(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】分散型エネルギーリソースのための最適化コントローラ
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240110BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240110BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240110BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H02J3/00 170
G06Q50/06
G06Q10/04
H02J3/38 110
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538990
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 US2021065778
(87)【国際公開番号】W WO2022147319
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521241133
【氏名又は名称】ヘイラ テクノロジーズ インク.
【氏名又は名称原語表記】Heila Technologies, Inc.
【住所又は居所原語表記】444 Somerville Avenue, Somerville, MA 02143, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス,ジョージ,エリゾンド
(72)【発明者】
【氏名】ドリュー,セス,カルバート
(72)【発明者】
【氏名】ワン,トゥルーディー
(72)【発明者】
【氏名】リ,シュヤン
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066HB02
5G066HB06
5G066HB07
5G066HB09
5L049AA04
5L049CC06
(57)【要約】
アセットマネージャは、集約された分散型エネルギーリソースシステム内の電力の分配を制御する。アセットマネージャは、リアルアセットをモデル化する所与のアセットモデルを解く。アセットコントローラは、第1予測ホライズンのコースにおける第1軌道と、当該第1予測ホライズンより時間的に短い第2予測ホライズンのコースにおける第2軌道と、を決定することによって、アセットの設定点を最適化する。軌道は、DERモデルまたはDERシステムモデルに関連するコスト関数を最小化することによって決定される。第1予測ホライズンは、第1時間長および複数の第1設定点を有する。第2予測ホライズンは、第2時間長および複数の第2設定点を有する。アセットコントローラは、複数の第1設定点に基づいて第2軌道を制約する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型エネルギーリソースを制御する方法であって、
分散型エネルギーリソースまたは分散型エネルギーリソースのシステムのモデルを取得するステップと、
前記DERモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第1時間長および複数の第1設定点を有する第1予測ホライズンのコースにおける、前記分散型エネルギーリソースの所望の電力出力または状態の第1軌道を決定するステップと、
前記DERモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第2時間長および複数の第2設定点を有する第2予測ホライズンのコースにおける、前記分散型エネルギーリソースの所望の電力出力または状態の第2軌道を決定するステップと、
前記第2軌道を複数の前記第1設定点または状態の関数として制約するステップと、を含んでおり、
前記第1時間長は、前記第2時間長よりも長く、
前記第1軌道におけるサンプリング時点の時間間隔は、前記第2軌道におけるサンプリング時点の時間間隔よりも長い、方法。
【請求項2】
前記DERモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第3時間長および複数の第3設定点を有する第3予測ホライズンのコースにおける、前記分散型エネルギーリソースの所望の電力出力の第3軌道を決定するステップをさらに含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数の前記第1設定点および複数の前記第2設定点に基づいて前記第3軌道を制約するステップをさらに含んでおり、
前記第2時間長は、前記第3時間長よりも長く、
前記第2軌道におけるサンプリング時点の時間間隔は、前記第3軌道におけるサンプリング時点の時間間隔よりも長い、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
複数のアセットマネージャが、分散型かつ脱集中型の手法によって、独自の最適化軌道を独立して解く、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1軌道を再計算するためにモデル予測制御ルーチンが使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2軌道を再計算するためにモデル予測制御ルーチンが使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記分散型エネルギーリソースは、HVACシステムの一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記分散型エネルギーリソースは、バッテリである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
複数のアセットを有する集約された分散型エネルギーリソースシステム(DERシステム)からの電力を分配するために、コンピュータシステムにおいて使用されるコンピュータプログラムプロダクトであって、
前記コンピュータプログラムプロダクトは、コンピュータ可読プログラムコードを有する有形的かつ非一時的なコンピュータ使用可能な媒体を含んでおり、
前記コンピュータ可読プログラムコードは、
DERモデルまたはDERシステムモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第1時間長および複数の第1設定点を有する第1ホライズンのコースにおける、前記分散型エネルギーリソースの所望の電力出力または状態の第1軌道を決定するプログラムコードと、
前記DERモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第2時間長および複数の第2設定点を有する第2ホライズンのコースにおける、前記分散型エネルギーリソースの所望の電力出力のまたは状態第2軌道を決定するプログラムコードと、
前記第2軌道を複数の前記第1設定点または状態の関数として制約することを決定するプログラムコードと、を含んでおり、
前記第1時間長は、前記第2時間長よりも長く、
前記第1軌道におけるサンプリング時点の時間間隔は、前記第2軌道におけるサンプリング時点の時間間隔よりも長い、コンピュータプログラムプロダクト。
【請求項10】
前記DERモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第3時間長および複数の第3設定点を有する第3予測ホライズンのコースにおける、前記分散型エネルギーリソースの所望の電力出力の第3軌道を決定するプログラムコードをさらに含んでいる、請求項9に記載のコンピュータプログラムプロダクト。
【請求項11】
複数の前記第1設定点および複数の前記第2設定点に基づいて前記第3軌道を制約するプログラムコードをさらに含んでおり、
前記第2時間長は、前記第3時間長よりも長く、
前記第2軌道におけるサンプリング時点の時間間隔は、前記第3軌道におけるサンプリング時点の時間間隔よりも長い、請求項9に記載のコンピュータプログラムプロダクト。
【請求項12】
前記プログラムコードは、分散型かつ脱集中型の手法によって独自の最適化軌道を独立して解く複数のアセットマネージャに分配されている、請求項9に記載のコンピュータプログラムプロダクト。
【請求項13】
分散型エネルギーリソースを制御する方法であって、
分散型エネルギーリソースシステムからの電力のリクエストを受信するステップと、
(i)前記分散型エネルギーリソースの現在の動作状態の関数としての第1予測動作軌道を計算するため、および、(ii)前記分散型エネルギーリソースの現在の動作状態の関数としての第2予測動作軌道を計算するために、モデル予測制御ルーチンおよびアセットモデルを使用するステップと、を含んでおり、
少なくとも1つの前記予測動作軌道は、第1予測ホライズンと、前記モデルが解かれて最適化される前記予測ホライズンに沿った複数のタイムスロットと、を有しており、
前記第2予測動作軌道は、前記第1予測ホライズンよりも時間的に短い第2予測ホライズンを有しており、
前記第2予測動作軌道は、前記モデルが解かれて最適化される前記第2予測ホライズンに沿った複数の第2タイムスロットを有しており、
前記第2予測動作軌道におけるタイムスロットの時間間隔は、前記第1予測動作軌道におけるタイムスロットの時間間隔よりも時間的に短い、方法。
【請求項14】
複数のアセットを有する集約された分散型エネルギーリソースシステム(DERシステム)内における電力の分配を制御するアセットマネージャであって、
前記アセットマネージャは、所与のアセットモデルを解き、
前記アセットマネージャは、
リアルアセットをモデル化しているアセットモデルと、
前記DERシステム内の少なくとも1つの他のアセットマネージャおよび/またはセントラルコントローラと通信し、前記リアルアセットに関するアセット情報を受信するインターフェースと、
(i)DERモデルまたはDERシステムモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第1時間長および複数の第1設定点を有する第1予測ホライズンのコースにおける第1軌道を決定するとともに、(ii)前記DERモデルまたは前記DERシステムモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第2時間長および複数の第2設定点を有する第2予測ホライズンのコースにおける第2軌道を決定することによって、前記アセットの設定点を最適化するアセットコントローラと、を含んでおり、
前記アセットコントローラは、複数の前記第1軌道に基づいて前記第2軌道を制約し、
前記第1時間長は、前記第2時間長よりも長く、
前記第1軌道におけるサンプリング時点の間隔は、前記第2軌道におけるサンプリング時点の間隔よりも長く、
前記アセットマネージャは、最適化によって決定された前記設定点に従って前記リアルアセットを制御する、アセットマネージャ。
【請求項15】
前記アセットマネージャは、前記DERモデルまたは前記DERシステムモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第3時間長および複数の第3設定点を有する第3予測ホライズンのコースにおける第3軌道を決定し、前記設定点を最適化する、請求項14に記載のアセットマネージャ。
【請求項16】
前記アセットマネージャは、複数の前記第1設定点および複数の前記第2設定点に基づいて前記第3軌道を制約し、
前記第2時間長は、前記第3時間長よりも長く、
前記第2軌道におけるサンプリング時点の時間間隔は、前記第3軌道におけるサンプリング時点の時間間隔よりも長い、請求項15に記載のアセットマネージャ。
【請求項17】
前記アセットマネージャは、分散型かつ脱集中型の手法によって独自の最適化軌道を解く、請求項1に記載のアセットマネージャ。
【請求項18】
前記第1軌道を再計算するためにモデル予測制御ルーチンが使用される、請求項1に記載のアセットマネージャ。
【請求項19】
前記第2軌道を再計算するためにモデル予測制御ルーチンが使用される、請求項15に記載のアセットマネージャ。
【請求項20】
前記アセットマネージャは、HVACシステムを制御する、請求項1に記載のアセットマネージャ。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[優先権]
