IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特表2024-501821心臓組織細胞に対する特異性を有するウイルスカプシドタンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-16
(54)【発明の名称】心臓組織細胞に対する特異性を有するウイルスカプシドタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/005 20060101AFI20240109BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240109BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240109BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240109BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240109BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240109BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240109BHJP
【FI】
C07K14/005 ZNA
C07K14/015
C12N15/35
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/12
A61P9/00
A61K35/76
A61K31/7088
A61K48/00
A61K38/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538731
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2021087522
(87)【国際公開番号】W WO2022136655
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20217171.6
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21171861.4
(32)【優先日】2021-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ラムラ, トルステン
(72)【発明者】
【氏名】ブラゼヴィッチ, ドラギカ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒェルフェルダー, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥヒス, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】クロイツ, ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ザウアー, アヒム
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー, フローリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュティアーストルファー, ビルギット
(72)【発明者】
【氏名】ヴォラート, カイ クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】コルフ-クリンゲビール, モーティマー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084BA02
4C084BA16
4C084BA17
4C084BA23
4C084CA23
4C084NA14
4C084ZA36
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA36
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、全般的には、遺伝性または後天性疾患の処置のための、ウイルスベクター、特に、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用することによる体細胞遺伝子療法の分野に関する。より具体的には、本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防するための、マウス内皮細胞の特異的形質導入をもたらすウイルスカプシドタンパク質に関する。ウイルスカプシドタンパク質は、霊長類心臓組織細胞、特に、霊長類心臓筋肉細胞に特異的に結合することが見出されており、霊長類心筋細胞の効率的かつ選択的な形質導入をもたらし、霊長類における1種または複数の導入遺伝子の心臓組織特異的発現を確実にするために使用することができる。本発明は、さらに、カプシド中に少なくとも1種の導入遺伝子がパッケージングされたカプシドを含む組換えウイルスベクター、好ましくは、AAVベクターに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、マウス内皮細胞の特異的形質導入をもたらすカプシドタンパク質であって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、カプシドタンパク質。
【請求項2】
前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2もしくは3のアミノ酸配列;または
(c)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)もしくは(b)のバリアント
を含む、請求項1に記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質。
【請求項3】
霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のためのカプシドタンパク質であって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含み、前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2もしくは3のアミノ酸配列;または
(c)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)もしくは(b)のバリアント
を含む、カプシドタンパク質。
【請求項4】
心筋症を処置または予防する方法における使用のためのカプシドタンパク質であって、前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2もしくは3のアミノ酸配列;または
(c)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)もしくは(b)のバリアント
を含む、カプシドタンパク質。
【請求項5】
前記カプシドタンパク質が、300~800アミノ酸の長さを有する、請求項1~4のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質。
【請求項6】
前記カプシドタンパク質が、Parvoviridae科に属するウイルスのカプシドタンパク質、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)のカプシドタンパク質である、請求項1~5のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質。
【請求項7】
前記AAVが、AAV血清型2、4、6、8および9からなる群から選択され、前記AAVが、好ましくは、血清型2である、請求項6に記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質。
【請求項8】
前記カプシドタンパク質が、AAV血清型2のVP1タンパク質である、請求項7に記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質。
【請求項9】
配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記アミノ酸配列またはそれらの前記バリアントが、前記カプシドタンパク質のアミノ酸550~600の領域に挿入されている、請求項1~8のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質。
【請求項10】
前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列;
(b)配列番号7もしくは配列番号8の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)(a)もしくは(b)に定義されている前記アミノ酸配列のうち1種の断片
を含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質。
【請求項11】
前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号24のアミノ酸配列;
(b)配列番号25のアミノ酸配列;
(c)配列番号26のアミノ酸配列;
(d)配列番号27のアミノ酸配列;または
(e)それぞれ配列番号24、配列番号25、配列番号26もしくは配列番号27の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)、(c)もしくは(d)のバリアント
を含む、請求項2~9のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質。
【請求項12】
霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、請求項1~11のいずれかに記載のカプシドタンパク質を含むウイルスカプシドであって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、ウイルスカプシド。
【請求項13】
霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、請求項1~11のいずれかに記載のカプシドタンパク質をコードする核酸であって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、核酸。
【請求項14】
霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、請求項13に記載の核酸を含むプラスミドであって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、プラスミド。
【請求項15】
(A)霊長類における心臓疾患を処置もしくは予防する方法であって、心臓疾患を処置もしくは予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、方法における;または
(B)霊長類における心筋症を処置もしくは予防する方法における;または
(C)霊長類における心不全もしくは慢性心不全を処置もしくは予防する方法における
使用のための、組換えウイルスベクターであって、前記ベクターが、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含み、前記カプシドが、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;
(c)配列番号3のアミノ酸配列;
(d)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)もしくは(c)のバリアント;
(e)配列番号24のアミノ酸配列;
(f)配列番号25のアミノ酸配列;
(g)配列番号26のアミノ酸配列;
(h)配列番号27のアミノ酸配列;
(i)配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(e)、(f)、(g)もしくは(h)のバリアント、
(j)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列;または
(k)配列番号7もしくは配列番号8の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列
を含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含む、組換えウイルスベクター。
【請求項16】
前記心筋症が、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、不整脈原性右室心筋症(ARVC)、拘束型心筋症(RCM)および左室心筋緻密化障害(LVNC)からなる群から選択される、請求項15に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項17】
前記心筋症が、原発性心筋症、好ましくは、遺伝性心筋症、自然突然変異によって引き起こされる心筋症、および後天性心筋症、好ましくは、アテローム硬化性または他の冠動脈疾患によって引き起こされる虚血性心筋症、心筋の感染または中毒によって引き起こされる心筋症からなる群から選択される、請求項15に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項18】
前記心臓疾患が、狭心症、心線維症および心肥大からなる群から選択される、請求項15に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項19】
前記心不全または慢性心不全が、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)、駆出率が低減した心不全(HFrEF)または駆出率が中間域にある心不全(HFmrEF)である、請求項15に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項20】
前記HFpEFが、ステージCもしくはステージD HFpEFであるか、または前記HFrEFが、ステージCもしくはステージD HFrEFである、請求項19に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項21】
前記ベクターが、組換えAAVベクターである、請求項15~20のいずれかに記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項22】
前記AAVが、AAV血清型2、4、6、8および9、好ましくは、AAV血清型2からなる群から選択される、請求項21に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項23】
前記導入遺伝子が、ssDNAまたはdsDNAの形態である、請求項15~22のいずれかに記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項24】
前記導入遺伝子が、心修復因子、カルシウム調節因子または血管新生促進性因子の群から選択されるタンパク質をコードする、請求項15~23のいずれかに記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項25】
前記導入遺伝子が、心修復因子huMydgfをコードする、請求項24に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項26】
前記導入遺伝子が、SERCA2a、SUMO1およびS100A1からなる群から選択されるカルシウム調節因子をコードする、請求項24に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項27】
前記導入遺伝子が、血管新生促進性因子VEGFをコードする、請求項24に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項28】
前記導入遺伝子が、マイクロRNA(miRNA)をコードする、請求項15~23のいずれかに記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項29】
前記マイクロRNAが、MAPK経路、MYOD経路、FOXO3経路またはERK-MAPK経路の調節に関与する、請求項28に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項30】
前記マイクロRNAが、miR-378、miR669a、miR-21、miR212およびmiR132からなる群から選択される、請求項28または29に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項31】
前記導入遺伝子が、処置されるべき前記霊長類における欠損遺伝子を補充する筈である遺伝子である、請求項15~30のいずれかに記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項32】
前記遺伝子が、ベータ-ミオシン重鎖(MYH7)、ミオシン結合タンパク質C(MYBPC3)、トロポニンI(TNNI3)、トロポニンT(TNNT2)、トロポミオシンアルファ-1鎖(TPM1)またはミオシン軽鎖(MYL3)の群から選択されるタンパク質をコードする、請求項31に記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項33】
前記ベクターが、静脈内投与のために製剤化されている、請求項15~32のいずれかに記載の方法における使用のための組換えウイルスベクター。
【請求項34】
カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含む組換えウイルスベクターであって、前記カプシドが、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;
(c)配列番号3のアミノ酸配列;または
(d)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)もしくは(c)のバリアント;
を含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含み、前記導入遺伝子が、心修復因子huMydgfをコードする、組換えウイルスベクター。
【請求項35】
前記huMydgfが、
(a)配列番号18、20、33もしくは34のアミノ酸配列;
(b)配列番号18、20、33もしくは34の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)(a)もしくは(b)に定義されている前記アミノ酸配列のうち1種の断片
を含む、請求項34に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項36】
前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号24のアミノ酸配列;
(b)配列番号25のアミノ酸配列;
(c)配列番号26のアミノ酸配列;
(d)配列番号27のアミノ酸配列;
(e)配列番号24、配列番号25、配列番号26もしくは配列番号27の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)、(c)もしくは(d)のバリアント
を含む、請求項34または35に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項37】
カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含み、前記カプシドが、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;
(c)配列番号3のアミノ酸配列;または
(d)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)もしくは(c)のバリアント
を含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含み、前記huMydgfが、機能的なゴルジ/小胞体保留シグナルを欠如し、好ましくは、huMydgfが、配列番号20または配列番号34の配列を含む、請求項34~36のいずれかに記載の組換えウイルスベクター。
【請求項38】
(i)心臓疾患を処置もしくは予防する方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、霊長類における心臓疾患;または
(ii)霊長類における心筋症;または
(iii)霊長類における心不全もしくは慢性心不全
を処置または予防する方法における使用のための、請求項34~37のいずれかに記載の組換えウイルスベクター。
【請求項39】
カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含む組換えウイルスベクターであって、前記カプシドが、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;
(c)配列番号3のアミノ酸配列;または
(d)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)もしくは(c)のバリアント
を含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含み、前記導入遺伝子が、ヒトカルシウム調節因子SERCA2aをコードする、組換えウイルスベクター。
【請求項40】
前記ヒトカルシウム調節因子SERCA2aが、
(a)配列番号28~32のいずれかのアミノ酸配列;
(b)配列番号28~32の前記アミノ酸配列のうち1種に対して少なくとも90%同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)(a)もしくは(b)に定義されている前記アミノ酸配列のうち1種の断片
を含む、請求項39に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項41】
前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号24のアミノ酸配列;
(b)配列番号25のアミノ酸配列;
(c)配列番号26のアミノ酸配列;
(d)配列番号27のアミノ酸配列;
(e)配列番号24、配列番号25、配列番号26もしくは配列番号27の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)、(c)または(d)のバリアント
を含む、請求項39または40に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項42】
(i)心臓疾患を処置もしくは予防する方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、霊長類における心臓疾患;
(ii)慢性心不全;または
(iii)駆出率が低減した心不全患者
を処置または予防する方法における使用のための、請求項39~41のいずれかに記載の組換えウイルスベクター。
【請求項43】
請求項1~11のいずれかに記載のカプシドタンパク質、請求項12に記載のウイルスカプシド、請求項13に記載の核酸、請求項14に記載のプラスミド、または請求項15~42のいずれかに記載の組換えウイルスベクターを含む医薬組成物。
【請求項44】
前記霊長類が、ヒトである、請求項1~11のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質、請求項12に記載の方法における使用のためのウイルスカプシド、請求項13に記載の方法における使用のためのヌクレオチド配列、請求項14に記載の方法における使用のためのプラスミド、請求項15~33、38および42に記載の方法における使用のための組換えAAVベクター、または請求項43に記載の方法における使用のための医薬組成物。
【請求項45】
霊長類における心臓疾患を処置または予防するための医薬の製造のための、請求項1~11のいずれかに記載のカプシドタンパク質、請求項12に記載のウイルスカプシド、請求項13に記載の核酸、請求項14に記載のプラスミド、請求項15~42のいずれかに記載の組換えウイルスベクター、または請求項43に記載の医薬組成物の使用。
【請求項46】
ラットまたは霊長類の単離された心臓組織細胞、好ましくは、単離された心筋細胞の形質導入のための、請求項15~42のいずれかに記載のベクターの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、全般的には、遺伝性または後天性疾患の処置のための、ウイルスベクター、特に、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用することによる体細胞遺伝子療法の分野に関する。より具体的には、本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防するための、マウス内皮細胞の特異的形質導入をもたらすウイルスカプシドタンパク質に関する。ウイルスカプシドタンパク質は、霊長類心臓組織細胞、特に、霊長類心臓筋肉細胞に特異的に結合することが見出されており、霊長類心筋細胞の効率的かつ選択的な形質導入をもたらし、霊長類における1種または複数の導入遺伝子の心臓組織特異的発現を確実にするために使用することができる。本発明は、さらに、カプシド中にパッケージングされた少なくとも1種の導入遺伝子を有するカプシドを含む組換えウイルスベクター、好ましくは、AAVベクターに関する。ウイルスベクターは、霊長類における心障害または疾患の治療的処置に適している。本発明は、さらに、本発明に係るウイルスベクターを含む細胞および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
その有効性および有利な安全性プロファイルにより、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づくベクターは現在、体細胞遺伝子療法のために最も広く使用されているベクター系である。AAVベクターは、導入遺伝子を一本鎖または二本鎖DNAとして様々な組織の分裂および非分裂細胞に導入し、効率的かつ長期の安定した発現をもたらすことができる。組換えAAVベクターを使用した臨床試験は、レーバー先天黒内障(Luxturna)および脊髄性筋萎縮症(Zolgensma)の処置のために初めて販売承認されたAAVに基づく治療法等の重要な画期的出来事を達成することにより、遺伝子療法のさらなる進歩に著しく寄与した。
【0003】
心筋症(CM)は、心臓筋肉疾患の不均一なグループ、ならびに西洋社会における罹患および死亡の最も一般的な原因である心不全(HF)の主因である。HFの診断時に、最良の利用可能な処置を用いたとしても、5年生存率は、わずか約50%である(Writing Group et al, 2016)。CMのための現在の処置選択肢は、主に対症的なものであり、疾患の進行を停止することができず、HFを予防する唯一の選択肢として心臓移植を残す。大部分の心疾病について、現在利用可能な対症的処置モダリティは不適切である。しかし、AAVに基づく遺伝子療法が、遺伝性CMにおける治療介入のために特異的分子変化を反転するための有望なツールとして出現した(Chemaly et al, 2013; Tilemann et al, 2012)。
【0004】
最初に、AAV血清型1(AAV1)ベクターによって送達された筋小胞体(sarcoplasmatic)カルシウムATPase(SERCA2a)の心特異的アイソフォームは、進行型HF患者を処置するための心AAV遺伝子療法のヒト初回投与試験をもたらした(Jessup et al, 2011; Zsebo et al, 2014)。残念ながら、第1相臨床治験に見られたプラス効果は、次の第2相試験;CUPID2b治験(Greenberg et al, 2016)において確認することができなかった。患者試料のレトロスペクティブ解析は、非常に低い形質導入有効性、およびAAV1がSERCA2aを心筋細胞に送達することができないことを示した。実際に、全ての心筋細胞の1%未満が、ウイルスベクターゲノムを含有した。したがって、AAV1が細胞に形質導入することができないことが、治験のマイナスのアウトカムの主な理由として示唆される。
【0005】
いくつかのAAV血清型と共に操作されたAAVバリアントが、前臨床モデルにおいて試験および比較された。それらの中で、AAV血清型9(AAV9)は、全身的に注射されたときに、心筋細胞に形質導入するのに最も効率的であることが判明した。結果的に、心組織においてLAMP2Bを発現させるためにAAV9を使用したダノン病のための臨床第1相治験(RocketPharma)は現在、リクルート(recruiting)相である(ClinicalTrials.gov識別子:NCT03882437)。AAV6、AAV8およびAAVRh.10を含む他のバリアント、または操作されたカプシドバリアント、すなわち、AAV-VNS(Ying et al, 2010)、M41(Yang et al, 2009)、AAV2i8(Asokan et al, 2010)は最初に、マウスにおける心遺伝子移入のための優れた標的化特性を有することが報告されたが、これらのデータは、未だ臨床的により意義のあるより大型の動物へと移行させることができていない(Chamberlain et al, 2017)(Tarantal et al, 2017)。
【0006】
心筋細胞に形質導入するAAV9の能力の他に、AAV9は、他の組織に対して非常に幅広くかつ非特異的なトロピズムも有する。これにより、1)幅広い範囲の組織へのベクターカプシドタンパク質(カーゴDNAを含む)の広汎な分布、ならびに2)肝臓、中枢神経系、腎臓、肺および膵臓を含むがこれらに制限されない組織における治療用カーゴの発現が生じる。心筋細胞選択的発現は、意図される標的組織への遺伝子発現を制御するための治療用導入遺伝子カセットの3’プライム末端に導入された、細胞型特異的プロモーター、調節エレメントまたは特異的mRNA結合部位を使用することにより達成することができる(Powell et al, 2015;Qiao et al, 2011)。しかし、利用可能な心特異的プロモーターの大部分は、CMVまたはCAGプロモーター等の遍在性プロモーターと比較して、より低い活性を有し、最終的に、治療用カーゴの十分な発現レベルを達成するために、さらにより高いベクター用量を要求するであろう(Korbelin et al, 2016a;Korbelin et al, 2016b)。AAVのパッケージング容量が、より大型のエレメントの使用を限定するという事実に加えて、調節エレメントを使用することによるある特定の組織または細胞型への遺伝子発現の制御は、それぞれの系の高頻度に観察される漏れやすさによって引き起こされる、オフターゲット組織における残渣遺伝子発現のリスクを常に有する。より高いベクター用量と共に、広汎なカプシドおよび導入遺伝子分布ならびに関連性のない(「オフターゲット」)組織に発現される治療用ペイロードの両方が、免疫系の活性化(例えば、TLR9を介したT細胞活性化)(Colella et al, 2018)、血小板の急性減退、補体活性化、またはさらには、急性肝毒性を含む重篤有害事象(Wilson & Flotte, 2020)を引き起こし得る。
【0007】
いくつかの治療タンパク質が、心不全および急性心筋梗塞を軽快させるのに有用であることが示された。例えば、WO2014/111458は、急性心筋梗塞を処置するための骨髄系由来増殖因子(Mydgf)の使用を開示する。Korf-Klingebiel et al(2015)は、Mydgfが、心筋梗塞後に骨髄細胞によって分泌され、心筋細胞生存および血管新生を促進することを報告する。Korf-Klingebielは、骨髄由来単球およびマクロファージが、このタンパク質を内在性に産生して、心筋梗塞後に心臓を保護および修復することを示す。さらに、Korf-Klingebielは、組換えMydgfによる処置が、心筋梗塞後の瘢痕サイズおよび収縮不全を低減させることを示す。Korf-Klingebiel et al(2021)は、骨髄由来炎症性細胞におけるMydgfのトランスジェニック過剰発現が、圧負荷誘導性肥大および機能障害を減弱したことを記載した。具体的には、レンチウイルスベクターによるマウスの形質導入について記載されている。WO2021/148411 A1は、レンチウイルスにより形質導入されたマウスにおけるMydgfの発現について同様に記載する。しかし、レンチウイルスベクターは、重大な不利益を伴う。
【0008】
レンチウイルスベクターは、(i)宿主ゲノムへの安定したベクター組込みによる持続した遺伝子送達;(ii)分裂および非分裂細胞の両方に感染する能力;(iii)重要な遺伝子および細胞療法標的細胞型を含む幅広い組織トロピズム;(iv)ベクター形質導入後にウイルスタンパク質の発現がないこと;(v)ポリシストロニックまたはイントロン含有配列等の複雑な遺伝的エレメントを送達する能力;(vi)潜在的により安全な組込み部位プロファイル;ならびに(vii)ベクターマニピュレーションおよび産生のための相対的に容易な系(Sakuma et al. 2012)を含む、遺伝子送達媒体としてのいくつかの魅力的な特性を提供する。特性のいくつかは、必ずしも望まれるとは限らない。潜在的により安全な組込み部位プロファイルによって軽減され得る宿主ゲノムへのベクター組込みは、特に、幅広い組織トロピズムとの関連で、可能であれば回避されるべき傾向であり、幅広い組織トロピズムは、同様に必ずしも望まれるとは限らず、送達されるべき導入遺伝子が、標的臓器の外側で発現されたときにリスクを構成する場合に問題を提起し得る。さらに、レンチウイルスは、ベクターマニピュレーションおよび産生のための相対的に容易な系であり得るが、依然として、取り扱うことがより容易なウイルスプラットフォームの必要がある。ウイルスの頑強性および実験室規模を越えた産生の複雑性は、同様に現在まで、レンチウイルスの使用を限定してきた因子であり得る。
過去数十年間にわたり体細胞遺伝子療法の分野において為された進歩にもかかわらず、依然として、他の組織の標的化が最小で心臓組織の効率的かつ選択的な形質導入を可能にする新規ウイルスベクターの必要がある。そのようなベクターは、低いベクター用量で、患者、特に、ヒトにおける治療活性があるタンパク質の妥当なレベルを達成し、これにより、患者にとって望まれない副作用を予防するべきである。ベクターはまた、中和IgGに対して低い親和性を示して、既存の免疫を有する患者におけるその使用を可能にするべきである。したがって、本発明の目的は、霊長類における心臓疾患を処置または予防するのに有用な新規ウイルスベクターを提供することである。具体的には、これらのベクターは、霊長類心臓組織、特に、霊長類心筋細胞の効率的かつ選択的な形質導入をもたらすべきである。
特に、本発明の目的は、レンチウイルスの弱点を克服することである。具体的には、本発明の目的は、レンチウイルスよりも低い頻度でゲノムに組み込むウイルスベクターを提供することである。好ましくは、ウイルスベクターは、ゲノムにごく稀に組み込むべきである。さらにより好ましくは、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV、Gill-Farina et al, (2016)を参照)等、処置されるべき患者にリスクを課す比率でゲノムに組み込むべきでは断じてない。本発明のさらに別の目的は、心臓を特異的に標的化するウイルスベクターを提供することであり、この場合、オフターゲット形質導入は、心臓トロピズムを有することが公知であるAAVと比較してより低い。最も好ましくは、本発明のウイルスベクターによって両方の目的が取り組まれる。本発明のさらに別の目的は、AAV等、大規模で製造することがレンチウイルスよりも容易であるベクターを提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/111458号
【特許文献2】国際公開第2021/148411号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Writing Group M, Mozaffarian D, Benjamin EJ, Go AS, Arnett DK, Blaha MJ, Cushman M, Das SR, de Ferranti S, Despres JP et al (2016) Heart Disease and Stroke Statistics-2016 Update: A Report From the American Heart Association. Circulation 133: e38-360
【非特許文献2】Chemaly ER, Hajjar RJ, Lipskaia L (2013) Molecular targets of current and prospective heart failure therapies. Heart 99: 992-1003
【非特許文献3】Tilemann L, Ishikawa K, Weber T, Hajjar RJ (2012) Gene therapy for heart failure. Circ Res 110: 777-793
【非特許文献4】Jessup M, Greenberg B, Mancini D, Cappola T, Pauly DF, Jaski B, Yaroshinsky A, Zsebo KM, Dittrich H, Hajjar RJ et al (2011) Calcium Upregulation by Percutaneous Administration of Gene Therapy in Cardiac Disease (CUPID): a phase 2 trial of intracoronary gene therapy of sarcoplasmic reticulum Ca2+-ATPase in patients with advanced heart failure. Circulation 124: 304-313
【非特許文献5】Zsebo K, Yaroshinsky A, Rudy JJ, Wagner K, Greenberg B, Jessup M, Hajjar RJ (2014) Long-term effects of AAV1/SERCA2a gene transfer in patients with severe heart failure: analysis of recurrent cardiovascular events and mortality. Circ Res 114: 101-108
【非特許文献6】Greenberg B, Butler J, Felker GM, Ponikowski P, Voors AA, Desai AS, Barnard D, Bouchard A, Jaski B, Lyon AR, Pogoda JM, Rudy JJ, Zsebo KM. Calcium upregulation by percutaneous administration of gene therapy in patients with cardiac disease (CUPID 2): a randomised, multinational, double-blind, placebo-controlled, phase 2b trial. Lancet. 2016 Mar 19;387(10024):1178-86. doi: 10.1016/S0140-6736(16)00082-9. Epub 2016 Jan 21. PMID: 26803443.
