(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ホウ素含有多孔質膜及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/22 20060101AFI20240111BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240111BHJP
C25B 13/05 20210101ALI20240111BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240111BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240111BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20240111BHJP
H01M 8/1016 20160101ALI20240111BHJP
H01M 8/1058 20160101ALI20240111BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240111BHJP
B01D 71/82 20060101ALI20240111BHJP
C25B 13/02 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C08J5/22 101
C25B13/04 301
C25B13/05
C25B9/00 A
C25B1/04
H01M8/1004
H01M8/1016
H01M8/1058
H01B1/06 A
B01D71/82 500
C25B13/02 301
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527000
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 US2021029705
(87)【国際公開番号】W WO2022098391
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522422218
【氏名又は名称】1エス1 エナジー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】1S1 ENERGY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】スカンタ バッタチャリャ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ソベク
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
4K021
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4D006GA16
4D006MA03
4D006MC01
4D006MC03
4D006MC04
4D006MC11
4D006PA10
4D006PB02
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4D006PC80
4F071FA04
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4K021DC01
4K021DC03
5G301CD01
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG11
5H126GG18
5H126HH10
(57)【要約】
プロトン交換膜は、多孔質構造のフレームワークと、多孔質構造のフレームワークに結合したホウ素ベースの酸性基を含む。多孔質構造のフレームワークは、アモルファス若しくは結晶性の無機材料、及び/又は合成若しくは天然のポリマーで形成され得る。ホウ素ベースの酸性基は、環状ホウ酸誘導体、ボロスピラニックアシッド、又はボロスピラニックアシッド誘導体等のホウ酸誘導体であってもよい。ホウ素ベースの酸性基は、ホウ酸又はホウ酸誘導体と、ポリヒドロキシ化合物との反応生成物であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造のフレームワークと、
前記多孔質構造のフレームワークに結合したホウ素ベースの酸性基と、を備える、プロトン交換膜。
【請求項2】
前記ホウ素ベースの酸性基が、環状ホウ酸誘導体を含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項3】
前記ホウ素ベースの酸性基が、ボロスピラニックアシッドを含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項4】
前記ホウ素ベースの酸性基が、カテコール誘導体を含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項5】
前記多孔質構造のフレームワークが、前記ホウ素ベースの酸性基によって連結された固体支持体粒子を含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項6】
前記多孔質構造のフレームワークが、多孔質ポリマーネットワークを含み、
前記ホウ素ベースの酸性基が、前記ポリマーネットワークの細孔表面に結合している、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項7】
前記多孔質構造のフレームワークが、無機材料を含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項8】
ホウ素ベースの酸性基を、多孔質構造のフレームワークに含まれる細孔表面と結合させることを含む、プロトン交換膜の作製方法。
【請求項9】
前記ホウ素ベースの酸性基が、環状ホウ酸誘導体を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ホウ素ベースの酸性基が、ボロスピラニックアシッドを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ホウ素ベースの酸性基が、カテコール誘導体を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記結合させることが、ホウ酸又はホウ酸誘導体を、前記細孔表面に存在するヒドロキシル基と反応させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記結合させることが、ポリヒドロキシ化合物を、前記細孔表面に結合したホウ酸誘導体と反応させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記ホウ素ベースの酸性基によって、ナノ粒子を前記細孔表面に結合させることをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
カソードと、
アノードと、
前記カソード及び前記アノードの間に配置されたプロトン交換膜と、を備え、
