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特表2024-501899改善された低温安定性および燃費経済性特性を有する潤滑剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-16
(54)【発明の名称】改善された低温安定性および燃費経済性特性を有する潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240109BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20240109BHJP
   C10M 135/18 20060101ALN20240109BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20240109BHJP
   C10M 149/06 20060101ALN20240109BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240109BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240109BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240109BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20240109BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20240109BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M139/00 Z
C10M135/18
C10M145/14
C10M149/06
C10M137/10 A
C10M139/00 A
C10N10:12
C10N30:06
C10N30:08
C10N40:25
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541069
(86)(22)【出願日】2022-01-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2022050092
(87)【国際公開番号】W WO2022148753
(87)【国際公開日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】2100094
(32)【優先日】2021-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522232558
【氏名又は名称】トタルエナジーズ ワンテク
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ドゥボール,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】アイット-アムゥ,カリッド
(72)【発明者】
【氏名】アドジャル,サミラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァラッド,ジェローム
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104BG10C
4H104BH07C
4H104BJ05C
4H104BJ07C
4H104CB08C
4H104CB14A
4H104CE03C
4H104DA02A
4H104FA06
4H104LA03
4H104LA04
4H104PA41
(57)【要約】
本発明は、潤滑剤組成物において、少なくとも、基油と、モリブデンを含む摩擦調整剤と、ホウ素含有分散剤と、式(I):
【化1】
のモノマー(a)の重合によって得ることのできる反復単位を含むポリマーであって、式中、Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、mは0~10の整数を表わし、Rは、ポリブチレン部分であり、pは、0または1に等しい、ポリマーと、を含む、潤滑剤組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤組成物において、
- 少なくとも1つの基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において100重量ppm~1,500重量ppmの範囲内となる、モリブデンを含む少なくとも1つの摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において10ppm~300ppmの範囲内となる、少なくとも1つのホウ素含有分散剤と、
- 式(I)、
【化1】
のモノマー(a)の重合によって得ることのできる反復単位を含む、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.1%~10%のポリマーであって、
式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、mは0~10の範囲内の整数を表わし、
- Rは、ポリブチレン部分であり、
- pは、0または1である、
ポリマーと、
を含む、潤滑剤組成物。
【請求項2】
- 潤滑剤組成物の総重量との関係において少なくとも50重量%の、単数または複数の基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において300重量ppm~1,000重量ppmの範囲内となる、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%から10重量%の、モリブデンを含む単数または複数の摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において10重量ppm~300重量ppmの範囲内となる、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%~10重量%の、単数または複数のホウ素含有分散剤と、
- 式(I)のモノマー(a)と式(II)、
【化2】
のモノマー(b)の共重合によって得ることのできる、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.5%~5%のコポリマーであって、
式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-または-NH-部分であり、
- R部分は、独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、
- Rは、C1~C8アルキル部分を表わし、
- qは、1~20の範囲内の整数である、
コポリマーと、
を含む、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
- 潤滑剤組成物の総重量との関係において少なくとも70重量%の、単数または複数の基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において500重量ppm~1,000重量ppmの範囲内となる、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%から5重量%の、モリブデンを含む単数または複数の摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において20重量ppm~300重量ppmの範囲内となる、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%~5重量%の、単数または複数のホウ素含有分散剤と、
- コポリマーの総重量との関係において、
- 1重量%~50重量%の、モノマー(a)から誘導された単位と、
- 1重量%~80重量%の、モノマー(b)から誘導された単位と、
を含む、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.8%~3%のコポリマーと、
を含む、請求項1または2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
ASTM D445にしたがって測定した場合に、3.8mm/s~21.9mm/sの範囲内になる100℃での動粘性係数を有する、請求項1から3のいずれか一つに記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
モリブデンを含む摩擦調整剤が、有機モリブデン化合物、詳細にはモリブデンジチオカルバメート誘導体(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート誘導体(MoDTP)または無硫黄モリブデン錯体、の中から選択された化合物、好ましくはモリブデンジチオカルバメート誘導体(MoDTC)である、請求項1から4のいずれか一つに記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
ホウ素分散剤が、ホウ素スクシンイミド、好ましくはホウ素ポリイソブテンスクシンイミドの中から選択される、請求項1から5のいずれか一つに記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
基油、単数または複数のモリブデン摩擦調整剤および単数または複数のホウ素分散剤を含む潤滑剤組成物中での、前記潤滑剤組成物の低温安定性を改善することを目的とする、
式(I)、
【化3】
のモノマー(a)を重合することによって得ることのできる反復単位を含むコポリマーであって、式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、mは0~10の整数を表わし、
- Rは、ポリブチレン部分であり、
- pは、0または1である、
コポリマーの使用。
【請求項8】
自動車用エンジンの部品を潤滑することを目的とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の潤滑剤組成物の使用。
【請求項9】
エンジン部品間の摩擦を低減することを目的とする、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
エンジンの燃料消費量を低減することを目的とする、請求項8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤組成物の分野に関し、より詳細には、潤滑剤組成物の燃費経済性(FE)特性および低温安定性特性に関する。本発明は、少なくとも1つの基油も含んでいる潤滑剤組成物の燃費経済性(FE)特性および低温安定性特性を改善することを目的とした、少なくとも1つのモリブデン摩擦調整剤、少なくとも1つのホウ素含有分散剤および少なくとも1つの(メタ)アクリレートコポリマーの組合せ使用に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能潤滑剤組成物に対するニーズは増加を続けている。より詳細には、これは、使用条件が増々厳しくなっていること、例えばより極端な温度または非常に高い機械的応力に起因している。
【0003】
オイル交換の間隔、潤滑システムの小型化もまた、高性能潤滑剤組成物に対するニーズの増加につながる。潤滑剤組成物のエネルギー効率そして詳細にはその燃費経済性(FE)の改善つまりエンジン、より詳細には車両のエンジンの燃料消費量の低減は、重要性を増している最終目的であり、高性能潤滑剤組成物の使用の増加につながる。
【0004】
したがって、高性能潤滑剤組成物は、改善された特性、より詳細には、動粘性係数、粘度指数、揮発性、動的粘度または低温流動点に関する改善された特性を有していなければならない。
【0005】
熱安定性および耐酸化性も、高性能潤滑剤組成物にとっての改善すべき特性である。
【0006】
したがって、エンジン潤滑剤組成物は、多くの目的を果たさなければならない。
【0007】
