(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】ウェブ位置決め要素を使用して多孔質ウェブをドープで両面コーティングすること
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20240105BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240105BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240105BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240105BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20240105BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240105BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240105BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240105BHJP
【FI】
B05C5/02
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B05C11/00
B05C11/10
H01M50/403 F
H01M50/457
H01M50/403 D
H01M50/489
H01M50/44
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/446
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540786
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2021087857
(87)【国際公開番号】W WO2022049312
(87)【国際公開日】2022-03-10
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523249445
【氏名又は名称】エムエムエム・イノベイションズ・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】MMM INNOVATIONS BV
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100230640
【氏名又は名称】藤田 望
(72)【発明者】
【氏名】ドイエン,ウィリー
【テーマコード(参考)】
4D006
4F041
4F042
5H021
【Fターム(参考)】
4D006GA18
4D006MA03
4D006MA09
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4F041AA12
4F041AB01
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4F042DD09
4F042DF19
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5H021BB12
5H021BB19
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE10
5H021EE22
5H021EE23
5H021HH00
5H021HH03
5H021HH04
(57)【要約】
第1の態様では、本発明は、多孔質ウェブ(10)をドープ(30)で両面コーティングするためのコーティング装置(41、42)であって、(i)上部リップ(51)、下部リップ(52)、及び上部リップ(51)と下部リップ(52)との間のスロット(53)を含むスロットダイコーティングヘッド(50)と、(ii)基準面(15)を横切って下部リップ(52)の反対側に配置されたカウンタ要素(60)と、(iii)下部リップ(52)とカウンタ要素(60)との間に画定されており、それらの間に多孔質ウェブ(10)を通過させるためのスリット(70)であって、スロット(53)が、スリット(70)に向かって開口している、スリット(70)と、(iv)ウェブ位置決め要素(51、61)と、を備え、ウェブ位置決め要素(51、61)が、スロットダイコーティングヘッド(50)の上部リップ(51)であり、上部リップ(51)が、上部リップ(51)と下部リップ(52)との間にオフセットがあるように、基準面(15)まで突出しているか、又はカウンタ要素(60)上の間隔構造(61)であり、間隔構造(61)が、間隔構造(61)とカウンタ要素(60)との間にオフセット(d)があるように、基準面(15)まで突出している、コーティング装置(41、42)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ウェブ(10)をドープ(30)で両面コーティングするためのコーティング装置(41、42)であって、
i.スロットダイコーティングヘッド(50)であって、
-上部リップ(51)、
-下部リップ(52)、及び
-前記上部リップ(51)と前記下部リップ(52)との間のスロット(53)を備える、スロットダイコーティングヘッド(50)と、
ii.基準面(15)を横切って前記下部リップ(52)の反対側に配置されたカウンタ要素(60)と、
iii.前記下部リップ(52)と前記カウンタ要素(60)との間に画定されており、前記下部リップ(52)と前記カウンタ要素(60)との間に多孔質ウェブ(10)を通過させるためのスリット(70)であって、前記スロット(53)が、前記スリット(70)に向かって開口している、スリット(70)と、
iv.ウェブ位置決め要素(51、61)と、を備え、
前記ウェブ位置決め要素(51、61)が、
-前記スロットダイコーティングヘッド(50)の前記上部リップ(51)であり、前記上部リップ(51)が、前記上部リップ(51)と前記下部リップ(52)との間にオフセット(d)があるように、前記基準面(15)まで突出しているか、又は
-前記カウンタ要素(60)上の間隔構造(61)であり、前記間隔構造(61)が、前記間隔構造(61)と前記カウンタ要素(60)との間にオフセット(d)があるように、前記基準面(15)まで突出している、コーティング装置(41、42)。
【請求項2】
前記カウンタ要素が、ドクターブレード又はローラである、請求項1に記載のコーティング装置(41、42)。
【請求項3】
動作中において、前記多孔質ウェブ(10)が、入射面(16)に沿って前記ウェブ位置決め要素(51、61)と接触し、前記入射面(16)が、前記基準面(15)に対して少なくとも15°、好ましくは少なくとも20°、より好ましくは少なくとも25°の角度(α)で前記ウェブ位置決め要素(51、61)に向かって傾斜している、請求項1又は2に記載のコーティング装置(41、42)。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に定義されたコーティング装置(41、42)を使用して、多孔質ウェブ(10)をドープ(30)で両面コーティングするための方法であって、
a.前記多孔質ウェブ(10)を前記ウェブ位置決め要素(51、61)に対して安定させながら、前記多孔質ウェブ(10)を前記スリット(70)に通過させることと、
b.前記ドープ(30)を、前記スロットダイコーティングヘッド(50)の前記スロット(53)を通して前記スリット(70)に提供し、それによって、
-前記スロット(53)に面する前記多孔質ウェブ(10)の第1の側をコーティングし、かつ
-前記多孔質ウェブ(10)の反対にある第2の側を、前記多孔質ウェブ(10)を通してコーティングすることと、を含む、方法。
【請求項5】
前記多孔質ウェブ(10)を前記ウェブ位置決め要素(51、61)に対して安定させることが、前記多孔質ウェブ(10)を前記ウェブ位置決め要素(51、61)に対して引き付けることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔質ウェブ(10)が、入射面(16)に沿って前記ウェブ位置決め要素(51、61)と接触し、前記入射面(16)が、前記基準面(15)に対して前記ウェブ位置決め要素(51、61)に向かって傾斜している、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記入射面(16)が、少なくとも15°、好ましくは少なくとも20°、より好ましくは少なくとも25°の角度(α)で傾斜している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記多孔質ウェブ(10)が、前記スリット(70)を実質的に垂直下向きに通過する、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記多孔質ウェブ(10)が、55~95%、好ましくは70%超の開口面積を有する、請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の側のコーティング厚さ(t
1)が、前記第2の側のコーティング厚さ(t
2)と異なる、請求項4~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
増強された電気化学セルで使用するためのイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムを製造するための、請求項4~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記多孔質ウェブが、葉状断面プロファイルを有するフィラメントを含む、請求項4~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
多孔質ウェブ(10)をウェブ位置決め要素(51、61)に対して安定させる、請求項1~3のいずれか一項に定義されたコーティング装置(41、42)用ウェブ位置決め要素(51、61)。
【請求項14】
請求項4~12のいずれか一項に記載の方法により取得可能な両面コーティングされた多孔質ウェブ(20)。
【請求項15】
一方の側に平均及び標準偏差によって定義されるコーティング厚さを有し、前記標準偏差が、5μm以下、好ましくは2.5μm以下である、両面コーティングされた多孔質ウェブ(20)。
【請求項16】
一方の側に第1の平均孔径、他方の側に第2の平均孔径を有し、前記第1の平均孔径が、前記第2の平均孔径よりも小さく、好ましくは前記第2の平均孔径の1/2倍よりも小さく、より好ましくは前記第2の平均孔径の1/3倍よりも小さく、更により好ましくは前記第2の平均孔径の1/5倍よりも小さく、請求項15に記載の両面コーティングされた多孔質ウェブ。
【請求項17】
粒状充填剤を更に含み、前記第2の平均孔径が、前記粒状充填剤のD50よりも小さく、より好ましくはD30よりも小さい、更により好ましくはD20よりも小さい、更により好ましくはD10より小さい、最も好ましくはD5より小さい、請求項15又は16に記載の両面コーティングされた多孔質ウェブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ウェブをドープで両面コーティングするためのコーティング装置及び方法、並びにこれらの装置及び/又は方法を使用して取得可能な両面コーティングされた多孔質ウェブに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン透過性ダイヤフラム(セパレータと称される)は、電解槽、バッテリ、及び燃料電池などの様々な電気化学的用途に使用されている。長期間及びより大きい寸法での使用をサポートするために、これらのイオン透過性ダイヤフラムは、十分な機械的強度を有する必要がある。したがって、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムが開発されており、ダイヤフラムは、ドープでコーティングされた強化多孔質ウェブ(例えば、平織り型織布)で構成されている。現在の製造基準は、EP1298740A2及びEP2296825B1に開示されているような技術に基づいている。
