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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ウイルスベクター投薬プロトコル
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20240110BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240110BHJP
   C12N 15/83 20060101ALN20240110BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
A61K31/436
A61P37/06
A61P43/00 121
A61K48/00
A61K9/51
A61K47/34
A61P43/00 105
C12N15/83 Z
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541018
(86)(22)【出願日】2022-01-05
(85)【翻訳文提出日】2023-09-01
(86)【国際出願番号】 US2022011239
(87)【国際公開番号】W WO2022150335
(87)【国際公開日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】63/134,139
(32)【優先日】2021-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】511254321
【氏名又は名称】セレクタ バイオサイエンシーズ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】SELECTA BIOSCIENCES,INC.
【住所又は居所原語表記】65 Grove Street,Watertown,MA 02472,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キシモト,タカシ,ケイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076BB13
4C076CC26
4C076EE19A
4C076EE23A
4C076EE24A
4C076EE30A
4C076EE41A
4C076EE48A
4C076FF02
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA06
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA13
4C086ZC75
(57)【要約】
開示されるものは、少なくとも部分的には、ウイルスベクターなしでの免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの投薬と組み合わせられる、あるいはより低い用量のウイルスベクターと併用しての免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの投薬と組み合わせられる、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアと併用して投与されるウイルスベクターの用量、ならびに、低減した体液性免疫応答および/または増大したまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供する関連する組成物である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(a)いかなる合成ナノキャリアにも付着していない、AAVベクターなどのウイルスベクターと
(b)ラパマイシンなどの免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクター抗原提示細胞(APC)提示可能抗原を含まない合成ナノキャリアと
を併用して投与することを含む、第1の投薬;
(2)(c)免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクターAPC抗原を含まない合成ナノキャリアを、かつウイルスベクターの併用投与なしで、または、免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクターAPC抗原を含まない合成ナノキャリアと、第1の投薬のウイルスベクターの用量よりも低い用量であるウイルスベクターとを併用して、投与することを含む、第2の投薬;および
(3)第1および第2の投薬を、対象へ、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させるような、および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは第1の投薬から少なくとも1か月もしくは2か月の間など持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するような投与スケジュールに従い投与すること
を含む、方法。
【請求項2】
(4)(d)免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクターAPC抗原を含まない合成ナノキャリアを、かつウイルスベクターの併用投与なしで、または、免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクターAPC抗原を含まない合成ナノキャリアと、第1の投薬のウイルスベクターの用量よりも低い用量であるウイルスベクターとを併用して、投与することを含む、第3の投薬;および
(5)第3の投薬もまた、対象へ、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させるような、および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは第1の投薬から少なくとも1か月、2か月もしくは3か月の間など持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するような投与スケジュールに従い投与すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(6)ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させるような、および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは第1の投薬から少なくとも1か月、2か月もしくは3か月の間など持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するような、第1および第2の投薬または第1、第2および第3の投薬のための投与スケジュールを決定すること
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第2または第3の投薬のウイルスベクターのより低い用量が、第1の投薬のウイルスベクターの用量よりも少ないが、しかし少なくとも第1の投薬のウイルスベクターの用量の1/10である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第2の投薬が、第1の投薬の1か月後または約1か月後である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第3の投薬が、第2の投薬の1か月後または約1か月後である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第1の投薬、第2の投薬および/または第3の投薬に先立ちおよび/またはこれの後に、対象における望ましくない体液性免疫応答および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を査定することをさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1の投薬、第2の投薬および/または第3の投薬の投与が、静脈内投与による、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を有するかまたは有するリスクがあるものとして、および/または、第1の投薬から少なくとも1か月、2か月もしくは3か月の間などの、有効なまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を必要としているものとして、対象を同定することをさらに含む、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(1)各々が
(a)いかなる合成ナノキャリアにも付着していない、AAVベクターなどのウイルスベクター、および/または
(b)ラパマイシンなどの免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクター抗原提示細胞(APC)提示可能抗原を含まない合成ナノキャリア
を含む、1以上の第1の用量であって、ここで、組み合わせられた1以上の第1の用量は、(a)および(b)を含む、前記1以上の第1の用量;および
(2)各々が
(c)ウイルスベクターのウイルスベクターAPC提示可能抗原を含まない免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアであって、かつウイルスベクターなしであるもの、または(i)ウイルスベクターのウイルスベクターAPC提示可能抗原を含まない免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアおよび/または(ii)1以上の第1の用量よりも低い用量であるウイルスベクター
を含む、1以上の第2の用量、および任意に、1以上の第3の用量、であって、ここで、組み合わせられた1以上の第2の用量および/または1以上の第3の用量は、(i)および(ii)を含む、前記1以上の第2の用量および任意に前記1以上の第3の用量;
を含む組成物であって、
任意に、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させる、および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させる、または持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供する、方法における使用のための、ここで、方法は、第1および第2の用量、および任意に第3の用量を、対象へ、投与スケジュールに従って投与することを含む、前記組成物。
【請求項11】
方法が、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させるような、および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するような、第1および第2の用量、および任意に第3の用量のための投与スケジュールを決定することをさらに含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
方法が、本明細書に提供されるとおりのいずれかの方法である、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
組成物が、キットであり、および、1以上の第1の用量および1以上の第2の用量および、任意に、1以上の第3の用量が、各々、キットにおける容器に収容されている、請求項10~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
薬学的に許容し得る担体をさらに含む、請求項10~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
免疫抑制薬が、スタチン、mTORインヒビター、TGF-βシグナル伝達剤、コルチコステロイド、ミトコンドリアの機能のインヒビター、P38インヒビター、NF-κβインヒビター、アデノシン受容体アゴニスト、プロスタグランジンE2アゴニスト、ホスホジエステラーゼ4インヒビター、HDACインヒビターまたはプロテアソームインヒビターである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項16】
免疫抑制薬が、mTORインヒビターである、請求項15に記載の方法または組成物。
【請求項17】
mTORインヒビターが、ラパマイシンである、請求項16に記載の方法または組成物。
【請求項18】
ウイルスベクターが、AAV8ベクターなどのAAVベクターである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項19】
ウイルスベクターが、MMAまたはOTCを処置するためのものである、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項20】
免疫抑制薬の負荷量が、合成ナノキャリアの集団全体の平均で、0.1%と50%との間である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項21】
免疫抑制薬の負荷量が、合成ナノキャリアの集団全体の平均で、1%と30%との間、1%と25%との間、1%と20%との間、4%と30%との間、4%と25%との間、4%と20%との間、8%と30%との間、8%と25%との間、または8%と20%との間である、請求項20に記載の方法または組成物。
【請求項22】
合成ナノキャリアが、ポリマー性である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項23】
ポリマー性のナノキャリアが、非メトキシ末端プルロニックポリマーの、ポリマーを含む、請求項22に記載の方法または組成物。
【請求項24】
ポリマー性のナノキャリアが、ポリエステル、ポリエーテルにカップリングされたポリエステル、ポリアミノ酸、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリケタール、多糖類、ポリエチルオキサゾリンまたはポリエチレンイミンを含む、請求項23に記載の方法または組成物。
【請求項25】
ポリエステルが、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)またはポリカプロラクトンを含む、請求項24に記載の方法または組成物。
【請求項26】
ポリマー性のナノキャリアが、ポリエステル、およびポリエーテルにカップリングされたポリエステルを含む、請求項24または25に記載の方法または組成物。
【請求項27】
ポリエーテルが、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを含む、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項28】
合成ナノキャリアの集団の動的光散乱を使用して得られた粒子サイズ分布の平均が、100nmより大きい直径である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項29】
直径が、150nmより大きい、請求項28に記載の方法または組成物。
【請求項30】
直径が、200nmより大きい、請求項29に記載の方法または組成物。
【請求項31】
直径が、250nmより大きい、請求項30に記載の方法または組成物。
【請求項32】
直径が、300nmより大きい、請求項31に記載の方法または組成物。
【請求項33】
直径が、500nm未満である、請求項29~32のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項34】
直径が、450nm未満である、請求項29~32のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項35】
直径が、400nm未満である、請求項29~32のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項36】
直径が、350nm未満である、請求項29~32のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項37】
直径が、300nm未満である、請求項29~31のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【請求項38】
直径が、250nm未満である、請求項29または30に記載の方法または組成物。
【請求項39】
直径が、200nm未満である、請求項29に記載の方法または組成物。
【請求項40】
合成ナノキャリアの集団のアスペクト比が、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7または1:10より大きいかまたはこれに等しい、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、35U.S.C.§119(e)の下で、2021年1月5日に出願された米国仮出願第63/134,139号の利益を主張し、これらの内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明の分野
本発明は、免疫抑制薬(immunosuppressant)に付着している合成ナノキャリアと併用して(concomitantly)投与されるウイルスベクターの用量であって、より低いがしかし少なくとも1/10であるなどの、より低いものであり得るウイルスベクターの用量、および、関連する組成物であって、低減した体液性免疫応答および/または増大したまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するものに関する。本発明はまた、ウイルスベクターなしでの免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの投薬、もしくは、より低い用量のウイルスベクターと併用しての免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの投薬と組み合わせられる、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアと併用して投与されるウイルスベクターの投薬、および、関連する組成物であって、低減した体液性免疫応答および/または増大したまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するものにも関する。
【発明の概要】
【0003】
本発明の概要
側面において、方法は、(1)(a)いかなる合成ナノキャリアにも付着していない、AAVベクターなどのウイルスベクターと、(b)ラパマイシンなどの免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクター抗原提示細胞(APC)提示可能抗原を含まない合成ナノキャリアとを、併用して投与することを含む、第1の投薬;(2)(c)免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクターAPC抗原を含まない合成ナノキャリアを、かつウイルスベクターの併用投与なしで、または、免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクターAPC抗原を含まない合成ナノキャリアと、ウイルスベクターとを併用して、投与することを含む、第2の投薬;および(3)第1および第2の投薬を、対象へ、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させるような、および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは第1の投薬から少なくとも1か月もしくは2か月の間など持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するような投与スケジュールに従い投与することを含み、ここで、第1および第2の投薬のいずれか1つのウイルスベクターの用量は、そうではないやり方で合成ナノキャリアなしで投与されたとした場合よりも低い用量である。
