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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】カーボンブラックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20240110BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20240110BHJP
   C10B 53/07 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C09C1/48
C08J11/12 ZAB
C10B53/07
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540496
(86)(22)【出願日】2021-12-31
(85)【翻訳文提出日】2023-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2021087894
(87)【国際公開番号】W WO2022144440
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】2020931.8
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520372696
【氏名又は名称】グリーン リザード テクノロジーズ エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】GREEN LIZARD TECHNOLOGIES LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】アトキンス マーティン
【テーマコード(参考)】
4F401
4H012
4J037
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA13
4F401BA06
4F401CA02
4F401CA70
4F401DC00
4F401EA07
4F401EA08
4F401EA24
4F401EA26
4F401EA27
4F401EA46
4F401FA01Z
4F401FA06Z
4F401FA07Z
4F401FA20Z
4H012HB00
4J037AA02
4J037DD07
4J037EE15
4J037EE43
4J037EE47
(57)【要約】
本発明は、プラスチック熱分解炭からカーボンブラックを製造する方法に関するものである。特に、本方法は、プラスチック熱分解炭を前洗浄し、その後、酸を用いて洗浄し、更に塩基を用いて洗浄することを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリエテン(PE)、ポリプロピレン(PP)、又はそれらの組合せを含むプラスチック原料を熱分解して、プラスチック熱分解炭を生成し、
b)前記プラスチック熱分解炭を、水溶液(水等)にて事前洗浄し、
c)前記事前洗浄されたプラスチック熱分解炭を酸にて洗浄し、
d)前記酸洗浄されたプラスチック熱分解炭を塩基にて洗浄する、
ことを含むカーボンブラックの製造方法。
【請求項2】
前記プラスチック原料が、20wt%未満、好ましくは10wt%未満、より好ましくは5wt%未満のカーボンブラックを含むか、更により好ましくはカーボンブラックを実質的に含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラスチック原料のうちの少なくとも50wt%が、好ましくは少なくとも60wt%が、より好ましくは70wt%が、PE(高密度ポリエチレン(HDPE)又は低密度ポリエチレン(LDPE)等)及び/又はPPにて構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プラスチック原料が0.1wt%未満、好ましくは0.07wt%未満、より好ましくは0.05wt%未満のポリ塩化ビニル(PVC)を含む、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記b)工程における事前洗浄が5~50℃、好ましくは10~40℃、より好ましくは15~30℃の温度にて実施される、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記b)工程における事前洗浄が10分~3時間、好ましくは30分~2時間、より好ましくは45分~1.5時間、実施される、請求項1~請求項5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸がHCl、HNO3 、H3PO4、及びそれらの混合物の中から選択され、好ましくはHClである、請求項1~請求項6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記c)工程における、事前洗浄されたプラスチック熱分解炭に対する酸の重量比が0.1:1~4:1、好ましくは0.5:1~3:1、より好ましくは1:1~2:1である、請求項1~請求項7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記c)工程における洗浄が30~150℃、好ましくは60~130℃、より好ましくは90~110℃の温度にて実施される、請求項1~請求項8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記c)工程における洗浄が10分~3時間、好ましくは30分~2時間、より好ましくは45分~1.5時間、実施される、請求項1~請求項9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記c)工程が、前記酸にて洗浄されたプラスチック熱分解炭を水によって洗浄することを更に含む、請求項1~請求項10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記塩基がKOH、NaOH、及びそれらの混合物の中から選択され、好ましくはNaOHである、請求項1~請求項11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記d)工程における、前記酸にて洗浄されたプラスチック熱分解炭に対する塩基の重量比が0.1:1~4:1、好ましくは0.5:1~3:1、より好ましくは1:1~2:1である、請求項1~請求項12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記d)工程における洗浄が30~150℃、好ましくは60~130℃、より好ましくは90~110℃の温度にて実施される、請求項1~請求項13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記d)工程における洗浄が10分~3時間、好ましくは30分~2時間、より好ましくは45分~1.5時間、実施される、請求項1~請求項14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
前記d)工程が、前記塩基にて洗浄されたプラスチック熱分解炭を水によって洗浄することを更に含む、請求項1~請求項15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記b)工程における事前洗浄の後、及び/又は前記c)工程における酸洗浄の後、及び/又は前記d)工程における塩基洗浄の後、プラスチック熱分解炭の粒径を減少させること、好ましくは粉砕、を更に含む、請求項1~請求項16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記カーボンブラックが少なくとも70wt%の炭素、好ましくは少なくとも75wt%の炭素、より好ましくは少なくとも80wt%の炭素、更により好ましくは少なくとも85wt%の炭素を含む、請求項1~請求項17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記カーボンブラックが、50,000mg/kg未満、好ましくは20,000mg/kg未満、より好ましくは15,000mg/kg未満の総金属含有量を有する、請求項1~請求項18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記カーボンブラックが、5wt%未満、好ましくは3wt%未満、より好ましくは1wt%未満、更により好ましくは0.5%未満の灰分を有する、請求項1~請求項19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記カーボンブラックが20~200m2/g 、好ましくは40~150m2/g 、より好ましくは60~100m2/g の表面積を有する、請求項1~請求項20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記カーボンブラックが少なくとも0.06cm3/g 、好ましくは少なくとも0.9cm3/g 、より好ましくは少なくとも0.13cm3/g 、更により好ましくは少なくとも0.13cm3/g の細孔容積を有する、請求項1~請求項21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
