(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】神経変性疾患等の、タンパク質凝集調節不全を伴う疾患を予防及び治療するための、バクテリオルベリン及びそのグリコシル誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/047 20060101AFI20240110BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240110BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240110BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240110BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240110BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240110BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240110BHJP
【FI】
A61K31/047
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P21/00
A61P27/02
A23L33/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561430
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2021086302
(87)【国際公開番号】W WO2022129407
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522477148
【氏名又は名称】ナオス・インスティテュート・オブ・ライフ・サイエンス
(71)【出願人】
【識別番号】505247627
【氏名又は名称】トレル、 ジャン ノエル
(71)【出願人】
【識別番号】523231635
【氏名又は名称】ミロスラフ・ラドマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ノエル・トレル
(72)【発明者】
【氏名】ミロスラフ・ラドマン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018LE06
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4B018MF01
4C206AA01
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4C206MA36
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA72
4C206MA75
4C206MA76
4C206MA80
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZA33
4C206ZA94
(57)【要約】
本発明は、例えば変性疾患、有利には神経変性疾患、線維症、有利には肺線維症、又は糖尿病等の、タンパク質凝集調節不全を伴う疾患を治療又は予防するための方法における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又は前述のものを含む抽出物としての、少なくとも1種のバクテリオルベリンを含む組成物に関する。本発明は、タンパク質凝集調節不全を呈する疾患を治療又は予防するための方法における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又は前述のものを含む抽出物としての、バクテリオルベリン、及び変性疾患を治療又は予防するための方法に更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質凝集の脱調節を伴う疾患の治療又は予防のための方法における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、少なくとも1種のバクテリオルベリンを含む組成物であって、疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、更に黄斑変性、網膜色素変性及び網膜症から選択される視覚神経変性疾患から選択される神経変性疾患であることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)又はパーキンソン病(PD)であることを特徴とする、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
少なくとも1種のグリコシル化バクテリオルベリンが、モノグリコシル化バクテリオルベリン、ジグリコシル化バクテリオルベリン、トリグリコシル化バクテリオルベリン、テトラグリコシル化バクテリオルベリン、ペンタグリコシル化バクテリオルベリン、ヘキサグリコシル化バクテリオルベリン、ヘプタグリコシル化バクテリオルベリン、オクタグリコシル化バクテリオルベリン、ノナグリコシル化バクテリオルベリン、デカグリコシル化バクテリオルベリン、ウンデカグリコシル化バクテリオルベリン、及びドデカグリコシル化バクテリオルベリンから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
少なくとも1種のグリコシル化バクテリオルベリンが、モノグリコシル化バクテリオルベリン、ジグリコシル化バクテリオルベリン、トリグリコシル化バクテリオルベリン及びテトラグリコシル化バクテリオルベリンから選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
少なくとも1種のバクテリオルベリン及び/又は1種のグリコシル化バクテリオルベリンを含む少なくとも1種の抽出物を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
少なくとも1種のバクテリオルベリン及び1種のグリコシル化バクテリオルベリン、有利にはα-バクテリオルベリン、モノグリコシル化バクテリオルベリン及びジグリコシル化バクテリオルベリンの混合物を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
バクテリオルベリンの非グリコシル化形態とグリコシル化形態との間の比が、2/1~1/2から構成されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
バクテリオルベリンの非グリコシル化形態を本質的に不含であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、坐剤、注射用又は経口液剤、又は滴剤の形態で提供され、口腔粘膜に、経口的に、直腸的に、経膣的に、非経口的に、筋肉内に、又は目に投与可能であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
