(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ペプチダーゼ切断可能基質およびその同定方法ならびにその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/37 20060101AFI20240109BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20240109BHJP
C40B 40/10 20060101ALN20240109BHJP
【FI】
C12Q1/37
C07K7/00
C40B40/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539334
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-21
(86)【国際出願番号】 US2021064623
(87)【国際公開番号】W WO2022140394
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523237970
【氏名又は名称】アラウヌス バイオサイエンシズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALAUNUS BIOSCIENCES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】クヌーセン, ジゼル, エム.
(72)【発明者】
【氏名】シスネロス, マーク, ディー.
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ36
4B063QR48
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX10
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045EA55
4H045FA34
4H045GA21
(57)【要約】
本開示は、ライブラリー構成物、ペプチダーゼ切断可能基質配列のライブラリーを作製およびスクリーニングする方法に関する。特に、ライブラリーは、種々の疾患または組織特異的ペプチダーゼの基質配列を同定するのに有用である。本開示はまた、治療剤および診断ツールを設計するための同定されたペプチダーゼ基質の使用に関する。
【選択図】
図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドまたはタンパク質の不偏ライブラリーを構築する方法であって、
(i)生物学的アッセイおよび計算モデリングの組み合わせによってペプチドライブラリーを設計する工程であって、各ペプチドが少なくとも2つ、3つ、またはそれ以上のアミノ酸モチーフのセットを含む、工程;
(ii)アミノ酸配列および各ペプチドにおける各モチーフの配置に基づいて可変である2つ、3つ、またはそれ以上のアミノ酸モチーフの少なくとも1つのセットを含む複数のペプチドを生成する工程;
(iii)定義された数のアミノ酸残基およびペプチド基質配列の長さについて、所与の配列空間内の少なくとも2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸モチーフ間の協同的相互作用を評価する工程;および
(iv)ペプチドライブラリーの基質配列内の特定の位置に見出される2つ以上の固有のアミノ酸間の協同性を測定することによって、計算アルゴリズムによってアミノ酸モチーフを抽出する工程、
を含み、それにより、ペプチドまたはタンパク質の不偏ライブラリーを構築することを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つ、3つ、またはそれ以上のアミノ酸モチーフが、ライブラリーの基質配列内の特定の位置に見出される2つ以上のユニークアミノ酸間の協同性を測定することを含む計算アルゴリズムによって抽出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つ、3つ、またはそれ以上のアミノ酸モチーフが、1つ以上の酵素と相互作用する基質配列内の2つ以上のアミノ酸位置の最小セットを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
特定のアミノ酸モチーフに含まれるアミノ酸が、1つ以上の酵素による切断可能な結合切断の速度に対して正または負の効果を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記基質配列が、少なくとも1つの酵素によって切断され得る酵素基質配列である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの酵素が、1つ以上のペプチダーゼを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上のペプチダーゼが、エンドペプチダーゼ、オメガ-ペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ジペプチジルペプチダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、ペプチジルジペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、またはそれらの組み合わせを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
タンパク質またはペプチドの不偏ライブラリーを1つまたは複数のペプチダーゼとインキュベートして、切断および非切断ペプチドまたはタンパク質の集団を形成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築する方法であって、
(i)ペプチドまたはタンパク質の不偏ライブラリーを提供する工程であって、前記ペプチドまたはタンパク質が基質配列を含み、前記ライブラリーの設計が、規定された残基数および基質配列の長さについて所与の配列空間内の少なくとも2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸残基間のすべての可能な協同的相互作用を評価するための数学的モデリングの結果である工程;
(ii)ペプチダーゼの存在下でライブラリーをインキュベートし、ペプチダーゼにライブラリー内のペプチドまたはタンパク質を切断させて、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団を形成させる工程;
(iii)1つまたは複数のペプチダーゼと相互作用するペプチダーゼ基質配列内の様々な位置に2つ以上のアミノ酸の最小セットを含むアミノ酸モチーフ(Gearr
TMモチーフ)を得るために、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団をスクリーニングする工程;
(iv)計算アルゴリズムを使用してアミノ酸モチーフを抽出する工程;
(v)アミノ酸モチーフから洗練されたペプチダーゼ切断可能基質配列ライブラリーを構築する工程であって、基質配列が少なくとも1つのペプチダーゼによって切断され得る工程、
を含む、方法。
【請求項10】
ペプチダーゼ切断可能基質を得る方法であって、
(i)請求項9に記載のペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築する工程;
(ii)少なくとも1つのアミノ酸モチーフを含む個々のペプチダーゼ切断可能基質であって、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのペプチダーゼによって選択的に切断され得る基質を選択する工程、
を含む、方法。
【請求項11】
疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得る方法であって、
(i)請求項9に記載のペプチダーゼ切断可能基質を得る工程;
(ii)任意選択で、ブラケティング残基を同定する工程であって、ブラケティング残基は、候補の疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質の外側の上流および/または下流の位置に位置する工程;
(iii)候補ペプチダーゼ切断可能基質を、少なくとも1つの疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼと接触させる工程;
(iv)候補基質配列の切断を評価および検証し、それによって疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得る工程、
を含む、方法。
【請求項12】
前記疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質が、治療および/または診断における使用のためのものである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチダーゼが、エンドペプチダーゼ、オメガ-ペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ジペプチジル-ペプチダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、ペプチジルジペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、またはそれらの組み合わせの群から選択される、請求項9、10または11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチダーゼが、ヒト対象由来の組織および/もしくは生体液、細胞培養物、トランスジェニック細胞発現系、またはヒト疾患および生物系の動物モデルから抽出される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
切断された基質および切断されていない基質の集団のスクリーニングが、配列決定法によって異なる時点で切断産物の存在量を定量的に測定することを含み、配列決定法が、質量分析ベースのプロテオミクス分析、示差蛍光、示差免疫検出、次世代配列決定技術、またはそれらの組合せから選択される、請求項1、9、10または11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
配列決定法による各個別ペプチドの切断可能結合の分析および同定をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アミノ酸モチーフからペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築することが、サンプル内の候補ペプチダーゼ切断可能基質を試験することを含み、前記サンプルが基準マトリックスに基づいて選択される、請求項1、9または10に記載の方法。
【請求項18】
前記基準マトリックスがサンプル選択をガイドするものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記基準マトリックスが、治療薬設計のための分子標的、および前記分子標的が発現される健常組織または罹患組織の選択に基づく、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記基準マトリックスが、i)他の部位と対比した治療作用部位におけるペプチダーゼと薬物標的との共発現、ii)ペプチダーゼ特異性、iii)最大ペプチダーゼ触媒活性、およびiv)治療作用部位におけるペプチダーゼと薬物標的との特異的共局在化についてスコア化された測定値を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーが、2アミノ酸~200アミノ酸の範囲の異なるサイズの一連のペプチドまたはタンパク質を含む、請求項1~19または20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1、9、10または11のいずれか1項に記載の1つまたは複数の不偏ペプチドライブラリーを含むキット。
【請求項23】
請求項1、9、10または11のいずれか1項に記載の1つまたは複数の不偏ペプチドを含むペプチドライブラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照本出願は、2020年12月21日に出願された米国仮特許出願第63/128475号の優先権の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ペプチダーゼ切断可能基質のライブラリーを生成およびスクリーニングするための方法に関する。特に、前記ライブラリーは、疾患、組織、または細胞選択的ペプチダーゼの基質プロフィールを同定するのに有用である。本開示はまた、治療剤および診断ツールを設計するための同定されたペプチダーゼ基質の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ペプチダーゼは、全ての生物において天然に存在し、単純な分解から高度に調節された経路までの種々の生理学的反応に関与する。ペプチダーゼの決定的な特徴は、加水分解の化学プロセスを介してポリペプチド基質を切断するその能力である(Enzyme nomenclature:Recommendations(1992)of the Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology. pp 862. Academic Press,San Diego. Biochemical Education 21,102(1993))。制限酵素によって切断されるオリゴヌクレオチド配列と同様に、「ペプチダーゼ基質」は、「基質配列」において、酵素によって認識され、切断されるアミノ酸配列を表す文字列によって記載される。
【0004】
ペプチダーゼのその基質に対する特異性は、基質を捕捉し、加水分解によるペプチド結合切断を触媒する活性部位と適切に配向させるためのエキソサイトの複雑な相互作用によって決定される。ペプチダーゼは、生物活性ペプチドのそれらの調節を介して生理学的シグナル伝達を制御する際に重要な役割を有するので、ペプチダーゼとそれらの基質との間の相互作用を理解および制御することは、生物医学的に非常に興味深い。したがって、疾患部位または特定の組織において活性であるペプチダーゼによって選択的に切断されるペプチド基質の発見は、新規な診断ツールおよび医薬品の開発のための道を開くことができる。
【0005】
ペプチダーゼの基質特異性を明らかにし、ペプチダーゼ基質を発見するために、多くのアプローチが開発されている。ペプチダーゼ基質を同定するために使用される最も一般的な方法は、「候補に基づく」アプローチであり、ここで、切断について試験される候補基質は、制御された反応条件下でペプチダーゼで処理され、そして基質の消失および産物の形成は、分子検出方法(例えば、蛍光分光法、免疫検出、または質量分析)を使用してモニターされる。候補に基づく方法は、歴史的に、一般的なペプチドまたはタンパク質(例えば、インスリンA鎖もしくはB鎖、免疫グロブリンまたはコラーゲン)内の切断パターンを試験してきた(Ryle,A.P.ら、Biochemical Journal 73,75-86(1959);Powers,J.C.ら、Adv.Exp.Med.Biol.95,141-157(1977))か、またはより最近の研究において、ペプチダーゼについての以前の知識から予測された基質配列を保有する低分子基質に焦点を当ててきた(Cs-Szabo,G.ら、Thrombosis Research 20,199-206(1980);Clavin,S.A.ら、Analytical Biochemistry 80,355-365(1977))。
【0006】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書で互換的に使用され、ポリマーは、アミノ酸からならない部分に任意選択でコンジュゲートされていてもよい。これらの用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーに適用される。実施形態では、本明細書で互換的に使用される「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、遺伝的にコードされたアミノ酸および遺伝的にコードされていないアミノ酸、化学的または生化学的に修飾または誘導体化されたアミノ酸、ならびに修飾されたポリペプチド骨格を有するポリペプチドを含み得る、任意の長さのアミノ酸のポリマー形態を指す。この用語は、異種アミノ酸配列を有する融合タンパク質;異種および同種リーダー配列を有し、N末端メチオニン残基を有するかまたは有さない融合タンパク質;免疫学的にタグ化されたタンパク質などを含むがこれらに限定されない融合タンパク質を含む。
【0007】
基質配列のライブラリーベースのスクリーニングを使用するペプチダーゼ基質発見のための方法は、「ポジショナルスキャニング」または「コンビナトリアル」ライブラリー設計のいずれかを、プールされたサンプルにおける基質切断をモニターするための種々の検出および分離方法と組み合わせる、2つの主要なアプローチに分類される。
【0008】
ライブラリー設計のための「位置走査(positional scanning)」アプローチは、他の位置を一定に保持しながら、候補基質配列内で一度にわずか1つの位置を変化させるために使用され得る。位置走査-合成コンビナトリアルライブラリー(PS-SCL)法は、切断時に蛍光シグナルを生成するC末端蛍光タグを含有する合成ペプチド基質ライブラリー、すなわち「蛍光発生」基質を使用する(Rano, T.A. et al., Chem. Biol., vol.4, no.2, p.149-155 (1997))。 蛍光検出は、プールされたサンプル中の複数の基質を区別することができないので、PS-SCL基質のライブラリーを合成し、基質配列内の1つ以上の位置で1つ以上の固定アミノ酸を共有することによって定義されるサブセットにおいてアッセイする。従って、切断は、個々の固有の基質について決定されないが、その代わりに、ライブラリーのそのサブセットについての平均値として測定される。PS-SCLおよび関連する蛍光ペプチド基質法はまた、試験され得る基質配列内のアミノ酸位置、およびこれらの基質を受容するペプチダーゼの型において制限される(Ivry, S.L. et al., Protein Science 27, 584-594 (2018))。いくつかの基質特異的な情報は、カスパーゼ、カテプシン、レグマイン、プラスミン、トロンビン、ヘプシン、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子(uPA)および組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)を含むペプチダーゼについてPS-SCLによって得られている(Harris, J. L. et al., PNAS 97, 7754-7759 (2000); Herter, S. et al., Biochem J 390, 125-136 (2005); Choe, Y. et al., J. Biol. Chem. 281, 12824-12832 (2006); Thornberry, N. A. et al., J. Biol. Chem. 272, 17907-17911 (1997))。
【0009】
あるいは、「コンビナトリアルライブラリー」設計は、基質配列内の複数の位置でアミノ酸を同時に変化させ、典型的には、各変化した位置でのアミノ酸のランダムな取り込みを使用して合成される。ライブラリーを単一のプール反応でアッセイし、最も容易に切断される基質を同定する。微生物および細胞ディスプレイ系において、候補ペプチダーゼ基質配列のライブラリーを、これらの生物の表面上に候補基質配列を提示する宿主タンパク質の配列中に挿入することによって、約107~1010個のユニークな基質配列を含む「コンビナトリアルディスプレイライブラリー」が作製されている。基質配列の同定のためのこのようなコンビナトリアルディスプレイライブラリーは、繊維状ファージにおいて(Matthews, D. J. et al., Science 260, 1113-1117 (1993))、または酵母もしくは細菌の細胞表面において(Georgiou, G. et al., Nature Biotechnology 15, 29-34 (1997))産生されている。実際には、ライブラリーのペプチダーゼ処理を使用して切断アッセイを行った後、定量および配列同定のために、切断種を非切断種から分離する。例えば、大腸菌ディスプレイのための1つの方法(Daugherty, P. S. & Rice, J. United States Patent: 10640762 - Methods for enhancing bacterial cell display of proteins and peptides. (2020))は、切断産物の蛍光に基づく検出を伴うクローンのフローサイトメトリー選別を使用し、その後、ゲノム配列決定を行って、最も切断されたペプチダーゼ基質を有するクローンを同定する(Wittrup,K.D.et al.,Current Opinion in Biotechnology 12,2001)。コンビナトリアル表面ディスプレイ法は、ペプチダーゼカスパーゼ-3、MMP14、第Xa因子、エンテロキナーゼ、uPAおよびマトリプターゼに対する特異的基質の同定のために用いられている(米国特許第8,293,685号;米国特許第7,666,817号)。
【0010】
これらのアプローチに伴う本質的な問題は、それらが基質特異性を測定することに焦点を当てていることであるが、現在までに報告されたライブラリーに基づく方法のいずれも、必要とされる配列多様性の全てを完全にカバーし、かつ基質特異性を正確に測定することができない。この問題は、ライブラリー設計における非効率性およびスクリーニング方法からのデータ収集における制限から生じる。基質ライブラリー切断データの数学的表現は、アミノ酸が基質配列内の各位置で観察される頻度についての値のマトリックスである;従って、真の頻度であるために、ライブラリーは、配列中の所定の位置での完全な配列多様性を探索しなければならず、切断された基質および切断されていない基質の両方が、測定されたアミノ酸頻度の正確さを検証するために同定される必要がある。位置走査およびコンビナトリアルライブラリーアプローチから測定されたアミノ酸頻度のマトリックスは、使用されるスクリーニング方法に起因して、異なる値を生じ、これはそれぞれ不完全な情報を生じる。さらに、基質配列中の他の場所のさらなる部位におけるアミノ酸の同一性は、ペプチダーゼによる全体的な基質切断性に影響を与え、この概念は、種々の位置におけるアミノ酸間の共起が考慮されないので、典型的な分析において失われるかまたは無視される「協同性」と呼ばれる。これは、各位置で最も頻繁に観察されるアミノ酸を新しい候補配列に単純に組み合わせることは、高効率基質配列を確実に生じないので、純粋にアミノ酸頻度行列からの新しい基質の予測を信頼できないものにする。
【0011】
したがって、協調的相互作用を直接試験し、ペプチダーゼ基質設計に利用可能な全配列空間のより効率的な探索を可能にする、ライブラリー内の配列多様性を最大化するための基質配列ライブラリーを設計するための方法が大いに必要とされている。この多様なライブラリー内のペプチダーゼ切断可能基質配列を同定することは、疾患、組織、または細胞選択的切断のための新規な治療および診断分子を明らかにするために重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つの態様において、本発明は、酵素基質プロフィールを得るための(例えば、ペプチダーゼについての基質(配列)を決定するための)ライブラリーおよび方法を提供する。 一般に、不偏ペプチドライブラリーを作製するための方法は、i)仮説生成、ii)発見、iii)設計、およびiv)酵素切断可能基質の評価を含む。
【0013】
別の態様において、ライブラリーを作製する方法もまた提供される。例として、本明細書中に開示されるペプチダーゼ基質ライブラリーは、ペプチダーゼの完全な基質プロフィールを得るのに有用である。
【0014】
1つの態様において、ペプチドまたはタンパク質の不偏ライブラリーを構築する方法は、以下の工程を包含する:生物学的アッセイおよびコンピューターモデリングの組み合わせによってペプチドライブラリーを設計する工程(ここで、各ペプチドは、少なくとも2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸モチーフのセットを含む);アミノ酸配列および各ペプチドにおける各モチーフの配置に基づいて可変である少なくとも2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸モチーフのセットを含む複数のペプチドを生成する工程;規定された数のアミノ酸残基およびペプチド基質配列の長さについて、所定の配列空間内の少なくとも2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸モチーフ間の協同的相互作用を評価する工程;ペプチドライブラリーの基質配列内の特定の位置に見出される2つ以上のユニークなアミノ酸間の協同性を測定することによって、コンピューターアルゴリズムによってアミノ酸モチーフを抽出する工程;それによって、ペプチドまたはタンパク質の不偏ライブラリーを構築する工程。
【0015】
特定の実施形態において、少なくとも2つ、3つ、またはそれ以上のアミノ酸モチーフは、ライブラリーの基質配列内の特定の位置に見出される2つ以上の固有アミノ酸間の協同性を測定することを含む計算アルゴリズムによって抽出される。特定の実施形態では、少なくとも2つ、3つ、またはそれ以上のアミノ酸モチーフは、1つまたは複数の酵素と相互作用する基質配列内の2つ以上のアミノ酸位置の最小セットを含む。特定の実施形態において、特定のアミノ酸モチーフに含まれるアミノ酸は、1つ以上の酵素による切断可能な結合切断の速度に対して正または負の効果を有する。特定の実施形態において、基質配列は、少なくとも1つの酵素によって切断され得る酵素基質配列である。特定の実施形態において、少なくとも1つの酵素は、1つ以上のペプチダーゼを含む。特定の実施形態では、1つ以上のペプチダーゼは、エンドペプチダーゼ、オメガ-ペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ジペプチジル-ペプチダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、ペプチジルジペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、またはそれらの組み合わせを含む。ある特定の態様では、タンパク質またはペプチドの不偏ライブラリーを1つまたは複数のペプチダーゼとインキュベートして、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団を形成する。
【0016】
別の態様において、ペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築する方法が提供され、この方法は、以下の工程:
(i)ペプチドまたはタンパク質の不偏ライブラリーを提供する工程であって、前記ペプチドまたはタンパク質が基質配列を含み、前記ライブラリーの設計が、規定された残基数および基質配列の長さについて所与の配列空間内の少なくとも2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸残基間のすべての可能な協同的相互作用を評価するための数学的モデリングの結果である工程;
(ii) ペプチダーゼの存在下でライブラリーをインキュベートし、ペプチダーゼにライブラリー内のペプチドまたはタンパク質を切断させて、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団を形成させる工程;
(iii) GearrTMモチーフを得るために、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団をスクリーニングする工程;
(iv)計算アルゴリズムを使用してGearrTMモチーフを抽出する工程;
(v)洗練されたペプチダーゼ切断可能基質配列ライブラリーをGearrTMモチーフから構築する工程であって、基質配列が少なくとも1つのペプチダーゼによって切断され得る工程。
【0017】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、ペプチダーゼ切断可能基質を得る方法であって
(i)本開示において上記されるようにペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築する工程;
(ii)少なくとも1つのGearrTMモチーフを含む個々のペプチダーゼ切断可能基質であって、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのペプチダーゼによって選択的に切断され得る基質を選択する工程;
【0018】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、以下の工程を含む、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得る方法である:
(i)本開示において上に記載されるようなペプチダーゼ切断可能基質を得る工程;
(ii)任意選択で、ブラケティング残基を同定する工程であって、ブラケティング残基は、候補となる疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼの外側の上流および/または下流の位置に位置する工程;
(iii)候補ペプチダーゼ切断可能基質を、少なくとも1つの疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼと接触させる工程;
(iv)候補基質配列の切断を評価および検証し、それによって疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得る工程;
【0019】
いくつかの実施形態において、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を得ることは、治療および/または診断用途に有用である。
【0020】
いくつかの実施形態において、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を得ることは、治療剤および/または診断ツールにおける使用のためである。
【0021】
ある特定の実施形態では、キットが提供され、キットは、本明細書で具体化される1つ以上の不偏ペプチドライブラリーを含む。
【0022】
ある特定の実施形態では、ペプチドライブラリーは、本明細書で具体化される1つ以上の不偏ペプチドを含む。
【0023】
以下では、ペプチダーゼ切断可能基質配列を得る方法、または疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を得る方法を、AlaunaTM法と呼ぶ。
【0024】
1つの態様において、AlaunaTM法は、候補ペプチダーゼ切断可能基質配列内の全ての位置におけるアミノ酸のセット間の協同性を直接試験することによって、配列空間を効率的に検索するアプローチである。AlaunaTM法は、より大きな基質配列空間をスクリーニングするために十分に規定されたライブラリーにおいてより少ない基質配列を必要とし、実際的なライブラリーサイズの制限を克服し、そしてそれは、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を発見するためのより効率的な方法を提供する。
【0025】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼは、エンドペプチダーゼ、オメガ-ペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ジペプチジル-ペプチダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、ペプチジルジペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、またはそれらの組み合わせの群から選択される。
【0026】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼは、ヒト対象由来の組織および/もしくは生体液、細胞培養物、トランスジェニック細胞発現系、またはヒト疾患および生物系の動物モデルから抽出される。
【0027】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼは、溶解物、抽出物、生体液または馴化培地から、さらなる精製を伴ってまたは伴わずに調製される。
【0028】
いくつかの実施形態において、切断された基質および切断されていない基質の集団のスクリーニングは、配列決定法によって異なる時点で切断産物の存在量を定量的に測定することを含む。
【0029】
別の実施形態において、切断された基質および切断されていない基質の集団のスクリーニングは、配列決定法による各個別のペプチドについての切断可能な結合の分析および同定をさらに含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、配列決定方法は、質量分析に基づくプロテオミクス分析、示差蛍光、示差免疫検出、次世代配列決定技術、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0031】
いくつかの実施形態において、計算アルゴリズムを使用してGearrTMモチーフを抽出することは、ライブラリーの基質配列内の特定の位置に見出される2つ以上のユニークアミノ酸間の協同性を測定することを含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、GearrTMモチーフは、陽性および陰性の両方の特異性情報を含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、GearrTMモチーフは、ペプチダーゼ切断可能基質を得るために有用である。他の実施形態において、GearrTMモチーフは、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得るために有用である。
【0034】
いくつかの実施形態において、GearrTMモチーフからペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築することは、サンプル内の候補ペプチダーゼ切断可能基質を試験することを含み、サンプルは、基準マトリックスに基づいて選択される。
【0035】
他の実施形態において、候補ペプチダーゼ切断可能基質を、少なくとも1つの疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼと接触させることは、サンプル内の候補ペプチダーゼ切断可能基質を試験することを含み、サンプルは、基準マトリックスに基づいて選択される。
【0036】
いくつかの実施形態では、基準マトリックスはサンプル選択をガイドする。
【0037】
いくつかの実施形態では、基準マトリックスは、治療薬設計のための分子標的、ならびに標的が発現される健常組織および罹患組織に基づく。
【0038】
いくつかの実施形態では、基準マトリックスは、i)他の部位に対する治療作用部位での薬物標的とのペプチダーゼの共発現、ii)ペプチダーゼ特異性、iii)最大ペプチダーゼ触媒活性、およびiv)治療作用部位での薬物標的とのペプチダーゼの特異的共局在化についてスコア付けされた測定値を含む。
【0039】
治療作用部位は、疾患状態、ならびに器官、組織、区画、細胞型、および細胞内局在などの特徴を有する体内の分子標的の位置によって特定される。治療作用部位の仕様は、その部位におけるタンパク質存在量およびペプチド分解活性の測定のための試料選択に影響を及ぼす。
【0040】
いくつかの実施形態において、AlaunaTM法は、協調的相互作用を直接試験するライブラリー内の配列多様性を最大化するための基質配列ライブラリー設計のための方法を含み、ペプチダーゼ基質設計に利用可能な全配列空間のより効率的な探索を可能にする。
【0041】
