IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2024-502176高充填trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料、その製造方法およびその使用
<>
  • 特表-高充填trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料、その製造方法およびその使用 図1
  • 特表-高充填trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料、その製造方法およびその使用 図2
  • 特表-高充填trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料、その製造方法およびその使用 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】高充填trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料、その製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/06 20060101AFI20240110BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20240110BHJP
【FI】
C08G61/06
C01B32/182
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541686
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2021087462
(87)【国際公開番号】W WO2022148669
(87)【国際公開日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】21150690.2
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリ ライヒ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー パーシェ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シューマン
(72)【発明者】
【氏名】ドロテア シュパネンクレープス
(72)【発明者】
【氏名】アレクセイ メルクロフ
(72)【発明者】
【氏名】フェレナ ブロイアース
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン デシュライン
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ パウルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヨナス ヘーニッヒ
【テーマコード(参考)】
4G146
4J032
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AD37
4J032CA28
4J032CB01
4J032CD02
4J032CE16
(57)【要約】
本発明は、高い充填度を有するtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料の製造方法、高充填trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料自体およびその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料を製造する方法であって、
工程a~d:
a)trans-ポリオクテナマーを少なくとも1種の有機溶剤中に溶解させる工程、
ここで、前記trans-ポリオクテナマーのポリマー溶液が得られる、および
引き続き
b)このポリマー溶液中へ、グラフェン材料を、パワーを入力しながら導入する工程、
ここで、trans-ポリオクテナマー-グラフェン反応溶液が得られる、および
引き続き
c)この反応溶液を、少なくとも1種のさらなる溶剤中で沈殿させる工程、または前記の工程aにおいて使用された少なくとも1種の溶剤を、前記反応溶液の乾燥により除去する工程、
ここで、反応生成物が得られる、および
引き続き
d)前記反応生成物を乾燥させる工程、
ここで、前記trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料が得られる、
を実施するか、または工程eおよびf:
e)trans-ポリオクテナマーを、開環メタセシス重合にかける工程、および