【0003】
EP1298740A2の一実施形態では、方法は、多孔質支持体の搬送経路を横切る所定のクリアランスを有する2つの対向するダイにドープを通過させることを含む。使用されるシステムは、支持体と、ダイ排出部からの支持体搬送出口リップのダイリップ搬送出口端との間の狭いクリアランスを有し、幅方向に定量的に供給されたドープは、液体プール空間に蓄積し、連続的な含浸及び支持体へのドープの分配を可能にする。このシステムでは、コーティングされたフィルムの厚さは、支持体と、支持体出口端のリップの先端でのダイリップ搬送出口端との間のクリアランスを変更することによって制御することができる。
【0004】
EP2296825B1は、細長い多孔質ウェブが、その細長い多孔質ウェブの両側に同時に同一の定量された量のドープを提供する2つのスロット(すなわち、それぞれ1つ)を含む2つの含浸ヘッドの間で下向きに輸送される、同様のアプローチを開示している。EP1298740A2との違いは、含浸ヘッドを介して供給されるドープの流量を、コーティングされた湿層厚さが、各下部ダイリップとウェブとの間のクリアランス(又は代替的に見られる、下部ダイリップ間の総コーティングギャップ)ではなく、この流量に直接依存するように制御することであると言える。これによって、下部リップの端部と細長い多孔質膜との間にメニスカスが形成され、提供されるドープ層の厚さが、上記クリアランスから独立することになる。
【0005】
上記のように製造されたイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムは、古典的な(最大0.2A/cm
2)及び高度な(0.2~0.6A/cm
2)アルカリ水電解などの、電流密度が低い用途で良好に機能する。しかしながら、増強された電気化学プロセス(0.6A/cm
2超)は、それらの動作中により高い電流密度を必要とするか、又は生成し、それは典型的に、高いイオン抵抗をもたらし、したがって、高い電圧ペナルティ及び発熱をもたらし、結果的に、セル効率を低下させる。そのような現象は、例えば、この技術を「プロトン交換膜(PEM)のような」電流密度(例えば、0.6~2.5A/cm
2のオーダー)下で動作させることによって、電解速度を増加させようとする(例えば、ガス生成速度を増加させる)間に、アルカリ水電解において見られる。後者は、例えば、Kraglund et al.(KRAGLUND,Mikkel Rykaer,et al.Ion-solvating membranes as a new approach towards high rate alkaline electrolyzers.Energy&Environmental Science,2019,12.11:3313-3318.)によって証拠立てられている。特に、
図3は、市販のZirfon(商標)PERLダイヤフラムのセル電位が、電流密度の増加とともに急速に上昇することを示している。したがって、電流密度を上げることによってH
2生成を増加させようとすると、プロセスが効率及び経済的関連性を失う電解電位(例えば、約1.8~1.9V)の実用的な限界に迅速に到達する。同様に、イオン抵抗が充電(放電)又はセル動作の達成可能な速度を支配する、例えば、アルカリ及び他の(例えば、リオン)バッテリの高速充電(放電)時に、同様の現象が他の電気化学セルで見られる。
【0006】
したがって、実質的に低いイオン抵抗を有するイオン透過性ダイヤフラムを製造することが望ましく、これは、より高い電流密度での集中使用下でも高効率を維持することができる。これを達成するための主な選択肢は、ダイヤフラムをかなり薄く及び/又はより多孔質にすることである。それにもかかわらず、これは十分な機械的強度を維持する必要性とバランスをとる必要があり(上記参照)、そのため、ウェブ強化自体を維持する必要がある。後者にもかかわらず、多孔質ウェブの厚さを低減及び/又は開口面積を増加させる余地が依然として存在する。
【0007】
しかしながら、多孔質ウェブをドープでコーティングするための最先端の製造方法を使用する場合、これが可能な範囲は限定される。実際、多孔質ウェブの開口面積が60%(又は更に55%)を超えるときに、まともなイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムを製造することは不可能である。この点において、EP2296825B1は、細長い多孔質ウェブが30~70%であり得、40~60%の範囲の開口面積が特に好ましいと言及している。しかしながら、好適な布地の列挙された例は、38~58%の間の開口面積を有する布地に特に限定され、実際に見出される55~60%の値(上記参照)によく適合し、それを超えると、良好なイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムを製造することは非常に困難になる。同様の問題は、200μm未満の厚さを有する多孔質ウェブを使用しようとするときに生じる。
【0008】
特定のシステムにおけるダイヤフラムの全体的なイオン抵抗は、上記システムで使用される電解質の伝導性にも依存する。この伝導性は、典型的には、電解液(例えば、アルカリ性又は酸性溶液)の濃度及び/又は温度を上昇させることによって増加させることができる。しかしながら、ダイヤフラムを構成する材料(例えば、結合剤及び充填剤)は、一般に、そのような濃縮電解質溶液中、特に高温では、限られた(電気)化学的安定性を有する。したがって、システム内のダイヤフラムの全体的なイオン抵抗を低下させる別の選択肢(当技術分野での継続中の課題でもある)は、そのような濃縮電解質溶液及びそのような高温での使用を可能にすることである。
【0009】
最先端のイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラム(例えば、Zirfon(商標)PERLダイヤフラム)の別の既知の問題は、コーティング中の特定の充填剤(特に一般的に使用されるZrO2充填剤などの(細かい)粒状充填剤)の脱落に悩まされていることである。これらの脱落した充填剤は、次いで、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムが組み込まれているシステム(例えば、電解システム)において時間の経過とともに徐々に蓄積され、それによって、ダイヤフラムの寿命を短縮しながら様々な問題を引き起こす。
【0010】
したがって、当技術分野では、多孔質ウェブをドープで両面コーティングするためのより良い方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、多孔質ウェブを両面コーティングするためのコーティング装置を提供することである。本発明の更なる目的は、それらに関連する方法、使用、及び製品を提供することである。この目的は、本発明に従う装置、方法、使用、及び製品によって達成される。
【0012】
本発明の実施形態の利点は、多孔質ウェブの両側を実質的に一定のコーティング厚さでコーティングすることができることである。本発明の実施形態の更なる利点は、一定の総コーティング厚さを実現することができることである。
【0013】
本発明の実施形態の利点は、多孔質ウェブの片側の位置を非常によく制御及び維持できることである。本発明の実施形態の更なる利点は、一方の側を実質的に一定の(かつ確実な)コーティング厚さでコーティングすることができる一方で、多孔質ウェブに固有の任意の厚さ変動を他方の側で吸収することができることである。
【0014】
本発明の実施形態の利点は、比較的剛性が低く(したがって高い可撓性)を有する多孔質ウェブ、例えば、高い開口面積から非常に高い開口面積(例えば、60%超、又は70%若しくは80%超)及び/又は薄い多孔質ウェブの厚さ(例えば、200μm未満、150μm未満、又は100μm未満)を有する多孔質ウェブのコーティングに特に適していることである。
【0015】
本発明の実施形態の利点は、その中で使用するために想定されるコーティングされた多孔質ウェブ(例えば、葉状フィラメントを含むもの、下記参照)のいくつかが、高い開口面積から非常に高い開口面積及び/又は薄い厚さを有する一方で、比較的高い寸法安定性を有することができることである。
【0016】
本発明の実施形態の利点は、単一のスロットダイコーティングヘッドのみが必要であることである。本発明の実施形態の更なる利点は、これが、2つのドープ流れを互いに正確にバランスさせる必要性を排除し、それによってコーティング装置を動作させやすくすることである。本発明の実施形態の更なる利点は、コーティング装置の構築及び維持コストが低いことである。
【0017】
本発明の実施形態の利点は、低いイオン抵抗から非常に低いイオン抵抗を有するイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムを製造することができることである。本発明の実施形態の更なる利点は、このようなイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムが、増強された電気化学プロセス(例えば、増強されたアルカリ水電解、リチウムイオンバッテリ、金属空気バッテリ、流れバッテリなど)で使用される場合に特に有益であることである。
【0018】
本発明の実施形態の利点は、総コーティング厚さが、スリット幅と等しいか、又はそれ未満であり得ることである。
【0019】
本発明の実施形態の利点は、比較的簡単で経済的な方法で実現できることである。
【0020】
背景セクションで述べたように、多孔質ウェブが高い開口面積から非常に高い開口面積(例えば、60%超、及びより高い値の場合はますますそうである)又は薄い多孔質ウェブ厚さを有する場合、多孔質ウェブをドープでコーティングするための最先端の製造方法では、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムの性能が低下する。これは、高い開口面積と薄い厚さとの両方が多孔質ウェブの柔軟性を増加させることを実現することによって合理化することができる。この点において、
図1及び
図2は、同じフィラメントを有するが、より高い開口面積を有する多孔質ウェブを示す
図3及び
図4と比較して、より低い開口面積を有する多孔質ウェブを概略的に示している。見てわかるように、より高い開口面積を有する同じフィラメントタイプの多孔質ウェブは、単位面積当たりのフィラメントの数が少なく、より密に織られておらず、それによって実際に低い開口面積の多孔質ウェブと比較して、より低い剛性、したがってより高い柔軟性をもたらす。
図1及び
図3にも見られるように、多孔質ウェブ厚さは、典型的には、フィラメント直径の約2倍である。したがって、多孔質ウェブの厚さを低減する主な方法は、フィラメントの直径を低減することである。ただし、より薄いフィラメントは、典型的には、同じ材料のより厚いフィラメントと比較して本質的に剛性が低い。そのようなより薄いフィラメントで作られた多孔質ウェブは、したがって、実際により柔軟である。
【0021】
EP1298740A2及びEP2296825B1に記載されるシステムでは、多孔質ウェブは、2つのスロットダイコーティングヘッド間で輸送される一方で、多孔質ウェブが支持構造(例えば、ローラ)に接触する点は、スロットダイコーティングヘッドから比較的遠く離れている。したがって、多孔質ウェブは、2つのスロット開口部の間の方向(すなわち、輸送方向に垂直であり、かつ多孔質ウェブ厚さに平行である)に移動/変位することが比較的自由である。したがって、多孔質ウェブの各側を実質的に一定のコーティング厚さでコーティングするのではなく(
図5に示すように)、総コーティング厚さは比較的一定に保たれ得るが、各側の局所コーティング厚さは、コーティングされたウェブ長に沿って変化する(