本特許出願は、2020年12月30日に出願された、「DECENTRALIZED ALGORITHMS FOR DER COORDINATION」というタイトルが付されており、かつ、Jorge Elizondo Martinez、Seth Calbert、Trudie Wang、およびShuyang Liが発明者として記名されている米国特許仮出願番号63/131,968の優先権を主張する。当該仮出願の開示の全体は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本発明の例示的な実施形態は、一般的には、電力分配ネットワーク内の分散型エネルギーリソースの制御に関する。より詳細には、本発明の様々な実施形態は、分散型エネルギーリソースシステム内における電力交換を最適化するための方法に関する。
【0003】
[発明の背景]
電気グリッドは、家庭、企業(営業所)、および他の建築物をセントラル電源に接続する。この相互接続性は、集中(中央)型の制御および計画を要する。このため、グリッドの脆弱性は、ネットワーク全体に迅速に波及しうる。こうしたリスクを軽減するために、マイクログリッドなどの集約された(aggregated)分散型エネルギーリソース(distributed energy resource,DER)のシステム(DERシステム)が、一般的なソリューションとなりつつある。マイクログリッドは、発電装置およびストレージ(貯蔵)装置の制御されたクラスタを含む。また、マイクログリッドは、ユーティリティのニーズに対して協調的な応答を提供するとともに、メイングリッドから切断された状態で動作可能な負荷を含む。これにより、電力システムの効率および信頼性が向上する。
【0004】
米国エネルギー省は、マイクログリッドの正式な定義を、「グリッドに対する単一の制御可能なエンティティとして機能する、明確に定められた電気的境界を伴う、負荷および分散型エネルギーリソースを含む相互接続されたアセット(資産)のグループ」として示している。多くの場合、マイクログリッドは、分散型発電機(例:ディーゼル発電機、ガスタービンなど)およびバッテリとともに、ソーラーパネルまたはウィンドタービンなどの再生可能リソースを有している。
【0005】
[様々な実施形態の概要]
本発明の一実施形態によれば、方法は、分散型エネルギーリソースを制御する。当該方法は、分散型エネルギーリソースまたは分散型エネルギーリソースのシステムのモデルを取得する。当該方法は、DERモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第1予測ホライズン(期間,範囲)における分散型エネルギーリソースの所望の電力出力または状態の第1軌道を決定する。第1ホライズンは、第1時間長と、複数の第1設定点とを有する。当該方法は、DERモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第2予測ホライズンにおける分散型エネルギーリソースの所望の電力出力または状態の第2軌道を決定する。第2予測ホライズンは、第2時間長と、複数の第2設定点とを有する。当該方法は、第2軌道を複数の第1設定点または状態の関数として制約する。第1時間長は、第2時間長よりも長い。第1軌道におけるサンプリング時点の時間間隔(タイムインターバル)は、第2軌道におけるサンプリング時点の時間間隔よりも長い。
【0006】
また、一部の実施形態では、前記方法は、DERモデルに関連するコスト関数を最小化することによって、第3予測ホライズンにおける分散型エネルギーリソースの所望の電力出力の第3軌道を決定する。第3予測ホライズンは、第3時間長と、複数の第3設定点とを有する。当該方法は、複数の第1設定点および複数の第2設定点に基づいて、第3軌道を制約してよい。第2時間長は、第3時間長より長くともよい。第2軌道におけるサンプリング時点の時間間隔は、第3軌道におけるサンプリング時点の時間間隔より長くともよい。
【0007】
様々な実施形態では、複数のアセットマネージャ(アセット管理装置)は、分散型かつ脱集中型の手法(distributed and decentralized manner)によって、独自の最適化軌道を独立して解くことができる。モデル予測制御ルーチンを使用して、第1軌道、第2軌道、および/または第3軌道を再計算できる。
【0008】
例えば、分散型エネルギーリソースは、HVACシステムの一部であってもよい。一部の実施形態では、分散型エネルギーリソースは、バッテリであってもよい。
【0009】
別の実施形態によれば、方法は、分散型エネルギーリソースを制御する。当該方法は、分散型エネルギーリソースシステムから電力のリクエスト(要求)を受信する。当該方法は、モデル予測制御ルーチンおよびリソースモデルを使用して、分散型エネルギーリソースの現在の動作状態の関数としての第1予測動作軌道を計算する。少なくとも1つの予測動作軌道は、第1予測ホライズンと、当該予測ホライズンに沿った複数のタイムスロットとを有する。当該予測ホライズンにおいて、モデルが解かれ、最適化される。また、当該方法は、MPCルーチンアセットモデルを使用して、分散型エネルギーリソースの現在の動作状態の関数としての第2予測動作軌道を計算する。第2予測動作軌道は、第1予測ホライズンよりも時間的に短い第2予測ホライズンを有する。第2予測動作軌道は、第2予測ホライズンに沿った複数の第2タイムスロットを有する。当該第2予測ホライズンにおいて、モデルが解かれ、最適化される。第2予測動作軌道におけるタイムスロットの時間間隔は、第1予測動作軌道におけるタイムスロットの時間間隔よりも時間的に短い。
【0010】
さらに別の実施形態によれば、アセットマネージャは、複数のアセットを有する集約された分散型エネルギーリソースシステム(DERシステム)内の電力の分配を制御するように構成されている。アセットマネージャは、所与のアセットモデルを解くように構成されている。アセットマネージャは、リアルアセット(実在のアセット)をモデル化するように構成されたアセットモデルと、DERシステム内の少なくとも1つの他のアセットマネージャおよび/またはセントラルコントローラと通信するように構成されたインターフェースとを含む。インターフェースは、リアルアセットに関するアセット情報を受信するように構成されている。アセットコントローラは、第1予測ホライズンにおける第1軌道と、第2予測ホライズンにおける第2軌道とを決定することによって、アセットの設定点を最適化するように構成されている。軌道は、DERモデルまたはDERシステムモデルに関連するコスト関数を最小化することによって決定される。第1予測ホライズンは、第1時間長と、複数の第1設定点とを有する。同様に、第2予測ホライズンは、第2時間長と、複数の第2設定点とを有する。アセットコントローラは、複数の第1設定点に基づいて第2軌道を制約するように構成されている。第1時間長は、第2時間長よりも長い。第1軌道におけるサンプリング時点の時間間隔は、第2軌道におけるサンプリング時点の時間間隔よりも長い。アセットマネージャは、最適化によって決定された設定点に従ってリアルアセットを制御するようにさらに構成されている。
【0011】
本発明の例示的な実施形態は、コンピュータ可読プログラムコードを含むコンピュータ使用可能媒体を有するコンピュータプログラムプロダクトとして実現される。コンピュータ可読コードは、従来のプロセスに従って、コンピュータシステムによって読み取られ、かつ、利用されうる。
【0012】
[図面の簡単な説明]
当業者であれば、下記の通り要約されている図面を参照して説明されている、以降の「例示的な実施形態の説明」から、本発明の様々な実施形態の利点をより十分に理解できるであろう。
【0013】
図1Aは、本発明の例示的な実施形態に係るシステム全体の目的(目標)を満たすべく、複数の分散されたエネルギーリソースおよび負荷の動作を最適化するために使用されるアセットマネージャを含むDERシステムを概略的に示す。
【0014】
図1Bは、本発明の例示的な実施形態に係る2つのDERネットワークを概略的に示す。
【0015】
図1Cは、本発明の例示的な実施形態に係る脱集中型アルゴリズムを実行するプロセスを概略的に示す。
【0016】
図2は、本発明の例示的な実施形態に従って構成された
図1のアセットマネージャを概略的に示す。
【0017】
図3A~
図3Cは、DERシステムの最適化のための3つの異なるスキームを概略的に示す。
【0018】
図4は、本発明の例示的な実施形態に係る予測ホライズンを概略的に示す。
【0019】
図5は、本発明の例示的な実施形態に係る所与の予測ホライズンにおける制御軌道を概略的に示す。
【0020】
図6は、例示的な実施形態に係る、
図5と同じ予測ホライズンにおける代替的な制御軌道を概略的に示す。
【0021】
図7は、例示的な実施形態に係る、
図5および
図6と同じ予測ホライズンにおける代替的な制御軌道を概略的に示す。
【0022】
図8Aは、例示的な実施形態に係る、
図5~
図7と同じ予測ホライズンにおけるネスト型制御軌道(ネストされた制御軌道)を概略的に示す。
【0023】
図8Bは、本発明の例示的な実施形態に係る第2MPC最適化ループを実行した後の第2軌道を概略的に示す。
【0024】
図9は、システムダイナミクスを1時間毎に観察する最適化関数の軌道を模式的に示す。
【0025】
図10は、本発明の例示的な実施形態に係る最適化関数における次のステップを概略的に示す。
【0026】
図11は、本発明の例示的な実施形態に係る異なる時間におけるMPC最適化を概略的に示す。
【0027】
図12は、例示的な実施形態に係るMPCルーチンのネストについての一般化を概略的に示す。
【0028】
図13は、例示的な実施形態に係るネスト型MPCルーチンを概略的に示す。
【0029】
図14は、本発明の例示的な実施形態に係る分散型アセットマネージャを使用してDERシステムを最適化するプロセスを概略的に示す。
【0030】
図15A~
図15Cは、本発明の例示的な実施形態に係るネスト型最適化ルーチンの別の例を概略的に示す。
【0031】
上述の各図面、および、当該図面に示されている各要素は、必ずしも一貫したスケールまたは任意のスケールによって描かれていないことに留意されたい。文脈が別段の定めを示唆していない限り、同様の要素は同様の数字によって示されている。図面は主に説明を目的としており、本明細書に記載されている発明の主題の範囲を限定することは意図されていない。
【0032】
[例示的な実施形態の説明]
例示的な実施形態では、分散型エネルギーリソースシステムは、1つ以上のアセットへの電力の入力および出力を制御するために協働する1つ以上のコントローラを有している。様々なアセットの制御は、高速システムダイナミクスおよび低速システムダイナミクスの両方に対処する最適化アルゴリズムに基づいている。そこで、コントローラは、集約された分散型エネルギーリソースシステム(DERシステム)における1つ以上のシミュレートされたアセットモデルについての現実的かつリアルタイムの結果を提供する数学的モデルを受信する。各アセットモデルは、所与のリアルアセットおよび/またはDERシステムの挙動についての基礎となる数学的表現を有している。コントローラは、低速システムダイナミクスに応じた最適化アルゴリズムを実行するためのモデル予測制御(model predictive control,MPC)ルーチンを実行する。低速システムダイナミクスに応じたMPCによって決定された点(例:端点)は、より高速のシステムダイナミクスに応じた最適化アルゴリズム(MPCルーチンであってもよい)における制約としてネストされる。様々な実施形態では、1つ以上のアセットマネージャのそれぞれが、独自のアセットモデルを解き、最適化に従って対応するアセットを制御する。次いで、アセットは、最適化によって決定された設定点に従って駆動される。以下では、例示的な実施形態の詳細を説明する。
【0033】
図1Aは、本発明の例示的な実施形態に係るシステム全体の目的(目標)を満たすべく、複数の分散型エネルギーリソース(DER)14および負荷15の動作を最適化するために使用されるアセットマネージャ16を含むDERシステム100を概略的に示す。当業者にとって既知である通り、DER14は、有効電力および無効電力を電力ネットワークと交換する。対照的に、負荷15は、一般的には有効電力および無効電力を消費または使用する。DER14は、とりわけ、ソーラ、マイクロタービン、セル(電池)、燃料セル、電気分解装置などであってよい。負荷15とDER14との間には区別があるが、負荷およびDERの両方がともにアセット14と称されうる。
【0034】
一部の実施形態では、アセット14のそれぞれが、所与のアセットマネージャ16(
