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特表2024-502205食物摂取関連障害のためのパルス状(pulsative)GNRH投与
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】食物摂取関連障害のためのパルス状(pulsative)GNRH投与
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20240110BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61K38/22
A61P3/04
A61P1/14
A61K31/7105
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561918
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2021087066
(87)【国際公開番号】W WO2022136417
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】20306660.0
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】518338518
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE
(71)【出願人】
【識別番号】507091037
【氏名又は名称】サントレ オスピタリエ レジョナル ユニヴェルシテル ドゥ リール
(71)【出願人】
【識別番号】523236113
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・アラス
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER D‘ARRAS
(71)【出願人】
【識別番号】523236124
【氏名又は名称】シュヴ・サントル・オスピタリエ・ユニヴェルシテール・ヴァルドー
【氏名又は名称原語表記】CHUV CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE VAUDOIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】プレヴォ,ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】ピッテロウド,ネリー
(72)【発明者】
【氏名】ジャコビニ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】レイセン,ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァ,マウロ・セルジョ・バティスタ
(72)【発明者】
【氏名】フロラン,ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】インバルノン,モニカ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA03
4C084BA44
4C084DB10
4C084NA14
4C084ZA69
4C084ZA70
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA69
4C086ZA70
(57)【要約】
本発明は、肥満(過食)及び食欲不振(摂食不足)などの食物摂取関連障害関連障害の処置のためのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)のパルス投与に関する。本発明者らは、GnRH放出が阻害されたGnRHニューロンにおいてBoNT/Bを発現する変異体マウスの集団(Gnrh::cre;iBot過体重)が、思春期の開始に至らずかつ低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を示しただけでなく、過体重及び高レプチン血症を発症したことを示した。意外なことに、本発明者らは、変異体マウスにおける体重の増加が、食物摂取の有意な減少にもかかわらず、成人期においても継続したことを見出した。肥満のマウスモデルを用いて、本発明者らは、パルスLH分泌の変化したパターン、及びLHパルスの頻度が、体重及び肥満性と逆相関していることを観察し、これは、動物の体重が重ければ重いほど、GnRH/LHパルスパターンがより大きく変化したことを示している。本発明者は更に、パルスGnRH処置が、肥満マウスにおいて対照/リーンパターンのGnRH/LH放出を回復させることを可能にすること、及び、肥満マウスにおけるネイティブなGnRHペプチドの「リーンパターン」のこのパルス投与が、リーンマウスに匹敵するレベルまでそれらの累積食物摂取を正常化したことを示した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス投与により投与される、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の処置に使用するためのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)。
【請求項2】
miR-200、miR-200を模倣する化合物及び/又はmiR-155、miR-155を模倣する化合物からなる群において選択される、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の処置に使用するための化合物。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか1項に記載される用途のための、GnRH、又はmiR-200、miR-200を模倣する化合物、及び/又はmiR-155、miR-155を模倣する化合物からなる群において選択される化合物であって、前記食物摂取関連障害が、1)肥満、肥満関連疾患、過体重又は過食、及び2)食欲不振悪液質症候群(ACS)、神経性食欲不振症、低体重又は摂食不足からなるリストから選択される、GnRH又は化合物。
【請求項4】
請求項3に記載される用途のための、GnRH、又はmiR-200、miR-200を模倣する化合物、及び/又はmiR-155、miR-155を模倣する化合物からなる群において選択される化合物であって、前記食物摂取関連障害が、肥満である、GnRH又は化合物。
【請求項5】
請求項3に記載される用途のための、GnRH、又はmiR-200、miR-200を模倣する化合物、及び/又はmiR-155、miR-155を模倣する化合物からなる群において選択される化合物であって、前記食物摂取関連障害が、食欲不振悪液質症候群(ACS)又は神経性食欲不振症である、GnRH又は化合物。
【請求項6】
請求項1及び3~5のいずれか1項に記載される用途のためのGnRHであって、前記患者が、男性である、GnRH。
【請求項7】
請求項6に記載される用途のためのGnRHであって、前記パルス投与が、120分毎に25ng/kgのGnRHの投与に相当する、GnRH。
【請求項8】
請求項1及び3~5のいずれか1項に記載される使用のためのGnRHであって、前記患者が、女性である、GnRH。
【請求項9】
請求項8に記載される用途のためのGnRHであって、前記パルス投与が、90分毎に75ng/kgのGnRHの投与に相当する、GnRH。
【請求項10】
ゴナドレリンである、請求項1及び3~9のいずれか1項に記載される用途のためのGnRH。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、肥満(過食(overeating))及び食欲不振(摂食不足(undereating))などの食物摂取関連障害を処置するための新規な治療方法に関する。具体的には、本発明は、食物摂取行動を制御する(減少させる又は上昇させる)ための、食物摂取関連障害の処置のためのゴナドトロピン放出性ホルモン(GnRH)のパルス(pulsatile)投与に関した。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
肥満は、米国及び世界を通じて有病率が増加している深刻な健康問題として広く認識されている。1998年の国立衛生研究所(National Institute of Health(NIH))による成人の過体重及び肥満に対する識別、評価及び治療に関する臨床ガイドライン(Clinical Guidelines on the Identification,Evaluation and Treatment of Overweight and Obesity in Adults)によると、米国では推定9700万人が、過体重又は肥満のいずれかに分類されている。肥満に関連する医療費及びその他の費用は、この20年でかなり上昇している。更に、犬及び猫などの多くのペット又は愛玩動物が肥満になっており、それらの飼い主は、肥満及びそれに伴う医学的問題を治療するために獣医学的処置を受ける場合がある。
