(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ウシ乳汁由来エクソソームを投与することによって、筋肉の能力を高める、または慢性疲労を低減させる方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/20 20060101AFI20240110BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240110BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240110BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240110BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/889 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20240110BHJP
A61K 38/39 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/81 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/31 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/55 20060101ALI20240110BHJP
A61K 35/62 20060101ALI20240110BHJP
A61K 35/64 20150101ALI20240110BHJP
A61K 35/57 20150101ALI20240110BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20240110BHJP
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A61K 31/7016 20060101ALI20240110BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20240110BHJP
A61K 31/717 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/02 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/286 20060101ALI20240110BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20240110BHJP
A23C 21/08 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
A61K35/20
A23L33/10
A61P21/00
A61P9/04
A61K38/02
A61K36/889
A61K36/48
A61K36/899
A61K38/39
A61K36/81
A61K36/31
A61K36/185
A61K36/55
A61K35/62
A61K35/64
A61K35/57
A61K31/19
A61K31/718
A61K31/7016
A61K31/7004
A61K31/717
A61K36/02
A61K36/286
A61K36/28
A23C21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539302
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 US2021064354
(87)【国際公開番号】W WO2022146743
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008788
【氏名又は名称】アボット・ラボラトリーズ
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ペドロサ,ホセ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ルエダ カブレラ,リカルド
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア マルティネス,ホルヘ
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4C084
4C086
4C087
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B001AC03
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(57)【要約】
身体能力の向上を必要とする対象において筋肉の能力を高める方法は、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。ウイルス感染症から回復中、または回復した対象において慢性疲労を低減する方法は、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を、対象に投与することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体能力の向上を必要とする対象において筋肉の能力を高める方法であって、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を、それを必要とする前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
ウイルス感染症から回復中、または回復した対象において慢性疲労を低減する方法であって、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
前記ウイルス感染症が、エプスタインバーウイルス、ヒトヘルペスウイルス6及びコロナウイルスからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記コロナウイルスがCOVID-19である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記無処置ウシ乳汁由来エクソソームが、ホエー含有ウシ乳汁画分から供給される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記エクソソーム濃縮生成物が、少なくとも0.001重量%のエクソソームを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ウシ乳汁由来エクソソームの90%超が、直径約10ナノメートル~約250ナノメートルである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記エクソソーム濃縮生成物中の前記エクソソームの少なくとも約50重量%が無処置である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記エクソソーム濃縮生成物中の前記エクソソームの少なくとも約55、60、65、70、75、80、85、90または95重量%が無処置である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記エクソソーム濃縮生成物が少なくとも0.001重量%のエクソソームを含み、前記エクソソーム濃縮生成物中のエクソソームの少なくとも約50重量%が無処置である、及び/または前記エクソソーム濃縮生成物がラクトースフリーである、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記エクソソーム濃縮生成物をエクソソーム濃縮粉末の形態で投与する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記エクソソーム濃縮生成物をエクソソーム濃縮液の形態で投与する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含む前記エクソソーム濃縮生成物を、約0.01~約30gの投与量で前記対象に投与する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含む前記エクソソーム濃縮生成物を、前記対象に経口投与する、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が50歳以上のヒトの成人である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記筋肉が骨格筋である、請求項1及び5~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記筋肉が心筋である、請求項1及び5~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含む前記エクソソーム濃縮生成物