(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-16
(54)【発明の名称】イオン選択性電極分析器における同時かつ選択的な洗浄および検出
(51)【国際特許分類】
G01N 27/28 20060101AFI20240109BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240109BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01N27/28 M
G01N27/416 361A
G01N27/416 351A
G01N27/416 351J
G01N27/416 353Z
G01N35/08 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540011
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 US2021059610
(87)【国際公開番号】W WO2022146570
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510005889
【氏名又は名称】ベックマン コールター, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Beckman Coulter, Inc.
【住所又は居所原語表記】250 S. Kraemer Boulevard, Brea, CA 92821, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】中島 優子
(72)【発明者】
【氏名】山田 久美子
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058BA02
2G058FB09
2G058GA12
(57)【要約】
ほとんどの臨床検査室または診断検査室での設定では、イオン選択性電極分析器を用いた電解質測定装置のための較正やコンプライアンスサービスに相当量の時間を要する。多くの場合、ユーザーは、診断精度を向上させることと、より高い作業負荷をより迅速にかつ予測可能に処理することとの間でトレードオフを余儀なくされる。現下のイオン選択性電極を用いた電解質測定装置では、精度と速度とについて高まる要求のバランスをとることは不可能である。本明細書で請求され説明されている技術は、イオン選択性電極分析器のための改良された装置を提供する。本明細書で請求され説明されている技術は、イオン選択性電極分析器の構成要素を同時かつ選択的に洗浄するための方法、および自動化された化学分析器においてイオン選択性電極分析器を使用して試料を同時かつ選択的に分析するための方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン選択性電極分析器(1)を用いて生体試料を分析する方法であって、
前記方法は、
前記イオン選択性電極分析器(1)を提供するステップであって、前記イオン選択性電極分析器(1)は、
少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路(10)と、
希釈ポット(20)と、
フロー型セル(30)と、
任意選択的にフロー型セル管路(35)と、
任意選択的にバイパス管路(40)と、
任意選択的に排出管路(50)と、
任意選択的に少なくとも2つのポンプである第1のポンプ(80)および第2のポンプ(81)とを含んでいる、ステップと、
希釈生体試料を生成するために、前記希釈ポット(20)内で生体試料の量と試薬の量とを混合するステップと、
分析のために前記希釈生体試料を、前記希釈ポット(20)から前記フロー型セル(30)に吸引するステップと、
前記試薬供給管路(10)から前記希釈ポット(20)に前記試薬を分注しながら、前記フロー型セル(30)において前記希釈生体試料を同時に分析するステップであって、前記試薬はバイパス管路洗浄用に使用される、ステップと、
次いで、前記試薬供給管路(10)から前記希釈ポット(20)に前記試薬を分注するステップであって、前記試薬はフロー型セル管路洗浄用に使用される、ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記試薬は、前記バイパス管路(40)の洗浄に先立ち、前記バイパス管路(40)に吸引される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記バイパス管路洗浄には、前記希釈ポット(20)の洗浄、前記バイパス管路(40)の洗浄、および/または前記排出管路(50)の洗浄が含まれる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記試薬は、前記希釈生体試料が分析された後に、前記フロー型セル管路洗浄のために前記フロー型セル管路(35)に吸引される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記フロー型セル管路洗浄には、前記希釈ポット(20)の洗浄、前記フロー型セル(30)の洗浄、前記フロー型セル管路(35)の洗浄、および/または前記排出管路(50)の洗浄が含まれる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記希釈生体試料および/または前記試薬は、前記フロー型セル管路(35)に吸引する前および/または後に、前記バイパス管路(40)に吸引される、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記フロー型セル管路(35)を洗浄した後に、前記試薬供給管路(10)から前記希釈ポット(20)に前記試薬を分注するステップと、前記フロー型セル管路(35)に前記試薬を吸引するステップと、前記試薬を使用して前記フロー型セル(30)を較正するステップと、をさらに含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記第1のポンプ(80)は、前記試薬供給管路(10)から前記試薬を