図6に示すように、コーティングから局所的に突き出る多孔質ウェブを含み得る)。局所コーティング厚さのこれらの変化は、例えば、製造されたイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムの気泡点を低下させることができる。気泡点が高いほど、ダイヤフラムの両側のガス分離が改善され(したがって、ガス品質が向上)、したがって(対照的に)、気泡点が低いほど、ガス汚染が増加する。EP1298740A2及びEP2296825B1の両方は、多孔質ウェブに対して自己中心効果を有するためにドープを対称的に供給することにある程度依存するが、その開口面積が高いから非常に高いときにドープが多孔質ウェブを容易に貫通することができるので、この「自己中心」効果は、高い開口面積から非常に高い開口面積の多孔質ウェブに対してますます弱くなる。これはまた、ドープの粘度に関連しており、したがって、より薄く、より粘度の低いドープ(例えば、100mPa.s以下)を使用する場合に同様の問題が生じる。実際、そのようなドープは、(開口面積が特に高くなくても)多孔質ウェブをより容易に貫通することができ、それによって多孔質ウェブに不十分な圧力をかけて、有意な自己中心効果を生じさせる。
【0022】
EP2296825B1は更に、上部スロット面間のより小さいギャップが細長い多孔質ウェブの極端な移動を抑制し、それを中心にするのに役立つことができるように、含浸装置の下部スロット面間の距離は、上部スロット面間の距離よりも大きく設定され得ることに言及している。そのようにすることによって、製造されたセパレータの波打ち及びカールを低減することができることがわかった。しかしながら、これは、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラム自体を湾曲(例えば、波打ち又はカール)させるような非対称性をもたらす過度の移動/変位を低減するのに十分であり得るが、それにもかかわらず、コーティングに欠陥を引き起こす、より微妙な変動を徹底的に最小限に抑えるのには不十分である(例えば、セパレータの「気泡点」にマイナスの影響を与える)。実際、そのようなアプローチは、多孔質ウェブ自体が典型的には特定の厚さの変動(例えば、5~10%)を有するため、多孔質ウェブを完全に中心化することはできない。したがって、上部スロット面間のギャップを小さすぎるように設定すると、多孔質ウェブが含浸ヘッド間に輸送されるときに多孔質ウェブが閉塞され、これは、多孔質ウェブが束ねられ、極端な場合には、含浸装置を引き裂いたり、裂いたり、及び/又は混雑させたりする可能性がある。しかしながら、ギャップを十分に広く設定すると、多孔質ウェブが移動するための最小限の変位自由度が常に存在することを意味する。
【0023】
上記を考慮して、本発明者は、コーティングされる直前に、ウェブ位置決め要素に対して多孔質ウェブを安定させることができる新しい構成を考案した。ウェブ位置決め要素は、有利には、多孔質ウェブの一方の側が常に同じ位置にあることを確保することで、少なくともその単一の側のコーティングが実質的に一定の(確実な)厚さを有する一方で、多孔質ウェブの任意の厚さ変動(上記参照)は、対応するより高い又はより低いコーティング厚さを介して(多孔質ウェブの下方への輸送を妨げることなく)他方の側で吸収される。これは、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムの片側のコーティングが、実際の用途では、ダイヤフラム全体の特性に優勢な影響を及ぼすことが多いという点で有利である。したがって、その側で一定の厚さを確保することは、これらの特性にプラスの効果をもたらす。
【0024】
更に、その新しい構成は、1つのスロットダイコーティングヘッドのみを使用し、これにより、2つのドープ流れを互いにバランスさせる必要がないことによって動作が容易になるだけでなく、1つのスロットダイコーティングヘッド(例えば、「スクラップ」の量を削減する)及び付随する周辺構造(例えば、ドープ供給)を省略すること、並びにドープ流れに必要な制御レベルを緩和することによって構築及び維持するコストも低くなる、コーティング装置がもたらされる。
【0025】
本コーティング装置は、ウェブ位置決め要素がそのいずれかの側(すなわち、スロットダイコーティングヘッドの側又はカウンタ要素の側)にあるように構成することができるが、典型的には両方ではなく、これは上で考察されたように閉塞を引き起こす可能性がある。したがって、2つの主要構成(本明細書ではそれぞれ「第1」及び「第2」の主要構成と称する)を使用して、多孔質ウェブの安定化を実現することができる。
【0026】
第1の態様では、本発明は、多孔質ウェブをドープで両面コーティングするためのコーティング装置であって、(i)上部リップ、下部リップ、及び上部リップと下部リップとの間のスロットを含むスロットダイコーティングヘッドと、(ii)基準面を横切って下部リップの反対側に配置されたカウンタ要素と、(iii)下部リップとカウンタ要素との間に画定されており、それらの間に多孔質ウェブを通過させるためのスリットであって、スロットが、スリットに向かって開口している、スリットと、(iv)ウェブ位置決め要素と、を備え、ウェブ位置決め要素が、スロットダイコーティングヘッドの上部リップであり、上部リップが、上部リップと下部リップとの間にオフセットがあるように、基準面まで突出しているか、又はカウンタ要素上の間隔構造であり、間隔構造が、間隔構造とカウンタ要素との間にオフセットがあるように、基準面まで突出している、コーティング装置に関する。
【0027】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態によるコーティング装置を使用して多孔質ウェブをドープで両面コーティングするための方法であって、(a)多孔質ウェブをウェブ位置決め要素に対して安定させながら、多孔質ウェブをスリットに通過させることと、(b)スロットダイコーティングヘッドのスロットを通してドープをスリットに提供し、それによって、スロットに面する多孔質ウェブの第1の側をコーティングし、かつ多孔質ウェブの反対側の第2の側を、多孔質ウェブを通してコーティングすることと、を含む、方法に関する。
【0028】
第3の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態によるコーティング装置におけるウェブ位置決め要素の使用であって、その要素に対して多孔質ウェブを安定させるための使用に関する。
【0029】
第4の態様では、本発明は、第2の態様のいずれかの実施形態による方法によって取得可能な両面コーティングされた多孔質ウェブに関する。
【0030】
第5の態様では、本発明は、片側に平均及び標準偏差によって定義されるコーティング厚さを有し、標準偏差が、10μm以下、好ましくは5μm以下、更により好ましくは2.5μm以下である、両面コーティングされた多孔質ウェブに関する。
【0031】
本発明の特定の及び好ましい態様は、添付の独立請求項及び従属請求項に記載される。従属請求項からの特徴は、請求項に明示的に記載されているだけでなく、必要に応じて、独立請求項の特徴、及び他の従属請求項の特徴と組み合わせ得る。
【0032】
この分野では、デバイスの絶え間ない改善、変化、及び進化があったが、現在の概念は、従来の実践からの逸脱を含む、実質的な新しいかつ新規の改善を表し、この性質のより効率的で安定した信頼性の高いデバイスの提供をもたらすと考えられている。
【0033】
本発明の上記及び他の特性、特徴及び利点は、例として、本発明の原理を示す添付の図面と併せて、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。この説明は、本発明の範囲を限定することなく、例のためだけに与えられる。以下に引用する参照図は、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】低い開口面積の多孔質ウェブの側面図を概略的に示す。
【
図2】
図1による低い開口面積の多孔質ウェブの主題の正面図を概略的に示す。
【
図3】高い開口面積の多孔質ウェブの側面図を概略的に示す。
【
図4】
図3による高い開口面積の多孔質ウェブの主題の正面図を概略的に示す。
【
図5】両側に理想的に一定のコーティング厚さを有する両面コーティングされた多孔質ウェブを概略的に示す。
【
図6】従来技術の方法を使用して典型的に得られるように、各側の長さに沿って変動するコーティング厚さを有する両面コーティングされた多孔質ウェブを概略的に示す。
【
図7】本発明による両面コーティングされた多孔質ウェブを形成するためのロールツーロールの設定を概略的に示す。
【
図8】コーティングされた多孔質ウェブの両側の蒸気接触を区別するための任意選択の追加の要素を有する、
図7のロールツーロールの設定を概略的に示す。
【
図10】本発明による第1のタイプのコーティング装置(「第1の主要構成」)の大写し図を概略的に示し、ウェブ位置決め要素は、スロットダイコーティングヘッドの突出上部リップによって提供される。
【
図11】本発明による第2のタイプのコーティング装置(「第2の主要構成」)の大写し図を概略的に示し、ウェブ位置決め要素は、カウンタ要素上の突出間隔構造によって提供される。
【
図12】葉状フィラメントのいくつかの異なる断面プロファイル、より具体的には、ドッグボーン断面プロファイルを概略的に示す。
【
図13】葉状フィラメントのいくつかの異なる断面プロファイル、より具体的には、三葉断面プロファイルを概略的に示す。
【
図14】葉状フィラメントのいくつかの異なる断面プロファイル、より具体的には、四葉断面プロファイルを概略的に示す。
【
図15】葉状フィラメントのいくつかの異なる断面プロファイル、より具体的には、六葉断面プロファイルを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
異なる図において、同じ参照符号は、同じ又は類似の要素を指す。
【0036】
本発明は、特定の実施形態に関して、かつある特定の図面を参照して説明されるが、本発明はそれらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載された図面は、概略的なものであり、非限定的である。図面では、いくつかの要素のサイズは誇張されていて、例解目的のためにスケールで描画されていない場合がある。寸法及び相対寸法は、本発明の実施に対する実際の縮小に対応しない。
【0037】
更に、本説明及び特許請求の範囲における第1、第2、第3などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも起こった順序を時間的に、空間的に、ランキングで、又は任意の他の方法で説明するために使用されるとは限らない。そのように使用されるそれらの用語が適切な状況下で交換可能であり、かつ本明細書に記載される本発明の実施形態が本明細書に記載又は図示される以外の順序で動作可能であることを理解されたい。
【0038】
更に、説明及び特許請求の範囲における用語、頂(top)、底(bottom)、上に(over)、下に(under)などは、説明目的で使用され、必ずしも相対的位置を説明するために使用されるとは限らない。そのように使用される用語が適切な状況下でそれらの反意語と交換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態が本明細書に記載又は図示される以外の方向で動作可能であることを理解されたい。
【0039】
特許請求の範囲で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される手段に限定されるものと解釈されるべきではなく、他の要素又はステップを除外しないことに留意されたい。したがって、これは、言及された特徴、整数、ステップ、又は構成要素の存在を特定するものとして解釈されるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、又は構成要素、又はそれらのグループの存在又は付加を排除するものではない。したがって、「含む(comprising)」という用語は、言及された特徴のみが存在する状況、及びこれらの特徴及び1つ以上の他の特徴が存在する状況をカバーする。したがって、「手段A及びBを含むデバイス」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなるデバイスに限定されるものと解釈されるべきではない。これは、本発明に関して、デバイスの唯一の関連する構成要素がA及びBであることを意味する。