を、タンパク質、炭水化物及び/または脂肪を含む栄養組成物中で前記対象に投与する、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記栄養組成物が、タンパク質、炭水化物、脂肪、ならびにビタミン及びミネラルからなる群から選択される1種以上の栄養素を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記栄養組成物が、前記栄養組成物の重量を基準として、約0.001~約30重量%の前記無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含む前記エクソソーム濃縮生成物を含む、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記タンパク質が、全卵粉末、卵黄粉末、卵白粉末、ホエータンパク質、ホエータンパク質濃縮物、ホエータンパク質単離物、ホエータンパク質加水分解物、酸カゼイン、カゼインタンパク質単離物、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼイン加水分解物、乳タンパク質濃縮物、乳タンパク質単離物、乳タンパク質加水分解物、脱脂粉乳、脱脂練乳、全乳、部分的または完全な脱脂乳、ココナッツミルク、大豆タンパク質濃縮物、大豆タンパク質単離物、大豆タンパク質加水分解物、エンドウ濃縮タンパク質、エンドウタンパク質単離物、エンドウタンパク質加水分解物、米タンパク質濃縮物、米タンパク質単離物、米タンパク質加水分解物、ソラマメタンパク質濃縮物、ソラマメタンパク質単離物、ソラマメタンパク質加水分解物、コラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質単離物、食肉タンパク質、ジャガイモタンパク質、ヒヨコマメタンパク質、キャノーラタンパク質、ヤエナリタンパク質、キノアタンパク質、アマランスタンパク質、チーアタンパク質、麻タンパク質、アマ種子タンパク質、ミミズタンパク質、昆虫タンパク質、1種以上のアミノ酸及び/またはそれらの代謝物、またはこれらの2種以上の組み合わせを含む、請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記1種以上のアミノ酸及び/またはそれらの代謝物が、1種以上の分岐鎖アミノ酸またはそれらの代謝物を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1種以上の分岐鎖アミノ酸またはそれらの代謝物が、アルファ-ヒドロキシ-イソカプロン酸(HICA)、ケトイソカプロエート(KIC)、β-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(HMB)、及びこれらの2種以上の組み合わせを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記栄養組成物が、前記栄養組成物の重量を基準として、約1重量%~約30重量%、約1重量%~約25重量%、約1~約20重量%、約1~約15重量%、約1~約10重量%、または約10重量%~約30重量%のタンパク質を含む、請求項18~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記炭水化物が、マルトデキストリン、加水分解デンプン、変性デンプン、加水分解コーンスターチ、変性コーンスターチ、ポリデキストロース、デキストリン、コーンシロップ、コーンシロップ固形物、米マルトデキストリン、玄米マイルド(mild)粉末、玄米シロップ、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、高フルクトースコーンシロップ、蜂蜜、マルチトール、エリトリトール、ソルビトール、イソマルツロース、スクロモルト、プルラン、ジャガイモデンプン、コーンスターチ、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、オート麦繊維、大豆繊維、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、グアーガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、コンニャク粉、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トラガカントゴム、カラヤゴム、アラビアゴム、キトサン、アラビノガラクタン、グルコマンナン、キサンタンゴム、アルギナート、ペクチン、低メトキシペクチン、高メトキシルペクチン、穀物ベータグルカン、カラギーナン、オオバコ、繊維、果物ピューレ、野菜ピューレ、イソマルトオリゴ糖、単糖、二糖、ヒトミルクオリゴ糖、タピオカ由来炭水化物、イヌリン、及び人工甘味剤、またはこれらの2種以上の組み合わせを含む、請求項18~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記栄養組成物が、前記栄養組成物の重量を基準として、約5重量%~約75重量%、約5重量%~約70重量%、約5重量%~約65重量%、約5重量%~約50重量%、約5重量%~約40重量%、約5重量%~約30重量%、約5重量%~約25重量%、約10重量%~約65重量%、約20重量%~約65重量%、約30重量%~約65重量%、約40重量%~約65重量%、または約15重量%~約25重量%の炭水化物を含む、請求項18~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記脂肪が、藻類油、キャノーラ油、アマニ油、ルリヂサ油、ベニバナ油、高オレイン酸ベニバナ油、高ガンマリノレン酸(GLA)ベニバナ油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、綿実油、ココナッツ油、椰子油、中鎖トリグリセリド(MCT)油、パーム油、パーム核油、パームオレイン、長鎖多価不飽和脂肪酸、またはこれらの2種以上の組み合わせを含む、請求項18~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記栄養組成物が、前記栄養組成物の重量を基準として、0.5重量%~20重量%、約0.5~約15重量%、約0.5~約10重量%、約0.5~約5重量%、または約5~約15重量%の脂肪を含む、請求項18~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記栄養組成物を粉末の形態で投与する、請求項18~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記栄養組成物を液体の形態で投与する、請求項18~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記栄養組成物が、前記栄養組成物の重量を基準として、約1~約15重量%のタンパク質、約0.5~約10重量%の脂肪、及び約5~約30重量%の炭水化物を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記栄養組成物が、前記栄養組成物の重量を基準として、約10~約30重量%のタンパク質、約5~約15重量%の脂肪、及び約30~約65重量%の炭水化物を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記栄養組成物が、乳タンパク質濃縮物及び/または大豆タンパク質単離物を含む少なくとも1種のタンパク質と、キャノーラ油、コーン油、ココナッツ油及び/または魚油を含む少なくとも1種の脂肪と、マルトデキストリン、スクロース及び/または短鎖フラクトオリゴ糖を含む少なくとも1種の炭水化物とを含む、請求項18~32のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を、それを必要とする対象に投与することによって、身体能力の向上を必要とする対象において筋肉の能力を高める方法に関する。本発明はまた、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を、対象に投与することによって、ウイルス感染症から回復中、または回復した対象において、慢性疲労を低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋は、体内で最も豊富な組織である。骨格筋の質量及び機能性は、寿命全体を通じて筋力、持久力及び身体能力の主な決定要因である。残念なことに、筋肉は、加齢に特に影響されやすい。ヒトの成人では、筋肉量は、通常35~40歳から、年当たり約0.4~1.0%、徐々に減少し始め、65歳以降、筋肉量の減少は劇的に加速する。筋肉量及び筋力が加齢によって低減しているが、それ以外は健康な高齢者は、サルコペニアと呼ばれる。サルコペニアの原因、及び年齢に関連する筋肉の能力低下に寄与する分子経路は完全には分かっていないが、ミトコンドリア機能不全及び生体エネルギーの異常が、病状の発生において主な役割を果たしているという、科学的な見解の一致がある。
【0003】
