(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-15
(54)【発明の名称】光線性角化症の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/145 20060101AFI20240105BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240105BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
A61K31/145 ZNA
A61P17/00
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540791
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 EP2021087848
(87)【国際公開番号】W WO2022144417
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523249593
【氏名又は名称】コエギン ファーマ アクチエボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンセン,ベリット
(72)【発明者】
【氏名】デュボルド,トーレ
(72)【発明者】
【氏名】フォイエルヘルム,アストリッド ユルムストロ
(72)【発明者】
【氏名】アシュクロフト,フェリシティ
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA01
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA89
4C206ZB26
(57)【要約】
扁平上皮癌又は光線性角化症の処置において使用する為の、下記の式(I)の化合物:
R-S-CH2-CO-CF3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC10~24の不飽和炭化水素基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線性角化症の処置において使用する為の、下記の式(I)の化合物又はその塩:
R-S-CH
2-CO-CF
3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC
10~24の不飽和炭化水素基である。
【請求項2】
扁平上皮癌の処置において使用する為の、好ましくは、扁平上皮癌の予防の為の、下記の式(I)の化合物又はその塩:
R-S-CH
2-CO-CF
3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC
10~24の不飽和炭化水素基である。
【請求項3】
前記炭化水素基Rが5~7個の二重結合を有する、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記炭化水素基Rにおいて、二重結合がカルボニル基と共役していない、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
前記炭化水素基Rにおいて、全ての二重結合がシス配置であるか、又は前記炭化水素基においてカルボニルに最も近い二重結合を除いて全ての二重結合がシス配置である、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記R基が17~19個の炭素原子を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
前記式(I)の化合物が、
【化1】
である、請求項1~6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
前記化合物が経口的又は局所的に投与される、請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
光線性角化症又は扁平上皮癌を処置する方法であって、該処置を必要とする動物、好ましくは哺乳動物、例えばヒト、に、有効量の下記式(I)の化合物又はその塩を投与することを含む、前記方法:
R-S-CH
2-CO-CF
3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC
10~24の不飽和炭化水素基である。
【請求項10】
光線性角化症又は扁平上皮癌を処置する為の医薬品の製造において使用する為の、下記の式(I)の化合物又はその塩の使用:
R-S-CH
2-CO-CF
3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC
10~24の不飽和炭化水素基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線性角化症(actinic keratosis)又は扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)の処置の為の或る多価不飽和長鎖ケトンの使用に関する。本発明はまた、患者における光線性角化症又は扁平上皮癌を処置する方法であって、該患者に本発明の化合物を投与することを含む上記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日光角化症(solar keratoses)としてまた知られている光線性角化症(actinic keratoses)は前癌病変(pre-cancerous lesions)であり、該前癌病変は、紫外線、一般的に太陽光線、による慢性的な損傷を受けた皮膚に発生する。それらは典型的には、皮膚の厚く、鱗状の斑点として現れ、それは粗い質感を有し、色において赤、褐色、白又はピンクと変わりうる。
【0003】
日光に曝露される部位、例えば、頭部、頸部、耳及び手、が最もよく発症する部位である。光線性角化症は一般的にUV照射への有意な曝露によって生じる故に、高齢の患者、特に40歳以上の患者、においてより一般的である。ほとんどの患者が典型的に、複数の光線性角化症を有している。加えて、肌の色が濃い患者よりも肌の色が白い患者において有意に多く発生する。
【0004】
太陽からの又は他の光源からの紫外線に皮膚が曝露されることにより、表皮ケラチノサイトのDNAに突然変異を結果として生じ、それにより、変異した細胞の増殖及び展開を引き起こしうる。UV照射はまた、炎症マーカー、例えばアラキドン酸、並びに炎症に関連付けられた他の分子を増加させることが知られている。変異したケラチノサイトと、増加した炎症マーカーを含む環境との組み合わせにより、最終的に、光線性角化症の増殖をもたらす可能性がある。
【0005】