相互に摺動する部品の潤滑は、決定的役割、より詳細には摩擦や摩耗の低減における決定的な役割を果たし、これが、より詳細には燃料を節約する。
【0008】
エンジン潤滑剤組成物の本質的要件は、環境面に関するものである。実際、潤滑剤組成物の消費ならびに燃料の消費量を低減することは、詳細にはCOの排出削減を目的として不可欠になっている。
【0009】
自動車用潤滑剤組成物の性質は、燃料消費量に影響を及ぼす。エネルギーを節約する自動車のエンジン潤滑剤組成物は多くの場合、燃費経済性(FE)と呼ばれる。
【0010】
したがって、自動車の潤滑剤組成物の分野では、エネルギー損失の低減が絶えず探求されている。
【0011】
したがって、より詳細には潤滑剤組成物の低温安定性および低い摩擦係数によって得られる燃費経済性特性に関して、従来技術の潤滑剤組成物の問題の一部または全てに対して解決法を提供するために使用される、エンジン、詳細には車両のエンジンのための潤滑剤組成物を得る必要性が存在する。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、第1に、潤滑剤組成物において:
- 少なくとも1つの基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において100重量ppm~1,500重量ppmの範囲内となるような、モリブデンを含む少なくとも1つの摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において10ppm~300ppmの範囲内となるような、少なくとも1つのホウ素含有分散剤と、
- 式(I):
【化1】
のモノマー(a)の重合によって得ることのできる反復単位を含む、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.1%~10%のポリマーであって、
式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、mは0~10の整数を表わし、
- Rは、ポリブチレン部分であり、
- pは、0または1に等しい、
ポリマーと、
を含む、潤滑剤組成物に関する。
【0013】
一実施形態によると、本発明に係る潤滑剤組成物は、
- 潤滑剤組成物の総重量との関係において少なくとも50重量%の、単数または複数の基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において300重量ppm~1,000重量ppmの範囲内となるような、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%から10重量%の、モリブデンを含む単数または複数の摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において10重量ppm~300重量ppmの範囲内となるような、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%~10重量%の、単数または複数のホウ素含有分散剤と、
- 式(I)のモノマー(a)と式(II):
【化2】
のモノマー(b)の共重合によって得ることのできる、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.5%~5%のコポリマーであって、
式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-または-NH-部分であり、
- R部分は、独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、
- Rは、C1~C8アルキル部分を表わし、
- qは、1~20の整数である、
コポリマーと、
を含む。
【0014】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、
- 潤滑剤組成物の総重量との関係において少なくとも70重量%の、単数または複数の基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において500重量ppm~1,000重量ppmの範囲内となるような、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%から5重量%の、モリブデンを含む単数または複数の摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において20重量ppm~300重量ppmの範囲内となるような、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%~5重量%の単数または複数のホウ素含有分散剤と、
- コポリマーの総重量との関係において、
- 1重量%~50重量%の、モノマー(a)から誘導された単位と、
- 1重量%~80重量%の、モノマー(b)から誘導された単位と、
を含む、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.8%~3%のコポリマーと、
を含む。
【0015】
好ましくは、本発明に係る潤滑剤組成物は、ASTM D445規格にしたがって測定した場合に、3.8mm/s~21.9mm/sの範囲内となる100℃での動粘性係数を有する。
【0016】
好ましくは、モリブデンを含む摩擦調整剤は、有機モリブデン化合物、詳細にはモリブデンジチオカルバメート誘導体(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート誘導体(MoDTP)または無硫黄モリブデン錯体、の中から選択された化合物、好ましくはモリブデンジチオカルバメート誘導体(MoDTC)である。
【0017】
好ましくは、ホウ素含有分散剤は、ホウ素含有スクシンイミド、好ましくはホウ素含有ポリイソブテンスクシンイミドの中から選択される。
【0018】
本発明のさらなる主題は、基油、単数または複数のモリブデン摩擦調整剤および単数または複数のホウ素含有分散剤を含む潤滑剤組成物中での、前記潤滑剤組成物の低温安定性を改善することを目的とする、
式(I):
【化3】
のモノマー(a)を重合することによって得ることのできる反復単位を含むコポリマーであって、式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、mは0~10の整数を表わし、
- Rは、ポリブチレン部分であり、
- pは、0または1に等しい、
コポリマーの使用にある。
【0019】
好ましくは、本発明に係るコポリマーの使用は、
- 自動車用エンジンの部品を潤滑すること、および/または
- エンジン部品間の摩擦を低減すること、および/または
- エンジンの燃料消費量を低減すること、
を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は主として、潤滑剤組成物において:
- 少なくとも1つの基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において100重量ppm~1,500重量ppmの範囲内となるような、モリブデンを含む少なくとも1つの摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において10ppm~300ppmとなるような、少なくとも1つのホウ素含有分散剤と、
- 式(I):
【化4】
のモノマー(a)の重合によって得ることのできる反復単位を含む、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.1%~10%のポリマーであって、
式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、mは0~10の整数を表わし、
- Rは、ポリブチレン部分であり、
- pは、0または1である、
ポリマーと、
を含む、潤滑剤組成物に関する。
【0021】
[コポリマー]
本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つのポリマー、詳細には、
式(I):
【化5】
のモノマー(a)を重合することによって得ることのできる反復単位を含むコポリマーを含み、式中、
- Rは水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC~Cアルキレン部分を表わし、mは0~10の整数を表わし、
- Rは、ポリブチレン部分であり、
- pは、0または1である。
【0022】
本発明において定義されているように、「(メタ)アクリレート」なる用語は、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。類推により、本発明によって定義されている通り「(メタ)アクリルアミド」なる用語は、メタクリルアミドまたはアクリルアミドを意味する。
【0023】
好ましくは、Rはメチル部分である。
【0024】
~Cアルキレン部分の例としては、詳細には、エチレン部分、1,2-もしくは1,3-プロピレン部分または1,2-、1,3-もしくは1,4-ブチレン部分が含まれる。
【0025】
好ましくは、mは0~4、より好ましくは0~2の範囲内の整数である。mが2以上である場合、各Aは同一かまたは異なるものであり得、フラグメント(AO)は、ランダムに、あるいはブロックで結合され得る。
【0026】
好ましくは、X部分は-O-または-O(AO)-部分、より好ましくは-O-、または-O(CHCHO)-部分である。
【0027】
は、ポリブチレン部分である。
【0028】
本発明により定義されている「ポリブチレン部分」は、必須構造単位として少なくとも1つの1,2-ブチレンまたはイソブチレンモノマーを含有する炭化水素系ポリマーから水素原子を除去することによって得られる部分を意味する。
【0029】
ポリブチレン部分Rの調製に好適な炭化水素系ポリマーの例としては、詳細には、イソブテンおよび/または1,2-ブチレンから誘導された単位を含むコポリマー、さらにはブタ-1,3-ジエンモノマーの添加(1,2)により得たポリブタジエンの末端二重結合の水素化によって得られるポリマーが含まれる。
【0030】
炭化水素系ポリマーは、定序性ポリマーまたはランダムポリマーであり得る。
【0031】
炭化水素系ポリマーはさらに、イソブチレンまたは1,2-ブチレン単位とは明確に異なる少なくとも1つの構造単位を含むことができる。
【0032】
炭化水素系ポリマーは、イソブテン、ブタ-1-エンおよびブタ-2-エン単位以外に、例えば以下の単位のうちの単数または複数のものを含むことができる:
(1)不飽和脂肪族炭化水素
(2)脂環式不飽和炭化水素
(3)芳香族部分を有する不飽和炭化水素。
【0033】
炭化水素系ポリマーが二重結合を有する場合、二重結合は水素化によって部分的または完全に水素化され得る。
【0034】
好ましくは、イソブチレンおよび1,2-ブチレン単位は、炭化水素系ポリマーを形成する構造単位の総数の少なくとも30mol%、好ましくは少なくとも40mol%、好ましくは少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも60mol%に相当する。
【0035】
炭化水素系ポリマーの構造単位の総数との関係におけるブチレン単位(イソブチレンおよび/または1,2-ブチレン)の総数は、13C核磁気共鳴分光法によって炭化水素系ポリマーを分析し、以下の等式を使用することにより、決定可能である:
【化6】
【0036】
13C核磁気共鳴スペクトルは、30~32ppmでイソブチレンメチル部分から誘導されたピーク(積分値A)、および26~27ppmにおいて1,2-ブチレンの分岐メチレン部分(-CH-CH(CHCH)-)から誘導された、積分値でのピーク(積分値B)を示す。イソブチレンおよび1,2-ブチレン[単位]の総数は、ピークの積分値から、および炭化水素系ポリマーの全ての炭素原子のピークの積分値(積分値C)から決定可能である。
【0037】
モノマー(a)は典型的には、ヒドロキシル部分またはアミン部分を含有する(コ)ポリマー(Y)のエステル化またはアミド化によって得られる。
【0038】