いくつかの態様において、AlaunaTM法は、正確な基質特異性情報を達成するためのスクリーニング工程を含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、基質特異性情報は、GearrTMモチーフを同定するために分析され、これは、1つ以上の既知または未知のペプチダーゼを含む個々のサンプルについて特定の閾値で基質特異性を定義するために必要とされる、ペプチダーゼ基質配列内のアミノ酸およびそれらの位置の最小セットの同一性として本明細書において定義される。GearrTMモチーフから薬理学的に疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を構築する方法、およびこれらを治療剤および診断ツールに組み込む方法の例が提供される。
【0043】
いくつかの実施形態において、AlaunaTM法は、これらの基質に必要とされる選択性に依存して、最終ペプチダーゼ基質を得るための複数の経路を有する1つ以上の成分法を含む。いくつかの実施形態において、本発明の方法およびライブラリーを使用して、位置走査技術が使用され得る。
【0044】
本発明の一態様によれば、ライブラリースクリーニング工程を含むAlaunaTM方法は、配列データ情報内容を増加させる。
【0045】
1つの実施形態において、スクリーニング工程は、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団を分析する工程を包含する。
【0046】
1つの実施形態において、AlaunaTM法は、候補基質配列内の切断部位が同定されることを特定し、データ分析に必要とされる必須の位置登録を提供する。
【0047】
別の実施形態において、AlaunaTM法は、高切断、中切断、または低切断から非切断基質配列のセットまでの切断効率の全範囲にわたるユニークな候補基質配列のセットの同定を含む。標的疾患組織と非疾患組織または健常組織との間の薬理学的に選択的な切断についての比較を可能にするのは、ライブラリー内の全ての他のユニークな候補基質に対する候補基質配列のこれらのセットについての切断の速度および収率の定量的分析である。
【0048】
いくつかの態様において、ペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーは、2アミノ酸~200アミノ酸の範囲の異なるサイズの一連のペプチドまたはタンパク質を含有するペプチドまたはタンパク質ライブラリーである。いくつかの態様において、ペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーは、異なるサイズのペプチドまたはタンパク質を含有する混合ライブラリーである。
【0049】
一態様では、1つ以上のペプチダーゼによる活性化の際に薬物を放出することができるプロドラッグコンジュゲートが本明細書で提供される。
【0050】
いくつかの態様において、プロドラッグコンジュゲートは、治療部分、マスキング部分、切断可能なペプチドまたはプロテインリンカー、任意で担体部分、任意で標的化部分、および任意で半減期延長部分を含み、切断可能なペプチドまたはプロテインリンカーは、ペプチダーゼ切断可能基質、またはAlaunaTM法によって得られる疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質である。
【0051】
いくつかの実施形態は、マスキング部分は、治療部分に結合し、治療部分の生物学的活性を阻害し、治療部分は、任意選択で担体部分に融合され、マスキング部分は、切断可能なペプチドまたはタンパク質リンカーを介して、治療部分または任意選択で担体部分に融合される。
【0052】
いくつかの実施形態において、治療部分はサイトカイン部分であり、マスキング部分はサイトカインアンタゴニストである。
【0053】
いくつかの態様において、プロドラッグコンジュゲートは、治療部分、担体部分を含み、ここで担体部分は切断可能なペプチドまたはタンパクリンカーを含み、切断可能なペプチドまたはタンパクリンカーは、ペプチダーゼ切断可能基質またはAlaunaTM法によって得られる疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質であり、治療部分は担体部分に封入される。
【0054】
いくつかの実施形態において、治療部分は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、抗菌剤、抗癌剤、抗糖尿病剤、抗ウイルス剤、抗高血圧剤、抗狭心症、抗痙攣剤、鎮痛薬、抗喘息、抗うつ剤、止痢剤、抗感染剤、抗偏頭痛剤、抗精神病剤、解熱剤、抗潰瘍剤、抗血栓剤またはそれらの組み合わせとして有効である。
【0055】
「治療部分」という用語は、生体組織に対して所望のまたは有益な効果を提供することができる任意の部分を含むように、その最も広い意味で使用される。治療部分には、医薬品、ワクチン、抗体、タンパク質、ペプチド、および核酸配列(スーパーコイル、弛緩、および直鎖状プラスミドDNA、アンチセンス構築物、人工染色体、または任意の他の核酸ベースの治療薬など)、ならびにそれらの任意の製剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
いくつかの実施形態は、担体部分は、アニオン性(従来の)リポソーム、pH感受性リポソーム、免疫リポソーム、融合性リポソーム、中性脂質ナノ粒子、荷電脂質ナノ粒子、および荷電脂質/アンチセンス凝集体などの脂質ベースの担体系から選択することができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、プロドラッグ結合体の標的化部分は、抗原結合部分、または抗原結合部分ではない部分であり得る。標的化部分は、体内の特定の健康な部位または疾患部位(例えば、腫瘍部位)を標的化し得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、半減期延長部分は、プロドラッグコンジュゲートの血清半減期などの薬物動態プロファイルを改善し得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1-1】
図1は、Alauna
TM法および当技術分野における既存のランダムコンビナトリアルライブラリー法によるライブラリースケールおよび配列空間カバレッジを示す。
【0060】
ランダムコンビナトリアルライブラリーをAlauna
TM法を用いて設計された「不偏ライブラリー」と比較して、ユニーク配列の総数を一連のライブラリーについて示す(
図1-1、パネルA)。11部位までの20個の天然アミノ酸についての全ての可能な配列変異体を組み込むための理論的ライブラリーサイズは、第2の垂直軸上に示される。候補基質配列内の5、6、7、または10部位で20個の天然アミノ酸のランダム配列変異を産生するために、NNSまたはNNK縮重コドンを用いたPCRを使用して構築された大腸菌ディスプレイライブラリーおよび2つのファージディスプレイライブラリーの3つの例を本明細書に示す。各ライブラリーにおいて実験的に産生された変異体の総数は、E.coliライブラリーについては10
8配列変異体のオーダーであり、ファージディスプレイライブラリーについては10
9または10
10であり(濃い灰色で示される)、これらの2つのプラットフォームの実用的なサイズ限界と一致した。しかし、コドンの偏りおよびライブラリー生成における非効率性を克服するために、90%信頼閾値(ラインパターンフィル)でのポアソン分布で計算されるように、実際に生成され得るよりも多数のクローンが必要とされる(Clackson & Wells, 1994)。
【0061】
対照的に、AlaunaTM法は、効率的なライブラリー設計を使用して、ランダムコンビナトリアルライブラリーでアクセスされ得るよりも多数の位置内の2つ以上の残基間の協同的相互作用を試験する。協調的相互作用の数および考慮される可変位置の数は、示される各ライブラリーについて棒グラフの下に数えられる。不偏ライブラリーは、示されるようにAlaunaTM法を用いていくつかのスケールで設計されている(灰色の勾配-塗りつぶしバー)。AlaunaTM法不偏ライブラリー3.4は、2×103配列のライブラリーサイズで、4部位内の3残基の協同性、または9部位間の2残基の協同性を試験する。AlaunaTM法不偏ライブラリー4.9は、3.9×106のユニーク配列のライブラリーサイズで9部位間の4残基協同性を試験する。このライブラリーは、9部位内の改変体を試験することを目的とするランダムコンビナトリアルライブラリーと同じ目標を達成し得、これは、209=5.12×1011の理論上の数の固有の配列を必要とし得、この規模は、現在のランダムコンビナトリアルディスプレイライブラリー技術ではアクセス不可能である。ライブラリー生成におけるコドンの偏りおよび非効率性を補正すると、このようなライブラリーは、8.0×1013クローンを必要とする;従って、AlaunaTM法不偏ライブラリー4.9は、107配列についての産生および解析コストの節約を提供する。このライブラリーサイズの節約は、構造安定性または他の分子機能に影響を与え得る残基のより長い範囲の組み合わせを試験するために使用され得る。例えば、18部位において20個の天然アミノ酸を使用して全ての可能な設定で配置された4個の残基間の協同性は、3.0×107配列の不偏ライブラリー設計を用いて測定することができる。30部位内に配置された全ての可能な設定で配置された全てのアミノ酸の組み合わせを試験する5残基間の協同性は、1.7×109配列の不偏ライブラリーサイズで完全に適応され得る。NNSまたはNNK縮重コドンを用いたPCRによって生成されたランダムライブラリーは、ランダム化された位置に固定され、したがって、それほど多くの位置変異を試験するための柔軟性を有さない。
【0062】
別のアミノ酸アルファベットもまた、ライブラリー設計のために使用され得る。天然および非天然アミノ酸の混合物から構成されるライブラリーは、20個を超えるアミノ酸改変体(例えば、30個のアミノ酸)の「アルファベット」を利用し得る。非天然アミノ酸は、骨格および側鎖基の両方の多様な改変体(例えば、βアミノ酸、ホモアミノ酸、プロリンおよびピルビン酸の誘導体、3-置換アラニン誘導体、グリシン誘導体、環置換芳香族アミノ酸、メチオニンを模倣するO-アルキル化セリン、N-メチルアミノ酸、天然アミノ酸の異性体(例えば、ノルバリンまたはノルロイシン)、D-異性体アミノ酸など)を含む。30の異なるアミノ酸のアルファベットを有する9つの部位における4つの残基間の協同的相互作用を、2.4×10
7のユニークな基質配列のライブラリー内で試験することができる。代替戦略は、芳香族または極性特徴などの物理化学的特性によるアミノ酸のグループ分けを使用し、そのグループ内から残基をランダムに選択する;20個の天然アミノ酸の11個のアミノ酸グループ分けを使用して、ファージディスプレイで達成可能なスケールである2.1×10
10配列のライブラリーサイズで12部位内の8残基間の協同性を試験することができる。
【
図1-2】不偏ライブラリーのパフォーマンスを実証するために、3つの異なるランダムコンビナトリアルディスプレイライブラリー(
図1-2、パネルBおよびC)およびAlauna
TM法(パネルD)を用いてMMP14について得られたコンセンサス配列を示す比較を提供する。Alauna
TM法は、コンセンサス配列PXG|(M/L/I)Yを有するn=80の切断をもたらし、太字の残基は、互いにおよび他の位置の追加の残基と協調的効果を示し、配列ロゴ図の負の領域に示されるように、切断されていない基質の配列が得られた(パネルD)。Alauna
TM法からのコンセンサス配列は、ライブラリーからの切断された配列における特異的な2倍濃縮との協同的相互作用のみを記載するように狭められるので、このコンセンサス配列は、Gearr
TMモチーフとして再特徴付けされる。この実験から、太字の協同的相互作用残基に対応するGearr
TMモチーフ位置M3、M1、M1’およびM2’における好ましい残基の同一性を、2×10
2配列の効率的な不偏ライブラリー(Alauna
TM法、不偏ライブラリー2.4)を用いて直接同定した。比較すると、E.coliディスプレイ法は、6×10
7のユニーク配列を含む5部位変異ライブラリー(Boulweare,2010)を用いた第1ラウンドのスクリーニング、続いて8×10
7のユニーク配列を含む7部位変異ライブラリー(Jabaiah,2011)を用いた第2ラウンドのスクリーニングを必要とした(パネルB)。6つの部位を変化させたファージディスプレイライブラリーは、示されるようなコンセンサスロゴを有する38のユニークな配列(Kridel,2002)を同定した(パネルC)。これらのランダムコンビナトリアルライブラリースクリーニングから得られた配列ロゴは、Alauna
TM法の結果との類似性を示したが、この分析は、協同効果を同定するのに十分な数の切断配列(n=9、10、または38)を生じず、切断されていない基質配列も得られなかった。一般に、Alauna
TM法スクリーニングにおいて得られるそれらの協同的相互作用はまた、第2ラウンドのスクリーニングを使用して、例えば、全体的な切断に対する個々の置換の効果を試験するために、位置走査設計を使用して、さらに調査され得る。速度論的分析を使用して、4つのコンセンサス配列からの残基を組み込む4つの基質についての相対的触媒効率を示す(パネルE)。最高性能の配列は、Alauna
TM法で同定されたMMP14 Gearr
TMモチーフを組み込んだものであった。ファージライブラリーコンセンサスから引き出された置換を有する基質は、トップ基質と比較して0.52倍の効率を有し、大腸菌ディスプレイランダムライブラリー法からの配列ロゴから直接読み取られた2つの基質は、<0.05および0.13倍の効率で実施された。これは、Gearr
TMモチーフに到達するためにAlauna
TM法を用いて配列空間を効率的に探索する機会を示す。
【
図2】
図2は、例示的な不偏ライブラリー設計問題についての基質配列概略図を示す。ここで、基質配列は10個の位置を含む必要があり、そのうちの2個は固定位置(O
1およびO
2と標識)であり、8個は可変位置(X
1~X
8と標識)であった。2つの固定位置は、他の構造的特徴のための誘導体化の点であり、目標は、O
1とO
2との間に切断可能な結合を配置すること、および位置X
1とO
1との間、またはO
2とX
8との間の切断を回避することであった。このシナリオにおいて、湾曲した破線および実線で示されるように、Gearr
TMモチーフにおいて試験され得るX位置の各々の間に28個の可能な協同的相互作用が存在する。この構造内に配置され得る48個の可能な4位置Gearr
TMモチーフの設定が存在し、そしてこれらの設定の全てのユニークな配列の組み合わせは、3.9×10
6のユニークな基質配列から構成される不偏ライブラリー設計において表され得る。
【
図3】
図3は、ペプチダーゼ切断可能基質を同定するためのAlauna
TM法のための例示的な方法および構成物を示す。広くは、この方法は、仮説生成(ステップ1)から、ペプチダーゼ切断可能基質の発見(ステップ2)、設計(ステップ3)および評価(ステップ4)まで進行する。この方法は、データの収集のための実験方法ならびにプロセスにおける各ステップを支持するための既存のデータの使用のための計算方法の両方を提供し、そして治療開発プログラムまたは診断開発プログラムは、候補ペプチダーゼ基質を開発するためにこのプロセスの一部のみを使用することを選択し得る。
【0063】
ステップ1:ステップ1では、プロジェクトは、1)標的疾患、組織、もしくは細胞型に関連する分子もしくは受容体などの薬物標的、および/または2)標的疾患、組織、もしくは細胞型に関連する標的ペプチダーゼもしくはペプチダーゼのセットのうちの少なくとも1つから構成される疾患に対する治療標的(インプット#1)を中心に設計される。
【0064】
インプット#1:当業者は、以下の3つの条件におけるそれらの存在量および活性に基づいて、薬物標的および/または標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットを選択することができる。
【0065】
条件#1:第1の条件は、特定の器官、組織、細胞型、または細胞内区画内など、疾患状態および体内の薬物標的の位置によって特定される、薬物の作用部位である。
【0066】
条件#2:第2の条件は、薬物標的も発現する非罹患組織または健常組織またはコンパートメントにおいて見出される;これらの部位は、薬物活性が有害事象をもたらし得る非罹患組織または健常組織における望ましくない「オンターゲット」「オフ組織」効果に対して感受性であり得る。
【0067】
条件#3:第3の条件は、ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットを発現する健康な組織または生物学的区画において見出される。第3の条件はまた、条件#1において見出されるものと同じペプチダーゼ活性を生じる同族ペプチダーゼを発現する健康な組織または生物学的区画であり得る。
【0068】
好ましくは、薬物標的は、条件#1において独特に存在するか、または条件#2よりも条件#1において少なくとも高度に発現されるか、もしくは高度に活性である。標的化されたペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットの活性が、条件#1においてのみ存在し、条件#2においては存在せず、条件#3よりも条件#1においてより活性であることも好ましい。
【0069】
特別な場合において、薬物標的は、それ自体が標的ペプチダーゼであり得る。このシナリオにおいて、ペプチダーゼの活性は、ペプチダーゼを阻害するように設計されたプロドラッグ不活性化因子を明らかにし得る。以下に説明するAlaunaTM法の論理は依然として適用される。
【0070】
本明細書で提供される説明は、設計された分子による薬理学的介入を意図して、薬物標的に関連して論じられる。しかし、プローブ設計は、薬理学的効果を有することを意図しなくてもよく、代わりに、診断プローブ設計のためのレポーター分子であってもよい。以下に説明するAlaunaTM法の論理は依然として適用される。
【0071】
標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットがインプット#1において特定される場合、特異性および活性のレベルにおいて、標的化されたペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットは、他のペプチダーゼが切断しない適切な速度で基質配列を切断する能力を有することが好ましい。条件#1および#2におけるペプチダーゼまたはペプチダーゼ活性の知識なしに仮説生成ステップ1を通して作業することも可能である。薬物または診断開発プログラムの開始時に、インプット#1情報は不完全であってもよい。以下のプロセスは、この情報を収集するために使用される。
【0072】
入力仮説(インプット#1)に基づいて、インプット#1で指定された3つの条件にわたって、薬物標的および標的ペプチダーゼの両方またはすべてのペプチダーゼのセットの発現レベル、ならびにそれらのペプチダーゼの活性および特異性に関する情報を含むデータが収集される。典型的なデータセットを以下に記載する。
【0073】
データセット#1:データセット#1は、限定されるものではないが、以下の技術を用いる分析から得られた、条件#1、#2および#3における任意の標的化ペプチダーゼを含む、薬物標的およびペプチダーゼについての存在量情報を含む。
a)転写分析、RNASeq、RT-PCRおよび関連する方法などの技術を使用してmRNAレベルを測定すること;
b)ゲノム解析、タンパク質存在量の変化をもたらし得るコピー数変動を測定すること;
c)質量分析検出法を用いて個々のタンパク質存在量を測定する定量的プロテオミクス分析;および
d)定量的免疫検出分析、例えば酵素結合免疫アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロッティング、抗体-タンパク質またはペプチドマイクロアレイ、および薬物標的または標的ペプチダーゼに特異的な抗体を用いてこれらのタンパク質を定量化する他の方法。
【0074】
データセット#1はまた、ゲノムコピー数、mRNAまたはタンパク質レベルで測定された分子存在量を含む1つ以上のデータベースから得ることができる。このデータセットは不完全である可能性があり、実験#2(アウトプット#2)で得られた実験データによって補足されるか、または部分的に置き換えられる。
a)例示的なデータセット#1は、Human Protein Atlas (Uhlen et al., 2015)の全てを含む。
b)あるいは、データセット#1は、The Cancer Genome Atlas (Gao et al., 2013; Gao et al., 2019)からの研究を含む、Genomic Data Commons Data Portalでアクセス可能なデータの全てを含む。
c)あるいは、データセット#1は、欧州分子生物学研究所(EMBL)または欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)遺伝子発現アトラスデータ(Papatheodorou et al., 2020)の全てを含む。
d)あるいは、データセット#1は、癌細胞株百科事典(the Cancer Cell Line Encyclopedia)データ(Ghandi et al., 2019)の全てを含む。
【0075】
データセット#2:データセット#2は、条件#1、#2、または#3とは独立して、インビトロで測定され得るペプチダーゼ基質情報を含む。好ましくは、この情報は、各ペプチダーゼについて少なくとも1つの基質および複数の基質配列を含む。このデータセットは不完全である可能性があり、実験#1(アウトプット#1)で得られた実験データによって補足または置換される。データセット#2はまた、タンパク質レベルまたは基質配列レベルのいずれかで基質同一性を含む、1つ以上のデータベースから得られ得る。
a)例示的なデータセット#2は、MEROPSデータベース(Rawlings et al., 2016; Rawlings et al., 2004)の全てを含む。
b)あるいは、データセット#2は、CutDBデータベース(Igarashi et al, 2007)の全てを含む。
c)あるいは、データセット#2は、UniProtデータベース(Uniprot:タンパク質知識の世界的なハブ。NAR 47, D506-515 (2019))の全てを含む。
d)あるいは、データセット#2は、ヒトタンパク質参照データベース(Keshava Prasad et al., 2009)の全てを含む。
【0076】
データセット#3:データセット#3はペプチダーゼ活性データを含み、データセット#2にリンクされている。当業者は、ペプチダーゼ活性アッセイおよび他の生化学的方法(例えば、定常状態速度論的条件下でのレポーター基質切断の測定、または免疫検出によるペプチダーゼの存在下での基質タンパク質の消失のモニタリング)を使用して、標的化されたペプチダーゼもしくはペプチダーゼのセットについて、または密接に関連するペプチダーゼについて、インビトロおよび/またはインビボ研究のいずれかからペプチダーゼ活性データを得る。好ましい実験は、酵素動態に影響を及ぼす以下の特徴を特徴付ける。
a)特定の基質に対するペプチダーゼの平衡結合条件下での結合親和性。
b)インビトロまたはインビボのいずれかでのペプチド分解事象についての切断速度であって、特定の基質についての基質の生成物への変換を測定すること。
c)ペプチダーゼ活性のための好ましい反応条件、pH依存性の測定、温度、および特定の基質についての切断の動態に対する緩衝液効果。
これらのデータは、公開データベースから得ることもできる。例示的なデータセット#3は、BRENDAデータベース(Jeske et al., 2019)の全てを含む。
【0077】
データセット#4:データセット#4は、条件#1、#2、および#3における薬物標的および標的ペプチダーゼについての細胞内局在データを含む。
【0078】
当業者は、蛍光顕微鏡を使用して細胞下区画内の薬物標的および標的ペプチダーゼの存在量を検出および/または定量するために、免疫蛍光法などの方法を使用して細胞下局在化実験を実施する。標的ペプチダーゼはまた、ペプチダーゼ基質配列および検出のためのレポータータグから構成される活性プローブ(例えば、メタロペプチダーゼ、セリンペプチダーゼまたはシステインペプチダーゼのために用いられるプローブ)の使用を介して検出され得る(Barglow et al., 2007; Greenbaum et al., 2000; Sieber et al., 2006; Kidd et al, 2001)。
【0079】
あるいは、バイオインフォマティクスアノテーションおよび公開データベースからの情報を使用して、細胞内局在を概算することができる。
a)例示的なデータセット#4は、Human Protein Atlas (Uhlen et al., 2015)からの細胞内局在データの全てを含む。
b)あるいは、データセット#4は、UniProtデータベース(Uniprot:タンパク質知識の世界的なハブ。NAR 47, D506-515 (2019))の全てを含む。
c)あるいは、データセット#4は、細胞内局在化のための全ての遺伝子オントロジー注釈を含む(The Gene Ontology Resource: 20 years and still GOing strong. NAR 47, D330-D338 (2019))。
【0080】
データセット#1~#4からの情報は、以下のように抽出され、処理され、スコア付けされる。
【0081】
データセット#1は、インプット#1で特定された3つの条件にわたって、薬物標的および全ての既知のペプチダーゼについての存在量情報を収集するためにフィルタリングされる。相関分析を実施して、条件#2および#3と比較して条件#1において作用部位で薬物標的と最も高度に同時発現されるペプチダーゼを同定する。濃縮比もまた、薬物標的の存在量および全てのペプチダーゼについて計算し、条件#2および#3と比較した条件#1における濃縮を計算する。それぞれの場合において差の比が大きいほど、この特徴についての濃縮スコアは高い。
【0082】
データセット#2は、全てのペプチダーゼによって切断されることが知られている全ての配列を含む。各ペプチダーゼについて、分析の第1ステップは、データセット#2中のそのペプチダーゼについて同定された基質のセットを、それらの切断可能な結合によって整列させ、そして基質配列中の各位置でのアミノ酸頻度を決定することである。次いで、他のペプチダーゼと比較したペプチダーゼの特異性の確率をランク付けするためのスコアが、分析された基質配列内の各位置における最高頻度アミノ酸についての個々の部位頻度の加重積として計算される。これらの計算は、偏りのあるプロファイリング法によって悪影響を受ける;したがって、これらのデータは、不偏ライブラリーを用いるAlaunaTM法によって生成されることが好ましい(実験1、アウトプット#1)。それらの基質内の2つ以上の位置において限られた数のアミノ酸のみを受容するペプチダーゼは、より高い特異性確率を有し、これらのペプチダーゼは、GearrTMモチーフがAlaunaTM法を用いてこれらのペプチダーゼについて産生され得るより高い確率を示すので、標的ペプチダーゼとして好ましい。
【0083】
データセット#3は、好ましくはインプット#1における条件#1、#2および#3に非常に近い実験条件下で測定される、特定の基質に対する結合親和性、触媒速度、または触媒効率を含み得る酵素反応速度項の集合である。これらの実験動態データをフィルタリングして、各ペプチダーゼについて最も高い触媒速度または触媒効率を有する基質配列に対する各ペプチダーゼの活性に焦点を合わせる。次いで、各ペプチダーゼに、その最大触媒活性について中央値で正規化した数値であるスコアを与え、これを使用してペプチダーゼを互いにランク付けすることができる。
【0084】
データセット#3の分析の当然の結果は、標的適用がアミノまたはカルボキシペプチダーゼ活性対エンドペプチダーゼ活性を必要とし得る特別な場合を考慮する。この場合、データセット#3は、基質モチーフ内の切断可能な結合に対してN末端またはC末端部位の1つ以上を満たさない基質を受容するためのペプチダーゼの耐性によって重み付けされる。
【0085】
データセット#4は、全てのペプチダーゼならびに薬物標的についての細胞内局在データを含む。薬物標的と全てのペプチダーゼとの共局在化のレベルは、GOタームなどのバイオインフォマティクス情報を使用する場合、単純な相関として計算することができるが、好ましいスコアリングは、定量的イメージングデータから行われる。次いで、タンパク質またはペプチダーゼ活性レベルで測定される、薬物標的と各ペプチダーゼシグナルとの共局在化についての相関係数を、インプット#1で同定された各条件について計算する。選択的共局在スコアを、条件#1対条件#2または#3で測定された共局在についての相関係数の比として計算する。選択的共局在化スコアにおいて最も大きな差異値を有するペプチダーゼが好ましい。
【0086】
基準マトリックス:ステップ1からの報告は、基準マトリックス(CM)であり、これは、入力仮説(インプット#1)を評価および修正し、ペプチダーゼ切断可能基質設計の文脈において特定のレベルの疾患または組織選択性を満たすと仮定される標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットを選択するために使用される。CMは、上記の実験データセット#1~#4のうちの1つ以上から計算された1つ以上のスコア付けされた特徴を含む。これらの特徴には、標的ペプチダーゼの薬物標的との共発現、ペプチダーゼ特異性確率スコアおよびこのスコアに寄与する配列位置の数、最大触媒活性、ならびに標的ペプチダーゼの薬物標的との特異的共局在化が含まれる。CMは、インプット#1における洗練された仮説ステートメントを満たす好ましい標的ペプチダーゼを以下のように同定する。
【0087】
疾患組織(条件#1)に存在するペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットは、薬物標的と相関する発現レベルを有する。好ましい標的ペプチダーゼはまた、非罹患組織または健常組織(条件#2および#3)よりも標的罹患組織(条件#1)において豊富な存在量を有する。
【0088】
選択されたペプチダーゼの基質特異性は、主に2つ以上の残基によって定義され、選択されたペプチダーゼの特異性は、バックグラウンドに存在する他のペプチダーゼの特異性とは異なり(条件#2または#3)、したがって、そのペプチダーゼに対してより大きな特異性を与える。
【0089】
標的化されたペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットについての触媒効率は、ペプチド溶解切断の特定の速度を生じるのに十分であると予測される。
【0090】
ペプチダーゼは、標的組織において薬物標的と共に細胞内区画内に共局在化され、好ましくは、ペプチダーゼは、薬物標的も発現し得る非罹患組織または区画において薬物標的と共局在化されない(条件#2)。
【0091】
CMはまた、ステップ2の発見実験のための試料選択を支援する;これらの試料は、患者における疾患状態、ならびに組織またはコンパートメントおよび細胞型などの特徴によって特定される。CMは、条件#1~3からの実験調製物がスクリーニングプロセスのためにペプチダーゼおよびそれらの活性を正確にサンプリングしなければならないことを指定することによって、ステップ2発見実験のための試料選択をさらに支援する。
【0092】
ステップ2。合理的なアプローチにおいて、標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットは、CMを用いたデータセット#1~4の分析から同定される。標的ペプチダーゼの選択は、ステップ2の発見実験のためのCMを用いた試料選択にも影響を及ぼす。
【0093】
実験1は、切断された基質、切断部位、およびそれらの全体的な切断速度を同定する目的で、規定された候補基質のプールを使用して、制御された反応条件下で行われたペプチダーゼ活性アッセイである。
【0094】
好ましい実験1は、質量分析による多重基質プロファイリング(Multiplexed Substrate Profiling by Mass Spectrometry:MSP-MS)法(O’Donoghue et al., 2012)を用いて行われる。この方法は、基質として合成ペプチドの規定されたライブラリーを使用し、好ましくは、実験のレベルで協同的相互作用を試験するように設計されたAlaunaTM法不偏ライブラリーを使用し、実験時間にわたって反応から取り出された動態試料から切断されたペプチドを同定するための質量分析検出を用いる。この実験のアウトプット#1は、切断可能な結合での切断部位、および切断されたライブラリー中のペプチド基質の全てについての切断速度を含む。この実験がインビトロで行われる場合、アウトプットは、理想化された条件下でのペプチド基質に対するペプチダーゼの挙動を表す「固有活性」と考えられる。
【0095】
あるいは、実験1は、タンパク基質との関連で試験された不偏ライブラリーを用いて行われ、ここで、定常タンパク足場は、AlaunaTM法不偏ライブラリー設計によって提供される基質配列を支持するために用いられる。このタンパク質基質足場は、ファージディスプレイまたは大腸菌ディスプレイなどの生物学的ディスプレイシステムと適合性であり得る。このシナリオにおいて、基質配列は、生物学的ディスプレイ実験において切断されたユニークなクローンの同定のための次世代配列決定(NGS)または他のヌクレオチド配列決定法によって同定され、切断可能な結合は、質量分析に基づくペプチド配列決定を使用して同定される。あるいは、タンパク質足場はまた、ナノ粒子または他の合成構築物などの人工表面上でのディスプレイに適合し得る。
【0096】
実験2は、試料が2つ以上の既知または未知のペプチダーゼを含む場合に行われる。実験2は、2つの並行ステップで行われる。
【0097】
ペプチダーゼ同定は、好ましくは、プロテオミクス分析において使用される質量分析ベースのペプチド配列決定ワークフローを使用して行われる。当業者は、ペプチドを生成するためにトリプシン消化を使用し、タンデム液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)を使用してペプチドを配列決定するなどのプロテオミクス配列決定法を選択するであろう。ペプチダーゼ検出のためのこの方法の感度は、プロテイン同定の前にペプチダーゼについてサンプルを濃縮するためにセリン、システインおよびメタロ-ペプチダーゼを共有結合的に標識する活性ベースの一般的プローブを使用するような生化学濃縮法でさらに増強され得る(Barglow et al., 2007)。主な要件は、一般的に受け入れられているプロテオミクスデータ分析ガイドラインに従ってタンパク質を明確に同定することであり、典型的には1%の偽発見率で行われる。このステップのアウトプット#2は、複合サンプルにおける半定量的ペプチダーゼ同定である。
【0098】
アウトプット#2において同定された酵素が、その固有活性についてまだ特徴付けられていない場合、その酵素は、細胞ベースの組換え発現系またはインビトロ翻訳を使用して生化学的に産生され得、そして実験1に供され得る。
【0099】
複合サンプルのペプチダーゼ活性プロファイリングは、好ましくは、AlaunaTM法不偏ライブラリーを用いて実施され、実験1に記載されるように、多重化基質プロファイリングを用いたペプチドフォーマットにおいて、または生物学的ディスプレイシステムを用いた足場タンパク質フォーマットにおいて試験される。実験2において、このステップのアウトプット#3は、不偏ライブラリー内の切断された配列および切断されていない配列を、切断部位とともに同定することであり、これは、複合サンプルの状況において2つ以上のペプチダーゼによって産生される。したがって、このステップのアウトプット#3は、複合サンプルに対する「グローバル活性」と呼ばれる。
【0100】
好ましくは、実験2は、活性ペプチダーゼを含有する生物学的に誘導された試料、例えば、細胞もしくはex vivo組織の培養から産生された馴化細胞培養培地、または患者もしくは動物モデルから直接得られた生体液を用いて行われる。ステップ2における実験1および2についての緩衝液条件は、好ましくは、インプット#1において規定される条件に適合するように選択され、そして同一の反応条件(温度、pH、および緩衝液組成によって規定されるような)が、実験1および2を通して使用されて、これらの実験間の比較可能性を確実にする。
【0101】
