(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-18
(54)【発明の名称】新規の粉末、同粉末から製造される部品の積層造形方法、および同粉末から製造された物品
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240111BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240111BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20240111BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240111BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240111BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20240111BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240111BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240111BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20240111BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240111BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240111BHJP
【FI】
B22F1/00 N
C22C21/00 L
C22F1/04 B
B22F1/052
B22F10/28
B22F10/64
B33Y70/00
B33Y10/00
B33Y40/20
B33Y80/00
C22F1/00 621
C22F1/00 630A
C22F1/00 631A
C22F1/00 640A
C22F1/00 681
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023535483
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2021084431
(87)【国際公開番号】W WO2022122670
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カリン、フリスク
(72)【発明者】
【氏名】ベングトソン、スベン
(72)【発明者】
【氏名】ニューボルグ、ラルス
(72)【発明者】
【氏名】バーラト、メータ
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA15
4K018BA08
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA08
(57)【要約】
本発明は、積層造形に適したAl基粉末を提供する。一実施形態では、粉末は、3~5.5重量%のMnと、0.2~2重量%のZrと、0.1~1.4重量%のCrと、0~2重量%のMgと、合計で最大0.7重量%のFeおよびSiと、0.7重量%以下の不可避不純物としてのOと、0.5重量%以下のその他の不可避不純物と、残部であるAlからなる。本発明はまた、積層造形法ならびに積層造形によって製造された物品にも関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形に適したプレアロイAl基粉末であって、プレアロイAl基粉末の総重量は、
3~5.5重量%のMnと、
0.2~2重量%のZrと、
0.2~1.4重量%のCrと、
0~2重量%のMgと、
合計で0.7重量%以下のFeおよびSiと、
最大で0.7重量%の不可避不純物としてのO、および0.5重量%以下の他の不可避不純物と、
残部であるAlから構成される、プレアロイAl基粉末。
【請求項2】
Zrの含有量が0.3~1.8重量%である、請求項1記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項3】
Crの含有量が0.3~1.4重量%である、請求項1または2に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項4】
FeおよびSiの合計含有量が0.2重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項5】
意図的に添加されたMgを含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項6】
20℃未満で式(1)に従う凝固割れ感受性指数Sを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項7】
ISO13320-1 1999に準拠したレーザ回折により測定した粒径範囲が10~53μmであり、この粒径範囲外にある粒子が10%未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末を提供するステップと、
粉末床を形成する前記プレアロイAl基粉末の層を堆積させるステップと、
結合すべき粒子を融合または融解するために、レーザまたは電子ビームによって所定のパターンに従って前記プレアロイAl基粉末を加熱するステップと、
前記融合または溶融した粒子を冷却するステップと、
積層造形物品が形成されるまで、前記堆積するステップ、前記加熱するステップ、および前記冷却するステップを繰り返すステップと、
製造された前記積層造形物品を回収するステップと
を含む、積層造形によって物品を製造する方法。
【請求項9】
さらに熱処理を行うステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱処理は、前記製造された物品を大気雰囲気中で少なくとも0.5時間、150~450℃の温度に加熱するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載のプレアロイAl粉末を溶融融着プロセスさせることよって形成された物品。
【請求項12】
請求項11に記載のプレアロイAl粉末を溶融融着プロセスさせることによって形成された物品であって、前記溶融融着プロセスは、請求項8~10のいずれか一項に記載されるものである、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金から作られる部品の積層造形(AM)に使用するのに適した新規のアルミニウム合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ベースの積層造形は、航空宇宙産業および自動車産業を含む多くの産業に応用されている。
【0003】
アルミニウム合金は、様々な用途に役立つ。アルミニウム合金製品は、一般的に、鋳造または鍛造プロセスのいずれかによって製造される。鋳造には、一般的に、高圧ダイ、永久型、生砂および乾燥砂、インベストメント、または石膏鋳造などによって、溶融アルミニウム合金をその最終形状に鋳造することが含まれる。鍛造製品は一般的に、溶融したアルミニウム合金をインゴットまたはビレットに鋳造することによって製造される。インゴットまたはビレットは一般的には、さらに熱間加工され、場合によっては冷間加工されて、その最終形態が形成される。
【0004】
アルミニウム合金は、合金含有量と目的のプロセスに応じていくつかの系に分類できる。ほとんどのAl基鋳造合金には9~12%のSiが含まれており、この元素は約12%のSiで共晶を形成し、優れた鋳造特性を備える。合金の鋳造に使用され得るその他の元素は、MgおよびCuである。これらの元素を添加すると、固溶体と金属間化合物の析出による強化と併せて良好な鋳造特性が維持される。代表的な例は、Al-7Si-0.7MgおよびAl9Si-3Cuである。
【0005】
より高い強度を達成するには、他の合金元素を利用し、Siの含有量を減らす必要がある。より高い強度を備えた鍛造アルミニウム合金は、2000系、6000系、および7000系合金として指定される。表1および表2は、一般的なアルミニウム合金の化学組成と機械的特性を示している。
【0006】
【0007】
Al-Cu合金(2000系)
このグループの合金では、Mgは二次添加である。他の元素は、Mn、Cr、Zrである。主な強度への寄与は、金属間相(例えば、Al20Cu2Mn3、Al18Mg3Cr2、またはAlZr3)による溶体化硬化と析出硬化によるものである。この硬化を達成するには、溶体化熱処理が実行され、その後に時効処理を行う。鉄とケイ素は、有害な金属間化合物を形成するため、不純物とみなされる。チタンを添加すると、インゴット鋳造中に粒子構造を制御できる。このグループの合金の腐食特性は、他のタイプのAl合金に比べてあまり好ましくない。これらの合金で作られた部品は、重量比強度が高く、150℃まで使用できる。この合金は一般的に溶接可能ではないが、機械加工性は良好である。
【0008】
Al-Mg-Si合金(6000系)
このグループの合金は、高強度Al合金の主力製品である。MgおよびSiの添加は、一般的に、主要な析出物であるMg2Siの比率で行われる。この合金には溶体化および時効処理が必要であるが、2000系および7000系合金の強度レベルには達しない。しかしながら、溶接可能であり、良好な成形性、押出性、機械加工性、および耐食性を示す。
