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特表2024-502015アルミナ基複合繊維、その製造方法および製品
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  • 特表-アルミナ基複合繊維、その製造方法および製品 図1
  • 特表-アルミナ基複合繊維、その製造方法および製品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アルミナ基複合繊維、その製造方法および製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 10/02 20060101AFI20240110BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
D06M10/02 C
D06M10/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539877
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-08-23
(86)【国際出願番号】 CN2021132812
(87)【国際公開番号】W WO2022142887
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】202011629302.7
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510268554
【氏名又は名称】▲華▼中科技大学
【氏名又は名称原語表記】HUAZHONG UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
(71)【出願人】
【識別番号】522079230
【氏名又は名称】▲華▼中科技大学▲無▼▲錫▼研究院
【氏名又は名称原語表記】HUST-WUXI RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 蓉
(72)【発明者】
【氏名】▲聶▼ ▲燈▼峰
(72)【発明者】
【氏名】曹 坤
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲鄒▼霜
(72)【発明者】
【氏名】▲登▼ 匡舉
【テーマコード(参考)】
4L031
【Fターム(参考)】
4L031AA12
4L031AA18
4L031AB01
4L031BA09
4L031CA00
4L031CB00
4L031CB05
4L031DA00
(57)【要約】
本発明は、アルミナ基複合繊維、その製造方法および製品に関する。アルミナ基複合繊維の製造方法は、外部磁場の作用下でプラズマを使用して高分子ポリマー繊維に表面改質を施して極性基を導入するステップS10と、空間分離原子層堆積技術を使用して、改質された高分子ポリマー繊維の表面にアルミナ薄膜を堆積するステップS30とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁場の作用下で、プラズマを使用して高分子ポリマー繊維に表面改質を施して極性基を導入するステップS10と、
空間分離原子層堆積技術を使用して、改質された高分子ポリマー繊維の表面にアルミナ薄膜を堆積するステップS30と、を含む、ことを特徴とするアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項2】
ステップS10において、前記外部磁場の磁場強度は23.5B~118Bである、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項3】
ステップS10において、前記プラズマの処理時間は0.1分~1分である、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項4】
前記プラズマは、酸素プラズマ、窒素プラズマ、および空気プラズマのうちの1つまたは複数から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項5】
ステップS30は、
改質された高分子ポリマー繊維を空間分離原子層堆積装置の基板上に配置し、前記空間分離原子層堆積装置がさらに噴射ヘッドユニットを含み、前記噴射ヘッドユニットが前駆体A噴射ヘッドと、分離ガス噴射ヘッドと、前駆体B噴射ヘッドとを含むステップS301と、
前記基板を、前記前駆体A噴射ヘッド、前記分離ガス噴射ヘッド、および前記前駆体B噴射ヘッドを順次通過させ、
前記基板を前記前駆体A噴射ヘッドを通過させるときに、前記前駆体A噴射ヘッドから噴出された前駆体Aが化学吸着により基板の表面に第1反応生成物の単分子層を形成し、
前記基板を前記分離ガス噴射ヘッドを通過させるときに、前記分離ガス噴射ヘッドから噴出された分離ガスによって未反応の前駆体と反応副生成物を除去し、