選択的ペプチダーゼ切断可能基質設計のために利用され得るグローバルシグネチャーを同定するために、実験2は、ステップ1の間にインプット#1において定義された条件#1、#2、および#3を表す複数のサンプルについて行われる。これらの試料は、罹患組織、非罹患もしくは「正常」隣接組織、健常組織、液体生検もしくは生体液試料などの患者ドナーからの一次試料、またはこれらの試料のための細胞培養もしくは組織モデルのいずれかである。各条件(#1、#2または#3)のために使用されるべきサンプルの数は、各コホート内のサンプル間変動性に依存する生物統計学的検出力分析を通して定義される。データセットは、各条件(#1、#2または#3)からの最低3つ、理想的には5つ以上の生物学的複製試料から収集されることが好ましい。
【0102】
アウトプット#1およびアウトプット#3からのデータは類似しており、そして好ましくは以下の情報を含む: i)ライブラリー中の切断された基質および切断されていない基質の両方の同定、ii)切断された基質についての切断可能な結合の部位、ならびにiii)これらの結合における切断の速度。
【0103】
アルゴリズム1を使用して、アウトプット#3からのペプチダーゼ活性プロファイリングデータを分析し、条件#1、#2および#3の間でこの活性プロファイリングデータの示差分析を行い、条件#2および#3よりも条件#1で優先的に切断される選択的GearrTMモチーフを同定する。
【0104】
必要に応じて、アルゴリズム1はまた、アウトプット#1および#3からのデータ間の比較分析のために使用され得、アウトプット#3において観察された切断を解析し、そしてそれらをアウトプット#2において同定されたペプチダーゼに割り当てる。
【0105】
アルゴリズム1は、アウトプット#3ペプチダーゼ活性プロファイルデータについての2つの主要な分析ステップを含む。第1に、全ての候補切断可能モチーフのセットは、切断された基質のセット内の全ての切断された基質配列をそれらの切断可能な結合によって整列させ、各位置でのアミノ酸頻度を測定し、次いで、基質配列内の2つ以上の部位間の協同的残基の頻度を測定することによって同定され、それによってGearrTMモチーフを規定する。ユーザはまた、GearrTMモチーフ分析に使用される切断された基質のセットについて2つの任意のフィルターを指定することができる。基質のサブセットは、必要に応じて、第1のステップにおけるGearrTMモチーフ同定のために、ペプチダーゼ反応におけるそれらの出現率によって、「高」、「中」および「低」の効率的な切断群に分類され得る。任意選択の再現性フィルターを適用して、特定の閾値で個々の条件からの生物学的複製試料内の再現可能な切断サブセットを選択することもできる。第2の処理ステップは、P値統計またはZスコア統計から選択される統計的方法を使用して、条件#1~#3における試料間で比較し、同定されたGearrTMモチーフをも条件#1における濃縮について同定されたモチーフをランク付けする。
【0106】
アルゴリズム1はまた、条件#1、#2および#3からのサンプルについてのアウトプット#2からのデータの比較分析のために使用され得る。ペプチダーゼの濃縮は、P値統計またはZスコア統計から選択される統計的方法を用いて評価される。これらの統計のための入力値は、ペプチダーゼの存在量であり、これは、スペクトル計数などによる質量分析実験内で測定することができる。条件#1対条件#2および/または条件#3での特定のタンパク質の存在量レベルにおいて、特異的切断およびGearrTMモチーフの濃縮と、特異的ペプチダーゼの濃縮との相関分析をさらに実施することができる。
【0107】
アルゴリズム1からの基本的なデータ処理出力報告は、不偏ライブラリー内の個々の基質に対するペプチダーゼ試料で測定された示差的活性であり、このデータは、実験2で試験されたすべての試料にわたる基質対それらの切断効率のヒートマップとして提示することができる。
【0108】
アウトプット#4は、ステップ3で洗練することができるリード候補基質配列のセットである。これらの配列は、条件#1対条件#2および#3における選択的切断の比較分析から同定された選択的GearrTMモチーフを有する新規配列である。これらの配列はまた、条件#1対条件#2および#3における選択的切断の効率性または速度についての特定の閾値を満たす、AlaunaTM法不偏ライブラリーから選択されたペプチドを含み得る。
【0109】
アウトプット#4からの選択的GearrTMモチーフを有するリード基質を確認するために、活性アッセイを実験3で使用して、個々のリード基質配列をそれらの切断有効性について試験する。実験3は、分光法もしくは質量分析法を使用するペプチドベースのアッセイとして、または細菌もしくはファージディスプレイ系を使用するような足場タンパク質ベースのアッセイとして実施することができる。実験3のために選択されたペプチダーゼサンプルは、ステップ3における検証実験のために意図されたものと一致すべきであり、実験2において使用されたような複合サンプル、および/または実験1において使用された組換え酵素を含み得る。切断されることが確認されたリード基質配列は、次いで、リード候補基質配列として、配列精密化のためにステップ3に進められる。切断されないことが見出されるリード基質配列は、切断不可能なネガティブコントロール配列を表し、これは、設計プロセスの後の生化学的およびインビボ検証実験において、プロドラッグまたは診断プローブの特異的活性化を実証するために有用である。
【0110】
実験3からのデータは、定常状態酵素動態を用いて分析される。プラットフォームが合成ペプチドまたは足場タンパク質プラットフォームであるかどうかにかかわらず、切断された産物の存在量は、例えば、質量分析または蛍光検出を使用して、アッセイにおける各時点で測定される。生成物形成が飽和に達した場合、これは、経時的に測定された生成物存在量のプロットにおいてプラトーを同定することができることを意味する)、データを一次反応速度式に当てはめることができる。
【0111】
【0112】
式中、Y=生成物形成パーセント、kobsは速度、t=時間である。実験3が洗練された酵素を用いて実施される場合、ミカエリス・メンテン速度論的分析が適用され得、観察された速度kobsは、時間0で測定されたモル濃度ユニットにおける[E0]、および単位時間あたりのモル濃度のユニットにおける観察された触媒効率(kcat/KM)を用いて、酵素濃度の関数である以下の式を有する。
【0113】
【0114】
次いで、アウトプット#4からのリード基質配列を、それらの相対的触媒効率によって比較することができる。条件#1対条件#2および#3において最も高い示差的触媒効率で機能する基質を、ステップ3における洗練化のために選択する。
【0115】
ステップ3:ステップ3は、候補基質配列洗練化プロセスであり、ここで、アウトプット#4におけるリード基質配列の改変体は、ステップ4において、条件#1対条件#2および条件#3における選択的切断についての特定の閾値での性能についてスクリーニングされる新規候補ベースのライブラリーに設計される。
【0116】
アルゴリズム1を使用して、条件#1対条件#2および/または条件#3における切断についての示差的活性分析を実施し、これは、各位置で濃縮されたアミノ酸頻度を含む表の形態で報告される。アルゴリズム1はまた、条件#1対条件#2および/または条件#3からの切断された基質配列において選択的に濃縮される2つ以上のアミノ酸間の協同的相互作用を同定するために使用される。このデータは、アルゴリズム2のインプット#2として使用され、配列変異体の設計のための置換表として役立つ。
【0117】
追加の情報は、インプット#2ステップで新しいライブラリー設計に含めることができる。例えば、2つ以上のペプチダーゼの存在量および活性が、アルゴリズム1における定義された選択性要件と正に相関することが見出され、条件#1において条件#2および#3よりも濃縮される場合、新しい基質配列設計は、これらの2つ以上のペプチダーゼによって有利に切断されるハイブリッドモチーフを含むか、または複数のモチーフがペプチダーゼ基質配列内にタンデムに含まれることを可能にするかのいずれかに特定され得る。あるいは、ライブラリー産生のためにタンパク質足場を使用する実験からのフィードバックは、足場設計に対する変更または安定性の改善のために意図される切断可能な基質配列領域の外側のブラケティング残基を必要とするタンパク質安定性についての洞察を提供し得る。変異には、変化した基質配列長、制限されたアミノ酸組成、または意図される基質配列領域の外側のブラケティング残基の付加が含まれる。これらおよび他の考慮事項は、切断可能基質配列ライブラリーの設計プロセスに向けたインプット#2に含まれ得る。
【0118】
アルゴリズム2において、アウトプット#4からのGearrTMモチーフのセットは、シード配列として使用され、これは最初に、特定の基質配列長さ内で、間隔を調整するための種々の数のブラケティング残基を用いて、全ての可能な順列で配置され、次いで、各モチーフは、条件#2および#3よりも条件#1における選択的切断を増強するアミノ酸置換を同定するために、アルゴリズム1から得られる置換マトリックスを使用して、各位置で系統的に変化される。
【0119】
アルゴリズム2からのアウトプットは、配列変異体の洗練されたライブラリーであり、これは次いで、実験2において使用されたものと同一の反応条件下で実施される実験4における活性アッセイに供される。条件#1、#2、および#3からの以前に生成されたペプチダーゼ含有複合体試料ならびに新たに調製されたペプチダーゼ含有複合サンプルが、この実験に含まれる。実験4のための各スクリーニングコホートにおいて使用される患者由来サンプルの数は、実験2の結果内の患者間の分散からの検出力計算によって決定される。
【0120】
実験4からのアウトプット#5は、切断された基質配列の速度論的ランキングであり、したがって、産物形成のための酵素プログレス曲線をモデル化するために十分な時点が必要とされる。実験2におけるように、アッセイのためのプラットフォームは、質量分析検出を伴う合成ペプチドベースのアッセイであり得るか、またはライブラリーは、切断されたクローンのフローサイトメトリーソーティング、続いてこれらのクローンを同定するためのNGS配列決定を伴う足場タンパク質プラットフォームを用いて提示され得る。いずれかのプラットフォームを使用して、複数の時点でペプチダーゼ反応からアリコートを取り出し、反応をクエンチし、続いて切断された産物を配列決定することによって、速度論的実験を行う。このようにして、ステップ3ライブラリー配列は、最も効率的に、または最も迅速に切断されるサブセットについて評価される。
【0121】
実験4からのアウトプット#5は、個々の切断可能基質配列の速度論的ランキングを提供する。ステップ2ライブラリーと比較して、ステップ3ライブラリーにおけるさらなる配列変異体を試験することによって、アウトプット#5データは、GearrTMモチーフ内のさらなる位置における優先性についてのさらなる特異性情報を提供し得、これは、洗練化を導く。さらなる結果には、他のGearrTMモチーフとの組込みに利用することができるGearrTMモチーフ内の内部位置での置換に対する耐性を明らかにすることが含まれる。アウトプット#5データはまた、より大きなポリペプチド構築物の文脈内で、意図される基質配列領域の外側のブラケティング残基についての構造的および切断感受性の洞察を提供する。この情報は、切断可能な基質配列を治療用構築物または診断用プローブ設計に組み込むのに有用である。この分析はまた、条件#1切断について許容されないか、または条件#1、#2、および#3の間の選択的切断を無効にする基質配列変異体を明らかにする。
【0122】
アルゴリズム3は、インプット#1において定義された条件#1対条件#2および#3における増強された切断について、ステップ3ライブラリー内の各基質配列の選択的切断を評価するために使用される。特定の切断GearrTMモチーフの濃縮は、アルゴリズム3において、P値統計またはZスコア統計から選択される統計的方法を使用して再び評価される。アルゴリズム3の入力値は、各基質について観察された切断速度kobsである。条件#1と条件#2および/または条件#3との間で観察された切断速度において最大の倍数差を有する基質は、条件#1に対して最も選択的である。アウトプット#6は、条件#1対条件#2および条件#3について観察された切断速度の比としてアウトプットされる、それらの測定された選択性と共に、1つ以上の同定されたGearrTMモチーフを含む、洗練されたセットのペプチダーゼ基質配列からなる。
【0123】
1つ以上のGearrTMモチーフを含むこれらの新規なリンカー配列は、洗練された選択的基質配列を表し、これは、次いで、治療剤およびレポーター基質設計に組み込まれ得る。各ペプチダーゼモチーフについての個々の触媒活性は、アウトプット#2において同定された精製または組換え候補ペプチダーゼを使用して、実験3において検証される。
【0124】
このプロセスの最後のステップにおいて、候補基質配列は、その意図される治療構築物または診断プローブ設計に設計され、そしてインプット#1における仕様を満たすために、条件#1対条件#2および#3について十分な選択性を有するか否かについて評価される。 選択的に切断可能な基質配列が、インプット#1において定義された条件における選択的切断のための仕様を満たしている場合、プロセスは完了する。
【0125】
選択性が不十分である場合、ステップ3のライブラリー設計のプロセスを繰り返す。新しい設計を開発するために実験4の結果を考慮に入れる新しいインプット#2仮説が開発される。考慮され得るパラメーターは、リンカー設計内のペプチダーゼモチーフの初期配置、および設計標的分子のドメイン構造である。
【
図4】
図4は、(A)Gearr
TMモチーフ命名法、および(B)どのように2つ以上のGearr
TMモチーフが候補基質配列に組み込まれ得るかを示す基質配列図を示す。(A)Gearr
TMモチーフ位置は、切断可能な結合からの距離とともに増加するインデックス番号で番号付けされる。N末端方向において、Gearr
TMモチーフ位置は、M1、M2、M3、M4などと番号付けされ、そしてC末端方向において、Gearr
TMモチーフ位置は、M1’、M2’、M3’、M4’などと番号付けされる;従って、ペプチダーゼの切断可能な結合は、矢印で示されるように、モチーフ位置M1とM1’との間である。(B)候補基質配列に組み込まれた3つのヒトペプチダーゼについてのGearr
TMモチーフを示す。ヒトトリプシンは、その既知の基質配列の99%が位置M1にArgまたはLys残基を含み、<1%がM1’にProを含むという点で、モチーフ位置M1およびM1’の残基によって数学的に定義されるGearr
TMモチーフを有する。これは、切断可能な結合に対してN末端にArgまたはLys残基を有する基質の正の切断についてのみ報告するトリプシンについての一般に受け入れられているコンセンサスモチーフとは対照的である。第Xa因子についてのGearr
TMモチーフは、モチーフ位置M2およびM1における残基によって定義され、位置M2におけるGly(48%頻度)およびM1におけるArg(87%頻度)が好ましい。位置M3、M2およびM1’に依存し、これらの位置においてそれぞれPro(24%頻度)、Ala(19%頻度)およびLeu(41%頻度)を好む、MMP2のGearr
TMモチーフが示されている。従って、ペプチダーゼは、基質配列と相互作用し得る伸長した基質認識ポケット(灰色の認識ブロックとして図示される)を有し得るが、Gearr
TMモチーフは、数学的に定義された閾値でペプチダーゼの特異性を記載し、定義により協同的相互作用から生じる認識部位のサブセットによって与えられる。
【0126】
MMP2、トリプシン、および第Xa因子についての3つのGearr
TMモチーフを組み込む例示的な基質配列PAX
1LX
2GRLが示される。第Xa因子およびトリプシンは、この基質配列中の同じ切断可能な結合において切断を生じる適合性のGearr
TMモチーフを有し、そしてそれらの重複モチーフの組み合わせは、ハイブリッドGearr
TMモチーフを生成する。MMP2 Gearr
TMモチーフはこれらの酵素と適合しないので、それを隣接部位に配置して、2つの切断可能な結合を含むタンデム基質を作製した。位置X
1は、MMP2 Gearr
TMモチーフ内にあるので、単一の可変残留部位を表し、位置X
2は、複数のアミノ酸置換を含むことができる可変のブラケティング残基位置を表す。
【
図5】
図5は、Alauna
TM法不偏ライブラリー設計のための入力特徴を示す。入力パラメーターは、長さ(L)、部位の数(S)、およびGearr
TMモチーフを特定する許容されるアミノ酸のアルファベット(A)を含む。次いで、不偏ライブラリーは、(L、SおよびA)項によって特定されるレベルで全ての可能なGearr
TMモチーフを含むように設計される。この例において、基質配列はGearr
TMモチーフの長さを制限し、10残基の最大長さ内に3つの部位からなる36の可能な設定が存在する;これらの36の設定は、最小で16の異なるアレンジメントを有する基質配列中に配置され得、その例が示される。ユニークGearr
TMモチーフは、ユニーク設定およびその設定内に配置されるアミノ酸の同一性から構成される。Alauna
TM法は、不偏ライブラリーがL、SおよびA入力値で特定されるユニークGearr
TMモチーフの全てを含むべきであることを必要とする。20個の天然アミノ酸を使用し、合計1.28×10
5個のユニーク配列を含有するAlauna
TM法不偏ライブラリー3.10は、10個の位置の長さ内の協同的相互作用を含むすべてのユニーク3位置モチーフが、このライブラリーにおいて少なくとも1回表されることを保証する。ペプチダーゼアッセイでスクリーニングした後、切断された基質配列をアルゴリズム1(
図3)で分析して、これらのペプチダーゼのGearr
TMモチーフとしてライブラリーから濃縮されたモチーフを同定する。
【
図6】
図6は、Alauna
TM法不偏ライブラリー3.4についてのアミノ酸位置頻度(A)および重複性(B)を示す。ライブラリー設計パラメーターは、L=4、S=3、およびA=19(20個の天然アミノ酸を使用し、酸化を回避するためにCysを除外する)であり、このライブラリースケールですべての可能なGearr
TMモチーフを列挙した。これらは、10個の位置の基質配列内の全ての設定で配置されることが可能であり、2.3×10
3個のユニーク配列のライブラリーサイズをもたらした。ライブラリー全体におけるアミノ酸組成は、各アミノ酸について平均5.26%(1/19に相当)であり、各位置における各アミノ酸の出現頻度も、基質配列全体にわたって均一に分布していた。4つのモチーフ位置内の19個のアミノ酸の全ての3つの位置の組合せはまた、1~3個の出現の範囲の重複として本明細書で定義される反復出現を伴って、ライブラリーにおいて少なくとも1回表された。(A)各アミノ酸が基質配列内の10個の位置のそれぞれで見出された平均頻度を示す。(B)互いに直接隣接している位置(ABと示される)または1~8個のランダムアミノ酸(X)によって分離されている位置における残基間の全ての可能な協調的相互作用について、平均重複性が示されている。
【
図7】
図7は、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4を用いた実験1(
図3)のペプチダーゼプロファイリング活性アッセイの結果として、MMP14(A)およびMMP9(B)について生成された配列ロゴを示す。icelogoプログラムv 1.2を使用して、完全なライブラリーによって定義され、p=0.05でのパーセント相違として示されるバックグラウンドモデルと比較して、切断された基質間で観察されるアミノ酸頻度を視覚化する配列ロゴを生成した。この場合のAlauna
TM法不偏ライブラリー2.4は、10個のアミノ酸に限定された基質配列内のL=4、S=2、およびA=19(酸化を回避するためにCysを除く)のライブラリー設計入力を有する合成ペプチド基質を用いて構築され、これは、ライブラリー内の少なくとも2回のアミノ酸対の全ての組み合わせを表すライブラリーをもたらした。より頻繁に観察される対は、Gearr
TMモチーフを含む協同的部位と考えられる。(A)このライブラリーにおいてMMP14について観察されたn=80の切断の中で、4回または5回観察されたアミノ酸の4つの協同的対が存在した。これらの協同的相互作用の共会合は、MMP14についてPXG|(M/L/I)YのGearr
TMモチーフをもたらし、Gearr
TMモチーフ位置M3、M1、M1’およびM2’ならびにそれらの位置内のアミノ酸がMMP14についての基質特異性を制御することを示す。(B)同じ方法を用いたMMP9の分析は、MMP9についてGearr
TMモチーフP(G/L)(S/G)|(I/R/M/L)X(S/A)をもたらし、Gearr
TMモチーフ位置M3、M2、M1、M1’およびM3’がMMP9についての特異性を制御することを示した。
【
図8】
図8は、外科的に切除された甲状腺乳頭癌および対応する非罹患組織から調製された馴化培地試料から同定された腫瘍選択的切断について生成された配列ロゴを示す。これらのデータは、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4を使用した実験2(
図3、アウトプット#3)におけるペプチダーゼプロファイリング活性アッセイから出力された。データは、この選択された切断セットが、腫瘍試料において一意的に観察され、対応する非罹患組織において観察されないものを表すという追加の工程を加えたことを除いて、実験1と同様に分析された。icelogoプログラムv 1.2を使用して、完全なライブラリーによって定義されるバックグラウンドモデルと比較して、切断された基質間で観察されるアミノ酸頻度を視覚化する配列ロゴを生成し、p=0.05でのパーセント相違として示した。このライブラリーで観察されたn=154の腫瘍選択的切断の中で、バックグラウンドを超えて濃縮され、3または4倍観察されたアミノ酸の6つの協同的ペアが存在し、MMP14 Gearr
TMモチーフと一致する2つを含んだ(
図7、パネルA)。これらの協同的相互作用の共会合は、YPTL|(I/F)YX(H/N)の腫瘍選択的Gearr
TMモチーフをもたらし、Gearr
TMモチーフ位置M4、M3、M2、M1、M1’、M2’、およびM4’、ならびにこれらの位置内のアミノ酸が、これらの甲状腺乳頭癌試料において腫瘍選択性を制御することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0127】
定義
本明細書中で引用される全ての参考文献は、完全に記載されているかのように、その全体が参考として援用される。
【0128】
本明細書において別段の定義がない限り、本出願に関連して使用される科学用語および技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。本開示は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、および試薬などに限定されず、したがって変化し得ることを理解すべきである。一般用語の定義は、以下から見つけることができ、Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3rd ed., J. Wiley & Sons New York, NY (2001); March, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 5th ed., J. Wiley & Sons New York, NY (2001); Michael Richard Green and Joseph Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA (2012); Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier Science Publishing, Inc., New York, USA (2012); Jon Lorsch (ed.) Laboratory Methods in Enzymology: DNA, Elsevier, (2013); Frederick M. Ausubel (ed.), Current Protocols in Molecular Biology (CPMB), John Wiley and Sons, (2014); John E. Coligan (ed.), Current Protocols in Protein Science (CPPS), John Wiley and Sons, Inc., (2005); and Ethan M Shevach, Warren Strobe, (eds.) Current Protocols in Immunology (CPI) (John E. Coligan, ADA M Kruisbeek, David H Margulies, John Wiley and Sons, Inc., (2003);これらの各々は、本出願において使用される用語の多くに対する一般的な指針を当業者に提供する。
【0129】
標準的な命名法が、天然アミノ酸およびそれらの略語について使用される。例えば、L-アラニンは、3文字略語Alaまたは1文字略語「A」で表される。示される場合、アラニンの「D」立体異性体は、D-Alaとして表される。
【0130】
標準的な命名法が、DNAの塩基について使用され、シトシン、グアノシン、アデニン、およびチミンは、「C」、「G」、「A」、および「T」として示され、DNAをコードするコドンは、標準的な遺伝子コードに従い、例えば、アミノ酸Leuは、TTA、TTG、CTT、CTC、CTA、またはCTGによってコードされ、Aspは、GATまたはGACによってコードされる。NNN、NNSまたはNNKとして記載される縮重DNAコドンは、オリゴヌクレオチドの合成に含まれる場合、4つの塩基C、G、AまたはTのいずれかが位置「N」に挿入され得るか、CまたはGが「S」に挿入され得るか、またはGまたはTが「K」に挿入され得ることを示す。
【0131】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の指示対象を含む。「含む(include)」、「などの(such as)」などの用語は、特に明記しない限り、限定することなく包含を伝えることを意図している。
【0132】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語はまた、具体的に別段の指示がない限り、列挙された要素「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」実施形態を具体的に含む。
【0133】
本明細書中で使用される場合、用語「協同性」とは、ペプチダーゼによる全体的な基質切断性に影響を与える基質配列中の他のさらなる部位におけるアミノ酸の同一性をいう。様々な位置におけるアミノ酸間の共起が考慮されない場合、協同性は失われるか、または無視される。
【0134】
本明細書で使用される場合、全体を通して同義的に使用される用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、別段の記載がない限り、共有結合によって少なくとも部分的に会合した複数のアミノ酸から形成される任意のポリマーを指す(例えば、本明細書で使用される「タンパク質」は、ペプチド結合によって会合したアミノ酸の直鎖状ポリマー(鎖)、ならびにペプチド鎖内または間の水素結合およびファンデルワールス結合などの他の形態の分子内および分子間会合を含み得る二次、三次、または四次構造を示すタンパク質の両方を指す)。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、特に明記しない限り、融合タンパク質を含む。融合タンパク質は、ポリペプチド内のそれらの相対的位置にかかわらず、複数(例えば、2つ以上)の異なるポリペプチドを含む任意のポリペプチドであり得る。
【0135】
本明細書中で使用される場合、用語「ペプチダーゼ」は、ポリペプチド内のペプチド結合を切断し得る酵素を意味し;このようなペプチド結合および少なくとも1つの隣接アミノ酸、またはこのようなペプチド結合を含むペプチド配列は、「基質配列」と呼ばれる。ペプチド結合を含むポリペプチドは、「ペプチダーゼ基質」である。ペプチダーゼ基質は、1つ以上のポリペプチドポリマーを含み得、そして1つ以上の非ポリペプチド部分を含み得る。このようなポリペプチドポリマーおよび非ポリペプチド部分は、共有結合または非共有結合で連結され得る。本明細書中で使用される場合、切断可能なペプチド結合は、ペプチダーゼ基質中の「切断可能結合」と呼ばれる。
【0136】
ペプチダーゼは、「エキソペプチダーゼ」または「エンドペプチダーゼ」と記載することができる。エキソ-ペプチダーゼは、ポリペプチド鎖のNまたはC末端で切断し、N末端から1、2、または3アミノ酸残基後のペプチド結合を切断する「アミノ-ペプチダーゼ」、および一般にC末端から単一アミノ酸残基を切断する「カルボキシ-ペプチダーゼ」を含む。エンドペプチダーゼは、ポリペプチドのNまたはC末端からより離れた部位で切断する。オメガ-ペプチダーゼは、エンド-ペプチダーゼとは異なり、NまたはC末端付近を切断するが、末端の荷電したアミノ基またはカルボキシル基の認識を必要としない。
【0137】
ペプチダーゼアッセイを記載するための標準的な命名法は、生化学的定義に従う。ペプチダーゼアッセイは、「基質」の切断および「産物」の形成をモニターし、「終点アッセイ」と呼ばれる単一の時点で、または「連続アッセイ」を使用して反応の過程にわたって複数の時点でモニターすることができる。エンドポイントアッセイを用いて、生成物形成の収率または基質の消失を測定し、連続アッセイを用いて、基質切断または生成物形成の速度を決定する。
【0138】
本明細書中で使用される場合、用語「基質ライブラリー」は、本明細書中で使用される場合、ペプチダーゼ切断スクリーニング実験において使用される一組のユニークな基質配列をいう。ライブラリーは、基質配列内で他の位置を一定に保持しながら所与の位置でのアミノ酸置換の効果を試験するための「位置走査」などの様々なアプローチを使用して設計することができる。「コンビナトリアルライブラリー」アプローチは、複数の位置が基質配列内で同時に変化するアプローチである。
【0139】
本明細書中で使用される場合、用語「配列多様性」は、配列間のアミノ酸差異の数および基質ライブラリー中の固有の基質配列の数の関数である定量値である。
【0140】
本明細書中で使用される場合、AlaunaTM法によって設計された「不偏ライブラリー」は、どの配列が含まれるかに関して偏りなく作製されたライブラリーである。不偏ライブラリー設計のために事前のデータは必要とされず、既知の基質配列および事前の特異性情報は意図的にこの設計に含まれない。代わりに、不偏ライブラリーは、特定の長さのポリペプチド配列内の2つ以上の位置または部位での全ての可能な設定でのアミノ酸の全ての可能な組み合わせを含有する、特定のレベルでの全ての協同的相互作用を含むように設計される。
【0141】
本明細書中で使用される場合、用語「薬理学的選択性」は、体内の他の部位(例えば、非罹患組織とは対照的に罹患組織)と比較して、所定の部位における薬物の増強された活性のレベルに関する。疾患選択性基質は、非疾患サンプルに対して疾患サンプルからペプチダーゼ活性によって選択的に切断される基質である。組織選択的基質は、治療薬によって標的とされる分子も発現し得る体内の他の場所に対して、標的とされる組織においてペプチダーゼによって選択的に切断される基質である。
【0142】
本明細書で使用される場合、薬理学的「特異性」という用語は、分子レベルでの認識および結合に関し、本明細書では、薬物が他のオフターゲット結合部位よりもその標的結合部位により強く結合する特異性を説明するために使用される。
【0143】
本明細書中で使用される場合、用語「基質特異性」は、酵素またはペプチダーゼのその基質に対する認識を記載するために本明細書中で使用される。ペプチダーゼに対する基質特異性は、基質配列を構成するアミノ酸の認識に関するものであり、2つ以上の異なる基質の切断性を比較するための相対値であり、典型的には、相対触媒速度、触媒効率、または切断の総量などの測定値の比として表される。
【0144】
いくつかの実施形態において、基質特異性は、2つ以上の基質をそれらの切断性について区別する、速度、効率、または総切断などの値の比として表される比較用語である。いくつかの実施形態において、基質特異性は、基質配列内の各位置で見出されるアミノ酸の「同一性」によって、およびペプチダーゼ基質の全体的なコンフォメーションによって決定される。
【0145】
本明細書中で使用される場合、用語「触媒効力」は、化学反応または生物学的アッセイにおいて投与されるペプチダーゼ基質の規定量(代表的には50%)が、規定の反応条件下で所定のペプチダーゼ調製物によって切断される濃度である。典型的には、触媒効力測定の目標は、定義された反応条件下で測定される、単一のペプチダーゼ調製物による切断のための2つ以上の固有の基質配列についての触媒効力値の間の差を定量化することである。
【0146】
「触媒効率」は、基質との酵素反応についての認識および化学機構特徴の両方を包含する定量的用語である。触媒効率は、典型的にはpH、温度、および緩衝液組成を含む定義された「反応条件」下で測定される、所与のペプチダーゼ調製物および所与の固有の基質配列について単一の値を提供する。生物学的サンプル由来の「ペプチダーゼ調製物」は、サンプル中で検出される総ペプチダーゼ活性に寄与する1つ以上の個々のペプチダーゼを含み得る。「ユニークな」基質配列は、基質配列を構成する所与の長さのアミノ酸のユニークなストリングを意味する。
【0147】
本明細書中で使用される場合、GearrTMモチーフは、1つ以上の既知または未知のペプチダーゼを含む個々のサンプルについての基質特異性を規定するために必要とされる、ペプチダーゼ基質配列内の最小セットのアミノ酸およびそれらの位置の同一性として規定される。本開示の例は、GearrTMモチーフから薬理学的に選択的なペプチダーゼ基質を構築する方法、ならびにこれらを治療用および診断用分子に組み込む方法について提供される。
【0148】
本明細書中で使用される場合、「候補基質配列」は、ペプチダーゼまたはペプチダーゼ調製物による切断についてまだ試験されていない任意の基質配列として定義される。候補基質配列は、1つ以上のGearrTMモチーフを組み込むように設計され得る。候補基質ライブラリーは、GearrTMモチーフおよびそれらの周囲の残基のバリエーションを含む2つ以上の候補基質配列を含む。
【0149】
本明細書中で使用される場合、ライブラリー設計のために使用されるアミノ酸「アルファベット」は、候補基質配列の成分であるアミノ酸のセットである。標準アルファベットは、20個の天然アミノ酸ならびに非天然アミノ酸を組み込むことができる。非天然アミノ酸には、ベータアミノ酸、ホモアミノ酸、プロリンおよびピルビン酸の誘導体、3-置換アラニン誘導体、グリシン誘導体、環置換芳香族アミノ酸、メチオニンを模倣するO-アルキル化セリン、N-メチルアミノ酸、天然アミノ酸の異性体、例えば、ノルバリンまたはノルロイシン、d-異性体アミノ酸などの多様な変異体が含まれる。アルファベット内のアミノ酸をそれらの物理化学的特性によってグループ分けし、候補基質配列の設計に組み込むためにグループ内からアミノ酸をランダムに選択することによって、縮小されたアルファベットサイズを使用することもできる。このような分類は、低分子量または高分子量、酸性または塩基性特性、H結合ドナー/アクセプター、芳香族または脂肪族、および求核性または求電子性などのアミノ酸の任意の化学的特徴によって定義することができる。本明細書中で使用される場合、用語「ブラケティング残基」は、ペプチダーゼ基質配列の外側の残基をいう。治療剤または診断プローブのための分子設計の状況において、これらの残基は、基質がペプチダーゼによって切断されることを可能にするペプチダーゼ基質配列に対する構造または他の機能的支持体を提供し得る。ペプチダーゼスクリーニングアッセイに関連して、これらのブラケティング残基は、質量分析によるライブラリー内のユニーク切断産物種の検出および同定を増強するように設計され得る。
【0150】
本明細書中で使用される場合、「治療指数」は、薬物が毒性である濃度と薬物が有効である濃度との間の比として定義される。
【0151】
