(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ポリイオンコンプレックスミセル
(51)【国際特許分類】
C08G 81/00 20060101AFI20240110BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240110BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240110BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08G81/00
A61K9/51
A61K47/42
A61K9/107
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539248
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(85)【翻訳文提出日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2021049002
(87)【国際公開番号】W WO2022145486
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】パライソ ウエスト クリスチャン ディゾン
(72)【発明者】
【氏名】カダール サビーナ
(72)【発明者】
【氏名】福島 重人
【テーマコード(参考)】
4C076
4J031
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076CC26
4C076EE23
4C076EE41
4C076EE49
4J031AA15
4J031AA25
4J031AC07
4J031AC09
4J031AD01
(57)【要約】
親水性ブロック部分、カチオン性疎水性ブロック部分、および親水性ブロックとカチオン性疎水性ブロックとの間に位置する架橋ブロック部分を有するブロック共重合体と、ブロック共重合体に封入されたアニオン性分子薬物とを含むポリイオンコンプレックスミセル。ここで、架橋ブロックは、ヒドラゾン結合を有し、ブロック共重合体は、第1のブロック共重合体鎖と第2のブロック共重合体鎖を含み、第1のブロック共重合体鎖と第2のブロック共重合体鎖は架橋ブロック部分で互いに架橋されており、親水性ブロック部分は、第1のブロック共重合体鎖の第1の親水性ブロックと第2のブロック共重合体鎖の第2の親水性ブロックを含み、カチオン性疎水性ブロック部分は、第1のブロック共重合体鎖の第1のカチオン性疎水性ブロックを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ブロック部分、カチオン性疎水性ブロック部分、および前記親水性ブロックと前記カチオン性疎水性ブロックとの間に位置する架橋ブロック部分を有するブロック共重合体と、前記ブロック共重合体に封入されたアニオン性分子薬物と
を含む、ポリイオンコンプレックスミセルであって、
前記架橋ブロックは、ヒドラゾン結合を有し、
前記ブロック共重合体は、前記第1のブロック共重合体鎖と前記第2のブロック共重合体鎖を含み、前記第1のブロック共重合体鎖と前記第2のブロック共重合体鎖は前記架橋ブロック部分で互いに架橋されており、
前記親水性ブロック部分は、前記第1のブロック共重合体鎖の前記第1の親水性ブロックと前記第2のブロック共重合体鎖の前記第2の親水性ブロックを含み、
前記カチオン性疎水性ブロック部分は、前記第1のブロック共重合体鎖の前記第1のカチオン性疎水性ブロックを含む、
ポリイオンコンプレックスミセル。
【請求項2】
前記カチオン性疎水性ブロック部分が、前記第2のブロック共重合体鎖の前記第2のカチオン性疎水性ブロックをさらに含む、請求項1に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
【請求項3】
前記ブロック共重合体が、式(I):
【化1】
(式中、Aは、前記第1の親水性ブロックまたは前記第2の親水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し;Bは、前記第1のカチオン性疎水性ブロックまたは前記第2のカチオン性疎水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し;mは、1または2を表し;L
1は、2価の連結基を表し;R
1は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し;R
2は、水素原子またはメチル基を表し;L
2は、単結合または2価の連結基を表し;nは1または2を表す)
で表される、請求項2に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
【請求項4】
前記ブロック共重合体が、式(II):
【化2】
(式中、Aは、前記第1の親水性ブロックまたは前記第2の親水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し;Bは、前記第1のカチオン性疎水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し;mは、1または2を表し;L
1は2価の連結基を表し;R
1は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し;R
2は、水素原子またはメチル基を表し;L
2は、単結合または2価の連結基を表し;nは1または2を表す)
で表される、請求項1に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
【請求項5】
前記カチオン性疎水性ブロックが、ポリリジンに由来する繰り返し構造で構成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
【請求項6】
粒径が20~100nmであり、多分散指数が0.05~0.3である、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
【請求項7】
前記アニオン性分子薬物の正味負電荷が、生理的pHで-25から-1である、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
【請求項8】
前記アニオン性分子薬物が核酸薬物である、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイオンコンプレックスミセルに関する。
本出願は、2020年12月28日に出願された米国仮特許出願第63/130,861号に基づく優先権を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリイオンコンプレックスミセル(以下、「PICミセル」と呼ばれることもある)は、核酸(例えば、pDNA、mRNA、siRNA、ASO)、およびカチオン性ポリマーとイオン相互作用を有する負に荷電した大きな分子(例えば、PEG-ポリリジン、PEG-ポリ(N-[N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルタミドに使用されてきた。例えば、非特許文献1および2には、ポリ(エチレングリコール)-ポリ(リジン)ジブロックコポリマーと、該ジブロックコポリマーに封入されたアニオン性薬物とを含むポリイオンコンプレックスミセルが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Wang C,Chen Q,Wang Z,Zhang X.An enzyme-responsive polymeric superamphiphile.Angew.Chemie-Int.Ed.49(46)、8612-8615(2010)。
