難な材料である。例えば、ナノフィブリル状セルロースの脱水又は取扱いは困難である場合がある。
【0102】
ナノフィブリル状セルロースは、植物起源のセルロース原料から調製され得るか、又は特定の細菌発酵プロセスに由来し得る。ナノフィブリル状セルロースは、植物材料から作製されることが好ましい。ナノフィブリル状セルロースは、セルロース繊維の機械的崩壊によって植物から得られることが好ましい。原料は、セルロースを含有するいずれかの植物材料に基づいてもよい。一例では、フィブリルは、非実質植物材料から得られる。そのような場合、フィブリルは、二次細胞壁から得られ得る。そのようなセルロースフィブリルの豊富な供給源の1つは、木材繊維である。ナノフィブリル状セルロースは、化学パルプであってよい、木材由来の繊維状原料を均質化することによって製造されてもよい。セルロース繊維は崩壊して、ほとんどの場合200nm以下である、平均直径わずか数nmのフィブリルを生成し、水中にフィブリルを分散させる。二次細胞壁に由来するフィブリルは、本質的に結晶性であり、少なくとも55%の結晶化度を有する。そのようなフィブリルは、一次細胞壁に由来するフィブリルとは異なる特性を有し得る。例えば、二次細胞壁に由来するフィブリルの脱水の方が困難である場合がある。一般に、一次細胞壁由来のセルロース源、例えば、サトウダイコン、ジャガイモ塊茎及びバナナ花軸では、ミクロフィブリルは木材由来のフィブリルよりも繊維マトリックスから遊離させるのが容易であり、崩壊に必要なエネルギーは少ない。しかし、これらの材料は依然として幾分不均一であり、主に大きなフィブリル束からなる。
【0103】
非木材材料は、農業残渣、草又は他の植物物質、例えば、わら、葉、樹皮、種子、外皮、花、綿由来の野菜若しくは果実、トウモロコシ、小麦、オート麦、ライ麦、大麦、米、亜麻、麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、ラミー、ケナフ、バガス、竹又は筬由来であってよい。セルロース原料はまた、セルロース産生微生物に由来し得る。微生物は、アセトバクター(Acetobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属又はアルカリゲネス(Alcaligenes)属、好ましくはアセトバクター(Acetobacter)属、さらに好ましくはアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinumor)種又はアセトバクター・パスツリアナス(Acetobacter pasteurianus)種であり得る。
【0104】
植物セルロース、特に木材セルロースから得られたナノフィブリル状セルロースは、本明細書に記載のライフサイエンス製品、医薬製品又は科学製品に好ましいことが分かった。木材セルロースは大量に入手可能であり、木材セルロースのために開発された調製方法は、そのような製品に適したナノフィブリル状材料をさらに生成することを可能にする。植物繊維、特に木材繊維をフィブリル化することによって得られるナノフィブリル状セルロースは、微生物から得られるナノフィブリル状セルロースとは構造的に異なり、異なる特性を有する。例えば、細菌セルロースと比較して、ナノフィブリル化木材セルロースは均質であり、多孔度が高く緩い材料であり、これは、生細胞を伴う用途では有利である。細菌セルロースは、植物セルロースと同様のフィブリル化を伴わずに通常そのまま使用されるため、この点でも材料が異なる。細菌セルロースは、小さいスフェロイドを形成しやすい高密度の材料であるため、材料の構造が不連続であり、特に材料の均質性が求められる場合には、このような材料を生細胞に関する用途に使用することは望ましくない。
【0105】
植物材料由来のナノフィブリル状セルロースは、セルロース繊維をフィブリル及び/又はフィブリル束に崩壊させることを必要とし、これにより、フィブリル化プロセスと、得られたフィブリル化セルロース材料の特性とを制御することが可能になる。崩壊プロセスの前にセルロースを改質し、例えば、好適な装置、好適なプロセス条件及び時間、並びに他の関連パラメータを選択することによって崩壊の種類及び効率を制御して、フィブリル化度、アスペクト比、及び改質の種類などの所望の特性を有するナノフィブリル状セルロースを得ることが可能である。これは、通常既にフィブリル状形態として存在する細菌ナノセルロースでは不可能である。植物セルロースはまた、細胞由来産物が調製され、妨害物質又は汚染物質を伴わず産生を制御することが望ましい本発明の方法にとって好ましい。植物セルロースを使用する場合、細菌起源の物質が存在するリスクはない。
【0106】
木材は、スプルース、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスモミ若しくはツガなどの針葉樹由来、又はカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、オーク、ブナ若しくはアカシアなどの広葉樹由来、又は針葉樹と広葉樹との混合物由来であり得る。一例では、ナノフィブリル状セルロースは、木材パルプから得られる。ナノフィブリル状セルロースは、広葉樹パルプから得られ得る。一例では、広葉樹はカバノキである。ナノフィブリル状セルロースは、針葉樹パルプから得られ得る。一例では、上記木材パルプは化学パルプである。化学パルプは、本明細書に開示される生成品に望ましい場合がある。化学パルプは、純粋な材料であり、多種多様な用途に使用され得る。例えば、化学パルプは、機械パルプ中に存在する松脂及び樹脂酸を含まず、滅菌性が高いか又は容易に滅菌可能である。さらに、化学パルプはさらに柔軟であり、例えば、医療材料及び科学材料では有利な特性を提供する。例えば、非常に均質なナノフィブリル状セルロース材料は、過剰に処理することなく、又は特定の装置若しくは面倒なプロセス工程を必要とせずに調製され得る。
【0107】
セルロースフィブリル及び/又はフィブリル束を含むナノフィブリル状セルロースは、高アスペクト比(長さ/直径)を特徴とする。ナノフィブリル状セルロースの平均長さ(フィブリル及び/又はフィブリル束などの粒子の長さの中央値)は、1μm超であり得、ほとんどの場合、50μm以下である。基本フィブリルが互いに完全に分離されていない場合、フィブリル束などの絡み合ったフィブリルは、例えば、1~100μm、1~50μm、又は1~20μmの範囲内の平均全長を有し得る。これは、例えば、化学的、酵素的又は機械的に短縮又は消化されない天然グレードのフィブリルに特に当てはまる。ただし、ナノフィブリル状材料が高度にフィブリル化されている場合、基本フィブリルは完全に又はほぼ完全に分離されている場合があり、平均フィブリル長はさらに短く、例えば、1~10μm、又は1~5μmの範囲内である。強力に誘導体化されたナノフィブリル状セルロースは、例えば、0.3~50μm、例えば、0.3~20μm、例えば、0.5~10μm、又は1~10μmの範囲内のさらに短い平均フィブリル長を有し得る。特に短縮されたフィブリル、例えば、酵素的若しくは化学的に消化されたフィブリル、又は機械的に処理された材料は、1μm未満、例えば、0.1~1μm、0.2~0.8μm、又は0.4~0.6μmの平均フィブリル長を有し得る。フィブリル長及び/又は直径は、例えば、CRYO-TEM画像、SEM画像又はAFM画像を使用して顕微鏡によって推定され得る。好適な撮像ソフトウェアが使用され得る。高アスペクト比が望まれる場合、フィブリル長を短縮することは望ましくないため、化学的若しくは酵素的に消化されたセルロース、又はフィブリルが既に短縮されているような高度に機械的にフィブリル化された材料を使用することは望ましくない場合がある。低アスペクト比は、通常、NFC分散液の粘度の低下として検出することができる。
【0108】
本明細書に開示される平均長さ及び/又は直径は、NFCに関してだけでなく、本明細書で説明される他の粒子、実体、細胞、凝集体などに関しても、数平均長さ及び/又は直径であり得る。これらの寸法は、本明細書で説明されるように、顕微鏡によって決定され得る。用語「フィブリル」は、適用可能な場合、フィブリル束も含む。機械的に崩壊させられたセルロース系材料は、基本フィブリルに完全には分離されておらず、依然としてフィブリル束の形態である少なくとも少量のセルロースを含有し得る。
【0109】
ナノフィブリル状セルロースの平均直径(幅)は、1μm未満、又は500nm以下、例えば、1~500nmの範囲内であるが、好ましくは200nm以下、さらには100nm以下、又は50nm以下、例えば、高度にフィブリル化された材料では1~200nm、2~200nm、2~100nm、又は2~50nm、さらには2~20の範囲内である。本明細書に開示される直径とは、フィブリル及び/又はフィブリル束を指す。最小フィブリルは、基本フィブリルの規模であり、平均直径は、典型的には4~12nmの範囲内である。フィブリルの寸法及びサイズ分布は、精製方法及び効率に依存する。高度に精製された天然ナノフィブリル状セルロースの場合、平均フィブリル及び/又はフィブリル束直径は、2~200nm、又は2~100nmの範囲内、例えば、10~50nmの範囲内であり得る。ナノフィブリル状セルロースは、大きな比表面積と、水素結合を形成する強力な能力とを特徴とする。水分散液中では、ナノフィブリル状セルロースは、軽い又は濁ったゲル状材料として典型的に現れる。繊維原料に応じて、植物、特に木材から得られたナノフィブリル状セルロースは、少量の他の植物成分、特にヘミセルロース又はリグニンなどの木材成分も含有し得る。量は植物源に依存する。
【0110】
一般に、セルロースナノ材料は、セルロースナノ材料の標準用語を提供するTAPPI W13021に従ってカテゴリに分類され得る。これらの材料のいずれもがナノフィブリル状セルロースであるわけではない。2つの主なカテゴリは、「ナノ物体」及び「ナノ構造材料」である。ナノ構造材料には、10~12μmの直径と、長さ:直径比(L/D)<2とを有する「セルロース微結晶」(CMCと呼ばれることもある)、及び10~100nmの直径と、0.5~50μmの長さとを有する「セルロースミクロフィブリル」が含まれる。ナノ物体には、3~10nmの直径及びL/D>5を有する「セルロースナノ結晶」(CNC)と、5~30nmの直径及びL/D>50を有する「セルロースナノフィブリル」(CNF又はNFC)とに分けられ得る「セルロースナノファイバ」が含まれる。
【0111】
様々なグレードのナノフィブリル状セルロースは、3つの主な特性、すなわち、(i)サイズ分布、長さ及び/又は直径(ii)化学組成、並びに(iii)レオロジー特性に基づいて分類され得る。グレードを十分に表すために、2つ以上の特性を並行して使用してもよい。様々なグレードの例には、天然(化学的及び/又は酵素的に改質されていない)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC及びカチオン化NFCが挙げられる。これらの主なグレード内には、例えば、極めて良好なフィブリル化対中程度のフィブリル化、高置換度対低置換度、低粘度対高粘度などのサブグレードも存在する。フィブリル化技術及び化学的前改質は、フィブリルのサイズ分布に影響を及ぼす。典型的には、非イオン性グレードの方が広い平均フィブリル及び/又はフィブリル束直径(例えば、10~100nm、又は10~50nmの範囲内)を有し、化学的に改質されたグレードの方がはるかに薄い(例えば、2~20nmの範囲内)。改質されたグレードの方が分布も狭い。特定の改質、特にTEMPO酸化は、さらに短いフィブリルを生じる。
【0112】
化学的誘導体化プロセスでは、セルロースの所望の置換度を得ることができる。これは、化学的誘導体化プロセスを制御することによって、例えば、好適な原料、反応条件、装置、反応時間、試薬及び/又は同様の特性を選択することによって行われ得る。例えば、TEMPO又はN-オキシル媒介酸化は、300~1500マイクロモル/g、好ましくは600~1200マイクロモル/g、最も好ましくは700~1100マイクロモル/gの電荷値まで典型的に行われる。酸化NFCは、典型的には0~250マイクロモル/gのアルデヒド官能基も含有し得る。カルボキシメチル化を介した誘導体化は、フィブリル化の前に、0.05~0.3、好ましくは0.08~0.25、最も好ましくは0.10~0.2のdsレベルまでセルロースパルプに対して典型的に行われる。誘導体化がカチオン化によって行われる場合、DSレベルは、典型的には0.05~0.4、好ましくは0.15~0.3である。
【0113】
原料源、例えば、広葉樹パルプ及び針葉樹パルプに応じて、最終的なナノフィブリル状セルロース生成品には異なる多糖組成が存在する。一般に、非イオン性グレードは、高いキシレン含有量(25重量%)をもたらす漂白されたカバノキパルプから調製される。改質されたグレードは、広葉樹パルプ又は針葉樹パルプのいずれかから調製される。これらの改質されたグレードでは、ヘミセルロースもセルロースドメインとともに改質される。ほぼ確実に、改質は均一ではなく、すなわち、一部の部分が他の部分よりも改質されている可能性がある。したがって、改質された生成品は異なる多糖構造の複雑な混合物であるため、詳細な化学分析は通常不可能である。
【0114】
水性環境では、セルロースナノフィブリルの分散液が粘弾性ヒドロゲルネットワークを形成する。ゲルは、分散及び水和した絡み合ったフィブリルによって、例えば、0.05~0.2%(w/w)という比較的低濃度で既に形成されている。NFCヒドロゲルの粘弾性は、例えば、動的振動レオロジー測定によって特性評価され得る。一般に、レオロジー測定は、水分散液中の特定の濃度のNFCなどの標準的な条件で行われる。測定のために、脱イオン水及び/又は蒸留水などの純水を用いて濃度を調整することによって、NFC試料を調製してもよい。
【0115】