光線性角化症の為の現在の治療法は、凍結療法(cryotherapy)、外科的切除、光線力学療法、及び局所化学療法を包含する。光線角化症は扁平上皮癌(SCC:squamous cell carcinoma)に進行する可能性がある故に、光線角化症は正確且つ迅速に診断され且つ処置されることが重要である。未処置のままである場合、日光角化症の最大10%が扁平上皮癌に進行しうる場合があり、SCCの大部分は日光角化症に由来することが報告されている。
【0006】
それ故に、本発明者等は、この症状に対する代替処置及び/又は併用処置を模索した。
【0007】
アラキドニルカスケード(arachidonyl cascade)を標的とする非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS:non-steroid anti-inflammatory drugs)での処置が、癌の進行を抑えうることが観察されている(Johannesdottir,S.A.,et al.,Nonsteroidal anti-inflammatory drugs and the risk of skin cancer:a population-based case-control study.Cancer,2012.118(19):p.4768-76;Gonzalez-Periz,A.and J.Claria,New approaches to the modulation of the cyclooxygenase-2 and 5-lipoxygenase pathways.Curr Top Med Chem,2007.7(3):p.297-309)。
【0008】
本発明者等は、細胞質ホスホリパーゼA2グループIVa(cPLA2α)酵素がまた、光線性角化症の病因に、及び光線性角化症から扁平上皮癌への進行に関与している可能性があると仮定している。ホスホリパーゼA2酵素は、加水分解によって膜リン脂質のsn2位から不飽和脂肪酸を遊離するリパーゼの一群である。一旦遊離されると、該脂肪酸は様々な酵素によって生物学的に重要なシグナル分子へと変換される。細胞質IVa群PLA2(cPLA2α)は炎症において極めて重要であり;それは、刺激、例えば、炎症性サイトカイン及び分裂促進成長因子、に応答して、細胞内カルシウムによって及びリン酸化によって活性化される。cPLA2αは、イン・ビトロ(in vitro)でAA含有アシル鎖に対して選択的であり、及びAA由来のエイコサノイド生成における中心的な酵素と考えられている。リン脂質からのアラキドン酸の遊離は、エイコサノイド、例えばプロスタグランジン、の合成を生じるアラキドン酸カスケードを開始する。エイコサノイドは様々な生理学的プロセスにおいて重要であり、及び炎症において中心的な役割を果たす。アラキドン酸、エイコサノイド、及び他の生理活性脂質メディエーターの上昇されたレベルが、炎症性皮膚疾患において報告されている。特に、アラキドン酸由来のエイコサノイドPGE2は、ケラチノサイトの増殖及び光線性角化症の発症における重要なメディエーターであると考えられている。本発明者等はまた、慢性炎症性微小環境がそのような増殖を促進すると現在認められていることを認識している。この点に関して、そのような環境は癌の特徴であり、異常細胞の発生及び増殖を促進すると考えられていることに留意されたい。従って、生理活性脂質は炎症と光線性角化症との関連性を示し、光線性角化症から扁平上皮癌への進行に関与している可能性がある。
【0009】
COX-2/PGE2経路は、光線性角化症の発症と扁平上皮癌への進行の両方において重要であると推測されている(Thomas GJ,Herranz P,Cruz SB,Parodi A.Treatment of actinic keratosis through inhibition of cyclooxygenase-2:Potential mechanism of action of diclofenac sodium 3% in hyaluronic acid 2.5.Dermatol Ther.2019;32(3)において、最近総説された)。
【0010】
COX-2/PGE2及びPAFは更に、UVで誘発された免疫抑制のメディエーターとして両方とも関与しており、それは光線性角化症の発症と扁平上皮癌への進行との両方に重要であると考えられている(Liu B,Qu L,Yan S.Cyclooxygenase-2 promotes tumor growth and suppresses tumor immunity.Cancer Cell Int.2015;15:106.Published 2015 Nov 5;Damiani E,Ullrich SE.Understanding the connection between platelet-activating factor,a UV-induced lipid mediator of inflammation,immune suppression and skin cancer.Prog Lipid Res.2016;63:14-27)。
【0011】
cPLA2及びCOX-2の過剰発現がまた、扁平上皮癌において仮定されている(Zhang S,Du Y,Tao J,Wu Y,Chen N: Expression of Cytosolic Phospholipase A2 and Cyclooxygenase 2 and Their Significance in Human Oral Mucosae,Dysplasias and Squamous Cell Carcinomas. ORL 2008;70:242-248; Kuzbicki L,Lange D,Stanek-Widera A,Chwirot BW. Different expression of cyclooxygenase-2 (COX-2) in selected nonmelanocytic human cutaneous lesions. Folia Histochem Cytobiol. 2011;49(3):381-8)。
【0012】
それ故に、アラキドン酸及びリゾ糖脂質の遊離及び利用可能性の為の制限因子であるcPLA2α酵素の阻害は、生理活性脂質、例えば、PGE2及びPAF、の減少された産生による、光線性角化症の形成及び扁平上皮癌への進展の促進に関与する炎症環境を軽減することと免疫抑制を阻害する可能性を有すると考えられる。
【0013】
NSAIDが、現在、光線性角化症の処置の為に用いられている(Wolf JE Jr,Taylor JR,Tschen E,Kang S.Topical 3.0% diclofenac in 2.5% hyaluronan gel in the treatment of actinic keratoses.Int J Dermatol.2001 Nov;40(11):709-13).