筋細胞において、エネルギー需要の大半は、酸化的リン酸化によって産生されるアデノシン三リン酸(ATP)によって満たされる。この過程は、アデノシン二リン酸(ADP)をリン酸化しATPを産生するために、ATP合成酵素によって利用される電気化学ポテンシャルの生成を通して、ミトコンドリア中で起こる。筋細胞は、筋細胞の合計ATP産生容量の一部のみが必要となる基礎レベルで稼働することができるが、突発的に多くのエネルギーを必要とする特定の状況がある。例えば、筋細胞は、ストレスまたは仕事量の増加に応答する必要があり得るが、その場合には、細胞機能を維持するために、より多くのATPが必要となる。ミトコンドリアによる基礎的なATP産生量と、最大限の活性によるATP産生量との差は、予備呼吸能(SRC)と呼ばれる。
【0004】
SRCは、ミトコンドリア生体エネルギーの最も重要な側面の1つである。異なる組織ではエネルギー必要量は変わり、ATP合成はそれに応じて上方制御、または下方制御されて組織のエネルギー需要を正確に満たすことがよく知られている。より大きなSRCを有する細胞は、より多くのATPを産生して、より多くのストレスを克服することができる。これは、電気で興奮する細胞、例えば筋肉細胞などにおいて特に重要となる。筋肉細胞は、筋肉収縮を引き起こすのに必要なイオン勾配を再確立するために、高いATP需要の期間に直面するためである。
【0005】
ミトコンドリアSRCは、ミトコンドリア機能の重要な側面と考えられている。SRCが不足し、必要とされるATPが十分に供給されないと、細胞は老化または死というリスクに晒されることとなる。骨格筋生検を用いた、17歳~91歳の範囲のヒトで行われたいくつかの大規模な試験では、ミトコンドリアSRC及び骨格筋の酸化能力の、年齢に関連する低下が示されている。
【0006】
骨格筋と同様に、心筋もミトコンドリアに富んでいる。心筋細胞のSRCは、圧負荷、虚血及び心不全などの心臓への苛酷なストレス条件下で、低下することが報告されている。この容量低下のために、心臓は生体エネルギー消耗に対してより脆弱となり、それによって心筋の死及び臓器不全が誘発される危険が高まる。したがって、例えばサルコペニア及び/または慢性もしくは急性の心臓の損傷を患う対象において、損なわれたミトコンドリア活性を回復させる助けとなり得る新しい治療を見いだすことが望ましい。
【0007】
上記に加えて、筋肉は、抗ウイルス幹T細胞を収容及び供給することも示されている。コロナウイルスなどの多くのウイルスは、ウイルス自身の複製を強化するために、ウイルスが感染する細胞の免疫系及びその他細胞の生体エネルギー及び酸化還元制御を調整する。ウイルスは、ミトコンドリアがすでに最適に近い状態で機能している場合、これらの系において過剰なストレスを誘発することができる。ウイルス感染症からの回復後に、多くの人が、疲労をはじめとする長期にわたる影響に苦しむ。ミトコンドリア機能と免疫との関係は、進行中の研究の焦点である一方で、ウイルス感染症から回復中、または回復した対象において、損なわれたミトコンドリア活性を回復させる助けとなる新しい治療を見いだすことが望ましいだろう。
【0008】
特定の食事因子を用いてミトコンドリアを標的とすることは、様々な状態、特にサルコペニア及び心筋の損傷に苦しむ、またはこれらのリスクに苦しむ対象において、筋肉の能力を高める簡便な方法であるだろう。またこの方法は、ウイルス感染症からの回復中または回復後に、慢性疲労を低減させるための簡便な方法でもあるだろう。したがって、身体能力の向上を必要とする対象、より具体的にはサルコペニア及び/または慢性もしくは急性の心臓の損傷に苦しむ、またはこれらのリスクに苦しむ対象において、筋肉の能力を高めるための、及び/またはCOVID-19などのウイルス感染症から回復中、もしくは回復した対象において慢性疲労を低減させるための、栄養的な介入戦略を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【0009】
したがって、身体能力の向上を必要とする対象において、筋肉の能力を高める方法を提供することが、本発明の目的である。
【0010】
また、ウイルス感染症から回復中、または回復した対象において、慢性疲労を低減する方法を提供することが本発明のもう1つの目的である。
【0011】
本発明は、身体能力の向上を必要とする対象において筋肉の能力を高める方法であって、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を対象とする。
【0012】
本発明はまた、ウイルス感染症から回復中、または回復した対象において慢性疲労を低減する方法であって、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を対象に投与することを含む方法を対象とする。
【0013】
本発明の方法は、身体能力の向上を必要とする対象において、ミトコンドリア機能を向上させるための簡便な方法を提供する点が有利であり、それによって筋肉の能力を向上させる。上記方法は、サルコペニア及び慢性もしくは急性の心臓の損傷を含む、予備呼吸能の低減に特徴づけられる状態の予防または治療に有用である。
【0014】
本発明の方法によって得られるミトコンドリア機能の向上はまた、ミトコンドリア機能不全を伴うウイルス性疾患、例えばCOVID-19からの回復中または回復後の慢性疲労を低減させるという点で有利である。本発明の方法の、これらの及びさらなる利点は、詳細な説明を考慮するとより完全に明らかになるであろう。
【0015】
図面は、本発明の特定の実施形態を例示するものであり、本質的に例示的なものであり、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例2に記載されるように、無処置ウシ乳汁由来エクソソーム含有エクソソーム濃縮生成物とともにインキュベートしたC2C12筋芽細胞の最大呼吸能への、ウシ乳汁由来エクソソームの作用を示す。
【
図2】実施例2に記載されるように、無処置ウシ乳汁由来エクソソーム含有エクソソーム濃縮生成物とともにインキュベートしたC2C12筋芽細胞の予備呼吸能への、ウシ乳汁由来エクソソームの作用を示す。
【
図3】実施例1に記載されるように、チーズホエーからラクトースフリーエクソソーム濃縮生成物を生成するための、噴霧乾燥または凍結乾燥と連結した膜ろ過工程のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の特定の実施形態が本明細書に記載される。しかし、本発明は異なる形態で具体化されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本発明の特定の実施形態のより具体的な特徴を当業者に説明するために提供される。
【0018】
本明細書に記載される用語は、実施形態の説明のみを目的としており、開示全体を限定するものと解釈されるべきではない。本開示の単数形の特徴または限定に関する全ての言及は、別段の指定がない限り、または言及される文脈によって反対のことが明確に示されない限り、対応する複数の特徴または限定を含むものとし、その逆もまた同様である。別段の指定がない限り、「a」、「an」、「the」、及び「少なくとも1つ」は、交換可能に使用される。加えて、明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、「a」、「an」、及び「the」という単数形は、文脈に明確な別段の記載がない限り、複数形も含む。
【0019】
明細書または特許請求の範囲において、用語「含む(includes)」または「含む(including)」が用いられる限りにおいて、これらの用語は、用語「含む(comprising)」と同様に、この用語が請求項で移行句として用いられるときに解釈されるように、追加の要素またはステップを含むことを意図する。さらに、用語「または」が用いられる限り(例えば、AまたはB)、「AまたはBまたは両方」を意味することを意図する。「両方ではなくAのみまたはBのみ」が意図される場合、用語「両方でなくAのみまたはBのみ」が用いられる。したがって、本明細書での用語「または」の使用は包括的であり、排他的使用ではない。「A及び/またはB」のように、用語「及び」と「または」がともに使用される場合、AまたはBと、A及びBとを示す。
【0020】
本明細書にて開示される百分率、部及び比率が挙げられるが、これらに限定されない全ての範囲及びパラメータは、その中に組み込まれるあらゆるサブ範囲、及び端点の間の全ての数値を包含するものと理解されたい。例えば、「1~10」と記載された範囲は、1以上の最小値で始まり、10以下の最大値で終わるあらゆるサブ範囲(例えば、1~6.1または2.3~9.4)、ならびにその範囲内に含まれる各整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10)を含むと見なされるべきである。
【0021】
本明細書で使用される方法または工程段階の任意の組み合わせは、別段の指定がない限り、または言及される文脈によって反対のことが明確に示されない限り、任意の順序で実施可能である。
【0022】
別段の指定がない限り、全てのパーセンテージは、重量によるパーセンテージである。