圧送するように構成され、前記第2のポンプ(81)は、前記試薬および/または前記生体試料を吸引するように構成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記試薬は、内部標準液を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記試薬供給管路(10)は、少なくとも第1の試薬および少なくとも第2の試薬を分注するように構成されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、第2の試薬供給管路(11)をさらに含み、前記第1の試薬供給管路(10)は、第1の試薬を含み、前記第2の試薬供給管路(11)は、第2の試薬を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記第1の試薬は、前記内部標準液を含み、前記内部標準液は、前記フロー型セル管路(35)を洗浄するためにかつ/または前記フロー型セル(30)を較正するために使用され、前記第2の試薬は、緩衝液を含み、前記緩衝液は、前記生体試料を希釈するためにかつ/または前記バイパス管路(40)を洗浄するために使用される、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
前記緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水、中性塩、脱イオン水、またはそれらの混合液である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも2つのポンプ(80,81)は、固定量または可変量を分注および/または吸引するように構成されている、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、少なくとも第1の弁をさらに含み、前記第1の弁は、三方弁(60)またはピンチ弁(61)である、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記第1の弁がピンチ弁(61)である場合、前記イオン選択性電極分析器(1)は、Y字形コネクタ(62)をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記第1の弁は、前記生体試料の吸引もしくは分注のために、または前記試薬の吸引もしくは分注のために、前記フロー型セル管路(35)または前記バイパス管路(40)を選択するために使用される、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、第2の弁をさらに含み、前記第2の弁は、三方弁(63)である、請求項15から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも2つのポンプ(80,81)のうち少なくとも一方はシリンジポンプである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記2つのポンプ(80,81)のうちの少なくとも一方は、前記第2の弁(63)を介して前記排出管路(50)に接続されており、前記第2の弁(63)は、前記排出管路(50)の中間またはその近傍に配置されている、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
前記第2の弁(63)と前記第2のポンプ(81)との間のチューブ(90)の容量は、前記第2のポンプ(81)が吸引するように構成された量よりも大きい、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記第2の弁(63)の位置により、前記排出管路(50)は、プレフラッシング部分とポストフラッシング部分とに分離される、請求項20または21記載の方法。
【請求項23】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、少なくとも第3のポンプ(82)をさらに含む、請求項18から22までのいずれか1項記載の方法。
【請求項24】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、フラッシング液管路(70)と第3の弁とをさらに含み、前記第3の弁は二方弁(64)である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
フラッシング液管路(70)は、前記第2のポンプ(81)と前記第3のポンプ(82)とを接続し、前記第3の弁(64)は、前記フラッシング液管路(70)の中間またはその近傍に配置されている、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記第3のポンプ(82)は、フラッシング液を圧送するようにさらに構成されている、請求項23から25までのいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記フラッシング液は、脱イオン水である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、第4のポンプ(83)をさらに含む、請求項23から27までのいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
前記第4のポンプ(83)は、前記第2の試薬供給管路(11)に接続されている、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記生体試料は、血液、血漿、血清、唾液、尿、脳脊髄液、涙液、汗、胃腸液、羊水、粘膜液、胸水、および皮脂油からなるグループから選択される、請求項1から29までのいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
前記生体試料は、哺乳動物、好適にはヒトからのものである、請求項1から30までのいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