【0014】
本発明者等は、
1)本明細書において定義された化合物の使用は、HaCaT細胞からの、FBS刺激されたPGE2放出(release)を阻害すること;
2)本明細書において定義された化合物はまた、FBSの存在下及び非存在下においてHaCaT細胞の増殖を阻害すること
を驚くべきことに発見した。
【0015】
本発明において使用する為に提案された化合物は、例えば欧州特許出願EP-A-1469859号明細書において、皮膚疾患であるが、光線性角化症又は扁平上皮癌と関係のない乾癬の処置の為に以前に開示されている。乾癬は、光線性角化症とは非常に異なる生化学/免疫学を有する。欧州特許出願EP-A-2925326号明細書は、皮膚炎の処置の為に本発明の化合物を使用することを記載する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の該化合物はまた、欧州特許出願EP-3148519号明細書において、皮膚癌の処置の為に使用されることが示唆されているが、特に扁平上皮癌又は光線性角化症の処置の為に使用されていない。
【0017】
本発明者等は、本発明の化合物が、cPLA2阻害の抗炎症作用に限定されない一連の貴重な生化学的過程を通じて、光線性角化症の処置において有用性を有することを実験的に今示した。これらの化合物が光線性角化症の処置において及び扁平上皮癌の処置において、特に、扁平上皮癌の予防において、魅力的であるのは、細胞増殖、生存率及び場合によっては分化(細胞運命)を包含する複数の生化学的プロセスに影響を及ぼす能力である。
【0018】
従って、1つの観点から見ると、本発明は、光線性角化症の処置において使用する為の、下記の式(I)の化合物又はその塩を提供する:
R-S-CH2-CO-CF3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC10~24の不飽和炭化水素基である。
【0019】
別の観点から見ると、本発明は、光線性角化症を処置する方法であって、該方法が、該処置を必要とする動物、好ましくは哺乳動物、例えばヒト、に、有効量の下記式(I)の化合物又はその塩を投与することを含む、上記の方法:
R-S-CH2-CO-CF3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC10~24の不飽和炭化水素基である。
【0020】
別の観点から見ると、本発明は、光線性角化症を処置する為の医薬品の製造において使用する為の、本明細書中の上記の述べられた式(I)の化合物又はその塩の使用を提供する。
【0021】
更なる観点から見ると、本発明は、扁平上皮癌の処置において使用する為の、下記の式(I)の化合物又はその塩を提供する:
R-S-CH2-CO-CF3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC10~24の不飽和炭化水素基である。
【0022】
更なる観点から見ると、本発明は、扁平上皮癌を処置する方法であって、該方法が、該処置を必要とする動物、好ましくは哺乳動物、例えばヒト、に、有効量の下記式(I)の化合物又はその塩を投与することを含む、上記の方法:
R-S-CH2-CO-CF3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC10~24の不飽和炭化水素基である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、光線性角化症又は扁平上皮癌の処置における、式(I)の化合物又はその塩の使用を含む。
【0024】
光線性角化症及び扁平上皮癌
【0025】
本発明は、光線性角化症及び扁平上皮癌を対象とする。上述されているように、光線性角化症は皮膚の日光に曝露された領域に生じる前癌病変である。これらは一般的に、直径が約2mm~約6mmであり、及び色において大幅に異なる場合がある。
【0026】
光線性角化症の臨床変異型は、古典的(又は一般的)な、肥厚性(又は過角化性)の、萎縮性の、皮角(cutaneous horn)を伴う光線性角化症;色素性光線性角化症;光線性口唇炎;及び、ボーエノイド(Bowenoid)光線性角化症を包含する。別段の明示されていない限り、本明細書において記載された方法は、本明細書において列挙されたものを包含する全ての臨床変異型に適用可能である。
【0027】
光線性角化症病変は、皮膚癌の扁平上皮癌(SCC:squamous cell carcinoma)において観察されるのと同じ細胞変化を多く有しており、未処置のまま放置される場合にはSCCに進展する可能性がある。SCCは、皮膚癌の中で2番目に多い形態であり、扁平上皮細胞の異常且つ加速された増殖によって特徴付けられる。SCCは、鱗屑状の赤い斑点、開放性のただれ、ざらざらした、肥厚した、若しくはいぼ状の皮膚、又は中央のくぼみを伴う隆起した増殖として現れる可能性がある。場合によっては、SCCが堅い外皮を生じ、かゆみ又は出血を伴うことがありうる。未処置のSCCは、侵襲性となり、皮膚のより深い層に成長し、そして、身体の他の部位に広がる可能性がある。従って、可能な場合には、SCCの発生を予防することが望ましい。
