(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-18
(54)【発明の名称】心筋細胞由来核酸調節エレメント並びにその方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240111BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240111BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20240111BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240111BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/85 Z
A61K48/00
A61P9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537687
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2021087020
(87)【国際公開番号】W WO2022136388
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】511281578
【氏名又は名称】フレイエ ユニヴェルシテイト ブリュッセル
【氏名又は名称原語表記】VRIJE UNIVERSITEIT BRUSSEL
【住所又は居所原語表記】Pleinlaan 2, B-1050 Elsene, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】チュア,ライ キム
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデンドリーシュ,ティエリー
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA361
(57)【要約】
本発明は、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、具体的には心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現、より具体的には心筋細胞における遺伝子発現を増強することができる核酸調節エレメント、これら核酸調節エレメントを用いる方法、及びこれらエレメントの使用に関する。これら核酸調節エレメントを含む発現カセット及びベクターも開示される。本発明は、遺伝子治療、より具体的には心臓-及び/又は筋肉-指向性遺伝子治療を用いる適用、例えば、心血管疾患及び障害、筋肉障害並びに心臓及び/又は筋肉細胞における高い導入遺伝子発現の利益を享受し得る他の疾患及び障害の処置に、並びに、ワクチン接種目的に特に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び前記配列のいずれかの全長に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列又はその機能的フラグメントを含む、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、好ましくは心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントであって、2000ヌクレオチドの最大長を有する核酸調節エレメント。
【請求項2】
配列番号3、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び前記配列のいずれかの全長に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列又はその機能的フラグメントを含む核酸調節エレメントの、心臓-及び/又は筋肉-特異的遺伝子発現、好ましくは心臓-及び筋肉-特異的遺伝子発現、より好ましくは心筋細胞-特異的遺伝子発現を増強するための核酸発現カセット又はベクターにおける使用、好ましくはインビトロ又はエクスビボでの使用。
【請求項3】
プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した少なくとも1つの核酸調節エレメントを含み、前記核酸調節エレメントが、配列番号3、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び前記配列のいずれかの全長に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列又はその機能的フラグメントを含む、核酸発現カセット。
【請求項4】
前記プロモーターが、心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーター、好ましくは心臓-及び筋肉-標的化プロモーター、より好ましくは、hMLCプロモーター、SPc5-12プロモーター、デスミン(DES)プロモーター及びMHCK7プロモーターからなる群より選択されるプロモーター、更により好ましくはSPc5-12プロモーター、デスミン(DES)プロモーター及びMHCK7プロモーターからなる群より選択されるプロモーターである、請求項3に記載の核酸発現カセット。
【請求項5】
前記プロモーターが、遍在性に発現するプロモーター、好ましくはCMVプロモーター、RNAポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIプロモーターからなる群より選択されるプロモーター、より好ましくはRNA ポリメラーゼII又はRNAポリメラーゼIIIプロモーターである、請求項3に記載の核酸発現カセット。
【請求項6】
前記導入遺伝子が治療用タンパク質又は免疫原性タンパク質をコードする、請求項3~5のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項7】
前記導入遺伝子が、非コーディングRNA、好ましくはマイクロRNA、ロング非コーディングRNA、環状RNA及び短鎖干渉(si)RNAを含む群より選択される非コーディングRNAをコードする、請求項3~5のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項8】
イントロン、好ましくはマウス微小ウイルス(MVM)イントロンを更に含む請求項3~7のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項9】
ポリアデニル化シグナル、好ましくは合成ポリアデニル化シグナルを更に含む請求項3~8のいずれか1項に記載の核酸発現カセット。
【請求項10】
請求項3~9のいずれか1項に記載の核酸発現カセットを含むベクター。
【請求項11】
ウイルス性ベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
請求項3~9のいずれか1項に記載の核酸発現カセット又は請求項10若しくは11に記載のベクターと、薬学的に許容されるキャリアとを含む医薬組成物。
【請求項13】
医薬において用いるための、請求項3~9のいずれか1項に記載の核酸発現カセット、請求項10若しくは11に記載のベクター又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
遺伝子治療、好ましくは心臓-及び/又は筋肉-指向性遺伝子治療、より好ましくは心臓-及び筋肉-指向性遺伝子治療、更により好ましくは心筋細胞-指向性遺伝子治療に用いるための、請求項3~9のいずれか1項に記載の核酸発現カセット、請求項10若しくは11に記載のベクター又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ワクチン、好ましくは予防ワクチンとして用いるため、又はワクチン接種療法、好ましくは予防ワクチン接種に用いるための、請求項3~9のいずれか1項に記載の核酸発現カセット、請求項10若しくは11に記載のベクター又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
導入遺伝子産物を心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは心筋細胞において発現させる方法、好ましくはインビトロ又はエクスビボ方法であって:
-請求項3~9のいずれか1項に記載の核酸発現カセット又は請求項10若しくは11に記載のベクターを、心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは心筋細胞に導入すること;
-導入遺伝子産物を心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは心筋細胞において発現させること;及び任意付加的に
-導入遺伝子産物を心臓及び/若しくは筋肉細胞、好ましくは心筋細胞から又は培養培地から回収すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、具体的には心臓及び筋肉の細胞又は組織、より具体的には心筋細胞における遺伝子発現を特異的に増強することができる核酸調節エレメント、これら核酸調節エレメントを用いる方法、及びこれらエレメントの使用に関する。本発明は更に、これら調節エレメントを含む発現カセット、ベクター及び医薬組成物を包含する。本発明は、遺伝子治療を用いる、心血管疾患及び障害、特に冠動脈性心疾患及び心不全、並びに、筋肉障害及び疾患の処置、又は心臓若しくは筋肉からの治療用タンパク質の分泌を必要とする疾患の処置、又は、ワクチン接種目的に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
冠動脈性心疾患(CHD)は、心臓の動脈にプラークが蓄積し、突然の心臓発作(心筋梗塞)や慢性虚血性心筋症を引き起こす可能性のある最も一般的な心臓病である。心不全(HF)はCHDの最も一般的な結果であり、心筋が体の血液と酸素の必要量を満たすのに十分なポンプ機能を果たせなくなることで発症する。再同期療法や補助人工心臓の使用など、外科的・内科的治療による目覚ましい進歩にもかかわらず(Birks. 2013. Circulation Research 113:777-791)、HF患者の長期生存率は依然として低い。したがって、CHDとHFに対する効果的で安全な処置法が必要とされている。
【0003】
マイクロRNA(miRNA)やロング非コーディングRNA(lncRNA)などの非コーディングRNA(ncRNA)、並びに、サーキュラーRNA(circRNA)は、細胞プロセスの重要な新規調節因子として同定されており、これらの非コーディング分子の発現は、生理学的状態だけでなく、心血管疾患(Pollerら 2018 Eur Heart J. 39:2704-2716に総説あり)及び/又は筋肉障害などいくつかのヒト疾患(Beermannら 2016 Physiol Rev 96:1297-1325に総説あり)においても厳密に調節されているようである。これら非コーディング分子は根本的に新しい治療薬として、またタンパク質ベースのアプローチに代わる魅力的な選択肢として、急速に台頭してきている。ncRNAを(例えば、過剰発現や阻害によって)調節することで、特定の遺伝子プログラムを活性化又は不活化させることができ、革新的な遺伝子医薬品の開発につながる前例のない可能性を秘めている。特に、これら新たな知見は、心血管疾患(CVD)及び/又は筋肉障害に対する新規処置法として、ncRNAベースの遺伝子療法の使用への道を開いた。ncRNA(又はその同族阻害剤)には、従来のタンパク質ベースのアプローチと比較して、治療法としていくつかの利点がある。代表的には、ncRNAは複数の経路に作用し、相加効果や相乗効果をもたらす可能性がある。ncRNAの中には、正常状態又は病的状態、特にCHDやHFの状況において、細胞生理の調節に極めて重要な「分子マスタースイッチ」に相当するものさえあるかもしれない。ncRNA(lncRNA)の中には、比較的少ない細胞あたりのコピー数(100以下)で天然に機能するものもあるため、より少量のベクターで治療効果を得ることができる。いくつかの特異的ncRNAは非常に有望な標的であり、CHD及びHFなどの疾患の動物モデルにおいて有益な効果を有することが示されており、臨床試験での研究が正当化されている。
加えて、骨格筋や心臓の機能を損なう遺伝子欠陥に起因する多くの遺伝性障害(例えば、ポンペ病、筋ジストロフィー症など)が存在する。この遺伝子欠陥は、最終的には、生命を脅かす、重篤な筋力低下及び麻痺又は心肺機能不全をもたらし得る。
【0004】
本発明の目的は、心血管疾患、特に冠動脈性心疾患(CHD)及び心不全(HF)、並びに筋肉関連障害を処置するための革新的な遺伝子治療プラットフォームを開発することである。さらに、筋肉における遺伝子発現を最大化することは、遺伝子ワクチン接種にも影響があり、循環する治療用タンパク質の発現増加の利益を享受する非筋肉疾患(例えば、血友病)に影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
しかしながら、筋肉及び/又は心臓の細胞又は組織に対する遺伝子治療は、遺伝子送達及び遺伝子発現の制限によって比較的非効率的である。標準的な心臓及び/又は筋肉-標的化プロモーターに基づく従来のベクター設計は、典型的には、所望の標的組織における最適に達しない発現をもたらす。シス調節エレメント(CRE)(シス調節モジュール(CRM)とも呼ばれる)は、異なる細胞タイプを含んでなる組織/器官全体で最初に同定されている。これらのCREは、心臓、筋肉及び/又は横隔膜における遺伝子発現を高めることを可能にする(Sarcarら 2019. Nat Commun. 10(1):492; WO 2015/110449; WO 2018/178067; WO 2011/051450)。これらの特定のCREは、De Bleserら(2007. Genome Biol 8, R83)の差分距離行列(DDM)/多次元スケーリングアルゴリズム(MDS)を用いて以前に同定されており、これは、所与の組織/器官で高度に発現される遺伝子間で共通する転写因子結合部位(TFBS)のアレイの同定に依存していた。その結果、組織/器官で高度に発現されるが、そのような共通のTFBSのアレイを共有しない遺伝子は、このバイオインフォマティクスアルゴリズムによって除外された。
【0006】
しかしながら、安全かつ効率的な遺伝子治療、より具体的には、心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、特に、心筋細胞における、目的の遺伝子の安全で効率的な発現に対する必要性が当該分野において依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、心臓血管疾患、特に冠動脈性心疾患及び心不全、並びに筋肉障害、並びに心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織における高い導入遺伝子発現の利益を享受し得る他の疾患及び障害のための効率的な遺伝子治療の必要性に対処する。心筋細胞だけでなく、骨格筋及び横隔膜の細胞又は組織においても高い(導入)遺伝子発現をもたらす心筋細胞由来のシス調節モジュール(CARD-CRE)に基づいて、心臓、特に心筋細胞又は組織、及び他の種類の筋肉細胞又は組織における(導入)遺伝子発現を最大化するためのアプローチが開発された。本明細書中で同定されたCARD-CREエレメントの使用は、プロモーター単独からの(導入)遺伝子発現と比較して、心臓並びに種々の骨格筋及び横隔膜細胞又は組織における(導入)遺伝子発現を増強した。したがって、これらの新規CARD-CREの使用は、心臓血管疾患、特に冠動脈性心疾患及び心不全、並びに筋肉障害、並びに心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織における高い導入遺伝子発現の利益を享受し得る他の疾患及び障害に対する遺伝子治療の全体的な有効性と安全性を最大化するための魅力的な戦略である。また、同様な又はさらに改善された治療効果を達成するためには、より低いベクター用量が必要とされ得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、以下の観点を提供する。
観点1:心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、好ましくは心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現を増強するための単離された核酸調節エレメントであって、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び前記配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列(すなわち、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7又は配列番号8に記載の配列(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列)からなる群より選択される配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる、核酸調節エレメント。前記観点の好ましい実施形態において、核酸調節エレメントは、最大2000ヌクレオチド、好ましくは最大1900又は1800ヌクレオチド、より好ましくは最大1700ヌクレオチド長であり、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、及び前記配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる。
【0009】
前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、最大1000ヌクレオチド長、好ましくは最大900、800、700、600又は500ヌクレオチド、より好ましくは最大400ヌクレオチドであり、配列番号2に記載された配列、配列番号2に記載された配列(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる。前記観点の特定の実施形態において、前記調節エレメントは、配列番号2に記載された配列からなる(すなわち、CARD-CRE8である)。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、最大2000ヌクレオチド、好ましくは最大1900又は1800ヌクレオチド、より好ましくは最大1700ヌクレオチド長であり、配列番号3に記載される配列、配列番号3に記載される配列(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる。前記観点の特定の実施形態において、前記調節エレメントは、配列番号3に記載された配列からなる(すなわち、CARD-CRE11である)。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、最大1000ヌクレオチド長、好ましくは最大900、800又は700ヌクレオチド、より好ましくは最大600ヌクレオチドであり、配列番号5に記載された配列、配列番号5に記載された配列(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる。前記観点の特定の実施形態において、前記調節エレメントは、配列番号5に記載された配列からなる(すなわち、CARD-CRE14である)。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、最大1500ヌクレオチド長、好ましくは最大1400、1300、1200、1100又は1000ヌクレオチド、より好ましくは最大900ヌクレオチドであり、配列番号6に記載された配列、配列番号6に記載された配列(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる。前記観点の特定の実施形態において、前記調節エレメントは、配列番号6に記載された配列(すなわち、CARD-CRE16である)又はその機能的フラグメントからなる。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、最大1000ヌクレオチド長、好ましくは最大900、800、700、600又は500ヌクレオチド、より好ましくは最大450又は400ヌクレオチドであり、配列番号7に記載された配列、配列番号7に記載された配列(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる。前記観点の特定の実施形態において、前記調節エレメントは、配列番号7に記載された配列(すなわち、CARD-CRE17である)又はその機能的フラグメントからなる。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、最大1700ヌクレオチド長、好ましくは最大1600ヌクレオチド、より好ましくは最大1500ヌクレオチドであり、配列番号8に記載された配列、配列番号8に記載された配列(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列若しくはその機能的フラグメントを含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる。前記観点の特定の実施形態において、前記調節エレメントは、配列番号8に記載された配列からなる(すなわち、CARD-CRE20である)。
【0010】
観点2:配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8からなる群より選択される配列の機能的フラグメントを含むか、該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該機能的フラグメントからなる、観点1による核酸調節エレメントであって、前記機能的フラグメントは、由来する元の配列からの少なくとも20、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200若しくは少なくとも250の連続ヌクレオチドを含むか、該連続ヌクレオチドから本質的になるか、又は該連続ヌクレオチドからなる、核酸調節エレメント。