カーボンブラックの製造における、PP、PE、又はそれらの組み合わせを含む原料の使用。
【請求項24】
カーボンブラックの製造における、PP、PE、又はそれらの組み合わせから形成された熱分解炭の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック熱分解炭(plastic pyrolytic char)からカーボンブラックを製造する方法に関する。特に、このプロセスは、プラスチック熱分解炭を事前洗浄し、続いて酸、次いで塩基で洗浄することを含む。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、安価で汎用性があるため、最も一般的に使用される材料の1つである。これらは使い捨て目的で生産されることが多く、生産される商業廃棄物及び家庭廃棄物のうちの約10%を占める。
【0003】
プラスチック廃棄物は、生分解性ではなく、適切な方法で処分しなければ何世紀にも亘って環境中に残留する可能性があるため、特有の課題を抱えている。プラスチック廃棄物を処理するために現在、広く使用されている方法には、埋め立てごみ処理、焼却、リサイクルがある。現在のリサイクル及び焼却施設の能力は埋立処理能力に比べて小さいため、ほとんどのプラスチック廃棄物は、最終的に埋立処理が行なわれる。これは、リサイクルの増加や環境プロセスの利用を目指す現在の流れとは一致しない。
【0004】
焼却すると、プラスチックに蓄えられたエネルギーの一部は熱エネルギーの形で返還され、この熱エネルギーを利用して蒸気を生成し、電気を発生することが出来る。焼却プロセスの最大の欠点の1つは、発がん性のあるフランの生成とダイオキシンの排出である。焼却プロセスのもう1つの欠点は、産出物の形態である。焼却により熱を発生するが、長距離を運ばれるとエネルギーが失われるため、この熱は近くの地域でしか利用することが出来ない。
【0005】
プラスチック廃棄物は、新しいプラスチックを製造するためにリサイクルされ、新しいプラスチック製品の製造に使用可能なプラスチック材料を回収することも出来る。しかしながら、プラスチックのリサイクルは、分別と同様に回収にも時間と大きな労力を要するため、技術的及び経済的な実行可能性は低い。プラスチックの分離が困難で相互汚染がほぼ避けられない場合は、低グレードの用途でのみ使用できるリサイクル品が製造される。リサイクルプロセスが行われる前に徹底的な洗浄も必要であり、さらなる廃棄物が発生する。
【0006】
プラスチック熱分解は、汚染物質の排出を最小限に抑えながら気体、液体、固体の廃プラスチックからエネルギーを回収するため、最も有望なプラスチック処理方法の1つである。熱分解とは、酸素不在下の高温における材料の熱分解である。したがって、燃焼や酸化は起こらない。プラスチック熱分解では、プラスチック廃棄物は500~800℃などの温度に加熱され、可燃性ガス、液体、固体物に分解される。
【0007】
熱分解は第三のリサイクルプロセスであり、プラスチック廃棄物からエネルギーを回収したり、エネルギー源や化学工業原料などの有用な製品を生産するための優れた方法であると、現在では考えられている。焼却と比較して、熱分解は有毒ガスの発生が少なく、エネルギー回収効率も高い。また、熱分解生成物は、焼却中に生成される熱エネルギーと比較して、非常に融通が利き、輸送が容易である。
【0008】
熱分解は、プラスチック相互汚染の影響を受けにくいため、プラスチックの再生利用よりも実行可能であり、それ故に強力な分離プロセスを必要としない。ガス状の副産物であってもかなりの発熱量があり、熱分解段階で再利用されることで熱分解プラントのエネルギー要件を削減できるため、有望なグリーン技術と考えられている。
【0009】
様々な生成物の収率や生成物の組成に影響を与える要因には、操作温度、加熱速度、保持時間、原料組成や触媒の使用が含まれる。熱分解条件を調整することにより、目的とする生成物の収率を最適化することが出来る。
【0010】
炭(char)は、特定の原料の熱分解後に生成される固体残留物である。炭素質原料の熱変換により生成される炭には、通常、カーボンブラック、灰分、有機化合物及び無機化合物の混合物が含まれている。炭の特性は、供給組成および熱分解プロセス条件に依存する。高速熱分解で得られる油状生成物やガス状生成物には多くの注目が払われてきたが、炭生成物(char product)やその特性についてや、熱分解条件がその特性や用途にどのような影響を与えるかについては、ほとんど注目されていない。
【0011】
例えば、プラスチックの熱分解から生成される炭(本明細書では「プラスチック熱分解炭(plastic pyrolytic char)」と呼ぶ)は、タイヤから生成される炭(本明細書では「タイヤ熱分解炭(tyre pyrolytic char )」と呼ぶ)とは大きく異なり、タイヤには、ゴムやその他の化学物質に加えて添加剤としてのカーボンブラックが、タイヤ総重量の約30~35%の割合において既に含まれている。例えば、タイヤ熱分解炭は、タイヤ熱分解の炭(char)収率が高く、通常、熱分解生成物の総質量の約40~50%である。逆に、プラスチックの熱分解生成物の全体において、炭はその10~20%を占めるのみである。
【0012】
粗製のプラスチック熱分解炭(crude plastic pyrolytic char)は用途が非常に限られており、低品位燃料と同様に市場価値は非常に低く、1トン当たり約45ドルである。これは、粗製の炭における汚染物質含有量が高いためであり、粗製の炭には通常、カーボンブラック、プラスチック添加剤、炭素質沈着物(carbonaceous deposites)、不揮発性炭化水素及び灰が含まれている。灰分に含まれる重金属や有機化合物は、有毒である。従って、灰は、その有毒な性質によりプラスチック熱分解炭の価値を根本的に低下させるため、重大な影響力を有する汚染物質である。
【0013】
炭は、カーボンブラック、活性炭、土壌改良材や石炭などの有用な炭素質製品にアップグレードすることが出来る。熱分解炭は、一般に大量の汚染物質を含んでいるため、アップグレードには大きな制限がある。アップグレードの範囲は、最終的な用途によって異なる。
【0014】
カーボンブラックは、物理的及び化学的特性を改善するために、主にゴム製品、特にタイヤに使用される添加物である。カーボンブラックは、炭素含有量が85wt%以上と高く、不純物含有量が少ないことが特徴である。カーボンブラックは、すすや炭などの、汚染物質や不純物が多く含まれている他の炭素質材料とは異なる。
【0015】
ファーネスブラックプロセスは、世界のカーボンブラック総生産量の95%以上を生産している。石油系重質油を原料として使用し、密閉反応器内において、非常に高温に加熱され、制御された温度と圧力の下で原料を噴霧する。生成されたカーボンブラックは冷却され、連続プロセスでバッグフィルタに収集される。
【0016】
商業的なカーボンブラックの製造で2番目によく使用されているプロセスは、サーマルブラックプロセスである。ファーネスブラックプロセスと合わせて、これらのプロセスにより、世界中のほぼすべてのカーボンブラックが生産されている。サーマルブラックプロセスでは、主に天然ガス又は重油を原料として使用する。得られたカーボンブラックを更に処理することにより、不純物の含有量を減らすことが出来る。
【0017】