【0028】
SCCの大部分は光線性角化症に由来する為に、光線性角化症の効果的な処置はまたSCCの効果的な予防になることがわかる。それ故に、本明細書において開示されている、光線性角化症を処置する方法及び光線性角化症を処置する際に使用する為の化合物はまた、SCCの予防に適用されうる。代替的には、本明細書における光線性角化症の処置に関する全ての言及は、扁平上皮癌の予防への言及として更に読まれうる。
【0029】
本発明の化合物
【0030】
本発明は、は、下記の式(I)の化合物又はその塩に依存する:
R-S-CH2-CO-CF3 (I)
ここで、Rは、少なくとも4個の非共役二重結合を含むC10~24の不飽和炭化水素基である。
【0031】
R基は好ましくは、5~9個の二重結合、より好ましくは5~8個の二重結合、例えば5~7個の二重結合、例えば5又は6個の二重結合、を含む。これらの結合は非共役であるべきである。二重結合がカルボニル官能性(CO:carbonyl functionality)と共役しないことがまた好ましい。
【0032】
R基中に存在する二重結合は、シス配置であってもよく又はトランス配置であってもよいが、存在する二重結合の大部分(すなわち、少なくとも50%)がシス配置であることが好ましい。更に有利な実施形態において、R基中の全ての二重結合がシス配置であるか、又はトランス配置であってもよいカルボニル基に最も近い二重結合を除く全ての二重結合がシス配置である。
【0033】
R基は10~24個の炭素原子、好ましくは12~20個の炭素原子、特に17~19個の炭素原子、を有していてもよい。
【0034】
R基は好ましくは直鎖状である。R基は好ましくは、天然由来、例えば、長鎖脂肪酸又はエステル、である。特に、R基は、AA、EPA又はDHAから誘導されうる。
【0035】
下記の化合物が、本発明における使用の為に極めて好ましい:
【化1】
【0036】
可能である場合には、本発明の化合物は、塩の形態で投与されることができる。しかしながら、好ましくは、そのような形態は使用されない。
【0037】
式(I)の化合物は、既知の化学合成経路を用いて、例えば欧州特許出願EP-A-2925326号明細書又は国際出願PCT/EP2016/051456号における化学合成経路を用いて、製造されてもよい。市販の化合物であるアラキドン酸(AA)、EPA(全て、Z-エイコサ-5,8,11,14,17-ペンタエン酸)又はDHA(全て、Z-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエン酸)から合成を開始することが好都合である。これらの化合物の酸官能基を-COCF3基に変換することは、例えば、カルボン酸をその対応する酸クロリドに変換し、そして、該酸クロリドを、ピリジンの存在下で無水トリフルオロ酢酸と反応させることによって、容易に達成されることができる。
【0038】
S原子を炭素鎖内に導入することがまた容易である。便利なことに、例えば、出発酸がアルコールに還元され、そして、必要に応じて、対応するチオールに変換される。次に、求核性チオールが、基、例えばBrCH2COCF3、と反応され、それによって、カルボニル及び電子トリフルオロメチル種を導入しうる。完全な合成プロトコルは、J.Chem.Soc.,Perkin Trans 1,2000,2271-2276又はJ.Immunol.,1998,161,3421において記載されている。
【0039】
本発明の化合物は、主に、処置、なかんずく光線性角化症の処置、において使用する為に提案されている。
【0040】
「処置する」又は「処置」は、下記のうちの少なくとも1つを意味する:
(i) 哺乳動物において発症する疾病の臨床症状の出現を予防又は遅延させること;
(ii) 疾病を阻害すること、すなわち、疾病若しくはその再発、又はその少なくとも1つの臨床症状(clinical symptom)若しくはその潜在性症状(subclinical symptom)の発症を阻止、軽減若しくは遅延させること;又は、
(iii) 疾病の臨床症状又は潜在性症状のうちの1つ以上を緩和又は減弱させること。
【0041】
扁平上皮癌を予防する為に本発明の化合物を使用することが特に好ましい。本発明の化合物を、光線性角化症の1つ以上の臨床症状を緩和又は減弱させる為に使用することが特に好ましい。
【0042】
処置される対象への利益は、統計的に有意であるか、又は患者若しくは医師が少なくとも知覚できるものである。一般的に、当業者は「処置」がいつ起こるかを理解することができる。本発明の化合物が処置的に使用される場合、すなわち、予防的よりもむしろ発現した状態を処置する為に使用される場合が特に好ましい。本発明の化合物は、予防的に使用されるよりも処置的に使用される方がより効果的である場合がある。