【0040】
本明細書全体を通して、「一実施形態」又は「ある実施形態」への言及は、その実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な場所での「一実施形態では」又は「ある実施形態では」という句の出現は、必ずしも全て同じ実施形態を指すわけではないが、そのように指し得る。更に、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の実施形態では、本開示から当業者には明らかであるように、任意の好適な様式で組み合わされ得る。
【0041】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明では、この開示を簡素化し、かつ様々な発明態様のうちの1つ以上の理解を支援するために、本発明の様々な特徴が、単一の実施形態、図、又はそれらの説明にまとめられることもあることを理解されたい。しかしながら、この開示の方法は、特許請求される発明が各々の請求項に明示的に列挙されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映するものと解釈されるべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明態様は、単一の前述の開示される実施形態の全ての特徴に満たない。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、ここで、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、この発明の別個の実施形態として独立している。
【0042】
更に、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴であるが他の特徴を含まない一方で、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることが意図され、当業者によって理解されるように、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲では、特許請求される実施形態のいずれかを任意の組み合わせで使用することができる。
【0043】
本明細書で提供される説明では、多数の特定の詳細が記載される。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細なしに実施され得ることが理解される。他の例では、この説明の理解を不明瞭にしないように、周知の方法、構造、及び技法は詳細には示されていない。
【0044】
以下の用語は、本発明の理解を助けるためにのみ提供される。
【0045】
本明細書で使用される場合、及び別段の指定がない限り、多孔質ウェブは、(完全に広がっている場合(例えば、湾曲していない場合、巻かれている場合、又は束ねられている場合)、典型的には、直角に交わる3つの寸法を有するが、そのうちの1つ(「厚さ」と称される)は他の2つよりもかなり小さい。残りの2つの寸法のうち、スリットを通る輸送方向に平行な方向は、本明細書では多孔質ウェブの「長さ」と称される。そして、第3の方向は、多孔質ウェブの「幅」と称される。
【0046】
本明細書で使用される場合、及び別段の指定がない限り、多孔質ウェブの「開口面積」は、多孔質ウェブの総面積に対する多孔質面積(すなわち、細孔の面積の組み合わせ)の割合である。例えば、
図2及び
図4に示されるような図では、開口面積は、全面積(白+黒)に対するフィラメント(11、黒)の間の開口空間/細孔(12、白)の面積である。多孔質ウェブの開口面積は、例えば、
図2及び
図4に示される概略図に類似する多孔質ウェブの顕微鏡画像を取得し、そこから、(例えば、選択された(単位)面積に対して)、開口空間/細孔の面積及び総面積を決定することによって、実験的に決定することができる。開口面積は、例えば、パーセンテージ(%)、小数点以下の数(0~1)、又は分率として表され得る。
【0047】
本明細書で使用される場合、及び別段の指定がない限り、「基準面」は、コーティング装置及び多孔質ウェブの構成要素の位置を関連付けることができる基準として使用され得る平面である。より具体的には、本発明の第2の態様による方法で使用される場合、多孔質ウェブの第1の側は、基準面と整列されたウェブ位置決め要素の高さにある。これは、ウェブ位置決め要素が(スロットダイコーティングヘッドの上部リップであるか、又は間隔構造であるかにかかわらず)、基準面まで伸長し、かつ多孔質ウェブがウェブ位置決め要素に対して安定し、それによって基準面と効果的に整列することから、実現される(下記参照)。
【0048】
本明細書で使用される場合、及び別段の指定がない限り、「カウンタ要素」は、スロットダイコーティングヘッドの下部リップの反対側(基準面を横切って)に(スリット幅wに対応する距離で、したがって基準面からの距離w-dで)配置された要素であり、それによってそれらの間のスリットを画定する。動作中、カウンタ要素は、ドープ(対照的に、例えば、EP1298740A2及びEP2296825B1の第2のスロットダイコーティングヘッド)を供給しないが、(スリット及び下部リップに対するその配置を通して)コーティングされる対象物(例えば、多孔質ウェブ)の第2の側(すなわち、スロットから離れる方向に面する側)にコーティングされるコーティング材料(例えば、ドープ)の量を制限する。後者は、典型的には、過剰なコーティング材料を第2の側から除去又は防止することによって実現される。この効果のために、カウンタ要素は、例えば、ドクターブレード、ローラ(例えば、ドラム)、又はそのために使用可能な別の要素、好ましくはドクターブレードであり得る。ドクターブレードは、当技術分野において周知であり、ドクターブレード、フレキソ印刷及びグラビア印刷などの様々なコーティング及び印刷技術において日常的に使用されている。これらは、(典型的には、コーティングされる対象物からのオフセットで配置された)ツールであり、対象物から/対象物上の余分なコーティング材料を除去又は防止するために使用される。本発明内では、ドクターブレードは、典型的には、受動的な要素であり、すなわち、それは、例えば、下部リップに対して静止している(典型的には、動作中に回転するローラとは対照的に)。
【0049】
第1の態様では、本発明は、多孔質ウェブをドープで両面コーティングするためのコーティング装置であって、(i)上部リップ、下部リップ、及び上部リップと下部リップとの間のスロットを含むスロットダイコーティングヘッドと、(ii)基準面を横切って下部リップの反対側に配置されたカウンタ要素と、(iii)下部リップとカウンタ要素との間に画定されており、それらの間に多孔質ウェブを通過させるためのスリットであって、スロットが、スリットに向かって開口している、スリットと、(iv)ウェブ位置決め要素と、を備え、ウェブ位置決め要素が、スロットダイコーティングヘッドの上部リップであり(本明細書では「第1の主要構成」とも称される)、上部リップが、上部リップと下部リップとの間にオフセットがあるように、基準面まで突出しているか、又はカウンタ要素上の間隔構造であり(本明細書では「第2の主要構成」とも称される)、間隔構造が、間隔構造とカウンタ要素との間にオフセットがあるように、基準面まで突出している、コーティング装置に関する。
【0050】
第1の主要構成による例示的なコーティング装置41は、
図10に概略的に示され、(上部リップ51、下部リップ52、及びスロット53を備えた)スロットダイコーティングヘッド50と、基準面15を横切って下部リップ52と反対側に配置されたカウンタ要素60(本明細書ではドクターブレードとして示される)と、が示されている。スリット70は、下部リップ52とカウンタ要素60との間に画定されており、それらの間に多孔質ウェブ10を通過させるためのものである。スロット53は、スリット70に向かって開口しているので、スロットダイコーティングヘッド50からのドープ30は、スロット53を通してスリット70に提供され得る。
図10では、ウェブ位置決め要素は、下部リップ52とのオフセットdを作成するように基準面15まで突出する上部リップ51によって実現される。第1の主要構成は、第2の構成よりも好ましくてもよく、例えば、上部リップがウェブ位置決め要素として倍増し、それによってより少ない要素を必要とするためである。
【0051】
逆に、第2の主要構成による例示的なコーティング装置42は、
図11に概略的に示されている。コーティング装置42は、コーティング装置41に類似しているが、ウェブ位置決め要素は、カウンタ要素(すなわち、上部リップ51の反対側)上の間隔構造61によって実現され、間隔構造61は、カウンタ要素60とのオフセットdを作成するように、基準面15まで突出する。
【0052】
実施形態では、突出した上部リップ又は突出した間隔構造のうちの1つのみが存在し得る。すなわち、ウェブ位置決め要素は、片側のみに存在し得る。
【0053】
実施形態では、コーティング装置又はコーティング装置を含むシステムは、多孔質ウェブが輸送されるときに(例えば、スリットを通って)多孔質ウェブをガイドするための1つ以上のガイド要素(例えば、スプレッダローラなどの1つ以上のローラ)を含み得る。実施形態では、ガイド要素のうちの1つ以上は、多孔質ウェブの輸送に寄与してもよい(又は駆動さえしてもよい)。実施形態では、コーティング装置は、ウェブ位置決め要素の前(例えば、上方)に少なくともガイド要素を含み得る。代替的又は相補的な実施形態では、コーティング装置は、スロットダイコーティングヘッドの下部リップの後(例えば、下方)に少なくともガイド要素を含み得る。好ましい実施形態では、コーティング装置は、ウェブ位置決め要素の前の(第1の)ガイド要素と、スロットダイコーティングヘッドの下部リップの後の(第2の)ガイド要素と、を含み得る。
【0054】
好ましい実施形態では、ガイド要素のうちの1つ以上は、多孔質ウェブを広げるためのスプレッダローラであり得る。実施形態では、多孔質ウェブを広げることは、多孔質ウェブを少なくとも多孔質ウェブの幅方向、好ましくは多孔質ウェブの幅方向と長さ方向との両方に広げることを含み得る。多孔質ウェブを広げることは、多孔質ウェブを(完全に)広げることであってもよく、好ましくは、多孔質ウェブを実質的に(過剰に)延伸することなく(すなわち、多孔質ウェブを強制的に延伸又は伸長することなく)広げることを含み得る。
【0055】
実施形態では、コーティング装置又はコーティング装置を含むシステムは、ドープの固化(例えば、スリットと非溶媒沈殿浴などの固化手段との間)の前に、コーティングされた多孔質ウェブの両側を非溶媒蒸気に区別的に曝露するように(動作中に)構成され得る。実際、固化前の非溶媒蒸気に対するコーティングされたドープの曝露の程度(強度(例えば、分圧)と曝露との持続時間の両方の関数)は、コーティング内に形成される細孔のサイズに直接影響し、より高い曝露はより大きい細孔をもたらす。したがって、両側を異なる程度に区別的に暴露することによって(例えば、両側の異なる分圧及び/又は異なる暴露時間を確保することによって)、両側に異なる孔径を有する両面コーティングされた多孔質ウェブを有利に形成することができる。例えば、そのような両面コーティングされた多孔質ウェブは、片側に小さい細孔(例えば、約0.05~0.2μm)(それによって、有利には、高い気泡点を確保する)と、反対側により大きい細孔(例えば、5~10倍の大きさのオーダー(又は約0.25~2μmの大きさ)で、好ましくは、コーティング内の(細かい)粒状充填剤のサイズも考慮してもよいが)(これは、両側の小さい細孔と比較して、より低いイオン抵抗をもたらす)を有し得る。したがって、異なる側の上の小さい細孔と大きい細孔との組み合わせは、有益に高い気泡点と同時に低い全体的なイオン抵抗を有する両面コーティングされた多孔質ウェブを非常に有利にもたらす。この点において、コーティングされた多孔質ウェブの両側を非溶媒蒸気に別個に暴露することは、例えば、(i)基礎となる非溶媒を区別的に覆うこと(それによって、非溶媒から蒸発する蒸気から両側を区別的に遮蔽する;例えば、多孔質ウェブの片側にあるカバー93の形態で
