(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-16
(54)【発明の名称】共沸蒸留によるメチルメルカプタンの乾燥方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/28 20060101AFI20240109BHJP
C07C 321/04 20060101ALI20240109BHJP
C07C 319/08 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C07C319/28
C07C321/04
C07C319/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537021
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 FR2021052364
(87)【国際公開番号】W WO2022129801
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレミー、ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】レイモンド、ジャン-ミシェル
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC63
4H006AD12
4H006AD17
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD41
4H006BD43
4H006BD53
4H006BD84
4H006BE90
4H006TA04
(57)【要約】
本発明は、特に共沸蒸留によるメチルメルカプタンの乾燥方法に関する。この乾燥方法は、1)メチルメルカプタン及び水を含むストリーム(A)を、蒸留塔(1)に導入する工程と、2)ストリーム(A)を蒸留塔(1)で蒸留する工程と、3)蒸留物(B)を好ましくは蒸留塔の頂部において気体で回収する工程と、4)蒸留物(B)を好ましくは凝縮器(2)で凝縮させて液体の凝縮物(C)を得る工程と、5)凝縮物(C)を好ましくはデカンター(3)を用いて分離して水相(D)及びメチルメルカプタンを含む有機相(E)の2つの別々の液相を得る工程と、6)有機相(E)の全部又は一部を、任意選択で蒸留塔(1)に還流物として導入する工程と、7)乾燥されたメチルメルカプタンを含むストリーム(F)を好ましくは蒸留塔の下部において回収する工程と、を含む。本発明は、この乾燥方法を含むメチルメルカプタンの製造方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメルカプタンの乾燥方法であって、
1)メチルメルカプタン及び水を含むストリーム(A)を、蒸留塔(1)に導入する工程と、
2)前記ストリーム(A)を、前記蒸留塔(1)で蒸留する工程と、
3)蒸留物(B)を、好ましくは前記蒸留塔の頂部において気体で回収する工程と、
4)前記蒸留物(B)を、好ましくは凝縮器(2)で凝縮させて、液体の凝縮物(C)を得る工程と、
5)前記凝縮物(C)を、好ましくはデカンター(3)を用いて分離して、水相(D)及びメチルメルカプタンを含む有機相(E)の2つの別々の液相を得る工程と、
6)前記有機相(E)の全部又は一部を、任意選択で前記蒸留塔(1)に還流物として導入する工程と、
7)乾燥されたメチルメルカプタンを含むストリーム(F)を、好ましくは前記蒸留塔の下部において回収する工程と、
を含む、乾燥方法。
【請求項2】
工程2)の蒸留は、0.05バール(絶対圧)~75バール(絶対圧)、好ましくは1バール(絶対圧)~30バール(絶対圧)、より優先的には5バール(絶対圧)~15バール(絶対圧)の圧力で行なわれる、請求項1に記載の乾燥方法。
【請求項3】
工程2)の蒸留は、20℃~200℃、好ましくは60℃~100℃、より優先的に65℃~95℃の温度で行なわれる、請求項1又は請求項2に記載の乾燥方法。
【請求項4】
工程2)の蒸留は、共沸蒸留である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の乾燥方法。
【請求項5】
ストリーム(A)は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より優先的には少なくとも98重量%、例えば少なくとも98.5重量%、又は更に少なくとも99重量%のメチルメルカプタンを含む、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の乾燥方法。
【請求項6】
ストリーム(F)中の水の量は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0ppm~1500ppm、好ましくは0ppm~1000ppm、より優先的には40ppm~800ppmである、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の乾燥方法。
【請求項7】
工程6)が実施される場合、還流比は、0~0.99、好ましくは0~0.60である、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の乾燥方法。
【請求項8】
ストリーム(A)は、メタノール及び硫化水素からメチルメルカプタンを製造するための装置に接続される、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の乾燥方法。
【請求項9】
ストリーム(A)は、酸化炭素、水素(H
2)、硫化水素(H
2S)及び/又は硫黄(S)からメチルメルカプタンを製造するための装置に接続される、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の乾燥方法。
【請求項10】
メチルメルカプタンの製造方法であって、
a)メタノールを硫化水素と反応させて、メチルメルカプタン、水、並びに場合により未反応H
2S及び硫黄副生成物を含む、好ましくは気体のストリーム(M)を生成する工程と、
b)任意選択で、前記ストリーム(M)を凝縮する工程と、
c)前記ストリーム(M)を精製する少なくとも1つの工程を実施して、メチルメルカプタンに富んだストリームを得る工程と;
d)工程c)で得られたストリームを、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の乾燥方法により乾燥する工程と、
を含む、メチルメルカプタンの製造方法。
【請求項11】