前記試薬と混合される生体試料の量は、少なくとも5μL、代替的に少なくとも10μL、代替的に少なくとも15μL、代替的に少なくとも20μLである、請求項1から31までのいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記生体試料と混合される試薬の量は、少なくとも300μL、代替的に少なくとも350μL、代替的に少なくとも400μL、代替的に少なくとも450μL、代替的に少なくとも500μL、代替的に少なくとも550μL、代替的に少なくとも600μL、代替的に少なくとも650μLである、請求項1から32までのいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
前記方法は、約20秒、代替的に約15秒、代替的に約12秒、代替的に約10秒の周期で作動する、請求項1から33までのいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
イオン選択性電極分析器(1)であって、前記イオン選択性電極分析器(1)は、
少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路(10)と、
前記試薬を受容するための希釈ポット(20)と、
前記希釈ポット(20)から下流のフロー型セル(30)と、
前記フロー型セル(30)と動作可能に接続されたフロー型セル管路(35)と、
前記希釈ポット(20)と動作可能に接続されたバイパス管路(40)と、
排出管路(50)と、
フラッシング液管路(70)と、
少なくとも3つのポンプである第1のポンプ(80)、第2のポンプ(81)、および第3のポンプ(82)と、
第1の弁である三方弁(60)またはピンチ弁(61)と、
第2の弁である三方弁(63)と、
第3の弁である二方弁(64)と、
を含む、イオン選択性電極分析器(1)。
【請求項36】
前記第1の弁がピンチ弁(61)である場合、前記イオン選択性電極分析器(1)は、Y字形コネクタ(62)をさらに含む、請求項35記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項37】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、第2の試薬供給管路(11)をさらに含む、請求項35または36記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項38】
前記第1のポンプ(80)または前記第2のポンプ(81)の少なくとも一方は、シリンジポンプである、請求項35から37までのいずれか1項記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項39】
前記第1のポンプ(80)および前記第2のポンプ(81)の両方がシリンジポンプである、請求項38記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項40】
前記第1のポンプ(80)または前記第2のポンプ(81)の少なくとも一方は、前記第2の弁(63)を介して前記排出管路(50)に接続され、前記第2の弁(63)は、前記排出管路(50)の中間またはその近傍に配置されている、請求項35から39までのいずれか1項記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項41】
前記第3の弁(64)は、前記第2のポンプ(81)と前記第3のポンプ(82)とを接続するフラッシング液管路(70)の中間またはその近傍に配置されている、請求項35から40までのいずれか1項記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項42】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、第4のポンプ(83)をさらに含む、請求項35から41までのいずれか1項記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項43】
前記第4のポンプ(83)は、前記第2の試薬供給管路(11)に接続されている、請求項42記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項44】
前記イオン電極分析器(1)は、排出部(52)をさらに含み、前記排出管路(50)は、前記排出部(52)と動作可能に接続されている、請求項35から43までのいずれか1項記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項45】
イオン選択性電極分析器(1)であって、前記イオン選択性電極分析器(1)は、
少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路(10)と、
希釈ポット(20)と、
フロー型セル(30)と、
フロー型セル管路(35)と、
バイパス管路(40)と、
任意選択的に排出管路(50)と、
任意選択的に少なくとも2つのポンプである第1のポンプ(80)および第2のポンプ(81)と、
を含み、
前記イオン選択性電極分析器(1)は、1時間当たり少なくとも100の生体試料を分析するように構成され、各生体試料が分析された後に前記フロー型セル(30)を較正するようにさらに構成されている、
イオン選択性電極分析器(1)。
【請求項46】
前記イオン選択性電極分析器(1)は、1時間当たり少なくとも200の生体試料を分析するように構成され、代替的に1時間当たり少なくとも300の生体試料を分析するように構成されている、請求項45記載のイオン選択性電極分析器(1)。
【請求項47】
フロー型セル管路(35)またはフロー型セル(30)の連続的湿潤化のための方法であって、
イオン選択性電極分析器(1)を提供するステップであって、前記イオン選択性電極分析器(1)は、
少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路(10)と、
希釈ポット(20)と、
フロー型セル(30)と、
フロー型セル管路(35)と、
任意選択的にバイパス管路(40)と、
