(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アルファ粒子放射線療法の治療計画作成
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564264
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-09-01
(86)【国際出願番号】 IB2021061607
(87)【国際公開番号】W WO2022149024
(87)【国際公開日】2022-07-14
(32)【優先日】2021-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519371231
【氏名又は名称】アルファ タウ メディカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176418
【氏名又は名称】工藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】ケルソン イツァーク
(72)【発明者】
【氏名】アラジ リオル
(72)【発明者】
【氏名】ガット アムノン
(72)【発明者】
【氏名】ヘーガー ガイ
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC02
4C082AC03
4C082AC04
4C082AC05
4C082AC06
4C082AN02
4C082AN04
(57)【要約】
拡散アルファエミッタ放射線療法(DaRT)治療セッションを計画するための装置(100)。この装置は、出力インターフェース(110)と、複数のテーブルを含むように構成されたメモリ(112)とを含み、複数のテーブルは、源から娘放射性核種を放出する1つまたは複数のタイプのDaRT放射線療法源に起因する、DaRT放射線療法源に対する複数の異なる距離および角度に関する、特定の期間にわたる放射線の蓄積測度を提供する。さらに、プロセッサ(108)が、腫瘍内の複数のDaRT放射線療法源のレイアウトの記述を受け取り、レイアウトに応じて、腫瘍内の放射線量分布を、メモリ内のテーブルを使用して計算し、放射線量分布に応じて、治療に対するフィードバックを、出力インターフェースを通して出力するように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散アルファエミッタ放射線療法(DaRT)治療セッションを計画するための装置であって、
出力インターフェースと、
複数のテーブルを含むように構成されたメモリであり、前記複数のテーブルが、娘放射性核種を放出する1つまたは複数のタイプのDaRT放射線療法源に起因する、前記DaRT放射線療法源に対する複数の異なる距離および角度に関する、特定の期間にわたる放射線の蓄積測度を提供する、メモリと、
腫瘍内の複数のDaRT放射線療法源のレイアウトの記述を受け取り、前記レイアウトに応じて、前記腫瘍内の放射線量分布を、前記メモリ内の前記テーブルを使用して計算し、前記放射線量分布に応じて、前記治療に対するフィードバックを、前記出力インターフェースを通して出力するように構成されたプロセッサと
を備える、装置。
【請求項2】
前記メモリが、単一の源タイプに関する、異なる期間に対する複数のテーブルを含むように構成されており、前記プロセッサが、前記レイアウトの治療継続期間を決定し、前記治療継続期間に応じて、前記放射線量分布の計算に使用するテーブルを選択するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記メモリが、前記腫瘍の異なるゾーン内の単一の源タイプの源に対する複数のテーブルを含むように構成されており、前記プロセッサが、前記レイアウト内のそれぞれの源からの前記放射線量の計算に使用するテーブルを、前記源が位置する前記ゾーンに応じて選択するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記プロセッサが、源が位置する前記ゾーンを、前記源と前記腫瘍の縁との間の距離に応じて決定する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記線量がしきい値よりも低い前記腫瘍のエリアを識別し、前記識別されたエリア内の前記放射線量を前記しきい値よりも高くする前記レイアウトに対する変更を提案するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記プロセッサが、放射線量分布の前記計算を複数の異なる治療継続期間に対して繰り返し、前記計算に応じて前記継続期間のうちの1つを選択するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記テーブルによって提供された放射線の前記蓄積測度が、アルファ放射線だけによる蓄積放射線量を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記テーブルによって提供された放射線の前記蓄積測度が、アルファ放射線と電子放射線および光子放射線のうちの1つまたは複数とによる蓄積放射線量を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記テーブルによって提供された放射線の前記蓄積測度が、放射性核種の1つまたは複数の数密度を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
放射線療法治療セッションを計画する方法であって、
プロセッサによって、腫瘍内の複数のDaRT放射線療法源のレイアウトの記述を受け取ることと、
前記プロセッサによって、前記レイアウトに応じて、前記腫瘍内の放射線量分布を複数のテーブルを使用して計算することであり、前記複数のテーブルが、娘放射性核種を放出する1つまたは複数のタイプのDaRT放射線療法源に起因する、前記DaRT放射線療法源に対する複数の異なる距離および角度に関する、特定の期間にわたる放射線の蓄積測度を提供する、計算することと、
前記放射線量分布に応じて、前記プロセッサから、前記治療に対するフィードバックを出力することと
を含む、方法。
【請求項11】
前記放射線量分布を計算することが、前記レイアウトの治療継続期間を決定することと、前記治療継続期間に応じて、前記放射線量分布の計算に使用するテーブルを選択することとを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記放射線量分布を計算することが、前記レイアウト内のそれぞれの源からの前記放射線量の計算に使用するテーブルを、前記源が位置する前記腫瘍のゾーンに応じて選択することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
放射線量分布の前記計算を複数の異なる治療継続期間に対して繰り返すことと、前記計算に応じて前記継続期間のうちの1つを選択することとを含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
放射線療法治療セッションを計画する方法であって、
プロセッサによって、放射線治療を必要とする腫瘍の組織の複数のパラメータを受け取ることと、
前記プロセッサによって、前記腫瘍内に配置する拡散アルファエミッタ放射線療法(DaRT)源のレイアウトの指示を受け取ることと、
源の前記レイアウトに応じて、前記腫瘍内のラドン220放射性核種、鉛212放射性核種およびビスマス212放射性核種の分布を計算することと、
前記計算された分布に応じて、前記腫瘍内に放出されたアルファ放射線に由来する線量の分布を決定することと、
前記源に応じて、前記腫瘍内の電子および光子放射線量分布を決定することと、
前記アルファ、電子および光子放射線の前記決定された分布に応じて、前記放射線療法治療セッションの1つまたは複数のパラメータを設定することと
を含む、方法。
【請求項15】
ラドン220、鉛212およびビスマス212の前記分布を計算することが、前記腫瘍内のラドン220および鉛212の拡散係数の関数として実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ラドン220、鉛212およびビスマス212の前記分布を計算することが、鉛212の濃度と定数との積である漏れ係数を含む、鉛212の移動方程式を解くことによって実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記放射性核種の前記分布を計算することが、単一の源に関する前記放射性核種の分布を計算することと、前記レイアウト内の前記源の前記分布を合計することとを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記放射線療法治療セッションの1つまたは複数のパラメータを前記設定することが、前記源の放射能を選択することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記放射線療法治療セッションの1つまたは複数のパラメータを設定することが、前記源の前記レイアウトを調整することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記腫瘍内のラドン220、鉛212およびビスマス212の前記分布を計算すること、およびアルファ放射線の前記分布を決定することが、複数の異なる腫瘍タイプに対する放射線分布のテーブルを予め準備することと、前記テーブルのうちの1つのテーブルからの、前記レイアウトに整合する値を合計することによって、アルファ放射線の前記分布を計算することとを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
放射線分布のテーブルを予め準備することが、前記腫瘍タイプごとに、それぞれの治療継続期間に対する複数のテーブルを準備することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記テーブルを準備する対象の前記治療継続期間が、前記レイアウトの前記源の有効性の持続期間にわたって不均等に分布している、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記腫瘍内の放射性核種の前記分布を計算すること、およびアルファ放射線の前記分布を決定することが、前記決定を複数の異なる継続期間に対して繰り返すことを含み、前記放射線療法治療セッションの1つまたは複数のパラメータを設定することが、前記繰り返された決定に応じて、前記治療の継続期間を選択することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記レイアウトの前記指示を受け取ることが、前記源をその内部に有する前記腫瘍の画像を受け取ることと、前記画像に応じて、前記腫瘍内の前記源の位置を決定することとを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記電子放射線量分布および前記光子放射線量分布を決定することが、前記腫瘍内のラドン220、鉛212およびビスマス212の前記分布を無視する手法で実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
ラドン220放射性核種、鉛212放射性核種およびビスマス212放射性核種の前記分布を計算することが、鉛212の拡散係数に依存する少なくとも1つの方程式に基づいて計算することを含み、鉛212の前記拡散係数の値が、鉛212の拡散長の関数として計算される、請求項14~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
鉛212の前記拡散長に、0.2~0.4ミリメートルの範囲の値が割り当てられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