【非特許文献7】Ying Y, Muller OJ, Goehringer C, Leuchs B, Trepel M, Katus HA, Kleinschmidt JA (2010) Heart-targeted adeno-associated viral vectors selected by in vivo biopanning of a random viral display peptide library. Gene Ther 17: 980-990
【非特許文献8】Yang L, Jiang J, Drouin LM, Agbandje-McKenna M, Chen C, Qiao C, Pu D, Hu X, Wang DZ, Li J et al (2009) A myocardium tropic adeno-associated virus (AAV) evolved by DNA shuffling and in vivo selection. Proc Natl Acad Sci U S A 106: 3946-3951
【非特許文献9】Asokan A, Conway JC, Phillips JL, Li C, Hegge J, Sinnott R, Yadav S, DiPrimio N, Nam HJ, Agbandje-McKenna M et al (2010) Reengineering a receptor footprint of adeno-associated virus enables selective and systemic gene transfer to muscle. Nat Biotechnol 28: 79-82
【非特許文献10】Chamberlain K, Riyad JM, Weber T (2017) Cardiac gene therapy with adeno-associated virus-based vectors. Curr Opin Cardiol
【非特許文献11】Tarantal AF, Lee CCI, Martinez ML, Asokan A, Samulski RJ (2017) Systemic and Persistent Muscle Gene Expression in Rhesus Monkeys with a Liver De-Targeted Adeno-Associated Virus Vector. Hum Gene Ther 28: 385-391
【非特許文献12】Powell SK, Rivera-Soto R, Gray SJ (2015) Viral expression cassette elements to enhance transgene target specificity and expression in gene therapy. Discov Med 19: 49-57
【非特許文献13】Qiao C, Yuan Z, Li J, He B, Zheng H, Mayer C, Li J, Xiao X (2011) Liver-specific microRNA-122 target sequences incorporated in AAV vectors efficiently inhibits transgene expression in the liver. Gene Ther 18: 403-410
【非特許文献14】Korbelin J, Dogbevia G, Michelfelder S, Ridder DA, Hunger A, Wenzel J, Seismann H, Lampe M, Bannach J, Pasparakis M et al (2016a) A brain microvasculature endothelial cell-specific viral vector with the potential to treat neurovascular and neurological diseases. EMBO Mol Med 8: 609-625
【非特許文献15】Korbelin J, Sieber T, Michelfelder S, Lunding L, Spies E, Hunger A, Alawi M, Rapti K, Indenbirken D, Muller OJ et al (2016b) Pulmonary Targeting of Adeno-associated Viral Vectors by Next-generation Sequencing-guided Screening of Random Capsid Displayed Peptide Libraries. Mol Ther 24: 1050-1061
【非特許文献16】Colella P, Ronzitti G, Mingozzi F (2018) Emerging Issues in AAV-Mediated In Vivo Gene Therapy. Mol Ther Methods Clin Dev 8: 87-104
【非特許文献17】Wilson JM, Flotte TR (2020) Moving Forward After Two Deaths in a Gene Therapy Trial of Myotubular Myopathy. Hum Gene Ther 31: 695-696
【非特許文献18】Korf-Klingebiel M., Reboll M.R., Klede S., Brod T., Pich A., Polten F., et al. Myeloid-derived growth factor (C19orf10) mediates cardiac repair following myocardial infarction. Nat Med. 2015Feb; 21 (2): 140-149.
【非特許文献19】Korf-Klingebiel M, Reboll MR, Polten F, Weber N, Jaeckle F, Wu X, Kallikourdis M, Kunderfranco P, Condorelli G, Giannitsis E, Kustikova OS, Schambach A, Pich A, Widder JD, Bauersachs J, Heuvel J , Kraft T, Wang Y, Wollert KC (2021), Myeloid-Derived Growth Factor Protects Against Pressure Overload-Induced Heart Failure by Preserving Sarco/Endoplasmic Reticulum Ca2+-ATPase Expression in Cardiomyocytes, Circulation, 144:1227-1240
【非特許文献20】Sakuma T, Barry MA, Ikeda Y; Lentiviral vectors: basic to translational, Biochem J, 443 (3): 603-618
【非特許文献21】Irene Gil-Farina, Raffaele Fronza, Christine Kaeppel, Esperanza Lopez-Franco, Valerie Ferreira, Delia D'Avola, Alberto Benito, Jesus Prieto, Harald Petry, Gloria Gonzalez-Aseguinolaza, Manfred Schmidt, Recombinant AAV Integration Is Not Associated With Hepatic Genotoxicity in Nonhuman Primates and Patients, Molecular Therapy, Volume 24, Issue 6, 2016, Pages 1100-1105, ISSN 1525-0016, https://doi.org/10.1038/mt.2016.52.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の簡単な概要
本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、マウス内皮細胞の特異的形質導入をもたらすカプシドタンパク質に関する。マウス内皮細胞、特に、脳または肺のマウス内皮細胞の選択的形質導入をもたらすカプシドタンパク質が、霊長類において異なるトロピズムを発揮し、霊長類においては、心臓組織細胞の選択的形質導入をもたらす(ラットにおいて、状況は、霊長類と同様であった)ことが見出された。したがって、マウス内皮細胞の特異的形質導入を生じるカプシドタンパク質は、ヒトまたは非ヒト霊長類における心臓組織細胞、特に、心筋細胞に導入遺伝子を導入するための高度に有用なツールである。カプシドタンパク質は、改変されていなくてよい、すなわち、天然に存在していてよい、またはそのトロピズムに影響を与えるペプチド配列の挿入によって改変されていてよい。本発明は、また、マウスへの投与時に内皮細胞に特異的に形質導入し、したがって、in vivoにおける霊長類、すなわち、ヒトまたは非ヒト霊長類(Homo属またはNHP)への全身的ベクター投与による心筋細胞の選択的形質導入および導入遺伝子発現に有用である、改変されていないまたは改変されたカプシドを有するウイルスベクター、特に、AAVベクターを提供する。ベクターは、霊長類におけるCNS、肺、腎臓、膵臓および骨格筋等のオフターゲット組織の最小の形質導入を生じる。心遺伝子療法に現在使用されている標準ベクターであり、進行中の臨床第I相治験において試験されているAAV9と比較して、本発明のウイルスベクターの観察された肝臓標的化解除(detargeting)は、オフターゲットプロファイルの実質的な改善を表す、43.3分の1の肝臓発現をもたらした。著しく改善されたオフターゲット化プロファイルは、より高度の投薬を可能にし、これにより、導入遺伝子発現および治療効率を増加させることができる。したがって、本発明のウイルスベクターは、心臓疾患を患う霊長類への、特に、ヒト患者への導入遺伝子の送達に特に適する。
【0012】
標的組織への選択的ホーミングおよびそこでの遺伝子発現をもたらす改変されたカプシドを有するウイルスベクターは、動物モデルにおいて以前に記載された。具体的には、ウイルスカプシドタンパク質へのペプチド配列の取込みが、ある特定の標的組織に対するベクター系の親和性を増加させる適した仕方であることが報告された。例えば、WO2015/158749は、全身的投与後にベクターをマウスの脳または脊髄に選択的にガイドする、ペプチドNRGTEWDを含む改変されたカプシドタンパク質(配列番号1として本明細書に提供される)を有するAAV2バリアントについて記載する。このAAV2バリアントは、AAV BI-15.1と本明細書で称される。同様に、WO2015/018860は、全身的投与後にベクターをマウスの肺に選択的にガイドする、ペプチドESGHGYFを含む改変されたカプシドタンパク質(配列番号3として本明細書に提供される)を有するAAV2バリアントについて記載する。このAAVバリアントは、AAV BI-15.2と本明細書で称される。BI-15.1およびBI-15.2は両者共に、自身の特異的ペプチドによってガイドされるそれらの個々の標的組織内の内皮細胞に形質導入する(BI-15.1、マウス脳の小さい脈管構造およびBI-15.2、マウス肺の肺脈管構造)。BI-15.1およびBI-15.2について記載されるそのような特有のベクター特性は、標的化遺伝子療法の開発に適用されるために高度に魅力的である。
【0013】
両方のベクター、AAV BI-15.1およびAAV BI-15.2を、ラットおよびNHPにおいて全身的投与後にin vivoで、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)レポーター等のペイロードを送達および発現するそれらの能力について本明細書において検討した。具体的には、AAV BI-15.1およびAAV BI-15.2は、2種の異なるラット系統(WKY/KyoRjおよびスプラーグドーリーラット)において体内分布試験において試験して、異なるプロモーターを使用した用量漸増試験において、AAV9と比較して、それらの効力およびオフターゲットプロファイルを探索した。最も重要なことに、非ヒト霊長類(カニクイザル(cynomolgus macaque)、NHP)においてAAV BI-15.1およびAAV BI-15.2を解析して、移行性に関して(translationally)より妥当なある種において両方のベクターの組織トロピズムを調査した。両方のバリアントの投与が、ラットおよびNHPの両方において心筋細胞の選択的形質導入を生じたことが見出された。加えて、両方のバリアントはまた、iPSC由来ヒト心筋細胞に選択的に形質導入することが見出された。
【0014】
ラットにおける心組織へのホーミングは、両方のベクターについてほとんど匹敵するレベルであったが、AAV BI-15.1は、NHPにおいてAAV BI-15.2と比較して、より有利な心臓対肝臓ホーミング比を有した(0.51および0.11)。重要なことに、両方のベクターは、明らかに、文献で報告された比(およそ0.02)(Hordeaux et al, 2018)と比較して、それぞれおよそ25.7倍(AAV BI-15.1)および5,9倍(AAV BI-15.2)のその心対肝臓ホーミング比に関して、NHPにおいてAAV9よりも優れていた。ベクターゲノムの有利な心対肝臓組織分布に加えて、AAV BI-15.1およびAAV BI-15.2はまた、心筋細胞における有意な導入遺伝子発現を誘発した。これは、肝臓、骨格筋および様々な他の組織における最小の発現と平行した。最も重要なことに、1013vg/kg体重(BW)の用量により、AAV BI-15.1は、霊長類心細胞の最大23%に形質導入した。
【0015】
ラットおよびNHPにおける心臓特異的トロピズムの種間保存、ならびにヒトiPSC由来ヒト心筋細胞の形質導入におけるそれらの有効性により、AAVベクターの記載されているトロピズムが、in vivoでヒト心筋細胞に繋がると予想されるべきである。したがって、治療関連分子(例えば、Mydgf)の発現のためのこれらのベクターの適用は、現在限定的な処置選択肢のみが利用可能な、生命を脅かす心疾患のために有効な遺伝子療法アプローチを確立するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1は、クライオおよびネガティブ染色透過型電子顕微鏡を使用して、in vivo体内分布および発現試験のために産生された、精製されたAAVベクターストックの解析の結果を示す。(A)サイトメガロウイルス初期エンハンサー+ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーターの制御下で高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)を有する導入遺伝子カセットを有するBI-15.1、およびサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下でeGFPを有するBI-15.2を、クライオ-透過型電子顕微鏡(クライオTEM)を使用して撮像した。代表的なクライオTEM画像は、フル(full)AAV粒子(黒色矢印)、および空粒子(白色矢印)またはダブレット(doublet)(白色矢じり)の亜集団を示す。AAV以外の大型の構造物(黒色破線矢印)およびある程度の氷混入(白色破線矢印)が観察された(上部レベルA)。画像に基づく内部密度解析によってパッケージング統計を作成した(下部レベルA、B、C)。ネガティブ染色透過型電子顕微鏡(nsTEM)は、試料純度およびインタクトなカプシドのパーセンテージを説明する。(B)サイズ分布および相対的濃度は、nsTEMに基づく画像によって自動的に検出された。(C)4種の粒子クラスを定義した;一次粒子(インタクトなAAV、緑色)、一次破壊粒子(内部染色された、紫色)、プロテアソーム様粒子(小さいサイズの不純物、青色)および二次粒子(未知の変動するサイズの不純物、赤色)。
図1B図1は、クライオおよびネガティブ染色透過型電子顕微鏡を使用して、in vivo体内分布および発現試験のために産生された、精製されたAAVベクターストックの解析の結果を示す。(A)サイトメガロウイルス初期エンハンサー+ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーターの制御下で高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)を有する導入遺伝子カセットを有するBI-15.1、およびサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下でeGFPを有するBI-15.2を、クライオ-透過型電子顕微鏡(クライオTEM)を使用して撮像した。代表的なクライオTEM画像は、フル(full)AAV粒子(黒色矢印)、および空粒子(白色矢印)またはダブレット(doublet)(白色矢じり)の亜集団を示す。AAV以外の大型の構造物(黒色破線矢印)およびある程度の氷混入(白色破線矢印)が観察された(上部レベルA)。画像に基づく内部密度解析によってパッケージング統計を作成した(下部レベルA、B、C)。ネガティブ染色透過型電子顕微鏡(nsTEM)は、試料純度およびインタクトなカプシドのパーセンテージを説明する。(B)サイズ分布および相対的濃度は、nsTEMに基づく画像によって自動的に検出された。(C)4種の粒子クラスを定義した;一次粒子(インタクトなAAV、緑色)、一次破壊粒子(内部染色された、紫色)、プロテアソーム様粒子(小さいサイズの不純物、青色)および二次粒子(未知の変動するサイズの不純物、赤色)。
図1C図1は、クライオおよびネガティブ染色透過型電子顕微鏡を使用して、in vivo体内分布および発現試験のために産生された、精製されたAAVベクターストックの解析の結果を示す。(A)サイトメガロウイルス初期エンハンサー+ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーターの制御下で高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)を有する導入遺伝子カセットを有するBI-15.1、およびサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下でeGFPを有するBI-15.2を、クライオ-透過型電子顕微鏡(クライオTEM)を使用して撮像した。代表的なクライオTEM画像は、フル(full)AAV粒子(黒色矢印)、および空粒子(白色矢印)またはダブレット(doublet)(白色矢じり)の亜集団を示す。AAV以外の大型の構造物(黒色破線矢印)およびある程度の氷混入(白色破線矢印)が観察された(上部レベルA)。画像に基づく内部密度解析によってパッケージング統計を作成した(下部レベルA、B、C)。ネガティブ染色透過型電子顕微鏡(nsTEM)は、試料純度およびインタクトなカプシドのパーセンテージを説明する。(B)サイズ分布および相対的濃度は、nsTEMに基づく画像によって自動的に検出された。(C)4種の粒子クラスを定義した;一次粒子(インタクトなAAV、緑色)、一次破壊粒子(内部染色された、紫色)、プロテアソーム様粒子(小さいサイズの不純物、青色)および二次粒子(未知の変動するサイズの不純物、赤色)。
【0017】
図2A-2D】図2は、マウスにおいてHEKまたはSf9細胞において産生されたBI-15.1およびBI-15.2を使用してベクター分布および遺伝子発現試験から得られた結果を描写する。C57BL/6マウスにおける低用量:5×1012vg/kg BW、中用量:1×1013vg/kg BWおよび高用量:2×1013vg/kg BWのi.v.投与の3週間後に、HEK産生(A)BI-15.1-CAG-eGFPまたは(B)BI-15.2-CMV-eGFPベクターのベクターDNAコピーを、脳、肺、心臓、脾臓および肝臓のホモジナイズされた組織において定量化した。BI-15.1のベクターコピー数は、同じ用量の他の全臓器と比較して脳において有意に増加する(左パネル)****p<0.0001(指し示されている用量における脳vs.肝臓、脾臓、心臓および肺)。BI-15.2のベクターコピー数は、同じ用量の他の全臓器と比較して肺において有意に増加する****p<0.0001(それぞれ全用量について肺vs.肝臓、脾臓、心臓および脳、**p<0.01(最高用量における肺vs.脳)。試料におけるポリメラーゼIIのmRNA発現に対して正規化された、脳、肺、心臓、脾臓および肝臓の組織におけるeGFP mRNAの測定によって導入遺伝子発現解析を行った。(C)脳およびオフターゲット対照臓器におけるBI-15.1媒介性eGFP-mRNA発現****p<0.0001(指し示されている用量における脳vs.肝臓、脾臓、心臓および肺)。(D)標的およびオフターゲット対照臓器におけるBI-15.2媒介性eGFP-mRNA発現****p<0.0001(同じ用量における肺vs.肝臓、脾臓、心臓および脳)。1011vg/マウスのi.v.投与の2週間後に、Sf9産生(E)BI-15.1-CAG-eGFPまたは(F)BI-15.2-CMV-eGFPベクターのベクターDNAコピーを、脳、肺および肝臓のホモジナイズされた組織において定量化した。
図2E-2F】図2は、マウスにおいてHEKまたはSf9細胞において産生されたBI-15.1およびBI-15.2を使用してベクター分布および遺伝子発現試験から得られた結果を描写する。C57BL/6マウスにおける低用量:5×1012vg/kg BW、中用量:1×1013vg/kg BWおよび高用量:2×1013vg/kg BWのi.v.投与の3週間後に、HEK産生(A)BI-15.1-CAG-eGFPまたは(B)BI-15.2-CMV-eGFPベクターのベクターDNAコピーを、脳、肺、心臓、脾臓および肝臓のホモジナイズされた組織において定量化した。BI-15.1のベクターコピー数は、同じ用量の他の全臓器と比較して脳において有意に増加する(左パネル)****p<0.0001(指し示されている用量における脳vs.肝臓、脾臓、心臓および肺)。BI-15.2のベクターコピー数は、同じ用量の他の全臓器と比較して肺において有意に増加する****p<0.0001(それぞれ全用量について肺vs.肝臓、脾臓、心臓および脳、**p<0.01(最高用量における肺vs.脳)。試料におけるポリメラーゼIIのmRNA発現に対して正規化された、脳、肺、心臓、脾臓および肝臓の組織におけるeGFP mRNAの測定によって導入遺伝子発現解析を行った。(C)脳およびオフターゲット対照臓器におけるBI-15.1媒介性eGFP-mRNA発現****p<0.0001(指し示されている用量における脳vs.肝臓、脾臓、心臓および肺)。(D)標的およびオフターゲット対照臓器におけるBI-15.2媒介性eGFP-mRNA発現****p<0.0001(同じ用量における肺vs.肝臓、脾臓、心臓および脳)。1011vg/マウスのi.v.投与の2週間後に、Sf9産生(E)BI-15.1-CAG-eGFPまたは(F)BI-15.2-CMV-eGFPベクターのベクターDNAコピーを、脳、肺および肝臓のホモジナイズされた組織において定量化した。
【0018】
図3A-3D】図3は、ラットにおけるベクター分布および遺伝子発現試験から得られた結果を示す。ウィスター京都(Wistar Kyoto)ラットにおけるBI-15.1およびBI-15.2ベクターによって媒介された用量依存性体内分布およびプロモーター依存性eGFP発現が示されている。動物は、静脈内(i.v.)適用によって低用量(1×1013vg/kg)および高用量(5×1013vg/kg)の(A)BI-15.1-CAG-eGFPベクターおよび(B)BI-15.2-CMV-eGFPベクターを受けた。AAV適用の3週間後に、心臓、肝臓、肺、脳および骨格筋(sk.m.)組織由来のホモジナイズされた組織試料においてベクターDNAコピーを定量化した。eGFP mRNAレベルの解析は、(C)BI-15.1-CAG-eGFPおよび(D)BI-15.2-CMV-eGFPベクターによって媒介された心臓および骨格筋におけるプロモーター依存性発現を示す。試料におけるポリメラーゼIIのmRNA発現に対して正規化された、心臓、肝臓、肺、脳およびsk.m.の組織におけるeGFP mRNAの測定によって導入遺伝子発現解析を行った。全データは、バー(平均)±SD、群当たりn=6匹の動物として示す。****p<0.0001(vs.肝臓、肺、脳およびsk.m.、または指し示される通り)。
【0019】
図4A図4は、BI-15.1およびBI-15.2ベクターによって媒介されたeGFPの心発現の試験由来の結果を示す。(A)1×1013vg/kg(低用量)および5×1013vg/kg(高用量)の両方のベクターまたはPBS(対照)をウィスター京都ラットにi.v.適用してから3週間後に、全体をパラフィン包埋された心臓の水平カットを、DAB染色による可視化後のeGFP抗体を用いた免疫組織化学によって染色した。各切片は、指し示される群の1匹の動物由来の心臓を表す。(B)免疫組織化学に基づく面積定量化は、心筋細胞におけるeGFP発現の用量依存性増加を指し示す。面積定量化解析のため、データは、1匹の個々の動物の心臓切片におけるeGFP発現面積のパーセンテージをそれぞれ表す、プロットされたデータ点による±SDとして示す(ベクター処置群当たりn=6匹の動物および媒体処置群当たりn=5)。
図4B図4は、BI-15.1およびBI-15.2ベクターによって媒介されたeGFPの心発現の試験由来の結果を示す。(A)1×1013vg/kg(低用量)および5×1013vg/kg(高用量)の両方のベクターまたはPBS(対照)をウィスター京都ラットにi.v.適用してから3週間後に、全体をパラフィン包埋された心臓の水平カットを、DAB染色による可視化後のeGFP抗体を用いた免疫組織化学によって染色した。各切片は、指し示される群の1匹の動物由来の心臓を表す。(B)免疫組織化学に基づく面積定量化は、心筋細胞におけるeGFP発現の用量依存性増加を指し示す。面積定量化解析のため、データは、1匹の個々の動物の心臓切片におけるeGFP発現面積のパーセンテージをそれぞれ表す、プロットされたデータ点による±SDとして示す(ベクター処置群当たりn=6匹の動物および媒体処置群当たりn=5)。
【0020】
図5A-5B】図5は、BI-15.1およびAAV9によって媒介されたベクター分布および遺伝子発現の解析由来の結果を示す。スプラーグドーリーラットにおける3×1013vg/kgのi.v.適用の3週間後に、(A)BI-15.1-CAG-eGFPまたは(B)AAV9-CAG-eGFPベクターのベクターDNAコピーを、ホモジナイズされた心臓、肝臓、脳、骨格筋(sk.m.)、肺、腎臓、膵臓および脾臓組織試料において定量化した。データは、バー(平均)±SD、群当たりn=8匹の動物として示す。****p<0.0001(vs.肝臓、脳、sk.m.、肺、腎臓、膵臓、脾臓)。(C)eGFP mRNAレベルの解析は、様々な組織におけるBI-15.1(白色バー)およびAAV9(黒色バー)ベクターによって媒介されたCAG駆動遺伝子発現を示す。データは、バー(平均)±SD、群当たりn=8匹の動物として示す。P値は、スチューデント-t検定によって解析されたBI15.1 対 AAV9の有意な値を指し示す****p<0.0001;***p<0.001;**p<0.01;*p<0.1。(D)有効性指数は、それらの平均RNA発現レベルに基づき計算された、個々の組織におけるBI-15.1 対 AAV9の相対的発現有効性を説明する。