本明細書で使用される場合、「非天然アミノ酸」は、20種の一般的なアミノ酸またはピロリジンもしくはセレノシステインのうちの1つではないアミノ酸を指す。「非天然アミノ酸」という用語と同義的に使用され得る他の用語は、「天然にコードされていないアミノ酸」、「天然でないアミノ酸」、「天然に存在しないアミノ酸」、ならびにそれらの様々にハイフンで結ばれたバージョンおよびハイフンで結ばれていないバージョンである。「非天然アミノ酸」という用語は、天然にコードされるアミノ酸(20種の共通アミノ酸またはピロリシンおよびセレノシステインを含む)の修飾によって天然に生じるが、それ自体は翻訳複合体によって伸長中のポリペプチド鎖に組み込まれないアミノ酸を含む。天然にコードされない天然に存在するアミノ酸の例としては、N-アセチルグルコサミニル-L-セリン、N-アセチルグルコサミニル-L-トレオニン、およびO-ホスホチロシンが挙げられる。さらに、「非天然アミノ酸」という用語は、天然に存在せず、合成的に得られ得るか、または非天然アミノ酸の修飾によって得られ得るアミノ酸を含む。
【0152】
本明細書で使用される場合、用語「キット」は、材料を送達するための任意の送達システムを指す。反応アッセイの文脈において、このような送達系は、反応試薬(例えば、適切な容器中のペプチド、オリゴヌクレオチド、酵素など)および/または支持材料(例えば、緩衝液、アッセイを行うための指示書など)の1つの場所から別の場所への貯蔵、輸送、または送達を可能にする系を含む。例えば、キットは、関連する反応試薬および/または支持材料を含有する1つ以上のエンクロージャ(例えば、箱)を含む。本明細書中で使用される場合、用語「断片化キット」は、各々が全キット成分の小部分を含む2つ以上の別個の容器を含む送達系をいう。容器は、意図されたレシピエントに一緒にまたは別々に送達され得る。例えば、第1の容器は、アッセイにおける使用のための酵素を含み得、一方、第2の容器は、オリゴヌクレオチドを含む。対照的に、「組み合わされたキット」は、単一の容器(例えば、所望の成分の各々を収容する単一の箱)中に反応アッセイの成分の全てを含有する送達系を指す。「キット」という用語は、断片化されたキットおよび組み合わされたキットの両方を含む。
【0153】
本明細書中で使用される場合、用語「固体支持体」とは、生物学的分子(例えば、ペプチド)の結合に適切な任意の固体構造または半固体構造をいう。固体支持体は、平坦または単一の構造である必要はなく、球形(例えば、ビーズ)を含む任意のタイプの形状であってもよい。固体支持体は、任意の形式で配置され得る。いくつかの実施形態において、固体支持体は、マイクロアレイ(例えば、フラットスライド)、多重ビーズアレイ、またはウェルアレイとして配置される。さらに、固体支持体は、任意の適切な材料(シリコン、プラスチック、ガラス、ポリマー、セラミック、フォトレジスト、ニトロセルロース、およびヒドロゲルが挙げられるが、これらに限定されない)から作製され得る。いくつかの実施形態において、固体支持体は、ニトロセルロース、シリカ、プラスチック、またはヒドロゲルである。
【0154】
以下の非限定的な実施例は、本開示の様々な態様を例示するために提供される。全ての参考文献、特許、特許出願、公開された特許出願などは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0155】
当技術分野におけるペプチダーゼ切断性基質を得るための低多様性スクリーニング取り組み
いくつかのペプチダーゼ基質配列が、低配列多様性スクリーニング取り組みを使用して当該分野で同定されている。いくつかの例示的なペプチダーゼ基質配列を表1に列挙する。当該分野において報告されている多数のペプチダーゼ基質配列が存在するが、本開示において以下に記載される現在の方法論において同定される特定の制限に起因して、疾患または組織選択的切断のための治療用分子および診断用分子の設計に操作され得るペプチダーゼ切断可能基質配列を同定することが、薬学分野においてかなり必要とされている。
【0156】
表1:当技術分野で同定された例示的なペプチダーゼおよびペプチダーゼ基質配列
【表1】
【0157】
※アミノ酸配列は、天然L-アミノ酸については標準的な1文字コードで、非天然アミノ酸D-アラニン(D-Ala)、D-バリン(D-Val)、D-フェニルアラニン(D-Phe)、β-アラニン(β-Ala)、シトルリン(Cit)、およびホモフェニルアラニン(Hof)については3文字コードで提供される。他の略語:ピペリジン(Pip)、メチル(me)、およびX=任意のアミノ酸。
【0158】
表1中のいくつかの基質は、FAP、レグマインおよびプラスミンなどについての低配列多様性スクリーニング取り組みから同定された。ペプチダーゼFAPの基質TSGPNQEQKは、候補に基づくアプローチで同定され、FAPの既知の生理的基質であるタンパクα-2-抗プラスミンに由来する天然配列である(Lo et al., 2009; Edosada et al., 2006)。レグマインのAANまたはPTNを含有する基質配列も候補ベースのアプローチで同定され、蛍光発生ペプチド基質を用いた初期の研究において限られた数の代替基質配列から選択された(Chen et al., 1997; Rotari et al., 2001)。プラスミンについての基質配列、(D-Ala)-FK and (D-Val)-LKは、ペプチダーゼ活性についての候補に基づく試験を使用して、蛍光発生基質の狭い配列多様性内でも同定された(Cs.-szabo et al., 1980; Clavin et al., 1977).。 PS-SCLを用いて、それぞれカスパーゼ3およびIL1β変換酵素の基質DEVDおよびWEHDを同定した(Thornberry et al., 1997)。
【0159】
あるいは、コンビナトリアルディスプレイライブラリースクリーニングは、より大きな配列ライブラリーから基質(例えば、MMP14およびuPA)を生成した(表1)。配列RIGFLRを含有するMMP14の基質を、6つの無作為化配列位置を組み込んだファージディスプレイライブラリーを使用して同定し、これをELISAによってスクリーニングして、最大切断収率を有する基質配列を同定した(Kridel et al, 2002)。しかし、この高度に切断された基質は、異なるシステムにおけるコンビナトリアルライブラリーディスプレイによって同様に同定された、PLGLQRを含む別の基質配列と、基質配列内の6つの同一残基のうち2つのみを共有した;後者の場合、基質配列中のさらなる位置を調査する細菌ディスプレイが使用され、そして基質は、最も迅速に切断されるものについてスクリーニングされた(Jabaiah and Daugherty, 2011)。これは、ライブラリー設計およびスクリーニングの仕様が、出力基質配列に劇的に影響し得ることを実証する。
【0160】
類似の細菌ディスプレイアプローチを使用して、uPAの基質(LSGRSDNH)が、およそ108個のランダム8マー基質配列を含有すると記載されたライブラリーを使用して同定された(Stagliano et al. United States Patent: 9453078B2 - Modified antibody compositions, methods of making and using thereof. (2016))。このライブラリーサイズは大きいように見えるかもしれないが、これは、この配列空間を完全に探索するために必要とされるクローン数の1/10,000未満であり(Clackson & Wells, 1994)、ライブラリー設計における制限に起因して迅速な切断のためのより適切な配列を省略する可能性が高い。配列LSGRSDNHはまた、各工程でスクリーニングプールから配列を徐々に排除する連続スクリーニング工程から得られた(Stagliano et al. United States Patent: 9453078B2 - Modified antibody compositions, methods of making and using thereof. (2016))。続いて、残存配列LSGRSDNHを、候補アプローチにおいてレグマイン、マトリプターゼまたは他のペプチダーゼによる切断について試験したが、これらの酵素は、完全なライブラリーに対してスクリーニングしなかった。これは、一連の個々のペプチダーゼをスクリーニングするためのこのようなコンビナトリアルライブラリーアプローチの2つの重要な制限を実証する。第1に、限定された配列ライブラリーが使用される場合、潜在的に大きな配列空間が省略され、そして第2に、各スクリーニング工程において切断された基質配列のサブセットのみを同定することに焦点を当てることによって、配列空間における配列変異体についての必須情報が、所望のペプチダーゼのセット内で全体的により有利に切断される基質を同定するために失われる。限定されたライブラリーを用いる連続スクリーニングの仕様は、限定された結果を生じる。
【0161】
候補に基づく方法、PS-SCLなどの部分特異性決定方法、およびコンビナトリアルライブラリースクリーニング方法を含むこれらの方法はすべて、選択的ペプチダーゼ基質同定問題の全範囲に対処するには不十分である。第1に、彼らは全て、高度に特異的な基質を有する個々のペプチダーゼを標的とし、最も完全なまたは最も迅速な切断を有する基質を選択することによっても、疾患または組織選択的な基質が得られると仮定している。第2に、現在のライブラリースクリーニングアプローチは、最終的に、それらが探索する配列空間およびそれらが生成する情報内容において制限され、これは、選択的ペプチダーゼ基質の直接的同定のための機会を逃している。
【0162】
実際、単一のペプチダーゼが、標的疾患組織において排他的に発現され、活性であることはなく、各ペプチダーゼに対して1つの完全に特異的な基質を見出すという概念は、ほとんどのペプチダーゼに対して既に知られている広範囲の基質を考えると、非常にありそうもない(Rawlings et al., 2016)。たとえ可能であったとしても、単一のペプチダーゼを独自に標的とする特異的基質は、最適な疾患または組織選択的基質を生じることが保証されない。代わりに、疾患選択的ペプチダーゼ基質のパラダイムは、本明細書において、非罹患組織または健常組織よりも標的疾患組織においてより効果的に切断される基質として再定義される。このような基質は、各々が個々の切断速度および効率で協調して作用する複数のペプチダーゼによって切断され、標的適用に必要とされる特定のレベルを満たさなければならない全体的な切断収率を相加的に生じる。
【0163】
一方、ペプチダーゼ活性プロファイリングのためのAlaunaTM法は、複合的な生物学的に誘導された試料からのペプチダーゼ調製物の試験に適応するように設計されており、個々のペプチダーゼによるスクリーニングに限定されない。薬理学的に選択的な切断情報を複数の試料から抽出することができるのは、これらの複合サンプルの比較分析による。
【0164】
ペプチダーゼ基質配列を得ることに関する当該分野における問題は、単純に不完全かつ不正確な情報として最もよく要約される。基質配列が、設計によって(例えば、配列空間を非常に狭く検索することから、または偏ったアミノ酸組成から、または個々の基質配列の不安定性に起因する偶然によって)スクリーニングライブラリーから失われている場合、特定の高度に切断可能なペプチダーゼ基質は、ライブラリースクリーニングプロセスによって省略または抑制され得る。偏りは、ディスプレイタンパク質をコードするDNAにおいて配列変異体を産生するために縮重コドンを使用するコンビナトリアルディスプレイライブラリー設計における公知の問題である。例えば、縮重NNSまたはNNKコドンは、表1において同定される基質のいくつかについてのコンビナトリアルディスプレイライブラリーを生成するために使用される(Matthews and Wells, 1993; Daugherty and Boulware United States Patent: 7666817 - Cellular libraries of peptide sequences (CLiPS) and methods of using the same. (2010); Kridel et al., 2002; Stagliano et al. United States Patent: 9453078B2 - Modified antibody compositions, methods of making and using thereof. (2016))。NNSおよびNNK縮重コドンは、20個すべての天然アミノ酸ならびに単一の終止コドンをコードし、各NNSまたはNNKコード位置にランダムに組み込まれる。しかしながら、終止コドンのランダムな挿入は人工的な切断産物を生成する可能性があり、システインのランダムな組み込みは酸化および不安定化を受けやすいポリペプチド種を生じる可能性があるため、この方法は不完全なライブラリーを生成する。補償するために、より多数の形質転換されたクローンを日常的に調製して、全ての配列変異体がライブラリーにおいてコードされる確率を増加させる(Clackson and Wells, 1994)。これは、代替縮重コドンを有する個々のDNAプライマーのコンピューター設計を使用すること(Tang et al., 2012)、または事前知識に基づいてより狭い配列多様性を有するライブラリーを設計すること(Mena et al., 2005)などの、偏りを低減するのに役立ち得る次善の解決策を必要とする。
【0165】
一方、ライブラリー設計のためのAlaunaTM法は、ランダム突然変異誘発合成ライブラリーではなく、定義された合成ライブラリーを使用して、アミノ酸組成において偏りがなく、ライブラリーの設計された配列多様性を完全にカバーする配列ライブラリーを生成し、それによって、各固有の基質配列にライブラリー内の他のものと競合する均一な機会を与える。
【0166】
現在実施されているPS-SCLおよびコンビナトリアルディスプレイライブラリースクリーニングに関する別の問題は、特異性情報が不完全または不正確であることである。PS-SCLおよび関連する方法について、切断された切断可能な結合に対して基質配列内の限られた数の位置のみが探索され得、スクリーニングプロセスにおいて、個々の基質の配列は決定されない。コンビナトリアルディスプレイライブラリーにおいて、焦点は、最も迅速にまたは最高収率で切断された基質を見出すために、大きなライブラリーを通して移動することにある。これらの方法は、最大に切断されたクローンのセットのみを報告し、切断されなかったか、または発現系において欠損し得るクローンのネガティブセットは報告しない。特定の基質が不溶性などの理想的でない挙動を有するか、またはそれらが凝集しやすい場合、それらがペプチダーゼアッセイにおいて存在しないとき、それらは非切断セットに誤って割り当てられ得る。低存在量の切断もまた、これらのスクリーニングアプローチによる検出の閾値に依存して見逃される。従って、ほとんどの場合、個々に切断された基質の配列は、コンビナトリアルディスプレイ法によって濃縮または選択されたクローンの限定されたサブセット上でのみ決定されるか、または配列情報は、アミノ酸頻度情報が抽出された後に廃棄され得る。
【0167】
現在、実験的スクリーニングプロセスにおいて、偏り、調査され得る基質配列位置における制限、または配列情報の損失なしに、基質切断を正確に測定するライブラリーベースの方法を用いてペプチダーゼ活性をスクリーニングするために利用可能な公開された方法は存在しない。
【0168】
一方、AlaunaTM法は、2つの方法で配列データ情報内容を増加させるためのライブラリースクリーニングの仕様を提供する。第1に、AlaunaTM法は、基質配列内の切断部位を同定し、データ分析に必要な必須の位置登録を提供する。第2に、AlaunaTM法は、高、中、または低切断から非切断基質配列のセットまでの切断効率の全範囲にわたるユニークな基質配列のセットの同定を特定する。標的化された疾患組織と非疾患組織または健常組織との間の薬理学的に選択的な切断についての比較を可能にするのは、ライブラリー内の全ての他のユニークな基質に対する基質配列のこれらのセットについての切断の速度および収率の定量的分析である。
【0169】
最後に、全てのライブラリースクリーニング方法について、現在、ファージディスプレイプラットフォームを使用するコンビナトリアルディスプレイライブラリーにおいて10
10個のユニーククローンのオーダーであり、細菌ディスプレイプラットフォームを使用すると10
8個のオーダーであるライブラリーサイズについての実際的な技術的限界が存在する。実際には、これらのコンビナトリアルディスプレイ法は、コドンの偏りおよびライブラリー生成における非効率性に悩まされ、したがって、わずか5~7つの可変部位の完全な配列多様性をカバーすることができる(
図1)(Clackson & Wells, 1994)。
【0170】
ライブラリー構築における非効率性は別として、8つの位置は、特に複数のペプチダーゼが基質切断に含まれる場合、治療および診断適用のための選択的ペプチダーゼ基質を規定するには不十分である。多くの個々のペプチダーゼは、それらの基質特異性を規定するために約2つのアミノ酸残基を必要とするが、最も特異的なペプチダーゼは、しばしば、6、7、8またはそれ以上の残基の基質配列を必要とする(Rawlings et al., 2016)。
【0171】
したがって、選択的ペプチダーゼ基質設計のためには、長さが8個以上のアミノ酸であり、複数のペプチダーゼの複数の基質配列を8~30個以上のアミノ酸長であり得るハイブリッド基質配列に組み込むことができる基質配列を収容するために、より大きな配列多様性ライブラリーへのアクセスを有することが望ましい。これらの目標を達成するためには、ライブラリー設計によるより大きな配列空間の探索のためのより効率的な方法を有することが必要である。
【0172】
選択的ペプチダーゼ基質配列同定のためのAlaunaTM法は、基質配列内の全ての位置におけるアミノ酸のセット間の協同性を直接試験することによって、配列空間をより効率的に検索する完全に新規なアプローチである。AlaunaTM法を分析して、陽性および陰性の両方の特異性情報を含み、選択的ペプチダーゼ基質設計に用いることができるGearrTMモチーフを抽出する。この方法は、より大きな基質配列空間をスクリーニングするために十分に規定されたライブラリーにおいてより少ない基質配列を必要とし、実際的なライブラリーサイズの制限を克服し、そして疾患選択的、組織選択的、および/または細胞選択的基質配列を発見するためのより効率的な方法を提供する。
【0173】
AlaunaTM方法
本発明は、酵素基質特異性をプロファイリングするための、例えばペプチダーゼに対する認識配列を決定するためのライブラリーおよび方法を提供する。ペプチダーゼの基質特異性は、その生物学的活性をしばしば支配する重要な特徴である。基質特異性の知識は、例えば、所定のペプチダーゼに対する高分子基質を同定するのに役立ち得、従って、その生物学的活性を明らかにする。基質特異性はまた、強力かつ選択的な基質および阻害剤の設計および生成を導くことができる。従って、本発明は、基質特異性をプロファイリングするための方法およびライブラリーを提供する。
【0174】
ライブラリーを作製する方法も提供される。一例として、本開示のペプチダーゼ基質ライブラリーは、ペプチダーゼの完全な基質プロファイルを得るのに有用である。例えば、位置走査技術は、本発明の方法およびライブラリーを使用して使用され得る。本発明は、新規ライブラリーおよびそれらを構築する方法、ならびに酵素をプロファイリングする新規方法を提供する。例えば、切断部位のいずれかの側の基質配列に対するアミノ酸優先性を決定するための新規プロファイリング方法が提供される。
【0175】
一般に、ステップは以下の通りである。
ステップ1:
A. 入力仮説(インプット#1)、例えば、薬物標的および/または標的ペプチダーゼまたはそれらの存在量および活性に基づくペプチダーゼのセットなどの疾患に対する治療標的。(選択対象)
1)標的疾患、組織、もしくは細胞型に関連する分子もしくは受容体などの薬物標的、および/または
2)標的疾患、組織または細胞型に関連する標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセット。
B. インプット#1の条件をセットする。
(i)条件#1:薬物の作用部位。
(ii)条件#2:非罹患組織または健常組織における薬物標的の発現。
(iii)条件#3:健康な組織におけるペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットの発現。
C. データセット:インプット#1に対して収集されるデータのタイプ。
(i)データセット#1:例えば、対象-遺伝子データ、定量データ等に関する情報である。
(ii)データセット#2:例えば、基質に関する情報。
(iv)データセット#3:例えば、細胞内位置、活性などに関する情報。
(v)遺伝的データ、定量的データなどを含む。
D. データセットからの情報が抽出され、処理され、スコア付けされる。
E. 基準マトリックス:入力仮説(インプット#1)を評価および修正し、例えば、ペプチダーゼ切断可能基質設計の文脈において疾患または組織選択性の特定のレベルを満たすと仮定される標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットを選択する。
ステップ2:
A. データセットの分析から同定された標的について発見実験を行う。結果は、アウトプット#1、2および3として識別される。
B. 各アウトプット#1、2、および3のデータを分析する。
C. アウトプット#4分析からGearrTMモチーフのセットを生成する。
ステップ3:
A. アウトプット#4分析からのGearrTMモチーフをシード配列として使用し、すべての可能な順列で配置した、洗練されたライブラリーのコンピューター設計。
B. より洗練されたライブラリーを生成するためのさらなる配列変異体の組み込みは、GearrTMモチーフ内のさらなる位置での優先性についてのさらなる特異性情報を提供する。
ステップ4:
A. 洗練されたライブラリー生成。
B. データセットの分析から同定された標的を含有する試料に対してスクリーニング実験を行う。結果はアウトプット#5として識別される。
C. 選択性についてアウトプット#5のデータを分析する。
D. 切断可能な基質配列のセットを生成する。結果はアウトプット#6として識別される。
ステップ3および4は、さらに洗練化を生成するために繰り返され得る。
【0176】
したがって、いくつかの実施形態において、AlaunaTM法は、ペプチダーゼ切断可能基質配列の発見および開発に有用である。
【0177】
いくつかの実施形態において、AlaunaTM法は、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列の発見および開発に有用である。
【0178】
いくつかの実施形態において、Alauna
TM法は、これらの基質に必要とされる選択性に依存して、基質配列を得るための複数の経路を有する1つ以上の成分法を含む。これらの方法による例示的な線形経路が
図3に描かれている。概して、この方法は、仮説生成(ステップ1)から、発見(ステップ2)、設計(ステップ3)、および評価(ステップ4)に進む。
【0179】
一部の実施形態では、AlaunaTM法は、プロセスにおける各ステップ、および/または治療剤もしくは診断ツール開発プログラムをサポートするための既存のデータの収集のための実験方法および使用のための計算方法を含む。
【0180】
一態様において、ペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築する方法が提供され、この方法は、以下の工程を含む:
(vi)ペプチドまたはタンパク質の不偏ライブラリーを提供する工程であって、前記ペプチドまたはタンパク質が基質配列を含み、前記ライブラリーの設計が、規定された残基数および基質配列の長さについて所与の配列空間内の少なくとも2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸残基間のすべての可能な協同的相互作用を評価するための数学的モデリングの結果である工程;
(vii)ペプチダーゼの存在下でライブラリーをインキュベートし、ペプチダーゼにライブラリー内のペプチドまたはタンパク質を切断させて、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団を形成させる工程;
(viii)GearrTMモチーフを得るために、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団をスクリーニングする工程;
(ix)計算アルゴリズムを使用してGearrTMモチーフを抽出する工程;
(x)洗練されたペプチダーゼ切断可能基質配列ライブラリーをGearrTMモチーフから構築する工程であって、基質配列が少なくとも1つのペプチダーゼによって切断され得る工程。
【0181】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、以下の工程を含むペプチダーゼ切断可能基質を得る方法である:
(iii)本開示において上記されるようにペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築する工程;
(iv)少なくとも1つのGearrTMモチーフを含む個々のペプチダーゼ切断可能基質であって、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つのペプチダーゼによって選択的に切断され得る基質を選択する工程。
【0182】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、以下の工程を含む、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得る方法である:
(v)本開示において上に記載されるようなペプチダーゼ切断可能基質を得る工程;
(vi)任意選択で、ブラケティング残基を同定する工程であって、ブラケティング残基は、候補の疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質の外側の上流および/または下流の位置に位置する工程;
(vii)候補ペプチダーゼ切断可能基質を、少なくとも1つの疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼと接触させる工程;
(viii)候補基質配列の切断を評価および検証し、それによって疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得る工程。
【0183】
いくつかの実施形態において、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を得ることは、治療および/または診断用途に有用である。
【0184】
いくつかの実施形態において、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を得ることは、治療剤および/または診断ツールにおける使用のためである。
【0185】
以下では、ペプチダーゼ切断可能基質配列を得る方法、または疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を得る方法をAlaunaTM法と呼ぶ。
【0186】
AlaunaTM法は、候補ペプチダーゼ切断可能基質配列内の全ての位置におけるアミノ酸のセット間の協同性を直接試験することによって配列空間を効率的に検索する新規なアプローチである。
【0187】
AlaunaTM法は、より大きな基質配列空間をスクリーニングするために十分に規定されたライブラリーにおいてより少ない基質配列を必要とし、実際的なライブラリーサイズの制限を克服し、そしてそれは、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を発見するためのより効率的な方法を提供する。
【0188】
いくつかの実施形態において、切断された基質および切断されていない基質の集団のスクリーニングは、配列決定法によって異なる時点で切断産物の存在量を定量的に測定することを含む。
【0189】
別の実施形態において、切断された基質および切断されていない基質の集団のスクリーニングは、配列決定法による各個別のペプチドについての切断可能な結合の分析および同定をさらに含む。
【0190】
いくつかの実施形態では、配列決定方法は、質量分析に基づくプロテオミクス分析、示差蛍光、示差免疫検出、次世代配列決定技術、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0191】
いくつかの実施形態において、AlaunaTM法は、協調的相互作用を直接試験するライブラリー内の配列多様性を最大化するための基質配列ライブラリー設計のための方法を含み、ペプチダーゼ基質設計に利用可能な全配列空間のより効率的な探索を可能にする。
【0192】
いくつかの態様において、AlaunaTM法は、正確な基質特異性情報を達成するためのスクリーニング工程を含む。
【0193】
いくつかの実施形態において、基質特異性情報は、GearrTMモチーフを同定するために分析され、これは、1つ以上の既知または未知のペプチダーゼを含む個々のサンプルについて特定の閾値で基質特異性を定義するために必要とされる、ペプチダーゼ基質配列内のアミノ酸およびそれらの位置の最小セットの同一性として本明細書において定義される。GearrTMモチーフから薬理学的に疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を構築する方法、およびこれらを治療剤および診断ツールに組み込む方法の例が提供される。
【0194】
いくつかの実施形態において、AlaunaTM法は、これらの基質に必要とされる選択性に依存して、最終ペプチダーゼ基質を得るための複数の経路を有する1つ以上の成分法を含む。いくつかの実施形態において、本発明の方法およびライブラリーを使用して、位置走査技術が使用され得る。
【0195】
本発明の一態様によれば、ライブラリースクリーニング工程を含むAlaunaTM方法は、配列データ情報内容を増加させる。
【0196】
1つの実施形態において、スクリーニング工程は、切断されたペプチドまたはタンパク質および切断されていないペプチドまたはタンパク質の集団を分析する工程を包含する。
【0197】
1つの実施形態において、AlaunaTM法は、候補基質配列内の切断部位が同定されることを特定し、データ分析に必要とされる必須の位置登録を提供する。
【0198】
別の実施形態において、AlaunaTM法は、高切断、中切断、または低切断から非切断基質配列のセットまでの切断効率の全範囲にわたるユニークな候補基質配列のセットの同定を含む。標的疾患組織と非疾患組織または健常組織との間の薬理学的に選択的な切断についての比較を可能にするのは、ライブラリー内の全ての他のユニークな候補基質に対する候補基質配列のこれらのセットについての切断の速度および収率の定量的分析である。
【0199】
いくつかの態様において、ペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーは、2アミノ酸~200アミノ酸の範囲の異なるサイズの一連のペプチドまたはタンパク質を含有するペプチドまたはタンパク質ライブラリーである。いくつかの態様において、ペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーは、異なるサイズのペプチドまたはタンパク質を含有する混合ライブラリーである。
【0200】
不偏ライブラリーおよびスクリーニング方法
いくつかの実施形態において、ライブラリー設計のためのAlaunaTM法は、アミノ酸組成において偏りのない配列ライブラリーを作製するために、ランダム突然変異誘発合成ライブラリーではなく、定義された合成ライブラリーの使用を含む。AlaunaTM法は、ライブラリーの設計された配列多様性をカバーするのに有用であり、それによって、各ユニークな基質配列に、ライブラリー内の他の配列と競合する機会を与える。
【0201】
不偏ライブラリー設計の目標は、規定された配列空間内に全てのアミノ酸を配置して、ライブラリーにおいて表される固有のGearrTMモチーフの数を最大化することである。ペプチダーゼ切断可能基質の長さが増加することが許容されるので、これは、ユニークなGearrTMモチーフが配列内に構成され得る方法の数、およびユニークなGearrTMモチーフがライブラリー内に提示される異なる状況の数を増加する。
【0202】
一部の実施形態では、不偏ライブラリーサイズは、ライブラリーの配列空間を定義するために以下のパラメーターを考慮することによって決定される:(i)リンカー配列内で変化することが可能な位置の数、(ii)GearrTMモチーフに含まれる位置の数、および(iii)基質において使用され得るアミノ酸の組成。次いで、これらのアミノ酸を基質配列空間内に系統的に配置して、不偏ライブラリーを作製するためにリンカーにわたる様々な位置で作製することができる固有のGearrTMモチーフの数を最大化する。
【0203】
一部の実施形態では、不偏ライブラリーは、GearrTMモチーフを同定するためのものである。
【0204】
いくつかの実施形態において、ライブラリー設計アプローチは、2つ、3つ、またはそれ以上の残基間の協同的相互作用を組み込む。不偏ライブラリーは、規定された数の残基および基質配列の長さについて、所定の配列空間内の全ての可能な設定で配置されたアミノ酸の全ての可能な組み合わせを含むライブラリーである。
【0205】
いくつかの態様において、スクリーニング方法は、高い切断、中程度の切断、および低い切断を有する基質配列の少なくとも2つ、3つ、4つ、またはそれ以上のサブセット、ならびに切断されることが検出されなかった配列のサブセットを分析する工程を含む。
【0206】
いくつかの態様において、スクリーニング方法は示差蛍光法、示差免疫検出法、次世代シーケンシング(NGS)法、質量分析シーケンシング法などの検出プラットフォームを利用することができ、これらは、反応中の時点における切断生成物の存在量を定量的に測定することができる。これらのデータの速度論的分析は、標準的な酵素活性モデリングを使用して、反応における固定された時点での触媒効率(kcat/KM)、触媒速度(典型的には、Vmaxとして、または初速度もしくは観察速度kobsとして測定される)、または触媒効力(消費された基質もしくは形成された生成物のパーセンテージ収率として測定される)のいずれかを計算することができる。
【0207】
いくつかの実施形態において、ライブラリーのサブセットはまた、生物学的ディスプレイプラットフォームが基質ライブラリーを構築するために使用される場合、NGS配列決定を使用して、または基質ライブラリーが合成である場合、タンパク質レベルで基質配列を同定するために質量分析ベースのプロテオミクス分析を使用して、全長基質配列を決定するために、DNAまたはタンパク質レベルで基質配列決定に供され得る。
【0208】
いくつかの実施形態において、切断部位(すなわち、切断可能な結合)は、切断産物の配列分析のための必須の登録を提供するために、ライブラリーの切断されたサブセットの各々についての質量分析に基づくプロテオミクス分析を使用して、個々の基質配列の各々について同定される。
【0209】
いくつかの実施形態において、不偏ライブラリーは、2アミノ酸~200アミノ酸の範囲の異なるサイズの一連のペプチドまたはタンパク質を含有するペプチドまたはタンパク質ライブラリーである。一部の実施形態では、不偏ライブラリーは、異なるサイズのペプチドまたはタンパク質を含有する混合ライブラリーである。
【0210】
いくつかの実施形態において、不偏ライブラリーは、任意の天然または非天然アミノ酸から構成され得る。
【0211】
一実施形態において、ポリペプチド配列の不偏ライブラリーは、Alauna
TM法を使用して、以下の19個のアミノ酸:A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、およびYから構成されるように設計されたが、Cは酸化する傾向があるため除外された。このライブラリーの全組成に対する各アミノ酸の寄与は、1/19、すなわち5.26±0.15%であった。変化するように設計された位置の数は10であり、各アミノ酸は、
図6、パネルAに示されるように、5.26±0.15%の平均位置頻度で基質配列ライブラリー内の各位置に現れた。さらに、ライブラリーは、9つの位置の最大長さ内に全ての3つの位置Gearr
TMモチーフを含むように設計され、不偏ライブラリー設計内に2×10
5のユニークな基質配列のライブラリーサイズを有するAlauna
TM法不偏ライブラリー3.9をもたらした。
【0212】