【0003】
肥満の処置に使用されてきた、又は現在使用されている薬剤には、フェニルプロパノールアミン、デクスフェンフルラミン、フェンテルミン/フェンフルラミン、シブトラミン、及びオルリスタットが挙げられる。残念なことに、全てのこれらの薬剤は、重篤な副作用を有し、そしてデクスフェンフルラミン及びフェンフルラミンは、一部の少数の患者において心臓弁膜症に関連する毒性のために使用が中止されている。
【0004】
したがって、肥満を処置するためのより安全且つ効果的な化合物が、治療上必要とされている。
【0005】
生殖機能は、全ての脊椎動物において、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を合成し且つ放出する特殊なニューロンのグループによって中心的に調整され、視床下部-下垂体-性腺(HPG)軸によって厳密に制御される。GnRHニューロンは、鼻中で生じ、且つ胚発生中に前脳に移動する比較的小さなニューロン集団を含む。これらのニューロンは、大部分が、正中隆起(ME)に向かって線維の投射(fiber projections)を伸ばし、ここでGnRHは、下垂体門脈系にパルス方法で放出される(1)。下垂体前葉において、GnRHパルスは、黄体形成ホルモン(LH)及び卵胞刺激ホルモン(FSH)の、両方のゴナドトロピンの分泌を促進する。次いで、LH及びFSHは、性腺における下流に作用し、両方の性における性腺の発達、配偶子形成及びステロイド産生、並びに女性における排卵を調節する。驚くべきことに、LH分泌は、GnRHのパルスに対して1対1の比率を伴うパルス状であり、それはHPG軸が正常に機能するために非常に重要である(2)。GnRH/LHのパルス放出の障害(Derangement)は、生殖障害及び不妊症の一因となる(3、4)。更に、GnRHのパルス投与は、GnRH欠乏又はGnRH機能障害に起因する稀な生殖障害である、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を有する患者における生殖能力を成功裏に回復させることが証明されているが(5)、神経性食欲不振症の患者を含む視床下部性無月経症を有する患者においても成功裏に回復させることが証明されている(Germain N. et al. Fertil Steril. 2017 Feb;107(2):502-509)。
【0006】
性の発達及び生殖能力はまた、代謝状態にも大きく依存しており、そして哺乳類の種の生殖の成功及び生存を決定する。生殖の調節における重要な役割の他に、GnRHが、代謝基質の感知を含む多種多様な非生殖機能にも関与している証拠が増えている(6)。高透過性の有窓血管の存在を特徴とする、終板の脈管器官(OVLT)において、GnRHニューロンは、血液脳関門(BBB)の外側に樹状突起を伸ばしている(7)。この血液由来の分子へのアクセスは、GnRHニューロンが、通常BBBを通過しない重要な循環代謝指標を直接感知することを可能にし得る。これらの発見は、GnRHニューロンがグルコース感知性ニューロンであり得ることを示すデータ(8)とともに、GnRHニューロンがグルコース感知性ニューロンとして機能し、したがって代謝及び生殖機能を調整するにおいて中枢的な役割を果たし得ることを示唆する。
【0007】
栄養不足及び栄養過多の両方は、ゴナドトロピンの抑制されたレベル及びLH放出のパルスパターンの崩壊に関連することが知られている。生殖軸におけるこれらの代謝関連の変化は、性腺機能低下症をもたらす可能性がある(9)。栄養不足の場合、性腺機能低下症の存在は、神経ホルモンのパルス放出を調節することで知られる脂肪組織(10、11)により分泌されるアディポカインであるレプチンの欠乏に起因する可能性がある(12)。動物及びヒトの両方で、性成熟と思春期の年齢は、暦年齢よりも、特に女性では、体重及び肥満性により関連していると考えられ、そして体重不足の個体は正常体重の個体よりも性成熟に達するのが遅くなる(13、14)。思春期後の年齢では、重度の栄養不足は、月経障害(15)、女性における思春期前のような子宮と卵巣の外観(16)、及び両方の性におけるゴナドトロピンのより低い循環レベルと関連している。栄養過多及び肥満の場合、性腺機能低下症は、頻繁に観察される共通の要素であり、大幅な体重減少により逆転が可能である。男性では、低い性ホルモン結合性グロブリン(SHBF)の循環レベル及び遊離テストステロンの循環レベルを特徴とする肥満は、増加する体格指数(BMI)及び肥満性の増加と逆相関すると考えられる(17)。レプチン欠乏のマウスモデル(ob/ob)及びレプチンをコードする遺伝子(LEP)における特異的な機能喪失変異を有するヒトの両方は、いずれも性成熟に到達することができず、そして有精になることができない。(18、19)。
【0008】
逆に、生殖軸の適切な機能化は代謝状態に調節的な影響を及ぼすと考えられる。性腺機能低下症自体は、肥満の重要なリスク因子であることが示唆されており、そして肥満性の増加につながる可能性がある(20、21)。しかし、本発明者の結果は、現在の定説とは対照的に、性腺ステロイドが、生殖能力と代謝障害を結びつける要としては作用しないが、GnRHニューロン自体、特にGnRH放出のパターンが、このプロセスに積極的な役割を果たし得ることを強く示唆する。
【0009】
GnRHニューロンにおけるニューロピリン-1受容体(Nrp1)の重要性に焦点を当て、胚発生中のGnRHニューロンが鼻から前脳への移動に関与したことが示されている受容体が(Hanchate, 2012)、この事実に対する最初のヒントを提供した。GnRHニューロンにおけるNrp1の選択的ノックアウトは、GnRH系の発生に対するこの受容体の発現の重要性を明らかにしたが、予想外に、思春期前の体重増加の制御におけるHPG軸の重要性も指摘した。GnRHニューロンにおけるNrp1の遺伝的欠失を有する変異マウス(Gnrh::cre;Nrp1loxP/loxP)は、脳内におけるより多いGnRHニューロンの数、早発性思春期及び体重増加及び肥満性を示した(22)。全体として、これらの結果は、生殖軸、特にGnRHニューロンの中枢活性化が、思春期前後の体重増加を厳密に制御できることを示唆する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、過食及び摂食不足のような食物摂取を制御するための代替的且つ改良された組成物及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
したがって、本発明は、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の予防又は治療に使用するためのGnRHに関連し、ここで前記GnRHは、パルス投与によって投与される。
【0012】
本発明はまた、miR-200、miR-200を模倣する化合物、及び/又はmiR-155、miR-155を模倣する化合物からなる群において選択される、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の処置に使用するための化合物に関する。
【0013】
特定の実施態様では、食物摂取関連障害は、1)肥満、肥満関連疾患、過体重又は過食、及び2)食欲不振悪液質症候群(ACS)、神経性食欲不振症、低体重又は摂食不足からなるリストから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)GnRHニューロンにおけるBoNT/Bを発現する遺伝子モデルの概略図である。(B)対照(Gnrh::cre)及び変異体(Gnrh::cre;iBot)マウスにおける正中隆起を含む生視床下部外植片からのKCl誘導性GnRH放出である。
図2】(A)腟口を示す、対照(Gnrh::cre)マウス及び変異体(Gnrh::cre;iBot)マウスの累積パーセンテージ(左)、並びにそれに相当する棒グラフ(右)である。(B)最初の発情期を経て、思春期の開始に至る対照(Gnrh::cre)マウス及び変異体(Gnrh::cre;iBot)マウスの累積パーセンテージである。
図3-1】(A)対照群(Gnrh::cre)マウス及び変異体の両群(Gnrh::cre;iBot)のマウスにおける発情周期プロファイルの代表的な例である。Di:発情休止期、Es:発情期estrus、Pro:発情前である。
図3-2】(B)雄誘導性LHサージプロトコルに供された雌の平均子宮重量(1g体重あたりのmg)である。1元配置分散分析(ANOVA) F(2、20)=23.36、p<0.0001、過体重Gnrh::cre対他の群p<0.0001(***)である。(C)雄臭に曝露した後の血漿LHレベル。ND:「検出されず」。
図3-3】(D)GnRH注射前後の血漿LH値は、Gnrh::creiBotマウスにおいて下垂体機能がインタクトであることを示している。(E)対照(Gnrh::cre)マウス及び変異体の両群(Gnrh::cre;iBot)のマウスにおける卵巣の平均サイズである。