メチルメルカプタンを乾燥するための共沸蒸留の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に共沸蒸留によるメチルメルカプタンの乾燥方法に関する。本発明はまた、前記乾燥方法を含むメチルメルカプタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メルカプタンは、工業的に大変興味深く、特により複雑な有機分子を合成する際の出発物質として、現在、化学工業において広く使用されている。例えば、メチルメルカプタン(CH3SH又はMeSH)は、動物栄養のための必須アミノ酸であるメチオニンを合成する際の出発物質として使用されている。メチルメルカプタンは、他の用途の中でも、ジアルキルジスルフィドの合成、特に、石油留分のための水素化処理触媒用の硫化剤であるジメチルジスルフィド(DMDS)の合成においても使用されている。
【0003】
メチルメルカプタンの工業的合成は、一般に、2つの公知の経路により行われる。第一は、いわゆるメタノール経路と呼ばれるものであり、以下の反応(1)によりメタノール及び硫化水素からメチルメルカプタンを製造する。
CH3OH+H2S → CH3SH+H2O (1)
この方法では、副反応を起こし、以下の反応(2)によりジメチルスルフィドが生成する。
CH3OH+CH3SH → CH3SCH3+H2O (2)
【0004】
第二経路は、いわゆる酸化炭素経路と呼ばれるものであり、例えば、以下の反応(3)及び(4)により、一酸化炭素、水素、硫化水素及び/又は硫黄からメチルメルカプタンを得ることを可能とする。
CO+2H2+H2S → CH3SH+H2O (3)
CO+S+3H2 → CH3SH+H2O (4)
【0005】
前述の反応により示されているように、メチルメルカプタンの合成は、使用される経路に関係なく、水の生成を伴う。したがって、次に、水からメチルメルカプタンを分離する必要がある。しかしながら、水は、メチルメルカプタンにわずかに可溶性である。したがって、得られた生成物中には、常にいくらかの水が残存し、可能な限り除去する必要がある。
【0006】
実際、メチルメルカプタン中の残留水分含量が非常に低いことが望ましい工業的用途がある。例えば、メチルメルカプタンの硫黄酸化によるジメチルジスルフィドの合成では、水は、この反応の触媒の活性を低下させる可能性がある。
【0007】
加えて、メチルメルカプタン中の残留水分含量が高い(特に数千ppmのオーダ)場合、及び温度が約16℃未満の場合、水の一部は、溶解できず、デカントし(decant)、固体メチルメルカプタン水和物の生成を促進する可能性がある。これらの固体残渣は、装置の目詰まりのリスクをもたらし、設備及び輸送に関する重大な安全性の問題を引き起こす。
【0008】
このようなリスクを回避するため、メチルメルカプタンの乾燥は、従来、モレキュラーシーブへの水の吸着により行われていた。しかしながら、この方法は、多くの欠点を有する。
【0009】
例えば、モレキュラーシーブの再生は、高温で行われ、ジメチルスルフィドなどの望ましくない副生成物の生成をもたらす。
【0010】
更に、メチルメルカプタンがメタノール経路により生成される場合、乾燥しようとするメチルメルカプタン中に微量のメタノールが含まれていると、モレキュラーシーブの水吸着能力を極端に低下させる可能性がある。このため、再生頻度の増加を必要とし、製造コストが上昇し、望ましくない副生成物の生成を増加させる。
【0011】
したがって、水分含量が低い、好ましくは可能な限り水分含量の低いメチルメルカプタンに対するニーズがある。
【0012】
また、効率的であり、公知の乾燥方法の欠点の全部又は一部を回避することを可能とする、メチルメルカプタンの乾燥方法に対するニーズもある。
【発明の概要】
【0013】
本発明の1つの目的は、前記方法は、低水分含量、好ましくは1500ppm以下の水分含量を有するメチルメルカプタンを得ることを可能とする、メチルメルカプタンの乾燥方法を提供することにある。
【0014】
本発明のもう1つの目的は、これまでに使用された乾燥方法の欠点、及び特にモレキュラーシーブを用いた乾燥方法の欠点を、完全に又は部分的に克服することができる方法を提供することにある。
【0015】
本発明の目的はまた、その乾燥方法が制御され及び/又は経時的に変化しない方法を提供することにある。
【0016】
本発明の目的は、低水分含量、好ましくは1500ppm以下の水分含量を有するメチルメルカプタンを得ることを可能とする、メチルメルカプタンの調製方法を提供することにある。
【0017】
本発明の目的は、より環境に優しく、より経済的であるメチルメルカプタンを調製するための統合プロセスを提供することにある。
【0018】
本発明は、上記目的の全部又は一部を満たす。
【0019】
メチルメルカプタン及び水は、共沸混合物、好ましくは不均一共沸混合物(heteroazeotropic mixture)を生成し得る。「共沸混合物」という用語は、特に、一定の組成(気相は、液相と同じ組成を有する)を保持しながら沸騰する液体混合物を意味する。好ましくは、メチルメルカプタン及び水は、0.05バール(絶対圧(bar absolute))~75バール(絶対圧)、好ましくは1バール(絶対圧)~30バール(絶対圧)、より優先的には5バール(絶対圧)~15バール(絶対圧)の圧力において共沸混合物を生成する。
【0020】
したがって、本発明者らは、蒸留、好ましくは共沸蒸留によって、メチルメルカプタンの乾燥を行うことが可能になることを発見した。
【0021】
驚くべきことに、本発明による方法は、実際、効率的にメチルメルカプタンを乾燥することを可能とする。特に、本発明による乾燥方法は、0ppm~1500ppmの水を含むメチルメルカプタンを得ることを可能にする。
【0022】
モレキュラーシーブとは異なり、本発明による乾燥方法は、経時的に変化せず、運転条件、特に温度及び圧力条件に応じて容易に制御可能である乾燥方法を維持することを可能にする。特に、本発明による乾燥方法によって得られるメチルメルカプタンの水分含量を制御及び/又は選択することが可能である。
【0023】
更に、前記乾燥方法は、モレキュラーシーブの再生サイクルを回避し、したがって、望ましくない(場合によっては廃棄物として焼却される)副生成物であるジメチルスルフィド(DMS)の更なる生成を回避する。
【0024】
本発明による乾燥方法は、実装するのが容易であり、特にメタノール経路又は酸化炭素経路によるメチルメルカプタンの製造のためのいずれもの設備にも適合させることができる。したがって、より環境に優しく、より経済的であるメチルメルカプタンの製造のための統合プロセスを得ることは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明による乾燥方法の一実施形態を示す。ストリーム(A)は蒸留塔(1)に入る。ストリーム(A)は蒸留塔(1)で蒸留される。蒸留物(B)は蒸留塔頂部において気体で回収される。次いで、蒸留物(B)は凝縮器(2)で凝縮され、二相液体で回収される(凝縮物(C))。次いで、凝縮物(C)はデカンター(3)で分離され、水相(D)及び有機相(E)が得られる。次いで、有機相(E)は蒸留塔(1)の還流液として使用される。乾燥されたメチルメルカプタンは、蒸留塔(1)の下部で回収される(ストリーム(F))。