食品補助剤の形態であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
グリコシル化バクテリオルベリン及び/又は非グリコシル化バクテリオルベリン又はそれらの混合物1mg~1gを含有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
タンパク質凝集の脱調節を伴う疾患の治療又は予防のための方法における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、バクテリオルベリンであって、疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、更に黄斑変性、網膜色素変性及び網膜症から選択される視覚神経変性疾患から選択される神経変性疾患であることを特徴とする、バクテリオルベリン。
【請求項13】
請求項12に規定の使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、バクテリオルベリンであって、神経変性疾患がアルツハイマー病(AD)又はパーキンソン病(PD)であることを特徴とする、バクテリオルベリン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性疾患、有利には神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、後部皮質萎縮症又は実際には筋萎縮性側索硬化症(ALS)、更に黄斑変性、網膜色素変性及び網膜症から選択される視覚神経変性疾患から選択される疾患等の、タンパク質凝集の脱調節を伴う疾患の治療又は予防のための、少なくとも1種のバクテリオルベリン及び/又は少なくとも1種のグリコシル化バクテリオルベリンを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、又は実際には筋萎縮性側索硬化症、更に視覚神経変性疾患等の神経変性疾患は、緩徐進行性の身体障害性慢性疾患である。これらは通常、神経細胞、特にニューロンの機能の悪化を引き起こし、これが細胞死又は神経変性につながるおそれがある。神経変性疾患により誘導される障害は多様であり、認知行動、感覚及び運動型でありうる(Duggerら2017)。
【0003】
地球人口に対する神経変性疾患の全体的な影響を評価することは困難である。世界保健機関(WHO)は、これらの状態の徴候全てが考慮された場合、最大10億人のヒトが罹患しているおそれがあると推定しており、その境界は時に不明瞭である。先進国及び発展途上国における高齢化の進行を考慮すると、これらの数字は増大する可能性がある。
【0004】
研究が進むにつれて、特に異型又はアンフォールドタンパク質の凝集、及び誘導されるニューロン死による、細胞レベルでの、これらの疾患を互いに結び付ける多くの類似点が現れている。これらの類似点の発見により、特にニューロンにおける細胞内タンパク質凝集機構に対して作用することにより、多くの疾患を同時に改善することが可能な治療の進歩への希望がもたらされる。
【0005】
カロテノイドは、地球上の生物において観察される黄、橙及び赤の色素形成の大部分の原因となる、高度な共役型の直鎖状イソプレノイド化合物である(Armstrong、1997)。カロテノイド生合成は、カロテノイドが食事を通して導入される動物を除いて、全ての生物で行われる(Britton、1995)。約千種の様々なカロテノイドが自然界で特定されており、非常に多様な構造特性を有するが、既知のカロテノイドは全て、高度に保存された生合成経路により得られる共役型の直鎖状親油性骨格を共有する(Britton、2004)。カロテノイドは、一次代謝から生じるイソプレン単位の直鎖縮合により合成される(Armstrong、1994)。鎖の各末端での共有結合的修飾により、既知のカロテノイドについて観察される構造多様性が生じる(Armstrong 1997)。鎖の不飽和化により、カロテノイドに特徴的な発色団が生じ、その結果、励起しやすい非局在化した電子の領域がもたらされる。これらの性質は、全てのカロテノイドに共通する2つの基本的な特性、すなわち光化学的性質及び抗酸化活性の根拠である(Britton、1995)。
【0006】
用語「カロテノイド」は、カロテン及びキサントフィルファミリーの分子を含む。
【0007】
最大の抗酸化能を有するカロテノイドの中で、50個の炭素原子を含有するテトラヒドロキシル化カロテンであるバクテリオルベリンについて言及がなされるべきである。バクテリオルベリン及びそれらの誘導体は、好極限性細菌、特に好塩性古細菌及びある特定の好冷性アクチノバクテリアに見られる。これらの微生物では、バクテリオルベリン及びそれらの誘導体は、これらの生物が永続的に曝露される太陽照射、更に熱及び浸透圧環境ストレスに対する、DNA及び膜の保護において重要な役割を果たす(Mandelliら2012)。特に、これらのカロテンは、好冷性アクチノバクテリア、アルスロバクター(ミクロコッカス)アギリス(Arthrobacter (Micrococcus) agilis)に見られる。この細菌は、バクテリオルベリンのグリコシル化形態、すなわち、末端ヒドロキシル基が糖で置換されたバクテリオルベリンを合成することも可能である(Fongら2001)。
【0008】
神経変性疾患を予防するか、遅らせるか又は治療することを助けることができる数種のカロテノイドが既知である。ゆえに、特許出願WO2014/155189は、PD及びADの治療及び予防のための、数種のキサントフィル、特にルテイン及びゼアキサンチンの使用を開示する。
【0009】
出願WO2008/038119は、(a)コエンザイムQ10及び少なくとも1種のシクロデキストリンの複合体、並びに(b)少なくとも1種のカロテノイド、特にα-カロテン、β-カロテン及びリコピンから選択されるカロテンを含有する組成物による、PDの治療を開示する。
【0010】
グリコシル化カロテノイドも、神経変性疾患の治療及び予防において有用でありうることが既知である。例として、神経保護作用が、サフランの黄色の原因となるグリコシル化カロテノイドであるクロシンと関連する(Farkhondehら2018)。
【0011】
神経変性疾患の予防に既に利用されているカロテノイドの有用性にもかかわらず、これらの病状の発生をより有効に抑制することができる新規の治療薬が、依然として明らかに必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2014/155189
【特許文献2】WO2008/038119
【特許文献3】WO2014/167247
【特許文献4】WO2014-A-16727
【特許文献5】FR3002544A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、シャペロン活性を有する、すなわちタンパク質変性及び凝集を抑制し、それにより細胞タンパク質を保護する能力を有する化合物又は組成物を提供することからなる技術的問題を解決することである。