図8に示されるように)、(ii)両側の近くに「乾燥」(すなわち、非溶媒蒸気を含まない又は非溶媒蒸気がほとんどない)空気を区別的に吹きつけること(例えば、片側の近くに乾燥空気を吹きつけるファン9の形態で
図8に示されるように)、(iii)両側近くに「湿った」(すなわち、非溶媒蒸気を含む)空気を区別的に吹きつけること(例えば、片側の近くに空気を吹きつけるファンによって)、(iv)両側から非溶媒蒸気を区別的に除去すること(例えば、片側の近くの非溶媒蒸気をポンプで吸い取ることによって)など、のうちの1つ以上によって達成され得る。
【0056】
以下でより詳細に説明されるように、(動作中)多孔質ウェブは、入射面に沿ってウェブ位置決め要素と接触し得、入射面は、(基準面に対して)ウェブ位置決め要素に向かって傾斜し得る。実施形態では、入射面は、少なくとも5°、好ましくは少なくとも10°、より好ましくは少なくとも15°、更により好ましくは少なくとも20°、最も好ましくは少なくとも25°の角度(α)で傾斜し得る。実施形態では、コーティング装置(例えば、特にウェブ位置決め要素)は、そのために構成され得る。例えば、ウェブ位置決め要素(例えば、その位置)は、多孔質ウェブが傾斜した入射面に沿ってウェブ位置決め要素と接触するように、第1のガイド要素/上部ガイド要素(すなわち、ウェブ位置決め要素の前)に対して構成され得る。
【0057】
実施形態では、オフセットは、1μm~1000μm、好ましくは2μm~500μm、より好ましくは3μm~250μm、更により好ましくは5μm~50μmなどの4μm~125μmで測定し得る。実施形態では、オフセットは、調整可能であり得る(例えば、選択された/所定の値に対して制御された様式で設定可能であり得る)。調整可能なオフセットを有するコーティング装置は、様々な厚さを有する多孔質ウェブを収容するように直接的に適合され得る。
【0058】
実施形態では、間隔構造は、カウンタ要素に取り付けられ得、又はカウンタ要素に一体的に接続され得る。
【0059】
実施形態では、スロットダイコーティングヘッドは、カウンタ要素と物理的に結合され得る。そうすることは、有利には、コーティングプロセス中にオフセットを一定に保つのを助けることができる。オフセットは、それにもかかわらず、調整可能であり得(上記参照)、すなわち、スロットダイコーティングヘッドは、オフセットが(これが所望されるときに)調整することができるような方法でカウンタ要素と物理的に結合され得ることに留意されたい。いくつかの実施形態では、スロットダイコーティングヘッドは、カウンタ要素に直接接続され得る。例えば、スロットダイコーティングヘッドは、カウンタ要素に固定され得るか、又はカウンタ要素と一体的に接続され得る。他の実施形態では、スロットダイコーティングヘッドは、別の要素を介してカウンタ要素と間接的に結合され得る。例えば、スロットダイコーティングヘッド及びカウンタ要素は、それぞれ、共通ベースに固定され得るか、又は共通ベースに一体的に接続され得る。
【0060】
実施形態では、第1の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、他の態様のいずれかの任意の実施形態について対応して説明されるように、独立し得る。
【0061】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態によるコーティング装置を使用して多孔質ウェブをドープで両面コーティングするための方法であって、(a)多孔質ウェブをウェブ位置決め要素に対して安定させながら、多孔質ウェブをスリットに通過させることと、(b)スロットダイコーティングヘッドのスロットを通してドープをスリットに提供し、それによって、スロットに面する多孔質ウェブの第1の側をコーティングし、かつ多孔質ウェブの反対側の第2の側を、多孔質ウェブを通してコーティングすることと、を含む、方法に関する。
【0062】
例えば、EP1298740A2及びEP2296825B1と対照的に、本明細書では単一のスロットダイコーティングヘッドのみが必要とされ、これは、スリットの片側のスロットを通してドープを送達する。次に、多孔質ウェブの多孔性(すなわち、多孔質ウェブの開口面積)を使用して、ドープの一部を(細孔を通って)反対側に送り、それによって、それにもかかわらず、多孔質ウェブの両側をコーティングすることを可能にする。
【0063】
多孔質ウェブをウェブ位置決め要素に対して(及びより具体的には、基準面まで突出するウェブ位置決め要素の一部に対して)安定させることによって、ウェブ位置決め要素の高さにおける多孔質ウェブの第1の側の位置は基準面と整列される。そこから、多孔質ウェブの第1の側を実質的に安定した状態に保ちながら、多孔質ウェブを下向きに輸送することができる。好ましくは、上記輸送は、多孔質ウェブの第1の側が上記基準面と整列したままになるように、基準面と平行であってもよい。実施形態では、多孔質ウェブは、スリットを実質的に垂直下向きに通過し得る。これは、例えば、低位に位置付けられたガイド要素(例えば、ウェブ位置決め要素51及びローラ82について
図7に示すように、上記参照)に対してウェブ位置決め要素をそれに応じて構成することによって実現することができる。したがって、基準面は、同様に、実質的に垂直下向きに方向付けられ得、又は言い換えれば、基準面の法線は、実質的に水平に方向付けられ得る。
【0064】
実施形態では、多孔質ウェブをウェブ位置決め要素に対して安定させることは、多孔質ウェブをウェブ位置決め要素に対して引き付けることを含み得る。例えば、多孔質ウェブは、ウェブ位置決め要素に対して平坦に引き付けられ得る。多孔質ウェブをウェブ位置決め要素に対して安定させること及び引き付けることは、典型的には、多孔質ウェブに対してウェブ位置決め要素(例えば、その位置)を好適に構成することによって達成し得る。例えば、コーティング装置は、ウェブ位置決め要素の前に位置付けられた第1のガイド要素(例えば、第1のスプレッダローラなどの第1のローラ、上記参照)と、スリットの後に位置付けられた第2のガイド要素(例えば、第2のスプレッダローラなどの第2のローラ)と、を含み得、ウェブ位置決め要素は、多孔質ウェブがウェブ位置決め要素に対して引き付けられるように、第1のガイド要素と第2のガイド要素との間の多孔質ウェブの最短経路に対してシフトされ得る。
【0065】
これは、例えば、
図7の例示的なロールツーロールプロセスについて概略的に示されており、多孔質ウェブ10が、コーティング装置41を介して、小さいスプレッダローラ81にわたって第1のロール91から巻き出され、次いで、非溶媒浴90を介したコーティングの後に、(大きいローラ82上の)最終的なコーティングへのドープを固化させ、大きいローラ82が、力をより大きい表面に分散させ、それにより部分的に(固化したドープ)にかかる圧力を下げるために、いくらか大きい直径を有しており、次いで、一連の更なるローラ83が第2のロール92上に巻き取られることが示されている。図示されるように、コーティング装置41は、ローラ81と82との間に亘る多孔質ウェブ10がウェブ位置決め要素51に対して引き付けられるように、ここでは(すなわち、ローラ81と82との間の多孔質ウェブ10の最短経路に対して)右にシフトされる。より具体的には、図示されているシフトは、ウェブ位置決め要素(の左側)(したがって基準面15)とより大きいローラ82(の右側)との間の水平距離が、多孔質ウェブ厚さ(t
w)と第2の側の(乾燥)コーティング厚さ(t
2)との合計(t
w+t
2)とほぼ等しくなるようなものであり、その結果、多孔質ウェブ10は、ウェブ位置決め要素51から大きいローラ82まで実質的に垂直下向きに亘っている。
【0066】
実施形態では、多孔質ウェブは、したがって、入射面(すなわち、「入射の平面」)に沿ってウェブ位置決め要素と接触し得、入射面は、(基準面に対して)ウェブ位置決め要素に向かって傾斜し得る。実施形態では、入射面は、少なくとも5°、好ましくは少なくとも10°、より好ましくは少なくとも15°、更により好ましくは少なくとも20°、最も好ましくは少なくとも25°の角度(α)で(すなわち、ウェブ位置決め要素に向かって)傾斜し得る。傾斜した入射面は、有利には、ウェブ位置決め要素に対して多孔質ウェブを安定させることを容易にする。
【0067】
更に、ウェブ位置決め要素、下部リップ要素、及びカウンタ要素が互いに対してどのように構成されるかにより、(コーティングが発生する)スリットは、ウェブ位置決め要素に自動的に密接に従う。例えば、ウェブ位置決め要素の底部とスリットの頂部との間の高さ距離は、スロット高さ(hs)の150%未満、好ましくは120%未満、より好ましくは110%未満、更により好ましくは105%以下、最も好ましくは100%以下であり得る。典型的なスロット高さは、例えば、0.2~2mmなどの約0.1~5mmのオーダーであり得る。有利には、安定化された場所の近くにウェブ位置決め要素をコーティングすることによって、多孔質ウェブが、例えば、EP1298740A2及びEP2296825B1と対照的に、その所望の理想的な経路から中間的に依然として逸脱する機会が最小限に抑えられる。
【0068】
図8は、
図7と同じ設定を示しているが、コーティングされたウェブの両側が固化前に非溶媒蒸気に区別的に暴露されることを確実にするための任意選択の追加のカバー93及び/又は乾燥空気ファン94を備えており(上記参照)、それによって、一方の側に小さい細孔(
図8では、ウェブ位置決め要素に面する側)及び反対側に大きい細孔(
図8では、ウェブ位置決め要素から離れる方向に面する側)を有するコーティングされたウェブをもたらす。ウェブ位置決め要素に面する側の上の小さい細孔を有することが、実施形態では、これはまた、(ウェブ位置決め要素の使用を介して;下記参照)最良のコーティング厚さ制御を有する側であるため、好ましい場合がある。実際、コーティングが(局所的に)小さい細孔のある側の上に不十分に厚い場合、これは気泡点にかなりの悪影響を及ぼす。このように、気泡点は、イオン抵抗よりも厚さ変動の傾向があるため、典型的には、厚さ変動の少ない側に小さい細孔を有することによって良好な気泡点を確立することがより有益である。それにもかかわらず、その逆もまた可能であり、また実りあることを証明することができることは明らかであろう。
【0069】
図9は、第1の主要構成の可能な変形を概略的に示し、多孔質ウェブ10が、コーティング装置43を通って、次いで非溶媒浴90を通って、一連の更なるローラ82及び83にわたって、第1のロール91から巻き出され、最終的に、両面コーティングされたウェブ20を第2のロール92上に巻き取られることが示されている。ドクターブレードの代わりに、コーティング装置42は、ロール95から巻き出され、ロール96に巻き取られる疎水性シート62(例えば、シリコーンシート、適用されたドープに向けられたシリコーン層を有する)と組み合わせて、大きいローラ61(例えば、直径が約0.25~3mのドラム)を使用する。第1の主な態様の他の実施形態と同様に、スロットダイコーティングヘッド50の上部リップ51は、(下部リップ52とのオフセットを作成するように)基準面15まで突出して、多孔質ウェブ10が安定するウェブ位置決め要素を形成する。例えば、
図10及び
図11に示されるように、カウンタ要素(ドクターブレード)に対してもオフセットを有することとは対照的に、コーティングされたウェブ20は、ここでは独立したものではなく、ローラ61に沿ってわたり、したがって、疎水性シート62に接触する。それにもかかわらず、ドープの粘度が十分に低い場合、ドープは、多孔質ウェブを通過し、固化後に両側の良好なコーティングが達成されるような方法で第2の側(すなわち、スロットから離れる方向に面する)を依然としてコーティングすることが見出された。次いで、疎水性シート62の役割は、コーティングされたウェブが非溶媒(例えば、水)と時期尚早に接触しないことを確実にすることである。実際、ローラ61は、非溶媒浴中に部分的に浸され、したがって、その表面は、典型的には、非溶媒で濡れている。ロール95の圧延(乾燥)疎水性シート62の
図9に示されるような、及びロール96上で濡れた後の溶液は、1つの可能性に過ぎないことに留意されたい。実際、非溶媒浴を出た後、ウェブ10又は20がそれと接触する前のゾーンで、乾燥システムを使用することもできる(ローラ61を直接的に乾燥させるために、(この場合、疎水性シート62及びローラ95~96を調製することができる)又は疎水性シート62を乾燥させるために(この場合、ローラ95~96から巻き出されたり巻き取られたりするのではなく、連続サイクルで提供することができる))。