【
図2】
図2は、メタノール経路によるメチルメルカプタンの製造方法の一実施形態を示す。 反応工程a)は、メタノール及びH
2Sを用いて反応器(I)で行われる。反応器(I)から出るストリーム(M)は、MeSH、水、H
2S及び硫黄副生成物を含む。ストリーム(M)は凝縮器(II)で凝縮される。次いで、ストリーム(M)はデカンター(III)で、H
2Sを含むストリーム(N)、水を含むストリーム(O)、及びMeSH、水、H
2S及び硫黄副生成物を含むストリーム(P)の、3つのストリームに分離される。ストリーム(P)は蒸留塔(IV)で蒸留されて、H
2S(蒸留塔頂部におけるストリーム(R))が除去され、蒸留塔下部においてMeSH、水及び硫黄副生成物を含むストリーム(S)が得られる。次いで、ストリーム(S)は蒸留塔(V)で蒸留されて、蒸留塔下部では硫黄副生成物を含むストリーム(U)が得られ、蒸留塔頂部ではMeSH及び水を含むストリーム(T)が得られる。次いで、ストリーム(T)は、デカンター(VI)において、MeSH及び水を含むストリーム(V)と水を含むストリーム(W)とに分離される。
【
図3】
図3は、酸化炭素経路によるメチルメルカプタンの製造方法の一実施形態を示す。CO、水素及びH
2Sを含むストリーム(H)は、反応器I-oxに気体で導入され、出口においてメチルメルカプタン、水と、おそらくCO、CO
2、H
2、未反応H
2S及び硫化カルボニル(COS)とを含むストリーム(J)が回収される。ストリーム(J)は凝縮器II-oxで凝縮され、分離されて、メチルメルカプタンに富んだ液体のストリーム(J)と、CO、CO
2、H
2、未反応H
2S及び硫化カルボニル(COS)を含む気体のストリーム(J’)とが得られる。次いで、ストリーム(J’)は、反応器I-oxに再循環される。次いで、デカンターIII-oxにおいて、ストリーム(J)からメチルメルカプタン及び水を含む有機相(K)と水相(L)とを分離する。次いで、ストリーム(K)は本発明の乾燥方法によって乾燥される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明によれば、単位ppm(百万分の一)は、質量分率を表す。
【0027】
本発明によれば、「XとXとの間」という表現は、記載されている限界値を含む。
【0028】
「乾燥」という用語は、水の除去を意味する。
【0029】
「乾燥されたメチルメルカプタン」という用語は、特に、本発明による乾燥方法から得られたメチルメルカプタンを意味する。以下に定義されるストリーム(F)は、前記乾燥されたメチルメルカプタンを含み得るか、あるいは前記乾燥されたメチルメルカプタンからなり得る。
【0030】
特に、「乾燥されたメチルメルカプタン」という用語は、は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0ppm~1500ppm、好ましくは、0ppm~1000ppm、例えば、10ppm~800ppm、より優先的には、40ppm~800ppmの水を含むメチルメルカプタンを意味する。
【0031】
また、「乾燥されたメチルメルカプタン」という用語は、メチルメルカプタンと、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0ppm~1500ppm、好ましくは、0ppm~1000ppm、例えば、10ppm~800ppm、より優先的には、40ppm~800ppmの水と、を含む組成物を意味すると理解してもよい。
【0032】
任意選択で、前記乾燥されたメチルメルカプタンは、微量のメタノール、H2S及び硫黄副生成物を含んでいてもよい。化合物の「微量(traces)」という用語は、0ppm~1000ppmの量を意味すると理解される。特に、硫黄副生成物は、ジメチルスルフィド及びジメチルジスルフィドである。
【0033】
乾燥されたメチルメルカプタンは、液体又は気体であってもよく、好ましくは液体である。
【0034】
「メチルメルカプタン精製工程」という用語は、特に、メチルメルカプタンに富んだストリームを生成するための工程を意味する。「メチルメルカプタンに富んだストリーム」という用語は、特に、前記精製工程の前の前記ストリームの総重量に対するメチルメルカプタンの重量パーセントより大きい、(前記ストリームの総重量に対する)メチルメルカプタンの重量パーセントを含むストリームを意味する。
【0035】
[メチルメルカプタン乾燥方法]
本発明は、以下の工程を含むメチルメルカプタンの乾燥方法に関する。
1)メチルメルカプタン及び水を含むストリーム(A)を、蒸留塔(1)に導入する工程
2)前記ストリーム(A)を、蒸留塔(1)内で蒸留する工程
3)蒸留物(B)を、好ましくは蒸留塔頂部において気体で回収する工程
4)前記蒸留物(B)を、好ましくは凝縮器(2)内で凝縮して、液体の凝縮物(C)を得る工程
5)前記凝縮物(C)を、好ましくはデカンター(3)を用いて分離して、2つの別々の液相である、水相(D)及びメチルメルカプタンを含む有機相(E)を得る工程
6)前記有機相(E)の全部又は一部を、任意選択で、還流として前記蒸留塔(1)に導入する工程
7)乾燥されたメチルメルカプタンを含むストリーム(F)を、好ましくは蒸留塔下部(1)において回収する工程
【0036】
ストリーム(F)は、特に上記で定義されるように、乾燥されたメチルメルカプタンに相当する。これは、好ましくは蒸留塔下部において蒸留塔から回収される。
【0037】
工程2)の蒸留は、0.05バール(絶対圧)~75バール(絶対圧)、好ましくは1バール(絶対圧)~30バール(絶対圧)、より優先的には5バール(絶対圧)~15バール(絶対圧)、例えば、約10バール(絶対圧)、11バール(絶対圧)、12バール(絶対圧)、13バール(絶対圧)、14バール(絶対圧)又は15バール(絶対圧)の圧力で行ってもよい。
【0038】
工程2)の蒸留は、20℃~200℃、好ましくは60℃~100℃、より優先的には65℃~95℃、例えば、70℃~90℃の温度において行ってよい。好ましくは、工程2)の蒸留は、蒸留塔下部では40℃~200℃、好ましくは80℃~100℃の温度、かつ蒸留塔頂部では20℃~100℃、好ましくは60℃~80℃の温度において行ってよい。
【0039】
特に好ましくは、工程2)の蒸留は、5バール(絶対圧)~15バール(絶対圧)の圧力かつ60℃~100℃の温度において行われる。特に、工程2)の蒸留は、5バール(絶対圧)~15バール(絶対圧)の圧力かつ70℃~90℃の温度において行われる。特に、工程2)の蒸留は、共沸蒸留である。
【0040】
