IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハートビーム,インク.の特許一覧

特表2024-502335携帯型電子心電図パッチデバイス及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-18
(54)【発明の名称】携帯型電子心電図パッチデバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/257 20210101AFI20240111BHJP
   A61B 5/282 20210101ALI20240111BHJP
   A61B 5/332 20210101ALI20240111BHJP
   A61B 5/363 20210101ALI20240111BHJP
【FI】
A61B5/257
A61B5/282
A61B5/332
A61B5/363
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540687
(86)(22)【出願日】2022-01-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-31
(86)【国際出願番号】 US2022011075
(87)【国際公開番号】W WO2022147520
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】63/133,669
(32)【優先日】2021-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/202,299
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】521497006
【氏名又は名称】ハートビーム,インク.
【氏名又は名称原語表記】HEARTBEAM,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ヴァジェディック,ブラニスラブ
(72)【発明者】
【氏名】パネスク,ドリン
(72)【発明者】
【氏名】ボジョビック,ボスコ
(72)【発明者】
【氏名】ハジェヴスキー,リュプコ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォクセヴィック,ヴィラダン
(72)【発明者】
【氏名】ミトロヴィック,ウロス
(72)【発明者】
【氏名】ミレティック,マルジャン
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127BB03
4C127CC06
4C127GG02
4C127GG05
4C127GG16
4C127LL04
4C127LL13
(57)【要約】
急性心筋梗塞(AMI)のリモート及び検出及び/又は診断の為のデバイス及びシステムを含む方法及び装置。特に、本明細書では、方向特異的な方式で3直交ECGリード信号を記録し、これらの信号をプロセッサに送信することが可能な電極構成を有するハンドヘルド型の粘着デバイスについて説明する。プロセッサはリモートでもローカルでもよく、AMI、心房細動又はその他の心臓不全を、事前に記憶したベースライン記録に対する記録された3心信号の偏差の解析に基づいて自動的又は半自動的に検出し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
パッチの裏面に一体化された第1の電極と第2の電極が患者の胸部からの生体電気信号を測定するように、前記パッチを前記患者の胸部に粘着させて装着するステップであって、前記第1の電極と前記第2の電極は少なくとも5cmの距離を隔てて配置される、ステップと、
前記患者が第1の手の指で前記パッチ上の第3の電極に接触し、第2の手の指で前記パッチ上の第4の電極に接触した時に、前記パッチを前記患者の胸部に粘着式に付着させた直後にベースライン心電図(ECG)を取得するステップであって、前記ベースラインECGは、前記第1、第2、第3及び第4の電極から生成された3直交リード、又は準直交リードを含む、ステップと、
前記患者が前記パッチ上で症状が存在しないことを示した時に、前記患者が前記パッチ上の前記第3の電極を前記第1の手の指で接触し、前記パッチ上の前記第4の電極を前記第2の手の指で接触した時に、その後の1日以上に亘って前記ベースラインECGを更新するステップであって、前記ベースラインECGの記録は、前記第1、第2、第3、第4の電極から生成される3直交リード、又は準直交リードを含む、ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ベースラインECGを保存するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者が前記パッチ上で症状が存在することを示した時に有症状ECGを記録するステップを更に含み、前記有症状ECG記録が、前記第1、第2、第3、及び第4の電極から生成される3直交リード、又は準直交リードを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ベースラインECG記録を使用して、前記有症状ECGから不規則な心信号を自動検出するステップを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記有症状ECGを前記ベースラインECGと重畳して表示するステップを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、前記パッチ上のボタンを作動させることによって、症状が存在することを前記パッチ上で示す、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が、前記パッチ上のボタンを作動させることによって症状が存在しないことを前記パッチ上で示す、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、症状が存在することを示す前記パッチ上のボタンを作動させないことによって、症状が存在しないことを前記パッチ上で示す、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ベースラインECGを取得するステップが、前記第1、第2、第3及び第4の電極からの生体電気信号を処理して、前記パッチが前記患者の胸部に対して粘着固定された状態の場合に、前記第3及び第4の電極の間を通過する前記患者の胸部を通る矢状面の中心点を形成する処理ネットワークを使用して、前記3直交リードを形成するステップを含み、前記3直交心リードが、前記電極と前記中心点から形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ベースラインECGを更新するステップが、検出回路を用いて前記第3の電極と前記第4の電極の両方に指が接触したことを検出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記3直交、又は準直交リードを12リードECG信号に変換するステップを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
方法であって、
パッチの裏面に一体化された第1の電極と第2の電極が患者の胸部からの生体電気信号を測定するように、前記パッチを前記患者の胸部に粘着式に付着させるステップであって、前記第1の電極と第2の電極は少なくとも5cmの距離を隔てて配置される、ステップと、
前記パッチを前記患者の胸部に粘着した直後に、前記患者が第1の手の指で前記パッチ上の第3の電極に接触し、第2の手の指で前記パッチ上の第4の電極に接触した時に、ベースライン心電図(ECG)を取得するステップであって、前記ベースラインECGは、前記第1、第2、第3及び第4の電極から生成された3直交リード、又は準直交リードを含む、ステップと、
ベースラインECGを保存するステップと、
前記患者が前記第1の手の前記指で前記パッチ上の前記第3の電極に接触し、前記第2の手の前記指で前記パッチ上の前記第4の電極に接触し、前記患者がパッチ上で症状が存在しないことを示した場合に、その後の1日以上に亘って前記ベースラインECGを更新するステップであって、前記ベースラインECG記録は、前記第1、第2、第3、第4の電極から生成される3直交又は準直交リードを含む、ステップと、
前記患者が前記パッチ上で症状が存在することを示した場合に、有症状ECG記録を記録するステップであって、前記有症状ECG記録は、前記第1、第2、第3及び第4の電極から生成される3直交又は準直交リードを含む、ステップと、
前記有症状ECGを、前記ベースラインECGに重畳させて表示するステップと、
を含む方法。
【請求項13】
前記ベースラインECGを用いて、前記有症状ECG記録から不規則な心信号を自動検出するステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が、前記パッチ上のボタンを作動させることによって症状が存在することを前記パッチ上で示す、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記患者が、前記パッチのボタンを作動させることによって症状が存在しないことを前記パッチ上で示す、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記患者が、症状が存在することを示す前記パッチのボタンを作動させないことによって、症状が存在しないことを前記パッチ上で示す、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記ベースラインECGを取得するステップが、前記パッチが前記患者の胸部に対して粘着固定された状態の場合に、前記第1、第2、第3、第4の電極からの生体電気信号を処理して、前記第3と第4の電極の間を通過する前記患者の胸部を通る矢状面の中心点を形成する処理ネットワークを用いて前記3直交リードを形成することを含み、3直交心リードは、前記電極と前記中心点から形成される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記ベースラインECGを更新するステップが、検出回路を用いて前記第3の電極と第4の電極の両方に指が接触したことを検出することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
12リード心電図(ECG)を合成する為の粘着パッチデバイスであって、
背面と前面を有する粘着素材のパッチであって、前記背面が患者の胸部に粘着固定されるように構成されているパッチと、