前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、配列番号2の機能的フラグメントであり、前記機能的フラグメントは、配列番号2からの少なくとも310、好ましくは少なくとも320、330若しくは340、より好ましくは少なくとも345若しくは350の連続ヌクレオチドを含むか、又は該連続ヌクレオチドからなる。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、配列番号3の機能的フラグメントであり、前記機能的フラグメントは、配列番号3からの少なくとも1600、好ましくは少なくとも1610若しくは1620、より好ましくは少なくとも1630若しくは1635の連続ヌクレオチドを含むか、又は該連続ヌクレオチドからなる。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、配列番号5の機能的フラグメントであり、前記機能的フラグメントは、配列番号5からの少なくとも500、好ましくは少なくとも510、520若しくは530、より好ましくは少なくとも535若しくは540の連続ヌクレオチドを含むか、又は該連続ヌクレオチドからなる。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、配列番号6の機能的フラグメントであり、前記機能的フラグメントは、配列番号6からの少なくとも800、好ましくは少なくとも810若しくは820、より好ましくは少なくとも830若しくは835の連続ヌクレオチドを含むか、又は該連続ヌクレオチドからなる。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、配列番号7の機能的フラグメントであり、前記機能的フラグメントは、配列番号7からの少なくとも260、好ましくは少なくとも270若しくは280、より好ましくは少なくとも290若しくは295の連続ヌクレオチドを含むか、又は該連続ヌクレオチドからなる。前記観点の実施形態において、前記核酸調節エレメントは、配列番号8の機能的フラグメントであり、前記機能的フラグメントは、配列番号8からの少なくとも1435、好ましくは少なくとも1440、1450若しくは1460、より好ましくは少なくとも1465若しくは1470の連続ヌクレオチドを含むか、又は該連続ヌクレオチドからなる。
【0011】
観点3:観点1又は2において定義された配列の相補体を含むか、該相補体から本質的になるか、又は該相補体からなる、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、好ましくは心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメント。
観点4:ストリンジェントな条件下で、観点1~3のいずれか1つによる核酸調節エレメントとハイブリダイズする、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、好ましくは心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメント。
観点5:全長が1700ヌクレオチド以下、好ましくは1500ヌクレオチド以下、より好ましくは900ヌクレオチド以下、さらにより好ましくは600ヌクレオチド以下である、観点1~4のいずれか1つによる核酸調節エレメント。
観点6:特に、心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、より具体的には心臓及び筋肉の細胞又は組織における遺伝子発現を増強するための、さらにより具体的には心筋細胞における遺伝子発現を増強するための、核酸発現カセット又はベクターにおける、観点1~5のいずれか1つによる核酸調節エレメントの使用、好ましくはインビトロ又はエクスビボでの使用。
【0012】
観点7:プロモーターに作動可能に連結された、少なくとも1つ、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又は6以上の、観点1~5のいずれか1つによる核酸調節エレメントを含む核酸発現カセット。
観点8:前記少なくとも1つの核酸調節エレメントがプロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結されている、観点7による核酸発現カセット。
この観点の特定の実施形態において、導入遺伝子は、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)(例えば、分泌型又は天然型としてのGAA)をコードする。この観点の他の特定の実施形態において、導入遺伝子は、サルコグリカン、特に、α-サルコグリカン、β-サルコグリカン及びγ-サルコグリカンから選択されるサルコグリカン、好ましくはβ-サルコグリカンをコードする。特定の実施形態において、導入遺伝子は、抗体又はナノボディをコードする。
観点9:プロモーターが心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーター、好ましくは心臓-及び筋肉-標的化プロモーターである、観点7又は8による核酸発現カセット。
【0013】
観点10:プロモーターが、hMLCプロモーター、特に配列番号14により規定されるhMLCプロモーター、SPc5-12プロモーター、特に配列番号11により規定されるSPc5-12プロモーター、デスミン(DES)プロモーター及びMHCK7プロモーターからなる群より選択される、例えば、SPc5-12プロモーター、特に配列番号11により規定されるSPc5-12プロモーター、デスミン(DES)プロモーター及びMHCK7プロモーターからなる群より選択されるプロモーターである、観点7~9のいずれか1つによる核酸発現カセット。
本明細書中で同定されたCARD-CREエレメントも組み込まれたキメラSPc5-12プロモーターの使用は、合成筋肉指向性SPc5-12プロモーターと比較して、心臓及び種々の骨格筋細胞又は組織における遺伝子発現を増強する。さらに、SPc5-12プロモーターと組み合わせたこれらの新規なCARD-CREエレメントは、CMVプロモーターとは対照的に、肝臓などの非標的組織における異所性発現を防止しながら、CMVプロモーターよりもはるかに高い遺伝子発現をもたらした。
観点11:プロモーターが、遍在性に発現するプロモーター、好ましくは、CMVプロモーター、特に配列番号15により規定されるCMVプロモーター、RNAポリメラーゼIIプロモーター又はRNAポリメラーゼIIIプロモーターからなる群より選択されるプロモーターであり、例えばRNAポリメラーゼIIプロモーター又はRNAポリメラーゼIIIプロモーターである、観点7又は8のいずれか1つによる核酸発現カセット。実施形態において、RNAポリメラーゼIIIプロモーターは、U6ポリメラーゼIIIプロモーター又はH1ポリメラーゼIIIプロモーターである。
【0014】
観点12:導入遺伝子が治療用タンパク質又は免疫原性タンパク質をコードする、観点8~10のいずれか1つによる核酸発現カセット。
観点13:導入遺伝子が、非コーディングRNA、好ましくはマイクロRNA、ロング非コーディングRNA(lncRNA)、環状RNA又は短鎖干渉RNA(siRNA)をコードする、観点8~11のいずれか1つによる核酸発現カセット。
観点14:イントロン、好ましくはマウス微小ウイルス(MVM)イントロン、より好ましくは配列番号12により規定されるMVMイントロンをさらに含む、観点7~13のいずれか1つによる核酸発現カセット。
観点15:ポリアデニル化シグナル、好ましくは合成ポリアデニル化シグナル、より好ましくは配列番号13により規定されるポリアデニル化シグナルをさらに含む、観点7~14のいずれか1つによる核酸発現カセット。
観点16:観点1~5のいずれか1つによる核酸調節エレメント又は観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセットを含むベクター。
観点17:ウイルスベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである、観点16によるベクター。
観点18:非ウイルス性ベクター、好ましくはプラスミド、ミニサークル又はトランスポゾンベースのベクター、例えばPiggyBacベースのベクター又はSleeping Beautyベースのベクターである、観点16によるベクター。
【0015】
観点19:観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセット又は観点16~18のいずれか1つによるベクターと、薬学的に許容されるキャリアとを含む薬学的組成物。
観点20:医薬において用いるための、観点1~5のいずれか1つによる核酸調節エレメント、観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセット、観点16~18のいずれか1つによるベクター又は観点19による医薬組成物。
観点21:遺伝子治療、好ましくは心臓及び/又は筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療に使用するための、観点1~5のいずれか1つによる核酸調節エレメント、観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセット、観点16~18のいずれか1つによるベクター又は観点19による医薬組成物。
この観点の実施形態において、核酸発現カセット、ベクター又は薬学的組成物は、心臓(細胞又は組織)指向性遺伝子治療、特に心筋細胞指向性遺伝子治療において使用するためのものである。
実施形態において、核酸発現カセット、ベクター又は薬学的組成物は、筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療において使用するためのものである。
【0016】
観点22:対象において抗体又はナノボディを生成する方法において使用するための、観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセット、観点16~18のいずれか1つによるベクター又は前記核酸発現カセット若しくは前記ベクターを含む医薬組成物であって、前記方法は、前記対象の心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは前記対象の心臓及び筋肉細胞、より好ましくは前記対象の心筋細胞に、前記核酸発現カセット又はベクターを、抗体又はナノボディの発現を誘導する有効量で導入することを含み、前記核酸発現カセット又はベクター中の導入遺伝子が前記抗体又はナノボディをコードする、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物。
この観点の実施形態において、前記対象に前記核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物が投与される。
この観点の他の実施形態において、前記核酸発現カセット又はベクターを導入する心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは心臓及び筋肉細胞、より好ましくは心筋細胞に投与される。
【0017】
観点23:心血管疾患及び障害、リソソーム貯蔵疾患、ミトコンドリア障害(例えば、バルト症候群)、チャネロパチー(例えば、ブルガダ症候群)、代謝障害、筋管ミオパチー(MTM)、筋ジストロフィー(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD))、筋強直性ジストロフィー、筋強直性筋ジストロフィー(DM)、三好型ミオパシー、福山型先天性ジストロフィー、ディスフェリノパシー、神経筋疾患、運動ニューロン疾患(MND)(例えば、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)、脊髄性筋萎縮症(SMA)又は筋萎縮性側索硬化症(ALS))、エメリー・ドレイファス筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)、先天性筋ジストロフィー、先天性筋症、肢帯型筋ジストロフィー(例えば、肢帯型筋ジストロフィータイプ2E(LGMD2E)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2D(LGMD2D)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2C(LGMD2C)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2B(LGMD2B)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2L(LGMD2L)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2A(LGMD2A))、代謝性ミオパチー、筋炎症性疾患、筋無力症、ミトコンドリアミオパチー、イオンチャネルの異常、核エンベロープ疾患、遠位ミオパチー、血友病(例えば、血友病A及びB、第FVII因子欠乏症、von Willebrand病)、C1インヒビター欠損症又は遺伝性血管性浮腫、糖尿病、α1-アンチトリプシン欠乏症、及び腎不全を含む群より選択される疾患又は障害の処置において使用するための、観点1~5のいずれか1つによる核酸調節エレメント、観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセット、観点16~18のいずれか1つによるベクター又は観点19による医薬組成物。
【0018】
この観点の実施形態において、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物は、心臓血管疾患若しくは障害又は筋肉障害の処置において使用するためのものである。実施形態において、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物は、心臓血管疾患又は障害の処置において使用するためのものである。この観点の更なる実施形態において、疾患又は障害は、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠動脈性心疾患又は冠動脈疾患、末梢動脈疾患、先天性心疾患、うっ血性心不全、心不全又は心機能不全、心筋梗塞又は心臓発作、心筋虚血、急性冠症候群又は不安定狭心症及び安定狭心症、心筋症(例えば肥大型心筋症、拡張型心筋症、拘束型心筋症、及び遺伝子変異により引き起こされる原発性心筋症(例えば、ブルガダ症候群及びファブリー病))、心アミロイドーシス(又は「心硬直症候群」)、心筋炎(又は炎症性心筋症)、心臓弁膜症、心膜炎、心タンポナーデ(心膜タンポナーデとしても知られる)、心内膜炎、心臓不整脈(例えば、遺伝子変異により引き起こされる原発性心臓不整脈(例えば、ブルガダ症候群))、高血圧、低血圧、血管狭窄又は弁狭窄、再狭窄、深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症、並びに虚血性又は出血性脳卒中を含む群より選択される心臓血管疾患又は障害である。
【0019】
この観点の実施形態において、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物は、リソソーム貯蔵疾患の処置において使用するためのものである。更なる実施形態において、疾患又は障害は、ファブリー病、グリコーゲン貯蔵障害(例えば、ポンペ病、グリコーゲン貯蔵障害(GSD)タイプII、ダノン病、GSDタイプIIb、GSD III又はGSD3(コリ病又はフォーブス病としても知られる)、GSD IV又はGSD4(アンデルセン病としても知られる)、GSD V又はGSD5(マッカードル病としても知られる)、GSD VII又はGSD7(タルイ病としても知られる)、GSD X又はGSD10、GSD XII又はGSD12(アルドラーゼA欠損としても知られる)、GSD XIII又はGSD13、GSD XV又はGSD15)及びムコ多糖症(例えば、ハンター症候群、サンフィリッポ症候群、ムコ多糖症(MPS)I、MPS II、MPS III、MPS IIIA、MPS IIIB、MPS IIIC、MPS IV、MPS VI、MPS VII、MPS IX)を含む群より選択されるリソソーム貯蔵疾患である。
【0020】
観点24:ワクチン、好ましくは予防ワクチンとして用いるため、又はワクチン接種療法、好ましくは予防ワクチン接種に用いるための、観点1~5のいずれか1つによる核酸調節エレメント、観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセット、観点16~18のいずれか1つによるベクター又は観点19による医薬組成物。
観点25:導入遺伝子産物を心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、好ましくは心臓及び筋肉の細胞又は組織、より好ましくは心筋細胞において発現させる方法、好ましくはインビトロ又はエクスビボ方法であって:
-観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセット又は観点16~18のいずれか1つによるベクターを、心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、好ましくは心臓及び筋肉の細胞又は組織、より好ましくは心筋細胞に導入すること;
-導入遺伝子産物を心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、好ましくは心臓及び筋肉の細胞又は組織、より好ましくは心筋細胞において発現させること;及び
-任意選択的に、導入遺伝子産物を心臓及び/若しくは筋肉の細胞若しくは組織、好ましくは心筋細胞又は培養培地から回収すること
を含む、方法。
【0021】
観点26:心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、好ましくは心筋細胞における抗体又はナノボディの生成のためのインビトロ又はエクスビボ方法であって:
-観点7~15のいずれか1つによる核酸発現カセット又は観点16~18のいずれか1つによるベクターを前記心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、好ましくは前記心筋細胞に導入すること、ここで、導入遺伝子は抗体又はナノボディをコードする、
-前記抗体又はナノボディを前記心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、好ましくは前記心筋細胞において発現させること;及び
-任意付加的に、前記抗体又はナノボディを、前記心臓及び/若しくは筋肉の細胞又は組織、好ましくは前記心筋細胞又は培養培地から回収すること
を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ルシフェラーゼレポーター(Luc2)遺伝子を駆動する心筋細胞-標的化SPc5-12プロモーターを含むAAV2ベクタープラスミドの模式図。同定されたCARD-CRE調節エレメントは、SPc5-12プロモーターの上流にクローニングした。AAV2ベクタープラスミドはさらに、ポリアデニル化部位(pA)とマウス微小ウイルス(MVM)イントロンを含む。AAVベクタープラスミドは5'側及び3'側の逆方向末端反復(ITR)で挟まれている。
【
図2】同定されたCARD-CREのスクリーニングに使用されたインビボスクリーニング及び検証プラットフォームの模式図。CARD-CREは、ルシフェラーゼレポーター(Luc2)遺伝子の発現を駆動する心筋細胞-標的化プロモーター(例えば、SPc5-12合成プロモーター)の上流にクローニングした。対照ベクターはいずれのCARD-CREも欠いた。対応するベクター構築物をAAV9粒子にパッケージして、CB17 SCIDマウスに注射した。ルシフェラーゼ活性は、インビボ生物発光イメージング(BLI)又は注射したマウスから精製した心筋細胞のルミノメトリーによって定量化した。CARD-CREベクターのルシフェラーゼ活性を、ルシフェラーゼ活性を増強するCARD-CREの頑健性について対照比較するか、又はCARD-CREを有さない対照ベクター若しくはCMV参照構築物と比較した。
【
図3】全身生物発光(BLI)によるルシフェラーゼ活性の比較。CARD-CRE3、CARD-CRE11、CARD-CRE12を含むAAV9ウイルスベクター又はCARD-CREを欠く対照AAV9ウイルスベクターを1週間前に注射したCB17 SCIDマウスの全身BLI。白で示した領域はルシフェラーゼ活性を示す。
【
図4】ルミノメトリーによるルシフェラーゼ活性の比較。CARD-CRE11を含むAAV9ウイルスベクター又はCARD-CREを欠く対照AAV9ウイルスベクターを注射したマウスの新鮮な精製心筋細胞におけるルミノメトリー分析。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターから駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子をコードするAAVウイルスベクターを参照ベクターとして用いた。ルシフェラーゼ活性は、相対発光単位(RLU)として表した。
【
図5】CARD-CRE11調節エレメントを含むAAV9ウイルスベクター、CARD-CREを欠く対照AAV9ウイルスベクター又は参照としてCMVプロモーターを含むAAV9ウイルスベクターを注射したCB17 SCIDマウスにおける、ベクター注射の2週間後の全身BLI(A)による又はベクター注射の3週間後に解剖したマウスから採取した個別器官及び組織のBLI分析(B)によるルシフェラーゼ活性の比較。白で示した領域はルシフェラーゼ活性を示す。(C)心臓及び筋肉群におけるBLI分析によるルシフェラーゼ活性の定量分析。
【
図6】CARD-CRE14、CARD-CRE16若しくはCARD-CRE17を含むAAV9ウイルスベクター又はCARD-CREを欠く対照AAV9ウイルスベクター(CREなし対照)を含むAAV9ウイルスベクターを注射したCB17 SCIDマウスにおける、ベクター注射の1週間後の全身BLI(A)による、又はベクター注射の22週間後に解剖したマウスから採取した個々の器官及び組織のBLI分析(B)によるルシフェラーゼ活性の比較。白で示した領域はルシフェラーゼ活性を示す。(C)心臓及び筋肉群におけるBLI分析によるルシフェラーゼ活性の定量分析。
【
図7】CARD-CRE8、CARD-CRE11、CARD-CRE16若しくはCARD-CRE20を含むAAV9ウイルスベクター、又はCARD-CREを欠く対照AAV9ウイルスベクター(CREなし対照)を注射したCB17 SCIDマウスにおける、ベクター注射の12週間後の全身BLI(A)による又はベクター注射の14週間後に解剖したマウスから採取した個別器官及び組織のBLI分析(B)によるルシフェラーゼ活性の比較。白で示した領域はルシフェラーゼ活性を示す。(C)心臓及び筋肉群におけるBLI分析によるルシフェラーゼ活性の定量分析。(D)(a)CARD-CRE16、(b)CARD-CRE11、(c)CARD-CRE8若しくは(d)CARD-CRE20を含むAAV9ウイルスベクター又は(e)CARD-CREを欠く対照AAV9ウイルスベクター(CREなし対照)を注射したCB17 SCIDマウスにおける、ベクター注射の14週間後の心臓、異なる筋肉群及び器官におけるBLI分析によるルシフェラーゼ活性の定量分析。
【
図8】AAVss-hMLC-Luc2-SynpAベクターのベクターマップ。
【
図9】AAVss-Card CRE11-hMLC-Luc2-SynpAベクターのベクターマップ。
【
図10】ベクター注射の4週間後の個別摘出組織におけるルシフェラーゼ活性。CB17-SCIDマウス、ssAAV9-Card CRE11-hMLC-Luc2-SynpA(Card CRE11-hMLC)又はssAAV9-hMLC-Luc2-SynpA(hMLC)を注射した(ベクター用量:10
11 vg/マウス)。ルシフェラーゼ発現は総光束(光子/秒/cm
2/sr)(平均値+s.e.m.;n=3)として測定した。
【
図11】AAVss-CMV-Luc2-SynpAベクターのベクターマップ。
【
図12】AAVss-CARD CRE11-CMV-Luc2-SynpAベクターのベクターマップ。
【