図4】(A)対照(Gnrh::cre)マウス及び変異体の両群(Gnrh::cre;iBot)のマウスの生後発育の間の体重曲線である。繰り返し測定分散分析 F(2、18)=81.12、p<0.0001である。(B)対照(Gnrh::cre)マウス、変異体の両群(Gnrh::cre;iBot)のマウス及び卵巣切除された(OVX)変異体マウスの循環血漿レプチンのレベルである。
図5】(A)対照(Gnrh::cre)雄性マウス、卵巣切除された対照(Gnrh::cre)(OVX)の雄性マウス及び突然変異体の両群(Gnrh::cre;iBot)の雌性マウスの食物摂取量である。(B)対照(Gnrh::cre)の雄性マウス、精巣切除された対照(Gnrh::cre)(ORX)及び突然変異体の両群(Gnrh::cre;iBot)の雄性マウスの食物摂取量である。
図6】使用したマウスの代謝表現型である。(A)リーンマウス及び肥満マウスの体重。対になっていない両側スチューデントのt検定、n=7及び8である。(B)痩せたマウスと肥満のマウスの脂肪量の相対的なパーセンテージである。対になっていない両側スチューデントのt検定、n=7及び8である。
図7-1】(A~B)リーン(A)及び肥満(B)マウスの代表的なパルスプロファイルである。
図7-2】(C)リーンマウス及び肥満マウスにおける平均LH値である。対になっていない両側スチューデントのt検定、n=7及び8。(D)リーンマウス及び肥満マウスの平均基礎LH値である。マン・ホイットニーU検定(Mann-Whitney U test)、n=7及び8。(E)LHの累積応答である。対になっていない両側スチューデントのt検定、n=7及び8。
図8】(A)肥満マウスにおける体重とLHパルス頻度との間の相関関係である。スピアマン相関分析、n=8。(B)肥満マウスにおける相対脂肪重量とLHパルス頻度と間の相関関係である。スピアマン相関分析、n=8。
図9】Lutrelef又はビヒクル溶液のパルス投与を受けたリーンマウス及び肥満マウスの累積食物摂取量である。2元配置分散分析 F(42,140)=1.79;p=0.007(時間×列因子)、n=3,4,3,4。
図10-1】過体重のGnrh::Cre;iBot雌性マウスにおけるLutrelef処置後の体重(A)、RER(B及びC)、及び累積食物摂取量(D及びE)の変化である。マン・ホイットニーU検定、n=3、2及び3。
図10-2】過体重のGnrh::Cre;iBot雌性マウスにおけるLutrelef処置後の体重(A)、RER(B及びC)、及び累積食物摂取量(D及びE)の変化である。マン・ホイットニーU検定、n=3、2及び3。
図11】リーン過剰のGnrh::cre;iBotの雄性マウスにおけるLutrelef処置後の体重(A)及び累積食物摂取量(B及びC)の変化である。n=3、2及び1。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の説明
食物摂取関連障害の処置の方法
本発明は、食物摂取関連障害を処置するための方法及び医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明者らは、GnRH放出が阻害されているGnRHニューロンにおいてBoNT/Bを発現している変異マウス(Gnrh::cre;iBot 過体重)の集団(図1)は、思春期の開始に至らない(図2)だけでなく、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(図3)を示すが、過体重及び高レプチン血症も発症する(図4)ことを実証した。意外なことに、本発明者らは、変異マウスにおける体重の増加が、生殖腺とは独立した現象である、食物摂取における有意な減少(図5)にもかかわらず、成人期においても持続することを見出した。まとめると、これらの結果は、GnRHニューロンが性成熟及び生殖能力、並びに代謝との間の連結を確立することを示している。
【0017】
本発明者らは、肥満のマウスモデル(図6)を用いて、パルスLH分泌の変化したパターンを観察し、そしてLHパルス頻度が、体重及び肥満性と逆相関していること(図8)を観察して、動物の体重が重ければ重いほど、GnRH/LHパルスパターンが大きく変化することを実証した。
【0018】
本発明者らは更に、パルスGnRH処置が、肥満マウスにおいて、対照(control)/リーン(lean)パターンのGnRH/LH放出を回復させることを可能にし、そして肥満マウスにおけるネイティブなGnRHペプチドの「リーンパターン」のこのパルス投与が、リーンマウスに匹敵するレベルまで累積食物摂取を正常化する一方、ビヒクル溶液を注入されたそれらの同腹仔と比較して、リーンマウスにより摂取された食物の量には観察可能な影響を及ぼさないこと(図9)を実証した。
【0019】
したがって、本出願は、以下のことを示す:
GnRH分泌の欠乏は、思春期/生殖能力の喪失だけでなく、代謝障害にも関与しており、GnRHニューロンは、性成熟及び生殖能力、並びに代謝との間の連結を確立し;
・GnRH/LHのパルスパターンは、肥満のマウスモデルで変化し、そしてLHパルス頻度は体重及び肥満性と逆相関し;
・パルスGnRH処置は、肥満マウスにおいて、累積食物摂取をリーンマウスに匹敵するレベルに正常化させ、それによりこのモデルにおける代謝障害を回復させることを可能にする。
【0020】
したがって、理論に縛られることなく、本出願は、GnRHの欠乏が、代謝障害が過体重又は低体重と関連する食物摂取関連障害の病理学的経路に関与していることを示す。したがって、これらの食物摂取関連障害におけるパルスGnRH処置は、食物摂取行動を回復すること(減少する又は上昇する)を可能にする。実際、GnRHの欠乏は、食欲不振と関連しているが(図5)、過体重をもたらし得る(図4)。これは、GnRHが、食物摂取を制御する(そして、図5は、この効果が性腺とは無関係であることを示している)だけでなく、GnRHの欠乏が、食物摂取と代謝の間の顕著な非連結も引き起こし得ることを実証している。一方、肥満マウスでは、増加した体重及び脂肪重量は、体重の増加と共に減少し(図8)、そしてこれらのマウスにおけるGnRH送達の「リーンパターン」を回復させる頻度を有するGnRH/LH放出のパターンの変化と関連して(図7)、食物摂取を正常化させるように見える。(図9)。
【0021】
したがって、本出願は、GnRHの代替え(パルス投与を用いる)処置が、肥満(過食)又は食欲不振(摂食不足)のような食物摂取関連障害における代謝障害を回復させることを可能にすることを実証する。
【0022】
したがって、本発明は、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の処置に使用するためのGnRHに関し、ここで、前記GnRHは、パルス投与によって投与される。
【0023】
具体的には、本発明は、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の処置に使用するためのGnRHに関し、ここで、前記GnRHは、パルス投与によって投与され、前記食物摂取関連障害は、1)肥満、肥満関連疾患、過体重又は過食、及び2)食欲不振悪液質症候群(ACS)、神経性食欲不振症、低体重又は摂食不足からなるリストから選択される。
【0024】
本発明はまた、患者へのGnRHのパルス投与を含む、それを必要とする患者において食物摂取関連障害を処置する方法に関する。
【0025】
GnRHは、視床下部に位置するGnRHニューロンからパルス方法で放出される神経ホルモンである。GnRHの発現は、下垂体前葉からの黄体形成ホルモン(LH)及び卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を制御する。異なるGnRHパルス頻度及び振幅は、FSH及びLHの分泌パターンを変化させる。GnRHは、デカペプチドである。本発明の文脈において、「GnRH」は、上記のGnRHデカペプチド、及び遊離塩基、塩、又はそれらの誘導体、同族体、若しくは類似体を含む任意の水溶性のイオン化可能な形態のGnRHを指す。特定の実施態様では、「GnRH」は、ゴナドレリンを指し、そして具体的には、以下を指す:
・FACTREL(商標登録)、HRF(商標登録)、及びLUFORAN(商標登録)として市販されているGnRH塩酸塩(HCl);又は
・LUTRELEF(商標登録)、LUTREPULSE(商標登録)、KRYPTOCUR(商標登録)、LHRHFERRING(商標登録)、LUTAMIN(商標登録)、RELISORML(商標登録)、CYSTORELIN(商標登録)若しくはRELISORM(商標登録)として市販されているGnRHアセタート/ヂアセタート。
【0026】
ゴナドレリンは、ヒト視床下部において合成される内因性GnRHと同じアミノ酸配列を有する合成デカペプチドであり、したがって、内因性GnRHと同じ薬理学的及び毒性学的プロファイルを有する。
【0027】