【非特許文献2】H.S.Min,H.J.Kim,M.Naito,S.Ogura,K.Toh,K.Hayashi,B.S.Kim,S.Fukushima,Y.Anraku,K.Miyata,K.Kataoka.Systemic brain delivery of antisense oligonucleotides across the blood-brain barrier with a glucose-installed polymeric nanocarrier.Angew.Chem.Int.Ed.59(21),8173-8180(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載されているような従来のポリイオンポリイオンコンプレックスミセルでは、薬物とポリマーの単純なイオン相互作用により、疎水性の内核とPEGの外層とを有するポリイオンコンプレックスミセルの形成が引き起こされる。しかし、従来のポリイオンコンプレックスミセルは、ポリマーと薬物のイオン相互作用が破壊されるために生理的条件で容易に崩壊する。さらに、遊離ポリマーは、遊離すると非選択的な細胞傷害性を引き起こす。したがって、負に荷電した小分子は、水溶性であるので送達系から容易に漏出し、早期放出を導くため、封入が困難であった。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的は、負に帯電した分子を安定に封入することを可能にするポリイオンコンプレックスミセルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1)親水性ブロック部分、カチオン性疎水性ブロック部分、および親水性ブロック部分とカチオン性疎水性ブロック部分との間に位置する架橋ブロック部分を有するブロック共重合体と、
ブロック共重合体に封入されたアニオン性分子薬物と
を含む、ポリイオンコンプレックスミセルであって、
架橋ブロック部分は、ヒドラゾン結合を有し、
ブロック共重合体は、第1のブロック共重合体鎖と第2のブロック共重合体鎖を含み、第1のブロック共重合体鎖と第2のブロック共重合体鎖は架橋ブロック部分で互いに架橋されており、
親水性ブロック部分は、第1のブロック共重合体鎖の第1の親水性ブロックおよび第2のブロック共重合体鎖の第2の親水性ブロックを含み、
カチオン性疎水性ブロック部分は、第1のブロック共重合体鎖の第1のカチオン性疎水性ブロックを含む、ポリイオンコンプレックスミセル。
(2)カチオン性疎水性ブロック部分が、第2のブロック共重合体鎖の第2のカチオン性疎水性ブロックをさらに含む、上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
(3)ブロック共重合体が、式(I)
【0007】
【化1】
(式中、Aは、第1の親水性ブロックまたは第2の親水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し;Bは、第1のカチオン性疎水性ブロックまたは第2のカチオン性疎水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し:mは1または2を表し:L
1は2価の連結基を表し:R
1は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し:R
2は、水素原子またはメチル基を表し:L
2は、単結合または2価の連結基を表し:nは1または2を表す)
で表される、上記(2)に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
(4)ブロック共重合体が、式(II)
【0008】
【化2】
(式中、Aは、第1の親水性ブロックまたは第2の親水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し;Bは、第1のカチオン性疎水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し:mは1または2を表し:L
1は2価の連結基を表し:R
1は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し:R
2は、水素原子またはメチル基を表し:L
2は、単結合または2価の連結基を表し:nは1または2を表す)
で表される、上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
(5)第1のカチオン性疎水性ブロックが、ポリリジンに由来する繰り返し構造で構成されている、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載のポリイオンコンプレックスミセル。
(6)第2のカチオン性疎水性ブロックが、ポリリジンに由来する繰り返し構造で構成されている、上記(2)または(3)に記載のポリイオンコンプレックスミセル。
(7)粒径が20~100nmであり、多分散指数が0.05~0.3である、上記(1)から(6)のいずれか1つに記載のポリイオンコンプレックスミセル。
(8)アニオン性分子薬物の正味負電荷が、生理的pHで-25~-1である、上記(1)から(7)のいずれか1つに記載のポリイオンコンプレックスミセル。
(9)アニオン性分子薬物が核酸薬物である、上記(1)から(8)のいずれか1つに記載のポリイオンコンプレックスミセル。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、負に帯電した分子を安定に封入する能力のあるポリイオンコンプレックスミセルを提供することが可能である。特に、本発明は、負に荷電した小分子を封入するのに有用なポリイオンコンプレックスミセルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明のポリイオンコンプレックスミセルの一実施形態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のポリイオンコンプレックスミセルの一実施形態を示す模式図である。
【
図3】
図3は、RPMI2650を用いた細胞取り込み実験の結果を示す。
【
図4】
図4は、RPMI2650を用いた細胞取り込み実験の結果を示す。
【
図5】
図5は、トランスウェル透過性実験のためのRPMI2650の培養のタイムラインである。
【
図6】
図6は、トランスウェル透過性実験の結果を示す。
【
図7】
図7は、脳細胞を用いた細胞取り込み実験のために調製した非ポリイオンコンプレックスミセルを示す模式図である。
【
図8】
図8は、KT-5(星状細胞)を用いた細胞取り込み実験の結果を示す。
【
図9】
図9は、BV-2(ミクログリア)を用いた細胞取り込み実験の結果を示す。
【
図10】
図10は、GT1-7-5(神経細胞)を用いた細胞取り込み実験の結果を示す。
【
図11】
図11は、ラット初代脳内皮細胞を用いた細胞取り込み実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ポリイオンコンプレックスミセル>
本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルは、親水性ブロック部分、カチオン性疎水性ブロック部分、および親水性ブロックとカチオン性疎水性ブロックとの間に位置する架橋ブロック部分を有するブロック共重合体と、ブロック共重合体に封入されたアニオン性分子薬物とを含む。架橋ブロック部分は、ヒドラゾン結合を有する。ブロック共重合体は、第1のブロック共重合体鎖および第2のブロック共重合体鎖を含む。第1のブロック共重合体鎖と第2のブロック共重合体鎖とは、架橋ブロック部分で互いに架橋されている。親水性ブロック部分は、第1のブロック共重合体鎖の第1の親水性ブロックと、第2のブロック共重合体鎖の第2の親水性ブロックとを含む。カチオン性疎水性ブロック部分は、第1のブロック共重合体鎖の第1のカチオン性疎水性ブロックを含む。
【0012】
第1の実施形態:
図1は、本発明のポリイオンコンプレックスミセルの一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、ポリイオンコンプレックスミセル1は、ブロック共重合体2とアニオン性分子薬物3との自己組織化により形成される。具体的には、カチオン性疎水性ブロック部分Bとアニオン性分子薬物3との間のイオン相互作用により、アニオン性分子薬物3が担持されたコアB1が形成される。架橋ブロック部分Cは、コアB1を囲み、コアB1を安定化させる。親水性ブロック部分Aがシェルを形成することにより、ポリイオンコンプレックスミセル1が形成される。
【0013】
架橋ブロックC部分がコアB1を取り囲んでいるため、細胞内のエンドソームのpHの低下のような生理学的誘因がない限り、アニオン性分子薬物3を漏出から防ぐことができる。
【0014】
ブロック共重合体2は、第1のブロック共重合体鎖4と第2のブロック共重合体鎖5で構成される。第1のブロック共重合体鎖4は、第1の親水性ブロック4A、第1の架橋ブロック4C、第1のカチオン性疎水性ブロック4Bをこの順に含む。第2のブロック共重合体鎖5は、第2の親水性ブロック5A、第2の架橋ブロック5C、第2のカチオン性疎水性ブロック5Bをこの順に含む。ブロック共重合体2は、第1のブロック共重合体鎖4の第1の架橋ブロック4Cと第2のブロック共重合体鎖5の第2の架橋ブロック5Cとの間の架橋によって形成される。親水性ブロック部分Aは、第1の親水性ブロック4Aと第2の親水性ブロック5Aを含む。疎水性ブロック部分Bは、第1の疎水性ブロック4Bと第2の疎水性ブロック5Bを含む。