【0023】
本明細書で使用される用語「慢性疲労」は、長期間、例えば1週間、1ヶ月以上続く極度の疲労を指す。
【0024】
本明細書で使用される用語「高齢者対象」は、約50歳以上のヒトの成人を指す。
【0025】
本明細書で使用される用語「筋肉の能力を高める」は、筋力、筋肉の持久力、柔軟性、パワー(power)及び/または質量を高めることを意味する。筋力は、筋肉が1回の取り組みで作ることができる力の量として定義される。筋肉のパワーは、できるだけ短い時間で最大の力を発揮する筋肉の能力として定義される。筋持久力は、経時的に抵抗に対して力を発揮する筋肉の能力として定義される。柔軟性は、関節または一連の関節における動きの範囲、及び屈曲運動または動作を生じさせるための関節にまたがる筋肉の長さとして定義される。筋肉量は、体の筋肉の重量として定義され、平滑筋、骨格筋及びこれらの筋肉に含有される水の重量を含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物」は、別段の指定がない限り、エクソソームがその他のウシ乳汁成分、例えば脂質、細胞及び細片などから実質的に分離されており、ウシ乳汁中に見られるよりも高い量に濃縮されている生成物を示す。エクソソームは、小さな細胞外小胞であり、乳汁の総固形分の微量な割合を占める。特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、液体または粉末の形態で提供され、さらに共単離した乳汁固形物を含有する。
【0027】
本明細書で使用される用語「無処置エクソソーム」は、小胞の細胞膜が破裂していないエクソソーム、及び/またはそれ以外の場合は、小胞の細胞膜が分解されており、内因性成分、すなわちウシ乳汁由来エクソソームに生来存在する生理活性剤、治療物質(例えばmiRNA)及び/またはその他の生体分子が、そこに活性状態で保持されるエクソソームを意味する。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「粉末状エクソソーム」は、別段の指定がない限り、ウシ乳汁から単離されたエクソソームを含有する乾燥粉末を示す。単離したエクソソームを乾燥させ、乾燥粉末を形成する。単離したエクソソーム含有流体が、上述のように共単離した乳汁固形物も含有する場合、粉末状エクソソームは、得られる粉末中に、このようなその他の乳汁固形物も含有する。
【0029】
上記のように、本発明は、身体能力の向上を必要とする対象において、筋肉の能力を高める方法を対象とする。本方法は、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0030】
本発明はまた、ウイルス感染症から回復中、または回復した対象において、慢性疲労を低減する方法を対象とする。本方法は、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を対象に投与することを含む。特定の実施形態では、対象はウイルス感染症から回復中、または回復して、結果として慢性疲労が生じている。さらなる特定の実施形態では、慢性疲労という結果になっているウイルス感染症は、エプスタインバーウイルス、ヒトヘルペスウイルス6及びコロナウイルスからなる群から選択される。別の特定の実施形態では、コロナウイルスは、COVID-19である。
【0031】
いかなる特定の理論にも束縛されることは望まないが、本発明の方法は、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを、それを必要とする対象に投与することを介して、ミトコンドリア機能を高めることによって、筋肉の能力を高める、及び/または慢性疲労を低減する。本発明の発明者らは、驚くべきことに、無処置ウシ乳汁由来エクソソームが最大呼吸能及び予備呼吸能を大幅に高め、そのため対象に投与して、ミトコンドリア機能を向上させることができるということを発見した。向上したミトコンドリア機能によって、筋肉の能力の向上、及び/または慢性疲労の低減がもたらされる。このように、ミトコンドリア機能不全を治療することは、ウイルス感染症に続く疲労を軽減する有効な方法であり得る。
【0032】
上記のように、本発明の方法は、したがって、サルコペニア及び慢性もしくは急性の心臓の損傷を含む予備呼吸能の低減に特徴づけられる状態、及び/または、例えばCOVID-19などのウイルス感染症など、その他のミトコンドリア機能不全の予防または治療において有用である。無処置ウシ乳汁由来エクソソーム濃縮生成物は、ウシ乳汁のホエー画分から通常得られる。一例として、ホエー含有ウシ乳汁画分は、チーズホエーを含んでよい。一般的に、エクソソームは、エクソソーム小胞細胞膜を破壊しない穏やかな手順を用いて、ホエー含有ウシ乳汁画分から得られ、それによってエクソソームを無処置のままとし、エクソソーム構造内に活性生理活性剤を含有したままとする。
【0033】
脂質の細胞膜の破壊を回避するように配慮しながら、様々な方法を用いてエクソソームを単離してよい。新鮮なウシ乳汁、冷蔵したウシ乳汁、解凍した冷凍ウシ乳汁、またはそれ以外の場合は保存したウシ乳汁、またはエクソソームを含有する任意のウシ乳汁画分、例えばチーズホエーを、エクソソームの供給源として用いてよい。エクソソームの単離は、ウシから乳汁を得てすぐに単離を行うことを含んでよい。一例として、エクソソームの単離は、ウシから乳汁を得た時間から約1日、または約2日、または約3日、または約4日、または約5日、または約6日、または約7日以内に単離を行うことを含んでよい。エクソソームは、ウシから乳汁を得た時間から約10日以内に、または約14日以内に単離してよい。さらに、ウシ乳汁は、エクソソームを単離する工程のために冷凍し、その後解凍してもよく、ウシ乳汁は、ウシから乳汁を得た時間から約1日、または約2日、または約3日、または約4日、または約5日、または約6日、または約7日以内に冷凍するのが好ましい。解凍した乳汁は、解凍に際し直ちに処理することが好ましい。新鮮なウシ乳汁は、ウシから乳汁を得て約5日以内に処理を実施してよく、あるいは処理を実施する解凍したウシ乳汁は、ウシから乳汁を得て約5日以内に冷凍したウシ乳汁から解凍される。
【0034】
上述のように、ホエー含有ウシ乳汁画分、または具体的にはチーズホエーは、エクソソーム供給源の役割を担ってよい。チーズホエーは、チーズ製造またはカゼイン製造工程中の、カード形成後の乳汁の液体副生成物である。チーズホエーは、チーズ製造工程中にカゼイン画分からすでに分離されているため、極めて低いカゼイン含有量を有する。さらに、チーズホエーは、ラクトース、脂肪、タンパク質、無機塩を含む、乳汁栄養素の50%超を有利に保持し、また驚くべきことに、乳汁中に無処置の形態で本来存在した、多数のエクソソームを保持する。これらの利点に加えて、チーズホエーは生乳よりも安価であり、したがってチーズホエーを出発原料として利用すると、エクソソーム濃縮生成物の製造のための費用が著しく低下する。このように、チーズホエーは、乳汁エクソソームの単離及びエクソソーム濃縮生成物生成のために、新規かつ有望な供給源である。
【0035】
特定の実施形態では、酵素または酵素混合物、より具体的にはプロテアーゼ酵素、例えばキモシンを乳汁に適用してカゼインペプチド結合を加水分解し、それによって乳汁中で酵素によるカゼインの凝固を可能にすることによって、チーズホエーが得られる。このように、プロテアーゼ酵素がタンパク質を切断すると、乳汁中のカゼインが凝固し、ゲル構造を形成する。カゼインタンパク質のゲルネットワークと乳脂は、続いてともに収縮し、カードを形成する。カードから分離して得られた液体は、多くの場合、スイートホエーまたはチーズホエーと呼ばれ、通常約6.0~約6.5のpHを有し、ホエータンパク質、ラクトース、ミネラル、水、脂肪及びその他の低濃度成分を含む。
【0036】
上記のように、酵素または酵素混合物が、乳汁中のカゼインタンパク質を安定させるペプチドを切断することによって、乳汁画分中のカゼインタンパク質を不安定化できることが重要である。したがって、この目的に好適な任意のタンパク質分解酵素を、チーズホエーを得るために利用してよい。ただし、好ましい実施形態では、ウシ乳汁にレンネット酵素を添加し、酵素によるカゼインの凝固が得られることによって、チーズホエーが提供される。レンネット酵素は、チーズ製造工程において一般的に使用され、反芻類の哺乳動物の胃で産生される酵素セットを含む。これらの酵素としては通常、キモシン、ペプシン及びリパーゼが挙げられる。レンネット酵素混合物は、乳汁中のタンパク質を安定させるペプチドを、タンパク質分解で切断することによって、ウシ乳汁画分中のカゼインタンパク質を不安定化する。上記のように、乳汁中のカゼインは凝固し、乳脂とともに収縮して、チーズカードを形成する。残っている液体、すなわちスイートチーズホエー(sweet cheese whey)は、ホエータンパク質、ラクトース、ミネラル、水、脂肪及びその他の低濃度成分を含む。
【0037】