前記患者の胸部からの生体電気信号を測定するように構成された、前記パッチの前記背面に一体化された第1の電極と第2の電極であって、前記第1の電極と前記第2の電極は少なくとも5cmの距離を隔てて配置されている、第1の電極と第2の電極と、
前記パッチの前記前面に在り、前記患者の右手からの生体電気信号を測定するように構成された第3の電極と、
前記パッチの前記前面に在り、患者の左手からの生体電気信号を測定するように構成された第4の電極と、
前記パッチのハウジング内に在り、前記第1、第2、第3及び第4の電極から3直交心リードを導出するように構成されたプロセッサと、
前記第3の電極と前記第4の電極の両方における指の接触を検出するように構成された検出回路であって、前記検出回路が前記第3の電極と前記第4の電極の両方における前記指の接触を検出した時に、前記プロセッサが前記3直交リードを収集するように構成されている、検出回路と、
を含む、粘着パッチデバイス。
【請求項20】
前記処理された3直交心リードをリモートプロセッサに送信するように構成された前記ハウジング内の通信回路を更に備える、請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記患者の胸部に付着した時の前記パッチの配向を示すマーカーを前記ハウジング上に更に含む、請求項19に記載のデバイス。
【請求項22】
前記ハウジングの配向を示す前記ハウジング上のLEDを更に含む、請求項19に記載のデバイス。
【請求項23】
前記第3及び第4の電極は、前記ハウジングの長手方向の対称面に対して2つの対向する側に配置され、前記長手方向の対称面は、前記ハウジングの背面に対して実質的に垂直である、請求項19に記載のデバイス。
【請求項24】
前記ハウジングの側部又は前部の何れかに配置された、前記患者の手の一方に接触する為の前記ハウジング上の接地電極を更に備えた、請求項19に記載のデバイス。
【請求項25】
前記第3又は第4の電極の何れかが帯状であり、前記ハウジングの第1の側面に沿って配置される、請求項19に記載のデバイス。
【請求項26】
前記プロセッサは、前記検出回路が前記第3の電極と前記第4の電極の両方で前記指の接触を検出しない場合に、前記第1の電極と前記第2の電極からの1リードECG信号を自動検出するように構成されている、請求項19に記載のデバイス。
【請求項27】
前記プロセッサは、前記1リードECG信号から不規則な心信号を検出し、前記不規則な心信号が検出された時に、前記第3の電極と前記第4の電極に触れるように前記患者に促すように構成されている、請求項26に記載のデバイス。
【請求項28】
前記パッチ上に症状有り入力を更に備え、前記プロセッサは、前記第1、第2、第3及び第4の電極から導出された前記3直交心リードが、前記患者が前記症状有り入力を作動させたことを示すフラグによってマークされるように構成されている、請求項19に記載のデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権主張)
本出願は、2021年3月15日に出願された「電子心電図パッチデバイス及び方法(ELECTROCARDIOGRAM PATCH DEVICES AND METHODS)」と題する米国特許出願第17/202,299号、及び2021年1月4日に出願された「携帯型電子心電図パッチデバイス及び方法(AMBULATORY ELECTROCARDIOGRAM PATCH DEVICES AND METHODS」と題する米国仮特許出願第63/133,669号の優先権を主張するものであり、これらの各出願は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
(参照による援用)
本明細書において言及される全ての公報及び特許出願は、個々の公報又は特許出願が参照により援用されることが具体的且つ個別に示される場合と同じ程度まで、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
本明細書に記載される方法及び装置(例えば、システム、デバイス等)は、一般に心電図に関するものである。
【背景技術】
【0004】
急性心筋梗塞(AMI、心臓発作とも呼ばれる)は、依然として先進国における死亡率の主要な原因である。AMI診断の為の正確で費用効果の高い解決策を見出すことが肝要である。AMI患者の生存率は、治療遅れの縮小、特に症状発現から治療までの時間の短縮に決定的に依存している。AMI症状の発生後早期に、例えば患者の自宅や何処にいてもAMIを診断できるような技術は、AMIによる死亡率を著しく低下させる可能性がある。
【0005】
AMI環境では、従来の12リードECGが最も重要な情報であるばかりでなく、組み合わせた他の全ての情報と同じ程度にも重要である。従って、早期AMI診断技術はECG記録に依存し得る。ECG記録は、患者自身によって実行されてもよいが、そのような技術は、12リードECG電極の複雑な適用の問題を克服する必要が有り得、自動化ソフトウェアベースのAMI検出を可能にする必要が有り得る。
【0006】
心臓の状態の検出の為の生体電気信号の取得としての電子心電図(ECG)データ記録
は、当技術分野において広く知られている。一般に、記録が実行される前に、患者の身体の特徴的な部位が特定され、その部位に対して電極が位置決めされる。記録手順中に、2つの特徴的な部位の間の電気電圧が測定され、対応する信号はECGリードと呼ばれる。従来型ECGは10個の電極を用いて12リードを記録し、12リードECG(12LECG)は心臓診断において広く標準として採用されている。
【0007】
患者が何処にいても、自分で心電図を記録し、市販の電気通信ネットワーク(携帯電話等)を介してリモート診断センターの心臓専門医に送信できる緊急心臓診断が有益であることは、以前から示唆されていた。受信した心電図と患者との会話に基づいて、担当の心臓専門医は、患者の状態に緊急の医療介入が必要かどうかを判断し、それに従って行動することができる。緊急心臓診断という前記のコンセプトの内で、ECG信号を記録・送信する為の様々なソリューションを提供する特許や製品が幾つか有る。これらの装置の内の最も単純なものは、単一の「リード」又は一対の電極のみを使用する。しかし、1ECGリードのみを記録する装置は、調律障害にのみ使用される可能性が有る。AMIの検出に必要なECGの変化は、従来のECGの12リードの内、僅か2リードで起こる可能性が有る為、シングルリードのみ(又は場合によっては数本のリードのみ)を確実に使用して、AMIを確実且つ徹底的に検出することは困難であり得る。更に、リードの配置が難しい為、患者が自分で12LECGを完全に記録することも無理である。
【0008】
12LECGの異なる代理物を使用するAMI検出ソリューションも知られている。例えば、Aerotel社(Aerotel Medical Systems、イスラエル、ホロン)のHeartview P12、SHL社(SHL Telemedicine、イスラエル、テルアビブ)のSmartheart、Cardiobip(例えば、特許文献1)等である。これら全ての解決策には重大な欠点が有る。例えば、これらの解決策は全て、一般的に複雑な測定手順(Heartview、Smartheart等)を必要とし、ケーブルによる電極の取り付け、腰から上の衣服の脱着、ストラップの使用、多段階の記録手順(例えば、アミタイ(Amitai)他の特許文献2参照)を必要とする場合が有る。又、既存のシステムや提案されているシステムでは、大掛かりな較正手順(例えば、Cardiobip)が必要な場合があり、患者が自分で装置を使用する前に、特別な訓練を受けたスタッフがいる医療施設に入院する必要が有る。最後に、これらの手順の全ては、記録されたECGの解釈の為に医療従事者を必要とする場合が有る。
【0009】
例えば、Cardiobipデバイスは、患者による使用が最も簡単であり、ケーブルやストラップを使用せずに、胸に押し当てることによってデバイスを簡単に位置決めし、ECGを記録することができる。この例では、診断センターは、特殊3ECGリード処理と、3リードを標準12リードECGに再構成する為に、対応するソフトウェアを備えたPCコンピュータを使用してもよい。この再構成は、医療従事者がECGを解釈する為に必要である。特殊3リードの記録を使用した標準12ECGリードの再構成の精度は、携帯デバイス内の統合電極と対応するリードとの厳密に決定された配置によって達成され得る。ハンドヘルドデバイスには、5つの内蔵電極(例えば、特許文献3参照)が含まれてもよく、その内の3つは患者の胸部に、残りの2つの電極は右手と左手の指に接触するように配置され得る。Cardiobipデバイスの再構成アルゴリズムは、心筋の拡散性電気活動が、低伝導環境に浸された時間変化する電気双極子(心臓双極子)によって近似できるという仮定を前提としている。心臓双極子は3つの非平面投影で定義されるベクトルで表され、3つの非平面方向に対応する任意の3点対、即ち同一平面上に無い特殊3ECGリード間の電位の記録に基づいて決定され得る。標準ECGリードは、記録された特殊リードと変換行列を定義する係数との線形結合として再構成される。綿密な分析により、このような再構成には2つの支配的なエラー源が有ることが示され得る。残念なことに、心臓双極子は、拡散性心臓電気活動の多極子数学的展開の第一項でしかなく、この近似値は、心臓から十分な距離の記録位置に関してのみ有効である。心臓に近い位置では、信号再構成に必要なシステムの直線性は、多極子展開における高次項の存在により生成する非双極含量により有意に影響される。
【0010】
更に、心臓専門医又は他の技術専門家による解析の為に数本のリードを12リード信号に変換する為の記載された再構成技術にも制約がある。十分な診断情報を伝達する為には、特殊3リードを可能な限り直交に近くする(例えば、3ベクトル軸が夫々90度の角度を持つ)必要がある。直交の反対は、3ベクトルが同一平面上に在る場合であり、この場合、その平面に垂直な軸に対応する診断情報は完全に欠落する。重要なことは、このモデリングに必要な前提条件、即ち心臓を双極子として扱うこと(そして離れた位置で推定)と、心臓のリードを直交させて測定することが、互いに矛盾していることであるが、何故なら、電極が心臓に近ければ、直交するリードの位置は遥かに容易に得られるが、この場合、非双極含量が高くなるからである。カルディオビップのような既存のシステムは、3リード全てが右側の電極を基準として使用するという、両方の要求を最適に満たす構成の使用に頼らざるを得ない。これらのシステムには更なる欠点もある。例えば、Cardiobipはデバイスの胸側に3つの電極を内蔵している。Cardiobipを用いた臨床研究では、女性患者の乳房や男性患者の顕著な大胸筋が、3つの電極を同時に胸部表面に確実に接触させることを妨げる可能性があることが観察された。更に、デバイスの前面の指電極の対称配置が、約10%の記録における左指と右指の転換を起こすことがあり、記録を診断用には無効にしてしまうことも観察された。