鉛212の前記拡散長に、前記腫瘍の組織タイプに応じた値が割り当てられる、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記腫瘍内のラドン220、鉛212およびビスマス212の前記分布を計算すること、およびアルファ放射線の前記分布を決定することが、有限要素を使用して方程式を数値的に解くことを含む、請求項14~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記腫瘍内のラドン220、鉛212およびビスマス212の前記分布を計算すること、およびアルファ放射線の前記分布を決定することが、有限要素2次元時間依存解を決定することを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記腫瘍内のラドン220、鉛212およびビスマス212の前記分布を計算すること、およびアルファ放射線の前記分布を決定することが、前記源の各々に対する前記源の外面と前記源の軸上の両方の境界条件を用いて、有限要素を使用して方程式を数値的に解くことを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記腫瘍内のラドン220、鉛212およびビスマス212の前記分布を計算すること、およびアルファ放射線の前記分布を決定することが、前記源の各々を取り囲むそれぞれの円筒形ドメインに対して有限要素を使用して方程式を数値的に解くことを含み、前記円筒形ドメインの外側では数密度がゼロに設定される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、放射線療法に関し、特に、放射線療法パラメータを選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルファ粒子は、悪性腫瘍を含む、一定のタイプの腫瘍の放射線療法のための強力な手段である。アルファ放射線療法源の1つのタイプは、治療目的に関して長すぎず、短すぎない半減期を有するラジウム224原子が装填された、本明細書ではアルファDaRT源とも呼ぶ、拡散アルファエミッタ放射線療法(DaRT:diffusing alpha-emitter radiation therapy)源である。
【0003】
Kelsonの米国特許第8,834,837号はDaRT治療の方法を記載している。
【0004】
腫瘍の治療が有効であるためには、治療に使用される密封小線源療法(brachytherapy)シードが、腫瘍を破壊するのに十分な数の粒子を放出すべきである。他方、患者の健康な組織を傷つけうるため、シードは、過量の粒子を放出すべきでない。
【0005】
Sgouros他の米国特許出願公開第2013/0165732号は、投与する放射性医薬品治療(radiopharmaceutical therapy)(RPT)の最適量を決定するためのコンピュータ化されたシステムを記載している。
【0006】
TG-43パブリケーション(publication)(Recommendations of the AAPM Radiation Therapy Committee Task Group No. 43, Med. Phys. 22: 209-234)は、さまざまな間質性密封小線源療法源に対する定量的線量測定データを計算するための必要な物理量(例えば空気カーマ強度(air kerma strength)、半径方向線量関数(radial dose function)、異方性関数(anisotropy function)、線量率定数(dose rate constant)など)を規定している。
【0007】
米国特許出願公開第2019/0099620号は、ターゲット領域に対する単位強度放出当たりの放射線の影響をターゲット領域の解剖学的構成に従って定量化する一組の影響パラメータに基づいて放射線療法治療計画を適合させることを提案している。
【0008】
米国特許出願公開2011/0184283号は、モンテカルロ法を使用し、特定の組織タイプに対する線量を計算する密封小線源療法治療計画作成システム(treatment planning system)(TPS)を記載している。
【発明の概要】
【0009】
本発明のいくつかの実施形態の一態様は、拡散アルファエミッタ放射線療法のパラメータを選択する方法であって、腫瘍放射線療法の線量分布を計算することと、その線量分布に基づいてパラメータを調整することとを含む方法に関する。
【0010】
したがって、本発明の実施形態によれば、拡散アルファエミッタ放射線療法(DaRT)治療セッションを計画するための装置であって、出力インターフェースと、複数のテーブルを含むように構成されたメモリであり、複数のテーブルが、源から娘放射性核種を放出する1つまたは複数のタイプのDaRT放射線療法源に起因する、DaRT放射線療法源に対する複数の異なる距離および角度に関する、特定の期間にわたる放射線の蓄積測度を提供する、メモリと、腫瘍内の複数のDaRT放射線療法源のレイアウトの記述を受け取り、レイアウトに応じて、腫瘍内の放射線量分布を、メモリ内のテーブルを使用して計算し、放射線量分布に応じて、治療に対するフィードバックを、出力インターフェースを通して出力するように構成されたプロセッサとを備える装置が提供される。
【0011】
任意選択で、メモリは、単一の源タイプに関する、異なる期間に対する複数のテーブルを含むように構成されており、プロセッサは、レイアウトの治療継続期間を決定し、治療継続期間に応じて、放射線量分布の計算に使用するテーブルを選択するように構成されている。任意選択で、メモリは、腫瘍の異なるゾーン内の単一の源タイプの源に対する複数のテーブルを含むように構成されており、プロセッサは、レイアウト内のそれぞれの源からの放射線量の計算に使用するテーブルを、源が位置するゾーンに応じて選択するように構成されている。任意選択で、プロセッサは、源が位置するゾーンを、源と腫瘍の縁との間の距離に応じて決定する。任意選択で、プロセッサは、線量がしきい値よりも低い腫瘍のエリアを識別し、識別されたエリア内の放射線量をしきい値よりも高くするレイアウトに対する変更を提案するように構成されている。
【0012】
任意選択で、プロセッサは、放射線量分布の計算を複数の異なる治療継続期間に対して繰り返し、計算に応じて継続期間のうちの1つを選択するように構成されている。任意選択で、テーブルによって提供された放射線の蓄積測度は、アルファ放射線だけによる蓄積放射線量を含む。
【0013】
任意選択で、テーブルによって提供された放射線の蓄積測度は、アルファ放射線と電子放射線および光子放射線のうちの1つまたは複数とによる蓄積放射線量を含む。任意選択で、テーブルによって提供された放射線の蓄積測度は、放射性核種の1つまたは複数の数密度(number density)を含む。
【0014】
さらに、本発明の実施形態によれば、放射線療法治療セッションを計画する方法であって、プロセッサによって、腫瘍内の複数のDaRT放射線療法源のレイアウトの記述を受け取ることと、プロセッサによって、レイアウトに応じて、腫瘍内の放射線量分布を複数のテーブルを使用して計算することであり、複数のテーブルが、源から娘放射性核種を放出する1つまたは複数のタイプのDaRT放射線療法源に起因する、DaRT放射線療法源に対する複数の異なる距離および角度に関する、特定の期間にわたる放射線の蓄積測度を提供する、計算することと、放射線量分布に応じて、プロセッサから、治療に対するフィードバックを出力することとを含む方法が提供される。
【0015】
任意選択で、放射線量分布を計算することは、レイアウトの治療継続期間を決定することと、治療継続期間に応じて、放射線量分布の計算に使用するテーブルを選択することとを含む。任意選択で、放射線量分布を計算することは、レイアウト内のそれぞれの源からの放射線量の計算に使用するテーブルを、源が位置する腫瘍のゾーンに応じて選択することを含む。任意選択で、この方法は、放射線量分布の計算を複数の異なる治療継続期間に対して繰り返すこと、および計算に応じて継続期間のうちの1つを選択することを含む。
【0016】
さらに、本発明の実施形態によれば、放射線療法治療セッションを計画する方法であって、プロセッサによって、放射線治療を必要とする腫瘍の組織の複数のパラメータを受け取ることと、プロセッサによって、腫瘍内に配置する拡散アルファエミッタ放射線療法(DaRT)源のレイアウトの指示を受け取ることと、源のレイアウトに応じて、腫瘍内のラドン220放射性核種、鉛212放射性核種およびビスマス212放射性核種の分布を計算することと、計算された分布に応じて、腫瘍内に放出されたアルファ放射線に由来する線量の分布を決定することと、源に応じて、腫瘍内の電子および光子放射線量分布を決定することと、アルファ、電子および光子放射線の決定された分布に応じて、放射線療法治療セッションの1つまたは複数のパラメータを設定することとを含む方法が提供される。
【0017】
任意選択で、ラドン220、鉛212およびビスマス212の分布を計算することは、腫瘍内のラドン220および鉛212の拡散係数の関数として実行される。任意選択で、ラドン220、鉛212およびビスマス212の分布を計算することは、鉛212の濃度と定数との積である漏れ係数(leakage factor)を含む、鉛212の移動方程式(migration equation)を解くことによって実行される。任意選択で、放射性核種の分布を計算することは、単一の源に関する放射性核種の分布を計算することと、レイアウト内の源の分布を合計することとを含む。
【0018】
任意選択で、放射線療法治療セッションの1つまたは複数のパラメータを設定することは、源の放射能を選択することを含む。任意選択で、放射線療法治療セッションの1つまたは複数のパラメータを設定することは、源のレイアウトを調整することを含む。任意選択で、腫瘍内のラドン220、鉛212およびビスマス212の分布を計算すること、およびアルファ放射線の分布を決定することは、複数の異なる腫瘍タイプに対する放射線分布のテーブルを予め準備することと、テーブルのうちの1つのテーブルからの、レイアウトに整合する値を合計することによって、アルファ放射線の分布を計算することとを含む。任意選択で、放射線分布のテーブルを予め準備することは、腫瘍タイプごとに、それぞれの治療継続期間に対する複数のテーブルを準備することを含む。任意選択で、テーブルを準備する対象の治療継続期間は、レイアウトの源の有効性の持続期間にわたって不均等に分布している。任意選択で、腫瘍内の放射性核種の分布を計算すること、およびアルファ放射線の分布を決定することは、決定を複数の異なる継続期間に対して繰り返すことを含み、放射線療法治療セッションの1つまたは複数のパラメータを設定することは、繰り返された決定に応じて、治療の継続期間を選択することを含む。
【0019】
任意選択で、レイアウトの指示を受け取ることは、源をその内部に有する腫瘍の画像を受け取ることと、画像に応じて、腫瘍内の源の位置を決定することとを含む。任意選択で、電子および光子放射線量分布を決定することは、腫瘍内のラドン220、鉛212およびビスマス212の分布を無視する手法で実行される。任意選択で、ラドン220放射性核種、鉛212放射性核種およびビスマス212放射性核種の分布を計算することは、鉛212の拡散係数に依存する少なくとも1つの方程式に基づいて計算することを含み、鉛212の拡散係数の値は、鉛212の拡散長の関数として計算される。任意選択で、鉛212の拡散長に、0.2~0.4ミリメートルの範囲の値が割り当てられる。任意選択で、鉛212の拡散長に、腫瘍の組織タイプに応じた値が割り当てられる。
【0020】