一例として、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含有するエクソソーム濃縮生成物を得る穏やかな手順は、物理的方法及び/または化学的方法を含んでよい。一実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、カスケード型の膜ろ過によって得られる。特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物はラクトースフリーである。特定の実施形態では、スイートチーズホエーは前段落で記載したように得られてよく、直列型多重セラミックろ過ステップを用いて処理される。特定の実施形態では、多重ろ過工程は、ろ過ステップごとに大きさが漸減するカットオフを有する膜を連続的に用いる。特定の実施形態では、スイートチーズホエーを処理する方法は、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)及びダイアフィルトレーション(DF)を実施する。より具体的な一実施形態では、
図3に示すように、この工程は、約1.4μm、0.14μm及び10kDaのカットオフを有するMF、UF及びDF膜を連続的に用いて、エクソソーム濃縮生成物を提供する。
【0038】
特定の実施形態では、連続的ろ過ステップから生じるエクソソーム濃縮生成物は、保存安定性を付与するために低温殺菌してよい。例えば、エクソソーム濃縮生成物は、殺菌画分を得るために、例えば約70℃で約15秒間加熱して、微生物学的安定性を確保してよい。その他の低温殺菌条件は当業者には明らかであり、用いてよい。
【0039】
低温殺菌の有無にかかわらず、エクソソーム濃縮生成物はそのまま使用しても、追加の処理ステップを実施して所望の物理的形態を提供してもよい。一実施形態において、エクソソーム濃縮生成物は、所望により低温殺菌し、粉末の形態に変換してよい。より具体的な実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、噴霧乾燥、凍結乾燥、またはその他の方法で粉末の形態に変換できる。特定の一実施形態では、エクソソーム濃縮生成物を、例えば185℃/85℃で噴霧乾燥させて、噴霧乾燥粉末(SP)の形態でエクソソーム濃縮生成物を得てよい。噴霧乾燥の前に、エクソソーム濃縮生成物に所望による蒸発ステップを実施して、生成物の固形物含有量を増加させてよく、これによって噴霧乾燥工程の時間及び/またはエネルギー需要を低下させる。その他の噴霧乾燥条件は当業者には明らかであり、用いてよい。あるいは、エクソソーム濃縮生成物を、例えば-50℃及び0.5mbarの真空で凍結乾燥させて、エクソソーム濃縮凍結乾燥粉末(FP)を得てもよい。その他の凍結乾燥条件は当業者には明らかであり、用いてよい。
【0040】
特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、少なくとも0.001重量%のエクソソームを含む。別の特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、少なくとも約0.001重量%、0.01重量%、1重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%または50重量%のエクソソームを含む。さらなる実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、ナノ粒子トラッキング手順によって測定されるように、エクソソーム濃縮生成物のグラム当たり少なくとも約108個のエクソソームを含む。簡単に言うと、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)を用いて、エクソソームの直径及び濃度を決定することができる。NTAの原理は、ブラウン運動による、溶液中でのナノサイズ粒子の特徴的運動に基づく。レーザーで粒子を照射して、拡散光を捕捉するために用いるカメラで、定められた体積における粒子の軌道を記録する。ストークス-アインシュタイン式を用いて、追跡した各粒子の寸法を決定する。この技法では、粒子寸法に加えて、粒子濃度も測定できる。
【0041】
別の特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、エクソソーム濃縮生成物のグラム当たり約108~約1014個のエクソソームを含む。別のさらに具体的な実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、エクソソーム濃縮生成物のグラム当たり約109~約1013個のエクソソームを含む。別の特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、未加工のホエー含有ウシ乳汁画分と比較して、少なくとも約3倍多い個数のエクソソームを含有する。別の特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、未加工のホエー含有ウシ乳汁画分、例えばチーズホエーと比較して、3倍~50倍多い個数のエクソソームを含有する。
【0042】
別の実施形態では、ウシ乳汁由来エクソソームの90%超は、直径約10ナノメートル~約250ナノメートル、または直径約20~200nm、または直径約50~150nmである。
【0043】
別の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物中のエクソソームの少なくとも約50重量%は、無処置である。特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物中のエクソソームの少なくとも約55、60、65、70、75、80、85、90または95重量%は、無処置である。
【0044】
特定の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、エクソソーム濃縮粉末の形態で投与される。別の実施形態では、エクソソーム濃縮生成物は、エクソソーム濃縮液の形態で投与される。エクソソーム濃縮生成物は、いずれの形態でも対象に投与できる。
【0045】
別の特定の実施形態では、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物は、約0.01~約30gの投与量で、対象に投与する。より具体的には、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物の投与量は、約0.1~約30g、または約0.1~約15g、または約1~約15gであってよい。無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物は、上記の投与量のいずれかで、日当たりもしくは週当たり約1~約6回、または日当たりもしくは週当たり約1~約5回、または日当たりもしくは週当たり約1~約4回、または日当たりもしくは週当たり約1~約3回、対象に投与できる。一例として、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物の投与量は、約0.01~約30g/日、約0.1~約30g/日、約0.1~約15g/日、または約1~約15g/日であってよい。
【0046】
別の特定の実施形態では、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物は、対象に経口投与される。
【0047】
特定の実施形態では、対象はヒトである。その他の実施形態では、対象は40歳以上のヒトの成人である。一例として、対象は、高齢のヒトの成人、例えば45歳超、50歳超、55歳超、60歳超、65歳超、70歳超、75歳超、80歳超、85歳超またはそれ以上の年齢であってよい。
【0048】
特定の実施形態では、筋肉は骨格筋である。別の特定の実施形態では、筋肉は心筋である。
【0049】
別の特定の実施形態では、無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物は、タンパク質、炭水化物及び/または脂肪を含む栄養組成物中で対象に投与される。別の実施形態では、栄養組成物は、タンパク質、炭水化物、脂肪、ならびにビタミン、ミネラル及び微量ミネラルからなる群から選択される1種以上の栄養素を含む。
【0050】
ビタミンの非限定例としては、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン、コリン、イノシトール、及び/またはこれらの塩及び誘導体、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。ミネラル及び微量ミネラルの非限定例としては、カルシウム、リン、マグネシウム、亜鉛、マンガン、ナトリウム、カリウム、モリブデン、クロム、鉄、銅、及び/または塩化物、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