ナノフィブリル状セルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。例えば、それらは、チキソトロピー挙動の特別な場合と考えられ得る剪断減粘性又は擬塑性材料であり、これは、それらの粘度が材料が変形される速度又は力に依存することを意味する。回転レオメータで粘度を測定する場合、剪断減粘性挙動は、剪断速度の増加に伴う粘度の減少として見られる。ヒドロゲルは塑性挙動を示し、これは、材料が容易に流動し始める前に特定の剪断応力(力)が必要であることを意味する。この臨界剪断応力は、降伏応力と呼ばれることが多い。降伏応力は、応力制御レオメータを用いて測定された定常状態流動曲線から決定され得る。加えられた剪断応力の関数として粘度をプロットすると、臨界剪断応力を超えた後に粘度の劇的な低下が見られる。ゼロ剪断粘度及び降伏応力は、材料の懸濁力を表すための最も重要なレオロジーパラメータである。これらの2つのパラメータは、様々なグレードを非常に明確に分離し、したがって、グレードの分類を可能にする。
【0116】
フィブリル及び/又はフィブリル束の寸法、並びにナノフィブリル状セルロースの他の特性は、例えば、原料、崩壊方法、及び崩壊の実行回数に依存する。セルロース原料の機械的崩壊は、リファイナ、グラインダ、分散機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦グラインダ、ピンミル、ロータ-ロータ分散機、超音波ソニケータ、フリューダイザ、例えば、マイクロフリューダイザ、マクロフリューダイザ又はフリューダイザ型ホモジナイザなどのいずれかの好適な装置を用いて行われ得る。崩壊処理は、水が繊維間の結合形成を防止するのに十分に存在する条件で行われる。
【0117】
一例では、崩壊は、少なくとも1つのロータ、ブレード、又は少なくとも2つのロータを有するロータ-ロータ分散機などの同様の移動機械部材を有する分散機を使用して行われる。分散機では、分散液中の繊維材料は、ブレードが反対方向の半径(回転軸までの距離)によって決定される回転速度及び周速度で回転する際に、反対方向から衝突するロータのブレード又はリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向の外側に移送されるため、反対方向から高い周速度で次々に到来するブレードの広い表面、すなわち、リブに衝突する。言い換えれば、繊維材料は、反対方向からの複数の連続する衝撃を受ける。また、ブレードの広い表面の縁部、すなわち、リブでは、縁部が次のロータブレードの反対側の縁部とブレードギャップを形成し、剪断力が発生し、これが繊維の崩壊とフィブリルの剥離とに寄与する。衝撃の頻度は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータのブレードの数、及び装置を通る分散液の流量によって決定される。
【0118】
ロータ-ロータ分散機では、繊維材料は、材料が様々な逆回転ロータの効果によって剪断力及び衝撃力に繰り返し供されるように、ロータの回転軸に対して半径方向外側に、逆回転ロータを介して導入され、それによって、同時にフィブリル化される。ロータ-ロータ分散機の一例は、Atrex装置である。
【0119】
崩壊に適した装置の別の例は、マルチペリフェラルピンミルなどのピンミルである。そのような装置の一例は、ハウジング、及び衝突面を備えた、ハウジング内の第1のロータ;第1のロータと同心であり、衝突面を備え、第1のロータとは反対方向に回転するように配置された第2のロータ;又は第1のロータと同心であり、衝突面を備えたステータを含む。装置は、ロータ、又はロータ及びステータの中心に開口する、ハウジング内の供給オリフィスと、最も外側のロータ又はステータの周囲に開口する、ハウジング壁上の排出オリフィスとを含む。
【0120】
一例では、崩壊は、ホモジナイザを使用して行われる。ホモジナイザでは、繊維材料は、圧力の影響によって均質化に供される。ナノフィブリル状セルロースへの繊維材料分散液の均質化は、材料をフィブリルに崩壊させる、分散液の強制的な貫通流によって引き起こされる。繊維材料分散液は、所与の圧力で狭い貫通流ギャップを通過し、ここで分散液の線速度の増加は、分散液に剪断力及び衝撃力を引き起こし、繊維材料からフィブリルを除去する。フィブリル化工程では、繊維断片がフィブリルに崩壊させられる。
【0121】
本明細書で使用される場合、用語「フィブリル化」は、粒子に加えられた仕事によって繊維材料を機械的に崩壊させることを一般に指し、ここで、セルロースフィブリルは、繊維又は繊維断片から剥離される。仕事は、粉砕、破砕若しくは剪断、若しくはこれらの組合せ、又は粒径を減少させる別の対応する作用などの様々な効果に基づき得る。「崩壊」又は「崩壊処理」という表現は、「フィブリル化」と区別なく使用され得る。
【0122】
フィブリル化に供される繊維材料分散液は、繊維材料と水との混合物であり、本明細書では「パルプ」とも呼ばれる。繊維材料分散液とは、繊維全体、繊維から分離された部分(断片)、フィブリル束、又は水と混合されたフィブリルを一般に指し得、典型的には、水性繊維材料分散液は、成分間の比が処理の程度、又は処理段階、例えば、繊維材料の同じバッチの処理の実行回数又は「通過」に依存するこのような要素の混合物である。
【0123】
ナノフィブリル状セルロースを特性評価する1つの方法は、上記ナノフィブリル状セルロースを含有する水溶液又は分散液の粘度を使用することである。粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度又はゼロ剪断粘度であり得る。本明細書に記載の比粘度は、ナノフィブリル状セルロースを非ナノフィブリル状セルロースと区別するために使用され得る。
【0124】
ナノフィブリル状セルロースはまた、平均直径(又は幅)によって、又はゼロ剪断粘度などの粘度とともに平均直径によって特性評価され得る。一例では、本明細書に記載の生成品に使用するのに適したナノフィブリル状セルロースは、1~200nm、又は1~100nmの範囲内の数平均フィブリル直径を有する。一例では、上記ナノフィブリル状セルロースは、1~50nm、例えば、2~20nm、又は5~30nmの範囲内の数平均フィブリル直径を有する。一例では、上記ナノフィブリル状セルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリル状セルロースの場合など、2~15nmの範囲内の数平均フィブリル直径を有する。
【0125】
フィブリルの直径は、顕微鏡法などのいくつかの技術を用いて決定され得る。フィブリルの厚さ及び幅分布は、顕微鏡画像の画像分析、例えば、電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)、極低温透過電子顕微鏡(CRYO-TEM)などの透過電子顕微鏡(TEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)からの画像によって測定され得る。一般に、AFM及びTEM、特にCRYO-TEMは、狭いフィブリル直径分布を有するナノフィブリル状セルロースグレードに最も適している。Cryo-TEM画像から、束構造も見ることができる。
【0126】
フィブリル化度は、比較的大きな、部分的にのみフィブリル化した実体の数を評価する繊維分析を使用することによって評価され得る。例えば、誘導体化ナノフィブリル状セルロースの場合、乾燥試料1mg当たりのこれらの粒子の数は、0~10000の範囲内、例えば、0~5000の範囲内、例えば、0~1000の範囲内であり得る。ただし、非誘導体化NFCでは、非フィブリル化粒子の数/mgは、典型的には、0~20000の範囲内、例えば、0~10000の範囲内、例えば、0~5000の範囲内でいくらかさらに高い。繊維分析は、Fiberlab法を使用して行われ得る。
【0127】
ナノフィブリル状セルロースヒドロゲルの剛性は、ゲルの粘弾性測定から評価され得る。典型的には、pH7、25±1℃又は22±1℃の純水中0.5(重量)%のナノフィブリル状セルロースヒドロゲルの貯蔵弾性率は、1~50Pa、好ましくは2~20Paである。多くの場合、誘導体化NFCは、剛性度が高いヒドロゲルを構築するが、これらのグレードの広範囲なフィブリル化はまた、貯蔵弾性率の低下をもたらし得る。
【0128】
ナノフィブリル状セルロース分散液のレオメータ粘度は、一例によれば、22℃で、30mmの直径を有する円筒形の試料カップ内に狭ギャップ羽根形状(直径28mm、長さ42mm)を備えた応力制御回転レオメータ(AR-G2、TA Instruments,UK)を用いて測定され得る。試料をレオメータに投入した後、測定を開始する前に5分間静置する。剪断応力(印加トルクに比例)を徐々に増加させながら定常状態粘度を測定し、剪断速度(角速度に比例)を測定する。一定の剪断速度に達した後、又は2分の最大時間後に、一定の剪断応力での報告された粘度(=剪断応力/剪断速度)を記録する。1000s-1の剪断速度を超えた場合、測定を停止する。この方法は、ゼロ剪断粘度を決定するために使用され得る。
【0129】
別の例では、20mmプレート形状を備えた応力制御回転レオメータ(AR-G2、TA instruments,UK)を用いて、ヒドロゲル試料のレオロジー測定を行った。希釈せずに1mmのギャップで試料をレオメータに投入した後、測定を開始する前に5分間静置した。25℃で周波数10rad/s、歪み2%で、剪断応力を0.001~100Paの範囲内で徐々に増加させて、応力掃引粘度(stress sweep viscosity)を測定した。貯蔵弾性率、損失弾性率及び降伏応力/破壊強度を決定することができる。
【0130】
一例では、例えば、該方法では出発材料として提供されるナノフィブリル状セルロースは、水に分散した場合、22±1℃の水性培地中で0.5(w/w)重量%の稠度で回転レオメータにより決定される、1000~100000Pa・sの範囲内、例えば、5000~50000Pa・sの範囲内のゼロ剪断粘度(小さな剪断応力で一定の粘度の「プラトー」)と、1~50Paの範囲内、例えば、2~15Paの範囲内の降伏応力(剪断減粘性が始まる剪断応力)とを提供する。そのようなナノフィブリル状セルロースはまた、200nm以下、例えば、1~200nmの範囲内の平均フィブリル直径を有し得る。
【0131】
濁度とは、肉眼では一般に見えない個々の粒子(全懸濁固体又は全溶解固体)によって引き起こされる流体の混濁又は濁りである。濁度を測定するいくつかの実用的な方法が存在し、最も直接的な方法は、光が水の試料カラムを通過する際の光の減衰(すなわち、強度低下)の何らかの指標である。代替的に使用されるJackson Candle法(単位:Jackson Turbidity Unit、すなわちJTU)は、本質的に、それを通して見られるろうそくの炎を完全に隠すのに必要な水のカラムの長さの逆指標である。
【0132】
濁度は、光学濁度測定機器を使用して定量的に測定され得る。濁度を定量的に測定するために利用可能ないくつかの市販の濁度計が存在する。この場合、比濁法に基づく方法が使用される。較正された比濁計からの濁度の単位は、Nephelometric Turbidity Unit(NTU)と呼ばれる。測定装置(濁度計)は、標準的な較正試料を用いて較正及び制御され、続いて、希釈されたNFC試料の濁度を測定する。
【0133】
1つの濁度測定方法では、ナノフィブリル状セルロース試料を、上記ナノフィブリル状セルロースのゲル化点未満の濃度まで水に希釈し、希釈された試料の濁度を測定する。ナノフィブリル状セルロース試料の濁度が測定される上記濃度は0.1%である。濁度測定には、50mlの測定槽を備えたHACH P2100 Turbidometerを使用する。ナノフィブリル状セルロース試料の乾燥物質を決定し、500gまで水道水を満たした測定槽に、乾燥物質として計算した0.5gの試料を投入し、約30秒間振盪することによって激しく混合する。遅滞なく、水性混合物を5つの測定槽に分割し、それらを濁度計に挿入する。各槽について3回の測定を行う。得られた結果から平均値及び標準偏差を計算し、最終結果をNTU単位として与える。
【0134】
ナノフィブリル状セルロースを特性評価する1つの方法は、粘度及び濁度の両方を定義することである。低濁度とは、小さなフィブリルは光をほとんど散乱しないため、フィブリルのサイズが小さいこと、例えば、直径が小さいことを指す。一般に、フィブリル化度が増加すると、粘度が増加し、同時に濁度が低下する。ただし、これはある時点まで起こる。さらにフィブリル化を続けると、最終的にフィブリルが壊れ、短縮し始めるため、これ以上強いネットワークを形成できなくなる。したがって、この時点以降、濁度及び粘度の両方が低下し始める。
【0135】
一例では、アニオン性ナノフィブリル状セルロースの濁度は、水性培地中0.1%(w/w)の稠度で測定し、比濁法によって測定して、90NTU未満、例えば、3~90NTU、例えば、5~60、例えば、8~40である。一例では、天然ナノフィブリル状の濁度は、20℃±1℃で測定し、水性培地中0.1%(w/w)の稠度で測定し、比濁法によって測定して、200NTU超、例えば、10~220NTU、例えば、20~200、例えば、50~200であり得る。ナノフィブリル状セルロースを特性評価するために、これらの範囲は、ナノフィブリル状セルロースの粘度範囲、例えば、ゼロ剪断粘度、貯蔵弾性率及び/又は降伏応力と組み合わされてもよい。
【0136】
ナノフィブリル状セルロースは、非改質ナノフィブリル状セルロースであり得るか、又は非改質ナノフィブリル状セルロースを含み得る。非改質ナノフィブリル状セルロースの排出は、例えば、アニオン性グレードよりも顕著に速い。非改質ナノフィブリル状セルロースは、20℃±1℃、0.8%(w/w)の稠度及び10rpmで測定して、2000~10000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を一般に有する。
【0137】
崩壊した繊維状セルロース系原料は、改質繊維状原料であってよい。改質繊維状原料とは、処理によって繊維が影響を受け、セルロースナノフィブリルが繊維からさらに容易に剥離可能な原料を意味する。改質は、液体中に懸濁液として存在する繊維状セルロース系原料、すなわち、パルプに対して通常行われる。