【0009】
Al-Zn合金(7000系)
このグループの合金は、主な合金元素としてZnにMg、Cu、Crが添加されている。これらの元素は、非常に高い強度を得る溶体化および時効処理で使用される金属間相を形成する。応力腐食割れに対する耐性が低下するため、これらの材料は、強度、破壊靱性、および耐食性の最良な組み合わせを達成するために、過時効条件で使用されることがよくある。
【0010】
様々なグループの合金の機械的特性を表2にまとめる。
【0011】
【0012】
腐食は、材料ならびにそれが使用される環境に依存するという点で系の特性である。それにもかかわらず、合金の挙動についてある程度の一般的な予測を行うことは可能である。アルミニウムは通常、全体的な腐食速度を最小限に抑える不動態酸化層を形成する。例えば析出物または異種金属間の界面の形態での局所的な組成の変化によって、層が破壊されると、隙間腐食、孔食、電解腐食の形態の腐食が発生する可能性がある。これらはすべて、非常に高速であり、重大な障害につながる可能性のあるプロセスである。合金元素がfccマトリックスに溶解しているアルミニウム合金は、一般的にすべての局部腐食形態に対して強い耐性を示すが、CuまたはZnを含む析出物を含む合金はこの点で性能が劣る。
【0013】
レーザ粉末床融合(LPBF)プロセスでは、レーザビームが粉末床上にわたって走査し、それによって粉末粒子が所定のパターンで溶融し、その後新しい粉末層が付与され、このプロセスが繰り返される。完全に緻密な部品を製造するには、新しい層の粉末粒子だけでなく、以前に形成された層の一部も溶融する必要がある。そうすることで、層間の完全な融合が保証され、気孔などの欠陥を取り除くことができる。レーザは非常に高速(200~7000mm/s)で走査し、レーザスポットは小さく(40~100μm)、これは、形成される溶融池が非常に小さく、材料が液体状態にある時間が非常に短い(~0.2ミリ秒)ことを意味する。これらの製造制限は、利用できる相互作用時間が短いため、凝固中の合金元素の偏析を確実に最小限に抑えることを目的としている。
【0014】
しかしながら、プロセスの方向性の性質により、粒子とサブグレイン構造の両方が熱源に向かって方向性を持つ。サブグレインの形態は、樹枝状またはセル状のいずれかである。この構造は通常、造形方向に非常に微細なセル状構造を有する大きな柱状粒子である。造形部品から抽出された熱のほとんどは、部品を通ってヒートシンクとして機能する造形プレートに逃げ、したがって、凝固プロセスの方向性が強化される。
【0015】
上記の従来の合金は、LPBFプロセスに必ずしも適しているわけではない。一般的に、LPBFに問題なく採用できるのは鋳造合金のみである。A360.0は、非常に良好な印刷ができ、欠陥が少なく、工業プロセスに適した妥当なプロセスウィンドウを持つ合金である。
【0016】
しかしながら、この材料では限られた強度しか得られない。
【0017】
従来の製造プロセスを使用して十分な強度に達した合金を、LPBFプロセスを使用して重大な欠陥なしに加工することははるかに困難である。特に凝固挙動は好ましくなく、凝固中に割れが発生する。
【0018】
多くの発明者が、これらの問題に部分的に取り組んできた。
【0019】
特許文献1(Alcan)は、Crが1.5~7.0重量%、Zrが0.5~2.5重量%、Mnが0.25~4.0重量%、残部がアルミニウムおよび通常の不純物からなるアルミニウム合金を開示している。
【0020】
別の実施形態では、組成範囲は、Crが3.0~5.5重量%、Zrが1.0~2.0重量%、Mnが0.8~2.0重量%、残部がAlおよび通常の不純物である。
【0021】
発明者らはまた、少なくとも1000℃/秒の冷却速度で溶融合金を急速凝固させ、合金添加剤の大部分が固溶体中に保持される軟質粒子を生成するのに十分な速さで粉末を製造する方法も開示している。
【0022】
このようにして形成された粒子は、300~500℃の温度で固められ、時効硬化が行われる。一例では、合金A(Cr5.25、Zr1.75、Mn1.75、残部がAl)の粉末は、ガスアトマイズによって製造され、続いて350℃でシート圧延され、目に見える析出物のないゾーンと析出物のあるゾーンを含む混合微細構造が生成される。材料の引張強さは588MPa、降伏強さは530MPa、破断伸びは6%である。
【0023】
特許文献2には、Mn:1.00重量%~10.00重量%、Mg:0.01重量%~3.00重量%、Si:0.01重量%~2.00重量%、Zr:0.01重量%~3.50重量%、Fe:0.01重量%~1.50重量%、残部がAlの組成を有する高強度アルミニウムマンガン合金が開示されている。
【0024】
特許文献3(HRL Laboratories)は、積層造形による高温アルミニウム合金およびそれを製造するための原料を開示している。開示された原料は、80~99重量%のアルミニウム含有ベース粉末と、このアルミニウム含有ベース粉末よりも小さい粒径を有する1~20重量%の合金粉末とを混合した粉末混合物から構成される。特定の実施形態では、原料は、追加の合金元素を含む。
【0025】
一例では、以下の元素を重量%:Al92、6、Cu6.7、Mn0.35、Ti0.24で含有するガスアトマイズベース粉末が開示されている。選択的レーザ溶融に適した粒度分布を有するベース粉末は、D10=15ミクロン、D50=27ミクロン、D90=44ミクロンである。ベース粉末は、2重量%の含有量で0.5~1.5ミクロンの平均粒径を有するジルコニウム粉末と混合される。
【0026】
特許文献4(NanoAl)は、高い強度と延性、優れた耐食性と溶接性を備えたアルミニウム合金のファミリーを開示している。
【0027】
約1~10重量%のMg、0.45~3重量%のZr、および残部であるAlを含むアルミニウム合金が開示されている。この合金には、意図的に添加されたスカンジウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、またはルテチウムが完全に含まれていない。
【0028】
別の一実施形態では、Mgと、4族元素のTi、Zr、およびHf、5B族元素のV、Nb、Ta、6B族元素のCr、Mo、およびWからの少なくとも1つの元素と、残部であるAlとを含むアルミニウム合金が開示されている。この合金は、意図的に添加されたスカンジウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、またはルテチウムを全く含まず、合金は、約3nm~約50nmの範囲の平均直径を有するナノスケールのアルミニウム遷移イオン金属析出物をアルミニウムマトリックス中に含み、遷移金属は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWの群から選択される。
【0029】
Scalmalloy/Al-Mg-Sc合金は、最近レーザ粉末床融合プロセス用に開発された。
【0030】
特許文献5および特許文献6(Airbus Defense and Space GmbH)は、レーザ粉末床融合加工によって高い強度、伸び、および硬度を達成できることを教示している。製造された部品には欠陥がなく、高い耐食性を示す。この発明は、高価で希少な希土類元素であるスカンジウムの使用に基づいている。
【0031】
粉末アルミニウム合金から形成される物体の積層造形(AM)は、高強度物体を製造するための適切な合金粉末が不足しているため、今日では制限されている。入手可能な高強度Al合金組成物のほとんどは、鋳造用に開発されており、例えばレーザ粉末床融合によるAM用には粉末の形態で使用されるが、成形された物体は、割れやすい。レーザ粉末床融合に使用される一部の新しく開発されたアルミニウム合金は、割れのない物体の製造を可能にするものと考えられている。
【0032】
したがって、過剰な析出物を形成することなく、製造プロセスを妨げることなく、例えばアトマイズによって均質な溶融物から製造することができるアルミニウム粉末合金が必要とされている。さらに、そのような粉末は、LPBFなどのAMプロセスによる印刷時、および熱処理後に、高強度を有する割れのない物体を形成するのに適している必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0105595号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第11659889号明細書
【特許文献3】国際公開第2020/139427号
【特許文献4】国際公開第2018/009359号
【特許文献5】欧州特許出願公開第3165620号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第3181711号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
本発明の目的は、割れのない物品の積層造形に適したアルミニウム粉末、特にレーザ粉末床融合法(LPBF)に使用するのに適したアルミニウム粉末を提供することである。合金組成は完全なプレアロイ(予合金化)粉末として製造できるため、粒子の偏析および不均一な粉末組成が回避され、コストのかかる希土類元素と銅の合金化が不要になる。特に、本発明の合金は、スカンジウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、またはルテチウムなどの意図的に添加された希土類金属、および意図的に添加されたCuを完全に含まないものとする。この目的は、本発明の第1の態様によって達成される。