【0014】
ゆえに、本発明は、酸化ストレス及び変性の両方から、少なくとも1種の細胞内又は細胞外タンパク質を保護する化合物又は組成物を提供することからなる技術的問題を解決することも目的とする。
【0015】
例えばタンパク質凝集の脱調節を呈する、変性疾患等の疾患の治療及び予防において有用な化合物又は組成物を提供することからなる技術的問題を解決することが意図される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、出願者は、好ましくはグリコシル化形態の、任意で各種形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれらを含む抽出物としての、バクテリオルベリンが、シャペロン活性を有し、ゆえにこれらが、例えばタンパク質凝集の脱調節を伴う変性疾患等の疾患、有利には神経変性疾患、線維症、有利には肺線維症、又は糖尿病の治療及び予防に有用となることを発見した。特に列挙されうる神経変性疾患の例は、AD及びPD等の、ニューロンにおけるタンパク質凝集物の蓄積を特徴とする神経変性疾患である。実験セクションでは、バクテリオルベリン、更にグリコシル化バクテリオルベリンにより、タンパク質を安定化させ、タンパク質の不活性化/変性を遅らせることが可能となることを実証する。これらの分子のシャペロン効果は、ニューロンを保護することにより、これらの病状の治療において重要な役割を果たしうる。
【0017】
本発明は、変性疾患等の、タンパク質凝集の脱調節を伴う疾患、例えば、有利には神経変性疾患、線維症、有利には肺線維症、又は糖尿病の治療又は予防における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンと混合されたバクテリオルベリン、又はこれを含む抽出物を含む組成物にも関する。
【0018】
特に、本発明は、特にニューロンにおける、毒性のタンパク質凝集物の形成を低減させることによる、タンパク質凝集の脱調節を伴う疾患の治療又は予防における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、バクテリオルベリンを含む組成物に関する。
【0019】
特に、本発明は、タンパク質変性を低減させることによる、タンパク質凝集の脱調節を伴う疾患の治療又は予防における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、バクテリオルベリンを含む組成物に関する。
【0020】
ゆえに、本発明は、変性疾患、有利には神経変性疾患の治療又は予防における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、バクテリオルベリンに関する。
【0021】
本発明は、変性疾患、有利には神経変性疾患の治療又は予防における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、バクテリオルベリンを含む組成物にも関する。
【0022】
本発明は、少なくとも1種のバクテリオルベリン及び/又は少なくとも1種のグリコシル化バクテリオルベリンを含む組成物が、それを必要とする対象に投与される、変性疾患、有利には神経変性疾患を治療又は予防するための方法にも関する。
【0023】
通常、神経変性疾患は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、又は実際には筋萎縮性側索硬化症(ALS)、更に黄斑変性、網膜色素変性及び網膜症から選択される視覚神経変性疾患から選択され、有利にはアルツハイマー病(AD)又はパーキンソン病(PD)の治療のためである。
【0024】
本発明による組成物は、例えば、線維症、有利には肺線維症、又は糖尿病等の、タンパク質凝集の脱調節を伴う他の病状の治療にも有用であってよい。
【0025】
バクテリオルベリン(CAS No 32719-43-0)は、「α-バクテリオルベリン」としても既知である。
【0026】
「α-バクテリオルベリン」は以下の構造を有する。
【0027】
【0028】
α-バクテリオルベリンは4つの末端ヒドロキシル基を含み、それらの各々が、糖型の基、又は更には1つ若しくは複数の共有結合した糖とのエーテル結合により置換されうる。用語「バクテリオルベリンのグリコシル化形態」又は「グリコシル化バクテリオルベリン」は、少なくとも1つのヒドロキシル基が、バクテリオルベリンの骨格と糖との間のエーテル結合により、1つ又は複数、例えば2つ又は3つの糖残基で置換されるバクテリオルベリンを意味する。
【0029】
本発明による「単離されたグリコシル化バクテリオルベリン」は、通常は精製がそれに続く、生物工学的合成、化学的合成により、又は代わりに、天然の細菌に天然に含有されるグリコシル化バクテリオルベリンの精製により得られる。
【0030】
一例として、本発明による「グリコシル化バクテリオルベリン」は、以下の構造に相当する。
【0031】
【0032】
(式中、Rは、水素原子、1つ又は複数、例えば2つ又は更には3つの糖残基から独立に選択され、少なくとも1つの存在において、Rは、1つ又は複数、例えば2つ又は更には3つの糖残基を表す)
【0033】
好ましい一実施形態において、糖は、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、フコース、フルクトース及びフコースにより構成される群から選択される、ヘキソース又はデオキシヘキソースである。
【0034】
好ましい一実施において、本発明による組成物は、モノグリコシル化バクテリオルベリン、ジグリコシル化バクテリオルベリン、トリグリコシル化バクテリオルベリン、テトラグリコシル化バクテリオルベリン、ペンタグリコシル化バクテリオルベリン、ヘキサグリコシル化バクテリオルベリン、ヘプタグリコシル化バクテリオルベリン、オクタグリコシル化バクテリオルベリン、ノナグリコシル化バクテリオルベリン、デカグリコシル化バクテリオルベリン、ウンデカグリコシル化バクテリオルベリン、及びドデカグリコシル化バクテリオルベリンから選択される少なくとも1種のグリコシル化バクテリオルベリンを含む。有利には、これは、モノグリコシル化バクテリオルベリン、ジグリコシル化バクテリオルベリン、トリグリコシル化バクテリオルベリン及びテトラグリコシル化バクテリオルベリンから選択される少なくとも1種のグリコシル化バクテリオルベリンである。
【0035】
有利には、前記組成物は、モノグリコシル化バクテリオルベリン、ジグリコシル化バクテリオルベリン及びテトラグリコシル化バクテリオルベリンの混合物、好ましくはモノグリコシル化バクテリオルベリン及びジグリコシル化バクテリオルベリンの混合物を含む。好ましい一実施形態において、本発明の組成物は、バクテリオルベリンの非グリコシル化形態を本質的に不含である。
【0036】