前記基板を前記前駆体B噴射ヘッドを通過させるときに、前記前駆体B噴射ヘッドから噴出された前駆体Bと前記第1反応生成物とが化学反応してアルミナ単層薄膜を得るステップS302と、
前記基板と前記噴射ヘッドユニットとを相対的に往復移動させて多層薄膜を形成するステップS303と、を含む、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項6】
前記噴射ヘッドユニットと前記基板との間のマイクロギャップゾーンの高さhは0.3mm~0.8mmである、ことを特徴とする請求項5に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項7】
前記基板の反応温度は90℃~120℃である、ことを特徴とする請求項5に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項8】
前記基板と前記噴射ヘッドユニットとの相対移動速度は0.05m/s~0.4m/sである、ことを特徴とする請求項5に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体A、前記前駆体Bおよび前記分離ガスの流量は1000sccm~1200sccmである、ことを特徴とする請求項5に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項10】
ステップS10とステップS30との間に、改質された高分子ポリマー繊維に紫外線を照射するステップS20がさらに含まれる、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項11】
前記高分子ポリマー繊維は、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリールエーテルケトン繊維、ポリスルホン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維のうちの1種または複数種から選択される、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のアルミナ基複合繊維の製造方法により得られたアルミナ基複合繊維であって、高分子ポリマー繊維芯体と、前記高分子ポリマー繊維芯体の表面を被覆したアルミナ層を含む、ことを特徴とするアルミナ基複合繊維。
【請求項13】
請求項12に記載のアルミナ基複合繊維からなることを特徴とする製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年12月30日に国家知識産権局に提出された出願番号202011629302.7、発明の名称が「アルミナ基複合繊維、その製造方法および製品」である中国特許出願の優先権を主張し、その内容全体が参照によって本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、複合材料の技術分野に関し、特にアルミナ基複合繊維、その製造方法および製品に関する。
【背景技術】
【0003】
高分子ポリマー繊維は、強度や耐摩耗性などの優れた特性を備え、最も急速に成長し、生産量が最も多い繊維種類となっているが、通常、高分子ポリマー繊維の高温抗酸化性能は劣っている。アルミナは高温抗酸化性能に優れ、1400℃までの高温領域に応用でき、強化複合材料、工業用高温炉、環境保護・リサイクル領域に比較的に良い応用があり、しかも製造原料の源が広く、生産プロセスが簡単で、プロセスパラメータの決定が容易であり、極めて高い商業価値を持っている。したがって、強化材としてのアルミナと高分子ポリマー繊維とを組み合わせてなるアルミナ基複合繊維は、より優れた性能を有し、様々な高温環境下でより広範囲に使用することができる。
【0004】
従来技術では、アルミナ基複合繊維の製造方法としては、ナノアルミナを高分子ポリマー繊維を被覆するための被覆溶液に調製する含浸法が主流である。しかし、ナノアルミナ粒子は小さいため凝集しやすく、均一な被覆層を形成することができず、得られる複合繊維の品質が低下し、被覆層が脱落しやすく、高温抗酸化性能や機械的特性の改善は小さい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに基づいて、アルミナ基複合繊維、その製造方法および製品を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様では、外部磁場の作用下で、プラズマを使用して高分子ポリマー繊維に表面改質を施して極性基を導入するステップS10と、空間分離原子層堆積技術を使用して、改質された高分子ポリマー繊維の表面にアルミナ薄膜を堆積するステップS30と、を含む、アルミナ基複合繊維の製造方法が提供される。
【0007】
一実施形態では、ステップS10において、前記外部磁場の磁場強度は23.5B~118Bである。
【0008】
一実施形態では、ステップS10において、前記プラズマの処理時間は0.1分~1分である。
【0009】