【0015】
本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルの粒径は、20nm~100nmであることが好ましく、35nm~50nmであることがより好ましい。さらに、ポリイオンコンプレックスミセルは、多分散指数が0.05~0.3であることが好ましく、0.05~0.1であることがより好ましい。
【0016】
(ブロック共重合体)
ブロック共重合体において、親水性ブロックと疎水性ブロックの「親水性」と「疎水性」は相対的なものである。親水性ブロックと疎水性ブロックの「親水性」と「疎水性」は、logP値によって定義されることがある。logP値は、オクタノール/水分配係数(Pow)の対数であり、広範囲の化合物についてその親水性/疎水性を特徴付けることができる有効なパラメータである。つまり、logP値が0より大きく、プラス側に増加すると疎水性が高くなり、マイナス側に向かって増加すると親水性が高くなる。
【0017】
第1の親水性ブロックおよび第1の疎水性ブロックの各々は、1種類の繰り返し単位を有していてもよいし、2種類以上の繰り返し単位を有していてもよい。
第2の親水性ブロックおよび第2の疎水性ブロックの各々は、1種類の繰り返し単位を有していてもよいし、2種類以上の繰り返し単位を有していてもよい。
以下、第1の親水性ブロックおよび第2の親水性ブロックは「親水性ブロック」と総称されることがあり、第1の疎水性ブロックおよび第2の疎水性ブロックは「疎水性ブロック」と総称されることがある。
【0018】
親水性ブロックの繰り返し単位の数および分子量は、アニオン性分子薬物の分子量に応じて適切に制御することができる。
親水性ブロックの繰り返し単位の数は、例えば、1以上、5以上、10以上、20以上、または45以上であってよい。さらに、親水性ブロックの繰り返し単位の数は、例えば、1000以下、700以下、または450以下であってよい。
親水性ブロックの分子量は、例えば、1,000Da以上、2,000Da以上、または5,000Da以上であってよい。親水性ブロックの分子量は、例えば、40,000Da以下、30,000Da以下、または20,000Da以下であってよい。
【0019】
疎水性ブロックの繰り返し単位の数および分子量は、アニオン性分子薬物の分子量に応じて適切に制御することができる。
疎水性ブロックの繰り返し単位の数は、例えば、5以上、10以上、または20以上であってよい。疎水性ブロックの繰り返し単位の数は、例えば、1000以下、800以下、600以下、500以下、300以下、200以下、100以下、または60以下であってよい。
疎水性ブロックの分子量は、例えば、1,000Da以上、2,000Da以上、3,000Da以上、または5,000Da以上であってよい。疎水性ブロックの分子量は、例えば、50,000Da以下、30,000Da以下、16,000Da以下、または10,000Da以下であってよい。
【0020】
親水性ブロックの具体例としては、ポリエチレングリコール由来の繰り返し単位、ポリ(エチルエチレンホスフェート)由来の繰り返し単位、ポリビニルアルコール由来の繰り返し単位、ポリビニルピロリドン由来の繰り返し単位、ポリ(オキサゾリン)由来の繰り返し単位、およびポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)由来の繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1種の繰り返し単位を有するブロックが挙げられる。これらの例の中でも、親水性ブロックとしては、ポリエチレングリコール由来の繰り返し単位を有するブロックが好ましい。
【0021】
疎水性ブロックとしては、例えば、アミノ酸およびその誘導体に由来する繰り返し単位、好ましくはポリアミノ酸およびその誘導体に由来する繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1種の繰り返し単位を有するブロックが挙げられる。ポリアミノ酸の例としては、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリ(2,6-ジアミノヘプタン酸)、ポリ(2,8-ジアミノオクタン酸)、ポリ(2,9-ジアミノノナン酸)、ポリアルギニンおよびポリヒスチジンが挙げられる。アミノ酸誘導体の例としては、ポリ[N-(2-アミノエチル)アスパルトアミド](PAsp-(EDA))、ポリ{N-[N’-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]アスパルトアミド}(PAsp(DET))、ポリ(N-{N’-[N”-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]-2-アミノエチル}アスパルトアミド)(PAsp(TET))およびポリ[N-(N’-{N”-[N’’’-(2-アミノエチル)-2-アミノエチル]-2-アミノエチル}-2-アミノエチル)アスパルトアミド](PAsp(TEP))が挙げられる。
これらの例の中でも、疎水性ブロックは、ポリリジンに由来する繰り返し構造で構成されていることが好ましい。
【0022】
第1のブロック共重合体鎖の第1の親水性ブロックと、第2のブロック共重合体鎖の第2の親水性ブロックは、同じであっても異なっていてもよい。
第1のブロック共重合体鎖の第1の親水性ブロックの繰り返し単位の数と、第2のブロック共重合体鎖の第2の親水性ブロックの繰り返し単位の数は、同じであっても異なっていてもよい。
第1のブロック共重合体鎖の第1の疎水性ブロックと、第2のブロック共重合体鎖の第2の疎水性ブロックは、同じであっても異なっていてもよい。
第1のブロック共重合体鎖の第1の疎水性ブロックの繰り返し単位の数と、第2のブロック共重合体鎖の第2の疎水性ブロックの繰り返し単位の数は、同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
架橋ブロック部分は、ヒドラゾン結合を有するものであれば特に限定されない。架橋ブロック部分は、互いに架橋された第1の架橋ブロックと第2の架橋ブロックとで構成されていてもよい。第1の架橋ブロックと第2の架橋ブロックとを架橋する連結基は、ヒドラゾン結合を有する。以下、第1の架橋ブロックと第2の架橋ブロックは、「架橋ブロック」と総称されることがある。
典型的には、架橋ブロック部分は、第1の架橋ブロックの繰り返し単位と第2の架橋ブロックの繰り返し単位とがヒドラゾン結合によって連結された繰り返し単位を有する。アミノ酸およびその誘導体としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、オルニチン、ベンジルアスパラギン酸、ベンジルグルタミン酸およびそれらの誘導体が挙げられる。架橋ブロックは、ポリアミノ酸またはその誘導体、例えば、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリ(ベンジルアスパラギン酸)およびポリ(ベンジルグルタミン酸)で構成されてもよい。
【0024】
以下、第1の架橋ブロックの繰り返し単位と第2の架橋ブロックの繰り返し単位とがヒドラゾン結合によって連結された繰り返し単位は、「繰り返し単位(c1)」と称されることがある。第2の架橋ブロックの繰り返し単位に架橋された第1の架橋ブロックの繰り返し単位は、「繰り返し単位(c1-1)」と称されることがある。第1の架橋ブロックの繰り返し単位に架橋された第2の架橋ブロックの繰り返し単位は、「繰り返し単位(c1-2)」と称されることがある。
一実施形態では、繰り返し単位(c1)は、好ましくは式(c1)で表される。架橋ブロック部分は、1種類の繰り返し単位(c1)を有していてもよいし、2種類以上の繰り返し単位(c1)を有していてもよい。
【0025】
【化3】
上式で、mは、1または2を表し;L
1は、2価の連結基を表し;R
1は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し;R
2は、水素原子またはメチル基を表し;L
2は、単結合または2価の連結基を表し;nは、1または2を表す。
【0026】
L1、R1、R2、L2、mおよびnは、下記式(I)中のL1、R1、R2、L2、mおよびnについて定義されるものと同じである。
【0027】