工程2)の蒸留は、いずれかの公知のタイプの蒸留塔で行われてもよい。これは、棚段塔(例えば、キャップ付き棚板、バルブを含む棚板、又は穴の開いた棚板を有する蒸留塔)、又は充填塔(例えば、バルク充填物又は構造化充填物を有する蒸留塔)であってよい。工程2)の蒸留は、好ましくは5~50枚の棚板、より優先的には10~40枚の棚板、例えば、25~30枚の棚板を備える棚段塔で行ってもよい。工程2)の蒸留は、隔壁塔(DWC:Divided Wall Column)で行ってもよい。隔壁は、固定式でも可動式でもよく、例えば、構造化充填物又はバルク充填物を備えていてもよい。
【0041】
ストリーム(A)は、好ましくは液体又は気体である。
【0042】
好ましくは、ストリーム(A)は、メチルメルカプタン、水、及び任意選択で微量のメタノール、H2S及び硫黄副生成物を含むか、又はこれらからなる。
【0043】
ストリーム(A)は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より優先的には少なくとも98重量%、例えば少なくとも99重量%のメチルメルカプタンを含んでいてもよい。
【0044】
ストリーム(A)は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、少なくとも0.15重量%の水、好ましくは少なくとも厳密に0.15重量%を超える水を含んでいてもよい。ストリーム(A)は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、最大30重量%、好ましくは最大10重量%の水を含んでいてもよい。ストリーム(A)は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0.15重量%、好ましくは厳密に0.15重量%を超えかつ30重量%までの水を含んでいてもよい。
【0045】
ストリーム(A)は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0.15重量%、好ましくは厳密に0.15重量%を超えかつ10重量%までの水を含んでいてもよい。
【0046】
好ましくは、ストリーム(A)は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0.15重量%、好ましくは厳密に0.15重量%を超えかつ5重量%までの水を含む。
【0047】
例えば、ストリーム(A)は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0.15重量%、好ましくは厳密に0.15重量%を超えてかつ2重量%までの水、例えば0.15重量%~1.5重量%又は0.15重量%~1重量%の水を含み、残部はおそらくメチルメルカプタンである。
【0048】
ストリーム(A)の蒸留工程2)の後、気体の蒸留物(B)が得られる。この蒸留物(B)は、特に、蒸留工程2)の圧力及び/又は温度条件下では、共沸混合物、好ましくは不均一共沸混合物に相当する。
【0049】
したがって、工程2)の蒸留は、特に、共沸混合物を生成することを可能とする(すなわち、共沸蒸留)。一旦、液体(凝縮物(C))で回収及び凝縮されると、二相の状態で得られ、この二相は、特に、デカンテーションにより容易に分離することができる。
【0050】
蒸留物(B)の凝縮工程(4)は、いずれかの従来技術により行われてもよい。凝縮は、蒸留塔とは別の又は前記蒸留塔に組み込まれた凝縮器内に行われてもよい。次いで、液体の凝縮物(C)が得られる。凝縮物(C)は、好ましくは2相を含み、このうちの1つは水相であり、他は有機相(メチルメルカプタンを含む)である。凝縮工程(4)の間、温度は20℃~50℃であってもよく及び/又は圧力は5バール(絶対圧)~15バール(絶対圧)であってよい。
【0051】
蒸留物(B)及び凝縮物(C)は、好ましくは同じ組成を有する。
【0052】
分離工程5)では、いずれかの公知の方法が使用されてもよい。最も好ましくは、デカンテーションが使用される。分離工程の間、温度は20℃~50℃であってもよく及び/又は圧力は5バール(絶対圧)~15バール(絶対圧)であってよい。工程5)完了時、2つの分離した液相、水相(D)及びメチルメルカプタンを含む有機相(E)が得られる。一実施形態によれば、水相(D)は、水、好ましくは微量のH2S、場合により好ましくは微量のメチルメルカプタン、及び場合により好ましくは微量の硫黄副生成物を含む。
【0053】
H2Sと、場合によってはメチルメルカプタン及び硫黄副生成物とは、前記水相から分離することができる。この分離は、いずれかの公知の手段を用いて行われてもよく、好ましくはサーマルストリッピングであってもよいストリッピング、又は不活性ガスを用いたストリッピング(例えば、窒素、メタン又はCO2を用いたストリッピング)により行われてもよい。次いで、気相は、以下でベントE3と呼ぶベントを生成する。
【0054】
一実施形態によれば、ベントE3は焼却され、及び/又は水相(D)は廃水ネットワークに排出されてもよい。
【0055】
別の実施形態によれば、ベントE3は、ベントE3が含むH2S及び/又はメチルメルカプタンなどの硫黄化合物を、気(ベント)-液(メタノール)抽出により回収するために、メタノール吸収塔に送ることができる。
【0056】
一実施形態によれば、還流工程6)を行わない場合、有機相(E)は工程5)の完了時に回収される。
【0057】
別の実施形態によれば、有機相(E)は、蒸留塔(1)の還流物として全体的又は部分的に使用される。
【0058】
工程6)では、還流比は、0~0.99、好ましくは0~0.60であってよい。「還流比」という用語は、質量比[有機相(E)/ストリーム(A)]を意味する。
【0059】
したがって、本発明の方法は、上記で定義されるような乾燥されたメチルメルカプタンを得ることを可能とする。
【0060】
本発明による方法は、連続式又はバッチ式で行われてもよく、好ましくは連続式で行われる。
【0061】
方法の工程1)~工程7)の間、圧力は、0.05バール(絶対圧)~75バール(絶対圧)であってもよく、好ましくは1バール(絶対圧)~30バール(絶対圧)であり、より優先的には5バール(絶対圧)~15バール(絶対圧)であり、例えば、約10バール(絶対圧)、11バール(絶対圧)、12バール(絶対圧)、13バール(絶対圧)、14バール(絶対圧)又は15バール(絶対圧)である。
【0062】
好ましくは微量のメタノールは、ストリーム(A)及び/又は蒸留物(B)及び/又は凝縮物(C)及び/又は水相(D)及び/又はストリーム(F)に含まれている可能性がある。
【0063】
一実施形態によれば、ストリーム(A)は、メタノール及び硫化水素からメチルメルカプタンを製造するための装置に接続される。
【0064】
一実施形態によれば、ストリーム(A)は、少なくとも1つの酸化炭素、水素及び硫化水素及び/又は硫黄からメチルメルカプタンを製造するための装置に接続される。