一実施形態では、前記プラズマは、酸素プラズマ、窒素プラズマ、および空気プラズマのうちの1つまたは複数から選択される。
【0010】
一実施形態では、ステップS30は、
改質された高分子ポリマー繊維を空間分離原子層堆積装置の基板上に配置し、前記空間分離原子層堆積装置がさらに噴射ヘッドユニットを含み、前記噴射ヘッドユニットが前駆体A噴射ヘッドと、分離ガス噴射ヘッドと、前駆体B噴射ヘッドとを含むステップS301と、
前記基板を、前記前駆体A噴射ヘッド、前記分離ガス噴射ヘッド、および前記前駆体B噴射ヘッドを順次通過させ、
前記基板を前記前駆体A噴射ヘッドを通過させるときに、前記前駆体A噴射ヘッドから噴出された前駆体Aが化学吸着により基板の表面に第1反応生成物の単分子層を形成し、
前記基板を前記分離ガス噴射ヘッドを通過させるときに、前記分離ガス噴射ヘッドから噴出された分離ガスによって未反応の前駆体と反応副生成物を除去し、
前記基板を前記前駆体B噴射ヘッドを通過させるときに、前記前駆体B噴射ヘッドから噴出された前駆体Bと前記第1反応生成物とが化学反応してアルミナ単層薄膜を得るステップS302と、
前記基板と前記噴射ヘッドユニットとを相対的に往復移動させて多層薄膜を形成するステップS303と、を含む。
【0011】
一実施形態では、前記噴射ヘッドユニットと前記基板との間のマイクロギャップゾーンの高さhは、0.3mm~0.8mmである。
【0012】
一実施形態では、前記基板の反応温度は90℃~150℃である。
【0013】
一実施形態では、前記基板と前記噴射ヘッドユニットとの間の相対移動速度は0.05m/s~0.4m/sである。
【0014】
一実施形態では、前記前駆体A、前記前駆体B、および前記分離ガスの流量は1000sccm~1200sccmである。
【0015】
一実施形態では、ステップS10とステップS30との間に、改質された高分子ポリマー繊維に紫外線を照射するステップS20がさらに含まれる。
【0016】
一実施形態では、前記高分子ポリマー繊維は、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリールエーテルケトン繊維、ポリスルホン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維のうちの1種または複数種から選択される。
【0017】
本発明の別の態様では、高分子ポリマー繊維芯体と、前記高分子ポリマー繊維芯体の表面を被覆したアルミナ層とを含む、上記アルミナ基複合繊維の製造方法により得られたアルミナ基複合繊維がさらに提供される。
【0018】
本発明のさらに別の態様では、上記アルミナ基複合繊維からなる製品がさらに提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明が提供するアルミナ基複合繊維の製造方法によれば、外部磁場の作用下、プラズマによる表面改質により高分子ポリマー繊維の表面に極性基を導入して繊維表面の濡れ性および接着性を改善し、外部磁場の導入により、プラズマ処理の均一性および繊維表面の安定性を効果的に改善することができ、空間分離原子層堆積技術を組み合わせてその表面にアルミナを堆積させることができる。アルミナは繊維表面に均一に成長成膜しやすく、アルミナと繊維の結合強度もより強くなる。従来技術に比べて、本発明のアルミナ基複合繊維の製造方法によれば、繊維表面に堆積したアルミナ薄膜がより均一になり、アルミナと繊維との結合力がより強くなるため、アルミナ基複合繊維の機械的特性や耐熱性を大幅に向上させることができる。本発明が提供するアルミナ基複合繊維の製造方法は、特に大面積の繊維表面を被覆するためのアルミナ薄膜の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のアルミナ基複合繊維の製造方法のフロー概略図である。
図2】実施例1における空間分離原子層堆積の構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の理解を容易にするために、以下、関連する図面を参照して本発明をより詳細に説明する。本発明の好ましい実施形態が添付図面に示されている。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で実現でき、本明細書で説明する実施形態に限定されない。逆に、これらの実施形態は、本発明の開示をより完全かつ包括的に理解するために提供される。
【0022】
別段に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の説明において本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される用語「および/または」には、関連する列挙された項目の1つまたは複数のあらゆる組み合わせが含まれる。
【0023】