別の特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量を基準として、約0.001~約30重量%、約0.001~約10重量%、約0.001~約5重量%、約0.001~約1重量%、約0.01~約30重量%、約0.01~約10重量%、約0.01~約5重量%、約0.01~約1重量%、約0.1~約30重量%、約0.1~約10重量%、約0.1~約5重量%、約0.1~約1重量%、約1~約30重量%、約1~約10重量%、または約1~約5重量%の無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を含む。特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量を基準として、約0.001~約10重量%の無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含む。
【0052】
エクソソーム濃縮生成物がホエータンパク質も含有することを考慮して、エクソソーム濃縮生成物は、栄養組成物中で唯一のタンパク質供給源であってよい。それにもかかわらず、追加のタンパク質供給源を栄養組成物に含むこともできる。一実施形態では、タンパク質は、全卵粉末、卵黄粉末、卵白粉末、ホエータンパク質、ホエータンパク質濃縮物、ホエータンパク質単離物、ホエータンパク質加水分解物、酸カゼイン、カゼインタンパク質単離物、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼイン加水分解物、乳タンパク質濃縮物、乳タンパク質単離物、乳タンパク質加水分解物、脱脂粉乳、脱脂練乳、全乳、部分的または完全な脱脂乳、ココナッツミルク、大豆タンパク質濃縮物、大豆タンパク質単離物、大豆タンパク質加水分解物、エンドウ濃縮タンパク質、エンドウタンパク質単離物、エンドウタンパク質加水分解物、米タンパク質濃縮物、米タンパク質単離物、米タンパク質加水分解物、ソラマメタンパク質濃縮物、ソラマメタンパク質単離物、ソラマメタンパク質加水分解物、コラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質単離物、食肉タンパク質、ジャガイモタンパク質、ヒヨコマメタンパク質、キャノーラタンパク質、ヤエナリタンパク質、キノアタンパク質、アマランスタンパク質、チーアタンパク質、麻タンパク質、アマ種子タンパク質、ミミズタンパク質、昆虫タンパク質、1種以上のアミノ酸及び/またはそれら代謝物、またはこれらの2種以上の組み合わせを含む。
【0053】
1種のアミノ酸またはアミノ酸混合物は、遊離アミノ酸として記載されてよく、栄養製剤で使用するために知られる任意のアミノ酸であることができる。アミノ酸は、天然に生じるアミノ酸、または合成アミノ酸であってよい。特定の実施形態では、1種以上のアミノ酸及び/またはそれらの代謝物は、1種以上の分岐鎖アミノ酸またはそれらの代謝物を含む。分岐鎖アミノ酸の例としては、アルギニン、グルタミンロイシン、イソロイシン及びバリンが挙げられる。
【0054】
別の特定の実施形態では、1種以上の分岐鎖アミノ酸またはそれらの代謝物は、アルファ-ヒドロキシ-イソカプロン酸(HICA、ロイシン酸としても知られる)、ケトイソカプロエート(KIC)、β-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(HMB)、及びこれらの2種以上の組み合わせを含む。
【0055】
栄養組成物は、栄養組成物の約1重量%~約30重量%の量のタンパク質を含んでよい。より具体的には、タンパク質は、栄養組成物の約1重量%~約25重量%の量で、例えば栄養組成物の約1重量%~約20重量%、約2重量%~約20重量%、約1重量%~約15重量%、約1重量%~約10重量%、約5重量%~約10重量%、約10重量%~約25重量%、または約10重量%~約20重量%などで存在してよい。さらに具体的には、タンパク質は、栄養組成物の約1重量%~約5重量%、または栄養組成物の約20重量%~約30重量%を占める。
【0056】
別の実施形態では、炭水化物は、マルトデキストリン、加水分解デンプン、変性デンプン、加水分解コーンスターチ、変性コーンスターチ、ポリデキストロース、デキストリン、コーンシロップ、コーンシロップ固形物、米マルトデキストリン、玄米マイルド(mild)粉末、玄米シロップ、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、高フルクトースコーンシロップ、蜂蜜、マルチトール、エリトリトール、ソルビトール、イソマルツロース、スクロモルト、プルラン、ジャガイモデンプン、コーンスターチ、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、オート麦繊維、大豆繊維、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、グアーガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、コンニャク粉、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トラガカントゴム、カラヤゴム、アラビアゴム、キトサン、アラビノガラクタン、グルコマンナン、キサンタンゴム、アルギナート、ペクチン、低メトキシペクチン、高メトキシルペクチン、穀物ベータグルカン、カラギーナン、オオバコ、繊維、果物ピューレ、野菜ピューレ、イソマルトオリゴ糖、単糖、二糖、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)、タピオカ由来炭水化物、イヌリン、及び人工甘味剤、またはこれらの2種以上の組み合わせを含む。
【0057】
栄養組成物は、栄養組成物の約5重量%~約75重量%の量の炭水化物を含んでよい。より具体的には、炭水化物は、栄養組成物の約5重量%~約70重量%の量で、例えば栄養組成物の約5重量%~約65重量%、約5重量%~約50重量%、約5重量%~約40重量%、約5重量%~約30重量%、約5重量%~約25重量%、約10重量%~約65重量%、約20重量%~約65重量%、約30重量%~約65重量%、約40重量%~約65重量%、約40重量%~約70重量%、または約15重量%~約25重量%などで存在してよい。
【0058】
別の実施形態では、脂肪は、藻類油、キャノーラ油、アマニ油、ルリヂサ油、ベニバナ油、高オレイン酸ベニバナ油、高ガンマリノレン酸(GLA)ベニバナ油、コーン油、大豆油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、綿実油、ココナッツ油、椰子油、中鎖トリグリセリド(MCT)油、パーム油、パーム核油、パームオレイン、長鎖多価不飽和脂肪酸、またはこれらの2種以上の組み合わせを含む。
【0059】
栄養組成物は、栄養組成物の約0.5重量%~約30重量%の量の脂肪を含んでよい。より具体的には、脂肪は、栄養組成物の約0.5重量%~約10重量%、約1重量%~約30重量%の量で、栄養組成物の約1重量%~約20重量%、約1重量%~約15重量%、約1重量%~約10重量%、約1重量%~約5重量%、約3重量%~約30重量%、約5重量%~約30重量%、約5重量%~約25重量%、約5重量%~約20重量%、約5重量%~約10重量%、または約10重量%~約20重量%などで存在してよい。
【0060】
例示的な栄養組成物中のタンパク質、炭水化物及び脂肪の供給源の濃度及び相対量は、例えば、対象とする使用者の具体的な食事ニーズに応じて大きく変動し得る。特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量を基準として、約2重量%~20重量%の量のタンパク質供給源、約5重量%~30重量%の量の炭水化物供給源、及び約0.5重量%~10重量%の量の脂肪供給源を含み、より具体的にはこのような組成物は液体の形態である。別の特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量を基準として、約10重量%~25重量%の量のタンパク質供給源、約40重量%~70重量%の量の炭水化物供給源、及び約5重量%~20重量%の量の脂肪供給源を含み、より具体的にはこのような組成物は粉末の形態である。
【0061】
一実施形態では、栄養組成物は液体栄養組成物であり、栄養組成物の重量を基準として、約1~約15重量%のタンパク質、約0.5~約10重量%の脂肪、及び約5~約30重量%の炭水化物を含む。
【0062】
別の実施形態では、栄養組成物は粉末栄養組成物であり、栄養組成物の重量を基準として、約10~約30重量%のタンパク質、約5~約15重量%の脂肪、及び約30~約65重量%の炭水化物を含む。
【0063】
特定の実施形態では、栄養組成物は、乳タンパク質濃縮物及び/または大豆タンパク質単離物を含む少なくとも1種のタンパク質と、キャノーラ油、コーン油、ココナッツ油及び/または魚油を含む少なくとも1種の脂肪と、マルトデキストリン、スクロース及び/または短鎖フラクトオリゴ糖を含む少なくとも1種の炭水化物とを含む。
【0064】
栄養組成物は、栄養組成物の物理的特性、化学的特性、審美的特性または加工特性を変える、または追加の栄養成分として作用する1種以上の成分も含んでよい。追加の成分の非限定例としては、防腐剤、乳化剤(例えば、レシチン)、緩衝剤、人工甘味剤(例えば、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース)を含む甘味料、着色剤、風味剤、増粘剤、安定剤などが挙げられる。