【0065】
本発明はまた、メチルメルカプタンを乾燥するための共沸蒸留の使用に関する。特に、前記共沸蒸留は、本発明による乾燥方法の工程2)に記載されている蒸留に相当する。
【0066】
本発明はまた、上記で定義された乾燥されたメチルメルカプタンに関する。
【0067】
[メタノール経路によるメチルメルカプタンの調製方法]
本発明は、以下の工程を含むメチルメルカプタンの製造方法に関する。
a)メタノールを硫化水素と反応させて、メチルメルカプタン、水、場合により未反応H2S及び硫黄副生成物を含む、好ましくは気体のストリーム(M)を生成する工程
b)任意選択で、前記ストリーム(M)を凝縮する工程
c)任意選択で、前記ストリーム(M)を精製する少なくとも1つの工程を実施して、メチルメルカプタンに富んだストリームを得る工程
d)工程a)、工程b)又は工程c)で得られたストリームを、上記乾燥方法により乾燥する工程
【0068】
好ましくは、工程c)では、前記少なくとも1つの精製工程は、好ましくはデカンテーションによる少なくとも1つの相分離工程、及び/又は少なくとも1つの蒸留工程に相当する。
【0069】
工程c)は、特に、1つ以上の相分離工程(例えば、1つ若しくは2つのデカンテーション工程)、及び/又は1つ以上の蒸留工程(例えば、1つ若しくは2つの蒸留工程)に相当してもよい。
【0070】
特に、工程c)の後、メチルメルカプタンに富み、水を含むストリームが得られる。
【0071】
好ましくは、工程c)は、1つ以上の精製工程を介して、ストリーム(M)からH2S、硫黄副生成物及び大部分の水を除去することを可能とする。好ましくは、工程c)によって、少なくとも50重量%の水、例えば、少なくとも70重量%、あるいは少なくとも90重量%の水が、ストリーム(M)から除去される。H2S及び硫黄副生成物は、工程c)の完了時に、微量で残存する可能性がある。
【0072】
したがって、前記方法は、以下の工程を含んでもよい。
a)メタノールを硫化水素と反応させて、メチルメルカプタン、水、未反応H2S及び硫黄副生成物を含むストリーム(M)を生成する工程
b)任意選択で、前記ストリーム(M)を凝縮する工程
c1)未反応硫化水素を含むガスストリーム(N)、水性ストリーム(O)、及びメチルメルカプタン、水、未反応硫化水素及び硫黄副生成物を含むストリーム(P)を、好ましくはデカンテーションにより、ストリーム(M)から分離する工程
c2)ストリーム(P)を蒸留して、好ましくは蒸留塔頂部では硫化水素を含むストリーム(R)を得ると共に、好ましくは蒸留塔下部ではメチルメルカプタン、水及び硫黄副生成物を含むストリーム(S)を得る工程
c3)ストリーム(S)を蒸留して、好ましくは蒸留塔頂部ではメチルメルカプタン及び水を含むストリーム(T)を得ると共に、好ましくは蒸留塔下部では硫黄副生成物を含むストリーム(U)を得る工程
c4)任意選択で、ストリーム(T)のメチルメルカプタンを、好ましくはデカンテーションにより、水から分離して、メチルメルカプタン及び水を含むストリーム(V)と、水を含むストリーム(W)とを得る工程
d)ストリーム(T)又はストリーム(V)を、本発明による乾燥方法により乾燥する工程
【0073】
したがって、工程c1~工程c4は、メチルメルカプタンが次第に濃縮されるストリームを得るための精製工程である。
【0074】
前記ストリーム(M)及び/又はストリーム(P)及び/又はストリーム(T)及び/又はストリーム(V)は、好ましくは微量の未反応メタノールを場合により含む可能性がある。
【0075】
<工程a)-反応>
工程a)では、メタノールを硫化水素と反応させて、メチルメルカプタン、水、場合により未反応H2S、及び場合により硫黄副生成物を含むストリーム(M)を生成する。
【0076】
工程a)の前に、H2S試薬及びメタノール試薬のガスストリームを、以下のように調製してよい。
【0077】
液体メタノールを、気体H2Sに注入する。この注入は、メタノールが部分的又は全体的に気化することを可能とする。次いで、H2S及びメタノールの混合物を、必要に応じて完全に気化させ、全量のガスストリームを得ることができる。
【0078】
したがって、好ましくは上記のように調製されたH2S及びメタノールのガスストリーム、又は別々のメタノール及びH2Sをそれぞれ気体にして、反応器に導入する。
【0079】
前記反応器は、等温性又は断熱性であってもよく、棚板を備えるもの、多管式、又は固定床を備えるものであってもよい。好ましくは、断熱性反応器が選択される。
【0080】
反応温度は、200℃~500℃であってもよく、好ましくは200℃~400℃である。好ましくは、反応温度は、200℃~360℃である。この温度を超えると、触媒が物理的に損傷する可能性がある(特に、シンタリング及びコーキングにより)。
【0081】
圧力は、1バール(絶対圧)~40バール(絶対圧)であってもよい。
【0082】
H2S/メタノールのモル比は、1~50であってもよく、好ましくは1~25である。H2Sは、好ましくはメタノールに対して過剰である。反応器は、好ましくは気相においてメチルメルカプタン生成反応のための触媒を含んでいてもよい。使用し得る触媒の中でも、以下の触媒を挙げることができる。
-アルミナ系触媒
-好ましくはケイ酸(silicate)担体上に成膜された二酸化トリウムThO2
-好ましくはアルミナ担体上の硫化カドミウムをベースとする触媒
-酸化物(MgO、ZrO2、ルチル(R)及びアナターゼ(A)TiO2、CeO2、並びにγ-Al2O3)をベースとする触媒
-好ましくはアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)でドープされ、任意選択でSiO2、Al2O3又はNb2O5上に担持された金属酸化物をベースとする触媒
-アルカリ金属炭酸塩をベースとする触媒
-γ-アルミナ又は他の金属酸化物上に含浸され、遷移金属(Cr、Mo、W、Ni)の特定の酸とのアルカリ金属塩をベースとする触媒
-アルミナK2WO4/Al2O3上のタングステン酸カリウム
【0083】
したがって、アルキルメルカプタン、水、場合により未反応H2S及び硫黄副生成物を含むストリーム(M)が得られる。
【0084】
<工程b)-凝縮>
工程a)の完了時に得られるストリーム(M)は、任意選択で、いずれかの従来技術によって、好ましくは1つ以上の凝縮器又はエコノマイザーを用いて、凝縮させてもよい。凝縮中、ストリーム(M)は、水の除去を最大にするために特に可能な限り低温に冷却されるが、メチルメルカプタンの固体水和物の生成を回避するために厳密に16℃を超えるように維持されなければならない。好ましくは、ストリーム(M)は、20℃~70℃、例えば、30℃~60℃の温度において凝縮される。
【0085】
<工程c)-精製>
