(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】積層造形物体の後処理方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/188 20170101AFI20240110BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20240110BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240110BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20240110BHJP
【FI】
B29C64/188
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y40/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540216
(86)(22)【出願日】2020-12-31
(85)【翻訳文提出日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 CN2020142044
(87)【国際公開番号】W WO2022141374
(87)【国際公開日】2022-07-07
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516190747
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・シャンハイ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES SHANGHAI CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リヤ・ジャ
(72)【発明者】
【氏名】ユアンチー・ユエ
(72)【発明者】
【氏名】チュオ・シュイ
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA33
4F213AH81
4F213AR06
4F213AR17
4F213WA25
4F213WA54
4F213WA57
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL29
4F213WL55
4F213WL67
4F213WL92
(57)【要約】
本発明は、積層造形物体の表面を後処理する方法であって、当該表面の少なくとも一部を硬化性シリコーン組成物でコーティングする工程と、次いで当該コーティングを室温で、または熱もしくはUV放射によって硬化する工程とを含み、前記硬化性シリコーン組成物は、300~500000mPa・sの範囲の粘度を有する、方法に関する。さらに、本発明は、本発明の方法を含む3Dプリント方法、および本発明の硬化性シリコーン組成物を含む、または本発明の硬化性シリコーン組成物からなる後処理剤にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形物体の表面を後処理する方法であって、当該表面の少なくとも一部を硬化性シリコーン組成物でコーティングする工程と、次いで当該コーティングを室温で、または熱もしくはUV放射によって硬化する工程とを含み、前記硬化性シリコーン組成物は、300~500000mPa・s、好ましくは500~200000mPa・s、例えば800~90000mPa・sまたは1000~50000mPa・sまたは20000mPa・sまでの範囲の粘度を有する、方法。
【請求項2】
後処理される前記表面がポリマー材料またはプラスチック材料、特にシリコーンゴムに基づくことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬化性シリコーン組成物のゲル化時間が、室温または熱硬化の場合、0.1秒~15時間、好ましくは1秒~0.5時間、より好ましくは5秒~10分、例えば10秒~2分の範囲であり;UV放射線硬化の場合、0.001秒~1時間、好ましくは0.01秒~20分、例えば0.1秒~1分の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記後処理の前後に、ブラストまたは研磨などの機械的表面処理を行わないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
処理される前記表面を前記硬化性シリコーン組成物の浴に浸漬することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面にコーティングされる前記硬化性シリコーン組成物が、室温で、または熱によって、特に23℃~180℃の温度で硬化されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記表面にコーティングされる前記硬化性シリコーン組成物が、UV放射によって、特に0.001秒~30分間、好ましくは0.1秒~2分間硬化されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記後処理のための前記硬化性シリコーン組成物が、
(A)1分子当たり、ケイ素原子に結合した少なくとも2つのC
2~C
6のアルケニルラジカルを含む、少なくとも1つのオルガノポリシロキサン化合物Aと、
(B)1分子当たり、同一または異なるケイ素原子に結合した少なくとも2つの水素原子を含む、少なくとも1つのオルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物Bと、
(C)白金族の少なくとも1つの金属またはその化合物を含む少なくとも1つの触媒Cと、
を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
後処理用の前記シリコーン組成物中のSiH/ビニルのモル比が0.5~10モル/モル、好ましくは0.6~5モル/モル、より好ましくは0.8~4モル/モル、1.2~4モル/モル、または1.6~4モル/モルであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記後処理用の前記硬化性シリコーン組成物が、後処理される前記表面を作製する材料の組成と同一であるか、または異なることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
積層造形物体の前記表面の凹凸を低減するための、請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物の使用。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の前記硬化性シリコーン組成物を含む、または当該硬化性シリコーン組成物からなる積層造形物体の後処理剤。
【請求項13】
請求項1に記載の方法を含む3Dプリントプロセスであって、
a)ポリマー材料またはプラスチック材料の外形または表面を有する積層造形物体、好ましくはポリマー材料またはプラスチック材料、より好ましくはシリコーン組成物で作製された積層造形物体を製造する工程と、