本発明の文脈では、GnRHは、「パルス」方法で投与される。前述のように、GnRHは、特定のパルスの周波数及び振幅で自然に分泌される。前記頻度及び振幅は、種、性別及び年齢によって異なる。本発明の文脈では、「パルス」投与は、患者と同じ種及び性別の中年成人(すなわち、ヒトでは20歳と30歳の間)の本来の内因性GnRHパルスピーク、すなわち、患者と同じ種及び性別の中年成人において観察されるGnRHの頻度及び振幅を再現する。パルスGnRH投与は、例えばカルマン症候群(Boehmら、2015;又は、例えば、Leyendeckerら、1980;Schoemakerら、1981;Reidら、1981;Keoghら、1981、Hayesら、2013;或いは、米国国立医学図書館の登録番号NCT00383656で参照される進行中の臨床研究を参照のこと)のような、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に起因する無月経及び不妊などの生殖障害の処置のために一般的に使用される。したがって、当業者は、内因性GnRHパルスピークに達するために使用される投与の量/頻度を知っている。
【0028】
典型的には、ヒトの内因性GnRHパルスピークは、1ピークあたり60から180分毎に、1パルスあたり25から600ng/kgまで変化する(Hayesら、2013を参照のこと)。
【0029】
典型的には、男性のGnRHパルスピークは、60から180分毎に10から40ng/kg、特に90から150分毎に20から30ng/kgのGnRHの投与に相当する。男性における典型的なGnRHパルスピークは、120分毎に25ng/kgのGnRHである(Boehmら、2015を参照のこと)。
【0030】
典型的には、女性のGnRHパルスピークは、60~120分毎に50から100ng/kgのGnRHの投与、特に80から110分毎に65から85ng/kgのGnRHの投与に相当する。女性における典型的なGnRHパルスピークは、90分毎に75ng/kgのGnRHである(すなわち、90分ごとに3μgから10μg、Boehmら、2015又は臨床試験NCT00383656を参照のこと)。
【0031】
当業者は、前記パルスGnRHを患者に投与する方法を知っている。GnRHは、典型的には、経皮、経口、又は非経口投与を介して投与される。本明細書で使用されるとき、用語「非経口」は、皮下注射、静脈内注射、動脈内注射、腹腔内注射、髄腔内注射、筋肉内注射、並びに注入注射を含む。典型的には、GnRHは、薬学的に許容され得る賦形剤と組み合わせて、経皮又は非経口投与に適した治療用組成物を形成する。
【0032】
典型的には、GnRHは、上記の内因性GnRHパルスピークを再現するように、特定の間隔でGnRHボーラスを送達するポンプ(例えば携帯型注入ポンプ)のような経皮送達システムを介して投与される。Ferring Pharmaceuticalsにより製造及び商品化されているLUTREPULSE(商標登録)システムは、そのようなポンプの一例である。他の適切なポンプは、例えば、国際公開第2007/041386号に基づいて公開された国際特許出願又は米国特許第4,722,734号;第5,013,293号;第5,312,325号;第5,328,454号;5,336,168号;及び第5,372,579号に開示されている。
【0033】
或いは、GnRHは、移植されたGnRH産生ニューロンを介して投与され得る。この実施態様によれば、GnRH産生ニューロンは、患者の本来のGnRHニューロンを置換するように患者に移植され、それによりGnRHの不足が改善される。本出願の実施例の節で実証示されているように、GnRH分泌ニューロンを移植することをベースにした細胞治療は、パルスGnRH分泌が回復することを可能にし、Ts65Dnマウスにおける嗅覚及び認知関連の障害を回復させる。
【0034】
Lundら(2013)において説明されているように、ヒト多能性幹細胞(hPSCs)、そして特にヒト誘導多能性幹細胞(hiPSCs)、例えば健康なドナー線維芽細胞から確立されたhiPSCsからGnRH分泌ニューロンを発現させることが可能である。そのようなGnRH分泌ニューロンの産生は、ヒト胚の破壊を伴わない。
【0035】
本出願全体をとおして説明されているように、本発明は、食物摂取関連障害、特に代謝機能障害に関連する食物摂取関連障害を処置するためにGnRHパルス分泌を回復させることを目的とする。GnRH発現は、いくつかのmiRNAの作用を介して調節される。具体的には、miRNA-200ファミリー及びmiR-155のメンバーが、GnRHプロモーター活性化因子の2つの重要なリプレッサーである、Zeb1及びCebpbをそれぞれ調節することが知られている(Messinaら(2016)並びに参考の国際公開第2017/182580号で公開された国際特許出願を参照のこと)。したがって、本発明者らは、miRNA-200ファミリーメンバー(「miR-200」と呼ばれる)及び/又はmiR-155を過剰発現させることによって、患者におけるパルスGnRH発現を回復させることが可能であることを実証した。本発明者らは以前、ダウン症候群マウスモデルにおいて、miR-200の視床下部での過剰発現が、匂いを識別する能力と新たな対象を認識する能力の両方の救済をもたらすことを具体的に実証した(国際公開第2020/221821号を参照のこと)。したがって、更なる実施態様では、本発明は、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の処置に使用するためのmiR-200及び/又はmiR-155に関する。
【0036】
特定の実施態様では、本発明は、miR-200、miR-200を模倣する化合物、及び/又はmiR-155、miR-155を模倣する化合物からなる群において選択される、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の処置に使用するための化合物に関する。
【0037】
特定の実施態様では、食物摂取関連障害は、1)肥満、肥満関連疾患、過体重又は過食、及び2)食欲不振悪液質症候群(ACS)、神経性食欲不振症、低体重又は摂食不足からなるリストから選択される。
【0038】
本発明はまた、治療上有効な量のmiR-200、miR-200を模倣する化合物、及び/又はmiR-155、miR-155を模倣する化合物からなる群から選択される化合物の患者への投与を含む、それを必要とする患者において食物摂取関連障害を処置するための方法に関する。
【0039】
「治療上有効な量」は、患者に治療上の利益を与えるために必要な、すなわち、本症例では、前記患者におけるGnRHパルス分泌を回復させるために必要な、最小量の活性剤(すなわち、miRNA)の最小量を意図する。
【0040】
マイクロRNA(miR)は、生物学的プロセスの重要な調節因子として出現している小さな非コードRNAである。「マイクロRNA」、「miRNA」又は「miR」は、約18から約25ヌクレオチド長の非コードRNAを意味する。これらのmiRは、タンパク質をコードする遺伝子のイントロン由来、又はしばしば複数の、密接に関連するマイクロRNAをコードするポリシストロン性転写物由来の、miRNAをコードする個々の遺伝子を含む、複数の起源に由来することができる。
【0041】
miR-200ファミリーは、miR-200a(miRデータベース中の参照番号MI0000737又はEnsemblデータベース中の参照番号ENSG00000207607でアクセス可能なヒト配列)、miR-200b(miRデータベース中の参照番号MI0000342又はEnsemblデータベース中の参照番号ENSG00000207730でアクセス可能なヒト配列)、miR-200c(miRデータベース中の参照MI0000650又はEnsemblデータベース中の参照番号ENSG00000207713でアクセス可能なヒト配列)、miR-141(miRデータベース中の参照番号MI0000457又はEnsemblデータベース中の参照番号ENSG00000207708でアクセス可能なヒト配列)、及びmiR-429(miRデータベース中の参照番号MI0001641又はEnsemblデータベース中の参照番号ENSG00000198976でアクセス可能なヒト配列)を含有する。「miR-200」は、本明細書で上にリストしたmiR-200ファミリーの任意のmiRNAを指す。
【0042】
MiR-155は、miRデータベース中の参照番号MI0000681及びEnsemblデータベース中の参照番号ENSG00000283904に示される配列を有する。
【0043】
本発明の範囲内において、表現「miR-X核酸を模倣する化合物」は、前記miR-Xの本来存在する機能を発揮し、すなわち、その部位に特異的な標的核酸に結合し、そして前記標的核酸の発現をアップレギュレート又はダウンレギュレートする、前記化合物の特性を指す。
【0044】