任意選択で、分布を計算することは、有限要素を使用して方程式を数値的に解くことを含む。任意選択で、分布を計算することは、有限要素2次元時間依存解を決定することを含む。任意選択で、分布を計算することは、源の各々に対する源の外面と源の軸上の両方の境界条件を用いて、有限要素を使用して方程式を数値的に解くことを含む。任意選択で、分布を計算することは、源の各々を取り囲むそれぞれの円筒形ドメインに対して有限要素を使用して方程式を数値的に解くことを含み、円筒形ドメインの外側では数密度がゼロに設定される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態による、放射線療法治療を計画するためのシステムの概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、腫瘍放射線療法の線量分布を計算する方法の動作の流れ図である。
【
図3】本発明の一実施形態による、メモリ内にテーブルを生成する際に実行される動作の概略図である。
【
図4A】源から2mmの
212Pb数密度に対するDART1D解と漸近解との間の比較を示すグラフである。
【
図4B】源軸からのさまざまな距離における
220Rn数密度のDART1D解と漸近解との間の比を示すグラフである。
【
図5A】無限円筒形源に対するDART1D
220Rn+
216Poおよび
220Bi/
220Poアルファ線量と0D近似との間の線量値の比較を示すグラフである。
【
図5B】無限円筒形源に対するDART1D
220Rn+
216Poおよび
220Bi/
220Poアルファ線量と0D近似との近似比を示すグラフである。
【
図6】時間ステップ対時間のDART2D変動を示すグラフである。
【
図7A】
224Ra初期放射能3μCi、シード半径0.35mmおよびシード長10mmのDaRTシードによる40日の治療の間に蓄積した総アルファ線量を示すグラフである。
【
図7B】総アルファ線量を、シードエイジからの、中間平面内のrに沿った距離およびシード軸上のzに沿った距離の関数として示すグラフである。
【
図8A】低拡散高漏れケースにおける、DART2Dによって計算されたシード中間平面の総アルファ線量と、0D線源近似、0D無限円筒近似、およびDART1Dを使用した無限円筒形源に対する完全な1D計算を使用して計算された、シード中間平面の総アルファ線量との間の比を示すグラフである。
【
図8B】高拡散低漏れケースにおける、DART2Dによって計算されたシード中間平面の総アルファ線量と、0D線源近似、0D無限円筒近似、およびDART1Dを使用した無限円筒形源に対する完全な1D計算を使用して計算された、シード中間平面の総アルファ線量との間の比を示すグラフである。
【
図9A】線源0D近似に関する、L
Rn=0.3mm、L
Pb=0.3mm、P
leak(Pb)=0.8に対する格子総アルファ線量マップ比較を示す図である。
【
図9B】線源0D近似に関する、L
Rn=0.3mm、L
Pb=0.6mm、P
leak(Pb)=0.3に対する格子総アルファ線量マップ比較を示す図である。
【
図9C】DART2Dを用いた完全な2D計算に関する、L
Rn=0.3mm、L
Pb=0.3mm、P
leak(Pb)=0.8に対する格子総アルファ線量マップ比較を示す図である。
【
図9D】線源0D近似に関する、DART2Dを用いた完全な2D計算に関する、L
Rn=0.3mm、L
Pb=0.6mm、P
leak(Pb)=0.3に対する格子総アルファ線量マップ比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のいくつかの実施形態の一態様は、治療される腫瘍に娘放射性核種を放出するアルファDaRT源に由来する推定放射線量を計算する際に、放射線療法源による放射線分布の予め計算されたテーブルを使用することに関する。それらのテーブルは、源に対する複数の位置に関して、その位置における蓄積放射線量を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態では、放射線療法治療の異なる期間に対して別々のテーブルまたはテーブルエントリが使用される。
【0024】
いくつかの実施形態では、腫瘍内の異なるエリア、例えば腫瘍の縁からの距離に基づく腫瘍内の異なるエリアに対して別々のテーブルが提供される。
【0025】
治療期間の全体にわたる蓄積線量を示すテーブルを使用することは、放射性核種の空間分布が時間依存であり、時間依存および空間依存成分に分解することができない問題を解決する。さらに、テーブル中の線量の使用は、DaRTに関してt=0における線量率が0であり、線量率が時間とともに増大し、次いで低下する問題を回避する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態による、放射線療法治療を計画するためのシステム100の概略図である。この治療は一般に、破壊対象の腫瘍に複数の源を埋入することを含む。「シード」としても知られている源は一般に、例えば参照によって本明細書に組み込まれている米国特許第8,894,969号に記載されているように、ラジウム224によってコーティングされたベースを含む。このベースは、細円筒形などの任意の適当な形状を有するものとすることができる。
【0027】
システム100は、放射線療法を必要とする腫瘍の画像を取得する撮像カメラ102を備える。さらに、システム100は、キーボードおよび/またはマウスなど、医師などの人間オペレータから入力を受け取るための入力インターフェース104を含む。代替としてまたは加えて、システム100は、遠隔コンピュータまたは人間オペレータから命令および/またはデータを受け取るための通信インターフェース106を備える。システム100はさらに、腫瘍内に放射線療法源を配置するレイアウト計画を生成するように構成されたプロセッサ108を備える。プロセッサ108はさらに、腫瘍内の点の各々に到達すると予想される放射線量を推定し、それに応じて、コンピュータスクリーンなどの出力デバイス110によって人間オペレータに出力を提供するように構成されている。
【0028】
プロセッサ108はメモリ112に結合されており、メモリ112は、源からの距離の関数としての放射線量、任意選択でさらに源からの角度の関数としての放射線量のテーブルを格納していることが好ましい。それらのテーブルは、後に論じるように、異なるタイプの源および腫瘍組織のパラメータに関して予め計算されたものである。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態による、システム100によって実行される動作の流れ図である。システム100は、腫瘍に関する入力を受け取り(202)、腫瘍に対する放射線療法源のレイアウトを生成する(204)。任意選択で、このレイアウトは、源の相対位置に加えて、源に関する情報(例えば源の放射能レベル)および治療期間を含む。
【0030】
プロセッサ108は、そのレイアウトの源からの放射線の線量分布を計算し(206)、かつ/または線量体積ヒストグラムおよび/もしくは線量率分布など、源の放射線の任意の他のパラメータを計算する(208)。いくつかの実施形態では、線量分布および/または他のパラメータが満足のいくものであるかどうかに関する判定(210)を実施し、満足のいくものでない場合には、新たなレイアウトを生成し(204)、その新たなレイアウトに関して、線量分布および/または放射線の他のパラメータの計算を繰り返す。任意選択で、レイアウトの生成(204)、ならびに線量分布の計算(206)および/または他のパラメータの計算(208)を、腫瘍に源を挿入するための適当なレイアウトが識別および提供される(212)まで繰り返す。
【0031】
いくつかの実施形態では、線量分布および/または他のパラメータが満足のいくものであるかどうかに関する判定(210)ならびに新たなレイアウトの生成が、人間オペレータによって実行される。代替として、プロセッサ108が、線量分布が十分なものであるかどうかを、例えば放射線が第1のしきい値よりも低い腫瘍のエリアを決定することによって自動的に判定する(210)。任意選択で、この第1のしきい値は、腫瘍のタイプ、例えば腫瘍の細胞の核サイズに応じて選択される。いくつかの実施形態では、プロセッサ108が、放射線量が第1のしきい値よりも高い腫瘍の百分率を自動的に決定し、この百分率を第2のしきい値と比較する。任意選択で、放射線が第1のしきい値よりも実質的に高いエリアから放射線量が第1のしきい値よりも低いエリアに源を移動させることにより、新たなレイアウトの生成(204)を自動的に実行する。代替としてまたは加えて、追加の源を追加することによって新たなレイアウトの自動生成を実行する。
【0032】
いくつかの実施形態では、腫瘍に源を挿入した後に、源を含む腫瘍の画像を取得し(214)、腫瘍内の源の実際のレイアウトを決定する(216)。次いで、任意選択で、プロセッサ108が、実際のレイアウトの源からの放射線の線量分布を計算し(218)、必要な場合にはレイアウトの改良のための提案を提供する(220)。
【0033】
レイアウトの改良のための提案(220)および新たなレイアウトの生成(204)は、腫瘍に挿入する源を追加すること、不必要な源を除くこと、レイアウト内の1つもしくは複数の源を移動させること(例えば源間の間隔を変更すること)、源のうちの1つもしくは複数の源の放射能および/もしくは脱離確率(desorption probability)を変更すること、ならびに/または源のタイプもしくはサイズを変更することを含んでもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、プロセッサ108が、腫瘍全体にわたって源を、その特定の腫瘍タイプに対するデフォルトの間隔で分布させることによって、レイアウトを自動的に生成する(204)。代替としてまたは加えて、人間オペレータによって指示された間隔を用いてレイアウトを生成する。さらに、代替としてまたは加えて、人間オペレータが、入力インターフェース104によって、源の位置を、腫瘍の表示された画像上で指示する。任意選択で、このレイアウトはさらに、源の長さおよび/または源の放射能レベル(すなわち源上の放射性原子の量)など、そのレイアウトで使用されている源の1つまたは複数の特性の指示を含む。源に関するこれらの情報は、人間ユーザが提供してもよく、またはプロセッサ108が、例えばデフォルトの値に基づいてもしくは人間オペレータによって提供されたコード番号に基づいて自動的に選択してもよい。いくつかの実施形態では、その分析が既に埋入された源の分析である場合に、プロセッサ108が、その中に源を含む腫瘍の画像から源の特性を決定する。これらの実施形態では、源が、腫瘍の画像から容易に判定可能な、源のタイプおよび/または特性の印を含んでいてもよい。
【0035】
任意選択で、レイアウトに関する情報はさらに、分析が実行される継続期間、例えば、源が腫瘍内にあると計画された時間、または治療が完了した後に分析が実行される場合には、源が患者の体内にあった時間を含む。本発明のいくつかの実施形態では、治療に最も適した継続期間を選択するために、これらの計算を、複数の異なる継続期間に対して実行する。例えば、源を除去する時期を決定するため、これらの計算を治療中に実行してもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、線量分布の計算(206)が、メモリ112に格納された予め生成されたテーブルに基づく。計算(206)は、任意選択で、腫瘍の組織のタイプおよびそのレイアウトで使用されている源のタイプに応じて、メモリ112の中のテーブルのうちの1つのテーブルを選択することを含む。
図3を参照して後に説明するが、これらのテーブルは、組織のタイプごとに予め計算されたものである。それぞれのテーブルは、任意選択で、テーブルの源タイプに対する複数の位置について、その位置に到達する放射線の量を、源の単位放射能当たりで示している。任意選択で、これらの位置は、源の中心からの角度(θ)および距離(r)によって指定される。このテーブルは、例えば、0°~180°の範囲の可能な角度を2°の粒度で表している90の行、および0~10ミリメートルの距離を0.1ミリメートルの粒度で表している100の列を含む。行および列のこれらの数は例として示したものであり、本発明の範囲内で、これよりも粗いまたは細かい粒度を有するこれよりも大きなまたは小さなテーブルも検討される。例えば、このテーブルは、粒度1°の180の行を含んでもよい。いくつかの実施形態では、テーブル中の線量値がグレイ(gray)を単位として提供される。他の実施形態では、テーブル中の値が、例えばマイクロキュリーに対するグレイを単位とした、ラドンの初期放出率(initial release rate)当たりの線量の値である。