b)請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物で製造物体の前記表面の少なくとも一部をコーティングする工程と、
c)室温で、または熱もしくはUV放射によって前記コーティングを硬化させる工程と、
を含む、3Dプリントプロセス。
【請求項14】
工程a)とb)の間、または工程c)の後に、ブラストまたは研磨のような機械的表面処理を行わないことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
請求項11に記載の後処理剤、または請求項11に記載の後処理剤により処理された物品の、積層造形医療装置または補綴物などの医療用途への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物体を、特にその表面を硬化性シリコーン組成物で後処理する方法、後処理剤、およびそのような方法を含む3Dプリントプロセスに関する。
【0002】
積層造形(アディティブ・マニュファクチャリング(AM))手法は3Dプリントとも呼ばれ、さまざまな分野、特にヘルスケア、自動車、ロボット、航空宇宙などの分野で使用されている。3Dモデルはコンピューター支援設計(CAD)によって取得され、3Dプリンティングプロセスによって物理的な物体に変換される。プリンティングプロセスは、カスタマイズされた要件を満たし、より高い効率性を有する。現在、金属、ポリマー、セラミックなどのさまざまな材料をさまざまな手法でプリントできる。
【0003】
しかし、積層造形技術は層ごとのプリントプロセスに基づいているため、プリント物体の表面や輪郭に段差効果が生じやすくなる。積層造形プロセスにおける層ごとのプリントまたは堆積により、通常、物体の表面または輪郭には、段差効果と呼ばれるしわや波のような外観が生じる。段差効果は、一部の用途では許容できない外観をもたらし、機械的特性を損なう可能性さえある。段差効果を除去するために、プリントプロセスの後にさまざまな方法が採用されている。金属材料の場合、通常、滑らかな表面と輪郭を得るために、研磨、陽極酸化、サンドブラスト、粉体塗装、電気メッキが使用される。プラスチックまたはポリマーの物体については、表面仕上げにサンドブラストや研磨などの機械的処理を使用して段差効果を除去し得る。
【0004】
後処理プロセスではポリマーコーティングが好ましい。しかし実際には、機械的特性や接着特性に関する要件を満たしながら、積層造形物体の表面や輪郭に対する段差効果を除去するための適切なポリマーコーティングを選択することは依然として困難である。
【0005】
米国特許出願公開第2020/0238601号明細書は、3Dプリント装置を使用して物体の積層造形を行う方法に関する。本発明の方法による3Dプリント後のモデルは、表面特性を最適化するために、局所的または全体的にコーティングされてもよい。コーティングによって最適化できる特性には、例えば、表面粗さ、摩擦係数、色、コンポーネントの透明性、3Dプリントの段差効果の低減、コンポーネント自体とは材質的に異なる表面層の適用などが含まれる。しかしながら、段差効果を低減するために使用できるコーティングについては深く議論されていない。
【0006】
米国特許第10625292号明細書は、表面の透明性と光沢を改善するために積層造形物体の凹凸のある表面を処理するシステムを開示している。システムは、噴霧器を操作して凹凸表面を形成するために使用される流体材料を凹凸表面に塗布して表面を平滑にするか、または、システムはアクチュエータを操作して積層造形物体をそのような流体材料の浴に浸漬する。有用な流体材料の化学組成に関する情報はない。
【0007】
米国特許出願公開第20100104804号明細書には、成形端面の平滑性に優れた光学的三次元造形物が開示されている。活性光線硬化型樹脂組成物に含まれる成分及び/又はその成分に由来する物質の分離により、三次元造形物体の製造端における凹凸部の少なくとも一部の凹凸度が低減され、製造端は滑らかになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの先行技術文献はすべて、表面またはプリントされた物体の接着性および機械的特性を損なうことなく段差効果を除去するために、特にポリマー材料またはプラスチック材料に基づく積層造形物体の外表面の後処理のための適切なポリマーコーティングを選択することを扱う技術的解決策を提供していない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願の発明者らは、驚くべきことに、シリコーンコーティングを処理すべき表面に塗布し、十分に急速であるべき適切な速度で硬化させることができれば、積層造形物体の外表面に生じる段差効果を十分に除去できるが、その間に機械的特性に害を及ぼすことはないことを見出した。
【0010】
したがって、一態様において、本発明は、積層造形物体の表面を後処理する方法であって、当該表面の少なくとも一部を硬化性シリコーン組成物でコーティングする工程と、次いで当該コーティングを室温で、または熱もしくはUV放射によって硬化する工程とを含み、前記硬化性シリコーン組成物は、300~500000mPa・s、好ましくは300~200000mPa・sまたは500~90000mPa・s、例えば800~100000mPa・sまたは1000~50000mPa・sまたは20000mPa・sまでの範囲の粘度を有する、方法に関する。
【0011】
本発明の方法によれば、段差効果を大幅にまたは完全に除去することができ、これは、特に積層造形物体の製造端において、後処理表面の凹凸の度合いが低減され、滑らかな輪郭が得られることを意味する。必要な粘度制御は本発明において必須である。粘度が500000mPa・sを超えると、作業が困難または煩雑となり、コーティングプロセスに悪影響を及ぼすとともに、均一で平滑なコーティングを得ることが困難となり段差効果がなくなる場合がある。過度に低い粘度、例えば300mPa・sの場合、機械的特性が損なわれる。
【0012】
他の態様において、本発明は、上記の後処理をする方法を含む3Dプリントプロセスであって、
a)ポリマー材料またはプラスチック材料の外形または表面を有する積層造形物体、好ましくはポリマー材料またはプラスチック材料で作製された積層造形物体を製造する工程と、
b)上記の硬化性シリコーン組成物で製造物体の前記表面の少なくとも一部をコーティングする工程と、
c)室温で、または熱もしくはUV放射によって前記コーティングを硬化させる工程と、
を含む、3Dプリントプロセスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で考慮されているすべての粘度は、それ自体既知の方法で、約25℃で、例えばブルックフィールド型の粘度計の機械を用いて測定される動的粘度の大きさに対応する。流体製品に関して、本明細書で考慮される粘度は、「ニュートン」粘度として知られる約25℃での動的粘度、すなわち、測定される粘度が速度勾配に依存しないように、それ自体既知の方法で、十分に低いせん断速度勾配で測定される動的粘度である。
【0014】