前記プロトン交換膜が、多孔質構造のフレームワークと、前記多孔質構造のフレームワーク中の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基と、を含む、膜電極接合体。
【請求項16】
前記ホウ素ベースの酸性基が、環状ホウ酸誘導体を含む、請求項15に記載の膜電極接合体。
【請求項17】
前記ホウ素ベースの酸性基が、ボロスピラニックアシッドを含む、請求項15に記載の膜電極接合体。
【請求項18】
前記ホウ素ベースの酸性基が、カテコール誘導体を含む、請求項15に記載の膜電極接合体。
【請求項19】
前記多孔質構造のフレームワークが、無機材料を含む、請求項15に記載の膜電極接合体。
【請求項20】
前記アノード又は前記カソードの少なくとも1つが、触媒及び該触媒を結合するためのアイオノマーを含み、
前記アイオノマーが、ホウ素ベースの酸性基を含む、請求項15に記載の膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2020年9月5日に出願された米国仮特許出願63/109、943号の優先権を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜(PEM)は、水素(H2)及び酸素(O2)等のガスを透過させないが、プロトン(H+)は移動させるように設計された半透膜である。PEMは、酸性条件下での水素燃料電池及び水電解システムで使用され得る。PEMは、強酸性の官能基を有する、機械的及び化学的耐性のある多孔質のフレームワークで構成され得る。例えば、ナフィオンベースのプロトン交換膜は、スルホン酸基を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔質構造のフレームワークを含む。解離しやすいスルホン酸基は、膜においてプロトン輸送剤として機能する。
【発明の概要】
【0003】
以下の記述は、本明細書で記述される方法及びシステムの1つ以上の態様の簡略化された要旨を示し、そのような態様の基本的な理解をもたらす。この要旨は、全ての予期される態様の広範な概要ではなく、全ての態様の鍵又は重要な要素を特定することを意図するものでも、任意の又は全ての態様の範囲を詳しく説明することを意図するものでもない。この唯一の目的は、以下で示されるより詳細な説明の前置きとして、本明細書で記述される方法及びシステムの1つ以上の態様のいくつかの概念を、単純化された形式で示すことである。
【0004】
いくつかの例示的な実施形態において、プロトン交換膜は、多孔質構造のフレームワークと、前記多孔質構造のフレームワークに結合したホウ素ベースの酸性基とを備える。
【0005】
いくつかの例示的な実施形態において、前記ホウ素ベースの酸性基は、環状ホウ酸誘導体を含む。
【0006】
いくつかの例示的な実施形態において、前記ホウ素ベースの酸性基は、ボロスピラニックアシッド(borospiranic acid)を含む。
【0007】
いくつかの例示的な実施形態において、前記ホウ素ベースの酸性基は、カテコール誘導体を含む。
【0008】
いくつかの例示的な実施形態において、前記多孔質構造のフレームワークは、ホウ素ベースの酸性基によって連結された固体支持体粒子を含む。
【0009】
いくつかの例示的な実施形態において、前記多孔質構造のフレームワークは、多孔質ポリマーネットワークを含み、前記ホウ素ベースの酸性基は、該ポリマーネットワークの細孔表面と結合している。
【0010】
いくつかの例示的な実施形態において、多孔質構造のフレームワークは、無機材料を含む。
【0011】
いくつかの例示的な実施形態において、プロトン交換膜を作製する方法は、ホウ素ベースの酸性基を、多孔質構造のフレームワークに含まれる細孔表面と結合させることを含む。
【0012】
いくつかの例示的な実施形態において、結合させることは、ホウ酸又はホウ酸誘導体を、細孔表面に存在するヒドロキシル基と反応させることを含む。
【0013】
いくつかの例示的な実施形態において、結合させることは、ポリヒドロキシ化合物を、細孔表面と結合しているホウ酸誘導体と反応させることを含む。
【0014】
いくつかの例示的な実施形態において、前記方法は、ホウ素ベースの酸性基によって、ナノ粒子を細孔表面に結合させることをさらに含む。
【0015】
いくつかの例示的な実施形態において、膜電極接合体は、カソードと、アノードと、該カソード及び該アノードの間に配置されたプロトン交換膜とを備え、該プロトン交換膜は、多孔質構造のフレームワーク、及び多孔質構造のフレームワーク中の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基を含む。
【0016】
いくつかの例示的な実施形態において、アノード又はカソードの少なくとも1つは、触媒及び該触媒を結合するためのアイオノマーを含み、該アイオノマーは、ホウ素ベースの酸性基を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
添付の図面は、様々な実施形態を示すものであり、明細書の一部である。示される実施形態は、単なる例であり、本開示の範囲を限定するものではない。図面の全体にわたり、同一の又は類似の参照数字は、同一の又は類似の要素を示す。
【
図1】
図1は、多孔質構造のフレームワークと、該多孔質構造のフレームワークの細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基とを含む例示的なプロトン交換膜を示す。
【
図2】
図2Aは、
図1のPEMにおける多孔質構造のフレームワークとホウ素ベースの酸性基との例示的な構造を示す。
図2Bは、
図1のPEMにおける多孔質構造のフレームワークとホウ素ベースの酸性基との他の例示的な構造を示す。
【
図3】
図3Aは、環状ホウ酸誘導体を合成する例示的な反応スキームを示す。
図3Bは、ボロスピラニックアシッドを合成する例示的な反応スキームを示す。
【
図4】
図4Aは、固体支持体に結合した単環環状ホウ酸誘導体を合成する例示的な反応スキームを示す。
図4Bは、ペンダント部分を有する固体支持体に結合したボロスピラニックアシッドを合成する例示的な反応スキームを示す。
【
図5】
図5Aは、カテコール誘導体を組み込んでいる固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体を合成する例示的な反応スキームを示す。
図5Bは、カテコール誘導体及びペンダント部分を組み込んでいる固体支持体に結合したボロスピラニックアシッドを合成する例示的な反応スキームを示す。
【
図6】
図6は、ホウ素ベースの酸性基を含む架橋共重合体を合成する例示的な反応スキーム600を示す。
【
図7】
図7は、多孔質構造のフレームワークの細孔表面を、ホウ酸誘導体で官能化する例示的な反応スキームを示す。
【
図8】
図8Aは、多孔質構造のフレームワークの細孔表面を、ホウ酸誘導体で官能化する他の例示的な反応スキームを示す。
図8Bは、多孔質構造のフレームワークの細孔表面を、ホウ酸誘導体(ボロスピラニックアシッド)で官能化する他の例示的な反応スキームを示す。
【