【0138】
繊維の改質処理は、化学的、酵素的又は物理的であってよい。化学的改質では、セルロース分子の化学構造は化学反応によって変化し(セルロースの「誘導体化」)、好ましくはセルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノース単位に官能基が付加される。セルロースの化学的改質は、反応物の投与量と反応条件とに依存する特定の変換度で起こり、概して、セルロースがフィブリルとして固体形態のままであり、水に溶解しないように完全ではない。物理的改質では、アニオン性、カチオン性若しくは非イオン性物質、又はこれらのいずれかの組合せがセルロース表面に物理的に吸着させられる。
【0139】
繊維内のセルロースは、改質後に特にイオン荷電され得る。セルロースのイオン電荷は、繊維の内部結合を弱め、後にナノフィブリル状セルロースへの崩壊を促進する。イオン電荷は、セルロースの化学的又は物理的改質によって達成され得る。繊維は、出発原料と比較して、改質後にさらに高いアニオン電荷又はカチオン電荷を有し得る。アニオン電荷を生成するために最も一般的に使用される化学的改質方法は、アルデヒド及びカルボキシル基にヒドロキシル基が酸化される酸化、スルホン化(sulphonization)、並びにカルボキシメチル化である。ナノフィブリル状セルロースと生物活性分子との間の共有結合の形成に関与し得るカルボキシル基などの基を導入する化学的改質が望ましい場合がある。カチオン電荷は、第四級アンモニウム基などのカチオン基をセルロースに結合させることによるカチオン化によって化学的に生成され得る。
【0140】
ナノフィブリル状セルロースは、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロース又はカチオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースなどの化学的に改質されたナノフィブリル状セルロースを含み得る。一例では、ナノフィブリル状セルロースは、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースである。一例では、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースは酸化ナノフィブリル状セルロースである。一例では、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースはスルホン化ナノフィブリル状セルロースである。一例では、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースはカルボキシメチル化ナノフィブリル状セルロースである。セルロースのアニオン改質によって得られる材料は、アニオン性セルロースと呼ばれることがあり、アニオン性セルロースとは、非改質材料と比較した場合に、カルボキシル基などのアニオン性基の量又は割合が改質によって増加している材料を指す。カルボキシル基の代わりに、又はそれに加えて、リン酸基又は硫酸基などの他のアニオン性基をセルロースに導入することも可能である。これらの基の含有量は、本明細書中のカルボン酸について開示されるのと同じ範囲内であり得る。
【0141】
ナノフィブリル状セルロースは、伝導度滴定によって決定して、0.6~1.4mmol COOH/gの範囲内、例えば、0.7~1.2mmol COOH/gの範囲内、又は0.7~1.0mmol COOH/g、若しくは0.8~1.2mmol COOH/gの範囲内などの好適なカルボン酸含有量を有することが望ましい場合がある。
【0142】
セルロースは酸化されてもよい。セルロースの酸化では、セルロースの第一級ヒドロキシル基は、複素環式ニトロキシル化合物によって、例えば、N-オキシル媒介触媒酸化、例えば、一般に「TEMPO」と呼ばれる2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカルによって触媒的に酸化され得る。セルロース系β-D-グルコピラノース単位の第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。いくつかのアルデヒド基も、第一級ヒドロキシル基から形成される。酸化度が低いと十分に効率的なフィブリル化が可能にならず、酸化度が高いと機械的破壊処理後のセルロースの分解が損なわれるという知見に関して、セルロースは、伝導度滴定によって決定して0.5~2.0mmol COOH/gパルプ、0.6~1.4mmol COOH/gパルプ、又は0.8~1.2mmol COOH/gパルプの範囲内、好ましくは1.0~1.2mmol COOH/gパルプの、酸化セルロース内のカルボン酸含有量を有するレベルまで酸化され得る。そのように得られた酸化セルロースの繊維が水中で崩壊すると、それらは、例えば、幅が3~5nmであり得る個別化されたセルロースフィブリルの安定した透明分散液をもたらす。酸化パルプを出発培地として用いて、0.8%(w/w)の稠度で測定したブルックフィールド粘度が少なくとも10000mPa・s、例えば、10000~30000mPa・sの範囲内であるナノフィブリル状セルロースを得ることが可能である。
【0143】
触媒「TEMPO」が本開示で言及される場合はいつでも、「TEMPO」が関与するあらゆる指標及び操作が、TEMPOのいずれかの誘導体、又はセルロース内のC6炭素のヒドロキシル基の酸化を選択的に触媒することができるいずれかの複素環式ニトロキシルラジカルに等しくかつ同様に適用されることは明らかである。
【0144】
ナノフィブリル状セルロース分散液には、製造プロセスを向上させるための、又はNFCの、若しくはNFCから形成された生成品の特性を改善若しくは調整するための補助剤が含まれ得る。ナノ結晶セルロースにも同様の作用物質が含まれ得る。そのような補助剤は、分散液の液相に可溶性であってよいか、エマルジョンを形成してもよいか、又は固体であってよい。補助剤は、ナノフィブリル状セルロース分散液の製造中に原料に既に添加されていてもよいか、又は形成されたナノフィブリル状セルロース分散液若しくはゲルに添加されてもよい。補助剤はまた、例えば、含浸、噴霧、浸漬、液漬又は同様の方法によって、NFC生成品、すなわち、実体に添加されてもよい。補助剤は、通常、ナノフィブリル状セルロースに共有結合していないため、ナノセルロースマトリックスから放出可能であり得る。そのような作用物質の制御放出及び/又は持続放出が、マトリックスとしてNFCを使用する場合に得られ得る。補助剤の例には、治療(薬学的)剤、並びにナノフィブリル状セルロースの特性に、又は細胞及び/若しくは細胞産物の特性に影響を及ぼす他の作用物質、例えば、緩衝剤、界面活性剤、可塑剤、乳化剤、生物活性剤などが挙げられる。一例では、分散液は、最終生成品の特性を増強するために添加され得る1又は複数の塩を含有する。塩の例には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化カリウムなどの塩化物塩が挙げられる。塩は、分散液中の乾燥物質の0.01~1.0%(w/w)の範囲内の量で含まれてもよい。NFC生成品を塩化ナトリウムの溶液に、例えば、約0.9%塩化ナトリウムの水溶液に浸漬又は液漬してもよい。NFC生成品中の所望の塩含有量は、湿潤生成品の体積の0.5~1%の範囲内、例えば、約0.9%であり得る。塩、緩衝剤及び同様の作用物質は、生理学的条件を得るために提供され得る。
【0145】
多価カチオンは、ナノフィブリル状セルロースの非共有結合性架橋を得るために含まれ得る。一例は、ナノフィブリル状セルロース、特にアニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースと、例えば、カルシウム、バリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、金、白金及びチタンのカチオンから選択される多価金属カチオンなどの多価カチオンとを含み、ナノフィブリル状セルロースが多価カチオンによって架橋されているナノフィブリル状セルロース品(生成品)を提供する。特にバリウム及びカルシウムは生物医学的用途に有用であり得、特にバリウムは標識に使用され得る。多価カチオンの量は、ヒドロゲルの乾燥含有量から計算して、0.1~3%(w/w)、例えば、0.1~2%(w/w)の範囲内であり得る。
【0146】
一例は、そのようなヒドロゲルを調製する方法を提供し、該方法は、パルプを提供すること、ナノフィブリル状セルロースが得られるまでパルプを崩壊させること、ナノフィブリル状セルロースをヒドロゲルに形成することを含む。
【0147】
ナノフィブリル状セルロースは、所望のフィブリル化度にフィブリル化され得、所望の含水量に調整され得るか、又はそうでなければ本明細書に記載の所望の特性を有するヒドロゲルを形成するように改質され得る。一例では、ヒドロゲル中のナノフィブリル状セルロースは、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースである。
【0148】
本出願で使用されるヒドロゲルは、好ましくは均質である。したがって、ヒドロゲルを調製する方法は、本明細書に記載されるものなどの均質化装置を好ましくは用いて、ナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲルを均質化することを含み得る。この好ましくは非フィブリル化均質化工程により、ゲルから不連続領域を除去することが可能である。本出願のためのさらに良好な特性を有する均質なゲルが得られる。そのような非フィブリル化処理は、得られた材料の特性、例えば、レオロジー特性及び/又は他の特性に影響を及ぼす。ヒドロゲルは、例えば、熱及び/若しくは放射線を使用することによって、並びに/又は抗微生物剤などの滅菌剤を添加することによってさらに滅菌され得る。先に説明されたように得られたヒドロゲルは、実体の形成に使用され得る。
【0149】
本出願は、本明細書に開示されるヒドロゲル又は実体を調製するためのナノフィブリル状セルロースの使用を開示する。ナノフィブリル状セルロースは、本明細書に開示されるいずれかの好適なナノフィブリル状セルロースであり得る。
【0150】
ナノ結晶セルロース
ナノ結晶セルロースは、ナノフィブリル状セルロースとは異なる材料であり、異なる特性及び挙動を有する。ナノ結晶セルロースは、非晶質領域を除去してセルロースの結晶領域を得る酸加水分解によってセルロースから生成される。したがって、ナノ結晶セルロースは、結晶セルロースから実質的になり、セルロースの非晶質領域を欠く。フィブリル長は実質的に短縮される。一方、ナノフィブリル状セルロースは、直線セグメントとしての結晶部分と、フィブリルによじれを提供する非晶質部分とを含む。ナノフィブリル状セルロースは、酸加水分解によってセルロースから生成されない。本明細書で使用されるナノフィブリル状セルロースとはまた、セルロースナノウィスカー若しくは他の棒状粒子、又は例えば、セルロース繊維の表面上の少量としての従来のセルロースパルプ化プロセスで形成された微粒子を含むことを意味しない。
【0151】
ナノ結晶セルロース又はセルロースナノ結晶は、本発明のバイオリアクタ及び方法に使用するのにも好適であり得る。ナノ結晶セルロースは、2~8%(w/w)、例えば、2~6%(w/w)の範囲内の濃度など、ナノフィブリル状セルロースよりも高い濃度で使用され得る。ナノフィブリル状セルロース及びナノ結晶セルロースは、異なる特性を有し得、本発明の使用に異なる機能性を提供し得る。したがって、特定の具体的な用途にこれらの材料のうちの1つを使用することが望ましい場合がある。両材料の特性は、製造中に制御及び調整されてもよく、これにより、特定の目的のために所望の材料を調製することが可能になる。
【0152】
一実施形態では、ナノ構造セルロースは、ナノ結晶セルロースを含むか、又はナノ結晶セルロースである。ナノ結晶セルロースは、2~40nm、例えば、2~20nmの範囲内の数平均フィブリル直径と、100nm以上、最大数マイクロメートル、例えば、100~400nmの範囲内の数平均フィブリル長とを有し得る。通常、材料の10%以下が5μm未満の粒径を有する。ナノ結晶セルロースは、非晶質領域を除去してセルロースの結晶領域を得る酸加水分解によってセルロースから生成され得る。したがって、ナノ結晶セルロースは、結晶セルロースから実質的になり、セルロースの非晶質領域を欠く。一方、ナノフィブリル状セルロースは、直線セグメントとしての結晶部分と、フィブリルによじれを提供する非晶質部分とを含む。両ナノ構造セルロース材料は共通の特徴及び特性を有するが、構造の差のために、2つの材料は、いくつかの異なる特性も示し得る。
【0153】
ナノフィブリル状セルロースに言及する本明細書に開示される実施形態及び例は、ナノ結晶セルロースにも適用され得る。例えば、ヒドロゲル又は実体はまた、ナノ結晶セルロースから形成されてもよい。
【0154】
ナノ構造セルロース実体
本明細書で説明される「実体」、例えば、「NFC実体」、「別個の実体」、「別個のNFC実体」又は同様の表現は、本明細書で説明されるナノ構造セルロースから形成されたいずれかの好適な形態を指す。そのような実体は、存在していてもよいか、又は体若しくはヒドロゲル体と呼ばれてもよい。実体は、懸濁液中に提供され得る。ヒドロゲルは、例えば、不連続な形態の複数のビーズ、又は別個であっても(部分的に)相互接続されていてもよい同様の実体を含む、球形又は細長い形態などの連続的な、部分的又は完全に不連続な形態などの様々な形態であってよい。ただし、実体の構造は均質である。実体はまた、ナノフィブリル状セルロース又はナノ結晶セルロースから形成された繊維又はフィラメントであり得るため、これらの形態もまた、ナノフィブリル状セルロース又はナノ結晶セルロースヒドロゲルの特性を示し、セルロース繊維、又は他の材料の繊維若しくはフィラメントと混同されるべきではない。実体は、ナノ構造セルロースの薄層と区別することを意図した三次元実体と呼ばれることがある。