【0037】
本明細書に記載されたテーブルは、任意の適当なデータ構造でメモリ112に格納されていてもよい。それぞれのテーブルは、例えば単一のアレイとしてまたは複数のアレイとして格納されていてもよい。テーブルの各々が別々に格納されていてもよく、または、複数のテーブルが、より大きな寸法の単一のテーブルとして一緒に格納されていてもよい。
【0038】
線量分布の計算(206)では、関心の位置(例えば腫瘍内の位置、ことによるとさらに腫瘍に隣接する位置)ごとに、プロセッサ108が、テーブルを調べて、源の各々から受け取られる、源の単位放射能当たりの放射線量を見つけ、この値に源の放射能を乗じる。これらの値を合計して、その点に到達する総放射線量を提供する。源の放射能を乗じることの代替として、テーブルからの線量に源からのラドンの放出率を乗じる。
【0039】
全ての源が同じ放射能を有するいくつかの実施形態では、合計した後に源の放射能または源のラドンの放出率を乗じてもよい。
【0040】
代替としてまたは加えて、この乗算が必要ないように、放射能レベル(またはラドンの放出率)ごとに別々のテーブルを提供し、それらのテーブルが、放射能またはラドンの放出率の値を提供する。
【0041】
いくつかの実施形態では、組織タイプごとに、異なる治療継続期間に対する複数のテーブルを提供する。例えば、任意選択で、1日または2日の粒度の等間隔の継続期間の範囲に対してテーブルを提供する。代替として、これらのテーブルを、追加のテーブルを正当化するのに十分な程度に計算された線量が異なる、不均等に分布した継続期間に対して準備する。特定の源に対して使用するテーブルを選択する際には治療の継続期間も考慮する。いくつかの実施形態では、治療継続期間が2つの異なるテーブルの継続期間と継続期間との間にあるときには、両方のテーブルからの値を取り出し、それらのテーブル値から補間によって実際の値を計算する。代替として、治療が常に比較的に長い継続期間にわたると予想されるケースでは、ラジウム224のいくつかの半減期よりも長い長継続期間の単一のテーブルを使用する。
【0042】
他の実施形態では、テーブルが、線量を比較的に容易に計算することができる他のパラメータを示す。例えば、いくつかの実施形態では、テーブルが、源に対する位置ごとに、治療に関与する2種以上の放射性核種の累積崩壊数を提供する。放射線量を、最初に、テーブルに含まれていない治療に関与する放射性核種の累積崩壊数を決定し、次いで累積崩壊数から線量を計算することにより、テーブル中の値から計算する。累積崩壊数からの放射線量の計算は、レイアウト内の全ての源の効果を合計する前または合計した後に実行することができる。任意選択で、テーブルに累積崩壊数を含める2種以上の放射性核種がラドン220およびビスマス212である。ラドン220の代替としてポロニウム216の累積崩壊数が与えられる。さらに、代替としてまたは加えて、ビスマス212の累積崩壊数の代わりとして、テーブル中の累積崩壊数が、鉛212、ポロニウム212および/またはタリウム208の累積崩壊数である。いくつかの実施形態では、テーブルが、3種以上または4種以上の放射性核種、ことによると治療に関与する全ての放射性核種に対する累積崩壊数を与えてもよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、腫瘍のタイプが、生検で採取された腫瘍の一部分の分析など、臨床的および/または組織病理学的観察に基づいて決定される。腫瘍のタイプは、例えば、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、神経膠芽細胞腫、肉腫、膵臓癌、肺癌、前立腺癌、乳癌および大腸癌を含むリストの中から選択される。腫瘍タイプのこのリストは単に一例として示しただけであり、テーブルは、上のリストに記載されたタイプおよび/またはこのリストに記載されていない他のタイプの全部または一部を含む、腫瘍タイプのより大きなまたはより小さなリストに対して準備してもよい。
【0044】
図3は、本発明の一実施形態による、メモリ112内にテーブルを生成する際に実行される動作の概略図である。この方法は、任意選択で、治療対象の異なるタイプの癌の腫瘍内の源からの放射性同位体の拡散を表す1つまたは複数の組織特異的パラメータを決定すること(302)を含む。任意選択で、それらのパラメータは、異なる腫瘍タイプ内における同位体ラドン220(
220Rn)、鉛212(
212Pb)およびビスマス212(
212Bi)の拡散係数D
Rn、D
PbおよびD
Biをそれぞれ含む。任意選択で、拡散係数D
Rn、D
PbおよびD
Biは、参照によってその開示が本明細書に組み込まれているLior Arazi, "Diffusing Alpha-Emitters Radiation Therapy: Theoretical and Experimental Dosimetry", Thesis submitted to the senate of Tel Aviv University, September 2008および/または参照によってその開示が本明細書に組み込まれているLior Arazi et al., "Treatment of solid tumors by interstitial release of recoiling short-lived alpha emitters", Physics in Medicine & Biology, 2007に記載されている方法などの当技術分野で知られている方法を使用して測定される。
【0045】
いくつかの実施形態では、拡散係数DRn、DPbおよびDBiが、マウスまたは他の試験動物で測定される。このような測定は、例えば対流の影響により、完全に正確であるわけではないが、これらの不正確さを無視したときでもこの計算は適当な結果を達成すると出願人は判定した。
【0046】
任意選択で、これらの組織特異的パラメータはさらに、それぞれ血液を通した腫瘍からの漏れによる鉛212およびBi212の漏れ率(leakage rate)(腫瘍全体にわたって均一であると仮定する)を表すパラメータαPbおよびαBiを含む。任意選択で、漏れ率パラメータαPbおよびαBiは、平均漏れ時間(212Pbおよび212Biが血液を通して腫瘍を出る平均時間)が1/αPbおよび1/αBiになるように決定される。
【0047】
いくつかの実施形態では、αPbの値が、鉛212の漏れ確率の測定値から決定される。鉛212の漏れ確率は、上述の論文Lior Arazi et al., "Treatment of solid tumors by interstitial release of recoiling short-lived alpha emitters", Physics in Medicine & Biology, 2007に記載されているマウスでの測定など、当技術分野で知られている任意の適当な方法を使用して測定される。代替としてまたは加えて、αPbの値は、例えば参照によってその開示の全体が本明細書に組み込まれているLior Arazi et al., "The Treatment Of Solid Tumors By Alpha Emitters Released From 224Ra-Loaded Sources - Internal Dosimetry Analysis", Physics in Medicine and Biology, February 2010に記載されている生体動力学モデルを使用した人間患者の血液および/または尿の放射能測定から推論される。
【0048】
DaRT治療を受けた腫瘍の検体から集められた前臨床データは、212Pbの漏れから独立した腫瘍からの212Bi漏れが小さな効果であることを示した。このことは、αBi≪λBi(λBiはビスマス212の崩壊率定数(decay rate constant)である)であることを暗示している。さらに、212Biは、212Pbと局所トランジット平衡(local transit equilibrium)状態にあることが分かった。このことは、DBi≦0.2DPbであることを暗示している。したがって、いくつかの実施形態では、αBi=0およびDBi=0.1DPbであると仮定される。代替として、αBiは、Bi212と鉛212の放射能の比が小さな検体で測定されるマウスベースの実験での測定から推論される。さらに、代替として、αBiは、αBiと定数kの積に設定され、定数kは、1よりも小さい、0.25よりも小さい、または0.2以下である、例えば0.2もしくは0.1である定数である。いくつかの実施形態では、DBiが、DPbと定数k2の積として設定される。通常はk2<1である。
【0049】
この方法はさらに、放射線療法源を表すパラメータを決定すること(304)を含む。いくつかの実施形態では、源が、源の初期
224Ra放射能である
【数1】
、源からの
220Rn脱離確率(すなわち
224Raが崩壊するときに源から
220Rnが放出される確率)であるP
des(Rn)、および源からの可能な
212Pb放出経路のうちのいずれかによる源からの
212Pbの有効脱離確率である
【数2】
によって表される。任意選択で、
【数3】
は、2つの
216Poチャネル、および源の表面からの
220Rnの放出後の源の外側の
212Pbの生成を考慮する。これらのパラメータは、上述の論文Lior Arazi, "Diffusing alpha-emitters radiation therapy: approximate modeling of the macroscopic alpha particle dose of a point source", Physics in Medicine and Biology, 2020に記載された方法のうちのいずれかの方法など、当技術分野で知られている任意の適当な方法を使用して決定される。
【0050】
時刻tおよび源に対する位置rの関数としての同位体の空間分布nRn(r,t)、nPb(r,t)およびnBi(r,t)を決定するため、これらの組織特異的パラメータおよび源パラメータを使用して、源に由来する同位体220Rn、212Pbおよび212Biの各々の移動方程式を解く(306)。一般に、位置rは3次元ベクトルだが、いくつかのケースでは、単純にするために、位置のより単純な測度、例えば対称性の考慮に基づく測度が使用される。任意選択で、216Po、212Poおよび208Tlの短い半減期のため、これらの同位体は、それらの親同位体と局所トランジットおよび/または永続平衡状態にあると仮定され、それらの空間分布を計算するための別個の方程式を必要としない。
【0051】
同位体の決定された空間分布からその結果であるアルファ放射線量を計算する(308)。さらに、源からの電子(β、オーガ、転換電子)および光子(ガンマ、X線)放射線量を、当技術分野で知られている任意の適当な方法を使用して計算する(310)。任意選択で、計算されたアルファ、電子および光子放射線量分布D(r,θ,t)を、腫瘍タイプおよび源タイプのパラメータのそれぞれのセットに対する参照用テーブルに組み込む(312)。ここで、軸対称を仮定すると、rは、源中心からの関心の点までの半径方向距離を指定し、θは、関心の点と源中心とをつなぐ線と源軸との間の角度を指定する。
【0052】
移動方程式
いくつかの実施形態では、ラドン移動方程式(輸送方程式とも呼ばれる)が下式によって与えられる。
【数4】
(1)
上式で、
【数5】
は、ラドンの量の変化率、n
Rn(r,t)は、
220Rn原子の局所濃度(数密度)(単位はcm
-3)、S
Rn(r,t)は、
220Rn源項(source term)(すなわち