図13】ベクター注射の4週間後の個別摘出心臓におけるルシフェラーゼ活性。CB17-SCIDマウスにssAAV9-Card CRE11-CMV-Luc2-SynpA(Card CRE11-CMV)又はCARD-CRE11を欠く対照ベクター(ssAAV9-CMV-Luc2-SynpA;CMV)を注射した(ベクター用量:10E11 vg/マウス)。ルシフェラーゼ発現は総光束(光子/秒/cm
2/sr)(平均値+s.e.m.;n=3)として測定した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、単数形(「a」、「an」及び「the」)は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、単数及び複数の両方への言及を含む。
本明細書で使用される用語「含む」、「含んでなる」及び「から構成される」は、「包含する」又は「含有する」と同義であり、包摂的又はオープンエンドの語であり、記載されていない追加の部材、要素又は方法ステップを排除していない。この用語はまた、特許用語として確立された意味を有する「~からなる」及び「~から本質的になる」を包含する。
端点による数値範囲の記載は、記載された端点だけでなく、それぞれの範囲に含まれるすべての数値及び部分範囲を含む。
本明細書において、パラメータ、量、持続時間などの測定可能な値に言及する際に用いられる用語「約」は、開示の発明において行うに適切である限り、特定された値の/からの変動、例えば、特定された値の/からの±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらに好ましくは±0.1%以下の変動を包含していることを意味する。修飾語「約」が付された値は、それ自体も具体的に開示され、また好ましいものとしても開示されていると理解されるべきである。
【0024】
一群のメンバーのうちの1若しくは2以上又は少なくとも1つのメンバーのような用語「1又は2以上」又は「少なくとも1つ」はそれ自体明確であるが、さらに例示すれば、この用語は、とりわけ、前記メンバーの任意の1つ、又は前記メンバーの任意の2つ又は3つ以上、例えば、前記メンバーの任意の≧3、4、5、6若しくは7など前記全メンバーまでへの言及を包含する。別の例では、「1又は2以上」又は「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7又はそれ以上を指す場合がある。
本明細書には、本発明の内容を説明するために発明の背景への言及が含まれる。この言及は、参照した資料のいずれかが、いずれかの請求項の優先日において、いずれかの国で公開されていたこと、知られていたこと、又は技術常識の一部であったことを認めたと解釈されるべきではない。
本開示を通じて、種々の刊行物、特許及び公開特許明細書は、文献を特定することによって参照する。本明細書で引用したすべての文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。具体的には、本明細書で具体的に言及される文献の教示又は節は、参照により組み込まれる。
【0025】
特に言及しない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明の開示に用いられるすべての用語は、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者が一般的に理解する意味を有する。さらなる指針として、本発明の教示をよりよく理解するために用語の定義が含まれる。特定の用語が本発明の特定の態様又は特定の実施形態に関連して定義されている場合、その含意は、そうでないと言及されない限り、本明細書全体に適用されること、すなわち、本発明の他の態様又は実施形態の文脈においても適用されることを意味する。
以下において、本発明の異なる態様又は実施形態をより詳細に記載する。記載された各態様は、そうでないことが明示されていない限り、任意の他の態様又は実施形態と組み合わせ得る。特に、好適又は有利として示される任意の特徴は、好適又は有利として示される1以上の他の任意の特徴と組み合わせてもよい。
本明細書を通じて「1つの実施形態」又は「或る実施形態」への言及は、当該実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の各所に現れる句「1つの実施形態において」又は「或る実施形態において」は、必ずしもすべて同じ実施形態に言及しているわけではないが、そうであり得る。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、1又は2以上の実施形態において、本開示から当業者に明らかなように任意の適切な様式で組み合わされてもよい。さらに、本明細書に記載されたいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含み、他の特徴を含まないが、当業者に理解されるように、異なる実施形態の特徴の組合せは、本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を構成する。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求された実施形態のいずれも任意の組合せで使用することができる。
【0026】
本発明に関連する一般的な方法については、特に、例えば、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th Ed.」(Green and Sambrook, 2012, Cold Spring Harbor Laboratory Press)、「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubelら, 1987)を含む周知の教科書に言及する。
或る観点において、本発明は、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、前記配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列、又はその機能的フラグメント(すなわち、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8からなる群より選択される配列の機能的フラグメント又は該配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列の機能的フラグメント)を含むか、該配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になる(すなわち、本調節エレメントは、クローニング目的に用いる配列を例えば追加的に含んでもよいが、示された配列は当該調節エレメントの必須部分を構成する、例えば、配列は、プロモーターのようなより大きな調節領域の一部を形成しない)か、又は該配列若しくは該機能的フラグメントからなる、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、具体的には心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現、より具体的には心筋細胞-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントに関する。
【0027】
特定の実施形態において、本明細書に記載の核酸調節エレメントは、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8からなる群より選択される配列並びに少なくとも1つのフランキングヌクレオチド配列(すなわち、5'側フランキングヌクレオチド配列及び/又は3'側フランキングヌクレオチド配列)からなり、前記少なくとも1つのフランキングヌクレオチド配列は50ヌクレオチドの最大長、好ましくは45、40、35、30又は25ヌクレオチドの最大長、より好ましくは20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1ヌクレオチドの最大長を有する。特定の実施形態において、本明細書に記載の核酸調節エレメントは、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8からなる群より選択される配列と、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8からなる群より選択される前記配列の対向する端部に位置する2つのフランキングヌクレオチド配列(又は5'側フランキングヌクレオチド配列及び3'側フランキングヌクレオチド配列)とからなり、各フランキングヌクレオチド配列は、独立して、50ヌクレオチドの最大長、好ましくは45、40、35、30又は25ヌクレオチドの最大長、より好ましくは20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1ヌクレオチドの最大長を有する。実施形態において、フランキングヌクレオチド配列は異種配列(例えば、クローニング目的に用いる配列)である。他の実施形態において、フランキングヌクレオチド配列は同族配列である。
本発明の意味において、所与の配列に関連する「異種」とは、自然界において当該配列に直接隣接する配列以外の核酸配列を意味すると理解される。所与の配列に関連して本明細書で用いる用語「同族」とは、自然界において当該配列に直接隣接する核酸配列を意味すると理解される。
【0028】
本明細書で用いる「調節エレメント」又は「核酸調節エレメント」は、「CRE」(シス調節エレメント)、「CRM」(シス調節モジュール)又は「CARD-CRE」若しくは「CARD CRE」(心筋細胞由来CRE)とも呼ばれ、遺伝子の転写、特に遺伝子の組織-又は細胞-標的化転写を調節し及び/又は制御し得る転写制御エレメント、特に非コード性シス作用性転写制御エレメントをいう。調節エレメントは、少なくとも1つの転写因子結合部位(TFBS)、具体的には組織-又は細胞-標的化転写因子に対する少なくとも1つの結合部位、より具体的には心臓-及び/又は筋肉-標的化転写因子に対する少なくとも1つの結合部位、より具体的には心臓-及び筋肉-標的化転写因子に対する少なくとも1つの結合部位、最も具体的には心筋細胞-標的化転写因子に対する少なくとも1つの結合部位を含む。代表的には、本明細書で用いられる調節エレメントは、当該調節エレメントを有さないプロモーター単独からの遺伝子の転写と比較したときに、プロモーター駆動遺伝子発現を増加させるか又は増強する。したがって、調節エレメントは、特に、エンハンサー配列を含むが、転写を増強する調節エレメントは、代表的な遥か上流のエンハンサー配列に限定されず、調節対象の遺伝子から任意の距離に存在し得ることが理解される。実際、転写を調節する配列は、インビボで調節している遺伝子の上流(例えば、プロモーター領域内)又は下流(例えば、3'UTR内)のいずれにも位置し得、該遺伝子のごく近傍に位置していてもよいし、更に遠位に位置していてもよいし、当該遺伝子自体内にさえ位置していてもよいことが当該分野で公知である。なお、本明細書で開示する調節エレメントは、代表的には、天然に存在する配列を含むが、そのような調節エレメントの(部分の)又は調節エレメントの複数コピーの組合せ、すなわち天然に存在しない配列を含む調節エレメントも、それ自体が調節エレメントとして想定される。本明細書で用いられる調節エレメントは、転写制御に関与するより大きな配列の部分、例えば、プロモーター配列の部分を含んでもよい。しかし、調節エレメント単独は、代表的には、転写の開始に十分ではなく、この目的のためにはプロモーターを必要とする。本明細書に開示される調節エレメントは、核酸分子、すなわち単離された核酸、又は単離された核酸分子として提供される。したがって、前記核酸調節エレメントは、天然に存在するゲノム配列のほんの一部であり、それ自体で天然に存在しないが、天然から単離された配列を有する。
【0029】
本明細書で使用する用語「核酸」とは、代表的には、本質的にヌクレオチドから構成される任意の長さのオリゴマー又はポリマー(好ましくは直鎖ポリマー)をいう。ヌクレオチド単位は、一般に、複素環式塩基、糖基及び少なくとも1つ、例えば1、2又は3つのリン酸基(修飾又は置換されたリン酸基を含む)を含む。複素環式塩基は、特に、天然に存在する核酸中に広く存在するプリン塩基及びピリミジン塩基(例えば、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)及びウラシル(U))、その他の天然に存在する塩基(例えば、キサンチン、イノシン、ヒポキサンチン)、並びに化学的又は生化学的に修飾された(例えば、メチル化された)非天然の又は誘導された塩基を含み得る。糖基は、特に、天然に存在する核酸に共通するペントース(ペントフラノース)基(好ましくは、リボース及び/又は2-デオキシリボース)、又はアラビノース、2-デオキシアラビノース、トレオース又はヘキソース糖基、並びに修飾された又は置換された糖基を含み得る。本明細書で意図する核酸は、天然に存在するヌクレオチド、修飾ヌクレオチド又はそれらの混合物を含み得る。修飾ヌクレオチドは、修飾複素環式塩基、修飾糖部分、修飾リン酸基又はそれらの組合せを含み得る。リン酸基又は糖の修飾は、安定性、酵素分解に対する耐性又は他の有用な特性を向上させるために導入され得る。用語「核酸」は、さらに好ましくは、DNA、RNA及びDNA/RNAハイブリッド分子を包含し、具体的には、hnRNA、プレmRNA、ガイド(g)RNA、mRNA、cDNA、非コーディング(nc)-RNA、長い非コーディングRNA(lnc)RNA、ショートヘアピン(sh)RNA、低分子干渉(si)RNA、マイクロ(mi)RNA、環状(c)RNA、ゲノムDNA、増幅産物、オリゴヌクレオチド、及び合成(例えば、化学的に合成された)DNA、RNA又はDNA/RNAハイブリッドを含む。核酸は、天然に存在するもの、例えば自然界に存在し若しくは自然界から単離されたものであることができ;又は天然に存在しないもの、例えば組換えのもの、すなわち組換えDNA技術により製造されたもの、及び/又は部分的若しくは全体的に、化学的若しくは生化学的に合成されたものであることができる。「核酸」は、二本鎖、部分的に二本鎖又は一本鎖のいずれでもあることができる。一本鎖のとき、核酸はセンス鎖又はアンチセンス鎖であり得る。また、核酸は環状又は線状であり得る。
【0030】
本明細書に開示される配列は、心筋細胞、具体的には正常なヒト心筋細胞における遺伝子の転写をインビボで制御することができる調節エレメントの配列の一部であってもよく、より具体的には、以下の遺伝子を制御する:CLGI、EPA、EPO又はHCIとしても知られるマトリックスメタロプロテイナーゼ1の組織阻害剤(TIMP1又はTIMP-1);PP3610、BTHLM1又はUCMD1としても知られるVI型コラーゲンα2鎖(COL6A2);OI4、EDSCV又はEDSARTH2としても知られるI型コラーゲンα2鎖(COL1A2);GAL1又はGBPとしても知られるガレクチン1(LGALS1);AGM、FSTL2、IBP-7、IGFBP-7、IGFBP-7v、IGFBPRP1、MAC25、PSF、RAMSVPS又はTAFとしても知られるインシュリン様成長因子結合蛋白7(IGFBP7);及びCIG、ED-B、FINC、FN、FNZ、GFND、GFND2、LETS、MSF又はSMDCFとしても知られるフィブロネクチン1(FN1)。
従って、実施形態において、本明細書中に開示された核酸調節エレメントは、TIMP1調節エレメント、すなわち、インビボでTIMP1遺伝子の発現を制御する調節エレメント、例えば、配列番号2を含む調節エレメント(例えば、CARD-CRE8)又はその機能的フラグメントに由来する配列を含む。実施形態において、本明細書に開示される核酸調節エレメントは、COL6A2調節エレメント、すなわち、インビボでCOL6A2遺伝子の発現を制御する調節エレメント、例えば、配列番号3(例えば、CARD-CRE11)を含む調節エレメント又はその機能的フラグメントに由来する配列を含む。実施形態において、本明細書に開示される核酸調節エレメントは、COL1A2調節エレメント、すなわち、インビボでCOL1A2遺伝子の発現を制御する調節エレメント、例えば、配列番号5(例えば、CARD-CRE14)を含む調節エレメント又はその機能的フラグメントに由来する配列を含む。実施形態において、本明細書中に開示された核酸調節エレメントは、LGALS1調節エレメント、すなわち、インビボでLGALS1遺伝子の発現を制御する調節エレメント、例えば、配列番号6(例えば、CARD-CRE16)又は配列番号7(例えば、CARD-CRE17)を含む調節エレメント又はその機能的フラグメントに由来する配列を含む。実施形態において、本明細書に開示される核酸調節エレメントは、IGFBP7調節エレメント、すなわち、インビボでIGFBP7遺伝子の発現を制御する調節エレメント、例えば、配列番号8(例えば、CARD-CRE20)を含む調節エレメント又はその機能的フラグメントに由来する配列を含む。
【0031】
本明細書で用いられる用語「同一性」及び「同一」並びに類似表現は、2つのポリマー分子間、例えば2つの核酸分子間、例えば2つのDNA分子間の配列類似性をいう。配列の整列及び配列同一性の決定は、例えば、Altschulら1990(J Mol Biol 215: 403-10)により最初に記載されたBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)、例えばTatusova and Madden 1999(FEMS Microbiol Lett 174: 247-250)により記載された「Blast 2 sequences」アルゴリズムを用いて行うことができる。代表的には、配列同一性パーセンテージは、配列の全長にわたって算出される。本明細書で用いる場合、用語「実質的に同一」は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、例えば95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を示す。
本願で用いられる用語「機能的フラグメント」は、心臓-及び/又は筋肉-標的化発現、具体的には心臓-及び筋肉-標的化発現、より具体的には心筋細胞-標的化発現を調節する能力を保持する、本明細書で開示される調節エレメント配列のフラグメントをいい、すなわち、機能的フラグメントは、依然として特定の組織又は細胞において標的化発現をもたらすことができ、元の由来する配列と同じ様式で(が、同程度ではない可能性はある)(導入)遺伝子の発現を調節することができる。本明細書で定義される機能的フラグメントは、好ましくは、由来する元の核酸調節エレメント配列の調節能の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は約100%を有する。機能的フラグメントは、好ましくは、由来する元の配列からの、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300、少なくとも350又は少なくとも400の連続ヌクレオチドを含み得る。また、機能的フラグメントは、由来する元の配列に存在する、少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ又は少なくとも4つ、さらに好ましくは少なくとも5つ、少なくとも10又は少なくとも15の転写因子結合部位(TFBS)を含み得る。
【0032】
本明細書中で使用される場合、「心臓-及び/又は筋肉-標的化発現」とは、他の(すなわち、非-心臓及び/又は-筋肉)細胞及び組織と比較して、心臓及び/若しくは筋肉の細胞又は心臓及び/若しくは筋組織、具体的には、心筋細胞若しくは組織、骨格筋細胞若しくは組織及び/又は横隔膜細胞若しくは組織、より具体的には、心筋細胞、骨格筋細胞及び/又は横隔膜細胞における(RNA及び/又はポリペプチドとしての)(導入)遺伝子の優先的又は優勢的な発現をいう。特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子発現の少なくとも50%、より具体的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%が心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織内で生じる。或る特定の実施形態によれば、心臓-及び/又は筋肉-標的化発現は、心臓及び/又は筋肉細胞及び組織以外の他の器官、組織又は細胞、例えば、肺、肝臓、脳、腎臓及び/又は脾臓への、発現された(導入)遺伝子産物の10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満の「漏れ」を伴う。
本明細書中で使用される場合、「心臓標的化発現」とは、他の(すなわち、非心臓)細胞及び組織と比較して、心臓の細胞又は組織、具体的には、心筋細胞又は組織、より具体的には、心筋細胞における(RNA及び/又はポリペプチドとしての)(導入)遺伝子の優先的又は優勢的な発現をいう。特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子発現の少なくとも50%、より具体的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%が心臓の細胞又は組織内で生じる。或る特定の実施形態によれば、心臓標的化発現は、心臓以外の器官、組織又は細胞、例えば肺、肝臓、脳、腎臓及び/又は脾臓への、発現された(導入)遺伝子産物の10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満の「漏れ」を伴う。
【0033】
本明細書中で使用される場合、「筋標的化発現」とは、他の(すなわち、非筋肉)細胞及び組織と比較して、筋肉細胞又は組織、具体的には、骨格筋細胞若しくは組織及び/又は横隔膜細胞若しくは組織、より具体的には、骨格筋細胞及び/又は横隔膜細胞における(RNA及び/又はポリペプチドとしての)(導入)遺伝子の優先的又は優勢的な発現をいう。特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子の発現の少なくとも50%、より具体的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%が筋肉細胞又は組織内で生じる。或る特定の実施形態によれば、心臓標的化発現は、筋肉以外の器官、組織又は細胞、例えば肺、肝臓、脳、腎臓及び/又は脾臓への、発現された(導入)遺伝子産物の10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満の「漏れ」があることを伴う。
本明細書中で使用される場合、「心臓-及び/又は筋肉-標的化発現」とは、他の(すなわち、非-心臓及び-筋肉)細胞及び組織と比較して、心臓及び筋肉細胞又は組織、具体的には、心筋細胞又は組織、骨格筋細胞又は組織及び横隔膜細胞又は組織、より具体的には、心筋細胞、骨格筋細胞及び横隔膜細胞における(RNA及び/又はポリペプチドとしての)(導入)遺伝子の優先的又は優勢的な発現をいう。特定の実施形態によれば、(導入)遺伝子発現の少なくとも50%、より具体的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%が心臓及び筋肉細胞又は組織内で生じる。或る特定の実施形態によれば、心臓-及び筋肉-標的化発現は、心臓及び筋肉以外の器官、組織又は細胞、例えば肺、肝臓、脳、腎臓及び/又は脾臓への、発現(導入)遺伝子産物の10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満の「漏れ」があることを伴う。
【0034】