有利には、本発明によるグリコシル化バクテリオルベリンを含有するカロテノイドの全抽出物は、細菌の、好ましくはアクチノバクテリア由来の、更により有利にはミクロコッカス(Microccoccaceae)科由来の抽出物である。有利には、種はミクロコッカス・ロセウス(Micrococcus roseus)及びアルスロバクター・アギリスである。
【0037】
グリコシル化バクテリオルベリンは、ミクロコッカス又はアルスロバクター属のアクチノバクテリア、有利には種A.アギリス及び/又はM.ロセウス由来のカロテノイドの全抽出物の、例えばクロマトグラフィーによる、抽出及び精製により得られる。種A.アギリスはミクロコッカス・アギリスとしても既知である。ゆえに、Strandら1997、Fongら2001による出版物、及び特許出願WO2014/167247において記載される抽出物及び株が、グリコシル化バクテリオルベリンの供給源として使用されてよい。好ましくは、本発明の意義の範囲内のグリコシル化バクテリオルベリンの供給源として使用されるA.アギリスの株は、株MB813(Fongら2001に記載)及び/又はSB5(特許出願WO2014/167247に記載)である。これらの細菌種から全カロテノイドの抽出物を得るための方法は当業者に既知であり、例えば、Strandら1997、Fongら2001、更に特許出願WO2014/167247に記載されている。しかし、これらの方法では、各種グリコシル化バクテリオルベリンを単離することができない。
【0038】
驚くべきことに、出願者は、A.アギリスのカロテノイドの抽出物から、バクテリオルベリンのグリコシル化形態を効率的に単離することを可能にする方法を開発した。本発明は、バクテリオルベリン及びそのグリコシル化形態を精製及び単離するための方法を記載する。
【0039】
ゆえに、本発明は、特に本発明に記載される使用及び投与のための、単離されたバクテリオルベリン及び/又は単離されたグリコシル化バクテリオルベリン、更にそれらの混合物にも関する。
【0040】
言い換えれば、本発明は、変性疾患、有利には神経変性疾患を治療又は予防するための方法における使用のための、特に好極限性細菌、好ましくはアルスロバクター・アギリスの抽出物由来の、分離及び精製されたグリコシル化バクテリオルベリンを包含する。
【0041】
好ましい一実施形態において、本発明によるグリコシル化バクテリオルベリンを含有するカロテノイドの全抽出物は、GREENTECH社により販売される出発物質ミロルベリン(MIRORUBERINE)に含有されるカロテノイドに相当し、INCI名ミクロコッカス溶解液に相当する。代わりに、本発明によるグリコシル化バクテリオルベリンは、生物工学、又は化学的合成により、例えば、例えばα-バクテリオルベリンから出発して、バクテリオルベリン、通常α-バクテリオルベリンの天然形態の制御されたグリコシル化により得られてもよい。このグリコシル化は、好適なグリコシルトランスフェラーゼを使用して、化学的に又は生物工学により、好ましくは生物工学により得られてよい。例として、HALOTEK GmbH社により販売される出発物質ハロルビン(HALORUBINE)が、本発明の意義の範囲内のグリコシル化バクテリオルベリンの合成において、α-バクテリオルベリンの供給源として使用されてよい。
【0042】
有利には、本発明による組成物はα-バクテリオルベリンを含む。α-バクテリオルベリンは、バクテリオルベリンのグリコシル化形態も合成する前述のアクチノバクテリアを抽出することにより得られる。代わりに、α-バクテリオルベリンは、例えば、種ハロバクテリウム・サリナルム(Halobacterium salinarum)、ハロルブルム・ソドメンス(Halorubrum sodomense)、ハロアーキュラ・バリスモーティス(Haloarcula valismortis)及びサリニバクタ―・ルバー(Salinibacter ruber)等の1種又は複数のハロアーキアの培養物から抽出されてもよい。ゆえに、HALOTEK社により販売され、INCI名ハロバクテリウム・サリナルムカロテノイドに相当する出発物質ハロルビンが、本発明による組成物において使用されてよい。
【0043】
代わりの一実施形態において、本発明による組成物は、少なくとも1種のバクテリオルベリン及びグリコシル化バクテリオルベリンを含む。言い換えれば、この組成物は、バクテリオルベリンのグリコシル化形態及び非グリコシル化形態の混合物、有利にはα-バクテリオルベリン、モノグリコシル化バクテリオルベリン及びジグリコシル化バクテリオルベリンの混合物を含む。有利には、非グリコシル化形態とグリコシル化形態との間の比は、2/1~1/2から構成される。
【0044】
一実施形態において、本発明による組成物は、1種又は複数のグリコシル化バクテリオルベリンを含み、バクテリオルベリンの非グリコシル化形態を本質的に含まない。用語「バクテリオルベリンの非グリコシル化形態を本質的に含まない」又は「バクテリオルベリンの非グリコシル化形態を本質的に不含である」は、バクテリオルベリンの非グリコシル化形態を回避及び排除しようとはするものの、非グリコシル化形態が微量で存在しうることを意味する。好ましくは、そのような微量は分析により検出されない。
【0045】
有利には、本発明による組成物は、モノグリコシル化バクテリオルベリン、ジグリコシル化バクテリオルベリン及びテトラグリコシル化バクテリオルベリンの混合物、好ましくはモノグリコシル化バクテリオルベリン及びジグリコシル化バクテリオルベリンにより本質的に構成されるグリコシル化バクテリオルベリンの混合物を含み、前記混合物は、好ましくは、グリコシル化バクテリオルベリンの混合物の合計質量に対して、20~80質量%のモノグリコシル化バクテリオルベリン及び20~80質量%のジグリコシル化バクテリオルベリンを含む。
【0046】
少なくとも1種の本発明によるバクテリオルベリン及び/又はグリコシル化バクテリオルベリンを含む医薬組成物は、概して剤形である。ゆえに、少なくとも1種のバクテリオルベリン及び/又はグリコシル化バクテリオルベリンを含む組成物は、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、坐剤、注射用又は経口液剤、又は実際には滴剤の形態であってよく、経口的に、口腔粘膜に、直腸的に、経膣的に、非経口的に、筋肉内に、又は目に投与可能である。
【0047】
本発明による医薬組成物の中で、経口、口腔粘膜、非経口(静脈内、筋肉内又は皮下)、経皮又は経皮、膣内、直腸、経鼻、経舌、頬側、目への又は呼吸器投与に好適な医薬組成物について、より具体的な言及がなされる。
【0048】
非経口注射のための本発明による医薬組成物は特に、水性及び非水性無菌液剤、分散体、懸濁剤又は乳剤、更に注射用液剤又は分散体を再構成するための無菌散剤を含む。
【0049】
固形経口投与については、本発明による医薬組成物は特に、単純な錠剤又は糖衣錠、舌下錠剤、サシェ剤、カプセル剤又は顆粒剤を含み、経口、経鼻、頬側又は目への液体投与については特に、乳剤、液剤、懸濁剤、滴剤、シロップ剤及びエアロゾル剤を含む。
【0050】