任意選択的に排出管路(50)と、
任意選択的に少なくとも2つのポンプである第1のポンプ(80)および第2のポンプ(81)と、
を含んでいる、ステップと、
希釈生体試料を生成するために、前記希釈ポット(20)内で生体試料の量と試薬の量とを混合するステップと、
前記希釈ポット(20)からの前記希釈生体試料と、1つの試薬供給管路(10)からの試薬とを、前記フロー型セル(30)および/または前記フロー型セル管路(35)に交互に間に吸引するステップと、
を含む、方法。
【請求項48】
イオン選択性電極分析器(1)であって、該イオン選択性電極分析器(1)は、
少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路(10)と、
希釈ポット(20)と、
フロー型セル(30)と、
フロー型セル管路(35)と、
任意選択的にバイパス管路(40)と、
任意選択的に排出管路(50)と、
任意選択的に少なくとも2つのポンプである第1のポンプ(80)および第2のポンプ(81)と、
を含み、
前記イオン選択性電極分析器(1)は、前記希釈ポット(20)からの希釈生体試料と、1つの試薬供給管路(10)からの試薬とを、前記フロー型セル(30)および/または前記フロー型セル管路(35)に交互に間に吸引することによって、前記フロー型セル管路(35)または前記フロー型セル(30)を連続的に湿潤させるように構成されている、
イオン選択性電極分析器(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2020年12月30日に出願された米国仮出願第63/132,022号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示の様々な態様は、イオン選択性電極分析器の構成要素の同時かつ選択的な洗浄、およびイオン選択性電極分析器を使用した同時かつ選択的な電解質検出に関する。付加的な態様には、改良されたイオン選択性電極分析器装置が含まれる。
【0003】
背景技術
自動化された化学分析器は、臨床化学での採取および分析用途で一般的に使用されている。自動化された分析化学ワークステーションなどの自動化された機器は、多数の試料の臨床分析を効率的に実行することができ、試験と同時に実行されるかまたは短い時間間隔で実行される。効率化は、結果的に見れば自動化された試料の識別および追跡の使用に一部起因している。この機器は、適切な量の試料を自動的に調製し、予定された試験の実行に必要な試験条件を自動的に設定することができる。試験条件は、単一の試験ステーション内で同時に進行中の異なる試験プロトコルについて独立して確立し、追跡することができるため、異なる化学物質に基づいて異なる反応条件を必要とする複数の異なる試験の同時実行が容易である。自動化された分析機器は、自動的な試料の取り扱いにより、より正確な試料識別と試料追跡とが可能になるため、多くの病院や集中試験ラボに存在するような大規模試験環境に特に適している。自動的な試料の取り扱いおよび追跡により、誤った検査結果か望ましくない汚染のいずれにも結び付く可能性がある人為的ミスや事故の機会が大幅に低減される。
【0004】
イオン選択性電極は、自動化された化学分析器の重要な部品である。自動式化学分析器を用いた試料内の電解質(ナトリウム、カリウム、および塩化物などのイオン)濃度を測定する場合、典型的な方法としてイオン選択性電極(ISE)が使用される。ISEを用いた電解質測定装置では、高いスループット、再現性、最小限のメンテナンスがユーザーに望まれる。ほとんどの臨床検査室または診断検査室での設定では、ISEを用いた電解質測定装置のための較正やコンプライアンスサービスに相当量の時間を要する。多くの場合、ユーザーは、診断精度を向上させることと、より高い作業負荷をより迅速にかつ予測可能に処理することとの間でトレードオフを余儀なくされる。現下のISEを用いた電解質測定装置では、精度と速度とについて高まる要求のバランスをとることは不可能である。
【0005】
一般的なISE法では、内部標準液(既知濃度の溶液)が、各試料測定について測定される。試料の電解質濃度は、内部標準液と試料希釈液との間の電圧差から計算される。試験液は電極内に長時間保持されることが望まれる。試験液の滞留時間が短いと、応答性の劣化した電極が使用された場合に測定性能は劣化してしまう。
【0006】
いくつかのISE法では、測定動作は、1周期中に内部標準液の電圧測定、試料希釈液の電圧測定、および内部標準液を用いた洗浄動作の順で実行される。この方法を用いるならば、スループットを増加させるために電極内部での試験液の保持時間を短くする必要があり、スループットおよびデータ再現性の両方を達成することが問題となっている。
【0007】
さらに、測定が連続的に実行されないと、電極膜の乾燥のために初期電圧値が不安定になる。したがって、測定間隔に依存して、測定前に(例えば内部標準液を電極に流すなどの)電極のコンディショニング動作を実行する必要がある。
【0008】
しかしながら、測定前にコンディショニング動作を実行すると、電解質測定の開始が遅れてしまい、測光項目のオーダー数などの測定条件に依存して、ISE全体の処理能力が低下してしまう。
【0009】
日本国特許第3610111号公報に記載の先行技術では、上記の問題を解決することができる。この先行技術では、イオン選択性分析器が、希釈ポット内の試験液を電極を通過させることなく吸引するためのバイパス管路を有している。この方法では、使用される試薬が内部標準液と試料希釈液とを含み、これらは常に洗浄動作なしで交互に測定されている。
【0010】
この測定方法を用いれば、静止電位測定中に試料希釈液や内部標準液を分注し攪拌することができるため、1周期内で電位測定のための時間を長期間確保することができる。さらに、電極は常に試料希釈液または内部標準液で満たされているため、測定間隔が長くてもコンディショニング動作は不要である。さらに、測定は、いつでも開始可能である。したがって、測光項目数などの試料測定条件にかかわらず、処理能力の高い分析器を提供することが可能である。
【0011】