いくつかの実施形態において、不偏ライブラリー中のペプチド配列は、標準的な固相ペプチド合成法を用いて合成される。これらの配列を有するポリペプチド配列の産生のための任意の方法もまた、ライブラリーを生成するために使用され得、これらの方法としては、他の化学的方法(例えば、液相ペプチド合成およびネイティブ化学ライゲーション法)、無細胞翻訳およびタンパク質合成、ポリペプチド発現のための組換え技術、または遺伝的にコードされたタンパク質もしくはペプチドライブラリーディスプレイが挙げられる。
【0213】
いくつかの実施形態において、不偏ライブラリー中の基質配列は、ファージ、細菌または哺乳動物発現系から選択され得る生物学的ディスプレイ系の状況内で構築される。このシナリオでは、AlaunaTM法ライブラリーの基質配列は、表面発現足場タンパクの配列に組み込まれる。ライブラリーは、それらをコードするオリゴヌクレオチド配列の合成を特定するアミノ酸配列を用いてタンパク質レベルで設計される。合成オリゴヌクレオチドプライマーは、重複する遺伝子断片をアセンブルし、AlaunaTM法ライブラリーをコードする合成オリゴヌクレオチドを生物学的ディスプレイプラットフォームシステムに効果的に挿入するために、Gibsonクローニング技術(Gibson et al., 2009)を使用するなど、分子クローニングの原理を使用して設計される。表面ディスプレイシステムが構築されたら、配列決定実験をAlaunaTM法ライブラリー配列インサートを含有する領域に集中させることによって、NGSゲノム配列決定を使用してライブラリーの完全性を試験する。システムの品質管理の目標は、ライブラリーが99.9%完全であることであり、これはAlaunaTM法データ分析の重要な特徴である。
【0214】
いくつかの実施形態において、不偏ライブラリー設計が、アミノペプチダーゼまたはカルボキシペプチダーゼの分析に適用される。これらの重要なペプチダーゼの例としては、カテプシンB、FAP、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)、および重要なシグナル伝達カスケードを処理する他のペプチダーゼ、例えばペプチドホルモンプロセシング、MHCによる提示のための免疫ペプチドプロセシングを制御するもの、またはアミロイド前駆体タンパク質をアルツハイマー病においてプラークを形成するA-ベータ形態に処理するアルファ、ベータおよびガンマセクレターゼなどの疾患機構を制御するものが挙げられる。これらのペプチダーゼは、治療介入の直接的な標的であり得るか、または治療分子の活性化または不活性化のための手段であり得る。全ての場合において、それらが小分子に隣接するポリペプチド結合を切断することが意図される場合、不偏ライブラリーは、これらのペプチダーゼ基質配列を考慮して設計され得る。これらの分子は、非天然アミノ酸を組み込んだ固相ペプチド化学を用いて合成することもできるので、非常に大きなアクセス可能な配列空間を有する。そのような基質配列の設計パラメーターには、合成基質配列内の可変位置の数、合成基質配列外の可変位置の数、合成基質配列と治療部分との間の共有結合の位置、および小分子への共有結合の位置が含まれる。
【0215】
いくつかの実施形態において、基質スクリーニングのためのAlaunaTM法は、データ分析からの切断可能な結合の同定を含む。
【0216】
いくつかの実施形態において、部位同定のための好ましい方法は、質量分析によるペプチドベースの配列決定を使用することである。現代の機器は、タンデム液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS/MS)検出を使用し、典型的には、ほとんどの実験において分離および陽イオンモード検出のために逆相クロマトグラフィーを採用する。この場合、LC-MS/MSによる検出にも適しているスクリーニングアッセイのためのペプチダーゼ基質を設計することが重要である。
【0217】
GearrTMモチーフ
「GearrTMモチーフ」という用語は、ここでは、存在するアミノ酸の同一性が、酵素による切断可能な結合切断の速度に対して測定できる有意な正または負の効果を有する、酵素と相互作用する酵素基質配列内の2つ以上のアミノ酸位置の最小セットとして定義される。特定の実施形態において、酵素はペプチダーゼである。このようにしてアミノ酸の全ての可能な組み合わせを考慮することによって、協同的相互作用について試験することが可能である。
【0218】
いくつかの実施形態において、計算アルゴリズムを使用してGearrTMモチーフを抽出することは、ライブラリーの基質配列内の特定の位置に見出される2つ以上のユニークアミノ酸間の協同性を測定することを含む。
【0219】
いくつかの実施形態において、GearrTMモチーフは、陽性および陰性の両方の特異性情報を含む。
【0220】
いくつかの実施形態において、GearrTMモチーフは、ペプチダーゼ切断可能基質を得るために有用である。他の実施形態において、GearrTMモチーフは、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得るために有用である。
【0221】
Gearr
TMモチーフ内のアミノ酸位置は、
図4に図示されるように、切断可能な結合からの距離とともに増加するインデックス番号で番号付けされる。N末端方向において、Gearr
TMモチーフ位置は、M1、M2、M3、M4などと番号付けされ、そしてC末端方向において、モチーフ位置は、M1’、M2’、M3’、M4’などと番号付けされる;従って、ペプチダーゼについての切断可能な結合は、モチーフ位置M1とM1’との間である。例えば、ヒトトリプシンについてのGearr
TMモチーフは、位置M1およびM1’によって規定され、ここで、その公知の基質配列の99%は、M1においてArgまたはLysのいずれかを含み、そしてその基質の1%未満は、位置M1’におけるProで切断する(Rawlings et al., 2016)。トリプシンはエンドペプチダーゼであり、より長い基質配列を収容する基質結合ポケットを有するが、M1およびM1’の外側の位置は、これらの部位における20個の天然アミノ酸のいずれかとの置換が、互いの約10倍以内である触媒効率値の範囲内で全てが切断され得る基質配列を産生するので、このGearr
TMモチーフの一部ではない(Clavin et al., 1977)。従って、Gearr
TMモチーフを同定することによって得られる結果は、ペプチダーゼについての基質配列設計のための単純な一連の規則を提供することである。
【0222】
いくつかの実施形態において、重複性の概念は、各Gearr
TMモチーフが不偏ライブラリー内で表される回数を記載するために使用される。例えば、残基の対(G、P)は、A=GlyおよびB=Proである場合、Alauna
TM法不偏ライブラリー3.9において60回表され、それらは、ABとして示される隣接位置において見出された。AXXB位(X=任意のアミノ酸残基であり、A位およびB位は2つのX残基によって隔てられている)に見られるGly残基およびPro残基の同じ対は、47の重複性を有していた。
図6に示されるように、残基AとBとの間の距離が増加するにつれて、これらの対が所定の空間に配置され得る制限された設定を考慮すると、重複性、または個々のアミノ酸対が基質ライブラリー内で表され得る方法の数は減少する。平均して、このライブラリーについてのアミノ酸の全ての361個のAB対は、59±8の平均重複度で表され、AXXXXXXB対については、それは20±6であった(
図6、パネルB)。
【0223】
ペプチダーゼが位置M2およびM1においてGly-Proを厳密に必要とする場合、このライブラリー内に60個の適切なペプチド配列が提示される。当業者は、より効率的に切断するこれらのペプチドが、位置M2およびM1においてGPについて濃縮される可能性が高いこと、ならびにより効率的に切断されないAB対におけるGly-Proペプチドが、M2およびM1の外側の他の位置において好ましくない残基を有することも認識する。同じライブラリーにおいて、Gly-Pro対は、M1’またはM2’などの各隣接位置で他の19アミノ酸の各々との関連で平均2~3回表されるように設計された。従って、切断されたペプチド配列のそれらの切断可能な結合位置による整列は、ペプチダーゼ切断実験において、M1’またはM2’のような他の位置でペプチダーゼ特異性モチーフにおいて示される好ましい残基および好ましくない残基を明らかにする。
【0224】
いくつかの実施形態において、基質配列は、診断アッセイまたはレポーターアッセイなどにおいてアッセイされる所望のサンプルタイプ中に存在し得る他のペプチダーゼよりも、1つの標的化ペプチダーゼに対して最大限に選択的であることが必要とされる。標的化されたペプチダーゼについての予備知識を用いて、GearrTMモチーフサイズは、その特異性を記載するために必要とされる特定の数の位置から構成されると仮定され得る。
【0225】
診断アッセイまたはレポーターアッセイの構造はまた、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)もしくは内部消光基を使用する蛍光発生基質の場合、または基質配列の外側に伸長ポリペプチド配列を含む活性化可能細胞イメージングプローブ(ACPP)の場合のように、利用可能な配列空間にいくつかの制約を課し得る。これらの基質は、配列内のいくつかの個々の位置がプローブ設計によって固定されることを必要とすることによって、基質配列の設計を決定することができ、一方、他のものは、例えば
図2に図示されるように変化させることができる。このような場合、Gearr
TMモチーフの切断可能結合は、基質プローブの活性化可能領域内に設計される。偏りのない基質ライブラリーは、これらのプローブの固定された特徴の周りに適合させることができ、得られた得られたGearr
TMモチーフは、標識された構造的特徴に及び得る。
【0226】
インビボ適用のための、「薬理学的選択性」は、健常組織または非罹患組織におけるバックグラウンド切断を超える特定のレベルでの、標的疾患組織内のペプチダーゼ基質の選択的切断に関する。これは、標的疾患組織内で複数のペプチダーゼによって切断され得る、より広い範囲の基質配列を必要とする。このような基質配列は、1つ以上の位置を共有するGearr
TMモチーフを有するハイブリッド基質であり得るか、またはこれらは、所定の数のアミノ酸位置(例えば、20位または30位まで)内に適合するようにタンデムに配置された複数のGearr
TMモチーフを組み込み得る。基質配列の長さの限界は、しばしば、分子設計の他の特徴(例えば、治療分子のためのより大きなポリペプチド設計内で必要とされるドメイン間距離)によって影響される。理解するのに重要なことは、ペプチダーゼ基質の長さが増加するにつれて、それを記載する全配列空間も増加することである;18個のアミノ酸を含む単純なペプチダーゼ基質配列は、それを記載するために20
18=2.6×10
23の全ユニーク配列の配列空間を必要とし、これは観測可能な宇宙における星の数よりも大きい天文学的値である。Alauna
TM法は、そのような離れた部位に及ぶGearr
TMモチーフの効率的な探索を可能にする不偏ライブラリー設計のための方法を提供する。例えば、18位置までの距離にわたる4残基間の協同的相互作用を、3.0×10
7配列からなるAlauna
TM法不偏ライブラリー4.18を用いて試験することができる(
図1)。離れた部位を試験できることは、例えば、所定の候補基質配列についての切断の有効性に対するブラケティング残基または上流もしくは下流のGearr
TMモチーフの効果を試験することによって、タンデムGearr
TMモチーフ設計への適用を可能にする。
【0227】
いくつかの実施形態において、基質配列の長さが増加するにつれて、これはまた、その長さ内のGearr
TMモチーフのアレンジメントの数を増加させる。1つのアプローチは、スクリーニングのためにその中に設計された全ての可能なGearr
TMモチーフを有するより長い基質配列を直接試験することである。9つの位置の最大距離を有する全ての可能な4つの位置のGearr
TMモチーフから構成される不偏ライブラリーは、2×10
6のユニークな基質配列の不偏ライブラリーサイズを有する、18の可変位置を含むより長い基質配列に配置され得る。この問題に必要な選択性を達成するために、標的疾患試料および非疾患または健常試料を不偏ライブラリーでスクリーニングし(
図3、ステップ2)、すべてのスクリーニング試料に対して試験したすべての可能なGearr
TMモチーフについての値のマトリックスを得る(
図3、実験2)。所望の条件下で選択性の仕様を満たすGearr
TMモチーフは、特定の設計に必要な任意の長さの基質配列内のGearr
TMモチーフのハイブリッドまたはタンデムアレンジメントに構築することができる(
図3、ステップ3)。
【0228】
いくつかの実施形態では、GearrTMモチーフは、基質の固定位置に及ぶ場合があり、したがって、不偏ライブラリーを使用して、近くの残基と合成基質配列との間の協同的相互作用を探索することができる。このような設計のための基質配列が2つの可変位置によって指定され、20個の天然アミノ酸および20個の非天然アミノ酸がこの設計において使用され得る場合、基質自体内の固有の基質配列の数は、402=1,600個の可能な組み合わせを含む。GearrTMモチーフが、合成基質と治療部分との間の共有結合の固定された部位に及ぶことができる3つの位置から構成され、3つの最も近い位置のみが相互作用することができると考えられる場合、およそのライブラリーサイズは、1.2×105の可能な固有配列によって与えられる配列空間を効率的に探索するために、1.28×107の固有基質配列である。従って、このようなライブラリーの設計におけるGearrTMモチーフの考慮は、配列空間を検索するための100倍効率的な方法を提供する。
【0229】
ペプチダーゼ基質配列(例えば、脂質、多糖類、またはオリゴヌクレオチド)を組み込む他の分子設計については、これらの誘導体の各々は、固定位置でポリペプチド分子に結合される。GearrTMモチーフは、プロドラッグ設計のためにこの位置を取り囲み、配列空間は、非天然アミノ酸を有する共有結合した合成基質配列を合成することができることによって増加する。
【0230】
GearrTMモチーフの抽出およびGearrTMモチーフからの選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列ライブラリーの構築
いくつかの実施形態は、GearrTMモチーフの抽出は、基質配列内の特定の位置に見出される2つ以上の固有アミノ酸間の協同性を測定することができる計算アルゴリズムを使用することによって実施される協同性の計算のための1つの方法は、ライブラリー全体内の共起の分布と比較して、基質配列内の特定の位置における2つ以上の固有アミノ酸の共起の頻度を決定することである。
【0231】
いくつかの実施形態において、GearrTMモチーフは、2つ以上のペプチダーゼ調製物によって選択的に切断され得る新規の切断可能な基質配列を設計するために有用である。
【0232】
ペプチダーゼ調製物は、単一の洗練された組換え酵素から、患者由来の組織および生体液から抽出されるか、または細胞培養物もしくは他の生物学的モデルから、溶解産物、抽出物またはペプチダーゼを含む馴化培地の他の形態から産生されるペプチダーゼの複合混合物までの範囲であり得る。
【0233】
いくつかの実施形態では、患者由来またはモデル系由来の健常および罹患試料の選択のための方法が提供される。この方法は、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列を構築するために必要とされる陽性および陰性スクリーニング条件のために使用され得る。基準マトリックスは、罹患組織および健常組織にわたるプロドラッグまたはレポーター基質切断のために使用される薬物標的および活性ペプチダーゼの両方の存在量を概算し得るソースデータを重み付けするために使用される。
【0234】
いくつかの実施形態において、GearrTMモチーフからペプチダーゼ切断可能基質配列ライブラリーを構築する工程は、サンプル内の候補ペプチダーゼ切断可能基質を試験する工程をさらに包含し、ここでこのサンプルは、基準マトリックスに基づいて選択される。
【0235】
サンプル選択のための基準マトリックス
いくつかの実施形態において、GearrTMモチーフからペプチダーゼ切断可能基質ライブラリーを構築することは、サンプル内の候補ペプチダーゼ切断可能基質を試験することを含み、サンプルは、基準マトリックスに基づいて選択される。
【0236】
他の実施形態において、候補ペプチダーゼ切断可能基質を、少なくとも1つの疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼと接触させることは、サンプル内の候補ペプチダーゼ切断可能基質を試験することを含み、サンプルは、基準マトリックスに基づいて選択される。
【0237】
いくつかの実施形態では、基準マトリックスはサンプル選択をガイドする。
【0238】
いくつかの実施形態では、基準マトリックスは、治療薬設計のための分子標的、ならびに標的が発現される健常組織および罹患組織に基づく。
【0239】
いくつかの実施形態では、基準マトリックスは、i)他の部位に対する治療作用部位での薬物標的とのペプチダーゼの共発現、ii)ペプチダーゼ特異性、iii)最大ペプチダーゼ触媒活性、およびiv)治療作用部位での薬物標的とのペプチダーゼの特異的共局在化についてスコア付けされた測定値を含む。
【0240】
治療作用部位は、疾患状態、ならびに器官、組織、区画、細胞型、および細胞内局在などの特徴を有する体内の分子標的の位置によって特定される。治療作用部位の仕様は、その部位におけるタンパク質存在量およびペプチド分解活性の測定のためのサンプル選択に影響を及ぼす。
【0241】
いくつかの実施形態において、サンプルは、罹患組織、非罹患組織または健常組織から選択される。
【0242】
いくつかの実施形態では、罹患組織は治療標的を含む。
【0243】
ブラケティング残基ライブラリー設計
不偏ライブラリーのスクリーニングを使用してGearrTMモチーフが同定されたら、または既知の基質配列を検証しようとするシナリオでは、候補に基づくアプローチを使用して、このような配列に対してユニーク配列変異体の小さなライブラリーを設計することができる。
【0244】
治療用、診断用または他のレポーター分子への切断可能な基質配列挿入部位のすぐ上流および下流のブラケティング残基を同定するための方法が本明細書において提供される。
【0245】
一部の実施形態では、ブラケティング残基の同定は、成分GearrTMモチーフ由来の残基とのより長い範囲の協同的相互作用の考慮を含むブラケティング残基はまた、候補基質配列の提示のためのポリペプチドなどの足場プラットフォームを最適化するために使用される。
【0246】
本明細書では、1つまたは複数のGearrTMモチーフを含む候補基質配列の切断の評価および検証のための方法も提供される。これらの新しい切断可能な基質配列は、タンパク質治療剤もしくは足場タンパク質または他の分子などのより大きな生体分子の文脈内で、または候補基質配列を有するレポータープローブ内で、質量分析に基づくプロテオミクス法、示差蛍光、または分離もしくは分光検出と組み合わせた免疫選択を使用して評価することができる。
【0247】
一部の実施形態では、候補配列自体はアッセイの検出目的のためだけに変更することができないので、ペプチダーゼ基質配列の外側のブラケティング残基の設計を支援する基質設計のためにアルゴリズムを使用した。候補基質配列の外側のブラケティング残基は、複数の目的に役立つ。治療用構築物において、これらは、基質配列とポリペプチド分子の残りの部分との間の非構造化接続として機能するが、質量分析において、これらのアミノ酸を使用して、ペプチド基質の正味電荷、極性または疎水性を調節して、溶解性またはイオン化を改善することなどによって、ペプチド基質を分析に適したものにすることができる。さらに、これらの残基は、分子の質量に寄与し、装置によって分解することができる固有の質量タグとして働くことができ、ペプチダーゼ消化によって生成されるペプチド断片の同定を可能にする。
【0248】
いくつかの実施形態において、ブラケティング残基ライブラリー設計のためのAlaunaTMアルゴリズムは、ブラケティング残基の複数の理論的置換を行う。置換の規則は、柔軟な結合としての使用に適しており、ペプチドの構造に有意な変化を引き起こさないアミノ酸のセットから選択することを含む。不偏ライブラリーが配列多様性を最大化するように設計されるのと同様に、ブラケティング残基ライブラリーについて最大化される配列多様性も設計される。しかし、さらなる計算は、得られた組み合わせがまた、適切な質量タグを生成し、インタクトなペプチドならびにその切断産物の溶解度およびイオン化を増強することを必要とする。
【0249】
本明細書で提供されるのは、罹患サンプルおよび非罹患サンプル由来のペプチダーゼ調製物を使用して、複数の候補基質配列について基質切断の触媒効率を測定および比較することによる、「疾患選択的」基質配列の同定のためのAlaunaTM法である;非罹患状態または健常状態よりも罹患状態においてより大きな触媒効率を有する基質は、「疾患選択的」であるとみなされる。このプロセスの結果は、関与する個々のペプチダーゼの各々に対応する1つ以上のGearrTMモチーフを含むユニーク基質配列の同定であり、これらは一緒になって、1つ以上の切断可能な結合で切断を生じ、各々は異なる触媒効率値を有する。従って、触媒効率は、複数のペプチダーゼ調製物および反応条件にわたって試験される、単一の基質配列またはペプチダーゼ基質の比較のために有用である。
【0250】
本明細書で提供されるのは、複数のペプチダーゼ基質に対する基質切断の触媒効力を単一の罹患サンプルで測定および比較することによる、「疾患特異的」基質配列の同定のためのAlaunaTM法である。AlaunaTM法からの好ましい結果は、規定量の基質切断によって触媒効力が異なる「非切断性」および「切断性」ユニーク基質配列の同定であり得る。「非切断性」基質配列は、規定されたアッセイ条件下で特定の長さの時間内に特定の検出方法(例えば、免疫検出または質量分析)を用いて測定されるように、好ましくは総ペプチダーゼ基質の5%または1%未満である値で、検出不可能な量またはさもなければ有意でない量の切断産物を産生する配列である。「切断可能な」基質配列は、同じアッセイにおいて測定される場合、ペプチダーゼ基質の特定の量または用量について、所与の適用のための切断産物放出の必要とされる収率に一致する特定のレベル(代表的には、90%以上、または99%以上)で切断され得る配列である。ペプチダーゼ基質の特異的切断を最大化するために、目標は、切断可能基質対非切断可能基質についての切断の触媒効力の間に少なくとも100倍、1000倍、または10,000倍の差を生じることである。切断可能な基質と切断不可能な基質との間の触媒効力についての倍数差が大きいほど、薬物またはレポータープローブについてのペプチダーゼ活性化機構を用いて達成され得る誘導効果が大きい。
【0251】
AlaunaTM法は、これらの概念を適用して、触媒効率を用いて疾患選択的である基質配列を同定し、ペプチダーゼ活性化を用いて達成することができる誘導のレベルを、触媒効力を用いて測定する。
【0252】
AlaunaTM法は、配列データ情報内容を増加させるためのライブラリースクリーニングの仕様を提供する。いくつかの実施形態において、AlaunaTM法は、基質配列内の切断部位を同定し、データ分析に必要とされる必須の位置登録を提供する。いくつかの態様において、AlaunaTM法は、高切断、中切断、または低切断から非切断基質配列のセットまでの切断効率の全範囲にわたるユニークな基質配列のセットの同定を特定する。 標的化された疾患組織と非疾患組織または健常組織との間の薬理学的に選択的な切断についての比較を可能にするのは、ライブラリー内の全ての他のユニークな基質に対する基質配列のこれらのセットについての切断の速度および収率の定量的分析である。
【0253】
いくつかの実施形態において、選択的ペプチダーゼ基質配列同定のためのAlaunaTM法は、基質配列内の全ての位置におけるアミノ酸のセット間の協同性を直接試験することによって配列空間を検索する。基質スクリーニングのためのAlaunaTM法からのアウトプットデータを分析して、陽性および陰性の両方の特異性情報を含むGearrTMモチーフを抽出し、選択的ペプチダーゼ基質設計に用いることができる。この方法は、より大きな基質配列空間をスクリーニングするために十分に規定されたライブラリーにおいてより少ない基質配列しか必要とせず、実際的なライブラリーサイズの制限を克服し、そして疾患または組織選択的基質配列を発見するためのより効率的な方法を提供する。
【0254】
ペプチダーゼ
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼは、エンドペプチダーゼ、オメガ-ペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ジペプチジル-ペプチダーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、ペプチジルジペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、またはそれらの組み合わせの群から選択される。
【0255】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼは、ヒト対象由来の組織および/もしくは生体液、細胞培養物、トランスジェニック細胞発現系、またはヒト疾患および生物系の動物モデルから抽出される。
【0256】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼは、溶解物、抽出物、生体液または馴化培地から、さらなる精製を伴ってまたは伴わずに調製される。
【0257】
治療および診断用途のための使用方法
プロドラッグは、従来の治療薬と比較して、より少ない副作用、より良好なインビボ薬物動態プロファイル(例えば、より長い半減期)およびより良好な標的特異性を有し、より有効である。
【0258】
一態様では、本開示は、インビボで代謝されて活性治療薬になるプロドラッグコンジュゲートを提供する。いくつかの実施形態において、プロドラッグコンジュゲートは、AlaunaTM法によって得られるペプチダーゼ切断可能基質を含む。
【0259】
一態様では、1つ以上のペプチダーゼによる活性化の際に薬物を放出することができるプロドラッグコンジュゲートが本明細書で提供される。
【0260】
いくつかの態様において、プロドラッグコンジュゲートは、治療部分、マスキング部分、切断可能なペプチドまたはタンパク質リンカー、任意で担体部分、任意で標的化部分、および任意で半減期延長部分を含み、切断可能なペプチドまたはタンパク質リンカーは、ペプチダーゼ切断可能基質、またはAlaunaTM法によって得られる疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質である。
【0261】
いくつかの実施形態は、マスキング部分は、治療部分に結合し、治療部分の生物学的活性を阻害し、治療部分は、任意選択で担体部分に融合され、マスキング部分は、切断可能なペプチドまたはタンパク質リンカーを介して、治療部分または任意選択で担体部分に融合される。
【0262】
いくつかの態様において、プロドラッグコンジュゲートは、治療部分、担体部分を含み、ここで担体部分は切断可能なペプチドまたはタンパクリンカーを含み、切断可能なペプチドまたはタンパクリンカーは、ペプチダーゼ切断可能基質またはAlaunaTM法によって得られる疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質であり、治療部分は担体部分に封入される。
【0263】
いくつかの実施形態において、治療部分は、抗炎症剤、抗アレルギー剤、抗菌剤、抗癌剤、抗糖尿病剤、抗ウイルス剤、抗高血圧剤、抗狭心症、抗痙攣剤、鎮痛薬、抗喘息、抗うつ剤、止痢剤、抗感染剤、抗偏頭痛剤、抗精神病剤、解熱剤、抗潰瘍剤、抗血栓剤またはそれらの組み合わせとして有効である。
【0264】
「治療部分」という用語は、生体組織に対して所望のまたは有益な効果を提供することができる任意の部分を含むように、その最も広い意味で使用される。治療部分には、医薬品、ワクチン、抗体、タンパク質、ペプチド、および核酸配列(スーパーコイル、弛緩、および直鎖状プラスミドDNA、アンチセンス構築物、人工染色体、または任意の他の核酸ベースの治療薬など)、ならびにそれらの任意の製剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0265】
いくつかの実施形態は、担体部分は、アニオン性(従来の)リポソーム、pH感受性リポソーム、免疫リポソーム、融合性リポソーム、中性脂質ナノ粒子、荷電脂質ナノ粒子、および荷電脂質/アンチセンス凝集体などの脂質ベースの担体系から選択することができる。
【0266】
いくつかの実施形態において、プロドラッグ結合体の標的化部分は、抗原結合部分、または抗原結合部分ではない部分であり得る。標的化部分は、体内の特定の健康な部位または疾患部位(例えば、腫瘍部位)を標的化し得る。
【0267】
いくつかの実施形態では、半減期延長部分は、プロドラッグコンジュゲートの血清半減期などの薬物動態プロファイルを改善し得る。
【0268】
一態様では、プロドラッグはサイトカインプロドラッグである。いくつかの態様において、サイトカインプロドラッグは、サイトカイン部分、マスキング部分、および任意で担体部分を含み、マスキング部分はサイトカイン部分に結合してサイトカイン部分の生物学的活性を阻害し、サイトカイン部分は担体部分に融合しており、マスキング部分はペプチダーゼ切断可能基質を介してサイトカイン部分または担体部分に融合している。
【0269】
いくつかの実施形態において、治療部分はサイトカイン部分であり、マスキング部分はサイトカインアンタゴニストである。
【0270】
例えば、サイトカインに対する受容体の細胞外ドメインであり得るサイトカインアンタゴニストは、切断可能なリンカー(例えば、AlaunaTM法によって同定されるペプチダーゼ切断可能基質)を介してサイトカイン部分またはキャリア部分に連結される。マスクは、マスクがサイトカイン部分に結合している間、サイトカイン部分の生物学的機能を阻害する。プロドラッグは、リンカーの切断およびその結果としてのプロドラッグからのサイトカインマスクの放出によって患者の標的部位(例えば、腫瘍部位または周囲環境)で活性化され得、以前にマスクされたサイトカイン部分を曝露し、サイトカイン部分が標的細胞上のその受容体に結合し、標的細胞に対してその生物学的機能を発揮することを可能にする。いくつかの実施形態において、プロドラッグの担体は、標的部位で抗原に結合する抗体などの抗原結合部分である。
【0271】
いくつかの実施形態において、サイトカイン部分は、ヒトIL-6、IL-10、TNF-α、またはインターフェロン(IFN)-γアンタゴニストポリペプチドである。
【0272】
一態様では、本明細書で提供されるプロドラッグは、(i)薬物の活性形態を調節する「マスキング部分」、および(ii)マスクを放出することができる「切断可能部分」を含む。ペプチダーゼ活性を使用して、プロドラッグ形態の小分子薬物、高分子生物製剤、ならびに合成ナノ粒子および他の非ポリペプチド治療用または診断用分子の放出のために、切断可能部分において切断を生じさせることができる。
【0273】
いくつかの実施形態において、切断可能部分は、ペプチダーゼ切断可能基質である。好ましい実施形態において、標的組織において活性であるペプチダーゼは、体内の他の部位と比較して標的部位において増強される活性薬物の切断および放出を生じることによって、プロドラッグに対する増強された選択性を提供する。
【0274】
一態様では、プロドラッグは小分子プロドラッグである。小分子プロドラッグについて、ペプチダーゼ切断可能基質はまた、その標的に結合するか、またはその標的が局在化される生物学的区画もしくは組織にアクセスする薬物の能力を妨害するマスクとして役立ち得る。いくつかの実施形態において、小分子は、ペプチダーゼ切断可能基質によって、薬物の他の薬理学的特徴(例えば、その溶解性または安定性)を増強するように働くタンパク質ドメインなどのより大きな高分子に連結され得る。
【0275】
一態様では、プロドラッグは高分子プロドラッグである。一部の実施形態では、ペプチダーゼ切断可能基質は、高分子薬物の活性化もしくは不活性化、送達、安定化、および/または脱マスキングのために使用され得る。ペプチダーゼ切断可能なリンカーの使用は、標的部位で優先的に切断され、非罹患組織では切断されないペプチダーゼ切断可能な基質配列を選択することによって、薬物設計に対する特異性のさらなる層を提供し得る。
【0276】
一態様では、プロドラッグのマスキング部分を薬物に適用して、薬物標的への結合を防止することによって、または薬物が望ましくない組織もしくは細胞内区画に入るのを防止することによって、または薬物が活性であることを可能にする立体配座を薬物がとるのを防止することによって、その毒性作用を低減することができる。マスクが除去されると、薬物の活性型が現れ、その機能を果たすことができる。これは、薬物全体の毒性を減少させ、その治療指数を改善する。薬物設計がペプチダーゼ切断可能不活性化モチーフを含む逆のシナリオも、治療指数を改善することができる。この後者の設計において、切断可能な基質は、活性薬物が望ましくない組織または細胞内区画において毒性を引き起こすこと(例えば、長期の活性または非標的組織もしくは細胞内区画における望ましくない蓄積に起因し得る)を防ぐための「オフ」スイッチとして役立ち得る。
【0277】
一態様において、ペプチダーゼは、モノクローナル抗体、ADC、二重特異性および三重特異性T細胞エンゲージャーを含む化学療法剤のプロドラッグ形態の選択性を増強するために使用される。
【0278】
一態様では、ペプチダーゼは、抗体が抗体の認識標的に結合することを防止する、抗体がFc受容体、他の抗体もしくは抗体断片によって認識されることを防止する、または抗体が活性であることを可能にする立体構造をとることを防止するマスクを解放することによって、モノクローナル抗体のプロドラッグ形態の選択性を増強するために使用される。マスクが除去されると、抗体の活性型が現れ、その機能を果たすことができる。これは、抗体の毒性を低減し、その治療指数を改善する。
【0279】
一態様では、ペプチダーゼは、BiTEのその認識標的の一方もしくは両方への結合を別様に防止するか、またはBiTEが活性立体構造をとることを防止するマスクを選択的に放出することによって、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)のプロドラッグ形態の選択性を増強するために使用される。マスクが除去されると、BiTEの活性型が現れ、その機能を果たすことができる。これは、BiTEの毒性を低減し、その治療指数を改善する。
【0280】
一態様において、ペプチダーゼは、単鎖可変断片(scFv)から構成されるプロドラッグの選択性および安定性を増強するために使用される。ペプチダーゼ切断は、マスキング基(それ自体がscFvであり得る)を放出するために使用され、放出されると、これは活性分子を明らかにする。ペプチダーゼ切断はまた、安定化ドメイン(例えば、アルブミンまたはアルブミン結合ドメイン)を放出するために使用され得、その結果、切断および安定化ドメインからの放出の際に、薬物は、より速いクリアランス速度を有し、その毒性を減少させ、そして治療指数を全体的に改善する。
【0281】
ある面において、ペプチダーゼは、キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR T)からなるプロドラッグの選択性および安定性を増強するために使用され、これは、単鎖可変フラグメント(scFv)をCARの細胞外抗原認識ドメインとして組み込む。CAR T療法を受けている患者は、サイトカイン放出症候群(CRS)および免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)と呼ばれる高頻度の有害事象にさらされる。養子T細胞療法はまた、一旦患者に投与されると、CAR T細胞の予測不能な増殖を有し得、投薬を制御することを困難にし、毒性をもたらす。標的組織または罹患組織の存在下でマスキング基を放出するためにペプチダーゼ切断配列を使用することは、CAR T細胞を抑制し続けることによってこれらの毒性事象を減少させる。
【0282】
いくつかの実施形態において、本開示は、誘導性ポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態において、誘導性ポリペプチドは、条件的誘導性ポリペプチドである。いくつかの実施形態において、誘導性ポリペプチドは、AlaunaTM法によって得られるペプチダーゼ切断可能基質を含む。