【0011】
同様に、縮減した3リードのセットを使用する他の解決策(例えば、特許文献4、特許文献5)は、典型的には、同一平面上である3リードを使用する為、AMI検出の為の十分な診断情報が不足している。
【0012】
更に、記録されたECGの解釈の為に訓練された医療従事者を必要とすることは、組織的な課題であり、システムの運用コストを増加させる可能性があり、人間によるECG解釈の精度は大きなばらつきを有し得る。心電図判読の為の自動化ソフトウェアもAMIの早期診断システムに使用されているが、その性能は人間の解読者に劣る。胸痛はAMIを示唆する主な症状であり、虚血(基礎となる生理的過程)である。主な心電図パラメータはSTセグメント上昇(STE)である。残念なことに、胸痛を訴える患者の多く(最大15%)は、(救急外来に)受診した際の心電図に非虚血性のSTE(NISTE)を有している。その為、人間の読影者も自動化ソフトウェアも、NISTEを虚血による新規のSTEと誤認することが多い。典型的な救急処置室(ER)のシナリオでは、胸痛患者は救急医によって診察され、救急医は現場(現在)のECG記録だけを頼りに、急性虚血が存在するかどうかを速やかに判断しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第7,647,093号
【特許文献2】米国特許出願公開第20120059271号
【特許文献3】欧州特許第1659936号
【特許文献4】米国特許出願公開第20140163349号
【特許文献5】米国特許出願公開第20100076331号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、新STEと旧STEを分離することができる技術を提供することは、自動化AMI検出の性能を有意に向上させることができ、それを実行可能な増強とし、或いは、特に、資格のある人間の解釈が利用できない場合に、人間の解釈に置き換わるものとなる為、有利である。本明細書では、上記で論じた課題とニーズに対処する、特に、AMIの早期自動リモート診断へのニーズに対処する方法及び装置について記載する。特に、本明細書に記載の方法及び装置は、指コンタクトの転換に伴うエラーを排除しながら、機械的に安定した、長期及び改善された電気的コンタクトを提供し得る。更に、より頻繁、又は連続的なモニタリングの態様について述べる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一般に、本明細書には、特にAMIを含む心臓機能不全の1つ以上の指標を自動検出する為に、心信号を記録及び分析する為の方法及び装置が記載されている。これらの装置は、典型的には、2つ以上の表面上に非対称的に配置された少なくとも4つの電極を有して直交リード又は準直交リードを提供するハウジングを含み得る。
【0016】
本明細書で使用する場合、心信号とは、被験者の体表面の選択された位置の間で感知される、人間の心臓によって生成される電圧を指し得るものであり、心電信号(例えば、心電図信号)とも呼ばれ得る。これらの心信号は心電図(ECG)信号を含み得る。当然のことながら、ECG(心電図)という用語は、従来の12リードECG信号を指すのに一般的に使用されるが、本明細書に記載の心信号(心電信号)は、これらの従来の12リードECG信号に限定されない。更に、本明細書の開示では、記載される心信号上の特徴点(P、Q、R、S、T等)及び間隔(STセグメント等)を含む用語を使用及び参照する場合があるが、これらの特徴点は、従来の12リードECG信号上の位置と同等の点、位置又は領域を指す場合がある。
【0017】
本明細書では、自動化心電信号解析の為の移動可能なハンドヘルド装置について記載する。例えば、装置は以下を含み得る:背面、第1の側面、及び前面を有するハウジングと、患者の胸部からの生体電気信号を測定するように構成された、ハウジングの背面に一体化された第1の電極及び第2の電極であって、第1の電極及び第2の電極は、少なくとも5cmの距離を隔てて配置されている、第1の電極及び第2の電極と、患者の右手からの生体電気信号を測定するように構成された第3の電極と、患者の左手からの生体電気信号を測定するように構成された第4の電極であって、第3の電極及び第4の電極の内の一方又は両方がハウジングの前面に一体化されている、第3の電極及び第4の電極と、第1、第2、第3及び第4の電極からの3直交心リードを記録するように構成され、前記電極の内の3ペア未満が第3の電極を含む、ハウジング内のプロセッサ。
【0018】
代替的又は追加的に、これらの装置の何れかは以下を含み得る:背面、第1の側面、及び前面を有するハウジングと、患者の胸部からの生体電気信号を測定するように構成された、ハウジングの背面に一体化された第1の電極及び第2の電極であって、第1の電極及び第2の電極は少なくとも5cmの距離を隔てて配置されている、第1の電極及び第2の電極と、患者の右手からの生体電気信号を測定するように構成された第3の電極と、患者の左手からの生体電気信号を測定するように構成された第4の電極と、第1、第2、第3及び第4の電極からの3直交心リードを記録するように構成されたプロセッサであって、プロセッサは、第1の時間に採取された3直交心リードの第1のセットを記憶するように構成されたレジスタと、3直交心リードの第1のセットと第2の時間に採取された3直交心リードの第2のセットとの間の差分信号を決定するように構成されたコンパレータとを備える、プロセッサ。
【0019】
例えば、本明細書では、自動化された電気的心信号分析の為の、移動可能な、ハンドヘルド型の、3リード装置について記載する。装置は以下を含み得る:背面、第1の側面、及び前面を有するハウジングであって、前面は背面と平行である、ハウジングと、患者の胸部からの生体電気信号を測定するように構成された、ハウジングの背面に一体化された第1の電極及び第2の電極であって、第1の電極及び第2の電極は、少なくとも5cmの距離を隔てて配置される、第1の電極及び第2の電極と、患者の右手からの生体電気信号を測定するように構成された第3の電極と、患者の左手からの生体電気信号を測定するように構成された第4の電極であって、第3の電極及び第4の電極の内の一方又は両方は、ハウジングの前面に一体化されている、第3の電極及び第4の電極と、第1、第2、第3及び第4の電極の少なくとも2つを接続する処理ネットワーク(抵抗ネットワーク、オペアンプ加算ネットワーク等)であって、処理ネットワークが中心点(CP)を形成する、処理ネットワークと、第1、第2、第3及び第4の電極から3直交、又は準直交の心リードを記録するように構成されたハウジング内のプロセッサであって、前記電極の3対未満が第3の電極を構成する、プロセッサと、3心リードを内部又はリモートプロセッサに送信するように構成されたハウジング内の通信回路。
【0020】
少なくとも1リードは、前記電極の内の1つと、抵抗ネットワークによって少なくとも2つの電極を相互に接続することによって形成される中心点(CP)との間に形成されてもよい。例えば、第3及び第4(右手及び左手)の電極は、第3及び第4の電極を含む少なくとも1リードが中心点と第3又は第4の電極との間で測定され得るように、中心点を形成する為の処理ネットワークによって分離されてもよい。
【0021】
一般に、装置は、患者の身体に対して、例えば、上下を含む方向に配向していてもよい。装置は、マーカー(例えば、英数字マーカー、例えば、ラベル、体型、光、例えば、LED等の内の1つ以上)を含んでもよい。例えば、装置は、ハウジングの配向を示すハウジング上のマーカー、例えばハウジングの配向を示すハウジング上のLEDマーカーを含んでもよい。
【0022】
第3及び第4の電極は、装置ハウジングの長手方向の対称面に関して対向する2つの側面に配置されてもよく、前記対称面は、装置ハウジングの裏面に対して実質的に垂直である。
【0023】
これらの変形例の何れにおいても、ハウジングの側部又は前部の何れかに配置された患者の片手に接触する為の接地電極がハウジング上に存在してもよい。
【0024】
第3又は第4の電極の何れかが帯状であって、デバイスハウジングの側面に沿って配置されてもよい。
【0025】
ハウジングは、携帯電話のハウジングを含んでもよく、これにより、第3又は第4の電極は、携帯電話のタッチスクリーン上の導電性透明領域として構成される。ハウジングは、携帯電話ハウジングに組み込まれていてもよい。ハウジングは、電気コネクタ又は無線通信を用いて前記携帯電話と通信する携帯電話ハウジングの拡張構造であってもよい。ハウジングは、携帯電話保護ケースを形成してもよい。例えば、ハウジングは、電話ディスプレイ保護カバーと、電話ディスプレイ保護カバーに組み込まれた第3及び第4の電極を有する携帯電話保護ケースを形成してもよい。
【0026】
幾つかの変形例では、装置は、携帯電話のカバー(例えば、背面カバー)と一体化されるか、又はこれに接続される。例えば、装置のハウジングは、スマートフォン又は他の携帯電話の標準的な背面カバーを後付けできる(例えば、交換する為に使用される)携帯電話の背面カバーであってもよい。幾つかの変形例では、装置は、例えば、粘着剤又は他の取り付け機構によって、携帯電話のカバー(例えば、背面カバー)に連結され得る。
【0027】
又、本明細書には、虚血、心房細動又は他の心臓障害の検出等、心臓の異常を検出する方法が記載されており、これらの方法は自動化方法であってもよい。これらの方法の何れもが、自動心臓診断の為の方法であってよく、以下を含み得る:患者の胸部及び手から少なくとも3直交リードの第1のセットを第1の時点で取得するステップと、患者の胸部及び手から少なくとも3直交リードの第2のセットを第2の時点で取得するステップと、少なくとも3直交リードの第1及び第2のセットに対してプロセッサでビートアライメントを実行して、少なくとも3直交リードの第1及び第2のセットから代表的な拍動を同期させるステップと、第1及び第2の少なくとも3直交リードの間の変化を表す差分信号を計算するステップと、第1及び第2の少なくとも3直交リードのパラメータを比較することによって、又は差分信号のパラメータを予め定義された閾値と比較することによって、心臓の状態を示唆する心臓の変化を検出するステップと、デバイスから患者に心臓変化を通信するステップ。
【0028】
代替的又は追加的に、自動心臓診断の為の方法は以下を含み得る:患者の胸部及び手から少なくとも3直交リードを検出するように構成された装置を、第1の記録位置で被験者の胸部に対して配置するステップと、第1の時間に装置から少なくとも3直交リードの第1のセットを取得するステップと、少なくとも3直交リードの第1のセットをプロセッサに通信するステップと、第2の記録位置で被験者の胸部に対して装置を配置するステップと、第2の時間に装置を使用して患者から少なくとも3直交リードの第2のセットを取得するステップと、少なくとも3直交リードの第2のセットをプロセッサに通信するステップと、プロセッサでビートアライメントを実行して、少なくとも3直交リードの第1及び第2のセットからの代表的な拍動を同期させるステップと、少なくとも3直交リードの第1及び第2のセット間の変化を表す差分信号を計算するステップと、差分信号の1つ又は複数のパラメータを予め定義された閾値と比較することによって心臓状態を示唆する心臓変化を検出するステップと、デバイスから患者に心臓変化を通信するステップ。