224Raの崩壊によって組織内に放出されたラドンの量)(単位はcm
-3秒
-1)、λ
Rnは、崩壊率定数λ
Rn=ln(1/τ
1/2)であり、τ
1/2は、ラドン220の半減期定数である。
224Raが源に完全に閉じ込められている場合、腫瘍体積内でS
Rn(r,t)=0であり、この源項は、放出された
220Rn原子のフラックスを記述する源表面に関する適当な境界条件によって置き換えられる。流量密度(current density)j
Rn(r,t)は、
220Rn原子の正味のベクトルフラックスである(単位はcm
-2秒
-1)。
【0053】
最も一般的なケースでは、jRn(r,t)が、拡散項と対流項の両方からなる。
jRn(r,t)=-DRn(r,t)∇nRn(r,t)+nRn(r,t)v(r,t) (2)
v(r,t)は、腫瘍の内側の血管流と間質性流の両方を記述するベクトル場である。
【0054】
任意選択で、Pb移動方程式は下式のとおりであり、
【数6】
(3)
上式で、
j
Pb(r,t)=-D
Pb(r,t)∇n
Pb(r,t)+n
Pb(r,t)v(r,t) (4)
である。
【0055】
任意選択で、総
212Bi数密度に関する輸送方程式は下式のとおりであり、
【数7】
(5)
上式で、
j
Bi(r,t)=-D
Bi(r,t)∇n
Bi(r,t)+n
Bi(r,t)v(r,t) (6)
である。
【0056】
源から離れた腫瘍内に有意味な量の224Raが存在する場合には、別個の輸送方程式を解くことによってその数密度nRa(r,t)を見つけることができ、次いで、sRn(r,t)=λRanRa(r,t)を用いて、数密度nRa(r,t)を220Rnに対する体積測定(volumetric)源項として使用することができる。
【0057】
任意選択で、源項sRn(r,t)およびsPb(r,t)は、腫瘍の内側の源の所与の物理的配置に基づいて、源表面における適切なフラックス境界条件を用いて決定される。
【0058】
上記の方程式は、220Rn、212Pbおよび212Biの確率的運動を記述するモンテカルロシミュレーションなどの当技術分野で知られている任意の適当な方法を使用して解かれ(306)、または(任意の源幾何学的配置に対して、適切な境界条件を用いて)有限要素を使用して数値的に解かれる(306)。有限要素を使用してこれらの方程式を数値的に解く1つの方法が本出願の付録に記載されている。これらの解法は、腫瘍を、拡散係数および速度場が空間および時間に依存する異種遺伝子型の媒質、ことによると時間依存媒質と考えた場合に必要となる。代替として、腫瘍が、均質で、等方性で、時間に依存しない媒質としてモデル化されている場合には、近似解を得ることができる。このケースでは、上述の解法に加えて、理想的な点源、無限線源もしくは無限円筒、および/または無限平面源などの単純な幾何学的配置に対して閉形式の式を使用して、輸送方程式を近似的に解くこともできる。使用することができる例示的な解が、参照によってその開示が本明細書に組み込まれているLior Arazi, "Diffusing alpha-emitters radiation therapy: approximate modeling of the macroscopic alpha particle dose of a point source", Physics in Medicine and Biology, 2020に記載されている。
【0059】
いくつかの実施形態では、これらの方程式が、最初に点源に対する解を準備し、次いで源の実際の幾何学的配置を形成する点源の効果を合計することによって解かれる。
【0060】
任意選択で、
224Raの点源に関して、
220Rn源項は下式のとおりである。
【数8】
(7)
上式で、rは、源からの半径方向距離である。
【数9】
は、初期
224Ra放射能であり(手技の時刻をt=0とする)、これは
【数10】
として指数関数的に崩壊し、P
des(Rn)は、源からの
220Rn脱離確率(すなわち、
224Raが崩壊するときに
220Rnが源から放出される確率)であり、δ(r)は、ディラックのデルタ関数である。
【0061】
任意選択で、
212Pbに対する源項は下式のとおりである。
【数11】
(8)
【0062】
第1項は、源から離れた
216Poを経た
220Rnの崩壊による
212Pbの局所生成を表す。第2項は、
216Poが源上で崩壊したときの直接の反跳による源からの
212Pbの放出、または以前に源から反跳した
216Poが崩壊したときの源のすぐ近くでの
212Pbの放出を表す。
【数12】
は、2つの
216Po崩壊チャネルに加えて、源の表面からの
220Rnの放出後の源の外側での
212Pbの生成をさらに含む、源からの
212Pbの有効脱離確率であることに留意されたい。
220Rnの寄与は第1項λ
Rnn
Rnによって既に考慮されているため、第2項では差
【数13】
を使用する。
【0063】
任意選択で、212Biは、源から離れた212Pbの崩壊によってのみ腫瘍に入ると仮定する。したがって、方程式(3)の212Bi源項は以下のとおりである。
sBi(r,t)=λPbnPb(r,t) (9)
【0064】
いくつかの実施形態では、源からのビスマス212の拡散をカバーするため、このような拡散を可能にする源が使用されるときに、その源に対する適当な境界条件が追加される。代替として理想的な点源に対しては、ビスマス212に対してディラックのデルタ関数項を、ラドン220および鉛212に対して上で使用したとおりに使用することができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、以下の仮定のうちの1つまたは複数の仮定に基づいてこれらの方程式を単純化して、それらの方程式の解の複雑さを低減させる。
・ 腫瘍媒質は、均質で、等方性で、時間に依存しない。拡散係数および漏れ率係数は空間および時間において一定である。
・ 腫瘍の内側の224Ra娘移動は主に拡散性である。蛇行性毛細血管による血管対流は、(治療的に有意の距離に対して)短い相関長によって特徴づけられ、したがってランダム方向であると仮定される。したがって、これを有効拡散係数に組み込むことができる。
・ 源の位置は、治療の全体を通じて固定されたままであると仮定される。
・ 全ての源が同じである。すなわち同じ長さ、同じ放射能、同じ脱離確率である。
・ 220Rnは腫瘍の内側で完全に崩壊する。
・ 間質性対流は無視される。
・ 212Pb移動は、全ての212Pb分子種の平均を表す単一の有効拡散係数を使用して記述することができる。
・ 大血管に到達した212Pb原子は赤血球(RBC)にトラップされ、腫瘍から迅速に除去される。この過程は、均一な体積測定シンク項(volumetric sink term)によって記述される。有限のクリアランス率は、212Pb原子を移動させてこのようなトラップに到達させるのにかかる時間を反映する。
・ 短命の220Rn原子は、血管およびRBCによる化学的相互作用なしで自由に拡散するため、220Rnに対する方程式はシンク項を含まない(すなわち血管は220Rnのトラップとして機能しない)。しかしながら、いくつかの実施形態では、腫瘍の血液が豊富な領域において、220Rnの方程式に同様のシンク項を追加することもできる。
・ 212Biの拡散方程式はシンク項を含む。しかしながら、これは一般に2次効果とみなされる。
【0066】
この一組の仮定の下で、上記の方程式を以下のように単純化することができる。
【数14】
(10)
【数15】
(11)
【数16】
(12)
【0067】
方程式(10)~(12)において、nRn(r,t)、nPb(r,t)およびnBi(r,t)は、腫瘍の全体に及ぶ220Rn、212Pbおよび212Biの局所時間依存数密度である。DRn、DPbおよびDBiは、位置および時間から独立していると仮定される3つの同位体の有効拡散係数である。λRn、λPbおよびλBiは、それぞれの崩壊率定数である。212Pbおよび212Biの方程式は、血液を通した212Pbおよび212Biの漏れ(すなわち腫瘍からの除去)を記述するシンク項αPbnPbおよびαBinBiを含む。
【0068】
一般的な方程式(1)、(3)、(5)に関して上で述べたとおり、方程式(10)~(12)は、220Rn、212Pbおよび212Biの確率的運動を記述するモンテカルロシミュレーションなどの、当技術分野で知られている任意の適当な方法を使用して解かれ(306)、(任意の源幾何学的配置に対して、適切な境界条件を用いて)有限要素を使用して数値的に解かれ(306)、あるいは理想的な点源、無限線源もしくは無限円筒、および/または無限平面源などの単純な幾何学的配置に対して閉形式の式を使用して近似的に解かれる(306)。
【0069】
いくつかの実施形態では、単純にするために、220Rn、212Pbおよび212Biの3つの全てに対する移動方程式を解く代わりに、放射性核種のうちの1種または数種が、固定された分布、または残りの放射性核種のうちの1種または数種に依存する分布を有すると仮定される。例えば、一実施形態では、線量の計算を、212Pbの移動方程式に基づいて計算し、220Rnの分布を無視できるとみなし、212Biの分布を、212Pb分布の固定された関数であると仮定する。代替として、220Rnおよび212Pbに対する方程式を解き、212Biの数密度を、(例えばトランジットまたは永続平衡状態にある)212Pbの数密度に比例すると仮定する。
【0070】
アルファ線量計算
手技の時刻から時刻tまでのアルファ粒子線量は2つの成分を有する。1つは、220Rnおよび216Poのアルファ崩壊から生じ(これは、216Poの0.15秒の半減期のため本質的に同じ位置で直後に起こる)、1つは、212Bi(36%分岐)または212Po(64%分岐)のアルファ崩壊から生じる。蓄積線量は、以下の方程式によって要約することができ、それらの方程式は、移動方程式を解く際に計算されたnRn(r,t)、nPb(r,t)およびnBi(r,t)の値に依存する。
【0071】
【0072】
Eα(RnPo)=(6.29+6.78)MeV=13.07MeV=2.09・10-12Jは、220Rnおよび216Poによって(本質的に同じ位置で)放出されたアルファ粒子のエネルギーの和である。Eα(BiPo)=7.80MeV=1.25・10-12Jは、212Biまたは212Poによって放出されたアルファ粒子の平均エネルギーであり、ρは、組織密度(全ての実用的目的上1g/cm3に設定することができる)である。腫瘍に源を埋入する時刻から無限の時刻(実用上は224Raの約5半減期)までに供給される線量として、漸近線量(asymptotic dose)を以下のように定義する。
【0073】
【0074】
いくつかの実施形態では、これらの方程式を、源の周囲の領域全体にわたる数密度の均一な時間的振る舞いの仮定に基づいて解く。この仮定は「0D近似」と呼ばれる。
【0075】
点源に対する0D近似の下で
220Rnおよび
216Poが寄与する漸近線量は下式によって与えられる。
【数21】
(17)
上式で、τ
Ra=1/λ
Raは
224Raの平均寿命である。時刻tまでの近似線量を計算するため、任意選択で、方程式(17)で計算された
【数22】
に
【数23】
を乗じる。
【0076】
この線量の空間的依存性は下式の
220Rn拡散長によって支配されている。
【数24】
(18)
【0077】
212Biおよび
212Poが寄与する線量に関して、最初に
212Pbおよび
212Biの拡散長を以下のように定義する。
【数25】
(19)
【数26】
(20)
【0078】
いくつかの実施形態では、有効
212Pb寿命が以下のとおりである。
【数27】
(21)
【0079】
このパラメータは本質的に、212Pbの平均放射性寿命、τPb=1/λPbおよびその平均クリアランス時間1/αPbの幾何学的平均である。
【0080】
点源に関する漸近0D
212Bi/
212Poアルファ粒子線量は下式によって与えられる。