図5C-5D】図5は、BI-15.1およびAAV9によって媒介されたベクター分布および遺伝子発現の解析由来の結果を示す。スプラーグドーリーラットにおける3×1013vg/kgのi.v.適用の3週間後に、(A)BI-15.1-CAG-eGFPまたは(B)AAV9-CAG-eGFPベクターのベクターDNAコピーを、ホモジナイズされた心臓、肝臓、脳、骨格筋(sk.m.)、肺、腎臓、膵臓および脾臓組織試料において定量化した。データは、バー(平均)±SD、群当たりn=8匹の動物として示す。****p<0.0001(vs.肝臓、脳、sk.m.、肺、腎臓、膵臓、脾臓)。(C)eGFP mRNAレベルの解析は、様々な組織におけるBI-15.1(白色バー)およびAAV9(黒色バー)ベクターによって媒介されたCAG駆動遺伝子発現を示す。データは、バー(平均)±SD、群当たりn=8匹の動物として示す。P値は、スチューデント-t検定によって解析されたBI15.1 対 AAV9の有意な値を指し示す****p<0.0001;***p<0.001;**p<0.01;*p<0.1。(D)有効性指数は、それらの平均RNA発現レベルに基づき計算された、個々の組織におけるBI-15.1 対 AAV9の相対的発現有効性を説明する。
【0021】
図6A-6C】図6は、ウィスター京都ラットにおけるAAV9の広汎な発現プロファイルと比較したBI-15.1の心臓特異的発現パターンを説明する。(A)3×1013vg/kgのAAV9(上部パネル)およびBI-15.1(下部パネル)ベクターのi.v.適用の3週間後に、心臓、肝臓、CNS、肺、腎臓および膵臓に由来する全体をパラフィン包埋された組織切片を、DAB染色による可視化後のeGFP抗体を用いた免疫組織化学によって染色した。各切片は、指し示される処置群由来の動物の1枚の切片から得られる代表的な染色である。(B)PBS注射対照群、AAV9およびBI-15.1注射動物から得られる個々の組織切片において解析されたeGFPの免疫組織化学に基づく面積定量化。面積定量化解析のため、データは、平均値(バーの上に描写された数)±SD(ベクター処置群当たりn=6匹の動物および媒体処置群当たりn=5)として示す。(C)個々の組織におけるBI-15.1 対 AAV9の相対的発現有効性を、面積定量化による形質導入された面積のそれらの平均パーセンテージに基づき計算し、有効性指数として提示する。
【0022】
図7A-7B】図7は、NHPにおけるBI-15.1ベクターの体内分布および導入遺伝子発現プロファイルのデータを要約する。1×1013vg/kgのBI-15.1ベクターの静脈内注入の3週間後に、カニクイザルの組織におけるベクターDNAコピー数およびベクター媒介性導入遺伝子発現を定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって定量化した。(A)BI-15.1送達ベクターゲノムの妥当なコピー数を、心房(左および右心房)、心室(左および右心室)、肝臓および脾臓において検出したが、他の組織は不十分(spared)であった。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(群当たりn=3匹の動物)。(B)心房(左および右心房)と心室(左および右心房)における優勢なBI-15.1ベクター媒介性eGFP-mRNA発現と、それに続く肝臓におけるある程度の発現。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(群当たりn=3匹の動物)。(C)心、肝臓および脳組織のパラフィン包埋組織切片におけるBI-15.1ベクター媒介性eGFP発現を、DABによる可視化後のeGFP抗体を用いた免疫組織化学によって染色した。各パネル(a~o)は、目的の組織の代表的な区域を表示する。各列は、個々に処置された動物の切片を表示する。(a~c)心房、(d~f)心室、(g~i)肝臓、(j~o)脳。スケールバーのサイズは100μm。(D)免疫組織化学に基づく面積定量化によって解析された心組織におけるBI-15.1ベクター媒介性導入遺伝子発現、および(E)心組織におけるeGFP発現のELISAに基づく定量的解析(右パネル)。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(n=3匹の動物、BI 15.1処置およびn=1、PBS処置)。
図7C-7D】図7は、NHPにおけるBI-15.1ベクターの体内分布および導入遺伝子発現プロファイルのデータを要約する。1×1013vg/kgのBI-15.1ベクターの静脈内注入の3週間後に、カニクイザルの組織におけるベクターDNAコピー数およびベクター媒介性導入遺伝子発現を定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって定量化した。(A)BI-15.1送達ベクターゲノムの妥当なコピー数を、心房(左および右心房)、心室(左および右心室)、肝臓および脾臓において検出したが、他の組織は不十分(spared)であった。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(群当たりn=3匹の動物)。(B)心房(左および右心房)と心室(左および右心房)における優勢なBI-15.1ベクター媒介性eGFP-mRNA発現と、それに続く肝臓におけるある程度の発現。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(群当たりn=3匹の動物)。(C)心、肝臓および脳組織のパラフィン包埋組織切片におけるBI-15.1ベクター媒介性eGFP発現を、DABによる可視化後のeGFP抗体を用いた免疫組織化学によって染色した。各パネル(a~o)は、目的の組織の代表的な区域を表示する。各列は、個々に処置された動物の切片を表示する。(a~c)心房、(d~f)心室、(g~i)肝臓、(j~o)脳。スケールバーのサイズは100μm。(D)免疫組織化学に基づく面積定量化によって解析された心組織におけるBI-15.1ベクター媒介性導入遺伝子発現、および(E)心組織におけるeGFP発現のELISAに基づく定量的解析(右パネル)。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(n=3匹の動物、BI 15.1処置およびn=1、PBS処置)。
【0023】
図8A-8B】図8は、NHPにおけるBI-15.2ベクターの体内分布および導入遺伝子発現を示す。1×1013vg/kgのBI-15.2ベクターの静脈内注入の3週間後に、カニクイザルの組織におけるベクターDNAコピー数およびベクター媒介性導入遺伝子発現を定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって評価した。(A)BI-15.2送達ベクターゲノムの妥当なコピー数を、肝臓および脾臓と、それに続いて心房(左および右心房)、心室(左および右心室)において検出した。ある程度のゲノムコピー数が骨格筋(sc.筋肉)において検出されたが、他の組織は不十分であった。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(群当たりn=2匹の動物)。(B)心房(左および右心房)と心室(左および右心房)における優勢なBI-15.2ベクター媒介性eGFP-mRNA発現と、それに続くsc.筋肉および肝臓におけるある程度の発現。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(群当たりn=2匹の動物)。(C)DABによる可視化後のeGFP抗体を用いた免疫組織化学によって染色された、心、肝臓および脳組織のパラフィン包埋組織切片において染色されたBI-15.2ベクター媒介性eGFP発現。各パネル(a~h)は、目的の組織の代表的な区域を表示する。各列は、個々に処置された動物の切片を表示する。(a~b)心房、(b~c)心室、(e~f)肝臓、(g~h)肺。スケールバーのサイズは100μm。(D)免疫組織化学に基づく面積定量化によって解析された心組織におけるBI-15.2ベクター媒介性導入遺伝子発現、および(E)心組織におけるeGFP発現のELISAに基づく定量的解析(右パネル)。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(n=2匹の動物、BI 15.2処置およびn=1、PBS処置)。
図8C-8D】図8は、NHPにおけるBI-15.2ベクターの体内分布および導入遺伝子発現を示す。1×1013vg/kgのBI-15.2ベクターの静脈内注入の3週間後に、カニクイザルの組織におけるベクターDNAコピー数およびベクター媒介性導入遺伝子発現を定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって評価した。(A)BI-15.2送達ベクターゲノムの妥当なコピー数を、肝臓および脾臓と、それに続いて心房(左および右心房)、心室(左および右心室)において検出した。ある程度のゲノムコピー数が骨格筋(sc.筋肉)において検出されたが、他の組織は不十分であった。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(群当たりn=2匹の動物)。(B)心房(左および右心房)と心室(左および右心房)における優勢なBI-15.2ベクター媒介性eGFP-mRNA発現と、それに続くsc.筋肉および肝臓におけるある程度の発現。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(群当たりn=2匹の動物)。(C)DABによる可視化後のeGFP抗体を用いた免疫組織化学によって染色された、心、肝臓および脳組織のパラフィン包埋組織切片において染色されたBI-15.2ベクター媒介性eGFP発現。各パネル(a~h)は、目的の組織の代表的な区域を表示する。各列は、個々に処置された動物の切片を表示する。(a~b)心房、(b~c)心室、(e~f)肝臓、(g~h)肺。スケールバーのサイズは100μm。(D)免疫組織化学に基づく面積定量化によって解析された心組織におけるBI-15.2ベクター媒介性導入遺伝子発現、および(E)心組織におけるeGFP発現のELISAに基づく定量的解析(右パネル)。データは、プロットされた個々のデータ点によるバー(平均)±SDとして示す(n=2匹の動物、BI 15.2処置およびn=1、PBS処置)。
【0024】
図9図9は、人工多能性幹細胞から分化されたヒト心筋細胞においてeGFPを形質導入および発現するAAV9、BI-15.1およびBI-15.2の能力を説明する。
【0025】
図10A-10B】図10は、(A)CAGプロモーターの制御下におけるヒトMydgf発現をコードするpAAV-CAG_huMydgf、および(B)CAGプロモーターの制御下における突然変異体バージョンMydgf(4個のC末端に位置するアミノ酸RTELが欠失されている)をコードするpAAV-CAG_huMydgf-RTELのAAVプラスミドマップ(pAAV)を示す。
【0026】
図11図11は、逆位末端配列(ITR;配列番号16および17)に挟まれたpAAV発現構築物にクローニングされたCAG-プロモーターの制御下におけるヒトMydgfまたはヒトMydgf-RTELの配列をトランスフェクトされたHEK-293細胞における、Mydgfおよび突然変異体バージョンMydgf-RTELの誘導を示す。トランスフェクションの48時間後に、溶解されたHEK-293細胞または培地を使用して、抗MYDGFイムノブロットを行った。レーンは、細胞ライセート(50μg総タンパク質)または馴化培地(無希釈)を含有する。
【0027】
図12図12は、2.5×1011vg/kgのBI-15.1-CAG-Mydgfの静脈内注入の3週間後の、スプラーグドーリーラットの垂直にスライスされた心臓全体におけるMydgfについての組織学染色を示す。
【0028】
図13図13は、2.5×1012vg/kgのBI-15.1-CAG-Mydgfの静脈内注入の3週間後の、スプラーグドーリーラットの垂直にスライスされた心臓全体におけるMydgfについての組織学染色を示す。矢印は、心臓全体に及ぶMydgf陽性染色された区域を指し示す。
【0029】
図14図14は、2.5×1013vg/kgのBI-15.1-CAG-Mydgfの静脈内注入の3週間後の、スプラーグドーリーラットの垂直にスライスされた心臓全体におけるMydgfについての組織学染色を示す。矢印は、心臓全体に及ぶMydgf陽性染色された区域を指し示す。
【0030】
図15図15は、スプラーグドーリーラットの心臓組織において測定されたMydgf mRNA発現を示す。低(2.5×1011vg/kg)、中(2.5×1012vg/kg)および高用量(2.5×1013vg/kg)のBI-15.1-CAG-Mydgfの静脈内注入の3週間後に、Mydgf mRNA発現について心臓組織を解析した。Mydgf mRNAの用量依存性増加および測定可能なレベルを、2.5×1012および2.5×1013vg/kgについて評価した。データは、バー(平均)±SDとして示す。各用量を1匹の動物に与え、ハウスキーパーラットポリメラーゼ2を使用してddCT値を計算した、n.d.=検出不能。
【0031】
図16A-16B】図16は、虚血/再灌流心筋梗塞モデルにおける左心室(LV)リモデリングおよび収縮機能障害におけるMydgfおよびMydgf-RTELタンパク質療法の効果を示す。心機能およびLVリモデリングは、(A)面積変化率(fractional area change)(FAC)および(B)LV収縮末期面積(LVESA)vs LV拡張末期面積(LVEDA)によって評価した。n=6~8/群、データは、平均+/-SEMとして提示される。***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05 vs.シャム(sham);###P<0.001、##P<0.01、Mydgf vs.プラセボ、#P<0.05 Mydgf-RTEL vs.プラセボ、テューキー検定による一元配置ANOVA。
【0032】
図17A-17B】図17は、虚血/再灌流心筋梗塞モデルにおける血管新生および瘢痕サイズにおけるMydgfおよびMydgf-RTELタンパク質療法の効果を示す。(A)梗塞境界ゾーンにおけるイソレクチンB4(IB4)+増殖性内皮細胞を評価することにより、血管新生を評価した。***P<0.001、*P<0.05 vsシャム;##P<0.01 Mydgf vsプラセボ、##P<0.01 Mydgf-RTEL vsプラセボ。(B)マッソントリクロームで染色された代表的な組織切片の解析により、瘢痕サイズを評価し、面積は、左心室(LV)サイズの%として提示される。##P<0.01 Mydgf WT vs.プラセボ、#P<0.05 Mydgfトランケート型vsプラセボ、n=6~8/群、データは、平均+/-SEMとして提示される。テューキー検定による一元配置ANOVA。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の説明
本発明は、ヒト等の霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、マウス内皮細胞の特異的形質導入をもたらすカプシドタンパク質に関する。本発明のカプシドタンパク質は、マウス内皮細胞の特異的形質導入を生じ、このことは、マウスへのそのようなカプシドタンパク質を含むウイルスベクターの全身的投与後に、ベクターゲノムは、好ましくは、脳または肺の内皮細胞等の内皮細胞において蓄積することを意味する。したがって、脳または肺の内皮細胞等のマウスの内皮細胞におけるベクターゲノムの数は、非内皮細胞において蓄積するベクターゲノムの数よりも多い。好ましくは、ベクターの投与後にマウスの内皮細胞において見出すことができるベクターゲノムの数は、非内皮細胞において蓄積するベクターゲノムの数よりも50%、より好ましくは、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、1000%またはさらには最大2000%多い。形質導入の特異性は、定量的PCR方法によって測定することができる。
【0034】
カプシドタンパク質は、ウイルスにおいて天然に存在する改変されていないタンパク質であり得る。しかし、カプシドタンパク質が、例えば、標的組織へのホーミングをもたらすペプチド配列の挿入により、特定の標的組織に対するその親和性をモジュレートするように改変されていることが好まれる。霊長類心臓組織への選択的ホーミングをもたらす適したペプチドは、配列番号1および配列番号2として本明細書に提供される。
【0035】
したがって、霊長類における心臓疾患を処置または予防するために使用されるカプシドタンパク質が、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;または
(c)配列番号1もしくは配列番号2の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)もしくは(b)のバリアント
を含むことが特に好まれる。
【0036】
本発明のさらに別の態様では、カプシドタンパク質が、霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のために提供され、前記カプシドタンパク質は、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;または
(c)配列番号1もしくは配列番号2の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)もしくは(b)のバリアント
を含み、前記カプシドタンパク質は、好ましくは、マウス内皮細胞に形質導入する。
【0037】
本発明のカプシドタンパク質は、配列番号1または配列番号2のペプチド配列を含むことができる。あるいは、それらの対応する参照アミノ酸配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列のバリアントを使用することができる。バリアントが、カプシドの一部として、マウス内皮細胞および/または霊長類心筋細胞の受容体構造へのベクターの特異的結合を媒介する能力を保持する限りにおいて、改変は、アミノ酸の置換、欠失または挿入であり得る。
【0038】
本発明は、CまたはN末端アミノ酸が改変された、配列番号1または配列番号2の配列のバリアントを包含する。本発明はまた、配列番号1または配列番号2のアミノ酸の1個が別のアミノ酸によって置換された、バリアントを包含する。好ましくは、置換は、保存的置換、すなわち、同様の機能特性をペプチドに与える、あるアミノ酸の、同様の極性のアミノ酸による置換である。好ましくは、置換されたアミノ酸は、置換えに使用されるアミノ酸と同じ群のアミノ酸に由来する。例えば、疎水性残基は、別の疎水性残基に置き換えることができる、または極性残基は、別の極性残基によって置き換えることができる。保存的置換によって互いに交換され得る機能的に同様のアミノ酸は、例えば、グリシン、バリン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニンおよびトリプトファン等の非極性アミノ酸を含む。無電荷極性アミノ酸の例は、セリン、スレオニン、グルタミン、アスパラギン、チロシンおよびシステインである。荷電、極性(酸性)アミノ酸の例は、ヒスチジン、アルギニンおよびリシンを含む。荷電、極性(塩基性)アミノ酸の例は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。本発明はまた、配列番号1または配列番号2のペプチド配列にアミノ酸が挿入された、バリアントを包含する。その結果生じるバリアントが、マウス内皮細胞および/または霊長類心筋細胞の受容体構造に特異的に結合するその能力を保持する限りにおいて、そのような挿入は、いかなる位置において実行することもできる。本発明によって、改変されたアミノ酸が導入された、配列番号1または配列番号2の配列のアミノ酸配列のバリアントも包含される。本発明において、このような改変されたアミノ酸は、ビオチン化、リン酸化、グリコシル化、アセチル化、分枝化(branching)および/または環化によって改変されたアミノ酸であり得る。
【0039】
後述する例において、配列番号2のアミノ酸配列ならびにN末端における2個の追加のアミノ酸、グルタミン酸およびセリンを含むヘプタマー(heptamer)配列が使用された。ヘプタマー配列は、配列番号3として本明細書に提供される。しかし、アラニンスキャンによって、2個のN末端アミノ酸が、形質導入の特異性に関連性がないことを実証することができる。したがって、配列番号2のコア構造のみが、霊長類における心臓組織特異性の原因となる。しかし、配列番号3として本明細書に提供されるヘプタマー配列が、カプシドタンパク質を改変するために配列番号2のアミノ酸配列と同じ仕方で使用することができる、配列番号2のアミノ酸配列の単なる一実施形態であることを理解されたい。したがって、好まれる一実施形態では、霊長類における心臓疾患を処置または予防するために使用されるカプシドタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なるそのバリアントを含む。
【0040】
したがって、本発明は、ウイルスベクター等の治療剤を霊長類の心臓組織に方向付けるのに特に適するカプシドタンパク質を提供する。本発明の方法において使用されるカプシドタンパク質は、300~800アミノ酸、より好ましくは、400~800アミノ酸、より好ましくは500~800アミノ酸または600~800アミノ酸の長さを有する。例えば、本発明の方法において使用されるカプシドタンパク質は、少なくとも100アミノ酸、少なくとも200アミノ酸、少なくとも300アミノ酸、少なくとも400アミノ酸、少なくとも500アミノ酸、少なくとも600アミノ酸または少なくとも700アミノ酸の長さを有することができる。
【0041】
カプシドタンパク質は、遺伝子療法の分野において使用されてきたいずれかのウイルスに由来する場合があるが、本発明の方法において使用されるカプシドタンパク質が、Parvoviridae科に属するウイルスに由来するカプシドタンパク質であることが好まれる。カプシドタンパク質が、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来することが特に好まれる。AAVは、先行技術に記載されているいずれかの血清型のものであり得、カプシドタンパク質は、好ましくは、血清型2、4、6、8および9のうち1種のAAVに由来する。血清型2のAAVのカプシドタンパク質が、特に好まれる。
【0042】
AAV野生型のカプシドは、重複するcap遺伝子領域によってコードされるカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3で構成されている。全3種のタンパク質は、同じC末端領域を有する。AAVのカプシドは、1:1:8の比で発現された、約60コピーのタンパク質VP1、VP2およびVP3を含む。上に定義されている配列番号1もしくは配列番号2またはこれらのいずれかのバリアントのペプチド配列は、カプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3のいずれかに挿入することができるが、ペプチド配列が、カプシドタンパク質VP1に、より好ましくは、AAV血清型2のカプシドタンパク質VP1に挿入されることが好まれる。
【0043】
AVVの全3種のカプシドタンパク質において、ホーミング機能をもたらすためにペプチド配列を挿入することができる部位が同定された。とりわけ、AAV2のVP1タンパク質における588位に存在するアルギニン(R588)が、ホーミングペプチドの挿入のために特に提案された。ウイルスカプシドのこのアミノ酸位置は、その天然受容体へのAAV2の結合に明らかに関与する。先行技術において、R588が、その天然受容体へのAAV2の結合を媒介する4個のアルギニン残基のうち1個であることが示唆された。したがって、カプシドのこの領域における改変は、AAV2の天然のトロピズムを弱めるのに、またはそれを完全に排除するのに役立つ。
【0044】
したがって、本発明において、配列番号1、配列番号2、配列番号3またはそれらのバリアントのペプチド配列が、AAV2のVP1タンパク質のアミノ酸550~600の領域に、より詳細には、AAV2のVP1タンパク質のアミノ酸560~600、570~600、560~590または570~590の領域に挿入されることが好まれる。AAV2のVP1タンパク質の野生型アミノ酸配列は、本明細書において配列番号4に描写されている。
【0045】
ペプチド配列が、後述する例において例証されるスタッファー(stuffer)配列を有するペプチドに挿入されることが本明細書において特に好まれる。例えば、配列番号1のアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質を提供するために、配列番号24のアミノ酸配列が、AAV2のVP1タンパク質等のカプシドタンパク質中に入るように操作されることが好まれる。同様に、配列番号2または配列番号3のアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質を提供するために、配列番号25のアミノ酸配列が、AAV2のVP1タンパク質等のカプシドタンパク質中に入るように操作されることが好まれる。タンパク質配列の改変の結果として、本発明のカプシドタンパク質は、好ましくは、配列番号26のアミノ酸配列または配列番号27のアミノ酸配列を含む。
【0046】
配列が、ウイルスカプシドタンパク質のアミノ酸配列に挿入されることが好まれ、前記配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25、またはこれらのいずれかのバリアントのアミノ酸配列を含むかまたはこれからなる。したがって、特に好まれる態様では、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27またはこれらのいずれかのバリアントのアミノ酸配列を含むウイルスカプシドタンパク質に関する。表0は、ヘプタマー型配列NRGTEWDおよびESGHGYFを、どのようにAAV2のVP1等のウイルスカプシド中に入るように操作することができるかについて記載する。野生型AAV2(配列番号4)と比べた588位の後に、スタッファーとして機能するグリシンおよびアラニンにそれぞれ挟まれて、ヘプタマー型配列が挿入される。AAV2骨格において、587位におけるアスパラギンは、好ましくは、グルタミンによって交換される(N587Q)。
【0047】
【表0】
【0048】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25、またはこれらのいずれかのバリアントのアミノ酸配列は、VP1タンパク質、特に、配列番号4のVP1タンパク質の次のアミノ酸のうち1つの後ろに(すなわち、C末端の方向に)挿入することができる:550、551、552、553、554、555、556、557、558、559、560、561、562、563、564、565、566、567、568、569、570、571、572、573、574、575、576、577、578、579、580、581、582、583、584、585、586、587、588、589、590、591、592、593、594、595、596、597、598、599または600。配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25、またはこれらのいずれかのバリアントのアミノ酸配列が、配列番号4のVP1タンパク質のアミノ酸588(または別のカプシドタンパク質におけるそれぞれのアミノ酸位置)に続くことが特に好まれる。AAV2骨格において、587位におけるアスパラギンは、好ましくは、グルタミンによって交換される(N587Q)。