本開示において、有用な積層造形材料(またはビルディング材料と呼ばれる)は、主にポリマー材料、特に硬化性シリコーン組成物を含み、好ましくは主にポリマー材料、特に硬化性シリコーン組成物に基づくか、または主にポリマー材料、特に硬化性シリコーン組成物から構成され得る。積層造形プロセスに適したシリコーン組成物は、それ自体よく知られており、原理的には、シロキサン単位系の骨格を有し、シリコーンエラストマー物品、例えばすでに広く使われている液体シリコーンゴム(LSR)の製造に使用できる任意の硬化性シリコーン組成物でよい。異なるプリント材料を使用して、異なる材料に基づくいくつかの部品から構成される積層造形物体を作製する場合、その外表面の少なくとも一部は、ポリマー材料またはプラスチック材料、特にシリコーンゴムに基づくことが好ましい。
【0015】
シリコーンゴムを含む積層造形ビルディング材料に適当なシリコーン組成物は、縮合または付加架橋反応によって化学的に硬化することができる。例示的な一実施形態では、そのような硬化性シリコーン組成物は、通常、
(A)式(S-1)および任意の式(S-2)で表されるシロキサン単位を含有するポリオルガノシロキサンポリマー、
RS
a'ZS
b'SiO[4-(a'+b')]/2 (S-1)
ここで、
RSは、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アルケニル基、およびアルキニル基のような反応性基であり、
各ZSは、同じであっても異なっていてもよく、好ましくはアルキル基およびアリール基から選択される、例えば1~30個の炭素原子を有する一価の非反応性炭化水素ラジカルを表し、
a'は1、2、または3、b'は0、1、または2で、a'+b'の合計は1、2、または3であり;
ZS1
c'SiO(4-c')/2 (S-2)
ここで:
- c'=0、1、2または3、
- 各ZS1は、同一であっても異なっていてもよく、好ましくはアルキル基およびアリール基から選択される、例えば1~30個の炭素原子を有する一価の非反応性炭化水素ラジカルを表し、
(B)少なくとも2つのケイ素結合反応性基を有する架橋有機ケイ素化合物;
(C)成分(A)と成分(B)との反応を促進することができる触媒、
を備える。
【0016】
3Dプリントの開示
3Dプリントは、一般に、コンピューターで生成された、例えばコンピューター支援設計(CAD)のデータソースから物理物体を製造するために使用される多くの関連技術に関連付けられている。
【0017】
この開示には、一般に、ASTM名称F2792-12a、「このASTM規格の下での積層造形技術の標準用語(Standard Terminology for Additive Manufacturing Technologies Under this ASTM standard)」が取り込まれる。
【0018】
「3Dプリンター」は「3Dプリントに使用される機械」と定義され、「3Dプリント」は「プリントヘッド、ノズル、または別のプリンター技術を使用した材料の堆積による物体の製造」と定義される。
【0019】
「積層造形(アディティブ・マニュファクチャリング(AM))」は、「サブトラクティブマニュファクチャリング方法論とは対照的に、材料を結合して3Dモデルデータから物体を作製するプロセスであり、通常は層を重ねて製造するプロセスである。3Dプリントに関連し、含まれる同義語には、アディティブファブリケーション(additive fabrication)、アディティブプロセス(additive process)、アディティブテクニック(additive technique)、アディティブレイヤーマニュファクチャリング(additive layer manufacturing)、レイヤーマニュファクチャリング(layer manufacturing)、フリーフォームファブリケーション(freeform fabrication)を含む。」と定義される。積層造形(AM)は、ラピッドプロトタイピング(rapid prototyping(RP))とも呼ばれる。本明細書で使用される「3Dプリント(プリンティング)」は、一般に「積層造形」と交換可能であり、その逆も同様である。
【0020】
「プリント(プリンティング)」は、プリントヘッド、ノズル、または別のプリンター技術を使用して、材料、ここではシリコーン組成物を堆積することとして定義される。
【0021】
本開示において、「3Dまたは三次元の物品、物体または部品」は、上で開示した積層造形または3Dプリントによって得られる物品、物体または部品を意味する。
【0022】
一般に、すべての3Dプリンティングプロセスには共通の開始点がある。開始点とは、物体を記述し得るコンピューター生成データソースまたはプログラムである。コンピューター生成データソースまたはプログラムは、実際の物体または仮想の物体に基づくことができる。例えば、3Dスキャナを使用して実際の物体をスキャンし、スキャンデータを使用して、コンピューター生成データソースまたはプログラムを作製することができる。あるいは、コンピューター生成データソースまたはプログラムをゼロから設計することもできる。
【0023】
コンピューター生成データソースまたはプログラムは、通常、標準テッセレーション言語(standard tessellation language(STL))ファイル形式に変換される。ただし、他のファイル形式も、または追加で使用できる。通常、ファイルは3Dプリンティングソフトウェアに読み込まれ、3Dプリンティングソフトウェアは、ファイルと任意のユーザー入力を取得して、それを数百、数千、さらには数百万の「スライス」に分割する。3Dプリンティングソフトウェアは通常、機械命令を出力する。これは、Gコードの形式である場合があり、3Dプリンターによって読み取られて、各スライスが作製される。機械命令は3Dプリンターに転送され、3Dプリンターは、機械命令の形式のこのスライス情報に基づいて、1層ずつ物体を構築する。これらのスライスの厚さは異なり得る。
【0024】
押出し3Dプリンターは、積層造形プロセス中にノズル、シリンジ、またはオリフィスから材料が押し出される3Dプリンターである。材料の押出しは、一般に、ノズル、シリンジ、またはオリフィスを通して材料を押出し、物体の1つの断面をプリントすることによって機能する。これは、後続の各層に対して繰り返してもよい。押し出された材料は、材料の硬化中にその下の層に結合する。
【0025】
好ましい一実施形態では、三次元エラストマー物品を積層造形する方法は、押出し3Dプリンターを使用する。シリコーン組成物のような積層造形材料は、ノズルを通して押し出される。ノズルは、シリコーン組成物の分配を促進するために加熱されてもよい。
【0026】
ノズルの平均直径が層の厚さを定義する。一実施形態では、層の直径は、5~5000μm、好ましくは10~2000μm、最も好ましくは50~1000μmである。
【0027】
ノズルと基板の間の距離は、良好な形状を確保するための重要なパラメーターである。好ましくは、それはノズル平均直径の60~150%、より好ましくは80~120%である。
【0028】
ノズルを通して分配されるシリコーン組成物は、カートリッジ状のシステムから供給されてもよい。カートリッジは、関連付けられた流体リザーバまたは複数の流体リザーバを有するノズルまたは複数のノズルを含むことができる。スタティックミキサーと1つだけのノズルを有する同軸2カートリッジシステムを使用することもできる。圧力は、分配される流体、関連するノズルの平均直径、およびプリント速度に適応する。