【0043】
本発明の化合物は、任意の動物対象、特に哺乳動物、より特にはヒト、又は疾病のモデルとして機能する動物(例えば、マウス、サル等)に使用されることができる。
【0044】
疾病を処置する為には、有効量の活性剤が患者に投与される必要がある。「処置上有効な量」は、状態(state)、障害(disorder)又は病態(condition)を処置する為に動物に投与された場合に、そのような処置を効果的に行う為に十分である化合物の量を意味する。「処置上有効な量」は、化合物、疾病及びその重症度、処置されるべき対象の年齢、体重、体調及び反応性に依存して異なり、最終的には担当医の判断によるであろう。
【0045】
本発明に従う病態(condition)処置する為に、式(I)の化合物が或る間隔で再び施与されなければならないことがありうる。適切な投与量は医師によって処方されることができる。
【0046】
本発明の方法において使用する為に、式Iの化合物がバルク物質として投与されうることが可能であるが、例えば、医薬製剤中に活性成分を提示することが好ましく、ここで、該薬剤は、意図される投与経路及び標準的な医薬実務に関して選択される医薬的に許容される担体と混和されている。
【0047】
語「担体」は、活性化合物が投与される、希釈剤、添加剤若しくはビヒクル又はそれらの組み合わせを云う。本発明の医薬組成物は、複数の担体の組み合わせを含みうる。そのような医薬担体は、当技術分野において周知である。該医薬組成物はまた、任意の適切な1以上の結合剤、1以上の滑沢剤、1以上の懸濁剤、1以上のコーティング剤、若しくは1以上の可溶化剤等を含みうる。
【0048】
該組成物はまた、他の活性成分、例えば、光線性角化症又は扁平上皮癌の処置の為の他の薬剤、を含むことができる。
【0049】
それ故に、本発明の活性剤は、ステロイド又はバリア物質(例えば、酸化亜鉛)と併用されうる。
【0050】
本発明に従って使用する為の医薬組成物は、経口、非経口、経皮、舌下、局所、インプラント、鼻腔、又は経腸投与(又は他の粘膜投与)懸濁物、カプセル又は錠剤の形態であってもよく、それらは、1以上の医薬的に許容される担体又は添加剤を用いて慣用的な様式で製剤化されうることが理解されるであろう。
【0051】
しかしながら、光線性角化症の処置の為に、本発明の組成物は、好ましくは経口的に、又は理想的には局所的に、投与される。それ故に、該化合物は、軟膏(ointment)、クリーム、膏薬(salve)、フォーム(foam)又はゲルの形態で提供されうる。
【0052】
本発明の医薬組成物は、体積当たり0.01~99重量%の活性物質を含みうる。
【0053】
本発明の化合物の処置上有効な量は、当技術分野において既知の方法によって決定されることができる。該処置上有効な量は、患者の年齢及び一般的な生理学的状態、投与経路及び使用される医薬製剤に依存する。処置用量は一般的に、約1.0~200mg/日、好ましくは約3.0~150mg/日、である。例えば5.0~50mg/日、5.0~30mg/日、を包含する他の範囲が使用されうる。典型的な範囲は10~200mg/日である。
【0054】
投与は、1日1回、1日2回、又はそれ以上の頻度であってもよく、疾病又は障害の維持期の間に、例えば、毎日又は1日2回の代わりに、2日又は3日に1回に、減らされてもよい。投与量及び投与頻度は、寛解期の維持を確認する臨床徴候に依存し、当業者に既知の急性期の臨床徴候の少なくとも1つ、又はより好ましくは1以上、の臨床徴候の減少又は不在を伴う。
【0055】
本発明の化合物は、扁平上皮癌を処置する為に、該目的の為の他の既知の医薬品と組み合わせて使用されてもよく、これは本発明の更なる観点を形成する。特に、イミキモド(Imiquimod)、5-フルオロウラシル(5-FU)又はエリベッジ(Erivedge)商標(ビスモデギブ(vismodegib))との併用が企図される。
【0056】
代替的に、本発明の化合物は、放射線療法(radiotherapy)、凍結療法、光線療法、レーザー療法又は放射線治療(radiation therapy)と組み合わせて使用されうる。以下の非限定的な実施例及び図を参照して、本発明が更に以下において記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1A】
図1Aは、化合物Aの非存在下又は存在下、DMEM 0.5%FBS(A)で培養したHaCaT細胞の細胞数を(A)に示す(凡例は化合物Aの濃度をμMで示す)。
【
図1B】
図1Bは、化合物Aの非存在下又は存在下、10%FBS(B)で培養したHaCaT細胞の細胞数を(B)に示す(凡例は化合物Aの濃度をμMで示す)。
【
図1C】
図1Cは、両実験の96時間時点の用量反応曲線を示す。
【
図2】
図2は、10%FBS又はCTRL(0.5%FBS)の添加により24時間血清を遮断したHaCaT細胞を、化合物A(5μM)の非存在下又は存在下で24時間刺激した後のPGE2濃度を示す。*p<0.05対CTRL、#p<0.05対10%FBS。