【0004】
本明細書に提供される方法のいずれか1つの態様において、方法は、(4)(d)免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクターAPC抗原を含まない合成ナノキャリアを、かつウイルスベクターの併用投与なしで、または、免疫抑制薬に付着していてかつウイルスベクターのウイルスベクターAPC抗原を含まない合成ナノキャリアと、ウイルスベクターとを併用して、投与することを含む、第3の投薬;および(5)第3の投薬もまた、対象へ、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させるような、および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは第1の投薬から少なくとも1か月、2か月もしくは3か月の間など持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するような投与スケジュールに従い投与することをさらに含み、ここで、第3の投薬のウイルスベクターの用量は、そうではないやり方で合成ナノキャリアなしで投与されたとした場合よりも低い用量である。
【0005】
本明細書に提供される方法のいずれか1つの一態様において、方法は、(6)ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させるような、および/または導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは第1の投薬から少なくとも1か月、2か月もしくは3か月の間など持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供するような、第1および第2の投薬または第1、第2および第3の投薬のための投与スケジュールを決定することをさらに含む。
【0006】
本明細書に提供される方法のいずれか1つの一態様において、第1、第2および/または第3の投薬のウイルスベクターのより低い用量は、用量よりも少ないが、しかし少なくとも用量の1/10である。
本明細書に提供される方法のいずれか1つの一態様において、投薬は、1か月または約1か月の間隔を空けてなされる。
【0007】
側面において、本明細書に提供される組成物またはキットのいずれか1つを製造する方法が提供される。一態様において、製造する方法は、ウイルスベクターの1以上の用量または剤形を産生すること、および、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団の1以上の用量または剤形を産生することを含む。提供される製造の方法のいずれか1つの、別の態様において、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団の1以上の用量または剤形を産生するステップは、免疫抑制薬を合成ナノキャリアへ付着させることを含む。提供される製造の方法のいずれか1つの、別の態様において、方法は、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団の1以上の用量または剤形とキットにおけるウイルスベクターの1以上の用量または剤形とを、組み合わせることを、さらに含む。
【0008】
別の側面において、ウイルスベクターへの望ましくない免疫応答を低減させるためであり、および/または対象において導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を提供する、医薬の製造のための、本明細書に提供される組成物またはキットのいずれか1つの使用が提供される。一態様において、組成物またはキットは、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団を含む1以上の用量または剤形、および、ウイルスベクターを含む1以上の用量または剤形を含み、ここで、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団およびウイルスベクターは、本明細書に提供される方法のいずれか1つに従って投与される。本明細書に提供される使用のいずれか1つの、いくつかの態様において、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団は、ウイルスベクターのウイルスベクター抗原提示細胞(APC)提示可能抗原を含まない。本明細書に提供される使用のいずれか1つの、いくつかの態様において、組成物またはキットは、1以上の第2のまたは第3の投薬としての使用のための免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団を含む1以上の用量または剤形をさらに含む。本明細書に提供される使用のいずれか1つの、いくつかの態様において、組成物またはキットは、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団を含む1以上の用量または剤形、ならびに、1以上の第2のまたは第3の投薬としての使用のためのより低い用量でのウイルスベクターを含む1以上の用量または剤形を、さらに含む。
【0009】
別の側面において、本明細書に提供される組成物またはキットのいずれか1つは、本明細書に提供される方法のいずれか1つにおける使用のために提供される。
図の簡単な記載
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、霊長目の非ヒト動物の研究レイアウトを示す。
図2図2は、第84日までにわたる抗AAV8 IgGデータを示す。
図3図3は、第84日の中和抗体力価を示す。
図4図4は、第84日の中和抗体力価とこれに対する抗AAV IgGを示す。
図5図5は、中和抗体力価を示す。
図6図6は、第84日までにわたる導入遺伝子発現データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の詳細な説明
本発明を詳細に説明する前に、本発明は、殊更に例示される材料またはプロセスパラメーターに限定されず、それらは無論、変化し得るということが理解されるべきである。本明細書に使用される専門用語は、本発明の特定の態様を説明する目的のためのものであるにすぎず、および、本発明を説明するために代替的な専門用語の使用を制限することを意図したものではないこともまた理解されるべきである。
【0012】
上記または下記のいずれであっても、本明細書に引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、それらの全体において全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
本明細書および添付される請求項に使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、内容が明確に別用に指示しない限り、複数形の指示対象を包含する。例えば、「ポリマー」への言及は、2以上のかかる分子の混合物または単一のポリマー種の異なる分子量の混合物を包含し、「合成ナノキャリア」への言及は、2以上のかかる合成ナノキャリアの混合物または複数のかかる合成ナノキャリアを包含し、「RNA分子」への言及は、2以上のかかるRNA分子の混合物または複数のかかるRNA分子を包含し、「免疫抑制薬」への言及は、2以上のかかる材料の混合物または複数の免疫抑制薬分子を包含する、等である。
【0013】
本明細書に使用されるとき、用語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などのそれらのバリエーションは、あらゆる掲げられた整数(例として、特色、要素、特徴、特性、方法/プロセスステップまたは限定)または整数の群(例として、特色、要素、特徴、特性、方法/プロセスステップまたは限定)の包含を表すが、いかなる他の整数または整数の群の排除を表すものでもないと読むべきである。よって、本明細書に使用されるとき、用語「含む(comprising)」は、包摂的であり、および、追加の掲げられていない整数または方法/プロセスステップを除外しない。
【0014】
本明細書に提供される組成物および方法のいずれか1つの態様において、「含む(comprising)」は、「から本質的になる(consisting essentially of)」または「からなる(consisting of)」に置き換えられてもよい。句「から本質的になる」は、特定された整数(単数または複数)またはステップを、ならびに請求項に係る発明の特質または機能に実質的な影響を与えないものを、要件とするために本明細書に使用される。本明細書に使用されるとき、用語「なる(consisting)」は、掲げられた整数(例として、特色、要素、特徴、特性、方法/プロセスステップまたは限定)または整数の群(例として、特色、要素、特徴、特性、方法/プロセスステップまたは限定)の、それのみでの存在を表すために使用される。
【0015】
A.序論
驚くべきことに、ある投与の組み合わせが、低減された抗ウイルスベクター体液性免疫応答および/または増大したまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を結果としてもたらすことができるということが見出された。例えば、本明細書に提供されるデータは、以下を包含する知見を実証している:
・ウイルスベクターと免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアとの併用投与での、より高いレベルの導入遺伝子発現、これは、導入遺伝子発現への合成ナノキャリアの初回投与の利益を示唆する。
【0016】
・ウイルスベクターと免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアとの併用投与での、長期にわたるおよび持ちの良い導入遺伝子発現。加えて、ウイルスベクターのより低い用量を使用することができるようになり、および、いくつかの態様において、増大した導入遺伝子発現へ繋がるということが見出された。
・免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの投与は、抗ウイルスベクターIgG抗体のロバストなおよび持ちの良い阻害を達成することができる。この効果は、免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアの反復投薬で強められた。
本発明をここで、以下により詳細に記載する。
【0017】
B.定義
「投与すること」または「投与」または「投与する」とは、材料を、薬理学的に有用である様式において、対象に提供することを意味する。
当該用語は、いくつかの態様において、「投与させること(causing to be administered)」を含むことを意図される。「投与させること」とは、別の当事者が材料を投与することを、直接的または間接的に、引き起こすこと、駆り立てること、奨励すること、補助すること、誘導することまたは指示することを含む。
【0018】
「投与スケジュール」は、決定されたスケジュールに従っての、第1の投薬および第2の投薬および、任意に、第3の投薬の、投与を指す。スケジュールは、投薬の回数ならびにかかる投薬の頻度または投薬間の間隔を包含することができる。かかる投与スケジュールは、具体的な目標を、好ましくはウイルスベクター抗原への望ましくない体液性免疫応答を低減させることおよび/または増大したまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を、達成するために変動させられ得る、数多のパラメーターを包含してもよい。態様において、投与スケジュールは、下記で例において提供されるとおりの投与スケジュールのいずれかである。いくつかの態様において、本発明に従う投与スケジュールは、第1および第2の投薬および、任意に、第3の投薬を、1以上の試験対象へ投与するのに使用されてもよい。これらの試験対象における免疫応答を、次いで、望ましくない体液性免疫応答を低減させることおよび/または増大したまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現において有効であったか否かを決定するために、査定することができる。スケジュールが所望される効果を有したか否かは、本明細書に提供されるかまたは別様に当該技術分野において公知である方法のいずれかを使用して決定することができる。例えば、特定の免疫細胞サイトカイン、抗体、等々が低減、生成、活性化、等々されたか否かおよび/または特定のタンパク質もしくは発現産物が増大、低減または生成、等々されたか否かを決定するために、本明細書に提供される投薬が特定の投与スケジュールに従って投与されている対象から、試料を得てもよい。有用免疫細胞の存在および/または数を検出するために有用である方法は、これらに限定されないが、フローサイトメトリー法(例として、FACS)、ELISpot、増殖応答、サイトカイン産生、および免疫組織化学的方法を包含する。抗体などの、タンパク質の産生のレベルを決定するために有用である方法は、当該技術分野において周知であり、および、本明細書に提供されるアッセイを包含する。かかるアッセイは、ELISAアッセイを包含する。
【0019】
対象への投与のための組成物または剤形の文脈における「有効な量」は、1以上の所望される免疫応答を、または増大したまたは持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を、対象において生じるような、組成物または剤形の量を指す。したがって、いくつかの態様において、有効な量は、望ましくない体液性免疫応答を低減させる、および/または持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは提供する、本明細書に提供される組成物または剤形のあらゆる量である。この量は、in vitroまたはin vivo目的のためとすることができる。in vivo目的のためには、量は、本明細書に提供されるとおりの対象にとって臨床的な利益を有すると臨床医が考えるものであり得る。
【0020】
有効な量は、望ましくない免疫応答のレベルを低下させることを含み得るが、いくつかの態様において、それは、つまるところ望ましくない免疫応答を予防することを含む。有効な量はまた、望ましくない免疫応答の発生を遅延させることを含んでもよい。有効である量は、所望される治療的エンドポイントまたは所望される治療効果を生じる量であってもよい。有効な量は、好ましくは、対象におけるウイルスベクターに特異的な望ましくない体液性免疫応答の低減を結果としてもたらし、および/または、ウイルスベクターの持ちの良い導入遺伝子または核酸物質の発現を増大させるかまたは提供する。有効な量はまた、ウイルスベクター抗原などの抗原への、対象における寛容原性の免疫応答を結果としてもたらすこともできる。他の態様において、有効な量は、治療的エンドポイントまたは結果などの、所望される応答のレベルを向上させることを含むことができる。上記のあらゆるものの達成は、慣用的な方法によってモニタリングすることができる。
【0021】
提供される組成物および方法のいずれか1つの、いくつかの態様において、有効な量は、所望される免疫応答が対象において、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、またはそれよりも長い間、持続するものである。提供される組成物および方法のいずれかのうちの、他の態様において、有効な量は、測定可能な所望される応答を、例えば、体液性免疫応答(例として、特定の抗原へのもの)の低減などの測定可能な所望される免疫応答および/または導入遺伝子または核酸物質の発現応答を、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、またはそれよりも長い間、生じさせるものである。
【0022】
有効量は、無論、処置された特定の対象;状態、疾患または障害の重篤度;年齢、身体条件、サイズおよび体重を含む個々の患者のパラメーター;処置の期間;同時併用治療の性質(あれば);投与の特定の経路、ならびに保健実施者の知識および経験の範囲内の類似の要因に依存するであろう。これらの要因は、当業者に周知であり、慣用的な実験のみを用いて取り組むことができる。最大用量が使用されること、つまり、健全な医学的判断に従った最も高い安全な用量が、一般に好ましい。しかしながら、患者は、医学的理由、心理的理由、またはその他の事実上あらゆる理由で、より低い用量または耐容用量を主張する場合もあることが、当業者には理解されるであろう。
【0023】
本発明の組成物での免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアおよび/またはウイルスベクターの用量は、合成ナノキャリアに付着している免疫抑制薬および/またはウイルスベクターの量を指すことができる。あるいは、用量は、所望される量の免疫抑制薬を提供する合成ナノキャリアの数に基づいて投与されることができる。
【0024】
「抗ウイルスベクター免疫応答」または「ウイルスベクターに対する免疫応答」または同種のものは、ウイルスベクターに対する任意の望ましくない免疫応答を指す。いくつかの態様において、望ましくない免疫応答は、ウイルスベクターまたはその抗原に対する抗原特異的免疫応答である。いくつかの態様において、望ましくない免疫応答は、ウイルスベクターのウイルス性抗原に特異的である。他の態様において、免疫応答は、ウイルスベクターの導入遺伝子または核酸物質によってコードされるタンパク質またはペプチドなどの発現産物に特異的である。いくつかの態様において、免疫応答は、ウイルスベクターのウイルス性抗原に特異的であり、ウイルスベクターの導入遺伝子または核酸物質によってコードされるタンパク質またはペプチドには特異的ではない。免疫応答は、抗ウイルスベクター抗体応答、CD4+T細胞またはCD8+T細胞免疫応答などの抗ウイルスベクターT細胞免疫応答、または抗ウイルスベクターB細胞免疫応答であり得る。
【0025】
「抗原」とは、B細胞抗原またはT細胞抗原を意味する。「抗原の型(単数または複数)」とは、同じまたは実質的に同じ抗原性の特徴を共有する分子である。いくつかの態様において、抗原は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、リポタンパク質、糖脂質、ポリヌクレオチド、多糖などであってもよく、または細胞内に含有されもしくは細胞内で発現されてもよい。抗原が十分に定義または特徴付けされていないときなどのいくつかの態様において、抗原は、細胞または組織の調製物、細胞デブリ、細胞エキソソーム、馴化培地、等々の中に含有されていてもよい。
【0026】
「抗原特異的」は、抗原もしくはその一部の存在の結果としてもたらされるものである、または特異的に抗原を認識するかまたは結合させる分子を生成するものである、あらゆる免疫応答を指す。いくつかの態様において、抗原がウイルスベクターのものであるとき、抗原特異的とは、ウイルスベクター特異的であることを意味し得る。例えば、免疫応答が、ウイルスベクター特異的抗体産生などの抗原特異的抗体産生である場合には、抗原(例として、ウイルスベクター)を特異的に結合させる抗体が産生される。別の例として、免疫応答が、抗原特異的B細胞またはCD4+T細胞の増殖および/または活性である場合には、増殖および/または活性は、単独でもしくはMHC分子、B細胞、等々との複合での、抗原またはその一部の認識の結果としてもたらされる。
【0027】