これら全てのmiRNAは、当業者に公知である。これらは、それを必要とする患者においてパルスGnRH発現を回復させるために、インビボでの細胞の核への核酸の送達として公知の任意の手順による方法で投与され得る。具体的には、miR-200ファミリーメンバー(又はmiR-200を模倣する化合物)及びmiR-155(又はmiR-155を模倣する化合物)は、組換え技術を用いて投与され得る。例えば、上記のmiRを発現させるために、適切なベクターが宿主細胞に挿入され、その細胞中で発現されてもよい。
【0045】
本明細書で使用されるとき、用語「ベクター」は、ベクターが結合されている別の核酸を輸送することが可能な核酸分子を指す。適切なベクターの1つのタイプは、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス及びアデノ随伴ウイルス(AAV))である。
【0046】
本発明によれば、パルス状のGnRH、miR200及び/又はmiR155は、食物摂取関連障害の処置のために投与される。
【0047】
用語「食物摂取関連障害」又は「摂食障害」は、肥満(過食)又は食欲不振(摂食不足)のような、人の身体的及び/又は精神的健康に悪影響を及ぼす異常な食習慣を指す。それらには、人々が短期間に大量に食べる、過食症;人々が体重が増えることを恐れてほとんど食べず、そのために低体重になる、神経性食欲不振症;人々がたくさん食べて、そのために食物から逃れようとする、神経性過食症;人々が食べ物以外のものを食べる、パイカ;人々が食べ物を吐き戻す、反芻症候群;人々が心理的理由及び一群の他の特定の食餌障害又は摂食障害により、減少するか又は選択的な食物摂取を有する、回避性/制限性食物摂取障害(ARFID)が挙げられる(Arlington, VA American Psychiatric Association (2013)、及びDiagnostic Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.): pp. 329-35)。不安障害、うつ病及び薬物乱用は、摂食障害を有する人々の間で一般的である。これらの障害は、肥満、過体重又は過食を含む。
【0048】
特定の実施態様では、食物摂取関連障害は、1)肥満、肥満関連疾患、過体重又は過食、及び2)食欲不振悪液質症候群(ACS)、神経性食欲不振症、低体重又は摂食不足からなるリストから選択される。
【0049】
用語「肥満」は、体脂肪の過剰を特徴とする病態を指す。肥満の運用上の定義は、身長あたりの体重を身長(m)の二乗で割って(kg/m2)計算する、ボディマス指数(BMI)に基づいている。肥満は、それを除くと健康な対象が、30kg/m2以上のBMIを有する病態か、又は少なくとも一つの併存疾患を有する対象が、27kg/m2以上のBMIを有する病態を指す。「肥満の対象」は、それを除くと健康な、30kg/m2以上のBMIを有する対象か、又は少なくとも一つの併存疾患を有する27kg/m2以上のBMIを有する対象である。「肥満のリスクのある対象」は、それを除くと健康な、25kg/m2以上30kg/m2未満のBMIを有する対象か、又は少なくとも一つの併存疾患を有する25kg/m2以上27kg/m2未満のBMIを有する対象を指す。肥満に関連する増加したリスクは、アジア系の人々ではより低いBMIで発症する場合がある。日本を含むアジア及びアジア太平洋諸国では、「肥満」は、少なくとも一つの肥満誘導性又は肥満関連の併存疾患を有し、減量が必要な、又は減量によって改善されるであろう対象が、25kg/m2以上のBMIを有する病態を指す。
【0050】
これらの国々での「肥満の対象」とは、減量が必要か又は減量により改善されるであろう、少なくとも一つの肥満誘発性又は肥満関連の併存疾患を有し、25kg/m2以上のBMIを有する対象を指す。これらの国々では、「肥満のリスクのある対象」は、23kg/m2以上25kg/m2未満のBMIを有する人である。
【0051】
用語「肥満関連障害」は、肥満に関連し、肥満によって引き起こされるか、又は肥満に起因する障害を包含する。肥満関連障害の例としては、過食及び大食、糖尿病、高血圧、上昇した血漿インスリン濃度及びインスリン抵抗性、脂質異常症、高脂血症、乳房、前立腺、子宮内膜及び結腸がん、心疾患、心血管疾患、異常な心臓のリズム及び不整脈、心筋梗塞、うっ血性心不全、冠状動脈性心臓疾患、狭心症、脳梗塞、脳血栓症及び一過性脳虚血発作が挙げられる。その他の例としては、低下した代謝活性を示す病理学的状態又は無脂肪重量の総量に対する安静時エネルギー消費量のパーセンテージの低下が挙げられる。肥満関連障害の更なる例としては、シンドロームXとしても知られるメタボリック症候群、インスリン抵抗性症候群、II型糖尿病、空腹時血糖異常、耐糖能異常、血管系の全身性炎症などの炎症、アテローム性動脈硬化症、高コレステロール血症、高尿酸血症、並びに左室肥大などの肥満の二次転帰が挙げられる。肥満関連障害はまた、肥満及びメタボリック症候群に伴う肝硬変の増加原因である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などの肥満に関連する肝臓の異常も含む。実際、NAFLDは、単純な脂肪症として現れるか、又は炎症及び脂肪性肝炎(NASH)に向かって進行する可能性があり、そして20年後に20%の肝硬変のリスクを伴う。「脂質異常症」は、冠動脈疾患(CHD)の主要なリスク因子である。正常か又は上昇したかのどちらかのレベルの低密度(LDL)コレステロールを伴う、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールの低い血漿中のレベルは、ヒトにおけるアテローム性動脈硬化症及び関連する冠動脈疾患を発症する重要なリスク因子である。脂質異常症は、しばしば肥満と関連し、肥満によって引き起こされる。
【0052】
好ましい肥満関連障害は、具体的には、脂質異常症、インスリン非依存性真性糖尿病、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、冠動脈性心疾患、アテローム性動脈硬化症及び非アルコール性脂肪性肝疾患からなる群より選択されてもよい。
【0053】
好ましくは、肥満及び肥満関連疾患は、遺伝的起源のものではない。具体的には、好ましくは、過食、高脂肪食、及び/又は高血糖食により誘導される肥満及び肥満関連疾患が意図される。
【0054】
用語「悪液質」は、一般的な体調不良及び栄養不良の状態を指す。悪液質は、しばしば、悪性がんと関連し、且つ悪性がんにより誘導され、そして食欲の喪失、体重の減少、特にリーン体重、及び筋消耗を特徴とする。
【0055】
悪液質は、不随意な体重の減少を特徴とする症候群であり、そして脂肪及び骨格筋の両方の進行性減少、栄養摂取量を増加させても体重が減少する不応答性、上昇した安静時エネルギー消費量(REE)、減少したタンパク質合成、変化した炭水化物代謝、タンパク質分解のATP-ユビキチン-プロテアソーム経路を介した筋肉の異化亢進/増加した分解及び脂肪分解を介した脂肪の異化亢進/増加した分解、無力症、貧血、慢性疲労、悪心、並びに骨量の減少の1つ以上含んでもよい。典型的には、患者が悪液質と診断される前に、少なくとも5%又は5ポンドの疾患前の体重が失われていなければならない。
【0056】
もちろん、1つ以上の上記の症状は、基礎疾患又はそれに関連する病態、及び基礎疾患又は病態を処置するために対象が既に受けた処置によって、所与の対象において存在してもよく、又は存在しなくてもよい。上記の症状又は生理学的病態はまた、様々な程度で存在してもよい。悪液質は、食欲不振と関連してもよく、又は関連しなくてもよい。
【0057】
用語「神経性食欲不振症」は、しばしば単に「食欲不振」と呼ばれ、医学的又は心理学的要因によりもたらされるかどうかにかかわらず、単に食欲の喪失を指す。食欲不振は、しばしば進行がんを有する患者においてみられる悪液質と密接に関連し、一般的に進行がんの一因となる。
【0058】
食欲不振は、食欲喪失のための医学用語である。食欲不振の症状は、食物の味覚及び嗅覚の低下した感覚、早期の満腹感、空腹の減少した感覚、更には食物に対する徹底的な嫌悪感を含む。
【0059】
食欲不振を有する多くの人々は、実際には、低体重であるにもかかわらず、自分自身を過体重だと思っている。彼らは、しばしば低体重の問題を有していること否定する。彼らは、自ら頻繁に体重を測定し、少量の食事をし、且つ特定の食品のみを食べる。彼らの幾人かは、体重を減らすために、過度に運動したり、無理に吐いたり、下剤を使って減量する。合併症は、骨粗鬆症、不妊及び心臓障害などを含んでもよい。女性は、しばしば月経が止まる。
【0060】
食欲不振の原因は、現在不明である。痩身を価値あるものとする社会が、より高い疾患の発生率を有しており、文化的要因が関与しているようである(Attia E (2010). Annual Review of Medicine. 61 (1): 425-35)。食欲不振は、しばしば人生の大きな変化又はストレスを誘導する出来事の後に始まる。診断には有意な低体重が必要である。疾患の重症度は、body mass index(BMI)に基づいており、成人では、軽度の疾患では、17を超えるBMIを有し、中等度の疾患では、16から17のBMIを有し、重度の疾患では、15から16のBMIを有し、そして極端な疾患では、15未満のBMIを有する。小児では、しばしば、5パーセンタイル未満の年齢別のパーセンタイルのBMIが用いられる。