図9】
図9Aは、ホウ酸誘導体(例えばボロスピラニックアシッド)によって、多孔質構造のフレームワークの細孔表面に粒子(例えばナノ粒子)を結合させる例示的な反応スキームを示す。
図9Bは、ホウ酸誘導体を使用して、ポリマー構造内に多数のシートを含む多数の粒子を架橋する例示的な反応スキームを示す。
【
図10】
図10は、ホウ素含有多孔質膜を組み込んだ例示的なプロトン交換膜水電解システムを示す。
【
図11】
図11は、ホウ素含有多孔質膜を組み込んだ例示的なプロトン交換膜燃料電池を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ホウ素含有多孔質膜、並びにホウ素含有多孔質膜の作製方法及び使用方法を、本明細書で説明する。いくつかの例では、ホウ素含有多孔質膜は、多孔質構造のフレームワークと、該多孔質構造のフレームワークと共有結合したホウ素ベースの酸性基とを含む。前記多孔質構造のフレームワークは、アモルファスの若しくは結晶性の無機材料、及び/又は合成若しくは天然のポリマーで形成されていてもよい。前記ホウ素ベースの酸性基は、環状ホウ酸誘導体、ボロスピラニックアシッド(borospiranic acid)、又はボロスピラニックアシッド誘導体等のホウ酸誘導体であってもよい。いくつかの例においては、前記ホウ素ベースの酸性基は、ホウ酸又はホウ酸誘導体とポリヒドロキシ化合物との反応生成物である。
【0019】
本明細書で記述されるホウ素含有多孔質膜は、酸性下で動作する水電解及び/又は燃料電池用途用のPEMとして使用され得る。本明細書で記述されるホウ素含有PEMにおいては、カチオン(例えばプロトン)交換は、4価の負に帯電したホウ素原子とイオン的に結合したプロトンによりもたらされる。酸素-ホウ素結合の存在は、多孔質構造のフレームワークの親水性を向上させ、負に帯電したホウ素原子を安定させる。また、本明細書で記述されるホウ素含有PEMは、高い機械的強度、高いプロトン伝導度、低い電子伝導度、高pH勾配下での化学的安定性、耐久性を有し、製造コストが低い。ホウ素含有多孔質膜は、天然に豊富にあり、安価なホウ酸及びその前駆体(ホウ砂)から製造され得る。また、いくつかの例においては、本明細書で記述されるホウ素含有多孔質膜は、毒性物質を含有しない。
【0020】
本明細書で記述されるホウ素含有多孔質膜は、細菌、ウイルス、及び真菌胞子などの病原体をろ過及び/又は無力化するためにも使用され得る。例えば、ホウ素含有多孔質膜は、フェイスマスク、外科手術用マスク、エアフィルター、及び密閉空間(例えば家、オフィス、病院、工場、乗り物、飛行機等)用の空気清浄機に組み込まれてもよい。
【0021】
本明細書で記述される装置、構成及び方法は、上述した1つ以上の利益、並びに/或いは本明細書で明らかにされ得る様々な追加の及び/又は代わりの利益をもたらし得る。ここでは、図を参照して、様々な実施形態をより詳細に記述する。様々な変化物が本開示の範囲内で作製され得るため、以下の実施形態は、単なる例示であり、限定するものではないことを理解されるだろう。
【0022】
図1は、例示的なプロトン交換膜100(PEM100)を示している。PEM100は、多孔質構造のフレームワーク102、及び多孔質構造のフレームワーク102の全体に分布し、多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基104を含む。
【0023】
多孔質構造のフレームワーク102は、無機材料及び/又は有機材料を含む、任意の適切な材料又は材料の組み合わせで形成され得る。適切な無機材料としては、アモルファスの無機材料(例えばガラス、石英ガラス、又はセラミック)、及び/又は結晶性の無機材料(例えば石英、単結晶シリコン、又はアルミナ)が挙げられる。適切な有機材料としては、例えば、合成及び/又は天然のポリマー(例えばセルロース)が挙げられる。
【0024】
PEM100は、数ミクロンから数百ミクロンの範囲の厚さdを有してもよい。本明細書で記述される構造であると、PEM100は、膜を通じて最大30気圧の圧力差及び酸性pH勾配に耐え得る。PEM100は、水及びプロトンを透過させることができてもよく、これらは矢印106で示されるようにPEM100を通って伝わり得るが、PEM100は、通常、水素及び酸素を含むガスを透過させない。
【0025】
ホウ素ベースの酸性基104は、
図2A及び2Bで示されるように、2つ以上の異なる構造でPEM100内の細孔表面と結合し得る。
図2A及び2Bは、PEM100における多孔質構造のフレームワーク102及びホウ素ベースの酸性基104の例示的な構造を示している。
図2A及び2Bのそれぞれは、PEM100の一部のみ示しており、PEM100全体の特徴を代表するものであることを認識されるだろう。
【0026】
図2Aに示される第1の例示的な構造200Aにおいて、細孔204に隣接する細孔表面は、ホウ素ベースの酸性基104が細孔表面202と結合されるように、ホウ素ベースの酸性基104で官能化されている。
図2Aは、細孔表面202と結合した1つのホウ素ベースの酸性基104のみを示しているが、多孔質構造のフレームワーク102は、任意の数及び濃度の細孔表面202に結合したホウ素ベースの酸性基104を有してもよい。
【0027】
図2Bに示される第2の例示的な構造200Bにおいて、多孔質構造のフレームワーク102は、ホウ素ベースの酸性基104により共に連結された固体支持体粒子206(例えば固体支持体粒子206-1から206-4)を含む。連結された固体支持体粒子206は、固体支持体粒子206同士の間の空間に細孔208を形成する。ホウ素ベースの酸性基104は、細孔表面210(例えば固体支持体粒子206-1から206-4の細孔表面210-1から210-4)と結合される。
図2Bは、4つの固体支持体粒子206が、ホウ素ベースの酸性基104によって連結されていることを示しているが、任意の他の数の固体支持体粒子206が、ホウ素ベースの酸性基104によって連結されてもよい。さらに、それぞれの固体支持体粒子206は、1つ以上のさらなるホウ素ベースの酸性基によって、1つ以上のさらなる固体支持体粒子と連結していてもよく、それによって、多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面210に結合したホウ素ベースの酸性基104を有する多孔質構造のフレームワーク102を形成してもよい。
【0028】
固体支持体粒子206は、多孔質構造のフレームワーク102について上述した任意の材料等、例えば無機分子(例えば石英ガラス粒子、セラミック粒子等)又は有機分子(例えばポリマー)等の任意の適切な材料で形成されていてもよい。固体支持体粒子206は、任意の適切な形状及び数十ナノメートル(nm)から百ミクロンの範囲の大きさであってもよい。PEM100の間隙率は、固体支持体粒子206の大きさにより制御及び決定できる。また、固体支持体粒子206は、機械的強度、高pH勾配の環境における耐久性、及び/又は水に対する親和性のために選択してもよい(例えば、固体支持体粒子は、PEM100に要求される水親和性のバランスによって親水性又は疎水性を選択してもよい)。
【0029】