「免疫応答を査定する」は、in vitroまたはin vivoでの免疫応答のレベル、存在または不在、低減、増大、等々のあらゆる測定または決定を指す。かかる測定または決定は、対象から得られた1以上の試料に対して行われ得る。かかる査定は、本明細書に提供されるかまたは別様に当該技術分野において公知である方法のいずれかを用いて行うことができる。
【0028】
「付着する(attach)」または「付着された(attached)」または「カップリングする」または「カップリングされた」(など)は、1つの実体(例えば部分)を別のものに化学的に会合させることを意味する。いくつかの態様において、付着は共有結合的であり、これは、付着が2つの実体の間の共有結合の存在に関して起こることを意味する。非共有結合的態様において、非共有結合的付着は、限定されないが以下を含む非共有結合的相互作用により媒介される:電荷相互作用、アフィニティー相互作用、金属配位、物理的吸着、主客相互作用、疎水性相互作用、TTスタッキング相互作用、水素結合相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、磁性相互作用、静電相互作用、双極子-双極子相互作用、および/またはそれらの組み合わせを含む。態様において、カプセル封入が、付着の形態である。態様において、ウイルスベクターと、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアとは、相互に付着しておらず、これは、ウイルスベクターと、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアとが、特に一方を他方と化学的に会合させることを意図したプロセスに供されてはいないということを意味する。
【0029】
「リスクがある」対象は、疾患、障害または状態を有する可能性があると医療従事者が考えるもの、または、本明細書に提供されるとおりの望ましくない体液性免疫応答を経験する可能性があり、提供される組成物および方法からの恩恵を受けるであろうと医療従事者が考えるものである。いくつかの態様において、対象は、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を有することが予測されるものである。
「平均(average)」は、本明細書に使用されるとき、別様に注記されていない限り、算術平均を指す。
【0030】
本明細書に使用されるとき、用語「併用療法」は、(上に定義されるとおりの)2以上の材料/剤の組み合わせの使用を含む治療を定義することを意図する。よって、本出願における、「併用療法」、「組み合わせ」および「組み合わせでの」材料/剤の使用への言及は、全体としては同じ処置計画の一環として投与される材料/剤を指してもよい。そのため、2以上の材料/剤の各々の薬学は異なってもよい:各々は、同時にまたは異なる時点で投与されてもよい。したがって、組み合わせの材料/剤は、連続して(例として、前または後に)または同時に、同じ医薬処方物で(すなわち、一緒に)、または異なる医薬処方物で(すなわち、個別に)、投与されてもよいということが当然理解されるべきであろう。同時に同じ処方物でというのは、単一単位の処方物としてということであり、他方、同時に異なる処方物でというのは、単一単位ではない。併用療法における2以上の材料/剤の各々の薬学は、投与のルートに関してもまた異なっていてもよい。
【0031】
「併用して(concomitantly)」とは、対象に、時間的に相関する、好ましくは、免疫もしくは生理学的応答の調節を提供するために時間的に十分に相関する様式において、2以上の材料/剤を投与すること、およびさらにより好ましくは2以上の材料/剤が組み合わせられて投与されることを意味する。態様において、併用投与は、2以上の材料/剤の、特定された期間内、好ましくは1か月以内、より好ましくは1週間以内、なおより好ましくは1日以内、さらにより好ましくは1時間以内の投与を包含してもよい。態様において、材料/剤は、繰り返し併用して投与されてもよく、それは、例において提供され得るとおり、1よりも多い機会の併用投与である。
【0032】
「決定すること」または「決定」とは、事実の関係性を確認することを意味する。決定することは、数多のやり方で成し遂げられてもよく、これは、これらに限定されないが、実験を行うこと、または予測を立てることを包含する。実例として、免疫抑制薬またはウイルスベクターの用量は、試験用量で始めて、および、投与のための用量を決定するために公知のスケーリング技法(アロメトリックまたはアイソメトリックスケーリングなど)を使用することによって決定されてもよい。かかるものはまた、本明細書に提供されるとおりのプロトコルまたは投与スケジュールを決定するためにも使用され得る。別の態様において、用量は、対象において様々な用量を試験することにより、すなわち、経験および指針となるデータに基づいた直接的な実験法を通じて決定されてもよい。態様において、「決定すること」または「決定」は、「決定づけること」を含む。「決定づけること」とは、ある実体が事実の関係性を確認することを、引き起こす、促す、奨励する、援助する、誘導する、指示する、またはその実体と協調して行動することを意味し、直接的または間接的、あるいははっきりとまたは暗示的であるものを意味する。
【0033】
「用量」は、所与の時間の間対象へ投与される薬理学的におよび/または免疫学的に活性な材料の、特定の分量を指す。一般に、本発明の方法および組成物における、免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアおよび/またはウイルスベクターの用量は、免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアおよび/またはウイルスベクターの量を指す。あるいは、免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアの用量に言及するときの事例において、用量は、所望される量の免疫抑制薬を提供する合成ナノキャリアの数に基づいて投与されることができる。用量が、反復投薬の文脈で使用されるとき、用量は、反復用量の各々の量を指し、これは同じかまたは異なっていてもよい。
【0034】
「投薬」とは、薬理学的におよび/または免疫学的に活性な材料または薬理学的におよび/または免疫学的に活性な材料の組み合わせの、対象への投与を意味する。投薬の材料は、本明細書に提供される方法のいずれか1つにおいて、同時になど、併用して投与されてもよい。投薬の材料は、本明細書に提供される方法のいずれか1つにおいて、同じ組成物中に混ぜ合わせられて投与されてもよい。投薬の材料は、本明細書に提供される方法のいずれか1つにおいて、別々の組成物において個別に投与されてもよい。
【0035】
「カプセル封入する(encapsulate)」とは、合成ナノキャリア内の物質の少なくとも一部を囲い込むことを意味する。いくつかの態様において、物質は、合成ナノキャリア内に完全に囲い込まれる。他の態様において、カプセル封入される物質の殆どまたは全てが、合成ナノキャリアの外の局所環境に曝露されない。他の態様において、物質の50%、40%、30%、20%、10%、または5%(重量/重量)以下が、局所環境に曝露される。カプセル封入は、吸収とは別のものであり、吸収は、物質の殆どまたは全てを合成ナノキャリアの表面上に配置し、物質を合成ナノキャリアの外部の局所環境に曝露させたままにする。本明細書に提供された方法または組成物のいずれか1つにおいて、免疫抑制薬は、合成ナノキャリア中にカプセル封入されてもよい。
【0036】
「発現制御配列」は、発現に影響を与えることができるあらゆる配列であり、および、プロモーター、エンハンサー、およびオペレーターを包含することができる。提供される方法または組成物のいずれか1つの一態様において、発現制御配列は、プロモーターである。提供される方法または組成物のいずれか1つの一態様において、発現制御配列は、肝臓特異的プロモーターまたは構成的プロモーターである。「肝臓特異的プロモーター」は、専属的にまたは優先的に、肝臓の細胞における発現を結果としてもたらすものである。「構成的プロモーター」は、一般的に活性なものであって、ある細胞に専属的または優先的ではないと考えられているものである。本明細書に提供される核酸またはウイルスベクターのいずれか1つにおいて、プロモーターは、本明細書に提供されるプロモーターのいずれか1つであってもよい。
【0037】
「生成させる」とは、それ自身で直接的でも、または間接的でも、免疫または生理学的な応答(例として、寛容原性の免疫応答)などの作用を引き起こさせることを意味する。
「対象を同定すること」は、臨床医に対象を、本明細書に提供される方法、組成物またはキットから恩恵を受け得るものと認識させることができる、あらゆる作用または一連の行為である。好ましくは、同定される対象は、ウイルスベクターからの治療的利益を必要とするものであって、および、本明細書に提供されるとおり望ましくない体液性免疫応答が起こると予測されるものである。作用または一連の行為は、それ自身で直接的でも、または間接的でもよい。本明細書に提供される方法のいずれか1つの一態様において、方法は、本明細書に提供されるとおりの方法、組成物またはキットを必要とする対象を同定することをさらに含む。
【0038】
「免疫抑制薬」とは、APCに免疫抑制性の効果(例として、寛容原性の効果)を持たせることまたはT細胞もしくはB細胞を抑制させることを引き起こすような化合物を意味する。免疫抑制性の効果は、一般には、望ましくない免疫応答を低減、阻害もしくは防止するような、または調節性の免疫応答などの所望される免疫応答を促進するような、APCによるサイトカインまたは他の因子の産生または発現を指す。APCが、このAPCによって提示された抗原を認識する免疫細胞への免疫抑制性の機能を(免疫抑制性の効果の下で)獲得したときに、免疫抑制性の効果が、提示された抗原に特異的であると言われる。いかなる特定の理論に拘束されるものでもないが、免疫抑制性の効果は、免疫抑制薬が、好ましくは抗原の存在下で、APCへ送達されることの結果であると考えられる。
【0039】
一態様において、免疫抑制薬は、APCに、1以上の免疫エフェクター細胞における調節性の表現型を促進させるものである。例えば、調節性の表現型は、抗原特異的CD4+T細胞またはB細胞の産生、誘導、刺激または動員の阻害、抗原特異的抗体の産生の阻害、Treg細胞(例えば、CD4+CD25highFoxP3+Treg細胞)の産生、誘導、刺激または動員などにより特徴づけられ得る。このことは、CD4+T細胞またはB細胞の調節性の表現型への変換の結果であってもよい。このことはまた、CD8+T細胞、マクロファージおよびiNKT細胞などの他の免疫細胞におけるFoxP3の誘導の結果であってもよい。一態様において、免疫抑制薬は、APCが抗原をプロセッシングした後の応答に影響を及ぼすものである。別の態様において、免疫抑制薬は、抗原のプロセッシングに干渉するものではない。さらなる態様において、免疫抑制薬は、アポトーシスシグナル分子ではない。別の態様において、免疫抑制薬は、リン脂質ではない。
【0040】
免疫抑制薬は、これらに限定されないが、スタチン;ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などのmTORインヒビター;TGF-βシグナル伝達剤;TGF-β受容体アゴニスト;トリコスタチンAなどのヒストンデアセチラーゼインヒビター;コルチコステロイド;ロテノンなどのミトコンドリアの機能のインヒビター;P38インヒビター;6Bio、デキサメタゾン、TCPA-1、IKK VIIなどのNF-κβインヒビター;アデノシン受容体アゴニスト;ミソプロストールなどのプロスタグランジンE2アゴニスト(PGE2);ロリプラムなどのホスホジエステラーゼ4インヒビター(PDE4)などのホスホジエステラーゼインヒビター;プロテアソームインヒビター;キナーゼインヒビター;Gタンパク質共役受容体アゴニスト;Gタンパク質共役受容体アンタゴニスト;グルココルチコイド;レチノイド;サイトカインインヒビター;サイトカイン受容体インヒビター;サイトカイン受容体アクチベーター;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アンタゴニスト;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼインヒビター;カルシニューリンインヒビター;ホスファターゼインヒビター;TGX-221などのPI3KBインヒビター;3-メチルアデニンなどのオートファジーインヒビター;アリール炭化水素受容体インヒビター;プロテアソームインヒビターI(PSI);およびP2X受容体遮断薬などの酸化ATPを包含する。免疫抑制薬はまた、IDO、ビタミンD3、シクロスポリンAなどのシクロスポリン、アリール炭化水素受容体インヒビター、リスベラトロール、アザチオプリン(Aza)、6-メルカプトプリン(6-MP)、6-チオグアニン(6-TG)、FK506、サングリフェリンA、サルメテロール、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、アスピリンおよび他のCOXインヒビター、ニフルミン酸、エストリオール、メトトレキサートおよびトリプトライドも包含する。態様において、免疫抑制薬は、本明細書に提供される剤のいずれかを含んでもよい。
【0041】
免疫抑制薬は、APCへ直接的に免疫抑制性の効果を提供する化合物とすることができ、または、それは、間接的に(すなわち、投与後に何らかのやり方で処理された後で)免疫抑制性の効果を提供する化合物とすることができる。免疫抑制薬は、したがって、本明細書に提供される化合物のいずれかの、プロドラッグ形態を包含する。
【0042】
本明細書に提供される方法、組成物またはキットのいずれか1つの態様において、本明細書に提供される免疫抑制薬は、合成ナノキャリアに付着している。好ましい態様において、免疫抑制薬は、合成ナノキャリアの構造を構成する材料に追加される要素である。例えば、一態様において、合成ナノキャリアが1以上のポリマーからなる場合、免疫抑制剤は、追加された、および、1以上のポリマーに付着した、化合物である。別の例として、一態様において、合成ナノキャリアが、1以上の脂質からなる場合、免疫抑制剤は、やはり、追加された、および、1以上の脂質に付着した、化合物である。合成ナノキャリアの材料もまた免疫抑制性の効果を結果としてもたらすなどといった態様においては、免疫抑制薬は、免疫抑制性の効果を結果としてもたらす合成ナノキャリアの材料に加えて存在する要素である。
【0043】
その他の例示の免疫抑制薬は、これらに限定されるものではないが、小分子薬物、天然産物、抗体(例として、CD20、CD3、CD4に対する抗体)、生物ベースの薬物、炭水化物ベースの薬物、ナノ粒子、リポソーム、RNAi、アンチセンス核酸、アプタマー、メトトレキサート、NSAID;フィンゴリモド;ナタリズマブ;アレムツズマブ;抗CD3;タクロリムス(FK506);TGF-βおよびIL-10などのサイトカインおよび成長因子;等々を包含する。さらなる免疫抑制薬は、当業者に公知であり、および、本発明は、この点において限定されない。
【0044】
「負荷量(load)」とは、合成ナノキャリアに付着しているとき、全合成ナノキャリア中の材料の合計の乾燥処方重量に基づく合成ナノキャリアに付着している免疫抑制薬の量である(重量/重量)。一般に、かかる負荷量は、合成ナノキャリアの集団全体の平均として算出される。一態様において、免疫抑制薬の負荷量は、合成ナノキャリア全体の平均で0.1%と99%との間である。別の態様において、負荷量は、0.1%と50%との間である。また別の態様において、免疫抑制薬の負荷量は、0.1%と20%との間である。さらなる態様において、免疫抑制薬の負荷量は、0.1%と10%との間である。なおさらなる態様において、免疫抑制薬の負荷量は、1%と10%との間である。なおさらなる態様において、免疫抑制薬の負荷量は、7%と20%との間である。さらに別の態様において、免疫抑制薬の負荷量は、合成ナノキャリアの集団全体の平均で、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.3%、少なくとも0.4%、少なくとも0.5%、少なくとも0.6%、少なくとも0.7%、少なくとも0.8%、少なくとも0.9%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、または少なくとも20%、少なくとも25%、または少なくとも30%である。そのうえさらなる態様において、免疫抑制薬の負荷量は、合成ナノキャリアの集団全体の平均で、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%である。上記態様のいくつかの態様において、免疫抑制薬の負荷量は、合成ナノキャリアの集団全体の平均において、25%または30%以下である。態様において、負荷量は、本明細書に記載され得るとおりにまたは別様に当該技術分野において公知であるとおりに算出される。
【0045】
「合成ナノキャリアの最大寸法」とは、合成ナノキャリアの任意の軸に沿って測定されるナノキャリアの最大寸法を意味する。「合成ナノキャリアの最小寸法」とは、合成ナノキャリアの任意の軸に沿って測定される合成ナノキャリアの最小寸法を意味する。例えば、球体の合成ナノキャリアについて、合成ナノキャリアの最大および最小寸法は、実質的に同一であり、その直径のサイズである。同様に、立方状合成ナノキャリアについて、合成ナノキャリアの最小寸法は、その高さ、幅または長さのうちの最小のものであり、一方、合成ナノキャリアの最大寸法は、その高さ、幅または長さのうちの最大のものである。
【0046】
一態様において、試料中の合成ナノキャリアの合計数に基づいた、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法は、100nmと等しいか、またはこれより大きい。一態様において、試料中の合成ナノキャリアの合計数に基づいた、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最大寸法は、5μmと等しいか、またはこれより小さい。好ましくは、試料中の合成ナノキャリアの合計数に基づいた、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法は、110nmより大きく、より好ましくは120nmより大きく、より好ましくは130nmより大きく、より好ましくはなお、150nmより大きい。合成ナノキャリアの最大および最小寸法のアスペクト比は、態様に依存して多様であり得る。例えば、合成ナノキャリアの最小寸法に対する最大寸法のアスペクト比は、1:1~1,000,000:1、好ましくは1:1~100,000:1、より好ましくは1:1~10,000:1、より好ましくは1:1~1000:1、なおより好ましくは1:1~100:1、およびさらにより好ましくは1:1~10:1の間で多様であり得る。好ましくは、試料中の合成ナノキャリアの合計数に基づいた、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最大寸法は、3μmと等しいか、またはこれより小さく、より好ましくは2μmと等しいか、またはこれより小さく、より好ましくは1μmと等しいか、またはこれより小さく、より好ましくは800nmと等しいか、またはこれより小さく、より好ましくは600nmと等しいか、またはこれより小さく、およびより好ましくはなお、500nmと等しいか、またはこれより小さい。好ましい態様において、試料中の合成ナノキャリアの合計数に基づいた、試料中の合成ナノキャリアの少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の最小寸法は、100nmと等しいか、またはこれより大きく、より好ましくは120nmと等しいか、またはこれより大きく、より好ましくは130nmと等しいか、またはこれより大きく、より好ましくは140nmと等しいか、またはこれより大きく、およびより好ましくはなお、150nmと等しいか、またはこれより大きい。