【0061】
世界的には、食欲不振は、2015年時点で290万人に影響を与えると推定されている(Vos T. et al (2016) Lancet. 388 (10053): 1545-1602)。欧米諸国では、女性の0.9%から4.3%、及び男性の0.2%から0.3%が人生のある時点で発症すると推定されている(Smink FR, et al. (2012). Current Psychiatry Reports. 14 (4): 406-14)。ある年には、若い女性の約0.4%が罹患し、そして男性よりも女性の方が一般的に10倍多く発症すると推定されている(Smink FR, et al. (2012). Current Psychiatry Reports. 14 (4): 406-14)。食欲不振は、しばしば10代又は若年成人期に発症する。食欲不振は、20世紀の間に一般的に診断されるようになったが、これがその頻度の増加によるものなのか、単に診断の改善によるものなのかは不明である。摂食障害はまた、自殺を含む他の幅広い原因による人々の死亡のリスクを増加させる。食欲不振を有する人々の約5%は、10年の間に合併症で死亡しており、これはほぼ6倍に上昇したリスクである(Espie J. et al (2015). Adolescent Health, Medicine and Therapeutics. 6: 9-16)。用語「神経性食欲不振症」は、1873年にWilliam Gullによってこの病態を説明するために最初に使用された(Gull WW (1997). Obesity Research. 5 (5): 498-502)。
【0062】
用語、食欲不振悪液質症候群(ACS)は、医師が食欲不振又は悪液質のいずれかを有する患者の診断として使用する総称である。したがって、本明細書で使用されるとき、ACSは、食欲不振又は悪液質を表す。ACSに関連するか、又はACSに関連する可能性が高い疾患又は病態としては、がん、AIDSなどの免疫不全症候群、ウイルス性、細菌性及び寄生虫性疾患を含む他の感染症、敗血症、関節リウマチ、及び腸、肝臓、腎臓、肺及び心臓を含む慢性疾患(うっ血性心不全、慢性臓器不全を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。ACSはまた、加齢時の病態として、又は身体的外傷及び火傷の結果として現れる可能性がある。
【0063】
より具体的には、悪液質に典型的に関連する疾患、病態又は障害には、がん、AIDS、肝硬変、糖尿病、慢性腎不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性心不全、免疫系疾患(例えば、関節リウマチ及び全身性エリテマトーデスなど)、結核、嚢胞性線維症、消化器系障害(例えば、過敏性腸症候群及び炎症性腸疾患)、パーキンソン病、認知症、大うつ病、神経性食欲不振症、高齢の病状及びサルコペニアがあるが、これらに限定されない。より典型的には、悪液質に関連する疾患、病態又は障害には、がん、AIDS、肝硬変、慢性腎不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性心不全、免疫系疾患(関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど)、結核、嚢胞性線維症、消化器系障害(例:過敏性腸症候群、炎症性腸疾患)、パーキンソン病、認知症、大うつ病、神経性食欲不振症、高齢状態、サルコペニアなどがあるが、これらに限定されない。悪液質は、罹患率と死亡率に対して強力な独立リスク因子である。例えば、がん悪液質は、全がん患者の約半数に発症し、そして肺がん及び上部消化管がんを有する患者においてより一般的である。不随意な5%体重の減少を有するがん患者は、安定した体重を有する患者よりも短い中央値の生存率を有する。体重減少を有するがん患者は、化学療法への反応が不良であり得、そして増加した化学療法の処置を必要とし得る。がん患者の大部分が悪液質を有するという事実は、悪液質と死亡率との間の関係が実証されていることと相まって、悪液質を予防又は回復させ、そして追加治療を特定するためのモデルを提供する可能性のある根本的な機序及び治療法の研究に弾みをつけた。
【0064】
「基礎疾患又は病態」は、ACSに関連しているか、又はACSに関連している可能性が高い疾患又は病態である。
【0065】
本明細書で使用されるとき、癌食欲不振-悪液質症候群(CACS)は、ACSに関連しているか、又はACSに関連している可能性が高いあらゆる形態のがんを含むことを意図している。ACSに関連していることが最も頻繁であるがんの非限定的な例としては、胃がん、膵臓がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん肺がん、前立腺がん、結腸がん、非ホジキンリンパ腫、肉腫、急性非リンパ性白血病及び乳がんが挙げられる。
【0066】
一実施態様では、それを必要とする対象は、ACSを有すると診断されたか、又はACSに関連している可能性が高い疾患又は病態を有する対象である。癌又はAIDSを有する対象は、その可能性のある候補者の例である。
【0067】
一実施態様では、それを必要とする対象は、癌に罹患している対象である。別の実施態様では、それを必要とする対象は、癌に罹患しているが、まだACSを発症していない対象である。
【0068】
一実施態様では、それを必要とする対象は、エイズなどの免疫不全に罹患している対象である。
【0069】
更なる一実施態様では、それを必要とする対象は、ACSの発症前に彼/彼女の初期体重の少なくとも5%、8%、10%、12%、15%以上を喪失した対象である。別の一実施態様では、それを必要とする対象は、6か月以内に彼/彼女の体重の少なくとも5%、8%、10%、12%、15%以上を失った対象である。
【0070】
更なる一実施態様では、それを必要とする対象は、彼/彼女の食欲及び/又は体重が増加するのを望んでいる対象である。
【0071】
更に別の実施態様では、それを必要とする対象は、ACSに関連しているか、又はACSに関連する可能性が高い基礎疾患又は病態の治療を受けている対象である。
【0072】
したがって、本発明の一態様では、本医薬組成物は、予防手段としてACSの発症前にパルス投与により投与されるGnRHを含む。
【0073】
本発明の別の側面では、本発明の医薬組成物は、基礎疾患又は病態を処置するために使用される薬物(単体又は複数)と組み合わせて投与される。別の一態様では、本発明の組成物は、対象がACSと診断された後に投与される。別の実施態様では、本発明の組成物は、ACSの予防及び/又は治療に使用される1つ以上の他の薬物又は食品サプリメントと組み合わせて投与される。
【0074】
本発明の更なる目的は、それを必要とする哺乳類において、それを必要とする哺乳類における食欲不振、悪液質、低体重又は摂食不足を予防及び/又は治療するための方法に関し、その方法は、予防上又は治療上有効な量のGnRHを個人にパルス投与することを含む。
【0075】
最終的に、本発明はまた、前記患者へのGnRHのパルス投与を含む、それを必要とする対象において、食物摂取関連障害を予防及び/又は治療するための方法に関する。
【0076】
本発明の文脈において、用語「処置する」又は「処置」は、そのような用語が適用される障害又は病態、又はそのような障害又は病態の1つ以上の症状を回復する、緩和する、その進行を抑制するか、又は予防することを意味する。特に、その障害の処置は、それを必要とする哺乳類における食物摂取関連障害の処置からなってもよい。
【0077】
具体的には、肥満及び肥満関連障害の「処置」は、肥満対象の体重を減少又は維持するための本発明の化合物の投与を指してもよい。処置の1つの転帰は、肥満対象の体重を、本発明の化合物の投与の直前のその対象の体重と比較して減少させてもよい。処置の別の転帰は、食事、運動、又は薬物療法の結果としての以前に減少した体重が復活するのを防いでもよい。処置の別の転帰は、肥満関連疾患の発症及び/又は重症度を減少させることであってもよい。処置の別の転帰は、減量を維持することであってもよい。
【0078】
具体的には、肥満及び肥満関連障害の「予防」は、肥満の危険性のある対象の体重を減少又は維持するための本発明の化合物の投与を指してもよい。予防の1つの転帰は、肥満のリスクがある対象の体重を、本発明の化合物の投与直前のその対象の体重と比較して減少させることであってもよい。予防の別の転帰は、食事制限、運動、又は薬物療法の結果として以前に喪失した体重の復活を防ぐことであってもよい。予防の別の転帰は、肥満のリスクがある対象における肥満の発病の前に処置が投与された場合に、肥満が発症するのを防ぐことであってもよい。予防の別の転帰は、肥満のリスクがある対象における肥満の発症の前に処置が処置された場合に、肥満関連障害の発症及び/又は重症度を減少させることであってもよい。予防の別の転帰は、体重増加に対する抵抗力を延長させることである。予防のもう1つの成果は、体重の再増加を防ぐことであってもよい。更に、既に肥満の対象に対して治療が開始された場合、そのような処置は肥満関連障害の発症、進行又は重症度を予防してもよい。
