IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アドバンスド アクセラレーター アプリケーションズ エスエーの特許一覧 ▶ アロナックスの特許一覧 ▶ オーガナイゼーション ヨーロペニー ポア ラ ルシェルシュ ニュクレールの特許一覧

特表2024-502201高純度かつ高比放射能の放射性核種を製造する方法
<>
  • 特表-高純度かつ高比放射能の放射性核種を製造する方法 図1
  • 特表-高純度かつ高比放射能の放射性核種を製造する方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】高純度かつ高比放射能の放射性核種を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G21G 4/08 20060101AFI20240110BHJP
   A61N 5/01 20060101ALI20240110BHJP
   G21G 1/10 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
G21G4/08 Z
G21G4/08 G
A61N5/01 Z
G21G1/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558941
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2021084946
(87)【国際公開番号】W WO2022122895
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】20306535.4
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20306572.7
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521030618
【氏名又は名称】アドバンスド アクセラレーター アプリケーションズ
(71)【出願人】
【識別番号】523220134
【氏名又は名称】アロナックス
(71)【出願人】
【識別番号】523220145
【氏名又は名称】オーガナイゼーション ヨーロペニー ポア ラ ルシェルシュ ニュクレール
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】フォルメント カヴァリエ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ザヒ,リエス
(72)【発明者】
【氏名】ハダッド,フェリド
(72)【発明者】
【氏名】ストラ,ティエリ
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC01
(57)【要約】
本発明は、a)目的のターゲットを粒子ビームで照射し、目的の放射性核種を含む照射ターゲットを得る工程、b)上記照射ターゲットから目的の放射性核種のバッチを化学的に抽出する工程、c)上記目的の放射性核種のバッチを質量分離し、高比放射能の放射性核種を得る工程を含む、高比放射能の放射性核種を製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)目的のターゲットを粒子ビームで照射し、目的の放射性核種を含む照射ターゲットを得る工程、
b)前記照射ターゲットから前記目的の放射性核種を化学的に抽出する工程、
c)目的の放射性核種のバッチを質量分離し、高比放射能の放射性核種を得る工程を含む、高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項2】
工程a)の前記粒子ビームが18から200MeVの間に含まれるエネルギーを示す陽子ビームである、請求項1に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項3】
工程b)が前記目的のターゲットを酸溶液に溶解する工程を含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項4】
前記高比放射能の放射性核種がテルビウムの同位体から選択され、前記目的のターゲットが金属ガドリニウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項5】
工程b)が金属ガドリニウムを硝酸溶液に溶解する工程、および得られた溶液を樹脂に通す工程を含む、請求項4に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項6】