しかしながら、この方法にはいくつかの問題がある。高濃度/低濃度試料を測定する場合、不正確なデータが得られる可能性がある。先行の試料の残留液が内部標準液を汚染するため、特に濃度のばらつきが大きい場合、試料のデータ再現性に欠陥が生じる可能性がある。
【0012】
別の問題は、ユーザーのメンテナンス時間の増加である。試料希釈液の残存成分はほとんど常に希釈ポットおよび/またはチューブに残留するため、希釈ポットおよび/またはチューブに汚れが蓄積しやすく、目詰まりを引き起こす可能性がある。汚れおよび/または目詰まりは、較正エラーや異常測定値を引き起こす可能性がある。これを防止するために、ユーザーは、頻繁に多くのメンテナンス(洗浄、部品交換など)を実行する必要がある。
【0013】
従来の伝統的な取り組みのさらなる制限および欠点は、図面を参照して本願の残りの部分に記載されるような本開示のいくつかの態様とともにそのようなシステムとの比較を通じて、当業者には明らかになるであろう。
【0014】
簡単な概要
本発明者らは、改良されたイオン選択性電極装置、ならびにイオン選択性電極成分の同時かつ選択的な洗浄およびイオン選択性電極分析器を用いた電解質の同時かつ選択的な検出のための方法の必要性を認識してきた。
【0015】
本明細書で開示され請求されている技術の一態様には、イオン選択性電極分析器が含まれ、該イオン選択性電極分析器は、以下の要素:少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路と、試薬を受容するための希釈ポットと、希釈ポットから下流のフロー型セルと、フロー型セルと動作可能に接続されたフロー型セル管路と、希釈ポットと動作可能に接続されたバイパス管路と、排出管路と、フラッシング液管路と、少なくとも3つのポンプと、第1の弁である、ここでは三方弁またはピンチ弁と、第2の弁である、ここでは三方弁と、第3の弁である、ここでは二方弁とを含む。
【0016】
本明細書で開示され請求されている技術の一態様には、イオン選択性電極分析器を用いて生体試料を分析する方法、イオン選択性電極分析器を用いて生体試料を分析する1つの方法が含まれ、該方法は、以下のステップ:イオン選択性電極分析器を提供するステップであって、該イオン選択性電極分析器は、以下の要素:少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路と、希釈ポットと、フロー型セルと、任意選択的にフロー型セル管路と、任意選択的にバイパス管路と、任意選択的に排出管路と、任意選択的に少なくとも2つのポンプである第1のポンプおよび第2のポンプとを含んでいる、ステップと、希釈生体試料を生成するために、希釈ポット内で生体試料の量と試薬の量とを混合するステップと、分析のために希釈生体試料を、希釈ポットからフロー型セルに吸引するステップと、試薬供給管路から希釈ポットに試薬を分注しながら、フロー型セルにおいて希釈生体試料を同時に分析し、ここで試薬はバイパス管路洗浄用に使用され、次いで、試薬供給管路から希釈ポットに試薬を分注し、ここで試薬はフロー型セル管路洗浄用に使用されるステップとを含む。
【0017】
いくつかの態様では、試薬は、バイパス管路の洗浄に先立ち、バイパス管路洗浄のためにバイパス管路に吸引される。バイパス管路洗浄には、希釈ポットの洗浄、バイパス管路の洗浄、排出管路の洗浄が含まれ得るが、これらに限定されない。いくつかの態様では、試薬は、希釈生体試料が分析された後に、フロー型セル管路洗浄のためにフロー型セル管路に吸引される。フロー型セル管路洗浄には、希釈ポットの洗浄、フロー型セルの洗浄、フロー型セル管路の洗浄、および排出管路の洗浄が含まれ得るが、これらに限定されない。いくつかの態様では、希釈生体試料および/または試薬は、フロー型セル管路に吸引する前および/または後に、バイパス管路に吸引される。他の態様では、フロー型セル管路を洗浄した後に、本方法は、試薬供給管路から希釈ポットに試薬を分注し、フロー型セル管路に試薬を吸引し、試薬を使用してフロー型セルを較正するステップをさらに含む。
【0018】
本方法の別の態様では、第1のポンプは、試薬供給管路から試薬を圧送するように構成され、第2のポンプは、試薬および/または生体試料を吸引するように構成されている。試薬は、内部標準液を含むことができる。
【0019】
本方法の別の態様では、少なくとも1つの試薬供給管路は、少なくとも第1の試薬および少なくとも第2の試薬を分注するように構成されている。代替的に、イオン選択性電極分析器は、第2の試薬供給管路をさらに含み、ここで第1の試薬供給管路は、第1の試薬を含み、第2の試薬供給管路は、第2の試薬を含む。さらなる態様では、第1の試薬は内部標準液を含み、ここで内部標準液は、フロー型セル管路を洗浄するためにかつ/またはフロー型セルを較正するために使用され、第2の試薬は緩衝液を含み、ここで緩衝液は、生体試料を希釈するためにかつ/またはバイパス管路を洗浄するために使用される。
【0020】
本方法の一態様では、イオン選択性電極分析器は、少なくとも第1の弁をさらに含み、ここで第1の弁は、Y字形コネクタを有するピンチ弁、または三方弁である。別の態様では、イオン選択性電極分析器は、第2の弁をさらに含み、ここで第2の弁は三方弁である。
【0021】
本方法の一態様では、イオン選択性電極分析器は、少なくとも第3のポンプをさらに含む。別の態様では、イオン選択性電極分析器は、フラッシング液管路と第3の弁とをさらに含み、ここで第3の弁は二方弁である。
【0022】
本方法の一態様では、イオン選択性電極分析器は、第4のポンプをさらに含む。別の態様では、第4のポンプは、第2の試薬供給管路から第2の試薬を圧送するように構成されている。
【0023】
本明細書で開示され請求されている技術の一態様には、イオン選択性電極分析器が含まれ、該イオン選択性電極分析器は、以下の要素:少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路と、希釈ポットと、フロー型セルと、フロー型セル管路と、バイパス管路と、任意選択的に排出管路と、任意選択的に少なくとも2つのポンプである第1のポンプおよび第2のポンプとを含み、ここでイオン選択性電極分析器は、1時間当たり少なくとも100の生体試料を分析するように構成され、各生体試料が分析された後にフロー型セルを較正するようにさらに構成されている。