(コ)ポリマー(Y)(すなわちヒドロキシル部分またはアミン部分を含有する(コ)ポリマー)の例としては、本明細書中の以下で定義されているような、ヒドロキシル部分を含有する(コ)ポリマー(Y1)~(Y4)、およびアミン部分を含有する(コ)ポリマー(Y5)が含まれ得る。
【0039】
アルキレンオキシドの付加生成物(Y1):アルキレンオキシド、例えばエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを、イオン重合触媒、例えばナトリウム触媒の存在下で、(1)不飽和脂肪族炭化水素を重合することによって得られる炭化水素系ポリマー;(2)不飽和脂環式炭化水素;(3)詳細にはC~C36オレフィンの中から選択された不飽和芳香族炭化水素;およびそれらの誘導体の中から選択されたポリマーと接触させることによって得ることのできる(コ)ポリマー。
【0040】
ヒドロホウ素化によって得られる生成物(Y2):詳細には米国特許第4316973号明細書に記載のものと同じ炭化水素系ポリマーのヒドロホウ素化によって得ることのできる(コ)ポリマー。
【0041】
無水マレイン酸-エン-アミンアルコールの付加生成物(Y3):アミノアルコールの存在下での二重結合を有する炭化水素系ポリマーと無水マレイン酸の間のアルダ-エン反応によって得られる生成物のイミド化により得ることのできる(コ)ポリマー。
【0042】
ヒドロホルミル化および水素化によって得ることのできる生成物(Y4):二重結合を有する炭化水素系ポリマーのヒドロホルミル化とそれに続く水素化ステップによって得ることのできる(コ)ポリマー。例として特開昭63-175096号公報に記載の生成物に言及することができる。
【0043】
無水マレイン酸-エン-エチレンジアミンの付加生成物(Y5):エチレンジアミンの存在下での、二重結合を有する炭化水素系ポリマーと無水マレイン酸との間のアルダ-エン反応によって得られた生成物のイミド化により得ることのできる(コ)ポリマー。
【0044】
好ましくは、(コ)ポリマー(Y)は、(コ)ポリマー(Y1)、(Y2)および(Y3)から、より好ましくは(コ)ポリマー(Y)および(Y1)から選択される。
【0045】
各(コ)ポリマー(Y)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは、1,000~25,000g/mol、より好ましくは2,000~20,000g/mol、特に好ましくは3,000~15,000g/mol、より好ましくは4,000~10,000g/molである。
【0046】
有利には、(コ)ポリマー(Y)の結晶化温度は、-40℃以下、より好ましくは-50℃以下、特に-55℃以下、典型的には-60℃以下である。
【0047】
(コ)ポリマー(Y)または(コ)ポリマー(A)の結晶化温度は、「Unix(登録商標)DSC7」(PerkinElmer)などの示差走査熱量計を用いて測定可能である。結晶化温度は、10℃/minの速度で100℃から-80℃まで(コ)ポリマー(Y)または(コ)ポリマー(A)の試料(5mg)を恒温冷却する間に測定される。
【0048】
一実施形態によると、コポリマーはさらに、式(II):
【化7】
のモノマー(b)を重合することにより得ることのできる反復単位を含み、式中:
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし;
- Xは、-O-または-NH-により表わされる部分であり;
- R部分は、独立してC~Cアルキレン部分を表わし;
- Rは、C~Cアルキル部分であり;
- qは、ゼロとは異なる1~20の範囲内の整数である。
【0049】
好ましくは、Rはメチル部分である。
【0050】
好ましくは、Xは-O-部分である。
【0051】
~Cアルキレン部分の例としては、詳細には、エチレン、イソプロピレン、1,2-または1,3-プロピレン、イソブチレンおよび1,2-、1,3-または1,4-ブチレンが含まれる。
【0052】
好ましくは、qは1または2に等しい。
【0053】
qが2以上である場合、各Rは同一または異なるものであり得、(RO)フラグメントはランダムに、あるいはブロックで結合され得る。
【0054】
~Cアルキル部分の例としては、詳細には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ペンチルおよびn-オクチルが含まれる。
【0055】
このようなC~Cアルキル部分の中でも、C~Cアルキル部分、より好ましくはC~Cアルキル部分、典型的にはCアルキル部分が選好される。
【0056】
モノマー(b)の例には、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシヘプチル(メタ)アクリレート、メトキシヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシペンチル(メタ)アクリレート、メトキシオクチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシヘキシル(メタ)アクリレート、エトキシペンチル(メタ)アクリレート、エトキシオクチル(メタ)アクリレート、プロポキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシプロピル(メタ)アクリレート、プロポキシブチル(メタ)アクリレート、プロポキシヘプチル(メタ)アクリレート、プロポキシヘキシル(メタ)アクリレート、プロポキシペンチル(メタ)アクリレート、プロポキシオクチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、ブトキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシヘプチル(メタ)アクリレート、ブトキシヘキシル(メタ)アクリレート、ブトキシペンチル(メタ)アクリレート、ブトキシオクチル(メタ)アクリレートおよび2~20モルのエチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはブチレンオキシドを伴うアルコールと(メタ)アクリル酸とのC~Cエステルが含まれる。
【0057】
有利には、モノマー(b)は、エトキシエチル(メタ)アクリレートおよびブトキシエチル(メタ)アクリレートの中から選択される。
【0058】
好ましい実施形態によると、モノマー(b)は、モノマー(a)と明確に異なる。
【0059】
一実施形態によると、本発明のコポリマーは、モノマー(a)および(b)から誘導された単位に加えて:
- C~Cアルキル(メタ)アクリレートの中から選択されたモノマー(c)、
- アルキル部分が直鎖C12~C36アルキル部分の中から選択される、アルキル(メタ)アクリレートの中から選択されたモノマー(d)、および/または、
- アルキル部分が分岐C12~C36アルキル部分の中から選択される、アルキル(メタ)アクリレートの中から選択されたモノマー(e)、
の中から選択されたモノマーの重合によって得ることのできる追加の反復単位をさらに含むことができる。
【0060】
モノマー(c)の例としては、詳細には:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレートおよびブチル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0061】
好ましくは、モノマー(c)は、メチル(メタ)アクリレートおよびブチル(メタ)アクリレートの中から、より好ましくはブチル(メタ)アクリレートの中から選択される。
【0062】
モノマー(d)の例としては、詳細には:N-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、n-ペンタデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレート、n-イコシル(メタ)アクリレート、n-テトラコシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート、n-トリアコンチル(メタ)アクリレートおよびn-ヘキサトリアコンチル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0063】
好ましくは、モノマー(d)は、直鎖C12~C28アルキル部分を有するアルキル(メタ)アクリレートの中から、より好ましくは直鎖C12~C22アルキル部分を有するアルキル(メタ)アクリレートの中から選択される。
【0064】
(コ)ポリマーはまた、式(III):
【化8】
により表わされるモノマー(e)を重合することによって得ることのできる反復単位を含有することもでき、式中:
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし;
- Xは、-O-または-NH-部分であり;
- R部分は、独立してC~Cアルキレン部分を表わし;
- RおよびRは、独立して直鎖C~C24アルキル部分を表わし;
- rは、0~20の整数である。
【0065】
好ましくは、Rはメチル部分である。
【0066】
好ましくは、Xは-O-部分である。
【0067】
~Cアルキレン部分の例としては、詳細には、エチレン、イソプロピレン、1,2-または1,3-プロピレン、イソブチレンおよび1,2-、1,3-または1,4-ブチレン部分が含まれる。
【0068】
好ましくは、rは0~5、より好ましくは0~2の範囲内の整数である。
【0069】
rが2以上である場合、R部分は同一かまたは異なるもののいずれかであり得、(RO)rフラグメントはランダムに、あるいはブロックで結合され得る。
【0070】
直鎖C~C24アルキル部分の例としては、詳細には、n-ブチル、n-ヘプチル、n-ヘキシル、n-ペンチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシル、n-オクタデシル、n-エイコシルおよびn-テトラコシルが含まれる。
【0071】
好ましくは、部分RおよびRは、独立して、直鎖C~C24アルキル部分、より好ましくは直鎖C~C20アルキル部分、典型的には直鎖C~C16アルキル部分の中から選択される。
【0072】
モノマー(e)の例としては、詳細には、2-オクチルドデシル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ-2-オクチルペンタデシルエーテルと(メタ)アクリル酸とのエステル、2-オクチルドデシル(メタ)アクリレート、2-n-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート、2-n-ドデシルヘキサデシル(メタ)アクリレート、2-テトラデシルテトラデシルアクリレート、2-ヘプタデシル(メタ)アクリレート、2-ヘキサデシルドコシル(メタ)アクリレート、2-エイコシルドコシル(メタ)アクリレート、2-テトラコシルヘキサコシル(メタ)アクリレートおよびN-2-オクチルデシル(メタ)アクリルアミドが含まれる。
【0073】
好ましくは、モノマー(e)は、アクリル部分が分岐C12~C36アルキル部分、より好ましくはC14~C32アルキル部分、典型的にはC16~C28アルキル部分の中から選択されているアルキル(メタ)アクリレートの中から選択される。
【0074】
モノマー(b)~(e)は、炭化水素系ポリマーを修飾することによってではなく、炭化水素部分を含む化合物の末端ヒドロキシル部分またはアミン部分と(メタ)アクリル酸とを反応させることによって得られる。したがって、モノマー(b)~(e)は、ポリオレフィンを含有するモノマーではない。
【0075】
さらに、C~Cアルコールに対する2~20モルのエチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはブチレンオキシドの付加によって得られるモノマー、および分岐C10~C50アルキル部分を含有するアルコールに対する1~20モルのエチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはブチレンオキシドの付加によって得られるモノマーも、また、炭化水素系ポリマーを修飾することでは得られない。したがって、前記モノマーは、ポリオレフィンを含有するモノマーではない。