【0070】
ドープは、典型的には、コーティングされたウェブがコーティングを損傷することなく更なるローラ上に及びローラから安全に移動するために十分に固化する前に、非溶媒と接触する特定の最小時間(例えば、約20~30秒のオーダーで、これはコーティング厚さにも依存する)を必要とする。したがって、システムのコーティング速度の上限は、その初期固化のために非溶媒で利用可能な距離によって決定される。
図7及び
図8に示されるような設定では、非溶媒の表面から第1の(より大きい)ローラ82までの距離を増加させることは、上記ローラ82を更に下げることを必要とするため、この空間は、浴の深さによって制限される。しかしながら、ますます深い浴(例えば、10~15mの深さ)は非常に実用的ではなくなり、達成可能なコーティング速度に実用的な制限が生じる。この点において、例えば
図9に示されるようなローラをカウンタ要素として使用することは、ドープが依然として濡れており、初期固化を受けている間であっても、非溶媒中でコーティングされた多孔質ウェブをリダイレクトすることを有利に可能にし、それによって、非多孔質浴によって提供される空間をより最適に使用して、そのためにまた、その水平寸法を効果的に係合する。次いで、ローラの直径(及びコーティングされた多孔質ウェブが非溶媒と接触しているその円周の部分)に応じて、高いコーティング速度から非常に高いコーティング速度を達成することができ(例えば、
図7及び
図8のような設定では約1~3m/分から約5~50m/分、好ましくは少なくとも15~25m/分)、これは、両側コーティングされた多孔質ウェブの大量生産を容易にするのに非常に有用である。したがって、実施形態では、ローラは、少なくとも1m、好ましくは少なくとも3m、更により好ましくは少なくとも5mの直径を有し得る。
【0071】
上記に沿って、第2の主要構成はまた、ローラ(例えば、ドクターブレードではなく)を使用するように適合させることができ、これは次いでウェブ位置決め要素として倍増することができる。しかしながら、コーティングされたウェブがローラに沿ってわたることを考えると、典型的には、ウェブ位置決め要素の側にオフセットdが存在せず、この場合、この適合は本発明の範囲外である。
【0072】
実施形態では、多孔質ウェブ(代替的に「多孔質支持体」と称され得る)は、織布又は不織布、好ましくは織布であり得る。織布に関して現在達成可能なものと比較して、不織布は、総間隙率(開口面積)が低く、機械的強度及び/又は支持が低くなる傾向があり、いくつかの用途には好ましくない。実施形態では、多孔質ウェブは、モノフィラメント、マルチモノフィラメント、又はそれらの組み合わせ、好ましくはモノフィラメントで作製され得る。モノフィラメント多孔質ウェブは、有利には、機械的により強く、より硬くなる傾向がある。
【0073】
多孔質ウェブを構成するフィラメントのために、様々な断面プロファイルを使用し得る。例えば、断面プロファイルは、円形(丸形)、楕円形、凸状、八角形、六角形、五角形、正方形、長方形、三角形、又は不規則であり得る。断面プロファイルは、典型的には、フィラメント及び/又はそれらを含む多孔質ウェブに特定の特性を付与し得、したがって、その機能において有利に選択され得る。好ましい実施形態では、多孔質ウェブは、葉状(すなわち、2つ以上の葉状)断面プロファイルを有するフィラメントを含み得る(例えば、フィラメントから作製され得る)。実施形態では、葉状断面プロファイルは、ドッグボーン/ダンベル(例えば、
図12に示されるような)、三葉(例えば、
図13に示されるような)、四葉(例えば、
図14に示されるような)、十字葉、多葉(例えば、
図15に示されるような六葉)などの断面プロファイル、好ましくは三葉又は四葉断面プロファイルであり得る。葉状断面プロファイルを有するフィラメントは、有利には、非常に高い寸法安定性(すなわち、低い柔軟性)を有し、したがって、収縮に対する高い抵抗(例えば、ダイヤフラム形成中にドープを固化させる際の収縮)を示す、多孔質ウェブを作製するために(例えば、熱固定ステップを用いて)容易に固定することができる。高い開口面積を有する及び/又は薄い多孔質ウェブは、典型的には上記収縮に対する抵抗が本質的に少ない。したがって、葉状断面プロファイルを有するフィラメントの使用は、その文脈において特に有利であり、次に、非常に低いイオン抵抗を有する例えば(非常に)薄いダイヤフラムを作製することを可能にする。
【0074】
実施形態では、多孔質ウェブは、55~95%、好ましくは60%超、より好ましくは70%超、更により好ましくは80%超、最も好ましくは90%超の開口面積(又は総間隙率)を有し得る。
【0075】
実施形態では、多孔質ウェブは、10~750μm、好ましくは35~500μm、より好ましくは50~150μmの厚さ(tw)を有し得る。
【0076】
実施形態では、多孔質ウェブは、フィラメント厚さ(tf)(例えば、5~400μm、好ましくは10~300μm、より好ましくは20~250μm、更により好ましくは30~200μmのフィラメント直径)を有し得る。多孔質ウェブが形成されるフィラメントは、典型的には、「フィラメント直径」について典型的に述べることができるように、円形断面を有し得る。しかしながら、フィラメントが異なる断面プロファイルを有する場合(上記参照)、「フィラメント厚さ」について述べることがより適切であり得る。
【0077】
実施形態では、両面コーティングされた多孔質ウェブの厚さ(t)は、15μm~1750μm、好ましくは30μm~1000μm、より好ましくは60μm~600μm、より好ましくは65~150μmを測定し得る。
図10及び
図11を参照すると、本発明の両面コーティングされた多孔質ウェブの厚さ(すなわち、総コーティング厚さ)は、典型的には、スリット幅(w)によって定義される。ここで、「湿潤厚さ」(すなわち、ドープがまだ濡れているときにスリットのすぐ下で測定される)と「乾燥厚さ」(すなわち、ドープを完全に固化させた後、例えば、そこから溶媒を除去した後に測定される)とを区別することができる。ドープを固化させることは、コーティングに(わずかに)縮小効果をもたらし得るため、乾燥厚さは、湿潤厚さよりも(わずかに)小さくなり得る。
【0078】
好ましい実施形態では、両面コーティングされた多孔質ウェブの湿潤厚さは、スリット幅と実質的に等しくし得る。このアプローチは、有利には、高精度で知られている非常によく制御された総コーティング厚さを有することを可能にする。しかしながら、EP2296825B1(上記参照)に記載されているように、コーティングされたドープがスリットの下にメニスカスを形成するように、スロットを通るドープの流れを制御することも可能である。このようなアプローチは、有利には、スリット幅よりも低い総コーティング厚さを有することを可能にするが、ドープ流れの任意の変動は、次いで、コーティング厚さの均一性に悪影響を与え得る。
【0079】
コーティングされたドープは、多孔質ウェブを貫通して浸透するが(その結果、後者は、それと含浸され、したがって、コーティングは完全な総コーティング厚さに沿って存在する)が、それにもかかわらず、コーティングされた多孔質ウェブのそれぞれの側のコーティング厚さ(t
1及びt
2)を、多孔質ウェブ厚さ(t
w)を超えて延在する厚さとして定義することは有用であり、その結果、総コーティング厚さtは、例えば、
図5に示すように、t
1、t
2、及びt
wの合計に等しい。この点において、上記で定義されるように、多孔質ウェブは、典型的には、スロットに面する第1の側と、スロットから離れる方向に面する(すなわち、カウンタ要素に面する)反対の第2の側と、を有する。しかしながら、ウェブ位置決め要素に関するそれらの向きを考慮して、第1及び第2の側も考慮することは有益である。より具体的には、第1の側は、ウェブ位置決め要素が上部リップである実施形態ではウェブ位置決め要素に面し、逆に、第2の側は、ウェブ位置決め要素が間隔構造である実施形態では、ウェブ位置決め要素に面する。次に、実施形態のタイプにかかわらず、多孔質ウェブをウェブ位置決め要素に対して安定させることによって(すなわち、基準面と整列させることによって)、ウェブ位置決め要素に面する側のコーティング厚さ(すなわち、t
1又はt
2)は、次いで、オフセット(d)によって定義され、上記オフセットは、実施形態のタイプに応じて、下部リップ又はカウンタ要素に対するものである(上記参照)。次いで、多孔質ウェブ厚さt
wの任意の変動は、ウェブ位置決め要素(上記参照)から離れる方向に面した側で吸収される。いくつかの実施形態では、したがって、第1の側のコーティング厚さは、第2の側のコーティング厚さとは異なり得る。他の実施形態では、第1の側のコーティング厚さは、第2の側のコーティング厚さと実質的に等しくし得る。言い換えれば、ウェブ位置決め要素に面する側のコーティング厚さ(t
1又はt
2)は、好ましい実施形態では実質的に一定であり得る。例えば、上記した側のコーティング厚さは、平均及び標準偏差によって定義され得、標準偏差は、平均の5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更により好ましくは1%以下、最も好ましくは0.2%以下などの0.5%以下である。逆に、ウェブ位置決め要素から離れる方向に面する側のコーティング厚さ(t
2又はt
1)は、多孔質ウェブ厚さt
wの任意の変動を吸収し得、それによって、典型的には、コーティング厚さのより大きい変動を示す(多孔質ウェブ厚さが実質的に一定である例外的な場合を除く)。例えば、ウェブ位置決め要素から離れる方向に面する側のコーティング厚さの標準偏差は、上記した側の平均コーティング厚さの15%以上、例えば20%以上であり得る。
【0080】
次いで、総コーティング厚さ及びスリット幅と同様に、ウェブ位置決め要素に面する側の湿潤コーティング厚さは、好ましい実施形態では、上記オフセットdと実質的に等しくし得る。このアプローチは、再び有利には、高精度で知られているウェブ位置決め要素に面する側で非常によく制御されたコーティング厚さを有することを可能にする。次いで、この側は、例えば、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラム内の(主)分離側として使用され得、それによって、良好で一定かつ均一な分離特性(例えば、気泡点)を保証する。上記にかかわらず、EP2296825B1(上記参照)に記載されているように、コーティングされたドープがスリットの下にメニスカスを形成するように、スロットを通るドープの流れを制御することも再び可能である。このようなアプローチは、有利には、オフセットよりもウェブ位置決め要素に面する側のコーティング厚さを低くすることを可能にするが、ドープ流れの任意の変動は、次いで、ウェブ位置決め要素に面する側のコーティングの均一性に悪影響を及ぼし得る。
【0081】
実施形態では、ウェブ位置決め要素に面する側及び/又はウェブ位置決め要素から離れる方向に面する側のコーティング厚さは、1μm~1000μm、好ましくは2μm~500μm、より好ましくは3μm~250μm、更により好ましくは5μm~50μmなどの4μm~125μmで測定し得る。
【0082】
実施形態では、多孔質ウェブは、50~2000μm、好ましくは100~1250μm、より好ましくは150~1000μm、更により好ましくは200~750μmで測定する孔径(dp)(「メッシュ開口」とも称される)を有し得る。
【0083】
実施形態では、多孔質ウェブ(例えば、そのフィラメント、上記参照)は、ポリプロピレン(PP)、ポリオレフィン(PO)、ポリエステル(PET)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレン(PE)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリモノクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、エチレン及びクロロトリフルオロエチレンのコポリマー(ECTFE)、エチレン及びテトラフルオロエチレンのコポリマー(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、並びにそれらのコポリマーのリストから選択される1つ以上の材料から作製され得る。多孔質ウェブは、最も一般的には、同じ(すなわち、単一の)材料のフィラメントのみで構成され得るが、実施形態では、いくつかの材料のフィラメント(すなわち、いくつかの異なるフィラメントがそれぞれ単一の材料、又は複数の材料を含むフィラメントで構成される)を含む多孔質ウェブを作製することも可能である。