これらの伝統的なカーボンブラックの製造プロセスでは、1トンのカーボンブラックを製造するために、2トンの重油が原料として必要であり、10トンのCO2 (二酸化炭素)が副産物として生成される。従って、熱分解炭(pyrolytic char)をカーボンブラックとして再利用することは、未使用のカーボンブラック生産に代わる持続可能な代替手段となり、生成される温室効果ガスの量を削減することが出来る。
【0018】
タイヤ熱分解炭からのカーボンブラックの製造は、タイヤ熱分解の炭の収率が高く、また、タイヤ内に既に大量のカーボンブラックが存在していることに因り、研究されており、これは、タイヤ熱分解炭中の高レベルのカーボンブラックに繋がる。しかしながら、プラスチック熱分解炭を使用したカーボンブラックの製造については、生産速度が遅く、またカーボンブラックの含有量が少ないため、ほとんど研究されていない。
【0019】
熱分解炭中に含まれるカーボンブラックは、有機化合物及び無機化合物を除去することによって回収することが出来る。非極性又は極性の低い有機成分は、有機溶媒の洗浄で除去できることが知られている。例えば、炭サンプルから熱分解タールを除去するために、ヘキサンやアセトンなどの有機溶媒が使用されている。しかしながら、この方法では、金属化合物やシリコン化合物などの無機汚染物質を効果的に除去することが出来ない。
【0020】
熱分解炭の連続熱分解処理も提案されている。しかしながら、その処理温度は、灰および硫黄化合物を効果的に蒸発させるには低すぎる。
【0021】
酸塩基脱塩(acid-base demineralization)を使用したタイヤ熱分解炭からのカーボンブラックの回収については、研究され、文献で報告されている。しかしながら、これらの炭のタイプ間の組成の違いにより、代替タイヤタイプに使用される処理条件を、プラスチック熱分解炭に直ちに適用することは出来ない。
【0022】
カーボンブラックや活性炭の前駆体としてプラスチック廃棄物などの入手性の高い材料を使用すると、製品の全体的な持続可能性を向上させることが出来る。また、プラスチック熱分解炭の再利用は、プラスチック熱分解プロセスの全体的な経済的および商業的実行可能性に重大な影響を与える可能性があり、その結果、廃プラスチックのリサイクルが改善され、それらの埋め立て地への蓄積が防止される。
【0023】
従って、プラスチックの熱分解より生成される炭からカーボンブラックを得る効率的なプロセスの開発が、望まれている。
【発明の概要】
【0024】
驚くべきことに、高い炭素含有量と低い金属含有量を有するカーボンブラックは、酸洗浄と塩基洗浄とを組み合わせた事前洗浄を含むプロセスを通じて、プラスチック熱分解炭から製造できることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0025】
したがって、本発明は、カーボンブラックの製造方法であって、
a)ポリエテン(PE)、ポリプロピレン(PP)又はそれらの混合物を含むプラスチック原料を熱分解して、プラスチック熱分解炭を製造する工程と、
b)プラスチック熱分解炭を水性液剤で事前洗浄する工程と、
c)事前洗浄されたプラスチック熱分解炭を、酸で洗浄する工程と、
d)酸で洗浄されたプラスチック熱分解炭を、塩基で洗浄する工程と、
を含むものを提供する。
【0026】
別の態様においては、ここに開示の方法によって製造されるカーボンブラックが提供される。
【0027】
また、カーボンブラックの製造におけるPP、PE、又はそれらの組み合わせ、供給原料の使用、並びに、カーボンブラックの製造におけるPP、PE、またはそれらの組み合わせから形成される熱分解炭の使用も、提供される。
【発明の効果】
【0028】
PP、PE、又はそれらの組み合わせ、原料からカーボンブラックを効率的に得る能力は、カーボンブラックを形成する代替方法からのCO2 生成を削減し、プラスチックを埋め立て地に送るのではなくリサイクルすることができることが理解される。さらに、このプロセスでは、PP、PE、又はそれらの組み合わせ、一般的には使用されず、通常は廃棄される熱分解炭が、使用される。さらに、製造されたカーボンブラックは、更なる処理を行わずにカーボンブラックとして販売できるほど十分な品質であることが判明した。
【0029】
参考までに、別段の指定がない限り、又は反対の意味が意図されていることが明らかでない限り、本出願における濃度に言及する全てのパーセンテージは重量パーセント(wt%)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
カーボンブラックの製造方法は、PP、PE、又はそれらの組み合わせを含むプラスチック原料を熱分解してプラスチック熱分解炭を生成すること、プラスチック熱分解炭を水性液剤で事前洗浄すること、事前洗浄したプラスチック熱分解炭を酸で洗浄すること、酸洗浄されたプラスチック熱分解炭を塩基で洗浄すること、を含む。
【0031】
このプロセスは、活性炭製造における活性化前の前処理としても使用することが出来る。
【0032】
プラスチック原料
上述したように、プラスチック原料には、PP、PE、又はそれらの組み合わせが含まれる。そのような廃棄物の発生源には、袋、ボトル、フィルム、シート、繊維、織物、パイプ、その他の成形品や押出品が含まれる。
【0033】
このような材料に使用されるPP及びPEの種類には、LDPE(低密度PE)、LLDPE(直鎖状低密度PE)、UHMWPE(超高分子量PE)、XLPE(架橋PE)及びHDPE(高密度PE)、並びに、iPP、sPP、aPPなどのアイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチック型も含まれる。
【0034】
そのようなプラスチックには通常、大量のカーボンブラックは含まれていない。
【0035】
従って、本発明におけるプラスチック原料は、好ましくは20wt%未満、好ましくは10wt%未満、より好ましくは5wt%未満のカーボンブラックを含み、更に好ましくは、実質的にカーボンブラックを含まない。実質的にカーボンブラックを含まないとは、カーボンブラックが3wt%未満、好ましくは1wt%未満、より好ましくは0.1wt%未満(更には0.01wt%未満、または0.005wt%未満)の量で存在することを意味する。
【0036】
炭(char)は、原料の熱分解後に生成される固体残留物ではあるが、すべての原料が使用可能な量の炭を生成するわけではないことは、理解されるところである。炭の特性は、原料の組成に依存する。従って、原料は、不純物の除去など、生成された炭を処理するために要求される更なる処理条件も決定する。このため、タイヤなどの特定の原料から生成される、あるタイプの炭に使用される洗浄などの更なる処理条件を、PP、PE、又はそれらの組み合わせなどのプラスチックから生成される炭の処理に、自動的に移行することは出来ない。
【0037】
高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及びポリプロピレン(PP)は、都市の固形廃棄物の60~70%を占めており、驚くべきことにそれらは、本明細書に記載の方法を使用して高品質のカーボンブラックを製造するのに適していることが判明した。
【0038】
好ましくは、PP、PE、又はそれらの組み合わせは、プラスチック原料の少なくとも50wt%を、好ましくは少なくとも60wt%を、より好ましくは少なくとも70wt%を、更により好ましくは少なくとも80wt%を、最も好ましくは少なくとも85wt%を、構成する。また、プラスチック原料は、少なくとも90wt%、好ましくは少なくとも95wt%、そして場合によっては98wt%などのより高いPP、PE、又はそれらの組み合わせにて、構成されていても良い。
【0039】
LDPEとHDPEは、何れもエチレンのポリマーであり、式(CH2CH2n を有する。ポリエチレンの特性、つまりLDPE又はHDPEとしての分類やその用途は、分子量、分岐、密度などの要因によって異なる。LDPEは、好ましくは、30,000~50,000g/molの分子量、及び0.910~0.925g/cm3 の密度を有する。HDPEは、好ましくは、200,000~500,000g/molの分子量、及び0.941・0.980g/cm3 の密度を有する。LDPEは、好ましくは、炭素原子の1~4%、より好ましくは炭素原子の1~3%、更に好ましくは炭素原子の1.5~2.5%の割合で、分岐を有する。HDPEは、LDPEよりも分岐が少ないことが好ましく、例えば、炭素原子の2%未満、好ましくは炭素原子の1%未満、より好ましくは炭素原子の0.5%未満、更により好ましくは炭素原子の0.1%未満の割合である。一般に、LDPEはHDPEよりも分岐が多いため、鎖間の分子間力が弱く、引張強度は低く、弾力性はHDPEよりも高くなる。対照的に、HDPEは、強度対密度比が高いことで知られている。HDPEは、プラスチック袋、ペットボトル、配管、容器など多くの品目の製造に、一般的に使用されている。LDPEは、スナップ式の蓋、トレイや容器、プラスチックのラップなど、柔軟性が必要な部品によく使用されている。