【0049】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25、またはこれらのいずれかのバリアントのペプチド配列が、予め選択されたアミノ酸、例えば、588位におけるアミノ酸の後ろに挿入される場合、クローニングの結果である1個または複数のアミノ酸が、VP1野生型のそれぞれのアミノ酸と、ホーミングペプチド配列(スタッファー配列)の最初のアミノ酸との間に位置する可能性がある。例えば、最大5アミノ酸、すなわち、1、2、3、4または5アミノ酸が、VP1野生型のそれぞれのアミノ酸と、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25またはこれらのいずれかのバリアントのペプチド配列の最初のアミノ酸との間に位置することができる。
【0050】
VP1のための上に指し示されるカプシドタンパク質のアミノ酸配列における部位および領域は、AAV2のカプシドタンパク質VP2およびVP3に、類似して適用される。AAV2の3種のカプシドタンパク質VP1、VP2およびVP3は、N末端配列の長さのみが異なり、同一のC末端を有するため、当業者は、配列比較を行って、VP1およびVP2のアミノ酸配列におけるペプチドリガンドの挿入のために、上に指し示される部位を、全く問題なく同定するであろう。例えば、VP1におけるアミノ酸588は、VP2(配列番号5)のR451位および/またはVP3(配列番号6)のR386位に対応する。
【0051】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25またはこれらのいずれかのバリアントのペプチド配列を、ウイルスベクターのカプシドタンパク質に挿入するための方法は、ベクター操作の分野で周知である。例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25のペプチド配列をコードする核酸配列は、配列番号4に示すAAV2 VP1タンパク質をコードする遺伝子等、VP1遺伝子の読み枠にクローニングすることができる。クローニングされた配列の挿入は、好ましくは、読み枠のいかなる変化も、翻訳の中途終結も生じない。上述に要求される方法は、ベクター操作の分野で働く当業者のルーチンの技能範囲内にある。
【0052】
特に好まれる態様では、本発明は、配列番号1もしくは配列番号2またはこれらのいずれかのバリアントのペプチド配列の挿入によって改変された、AAV2のVP1タンパク質を提供する。例えば、配列番号7は、配列番号1のペプチド配列の導入後のAAV2のVP1タンパク質の配列を示す。クローニングにより、カプシドタンパク質は、AAV2のVP1タンパク質のネイティブ配列に存在しない2個の追加のアミノ酸を有する。具体的には、配列番号1のペプチド配列は、そのN末端で589位におけるグリシンに、およびそのC末端で597位におけるアラニンに挟まれる。加えて、ネイティブ配列の587位におけるアスパラギンは、グルタミンに置き換えられる。同様に、配列番号8は、配列番号3のペプチド配列の導入後のAAV2のVP1タンパク質の配列を示す。クローニングにより、カプシドタンパク質は、AAV2のVP1タンパク質のネイティブ配列に存在しない2個の追加のアミノ酸を有する。そのようなわけで、配列番号3のペプチド配列は、そのN末端で589位におけるグリシンに、およびそのC末端で597位におけるアラニンに挟まれる。加えて、ネイティブ配列の587位におけるアスパラギンは、グルタミンに置き換えられる。
【0053】
したがって、一実施形態では、霊長類における心臓疾患を処置または予防するために使用されるカプシドタンパク質は、
(a)配列番号24のアミノ酸配列;
(b)配列番号25のアミノ酸配列;
(c)配列番号26のアミノ酸配列;
(d)配列番号27のアミノ酸配列;または
(e)配列番号24、配列番号25、配列番号26もしくは配列番号27の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)、(c)もしくは(d)のバリアント
を含む。
【0054】
配列番号24もしくは配列番号25、またはこれらのいずれかのバリアントのアミノ酸配列が、AAV2のVP1タンパク質における588位におけるアスパラギン残基(R588)(または別のカプシドタンパク質におけるそれぞれのアミノ酸位置)に続くことが特に好まれる。
【0055】
よって、特に好まれる実施形態では、本発明の方法における使用のためのカプシドタンパク質は、配列番号1またはそのバリアントのペプチド配列の挿入によって改変されたAAV2のVP1タンパク質である。この改変されたカプシドタンパク質は、次の:
(a)配列番号7のアミノ酸配列;
(b)その長さ全体にわたり配列番号7のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは、90、95もしくは99%同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)(a)もしくは(b)に定義されているアミノ酸配列のうち1種の断片
を含む。
【0056】
別の特に好まれる実施形態では、本発明の方法における使用のためのカプシドタンパク質は、配列番号2またはそのバリアントのペプチド配列の挿入によって改変されたAAV2のVP1タンパク質である。この改変されたカプシドタンパク質は、次の:
(a)配列番号8のアミノ酸配列;
(b)その長さ全体にわたり配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは、90、95もしくは99%同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)(a)もしくは(b)に定義されているアミノ酸配列のうち1種の断片
を含む。
【0057】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、本明細書で上述されている少なくとも1種のカプシドタンパク質を含むウイルスカプシドに関する。好まれる実施形態では、ウイルスカプシドは、2、3、4、5、6、7、8、9または10種のカプシドタンパク質等、本明細書で上述されている2種以上のカプシドタンパク質を含む。ウイルスカプシドは、好ましくは、AAV、より好ましくは、AAV2に由来する。
【0058】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、請求項1~9のいずれかに記載のカプシドタンパク質をコードする核酸に関する。核酸は、DNAまたはRNAであり得る。好ましくは、本発明のカプシドタンパク質をコードする核酸は、DNA分子である。好ましくは、核酸は、ゲノムDNAまたはcDNA等、一本鎖DNA(ssDNA)または二本鎖DNA(dsDNA)である。
【0059】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、上に定義されている核酸を含むプラスミドに関する。好ましくは、プラスミドは、完全ウイルスベクターのゲノムを含むdsDNA分子である。
【0060】
本明細書で使用される場合、2種またはそれよりも多い核酸またはポリペプチド配列の文脈における、用語「同一」または「パーセント同一性」は、最大の一致のために比較および整列したときに、長さが同じである、および/または同じである指定のパーセンテージのヌクレオチドもしくはアミノ酸残基を有する、2種またはそれよりも多い配列または部分配列(subsequence)を指す。
【0061】
パーセント同一性を決定するために、配列は、最適な比較目的で整列される(例えば、第2のアミノ酸(amino)または核酸配列との最適な整列のために、第1のアミノ酸または核酸配列の配列にギャップを導入することができる)。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドが比較される。第1の配列におけるある位置が、第2の配列における対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占有される場合には、両分子は、当該位置において同一である。2種の配列の間のパーセント同一性は、両配列によって共有される同一位置の数の関数である(すなわち、%同一性=同一位置の数/位置(例えば、重複する位置)の総数×100)。一部の実施形態では、比較される2種の配列は、適宜(例えば、比較されている配列を越えて伸長する追加の配列を除外する)配列内にギャップが導入された後に、同じ長さである。
【0062】
用語「配列番号Xの長さにわたる配列番号Xのアミノ酸配列に対する%配列同一性」は、整列が、配列番号Xの配列(参照配列)の長さ全体を覆うべきであることを意味する。後述するアルゴリズムが、試験配列と参照配列の長さ全体との整列を供しないが、前記参照配列の部分配列にわたる整列のみを供する場合、試験配列に同一対応物を有しない参照配列内のアミノ酸残基は、ミスマッチとして計算される。次に、前記アルゴリズムによって得られるパーセント同一性スコアが調整される:アルゴリズムが、L個のアミノ酸の整列の長さにわたりK個の同一アミノ酸を生じ、K/L*100のパーセント同一性を生じる場合、項Lは、参照配列のアミノ酸の数によって置き換えられる(この数が、Lよりも多い場合)。例えば、試験配列が、N末端において参照配列配列番号7よりも1アミノ酸少ない(ただし、この差を除いて他の点では同一である)場合、パーセント同一性は、743/744*100%≒99.8%である。逆もまた同じで、核酸配列にも同じことが当てはまる。
【0063】
2種の配列の間のパーセント同一性またはパーセント類似性の決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。2種の配列の比較に利用される数学的アルゴリズムの好まれる非限定的な例は、Karlin and Altschul, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877のように改変されたKarlin and Altschul, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410のNBLASTおよびXBLASTプログラムに取り込まれる。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長さ=12により行って、目的のタンパク質をコードする核酸に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索を、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長さ=3により行って、目的のタンパク質に相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的でギャップ入りの整列を得るために、Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されている通りにGapped BLASTを利用することができる。あるいは、PSI-Blastを使用して、分子の間の遠い関係性を検出する繰り返しの検索を行うことができる(同上)。BLAST、Gapped BLASTおよびPSI-Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを使用することができる。配列の比較のために利用される数学的アルゴリズムの別の好まれる非限定的な例は、Myers and Miller, CABIOS (1989)のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、GCG配列整列ソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に取り込まれる。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120重量残基表(weight residue table)、ギャップ長さペナルティ12およびギャップペナルティ4を使用することができる。配列解析のための追加のアルゴリズムは、当技術分野で公知であり、Torellis and Robotti, 1994, Comput. Appl. Biosci. 10:3-5に記載されているADVANCEおよびADAM;ならびにPearson and Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444-8に記載されているFASTAを含む。FASTA内で、ktupは、検索の感度およびスピードを設定する制御オプションである。ktup=2である場合、比較されている2種の配列における同様の領域は、整列された残基のペアを調べることにより見出される;ktup=1である場合、単一の整列されたアミノ酸が検討される。ktupは、タンパク質配列では2もしくは1に、またはDNA配列では1~6に設定することができる。デフォルトは、ktupが指定されない場合、タンパク質では2であり、DNAでは6である。あるいは、タンパク質配列整列は、Higgins et al., 1996, Methods Enzymol. 266:383-402によって記載されている通りに、CLUSTAL Wアルゴリズムを使用して実行することができる。
【0064】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、組換えウイルスベクターであって、ベクターが、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含み、カプシドが、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なるそのバリアントを含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含む、組換えウイルスベクターに関する。さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、組換えウイルスベクターであって、ベクターが、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含み、カプシドが、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なるそのバリアントを含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含む、組換えウイルスベクターに関する。さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、組換えウイルスベクターであって、ベクターが、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含み、カプシドが、配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なるそのバリアントを含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含む、組換えウイルスベクターに関する。さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、組換えウイルスベクターであって、ベクターが、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含み、カプシドが、配列番号24のアミノ酸配列、または配列番号24の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なるそのバリアントを含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含む、組換えウイルスベクターに関する。さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、組換えウイルスベクターであって、ベクターが、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含み、カプシドが、配列番号25のアミノ酸配列、または配列番号25の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なるそのバリアントを含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含む、組換えウイルスベクターに関する。
【0065】
本発明の方法における使用のための組換えウイルスベクターは、好ましくは、組換えAAVベクターである。AAVベクターは、いずれかの血清型のAAVに、例えば、血清型2、4、6、8または9に由来し得る。しかし、本発明の方法における使用のための組換えウイルスベクターが、AAV血清型2に由来することが最も好まれる。異なるAAV血清型は、主に、それらの天然のトロピズムによって異なる。そのようなわけで、野生型AAV2は、肺胞細胞により容易に結合し、一方、AAV5、AAV6およびAAV9は、上皮細胞に主に感染する。当業者であれば、細胞の特異性におけるこのような天然の差を活用して、ある特定の細胞または組織に対する、本発明に係るペプチドによって媒介される特異性をさらに増強することができる。核酸レベルでは、様々なAAV血清型が高度に相同である。例えば、血清型AAV1、AAV2、AAV3およびAAV6は、核酸レベルで82%同一である。
【0066】
肝臓ホーミングは、心遺伝子療法のために現在試験されているほとんどではないにしても多くのAAVベクターの一般的であるが都合の悪い特色である。したがって、肝臓および他の組織へのベクターホーミングの低減が非常に望ましい。本発明のベクターBI-15.1およびBI-15.2は、AAV9と比較して、肝臓への有意に低減されたホーミングに関連する。このことを実証するために、ベクターBI-15.1またはBI-15.2を以前に注射されたNHPの心臓、肝臓および様々な他の組織において、ベクターゲノムの数(AAVベクター粒子の数に対応する)を決定した。その後、心臓対肝臓または心臓対組織比を計算し、心ホーミングの性能指標として使用した。NHPの心臓における絶対的AAVベクターゲノム数は、心臓の4種の異なる組織学的領域、すなわち、左心房、右心房、左心室および右心室の組織ライセートから得られたDNA調製物を使用することにより決定された。肝臓における絶対的AAVベクターゲノム数は、肝葉正中セクションの組織ライセートから得られたDNA調製物に基づき決定された。腎臓における絶対的AAVベクターゲノム数は、皮質および髄質の組織ライセートから得られたDNA調製物に基づき決定された。肺における絶対的AAVベクターゲノム数は、気管支(bronches)、細気管支および肺胞の組織ライセートから得られたDNA調製物に基づき決定された。脳における絶対的AAVベクターゲノム数は、解析された次の8種の領域:コア神経叢(core plexus)、脳室、脳幹、皮質、小脳、海馬、視床下部および線条体の組織ライセートから得られたDNA調製物に基づき決定された。骨格筋における絶対的AAVベクターゲノム数は、腓腹筋の組織ライセートから得られたDNA調製物に基づき決定された。眼における絶対的AAVベクターゲノム数は、網膜の組織ライセートから得られたDNA調製物に基づき決定された。ベクターゲノムの定量化は、参照標準として導入遺伝子プラスミドを使用した定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を使用して行われた。
【0067】
個々の動物それぞれにおける心臓対肝臓または心臓対組織比を使用して、BI-15.1およびBI-15.2の平均心臓対組織比を計算した(下の表を参照)。AAV BI-15.1は、AAV BI-15.2と比較して、NHPにおけるより有利な心臓対肝臓ホーミング比を有した(0.515 対 0.119)。これはまた、様々な試験された組織において、AAV BI-15.2と比較して、より有利な心臓対組織ホーミング比を有した。計算された心臓対肝臓比を、AAV9について計算された対応する比(NHPにおけるAAV9について報告された心臓対肝臓比は、およそ0.02である(Hordeaux et al, 2018))と比較した場合、BI-15.1が、AAV9よりもおよそ25.7倍優れ、BI-15.2が、AAV9よりもおよそ5.9倍優れると結論付けることができる。
【0068】
【表1】
【0069】
霊長類、好ましくは、ヒトにおける治療目的で、上に定義されている少なくとも1種のカプシドタンパク質、例えば、配列番号1、2、3、24、25、26もしくは27のいずれかのアミノ酸配列、またはこれらのいずれかに対して少なくとも80%同一性を有するアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質を含むカプシドを有するウイルスベクターが、好ましくは使用されるであろう。NHPへの投与時に、ウイルスベクターが、同じ動物の次の組織:腎臓、骨格筋、肺、脳、脊髄、卵巣、子宮または眼のうち1種または複数におけるものよりも少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍または少なくとも4倍高いNHPの心臓におけるベクターゲノム数をもたらすことも好まれる。特定の好まれる実施形態では、NHPの心臓におけるベクターゲノム数は、同じ動物の次の組織:腎臓、骨格筋、肺、脳および脊髄のうち全てにおけるものよりも少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍または少なくとも4倍高くなるであろう。NHPの心臓におけるベクターゲノムの数が、心臓の左心房、右心房、左心室および右心室において決定されたベクターゲノム数に基づき決定される平均値であることが特に好まれる。
【0070】
ラットへの投与時に、ウイルスベクターが、同じ動物の次の組織:腎臓、骨格筋、肺、脳、脊髄、卵巣、子宮または眼のうち1種または複数におけるものよりも少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍または少なくとも4倍高い、ラットの心臓におけるベクターゲノム数をもたらすことが同様に好まれる。特定の好まれる実施形態では、ラットの心臓におけるベクターゲノム数は、同じ動物の次の組織:腎臓、骨格筋、肺、脳および脊髄のうち全てにおけるものよりも少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍または少なくとも4倍高くなるであろう。ラットの心臓におけるベクターゲノムの数が、心臓の左心房、右心房、左心室および右心室において決定されたベクターゲノム数に基づき決定される平均値であることが特に好まれる。
【0071】
加えて、霊長類、好ましくは、ヒトにおける治療目的で使用される場合、上に定義されている少なくとも1種のカプシドタンパク質、例えば、配列番号1、2、3、24、25、26もしくは27のいずれかのアミノ酸配列、またはこれらのいずれかに対して少なくとも80%同一性を有するアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質を含むカプシドを有するウイルスベクターは、好ましくは、AAV9ベクターよりも高い特異性で、NHPまたはラットの心臓組織細胞、特に、心筋細胞に形質導入する。したがって、心臓対肝臓比は、AAV9ベクターを受けたNHPまたはラットと比較して、より高くなるであろう。好ましくは、本発明の少なくとも1種のカプシドタンパク質を含むウイルスベクターの心臓対肝臓比は、AAV9の心臓対肝臓比よりも少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍または少なくとも10倍高い。NHPまたはラットの心臓におけるベクターゲノムの数が、心臓の左心房、右心房、左心室および右心室において決定されたベクターゲノム数に基づき決定される平均値であることが特に好まれる。
【0072】
上に定義されている少なくとも1種のカプシドタンパク質を含むカプシドを有するウイルスベクターは、マウス内皮細胞と共に、ラットおよび霊長類の心臓組織細胞、特に、心筋細胞に特異的に形質導入する。このことは、本発明のウイルスベクターが、マカク等のNHPにおいて測定されるBI-15.1またはBI-15.2のベクターコピー心臓対肝臓比またはGFP心臓対肝臓発現比の少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約60%、70%、80%、90%または95%を有することを意味する(図7および図8に示す通り)。
【0073】
本発明において、配列番号1、2、3、24または25に示すアミノ酸配列のバリアントを含むカプシドタンパク質を有するベクターが、マカク等のNHPにおけるBI-15.1またはBI-15.2のベクターコピー心臓対肝臓比またはGFP心臓対肝臓発現比の少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約60%、70%、80%、90%または95%を有することも好まれる(図7および図8に示す通り)。
【0074】
本発明の組換えウイルスベクターは、その中にパッケージングされた導入遺伝子を含む。本明細書で使用される場合、導入遺伝子は、ベクターのゲノム中に遺伝子操作することによって導入された、正常であればウイルスゲノムに属さない遺伝子を指す。本発明の方法における使用のための組換えウイルスベクター中にパッケージングされた導入遺伝子は、一本鎖または二本鎖DNA(ssDNAまたはdsDNA)の形態で存在することができる。これは、心筋症等の心臓疾患の処置または予防において役立つことができるいずれかのタンパク質をコードすることができる。例えば、導入遺伝子は、心修復因子、カルシウム調節因子または血管新生促進性因子の群から選択されるタンパク質をコードすることができる。一実施形態では、導入遺伝子は、ヒト骨髄系由来増殖因子(huMydgf)等の心修復因子をコードする。単球およびマクロファージによって産生されるこの増殖因子が、心筋梗塞後に心臓修復を促進することが報告された(WO2014/111458、Korf-Klingebiel et al. (2015, 2021)、Ebenhoch et al. 2019、WO2021/148411)。シグナル配列を含むhuMydgfのアミノ酸配列は、配列番号18として本明細書に提供される(シグナル配列なしは、配列番号33として本明細書に提供される)。このタンパク質をコードする対応する核酸配列は、配列番号19として本明細書に提供される。一実施形態では、本発明の方法における使用のための組換えウイルスベクター中にパッケージングされた導入遺伝子は、
・ 配列番号18のアミノ酸配列、またはその長さ全体にわたり配列番号18のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも99%もしくは100%同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または好ましくは、これからなる、または
・ 配列番号33のアミノ酸配列、またはその長さ全体にわたり配列番号33のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも99%もしくは100%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