【0084】
いくつかの好適な商業的又は実験的多孔質ウェブの例及びそれらの特性は、次の表に列挙されている。
【0085】
【0086】
実施形態では、ドープは、(ポリマー)結合剤を含み得る。実施形態では、ドープは、単一のポリマー又は2つ以上のポリマーのブレンドを含み得る。実施形態では、1つ以上のポリマーは、ホモ及び/又はコポリマー(例えば、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー、及び/又はランダムコポリマー)であり得る。実施形態では、1つ以上のホモポリマーは、ポリスルホン(PSU;例えば、Udel(登録商標))、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリアリールエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン(PPSU;例えば、Radel(登録商標))、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、ポリ(オキサ-p-フェニレン-3,3-フタリド-p-フェニレン-オキサ-p-フェニレン-オキシ-フェニレン)(PEEK-WC)、スルホン化PEEK-WC(SPEEK-WC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリモノクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリウレタン(PUR)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、スルホン化PPS(SPPS又はPPSS)、酢酸セルロース(CA)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリアミド(例えば、ナイロン6又はナイロン66などのナイロン)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、シリコーンゴム、ポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン](PTMSP)、ポリ(4-メチル-2-ペンチン)(PMP)及び四級アンモニウム基で官能化されたポリマー(例えば、四級アンモニウムポリスルホン(QAPS))のリストから独立して選択され得る。実施形態では、1つ以上のコポリマーは、ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)及びポリ(ビニリデンフルオリド-co-クロロトリフルオロエチレン)(PVDF-CTFE)のリストから独立して選択され得る。実施形態では、ポリフェニルスルホン結合剤は、例えば、濃縮アルカリ(例えば、30~35重量%のKOH)溶液(例えば、PESUの場合は約120℃、又はPEEK、SPEEK及び/又はPEEK-WCの場合は150℃、PSUの場合は110℃)においてより高い耐熱性を有する両面コーティングされたウェブを作製することを可能にするため、特に好ましくなり得る。これは、例えば、電解温度がより高いときに、より低いセル電位が必要であるという点で有利である(例えば、10℃高い電解温度は、約50mV低いセル電位をもたらす)。
【0087】
実施形態では、ドープは、1つ以上のイオン伝導性ポリマー(例えば、カチオン伝導性ポリマー及び/又はアニオン伝導性ポリマー)を含み得る。イオン伝導性ポリマーは、イオン自体を伝導するため、両面コーティングされた多孔質ウェブのイオン抵抗が更に低減されるという点で有利である。カチオン伝導性ポリマーの例は、PEEK-WC、SPEEK、SPEEK-WC、及びSPPSである。アニオン伝導性ポリマーの例は、四級アンモニウム基で官能化されたポリマーである。
【0088】
実施形態では、ドープは、溶媒を更に含み得る。実施形態では、溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、リン酸トリエチル(TEP)、テトラメチル尿素(TMU)、テトラオキサウンデカン(TOU)、シレン、バイオソルベントブレンド(例えば、Astrobio(商標)NS又はAstrobio(商標)NS3)、ジメチルエステルベースの溶媒ブレンド(例えば、Sta-Sol(登録商標)ESS I)、N-ブチル-ブチルロリドン(例えば、TamiSolve(商標)NxG)、N,N-ジメチルラクトアミド(例えば、Agnique(登録商標)AMD 3L)、ペンタン酸、5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソ-メチルエステル(例えば、Rhodiasolv(登録商標)Polarclean)、及びそれらの混合物のリストから選択され得る。前述のリストにおいて、バイオソルベントブレンド(例えば、Astrobio(商標)NS又はAstrobio(商標)NS3)、ジメチルエステルベースの溶媒ブレンド(例えば、Sta-Sol(登録商標)ESS I)、N-ブチル-ピロリドン(例えば、TamiSolve(商標)NxG)、N,N-ジメチルラクタミド(例えば、Agnique(登録商標)AMD 3L)、及びペンタン酸、5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソ-メチルエステル(例えば、Rhodiasolv(登録商標)Polarclean))は、典型的には「緑色溶媒」とみなされ、そのように有利に使用される(例えば、NEP、NMP、及びDMFなどの古典的溶媒を置き換えて、プロセスをより持続可能かつ持続可能にする)。
【0089】
実施形態では、ドープは、1つ以上の添加剤を含み得る。添加剤は、溶液、分散液又は懸濁液の形成を補助すること、又はドープ若しくは最終的なコーティング上に特定の特性を付与することなど、様々な機能を有し得る。後者は、例えば、コーティングの親水性(例えば、ZrO2充填剤によって達成される)及び/又は総間隙率(例えば、以下に列挙される有機添加剤のうちの1つなどの細孔形成剤を使用して)を増加させることを伴い得る。実施形態では、各添加剤は、独立して、充填剤(すなわち、固化後にコーティングに留まることを意図した添加剤)又は一時的な薬剤(すなわち、固化後にコーティングに留まることを意図しなかった添加剤)であり得る。したがって、充填剤は、典型的には、固化したコーティングにおける機能を果たす(例えば、その親水性を修飾する)が、一時的な薬剤の役割は、コーティングの形成前又は形成中にむしろ存在する(例えば、細孔形成剤及び/又はレオロジー修飾剤)。実施形態では、添加剤は、本質的に有機及び/又は無機であり得る。実施形態では、1つ以上の有機添加剤は、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、エタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、グリセロール、グリコール、又は水のリストから選択され得る。実施形態では、1つ以上の無機添加剤(例えば、(細かい)粒状無機充填剤)は、酸化物(例えば、MgO、TiO2、HfO2、Al2O3、ZrO2、CeO2、Y2O3、SiO2、又はMgO)又はそれらのヒドロキシオキシド誘導体、ゼオライト、Zr3(PO4)4、BaSO4、BaTiO4、SiC、金属-有機フレームワーク(MOF)、分子シーブ、イオン交換体、及び金属水素化物のリストから選択され得る。添加剤は、様々な形状、例えば、粉末、ウィスカ、繊維、刻んだ繊維などで使用することができる。
【0090】
実施形態では、ポリマー及び/又は添加剤は、官能化され得る。例えば、それらは、アミノ化され、スルホン化され、アクリル化され、又は四級アンモニウム基で官能化され得る。
【0091】
好ましい実施形態では、ドープは、ポリフェニルスルホン結合剤、ZrO2充填剤、及び細孔形成剤を含み得る。このようなドープは、有利には、(上記参照)高い総間隙率、高温耐性、及び良好な親水性を有する両面コーティングされたウェブ(例えば、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラム)を作製することを可能にし、非常に低いイオン抵抗などの好ましい特性をもたらし、高電流密度で非常に低いセル電位を可能にする。
【0092】
実施形態では、含浸温度のドープは、1~500mPa.s、好ましくは5~300mPa.s、より好ましくは10~200mPa.s、更により好ましくは15~100mPa.sの1s-1の剪断速度で粘度を有し得る。
【0093】
実施形態では、方法は、(ドープをスリットに提供し、それによって、多孔質ウェブを両面コーティングするステップbの後に)ドープを固化させる更なるステップcを含み得る。実施形態では、ドープを固化させることは、位相反転(「位相分離」とも称され得る)によって実施され得る。実施形態では、相反転は、ドープを(暖かい)水(例えば、約50℃)などの非溶媒と接触させること、例えば、ドープを非溶媒沈殿浴に通過させることによって(又は相反転を達成する任意の他の既知の手段によって)達成され得る。好ましい実施形態では、相反転は、ドープを最初に非溶媒(例えば、水)蒸気相に接触させることなく、ドープを非溶媒沈殿浴に通すことによって、(又は多孔質ウェブの一方の側のドープのみに選択的に接触させて他方の側に接触させないことによって)達成され得る。他の実施形態では、相反転は、ドープを非溶媒(例えば、水)蒸気相と接触させることを含み得る。非溶媒蒸気相の使用(例えば、EP1776490B1に記載される)は、典型的には、より関与し、より複雑な相反転をもたらすが、これは、典型的には、本発明内で必要とされない。
【0094】
実施形態では、非溶媒は、溶媒との混合物中に含まれ得る。実施形態では、ドープを非溶媒と接触させることは、ドープを異なる濃度の非溶媒と接触させることを含み得る。例えば、ドープは、最初に低濃度の非溶媒と接触させ得、固化が進むにつれて濃度が増加し得る。ドープを異なる濃度の非溶媒と接触させることは、例えば、ドープを、溶媒を含むいくつかの異なる混合物と接触させること(例えば、ドープを異なる非溶媒濃度のいくつかの非溶媒沈殿浴に通過させることによって)、又はドープを濃度勾配の非溶媒と接触させること(例えば、ドープを上記濃度勾配の非溶媒沈殿浴に通過させることによって、又はドープを上記濃度勾配の非溶媒蒸気相に曝露することによって)を含み得る。これは、形成されている細孔に対する高度な制御を可能にし、それによって例えば、形成されている細孔のサイズを適切に制御されることを可能にするため、有利である。更に、それは、一方の側(例えば、「固定された」側)に細かい孔径を有するスポンジ状の形状の細孔構造、及び他方の側に向かって徐々に孔径を開く支持細孔構造を形成することを可能にし、これは多孔質ウェブ全体に及ぶ。
【0095】
好ましくは、ステップcは、ステップbの後に比較的迅速に行われ得、その結果、多孔質ウェブ上にコーティングされた後にドープが迅速に固化し、それによって、多孔質ウェブ上にコーティングされた後の多孔質ウェブに対するドープの流れを制限する。その詳細は、典型的には、多孔質ウェブの輸送速度に依存するが、沈殿浴内のスリットの底部と非溶媒の頂部との間の高さ距離(すなわち、「エアギャップ」)は、例えば、25cm以下、好ましくは10cm以下、より好ましくは5cm以下、更により好ましくは2cm以下、又は更には0cmに等しくし得る。原則として、ステップbの後(すなわち、ドープでコーティングされた後)及びステップcの前(すなわち、上記ドープを固化する前)に、多孔質ウェブは、湿潤ドープ層内で依然として移動/置換することができる。したがって、両面コーティングされた多孔質ウェブは、スリットから実質的に垂直下向きに非溶媒沈殿浴に通過され得る。スリット内の垂直方向の向きと同様に、これは、例えば、非溶媒沈殿浴に配置された低位に位置付けられたガイド要素に対してウェブ位置決め要素をそれに応じて構成することによって実現することができる(例えば、ウェブ位置決め要素51及びローラ82について