【
図3】
図3は、AVX001が初代ケラチノサイトの成長、増殖及び生存率を阻害することを示す。成長曲線:細胞がビヒクル又はAVX001で処置され、そして、最大6日間、自動化されたイメージングによって毎日カウントされた。データは2~3回の実験の平均値である。生存率アッセイ:レサズリン(resazurin)アッセイが用いられ、3日間培養された細胞をビヒクル又はAVX001のいずれかで更に3日間処置された細胞における生存率を測定した。データは代表的な実験であり、ここで、データポイントは6テクニカルレプリケート(technical replicate)についての平均±標準偏差である。3回の実験からの、AVX001の平均IC50は3.7μM±0.7であった。増殖指数:ビヒクル又はAVX001で24時間処置された後の増殖/全細胞。データは3実験についての平均値±SEM。*p<0.05,***p<0.001対ビヒクル(一元配置分散分析(one-way ANOVA))。
【
図4】
図4は、AVX001がA431皮膚扁平上皮癌細胞の生存能力を阻害することを示す。A.AVX001で処理されたA431細胞の代表的な画像。ビヒクル又はAVX001のいずれかで2日間培養後、20倍の倍率で位相差画像が撮影された。B.6個の反復ウェルにおいて行われた細胞生存率アッセイ。6回の反復についての個々のデータポイントが示されている。非線形回帰によるカーブフィッティングが、IC50を算出する為に用いられた。
【
図5】
図5.BIRC5はHaCaTケラチノサイトにおけるcPLA2α阻害の標的である。ビヒクル又はAVX001(5μM)のいずれかで12日間処置されたHaCaT細胞の3次元培養におけるBIRC遺伝子発現のqPCR解析。データは平均正規化相対量(mean normalized relative quantities) (NRQ)±SEM。*p<0.05(対応のないt検定(unpaired t-test))。
【0058】
実施例
【0059】
下記の化合物が、実験において使用された:
【化2】
【0060】
実施例1
【0061】
材料
細胞培養培地及び化学物質は、特に断りのない限りSigma-Aldrichから購入された。フルオロケトンは、酸化を最小限に抑える為に、DMSO中の20mMストック溶液としてアルゴンガス下、-80℃で保存された。
【0062】
HaCaTケラチノサイトの維持
自然発生的に不死化された皮膚ケラチノサイト細胞株HaCaTが用いられた。これらの細胞は、皮膚科学における増殖応答(proliferative response)を研究する為によく用いられ、EGFRを発現し、そして、増殖因子(growth factor)とは無関係に、及び増殖因子による刺激に応答して増殖することができる。HaCaTは、5%(v/v)のFBS、0.3mg/mlのグルタミン、0.1mg/mlのゲンタマイシンを補充されたDMEM(DMEM-5)中、37℃、5%のCO2、加湿雰囲気で、分化を防ぐ為のサブコンフルエント(sub-confluency)に維持された。処置が、0.5%の(v/v)FBS、0.3mg/mlのグルタミン(DMEM-0.5)を補充されたDMEM中で行われた。
【0063】
細胞増殖アッセイ
HaCaTが1ウェル当たり3,000個の細胞の密度でDMEM-5中の96ウェルプレート内に播種された。24時間後、10倍の対物レンズを備えられたBiotek Cytation 5マルチモードプレートリーダーを用いて、1ウェル当たり4枚の明視野画像が取り込まれた。各フィールドは、自動オートフォーカスと、フィールド毎の細胞数の正確な検出及び計数の為に最適であったピンぼけ画像を生成する為のオフセットとの両方を用いて撮影された。次に、該培地が、化合物Aの非存在下又は存在下、指示された用量で、DMEM-0.5で交換された。90分後、最終濃度10%のFBSが該ウェルの半分に添加され、そして、プレートが37℃、5%のCO2でインキュベーションされた。細胞計数の為の明視野画像が24時間間隔で6日間撮影され、そして、該培地及び処置液が3日後に交換された。
【0064】
酵素結合免疫測定法(Enzyme-linked immunoassay)によるPGE2の検出
【0065】
HaCaT細胞が、1ウェル当たり20,000個の細胞の密度で、DMEM-5中の24ウェルプレート内に播種された。3日後、該細胞がDMEM-0.5中、24時間血清除去され、化合物A又はビヒクル(DMSO)で90分間前処置された後、最終濃度10%のFBSが添加された。更に24時間後に上清が除去され、そして、PGE2濃度が酵素結合免疫吸着測定法(EIA:enzyme-linked immunosorbent assay)(Cayman #514435)によって、メーカーのプロトコルに従って測定された。細胞上清が希釈されずにアッセイされた。上清が一晩かけてハイブリダイズさせ、そして、基質の酵素的変換がOD420nmで読み取られた。データが4-パラメータロジスティックフィットモデルを用いて処理された。