【0047】
合成ナノキャリアの寸法(例えば有効直径)の測定は、いくつかの態様において、合成ナノキャリアを液体(通常は水性)媒体中に懸濁して、動的光散乱(DLS)を用いること(例えばBrookhaven ZetaPALS装置を用いること)により、得ることができる。例えば、合成ナノキャリアの懸濁液を、約0.01~0.1mg/mLの最終合成ナノキャリア懸濁液濃度を達成するために、水性バッファーから精製水中で希釈することができる。希釈された懸濁液は、DLS分析のために好適なキュベット中で直接調製しても、またはこれに移してもよい。キュベットを、次いで、DLS内に置き、制御された温度まで平衡化させて、次いで、媒体の粘度および試料の屈折率のための適切なインプットに基づいて、安定で再現性のある分布を得るために十分な時間にわたりスキャンすることができる。有効直径、または分布の平均を、次いで報告させる。高アスペクト比または非球形の合成ナノキャリアの有効サイズを決定することは、より正確な測定値を得るために、電子顕微鏡法などの増強技術を必要とする場合がある。合成ナノキャリアの「次元」または「寸法」または「直径」は、例えば動的光散乱を用いて得られる粒子サイズ分布の平均を意味する。
【0048】
「非メトキシ末端のポリマー」とは、メトキシ以外の部分で終了する少なくとも1つの末端を有するポリマーを意味する。いくつかの態様において、ポリマーは、メトキシ以外の部分で終了する少なくとも2つの末端を有する。他の態様において、ポリマーは、メトキシで終了する末端を有しない。「非メトキシ末端プルロニックポリマー」とは、両端にメトキシを有する直鎖状プルロニックポリマー以外のポリマーを意味する。本明細書に提供されるとおりのポリマーナノ粒子は、非メトキシ末端のポリマーまたは非メトキシ末端のプルロニックポリマーを含むことができる。
【0049】
「薬学的に許容し得る賦形剤」または「薬学的に許容し得る担体」とは、組成物を処方するのに薬理学的に活性な材料と一緒に使用される薬理学的に不活性な材料を意味する。薬学的に許容し得る賦形剤は、当該技術分野において公知の多様な材料を含み、これは、限定されないが、糖(例えばグルコース、ラクトースなど)、抗菌剤などの保存料、再構成補助剤、着色料、生理食塩水(例えばリン酸緩衝化生理食塩水)および緩衝剤を包含する。
【0050】
「提供する」とは、本発明の実施のために必要な品目または一組の品目または方法を供給する、個人が行う作用または一連の行為を意味する。作用または一連の行為は、自身で直接的に取られても、または間接的に取られてもよい。
「対象を提供すること」は、臨床医に対象と接触させ、および、本明細書に提供される組成物をこれに投与するかまたは本明細書に提供される方法をこれに対して行うようにさせる、あらゆる作用または一連の行為である。いくつかの態様において、対象は、ウイルスベクター投与およびこれに対する抗原特異的免疫寛容性を、または本明細書に提供されるとおりの所望される結果のいずれか1つを必要とするものである。作用または一連の行為は、自身で直接的に取られても、または間接的に取られてもよい。本明細書に提供される方法のいずれか1つの一態様において、方法は、対象を提供することをさらに含む。
【0051】
「対象」とは、ヒトおよび霊長類などの温血哺乳動物;鳥類;ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマおよびブタなどの家庭内または家畜動物;マウス、ラットおよびモルモットなどの実験動物;魚類;爬虫類;動物園のおよび野生の動物;等を包含する動物を意味する。本明細書に使用されるとき、対象は、本明細書において提供される方法または組成物のいずれか1つを必要とするものであってもよい。いくつかの態様において、対象は、有機酸血症を有するか、または有する疑いがある。いくつかの態様において、対象は、有機酸血症を発症するリスクがある。いくつかの態様において、有機酸血症は、メチルマロン酸血症である。いくつかの態様において、有機酸血症は、若年性メチルマロン酸血症である。いくつかの態様において、対象は、小児のまたは若年の対象、例として、18歳未満、16歳未満、15歳未満、14歳未満、13歳未満、12歳未満、11歳未満、10歳未満、9歳未満、8歳未満、7歳未満、6歳未満、5歳未満、4歳未満、3歳未満、または2歳未満である。いくつかの態様において、対象は、成人の対象である。
【0052】
「合成ナノキャリア(単数または複数)」とは、天然では見出されない個別の物体であって、サイズが5マイクロメートルより小さいか、またはこれと等しい、少なくとも1つの寸法を有するものを意味する。アルブミンナノ粒子は、一般に合成ナノキャリアとして含まれるが、しかし、ある態様においては、合成ナノキャリアは、アルブミンナノ粒子を含まない。態様において、合成ナノキャリアは、キトサンを含まない。他の態様において、合成ナノキャリアは、脂質ベースのナノ粒子ではない。さらなる態様において、合成ナノキャリアは、リン脂質を含まない。
【0053】
合成ナノキャリアは、これらに限定されないが、1つまたは複数の脂質ベースのナノ粒子(また本明細書において液体ナノ粒子、すなわち、それらの構造を構成する材料の大部分が脂質であるナノ粒子としても言及される)、ポリマーナノ粒子、金属ナノ粒子、界面活性剤ベースのエマルション、デンドリマー、バッキーボール、ナノワイヤー、ウイルス様粒子(すなわち、主にウイルスの構造タンパク質からなるが、感染性ではないか、低い感染性を有する粒子)、ペプチドまたはタンパク質ベースの粒子(また本明細書において、タンパク質粒子、すなわち、それらの構造を構成する材料の大部分がペプチドもしくはタンパク質である粒子としても言及される)(アルブミンナノ粒子など)および/または脂質-ポリマーナノ粒子などのナノ材料の組み合わせを用いて開発されるナノ粒子であってもよい。合成ナノキャリアは、多様な異なる形状であってもよく、これは、限定されないが、球体、立方状、錐体、長方形、円柱状、ドーナツ型などを含む。本発明による合成ナノキャリアは、1以上の表面を含む。本発明の実施における使用のために適応させることができる例示的な合成ナノキャリアは、以下を含む:(1)Grefらの米国特許5,543,158において開示される生分解性ナノ粒子、(2)Saltzmanらの米国特許出願公開20060002852のポリマーナノ粒子、(3)DeSimoneらの米国特許出願公開20090028910のリソグラフィーにより構築されるナノ粒子、(4)von AndrianらのWO 2009/051837の開示、(5)Penadesらの米国特許出願公開2008/0145441において開示されるナノ粒子、(6)de los Riosらの米国特許出願公開20090226525において開示されるタンパク質ナノ粒子、(7)Sebbelらの米国特許出願公開20060222652において開示されるウイルス様粒子、(8)Bachmannらの米国特許出願公開20060251677において開示される核酸結合ウイルス様粒子、(9)WO2010047839A1またはWO2009106999A2において開示されるウイルス様粒子、(10)P. Paolicelli et al.,「Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles」Nanomedicine. 5(6): 843-853 (2010)において開示されるナノ沈殿させたナノ粒子、(11)米国公開2002/0086049において開示されるアポトーシス細胞、アポトーシス小体または合成もしくは半合成模倣物、あるいは(12)Look et al.,「Nanogel-based delivery of mycophenolic acid ameliorates systemic lupus erythematosus in mice」J. Clinical Investigation 123(4): 1741-1749 (2013)のもの。態様において、合成ナノキャリアは、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7より大きいかまたはこれに等しい、または1:10より大きいアスペクト比を有してもよい。
【0054】
約100nmと等しいかこれより小さい、好ましくは100nmと等しいかこれより小さい最小寸法を有する、本発明による合成ナノキャリアは、補体を活性化するヒドロキシル基を有する表面を含まないか、あるいは、補体を活性化するヒドロキシル基ではない部分から本質的になる表面を含む。好ましい態様において、約100nmと等しいかこれより小さい、好ましくは100nmと等しいかこれより小さい最小寸法を有する、本発明による合成ナノキャリアは、補体を実質的に活性化する表面を含まないか、あるいは、補体を実質的に活性化しない部分から本質的になる表面を含む。より好ましい態様において、約100nmと等しいかこれより小さい、好ましくは100nmと等しいかこれより小さい最小寸法を有する、本発明による合成ナノキャリアは、補体を活性化する表面を含まないか、あるいは、補体を活性化しない部分から本質的になる表面を含む。態様において、合成ナノキャリアは、ウイルス様粒子を除外する。態様において、合成ナノキャリアは、1:1、1:1.2、1:1.5、1:2、1:3、1:5、1:7より大きいかまたはこれに等しい、または1:10より大きいアスペクト比を有してもよい。
【0055】
「導入遺伝子または核酸物質の発現」は、導入遺伝子または核酸物質がウイルスベクターによって送達されるときの、対象におけるウイルスベクターの導入遺伝子または核酸物質の発現産物のレベルを指す。いくつかの態様において、発現のレベルは、対象における、関心対象の様々な組織または系内の導入遺伝子タンパク質濃度を測定することによって決定されてもよい。あるいは、発現産物が核酸であるとき、発現のレベルは、核酸産物により測定されてもよい。増大した発現は、例えば、対象から得られた試料中の発現産物の量を測定しおよび先の試料とそれを比較することによって、決定することができる。発現の永続性は、当業者にとって明らかである、類似のまたは他の方法によって測定されてもよい。試料は、組織試料であってもよい。いくつかの態様において、発現産物は、フローサイトメトリーを使用して測定することができる。
【0056】
「望ましくない体液性免疫応答」は、抗原への曝露からの結果としてもたらされ、本明細書で提供される疾患、障害または状態(またはその症状)を促進または悪化させるか、または本明細書で提供される疾患、障害または状態の症状を示すものである、あらゆる望ましくない体液性免疫応答を指す。かかる免疫応答は、一般に、対象の健康状態への良くない影響を有するか、または、対象の健康状態へ良くない影響を与える兆候を示す。望ましくない体液性免疫応答は、抗原特異的抗体産生、抗原特異的B細胞増殖および/または活性あるいは抗原特異的CD4+T細胞増殖および/または活性を包含する。一般に、本明細書において、これらの望ましくない免疫応答は、ウイルスベクターに特異的であり、および、ウイルスベクターを用いた投与の所望される有益な効果に拮抗する。
【0057】
「ウイルスベクター」とは、本明細書に提供されるとおりその導入遺伝子または核酸物質が発現されることができる治療用タンパク質などの治療薬をコードする導入遺伝子または核酸物質を含みおよび送達するように適合されている、カプシドおよび/またはコートタンパク質などのウイルス成分を伴うベクターコンストラクトを意味する。「発現される」または「発現」または同種のものは、導入遺伝子または核酸物質が細胞中に形質導入されて、形質導入された細胞によりプロセッシングされた後の、機能的(すなわち、所望される目的のために生理学的に活性な)産物の合成を指す。かかる産物はまた、本明細書において「発現産物」としても言及される。ウイルスベクターは、限定せずに、AAV8またはAAV2などのアデノ随伴ウイルスに基づくものとすることができる。よって、本明細書に提供されるAAVベクターは、AAV8またはAAV2などのAAVに基づくウイルスベクターであり、および、導入遺伝子または核酸物質の送達のためのパッケージをすることができるそれからのカプシドおよび/またはコートタンパク質などのウイルス成分を有する。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、「キメラウイルスベクター」である。かかる態様において、このことは、ウイルスベクターが、1種より多くのウイルスまたはウイルスベクターに由来するウイルス成分からなることを意味する。
【0058】
「ウイルスベクターAPC提示可能抗原」とは、ウイルスベクターと関連付けられる抗原(すなわち、ウイルスベクター、または、ウイルスベクターに対する免疫応答(例として、抗ウイルスベクター特異抗体の産生)を生成することができるそのフラグメント)を意味する。一般に、ウイルスベクター抗原提示細胞(APC)提示可能抗原は、免疫系(例として、抗原提示細胞によって提示されるなどの、免疫系の細胞であり、これは、これらに限定されないが、樹状細胞、B細胞またはマクロファージを包含する)による認識のために提示されることができる。ウイルスベクターAPC提示可能抗原は、例えば、T細胞による認識のために提示されることができる。かかる抗原は、クラスIまたはクラスIIの主要組織適合性複合体分子(MHC)に結合した抗原のエピトープの提示を介してT細胞における免疫応答によって認識されおよびそれをトリガーし得る。ウイルスベクターAPC提示可能抗原は、一般に、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、等々を包含するか、または、細胞中に、細胞上に、もしくは細胞により、含有されるかまたは発現される。ウイルスベクター抗原は、いくつかの態様において、MHCクラスI拘束性エピトープおよび/またはMHCクラスII拘束性エピトープおよび/またはB細胞エピトープを含む。いくつかの態様において、ウイルスベクターに特異的な1以上の寛容原性の免疫応答が、本明細書に提供される方法、組成物またはキットを用いて結果としてもたらされる。態様において、合成ナノキャリアの集団は、何らの追加されたウイルスベクターAPC提示可能抗原も含まず、これは、何らの実質的な量のウイルスベクターAPC提示可能抗原も合成ナノキャリアへそれらの製造の間に意図的に加えられていないということを意味する。
【0059】
C.方法の実施において有用な組成物
本明細書に提供される方法および関連する組成物は、したがって、メチルマロン酸血症(MMA)またはオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症などの、ウイルスベクターを用いた処置を必要とする対象のために使用することができる。本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つは、MMAまたはOTC欠損症の処置のためのものとすることができる。
【0060】
MMAは、あるタンパク質および脂肪を身体が分解できない稀な単一遺伝子疾患である。この代謝疾患は、高アンモニア血症に繋がる可能性があり、および、摂食障害、知的障害、慢性腎臓病および膵臓の炎症を包含する長期合併症と関連付けられる。MMAの症状は、大抵乳児期早期に出現し、および軽度のものから生死を脅かすものまで多様である。処置なしでは、この障害は、昏睡およびいくつかの症例においては死へ繋がる可能性がある。
【0061】
OTC欠損症は、OTC遺伝子における遺伝子突然変異によって引き起こされるX連鎖型遺伝性障害であり、尿素サイクルの正しい機能にとって重篤なものである。OTCを有する個体は、血中の過度のレベルのアンモニアの蓄積を経験する。障害の最も重症の型は、生後数日以内に現れ、体温および呼吸速度の制御不能、発作、昏睡、発育遅延および知的障害によって特徴付けられる。障害がX連鎖型であるため、疾患の重症の型に罹患するのはほとんどの場合男性である。障害のそれほど重症でない型は、異常行動、高タンパク質食品への嫌悪感、嘔吐および発作によって特徴付けられる。ほとんどの承認された治療は、血中のアンモニアの量を低減させることに焦点を当てており、根治的なものではない。目下、唯一の根治のアプローチは、若い年齢での肝臓移植であり、これは重度の副作用および合併症と関連付けられる可能性がある。本明細書に提供される投薬は、本明細書に提供されている疾患または障害のいずれか1つの処置において使用することができる。
【0062】
本明細書に提供される、ウイルスベクターのものなどの、導入遺伝子または核酸物質は、疾患または障害を持つものなどの対象にとって有益であるいずれかのタンパク質またはその部分をコードしてもよい。態様において、対象は、対象のタンパク質の内因性バージョンが、欠損を持つか、または限られた量でしかまたは全く産生されないことによる、疾患または障害を有するかまたは有する疑いがある。対象は、本明細書に提供されるとおりの疾患または障害のいずれか1つを持つものであってもよく、および、導入遺伝子または核酸物質は、本明細書に提供されるとおりの治療用タンパク質またはその一部のいずれか1つをコードするものである。本明細書において提供される導入遺伝子または核酸物質は、対象におけるその内因性バージョンの何らかの欠損(内因性バージョン発現の欠損を含む)を通じて対象において疾患または障害を結果としてもたらすような、いずれかのタンパク質の機能的なバージョンをコードしていてもよい。
かかる疾患または障害の例は、これらに限定されないが、オルニチントランスカルバミラーゼシンテターゼ欠損症(OTCd)などの尿素サイクル酵素欠損を包含する。導入遺伝子または核酸物質によってコードされる治療用タンパク質は、オルニチントランスカルバミラーゼシンテターゼ(OTC)を包含するということになる。他のかかる疾患または障害の例は、これらに限定されないが、メチルマロン酸血症(MMA)などの有機酸血症を包含する。導入遺伝子または核酸物質によってコードされる治療用タンパク質はまた、メチルマロニル-CoAムターゼ(MUT)も包含するということになり、これは、MMAの症例において頻繁に突然変異している酵素であるMUTのあらゆる野生型バージョンを包含する。
【0063】
導入遺伝子または核酸物質の配列はまた、発現制御配列をも包含する。発現制御配列は、プロモーター、エンハンサーおよびオペレーターを包含し、一般に、発現コンストラクトが利用されるべき発現系に基づいて選択される。いくつかの態様において、プロモーターおよびエンハンサー配列は、遺伝子発現を増大する能力のために選択され、一方、オペレーター配列は、遺伝子発現を調節する能力のために選択され得る。導入遺伝子はまた、宿主細胞中での相同組み換えを容易にする、および好ましくは促進する配列を包含してもよい。導入遺伝子はまた、宿主細胞中での複製のために必要である配列を包含してもよい。
【0064】
例示の発現制御配列は、本明細書に提供され得るもののいずれか1つなどの肝臓特異的プロモーター配列および構成的プロモーター配列を包含する。一般に、プロモーターは、所望される発現産物をコードする配列の上流(すなわち、5’)に作動可能に連結される。導入遺伝子はまた、コード配列の下流(すなわち、3’)に作動可能に連結された好適なポリアデニル化配列も包含してもよい。
【0065】
ウイルスは、それらが感染する細胞の内部でそれらのゲノムを輸送するために特化した機構を進化させてきた;かかるウイルスに基づくウイルスベクターは、特別な用途のために細胞に形質移入するように仕立てることができる。本明細書に提供されるとおり使用することができるウイルスベクターの例は、当該技術分野において公知であるか、本明細書に記載されている。好適なウイルスベクターは、実例として、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)に基づくベクター、アデノウイルスに基づくベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づくベクターを包含する。
【0066】