【0079】
本発明によれば、用語処置される「患者」又は「対象」又は「個体」は、ヒト又は非ヒト哺乳類(げっ歯類(マウス、ラット)、ネコ、イヌ、ブタ又は霊長類など)を意図する。特定の実施態様では、患者は、ヒトである。
【0080】
医薬組成物及びキット
本発明はまた、それを必要とする患者における食物摂取関連障害の処置に使用するための上記で定義されたGnRH、及び任意選択的に薬学的に許容され得る担体を含む組成物に関し、ここで、前記GnRHは、パルス投与によって投与される。
【0081】
特定の一実施態様では、食物摂取関連障害は、1)肥満、肥満関連疾患、過体重又は過食、及び2)食欲不振悪液質症候群(ACS)、神経性食欲不振症、低体重又は摂食不足からなるリストよりを選択される。
【0082】
好ましくは、医薬組成物はまた、薬学的に許容され得る担体も含む。
【0083】
表現「薬学的に許容され得る担体」は、必要に応じて哺乳類、特にヒトに投与されたときに、有害な反応、アレルギー反応、その他の好ましくない反応を生じない分子自体及び組成物を指す。薬学的に許容され得る担体又は賦形剤は、あらゆるタイプの非毒性の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は製剤補助剤を指す。
【0084】
医薬組成物の形態、投与の経路、投与量及びレジメンは、本来、処置されるべき病態、病気の重症度、患者の年齢、体重及び性別などに依存する。
【0085】
本発明の医薬組成物は、特に、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、吸入/鼻腔内投与、経口及び直腸投与などのために製剤化され得る。
【0086】
本発明の医薬組成物は、注射されることが可能な製剤のために薬学的に許容され得るビヒクルを含有してもよい。これらは、具体的には、等張性、滅菌、生理食塩水(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウムなど若しくはそのような塩の混合物)、又は場合によって、滅菌水又は生理食塩水の添加によって注射溶液の構成が可能になる、乾燥した、特に凍結乾燥した組成物であってもよい。
【0087】
医薬組成物を調製するために、有効量の受容体作動薬が、薬学的に許容され得る担体又は水性媒体に溶解又は分散されていてもよい。
【0088】
注射用に適した医薬形態は、滅菌水溶液若しくは分散液;ごま油、ピーナッツ油若しくは水性プロピレングリコールを含む製剤;及び滅菌注射可能な溶液若しくは分散液の即席の調製のための滅菌粉末を含む。好ましくは、その形態は、滅菌されており、且つ容易に注射できる程度に流動性である。好ましくは、その形態は、製造及び保存の条件下で安定であり、そして細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して保護される。
【0089】
遊離塩基又は薬理学的に許容され得る塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適切に混合された水中で調製することができる。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物で及び油中で調製され得る。通常の保存及び使用条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための防腐剤を含有する。
【0090】
本発明の組成物は、中性又は塩の形で組成物に配合され得る。薬学的に許容され得る塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基で形成される)を含み、そして例えば、塩酸若しくはリン酸などの無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸で形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基から、そしてイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基からも誘導され得る。
【0091】
担体はまた、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体で有り得る。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散の場合に必要とされる粒径の維持により、そして界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどの様々な抗菌・抗真菌剤によってもたらされ得る。多くの場合、例えば、糖類又は塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことが好ましい。注射用組成物の延長された吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅延させる剤の組成物に使用することによってもたらされ得る。
【0092】
滅菌の注射可能な溶液は、必要とされる量の活性化合物を、適切な溶媒に、必要に応じて上記に列挙された他の様々な成分と共に組み込み、その後濾過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散液は、基本的な分散媒体及び上記に列挙されたものから必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルに、様々な滅菌された有効成分を組み込むことによって調製される。滅菌の注射可能な溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、あらかじめ滅菌濾過されたその溶液から、有効成分プラス任意の追加の所望の成分を生成する真空乾燥及び凍結乾燥する技術である。
【0093】
直接注射のためのより多くの、又は高濃度の溶液の調製も意図されており、ここでは、溶媒としてのDMSOの使用が、非常に迅速な浸透をもたらし、小さな腫瘍領域に高濃度の活性剤を送達することが想定される。
【0094】
本発明は、以下の図及び実施例によって更に例証される。ただし、これらの実施例及び図は、本発明の範囲を制限するいかなる方法においても解釈されるべきではない。
【実施例
【0095】
材料及び方法
動物
成体のリーン及び肥満の雄性マウスを、12時間の明暗サイクルを用いて、温度制御された部屋(21~22℃)で特定の病原体のない条件下で飼育した。動物には、食料と水を自由にアクセスできるように与えた。動物の体重及び食物摂取量は、一日一回のベースで追跡した。動物研究は、リール大学の実験動物のケア及び使用のための機関倫理委員会によって承認された;全ての実験は、2010年9月22日の欧州連合理事会指令(2010/63/EU)によって指定された動物使用のためのガイドラインに従って行った。
【0096】
体組成
体重量組成(リーン組織重量、脂肪重量、及び総水分量)は、核磁気共鳴(NMR)技術(Minispec mq series, Bruker, Billerica, MA, USA)による体組成スキャナーを使用して、メーカーの指示に従って分析した。
【0097】
パルスLH測定
マウスは、採血前に少なくとも10日間馴化した。血液サンプル(4μL)を6分間隔で2時間かけて(09:00と12:00時の間)、尾から採取し、50μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)-0.05%Tween20(pH=7.4)で希釈した。サンプルをドライアイスでスナップ冷凍し、-80℃で保存した。ELISAは、以前に発表されたプロトコル(Czieselskyら、2016)に従って行った。簡単に説明すると、高親和性結合96ウェルマイクロプレートを50μLの捕獲抗体抗ウシLHベータサブユニット(518B7;Lilian E. Sibley, UC Davisにより提供された)でコーティングした。LH-RP基準(Albert F. Parlow;National Hormone and Pituitary Program, Torrance, California, USAにより提供された)の連続希釈を使用して標準曲線を作成した。LHアッセイのアッセイ内変動係数は7.81%であり、アッセイ間変動係数は9.20%であった。
【0098】
ポンプの埋め込み