引き続きまたは同時に
f)グラフェン材料と、少なくとも1種の溶剤と、タングステン、ルテニウム、および/またはモリブデンをベースとする少なくとも1種の触媒とを添加する工程、
ここで、前記trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料を含有する反応溶液が得られる
を実施する、前記方法。
【請求項2】
工程aにおいて、前記有機溶剤が、ヘキサン、クロロベンゼン、トルエン、テトラクロロメタン、ジクロロメタンまたはこれらの溶剤の混合物から選択される、および/または前記溶液を、好ましくは0.1~1時間の期間にわたって、撹拌することにより製造する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程bにおいて、前記グラフェン材料を、前記ポリマー分散液中へ、
超音波、ビーズミル、ディスパーマット、ニーダー、押出機、三本ロールミル、ウルトラタラックス、湿式ジェットミル、コンチング装置、高せん断ミキサー、好ましくはハイスピードミキサー、高速ミキサー、サーモミキサー、またはこれらの補助手段の組合せ
から選択される補助手段を使用しながら、および/または
熱エネルギー、マイクロ波放射、および/または赤外放射の形態のパワーを入力しながら、
導入し、
ここで、このエネルギーを、
10~400W/kgの質量比出力で入力し、ここで、前記質量は、ポリマー分散液およびグラフェン材料の合計であり、
かつ前記パワーを、0.1~99時間、好ましくは0.1~6時間、特に好ましくは3~6時間、
入力する、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記グラフェン材料の重量割合が99~1重量%であり、かつ前記trans-ポリオクテナマーの重量割合が1~99重量%であり、ここで、前記重量割合の合計が100重量%である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程cにおいて、前記反応溶液を、極性溶剤中で沈殿させ、好ましくはアルコールまたは水で、特に好ましくはメタノールまたはエタノールで、極めて特に好ましくはエタノールで沈殿させ、
および/または前記の工程aにおいて使用された少なくとも1種の有機溶剤を、減圧を用いて、好ましくは真空下で、除去する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程dにおいて、前記反応生成物を、真空下でまたは噴霧乾燥を用いてまたは周囲空気中または加熱炉中で乾燥させる、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程fにおいて、前記溶剤が、ベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、パラフィン油、塩化メチル、トリクロロエチレン、ペルクロロエチレン、石油、環状オレフィンモノマー、デカリン、灯油、脱硫灯油、またはこれらの溶剤の混合物、特に好ましくはシクロオクテン、シクロオクタジエンから選択され、および/または前記触媒が、タングステン触媒、好ましくはシュロック触媒、またはルテニウムをベースとする触媒、好ましくはグラブス-ホベイダ触媒から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記開環メタセシス重合の実施中または実施後に、1~99重量%のグラフェン材料、特に好ましくは50~90重量%、極めて特に好ましくは70~90重量%のグラフェン材料を使用し、かつ前記重量割合は、ROMP後に得られる生成物または生成物混合物および前記グラフェン材料を基準としており、それらの合計が100重量%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料であって、
A)15~99.9重量%のグラフェン材料の充填度、ここで、前記充填度は、trans-ポリオクテナマーおよびグラフェン材料の質量割合の合計を基準としており、かつ前記合計が100重量%である、および
B)前記充填度が15~70重量%である場合に、0.002~1重量%のダスト数、および/または
C)それぞれ前記trans-ポリオクテナマーおよび前記グラフェン材料のIR吸収スペクトルを基準として、500~1900cm-1の範囲内のIR吸収スペクトルにおける抑制されたおよび/または追加の吸収バンド、および/または
D)1300~3900cm-1の波数範囲内における、C=C二重結合に帰属する振動モードの吸収ピークの、離散的な微細構造への分裂
を特徴とする、前記trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料。
【請求項10】