【0066】
結果
【0067】
様々な条件下でのHaCaT細胞の増殖は、cPLA2α阻害剤化合物Aによって阻害される。
【0068】
化合物Aでの処置は、血清欠乏下(0.5%のFBS)(
図1A)及び10%のFBS存在下(
図1B)の両方で増殖したHaCaTの増殖を阻害した。処置後96時間で、化合物AはHaCaT細胞の増殖を阻害し、その平均IC50は0.5%のFBSでは3.2μM、10%のFBSでは5μMであった(
図1C及び表1)。
【0069】
HaCaT細胞がDMEM-0,5%のFBS(A)又は10%のFBS(B)中、化合物Aの非存在下又は存在下で培養された(濃度はμM)。細胞数は6日間、24時間毎に記録された。以下に示されているデータは3回のテクニカルレプリケートの平均であり、そして、実験は2回繰り返された。非線形回帰が用量反応曲線(
図1C)からIC50値を算出する為に用いられ、それにより、各バイオレプリケート(REP1及びREP2)について示された。
【0070】
【0071】
HaCaT細胞からのPGE2の放出が、cPLA2α阻害剤化合物Aによってブロックされた。
【0072】
24時間血清を除去されたHaCaT細胞において、10%のFBSを24時間添加することにより、PGE2の放出が誘発された。PGE2レベルは酵素結合免疫測定法によって解析された。
図2に示されているデータは、3回の独立した実験の平均値である。化合物A(5μM)とのプレインキュベーションにより、FBS刺激されたPGE2放出が完全にブロックされ、cPLA2αの活性化がFBS刺激されたPGE2放出の重要なドライバー(driver)であることが示された。このメカニズムは、ケラチノサイトの増殖を制御する為に重要でありうる。
【0073】
実施例2
【0074】
方法
【0075】
初代ヒト表皮角化細胞の培養及び実験
4~6個の個体からプールされたヒト新生児表皮ケラチノサイト(Thermofisher #A13401)が、サプリメントS7を補充されたエピライフ(Epilife)培地(M-EPI-500-CA)中、コラーゲンでコートされたフラスコにおいて、供給者の指示に従って培養された。該培地は2日毎に交換され、そして、該細胞はコンフルエントに達する前に再培養された。実験の為に、細胞が1cm2当たり2500個の細胞の密度で96ウェルプレート内に播種された。増殖アッセイの為に、24時間後に、該細胞が指示された用量でAVX001を用いて処理され、そして、成長が、Cytation 5 マルチモードイメージングプレートリーダ(multimode imaging plate reader)(Biotek Inc.)を用いた自動化されたイメージング及び分析によって、6日間毎日細胞をカウントすることによって増殖がモニタリングされた。細胞生存率アッセイの場合、プレーティング4日後に指示された用量でAVX001を用いて処理され、そして、3日間更にインキュベーションされた後、レサズリン試薬を2時間添加し、その後に、生細胞数(live cell)の指標としてCytation 5マルチモードイメージングプレートリーダー(Biotek Inc)を用いて590nmの蛍光を読み取った。細胞増殖アッセイの場合、プレーティング5日後に、該培地がS7を補充すること無しにエピライフ培地に変更された。翌日、該細胞は指定された用量のAVX001で24時間処置された。EdUが2時間添加され、そして、該細胞が4%パラホルムアルデヒドで固定され、そして、The ClickIT EdU Alexafluor 594 HCS assay(Thermofisher Scientific)を用いて活発に増殖している細胞が定量された。透過化及び染色の為のプロトコルは、製造業者の説明書に従って行われた。DAPI及びTRITCフィルターセットと共に、Cytation 5マルチモードイメージングプレートリーダー(Biotek Inc.)を用いて、該細胞が10倍の倍率で画像化され、HCS核マスク及びEdU夫々を画像化した。自動化された解析ソフトウェアCellProfilerを用いて全核(Total nuclei)及びEdU陽性核(EdU positive nuclei)が計測され、そして、増殖指数(画像当たりのEdU陽性/全核)として表された。
【0076】
A431皮膚扁平上皮癌細胞及びHaCaT細胞における培養及び実験
A431皮膚扁平上皮癌細胞及び不死化されたHaCaTケラチノサイト(HaCaT immortalized keratinocytes)が、5%FBSで補充されたDMEM中で培養された。実験の為に、該細胞が、5%FBSを補充されたDMEM中、1ウェル当たり3,000個の細胞の密度で96ウェルプレート内に播種されたた。2日後、該培地は、ビヒクル(0.1%のDMSO)又はAVX001の存在下で0.5%FBSを補充されたDMEMに変更され、2日間更に培養された。レサズリン(1ウェル当たり10μL)が2時間添加され、そして、生細胞数の指標として、Cytation 5マルチモードイメージングプレートリーダ(Biotek Inc.)を使用して590nmの蛍光を読み取った。