【0155】
実体は、100μm以上の平均(最小)直径、例えば、100~5000μmの範囲内の平均最小直径を有し得る。最も高い平均直径は、実体がフィラメントの繊維などの細長い形状を有する場合に存在し得、それは、200~5000μm、例えば、500~3000μmの範囲内の平均最小直径(例えば、幅)を有し得る。そのような細長い実体の長さは、1mm以上、さらには数センチメートル、例えば、1~10000mmであってよい。ビーズ、顆粒などの球状又は球形の形態を有する実体は、100~500μm、例えば、150~350μmなどのさらに低い平均直径を有し得る。
【0156】
そのような実体の形態でナノ構造セルロースを提供することは、細胞培養の条件を制御するのに役立つ。例えば、別個のナノ構造セルロース実体の懸濁液の粘度は、ほとんどの場合粘性ヒドロゲルとして存在する均質なナノ構造セルロース、特にナノフィブリル状セルロースの懸濁液よりもはるかに低い。これは、特に濃度が増加する場合、そのような粘性懸濁液の混合を困難にする。一方、別個の実体は、比較的高いナノ構造セルロース濃度、フィブリル化度及び/又はアスペクト比をそれぞれ有し得るが、それでもなお問題なく取り扱うことができる。同じことが、大量の均質なナノ構造セルロースヒドロゲルと比較して、別個の実体からさらに容易に放出され得る栄養素、ガス、代謝産物及び/又は細胞由来産物などの物質の移動などの特性にも適用され得る。別個の実体はまた、場合によっては所望され得る実体の表面上及び/又は表面下で細胞を培養する、すなわち、埋め込まれた細胞を培養することを可能にする。例えば、細胞由来産物の放出を含む、物質の交換は、そのような場合にさらに高速であり得、及び/又はさらに効率的であり得る。産生及び放出された細胞外小胞及び同様の細胞由来構造、特に脂質単層又は脂質二重層を有するものの構造をさらに良好に維持することも可能である。そのような実体の使用は、応力状態でインキュベート、培養及び/又は提供された細胞にとって望ましい場合があることも留意された。そのような場合、高い応力閾値を維持することができる。細胞を実体上及び/又は実体内、特に実体の内部でインキュベート又は培養すると、細胞は、さらに高い流量及びさらに強い混合又は撹拌に耐えることができる。これにより、さらに効率的な灌流リアクタ及び条件、さらに効率的な混合、及び細胞由来産物のさらに効率的な産生が可能になる。
【0157】
一例は、水性培地と、水性培地に懸濁されたナノ構造セルロース品を含むヒドロゲル体とを含む、細胞を培養するためのナノ構造セルロース実体を提供する。ナノ構造セルロース実体は、バイオリアクタの第1の区画に適用されてもよく、及び/又はバイオリアクタの第1の区画内にあってもよい。水性培地は、細胞培養培地であり得る。一例では、ナノ構造セルロース実体は相互接続されている。一例では、ナノ構造セルロース実体は相互接続されていない。ナノ構造セルロース実体は、1~90%(w/w)、さらに具体的には40~99%(w/w)、又は90~99%(w/w)の範囲内の含水量で提供され得る。一般に、含水量は、そのようなヒドロゲル体又はビーズでは依然として高い。それらは、固体セルロース粒子ではなく、ヒドロゲルクランプス(clumpses)又は膨潤マイクロビーズの形態で存在する。噴霧乾燥粒子であっても、適切に細胞適合性であるためには、バイオリアクタ内でかなり膨潤する必要がある。
【0158】
ナノ構造セルロース実体は、ナノ構造セルロース品を第1の水性培地中に提供してヒドロゲルを提供する工程、及び上記ヒドロゲルを第2の水性培地と混合して、第2の水性培地中のヒドロゲル体の懸濁液を得る工程を含む方法によって得ることができる。第1及び第2の水性培地は同じであっても異なっていてもよく、これらは同じ培地タイプであってよいが、異なっていてもよく、例えば、第1の培地は、例えば、細胞保存培地であり、第2の培地は細胞培養培地である。ナノ構造セルロース実体はまた、濃縮ヒドロゲル又は乾燥ナノ構造セルロースを造粒して顆粒を得、顆粒を水性培地中で水和させ、水和した顆粒を混合し、任意に水性培地を添加して、ヒドロゲル体の懸濁液を得ることによって、濃縮ナノ構造セルロースヒドロゲル又は乾燥ナノ構造セルロースからも作製され得る。ナノ構造セルロース実体懸濁液の不連続な構造は、例えば、単純な顕微鏡分析、又は粘度及び/若しくは降伏応力の決定、並びに対応するナノ構造セルロース濃度を有する連続均一ヒドロゲルとの比較によって検証され得る。ナノ構造セルロース実体懸濁液の降伏応力は、同じ条件での対応する連続均一ヒドロゲルの降伏応力の1~95%など、同じ条件での対応する連続均一ヒドロゲルの降伏応力よりも低い。同じことが粘度にも当てはまり、これにより、ナノ構造セルロース実体懸濁液の取扱いがさらに容易になる。
【0159】
不連続なゲル構造は、濃縮ナノ構造セルロース品(例えば、10~30%w/w)又はさらには乾燥ナノ構造セルロース品からも作製され得る。乾燥材料又は濃縮材料を使用する場合、試料を適切なサイズ、例えば、0.1~2mmの平均直径に最初に造粒し、水又は細胞培養培地中で水和させ、次いで、適切な方法を使用して連続した形態又は不連続な形態のいずれかになるように活性化する。2~20マイクロメートルの範囲内の平均直径を有する噴霧乾燥粒子も出発材料として使用することができる。これらの種類の不連続なゲルにおける制御された多孔性は、粒径及び総濃度、すなわち、膨潤したゲルドメイン又はゲル体間の距離に依存する。
【0160】
一例では、ナノ構造セルロース実体懸濁液の総体積からのヒドロゲル体の総体積は、10~99%(v/v)、例えば、50~95%(v/v)の範囲内である。
【0161】
一例は、不連続なナノ構造セルロース実体懸濁液及びその生成方法を提供し、該方法は、
i)均一なヒドロゲル、
ii)均一なヒドロゲルと水性培地との組合せ、及び/又は
iii)水性培地中で水和された脱水ゲル体若しくは乾燥造粒ナノ構造セルロース品
の形態のナノ構造セルロース品を提供すること、並びに
ナノ構造セルロース実体、例えば、三次元不連続実体としてのヒドロゲル体の懸濁液を得るために、ヒドロゲルの均一な構造の機械的破壊に有利な条件で混合すること、を含む。
【0162】
三次元不連続実体を含むゲル体の画分体積は、三次元不連続実体の総体積の50~99%の範囲内であり得、したがって、局所ナノ構造セルロース濃度は、総実体のそれよりも高くても低くてもよい。ゲル体の画分は、例えば、顕微鏡下での検査によって、又は沈降分析によって容易に定性的に決定され得る。
【0163】
用語「三次元不連続実体」は、三次元的に不連続な構造を有する系を指す。上記実体は、水性培地と、水性培地中に懸濁されたセルロースナノフィブリル及び/又はその誘導体を含むヒドロゲル体とを含む。用語「三次元」は、「二次元」と区別するために使用され、「三次元」は、層、例えば、薄い厚さを有する層内の細胞培養に基づく系を指す。三次元系は、本明細書で説明されるリアクタ内に確立され得る。
【0164】
「不連続」は、実体の不均一構造、又は実体内の物理的連続性の中断、例えば、ヒドロゲル体による水性培地の中断、又は水性培地によるヒドロゲル体の中及び/若しくは間の中断を指す。一般に、不連続材料は、実質的に球状、楕円形、細長い形状など、又は不均一な形状を有し得る、部分的に別個の体、ドメイン、顆粒、粒子などを含む複数の別個の体、ドメイン、顆粒、粒子などを含み得る。複数の体、ドメイン、顆粒、粒子などもまた、不連続材料内で部分的に相互接続されていてもよい。不連続とは、実質的に均質でない材料を指す。例えば、ヒドロゲルのブロック又は膜は不連続ではないが、液体培地に懸濁された複数のビーズ、球体又は同様の別個の体は、体の一部が互いに付着していても不連続な実体を形成する。一実施形態では、ナノ構造セルロースは、ビーズなどのヒドロゲル体であり得る別個の体の形態である。
【0165】
「ヒドロゲル体」及び「ヒドロゲルドメイン」は、連続した内部構造を好ましくは有する、ヒドロゲルのアリコート、区分、ドメイン、画分、一部又は用量を指す。ヒドロゲル体は、明確な、不定形の、対称的な、又は非対称的な形状を有し得る。本明細書で使用される「実体」は、そのようなヒドロゲル体又はヒドロゲルドメインを指し得る。
【0166】
「懸濁された」又は「懸濁液」は、三次元不連続実体又はヒドロゲル体の文脈で使用される場合、水性培地とヒドロゲルとの不均一な混合物を指し、ヒドロゲルは、別個の及び/又は相互接続されたヒドロゲル実体として存在し得る。
【0167】
ヒドロゲル実体の文脈で使用される場合の「相互接続された」及び「相互接続」は、ヒドロゲル実体が互いに接触している系を指す。接触は、ヒドロゲル実体間の直接的な接続であってよいか、又はヒドロゲル実体は緩く接続されていてもよい。ヒドロゲルの均一な構造が、例えば、混合によって破壊される場合、得られた不連続な構造は、異なるサイズ及び形態のヒドロゲル実体を特徴とし得る。得られた系は、相互接続されたヒドロゲル実体間に水性空洞を含有し得るか、又は緩く接続されたヒドロゲル実体は、互いに接触した水性培地中に「浮動」していてもよい。ヒドロゲル実体は、例えば、系内に存在する細胞又は他の成分を介して間接的に接続されていてもよい。
【0168】
「脱水された(dehydrated)」又は「脱水された(dewatered)」形態とは、必ずしもすべてではないが一部の水が当該の材料から除去されている材料の形態を指す。したがって、脱水されたという用語は、例えば、濃縮されたスラリー、顆粒、フレーク及び粉末を包含する。脱水された材料は、0~10%(w/w)、例えば、0~80%(w/w)、0~50%(w/w)、1~50%(w/w)、1~40%(w/w)、1~30%(w/w)、1~20%(w/w)、10~50%(w/w)、10~40%(w/w)、10~30%(w/w)、又は1~90%(w/w)の範囲内の含水量を有し得る。
【0169】
培養方法
本明細書で説明される抽出、培養(culturing)又は培養(cultivation)とは、生物製剤などの細胞由来産物が、ナノ構造セルロースヒドロゲル材料内でインキュベート及び/又は培養された細胞によって産生され、その後、細胞由来産物が、生物学的に活性な産物として、すなわち、活性な形態で収集するためにナノ構造セルロースヒドロゲルから放出されるプロセスを指す。
【0170】
その中に含有される材料を含むバイオリアクタは、培養及び/又はインキュベートされた細胞から細胞由来産物を分離する方法に使用され得る。該方法はまた、細胞を培養及び/若しくはインキュベートする方法、並びに/又は細胞由来産物を産生する方法であり得る。
【0171】
本出願はまた、培養細胞から細胞由来産物を分離するためのバイオリアクタの使用を開示する。本出願はまた、細胞を培養するためのバイオリアクタの使用を開示する。本出願はまた、細胞由来産物を産生するためのバイオリアクタの使用を開示する。
【0172】
本出願は、本明細書に開示される方法のいずれかを用いてインキュベートされた細胞から細胞由来産物を抽出するための、特に、100~1000nmの範囲内の平均細孔径、又は0.1~10μm2、例えば、0.3~2.0μm2の範囲内の中心細孔径を有するヒドロゲルとしてのナノ構造セルロースの使用を開示する。本出願は、本明細書に開示される方法のいずれかを用いてインキュベートされた細胞から細胞由来産物を抽出するための、0.1~10μm2、例えば、0.3~2.0μm2の範囲内の中心細孔径を有するナノ構造セルロースの使用を開示する。一実施形態では、ナノ構造セルロースはナノフィブリル状セルロースである。一実施形態では、ナノフィブリル状セルロースは、天然ナノフィブリル状セルロース、例えば、化学的に改質されていないナノフィブリル状セルロース、好ましくはまた、酵素的及び/又は物理的に改質されていないナノフィブリル状セルロースである。中心細孔径は、本明細書に記載されるように、0.1~8%(w/w)、例えば、0.2~6%(w/w)の範囲内、又は部分範囲内であり得る使用濃度のナノ構造セルロースヒドロゲルから好ましくは存在する及び/又は検出可能である。
【0173】
本開示は、培養細胞から細胞由来産物を抽出するためのナノ構造セルロース品を提供し、該生成品は、0.1~10μm2、例えば、0.3~2.0μm2の範囲内の中心細孔径を有するナノ構造セルロースヒドロゲルを含む。生成品は、天然の及び/又は改質されたナノ構造セルロースを含み得る。天然のナノ構造セルロースは、化学的に改質されていないナノ構造セルロースであるが、さらに、酵素的に改質されていない及び/又は物理的に改質されていないナノ構造セルロースであってよい。化学的に改質されたナノフィブリル状セルロースは、ナノフィブリル状セルロースの特性を変化させ、細胞由来産物の放出及び移動を防止するか又は遅延させるような追加の化学基を含有し得るため、細胞産物の回収を伴う用途では、化学的に改質されていないナノフィブリル状セルロースが望ましい場合がある。例えば、付加された化学基は細胞由来産物に結合し得、及び/又はフィブリル直径は非常に小さい場合があり、そのため、ヒドロゲルのレオロジー特性及び/又は多孔性は、化学的に改質されていないナノフィブリル状セルロースと比較して、本発明の使用にあまり適していない。化学的及び酵素的に改質されていないナノフィブリル状セルロースはまた、元のフィブリル長を維持し、これにより、材料の特性に影響が及ぼされる。
【0174】
改質されたナノ構造セルロースは、化学的に改質された及び/又は酵素的に改質されたナノ構造セルロース、例えば、アニオン的に改質されたナノフィブリル状セルロース又はカチオン的に改質されたナノフィブリル状セルロースであってよく、これらは、本明細書に記載されるように、物理的及び/又は化学的改質であってよい。改質されたグレードは、特定の用途、例えば、特定の細胞及び/又は特定の細胞産物のためにナノ構造セルロースの特性及び/又は特徴を改質することが望ましい方法に使用され得る。
【0175】