第1の架橋ブロックは、繰り返し単位(c1-1)に加えて、第2の架橋ブロックの繰り返し単位と架橋していない繰り返し単位(c2-1)を有していてもよい。第2の架橋ブロックは、繰り返し単位(c1-2)に加えて、第1の架橋ブロックの繰り返し単位と架橋していない繰り返し単位(c2-2)を有していてもよい。繰り返し単位(c2-1)および繰り返し単位(c2-2)は、アミノ酸またはその誘導体に由来し得る。アミノ酸およびその誘導体の例としては、上述したものと同じものが挙げられる。第1の架橋ブロックは、1種類の繰り返し単位(c2-1)を有していてもよいし、2種類以上の繰り返し単位(c2-1)を有していてもよい。第2の架橋ブロックは、1種類の繰り返し単位(c2-2)を有していてもよいし、2種類以上の繰り返し単位(c2-2)を有していてもよい。第1の架橋ブロックを構成するすべての繰り返し単位に対する繰り返し単位(c1-1)の割合は、30モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、60モル%以上であってよい。第2の架橋ブロックを構成するすべての繰り返し単位に対する繰り返し単位(c1-2)の割合は、30モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、60モル%以上であってよい。
【0028】
本実施形態では、ブロック共重合体は、式(I)で表されることが好ましい。
【0029】
【化4】
上式で、Aは、第1の親水性ブロックまたは第2の親水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し;Bは、第1のカチオン性疎水性ブロックまたは第2のカチオン性疎水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し:mは1または2を表し:L
1は2価の連結基を表し:R
1は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し:R
2は、水素原子またはメチル基を表し:L
2は、単結合または2価の連結基を表し:nは1または2を表す。
【0030】
式(I)中、Aは親水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し、親水性ブロックについて上述した繰り返し単位と同じ繰り返し単位を用いることができる。
式(I)中、Bはカチオン性疎水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し、疎水性ブロックについて上述した繰り返し単位と同じ繰り返し単位を用いることができる。
mは、1または2、好ましくは1を表す。
nは、1または2、好ましくは1を表す。
【0031】
式(I)中、L1は2価の連結基を表す。2価の連結基は、特に制限されないが、その好ましい例としては、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基、およびヘテロ原子を含有する2価の連結基が挙げられる。
【0032】
L1が置換基を有していてもよい2価の連結基である場合、炭化水素基は、脂肪族炭化水素基かまたは芳香族炭化水素基のいずれかであってよい。
【0033】
L1の脂肪族炭化水素基の例としては、直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基、およびその構造中に環を含有する脂肪族炭化水素基が挙げられる。
直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基は、好ましくは1~10個の炭素原子、より好ましくは1~6個の炭素原子、さらに好ましくは1~4個の炭素原子、最も好ましくは1~3個の炭素原子を有する。
直鎖脂肪族炭化水素基としては、直鎖アルキレン基が好ましい。その具体例としては、メチレン基[-CH2-]、エチレン基[-(CH2)2-]、トリメチレン基[-(CH2)3-]、テトラメチレン基[-(CH2)4-]、ペンタメチレン基[-(CH2)5-]が挙げられる。
分枝脂肪族炭化水素基としては、分枝アルキレン基が好ましく、具体例としては、-CH(CH3)-、-CH(CH2CH3)-、-C(CH3)2-、-C(CH3)(CH2CH3)-、-C(CH3)(CH2CH2CH3)-、-C(CH2CH3)2-などのアルキルメチレン基;-CH(CH3)CH2-、-CH(CH3)CH(CH3)-、-C(CH3)2CH2-、-CH(CH2CH3)CH2-、および-C(CH2CH3)2-CH2-などのアルキルエチレン基;-CH(CH3)CH2CH2-、および-CH2CH(CH3)CH2-などのアルキルトリメチレン基;ならびに-CH(CH3)CH2CH2CH2-、および-CH2CH(CH3)CH2CH2-などのアルキルテトラメチレン基をはじめとする、さまざまなアルキルアルキレン基が挙げられる。アルキルアルキレン基内のアルキル基として、炭素原子数1~5の直鎖アルキル基が好ましい。
直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していても有していなくてもよい。置換基の例としては、フッ素原子、炭素原子数1~5のフッ素化アルキル基、カルボニル基が挙げられる。
【0034】
L1の構造中に環を含む炭化水素基としては、例えば、その環構造中にヘテロ原子を含み、置換基(脂肪族炭化水素環から2個の水素原子が除去された基)を有していてもよい環状の脂肪族炭化水素基、上記鎖状の脂肪族炭化水素基の末端に環状の脂肪族炭化水素基が結合した基、上記直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基の内部に環状の脂肪族基が介在した基を挙げることができる。直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基として、上述した基と同じ基を使用することができる。
環状脂肪族炭化水素基は、好ましくは3~20個の炭素原子、より好ましくは3~12個の炭素原子を有する。
環状の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していても有していなくてもよい。置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシル基、カルボニル基が挙げられる。
【0035】
L1の芳香族炭化水素基は、少なくとも1つの芳香環を有する炭化水素基である。
芳香環は、それが(4n+2)π電子を有する環状の共役化合物であれば特に限定されず、単環であっても多環であってもよい。芳香環は、好ましくは5~30個の炭素原子、より好ましくは5~20個の炭素原子、さらに好ましくは6~15個の炭素原子、最も好ましくは6~12個の炭素原子を有する。ここで、1または複数の置換基内の炭素原子の数は、芳香族炭化水素基の炭素原子の数に含められない。芳香環の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素環;および上記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族ヘテロ環が挙げられる。芳香族ヘテロ環内のヘテロ原子の例としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子が挙げられる。
芳香族ヘテロ環の具体例としては、ピリジン環およびチオフェン環が挙げられる。
芳香族炭化水素基の具体例としては、上記芳香族炭化水素環または芳香族ヘテロ環から2個の水素原子を除去した基(またはヘテロアリーレン基);2個以上の芳香環を有する芳香族化合物(ビフェニル、フルオレンなど)から2個の水素原子を除去した基;および、上記芳香族炭化水素環または芳香族ヘテロ環の1個の水素原子がアルキレン基で置換された基(ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、または2-ナフチルエチル基などの上記アリールアルキル基、またはヘテロアリールアルキル基の中のアリール基から1個の水素原子が除去された基)が挙げられる。上記アリール基またはヘテロアリール基に結合するアルキレン基は、好ましく1~4個の炭素原子、より好ましく1または2個の炭素原子、最も好ましくは1個の炭素原子を有する。
L1の芳香族炭化水素基に関して、芳香族炭化水素基内の水素原子は置換基で置換されていてもよい。例えば、芳香族炭化水素基内の芳香環に結合した水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、およびヒドロキシル基が挙げられる。