好ましくは、工程c)では、前記少なくとも1つの精製工程は、好ましくはデカンテーションによる少なくとも1つの相分離工程、及び/又は少なくとも1つの蒸留工程に相当する。工程c)は、特に、1つ以上の相分離工程(例えば、1つ若しくは2つのデカンテーション工程)、及び/又は1つ以上の蒸留工程(例えば、1つ若しくは2つの蒸留工程)に相当し得る。
【0086】
好ましくは、工程c)は、1つ以上の精製工程を介して、ストリーム(M)から未反応H2S及び/又は硫黄副生成物及び/又は水を除去することを可能とする。特に、工程c)の後、メチルメルカプタンに富んだストリームが得られる。
【0087】
精製工程c)は、いずれかの従来技術を介して、特に下記の工程c1)~工程c4)に従って実施されてもよい。
【0088】
<工程c1-分離>
分離工程c1)では、好ましくはデカンテーションにより、未反応硫化水素を含むガスストリーム(N)と、水性ストリーム(O)と、メチルメルカプタン、水、未反応硫化水素及び硫黄副生成物を含むストリーム(P)とが得られる。
【0089】
好ましくは、ストリーム(M)は、20℃~70℃、好ましくは30℃~60℃の温度で分離される。圧力は、1バール(絶対圧)~40バール(絶対圧)であってよい。
【0090】
得られたストリーム(P)は、特に、気体又は液体であってもよい。ストリーム(P)が気体である場合、ストリーム(N)及びストリーム(P)を混合してよい。
【0091】
特に、好ましくは液体の水性ストリーム(O)は、ストリーム(M)中に存在する水の総重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より優先的には少なくとも90重量%の水を含む。したがって、水性ストリーム(O)を、脱気装置に送ってもよい。次いで、脱気された水性ストリームを、廃水処理に送ってもよい。
【0092】
ガスストリーム(N)は、工程a)の反応器供給物に再循環されてもよい。この場合、この再循環ループ中の不活性物質及び/又は不純物の蓄積を回避するために、このストリーム(N)のパージを行う。不活性物質及び/又は不純物の例としては、メタン、CO、CO2、H2及びN2が挙げられる。このパージから得られるガスストリームを、ベントE1と呼ぶ。ストリーム(N)及びストリーム(P)が混合される場合、ベントE1’と呼ばれるガスストリームを得るために同じタイプのパージが行われてもよい。
【0093】
一実施形態によれば、ベントE1又はベントE1’は焼却のために送られる。
【0094】
別の実施形態によれば、ベントE1又はベントE1’は、ベントE1又はベントE1’が含むH2S及び/又はメチルメルカプタンなどの硫黄化合物を、気(ベント)-液(メタノール)抽出により回収するために、メタノール吸収塔に送られてもよい。
【0095】
<工程c2-蒸留によるH2Sの除去>
次いで、ストリーム(P)の蒸留が行われ、好ましくは蒸留塔頂部において硫化水素を含むストリーム(R)が得られると共に、好ましくは蒸留塔下部においてメチルメルカプタン、水及び硫黄副生成物を含むストリーム(S)が得られる。蒸留中、圧力は、1バール(絶対圧)~40バール(絶対圧)であってもよく、並びに/又は温度は、蒸留塔頂部において-60℃~+60℃、及び蒸留塔下部において+20℃~+200℃であってよい。
【0096】
H2Sを含むストリーム(R)は、蒸留塔頂部において回収され、任意選択で、工程a)のための反応器供給物に再循環されてもよい。
【0097】
特に、工程c2)の前記蒸留は、ストリーム(P)中に残存するH2Sを除去することを可能とする(微量のH2Sがストリーム(S)中に残存する可能性があることが理解される)。
【0098】
<工程c3-蒸留による硫黄副生成物の除去>
ストリーム(S)の蒸留が行われ、好ましくは蒸留塔頂部においてメチルメルカプタン及び水を含むストリーム(T)が得られると共に、好ましくは蒸留塔下部において硫黄副生成物を含むストリーム(U)が得られる。
【0099】
蒸留中、圧力は、1バール(絶対圧)~40バール(絶対圧)であってもよく、並びに/又は温度は、蒸留塔頂部において+20℃~+100℃、及び蒸留塔下部において+40℃~+200℃であってよい。
【0100】
特に、工程c3)の前記蒸留は、ストリーム(S)中に残存する硫黄副生成物を除去することを可能とする(微量の硫黄副生成物がストリーム(T)中に残存する可能性があることが理解される)。
【0101】
<工程c4-メチルメルカプタン及び水の分離>
工程c4)の前に、ストリーム(T)は、水の除去を最大にするために可能な限り低温に冷却されるが、メチルメルカプタンの固体水和物の生成を回避するために、厳密に16℃を超えるように保持しなければならない。好ましくは、ストリーム(T)は、20℃~70℃、例えば、30℃~60℃の温度まで冷却される。
【0102】
この冷却は、メチルメルカプタンの固体水和物の生成を回避するために温度を厳密に16℃を超えるように維持しながら、工程c4)の間、水の分離を最大にすることを可能とする。次いで、メチルメルカプタン及び残存する水の分離が、好ましくはデカンテーションにより行われ、好ましくは液体のメチルメルカプタン及び水を含むストリーム(V)と、好ましくは液体の水を含むストリーム(W)とが得られる。
【0103】
特に、工程c4)では、ストリーム(W)は、ストリーム(T)中に存在する水の総重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より優先的には少なくとも90重量%の水を含む。
【0104】
ストリーム(T)又はストリーム(V)は、上記で定義されるストリーム(A)に相当する。
【0105】
次いで、得られたストリーム(V)又はストリーム(T)を、本発明による乾燥方法に従って乾燥することができる。
【0106】
分離工程c4)では、両方とも液体であるストリーム(W)及びストリーム(V)からこのように分離された気相を回収することが可能である。このガスストリームを、ベントE2と呼ぶ。
【0107】
一実施形態によれば、ベントE2は焼却される。
【0108】
別の実施形態によれば、ベントE2は、ベントE2が含むH2S及び/又はメチルメルカプタンなどの硫黄化合物を、気(ベント)-液(メタノール)抽出により回収するために、メタノール吸収塔に送られてもよい。
【0109】
[酸化炭素経路によるメチルメルカプタンの調製方法]
酸化炭素経路によるメチルメルカプタンの製造方法は、少なくとも1つの酸化炭素、水素、並びに硫化水素及び/又は硫黄を用いて行われる。酸化炭素は、一酸化炭素(CO)及び二酸化炭素(CO2)から選択される。好ましくは、酸化炭素は、一酸化炭素(CO)である。
【0110】
したがって、前記方法は、一酸化炭素、水素及び硫化水素の混合物を用いて優先的に実施される。この合成の主要な副生成物は、二酸化炭素(CO2)である。
【0111】
硫化カルボニル(COS)は、以下の反応に従った水素化後にメチルメルカプタンを生成する反応中間体と考えられる。