15~99.9重量%、好ましくは15~70重量%、さらに好ましくは30~99.9重量%、さらに好ましくは50~99.9重量%、さらに好ましくは75.1~99.9重量%、特に好ましくは15~70重量%の充填度を特徴とする、請求項9に記載のtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料。
【請求項11】
自動車分野における、熱交換器での、ハウジングにおける、封入における、すべり軸受における、熱除去のための3Dプリントヘッドにおける、射出成形品における、エレクトロニクス用途における、ホースシステムにおける、膜における、燃料電池における、ケーブルシステムにおける、インドアおよびスポーツ分野における衣類における、電磁波防護における、整形外科学における、請求項9または10に記載のtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料の使用。
【請求項12】
標準的な熱可塑性プラスチック、好ましくはPE、PP、PS、PVC、α-オレフィン、ブタジエン誘導体から選択される、熱可塑性プラスチックにおける、
エンジニアリング熱可塑性プラスチック、
好ましくはPET、PMMA、PC、POM、PA、PC、PBT、PEBA、TPU、PU、TPEにおける、
高性能熱可塑性プラスチック、
好ましくはPPS、PEEK、PES、PI、PEIにおける、
コポリマー、エラストマー、
好ましくはシリコーン、さらに好ましくはRTV、HTV、LSR、HCR、アクリレート、ポリシロキサンおよびオリゴシロキサンを含有するペーストにおける、
ポリウレタン、ゴム、
好ましくはSBR、BR、天然ゴム、ポリブタジエン、官能化ポリブタジエン、熱可塑性ポリウレタンにおける、
熱硬化性プラスチック、
好ましくはポリウレタン、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、シリコーン樹脂における、
溶剤、
好ましくは非プロトン性-無極性溶剤、非プロトン性-極性溶剤、プロトン溶剤における、
油、
好ましくは鉱油、シリコーン油、プロセス油における、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い充填度を有するtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料を製造する方法、高充填trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料自体およびその使用に関する。
【0002】
グラフェン、その製造、特性および用途については、技術文献に、例えばRoemppオンライン、https://roempp.thieme.de/lexicon/RD-07-02758に、詳細に議論されている。
【0003】
グラファイトと同様に、グラフェン中の各炭素原子は、σ結合を介して3個の隣接原子と共有結合されている。そのC,C-結合距離は142pmである。これらの原子はsp混成であり、そのσ結合は平面内にある。それに応じて、グラフェンは平面構造を有する。各原子には、部分充填されたp軌道が残る。これらのp軌道は、結合面に対して直交しており、かつ前記グラフェンの電子特性を決定するのに重要な、非局在化されたπ電子系を形成する。
【0004】
結晶学的には、グラフェンは、単位胞のベクトル
【数1】
を有し、これらのなす角が60°である、2個の等価な副格子により記載することができる。前記単位胞は、それぞれ位置(0,0)および(a/3,2b/3)で2個の炭素原子からなる。したがって、その原子密度は38.2nm-2である。
【0005】
「グラフェン材料」は、本発明の範囲内で、ISO/TS 80004-13に従う1種以上の材料、すなわち
- グラフェン、
- グラフェン系炭素材料、
- 一層、二層および三層グラフェン、
- エピタキシャルグラフェン、
- 剥離グラフェン、
- 数層グラフェン、
- 多層グラフェン、
- 数層ナノリボン、
- グラフェンナノプレート、
- グラフェンナノプレートレット、
- グラフェンナノシート、
- グラフェンマイクロシート、
- グラフェンナノフレーク、
- グラフェンナノリボン、
- 酸化グラフェン、
- 酸化グラフェンナノシート、
- 多層酸化グラフェン、
- グラフェン量子ドット、
- グラファイト、
- グラファイトナノプレート、
- グラファイトナノシート、
- グラファイトナノフレーク、
- 酸化グラファイト、
- 還元型酸化グラフェン、
およびさらにカーボンブラック、カーボンナノチューブ、またはこれらの材料の混合物であると理解される。
【0006】
グラフェン材料は、多数の技術分野において使用される。
【0007】