生成品は、例えば、バイアル、チューブ、容器、シリンジ、ボトル、フラスコ又はいずれかの他の適用可能な容器、通常は密封容器に包装された包装製品として提供され得る。材料は、使用中の濃度である濃度、又はバイオリアクタに添加するのに適した濃度、例えば、本明細書に開示されるいずれかの濃度で提供され得る。したがって、生成品は、すぐに使用できる製品であり得る。一実施形態では、ナノ構造セルロースはナノフィブリル状セルロースである。
【0176】
本明細書において細孔面積として示される中心細孔径は、顕微鏡によって、例えば、顕微鏡画像、例えば、SEM画像から決定され得る。中心細孔径は、ヒドロゲルが大きな空洞も含有し、これにより平均細孔径値を上昇させることから、ヒドロゲル中で平均細孔径よりも良好な有用な細孔の大きさを表す。細孔径は、(内部)細孔幅から得られてもよく、(内部)細孔幅は、円筒状細孔の直径、又はスリットの対向する壁の間の距離であり得、多孔質材料内部の様々な大きさの空隙の代表値である。細孔直径は、細孔が典型的には円筒形であると仮定され、特定の手順によって得られたデータから決定又は計算され得るモデルにおける細孔の直径であり得る。これは、細孔容積の50thパーセンタイルに相当する直径、すなわち、細孔容積の半分が大きい方の細孔内にあることが分かっており、半分が小さい方の細孔内にあることが分かっている直径である中心細孔直径であり得る。
【0177】
ナノ構造セルロースは、例えば、(均質な)ヒドロゲル中の、又は(別個の)実体としての、本明細書に開示される形態のいずれかであり得る。細胞及び細胞由来産物は、本明細書に開示されるもののいずれであり得る。
【0178】
該方法は、
バイオリアクタを提供すること、
細胞培養培地、好ましくは無血清、動物起源不含、フィーダー不含及び/又は異種物不含の細胞培養培地を提供すること、
細胞を提供すること、
ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画内で細胞を培養及び/又はインキュベートして細胞由来産物を形成すること、
任意に、ナノ構造セルロースと細胞とを混合すること、
細胞由来産物が細胞から、例えば、ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画から細胞培養培地中に拡散することを可能にすること、
好ましくは細胞由来産物を含む細胞培養培地を抽出するための出口を介して、細胞由来産物を含む細胞培養培地をバイオリアクタから採取して、培養細胞から細胞由来産物を分離すること、を含み得る。
【0179】
最も単純には、バイオリアクタは容器を備えてもよく、細胞培養培地を容器に投入するための入口と、細胞由来産物を含む細胞培養培地を容器から排出するための出口とは、同じであり、例えば、容器の開口部、例えば、フラスコの口14、16である。容器は、細胞を受容するように構成されたナノ構造セルロースを含む区画を備えてもよく、ナノ構造セルロースは、細胞由来産物を含む細胞培養培地が第1の分離表面を通過することを可能にする、好ましくはナノ構造セルロースを出口から分離する第1の分離表面を備える。そのような場合、第1の分離表面は、ナノ構造セルロースの表面によって形成されてもよい。
【0180】
一例は、培養細胞から細胞由来産物を抽出する方法を提供し、該方法は、
フラスコ、ボトル又は同様の容器などのバイオリアクタを提供すること、
細胞培養培地、好ましくは無血清、動物起源不含、フィーダー不含及び/又は異種物不含の細胞培養培地を提供すること、
細胞を提供すること、
ナノ構造セルロースを含む区画内で、バイオリアクタ内で細胞をインキュベートして細胞由来産物を形成し、任意にナノ構造セルロースと細胞とを混合すること、
細胞由来産物が細胞から細胞培養培地中に拡散することを可能にすること、
好ましくは細胞由来産物を含む細胞培養培地を抽出するための出口を介して、細胞由来産物を含む細胞培養培地をバイオリアクタから採取して、インキュベートされた細胞から細胞由来産物を分離すること、を含む。
【0181】
細胞培養培地は、本明細書に開示されるバイオリアクタ内で使用され得るいずれかの適用可能な細胞培養培地であり得る。通常、細胞培養培地は、水溶液若しくは分散液などの水性培地であるか、又はそのような水性培地は、ゲル形態などのナノ構造セルロースも含み得る細胞培養培地を形成するために提供される。細胞培養培地は、適切なエネルギー源と、細胞周期を調節する化合物とを含み得る。培養培地は、アミノ酸、ビタミン、無機塩、グルコースの補足物を含み得、成長因子、ホルモン及び付着因子の供給源として血清を含有し得る。栄養素に加えて、培地はまた、pH及び浸透圧を維持するのに役立つ。
【0182】
好ましくは、細胞培養培地は、他の種類の細胞由来材料を全く含有しないか、又はごく微量しか含有しない。「微量」は、0.5%(w/w)未満、0.1%(w/w)未満、0.05%(w/w)未満若しくは0.01%(w/w)未満、又は特定の生物学的化合物を検出若しくは同定するための一般的な方法、例えば、免疫学的方法を使用して検出することができない量を指し得る。細胞培養培地は、好ましくは、無血清、動物起源不含、ヒト起源不含、血液起源不含、フィーダー不含及び/又は異種物不含の細胞培養培地である。フィーダー不含とは、フィーダー細胞が存在しない、例えば、細胞がフィーダー細胞層の非存在下で培養される細胞培養培地及び/又は条件を指す。そのような培地は、幹細胞培養などの所望の細胞培養に必要な必須の細胞培養化合物のみを好ましくは含有する。細胞培養中に、最終工程で、すなわち、細胞由来産物を細胞から拡散させる前に、培養培地をそのような培地に交換し得ることも可能である。
【0183】
また、インキュベートすることとは、細胞を培養及び/又は維持することを指し得、インキュベートすることは、細胞から細胞由来産物を得るのに十分な期間にわたって一般に行われる。一般に、本明細書で使用される「培養すること」は、インキュベートすることを指す。細胞は、細胞が細胞由来産物を産生することを可能にする条件で、又は選択された若しくは所望の細胞由来産物の産生を促進する条件でインキュベートされ得る。条件は、例えば、好適な時間、好適な種類の細胞培養培地、好適な種類及び/若しくは濃度のナノ構造セルロース、並びに/又は好適な温度を含み得る。所望の細胞由来産物の産生を促進する1又は複数の物質を添加すること、例えば、物質を細胞培養培地に添加することも可能である。
【0184】
バイオリアクタタイプの培養系でインキュベート又は培養された細胞由来のEVなどの細胞由来産物の産生は、撹拌などの混合を利用し得る様々な方法で行われ得る。バイオリアクタは、例えば、細胞由来産物を含む細胞培養培地に対して透過性であり、細胞及びナノ構造セルロースに対して不透過性である膜(例えば、半透過性膜など)などの構造を使用することによって区画に分割され得る。細胞は、静的区画と呼ばれてもよく、及び/又は細胞が実質的に固定されている第1の区画内にあってよく、培養培地の流れは、膜の他面に、及び/若しくは膜の他面を通って、好ましくは第2の区画に、及び/若しくは第2の区画へ、又はさらなる区画に、及び/若しくはさらなる区画へ配置される。細胞由来産物は、第2の区画及び/又はさらなる区画から採取され得る。そのようなバイオリアクタは、例えば、メンブレンインサートを備えた細胞培養ウェル、例えば、Transwell細胞培養インサートなどの製品を使用することによって、細胞培養フラスコ若しくはボトルを使用することによって、又は大型槽を使用することによって、様々なサイズで実装され得る。
【0185】
該方法は、本明細書で説明されるいずれかの好適な形態などのナノ構造セルロースを提供すること、本明細書で説明されるいずれかの好適な細胞などの細胞を提供すること、及びナノ構造セルロースを細胞と組み合わせることを含み得る。ナノ構造セルロースと細胞とを、組合せ若しくは混合物をリアクタに適用する前に組み合わせてもよいか、又はナノ構造セルロースを最初にリアクタに適用してもよく、続いて、細胞をリアクタに適用してもよい。これは、ナノ構造セルロース若しくは細胞、又はその両方に関してバッチ式で又は連続的に行われ得る。ナノ構造セルロース及び細胞は、懸濁液として提供され得る。
【0186】
該方法は、細胞をナノ構造セルロース実体に埋め込むこと、又は細胞をナノ構造セルロース実体に埋め込むことを可能にすることを含み得る。これは、細胞が実体に入ることを可能にすることを含み得る。これは、フィブリル化度、及び/又はこれを可能にする化学組成若しくは他の特性を有するナノ構造セルロースを含む、細胞が入ることを可能にする形態及び/又は組成で、例えば、好適な濃度で実体を提供することによって制御され得る。例えば、さらに低い濃度のナノ構造セルロース、及び/又はさらに低いフィブリル化度、及び/又はさらに低いアスペクト比を使用して、細胞に対してさらに透過性の実体又はヒドロゲルを得てもよい。同様に、さらに高い濃度、フィブリル化度及び/又はアスペクト比を使用して、細胞が実体又はヒドロゲルに入るのを防止又は制限してもよいため、細胞は、実体若しくはヒドロゲルの上部/表面上、及び/又は実体の表面のすぐ下で培養されてもよい。そのような場合、該方法は、細胞をナノ構造セルロース実体の表面に付着させること、若しくは細胞をナノ構造セルロース実体の表面に付着させることを可能にすること、及び/又は細胞をナノ構造セルロースの内部にカプセル化する若しくは埋め込むことを含み得る。
【0187】
ナノ構造セルロースには、好適な多孔度が与えられてもよく、これにより、細胞を材料に埋め込むことが容易になるほか、物質の交換、例えば、特に小胞形態の細胞由来産物の液体の流れ及び/又は移動が容易になる。多孔性は、ナノ構造セルロースの内部に細胞をカプセル化することを特に可能にする。平均細孔径は、数平均細孔径であってよい。多孔性は、中心細孔径であり得る細孔面積としても表され得る。一実施形態では、ナノ構造セルロースは、0.1~10μm2、例えば、0.3~2.0μm2の範囲内の中心細孔径を有する。これは、ヒドロゲルの好適なフィブリルサイズ及びアスペクト比、フィブリル化度、改質度並びに/又は濃度を有するナノ構造セルロースを提供することによって得ることができる。ナノ構造セルロースヒドロゲルの多孔性が上記範囲にあると、細胞はナノ構造セルロースマトリックスに効率的に固定されるが、細胞由来産物は細胞及びヒドロゲルから容易に放出され、問題なく分離及び回収され得ることが見出された。細胞由来産物の小胞型の構造、及び細胞由来産物の種類は一般に変化しなかった。また、細胞は、それらの所望の表現型を維持し、混合及び/又は流動などのインキュベーション中の機械的応力に耐えることができた。
【0188】
ナノ構造セルロース実体は、本明細書で説明されるいずれかの実体、例えば、ビーズなど、例えば、マイクロビーズであり得る。ほとんどのナノ構造セルロース実体は、10~1000μmの範囲内の体積中心粒径を有し得る。マイクロビーズ又は他の同様の球形若しくは球状の実体は、50~500μmの範囲内の体積中心粒径を有し得る。そのようなビーズなどは、マイクロフルイディクス系、エレクトロスプレー、又は印刷若しくは分配を使用することによって形成され得る。
【0189】
本明細書で説明されるナノ構造セルロース及びバイオリアクタを使用することにより、該方法を連続的又は半連続的な方法として実施することが可能であるため、細胞由来産物の産生を比較的長期間、例えば、数週間又はさらには数ヶ月間維持することが可能である。細胞由来産物の産生速度又は品質を実質的に変化させることなく、産生速度を増加させることができ、高レベルで維持することができる。細胞は、所望の表現型を示すなど、所望の状態に維持され得、細胞由来産物の種類は、同じ種類の細胞由来産物を産生期間全体にわたって得ることができるように維持され得る。
【0190】
一実施形態では、該方法は、細胞由来産物がバッチ式で採取され、新しい培地が一定間隔で添加される半連続的な方法を含み得る連続的な方法である。ただし、特に、完全に連続的な方法では、細胞由来産物を採取する前に、細胞若しくは細胞担体若しくはマトリックスを沈降させるか、又はそれらを培地から分離するか、又は流動、混合若しくは撹拌を停止させる必要はない。系又は培養物の温度又は他の条件を変更する必要はない。したがって、細胞は、酸素及び栄養素を連続的に受容することができ、包装されないか、又はそうでなければ追加の機械力に、若しくは環境の他の突然の変化に供されないため、プロセス中に危険にさらされたり妨害されたりすることはない。細胞由来産物の産生は、連続産生中に停止又は減速されないため、プロセスの効率、及び産生された産物の一定の品質が維持される。
【0191】
一実施形態では、該方法は、細胞由来産物を含む細胞培養培地がバイオリアクタから採取される速度と等しい速度で新しい細胞培養培地をバイオリアクタに添加することを含む。
【0192】
図1は、第1の区画18と第2の区画22とに分割された容器12を備えるバイオリアクタ10設定の一例を示し、第1の表面20は、0.4~3μmの範囲内の細孔径を有する透過性膜を備える。第1の区画18は、ナノ構造セルロースと細胞との分散液26を収容し、ミキサ24を備えている。ナノ構造セルロースと細胞との分散液26は、第1の入口14を介して第1の区画に搬送されてもよく、細胞培養培地は、第2の入口15を介して第1の区画に搬送されてもよい。細胞由来産物に富む培養培地は、表面20の膜を介して第2の区画22に分離され、出口16を介して容器から運び出され得る。
【0193】
一例では、所望の濃度であり得る混合物を得るために、細胞はナノ構造セルロース内で混合される。混合物、すなわち、培養系全体は、均質な混合を促進及び/又は維持するために、例えば、ミキサ又は撹拌機、例えば、ラダーを備えるものによって混合又は撹拌される。ミキサ又は撹拌機を使用又は提供することなく混合を得ることも可能である。
【0194】
一例では、該方法は、例えば、12~72時間という短時間での細胞のバッチ産生などのバッチ法として行われる。そのような場合、撹拌は不要であり得る。一例では、揺動ベースに接続されたバイオリアクタ、例えば、WAVEバイオリアクタが使用される。そのような系は、撹拌されず、撹拌機を含まないが、混合は、細胞培養物及びナノ構造セルロースを収容するバッグなどの槽又は容器を備え得るバイオリアクタを揺動するように移動させることによって得られる。揺動運動は、細胞培養培地に波を誘導して混合及び酸素移入を提供する。