前記高比放射能の放射性核種がスカンジウムの同位体から選択され、前記目的のターゲットが金属チタンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項7】
工程b)が電圧を加えながら金属チタンをHBr溶液に晒す工程、前記溶液を酸に溶解する工程、および得られた溶液を樹脂に通す工程を含む、請求項6に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項8】
工程b)が液液抽出を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項9】
工程b)が液固抽出を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項10】
前記高比放射能の放射性核種がアクチニウムの同位体から選択され、前記目的のターゲットが天然トリウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項11】
前記高比放射能の放射性核種がエルビウムの同位体から選択され、前記目的のターゲットが天然エルビウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項12】
前記高比放射能の放射性核種がルテチウムの同位体から選択され、前記目的のターゲットが金属イッテルビウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項13】
工程b)で得られた液体溶液を支持体、好ましくは金属支持体に注ぐ工程、
前記支持体上で前記液体溶液を加熱して濃縮し、前記支持体上に前記放射性核種を堆積させる工程、
前記目的の放射性核種を含む前記支持体を質量分離器に挿入する工程を含むターゲットカップリング工程b2)を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項14】
前記質量分離工程の後、第2の化学的な分離精製工程d2)を更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の高比放射能の放射性核種を製造する方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法により得られる高比放射能の放射性核種。
【請求項16】
人体もしくは動物体の治療による処置方法、または人体もしくは動物体について行われる診断方法における使用のための、請求項15に記載の高比放射能の放射性核種。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば産業規模での医学的使用のための、高純度かつ高比放射能の放射性核種の製造の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性同位体、または放射性核種は、ライフサイエンス、研究、および医薬の分野、例えば核医学において広く使用されている。
【0003】
核医学において、それらは特にがん疾患のための画像診断および放射線治療に使用される。標的に到達させるため、放射性同位体を分子/媒体に付加し、溶液で(例えばクエン酸塩)、または独立して(Zimmermann, Nuclear Medicine: Radioactivity for Diagnosis and Therapy - 2017 - EDP Science Edition)注入することができる。
放射性核種は、キレート剤およびリンカーを用いて媒体に結合することができる。キレート剤は、単一の原子またはイオンに数個の結合を形成することのできる物質であり、多座配位子とも定義される。媒体を用いる場合、正常細胞に危害を加えず腫瘍細胞に付着する適切な生物学的標的を見つける必要がある。これは、特異的な受容体に優先的に取込まれるペプチドまたは抗体を用い、正常細胞よりも腫瘍細胞により頻繁に存在するそれらの標的受容体を選択することにより可能となる。イメージングおよび治療を保証する同じ媒体、好ましくはペプチドまたは抗体に標識された放射性同位体は、セラノスティクス(またはセラグノスティックな)放射性同位体と定義される(Langbein et al: J Nucl Med. 2019 Sep;60(Suppl 2):13S-19S。
【0004】