操作実施例に示されない限り、または別段に明記されない限り、成分の量、物理化学的特性などを表す明細書および特許請求の範囲で使用されるすべての数字は、すべての場合において用語「約」によって調整されるものと理解される。例えば、逆の記載がない限り、前述の明細書および添付の特許請求の範囲に列挙された数値パラメータはすべて近似値であり、当業者は、本明細書に開示された教示を使用して所望の特性を得るために、これらの近似値を適切に変更することができる。端値による数値範囲には、その範囲内のすべての数値とその範囲内の任意の範囲が含まれる。たとえば、1~5には、1、1.1、1.3、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などが含まれる。
【0024】
図1を参照すると、本発明は、外部磁場の作用下でプラズマを使用して高分子ポリマー繊維に表面改質を施すステップS10と、空間分離原子層堆積技術を使用して、改質された高分子ポリマー繊維の表面にアルミナ薄膜を堆積するステップS30と、を含む、アルミナ基複合繊維の製造方法を提供する。
【0025】
本発明が提供するアルミナ基複合繊維の製造方法によれば、外部磁場の作用下、プラズマによる表面改質により高分子ポリマー繊維の表面に極性基を導入して繊維表面の濡れ性および接着性を改善し、外部磁場の導入により、プラズマ処理の均一性および繊維表面の安定性を効果的に改善することができ、空間分離原子層堆積技術を組み合わせてその表面にアルミナを堆積させることができる。アルミナは繊維表面に均一に成長成膜しやすく、アルミナと繊維の結合強度も強くなる。従来技術に比べて、本発明のアルミナ基複合繊維の製造方法によれば、繊維表面に堆積したアルミナ薄膜がより均一になり、アルミナと繊維との結合力がより強くなるため、アルミナ基複合繊維の機械的特性と耐熱性を大幅に向上させることができる。本発明が提供するアルミナ基複合繊維の製造方法は、特に大面積の繊維表面を被覆するためのアルミナ薄膜の製造に適している。
【0026】
高分子ポリマー繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリールエーテルケトン繊維、ポリスルホン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
ステップS10において、外部磁場の磁場強度は、23.5B~118Bの間の任意の値とすることができ、例えば、25B、30B、35B、40B、45B、50B、55B、60B、65B、70B、75B、80B、85B、90B、95B、100B、105B、110B、115Bであり得る。磁場強度が低すぎると、高分子ポリマー繊維の表面粗さが低下し、表面吸着能力が低下し、表面エネルギーが減少し、接触角が増加する。磁場強度が高すぎると、極性基の数が減少する。磁場強度が23.5B~118Bの間であることで、アルミナの均一な成長にとってより好ましい条件が得られる。
【0028】
磁場は、300Hz~60Hzの電場を変調することによって得られる5Hz~1Hzの変調周波数を有する変調磁場であってもよい。電場波形は正弦波でも矩形波でもよい。磁場強度B*42.577=周波数。
【0029】
ステップS10において、前記プラズマの処理時間は、0.1分~1分の間の任意の値とすることができ、例えば、0.2分、0.3分、0.4分、0.5分、0.6分、0.7分、0.8分、0.9分とすることもできる。プラズマの処理時間が0.1分~1分であることで、高分子ポリマー表面の酸素原子百分率が高くなり、プラズマの処理時間が1分を超えると、高分子ポリマー表面の酸素原子百分率の低下を引き起こす。
【0030】
プラズマは、Oプラズマ、COプラズマ、COプラズマ、HOプラズマ、Nプラズマ、NOプラズマ、NOプラズマ、NHプラズマ、N-H混合ガスプラズマ、フッ素プラズマ、空気プラズマ、および不活性ガスプラズマ等を含むが、これらに限定されない。好ましくは、前記プラズマは、Oプラズマ、Nプラズマ、および空気プラズマのうちの1つまたは複数から選択される。
【0031】
極性基は、カルボニル基、ヒドロキシル基などの酸素含有基であってもよいし、ニトリル、アミン、イミンなどの窒素含有基であってもよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、ステップS30は、
改質された高分子ポリマー繊維を空間分離原子層堆積装置の基板上に配置し、前記空間分離原子層堆積装置がさらに噴射ヘッドユニットを含み、前記噴射ヘッドユニットが前駆体A噴射ヘッドと、分離ガス噴射ヘッドと、前駆体B噴射ヘッドとを含むステップS301と、
基板を、前駆体A噴射ヘッド、分離ガス噴射ヘッド、および前駆体B噴射ヘッドを順次通過させ、
基板を前駆体A噴射ヘッドを通過させるときに、前駆体A噴射ヘッドから噴出された前駆体Aが化学吸着により基板の表面に第1反応生成物の単分子層を形成し、
基板を分離ガス噴射ヘッドを通過させるときに、分離ガス噴射ヘッドから噴出された分離ガスによって未反応の前駆体と反応副生成物を除去し、
基板を前駆体B噴射ヘッドを通過させるときに、前駆体B噴射ヘッドから噴出された前駆体Bと第1反応生成物とが化学反応してアルミナ単層薄膜を得るステップS302と、