いくつかの例では、ホウ素ベースの酸性基104は、ホウ酸誘導体(例えばホウ酸由来の化合物又は基)を含む。ホウ酸は、分子式B(OH)
3であり、式(I)で与えられる以下の構造:
【化1】
を有する。
【0030】
ホウ酸誘導体は、ホウ酸の1つ、2つ又は全てのヒドロキシル(OH)基が反応し、1つ以上の他の化合物と結びついている任意の化合物又は基であり得る。例示的なホウ酸誘導体を、以下で詳細に説明する。
【0031】
ホウ酸誘導体を、任意の適切な方法で形成してもよい。いくつかの例においては、ホウ酸誘導体は、ホウ酸又は他のホウ酸誘導体と、1つ以上の他の化合物の1つ又は2つのヒドロキシル基との反応により形成される。例えば、ホウ酸又はホウ酸誘導体は、2つ以上のシス隣接のヒドロキシル基を有するポリヒドロキシ化合物と反応し得る。ホウ酸誘導体は、限定されるものではないが、環状ホウ酸誘導体、ボロスピラニックアシッド、ボロスピラニックアシッド誘導体、及び本明細書で記述される任意の他のホウ酸誘導体等の任意の適切なホウ酸誘導体が挙げられ得る。前記ポリヒドロキシ化合物は、ポリオール、糖、糖アルコール(例えばグリセロール、マンニトール又はソルビトール)、カテコール、又はこれらのいずれかの誘導体等の任意の適切なポリヒドロキシ化合物であってもよい。いくつかの例においては、ポリヒドロキシ化合物は、以下の式(IIa)又は(IIb):
【化2】
で表される構造を有し、式中、W、X、Y及びZは、ペンダント部分であり、それぞれ独立して、水素(H)、ヒドロキシル基(OH)、フルオロ基(F)、クロロ基(Cl)、ジアルキルアミノ基(NR
2)、シアノ基(CN)、カルボン酸(COOH)、カルボン酸アミド、カルボン酸エステル、アルキル基、アルコキシ基、及びアリール基からなる群より選択され得る。いくつかの例においては、基W、X、Y及びZの任意の1つ以上は、酸素(O)、ヒドロキシル基(OH)、フルオロ基(F)、クロロ基(Cl)、ジアルキルアミノ基(NR
2)、シアノ基(CN)、カルボン酸(COOH)、カルボン酸アミド、カルボン酸エステル、アルキル基、アルコキシ基、及びアリール基等の1つ以上の置換基を任意で含み得るC
1~C
30アルキル鎖を表してもよい。
【0032】
ここでは、ポリヒドロキシ化合物とのホウ酸又はホウ酸誘導体の反応によりホウ酸誘導体を作製する例示的な反応スキームを示し、
図3A及び3Bを参照して記述する。以下の反応スキームは、単なる例示であり、限定するものではないことを認識されるだろう。
【0033】
図3Aは、環状ホウ酸誘導体を合成する例示的な反応スキーム300Aを示している。示されているように、ホウ酸302は、グリセロール304と結びつき、環状ホウ酸誘導体306を生成する。グリセロール304は、式(IIa)により表され、式中、X、Y及びZは、それぞれ水素(H)であり、Wは、ヒドロキシメチル基(CH
2OH)である。
図3Aは、ホウ酸がグリセロール304と反応していることを示しているが、ホウ酸302は、任意の他の適切な糖(例えばグルコース、フルクトース等)、糖アルコール(例えばマンニトール、ソルビトール等)又はポリヒドロキシ化合物と反応してもよい。追加で又は代わりに、ホウ酸誘導体を、ホウ酸302の代わりに使用してもよい。
【0034】
図3Bは、ホウ酸誘導体でもあるボロスピラニックアシッドを合成する例示的な反応スキーム300Bを示している。示されているように、
図3Aで示される反応スキーム300Aにより生成される環状ホウ酸誘導体306は、他のグリセロール分子304と結び付き、ボロスピラニックアシッド308を生成する。ホウ酸302は弱酸であるが、糖アルコール(例えばグリセロール304)等のポリヒドロキシ化合物の存在下で、強酸であるボロスピラニックアシッド308を形成する。
図3Bは、環状ホウ酸誘導体306がグリセロール304と反応していることを示しているが、環状ホウ酸誘導体306は、任意の他の適切な糖、糖アルコール(例えばマンニトール、ソルビトール等)又はポリヒドロキシ化合物と反応してもよい。追加で又は代わりに、環状ホウ酸誘導体306は、任意の他の適切な環状ホウ酸誘導体で置き換えられてもよい。
【0035】
図3A及び
図3Bで示される反応スキーム300A及び300Bは、細孔表面202(
図2A参照)に結合したホウ素ベースの酸性基104を生成するために、及び/又は細孔表面210(
図2B参照)に結合したホウ素ベースの酸性基104を生成するために使用してもよい。いくつかの例においては、固体支持体材料の表面(例えば細孔表面202又は粒子表面210)は、ホウ酸誘導体又はポリヒドロキシ化合物で官能化され得る。ここでは、多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基104を形成する例示的な反応スキームを示し、
図4A~9Bを参照して記述する。これらの反応スキームは、単なる例示であり、限定するものではないことを認識されるだろう。
【0036】
図4Aは、固体支持体に結合した単環環状ホウ酸誘導体を合成する例示的な反応スキーム400Aを示している。示されているように、固体支持体402は、シス隣接するジヒドロキシ基を有するシス-1,2-ジヒドロキシ基404で官能化されている。固体支持体402は、多孔質構造のフレームワーク102について本明細書で記述される任意の無機又は有機固体支持体材料(例えば、ガラス、セラミック、合成高分子、天然高分子)で形成されていてもよく、固体支持体の機械的強度、高pH勾配での環境における耐久性、及び/又は水に対する親和性のために選択してもよい(例えば、PEM100に要求される水親和性のバランスによって、親水性又は疎水性を選択してもよい)。固体支持体402は、
図2Bを参照して説明した固体支持体206に類似の粒子であってもよい。代わりに、固体支持体402は、
図2Aを参照して説明した多孔質構造のフレームワーク102の一部であってもよい。
【0037】
図4Aで示されるように、シス-1,2-ジヒドロキシ基404は、式(IIa)で表される構造を有し、ペンダント部分Y’及び固体支持体402に結合したリンカー鎖406(式(IIa)におけるペンダント基W又はXで表される)を含む。リンカー鎖406は、C
1~C
30アルキル鎖であり、任意で、リンカー鎖406の各原子と同一であっても又は異なってもよい1つ以上のペンダント部分X’を有する。X’及びY’は、それぞれ独立して、水素(H)、ヒドロキシル基(OH)、フルオロ基(F)、クロロ基(Cl)、ジアルキルアミノ基(NR
2)、シアノ基(CN)、カルボン酸(COOH)、カルボン酸アミド、カルボン酸エステル、アルキル基、アルコキシ基、及びアリール基からなる群より選択され得る。
【0038】
シス-1,2-ジヒドロキシ基404は、ホウ酸408と反応し、固体支持体402と結合した単環環状ホウ酸誘導体410を生成する。この構造であると、固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体410は、PEM100の多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基104をもたらし得る。代わりに、固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体410は、