【0029】
例えば、自動心臓診断の為の方法は以下を含み得る:患者の胸部及び手から3直交リードを測定するように配置された4つの統合電極を有するハウジングを含むデバイスを、被験者の胸部に対して第1の記録位置に配置するステップと、第1の3リード心臓記録(3心リード記録及び3リード電気心臓記録とも呼ばれる)を第1の時間にデバイスから取得する(例えば、ベースライン記録を取る)ステップと、第1の3リード記録をプロセッサに通信するステップと、デバイスを同じ第1の記録位置に維持するか、又はデバイスを被験者の胸部に対して第2の記録位置に配置するステップと、デバイスから第2の時間に第2の3リード記録(診断記録)を取得するステップと、第2の3リード記録をプロセッサに通信するステップと、プロセッサにおいてビートアライメントを実行して、第1及び第2の3リード記録からの代表的な拍動を同期させるステップと、第1と第2の3心リード記録間の変化を表す差分信号を計算するステップと、第1及び第2の3心リード記録のパラメータを比較することによって又は差分信号のパラメータを予め定義された閾値と比較することによって、虚血又は心房細動等の心臓状態を示唆する心信号の変化(心信号記録の変化、本明細書では心臓変化とも呼ばれる)を検出するステップと、心臓状態を示唆する心臓変化をデバイスから患者に伝達するステップ。
【0030】
第1の記録位置と第2の記録位置は、異なっていてもよいし、同じであってもよい。幾つかの変形例では、方法(又は本方法を実行する装置)は、位置が変化したかどうかを検出し、異なる記録位置を補正するか、又はハンドヘルドデバイスをより正確に再位置決めする必要があることを示してもよい。例えば、方法は、3心リードベクトル空間における心電軸の偏位を補正することによって、プロセッサにおける第1の記録位置と第2の記録位置との間の胸部電極の位置ずれを補正することを含んでもよい。
【0031】
第1の3リード電気心臓記録をプロセッサに伝達することは、第1の3リード電気心臓記録をリモートプロセッサに無線送信すること、部分的な心臓記録処理結果をリモート処理部に送信すること、又は単に3リード心臓記録を処理の為に、又は患者警告の為に内部プロセッサに転送することを含み得る。
【0032】
一般に、これらの方法は、プロセッサにおいて第1及び第2の3リード電気心臓記録を前処理して、以下の内の1つ以上を達成することを含み得る:電力線干渉、ベースラインワンダリング及び/又は筋ノイズを除去すること、フィデューシャル点及び中央値拍動手順を使用して代表的な拍動を得ること、及び左右の指の転換をチェックすること。
【0033】
診断記録、ベースライン記録、及び差分信号のパラメータは、心信号のベクトルの大きさであってよく、ベクトル成分は、単一の時間瞬間(J点、J+80ms)における診断信号、ベースライン信号、及び差分信号の3心リード、又は所定の時間間隔(例えば、STセグメント又は他の所定の間隔)における平均、及びSTセグメント(又は他の所定の間隔)のベクトル信号ホドグラフを包絡する球の半径である。
【0034】
心房細動又は心房粗動の検出が望まれる場合、診断記録、ベースライン記録、及び差分信号のパラメータは、RR変動性(又は等価)、P波の振幅(又は等価)、又はP波の平均振幅であってもよい。
【0035】
これらの方法の何れも、心臓の状態を示唆する任意の心信号の変化をプロセッサからデバイスに伝達することも含み得る。又、これらの方法は、心臓の状態を示唆するあらゆる心信号の変化をデバイスから患者に伝達することが、患者に視覚的及び/又は聴覚的な警告を提示することからなることも含み得る。
【0036】
例えば、自動化心臓診断の為の方法は、以下を含み得る:患者の胸部及び手から3直交、又は準直交リードを測定するように配置された4つの統合電極を有するハウジングを含むデバイスを、被験者の胸部に対して第1の記録位置に配置するステップと、第1の時間にデバイスから第1の3リード心臓記録を取得するステップと、第1の3リード心臓記録をプロセッサに通信するステップと、第1の3リード心臓記録をベースライン記録として保存するステップと、同じ第1の位置にデバイスを維持する、又は第2の記録位置で被験者の胸部にデバイスを配置するステップと、第2の時間にデバイスから第2の3リード心臓記録を取得するステップと、第2の3リード心臓記録をプロセッサに通信するステップと、プロセッサにおいて、第1及び第2の3リード心臓記録を前処理して、電力線干渉、ベースラインワンダリング及び筋ノイズを除去し、フィデューシャル点及び中央値拍動手順を使用して代表拍動を取得し、左右の指の転換をチェックするステップと、プロセッサにおいて、第1及び第2の3リード心臓記録からの代表拍動を同じ時間枠内に持ってきて、対応するポイントが同期するようにビートアライメントを実行するステップと、プロセッサにおいて、3心リードベクトル空間における心電軸のずれを補正することによって第1及び第2の記録位置間の胸部電極の位置ずれを補正するステップと、第1及び第2の3心リード記録間の変化を表す差分信号を計算するステップと、心臓の状態(例えば、虚血、心房細動、心房粗動等)を示唆する心信号の変化を、第1及び第2の3リード心臓記録のパラメータを比較することによって、又は差分信号のパラメータを予め定義された閾値と比較することによって検出するステップと、心臓の状態を示唆する心信号の変化をデバイスから患者に伝達するステップ。
【0037】
一般に、本明細書には、本明細書に記載の方法の何れかを実行するように構成された装置が記載されている。例えば、自動心臓診断を提供するように構成された装置は、ハウジング内のプロセッサに接続された少なくとも4つの電極を含むハウジングを含み得るものであり、プロセッサは以下を行うように構成される:患者の胸部及び手から少なくとも3直交リードの第1のセットを第1の時間に取得し、患者の胸部及び手から少なくとも3直交リードの第2のセットを第2の時間に取得し、少なくとも3直交リードの第1及び第2のセットに対してビートアライメントを実行して、少なくとも3直交リードの第1及び第2のセットから代表的な拍動を同期させ、第1及び第2の少なくとも3直交リードの間の変化を表す差分信号を計算し、第1及び第2の少なくとも3直交リードのパラメータを比較することによって又は差分信号のパラメータを予め定義された閾値と比較することによって心臓の状態を示唆する心臓の変化を検出し、心臓の変化をデバイスから患者に伝達する。
【0038】
本明細書に含まれる方法及び装置の説明では、直交する、又は準直交する心信号のセットの使用について説明しているが、これらの方法及び装置は、重要な独立した心臓情報を含む信号(心電信号)の任意のセットと共に使用され得る。例えば、完全に直交していないベクトルによって表される心リードを使用する実施態様は、本発明の趣旨から逸脱することは無い。夫々の心臓ベクトルが、互いに対して30°を超える相対角度で配向していることが重要であろう。このような小さい相対角度であっても、有意に直線的に独立した情報を提供することができ、本明細書に記載の装置及び方法が類似した臨床的/診断的に関連する結果をもたらすことを可能にする。従って、限定を意味すること無く、簡潔にする為、本明細書では心リードを直交リードと呼ぶことがある。従って、直交リードは厳密に直交(例えば、リードの90゜からの相対角度のずれが10゜未満、8゜未満、7゜未満、6゜未満、5゜未満、4゜未満、3゜未満、2゜未満、1゜未満等)していてもよいし、ほぼ直交(例えば、リードの90゜からの相対角度のずれが30゜未満、25゜未満、20゜未満、15゜未満等)していてもよい。或いは、準直交性は、任意の2リードからのデータの組み合わせの相互相関関数、ほぼ同時且つ同じデバイスで必要とされるデータに基づいて評価され得る。本明細書では、直交性とは、独立した情報コンテンツを意味することを前提とすると、セットからの2リードは、両者間の相互相関が0.6未満であれば準直交であると見做してよい。
【0039】
例えば、本明細書には、12リード心電図を合成する為の粘着パッチデバイスが記載されている。これらのデバイスは以下を含む:背面及び前面を有する粘着材料のパッチであって、背面が患者の胸部に粘着固定されるように構成されている、パッチと、患者の胸部からの生体電気信号を測定するように構成された、パッチの背面に一体化された第1の電極及び第2の電極であって、第1及び第2の電極が少なくとも5cmの距離を隔てて配置されている、第1の電極及び第2の電極と、パッチの前面に在り、患者の右手からの生体電気信号を測定するように構成されている、第3の電極と、パッチの前面に在り、患者の右手からの生体電気信号を測定するように構成されている、第4の電極と、ハウジングが患者の胸部に対して粘着固定された時に、第3の電極と第4の電極との間を通過する患者の胸部を通る矢状面の中心点を形成する処理ネットワークであって、3直交心リードが前記電極と中心点とから形成される、処理ネットワークと、ハウジング内に在り、第1、第2、第3及び第4の電極から導出された3直交心リードを処理するように構成されたパッチ上のプロセッサ。
【0040】
例えば、12リード心電図を合成する為の粘着パッチデバイスは以下を含み得る:背面と前面とを有する粘着材料のパッチであって、背面が患者の胸部に粘着的に固定されるように構成されている、パッチと、パッチの背面に一体化され、患者の胸部からの生体電気信号を測定するように構成された第1の電極及び第2の電極であって、少なくとも5cmの距離分だけ離れて位置決めされている、第1の電極及び第2の電極と、パッチの前面に在り、患者の右手から生体電気信号を測定するように構成された第3の電極と、パッチの前面に在り、患者の左手から生体電気信号を測定するように構成された第4の電極と、ハウジングが患者の胸部に密着固定して保持された時に患者の胸部が第3の電極と第4の電極の間を通過することによって矢状面内の中心点を形成する処理ネットワークとを含み得、3直交心リードが前記電極と中心点から形成され、更に、3直交心リードを処理するように構成されたプロセッサを含み得、プロセッサは、第1の時間に採取された3直交心リードの第1のセットの値を記憶するように構成されたレジスタと、3直交心リードの第1のセットの値と第2の時間に採取された3直交心リードの第2のセットの値との間の差分信号を決定するように構成されたコンパレータとを備えている。
【0041】