【0283】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼ切断可能基質は、誘導性ポリペプチドに組み込まれ、ペプチダーゼ切断可能基質は、少なくとも1つのペプチダーゼによって切断されることが可能である。
【0284】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼ切断可能基質は、誘導性ポリペプチドに組み込まれ、ペプチダーゼ切断可能基質は、少なくとも1つの疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼによって切断され得る。
【0285】
いくつかの実施形態において、T細胞性エンゲージャー、例えば、二重特異性T細胞性エンゲージャー(BiTE)は、ペプチダーゼ切断可能基質またはAlaunaTM法によって得られる、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を含む。
【0286】
いくつかの実施形態において、T細胞性エンゲージャー、例えば、二重特異性T細胞性エンゲージャー(BiTE)は、ペプチダーゼ切断可能基質またはAlaunaTM法によって得られた疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質に融合される。
【0287】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼは、レポーター基質に設計されたポリペプチド配列の選択的切断のために使用され、切断されると、例えば、UV-可視色素、フルオロフォア、またはラマン活性色素から分光シグナルを生成する断片を活性化、不活性化、または他の方法で放出する。ペプチダーゼ切断は、治療適用または診断適用において使用される小分子、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、脂質、合成ポリマー、またはこれらの分子のアセンブリの任意の組み合わせから構成される2つ以上のテザー分子を放出する。
【0288】
一態様において、本開示は、ナノセンサーにおいて使用するための、疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を得るための方法を提供する。
【0289】
いくつかの実施形態において、ナノセンサーは、癌を検出するために使用される。
【0290】
一態様では、担体部分、検出マーカー、およびAlaunaTM法によって得られる疾患、組織、および/または細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質を含むナノセンサーであって、ペプチダーゼ切断可能基質が担体部分および検出マーカーの両方に連結され、ペプチダーゼ切断可能基質が疾患、組織、および/または細胞選択的結合プロテアーゼによる切断に感受性である、ナノセンサーが本明細書で提供される。
【0291】
いくつかの実施形態において、ペプチダーゼ切断可能基質は、癌、組織傷害もしくは損傷、心血管疾患、関節炎、ウイルス、細菌、寄生虫もしくは真菌感染、アルツハイマー病、肺気腫、血栓症、血友病、脳卒中、臓器機能不全、任意の炎症状態、血管疾患、実質疾患、または薬理学的に誘導された状態に関連するプロテアーゼによる切断に対して感受性である。
【0292】
キャリアドメインは、ナノ粒子のコアとして機能し得る。キャリアドメインの目的は、ペプチダーゼ切断可能基質のためのプラットフォームとして役立つことである。したがって、キャリアは、キャリアまたはプラットフォームとして機能することができる限り、任意の材料またはサイズであってよい。好ましくは、材料は非免疫原性であり、すなわち、それが投与される対象の体内で免疫応答を引き起こさない。別の目的は、モジュラー構造体を組織、細胞または分子に標的化する標的化手段として機能し得ることである。いくつかの実施形態において、キャリアドメインは粒子である。粒子、例えばナノ粒子は、例えば、循環による腫瘍への受動的標的化をもたらし得る。他のタイプのキャリアとしては、例えば、組織、細胞または分子への活性な標的化を引き起こす化合物が挙げられる。担体の例としては、微粒子、ナノ粒子、アプタマー、ペプチド(RGD、iRGD、LyP-1、CREKAなど)、タンパク質、核酸、多糖、ポリマー、抗体または抗体断片(例えば、ハーセプチン、セツキシマブ、パニツムマブなど)および小分子(例えば、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ソラフェニブなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0293】
本明細書で使用される場合、「粒子」という用語は、ナノ粒子ならびにマイクロ粒子を含む。ナノ粒子は、直径1.0μm未満の粒子として定義される。ナノ粒子の調製物は、直径が1.0μm未満の平均粒径を有する粒子を含む。微粒子は、直径が1.0μmより大きいが1mm未満の粒子である。微粒子の調製物は、直径が1.0μmより大きい平均粒径を有する粒子を含む。したがって、微粒子は、5~10ミクロン、5~15ミクロン、5~20ミクロン、5~30ミクロン、5~40ミクロン、または5~50ミクロンの範囲のサイズを含む、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも50、または少なくとも75ミクロンの直径を有し得る。粒子の組成物は、10nm~mmサイズの範囲の不均一なサイズ分布を有し得る。いくつかの実施形態では、直径は約5nm~約500nmである。他の実施形態では、直径は約100nm~約200nmである。他の実施形態では、直径は約10nm~約100nmである。
【0294】
粒子は、鉄、セラミック、金属、天然ポリマー材料(脂質、糖、キトサン、ヒアルロン酸などを含む)、合成ポリマー材料(ポリ-ラクチド-コグリコリド、ポリグリセロールセバケートなどを含む)、および非ポリマー材料、またはそれらの組み合わせを含む様々な材料から構成され得る。
【0295】
担体は、無機材料から構成されてもよい。無機材料は、例えば、磁性材料、導電性材料、および半導体材料を含む。
【0296】
粒子に加えて、担体は、細胞、ウイルス、細菌などの生物学的担体および生体担体を含む任意の有機担体、ならびに任意の非生体有機担体、または疾患における酵素(細胞外酵素、膜結合酵素、および細胞内酵素を含む)への酵素基質の曝露を可能にする任意の組成物から構成され得る。
【0297】
検出可能なマーカーは、インビボまたはインビトロでペプチダーゼに曝露された場合、ナノセンサーから放出され得る。いくつかの実施形態において、検出可能なマーカーは、一旦放出されると、検出のために離れた部位に自由に移動する。離れた部位は、本明細書において、切断が起こるペプチダーゼを収容する体組織とは異なる体内の部位を指すために使用される。いくつかの態様において、切断が起こるペプチダーゼを収容する体組織は、腫瘍である。いくつかの実施形態は、遠隔部位は、対象から非侵襲的に得られる生物学的試料、例えば、尿試料または血液試料である。
【0298】
インビボでのペプチダーゼによるペプチダーゼ切断可能基質の切断は、検出可能なマーカーの産生を生じる。あるいは、インビトロでのペプチダーゼによるペプチダーゼ切断可能基質の切断は、検出可能なマーカーの産生を生じる。
【0299】
いくつかの態様において、検出可能なマーカーは、リンカーによって連結された2つのリガンドから構成される。検出可能なマーカーは、例えば、ペプチド、核酸、小分子、フルオロフォア/クエンチャー、ラマン活性色素、炭水化物、粒子、放射性標識、MRI活性化合物、無機材料、有機材料のうちの1つ以上から構成され得、最適な検出を容易にするためのコードされた特徴(例えば、化合物、リガンドコードレポーター、リガンドコードレポーター、または同位体コードレポーター分子(iCORE))を有する。
【0300】
いくつかの態様において、検出可能なマーカーは蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)対を含み、ここでFRET対はフルオロフォア分子および消光分子を含み、任意でフルオロフォア分子および消光分子は酵素感受性ドメインに隣接する。
キット
【0301】
ある特定の実施形態では、不偏ライブラリーはキットで提供される。ペプチドは、固体支持体(例えば、マイクロアレイ、組織培養プレート、ビーズなど)に結合され得るか、または断片化されたキットとして別々に供給され得る。
【0302】
ある特定の実施形態において、ペプチドは、固体基材に付着される。
【0303】
特定の実施形態において、ペプチドは、溶液または乾燥形態で提供される。
【0304】
特定の実施形態において、キットは、ハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイのために構成される。HTS法では、多数のペプチドが所望の活性について同時またはほぼ同時にスクリーニングされるように、ロボットによる自動または半自動の方法によって多くのペプチドを並行して試験することができる。本発明の統合システムを使用して、1日に最大約6,000~20,000、さらには最大約100,000~1,000,000の異なる化合物をアッセイおよびスクリーニングすることが可能である。
【0305】
特定の実施形態では、ペプチド、酵素のいずれかを固定化するか、またはアッセイの自動化に適応させることが望ましい場合がある。例えば、ペプチドライブラリーの結合は、反応物を含有するために適切な任意の容器中で達成され得る。このような容器の例としては、マイクロタイタープレート、試験管、および微量遠心管が挙げられる。一実施形態では、タンパク質の一方または両方をマトリックスに結合させるドメインが1つまたは複数の分子に付加されている融合タンパク質を提供することができる。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ融合タンパク質またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/標的融合タンパク質をグルタチオンセファロースビーズ(Sigma Chemical,St.Louis,MO)またはグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレート上に吸着させることができ、次いでこれを試験化合物または試験化合物および非吸着標的タンパク質または受容体タンパク質のいずれかと組み合わせ、混合物を複合体形成につながる条件下(例えば、塩およびpHについての生理学的条件)でインキュベートする。インキュベーション後、ビーズまたはマイクロタイタープレートウェルを洗浄して、未結合成分を除去する。
【0306】
ハイスループットアッセイにおいて、可溶性または固体状態のいずれかで、数千までの異なるペプチドを1日でスクリーニングすることが可能である。固相反応のために、ペプチドライブラリーは、共有結合または非共有結合を介して(例えば、タグを介して)、直接的または間接的に固相成分に結合され得る。タグは、様々な構成要素のいずれであってもよい。一般に、タグに結合する分子(タグ結合剤)は、固体支持体に固定され、目的のタグ化分子は、タグとタグ結合剤との相互作用によって固体支持体に付着される。文献によく記載されている既知の分子相互作用に基づいて、多数のタグおよびタグ結合剤を使用することができる。同様に、任意のハプテン性または抗原性化合物を適切な抗体と組み合わせて使用して、タグ/タグ結合剤対を形成することができる。何千もの特異的抗体が市販されており、多くのさらなる抗体が文献に記載されている。
【0307】
ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ尿素、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリーレンスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミド、およびポリアセテートなどの合成ポリマーも、適切なタグまたはタグ結合剤を形成することができる。多くの他のタグ/タグ結合剤対もまた、本開示を検討すれば当業者に明らかであるように、本明細書に記載されるアッセイ系において有用である。
【0308】
一般的なリンカー(例えば、ペプチド、ポリエーテルなど)はまた、タグとして役立ち得、そしてポリペプチド配列(例えば、約5アミノ酸と200アミノ酸との間のポリgly配列)を含む。このような可撓性リンカーは、当業者に公知である。例えば、ポリ(エチレングリコール)リンカーは、Shearwater Polymers, Inc.から入手可能である。これらのリンカーは、任意選択で、アミド結合、スルフヒドリル結合、またはヘテロ官能性結合を有する。
【0309】
タグ結合剤は、現在利用可能な種々の方法のいずれかを使用して固体基材に固定される。固体基材は、一般に、基材の全てまたは一部を、タグ結合剤の一部と反応性である化学基を表面に固定する化学試薬に曝露することによって誘導体化または官能化される。例えば、より長い鎖部分への結合に適した基としては、アミン、ヒドロキシル、チオール、およびカルボキシル基が挙げられる。アミノアルキルシランおよびヒドロキシアルキルシランは、ガラス表面などの様々な表面を官能化するために使用することができる。このような固相バイオポリマーアレイの構築は、文献に十分に記載されている。例えば、Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154 (1963)(例えば、ペプチドの固相合成を記載する)を参照のこと。Geysen et al., J. Immun. Meth. 102:259-274 (1987)(ピン上での固相成分の合成を記載); Frank & Doring, Tetrahedron 44:60316040 (1988)(セルロースディスク上での種々のペプチド配列の合成を記載)。Fodor et al., Science, 251:767-777 (1991); Sheldon et al., Clinical Chemistry 39(4):718-719 (1993); およびKozal et al., Nature Medicine 2(7):753759 (1996)(すべて固体基質に固定されたバイオポリマーのアレイを記載している)。タグ結合剤を基材に固定するための非化学的アプローチとしては、他の一般的な方法(例えば、熱、UV照射による架橋など)が挙げられる。
【実施例】
【0310】
実施例1:疾患選択的に切断可能な基質配列同定および使用方法
AlaunaTM法は、免疫腫瘍適応のための治療標的の選択に適用された。
【0311】
入力仮説(
図1、インプット#1)薬物標的選択:一実施形態では、薬物標的は、以下のいずれかから選択されるが、これらに限定されない標的抗原を含む:CD19、CD20、CD33、CD30、CD64、CD123、EpCAM、EGFR、HER-2、HER-3、c-Met、LAG3、FolR 1、PSMA、VEGF、およびCEA。一態様では、標的抗原は免疫チェックポイントタンパク質である。免疫チェックポイントタンパク質としては、CD27、CD40、OX40、GITR、CD137、B7、CD28、ICOS、A2AR、H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、PD-2、PD-L1、TIM-3、およびVISTAが挙げられるが、これらに限定されない。免疫応答の活性化において阻害される阻害性免疫チェックポイントタンパク質の例としては、A2AR、B7-H3、B7-H4、BTLA、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、PD-1、PD-L1、TIM-3、及びVISTAが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、治療剤の免疫チェックポイント標的タンパク質への結合は、マスキングドメインを放出する基質配列のペプチダーゼ切断に依存し、マスキングドメインは、腫瘍微小環境におけるように、治療作用部位においてのみ、治療剤の免疫チェックポイント標的タンパク質への結合を制限する。
【0312】
ペプチダーゼ標的選択:ヒトゲノムは、550を超えるペプチダーゼをコードする(Puente, 2003)。これらのペプチダーゼのいずれも、以前に開発されたペプチダーゼ切断可能基質配列(表1)を有するいくつかを含めて、プロドラッグ設計のための標的ペプチダーゼとして働くことができる。これらのペプチダーゼの中で、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は、発癌において十分に記載された役割を有し、癌の有用な予後マーカーとして役立ち得る(Egeblad and Werb, 2002; Turunen et al., 2017)。この実施形態のためのペプチダーゼ選択に関する入力仮説は、1つ以上のMMPが、単独で、または他のペプチダーゼと組み合わせて、複数の固形腫瘍適応症のための有用なペプチダーゼ標的として役立つということであった。ペプチダーゼおよび薬物標的の選択を狭めるために、Alauna
TM法(
図1、インプット#1)に記載されるデータセット#1~4をアセンブルして、以下のように基準マトリックスを構築した。
【0313】
データセット#1、薬物標的およびペプチダーゼ存在量。癌マーカーについてのTCGAデータセットからの遺伝子発現プロファイルの最近の分析は、調査された15種の癌細胞型の大部分においてMMPが一般に高度に上方制御されることを見出した(Gobin et al., 2019)。これは、MMPの考察に信頼を与えるが、仮説の洗練化のために、薬物標的との相関のレベルを、(https://portal.gdc.cancer.gov/)でアクセスされたTCGAデータセット(Gao et al., 2019, 2013)内の遺伝子発現レベルで評価した。仮説洗練化の間、TCGAデータセットからのデータの分析は、MMP14が、18個の肺がんデータセットのうち11個および16個の結腸直腸がんデータセットのうち8個において過剰発現遺伝子の上位25%にランク付けされ、乳がんにおいて明らかに差次的に調節されなかったことを示した。腫瘍組織と非疾患組織との間の存在量レベルでのペプチダーゼの差次的調節は、ペプチダーゼ活性化プロドラッグの治療指数の改善に加え得る。
【0314】
Human Protein Atlas (version 18.1, release date 2018.11.15) (Fagerberg et al., 2014; Uhlen et al., 2015)における腫瘍および正常組織のプロテオミクス(組織病理学的)およびトランスクリプトーム解析は、組織型にわたるMMPおよび他の候補ペプチダーゼの広範な発現プロファイルに関するさらなる情報を明らかにしている。仮説洗練化中に考慮された複数のMMPの中で、ヒトタンパク質アトラスデータは、MMP14が、正常組織と比較して腫瘍組織において、特に肺、乳房、皮膚および膵臓において過剰発現されることを示した。MMP14は、複数の組織型にわたって低レベルで広く発現される。
【0315】
Genomics of Drug Sensitivity in Cancer (GDSC) project (Iorio et al., 2016)からアクセス可能な、1000を超えるヒトがん細胞株から収集された大きなマイクロアレイデータセットを、ペプチダーゼについてのmRNA発現レベルと上に列挙した候補薬物標的との相関について問い合わせた。薬物標的血管内皮増殖因子(VEGF)は、複数の腎臓、骨、甲状腺および皮膚癌細胞株においてMMP14との発現の正の相関を示した。VEGFと相関するさらなるペプチダーゼは、カテプシンB、ADAM9、レグマイン、およびuPAであり、個々の組織におけるペプチダーゼ切断の特異性を微調整する機会を提供した。VEGFはパラクリンシグナル伝達において機能する;したがって、VEGF受容体1および2の発現パターンも調査した。VEGF受容体1はさらに、皮膚におけるMMP14発現と相関した。
【0316】
VEGFは、細胞外マトリックスとの会合によって貯蔵される分泌タンパク質であり、細胞外ペプチダーゼの活性を介してマトリックスから放出され、異なるレベルのMMP活性が、腫瘍微小環境においてVEGFによって促進される血管新生のパターンに影響を及ぼす(Lee et al., 2005)。さらに、MMPが、VEGFの接着および細胞外マトリックス空間からの放出に影響を及ぼすVEGFを直接切断することができるという証拠がある(Lee et al., 2005)。MMP14はまた、角膜においてVEGF受容体1を直接切断することが報告されている(Han et al., 2016)。VEGF受容体1または2およびマトリックス結合VEGFの直接切断は、VEGFシグナル伝達の調節におけるMMPの関与について2つの別の機構を提供する。
【0317】
データセット#2、ペプチダーゼ基質情報。プロジェクトの最初に、標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼファミリーの選択のための1つの基準は、疾患選択的活性化のための要件を満たす新規ペプチダーゼ切断可能基質配列が同定され得る確率である。Alauna
TM法は、プロジェクトの開始時にペプチダーゼ標的を選択する合理的な仮説を厳密に必要としない。したがって、データセット#2の考慮は任意であるが、標的化されたペプチダーゼの特異性に関する情報を基質精製プロセスに追加することができ(
図3、ステップ3)、ペプチダーゼ標的が高度に特異的である可能性が高い場合、これは、プロセスが治療用途に必要とされる特定疾患選択的活性化をもたらすという確信を加える。
【0318】
この態様において、データセット#2は、MMP14ならびに他のMMPについてのMEROPSデータベースからの基質配列情報を含んでいた(Rawlings, 2016; Rawlings et al., 2004)。PXG|Lのコンセンサス配列(ここで、「|」は切断可能な結合を示す)は、MEROPSデータベースにおいてMMP14について見出されたが、このデータについてのソース研究は、データベースにおいて容易に利用可能ではなかった。生物学的ディスプレイ法は、MMP14(Jabaiah and Daugherty, 2011; Kridel et al., 2002)、ならびに他の候補基質ライブラリーアプローチ(Turk et al., 2001)について他の場所で報告されており、これは、各アプローチが、異なるコンセンサス配列を生じるいくつかの制限または配列の偏りに悩まされるが、各々が、基質配列内の少なくとも3つの部位においてアミノ酸優先性を示し、他のMMPの中でもMMP14について特異的かつ選択的な基質が得られ得る可能性を示す。他のMMPも同様のPXG|Lコンセンサス配列を切断するが、これらの位置の外側の他の部位は、他のペプチダーゼに対するMMP14による特異的切断に寄与することが示されており、例えば(Turk et al., 2001))、これはさらなるMMP特異性が得られ得ることを示唆している。
【0319】
データセット#3は、MMP14に関するBRENDAデータベース(2019年11月にアクセス)内に集約された酵素の活性データを含んでいた。BRENDAデータベースは、I型コラーゲンα鎖およびproMMP2などのいくつかの天然基質を列挙しており、細胞外マトリックスの分解の促進および他のMMPの活性化におけるその機能と一致している。
【0320】
ツール基質を用いて測定された典型的な動態パラメーターを、低ナノモルのミカエリス定数(KM)と共に列挙し、ピコモルのKM値を、I型コラーゲンα-1および-2鎖基質について測定した。蛍光プローブのメトキシクマリン-4-アセチル-Lys-Pro-Leu-Gly-Leu-Lys(2,4-ジニトロフェニル)-Ala-Arg-NH2は、報告された代謝回転数0.33~6.8(s-1)、および蛍光アッセイによって測定された触媒効率値550~2429mM-1s-1を有した。これらの値はすべて、BRENDAデータベースに報告されている類似の基質に対して測定されたMMP9値に匹敵する。
【0321】
データセット#4、細胞内局在:膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT-MMP1)のメンバーとしてのMMP14は、細胞表面に局在する。この膜局在化は、MMPおよび他のペプチダーゼの分泌形態よりも制限された局在化を予測するので、腫瘍標的化プロドラッグ設計への適用に魅力的である。MMP14の既知のシェダーゼ基質には、EMMPRIN、腎損傷分子I、MHCクラスI鎖関連分子A、および他の調節タンパク質が含まれる(Egawa et al., 2006; Guo et al., 2012; Liu et al., 2010)。
【0322】
条件#1、#2、#3の選択。
【0323】
MMP14は、膵臓がん(Maatta et al., 2000)、結腸直腸がん(Cui et al., 2019、乳がん(Radisky and Radisky, 2015)、および卵巣がん(Kamat et al., 2006).における予後不良のマーカーである。MMP14はまた、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の陽性予後バイオマーカーの候補でもあり、より高濃度のMMP14は、免疫細胞浸潤、特にM0マクロファージの増加と相関する(Yin et al., 2020)。VEGFは、腎臓癌(好ましくない)、肝臓癌(好ましくない)、子宮内膜癌(好ましくない)、尿路上皮癌(好ましい)および子宮頸癌(好ましくない)における予後マーカーである。それは細胞内および分泌タンパク質であり、低い組織特異性を有する。したがって、VEGFを標的とする治療薬に特異性の層を加えることは、これらの薬剤の治療指数を改善するための戦略である。MMP14およびVEGF発現および共局在化の交点における組織および細胞株は、条件#1を定義する。上記に列挙した適応症に基づいて、MMP14およびVEGFの両方が抗VEGF治療剤のプロドラッグ設計のために標的化され得る可能な疾患組織型のリストには、膵臓癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝臓癌、子宮内膜癌、尿路上皮癌、および子宮頸癌が含まれる。薬効を実証するために、AlaunaTM法の下流の異種移植実験に適した細胞株を利用することが好ましい。
【0324】
GDSCマイクロアレイ分析に利用した細胞株を使用して、MMP14およびVEGFまたはVEGF受容体の両方についての存在量に関して適切な陽性細胞株であり得る腎臓、結腸、甲状腺および皮膚癌細胞株への選択を狭めた。一実施形態において、これらの細胞株は、AlaunaTM法のステップ2のためのスクリーニングアッセイ設計における条件#1を表す。VEGFもしくはVEGF受容体のいずれか、またはMMP14をそれぞれ欠いている条件#2または条件#3サンプルとして役立つように、CRISPRで構築された遺伝子ノックアウトまたはsiRNA技術を使用した発現レベルのノックダウンを使用して、マッチした同質遺伝子陰性対照細胞株も細胞ベースの実験に使用する。GDSC分析から、甲状腺癌細胞株ASH-3、FTC-133、K5およびBCPAP;および腎臓癌細胞株RCC-MF、KMRC-1、A498は、両方ともMMP14およびVEGFの両方に対して陽性であり、条件#1からのサンプルを表す。悪性黒色腫細胞株IST-MEL1およびCP50-MEL-Bもまた、MMP14およびVEGF受容体-1(fms関連チロシンキナーゼ1)に対して強い陽性であると予測される。一般的な例において、異種移植に適した細胞型の選択は、生理学的実験系を作製するために推奨される。
【0325】
抗VEGFおよび抗VEGFRモノクローナル抗体療法は、転移性結腸直腸癌、転移性乳癌、NSCLC、または胃癌、腎臓癌、肝細胞癌、甲状腺癌、ならびに黄斑変性症に使用されている。腫瘍適用のためのこれらの薬剤の作用に関連する有害作用としては、血栓形成、出血、蛋白尿、内分泌機能異常、および高血圧が挙げられる(Ferrara et al., 2005; Kamba and McDonald, 2007)。眼のための抗VEGF療法による有害事象には、特に高齢患者における胃腸障害および血栓塞栓性事象も含まれる(Falavarjani and Nguyen, 2013)。抗VEGF療法は、母親における全身性副作用および胎児への危害の高いリスクのため、生殖年齢の女性には推奨されない(Rogers et al., 2016)。これらの有害事象は、VEGFシグナル伝達の正常な生理学的機能に関連している可能性があり、条件#2のための試料タイプ:正常な胎盤、甲状腺、胃腸/結腸、腎臓、乳房、肺、肝臓、および眼の組織またはモデル細胞系からの組織試料の選択を知らせる。
【0326】
患者にわたる広範なスクリーニングを、AlaunaTM法のステップ4で導入する。スクリーニングは、結腸直腸癌、腎臓癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、DLBCA癌、骨肉腫、甲状腺癌、子宮癌、皮膚癌、肝臓癌、および他の細胞種の試料から選択された組織および株化細胞、ならびに対応する正常組織または株化細胞を用いて行われるべきである。
【0327】
データセット#1および#4を補足するために、MMP14およびVEGFおよびVEGF受容体タンパク質の組織共局在についての組織学データを使用して、共局在の可能性が最も高い候補組織に優先順位を付ける。細胞外MMP14について陰性であるこのリストからの組織は、条件#2を表し;MMP14について陽性であるが、VEGFまたはVEGF受容体について陰性である組織は、条件#3を表す。さらに、候補MMP14切断可能基質配列の安定性を評価するために、条件#3についてのカウンタースクリーニングは、血清または血漿中の循環ペプチダーゼなどの健康な区画から調製された試料を含むことができる(Jambunathan and Galande,2014)。
【0328】
【0329】
この実施形態において、標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットは、MMP酵素のファミリー、具体的にはMMP14から選択された。
【0330】
実験1は、洗練された組換え酵素を使用して実施される多重基質プロファイリングアッセイである。適切なAlaunaTM法不偏ライブラリーを、適用のために必要とされるレベルの複雑性に適合させることによって選択した。この実施形態では、ペプチダーゼのMMPファミリー、具体的にはMMP14が、ペプチダーゼ標的として選択されている。ペプチダーゼのMMPファミリーは、PX(Sm)|(Hy)として要約することができるコンセンサス配列を共有し、ここで、「Sm」はG、A、S、N、Eなどの小さな残基であり、「Hy」はL、M、Y、I、Fなどの疎水性残基である(Turk et al.,2001)。
【0331】
個々のMMPファミリーメンバーによって他の基質よりも迅速に、より効率的に、またはより完全に切断される基質を意味する、高度に「特異的な」基質を同定することは、進行中の課題である。既存の技術を使用して、MMPファミリーの別のメンバーに対して1つのMMPによってより迅速に、より効率的に、またはより完全に切断される基質を意味する、高度に「選択的な」基質を同定することも同様に困難である。これは、全ての既存の技術が、配列中の各位置におけるアミノ酸頻度を要約するコンセンサスモチーフへと、プロファイリングされたペプチダーゼ基質のセットから収集された情報を本質的に崩壊させ、それらのモチーフ内のアミノ酸間の協同性、すなわち連結性を無視するためである。それにもかかわらず、MMPファミリーについて今日までに収集されたデータは、個々のMMPが、認識および切断され得る基質を規定するために少なくとも3つの位置を必要とすることを示す(Turk et al., 2001)。
【0332】
MMPファミリーからの個々のペプチダーゼの特異性を決定するために、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4を、実験1において行った多重基質プロファイリングアッセイにおいて使用した。この実験のために、組換え酵素(R&D Systems、#911-MPおよび#918-MP)を製造業者の推奨に従って活性化した。低ナノモル濃度、典型的には10nMで、1mM CaCl
2を含有する50mM TRIS HCl緩衝液中、pH7.4で酵素をアッセイして、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4内で合成ペプチドの切断を触媒した。Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4を構成する合成ペプチドを、標準的な固相ペプチド合成によって調製し、それらを、ペプチダーゼ反応における各基質に対して500nM等モル濃度で調製した基質の単一プールに合わせた。ペプチダーゼアッセイを速度論的形式で行い、アリコートを取り出し、数分から数時間の範囲の反応過程にわたって複数の時点で1%ギ酸で反応をクエンチした。これらのアリコートを、C18脱塩チップおよび標準質量分析適合性溶媒(溶媒A:HPLCグレード水中0.1%ギ酸、溶媒B:水中50%アセトニトリル、0.1%ギ酸)を使用して直ちに脱塩し、次いで、LC-MS/MSによる分析の前に真空下で乾燥させた。従って、データ分析のために、反応速度論の原理を適用して、観察された切断速度(k
obs)、触媒効率(k
cat/K
M)、および基質切断の最大収率(%基質消費または%生成物形成)を評価することが可能である。この場合、最大生成物形成(%P)におけるプラトーを、固定された反応時間後に固有の結合切断が生じたか否かの二元決定のための閾値として使用した。この分析の生データ出力(アウトプット#1、
図3)は、それらの切断可能な結合によって整列された切断配列のリストである。
【0333】
この実施形態において、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4は、可能な対相互作用の全ライブラリー分布と比較して、切断された基質間で濃縮された協同的相互作用の対について解くことによって、MMPについて3つより多くのアミノ酸残基から構成されるGearr
TMモチーフを同定するのに十分であった。
図7に、MMP14およびMMP9についてのこの実験の結果の配列ロゴ表示を示す。MMP14についての実験1において、質量分析で測定した場合、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4内に80個のユニークな基質切断が観察された。これらの切断の中には、バックグラウンドライブラリー配列と比較して濃縮された4対の協同的残基があり、好ましい切断を示した。これらの協同的相互作用の全ては、MMP14のGearr
TMモチーフPXG|(M/L/I)Yを用いて要約することができる。MMP9を用いた実験では、241個の固有の切断が観察され、6対の協同的相互作用残基がバックグラウンドよりも少なくとも2倍濃縮され、MMP9についてPG(S/G)(I/R/M/L)XSのGearr
TMモチーフをもたらした(
図7)。
【0334】
従って、実験1の結果は、特定の条件下でのペプチダーゼ活性実験について測定された、ある閾値(この場合、バックグラウンドに対して>2倍の濃縮)で観察された全ての協同的相互作用を要約する候補GearrTMモチーフである。これらの実験1の結果は、GearrTMモチーフが、ペプチダーゼ分野における標準的な方法論を用いて得られた標準的なコンセンサス配列またはコンセンサスモチーフとは異なることを明確に実証した。GearrTMモチーフは、協同性として記載される共会合として残基間の連結性を捕捉するが、コンセンサス配列は、それらの連結性を無視して、基質配列内の全ての位置で観察されるアミノ酸頻度を要約することを目的とする。
【0335】
実験2は、インプット仮説(
図3、インプット#1)によって定義される条件#1、#2および#3を表す、患者由来ならびに細胞ベースの試料を使用して実施された生物学的発見実験である。
【0336】
実験2の第1のステップは、約100mgの組織塊の瞬間凍結外科生検試料を用いた馴化培地試料の調製である。条件#1についての発見スクリーニングの第1のシリーズからの組織サンプルは、病理学的にグレード付けされた結腸直腸癌および甲状腺乳頭癌、ならびに同じ手順(条件#2および#3)から得られた対応する非罹患組織サンプルを含んだ。他のタイプの正常で健康な組織を試験するために、大腸または甲状腺結節の生体組織検査(良性と分類される)、ならびにヒト腎臓および結腸上皮細胞から収集され得るような、初代組織および不死化「健康」細胞株が使用される。
【0337】