放射性同位体のそのような重要な応用の1つは、疾患、例えばがんの診断および治療である。例えば、数種類のがんの診断および治療における放射性標識された腫瘍選択的なペプチドおよびモノクローナル抗体の使用においては、この20年間でかなりの進歩があった。細胞毒性放射性核種をがん細胞に局在化させる概念は、従来の形態の放射線治療の重要な補完である。理論的には、放射性医薬品の標的細胞との相互作用は、吸収された放射線量をがん細胞部位に集中させることができ、正常な周囲細胞および周囲組織の損傷を最小限に抑える(Zhejiang et al. Univ Sci B. 2014 Oct; 15(10): 845-863; Zukotynski et al. Biomark Cancer. 2016; 8(Suppl 2): 35-38)。放射性同位体の選択は、放出される放射線の性質、その物理的特性(例えばエネルギー、半減期、および崩壊系列)、ならびにその化学的特性に基づく。放出される放射線に基づくと、放射性同位体は、ガンマ(γ)線放射体、ベータ(陽電子β+または電子β-)粒子放射体、およびアルファ(α)粒子放射体、オージェ放射体、またはそれらの組合せに更に分割することができる。核医学の分野における更なる進歩は、新たな同位体、新たな供給源、および同位体製造方法の使用についての調査を必要とするであろう。
【0005】
意図した放射性同位体の製造を導く3つの主な直接的または間接的な核プロセスを放射性核種製造方法として定義し、確認することができる:粒子加速器、例えばサイクロトロン、線形加速器、および電子加速器の使用により実施される核反応、原子炉内で実施される核反応、いわゆるジェネレーターの内部の化学的溶出プロセスにより得られる最適な放射性同位体の製造。更に、上記製造方法は、生成物の品質を改善するための他の技術と組み合わせることができる。
放射性同位体は、ターゲット核に荷電粒子(主に陽子、重陽子、またはα粒子)を衝突させることにより核種の変換によって製造することができる。これらの荷電粒子は、ターゲット核のクーロン障壁を乗り越えるために少なくとも数MeVのエネルギーに加速させられて核反応を可能にする必要がある。結果として、粒子加速器が必要とされる。目的のエネルギー範囲全体(10~100MeV)についてのそれらの実用的な特性および高い電流性能のため、原子炉においてより便利に製造される数個の治療用放射性核種を除いて、1950年代から放射性同位体製造のための最も便利な選択としてサイクロトロンがほぼ例外なく選択されてきた。しかしながら、サイクロトロンにおいて高い放射性核種純度かつ高い生産収率で製造することができるのは数個の放射性同位体のみである。いくつかの他の核種の入手を向上させるために、例えば、米国特許出願公開第20170169908号明細書は、オンライン質量分離システムを備えた70MeVのサイクロトロンの使用を示しており、これは放射性核種の製造についての、同時に起こるかまたは疑似的に同時に起こる、サイクロトロンによるターゲットの照射、およびオンライン質量分離によるその分離を意味する。しかしながら、これらの方法は、決定された特性を有する必要があるという照射するターゲットの制約を意味し、これは全体の収率(例えば多孔性、蒸発温度等)を潜在的に低下させて高効率で製造できる放射性同位体を制限しうる。別の例は、高エネルギー加速器および質量分離による放射性核種の製造を示す米国特許第9202600号明細書(US9202600B2)(カナダ特許第2594829号明細書(CA2594829C)および英国特許第2436508号明細書(GB2436508B))である。主な問題点はやはり、それらの産業応用を可能にする、高収率の製造された放射性核種の入手可能性である。
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、放射性同位体の製造において現在使用されている方法は限界に到達しており、新たな同位体および現在使用されている同位体の入手を向上させる、新たな改善した方法が強く求められている。これは特に同位体純度、収率、比放射能、および入手可能な放射性核種の範囲に適用される。
【0007】
陽電子放出断層撮影(PET)/単光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)イメージングの増大する拡散、および全身の放射性核種治療の発展により、以前は達成されなかったより高い放射化学的純度および放射性核種純度を有する放射性同位体を調製し、産業的な商業化のために適切な生産収率を保証することがますます求められている。
【0008】
更に、がん治療の新しい方法の薬物標的デリバリーシステムの発展におけるブレイクスルーの実現は、そのような応用のために最適な減衰特性を有する現存する放射性核種の入手可能性の欠如のために制限される。放射性リガンド治療(RLT)のためには、放射性核種純度が、毒性の観点および放射性廃棄物の観点の両方から、患者の安全を保証して潜在的な有害混入物質に関連するリスクを最小限に抑えるのに十分に高いことが不可欠である。
【0009】