huMydgfタンパク質をコードする。
【0075】
例えば、本発明の方法における使用のための組換えウイルスベクター中にパッケージングされた導入遺伝子は、配列番号19の核酸配列、またはその長さ全体にわたり配列番号19の核酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも99%もしくは100%同一性を有する核酸配列を含む(またはこれからなる)ことができる。
【0076】
一部の実施形態では、推定小胞体(ER)/ゴルジ保留シグナル(Bortnov et al., 2019)を表す、配列番号18において描写される4個のC末端アミノ酸(RTEL)を欠如する突然変異体タンパク質としてhuMydgfを発現させることが有利となり得る。ER/ゴルジ保留シグナルは、当技術分野で公知である(例えば、Capitani & Sallese (2009))。
【0077】
シグナル配列を含むが、C末端アミノ酸RTELを欠如するhuMydgfのアミノ酸配列は、配列番号20として本明細書に提供される(シグナル配列がないhuMydgfのアミノ酸配列は、配列番号34として本明細書に提供される)。この突然変異体タンパク質をコードする対応する核酸配列は、配列番号21として本明細書に提供される。したがって、別の実施形態では、本発明の方法における使用のための組換えウイルスベクター中にパッケージングされた導入遺伝子は、
・ 配列番号20のアミノ酸配列、またはその長さ全体にわたり配列番号20のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも99%もしくは100%同一性を有するアミノ酸配列を含む(または好ましくは、これからなる);または
・ 配列番号34のアミノ酸配列、またはその長さ全体にわたり配列番号33のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも99%もしくは100%同一性を有するアミノ酸配列を含み、機能的なER/ゴルジ保留シグナルを欠如する
huMydgfタンパク質をコードする。
【0078】
例えば、本発明の方法における使用のための組換えウイルスベクター中にパッケージングされた導入遺伝子は、配列番号21の核酸配列、またはその長さ全体にわたり配列番号21の核酸配列に対して少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも99%もしくは100%同一性を有する核酸配列を含む(またはこれからなる)ことができる。
【0079】
別の実施形態では、導入遺伝子は、カルシウム調節因子タンパク質筋小胞体/小胞体Ca2+ATPase 2a(SERCA2a)、低分子ユビキチン関連修飾因子1(SUMO1)およびS100カルシウム結合タンパク質A1(S100A1)からなる群から選択されるカルシウム調節因子をコードする。さらに別の実施形態では、導入遺伝子は、血管新生促進性血管内皮増殖因子(VEGF)をコードする。
【0080】
Serca2aを発現する遺伝子療法アプローチによる駆出率が低減した心不全患者の標的化は、臨床試験(Cupid 1、進行型心不全のための遺伝学的に標的化された酵素補充療法の有効性および安全性試験と命名、ClinicalTrials.gov識別子:NCT00454818)において肯定的な結果を出した。筋小胞体Ca2+ATPase(SERCA2a)のアイソフォームの損なわれたレベルは、駆出率が低減した心不全患者(HFrEF)における典型的な異常である。
【0081】
本明細書において、AAV1中にパッケージングされ、経皮的に投与されたAAV遺伝子カセットからのSERCA2aの発現は、SERCA2aレベルおよび機能の回復において有望なデータをもたらした(Zsebo et al. (2014))。経過観察CUPID 2-b試験(進行型心不全のための遺伝学的に標的化された酵素補充療法の試験(CUPID-2b、ClinicalTrials.gov識別子:NCT01643330)は、残念ながら、優れた安全性データにもかかわらず、有望な結果を出すことができなかった。CUPID 2-b治験のための異なる製造手順が、一部には、観察される有効性の欠如の原因となり得ることが推測された。CUPID 2治験に登録された患者において測定された心臓筋肉におけるDNAレベルは、1μgのヒトDNA当たり10~192 ssDNAコピーのレベルを報告し、一方、前臨床データは、1μgの宿主DNA当たり8000~42000コピーのウイルスDNAの送達効率を報告した(Lyon et al. (2020))。
【0082】
まとめると、経皮的に送達された高用量のAAV1は、安全と考慮されたが、非臨床試験と比較して、有意なDNA低減が患者心臓に送達された。したがって、AAVベクター心形質導入効率および選択性の改善が必要とされ(Bass-Stringer et al. (2018))、送達が未だ主な課題であり(Yamada et al. (2020))、心臓筋肉へのSERCA2aの改善された、より高い形質導入有効性、増強された発現およびより高いコピー数送達が、臨床的に有益なレベルのSERCA2aおよび付随してCa2+レベルをもたらすべきである(Greenberg et al. (2016))と仮定される。
【0083】
同様に、2021年に開始されたCUPID 3治験(心疾患における遺伝子療法の経皮的投与によるカルシウム上方調節(CUPID-3)、ClinicalTrials.gov識別子:NCT04703842)において、正確な構築物(SERCA2aを発現するAAV1)は、心臓筋肉へのベクターの送達を改善するために、CUPID 2と比較して3倍多い用量(3×E13)で実行されている。あるいは、改善された体内分布と組み合わせた、より低い用量でヒト心臓筋肉のより効率的な形質導入を可能にするであろう新規ベクターが、より安全でより効率的な薬品を可能にするであろうと仮定することができる。
【0084】
あるいは、本発明の方法における使用のためのウイルスベクターの導入遺伝子は、マイクロRNA(miRNA)をコードすることができる。マイクロRNAは、好ましくは、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路、MYOD経路、FOXO3経路またはERK-MAPK経路の調節に関与するマイクロRNAである。特に好まれる実施形態では、本発明の方法における使用のためのウイルスベクターの導入遺伝子によってコードされるマイクロRNAは、miR-378、miR669a、miR-21、miR212およびmiR132からなる群から選択される。
【0085】
本発明の方法における使用のためのウイルスベクターの導入遺伝子は、処置されるべき対象における対応する欠損遺伝子を補充する筈である遺伝子をコードすることができる。したがって、導入遺伝子を含むウイルスベクターは、遺伝子療法アプローチにおいて使用される。そのような導入遺伝子は、ベータ-ミオシン重鎖(MYH7)、ミオシン結合タンパク質C(MYBPC3)、トロポニンI(TNNI3)、トロポニンT(TNNT2)、トロポミオシンアルファ-1鎖(TPM1)またはミオシン軽鎖(MYL3)の群から選択されるタンパク質をコードすることができる。
【0086】
さらに、本発明のウイルスベクターは、血流への全身的投与に意図される、分泌タンパク質をコードする導入遺伝子を含むこともできる。そのような分泌タンパク質は、心血管系の一部である肺毛細血管床経由で血流に効率的に送達され得る。
【0087】
導入遺伝子は、1個または複数の発現カセットの形態で、ウイルスベクター中に存在することができる。発現カセットは通常、導入遺伝子とは別に、プロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含む。プロモーターは、導入遺伝子に作動可能に連結される。適したプロモーターは、心臓組織、特に、心筋細胞において選択的にまたは構成的に活性を有することができる。適したプロモーターの非限定的な例は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターまたはニワトリベータアクチン/サイトメガロウイルスハイブリッドプロモーター(CAG、配列番号14)、VE-カドヘリンプロモーター等の内皮細胞特異的プロモーター、ならびにステロイドプロモーターおよびメタロチオネインプロモーターを含むがこれらに限定されない。特に好まれる実施形態では、導入遺伝子に機能的に連結されたプロモーターは、CAGプロモーターである。別の好まれる実施形態では、導入遺伝子に機能的に連結されたプロモーターは、CMVプロモーターである。さらに別の好まれる実施形態では、導入遺伝子に機能的に連結されたプロモーターは、心筋細胞特異的プロモーターである。心筋細胞特異的プロモーターの使用によって、心臓組織に対する本発明のウイルスベクターの特異性をさらに増加させることができる。本明細書で使用される場合、心筋細胞特異的プロモーターは、心筋細胞におけるその活性が、心筋細胞ではない細胞における活性よりも少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、50倍または100倍高いプロモーターである。発現カセットは、発現されるべき外因的タンパク質の発現レベルを増加させるためのエンハンサーエレメントを含むこともできる。さらに、発現カセットは、SV40ポリアデニル化配列(配列番号15)またはウシ成長ホルモンのポリアデニル化配列等、ポリアデニル化配列を含むことができる。
【0088】
BI-15.1またはBI-15.2等、本発明のウイルスベクターは、先行技術で広範に記載されているいくつかの異なる仕方によって、処置を必要する霊長類に投与することができる。例えば、ウイルスベクターは、様々な投与経路のために、例えば、静脈内注射または静脈内注入のために製剤化することができる。投与は、例えば、静脈内注入によって、例えば、60分以内、30分以内または15分以内で行うことができる。あるいは、ウイルスベクターは、局所的に心臓に、例えば、心筋内、心膜内、血管内、経血管(trans-vascular)投与によって、または前室間(anterior interventricular)静脈への選択的圧力調節レトロ注入(retro-infusion)による左前下行枝(LAD)の区域への投与によって投与することもできる。
【0089】
注射または注入による投与に適している組成物は典型的に、溶液および分散液、または溶液および分散液を調製することができる粉末を含む。そのような組成物は、少なくとも1種の適した薬学的に許容される担体と組み合わせたウイルスベクターを含むであろう。静脈内投与に適した薬学的に許容される担体は、静菌(bacterostatic)水、リンゲル溶液、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水(PBS)およびCremophor EL(商標)を含む。注射および/または注入のための滅菌組成物は、要求される量のウイルスベクターを適切な担体に導入し、次いで濾過によって滅菌することにより調製することができる。注射または注入による投与のための組成物は、延長された期間にわたり、その調製後に貯蔵条件下で安定を保つべきである。組成物は、この目的で保存料を含有することができる。適した保存料は、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸およびチメロサールを含む。対応する製剤および適したアジュバントの調製は、例えば、"Remington: The Science and Practice of Pharmacy," Lippincott Williams & Wilkins; 21st edition (2005)に記載されている。本明細書において、本発明のウイルスベクターが、静脈内投与のために製剤化されることが好まれる。
【0090】
治療効果を達成するために投与されなければならないウイルスベクターの正確な量は、いくつかのパラメーターに依存する。投与されるべきウイルスベクターの量に関連性のある因子は、例えば、ウイルスベクターの投与経路、疾患の性質および重症度、処置されている対象の病歴、ならびに処置されるべき対象の年齢、体重、身長および健康を含む。さらに、治療効果の達成に要求される導入遺伝子の発現レベル、患者の免疫応答と共に、遺伝子産物の安定性が、投与されるべき量に関連性がある。ウイルスベクターの治療有効量は、一般知識および本開示に基づいて当業者によって決定することができる。ウイルスベクターは、好ましくは、1.0×10~1.0×1015vg/kg(体重1kg当たりのウイルスゲノム)の範囲内のウイルスの用量に対応する量で投与されるが、1.0×1010~1.0×1015vg/kg、1.0×1012~5.0×1014vg/kgまたは1.0×1011~1.0×1013vg/kgの範囲がより好まれる。本発明に係るAAV2ベクター等、投与されるべきウイルスベクターの量は、例えば、1種または複数の導入遺伝子の発現の強度に従って調整することができる。
【0091】
別の態様では、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号24、配列番号25、またはこれらのいずれかのバリアントのアミノ酸配列を含むカプシドタンパク質をコードするプラスミドが使用されているウイルスベクターを産生するための方法に関する。例えば、ウイルスベクターは、配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列を含むことができる。本発明のウイルスベクターは、当技術分野で記載されている周知方法に従って調製することができる。例えば、導入遺伝子を含む組換えAAVベクターを産生する基本的な方法は、先行技術において詳細に記載されている(Xiao et al, 1998)。例えば、HEK293-T細胞は、3種のプラスミドをトランスフェクトされる。第1のプラスミドは、AAVゲノムのcapおよびrep領域を含むが、天然に存在する逆方向反復(ITR)は失われている。第2のプラスミドは、パッケージングシグナルを構成する、対応するITRに挟まれた導入遺伝子発現カセットを含む。したがって、発現カセットは、ウイルス粒子のアセンブリの経過においてカプシド中にパッケージングされる。第3のプラスミドは、HEK293-T細胞におけるAAV複製に要求される、ヘルパータンパク質E1A、E1、E2A、E4-orf6、VAをコードするアデノウイルスヘルパープラスミドである。あるいは、昆虫細胞においてAAVベクターを産生することも可能である。Sf9昆虫細胞においてウイルスベクターを産生するための適した方法は、例えば、WO2015/158749またはUS20170029464A1に記載されている。ウイルスベクターの純度は、PCR増幅等の適した方法によってチェックすることができる。本発明のウイルスベクターは、例えば、ゲル濾過によって、または塩化セシウムもしくはイオジキサノール勾配超遠心分離によって精製することができる。投与に使用されるウイルスベクターは、野生型および複製能力があるウイルスを実質的に含まないでいる必要がある。
【0092】
別の態様では、本発明は、心臓障害または疾患を処置または予防する方法における使用のための、上に記載されているカプシドタンパク質、これをコードする核酸、そのような核酸を含むプラスミドまたは組換えウイルスベクターを含む細胞に関する。細胞は、好ましくは、ヒト細胞または細胞系である。一実施形態では、細胞は、例えば、生検によってヒト対象から得られ、次いで、ex vivo手順でウイルスベクターをトランスフェクトされた。次に、細胞は、例えば、移植または注入によって、対象に再び植え込むまたは他の仕方で供給することができる。細胞を得た対象が、細胞が投与される対象と遺伝的に同様のものである場合、移植された細胞の拒絶の見込みは、より低くなる。したがって、トランスフェクトされた細胞が供給される対象が、細胞を以前に得たのと同じ対象であることが好まれる。細胞は、好ましくは、ヒト心臓組織細胞(sale)、特に、ヒト心筋細胞である。トランスフェクトされるべき細胞は、ヒト成体幹細胞等の幹細胞であってもよい。本発明において、トランスフェクトされるべき細胞は、本発明に係るウイルスベクター、例えば、上に記載されている組換えAAV2ベクターをex vivoでトランスフェクトされた自家細胞であることが特に好まれる。
【0093】
別の態様では、本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、上に定義されているカプシドタンパク質、核酸、プラスミドまたは組換えウイルスベクターを含む医薬組成物に関する。処置されるべき心臓疾患は、好ましくは、心筋症である。
【0094】
本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防するための、上に定義されているカプシドタンパク質、核酸、プラスミド、組換えウイルスベクターまたは医薬組成物の使用に関する。処置されるべき心臓疾患は、好ましくは、心筋症である。心筋症は、好ましくは、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、不整脈原性(arrythmogenic)右室心筋症(ARVC)、拘束型心筋症(RCM)および左室心筋緻密化障害(LVNC)からなる群から選択される。表1は、ヒトにおける心筋症の処置において有用である、治療活性があるタンパク質の概観を提供する。
【0095】
処置されるべき対象は、ヒトまたは非ヒト霊長類である。非ヒト霊長類は、サル、リスザル、ヨザル、ヒヒ、チンパンジー、マーモセット、ゴリラ、類人猿、キツネザル、マカクおよびテナガザルを含むがこれらに限定されない。好まれる実施形態では、非ヒト霊長類は、チンパンジーである。さらに、本明細書で使用される場合、ヒト霊長類は、ヒトを含む。
【0096】
別の態様では、本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防するための医薬の製造のための、上に定義されているカプシドタンパク質、核酸、プラスミド、組換えウイルスベクターまたは医薬組成物の使用に関する。処置されるべき心臓疾患は、好ましくは、心筋症である。
【0097】
【表1-2】
【0098】
さらなる態様では、本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法であって、ヒトまたは非ヒト霊長類等の霊長類への本発明に係るウイルスベクター、好ましくは、上に記載されているAAVベクターの投与を含む前記方法に関する。ベクターは、好ましくは、配列番号1もしくは配列番号2またはこれらのいずれかのバリアントのアミノ酸配列を含有する少なくとも1種のカプシドタンパク質を有するカプシドを含む。特に好まれる実施形態では、ベクターは、配列番号7もしくは配列番号8またはこれらのいずれかの断片のアミノ酸配列を含むかまたはこれからなる少なくとも1種のカプシドタンパク質を有するカプシドを含む。ウイルスベクターは、好ましくは、導入遺伝子、例えば、心臓疾患を処置または予防するのに有用な治療タンパク質をコードする遺伝子をさらに含む。霊長類への投与後に、ベクターは、霊長類の心臓組織細胞における導入遺伝子の特異的な発現をもたらす。
【0099】
本発明のさらなる実施形態は、下文に記載されている。
【0100】
本発明の一つの実施形態では、本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、マウス内皮細胞の特異的形質導入をもたらすカプシドタンパク質であって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、カプシドタンパク質に関する。WO2019/199867は、AAV 15.1の使用について言及するが、霊長類心筋細胞の形質導入の文脈において言及するものではない。WO2019/199867において記載されているウイルスベクターによって媒介される遺伝子療法のための標的臓器は、明らかに心臓ではない。
【0101】
第二の実施形態では、本発明は、霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のためのカプシドタンパク質に関し、心臓疾患を処置または予防する前記方法は、霊長類心筋細胞の形質導入を含み、カプシドタンパク質は、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2もしくは3のアミノ酸配列;または
(c)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)もしくは(b)のバリアント
を含む。
【0102】
本発明の第四の実施形態は、心筋症を処置または予防する方法における使用のためのカプシドタンパク質に関し、前記カプシドタンパク質は、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2もしくは3のアミノ酸配列;または
(c)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)もしくは(b)のバリアント
を含む。
【0103】
例えば、カプシドタンパク質は、心臓にhuMydgfを送達する、より具体的には、心筋細胞に形質導入するウイルスベクターの一部であり得る。心筋症(cariomypathy)の処置のためのhuMydgfの使用は、公知である(WO2014/111458、Korf-Klingebiel et al. (2015, 2021)、Ebenhoch et al. 2019、WO2021/148411)。
【0104】
本発明の第五の実施形態は、上記実施形態のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質に関し、前記カプシドタンパク質は、300~800アミノ酸の長さを有する。
【0105】
本発明の第六の実施形態は、上記実施形態のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質に関し、前記カプシドタンパク質は、Parvoviridae科に属するウイルスのカプシドタンパク質であり、好ましくは、アデノ随伴ウイルス(AAV)のカプシドタンパク質である。
【0106】
本発明の第七の実施形態は、上記実施形態のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質に関し、前記AAVは、AAV血清型2、4、6、8および9からなる群から選択され、前記AAVは、好ましくは、血清型2である。
【0107】
本発明の第八の実施形態は、請求項7に記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質に関し、前記カプシドタンパク質は、AAV血清型2のVP1タンパク質である。
【0108】
本発明の第九の実施形態は、上記実施形態のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質に関し、配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記アミノ酸配列またはそれらの前記バリアントは、カプシドタンパク質のアミノ酸550~600の領域に挿入されている。
【0109】
さらなる実施形態は、
(i)前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列;
(b)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)(a)もしくは(b)に定義されているアミノ酸配列のうち1種の断片
を含む、上述の実施形態のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質
(ii)前記カプシドタンパク質が、
(a)配列番号24のアミノ酸配列;
(b)配列番号25のアミノ酸配列;
(c)配列番号26のアミノ酸配列;
(d)配列番号27のアミノ酸配列;または
(e)それぞれ配列番号24、配列番号25、配列番号26もしくは配列番号27の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)、(c)もしくは(d)のバリアント
を含む、上述の実施形態のいずれかに記載の方法における使用のためのカプシドタンパク質
(iii)霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、上述の実施形態のいずれかに記載のカプシドタンパク質を含むウイルスカプシドであって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、ウイルスカプシド
(iv)霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、上述の実施形態のいずれかに記載のカプシドタンパク質をコードする核酸であって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、核酸
(v)霊長類における心臓疾患を処置または予防する方法における使用のための、(iv)に係る核酸を含むプラスミドであって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、プラスミド
に関する。
【0110】
本発明のさらなる実施形態では、本発明は、以下の方法(A)、(B)または(C):
(A)霊長類における心臓疾患を処置もしくは予防する方法であって、心臓疾患を処置もしくは予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、方法;または
(B)霊長類における心筋症を処置もしくは予防する方法;または
(C)霊長類における心不全もしくは慢性心不全を処置もしくは予防する方法
のいずれかにおける使用のための組換えウイルスベクターに関し、ベクターは、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含み、カプシドは、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;
(c)配列番号3のアミノ酸配列;
(d)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)もしくは(c)のバリアント;
(e)配列番号24のアミノ酸配列;
(f)配列番号25のアミノ酸配列;
(g)配列番号26のアミノ酸配列;
(h)配列番号27のアミノ酸配列;
(i)配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(e)、(f)、(g)もしくは(h)のバリアント、
(j)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列;または
(k)配列番号7もしくは配列番号8の前記アミノ酸配列に対して少なくとも80、85、90、95、98、99もしくは100%の同一性を有するアミノ酸配列
を含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含む。
【0111】
例えば、ウイルスベクターは、心臓にhuMydgfまたはSERCA2aを送達することができ、より具体的には、心筋細胞に形質導入することができる。心筋症(cardiomypathy)および心不全の処置のためのhuMydgfの使用は、Mydgfで公知である。(慢性)心不全または駆出率が低減した心不全患者の処置のためのSERCA2aの使用もまた、公知である。
【0112】
さらなる実施形態は、以下に関する:
(i)前記心筋症が、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、不整脈原性右室心筋症(ARVC)、拘束型心筋症(RCM)および左室心筋緻密化障害(LVNC)からなる群から選択される、先行する実施形態における使用のための組換えウイルスベクター。