【0035】
本発明の別の目的は、粉末から製造され、印刷されたままの状態および熱処理後の両方で割れがなく、高い強度を有する物品を提供することである。この目的は、本発明の第2の態様で達成される。
【0036】
本発明のさらに別の目的は、粉末から製造される物品を付加製造する方法を提供することである。提供される方法は堅牢であり、いわゆる広いプロセスウィンドウ、つまり印刷された物体の特性に影響を与えないプロセスパラメータのバリエーションを有する。この目的は、本発明の第3の態様で達成される。
【0037】
さらに、クロムは環境汚染物質であるため、一般的に、特に消費者製品に高レベルのクロムを使用することは望ましくない。したがって、本発明の一態様は、上記の所望の特性を有する、または使用時に上記の所望の特性を提供する低クロムAl基合金を提供することである。
【0038】
上述の目的は、添付の特許請求の範囲に提示される態様およびその実施形態によって達成される。本発明の態様は、以下の課題を解決するための手段という見出しの下にまとめられている。
【課題を解決するための手段】
【0039】
第1の態様および実施形態において、積層造形に適したプレアロイAl基粉末であって、プレアロイAl基粉末の総重量は、
3~5.5重量%のMnと、
0.2~2重量%のZrと、
0.2~1.4重量%のCrと、
0~2重量%のMgと、
合計で0.7重量%以下のFeおよびSiと、
0.7重量%以下の不可避不純物としてのO、および0.5重量%以下の他の不可避不純物と、
残部であるAlから構成される、プレアロイAl基粉末が本明細書に詳述される。
【0040】
その一実施形態では、Zrの含有量が0.3~1.8重量%である、請求項1に記載のプレアロイAl基粉末。
【0041】
その一実施形態では、Crの含有量が0.3~1.4重量%である、プレアロイAl基粉末。
【0042】
その一実施形態では、FeおよびSiの合計含有量が0.2重量%以下であるプレアロイAl基粉末。
【0043】
その一実施形態では、意図的に添加されたMgを含まない、プレアロイAl基粉末。
【0044】
その一実施形態では、20℃未満で式(1)に従う凝固割れ感受性指数Sを有する、プレアロイAl基粉末。
【0045】
その一実施形態では、ISO13320-1 1999に準拠したレーザ回折により測定した粒径範囲が10~53μmであり、この粒径範囲外にある粒子が10%未満である、プレアロイAl基粉末。
【0046】
第2の態様において、
第1の態様のいずれかの実施形態に記載のプレアロイAl基粉末を提供するステップと、
粉末床を形成するプレアロイAl基粉末の層を堆積させるステップと、
結合する粒子を融合または融解するために、レーザまたは電子ビームによって所定のパターンに従ってプレアロイAl基粉末を加熱するステップと、
融合または溶融した粒子を冷却するステップと、
積層造形物品が形成されるまで、堆積するステップ、加熱するステップ、および冷却するステップを繰り返すステップと、
製造された物品を回収するステップと、
を含む、積層造形によって物品を製造する方法が本明細書に詳述される。
【0047】
その一実施形態では、製造された物品は、続いて熱処理を受ける。
【0048】
その一実施形態では、熱処理は、製造された物品を大気雰囲気中で少なくとも0.5時間、150~450℃の温度に加熱するステップを含む。
【0049】
第3の態様では、第1の態様のいずれかの実施形態に記載のプレアロイAl粉末の溶融融着プロセスによって形成された物品が詳述される。
【0050】
その一実施形態では、物品は、溶融融着プロセスが、第2の態様のいずれかの実施形態に従う、プレアロイAl粉末の熱融着プロセスによって形成される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】シャイル・ガリバー法による凝固シミュレーション。線は、残りの液体(固相線)が固体と平衡状態にある温度を、形成された固体の質量分率の関数として示している。
【
図2】合金Dのプロセスウィンドウ図。相対密度は、縦軸にレーザ出力(W)、横軸にレーザ速度(mm/s)をそれぞれとった等高線図として示される。ハッチ距離は、100μmである。プロセスウィンドウは、相対密度が98.5%を超える領域である。
【
図3】熱処理の関数としての硬度。時効処理は、空気中410℃で行った。その温度での時間を横軸に示す。
【
図4】本発明の合金におけるFeとSiの組み合わせに対する割れ感受性の調査。
【
図5】(a)粒径(μm)対体積%、および(b)粒径(μm)対累積体積%。
【
図6】3つの平面すべてと、ガス流方向を示す前面に沿ったノッチとを示すDOE立方体の設計(造形方向とガス流方向と共に、前面:XZ、上面:XY、右面:YZ)
【
図7】様々な処理パラメータとパラメータごとのサンプル数を示す実験計画(DOE1)。層の厚さとレーザ出力は一定に保たれた。
【
図8】4つすべての合金、a)合金A、b)合金B、c)合金C、d)合金Dの相対密度の表面プロットを示す実験計画6.1の結果。
【
図9】合金Dについて、レーザ速度対ハッチおよびレーザ速度対レーザ出力をそれぞれ示す、a)実験計画6.2、b)実験計画6.3、c)/d)実験計画(1、2、3)を示す表面プロット。
【
図10】a)印刷されたままの状態での4つの合金すべてのX線プロット。b)印刷されたままの状態での合金Dのプロット。差し込み図は、2θ=37°~47°の領域を示し、4つの合金すべてで形成された副次相を示す。Al-Mn系析出物と思われる。A=純粋なAlピーク、および◆=Al-Mn析出ピーク。
【
図11】a)Mn、Cr、Zrの格子定数に対する理論的影響。点線は、Al=4.016Åではなく純粋なAl=4.0478Åを仮定した切片補正を表していることに留意されたい。b)印刷されたままの状態での4つの合金すべてのX線回折パターンに基づく格子定数値。0.01Å以内の精度の妥当な値を達成。
【
図12】a)ケラー試薬でエッチングされた、アトマイズされたままの粉末合金Cの20倍光学顕微鏡画像。b)ケラー試薬でエッチングされた、アトマイズされたままの粉末合金Cの50倍光学顕微鏡画像。
【
図13】-99.6%の相対密度を有する印刷されたままの状態の合金Dの立方体のa)上面(XY)b)右面(YZ)およびc)前面(XZ)の図。
【
図14】Al合金の印刷後に観察される2種類の典型的な欠陥(合金Dについて説明)は、a)鍵穴欠陥を低倍率(a)と拡大図(b)で示し、融合不足欠陥を低倍率と拡大図(d)で示す。
【
図15】樹枝状構造を示す合金Cのアトマイズされたままの粉末のSEM画像(a)。(黄色の矢印でマークされた)樹状領域内部のナノメートル粒子を有する拡大画像(b)。赤色の矢印でマークされた粒子は、OP-Uで研磨した際に残ったシリカである。
【
図16】a)下から上への造形方向と赤色でマークされた溶融池とを有する前面に沿った合金D(印刷されたまま)のSEM画像、b)画像から内側への造形方向を有する上面に沿った合金D(印刷されたまま)のSEM画像。
【
図17】溶融池境界析出物を高解像度で示すSEM画像。大きい析出物(200~300nm、青色の矢印)と小さい析出物(<100nm、黄色の矢印)の2つのカテゴリーの析出物が特定された。大きな析出物が、b)の挿入図に高倍率で示されている。
【
図18】a)溶融池境界領域での結晶粒微細化を伴う溶融池境界、およびb)粒界および亜粒界粒子を示す拡大領域を示す、合金DのSEM画像。
【
図19】EDS分析によって示された3つのカテゴリーのMn含有析出物の化学組成。亜粒界析出物だけでなく、溶融池境界析出物における大小の析出物も含まれる。亜粒界析出物が
図18に示され、溶融池境界析出物が
図17に視覚化される。
【
図20】2つのカテゴリーの溶融池:a)造形方向にエピタキシャルな長い柱状粒子を含む通常の溶融池と、b)微細化された粒子を含む溶融池(挿入画像に示す粒子微細化)を示す合金DのSEM画像。
【
図21】a)20k倍で上面断面にZr樹枝状構造を有する合金Dを示すSE2モードのSEM画像。b)2.5k倍で上面断面にZrファセット構造を有する合金Cを示すBSEモードのSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0052】
急速凝固プロセスの計算手法に合わせて合金を最適化するには、統合計算材料工学(ICME)が強力である。
【0053】
合金の凝固挙動および析出プロセスに対する様々な合金元素の影響を計算でき、新しい合金系の特性の良好な予測が得られる。
【0054】
この方法は、具体的に対象とする材料およびプロセスの相関係と特性との間の関係についての深い理解に基づいている。計算と選択された実験研究を組み合わせる必要がある。
【0055】
ICME開発プロセスの利点は、あるクラスの材料の組成空間のこれまで知られていなかった領域の調査が可能であることである。この方法は、高強度部品を達成するために合金元素がどのように使用されたかに関して、合金組成が入手可能な合金と根本的に異なる理由を示すために本発明に使用された。
【0056】
合金元素は、第一原理計算を介して説明されるように、潜在的な固溶体強化効果に基づいて選択された。
【0057】
次に、これをAl基合金の固溶度の拡張に関する以前の知識と組み合わせて、どれだけの溶質が溶解され得ると予想されるか、およびこれらの合金の印刷されたままの強度がどのくらいになり得るかを推定した。
【0058】
固溶体中の過飽和の量は、LPBF処理中の拡散率と急速冷却に基づく核イオン/第二相粒子の粗大化に対する耐性の非平衡計算と評価によって裏付けられる。
【0059】