更に、時として放射性核種は研究施設のみで製造されうるものであり、特に医学的応用のための放射性核種の製造は、利用可能な時間のうちの小さな部分に対応する。従って、これらの放射性核種は流通および使用のために日常的に入手可能ではなく、例えば核医学的な応用および研究のためのそれらの潜在的な使用を低く示している。特定の放射性核種の増大する要求、およびその特定の放射性核種を商業用加速器により提供するという直面する困難性に関して、特に医学的応用のために特化した時間の間、その商業用加速器の使用の最適化を可能にする方法を提供することが重要である。
【0010】
これは、所望の放射性核種の製造のための商業用加速器および/または原子炉を用いることにより達成することができる。しかしながら、時として、製造された放射性核種のバッチの純度および比放射能が受容体標的応用のために十分なほどは高くないことがある。従って、製造したバッチは、それらの要求を満たすために更なるプロセスを必要とし、例えば、化学的な分離はバッチの純度を高め、質量分離は放射性核種純度を高めることができる。
【0011】
評価すべきことに、本発明者らは、放射性核種製造方法、化学的な抽出、および質量分離を合わせた方法が、受容体標的応用のための使用を可能にする高い放射性核種純度および比放射能にて、大規模での多種多様な放射性核種についてのコスト効率が高く柔軟で効率的な製造を提供することを見出した。
【0012】
従って、本発明の目的は、高純度かつ高比放射能の放射性核種を製造する方法を提供することである。上記比放射能は、製造した放射性核種と同じ元素に属する全ての核種の総質量における、製造した放射性核種の放射能の比として理解される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
その点において、
a)目的のターゲットを粒子ビームで照射し、目的の放射性核種を含む照射ターゲットを得る工程、
b)上記照射ターゲットから上記目的の放射性核種を化学的に抽出し、化学的純度を高める工程、
c)上記目的の放射性核種を質量分離し、高比放射能の放射性核種を得る工程を含む、高比放射能の放射性核種を製造する方法が提供される。
上記ビームの粒子は、陽子、中性子、光子、重陽子、またはα粒子であることができる。粒子ビームとしては、加速器に基づく製造を考えると陽子ビームが、原子炉に基づく製造を考えると中性子ビームが好ましい。上記ビームの粒子は、核反応を引き起こし、目的の放射性核種を含む照射ターゲットを得ることができる。
工程b)の主な目的は、大きな割合の主な不純物を除去することにより、バッチ純度を高めて工程c)の効率を大きく高めることである。
【0014】
本発明の別の目的は、本発明の方法により得られる高比放射能の放射性核種にある。
本発明の更に別の目的は、本発明の高比放射能の放射性核種の医学的使用である。本発明は、人体もしくは動物体の治療による処置方法、または人体もしくは動物体について行われる診断方法における使用のための、本発明の高比放射能の放射性核種に関する。
【0015】
目的の放射性核種は、公知の放射性核種として定義され、好ましくは、上記公知の放射性核種は、α放射体、β(-)放射体、β(+)放射体、γ放射体、オージェ放射体である。好ましくは、上記公知の放射性核種は、本明細書の以下のリストの放射性核種:F-18、Sc-43、Sc-44、Sc-47、Cr-51、Mn-52m、Fe-52、Co-55、Cu-61、Cu-62、Cu-64、Ga-66、Cu-67、Ga-67、Ga-68、As-72、As-76、Rb-82、Y-86、Zr-89、Y-90、Ru-97、Tc-99m、Rh-105、In-111、Ag111、Sn-117m、Sn-121、I-123、I-124、I-131、Pr-142、Pr-143、Tb-149、Pm-149、Pm-151、Tb-152、Sm-153、Tb-155、Gd-157、Gd-159、Tb-161、Er-165、Dy-166、Ho-166、Tm-167、Er-169、Yb-169、Tm,-172、Yb-175、Lu-177、Re-186、Re-188、Au-198、Au-199、Pb-203、At-211、Pb-212、Bi-212、Bi-213、Ac-225、Ac-227、およびTh-229に属し、好ましくは、Sc-43、Sc-44、Sc-47、Tb-149、Tb-152、Tb-155、Tb-161、Lu-177、他のランタニド、およびAc-225から選択される。
【0016】
本発明は、他の手段によっては十分な放射性核種純度で製造することの難しい、または製造することのできない放射性核種のバッチを製造することを可能にする。これらの放射性核種は、高純度かつ高比放射能で製造され、多種多様な応用、例えば医療分野におけるイメージングプロトコルと治療プロトコルとの両方を可能にする。放射性核種は、例えばin-vivo研究およびin-vitro研究のための病院および研究センターが入手可能である。