本明細書に提供されるウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づくものとすることができる。AAVベクターは、本明細書に記載されているものなどの治療的適用における使用のために、特に関心を集めて来た。AAVは、ヒト疾患を引き起こすものとしては知られていないDNAウイルスである。一般に、AAVは、効率的な複製のために、ヘルパーウイルス(例として、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)との共感染またはヘルパー遺伝子の発現を必要とする。AAVに基づくベクターの記載については、例えば、米国特許第8,679,837号、同第8,637,255号、同第8,409,842号、同第7,803,622号および同第7,790,449号、ならびに米国公開第20150065562号、同第20140155469号、同第20140037585号、同第20130096182号、同第20120100606号、および同第20070036757号を参照。AAVベクターは、組み換えAAVベクターであってもよい。AAVベクターはまた、自己相補的(sc)AAVベクターであってよく、これは、例えば、米国特許出願公開2007/01110724および2004/0029106、ならびに米国特許第7,465,583号および同第7,186,699号において記載されている。
【0067】
ウイルスベクターが基にするアデノ随伴ウイルスは、AAV8またはAAV2などの特定の血清型のものであってもよい。本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つのいくつかの態様において、したがって、AAVベクターは、AAV8またはAAV2ベクターである。
【0068】
多種多様な合成ナノキャリアを、投薬の免疫抑制薬に付着させるために使用することができる。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、球体または球状体である。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、扁平または平板状である。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、立方体または立方体状である。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、卵円または楕円である。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、円柱、円錐または錐体である。
【0069】
いくつかの態様において、各々の合成ナノキャリアが類似の特性を有するように、サイズまたは形状に関して比較的均一である合成ナノキャリアの集団の使用が望ましい。例えば、合成ナノキャリアの合計数に基づいて、合成ナノキャリアの少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%は、合成ナノキャリアの平均直径または平均寸法の5%、10%、または20%以内に該当する最小寸法または最大寸法を有していてもよい。
【0070】
合成ナノキャリアは、中実であっても中空であってもよく、1以上の層を含んでもよい。いくつかの態様において、各層は、他の層(単数または複数)に対して相対的にユニークな組成およびユニークな特性を有する。一例のみを挙げると、合成ナノキャリアは、コア/シェル構造を有していてもよく、ここで、コアは1つの層であり(例として、ポリマーのコア)、シェルは第2の層である(例として、脂質二重層または単層)。合成ナノキャリアは、複数の異なる層を含んでもよい。
【0071】
いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、1以上の脂質を任意に含んでもよい。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、リポソームを含んでもよい。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、脂質二重層を含んでもよい。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、脂質単層を含んでもよい。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、ミセルを含んでもよい。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、脂質層(例として、脂質二重層、脂質単層、等々)に囲まれたポリマーマトリックスを含むコアを含んでもよい。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、脂質層(例として、脂質二重層、脂質単層、等々)に囲まれた非ポリマー性のコア(例として、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子、骨粒子、ウイルス粒子、タンパク質、核酸、炭水化物、等々)を含んでもよい。
【0072】
他の態様において、合成ナノキャリアは、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子、等々を含んでもよい。いくつかの態様において、非ポリマー性の合成ナノキャリアは、金属原子(例として、金原子)の凝集物などの非ポリマー性の成分の凝集物である。
【0073】
いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、1以上の両親媒性の物質を任意に含んでもよい。いくつかの態様において、両親媒性の物質は、増大した安定性、改善した均一性または増大した粘性により、合成ナノキャリアの製造を促進することができる。いくつかの態様において、両親媒性の物質は、脂質膜(例として、脂質二重層、脂質単層、等々)の内側表面と会合していてもよい。当該技術分野において公知の多くの両親媒性の物質が、本発明に従う合成ナノキャリアを作製するために好適である。かかる両親媒性の物質は、これらに限定されないが、以下を包含する:ホスホグリセリド;ホスファチジルコリン;ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC);ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE);ジオレイルオキシプロピルトリエチルアンモニウム(DOTMA);ジオレオイルホスファチジルコリン;コレステロール;コレステロールエステル;ジアシルグリセロール;コハク酸ジアシルグリセロール;ジホスファチジルグリセロール(DPPG);ヘキサンデカノール;ポリエチレングリコール(PEG)などの脂肪アルコール;ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル;パルミチン酸またはオレイン酸などの界面活性脂肪酸;脂肪酸;脂肪酸モノグリセリド;脂肪酸ジグリセリド;脂肪酸アミド;ソルビタントリオレアート(Span(登録商標)85)グリココーレート;ソルビタンモノラウレート(Span(登録商標)20);ポリソルベート20(Tween(登録商標)20);ポリソルベート60(Tween(登録商標)60);ポリソルベート65(Tween(登録商標)65);ポリソルベート80(Tween(登録商標)80);ポリソルベート85(Tween(登録商標)85);ポリオキシエチレンモノステアレート;サーファクチン;ポロキサマー;ソルビタントリオレアートなどのソルビタン脂肪酸エステル;レシチン;リゾレシチン;ホスファチジルセリン;ホスファチジルイノシトール;スフィンゴミエリン;ホスファチジルエタノールアミン(セファリン);カルジオリピン;ホスファチジン酸;セレブロシド;リン酸ジセチル;ジパルミトイルホスファチジルグリセロール;ステアリルアミン;ドデシルアミン;ヘキサデシルアミン;パルミチン酸アセチル;グリセロールリシノレート;ヘキサデシルステアレート;ミリスチン酸イソプロピル;チロキサポール;ポリ(エチレングリコール)5000-ホスファチジルエタノールアミン;ポリ(エチレングリコール)400-モノステアレート;リン脂質;高い界面活性剤特性を有する合成および/または天然の洗剤;デオキシコラート;シクロデキストリン;カオトロピックな塩;イオン対化剤(ion pairing agent);およびこれらの組み合わせ。両親媒性の物質は、異なる両親媒性の物質の混合物であってもよい。当業者は、これは例示的な界面活性剤効果を有する物質のリストであって、包括的なものではないことを理解するであろう。本発明に従って使用されるべき合成ナノキャリアの製造において、任意の両親媒性の物質が使用されてもよい。
【0074】
いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、1以上の炭水化物を任意に含んでもよい。炭水化物は、天然であっても合成であってもよい。炭水化物は、誘導体化された天然の炭水化物であってもよい。ある態様において、炭水化物は、単糖または二糖を含み、これは、これらに限定されないが、グルコース、フルクトース、ガラクトース、リボース、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、セロビオース、マンノース、キシロース、アラビノース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、グルコサミン、ガラクトサミンおよびノイラミン酸を包含する。ある態様において、炭水化物は多糖であり、これは、これらに限定されないが、プルラン、セルロース、微晶質セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシセルロース(HC)、メチルセルロース(MC)、デキストラン、シクロデキストラン、グリコーゲン、ヒドロキシエチルデンプン、カラギーナン、グリコン(glycon)、アミロース、キトサン、N,O-カルボキシルメチルキトサン、アルギン酸およびアルギニン酸、デンプン、キチン、イヌリン、コンニャク、グルコマンナン、プスツラン(pustulan)、ヘパリン、ヒアルロン酸、カードランおよびキサンタンを包含する。態様において、合成ナノキャリアは、多糖などの炭水化物を含まない(または特に除外しない)。ある態様において、炭水化物は、糖アルコールなどの炭水化物誘導体を含んでもよく、これは、これらに限定されないが、マンニトール、ソルビトールキシリトール、エリスリトール、マルチトールおよびラクチトールを包含する。
【0075】
いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、1以上のポリマーを含むものとすることができる。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、非メトキシ末端のプルロニックポリマーである1以上のポリマーを含む。いくつかの態様において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%または99%(重量/重量)は、非メトキシ末端のプルロニックポリマーである。いくつかの態様において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの全てが、非メトキシ末端のプルロニックポリマーである。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、非メトキシ末端のポリマーである1以上のポリマーを含む。いくつかの態様において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%または99%(重量/重量)は、非メトキシ末端のポリマーである。いくつかの態様において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの全ては、非メトキシ末端のポリマーである。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、プルロニックポリマーを含まない1以上のポリマーを含む。いくつかの態様において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%または99%(重量/重量)は、は、プルロニックポリマーを含まない。いくつかの態様において、合成ナノキャリアを構成するポリマーの全ては、プルロニックポリマーを含まない。いくつかの態様において、かかるポリマーは、コーティング層(例として、リポソーム、脂質単層、ミセル、等々)により囲まれたものとすることができる。いくつかの態様において、合成ナノキャリアの様々な要素は、ポリマーに付着することができる。
【0076】
免疫抑制薬は、多数の方法のうちのいずれかにより合成ナノキャリアに付着することができる。一般に、付着は、免疫抑制薬と合成ナノキャリアとの間の結合の結果であり得る。この結合により、免疫抑制薬の合成ナノキャリアの表面への付着、および/または合成ナノキャリア内に含有(カプセル封入)されることを結果としてもたらすことができる。しかしながら、いくつかの態様において、免疫抑制薬は、合成ナノキャリアへの結合よりもむしろ合成ナノキャリアの構造の結果として、合成ナノキャリアによりカプセル封入される。好ましい態様において、合成ナノキャリアは、本明細書に提供されるとおりのポリマーを含み、免疫抑制薬はポリマーに付着している。
【0077】
付着が、免疫抑制薬と合成ナノキャリアとの間の結合の結果として生じる場合、付着は、カップリング部分を介して生じてもよい。カップリング部分は、それを通して免疫抑制薬が合成ナノキャリアに結合する任意の部分であってもよい。かかる部分は、アミド結合またはエステル結合などの共有結合、ならびに免疫抑制薬を合成ナノキャリアに(共有結合的または非共有結合的に)結合する別の分子を含む。かかる分子は、リンカーまたはポリマーまたはその単位を含む。例えば、カップリング部分は、免疫抑制薬が静電気的に結合する荷電したポリマーを含むことができる。別の例として、カップリング部分は、それが共有結合しているポリマーまたはその単位を含むことができる。
【0078】
好ましい態様において、合成ナノキャリアは、本明細書に提供されるとおりのポリマーを含む。これらの合成ナノキャリアは、完全にポリマー性のものであっても、ポリマーと他の材料との混合物であってもよい。
【0079】
いくつかの態様において、合成ナノキャリアのポリマーは、会合してポリマーマトリックスを形成する。これらの態様のいくつかにおいて、免疫抑制薬などの成分は、ポリマーマトリックスの1以上のポリマーと共有結合的に会合することができる。いくつかの態様において、共有結合的会合は、リンカーにより媒介される。いくつかの態様において、成分は、ポリマーマトリックスの1以上のポリマーに、非共有結合的に会合することができる。例えば、いくつかの態様において、成分は、ポリマーマトリックス中にカプセル封入されている、ポリマーマトリックスにより囲まれている、および/またはポリマーマトリックス全体に分散しているものとすることができる。あるいはまたは加えて、成分は、疎水性相互作用、電荷相互作用、ファン・デル・ワールス力等々によって、ポリマーマトリックスの1以上のポリマーに会合することができる。それらからポリマーマトリックスを形成するための多種多様のポリマーおよび方法が、従来でも知られている。
【0080】
ポリマーは、天然または非天然の(合成の)ポリマーであってもよい。ポリマーは、ホモポリマーであっても、2以上のモノマーを含むコポリマーであってもよい。配列に関して、コポリマーは、ランダムであっても、ブロックであっても、またはランダムおよびブロック配列の組み合わせを含んでもよい。典型的には、本発明に従うポリマーは、有機ポリマーである。
【0081】
いくつかの態様において、ポリマーは、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドまたはポリエーテル、またはそれらの単位を含む。他の態様において、ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)コポリマー、またはポリカプロラクトン、またはそれらの単位を含む。いくつかの態様において、ポリマーは、生分解性であることが好ましい。したがって、これらの態様において、ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)またはポリプロピレングリコールまたはそれらの単位などのポリエーテルを含む場合、ポリマーが生分解性となるように、ポリマーが、ポリエーテルのブロックコポリマーおよび生分解性ポリマーを含むことが好ましい。他の態様において、ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)またはポリプロピレングリコールまたはその単位などのポリエーテルまたはその単位を単独では含まない。
【0082】
本発明における使用のために好適なポリマーの他の例は、これらに限定されないが、ポリエチレン、ポリカーボネート(例として、ポリ(1,3-ジオキサン-2オン))、ポリ酸無水物(例として、ポリ(セバシン酸無水物))、フマル酸ポリプロピル、ポリアミド(例として、ポリカプロラクタム)、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリエステル(例として、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリラクチド-グリコリドコポリマー、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酸(例として、ポリ(β-ヒドロキシアルカノアート)))、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリラート、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリホスファゼン、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリ尿素、ポリスチレンおよびポリアミン、ポリリジン、ポリリジン-PEGコポリマー、およびポリ(エチレンイミン)、ポリ(エチレンイミン)-PEGコポリマーを包含する。
【0083】
いくつかの態様において、本発明に従うポリマーは、米国食品医薬品局(FDA)により21C.F.R.§177.2600下においてヒトにおける使用について承認されているポリマーを包含し、これは、これらに限定されないが、ポリエステル(例として、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)コポリマー、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(1,3-ジオキサン-2オン));ポリ酸無水物(例として、ポリ(セバシン酸無水物));ポリエーテル(例として、ポリエチレングリコール);ポリウレタン;ポリメタクリラート;ポリアクリラート;およびポリシアノアクリラートを包含する。
【0084】
いくつかの態様において、ポリマーは、親水性とすることができる。例えば、ポリマーは、アニオン基(例として、リン酸基、硫酸基、カルボン酸基);カチオン基(例として、四級アミン基);または極性基(例として、ヒドロキシル基、チオール基、アミン基)を含んでもよい。いくつかの態様において、親水性ポリマーマトリックスを含む合成ナノキャリアは、合成ナノキャリア中に親水性環境を生成する。いくつかの態様において、ポリマーは、疎水性であってもよい。いくつかの態様において、疎水性ポリマーマトリックスを含む合成ナノキャリアは、合成ナノキャリア中に疎水性環境を生じる。ポリマーの親水性または疎水性の選択は、合成ナノキャリア内で組み込まれている(例として、付着している)材料の性質に対して影響を有し得る。
【0085】