国際公開第2015/055252号(WO 2015/055252 A1)には、ビニルシランが開示されており、グラフェン材料を有するゴム混合物において、例えばタイヤの製造の際に使用することができる。
【0008】
ガラス製ドア用の防塵性および殺菌性の水性コーティング材料は、中国特許出願公開第104342003号明細書(CN 104342003 A)に提示されている。これらのコーティング材料の製造の際に、とりわけグラフェンが使用される。
【0009】
ポリエステル繊維およびグラフェンを含有する組成物によりアスファルトの機械的性質をどのように改善することができるかは、中国特許出願公開第105056879号明細書(CN 105056879 A)に教示されている。
【0010】
加硫ゴム混合物の製造の際に、他の材料に加えて、グラフェンおよびスルホンアミドを含有する濃縮物を使用することができる。そのような濃縮物およびそれらの製造方法は、中国特許出願公開第107459717号明細書(CN 107459717 A)に開示されている。
【0011】
建築材料における腐敗防止のためにも、グラフェン材料は使用される。中国特許出願公開第108947394号明細書(CN 108947394 A)の教示によれば、ポルトランドセメント中へ、他の材料に加えて、改質された酸化グラフェンが混入される。
【0012】
国際公開第2019/145307号(WO 2019/145307 A1)には、高分子無機ナノ粒子を有する組成物および金属表面での減摩剤および潤滑剤におけるそれらの使用が開示されている。ナノ粒子として、とりわけグラフェンが使用される。
【0013】
グラフェン材料は、粉末として商業的に入手可能であり、しばしばきわめて低い、例えば2~400g/lの範囲内の、かさ密度を有する。この低いかさ密度に加えて、たいていのグラフェン材料は、劣悪な自由流動性も有するか、もしくは注ぎ入れる際に高いダスト分を発生させる。このことは、劣悪な取扱い性や、量り入れおよび配量の際の問題をまねき、かつ環境保護および労働安全の視点でも重大であるとみなすことができる。
【0014】
前記の劣悪な取扱い性は、例えば、エラストマー系への前記粉末の混入の際に明らかになり、例えばこれはゴムの混練の際の場合である:十分に充填されたゴムコンパウンドの製造は、粉末状充填剤を混入する適切な時点および期間に左右される。これらの充填剤は、ホッパーによって、混合室中へ注ぎ入れられ、ついで空気圧ピストンにより、回転するローラーの方向へ押される。そのような混合プロセスの際に作用するせん断力は、前記充填剤のアグロメレートを破壊し、ひいてはその分布に寄与する。したがって、達成できる最大の充填度は、作用するせん断力によってかなり決定される。
【0015】
しかしながら、低い粘度を有する特に軟質のポリマー混合物の場合に、高い充填度の達成もしくは制御に対応することは困難である。なぜなら、前記ポリマーまたは前記ポリマー混合物の粘度が低ければ低いほど、所望の充填度の実現の基礎となりうるせん断力も低くなるからである。ゴムの種類ではポリオクテナマーが極端な場合である。これらは、混合プロセスにおいて、充填された混合物用の基本ポリマーとしての使用が不可能であるほど低い粘度を有する。
【0016】
例えば、従来の配合法では、典型的にローラー、インターナルミキサーまたは押出機を用いて、最大75%の充填度が達成できる。本発明者の知識によればこれまで達成されたこの最も高い充填度は、例えば、充填剤として硫黄を用いて実現される。そのため、充填されたポリオクテナマーは、今日の技術水準においてはもっぱらコンパウンドのブレンド成分として使用される。
【0017】
したがって、本発明の課題は、ポリオクテナマーおよび充填剤から、この充填剤の充填度が調整できる、好ましくは充填度が高い材料を製造することができる方法を提供することであった。
【0018】
驚くべきことに、充填剤としてグラフェン材料を用いて、この課題を解決する方法が見出された。
【0019】
本発明の対象は、trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料を製造する方法であって、工程a~d:
a)trans-ポリオクテナマーを少なくとも1種の有機溶剤中に溶解させる工程、
ここで、前記trans-ポリオクテナマーのポリマー溶液が得られる、および
引き続き
b)このポリマー溶液中へ、グラフェン材料を、パワーを入力しながら導入する工程、
ここで、trans-ポリオクテナマー-グラフェン反応溶液が得られる、および引き続き
c)この反応溶液を、少なくとも1種のさらなる溶剤中で沈殿させる工程、または
前記の工程aにおいて使用された少なくとも1種の溶剤を、前記反応溶液の乾燥により除去する工程、ここで、反応生成物が得られる、および引き続き
d)前記反応生成物を乾燥させる工程、