図4Bを参照してここで記述するように、ポリヒドロキシ化合物とさらに反応し、他のホウ酸誘導体(例えばボロスピラニックアシッド)を生成し得る。
【0039】
図4Bは、ペンダント部分を有する固体支持体に結合したボロスピラニックアシッドを合成する例示的な反応スキーム400Bを示している。示されているように、固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体410(
図4Aで示される反応スキーム400Aで生成される)は、ペンダント部分A’、B’、C’及びD’を有するポリヒドロキシ化合物412と結び付く。ポリヒドロキシ化合物412は、式(IIa)で表される構造を有する。したがって、ペンダント部分A’、B’、C’及びD’は、式(IIa)に関して上述したペンダント部分W、X、Y及びZと一致し得る。
【0040】
固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体410及びポリヒドロキシ化合物412は、反応してペンダント部分A’、B’、C’及びD’を有する固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド414を生成する。この構造であると、固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド414は、PEM100の多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面と結合したホウ素ベースの酸性基104をもたらし得る。固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド414は、A’、B’、C’、D’、X’及びY’置換の電気的性質に応じて、強いプロトン交換特性を示し得る。
【0041】
固体支持体402がポリマーネットワークを含む例では、固体支持体に結合したホウ酸誘導体410及び固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド414を、それぞれホウ酸及びボロスピラニックアシッドの装填量を制御しながら、
図10及び11を参照して以下で説明する、膜電極接合体中の触媒層に結合する触媒用のアイオノマーを形成するために使用してもよい。
【0042】
図5Aは、カテコール誘導体を組み込んでいる固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体を合成する例示的な反応スキーム500Aを示している。反応スキーム500Aは、反応スキーム500Aではポリヒドロキシ化合物がカテコール誘導体を含むという点を除いて、反応スキーム400Aと同様である。
【0043】
反応スキーム500Aにおいて、固体支持体502は、カテコール誘導体504で官能化される。固体支持体502は、固体支持体402と同一又は類似であり得る。カテコール誘導体504は、式(IIb)で表される構造を有し、ペンダント部分W”、Y”及びZ”、並びに固体支持体502に結合したリンカー鎖506(式(IIb)のペンダント基Xで表される)を含む。リンカー鎖506は、C1~C30アルキル鎖であり、任意で、1つ以上のペンダント部分X”を有しており、該ペンダント部分X”は、リンカー鎖506の各原子と同一であっても、又は異なってもよい。ペンダント部分W”、X”、Y”及びZ”は、それぞれ独立して、水素(H)、ヒドロキシル基(OH)、フルオロ基(F)、クロロ基(Cl)、ジアルキルアミノ基(NR2)、シアノ基(CN)、カルボン酸(COOH)、カルボン酸アミド、カルボン酸エステル、アルキル基、アルコキシ基、及びアリール基からなる群より選択され得る。
【0044】
カテコール誘導体504は、ホウ酸508と反応し、カテコール誘導体を組み込んでいる固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体510を生成する。固体支持体502がポリマーである場合、(例えばカテコール-ホルムアルデヒド樹脂を形成するために)カテコール構造を、
図6を参照して以下で説明するように、重合中に導入してもよい。代わりに、カテコール構造を、(例えば、メリフィールドタイプの樹脂の機能変性により)後重合で導入してもよい。
【0045】
この構造であると、カテコール誘導体を組み込んでいる固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体510は、PEM100の多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基104をもたらし得る。代わりに、カテコール誘導体を組み込んでいる固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体510は、
図5Bを参照してここで説明するように、ポリヒドロキシ化合物とさらに反応し、他のホウ酸誘導体(例えばボロスピラニックアシッド誘導体)を生成し得る。
【0046】
図5Bは、カテコール誘導体及びペンダント部分を組み込んでいる固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド誘導体を合成する例示的な反応スキーム500Bを示している。反応スキーム500Bにおいては、カテコール誘導体を組み込んでいる固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体510は、ペンダント部分A”、B”、C”及びD”を有するポリヒドロキシ化合物512と結び付く。ポリヒドロキシ化合物512は、式(IIa)により表される構造を有する。したがって、ペンダント部分A”、B”、C”及びD”は、式(IIa)に関して上述したペンダント部分W、X、Y及びZと一致し得る。
【0047】
カテコール誘導体を組み込んでいる固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体510は、ポリヒドロキシ化合物512と結び付き、カテコール誘導体を組み込んでおり、ペンダント部分A”、B”、C”及びD”を含む固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド514を生成する。この構造であると、カテコール誘導体を組み込んでおり、ペンダント部分を含む固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド514は、PEM100中の多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基104をもたらし得る。
【0048】
図6は、ホウ素ベースの酸性基を含有する架橋共重合体を合成する例示的な反応スキーム600を示している。反応スキーム600においては、カテコール602、ホルムアルデヒド604及びホウ酸606が結び付いて重合し、カテコール-ホルムアルデヒド-ホウ酸架橋共重合体608(「共重合体608」)を生成する。共重合体608は、ボロスピラニックアシッド基612により連結されたカテコール構造610を含む。共重合体608の個々のポリマーは、カテコール構造610の間の架橋614により架橋されている。また、共重合体608は、フェノール、レゾルシノール、及びトリヒドロキシフェノール等の他のフェノールモノマーを含んでもよい。