好ましくは、上記目的の放射性核種は、セラノスティクス治療を可能にする放射性核種から選択される。核医学におけるセラノスティックなアプローチは、異なって放射性標識されるかまたは異なる投与量で与えられる、同じ分子または少なくとも非常に類似した分子を用いて、画像診断と治療とを組み合わせる。例えば、銅67、ヨウ素131、およびルテチウム177は、γ放射体かつβ放射体であり、従って、これらの物質は、イメージングと治療との両方に使用され得る。更に、同じ元素の異なる同位体、例えばヨウ素123(γ放射体)とヨウ素131(γ放射体かつβ放射体)とをセラノスティックな目的にも使用することができる。より新しい例は、イットリウム86/イットリウム90、またはテルビウム同位体(Tb):Tb-152(β+放射体)、Tb-155(γ放射体)、Tb-149(α放射体)、およびTb-161(β-放射体))[表1]である。更に、異なる化学元素の異なる同位体、例えば放射性ランタニド、例えばLu-177(治療用のγ放射体かつβ放射体)、および同様の化学的特性の放射性核種、例えばGa-68(β+放射体)もまた、セラノスティックな目的に使用することができる。
【0017】
【表1】
【0018】
好ましくは、上記高比放射能の放射性核種は、テルビウムの同位体から選択される。その場合、上記目的のターゲットは、好ましくは天然または濃縮のガドリニウム、好ましくは金属、酸化物、または塩化物を含み、好ましくは加速器陽子ビームで照射される。
【0019】
実際、テルビウムの同位体について医療産業では、現在の製造手段では満たすことが難しい潜在的な増大する要求が存在している。例えば、金属または酸化物の天然ガドリニウムは、原料の入手可能性とテルビウムの放射性核種生産収率との間の良好な妥協点となることができる。上記化学的な分離はテルビウム元素およびガドリニウム元素に主に関与し、上記質量分離は上記テルビウム核種に主に関与するであろう。
【0020】
好ましくは、選択される高比放射能の治療放射性核種は、エルビウムEr-169である。その場合、上記目的のターゲットは、好ましくは天然または(Er-168においては)濃縮のエルビウム、好ましくは金属、酸化物、硝酸塩または塩化物を含み、好ましくは原子炉において中性子で照射される。
【0021】
実際、高比放射能のエルビウムについて医療産業では、現在の製造手段では達成することのできない潜在的な要求が存在している。例えば、硝酸塩および酸化物の高度に濃縮されたEr-168は、高い生産収率を達成すると考えられる良好なターゲット材料である。上記化学的な分離はイッテルビウム元素およびエルビウム元素に主に関与し、上記質量分離は上記エルビウム核種に主に関与するであろう。
【0022】
他の好ましい高比放射能の放射性核種は、スカンジウムの同位体から選択されてもよい。その場合、上記目的のターゲットは、好ましくは金属チタン、より好ましくは広く入手可能であり高いスカンジウム放射性核種生産収率を可能にする天然金属チタンを含む。
【0023】
実際、スカンジウムの同位体について医療産業では、現在の製造手段では満たすことが難しい増大する要求が存在している。金属チタンは、原料の入手可能性とスカンジウムの放射性核種生産収率との間の良好な妥協点である。上記化学的な分離はスカンジウム元素およびチタン元素に主に関与し、上記質量分離は上記スカンジウム核種に主に関与するであろう。
【0024】
上記高比放射能の放射性核種はまた、アクチニウムの同位体から選択されてもよく、上記目的のターゲットは、好ましくは天然トリウムを含む。
【0025】
実際、アクチニウムの同位体について医療産業では、現在の製造手段では満たすことが難しい増大する要求が存在している。天然トリウムは、原料の入手可能性とアクチニウムの放射性核種生産収率との間の良好な妥協点である。上記化学的な分離はトリウム元素およびアクチニウム元素に主に関与し、上記質量分離は上記アクチニウム核種に主に関与するであろう。
【0026】
上記高比放射能の放射性核種はまた、ルテチウムの同位体から選択されてもよく、上記目的のターゲットは、好ましくは金属イッテルビウムを含む。
【0027】
実際、ルテチウムの同位体について医療産業では、現在の製造手段では満たすことが難しい増大する要求が存在している。金属イッテルビウムは、原料の入手可能性とルテチウムの放射性核種生産収率との間の良好な妥協点である。上記化学的な分離はルテチウム元素およびイッテルビウム元素に主に関与し、上記質量分離は上記ルテチウム核種に主に関与するであろう。
【0028】