これらのデバイスの何れも、処理された3直交心リードをリモートプロセッサに送信するように構成された通信回路をハウジング内に含み得る。プロセッサは、リモートプロセッサから戻ってくる情報を受信するように構成されてもよい。デバイスは、患者の胸部に施用された時のパッチの配向を示すマーカーをハウジングに含み得る。例えば、デバイスは、ハウジングの配向を示すLEDをハウジング上に含んでもよい。
【0042】
第3と第4の電極は、ハウジングの長手方向の対称面に関して対向する2つの側面に配置されてもよく、前記対称面はハウジングの背面に対して実質的に垂直である。例えば、ハウジングは、パッチの前面から突き出て延びていてもよく、側面(例えば、4つの側面)を含んでいてもよい。幾つかの例では、デバイスは、例えば、ハウジングの側面又は前面の何れかに配置された、患者の手の一方に接触する為の接地電極(例えば、ハウジング上)を含む。第3又は第4の電極の何れかは帯状で、ハウジングの第1の側面に沿って配置されてもよい。
【0043】
これらのデバイスの何れも、両方の指電極(例えば、第3及び第4の電極)が患者の左手の指及び患者の右手の指等の指に接触していることを、検出回路(例えば、指検出回路)が検出した時に、12リードECG検出モードを含む異なる動作モードで動作する(及びその間で切り替わる)ように構成され得る。どちらの指電極も指に接触していないことを検出回路が示すと、デバイスは待機モード(又は1リードECGモード)に切り替わり得る。スタンバイ/1リードECGモードでは、デバイスは、胸部電極(第1の電極及び第2の電極)のみから1リードECG測定を行うように構成されてもよく、これらの測定は、所定のスケジュール(例えば、1日1回、1日2回、1日置き等)で行われ、保存、処理及び/又は送信される。例えば、プロセッサは、検出回路が第3の電極と第4の電極の両方で指の接触を検出しない場合に、第1の電極と第2の電極からの1リードECG信号を自動検出するように構成されてもよい。
【0044】
このように、一般に、これらのデバイスの何れもが、第3の電極及び第4の電極の何れか一方又は両方における指の接触を検出するように構成された検出回路を含み得る。一般に、プロセッサは、検出回路が第3の電極と第4の電極の両方の上で指の接触を検出した時に(例えば、第1のモードにおいて)、3直交リードを収集するように構成され得る。
【0045】
12リード心電図を合成する為の粘着パッチデバイスの一例は、以下を含み得る:背面及び前面を有する粘着材料のパッチであって、背面が患者の胸部に粘着固定されるように構成されている、パッチと、患者の胸部からの生体電気信号を測定するように構成された、パッチの背面に一体化された第1の電極及び第2の電極であって、第1及び第2の電極が少なくとも5cmの距離を隔てて配置されている、第1の電極及び第2の電極と、パッチの前面に設けられ、患者の右手からの生体電気信号を測定するように構成された第3の電極と、パッチの前面に設けられ、患者の左手からの生体電気信号を測定するように構成された第4の電極と、ハウジングが患者の胸部に対して粘着固定された時に、患者の胸部を通る矢状面において第3及び第4の電極の間を通る中心点を形成する処理ネットワークであって、電極及び中心点から3直交心リードが形成される、処理ネットワークと、3直交心リードを処理するように構成されたプロセッサであって、第3の電極と第4の電極の両方で指の接触が検出されると、第1のモードで動作して3直交心リードを測定し、第3の電極と第4の電極の両方で指の接触が検出されない場合、待機モードで動作するように構成された、プロセッサ。
【0046】
このように、本明細書では、QRS軸の変化又はQRS幅の変化を含み得る不整脈の検出、及び/又は不整脈をアーチファクトから区別し得る不整脈の検出の為に、複数の単一チャネル取得を提供し得る心電図(ECG)検出及びレビュー装置及び方法を説明する。心調律異常を評価する為の「絶対的基準」は12リードECG又は12リードホルターである。標準12リードECGの利点は、複数のリードからリズム、伝導、再分極を評価できることにあり、これにより心臓の構造的、電気生理学的、代謝的異常や薬物の影響の診断が可能になる。
【0047】
査読済み出版物では、6種の不整脈(上室性頻拍、AF/AFL、3秒を超える休止、AVB、心室性頻拍、多形性心室性頻拍/細動)の何れか1つのモニタリングの最初の24時間以内に、12リードホルターモニタは主要なECGパッチ技術よりも約17%多く報告可能なイベントを検出したことが指摘されている。その他の不整脈や伝導障害は、ECGパッチでは検出が不十分であった可能性が高いが、これは12リードホルターモニタと比較してシングルリードである為と考えられる。ECGパッチの中には、胸部のみに装着する複数の電極を備えたものもあるが、それでも診断情報は単一信号面に限られる。診断内容の点で12リードと同等のものを達成する為に、本明細書で説明するパッチは、人体の3つの基幹軸である正面、矢状及び横(X、Y及びZ)全ての信号を記録してもよい。
【0048】
心臓の電気生理学的異常は、多くの場合、循環系の障害と共存する。現在又は既往の虚血、梗塞、左室肥大、遺伝性不整脈障害等の病態生理学的状態も、長期(数週間)のモニタリングによって明らかになることがある。冠動脈疾患インターベンション(ステントやバイパス手術)後の患者の退院時には、これらの患者を安心させ、不必要な再入院を減らす為にモニタリングが必要である。シングルリードECG装置による冠動脈疾患の検出は信頼性が低く(精度が低い)、その為シングルリード技術は冠動脈疾患の検出には禁忌である。本方法及び装置は、これらの問題に対処し得る。
【0049】
不整脈や他の心臓疾患の全てが有症状である訳ではないが、その大部分は有症状である。多くの調律障害を診断する為の絶対的基準は、症状とECGの相関である。実際には、ECGパッチを装着している患者は、何らかの症状を示すイベントをマークする必要がある。通常、これは患者が典型的にはパッチの上面に配置された特別な「症状有り」ボタンを押すことによって達成される(例えば、図12参照)。或る意味で、これはECGパッチにおけるイベントモニタリング機能を達成する。通常、患者の胸部からデバイスを取り外した後、複数週間の記録全体が解析の為に送信される。
【0050】
例えば、本明細書では、心臓モニタリングパッチデバイス(例えば、12リード検出用ECGパッチ)が記載され、この心臓モニタリングパッチデバイスは、前面及び後面を有するケーシングと、最も直交する信号収集の為に約5cm、好ましくは10cm以上離間された後面の2つの胸部電極と、前面の第1の指電極及び第2の指電極とを備え、後面は、2つの胸部電極を皮膚に接触させて固定するように構成された粘着剤を含み、更に、第1の手の第1の指が第1の指電極に接触すると同時に第2の手の第2の指が第2の指電極に接触する時を検出し、2つの胸部電極及び2つの指電極からの電気信号を記録するように構成されたプロセッサを含む。
【0051】
幾つかの実施例では、プロセッサは、検出回路が第3の電極と第4の電極の両方で指の接触を検出しない場合に、第1の電極と第2の電極からのECG信号(例えば、1リードECG信号)を自動検出するように構成されてもよい。プロセッサは、検出されたECGから不規則な心信号を検出するように更に構成されてもよく、幾つかの例では、不規則な心信号が検出された時に、患者に第3の電極及び第4の電極に触れるように促してもよく、及び/又は、患者に「症状有り」制御(例えば、ボタン)を作動させるように促してもよい。
【0052】
一般に、本明細書には、4つの電極(2つの手電極と2つの胸部電極)を使用して12リード心電図を合成する為の粘着パッチ装置(デバイス、システム等)が記載されている。例えば、本明細書には、12リード心電図を合成する為の粘着パッチデバイスも記載されており、このデバイスは以下を含む:背面及び前面を有する粘着材料のパッチであって、背面は患者の胸部に粘着固定されるように構成されている、パッチと、患者の胸部からの生体電気信号を測定するように構成された、パッチの背面に一体化された第1の電極及び第2の電極であって、第1及び第2の電極は少なくとも5cmの距離を隔てて配置されている、第1の電極及び第2の電極と、パッチの右腕領域の背面に在り、患者の右腕からの生体電気信号を測定するように構成された、第3の電極と、パッチの左腕領域の背面に在り、患者の左腕からの生体電気信号を測定するように構成された第4の電極と、ハウジングが患者の胸部に対して粘着固定された時に、第3及び第4の電極の間を通過する患者の胸部を通る矢状面の中心点を形成する処理ネットワークであって、3直交心リードが前記電極及び中心点から形成される、処理ネットワークと、第1、第2、第3及び第4の電極から導出された3直交心リードを処理するように構成されたパッチ上のハウジング内のプロセッサ。プロセッサは、第1、第2、第3及び第4の電極からの3直交心リードを周期的に処理するように構成されてもよい。幾つかの実施例では、プロセッサは、第1、第2、第3及び第4の電極からの3直交心リードを連続的に処理するように構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1A】システム内のローカルプロセッサを含む、AMI等の心臓障害の検出の為の診断システムの模式的構成の変形例を示す図である。
図1B】プロセッサがハンドヘルドデバイスからリモートである、リモート診断システムの別の模式図である。
図2A】2つの記録電極と1つの接地電極を伴うハンドヘルドデバイスの一変形例の前面(非胸部)図である。
図2B】2つの記録電極を備えたハンドヘルドデバイスの一変形例の背面(胸部)図である。
図2C】ハンドヘルドデバイスの不等角投影図である。
図2D】患者の身体に対して記録位置で配置されたデバイスの前面図である。
図3A】両手電極を、2つの抵抗器を伴う単純な抵抗ネットワークを介して接続することによって中心点CPを得る為の単純な電気的スキームを示す図である。
図3B】既知の演算増幅器(オペアンプ)構成を介して電極信号を平均化することによって中心点CPを得る為の電気的スキームを示す図である。
図4A】好適な実施形態である、中心点を基準極として用いて1リードで胴体上で測定された3心リードの模式構成の図である。
図4B】中心点を基準極として用いて1リードで胴体上で測定された3心リードの電気回路図である。
図4C】中心点を基準極として用いて2リードで胴体上で測定された3心リードの模式構成の図である。
図4D】中心点を基準極として用いて2リードで胴体上で測定された3心リードの電気回路図である。
図4E】乃至
図4G】2本の胸部電極と2本の手電極からの3リードを測定する為の3つの可能な構成の模式図である。
図5A】2本の前部電極と1本の側部電極を伴うハンドヘルドデバイスの正面(非胸部)図である。
図5B】2本の前部電極と1本の側部電極を伴うハンドヘルドデバイスの背面(胸部)図である。
図5C】2本の前部電極と1本の側部電極を伴うハンドヘルドデバイスの不等角投影図である。