【0049】
共重合体608は、PEM及びアイオノマーの用途に適している。例えば、
図2Bで示されるPEM100の構造は、(ホウ素ベースの酸性基104に対応する)ボロスピラニックアシッド基612が、(固体支持体粒子206に対応する)カテコール構造610と結合し、連結することにより形成され、それによって、多孔質構造のフレームワーク102を形成する。ボロスピラニックアシッド基612のmol%含有量は、
図10及び11を参照して以下で説明する、PEM100として、又はMEA中の触媒層に結合する触媒用の、触媒用アイオノマーとして、最適な機能的性質のために制御してもよい。
【0050】
前述のように、いくつかの例においては、多孔質構造のフレームワーク102内の細孔表面(例えば細孔表面202)は、ホウ素ベースの酸性基104で官能化される(
図2A参照)。
図7~9Aは、多孔質構造のフレームワークの細孔表面をホウ素ベースの酸性基で官能化する例示的な反応スキームを示している。これらの反応スキームは、細孔表面に1つ以上のヒドロキシル基がある固体支持体材料と相性が良い。このような材料の例としては、限定されるものではないが、シリカ、ガラス、アルミナ、クレー、合成ポリマー、及びセルロースが挙げられる。
【0051】
図7は、ホウ素ベースの酸性基で細孔表面を官能化する例示的な反応スキーム700を示している。
図7で示されているように、固体支持体702は、表面704及び表面704におけるヒドロキシル基706を含む。固体支持体702の表面704は、多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面(例えば
図2Aで示される表面202)、又は固体支持粒子(例えば
図2Bで示される固体支持体粒子206の表面210)であり得る。
図7は、表面704が、一つのヒドロキシル基706のみ有していることを示しているが、表面704は、任意の他の量及び濃度のヒドロキシル基706を有していてもよい。反応スキーム700において、固体支持体702の表面704は、ホウ酸708に曝され、ヒドロキシル基706と反応し、表面704に結合したホウ酸誘導体710を形成する。固体支持体に結合したホウ酸誘導体710は、PEM100の多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基104をもたらし得る。代わりに、固体支持体に結合したホウ酸誘導体710は、ホウ酸、他のホウ酸誘導体又はポリヒドロキシ化合物とさらに反応し、他のホウ酸誘導体を生成してもよい。
【0052】
図8Aは、ホウ素ベースの酸性基で多孔質構造のフレームワークの細孔表面を官能化する他の例示的な反応スキーム800Aを示している。反応スキーム800Aは、ホウ酸708が表面704の2つのヒドロキシル基706と反応し、環状ホウ酸誘導体802を生成することを除き、反応スキーム700と同様である。いくつかの例においては、表面704を、ヒドロキシル基706の表面密度を増加させるために予め活性化させてもよい。任意の適切な予備活性化プロセスを使用してもよい。環状ホウ酸誘導体802は、PEMの多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基104をもたらし得る。代わりに、環状ホウ酸誘導体802は、
図8Bを参照してここで説明するように、さらに反応して他のホウ酸誘導体を生成してもよい。
【0053】
図8Bは、ホウ酸誘導体(例えばボロスピラニックアシッド基)で多孔質構造のフレームワークの細孔表面を官能化する他の例示的な反応スキーム800Bを示している。反応スキーム800Bにおいては、
図8Aで示される反応スキーム800Aで生成した環状ホウ酸誘導体802は、ペンダント部分A’’’、B’’’、C’’’及びD’’’を有するポリヒドロキシ化合物804と結び付く。ポリヒドロキシ化合物804は、式(IIa)で表される構造を有する。したがって、ペンダント部分A’’’、B’’’、C’’’及びD’’’は、式(IIa)に関して上述したペンダント部分W、X、Y及びZと一致し得る。環状ホウ酸誘導体802及びポリヒドロキシ化合物804は、反応してペンダント部分806を有するボロスピラニックアシッドを生成し、細孔表面704に結合される。ペンダント部分806を有する、固体支持体に結合したボロスピラニックアシッドは、PEM100の多孔質構造のフレームワーク102の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基104をもたらし得る。
【0054】
図9Aは、ホウ酸誘導体(例えばボロスピラニックアシッド)によって、多孔質構造のフレームワークの細孔表面に粒子(例えば、ナノ粒子又は微粒子)を結合させる例示的な反応スキーム900Aを示している。PEM100の間隙率は、粒子902の大きさによって制御して決めることができる。粒子902は、機械的強度、高pH勾配の環境における耐久性、及び/又は水に対する親和性のために選択してもよい(例えば、固体支持体粒子は、PEM100に要求される水親和性のバランスによって親水性又は疎水性を選択してもよい)。
【0055】
スキーム900Aは、ヒドロキシル基904を有する粒子902が、ホウ酸708に結合することを除いて、スキーム800Aと同様である。結果として、細孔表面704上のヒドロキシル基706は、ホウ酸708を使用して、粒子902の表面上のヒドロキシル基904と架橋される。このクロスカップリング反応は、ボロスピラニックアシッド906によって、粒子902と細孔表面704の連結をもたらす。粒子902は、任意の適切な材料(例えば、シリカ、ガラス、アルミナ、セラミック、クレー、合成ポリマー、セルロース)で形成されていてもよく、固体支持体702の材料と同一であってもよいし、又は異なっていてもよい。
【0056】
反応スキーム900Aを制御し、任意の順序で進めてもよい。いくつかの例においては、反応スキーム900Aの第1のステップは、固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体802を生成する反応スキーム800Aを行うことを含む。第2のステップにおいては、粒子902は、固体支持体に結合した環状ホウ酸誘導体802に曝され、固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド906を生成し得る。別の方法において、第1のステップでは、粒子902は、ホウ酸708と結合し、中間体であるホウ酸誘導体を生成し得る。第2のステップにおいては、固体支持体702の表面704上のヒドロキシル基706が、中間体であるホウ酸誘導体に曝され、反応して固体支持体に結合したボロスピラニックアシッド906を生成し、粒子902と固体支持体702を連結させる。他のさらなる例においては、反応スキーム900Aは、単一のステップにおいて全ての反応物を結合させることにより実行され得る。
【0057】