(心臓)筋細胞標的化、(心臓)筋前駆/幹細胞標的化、(心臓)筋衛星細胞標的化、及び(心臓)筋芽細胞標的化発現(これらは心臓-及び/又は筋肉-標的化発現の特別な形態と考えることができる)についても同様である(ただし、必要な変更を加える)。本願を通じて、筋肉標的化が発現に関連して言及される場合、(心臓)筋細胞標的化、(心臓)筋前駆/幹細胞標的化、(心臓)筋衛星細胞標的化及び(心臓)筋芽細胞標的化発現もまた明示的に想定される。同様に、心臓標的化発現が本願において使用される場合、心筋細胞標的化、心筋幹/前駆細胞標的化、心筋衛星細胞標的化、及び心臓筋芽細胞標的化発現もまた明示的に想定される。
本明細書中で使用される用語「筋肉」は、限定されるものではないが、心筋組織、骨格筋組織及び横隔膜、好ましくは骨格筋組織及び横隔膜を含む。
本明細書で用いる用語「心筋」は、心臓に見出される自律調節される横紋筋組織をいう。
本明細書で用いる用語「骨格筋」は、骨格に付着している、自発的に制御される横紋筋組織をいう。骨格筋組織の非限定的な例としては、上腕二頭筋、上腕三頭筋、大腿四頭筋、脛骨筋及び腓腹筋が挙げられる。
本明細書で使用される用語「横隔膜」は、胸部と腹部との間のシート状の筋組織を指す。
「筋肉細胞」という用語は、あらゆる種類の筋組織(平滑筋、骨格筋、心筋及び横隔膜を含む)についてのあらゆる筋細胞又は筋前駆細胞(筋芽細胞、筋前駆/幹細胞及び筋衛星細胞を含む)を指すが、筋組織に存在する他の非筋肉細胞(例えば、内皮細胞、線維芽細胞、周皮細胞及びニューロン)は除外する。本明細書で用いる用語「筋細胞」は、前駆筋芽細胞から、適切な条件下で筋肉特異的表現型を発現することができるように分化した細胞をいう。最終分化した筋細胞は互いに融合して、筋繊維の主要な構成要素である筋管を形成する。用語「筋細胞」は脱分化した筋細胞もいう。この用語は、初代細胞であるか継代細胞であるかにかかわらず、インビボの細胞及びエクスビボで培養された細胞を含む。本明細書で使用される用語「心筋細胞」は、特に、心筋組織を構成する筋細胞を指す。
【0035】
本明細書で用いる用語「筋芽細胞」は、分化して筋細胞を生じさせる中胚葉中の胚性細胞をいう。この用語は、初代細胞であるか継代細胞であるかにかかわらず、インビボの細胞及びエクスビボで培養された細胞を含む。
本明細書中で使用される用語「筋前駆/幹細胞」は、筋原性系統内で分化した子孫を産生することに加えて、自己再生することができる細胞をいう。筋前駆/幹細胞の特定の例は、筋衛星細胞である。この用語は、初代細胞であるか継代細胞であるかにかかわらず、インビボの細胞及びエクスビボで培養された細胞を含む。
実施形態において、本発明は、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、具体的には心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現、より具体的には心筋細胞-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントであって:配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7又は配列番号8、前記配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の機能的フラグメントを含むか、該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該機能的フラグメントからなり、前記機能的フラグメントは、由来する元の配列からの少なくとも20、好ましくは少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200又は少なくとも250の連続ヌクレオチドを含む、核酸調節エレメントに関する。更なる実施形態において、前記機能的フラグメントは、由来する元の配列に存在する転写因子結合部位(TFBS)の、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも10又は少なくとも15を含む。
【0036】
更なる実施形態において、本発明は、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、具体的には心臓-及び骨格筋肉-標的化遺伝子発現、より具体的には心筋細胞-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントであって、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は前記配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含むか、該配列から本質的になるか、又は該配列からなる、核酸調節エレメントを提供する。
本明細書に開示される2又は3以上の同一又は異なる核酸調節エレメント配列又はその機能的フラグメントを組み合わせることによって、人工配列を含む核酸調節エレメントを作製することも可能である。したがって、特定の実施形態において、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、具体的には心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現、より具体的には心筋細胞-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントであって、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び前記配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される少なくとも2つの配列又はその機能的フラグメントを含む、核酸調節エレメントを提供する。
例えば、本明細書には、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7及び配列番号8のいずれか1つ又はそれらの組合せの2、3、4又は5つの反復、例えばタンデム反復を含むか、該反復から本質的になるか、又は該反復からなる核酸調節エレメントが開示されている。反復は、タンデムで、又は1つ以上の反復の間に1つ以上の、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の介在又はフランキングヌクレオチド(例えば、クローニング目的で使用されるヌクレオチド)と、組み合わせることができる。
【0037】
調節エレメントが一本鎖核酸として提供される場合、例えば一本鎖AAVベクターを使用する場合、相補鎖は開示された配列と等価であるとみなされる。したがって、本明細書には、本明細書に記載される配列、特に、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び前記配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列の相補体若しくはその機能的フラグメントを含むか、該相補体若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該相補体若しくは該機能的フラグメントからなる、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、具体的には心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現、より具体的には心筋細胞-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントも開示されている。
したがって、本明細書には、ストリンジェントな条件下で、本明細書に記載される核酸調節エレメント、特に、配列番号2、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び前記配列のいずれか(の全長)に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、例えば、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列、その機能的フラグメント若しくはその相補体を含むか、該配列、該機能的フラグメント若しくは該相補体から本質的になるか、又は該配列、該機能的フラグメント若しくは該相補体からなる核酸調節エレメントとハイブリダイズする、心臓-及び/又は筋肉-標的化遺伝子発現、具体的には心臓-及び筋肉-標的化遺伝子発現、より具体的には心筋細胞-標的化遺伝子発現を増強するための核酸調節エレメントも開示されている。前記核酸調節エレメントは、それらがハイブリダイズする配列と同じ長さである必要はない。好ましい実施形態において、前記ハイブリダイズする核酸調節エレメントの大きさは、それがハイブリダイズする配列と、長さが25%、具体的には20%、より具体的には15%、最も具体的には10%を超えて異ならない。
【0038】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という表現は、温度及び塩濃度の規定された条件下で、核酸分子が標的の核酸分子にハイブリダイズする能力を指す。代表的には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、天然型二重鎖の融解温度(Tm)より、25℃~30℃を超えない温度(例えば、20℃、15℃、10℃又は5℃)低い温度である。Tmの計算方法は当該分野において周知である。非限定的な例として、ストリンジェントなハイブリダイゼーションを達成するための代表的な塩及び温度条件は、1×SSC、0.5%SDS、65℃である。略語SSCは、核酸ハイブリダイゼーション溶液に使用される緩衝剤を指す。20×(20倍濃縮物)ストックSSC緩衝液(pH7.0)の1リットルは、175.3gの塩化ナトリウム及び88.2gのクエン酸ナトリウムを含有する。ハイブリダイゼーションを達成するための代表的な時間は12時間である。
【0039】
好ましくは、本明細書に記載される核酸調節エレメントは、長さが限定されているが、完全に機能的である。このことにより、最大搭載量を過度に制限することなくベクター又は核酸発現カセット中で使用できる。したがって、実施形態において、本明細書に開示される核酸調節エレメントは、2000ヌクレオチド以下、1800ヌクレオチド以下、1700ヌクレオチド以下、1500ヌクレオチド以下、1000ヌクレオチド以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、より好ましくは600ヌクレオチド以下、例えば550ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、450ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、350ヌクレオチド以下又は300ヌクレオチド以下の核酸である(すなわち、核酸調節エレメントは、2000ヌクレオチド、1800ヌクレオチド、1700ヌクレオチド、1500ヌクレオチド、1000ヌクレオチド、900ヌクレオチド、800ヌクレオチド、700ヌクレオチド、好ましくは600ヌクレオチド、例えば550ヌクレオチド、500ヌクレオチド、450ヌクレオチド、400ヌクレオチド、350ヌクレオチド若しくは300ヌクレオチドの最大長を有する; 又は核酸調節エレメントは、最大、2000ヌクレオチド長、1800ヌクレオチド長、1700ヌクレオチド長、1500ヌクレオチド長、1000ヌクレオチド長、900ヌクレオチド長、800ヌクレオチド長、700ヌクレオチド長、好ましくは600ヌクレオチド長、例えば550ヌクレオチド長、500ヌクレオチド長、450ヌクレオチド長、400ヌクレオチド長、350ヌクレオチド長若しくは300ヌクレオチド長である;又は2000ヌクレオチド以下、1800ヌクレオチド以下、1700ヌクレオチド以下、1500ヌクレオチド以下、1000ヌクレオチド以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、より好ましくは600ヌクレオチド以下、例えば550ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、450ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、350ヌクレオチド以下若しくは300ヌクレオチド以下の核酸調節エレメントである)。
【0040】
しかしながら、開示された核酸調節エレメントは、(すなわち、転写の特異性及び/又は活性に関して)調節活性を保持し、したがって、特に、20ヌクレオチド、25ヌクレオチド、30ヌクレオチド、35ヌクレオチド、40ヌクレオチド、45ヌクレオチド、50ヌクレオチド、100ヌクレオチド、150ヌクレオチド、200ヌクレオチド、250ヌクレオチド、300ヌクレオチド、350ヌクレオチド又は400ヌクレオチドの最小長を有することが理解される。
本明細書に開示される核酸調節エレメントは、核酸発現カセットで使用され得る。したがって、或る観点において、本発明は、核酸発現カセットにおける本明細書に記載の核酸調節エレメントの使用を提供する。
或る観点において、本発明は、プロモーターに作動可能に連結された、本明細書に記載の核酸調節エレメントを含む核酸発現カセットを提供する。実施形態において、核酸発現カセットは、導入遺伝子を含まない。この核酸発現カセットは、内在性遺伝子の発現を駆動するために用いることができる。好ましい実施形態において、核酸発現カセットは、プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結された、本明細書に記載の核酸調節エレメントを含む。
【0041】
本明細書で用いる場合、用語「核酸発現カセット」は、1又は2以上の所望の細胞タイプ、組織又は器官における(導入)遺伝子発現を導く1又は2以上の転写制御エレメント(例えば、これらに限定されないが、プロモーター、エンハンサー及び/又は調節エレメント、ポリアデニル化配列及びイントロン)を含む核酸分子をいう。代表的には、核酸発現カセットは、導入遺伝子を含むが、該核酸発現カセットが挿入された細胞における内在性遺伝子の発現を導くものとしても想定される。
本明細書で用いる用語「作動可能に連結された」は、種々の核酸分子エレメントの各々に対する配置であって、該エレメントが機能的に接続して互いに相互作用可能なような配置をいう。このエレメントとして、限定されないが、プロモーター、エンハンサー及び/又は調節エレメント、ポリアデニル化配列、1又は2以上のイントロン及び/又はエキソン、並びに本明細書の他の箇所で定義される非コーディングRNAを発現する導入遺伝子を含む、発現させる目的の遺伝子(すなわち、導入遺伝子)(のコーディング配列)を挙げることができる。核酸配列エレメントは、正しく配向され又は作動可能に連結されると、一緒に作用して互いの活性を変調させ、最終的に導入遺伝子の発現レベルに影響し得る。変調とは、特定のエレメントの活性レベルを増加させ、減少させ又は維持することを意味する。各エレメントの他のエレメントに対する位置は、各エレメントの5'末端及び3'末端に関して表現され得、いずれの特定エレメント間の距離も、当該エレメント間の介在ヌクレオチド又は塩基対の数で言及され得る。当業者に理解されるように、「動作可能に連結された」は、機能的活性を意味するものであり、必ずしも天然の位置的関係性に関連していない。実際、核酸発現カセットにおいて用いる場合、調節エレメントは、代表的には、プロモーターのすぐ上流に位置する(このことは一般的に正しいが、核酸発現カセット内での位置の限定又は排除として解釈されるべきでない)が、インビボでそうである必要はない。例えば、遺伝子の下流に天然に存在して該遺伝子の転写に影響を及ぼす調節エレメント配列は、プロモーターの上流に位置するとき、同じ様式で機能することができる。したがって、特定の実施形態によれば、調節エレメントの調節効果又は増強効果は、位置に依存しない。
【0042】
特定の実施形態において、核酸発現カセットは、本明細書に記載の1つの核酸調節エレメントを含む。代替の実施形態において、核酸発現カセットは、2以上、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の本明細書に記載の核酸調節エレメントを含む。すなわち、核酸調節エレメントはその調節(及び/又は増強)効果を高めるためにモジュール的に組み合わされる。さらなる実施形態において、2又は3以上の核酸調節エレメントのうちの少なくとも2つは、同一又は実質的に同一である。またさらなる実施形態において、2又は3以上の調節エレメントの全ては、同一又は実質的に同一である。同一又は実質的に同一の核酸調節エレメントのコピーは、核酸発現カセット中のタンデム反復として提供され得る。代替の更なる実施形態において、2又は3以上の核酸調節エレメントのうちの少なくとも2つは互いに異なる、すなわち、異なる配列番号によって定義される。核酸発現カセットはまた、同一及び実質的に同一の核酸調節エレメントと、非同一の核酸調節エレメントとの組合せを含み得る。少なくとも2つの核酸調節エレメントはタンデムに組み合わせることができ、又は1若しくは2以上の調節エレメントの間に1若しくは2以上の介在又はフランキングヌクレオチド(例えば、クローニングの目的に用いられるヌクレオチド)と組み合わせることができる。
本願で用いる場合、用語「プロモーター」は、それが作動可能に連結された核酸コーディング配列(例えば、導入遺伝子又は内在性遺伝子)の転写を直接又は間接のいずれかで調節する核酸配列をいう。プロモーターは、単独で機能して転写を調節してもよいし、1又は2以上の他の調節配列(例えば、エンハンサー又はサイレンサー、又は調節エレメント)と協調して機能してもよい。本願の文脈において、プロモーターは、代表的には、(導入)遺伝子の転写を調節するために、本明細書に開示される調節エレメントに作動可能に連結される。本明細書に記載されるような調節エレメントがプロモーター及び導入遺伝子の両方に作動可能に連結される場合、調節エレメントは、(1)導入遺伝子のインビボ(及び/又は心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、具体的には心臓及び筋肉の細胞又は組織、より具体的には心筋細胞、又はインビトロで心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織に由来する細胞株)における有意な程度の心臓-及び/又は筋肉-標的化、具体的には心臓-及び筋肉-標的化、より具体的には心筋細胞-標的化発現を付与することができ、及び/又は(2)心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、具体的には心臓及び筋肉の細胞又は組織、より具体的には心筋細胞(及び/又は心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織、特に心筋細胞、又はインビトロで心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織に由来する細胞株)における導入遺伝子の発現レベルを増加させることができる。
【0043】
プロモーターは、同種であっても(すなわち、核酸発現カセットをトランスフェクトする動物、特に哺乳類と同じ種に由来しても)、異種であっても(すなわち、発現カセットをトランスフェクトする動物、特に哺乳類の種以外の供給源に由来しても)よい。このように、プロモーターの供給源は、プロモーターが本明細書に記載の調節エレメントとの組合せで機能する限り、任意のウイルス、任意の単細胞原核生物又は真核生物、任意の脊椎生物又は無脊椎生物、又は任意の植物であってもよく、合成プロモーター(すなわち、天然に存在しない配列を有するプロモーター)であってもよい。好ましい実施形態において、プロモーターは、哺乳動物のプロモーター、特にマウス又はヒトプロモーターである。
さらに、プロモーターは、核酸発現カセット中の導入遺伝子のプロモーターである必要はないが、導入遺伝子が自身のプロモーターから転写されることも可能である。
実施形態において、プロモーターは、調節エレメントに対して異種性であってもよく、すなわち、プロモーターは、核酸発現カセットにおける調節エレメントのプロモーターである必要はない。
プロモーターは、誘導性プロモーターであっても、構成性プロモーターであってもよい。
【0044】
本明細書に開示される核酸調節エレメントは、原則として、心臓-及び/又は筋肉-標的化、具体的には心臓-及び筋肉-標的化、より具体的には心筋細胞-標的化発現を、それ自体が心臓-及び/又は筋肉-特異的でないプロモーター(例えば、CAGプロモーター、CMVプロモーター)からも誘導する。したがって、本明細書に開示される調節エレメントは、任意のプロモーターとの組合せで核酸発現カセットにおいて用いることができ、具体的には、プロモーターは、組織特異的、例えば心臓-及び/又は筋肉-特異的であってもよいし、遍在性に発現されてもよい。
遍在性に発現されるプロモーターの非限定的な例としては、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、RNAポリメラーゼII(pol II)プロモーター、RNAポリメラーゼIII(pol III)プロモーター(例えば、U6 pol IIIプロモーター、特にヒトU6小核プロモーター(U6)、又はH1 pol IIIプロモーター、特にヒトH1プロモーター(H1))、及びキメラpol IIIプロモーターが挙げられる。特定の実施形態において、プロモーターは、配列番号15
(acgcgtggagctagttattaatagtaatcaattacggggtcattagttcatagcccatatatggagttccgcgttacataacttacggtaaatggcccgcctggctgaccgcccaacgacccccgcccattgacgtcaataatgacgtatgttcccatagtaacgtcaatagggactttccattgacgtcaatgggtggagtatttacggtaaactgcccacttggcagtacatcaagtgtatcatatgccaagtacgccccctattgacgtcaatgacggtaaatggcccgcctggcattatgcccagtacatgaccttatgggactttcctacttggcagtacatctacgtattagtcatcgctattaccatggtgatgcggttttggcagtacatcaatgggcgtggatagcggtttgactcacggggatttccaagtctccaccccattgacgtcaatgggagtttgttttgcaccaaaatcaacgggactttccaaaatgtcgtaacaactccgccccattgacgcaaatgggcggtaggcgtgtacggtgggaggtctatataagcagagctcgtttagtgaaccgtcagatcgcctggagacgccatccacgctgttttgacctccatagaagacaccgggaccgatccagcctcc)
により規定されるCMVプロモーターである。
【0045】
これら遍在性に発現されるプロモーターは、非コーディングRNAの発現に好適であり得る。実施形態において、プロモーターはRNAポリメラーゼプロモーターであり、好ましくはRNAポリメラーゼII(pol II)プロモーター又はRNAポリメラーゼIII(pol III)プロモーターである。