実験2では、解凍した組織から馴化培地を調製し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回すすぎ、試料から目に見える血液を除去した後、それらを約1mm3片にダイシングする。これらを、FBSを補充していないDulbecco's Modified Eagle's medium(DMEM)(これは、サンプルのペプチダーゼプロフィールを改変する因子を含み得る)のような温かい基礎細胞培養培地中でリンスし、次いで、この培地を、1:30の組織湿潤重量対培地体積の典型的な体積で置き換える。組織を、標準的な哺乳動物細胞培養条件下で16時間、培地中でインキュベートし、次いで、馴化培地を収集し、さらに16時間、新鮮な培地と交換し、最初のものと合わせて、ニートな馴化培地を生成する。さらなるマーカーが免疫検出またはプロテオミクス分析で試験される場合、組織は、細胞溶解物への処理のために保存されてもよい。細胞毒性は、細胞死が<5%のままである限り、3日間まで培養中のサンプルを維持することを目的として、ラクトースデヒドロゲナーゼアッセイによってこれらのサンプルにおいて日常的に試験される。次いで、馴化培地を緩衝液交換し、細胞培養グレードのPBSで濃縮する。最終総タンパク質濃度は、BCAアッセイによって馴化培地中で決定され、典型的には1~5mg/mlの範囲である。
【0338】
これらの馴化培地サンプルは、実験2のインプットを表す。プロテオミクス分析のために、緩衝液交換された馴化培地からの約10マイクログラムの総タンパク質を、配列決定グレードのトリプシンで消化し、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)を使用する半定量的な無標識プロテオミクス分析に供した。プロテオミクスデータを、相対的タンパク質存在量の近似としてスペクトルカウントで出力した。ペプチドカウントを、単一のMSサンプルからの総カウントによって正規化した。試料を個々に分析し、得られたタンパク質同定を、相対的タンパク質存在量の近似としてスペクトルカウントを用いて出力した。サンプルローディング差を補正するために、スペクトルカウント測定値をサンプル中の全シグナルに対して正規化し、欠測値を帰属させ、正規化されたスペクトルカウントデータを、サンプル間のレシオメトリック比較のためにlog
2正規化した。個々の比較は、R統計コンピューティング環境においてウェルチのt検定を使用して、サンプル間、ならびに条件#1対条件#2または#3からのセット間で行うことができる。個々のサンプルにおいて同定されたペプチダーゼは、実験#1のためのさらなるペプチダーゼの選択を知らせる。これらのデータはまた、データセット#1(
図3、インプット#1)を補足するために使用される。乳頭甲状腺腫瘍手術試料のセットのプロテオミクス分析は、CTSBを含む複数のカテプシン、および膜結合ペプチダーゼPRSS1が、非罹患隣接組織と比較して腫瘍試料において上方制御されることを明らかにした。
【0339】
つづいて、CTSBおよびPRSS1を、MMPについて使用したのと同じアプローチを使用して、AlaunaTM法不偏ライブラリー2.4による実験1基質プロファイリングのために選択した。ヒトCTSBおよびPRSS1(R&D Systems, 953-CY および 3848-SE)を製造業者の推奨に従って活性化した。PRSS1を、MMP14およびMMP9についてのpH7.4反応(50mM TRIS-HCl、1mM CaCl2、pH7.4)に適合するアッセイ条件でAlaunaTM法を使用して試験した。CTSB活性は、pH4.5~5.5などの酸性反応条件下で増加するので、その活性を増強するために、50mM酢酸ナトリウム中、pH6.0でアッセイした。CTSBもPRSS1もAlaunaTM法によって得られたそれらの切断において有意な協同的相互作用を示さず、したがって、これらの酵素について真のGearrTMモチーフを得ることができない。しかし、単純なコンセンサス配列:PRSS1については(K/R)|X(ここで、XはProではない)、およびCTSBについては(K/F)(K/R)|(Hy)(G/A)によって表すことができるアミノ酸頻度の濃縮が存在する。したがって、これら2つの酵素の特異性は、ハイブリッド切断モチーフ設計に適合する。
【0340】
乳頭甲状腺腫瘍微小環境に存在する潜在的に活性なCTSBおよびPRSS1ペプチダーゼは、試料中の全体的なペプチダーゼ切断活性に寄与し得、塩基性残基KおよびRに対するC末端の切断に寄与する。
【0341】
実験2におけるペプチダーゼ活性プロファイリングは、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4を使用して、腫瘍対非罹患隣接組織において観察される示差的活性を調査するために、外科的に切除された乳頭状甲状腺腫瘍試料の同じセットからの緩衝液交換馴化培地を使用して実施された。各試料中の酵素力価は未知であるので、ペプチダーゼ試料として馴化培地試料からのタンパク質の質量による固定総量を使用することによって反応を正規化し、酵素触媒切断を評価するために反応速度形式で反応を行った。実験1におけるように、最大生成物形成(%P)におけるプラトーを、各サンプルにおいて固定された反応時間後に固有の結合切断が生じたか否かの二値決定のための閾値として使用した。アウトプット#3における各反応から得られた切断は、非罹患隣接組織と比較して腫瘍馴化培地試料において選択的に切断された、このライブラリー内の154個のエンドペプチド分解性切断をもたらした。この分析の生データ出力(アウトプット#3、
図3)は、各馴化培地試料からの切断可能な結合によって整列された切断配列のリストであり、その中で協調的相互作用がアルゴリズム1を使用して同定された。腫瘍選択的Gearr
TMモチーフYPTL|(I/F)YX(H/N)は、これらの乳頭状甲状腺腫瘍試料について同定され(
図8)、それは、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4におけるバックグラウンドを超えるこの切断セットにおいて濃縮された6つの協同的相互作用を組み込む。
【0342】
この実施形態では、VEGFは分泌タンパク質であるため、循環中の抗VEGFプロドラッグの安定性は重要な薬物動態学的特徴であり、したがって、肝臓由来のヘプシンまたは循環酵素第Xa因子およびトロンビンなどの健康な組織または区画における非標的化ペプチダーゼによる切断に対する基質配列の感受性は、条件#3からの活性ペプチダーゼの一部であると考えることができる。ヘプシンは、C末端からArg残基への切断に対して強い優先性を有する膜貫通セリンペプチダーゼである。トロンビンは(G/P)(R/K)|のGearrTMモチーフを有し、第Xa因子は(P/G/A/L)(R/K)|Sのわずかに広いGearrTMモチーフを有する。これらの酵素偏ライブラリー2.4を用いて実験1においてアッセイした場合、これらの酵素のいずれも、甲状腺乳頭癌サンプルについて腫瘍選択的GearrTMモチーフを有する残基の協同対を共有しない。AlaunaTM
【0343】
この実施形態において、アルゴリズム1の主な適用は、実験1および2、アウトプット#1および#3から得られた切断された基質配列のセットの示差分析を行うことである。インプット#1によって定義される条件は、どの組の切断が比較されるべきかを定義するのに役立つ。非罹患組織が、薬物標的の存在(条件#2を表す)について、または標的ペプチダーゼの存在(条件#3)について陰性とみなされるかどうかを確認するために、これらのタンパク質の相対存在量を、免疫検出またはタンパク質レベルでのプロテオミクス分析を使用して決定する。一般的なMMPの活性はまた、蛍光基質メトキシクマリン-4-アセチル-Lys-Pro-Leu-Gly-Leu-Lys(2,4-ジニトロフェニル)-Ala-Arg-NH2を使用してMMP活性を検出し、条件#3を定義することによるような高感度酵素アッセイを使用して、定量し、試料間で比較することができる。
【0344】
アルゴリズム1からのアウトプット#4は、腫瘍選択的GearrTMモチーフYPTL|(I/F)YX(H/N)である。このGearrTMモチーフは、ある範囲の反応速度および切断の全収率を有する複数の誘導体配列を含む。馴化培地試料は複数のペプチダーゼを含有するので、基質配列内の単一の変異は、その中のGearrTMモチーフを認識する全てのペプチダーゼの動態に影響を及ぼし得る。従って、リード候補基質配列は、切断を検証および定量するために経験的に試験されるべきである。この実施形態では、個々の試料と条件との間の開裂に対する選択性の比較を可能にするので、触媒効率が測定される。ステップ3において、全ての可能な変異体が、このGearrTMモチーフについて計算され、これは、リード基質配列(ここで、位置M1’は、IまたはFであり、位置M3’は、19個の天然アミノ酸(酸化によるCを除く)のうちの1つであり、そして位置M4’は、HまたはNである)から構成される76個の可能な基質配列を含む。これらの76個の変異体の複雑性を低減するために、アルゴリズム2を用いた新しいライブラリー設計のステップ3のプロセスを開始する前に、実験3のために小さなライブラリーを調製する。実験3では、より少数のリード候補基質配列を優先するために、腫瘍選択的GearrTMモチーフの76個の変異体の切断の触媒効率を試験する。
【0345】
プロテオーム解析に基づいて、PRSS1およびCTSBを含む、甲状腺乳頭癌の腫瘍対対応する非罹患試料において差次的に上方制御された、MMP以外のさらなるペプチダーゼも同定した。AlaunaTM法不偏ライブラリー2.4を用いた実験1から同定されたこれらの酵素についてのコンセンサスモチーフを使用して、インプット#2において、これらの基質切断部位の付加が候補基質についての切断の速度または有効性を増強し得るか否かを試験することを決定した。したがって、これらの酵素に対する候補切断部位も組み込むアルゴリズム2を使用して、設定を設計した。
【0346】
CTSBおよびPRSS1は、適合するコンセンサス配列:PRSS1については(K/R)|X(式中、XはProではない)、およびCTSBについては(K/F)(K/R)|(Hy)(G/A)を有し、これらは一緒になって、
図4パネルBの設計と同様のハイブリッドモチーフであると考えられた。酵素ヘプシン、トロンビン又は第Xa因子による切断を回避するために、Argの使用を回避した。したがって、ハイブリッドモチーフは、位置M2にKまたはF、位置M1にK、位置M1’にM、L、I、V、F、WまたはY、および位置M2’にGまたはAを含有する28個のユニーク配列を含む。
【0347】
CTSBおよびリード腫瘍選択的Gearr
TMモチーフは適合性ではないので、
図4、パネルBに示すように、タンデム設計を用いて、両方のモチーフを含む基質配列を構築する。1つ以上のブラケティング残基(位置X2)が、2つのGearr
TMモチーフの間に導入され得る。ブラケティング残基は、一般的に、GlyおよびSerのような小さな可撓性アミノ酸から選択されるが、AlaおよびProもまた有利であり得る。従って、ブラケティング残基の付加により、4つの改変体が必要とされた。2つのブラケティング残基位置を有する設定では、これは16個の変異体を加える。最後に、代替の設定GRLX2PAX1Lも3つすべてのGearr
TMモチーフを収容することができる
図4パネルBの設計と同様に、腫瘍選択的Gearr
TMモチーフの上流または下流のいずれかにCTSBを有する代替立体配座も入力仮説#2段階で考慮した。全ての変異がこのライブラリー設計において使い尽くされる場合、変異体の総数は、最大6.8×10
4個のユニーク配列を含む。ライブラリースケールは各可変要素の付加と共に増大するので、腫瘍選択的Gearr
TMモチーフの実験3の洗練されたサブセットに関する情報を使用して、試験される変異の数を減少させることができる。この場合、腫瘍選択的Gearr
TMモチーフの適合性は、MMP9切断と適合するはずであるとさらに仮定した。したがって、実験3は、MMP14およびMMP9組換え酵素を用いて実施することができ、得られた腫瘍選択的Gearr
TMモチーフの配列変異体は、アルゴリズム2を用いて設計された配列変異体ライブラリーへの組み込みのための4つの候補の短いリストに優先順位を付けることができる。これは、アルゴリズム2ライブラリーサイズを6.8×10
4から3,584のユニークな基質配列に減少させる。
【0348】
ステップ4において、これらの改変体配列の選択性は、多くの組織生検サンプルを使用して、条件#1、#2、および#3において規定される複数の組織タイプおよび健常組織タイプまたは非罹患組織タイプにわたって試験される。この設定において、スクリーニングサンプルを、選択されたVEGFまたはVEGFレセプター薬物標的の阻害に関連する公知の有害事象に関連する組織(例えば、胎盤)から選択した。この場合、例えば、細胞株HTR-8/SVneo(正常な胎盤栄養膜を代表するヒト不死第1トリメスターEVT細胞株)を選択した。MMP14およびVEGFは、プラセンタにおける血管形成の調節において重要な役割を有し(Chung et al., 2000; Kaitu’u-Lino et al., 2012)、したがって、プラセンタおよび前子癇性プラセンタは、重要な条件#2および/または#3組織サンプルである。ステップ4スクリーニングコホートに含まれる他の正常組織は、乳房形成術からの健康な胸部組織試料、良性結腸直腸ポリープまたは結節および良性甲状腺結節の外科的生体組織検査試料、ならびに肺組織、肝臓組織、腎組織、皮膚組織、眼組織、膵臓組織、卵巣組織、子宮内膜組織、尿路上皮組織、および子宮頸部組織からの同様の試料であった。このスクリーニングプロセスのためのサンプル数の選択は、臨床設計の原理によって影響される。患者間の変動を表すのに十分な数のサンプルが含まれるべきである。最終結果は、50~100個のサンプルを含むスクリーニングサンプルのパネルである。
【0349】
実験4は、より高いスループット形式のスクリーニング実験である。従って、アルゴリズム2を用いて設計された配列変異体のライブラリーは、ファージ、細菌または哺乳動物発現系から選択され得る生物学的ディスプレイスクリーニングシステム内で構築される。本実施例では、AlaunaTM法ライブラリーを、HEK293、CHOまたはHeLaなどの哺乳動物細胞株由来の表面発現足場タンパクの配列に組み込む。ライブラリーは、それらをコードするオリゴヌクレオチド配列の合成を特定するアミノ酸配列を用いてタンパク質レベルで設計される。この場合、重複遺伝子断片をアセンブルし、AlaunaTM法ライブラリーをコードする合成オリゴヌクレオチドを哺乳動物表面発現プラットフォーム系に効果的に挿入するために、Gibsonクローニング技術(Gibson et al., 2009)を使用するなどの分子クローニングの原理を使用して、長さ約120ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドプライマーのプールを設計した。表面ディスプレイシステムが構築されたら、NGSゲノム配列決定を使用して、AlaunaTM法ライブラリー配列インサートを含有する領域に配列決定を集中させることによって、ライブラリーの完全性を試験する。システムの品質管理の目標は、ライブラリーが99.9%完全であることである。この場合、1/1000の変異体が失われる可能性があり、ライブラリーにおいて設計された3,584個のクローンのうち4個のクローンが事実上失われる。ライブラリーの完全性は、アルゴリズム3におけるAlaunaTM法データ分析の重要な特徴である。
【0350】
条件#1、2、および3を表す選択された組織または細胞株のセットから調製された馴化培地サンプルを、ペプチド分解活性の供給源として使用し、ペプチダーゼアッセイを、ペプチダーゼ切断可能基質の供給源としてクローンのプールを使用して実施する。1000万個の哺乳動物細胞のプールを、ペプチダーゼアッセイのために1ミリリットルの反応体積中に懸濁することができる。この場合、3,584個のユニークなクローンのクローンライブラリーは、このような容量内で>2,500倍のコピー数で提示され得、これに、供給源組織からの任意の残留破片を除去するために濾過された緩衝液交換馴化培地由来のペプチダーゼ調製物が、総タンパク質の固定質量(例えば、50マイクログラム)で添加される。馴化培地中のペプチダーゼの典型的な濃度は、実験2で利用した甲状腺手術試料から、0.5~1質量%のペプチダーゼと推定された。
【0351】
ペプチド分解アッセイは、実験1および2のような速度論的条件下で行われ、その結果、反応の過程の間に、アッセイの画分が回収され、切断されたクローンが、フローソーティング技術を使用して行われ得るような二色免疫蛍光アッセイによって区別され得る。懸濁液中の細胞の1ミリリットルの反応について、アリコートは、分単位から時間単位のスケールの時点で収集された200マイクロリットルのアリコートであり得る。次いで、各時点で切断された、ソートされた細胞の得られた集団を収集し、NGS配列決定のために調製して、クローン、したがって、各時点で切断されたAlaunaTM法基質配列を同定する。この調製は、懸濁液から細胞を収集するための穏やかな遠心分離を含み、基質配列から切断されたフラグメントを含む上清を残す。さらなる配列最適化が行われる場合、これらのサンプル内の切断部位を決定して、入力仮説#2を洗練化するのを助けることも重要である。この分析は、ペプチダーゼ切断アッセイによって細胞の表面から上清試料中に放出される断片を分析することによって行うことができる。質量分析によるペプチド配列決定は、プロテオミクス分析を使用するフラグメント同定のために使用される;このプロセスは、最も頻繁に検出される基質についての実行可能な配列情報を生成する。最終的に、切断可能な結合が各反応において見出される位置の分布は、設計された基質配列におけるペプチド分解性切断に最も感受性であるエレメント:腫瘍選択的GearrTMモチーフ、付加されたCTSB/PRSS1ハイブリッドモチーフ、ブラケティング残基、およびこれらの部位が最も有利に作動する設定についての情報となる。ライブラリー内の基質の速度論的ランキングは、生理学的またはインビボ実験条件下でのプロドラッグ活性化のためのペプチド分解性切断の予想される速度について情報を与える。このプロセスのアウトプット#5は、条件#1、2、および3を表すすべての50~100の臨床試料を用いたすべての反応について得られた、切断の異なる触媒速度または触媒効率を有する一連の基質を含む。
【0352】
アルゴリズム3は、臨床サンプルにわたって各基質の性能を比較するために使用される生物統計学的分析であり、例えば、個々のサンプルならびにサンプルのセットについてウェルチのt検定を使用し、各比較において条件#1、#2、および#3を再定義する。例えば、第1の適応症は甲状腺乳頭癌である。ライブラリー中の各基質の選択性は、試験された正常または健康な組織の全てに対して、特定の倍数効率で甲状腺乳頭癌サンプルの全てにおいて切断される性能について評価される。このプロドラッグ設計についての標的治療指数を達成するために必要とされ得る特定の倍数効率は、約1:200、または1:1000、または1:10,000である。
【0353】
このプロセスからのアウトプット#6は、最も高い予測レベルの腫瘍選択性を有する基質配列のランク付けされたリストである。必要に応じて、これらの配列は、時間分解実験#3(例えば、切断の分子検出のための異なるプラットフォームを使用する)においてさらに評価され得る。この実験の1つのバージョンは、ペプチド基質配列を合成し、組換えMMP14、MMP9、CTSBおよびPRSS1、ならびに選択された腫瘍組織試料を使用してそれらの選択的切断を試験することである。あるいは、これらの基質配列は、インビトロまたはインビボ画像化適用のために、レポータープローブ(例えば、FRETプローブまたは蛍光標識プローブ)に挿入され得る。
【0354】
次いで、アウトプット#6において得られる最も選択的な基質配列を、プロドラッグまたはレポーター分子設計内で最終的に試験する。そのような設計は
図9に図示されており、ここで最も単純なモデルは、薬物標的と相互作用するドメインA、および薬物標的と相互作用することからドメインAをマスクするドメインBである。次いで、アウトプット#6から生じた選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列は、ドメインAとBとの間に配置される。プロドラッグ活性化の検出のために、抗体は、フラグメント1またはフラグメント2を特異的に認識するためのELISA形式アッセイのために開発され得る;これらの抗体は、Alauna
TM法スクリーニング実験4内で切断を評価するために、ならびにプロドラッグを評価するために使用されるその後の機構的セルベースおよび薬物動態解析アッセイにおいて有用な分子である。
【0355】
この実施形態において、ドメインAは、抗VEGF抗体もしくは抗VEGF受容体抗体、または関連分子であり、ドメインBは、抗体とその分子薬物標的との結合を妨害するポリペプチドである。ペプチダーゼ切断可能基質は、実験4に概説されるスクリーニングプロセスによって選択される。
【0356】
実施例2:組織および/または細胞選択的切断可能基質配列の同定および使用方法。
AlaunaTM法を抗炎症適応症のための治療標的の選択に適用した。
【0357】
入力仮説:(
図1、インプット#1)薬物標的選択:一実施形態では、薬物標的は、以下から選択される1つ以上の標的を含むが、これらに限定されない: IL-1α、IL-1β、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-17A、IL-23 p19、TNFαおよびTGFβ、IL-2R、IL-4R、IL-6R、IL-17R、α4β7インテグリン、CD11a、CD74、CD163、およびCD20。一実施形態では、薬物標的は、α4β7インテグリン、CD11a、CD74、CD163、およびCD20を含む白血球の表面抗原マーカーを含む。一態様では、抗炎症薬標的は、炎症促進性サイトカインシグナル伝達に関与するサイトカインまたはサイトカイン受容体である。阻害される炎症促進性サイトカインおよびサイトカイン受容体の例としては、IL-1α、IL-1β、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-17A、IL-23 p19、IL-33、IL-36α、IL-36β、IL-36γ、TNFαおよびTGFβ、IL-2R、IL-4R、IL-6R、IL-17Rが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、炎症促進性サイトカインもしくはサイトカイン受容体への、または白血球の表面抗原マーカーへの治療剤の結合は、マスキングドメインを放出する基質配列のペプチダーゼ切断に依存し、マスキングドメインは、白血球の細胞外微小環境におけるように、治療作用部位においてのみ、炎症促進性サイトカイン、サイトカイン受容体、または白血球の表面抗原マーカーへの治療剤の結合を制限する。
【0358】
ペプチダーゼ標的選択:ヒトゲノムは、550を超えるペプチダーゼをコードする(Puente,2003)。これらのペプチダーゼのいずれも、以前に開発されたペプチダーゼ切断可能基質配列(表1)を有するいくつかを含めて、プロドラッグ設計のための標的ペプチダーゼとして働くことができる。免疫細胞は、周知のペプチダーゼ分泌機能を有する。例えば、活性化された好中球は、好中球エラスターゼ、カテプシンG、セリンプロテアーゼ3、セリンプロテアーゼ4を含むセリンプロテアーゼファミリーからのペプチダーゼ、ならびにMMPファミリーからのコラゲナーゼおよびゼラチナーゼを放出する。好中球の細胞外ペプチダーゼは、IL-1ファミリーサイトカイン放出およびペプチダーゼ触媒活性化に関与し、これは炎症を誘導する(Clancy et al., 2018)。誘導されたマクロファージは、uPAおよびMMP9を放出し(Pejler et al., 2003; Shapiro et al., 1991)、MMP14は、リウマチ性関節炎を有する患者由来のマクロファージにおいて高度に発現される(パップら、2000年)。細胞傷害性Tリンパ球およびナチュラルキラー細胞は、炎症促進性機能を有するGRa、GrB、GrH、GrK、およびGrMを含むグランザイムを含有する顆粒を放出する(Wensink et al.,2015)。従って、ペプチダーゼ標的は、以下を含む白血球および炎症の誘導に関連するものから選択され得る。エラスターゼ、カテプシンG、セリンプロテアーゼ3、セリンプロテアーゼ4、MMP9および他のMMPファミリーペプチダーゼ、uPA、ならびにグランザイムA、B、H、KおよびM。この実施形態のためのペプチダーゼ選択に関する入力仮説は、1つ以上のペプチダーゼが、関節リウマチ、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、炎症性腸疾患、慢性炎症性肺疾患、乾癬、多発性硬化症、肺線維症、全身性エリテマトーデスおよび他の炎症性適応症などの複数の炎症状態のための有用なペプチダーゼ標的として働くというものであった。ペプチダーゼおよび薬物標的の選択を狭めるために、Alauna
TM法(
図1、インプット#1)に記載されるデータセット#1~4をアセンブルして、以下のように基準マトリックスを構築した。
【0359】
データセット#1、薬物標的およびペプチダーゼ存在量:遺伝子発現データは、健康な個体および様々な形態のリウマチ性関節炎(RA)を有する患者からの滑液などの炎症組織試料から収集された(Platzer et al., 2019)。遺伝子発現データはまた、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease、IBD)について、IBD組織(条件#1)を罹患していないまたは正常な大腸由来の組織(条件#2または#3)、ならびにGI管研究において使用されるCaCo2細胞株を使用する(Dooley et al., 2004)と同様に、利用可能である。PulmonDBは、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease、COPD)および特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis、IPF)を有する患者についての遺伝子発現データを含む(Villasenor-Altamirano et al., 2020)。合理的なアプローチのための薬物標的および標的ペプチダーゼの選択を優先するために、これらのデータセットは、個々の候補薬物標的(IL-1α、IL-1β、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-17A、IL-23 p19、TNFαおよびTGFβ、IL-2R、IL-4R、IL-6R、IL-17R、α4β7インテグリン、CD11a、CD74、CD163、およびCD20)についての正規化された遺伝子発現レベルと全ての公知のヒトペプチダーゼとの相関について照会される。
【0360】
治療または診断開発プログラムは、それ自体の存在量のデータセット#1を収集することを選択し得、それによって、疾患表現型および疾患機構洞察に関連する特徴を有する状態#1、#2および#3を定義する。例えば、より重度の関節リウマチを有する一部の患者は、組織分解に関連する関節外組織、例えば、炎症性皮下リウマチ結節をさらに発症する。リウマチ性関節炎滑液対皮下リウマチ性結節からの遺伝子発現プロファイルの最近の分析は、MMP1およびMMP3が滑液中およびRA患者の血中で上方制御される一方で、MMP7およびMMP12(マクロファージエラスターゼ)が皮下結節中で上方制御されることを明らかにした(Kazantseva et al., 2013)。これは、特にRA皮下結節において、MMPが組織特異的アップレギュレーションを受けるという考察に信頼を与える。データセット#1を収集するための目標は、MMPを含む複数のペプチダーゼについて転写物レベルまたはタンパク質レベルのいずれかで存在量を評価すること、および候補薬物標的との相関を評価することである。
【0361】
一実施形態では、RAの組織選択的分析のためのデータセット#1を収集する実験計画は、以下のように指定された。第1に、治療部位は、組織サンプルおよび条件#1においてそれらを浸す生体液の選択を定義する。進行期RA(状態#1)由来の滑液サンプルおよび初期RA(「正常」状態#2または#3の代用として)由来の同様に調製されたサンプルは、1つのサンプルタイプである。別の試料タイプは、皮下リウマトイド結節(条件#1の組織特異的変異として)および対応する非罹患隣接組織(条件#2または#3)からの組織生検である。条件#1、#2、および#3からのこれらの試料を、RT-PCRによる遺伝子発現レベルおよびELISAによるタンパク質発現レベルの分析のために選択する。これらのサンプルを、候補薬物標的のセット(IL-1α、IL-1β、IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IL-17A、IL-23 p19、TNFαおよびTGFβ、IL-2R、IL-4R、IL-6R、IL-17R、α4β7インテグリン、CD11a、CD74、CD163、およびCD20)と、MMP1、MMP3、MMP7、MMP9、MMP12、およびMMP14を含むMMPファミリーペプチダーゼ、好中球エラスターゼ、カテプシンG、セリンプロテアーゼ3、セリンプロテアーゼ4、uPA、ならびにグランザイムA、B、H、K、およびMを含むがこれらに限定されない選択されたペプチダーゼのセットとの間の相関について試験する。タンパク標的のこのサブセットは、重要なデータセット#1を含むが、完全性を保証するためにも、NGSを用いたRNASeqトランスクリプトーム解析を使用して、全ての発現されたペプチダーゼならびにそれらの阻害剤を含む完全なデータセットを収集することができる(Anamika et al., 2016)。
【0362】
インプット#1(
図3)における合理的仮説は、免疫細胞が、治療設計のためのペプチダーゼ標的として役立ち得る既知の候補ペプチダーゼのセットを用いて、ペプチダーゼ活性を炎症部位に寄与していることをさらに特定する。さらなる実施形態において、データセット#1はまた、RAにおける白血球の細胞選択的分析のために収集された。白血球は、適切な患者コホートを選択するための臨床設計の原理を使用して、好ましくはコホート当たり最低n=3~5人の患者を用いて、RA患者および健常患者からの全血から単離される。これらのドナーからの白血球は、RBCを除去するための塩化アンモニウム処理を使用して単離され得、次いで、好中球を誘導するための酢酸ミリスチン酸ホルボール、T細胞を活性化するためのCD3/CD28などの強力なT細胞抗原、またはマクロファージ、B細胞を含む単球のLPS刺激を使用するなどの外因性活性化処理に供され得る。これらの試料からの馴化培地、好ましくは無血清または合成血清(FBSを欠く)を用いて調製された馴化培地は、ペプチダーゼおよび炎症性シグナル伝達分子を含有する。これらの試料は、炎症シグナル伝達の尺度としてサイトカインのレベルを定量シグナル伝達の尺度としてサイトカインのレベルを定量化することができる。リンパ球単離および刺激のための手順は、十分に開発されている(Stebbings et al., 2012)。ペプチダーゼの存在量は、実験2(アウトプット#2)のように、ELISAによって、またはプロテオミクス分析において直接試験される。RA患者由来の白血球の誘導集団からの馴化培地は、条件#1を表し、健常患者由来のものは、バックグラウンド条件#2および/または#3を表す。
【0363】
インプット#1における仮説の当然の帰結は、RA患者における白血球の集団からのペプチダーゼと健康な患者の白血球におけるものとの同一性は同じであり得るが、タンパク質およびペプチダーゼ活性レベルにおけるそれらの相対的レベルは、疾患重症度に対応する個体間で異なるであろうということである。これらの馴化培地サンプルはまた、細胞選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列の開発のための治療的作用部位として標的化される細胞外環境を表す。白血球に関するデータセット#1の分析を用いて、RA対健常ドナー細胞によって放出される白血球環境中のペプチダーゼ標的のリストを狭める。炎症のマーカーと最も相関するペプチダーゼを標的ペプチダーゼとして選択する。
【0364】
Human Protein Atlas (version 18.1, release date 2018.11.15) (Fagerberg et al., 2014; Uhlen et al., 2015)における正常組織のプロテオミクス(組織病理学的)およびトランスクリプトーム解析は、候補ペプチダーゼのセットの広範な発現プロファイルに関するさらなる情報を明らかにしている。好中球エラスターゼ、カテプシンGおよびグランザイムなどのペプチダーゼは、骨髄およびリンパ組織において組織特異的発現を有する。MMPは、広範な発現プロファイルを有し、したがって、それらの活性は、治療作用部位における炎症組織によって寄与される。条件#1は、理想的には、複数のペプチダーゼ活性がアップレギュレートされる条件であり、条件#3は、これらのペプチダーゼの1つ以上を発現する正常な健常組織である。仮説の精密化の間に考慮された複数のMMPの中で、ヒトタンパク質アトラスデータは、MMP14が、GI管および女性組織を含む複数の組織型にわたって低レベルで広く発現され、MMP7が腎臓および唾液腺において高い発現を有することを示した。好中球エラスターゼは骨髄およびリンパ組織において発現され、グランザイムBはリンパ組織において発現される。
【0365】
データセット#2、ペプチダーゼ基質情報。プロジェクトの最初に、標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼファミリーの選択のための1つの基準は、疾患選択的活性化のための要件を満たす新規ペプチダーゼ切断可能基質配列が同定され得る確率である。Alauna
TM法は、プロジェクトの開始時にペプチダーゼ標的を選択する合理的な仮説を厳密に必要としない。したがって、データセット#2の考慮は任意であるが、標的化されたペプチダーゼの特異性に関する情報を基質精製プロセスに追加することができ(
図3、ステップ3)、ペプチダーゼ標的が高度に特異的である可能性が高い場合、これは、プロセスが治療用途に必要とされる特定疾患選択的活性化をもたらすという確信を加える。
【0366】
この態様において、データセット#2は、MMP14ならびに他のMMPについてのMEROPSデータベースからの基質配列情報を含んでいた(Rawlings, 2016; Rawlings et al., 2004)。PXG|Lのコンセンサス配列(ここで、「|」は切断可能な結合を示す)は、MEROPSデータベースにおいてMMP14について見出されたが、このデータについてのソース研究は、データベースにおいて容易に利用可能ではなかった。生物学的ディスプレイ法は、MMP14(Jabaiah and Daugherty, 2011; Kridel et al., 2002)、ならびに他の候補基質ライブラリーアプローチ(Turk et al., 2001)について他の場所で報告されており、これは、各アプローチが、異なるコンセンサス配列を生じるいくつかの制限または配列の偏りに悩まされるが、各々が、基質配列内の少なくとも3つの部位においてアミノ酸優先性を示し、他のMMPの中でもMMP14について特異的かつ選択的な基質が得られ得る可能性を示す。他のMMPも同様のPXG|Lコンセンサス配列を切断するが、これらの位置の外側の他の部位は、他のペプチダーゼに対するMMP14による特異的切断に寄与することが示されており、例えば(Turk et al.,2001)、これはさらなるMMP特異性が得られ得ることを示唆している。
【0367】
白血球ペプチダーゼについてMEROPSにおいて利用可能な特異性データのさらなる調査は、各候補が、複数の基質認識部位に依存するバランスのとれた基質特異性プロフィールを有することを示す。好中球エラスターゼについての候補GearrTMモチーフは、コンセンサス配列(E/Q)(P/G)(V/I)|によって要約されるアミノ酸頻度に基づいて、位置M3~M1に依存する。グランザイムBについては、GearrTMモチーフは、コンセンサス配列IE(G/P/A/V/L)D|に基づく位置M4-M1に依存し、uPAについては、コンセンサスSGR|によって表される位置M3-M1に依存する。後者は、表1の現在の切断可能なリンカー配列に組み込まれる。塩基性残基アルギニンへの依存性を考慮すると、uPAは、循環中のバックグラウンドセリンペプチダーゼ(これらの多くはArgでの切断を触媒する)による切断の可能性のため、候補としてあまり好ましくない。
【0368】