【0040】
PPはプロピレンのポリマーであり、式(CH(CH3)CH2n を有する。好ましくは、PPの密度は0.895~0.92g/cm3 である。PPは、その立体規則性に応じて、130℃~170℃の融点を有する。一般に、PPの特性はポリエチレンに似ていると考えられるが、メチル基により機械的特性及び耐熱性が向上する。一般に、PPは強靭で柔軟性があり、耐疲労性に優れている。それ故に、PPはヒンジに使用される場合がある。また、PPは、オートクレーブやケトルの使用が必要な医療用途など、高温を必要とする用途にも使用することが出来る。
【0041】
さらに、ポリエチレン(PE)及びPPは、他のモノマーと共重合されていてもよい。選択されるモノマーは、要求される特性によって異なる。例えば、PEは酢酸ビニル又はアクリレートと共重合されていてもよい。これらの共重合体は、各々、運動靴のソールフォーム、包装やスポーツ用品に使用することが出来る。特に、PEとPPは共重合されていてもよい。例えば、PPとPEのランダム共重合体はプラスチック配管に使用される場合がある。
【0042】
好ましくは、プラスチック原料は、主にガスを生成するポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)などの、炭の収量が低いプラスチックを少量、含む。これらのプラスチックは、プラスチック原料中に、好ましくは30wt%未満、より好ましくは15wt%未満、更に好ましくは10wt%未満の量で存在する。廃プラスチックの分別が特に効率的であり、そのようなプラスチックは、5wt%未満、例えば1wt%未満、更には0.5~0.1wt%未満の量において存在してもよい。
【0043】
ポリ塩化ビニル(PVC) は、塩素を含むポリマーである。PVCの熱分解における主生成物は塩酸(HCl)であり、油と炭の収率は低い。HClの毒性及び腐食性は、プロセス機器に損傷を与えるだけでなく、環境や人間の健康にも悪影響を及ぼす。これらの理由により、PVCは、熱分解に使用されないか、或いは、少量においてのみ使用されることが、特に好ましい。このような少量は、理想的には0.1wt%未満、好ましくは0.07wt%未満、より好ましくは0.05wt%未満のポリ塩化ビニル(PVC)である。
【0044】
しかしながら、本発明の方法では、驚くべきことに、少量のPVCをプラスチック原料に使用出来ることが判明した。一例として、プラスチック原料は、少なくとも0.005wt%、好ましくは少なくとも0.01wt%、より好ましくは少なくとも0.02wt%、最も好ましくは少なくとも0.03wt%のポリ塩化ビニル(PVC)を、含んでいても良い。理論に束縛されるものではないが、HClは効果的な活性化剤であるため、熱分解中にPVCから生成されるHClは、熱分解プロセス中にある程度の化学的活性化を引き起こすと考えられる。活性化とは、生成物の表面積が増加することを意味する。
【0045】
この方法でプラスチック熱分解炭の表面積を増やすと、その後のアップグレードプロセス、例えば活性炭に必要な活性化の程度が減少する。しかしながら、HClが有する腐食性のために、高濃度で処理するには追加の予防措置が必要となる場合がある。
【0046】
プラスチック原料は、その形状及び/又はサイズを変化させるために、熱分解の前に、例えば押し出し、せん断及び/又は破砕によって処理されても良い。プラスチック原料は、ペレット、フレーク、糸又は繊維、フィルムの形態であってもよく、又は破砕されたものでも良い。好ましくは、プラスチック原料は、表面積を増加させるために処理される。理論に束縛されるものではないが、これにより、プラスチック原料のより効率的な熱分解がもたらされると考えられる。
【0047】
熱分解の前に、例えばプラスチック原料を溶融し、続いて押出加工することによって、プラスチック原料を押出成形してもよい。これは、溶融押出機で行うことが出来る。溶融押出機は、プラスチック原料を200~400℃、好ましくは250~350℃、より好ましくは265~325℃の温度に、加熱することが出来る。好ましくは、押出成形物は熱分解の前にせん断される。理論に束縛されるものではないが、これにより、熱分解に利用出来るより大きな表面積が提供されると考えられる。
【0048】
プロセス中に存在し、又は形成される塩酸を除去するために、酸化カルシウムをプラスチック原料に添加することが出来る。酸化カルシウムは、プラスチック原料に対して1wt%~5wt%、好ましくは2wt%~4wt%、より好ましくは2.5wt%~3.5wt%の量で、添加することが出来る。酸化カルシウムは、好ましくは熱分解の前に、例えばプラスチック原料が熱分解容器(pyrolysis vessel)に供給される前に、プラスチック原料に添加される。例えば、酸化カルシウムは、溶融押出機内のプラスチック原料に添加することが出来る。
【0049】
本明細書では、カーボンブラックの製造におけるPP、PE、又はそれらの組み合わせを含む原料の使用が提供される。このような使用には、本明細書に記載のプロセスが含まれる場合がある。
【0050】
熱分解
熱分解は、当業者であれば周知の任意の適切な方法を使用して、実行することが出来、酸素の非存在下でサンプルを加熱することによって実行される。熱分解は、好ましくは窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気下において、より好ましくは窒素下において、実施される。
【0051】
熱分解の前に、プラスチック原料を溶融してもよい。これは、プラスチック原料を200~400℃、好ましくは250~350℃、より好ましくは265~325℃の温度に加熱することによって、実施することが出来る。
【0052】
プラスチック原料は、熱分解中に300~1000℃、好ましくは350~900℃、より好ましくは390~700℃の温度に加熱される。
【0053】
熱分解は、30分~48時間、好ましくは1時間~24時間、より好ましくは5~12時間、実施される。
【0054】
プラスチック原料は、熱分解中に、2℃min-1 ~80℃min-1 、好ましくは3℃min-1 ~50℃min-1 、より好ましくは5℃min-1 ~20℃min-1 の速度で、加熱される。
【0055】
熱分解は、固定床反応器又はロータリーキルンなどの熱分解容器内で、実施することが出来る。熱分解容器は、2~5個の別個の温度ゾーンなどの、1つ又は複数の別個の温度ゾーンを有していてもよい。
【0056】
1つの温度ゾーンが使用される場合は、好ましくは固定床反応器が使用される。1つの温度ゾーンが使用される場合、熱分解容器は、好ましくは350℃~700℃、好ましくは450℃~600℃の温度で運転される。固定床反応器は、好ましくは350℃~700℃、好ましくは450℃~600℃の温度で運転される。これらの条件下でプラスチック原料を熱分解すると、許容可能な収率で炭が得られることが判明した。
【0057】
複数の別個の温度ゾーンが使用される場合、熱分解容器はロータリーキルンであることが好ましい。一連の別個の温度ゾーンが使用される場合、サンプルがゾーンからゾーンへと通過するにつれて、温度を上昇させることが好ましい。一例として、サンプルは、第1の温度ゾーンで350℃~480℃、好ましくは390℃~460℃の温度に加熱され、最終温度ゾーンにおいて、その温度は490℃~700℃、好ましくは500℃~660℃の温度に加熱される。例えば、一連の4つの別個の温度ゾーンを有する熱分解容器では、第1の温度ゾーンは350℃~480℃、好ましくは390℃~460℃の温度とされ、第2の温度ゾーンは460℃~500℃、好ましくは470℃~490℃の温度とされ、第3の温度ゾーンは490℃~520℃、好ましくは500℃~515℃の温度とされ、第4の温度ゾーンは500℃~700℃、好ましくは510℃~680℃、より好ましくは520℃~660℃の温度とされる。
【0058】
熱分解容器は、好ましくは不活性雰囲気下、好ましくは窒素下に維持される。
【0059】
熱分解容器は、約101kPaである大気圧(1atm)下で作動される。好ましくは、ロータリーキルンは、50kPa未満、好ましくは10kPa未満、より好ましくは0.1kPa未満、最も好ましくは0.01kPa未満などのわずかな負圧に維持される。