【0195】
細胞は、ナノ構造セルロースヒドロゲル又は分散液と混合され得るため、そのような選択肢では、ナノ構造セルロースは別個の実体として存在しない。細胞とナノ構造セルロースとは混合され、細胞培養培地中の混合物、さらに具体的には均質な混合物又は実質的に均質な混合物に形成される。混合物は、ヒドロゲルの形態であってよい。細胞/ナノ構造セルロースの相互作用又は形態を特定せずに、ナノ構造セルロース内で細胞を培養してもよい。
【0196】
一実施形態では、細胞は、ナノ構造セルロース実体に埋め込まれる、及び/又はナノ構造セルロース実体の表面に付着される。そのような実体を使用し、選択された様式で細胞を実体と組み合わせると、細胞培養、細胞インキュベーション、細胞由来産物の形成及び/又は放出、栄養素、液体及び/又はガスの交換並びに同様の特性の制御が容易になり、それらに役立つ。実体は細孔を通過することができないため、培地の流れを促進するために、第1の区画と、さらに高い細孔径を有する第2の区画との間に構造又は他の手段を使用することが可能である。実体の懸濁液は比較的低い粘度を有するため、実体を使用することにより、細胞とナノ構造セルロースとの混合物の混合を促進することができる。
【0197】
図2は、第1の区画18と第2の区画22とに分割された容器12を備えるバイオリアクタ10設定の一例を示し、第1の表面20は、0.4~3μmの範囲内の細孔径を有する透過性膜を備える。第1の区画18は、ナノ構造セルロース実体と細胞との懸濁液28を収容し、ミキサ24を備えている。ナノ構造セルロース実体と細胞との懸濁液28は、第1の入口14を介して第1の区画に搬送されてもよく、細胞培養培地は、第2の入口15を介して第1の区画に搬送されてもよい。細胞由来産物に富む培養培地は、表面20の膜を介して第2の区画22に分離され、出口16を介して容器から運び出され得る。
【0198】
一例では、細胞外小胞(EV)の産生プロセスは以下の通りである。ナノ構造セルロースを培養培地及び細胞と最終濃度まで混合して、細胞とナノ構造セルロースとの混合物を得る。細胞とナノ構造セルロースとの混合物をバイオリアクタに添加する。細胞とナノ構造セルロースとの混合物を、培養中に新しい培地を添加することによって維持するか、又は除去し、例えば、吸い上げ、新鮮な細胞及び/又はナノ構造セルロースと交換する。細胞にEVを産生させ、それらを培地に分泌させる。EV富化培地を除去する際に、新しい培地を系に添加してもよい。EV富化培地を、新しい培地の添加に等しい速度で採取してもよく、透過処理された膜は、EV富化培地から細胞とナノ構造セルロースとを分離する。
【0199】
図3は、細胞を容器に供給するための新しい培地のための培地入口1と、交換対象の使用済み培地のための、及びEV又は他の細胞由来産物を培養物から単離するための出口4とを備えるバイオリアクタ設定の一例を示す。容器は、例えば、培養チャンバ内への培地の散逸を可能にするために、培地が出入りして細胞に拡散し、細胞に栄養素を足すことのみを可能にする透過性膜2を含む。一部のEVは、ここでは膜を通って出ることができ得るが、これらは出口ポート4を通して収集され得る。NFC 3と混合された細胞は区画/培養チャンバ内にあるが、代わりにナノ結晶セルロースを適用してもよい。NFCは、例えば、0.5%(w/w)の連続的なヒドロゲル又はマイクロビーズであり得る。入口及び/又は出口5が存在し得、用途が必要とする場合にNFCに埋め込まれた細胞の交換を可能にする。透過性膜又はメッシュ6を分離することにより、細胞からの細胞産物の濾過が可能になる。メッシュの膜は、0.4~3.0μmの範囲内の細孔径を有し得る。バイオリアクタは、EVを単離するための濾過のために、細胞産物の出口7を備える。用途が必要とする場合、NFCによって細胞を圧縮するためにプランジャ8を使用することができる。出口4及び7は、0.22μmのカットオフサイズを有するフィルタを備える。したがって、この例は2つの出口を含み、下側出口4は主に培地を交換するために使用され得、上側入口は主に細胞由来産物を分離及び回収するために使用され得る。
【0200】
一実施形態では、ナノ構造セルロースは、ヒドロゲルビーズ、多孔質ビーズ、繊維、フィラメント及び/又は膜などの別個の実体の形態である。これにより、リアクタ内のナノ構造セルロースを制御することが可能になり、細胞へのガス及び/又は液体の交換も容易になり得る。さらに、細胞は実体の上部若しくは表面上で培養され得るか、又は実体に浸透し、埋め込まれることが可能になり得るため、培養をさらに制御することが可能である。リアクタ内での培養物の混合は、さらに容易及び/又はさらに効率的であり得る。
【0201】
別の例では、細胞は、ナノ構造セルロース実体の上部に播種され、接着細胞として培養され、及び/又は細胞は、ナノ構造セルロース実体内に埋め込まれる。実体は、ビーズ若しくは同様の実質的に球形の形態、又は繊維若しくはフィラメントなどの細長い実体であり得る。混合物、すなわち、培養系全体は、均質な混合を促進及び/又は維持するために、例えば、ミキサ又は撹拌機、例えば、ラダーを備えるものによって混合又は撹拌される。先に説明されたように、ミキサ又は撹拌機を使用又は提供することなく混合を得ることも可能である。
【0202】
一例では、ビーズなどの実体の上部での細胞の産生プロセスは以下の通りである。ナノ構造セルロースを、実体として提供するか、又はマイクロビーズなどの実体に作製し、培養培地及び細胞と最終濃度まで混合して、細胞とナノ構造セルロース実体との混合物を得る。細胞とナノ構造セルロース実体との混合物をバイオリアクタに添加する。細胞にEVを産生させ、それらを培地に分泌させる。細胞とナノ構造セルロース実体との混合物を、培養中に新しい培地を添加することによって維持するか、又は除去し、例えば、吸い上げ、新鮮な細胞及び/又はナノ構造セルロース実体と交換する。EV富化培地を除去する際に、新しい培地を系に添加してもよい。EV富化培地を新しい培地の添加に等しい速度で採取してもよい。透過処理された膜又は半透過性膜を使用して、細胞及びNFC実体をEV富化培地から分離してもよい。
【0203】
一例では、ナノ構造セルロース内に埋め込まれた細胞の産生プロセスは以下の通りである。ナノ構造セルロースを培地及び細胞と混合し、次いで、例えば、押出法を使用して、マイクロビーズなどの実体に、又は代替的に他の形態に形成する。細胞とナノ構造セルロース実体との混合物をバイオリアクタに添加する。細胞にEVを産生させ、それらを培地に分泌させる。細胞とナノ構造セルロース実体との混合物を、培養中に新しい培地を添加することによって維持するか、又は除去し、例えば、吸い上げ、新鮮な細胞及び/又はナノ構造セルロース実体と交換する。EV富化培地を除去する際に、新しい培地を系に添加してもよい。EV富化培地を新しい培地の添加に等しい速度で採取してもよい。透過処理された膜又は半透過性膜を使用して、細胞及びナノ構造セルロース実体をEV富化培地から分離してもよい。
【0204】
あるいは、バイオリアクタは、混合を作り出すためにロッカの上部に基づく、ビーズ又はゲルを有するナノ構造セルロース/培地のタンクであってよい。
【0205】
一例では、バイオリアクタは、ベローボトルなどの調整可能な容積を含む容器によって実装され、容器は、部品(ベロー)の容積を変更するために機械的に操作され得る部品を備える。容器は、プラスチック、エラストマーなどの弾性材料から作製された部品から作製され得るか、又はそれを備え得る。細胞培養培地中の細胞とナノ構造セルロース実体などのナノ構造セルロースとを容器に入れ、容器の容積を変化させて容器内に培地の流れを作り出し、容器の内容物を混合する。外部アクチュエータが設けられてもよく、容器の調節可能な容積部分を操作するように配置されてもよく、例えば、制御ユニットによって自動的に及び/又は制御されてもよい。アクチュエータは、容器若しくは区画内の可動部分、例えば、ピストン、プランジャなど、又は容器若しくは区画の変形可能な部分、例えば、ベローなどに接続されてもよい。そのような配置の一例は、弾性材料から作製されたベローボトルを操作するためのコントローラと機械的装置とを備えるベローボトル内で、単離されたナノ構造セルロースフィブリルを組み合わせることによって形成されたNFCヒドロゲル繊維を使用した自動細胞外小胞産生を提供する。ベローを伸張又は解放して容器の最大容積を得ると、ベローは細胞培養培地によって満たされるが、ベローの上方のナイロンメッシュは細胞及びナノ構造セルロース繊維がベロー部分に入るのを防止する。ベローが押圧されると、ベローから上側区画に液体が入り、その内容物が混合される。所望であれば、細胞を含むナノ構造セルロース繊維からEVに富む培地を分離することは容易である。
【0206】
したがって、混合するための手段は、完全に若しくは部分的に区画内にあってよい機械的ミキサであってよいミキサを備えてもよいか、又は混合するための手段は、培地の流れを提供するための手段を備えてもよいか、若しくは/例えば、先に説明されたように、容器若しくは区画の容積を変更するか、変化させるか若しくは他の方法で調整する、例えば、すなわち、パルス状に容積を繰り返し増加若しくは減少させるための手段を備えてもよい。ミキサなどの混合手段と細胞及び/又はナノ構造セルロースとの接触を含まないそのような混合手段が使用される場合、細胞及び/又は細胞由来産物は、プロセス中の機械的応力から保護され得る。
【0207】
一例では、バイオリアクタは、例えば、
図6に示される細胞培養フラスコなどのフラスコ内に実装される。フラスコは、インキュベーション中に、細胞区画18(第1の区画)の上方にある、栄養素及び細胞由来産物交換に適したカットオフサイズを有する半透過性膜20などの1又は複数の膜20、30を有する区画に分割され得、細胞由来産物区画として機能する第2の区画22から細胞培養区画(第1の区画)を分離する。インキュベーション中の細胞区画の下方など、第1の表面から第1の区画18の異なる側にあってよい、ガス交換のためのさらなる表面30、膜又は同様の構造、例えば、
図6のシリコーン膜30が存在してもよい。このタイプのバイオリアクタでも、ナノ構造セルロースヒドロゲル及び別個のナノ構造セルロース実体の両方が使用され得る。ガス交換は、上記第2の膜30によって細胞区画18によって分離され、酸素支持チャンバとして作用し得、例えば、ガスダクトを有する支持材料を含み得るガス区画(第3の区画)34を設けることによって促進され得る。
図6はまた、フラスコの外側とガス区画34との間に配置されたガス交換チューブ32を示す。チューブ32又は同様のチューブはまた、必要に応じて、例えば、そのような入口チューブが第1の区画の上方、又は第1の区画内に配置される場合、培地の入口として使用されてもよい。培地は、代替的又は追加的に、フラスコの口から投入されてもよく、したがって、フラスコの口は、入口14及び/又は出口16として作用してもよい。フラスコは振盪フラスコであってよく、該方法はフラスコを振盪することを含んでもよい。ただし、例えば、入口及び出口を通る液体の流れを提供することによって、本明細書で説明されるなどの他の手段及び方法を用いて、フラスコへの細胞培養培地の流れ及び/又は混合を調整することが可能である。
【0208】
ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画は、容器とは別個のユニットであり得る。そのような別個のユニットは、別の容器、すなわち、第1の容器の内側にあり得るか若しくは第1の容器の外側にあり得る第2の容器であってよいか、又はそれを備えてもよい。そのような第2の容器は、例えば、
図7に示されるなどの固定床リアクタであってよい。
図7Aは、細胞を受容及び/又は培養するための固定床材料18を含む固定床型の配置を示す。固定床材料18は、本明細書に開示される別個の実体の形態などのナノ構造セルロースを含む。細胞培養培地などの液体の流れは、
図7Aに示すように、入口14から出口16まで固定床を通って配置されるため、培地の供給と、細胞由来産物の採取とを提供することが可能である。固定床は、容器12又は第2の容器36(
図7B)内に設けられてもよい。容器は、直接及び/又は別の容器12に接続された、液体のための入口(供給)及び出口(採取)を含み得る。第2の容器36は、細胞からの細胞由来産物を含む細胞培養培地を出口に提供するための第1の表面20を備えてもよく、この第1の表面は、膜又は他の適用可能な構造若しくは表面を備えてもよい。第2の容器36はまた、固定床を保持し、液体、ガス及び細胞由来産物を通過させるための、1又は複数のさらなる膜、メッシュ又は他の構造を備えてもよい。
【0209】
別個の容器36内の固定床18は、
図7Bに示すように、コンディショニング槽として機能し得る容器12、例えば、バイオリアクタの容器及び/又は他の容器に接続されてもよい。固定床は、液体を搬送するための、又は液体の流れを可能にするためのチューブ、ホース又は同様の構造によって容器に接続される。細胞培養培地は、それが固定床18を通って、固定床の出口からミキサ24を備えた容器12に流れるように、ポンプ40を有する系内で循環され得、培地は混合される。ガスは容器12内で交換されてもよく、その結果、廃棄空気が放出され得(38)、新しいガスが投入され得る(39)。また、新しい培養培地が容器に供給されてもよく、細胞由来産物が容器12から採取されてもよい。細胞培養培地は、固定床の入口にさらに循環して戻されてもよい。
【0210】
あるいは、固定床18は、
図7Cに示すように、容器12の内側にあってよく、
図7Cは、入口14が、表面20を通って容器12内の周囲培地に対して透過性である固定ビーズ18内に配置される配置を示す。出口16が培地内に配置され、培地はミキサ24によって混合され得る。
【0211】