ここで、前記trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料が得られる、
を実施することによるか、または工程eおよびf:
e)trans-ポリオクテナマーを開環メタセシス重合にかける工程、および引き続きまたは同時に
f)グラフェン材料と、少なくとも1種の溶剤と、タングステン、ルテニウム、および/またはモリブデンをベースとする少なくとも1種の触媒とを添加する工程、
ここで、前記trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料を含有する反応溶液が得られる、
を実施することによる。
【0020】
本発明による方法は、きわめて単純に実施でき、ひいては高度に充填されている複合材料を得るという利点を有する。そのうえ、典型的なプラスチックおよびゴム配合技術に比べて、前記複合材料の製造のための高いせん断力は不要である。それにもかかわらず、高い分散品質と共に非常に高い充填度が達成される。
【0021】
したがって、本発明の対象は、同様に、trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料であって、
A)15~99.9重量%のグラフェン材料の充填度、ここで、前記充填度は、trans-ポリオクテナマーおよびグラフェン材料の質量割合の合計を基準としており、かつ前記合計は100重量%である、および
B)前記充填度が15~70重量%である場合に、0.002~1重量%のダスト数、
および/または
C)それぞれ前記trans-ポリオクテナマーおよび前記グラフェン材料のIR吸収スペクトルを基準として、500~1900cm-1の範囲内のIR吸収スペクトルにおける抑制されたおよび/または追加の吸収バンド、および/または
D)1300~3900cm-1の波数範囲内における、C=C二重結合に帰属する振動モードの吸収ピークの、離散的な微細構造への分裂
によって特徴付けられる。
【0022】
IRスペクトルにおいてピーク-微細構造の分裂が観察される。理論に縛られるものではないが、本発明者は、少なくとも一部のピークが、おそらく純粋なグラフェン材料もしくはTOR以外の前記複合材料中で結合するC=C二重結合振動に帰属すると考えている。それにより、前記複合材料のIR吸収スペクトルにおける離散的な微細構造が現れる。
【0023】
前記ダスト数は、本発明の範囲内で、模式的に図1に示される、ダスト発生装置Heubach DustmeterタイプIを用いてDIN 55992(2006年6月発行)に従う回転法において測定される。この装置の構造上の詳細は、当業者に公知である。
【0024】
前記ダスト数の測定の結果は、標準設定でのダスト発生装置が試料分から放出するダストの質量である。本発明の範囲内で、DIN 55992-1による標準設定が選択されている:
・30回転/min
・気流20L/min
・100L
・5min。
【0025】
前記試料分は、例えば、前記の工程bまたはfにおいて使用されるグラフェン材料であってよいか、または前記試料分は、本発明により製造されるまたは本発明によるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料であってよい。
【0026】
標準設定で前記ダスト発生装置により前記試料分から放出されたダストの質量は、前記試料分を基準としており、かつ重量%で記載される。
【0027】
前記充填度は、本発明の範囲内で重量測定により測定され、本発明によるまたは本発明により製造されるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料を、トルエン中に、マグネチックスターラーを用いて5時間撹拌しながら溶解させる。こうして得られた溶液を、ろ紙を備えたブフナー漏斗でろ過する。前記ろ紙上に保持された材料は、グラフェン材料および残部の溶剤を有する。この材料を、前記ろ紙上で乾燥器中で50℃で周囲空気および1013hPaでの標準圧力下で乾燥させ、かつ秤量する。こうして得られ、かつ秤量した質量は、trans-ポリオクテナマーおよびグラフェン材料の質量割合の合計を基準としており、かつ重量%で記載される充填度である。
【0028】
上記の高い充填度を有する本発明によるまたは本発明により製造されるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料には、単なるブレンド材料よりもかなり興味深い技術的用途が開かれる。
【0029】
そのため、本発明の対象は、同様に、自動車分野における、熱交換器での、ハウジングにおける、封入における、すべり軸受における、熱除去のための3Dプリントヘッドにおける、射出成形品における、エレクトロニクス用途における、ホースシステムにおける、膜における、燃料電池における、ケーブルシステムにおける、インドアおよびスポーツ分野における衣類における、電磁波防護における、整形外科学における、本発明によるまたは本発明により得られるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料の使用である。