【0060】
熱分解による生成物には、凝縮性炭化水素、非凝縮性炭化水素、及び固体状の炭化水素が含まれる場合がある。凝縮性炭化水素生成物としては、合成石油及びその様々な留分が挙げられ、ライトスイート粗製油(light sweet crude oil )、燃料添加剤、基油、スラックワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及び、芳香族石油炭化水素が主体の凝縮物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。非凝縮性炭化水素生成物は、気体であることもある。固体状の炭化水素生成物は炭を含む。
【0061】
熱分解プロセスは、他の熱分解生成物から炭を分離することを更に含んでもよい。熱分解容器の生成物は、標準的な分別カラムを使用して分離することが出来る。或いは、固体状の炭を、沈降、濾過、又はその他の適切な方法によって、他の生成物から分離してもよい。非凝縮性材料はC1からC3ガスであり、キルンを加熱するために再利用することが出来る。
【0062】
炭は、熱分解生成物の全量における1wt%~20wt%、好ましくは3~16wt%、好ましくは6~13重量%の量において、生成され得る。
【0063】
本明細書に記載されるような原料(PP、PE、又はそれらの組み合わせ)から、そのような方法を使用して生成される炭は、一般に40~50wt%の炭素を含み、本明細書に記載されるように処理して、カーボンブラックを製造することが出来る。
【0064】
本明細書で使用される「プラスチック熱分解炭」は、PP、PE、又はそれらの組み合わせの熱分解から得られる炭を意味することを、意図している。本明細書で定義されるプラスチック原料は、典型的にはゴムから形成され、タイヤ総重量の約30~35%の添加剤としてカーボンブラックを含むタイヤ熱分解炭とは異なる。
【0065】
本明細書では、カーボンブラックの製造における、PP、PE、又はそれらの組み合わせから形成される熱分解炭の使用が、提供される。
【0066】
驚くべきことに、PP、PE、又はそれらの組み合わせを含むプラスチック原料から得られるプラスチック熱分解炭を事前洗浄し、その後に酸及び塩基で洗浄すると、特性が改善されたカーボンブラックが得られることが見出された。特に、これらの洗浄ステップを組み合わせると、炭素含有量が大幅に増加し、金属などの灰の除去に役立つことが示された。
【0067】
以下に各洗浄工程を順に説明するが、これらの洗浄工程を組み合わせると、得られるカーボンブラック中の灰分含有量の減少と併せて、炭素含有量が驚くほど増加する。
【0068】
一例として、驚くべきことに、このプロセスは、酸洗浄又は塩基洗浄のみを含むプロセスなどの他の従来技術のプロセスでは除去することが出来なかった不純物を、除去できることが判明した。
【0069】
更なる例として、驚くべきことに、このプロセスは、既知の従来技術のプロセスと比較した場合、炭中に存在する灰分及び硫酸分などの不純物を除去できることが見出された。加えて、この方法によりカーボンブラックの表面積が増加することが判明した。更に、より高い濃度の酸を他のプロセス工程と組み合わせて使用すると、得られる生成物の表面積と細孔容積が大きくなることが判明した。
【0070】
さらに、本発明のプロセスを使用すると、脱塩などによる不純物の除去が改善される。
【0071】
事前洗浄
事前洗浄は水性液剤で行われ、水であってもよい。液剤は、更なる溶媒及び/又は溶質を含んでいてもよい。好ましくは、液剤は5・8の範囲内のpHを有する。
【0072】
事前洗浄は、5~50℃、好ましくは10~40℃、より好ましくは15~30℃の温度で行われる。使用される温度は、ある程度、使用される液剤に応じて選択され得ることが理解されるところである。
【0073】
好ましくは、事前洗浄は、10分~3時間、好ましくは30分~2時間、より好ましくは45分~1.5時間の間、継続して実施される。
【0074】
事前洗浄は、乾燥工程を含んでもよい。任意の適切な乾燥方法、例えば、空気乾燥、場合によっては真空下でのオーブン乾燥、真空乾燥、場合によっては真空下での凍結乾燥やデシケーターの使用などを、使用することが出来る。好ましくは、サンプルはオーブンを使用して乾燥される。乾燥は30分~48時間、好ましくは1時間~24時間、より好ましくは5時間~12時間、行われる。
【0075】
炭粒子が凝集して粗い粒子サイズとなることは、事前洗浄中の洗浄及び乾燥工程の後に起こることが判明した。炭粒子サイズの増大化は、場合によっては、炭粒子の利用可能な表面積の減少により、その後の酸及び/又は塩基による洗浄の有効性を低下させる可能性があることが判明した。特に、形状、多孔度(porosity)及び表面積などの炭の構造は、炭中の不純物の酸又は塩基の溶液に対する影響の受け易さに影響を及ぼし、従って、以下にさらに説明するように溶出プロセスに影響を与えると考えられる。従って、粒径を小さくするために、更なる洗浄工程を実行する前に、事前洗浄された炭を更に処理することが好ましい。これは、例えば粉砕(grinding)又はふるい分けなどの、任意の適切な方法によって実行され得る。
【0076】
酸洗浄
酸洗浄は、好ましくは酸性水溶液などの酸性溶液によって実施される。好ましくは溶液のpHは-1~5であり、より好ましくは0~4である。
【0077】
好ましくは酸は強酸であり、これは水中で完全に解離することを意味することを意図している。適切な強酸の例としては、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)、硝酸(HNO3 )、過塩素酸(HClO4 )、塩素酸(HClO3 )、トリフリック酸(HCF3CO3)及び硫酸(H2SO4)がある。酸は、複数の酸性種を含んでいてもよい。好ましくは、酸は、HCl、HNO3 、H2SO4及びそれらの組み合わせから選択される。好ましくは、酸はHClである。
【0078】
好ましくは、酸性溶液の濃度は10~95wt%であり、好ましくは30~80wt%、より好ましくは35~65wt%である。
【0079】
製造されるカーボンブラックの表面積を更に増加させることが望ましい場合には、50~90wt%、好ましくは60~85wt%の酸濃度が使用される。しかしながら、二者択一的に、特殊な装置を必要としない、及び/又は洗浄に伴う安全上のリスクを軽減するために、より穏やかな反応条件が望ましい場合もある。従って、このような状況では、より低い濃度の酸を使用してもよい。一例として、表面積の増加と効果的な洗浄を確保しながら、10wt%~50wt%、好ましくは30wt%~40wt%の酸濃度が使用される。
【0080】
酸は、酸対炭の重量比において、0.1:1~4:1、好ましくは0.5:1~3:1、より好ましくは1:1~2:1の割合で、添加することが出来る。好ましくは、酸対炭の重量比が1:1より大きく、例えば1.1:1となるように、酸は炭に対して過剰に存在する。従って、酸は、好ましくは酸対炭の重量比において1.1:1~4:1、好ましくは1.1:1~3:1、より好ましくは1.1:1~2:1の割合で、添加される。誤解を避けるために、酸の濃度が100wt%以外の場合、この比率は、添加される酸性溶液の量ではなく、実際に添加される酸の量に基づくものである。従って、37wt%溶液を、炭の重量の4倍の量で添加すると、酸:炭の比は1.48:1となる。
【0081】
酸洗浄は、20℃以上の温度で実施され得る。好ましくは、洗浄は30~150℃、好ましくは60~130℃、より好ましくは90~110℃の温度で実施される。
【0082】
酸洗浄は、好ましくは24時間未満、好ましくは12時間未満、より好ましくは6時間未満、実施される。好ましくは、酸洗浄は10分~3時間、好ましくは30分~2時間、より好ましくは45分~1.5時間、実施される。
【0083】
酸洗浄中は、150℃以下以下の低温、24時間未満の短い反応時間、50wt%未満の酸濃度などの穏やかな反応条件を使用することが好ましく、これらの条件はプロセスの複雑さを軽減し、それに伴うリスクも軽減する。このような条件は、プロセスをスケールアップするときにも有利となる可能性がある。
【0084】
酸洗浄は、酸性溶液と炭とを混合することによって実施される。この混合物は、必要に応じて加熱しながら、所望の時間、撹拌又は超音波処理などの他の適切な手段によって撹拌することが出来る。撹拌強度を高めると、炭表面での浸出剤の回転置換速度(turn-over rate)が向上し、プロセスの物質移動速度及び熱伝達速度が向上する。従って、洗浄は撹拌しながら実施することが好ましい。