【0024】
本明細書で開示され請求されている技術の一態様には、イオン選択性電極分析器が含まれ、該イオン選択性電極分析器は、以下の要素:
少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路と、
希釈ポットと、
フロー型セルと、
フロー型セル管路と、
任意選択的にバイパス管路と、
任意選択的に排出管路と、
任意選択的に少なくとも2つのポンプである第1のポンプおよび第2のポンプとを含み、ここでイオン選択性電極分析器は、希釈ポットからの希釈生体試料と、1つの試薬供給管路からの試薬とを、フロー型セルおよび/またはフロー型セル管路に交互に間に吸引することによって、フロー型セル管路またはフロー型セルを連続的に湿潤させるように構成されている。
【0025】
本明細書で開示され請求されている技術の一態様には、フロー型セル管路またはフロー型セルの連続的湿潤化のための方法が含まれ、該方法は以下のステップ;
イオン選択性電極分析器を提供するステップであって、該イオン選択性電極分析器は、以下の要素:
少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路と、
希釈ポットと、
フロー型セルと、
フロー型セル管路と、
任意選択的にバイパス管路と、
任意選択的に排出管路と、
任意選択的に少なくとも2つのポンプである第1のポンプおよび第2のポンプとを含んでいる、ステップと、
希釈生体試料を生成するために、希釈ポット内で生体試料の量と試薬の量とを混合するステップと、
希釈ポットからの希釈生体試料と、1つの試薬供給管路からの試薬とを、フロー型セルおよび/またはフロー型セル管路に交互に間に吸引するステップとを含む。
【0026】
本開示のこれらおよび他の利点、態様、および新規な特徴、ならびにそれらの図示された実施形態の詳細は、以下の説明および図面からより完全に理解されるであろう。
【0027】
次に、本開示の実施形態を、例示的にのみ添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】イオン選択性電極分析器が2つの三方弁を含む本開示の一実施形態を示した図である。
【
図2】イオン選択性電極分析器がピンチ弁とY字形コネクタとを含む本開示の一実施形態を示した図である。
【
図3】本開示の一実施形態によるフラッシングシーケンスを示した図である。
【
図4】本開示の一実施形態による洗浄シーケンスを示した図である。
【
図5】本開示の一実施形態による第1の測定フローを示した図である。
【
図6】本開示の一実施形態による第2の測定フローを示した図である。
【
図7】イオン選択性電極分析器を含む自動化された化学分析器の概略構成を説明する構成図である。
【
図8】本開示の一実施形態による方法周期と従来の方法周期との比較を示した図である。
【
図9】本開示の一実施形態と比較した、従来システムで測定された尿試料(高濃度試料)から血清試料へのキャリーオーバー率(%)を示した図である。
【
図10】本開示の実施形態と比較した、従来システムで測定された標準濃度試料および高濃度試料の変動係数(CV%)を示した図である。
【0029】
詳細な説明
様々な実施形態を、図面を参照して詳細に説明するが、ここで同様の参照符号は、複数の図面を通して同様の部品およびアセンブリを表すものである。本開示は、本明細書中に記載される特定の方法論、プロトコル、および試薬に限定されず、それ自体変化し得るものであることを理解されたい。また、本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態の説明のみを目的としたものであり、本開示または添付の特許請求の範囲の限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されているように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに別段の提示がない限り、複数の言及を含む。
【0031】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0032】
本明細書に記載されているように、改良されたイオン選択性電極分析器装置、ならびにイオン選択性電極分析器構成要素の同時かつ選択的な洗浄およびイオン選択性電極分析器を使用した電解質の同時かつ選択的な検出のための方法が開示されている。
【0033】
従来の化学的定量分析は、典型的には、次の2つの測定法:(1)光の測定(測光法もしくは分光測光法)または(2)電気化学的電位の測定(電位差測定法)のうちの一方に基づいている。以下の例では電位差測定法(電気化学的電位の測定)に基づいて説明するが、光度測定法や分光光度測定法などの他の分析法を利用してもよい。イオン選択性電極分析器を使用した電位差測定法は、電位を測定することにより水溶液中のイオンの活性を決定する分析技術である。イオン選択性電極分析器は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、塩素、および二酸化炭素を含むがこれらに限定されない試料の電解質を同時に分析するために使用されてよい。
【0034】
Na+、K+、およびCl-用のイオン選択性電極分析器は、ナトリウムおよびカリウムにはクラウンエーテル膜電極を使用し、塩化物には試料内の関心のある特定のイオンごとに分子配向PVC膜を使用する。電位は、特定のイオンについてのネルンスト方程式に従って生じる。内部対象液と比較した場合、この電位は電圧に変換され、次いで、試料のイオン濃度に変換される(Tietz, N.W., editor, Fundamentals of Clinical Chemistry, 3rd Edition, W.B.Saunders,1987)。
【0035】
本明細書で説明され請求されている技術の少なくとも1つの実施形態に従って、イオン選択性電極分析器の構成を、
図1および
図2を参照して以下に説明する。