【0065】
特定の実施形態では、栄養組成物は、中性のpH、すなわち約6~8のpH、またはさらに具体的には約6~7.5のpHを有する。より具体的な実施形態では、栄養組成物のpHは、約6.5~7.2、より具体的には約6.8~7.1である。
【0066】
栄養組成物は、当該技術分野において既知の、任意の技術を用いて形成されてよい。一実施形態では、栄養組成物は、(a)タンパク質及び炭水化物を含む水溶液を調製すること、(b)脂肪及び油溶性成分を含むオイルブレンドを調製すること、ならびに(c)水溶液とオイルブレンドとを合わせて混合して、乳化液栄養組成物を形成すること、により形成されてよい。無処置エクソソームは、所望により工程中いつでも、例えば水溶液に、または乳化されたブレンドに追加してよい。無処置エクソソームは、例えば液体組成物に組み合わせて添加するために、または粉末状栄養製剤が望ましい場合、粉末形態で1種以上の乾燥成分とドライブレンドしてよい。
【0067】
特定の実施形態では、栄養組成物は粉末の形態で投与される。別の特定の実施形態では、栄養組成物は液体の形態で投与される。栄養組成物は、いずれの形態でも対象に投与できる。
【0068】
栄養組成物が粉末である場合、例えばサービングサイズは約40g~約60g、例えば45g、または48.6gまたは50gであり、粉末として投与される、または約1ml~約500mlの液体中で再調製される。
【0069】
栄養組成物が液体の形態である場合、例えば粉末から再調製する、またはレディトゥドリンク製品として製造される場合、1人分は約1ml~約500mlの範囲、例えば約110ml~約500ml、約110ml~約417ml、約120ml~約500ml、約120ml~約417ml、約177ml~約417ml、約207ml~約296ml、約230ml~約245ml、約110ml~約237ml、約120ml~約245ml、約110ml~約150ml、及び約120ml~約150mlなどである。特定の実施形態では、1人分は、約1ml、または約100ml、または約225ml、または約237ml、または約500mlである。
【0070】
特定の実施形態では、ウシ乳汁から単離したエクソソームを含む栄養組成物は、毎日または毎週、1回または複数回、対象に投与される。特定の実施形態では、栄養組成物は、日当たりもしくは週当たり約1~約6回、または日当たりもしくは週当たり約1~約5回、または日当たりもしくは週当たり約1~約4回、または日当たりもしくは週当たり約1~約3回対象に投与される。特定の実施形態では、栄養組成物は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間または少なくとも4週間の期間、1日1~2回投与される。
【0071】
以下の実施例は、本発明の方法の態様を実証するものであり、例示のみを目的として提供されるものである。実施例は、一般的な発明の概念の精神及び範囲から逸脱することなく、その多くの変形が可能であるため、一般的な発明の概念を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0072】
実施例1:エクソソーム濃縮生成物の調製と特性評価
この実施例では、チーズホエーからエクソソーム濃縮生成物を調製する方法について記載する。上述のように、ウシ乳汁にレンネット酵素を添加することで、酵素によるカゼインの凝固及びスイートチーズホエーの生成がもたらされることで、チーズホエーを提供した。
【0073】
エクソソーム濃縮生成物のグラム当たり、約10
8~10
14個の無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含有するエクソソーム濃縮生成物を、カスケード型の膜ろ過によって調製した。まず、1,000Lのスイートチーズホエーを、直列型多重セラミックろ過ステップを使用して処理した。
図3を参照し、第1の精密ろ過MFステップでは、1.4μmの分子量カットオフを有する膜を用いて、第1の保持液R1及び第1のろ液P1を得た。続いて、第1のろ液P1に、0.14μmの分子量カットオフを有する限外ろ過ステップUFを実施し、第2の保持液R2及び第2のろ液P2を得た。約5倍の体積の水を第2の保持液R2に添加し、続いて希釈した保持液を0.14μmのUF膜に再び通し、ラクトース及びミネラルの少なくとも一部を除去した。続いて、得られた保持液R3を同体積の水と合わせ、10kDaの膜を用いてダイアフィルトレーションし、第4の保持液R4を生成した。保持液R4を、第4の保持液R4の5倍の体積の水で希釈し、10kDaの膜を用いて2回ダイアフィルトレーションして、濃縮した保持液R5を得た。低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6を得るために、ラクトースフリーのエクソソーム濃縮生成物R5を70℃で15秒間低温殺菌し、微生物学的安定性を確保した。低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6の一部に、約65℃で蒸発を実施して、固形物含有量を最大17~18%に高め、続いて185℃/85℃で噴霧乾燥して、エクソソーム濃縮噴霧乾燥生成物SPを得た。低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6の別の一部を、-50℃及び0.5mbarで凍結乾燥し、エクソソーム濃縮凍結乾燥生成物FPを得た。
【0074】
出発物質であるチーズホエー、第2の保持液R2、及び上述のように調製した無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物を分析して、下表1に記載するように、ラクトース及びタンパク質含有量を決定した。
【0075】
【表1】
異なる画分及びエクソソーム濃縮粉末の組成分析:
W=チーズホエー。R2=最終的なエクソソーム濃縮液体画分。R6=最終的なエクソソーム濃縮液体画分。SP=噴霧乾燥粉末。FP=凍結乾燥粉末。
【0076】
表1に示した、それぞれの画分から収集した試料の脂肪、タンパク質、ラクトース及び総固形分の量は、Bentley Instruments Dairy Spec FT(Bentley Instruments,Inc.,Chaska,MN,USA)を使用したフーリエ変換赤外線(FTIR)分光法によって決定した。Bentley Instruments Dairy Spec FTは、成分分析のために、乳汁試料の完全な赤外吸収スペクトルを捕捉する。この特定の技術は、乳汁成分測定のためのIDF 141C:2000規格及びICAR要件を超えるものであり、AOAC承認済みの方法を用いることで、非破壊で信頼性が高く、精密な測定を提供する。
【0077】
表1に示した結果は、驚くべきことに、低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6、噴霧乾燥エクソソーム濃縮生成物SP及び凍結乾燥エクソソーム濃縮生成物FPが全てラクトースフリーであったことを示している。さらに、低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6中のタンパク質含有量は、チーズホエー出発物質に対してほぼ7倍、エクソソーム濃縮の第2の保持液R2に対して約6倍増加した。加えて、粉末の乾燥物質の約80%はタンパク質であり、乾燥物質の約15%は脂肪であり、これはエクソソームの脂質-タンパク質の性質と一致している。
【0078】
低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6及びエクソソーム濃縮SP及びFP粉末のエクソソーム含有量についてのさらなる洞察を得るために、ウエスタンブロット分析を実施して、エクソソームに特異的なマーカー、TSG101の存在を検出した。エクソソーム濃縮生成物R6及びエクソソーム濃縮SP及びFP粉末は、50kDa当たりで、関心対象であるTSG101バンドを示した。とりわけ、レーン当たり同量のタンパク質をロードしたにもかかわらず、TSG101バイオマーカーはチーズホエーでは検出可能ではなかった。これは、上記の工程によって生成した低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6及びエクソソーム濃縮SP及びFP粉末には、乳汁エクソソームが大幅に濃縮されていることを示している。
【0079】
低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6中の、及びエクソソーム濃縮SP及びFP粉末中のエクソソームの存在を評価する目的で、透過電子顕微鏡(TEM)もまた使用した。TEMは、エクソソームなど、ナノサイズ構造を直接見えるようにするために使用可能な技法である。ネガティブ染色として酢酸ウラニルを適用して、低温殺菌ラクトースフリーエクソソーム濃縮生成物R6中の、及び最終的なラクトースフリーエクソソーム濃縮SP及びFP生成物中のエクソソームの、エクソソーム構造への、低温殺菌、蒸発、噴霧乾燥及び凍結乾燥などの熱処理の影響を試験した。簡単に言うと、酢酸ウラニルはネガティブ染色として作用する。ネガティブ染色はバックグラウンドを染色し、無処置小胞構造、例えば無処置エクソソームを、無染色でよく見える状態にする。