【0030】
本発明は、以下においてより詳しく説明される。
【0031】
本発明の範囲内で、trans-ポリオクテナマーは、“TOR”と略記される。TORの商品名は、Evonik Operations GmbH、エッセンで入手可能なVestenamer(登録商標)である。
【0032】
本発明による方法の工程aにおいて、前記有機溶剤は、ヘキサン、クロロベンゼン、トルエン、テトラクロロメタン、ジクロロメタンまたはこれらの溶剤の混合物から選択されていてよい。付加的にまたは選択的に、前記溶液は、好ましくは0.1~1時間の期間、撹拌することにより製造することができる。
【0033】
前記有機溶剤を、パワーを同時に入力しながら導入することは有利でありうる。さらに、工程aにおける前記trans-ポリオクテナマーのポリマー溶液の製造中に、望ましくない熱を排出することによって、温度調節することが好ましい。一般に、無極性である全ての有機溶剤が適している。そのような溶剤は当業者に公知である。
【0034】
工程bにおけるエネルギーの入力は、前記グラフェン材料のアグリゲートを破壊する。それにより得られる破片は、前記trans-ポリオクテナマーで被覆される。こうして、前記trans-ポリオクテナマー-グラフェン反応溶液が得られる。
【0035】
本発明による方法の工程bにおいて、前記グラフェン材料を、前記ポリマー分散液中へ、超音波、ビーズミル、ディスパーマット、ニーダー、押出機、三本ロールミル、ウルトラタラックス、湿式ジェットミル、コンチング装置、高せん断ミキサー、好ましくはハイスピードミキサー、高速ミキサー、サーモミキサー、またはこれらの補助手段の組合せから選択される補助手段を使用しながら、および/または熱エネルギー、マイクロ波放射、および/または赤外放射の形態のパワーを入力しながら、導入することが有利でありうる、ここで、このエネルギーは、10~400W/kgの質量比出力で入力され、前記質量は、前記のポリマー分散液およびグラフェン材料の合計であり、かつ前記パワーは、0.1~99時間、好ましくは、0.1~6時間、特に好ましくは3~6時間、入力される。
【0036】
複数のエネルギー形態が使用される場合には、本発明の範囲内で、パワーは、入力されるエネルギーのパワーの合計であると理解される。
【0037】
工程bにおいて、導入されるグラフェン材料の出発状態に応じて生じる望ましくない熱エネルギーを除去することが同様に有利でありうる。前記グラフェン材料は、例えば、粉末またはペレットとして存在していてよい。この温度調節の相当する措置は、当業者に公知である。
【0038】
好ましくは、前記方法において、前記のグラフェン材料の重量割合は、99~1重量%であり、かつ前記のtrans-ポリオクテナマーの重量割合は、1~99重量%であり、ここで、前記重量割合の合計は、100重量%である。
【0039】
本発明による方法の工程cにおいて、前記反応溶液を、極性溶剤中で、好ましくはアルコールまたは水を用いて、特に好ましくはメタノールまたはエタノールを用いて、極めて特に好ましくはエタノールを用いて、沈殿させることができる、および/または前記の工程aにおいて使用される少なくとも1種の有機溶剤を、減圧を用いて、好ましくは真空下で、除去することができる。
【0040】
前記の工程aにおいて使用される有機溶剤を、周囲条件(20℃、1013hPa)下で、蒸発させることが同様に好ましい。さらに、前記の工程aにおいて使用される有機溶剤を、凍結乾燥により除去することが有利でありうる。選択的に、液体窒素またはドライアイス、好ましくはドライアイスを使用することもできる。その際に、低温破砕法を使用することができる。
【0041】
本発明による方法の工程dにおいて、前記反応生成物を、真空下でまたは噴霧乾燥によりまたは周囲空気または加熱炉中で乾燥させることができる。それにより、例えばまだ存在している溶剤が除去される。乾燥剤は、好ましくはケイ酸類またはシリカである。
【0042】
前記方法の工程eにおける開環メタセシス重合は、当業者に公知である。この開環メタセシス重合は、Melanie Anselmの学位論文、フライブルク大学、に詳細に説明されている:"Polyethylen- und Polyoctenamer-Nanokomposite durch katalytische Polymerisation in Gegenwart von funktionalisierten Graphenen", 2012、ドイツ国立図書館、オーダー番号1123472696。この開環メタセシス重合は、本発明の範囲内で“ROMP”と略記される。