(ii)前記心筋症が、原発性心筋症、好ましくは、遺伝性心筋症、自然突然変異によって引き起こされる心筋症、および後天性心筋症、好ましくは、アテローム硬化性または他の冠動脈疾患によって引き起こされる虚血性心筋症、心筋の感染または中毒によって引き起こされる心筋症からなる群から選択される、先行する実施形態における使用のための使用のための組換えウイルスベクター。
(iii)前記心臓疾患が、狭心症、心線維症および心肥大からなる群から選択される、先行する実施形態における使用のための使用のための組換えウイルスベクター。
(iv)前記心不全または慢性心不全が、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)、駆出率が低減した心不全(HFrEF)または駆出率が中間域にある心不全(HFmrEF)である、先行する実施形態における使用のための使用のための組換えウイルスベクター。
(v)前記HFpEFが、ステージCもしくはステージD HFpEFであるか、または前記HFrEFが、ステージCもしくはステージD HFrEFである、先行する実施形態における使用のための使用のための組換えウイルスベクター。
【0113】
例えば、上で言及されている通りの処置のためのhuMydgfの使用は、公知であり、WO2014/111458、Korf-Klingebiel et al. (2015, 2021)、Ebenhoch et al. 2019、WO2021/148411に記載されている。
【0114】
さらなる実施形態は、先行する実施形態における使用のための使用のための組換えウイルスベクターであって、前記ベクターが、組換えAAVベクターであり、
(i)AAV血清型2、4、6、8および9、好ましくは、AAV血清型2からなる群から選択され、
(ii)導入遺伝子が、ssDNAまたはdsDNAの形態であり、
(iii)導入遺伝子が、心修復因子、カルシウム調節因子または血管新生促進性因子の群から選択されるタンパク質をコードし、
(iv)導入遺伝子が、心修復因子huMydgfをコードし、
(v)導入遺伝子が、SERCA2a、SUMO1およびS100A1からなる群から選択されるカルシウム調節因子をコードし、
(vi)導入遺伝子が、血管新生促進性因子VEGFをコードし、
(vii)導入遺伝子が、マイクロRNA(miRNA)をコードし、好ましくは、前記マイクロRNAが、MAPK経路、MYOD経路、FOXO3経路またはERK-MAPK経路の調節に関与し、より好ましくは、前記マイクロRNAが、miR-378、miR669a、miR-21、miR212およびmiR132からなる群から選択され、
(viii)導入遺伝子が、処置されるべき霊長類における欠損遺伝子を補充する筈である遺伝子であり、好ましくは、前記遺伝子が、ベータ-ミオシン重鎖(MYH7)、ミオシン結合タンパク質C(MYBPC3)、トロポニンI(TNNI3)、トロポニンT(TNNT2)、トロポミオシンアルファ-1鎖(TPM1)またはミオシン軽鎖(MYL3)の群から選択されるタンパク質をコードし、ベクターが、静脈内投与のために製剤化されている、
組換えウイルスベクターに関する。
【0115】
本発明のさらなる実施形態では、本発明は、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含む組換えウイルスベクターであって、カプシドが、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;
(c)配列番号3のアミノ酸配列;または
(d)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)もしくは(c)のバリアント;
を含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含み、導入遺伝子が、
(a)配列番号18、20、33もしくは34のアミノ酸配列;
(b)配列番号18、20、33もしくは34のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%もしくは100%同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)huMydgfの機能を有し、好ましくは、100を超える、より好ましくは、120アミノ酸の長さを有する、(a)もしくは(b)に定義されているアミノ酸配列のうち1種の断片
を含むタンパク質をコードする、組換えウイルスベクターに関する。
【0116】
好ましくは、タンパク質バリアントまたは断片は、1.14および1.15と併せて1.12に従った材料と方法(i)に従ったアッセイによって決定される、huMydgfの活性の少なくとも一部、より好ましくは、完全活性を保存する。タンパク質バリアントまたは断片が、1.12および1.14および1.15における妥当な生物学的効果を示す場合、活性は、保存されていると考えられる。さらに、好ましくは、タンパク質バリアントまたは断片は、1.16の活性アッセイにおけるhuMydgfの効力を有する。比較目的で、配列番号35に従った配列を有するhuMydgfを使用することが好ましい。
【0117】
さらなる実施形態は、1または複数の先行する実施形態に記載の組換えウイルスベクターに関し、前記カプシドタンパク質は、
(a)配列番号24のアミノ酸配列;
(b)配列番号25のアミノ酸配列;
(c)配列番号26のアミノ酸配列;
(d)配列番号27のアミノ酸配列;
(e)配列番号24、配列番号25、配列番号26もしくは配列番号27の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)、(c)もしくは(d)のバリアント
を含む。
【0118】
さらなる実施形態は、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含む、1または複数の先行する実施形態に記載の組換えウイルスベクターに関し、カプシドは、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;
(c)配列番号3のアミノ酸配列;または
(d)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)もしくは(c)のバリアント
を含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含み、導入遺伝子は、機能的なゴルジ/小胞体保留シグナルを欠如するタンパク質、好ましくは、配列番号20または配列番号34の配列を含むタンパク質をコードする。
【0119】
さらなる実施形態は、導入遺伝子が、
(a)配列番号18、20、33もしくは34のアミノ酸配列;
(b)配列番号18、20、33もしくは34のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%もしくは100%同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)huMydgfの機能を有し、好ましくは、100を超える、より好ましくは、120アミノ酸の長さを有する、(a)もしくは(b)に定義されているアミノ酸配列のうち1種の断片
を含むタンパク質をコードする、組換えウイルスベクターであって、
(i)霊長類における心臓疾患であって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、霊長類における心臓疾患;または
(ii)霊長類における心筋症;または
(iii)霊長類における心不全もしくは慢性心不全
を処置または予防する方法における使用のための、組換えウイルスベクターに関する。
【0120】
好ましくは、タンパク質バリアントまたは断片は、1.14および1.15と併せて1.12に従った材料と方法(i)に従ったアッセイによって決定される、huMydgfの活性の少なくとも一部、より好ましくは、完全活性を保存する。タンパク質バリアントまたは断片が、1.12および1.14および1.15における妥当な生物学的効果を示す場合、活性は、保存されていると考えられる。さらに、好ましくは、タンパク質バリアントまたは断片は、1.16の活性アッセイにおけるhuMydgfの効力を有する。比較目的で、配列番号35に従った配列を有するhuMydgfを使用することが好まれる。
【0121】
さらなる実施形態は、カプシドおよびその中にパッケージングされた導入遺伝子を含む、1または複数の先行する実施形態に記載の組換えウイルスベクターに関し、カプシドは、
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号2のアミノ酸配列;
(c)配列番号3のアミノ酸配列;または
(d)配列番号1、配列番号2もしくは配列番号3の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)もしくは(c)のバリアント
を含む少なくとも1種のカプシドタンパク質を含み、導入遺伝子は、ヒトカルシウム調節因子SERCA2aをコードし、
ヒトカルシウム調節因子SERCA2aは、好ましくは、
(a)配列番号28~32のいずれかのアミノ酸配列;
(b)配列番号28~32の前記アミノ酸配列のうち1種に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列;または
(c)(a)もしくは(b)に定義されている前記アミノ酸配列のうち1種の断片
を含み、かつ
前記カプシドタンパク質は、好ましくは、
(a)配列番号24のアミノ酸配列;
(b)配列番号25のアミノ酸配列;
(c)配列番号26のアミノ酸配列;
(d)配列番号27のアミノ酸配列;
(e)配列番号24、配列番号25、配列番号26もしくは配列番号27の前記配列とは1個のアミノ酸の改変によって異なる、(a)、(b)、(c)または(d)のバリアント
を含む。
【0122】
本発明のさらなる実施形態は、導入遺伝子が、ヒトカルシウム調節因子SERCA2aをコードする、組換えウイルスベクターであって、
(i)霊長類における心臓疾患であって、心臓疾患を処置または予防する前記方法が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、霊長類における心臓疾患;
(ii)慢性心不全;または
(iii)駆出率が低減した心不全患者
を処置または予防する方法における使用のための、組換えウイルスベクターに関する。
【0123】
さらなる実施形態は、医学的使用のための、好ましくは、本発明に係る霊長類の心臓疾患を処置または予防する方法のための、本発明に係るカプシドタンパク質、本発明に係るウイルスカプシド、本発明に係る核酸、本発明に係るプラスミドまたは本発明に係る組換えウイルスベクターを含む医薬組成物に関する。処置または予防方法は、好ましくは、ヒトである霊長類を対象にする。
【0124】
さらなる実施形態は、霊長類、好ましくは、ヒトにおける心臓疾患を処置または予防するための医薬の製造のための、本発明に係るカプシドタンパク質、本発明に係るウイルスカプシド、本発明に係る核酸、本発明に係るプラスミドまたは本発明に係る組換えウイルスベクターを含む医薬組成物の使用に関する。
【0125】
さらなる実施形態は、霊長類、好ましくは、ヒトにおける心臓疾患を処置または予防するための医薬の製造のための、本発明に係るカプシドタンパク質、本発明に係るウイルスカプシド、本発明に係る核酸、本発明に係るプラスミドまたは本発明に係る組換えウイルスベクターを含む医薬組成物の使用において霊長類を処置する方法に関する。
【0126】
本発明は、さらに、対象、好ましくは、ヒトに、本発明に係る有効量の医薬組成物またはウイルスベクターを投与するステップを含む、対象における、
(A)霊長類における心臓疾患を処置するための方法であって、心臓疾患を処置または予防する前記が、霊長類心筋細胞の形質導入を含む、方法;または
(B)霊長類における心筋症を処置または予防する方法;または
(C)霊長類における心不全もしくは慢性心不全を処置または予防する方法;または
(D)駆出率が低減した心不全患者を処置または予防する方法
に関する。
【0127】
本発明は、さらに、ラットまたは霊長類の単離された心臓組織細胞、好ましくは、単離された心筋細胞の形質導入のための、本発明に係るウイルスベクターの使用に関する。
【0128】
【表6-1】
【表6-2】
【実施例
【0129】
本発明のある特定の態様および実施形態をさらに説明するために、次の実施例が提供される。しかし、実施例は、本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
1. 材料と方法
1.1 ベクター産生および定量化
HEK-293細胞へのBI-15.1およびBI-15.2およびAAV9 rep2/capプラスミド、pヘルパー(phelper)および一本鎖(ss)CAG-eGFPまたはCMV-eGFP pAAVプラスミドの等モルトランスフェクションによる細胞ディスク(CELLdisc)を使用して、AAVベクターストックを産生した。ヒトIPSC由来心筋細胞の形質導入のため、自己相補的(sc)CMV-eGFP pAAVプラスミドをレポーター導入遺伝子として使用した。以前に記載された通りに(Strobel et al, 2019)、ポリエチレングリコール沈殿と、それに続くイオジキサノール密度勾配超遠心分離および限外濾過によって精製を行った。WO2015/158749またはUS20170029464A1に記載されている通りに、Sf9昆虫細胞における組換えAAVベクターの産生を行った。qPCRによってゲノム力価を決定した。手短に説明すると、ウイルスヌクレオチド抽出ウイルスエクスプレス核酸抽出キット(Chemicon、Cat.No.#3095)を使用して、ウイルスDNAを抽出した。TaqMan遺伝子発現マスターミックス(4370074;Applied Biosystems)、およびCAGプロモーターにおいても含有されるCMVプロモーターの配列セグメントに特異的に結合するプライマー/プローブセットを使用して、定量的PCRを実行した。次のプライマーを使用した:
CMV_フォワード:5’-CGTCAATGGGTGGAGTATTTACG-3’(配列番号11)
CMV_リバース:5’-AGGTCATGTACTGGGCATAATGC-3’(配列番号12)
CMV_プローブ:5’-AGTACATCAAGTGTATCATATGCCAAGTACGCCC-3’(配列番号13)
【0130】
それぞれのプラスミドを使用して、系列1:5希釈によって定量化のための標準曲線を準備した。デジタルドロップレットのために、QX200システム(Bio-Rad、USA)を使用して定量化PCRを行った。次に、9μlのウイルスDNA(1:1000~1:10希釈)を、プローブのための10μLの2×ddPCR Supermix(Bio-Rad)および目的の標的配列(ここでは:CAGまたはCMVプロモーター)に特異的な1μLの20×プライマー-プローブセットに添加した。次に、ミックスをDG8カートリッジに移し、Bio-Radドロップレット生成装置およびウェル当たり70μLのドロップレット生成装置オイルを使用してドロップレットを生成した。44μLのドロップレットを96ウェルプレートに慎重に移した後に、プレートを、Bio-Rad PX1プレートシーラーを使用して密封し、Eppendorf X50s PCRマスターサイクラーに移した。サイクリング条件は次の通りであった:10分間95℃の初期変性ステップと、それに続く40サイクルの30秒間95℃および1分間アニーリング60℃(ランプ速度:2℃/秒)。最適なアニーリング温度は、温度勾配を実行することにより以前に同定された。10分間98℃の最終加熱ステップの後に、プレートを10℃まで冷却し、ドロップレットリーダー内に置いた。QuantaSoftソフトウェア(Bio-Rad)を使用してデータを解析した。陽性および陰性ドロップレットの適正な分離を示した試料希釈度を、AAVゲノム力価の計算に使用した。
【0131】
1.2 AAV結合アッセイ(bAb)
MSD(Meso Scale Discovery)プラットフォームにおける架橋免疫原性アッセイフォーマットを使用して、NHPの血清における既存の総抗カプシド抗体の存在を解析した。標準マルチアレイMSDプレート(L15XA-1)を、5分間750rpmの振盪下でAAV-製剤緩衝剤においてウェル当たり5×10AAVカプシドでコーティングした。4℃で一晩のインキュベーション後に、プレートを3回洗浄した。ブロッキング溶液(PBSにおける3%ブロッカーA(R93BA-2、MSD))を使用して1時間室温(rt)でブロッキングを行い、続いて洗浄した。対照としてのNHPの血清、IVIG(Kiovig;Baxter)、またはAAV2コーティング対照としてのマウスA20(Progen;61055)を、1%ブロッカーA溶液において系列1:2希釈で調製し、コーティングされたAAVカプシドにおいて1時間rtでインキュベートした。洗浄後に、1時間rtの抗ヒトNHP IgG1-3(MSD;D20JL-6)または抗マウスIgG(MSD;R32AC-1)対照とのインキュベーションと、それに続く洗浄および2×MSD Read緩衝剤の添加によって、結合したIgG1-3の量を検出した。5分以内に、Discovery Workbenchソフトウェアバージョン3.0.18を使用したMSD Sector Imager 6000によって電気化学発光を検出した。個々のAAVコーティング試料それぞれから、個々の血清(またはIVIG)希釈度毎のPBSコーティングウェルの値を引いた。相対的なIgG1-3MSDシグナルを、A20値に対して正規化した。IgG1-3シグナルの最大値の50%を媒介した血清希釈度を、bAB-力価として報告した。
【0132】
1.3 中和アッセイ(nAb)
抗カプシド抗体および潜在的に中和抗体に加えて、形質導入阻害アッセイは、NHP血清中に存在する非抗体中和因子を検出することができる。96ウェルプレートに、24時間にわたりウェル当たり5×10個のHEK293細胞を播種した。組換えBI-15.1もしくはBI-15.2またはAAV2(抗FITCを有する)を、10%ウシ胎仔血清(FCS)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Invitrogen Life Technology、Carlsbad、CA)において希釈し、NHP血清試料の2倍系列希釈物(1:2~1:1024)と共に30分間37℃でインキュベートした。その後、25000VG/細胞(AAV2-NRGTEWDおよびAAV2-ESGHGYF)または2500VG/細胞(AAV2)に対応する血清・ベクター混合物を、プレーティングされた細胞に添加し、DMEM・10%FCSにおいて72時間37℃で5%COにてインキュベートした。各混合を3回繰り返して行った。上清を96ウェルプレートに移し、次いで、抗FITC ELISAによって抗FITCの量を決定した。形質導入効率をウェル当たりの相対的計数として測定した。中和力価は、血清なしの対照と比較して、50%だけrAAV形質導入を阻害した最高血清希釈度として報告した。
【0133】
1.4 ベクターストックの電子顕微鏡解析
クライオTEMおよびnsTEM解析は、Vironova(Stockholm、Sweden)において行った。適した「グリッド上(on grid)」濃度までAAV試料を希釈した。クライオTEMのため、3μlの各試料を、連続したまたは穴のあいた(holey)カーボンEMグリッド上にアプライし、その後、FEI Vitrobot(商標)を使用して液体エタン中で浸漬(plunge)凍結した。200kV加速電圧で実行されたJEOL JEM-2100FまたはPhilips CM200電界放出銃透過型電子顕微鏡を使用してグリッドを撮像した。nsTEMのため、試料を、適した連続したカーボングリッド上にアプライし、水で洗浄し、2%酢酸ウラニル(UAc)または他の適した染色を使用してネガティブ染色した。25kV加速電圧で実行されたMiniTEM(商標)を使用してグリッドを撮像した。低および高拡大率の両方で代表的な区域を撮像した。適したグリッド上濃度、粒子分布および画像コントラストを示すグリッド上でのみ、フルセットの画像を取得した。EMグリッドは、ネガティブ染色透過型電子顕微鏡(nsTEM)のために液滴試料調製物を載せる、SOP V0149に従って調製した。1.5マイクロメートルFOV画像において自動検出および分類を行って、見出された粒子の形態学的分類およびサイズ分布プロットおよび統計を生成した。
【0134】
1.5 ヒト心筋細胞における形質導入の解析
IMI-StemBANCCプロジェクト(Morrison et al, 2015)(http://stembancc.org)からヒト人工多能性幹細胞(hiPSC、系統SFC086-03-01)を得た。hiPSCを、増殖因子低減マトリゲルでコーティングされた培養プレート(Corning、NY、USA)上に播種した。100,000U/lペニシリンおよび100mg/lストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)を補充したEssential8(商標)flex培地(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)を使用して、37℃、5%CO2でhiPSCを維持した。およそ70%のコンフルエンスに達した後に、3~5日毎に0.5mM EDTA(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞を継代した。
【0135】
(Burridge et al, 2014)によって発表されたプロトコールを改変したものに基づき、hiPSCから心筋細胞への分化を行った。手短に言えば、1×10個のhiPSCs/cmを、増殖因子低減マトリゲルコーティング培養プレート上で、10μM Y-27632(Sigma Aldrich、Merck KGaA、Darmstadt Germany)を補充したE8-flex培地において播種し、培地をE8-flex培地に4日間にわたり毎日交換した。5.5μM CHIR99021(Sigma Aldrich)を補充した0.25%ウシアルブミン画分V(Thermo Fisher Scientific)および0.21mg/mL L-アスコルビン酸2リン酸(L-ascorbic acid s-phosphat s-phosphat)(Wako Chemicals、Osaka、Japan))を補充したCMD培地(RPMI 1640培地(Thermo Fisher Scientific)への培地交換によって分化を誘導した(分化0日目)。48時間後に、5μM IWP2(Merck Millipore、Merck KGaA)を補充したCMD培地で培地を交換した。48時間後に、CMD培地で培地を1日置きに新しくした。製造業者のプロトコールに従って複数組織(Multi Tissue)解離キット3(Miltenyi Biotec、Bergisch Gladbach、Germany)を使用して、分化14日目に細胞を凍結保存した。製造業者のプロトコールに従ってPSC由来心筋細胞単離キット(Miltenyi Biotec)の非心筋細胞枯渇ステップを使用して心筋細胞を精製した。
【0136】
フィブロネクチン(0.8μg/cm;Sigma Aldrich)コーティング培養フラスコ内で、RB+培地(1:50 B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)を補充したRPMI 1640培地)および10μM Y-27632において、凍結保存された心筋細胞を解凍した。24時間後に、RB+培地で培地を新しくした。翌日に、StemPro(商標)Accutase(商標)(Thermo Fisher Scientific)を使用して細胞を剥離し、ウェル当たり1.5×10個の細胞を、フィブロネクチンコーティング96ハーフエリア(half area)ウェルプレート(Greiner Bio-One、Frickenhausen、Germany)上で、RB+培地において播種した。辺縁ウェルにPBSを添加した。48時間後に、成熟培地(MM;DMEMグルコースなし、10mM HEPES、1mM非必須アミノ酸(全てThermo Fisher Scientific)、2mM L-カルニチン、5mMクレアチン、5mMタウリン、1:100 ITS+3液体培地サプリメント(全てSigma Aldrich)(Drawnel et al, 2014))でスフェロイドを洗浄し、MMにおいて培養した。72時間後にMMを新しくした。形質導入のために、96ウェルハーフエリアマイクロプレート(Greiner、Bio-One、Frickenhausen、Germany)において細胞を播種し、2×10vgの指し示されるベクターを含有する10μlをアプライし、プレートを48時間インキュベートし、その後、Opera Phenixハイコンテンツスクリーニングシステム(Perkin Elmer、Waltham、Massachusetts)を使用して、形質導入有効性の写真を評価した。
【0137】
1.6 ベクター体内分布および遺伝子発現の解析
解剖の直後に液体窒素中で組織試料を瞬間凍結した。DNAおよびRNA単離のため、6000rpmで30秒間Precellys 24ホモジナイザーおよびセラミックビーズチューブ(KT03961-1-009.2、VWR)を使用して、900μL RLT緩衝剤(79216、Qiagen)中で試料をホモジナイズした。試料を直ちに氷上に置いた。次に、350μLフェノール-クロロホルム-イソアミルアルコール(77617、Sigma Aldrich)を、位相ロック(phase lock)ゲルチューブ内の700μLホモジネートに添加し、振盪によって混合した。5分間16000×gの遠心分離後に、350μLクロロホルム-イソアミルアルコール(25666、Sigma-Aldrich)を添加し、再度混合物を振盪した。rtで3分間のインキュベーションおよび5分間12000×gの遠心分離の後に、上部の相を収集し、ドライアイス上に置かれた深いウェルプレートにピペットで入れた。全試料の処理後に、必要に応じた「カラム上でのDNase消化」ステップを含む使用説明書の通りにAllPrep DNA/RNA 96キット(80311、Qiagen)を使用して、DNAおよびRNAを精製した。細胞をペレットにし、続いて、350μL RLT緩衝剤に溶解し、RNeasyミニキット(74104、Qiagen)を使用して精製することにより、細胞培養物由来のRNAを単離した。断片アナライザー(Agilent)によってRNAの完全性を確認した。体内分布解析のため、抽出されたDNA、およびそれぞれの発現プラスミドの系列希釈物によって作成された標準曲線を使用して、AAVベクターゲノムを検出した。Taqman実行は、Applied Biosystems ViiA 7リアルタイムPCRシステムにおいて行った。遺伝子発現解析のため、使用説明書の通りにHigh-capacity cDNA RTキット(High capacity cDNA Archiveキット;#4322169、Applied Biosystems)を使用して、等しい量のRNAを逆転写してcDNAとした。次に、TaqMan遺伝子発現マスターミックス(#4370074、Applied Biosystems)、およびeGFPまたはMydgf(Hs00384077_m1、Thermo Fisher)遺伝子に特異的に結合するプライマーを使用して、qRT-PCR反応をセットアップした。RNAポリメラーゼII(RNA POLII遺伝子ID;XM_015437398.1またはRn01752026_m1、Thermo Fisher)ハウスキーパー発現に対して発現を正規化した。