暫定的な状態図(二元から四元まで)は、ThermoCalcソフトウェア(バージョンとデータベース)を使用して作成され、LPBF処理による可能な過冷却が、平衡と比較して溶解する可能性のある溶質の割合を特定する要因として使用された。
【0060】
合金設計の第2の重要な基準は、シャイル凝固計算に基づいて合金元素を選択し、凝固割れ感受性を無視できるように選択することであった。
【0061】
このアプローチにより、印刷中の不要な問題を回避するための簡単な経路が生成される。シャイル曲線は、TCAL7およびM0BAL5データベースを使用するThermoCalcソフトウェアを使用して作成された。
【0062】
予想外なことに、本発明の合金では凝固段階の終わり近くに低融点相が形成されず、それによって凝固割れのリスクが回避されることが判明した。これは、優れた割れ凝固指数によって明らかである。
【0063】
また、印刷時の凝固中にCr含有相が形成され、こうしてCrの溶体化硬化効果が減少することが以前から予想されていたが、元素とその含有量を慎重に選択することで、驚くべきことにそのような析出物の形成を回避することが可能になった。同様に、本発明に係る含有量を有する合金元素ZrおよびMnは、印刷時に有害な析出物を形成せず、したがって時効硬化が可能になる。
【0064】
プレアロイAl基粉末は、凝固が急速(1000℃/秒を超える)で液体中での析出物の形成が抑制される積層造形プロセス向けに、統合計算材料工学(ICME)を使用して設計された。
【0065】
合金元素は、合金の強化に関与しており、急速に凝固した微細構造でのみ効率的である。本発明のすべての実施形態において、合金は、固体のモル分率が80%になるまで安定した凝固経路を有し、凝固温度降下は25℃未満であり、A360.0を除く既存の従来技術の合金(
図1参照)とは対照的に、本質的に割れの形成なしでLPBF印刷を可能にする(
図4参照)。また、本発明の最も好ましい合金は、安定した凝固経路を有し、すなわち凝固時に単一の構造が形成され、例えばLPBFによって割れなしに印刷することができる(
図4参照)。
【0066】
印刷されたままの物品は、セル状/樹枝状微細構造を特徴とする構造を有することを特徴とし、微細構造の相組成は単相fccであり、5体積%未満のAl6Mn、Al3Zr、および他の析出物を含む。
【0067】
本発明に係るプレアロイAl合金粉末は、Al合金部品の積層造形に使用することができる。部品は、広いプロセスウィンドウで簡単に印刷できる。部品は、高い強度を示し、特性をさらに向上させるために積層造形ステップの後に熱処理することができる。
【0068】
したがって、改善された強度を得るために、印刷されたままの物品を、大気雰囲気中で少なくとも0.5時間、150~450℃で熱処理(すなわち時効硬化)してもよい。これにより、ISO6507-1-2018に準拠した測定された少なくとも125HV0.3の硬度を有する物品を製造することができる。
【0069】
物品の微細構造は、セル状/樹枝状微細構造を特徴とし、微細構造の相組成は、単相fccであり、2~15体積%のAl6MnおよびAl3Zrと、最大10体積%の他の析出物を含む。
【0070】
合金系は、Al-MnにCrとZrを添加したものに基づく。実験と計算の結果を特に表3に示し、表3では、アルミニウム合金の各々の成分が「X」で示されており、この成分は、本発明のアルミニウム合金の他の元素と組み合わせた合金化の相乗効果に寄与する。
【0071】
特に興味深い組成領域が表3に強調されており、本合金の元素は、本合金に対して最適な相乗効果を示す。しかしながら、この最適な対象領域を囲む濃度領域での作業はあまり好ましくないが、そのような最適ではない元素含有合金は、それでも従来技術の他の合金よりも改善された特性を示すため、本発明から除外されない。
【0072】
本発明によれば、以下が詳細に記載される。
【0073】
積層造形に適したプレアロイAl基粉末であって、プレアロイAl基粉末の総重量は、
3~5.5重量%のMnと、
0.2~2重量%のZrと、
0.2~1.4重量%のCrと、
0~2重量%のMgと、
合計で0.7重量%以下のFeおよびSiと、
0.7重量%以下の不可避不純物としてのO、および0.5重量%以下の他の不可避不純物と、
残部であるAlから構成される、プレアロイAl基粉末。
【0074】
一般的に、酸素は、不可避不純物としてアルミニウム合金中に遍在して存在する。本発明のプレアロイ粉末を製造する本方法は、不可避不純物として0.35~0.55重量%の酸素を提供する(表9参照)が、この値は、粉末のサイズに応じて変化する。実験では、規定範囲内の酸素による特別な影響や有害な影響は観察されなかった。
【0075】
一般的に、他の不可避不純物のレベルが技術的に可能な限り低いことを保証することが好ましい。好ましくは、他の不可避不純物の濃度は、プレアロイAl基粉末の0.4重量%未満、0.3重量%未満、またはより好ましくは、0.2重量%未満、または0.1重量%未満である。
【0076】
本発明によれば、合金元素CrおよびMnは、溶体化硬化効果を生じさせるために提供され、一方、合金元素Zrは、印刷プロセス後のそれに続く熱処理中の析出硬化に寄与するために提供された。驚くべきことに、実験で見られ、表3で強調されているように、特許請求の範囲の濃度範囲で添加された成分の相乗効果が観察された。
【0077】
Zrの含有量は、プレアロイAl基粉末の0.1~2.0重量%である。実験では(表3参照)、2%を超えるZr含有量は、アトマイズプロセスを妨げ、0.1重量%未満の含有量は、物品の熱処理後の所望の析出硬化効果に関与しないことが判明した。
【0078】
好ましくは、ジルコニウムの含有量は、Al基粉末の0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらにより好ましくはプレアロイAl基粉末およびプレアロイAl基粉末から製造された物品の0.6重量%以上である。
【0079】
好ましくは、ジルコニウム含有量は、プレアロイAl基粉末の2重量%未満、1.9重量%未満、1.8重量%未満、1.7重量%未満、より好ましくはプレアロイAl基粉末およびプレアロイAl基粉末から製造された物品の1.6重量%未満、1.5重量%未満、1.4重量%未満、1.3重量%未満、または1.25重量%未満である。
【0080】
好ましい実施形態では、ジルコニウム含有量は、プレアロイAl基粉末およびプレアロイAl基粉末から製造された物品の0.2~1.9重量%、好ましくは0.3~1.8重量%、0.4~1.7重量%、より好ましくは0.5~1.6重量%、0.5~1.5重量%、しかしながら最も好ましくは、0.6~1.4重量%、0.7~1.3重量%、または0.8~1.1重量%である。
【0081】
本発明によれば、MnおよびCrの添加により、Al原子がMnおよびCr原子で置換されるため、強度が増加すると考えられた。マトリックスがMnおよびCrによって過飽和になると、fcc-Al基地中に析出物が形成され、置換強化効果が低下する。
【0082】
驚くべきことに(表3を参照)、特定の濃度のCrおよびMnについて、本発明の合金中にCrおよびMnの両方が存在すると、LPBF印刷によって形成された物品における割れの形成が予想よりも著しく低いことが判明した。一般原理に基づいて、この効果は、添加されるMnおよびCrが多ければ多いほど強くなると考えられていたが、驚くべきことに、その効果は、約0.7重量%のCrで最高に達し、クロム含有量が本発明の合金中で1.4重量%を超えると消失することが判明した。
【0083】
その後の実験では、本発明の組成物に1.4%を超えるCr含有量を添加すると、800℃を超える温度で溶融物中に望ましくない金属間化合物AlxCry析出物の形成を引き起こすことが判明した。
【0084】
溶融物中に形成されるこのような析出物は、合金の強化に寄与するには大きすぎ、溶液からCrを除去して置換強化を低下させる。また、高温で金属間化合物相が形成されると、アトマイズ化時にノズルの詰まりという問題が発生する。
【0085】
Crの含有量は、プレアロイAl基粉末の0.1~1.4重量%である。好ましくは、クロム含有量は、プレアロイAl基粉末の0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらにより好ましくはプレアロイAl基粉末およびプレアロイAl基粉末から製造された物品の0.6重量%以上である。
【0086】
好ましくは、クロム含有量は、プレアロイAl基粉末の1.4重量%未満、1.35重量%未満、1.30重量%未満、1.25重量%未満、より好ましくは1.20重量%未満、1.15重量%未満、1.10重量%未満、1.05重量%未満、またはプレアロイAl基粉末およびプレアロイAl基粉末から製造された物品の1.0重量%未満である。
【0087】
好ましい実施形態では、クロム含有量は、プレアロイAl基粉末およびプレアロイAl基粉末から製造された物品の0.2~1.4重量%、好ましくは0.3~1.35重量%、0.4~1.30重量%、より好ましくは0.5~1.25重量%、0.5~1.15重量%、または0.6~1.4重量%、0.7~1.3重量%、または0.8~1.1重量%である。
【0088】
したがって、Crは、Al基粉末およびその粉末から製造された物品の0.1~1.4重量%、好ましくは0.2~1.4重量%、好ましくは0.3~1.4重量%、より好ましくは0.4~1.4重量%、さらにより好ましくは0.5~1.4重量%の量で存在する。
【0089】
同じ理由で、Mnは、プレアロイAl基粉末およびその粉末から製造された物品の3~5.5重量%の量で存在する。
【0090】