図2にてさらに詳細に説明するアセットマネージャ16)によって制御されてよい。付加的または代替的に、複数のDER14は、単一のアセットマネージャ16によって制御されてもよい。ただし、一部の実施形態では、1つ以上のDER14および/または負荷15は、アセットマネージャ16と接続されていなくともよい。例示的な実施形態では、各アセットマネージャ16は、リアルアセットをシミュレートするように設定されたアセットモデル18も含んでいる。アセットモデル18は、バーチャルアセット(仮想的なアセット)18と称されてもよい。ただし、例示的な実施形態はネットワーク100に接続された1つ以上のアセットマネージャ16を有していてよく、各マネージャ18は1つ以上のアセットモデル18を有しうることを理解されたい。さらに、各アセットモデル18は、異なるタイプのアセット(例:バッテリ、ソーラーパネル、ウィンドタービンなど)をモデル化してもよい。図示されていないが、例示的な実施形態は、モデル18に加えて、ネットワーク12に接続された1つ以上のリアルアセットを含みうる。
【0035】
図1Bは、2つのDERネットワーク100Aおよび100Bを概略的に示す。ネットワーク100Aおよび100Bのそれぞれは、共通接続部のブランチ(分岐部)12Aおよび12Bを有する。共通接続部のバーチャルブランチは、本発明の例示的な実施形態に従って、2つの独立したDERシステム100Aおよび100Bについて計算されてよい。共通接続部のバーチャルブランチは、2つ以上の独立した集約されたDERシステム100Aおよび100Bの共通接続部のブランチ12(例:12Aおよび12B)からのメータ情報を組み合わせることによって形成される。例えば、共通接続部のバーチャルブランチにおける有効電力は、共通接続部のブランチ12Aにおいてメータ1によって測定された有効電力と、共通接続部のブランチ12Bにおいてメータ2によって測定された有効電力との和である。したがって、文脈が別段の定めを要しない限り、共通接続部のブランチ12に関連するいかなる説明も、共通接続部のバーチャルブランチに当てはまる。
【0036】
以下に述べる通り、様々な実施形態では、DERシステム100Aおよび100Bのうちの1つ以上が、分散型アプローチを用いて制御されてよい。他の実施形態では、DERシステムは、集中型アプローチを用いて制御されてもよい。
【0037】
DERシステム100(例:マイクログリッド)は、電力システムを近代化し、サステナブルにし、レジリエンスをもたらし、かつ、効率的にするために、世界中に展開されている。様々な実施形態は、全ての需要者が生産者となることができ、かつ、電力の調達、利用、およびディスパッチ(配送)に積極的に参加できる分散型アーキテクチャを提供している。エネルギーインフラストラクチャにおけるステークホルダの数の増加に伴い、(i)ユーティリティの役割、および、(ii)個人とグリッドの集団的目的との間のトレードオフ、をどのように扱うべきかを決定する場合に問題が生じる。
【0038】
例示的な実施形態は、DERを複数のインテリジェントエージェントへと変換するエンド・トゥ・エンドのソリューションを提供する。当該インテリジェントエージェントは、相互作用し、システム100の集団的なニーズを満たす緊急的な動作特性を有するシステムを生じさせる。例示的な実施形態は、ローカル制御および脱集中型最適化技術を使用することによって、このことを実現する。当該技術は、ゲーム理論、分散型最適化技術、および機械学習からのコンセプトを活用している。
【0039】
例示的な実施形態は、DER14がグリッドの基本的な構成要素(building block)であることを可能にし、DER14を相互作用および協調させることによって、何もないところからシステム100を構築する。DERシステム100は、有機的に構築されており、システム100のニーズの変化に伴いスケーリングする。これにより、間欠的な再生可能発電の追加、EVによる輸送の電化、および新たなストレージ技術の導入などの不可避的な変化に対処するためのレジリエンスおよび柔軟性を提供できる。
【0040】
DERシステム100の管理については、一般的には下記の2つのアプローチが存在している。
【0041】
・集中型トップダウンアプローチ:典型的にはDERから離れて配置された単一のコントローラが、システム内の全てのアセットから情報およびデータを収集する。集中型コントローラは、共通の目標を達成するために、当該情報および当該データを処理し、各DER14に対する最適なディスパッチストラテジーを計算する。
【0042】
・脱集中型ボトムアップアプローチ:各DER14に意思決定能力(decision-making capabilities)を提供するために、制御が各DERに結び付けられている。これにより、異なるDER14と負荷15との協働によってDERシステム100の目標が得られる。分散型/脱集中型システムは、より少ない全体的な情報を交換し、目的および制約の範囲を制限することによって、アセット14がデータおよびリソースをより効率的に共有することを可能にする。
【0043】
集中型アプローチは、システム階層を上流化および下流化するための複雑なデータを必要としており、データ処理および意思決定についての単一点(シングルポイント)を有している。変数およびノードの数の増加に伴い、問題は過度に複雑となる。さらに、通信ネットワークによって引き起こされる関連するレイテンシおよび遅延は、例示的な実施形態におけるDER14の性能に影響を及ぼしうる。これらの制限は、ニッチな用途を超えてスケーリングできず、典型的には高コストを伴う「パイロットプロジェクト」の多さを招いている。
【0044】
対照的に、発明者らは、アセット14に対する脱集中型制御は、本質的により容易にスケーリング可能であり、かつ、DERシステム100を構築するためのより自然な方法を表現していることを特定した。脱集中型アプローチの利点は、下記の通りである。
【0045】
1)システムの成長に伴い成長する知能。エージェント(DERまたは制御可能なデバイス)がグリッドにインストールされるたびに、データ処理および意思決定の新たな点が追加される。その結果、システム性能が経時的に向上する。
【0046】
2)単純なメッセージ交換。意思決定はエージェントごとにローカル(局所的)であるため、通信を要するメッセージは、はるかに単純であり、ピア・トゥ・ピアで通信されうる。例えば、いかなる単一のエージェント16も、システム100内の全てのバッテリにおいて利用可能なエネルギーに関する情報を有することを要しない。
【0047】
3)システムアーキテクチャに依存しない(システムアーキテクチャアグノスティック)。より多くのDERおよびステークホルダは、対応を要する設定のさらなる多様性をもたらし、脱集中型アルゴリズムは、ローカルな決定が他のエージェントまたはその位置によって間接的にのみ影響を受けるので、容易に適合しうる。
【0048】
4)迅速な応答。自律的なDERは、より大型のグリッドに影響を与えるローカルな状況に対して迅速かつ効率的に応答できる。このため、システムオペレータ(例:ISO)による応答を要する、より大型のシステム全体におけるイベントを引き起こすよう問題がエスカレートする前に、システムのバランスを取ることができる。
【0049】
5)技術に依存しない。エージェントは、その根底にあるDERの複雑性を隠蔽できる。このため、任意のタイプのエネルギーストレージ、発電、または負荷制御についての平等な競争条件を生じさせる。
【0050】
分散型アプローチにおける固有のスケーラブルな性質を例示するために、N個のDER14を有するシステムを考える。当該システムでは、どのDER14を動作させるべきか、および、性能最適化のためにどのDERをスタンバイ状態にするべきかを、アルゴリズムが決定する。DER14が適切な状態となるように開始コマンドまたは停止コマンドを受信する必要があるので、この問題は典型的にはシステムにおいて直面する。これは、典型的な混合整数線形計画最適化問題である。
【0051】
集中型アプローチでは、単一の制御エージェント(例:セントラルコントローラ)は、全てのDER14から情報を取得し、2N個のシステム設定の内から決定を行う。この問題は、DER14の数に伴って指数関数的にスケーリングする。このことは、たとえアルゴリズムが2~3個のDERを有する小型のシステムにおいて適切に動作できるとしても、10個のアセット、ひいては数千に上るアセットを有するより大型のフリート(集団)のシステムでは、当該アルゴリズムが適切に動作しない場合があることを意味する。
【0052】
様々な実施形態では、分散型アルゴリズムは、各DER14が、自身のローカル情報と、システム内において共有される少数の変数とに基づいて、オンまたはオフの2つの状態のみの内から決定を行うことを可能にすることによって、この問題に取り組んでいる。当該問題の複雑性は、DERの数に伴って著しく増加することはない。なぜなら、付加的な各DERは、自動的に別のディシジョンメーカ(意思決定者)を追加するからである。
【0053】
発明者らは、分散型かつ脱集中型の制御アルゴリズムの理論的な望ましさにもかかわらず、分散型制御アルゴリズムを実用化するためには重大な課題があることを特定した。発明者らは、個々のユーザの固有の物理的状況および経済的状況のニーズを同時に満たすと同時に、より大型のグリッドのニーズをも満たす、広範なDERを採用するための方法を開発した。
【0054】
様々な実施形態では、方法は、モデル予測制御(MPC)ルーチンの形態の後退ホライズン(receding horizon)制御ルーチンを使用して、DER14の動作軌道を予測するステップを含む。制御軌道は、MPCアルゴリズムを使用して、DER14の実際の状態に基づいて計算される。MPCアルゴリズムは、システム変数に対する制約を直接的に考慮している。このため、MPCアルゴリズムは、現在の制御設定点についてだけでなく、将来の設定点についても、安全動作リミット内の最適な動作軌道を見出すために有利に使用されうる。したがって、設定点のスケジュールを形成できる。
【0055】
具体的には、コントローラは、DER14(例:マイクロタービン)の現在の動作状態を受信するMPCルーチンを実行する。電力出力設定点を含みうる少なくとも1つの予測動作軌道を含む1つ以上の予測動作軌道が、DER14の現在の動作状態に基づいて計算される。
【0056】
モデル予測制御は、プロセスのモデルを利用して、有限の後退ホライズンにおける目的関数(例:コスト関数)を最小化することによって制御信号を得る制御方法である。様々な実施形態において、プロセスモデルが使用され、過去の値および現在の値、ならびに提案された最適な将来の制御動作に基づいて、将来のDERの状態および出力が予測される。これらの動作は、コスト関数、状態、および制約を考慮して、コントローラによって計算される。言い換えれば、コントローラは、予測ホライズンにおけるコスト関数を最小化する制御信号を生成する。望ましくないことに、コントローラに対する計算負荷は、予測ホライズンの増加、サンプリングレートの増加、およびモデル化されているDERの数の増加に伴って急速に増加する。
【0057】
以下により詳細に説明する通り、発明者らは、2つ以上の最適化関数をネストすることによって、大規模な計算負荷を低減しつつ、1つ以上のDERを最適化しうることを特定した。
【0058】
図1Cは、本発明の例示的な実施形態に係る脱集中型アルゴリズムを実行するプロセスを概略的に示す。この方法は、通常使用されうるさらに長いプロセスから十分に簡略化されていることに留意されたい。したがって、
図1Cに示す方法は、当業者が使用しうる多くの他のステップを有しうる。加えて、複数のステップの内の一部は、図示されている例とは異なる順序で実行されてもよいし、あるいは、並列的に実行されてもよい。さらに、これらのステップの内の一部は、一部の実施形態では任意でありうる。したがって、当該プロセスは、本発明の例示的な実施形態に係る1つのプロセスの単なる例示である。それゆえ、当業者は必要に応じて当該プロセスを変更しうる。
【0059】
プロセスは、DERシステム100の目的を設定するステップ101から開始する。各アセット14は、自身のメータ(測定器)の背後にありうる。各アセット14は、当該アセットの様々な詳細を追跡(トラッキング)する対応するアセットマネージャと関連付けられていてよい。各アセット14は、自身のローカルなコスト関数に従って、特定の関数をローカルなユーティリティに提供するように調整されうる。したがって、各アセットは、ローカルな最適化コスト関数および全体的なシステムの最適化コスト関数を受信しうる。各DERは、例えば下記のローカルな目的および制約を満たさなければならないので、各アセット14の動作の最適化は複雑な問題である。
【0060】
・ローカルレートおよびエクスポート制約に従って電気料金を最小化すること。
【0061】
・使用されている技術に応じて装置の寿命を延長すること。
【0062】
・需要者の期待に応じたローカルかつレジリエントなニーズを考慮すること。
【0063】
様々な実施形態では、各アセット14は、自身の目的をローカルに最適化する。次いで、各アセット14は、システム100がユーティリティからのリクエストを満たすことができるよう、自身のローカル最適化から逸脱するようにインセンティブを与えられる。このスキームは、インセンティブ量を変更することにより、システム100における参加者の多寡によらず適用される。