【0029】
ノズル押出し中に発生する高せん断速度のために、シリコーン組成物の粘度は大幅に低下され、それにより細かい層のプリントが可能になる。
【0030】
カートリッジ圧力は、1~20バール、好ましくは2~10バール、最も好ましくは2.5~8バールまで変化し得る。そのような圧力に耐えるために、アルミニウムカートリッジを使用する適合した機器が使用されるだろう。
【0031】
ノズルおよび/またはビルドプラットフォームは、X-Y(水平面)内を移動して物体の断面を完成させ、1つの層が完成するとZ軸(垂直)平面内を移動する。ノズルのXYZ移動精度は10~300μmなどと高い。各層がX、Y作業面でプリントされた後、ノズルは、次の層がX、Y作業面で塗布できるように十分な距離だけZ方向に移される。このようにして、3D物品となる物体を、底から上方に向かって一度に1層ずつ構築することができる。
【0032】
前に開示したように、ノズルと先の層との間の距離は、良好な形状を確保するための重要なパラメーターである。好ましくは、ノズル平均直径の60~150%、好ましくは80~120%である。
【0033】
有利には、プリント速度は、良好な精度と製造速度との間の最良の妥協点を得るために、0.1~100mm/秒、好ましくは1~50mm/秒である。
【0034】
「材料噴射(Material jetting)」は、「ビルド材料の液滴が選択的に堆積される積層造形プロセス」と定義される。その材料は、プリンティングヘッドを使用して、個々の液滴の形で不連続に、作業面の目的の位置に塗布される(噴射)。プリンティングヘッド配列を有する3D構造の段階的製造のための3D装置および方法は、少なくとも1つ、好ましくは2~200個のプリンティングヘッドノズルを備え、複数の材料の適切な部位選択的塗布を可能にする。インクジェットプリントによる材料の塗布は、材料の粘度に特定の要件を課す。
【0035】
材料3D噴射プリンターでは、1つ以上のリザーバが圧力を受け、計量ラインを介して計量ノズルに接続される。リザーバの上流または下流に、多成分付加架橋シリコーン組成物を均一に混合し、および/または多成分付加架橋シリコーン組成物が溶解ガスを排出することを可能にする装置があってもよい。異なる付加架橋シリコーン組成物からエラストマー物品を構築するために、またはより複雑な構造の場合には、複合部品をシリコーンエラストマーおよび他のプラスチックから製造することを可能にするために、互いに独立して動作する1つ以上の噴射装置が存在してもよい。
【0036】
噴射計量手順中に計量バルブで発生する高せん断速度のために、そのようなシリコーン組成物の粘度は大幅に低くされ、したがって、非常に細かい微小滴の噴射計量が可能になる。微小滴が基板に堆積した後、せん断速度が急激に低下するため、粘度が再び上昇する。このため、堆積した液滴は再び急速に高粘度になり、三次元構造の正確な形状の構築を可能にする。
【0037】
個々の計量ノズルをx、y、およびz方向に正確に配置して、基板上に、またはその後の成形部品の形成の過程で、既に配置され任意に既に架橋されているシリコーンゴム組成物上に、シリコーン組成物の滴を正確に標的化して堆積させることが可能である。
【0038】
通常、3Dプリンターはディスペンサー、例えば、特定の硬化性シリコーン組成物をプリントするためのノズルまたはプリントヘッドを利用する。任意に、ディスペンサーは、シリコーン組成物を分配する前、分配中、および分配後に加熱することができる。各ディスペンサーが独立して選択された特性を有する1つ以上のディスペンサーを利用することができる。
【0039】
一実施形態では、この方法はサポート材料を使用して物体を構築することができる。物体がサポート材料またはラフトを使用してプリントされている場合、プリントプロセスが完了した後、それらは通常、完成した物体を残して取り除かれる。
【0040】
しかしながら、上で論じたように、積層造形技術における押出成形またはジェットプリンティングでは、通常、後処理で除去する必要がある段差効果を有する表面を有する物品が得られる。
【0041】
後処理に使用されるシリコーン組成物
本発明の方法では、上述の粘度要件を満たす処理シリコーン組成物を、処理される表面またはその少なくとも一部にコーティングし、室温で、または熱もしくはUV照射によって硬化させることによって、積層造形物体の段階的な外観を有する外表面または製造端の後処理に使用することができる。
【0042】
本明細書で使用される「コーティング」という用語は当業者には周知であり、外表面または端の後処理される領域を組成物が十分に覆うことを可能にするすべての塗布形態または方法を指す。コーティングの例としては、例えばシリコーン組成物の処理浴に浸漬するディップコーティング、スプレーコーティング、カーテンコーティング、スピニングコーティング、または他の任意の方法が挙げられるが、好ましくはディップコーティングである。
【0043】
好ましい一実施形態において、本発明者は、硬化性シリコーン組成物のゲル化時間を制御することにより、段差効果の除去に影響を与えるシリコーン組成物の硬化速度および硬化条件をさらに最適化できることをさらに見出した。硬化性シリコーン組成物のゲル化時間は、室温硬化または加熱硬化の場合、0.1秒~15時間、好ましくは1秒~0.5時間、より好ましくは5秒~10分、例えば10秒~2分の範囲であり、UV放射線硬化の場合、0.001秒~1時間、好ましくは0.01秒~20分、例えば0.1秒~1分の範囲である。ゲル化時間が長すぎると硬化プロセスに利益がなかったり、不経済になったりするため、コーティングが不均一になり、段差効果の除去の効果が低下する可能性がある。
【0044】
「ゲル化時間」という用語は、室温もしくは加熱またはUV放射線照射下での混合の開始から、樹脂などの硬化性材料がピックとの接触によって糸の形成を停止するまでの時間を指す。ゲル化時間は、硬化性材料が急速に硬化する能力または可能性を反映するための有用な尺度となり得る。熱硬化性樹脂の規格D2471-99に準じて同様の方法で求めることができる。
【0045】
1つの有益な実施形態では、後処理に使用される本発明のシリコーン組成物は、
(A)1分子当たり、ケイ素原子に結合した少なくとも2つのC2~C6アルケニルラジカルを含む少なくとも1つのオルガノポリシロキサン化合物A、
(B)1分子当たり、同一または異なるケイ素原子に結合した少なくとも2個の水素原子を含む少なくとも1つのオルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物B、および
(C)白金族の少なくとも1つの金属またはその化合物を含む少なくとも1つの触媒C、
を含む硬化性シリコーン組成物であってよい。
【0046】
オルガノポリシロキサン化合物A
オルガノポリシロキサン化合物Aは、1分子当たり、ケイ素原子に結合した少なくとも2つのC2~C6のアルケニルラジカルを含み、アルケニル基はポリシロキサンの主鎖の任意の位置、例えば分子鎖の末端若しくは中間に、または両方に存在する。
【0047】
好ましくは、オルガノポリシロキサン化合物Aは、