一実施形態では、バイオリアクタは灌流バイオリアクタである。そのような場合、該方法は、灌流細胞培養を含み得る。灌流バイオリアクタは、細胞由来産物の連続産生を可能にする。灌流は上流処理であり、上流処理は、細胞代謝によって細胞廃棄物と栄養素が枯渇した培地とを連続的に除去しながら、バイオリアクタ内に細胞を保持する。新鮮な培地は、使用済み培地が除去されるのと同じ速度で細胞に提供される。灌流を達成するための1つの方法は、中空糸濾過の使用であるが、固定床型の設定など、本明細書に開示される他の設定が使用されてもよい。灌流方法は、ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画を通る細胞培養培地の流れを提供することを含み得る。これに対応して、灌流バイオリアクタは、ナノ構造セルロースと細胞とを含む区画を通る細胞培養培地の流れを提供する手段を備え得る。
【0212】
ナノ構造セルロースは、灌流可能なバイオリアクタ、例えば、膜に基づくバイオリアクタ、又は他の適用可能な灌流可能技術などの灌流タイプの細胞培養方法に特に適している。灌流は、細胞に新鮮な培地を連続的に供給し、細胞を培養中に保ちながら使用済み培地を除去し、濃縮された多くのエキソソームを得ることによって、長期間にわたって細胞培養を支援する。灌流が連続培養、及び血清/因子の必要性の低減を支援することから、大規模細胞培養産生、特にエキソソーム産生のための固定床又は中空糸灌流バイオリアクタを満たすためにナノ構造セルロースヒドロゲルを使用することができる。
【0213】
ナノ構造セルロースを酵素的に分解することによって、例えば、1又は複数のセルラーゼ酵素を提供し、ナノ構造セルロースを分解して細胞を放出させることによって、ナノ構造セルロースから細胞を放出することが可能である。細胞及び/又は分解されたナノ構造セルロースは、分離され得、任意に採取及び/又は回収され得る。これは、細胞培養物を拡大増殖させるために、又は下流処理のために細胞を収集するために、例えば、RNA、DNA及び/又はタンパク質を分析及び/又は単離するために行われ得る。
【0214】
本出願は、本明細書に開示される方法によって得られた細胞外小胞を提供する。本発明の材料及び方法を使用することによって得られた細胞外小胞は、2D方法、並びに/又は異なるマトリックス材料及び/若しくは設定を使用する方法などの従来技術の方法と比較して、さらに狭いサイズ(直径)分布を有し、さらに高密度の分布及び/又はさらに高い生物活性も通常有する。例えば、
図9A及びB並びに
図13A及びBに示すように、小胞の数平均直径は、200nm以下、さらに具体的には150nm以下、又は130nm以下、例えば、90~200nm、90~150nm、90~130nm、100~200nm、100~150nm、若しくは100~130nmの範囲内であり得る。細胞外小胞の直径は、一般に、測定技術に依存せず、例えば、顕微鏡によって、並びに/又は他の技術及び装置を使用することによって決定され得る。細胞外小胞の直径/サイズ及び/又は粒子分布は、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)によって決定され得、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)は、液体懸濁液中の粒子のサイズ分布を得るために、レーザ光散乱顕微鏡法及びブラウン運動の両方の特性を組み合わせる特性評価技術である。例えば、NanoSight機器(Malvern,UK)をEV分野のNTAに使用してもよく、この機器は、1又は複数のレーザと、デジタルカメラに接続された光学顕微鏡とを備えている。製造業者によれば、NanoSightは、溶液中の10~2000nmの粒子の特性評価を可能にする。粒子は、レーザ照射時に散乱する光によって可視化され、それらのブラウン運動がモニタリングされる。NTAソフトウェアは、平均二乗変位を追跡し、それによって、ストークスアインシュタイン方程式を使用して理論流体力学的直径を計算することによって、単一粒子のサイジングを可能にする。分析された試料体積を知ることに基づいて、NTAはまた、粒子濃度の推定を可能にする。(Beate Vestad,Alicia Llorente,Axl Neurauter,Santosh Phuyal,Bente Kierulf,Peter Kierulf,Tore Skotland,Kirsten Sandvig,Kari Bente F.Haug&Reidun Ovstebo(2017)Size and concentration analyses of extracellular vesicles by nanoparticle tracking analysis:a variation study,Journal of Extracellular Vesicles,6:1,DOI:10.1080/20013078.2017.1344087)。
【0215】
例えば、分析は、488nmレーザと、高感度sCMOSカメラと、シリンジポンプとを備えたNanoSight NS500機器(Malvern Instruments,Amesbury,UK)を使用して行われ得る。試料を0.02μm濾過PBS中で20±50倍希釈して、108~109粒子/mlの範囲内の濃度を得てもよい。分析は、20のシリンジポンプ速度を用いて(三連で)試料当たり60秒間のビデオ取込みを使用して、NTAソフトウェア(バージョン3.1 Build 3.1.54)を用いて行われ得る。カメラレベルは14に、検出閾値は3に設定され得る。
【0216】
実施例
【0217】
実施例1
本明細書に開示される様々なバイオリアクタ設定を試験した。カバノキ由来の化学的に天然のナノフィブリル状セルロースに由来する0.5%(w/w)ヒドロゲル(GrowDex)のフィブリル直径を顕微鏡によって決定した。様々な用途のための、特に細胞外小胞を抽出するための最も有用な材料から得られた結果を
図4に示す。
【0218】
図4Aは、使用したGrowDex由来ナノフィブリル状セルロースにおけるフィブリル直径分布を示す。
図4Bは、細孔径及び形状を見ることができる、ヒドロゲルのSEM画像を示す。
図4C及び
図4Dは、ヒドロゲルの細孔径分布を示す。
【0219】
同様に、カバノキ由来の負に帯電したナノフィブリル状セルロースに由来する0.5%(w/w)ヒドロゲル(GrowDexT)を試験した。対応する結果を
図5A~
図5Dに示す。
【0220】
以下の方法を用いて、走査型電子顕微鏡法(SEM)を行った。0.5重量%のヒドロゲル(細胞を含む、又は細胞を含まない)を0.05Mカコジレート緩衝液中の2%ホルムアルデヒド及び2%グルタルアルデヒドを用いて少なくとも24時間固定した後、すすいだ。ヒドロゲルを脱イオン水(DIW)を用いて2回洗浄して固定剤を除去し、次いで、尖ったカミソリ刃を用いてインサートの底部メッシュを切断することによって、それらの増殖インサートから慎重に除去した。試料を10mmφのMelinexカバースリップ上に置き(メッシュ側を下にして)、過剰な水を穏やかに除去し、次いで、試料を液体窒素冷却エタン中でプランジ凍結した。その後、EMITECH K775X液体窒素冷却凍結乾燥機(Quorum Technologies)内で試料を一晩凍結乾燥させた。銀-DAG(TAAB)を使用して、アルミニウムSEMスタブにMelinexカバースリップを取り付けた。メッシュ/試料の底縁の周りの少量の銀-DAGを使用して、試料をカバースリップ上に固定し、導電性を確保した。次いで、EMITECH K575Xスパッタコータ(Quorum Technologies)を使用して、35nmの金及び15nmのイリジウムによって試料をコーティングした。加速電圧2keV及びプローブ電流50pAで、FEI Verios 460走査型電子顕微鏡で試料を観察した。画像は、浸漬モードでEverhart-Thornley検出器(ETD)又はThrough-Lens検出器(TLD)のいずれかを使用して二次電子モードで取得した。フィブリル直径及び細孔径を画像から決定した。
【0221】
実施例2
この実施例では、
図6に示すタイプのものであるCELLine Adhere 1000(CLAD1000)フラスコと組み合わせて3D実験細胞培養モデルを得て、脂肪由来幹細胞エキソソームからのエキソソーム放出と、皮膚細胞微小環境を模倣する条件でのヒト皮膚線維芽細胞による取込みとを試験した。一般に、細胞培養上清から安全、単純かつ費用対効果の高いエキソソーム産生系を開発することが可能であった。
【0222】
使用したCELLineフラスコには、膜(栄養素膜)によって形成された第1の表面20と、ガス交換のためのさらなる表面30(ガス膜)とを含ませ、細胞のための表面間に区画18(培養チャンバ)を形成した。ガス膜の下方、及びフラスコの底部の間に、1又は複数の酸素供給アパーチャを含む酸素供給チャンバを形成する。フラスコ内には、ガス交換チューブ32(培養チャンバポート)を配置する。アガロースゲルの層によってガス膜をコーティングしてもよい。
【0223】
使用した方法及びプロトコル
【0224】
ヒドロゲル調製
マウス胚由来脂肪前駆細胞(APC)とヒト皮膚線維芽細胞(HDF)とを含む2つの細胞株をこの試験に使用した。予備試験によれば、実施例1で使用した材料に対応する0.2%(w/w)及び0.5%(w/w)の化学的に改質されていない木材ナノフィブリル状セルロース(NFC)ヒドロゲル(UPM Biomedicals,Finland)は、それぞれAPC及びHDFの最適濃度を表すことが分かった。
【0225】
細胞培養
2D培養:成体-HDF(ヒト皮膚線維芽細胞)をScienCellから購入し、マウス3T3-L1脂肪前駆細胞(APC)をZenBio,Inc.から購入した。1%l-グルタミン(Lonza)と、0.5%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco Life Technologies Ltd.,UK)と、10%FBS(Thermo Scientific,USA)とを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Lonza,Switzerland)中で、HDF及び3T3L1細胞の両方を培養した。
【0226】
3D培養:HDF及びAPC細胞懸濁液(0.2%(w/w)及び0.5%(w/w)のNFCに対してそれぞれ2.5×104及び1×105細胞/ml)を、希釈したNFCヒドロゲルにゆっくりと添加し、ピペットチップを使用して慎重に混合して細胞を均一に分散させた。得られたヒドロゲル(100μl)を超低接着96ウェルプレート(Sigma-Aldrich,USA)のウェルに移し、37℃で30分間インキュベートした後、標準培養培地をヒドロゲルの上部に添加した。培地を2~3日ごとに交換した。
【0227】
CELLine AD(Adhere)1000フラスコ培養(バイオリアクタ):CELLine AD(Adhere)1000フラスコ(Integra Biosciences AG)を使用して、APC(3T3L1)を培養し、拡大増殖させた。要約すると、1%l-グルタミン(Lonza)と、0.5%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco Life Technologies Ltd.,UK)と、0.5%Exosome-Depletedウシ胎児血清(FBS)(Thermo Scientific,USA)とを補充した15mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Lonza,Switzerland)中、2.5×106細胞の初期密度で、3T3L1細胞を細胞区画に播種した。1%l-グルタミンと、0.5%ペニシリン/ストレプトマイシンと、10%FBS(Thermo Scientific,USA)とを補充した1000mlのDMEMによって外側チャンバを満たした。バイオリアクタ単独対照測定のために、5、7、10及び14日後に細胞区画から細胞馴化培地を収集し、その後、エキソソーム精製に使用した。培地区画からの補充培地を5日ごとに交換した。細胞培養プロトコルはいずれも、加湿した5%CO2環境で37℃で行った。
【0228】
NFC-CELLine AD(Adhere)1000フラスコ培養(NFC-バイオリアクタ):この工程についてはバイオリアクタ培養と同じ手順を行ったが、細胞区画内に細胞を播種する前に、表面を4mlの0.5%アガロース(Sigma Aldrich)によって1時間コーティングした。次いで、2.5×106個の3T3L1細胞を含有する0.2%希釈NFC 15mlを細胞区画に添加した。
【0229】
細胞生存能アッセイ
CellTiter-Glo(登録商標)3D Cell Viability Assay(Promega)を使用して細胞生存能を測定した。要約すると、ある体積のCellTiter-Glo(登録商標)3D試薬を、96ウェルプレート内の等しい体積の細胞培養培地に添加した。内容物を混合し、室温で25分間インキュベートした。分光光度計(Hidex Plate Reader,Finland)を用いて、総ATP含有量について試料の発光を測定した。
【0230】
エキソソーム単離
2D培養物からエキソソームを単離するために、70%コンフルエントで細胞をPBSを用いて1回洗浄し、0.5%Exosome-Depletedウシ胎児血清を補充した増殖培地を交換した。細胞培養プロトコルはいずれも、加湿した5%CO2環境で37℃で行った。エキソソーム単離のために24時間後に培養上清を収集した。
【0231】
NFCを使用する3D培養のために、5日後に細胞をPBSを用いて1回洗浄し、0.5%Exosome-Depletedウシ胎児血清を補充した増殖培地と交換した。24時間後、培養上清を収集した。
【0232】
バイオリアクタ培養及びNFCバイオリアクタ培養のために、5、7、10及び14日後に細胞区画から培養上清全体(15~20ml)を収集し、新鮮な上清を交換した。
【0233】