基板と噴射ヘッドユニットとを相対的に往復移動させて多層薄膜を形成するステップS303と、を含むことができる。
【0033】
前記空間分離原子層堆積装置は、本分野の通常装置であり、購入または自己組み立てによって入手することができる。図2を参照すると、本発明は、分離ガスおよび前駆体供給システム100と、堆積システム200と、駆動システム300とを含む空間分離原子層堆積装置を提供する。前記堆積システムは、噴射ヘッドユニットと反応ユニットとを含み、前記反応ユニットは基板21と基板の下方に配置された加熱装置22とを含み、前記噴射ヘッドユニットは、前駆体A噴射ヘッド、分離ガス噴射ヘッド、および前駆体B噴射ヘッドの複数の噴射ヘッド11を含む。駆動システム300は、基板21または噴射ヘッドユニットに電気的に接続されており、駆動システム300は、基板21または噴射ヘッドユニットの移動を制御するために使用される。
【0034】
前駆体A噴射ヘッドは前駆体Aガスの噴射に使用され、分離ガス噴射ヘッドは分離ガスの噴射に使用され、前駆体B噴射ヘッドは前駆体Bの噴射に使用される。分離ガス噴射ヘッドは、前駆体A噴射ヘッドと前駆体B噴射ヘッドとの間に配置される。
【0035】
図2に示すように、噴射ヘッド11と基板21との間にはマイクロギャップゾーンが存在し、マイクロギャップゾーンの高さはhである。前駆体A噴射ヘッド、分離ガス噴射ヘッドおよび前駆体B噴射ヘッドは全体として支持フレーム上に固定されており、各噴射ヘッドと基板との間のマイクロギャップゾーンの高さhは同じである。
【0036】
前駆体A噴射ヘッド、分離ガス噴射ヘッド、および前駆体B噴射ヘッドの構造は、同じであっても異なっていてもよく、すべて当技術分野で知られている構造である。
【0037】
前記分離ガスは、例えばN、Ar、Heなどの何れかの不活性ガスであってもよく、前記分離ガスは、前駆体Aおよび前駆体Bを分離するために連続的に噴出される。
【0038】
いくつかの実施形態では、噴射ヘッド11と基板21との間のマイクロギャップゾーンの高さhは、0.3mm~0.8mmの間の任意の値とすることができ、例えば、0.35mm、0.4mm、0.45mm、0.5mm、0.55mm、0.6mm、0.65mm、0.7mm、0.75mmとすることもできる。マイクロギャップゾーンの高さhが大きいほど、隔離ガスによる分離効果は低下し、前駆体Aと前駆体Bが混合してCVD堆積が形成されやすくなり、アルミナの成長が不安定になり、被覆されたアルミナ薄膜の厚さが不均一になる。
【0039】
いくつかの実施形態では、基板21の反応温度は、90℃~120℃の間の任意の値であってもよく、例えば、95℃、100℃、105℃、110℃、または115℃であってもよい。反応基板の温度は基板の化学吸着能力に影響を与えるため、反応温度が100℃~150℃の間では基板の吸着能力がより強くなり、ガス中に存在する水分も除去し、堆積の安定性を確保できる。
【0040】
ステップS302において、基板21は、駆動システム300によって駆動されて、前記前駆体A噴射ヘッド、前記隔離ガス噴射ヘッド、前記前駆体B噴射ヘッドを順に所定の移動速度で通過する。
【0041】
いくつかの実施形態では、基板21と噴射ヘッドユニットの相対移動速度は、0.05m/s~0.4m/sの間の任意の値とすることができ、例えば、0.06m/s、0.07m/s、0.08m/s、0.09m/s、0.1m/s、0.15m/s、0.2m/s、0.25m/s、0.3m/s、0.35m/sとすることもできる。基板21と噴射ヘッドユニットとの相対移動速度が低いほど、基板が噴射ヘッドの下に露出する時間が長くなり、前駆体Aおよび前駆体Bに対する吸着率が高くなるが、低い相対移動速度によって堆積効率が低下する。基板21と噴射ヘッドユニットとの相対移動速度は0.05m/s~0.1m/sであることで、堆積効率を向上させるとともに、高品質の堆積効果を保証することができ、原料の無駄にならない。
【0042】
一実施形態では、図2に示すように、駆動システム300は基板21に電気的に接続されており、駆動システム300は基板21の移動を制御する。
【0043】
前駆体A、前駆体B、および分離ガスの流量は、1000sccm~1200sccmの間の任意の値である。
【0044】
前駆体A、前駆体B、および分離ガスの流量は、同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0045】
アルミナは、前駆体Aと前駆体Bを反応させることで得られる。一実施形態では、前駆体AはAl(CH(TMA)であり、前駆体BはHOである。一実施形態では、分離ガスは窒素である。いくつかの実施形態では、前駆体Aおよび前駆体Bのキャリアガスとして窒素を使用することができる。
【0046】
ステップS303において、基板21が、前駆体A噴射ヘッドから前駆体B噴射ヘッドへ、または前駆体B噴射ヘッドから前駆体A噴射ヘッドへ移動することは、1つのサイクル移動期間である。
【0047】