(I)式(I-1)の少なくとも2つのシロキシ単位
R
1
aZ
bSiO
[4-(a+b)]/2 (I-1)
ここで、
各R
1は同一でも異なっていてもよく、直鎖または分岐C2-12、好ましくはC2-6アルケニル基、最も好ましくはビニルまたはアリルを表し、
各Zは、同一または異なっていてもよく、1~30個、好ましくは1~12個の炭素原子を有する一価のヒドロカルビル基を表し、好ましくは、任意に少なくとも1個のハロゲン原子で置換されていているアルキル基を含むC1-8のアルキル基から選択され、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、フェニルによって形成される群から選択され、
aは1または2であり、bは0、1または2であり、aとbの合計総重量は1、2または3であり、
および、任意で、(II)式(I-2)の他のシロキシ単位
【化1】
ここで
Zは上記の意味を有し、cは0、1、2または3である、
を含む。
【0048】
好ましい実施形態では、Zは、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、フェニル、キシリルおよびトリルなどから選択することができる。好ましくは、Z基の少なくとも60モル%(または数で表される)がメチルである。
【0049】
好ましい実施形態では、式(I-1)において、a=1およびa+b=2または3であり、式(I-2)において、c=2または3である。
【0050】
これらのオルガノポリシロキサン化合物Aは、直鎖、分岐または環状の構造を有していてもよい。
【0051】
それらが直鎖ポリマーである場合、それらは本質的に、シロキシル単位“D”およびシロキシル単位“M”から形成され、シロキシル単位“D”は、シロキシル単位R2SiO2/2、RZSiO2/2およびZ2SiO2/2によって形成される群から選択され、およびシロキシル単位“M”は、シロキシル単位R3SiO1/2、RZ2SiO1/2、R2ZSiO1/2およびZ3SiO1/2によって形成される群から選択される。記号RおよびZは、上記の通りである。
【0052】
末端単位“M”の例として、トリメチルシロキシ基、ジメチルビニルシロキシ基またはジメチルヘキセニルシロキシ基を挙げることができる。
【0053】
単位“D”の例として、ジメチルシロキシ基、メチルビニルシロキシ基、メチルブテニルシロキシ基、メチルヘキセニルシロキシ基、メチルデセニルシロキシ基またはメチルデカジエニルシロキシ基を挙げることができる。
【0054】
本発明の目的を損なわない範囲で分子鎖中にさらに分岐シロキシ単位を含んでいてもよいが、その割合はオルガノポリシロキサン化合物A中10%を超えないことが好ましく、5%を超えないことがより好ましい。
【0055】
オルガノポリシロキサン化合物Aは、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。一実施形態において、それらは、好ましくは、25℃で約1~10000000mPa・s、一般に25℃で約200~1000000mPa・sの動的粘度を有する。また、粘度の高いガムにすることもできる。本出願において、すべての粘度は動的粘度値に関連し、例えば、ブルックフィールド粘度計を20℃で使用して既知の方法で測定することができる。粘度が高すぎてブルックフィールド機器で測定できない場合は、ウベローデ粘度計で測定できる。
【0056】
オルガノポリシロキサン化合物Aは、オルガノポリシロキサン化合物Aの総重量に基づいて、0.0001~40重量%、好ましくは0.001~35重量%、より好ましくは0.01~30重量%のアルケニル含有量を有することができる。
【0057】
それらが環状オルガノポリシロキサンである場合、それらは、ジアルキルシロキシ、アルキルビニルシロキシまたはアルキルシロキシタイプであり得る、次の式:R2SiO2/2、Z2SiO2/2またはRZSiO2/2を有するシロキシル単位“D”から形成される。そのようなシロキシル単位の例は、既に上で言及されている。前記環状オルガノポリシロキサン化合物Aは、限定されないが、モノマー、オリゴマーまたはポリマーである。一実施形態では、それらが25℃で約1~500000mPa・sの粘度を有することが好ましい。
【0058】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン化合物B
好ましい実施形態によれば、オルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物Bは、1分子当たり、同一または異なるケイ素原子に結合した少なくとも2個の水素原子を含有するオルガノポリシロキサンであり、オルガノポリシロキサン化合物Aと架橋反応する。
【0059】
本発明によれば、オルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物B中のSiH基は、ポリシロキサンの主鎖の任意の位置、例えば、分子鎖の末端若しくは中間またはその両方にあってもよい。
【0060】
有利には、オルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物Bは、下記を含むオルガノポリシロキサンである:
(i)以下の式
HdR2
eSiO[4-(d+e)]/2 (II-1)
を有する少なくとも2つのシロキシル単位、好ましくは少なくとも3つのシロキシル単位:
ここで、
各R2は、同一または異なり、1~30個の炭素原子を含む一価の直鎖、分岐または環状アルキル基を表し、好ましくは、任意に少なくとも1個のハロゲン原子で置換されているアルキル基を含むC1~8アルキル基から、およびアリール基、特にC6-20のアリール基から選択され、並びに、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピルにより形成される群より選択され、および、
(ii)任意に、以下の式
R2
fSiO(4-f)/2 (II-2)
を有する少なくとも1つのシロキシル単位:
ここで
R2は上記の意味を有し、fは0、1、2または3である。
【0061】
より好ましい実施形態では、R2は、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、フェニル、キシリルおよびトリルから選択することができる。
【0062】
オルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物Bは、式(II-1)のシロキシル単位のみから形成されてもよいし、式(II-2)の単位を含んでもよい。それは直鎖、分岐または環状の構造を有していてもよい。
【0063】
式(II-1)のシロキシル単位の例は、特に次の単位である:H(CH3)2SiO1/2、およびHCH3SiO2/2。
【0064】
それらが直鎖ポリマーである場合、それらは本質的に次のものから形成される:
- 次の式R2
2SiO2/2またはR2HSiO2/2を有する単位から選択されるシロキシル単位“D”、および
- 次の式R2
3SiO1/2またはR2
2HSiO1/2を有する単位から選択されるシロキシル単位“M”。
【0065】