図1は、本開示の一実施形態によるイオン選択性電極分析器を示す。このイオン選択性電極分析器1は、以下の要素:少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路10と、試薬を受容するための希釈ポット20と、希釈ポット20から下流のフロー型セル30と、フロー型セル30と動作可能に接続されたフロー型セル管路35と、希釈ポット20と動作可能に接続されたバイパス管路40と、排出管路50と、フラッシング液管路70と、少なくとも3つのポンプ80,81,82と、第1の弁である、ここでは三方弁60と、第2の弁である、ここでは三方弁63と、第3の弁である、ここでは二方弁64とを含む。いくつかの実施形態では、イオン選択性電極分析器は、排出管路50と動作可能に接続された排出部52をさらに含むことができる。
【0036】
試薬供給管路10は、少なくとも1つの試薬、代替的に少なくとも2つの試薬、代替的に複数の試薬を分注するように構成されてよい。これらの試薬は、試薬容器12に収容されてよい。試薬容器12は、1つまたは複数の異なる試薬を保持するために1つまたは複数の区画を含むことができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、イオン選択性電極分析器は、少なくとも1つの試薬を含んだ第2の試薬供給管路11をさらに含むことができる。この実施形態では、第2の試薬供給管路11は、第1の試薬供給管路10の試薬容器12とは別個の試薬容器13を有している。この実施形態では、イオン選択性電極分析器は、第2の試薬供給管路11に接続される第4のポンプ83をさらに含む。
【0038】
図1では、第1の弁は三方弁60である。この三方弁60は、フロー型セル管路35またはバイパス管路40の吸引のための選択に使用される。
図2では、第1の弁はピンチ弁61である。イオン選択性電極分析器1がピンチ弁61を含んでいる場合、さらにY字形コネクタ62を含む。ピンチ弁61は、フロー型セル管路35またはバイパス管路40を挟み込む。Y字形コネクタ62は、フロー型セル管路35、バイパス管路40、および排出管路50を動作可能に接続する。
【0039】
固定量もしくは可変量を分注または吸引するために、イオン選択性電極分析器1は、少なくとも1つの圧力変更機構を含む。この圧力変更機構は、蠕動ポンプ、ローラーポンプ、シリンジポンプなどのポンプであってよい。
図1および
図2に示されているように、第1のポンプ80または第2のポンプ81の少なくとも一方は、シリンジポンプであってよい。いくつかの実施形態では、第1のポンプ80および第2のポンプ81の両方がシリンジポンプである。シリンジポンプの利点の1つは、例えば試薬の消費を最小にするために正確な量を分注または吸引する能力にある。
【0040】
図1および
図2では、第2のポンプ81は、第2の弁63を介して排出管路50に接続されており、ここで第2の弁63は、排出管路50の中間またはその近傍に配置されている。第2の弁63の位置により、排出管路50は、プレフラッシング部分とポストフラッシング部分とに分離される。
図1および
図2では、第3の弁64は、フラッシング液管路70の中間またはその近傍に配置されており、このフラッシング液管路70は、第2のポンプ81と第3のポンプ82とを接続している。第3のポンプは、フラッシング液の供給源71に動作可能に接続されていてもよく、また第3のポンプ82は、フラッシング液を圧送するように構成されていてもよい。フラッシング液は、イオン選択性電極分析器の管路をフラッシングするのに適した任意の液体であり得る。適切なフラッシング液の非限定的な例には、脱イオン水が含まれる。
【0041】
本開示の一実施形態によるイオン選択性電極分析器では、第2の弁63と第2のポンプ81との間のチューブ90の容量は、第2のポンプ81が吸引するように構成された量よりも大きい。
図3に示されているように、増加した量は、吸引された混合液がシリンジポンプに入らないことを保証する。フラッシングステップは、シリンジポンプ内の混合液の拡散をさらに防止する。このフラッシング動作と、シリンジと弁との間のチューブの大きな容量とが、吸引シリンジ上の残留試料の蓄積に起因して生じ得る問題を低減することができ、必要な吸引シリンジのメンテナンス(洗浄/交換)を大幅に低減することができる。それに加えて、
図1に示されている配管は、消耗品である配管(例えば、ローラーポンプチューブ、ピンチ弁配管)の必要性をなくさせ、配管および/またはチューブの交換に必要な時間と労力とを低減させる。
【0042】
本明細書に記載され請求されている技術の少なくとも1つの実施形態によれば、イオン選択性電極分析器を使用した方法が、
図4~
図6を参照して以下に記載されている。
【0043】
バイパス管路40を有するイオン選択性電極分析器1では、一(1)回の測定周期に少なくとも二(2)回の洗浄動作を加えてよい。このシステムでは、バイパス管路40の効果的な使用によって、フロー型セル管路内での試験液の現下の保持時間を維持したまま測定周期時間を増加させることなく、少なくとも二(2)回の洗浄動作を追加することができる。付加的に、少なくとも2つの洗浄動作の追加は、試薬間のキャリーオーバーを低減させ、高濃度/低濃度試料のデータ再現性を向上させる。また、測定後の希釈ポット/チューブ内の残留試料の量が低減され、結果としてこれらの部品のメンテナンス(交換や洗浄)時間の短縮にも結び付く(
図4参照)。
【0044】
本開示の一実施形態では、キャリーオーバーは、従来のISE法と比較して約25%低減される。この実施形態では、洗浄メンテナンスは、例えば、月に約1回または約30,000回の試験ごとに1回行うだけでよい。これは、洗浄メンテナンスが毎週または約7,500回の試験ごとに行われる従来のISE法とは対照的である。そのうえさらに、この実施形態では、イオン選択性電極分析器の部品が少なくとも七(7)年間持ちこたえ、いくつかの実施形態では、これらの部品は交換を必要としない。これは、部品を毎月交換する従来の方法とは対照的である。この低頻度のメンテナンスは、改良されたイオン選択性電極分析器装置および関連する方法の予想外の結果の1つである。
【0045】