【0080】
上述のように調製したラクトースフリーエクソソーム濃縮SP及びFP粉末を水中で再懸濁させ、各試料3マイクロリットルをFormvar(登録商標)コーティンググリッド上に置き、2%の酢酸ウラニルで5分間染色した。上述のように調製したエクソソーム濃縮R5及びR6生成物を、Formvar(登録商標)コーティンググリッド上に希釈せずに置き、2%の酢酸ウラニルで5分間染色した。試料を、25,000倍の倍率で視覚化した。R5及びR6エクソソーム濃縮生成物、ならびにエクソソーム濃縮SP及びFP粉末のTEM画像により、無処置エクソソームが高濃度で存在したことが示された。注目すべきことに、適用した熱処理はいずれも、重大なエクソソーム損傷を引き起こさなかった。これらの結果は、上記の工程により、チーズホエーから有意な量の無処置乳汁エクソソームを単離及び安定化できることを示している。
【0081】
上述のように調製した無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物をさらに分析して、核酸含有量を決定した。より具体的には、エクソソーム濃縮SP及びFP粉末、ならびに低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6を、下表2に記載するように、総RNA含有量(μg)、総miRNA含有量(μg)及び総RNAのパーセンテージとしてのmiRNAを決定するために分析した。各試料10mgを抽出して、Bioanalyzer 2100/Eukaryote Total RNA Nano Chipを用いて分析した。エクソソーム濃縮SP及びFP粉末、ならびに低温殺菌エクソソーム濃縮生成物R6は、多量のRNA及びmiRNAを示したが、エクソソーム濃縮SP粉末は、エクソソーム濃縮FP粉末よりも、より高いmiRNA含有量を示した。これは、エクソソーム濃縮生成物を粉末形態で提供するために、噴霧乾燥がより良い安定化戦略であり得ることを示している。
【0082】
【0083】
無処置ウシ乳汁由来エクソソームを含むエクソソーム濃縮生成物をさらに分析して、脂質組成を決定した。飛行時間型質量分析と接続した超高速液体クロマトグラフィ(UPLC-TOF-MS)を実施して、上記のラクトースフリーエクソソーム濃縮生成物の脂質含有量を分析した。結果を下表3に記載し、脂質全体のパーセンテージとして表している。
【0084】
【0085】
エクソソーム濃縮生成物のタンパク質の組成も決定した。具体的には、タンパク質組成をLC-MS/MSによって決定し、Proteome Discoverer v1.4(データベースBos Taurus、Uniprot 06/19+プロテオミクスコンタミナントデータベース)で質量スペクトルを検索した。関心対象である数種のタンパク質の結果を表4に記載する。驚くべきことに、カゼインが著しい低濃度で存在したことが示されている(例えば、0.04%のα-S2-カゼインのみを検出した)。さらに、有意な量の生理活性タンパク質(すなわち、ラクトフェリン及び免疫グロブリン)が検出されたことを結果は示している。同定したタンパク質全体のうちの%として結果を表す。
【0086】
【0087】
実施例2:無処置ウシ乳汁由来エクソソームとともにインキュベートしたC2C12筋芽細胞における、最大呼吸能及びミトコンドリアSRCの増強
本実施例は、無処置ウシ乳汁由来エクソソーム含有エクソソーム濃縮生成物が、C2C12筋芽細胞の最大呼吸能及びミトコンドリアSRC(SRC)を高めることを実証する。SeaHorse XFe24フラックスアナライザーを、XF Cell Mito Stressキットとともに、製造業者の取扱い説明書に従って用いて、リン酸バッファー生理食塩水(PBS)中で再懸濁させた粉末状ウシ乳汁由来エクソソーム、またはPBS単独のいずれかとともにインキュベートした、分化したC2C12管状筋細胞において、酸素消費速度(OCR)を測定することで、ミトコンドリア機能を分析した。
【0088】
10%(体積/体積)のウシ胎児血清(FBS)、4mMのグルタミン、100単位/mLのペニシリン及び0.1mg/mLのストレプトマイシンを補充した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において、95%の空気及び5%のCO2の加湿雰囲気中、37℃で、C2C12筋芽細胞を成長させた。C2C12筋芽細胞を、24ウェル培養プレート(V28)(SeaHorse Bioscience(Billerica,MA,USA))中に、播種した(104細胞/cm2)。筋芽細胞が約80%のコンフルエンスに達したときに、増殖培地を、2%のウマ血清(HS)、4mMのグルタミン、100単位/mLのペニシリン及び0.1mg/mLのストレプトマイシンを有する高グルコースDMEMの分化培地と交換することによって、管状筋細胞に分化するように誘導した。分化培地は24時間ごとに交換した。
【0089】
分化の72時間後、上述のように調製し、PBS中に再懸濁した噴霧乾燥(SP)エクソソーム濃縮生成物(1μg/mlのエクソソームタンパク質)、または同一体積のPBSのいずれかとともに、24時間、管状筋細胞をインキュベートした。処理後、細胞を2回洗浄し、培地を、適合したFAOアッセイ培地(Krebs Henseleit Buffer(KHB):111mMのNaCl、4.7mMのKCl、1.25mMのCaCl、2mMのMgSO4、1.2mMのNaH2PO4であり、5mMのHEPES、0.5mMのLカルニチン、1mMのピルビン酸ナトリウム及び2mMのグルタミンを補充したもの)と置き換え、pHを0.1MのNaOHを用いて7.4±0.05に調整した。細胞を、CO2なしで、37℃で45分間インキュベートした。インキュベーション後、グルコース10mMを各ウェルに添加した。各ウェルの最終体積は500μlであった。実験は全て37℃で実施した。
【0090】
SeaHorse XFe24フラックスアナライザーを、XF Cell Mito Stressキットとともに、製造業者の取扱い説明書に従って用いて、C2C12管状筋細胞においてOCRを測定することで、ミトコンドリア機能を分析した。基礎呼吸の測定を行い、記録した。続いて、イオノフォアカルボニルシアニドp-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)(1.5mM)を注入して、最大呼吸能(MAX)を測定し、これも記録した。イオノフォア添加後に観察されるOCRが最大限の呼吸レベルに一致するため、FCCPは、呼吸鎖を最大能力で稼働するように刺激することで、生理的「エネルギー需要」を模倣する。続いて、FCCPに刺激されたOCRを用いてSRCを計算することができ、SRCは上述のように、最大呼吸と、基礎呼吸との差として定義される。
【0091】
図1及び
図2にて示すように、未処理のC2C12管状筋細胞と比較して、ウシ乳汁由来エクソソーム処理済みの管状筋細胞では、最大呼吸能(
図1)及びSRC(
図2)がそれぞれ約21%及び約64%高まった。MAX及びSRCの値の上昇は、向上したミトコンドリア能力を示しており、特に後者は重要である。上記のように、より大きなSRCを有する細胞は、より多くのATPを産生して、エネルギー分子の適切な水準を維持し、より多くのストレスを克服することができる。
【0092】
全ての結果を対照群に対して正規化し、平均値±SEMで表した。スチューデントのt検定を使用して統計的分析を実施し、0.05(*)未満のp値が、統計的に有意であると見なした。実験は、4回の内部反復で独立して6回繰り返した。
【0093】
したがって、これらの結果は、無処置ウシ乳汁エクソソームがミトコンドリア機能を向上させ、それによって筋肉の性能を高めることができると示している。これは、サルコペニア及び慢性もしくは急性の心臓の損傷などの、SRCの低減に特徴づけられる状態の予防、治療または回復のために特に重要である。上記のように、ミトコンドリア機能不全を治療することも、ウイルス感染症に続く慢性疲労を軽減する有効な方法である。無処置ウシ乳汁エクソソームがミトコンドリア機能を向上できると示されたことは、ウイルス感染症からの回復に伴う慢性疲労を改善するために、特に重要である。
【0094】
本発明をその実施形態の記載によって例示し、実施形態をかなり詳細に記載したが、そのような記載は、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に、いかなる方法でも制限または限定することを意図するものではない。さらなる利点及び変更は、当業者には容易に明らかであろう。したがって、本発明は、そのより広範な側面において、特定の詳細、代表的な組成物及び方法、または図示及び記載される例示的な実施例に限定されない。したがって、一般的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、そのような詳細から逸脱することができる。
【国際調査報告】