【0064】
プロセスはステップ103に進む。ステップ103は、各アセット14の動作についてのリミットを定める。複数のアセット14間の脱集中型相互作用は、アセット14が自身の目的およびグローバルなシステムの目的を満たすために、自身の出力を自由に変更することができる環境をもたらす。ただし、実際のプロジェクトにおける安全動作のために、様々な実施形態は、物理的制約および規制上の制約によって与えられる、当該自由の範囲内の境界リミットを設定している。
【0065】
例示的な実施形態は、個々のアセットに、最初に当該アセット自身を保護し、保護の第1レイヤをローカルに維持するよう命令(指令)するアルゴリズムを提供している。また、グローバルな制約は、インセンティブに基づくソフトリミットとして容易に組み込まれる。当該ローバルな制約は、必要な場合に限り、エリア内の制約に対する単純な調整によるハードリミットとして組み込まれる。
【0066】
この責任分担のため、システム100は、エネルギーの供給過剰または供給不足に対して効果的かつ迅速に準備し、当該供給過剰または供給不足から回復しうる。これにより、DERのフリートが、保護モードおよび回復モードを円滑かつ自動的に集団的に観測することが可能となる。
【0067】
次いで、プロセスはステップ105に進む。ステップ105は、分散型制御および最適化と組み合わされたMPCを使用して、電力およびエネルギーを取引するためのマーケット(市場)を生じさせる。例示的な実施形態は、負荷または発電における短期の変動、例えば秒単位(second-by-second)の変動と、より長期(例:日次および週次)の変動と、の両方を同時に管理するアルゴリズムを提供している。複数のDER間における相互作用は、関心のあるコモディティ(商品)が価格を有するマーケットに類似している。各DERは、自身の固有の特性に応じて、どれだけの量を供給するか(あるいは取得するか)を決定する。高速システムダイナミクスおよび低速システムダイナミクスから生じる2つのマーケットは、下記の通り根本的に異なっている。
【0068】
・電力マーケット(秒単位):高速断続性に応答する相互作用は、関心のあるコモディティが電力であるマーケットをもたらす。例えば、大型の負荷における突然の接続または切断があった場合、DERは要求される電力を供給することによって迅速に応答するようインセンティブを与えられる。数秒後に、システムは、所望の動作点において再び平衡状態になる。
【0069】
・エネルギーマーケット(数時間から数日):より低速の変動に応答する相互作用は、関心のあるコモディティを電気エネルギーのユニットにする。例えば、消費量が著しく増加する日には、エネルギーマーケットは、予め充電することによって準備するようストレージデバイスにインセンティブを与え、かつ、発電リソースがオンラインとなるようインセンティブを与える。
【0070】
両方のマーケットにおいて、インセンティブは、従来の制御システムおよび最適化システムにおいて見受けられる典型的なコマンドとは異なり、目標を達成するために使用される。各DERに独自の意思決定を行わせるとともに、2つのマーケット間においてバランスを取らせることによって、DERシステム100の動作目標は、集中型のディスパッチオーソリティ(権限者)を要することなく、シームレスに達成されうる。
【0071】
2つのマーケットは、独自のシステム応答を生じさせるために相互に関連している。エネルギーマーケットでは、DERシステム100は、1日または複数日に亘る最適なエネルギー配分に関するコンセンサスを構築する。その結果、各DERエネルギーのインポートまたはエクスポートのスケジュールに加えて、重要な状態変数(例:バッテリの充電状態)のスケジュールがもたらされる。
【0072】
エネルギーマーケットからスケジュールが確立された後、組み合わせ型の最適なリソース使用ストラテジーを伝達および実現するために、当該スケジュールが電力マーケットへと送信される。電力マーケットにおけるDERは、秒単位の小さいデータペイロードとともに入札する(bid)。電力マーケットは、スケジューリングされた複数のエネルギー点の間の最適なコース(経路)にてシステムを維持する。これにより、イベントに対して迅速に応答し、システムの最適なバランスおよび動作を維持できる。このように、電力マーケットは、リミット内での最適な動作を保証し、細かい粒度でのDERの寿命延長技術を実現する。
【0073】
次いで、プロセスはステップ107に進む。ステップ107は、内部マーケットを様々なコントローラ16に分配する。分散型アルゴリズムの典型的な具現化では、内部マーケットは、「コーディネータ」または「マーケットオペレータ」として機能するセントラルエージェントを要する。当該コーディネータまたは当該マーケットオペレータのタスクは、欠乏または過剰が生じているか否かを監視することによって、コモディティの価格を計算することである。セントラルエージェントがディスパッチについてのいかなる決定を行わない場合においても、スキームは複数の欠点を有している。なぜならば、当該スキームは、(a)セントラルエージェントが誰であるかを定めるためにオーソリティを要求とし、(b)セントラルエージェントを信頼するために他の全てのセントラルエージェントを必要とし、かつ、(c)障害および脆弱性の単一点を有しているからである。
【0074】
例示的な実施形態は、コーディネータを要することなく上述のマーケットを機能させる複数の方法を提供している。これにより、全てのエージェントの間での完全な対称性を実現できる。つまり、いかなるエージェントも、他の全てのエージェントによっても実行されないタスクを実行しない。4つのアルゴリズムの詳細は、US20200175617A1として公開されている共有の特許出願「Distributed and Decentralized DER System Optimizations」において見出されうる。当該特許出願の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。価格計算の特定のステップは複数のエージェント間において分割されてよく、その後、数秒でコンセンサスに至る。これにより、信頼性およびモジュール性をマーケット自体に追加できる。
【0075】
次いで、プロセスはステップ109に進む。ステップ109は、応答を改善する。例示的な実施形態では、マーケットオペレーションのために、DER14はインセンティブに適切に応答しなければならない。例示的な実施形態は、過去の動作データを活用して、学習済パラメータを調整し、当該DERの応答を経時的に改善する。例示的な実施形態では、このデータを使用してDER応答を改善する下記の4つの方法が存在している。
【0076】
・予測:エネルギーおよび電力の価値は経時的に変化するので、再生可能リソースおよびエネルギーストレージ性能を有するいかなるシステムにおいても、正確な予測は不可欠である。スケジュール(エネルギーマーケット)および実際のディスパッチ信号(電力マーケット)のコンセンサスに至るためは、現時点でのコモディティ価格だけでなく、将来の期待値も考慮すべきである。エネルギーマーケットは、予測を用いて、予めリソース配分を計画する。その一方、電力マーケットは、DER応答時間、ランプレート、およびスタートアップ遅延を補償するために、事前に応答秒を準備する。この見通しにより、電力マーケットは、変圧器の定格リミットおよび非エクスポート規制などの制限が満たされると同時に、リソース使用量を最適化できることを保証することが可能となる。
【0077】
・効率計算:DERの真の動作効率を把握することにより、ロバストなエネルギー最適化が可能となる。動作時に収集されたデータを使用することによって、電力マーケットとエネルギーマーケットとの両方が、所与のDERに対してどの条件下でどの動作点がより良好であるかについての知識を活用できる。
【0078】
・応答特性:所与の設定点に対するDERの出力応答についての知識は、電力フローの予想される変化および予想外の変化を通じてシステム動作点を管理するために使用される。例示的な実施形態は、応答時間、オーバーシュート、ランプレート、立ち上がり時間、整定時間、および、スタートアッププロシジャまたはシャットダウンプロシジャによって引き起こされる任意の遅延を含む特徴を学習し、当該特徴を組み込む。2つの異なるDERについて測定された応答特性の例は、以降の図に示されている。
【0079】
・劣化推定:異なる動作点でのDER使用量の劣化作用を把握することによって、電力マーケットおよびエネルギーマーケットは、(i)経済的利得のためのリソースの使用と、(ii)動作寿命を低下させる当該リソースの劣化と、の間の適切なバランスに直面しうる。例えば、バッテリストレージアセットの場合、最適な動作は、(i)バッテリの現在の健康状態(State of health,SoH)を把握することに依存するだけでなく、(ii)サイクル化、電力出力レベル、充電状態(state of charge,SoC)レベル、およびSoHに対する温度の影響にも依存する。
【0080】
様々な実施形態は、アセットに課される制約のセットを満たしつつ各アセットの出力を制御するために、モデル予測制御(MPC)を使用する。MPCの主な利点は、将来のタイムスロットを考慮に入れたままで、現在のタイムスロットを最適化できることである。このことは、有限のタイムホライズンを最適化することによって実現される。MPCは、現在のタイムスロットを使用し、次いで、再度繰り返して最適化するだけであるので、線形2次レギュレータ(linear-quadratic regulator,LQR)とは異なる。また、MPCは、将来のイベントを予測する性能を有し、相応に制御動作を行うことができる。
【0081】
実際のところ、MPCは、あるタイムホライズン内の現在および将来において、状態変数(例:バッテリの充電状態)が何をすべきかについてのスケジュールを提供する。
【0082】
MPCは、現実世界(リアルワールド)における複数の異なる最適化方法を実行するために使用される制御ポリシーである。MPCは、タイムホライズン内において推定結果を継続的に再評価し、相応にスケジュールを調整するので、最適化をよりロバストかつ動的にする。将来のイベントの通知が受信された場合、例えば、経時的に適切な応答を準備するために、当該通知は後退ホライズンにおける状態の予測に追加される。
【0083】
次いで、プロセスは終了に至る。
【0084】
図2は、本発明の例示的な実施形態に従って構成された
図1のアセットマネージャ16を概略的に示す。図示の通り、
図2のアセットマネージャ16は、その機能の一部をともに実行する複数のコンポーネントを有する。これらのコンポーネントのそれぞれは、任意の従来の相互接続機構によって動作可能に接続されている。
図2は、各コンポーネントと通信するバスを簡単に示している。当業者は、この一般化された表現は、他の従来の直接的または間接的な接続を含むように修正されうることを理解すべきである。したがって、バスの説明は、様々な実施形態を限定することを意図するものではない。本開示のアセットマネージャ16は、米国特許番号10,903,650および10,971,931に記載されているアセットマネージャ16内のコンポーネントの一部または全部を含みうる。これらの特許のそれぞれの全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
実際のところ、
図2は、これらのコンポーネントのそれぞれを概略的に示しているに過ぎないことに留意されたい。当業者であれば、1つ以上の他の機能的コンポーネントについて、これらのコンポーネントのそれぞれが、ハードウェア、ソフトウェア、またはハードウェアとソフトウェアとの組合せを使用することなどによって、様々な従来の方式で実装されうることを理解するであろう。例えば、コントローラは、ファームウェアを実行する複数のマイクロプロセッサを用いて実装されてもよい。別の例として、コントローラは、1つ以上の特定用途向け集積回路(すなわち、ASIC)および関連するソフトウェア、または複数のASICの組み合わせ、ディスクリート電子コンポーネント(例:トランジスタ)、およびマイクロプロセッサを使用して実装されてもよい。したがって、
図2における単一のボックス内のコントローラおよび他のコンポーネントの表現は、単純化のみを目的としている。実際に、一部の実施形態では、
図2のコントローラは、必ずしも同一のハウジングまたはシャーシ内に位置することなく、複数の異なるマシンに分散されている。
【0086】
アセットマネージャ16は、MPCコントローラ21を含んでいる。MPCコントローラ21は、例えばローカルコスト関数を使用して(1つ以上の)アセット14の動作を管理し、動作点を決定する。例えば、アセット14の動作ブランチは、アセット14がシステム100に供給している有効電力と無効電力との組み合わせでありうる。また、動作点は、アセット14の全ての内部状態(例:温度、蓄積エネルギー、電圧など)を含みうる。