本開示の一実施形態は、イオン選択性電極分析器1を用いて生体試料を分析する方法であり、該方法は、以下のステップ:イオン選択性電極分析器1を提供するステップであって、該イオン選択性電極分析器1は、以下の要素:少なくとも1つの試薬をさらに含んだ少なくとも1つの試薬供給管路10と、希釈ポット20と、フロー型セル30と、フロー型セル管路35と、バイパス管路40と、排出管路50と、少なくとも2つのポンプである第1のポンプ80および第2のポンプ81とを含んでいる、ステップと、希釈生体試料を生成するために、希釈ポット20内で生体試料の量と試薬の量とを混合するステップと、分析のために希釈生体試料を、希釈ポット20からフロー型セル30に吸引するステップと、試薬供給管路10から希釈ポット20に試薬を分注し、試薬をバイパス管路40に吸引しながら、フロー型セル30において希釈生体試料を同時に分析し、ここで試薬はバイパス管路を洗浄するためのバイパス管路洗浄用に使用され、次いで、希釈生体試料が分析された後、試薬供給管路10から希釈ポット20に試薬を分注し、試薬をフロー型セル管路35に吸引し、ここで試薬はフロー型セル管路を洗浄するためのフロー型セル管路洗浄用に使用されるステップとを含む。いくつかの実施形態では、希釈生体試料は、フロー型セル30に吸引される前にバイパス管路40に吸引される。いくつかの実施形態では、ここでフロー型セル管路35を洗浄した後、本方法は、試薬供給管路10から希釈ポット20に試薬を分注し、フロー型セル管路35に試薬を吸引し、試薬を使用してフロー型セル30を較正するステップをさらに含む。この実施形態では、試薬は内部標準液である。
【0046】
本開示の一実施形態では、これらの方法ステップは、同時に、順次に、かつ/または連続的に実行することができる。
【0047】
図4は、二(2)回の追加洗浄を伴う測定周期を示す。この方法では、試薬供給管路10は、少なくとも第1の試薬と少なくとも第2の試薬とを分注するように構成されている。代替的に、イオン選択性電極分析器1は、第2の試薬供給管路11を含むことができ、ここでは、第1の試薬供給管路10は第1の試薬を含み、第2の試薬供給管路11は第2の試薬を含む。この2つの流体システムの実施形態では、第1の試薬は内部標準液を含み、ここで内部標準液は、フロー型セル管路35の洗浄および/またはフロー型セル30の較正に使用され、第2の試薬は緩衝液を含む。また任意の適切な緩衝液が使用されていてもよく、緩衝液の非限定的な例には、リン酸緩衝生理食塩水、中性塩、脱イオン水、またはそれらの混合液が含まれる。この実施形態では、緩衝液は、生体試料を希釈するためにかつ/またはバイパス管路40を洗浄するために使用される。
【0048】
本開示の少なくとも2つの実施形態による測定フローは、
図5および
図6に示されている。
図5では、この測定フローが簡略化されており、フロー型セル(例えば電極)内の試験溶液を交換する場合、希釈された試料または試薬のバイパス吸引は不要である。
【0049】
生体試料は、哺乳類、好適にはヒトからのものであってよく、血液、血漿、血清、唾液、尿、脳脊髄液、涙液、汗、胃腸液、羊水、粘膜液、胸水、および皮脂油が含まれるが、これらに限定されない。分析に先立ち、生体試料は試薬と混合され、この試薬には内部標準液、緩衝液、試料希釈液などが含まれるが、これらに限定されない。試薬と混合する生体試料の量は、少なくとも約5μL、代替的に少なくとも約10μL、代替的に少なくとも約15μL、代替的に少なくとも約20μLである。生体試料と混合する試薬の量は、少なくとも約300μL、代替的に少なくとも約350μL、代替的に少なくとも約400μL、代替的に少なくとも約450μL、代替的に少なくとも約500μL、代替的に少なくとも約550μL、代替的に少なくとも約600μL、代替的に少なくとも約650μLである。
【0050】
図7は、イオン選択性電極分析器1が、自動化された化学分析器2に組み込まれている本開示の一実施形態を示す。この自動化された化学分析器2は、生体試料を分注するように構成された試料ステーション14を含む。
【0051】
追加洗浄を伴っていたとしても、測定周期はまだ比較的短い。いくつかの実施形態では、この周期は、約20秒、代替的に約15秒、代替的に約12秒、代替的に約10秒である。
図8に示されているように、測定周期は、約12秒である。この短い周期時間により、頻繁な洗浄メンテナンスおよび/または頻繁な部品交換の必要性が低減される。
図8は、本開示の一実施形態(実施形態1)による方法の周期と従来の方法の周期との比較を示す。
【0052】
付加的な例は、以下に提供される。
【0053】
実施例
実施例1:キャリーオーバー値(尿試料⇒血清試料)
図9のグラフでは、バイパス管路を有する従来システムを使用した尿試料(高濃度試料)から血清試料へのキャリーオーバー率(%)と、本開示のイオン選択性電極分析器(「新システム」)を使用した尿試料(高濃度試料)から血清試料へのキャリーオーバー率(%)とが示されている。
【0054】
(バイパス/フロー型セル洗浄を伴う)二重の追加洗浄シーケンスのキャリーオーバーは、従来のシーケンスの場合の約1/4未満であった。従来システムでは洗浄は行われなかった。
【0055】
新システムと従来システムを比較した場合、希釈ポットおよびチューブにおける汚れの蓄積は同程度に減少しているが、新システムにおける希釈ポットおよびチューブのメンテナンス頻度/時間は、従来システムのメンテナンス頻度/時間の約1/4に減少することが期待される。
【0056】
実施例2:再現性
図10では、従来システムにおいて測定された低濃度試料と高濃度試料とのデータ再現性CV%(N=20×8回)と、フロー型セル/バイパス管路洗浄を伴う新システムで測定された低濃度試料と高濃度試料とのデータ再現性CV%(N=20×8回)とが示されている。データ再現性は、従来システムと比較して新システムで向上した。
【0057】
上記の説明は例示であり、制限的なものではない。本発明の多くの変形形態は、本開示を検討すれば当業者には明らかになるであろう。したがって、本発明の範囲は、上記の説明を参照して決定されるべきではなく、その代わりに、その全範囲または同等物とともに出願中の特許請求の範囲を参照して決定されるべきである。
【0058】
上述の全ての特許、特許出願、刊行物、および記載は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】