【数28】
(22)
上式で、
【数29】
(23)
【数30】
(24)
【数31】
(25)
【数32】
(26)
C
Bi=-(A
Bi+B
Bi) (27)
である。
【0081】
時刻tまでの近似線量を計算するため、方程式(22)の代わりに以下の方程式を使用して
【数33】
を計算する。
【数34】
(22’)
【0082】
いくつかの実施形態では、物理的な源を有限線源として近似することができる。このケースでは、(源中心および軸に対するrおよびθによって定義された)任意の点における総アルファ粒子線量D(r,θ,t)を、源を、小さな多数の点状セグメントに分割し、それぞれのセグメントからの220Rn/216Poおよび212Bi/212Pbの寄与、方程式(17)および(22)を、点(r,θ)からそれぞれのセグメントまでの半径方向距離を使用して合計することによって得る。
【0083】
任意の点におけるアルファ粒子による総放射線量D(r,θ,t)は、対220Rn/216Poおよび212Bi/212Pbによる寄与、方程式(17)および(22)の和である。
【0084】
実験によれば、α
Pbを、等価のパラメータ、すなわち下式として定義される
212Pb漏れ確率に置き換えた方が都合がよい。
【数35】
【0085】
いくつかの実施形態では、212Pbの拡散長LPbがマウス産腫瘍で測定され、それに応じて拡散係数DPbが方程式(19)を使用して設定される。出願人が実施した測定によれば、拡散長LPbの値は約0.2~0.7ミリメートルの範囲にあることが分かった。この値は、腫瘍タイプおよび/または源と腫瘍周囲との間の距離によって異なる。いくつかのタイプの腫瘍に対する値が以下の表に載せられている。
【0086】
【0087】
したがって、いくつかの実施形態では、放射性核種分布を計算する際に、212Pbの拡散長LPbに、対応する腫瘍タイプの表の中の平均値が与えられる。代替として、表の中の対応する範囲の低い方の値が使用される。いくつかの実施形態では、表にない癌タイプに関して、拡散長LPbに対して0.4mmよりも小さな値、0.35mmよりも小さな値または0.3mmよりも小さな値が使用される。
【0088】
任意選択で、220Rn拡散長が、0.2~0.4mmの範囲で、例えば少なくとも0.23ミリメートル、少なくとも0.25mm、または少なくとも0.27mmの値によって推定される。いくつかの実施形態では、220Rn拡散長に対して0.3mmの値が使用される。代替としてまたは加えて、使用される220Rn拡散長が0.33mmよりも小さく、0.29ミリメートルよりも小さく、または0.27ミリメートルよりも小さい。
【0089】
任意選択で、212Pb漏れ確率が、30%よりも高い確率、または35%よりも高い確率、例えば40%の確率によって推定される。任意選択で、212Pb漏れ確率は、70%よりも低い、60%よりも低い、または50%よりも低いと仮定される。いくつかの実施形態では、腫瘍の異なる領域に対して212Pb漏れ確率の異なる値が使用される。任意選択で、腫瘍の縁に近い領域に対するこの値が70%よりも高い、または80%よりも高い。腫瘍の内側深く、その壊死コアにおいては、212Pb漏れ確率をそれよりもはるかに低くすること、例えば10%よりも低くすることができる。
【0090】
方程式(15)~(16)の積分を使用して放射性核種分布から放射線量を計算する代わりに、モンテカルロ法などの他の計算方法を使用することもできることに留意されたい。
【0091】
テーブル生成
テーブルは、時刻t=0における手技の始まり(例えば腫瘍への源の挿入)から時刻tまでのそれぞれの点の総アルファ粒子線量D(r,θ,t)から生成される。いくつかの実施形態では、計算された放射線分布値D(r,θ,t)をテーブルに直接に挿入する代わりに、計算された分布値D(r,θ,t)を、市販の放射線治療計画作成システム(TPS)によって受け入れられる形に変換し、TPSがテーブルを生成する。
【0092】
任意選択で、テーブルは、BrachyVision TPSなどの治療計画作成システム(TPS)によって生成され、このTPSは以下の関数に基づき、
【数36】
【数37】
、ここで
【数38】
【数39】
関数gL(r)およびF(r,θ)、源の放射能レベル、テーブル当たりの線量率定数Λ、および値f
akのユーザ設定を必要とする。f
akは、放射能と空気カーマ強度との間の変換係数である。このフォーマリズム(formalism)は例えば、背景技術の項で述べた、その全体が参照によって本明細書に組み込まれているTG-43パブリケーションに記載されている。このようなTPSはアルファ放射線用に設計されていないことに留意されたい。
【0093】
いくつかの実施形態によれば、f
akの値が任意に設定され、例えば1に設定され、gL(r)およびF(r,θ)関数が、所与の時刻tに対してDaRT放射線分布値D(r,θ,t)から下式のように計算される。
【数40】
【数41】
上式で、G
L()は、源長Lに依存する一般的な閉形式の幾何学的関数であり、既にTPSにプログラムされている。パラメータr
0およびθ
0は特定の基準点を表す(例えばr
0=1cmおよびθ
0=90°)。線量率定数Λには、テーブルごとに、そのテーブルに適した較正値が割り当てられる。従来の密封小線源療法源とは違い、DaRT用の関数F()およびg
L()は、拡散原子の数密度の空間的形状の時間的変化のため、治療の継続期間tに依存することに留意されたい。
【0094】
TPSがF()の値を制限するケースに関しては、F()を使用する代わりに、正規化された
【数42】
が使用され、この式で、F
maxは、関数F()の最高値として選択され、またはTPSによって許された境界をF
normが超えることを防ぐ十分な値として選択される。任意選択で、F
maxの値は、TPSによって内部的に補償されない場合、TPSシステム係数Λ
TPS=ΛF
maxを設定する際に補償される。
【0095】
任意選択で、r
0は、TPSによって許された値の境界の外にg(r)が出ることを防ぐように選択される。任意選択で、Sk(0)、Λの値は、
【数43】
となるように選択され、この式で、τ
Raは
224Raの平均寿命である。
【0096】
電子および光子放射線
いくつかの実施形態では、アルファ放射線と電子および光子放射線とに対して別々のテーブルが準備される。放射線量分布を計算する際には、アルファ放射線に関してはアルファ放射線テーブルにアクセスすることによって、電子および光子放射線に関しては適当なテーブルにアクセスすることによって別々の計算が実行され、次いで結果が結合される。任意選択で、電子および/または光子放射線テーブルが、アルファ放射線テーブルによって提供されるように、蓄積線量値を提供する。代替として、電子および/または光子放射線テーブルは、上述のTG-43パブリケーションに記載されているように線量率値を提供する。
【0097】
代替として、アルファ、電子および光子放射線に対して単一のテーブルが使用される。任意選択で、この代替策によれば、アルファ、電子および/または光子放射線を合計する際に、アルファ放射線値または電子および/もしくは光子放射線値に、当技術分野で知られている任意の適当な方法を使用して決定されたユーザ提供の相対的生物学的効果(relative biological effectiveness)(RBE)係数が乗ぜられる。このRBE係数は、アルファ放射線ならびに電子および/または光子放射線の異なる生物学的効果を考慮する。アルファ粒子に対するRBE値は腫瘍のタイプに依存し、通常は3~5の範囲にある。電子および光子に関しては、RBE値が、(数百keVを超える)高エネルギーで通常は1であるが、より低いエネルギーでは1よりも大きくなる。
【0098】
単純にするために、任意選択で、電子および/または放射線量を計算する際に、放射性核種は全て源上に位置すると仮定し、腫瘍内での放射性核種の移動を無視する。拡散長によって支配されている移動スケールに対する電子の長い飛程ならびにガンマおよびX線光子の大きな平均自由行程のために、この仮定は、結果に対して小さな影響しか与えないことが分かった。しかしながら、いくつかの実施形態では、例えば212Pb漏れ確率によって腫瘍内の212Pb放射性核種の数を減らすことにより、電子および/または光子放射線量計算が、血流による放射性核種の早期の除去を考慮する。
【0099】
任意選択で、電子および光子放射線量が、224Raおよびその娘による放出放射線のスペクトル全体に対する(例えばEGS、FLUKA、GEANT4、MCNPまたは軌道構造コードを使用した)モンテカルロ法によって計算される。任意選択で、単純にするために、媒質が水であると仮定する。代替として、モデルベースの線量計算アルゴリズム(model based dose calculation algorithim)(MBDCA)などの他の計算方法が使用される。
【0100】
代替策
上記の説明では、腫瘍が、その体積の全体を通じて同じパラメータを有するとみなされている。他の実施形態では、腫瘍が、異なるエリアにおいて異なるパラメータ値を有するとみなされる。任意選択で、腫瘍の縁から源までの異なる距離に対して別々のテーブルが生成される。例えば、腫瘍の縁から2ミリメートルまでの範囲の源、腫瘍の縁から2~4ミリメートルの間の範囲の源、腫瘍の縁から4~6ミリメートルの間の範囲の源、および腫瘍の縁から6ミリメートルを超える範囲の源に対して、別々の計算が実行される。他の実施形態では、腫瘍の縁から源までの距離の4つを超える範囲が使用され、および/または2ミリメートルよりも粗い粒度、もしくは2ミリメートルより細かい粒度の範囲が使用される。
【0101】
それらの範囲の各々について、腫瘍パラメータに対する別々の値が提供される。例えば、漏れは腫瘍の縁においてより高いため、腫瘍縁により近いエリアに、より高い鉛212漏れ確率(および/またはより短い拡散長)が割り当てられる。これらのテーブルを使用する際には、源ごとに、それらのテーブルのうちの対応する1つのテーブルが、腫瘍内の源の位置に従って選択される。
【0102】
任意選択で、源と腫瘍の縁との間の距離は、源上の最も近い点から腫瘍の縁の最も近い点まで測定される。代替として、この距離が源の中心から測定される。さらに、代替として、この距離が、源の長さに沿った平均距離として、または源の2つの端部間の平均として測定される。他の実施形態では、この距離に加えて、腫瘍を別々のゾーンに分割する際に、源軸と源の中心を腫瘍の縁につなぐ最も短い線との間の角度など、源の向きの測度が使用される。
【0103】
上述のとおり、治療の継続期間の全体に対して同じ腫瘍パラメータ、例えば同じ拡散長が使用される。しかしながら、他の実施形態では、放射線量の計算において、治療の始まり以降、腫瘍の特性を変化させる治療による細胞の死により、拡散長など、腫瘍パラメータのうちの1つまたは複数を時間とともに変化させる。これらの実施形態は、腫瘍のパラメータがほとんど、または全く変化しない短期の継続期間中よりも、より長期間中の線量の計算に対してより大きな影響を有することに留意されたい。
【0104】
テーブルを使用する代替として、放射線量分布の計算に対して上記の計算方法が直接に使用される。
【0105】
結語
上で説明した方法および装置は、それらの方法を実行するための装置およびその装置を使用する方法を含むと解釈すべきであることが理解される。1つの実施形態に関して記載された特徴および/またはステップは時に、他の実施形態とともに使用することができること、ならびに本発明の全ての実施形態が、特定の図に示された特徴および/もしくはステップまたは特定の実施形態の1つに関して説明された特徴および/もしくはステップの全てを有するわけではないことを理解すべきである。タスクは必ずしも記載された正確な順序で実行されない。
【0106】