【0087】
MPCコントローラ21は、各アセット14に分散されていてもよい。一部の他の実施形態では、MPCコントローラ21はセントラルコントローラとして動作しうる。それにもかかわらず、MPCコントローラは、予測ホライズンにおけるMPC最適化を実行する。様々な実施形態では、以下にさらに述べる通り、有益であることに、MPCコントローラは、ともにネストされた2つ以上のMPC最適化を実行する。
【0088】
また、アセットマネージャ16は、他のアセット14および/または他のデバイスと通信するためのインターフェース18を含む。例えば、インターフェース18は、(例えば、以下に述べる価格計算エンジン20によって計算された価格を送信および/または受信するために)他のアセットマネージャ16と通信するように構成されている。さらに、インターフェース18は、システム全体の目的を受け付けるように構成されている。例示的な実施形態では、システム全体の目的は、所定の量の有効電力および/または無効電力をユーティリティ5に提供するようにシステム100に命令してよい(例:DERシステム100内のアセット14の全ての総出力電力を10キロワットにすべきと命令してよい)。したがって、システム全体の目的についてのコンプライアンス(準拠性)は、共通接続部12のブランチにおける電力を測定することによって追跡されうる。
【0089】
また、アセットマネージャ16は、価格計算エンジン20を含む。価格計算エンジン20は、他のアセットマネージャ16に送信される価格を計算する。明確化のために述べると、本発明の一部の実施形態では、「価格」または「価格信号」は、協調型DERシステム100の内部において生成される信号である。当該信号の値は、エネルギーの供給よりも多くの需要がある場合には増加し、需要よりも多くの供給があるとき場合には減少する。例えば、電力の需要は、負荷15および/またはユーティリティ5から到来しうる。さらに、供給は、アセット14および/またはユーティリティ5から到来しうる。これらは、無効電力およびシステム損失などの他の変数にも依存しうる。一部の実施形態では、下記のコスト関数、
【数1】
を使用して価格(price)が計算されうる。
【0090】
pi
(k)は、時点「k」における価格ベクトル(またはスカラー)である。giは、価格計算関数である。youtは、追跡されている出力変数の値である。yspは、当該変数の設定点(セットポイント)である。
【0091】
同様に、本発明の一部の実施形態では、「応答(レスポンス)」は、DERアセット14の有効電力出力および無効電力出力の決定結果であり、電力に関する変数のうちの1つ以上についてのコスト関数を最小化することによって得られる。一部の例示的な実施形態では、コスト関数は、
【数2】
という形態をとりうる。
【0092】
Pi
*は、計算された最適出力電力ベクトルである。Jiは、コスト関数である。Piは、最適化すべき出力電力変数である。piは、上述の価格信号である。xiは、1つ以上のアセットの状態および重要な変数のベクトルである。Θは、性能に影響を与える外部変数のベクトルである。
【0093】
コスト関数および価格についてのさらなる説明については、米国特許出願番号16/054,377および16/683,148を参照されたい。これらの両方の出願の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0094】
また、アセットマネージャ16は、(i)アセット14のデータを格納するためのメモリ22と、(ii)ローカルなコスト関数を生成する関数ジェネレータと、(iii)任意のアセット(例:ディーゼル発電機、ガスタービン、バッテリ、ソーラーパネル、ウィンドタービン、負荷など)の挙動をエミュレートするために使用されるアセットモデルと、を含みうる。インターフェース18は、それぞれのアセット14に固有でありうるプロトコルを使用してアセット14と通信してよい。好ましくは、インターフェース18は、DERシステム100において一般的に見受けられる通信プロトコルを使用して、DERシステム100の内部および外部の、セントラルコントローラ、および/または、他のアセットマネージャ16、および/または、他のエージェントと通信する。これらのコンポーネントおよび他のコンポーネントのそれぞれは、説明されている様々な機能を実行するために協働する。
【0095】
繰り返し述べるが、
図2における表現は、実際のアセットマネージャ16を著しく単純化した表現である。当業者であれば、このようなデバイスは、セントラル処理ユニット、通信モジュール、プロトコルトランスレータ、センサ、メータなどの多くの他の物理的なコンポーネントおよび機能的なコンポーネントを有しうることを理解できるであろう。したがって、ここでの説明は、
図2がアセットマネージャ16の全ての要素を表していることを示唆するものでは決してない。
【0096】
アセットマネージャ16は、本明細書に記載されているコンポーネントに加えて、米国出願番号16/054,377,16/054,967、および/または、16/683,148に記載の通り、電圧計、トポグラフィエンジン、物理特性分析エンジンなどの他のモジュールを含んでいてもよい。これら全ての出願の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0097】
図3A~
図3Cは、DERシステム100の最適化のための3つの異なるスキームを概略的に示す。
図3Aおよび
図3Bの両方において、セントラルコントローラ25は、アセットの価格および/または設定値を計算する。
図3Aは、単一の集中型アプローチを概略的に示す。
図3Aの例では、設定点の計算などの全ての計算は、セントラルコントローラ21(セントラルエージェント25とも称される)によって実行される。
図3Bは、分散型アプローチを概略的に示す。
図3Bの例では、デュアル分解法または何らかの他の分散型最適化アプローチの実行を通じて最適化が実現される。DERシステム100の場合、分散型アプローチは、
図3Aに示す完全な集中型アプローチに比べて、よりスケーラブルであり、モジュール性があり、安全であり、信頼性が高い。しかしながら、
図3Bの分散型アプローチは、セントラルエージェントに依存しており、コーディネータとして動作し、価格としても知られるデュアル変数を計算するなどの複数のタスクを実行する。したがって、分散型システムでは、1つ以上のノードは、作業をサブノードに分散させる。
【0098】
発明者らは、
図3Bに示すデュアル分解は下記の複数の欠点を有していると認識している。
【0099】
・セントラルエージェント25を要する。
【0100】
・
図3Bの例は、セントラルエージェント25が機能している場合にのみ機能するので、単一の故障点を有している。例えば、セントラルコントローラ25がダウンしている場合、システム100の最適化は機能しない。さらに、セントラルコントローラ25に欠陥が生じた場合、各アセットに送信される価格に欠陥が生じる。
【0101】
・全てのアセットがセントラルエージェント25を信頼することを要する。例えば、DERシステム100が、全てのアセット14が異なる住宅所有者を含む近隣に及ぶ場合、どの住宅所有者をオーソリティとすべきかを決定することは困難である。
【0102】
図3Cは、本発明の例示的な実施形態に係るアセット14のうちの1つ以上によって価格が計算されるシステム100を概略的に示す。専用のセントラルエージェント25は、不要である。したがって、本イノベーションの様々な実施形態では、専用のセントラルエージェントの必要性が排除される。一部の実施形態では、脱集中型システムは、(例えば、ノード/サブノード分散型の構成を介する代わりに)他のピアと直接的に通信するノード(例:アセット14および/またはアセットマネージャ16)を有する。
【0103】
図4は、本発明の例示的な実施形態に係る予測ホライズン102を概略的に示す。図示の通り、予測ホライズン102は、複数のサンプリング時点106(例:t
0からt
10までの11個のサンプリング時点106)を有する。様々な実施形態では、サンプリング時点106は、タイムスロット106と称されてもよい。時間間隔104は、各タイムスロット106間に存在しうる。時間間隔104は、サンプリング時間104と称されてもよい。
図6~
図11に示す通り、MPC最適化アルゴリズムは、複数の離散的なタイムスロット106についての測定変数の軌道140として表現されうる。
【0104】
図5は、本発明の例示的な実施形態に係る所与の予測ホライズン102における制御軌道140を概略的に示す。例えば、最適化変数は、分散型エネルギーリソース14(例:バッテリ)の出力電力Pであってよい。したがって、この例では、軌道140は、DER14の電力設定点108のスケジュールを示す。ただし、(例えば、スマートサーモスタットなどの出力温度を制御するために、10時間に亘るバッテリの充電状態、HVACシステムにおける熱流Qなどの)様々な異なる状態変数が使用されうることを理解されたい。当該状態変数から出力変数設定点が計算されうる。例えば、バッテリの充電状態から、入力電力および出力電力が計算されうる。軌道140は、現在のタイムスロットt
0および複数の将来のタイムスロットt
1~t
10(制御変数Pの予測ホライズン102とも称される)についての予測を示す。
【0105】
最適化技術(例:MPC)を実行して、全てのタイムスロット106におけるコスト関数Jを最小化するxの値を見出すことによって、制御軌道140が得られる。したがって、任意の所与のDER14についてのコスト関数は、
【数3】
として表すことができる。
【0106】
Jt0は、タイムスロットt0におけるコスト関数を表す。Jt1は、タイムスロットt1におけるコスト関数を表す。以降も同様である。これら全てのコスト関数は、変数xに依存している。様々な実施形態は、分散型最適化技術を使用してよい。タイムスロットについてのコスト関数のそれぞれは、システム100内の各DER14に分配されてよい。
【0107】
全ての時点におけるコスト関数を最小化するxの値を見出すために、最適化技術が使用される。したがって、プロットされている軌道は、
【数4】
として表すことができる。
【0108】
図5に示す制御軌道140は、最適化方程式を解き、複数のタイムスロット106のセットにおけるコスト関数を最小化する出力を表す。この例では、少数のタイムスロット102(すなわち、t
0からt
11まで)を有する予測ホライズンにおける最適化が実行されている。有益であることに、比較的少数のタイムスロット106は、コントローラにおける計算負荷を低減させる。しかしながら、発明者らは、少数タイムスロットの予測ホライズン102は、望ましくないことに、予測ホライズン102の時間外にあるシステムダイナミクス(例:長期ダイナミクス)を考慮できない場合があることを特定した。さらに、発明者らは、少数のタイムスロットは、望ましくないことに、急速に変化するシステムダイナミクス(例:短期ダイナミクス)をも考慮できない場合があることを特定した。例えば、システムダイナミクスは迅速に変化しうる。この場合、連続するタイムスロット106間(例:t
0とt
1との間)の時間間隔104内において変化が生じる。あるいは、システムダイナミクスはより低速になりうる。この場合、所与の間隔は、ダイナミクスをほぼ一定と見なす。その一方、実際には、当該ダイナミクスは、最適な性能に関する端点(エンドポイント)に影響を及ぼすであろう。
【0109】
図6は、例示的な実施形態に係る、
図5と同じ予測ホライズン102における代替的な制御軌道140を概略的に示す。ただし、
図6では、制御軌道140は、はるかに短期のサンプリングレートを有している。すなわち、同じタイムホライズン102において、より多数の制御設定点108が計算されている。サンプリングされた点のそれぞれには、(t
0からt
Nまでの範囲において)値が割り当てられる。
図6と比較すると、より多数のタイムスロットが存在しているので、サンプリング時点104は
図6において十分に低減されている。より高いサンプリング周波数は、より短期のシステムダイナミクス(例えば、太陽光DER14に対する間欠的な雲量)を考慮することによって、改善された結果を有利に提供することを理解されたい。しかしながら、当業者であれば、このようなより高いサンプリング周波数は、望ましくないことに、より大きい計算リクエストを招くことをも理解する。具体的には、当業者にとって既知である通り、MPCは、各サンプリング時点における予測ホライズン102全体に対して、全く新たな設定点108のセットを再計算する反復プロセスである(すなわち、コントローラによって計算される設定点108の総数は、新たな各サンプリング時点において同じままであることが一般的である)。
【0110】
図7は、例示的な実施形態に係る、