直腸又は経膣投与のための医薬組成物は、好ましくは坐剤又は膣坐剤(ovule)であり、経皮又は経皮投与のための医薬組成物は特に、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤及び貼付剤を含む。
【0051】
前述の医薬組成物は本発明を例示するが、決してこれを限定しない。
【0052】
不活性な、非毒性の、ヒトに対して許容されるか又は医薬的に許容される、指示としてかつ限定する意図なく列挙されうる賦形剤又は媒体の例は、希釈剤、溶媒、保存料、湿潤剤、乳化剤、分散剤、結合剤、発泡剤、崩壊剤、遅延剤、滑沢剤、吸収剤、懸濁剤、色素、香味料等である。
【0053】
有用な投与量は、患者の年齢及び体重、投与様式、使用される医薬組成物、状態の性質及び重症度に応じて変動する。例として、本発明による組成物は、月に1回、週に1回又は毎日投与されてよく、グリコシル化バクテリオルベリン及び/又は非グリコシル化バクテリオルベリン又はそれらの混合物のいずれか1mg~1gを含有していてよい。
【0054】
本発明によるグリコシル化バクテリオルベリンは、食品及び機能性食品補助剤におけるそれらの使用に好適である。食品補助剤を製剤化するための方法は当業者に既知である。有利には、食品補助剤は、錠剤又はカプセル剤の形態である。例として、各用量は、グリコシル化バクテリオルベリン及び/又は非グリコシル化バクテリオルベリン、並びにそれらの混合物のいずれか1mg~1gを含有していてよい。
【0055】
錠剤において、例えば結晶セルロースが増量剤として使用される。これは食品補助剤の合計質量に対して10~30質量%、より有利にはおよそ20質量%の量で使用される。
【0056】
リン酸二カルシウム及びリン酸三カルシウムは、錠剤の調製のための圧縮剤(compression agent)として使用される。食品補助剤の合計質量に対して10質量%~30質量%、より有利にはおよそ15質量%のリン酸二カルシウムが使用される。食品補助剤の合計質量に対して2.5質量%~7.5質量%、より有利にはおよそ5質量%の量のリン酸三カルシウムが使用される。
【0057】
水和シリカ、ステアリン酸マグネシウム及びコロイド状シリカが、有利には、錠剤又はカプセル剤の形態の食品補助剤における希釈剤として使用されてよい。これらは、食品補助剤の合計質量に対してそれぞれ、およそ2質量%、1質量%及び0.6質量%の量で導入される。
【0058】
香味料(天然又は化学、果実又は他の香味料)又は色素等の他のアジュバントが、有利には、食品補助剤調製物に組み込まれる。
【0059】
食品補助剤が軟カプセル剤又はカプセル剤の形態である場合、これらの軟カプセル剤又はこれらのカプセル剤の外皮は特に、魚ゼラチン等の動物ゼラチン、グリセリン、又はセルロース若しくはデンプン誘導体、又は植物タンパク質等の植物起源の物質を含有していてよい。好ましい一実施形態において、カプセル剤に組み込まれる1種又は複数の、本発明によるグリコシル化バクテリオルベリンは、脂肪性物質、有利にはカプリル酸及び/又はカプリン酸トリグリセリドに溶解されてよく、好ましくはトコフェロールにより安定化されてよい。ゆえに、GREENTECH社により販売され、INCI名トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル及びトコフェロール及びミクロコッカス溶解液に相当する、食品グレードのミロルベリン出発物質が、本発明による食品補助剤において使用されてよい。
【0060】
本発明が実施されうる様式及び付随する利点が、非限定的な指示により、添付の図の助けをもって与えられる以下の例示的な実施形態から、より明らかとなるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】種A.アギリスの単離菌SB5由来のカロテノイド抽出物の組成を示すグラフである:BR=α-バクテリオルベリン、BR-MonoG:モノグリコシル化形態、BR-DiG:ジグリコシル化形態、BR-DiG2:BR-DiGの別の形態、BR-TetraG:テトラグリコシル化形態。
【
図2】A.アギリス由来の全カロテノイド抽出物(スノーバクテリア(Snow bacteria)抽出物->SBE)、バクテリオルベリン(BR)、モノグリコシル化バクテリオルベリン(BR-MonoG)及びジグリコシル化バクテリオルベリン(BR-DiG)についての、熱に対するパーセンテージ保護を示すグラフである。
【
図3】A.アギリス由来の全カロテノイド抽出物(スノーバクテリア抽出物->SBE)、バクテリオルベリン(BR)、モノグリコシル化バクテリオルベリン(BR-MonoG)及びジグリコシル化バクテリオルベリン(BR-DiG)についての、酸化ストレスに対する保護のパーセンテージを示すグラフである。
【
図4】グルタメートにより損傷を受けた皮質ニューロンの神経ネットワーク(
図4)、並びにニューロトロフィンBDNF及びA.アギリスのカロテノイド(SBE)により与えられた保護についての結果を表すグラフである。結果は、平均+/-標準誤差(n=4~6)の形態で、対照条件のパーセンテージとして表される。統計処理:一元配置ANOVA後のフィッシャーの最小有意差(LSD)検定。*=p<0.05を有意とみなした。
【
図5】グルタメートにより損傷を受けた皮質ニューロンのタウ過剰リン酸化(
図5)、並びにニューロトロフィンBDNF及びA.アギリスのカロテノイド(SBE)により与えられた保護についての結果を表すグラフである。結果は、平均+/-標準誤差(n=4~6)の形態で、対照条件のパーセンテージとして表される。統計処理:一元配置ANOVA後のフィッシャーの最小有意差(LSD)検定。*=p<0.05を有意とみなした。
【発明を実施するための形態】
【0062】
例示的な実施形態
【実施例1】
【0063】
細菌A.アギリスのカロテノイド抽出物からのグリコシル化バクテリオルベリンの精製
I-1研究の目的
本研究の目的は、細菌A.アギリス由来の全カロテノイド抽出物中に含有される分子を単離及び定量化することであった。
【0064】
I-2材料及び方法
I-2.1抽出物
「ミロルベリン」として既知であり、INCI名ミクロコッカス溶解液に相当するGREENTECH出発物質中に含有される、細菌A.アギリス由来のカロテノイドの全抽出物を、本研究に使用した。これは株SB5から生じた。このいわゆる「SBE」抽出物は、特許出願公開WO2014/167247に記載される方法を使用することにより得られた。
【0065】
I-2.2カラム及び薄層クロマトグラフィー
SBE抽出物を、完全に溶解するまでテトラヒドロフラン(THF)に吸収させた。THFでSBEを希釈した後、シリカゲルクロマトグラフィーによりグリコシル化バクテリオルベリンを分離するための工程を、ガラスカラムにおいて実行した。
1.DCM/メタノール混合物(10/1)中にシリカゲルを懸濁させた後、カラムに注入
2.シリカゲルの沈降後、砂1cmを添加した後、DCM/メタノール混合物による洗浄を3回実行する。
3.THFで希釈されたSBE0.5mLを砂に堆積させ、5分間静置させた