【0076】
一実施形態によると、本発明の(コ)ポリマーは、モノマー(a)~(e)から誘導された単位に加えて、
- (f)窒素含有モノマー、
- (g)ヒドロキシル部分を含有するモノマー、および
- (h)リン含有モノマー、
からなる群の中から選択されたモノマーの重合によって得られる反復単位を含む。
【0077】
モノマー(f)の例としては、以下のモノマー(f1)~(f4)が含まれる。
【0078】
モノマー(f1)の例:(メタ)アクリルアミド;モノアルキル(メタ)アクリルアミド、詳細には、例えばN-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミドおよびN-イソブチル(メタ)アクリルアミドなどの、C1~C4アルキル部分が窒素原子に結合されているモノマー;N-(N’-モノアルキルアミノアルキル)(メタ)アクリルアミド、特に、例えばN-(N’-メチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(N’-エチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(N’-イソプロピルアミノ-ブチル)アクリルアミド、N-N’ブチル(メタ)アクリルアミドおよびN-(N’-イソブチルアミノ-n-ブチル)(メタ)アクリルアミドなどの、C1~C4アルキル部分が窒素原子に結合されているC2~C6アミノアルキル部分を含むモノマー;ジアルキル(メタ)アクリルアミド、詳細には、例えばN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミドおよびN,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミドなどの、2つのC1~C4アルキル部分が窒素原子に結合されているモノマー;N-(N’,N’-ジアルキルアミノアルキル)(メタ)アクリルアミド、特に、例えばN-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(N’,N’-ジエチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(N’,N’-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミドおよびN-(N’,N’-ジ-n-ジブチルアミノ)(メタ)アクリルアミドなどの、2つのC1~C4アルキル部分がアミノアルキル部分の窒素原子に結合されているC2~C6アミノアルキル部分を含むモノマー;N-ビニルカルボン酸アミド、例えばN-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-n-イソプロピオン酸アミド、N-ビニルイソプロピオン酸アミドおよびN-ビニルヒドロキシアセトアミドなど。
【0079】
モノマー(f2)の例:4-ニトロスチレン。
【0080】
モノマー(f3)の例:
- 1級アミン部分を含有するモノマー:C3~C6アルケニルアミン、例えば(メタ)アリルアミンおよびクロチルアミン;C2~C6アミノアルキル(メタ)アクリレート、例えばアミノエチル(メタ)アクリレート;
- 2級アミン部分を含有するモノマー:モノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、詳細には、例えばN-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびN-メチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの、C1~C6アルキル部分が窒素原子に結合されているC2~C6アミノアルキル部分を含むモノマー;C6~C12-ジアルケニルアミン、例えばジ(メタ)アリルアミン;
- 3級アミン部分を含有するモノマー:ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、詳細には、例えばN,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびN,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの、2つのC1~C6アルキル部分が窒素原子に結合されている、C2~C6アミノアルキル部分を含むモノマー;例えばモルホリノエチル(メタ)アクリレートなどの、窒素原子を含む脂環式(メタ)アクリレート;例えばN-(N’,N’-ジフェニルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノスチレン、4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン、N-ビニルピロール、N-ビニルピロリドンおよびN-ビニルチオピロリドンなどの、芳香族モノマー、および
- 前記モノマーの塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩および低級アルキル(C1~C8)モノカルボキシレート、酢酸およびプロピオン酸がモノカルボン酸の例である。
【0081】
ニトリル部分を含有するモノマー(f4)の例:(メタ)アクリロニトリル。
【0082】
モノマー(f)は、好ましくは、モノマー(f1)および(f3)の中から、より好ましくはN-(N’,N’-ジフェニルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(N’,N’-ジメチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(N’,N’-ジエチルアミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(N’,N’-ジメチルアミノプロピル)(メタ)エチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびN,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートの中から選択される。
【0083】
モノマー(g)の例としては、詳細には以下のものが含まれる:
- 例えばp-ヒドロキシスチレンなどのヒドロキシ部分を含有する芳香族モノマー;例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2-または3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのC2~C6ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;例えばN-N-ビス(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N-N-ビス(ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミドおよびN,N-ビス(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドなどのC1~C4置換モノ-またはビス-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;ビニルアルコール;(メタ)アリルアルコール、クロチルアルコール、イソクロチルアルコール、1-オクテノールおよび1-ウンデセノールなどのC3~C12アルケノール;1-ブテン-3-オール、2-ブテン-1-オールおよび2-ブテン-1,4-ジオールなどのC4~C12アルケンモノオールまたはジオール;例えば2-ヒドロキシエチルプロペニルエーテルなどのC3~C10アルケニルエーテルまたはC1~C6ヒドロキシアルキルエーテル;例えばスクロース(メタ)アリルエーテルなどの(詳細にはグリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ジグリセロール、糖およびスクロースの中から選択された)3~8個のヒドロキシル部分を含む多価アルコールのC3~C10アルケニルエーテルまたは(メタ)アクリレート。
- アルキレン部分がC2~C4であり、重合度が2~50であるポリオキシアルキレングリコール;例えば3~8個のヒドロキシル部分を含み、アルキレン部分がC2~C4であり、重合度が2~100の範囲内にある多価アルコールのポリオキシアルキレンエーテルなどのポリオキシアルキレンポリオール;例えば、ポリエチレングリコール(Mn:100~300g/mol)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート((Mn:130~500g/mol)、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(Mn:110~310g/mol)、ラウリルアルコールとエチレンオキシドの付加生成物(2~30モル)およびポリオキシエチレンモノ(メタ)アクリレート(Mn:150~230g/mol)ソルビタンなどのポリオキシアルキレングリコールまたはポリオキシアルキレンポリオールのC1~C4アルキルエーテルのモノ(メタ)アクリレート。
【0084】
モノマー(h)は、詳細には以下のモノマー(h1)および(h2)の中から選択される。
【0085】
モノマー(h1)の例:例えば(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェートおよび(メタ)アクリロイルオキシイソプロピルホスフェートなどのC2~C4(メタ)アクリロイルオキシアルキルホスフェートエステル;例えばビニルホスフェート、アリルホスフェート、プロペニルホスフェート、イソプロペニルホスフェート、ブテニルホスフェート、ペンテニルホスフェート、オクテニルホスフェート、デセニルホスフェートおよびドデセニルホスフェートなどのアルケニルホスフェートエステル。「(メタ)アクリロイルオキシ」なる用語は、アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシを意味する。
【0086】
モノマー(h2)の例:例えば(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸などのC2~C4(メタ)アクリロイルオキシアルキルホスホン酸;例えばビニルホスホン酸、アリルホスホン酸およびオクテニルホスホン酸などのC2~C12アルケニルホスホン酸。
【0087】
好ましくは、モノマー(h)は、モノマー(h1)から、より好ましくはC2~C4(メタ)アクリロイルオキシアルキルホスフェートエステルの中から選択され、有利には、モノマー(h)は(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェートである。
【0088】
一実施形態によると、本発明の(コ)ポリマーは、モノマー(a)~(h)から誘導された単位に加えて、少なくとも2つの不飽和部分を含むモノマー(i)の重合によって得られる反復単位を含む。
【0089】
モノマー(i)の例としては、ジビニルベンゼン;例えばブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,6-ヘプタジエンおよび1,7-オクタジエンなどのC4~C12アルカジエン;(ジ)シクロペンタジエン;ビニルシクロヘキセンおよびエチリデン-ビシクロヘプテン、リモネン、エチレンジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシドグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、および国際公開第01/009242号で開示されているエステル、例えば、500g/mol以上の数平均分子量(Mn)を有する不飽和カルボン酸のグリコールエステルまたは不飽和アルコールとカルボン酸のエステル、が含まれる。
【0090】
本発明の(コ)ポリマーは、また、モノマー(a)~(i)から誘導された単位に加えて、以下のものの中から選択されたモノマーの重合によって得られる反復単位を含むこともできる:
- (j)脂肪族炭化水素系モノマー、
- (k)脂環式炭化水素系モノマー、
- (l)炭化水素系芳香族モノマー、
- (m)ビニルエステル、ビニルエーテルおよびビニルケトンのモノマー、
- (n)エポキシ部分を含有するモノマー、
- (o)ハロゲンを含有するモノマー、
- (p)不飽和ポリカルボン酸エステルタイプのモノマー。
【0091】
モノマー(j)の例:エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、およびオクタデセンなどのC~C20アルケン。
【0092】
モノマー(k)の例:シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンおよびピネン。
【0093】
モノマー(l)の例:スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、4-エチルスチレン、4-イソプロピルスチレン、4-ブチルスチレン、4-フェニルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ベンジルスチレン、4-クロチルベンゼン、インデンおよび2-ビニルナフタレン。
【0094】
モノマー(m)の例:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、オクタン酸ビニルなどのC2~C12飽和脂肪酸のビニルエステル;C1~C12アルキル、アリールまたはアルコキシアルキルビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル;2-エチルヘキシルビニルエーテル;フェニルビニルエーテル;ビニル-2-メトキシエチルエーテル;およびビニル-2-ブトキシエチルエーテル);およびC1~C8アルキルまたはアリールビニルケトン(例えばメチルビニルケトン、エチルビニルケトン、およびフェニルビニルケトン)。
【0095】
エポキシ部分を含有するモノマー(n)の例:グリシジル(メタ)アクリレートおよびグリシジル(メタ)アリルエーテル。
【0096】
ハロゲンを含有するモノマー(o)の例:塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アリルクロリド、および例えばジクロロスチレンなどのハロゲン化スチレン。
【0097】
不飽和ポリカルボン酸エステルモノマー(p)の例:不飽和ポリカルボン酸のアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルエステル[不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸およびイタコン酸など)のC1~C8アルキルジエステル(マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、マレイン酸ジエチルおよびマレイン酸ジオクチル)]。
【0098】
コポリマーの組成は、プロトン核磁気共鳴分光法(H NMR)によってかあるいは、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によって決定可能である。
【0099】
好ましくは、モノマー(a)は、(コ)ポリマーの総重量との関係において1重量%~50重量%、より好ましくは5重量%~40重量%、特に8重量%~40重量%、典型的には10重量%~30重量%に相当する。
【0100】
好ましくは、モノマー(b)は、(コ)ポリマーの総重量との関係において1重量%~80重量%、より好ましくは5重量%~60重量%、特に10重量%~35重量%、典型的には10重量%~30重量%に相当する。
【0101】
好ましくは、モノマー(a)および(b)は合わせて、(コ)ポリマーの総重量の少なくとも10重量%、より好ましくは15重量%~90重量%、特に20重量%~80重量%、典型的には20重量%~50重量%に相当する。
【0102】
好ましくは、モノマー(c)は、(コ)ポリマーの総重量との関係において1重量%~80重量%、より好ましくは20重量%~70重量%、特に30重量%~65重量%に相当する。
【0103】
好ましくは、モノマー(d)は、(コ)ポリマーの総重量との関係において1重量%~40重量%、より好ましくは1重量%~35重量%、特に2重量%~30重量%に相当する。
【0104】
好ましくは、モノマー(e)は、(コ)ポリマーの総重量との関係において0重量%~40重量%、より好ましくは1重量%~30重量%、特に1重量%~25重量%に相当する。
【0105】
好ましくは、モノマー(f)、(g)および(h)はそれぞれ、(コ)ポリマーの総重量との関係において0重量%~15重量%、より好ましくは1重量%~12重量%、特に2重量%~10重量%に相当する。
【0106】
好ましくは、モノマー(i)は、(コ)ポリマーの総重量との関係において0.01重量ppm~200重量ppm、より好ましくは0.005重量ppm~50重量ppm、特に0.1重量ppm~20重量ppmに相当する。
【0107】
好ましくは、モノマー(j)~(p)はそれぞれ、(コ)ポリマーの総重量との関係において0重量ppm~10重量%、より好ましくは1重量%~7重量%、特に2重量%~5重量%に相当する。
【0108】
好ましくは、コポリマーは、5,000g/mol~2,000,000g/mol、より好ましくは150,000g/mol~1,000,000g/mol、特に230,000g/mol~1,000,000g/mol、特に300,000g/mol~800,000g/molの質量平均分子量(Mw)を有する。質量平均分子量は、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)標準を用いて立体排除クロマトグラフィによって決定可能である。
【0109】
(コ)ポリマーは、好ましくは-30℃以下、より好ましくは-40℃以下、特に-50℃以下、典型的には-60℃以下の結晶化温度を有する。
【0110】
本発明にしたがって使用されるコポリマーは、当業者にとって周知の任意の方法にしたがって合成され得るか、または市販されている可能性がある。
【0111】
具体的例には、モノマーを、重合触媒の存在下で溶媒中に溶解した状態で重合に付す方法が含まれる。
【0112】
溶媒の例としては、トルエン、キシレン、C9~C10アルキルベンゼン、メチルエチルケトンおよび鉱油が含まれる。
【0113】
重合触媒の例:アゾ触媒(2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)など)、過酸化物触媒(過酸化ベンゾイル、過酸化クミルおよび過酸化ラウリルなど)およびレドックス触媒(過酸化ベンゾイルと第3級アミンとの混合物など)。必要がある場合、公知の連鎖移動剤(C2~C20アルキルメルカプタンなど)を使用することもできる。
【0114】
重合温度は好ましくは、25℃~140℃、より好ましくは50℃~120℃である。
【0115】
本発明の(コ)ポリマーはまた、バルク重合、乳化重合または懸濁重合によっても得ることができる。
【0116】
(コ)ポリマーがコポリマーである場合、それは以下のタイプのうちの1つであり得る:ランダム付加ポリマー、交互コポリマー、グラフトコポリマーおよび定序性コポリマー。
【0117】
本発明のコポリマーは、潤滑剤組成物中で、潤滑剤組成物の総重量との関係において、乾燥物質の重量で0.1%~10%、より好ましくは0.5%~5%、さらに一層好ましくは0.8%~3%の量で使用される。
【0118】
[モリブデン摩擦調整剤]
潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において100重量ppm~1500重量ppm、好ましくは300重量ppm~1000重量ppm、より好ましくは500重量ppm~1000重量ppmの範囲内となるような、モリブデンを含む単数または複数の摩擦調整剤を含む。
【0119】
本発明に係る潤滑剤組成物中のモリブデンの量、詳細にはMoDTC化合物の量は、ASTM D5185規格にしたがって測定可能である。
【0120】
本発明に係る潤滑剤組成物は、組成物の総重量との関係において0.01重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~5重量%、好ましくは0.5重量%~3重量%のモリブデン摩擦調整剤を含むことができる。
【0121】
好ましくは、モリブデンを含む摩擦調整剤は、有機モリブデン化合物の中から選択され、特にモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)誘導体、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)誘導体または硫黄を含まないモリブデン錯体の中から選択され、より好適にはモリブデンジチオカルバメート誘導体(MoDTC)の中から選択される。
【0122】
モリブデンジチオカルバメート化合物(MoDTC化合物)は、アルキルジチオカルバメート部分の中から独立して選択された単数または複数のリガンドに結合された金属コアで形成された錯体である。本発明に係る組成物のMoDTC化合物は、MoDTC化合物の総重量との関係において1重量%~40重量%、好ましくは2重量%~30重量%、より好ましくは3重量%~28重量%、さらに一層好ましくは4重量%~15重量%のモリブデンを含むことができる。
【0123】
本発明にしたがって使用されるMoDTC化合物は、2つのモリブデン原子(二量体MoDTC)を含むコアを有する化合物、および3つのモリブデン原子(三量体MoDTC)を含むコアを有する化合物の中から選択され得る。
【0124】
三量体MoDTC化合物は、概して、Moという式を有し、式中:
・ kは少なくとも4に等しい、好ましくは4~10、有利には4~7の範囲内の整数を表わし;
・ nは、1~4の整数を表わし;
・ Lは、1~100個、好ましくは1~40個、より好ましくは3~20個の炭素原子を含むアルキルジチオカルバメート部分を表わす。
【0125】
三量体MoDTC化合物の例としては、国際公開第98/26030号に記載の化合物およびその調製方法が含まれる。
【0126】
好ましくは、本発明に係る潤滑剤組成物に使用されるMoDTC化合物は、二量体MoDTC化合物である。二量体MoDTC化合物の例としては、欧州特許出願公開第0757093号明細書に記載の化合物およびその調製方法が含まれる。
【0127】
二量体MoDTC化合物は概して、式(A):
【化9】
を有し、式中、
・ R、R、RおよびRは、同一のまたは異なるもののいずれかであり、独立して、アルキル、アルケニル、アリール、シクロアルキルおよびシクロアルケニル部分の中から選択された炭化水素部分を表わし;
・ X、X、XおよびXは、同一のまたは異なるもののいずれかであり、独立して、酸素原子または硫黄原子を表わす。
【0128】
有利には、同一のまたは異なるもののいずれかであり得るR、R、RおよびRは、独立して4~18個の炭素原子を含むアルキル部分または2~24個の炭素原子を含むアルケニル部分を表わす。
【0129】
また有利には、X、X、XおよびXは、同一であり、硫黄原子を表わすことができ、あるいはまた、これらは同一であって酸素原子を表わすことができる。また、有利には、XおよびXは硫黄原子を表わすことができ、XおよびXは酸素原子を表わすことができる。また、有利には、XおよびXは酸素原子を表わすことができ、XおよびXは硫黄原子を表わすことができる。
【0130】
式(A)のMoDTC化合物はまた、少なくとも1つの対称MoDTC化合物、少なくとも1つの非対称MoDTC化合物およびそれらの組合せの中からも選択され得る。対称MoDTC化合物は、式(A)で、式中部分R、R、RおよびRが同一であるMoDTC化合物を意味する。非対称MoDTC化合物は、式(A)で、式中部分RおよびRが同一であり、部分RおよびRが同一であり、部分RおよびRが部分RおよびRと異なっているMoDTC化合物を意味する。