図5および
図6と同じ予測ホライズン102における代替的な制御軌道140を概略的に示す。ただし、
図7では、
図5とは対照的に、分解能110が減少している。言い換えれば、MPCルーチンは、(i)低下する速いサンプリングレート(例えば、t
0の近くでの高速のサンプリングレート(例:t
0からt
8まで))と、(ii)t
8からホライズンの終点までの低速のサンプリングレートと、を有する。有益であることに、
図7に示すサンプリングレートは、短期システムダイナミクスと長期システムダイナミクスとの両方を考慮に入れている。さらに、
図7のMPC軌道によって示されるサンプリングレートは、
図6のMPC軌道によって示される同等のサンプリングレートよりもかなり低い計算性能しか要しない。
【0111】
図6および
図7は、同じ初期サンプリング周波数(設定点の計算が同じ周波数であることを意味する)を有する軌道を示しているが、
図7における全体的な計算量は著しく低減されている(例えば、80個の設定点に対する21個の設定点)。したがって、
図7の例は、多大な計算量削減をもたらす。
【0112】
図7に示すMPCルーチンでは、計算を要する設定点108の総数は、より少なくなる。その一方、当該MPCルーチンでは、分解能の増加(例えば、t
0からt
1までの多くの点によって示されている)により、コントローラは、高いサンプリング周波数で最適化アルゴリズムを実行させられる。当該MPCルーチンは、サンプリング点ごとに最適化アルゴリズムを解くことを要するためである。例えば、
図7に示されている軌道は、
図6に示されている軌道と同じ初期サンプリングレートを有している。それゆえ、
図6および
図7の軌道140によって表される最適化アルゴリズムは、
図7の軌道では解くべき点がより少ないにもかかわらず、同じ周波数で実行される。したがって、様々な実施形態では、減少する分解能を有するアルゴリズムは、解くべき複雑なモデルを有するDER14への適用に関して、特に望ましくない計算負荷となりうる。
【0113】
図8Aは、例示的な実施形態に係る、
図5~
図7と同じ予測ホライズン102におけるネスト型制御軌道140Aおよび140Bを概略的に示す。2つの個別の最適化ループを使用することにより、他の提案された方法と比較して計算負荷を十分に低減しつつ、低速システムダイナミクスと高速システムダイナミクスとの両方を使用する最適化を有利に提供できることが、発明者らによって見出された。したがって、DER14は、最適な手法によって制御されうる。さらに、各DER14またはそのコントローラ16に最適化解を分配することによって、例示的な実施形態は、ロバストであり、かつ、(例えば、単一の集中型コントローラと比較して)過剰な計算性能を要せずに迅速に動作するDERシステム100を提供する。
【0114】
ペア型MPC最適化は、タイムホライズン102において低分解能を有する第1最適化軌道140Aについてのコスト関数を解く。
図8Aでは、この第1最適化軌道140Aは、表記t
(1)を用いて示されている。第1最適化軌道140Aを用いることにより、DER14の設定点108Aが、複数のサンプリング時点106:t
0
(1),t
1
(1),t
2
(1),…,t
10
(1)について離散時点で得られる。合計で11個の点108Aが示されているが、様々な実施形態は、より多数の(あるいは、より少数の)サンプリング時点106を有する、より長いまたはより短い予測ホライズン102を使用しうることを理解されたい。これらの様々な設定点108Aは、DER100に影響を与える長期ダイナミクスを考慮している。したがって、最適化アルゴリズムは、(軌道140Bと比較して)より長いホライズン102を有している。ただし、分解能が低いので、長期MPCアルゴリズムが高い周波数でコントローラによって解かれることを要せず、計算負荷は低い。
【0115】
ペア型MPC最適化(ネスト型最適化とも称される)は、タイムホライズン102Bにおいて高速分解能を有する第2最適化軌道140Bについて、同次元のモデルまたはより低次元の(すなわち、より単純な)モデルのコスト関数を解く。様々な実施形態において、第2最適化軌道140Bは、短期予測ホライズン102Bを有している。
図8Aでは、第2最適化軌道140Bは、表記t
(0)を用いて示されている。第2最適化軌道140Bを用いることにより、DER14の設定点108Bが、時点t
0
(0),t
1
(0),…,t
10
(0)において取得される。しかしながら、第1軌道140Aに由来する設定点108Aは、第2軌道140Bに対する制約として振る舞う。この例では、サンプルt
0
(1)に由来する設定値108A
1およびサンプルt
1
(1)に由来する設定値108A
2が、ネスト型最適化軌道140Bに対する制約として振る舞う。したがって、サンプルt
0
(1)に由来する設定点108A
1は、軌道140B内のサンプルt
0
(0)に由来する設定点108B
1と同じである。同様に、サンプルt
1
(1)に由来する設定点108A
2は、軌道140B内のサンプルt
10
(0)に由来する設定点108B
9と同じである。このように、様々な実施形態では、ネスト型最適化関数140Bの端点は、親最適化関数140Aに由来する(少なくとも最適化軌道140Bの複数のサイクルについての)制約であってよい。
【0116】
設定点108A1と108A2との間における制御決定を行うことによって、第2最適化軌道140BはDER140の短期ダイナミクスを有利に考慮できることが、発明者らによって見出された。予測ホライズン102Bは短いので、短期MPCアルゴリズムは(高い周波数にもかかわらず)多数の点を解かないので、計算負荷は低い。一部の実施形態では、MPCの高速化のために、より低次元のモデル(すなわち、簡略化されたモデル)が使用されてよい。当業者にとって既知である通り、MPC最適化は、1つの時間間隔104ごとに進められ(例えば、後続のサイクルが制御設定値108B2から108B10までを決定し)、第2サイクルについての再計算がなされる。その後、このプロセスが再度繰り返される。
【0117】
図8Bは、本発明の例示的な実施形態に係る第2MPC最適化ループを実行した後の第2軌道140Bを概略的に示す。MPCは、初期サンプリング周波数で実行される。点108B
1は以前の点であり、単に説明を目的として示されている。
図8Bから理解できる通り、アルゴリズムは、点108B
2から108B
10までについて再実行される(この場合、点108B
1から108B
9までについて以前の軌道140Bが過去に実行されている)。この例では、親MPCまたはトップMPCによって与えられる制約は、依然として点108B
9であるが、当該点はもはや端点ではない。
【0118】
図8A~
図13は、本発明の例示的な実施形態に係るネスト型関数の振る舞いを概略的に示す。
図8A~
図16の例では、3つの最適化アルゴリズム140A~140Cがともにネストされている。複数の最適化設定点(すなわち、軌道140A~140C)の例が、様々な最適化のそれぞれについて示されている。
【0119】
図9~
図11は、ネスト型最適化ルーチンの別の例を示す。この例では、MPCルーチンを使用して3つの最適化がネストされている。
図9は、1時間毎にシステムダイナミクスを観察する最適化関数についての軌道140Aを概略的に示す。このように、2つの制約108A
1および108A
2が、状態変数(例:所与の時間における電力出力)に対して得られる。
【0120】
第2最適化軌道140Bは、12分毎にシステムダイナミクスを観察する。ただし、第2最適化軌道140Bは、より低速の軌道140Aから得られた端点108A1および108A2によって制約される。
【0121】
第3最適化軌道140Cは、6分毎にシステムダイナミクスを観察する。第3最適化軌道140Cは、軌道140Aおよび軌道140Bによって定められた点によって制約される。したがって、時点T=0:00における140Bおよび140Cの両方の最適化問題に対する解は、親軌道140Aから得られる解と等しくなければならない(例えば、108B1および108C1は、108A1と同じである)。同様に、第3軌道140Cは、第2軌道によって境界付けられる(例えば、108B2は、108C3と同じである)。
【0122】
図10は、時点t=0:00の後の最適化関数の次のステップを概略的に示す。第3軌道140Cの予測ホライズンは18分であるので、第3点108C
5は当該関数によって定められる。ただし、108C
5は、以前に計算された点108B
3によってすでに制約されている。
【0123】
図11は、時点t=0:12におけるMPC最適化を概略的に示す。当該時点において、第2最適化軌道140Bが再度実行される。これにより、点108B
2、108B
3、および108B
4が定められる。システムダイナミクスが変化した場合、以前に計算した出力点が変化しうる。例えば、点108B
3は、現時点において(
図10に示す値100に替えて)値50を有しうる。したがって、軌道140Cの出力は、親軌道140Bに由来する制約の変更に一致するように変更される。また、最適化が反復ごとに再実行される場合に、ルーチンが非制約点を変更しうることは、留意に値する。例えば、時点T=0:12(
図11)において最適化アルゴリズムが実行された場合には、時点T=0:06(
図10)において設定点108C
4が計算された場合と比較して、当該設定点が調整されるべきであることが当該最適化アルゴリズムによって見出されうる。
【0124】
図12は、例示的な実施形態に係る複数のMPCループをネストする一般化を概略的に示す。表記の目的上、トップ関数140Aは第2関数140Bの親関数(原関数)であり、かつ、第3最適化軌道140Cの祖父母関数(原原関数)であるものとする。同様に、第3軌道140Cは、第2軌道の子であり、かつ、第1軌道の孫である。この例では、ネストされた3つの関数のみが示されているが、2つ以上の関数(例:3つ、4つ、5つ、6つなど)がネストされてもよいことを理解されたい。
【0125】
図13は、例示的な実施形態に係るネスト型MPCルーチンを概略的に示す。
図13の例では、DER14はバッテリ14である。2つのMPCループが、異なる予測ホライズンにおいて使用される。96個のタイムスロットおよび15分の時間間隔を伴う、24時間という予測ホライズンを有する、エネルギー最適化が実行されている。最初に、エネルギー最適化は、次の24時間におけるバッテリの充電状態のスケジュールを生成する。次に、2つの最初の点(65%および30%)が、より高速な電力最適化のための端点制約として使用される。電力最適化は、20秒間隔で15分に亘り実行される。最適化の結果は、最初の15分間における20秒のスケジュールを与える。次いで、バッテリによってどれだけの電力が与えられる必要があるか、または取得される必要があるかを計算することによって、電力設定点スケジュールを取得するために、充電状態スケジュールが適用されてよい。上述の通り、親スケジュールに由来する制約は、子スケジュールに適用される。
【0126】
これらの2つのMPCをネストする利点は、ソーラーパネルを通過する雲または個別の負荷接続などの高速過渡現象を懸念することなく、エネルギー最適化(トップMPC)によって24時間先の問題を解くことができることである。次いで、電力最適化(ボトムMPC)は、当該高速過渡現象を解き、エネルギースケジュールの変更を要することなく、当該高速過渡現象に応答する。
【0127】
図13に示す例は、単一のDER14を超えて拡張できる。例えば、バッテリが長期ストレージコンポーネント(例えば、夏にソーラの過剰発電を取得して水素を生成し、冬に当該水素を使用することを目的とする水素システム)にも接続されている場合を考える。この場合、例示的な実施形態は、長期エネルギー最適化を追加し、3つの予測ホライズンを生成してよい。一例として、これらの予測ホライズンは、下記の通りであってよい。
【0128】
・長期エネルギー:180個のタイムスロットおよび1日の間隔を有する、180日の予測ホライズン
・短期エネルギー:96個のタイムスロットおよび15分の時間間隔を有する、24時間の予測ホライズン
・電力:45個のタイムスロットと20秒の時間間隔を有する、15分の予測ホライズン。
【0129】
例示的な実施形態では、長期エネルギーMPCがはじめに解かれて、水素タンク内の水素質量についてのデイリースケジュール(日次スケジュール)が得られる。次いで、最初の2つの値が、15分毎の水素の量およびバッテリのSoCのスケジュールを与える短期エネルギーMPCの端点として使用される。最後に、このMPCの最初の2つの点を使用して電力ループが実行されることにより、タンク内の水素の量およびバッテリのSoC(充電状態)に関する短期スケジュールが得られる。このように、バッテリおよび水素製造設備の電力設定値を得ることができる。
【0130】