以下に本発明の主な工程を記載する。上記工程はまた、高品質な生成物の製造を保証するために、異なる順序で、または数回繰り返して実施することもできる。
【0029】
工程a):ターゲット照射
上記高比放射能の放射性核種を製造する方法は、目的のターゲットを粒子ビーム、好ましくは陽子ビームで照射し、目的の放射性核種を含む照射ターゲットを得る工程a)を含む。工程a)の上記陽子ビームは、18から200MeVの間、好ましくは30から70MeVの間に含まれるエネルギーを示すことができる。そのようなエネルギーは、そのようなビームを生み出す困難性と放射性核種生産収率との間の興味深い妥協点を提供する。この陽子ビームは、商業用サイクロトロン、例えばフランスのナントに位置するArronax IBA C70サイクロトロンにより供給することができる。
【0030】
工程b):化学的な抽出
上記高比放射能の放射性核種を製造する方法は、上記照射ターゲットから目的の放射性核種のバッチを化学的に抽出する工程b)を含む。
【0031】
工程bにおける上記目的のターゲットは、酸溶液に溶解されてもよい。
【0032】
この溶解により、上記ターゲット材料および上記放射性核種の溶液となり、特定の放射性核種の製造のための化学的な分離プロセスの投入物となる。好ましくは、上記化学的な分離プロセスはクロマトグラフィーである。
【0033】
上記工程b)は、例えば、例えば硝酸(HNO3)を含む酸溶液で、上記目的のターゲットを溶解する工程を含むことができる。それにより得られた溶液は、次いで、樹脂に通すことができる。
【0034】
上記工程b)は、液液抽出を含んでもよい。
【0035】
液液抽出は、化学的な分離に必要な材料のコストと高度なターゲット質量分離のための実験配置の容積との間の良好な妥協点を可能にする。
【0036】
上記工程b)はまた、液固抽出を含んでもよい。
【0037】
液固抽出は、化学的な分離に必要な材料のコストと高度なターゲット質量分離のための実験配置の容積との間の良好な妥協点となることができる。
【0038】
この化学的な分離工程は、放射化学的純度の改善を提供する。従って、所望の放射性核種に比べて上記ターゲット材料を除去することで、上記工程c)の質量分離の効率を高め、本発明から得られる収率を上昇させる。
【0039】
任意の実施形態による高比放射能の放射性核種を製造する方法は、
工程b)で得られた液体溶液を支持体、好ましくは金属支持体に注ぐ工程、
上記支持体上で上記液体溶液を加熱して濃縮し、上記支持体上に上記放射性核種を堆積させる工程、
上記目的の放射性核種を含む上記支持体を質量分離システムに挿入する工程
を含むターゲットカップリング工程b2)を更に含むことができる。
【0040】
ガドリニウムが上記目的のターゲットである場合、工程b)は、金属ガドリニウムを、好ましくは硝酸を含む酸溶液で溶解する工程を含み得る。次いで、得られた溶液は、樹脂に通してもよい。この工程は実施例2でより詳細に説明する。
【0041】
この工程はガドリニウムの含有量を減少させ、続いての質量分離の改善された効率へと転換できる。
【0042】
高比放射能の放射性核種がスカンジウムの同位体から選択される場合、工程b)は、金属チタンを酸溶液、好ましくは臭化水素酸(HBr)溶液で溶解する工程を含むことができる。このプロセスは、溶解に有利に働くように上記金属に付与される電位の差を必要としうる。次いで、得られた溶液を酸に溶解し、それを樹脂に通す。
【0043】
この工程はチタンの含有量を減少させ、続いての質量分離の改善された効率へと転換できる。
【0044】
工程c):質量分離
同じ元素に属する混入物質は、化学的な分離により分離することはできない。従って、物理的な分離プロセス、好ましくは質量分離が考慮される。質量分離工程は、より高い比放射能およびより高い放射性核種純度を実現することができる。
【0045】
上記高比放射能の放射性核種を製造する方法は、目的の放射性核種のバッチを質量分離し、高比放射能の放射性核種を得る工程c)を含み、上記質量分離は、従来から使用されている原子を蒸発させるためのターゲットオーブン、上記原子をイオン化するイオン化装置、上記イオンを後段加速する引出し電極、上記質量分離を可能にする磁石、および回収サポートを使用する。
【0046】
上記質量分離工程における上記原子のイオン化は、従来のイオン源により達成することができる。最終的には、イオン化効率を改善するためにレーザーイオン化が考慮されうる。
【0047】
工程d):第2の化学的な分離(任意)
上記高比放射能の放射性核種を製造する方法は、上記質量分離工程の後に行われる、第2の化学的な分離精製からなる工程d)を更に含むことができる。
【0048】