4.DCM/メタノール混合物(10/1)50mLをゆっくりと添加し、画分1、2、3及び4が個別に収集されることを可能にした
5.DCM/メタノール混合物(8/2)40mLをゆっくりと添加し、画分5及び6が個別に収集されることを可能にした
6.DCM/メタノール混合物(5/5)40mLをゆっくりと添加し、画分7が収集されることを可能にした
7.DCM/メタノール混合物(3/7)40mLをゆっくりと添加し、画分8が収集されることを可能にした
8.次いで、TLC(DCM/メタノール(10/1))により全ての画分をSBEと比較し、吸収により定量化した(各画分についての最大吸収を使用)。
【0066】
I-2.3HPLCによる画分の分離
装置:Nexera XR、バイナリポンプ(Shimadzu社)
カラム:C18;Intersustainable Swift 5μm 4.6x150mm、製造業者:GL Sciences社
移動相:
A: MeOH中20%H2O
B MeOH中20%EtOAc
流速:1.5mL/min
注入体積:50μL
【0067】
【0068】
I-3結果及び考察
この精製において、カラムクロマトグラフィーによる分離の第1の工程によって、各種画分を収集することが可能となり、各種画分の純度を、TLC及びHPLC-DADにより、天然抽出物の吸光度スペクトルと比較することにより確認した。各種形態の定量化を、500nmでのUV吸収により実行した。
【0069】
クロマトグラフィーにより収集された画分の各々の分子の各々を、AUTOFLEX機器(Brucker社)を使用して、Maldi-TOF-TOF分光法により特定した。使用された方法は、「リフレクター取得におけるTFA不含CHCA及びDHBマトリックス」であった。得られた結果を、これらの画分に対してHPLC-DADにより実行された定量化と組み合わせることにより、様々な形態間の分布を算出した(
図1)。画分1は、バクテリオルベリン合成の副生成物であるベータ-カロテンに相当するが、この分子は抽出物のわずか0.79%となった。画分4は、ハロバクター・サリナリウム(Halobacter salinarium)(ハロルビン)抽出物に対して同じプロファイルを有し、その大部分の分子はバクテリオルベリン(BR)である。この分子は、乾燥抽出物のうちのおよそ半分となった(
図1)。
【0070】
別々に泳動した2種のジグリコシル化形態(BR-DiG1及びBR-DiG2)を特定した。ジグリコシル化形態は抽出物のうちの22%超となった。
【0071】
モノグリコシル化形態BR-MonoGは抽出物のうちの26%超となった。テトラグリコシル化形態(BR-TetraG)は抽出物のうちのわずか0.01%となった(
図1)。
【実施例2】
【0072】
A.アギリス由来のカロテノイドの抽出物、更にそこから単離されたバクテリオルベリン及びグリコシル化形態によるタンパク質の保護及び安定化
II-1本研究の目的
本研究の目的は、クロマトグラフィー及びHPLCにより分離された、アクチノバクテリアA.アギリスのカロテノイドの抽出物の各種成分のタンパク質保護能を比較することであった。より具体的には、我々は全ての主要な画分を試験し、それらの、
- 変性からタンパク質を保護する効果による、変性に対し(AP-熱試験)(シャペロン効果)、
- 酸化に対し(APox試験)(酸化ストレスに対する保護効果)、
酵素アルカリホスファターゼを保護する能力を評価した。
【0073】
II-2材料及び方法
II-2.1試験試料
【0074】
【0075】
SBE、BR、BR-MonoG及びBR-DiGについて、4種の用量を試験した:20μM、10μM、5μM、2.5μM、1.25μM
【0076】
II-2.2 APox及びAP-熱試験
APox試験及びプロトコル:
本試験は特許出願FR3002544A1に記載され、酸化ストレスから酵素アルカリホスファターゼを保護する物質の能力を測定する。
【0077】
必要な材料:
- ウシアルカリホスファターゼ(AP)(Sigma社P0114)
- AP用液体基質(Sigma社P7998)
- 30%過酸化水素
- FeO4S溶液(H2O1mL中30mg)
- 平底96ウェルプレート
- 405nmでのプレートリーダー
【0078】
以下を各ウェルに堆積させた:
- 10-2M MgSO4で10-5に希釈されたAP10μL
- 試験分子、溶媒(陰性対照)又はH2O(陽性対照)4μL+H2O6μL
- 過酸化水素溶液30μL(H2O940μL+30%H2O240μL+10-2FeO4S20μLから構成される保存溶液由来)又はH2O30μL(陽性対照)
37℃で15分間インキュベートさせる。
液体基質50μLを添加する。
37℃で20分間405nmでのODを読み取る
【0079】
AP-熱試験及びプロトコル:
本試験は、酸化ストレスだけでなく変性(熱ストレス)に対する、タンパク質の保護能を測定するための、APox試験の改変に由来する。実際には、熱の効果のもとでは、タンパク質は変性し酵素はその活性を失う。温度及びインキュベーション時間を調節することにより、アルカリホスファターゼの活性の90%を阻害するのに必要な条件を決定することができる(55℃1時間)。
【0080】
必要な材料:
- ウシアルカリホスファターゼ(AP)(Sigma社P0114)
- アルカリホスファターゼの液体基質(Sigma社P7998)
- 加熱ブロック
- 平底96ウェルプレート
- 405nmでのプレートリーダー
【0081】
以下を各ウェルに堆積させた:
- 10-2M MgSO4で10-5に希釈されたAP10μL
- 試験分子又は溶媒単独4μL+H2O6μL
37℃で撹拌しながら15分間インキュベートさせる
加熱ブロックにおいて37℃又は55℃で1時間インキュベートさせる
液体基質50μLを添加する
37℃で20分間405nmでのODを読み取る
【0082】
変性に対する「分子X」の保護能(PPX)は、分子の存在下での、55℃(ストレス条件)でのアルカリホスファターゼ(PA)の活性の、37℃(基本条件)でのその活性に対する比を出すことにより算出される。次いでこの比が、溶媒単独の存在下で得られる同じ比により正規化される。
【0083】
基本的に、算出は以下の通りであった:
PPX=(APAX55-(APAX37xAPAS55/APAS37))/(APAX37-(APAX37xAPAS55/APAS37))
式中、
APAX55:55℃で分子Xの存在下でのAPの活性
APAX37:37℃で分子Xの存在下でのAPの活性
APAS55:55℃で溶媒の存在下でのAPの活性
APAS37:37℃で溶媒の存在下でのAPの活性
以下を想定:
- APAX37は100%酵素保護に相当
- APAX37xAPAS55/APAS37はゼロ保護に相当。
【0084】
反復について405nmで測定された光学密度値の平均を出すことにより、各条件についての酵素の活性が算出され、その値から、「ブランク」ウェル(試薬単独)として既知のものの平均値が差し引かれる、すなわち:
APA=[(OD反復1-ODブランク)+(OD反復2-ODブランク)+(OD反復3-ODブランク)]/3