【0043】
本発明による方法の工程fにおいて、前記溶剤は、ベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、パラフィン油、塩化メチル、トリクロロエチレン、ペルクロロエチレン、石油、環状オレフィンモノマー、デカリン、灯油、脱硫灯油、またはこれらの溶剤の混合物から選択されていてよい。特に好ましくは、シクロオクテンおよび/またはシクロオクタジエンを使用することができる。付加的にまたは選択的に、前記触媒は、タングステン触媒、好ましくはシュロック触媒、またはルテニウムをベースとする触媒、好ましくはグラブス-ホベイダ触媒から選択されていてよい。
【0044】
本発明による方法において、工程eおよびfが実施される場合には、前記開環メタセシス重合の実施後または実施中に、1~99重量%のグラフェン材料、特に好ましくは50~90重量%、極めて特に好ましくは70~90重量%のグラフェン材料を使用することができ、ここで、前記重量割合は、ROMP後に得られた生成物または生成物混合物および前記グラフェン材料を基準としており、それらの合計は100重量%である。
【0045】
特に好ましくは、工程fにおいて、前記trans-ポリオクテナマーの溶解に利用される溶剤を使用することができる。そのような溶剤は、当業者に公知である。前記工程fは、バッチ式に実施することができる。
【0046】
本発明によるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料は、
A)15~99.9重量%のグラフェン材料の充填度、ここで、前記充填度は、trans-ポリオクテナマーおよびグラフェン材料の質量割合の合計を基準としており、かつ前記合計は100重量%である、および
B)前記充填度が15~70重量%である場合に、0.002~1重量%のダスト数、
および/または
C)それぞれ前記trans-ポリオクテナマーおよび前記グラフェン材料のIR吸収スペクトルを基準として、500~1900cm-1の範囲内のIR吸収スペクトルにおける抑制されたおよび/または追加の吸収バンド、および/または
D)1300~3900cm-1の波数範囲内における、C=C二重結合に帰属する振動モードの吸収ピークの、離散的な微細構造への分裂
により特徴付けられている。
【0047】
好ましくは、本発明によるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料の微細構造は、1300~2100cm-1および3650~3900cm-1、特に好ましくは1300~2100cm-1の範囲内の波数での特徴Dにおいて生じる。
【0048】
好ましくは、本発明によるまたは本発明により製造されるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料は、15~99.9重量%、さらに好ましくは15~70重量%、さらに好ましくは30~99.9重量%、さらに好ましくは50~99.9重量%、さらに好ましくは75.1~99.9重量%、特に好ましくは15~70重量%の充填度を有することができる。
【0049】
本発明によるまたは本発明により製造されるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料が、15~70重量%の充填度で0.004~0.01重量%の範囲内のダスト数を有する場合が有利でありうる。
【0050】
本発明によるまたは本発明により得られるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料のIR吸収スペクトルは、前記の工程bまたはfにおいて使用されているグラフェン材料を基準としており、かつ前記の工程aまたはeにおいて使用されるtrans-ポリオクテナマーを基準としている。
【0051】
好ましくは、本発明によるまたは本発明により得られる複合材料のIR吸収スペクトルは、1500~1650cm-1の範囲内および/または1700~1800cm-1の範囲内の追加の吸収バンドを有する。
【0052】
さらに好ましくは、本発明によるまたは本発明により得られる複合材料のIR吸収スペクトルは、1000~1400cm-1の範囲内の抑制された吸収バンドを有する。
【0053】
特に好ましくは、この複合材料は、1000~1400cm-1の範囲内の抑制された吸収バンドおよび1500~1650cm-1の範囲内および1700~1800cm-1の範囲内の追加の吸収バンドを有する。
【0054】