上で説明した実施形態の一部は、本発明に必ずしも不可欠ではなく例として記載された構造、動作または構造および動作の詳細を含むことがあることに留意されたい。本明細書に記載された構造および動作は、たとえそれらの構造または動作が異なる場合であっても、当技術分野で知られている同じ機能を実行する均等物によって置換え可能である。上で説明した実施形態は例として示したものであり、本発明は、以上に特に示されたもの、および以上に特に記載されたものに限定されない。むしろ、本発明の範囲は、以上の説明を読んだ当業者が思いつくであろう、先行技術で開示されていない、以上に記載されたさまざまな特徴の組合せおよび部分組合せと、それらの特徴の変形形態および変更形態の両方を含む。したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲で使用されている要素および限定だけによって限定され、用語「備える」、「含む」、「有する」およびそれらの同根語は、特許請求の範囲で使用されているとき、「~を含むが、必ずしも~に限定されない」ことを意味する。
【0107】
付録
DLモデルの根底にある仮定は以下のとおりである。
・ 腫瘍の内側の原子の移動は拡散によって支配されている。
・ 組織は均質で、等方性で、時間に依存しておらず、したがって拡散係数は一定である。
・ 220Rn、212Pbおよび212Biの移動をモデル化すれば十分である。216Po、212Poおよび208Tlは、それらのそれぞれの親同位体と(後者の2つについては適当な分岐比で)局所永続平衡状態にある。
・ 212Pbの移動は、単一の有効拡散係数を使用して記述することができる。
・ 大血管に到達した212Pb原子は赤血球にトラップされ、次いで腫瘍から直ちに除去される。これは、単一の一定のシンク項によって表される。
・ 220Rn原子は化学結合を形成せず、非常に短命であり、したがってRnに対する方程式はシンク項を含まない。
・ 212Biに対する方程式はシンク項を含むが、それは2次効果とみなされ、一般にゼロに設定される。
【0108】
半径R0およびz軸に沿った長さlの円筒形源のケースを考え、軸対称を仮定する。上記の仮定の下で、柱座標(r,z)において、崩壊系列220Rn、212Pbおよび212Biにおける主要な娘原子の動力学を記述する式は以下のとおりである。
【0109】
【数44】
【数45】
【数46】
上式で、n
Rn、n
Pb、n
Bi、D
Rn、D
Pb、D
Biおよびλ
Rn、λ
Pb、λ
Biはそれぞれ、
220Rn、
212Pbおよび
212Biの数密度、拡散係数および崩壊率定数である。α
Pbおよびα
Biは、血液を通した
212Pbおよび
212Biのクリアランスを考慮した漏れ率定数である。一般に、α
Bi=0と仮定することができ、本明細書でもそのように仮定する。境界条件は、r→R
0および|z|≦l/2(シード中央平面においてz=0)について以下のとおりである。
【0110】
【数47】
【数48】
【数49】
上式で、j
x=-D
x∂/∂rであり、xは
220Rn、
212Pbおよび
212Biを表す。
【数50】
は、(均一であると仮定される)源上の初期
224Ra放射能であり、λRaは、
224Raの崩壊率定数である。P
des(Rn)および
【数51】
はそれぞれ
220Rnおよび
212Pbの脱離確率であり、源上の
224Raの崩壊が、腫瘍内への
220Rnまたは
212Pb原子の放出に至る確率を表す。
【数52】
に対して用語「有効」を使用するのは、それがいくつかの放出経路を含むためである。|z|>l/2について、これらの3つの同位体に対して
【数53】
である。
【0111】
方程式(1~3)の解は、nRn(r,z,t)、nPb(r,z,t)およびnBi(r,z,t)を提供する。アルファ線量は、アルファ粒子の飛程は問題の支配的拡散長よりもはるかに小さい(後述)という仮定の下で計算される。源挿入から時刻tまでの線量は2つの寄与からなる。1つは、対220Rn+216Poの合計されたアルファ粒子エネルギーから生じ、もう1つは、212Biまたは212Poのアルファ崩壊から生じる。
【0112】
【数54】
【数55】
上式で、E
α(RnPo)=(6.288+6.778)MeV=13.066MeVは、
220Rnおよび
216Poの総アルファ粒子エネルギー、E
α(BiPo)=7.804MeVは、
212Biおよび
212Poによって放出されたアルファ粒子の重み付き平均エネルギー、ρは組織密度である。以下では、「漸近線量」を、源挿入から無限の時刻まで、実用的には数週にわたって供給される容量として定義する。
【0113】
220Rn、
212Pbおよび
212Biの広がりは、下式として定義されるそれらのそれぞれの拡散長によって支配される。
【数56】
【数57】
【数58】
【0114】
拡散長は、その生成部位からその崩壊または血液によるクリアランスまでの1つの原子の平均変位のグロス測度である。点源に関しては、数密度およびアルファ線量成分の半径方向依存性が、
【数59】
に比例する項を含む。典型的な範囲は、L
Rn約0.2~0.4mm、L
Pb約0.3~0.7mm、L
Bi/L
Pb約0.1~0.2である。
【0115】
別の重要なパラメータは、212Pb漏れ確率Pleak(Pb)であり、これは、源から放出された212Pb原子が、その崩壊の前に腫瘍から血液によって除去される確率として定義される。したがって、漏れ確率は、下式のように、212Pbの放射性崩壊と血液を通したクリアランスとの間の競合を反映したものとなる。
【0116】
【0117】
値Pleak(Pb)の典型的な範囲は約0.2~0.8である。
【0118】
腫瘍への源挿入後、長い時間をかけて、数密度は漸近形式
【数61】
に達する。
220Rnに関して、この条件は腫瘍の全体を通じて数分以内に満たされ、
212Pbおよび
212Biに関しては、漸近形式が、源からの距離に応じて数日以内に達成される。
【0119】
無限に長い円筒形源に対するDLモデル方程式の閉形式の漸近解は下式のとおりである。
220Rnに関しては下式が得られる。
【数62】
上式で、
【数63】
である。
【0120】
これらの式では、K
0(ξ)およびK
1(ξ)が第2種の修正ベッセル関数である。
【数64】
【数65】
【0121】
K
0(r/L)は急低下する関数であり、点源の数密度および線量に対する式に現れるexp(-r/L)/(r/L)の円筒形類似物である。
212Pbに関しては下式が得られる。
【数66】
上式で、
【数67】
【数68】
である。
【0122】
最後に、
212Biに関しては下式が得られる。
【数69】
上式で、
【数70】
【数71】
【数72】
である。
【0123】
上の式はさらに、limit R0/lx→0における無限線源の限界を記述することができる。
【0124】
この解のビルドアップ段階を近似的に考慮するため、この解は、腫瘍の全体を通じて均一である、すなわち源からの距離に依存しないと仮定することができる。この「0D」時間近似の下で、点源に関して、およびここでは円筒形ケースに対して適合されて、下式を書くことができる。
【0125】
【0126】
この近似の下で、漸近アルファ線量成分は以下のとおりである。
【数75】
【数76】
上式で、τ
Ra=1/λ
Ra、τ
Rn=1/λ
Rnおよび
【数77】
である。この0D近似によって導入される誤差は、
220Rnおよび
212Pbの平均寿命と
224Raの平均寿命との間の比程度である。すなわち、それぞれτ
Rn/τ
Ra約10
-4、およびτ
Pb/τ
Ra約0.1である。
【0127】
DLモデルに対する完全な時間依存解は、有限要素法を使用して数値的に解くことができる。1次元ケースに関して、すなわちz軸に沿った無限円筒源または線源に関しては、∂2nx/∂z2=0を設定する方程式(1~3)を解く。したがって、この解は、半径方向座標rだけに依存する。ドメインを、等しい半径方向幅Δrの、i=1...Nrで数え挙げられる複数の同心円筒シェルに分割する。源の半径はR0であり、Δrは、R0/Δrが整数になり、Δrが、LRnおよびLPbよりもかなり小さくなるように選択する(LBiは、この解に対して無視できる効果を有し、したがってΔrを拘束しないはずである)。i番目のシェルの中心半径は以下のとおりである。
【0128】
【0129】
十分にインプリシットなスキーム(fully implicit scheme)を使用し、それによって解が安定であることを保証する。後に説明するように、時間ステップは、現在のステップと直前のステップとの間の解の相対的変化に従って適応的に変化する。
【0130】
i番目のシェルの平均数密度はn
Rn,i、n
Pb,iおよびn
Bi,iである。pによって時間ステップを数え挙げる。1<i≦N
rである源表面から離れたシェルに関して、DLモデル方程式は、以下の離散インプリシット形式をとる。
【数79】
上式で、xはRn、PbおよびBiを表し、α
Rn=0である。ドメインの外側では、方程式(29)においてi=N
rに関してn
x,i+1=0になるように、数密度をゼロに設定する。
【0131】
i=1シェルについては、源のすぐ外側で境界条件、方程式(4)~(6)を使用して、下式を与える。
【数80】
【0132】
方程式(29)および(30)に現れる源項
【数81】
は以下のとおりである。
【数82】
【数83】
【数84】
上式で、i=1についてはδ
i,1=1、それ以外はゼロである。方程式(29)および(30)を再構成して、以下の一般形式を得る。
【0133】
【0134】
方程式(34)に導入された行列係数はiの値に依存し、i=1およびi=N
rに対する境界条件を反映する。Δr/r
iの1次まで項を保持すると、異なるケースが以下のように要約される。
【数86】
【数87】
【数88】
r
iは方程式(28)に与えられている。方程式(34)を行列形式で書くと以下のようになる。
【0135】
【数89】
これは
【数90】
と書くことができる。左辺にA
xの逆数を掛けることにより、
【数91】
が得られ、これは、p+1ステップに対する解を完成させる。源項はp+1ステップに対して計算されるが、実際、それらは、行列方程式が解かれたときに知られることに留意されたい。その理由は、p+1ステップでは、最初に
220Rnについて解き、次いで
212Pbについて解き、最後に
212Biについて解くからである。
220Rnに対する源項は時間だけに依存し、
212Pbの源項は、
220Rnに対するp+1解を使用して見つけられ、
212Biの源項は、
212Pbに対するp+1解を使用して見つけられる。考慮する別の点は、Δtはこの計算に沿って変更され、行列係数はΔtに依存するため、それらはそれに従ってそれぞれのステップで更新されなければならないということである。
【0136】
アルファ線量成分もそれぞれのステップで更新される。
【数92】
【数93】
【0137】
p+1ステップの終わりに、Δtは、解の相対的変化に基づいて更新される。これはいくつかの手法で実行することができる。ここで実施される特定の選択は、関心の特定の点ri0において(例えば2mmにおいて)総線量(RnPo寄与とBiPo寄与の和)の相対的変化を考慮することであった。
【0138】
【数94】
上式で、ε
tolは、予め設定された許容差パラメータである。実用上さらに、計算時間と正確さとの間のバランスをとるためにΔtの上限および下限を設定することができる。初期時間ステップは、
220Rnの半減期に比べて小さくなければならないが、その特定の値は、計算された漸近線量の正確さにほとんど影響しない。
【0139】
上述の有限要素スキームを、MATLABの「DART1D」と名づけられたコードで実施した。この計算の決定的部分である方程式(39)の解は、トーマスアルゴリズムを使用する3重対角行列ソルバーを使用して実行された。このソルバーの使用は、inv(A)を使用して行列を逆行列にするよりも約3倍速いMATLABのmldivide(「\」)ツールよりも約4倍速いことが分かった。このコードは、離散化パラメータ値の適度な選択のために1パーセント未満のレベルに収束することが分かった。例えば、(ドメイン半径Rmax=7mmおよび30dの治療継続期間に対して)εtol=10-2、Δr=0.02mmおよびΔt0=0.1秒を設定することは、約0.5秒の実行時間で、(Intel i7プロセッサを有する最新のラップトップコンピュータ上と16GBのRAMメモリ上の両方で)約3分の実行時間でεtol=10-4、Δr=0.01mmおよびΔt0=0.1秒を用いて得られた線量から約0.5%離れた線量に帰着した。後者のより正確な実行は、220Rn+216Po線量に対する0D近似の7・10-4以内であった。