CO+H2S → COS+H2
COS+3H2 → CH3SH+H2O
CO2はそれ自体、次のようないくつかの副反応の結果である。
CO+H2O → CO2+H2
COS+H2O → CO2+H2S
2COS → CO2+CS2
【0112】
得られた二酸化炭素は、任意選択で、次式に従ってメチルメルカプタンを製造するために再循環させることができる。
CO2+3H2+H2S → CH3SH+2H2O
【0113】
このようなメチルメルカプタンの製造方法は、例えば、欧州特許出願公開第0171312号公報又は国際公開第08/125452号公報に広く記載されている。
【0114】
したがって、本発明は、以下の工程を含むメチルメルカプタンの製造方法に関する。
a-ox)少なくとも1つの酸化炭素、H2、H2S及び/又は硫黄を、少なくとも1つの触媒の存在下、好ましくは気体で反応させて、メチルメルカプタン、水及び場合により前記少なくとも1つの酸化炭素、H2、未反応H2S及び硫化カルボニル(COS)を含み、好ましくは気体のストリーム(J)を生成する工程
b-ox)任意選択で、前記ストリーム(J)を凝縮する工程
c-ox)任意選択で、前記ストリーム(J)の少なくとも1つの精製工程が実施されて、メチルメルカプタンに富んだストリームを得る工程
d-ox)工程a-ox)、工程b-ox)又は工程c-ox)で得られるストリームを、上記乾燥方法により乾燥する工程
【0115】
酸化炭素がCOである場合、ストリーム(J)は、工程a-ox)中に生成された未反応CO及びCO2を含む可能性がある。
【0116】
特に、前記メチルメルカプタンの製造方法は、以下の工程を含む。
a-ox)少なくとも1つの酸化炭素、H2、H2S及び/又は硫黄を、少なくとも1つの触媒の存在下、好ましくは気体で反応させて、メチルメルカプタン、水及び場合により前記少なくとも1つの酸化炭素、H2、未反応H2S及び硫化カルボニル(COS)を含み、好ましくは気体のストリーム(J)を生成する工程
b-ox)前記ストリーム(J)を凝縮する工程
c1-ox)好ましくはデカンテーションにより、液体ストリーム(J)から、メチルメルカプタン及び水を含む液体有機相(K)と、液体水相(L)とを分離する工程
c2-ox)任意選択で、好ましくは気体のストリーム(J’)を得るために凝縮できない化合物の分離を行う工程(前記分離は、工程b-ox)又は工程c1-ox)と同時に行うことができる)
d-ox)ストリーム(K)を、上記で定義される乾燥方法により乾燥する工程
e-ox)ストリーム(J’)を、任意選択で、工程a-ox)に再循環させる工程
【0117】
したがって、工程c1-ox)及び工程c2-ox)は、特に、メチルメルカプタンが次第に濃縮されるストリームを得るための精製工程である。
【0118】
一実施形態によれば、ストリーム(J)又はストリーム(K)は、本発明によるストリーム(A)に相当する。
【0119】
<工程a-ox)-反応>
反応工程a)は周知の工程である。特に、工程a-ox)は、200℃~500℃、好ましくは200℃~400℃の温度において行われる。特に、工程a-ox)は、1バール(絶対圧)~100バール(絶対圧)、好ましくは3バール(絶対圧)~30バール(絶対圧)の圧力において行われる。
【0120】
好ましくは、工程a-ox)において、酸化炭素/S/H2S/H2のモル比は、1/0/0.05/0.05~1/20/40/100である。このモル比は、好ましくは1/0/0.5/1~1/0/10/20である。特に、このモル比は、1/0/1/2である。
【0121】
好ましくは、工程a-ox)において、硫黄の非存在下、CO/H2/H2Sの比は、1/0.05/0.05~1/40/100である。この比は、好ましくは1/0.5/1~1/10/20である。特に、この比は、1/2/1である。
【0122】
工程a-ox)は、1つ以上の触媒床上で、好ましくは固定床上で行われてもよい。工程a-ox)は、1つ以上の反応ゾーンを含む反応器中で行われてもよく、試薬(複数可)は、場合により様々なゾーン間に供給される。したがって、試薬、好ましくはH2及び/又はH2Sは、様々な触媒床又は反応ゾーン上に別々に導入されてもよい。工程a-ox)に使用される前記少なくとも1つの触媒は、公知であり、特に、以下の触媒から選択されてもよい。
・国際公開第2019/122072号に記載されている、K2MoO4/ZrO2などのジルコニアに担持されたモリブデン及びカリウムをベースとする触媒。これらの触媒は、1/2/1のCO/H2/H2S比を用いて、320℃の温度及び10バールの圧力においてテストされる。
・国際公開第2014/154885号に記載されている、K2MoS4/Ca10(PO4)6(OH)2又はK2MoO4/Ca10(PO4)6(OH)2などのヒドロキシアパタイト担体上のMo-S-K及び/又はMo-O-K型のモリブデン及びカリウムをベースとする触媒。これらの触媒は、1/2/1のCO/H2/H2S比を用いて、280℃の温度及び10バールの圧力においてテストされる。
・米国特許出願公開2010/0286448号に記載されている、SiO2、TiO2、シリカ-アルミナ、ゼオライト及びカーボンナノチューブなどの多孔性担体からなり、担体上に金属が電解析出された触媒。次いで、K2MoO4と促進剤として作用する別の金属酸化物とをこの担体に含浸させる。
・米国特許出願公開第2010/094059号に記載されている、K2MoO4/TeO2/SiO2などの、TeO2で促進され、担持されたMo及びK(特に、K2MoO4)をベースとする触媒。触媒K2MoO4/TeO2/SiO2は、300℃の温度及び2バールの圧力において、CO/H2/H2S比を1/1/2とし、時間当たりの空間速度を2000/時としてテストされる。
・国際公開第2005/040082号には、いくつかの触媒、特に、Mo-O-Kをベースとする活性成分、活性促進剤、及び任意選択で担体を含む触媒が記載されている。例示された触媒は、K2MoO4/Fe2O3/NiO又はK2MoO4/CoO/CeO2/SiO2であり、それぞれシリカに担時されている。これらの触媒は、320℃の温度及び7バールの圧力において、CO/H2/H2S比を1/1/2とし、時間当たりの空間速度を3000/時としてテストされる。
【0123】
<工程b-ox)-凝縮>
この運転には、チューブ熱交換器又はプレート式熱交換器など、いずれのタイプの凝縮器も使用することができる。好ましくは、凝縮器は、分離された流体を有し、すなわち、凝縮される気体と冷媒流体とは接触しない。冷媒流体は、空気、水、塩水、アンモニア、フレオン、油、その他などの液体又は気体であってもよい。
【0124】
凝縮温度は、20℃~70℃であってもよく、好ましくは30℃~60℃である。圧力は、1バール(絶対圧)~100バール(絶対圧)であってもよい。その目的は、凝縮不可能な化合物(CO/COS/CO2/H2/H2Sなど)に対して、最大量のメチルメルカプタン及び水を凝縮することであり、これにより、液相と気相の容易な分離を可能とする。