図9Bは、ホウ酸誘導体を使用して、ポリマー構造内の多数のシートを含む多数の粒子を架橋させる例示的な反応スキーム900Bを示している。反応スキーム900Bは、反応スキーム900Bにおいて、粒子902(第1の粒子902)が、(細孔表面704上のヒドロキシル基706で架橋される代わりに)2つのヒドロキシル基910を差し出す第2の粒子908で架橋されることを除いて、反応スキーム900Aと同様である。第1の粒子902及び第2の粒子908は、それぞれ微粒子又はナノ粒子であり、特定の実施に適し得るような任意の大きさ(例えば、数ナノメートルから数百ミクロンまでの大きさに及び得る)であり得る。反応スキーム900Bは、ボロスピラニックアシッド基914で連結された粒子912を生成する。第1の粒子902及び第2の粒子908は、同一の材料又は使用している異なる材料からできていてもよく、該材料は、本明細書で記述される任意の固体支持体材料(例えば、シリカ、ガラス、アルミナ、セラミック、クレー、合成高分子、セルロース等)から選択され得る。
【0058】
反応スキーム900Bは、
図2Bに示される第2の構造200Bを効率的に使用して、PEM100を製造するために使用され得る。PEM100の間隙率は、第1の粒子902及び第2の粒子908の大きさによって決定され得る。
【0059】
本明細書で記述されるホウ素含有多孔質膜は、水電解及び/又は燃料電池の用途で使用されてもよい。ここでは、例示的な用途を、
図10及び11を参照して説明する。
【0060】
図10は、ホウ素含有多孔質膜を組み込んでいる、例示的なプロトン交換膜水電解システム1000(PEM水電解システム1000)を示している。PEM水電解システム1000は、電気を使用し、電気化学反応によって水を酸素(O
2)及び水素(H
2)に分解する。PEM水電解システム1000の構造は、他の適切な水電解システムと同様に、他の適切な構造がホウ素含有多孔質膜を組み込んでもよいため、単なる例示であり、限定されるものではない。
【0061】
図10に示されるように、PEM水電解システム1000は、膜電極接合体1002(MEA1002)、多孔質輸送層1004-1及び1004-2、バイポーラ板1006-1及び1006-2、並びに電力供給源1008を含む。また、PEM水電解システム1000は、特定の実施をし得るときに、
図10で示されていない追加の又は代わりの構成要素を含んでもよい。
【0062】
MEA1002は、第1の触媒層1012-1及び第2の触媒層1012-2の間に配置されるPEM1010を含む。PEM1010は、プロトン(H+)等のカチオンの選択的な伝導性をもたらしながら、また、水素や酸素等のガスを透過させないようにしながら、第1の触媒層1012-1を第2の触媒層1012-2から電気的に分離している。PEM1010は、任意の適切なPEMとされ得る。例えば、PEM1010は、多孔質構造のフレームワーク内の細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基を有する、多孔質構造のフレームワークを含むホウ素含有多孔質膜(例えばPEM100)とされ得る。
【0063】
第1の触媒層1012-1及び第2の触媒層1012-2は、白金、ルテニウム、及び/又は酸化セリウム(IV)等の埋設された電気化学触媒(図示せず)を有する伝導性電極である。いくつかの例においては、第1の触媒層1012-1及び第2の触媒層1012-2は、触媒ナノ粒子を結合するアイオノマーを使用して形成される。前述のように、第1の触媒層1012-1及び第2の触媒層1012-2を形成するために使用されるアイオノマーは、本明細書で記述されるように、コポリマー608(
図6参照)等のホウ素ベースの酸性基を含んでもよい。
【0064】
MEA1002は、多孔質輸送層1004-1と1004-2との間に設置され、該MEA1002は、同様に、バイポーラ板1006-1と1006-2との間に設置され、流路1014-1及び1014-2は、バイポーラ板1006と多孔質輸送層1004との間に位置する。
【0065】
MEA1002において、第1の触媒層1012-1は、アノードとして機能し、第2の触媒層1012-2は、カソードとして機能する。PEM水電解システム1000が、電力供給源1008によって電極を供給される場合、以下の電気化学半反応で表される酸素発生反応(OER)がアノード1012-1で起こる。
2H2O→O2+4H++4e-
プロトンは、PEM1010を通ってアノード1012-1からカソード1012-2に伝導し、電子は、PEM100周辺の伝導経路により、アノード1012-1からカソード1012-2に伝導する。PEM1010は、アノード1012-1からカソード1012-2へのプロトン(H+)及び水の移動を可能にするが、酸素及び水素は透過させない。カソード1012-2では、プロトンは、以下の電気化学半反応で表される水素発生反応(HER)において電子と結合する。
4H++4e-→2H2
【0066】
OER及びHERは、電気により水を分解する2つの相補的な電気化学反応であり、以下の全体水電解反応により表される。
2H2O→2H2+O2
【0067】
図11は、ホウ素含有多孔質膜を含む、例示的なプロトン交換膜燃料電池1100(PEM燃料電池1100)を示している。PEM燃料電池1100は、電気化学反応の結果として電気を生成する。この例において、電気化学反応は、水素ガス(H
2)及び酸素ガス(O
2)を反応させ、水及び電気を生成することを含む。他の適切なプロトン交換膜燃料電池と同様に、他の適切な構造は、ホウ素含有多孔質膜を取り入れてもよいため、PEM燃料電池1100の構造は、単なる例示であり、限定されるものではない。
【0068】
図11に示されるように、PEM燃料電池1100は、膜電極接合体1102(MEA1102)、多孔質輸送層1104-1及び1104-2、バイポーラ板1106-1及び1106-2を有する。電気機器1108は、MEA1102に電気的に接続され、PEM燃料電池1100により駆動される。また、PEM燃料電池1100は、特定の実施をもたらすように、
図11に示されていない追加の又は代わりの構成要素を含んでもよい。
【0069】
MEA1102は、第1の触媒層1112-1と第2の触媒層1112-2との間に配置されるPEM1110を含む。PEM1110は、プロトン(H+)等のカチオンの選択的な伝導をもたらしながら、また、水素や酸素等のガスを透過させないようにしながら、第1の触媒層1112-1を第2の触媒層1112-2から電気的に分離している。PEM1100は、任意の適切なPEMにより与えられてもよい。例えば、PEM1110は、多孔質構造のフレームワークの細孔表面に結合したホウ素ベースの酸性基を有する、多孔質構造のフレームワークを含むホウ素含有多孔質膜(例えばPEM100)により与えられる。
【0070】
第1の触媒層1112-1及び第2の触媒層1112-2は、埋設された電気化学触媒(図示せず)を有する伝導性電極である。いくつかの例では、第1の触媒層1112-1及び第2の触媒層1112-2は、触媒ナノ粒子を結合するアイオノマーを使用して形成される。いくつかの例においては、第1の触媒層1112-1及び第2の触媒層1104-2の形成に使用されるアイオノマーは、共重合体608(