【0085】
洗浄後、酸性溶液を炭から除去することが出来る。これは濾過、又は遠心分離に続いて残留する酸性溶液を炭から除去するなどの、任意の適切な方法によって行うことが出来る。
【0086】
酸性溶液の除去後、炭を水で洗浄してもよい。これは、必要に応じて撹拌しながら水を添加し、その後に濾過、遠心分離又は他の適切な方法を使用するなどして、炭から液体を除去することによって行うことが出来る。
【0087】
酸洗浄された炭は乾燥することが出来る。これは、事前洗浄工程について説明した方法及び/又は事前洗浄工程について説明した期間を使用して、実施することが出来る。
【0088】
事前洗浄工程で説明したように、酸洗浄中に炭が凝集する可能性がある。このため、酸洗浄された炭は、粒径を小さくするために更に処理されてもよい。これは、事前洗浄工程について上述したように、任意の適切な方法によって実行することが可能である。
【0089】
塩基洗浄
塩基洗浄は、塩基性溶液により行うことが好ましい。好ましくは、塩基は塩基性水溶液である。好ましくは、溶液のpHは8~15であり、好ましくは9~14である。
【0090】
好ましくは塩基は強塩基であり、これは水中で完全に解離することを意味することを意図している。適切な強塩基の例としては、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)及び水酸化セシウム(CsOH)などのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物がある。塩基は、複数の塩基種を含んでいてもよい。好ましくは、塩基は、NaOH又はKOH、及びそれらの組み合わせから選択される。好ましくは、塩基はNaOHである。
【0091】
驚くべきことに、より高い塩基解離定数を有する塩基は、金属不純物の除去が改善され、その結果として灰分除去が向上し、炭素含有量が高くなることが判明した。
【0092】
好ましくは、塩基性溶液の濃度は10~95wt%であり、好ましくは30~90wt%である。
【0093】
塩基は、塩基対炭の重量比において0.1:1~4:1、好ましくは0.5:1~3:1、より好ましくは1:1~2:1の割合で存在し得る。好ましくは、塩基対炭の重量比が1:1より大きく、例えば1.1:1となるように、塩基は炭に対して過剰に存在する。従って、塩基は、好ましくは塩基対炭の重量比において1.1:1~4:1、好ましくは1.1:1~3:1、より好ましくは1.1:1~2:1の割合で、添加される。誤解を避けるため、塩基の濃度が100wt%以外の場合、この比率は、添加される塩基性溶液の量ではなく、実際に添加される塩基の量に基づくものである。従って、37wt%溶液を炭の重量の4倍の量で添加すると、塩基:炭の比は1.48:1となる。
【0094】
塩基洗浄は20℃以上の温度で実施され得る。洗浄は、30~150℃、好ましくは60~130℃、より好ましくは90~110℃の温度で実施されることが好ましい。
【0095】
塩基洗浄は、好ましくは24時間未満、好ましくは12時間未満、より好ましくは6時間未満、実施される。好ましくは、塩基洗浄は10分~3時間、好ましくは30分~2時間、より好ましくは45分~1.5時間、実施される。
【0096】
塩基洗浄には、150℃以下以下の低温、24時間未満の短い反応時間、50wt%未満の塩基濃度などの穏やかな反応条件を使用することが好ましく、これらの条件はプロセスの複雑さを軽減し、それに伴うリスクも軽減する。このような条件は、プロセスをスケールアップするときにも有利となる可能性がある。
【0097】
塩基洗浄は、塩基性溶液と炭とを混合することによって実施される。この混合物は、必要に応じて加熱しながら、所望の時間、撹拌又は超音波処理などの他の適切な手段によって撹拌することが出来る。撹拌強度を高めると、炭表面での浸出剤の回転速度が向上し、プロセスの物質移動速度及び熱伝達速度が向上する。従って、洗浄は撹拌しながら実施することが好ましい。
【0098】
洗浄後、塩基性溶液を炭から除去することが出来る。これは、濾過、又は遠心分離に続いて炭から残留塩基性溶液を除去するなど、任意の適切な方法によって行うことが出来る。
【0099】
塩基性溶液の除去後、炭を水で洗浄してもよい。これは、必要に応じて撹拌しながら水を添加し、その後に濾過、遠心分離又は他の適切な方法を使用するなどして、炭から液体を除去することによって行うことが出来る。
【0100】
塩基洗浄された炭は乾燥させることが出来る。これは、事前洗浄工程について説明した方法及び/又は事前洗浄ステップについて説明した期間を使用して、実施することが出来る。
【0101】
事前洗浄工程で説明したように、塩基洗浄中に炭が凝集する可能性がある。従って、塩基洗浄された炭は、粒径を小さくするために更に処理されてもよい。これは、事前洗浄工程について上述したように、任意の適切な方法によって実行することが可能である。これは、得られるカーボンブラックのBET表面積(BET surface area)を増大させることに貢献する。
【0102】
更なる熱分解
カーボンブラックの製造は、本明細書に記載される洗浄プロセス中、又は洗浄プロセスに続いての何れかで、炭を更に熱分解することを含んでもよい。例えば、酸洗浄の後に熱分解を行ってもよい。加えて、又はそれに代えて、熱分解は、本明細書に記載される洗浄プロセス(WABW)の後に実行されてもよい。このような熱分解により、得られるカーボンブラックの表面積及び細孔容積が増大する可能性があることが判明した。しかしながら、そのような工程が必須であるとは考えられていない。
【0103】
熱分解は、プラスチック原料の熱分解において上述したように行うことが出来る。
【0104】
カーボンブラック
炭素含有量と灰分含有量は、商用グレードのカーボンブラックで最も厳しく規制されている特性の一部であるため、これらはベンチマーク目標として使用される。
【0105】
灰は、金属化合物と鉱物、主に金属酸化物とシリコン化合物とを含む一般的な用語である。
【0106】
カーボンブラックは、以下の特性を有することが好ましい。
・炭素含有量が85wt%以上
・灰分含有量が2wt%以下
【0107】
好ましくは、本明細書に記載の方法で形成されるカーボンブラックは、現在入手可能で従来の手段を使用して製造されるカーボンブラックに代えて使用出来るように、これらの値のうちの一方又は両方を達成する。
【0108】
カーボンブラックにおける炭素含有量は、当業者に知られている標準的な技術を使用して、測定することが可能である。一般に、方法には、サンプル内の炭素を酸化して二酸化炭素(CO2 )を生成し、その後、生成したCO2 の量を測定することが含まれる。酸化は、高温燃焼、高温接触酸化、光酸化、熱化学酸化、光化学酸化又は電解酸化によって、実施することが出来る。例えば、サンプルは、炭素を含まない雰囲気中におけるサンプルの完全燃焼によって、酸化され得る。好ましくは、雰囲気は酸素雰囲気である。次いで、生成されたCO2 の量を測定することによって、サンプル中の炭素の量が決定される。CO2 の量は、赤外(IR)測定によって定量化することが出来、特に、2350cm-1におけるC=O伸縮振動(C=O strech )の強度を測定する。これは、伸縮振動(strech)の強度が、存在するCO2 の量に比例するからである。これは、非分散型赤外線検出セルを使用して実行することが出来る。サンプルを酸化する前に、サンプルを酸性化して、一般に炭酸塩及び重炭酸塩の形態にある無機炭素をCO2 に変換することが出来る。酸性化の過程で放出されるCO2 を測定し、酸化によって生成されるCO2 の量に加算することが出来る。しかしながら、生成される他のガスに加えて、酸化によって生成されるこのCO2 は、酸化の前に排出されることが好ましい。
【0109】
好ましくは、カーボンブラックは少なくとも70wt%の炭素、好ましくは少なくとも75wt%の炭素、より好ましくは少なくとも80wt%の炭素、更により好ましくは少なくとも85wt%の炭素を含む。製造されるカーボンブラックは、環境にそれほど優しくない方法を使用して製造される現在入手可能なカーボンブラックを置き換えることが出来るできるように、好ましくは、少なくとも85wt%の高い炭素純度を有する。
【0110】