【0131】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つの対称MoDTC化合物と少なくとも1つの非対称MoDTC化合物の混合物を含み得る。より有利には、同一のRおよびRはこのとき、5~15個の炭素原子を含むアルキル部分を表わし、RおよびRとは異なる同一のRおよびRは5~15個の炭素原子を含むアルキル部分を表わす。好ましくは、同一のRおよびRは、6~10個の炭素原子を含むアルキル部分を表わし、RおよびRは10~15個の炭素原子を含むアルキル部分を表わす。
【0132】
同様に、同一のRおよびRは、10~15個の炭素原子を含むアルキル部分を表すことができ、RおよびRは、6~10個の炭素原子を含むアルキル部分を表わすことができる。
【0133】
また、同一のRおよびR、RおよびRは、5~15個の炭素原子、好ましくは8~13個の炭素原子を含むアルキル部分を表わすことができる。
【0134】
有利には、MoDTC化合物は、式(A)で、式中:
・ XおよびXが、酸素原子を表わし、
・ XおよびXが、硫黄原子を表わし、
・ Rが、8個の炭素原子を含むアルキル部分または13個の炭素原子を含むアルキル部分を表わし、
・ Rが、8個の炭素原子を含むアルキル部分または13個の炭素原子を含むアルキル部分を表わし、
・ Rが、8個の炭素原子を含むアルキル部分または13個の炭素原子を含むアルキル部分を表わし、
・ Rが、8個の炭素原子を含むアルキル部分または13個の炭素原子を含むアルキル部分を表わしている、
化合物の中から選択される。
【0135】
したがって、有利には、MoDTC化合物は、式(A1):
【化10】
で、式中R、R、RおよびRが、式(A)について定義された通りである化合物の中から選択され得る。
【0136】
有利には、MoDTC化合物は:
・ 式(A1)で、式中R、R、RおよびRが8個の炭素原子を含むアルキル部分を表わしている、MoDTC化合物、
・ 式(A1)で、式中R、R、RおよびRが13個の炭素原子を含むアルキル部分を表わしている、MoDTC化合物と、
・ 式(A1)で、式中RおよびRが13個の炭素原子を含むアルキル部分を表わし、RおよびRが8個の炭素原子を含むアルキル部分を表わしている、MoDTC化合物および/または、
・ 式(A1)で、式中RおよびRが8個の炭素原子を含むアルキル部分を表わし、RおよびRが13個の炭素原子を含むアルキル部分を表わしている、MoDTC化合物の混合物である。
【0137】
MoDTC化合物の硫黄原子数と酸素原子数の間の比率(S/O)は、概して(1/3)から(3/1)まで変動し得る。
【0138】
MoDTC化合物の特定の例としては、R.T.ヴァンダービルト社が販売する製品Molyvan L(登録商標)、Molyvan807(登録商標)またはMolyvan822(登録商標)、あるいはアデカ社が販売するサクラルーブ200(登録商標)、サクラルーブ165(登録商標)、サクラルーブ 525(登録商標)またはサクラルーブ 600(登録商標)が含まれる。
【0139】
本発明にしたがって使用される潤滑剤組成物は、また、国際公開第2012/141855号中に記載のMoDTC化合物の中から選択された有機モリブデン化合物とでも使用可能である。
【0140】
同様にして、この潤滑剤組成物は、有機モリブデン錯化合物または国際公開第2014/076240号および仏国特許第3014898号明細書に記載の化合物の中から選択されたMoDTP化合物と使用可能である。
【0141】
有利には、MoDTP化合物は、式(B):
【化11】
の化合物の中から選択され、式中、同一のまたは異なるもののいずれかであり得るR、R、RおよびRは独立して、アルキル、アルケニル、アリール、シクロアルキルまたはシクロアルケニル部分の中から選択された炭化水素部分を表わす。
【0142】
MoDTP化合物の例としては、R.T.ヴァンダービルト社が販売する製品Molyvan L(登録商標)またはアデカ社が販売する製品サクラルーブ300(登録商標)またはサクラルーブ310G(登録商標)が含まれる。
【0143】
本発明はまた、硫黄およびリンを含まない有機モリブデン化合物錯体でも実装可能である。硫黄およびリンを含まない有機モリブデン錯体は、主としてモリブデン供給源、例えばモリブデントリオキシドを、アミンおよび例えば4~28個の炭素原子、好ましくは8~18個の炭素原子を有する脂肪酸誘導体と反応させることによって調製されるアミドリガンドを用いて調製可能である。脂肪酸の例は、植物油または動物油から誘導される。このような有機モリブデン錯体は、米国特許第4889647号明細書、欧州特許第0546357号明細書、米国特許第5412130号明細書、欧州特許第1770153号明細書中に記載の方法にしたがって調製可能である。好ましい有機モリブデン錯体は、
(i)モノ、ジまたはトリグリセリドタイプの脂肪酸または脂肪性物質と、
(ii)式(C):
【化12】
で、式中RおよびR10が、同一のまたは異なるもののいずれかであり、独立してOHまたはNH部分を表わしている、アミン供給源と、
(iii)好ましくは、錯体の重量との関係において0.1~30重量%、好ましくは2~8.5重量%のモリブデンを提供するのに十分な量の、モリブデントリオキシドまたはモリブデート、好ましくはアンモニウムモリブデートの中から選択されたモリブデン供給源と、
の間の反応によって得られる。
【0144】
好ましくは、有機モリブデン錯体は、式(D)または式(E):
【化13】
の少なくとも1つの化合物またはそれらの混合物を含み、
式中:
・ LおよびLは、同一のまたは異なるもののいずれかであり、独立してOまたはNHを表わし、
・ QおよびQは、同一のまたは異なるもののいずれかであり、独立して、3~30個の炭素原子、好ましくは3~20個の炭素原子、有利には7~17個の炭素原子を含む直鎖または分岐、飽和または不飽和アルキル部分を表わしている。
【0145】
このような有機モリブデン錯体は:
(i)モノ、ジ、またはトリグリセリドタイプの脂肪酸または脂肪性物質、
(ii)ジエタノールアミンまたは2-(2-アミノエチル)アミノエタノール、
(iii)錯体の重量との関係において0.1~20重量%のモリブデンを提供するのに十分な量の、モリブデントリオキシドまたはモリブデート、好ましくはアンモニウムモリブデートの中から選択されたモリブデン供給源と、
の間の反応によって調製され得る。
【0146】
より好ましくは、有機モリブデン錯体は、式(D1)または式(D2):
【化14】
の少なくとも1つの化合物またはそれらの組合せを含み、式中、Qは独立して、3~30個の炭素原子、好ましくは3~20個の炭素原子、より好ましくは7~17個の炭素原子を含む、飽和または不飽和のいずれかの、直鎖または分岐のいずれかのアルキル部分を表わしている。
【0147】
[単数または複数のホウ素含有分散剤]
本発明に係る潤滑剤組成物はさらに、潤滑剤組成物中のホウ素の量が、潤滑剤組成物の総重量との関係において10~300重量ppm、好ましくは20~300重量ppmの範囲内となるような、単数または複数のホウ素含有分散剤を含む。
【0148】
本発明に係る潤滑剤組成物中のホウ素の量は、ASTM D5185規格にしたがって測定可能である。
【0149】
一実施形態によると、潤滑剤組成物はさらに、組成物の総重量との関係において、0.01重量%~10重量%、好ましくは0.01重量%~5重量%のホウ素含有分散剤を含む。
【0150】
好ましくは、ホウ素含有分散剤は、ホウ素含有スクシンイミド、典型的にはホウ素含有ポリイソブテンスクシンイミドの中から選択される。
【0151】
[単数または複数の基油]
本発明に係る潤滑剤組成物は、単数または複数の基油を含む。基油は、多種の油の中から選択され得る。本発明の潤滑剤組成物中の基油は、詳細には、API分類により定義されたクラス(またはATIEL分類にしたがったその等価物)(表A)にしたがったI群からV群に属する鉱油または合成由来の油またはそれらの混合物の中から選択され得る。
【0152】
【表1】
【0153】
本発明に係る有用な鉱物系基油には、原油の常圧蒸留および真空蒸留とそれに続く溶媒抽出、脱歴、溶剤脱ろう、水素化処理、水素化分解、水素異性化および水素化仕上げなどの精製作業によって得られるあらゆるタイプの基油が含まれる。合成油と鉱油の混合も使用可能である。
【0154】
本発明に係る潤滑剤組成物を生産するための様々な潤滑剤基剤の使用に関しては、それが、エンジンへの使用にとって好適である特性、詳細には、粘度、粘度係数、硫黄濃度、耐酸化性に関する特性を有していなければならないという点を除いて、概して制限は全く無い。
【0155】
本発明に係る潤滑剤組成物の基油はさらに、合成油、例えばカルボン酸とアルコールの特定のエステル、ポリアルキレングリコール(PAG)の中から、およびポリアルファオレフィンの中から選択され得る。
【0156】
一実施形態によると、本発明に係る潤滑剤組成物は、II群からの少なくとも1つの油および/またはIII群からの少なくとも1つの油を含む。
【0157】
典型的には、単数または複数の基油は、潤滑剤組成物の総重量の少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、さらに好ましくは少なくとも70重量%、より一層好ましくは少なくとも75重量%に相当する。
【0158】
したがって、一実施形態によると、潤滑剤組成物は、好ましくはII群からの少なくとも1つの油、および/またはIII群からの少なくとも1つの油、および/またはIV群からの少なくとも1つの油、および/またはV群からの少なくとも1つの油を含む、50重量%~99.89重量%、好ましくは70重量%~99.5重量%、より好ましくは80重量%~99重量%の基油を含む。
【0159】
[単数または複数の他の添加剤]
特定の実施形態によると、本発明に係る潤滑剤組成物はさらに、単数または複数の他の添加剤を含む。
【0160】
本発明に係る潤滑剤組成物のための他の好ましい添加剤は、洗浄添加剤、耐摩耗添加剤、モリブデン摩擦調整剤を除く摩擦調整添加剤、極圧添加剤、上記で定義したホウ素分散剤とは明確に異なる分散剤、流動点降下剤、粘度係数向上剤、消泡剤、増粘剤およびそれらの混合物の中から選択される。
【0161】
好ましくは、存在する場合、洗浄添加剤、耐摩耗添加剤、モリブデン摩擦調整剤を除く摩擦調整添加剤、極圧添加剤、上記で定義したホウ素分散剤とは明確に異なる分散剤、流動点降下剤、粘度係数向上剤、消泡剤、増粘剤およびそれらの混合物の中から選択される添加剤は、潤滑剤組成物の総重量の最高20重量%、好ましくは0.1重量%~15重量%、より好ましくは1重量%~10重量%に相当する。
【0162】
一実施形態によると、潤滑剤組成物はさらに、少なくとも1つの洗浄剤を含む。洗浄添加剤は概して、酸化および燃焼副産物を溶解させることにより、金属部品の表面上の付着物の形成を低減する。本発明に係る潤滑剤組成物中で使用可能な洗浄添加剤は、概して、当業者にとって公知のものである。洗浄添加剤は、長い親油性炭化水素鎖と親水性頭部とを含むアニオン化合物であり得る。関連するカチオンは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属カチオンであり得る。洗浄添加剤は、好ましくは、カルボン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、スルホネート、サリチレート、ナフテネートならびにフェネート塩の中から選択される。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムである。このような金属塩は概して、化学量論量で、または余剰量で、すなわち化学量論量よりも大きい濃度で金属を含む。それは、この場合は、過塩基性洗浄剤である;洗浄添加剤に対して過塩基性を付与する余剰の金属は、概して例えばカーボネート、ヒドロキシド、オキサレート、アセテート、グルタメートなどの、好ましくはカーボネートの油中で不溶性の金属塩の形態をしている。
【0163】
特定の実施形態によると、潤滑剤組成物は、カルシウム洗浄剤、マグネシウム洗浄剤およびそれらの混合物の中から選択された少なくとも1つの洗浄剤を含む。一実施形態によると、本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つのカルシウム洗浄剤および少なくとも1つのマグネシウム洗浄剤を含む。