いくつかの実施形態では、ステップS10とステップS30との間に、改質された高分子ポリマー繊維に紫外線を照射するステップS20がさらに含まれる。さらに、紫外線照射により繊維表面に化学変化を生じさせることができ、繊維表面の濡れ性や接着性を向上させ、アルミナ堆積の均一性をさらに確保する。
【0048】
紫外線照射の時間は、1分~2分の間の任意の値とすることができ、例えば、1.1分、1.2分、1.3分、1.4分、1.5分、1.6分、1.7分、1.8分、1.9分とすることもできる。
【0049】
いくつかの実施形態では、ステップS10の前に、高分子ポリマー繊維を前処理するステップがさらに含まれる。前処理のステップには、高分子ポリマー繊維の表面に対する洗浄と乾燥が含まれる。洗浄ステップで使用する洗浄液としては、無水エタノールやアセトンなどの有機溶媒を用いることができる。さらに、プラズマ洗浄剤による洗浄も可能である。乾燥ステップでは、窒素を使用してブロー乾燥することができる。
【0050】
また、本発明は、上記アルミナ基複合繊維の製造方法により得られたアルミナ基複合繊維をさらに提供する。アルミナ基複合繊維は、高分子ポリマー繊維芯体と、高分子ポリマー繊維芯体の表面を被覆したアルミナ層とを含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、アルミナ層は20nm~100nmの厚さを有する。
【0052】
また、本発明は、上記アルミナ基複合繊維からなる製品をさらに提供する。
【実施例
【0053】
以下に具体例を示す。これらの具体例は、当業者および研究者が本発明をさらに理解できるために本発明を詳細に説明するためのものであり、関連する技術的条件等が本発明を限定するものではない。本発明の特許請求の範囲内で行われるいかなる修正は、本発明の特許請求の範囲の保護範囲内にある。
【0054】
<実施例1>
1.ポリエステル繊維のプラズマ改質
(1)ポリエステル繊維の表面の前処理
ポリエステル繊維を無水エタノールに浸漬させ、プラズマ洗浄機で洗浄し、無塵布や無塵紙で拭き取って乾燥させ、窒素ガス銃で乾燥させた。
【0055】
(2)プラズマ表面改質
前処理されたポリエステル繊維をグローブボックス内に保管し、表面を清潔で乾燥した状態に保持した。次に、プラズマ表面活性化チャンバーへ移送した。プラズマ表面活性化チャンバーを酸素で満たし、周波数60HzのAC放電と信号発生器を使用して、変調周波数1Hzの矩形波形の変調磁場(磁場強度は23.5B)を得、ポリエステル繊維を1分間処理した。
【0056】
(3)紫外線照射
チャンバー内にNを吹き込んで洗浄し、N雰囲気に保ち、紫外線を1分間照射した。
【0057】
(4)空間分離原子層堆積
アルミナ薄膜を、図2に示すような空間分離原子層堆積装置を用いて堆積させた。PC側でプロセスパラメータを設定した。キャリアガス(N)、分離ガス(N)、前駆体A(TMA)、および前駆体B(HO)の流量はすべて1000sccmであり、基板温度は120℃であり、マイクロギャップゾーンの高さhは0.5mm、基板移動速度は0.1m/sである。具体的な手順は以下の通りである。
1)反応領域の環境要因の影響を軽減するために、窒素流路を開放し、20分間のパージ作業を行った。
2)TMA、HO流路を開き、10分間パージしてパイプライン内の不純物を除去した。
3)ステップ(3)で処理されたポリエステル繊維をまっすぐにして反応基板にクランプした。
4)基板を反応領域に移動させ、2分間パージした。
5)基板を往復移動周期を100サイクルとして往復移動させてアルミナ基複合繊維を得た。
【0058】
<実施例2>
実施例2の作製方法は、マイクロギャップゾーンの高さhを0.3mmとした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0059】
<実施例3>
実施例3の作製方法は、マイクロギャップゾーンの高さhを0.8mmとした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0060】
<実施例4>
実施例4の作製方法は、基板温度を100℃とした以外は実施例1と基本的に同様である。
【0061】
<実施例5>
実施例5の作製方法は、基板の移動速度を0.05m/sとした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0062】
<実施例6>
実施例6の製造方法は、ポリエステル繊維のプラズマ改質工程においてプラズマ処理時間を0.1分とした以外は、実施例1と基本的に同様である。
【0063】
<実施例7>
実施例7の製造方法は、ポリエステル繊維のプラズマ改質工程において磁場強度が118Bであること以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0064】
<実施例8>
実施例8の製造方法は、ポリエステル繊維布に紫外線を照射しないこと以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0065】
<比較例1>