図6A】デバイスの端部に電極を伴うハンドヘルドデバイスの正面(非胸部)図である。
図6B】デバイスの端部に電極を伴うハンドヘルドデバイスの背面(胸部)図である。
図6C】デバイスの端部に電極を伴うハンドヘルドデバイスの不等角投影図である。
図7】携帯電話に取り付け可能なフリップケースとして具現化されたハンドヘルドデバイスの不等角投影図である。
図8】AMIを検出する為の方法のフローチャートである。
図9】12リードに中央値拍動を示す、BER(良性早期再分極)の患者の一例を示す図である。予備拡張及び拡張記録は両方とも、胸部リードにおけるSTセグメント上昇を示し、それは人間の読影者にとっては、虚血性か非虚血性かを判別することは典型的に問題がある。
図10】特殊3リードに中央値拍動を示す、BER(良性早期再分極)の患者の一例を示す図である。予備拡張記録と拡張記録との信号差により、アルゴリズムは虚血性か非虚血性かを判別することが可能になる。
図11】典型的なECGパッチサイズと配置の一例を示し、シングルリードECG記録用に、2つの粘着胸部電極が約10cm離して位置決めされている図である。
図12】先行技術のパッチの図である。
図13】ハンドヘルドECGの一例の図である。
図14】12リードホルターECGモニタの一例を示す図である。
図15】粘着胸部電極を伴う粘着デバイス(例えば、XYZパッチ)の図の一例の底面図である。
図16図15のパッチデバイスの上面図である。
図17】患者の胸部に取り付けられたパッチデバイス(例えば、12リードを検出する為のECGパッチ)の一例を示す図である。
図18】粘着パッチデバイスにおける患者の指の使用の一例を示す図である。
図19】縦に取り付けられた粘着パッチデバイスの一例を示す図である。
図20A】本明細書に記載の粘着パッチデバイスのフローチャートの一例を示す模式図である。
図20B】本明細書に記載の腕接点を含む粘着パッチデバイスのフローチャートの一例を示す模式図である。
図21A】乃至
図21C】本明細書に記載の粘着パッチデバイスの別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本明細書では、急性心筋梗塞(AMI)、心房細動(AFib)等の心臓状態のリモート診断の為の装置(デバイス及びシステムを含む)及び方法を説明する。例えば、本明細書では、3直交心リード信号を方向特異的に記録し、これらの信号をプロセッサ(例えば、PC又は他のコンピューティングデバイス)に送信することができる特殊な電極構成を有するハンドヘルド又は手動デバイスについて説明する。特に、本明細書では、被験者の胸部に長時間装着し、被験者の両手で操作され得る粘着式心臓デバイスについて説明する。プロセッサは、AMIを診断/検出し、診断情報をハンドヘルドデバイスに、及び/又は患者(又は介護者)の個人用デバイス(電話、タブレット等)に送り返すように構成され得る。ハンドヘルド(及び/又は粘着装着型)デバイスは、特徴的な音、音声マッサージ、又はグラフィカルディスプレイを介して、診断情報を患者に伝達してもよい。プロセッサは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア等を介して構成されてもよく、受信した信号を処理して差分信号を生成し、AMIの検出に確実に関連する情報(及び臨床的に関連する追加情報)を抽出してもよい。従って、これらの装置及び方法は、12LECG再構成の必要なく、3リードシステムに基づいて心臓状態の自動検出を実行してもよく、そのような決定を一般的に医療従事者に委ねる先行技術のシステムとは異なり、医療従事者がECGを解釈する必要性を低減又は排除することができる。本明細書に記載された自動診断方法は、改良された心臓デバイスと組み合わせることで、他のシステムに存在するニーズや問題の多くに対処する。
【0055】
具体的には、本明細書では、ユーザが胸部に配置する為の3リード心臓記録デバイスについて説明するが、このデバイスは、デバイスがユーザの両手によって予め定義された配向で保持されて、ユーザの胸部に対して保持された場合に3リード心信号を記録するように、前面及び背面(及び幾つかの変形例では、1つ又は複数の側面)の両方に電極の配置構成を含む。上述の機能を果たす為に、幾つかの実施例では、デバイス(ハンドヘルド型であっても、粘着式に付着/装着されていてもよい)は、ケーブルを使用せずに3リードを記録することができる(例えば、身体に対して保持又は保持される表面電極のみを含み得る)。更に、結果として得られる3リードは非平面であり、可能な限り直交に近い。幾つかの実施例では、少なくとも1つの電極が装置の前面側(胸部側とは反対側)に取り付けられ、胸部に対する装置の保持を補助する力を提供してもよい。先行技術の装置とは異なり、本明細書に記載される装置及び方法は、測定された3リードから12LECGを再構成する必要が無い為、低い非双極含量に対する要件は無い。
【0056】
本明細書に記載のデバイスは、機械的に安定し、胸部との良好な電気的接触を可能にするように構成され、指接点の転換の必要性を無くすることができる。幾つかの実施例では、本明細書に記載のデバイスは5つの電極、例えば4つの記録電極と1つの接地電極を含み得る。本明細書に記載のデバイスは、記録電極である2つの胸部電極を含み得、デバイスの背面側に配置されてもよい(例えば、幾つかの例では、皮膚に粘着結合されてもよい)。幾つかの実施例では、残りの非胸部電極は、右手と左手の指から心信号を収集する為に使用されてもよく、幾つかの実施例では、3つ目の電極は接地電極として使用されてもよい。これら3つの非胸部電極の内の少なくとも1つは、指で押す為に前面側に取り付けられてもよい。幾つかの実施例では、これによってデバイスを胸部に対して保持するのに十分な力を生じさせ得る。幾つかの変形例では、電極を非対称に配置してもよく、この非対称の電極配置は、どの指/手が使用されているかを識別する必要を無くする。例えば、3つの非胸部電極の内の1つは第1の手の1本の指との接触を確立し、残りの2つの電極はもう一方の手との接触を確立し得る。これら2つの電極の内の1つを共通接地電極として使用し、もう1つを信号測定に使用してもよい。このような構成の一例では、2つの胸部記録電極、デバイスの左側に1つの記録用指電極、デバイスの前側に2つの指電極、1つの記録用電極と1つの接地電極がある。幾つかの実施例では、胸部におけるデバイスの最適な位置は、左胸部のデバイスの中心が心筋の中心のほぼ上方に位置することであり得る。この位置では、胸部電極は、従来のECGのV4電極と同じく鎖骨の中点を通る垂直線である鎖骨正中線上にほぼ位置し、胸部下部電極は胸骨の下端の高さにある。
【0057】
別の実施形態では、接地電極を構成から除外してもよく、この場合、アースの無い信号増幅器構成が使用される場合、許容可能な50~60Hzの電気ノイズ性能が得られる可能性がある。又、4つの記録電極構成(2つの胸部電極と2つの指電極がある)でも、上述した高い直交性の条件を満たし得る。この条件を満たす最も簡単な方法は、3つの主要な身体方向、即ち、横方向(左腕-右腕)、矢状方向(背面-前面)、下部方向(頭部-足先)の信号を記録することである。例えば、横方向の信号は、左手と右手の間のリードを測定することによって取得され得る。下部方向の信号は、2つの胸部電極間のリードを測定することによって取得され得るが、このとき、下部方向の胸部電極間の距離は、心筋の凡その直径よりも大きくなるように、少なくとも約5cm、幾つかの実施例では約10cmを超えることが条件となる。理想的なケースでは、矢状方向の信号は患者の背中と胸の間で測定されるが、指と胸部電極のみを使用するという制約では不可能である。これを克服する為に、単純な抵抗ネットワークを用いて、心臓の電気的中心に近い中心点(CP)を作る。ほぼ矢状方向のリードを記録する為に、2つの手電極と2つの抵抗器を用いて得られる中心点(CP)に対する下部胸部電極の電圧を記録する。2つの抵抗器は、夫々約5kΩの等しいものでもよく、又は、左手電極とCPの間に約5kΩの1つ目の抵抗器、右手電極とCPの間に約10kΩの2つ目の抵抗器のような不等なものでもよい。この非対称性は、胴体における心臓の左側の位置を反映し、従って、CPを心臓のほぼ電気的中心に移動させる。このようにして、実質的に直交する3リードシステムを得る。
【0058】
同じCPでの他の類似のリード構成は、2つの胸部電極と2つの手電極の同じセットを使用して、下部方向の胸部電極間の距離を少なくとも5cm、好ましくは約10cmより大きくして選択され得る。このようなリード配置構成は、例えば、両胸部電極を用いてCPに基準極を持つリードを記録する場合、実質的に直交する可能性がある。CPを定義する別の可能性は、3つの電極、2つの手電極と1つの胸部電極、及びY(スター)構成で接続された3つの抵抗器を使用することである。
【0059】
2つの胸部電極と、左手電極に対する右手電極の信号を記録する構成のように、CPの無い他のリード構成も使用され得る。抵抗器やCPを使用しないこのような構成は、例えば50~60Hzの電気ノイズに対してよりノイズ耐性があるが、CPを使用した説明のものよりもリードの直交方向が少ない。一般に、同じ4つの電極を使用する他のリード構成(CP無しの合計20の構成)は、非平面であり、その結果、3方向全ての診断信号を捕捉するが、高度な直交性を欠く可能性があるリードとなる。しかし、これらの構成は、右手電極の使用によって、異なるレベルの直交性を持つ可能性がある。右手電極が4つの電極の中で心臓から最も遠い為、3リードに対応するベクトル間の角度が最も小さくなるので、3リード全てにおいて右手電極を共通の基準極として使用する構成は、直交性が最も低くなる可能性がある。2リードに右手電極を使用した構成は直交性が良く、1リードのみに右手電極を使用した構成は直交性が最も良い。
【0060】
1つ又は複数の胸部電極がデバイスの背面側に追加され、1つ又は複数の対応する追加リードが記録され、診断アルゴリズムで使用されても、説明したソリューションの有効性は影響を受けない。又、前面電極を指で押す代わりに掌や手の他の部分で押しても、効果は影響を受けない。
【0061】
記録手順中にデバイスを上下逆にして、上側が患者の頭の方ではなく、足指の方を向くようにして記録を無効にするのを防ぐ為に、デバイスの上側又は前側の何れか一方を、例えば記録の現在の段階を示すLEDダイオードによって、患者が容易に識別できるように明確に識別及び/又は形成(マーキングすることを含む)してもよい。
【0062】