【0164】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量との関係において、2~4重量%の単数または複数の洗浄添加剤を含むことができる。
【0165】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物はさらに、少なくとも1つのホウ素非含有分散剤を含むことができる。ホウ素非含有分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミドおよびそれらの誘導体の中から選択され得る。一実施形態によると、単数または複数のホウ素非含有分散剤は、ホウ素非含有ポリイソブテンスクシンイミドおよびそれらの混合物の中から選択され得る。
【0166】
さらに有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.2重量%~10重量%のホウ素非含有分散剤を含むことができる。
【0167】
本発明にしたがって使用される潤滑剤組成物は、流動点を改善する少なくとも1つの添加剤すなわちPPD(流動点降下剤または流動点を低減させる作用物質)を含むことができる。パラフィン結晶の形成を減速させることにより、流動点降下剤は概して、本発明に係る潤滑剤組成物の低温条件下での挙動を改善する。流動点降下添加剤の例としては、アルキルポリメタクリレート(本発明のコポリマーとは異なる)、ポリアクリレート(本発明のコポリマーとは異なる)、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、アルキルポリスチレンが含まれる。
【0168】
本発明に係る潤滑剤組成物はまた、少なくとも1つの耐摩耗添加剤、少なくとも1つの極圧添加剤またはそれらの混合物を含むこともできる。好ましくは、本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つの耐摩耗添加剤を含む。
【0169】
耐摩耗添加剤および極圧添加剤は、表面上に吸着された保護膜を形成することによって、摩擦を受ける表面を保護する。さまざまな耐摩耗添加剤が存在する。好ましくは、本発明にしたがって使用される潤滑剤組成物用として、耐摩耗添加剤は、例えばアルキルチオリン酸金属、詳細にはアルキルチオリン酸亜鉛、そしてより詳細にはジアルキルジチオリン酸亜鉛つまりZnDTPなどのリン-硫黄添加剤の中から選択される。好ましい化合物は、式Zn((SP(S)(OR)(OR))を有し、式中、RおよびRは、同一のまたは異なるもののいずれかであり、独立して、アルキル部分、好ましくは1~18個の炭素原子を含むアルキル部分を表わす。アミンホスフェートもまた、本発明にしたがって使用される潤滑剤組成物中で使用可能な耐摩耗添加剤である。しかしながら、このような添加剤により提供されるリンは、灰分を生成することから、車の触媒系内では毒として作用し得る。このような効果は、リンをもたらさない添加剤、例えばポリスルフィド詳細には硫黄含有オレフィンでアミンホスフェートを部分的に置換することによって最小限に抑えることができる。
【0170】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量との関係において、0.01~6重量%、好ましくは0.05~4重量%、より好ましくは0.1~2重量%の耐摩耗添加剤および極圧添加剤を含むことができる。
【0171】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、本発明において定義されているモリブデン摩擦調整剤とは異なる少なくとも1つの摩擦調整添加剤を含むことができる。摩擦調整添加剤は、金属元素を提供する化合物および無灰化合物の中から選択され得る。金属元素を提供する化合物は、そのリガンドが酸素、窒素、硫黄またはリン原子を含む炭化水素化合物であり得るSb、Sn、Fe、Cu、Znなどの遷移金属の錯体を含む。無灰摩擦調整添加剤は概して有機由来であり、脂肪酸およびポリオールモノエステル、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪族エポキシド、脂肪族エポキシドのホウ酸塩;脂肪族アミンまたは脂肪酸グリセロールエステルの中から選択され得る。本発明によると、脂肪族化合物は、10~24個の炭素原子を含む少なくとも1つの炭化水素部分を含む。
【0172】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量との関係において、0.01重量%~2重量%または0.01重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~1.5重量%または0.1重量%~2重量%の摩擦調整添加剤を含むことができる。
【0173】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つの酸化防止添加剤を含むことができる。酸化防止添加剤は概して、使用中の潤滑剤組成物の劣化を遅延させる。このような劣化は、最も多くの場合、付着物の形成、スラッジの存在または潤滑剤組成物の粘度上昇で出現する。酸化防止添加剤は、詳細には、ヒドロペルオキシドの破壊物質またはラジカル阻害物質として作用する。一般的に使用される酸化防止添加剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン酸化防止添加剤、リン硫黄系酸化防止添加剤が含まれる。このような酸化防止添加剤のいくつか、例えばリン硫黄系酸化防止添加剤は、灰分を生成し得る。フェノール系酸化防止添加剤は、無灰であるか、または中性または塩基性金属塩の形態をしている可能性がある。酸化防止添加剤は、詳細には、立体障害フェノール、チオエーテル架橋を含有する立体障害フェノールおよび立体障害フェノールエステル、ジフェニルアミン、少なくとも1つのC~C12アルキル部分で置換されたジフェニルアミン、N,N’-ジアルキル-アリール-ジアミンおよびそれらの混合物の中から選択され得る。好ましくは、本発明によると、立体障害フェノールは、アルコール官能基を担持する炭素原子に隣接する炭素のうちの少なくとも1つが少なくとも1つのC~C10アルキル部分、好ましくはC~Cアルキル部分、好ましくはCアルキル部分、好ましくはtert-ブチル部分によって置換されているフェノール部分を含む化合物の中から選択される。アミン化合物は、該当する場合、フェノール系酸化防止添加剤と組合わせて使用可能である別のクラスの酸化防止添加剤である。アミン化合物の例としては、芳香族アミン、例えば、式NRの芳香族アミンであり、ここで式中、Rが脂肪族部分または場合によって置換された芳香族部分を表わし、Rは場合によって置換された芳香族部分を表わし、Rは水素原子、アルキル部分、アリール部分または式RS(O)の部分を表わしており、ここでRはアルキレンまたはアルケニレン部分を表わし、Rはアルキル部分、アルケニル部分またはアリール部分を表わし、zは0、1または2である。硫黄アルキルフェノール、またはそのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩をさらに、酸化防止添加剤として使用することができる。別のクラスの酸化防止添加剤は、銅化合物、例えばチオリン酸銅またはジチオリン酸銅、銅塩およびカルボン酸塩、ジチオカルバミン酸銅、スルホン酸銅、石炭酸銅、アセチルアセトン酸銅のクラスである。銅I塩および銅II塩、コハク酸塩または無水コハク酸塩をさらに使用することができる。本発明にしたがって使用される潤滑剤組成物は、当業者にとって公知のあらゆるタイプの酸化防止剤を含み得る。有利には、潤滑剤組成物は少なくとも1つの無灰酸化防止添加剤を含む。さらに有利には、本発明にしたがって使用される潤滑剤組成物は、組成物の総重量との関係において、0.5~2重量%の少なくとも1つの酸化防止添加剤を含む。
【0174】
有利には、潤滑剤組成物はまた、本発明の中で定義されたコポリマーとは異なる、粘度指数を改善する少なくとも1つのポリマーも含むこともできる。粘度指数を改善する追加のポリマーの例には、スチレン、ブタジエンおよびイソプレンの水素化または非水素化ポリマーエステル、ホモポリマーまたはコポリマー、ポリメタクリレート(PMA)が含まれる。さらに有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、本発明中で定義されているコポリマーとは異なる、粘度指数を改善するポリマーを、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.1~15重量%含み得る。
【0175】
典型的には、本発明に係る潤滑剤組成物は、100℃で、3.8mm/s~21.9mm/sの範囲内の動粘性係数を有する。動粘性係数は、ASTM D445規格にしたがって測定され得る。
【0176】
[利用分野]
本発明はさらに、基油、単数または複数のモリブデン摩擦調整剤および単数または複数のホウ素分散剤を含む潤滑剤組成物中での、前記潤滑剤組成物の低温安定性を改善することを目的とする、上記で定義したコポリマーの使用にも関する。
【0177】
詳細には、基油、単数または複数のモリブデン摩擦調整剤、ホウ素分散剤および本発明のコポリマーを含む潤滑剤組成物は、コポリマーを含まない組成物に比べて改善された低温安定性を示す。
【0178】
本発明により定義される「低温安定性」とは、低い温度、詳細には0℃の温度で、長期保管中、詳細には数週間の間、その物理的均質性を保つ潤滑剤組成物の能力を意味する。より詳細には、優れた低温安定性を有する組成物は、低温での長期保管中に、沈降または付着物形成の問題を全く示さない。
【0179】
潤滑剤組成物の低温安定性は、典型的に、以下のように評価可能である:すなわち、
試験対象の潤滑剤組成物50mLを試験管内に注ぎ込んでから、冷蔵室内に置く。
【0180】
その後、組成物の状態を、保管時間に応じて目視で評価する。
【0181】
以下の評価法が用いられる;
- OK:組成物の状態に変化はない。付着物の痕跡が全く観察されない、
- TRACE:付着物のわずかな痕跡の存在が観察される、
- DEPOSIT:付着物の形成が観察される、
- CLOUDY:大量の付着物の形成に起因して、潤滑剤組成物は濁っている。
【0182】
一実施形態によると、コポリマーは、本発明に係る潤滑剤組成物の枠内に上記で定義されている通りである。
【0183】
一実施形態によると、単数または複数のモリブデン摩擦調整剤は、本発明に係る潤滑剤組成物の枠内に上記で定義されている通りである。
【0184】
一実施形態によると、単数または複数のホウ素分散剤は、本発明に係る潤滑剤組成物の枠内に上記で定義されている通りである。
【0185】
一実施形態によると、単数または複数の基油は上記で定義されている通りである。
【0186】
一実施形態によると、潤滑剤組成物は、コポリマーの添加の後、上記で定義されている通りである。
【0187】
一実施形態によると、コポリマーは、(コポリマー添加後の)潤滑剤組成物の総重量との関係において、乾燥物質の重量で0.1~10%、好ましくは乾燥物質の重量で0.5~5%、より好ましくは乾燥物質の重量で0.8~3%の割合で使用される。
【0188】
本発明はさらに、自動車のエンジンなどのエンジンの部品を潤滑するための本発明に係る潤滑剤組成物の使用に関する。
【0189】
本発明はさらに、エンジン、好ましくは車両用エンジンの少なくとも1つの部品を潤滑するための方法において、エンジンの少なくとも1つの部品を本発明に係る潤滑剤組成物と接触させるステップを含む方法に関する。
【0190】
本発明はさらに、エンジン内部で発生する摩擦を低減するための方法に関し、前記方法は、基油を含む潤滑剤組成物中での、上記で定義されたコポリマー、モリブデン摩擦調整剤およびホウ素分散剤の組合せの使用を含む。
【0191】
本発明はさらに、潤滑剤組成物の燃費経済性(FE)特性を改善するための方法に関し、前記方法は、基油を含む潤滑剤組成物中での、上記で定義されたコポリマー、モリブデン摩擦調整剤およびホウ素分散剤の組合せの使用を含む。
【0192】
本発明はさらに、潤滑剤組成物の低温安定性特性(典型的には0℃での)を改善するための方法に関し、前記方法は、基油を含む潤滑剤組成物中での、上記で定義されたコポリマー、モリブデン摩擦調整剤およびホウ素分散剤の組合せの使用を含む。