いくつかの態様において、ポリマーは、1以上の部分および/または官能基により修飾されていてもよい。本発明に従って、様々な部分または官能基が使用されることができる。いくつかの態様において、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)により、炭水化物により、および/または多糖類に由来する非環式ポリアセタールにより、修飾されていてもよい(Papisov, 2001, ACS Symposium Series, 786:301)。ある態様は、Grefらの米国特許第5543158号またはVon AndrianらによるWO刊行物WO2009/051837の一般的教示を使用してなされてもよい。
【0086】
いくつかの態様において、ポリマーは、脂質または脂肪酸基により修飾されていてもよい。いくつかの態様において、脂肪酸基は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、またはリグノセリン酸の1以上であってもよい。いくつかの態様において、脂肪酸基は、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ-リノール酸、ガンマ-リノール酸、アラキドン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸またはエルカ酸の1以上であってもよい。
【0087】
いくつかの態様において、ポリマーは、ポリエステルであってもよく、これは、乳酸およびグリコール酸の単位を含むコポリマー、例えばポリ(乳酸-コ-グリコール酸)およびポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(本明細書において集合的に「PLGA」と称される);ならびにグリコール酸単位を含むホモポリマー(本明細書において「PGA」と称される)、ならびにポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、ポリ-D,L-乳酸、ポリ-L-ラクチド、ポリ-D-ラクチド、およびポリ-D,L-ラクチド乳酸単位を含むホモポリマー(本明細書において集合的に「PLA」と称される)を包含する。いくつかの態様において、例示的なポリエステルは、例えば、ポリヒドロキシ酸;PEGコポリマーおよびラクチドとグリコリドとのコポリマー(例として、PLA-PEGコポリマー、PGA-PEGコポリマー、PLGA-PEGコポリマー)およびそれらの誘導体を包含する。いくつかの態様において、ポリエステルは、例えば、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)-PEGコポリマー、ポリ(L-ラクチド-L-リジン)コポリマー、ポリ(セリンエステル)、ポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸]およびそれらの誘導体を包含する。
【0088】
いくつかの態様において、ポリマーは、PLGAであってもよい。PLGAは、乳酸とグリコール酸との生体適合性かつ生分解性のコポリマーであり、PLGAの様々な形態は、乳酸:グリコール酸の比率によって特徴づけられる。乳酸は、L-乳酸、D-乳酸またはD,L-乳酸であってもよい。PLGAの分解速度は、乳酸:グリコール酸比を変更することにより調節することができる。いくつかの態様において、本発明に従って使用されるPLGAは、約85:15、約75:25、約60:40、約50:50、約40:60、約25:75または約15:85の乳酸:グリコール酸の比率によって特徴づけられる。
【0089】
いくつかの態様において、ポリマーは、1以上のアクリル酸ポリマーであってもよい。態様において、アクリル酸ポリマーは、例えば、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマー、メチルメタクリラートコポリマー、エトキシエチルメタクリラート、シアノエチルメタクリラート、アミノアルキルメタクリラートコポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、メタクリル酸アルキルアミドコポリマー、ポリ(メチルメタクリラート)、ポリ(メタクリル酸無水物)、メチルメタクリラート、ポリメタクリラート、ポリ(メチルメタクリラート)コポリマー、ポリアクリルアミド、アミノアルキルメタクリラートコポリマー、グリシジルメタクリラートコポリマー、ポリシアノアクリラート、および前述のポリマーの1以上を含む組み合わせを包含する。アクリル酸ポリマーは、低い含有量の四級アンモニウム基と共に、アクリル酸とメタクリル酸エステルとの完全に重合したコポリマーを含んでもよい。
【0090】
いくつかの態様において、ポリマーは、カチオン性ポリマーとすることができる。一般的に、カチオン性ポリマーは、核酸の負に荷電した鎖を縮合および/または保護することができる。ポリ(リジン)などのアミン含有ポリマー(Zauner et al., 1998, Adv. Drug Del. Rev., 30:97;およびKabanov et al., 1995, Bioconjugate Chem., 6:7)、ポリ(エチレンイミン)(PEI;Boussif et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 1995, 92:7297)、およびポリ(アミドアミン)デンドリマー(Kukowska-Latallo et al., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 93:4897;Tang et al., 1996, Bioconjugate Chem., 7:703;およびHaensler et al., 1993, Bioconjugate Chem., 4:372)は、生理学的pHにおいて正に荷電しており、核酸とイオン対を形成する。態様において、合成ナノキャリアは、カチオン性ポリマーを含まなくともよい(またはこれを除外してもよい)。
【0091】
いくつかの態様において、ポリマーは、カチオン性側鎖を有する分解性ポリエステルであってもよい(Putnam et al., 1999, Macromolecules, 32:3658;Barrera et al., 1993, J. Am. Chem. Soc., 115:11010;Kwon et al., 1989, Macromolecules, 22:3250;Lim et al., 1999, J. Am. Chem. Soc., 121:5633;およびZhou et al., 1990, Macromolecules, 23:3399)。これらのポリエステルの例は、ポリ(L-ラクチド-L-リジン)コポリマー(Barrera et al., 1993, J. Am. Chem. Soc., 115:11010)、ポリ(セリンエステル)(Zhou et al., 1990, Macromolecules, 23:3399)、ポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(Putnam et al., 1999, Macromolecules, 32:3658;およびLim et al., 1999, J. Am. Chem. Soc., 121:5633)、ならびにポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)(Putnam et al., 1999, Macromolecules, 32:3658;およびLim et al., 1999, J. Am. Chem. Soc., 121:5633)を包含する。
【0092】
これらおよび他のポリマーの特性およびそれらを調製する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,123,727号;5,804,178号;5,770,417号;5,736,372号;5,716,404号;6,095,148号;5,837,752号;5,902,599号;5,696,175号;5,514,378号;5,512,600号;5,399,665号;5,019,379号;5,010,167号;4,806,621号;4,638,045号;および4,946,929号;Wang et al., 2001, J. Am. Chem. Soc., 123:9480;Lim et al., 2001, J. Am. Chem. Soc., 123:2460;Langer, 2000, Acc. Chem. Res., 33:94;Langer, 1999, J. Control. Release, 62:7;およびUhrich et al., 1999, Chem. Rev., 99:3181参照)。より一般的には、特定の好適なポリマーを合成するための多様な方法は、Concise Encyclopedia of Polymer Science and Polymeric Amines and Ammonium Salts、Goethals編、Pergamon Press, 1980;OdianによるPrinciples of Polymerization、John Wiley & Sons、第4版、2004;AllcockらによるContemporary Polymer Chemistry、Prentice-Hall、1981;Deming et al., 1997, Nature, 390:386において;および米国特許第6,506,577号、同第6,632,922号、同第6,686,446号および同第6,818,732号において記載される。
【0093】
いくつかの態様において、ポリマーは、直鎖状または分枝状ポリマーであってもよい。いくつかの態様において、ポリマーは、デンドリマーであってもよい。いくつかの態様において、ポリマーは、互いに実質的に架橋されていてもよい。いくつかの態様において、ポリマーは、実質的に架橋を含まなくてもよい。いくつかの態様において、ポリマーは、本発明に従って、架橋するステップを経ることなく使用することができる。さらに、合成ナノキャリアは、前述のおよび他のポリマーのいずれかのブロックコポリマー、グラフトコポリマー、ブレンド、混合物および/または付加物を含んでもよいことが、理解されるべきである。当業者は、本明細書において列記されるポリマーは、本発明に従って使用されるものである例示的なポリマーのリストを代表するが、包括的なものではないことを認識するであろう。
【0094】
いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、ポリマー成分を含まない。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、金属粒子、量子ドット、セラミック粒子、等々を含んでもよい。いくつかの態様において、非ポリマー性の合成ナノキャリアは、金属原子(例として、金原子)の凝集物などの、非ポリマー性成分の凝集物である。
【0095】
本発明による用量または剤形は、保存料、緩衝剤、生理食塩水またはリン酸緩衝化生理食塩水などの薬学的に許容し得る賦形剤を含むことができる。組成物は、有用な剤形を達成するために、従来の医薬の製造および配合技術を使用して作製されてもよい。いくつかの態様において、投薬の組成物は、注射のために、滅菌された生理食塩水溶液中で保存料と一緒に懸濁される。いくつかの態様において、合成ナノキャリアは、注射のために、滅菌された生理食塩水溶液中で保存料と一緒に懸濁される。
【0096】
態様において、免疫抑制薬とともに使用するために合成ナノキャリアを調製するとき、成分を合成ナノキャリアへ付着させるための方法が有用であり得る。成分が小分子である場合には、合成ナノキャリアの集合に先立ち成分をポリマーへ付着させることが、有利になり得る。態様において、成分を合成ナノキャリアへ付着させるために使用される表面基を用いて、成分をポリマーへ付着させるというよりはむしろこれらの表面基の使用を通じて合成ナノキャリアを調製し、次いで、このポリマー抱合体を合成ナノキャリアの構築において使用することもまた、有利であり得る。
【0097】
ある態様において、付着は、共有結合的なリンカーを伴うものとすることができる。態様において、本発明に従う成分は、アルキン基を含有する成分とのナノキャリアの表面上のアジド基の1,3-双極性環化付加反応により、またはアジド基を含有する成分とのナノキャリアの表面上のアルキンの1,3-双極性環化付加反応により形成された、1,2,3-トリアゾールリンカーを介して、共有結合的に外部表面へ付着することができる。かかる環化付加反応は、好ましくは、好適なCu(I)-リガンドおよびCu(II)化合物を触媒活性Cu(I)化合物に還元するための還元剤と共に、Cu(I)触媒の存在下において行う。このCu(I)により触媒されたアジド-アルキン環化付加(CuAAC)はまた、クリック反応としても言及される。
【0098】
加えて、共有結合的な付着は、共有結合的なリンカーを含んでもよく、これは、アミドリンカー、ジスルフィドリンカー、チオエーテルリンカー、ヒドラゾンリンカー、ヒドラジドリンカー、イミンまたはオキシムリンカー、尿素またはチオ尿素リンカー、アミジンリンカー、アミンリンカー、およびスルホンアミドリンカーを含む。
【0099】
アミドリンカーは、免疫抑制薬などの1つの成分上のアミンと、ナノキャリアなどの第2の成分のカルボン酸基との間のアミド結合を介して形成される。リンカー中のアミド結合は、N-ヒドロキシスクシンイミドにより活性化されたエステルなどの好適に保護されたアミノ酸との従来のアミド結合形成反応のいずれかを使用してなされることができる。
【0100】
ジスルフィドリンカーは、実例として、R1-S-S-R2の形態の、2つの硫黄原子の間のジスルフィド(S-S)結合の形成を介して作製される。ジスルフィド結合は、チオール/メルカプタン基(-SH)を含有する成分の、ポリマーもしくはナノキャリア上の別の活性化されたチオール基との、またはチオール/メルカプタン基を含有するナノキャリアの、活性化されたチオール基を含む成分との、チオール交換により、形成されることができる。
【0101】
トリアゾールリンカー、特に形態
【化1】
であり、式中R1およびR2は、任意の化学成分である、1,2,3-トリアゾールは、ナノキャリアなどの第1の成分に付着したアジドの、免疫抑制薬などの第2の成分に付着した末端アルキンとの1,3-双極性環化付加反応により作製され得る。1,3-双極性環化付加反応は、触媒を用いてまたはこれを用いずに、好ましくは1,2,3-トリアゾール官能基を通して2つの成分を連結するCu(I)触媒を用いて行う。この化学は、Sharpless et al., Angew. Chem. Int. Ed. 41(14), 2596, (2002)およびMeldal, et al, Chem. Rev., 2008, 108(8), 2952-3015において詳細に記載され、しばしば、「クリック」反応またはCuAACと称される。
【0102】
態様において、ポリマー鎖の末端側にアジドまたはアルキン基を含むポリマーを調製する。このポリマーを、次いで、複数のアルキンまたはアジド基がナノキャリアの表面上に位置するような様式において合成ナノキャリアを調製するために使用する。あるいは、合成ナノキャリアを、別の経路により調製して、その後、アルキンまたはアジド基で官能化してもよい。成分は、アルキン(ポリマーがアジドを含有する場合)またはアジド(ポリマーがアルキンを含有する場合)基のいずれかの存在と共に調製される。成分を、次いで、1,3-双極性環化付加反応を介して、1,4-二置換1,2,3-トリアゾールリンカーを通して成分を粒子に共有結合的に付着させる触媒を用いてまたはこれを用いずに、ナノキャリアと反応させる。
【0103】
チオエーテルリンカーは、実例として、R1-S-R2の形態の、硫黄-炭素(チオエーテル)結合の形成によって作製される。チオエーテルは、1つの成分上でのチオール/メルカプタン(-SH)基の、第2の成分上のハリドまたはエポキシドなどのアルキル化基によるアルキル化により作製されることができる。チオエーテルリンカーはまた、1つの成分上のチオール/メルカプタン基の、マイケルアクセプターとしてマレイミド基またはビニルスルホン基を含有する第2の成分上の電子欠乏アルケン基に対するマイケル付加によっても形成させることができる。別の方法において、1つの成分上のチオール/メルカプタン基の、第2の成分上のアルケン基でのラジカルチオール-エン反応により、チオエーテルリンカーを調製することができる。
【0104】
ヒドラゾンリンカーは、1つの成分上のヒドラジド基の、第2の成分上のアルデヒド/ケトン基との反応により作製される。
ヒドラジドリンカーは、1つの成分上のヒドラジン基の、第2の成分上のカルボン酸基との反応により形成される。かかる反応は、一般に、カルボン酸が活性化試薬により活性化されるアミド結合の形成に類似する化学を使用して行われる。
イミンまたはオキシムリンカーは、1つの成分上のアミンまたはN-アルコキシアミン(またはアミノオキシ)基の、第2の成分上のアルデヒドまたはケトン基との反応により形成される。
尿素またはチオ尿素リンカーは、1つの成分上のアミン基の、第2の成分上のイソシアナートまたはチオイソシアナート基との反応により調製される。
【0105】
アミジンリンカーは、1つの成分上のアミン基の、第2の成分上のイミドエステル基との反応により調製される。
アミンリンカーは、1つの成分上のアミン基の、第2の成分上のハリド、エポキシドまたはスルホナートエステル基などのアルキル化基とのアルキル化反応により作製される。あるいは、アミンリンカーはまた、シアノ水素化ホウ素ナトリウムまたはトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムなどの好適な還元試薬を用いた、1つの成分上のアミン基の、第2の成分上のアルデヒドまたはケトン基での還元性アミノ化により作製されることもできる。
【0106】
スルホンアミドリンカーは、1つの成分上のアミン基の、第2の成分上のスルホニルハリド(スルホニルクロリドなどの)基との反応により作製される。
スルホンリンカーは、ビニルスルホンへの求核試薬のマイケル付加により作製される。ビニルスルホンまたは求核試薬のいずれかは、ナノキャリアの表面上にあるか、または成分に付着していてもよい。
【0107】
成分(好ましくは免疫抑制薬)はまた、非共有結合的な共役方法を介してナノキャリアに共役させることもできる。例えば、静電吸着を通じて、負に荷電した免疫抑制薬を、正に荷電したナノキャリアに共役させることができる。金属配位子を含有する成分もまた、金属-配位子錯体を介して金属錯体に共役させることができる。
【0108】
態様において、成分は、合成ナノキャリアのアセンブリーに先立ち、ポリマー、例えばポリ乳酸-ブロック-ポリエチレングリコールに付着させられることができ、または、合成ナノキャリアは、その表面上の反応性または活性化可能な基を用いて形成されることができる。後者の場合において、成分は、合成ナノキャリアの表面により提示される付着化学に適合性である基を用いて調製することができる。他の態様において、ペプチド成分は、好適なリンカーを用いてVLPまたはリポソームに付着させることができる。リンカーは、2つの分子を互いに付着させることができる化合物または試薬である。一態様において、リンカーは、Hermanson 2008において記載されるようなホモ二官能性またはヘテロ二官能性の試薬であってよい。例えば、表面上にカルボン酸基を含有するVLPまたはリポソーム合成ナノキャリアを、EDCの存在下において、ホモ二官能性リンカーであるアジピン酸ジヒドラジド(ADH)で処置することで、ADHリンカーを有する対応する合成ナノキャリアを形成させることができる。結果としてもたらされるADHと連結された合成ナノキャリアを、次いで、ナノキャリア上のADHリンカーの他方の末端を介して、酸性基を含有するペプチド成分と共役させることで、対応するVLPまたはリポソームペプチド抱合体が産生される。
【0109】