データセット#3は、MMP14、MMP7、グランザイムB、好中球エラスターゼおよびuPAについてBRENDAデータベース(2019年11月にアクセス)から集計された酵素の活性データを含んでいた。
【0369】
BRENDAデータベースは、I型コラーゲンα鎖およびproMMP2などのMMP14のいくつかの天然基質を列挙しており、細胞外マトリックスの分解の促進および他のMMPの活性化におけるその機能と一致している。ツール基質を用いて測定されたMMP14の典型的な動態パラメーターを、低ナノモルのミカエリス定数(KM)と共に列挙し、I型コラーゲンα-1および-2鎖基質についてピコモルのKM値を測定した。蛍光プローブのメトキシクマリン-4-アセチル-Lys-Pro-Leu-Gly-Leu-Lys(2,4-ジニトロフェニル)-Ala-Arg-NH2は、報告された代謝回転数0.33~6.8(s-1)、および蛍光アッセイによって測定された触媒効率値550~2429mM-1s-1を有した。これらの値はすべて、BRENDAデータベースに報告されている類似の基質に対して測定されたMMP9値に匹敵する。
【0370】
グランザイムBの基質には、アグリカンおよび軟骨プロテオグリカン(両方ともRAに関連する)、ならびにいくつかの他の細胞外基質が含まれる(Boivin et al, 2009)。BRENDAデータベースに報告されている最も活性な基質、例えば蛍光ツール基質2-アミノベンゾイル-IEPDSSMESK-dnpは、マイクロモルのミカエリス定数(KM)、および1~5s-1の代謝回転数(kcat)を有し、これは蛍光アッセイによって測定された758mM-1s-1の推定触媒効率に換算される(sUN ET AL.,2001)。β-グリカン、バイグリカンおよびデコリンなどの候補天然基質は、蛍光アッセイによって測定されるように、それぞれ5.9、1.7および1mM-1s-1の触媒効率を測定した(Boivin et al., 2012)。
【0371】
好中球エラスターゼに関するBRENDAデータベース情報の同様の分析は、情報が豊富である。このデータベースで報告されている天然基質には、IL1、IL2、IL6、軟骨プロテオグリカン、CD2、CD4、CD8、I型、II型、III型、IV型コラーゲン、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、MMP7、MMP9、プログラニュリン、プラスミノーゲン、およびいくつかの他のものが含まれる。BRENDAデータベースに報告されている最も活性な基質、例えば蛍光ツール基質メトキシスクシニル-Ala-Ala-Pro-Val-チオベンジルエステルは、マイクロモルのミカエリス定数(KM)、および22 s-1までの代謝回転数(kcat)を有し、これは蛍光アッセイによって測定された9565 mM-1s-1の推定触媒効率に換算される(Stein et al.,1987)。
【0372】
MEROPSおよびBRENDAデータベースからのデータセット#2および#3の上記分析に基づいて、候補ペプチダーゼ:MMP、好中球エラスターゼ、およびグランザイムBの各々は、RAの罹患組織におけるこれらのペプチダーゼの機構的関与を支持するいくつかの高度に関連する内因性基質とともに、プロドラッグ活性化の特定化に必要とされる活性レベルに関して適格である。
【0373】
データセット#4、細胞内局在:膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT-MMP1)のメンバーとしてのMMP14は、細胞表面に局在する。この膜局在化は、MMPおよび他のペプチダーゼの分泌形態よりも制限された局在化を予測するので、腫瘍標的化プロドラッグ設計への適用に魅力的である。MMP14の既知のシェダーゼ基質には、EMMPRIN、腎損傷分子I、MHCクラスI鎖関連分子A、および他の調節タンパク質が含まれる(Egawa et al., 2006; Guo et al., 2012; Liu et al., 2010)。
【0374】
上記のように、好中球エラスターゼ、カテプシンG、セリンプロテアーゼ3、セリンプロテアーゼ4、uPA、ならびにグランザイムA、B、H、KおよびMはすべて、好中球、マクロファージ、NK細胞、樹状細胞、B細胞およびT細胞を含む刺激された白血球によって放出される。したがって、それらは細胞外微小環境に局在化され、分泌タンパク質または表面結合受容体を標的とするプロドラッグの活性化に使用することができる。
【0375】
条件#1、#2、および#3の選択:データセット#1の収集で説明したように、疾患関連サンプルは、条件#1、#2、および#3を表す必要がある。組織特異的サンプルのカテゴリーにおいて、これらには、進行期RA(条件#1)からの滑液サンプルおよび初期RAから同様に調製されたサンプル(「正常」条件#2または#3の代用として)、ならびに皮下リウマチ結節からの組織生検(条件#1の組織特異的バリエーションとして)および対応する非罹患隣接組織(条件#2または#3)が含まれる。細胞特異的試料のカテゴリーにおいて、これらは、RA患者(条件#1を表す)ならびに健康な患者(条件#2および#3を表す)の全血から単離された白血球から調製された馴化培地を含む。
【0376】
抗IL6および抗IL6受容体モノクローナル抗体療法トシリズマブおよびサリルマブは、リウマチ性関節炎に使用されている。これらの薬剤で最も頻繁に報告される有害事象は、UTIおよび上気道感染を含む感染である。患者はまた、好中球減少、ならびに血清コレステロール上昇レベルおよび増加した肝酵素を有し得る(Hennigan and Kavanaugh, 2008; McCarty and Robinson, 2018)。ヒトタンパク質アトラス組織分布データのレビューは、肺、腎臓、尿、膀胱および骨髄におけるIL6発現を示す。したがって、条件#2および#3についての健康な一次組織のサンプリングは、肝臓、肺、腎臓、尿および膀胱組織を含むべきである。当業者はまた、治療または診断開発プログラムの一部としての有効性を検証するために、機構研究において使用される細胞ベースのアッセイに適合する組織サンプルまたは細胞モデルを選択する。
【0377】
患者にわたる広範なスクリーニングを、AlaunaTM法のステップ4で導入する。スクリーニングは、進行期RA、初期RA(「正常」の代用として)からの滑液試料、皮下リウマトイド結節および対応する非罹患隣接組織からの組織生検を用いて調製された馴化培地、RAを有するドナー対健常患者からの白血球から調製された馴化培地、ならびに抗炎症治療のこの領域における任意の公知の有害事象に関連する選択された組織から調製された馴化培地を用いて行われるべきである。これらは合計50~100個の一次試料である。
【0378】
データセット#1および#4を補足するために、MMP14、MMP7、好中球エラスターゼ、およびグランザイムBなどの候補ペプチダーゼと、IL6およびIL6受容体タンパク質などの候補薬物標的との組織共局在についての組織学データを使用して、共局在の可能性が最も高い候補組織に優先順位を付ける。細胞外ペプチダーゼについて陰性であるこのリストからの組織は、条件#2を表し;ペプチダーゼについて陽性であるが、IL6またはIL6受容体について陰性である組織は、条件#3を表す。さらに、候補MMP14、MMP7、好中球エラスターゼ、およびグランザイムB切断可能基質配列の安定性を評価するために、条件#3についてのカウンタースクリーニングは、血清または血漿中の循環ペプチダーゼなどの健康な区画から調製された試料を含むことができる(Jambunathan and Galande,2014)。
【0379】
【0380】
この実施形態では、標的ペプチダーゼまたはペプチダーゼのセットは、MMP酵素のファミリー、具体的にはMMP14およびMMP7から選択され、任意選択で好中球エラスターゼおよび/またはグランザイムBを伴っても伴わなくてもよい。
【0381】
実験1は、洗練された組換え酵素を使用して実施される多重基質プロファイリングアッセイである。適切なAlaunaTM法不偏ライブラリーを、適用のために必要とされるレベルの複雑性に適合させることによって選択した。この実施形態では、ペプチダーゼのMMPファミリー、具体的にはMMP14およびMMP7が、一次ペプチダーゼ標的として選択されている。ペプチダーゼのMMPファミリーは、PX(Sm)|(Hy)として要約することができるコンセンサス配列を共有し、ここで、「Sm」はG、A、S、N、Eなどの小さな残基であり、「Hy」はL、M、Y、I、Fなどの疎水性残基である(Turk et al.,2001)。
【0382】
実施例2に記載されるように、高度に「特異的」な基質(個々のMMPファミリーメンバーによって他の基質よりも迅速に、より効率的に、またはより完全に切断される基質を意味する)を同定することは、進行中の課題である。既存の技術を使用して、MMPファミリーの別のメンバーに対して1つのMMPによってより迅速に、より効率的に、またはより完全に切断される基質を意味する、高度に「選択的な」基質を同定することも同様に困難である。これは、全ての既存の技術が、配列中の各位置におけるアミノ酸頻度を要約するコンセンサスモチーフへと、プロファイリングされたペプチダーゼ基質のセットから収集された情報を本質的に崩壊させ、それらのモチーフ内のアミノ酸間の協同性、すなわち連結性を無視するためである。それにもかかわらず、MMPファミリーについて今日までに収集されたデータは、個々のMMPが、認識および切断され得る基質を規定するために少なくとも3つの位置を必要とすることを示す(Turk et al.,2001)。
【0383】
MMPファミリーからの個々のペプチダーゼの特異性を決定するために、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4を、他のMMPファミリーペプチダーゼの代用物としてMMP14およびMMP9を用いて実験1において行った多重基質プロファイリングアッセイにおいて使用した。この実験のために、組換え酵素(R&D Systems、#911-MPおよび#918-MP)を製造業者の推奨に従って活性化した。低ナノモル濃度、典型的には10nMで、1mM CaCl
2を含有する50mM TRISHCl緩衝液中のpH7.4で酵素をアッセイして、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4内で合成ペプチドの切断を触媒した。Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4を構成する合成ペプチドを、標準的な固相ペプチド合成によって調製し、それらを、ペプチダーゼ反応における各基質に対して500nM等モル濃度で調製した基質の単一プールに合わせた。ペプチダーゼアッセイを速度論的形式で行い、アリコートを取り出し、数分から数時間の範囲の反応過程にわたって複数の時点で1%ギ酸で反応をクエンチした。これらのアリコートを、C18脱塩チップおよび標準質量分析適合性溶媒(溶媒A:HPLCグレード水中0.1%ギ酸、溶媒B:水中50%アセトニトリル、0.1%ギ酸)を使用して直ちに脱塩し、次いで、LC-MS/MSによる分析の前に真空下で乾燥させた。従って、データ分析のために、反応速度論の原理を適用して、観察された切断速度(k
obs)、触媒効率(k
cat/K
M)、および基質切断の最大収率(%基質消費または%生成物形成)を評価することが可能である。この場合、最大生成物形成(%P)におけるプラトーを、固定された反応時間後に固有の結合切断が生じたか否かの二元決定のための閾値として使用した。この分析の生データ出力(アウトプット#1、
図3)は、それらの切断可能な結合によって整列された切断配列のリストである。
【0384】
この実施形態において、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4は、可能な対相互作用の全ライブラリー分布と比較して、切断された基質間で濃縮された協同的相互作用の対について解くことによって、MMPについて3つより多くのアミノ酸残基から構成されるGearr
TMモチーフを同定するのに十分であった。
図7に、MMP14およびMMP9についてのこの実験の結果の配列ロゴ表示を示す。MMP14についての実験1において、質量分析で測定した場合、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4内に80個のユニークな基質切断が観察された。これらの切断の中には、バックグラウンドライブラリー配列と比較して濃縮された4対の協同的残基があり、好ましい切断を示した。これらの協同的相互作用の全ては、MMP14のGearr
TMモチーフPXG|(M/L/I)Yを用いて要約することができる。MMP9を用いた実験では、241個の固有の切断が観察され、6対の協同的相互作用残基がバックグラウンドよりも少なくとも2倍濃縮され、MMP9についてPG(S/G)(I/R/M/L)XSのGearr
TMモチーフをもたらした(
図7)。好ましくは、同じ実験1フォーマットおよび分析をMMP7でも実施して、この酵素の切断された基質間の任意の固有の協同的相互作用を同定する。MMP9などの他のMMPを使用して、MMP9などの他のMMPよりもMMP7およびMMP14に対するアウトプットGearr
TMモチーフの選択性を高めることができる。
【0385】
実験1の結果は、特定の条件下でのペプチダーゼ活性実験について測定された、ある閾値(この場合、バックグラウンドに対して>2倍の濃縮)で観察された全ての協同的相互作用を要約する候補GearrTMモチーフである。これらの実験1の結果は、GearrTMモチーフが、ペプチダーゼ分野における標準的な方法論を用いて得られた標準的なコンセンサス配列またはコンセンサスモチーフとは異なることを明確に実証した。GearrTMモチーフは、協同性として記載される共会合として残基間の連結性を捕捉するが、コンセンサス配列は、それらの連結性を無視して、基質配列内の全ての位置で観察されるアミノ酸頻度を要約することを目的とする。
【0386】
実験2は、インプット仮説(
図3、インプット#1)によって定義される条件#1、#2および#3を表す、患者由来ならびに細胞ベースの試料を使用して実施された生物学的発見実験である。
【0387】
実験2の第1のステップは、約100mgの組織塊の瞬間凍結外科生検試料を用いた馴化培地試料の調製である。第1の一連の発見スクリーニングからの組織試料は、進行期RA(条件#1)および初期RA(「正常」の代用として、条件#2および#3)からの病理学的に等級付けされた関節リウマチ滑液試料、皮下リウマチ結節(条件#1)および対応する非罹患隣接組織(条件#2および#3)からの組織生検で調製された馴化培地、ならびにRAを有するドナー(条件#1)対健常患者(条件#2および#3)からの白血球から調製された馴化培地を含む。他のタイプの正常な健康な組織を試験するために、結腸結節生検(グレード良性)、ならびにヒト肺、腎臓、または膀胱上皮細胞から収集され得るような、初代組織および不死化「健康」細胞株が使用される。
【0388】
実験2では、解凍した組織から馴化培地を調製し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回すすぎ、試料から目に見える血液を除去した後、それらを約1 mm3片にダイシングする。これらを、FBSを補充していないDulbecco's Modified Eagle's medium(DMEM)(これは、サンプルのペプチダーゼプロフィールを改変する因子を含み得る)のような温かい基礎細胞培養培地中でリンスし、次いで、この培地を、1:30の組織湿潤重量対培地体積の典型的な体積で置き換える。組織を、標準的な哺乳動物細胞培養条件下で16時間、培地中でインキュベートし、次いで、馴化培地を収集し、さらに16時間、新鮮な培地と交換し、最初のものと合わせて、ニートな馴化培地を生成する。さらなるマーカーが免疫検出またはプロテオミクス分析で試験される場合、組織は、細胞溶解物への処理のために保存されてもよい。細胞毒性は、細胞死が<5%のままである限り、3日間まで培養中のサンプルを維持することを目的として、ラクトースデヒドロゲナーゼアッセイによってこれらのサンプルにおいて日常的に試験される。次いで、馴化培地を緩衝液交換し、細胞培養グレードのPBSで濃縮する。最終総タンパク質濃度は、BCAアッセイによって馴化培地中で決定され、典型的には1~5mg/mlの範囲である。
【0389】
滑液については、サンプルは、実験2のための任意のプロテオミクスおよびペプチダーゼ活性スクリーニングにおいて直接使用され得る。サンプルを収集し、生化学分析の前に保存するために直ちに急速冷凍する。総タンパク質の濃度を、タンパク質ビシンコニン酸(BCA)アッセイによって、滑液および馴化培地サンプルについて決定する。
【0390】
これらの馴化培地および滑液サンプルは、実験2のためのインプットを表す。プロテオミクス分析のために、緩衝液交換された馴化培地からの約10マイクログラムの総タンパク質を、配列決定グレードのトリプシンで消化し、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)を使用する半定量的な無標識プロテオミクス分析に供する。プロテオミクスデータは、相対的タンパク質存在量の近似としてスペクトルカウントを用いて出力される。ペプチドカウントは、単一のMSサンプルからの総カウントによって正規化される。サンプルを個々に分析し、得られたタンパク質同定を、相対的タンパク質存在量の近似としてスペクトルカウントを用いて出力する。サンプルローディングの差を補正するために、スペクトルカウント測定値をサンプル中の全シグナルに対して正規化し、欠測値を帰属させ、正規化されたスペクトルカウントデータを、サンプル間のレシオメトリックな比較のためにlog
2正規化する。個々の比較は、R統計コンピューティング環境においてウェルチのt検定を使用して、サンプル間、ならびに条件#1対条件#2または#3からのセット間で行うことができる。個々のサンプルにおいて同定されたペプチダーゼは、実験#1のためのさらなるペプチダーゼの選択を知らせる。これらのデータは、データセット#1(
図3、インプット#1)を補足するためにも使用される。条件#1対条件#3において濃縮される同定された任意のさらなるペプチダーゼ(例えば、インプット#1において特定されるさらなるグランザイムもしくはMMPファミリーメンバーまたは他のセリンペプチダーゼ)が、必要に応じて含まれ得る。
【0391】
現在、さらなるペプチダーゼ活性の主要な候補は、グランザイムBおよび好中球エラスターゼである。したがって、グランザイムBおよび好中球エラスターゼは、MMPについて使用されたのと同じアプローチを使用して、AlaunaTM法不偏ライブラリー2.4による実験1基質プロファイリングのために選択される。これらの酵素を製造業者の推奨に従って活性化し、MMP14およびMMP9についてのpH7.4反応に適合するアッセイ条件でAlaunaTM法を用いて試験する。アウトプットGearrTMモチーフは、位置M3-M1における好中球エラスターゼ:(E/Q)(P/G)(V/I)|および位置M4-M1におけるグランザイムB:IE(G/P/A/V/L)D|についての単純なコンセンサス配列に似ている。したがって、これら2つの酵素の特異性は、ハイブリッド切断モチーフ設計に不適合であり、代わりにアルゴリズム2を使用してタンデムモチーフ設計に組み込まれる。
【0392】
実験2(アウトプット#3)におけるペプチダーゼ活性プロファイリングは、プロテオミクス発見(アウトプット#2)のために使用されたものと同じセットの条件#1、#2および#3試料からの緩衝液交換馴化培地または滑液を使用して行われ、Alauna
TM法不偏ライブラリー2.4を使用して、重症対初期RA対健常ドナー試料において観察された示差的活性を調査する。各試料中の酵素力価は未知であるので、反応は、ペプチダーゼ試料として馴化培地試料からのタンパク質の質量による固定総量を使用することによって正規化され、反応は、酵素触媒切断を評価するために速度論的形式で行われる。実験1におけるように、最大生成物形成(%P)におけるプラトーを、各サンプルにおいて固定された反応時間後に固有の結合切断が生じたか否かの二元決定のための閾値として使用する。アウトプット#3における各反応からのこのライブラリー内で得られた切断を、初期RA、非罹患隣接組織、または健常ドナー試料と比較して、重度RA馴化培地または滑液試料において厳密に観察されたエンドペプチド分解性切断についてフィルタリングする。この分析の生データ出力(アウトプット#3、
図3)は、各条件#1、#2、および#3からのそれらの切断可能結合によって整列された切断配列のリストである。
【0393】
これらのサンプルは、マッチしたサンプルの複数の対を表すので、濃縮された切断を組織および/または細胞選択的であるユニークなGearrTMモチーフに分配する機会が生じる。詳細には、アルゴリズム#1のアウトプット#4の1つの実施形態は、マッチした滑液サンプルによって産生されるような、重篤なRAドナーと初期段階のRAドナーとの間の重篤度によって区別する組織選択的GearrTMモチーフである。あるいは、アルゴリズム#1からのアウトプット#4の第2の実施形態は、皮下リウマトイド結節と対応する非罹患組織とを区別する組織選択的GearrTMモチーフである。アルゴリズム#1からのアウトプット#4のさらに別の実施形態は、RAドナー対健常ドナーからの活性化白血球のペプチダーゼ活性を区別する、セル選択的GearrTMモチーフである。したがって、3つの候補RA選択的GearrTMモチーフがアルゴリズム1から生じ、これをAlaunaTM法のステップ3および4でさらに試験することができる。これらのGearrTMモチーフは、異なる薬物標的適用のために使用され得、従って、ステップ3設計プロセスに繰り越されるべきである。
【0394】
この実施形態では、IL6は分泌タンパク質であり、IL6Rは細胞表面アクセス可能タンパク質であるため、循環中の抗IL6または抗IL6Rプロドラッグの安定性は重要な薬物動態学的特徴であり、したがって、循環酵素第Xa因子およびトロンビンなどの健康な組織または区画における非標的化ペプチダーゼによる切断に対する基質配列の感受性は、条件#3からの活性ペプチダーゼであると考えることができる。トロンビンは(G/P)(R/K)|のコンセンサスモチーフを有し、第Xa因子は(P/G/A/L)(R/K)|Sのわずかにより広いコンセンサスモチーフを有する。これらの酵素についてのGearrTMモチーフは、AlaunaTM法不偏ライブラリー2.4を用いて実験1においてアッセイされる場合、3つの候補RA選択的GearrTMモチーフを有する残基の協同的対を同定するために使用される。
【0395】
この実施形態において、アルゴリズム1の主な適用は、実験1および2、アウトプット#1および#3から得られた切断された基質配列のセットの示差分析を行うことである。インプット#1によって定義される条件は、どの組の切断が比較されるべきかを定義するのに役立つ。非罹患組織が、薬物標的の存在(条件#2を表す)について、または標的ペプチダーゼの存在(条件#3)について陰性とみなされるかどうかを確認するために、これらのタンパク質の相対存在量を、免疫検出またはタンパク質レベルでのプロテオミクス分析を使用して決定する。一般に、MMPの活性は、蛍光基質メトキシクマリン-4-アセチル-Lys-Pro-Leu-Gly-Leu-Lys(2,4-ジニトロフェニル)-Ala-Arg-NH2を使用してMMP活性を検出することによるなど、高感度の酵素アッセイを使用して定量し、試料間で比較することもできる。一般的な基質MEOSUC-Ala-Ala-Pro-Val-AMCまたはt-ブトキシカルボニル-Ala-Ala-Asp-チオベンジルエステル(t-Butyloxycaronyl-Ala-Ala-Asp-ThioBenzyl ester)を使用して、好中球エラスターゼ様活性またはグランザイムB様活性についても試験することができる。これらの基質プローブは、これらの酵素の各々に対して理想的に特異的ではないが、活性がないことは、サンプルを条件#3に割り当てることの信頼性を増す。
【0396】
アルゴリズム1からのアウトプット#4は、一連の3つのGearrTMモチーフであり、ある範囲の反応速度および切断の全収率を有する複数の誘導体配列を含む。患者由来の試料は複数のペプチダーゼを含有するので、基質配列内の単一の変異は、その中のGearrTMモチーフを認識する全てのペプチダーゼの動態に影響を及ぼし得る。従って、リード候補基質配列は、切断を検証および定量するために経験的に試験されるべきである。この実施形態では、個々の試料と条件との間の開裂に対する選択性の比較を可能にするので、触媒効率が測定される。ステップ3では、数百の変異体を含む可能性が高い各候補RA選択的GearrTMモチーフについて、すべての可能な変異体を計算する。
【0397】
RA選択的GearrTMモチーフについてのこれらの改変体の複雑さを減少させるために、アルゴリズム2を用いる新規ライブラリー設計のステップ3プロセスを開始する前に、実験3のために小さなライブラリーを調製する。実験3では、少数のリード候補基質配列を優先させるために、3つの候補RA選択的GearrTMモチーフ+少数の保存的変異体の切断の触媒効率を試験する。この実施形態において、保存的改変体は、第2または第3のモチーフにおいて同定される観察された協同的残基を使用して作製される、1つ以上の残基置換を含む。これらの置換は、互いにより大きな類似性を共有する配列変異体を生成する。実験#3を使用して、候補RA選択的GearrTMモチーフが、標的化されたペプチダーゼの各々によって有利に切断されることを確認し、二次的に、RA選択的切断のために機能し得る、より統一された候補RA選択的GearrTMモチーフを構築するために、どの協同的残基対が各モチーフに付加され得るかを試験する。
【0398】
AlaunaTM法のステップ3のために最終的に選択されるペプチダーゼは、利用可能な全ての証拠に基づいて選択される。プロテオミクス分析によって、条件#1においてさらなるペプチダーゼが同定される場合、これらは、基準マトリックス評価プロセスにおいて考慮され得る。一実施形態において、標的化ペプチダーゼは、MMP14、MMP7、グランザイムBおよび好中球エラスターゼを含む。別の実施形態において、標的化ペプチダーゼは、これらの選択されたペプチダーゼのうちの1つまたは2つを含み得る。AlaunaTM法不偏ライブラリー2.4を用いた実験1から同定されたこれらの酵素についてのコンセンサスモチーフを使用して、インプット#2において、これらの基質切断部位の付加が候補基質についての切断の速度または有効性を増強し得るか否かを試験することを決定した。したがって、これらの酵素に対する候補切断部位も組み込むアルゴリズム2を使用して、設定を設計した。
【0399】
一実施形態では、3つの選択されたペプチダーゼのいずれも、候補RA選択的GearrTMモチーフのいずれとも適合するコンセンサス配列を有していなかった。MEROPSデータベース中の外部データからのコンセンサス配列は、好中球エラスターゼについては(E/Q)(P/G)(V/I)|であり、グランザイムBについてはIE(G/P/A/V/L)D|である。したがって、候補RA選択的GearrTMモチーフ、好中球エラスターゼおよびグランザイムBのアレンジメントは、モチーフ順序:A-B-C、A-C-B、B-A-C、B-C-A、C-A-BおよびC-B-Aの効果を試験するために6つのタンデムアレンジメントをとることができる。あるいは、2つのペプチダーゼのみを選択してもよく、設定の数は依然として6つである:A-B、B-A、A-C、C-A、B-C、C-B。
【0400】
GearrTMモチーフが適合性でない場合、タンデム設計を使用して、各選択されたモチーフを含む基質配列を構築する。1つ以上のブラケティング残基、典型的には4つまでが、GearrTMモチーフ間に導入され得る。ブラケティング残基は、一般的に、GlyおよびSerのような小さな可撓性アミノ酸から選択されるが、AlaおよびProもまた有利であり得る。このライブラリー設計において、アレンジメントおよびブラケティング残基間隔のみの全てのバリエーションが試験される場合、改変体の総数は、最大6.3×104のユニーク配列を含む。ライブラリースケールは各可変要素の付加と共に増大するので、腫瘍選択的GearrTMモチーフの実験3の洗練されたサブセットに関する情報を使用して、試験される変異の数を減少させることができる。
【0401】
ステップ4において、これらの改変体配列の選択性は、多くの組織生検サンプルを使用して、条件#1、#2、および#3において規定される複数の組織タイプおよび健常組織タイプまたは非罹患組織タイプにわたって試験される。このスクリーニングプロセスのためのサンプル数の選択は、臨床設計の原理によって影響される。患者間の変動を表すのに十分な数のサンプルが含まれるべきである。
【0402】
実験4は、より高いスループット形式のスクリーニング実験である。従って、アルゴリズム2を用いて設計された配列変異体のライブラリーは、ファージ、細菌または哺乳動物発現系から選択され得る生物学的ディスプレイスクリーニングシステム内で構築される。本実施例では、AlaunaTM法ライブラリーを、HEK293、CHOまたはHeLaなどの哺乳動物細胞株由来の表面発現足場タンパクの配列に組み込む。ライブラリーは、それらをコードするオリゴヌクレオチド配列の合成を特定するアミノ酸配列を用いてタンパク質レベルで設計される。この場合、重複遺伝子断片をアセンブルし、AlaunaTM法ライブラリーをコードする合成オリゴヌクレオチドを哺乳動物表面発現プラットフォーム系に効果的に挿入するために、Gibsonクローニング技術(Gibson et al., 2009)を使用するなどの分子クローニングの原理を使用して、長さ約120ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドプライマーのプールを設計した。表面ディスプレイシステムが構築されたら、NGSゲノム配列決定を使用して、AlaunaTM法ライブラリー配列インサートを含有する領域に配列決定を集中させることによって、ライブラリーの完全性を試験する。システムの品質管理の目標は、ライブラリーが99.9%完全であることである。ライブラリーの完全性は、アルゴリズム3におけるAlaunaTM法データ分析の重要な特徴である。
【0403】
条件#1、2、および3を表す選択された組織または細胞株のセットから調製された馴化培地サンプルを、ペプチド分解活性の供給源として使用し、ペプチダーゼアッセイを、ペプチダーゼ切断可能基質の供給源としてクローンのプールを使用して実施する。1000万個の哺乳動物細胞のプールを、ペプチダーゼアッセイのために1ミリリットルの反応体積中に懸濁することができる。この場合、6.3×104のユニークなクローンのクローンライブラリーは、このような容量内で>150倍のコピー数で示され得、これに、緩衝液交換された馴化培地または供給源組織からの任意の残留破片を除去するために濾過された純粋な滑液由来の、固定された質量の総タンパク質(例えば、50マイクログラム)のペプチダーゼ調製物が添加される。馴化培地中のペプチダーゼの典型的な濃度は、実験2で利用した典型的な試料に基づいて、0.5~1質量%のペプチダーゼと推定された。
【0404】
ペプチド分解アッセイは、実験1および2のような速度論的条件下で行われ、その結果、反応の過程の間に、アッセイの画分が回収され、切断されたクローンが、フローソーティング技術を使用して行われ得るような二色免疫蛍光アッセイによって区別され得る。懸濁液中の細胞の1ミリリットルの反応について、アリコートは、分単位から時間単位のスケールの時点で収集された200マイクロリットルのアリコートであり得る。次いで、各時点で切断された、ソートされた細胞の得られた集団を収集し、NGS配列決定のために調製して、クローン、したがって、各時点で切断されたAlaunaTM法基質配列を同定する。この調製は、懸濁液から細胞を収集するための穏やかな遠心分離を含み、基質配列から切断されたフラグメントを含む上清を残す。さらなる配列最適化が行われる場合、これらのサンプル内の切断部位を決定して、入力仮説#2を洗練化するのを助けることも重要である。この分析は、ペプチダーゼ切断アッセイによって細胞の表面から上清試料中に放出される断片を分析することによって行うことができる。質量分析によるペプチド配列決定は、プロテオミクス分析を使用するフラグメント同定のために使用される;このプロセスは、最も頻繁に検出される基質についての実行可能な配列情報を生成する。最終的に、切断可能な結合が各反応において見出される位置の分布は、設計された基質配列におけるペプチド分解性切断に最も感受性であるエレメント:RA選択的GearrTMモチーフ、好中球エラスターゼまたはグランザイムBのモチーフ、ブラケティング残基、およびこれらの部位が最も有利に作動する設定についての情報を与える。ライブラリー内の基質の速度論的ランキングは、生理学的またはインビボ実験条件下でのプロドラッグ活性化のためのペプチド分解性切断の予想される速度について情報を与える。このプロセスのアウトプット#5は、条件#1、2、および3を表すすべての50~100の臨床試料を用いたすべての反応について得られた、切断の異なる触媒速度または触媒効率を有する一連の基質を含む。
【0405】
アルゴリズム3は、臨床サンプルにわたって各基質の性能を比較するために使用される生物統計学的分析であり、例えば、個々のサンプルならびにサンプルのセットについてウェルチのt検定を使用し、各比較において条件#1、#2、および#3を再定義する。例えば、第1指示はRAである。ライブラリー中の各基質の選択性を、試験した非罹患組織または健常組織の全てに対して特定の倍数効率でRAサンプルの全てにおいて切断される能力について評価する。このプロドラッグ設計についての標的治療指数を達成するために必要とされ得る特定の倍数効率は、約1:200、または1:1000、または1:10,000である。
【0406】
このプロセスからのアウトプット#6は、最も高い予測レベルのRA選択性を有する基質配列のランク付けされたリストである。必要に応じて、これらの配列は、時間分解実験#3(例えば、切断の分子検出のための異なるプラットフォームを使用する)においてさらに評価され得る。この実験の1つのバージョンは、ペプチド基質配列を合成し、組換えMMP14、MMP7、グランザイムBおよび好中球エラスターゼ、ならびに選択されたRA組織サンプルを使用して、それらの選択的切断を試験することである。
【0407】
次いで、アウトプット#6において得られる最も選択的な基質配列を、プロドラッグまたはレポーター分子設計内で最終的に試験する。そのような設計は
図9に図示されており、ここで最も単純なモデルは、薬物標的と相互作用するドメインA、および薬物標的と相互作用することからドメインAをマスクするドメインBである。次いで、アウトプット#6から生じた選択的ペプチダーゼ切断可能基質配列は、ドメインAとBとの間に配置される。プロドラッグ活性化の検出のために、抗体は、フラグメント1またはフラグメント2を特異的に認識するためのELISA形式アッセイのために開発され得る;これらの抗体は、Alauna
TM法スクリーニング実験4内で切断を評価するために、ならびにプロドラッグを評価するために使用されるその後の機構的セルベースおよび薬物動態解析アッセイにおいて有用な分子である。
【0408】
この実施形態では、ドメインAは抗IL6もしくは抗IL6受容体抗体または関連分子であり、ドメインBは抗体とその分子薬物標的との結合を妨害するポリペプチドである。ペプチダーゼ切断可能基質は、実験4に概説されるスクリーニングプロセスによって選択される。
【0409】
参照による組み込み。
本明細書に引用される全ての特許および非特許刊行物の全開示は、全ての目的のために、その全体が参照によりそれぞれ組み込まれる。
【0410】
他の実施形態
上記の開示は、独立した有用性を有する複数の別個の開示を包含し得る。これらの開示の各々は、その好ましい形態で開示されているが、多数の変形形態が可能であるので、本明細書で開示および例示されるその特定の実施形態は、限定的な意味で考慮されるべきではない。本開示の主題は、本明細書に開示される様々な要素、特徴、機能、および/または特性のすべての新規かつ非自明な組み合わせおよび部分的組み合わせを含む。以下の特許請求の範囲は、新規かつ非自明であるとみなされる特定の組合せおよび下位組合せを特に指摘する。特徴、機能、要素、および/または特性の他の組み合わせおよび部分的組み合わせにおいて具現化される開示は、本出願において、本出願から優先権を主張する出願において、または関連出願において特許請求され得る。そのような特許請求の範囲は、異なる開示を対象とするか同じ開示を対象とするかにかかわらず、また元の特許請求の範囲と比較して範囲がより広いか、より狭いか、等しいか、または異なるかにかかわらず、本開示の開示の主題内に含まれるものとみなされる。
【国際調査報告】