図7に示すように、上記参照)。ドープが固化するまでコーティングされた多孔質ウェブを垂直に保つことによって、ドープが側の一方に(重力的に)引き付けられることを有利に回避することができる。それにもかかわらず、一方の側へのドープのこの図面は、ドープ/多孔質ウェブが自立しているときにより問題になる傾向があることに留意されたい(すなわち、
図9のように、例えばロールによって支持されていない)。したがって、スリットの向き及び両面コーティングされた多孔質ウェブの通路の向きは、実施形態では、実質的に垂直下向きであることからも逸脱し得る(例えば、
図9に示されるように)。
【0096】
実施形態では、方法は、ロールツーロール(「コイルツーコイル」とも称され得る)プロセスとして実装され得る。実施形態では、ロールツーロールプロセスは、連続プロセス又は半連続プロセスであり得る。
【0097】
実施形態では、方法は、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムを製造するための方法であり得る。実施形態では、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムは、増強された電気化学セル(例えば、アルカリ水電解又はリチウムイオンバッテリ)で使用するためのものであり得る。電気化学セルは、例えば、0.6~2.5A/cm2などの0.6~5A/cm2の範囲の動作ウィンドウを含み得る。背景セクションでも述べたように、異なる電気化学プロセスレジームは、電流密度に基づいて以下のように区別され得る。「標準型」(最大0.2A/cm2)、「高度型」(0.2~0.6A/cm2)、「増強型」(0.6A/cm2以上、例えば、0.6~5A/cm2)。本発明による両面コーティングされた多孔質ウェブは、これらの電流密度レジームのいずれかに使用することができ、実際には、他の完全な用途に使用することができるが、それらは、現在、良好な代替物が欠けている、増強された電気化学セルでの特に有利な使用である。
【0098】
実施形態では、第2の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、他の態様のいずれかの任意の実施形態について対応して説明されるように、独立し得る。
【0099】
第3の態様では、本発明は、第1の態様の任意の実施形態によるコーティング装置におけるウェブ位置決め要素の使用であって、その要素に対して多孔質ウェブを安定させるための使用に関する。
【0100】
実施形態では、第3の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、他の態様のいずれかの任意の実施形態について対応して説明されるように、独立し得る。
【0101】
第4の態様では、本発明は、第2の態様のいずれかの実施形態による方法によって取得可能な両面コーティングされた多孔質ウェブに関する。
【0102】
実施形態では、第4の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、他の態様のいずれかの任意の実施形態について対応して説明されるように、独立し得る。
【0103】
第5の態様では、本発明は、片側に平均及び標準偏差によって定義されるコーティング厚さを有し、標準偏差が、10μm以下、好ましくは5μm以下、更により好ましくは2.5μm以下である、両面コーティングされた多孔質ウェブに関する。
【0104】
多孔質ウェブの一方の側のコーティング厚さは、実質的に確保されているため(一方で、多孔質ウェブの任意の厚さ変動は他方の側で吸収される)、その一方の側のコーティング厚さは、従来技術の場合と比較して、典型的には、そのまま多孔質ウェブの厚さ(tw)とコーティング厚さ(t1又はt2;及び/又はt)との両方の厚さよりも実質的に一定であり、より独立している。
【0105】
実施形態では、標準偏差は、平均の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、更により好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下であり得る。
【0106】
第5の態様について記載されるものの代わりに、標準偏差は、(i)10μm以下、好ましくは5μm以下、更により好ましくは2.5μm以下、及び(ii)平均の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、更により好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下のうちの最も高いものであり得る。上記にもかかわらず、実施形態では、コーティング厚さ(t1又はt2;及び/又はt)は、一方の側のコーティング厚さ(t1又はt2)の達成可能な一定性において重要な役割を果たし始め得る。次いで、標準偏差を平均のパーセンテージとして表現することがより適切であり得る(選択肢ii)が、方法及び/又はコーティング装置によって固有の下限が設定される(選択肢i)。
【0107】
実施形態では、両面コーティングされた多孔質ウェブは、一方の側に第1の平均孔径を有し得、反対の側に第2の平均孔径を有し得る。実施形態では、第1の平均孔径は、第2の平均孔径よりも小さくし得る。実施形態では、第1の平均孔径は、第2の平均孔径よりも少なくとも2倍小さく、好ましくは少なくとも3倍小さく、より好ましくは少なくとも5倍小さく、更により好ましくは少なくとも10倍小さくし得る。好ましい実施形態では、より小さい孔径は、上記に定義される低標準偏差コーティング厚さを有する側にあり得る。
【0108】
コーティングが(細かい)粒状充填剤も含む実施形態では、第2の平均孔径(すなわち、大きい細孔の孔径)は、それにもかかわらず、粒状充填剤のD50よりも小さいことが好ましく、より好ましくはD30よりも小さい、更により好ましくはD20よりも小さい、更により好ましくはD10よりも小さい、最も好ましくはD5よりも小さい。ここで、D50は、粒状充填剤の50パーセンタイルの粒径であり、したがって、粒状充填剤粒子の50%がより小さく、50%がより大きく、D30は、30パーセンタイルの粒径であり、したがって、30%がより小さく、70%がより大きいなどである。対照的に、従来技術では、多孔質ウェブの両方の外側の細孔は、典型的には、粒状充填剤の粒径と比較してかなり大きい(例えば、砂時計状の細孔構造を有し、コーティングされた多孔質ウェブの中央に小さいサイズを有するが、両方の外側に向かってサイズが増加する)。これは合理的なイオン抵抗を達成するために行われるが、粒状充填剤が時間の経過とともにコーティングから簡単に落ちる理由も説明している(背景を参照)。代わりに、したがって、粒状充填剤がコーティング内に十分に保持されるように、十分に小さい第2の平均孔径を選択することによって、粒状充填剤のサイズを考慮することが有利である。更に、本明細書では低イオン抵抗を達成するために大きい細孔が必要とされないため、この程度の自由度が、本発明によってアクセス可能にされることに留意されたい。
【0109】
実施形態では、第5の態様の両面コーティングされた多孔質ウェブは、例えば、第2の態様の実施形態による方法(第4の態様を参照)によって取得可能であり得る。
【0110】
実施形態では、第5の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、他の態様のいずれかの任意の実施形態について対応して説明されるように、独立し得る。
【0111】
ここで、本発明を、本発明のいくつかの実施形態の詳細な説明によって説明する。本発明の他の実施形態は、本発明の真の技術的教示から逸脱することなく、当業者の知識に従って構成することができ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることは明らかである。
【実施例】
【0112】
従来技術に対するかなりの改善を実際に実現することができることを検証するために、イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムを、本発明(実施例1~3)によるドープ(ポリスルホン結合剤及びZrO2充填剤を含む)で3つの異なるタイプの多孔質ウェブをコーティングすることによって製造し、EP1776490B1(比較例)による市販のZirfon(商標)PERL(UTP500)イオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムでベンチマーク化した。比較例に対して、実施例1は、より厚い多孔質ウェブ(420μm対320μm)から出発し(但し、かなり大きい開口面積(71%対55%)を有する)、比較例(510μm対525μm)と同様のダイヤフラム厚さ(すなわち、「乾燥厚さ」)を実現するようにコーティングされた。実施例2は、かなり低い厚さ(115μm)が、より小さい開口面積(62%;すなわち、比較例のそれに近い)を有する多孔質ウェブを使用して、5倍以上小さいダイヤフラム厚さ(123μm)を実現した。実施例3は、これらの実施例の最も薄いダイヤフラム厚さ(69μm)を実現するために、更に薄い多孔質ウェブ(55μm)を再び高い開口面積(70%)で使用した。
【0113】
加えて、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)多孔質ウェブを、ポリフェニルスルホン(PPSU)結合剤、ZrO2充填剤、及び細孔形成剤を含むドープでコーティングすることによって、更なるイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムを製造した(実施例4)。
【0114】
実施例の各々について、イオン抵抗を、30℃で30重量%のKOH水溶液中で測定した。絶対イオン抵抗値と相対イオン抵抗値との両方(ベンチマーク比較例に関して)を決定した。その結果を、以下の表にまとめる。
【0115】
【0116】
したがって、実施例1は、より厚い多孔質ウェブから開始したが、イオン抵抗は、比較例よりも30%超低かった。更に、実施例2及び3は、ベンチマークよりも6倍以上最大約10倍低いイオン抵抗をもたらした。このようなイオン抵抗の低減は、ダイヤフラム全体の電圧降下を劇的に低減し、関連する抵抗加熱を低減しながら全体的な効率を向上させるため、有益である。実施例4では、多孔質ウェブは、実施例2と同じ開口面積を有していたが、実現されたダイヤフラムは、かなり厚かった。それにもかかわらず、コーティングされた多孔質ウェブの総間隙率に対する細孔形成剤の効果のおかげで、ほぼ同等のイオン抵抗が達成された。
【0117】
本発明による装置及び方法を用いても比較例を繰り返すことができることに留意されたい。等しいダイヤフラム厚さの場合、同じ又は適度に低いイオン抵抗が予想され得る。結局のところ、そのような比較的厚くて低い開口面積の多孔質ウェブ自体は、典型的には、スロットダイコーティングヘッド間の過度の歪みに抵抗するのに十分に剛性である。したがって、本発明の相対的利点は低い。しかしながら、EP1776490B1のアプローチを使用して実施例1~4を繰り返すことは、同等のダイヤフラムを作製することを可能にしない(すなわち、同じ低イオン抵抗に到達する)。
【0118】
実施例1~3と同様の手順に従い、例えば、リチウムイオンバッテリ用のイオン透過性ウェブ強化ダイヤフラムは、例えば、PVDF結合剤及びZrO2又はAl2O3充填剤を含むドープで薄い(例えば、15~20μm)ポリエステル又はポリプロピレン多孔質ウェブをコーティングすることによって製造することができる。
【0119】
本発明を例示するために、好ましい実施形態にもかかわらず、特定の構造、構成及び材料が本明細書で論じられていることを理解されたい。添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更又は修正が行われ得ることは、当業者には明らかであろう。
【国際調査報告】