本発明の対象は、同様に、自動車分野における、熱交換器での、ハウジングにおける、封入における、すべり軸受における、熱除去のための3Dプリントヘッドにおける、射出成形品における、エレクトロニクス用途における、ホースシステムにおける、膜における、燃料電池における、ケーブルシステムにおける、インドアおよびスポーツ分野における衣類における、電磁波防護での、整形外科学における、本発明によるまたは本発明により得られるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料の使用である。
【0055】
好ましい使用可能性は、標準的な熱可塑性プラスチック、好ましくはPE、PP、PS、PVC、α-オレフィン、ブタジエン誘導体から選択される熱可塑性プラスチックにおいて、エンジニアリング熱可塑性プラスチック、好ましくはPET、PMMA、PC、POM、PA、PC、PBT、PEBA、TPU、PU、TPEにおいて、高性能熱可塑性プラスチック、好ましくはPPS、PEEK、PES、PI、PEIにおいて、コポリマー、エラストマー、好ましくはシリコーン、さらに好ましくはRTV(室温硬化型)、HTV(高温硬化型)、LSR(液状シリコーンゴム)、HCR(熱硬化型)、アクリレート、ポリシロキサンおよびオリゴシロキサンを含有するペーストにおいて、ポリウレタン、ゴム、好ましくはSBR、BR、天然ゴム、ポリブタジエン、官能化ポリブタジエン、熱可塑性ポリウレタンにおいて、熱硬化性プラスチック、好ましくはポリウレタン、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、シリコーン樹脂において、溶剤、好ましくは非プロトン性-無極性溶剤、非プロトン性-極性溶剤、プロトン性溶剤において、油、好ましくは鉱油、シリコーン油、プロセス油においてである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】ダスト発生装置Heubach DustmeterタイプI
図2】グラフェン材料(破線形)および複合材料(実線形)と比較したTOR(点線形)のIR吸収スペクトル
図3】端数の微細構造が際立っている複合材料TOR:グラフェン=10:90のIR吸収スペクトル
【0057】
本発明は、以下において例示的に説明される。
【実施例
【0058】
例1.TORおよびグラフェン-ナノプレートレットからなるtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料
多様なtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料を、最初にtrans-ポリオクテナマーをトルエン中に溶解させることによって、製造した。選択的にかつ同じ結果で、この例は、ヘキサンを用いても実施することができた。
【0059】
引き続き、多様な割合のグラフェンナノプレートレットを導入し、その際に、それぞれtrans-ポリオクテナマー-グラフェン反応溶液が得られた。
【0060】
引き続き、超音波ソノトロードを用いてパワーを入力しながら撹拌し、ここで、このエネルギーを、10~400W/kgの質量比出力で一定に入力した。
【0061】
引き続き、これらの反応溶液をそれぞれ、エタノール中で沈殿させ、それぞれ得られた反応生成物を乾燥させ、その際に、それぞれtrans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料が得られた。選択的にかつ同じ結果で、この例は、メタノールを用いても実施することができた。
【0062】
引き続き、第1表において「TOR-GBMマスターバッチ」と呼ぶ、多様な重量割合のTORおよびグラフェン材料でのそれぞれ本発明により得られた複合材料の充填度を測定し、その際に、それぞれ、前記trans-ポリオクテナマー-グラフェン複合材料をトルエン中に、マグネチックスターラーを用いて5時間撹拌しながら溶解させた。それぞれ得られた溶液を、ろ紙を備えたブフナー漏斗でろ過した。前記ろ紙上に保持された材料は、グラフェン材料および残部の溶剤を有していた。この材料を、前記ろ紙上で乾燥器中で50℃で周囲空気および1013hPaでの標準圧力下で乾燥させ、かつ秤量した。前記充填度は、こうして得られ、かつ秤量した質量の、trans-ポリオクテナマーおよびグラフェン材料の質量割合の合計に対する重量百分率割合から計算した。
【0063】
結果は、第1表に示されている。
【表1】
【0064】
図2は、波数によるIR吸収スペクトルを、それもTORを点線で、前記グラフェン材料を破線でもしくは10:90のTOR:グラフェンの比の場合の本発明による複合材料を実線で、示す。
【0065】
図3は、図2と同じIR吸収スペクトルであるが、しかしながらもっぱら10:90のTOR:グラフェンの比の場合の本発明による複合材料を示し、ここで、1382~1921cm-1および3650~3900cm-1の範囲内の離散的な微細構造の波数が際立っている。
図1
図2
図3
【国際調査報告】