利用可能な共役方法の詳細な記載については、Hermanson G T「Bioconjugate Techniques」、第2版、Academic Press, Inc.刊行、2008年を参照。共有結合的な付着に加えて、予め形成された合成ナノキャリアに吸着させることにより成分を付着させることもでき、または合成ナノキャリアの形成の間のカプセル封入によりそれを付着させることもできる。
【0110】
本明細書に提供されるとおりのあらゆる免疫抑制薬が、使用されおよび合成ナノキャリアへ付着させられることができる。免疫抑制薬は、これらに限定されないが、スタチン;ラパマイシンまたはラパマイシン類似体などのmTORインヒビター;TGF-βシグナル伝達剤;TGF-β受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)インヒビター;コルチコステロイド;ロテノンなどのミトコンドリアの機能のインヒビター;P38インヒビター;NF-κβインヒビター;アデノシン受容体アゴニスト;プロスタグランジンE2アゴニスト;ホスホジエステラーゼ4インヒビターなどのホスホジエステラーゼインヒビター;プロテアソームインヒビター;キナーゼインヒビター;Gタンパク質共役受容体アゴニスト;Gタンパク質共役受容体アンタゴニスト;グルココルチコイド;レチノイド;サイトカインインヒビター;サイトカイン受容体インヒビター;サイトカイン受容体アクチベーター;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アンタゴニスト;ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニスト;ヒストンデアセチラーゼインヒビター;カルシニューリンインヒビター;ホスファターゼインヒビターおよび酸化ATPを包含する。免疫抑制薬はまた、IDO、ビタミンD3、シクロスポリンA、アリール炭化水素受容体インヒビター、レスベラトロール、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、アスピリン、ニフルミン酸、エストリオール、トリポリド(tripolide)、インターロイキン(例として、IL-1、IL-10)、シクロスポリンA、サイトカインまたはサイトカイン受容体標的とするsiRNA等も包含する。
【0111】
スタチンの例は、アトルバスタチン(LIPITOR(登録商標)、TORVAST(登録商標))、セリバスタチン、フルバスタチン(LESCOL(登録商標)、LESCOL(登録商標) XL)、ロバスタチン(MEVACOR(登録商標)、ALTOCOR(登録商標)、ALTOPREV(登録商標))、メバスタチン(COMPACTIN(登録商標))、ピタバスタチン(LIVALO(登録商標)、PIAVA(登録商標))、ロスバスタチン(PRAVACHOL(登録商標)、SELEKTINE(登録商標)、LIPOSTAT(登録商標))、ロスバスタチン(CRESTOR(登録商標))、およびシンバスタチン(ZOCOR(登録商標)、LIPEX(登録商標))を包含する。
【0112】
mTORインヒビターの例は、ラパマイシンおよびそれらの類似体(例として、CCL-779、RAD001、AP23573、C20-メタリルラパマイシン(C20-Marap)、C16-(S)-ブチルスルホンアミドラパマイシン(C16-BSrap)、C16-(S)-3-メチルインドールラパマイシン(C16-iRap)(Bayle et al. Chemistry & Biology 2006、13:99-107))、AZD8055、BEZ235(NVP-BEZ235)、クリソファン酸(クリソファノール)、デフォロリムス(MK-8669)、エベロリムス(RAD0001)、KU-0063794、PI-103、PP242、テムシロリムス、およびWYE-354(Selleck、Houston、TX、USAから入手可能)を包含する。
【0113】
TGF-βシグナル伝達剤の例は、TGF-βリガンド(例として、アクチビンA、GDF1、GDF11、骨形態形成タンパク質、nodal、TGF-β)およびそれらの受容体(例として、ACVR1B、ACVR1C、ACVR2A、ACVR2B、BMPR2、BMPR1A、BMPR1B、TGFβRI、TGFβRII)、R-SMADS/co-SMADS(例として、SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD4、SMAD5、SMAD8)、およびリガンドインヒビター(例として、ホリスタチン、ノギン、コーディン、DAN、lefty、LTBP1、THBS1、デコリン)を包含する。
【0114】
ミトコンドリアの機能のインヒビターの例は、アトラクチロシド(二カリウム塩)、ボンクレキン酸(三アンモニウム塩)、カルボニルシアニドm-クロロフェニルヒドラゾン、カルボキシアトラクチロシド(例として、Atractylis gummiferaからのもの)、CGP-37157、(-)-デグエリン(例として、Mundulea sericeaからのもの)、F16、ヘキソキナーゼII VDAC結合ドメインペプチド、オリゴマイシン、ロテノン、Ru360、SFK1、およびバリノマイシン(例として、Streptomyces fulvissimusからのもの)(EMD4Biosciences、USA)を包含する。
【0115】
P38インヒビターの例は、SB-203580 (4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)1H-イミダゾール)、SB-239063 (トランス-1-(4ヒドロキシシクロヘキシル)-4-(フルオロフェニル)-5-(2-メトキシ-ピリミジン-4-イル)イミダゾール)、SB-220025 (5-(2アミノ-4-ピリミジニル)-4-(4-フルオロフェニル)-1-(4-ピペリジニル)イミダゾール))、およびARRY-797を包含する。
【0116】
NF(例として、NK-κβ)インヒビターの例は、IFRD1、2-(1,8-ナフチリジン-2-イル)-フェノール、5-アミノサリチル酸、BAY 11-7082、BAY 11-7085、CAPE(カフェイン酸フェネチルエステル)、マレイン酸ジエチル、IKK-2インヒビターIV、IMD 0354、ラクタシスチン、MG-132[Z-Leu-Leu-Leu-CHO]、NFκB活性化阻害剤III、NF-κB活性化阻害剤II、JSH-23、パルテノライド、フェニルアルシンオキシド(PAO)、PPM-18、ピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム塩、QNZ、RO 106-9920、ロカグラミド、ロカグラミドAL、ロカグラミドC、ロカグラミドI、ロカグラミドJ、ロカグラオール、(R)-MG-132、サリチル酸ナトリウム、トリプトライド(PG490)、およびウェデロラクトンを包含する。
【0117】
アデノシン受容体アゴニストの例は、CGS-21680およびATL-146eを包含する。
プロスタグランジンE2アゴニストの例は、E-プロスタノイド2およびE-プロスタノイド4を包含する。
ホスホジエステラーゼインヒビター(非選択的および選択的インヒビター)の例は、カフェイン、アミノフィリン、IBMX(3-イソブチル-1-メチルキサンチン)、パラキサンチン、ペントキシフィリン、テオブロミン、テオフィリン、メチル化キサンチン、ビンポセチン、EHNA(エリスロ-9-(2-ヒドロキシ-3-ノニル)アデニン)、アナグレリド、エノキシモン(PERFAN商標)、ミルリノン、レボシメンダン、メセンブリン、イブジラスト、ピクラミラスト、ルテオリン、ドロタベリン、ロフルミラスト(DAXAS商標、DALIRESP商標)、シルデナフィル(REVATION(登録商標)、VIAGRA(登録商標))、タダラフィル(ADCIRCA(登録商標)、CIALIS(登録商標))、バルデナフィル(LEVITRA(登録商標)、STAXYN(登録商標))、ウデナフィル、アバナフィル、イカリイン、4-メチルピペラジン、およびピラゾロピリミジン-7-1を包含する。
【0118】
プロテアソームインヒビターの例は、ボルテゾミブ、ジスルフィラム、エピガロカテキン-3-ガラート、およびサリノスポラミドAを包含する。
キナーゼインヒビターの例は、ベバシズマブ、BIBW 2992、セツキシマブ(アービタックス(登録商標))、イマニチブ(GLEEVEC(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、ゲフィチニブ(IRESSA(登録商標))、ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))、ペガプタニブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、スニチニブ、エルロチニブ、ニロチニブ、ラパチニブ、パニツムマブ、バンデタニブ、E7080、パゾパニブ、およびムブリチニブを包含する。
グルココルチコイドの例は、ヒドロコルチゾン(コルチゾール)、酢酸コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸デオキシコルチコステロン(DOCA)、およびアルドステロンを包含する。
【0119】
レチノイドの例は、レチノール、レチナール、トレチノイン(レチノイン酸、RETIN-A(登録商標))、イソトレチノイン(ACCUTANE(登録商標)、AMNESTEEM(登録商標)、CLARAVIS(登録商標)、SOTRET(登録商標))、アリトレチノイン(PANRETIN(登録商標))、エトレチナート(TEGISON商標)およびその代謝体アシトレチン(SORIATANE(登録商標))、タザロテン(TAZORAC(登録商標)、AVAGE(登録商標)、ZORAC(登録商標))、ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標))、およびアダパレン(DIFFERIN(登録商標))を包含する。
サイトカインインヒビターの例は、IL1ra、IL1受容体アンタゴニスト、IGFBP、TNF-BF、ウロモデュリン、アルファ-2-マクログロブリン、シクロスポリンA、ペンタミジン、およびペントキシフィリン(PENTOPAK(登録商標)、PENTOXIL(登録商標)、TRENTAL(登録商標))を包含する。
【0120】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アンタゴニストの例は、GW9662、PPARγアンタゴニスト III、G335、およびT0070907(EMD4Biosciences、USA)を包含する。
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アゴニストの例は、ピオグリタゾン、シグリタゾン、クロフィブラート、GW1929、GW7647、L-165,041、LY 171883、PPARγアクチベーター、Fmoc-Leu、トログリタゾン、およびWY-14643(EMD4Biosciences、USA)を包含する。
【0121】
ヒストンデアセチラーゼインヒビターの例は、トリコスタチンAなどのヒドロキサム酸(またはヒドロキサメート)、環状テトラペプチド(トラポキシンBなど)およびデプシペプチド、ベンズアミド、求電子性ケトン、フェニルブチラートおよびバルプロ酸などの脂肪族酸化合物、ボリノスタット(SAHA)、ベリノスタット(PXD101)、LAQ824、およびパノビノスタット(LBH589)などのヒドロキサム酸、エンチノスタット(MS-275)、CI994、およびモセチノスタット(MGCD0103)などのベンズアミド、ニコチンアミド、NADの誘導体、ジヒドロクマリン、ナフトピラノン、および2-ヒドロキシナフタルデヒドを包含する。
【0122】
カルシニューリンインヒビターの例は、シクロスポリン、ピメクロリムス、ボクロスポリン、およびタクロリムスを包含する。
ホスファターゼインヒビターの例は、BN82002塩酸塩、CP-91149、カリクリンA、カンタリジン酸、カンタリジン、シペルメトリン、エチル-3,4-デフォスタチン、フォストリエシンナトリウム塩、MAZ51、メチル-3,4-デフォスタチン、NSC 95397、ノルカンタリジン、prorocentrum concavumからのオカダ酸アンモニウム塩、オカダ酸、オカダ酸カリウム塩、オカダ酸ナトリウム塩、フェニルアルシンオキシド、様々なホスファターゼインヒビターカクテル、タンパク質ホスファターゼ1C、タンパク質ホスファターゼ2Aインヒビタータンパク質、タンパク質ホスファターゼ2A1、タンパク質ホスファターゼ2A2、およびオルトバナジン酸ナトリウムを包含する。
【0123】
D.組成物を作製および使用する方法、ならびに関連する方法
ウイルスベクターは、当業者に公知の、または本明細書において他の場所で記載される方法により作製することができる。例えば、ウイルスベクターは、例えば、米国特許第4,797,368号およびLaughlin et al., Gene, 23, 65-73(1983)において記載される方法を使用して構築および/または精製することができる。
【0124】
AAVベクターなどのウイルスベクターは、組換え方法を使用して作製されてもよい。例えば、方法は、AAVカプシドタンパク質またはそのフラグメントをコードする核酸配列;機能的rep遺伝子;AAV末端逆位反復配列(ITR)および導入遺伝子からなる組み換えAAVベクター;ならびに組み換えAAVベクターのAAVカプシドタンパク質中へのパッケージングを可能にするために十分なヘルパー機能、を含有する宿主細胞を培養することを含むことができる。
【0125】
ウイルスベクターをカプシド中にパッケージングするために宿主細胞において培養されるべき成分を、宿主細胞にトランスに提供してもよい。あるいは、必要とされる成分のいずれか1つ以上(例として、組み換えウイルスベクター、rep配列、cap配列および/またはヘルパー機能)を、当業者に公知の方法を使用して、必要とされる成分のいずれか1つ以上を含有されるように操作された安定な宿主細胞により、提供してもよい。最も好適には、かかる安定な宿主細胞は、誘導性プロモーターの制御下において、必要とされる成分(単数または複数)を含有することができる。しかしながら、必要とされる成分(単数または複数)は、構成的プロモーターの制御下にあってもよい。ウイルスベクターを産生するために必要とされる組み換えウイルスベクター、rep配列、cap配列、およびヘルパー機能は、いずれかの適切な遺伝子エレメントを使用してパッケージング宿主細胞に送達されてもよい。選択される遺伝子エレメントは、本明細書に記載されるものを包含するあらゆる好適な方法により送達されてもよい。本発明のいずれかの態様を構築するために使用される方法は、核酸操作における技術を持つ当業者に公知であり、遺伝子工学、組み換え工学および合成技術を包含する。例として、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、N.Y.を参照。同様に、rAAVウイルス粒子を生成する方法は、周知であり、好適な方法の選択は、本発明に対する限定ではない。例として、K. Fisher et al, J. Virol., 70:520-532(1993)および米国特許第5,478,745号を参照。
【0126】
いくつかの態様において、組み換えAAVベクターは、三重トランスフェクション法(triple transfection method)を使用して産生されてもよい(例として、米国特許第6,001,650号において詳細に記載されるとおりであり、三重トランスフェクション法に関するその内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。典型的には、組み換えAAVは、宿主細胞を、AAV粒子中にパッケージングされるべき組み換えAAVベクター(導入遺伝子を含むものなど)、AAVヘルパー機能ベクター、および補助機能ベクターでトランスフェクションすることにより産生される。一般に、AAVヘルパー機能ベクターは、増殖性AAVの複製およびカプセル封入のためにトランスで機能するAAVヘルパー機能配列(repおよびcap)をコードする。好ましくは、AAVヘルパー機能ベクターは、何らの検出可能な野生型AAVウイルス粒子(すなわち、機能的なrepおよびcap遺伝子を含有するAAVウイルス粒子)を生成することもなしに効率的なAAVベクター産生を支持する。補助機能ベクターは、AAVが複製のために依存する、非AAV由来のウイルスおよび/または細胞の機能のためのヌクレオチド配列をコードすることができる。補助機能は、AAV複製のために必要とされる機能を含み、これは、限定することなく、AAV遺伝子転写、ステージ特異的AAVのmRNAのスプライシング、AAVのDNAの複製、cap発現産物の合成、およびAAVカプシドアセンブリーの活性化に関与する部分を包含する。ウイルスに基づく補助機能は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型以外のもの)、およびワクシニアウイルスなどの、既知のヘルパーウイルスのいずれかに由来するものとすることができる。ウイルスベクターを産生するための他の方法は、当該技術分野において知られている。その上、ウイルスベクターは、商業的に入手可能である。
【0127】
合成ナノキャリアに付着している免疫抑制薬に関しては、成分を合成ナノキャリアへ付着させるための方法が有用であり得る。合成ナノキャリアは、当該分野において公知の広範な方法を用いて調製することができる。例えば、合成ナノキャリアは、ナノ沈殿、流体チャネルを使用したフローフォーカシング(flow focusing)、噴霧乾燥、シングルおよびダブルエマルション溶媒蒸発、溶媒抽出、相分離、製粉、マイクロエマルション法、微細加工(microfabrication)、ナノ加工(nanofabrication)、犠牲層、単純および複合コアセルベーションなどの方法、ならびに当業者に周知の他の方法により形成することができる。あるいはまたは加えて、単分散半導体のための水性および有機性の溶媒合成、伝導性、磁性、有機および他のナノ材料が記載されている(Pellegrino et al., 2005, Small, 1:48;Murray et al., 2000, Ann. Rev. Mat. Sci., 30:545;およびTrindade et al., 2001, Chem. Mat., 13:3843)。さらなる方法は、文献において記載されている(例として、Doubrow編、「Microcapsules and Nanoparticles in Medicine and Pharmacy」、CRC Press, Boca Raton, 1992;Mathiowitz et al., 1987, J. Control. Release, 5:13;Mathiowitz et al., 1987, Reactive Polymers, 6:275;ならびにMathiowitz et al., 1988, J. Appl. Polymer Sci., 35:755;米国特許第5578325号および同第6007845号;P. Paolicelli et al.,「Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles」Nanomedicine. 5(6):843-853 (2010)を参照)。
【0128】