比較例1の作製方法は、マイクロギャップゾーンの高さhを1mmとした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0066】
<比較例2>
比較例2の作製方法は、基板温度を80℃とした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0067】
<比較例3>
比較例3の作製方法は、基板の移動速度を0.5m/sとした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0068】
<比較例4>
比較例4の製造方法は、ポリエステル繊維のプラズマ改質工程において、プラズマの処理時間を2分間とした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0069】
<比較例5>
比較例5の製造方法は、ポリエステル繊維のプラズマ改質工程において、プラズマの処理時間を5分間とした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0070】
<比較例6>
比較例6の製造方法は、ポリエステル繊維のプラズマ改質工程において、プラズマの処理時間を10分間とした以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0071】
<比較例7>
比較例7の製造方法は、ポリエステル繊維にプラズマ処理改質および紫外線照射を行わず、基板上において直接アルミナを堆積した以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0072】
<比較例8>
比較例8の製造方法は、ポリエステル繊維のプラズマ改質工程において外部磁場を加えないこと以外は、基本的に実施例1と同様である。
【0073】
実施例1~8および比較例1~8の製造方法におけるプロセスパラメータリストは以下の表1の通りである。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1~8および比較例1~8で作製したアルミナ基複合繊維をサンプルとして、繊維サンプルごとに5つの位置の異なる点(A点、B点、C点、D点、E点)を採取して厚さの測定を行い、サンプルごとに採取した5点の位置が一致しており、その結果を表2に示す。ここで、相対差は最大値と最小値の差である。
【0076】
【表2】
【0077】
表1から、比較例で作製したアルミナ基複合繊維は、相対差が大きく、アルミナの堆積が不均一であるか、アルミナの堆積層が薄く、原料の無駄が生じたが、実施例1~8で作製したアルミナ基複合繊維のアルミナ被覆膜の厚さは適度かつ均一であり、原料の利用率が高いことが分かった。
【0078】
実施例1および比較例1で製造したアルミナ基複合繊維の耐熱性および引張強度を試験した結果を下記表3に示した。
【0079】
各種性能試験項目の試験条件または試験基準は以下のとおりであった。
【0080】
熱重量分析(TGA)試験:サンプルを量り、1100SF標準熱重量分析装置(メトラー・トレド、スイス)を使用して、窒素または空気雰囲気中で試験した。温度を室温から測定温度まで上昇させ、昇温速度は10.0K/minであった。温度上昇に伴うサンプルの重量変化を観察し、重量減少が50%に達すると不合格とし、このときの試験温度が最高耐熱温度であった。最高耐熱温度の値が大きいほど、サンプルが安全に使用される温度が高くなり、耐熱温度が1000℃を超えると、サンプルが高温作業、スペース技術などの特殊な環境で使用できる。
【0081】
引張強度:XQ-1C型高強度高弾性率繊維引張試験機を使用して繊維の引張強度を測定した。測定パラメータ:クランプ距離8mm、引張速度5mm/min、弾性率開始点0.1%、弾性率終了点0.7%、テンションクランプの荷重0.2cN。
【0082】
【表3】
【0083】
上記表2から、比較例1で製造したアルミナ基複合繊維と比較して、実施例1で製造したアルミナ基複合繊維は耐熱性および引張強度がより優れていることが分かった。
【0084】
上記実施形態の技術的特徴は任意に組み合わせることが可能であるが、説明を簡潔にするために、上記実施形態の技術的特徴のすべての可能な組み合わせについては記載されていないが、これらの技術的特徴の組み合わせは矛盾がない限り、本明細書に記載の範囲内にあるとみなされるべきである。
【0085】
上記実施形態は、本発明のいくつかの実施形態のみを表現しており、その説明は比較的具体的かつ詳細であるが、本発明の特許範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者にとって、本発明の概念から逸脱することなく、いくつかの修正および改良を行うことができ、それらはすべて本発明の保護範囲に属することに留意されたい。したがって、本発明の特許の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に基づくものとすべきである。
図1
図2
【国際調査報告】