実施形態において、本明細書に開示される核酸発現カセットは、心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーター、より好ましくは心臓-及び筋肉-標的化プロモーターである。本明細書中で用いる心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーターとは、心臓及び/又は筋肉細胞又は組織において(導入)遺伝子を優先的に又は優勢的に発現するプロモーター、及び/又は他の(すなわち、非-心臓及び/又は-筋)細胞及び組織における(導入)遺伝子の発現が最小であるプロモーターをいう。本明細書中で用いる心臓-及び筋肉-標的化プロモーターとは、心臓及び筋肉細胞又は組織において(導入)遺伝子を優先的に又は優勢的に発現するプロモーター、及び/又は他の(すなわち、非-心臓及び-筋肉)細胞及び組織における(導入)遺伝子の発現が最小であるプロモーターをいう。心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーター、特に心臓-及び筋肉-標的化プロモーターの使用は、心臓及び/又は筋肉における標的化発現、特に心臓及び筋肉における標的化発現を増加させ、及び/又は他の組織又は細胞における(導入)遺伝子発現の漏れを回避又は減少させ得る。心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーターの非限定的な例としては、デスミン(DES)プロモーター;α-アクチン1プロモーター(ACTA1);クレアチンキナーゼ、筋肉(CKM)プロモーター;4.5LIMドメインタンパク質1(FHL1)プロモーター;α2アクチニン(ACTN2)プロモーター;フィラミン-C(FLNC)プロモーター;筋小胞体/小胞体カルシウムATPase1(ATP2A1)プロモーター;トロポニンIタイプ1(TNNI1)プロモーター;トロポニンIタイプ2(TNNI2)プロモーター;トロポニンTタイプ1(TNNT1)プロモーター;トロポニンTタイプ2(TNNT2)プロモーター;トロポニンTタイプ3(TNNT3)プロモーター;ミオシン-1(MYH1)プロモーター;ミオシン-2(MYH2)プロモーター;サルコリピン(SLN)プロモーター;ミオシン結合タンパク質C1(MYBPC1)プロモーター;エノラーゼ(EN03)プロモーター;炭酸脱水酵素3(CA3)プロモーター;リン酸化可能速筋骨格筋ミオシン軽鎖(MYLPF)プロモーター;トロポミオシン1(TPM1)プロモーター;トロポミオシン2(TPM2)プロモーター;α-3鎖トロポミオシン(TPM3)プロモーター;アンキリン反復ドメイン含有タンパク質2(ANKRD2)プロモーター;ミオシン重鎖(MHC)プロモーター;アルファミオシン重鎖(αMHC)プロモーター;ミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、例えばヒトミオシン軽鎖(hMLC)プロモーター;筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター;ミオシン、軽鎖1(MYL1)プロモーター;ミオシン、軽鎖2(MYL2)プロモーター;ミオグロビン(MB)プロモーター;トロポニンCタイプ1(TNNC1)プロモーター;トロポニンCタイプ2(TNNC2)プロモーター;Titin-Cap(TCAP)プロモーター;ミオシン重鎖7(MYH7)プロモーター;アルドラーゼA(ALDOA)プロモーター;ミオシン重鎖11(Myh11)プロモーター;トランスジェリン(Tagln)プロモーター(SM22αプロモーターとしても知られる);アクチンα2、平滑筋(Acta2)プロモーター;SPc5-12プロモーター;dMCKプロモーター;tMCKプロモーター;及びMHCK7プロモーターが挙げられる。
【0046】
好ましい実施形態において、プロモーターは、hMLCプロモーター、SPc5-12プロモーター、DESプロモーター及びMHCK7プロモーターからなる群より選択される心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーターである。実施形態において、プロモーターは、SPc5-12プロモーター、DESプロモーター及びMHCK7プロモーターからなる群より選択される心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーターである。SPc5-12プロモーター(SPC-5-12-GTRMと呼ばれることもあるが、本明細書ではこの用語を互換的に用いる)は、合成プロモーターであり、Liら(1999. Nat Biotechnol. 17:241-245)に記載されている。特定の実施形態において、プロモーターは、配列番号11
(tggccaccgccttcggcaccatcctcacgacacccaaatatggcgacgggtgaggaatggtggggagttatttttagagcggtgaggaaggtgggcaggcagcaggtgttggcgctctaaaaataactcccgggagttatttttagagcggaggaatggtggacacccaaatatggcgacggttcctcacccgtcgccatatttgggtgtccgccctcggccggggccgcattcctgggggccgggcggtgctcccgcccgcctcgataaaaggctccggggccggcggcggcccacgagctacccggaggagcgggaggcgccaagctctaga)
により規定されるSPc5-12プロモーターである。MHCK7プロモーターは、合成の骨格筋及び心筋標的化プロモーターであり、Salvaら(2007. Mol Ther 15: 320-9)に記載されている。特定の実施形態において、プロモーターは、配列番号14
(ATGAGCCACAGTGCCAGCCTTCATGGTTATTTTAAAGATGGTGGTCGGGGAGGCTTCACTCAGGAGATGACATATGAGCAAAGATGCAGTGAAGGAGGTGAAGGAAGGAGCCGTGCGATGACTGACAGAAAGACATTCCAGGTAGAGGGCACACAGGTGCAAAGACCCTGAGGCCAGATCCAGGCTGATAAAACAGAGCATTTTAGCAGTCTCCTCTCCCTGCCATTTTTTTTCTCAAAATTGACAAGCACAAGTGTCCCCGGCCCAAGCACCGCAGAGAGCGCGCAGCATCTCTCCCCGTGACCATGACCCAGCTACTGCCTCTTTAACCTTGAATGCCTTTTTGGGGGCTCACGTGTCACCCAGTGGCGAGTGAGCCACCCTTACTTCAGAAGAACGGCATGGGGTGGGGGGGCCTTAGGTGGTGCCCGCCTCACCTATGACTGCCAAAAGCGGTCATGGGGTTATTTTTAAACATGGGGAGGAAGTATTTATTGTTCCTGGGCTGCAGAGAGCTGGGCGGAGTGTGGAATTCTTCTCGGGAGGCAGTGCTGGGTCCTTTCCACC)
により規定されるhMLCプロモーターである。
【0047】
実施形態において、プロモーターは、哺乳動物の心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーター、特にマウス又はヒト心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーターである。実施形態において、プロモーターは、合成心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーターである。合成心臓-及び/又は筋肉-標的化プロモーターの非限定的な例は、Liら(1999, Nat Biotechnol. 17:241-245)に記載されており、例えば、SPc5-12プロモーター、dMCKプロモーター、tMCKプロモーター及びMHCK7プロモーターを含む。dMCK及びtMCKプロモーターはそれぞれ、Wangら(2008, Gene Ther, 15:1489-1499)に記載されているように、MCK基底プロモーターに対してのMCKエンハンサーの二重又は三重のタンデムからなる。
核酸発現カセットの長さを最小にするために、調節エレメントは最小プロモーター又は本明細書に記載のプロモーターの短縮バージョンに連結されてもよい。本明細書で用いる「最小プロモーター」(基本プロモーター又はコアプロモーターとも呼ばれる)は、全長サイズのプロモーターの一部であり、依然として発現を駆動することができるが、(例えば組織標的化)発現の調節に寄与する配列の少なくとも一部を欠くものである。この定義は、(組織標的化)調節エレメントが欠失しており、遺伝子の発現を駆動可能であるが、該遺伝子を組織標的化様式で発現させる能力を喪失しているプロモーター、及び、(組織標的化)調節エレメントが欠失しており、遺伝子の(おそらく低下した)発現を駆動可能であるが、該遺伝子を組織標的化様式で発現させる能力を必ずしも喪失していないプロモーターの両方をカバーする。好ましくは、本明細書中に開示される核酸発現カセットに含まれるプロモーターは、長さが1000ヌクレオチド以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、600ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下又は250ヌクレオチド以下である。
【0048】
本明細書で用いる用語「導入遺伝子」は、特定の核酸配列であって、該核酸配列が導入された細胞において発現させるべきポリペプチド又はポリペプチドの一部をコードする核酸配列をいう。しかし、導入遺伝子は、例えば、当該核酸配列が挿入された細胞における特定のポリペプチドの量を制御する(例えば、低下させる)ために、非コーディングRNAとして発現させることも可能である。
核酸配列を細胞に導入する方法は、本発明にとって必須ではなく、例えば、ゲノム中への組込みにより導入されてもよいし、エピソームプラスミドとして導入されてもよい。注目すべきことに、導入遺伝子の発現は、当該核酸配列が導入された細胞のサブセットに限定され得る。用語「導入遺伝子」は、(1)細胞内に天然に見出されない核酸配列(すなわち、異種性核酸配列);(2)導入される細胞内に天然に見出される核酸配列の変異体である核酸配列;(3)導入される細胞内に天然に見出される同じ(すなわち、相同な)又は類似の核酸配列の更なるコピーを追加するために働く核酸配列;又は(4)導入される細胞内において、その発現が誘導されるサイレントな天然に存在するか又は相同な核酸配列を含むものとされている。
【0049】
導入遺伝子は、プロモーター(及び/又は(例えば、核酸発現カセットが遺伝子治療に用いられる場合)該導入遺伝子が導入される動物、特に哺乳動物)に対して相同であっても異種であってもよい。
導入遺伝子は、全長cDNA又はゲノムDNA配列であってもよく、少なくとも何らかの生物活性を有する任意のフラグメント、サブユニット又は変異体であってもよい。具体的には、導入遺伝子はミニ遺伝子、すなわち、一部、大部分又は全てのイントロン配列を欠く遺伝子配列であり得る。よって、導入遺伝子は、場合により、イントロン配列を含み得る。場合により、導入遺伝子はハイブリッド核酸配列、すなわち、同種及び/又は異種のcDNA及び/又はゲノムDNAフラグメントから構築されたものであってもよい。「変異体」とは、野生型の又は天然に存在する配列とは異なる1又は2以上のヌクレオチドを含む核酸配列を意味し、すなわち、変異体核酸配列は、1又は2以上のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は挿入を含む。ヌクレオチドの置換、欠失及び/又は挿入は、そのアミノ酸/核酸配列が野生型アミノ酸/核酸配列と異なる遺伝子産物(すなわち、タンパク質又は核酸)を生じさせることができる。このような変異体の製造は当該分野において周知である。場合によっては、導入遺伝子は、該導入遺伝子の産物が細胞から分泌されるようにリーダーペプチド又はシグナル配列をコードする配列も含み得る。
【0050】
特定の実施形態において、導入遺伝子はコドン最適化されている。本明細書で用いられる用語「コドン最適化」、「コドン最適化された」及び類似表現は、例えば宿主細胞又は生物における最適発現のために、そのアミノ酸配列を変更することなく、核酸配列、特に導入遺伝子のコドン組成を変化させることを指す。導入遺伝子のコドン最適化は、導入遺伝子の心臓-及び筋肉-標的化発現をさらに増強することができる。
本明細書に記載の核酸発現カセット及びベクターに含まれる導入遺伝子のサイズは特に限定されないが、当業者に容易に知られるように、ベクターのパッケージング容量によって決定され得る。実施形態において、例えば、AAVベクターを用いる場合、本明細書中に開示される核酸発現カセットに含まれる導入遺伝子は、長さが5kb以下、例えば、4kb以下、3kb以下又は2kb以下である。実施形態において、例えば、アデノウイルスベクターを用いる場合、本明細書に開示される核酸発現カセットに含まれる導入遺伝子は、長さが36kb以下、例えば、35kb以下、30kb以下、25kb以下、20kb以下又は15kb以下である。実施形態において、例えば、レンチウイルスベクターを用いる場合、本明細書に開示される核酸発現カセットに含まれる導入遺伝子は、長さが10kb以下、例えば8kb以下、6kb以下、5kb以下又は4kb以下である。
【0051】
本明細書に記載の核酸発現カセットに含まれ得る導入遺伝子は、代表的には、RNA又はポリペプチド(タンパク質)などの遺伝子産物をコードする。
実施形態において、導入遺伝子は、非コーディングRNA(ncRNA)をコードする。本明細書中で用いるように、「非コーディングRNA」とは、DNAから転写されるが、タンパク質に翻訳されないRNA分子をいう。これらの非コーディングRNA分子には、RNA干渉(例えば、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA))、マイクロRNA調節(miRNA)(これは、特定の遺伝子の発現の制御に用いることができる)、ロング非コーディングRNA(lncRNA)、環状RNA(cRNA)、触媒RNA、アンチセンスRNA、RNAアプタマー、CRISPRシステムに関連して使用されるガイドRNAなどによりその機能を発揮する分子が含まれるが、これらに限定されない。さらなる実施形態において、導入遺伝子は、マイクロRNA、ロング非コーディングRNA、環状RNA及び短干渉RNAから選択される非コーディングRNAをコードする。
実施形態において、導入遺伝子は、治療用タンパク質をコードする。治療用タンパク質をコードする導入遺伝子の非限定的な例には、治療目的の血管形成のための血管形成因子(例えば、VEGF、PlGF、又はエフリン、セマフォリン、スリッツ及びネトリンのようなガイダンス分子又はそれらの同族受容体)をコードする導入遺伝子;凝固因子(例えば、第VIII因子又は第IX因子)をコードする導入遺伝子;インスリンをコードする導入遺伝子;リポタンパク質リパーゼをコードする導入遺伝子;血漿因子をコードする導入遺伝子;サイトカイン、ケモカイン及び/又は成長因子(例えば、エリスロポエチン(EPO)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン9(IL-9)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン12(IL-12)、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド5(CXCL5)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、幹細胞因子(SCF)、角質細胞成長因子(KGF)、単球化学吸引タンパク質-1(MCP-1)及び腫瘍壊死因子(TNF))をコードする導入遺伝子;カルシウム取り扱いに関与するタンパク質(例えば、筋小胞体/小胞体Ca2+-ATPase(SERCA)、ホスホランバン、カルセケストリン、ナトリウム-カルシウム交換体、L型カルシウムチャネル、リアノジン受容体)をコードする導入遺伝子;カルシニューリンをコードする導入遺伝子;マイクロディストロフィンをコードする導入遺伝子;フォリスタチン(FST)をコードする導入遺伝子;ミオチュブラリン1(MTM1)をコードする導入遺伝子;ジスフェリンをコードする導入遺伝子;ジストロフィンをコードする導入遺伝子;代謝酵素をコードする導入遺伝子;核タンパク質をコードする導入遺伝子;ミトコンドリアタンパク質(例えば、タファジン)をコードする導入遺伝子;リソソームタンパク質(例えば、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)(分泌型又は天然型として)、α-ガラクトシダーゼA、LAMP2)をコードする導入遺伝子;イオンチャンネル(例えば、SCN5A)をコードする導入遺伝子;グリコーゲン代謝に関与する酵素(例えば、グリコーゲン合成酵素(GYS2)、グリコーゲン脱分枝酵素(AGL)、グリコーゲン分枝酵素(GBE1)、筋グリコーゲンホスホリラーゼ(PYGM)、筋ホスホフルクトキナーゼ(PKFM)、ホスホグリセレートムターゼ(PGAM2)、アルドラーゼA(ALDOA)、βエノラーゼ(ENO3)又はグリコゲニン1(GYG1))をコードする導入遺伝子;ムコ多糖症で欠損した酵素(例えば、α-L-イデュロニダーゼ、イデュロン酸スルファターゼ、ヘパランスルファミダーゼ、N-アセチルグルコサミニダーゼ、ヘパラン-α-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、ガラクトース-6-スルファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼ又はヒアルロニダーゼ)をコードする導入遺伝子;サルコグリカン(例えば、α-サルコグリカン、β-サルコグリカン及びγ-サルコグリカン)をコードする導入遺伝子;アノクタミン5をコードする導入遺伝子;カルパイン3をコードする導入遺伝子;抗体をコードする導入遺伝子、ナノボディをコードする導入遺伝子、抗ウイルスドミナントネガティブタンパク質をコードする導入遺伝子;及びそれらの治療用タンパク質のいずれかのフラグメント、サブユニット又は変異体をコードする導入遺伝子が挙げられる。特定の実施形態において、導入遺伝子は、酸性α-グルコシダーゼ(GAA)(例えば、分泌型又は天然型としてのGAA)をコードする。特定の実施形態において、導入遺伝子は、サルコグリカン、特に、α-サルコグリカン、β-サルコグリカン及びγ-サルコグリカンから選択されるサルコグリカン、好ましくはβ-サルコグリカンをコードする。特定の実施形態において、導入遺伝子は、抗体又はナノボディをコードする。
【0052】
実施形態において、導入遺伝子は、免疫原性タンパク質をコードする。本明細書で用いられる用語「免疫原性」は、免疫応答を誘発することができる物質又は組成物をいう。免疫原性タンパク質の非限定的な例としては、病原体に由来するエピトープ及び抗原が挙げられる。
代表的には導入遺伝子産物の発現をさらに増加又は安定化させるために、その他の配列(例えば、イントロン及び/又はポリアデニル化配列)を同様に、本明細書に開示される核酸発現カセットに組み込み得る。
本明細書に記載される発現カセットにおいて、任意のイントロンを利用することができる。用語「イントロン」は、全体イントロンのうち、核内スプライシング装置が認識し、スプライシングするに十分な大きさの任意の部分を包含する。代表的には、発現カセットのサイズをできるだけ小さくして、発現カセットの構築及び操作を容易にするために、短く機能的なイントロン配列が好ましい。いくつかの実施形態において、イントロンは、発現カセット内のコーディング配列によってコードされるタンパク質をコードする遺伝子から取得される。イントロンは、コーディング配列の5'側、コーディング配列の3'側又はコーディング配列内に位置することができる。イントロンをコーディング配列の5'側に配置する利点は、イントロンがポリアデニル化シグナルの機能と干渉する可能性を最小化することである。実施形態において、本明細書に開示される核酸発現カセットは、イントロンをさらに含む。適切なイントロンの非限定的な例は、マウス微小ウイルス(MVM)イントロン、ベータグロビンイントロン(betaIVS-II)、第IX因子(FIX)イントロンA、シミアンウイルス40(SV40)スモールtイントロン、及びベータアクチンイントロンである。
【0053】
好ましくは、イントロンはMVMイントロンであり、より好ましくは配列番号12
(aagaggtaagggtttaagggatggttggttggtggggtattaatgtttaattacctggagcacctgcctgaaatcactttttttcaggttgg)
により規定されるMVMイントロンである。
ポリAテイルの合成を指示する任意のポリアデニル化シグナル(本明細書では「ポリアデニル化部位」、「ポリA」又は「pA」とも呼ばれる)は、本明細書に記載の発現カセットにおいて有用であり、その例は当業者に周知である。例示的なポリアデニル化シグナルには、シミアンウイルス40(SV40)後期遺伝子に由来するポリA配列、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、最小ウサギβ-グロビン(mRBG)遺伝子、及びLevittら(1989, Genes Dev 3:1019-1025)に記載された合成pA部位などの合成ポリA部位(SPA又は合成pA)が挙げられるが、これらに限定されない。
好ましくは、ポリアデニル化シグナルは、合成ポリアデニル化シグナル、より好ましくは配列番号13
(aataaaagatctttattttcattagatctgtgtgttggttttttgtgtg)
により規定されるポリアデニル化シグナルである。
特定の実施形態において、本発明は、プロモーター、好ましくはSPc5-12プロモーター(好ましくは配列番号11によって規定されるSPc5-12プロモーター)に作動可能に連結された、配列番号2、3、5、6、7及び8又は該配列のいずれか1つ(の全長)に対して少なくとも95%の同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含むか又は該配列からなる核酸調節エレメントと、導入遺伝子とを含む核酸発現カセットを提供する。更なる実施形態において、核酸発現カセットは、MVMイントロン(好ましくは配列番号12によって規定されるMVMイントロン)をさらに含む。また更なる実施形態において、核酸発現カセットは、ポリアデニル化シグナル、好ましくは合成ポリアデニル化シグナル、より好ましくは配列番号13により規定されるポリアデニル化シグナルをさらに含む。
【0054】
本明細書に開示される核酸調節エレメント及び核酸発現カセットは、そのまま用いてもよいし、代表的には、核酸ベクターの部分であってもよい。したがって、さらなる観点は、ベクター、特に核酸ベクターにおける、本明細書に記載の核酸調節エレメント又は本明細書に記載の核酸発現カセットの使用に関する。
或る観点において、本発明はまた、本明細書に開示される核酸調節エレメントを含むベクターを提供する。さらなる実施形態において、ベクターは、本明細書に開示される核酸発現カセットを含む。