【0125】
<工程c-ox)-精製>
(工程c1-ox)-水分離)
分離工程c1-ox)は、いずれかの従来技術、特にデカンテーションを介して実施されてもよい。好ましくは、ストリーム(J)は、液体である。したがって、好ましくはデカンテーションにより、ストリーム(J)から、メチルメルカプタン及び水を含む有機相(K)と、水相(L)とが分離される。
【0126】
特に、工程c1-ox)では、水相(L)は、ストリーム(J)中に存在する水の総重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より優先的には少なくとも90重量%の水を含む。
【0127】
(工程c2-ox-凝縮不可能な化合物の分離)
「凝縮不可能な化合物」という用語は、特に、凝縮工程b-ox)の後に、前記製造方法の温度及び圧力において気体のままである化合物を意味する。凝縮不可能な化合物としては、特に、酸化炭素(CO及び/又はCO2)、H2、H2S、硫化カルボニル(COS)、メタン、及び前記方法中に製造又は導入されるいずれかの他の不活性な凝縮不可能な化合物を挙げることができる。
【0128】
分離は、いずれかの従来技術により行われてもよい。ストリーム(J’)は、特に、酸化炭素(CO及び/又はCO2)、H2、H2S、硫化カルボニル(COS)、メタンなどの凝縮不可能な化合物、及び前記方法中に製造又は導入されたいずれかの他の不活性な凝縮不可能な化合物を含む、気体として得られる。
【0129】
一実施形態によれば、ストリーム(J’)は、好ましくは直接的に(中間精製工程なしで)工程a-ox)に再循環されてもよい。別の実施形態によれば、ストリーム(J’)は、部分的にパージされてもよい。再循環されない場合、ストリーム(J’)は、焼却炉又はいずれかの他のガス処理装置に送られてもよい。
【0130】
特に、メチルメルカプタンの造方法がメタノール経路か酸化炭素経路かに拘わらず、これらの経路はそれぞれ、乾燥の前に、好ましくはデカンテーションによって水及びメチルメルカプタンを分離する工程である、上記で定義される少なくとも1つの精製工程を含んでいてもよい(例えば、それぞれ、工程c1)、及び/又はc4)とc1-ox))。
【0131】
特に、このような工程により、メチルメルカプタンから水を分離することが可能となり、残留水分含量を有するメチルメルカプタンを得ること、すなわち、分離温度においてメチルメルカプタン中の水の溶解度に依存する水分含量を有するメチルメルカプタンを得ることができる。一般に、この水分含量は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0.15重量%、好ましくは厳密に0.15重量%超~30重量%、例えば、0.15重量%~10重量%である。好ましくは、この水分含量は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0.15重量%、好ましくは厳密に0.15重量%超~5重量%である。例えば、この水分含量は、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して、0.15重量%、好ましくは厳密に0.15重量%超~2重量%、例えば、0.15重量%~1.5重量%又は0.15重量%~1重量%である。
【0132】
この工程の後、上記メチルメルカプタンの乾燥方法を、より効率的かつ経済的に実施することができ、乾燥前の水の量は最小限まで低減される。
【実施例】
【0133】
続く実施例は、本発明を例証するが、決して限定的でない。
【0134】
(例1:モレキュラーシーブを用いた比較試験)
モレキュラーシーブによる連続乾燥には、並列に配置された少なくとも2台の乾燥器を必要とする(1台目が吸着中である場合、2台目は再生中である)。
【0135】
1kgのシリポライト(Siliporite(登録商標))RAモレキュラーシーブ(粒径1/8インチ)を含む吸着塔(乾燥器)を使用した。乾燥するメチルメルカプタンの流量は、1kg/時である。この乾燥器の入口及び出口の組成は、以下の通りである。
【0136】
【0137】
モレキュラーシーブが使用される場合、ジメチルスルフィド(DMS)の量が乾燥後に3倍になり、メタノールの量がほとんど10分の1に減少することが認められる。実際、メタノールはモレキュラーシーブに吸着され、その結果として、モレキュラーシーブの水分乾燥能力が大幅に低下し、これにより吸着/再生サイクルの頻度が増加する。
【0138】
(例2:本発明による乾燥方法)
乾燥方法は、
図1について説明したものに相当する。
【0139】
MeSH及び水の総重量に対して99.77重量%のMeSH(1000kg/時)及び0.23重量%の水(2.3kg/時)を含む、乾燥すべきMeSHのストリームを、蒸留塔に導入する。
【0140】
共沸蒸留塔は、28棚段を備えており、以下の条件を満たす。
-蒸留圧力は、13バール(絶対圧)である。
-温度プロファイルは、蒸留塔下部で90℃及び蒸留塔頂部で70℃である。
-還流比は、47%である。
【0141】
蒸留物は、蒸留塔頂部において気体で回収される。蒸留物は、MeSH及び水の総重量(472.7kg/時)に対して、98.88重量%のMeSH(467.4kg/時)と、1.12重量%の水(5.3kg/時)とを含む。蒸留物の温度は、約12バール(絶対圧)の圧力に対して約72℃である。
【0142】
次いで、蒸留物は、凝縮器で凝縮される。その組成は同じままであり、約12バール(絶対圧)の圧力に対して約40℃の温度において、二相液体で回収される。次いで、凝縮物は、デカンターで沈降し、以下のものが得られる。温度は、二相の約12バール(絶対圧)の圧力に対して約40℃である。
-水相(2.3kg/時)の総重量に対して、98.26重量%(2.26kg/時)の水と、1.74重量%のMeSH(0.04kg/時)とを含む水相、及び、
-MeSH及び水の総重量(470.5kg/時)に対して、99.36重量%のMeSH(467.5kg/時)と、0.64重量%の水(3kg/時)とを含む有機相
【0143】
乾燥されたMeSHは、蒸留塔下部において回収され、メチルメルカプタン及び水の総重量に対して10重量ppm未満の水を含む。
【0144】
メタノール及びジメチルスルフィドの量は、ストリーム(A)の入口において、乾燥されたメチルメルカプタンと同じである(それぞれ、約0.04kg/時及び0.1kg/時)。
【0145】
結果として、本発明の方法は、メチルメルカプタンを効率的に乾燥することを可能とすると同時に、DMS副生成物の量を増加させない。更に、この乾燥方法は、微量のメタノールにより影響を受けず、その性能を損なうことなく連続的に実施することができる。
【国際調査報告】