驚くべきことに、事前洗浄、酸洗浄及び塩基洗浄の組み合わせは、事前洗浄を伴う単独の酸又は塩基処理における酸又は塩基処理よりも、プラスチック熱分解炭から不純物を除去することについて、非常に効果的であることが判明した。特に、驚くべきことに、事前洗浄と酸及び塩基洗浄(WABA)の組み合わせにより、87wt%を超える炭素含有量が得られ、これは、他の洗浄方法を使用して得られる炭素含有量よりも著しく高いことが判明した。このことは、本明細書に記載の洗浄方法の驚くべき有効性を実証している。
【0111】
また、高い塩基解離定数を有する塩基を使用すると、炭素含有量がより大きく増加することも判明した。従って、NaOHなどの高い塩基解離含有量を有する塩基は、本発明の洗浄プロセスにおいて特に有効である。
【0112】
さらに、洗浄ステップ間に粉砕を含める等の、更なる処理ステップを実施すると、浸出プロセスの有効性が向上するため、炭素含有量が更に増加する。洗浄中又は洗浄後に追加の熱分解工程を含めることも、得られるカーボンブラックの特性を更に改善するために実施され得る。特に、熱分解は、洗浄後に得られるカーボンブラックの表面積と細孔容積を増加させることが判明している。
【0113】
好ましくは、カーボンブラックは、5wt%未満、好ましくは3wt%未満、より好ましくは2wt%未満、更に好ましくは1wt%未満、更により好ましくは0.5%未満の灰分を含む。このような低い灰分含有量により、本発明のカーボンブラックは、環境にそれほど優しくない方法を使用して製造された既知の市販のカーボンブラックに、取って代わることが出来る。
【0114】
炭混合物中に存在する灰分は主に金属とケイ素の化合物で構成されているため、炭サンプル中のこれらの化合物の含有量の減少は、灰分含有量の減少に反映される。特に、炭中の金属含有量は、Chaala, A., Darmstadt, H. and Roy, C.,1996, "Acid-base method for the demineralization of pyrolytic carbon black". Fuel Processing Technology, 46(1), pp.1 to 15. で論証されているように、脱塩プロセスの有効性を研究するために文献でしばしば使用される。
【0115】
金属含有量は、原子吸光分析法(atomic adsorption spectrometry)(AAS)、より具体的にはフレーム原子吸光分析法(Flame Atomic Adsorption Spectrometry)(FAAS)を使用して、測定することが出来る。AAS金属含有量分析は、Perkin Elmer Analyst 100を使用して実施することが出来る。AAS分析方法の感度は、最大1ppmである。フレーム原子吸光分析(FAAS)は、空気、アセチレン、又は亜酸化窒素の火炎を使用して、サンプルを最高温度2600℃まで霧化する。FAASの精度は通常、10%未満である。
【0116】
好ましくはカーボンブラックは50,000mg/kg未満の総金属含有量を有し、好ましくは20,000mg/kg未満であり、より好ましくは15,000mg/kg未満である。
【0117】
驚くべきことに、酸及び塩基洗浄と組み合わせた事前洗浄が、灰分及び金属含有量の低減と組み合わせて、炭素含有量を増加させることに最も効果的であることが判明した。
【0118】
上述したように、洗浄ステップの間に凝集が発生する可能性があり、これによって粒子サイズが増加する。理論に束縛されるものではないが、これにより、後の洗浄ステップでの浸出が悪化すると考えられる。従って、粒子サイズは、事前洗浄の後、及び/又は酸洗浄の後、及び/又は塩基洗浄の後などの、1つ又は複数の洗浄ステップの間に減少させることが好ましい。これは粉砕(grinding)によって実施することが出来る。好ましくは、凝集による悪影響を防止し、不純物の効率的な浸出を達成するために、炭粒子サイズは、各処理ステップを通じて同様のサイズに維持される。
【0119】
表面積と細孔容積
市販のカーボンブラックは、様々なグレードごとに表面積と粒子サイズとが指定されており、タイヤ添加剤の目的には60~120m2/g の表面積が理想的であると考えられている。
【0120】
好ましくは、カーボンブラックは20~200m2/g の表面積を有し、好ましくは40~150m2/g であり、より好ましくは60~120m2/g である。
【0121】
好ましくは、カーボンブラックは、少なくとも0.06cm3/g の細孔容積を有し、好ましくは少なくとも0.9cm3/g であり、より好ましくは少なくとも0.13cm3/g であり、更により好ましくは少なくとも0.16cm3/g である。好ましくは、カーボンブラックは、2cm3/g までの細孔容積を有し、好ましくは1cm3/g までであり、より好ましくは0.5cm3/g までであり、更により好ましくは0.3cm3/g までである。
【0122】
表面積、細孔容積、及び細孔サイズは、Brunauer-Emmett-Teller(BET)理論を使用して測定することが出来る。BET理論では、一般に、比表面積を定量化するための吸着物として、材料表面と化学的に反応しないプローブガスを使用する。一般に、物質の比表面積は、固体表面にガスを物理的に吸着させ、その吸着量を測定し、表面にガスの単分子層があると仮定して表面積を計算することによって、求められる。ガス吸着により、細孔のサイズ及び体積を測定することも可能である。好ましくは、ガス状の吸着物として窒素が使用される。窒素を使用する場合、BET分析はN2 の沸点(77K、-196.15℃)で実施されることが好ましい。サンプルの表面積、細孔容積、及び細孔サイズを得るためにBET分析を実行する方法は、当業者には知られているであろう。使用する方法は、Ph. Eu.2.9.26 Method II に準拠することが好ましい。例えば、BET分析は、Micromeritics Gemini 2375及びGemini V で実行することが出来る。
【0123】
本発明のプロセスは、主に汚染物質除去の目的で使用されるが、驚くべきことに、典型的な活性化プロセス中に使用される条件を代表するものではなく、使用される低温及び穏やかな条件にも関わらず、ある程度の活性化も引き起こすことが示された。例えば、酸性及び塩基性活性化剤を使用する既知の化学的な活性化方法においては、通常、450℃を超える温度で活性化される。従って、本発明の方法は、粗製の炭と比較して細孔容積及び表面積が増加しており、450℃を超える温度を必要としないカーボンブラックを製造するために、使用することも可能である。
【0124】
本明細書に記載の洗浄方法を使用して製造されたカーボンブラックは、活性炭の製造に使用することが出来る。このカーボンブラックは、他の方法を使用して製造されたより少ない表面積を有するカーボンブラックよりも、所望の表面積を達成するために必要な改良が少なくて済むため、特に有益である。
【0125】
活性炭
本明細書に記載のプロセスに従って製造されたカーボンブラックは、純度が高く、粗製炭又は代替技術を使用して精製されたサンプルと比較した場合に、より大きな表面積及び細孔容積を有する可能性があるため、活性炭の形成に特に適したものである。これは、必要とされる更なる活性化(activation)がそれほど広範囲ではないことを、意味するものである。
【0126】
従って、本明細書に記載のプロセスは、活性炭を製造するための活性化の前の前処理としても使用され得る。このため、プラスチック原料は、活性炭の製造にも使用できる可能性がある。加えて、プラスチック熱分解炭は、活性炭の製造に使用することが出来る。
【0127】
従って、活性炭を製造するプロセスは、上記のすべての工程に加えて、活性炭を製造するための活性化を含む。
【0128】
活性化とは、生成物(この場合は活性炭)の表面積が、出発材料(この場合はカーボンブラック)に比べて増加することを意味することを意図している。
【0129】
活性化は、任意の適切な手段によって実行され得る。カーボンブラックを活性化して活性炭を形成する方法は、当業者には既知である。
【0130】
本発明は、以下の実施例によって更に説明されるが、これらは例示を目的として提供されており、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定することを、決して意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0131】
図1】熱分解で使用される第一のプラスチック原料の画像である。
図2】熱分解に使用される第二のプラスチック原料の画像である。