様々な実施形態は、HVAC負荷制御などの他の制御システムにおいても動作しうる。室内の温度を管理するためにHVACシステムを制御する負荷制御の場合を考える。部屋は自身の壁および窓を通じて熱を伝導によって交換し、屋外の周囲温度は(例:昼から夜までの)デイリーサイクル(日次周期)を有している。しかし、内部には、かなり急速にターンオンまたはターンオフされる何らの熱源も存在している(例:何らかの工業プロセスに起因するオーブンの開閉)。
【0131】
温度を適切に制御するために、下記の2つのネスト型MPCループが定められてもよい。
【0132】
・デイリーサイクルMPC:ユーザの要求に応じて、温度スケジュールを生成し、対応するHVACを使用する(例:エネルギー消費を最小化する)。
【0133】
・短期MPC:上記スケジュールに従うが、急速な熱注入を補償するためにHVACのアクションを生成する。
【0134】
さらに、例示的な実施形態は、デイリーサイクルの上位の第3MPCループを含みうる。当該第3MPCループは、夏から冬までの温度変動を考慮するために、週次(ウィークリー)または月次(マンスリー)のタイムスロットを有する年次スケジュールを作成する。この例における年次スケジュールの作成は、(短期MPCによって扱われる)短期ダイナミクスおよび(デイリーサイクルMPCによって扱われる)デイリーサイクルのいずれをも当該MPCに扱わせることを要しないので、複雑性がかなり低くなることに留意されたい。
【0135】
さらに別の例として、ある使用時間料金および需要料金を有する単一のメータを介して、グリッドから充電を行っている電気自動車の単一所有者フリートの場合を考える。MPCは、進展するウィークリースケジュールを作成するために使用される。これにより、ユーティリティ料金を最小化しつつ車両使用を最大化できる。スケジュールは、各シフト(例:8時間)の終了時における各車両の充電状態を示す。ただし、最初の8時間の間隔内における変化に順応するために、より高速なMPCループが使用されてもよい。これにより、例えば、複数の車両を減速させるトラフィック、または、複数の車両にさらに長いルートを取らせる道路工事を考慮できる。
【0136】
上述のネスト型MPCループのそれぞれは、集中型または分散型の最適化スキームのいずれかを使用してよい。一部の実施形態では、分散型最適化技術は、デュアル分解または交互方向乗数法(alternating direction method of multipliers,ADMM)技術を使用する。分散型最適化スキームでは、最適化は、コモディティが取引される一種のバーチャルマーケットにおける複数のエージェントの相互作用を伴っている。上述の
図13の例では、取引されているコモディティは、短期分散型MPCに対する電力と、デイリー分散型MPCに対するエネルギーである。このため、電力マーケットとエネルギーマーケットとが存在しており、それぞれのマーケットがコモディティに対する価格を有している。そして、エージェントは当該価格に応答する。
【0137】
図14は、本発明の例示的な実施形態に係るネスト型MPCループ16を使用してDERシステム100を最適化するプロセス1400を概略的に示す。この方法は、通常使用されうるより長いプロセスから十分に簡略化されていることに留意されたい。したがって、
図14に示される方法は、当業者が使用しうる多くの他のステップを有していてよい。加えて、複数のステップのうちの一部は、図示とは異なる順序で実行されてもよいし、あついは、並列的に実行されてもよい。さらに、これらのステップの内の一部は、一部の実施形態では任意でありうる。最後に、このプロセスは1つのみのMPCに対するステップを示しているが、ネストされた全てのMPCに対して同じプロセスが実行されうる。ステップ1406は、それらの間における接続である。したがって、プロセス1400は、本発明の例示的な実施形態に係る1つのプロセスの単なる例示である。それゆえ、当業者は必要に応じて当該プロセスを変更してよい。
【0138】
プロセスは、ステップ1402から開始する。ステップ1402は、1つ以上のアセットマネージャ16を、価格を計算するMPCコントローラ21として設定する。上述の通り、MPCコントローラ21は、システムレベルおよび/またはローカルDERコスト関数を使用して価格を計算する1つ以上のアセットマネージャである。一部の実施形態では、分散型最適化が使用される場合、複数のアセットマネージャ16は、システムレベル価格を決定するために使用されるそれぞれの価格(例:予備価格)を算出する。また、MPCコントローラ21は、システム100内のアセット14の出力電力を制御するために、価格を他のアセットマネージャ16に中継する。MPCコントローラ21として機能する1つ以上のアセットマネージャ16は、他のアセットマネージャ16によって信頼される。一部の実施形態では、第1アセットマネージャ16は、第1時間(第1時点)におけるMPCコントローラ21である。次いで、第2アセットマネージャ16は、第2時間(第2時点)におけるMPCコントローラ21である。一部の他の実施形態では、複数のアセットマネージャ16が同時にオーソリティでありうる。以下の
図6A~
図3Cは、システムレベル価格を決定するためのオーソリティとして機能する1つ以上のアセットマネージャ16の様々なスキームを概略的に示す。
【0139】
図14に戻る。処理1400は、ステップ1404に進む。ステップ1404は、DERシステム100の目的を設定する。目的設定部30およびメータ32は、本発明の例示的な実施形態に従って、1つ以上のアセットマネージャ16に情報を送信する。一部の実施形態では、目標設定部は、協調型DERシステム100がどのように振る舞うかを決定するエンティティである。例えば、目的設定部30は、電力潮流を一定レベルに維持すること、周波数サポートなどの目標を設定してよい。目的は、外部ソースまたはユーザから受信されてもよい。
【0140】
一部の実施形態では、目的設定部は、ユーティリティ5、監視制御およびデータ取得(Supervisory Control and Data Acquisition,SCADA)システム、または、ビルマネジメントシステム(Building Management System,BMS)などの集中型エージェントである。代替的には、目標設定部は、(例えば、
図2における変更として)1つ以上のアセットマネージャ16であってもよい。他の実施形態では、1つ以上の目的が複数のアセットマネージャ16にプログラミングされうる。これにより、(例えば、システム100が共通接続点12の電力フローをゼロまたは何らかの他の所定のレベルに維持する場合における)単一の目的設定部の必要性を除去できる。
【0141】
上述のように、目的は、システム100内のアセット14(負荷15を含む)の全てからの所望の総電力出力であってもよい。例示的な実施形態では、目的設定器30は、DERシステム100の目的を決定する。例えば、目的設定部30は、ユーティリティ会社であってもよいし、オペレータとしての人物であってもよい。例示的な実施形態では、システム100の外部および/または内部の条件に基づいて、目的が設定される。外部条件は、例えば、所定量の電力がグリッド14に供給される必要があることであってよい。内部条件は、例えば、システム100内のバッテリ負荷における充電量が低すぎること、および、バッテリを充電する必要があることであってよい。目的は、1つ以上のアセットマネージャ16によって受信される。一部の実施形態では、アセットマネージャ16は、目的に関する情報を能動的に探索するように構成されている。一部の実施形態では、目的設定部30は、全てのアセットマネージャ16に目的をブロードキャストしてよい。代替的には、変数がアセットマネージャ16のサブセットのみに送信されてもよい。
【0142】
例えば、目的は、第1時間(例:昼間)におけるシステム100の所定の電力出力を定めるとともに、第2時間(例:夜間)におけるシステム100の異なる所定の電力出力を定めうる。付加的または代替的に、目的は、現在の時点における即時電力出力であってもよい。一部の実施形態では、システム100の電力出力は、システム100内のアセット14の全てからの電力が通過する共通接続点12において測定されてよい。
【0143】
ステップ1406において、MPCは、必要に応じて、端点または任意の他のタイムスロットにおける親MPCからの制約を定める。このことは、例えば、
図13に関して上述のセクションで説明されている。最高レベル(例:軌道140A)については、ステップ1406がスキップされ、プロセスがステップ1408に直接的に進むことに留意されたい。
【0144】
ステップ1408において、プロセスは、目的に影響を及ぼすパラメータ、状態、および価格を取得する。例えば、
図5のメータは、目的に影響を及ぼすパラメータを監視および/または測定する。メータは、例えば電圧メータおよび/または電流メータであってよい。メータは、複数のアセットマネージャ16のうちの1つ以上と接続されていてよいし、当該複数のアセットマネージャ16のうちの1つ以上の一部であってもよい。測定されたパラメータは、1つ以上のアセットマネージャによって受信される。一部の実施形態では、アセットマネージャ16は、メータによって測定されたパラメータに関する情報を能動的に探索するように構成されている。一部の実施形態では、メータは、アセットマネージャ16の全てに対して目的に影響を及ぼす変数(例:測定変数)を監視し、当該変数をブロードキャストしてよい。代替的には、変数は、アセットマネージャ16のサブセットのみに送信されてもよい。アセットマネージャ間の通信を可能にする
図2のインターフェース18を介して、価格を得ることができる。
【0145】
一部の実施形態では、メータは、システム100の現在のステータスが何であるかを監視し、アセットマネージャ16に知らせる。この情報は、システムの目的に対する比較点として使用されてよい。例示的な実施形態では、メータは、共通接続点12における電力フローを測定する。一部の他の実施形態では、1つ以上のデバイスがメータとして排他的に使用されてよい。その一方、他の実施形態では、1つ以上のアセットマネージャ16は、メータであってもよい。例えば、オフグリッド動作時に、DERが「マスタ」または「グリッドフォーミング」である場合、アセットマネージャ16がメータでありうる。
【0146】
ステップ1410において、コントローラは、任意の予測技術を使用して、タイムホライズンの各タイムスロットにおけるパラメータ、状態、および価格を予測する。一部の実施形態では、この予測は、履歴データを使用して実行されうる。他の実施形態では、当該予測は、天気予報サービスなどの外部入力を使用して実行されうる。
【0147】
ステップ1412において、MPCコントローラ21は、目的、測定パラメータ、状態および価格、予測パラメータ、状態および価格に関する情報、ならびに特定のDER14またはDERシステム100についてのモデルを使用して、MPCルーチンに応じたタイムホライズン102の全てのタイムスロットにおけるコスト関数を計算する。例えば、アセットマネージャ16は、インターフェース18を介して、関連する目的およびメータ情報を受信してよい。当該情報は、メモリ22に格納されていてよい。さらに、上述の通り、一部の実施形態では、価格計算エンジン20は、分散型最適化を実行するために要求される価格を計算してよい。
【0148】
上述の通り、好ましくは、第1MPCタイムホライズン102は、長期システムダイナミクスを考慮している。例えば、
図13に示す通り、第1MPC軌道140Aは、24時間のホライズンを有する。さらに、好ましくは、第1最適化軌道は、第2最適化軌道よりも長い時間間隔104を有する(例えば、
図13に示す通り、20秒に対して15分)。ステップ1408において、2つの初期制約が得られる(例えば、0分では65%のバッテリ、15分では30%のバッテリ)。
【0149】
プロセスはステップ1414に進む。ステップ1414では、コントローラ21は、コスト関数を最小化し、タイムスロットごとに状態変数または出力電力の値のスケジュールを計算する。
【0150】
ステップ1416において、必要に応じて、出力電力設定点が状態変数スケジュールから計算される。
【0151】
次いで、プロセスはステップ1418に進む。ステップ1418は、MPC最適化の新たなサイクルが、1ステップ前進した新たなタイムホライズンにおいて実行されるべきか否かを尋ねる。
図13に示す通り、当業者にとって既知である通り、第2最適化軌道140Bは、選択された時間間隔ごとに(例えば、
図13では20秒毎に)再計算される。同様に、第1最適化軌道は、
図13では15分毎に再計算される。したがって、新たなタイムホライズンにおける最適化軌道を再計算すべき時点に至った場合、例えば軌道140Aでは、0分から24時間までのホライズン102に替えて、新たなホライズンは15分から24時間15分へと移動させられる。上述の通り、上位レベルの親最適化からの制約(変更制約を含む)は、子最適化に適用される。