【0193】
モリブデン摩擦調整剤、ホウ素分散剤およびコポリマーは、このとき、潤滑剤組成物中に別個にまたは組合せの形態で供給される。
【0194】
本発明の使用および方法において、コポリマー、モリブデン摩擦調整剤、ホウ素分散剤そしてより一般的に、これらから結果としてもたらされる潤滑剤組成物は、本発明に係る潤滑剤組成物の枠内に上記で定義された単数または複数の特徴を有し得る。
【0195】
本発明に係る組合せ使用の特定の、有利なまたは好ましい特徴は、本発明にしたがって使用可能である特定の、有利なまたは好ましい組合せを定義する。
【0196】
本発明の異なる態様を、以下の実施例により例示することができる。
【0197】
実施例1:潤滑剤組成物の調製
潤滑剤組成物は、およそ60℃の温度で、表2中に記載の化合物を混合することによって調製される。表示されている百分率は、組成物の総重量との関係における重量百分率に対応する。組成物CL1は、本発明に係る組成物であり、組成物CC1は、本発明外の比較用組成物である。
【0198】
【表2】
【0199】
コポリマー1(本発明に係る)は、米国特許出願公開第2017/0009177号明細書中で定義されている通りである。
【0200】
コポリマー2(本発明外)は、国際公開第2012/081180号中で定義されている通りである。
【0201】
添加剤パッケージは、カルシウム洗浄剤、マグネシウム洗浄剤、およびホウ素スクシンイミド分散剤を含む。
【0202】
実施例2:摩擦性能の評価
上記で調製した潤滑剤組成物の、エンジン内で発生する摩擦を低減する能力を、以下のように評価する:
【0203】
エンジン内の部品の動きにより生成される摩擦トルクを測定するためにトルクセンサを使用する一方で、550~4400rpmの回転速度を課す発電機によって駆動される、5600rpmで108kw出力の日産 MR20DDエンジンを用いて、試験を実施する。試験対象の潤滑剤組成物によって誘発される摩擦トルクを、各温度で各平均トルクについてかつ各エンジン速度について、試験対象の潤滑剤組成物の前後で評価された基準潤滑剤組成物(SAE 0W16)によって誘発されるものと比較する。
【0204】
摩擦増加の値が高ければ高いほど、エンジン内で発生する摩擦の潤滑剤組成物による低減は大きくなる。
【0205】
試験条件は、以下の通りである。
【0206】
試験は、以下の順序で実施される:
- 1回のすすぎを含む潤滑油洗浄添加剤でのエンジンのすすぎと、それに続く、基油の総重量との関係において81.7重量%の基油、17.8重量%の通常の添加剤(4.4%の粘度指数向上剤添加剤、0.5%の酸化添加剤、0.20%の流動点低下用添加剤および12.7%の添加剤パック)、および0.05重量%のモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)を含む0W-12グレードの基準潤滑剤組成物での2回のすすぎ;
- 基準潤滑剤組成物を使用するエンジンについての、下記で表示されている2つの異なる温度における摩擦トルクの測定;
- 1回のすすぎを含む潤滑油用洗浄添加剤でのエンジンのすすぎと、それに続く、評価すべき潤滑剤組成物での2回のすすぎ;
- 評価すべき潤滑剤組成物を使用した、エンジンについての2つの異なる温度での摩擦トルクの測定;
- 1回のすすぎを含む潤滑油洗浄添加剤でのエンジンのすすぎと、それに続く基準潤滑剤組成物での2回のすすぎ;および
- 基準潤滑剤組成物を使用するエンジンについての、下記で表示される2つの異なる温度での摩擦トルクの測定。
【0207】
速度範囲、速度変動および温度は、WLTCサイクルを代表するものとなるように、日産との合意の上で選択された。
【0208】
実施された指示は以下の通りである;
- エンジン出力端における水温:50℃/80℃+/-0.5℃
- 油温度勾配;50℃/80℃+/-0.5℃
【0209】
得られた結果は、表3に提示されている。
【0210】
【表3】
【0211】
本発明に係る潤滑剤組成物CL1は、50℃および80℃で測定した場合に、比較用組成物CC1のものより大きい摩擦の低下を示している。したがって、本発明に係る組成物CL1は、比較用組成物CC1に比べて、エンジン内で発生する摩擦をより有意に低減する。詳細には、本発明のコポリマーは、エンジン内部で発生する摩擦を低減する。
【0212】
当業者であれば、エンジン内で発生する摩擦の低減がエンジンの燃料消費量に直接影響を及ぼすこと、すなわち存在する摩擦が少なければ少ないほど、エンジンが消費する燃料は少なくなることを認識している。したがって、本発明において定義されたコポリマーは、潤滑剤組成物のFE特性を改善する。
【0213】
実施例3:低温安定性の評価
上記で調製された潤滑剤組成物の低温安定性は、以下の通りに評価される:
試験対象の潤滑剤組成物50mLを試験管内に注ぎ込んでから、冷蔵室内に置く。
【0214】
その後、組成物の状態を、保管時間に応じて目視で評価する。
【0215】
以下の評価法が用いられる:
- OK:組成物の状態に変化はない。付着物の痕跡が全く観察されない、
- TRACE:付着物のわずかな痕跡の存在が観察される、
- DEPOSIT:付着物の形成が観察される、
- CLOUDY:大量の付着物の形成に起因して、潤滑剤組成物は濁っている。
【0216】
得られた結果は、表4で提示されている
【0217】
【表4】
【0218】
本発明に係る潤滑剤組成物CL1は、比較用組成物CC1に比べ優れた低温安定性を有する。詳細には、本発明に係る組成物は、0℃で7週間の保管後でさえ安定している。したがって、本発明中で定義されているコポリマーは、潤滑剤組成物の低温特性の改善につながる。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤組成物において、
- 少なくとも1つの基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において100重量ppm~1,500重量ppmの範囲内となる、モリブデンを含む少なくとも1つの摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において10ppm~300ppmの範囲内となる、少なくとも1つのホウ素含有分散剤と、
- 式(I)、
【化1】
のモノマー(a)の重合によって得ることのできる反復単位を含む、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.1%~10%のポリマーであって、
式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、mは0~10の範囲内の整数を表わし、
- Rは、ポリブチレン部分であり、
- pは、0または1である、
ポリマーと、
を含む、潤滑剤組成物。
【請求項2】
- 潤滑剤組成物の総重量との関係において少なくとも50重量%の、単数または複数の基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において300重量ppm~1,000重量ppmの範囲内となる、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%から10重量%の、モリブデンを含む単数または複数の摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において10重量ppm~300重量ppmの範囲内となる、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%~10重量%の、単数または複数のホウ素含有分散剤と、
- 式(I)のモノマー(a)と式(II)、
【化2】
のモノマー(b)の共重合によって得ることのできる、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.5%~5%のコポリマーであって、
式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-または-NH-部分であり、
- R部分は、独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、
- Rは、C1~C8アルキル部分を表わし、
- qは、1~20の範囲内の整数である、
コポリマーと、
を含む、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
- 潤滑剤組成物の総重量との関係において少なくとも70重量%の、単数または複数の基油と、
- 潤滑剤組成物中のモリブデン量が潤滑剤組成物の総重量との関係において500重量ppm~1,000重量ppmの範囲内となる、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%から5重量%の、モリブデンを含む単数または複数の摩擦調整剤と、
- 潤滑剤組成物中のホウ素量が潤滑剤組成物の総重量との関係において20重量ppm~300重量ppmの範囲内となる、潤滑剤組成物の総重量との関係において0.01重量%~5重量%の、単数または複数のホウ素含有分散剤と、
- コポリマーの総重量との関係において、
- 1重量%~50重量%の、モノマー(a)から誘導された単位と、
- 1重量%~80重量%の、モノマー(b)から誘導された単位と、
を含む、潤滑剤組成物の総重量との関係において乾燥物質の重量で0.8%~3%のコポリマーと、
を含む、請求項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
ASTM D445にしたがって測定した場合に、3.8mm/s~21.9mm/sの範囲になる100℃での動粘性係数を有する、請求項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
モリブデンを含む摩擦調整剤が、有機モリブデン化合物である、請求項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
モリブデンを含む摩擦調整剤が、モリブデンジチオカルバメート誘導体(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート誘導体(MoDTP)または無硫黄モリブデン錯体の中から選択される、請求項5に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
モリブデンを含む摩擦調整剤が、モリブデンジチオカルバメート誘導体(MoDTC)である、請求項5に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
ホウ素分散剤が、ホウ素スクシンイミドの中から選択される、請求項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
ホウ素分散剤が、ホウ素ポリイソブテンスクシンイミドの中から選択される、請求項8に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
基油、単数または複数のモリブデン摩擦調整剤および単数または複数のホウ素分散剤を含む潤滑剤組成物中での、前記潤滑剤組成物の低温安定性を改善することを目的とする、
式(I)、
【化3】
のモノマー(a)を重合することによって得ることのできる反復単位を含むコポリマーであって、式中、
- Rは、水素原子またはメチル部分を表わし、
- Xは、-O-、-O(AO)m、または-NH-の中から選択された部分を表わし、各々の部分Aが独立してC2~C4アルキレン部分を表わし、mは0~10の整数を表わし、
- Rは、ポリブチレン部分であり、
- pは、0または1である、
コポリマーの使用。
【請求項11】
自動車用エンジンの部品を潤滑することを目的とする、請求項に記載の潤滑剤組成物の使用。
【請求項12】
エンジン部品間の摩擦を低減することを目的とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
エンジンの燃料消費量を低減することを目的とする、請求項11に記載の使用。
【国際調査報告】