次いで、収集した馴化培地(2D培養物、NFCにおける3D培養物、バイオリアクタ培養物、及びNFCバイオリアクタ培養物から)を300gで10分間遠心分離して、細胞残屑を除去した。次いで、上清を新しい15mlコニカルチューブに移し、2000gで20分間遠心分離してアポトーシス小体を単離した。これに続いて、上清を滅菌Ultra-Clearチューブ(Beckman Coulter)に移し、Beckman Coulter Optima(商標)L-80XP超遠心機で遠心分離して、10,000gでの40分間の遠心分離によって微小胞を単離した。この後、上清を再度収集し、エキソソームをペレット化するために100,000gで90分間遠心分離した。得られたエキソソームペレットを1×PBSに再懸濁し、その後の使用のために-80℃で保存した。全手順を4℃で行った。
【0234】
エキソソーム特性評価
実験でエキソソームを使用する前に、透過電子顕微鏡法(TEM)による形態、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)機器による粒子分布及び粒径、並びにウエスタンブロットによるエキソソームマーカーについて、単離されたエキソソームを評価した。TEM及びNTA分析は、University of HelsinkiのEVコアによって行った。
【0235】
ウエスタンブロット分析:エキソソーム及び細胞溶解物試料を、プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤カクテル(Cell Signaling,Danvers,MA)を含有するRIPA緩衝液(5mM EDTA、150mM NaCl、1%NP40、1%デオキシコール酸ナトリウム、1%SDS 20%溶液、50mM Tris-HCl、pH7.4)に溶解し、5分間かけて95℃まで加熱し、続いて、氷上で冷却した。Pierce BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific Pierce,Rockford,IL,USA)を使用して試料の総タンパク質濃度を測定し、562nmで分光光度計(Hidex Plate Reader,Finland)を用いて分析した。試料(30μgのタンパク質/ウェル)を1Dドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)12%ゲル上で分離した。タンパク質をPVDFメンブレン(BioRad Laboratories,Hercules,CA)に移し、PBS-T(0.5%Tween-20)中の5%脱脂粉乳中でブロッキングし、エキソソーム特徴的マーカー抗体、CD9、CD81及びHSP70(1:500、いずれもSystem Biosciences製(Palo Alto,CA,https://www.systembio.com))を用いて一晩プローブした。メンブレンをTBS-T中で5分間、3回洗浄して残留一次抗体を洗い流し、1:20,000希釈でそれぞれの二次抗体を使用してプローブした。ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(Advansta,USA)及びBiorad Chemidoc MP Imaging Systemによって、シグナルを可視化した。
【0236】
エキソソームの標識及び取込み
BCAアッセイによって、総タンパク質濃度について、単離されたエキソソームを測定した。精製エキソソームをPKH67 Green Fluorescent Cell Linker Kit(Sigma Aldrich)によって蛍光標識し、Amicon 10 kDa MWCO(Sigma Aldrich)によって過剰な色素を除去した。次いで、エキソソームを約1μgタンパク質/μlの濃度でPBSに再懸濁した。各試料からの等量の標識エキソソームについて蛍光強度(Ex530、Em590)を測定し(Hidex Plate Reader,Finland)、次いで、各条件に関する生存細胞の総数の差について値を補正した。
【0237】
エキソソーム取込みアッセイのために、細胞を1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニンペルクロレート(Dil)色素(ThermoFisher Scientific,USA)によって蛍光標識した後、ヒドロゲルと混合し、5日間インキュベートし、続いて、PHK67標識Exos(100μg/ml)と48時間インキュベートした。スピニングディスク顕微鏡法のためにμ-Slide 8 Well非コーティングチャンバ(Ibidi,Germany)と、エキソソーム単離のために超低接着6ウェルプレート(Sigma-Aldrich,USA)とを使用した(取込みアッセイ画像を
図12に示す)。
【0238】
結果
結果は、バイオリアクタを使用すると、7日目からの2D培養物及びNFC培養物と比較して細胞増殖速度を顕著に改善することができるが、NFCと組み合わせてバイオリアクタ培養を使用すると、10日目以降にこの速度がさらに増加する(30%)ことを示している。興味深いことに、NFCと組み合わせてバイオリアクタを使用すると、他の培養方法と比較して10日目にエキソソーム産生を顕著に促進することができることが観察された。これは、細胞をNFCヒドロゲル中で比較的長時間保存及び/又はインキュベートすることができ、さらにエキソソーム産生の増加を得ることができることを証明している。
【0239】
引用した図によって裏付けられるように、以下が観察された。
【0240】
1 NFCはAPC及びHDFと生体適合性である。
図8は、(A)4日後のAPC及びHDFスフェロイド形成の代表的な画像を示す。APC及びHDFをDiIによって染色し、それぞれ0.2%及び0.4%NFC内で培養した。蛍光顕微鏡を使用して、スフェロイドIIの形成を可視化した。バー:100μm。(B)4日間の培養後のHDFスフェロイド形成のライブイメージングビデオのスクリーンショット。6ウェル超低接着プレートのウェル内で、3×10
5細胞/100μl培地を1mlのNFC(それぞれAPC及びHDFについて0.2%及び0.4%)と混合した。懸濁液を37℃で30分間インキュベートし、次いで、1mlの培地をヒドロゲルの上部にゆっくりと添加した。
【0241】
2.3D細胞培養はインビボ様エキソソームの分泌を刺激する
図9は、APC 2D(A)培養物及びAPC 3D(B)培養物からのナノ粒子トラッキング解析(NTA)による単離されたエキソソームのサイズ分布測定を示す(モード値を示す)。初期細胞密度として3×10
5細胞/ウェルを6ウェルプレートに播種した。2Dから70%コンフルエントになった後、及び3Dから5日後に、エキソソームを単離した。(C)エキソソームの濃度(粒子/ml)。2D培養物及び3D培養物由来のAPCエキソソームの平均±SEを示す(n=3)。**P<0.01
【0242】
図10は、(A)蛍光顕微鏡画像、並びに(B)2D APC培養物及び3D APC培養物由来のPHK67標識エキソソームの定量分析を示す。定量は、PKH67標識エキソソームの緑色蛍光強度に基づくものであった。2D培養物及び3D培養物から単離された各エキソソーム100μlをPKH67色素によって染色し、次いで、96ウェルプレートのウェルに挿入した。試料の蛍光画像を撮影し、ImageJソフトウェアを使用して蛍光強度を測定した。全画像について最大投影強度を使用した。データを表面積に対して正規化し、平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。スケールバー=10μm。***P<0.001。
【0243】
図11は、TEM(A)及び(B)ウエスタンブロット分析による、2D APC培養物及び3D APC培養物から単離されたエキソソームの特性評価を示す。CD81、CD9及びHsp70を含むエキソソームマーカーをウエスタンブロッティングによって検出した(C)BCAキットを使用して、2D APC培養物及び3D APC培養物から単離されたエキソソーム濃度を測定した(n=3)。***P<0.001。
【0244】
図12は、(A)処理の24時間後のそれぞれ2D HDF及び3D HDFによる2D-APC-Exo及び3D-APC-Exo(100μg/ml)取込みの代表的な画像、続いて共焦点顕微鏡観察を示す。スケールバー=100μm。(B)3D-APC-Exo(100μg/ml)による24時間処理中の3D HDFスフェロイドによるエキソソーム取込みの代表的な画像、続いて共焦点顕微鏡観察。スケールバー=200μm。(C)3D HDFによる3D-APC-Exo取込みの定量。データを表面積に対して正規化し、平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。6時間後のエキソソーム取込みを、データの正規化のための対照と考えた***P<0.01。D)24時間の処理後の内在化PHK67標識エキソソームの定量分析。定量は、PKH67標識エキソソームの緑色蛍光強度に基づくものであった。データを表面積に対して正規化し、平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。2D HDF+2D APC-Exoを、データの正規化のための対照処理と考えた。**P<0.01、***P<0.01。
【0245】
図13は、バイオリアクタ培養物(A)及びNFCバイオリアクタ培養物(B)からのナノ粒子トラッキング解析(NTA)による単離されたエキソソームのサイズ分布測定を示す。初期細胞密度として25×10
6個の細胞をバイオリアクタに播種した。10日後にエキソソームを単離した。(C)エキソソームの濃度(粒子/ml)。バイオリアクタ培養物及びNFCバイオリアクタ培養物由来のAPCエキソソームの平均±SEを示す(n=3)。***P<0.001
【0246】
図14は、(A)蛍光顕微鏡画像、並びに(B)バイオリアクタ培養物及びNFC-バイオリアクタ培養物由来のPHK67標識エキソソームの定量分析を示す。定量は、PKH67標識エキソソームの緑色蛍光強度に基づくものであった。単離された各エキソソーム100μlをPKH67色素によって染色し、次いで、96ウェルプレートのウェルに挿入した。試料の蛍光画像を撮影し、ImageJソフトウェアを使用して蛍光強度を測定した。全画像について最大投影強度を使用した。データを表面積に対して正規化し、平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。スケールバー=10μm。***P<0.001。
【0247】
図15は、TEM(A)及び(B)ウエスタンブロット分析による、バイオリアクタ培養物及びNFC-バイオリアクタ培養物から単離されたエキソソームの特性評価を示す。CD81、CD9及びHsp70を含むエキソソームマーカーをウエスタンブロッティングによって検出した。(C)処理の24時間後のそれぞれHDFによるバイオリアクタ(左カラム)及びNFCバイオリアクタ(右カラム)(100μg/ml)からの単離されたエキソソームの取込みの代表的な画像、続いて共焦点顕微鏡観察。スケールバー=100μm。
【0248】
5.バイオリアクタ-NFC対バイオリアクタによる細胞増殖:
図16は、2D(プレート内の正常細胞培養)、3D(NFCを使用した細胞培養)、バイオリアクタ培養、及びNFCと組み合わせたバイオリアクタ培養を含む4つの細胞培養方法によるAPC増殖の定量を示す。各時点について、データを2D培養の結果に対して正規化した。データを平均±平均値の標準誤差として表した(n=5)。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【0249】
6.バイオリアクタ-NFC対バイオリアクタによるエキソソーム産生
図17は、BCAキットを使用した、2D(プレート内の正常細胞培養)、3D(NFCを使用した細胞培養)、バイオリアクタ培養、及びNFCと組み合わせたバイオリアクタ培養を含む4つの細胞培養方法によって生成されたAPCからのエキソソーム産生の定量を示す。各時点について、データを2D培養の結果に対して正規化した。データを平均±平均値の標準誤差として表した(n=10)。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【0250】
本試験では、脂肪由来幹細胞エキソソームからのエキソソーム放出と、皮膚細胞微小環境を模倣する条件でのヒト皮膚線維芽細胞による取込みとを試験するための3D実験細胞培養モデルを開発することを目的とした。結果は、本発明の細胞培養方法及びバイオリアクタが、脂肪前駆幹細胞からのエキソソームの産生及び機能性を増強し得ることを示した。これらのデータは、NFCと組み合わせてバイオリアクタ培養を使用すると、他の培養方法と比較してエキソソーム産生を顕著に改善することができることを示した。
【0251】
要約すると、NFCは、APC及びHDFなどの幹細胞と生体適合性であることが分かった。NFC 3D培養は、従来の2D細胞培養と比較して、3D培養におけるエキソソーム産生を増強した。特に3D細胞培養は、インビボ様エキソソームの分泌を刺激する。
【0252】
NFC 3D培養はまた、通常の2D細胞培養と比較して、エキソソーム取込みを含むエキソソーム機能性も増強した。HDFは、2D-APCエキソソームよりも多くの3D-APCエキソソームを内在化した。
【0253】
細胞培養フラスコフラスコと組み合わせたNFCは、インビボ様エキソソーム分泌を増強した。測定されたサイズ分布がさらに狭いことから、Dd中のエキソソームの形態は、2Dエキソソームよりも同一であった。この結果は、均質性が高い産物の方が良好な標的化治療をもたらすと仮定することができるため、さらに機能的な又は「インビボ様」エキソソームに関する結論を裏付けている。インビボ様エキソソーム分泌の刺激におけるNFCの使用は、臨床応用のためのエキソソーム治療投与量の送達における新しい枠組みをさらに効率的に提供する。
【国際調査報告】