【0138】
1.7 免疫組織化学
マウス、ラットおよびNHP起源の組織試料を4%PFAにおいて固定し、パラフィン包埋した(ホルマリン固定パラフィン包埋、FFPE)。免疫組織化学染色のために、キシレンおよび段階的なエタノールの交換を系列的に通過させることにより、スーパーフロストプラス(super frost plus)スライド上のFFPE組織の3μmの厚さの切片を脱パラフィンおよび再水和した。Leica Bond酵素溶液(Bond酵素前処置キット、Cat#35607)において切片を5分間インキュベートすることにより、抗原修復を行った。切片を抗GFP抗体(abcam、ab290、ウサギポリクローナル)と共にインキュベートした。抗体をLeica一次抗体希釈剤(AR9352;Leica Biosystems、Nussloch、Germany)で希釈し(1:1500)、30分間室温でインキュベートした。Bond Polymer Refine検出(Cat#37072)を、検出(色素原としての3,3’ジアミノベンジジン、DAB)および対比染色(ヘマトキシリン)のために使用した。自動Leica IHC Bond-IIIプラットフォーム(Leica Biosystems、Nussloch、Germany)において染色を行った。Zeiss AxioImager M2顕微鏡およびZEN slidescanソフトウェア(Zeiss、Oberkochen、Germany)を用いて試料の顕微鏡評価を実行した。Mydgfの染色のため、クエン酸塩における30分間95℃でのインキュベーションによる前処置ステップを行い、1:500希釈された(希釈剤Cat#35089;Leica Biosystems、Nussloch、Germany)抗Mydgf抗体(proteintech、Art.:11353-1-AP、ウサギIgGポリクローナル)を検出のために使用した。抗ウサギIgGのための標準Leica染色プロトコールを使用して染色を行った。
【0139】
1.8 画像解析
定量的解析のため、明視野照明で20×対物レンズ(0.22μm/px)を使用したAxio Scan.Z1ホールスライドスキャナー(Carl Zeiss Microscopy GmbH、Jena、Germany)を用いて、心臓の抗GFP染色された切片をスキャンした。面積定量化モジュール1.0を使用した画像処理ソフトウェアHALO 3.0(Indica Labs、Corrales、NM、USA)を用いて、抗GFP陽性組織の面積を同定した。カラーデコンボリューションを使用して、ヘマトキシリンおよびDABのシグナルを分割した。バックグラウンドシグナルに対する応答を最小化しつつ、閾値を手作業で最適化して、DABチャネルにおける陽性面積aを同定した。バックグラウンドよりも著しく高い光学密度を有する面積から、総組織面積Aを得た。総組織面積AによってDAB陽性面積aを正規化することにより、染色された面積の分率fを得た、すなわち、f=a/A。本試験を通して同一のカラーデコンボリューション、閾値および組織面積検出設定を使用して、比較性を確実にした。
【0140】
1.9 ウエスタンブロッティングによるhuMydgfの発現および検出
哺乳動物細胞における発現のため、CAG-プロモーターの制御下のhuMydgf(配列番号22)またはhuMydgf-RTEL(配列番号23)を有する2.5μg pAAVプラスミドを、Lipofectamine3000トランスフェクション試薬(Thermo#L3000001)を使用して、Thermoから得たHEK293細胞(#11631-017)にトランスフェクトした。10%ウシ胎仔血清を補充したDMEMにおいて細胞を育成した。一過性トランスフェクションのため、トランスフェクションの16時間前に、6ウェルプレート内の育成培地に1×10個の細胞をプレーティングした。48時間後に、細胞層をインタクトに残しつつ、馴化培地を慎重に収集し、収集された培地中のいかなる細胞も遠心分離によってスピンダウンした。細胞スクレーパーによりプレートから細胞を除去して、1mlの冷PBSに入れた。細胞を400の相対遠心力でペレットにし、PBSを除去した。ペレットにされた細胞を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Thermo#89901;#78438)入りの100μlのRIPA緩衝剤で溶解した。BCAアッセイ(Thermo#23225)によりライセートタンパク質濃度を決定した。イムノブロッティングのため、2.5%β-メルカプトエタノール(Biorad#1610747)入りの4×Laemmli緩衝剤において、50μgライセートタンパク質または30μl無希釈馴化培地を5分間95℃で煮沸した。PVDF膜を5%粉ミルクでブロッキングした。1μg/ml抗MYDGF抗体(R&D#AF1147)を一晩4℃でインキュベートした。100ng/mlの二次抗ヤギ抗体(Dianova#705-035-003)を1時間室温で使用した。
【0141】
1.10 動物
全ての動物手順は、ドイツ動物保護法(German animal protection code)によって発表され、地方自治体(Regierungspraesidium Tuebingen、Germany)によって承認された実験動物の管理および使用のためのガイドに従って行った。トロピズム試験のため、8~10週齢雌C57BL/6マウス、ウィスター京都(whistar kyoto)ラット(WKY/KyoRj)またはスプラーグドーリーラットおよび非ヒト霊長類(Macaca fascicularis、モーリシャス(mauritian)起源)にAAVベクターを投与した。
【0142】
1.11 AAV適用プロトコール
トロピズム試験のため、C57BL/6マウス、ウィスター京都ラットまたはスプラーグドーリーラットに、麻酔(3.5%イソフルラン)下で、5ml/kg体重の体積を尾静脈に注射した。全てのNHP(Macaca fascicularis、モーリシャス起源)は、中和抗体についてプレスクリーニングし、選択された個体に、1ml/kg体重の体積を3ml/分の注入速度で腕静脈に注射した。
全てのグラフおよび統計は、Prism8(GraphPad Software、San Diego、USA)を使用して作成した。ダネットの多重比較検定または独立両側スチューデントT-検定による一元配置ANOVAを使用した。
【0143】
1.12 心筋梗塞のマウスモデル
Korf-Klingebiel et al. 2015に記載されている通りに心筋梗塞(MI)を誘導した。一過性左前下行枝冠動脈(LAD)結紮によって、9~10週齢FVB/NマウスにおいてMIを誘導した。0.02mg kg-1アトロピン皮下(SC)(B.Braun)および2mg kg-1ブトルファノールSC(Pfizer)でマウスを前処置した。マウスを、フェースマスク経由で3~4%イソフルラン(Baxter)で換気した。経口挿管後に、1.5~2%イソフルランで麻酔を維持した。左開胸術を行い、スリップノットでLADを結紮し(虚血)、これを1時間後に除去した(再灌流)。対照マウスにおいて、LADの周りに結紮糸を結び付けなかった(シャム手術)。1~2%イソフルランで鎮静されたマウスにおける高分解能二次元経胸壁心エコーを行った(線形20~46MHzトランスデューサーMX400、Vevo 3100、VisualSonics)。長軸傍胸骨像から得たLV拡張末期面積(LVEDA)およびLV収縮末期面積(LVESA)を記録した。面積変化率(FAC)は、[(LVEDA-LVESA)/LVEDA]×100として計算した。右頸動脈経由で挿入された1.4Fマイクロマノメーター(micromanometer)先端のコンダクタンスカテーテルを用いてLV圧・容積ループを記録した(SPR-839、Millar Instruments)。麻酔のため、マウスを2mg kg-1ブトルファノールSCで前処置し、フェースマスク経由で4%イソフルランで換気した。経口挿管後に、マウスを0.8mg kg-1パンクロニウム腹腔内(IP)(Actavis)で処置し、2%イソフルランで麻酔を維持した。定常状態圧・容積ループを1kHzの比率で測定し、LabChart 7 Proソフトウェア(ADInstruments)を用いて解析した。冠血管再灌流の直前に、組換えMydgf、Mydgf-RTELまたは希釈剤(PBS)を充填した浸透圧ミニポンプ(Alzet)を、SC肩甲骨間ポケットに置いた。7d注入のためにモデル1007Dを使用した(ポンピング速度0.5μl/時間、12μl当たり10μgのそれぞれのタンパク質を充填)。
【0144】
1.13 組換えMydgfおよび組換えMydgf-RTEL
図16および図17の実験において使用された第1のタンパク質は、次の配列を有するE.coliにおいて発現された組換えMydgfであった:
(M)VSEPTTVAFDVRPGGVVHSFSHNVGPGDKYTCMFTYASQGGTNEQWQMSLGTSEDHQHFTCTIWRPQGKSYLYFTQFKAEVRGAEIEYAMAYSKAAFERESDVPLKTEEFEVTKTAVAHRPGAFKAELSKLVIVAKASRTEL
タンパク質をE.coliにおいて発現させ、次のスキームに記載されているプロセスによって回収/精製した:
1.細胞破壊+封入体(IB)回収、IB可溶化+リフォールディング
2.透析濾過
3.AIEC捕捉(YMC Q75)
4.HIC中間体(Capto Phenyl)
5.UFDF(限外濾過/透析濾過)
6.およそ100mgの精製された産物
図16および図17の実験において使用された第2のタンパク質は、次の配列を有する組換えMydgf-RTELであった:
MGWSLILLFLVAVATRVLS
HHHHHHAGSENLYFQGVSEPTTVAFDVRPGGVVHSFSHNVGPGDKYTCMFTYASQGGTNEQWQMSLGTSEDHQHFTCTIWRPQGKSYLYFTQFKAEVRGAEIEYAMAYSKAAFERESDVPLKTEEFEVTKTAVAHRPGAFKAELSKLVIVAKAS
図16および図17において使用されたMYDGF(-RTEL)タンパク質は、シグナルペプチド(MGWSLILLFLVAVATRVLS)と、それに続くHisタグ、リンカーおよび次いでTEV切断部位を伴って、上で描写される。シグナルペプチドは、発現の際に切断され、上のシグナルペプチド配列の下に示す成熟タンパク質配列をもたらす。このタンパク質をHEK 293E細胞において発現させた。上で参照されるタンパク質をコードするDNAは、哺乳動物細胞発現のためのコドン最適化を用いて合成により産生し、標準方法によって制限部位HindIII/NotIにおいてpTT5(Invitrogen Carlsbad、CA)へとクローニングした。各トランスフェクションは、トランスフェクション方法としてPolyPlus PEIを使用した1Lトランスフェクションサイズであった。トランスフェクション後4日目に細胞を採取し、9300×g、30分間、4Cの遠心分離によって上清を収集した。一晩4CのNi-NTAバッチ結合によって上清からタンパク質を精製した。溶出されたタンパク質は、SDS PAGEゲルおよび分析的サイズ排除クロマトグラフィーによって特徴付けた。タンパク質は、TEV切断部位を有するが、タンパク質は、切断されておらず、依然としてHisタグを含有した。
【0145】
1.14 瘢痕サイズ測定
Korf-Klingebiel et al, 2015に記載されている通りに瘢痕サイズ測定を実行した。再灌流の28日後に瘢痕サイズを測定するために、左心室をOCT化合物(Tissue-Tek)に包埋し、液体窒素中で即時(snap)凍結し、-80℃で貯蔵した。基底、心室中部(midventricular)および尖端スライスから得た6μm切片をカットし、次いで、マッソントリクロームで染色し、光学顕微鏡(Zeiss Axio Observer.Z1)において解析した。基底、心室中部および尖端切片において、瘢痕面積の総LV面積に対する平均比として瘢痕サイズを計算した。
【0146】
1.15 毛細血管化
虚血/再灌流の28日後に梗塞境界ゾーンにおける毛細血管化の評価のために、心室中部スライスから6μm凍結切片をカットした。蛍光染色のために、凍結切片をローダミン標識コムギ胚芽凝集素(WGA、Vector Laboratories)で染色して、心筋細胞境界および間質性マトリックスを可視化し、フルオレセイン標識GSL IイソレクチンB4(IB4、Vector Laboratories)で染色して、毛細血管を可視化した。axio visionソフトウェアを使用して、心筋細胞当たりのIB4陽性細胞を計算した。
【0147】
1.16 活性アッセイ
ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)における掻爬アッセイ。24ウェルプレート内で、10%FCSを有するEGM-2培地において、ウェル当たり1mlの総体積で、ウェル当たり55.000~60.000個のHCAECの密度でHCAECを播種する。播種の24時間後に(細胞は、コンフルエントである必要がある)、各ウェル2%FCSを含有する1mL MCDB培地に培地を交換し、3~4時間インキュベートする。インキュベーション後に、各ウェルにおいて黄色ピペットチップ(200μl)で単層を掻爬する(掻爬が十分に大きくなることを確実にするために、垂直にチップを使用する)。次に、細胞を、2%FCSを有するMCDB培地で1回洗浄し、その後、各ウェルに、1mLの新鮮培地(MCDB/2%FCS)を添加する。その後、出発濃度および1:1.5の系列希釈で、各ウェルで異なる濃度のタンパク質プローブで細胞を刺激する。T=0時間における処置の直後に、顕微鏡(例えば、50×拡大率(5×対物レンズ)で、位相差設定によるZeiss Axio Observer Z1)で全ウェルからの写真を撮る必要がある。理想的には、ウェルの中央から写真を撮る(そこで最適なコントラストが観察されるため)。次に、プレートを37℃でインキュベートする。16時間のインキュベーション時間の後(T=16時間)に、再度、前に記載された通りに、各ウェルの写真を撮る必要がある。活性の決定のため、0時間目の写真および16時間目の写真における無細胞面積を測定することにより(例えば、axiovisionソフトウェアまたはImageJを用いて)、アッセイにおける回復を計算する。回復(%)は、[(0時間目の無細胞面積-16時間目の無細胞面積)/0時間目の無細胞面積]×100として計算される。
【0148】
2. 結果
2.1 ベクター産生
ラットおよび非ヒト霊長類における心筋細胞を標的化するベクターとしてのBI-15.1およびBI-15.2の潜在力を評価するために、0.6~1.2×1015vgの範囲に及ぶベクターバッチ(表2に要約)を、以前に記載された通りに細胞ディスクにおいて産生した(Strobel et al, 2019)。ベクターを産生して、1.)サイトメガロウイルス初期エンハンサー+ニワトリβ-アクチン(CAG)プロモーターの制御下または2.)サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下のいずれかで高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)を発現させた。
【表2】
透過型電子顕微鏡(TEM)によって、純度、凝集、カプシドアセンブリおよびパッケージング比に関して、HEKに基づくベクター調製物の品質を解析した。クライオTEM解析は、高濃度の均等に分布したフルAAV粒子を示し、粒子凝集物の検出はないかまたは微量のクラスター形成があった(BI-15.1の図1A上部パネルおよびBI-15.2の上部パネル)。画像に基づく内部密度解析は、両方のベクター調製物についてほぼ96%のパッケージング比を示した(それぞれのカプシドバリアント毎の図1A下部パネル)。加えて、ネガティブ染色TEM(nsTEM)を使用して、試料純度および粒子分類を評価した。すると、BI-15.1は、ほぼ43%の一次AAV粒子およびほぼ57%一次破壊粒子で構成されていた。BI-15.2は、ほぼ70%一次AAV粒子と、対応するより少ない量の一次破壊粒子(ほぼ30%)で構成されていた。両方のベクターバッチについて、破壊されたAAV粒子および小さいサイズの粒子(プロテアソームである可能性がある)は、5%を下回ると報告された。
【0149】
2.2 マウスにおけるベクター分布
BI-15.1およびBI-15.2の以前に発表されたカプシド媒介性トロピズムおよび遺伝子送達特性を確認するために、ベクターを、3種の異なる用量(低用量:5×1012vg/kg体重(BW)、中用量:1×1013vg/kg BW、高用量:5×1013vg/kg BW)で雌C57BL/6Jマウスに静脈内注射した。ベクター投与の3週間後に、脳、肺、およびオフターゲット組織のパネルの組織試料においてベクター分布を決定した。ウイルスゲノムコピー数の定量化は、全用量コホートにおいて脳へのBI-15.1の有意なカプシド媒介性ホーミングを確認した一方で、ごく少ないベクターコピー数が、オフターゲット臓器において検出された(図2A)。付随して、RNA転写物の定量化によって解析されたeGFP遺伝子発現レベルは、オフターゲット組織と比較して、脳全体のライセートにおいて有意にかつ特異的により強かった(図2C)。BI-15.2注射マウスにおいて、ベクターゲノムに基づく組織分布解析によって、肺組織への有意なカプシド媒介性ベクターホーミングが確認された。より少ない量のベクターゲノムが、脳および心組織において検出され、ごく弱い~検出不能なベクターコピー数シグナルが、様々な他の対照組織に存在した(図2BA)。これらのデータと合致して、統計的に有意でかつ強くかつ用量依存性のBI-15.2媒介性レポーター遺伝子発現が、肺におけるeGFP転写物の定量化によって確認された(図2D)。Sf9産生BI-15.1およびBI-15.2の生物活性を確認するために、雌C57BL/6Jマウスに10e11vg/マウスを静脈内注射した。ベクター投与の2週間後に、脳、肺および肝臓の組織試料においてベクター分布が決定された。ウイルスゲノムコピー数の定量化は、脳へのBI-15.1の有意なカプシド媒介性ホーミングを確認した一方で、ごく少ないベクターコピー数が、肝臓において検出された(図2E)。ウイルスゲノムコピー数の定量化は、肺へのBI-15.2の有意なカプシド媒介性ホーミングを確認した一方で、ごく少ないベクターコピー数が、肝臓において検出された(図2F)。まとめると、これらの結果は、HEKと共にSf9産生BI-15.1およびBI15.2の生物活性を確認する。全ベクターが、マウスにおけるBI-15.1およびBI-15.2の以前に報告されたカプシド媒介性標的化特性を示しており、したがって、より大型の動物モデルへの適用のためにベクターは適格である。
【0150】
2.3 ラットにおけるベクター分布
BI-15.1およびBI-15.2の体内分布および遺伝子発現プロファイルをさらに解析するために、WKY/KyoRjラットに、1×1013および5×1013vg/kgを静脈内注射した。21日後に、ウイルス分布のBI-15.1およびBI-15.2 DNA定量化ならびに遺伝子発現のRNA解析は、心組織への有意かつ用量依存性のカプシド媒介性ベクターホーミングを示した(図3A図3B)。重要なことに、BI-15.1カプシド媒介性心ホーミングは、RNA発現パターンによって示されるCAG駆動心遺伝子発現と強く相関した(図3C)。このことは、心臓全体の切片において評価された免疫組織学的eGFPシグナル(図4A)および面積定量化(図4B)の用量依存性増加によってさらに確認された。BI-15.1によって媒介される強い心特異的eGFP発現とは対照的に、BI-15.2ベクター媒介性発現は、骨格筋においてより高く、続いて心臓であった(図3D)。このことは、CAGが、心において、骨格筋よりも効率的にeGFP遺伝子発現を駆動する一方で、CMV駆動発現が、骨格筋においてより強いことを示す。しかし、免疫組織学的eGFPシグナル(図4A)およびeGFP陽性染色心面積の面積定量化(図4B)の用量依存性増加が、BI-15.2ベクターについて観察された。
【0151】
2.4 BI-15.1対AAV9の性能の比較
BI-15.1およびAAV9(前臨床モデルにおける心遺伝子移入のための現在の標準)の性能を比較した。スプラーグドーリーラットへのi.v.全身的ベクター投与の3週間後に(ベクター用量3×1013vg/kg BW)、DNA定量化は、BI-15.1カプシド媒介性心トロピズムを確認した。有意により多いウイルスDNAコピー数が、肝臓、脳、骨格筋、肺、腎臓、膵臓および脾臓と比較して、心臓において検出された(図5A)。このことは、BI-15.1カプシド媒介性心トロピズムが、2種の異なるラット系統において保存されていることを示す。これらの結果は、AAV9の発表された幅広いトロピズムを確認する(図5B)。加えて、様々な組織におけるより多いDNAコピー数は、BI-15.1と比較して、in vivoでのAAV9のより長い半減期の時間を示唆する。この全身的な持続は、より強いオフターゲット効果、例えば、肝臓形質導入を生じ得る。BI-15.1およびAAV9の体内分布パターンは、RNA解析(図5C)、免疫組織化学的eGFP染色(図6A)および面積定量化(図6B)によって示されるベクター媒介性遺伝子発現と相関する。ベクターホーミングを比較すると、AAV9は、心臓におけるより多いDNAコピー数を示した(11.3倍)。BI-15.1のRNA発現レベルは依然として、AAV9の28%に達したが(図5D)。このことは、BI-15.1についてより高いDNA対RNA発現比を指し示す。これと合致して、有効性指数もまた、様々な組織におけるBI-15.1ベクターの有利な発現プロファイルを示す(図5D)。これらの知見は、面積定量化に基づく有効性指数によってさらに確認された。心臓におけるBI-15.1ベクター媒介性発現は、AAV9の74%に達した一方で、様々なオフターゲット組織における有意な標的化解除が示される(図6C)。
【0152】
2.5 非ヒト霊長類におけるベクター分布
異なる種にわたるトロピズム移行性(translatability)の欠如は、AAVに基づく遺伝子療法の主な問題の1つである。非ヒト霊長類における心組織に遺伝子を特異的に送達するBI-15.1およびBI-15.2ベクターの能力を探索するために、本出願人らは、下の表3に提示される投薬量を使用して、成体カニクイザルにおいて体内分布試験を行った。
【表3】
AAVに対する抗体の存在は、前臨床実験にとって重要な意義を有する場合がある。したがって、試験に含まれた全動物の血清を、中和抗体と共にAAV結合IgG1-3抗体の存在について試験した。nAb力価は、血清なしの対照と比較して、50%だけrAAV形質導入を阻害した最高血清希釈度として報告される。IgG1-3シグナルの最大値の50%を媒介した血清希釈度は、bAb-力価として報告された。表3は、NHP血清試料(n=16匹の個々の動物)におけるAAV中和または結合抗体(nAbまたはbAb)の力価を要約する。AAV投薬群に含まれた全個体は、中和抗体アッセイ(nAb-アッセイ)において陰性の試験結果であった。動物AJ562は、結合抗体アッセイにおいて、IgGに対して低い反応性を示しており(カットオフ<1:4を下回る)、これは、投薬後にAAV形質導入(bAb-アッセイ)に影響を与えないと考慮された。動物AJ574(PBS対照群)は、nAbおよびbAb(1<64)の両方で陽性の試験結果であった。表3、4および5を参照されたい。
【表4】
【表5】
BI-15.1およびBI-15.2ベクターを、1×1013vg/kg BWで静脈内注射し(表3)、注射3週間後にベクターゲノム分布プロファイルを検討した。BI-15.1について、妥当なベクターコピー数が、心室、心房、肝臓および脾臓において検出された(図7A)。対照的に、BI-15.2ベクターDNAは、肝臓および脾臓において優勢に検出された。これは、BI-15.1またはBI-15.2処置動物群における別個の心対肝臓比によって示される(図7A図8A)。したがって、BI-15.1が、BI-15.2と比較して、改善された心ホーミングプロファイルを有すると結論付けることができる。しかし、BI-15.1とBI-15.2の両方について、カプシド媒介性ホーミングは、ベクターDNA定量化によって示される通り、様々な他の組織において観察されなかった(図7A図8A)。示される通り、BI-15.1およびBI-15.2ベクター媒介性遺伝子発現は、ベクター分布と相関した。本出願人らは、心房と心室における強い心筋(myocardic)eGFP発現を示すが、肝臓においては中等度の形質導入のみが観察された。mRNA解析に基づき、BI-15.2はまた、骨格筋のある程度の形質導入を示した。様々な他の組織は、eGFP RNAレベルに基づき発現を示さなかった(図7B図8B)。ラットにおける以前の結果から予想される通り、おそらく、CAG-プロモーターのより高い活性が原因で、BI-15.1媒介性発現は、BI-15.2よりも優れていた。加えて、本出願人らは、組織切片の免疫組織化学的染色によって、mRNAに基づく遺伝子発現プロファイルの結果を確証した。本出願人らは、心臓の底部と共に心室における心筋細胞の強いが局所的なeGFPシグナルを観察し、本出願人らの以前の結果を確認した。他のオフターゲット組織において、eGFPの陽性染色は、単一の肝細胞、ニューロンおよび脾臓の胚中心に主に限定された(図7C図8C)。eGFP陽性細胞がない臓器は、肺、眼、子宮、脊髄、膵臓、骨格筋および腎臓であった。矢状心臓全体切片における遺伝子発現パターンの定量化のために、本出願人らは、eGFP陽性細胞の面積定量化を行った。BI-15.1について、これは、心房における最大ほぼ23%のパーセント陽性染色細胞および心室における最大ほぼ15%陽性細胞をもたらす(図7D)。加えて、組織ライセートにおけるeGFPのELISA定量化は、これらの結果を確認した(図7E)。BI-15.1と比較して、BI-15.2による心筋細胞のより低い形質導入は、CMV-プロモーターによって媒介されるより低い発現活性と組み合わせた、低減した心ホーミングに起因するより低いベクター性能が原因であった(図8D図8E)。
主に2種の特色が、NHPにおいて心組織を標的化するため、および心臓において特異的に遺伝子を発現させるために、BI-15.1およびBI-15.2の特有の標的化特性を補完する。ペプチドは、標的組織に提示される受容体、受容体サブクラスまたは細胞炭水化物を介した(ただしこれらに限定されない)心組織/細胞への受容体標的化、および肝臓の標的化解除を媒介した。両方の特色は、ペプチドの個々の設計、それらの特有のスタッファー配列、ならびにBI-15.1およびBI-15.2に使用された特異的挿入部位(R588)に依存する。加えて、マウスにおける内皮細胞を標的化するためのBI-15.1およびBI-15.2のそれらの特有の特性は、マウスにおける内皮構造が、ラットおよびNHPにおける心筋細胞ならびにhiPSC由来ヒト心筋細胞を標的化するための代理モデルとなり得ることを指し示すことができる。
【0153】
2.6 心修復因子を発現するベクター