【0085】
これらの算出は、概して0.15~1.5から構成される、曲線の直線部分に位置するOD値にのみ適用されてよい。
【0086】
酵素の活性についての測定は全て、96ウェルEnSight-Perkin Elmerプレートリーダーにおいて実行した。
【0087】
II-3結果及び考察
「AP-熱」試験として既知のものの結果が
図2に示される。バクテリオルベリンのグリコシル化形態(BR-MonoG、BR-DiG)、更にこのカロテノイドのα-バクテリオルベリン(BR)及びグリコシル化形態、特にジグリコシル化形態(BR-DiG)の混合物に相当するSBE抽出物は、BR自体よりも有効にタンパク質を保護する。この効果は、試験濃度の全てについて一貫して観察された。
【0088】
APOX試験の結果が
図3に示される。これらの結果は、グリコシル化形態が非グリコシル化BRよりも強力な保護能を有し、この効果がシャペロン効果と一致することを示す。この場合にも、酸化タンパク質の保護は、バクテリオルベリンのジグリコシル化形態(BR-DiG)、更に全SBE抽出物で特に顕著である。この効果は、試験濃度の全てについて一貫して観察された。
【0089】
これらの結果は、バクテリオルベリン(BR)、特にバクテリオルベリンのグリコシル化形態(特にBR-MonoG、BR-DiG)、更にこのカロテノイドのα-バクテリオルベリン(BR)及びグリコシル化形態、より具体的にはジグリコシル化形態(BR-DiG)の混合物に相当するSBE抽出物が、概して細胞における凝集物形成に続く酸化ストレス及び変性の両方から、細胞内タンパク質を保護するのに使用可能であることを示す。ゆえに、バクテリオルベリン(BR)、特にバクテリオルベリンのグリコシル化形態(特にBR-MonoG、BR-DiG)、更にこのカロテノイドのα-バクテリオルベリン(BR)及びグリコシル化形態、より具体的にはジグリコシル化形態(BR-DiG)の混合物に相当するSBE抽出物は、したがって、例えばニューロン、又はタンパク質凝集の脱調節を伴う疾患における、毒性のタンパク質凝集物の形成を低減させることを目的とする治療の開発のための使用に好適である。
【実施例3】
【0090】
神経モデルに対する神経保護効果
III-1本研究の目的
本研究の目的は、アルツハイマー病(AD)を模倣した細胞モデルにおける、グルタメート興奮毒性に対する、「SBE」グリコシル化バクテリオルベリンが豊富な細菌A.アギリスのカロテノイド抽出物の神経保護効果を評価することであった。
【0091】
グルタミン酸作動系、特にNMDA受容体(グルタミン酸作動性受容体)は、学習過程及び記憶において大きな役割を果たす。シナプス可塑性は、NMDA受容体シグナル伝達により調節されうる。
【0092】
NMDA受容体の過剰活性化は、アルツハイマー病等の、認知障害につながる神経変性疾患を含む多くの神経変性疾患における、共通の病理学的特性である。このことを念頭におくと、グルタメート過剰刺激を低減させる物質による早期の薬理学的治療が、認知低下と診断された患者を治療する方法である。タウは、微小管安定性及び軸索輸送に関与する微小管関連タンパク質である。タウの病理学的過剰リン酸化は、神経原線維のもつれの形成を引き起こし、ベータ-アミロイドタンパク質オリゴマーに関連して、ADの神経変性過程に活発に関与する。更に、グルタメート興奮毒性及びタウタンパク質のリン酸化は、密接に関係した現象である。
【0093】
この実施例において、BDNF(脳由来神経栄養因子)を、このニューロトロフィンがin vivo及びin vitroでニューロンの生存及び分化を促進することが既知であることから、陽性対照として使用した。
【0094】
III-2材料及び方法
III-2-1.皮質ニューロンの初代培養物
実験は全て、欧州連合において施行中の規制に従って実行した(指令2010/63/EU)。
【0095】
マウス皮質ニューロンを、Callizotら、2013により記載されるように培養した。10mLピペットの先端を3回強制的に通すことにより、細胞を機械的に解離させた。次いで細胞を515×gで10分間、4℃で遠心処理した。上清を除去し、ペレットを、B27補助剤の2%溶液、2mmol/リットルL-グルタミン、2% PS溶液及び10ng/mL BDNF含有Neurobasal培地により構成される既知組成培養培地に吸収させた。トリパンブルー排除試験を使用して、Neubauerサイトメーターにおいて生細胞を計数した。細胞を、ポリ-L-リジンで予めコーティングされた96ウェルプレートに、1ウェルあたり25000個の密度で播種し、CO2インキュベーター(5%)において37℃で培養した。培地を2日ごとに交換した。続いて、実験を96ウェルプレートにおいて実行した(1条件あたりn=6培養ウェル)。各プレートの96ウェルにおいて、60ウェルのみを使用した。エッジ効果を回避するため、最初及び最後の横列及び縦列のウェルは使用せず、滅菌水で満たした。
【0096】
III-2-2試験化合物及びグルタメート中毒
この実施例では、以下の化合物を試験した:
【0097】
【0098】
試験される化合物をDMSOに溶解させ、培養培地におけるDMSOの濃度を確実に0.1%にするため、濃度を調節した。培養から13日目に、化合物を一次皮質ニューロンとともに1時間予めインキュベートした後、グルタメートを投与した。続いて、同じ日に、皮質ニューロンをグルタメートに20分間曝露した。SBE又はBDNF(陽性対照として使用)存在下で、グルタメートを最終濃度20μM(対照培地で希釈)で添加した。20分後、グルタメートを排除し、研究中の化合物を有する新たな培養培地を、更に48時間添加した。
【0099】
III-2-3免疫標識による化合物の効果の評価
グルタメート中毒から48時間後、自動マルチチャンネルピペットを使用して細胞培養物上清を除去した。次いで細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。皮質ニューロンを、エタノール(95%)及び酢酸(5%)の冷溶液で5分間、-20℃で固定した。これらをPBSで再度2回洗浄し、次いで透過処理した。0.1%サポニン及び1%FCSを含有するPBS溶液で15分間、室温で非特異的部位をブロッキングした。細胞をそれぞれ以下とともに2時間インキュベートした:
a)1%ウシ胎児血清及び0.1%サポニンを有する、PBS中1/400希釈でのマウスモノクローナル抗MAP-2(微小管関連タンパク質2)抗体。この抗体はニューロン及び神経突起に特異的に結合し、神経ネットワークの研究を可能にする。
b)1%ウシ胎児血清及び0.1%サポニンを含有する、PBS中1/400希釈での、Thr212/Ser214に対するマウスモノクローナル抗リン酸化タウAT100抗体。この抗体により、タウタンパク質の過剰リン酸化を研究することが可能となる。
【0100】
これらの抗体を、二次抗体Alexa Fluor488IgGヤギ抗マウス、Alexa Fluor568IgGヤギ抗ニワトリ抗マウス、Alexa Fluor568IgGヤギ抗ウサギにより明らかにした。これらの二次抗体を、1%FCS、0.1%サポニンを含有する、PBS中1/400希釈でのニューロン調製物とともに、室温で1時間インキュベートした。