一般的に、Mnのこの濃度領域内では、本発明の合金は、ZrおよびCrの含有量に反応するが、外側では反応しないことが観察された。好ましい実施形態では、Mn+Zr+Crの合計濃度が、アルミニウム基粉末およびその粉末から製造された物品の3.4~8.5重量%となるように、Mnに対するZrおよびCrの特定の共依存関係が観察された。
【0091】
その好ましい実施形態では、Mn+Zr+Crの合計濃度は、アルミニウム基粉末およびその粉末から製造された物品の3.7~8.0重量%、4~7.5重量%、4.25~7.25重量%、または4.5~7重量%であるものとする。
【0092】
任意選択で、Mgは、プレアロイAl基粉末およびその粉末から製造された物品の2重量%まで存在してもよい。Mgは、溶液の強化に貢献する。一実施形態では、プレアロイAl基粉末には、意図的に添加されたMgが含まれておらず、したがって、この実施形態では、Mgは別の不可避不純物とみなされる。
【0093】
Feおよび/またはSiが多すぎると、凝固プロセスの最終段階で低融点液体が形成され、これは、この液体が粒界に閉じ込められ、凝固中の最終収縮時に割れが形成される可能性があるためである。驚くべきことに、この現象は、FeとSiの個々の寄与には依存せず、これら2つの元素の合計濃度にのみ依存し、FeとSiの合計量を制限することでこの現象を抑制できることが判明した(
図4参照)。
【0094】
したがって、FeおよびSiの含有量を、元素合計で0.7重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは合計で0.2重量%以下と低いレベルに維持することが重要な構成であることを示している。
【0095】
他の不可避不純物の量は、Al基粉末およびその粉末から製造された物品の最大0.5重量%、好ましくは最大0.3重量%である。
【0096】
本発明に係るAl基粉末は、最高300℃の融解範囲を有し、融解範囲は、凝固開始温度とすべての液体が凝固したときの温度との差として定義される。
【0097】
しかしながら、凝固の最終段階での割れを避けるためには、完全な凝固に近い状態での溶融温度の低下を制限する必要がある(
図1を参照)。凝固中に合金が割れを形成する傾向を評価する実際的な方法の1つは、凝固割れ感受性指数を使用することである。
【0098】
凝固割れ感受性指数は、式(1)に従って次のように定義される。
【数1】
ここで、Sは凝固割れ感受性指数、Tは温度、f
sは固体の質量分率である。
【0099】
本発明に係るAl基粉末は、凝固割れ感受性指数が20℃未満である。この指数は、最後の溶融物が80~100%固化の範囲でどのように固化するかの尺度である。指数は、この範囲における温度変化の傾きを測定する。A360.0の凝固割れ感受性指数は44℃、Al6160の凝固割れ感受性指数は257℃である。指数が低いほど、合金は凝固割れを起こしにくくなる。
【0100】
Al合金粉末は、ガスアトマイズなどの任意の急速凝固プロセスによって製造することができるが、スプレー堆積、溶融紡糸、溶融抽出などによっても、過剰な析出物を形成することなく製造することができ、そのような析出物は、例えば、アトマイズノズルを塞ぐか、またはさもなければ溶融流を妨げる傾向がある点で、製造プロセスに有害となる。
【0101】
所望の組成を有する粉末は、好ましくは、所望の組成を有する材料を溶融し、その溶融物を不活性ガスアトマイズしてプレアロイアトマイズ粉末を得ることで製造される。アトマイズメディアとして空気または水を使用してアトマイズすることも可能であるが、本発明に関して、水を使用すると酸素含有量が高くなりすぎ、また粒子形態が損なわれる可能性があるため、粉末製造に悪影響を与えることになり、空気および水でアトマイズされた粉末は、不活性ガスアトマイズで形成された粉末と比較して、より不規則な形状になる傾向があるためである。
【0102】
本発明の粉末の合金元素は、アトマイズ中のアトマイズノズルの詰まりを避けるためにも選択される。この問題は、いくつかの従来技術の粉末組成物では、所望の化学組成を得るために、異なる粉末(それ自体、純粋な元素粉末またはプレアロイ粉末のいずれか)の混合物を使用することによって回避されてきた。混合物の欠点は、取り扱い中および処理中に異なる粉末が分離し、印刷された部品の化学的不均一性が生じる可能性があることである。本発明のアルミニウム粉末は組成を損なうことなく事前に合金化することが簡単であるため、これは本発明では回避される。
【0103】
LPBF印刷の分野で知られているように、印刷に使用される粉末粒子のサイズと形態は、粉末を均一かつ均質な粉末層に広げる能力にとって重要である。作業用ふるいの切れ目は、5~150μmの間隔で見つかることが知られている。
【0104】
狭い間隔は、溶融プロセスと粉末床の均質性に有利であり、その結果、ポロシティなどの欠陥が少なく、より安定した溶融プロセスをもたらす。
【0105】
一般的な粒径の範囲は、15~45μmまたは20~53μmであるが、使用するLPBF装置および用途の要件に応じて、次のふるい切れ目:5~36、10~45、15~45、20~53、20~63、45~90、45~106、53~106、45~150、53.150、63~150、75~150、90~150、106~150μmのいずれかを使用できる。本発明のAl基粉末の特別な利点は、これらはLPBF印刷に望ましいサイズ範囲で容易に製造できることである。
【0106】
言及された粒径範囲は、粉末の最大2重量%が上限を超える粒径を有し、粉末の最大2重量%が下限を下回る粒径を有することを意味する。粒径は、ISO13320-1 1999に準拠したレーザ回折によって測定されたものである。
【0107】
粉末の形状(形態)も、拡散挙動を定義する上で重要である。球状の形状により、流れと拡散作用がより安定し、その結果、ポロシティおよび表面品質などの欠陥が少なくなる。したがって、新たなAl基粉末を製造する場合には、ガスアトマイズ法により製造された金属粉末は球状の形状を呈するため、ガスアトマイズ法が好ましい。
【0108】
本発明に係るAl基粉末は、凝固速度が十分であれば、いくつかの積層造形プロセスで機能することができる。電子ビーム溶解および直接エネルギー蒸着によるAMは、これらの要件を満たすプロセスであるが、以下ではレーザ粉末床融合プロセスを使用したプロセスを例示する。
【実施例】
【0109】
実施例1
Al基粉末の組成を設計するために、ICME(統合計算材料工学)手法が適用された。CALPHAD(CALculation of Phase Diagrams:状態図の計算)タイプの計算を使用して、新しい合金の合金組成を最適化した。
【0110】
CALPHAD計算には、Al合金の組成空間内のすべての可能な相の完全な熱力学的記述が含まれる。このベースを使用すると、予想される相とその組成が高い精度で予測される。結果は、平衡状態に対して有効である。
【0111】
LPBFによって生成される材料において、存在する微細構造と相は、急速な凝固の結果である。平衡計算は、これらの微細構造の解釈には関係ない。しかしながら、組成空間における熱力学関係と相関係は、相形成の速度論的記述と組み合わせることで、相形成の傾向を評価するために使用できる。こうすることにより、拡散プロセス、核生成、および成長が、熱力学的記述とともに考慮された。
【0112】
CALPHADタイプの計算を使用して、凝固経路と、最後の溶解領域における合金元素の偏析傾向が予測された。割れのない凝固構造のためには、このような偏析を制限する必要がある。
【0113】
第1のステップでは、高温割れを避けるために安定した凝固経路を持つ合金を得るために、計算を使用して暫定的な組成が決定された。
【0114】
その後、合金の組成空間が計算され、合金元素の上限が決定された。組成限界は、急速凝固時に形成される相を計算することによって決定された。表3に示された限界の外側では、望ましくない相が形成され、アトマイズプロセスに問題が発生したり、機械的特性が劣化したりする結果になる。
【0115】
相平衡の計算を合金系の速度論的記述と組み合わせることで、二次硬化相の核生成、成長、および粗大化が、シミュレーションされた。この方法により、合金組成は、熱処理中の二次硬化相の析出を最適化するように調整された。
【0116】
CALPHAD計算は、様々な強化機構、溶液強化、析出強化、および結晶粒微細化強化を記述するモデルと組み合わされた。
【0117】
この合金の主な強化機構は、溶液強化であることが判明した。析出硬化と結晶粒微細化強化も合金の強度に寄与することが確認された。これらの強化機構の組み合わせによって、新しい合金の特性が決まる。
【0118】
以下の表3は、不要な相の形成に関する合金化範囲を決定するために実行された計算の結果を示している。溶液強化を達成するために、不要な相を形成することなく、可能な限り多量の合金元素が特定された。
【0119】
表3で「x」が付いた組成は、不要な相の存在に関して、および合金化効果に関して許容されるが、「x」のない組成は、許容されない。
【0120】
溶融物または固相中にCrを含む析出物が形成されると、溶液からCrが除去されるため、溶体化硬化への寄与が減少する。溶融物中に高温で形成される析出物は粗大であり、析出硬化効果は得られない。
【0121】
溶融物または固相中にMnを含む析出物が形成されると、溶体化硬化の寄与が減少する。大きな一次析出物は、析出硬化には寄与しない。一次析出物の割合が大きすぎると、アトマイズノズルの詰まりおよび生産の中断につながる。
【0122】
【0123】
実施例2