これは任意の工程であり、質量分離後に抽出された非常に純粋な生成物のため、行われる可能性は低い。しかしながら、質量分離前の非常に良好な第1の化学的な分離のために必要な時間と最終生成物との間の妥協点を定義するのに関心がある場合はいつでも、関心が示される。それらの場合、上記化学的な分離は、質量分離前の第1の化学的な分離、および質量分離後の第2の化学的な分離の2つの工程に分けることができる。更に、上記放射性核種が質量分離後にどのように回収されるかに応じて、この第2の精製が必要とされうる。実際、上記放射性核種を回収するための様々な方法を使用することができる。例えば、上記放射性核種が金属板に堆積している場合、製造した放射性核種を回収するためこの第2の化学的な分離工程が必要とされる。
【0049】
以下の詳細な説明、および図面において、他の特徴、詳細、および利点が示される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】照射ビームのエネルギーに応じた、天然チタンターゲットの照射の際に生成されると予測される放射性核種を示すフローチャートを示す。
図2】様々なターゲットから開始して得られる理論的なスカンジウムの収率のフローチャートを示す。
【実施例
【0051】
[実施例1]
スカンジウム47の製造
序文
最良の出発原料を決定することが非常に重要である。
【0052】
スカンジウム47の製造の場合、天然チタンが入手可能性、コスト、および物性の間の良好な妥協点であることが分かり、別の方法では、濃縮チタンまたは濃縮カルシウムもまた使用され得る。図1に示したように、天然チタンからのSc-47の製造は、70MeVより低い陽子ビームエネルギーで可能である。しかしながら、他の混入物質も共に製造され、最も重要なのは、医学的応用のためにSc-47を考える場合には望ましくない、かなり寿命の長いSc-46である。これが、医学的応用に使用可能な生成物、例えば高生産収率、高純度、および高比放射能の放射性核種を得るために本発明に記載のような適切な精製工程および質量分離工程が必須となる理由である。
【0053】
図2において評価し示した生産収率を決定すべきである。
以下の表2は、天然チタンターゲットの照射により製造される潜在的な混入物質の理論計算を記載している。計算はソフトウェアMCNPxにより実施した。記載した混入物質の大部分は化学的な分離により除去することができる。主な関心事項は、補足の分離、例えば質量分離を必要とするSc-46である。Sc-47と比較したSc-46の収率の比は、衝撃終了(EOB)の際にほぼ10%であり、これは医学的応用、特にRTL応用のためには高すぎる。
【0054】
【表2】
【0055】
1つの金属チタンディスクが厚み4mmおよび直径26mmを有すると考えて理論的概算を実施することができる。金属ディスクは、70MeV、25μAの陽子ビームを3日間受ける(3日はSc-47の半減期に相当する)。
【0056】
照射後、目的の放射性核種のバッチを照射ターゲットから化学的に分離精製する。電位差を照射ターゲットに付与して、それを希釈HBrに溶解するのに有利に働くようにする。その後、樹脂に入れる条件を満たすために酸溶液を希釈HNOで改質する。適切な媒体で洗浄後、Scが樹脂から溶出される。溶出溶液は、初期溶液と比較して非常に減少したチタン含有量を有する。これは、質量分離工程の間に分離することのできないTi-47を大幅に減少させる。この欠点は、レーザーイオン化を使用して克服することができる。
【0057】
単位ターゲット質量当たりの比放射能は、プロセスのこの時点で65.8MBq/mgである。
【0058】
次いで、放射性核種のバッチを質量分離プロセスに従って分離し、ここでは質量47を有する原子およびひいては分子を選択的に抽出し、専用の箔、例えばZnでコーティングした金サポートに回収することができ、これが化学的プロセスを受けて箔の材料からSc-47が回収される。
【0059】
単位ターゲット質量当たりの比放射能は、本発明によるプロセス終了の際に、最大理論比放射能の3.08x10GBq/mgに近い約2.8x10GBq/mgである。
【0060】
放射化学的純度を更に高めるため、質量分離後、残ったチタン含有量を製造した放射性核種のバッチから除去するために更なる化学的な分離を予見することができる。
【0061】
[実施例2]
Tb-155の製造については(これは2つの他のTb放射性核種、例えばTb-149およびTb-152にも適用される)、Goodfellowから購入した3つの金属ガドリニウム箔(25μm厚)をターゲットとして使用した。それらを、Arronaxサイクロトロンにて12時間30μAで55MeVの陽子を使用して照射した。このエネルギーは、我々のターゲット設計に基づいてターゲットに33MeVが得られるように選択される。EBOでのTb-155/Gd比は1:2.7E6であった。主な放射活性混入物質を以下の表に示す。