【0036】
L1がヘテロ原子を含有する2価の連結基を表す場合、連結基の好ましい例としては、-O-、-C(=O)-O-、-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-NH-、-NH-C(=NH)-(アルキル基、アシル基などの置換基で置換されていてもよい)、-S-、-S(=O)2-、-S(=O)2-O-、および、一般式:-Y21-O-Y22-、-Y21-O-、-Y21-C(=O)-O-、-C(=O)-O-Y21-、-[Y21-C(=O)-O]m”-Y22-、-Y21-O-C(=O)-Y22-または-Y21-S(=O)2-O-Y22-[式中、Y21およびY22は、各々独立に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表し、Oは酸素原子を表し、m’は0~3の整数を表す]で表される基が挙げられる。
ヘテロ原子を含有する2価の連結基が-C(=O)-NH-、-C(=O)-NH-C(=O)-、-NH-または-NH-C(=NH)-である場合、Hはアルキル基、アシル基などの置換基で置換されていてもよい。置換基(アルキル基、アシル基など)は、好ましくは1~10個の炭素原子、より好ましくは1~8個、最も好ましくは1~5個の炭素原子を有する。
一般式-Y21-O-Y22-、-Y21-O-、-Y21-C(=O)-O-、-C(=O)-O-Y21-、-[Y21-C(=O)-O]m”-Y22-、-Y21-O-C(=O)-Y22-または-Y21-S(=O)2-O-Y22-において、Y21およびY22は各々独立に、置換基を有していてよい2価の炭化水素基を表す。2価の炭化水素基の例としては、上述の2価の連結基の説明において「置換基を有していてもよい2価の炭化水素基」として記載した基と同じ基が挙げられる。
Y21としては、直鎖脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは直鎖アルキレン基、さらに好ましくは炭素原子数1~5の直鎖アルキレン基であり、メチレン基またはエチレン基が特に望ましい。
Y22としては、直鎖状または分枝状の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチレン基、エチレン基またはアルキルメチレン基がより好ましい。アルキルメチレン基内のアルキル基は、炭素原子数1~5の直鎖アルキル基が好ましく、炭素原子数1~3直鎖アルキル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
式-[Y21-C(=O)-O]m”-Y22-で表される基では、m”は、0~3の整数、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0または1、最も好ましくは1を表す。すなわち、式-[Y21-C(=O)-O]m”-Y22-で表される基は、式-Y21-C(=O)-O-Y22-で表される基であることが特に望ましい。これらの中でも、式-(CH2)a’-C(=O)-O-(CH2)b’-で表される基が好ましい。式中、a’は、1~10の整数、好ましくは1~8の整数、より好ましくは1~5の整数、さらに好ましくは1または2、最も好ましくは1である。b’は、1~10の整数、好ましくは1~8の整数、より好ましくは1~5の整数、さらに好ましくは1または2、最も好ましくは1である。
【0037】
式(I)中、L1は、好ましくは2価の直鎖状または分枝状の炭化水素基または2価の芳香族炭化水素基、より好ましくは1個の水素原子がベンジル基から除去された基である。
【0038】
式(I)中、R1は、水素原子、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を表す。
R1としての脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびペンチル基が挙げられる。R1としての脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、およびトリハロメチル基が挙げられる。
R1としての芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、ヨードフェニル基、およびブロモフェニル基が挙げられる。
これらの中でも、R1は、好ましくは水素原子または脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0039】
式(I)中、L2の2価の連結基としては、L1について上述した基と同じの基が挙げられる。また、L2の2価の連結基は、式-LR-NH-N=C(R11)-L21-NH-で表される基であってもよい。式中、R11およびL21は、それぞれ式(I)中のR1およびL1について上に定義したものと同じである。LRはリンカーの2価の残基を表す。リンカーの例としては、ジヒドラジドリンカー、ジスルフィドリンカー、アセタールリンカー、およびケタールリンカーが挙げられる。
上記の例の中で、L2としては、単結合または式-LR-NH-N=C(R11)-L21-NH-で表される基が好ましく、単結合がより好ましい。
【0040】
(アニオン性分子薬物)
本明細書で使用される場合、「アニオン性分子薬物」とは、正味負電荷を有する薬物分子を指す。アニオン性分子薬物は、小分子薬物、中分子薬物、高分子薬物、または核酸薬物であり得る。核酸薬物の例としては、限定されるものではないが、アンチセンス核酸、低分子干渉核酸(例えば、siRNA)、miRNA、mRNA、およびプラスミドDNAが挙げられる。
アニオン性分子薬物は、分子量が20,000Da以下であることが好ましい。アニオン性分子薬物の分子量は、15,000Da以下、10,000Da以下、8,000Da以下、5,000Da以下、3,000Da以下、2,000Da以下、または1,000Da以下であってよい。より具体的には、小分子薬物は、1,000Da以下の分子量を有していてよい。核酸薬物は、20,000Da以下の分子量を有していてよい。
アニオン性分子薬物は、好ましくは、生理的pHで-25~-1の正味負電荷を有する。生理的pHは、pH6.5~8、好ましくはpH7~7.5であり得る。一実施形態では、生理的pHは約pH7.4であり得る。
アニオン性分子薬物の例としては、シタラビン三リン酸、ゲムシタビン三リン酸、フルダラビン三リン酸、クラドリビン三リン酸、カペシタビン三リン酸、トロキサシタビン三リン酸、クロファラビン三リン酸、コンブレタスタチンA1二リン酸、アデノシン三リン酸、環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸、環状ジグアノシン一リン酸、パルミトイル補酵素A、マロニル補酵素Aが挙げられる。これらの例の中でも、シタラビン三リン酸、ゲムシタビン三リン酸が好ましい。
核酸薬物の具体例としては、限定されるものではあるが、ルシフェラーゼASO、ホミビルセン、ミポメルセン、デフィブロチド、エテプリルセン、ペガプチニブ(pegaptinib)、ヌシネルセンが挙げられる。これらの例の中で、ルシフェラーゼASOが好ましい。
【0041】
第2の実施形態:
図2は、本発明のポリイオンコンプレックスミセルのもう一つの実施形態を示す模式図である。
図2に示すように、ポリイオンコンプレックスミセル1’は、ブロック共重合体2’とアニオン性分子薬物3との自己組織化により形成される。具体的には、カチオン性疎水性ブロック部分Bとアニオン性分子薬物3との間のイオン相互作用により、アニオン性分子薬物3が担持されたコアB2が形成される。架橋ブロック部分Cは、コアB2を囲み、コアB2を安定化させる。親水性ブロック部分Aがシェルを形成することにより、ポリイオンコンプレックスミセル1’が形成される。
【0042】
架橋ブロック部分CがコアB2を取り囲んでいるため、細胞内のエンドソームのpHの低下のような生理学的誘因がない限り、アニオン性分子薬物3を漏出から防ぐことができる。
【0043】
ブロック共重合体2’は、第1のブロック共重合体鎖4と第2のブロック共重合体鎖5’で構成される。第1のブロック共重合体鎖4は、第1の親水性ブロック4A、第1の架橋ブロック4C、第1のカチオン性疎水性ブロック4Bをこの順に含む。第2のブロック共重合体鎖5’は、第2の親水性ブロック5A、および第2の架橋ブロック5Cを含む。ブロック共重合体2’は、第1のブロック共重合体鎖4の架橋ブロック4Cと第2のブロック共重合体鎖5’の架橋ブロック5Cとの間の架橋によって形成される。親水性ブロック部分Aは、第1の親水性ブロック4Aと第1の親水性ブロック5Aを含む。疎水性ブロック部分Bは、第1の疎水性ブロック4Bを含む。