【0101】
各条件について、ImageXpress(Molecular Devices社)を使用して20x倍率で、1ウェルあたり画像30枚を自動で記録した。画像は全て、同じ取得パラメーターを使用して生成させた。分析は、Custom Module Editor(登録商標)(Molecular Devices社)により、画像から自動で実行された。以下のパラメーターを検査した:
- 全神経ネットワーク(MAP-2陽性神経長さ)
- タウタンパク質の過剰リン酸化(タウ/MAP-2重複、重複のμm2)
【0102】
III-2-4データの統計処理
データは対照のパーセンテージとして表した。値は全て、1条件あたり4~6ウェルの平均の平均+/-標準誤差を示す。各種条件についてのグラフ及び統計分析(ANOVA後のフィッシャーのLSD検定[全群対グルタメート群])を、GraphPad Prismソフトウェアバージョン8.1.2を使用して実行した。*P<0.05を有意とみなした。
【0103】
III-3結果及び考察
神経ネットワーク完全性:グルタメート中毒は、神経ネットワーク密度の有意な低減(60%)を誘導した(
図4)。予期された通り、BDNFは神経ネットワークの完全性に対し有意な保護効果を及ぼす(全神経ネットワーク=85%)。SBEの投与により神経ネットワークの完全性が大幅に改善された。神経ネットワークの全長は83%に達し、これは有意な結果であり、ニューロトロフィンにより得られる結果に匹敵する。
【0104】
タウタンパク質の過剰リン酸化(AT100):グルタメート中毒は、ニューロン細胞質におけるタウタンパク質の過剰リン酸化及びタンパク質の蓄積に相当する、AT100領域の有意な増大を誘導した(陰性対照の+193%(100%=値0);
図5)。予期された通り、ニューロトロフィンBDNFによる処理は、タウ過剰リン酸化の大きなかつ有意な低減をもたらした(+121%)。BDNFと同様に、SBEの投与によりタウリン酸化が有意に低減した(+137%)。
【0105】
まとめると、SBE抽出物は神経ネットワークに対して神経保護効果を及ぼし、この効果は、ニューロン細胞質におけるタウタンパク質の過剰リン酸化の有意な低減を伴う。
【0106】
ゆえに、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、バクテリオルベリンは、神経変性疾患を治療又は予防するための方法において使用可能である。
【0107】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質凝集の脱調節を伴う疾患の治療又は予防のための方法における使用のための、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、少なくとも1種のバクテリオルベリンを含む組成物であって、疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、更に黄斑変性、網膜色素変性及び網膜症から選択される視覚神経変性疾患から選択される神経変性疾患であることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)又はパーキンソン病(PD)であることを特徴とする、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
少なくとも1種のグリコシル化バクテリオルベリンが、モノグリコシル化バクテリオルベリン、ジグリコシル化バクテリオルベリン、トリグリコシル化バクテリオルベリン、テトラグリコシル化バクテリオルベリン、ペンタグリコシル化バクテリオルベリン、ヘキサグリコシル化バクテリオルベリン、ヘプタグリコシル化バクテリオルベリン、オクタグリコシル化バクテリオルベリン、ノナグリコシル化バクテリオルベリン、デカグリコシル化バクテリオルベリン、ウンデカグリコシル化バクテリオルベリン、及びドデカグリコシル化バクテリオルベリンから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
少なくとも1種のグリコシル化バクテリオルベリンが、モノグリコシル化バクテリオルベリン、ジグリコシル化バクテリオルベリン、トリグリコシル化バクテリオルベリン及びテトラグリコシル化バクテリオルベリンから選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
少なくとも1種のバクテリオルベリン及び/又は1種のグリコシル化バクテリオルベリンを含む少なくとも1種の抽出物を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
少なくとも1種のバクテリオルベリン及び1種のグリコシル化バクテリオルベリン、有利にはα-バクテリオルベリン、モノグリコシル化バクテリオルベリン及びジグリコシル化バクテリオルベリンの混合物を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
バクテリオルベリンの非グリコシル化形態とグリコシル化形態との間の比が、2/1~1/2から構成されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
バクテリオルベリンの非グリコシル化形態を本質的に不含であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、坐剤、注射用又は経口液剤、又は滴剤の形態で提供され、口腔粘膜に、経口的に、直腸的に、経膣的に、非経口的に、筋肉内に、又は目に投与可能であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
食品補助剤の形態であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
グリコシル化バクテリオルベリン及び/又は非グリコシル化バクテリオルベリン又はそれらの混合物1mg~1gを含有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
タンパク質凝集の脱調節を伴う疾患の治療又は予防のための方法における使用のための、
有効成分として、好ましくはグリコシル化形態の、任意で様々な形態のグリコシル化バクテリオルベリンとの混合物としての、又はこれを含む抽出物としての、バクテリオルベリン
を含む疾患治療又は予防剤であって、疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、更に黄斑変性、網膜色素変性及び網膜症から選択される視覚神経変性疾患から選択される神経変性疾患であることを特徴とする、
疾患治療又は予防剤。
【請求項13】
神経変性疾患がアルツハイマー病(AD)又はパーキンソン病(PD)であることを特徴とする、
請求項12に記載の疾患治療剤又は予防剤。
【国際調査報告】