【0140】
図4および
図5は、数値解のいくつかの態様を調べている。
図4は、DART1D解を、漸近式(13)および(17)との比較で示している。左側には、源から2mmの距離におけるDART1D時間依存
212Pb数密度が、対応する漸近解とともに示されている。右側には、源からのさまざまな距離に対してプロットされた、
220Rnに対する数値解と漸近解との間の比
【数95】
が示されている。これらの距離は、
220Rn拡散長の単位r
*≡r/L
Rn、およびだいたい平均
220Rn寿命t
*≡(λ
Rn-λ
Ra)tである1/(λ
Rn-λ
Ra)の単位の時間で与えられている。数値解は、源からの距離とともに増大する遅れで漸近解に収束する。
220Rnに関しては、これが分のスケールで起こり、
212Pbに関しては、これが数日にわたって起こる。この適応時間ステップは、DART1Dが両方の過渡状態を効率的に取り扱うことを可能にする。
【0141】
図5Aは、L
Rn=0.3mm、L
Pb=0.6mm、L
Bi=0.1L
Pb、α
Pb=λ
Pb(すなわちP
leak(Pb)=0.5)、およびα
Bi=0のケースに対して計算された、DART1D
220Rn+
216Poおよび
212Bi/
212Poアルファ線量成分を示している。源半径はR
0=0.35mm、
224Ra放射能は3μCi/cm、脱離確率はP
des(Rn)=0.45および
【数96】
である。線量成分は、t=30d後治療で与えられている。数値計算は、0D近似、方程式(26)および(27)と比較される。計算ドメインの外側のゼロ数密度の仮定は、予想される解からの、
220Rnに対して約0.5mmならびに
212Biおよび
212Poに対して約1mmの境界から約2拡散長の逸脱に帰着する。その空間分布は
212Pb拡散長によって支配される。これは、計算ドメインの半径方向の大きさが、問題の最大拡散長よりも約10倍大きくなければならないことを示している。
図5Bは、DART1Dで計算された線量成分と対応する0D近似との間の比を示している。r→R
maxにおける縁効果を除いて、
220Rn+
216Poに対する数値解は、ε
tol=10
-4、Δr=0.01mmおよびrが約5mmまでのΔt
0=0.1秒に対する1・10
-3よりも良好に0D近似と一致する。
212Bi/
212Poに関しては、rの関数としての
212Pbのビルドアップにおける遅延の増大のために、0D近似が、r<1mmにおいて線量を過小評価し、それよりも大きい距離で線量を過大評価する。誤差は、源からの治療上適切な距離(約2~3mm)において約5~10%である。
【0142】
次に、半径R
0および有限長lの円筒形源(「シード」)を処理するために2つの寸法に移る。源は、その中央平面においてz=0であるz軸に沿って延びている。r=0からr=R
maxまで、およびz=-Z
maxからz=+Z
maxまで延びる円筒形ドメインにわたってDL方程式を解く。R
maxおよびZ
max-l/2はともに問題の最大拡散長よりもはるかに大きくなければならない。このドメインは、等しい半径方向幅Δrおよび等しいz幅Δzのリング要素を備える。R
0/Δrおよびl/(2Δz)が整数になり、ΔrおよびΔzがL
RnおよびL
Pbよりもはるかに小さくなるように、ΔrおよびΔzを選択する。i、jによってリングを数え挙げる。i=1...N
r、およびj=1...N
zである。i=1の要素は軸上にあり、j=1の要素は円筒形のドメインの底にあり、j=N
zの要素はドメインの頂部にある。源が無限に長く、r>R
0を有する点だけを考慮する1Dケースとは違い、2Dの有限シードについては、r<R
0および
【数97】
であるシードの上方および下方の点に対する方程式も解かなければならない。1Dケースに関しては、i、jリングの半径およびZ座標r
i、z
jがそのrz断面の中心に定義される。最も内側のi=1リングに関しては
【数98】
である。シードの内側の点、すなわちr
i≦R
0-Δr/2および
【数99】
のリング内の点は、
220Rn、
212Pbおよび
212Biのゼロ数密度を有する。
【0143】
2Dにおける方程式(1~3)の離散化は、(シードの外側で、シードの壁またはベースに接触せず、i>1である)円筒形ドメインの内部リング要素に対して、
【数100】
を与える。
【0144】
i=N
r+1、j=0またはj=N
z+1のリングに対する数密度は全てゼロであるため、方程式(43)は、i=N
r、j=1またはj=N
zのドメインの外面のリング要素にも当てはまる。シードの上方または下方の軸(i=1)上のリング要素に関しては、(∂n
x/∂r)
r=0=0が必要である。
224Ra放射能はシード壁に対して閉じ込められているため、流量密度のz成分はシードベース上でゼロに設定される。すなわち(∂n
x∂z)
z=±l/2=0である。シード壁と接触するリング要素の半径方向のインデックスとしてi
sを定義すると(すなわち、
【数101】
)、|z
j|≦l/2-Δz/2のリング要素に関して、方程式(43)は、1Dケースと同様に、
【0145】
【0146】
方程式(43)および(44)の源項は1Dケースと同様であり、|z
j|<l/2の追加の要件を有する。
【数103】
【数104】
【数105】
【0147】
行列形式で方程式(43)を解くため、線形インデキシングを使用する。2D要素
【数106】
および
【数107】
を、2つの列ベクトル
【数108】
および
【数109】
に順番に再構成する。以下を定義する。
k(i,j)=(j-1)N
r+i (48)
【数110】
【数111】
k=1...N
rN
zである。
【数112】
および
【数113】
であることに留意して、方程式(43)を下式として再構成することができる。
【数114】
【0148】
1Dケースに関しては、方程式(51)に現れる行列要素が、境界条件を満たすような形でi、j(したがってk)の値に依存する。コンパクトにするため、以下の中間量を定義する。
【数115】
【数116】
【数117】
【数118】
【数119】
【数120】
【数121】
【0149】
テーブル1は、r
iおよびz
jに関する全ての可能なケースに対する行列要素
【数122】
の式を列挙している。これらを用いて、方程式(51)を行列形式で書くことができる(K≡N
rN
z)。
【表2】
【数123】
または、等価で
【数124】
。1Dケースに関しては、左辺にM
xの逆数を乗じて
【数125】
を得る。次に、i、jの全ての可能な値について実行し、
【数126】
を更新する。全てのリング要素の新たな数密度が分かった後、アルファ線量成分を更新する。
【0150】
【0151】
1Dケースに関しては、時間ステップを多くの手法で変更することができる。ここでは、全放射能(全てのリング要素内の全ての同位体の和)の相対的変化に従って時間ステップを更新することを選択する。
【0152】
上述の2D数値スキームを、MATLABの「DART2D」と名づけられたコードで実施した。このコードは、最新のラップトップ(16GBのRAMを有するIntel i7プロセッサ)上で、Δr=0.005mm、Δz=0.05mm、εtol=0.01、Δt0=0.1秒、Rmax=7mm、Zmax=10mm、および40dの治療時間に関して実行するのに、だいたい0.5時間かかる。最も要求のきびしいプロセスはM-1の計算である。Mは疎な対角行列であるためMATLABのspdiags()関数を使用した。この関数は、Mの対角非ゼロ要素だけを保存することによってメモリ必要量を低減させ、コードをより効率的に実行することを可能にする。
【0153】
図6は、約11日までの時間に対する適応時間ステップの依存性を示している。初期時間ステップは0.1秒であり、
220Rnビルドアップを高い正確さで捕捉する(これはΔtに対する許容される最小値でもある)。次いで、
212Pbのビルドアップに続いて時間ステップは徐々に増大し、ついには、
224Ra崩壊率によって駆動された漸近相におけるその最大許容値に達する(ここでは約1時間)。
【0154】
有限寸法のシードによる40日のDaRT治療の間に蓄積した総アルファ線量(
220Rn+
216Po寄与と
212Bi/
212Po寄与の和)が、
図7Aのrz平面に示されている。シード寸法はR
0=0.35mmおよびl=10mmである。シードの初期
224Ra放射能は3μCiであり、P
des(Rn)=0.45および
【数129】
である。他のモデルパラメータは、L
Pb=0.6mm、L
Rn=0.3mm、L
Bi=0.06mm、P
leak(Pb)=0.5、α
Bi=0である。シード端から約1.5mmまで、半径方向線量プロファイルはほぼ不変であることに留意されたい。
図7Bは、シード中央平面のrに沿った線量プロファイル、およびシード軸に平行なzに沿った線量プロファイルを示している。それらはともに「0」がシード縁になるように設定されている。シード軸に沿った線量は、治療計画作成において考慮すべき重要な点である中央平面の線量に比べて、シード縁の近くで約30%だけ小さく、3mmではその差が約3倍に増大する。点状セグメントからなる有限線源にシードを近似したときにも同様の効果が観察されるが、この手法は、線量のかなりの誤差につながる。これは、半径方向線量をより大きな値に「押し上げる」シードの有限の直径を考慮していないためである。
【0155】
次に、完全な2D計算の結果を、0D分析的近似または完全な1D計算を使用して得られた結果と比較する。
図8は、シード中央平面で計算された線量プロファイルのこれらの比較を示している。左側に、L
Rn=0.3mm、L
Pb=0.3mmおよびP
leak(Pb)=0.8の低拡散高漏れケースに対する比較が示されており、右側に、L
Rn=0.3mm、L
Pb=0.6mmおよびP
leak(Pb)=0.3の高拡散低漏れケースに対する比較が示されている。両方のケースでL
Bi=0.1L
Pbおよびα
Bi=0である。これらの曲線は、DART2Dを用いた完全な2D計算と、(1)シードを点状セグメントからなる有限線に近似し、0D近似を使用することによって得られた計算、(2)無限円筒形源に対する0D近似、方程式(26)および(27)を使用することによって得られた計算、ならびに(3)完全なDART1D計算を使用することによって得られた計算との比を示している。シードを有限線源に近似することは、低拡散シナリオと高拡散シナリオの両方について線量の最大約80%の過小評価につながる。半径R
0の円筒形源に対して閉形式の0D近似を使用することは、2~3mmにおける線量を、低拡散/高漏れケースについては約1~2%だけ、高拡散/低漏れシナリオについては約5~10%だけ過大評価する。対照的に、円筒形源に対する完全な数値解(DART1D)は、2D計算と比べたときに(0.3%のスケールで)正確な結果を提供する。
【0156】
図9は、グリッド間隔4mmの平行シードの六角形シード格子に対して計算された線量を示している。既に述べたとおり、シード半径は0.35mm、その
224Ra放射能は3μCi(長さ1cm超)、P
des(Rn)=0.45、
【数130】
である。これらの計算は、上に定義されている低拡散高漏れケースおよび高拡散低漏れケースに対するものである。これらの計算は、完全な2D解と0D線源近似の両方に対して実行される。3つの隣り合うシード間の中点における線量は、正確な2D計算に関して75/15Gy(それぞれ高拡散/低拡散)、線源近似に関して57/8Gyであり、シードの有限の直径を考慮する必要性を強調している。
【国際調査報告】