計算によって導出された合金組成を使用して、表4に従った化学組成を有する4つの異なるガスアトマイズAl基粉末A、B、C、およびDを製造した。いくつかの部品は、異なる印刷パラメータを使用して印刷された。特にレーザ出力とレーザ速度は広範囲にわたって変化させた。
【0124】
製造された物品の相対密度が98.5%よりも良好な広い領域が見つかった(
図2を参照)。
【0125】
光学顕微鏡によるさらなる検査により、割れのない単相構造が明らかになった。ISO6507-1-2018に準拠したビッカース硬さHV0.3は、印刷されたままの状態ならびに熱処理された状態で測定された。その結果が
図3に示される。合金A、C、およびDは、時効硬化可能であり、特に合金CとDの硬度は、ちょうど130HV0.3未満まで大幅に増加することがわかる。
【0126】
【0127】
クロムの効果
実験から、クロムの効果は、主に溶液強化であるが、重要かつ驚くべきことに、クロムは、析出硬化シーケンスにも影響を与えることが推測できた。これにより、特性と耐熱性が向上した合金が作製される。
【0128】
印刷されたままのサンプルには析出物はなく(実験的に検証済み)、これは、すべての析出物が、硬化熱処理中に誘発されることを意味する。したがって、析出順序(シーケンス)は、組成によって影響される。
【0129】
678Kでの析出硬化熱処理は、Al6(Mn,Cr)、Al12(Mn,Cr)、Al3Zrの連続析出によって合金を硬化する。合金中のクロムの量は析出シーケンスを支配し、析出物の量と粗大化に対するその安定性を決定する。これは、本明細書で詳述するように、特性が指定されたCr量に大きく依存することを意味する。
【0130】
クロムを含まない同様の材料と比較したクロムを含む本合金の利点は、強度が高いことであるが、重要かつ驚くべきことに、産業用途にとって重要なパラメータである温度安定性も向上している。
【0131】
Crの効果は、
図3で証明されている。硬化曲線は、次のことを示す。
・合金A(AlMnZr):約90HVから始まり、105~110HVまでしかピークに達しない。
・合金B(AlMnCr):約98HVから始まり、648Kで115HVのピークに達する。
・合金C(AlMnCrZr-本発明):約103HVから始まり、648Kで140HVのピークに達する。
・合金D(AlMnCrZr-本発明):約103HVから始まり、648Kで140HVのピークに達する。
【0132】
この実験は、クロムが硬化速度をどのように変化させたかを明確に示している。合金Aは、20HVだけ(90->110HV)硬化するが、合金C、Dは、35HVだけ(103->140HV)硬化する。硬化速度は、析出シーケンスを反映し、印刷されたままの硬度は、溶体化硬化効果を反映する。合金に対するクロムの影響は、両方の組み合わせである。
【0133】
この場合、異なる析出物間でのMnとCrの再配列によって粗大化速度が遅くなり、硬化効果が長時間保持され、温度安定性が向上するため、驚くべき相乗効果が観察される。
【0134】
曲線は、クロムが硬化の開始時に重要な影響を与えることを示している。クロム単独では、望ましい特性を備えた合金は得られない。クロムとジルコニウムを組み合わせると、その硬化効果が長時間保持される。
【0135】
MnとZrのみを含み、Crを含まない合金は、硬度が大幅に低くなる。MnとZrの含有量が高くてもこれは改善されない。
【0136】
実施例3
実施例2に係る合金D、ならびに既知の鍛造合金6081、7075、およびA360.0の凝固挙動を、実施例1でも使用したように、シャイル・ガリバー法およびCALPHAD法を使用してシミュレーションした。
【0137】
図1は、シミュレーションの結果を示している。完全凝固に近い領域のみが図に含まれており、固体分率の範囲は、0.8(80%)~1(100%)であることに留意されたい。鍛造合金6061および7075は、傾斜した曲線を示し、特に7075は、凝固の終わり近くで急な傾斜を示していることがわかる。この挙動は、凝固の終わりに高温割れを形成する材料に典型的なものである。鋳造合金A360.0は、完全凝固近くでわずかに低下するだけで、はるかに良好な挙動を示す。本発明の合金Dは、凝固の終わりにそのような低下を示さない。
【0138】
個々の凝固割れ感受性指数Sを各々の合金について測定し、その結果を以下の表5に示す。
【0139】
【0140】
実施例4
上で詳述した実験(実施例1および表3)において、LPBF印刷に対する本発明のAl基粉末の適合性に悪影響を及ぼすことなく、FeおよびSiは個別に、0.7重量%まで存在してもよいことが判明した。これは、本発明のAl基粉末の形成に使用する原料への負担を低減し、より低コストの再生Al基製品を本発明の粉末の形成に使用できるため有利である。
【0141】
上で詳述した数値実験(実施例1)では、FeおよびSiの不純物の両方が、本発明のAl基粉末を形成するために使用される原料中にある場合、FeおよびSiの含有量に制限が存在するかどうかを決定する目的で、本発明の合金の割れ感受性に対するFeおよびSiの影響がさらに調査された。
【0142】
図4に示されるように、凝固温度は、FeとSiの合計含有量に依存することが判明した。これらの元素の合計含有量が高くなるほど、本発明の粉末を使用してLPBF印刷された物体に高温割れの問題を引き起こす低い凝固温度の溶融物が形成されるリスクが高くなる。
【0143】
したがって、FeとSiの両方は、凝固温度が低すぎる溶融物の存在を引き起こすことなく、個別に0.7重量%まで存在することができるが、合計複合濃度も、0.7重量%を超えるべきではない。
図4から、好ましくはFeとSiの合計量は、0.5重量%を超えるべきではなく、さらにより好ましくは0.2重量%を超えるべきではないことが分かる。
【0144】
実施例5
本明細書で報告するLBPR印刷物体を用いたさらなる実験では、実施例2の実験と比較する粉末の変形例を窒素ガスアトマイズプロセスによって生成し、生成した粉末を20~53μmの公称粒径範囲に分級した。
【0145】
表6に示されるような最終化学組成を有する4つのカテゴリーの粉末グレードが設計された。粒径分布は、Malvern UKのMastersizer 3000を使用し、ISO13320-11999に準拠したレーザ回折によって測定され、測定は、5回繰り返された(表7および
図5を参照)。
【0146】
言及された粒径範囲は、粉末の最大2重量%が上限を超える粒径を有し、粉末の最大2重量%が下限を下回る粒径を有することを意味する。
【0147】
この実験は、本発明のAl基合金が、高い均一性を有するAl基粉末を形成するのに適していることを明らかに示した。
【0148】
【0149】
【0150】
実施例6
LB-PBF処理と完全密度を確立するための実験計画は、次の実験で試験された。
【0151】
実施例5からの粉末の異なる変形例を、スポットサイズ40μm、200W(公称出力170W)Ybファイバーレーザを備えたEOS M100機で処理した。サンプルは最初、67°の通常のスキャン回転とともに、主処理入力として170Wの電力、0.13mmのハッチ距離、1000mm/sの速度、および層厚0.03mmを維持して印刷された。
【0152】
粉末サンプルは、毎回の印刷前に353Kで4時間の乾燥手順によって調整された。
【0153】
サンプルは、チャンバ内のガスの流れの方向を示すように設計された10mm×10mm×10mmの立方体として印刷された(
図6を参照)。サンプルは、印刷後に鋸で切断された。
【0154】
図2に示されるように、材料の処理性は、単純な三次要因計画に基づいてさらに導出され、高い相対密度(約99.5%)の対象条件が特定された。
【0155】
この実験計画法(DOE)は、高密度処理の条件を特定するために、ハッチ距離とレーザ速度を初期変数として主処理入力と比較して行われました。
【0156】
その後、処理パラメータウィンドウを確認し、関心のある点ごとにさらに3つのサンプルを印刷することで、値が実験的に許容できるかどうかを検証するために第2のDOEが実行された。
【0157】
最終的に第3のDOEが、DOEの第3の変数としてレーザ出力を使用して完全な三次元設計を行うために、四元合金の1つ(合金D)に対して実行された。
【0158】
表8は、DOEの各々の合金に使用される処理パラメータの範囲をまとめたものである。
【表8】
【0159】
その後、サンプルの相対密度を断面の光学顕微鏡検査から決定した。
図6に示されるように、調査された断面は、3つの平面に沿って観察された。
【0160】
ポロシティを特定して取得するために、報告される全体的な気孔値に対する向きの影響を最小限に抑えるために、3つの平面すべてについて結果が得られ、各々のサンプルに対して平均化された。画像解析は、ImageJソフトウェアと、1つの平面あたり約30~50mm2の面積を有する各々のサンプルの切片を使用して行われた。
【0161】
第1のDOEは、95%を超える相対密度に到達することを目的として、4つの合金すべての印刷適性を評価するために実行された。
【0162】
印刷パラメータは、EOS M290機の適切な設定から開発され、より低い出力とより小さなレーザスポットサイズを補償してEOSM100での処理に適合するように修正された。
【0163】
これに基づいて、立方体DOEは、固定レーザ出力170W、層厚0.03mm、しかしながらスキャン速度500~1500mm/s、ハッチ距離0.1~0.15mmに設定された。
【0164】
図8に示すように、合計13個のサンプルが各々の合金に対してこのDOEで印刷され、結果は、表面プロットとして測定された。
【0165】
次に、第2のDOEを実行して、上述のパラメータに対する目標相対密度の存在を検証した。