図6参照)等の本明細書で記述されるようなホウ酸誘導体を組み込んでいるアイオノマーを含む。
【0071】
MEA1102は、多孔質輸送層1104-1と1104-2との間に設置され、結果として、バイポーラ板1106-1と1106-2との間に設置され、流路1114はそれらの中間に位置する。MEA1102において、第1の触媒層1112-1は、カソードとして機能し、第2の触媒層1112-2は、アノードとして機能する。カソード1112-1及びアノード1112-2は、機器1108に電気的に接続され、機器1108を駆動するPEM燃料電池1100によって電気が生み出される。
【0072】
PEM燃料電池1100の稼働中に、水素ガス(H2)は、PEM燃料電池1100のアノード側に流れ込み、酸素ガス(O2)は、PEM燃料電池1100のカソード側に流れ込む。アノード1112-2において、水素分子は、以下の水素酸化反応(HOR)に従って、触媒によりプロトン(H+)及び電子(e-)に分解される。
2H2→4H++4e-
プロトンは、PEM1100を通って、アノード1112-2からカソード1112-1に移動し、電子は、伝導経路及び機器1108を通って、PEM1110周辺のアノード1112-2からカソード1112-1に伝導する。カソード1112-1において、プロトン及び電子は、以下の酸素還元反応(ORR)に従って、酸素ガスと結合する。
O2+4H++4e-→2H2O
したがって、PEM燃料電池1100での全体の電気化学反応は、
2H2+O2→2H2O
である。
【0073】
全体反応において、PEM燃料電池1100は、カソード1112-1で水を生成する。水は、PEM1110を通ってカソード1112-1からアノード1112-2に流れ込み得、PEM燃料電池1100のカソード側及び/又はアノード側の排出口を通って除去され得る。全体反応は、アノードにおいて、機器1108を駆動する電子を発生させる。
【0074】
本明細書で記述されるホウ素含有多孔質膜(例えばPEM100)は、病原体中和多孔質膜として使用してもよい。例えば、多孔質構造のフレームワーク102は、細菌、真菌胞子及びウイルス等の病原体の移動を防ぐのに十分小さい細孔を有していてもよい。また、ホウ素ベースの酸性基104は、細菌、真菌、及びSARS-CoV-2を含むウイルスに対する抗病原性活性を有していてもよい。例えば、SARS-CoV-2を含む病原体の塩基性タンパク部位は、プロトン交換膜の酸性のホウ素部位とイオン的に結合してもよく、それによって、プロトン交換膜を通じての病原体の移動を防いでもよい。結果として、プロトン交換膜は、フェイスマスク、外科手術用マスク、並びに密閉空間(例えば、家、オフィス、病院、工場、乗り物、航空機等)用のエアフィルター及び空気清浄機で実装され得る。
【0075】
前述の説明において、添付の図を参照して、様々な例示的な実施形態を記述した。しかしながら、以下の特許請求の範囲の範囲から逸脱しないで、様々な改良物及び変化物が作製され得、さらなる実施形態が実装され得ることは明白であるだろう。例えば、本明細書で記述される1つの実施形態のある特徴を、本明細書で記述される他の実施形態の特徴と組み合わせてもよいし又は置き換えてもよい。したがって、本明細書及び図面は、限定的意味ではなく、例示的なものであるとみなされたい。
【0076】
前述の説明において、添付の図を参照して、様々な例示的な実施形態を説明した。しかしながら、以下の特許請求の範囲に記載されている発明の範囲を逸脱しないで、様々な改良物及び変化物を作製し、さらなる実施形態が実装され得ることは明白であるだろう。例えば、本明細書に記述される1つの実施形態のある特徴を、本明細書で記述される他の実施形態の特徴と組み合わせてもよいし又は置き換えてもよい。したがって、本明細書及び図面は、限定的意味ではなく、例示的なものであるとみなされたい。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造のフレームワークと、
前記多孔質構造のフレームワークに結合した
4価のホウ素ベースの酸性基と、を備える、プロトン交換膜。
【請求項2】
前記
4価のホウ素ベースの酸性基が、環状ホウ酸誘導体を含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項3】
前記
4価のホウ素ベースの酸性基が、ボロスピラニックアシッドを含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項4】
前記
4価のホウ素ベースの酸性基が、カテコール誘導体を含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項5】
前記多孔質構造のフレームワークが、前記
4価のホウ素ベースの酸性基によって連結された固体支持体粒子を含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項6】
前記多孔質構造のフレームワークが、多孔質ポリマーネットワークを含み、
前記
4価のホウ素ベースの酸性基が、前記ポリマーネットワークの細孔表面に結合している、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項7】
前記多孔質構造のフレームワークが、無機材料を含む、請求項1に記載のプロトン交換膜。
【請求項8】
4価のホウ素ベースの酸性基
で、多孔質構造のフレームワークに含まれる細孔表面
を官能化することを含む、プロトン交換膜の作製方法。
【請求項9】
前記
4価のホウ素ベースの酸性基が、環状ホウ酸誘導体
又はボロスピラニックアシッドを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記
4価のホウ素ベースの酸性基が、カテコール誘導体を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記
官能化することが、ホウ酸又はホウ酸誘導体を、前記細孔表面に存在するヒドロキシル基と反応させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記
官能化することが、ポリヒドロキシ化合物を、前記細孔表面に結合したホウ酸誘導体と反応させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記
4価のホウ素ベースの酸性基によって、ナノ粒子を前記細孔表面に結合させることをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
カソードと、
アノードと、
前記カソード及び前記アノードの間に配置されたプロトン交換膜と、を備え、
前記プロトン交換膜が、多孔質構造のフレームワークと、前記多孔質構造のフレームワーク中の細孔表面に結合した
4価のホウ素ベースの酸性基と、を含む、膜電極接合体。
【請求項15】
前記アノード又は前記カソードの少なくとも1つが、触媒及び該触媒を結合するためのアイオノマーを含み、
前記アイオノマーが、
4価のホウ素ベースの酸性基を含む、請求項1
4に記載の膜電極接合体。
【国際調査報告】