【0044】
本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルの粒径は、20nm~100nmであることが好ましく、35nm~50nmであることがより好ましい。さらに、ポリイオンコンプレックスミセルは、多分散指数が0.05~0.3であることが好ましく、0.05~0.15であることがより好ましい。
【0045】
(ブロック共重合体)
親水性ブロック部分、第1の親水性ブロック、および第2の親水性ブロックは、上述したものと同じである。
架橋ブロック部分、第1の架橋ブロック、および第2の架橋ブロックは、上述したものと同じである。
本実施形態では、第2のブロック共重合体鎖は、疎水性ブロックを含まない。疎水性ブロック部分は、第1のブロック共重合体鎖の第1の疎水性ブロックで構成されていてよい。第1の疎水性ブロックは、上記第1の実施形態の第1の疎水性ブロックと同じである。
【0046】
第1のブロック共重合体鎖の第1の親水性ブロックと、第2のブロック共重合体鎖の第2の親水性ブロックは、同じであっても異なっていてもよい。
第1のブロック共重合体鎖の第1の親水性ブロックの繰り返し単位の数と、第2のブロック共重合体鎖の第2の親水性ブロックの繰り返し単位の数は、同じであっても異なっていてもよい。
【0047】
本実施形態では、ブロック共重合体は、式(II)で表されることが好ましい。
【0048】
【化5】
上式で、Aは、第1の親水性ブロックまたは第2の親水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し;Bは、第1のカチオン性疎水性ブロックを構成する繰り返し単位を表し:mは1または2を表し:L
1は2価の連結基を表し:R
1は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し:R
2は、水素原子またはメチル基を表し:L
2は、単結合または2価の連結基を表し:nは1または2を表す。
【0049】
A、B、m、L1、R1、R2、L2、およびnは、それぞれ式(I)のA、B、m、L1、R1、R2、L2、およびnについて定義したものと同じである。
【0050】
第2の架橋ブロックの末端基は特に限定されない。第2の架橋ブロックの末端基の例としては、限定されるものではないが、水素原子、1~5個の炭素原子を有するアシル基(例えば、アセチル基)、アミノ基、1~5個の炭素原子を有するアルキル基(例えば、メチル基)、1~5個の炭素原子を有するアルコキシ基(例えば、メトキシ基)が挙げられる。
【0051】
(アニオン性分子薬物)
アニオン性分子薬物は、上記の第1の実施形態のアニオン性分子薬物と同じである。
【0052】
<ポリイオンコンプレックスミセルの作製方法>
第1の実施形態:
第1の実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルは、式(Ia-1)で表される化合物(Ia-1)と、式(Ia-2)で表される化合物(Ia-2)とを反応させて、式(I)で表されるブロック共重合体を得、このブロック共重合体をアニオン性分子薬物とともに自己組織化させることにより調製することができる。
【0053】
【化6】
上式で、A、Bおよびmは式(I)のA、Bおよびmについて定義したものと同じであり;Ra
11は水素原子を表し;La
1は、アルキレン基、アリーレン基またはアラルキレン基を表し、但し、La
1は、ヒドラジド基またはヒドラジン基と不活性な置換基を有していてもよい;Ra
12は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し;Ra
21は、水素原子またはメチル基を表し;Ra
22およびRa
23は水素原子を表す。
【0054】
式(Ia-1)中、Ra11は水素原子を表す。
式(Ia-1)中、Ra12は、式(I)中のR1について定義したものと同じである。
La1のアルキレン基、アリーレン基またはアラルキレン基として、式(I)のL1の2価の連結基について上述したのと同じアルキレン基、アリーレン基またはアラルキレン基が選択されてよい。
【0055】
式(Ia-2)中、Ra21は水素原子またはメチル基を、好ましくは水素原子を表す。
【0056】
本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルを作製するための反応スキームの一例を以下に示す。
【0057】
【0058】
あるいは、式(I)中のL2が式-LR-NH-N=C(R1)-L1-NH-で表される基である場合には、次式(Ib)で表されるブロック共重合体をリンカーで架橋して、式(I)で表されるブロック共重合体を得てもよい。
【0059】
【化8】
上式で、A、Bおよびmは式(I)のA、Bおよびmについて定義したものと同じであり;Lb
1、Rb
11およびRb
12は、それぞれ式(Ia-1)のLa
1、Ra
11およびRa
12について定義したものと同じである。
【0060】
本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルを作製するための代替反応スキームの一例を以下に示す。
【0061】
【0062】
第2の実施形態:
第2の実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルは、式(IIa-1)で表される化合物(IIa-1)と、式(IIa-2)で表される化合物(IIa-2)とを反応させて、式(II)で表されるブロック共重合体を得、このブロック共重合体をアニオン性分子薬物とともに自己集合させることにより調製することができる。
【0063】
【化10】
上式で、A、Bおよびmは式(I)のA、Bおよびmについて定義したものと同じであり;Ra
11は水素原子を表し;La
1は、アルキレン基、アリーレン基またはアラルキレン基を表し、但し、La
1は、ヒドラジド基またはヒドラジン基と不活性な置換基を有していてもよい;Ra
12は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表し;Ra
21は、水素原子またはメチル基を表し;Ra
22およびRa
23は水素原子を表す。
【0064】
式(IIa-1)中のRa11、Ra12およびLa1は、式(Ia-1)中のRa11、Ra12およびLa1について定義したものと同じである。
式(IIa-2)中のRa21、Ra22およびRa23は、式(Ia-2)中のRa21、Ra22およびRa23について定義したものと同じである。
【0065】
本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルを作製するための反応スキームの一例を以下に示す。
【0066】
【0067】
あるいは、式(II)中のL2が式-LR-NH-N=C(R1)-L1-NH-で表される基である場合には、式(IIb-1)で表されるブロック共重合体と式(IIb-2)で表されるブロック共重合体とを、リンカーを用いて架橋して、式(II)で表されるブロック共重合体を得ることができる。
【0068】
【化12】
上式で、A、Bおよびmは式(I)のA、Bおよびmについて定義したものと同じであり;Rb
11およびRb
21は水素原子を表し;Lb
1およびLb
2は、アルキレン基、アリーレン基またはアラルキレン基を表し、但し、Lb
1およびLb
2は、ヒドラジド基またはヒドラジン基と不活性な置換基を有していてもよい;Rb
12およびRb
22は、水素原子、脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表す。
【0069】
式(IIb-1)中のRb11、Rb12およびLb1は、それぞれ式(Ia-1)のRa11、Ra12およびLa1について定義したものと同じである。
式(IIb-2)中のRb21、Rb22およびLb2は、それぞれ式(Ia-1)のRa11、Ra12およびLa1について定義したものと同じである。
【0070】
本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルを作製するための代替反応スキームの一例を以下に示す。
【0071】
【0072】
ポリイオンコンプレックスミセルは、1種類のブロック共重合体または2種類以上のブロック共重合体を含んでいてよい。
ポリイオンコンプレックスミセルは、1種類のアニオン性分子薬物または2種類以上のアニオン性分子薬物を含んでいてよい。