【0166】
合計12個のサンプルが印刷され、結果として得られた表面プロットを
図7a)およびb)に示す。
【0167】
この第2のDOEに続いて、最大相対密度のためのパラメータ設定(170Wの出力、0.1mmのハッチ距離、1500mm/sのレーザ速度)を使用して、すべての合金の多くのサンプル(60~75のサンプル)を印刷するために使用されるように、目標の相対密度を十分に上回る値が確立された。
【0168】
最後に、DOEがまた、21個のサンプルを含む同様のコンセプトで設計され、ハッチ距離および速度と共にレーザ出力が変更された。それでも、処理パラメータの範囲は、高密度サンプル(>98%の相対密度)のみを期待できるように控えめに保たれた。第3のDOEから得られた表面プロットを
図9a)~b)に示す。
【0169】
最終的なプロセスウィンドウは、3つのDOEからのすべての結果を重ね合わせた後に導出され、こうして
図9c)~d)に示される表面プロットに従って比較的高密度(>99%)となる処理パラメータウィンドウを示している。
【0170】
実施例7
微細構造の評価と機械的試験
すべてのサンプルは、(
図6に示されるように)3つの平面すべての中心近くで切断して、その後それらをPolyfast(Struers製)と呼ばれるエポキシベースの熱硬化性樹脂中に取り付けることによって調製された。これに続いて、StruersのTegraPol31機上で、Al合金用の標準的なStruersの調製に従ってサンプルを研削/研磨した。サンプルは、溶融池の境界を見えるようにするために、標準的なケラー試薬を使用してエッチングされた。
【0171】
実施例8
X線回折
サンプルのX線回折(XRD)が、Cu源(Ka=1.5406Å)を備えたBragg-BrentanoHD X線装置を使用して、ジェネレータの設定として40mAおよび45kVを使用し、ステップサイズ0.007°、スキャンステップ時間68.59秒で20°~100°の2θの間でスキャンされて、細かく粉砕したサンプル(グリットサイズ2000まで)に対して実行された。
【0172】
X線回折は、印刷されたままの状態の4つの合金(A、B、C、D)すべてに対して実施された。これは、高密度(>99%)のサンプルに対して行われた。
【0173】
図10に示されるXRDプロットでは、4つの合金すべてがピークから同様の情報を示していることが観察された。Alのピークは、純Alで予想される位置と比較して、より高い角度(2θ)にシフトしていることが見られた。これは、固溶体に溶解された溶質に起因する。4つの合金すべてで観察された小さなピークが、40.4°と43.0°で観察された(
図8bの拡大図を参照)。これらは、Al-Mn析出物に起因しており、これらは、後のSEM分析でも確認された。
【0174】
図11は、合金中の各々の合金元素の含有量とAlピークシフトを相関させる試みを示している。これは、各々の元素の効果が、T.Uesugi and K.Higashi「固溶体アルミニウム合金の格子定数と局所格子歪みに関する第一原理研究(First-principles studies on lattice constants and local lattice distortions in solid solution aluminum alloys)」、Computational Materials Science、vol.67、1~10頁、2013に基づく二元Al合金の第一原理計算によって計算される「混合則」アプローチを利用して行われた。計算に加えられた唯一の変更は、純Alの開始点をUesugiが想定した4.016Åの代わりに4.0478Åに変更したことであり(PDF nr.0040787)、DIFFRAC.EVAソフトによればこの値の方がはるかに信頼できると考えられたためである。
【0175】
したがって、各々の元素の効果は、(
図10a)に示されるように)4.016Åに対してプロットされ、4.016Åではなく4.0478Åから始まる線形フィットが外挿された。次に、
図10b)に示されるように、値は約45°の最も強いAlピークから導かれた実験値に対して検証された。実験および計算された格子定数は、0.01Åであることが観察できる。
【0176】
実施例9
光学顕微鏡検査
光学顕微鏡検査が、10倍の光学ズームで最大50mm2の断面の画像をステッチできる自動スケールを備えたZEISS Axioscope 7機器で行われた。
【0177】
アトマイズされたままの状態では、ケラー試薬でエッチングした後、粉末バリアントの樹枝状構造がはっきりと見えた。
図12は、アトマイズプロセス中に形成された樹枝状構造を示す合金Cの光学顕微鏡画像を示す。
【0178】
合金Dの3つの切断部分すべてからの低倍率での光学顕微鏡画像も、研磨後の印刷されたままの状態で撮影され、平均99.56%の相対密度を有する公称完全に緻密な構造を示した。前に定義した3つの切断面すべての代表的な画像を
図13に示す。
【0179】
すべてのサンプルを分析すると、アルミニウム合金のLPBF印刷物に観察される2種類の共通の欠陥が認識された。
図14(a)~(b)における第1の欠陥は、レーザ出力が高すぎるかスキャン速度が小さすぎる場合に発生する鍵穴ポロシティまたはガスポロシティを表すと考えられた。これは、場合によっては、溶融層が粒子の放出または蒸発の時点に達していることを意味する。
図14(c)~(d)におけるもう1つの欠陥は、融着不足のタイプのポロシティを示しており、これは、レーザ出力が低すぎるか、スキャン速度が高すぎる場合に発生し、その結果、層を溶融して隣の層と接合する条件が十分ではない。
【0180】
したがって、観察されたポロシティは、最適化されていないLPBF印刷条件下での最大気孔率を表す可能性がある。
【0181】
実施例10
電子顕微鏡検査
微細構造の評価は、電界放出銃を備えたLeo Gemini 1550 SEMで行われた。画像化は、必要な画像コントラストの種類に応じて、二次電子(SE)および後方散乱電子(BSE)受信機を使用して行われた。
【0182】
微量分析用のX線エネルギー分散型分光法(EDS)は、組成分析用のINCA X-sightソフトウェアと組み合わせた二次電子受信機を使用して実行された。
【0183】
選択されたサンプルは、微量分析用の電界放出銃源を備えたZeiss Gemini SEM 450 走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して分析された。この顕微鏡には、サブミクロンの分解能で微細構造の元素マッピングを可能にするBruker Quantax FlatQuadエネルギー分散型X線分光法(EDX)検出器が取り付けられていた。
【0184】
アトマイズされたままの状態の粉末は、すべての合金について純粋な樹枝状構造を示した。
図15aは、合金Cの粒子の断面図を示している。高倍率イメージングにより、
図15bに示されるように、樹状突起の内部にいくつかの微細なナノメートルサイズの粒子(<100nm)がさらに明らかになった。これらの粒子の化学組成は、SEMでEDSを使用して分解するには小さすぎるため、特定できなかった。
【0185】
印刷後、粒子のコントラストを容易に認識できるように、後方散乱モード(BSE)のSEMで特性評価する前に、立方体を研磨して軽くエッチングした。前面および上面に沿った画像が、
図16に示され、造形方向に沿った明らかな柱状構造を示している。
【0186】
前面をさらに調査すると、合金内に2つの異なるカテゴリーの析出物が形成され、その形態とサンプル内の位置によって特徴付けられることが観察された。
1.溶融池の境界に位置する析出物
2.粒子/亜粒子境界に位置する析出物
【0187】
溶融池境界に位置する析出物を
図17に示す。これらの析出物には、2つの典型的なサイズがあることがわかり、より小さなものは、球状の形態であり平均サイズが100nm未満であり、より大きなものは、サイズが200~500nmである。
【0188】
第2のカテゴリーの析出物は、粒子/亜粒子(セル)境界で形成されるものであった。それらの形状は棒状で、長さは200~400nmであり、直径は小さい(<50nm)。析出物は、
図18に非常に明確に示されている。
【0189】
二次相粒子がそれ自体、粒子/亜粒子境界に沿って整列していることは、セル型の凝固を示唆していると考えられる。粒子は、凝固中にこれらの境界に沿って形成され、こうしてセル状凝固構造を引き起こした可能性がある。
【0190】
図19は、これら3種類の析出物のEDS点走査に基づく概要を示している。EDSは、析出物の体積と比較して、SEMの電子ビームによって生成されるX線相互作用体積により、小さな粒子に対してはるかに大きな広がりを有する。しかしながら、これを補うために、一貫した結果を得るために高解像度でより多くの点走査(>25)が実行された。
【0191】
小さな溶融池境界および亜粒界析出物は、マトリックス濃度よりもMnが豊富であることを結果は示したが、それらがAl12Mn(準安定)またはAl6Mn(安定)のどちらであるかを示すことはできなかった。しかしながら、より大きな溶融池境界析出物は、Al6Mnの化学量論に近いことが示された。
【0192】
アトマイズされたままの状態および印刷されたままの状態での二次相粒子のサイズ、形態、および化学的性質を示した後、SEMでのEDS化学分析を使用してマトリックスの化学組成を評価した。マトリックスは通常、溶融池境界または粒子/亜粒子境界で形成されるナノメートル粒子を除いて、固溶体中の元素で過飽和であることが観察された。アトマイズされたまま(A-A)および印刷されたまま(A-P)のすべての合金のマトリックスのEDS分析を表9にまとめる。合金組成において、残部はアルミニウムである。