幾つかの実施例では、心臓デバイス(ハンドヘルドデバイス構成又は粘着式デバイス構成の何れかを含む)は、増幅器及びAD変換器を含むECG記録モジュール、データ記憶モジュール、リモートプロセッサ(例えば、PCコンピュータ、パッド、スマートフォン等)と通信する為のGSM、WWAN、又は同様の電気通信規格で動作する通信モジュール、並びに診断情報をユーザに通信する為の回路(例えば、Wi-Fi、Bluetooth等)を組み込んだスタンドアロンデバイスとして構成されてもよい。或いは、心臓デバイスは、測定電極と記録モジュールを含む改良型携帯電話として実現されてもよい。更に、ケースや交換可能な背面カバーとして携帯電話に取り付けられるデバイスとして実現されてもよい。取り付けられたデバイスは、測定電極と記録モジュールを内蔵し、コネクタ又はBluetooth若しくはANT等の無線接続を使用して携帯電話と通信する。
【0063】
デバイスが、改造された携帯電話として、又は携帯電話に取り付けられたデバイスとして構成される場合、手電極は携帯電話のディスプレイ側に取り付けられ得る。手電極は、携帯電話のディスプレイ側の縁に一体化されるか、又は携帯電話のディスプレイを覆う透明層に組み込まれた導電性領域として、好ましい実施形態における手電極と同様に配置され、心信号測定アプリケーションがアクティブである場合に特別な色で表示される。
【0064】
信号処理及び診断ソフトウェアは、リモートプロセッサ(例えば、PCコンピュータ)上で実行する代わりに、デバイスに内蔵されたプロセッサを含むプロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ)上でも実行され得る。この場合、データや処理のバックアップを除き、記録情報のリモートコンピュータへの通信が不要になる場合がある。又、診断処理がリモートプロセッサによって実行される場合、マイクロプロセッサ上で実行されるソフトウェアのバックアップバージョンがデバイスに統合され、ユーザが無線ネットワークのカバレッジの無いゾーンにいる状況で使用されてもよい。
【0065】
本明細書では、AMI(又はその基礎となる生理学的プロセスである虚血)を自動検出する為の方法及び装置についても説明する。これらの自動化システムは、従来の12リードECGに存在する診断情報の大部分を含む、実質的に直交する3心リードを含み得る。各ユーザは、3心リードによる自身の非症状の心臓記録を最初に送信することによって診断システムに登録される。この最初の記録は、診断記録におけるAMI検出の為の基準ベースライン記録として使用され得る(診断記録とは、同じユーザの3心リードの任意の更なる記録を意味する)。基準ベースライン心臓記録が利用可能であれば、新旧のSTE(又は同等のパラメータ)、及びAMIを示唆する他の心信号の変化を区別することができ、人間のECG解釈者に匹敵する診断精度を有する自動化AMI検出ツールを提供することが可能となる。
【0066】
本明細書に記載のデバイス(例えば、ハンドヘルド型及び/又は粘着型)の胸部への最適な配置は、典型的には、デバイスの中心が心筋の中心のほぼ上方の胸部の左側となる場合であり得る。この位置では、デバイスの右端は、胸骨の垂直な中間線である中胸線から約3cm離れており、デバイスの下端は胸骨の下端とほぼ同じ高さにある。理想的なケースでは、ユーザは最初のベースライン記録で胸部上の最適な位置を選択し、今後の各診断記録でこの位置を繰り返す。このような状況では、心臓の記録は反復性が有り、AMIを示唆する心信号の変化を検出することは容易である。
【0067】
幾つかの変形例では、数日、数週間、数ヶ月といった長期間を含め、被験体(例えば、患者)の胸部にデバイスを固定する為に粘着剤を使用してもよい。従って、装置は粘着性材料を含んでもよいし、粘着パッチ又はドックを使用して装置に再現可能に接続し、ユーザの所定の位置に保持してもよい。例えば、ベースライン記録中とそれ以降のテスト記録中の電極の同じ記録位置は、胸部電極付きの(又は胸部電極付き装置に接続する)自己粘着性パッチを使用して達成され得る。胸部電極付き自己粘着性パッチは、最初の記録の為に貼り付けられ、ユーザの胸部の同じ場所に残る。同様に、電極を所定の位置に配置する為に、装置がドッキングできるパッチを使用してもよい。ユーザは手電極に触れる必要がある。
【0068】
現実のケースでは、ユーザが基準位置と比べて異なる位置にデバイスを配置することがあり、それにより診断精度が損なわれる可能性がある。この誤配置は、3心リードによって定義される3Dベクトル空間における心電軸の仮想的な変化に相当する。幾つかの変形例では、この角度変化は、ベースライン記録と比較した各検査記録について計算され得る。角度変化が15度等の閾値より大きい場合、ユーザはベースライン位置に近い位置を選択するように警告され得る。変化が閾値より小さい場合は、3Dベクトル空間内でテスト記録の信号ループを回転させることによって補正し、ベースライン信号と実質的に等価な信号を得てもよい。
【0069】
左右の指を転換することや、デバイスを上下逆にすることはあまり可能性が無いが(非対称の電極構成や装置の構成、例えばデバイスの上側や前側の明確な表示による)、それでも有り得る場合がある。この場合、3つの信号が全て使用できなくなる可能性がある。どちらの場合も、左手と右手の間に記録されたリードの信号が反転する可能性がある為、これらのユーザエラーは両方とも容易に検出され得る。このような場合、ユーザは、正しい記録位置で記録を繰り返すように警告され得る。
【0070】
AMI(又は虚血)を自動検出する方法は、幾つかの変形例において、以下のステップを含み得る:ユーザの胸部の記録位置にデバイスを配置するステップ、最初の3リード心臓記録を取得し、その信号を処理装置に伝達するステップ、後続の任意の診断記録と更に比較する為のベースライン記録として、処理装置のデータベースに最初の記録を保存するステップ、3リード心臓診断記録を取得し、その信号を処理装置に伝達するステップ、結果としての信号を処理するステップ。処理装置による、保存されたベースライン信号及び診断記録の信号の処理は、以下のステップを含み得る:電力線干渉、ベースラインワンダリング、筋ノイズを除去する前処理ステップ、フィデューシャル点と中央値拍動手順を使用して代表拍動を得るステップ、左右の指の転換をチェックするステップ、対応するポイントが同期するようにベースラインと検査記録の代表拍動を同じ時間枠に入れるビートアライメント、3心リードベクトル空間における心電軸のずれを補正することにより検査信号を記録する際の胸部電極の位置ずれを補正するステップ、ベースライン信号と診断用3心リード信号の間の変化を表す差分信号を計算するステップ、検査記録のパラメータをベースライン記録と比較することによって又は差分信号のパラメータを予め定義された閾値と比較することによって虚血を示唆する心信号の変化を検出するステップ、処理装置によって情報をデバイスに伝達するステップ、及び最終的にデバイスによって診断情報を患者に伝達するステップ。
【0071】
STE(STセグメント上昇)は虚血時の最も一般的なECG変化であり、通常J点又は最大80msec後に測定される。STEをパラメータとして使用して、検査記録におけるSTEをベースライン記録と比較することにより虚血性変化が検出され得る。又、虚血性変化は、ベースライン記録を基準として、特殊3心リード(STVD)で定義されるベクトル空間におけるSTベクトルのベクトル差を測定することによっても検出され得る。上述したように、これらのパラメータ(例えば、ST、J、STVD、STE)は、従来の12リードECG信号に関して定義されるが、本明細書では、本明細書に記載される3心リード(直交信号)について決定される等価な測定値を指す。従って、これらの等価な点、領域又は現象(例えば、STE、ST、J、STVD等)は、本明細書に記載の心信号と、従来の12リードECG信号を含む従来のECG信号との間の比較によって同定され得る。
【0072】
ECG信号の他のパラメータも、ベースライン基準信号との比較に使用されてもよく、例えば、J点とJ+80msec点との間のベクトル信号ホドグラフを包絡する球の半径として定義される「Clew」等がある。
【0073】
個人の心信号は、その形状に関する限り再現性が高い。健康な人、或いは安定した状態に在る人の信号形状の変化は一般に小さい。例えば、胸郭に対する心臓の位置の変化により、心電軸は最大10°変化する。しかし、良性早期再分極(BER)のように、信号形状が経時的に変化する場合もある。このような信号の変化は非常に個人差が大きく、重大なものになる可能性がある。このような変化を補正する為に、ユーザが一定期間に亘って撮影した幾つかのベースライン記録を使用して、特殊3心リードによって定義されるベクトル空間内の3D輪郭を形成する基準を形成してもよい(単一のベースライン記録が使用される場合の1点の代わりに)。このような3D輪郭基準を使用する場合、STベクトル差(STVD)は、ベースラインSTベクトルからの代わりに、3D輪郭からの距離として定義されてもよい。虚血検出の為に複数のパラメータが使用される場合、そのような基準輪郭は、そのようなパラメータによって定義される多次元パラメータ空間における超曲面として構築されてもよい。この場合、基準超曲面からの超距離は、前記パラメータ空間において定義される。
【0074】
幾つかの状態において、信号形状の変化は又、ブルガダ症候群、WPW症候群、脚ブロック(BBB)等のように間歇的(状態が「行ったり来たり」する)である可能性がある。このような状態での信号変化を補正する為に、2つのベースライン記録グループ(例えば、少なくとも2つの記録)を使用して、正常信号を伴うグループと前記間欠的な状態が存在するグループとの基準を定義してもよい。これらの2つのグループは、ベクトル空間において2つの3D輪郭を形成し、比較の為の基準を形成する。これら2つの3D輪郭は重なっても重ならなくてもよい。重ならない場合、STベクトル差(STVD)は2つの3D輪郭上の最も近い点からの距離として定義される。虚血検出に複数のパラメータが使用される場合、そのような基準輪郭は、そのようなパラメータによって定義される多次元パラメータ空間内の2つの超曲面として構築される。この場合、基準超曲面からの超距離は、前記パラメータ空間において定義される。
【0075】
本明細書に記載の方法の主な使用は、最も緊急の心臓診断であるAMIの検出に適用され得る。更に、リモートプロセッサ(又はハンドヘルドデバイスの統合プロセッサ)の診断方法(例えば、ソフトウェア)は、慢性冠動脈疾患(CAD)、左心室肥大(LVH)、脚ブロック(BBB)、ブルガダ症候群、心房細動(AF)等の調律障害等の他の心臓状態を検出できる。
【0076】