ポリイオンコンプレックスミセルに含まれるブロック共重合体は、機能性分子と結合されていてもよい。機能性分子の例としては、例えば、標的部位にポリイオンコンプレックスミセルを送達するためのターゲティング分子が挙げられる。ターゲティング分子の例としては、特定の分子に特異的に結合することができる特異的結合分子、例えば、ペプチド、抗体またはその断片など、およびリガンド分子が挙げられる。機能性分子は、第1のブロック共重合体鎖の第1の親水性ブロックの末端と、第2のブロック共重合体鎖第2の親水性ブロックの末端のいずれかまたは両方に結合されていてもよい。機能性分子は、クリックケミストリーなどの従来の方法によってブロック共重合体に結合させることができる。
【0073】
上記の本発明によるポリイオンコンプレックスミセルは、親水性ブロック部分、カチオン性疎水性ブロック部分、および親水性ブロック部分とカチオン性疎水性ブロック部分との間に位置する架橋ブロック部分を有するブロック共重合体を含む。上記のように、アニオン性分子薬物が担持されたコアを架橋ブロック部分が取り囲み、親水性ブロック部分がシェルを形成するため、コアが安定化される。その結果、アニオン性分子薬物を安定に封入することが可能となる。特に、本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルは、従来の方法では安定に封入することができないアニオン性分子薬物に適用することができる。
さらに、本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルは、以下の利点を有する。サイズが約40~50nmの単分散粒子が形成され、ほとんどの架橋ミセルは、従来の非架橋ミセルと比較して生理食塩水中で狭い多分散性を維持する。さらに、生理食塩水中での薬物の放出速度は、従来の非架橋ミセルよりも遅い。さらに、ポリマー構造を変更させて、さまざまな特性を付与することができる。
さらに、本実施形態によるポリイオンコンプレックスミセルは、優れた細胞膜透過性を有するため、細胞内への取り込みを効率的に行うことができる。
【実施例】
【0074】
本発明を以下の実施例に基づいて詳細に説明する。しかし、本発明の実施形態は、これらの実施例の説明に限定されるものではない。
【0075】
[合成例1:トリブロック共重合体、PEG-PBLA-PLys(TFA)の合成]
トリブロックコポリマーPEG-PBLA-PLys(TFA)の合成は、以下のようにN-カルボキシ無水物(NCA)開環重合(ROP)によって行った。第1のROPステップの開始剤は、α-メトキシ-ω-アミノ-ポリ(エチレングリコール)(Mw12,000;PEG-NH2)であり、PEG-ポリ(β-ベンジルL-アスパラギン酸)ジブロック共重合体(PEG-PBLA)を生成した。PEG-NH2を真空で一晩乾燥させ、DMFに溶解した。BLA-NCA(22当量)もDMFに溶解し、次に、Ar雰囲気下でPEG-NH2溶液に添加し、その後、35℃で72時間反応させた。ポリマーを、n-ヘキサンと酢酸エチル(6:4)の混合物中で沈殿させ、続いて濾過し、真空乾燥させることにより、反応混合物から分離した。
【0076】
次に、得られたPEG-PBLAをLys(TFA)-NCAの第2のROPの開始剤として使用して、PEG-PBLA-PLys(TFA)を得た。PEG-PBLAを真空で一晩乾燥させ、DMSOに溶解した。Lys(TFA)-NCA(40当量)もDMSOに溶解した後、Ar雰囲気下でPEG-PBLA溶液に添加し、その後、35℃で72時間反応させた。トリブロック共重合体を、n-ヘキサンと酢酸エチル(6:4)の混合物中で沈殿させ、続いて濾過し、最後に真空乾燥させることにより、反応混合物から分離した。
【0077】
【0078】
[合成例2:PEG-PBLA-PLys(TFA)のアミノリシスおよび脱保護]
PEG-PBLA-PLys(TFA)(50mg)を、芳香族アミノアセタールリンカー、1-[4-(ジメトキシメチル)フェニル]メタンアミン(30当量)を添加したDMFに溶解した。反応混合物を40℃で72時間攪拌した。その後、3mLのメタノールおよび100μLの5N NaOHを添加することにより、PLys(TFA)鎖の脱保護を行った。反応を一晩進行させた。次に、透析液を5回交換した7500Da分子量カットオフ(MWCO)の透析バッグを使用して、混合物を希酸および水に対して48時間透析した。酸に対して透析すると、アセタールはアルデヒド官能基に変換される。この溶液を真空下で凍結乾燥して、変性トリブロック共重合体((PEG-PAsp(ArAld)-PLys))を得た。
【0079】
【0080】
[合成例3:PEG-PBLA-PLys(TFA)のヒドラジン分解および脱保護]
PEG-PBLA-PLys(TFA)のヒドラジン分解は以下のように行った。PEG-PBLA-PLys(TFA)(50mg)を、過剰量のヒドラジン一水和物(50μL)を添加したDMFに溶解した。反応混合物を40℃で4時間攪拌した。その後、3mLのメタノールおよび100μLの5N NaOHを添加することにより、PLys(TFA)鎖の脱保護を行った。反応を一晩進行させた。次に、透析液を5回交換した7500Da分子量カットオフ(MWCO)の透析バッグを使用して、混合物を希酸および水に対して48時間透析した。この溶液を真空下で凍結乾燥して、変性トリブロック共重合体(PEG-PAsp(Hyd)-PLys)を得た。
【0081】
【0082】
[実施例1:ポリイオンコンプレックスミセル(1)の調製]
トリブロック共重合体PEG-PAsp(ArAld)-PLys(1)およびトリブロック共重合体(PEG-PAsp(Hyd)-PLys)のポリマー溶液をそれぞれ10mMリン酸緩衝液(PB)pH5に2mg/mLの濃度で分散させた。得られた溶液を1mMゲムシタビン三リン酸と単純に混合してカチオン対アニオン比を1:1にし、10mM PB pH7.4で所望の濃度に希釈した後、ボルテックスした。ミセルを4℃で48時間架橋させた後、0.22μMシリンジフィルターに通した。
図1に示されるように、架橋ミセル(ポリイオンコンプレックスミセル(1))が、アニオン性薬物カーゴをもつポリマーの自動的な自己組織化により形成され、以下の反応スキームに示されるように、ポリマー間でヒドラゾン結合の形成が起こった。
【0083】
【0084】
[実施例2:ポリイオンコンプレックスミセル(2)の調製]
PEG-PAsp(ArAld)-PLys(1)の代わりに、PAsp(ArAld)の鎖長が12~22繰り返し単位であるトリブロック共重合体PEG-PAsp(ArAld)-PLys(2)を使用したことを除いて、実施例1と同じ手順を行って、ポリイオンコンプレックスミセル(2)を得た。
【0085】
[実施例3:ポリイオンコンプレックスミセル(3)の調製]
トリブロック共重合体PEG-PAsp(ArAld)-PLysの代わりに、トリブロック共重合体PEG-PAsp(芳香族ケトン)-PLys(PEG-PAsp(ArKet)-PLys(1))を使用したことを除いて、実施例1と同じ手順を行って、ポリイオンコンプレックスミセル(3)を得た。
【0086】
[実施例4:ポリイオンコンプレックスミセル(4)の調製]
PEG-PAsp(ArKet)-PLys(1)の代わりに、PAsp(ArKet)の鎖長が12~22繰り返し単位であるトリブロック共重合体PEG-PAsp(ArKet)-PLys(2)を使用したことを除いて、実施例3と同じ手順を行って、ポリイオンコンプレックスミセル(4)を得た。
【0087】
[実施例5:ポリイオンコンプレックスミセル(5)の調製]
ゲムシタビン三リン酸の代わりにシタラビン三リン酸を使用したことを除いて、実施例1と同じ手順を行って、ポリイオンコンプレックスミセル(5)を得た。
【0088】
[比較例1:比較ポリイオンコンプレックスミセル(1)の調製]
ジブロック共重合体PEG-PLysのポリマー溶液を、10mMリン酸緩衝液(PB)pH5に2mg/mLの濃度で分散させた。これを1mMゲムシタビン三リン酸と単純に混合してカチオン対アニオン比を1:1にし、10mM PB pH7.4で所望の濃度に希釈した後、ボルテックスした。ミセルは、アニオン性薬物カーゴをもつポリマーの自動自己組織化によって形成された。次に、溶液を0.22μMシリンジフィルターに通して、比較ポリイオンコンプレックスミセル(1)を得た。
【0089】
[比較例2:比較ポリイオンコンプレックスミセル(2)の調製]
ゲムシタビン三リン酸の代わりにシタラビン三リン酸を使用したことを除いて、比較例1と同じ手順を行って、比較ポリイオンコンプレックスミセル(2)を得た。
【0090】
[ミセル径および多分散指数の評価(1)]