【0193】
【0194】
時折、一部の溶融池には、微細化された粒子構造が見られた。この効果は、
図20b)の合金Dについて示されている。少数のZr含有粒子も印刷されたままの状態で見られ、ファセット構造または樹枝状構造を有する(
図21を参照)。これらの構造のサイズは、桁違いに異なることに留意されたい。大きなファセット粒子の形成は明確ではなく、両方の析出物の平均組成を表10に示す。表10には、
図21(a)(b)の合金CおよびDに見られるようなファセットAl-Zr構造におけるEDSによる見かけの組成が示されている。
【0195】
【0196】
実験的議論
本研究では、特定のAl合金のLPBF印刷で一般的な凝固割れに対処した。この問題は、凝固中に偏析しにくい元素を含むように本発明の合金組成物をベースにすることによって解決された。
【0197】
この研究では、2つの三元合金と2つの四元合金を含む新規アルミニウム合金のファミリーを紹介している。合金組成は、レーザベースの粉末床融合を使用する際の積層造形中に起こる急速凝固と再溶解によってもたらされる独特の処理条件を利用するように設計されている。
【0198】
これらの合金設計原則は、ThermoCalcソフトウェアを使用した合金凝固の予測に従う。これにより、凝固割れを完全に回避するための簡単な経路が可能になった。合金設計の基礎は、過飽和固溶体中に多量の溶質を含むことができるアルミニウム合金を開発することであり、これを後で二次相析出物強化と統合した固溶体強化によって高強度を達成するために使用できる。
【0199】
これらの合金は、印刷されたままの状態で523Kまでの硬化に耐えることが示されているため、高温用途に適していると予想される。微小硬度の結果は、678Kで時効されると、平均硬度が印刷されたままの状態の105HVから、潜在的なピーク時効状態の130HVまで上昇することを示した。
【0200】
凝固割れは、凝固が起こる際の液体内の濃度勾配の変化から発生すると考えられ、その結果、最後の液体中の溶質含有量が増加し、この液体が凝固するときに体積収縮が大きくなる。これらの割れは、凝固する粒子の間に形成され、いくつかの粒子にまたがる場合がある。これは、温度勾配が最小限に抑えられ、したがって2つの粒界に沿った結合に利用できる十分な量の液体金属が確保され、割れの形成が回避されることを意味する。シャイル凝固曲線に従って、この点で開発された新規のAl合金の凝固割れ感受性が大幅に減少することが示された。実験計画は、この耐割れ性を裏付けており、したがって製造されたすべてのサンプルには印刷されたままの状態で割れがないことがわかった。
【0201】
LPBF処理では、金属粉末の薄層(通常20~40μm)が急速に溶融および凝固するため、冷却速度が速くなり、冷却速度は103~105K/sの範囲になる。これにより、合金設計者には、AM処理中にAlマトリックス内の元素の過飽和度が高くなると仮定する機会が提供される。
【0202】
合金元素および組成は、アルミニウム合金の固溶体への遷移金属元素の利点が有利に利用される急速凝固材料に関して行われた研究に基づいて選択された。
【0203】
EDSの結果は、凝固中に形成される小さな析出物(亜粒界析出物)と溶融池境界付近で見られる層の再溶融を除いて、ほぼすべてのMnとCrがマトリックスに溶解していることを示している。この析出量は、当該技術分野で知られている他の合金と比較して驚くほど少ない。
【0204】
処理中に凝固フロントに沿った層の再溶融と偏析の影響が常に存在するため、印刷されたままの状態では二次析出物の形成を完全に回避することはできず、Mn、Crを含むナノメートル相が観察された。当該技術分野では、他の著者らにより、急速凝固したナノ結晶質のAl-Mn基合金において粒界に沿ったMnの偏析が実験的に示されており、Mn濃度が高くなると、Alマトリックスと5回の対称性を持っているAl6Mnに近い組成を有する準安定相である「準結晶」相の形成が起こることも示唆されている。
【0205】
合金の印刷されたままのバージョンの強度は、固溶強度と析出強化の混合であることが示唆されている。ナノメートルの析出物は、転位の動きを制限するのに役立ち、その比較的小さいサイズは、マトリックスをより効率的に強化するのに役立つ。
【0206】
前述したように、粒子/亜粒界析出物の粗大化と、新しいナノメートルLl2Al3Zr析出物の核生成/成長とのバランスをとることにより、時効後にさらに高い強度を達成できる。
【0207】
Mn、Crを含むナノメートル析出物の一部は、準結晶、または準結晶の前駆体である可能性があるため、その形成を制御し、安定した斜方晶系Al6Mn相の形成を防ぐための熱時効処理を開発する必要がある。
【0208】
AlxMn析出物とAl3Zr析出物によるこの新しい合金ファミリーの強化は、2つの析出物間の競合機構であると考えられ、硬度と暫定的な強度値を適切に調整するには、さらに調査および開発する必要がある。有利なことに、合金の印刷されたままのバージョンは、523Kで最大24時間の時効に耐える。
【0209】
おわりに
本発明は、例示の目的で詳細に説明されてきたが、そのような詳細は単にその目的のためであり、図面、開示内容、および添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求された主題を実践する際に当業者によって変更が可能であることが理解される。
【0210】
図面に示される実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものとして解釈され得ないことを理解すべきである。別段の指示がない限り、図面は、明細書とともに読まれることを意図しており(例えば、クロスハッチング、部品の配置、比率、度合いなど)、本開示の書面による説明全体の一部とみなされるものとする。
【0211】
特許請求の範囲で使用される「備える」という用語は、他の要素またはステップを排除するものではない。特許請求の範囲で使用される不定冠詞「a」または「an」は、複数を排除するものではない。単一のプロセッサまたは他のユニットが、特許請求の範囲に記載されたいくつかの手段の機能を果たすことができる。特許請求の範囲で使用される符号は、範囲を限定するものとして解釈されないものとする。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形に適したプレアロイAl基粉末であって、プレアロイAl基粉末の総重量は、
3~5.5重量%のMnと、
0.2~2重量%のZrと、
0.2~1.4重量%のCrと、
0~2重量%のMgと、
合計で0.7重量%以下のFeおよびSiと、
最大で0.7重量%の不可避不純物としてのO、および0.5重量%以下の他の不可避不純物と、
残部であるAlから構成される、プレアロイAl基粉末。
【請求項2】
Zrの含有量が0.3~1.8重量%である、請求項1記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項3】
Crの含有量が0.3~1.4重量%である、請求項1または2に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項4】
FeおよびSiの合計含有量が0.2重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項5】
意図的に添加されたMgを含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項6】
Mn+Zr+Crの合計含有量が3.4重量%~8.5重量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項7】
前記プレアロイAl基粉末が、所望の組成の材料を溶融させ、溶融金属に不活性ガスアトマイズを行うことにより製造される、請求項1~6のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項8】
ISO13320-1 1999に準拠したレーザ回折により測定した粒径範囲が10~53μmであり、この粒径範囲外にある粒子が10%未満である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載のプレアロイAl基粉末を提供するステップと、
粉末床を形成する前記プレアロイAl基粉末の層を堆積させるステップと、
結合すべき粒子を融合または融解するために、レーザまたは電子ビームによって所定のパターンに従って前記プレアロイAl基粉末を加熱するステップと、
前記融合または溶融した粒子を冷却するステップと、
積層造形物品が形成されるまで、前記堆積するステップ、前記加熱するステップ、および前記冷却するステップを繰り返すステップと、
製造された前記積層造形物品を回収するステップと
を含む、積層造形によって物品を製造する方法。
【請求項10】
さらに熱処理を行うステップを含
み、該熱処理は、前記製造された物品を大気雰囲気中で少なくとも0.5時間、150~450℃の温度に加熱するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~
8のいずれか一項に記載のプレアロイAl粉末を溶融融着プロセスさせることよって形成された物品。
【請求項12】
請求項11に記載のプレアロイAl粉末を溶融融着プロセスさせることによって形成された物品であって、前記溶融融着プロセスは、請求項
9または1
0に記載されるものである、物品。
【国際調査報告】