図3】様々な条件下で洗浄した後のプラスチック熱分解炭における、炭素含有量の増加率を示すものである。
図4】様々な条件下で洗浄した後のプラスチック熱分解炭における、灰分含有量を示すものである。
【実施例
【0132】
実施例1-熱分解
以下の実施例で使用する粗製プラスチック熱分解炭(以下「粗製炭」と呼ぶ)は、以下の方法により、オハイオ州のVadxx社から入手した。
【0133】
熱分解に使用される、約85wt%のPP及びPEを含むプラスチック原料の例を、図1及び図2に示す。これらの原料は、熱分解の前に押出成形され、細断された。
【0134】
押し出して細断されたプラスチック原料の400gを、固定床反応器内で450~600℃の温度にて熱分解させた。
【0135】
この実験は、図1及び図2に示すように、異なる形態で提供されたプラスチック原料を使用して2回、実行された。見てわかるように、図1のプラスチック原料は、図2のものより細かく細断されている。図1に示す原料は反応1(Reaction 1)で使用され、図2に示す原料は反応2(Reaction 2)で使用された。これらの反応における生成物の比率を、表1に示す。
【0136】
【表1】
【0137】
これは、次の洗浄プロセスで使用するプラスチック原料の熱分解によって許容可能な収量の炭が得られることを、示している。
【0138】
粗製炭は他の生成物から分離され、次のプロセスで使用された。
【0139】
実施例2-酸洗浄(AW)
1.1gの粗製炭を秤量した。
2.粗製炭の重量の4倍の量の酸を、粗製炭に加えた。
3.この酸と粗製炭との混合物を100℃に加熱し、マグネチックスターラーを用いて400rpmで1時間、撹拌した。
4.1時間後、粗製炭を熱源から移動させ、室温下に放置した。
5.冷却された粗製炭サンプルを濾過し、100mLの蒸留水で洗浄した。
6.濾過した粗製炭をオーブンで一晩、乾燥させた。
【0140】
このプロセスは、以下の酸を使用して実行した。
a.37wt%塩酸水溶液(HCl)
b.37wt%リン酸水溶液(H3PO4
c.37wt%硝酸水溶液(HNO3
【0141】
サンプルは、Perkin Elmer Analyst 100 を利用するフレーム原子吸光分析法(Flame Atomic Adsorption Spectrometry )(FAAS)による金属含有量分析に供された。最高温度として2600℃が使用された。結果を、以下の表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
灰分含有量を計算するために、FAAS法によって検出された金属が、プラスチック熱分解炭サンプル中に存在する灰分含有量の100%を構成すると仮定した。このように、表2の金属分析結果から、炭サンプルの構成重量パーセントで表した灰分含有量が計算された。これらの結果を図3に示す。
【0144】
灰分や金属汚染物質の除去に最も効果的な酸はHClである。従って、これを使用して、事前洗浄の効果を更に調査した。
【0145】
実施例3-塩基洗浄(BW)
1.1gの粗製炭を秤量した。
2.粗製炭の重量の4倍の量の塩基を、粗製炭に加えた。
3.酸と粗製炭との混合物を100℃に加熱し、マグネチックスターラーを用いて400rpmで1時間、撹拌した。
4.1時間後、粗製炭を熱源から移動させ、室温下に放置した。
5.冷却された粗製炭サンプルを濾過し、100mLの蒸留水で洗浄した。
6.濾過した粗製炭をオーブンで一晩、乾燥させた。
【0146】
このプロセスは、以下の塩基を使用して実行した。
a.37wt%水酸化カリウム水溶液(KOH)
b.37wt%水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)
【0147】
サンプルの炭素含有量は、標準的な方法を使用して分析された。結果を以下の表3に示し、炭素含有量の増加率を図4に示す。
【0148】
【表3】
【0149】
サンプルの金属含有量は、実施例2に記載の方法を使用して分析した。結果を、以下の表4に示す。
【0150】
【表4】
【0151】
上記表4における※印が付された数値について、KOH処理されたものにおいて検出されたカルシウム含有量は、2,133,334mg/kgであると報告されている。これは、粗製炭サンプルで検出されたカルシウム濃度:235,185mg/kgの約10倍である。従って、この値は外れ値として扱われ、KOHサンプル中に存在するカルシウム含有量は、上記の分析で粗製炭中に存在する量から変化しないと仮定された。
【0152】
表4の結果を使用して、実施例2に記載されているように灰分含有量を決定した。これらの結果を図3に示す。
【0153】
KOHと比較した場合、NaOH処理サンプルで観察された炭素含有量の大幅な増加と、金属含有量及び灰分含有量の減少は、NaOHのより高い塩基解離定数(0.631)(KOHの解離定数(0.316)の約2倍)によるものと考えられる。
【0154】
NaOHを使用するとより良い結果が得られるため、この塩基を、以下の更なる調査で使用した。
【0155】
実施例4-事前洗浄+酸又は塩基洗浄(WAW、又はWBW)
事前洗浄
1.1gの炭サンプルを秤量した。
2.粗製炭に蒸留水を加え、室温下、マグネチックスターラーを用いて400rpmで1時間、撹拌した。
3.洗浄した炭を蒸留水から濾過した。
4.濾過した炭をオーブンで一晩、乾燥させた。
【0156】
次いで、この事前洗浄された炭は、
a.実施例2に記載のように37wt%塩酸で洗浄(WAW)するか、又は、
b.実施例3に記載されているように37wt%水酸化ナトリウムで洗浄(WBW)した。
【0157】
事前洗浄後、炭粒子が凝集して、より粗い粒径となることが観察された。
【0158】
サンプルの炭素含有量を、実施例3と同じ方法を使用して分析した。結果を以下の表5に示し、炭素含有量の増加率を図4に示す。
【0159】
【表5】
【0160】
サンプルの金属含有量は、実施例2で説明した方法を使用して分析した。結果を以下の表6に示す。
【0161】
【表6】
【0162】
灰分含有量は、表6の結果を使用して、実施例2に記載されているように決定した。これらの結果を図3に示す。
【0163】
これらの結果は、酸洗浄又は塩基洗浄単独と比較した場合、事前洗浄の利点を示すものである。
【0164】
実施例5-事前洗浄+酸及び塩基洗浄(WABW)
事前洗浄は、実施例4に記載のように実施した。
1.事前洗浄し、乾燥させた炭サンプルを秤量した。
2.粗製炭の重量の4倍の量の37wt%塩酸を、粗製炭に加えた。
3.酸と粗製炭との混合物を100℃に加熱し、マグネチックスターラーを用いて400rpmで1時間、撹拌した。
4.1時間後、粗製炭を熱源から移動させ、室温下に放置した。
5.冷却した炭に蒸留水を加え、その混合物を、遠心分離機にて3500rpmで4分間、回転させて、蒸留水から炭を沈降させ、沈降した炭から蒸留水を除去した。
6.37wt%水酸化ナトリウム溶液を用いて、ステップ2~5の手順を繰り返した。
【0165】
事前洗浄後、炭粒子が凝集して、より粗い粒径となることが観察された。
【0166】
サンプルの炭素含有量を、実施例3と同じ方法を使用して分析した。結果を以下の表7に示し、炭素含有量の増加率を図4に示す。
【0167】
【表7】
【0168】
サンプルの金属含有量は、実施例2で説明した方法を使用して分析した。結果を以下の表8に示す。
【0169】
【表8】
【0170】
灰分含有量は、表8の結果を使用して、実施例2に記載されているように決定した。これらの結果を図3に示す。
【0171】
これらの結果は、実施例5のWABW洗浄手順を使用して製造されたカーボンブラックの炭素含有量が、他の洗浄方法よりも著しく高いことを実証している。また、金属含有量や灰分含有量も低く、粗製炭と比較して大幅に低減されている。炭素含有量及び灰分含有量は、何れも、多くのカーボンブラックの用途における使用に許容されるレベルである。従って、WABW法を使用して調製されたサンプルは、環境にあまり優しくないプロセスを使用して伝統的に製造されたカーボンブラック源の代替として、使用され得るものである。比較すると、二者択一の洗浄方法を使用して調製されたサンプルは、炭素含有量の増加と金属汚染物質の除去の両方には成功していない。
【0172】
これらの結果は、高炭素含有量と低灰分含有量の両方を有するプラスチック熱分解炭からカーボンブラックを製造する際に、温和な条件と簡単な手順を使用出来ることを示している。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】