ポリイオンコンプレックスミセル(1)、ポリイオンコンプレックスミセル(5)、比較ポリイオンコンプレックスミセル(1)および比較ポリイオンコンプレックスミセル(2)に関して、ミセル径と多分散指数(PDI)を、動的光散乱(DLS)技術を用いて取得した。測定条件は以下の通りであった。
温度:25℃、測定角度:後方散乱173°、サンプルホルダー:石英キュベット、自動アテニュエータ検出、フィルタなし。
結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
[薬物放出の評価]
ポリイオンコンプレックスミセル(1)および比較ポリイオンコンプレックスミセル(1)について、薬物放出を以下のように評価した。
ミセル溶液を、Amicon Ultra-0.5mL遠心フィルタ(MWCO10000)にピペットで入れ、回転させた(14000g、15分、4℃)。次に、濾液を収集し、秤量した後、UV透過性96ウェルプレートに移した。その259nmでのUV吸収をマイクロプレートリーダーを用いて測定した。薬物封入量は、ミセルを形成するために添加した元の(±)-C75-CoA溶液の吸光度に対する濾液の吸光度の比を得ることによって計算した。
結果を表2に示す。
【0093】
【0094】
[実施例6:ポリイオンコンプレックスミセル(6)の調製]
ゲムシタビン三リン酸の代わりにルシフェラーゼASOを使用したことを除いて、実施例1と同じ手順を行って、ポリイオンコンプレックスミセル(6)を得た。
【0095】
[比較例3:比較ポリイオンコンプレックスミセル(3)の調製]
ゲムシタビン三リン酸の代わりにルシフェラーゼASOを使用したことを除いて、比較例1と同じ手順を行って、比較ポリイオンコンプレックスミセル(3)を得た。
[ミセル径および多分散指数の評価(2)]
ポリイオンコンプレックスミセル(6)および比較ポリイオンコンプレックスミセル(3)に関して、上記「ミセル径および多分散指数の評価(1)」と同様の方法で、ミセル径および多分散指数(PDI)を評価した。
結果を表3に示す。
【0096】
【0097】
[細胞取り込みの評価]
<架橋ポリイオンコンプレックスミセルの調製>
PEG-PAsp(ArAld)-PLys 12-22(PAsp(ArAld)の鎖長:12~22繰り返し単位)およびPEG-PAsp(Hyd)-PLys 12-22(PAsp(Hyd)の鎖長:12~22繰り返し単位)ポリマー溶液を、10mMリン酸緩衝液(PB)pH5に10mg/mLの濃度でそれぞれ分散させた。これらの溶液を7.88mMのFluor-CoA(Paraiso WKDら、Biomater.Sci.9(21)、7076-7091(2021))と単純に混合して1:1のカチオン対アニオン比を達成し、10mM PB pH7.4で所望の濃度に希釈した後、ボルテックスした。ミセルを4℃で24時間架橋させた後、0.22μMシリンジフィルターに通した。得られた架橋ポリイオンコンプレックスミセルのサイズは44±0.4nm、多分散指数は0.083であった。
【0098】
<DETミセルの調製>
PEG-PAsp(DET)12-69のポリマー溶液を、10mMリン酸緩衝液(PB)pH5に10mg/mLの濃度で分散させた。この溶液を7.88mMのFluor-CoAと単純に混合して1:1のカチオン対アニオン比を達成し、10mM PB pH7.4で所望の濃度に希釈した後、ボルテックスした。次に、溶液を0.22μMシリンジフィルターに通した。
【0099】
<評価方法>
ポリイオンコンプレックスミセルの細胞取り込みをRPMI2650透過モデル(Reichl S,Becker K.J.Pharm.Pharmacol.64(11),1621-1630(2012))によって評価した。Gonzalez-Carter Dら(J.Neuroendocrinol.28(6)(2016))に報告されているように、ポリイオンコンプレックスミセルおよびFluor-CoAの透過係数の測定を行った。RPMI2650(ヒト鼻上皮癌、ムチン発現細胞)を細胞として使用した。
【0100】
<結果>
結果を
図3および
図4に示した。
図3に示すように、架橋ポリイオンコンプレックスミセルは、より高い安定性のために、DETミセルよりも大きな細胞取り込みを示した。
【0101】
[トランスウェル透過性の評価]
<架橋ポリイオンコンプレックスミセルの調製>
Fluor-CoAの代わりに4kDaのFITC-デキストランを使用したことを除いて、[細胞取り込みの評価]に記載した手順と同じ手順を行った。
【0102】
<評価方法>
トランスウェルを用いたRPMI2650の培養は、
図5に示すタイムラインに従って行った。トランスウェル透過性は、Reichl Sら(J.Pharm.Pharmacol.64(11),1621-1630(2012))に記載されている方法によって測定した。
【0103】
<結果>
結果を
図6に示した。FITC-デキストラン4kDaは、透過性が低かったため、最小限の傍細胞輸送を示した。FITC-デキストラン70kDaは膜を全く通過できなかった。対照的に、架橋ポリイオンコンプレックスミセルは良好なトランスウェル透過性を示した。
【0104】
[脳細胞への細胞取り込みの評価]
<架橋ポリイオンコンプレックスミセルの調製>
PEG-PAsp(Hyd)12-38(PAsp(Hyd)の鎖長:12~38繰り返し単位)の調製は、S,Cabral Hら(J.Control.Release 188,67-77(2014))に記載の方法に従って行った。
【0105】
【0106】
PEG-PAsp(ArAld)-PLys 12-22およびPEG-PAsp(Hyd)12-38のポリマー溶液をそれぞれ10mMリン酸緩衝液(PB)pH5に10mg/mLの濃度で分散させた。これらの溶液を7.88mMのFluor-CoAと単純に混合して1:1のカチオン対アニオン比を達成し、10mM PB pH7.4で所望の濃度に希釈した後、ボルテックスした。ミセルを4℃で24時間架橋させた後、0.22μMシリンジフィルターに通した。得られた架橋ポリイオンコンプレックスミセルのサイズは43±0.43nm、多分散指数は0.13であった。
図2は、架橋ポリイオンコンプレックスミセルの模式図を示す。
【0107】
<非架橋ポリイオンコンプレックスミセルの調製>
PEG-PAsp(ArAld)-PLys 12-22のポリマー溶液を、10mMリン酸緩衝液(PB)pH5に10mg/mLの濃度で分散させた。この溶液を7.88mMのFluor-CoAと単純に混合して1:1のカチオン対アニオン比を達成し、10mM PB pH7.4で所望の濃度に希釈した後、ボルテックスした。次に、溶液を0.22μMシリンジフィルターに通した。
図7は、非架橋ポリイオンコンプレックスミセルの模式図を示す。得られた非架橋ポリイオンコンプレックスミセルのサイズは43±0.97nm、多分散指数は0.13であった。
【0108】
<評価方法>
RPMI2650の代わりにKT-5(星状細胞)、BV-2(ミクログリア)、GT1-7(神経細胞)、またはラット初代脳内皮細胞を使用したことを除いて、[細胞取り込みの評価]に記載した手順と同じ手順を使用した。
【0109】
<結果>
結果を
図8~11に示した。いずれの細胞においても、架橋ポリイオンコンプレックスミセルは、非架橋ポリイオンコンプレックスミセルよりも効率的に細胞に取り込まれた。
【0110】
[ペプチド結合ミセルの作製]
PEG-PAsp(Hyd)12-38(メトキシ末端を有する)の代わりにアジド末端PEG-PAsp(Hyd)12-38を使用したことを除いて、[脳細胞への細胞取り込みの評価]に記載した手順と同じ手順を使用した。DBCO結合ペプチドのクリックコンジュゲーショは、Takemoto Hら(Bioconjug.Chem.23(8)、1503-1506(2012))に記載されるように、凍結融解法を用いて行った。手短に言えば、DBCOペプチドとアジド末端PEG-PAsp(Hyd)を等モル濃度で混合し、-30℃で8時間凍結させた。結果として生じるペプチド結合ポリマーを4℃で2時間解凍させ、次に、重炭酸アンモニウム緩衝液に対して透析し、凍結乾燥させて、結果として生じるポリマーを得た。
【0111】
本発明の好ましい実施形態を上記で説明および例示したが、これらは本発明の例示であり、限定するものと見なされるべきではないことを理解されたい。本発明の精神または範囲を逸脱することなく、追加、省略、置換、およびその他の変更を行うことができる。したがって、本発明は、前述の説明によって限定されると見なされるべきではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【国際調査報告】