これらの直鎖オルガノポリシロキサンは、25℃で約1~1000000mPa・s、一般に25℃で約1~50000mPa・sまたは好ましくは25℃で5~10000若しくは5000mPa・sの動的粘度を有するオイルであり得る。
【0066】
オルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物Bの例としては、直鎖状または環状の化合物、例えば、水素化ジメチルシロキシ末端基を有するジメチルポリシロキサン、トリメチルシロキシ末端基を有する(ジメチル)(ハイドロジェンメチル)ポリシロキサン単位を有するコポリマー、水素化ジメチルシロキシ末端基を有する(ジメチル)(ハイドロジェンメチル)ポリシロキサン単位を有するコポリマー、トリメチルシロキシ末端基を有する水素化メチルポリシロキサン、および環状水素化メチルポリシロキサンが挙げられる。
【0067】
オルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物Bは、少なくとも2つの異なる単位を含む三次元網目状のオルガノハイドロジェンシロキサン樹脂であってもよく、前記少なくとも2つの異なる単位は、
- 式R’3SiO1/2の単位M、
- 式R’2SiO2/2の単位D、
- 式R’SiO3/2の単位Tおよび
- 式SiO4/2の単位Q、
を含むまたはからなる群より選択され、ここでR’は水素原子または1~20個の炭素原子を有する一価のヒドロカルボニル基を表し、
ただし、これらのシロキサン単位の少なくとも1つはシロキサン単位TまたはQ、好ましくはQであり、シロキサン単位M、DおよびTの少なくとも1つは水素原子を含む。
【0068】
好ましい一実施形態では、前記オルガノハイドロジェンシロキサン樹脂中のQ単位に対するM単位のモル比は、0.5~8モル/モル、好ましくは0.5~6モル/モル、より好ましくは0.8~5モル/モルである。
【0069】
別の例示的な実施形態では、SiHの質量含有量は、成分Bの総重量に基づいて、0.001重量%~70重量%の間、好ましくは0.5重量%~60重量%の間、より好ましくは1.0重量%~50重量%の間である。
【0070】
触媒C
触媒Cは白金族からの少なくとも1つの金属またはその化合物を含む。白金金属触媒は、有機ケイ素分野でよく知られており、市販されている。白金に加えて、白金族金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、およびイリジウムをさらに含むことができる。触媒は、以下の成分から構成され得る:白金族金属もしくはその化合物、またはそれらの組み合わせ。このような触媒の例としては、白金ブラック、塩化白金酸、二塩化白金、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、白金とロジウムの化合物が使用される。通常、好ましい触媒は白金である。
【0071】
白金のいくつかの適当な錯体および化合物は、例えば、米国特許第3159601号明細書、米国特許第3159602号明細書、米国特許第3220972号明細書、欧州特許出願公開第0057459号明細書、欧州特許出願公開第0188978号明細書および欧州特許出願公開第0190530号明細書に開示されており、特に、例えば、米国特許第3419593号明細書、米国特許第3715334号明細書、米国特許第3377432号明細書および米国特許第3814730号明細書に記載されるような、白金およびビニルオルガノシロキサンの錯体が使用できる。これらの文献はすべて、参照により本明細書にその全体が組み込まれる。
【0072】
白金触媒は、好ましくは、室温で十分に迅速な架橋を可能にするために、触媒的に十分な量で使用されるべきである。典型的には、処理シリコーン組成物の総重量に対して、Pt原子の量に基づいて、1~10000重量ppm、好ましくは1~100重量ppm、より好ましくは1~50重量ppmの触媒が使用される。
【0073】
さらに、場合によってはUV硬化が有利な場合もある。したがって、シリコーン組成物は、白金系光硬化触媒などのUV硬化に適した触媒を含有してもよい。適切な白金系光硬化触媒の例としては、ビス(アセチルアセトネート)白金、トリメチル(アセチルアセトネート)白金錯体、トリメチル(2,4-ペンタンジオン)白金錯体、トリメチル(3,5-ヘプタンジオン)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4-ペンタンジオン)白金錯体、ビス(2,4-ヘキサンジオン)白金錯体、ビス(2,4-ヘプタンジオン)白金錯体、ビス(3,5-ヘプタンジオン)白金錯体、およびビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオン)白金錯体等が挙げられる。
【0074】
UV硬化の場合、白金系光硬化触媒の量は、白金金属換算でシリコーン組成物全体の総重量を基準として1~50000ppm、好ましくは5~1000ppmである。
【0075】
白金系光硬化触媒を使用する場合には、必要に応じて適当な溶媒を加えて溶解させることができる。適切な溶媒としては、2-(2-ブトキシエトキシ)エチルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、様々なハロゲン化炭化水素などが挙げられる。溶媒の量は、触媒を溶解するのに十分な量であることが好ましい。
【0076】
強化シリカ充填剤D
十分に高い機械的強度を可能にするために、後処理シリコーン組成物中に、少なくとも部分的に表面処理されていてもよいシリカ微粒子を強化充填剤Dとして含めることが有利である。沈降シリカ、ヒュームドシリカおよびそれらの混合物を使用することが可能である。これらの活性強化充填剤の比表面積は、BET法によって測定して、少なくとも50m2/g、好ましくは100~400m2/gの範囲にあるべきである。この種の活性強化充填剤は、シリコーンゴムの分野で非常によく知られている材料である。上記のシリカ充填剤は、親水性を有していてもよいし、または既知のプロセスによって疎水化されていてもよい。有利には、シリカ強化充填剤は全体的な表面処理を受ける。これは、シリカ強化充填剤の表面の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%または少なくとも90%、特に好ましくは全体が疎水性処理されることが好ましいことを意味する。
【0077】
好ましい実施形態では、シリカ強化充填剤は、BET法で測定して、少なくとも50m2/g、好ましくは100~400m2/gの範囲の比表面積を有するヒュームドシリカである。疎水性表面処理を施したフュームドシリカを使用してもよい。その際、疎水性表面処理を施したヒュームドシリカを使用する場合には、疎水性表面処理を予備的に行ったヒュームドシリカを使用してもよい。或いは、ヒュームドシリカをオルガノポリシロキサン化合物Aと混合する際に表面処理剤を添加してヒュームドシリカがその場で処理されるようにしてもよい。
【0078】
表面処理剤としては、アルキルアルコキシシラン類、アルキルクロロシラン類、アルキルシラザン類、シランカップリング剤、チタネート系処理剤、脂肪酸エステル等の従来から使用されている処理剤の1つ以上から選択され得る。これらの表面処理剤は、同時に使用してもよいし、順次使用してもよい。