本願で用いる用語「ベクター」は、その中に、別の核酸分子(挿入核酸分子)(例えば、cDNA分子であるがこれに限定されない)が挿入されていてもよい核酸分子、例えば二本鎖DNAをいう。ベクターは、挿入核酸分子を適切な宿主細胞へ輸送するために使用される。ベクターは、挿入核酸分子を転写し、場合により転写物をポリペプチドに翻訳することを可能にする必要なエレメントを含むことができる。挿入核酸分子は、宿主細胞由来であってもよいし、異なる細胞又は生物由来であってもよい。宿主細胞内に入ると、ベクターは、宿主の染色体DNAと無関係に又は同時に複製することができ、ベクター及びその挿入核酸分子の幾つかのコピーが作製され得る。ベクターは、エピソーマルベクター(すなわち、宿主細胞のゲノムに組み込まれないもの)であってもよいし、宿主細胞のゲノムに組み込まれるベクターであってもよい。したがって、用語「ベクター」は、標的細胞への遺伝子導入を容易にする遺伝子送達ビヒクルとして定義され得る。この定義は、非ウイルス性ベクター及びウイルス性ベクターの両方を含む。非ウイルス性ベクターとしては、カチオン性脂質、リポソーム、ナノ粒子、PEG、PEI、プラスミドベクター(例えば、pUCベクター、ブルースクリプトベクター(pBS)及びpBR322、又は細菌性配列(ミニサークル)を欠くそれらの誘導体)、トランスポゾン系ベクター(例えば、PiggyBac(PB)ベクター又はSleeping Beauty(SB)ベクター)などが挙げられるが、それらに限定されない。ウイルスベクターは、ウイルスに由来し、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、肝炎ウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。代表的には(ただし、必ずしもではない)、ウイルスベクターは複製欠損している。なぜならば、ウイルスベクターは、複製に不可欠なウイルス遺伝子が除去されているため、所与の細胞内で増殖する能力を喪失しているからである。しかし、いくつかのウイルスベクターは、所与の細胞(例えばがん細胞)内で特異的に複製するように適合させることもでき、代表的には、(がん)細胞特異的(腫瘍)溶解を誘引するために用いられる。ビロソームは、ウイルス性エレメント及び非ウイルス性エレメントの両方を含むベクターの非限定的例である。具体的には、ビロソームは、リポソームと不活化HIV又はインフルエンザウイルスを組み合わせたものである(Yamadaら、2003)。別の例は、カチオン性脂質と混合されたウイルスベクターを包含する。
【0055】
好ましい実施形態において、ベクターは、ウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり、好ましくはAAVベクター、レンチウイルスベクター又はアデノウイルスベクターであり、より好ましくはAAVベクターである。AAVベクターは、好ましくは、AAV形質導入における制限的ステップの1つ(すなわち、一本鎖AAVから二本鎖AAVへの変換)を克服するために、自己相補的二本鎖AAVベクター(scAAV)として用いられる(McCarty、2001、2003;Nathwaniら、2002、2006、2011;Wuら、2008)が、一本鎖AAVベクター(ssAAV)の使用も、本明細書に包含される。
任意のAAV血清型を用いることができる。AAV血清型の選択は、想定される用途及び/又は宿主生物によって決定され得る。実施形態において、ベクターは、心臓及び/又は筋肉組織若しくは細胞において効率的な形質導入を達成するAAV血清型、例えば、AAV9である。ベクターは、AAVキャプシドが、目的の特定の組織又は細胞、例えば心臓及び/又は筋肉組織若しくは細胞にベクターを誘導するように操作されたAAVベクターであってもよい。
AAVベクター粒子の製造は、例えば、記載されているように(Chahalら Production of adeno-associated virus (AAV) serotypes by transient transfection of HEK293 cell suspension cultures for gene delivery, Journal of Virological Methods. 196: 163-173 (2014); Griegerら、 Production of recombinant adeno-associated virus vectors using suspension HEK293 cells and continuous harvest of vector from the culture media for GMP FIX and FLT1 clinical vector. Molecular Therapy. 24: 287-297 (2016); Blessingら、 Scalable Production of AAV Vectors in Orbitally Shaken HEK293 Cells. Molecular Therapy Methods & Clinical Development. 13: 14-26 (2019))、懸濁適応哺乳類HEK293細胞の一過性トランスフェクションによって、又は、記載されているように(Kotinら Manufacturing Clinical Grade Recombinant Adeno-Associated Virus Using Invertebrate Cell Lines. Human Gene Therapy. 28: 350-360 (2017))、バキュロウイルス発現ベクターシステム(BEVS)を用いてSpodoptera frugiperda(Sf9)昆虫細胞に感染させ、次いで精製することによって達成することができる。精製は、記載されているように(VandenDriesscheら, 2007)、塩化セシウム(CsCl)密度勾配超遠心に基づいてもよく、又はクロマトグラフィー技術若しくはカラムを用いて、又は当該分野で知られる免疫アフィニティーによって行ってもよい。
【0056】
他の実施形態において、ベクターは、非ウイルス性ベクター、好ましくはプラスミド、ミニサークル、又はトランスポゾンベースのベクター、例えばSleeping Beauty(SB)ベースのベクター又はpiggyBac(PB)ベースのベクターである。
さらに他の実施形態において、ベクターは、ウイルスエレメント及び非ウイルスエレメントを含む。
特定の実施形態において、ベクターは、配列番号2、3、5、6、7及び8からなる群より選択される配列又は該配列のいずれか1つ(の全長)に対して少なくとも95%の同一性を有する配列を含むか、又は該配列からなる核酸調節エレメントと、プロモーター、好ましくはSPc5-12プロモーター(より好ましくは配列番号11により規定されるSPc5-12プロモーター)と、MVMイントロン(好ましくは配列番号12により規定されるMVMイントロン)と、導入遺伝子と、ポリアデニル化シグナル、好ましくは合成ポリアデニル化シグナル、より好ましくは配列番号13により規定されるポリアデニル化シグナルと含む核酸発現カセットを含んで提供される。
本明細書に開示される核酸発現カセット及びベクターは、例えば、心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織において通常発現され利用されるタンパク質(すなわち、構造タンパク質)を発現させるため、又は筋肉細胞又は組織において発現され、その後身体の他の部分への輸送のために血流に輸出されるタンパク質(すなわち、分泌可能タンパク質)を発現させるために使用し得る。例えば、本明細書に開示される発現カセット及びベクターは、治療目的、特に遺伝子治療のために、治療量の遺伝子産物(例えば、ポリペプチド、特に治療用タンパク質、又はRNA)を発現させるために使用し得る。代表的には、遺伝子産物は、発現カセット又はベクター内の導入遺伝子によりコードされるが、原理的には、治療目的のために内在性遺伝子の発現を増加させることも可能である。代替の例では、本明細書に開示される発現カセット及びベクターは、ワクチン接種目的に、免疫学的量の遺伝子産物(例えば、ポリペプチド、特に免疫原性タンパク質、又はRNA)を発現させるために使用し得る。
【0057】
本明細書で教示される核酸発現カセット及びベクターは、薬学的に許容される賦形剤、すなわち1又は2以上の薬学的に許容されるキャリア物質及び/又は添加物、例えば緩衝剤、キャリア、賦形剤、安定剤などと共に医薬組成物に配合されてもよい。医薬組成物は、キットの形態で提供されてもよい。
本明細書で用いられる用語「薬学的に許容される」は、当該分野と一致して、医薬組成物の他の成分と適合性であり、レシピエントに有害でないことを意味する。
したがって、本発明のさらなる観点は、本明細書に記載の核酸発現カセット又はベクターを含む医薬組成物に関する。
これら医薬組成物の製造のための本明細書に記載の核酸調節エレメントの使用も、本明細書に開示される。
【0058】
実施形態において、医薬組成物はワクチンであってもよい。ワクチンは、免疫反応を増強するための1又は2以上のアジュバントをさらに含んでもよい。適切なアジュバントとしては、例えば、サポニン、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイル又は炭化水素エマルジョン、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)、コリネバクテリウム・パルバム、合成アジュバントQS-21が挙げられるが、これらに限定されない。任意選択的に、ワクチンは、1又は2以上の免疫刺激分子をさらに含んでもよい。免疫刺激分子の非限定的な例としては、免疫刺激活性、免疫増強活性及び炎症促進活性を有する種々のサイトカイン、リンホカイン及びケモカイン、例えば、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-12、IL-13);成長因子(例えば、顆粒球マクロファージ(GM)-コロニー刺激因子(CSF));及び他の免疫刺激分子、例えばマクロファージ炎症因子、Flt3リガンド、B7.1;B7.2などが挙げられる。
さらなる観点において、本発明は、医薬において用いるための、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物に関する。
本明細書で用いる用語「処置する」又は「処置」は、治療的処置及び予防的手段の両方をいう。有益な又は望ましい臨床結果には、検出可能であろうが、検出不可能であろうが、望ましくない臨床状態又は障害の予防、障害の発生率の低減、障害に関連する症状の緩和、障害の範囲の縮小、障害の安定状態(すなわち、悪化しない状態)、障害の進行の遅延又は減速、障害の状態の改善又は緩和、寛解(部分又は全体)、又はそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。「処置」はまた、処置を受けなかった場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することを意味し得る。
本明細書で用いる用語「治療的処置」又は「療法」及び類似表現は、その目的が、対象者の身体又はその要素を、望ましくない生理学的変化又は障害から望ましい状態、例えば、より重度ではないか又はより不快でない状態にさせる(例えば、改善又は緩和)か若しくは正常で健常な状態に戻す(例えば、対象者の健康、身体的完全性及び身体的幸福を回復させる)ことであるか、又は前記望ましくない生理学的変化又は障害に留めること(例えば、安定化又は悪化させないこと)であるか、又は前記望ましくない生理学的変化又は障害と比較してより重度又はより悪い状態への進行を防止若しくは遅延させることである処置をいう。
【0059】
本明細書で用いる用語「予防」又は「予防的処置」及び類似表現は、疾患又は障害の発症を予防すること(疾患又は障害又は関連症状の重篤度を、罹患前に軽減することを含む)を包含する。このような罹患前の予防又は軽減とは、投与時点では疾患又は障害の明確な症状を示していない患者に対して、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物を投与することをいう。「予防(すること)」には、疾患又は障害が例えば或る期間の改善後に再発することの防止が包含される。
さらなる観点は、遺伝子治療、具体的には心臓及び/又は筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療、より具体的には心臓及び筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療における使用のための、本明細書中に記載された核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は薬学的組成物に関する。
また、遺伝子治療、具体的には心臓及び/又は筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療、より具体的には心臓及び筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療のための医薬の製造のための、本明細書に記載された核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物の使用も本明細書に開示される。
【0060】
また、本明細書には、遺伝子治療を必要としている対象における、遺伝子治療、具体的には心臓及び/又は筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療、より具体的には心臓及び筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療のための方法であって:
- 対象、具体的には対象の心臓及び/又は筋肉細胞、より具体的には対象の心臓及び筋肉細胞、さらにより具体的には対象の心筋細胞に、本明細書に記載の核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物を導入すること、ここで、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物は、プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した本明細書に記載の核酸調節エレメントを含む;及び
- 治療有効量の導入遺伝子産物を、対象、具体的には対象の心臓及び/又は筋肉細胞において、より具体的には対象の心臓及び筋肉細胞において、さらにより具体的には対象の心筋細胞において発現させること
を含む方法が開示される。
導入遺伝子産物は、ポリペプチド、特に治療用タンパク質であってもよい。治療用タンパク質の非限定的な例は、導入遺伝子に関連して上記に開示されている。治療用タンパク質は、分泌型タンパク質であってもよい。分泌型タンパク質、特に分泌型治療用タンパク質の非限定的な例としては、凝固因子、例えば第VIII因子又は第IX因子、GAAの分泌型、インスリン、エリスロポエチン、リポタンパク質リパーゼ、抗体又はナノボディ、成長因子、サイトカイン、ケモカイン、代謝酵素、血漿因子などが挙げられる。治療用タンパク質は、非分泌型タンパク質であってもよい。非分泌タンパク質の非限定的な例としては、細胞内タンパク質、代謝酵素(例えば、タファジン)、細胞小器官標的化タンパク質(例えば、GAAなどのリソソームタンパク質、核タンパク質)などが挙げられる。治療用タンパク質はまた、構造タンパク質であってもよい。構造タンパク質、特に構造治療用タンパク質の非限定的な例としては、ジストロフィン及びサルコグリカンが挙げられる。
【0061】
あるいは、導入遺伝子産物は、導入遺伝子に関連して上述したように、siRNA分子、miRNA分子、lncRNA分子、circRNA分子などの非コーディングRNA(ncRNA)分子であってもよい。
本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物を用いる遺伝子治療、特に心臓及び/又は筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療から利益を享受し得る例示的な疾患及び障害には、以下のものが含まれる:
・心血管疾患及び心臓疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症(プラークが動脈内に蓄積し、動脈壁の肥厚と硬化を引き起こす疾患として定義される);動脈硬化症(血管内腔の内壁にプラークが蓄積し、内腔が狭くなる疾患と定義される);冠動脈性心疾患又は冠動脈疾患(主に動脈硬化による心臓の主要血管の損傷が主な原因又は病因である疾患として定義される);末梢動脈疾患(動脈硬化による血管の狭窄が主な原因又は病因となり、四肢への血流が減少する疾患として定義される);先天性心疾患(出生前に発症した心臓の構造異常が主な原因又は病因である疾患として定義される);うっ血性心不全、心不全(心臓が血液、酸素、栄養素に対する身体の必要量を満たすのに十分な血流を送り出すことができない場合に起こる疾患として定義される);心筋梗塞又は心臓発作(典型的には、著しい持続的な虚血による心筋細胞壊死を示すことにより定義される);心臓虚血(心筋への血液供給が需要を満たさない場合に起こる疾患として定義される);急性冠症候群、不安定狭心症、安定狭心症(通常、心臓への血流不足による虚血性胸痛や圧迫感を特徴とする内科的障害として定義される);肥大型心筋症などの心筋症(心筋の異常な肥大、肥厚、硬直が典型的には冠動脈への血液供給不足を引き起こす疾患として定義される)、拡張型心筋症(心臓の空洞が肥大し、血液を効果的に送り出すことができなくなる疾患として定義される)、拘束型心筋症(瘢痕組織などの異常組織が正常な心臓組織に取って代わるため、心臓の心室が硬くなる疾患として定義される)、及びブルガダ症候群やファブリー病などの遺伝子変異により引き起こされる原発性心筋症;心アミロイドーシス又は「心硬直症候群」(アミロイドの沈着が正常な心筋にとって代わる際に起こる疾患として定義される);心筋炎又は炎症性心筋症(心臓の炎症及び/又は感染を特徴とする疾患として定義される);心臓弁膜症(弁狭窄、弁閉鎖不全症、心内膜炎、リウマチ性心疾患(すなわち、リウマチ熱による弁膜障害)によって引き起こされることがある、心臓の4つの弁(すなわち、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、及び三尖弁)のうちの1つ以上が関与する疾患として定義される);心膜炎(心膜の炎症及び/又は感染によって引き起こされる疾患として定義される);心膜タンポナーデとしても知られる心タンポナーデ(心膜に液体がたまると引き起こされ、心臓の圧迫につながる疾患として定義される);心内膜炎(心内膜の炎症及び/又は感染によって引き起こされる疾患として定義される);ブルガダ症候群のような遺伝子変異に起因する原発性不整脈などの心臓不整脈(心臓の異常なリズムを特徴とする疾患として定義される);高血圧(収縮期又は拡張期の血圧が異常に高いことを特徴とする医的障害として定義される);低血圧症(収縮期又は拡張期の血圧が異常に低いことを特徴とする医的障害として定義される);血管狭窄又は弁狭窄(それぞれ血管又は心臓弁の開口部の異常な狭窄を特徴とする医的障害として定義される);再狭窄(血管形成術などの修正手術後に動脈や弁の異常な狭窄が再発することとして定義される);深部静脈血栓症(DVT)(身体の深部、一般的には下肢の静脈に凝血又は血栓が形成されることを特徴とする疾患として定義される);肺塞栓症(DVTに続発する肺動脈の1つの閉塞として定義される);及び虚血性又は出血性脳卒中(脳への血流が悪くなり、血流不足又は出血のいずれかにより細胞が死滅する医的障害として定義される);
【0062】
・グリコーゲン貯蔵障害(例えば、ポンペ病グリコーゲン貯蔵障害(GSD)タイプII、ダノン病、グリコーゲン貯蔵障害(GSD)タイプIIb、GSD III又はGSD3(コリ病又はフォーブス病としても知られる)、GSD IV又はGSD4(アンデルセン病としても知られる)、GSD V又はGSD5(マッカードル病としても知られる)、GSD VII又はGSD7(タルイ病としても知られる)、GSD X又はGSD10、GSD XII又はGSD12(アルドラーゼA欠損としても知られる)、GSD XIII又はGSD13、GSD XV又はGSD15)及びムコ多糖症(例えば、ハンター症候群、サンフィリッポ症候群、ムコ多糖症(MPS)I、MPS II、MPS III、MPS IIIA、MPS IIIB、MPS IIIC、MPS IV、MPS VI、MPS VII、MPS IX)を含むリソソーム貯蔵疾患(例えば、ファブリー病);
・ミトコンドリア病(例えば、バルト症候群);
・チャネロパチー(例えば、ブルガダ症候群);
・代謝異常;
・筋管ミオパチー(MTM);
・筋ジストロフィー(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD));
・筋強直性ジストロフィー;
・筋強直性筋ジストロフィー(DM);
・三好型ミオパチー:
・福山型先天性ジストロフィー;
・ディスフェリノパシー;
・神経筋疾患;
・運動ニューロン疾患(MND)(例えば、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)、脊髄性筋萎縮症(SMA)又は筋萎縮性側索硬化症(ALS));
・エメリー・ドレイファス筋ジストロフィー症;
・顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD);
・先天性筋ジストロフィー;
・先天性ミオパチー;
・肢帯型筋ジストロフィー(例えば、肢帯型筋ジストロフィー2E型(LGMD2E)、肢帯型筋ジストロフィー2D型(LGMD2D)、肢帯型筋ジストロフィー2C型(LGMD2C)、肢帯型筋ジストロフィー2B型(LGMD2B)、肢帯型筋ジストロフィー2L型(LGMD2L)、肢帯型筋ジストロフィー2A(LGMD2A));
・代謝性ミオパチー;
・筋炎症性疾患;
・筋無力症;
・ミトコンドリアミオパチー;
・イオンチャネルの異常;
・核エンベロープ疾患;
・遠位ミオパチー;
・血友病(例えば、血友病(例えば、血友病A及びB)、第FVII因子欠乏症、von Willebrand病);
・糖尿病;
・C1インヒビター欠損症又は遺伝性血管性浮腫;
・α1-アンチトリプシン欠乏症、及び
・腎不全。
【0063】
本明細書に記載される疾患及び障害は、心臓及び/又は筋肉の機能不全を有し、本明細書に記載される心臓及び/又は筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療の利益を享受し得る。疾患又は障害の根底にある機能障害に応じて、これらの疾患及び障害は、当業者に理解されるように、心臓(細胞又は組織)指向性遺伝子治療、特に心筋細胞指向性遺伝子治療、又は筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療、あるいはその両方から特に利益を享受し得る。これらの疾患や障害は、心臓及び/又は筋肉(細胞又は組織)からの適切な治療用タンパク質の発現、あるいは適切な非コーディングRNA(例えば、siRNA、マイクロRNA、lncRNA又はcircRNA)から利益を享受し得る。
心臓(細胞又は組織)指向性遺伝子治療、特に心筋細胞指向性遺伝子治療から特に利益を享受する疾患又は障害の非限定的な例としては、アテローム性動脈硬化症;動脈硬化症;冠動脈性心疾患又は冠動脈疾患;末梢動脈疾患;先天性心疾患;うっ血性心不全、心不全又は心機能不全;心筋梗塞又は心臓発作、心筋虚血、急性冠症候群又は不安定狭心症及び安定狭心症;心筋症、例えば肥大型心筋症、拡張型心筋症、拘束型心筋症、及び遺伝子変異により引き起こされる原発性心筋症、例えば、ブルガダ症候群及びファブリー病;心アミロイドーシス又は「心硬直症候群」、心筋炎又は炎症性心筋症;心臓弁膜症;心膜炎;心膜タンポナーデとしても知られる、心タンポナーデ;心内膜炎;心臓不整脈、例えば、遺伝子変異により引き起こされる原発性心臓不整脈、例えば、ブルガダ症候群;高血圧;低血圧;血管狭窄又は弁狭窄;及び再狭窄などの心血管疾患及び障害が挙げられる。