【0077】
定量的PCRによる遺伝子発現の解析
HaCaTケラチノサイトが3D器官型培養で維持され且つ増殖された。RNAが、RNeasy minikit(Qiagen)を用いて培養物から抽出され、そして、逆転写が、Quantitect逆転写キットを用いて製造業者のプロトコルに従って行われた。定量的PCRは、RocheからのLightCycler 96装置を使用し、SYBR green master mix(Roche)で行われた。Cq値はLinReg PCR(バージョン2017.1)で計算され、3つの参照遺伝子(GAPDH、HPRT1及びRPS18)に相対的な定量がqbase+ソフトウェア、バージョン3.0(Biogazelle,Zwijnaarde,Belgium-www.qbaseplus.com)を用いて行われた。
【0078】
【0079】
結果及び議論
【0080】
AVX001は、培養中の初代ヒトケラチノサイト及び形質転換されたケラチノサイトの生存能力を阻害する。
【0081】
これまでに、本発明者等は、AVX001が2D及び3D培養の両方において不死化されたHaCaTケラチノサイトの成長及び増殖を抑制することができ、且つ成長因子及びFBSに対する応答を阻害することができることを示した。AVX001が初代ケラチノサイトにおける増殖を抑制することができるかどうかを調べる為に、本発明者等は、市販の初代ヒト表皮ケラチノサイト(HEK:human epidermal keratinocyte)を培養し、それらの成長、生存率及び増殖に対するAVX001の影響を調べた。2μMの濃度で、AVX001はHEKの増殖を阻害し(
図3a;増殖曲線)、且つ3.7μM±0.7の平均IC50でそれらの生存率を阻害した(
図3b;生存率アッセイ)。増殖アッセイは、これらの濃度(2~5μM)で、AVX001が集団中の活発に増殖する細胞の割合を有意に減少させたことを示す(
図3c;増殖アッセイ)。このことは、cPLA2α活性がケラチノサイトの増殖/生存の為に重要であることを示唆する不死化されたHaCaT細胞からのデータを支持する。
【0082】
AVX001が形質転換されたケラチノサイトの増殖を阻害するのに有効であるかどうかを調べる為に、本発明者等は皮膚扁平上皮癌A431細胞株を培養し、そして、AVX001の用量を増やして処置された後の細胞の生存率を測定した。
図4Aにおいて示された付着された細胞数の減少と、
図4Bにおいて示されているレサズリンアッセイによって示されている低下された代謝とによって実証されているように、AVX001はA431細胞の生存率を低下させた。比較として、本発明者等はまた、HaCaT細胞において以前に行われた生存率試験を繰り返した。AVX001は6.7μMのIC50でA431細胞の生存率を低下させ、それはHaCaT細胞における該化合物の効果と同等であった。
【0083】
AVX001はサバイビン(survivin)をコードする遺伝子BIRC5の発現を抑制する。
cPLA2α活性が複数の細胞型の成長及び増殖の為に重要であることは明らかであるが、そのシグナル伝達経路及びエフェクタータンパク質は、細胞/組織の起源と発生段階に依存する可能性が高い。どの経路/エフェクターがケラチノサイトのcPLA2α依存性増殖に重要である可能性があるかを調べる為に、本発明者等は、AVX001の存在下又は非存在下で3次元培養されたHaCaT細胞からRNAを抽出し、そして、抗アポトーシスタンパク質のバキュロウイルスIAP反復配列(BIRC:baculovirus IAP repeat containing)ファミリーのメンバーの発現を測定し、それは、皮膚を含む過剰増殖性疾患の発症に関与していることを示していた。
【0084】
本発明者等は、AVX001で処置されたHaCaT 3D培養物が、ビヒクル対照で処置されたものよりもBIRC5遺伝子発現の有意に低いレベルを有し、一方、BIRC2、BIRC3及びBIRC4の発現が影響されなかったことを実証した(
図5)。BIRC5はサバイビンをコードする遺伝子であり、ケラチノサイトにおける細胞周期の進行とアポトーシスからの保護とにおいて、確立された役割を持つタンパク質である。サバイビンは癌及び炎症性皮膚疾患において過剰発現され、且つ増殖亢進及び皮膚腫瘍の発生に関与している。BIRC5は、UV刺激されたケラチノサイトにおけるPGE2/EP2/STAT3シグナルの既知の標的であり、及びサバイビンを標的とすることにより、マウスにおけるメラノーマ皮膚癌の増殖を抑制することができる。従って、AVX001処置によるサバイビンの下方制御は、ケラチノサイトの増殖及び生存を障害することが予測され、従って、光線性角化症及び扁平上皮癌におけるAVX001についての推定作用機序を提示しうる。
【配列表】
【国際調査報告】