様々な材料は、望ましい場合には、これらに限定されないが以下を包含する様々な方法を使用して、合成ナノキャリア中にカプセル封入してもよい:C. Astete et al.,「Synthesis and characterization of PLGA nanoparticles」J. Biomater. Sci. Polymer Edn、第17巻、第3号、pp. 247-289(2006);K. Avgoustakis「Pegylated Poly(Lactide) and Poly(Lactide-Co-Glycolide) Nanoparticles:Preparation, Properties and Possible Applications in Drug Delivery」Current Drug Delivery 1:321-333(2004);C. Reis et al.,「Nanoencapsulation I. Methods for preparation of drug-loaded polymeric nanoparticles」Nanomedicine 2:8- 21(2006);P. Paolicelli et al.,「Surface-modified PLGA-based Nanoparticles that can Efficiently Associate and Deliver Virus-like Particles」Nanomedicine. 5(6): 843-853(2010)。材料を合成ナノキャリア中にカプセル封入するために好適な他の方法を使用してもよく、これは、限定されないが、2003年10月14日に発行されたUngerの米国特許第6,632,671号において開示される方法を包含する。
【0129】
ある態様において、合成ナノキャリアは、ナノ沈殿法または噴霧乾燥により調製される。合成ナノキャリアを調製することにおいて使用される条件は、所望されるサイズまたは特性(例として、疎水性、親水性、外側の形態、「粘着性」、形状、等々)の粒子を生産するために改変されてもよい。合成ナノキャリアを調製する方法および使用される条件(例として、溶媒、温度、濃度、気体の流速、等々)は、合成ナノキャリアに付着させるべき材料および/またはポリマーマトリックスの組成に依存し得る。
【0130】
上記の方法のいずれかにより調製される合成ナノキャリアが、所望される範囲の外のサイズ範囲を有する場合、かかる合成ナノキャリアを、例えば篩を使用して、サイズ分類することができる。
合成ナノキャリアの要素(すなわち、成分)は、合成ナノキャリア全体に、例として1以上の共有結合によって、付着させても、または、1以上のリンカーを手段として用いて付着させてもよい。合成ナノキャリアを官能化するさらなる方法は、Saltzmanらの米国特許出願公開2006/0002852、DeSimoneらの米国特許出願公開2009/0028910、またはMurthyらの国際特許出願公開WO/2008/127532 A1から適応させてもよい。
【0131】
あるいはまたは加えて、合成ナノキャリアは、直接的または間接的に、非共有結合的相互作用を介して、成分に付着させることができる。非共有結合的態様において、非共有結合的カップリングは、これらに限定されないが以下を包含する非共有結合的相互作用により媒介される:電荷相互作用、アフィニティー相互作用、金属配位、物理的吸着、主客相互作用、疎水性相互作用、TTスタッキング相互作用、水素結合相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、磁性相互作用、静電相互作用、双極子-双極子相互作用、および/またはこれらの組み合わせ。かかるカップリングは、合成ナノキャリアの外部表面または内部表面上にあるように配置することができる。態様において、カプセル封入および/または吸収が、カップリングの形態である。態様において、合成ナノキャリアは、ウイルスベクターと、同じビヒクルまたは送達系の中で混ぜ合わせられることによって組み合わせられることができる。
【0132】
本明細書に提供される組成物は、無機または有機の緩衝剤(例として、リン酸、炭酸、酢酸またはクエン酸のナトリウムまたはカリウム塩)およびpH調整剤(例として、塩酸、水酸化ナトリウムまたはカリウム、クエン酸または酢酸の塩、アミノ酸およびそれらの塩)、抗酸化剤(例として、アスコルビン酸、アルファ-トコフェロール)、界面活性剤(例として、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン9-10ノニルフェノール、デオキシコール酸ナトリウム)、溶液および/または低温(cryo)/凍結安定化剤(例として、スクロース、ラクトース、マンニトール、トレハロース)、浸透圧調節剤(例として、塩または糖)、抗菌剤(例として、安息香酸、フェノール、ゲンタマイシン)、消泡剤(例として、ポリジメチルシロキサン、保存料(例として、チメロサール、2-フェノキシエタノール、EDTA)、ポリマー性安定化剤および粘度調節剤(例として、ポリビニルピロリドン、ポロキサマー488、カルボキシメチルセルロース)および共溶媒(例として、グリセロール、ポリエチレングリコール、エタノール)を含んでもよい。
【0133】
本発明に従う組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤を含んでもよい。組成物は、有用な剤形を達成するために、従来の医薬の製造および配合技術を使用して作製されてもよい。本発明の実施における使用のために好適な技術は、Handbook of Industrial Mixing:Science and Practice、Edward L. Paul, Victor A. Atiemo-ObengおよびSuzanne M. Kresta編、2004年、John Wiley & Sons, Inc.;ならびにPharmaceutics:The Science of Dosage Form Design、第2版M. E. Auten編、2001年、Churchill Livingstoneにおいて見出され得る。一態様において、組成物は、保存料と一緒に、注射のための滅菌された生理食塩水溶液中にある。
【0134】
本発明の組成物はあらゆる好適な様式において作製することができ、本発明は、本明細書に記載の方法を使用して製造することができる組成物に決して限定されるものではないということが理解されるべきである。適切な製造の方法の選択は、関連する特定の部分の特性に対する注意を必要とする場合がある。
【0135】
いくつかの態様において、組成物は、無菌条件下において製造されるか、最終的に無菌化される。このことにより、結果としてもたらされる組成物が滅菌かつ非感染性であることを確実にすることができ、それにより、非滅菌の組成物と比較して安全性を改善する。このことは、特に組成物を受け取る対象が免疫欠損を有するか、感染症を罹患しているか、および/または感染症に感受しやすいときに、価値のある安全性の対策を提供する。いくつかの態様において、組成物は、処方戦略に応じて、活性を失うことなく長期間、懸濁液中にまたは凍結乾燥粉末として保管されてもよい。
【0136】
本発明に従う投与は、様々なルートによるものであってもよく、これは、これらに限定されないが、皮下の、静脈内の、または腹腔内のルートを包含する。本明細書において言及される組成物は、併用投与などの投与のために、従来の方法を使用して製造および調製されてもよい。
【0137】
本発明の組成物は、本明細書において他の場所で記載される有効量などの有効量で投与することができる。剤形の用量は、本発明に従い、免疫抑制薬の様々な量を含有してもよい。剤形の用量は、本発明に従い、ウイルスベクターの様々な量を含有してもよい。剤形中に存在する夫々の成分の量は、成分の性質、成し遂げようとする治療的利益、および他のかかるパラメーターに従って変動し得る。態様において、用量範囲研究は、剤形中に存在する、成分の最適な治療的な量を確立するために実施することができる。態様において、成分は、対象へ投与した際にウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答を低減させるのにおよび/または増大したまたは持ちの良い発現に有効な量で、剤形中に存在する。対象において、従来の用量範囲研究および技法を使用して、望ましくない体液性免疫応答を低減させるのに有効な成分の量を決定することが可能であり得る。剤形は、様々な頻度で(すなわち、投与スケジュールに従って)投与されてもよい。
【0138】
本開示の別の側面は、キットに関する。いくつかの態様において、キットは、本明細書に提供されるとおりの、1以上の第1の用量および1以上の第2の用量および、任意に、1以上の第3の用量を含む。キットの用量の各々は、キットにおける別々の容器内または同じ容器内に含有させることができる。いくつかの態様において、容器は、バイアルまたはアンプルである。いくつかの態様において、用量の各々は、容器からは分離した溶液中に含有させることができ、そうすることで、用量は後続する時点で容器へ加えられるようにしてもよい。いくつかの態様において、用量は、各々別々の容器中にまたは同じ容器中に、凍結乾燥された形態になっており、そうすることで、それらを後続する時点で再構成されるようにしてもよい。いくつかの態様において、キットは、再構成、混合、投与、等々のための取扱説明書をさらに含む。いくつかの態様において、取扱説明書は、本明細書に記載される方法の記載を包含する。取扱説明書は、例として、プリントされた挿入物またはラベルとして、あらゆる好適な形態とすることができる。いくつかの態様において、キットは、さらに、1以上のシリンジを含む。
【0139】
投与スケジュールは、投薬(単数または複数)の回数および/または投薬(単数または複数)間の時間の長さを変化させ、および、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答および/またはその導入遺伝子または核酸物質の発現を査定することによって、決定することができる。例えば、第1の投薬(単数または複数)および第2の投薬(単数または複数)および、任意に、第3の投薬(単数または複数)を、投与した後で、ウイルスベクターへの望ましくない体液性免疫応答および/または発現を測定することができる。この望ましくない体液性免疫応答および/または発現は、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアとの併用投与または本明細書に提供されるとおりの他の投薬(単数または複数)を伴うことなしにウイルスベクターの1回以上の投与のみが行われたときなどの、第1および第2の投薬(単数または複数)および、任意に、第3の投薬(単数または複数)なしのときに生じる同じ種類の免疫応答および/または発現と、比較することができる。一般に、望ましくない免疫応答のレベルが低減されるか、または発現が増大するかまたはある期間持続することが見出された場合、投与スケジュールは、ウイルスベクターでの処置を必要とする対象にって有益になる可能性があり、および、これは、本明細書に提供される本発明の方法および組成物とともに使用することができる。投与スケジュールは、試験スケジュールで始めて、および、必要に応じて公知のスケーリング技法(アロメトリックまたはアイソメトリックスケーリングなど)を使用することによって決定されてもよい。別の態様において、投与スケジュールは、対象において様々なスケジュールを試験することにより、例として、経験および指針となるデータに基づいた直接的な実験法を通じて決定されてもよい。
【0140】

例1:免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアの合成
免疫抑制薬、例えばラパマイシン、を含む合成ナノキャリアを産生した。好ましくは、本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つのいくつかの態様において、免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアは、米国公開第US 2016/0128986 A1号および米国公開第US 2016/0128987 A1号の方法のいずれか1つによって産生され、かかる産生および結果としてもたらされる合成ナノキャリアの記載された方法は、それらの全体において参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つにおいて、ラパマイシンなどの免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアは、かかる組み込まれた合成ナノキャリア(カプセル封入によってなど)である。本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つにおいて、合成ナノキャリアは、PLA、PLGAまたはPCLなどのポリマーを含む。本明細書に提供される方法または組成物のいずれか1つにおいて、合成ナノキャリアは、PLAおよびPLA-PEGなどのポリマーを含む。
【0141】
例2:霊長目の非ヒト動物での研究、ウイルスベクター治療における免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアの複数の利益
霊長目の非ヒト動物(NHP)における、AAVベクターと、免疫抑制薬、例えばラパマイシン、を含む合成ナノキャリアとの共投与は、AAVベクター単独での投与と比較して、より高くおよびより持ちの良い導入遺伝子発現を誘導する、有意な初回投与効果を結果としてもたらすということが見出された。また、免疫抑制薬、例えばラパマイシンを含む合成ナノキャリアをAAVベクターと共に投与したとき、抗AAV8 IgGおよび中和抗体のロバストな阻害が達成されており、免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアの反復投薬によって強められた効果は、疫抑制薬を含む合成ナノキャリアのAAV遺伝子治療の再投薬を可能にする能力を示唆した。さらに、データは、免疫抑制薬、例えばラパマイシン、を含む合成ナノキャリアの組み合わせで、遺伝子治療を用いたメチルマロン酸血症(MMA)およびオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症の処置を支持した。データは、霊長目の非ヒト動物における、AAVベクターと、免疫抑制薬、例えばラパマイシン、を含む合成ナノキャリアとの共投与でのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター遺伝子治療の効き目、安全性および永続性を実証する。
【0142】
AAVベクターと、免疫抑制薬、例えばラパマイシン、を含む合成ナノキャリアとの共投与が、より高い導入遺伝子発現につながるという知見は、免疫抑制薬を含む合成ナノキャリアの投与と組み合わせられたときのAAV遺伝子治療の投薬のより低いレベルを使用するための能力を実証する。これは、患者の安全性を改善し、およびコストを減少させる。さらに、長期の遺伝子治療データは、全身性AAV遺伝子治療の発現は時間の経過とともに弱まる可能性があり、これが、免疫抑制薬、例えばラパマイシン、を含む合成ナノキャリアが対処できる限界であり得るということを実証する。最終的に、AAV遺伝子治療は、免疫抑制薬、例えばラパマイシン、を含む合成ナノキャリアなしでは、AAVベクターへの中和抗体の形成に起因して再投与されることができない。これらのデータは、免疫抑制薬、例えばラパマイシン、を含む合成ナノキャリアが、NHPにおいてこれらの中和抗体の形成を軽減し、それによって再投薬を可能にするということを示す。よって、本明細書に提供される投与のための組成物および方法は、AAVベクターなどのウイルスベクターの用量をより低くすることを可能にでき、および/または段階的な遺伝子治療の再投薬を可能にすることができる。
【0143】
具体的には、広く使用されているレポーター遺伝子導入遺伝子である分泌型胎児性アルカリホスファターゼ(AAV8-SEAP)をコードする導入遺伝子の発現を指揮する、組換えアデノ随伴血清型8カプシドの単一の静脈内(IV)注入の投与を、単独で、または、ラパマイシンを含む合成ナノキャリアとの共投与で、NHPにおいて評価した。NHPの5コホートは、各々、2×1012ベクターゲノム(vg)/キログラム(kg)のAAV8-SEAPを、単独で、または、ラパマイシンを含む合成ナノキャリアの2つの用量レベル(3mg/kgまたは6mg/kg)の1つと組み合わせて、第0日に施された。コホート3は、注入に先立ち、AAV8-SEAPと混ぜ合わせられたラパマイシンを含む合成ナノキャリア6mg/kgを施された。他の全てのコホートは、ラパマイシンを含む合成ナノキャリアの、続いてAAV8-SEAPの、逐次的な注入を施された。コホート4および5は、ラパマイシンを含む合成ナノキャリアの追加の用量を、研究の第28日および第56日に施されたと共に、コホート5は、追加の低い用量のAAV8-SEAP(0.2×1012vg/kg)もまた第28日および第56日に施された。
【0144】
結果は、以下を包含した:
・導入遺伝子発現は、AAV8-SEAPを単独で施された動物において第28日にピークを迎えた。第28日に、AAV8-SEAP+ラパマイシンを含む合成ナノキャリアで処置されたコホートは、一貫してより高いレベルの導入遺伝子発現を示し、これは、導入遺伝子発現への、ラパマイシンを含む合成ナノキャリアの初回投与の利益を示唆する。
・第28日の後、AAV8-SEAP単独で処置されたコホートにおいては血清SEAPレベルが急激に落ちたが、他方、AAV8-SEAP+ラパマイシンを含む合成ナノキャリアで処置されたコホートは、第84日まで、安定したSEAPの発現を示しており、合成ナノキャリアが、導入遺伝子発現の永続性へ著しく影響を及ぼすということを実証した。2回の追加の低い用量のAAV8-SEAPを第28日および第56日に施されたコホート5は、第56日および第84日において段階的に増大した導入遺伝子発現の動向を示した。
【0145】
・全ての、合成ナノキャリアで処置されたコホートは、第56日までにわたる抗AAV8 IgG抗体のロバストな阻害を達成した。この効果は、第28日および第56日でのラパマイシンを含む合成ナノキャリアの反復投薬によって強められた。ラパマイシンを含む合成ナノキャリアの用量を月に3回投与されたコホートにおける6匹の動物のうちの5匹は、細胞ベースの中和アッセイで測定すると1:5未満の中和抗体力価を第84日に有しており、一方で6匹目の動物は、1:8の低い力価を示した。対照的に、AAV8-SEAP単独で処置された全3匹の動物は、1:3400より大きい中和抗体力価を有した。
・概して、全ての動物および全てのコホート全体にわたって第84日の抗AAV8 IgGおよび中和抗体の力価の間に高度の相関関係があった。
【0146】
例3:より低い用量での反復した併用投与(予言的(prophetic))
本明細書に提供されるとおり、臨床医は、ウイルスベクターの用量を選択することができる。しかしながら、本発明者の知見に照らすと、今や、臨床医は、免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアが少なくとも1回併用して投与されたときには、ウイルスベクターのより低い用量を選択および使用してもよく、および、任意には、反復してもよい。より低い用量は、そうでなければ対象のために選択されていたであろうものよりも低い何らかの量である。態様において、より低い用量は、本明細書に提供されるとおりの免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの少なくとも1の併用投与なしの場合に選択されたであろう用量よりも低いが、その1/10より少なくはならない。
【0147】
それゆえに、本明細書に提供される対象のいずれか1つは、本明細書に提供されるウイルスベクターのいずれか1つと、本明細書に提供される免疫抑制薬に付着している合成ナノキャリアの集団のいずれか1つとの、反復した、同時などの併用投与で処置することができ、ここでウイルスベクターの用量は、合成ナノキャリアの投与なしであれば対象のために選択されていたであろうウイルスベクターの用量よりも少なくなるように選択される(例えば、その用量よりも少ないがしかし少なくともその用量の1/10)。反復した併用投与のウイルスベクターの用量の各々は、そうでなければ選択されていたであろうものよりも少ないものになり得る(例えば、その用量よりも少ないがしかし少なくともその用量の1/10)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】