【0064】
筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療から特に利益を享受する疾患又は障害の非限定的な例としては、グリコーゲン貯蔵障害(例えば、ポンペ病グリコーゲン貯蔵障害(GSD)タイプII、ダノン病、グリコーゲン貯蔵障害(GSD)タイプIIb、GSD III又はGSD 3(コリ病又はフォーブス病としても知られる)、GSD IV又はGSD4(アンデルセン病としても知られる)、GSD V又はGSD5(マッカードル病としても知られる)、GSD VII又はGSD7(タルイ病としても知られる)、GSD X又はGSD10、GSD XII又はGSD12(アルドラーゼA欠損としても知られる)、GSD XIII又はGSD13、GSD XV又はGSD15)及びムコ多糖症(例えば、ハンター症候群、サンフィリッポ症候群、ムコ多糖症(MPS)I、MPS II、MPS III、MPS IIIA、MPS IIIB、MPS IIIC、MPS IV、MPS VI、MPS VII、MPS IX)を含むリソソーム貯蔵疾患(例えば、ファブリー病);ミトコンドリア障害(例えば、バルト症候群);チャネロパチー(例えばブルガダ症候群);代謝障害;筋管ミオパチー(MTM);筋ジストロフィー(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD));筋強直性ジストロフィー;筋強直性筋ジストロフィー(DM);三好型ミオパシー;福山型先天性ジストロフィー;ディスフェリノパシー;神経筋疾患;運動ニューロン疾患(MND)(例えば、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT))、脊髄性筋萎縮症(SMA)又は筋萎縮性側索硬化症(ALS));エメリー・ドレイファス筋ジストロフィー;顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD);先天性筋ジストロフィー;先天性筋症;肢帯型筋ジストロフィー(例えば、肢帯型筋ジストロフィータイプ2E(LGMD2E)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2D(LGMD2D)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2C(LGMD2C)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2B(LGMD2B)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2L(LGMD2L)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2A(LGMD2A));代謝性ミオパチー;筋炎症性疾患;筋無力症;ミトコンドリアミオパチー;イオンチャネルの異常;核エンベロープ疾患;遠位ミオパチー;心筋症;心肥大;心不全;深部静脈血栓症(DVT);肺塞栓症;及び虚血性又は出血性脳卒中が挙げられる。
本明細書に記載された他の疾患及び障害、例えば、限定されないが、血友病(例えば、血友病A及びB、第FVII因子欠乏症、von Willebrand病)、C1インヒビター欠損症又は遺伝性血管性浮腫、糖尿病、α1-アンチトリプシン欠乏症及び腎不全は、筋肉(細胞又は組織)、特に骨格筋(細胞又は組織)から本明細書に記載の分泌型治療タンパク質を発現させることにより、本明細書に記載された心臓及び/又は筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療、特に筋肉(細胞又は組織)指向性遺伝子治療から利益を享受し得る。
【0065】
本明細書で開示する遺伝子治療の特定の形態は、抗体遺伝子治療を包含する。より詳細には、本明細書に提供されるのは、対象、好ましくはヒト対象において抗体又はナノボディを産生させる方法において使用するための、本明細書に記載された核酸発現カセット、ベクター又は該核酸発現カセット若しくは該ベクターを含む医薬組成物であり、該方法は、抗体又はナノボディの発現を誘導する有効量で、対象の心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは対象の心臓及び筋肉細胞、より好ましくは対象の心筋細胞に、核酸発現カセット又はベクターを導入することを含み、核酸発現カセット中又はベクター中の導入遺伝子が抗体又はナノボディをコードする、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物。
この観点の実施形態において、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物は対象に投与される。核酸発現カセット及びベクターを対象の心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織に送達する方法は、本明細書の別の場所に記載されている。
対象の心臓及び/又は筋肉細胞への核酸発現カセット又はベクターの導入は、インビトロで行うこともできる。実施形態において、所望の目的の心臓及び/又は筋肉細胞は、対象から取り出され、核酸発現カセット又はベクターでトランスフェクト又は形質導入され、対象に再導入される。或いは、同系又は異種の心臓及び/又は筋肉細胞を、その細胞が対象において不適切な免疫応答を生じない場合、用いることができる。
【0066】
トランスフェクション又は形質導入のため、及びトランスフェクション又は形質導入された細胞の対象への再導入のための適切な方法は、当該分野において公知である。例えば、心臓及び/又は筋肉細胞は、例えば、適切な培地中で、核酸発現カセット又はベクターを心臓及び/又は筋肉細胞と組み合わせて、サザンブロット及び/又はPCRのような従来の技術を用いて目的のDNAを保有する細胞についてスクリーニングすることによって、又は選択マーカーを用いることによって、インビトロでトランスフェクト又は形質導入され得る。次いで、トランスフェクト又は形質導入された細胞は医薬組成物中に配合され得、この組成物は、種々の技術、例えば筋肉内、静脈内、皮下及び腹腔内注射によって、又は例えばカテーテルを用いた平滑筋及び/又は心筋への注入によって、対象に導入され得る。したがって、実施形態において、対象において抗体又はナノボディを産生させる方法は、核酸発現カセット又はベクターが導入された心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは心臓及び筋肉細胞、より好ましくは心筋細胞を対象に投与する工程を含む。
さらなる観点は、心血管疾患及び障害(例えば、アテローム性動脈硬化症;動脈硬化症;冠動脈性心疾患又は冠動脈疾患;末梢動脈疾患;先天性心疾患;うっ血性心不全、心不全又は心機能不全;心筋梗塞又は心臓発作、心筋虚血、急性冠症候群又は不安定狭心症及び安定狭心症;心筋症、例えば肥大型心筋症、拡張型心筋症、拘束型心筋症、及び遺伝子変異により引き起こされる原発性心筋症、例えば、ブルガダ症候群及びファブリー病;心アミロイドーシス又は「心硬直症候群」、心筋炎又は炎症性心筋症;心臓弁膜症;心膜炎;心膜タンポナーデとしても知られる、心タンポナーデ;心内膜炎;心臓不整脈、例えば、遺伝子変異により引き起こされる原発性心臓不整脈、例えば、ブルガダ症候群;高血圧;低血圧;血管狭窄又は弁狭窄;再狭窄;深部静脈血栓症(DVT);肺塞栓症;及び虚血性又は出血性脳卒中);グリコーゲン貯蔵障害(例えば、ポンペ病グリコーゲン貯蔵障害(GSD)タイプII、ダノン病、グリコーゲン貯蔵障害(GSD)タイプIIb、GSD III又はGSD 3(コリ病又はフォーブス病としても知られる)、GSD IV又はGSD4(アンデルセン病としても知られる)、GSD V又はGSD5(マッカードル病としても知られる)、GSD VII又はGSD7(タルイ病としても知られる)、GSD X又はGSD10、GSD XII又はGSD12(アルドラーゼA欠損としても知られる)、GSD XIII又はGSD13、GSD XV又はGSD15)及びムコ多糖症(例えば、ハンター症候群、サンフィリッポ症候群、ムコ多糖症(MPS)I、MPS II、MPS III、MPS IIIA、MPS IIIB、MPS IIIC、MPS IV、MPS VI、MPS VII、MPS IX)を含むリソソーム貯蔵疾患(例えば、ファブリー病);ミトコンドリア障害(例えば、バルト症候群);チャネロパチー(例えば、ブルガダ症候群);代謝障害;筋管ミオパチー(MTM);筋ジストロフィー(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD));筋強直性ジストロフィー;筋強直性筋ジストロフィー(DM);三好型ミオパシー;福山型先天性ジストロフィー;ディスフェリノパシー;神経筋疾患;運動ニューロン疾患(MND)(例えば、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT))、脊髄性筋萎縮症(SMA)又は筋萎縮性側索硬化症(ALS);エメリー・ドレイファス筋ジストロフィー;顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD);先天性筋ジストロフィー;先天性筋症;肢帯型筋ジストロフィー(例えば、肢帯型筋ジストロフィータイプ2E(LGMD2E)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2D(LGMD2D)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2C(LGMD2C)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2B(LGMD2B)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2L(LGMD2L)、肢帯型筋ジストロフィータイプ2A(LGMD2A));代謝性ミオパチー;筋炎症性疾患;筋無力症;ミトコンドリアミオパチー;イオンチャネルの異常;核エンベロープ疾患;遠位ミオパチー;血友病(例えば、血友病A及びB、第FVII因子欠乏症、von Willebrand病)、C1インヒビター欠損症又は遺伝性血管性浮腫、糖尿病、α1-アンチトリプシン欠乏症及び腎不全、を含む群より選択される疾患又は障害の治療における使用のための、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物に関する。
【0067】
遺伝子治療プロトコルは、当該分野で広範に記載されている。これには、プラスミド(裸のプラスミド又はリポソーム中のプラスミド)の筋肉内注射、筋肉を含む種々の組織への流体力学的遺伝子送達、間質注射、気道への点滴、内皮への適用、静脈内又は動脈内投与などが挙げられるが、これらに限定されない。DNAの標的細胞への到達率を高めるために、さまざまなデバイスが開発されている。単純な方法は、DNAを含むカテーテル又は埋込み可能材料を標的細胞に物理的に接触させることである。また、別のアプローチは、注射針を使わず、高圧下で液柱を標的組織中に直接噴射するジェット注入デバイスを利用することである。これら送達の実例は、ベクター送達にも利用することができる。標的化遺伝子送達の別のアプローチは、核酸の細胞への特異的ターゲティングのために核酸又はDNA結合性物質を結合させたタンパク質又は合成リガンドからなる分子コンジュゲートの使用である(Cristianoら、1993)。
さらなる観点は、ワクチンとして使用するための、より具体的には予防ワクチンとして使用するための、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物に関する。
また、本明細書には、ワクチンの製造、特に予防ワクチンの製造のための、本明細書に記載の核酸調節エレメント、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物の使用も開示される。
【0068】
また、本明細書には、必要とする対象者へのワクチン接種、特に予防ワクチン接種の方法であって、以下:
- 対象、具体的には対象の心臓及び/又は筋肉細胞、より具体的には心筋細胞に、プロモーター及び導入遺伝子に作動可能に連結した、本明細書に記載される核酸調節エレメントを含む、本明細書に記載される核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物を導入すること;及び
- 免疫学的有効量の導入遺伝子産物を、対象、具体的には対象の心臓及び筋肉において発現させること
を含む方法が開示される。
本明細書で用いられる「処置を必要とする対象」などの句には、言及された疾患又は障害の処置から利益を得られる対象が含まれる。このような対象としては、限定されないが、前記疾患又は障害と診断された者、前記疾患又は障害に罹患又は発症しやすい者及び/又は前記疾患又は障害を予防すべき者が含まれ得る。
【0069】
用語「対象(者)」及び「患者」は本明細書において交換可能に用いられ、動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳類を指し、具体的には、ヒト患者及び非ヒト哺乳動物が含まれる。「哺乳動物」の対象(者)には、ヒト、家畜動物、商業動物、農畜産業動物、動物園動物、スポーツ動物、ペット及び実験動物、例えば、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ;霊長類動物、例えば、類人猿(apes)、サル(monkeys)、オランウータン及びチンパンジー;イヌ科動物、例えばイヌ及びオオカミ;ネコ科動物、例えばネコ、ライオン及びトラ;ウマ科動、例えばウマ、ロバ及びシマウマ;食用動物、例えばウシ、ブタ及びヒツジ;偶蹄類動物、例えばシカ及びキリン;げっ歯類動物、例えばマウス、ラット、ハムスター及びモルモットなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい患者又は対象者は、ヒト対象である。
本明細書で用いる「治療量」又は「治療有効量」とは、対象における疾患又は障害を処置するため、すなわち所望の局所又は全身効果を得るために有効な遺伝子産物の量をいう。したがって、この用語は、研究者、獣医師、医師その他の臨床医が求める、組織、系、動物又はヒトにおいて生物学的又は医学的反応を誘発する遺伝子産物の量を指す。このような量は、代表的には、遺伝子産物及び疾患の重症度に依存するが、おそらくは日常的な実験を通じて、当業者が決定することができる。
【0070】
本明細書で用いる「免疫学的有効量」とは、(導入)遺伝子がコードする免疫原へのその後の曝露に対する対象者の免疫応答を増強するに有効な(導入)遺伝子産物の量をいう。誘導された免疫のレベルは、例えば、分泌性中和抗体及び/又は血清抗体の量を、例えば、プラーク中和、補体固定、酵素結合免疫吸着又はマイクロ中和アッセイにより測定することによって決定することができる。
代表的には、本明細書に記載の(すなわち、少なくとも1つの心臓-及び筋肉-標的化核酸調節エレメントを有する)発現カセット又はベクターを使用する場合に発現する(導入)遺伝子産物の量は、核酸調節エレメントを有さない同一の発現カセット又はベクターを使用する場合より多い。その発現は、核酸調節エレメントを含まない同じ核酸発現カセット又はベクターと比較して、少なくとも2倍高く、少なくとも5倍高く、少なくとも10倍高く、少なくとも20倍高く、少なくとも30倍高く、少なくとも40倍高く、少なくとも50倍高く又は少なくとも60倍高くなり得る。さらに、より高い発現は、好ましくは心臓と筋肉に標的付けられたままである。さらには、本明細書に記載の発現カセット及びベクターは、治療量の遺伝子産物の発現を長期間にわたって導くことができる。代表的には、治療的発現は、少なくとも20日、少なくとも50日、少なくとも100日、少なくとも200日、場合によっては300日以上持続することが想定されている。遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)の発現は、任意の当該分野で認識される手段によって、例えば、ウェスタンブロット又はELISAアッセイなどの抗体ベースのアッセイによって、例えば遺伝子産物の治療的発現が達成されているかどうかを評価するために、測定され得る。また、遺伝子産物の発現は、遺伝子産物の酵素活性又は生物活性を検出するバイオアッセイで測定することもできる。
【0071】
また、本明細書には、本明細書に開示される核酸調節エレメント、核酸発現カセット又はベクターの、心臓及び筋肉細胞、好ましくは心筋細胞をトランスフェクト又は形質導入するための使用も開示される。
さらに、本明細書には、プロモーターと導入遺伝子とに作動可能に連結された本明細書に開示の核酸調節エレメントを含む本明細書に開示の核酸発現カセット又はベクターの、心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは心筋細胞において導入遺伝子産物を発現させるための使用も開示される。
さらに、本明細書には、導入遺伝子産物を心臓及び/又は筋肉細胞、好ましくは心筋細胞において発現させる方法であって:
- プロモーターと導入遺伝子とに作動可能に連結された本明細書に開示の核酸調節エレメントを含む本明細書に開示の核酸発現カセット又はベクターで心臓及び/又は筋肉細胞、具体的には心筋細胞をトランスフェクト又は形質導入すること;及び
- 導入遺伝子産物を心臓及び/又は筋肉細胞で発現させること
を含む方法も開示される。
心臓及び/又は筋肉細胞における導入遺伝子産物の発現は、心筋細胞などの心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織を、心筋細胞などの心臓及び/又は筋肉の細胞又は組織における導入遺伝子産物の発現を可能にする適切な条件下で培養することを含み得る。
【0072】
さらなる実施形態において、本方法は、心筋細胞などの心臓及び/若しくは筋肉の細胞若しくは又は組織並びに/又は培養液から導入遺伝子産物を回収する工程をさらに含み得る。
心臓及び/又は筋肉細胞、特に心筋細胞の非ウイルス性トランスフェクション又はウイルスベクター媒介形質導入は、インビトロ、エクスビボ又はインビボ手順で行うことができる。インビトロアプローチは、心臓及び/又は筋肉細胞、例えば対象者から予め採取した心臓及び筋肉細胞、心臓及び/又は筋肉細胞株又は例えば人工多能性幹細胞又は胚細胞から分化させた心臓及び/又は筋肉細胞のインビトロトランスフェクション又は形質導入を必要とする。エクスビボアプローチは、対象から心臓及び/又は筋肉細胞を採取すること、インビトロトランスフェクション又は形質導入、場合により、トランスフェクションした心臓及び/又は筋肉細胞を対象に再導入することを必要とする。インビボアプローチは、本明細書に開示される核酸発現カセット又はベクターの対象への投与を必要とする。好ましい実施形態において、心臓及び/又は筋肉細胞のトランスフェクションは、インビトロ又はエクスビボで行われる。
当業者は、本明細書に開示される核酸調節エレメント、核酸発現カセット及びベクターの使用が、遺伝子治療以外の意義、例えば幹細胞の心原性又は筋原性細胞への誘導分化、心臓及び筋肉におけるタンパク質の過発現のためのトランスジェニックモデルなどを有すると理解する。
【0073】
本発明を、下記の非限定的な実施例により更に説明する。
【実施例】
【0074】
実施例1:正常ヒト心筋細胞由来核酸調節エレメント(CARD-CRE)の同定
材料及び方法
正常ヒト心筋細胞由来の細胞ペレットを3サンプル、Promocell社から購入した(Cat.# C-14080)。
AllPrep DNA/RNA Mini Kit(Qiagen, Germany)を、製造業者の指示に従い用いて、この細胞ペレットからトータルRNAを抽出した。簡潔には、
1.200μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を、200μlの細胞ペレット(約1×106細胞)を含むチューブに加えた。
2.チューブを500g/4℃で10分間遠心分離し、上清を除去した。
3.1% 2-メルカプトエタノールを補充したRLT Plusバッファー350μlを加え、数回ピペッティングして細胞を完全に溶解させた。
4.350μlの70%エタノールを加え、ピペッティングして十分に混合した。全溶液をAllPrep DNA/RNA Mini KitのRNeasyスピンカラムに移し、以下のように製造業者の指示に従った:
5.RNeasyスピンカラムを13000rpmで1分間遠心分離し、フロースルーを廃棄した。
6.350μlのRW1バッファーをRNeasyスピンカラムに加えた。
7.RNeasyスピンカラムを13000rpmで1分間遠心分離し、フロースルーを廃棄した。
8.RDDバッファー(Qiagen、ドイツ)中80μlのDNase IをRNeasyスピンカラムに直接加え、室温で15分間インキュベートした。
9.350μlのRW1バッファーをRNeasyスピンカラムに加えた。
10.RNeasyスピンカラムを13000rpmで1分間遠心分離し、フロースルーを廃棄した。
11.500μlのRPEバッファーをRNeasyスピンカラムに加えた。
12.RNeasyスピンカラムを13000rpmで1分間遠心分離し、フロースルーを廃棄した。
【0075】
正常ヒト心筋細胞における発現分析は、RNA配列決定(RNA-seq)(BGI tech solutions Ltd.(香港))によって決定された。FPKM(すなわち、マッピングされた100万リードあたりの、エクソンモデルのキロベースあたりのフラグメント数)読取値は、正規化された遺伝子発現レベルに対応していた。正常ヒト心筋細胞由来の、RNA-seq解析に基づいて高度に発現した6遺伝子を、CRE同定のために選択した:TIMP1、COL6A2、COL1A2、LGALS1、IGFBP7、FN1。
選択した遺伝子の転写開始部位を、UCSC Genome Brower Databaseを用いてマッピングした。核酸エレメントを、以下に基づいて選択した:i)DNAse過感受性部位の存在;ii)オープンクロマチンに関連するエピジェネティックマーカーの高含量;iii)転写因子結合部位(TFBS)の高含量。
【0076】
結果
上記の基準に基づいて、心筋細胞における高発現に関連付けられる核酸調節エレメント(シス調節エレメント(CRE)と表記される;本明細書中ではCARD-CREとも表記する)を選択した(表1)。各CREの位置、配列及び長さも示す(表1)。
【0077】
【0078】
実施例2:同定された心筋細胞由来核酸調節エレメント(CARD-CRE)のインビボ検証
材料及び方法
心筋細胞由来シス調節エレメント(CARD-CRE)のAAVベクターへのクローニング
表1に示したCARD-CREを、天然のゲノム状況とは異なる人工的な合成状況において、遺伝子発現を増強する能力について個別にスクリーニングした。これを行うために、CARD-CREを先ず従来のオリゴヌクレオチド合成法によって合成し、簡便なクローニングのために、5'末端にMluI制限部位を、3'末端にBsiWI制限部位をフランキングさせた。これら合成CREフラグメントをMluI及びBsiWIで制限し、5'末端をAscI、3'末端をAcc65Iで制限したAAV2ベクタープラスミドバックボーン中にクローニングした。MluI/AscI及びAcc65I/BsiWIは互換性末端を生成するため、粘着末端クローニングが可能であった。異なるCARD-CRE(配列番号1~8)を、一本鎖アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)バックボーンにおいて、SPc5-12又はSpc5-12GTRM(Liら 1999.Nat Biotechnol. 17(3):241-245)と呼ぶ人工の心臓及び筋肉指向性プロモーターの上流にクローニングした(