全てのマウスは、プログラム可能なマイクロインフュージョンポンプ(SMP-300, iPRECIO, Japan)を皮下移植され、ビヒクル又はLutrelef(0.25μgを10分以上かけて送達し、雄では3時間毎、雌では2時間毎)のパルス注入を受け、wtマウス(Czieselskyら、2016)で報告されているGnRH/LHのパルスを模倣し、残りの時間は基礎低用量注入速度(0.0025μg/10分)とした。
【0099】
統計
全ての統計分析は、Prism8(GraphPadソフトウェア)を用いて行い、そして適切な場合、正常性(Shapiro-Wilk検定)及び分散を評価した。統計的差異は、2つのグループを比較するために、対応のない両側スチューデントt検定を使用して評価した。正常性又は等分散の基準が満たされなかった場合、2つのグループの比較にマンホイットニーのU検定を使用した。相関を研究するのに適切な場合は、ピアソン(Pearson)又はスピアマン(Spearman)の相関分析を行った。2つのグループの比較には、テューキーの事後比較検定(Tukey’s post hoc tests)を伴う二元配置分散分析(ANOVA)を使用した。有意なレベルはp<0.05に設定した。データは平均値±S.E.Mで表す。
【0100】
実施例1
結果
有機体の発生におけるGnRHニューロン及びGnRHの意味を更に理解するために、活性依存性エキソサイトーシスは、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の神経毒血清型B(BoNT/B)の発現によって、GnRHニューロンにおいて選択的に遮断された(図1A)。脳におけるGnRHニューロンの移動及び分布を変えることなく、GnRHニューロンにおけるBoNT/Bの発現は、GnRH(図1B)及び他の共放出神経ペプチドの放出を阻害し、そしてそれによりGnRHが脳中及び下垂体中の両方でその下流の標的を標的とすることを防止する。興味深いことに、導入遺伝子の浸透度がより強い、GnRHニューロンにおいてBoNT/Bを発現する雌性変異体マウスの亜集団(Gnrh::cre;iBot 過体重)は、思春期の開始に至らず(図2A及び2B)、且つ低ゴナドトロピン性性腺機能低下症になるだけでなく(図3A~3E)、過体重及び高レプチン血症も発症した(図4A及び4B)。予想外のことに、本発明者らは、変異体マウスにおける体重の増加は、食物摂取量の有意な減少にもかかわらず成人期においても継続し、性腺とは独立している現象であることを見出した(図5A及び5B)。まとめると、これらの結果は、GnRHニューロンが、性成熟及び生殖能力、並びに代謝との間の関連を確立していることを指し示している。
【0101】
全体として、GnRHニューロンは、生殖能力と代謝との間の関連を構成する可能性があり、そしてGnRHニューロンの機能の変化が、生殖能力障害と代謝の併存症をもたらす可能性があることがますます明らかになっている。GnRH/LH放出のパルスパターンは、HPG軸及び生殖能力の正常な機能に重要であることはよく知られているが、最近では認知プロセスにも関与している(EP19305550.6を参照のこと)。しかし、食物摂取とエネルギー恒常性の調節におけるGnRH/LH放出のパルスパターンの重要性についてはほとんど知られていない。低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を有する患者において、GnRH/LHのパルスを回復させることにより生殖能力を回復することができ、栄養不足/栄養過多において、LH放出のパルスプロファイルの変化が観察されることを考慮して、本発明者らは、パルスGnRH/LH放出を回復させることが食欲などの代謝因子に影響を与える可能性があるかどうかを更に検討した。
【0102】
肥満マウス及び野生型同腹仔(図6A及び6B)を連続的な尾の先端の採血に供して、LH分泌のパターンを決定した。本発明者らは、肥満マウにおけるLH放出のパルスプロファイルの崩壊を観察して、有意に減少したLHの基礎値及び平均値(図7A~7D)並びに曲線下面積(図7E)によって測定されたLHの統合された応答の有意な減少を示した。更に、相関分析は、肥満マウスにおいて、LHパルスの頻度が体重(図8A)及び肥満性(図8B)と逆相関することを示し、動物が得た体重が重いほどGnRH/LHのパルスパターンがより変化することを実証した。肥満マウスにおけるGnRH/LH放出の対照/リーンパターンを回復させるために、本発明者らは次に、Lutrelef(3時間毎に10分かけて1パルスあたり0.25μgのGnRHを与えた)又はビヒクルのいずれかをマウスに送達する(すなわち、リーンマウスに見出される分泌のパターン)皮下プログラマブルミニポンプを移植した。Lutrelefは、低ゴナドトロピン性不妊症を成功裏に処置するために臨床的に使用されるネイティブなGnRHペプチドである(23、24)。このレジメンは14日間与えられ、その間体重及び食物摂取量が毎日追跡された。肥満マウスにおけるネイティブなGnRHペプチドの「リーンパターン」のパルス投与は、肥満マウスの累積食物摂取量をリーンマウスに匹敵するレベルまで正常化した一方、ビヒクル溶液を注入された同腹仔と比較して、リーンマウスにより摂食される食物の量には観察可能な影響を与えなかった(図9)。
【0103】
ここで、本発明者らは、リーンマウス中に見出されるパターンを有するネイティブなGnRHペプチドのパルス投与が、肥満マウスにより消費される食物の量を、そのリーン同腹仔マウスと同程度の値まで減少させることを実証した。GnRH放出のパルスパターンは、生殖能力にとってだけでなく、代謝の適応度にとっても重要であると考えられる。逆に、GnRH放出パターンの変化はエネルギー恒常性を損ない、そして代謝合併症をもたらす可能性がある。本発明者らの結果は、身体の恒常性におけるGnRHの以前は予想されなかった役割を強調するだけでなく、35年以上臨床において既に広く使用され、副作用を有さないことが証明されている内因性ペプチドを使用して、過食症を含む代謝障害新たな治療の道を開く。
【0104】
実施例2
定義:
用語 雌における「過体重」及び雄における「過体重」は用語「感受性のある」を包含し、そして用語「リーン」は用語「耐性のある」を包含する。
【0105】
結果:
BoNT/B発現に感受性のある、Gnrh::Cre;iBotマウスにおけるパルスGnRH放出を回復させることが(図1A)、それらの代謝表現型を修正するかどうかを決定するために、本発明者らは、15日間パルスLutrelefを送達するミニポンプを皮下移植した。興味深いことに、GnRHニューロンにおけるBoNT/B発現に感受性のある雌性マウスは、減少した食物摂食にもかかわらず過体重(図4A図10A)を示した一方(図5A)、毒素に耐性のある同腹仔よりも摂食が少ない、BoNT/Bに感受性のある雄性マウス(図5B)は、リーン過剰であることが見出され(図11A)、したがって性的に二型性の表現型を明確に示した。Gnrh::Cre;iBotに感受性のあるマウスにおけるネイティブなGnRHペプチドの「野生型パターン」のパルス投与は、雌(図10)及び雄(図11)の両方においてそれらの表現型を正常化した。
【0106】
Gnrh::Cre;iBotに感受性のある雌において、パルスLutrelef送達(2時間毎に1回のパルス)は、体重を減少させ(図10A)、呼吸交換比(RER:体内で消費される0に対する体内で生成されるC0の比率であり;それは、エネルギー恒常性の目的のために特定の基質の好ましい使用の同定を与える:高いRERは、身体がその代謝を操作するために炭水化物を消費することを示す一方で、低いRERは、身体が主に脂質を消費することを示す)を正常化し(図10B及び10C)、そして食物摂取が正常化した(図10D及び10E)。具体的には、RERのデータは、パルスLutrelef処置が、Gnrh::Cre;iBotに感受性のある雌性マウスにおける暗期、すなわち摂食期間中の炭水化物の使用を回復させることを示した(図10B)。ミニポンプの移植は、Gnrh::Creマウス又はGnrh::Cre;iBotに耐性のあるマウスのいずれにおいても、体重、RER、及び食物摂食量に変化をもたらさなかった。(図10A、10C及び10E)。
【0107】
Gnrh::Cre;iBotに感受性のある雄において、パルスLutrelef送達(3時間毎に1パルス)は、食物摂取量における15%の増加を誘導し(図11B及び11C)、そして体重を完全に回復させる(図11A)。ミニポンプの埋め込みは、Gnrh::Creマウス又はGnrh::Cre;iBotに耐性のあるマウスのいずれにおいても、体重、RER、及び食物摂取量に変化をもたらさなかった(図11A及び11C)。全体として、これらのデータは、GnRHニューロン機能、特にパルスGnRH放出が、食物摂取、体重バランス及びエネルギー代謝の適切な機能化の制御に密接に関与していることを強く示唆する。
【0108】
参考資料
本出願全体をとおして、様々な参考資料は、本発明が関連する技術の状態を記述している。これらの参考資料の開示は、参照により本開示に援用される。
【0109】
【表1】


図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
【国際調査報告】