【0079】
処理シリコーン組成物中のシリカ強化充填剤Dの含有量は、組成物全体の重量に対して、0.5重量%~40重量%、好ましくは2重量%~20重量%、より好ましくは3重量%~15重量%である。含有量が1重量%未満では、十分なチキソトロピーが得られず、くずれが著しく軽減されない場合があり、40重量%を超えると、実際のブレンド工程が困難になり得、導電性が低下する場合がある。上記のより好ましい量は、くずれ、変形、導電性および加工性に関してより著しい改善をもたらす。
【0080】
架橋抑制剤G
架橋抑制剤は、任意の成分である。しかし、それらは一般に、周囲温度での組成物の硬化を遅らせるために、架橋型シリコーン組成物に加えて一般に使用される。架橋抑制剤Fは、以下の化合物から選択することができる:
- エチニルシクロヘキサノールなどのアセチレンアルコール
- 2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサンなどのテトラメチルビニルテトラシロキサン
- ピリジン、
- 有機ホスフィンおよびホスファイト、
- 不飽和アミド、および
- マレイン酸アルキル
【0081】
これらのアセチレンアルコールは、好ましいヒドロシリル化反応熱ブロッカーの1つであり、仏国特許発明第1528464号明細書および仏国特許出願公開第2372874号明細書などに記載されており、次の式を有する。
(R’’)(R’’’)(OH)C-C≡CH
ここで:R’’は、直鎖または分岐アルキルラジカル、またはフェニルラジカルであり、R’’’は、Hまたは直鎖もしくは分岐アルキルラジカル、またはフェニルラジカルであり、ラジカルR’’およびR’’’ならびにα位の炭素原子が三重結合に対して環を形成し得る。
【0082】
R’’およびR’’’に含まれる炭素原子の総数は、少なくとも5個、好ましくは9~20個である。前記アセチレンアルコールについて、挙げることができる例には以下が含まれる:
- 1-エチニル-1-シクロヘキサノール;
- 3-メチル-1-ドデシン-3-オール;
- 3,7,11-トリメチル-1-ドデシン-3-オール;
- 1,1-ジフェニル-2-プロピン-1-オール;
- 3-エチル-6-エチル-1-ノニン-3-オール;
- 2-メチル-3-ブチン-2-オール;
- 3-メチル-1-ペンタデシン-3-オール;および
- マレイン酸ジアリルまたはマレイン酸ジアリル誘導体。
【0083】
好ましい実施形態では、架橋抑制剤は1-エチニル-1-シクロヘキサノールである。
【0084】
有利には、処理シリコーン組成物中の架橋抑制剤Fの量は、シリコーン組成物の総重量に対して0.01重量%~2重量%、好ましくは0.03重量%~1重量%の範囲である。
【0085】
抑制剤の使用は、ノズルの先端でのシリコーン組成物の早期硬化およびその後のプリント層の変質を回避するのに効果的である。
【0086】
その他の成分H:
本発明によるシリコーン組成物はまた、任意に、標準的な半強化充填剤またはパッキング充填剤(packing filler)、ビニル基またはシクロシロキサンを有するシリコーン樹脂などの他の機能性シリコーン樹脂、非反応性メチルポリシロキサン、顔料、有機溶媒または接着促進剤などの他の添加剤を含んでもよい。
【0087】
半強化充填剤またはパッキング鉱物充填剤として含まれる非珪質鉱物は、カーボンブラック、二酸化チタン、酸化アルミニウム、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、粉砕石英、珪藻土、酸化亜鉛、雲母、タルク、酸化鉄、硫酸バリウム、消石灰からなる群より選択されることができる。
【0088】
処理シリコーン組成物は、全組成中のケイ素に結合したビニル基(Si-ビニル基)の総和に対するケイ素に結合した水素原子(Si-H基)のモル比、すなわちSiH/ビニルが、0.5~10モル/モルであることが望ましく、好ましくは0.6~5モル/モル、より好ましくは0.8~4モル/モル、1.2~4モル/モルまたは1.6~4モル/モルである。
【0089】
好ましい一実施形態では、ビルディング材料、または少なくとも後処理される表面を作製する材料は、後処理シリコーン組成物と同様に、
(A)1分子当たり、ケイ素原子に結合した少なくとも2つのC2~C6アルケニルラジカルを含む、少なくとも1つのオルガノポリシロキサン化合物A、
(B)1分子当たり、同一または異なるケイ素原子に結合した少なくとも2個の水素原子を含む、少なくとも1つのオルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物B、および
(C)白金族の少なくとも1つの金属またはその化合物を含む少なくとも1つの触媒C、を含む付加型シリコーン組成物であってもよい。
したがって、上述した後処理シリコーン組成物およびそれに含まれる個々の成分に対して与えられた仕様および選択は、ビルディング材料または後処理される表面を作製する材料にも適用される。ビルディング材料または後処理される表面を作製する材料に対して上記で特定した付加型シリコーン組成物と後処理シリコーン組成物との両方を使用すると、接着性および機械的特性が優れた状態を維持できることが判明した。
【0090】
好ましくは、ビルディング材料または後処理される表面を作製する材料は、0.5~10モル/モル、好ましくは0.6~5モル/モル、より好ましくは0.8~4モル/モル、1.2~4モル/モル、または1.6~4モル/モルのSiH/ビニルを有してもよい。
【0091】
上で述べたように、後処理に使用されるシリコーン組成物は比較的広範囲に異なる組成を有し得るが、硬化性後処理シリコーン組成物の適切な硬化速度を達成することは、良好な接着力および機械的性質を維持しながら段差効果を除去するなどの本発明の有益な技術的効果にとって不可欠である。硬化性後処理シリコーン組成物の適切な硬化速度は粘度、好ましくは硬化性材料のゲル化時間も特定の範囲内に調整することによって制御することができる。このような調整は当業者には知られている。特定の粘度およびゲル化時間の範囲は、例えば、それぞれ高粘度および低粘度の2つのオルガノポリシロキサンを混合すること、例えばオルガノポリシロキサン樹脂をより追加して粘度を高めたり、シリカなどの充填剤の量を追加または減らしたりすることを含めて、上述の成分の量を変えることによって変更または最適化することができる。必要なゲル化時間に関しては、触媒、架橋抑制剤、または架橋性成分の量または種類を調整することによって達成することができる。
【0092】
また、粘度は使用する硬化温度によっても変化する場合がある。例示的な一実施形態では、粘度は、例えば約23℃の硬化温度に対して300~50000mPa・sの範囲内など比較的低くてもよいし、例えば意図される硬化温度が約150℃または180℃の高さの場合は500~100000mPa・sまたは2000~40000mPa・sの範囲内など比較的高くてもよい。
【0093】
好ましい実施形態において、本発明の後処理シリコーン組成物は、シリコーン組成物100重量%あたり、
(A)前記オルガノポリシロキサン化合物Aを5~95重量%、
(B)少なくとも1つの前記オルガノハイドロジェノポリシロキサン化合物B;
(C)前記触媒Cを0.1~500ppm、