図1)。このプロモーターはレポーター遺伝子ルシフェラーゼ(Luc2)を駆動した。適切な転写終止を確実にするために、Luc2遺伝子の下流に合成ポリアデニル化部位(ポリA)(本明細書ではsynt.pAとも呼ぶ)をクローニングした。
【0079】
AAV作製
AAVベクターを、目的のベクタープラスミド、AAV2 Rep及びAAV9 Capを発現するキメラパッケージング構築物並びにアデノウイルスヘルパープラスミドのAAV-293細胞(Stratagene, San Diego, California, USA)へのリン酸カルシウム(Invitrogen Corp, Carlsbad, California, USA)コトランスフェクションによって、以前に記載されたように作製した(Chuahら 2014. Mol Ther. 22(9):1605-1613; VandenDriesscheら 2007. J Thromb Haemost. 5(1): 16-24)。カプシドは、その心臓向性及び筋肉向性を考慮し、AAV9血清型由来であった(VandenDriesscheら 2007, Sarcarら 2019. Nat Commun. 10(1):492)。トランスフェクションの2日後、細胞を採取し、凍結/融解サイクルと超音波処理との組合せ、続くベンゾナーゼ(Novagen, Madison, Wisconsin, USA)及びデオキシコール酸(Sigma-Aldrich, St Louis, Missouri, USA)での処理、並びに塩化セシウム(Invitrogen Corp, Carlsbad, California, USA)を用いる3回連続の密度勾配超遠心分離によりて溶解させた。AAVベクター含有画分を回収し、1mM MgCl2含有ダルベッコ リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(Gibco、BRL)中で透析した。ウイルスゲノムを含有するウイルス粒子の濃度(ベクター力価とも呼ばれる)を、ルシフェラーゼ特異的プライマー:フォワード:5'-CCCACCGTCGTATTCGTGAG-3'(配列番号9)及びリバース:5'-TCAGGGCGATGGTTTTGTCCC-3'(配列番号10)を用いるSYBR(登録商標)Greenでの定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって決定した。既知コピー数の対応するベクタープラスミドを標準曲線の作成に用いた。AAV9ウイルスベクターは高い力価(代表的的には1012~1013ベクターゲノム(vg)/ml)をもたらした。
【0080】
動物実験
4~5週齢のCB17 SCIDマウスの尾静脈に、CARD-CRE3、-CRE11又は-CRE12/SPc5-12プロモーターからのルシフェラーゼ遺伝子を発現するAAV9ウイルスベクター又はいずれのCREも欠く対照AAV9ベクターを、3×10
10ベクターゲノム(vg)/マウスで静脈内注射した(1群あたり2~3匹のマウスに注射した)。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターから駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子をコードするAAVベクターを比較のための参照として用いた。AAV9-CMVベクターを参照構築物として用いた。なぜならば、心血管疾患関して行われる実験のほとんどがCMVプロモーターを用いて導入遺伝子の発現を駆動しているからである。
遺伝子発現に対するCARD-CREの影響を評価するために、生物発光イメージング(BLI)又はルミノメトリー分析を利用するルシフェラーゼレポーター活性の評価に基づくインビボスクリーニングプラットフォームを用いた(
図2)。ルシフェラーゼ発現を、心臓、骨格筋(すなわち、大腿四頭筋、腓腹筋、脛骨筋、上腕三頭筋、上腕二頭筋、横隔膜)及び非筋組織(例えば、肝臓、腎臓、脾臓、肺及び脳)で測定した。精製心筋細胞についてルミノメトリー分析を行った。
【0081】
成体マウス心臓の解離並びに心筋細胞の単離及び精製
1.成体マウスを、密閉チャンバー内においてイソフルランで麻酔した。
2.胸部を切開して心臓を露出させた。
3.下行大動脈及び大静脈を切断し、7mlのEDTA緩衝液(130mM NaCl、5mM KCl、0.5mM NaH2PO4、10mM HEPES、10mMグルコース、10mM 2,3-ブタンジオンモノオキシム(BDM)、10mMタウリン、5mM EDTA、pH7.8)を右心室に直ちに注入して、血液を洗い流した。
4.心臓を上行大動脈でクランプした後、上行大動脈を切断して心臓を取り出した。
5.次に、心臓を新鮮なEDTA緩衝液を含む15mlファルコンに移し、更なる処理までの間、組織を完全に浸した。
6.心臓を60mmペトリ皿に移し、25Gバタフライ針を用いて左心室(心臓の下部膨隆部)を介してシリンジポンプ注入システム(SP220IZ)に取り付けた。
7.心臓を10mlのEDTA緩衝液で2ml/分の速度で灌流した。
8.次に、灌流緩衝液(130mM NaCl、5mM KCl、0.5mM NaH2PO4、10mM HEPES、10mMグルコース、10mM BDM、10mMタウリン、1mM MgCl2、pH 7.8)を含む新しい皿に心臓を移した。
9.7mlの灌流緩衝液を同じ穿孔を介して左心室に2ml/分の速度で同様に注入した。
10.次いで、心臓を、温(37℃)コラゲナーゼ緩衝液(0.5mg/mLコラゲナーゼ2(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:17101015)、0.5mg/mLコラゲナーゼ4(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号:17104019)、0.05mg/mLプロテアーゼXIV(Sigma. Cat. No. P5147)を灌流緩衝液に溶解したもの)を含む新しい皿に移した。
11.続いて、10mlの温コラゲナーゼ緩衝液を、2ml/分の速度で左心室に4回注射した。
12.心臓を、3mlのコラゲナーゼ緩衝液を含有する新しい60mmペトリ皿に移した。
13.組織を、ピンセットで1mm×1mm片に穏やかに裂いた。
14.次いで、組織を、1000μlピペットを用いて2分間穏やかに破砕した。1000μlピペットの先端部を切断して、先端口径を増大させ、破砕プロセスを容易にした。
15.ロータリーベンチ上で、ペトリ皿中の5mlの温(37℃)停止溶液(5%滅菌ウシ胎仔血清(FBS)を含有する灌流緩衝液)に細胞懸濁液を添加することによって、酵素消化を停止させた。
16.得られた細胞懸濁液を、100μm孔径の細胞ストレーナーに通して50mlファルコンチューブに入れ、細胞残屑を除去した。
17.フィルターをさらに5mlの停止緩衝液で洗浄した。
18.細胞を重力によって20分間沈降させた。上清の半分を、内皮細胞の単離用に新しい50mlファルコンチューブに移した。
19.ペレットを含む細胞懸濁液を、4~5mlの灌流緩衝液を用いて15mlファルコン中で重力沈降に更に2回供した。
20.形成された細胞ペレットを2mlの灌流緩衝液中に再懸濁し、形成された筋細胞集団の細胞数を、血球計を用いて測定した。
【0082】
単離細胞におけるルシフェラーゼ活性の分析:
1.心筋細胞の単離後、血球計を用いて総細胞数を計数した。
2.必要な細胞懸濁液を別の1.5ml又は2mlのエッペンドルフチューブに採取した。
3.細胞懸濁液を卓上遠心分離機でエッペンドルフチューブ中、8000~9000rpmにて2分間遠心した。
4.上清を廃棄し、細胞ペレットを、ONE-GloTM EX Luciferase Assay Systemに従う分析用に、製造業者の指示に従って採取した。
5.410μlのONE-GloTM EX試薬を細胞ペレットに添加した。
6.細胞ペレット及びONE-GloTMEX試薬を、細胞溶解のためにピペッティングによって数回混合し、その後室温で3分間インキュベートした。
7.次いで、410μlの混合物を、96ウェルプレートの2つの隣接ウェルに等分した(200μl/ウェル)(Greiner Bio, Cat#655073)。
8.混合物を添加した後、96ウェルプレートをGloMax Explorerシステムのプレートホルダーに入れた。機械に表示された指示に従ってプレートを挿入した。
【0083】
結果
生物発光イメージング(BLI)による心筋細胞由来シス調節エレメント(CARD-CRE)のインビボスクリーニング
4~5週齢のCB17 SCIDマウスの尾静脈に、実施例1で同定されたCARD-CRE3、-CRE11又は-CRE12調節エレメントに作動可能に連結されたSPc5-12プロモーターからのルシフェラーゼ遺伝子を発現するAAV9ベクター又はいずれのCREも欠く対照AAV9ベクターを、3×10
10ベクターゲノム(vg)/マウスで静脈内注射した(1群あたり2~3匹のマウスに注射した)。全身BLIの結果を
図3に示す。
全身BLI(
図3)は、いずれのCARD-CREも欠く対照AAVと比較して、CARD-CRE11調節エレメントを含むAAVベクターを注射したマウスにおいて、最高レベルのルシフェラーゼ活性(白色領域)が観察されたことを明確に示した。ルシフェラーゼ活性の強力な増強は明らかであった。CARD-CRE12はルシフェラーゼ活性を比較的穏やかに増強したが、CARD-CRE3はルシフェラーゼ活性を増加させなかった。したがって、CARD-CRE11で遺伝子発現の比較的強固な増加が見られた。
【0084】
発光分析による心筋細胞由来シス調節エレメント(CARD-CRE)のインビボ検証
マウスにAAV9-CARD-CRE11ベクター(n=2)又はいずれのCREも欠く対照AAV9ベクター(n=2)を注射した。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターから駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子をコードするAAVベクターを注射したマウスを比較のための参照として用いた(n=2)。ベクター注入の約2週間後、マウスを犠牲にし、各マウスの心臓を単離した。その後、プロトコルに従って心筋細胞を精製した。3つの異なるマウス群から新たに精製した心筋細胞を計数し、ルミノメーターを用いるルシフェラーゼ活性の測定用に50000個の心筋細胞を採取した。ルシフェラーゼ活性は、相対発光単位(RLU)として表した(
図4)。
その結果、CARD-CRE11調節エレメントを含むAAVベクターを注射したマウスでは、いずれのCARD-CREも欠く対照AAVベクターと比較して、最高レベルのルシフェラーゼ発現が観察された。ルシフェラーゼ活性の最大30倍の差が明らかであった。さらに、CARD-CRE11調節エレメントを含むAAV9ベクターは、CMV参照ベクターに比べてルシフェラーゼ活性が20倍増加した。このことは、CARD-CRE11が心筋細胞における遺伝子発現の予想外の強力な増加をもたらし得、心血管遺伝子治療に有利であることを示している。
結論
CARD-CRE11は、心臓その他の筋組織における遺伝子発現を強力に増加させ、遺伝子治療による心血管及び筋肉関連疾患の治療に有利である。
【0085】
実施例3:同定したCARD-CRE11調節エレメントのインビボ検証
実施例2で観察されたCARD-CRE11調節エレメントの頑強性を確認するために、4~5週齢のCB17 SCIDマウスを用いて、実施例2に記載されたように別の実験を行った。これらマウスの尾静脈に、AAV9-CARD-CRE11(n=2)、いずれのCREも欠く対照AAVベクター(CREなし対照)(n=2)、及びAAV9-CMV参照ベクター(n=2)を3×10
10vgマウスで静脈内注射して、心臓その他の器官における遺伝子発現に対するCARD-CRE11の影響を評価した。全身BLI及び12の異なる個別器官/組織の結果を
図5A及び5Bに示す。BLI解析の定量化を
図5Cに示す。
全身BLI(
図5A)は、いずれのCARD-CREも欠く対照AAVと比較して、CARD-CRE11調節エレメントを含むAAVベクターを注射したマウスから、最高レベルのルシフェラーゼ活性(白色領域)が観察されたことを示した。さらに、CARD-CRE11調節エレメントを含ませることにより、遺伝子発現が大幅に増加し、これは、参照CMVプロモーターを用いてルシフェラーゼ発現を駆動させた場合より高かった。
【0086】
結果は、注射した動物の解剖時に回収した単離器官及び組織に基づいて得られたルシフェラーゼ活性と一致した(
図5B)。CARD-CRE11調節エレメントを含むAAVベクターは、心臓及び全ての筋組織(すなわち、横隔膜、大腿四頭筋、腓腹筋、脛骨筋、三頭筋及び上腕二頭筋)において、いずれのCARD-CREも欠く対照AAV9ベクターを注射したマウスから得られた心臓及び筋組織と比較して、又はCMV参照ベクターを注射したマウスと比較して、より高いレベルのルシフェラーゼ活性を示した。対照的に、CMV参照ベクターは、非筋組織、特に肝臓においてもルシフェラーゼ発現を生じた(
図5B及び5C)。
個別の器官及び組織におけるルシフェラーゼ活性を定量化したところ、CARD-CRE11調節エレメントを含ませることにより、いずれのCARD-CREも欠く対照ベクターと比較して、ルシフェラーゼ発現が心臓では70倍、様々な骨格筋群(すなわち、横隔膜、大腿四頭筋、腓腹筋、脛骨筋、三頭筋及び上腕二頭筋)では80~130倍増加することが示された。CARD-CRE11調節エレメントを含ませることにより、CMVプロモーターを有する参照ベクターと比較して、ルシフェラーゼ発現が心臓では10倍、様々な骨格筋群(すなわち、横隔膜、大腿四頭筋、腓腹筋、脛骨筋、三頭筋及び上腕二頭筋)では3~20倍増加した。
結論
図5に示されたデータは、CARD-CRE11が心臓その他の筋組織における遺伝子発現の強力な増加を導き、参照CMVベクターと比較して有意に高い発現をもたらし、これが遺伝子治療による心臓血管及び筋肉関連疾患の治療に有利であることを明確に確証する。
【0087】
実施例4:同定した心筋細胞由来核酸調節エレメント(CARD-CRE)のインビボ検証
実施例1で同定したいくつかのCARD-CRE、具体的にはCARD-CRE14、CARD-CRE16及びCARD-CRE17を、実施例2に記載したように、遺伝子発現を増加させる能力について、対照比較した。
この実験では、4~5週齢のCB17 SCIDマウスの尾静脈に、CARD-CRE調節エレメントに作動可能に連結されたSPc5-12プロモーターから駆動されるルシフェラーゼ遺伝子を保有するAAV9ベクター又はいずれのCREも欠く対照AAV9ベクター(CREなし対照)を1×10
11vg/マウスで静脈内注射して(1群あたり3匹のマウスに注射した)、心臓、筋肉その他の器官における遺伝子発現に対する選択したCARD-CREの影響を評価した。全身BLIの結果を
図6Aに示し、注射した動物の解剖時に回収した12の異なる個別器官/組織における結果を
図6B及び6Cに示す。
全身BLI(
図6A)は、ルシフェラーゼ活性(白色領域)が、CARD-CREを欠く対照AAVベクターと比較して、異なるCARD-CRE(すなわち、CARD-CRE14、CARD-CRE16及びCARD-CRE17)を含むAAVベクターを注射したマウスにおいて増加したことを示した。結果は、注射した動物の解剖時に回収した単離器官及び組織に基づいて得られたルシフェラーゼ活性と一致した(
図6B)。CARD-CRE14、CARD-CRE16及びCARD-CRE17を含むAAVベクターは、心臓及び全ての筋組織(すなわち、横隔膜、大腿四頭筋、腓腹筋、脛骨筋、三頭筋及び上腕二頭筋)において、CARD-CREを欠く対照AAV9ベクターを注射したマウスから得られた心臓及び筋組織と比較して、より高いレベルのルシフェラーゼ活性を示した。肝臓、腎臓、脾臓、肺、脳などの非筋組織では、ルシフェラーゼ活性はほとんど検出されなかった。
個別器官及び組織におけるルシフェラーゼ活性を定量化したところ、CARD-CRE14、CARD-CRE16及びCARD-CRE17を含ませることにより、CARD-CREを欠く対照ベクターと比較して、心臓及び種々の骨格筋群のほとんどでルシフェラーゼ発現が増加した(
図6C)。具体的には、心臓において、CARD-CRE14、CARD-CRE16及びCARD-CRE17は、CARD-CREを欠く対照ベクターと比較すると、ルシフェラーゼ活性をそれぞれ18倍、23倍、9倍に増加させた。CARD-CRE14は、対照ベクターと比較して、腓腹筋(16倍)、大腿四頭筋(11倍)、脛骨筋(6倍)、上腕二頭筋(4倍)、横隔膜(4倍)でルシフェラーゼ活性を増加させ、上腕三頭筋(1.6倍)では、増加の程度はより低かった。同様に、CARD-CRE16は、対照ベクターと比較して、腓腹筋(16倍)、大腿四頭筋(30倍)、脛骨筋(5倍)、上腕二頭筋(12倍)、横隔膜(4倍)、上腕三頭筋(3倍)でルシフェラーゼ活性を増加させた。CARD-CRE17も、対照ベクターと比較して、腓腹筋(13倍)、大腿四頭筋(12倍)、脛骨筋(5倍)、上腕二頭筋(5倍)、横隔膜(2.5倍)でルシフェラーゼ活性を増加させ、上腕三頭筋(1.3倍)ではわずかに増加させた。CARD-CRE14、CARD-CRE16及びCARD-CRE17による心臓及び種々の筋肉群におけるルシフェラーゼ活性の増加を、対照ベクターと比較して表2にまとめる。
【0088】
【0089】
結論
図6に示すデータは、CARD-CRE14、CARD-CRE16及びCARD-CRE17が、心臓その他の筋組織における遺伝子発現を強力に増加させ、遺伝子治療による心血管及び筋肉関連疾患の治療に有利であることを示す。
【0090】
実施例5:同定した心筋細胞由来核酸調節エレメント(CARD-CRE)のインビボ検証
実施例1で同定したいくつかのCARD-CRE、具体的にはCARD-CRE8、CARD-CRE11、CARD-CRE16及びCARD-CRE20を、実施例2に記載したように、遺伝子発現を増加させる能力について対照比較した。
この実験では、4~5週齢のCB17 SCIDマウスの尾静脈に5×10
10vg/マウスで静脈内注射した(1群あたり3匹のマウスに注射した)。心臓その他の筋肉組織及び器官における遺伝子発現に対する所与のCARD-CREの影響を評価する比較に、いずれのCREも欠く対照AAV9ベクター(CREなし対照)を用いた。注射した動物の全身BLI及び解剖時に回収した12の異なる個別器官/組織における結果を
図7に示す。
全身BLI(
図7A)は、いずれのCARD-CREも欠くAAV対照ベクターと比較すると、CARD-CRE(すなわち、CARD-CRE8、CARD-CRE11、CARD-CRE16及びCARD-CRE20)を含むすべてのベクターでルシフェラーゼ活性(白色領域)が増加したことを示した。
12の個別組織及び器官をルシフェラーゼ発現についてBLIによって定量評価化した場合、同様の結果が観察された(
図7B、7D)。具体的には、CARD-CRE8、CARD-CRE11、CARD-CRE16及びCARD-CRE20は、心臓及び試験したすべての筋組織(すなわち、横隔膜、大腿四頭筋、腓腹筋、脛骨筋、三頭筋及び上腕二頭筋)におけるルシフェラーゼ活性を増加させた。肝臓、腎臓、脾臓、肺、脳などの非筋組織では、発現はほとんど検出されなかった。
4つの異なる選択したCARD-CRE(すなわち、CARD-CRE8、CARD-CRE11、CARD-CRE16及びCARD-CRE20)は、心臓において、CARD-CREを有さない対照ベクターと比較して、ルシフェラーゼ活性を17~32倍増加させた(
図7C)。同様に、CARD-CREは、試験した他のすべての異なる器官、すなわち横隔膜(3~7倍)、大腿四頭筋(4~13倍)、腓腹筋(22~34倍)、脛骨筋(12~24倍)、上腕三頭筋(4~8倍)及び上腕二頭筋(1~3倍)においてルシフェラーゼ活性を増強した(
図7C、表3)。
【0091】
【0092】
結論
図7に示すデータは、CARD-CRE8、CARD-CRE11、CARD-CRE16及びCARD-CRE20が、心臓その他の筋組織における遺伝子発現を強力に増加させ、遺伝子治療による心血管及び筋肉関連疾患の治療に有利であることを示す。
【0093】
総括
実施例2~5に示されたデータに基づくと、導入遺伝子発現の最も頑強な増加は、以下のCARD-CREから観察された:CARD-CRE8(配列番号2)、CARD-CRE11(配列番号3)、CARD-CRE14(配列番号5)、CARD-CRE16(配列番号6)、CARD-CRE17(配列番号7)及びCARD-CRE20(配列番号8)。これらCARD-CREは、正常ヒト心筋細胞において最も高度に発現された遺伝子から得られたRNA-seq発現データのデータマイニングによって同定された(実施例1)。
【0094】
実施例6:hMLCプロモーターに作動可能に連結された同定したCARD-CRE11調節エレメントのインビボ検証
材料及び方法
AAVベクターの作製
ヒトミオシン軽鎖(hMLC)プロモーター(567bp、配列番号14)を、従来のDNA合成によって合成し、実施例1で同定したCARD-CRE11エレメントを用いずに又は用いて実施例2に記載されたように一本鎖AAVベクター骨格にクローニングして、AAVss-hMLC-Luc2-SynpAベクター(
図8)又はAAVss-Card CRE11-hMLC-Luc2-SynpAベクター(
図9)をそれぞれ作製した。ここで、「Luc2」はルシフェラーゼレポーターを指し、「SynpA」は合成ポリアデニリル化部位を指し、AAVssは一本鎖のベクター構成を指し、AAV9はAAV血清型9を指す。
【0095】
AAV作製
対応するAAV9ベクター粒子はSignagenにより製造され、ベクター力価は実施例2に記載したように決定した。
生物発光イメージング分析
成体CB17/IcrTac/Prkdcscid(別名CB17 SCID)雄性マウス(5~6週齢、体重:18~21g)に、10
11vg/マウスに相当する用量のAAV9ベクターを注射した。ベクター注射の4週間後にマウスを安楽死させ、その後ルシフェラーゼ活性を、摘出した個別筋肉タイプと比較して、摘出心臓における生物発光イメージングによって測定した。手動で選択した関心領域(ROI)を個別組織ごとに用いた。個別組織からのルシフェラーゼ発現は、光子/秒/cm
2/srで表される総光束として測定した(平均値+s.e.m.;n=3)。
結果
CARD-CRE11は、hMLCプロモーターからのルシフェラーゼ活性を、他の骨格筋又は横隔膜組織と比較して、心臓で最も強く(最大30倍)選択的に増強させた(
図10)。
【0096】
実施例7:遍在性に発現するCMVプロモーターに作動可能に連結された、同定したCARD-CRE11調節エレメントのインビボ検証
CARD-CRE11エレメントをAAVss-CMV-Luc2-SynpAベクター(
図11)中のCMVプロモーターの上流にクローニングして、AAVss-CARD-CRE11-CMV-Luc2-SynpAベクター(
図12)を作製した実施例6に記載のように、材料及び方法を使用/適用した。
CARD-CRE11はまた、CARD-CRE11を欠く対照CMV-ルシフェラーゼベクターと比較して、心臓において遍在性に発現されたプロモーターCMVからのルシフェラーゼ活性を(7倍)増加させた(
図13)。
【配列表】
【国際調査報告】