【0152】
最適化アルゴリズムが終了すると、処理1400は終了に至る。
【0153】
一部の実施形態では各MPCループの価格信号は、アセット間において共有される。当該価格信号は、コスト関数に影響を及ぼすパラメータのうちの1つである。ステップ1408において、価格が取得される。したがって、処理1400は、修正を要することなく、集中型、分散型、または脱集中型の最適化技術に対して適用されうる。
【0154】
図15A~
図15Cは、本発明の例示的な実施形態に係るネスト型最適化ルーチンの別の例を概略的に示す。
図15Aでは、時点t=0において3つの軌道140A~140Cが計算されている。第3軌道140Cは、
図15Bにおいて再計算されている。第2軌道140Bおよび第3軌道140Cは、
図15Cにおいて再計算されている。
【0155】
図15A~15Cは、
図9~
図11と類似している。しかしながら、第2軌道140Bの予測ホライズン102は、第1軌道140Aの第1セットの端点108A
1と108A
2との間において完全に境界付けられている。言い換えれば、第2軌道の予測ホライズンは、第1端点108A
1から第2端点108A
2まで広がっている。同様に、第3軌道140Cの予測ホライズンは、第2軌道140Bの2つの設定点108B
1および108B
2によって完全に境界付けられている。このことは、少なくとも最初は、ルーチンの開始時に当てはまる。
【0156】
図15Bに示す通り、第3軌道140Cが位置108C
4に向けて1つのタイムポジション(すなわち、6分)だけ前方に進んだので、もはや当該第3軌道は最初の設定点の範囲内では完全に境界付けられていない。
【0157】
図15Cでは、最適化が時点T=0:12に達したことが理解できる。この時点において、第2軌道140Bにおける第2点108B
2に到達する。このため、コントローラ21は、MPCルーチンに従って第2最適化軌道140Bを再計算する。この例では、軌道140Bの残りの部分は変化していないが、(例えば、システムダイナミクスの変化に起因して)設定点108B
3が変化したことが判定されうる。
【0158】
図15Cは、次の時間間隔における軌道140A~140Cを示す。この時間間隔(例えば、T=0:12)において、第3軌道140Cの第3設定点108C
3は、DER14の出力を制御するために使用される。さらに、コントローラ21は、MPCルーチンに従って予測ホライズンにおける第3軌道140Cを再計算する。システムダイナミクスの最新の変化を考慮するために、プロセスは予測ホライズンにおける様々な設定点を再計算することに留意されたい。システムダイナミクスの変化および/または目的の変化は、設定値の変化を引き起こしうる。例えば、設定値108C
4は、
図15Bの例から
図15Cの例へと変化した。設定値108C
5は第2軌道によって制約されるため、108C
5も変化した。このように、108B
3が変化すると、108C
5も常に変化する。
【0159】
本発明の様々な実施形態は、少なくとも部分的には、任意の従来のコンピュータプログラミング言語によって実現されうる。例えば、一部の実施形態は、手続型プログラミング言語(例:C)によって、視覚的プログラミングプロセスによって、または、オブジェクト指向プログラミング言語(例:C++)によって実現されうる。本発明の他の実施形態は、事前設定されたスタンドアロンのハードウェア要素として、および/または、事前にプログラミングされたハードウェア要素(例:特定用途向け集積回路、FPGA、およびデジタル信号プロセッサ)、または他の関連するコンポーネントとして実現されてもよい。
【0160】
代替的な実施形態では、(例えば、上述の任意の方法、フローチャート、またはロジックフローにおいて)開示されている装置および方法は、コンピュータシステムとともに使用するためのコンピュータプログラムプロダクトとして実現されてもよい。当該実施形態は、コンピュータ可読媒体(例:ディスケット、CD-ROM、ROM、または固定ディスク)などの有形的かつ非一時的ないずれかの媒体の固定された一連のコンピュータ命令を含みうる。一連のコンピュータ命令は、システムに関して本明細書において上述されている機能の全部または一部を具現化しうる。
【0161】
当業者であれば、多くのコンピュータアーキテクチャまたはオペレーションシステムとともに使用するために、上記コンピュータ命令が多くのプログラミング言語によって記述されうることを理解できるであろう。さらに、当該命令は、有形的かつ非一時的な半導体メモリデバイス、磁気メモリデバイス、光学メモリデバイス、または他のメモリデバイスなどの任意のメモリデバイスに記憶されてよい。当該命令は、任意の適切な媒体、例えば、有線(例:ワイヤ、同軸ケーブル、光学ファイバケーブルなど)または(例:空気または空間を介する)無線を介して、光学通信技術、赤外線通信技術、RF/マイクロ波通信技術、または他の通信技術などの任意の通信技術を使用して送信されてよい。
【0162】
例えば、上記コンピュータプログラムプロダクトは、付随する印刷文書または電子文書を伴うリムーバブルメディアとして配布されてもよいし(例:シュリンクラップされたソフトウェア)、コンピュータシステムによって(例えば、システムROMまたは固定ディスク上に)プリロードされてもよいし、ネットワーク(例:インターネットまたはワールドワイドウェブ)を介してサーバまたは電子掲示板から配布されてもよい。実際のところ、一部の実施形態は、サービスとしてのソフトウェア(software-as-a-service,SAAS)モデルまたはクラウドコンピューティングモデルとして実現されうる。当然ながら、本発明の一部の実施形態は、ソフトウェア(例:コンピュータプログラムプロダクト)とハードウェアとの両方の組み合わせとして実現されてもよい。本発明のさらなる他の実施形態は、完全にハードウェアとして、あるいは完全にソフトウェアとして実現される。
【0163】
本明細書において上述されている機能の全てまたは一部を実現するコンピュータプログラムロジックは、単一のプロセッサ上で異なる時間に(例:同時に)実行されてもよいし、複数のプロセッサ上で同じまたは異なる時間に実行されてもよいし、単一のオペレーティングシステムプロセス/スレッドのもとで実行されてもよいし、異なるオペレーティングシステムプロセス/スレッドのもとで実行されてもよい。したがって、「コンピュータプロセス」という用語は、異なるコンピュータプロセスが同じプロセッサ上で実行されるか、または、異なるプロセッサ上で実行されるかにかかわらず、および、異なるコンピュータプロセスが同じオペレーティングシステムプロセス/スレッドのもとで実行されるか、または、異なるオペレーティングシステムプロセス/スレッドのもとで実行されるかにかかわらず、コンピュータプログラム命令のセットを実行することを全般的に指している。ソフトウェアシステムは、モノリシックアーキテクチャまたはマイクロサービスアーキテクチャなどの様々なアーキテクチャを使用して実現されうる。
【0164】
本発明の例示的な実施形態は、従来のコンピュータ(例:既製品のPC、メインフレーム、マイクロプロセッサ)、従来のプログラマブルロジックデバイス(例:既製品のFPGAまたはPLD)、または従来のハードウェアコンポーネント(例:既製品のASICまたはディスクリートハードウェアコンポーネント)などの従来のコンポーネントを使用してよい。これらのコンポーネントは、本明細書に記載されている非従来の方法を実行するようにプログラミングまたは構成されると、非従来のデバイスまたはシステムを生じさせる。したがって、従来のコンポーネントを使用して実施形態が具現化される場合であっても、結果として得られるデバイスおよびシステムは必然的に非従来的となるので、本明細書に記載されている本発明は何ら従来的ではない。特殊なプログラムまたは設定が存在していなければ、従来のコンポーネントは記載されている非従来の機能をそもそも実行できないためである。
【0165】
本発明の様々な実施形態が本明細において説明および例示されてきたが、当業者であれば、本明細書に記載されている機能を実行し、および/または結果および/または1つ以上の利点を得るための様々な他の手段および/または構成を容易に想定するであろう。そのような変形および/または修正のそれぞれは、本明細書に記載されている本発明の実施形態の範囲内であるとみなされる。より一般的には、当業者であれば、(i)本明細書において記載されている全てのパラメータ、寸法、材料、および構成は例示的であることが意図されており、かつ、(ii)現実のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、具体的なアプリケーション、または本発明の教示が用いられるアプリケーションに依存しうることを容易に認識するであろう。当業者であれば、ルーチン的実験を超えないものを用いて、本明細書において記載されている具体的な創作的実施形態に対する多くの均等物を認識し、または、そのことを確認することができるであろう。したがって、これまでの実施形態は、例示としてのみ示されており、添付の特許請求の範囲およびその均等物内において、創作的実施形態は、具体的に記載されており、かつ、特許請求されるてるものとは異なるように実現されうると理解されるべきである。本開示の創作的実施形態は、本明細書において記載されている個別の構成、システム、プロダクト(製品)、材料、キット、および/または方法を対象としている。加えて、当該構成、システム、プロダクト、材料、キット、および/または方法の2つ以上のいずれの組合せも、相互に矛盾しなければ、本開示の創作的範囲内に含まれる。
【0166】
様々な創作的コンセプトは、例示されてきた1つ以上の方法として具現化されうる。当該方法の一部として実行される動作は、任意の適切な様式にて順序付けられうる。したがって、図示とは異なる順序で動作が実行される実施形態が構築されうる。シーケンス動作として示されている例示的な実施形態であっても、複数の動作を同時に実行するステップを含みうる。上述の説明は本発明の多様な例示的な実施形態を開示しているが、当業者であれば、本発明の真の範囲から逸脱することなく本発明の利点の一部を実現する多様な修正をなしうることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【
図1A】本発明の例示的な実施形態に係るシステム全体の目的を満たすべく、複数の分散されたエネルギーリソースおよび負荷の動作を最適化するために使用されるアセットマネージャを含むDERシステムを概略的に示す。
【
図1B】本発明の例示的な実施形態に係る2つのDERネットワークを概略的に示す。
【
図1C】本発明の例示的な実施形態に係る脱集中型アルゴリズムを実行するプロセスを概略的に示す。
【
図2】本発明の例示的な実施形態に従って構成された
図1のアセットマネージャを概略的に示す。
【
図3A】DERシステムの最適化のための3つの異なるスキームを概略的に示す。
【
図3B】DERシステムの最適化のための3つの異なるスキームを概略的に示す。
【
図3C】DERシステムの最適化のための3つの異なるスキームを概略的に示す。
【
図4】本発明の例示的な実施形態に係る予測ホライズンを概略的に示す。
【
図5】本発明の例示的な実施形態に係る所与の予測ホライズンにおける制御軌道を概略的に示す。
【
図6】例示的な実施形態に係る、
図5と同じ予測ホライズンにおける代替的な制御軌道を概略的に示す。
【
図7】例示的な実施形態に係る、
図5および
図6と同じ予測ホライズンにおける代替的な制御軌道を概略的に示す。
【
図8A】例示的な実施形態に係る、
図5~
図7と同じ予測ホライズンにおけるネスト型制御軌道を概略的に示す。
【
図8B】本発明の例示的な実施形態に係る第2MPC最適化ループを実行した後の第2軌道を概略的に示す。
【
図9】システムダイナミクスを1時間毎に観察する最適化関数の軌道を模式的に示す。
【
図10】本発明の例示的な実施形態に係る最適化関数における次のステップを概略的に示す。
【
図11】本発明の例示的な実施形態に係る異なる時間におけるMPC最適化を概略的に示す。
【
図12】例示的な実施形態に係るMPCルーチンのネストについての一般化を概略的に示す。
【
図13】例示的な実施形態に係るネスト型MPCルーチンを概略的に示す。
【
図14】本発明の例示的な実施形態に係る分散型アセットマネージャを使用してDERシステムを最適化するプロセスを概略的に示す。
【
図15A】本発明の例示的な実施形態に係るネスト型最適化ルーチンの別の例を概略的に示す。
【
図15B】本発明の例示的な実施形態に係るネスト型最適化ルーチンの別の例を概略的に示す。
【
図15C】本発明の例示的な実施形態に係るネスト型最適化ルーチンの別の例を概略的に示す。
【国際調査報告】