(D)前記強化シリカ充填剤Dを0~30重量%、好ましくは3~15重量%、および
(G)任意に、少なくとも1つの前記架橋抑制剤G、
を含む。
【0094】
さらに有利な実施形態では、本発明の後処理シリコーン組成物中に、30重量%未満、1重量%未満、または0.2重量%未満の有機溶媒が必要であり、あるいは全く必要としない。有機溶媒を省略すると、後処理シリコーン組成物、ひいてはプリント物品の処理表面がより環境に優しく、バクテリアに対する影響を受けにくくなり得る。したがって、本発明の後処理シリコーン組成物またはそれにより処理された物品は、積層造形医療装置または補綴物などの医療用途に適している。
【0095】
本発明による方法において、処理シリコーン組成物または後処理に使用されるシリコーン組成物は、後処理される表面を作製する材料の組成と同一であっても異なっていてもよい。一実施形態では、表面の後処理および積層造形物体に使用されるシリコーン組成物は、同じ組成を有する。
【0096】
別の態様では、本発明は、上記の後処理方法を含む3Dプリントプロセスに関し、以下のステップを含む。
a)ポリマー材料またはプラスチック材料の外形または表面を有する積層造形物体、好ましくはポリマー材料またはプラスチック材料で製造された積層造形物体、より好ましくはシリコーン組成物で製造された積層造形物体を製造する工程、
b)上記で定義した硬化性シリコーン組成物で製造された物体の表面の少なくとも一部をコーティングする工程、および
c)室温で、または熱もしくはUV放射によってコーティングを硬化させる工程。
【0097】
第1工程a)では、積層造形された物体は通常、視覚的に階段状に見える凹凸のある外表面または外形を有する。好ましくは、物体全体はポリマー材料またはプラスチック材料、好ましくは上記のシリコーン組成物で作られる。
【0098】
後処理のための硬化性シリコーン組成物のコーティングは、処理される外表面または外形を覆うコーティングまたは層が形成され得る限り、さまざまな方法で実施することができる。1つの好ましい実施形態では、製造した物体を引き取って、後処理シリコーン組成物の浴に浸漬(ディップ)することができる。浸漬(ディップ)コーティングは、異なる温度、特に室温で実行されてもよい。最後に、浸漬(ディップ)コーティングされた物体を浴から取り出して硬化させる。
【0099】
次いで、コーティングされた硬化性シリコーン組成物を室温で、あるいは熱もしくはUV放射によって硬化させることができる。室温硬化または熱硬化の場合、用いられる温度は室温(約23℃)から高温(例えば150℃)までの範囲でよい。硬化に使用できるUV線としては、シリコーン組成物を硬化させるのに十分なエネルギーを提供できる限り、LEDランプや水銀ランプなどの任意のUV光源を使用することができる。一実施形態では、UV硬化は、0.001秒~30分間、特に0.1秒~2分間行うことができる。
【0100】
本発明の方法を用いると、3Dプリンティングまたは積層造形プロセスにおいて、特に工程a)とb)の間、または工程c)の後において、表面を平坦にするための、または段差効果を除去するためのブラストまたは研磨などの機械的表面処理が必要とされない可能性がある。
以下の非限定的な実施例は、本発明をさらに詳細に説明するものである。
【実施例】
【0101】
【0102】
測定の説明
粘度:ASTM D445に従って、サンプル混合物の粘度は23℃で試験する。試験条件の詳細を表2および4に示す。例えば、「(5#、20rpm)」という表現は、スピンドル番号5を使用して20rpmで粘度を測定することなどを意味する。
【0103】
引張強度および破断伸び:硬化サンプルの引張強度および破断伸びは、ASTM D412に従って23℃で試験する。試験条件の詳細を表3に示す。硬化サンプルは150℃、1時間で得た。
【0104】
引裂き強度:硬化サンプルの引裂き強度は、ASTM D642に従って25℃で試験する。試験条件の詳細を表4に示す。硬化サンプルは150℃、1時間で得た。
【0105】
ゲル化時間:熱硬化性樹脂の規格D2471-99に準拠した同様の方法を使用する。この方法では、清潔なプローブを使用して、室温またはUV照射下での混合の開始から試験材料と頻繁に接触させる。清潔なプローブの端に材料が付着しなくなった時間をゲル化時間として記録する。
【0106】
段差効果の除去:段差効果の状況を視覚的に評価し、アステリスクでスコアを作成する:***表面に目に見える段差がなく、滑らかである;**段差効果が少なく、比較的平らでない;*平らでなく明らかな段差効果
積層造形物品の準備
3Dプリントプロセスは、以下の手順に従って押出しプリンターを使用して実行された:
I.表1に示すビルディング材料を押出機に装填する;
II.プリンティングプラットフォームをレベル調整し、次のプリンティングパラメータを設定する:
押出機ダイT1:0.25mm
走査速度 :1000mm/分
層の厚さ :0.3mm、及び
流量 :0.10mL/分
【0107】
辺の長さが15ミリメートルのプリントされた立方体が得られ、明らかな段差効果のある表面を有していた。
【0108】
【0109】
後処理シリコーン組成物の調製
実施例1は次のように調製した:21部のα,ω-ビニルシロキサンオイルA3と60.12部のα,ω-ビニルシロキサンオイルA4の混合物に、1部のE-1を及び0.8部のF-1を十分に撹拌しながら添加した。0.06部の抑制剤F-2を混合物に添加し、続いて8部のSiH基を有するポリジメチルシロキサンB-1を添加した。次に、9部のシリカD-1を上記混合物とよく混合した。最後に、0.02部の触媒C-1を加えて実施例1を得た。
【0110】
実施例2~12は、表2および3に示すように成分の量を変える以外は実施例1に従って同様に調製した。
【0111】
実施例13は、本発明のシリコーン組成物による後処理を行わなかった対照例であった。
【0112】
後処理シリコーン組成物のコーティングと硬化
プリントされた立方体を、調製した各後処理剤(シリコーン組成物)の浴に浸漬し、次に物品から滴下がなくなるまで室温に放置することで、均一な処理層を示した。実施例6~15のいくつかのコーティング物品を、表4に簡単に特定した条件下で熱により硬化させた。実施例5のコーティング物品をUV硬化プロセスにさらした。
【0113】
UV硬化プロセス:サンプルは、滑らかな表面を得るため3秒間UV照射下に置かれた。サンプルにUV Hgランプを照射した。
光出力 :120w/cm 20m/min
UV A:147.7mJ/cm2 1417.9mw/cm2
UV B:112.8mJ/cm2 1092.8mw/cm2
UV C: 33.4mJ/cm2 321.9mw/cm2
UV V:192.7mJ/cm2 1840.7mw/cm2
【0114】
光源とサンプル間の距離は10cmである。サンプルに3秒間照射すると、サンプルは流動性を失い、急速に形成された。
【0115】
実施例4で調製したシリコーン組成物を用いて3Dプリントした立方体に対する後処理の前後の機械的性能を測定し、結果を表3に示した。
【0116】
また、実施例1~4は、150℃、1時間の加熱硬化を行ったが、硬化した表面の処理後シリコーンコーティングは手では剥がすことができず、良好な密着性を示した。
【0117】
【0118】
【0119】
【国際調査報告】