心筋症は、心不全の主因である(Writing Group et al, 2016)。BI-15.1を使用して心組織へと特異的に送達された、Mydgf等の心修復因子を発現する遺伝子療法(Korf-Klingebiel et al, 2015, 2016;Korf-Klingebiel et al, 2021)は、心発育不全および心線維症を軽快させて、心機能を回復することができる。患者の心組織に遺伝子を送達する臨床潜在力を探索するために、ヒト心筋細胞でBI-15.1およびBI-15.2を試験した。したがって、hiPSC由来ヒト心筋細胞を、BI-15.1、BI-15.2および対照としてのAAV9で形質導入した。48時間後に、蛍光イメージングによってeGFP発現を解析した。全ベクターが、匹敵する有効性でhiPSC由来ヒト心筋細胞に形質導入した(図9)。pAAV発現プラスミドからMydgf(Bortnov et al, 2018;Bortnov et al, 2019)を発現させることができるかについて取り組むために、本出願人らは、CAGプロモーターの制御下でMydgfをコードするプラスミドDNAをトランスフェクトした(図10)。トランスフェクションの48時間後に、イムノブロット解析は、pAAV構築物から発現されたMydgfが、細胞画分(ライセート)に主に保持される一方で、末端4アミノ酸RTELが欠失された突然変異体バージョン(Mydgf-RTEL)が、培地へと広範に分泌されることを示した(図11)。これらのデータは、AAV発現MydgfまたはMydgf-RTELが、局所的にまたは分泌因子としてのいずれかでBI-15.1によって送達され得ることを示す。心修復遺伝子を送達する潜在力および心組織におけるその発現をさらに探索するために、スプラーグドーリーラットに、2.5×1011vg/kg、2.5×1012vg/kgまたは2.5×1013vg/kgの15.1を静脈内注射し、CAGプロモーターの制御下でMydgf配列を移入する。Mydgfの形質導入および発現の解析のために、15.1の注射の21日後に、免疫組織化学を用いて心臓全体スライスにおけるMydgfタンパク質レベル(IHC、図12図13および図14)および心臓組織におけるMydgf mRNA発現(図15)について、心臓組織を解析した。2.5×1012vg/kgおよび2.5×1013vg/kgについて、Mydgfの発現は、心臓全体のスライスにおけるIHCと共に、心臓組織におけるmRNAレベルによって確認することができる。そこで、組織におけるMydgfのmRNAレベルと染色の両方におけるシグナルのAAV 15.1用量依存性増加が観察された。また、心臓全体のスライスの解析は、用量2.5×1012vg/kgおよび2.5×1013vg/kgについて心臓の総区域にわたるMydgfの広い分布を示した。これらのデータは、15.1を使用して、ヒト心疾患のための、および心疾患のために治療アプローチを試験するためのモデル生物として高い関連性を有する種において、in vivoで心臓において心修復因子の発現を誘導することができることを示す(Patten and Hall-Porter, 2009;Riehle et al., 2019)。
Mydgf-RTELバリアントもまた、活性を有し、15.1ベクターのための治療用カーゴとして使用することができることを示すために、Mydgfの両方のバリアントを、マウス心臓虚血再灌流モデルにおいて適用した。マウスは、冠動脈結紮と、それに続く、組換えMydgfおよび組換えMydgf-RTEバリアントによるタンパク質処置を受けた。再灌流時の初期ボーラスと、それに続く7日間の一定の曝露として、タンパク質を与えた。手術28日後に、両方のMydgfバリアントによる処置が、手術およびプラセボ処置マウスと比較して、左心室リモデリングおよび収縮機能障害におけるプラス効果を示し(図16A図16B)、また、血管新生におけるプラス効果を示し(図17A)、梗塞サイズを低減させた(図17B)。これらのデータは、Mydgf-RTELバリアントの活性を指し示し、したがって、心筋症を処置するための、15.1のための治療用カーゴとしてのこのバリアントの使用を支持する。
【0154】
参考文献のリスト
Asokan A, Conway JC, Phillips JL, Li C, Hegge J, Sinnott R, Yadav S, DiPrimio N, Nam HJ, Agbandje-McKenna M et al (2010) Reengineering a receptor footprint of adeno-associated virus enables selective and systemic gene transfer to muscle. Nat Biotechnol 28: 79-82
Bass-Stringer S, Bernardo BC, May CN, Thomas CJ, Weeks KL, McMullen JR. Adeno-Associated Virus Gene Therapy: Translational Progress and Future Prospects in the Treatment of Heart Failure. Heart Lung Circ. 2018 Nov;27(11):1285-1300. doi: 10.1016/j.hlc.2018.03.005. Epub 2018 Mar 17. PMID: 29703647.)
Bortnov V, Annis DS, Fogerty FJ, Barretto KT, Turton KB, Mosher DF (2018) Myeloid-derived growth factor is a resident endoplasmic reticulum protein. J Biol Chem 293: 13166-13175
Bortnov V, Tonelli M, Lee W, Lin Z, Annis DS, Demerdash ON, Bateman A, Mitchell JC, Ge Y, Markley JL et al (2019) Solution structure of human myeloid-derived growth factor suggests a conserved function in the endoplasmic reticulum. Nat Commun 10: 5612
Burridge PW, Matsa E, Shukla P, Lin ZC, Churko JM, Ebert AD, Lan F, Diecke S, Huber B, Mordwinkin NM et al (2014) Chemically defined generation of human cardiomyocytes. Nat Methods 11: 855-860
Capitani Mirco, Sallese Michele, The KDEL receptor: New functions for an old protein, FEBS Letters, Volume 583, Issue 23, 2009, Pages 3863-3871, ISSN 0014-5793, https://doi.org/10.1016/j.febslet.2009.10.053.
Chamberlain K, Riyad JM, Weber T (2017) Cardiac gene therapy with adeno-associated virus-based vectors. Curr Opin Cardiol
Chemaly ER, Hajjar RJ, Lipskaia L (2013) Molecular targets of current and prospective heart failure therapies. Heart 99: 992-1003
Colella P, Ronzitti G, Mingozzi F (2018) Emerging Issues in AAV-Mediated In Vivo Gene Therapy. Mol Ther Methods Clin Dev 8: 87-104
Drawnel FM, Boccardo S, Prummer M, Delobel F, Graff A, Weber M, Gerard R, Badi L, Kam-Thong T, Bu L et al (2014) Disease modeling and phenotypic drug screening for diabetic cardiomyopathy using human induced pluripotent stem cells. Cell Rep 9: 810-821
Ebenhoch R., Akhdar A., Reboll M.R., Korf-Klingebiel M., Gupta P., Armstrong J., et al. Crystal structure and receptor-interacting residues of MYDGF - a protein mediating ischemic tissue repair. Nat Commun. 2019Nov; 10 (1): 1-10.
England J, Granados-Riveron J, Polo-Parada L, Kuriakose D, Moore C, Brook JD, Rutland CS, Setchfield K, Gell C, Ghosh TK et al (2017) Tropomyosin 1: Multiple roles in the developing heart and in the formation of congenital heart defects. J Mol Cell Cardiol 106: 1-13
Foinquinos A, Batkai S, Genschel C, Viereck J, Rump S, Gyongyosi M, Traxler D, Riesenhuber M, Spannbauer A, Lukovic D et al (2020) Preclinical development of a miR-132 inhibitor for heart failure treatment. Nat Commun 11: 633
Greenberg B, Butler J, Felker GM, Ponikowski P, Voors AA, Desai AS, Barnard D, Bouchard A, Jaski B, Lyon AR et al (2016) Calcium upregulation by percutaneous administration of gene therapy in patients with cardiac disease (CUPID 2): a randomised, multinational, double-blind, placebo-controlled, phase 2b trial. Lancet 387: 1178-1186
Greenberg B, Butler J, Felker GM, Ponikowski P, Voors AA, Desai AS, Barnard D, Bouchard A, Jaski B, Lyon AR, Pogoda JM, Rudy JJ, Zsebo KM. Calcium upregulation by percutaneous administration of gene therapy in patients with cardiac disease (CUPID 2): a randomised, multinational, double-blind, placebo-controlled, phase 2b trial. Lancet. 2016 Mar 19;387(10024):1178-86. doi: 10.1016/S0140-6736(16)00082-9. Epub 2016 Jan 21. PMID: 26803443.
Hordeaux J, Wang Q, Katz N, Buza EL, Bell P, Wilson JM (2018) The Neurotropic Properties of AAV-PHP.B Are Limited to C57BL/6J Mice. Mol Ther 26: 664-668
Irene Gil-Farina, Raffaele Fronza, Christine Kaeppel, Esperanza Lopez-Franco, Valerie Ferreira, Delia D'Avola, Alberto Benito, Jesus Prieto, Harald Petry, Gloria Gonzalez-Aseguinolaza, Manfred Schmidt, Recombinant AAV Integration Is Not Associated With Hepatic Genotoxicity in Nonhuman Primates and Patients, Molecular Therapy, Volume 24, Issue 6, 2016, Pages 1100-1105, ISSN 1525-0016, https://doi.org/10.1038/mt.2016.52.
Jessup M, Greenberg B, Mancini D, Cappola T, Pauly DF, Jaski B, Yaroshinsky A, Zsebo KM, Dittrich H, Hajjar RJ et al (2011) Calcium Upregulation by Percutaneous Administration of Gene Therapy in Cardiac Disease (CUPID): a phase 2 trial of intracoronary gene therapy of sarcoplasmic reticulum Ca2+-ATPase in patients with advanced heart failure. Circulation 124: 304-313
Korbelin J, Dogbevia G, Michelfelder S, Ridder DA, Hunger A, Wenzel J, Seismann H, Lampe M, Bannach J, Pasparakis M et al (2016a) A brain microvasculature endothelial cell-specific viral vector with the potential to treat neurovascular and neurological diseases. EMBO Mol Med 8: 609-625
Korbelin J, Sieber T, Michelfelder S, Lunding L, Spies E, Hunger A, Alawi M, Rapti K, Indenbirken D, Muller OJ et al (2016b) Pulmonary Targeting of Adeno-associated Viral Vectors by Next-generation Sequencing-guided Screening of Random Capsid Displayed Peptide Libraries. Mol Ther 24: 1050-1061
Korf-Klingebiel M, Reboll MR, Klede S, Brod T, Pich A, Polten F, Napp LC, Bauersachs J, Ganser A, Brinkmann E et al (2016) Corrigendum: Myeloid-derived growth factor (C19orf10) mediates cardiac repair following myocardial infarction. Nat Med 22: 446
Korf-Klingebiel M., Reboll M.R., Klede S., Brod T., Pich A., Polten F., et al. Myeloid-derived growth factor (C19orf10) mediates cardiac repair following myocardial infarction. Nat Med. 2015Feb; 21 (2): 140-149.
Korf-Klingebiel M, Reboll MR, Polten F, Weber N, Jaeckle F, Wu X, Kallikourdis M, Kunderfranco P, Condorelli G, Giannitsis E, Kustikova OS, Schambach A, Pich A, Widder JD, Bauersachs J, Heuvel J , Kraft T, Wang Y, Wollert KC (2021), Myeloid-Derived Growth Factor Protects Against Pressure Overload-Induced Heart Failure by Preserving Sarco/Endoplasmic Reticulum Ca2+-ATPase Expression in Cardiomyocytes, Circulation, 144:1227-1240
Lyon AR, Babalis D, Morley-Smith AC, Hedger M, Suarez Barrientos A, Foldes G, Couch LS, Chowdhury RA, Tzortzis KN, Peters NS, Rog-Zielinska EA, Yang HY, Welch S, Bowles CT, Rahman Haley S, Bell AR, Rice A, Sasikaran T, Johnson NA, Falaschetti E, Parameshwar J, Lewis C, Tsui S, Simon A, Pepper J, Rudy JJ, Zsebo KM, Macleod KT, Terracciano CM, Hajjar RJ, Banner N, Harding SE. Investigation of the safety and feasibility of AAV1/SERCA2a gene transfer in patients with chronic heart failure supported with a left ventricular assist device - the SERCA-LVAD TRIAL. Gene Ther. 2020 Dec;27(12):579-590. doi: 10.1038/s41434-020-0171-7. Epub 2020 Jul 15. PMID: 32669717; PMCID: PMC7744277.
Morrison M, Klein C, Clemann N, Collier DA, Hardy J, Heisserer B, Cader MZ, Graf M, Kaye J (2015) StemBANCC: Governing Access to Material and Data in a Large Stem Cell Research Consortium. Stem Cell Rev Rep 11: 681-687
Pang JKS, Phua QH, Soh BS (2019) Applications of miRNAs in cardiac development, disease progression and regeneration. Stem Cell Res Ther 10: 336
Patten RD and Hall-Porter MR (2009), Small Animal Models of Heart Failure, Development of Novel Therapies, Past and Present, Circulation: Heart Failure, 2:138-144
Powell SK, Rivera-Soto R, Gray SJ (2015) Viral expression cassette elements to enhance transgene target specificity and expression in gene therapy. Discov Med 19: 49-57
Qiao C, Yuan Z, Li J, He B, Zheng H, Mayer C, Li J, Xiao X (2011) Liver-specific microRNA-122 target sequences incorporated in AAV vectors efficiently inhibits transgene expression in the liver. Gene Ther 18: 403-410
Riehle C and Bauersachs J (2019), Small animal models of heart failure, Cardiovascular Research, Volume 115, Issue 13, 1838-1849
Sakuma T, Barry MA, Ikeda Y; Lentiviral vectors: basic to translational, Biochem J, 443 (3): 603-618
Strobel B, Zuckschwerdt K, Zimmermann G, Mayer C, Eytner R, Rechtsteiner P, Kreuz S, Lamla T (2019) Standardized, Scalable, and Timely Flexible Adeno-Associated Virus Vector Production Using Frozen High-Density HEK-293 Cell Stocks and CELLdiscs. Hum Gene Ther Methods 30: 23-33
Tarantal AF, Lee CCI, Martinez ML, Asokan A, Samulski RJ (2017) Systemic and Persistent Muscle Gene Expression in Rhesus Monkeys with a Liver De-Targeted Adeno-Associated Virus Vector. Hum Gene Ther 28: 385-391
Tilemann L, Ishikawa K, Weber T, Hajjar RJ (2012) Gene therapy for heart failure. Circ Res 110: 777-793
Ucar A, Gupta SK, Fiedler J, Erikci E, Kardasinski M, Batkai S, Dangwal S, Kumarswamy R, Bang C, Holzmann A et al (2012) The miRNA-212/132 family regulates both cardiac hypertrophy and cardiomyocyte autophagy. Nat Commun 3: 1078
Wilson JM, Flotte TR (2020) Moving Forward After Two Deaths in a Gene Therapy Trial of Myotubular Myopathy. Hum Gene Ther 31: 695-696
Writing Group M, Mozaffarian D, Benjamin EJ, Go AS, Arnett DK, Blaha MJ, Cushman M, Das SR, de Ferranti S, Despres JP et al (2016) Heart Disease and Stroke Statistics-2016 Update: A Report From the American Heart Association. Circulation 133: e38-360
Xiao X, Li J, Samulski RJ (1998) Production of high-titer recombinant adeno-associated virus vectors in the absence of helper adenovirus. J Virol 72: 2224-2232
Xu T, Zhou Q, Che L, Das S, Wang L, Jiang J, Li G, Xu J, Yao J, Wang H et al (2016) Circulating miR-21, miR-378, and miR-940 increase in response to an acute exhaustive exercise in chronic heart failure patients. Oncotarget 7: 12414-12425
Yang L, Jiang J, Drouin LM, Agbandje-McKenna M, Chen C, Qiao C, Pu D, Hu X, Wang DZ, Li J et al (2009) A myocardium tropic adeno-associated virus (AAV) evolved by DNA shuffling and in vivo selection. Proc Natl Acad Sci U S A 106: 3946-3951
Yamada KP, Tharakan S, Ishikawa K. Consideration of clinical translation of cardiac AAV gene therapy. Cell Gene Ther Insights. 2020;6(5):609-615. doi:10.18609/cgti.2020.073
Ying Y, Muller OJ, Goehringer C, Leuchs B, Trepel M, Katus HA, Kleinschmidt JA (2010) Heart-targeted adeno-associated viral vectors selected by in vivo biopanning of a random viral display peptide library. Gene Ther 17: 980-990
Zsebo K, Yaroshinsky A, Rudy JJ, Wagner K, Greenberg B, Jessup M, Hajjar RJ (2014) Long-term effects of AAV1/SERCA2a gene transfer in patients with severe heart failure: analysis of recurrent cardiovascular events and mortality. Circ Res 114: 101-108
Zsebo K, Yaroshinsky A, Rudy JJ, Wagner K, Greenberg B, Jessup M, Hajjar RJ. Long-term effects of AAV1/SERCA2a gene transfer in patients with severe heart failure: analysis of recurrent cardiovascular events and mortality. Circ Res. 2014 Jan 3;114(1):101-8. doi: 10.1161/CIRCRESAHA.113.302421. Epub 2013 Sep 24. PMID: 24065463.
図1A
図1B
図1C
図2A-2D】
図2E-2F】
図3A-3D】
図4A
図4B
図5A-5B】
図5C-5D】
図6A-6C】
図7A-7B】
図7C-7D】
図8A-8B】
図8C-8D】
図9
図10A-10B】
図11
図12
図13
図14
図15
図16A-16B】
図17A-17B】
【配列表】
2024501821000001.app
【国際調査報告】