【0062】
【表3】
照射後、3つのターゲットをターゲットホルダーから取り外す。
【0063】
化学的プロセスは、Ln樹脂を充填した2つのクロマトグラフィーカラム(カラム1(500mm、V=36.9mL)およびカラム2(250mm、V=8.6mL))からなる。全ての溶出が高圧ポンプを用いて1mL/mnで行われる。
Gd箔を濃硝酸(2M)に溶解し、次いで、蒸発させて乾燥させた。乾燥残渣を3mLの希硝酸(0.75M)に回収し、予め洗浄して不純物を除去して0.75MのHNOで調製したカラム1に載せた。これらの条件では、ガドリニウムはTbよりもカラムに押さえられにくく、40mLの0.75MのHNO、続いて80mLの1.MのHNOを用いてカラムを洗浄することにより、その大部分を除去することができる。
次いで、テルビウム元素を、45mLの1MのHNO、続いて40mLの2MのHNOを用いて溶出した。次いで、85mLを蒸発させて乾燥させ、カラム2を用いた第2の精製工程のために3mLの0.75MのHNOに回収する。溶液をカラム2に注ぎ、12mLの0.75MのHNO、続いて15mLの1.MのHNOを用いてGdの痕跡を溶出する。次いで、10mLの1.MのHNO、続いて15mLの2MのHNOを用いてTbを回収する。これらの25mLを蒸発させて乾燥させる。
【0064】
冷却後、残渣を3mLの0.01MのHNOに回収する。次いで、得られたテルビウム溶液を、質量分離ターゲットシステム、特にこの実施例で検討したものであったことからCERN-MEDICISターゲットシステムに適した、レニウムで覆われたタンタルボートに注ぐ。次いで、試料を加熱して酸を蒸発させ、レニウムサポートに堆積したテルビウム残渣を得た。次いで、タンタルボートをCERNに積み、質量分離のためにCERN-MEDICISターゲットに挿入する。これらの化学的工程の終了の際、Tb155:Gdは1:20より低く、EOB比からの非常に大きな改善となる。
【0065】
ターゲットシステムをCERN MEDICISにインストールし、テルビウムの抽出のために質量分離器を配置した。ターゲットを600Aに加熱し、質量159のレーザーを最適化した。620/110pAのレーザーオン/オフ比を測定した。ターゲットを700Aに加熱し、22.3kVで最適化した。(FC70)726nAの一次電流を測定した。分離電流はレーザーオンで241pA、レーザーオフで245pAであった。試料では194pAを測定し、コリメータでは5.8pAであった。ターゲットを750Aに加熱し、試料の電流を600pA(コリメータでは3.8pA)とした。試料で測定した最大電流は900pA(コリメータでは3pA)であった。回収時間は22時間であった。
【0066】
分離器に載せたターゲットは230MBqの放射能を有し、回収したTb-155は2.9MBqであり、これは1.3%の全体効率に相当し、放射性核種純度は99.9%より高かった。
【0067】
埋め込み亜鉛コーティング金箔からTb-155原子を抽出するために更なる化学的な精製が必要である。
【0068】
[実施例3]
天然Er-2O3ターゲットを72MeVの陽子ビームで照射し、Tm-165、167および168の放射性核種を製造した。合計で150MBq放射能のターゲットをターゲットイオン源ユニットに移し、MEDICISターゲットステーションに接続した;同位体質量分離は、質量167で4日にわたり、2100から2190℃の間のイオン源温度で60kVのビームエネルギー、および1760℃~2300℃に4日にわたり着実に上昇したターゲットにて行われた。総イオンビーム電流は14nAから8uAの間に含まれていた。A=167で回収中の測定ビーム強度は53pAから118nAの間を変化し、ガウシアンビームプロファイルはσH1.0mmxV0.74mmであった。分離放射能を3つの金属箔にわたり回収し、チャンバーに部分的に分配した。分離前のターゲットにおける当初のTm-167放射能は77MBqであり、記録された分離放射能は回収終了の際に42MBqであった;これは54%の分離効率を提供する。放射性核種純度を高純度ゲルマニウム検出器により評価して99.99%よりも良好であったことが分かり、Tm-165およびTm-168の混入物質の放射能は検出閾値を下回った。
【0069】
結論
これらの実施例において、本発明の方法により、高比放射能、高純度、および潜在的な高収率を有する目的の放射性核種を得ることができることが示された。実施例はまた、質量分離前の化学的な分離がその効率をいかに改善するか、および放射性核種純度を高めるために質量分離工程がいかに重要であるかを示す。
図1
図2
【国際調査報告】