本明細書に記載の方法は、従来の12リードECG記録の再構成を必要としないが、それらの再構成に使用され得る。検出される上述の状態の多くでは、AMIに比べれば程度は低いものの、治療が緊急に必要とされる場合がある。又、そのような状態の多くは一過性のものであり、ここで説明した技術を用いて検出され得るが、後にユーザが外来受診した時には存在しない場合がある。このような場合、記録時に発見された病態のECG信号を提示し、医師が診断の確認に使用できるようにすることが有用であろう。医師は従来の12リードECG記録に習熟している。従って、病態が発見された時に記録された特殊3心リードを変換して、従来の12リードECG記録の近似再構成を生成してもよい。このような再構成は、特殊3心リードと12×3の行列との乗算によって取得され得る。この行列は、母集団行列、即ち、個体の母集団において従来の12リードECGと特殊3心リードを同時に記録することによって取得された個々の行列の平均値又は中央値として計算される係数を有する行列として取得されてもよく、各個々の行列は最小二乗法を用いて取得される。このような行列係数は、ユーザの体型に依存する。従って、単一の母集団行列を使用する代わりに、性別、身長、体重、胸囲等、ユーザが容易に得ることができる体型や身体構造の単純なパラメータによって定義されるユーザのグループ毎に、複数の行列を使用してもよい。又、行列係数は、このような身体パラメータの連続関数としても取得され得る。
【0077】
図1Aは、心信号検出及び/又は診断の為のシステム2を操作する方法の一変形例を示す。図1Aにおいて、ユーザは心信号を(例えば、2つ以上の時間において)記録してもよく、装置は3直交リードを処理して異なる時間(例えば、ベースライン対アッセイ時間)を比較してもよい。装置のプロセッサは更に、その結果得られた差分信号が心臓の問題を示しているかどうかを判定し、ユーザに警告することができる。その後、ユーザ(患者)は必要に応じて医療支援を受けることができる。図1Bは、心臓機能障害を検出する為のシステム及び方法の他の変形例を示し、ハンドヘルドデバイスのケーシング3に直接取り付けられ、心信号取得用の電極を内蔵したハンドヘルドデバイス2と、デバイスに電気通信リンクを介して接続されたPCコンピュータ4とを含む、AMIのリモート診断の為のシステム1を含む。
【0078】
このデバイスは、電極によって検出された信号を増幅する為の増幅器及びAD変換器を含む心信号記録回路、記録信号を記憶する為のデータ記憶装置(例えば、メモリ)、リモートプロセッサ4と通信する為のGSM、WWAN、又は同様の電気通信規格で動作する通信回路、並びに診断情報をユーザに伝達する為の視覚的及び/又は音声(例えば、モニタ、スピーカー等)を更に内蔵している。
【0079】
デバイスは、統合された通信回路を介してリモートプロセッサ4と通信してもよい。リモートプロセッサ4は、統合通信モジュールを介してハンドヘルドデバイス2と通信してもよい。プロセッサ4は、受信した心信号を処理し、診断情報を生成し、その情報をハンドヘルドデバイスに伝送して、特徴的な音若しくは音声メッセージを生成するマイクロフォンを介して、又はデバイスに統合されたディスプレイを介してグラフィック情報の形態で、診断情報を患者に伝達する為の診断ソフトウェアを備えてもよい。その結果、システムは3リードシステムに基づいて心臓の状態を自動検出可能であり得、専門家による処理された診断情報の解釈を必要としない。或いは、リモートプロセッサの代わりに、システムは、記録された心信号を処理して診断情報を生成する為に、ハンドヘルドデバイスのケーシング3に統合されたマイクロプロセッサを含んでもよい。
【0080】
図2A図2B及び図2Cは、夫々、ハンドヘルドデバイスの一例の正面図、背面図及び不等角投影図である。図2Aは、ユーザによって保持された記録位置にあるデバイス2の正面図である。デバイスのケーシング3には、特殊3ECGリード信号の記録を可能にするような配置で配置された4つの記録電極A、B、C、D及び1つの接地電極Gを組み込んでもよい。この実施例のデバイスの平坦な裏面5には、記録位置で患者の胸部に接触する為に使用される2つの記録電極A及びBが取り付けられている。2つの胸部電極A及びBは、好ましくは少なくとも5cm超、より好ましくは下部方向に約10cmを超える距離をカバーするように配置される。このような間隔を空けて配置する理由は、リードの直交性を可能な限り近づける為に必要な、心筋の凡その直径を超える距離を達成する為である。
【0081】
AとBの2つの胸部電極に加えて、この実施例のデバイスには、裏面5と実質的に平行で対向する平坦な前面6に取り付けられた2つの記録電極CとDがある。これらの電極C及びDは、夫々左手と右手の指で押すことで手の心信号を記録する為に使用される。第5の電極Gは接地電極として働き、左手の指で押す為に前面6に取り付けられている。
【0082】
図2Aに戻ると、記録位置における本発明の好ましい実施形態の図が示されている。操作の為に、ユーザ(例えば、患者)は、患者の人差し指と中指が夫々電極CとGに接触するように、デバイスを左手に置き、胸部とデバイスとの間に緊密な接触を生じさせる為に、図2Eに示す様式で、胸部電極AとBとが胸部に接触するように、デバイスを胸部に位置決めして押し付ける。こうすることで、デバイスを胸に密着させるのに十分な圧力が得られる。同時に、右手の指(又は右手の任意の他の部分)が、ケーシング3の前面6に取り付けられた基準電極Dを押す。
【0083】
図2Dに戻ると、本発明の好ましい実施形態による記録位置で患者の体に当てられたデバイスの正面図が示されている。最適な記録位置では、デバイスの中心が心臓の中心の上方に密接に配置され、胸部電極A及びBが鎖骨正中線(鎖骨の中点を通る垂直線)上にほぼ位置し、下側の胸部電極Bは胸骨の下端の高さにほぼ位置するようになる。
【0084】
図3Aの例は、両手電極を2つの抵抗器による単純な抵抗ネットワークを介して接続することで中心点CPを得る為の単純な電気的スキームを示す。同様に、図3Bは、オペアンプを介したバッファリングと平均化を使用して中心点CPを得る為の電気的スキームを示す。
【0085】
図4Aは、一実施形態によるリード構成の空間図を示し、身体に対する活性電極A、B、C、Dの配置と、電極間の相対配置とを示している。図4Bは、図4Aに示した電極間の相対配置と同じ配置を示す簡略電気回路図である。ほぼ矢状方向のリードを記録する場合、中心点CPに対する下側の胸部電極Bの電圧は、手電極C、Dと2つの抵抗器R1、R2を用いて求めることができる。2つの抵抗器R1、R2は、夫々約5kΩの等しい抵抗器であっても、左手電極とCPの間で約5kΩ、右手電極とCPの間で約10kΩの不等の抵抗にしてもよい。この非対称性は、胴体における心臓の左側の位置を反映している可能性が有り、従ってCP点を心臓のほぼ電気的中心に置くことになる。このようにして、実質的に直交する3リード構成が得られる。
【0086】
図4Cは、同じ胸部及び手電極A、B、C、Dを使用した、中心点CPを持つ代替リード構成の空間図であり、身体に対する電極の配置並びに電極間の相対配置を示す。図4Dは、図4Cに示した電極A、B、C、D間の同じ相対配置を示す簡略電気回路図である。中心点CPを使用し、CPと胸部電極夫々との間の2リードを測定するこの代替リード構成も又実質的に直交するが、それは、胸部電極A、Bを用いて、2つの手電極C、Dと2つの抵抗器R1、R2を用いて取得したCPでの基準極でリードを記録するからである。
【0087】
図4Eに示す構成のように、中心点CPと抵抗器の無い他のリード構成も使用され得るものであり、2つの胸部電極と、左手電極に対する右手電極との信号を記録する。図4F図4Gに他の2つの同様の構成を示す。抵抗器を用いないこのような構成は、50~60Hzの電気ノイズのような外部干渉を受け難いが、先に述べたCPを用いたものよりもリードの直交方向が少ない。一般に、同じ4つの電極を使用する他のどのようなリード構成も、非平面性をもたらす可能性が有り、その為、3方向全ての診断信号を捕捉するが、高い直交性を欠く。図4E図4F図4Gに示すものを含め、CPの無い合計20の可能な構成がある。しかし、これらの構成は、右手電極の使用次第で直交性のレベルが異なる。右手電極が4つの電極の中で心臓から最も遠く、3リードに対応するベクトル間の角度が最も小さくなる為、3リード全てに共通基準極として右手電極を使用する構成は、最も低い直交性を有する。図4Fに示す構成のように、2リードに右手電極を使用する構成は直交性が良く、図4E及び図4Gに示す構成のように、1リードのみに右手電極を使用する構成では、最良の直交性が達成される。
【0088】
図5A図5B及び図5Cは、夫々、ハンドヘルドデバイスの代替実施形態の正面図、背面図及び不等角投影図を示しており、図5Aは、ユーザによって保持される記録位置におけるデバイスの正面図を示している。代替実施形態では、右手の指で押すことによって右腕のECG信号を記録する為の電極D1が、上述の実施形態と同様に、ケーシング31の側面71に、前面61に代わりに取り付けられている。患者の胸部のECG信号を記録する為の活性記録電極A1、B1は、上記実施形態と同様に、デバイスの裏面51に取り付けられている。又、左手の指で押圧して左手のECG信号を記録する為の活性記録電極C1と、左手の別の指で押圧する為の接地電極G1とが、上記と同じ様式で前面61に取り付けられている。
【0089】
右手電極を左手で誤って押したり、左手電極を右手で誤って押したりすることが無いように、非対称の電極構成にすることで指の転換を防ぎ得る。しかし、各実施形態(好ましい実施形態及び代替実施形態)において、デバイスを上下逆にすると誤った記録を招く為、デバイスの上部(頭部に面する)と下部(足指に面する)を容易に区別できるようにしてもよい。これは、現在の記録段階を示すLEDダイオードを装置の上側又は前側の何れかに、デバイスケーシングの前面に組み込むことによって行ってもよい。
【0090】
本明細書に記載の心臓デバイス(例えば、ハンドヘルド型、粘着型等)は、増幅器及びAD変換器を含むECG記録回路、データ記憶回路(メモリ)、リモートPCコンピュータと通信する為のGSM、WWAN、又は同様の電気通信規格で動作する通信回路、並びに診断情報をユーザに伝達する為の出力(例えば、スクリーン、スピーカー等)を組み込んだスタンドアロン型デバイスとして実現され得る。実施形態では、装置は、測定電極と心信号記録機能を含む改良型携帯電話で動作するように構成されてもよい。更に、装置は、ケース又は交換可能な背面カバーとして携帯電話(スマートフォン)に取り付けられるシステムとして実現され得る。装着されたデバイスは、測定電極と心信号記録モジュール(電極、バランシング回路等)を組み込んでもよく、コネクタ又はBluetooth若しくはANT等の無線接続を使用して携帯電話と通信する。
【0091】
図6A図6B及び図6Cは、夫々、ハンドヘルドデバイスの別の代替実施形態の正面図、背面図及び不等角投影図を示す。デバイスの背面52には、好ましい実施形態と同じ方法で記録を行う患者の胸部に接触する為の電極A2、B2が取り付けられている。デバイスの前面62には、活性電極C2、基準電極D2、接地電極G2の3つの電極がある。全ての3つの電極C2、D2及びG2は、細長い、梁又は帯のような形状を有し、側面から部分的にアクセスできるように、好ましくはハウジング32の2つの長辺側の平行な縁に沿って、デバイスの前面62に一体化されている。記録位置では、電極C2、D2、G2は、夫々図2Aに示した電極C、D、Gについて示したものと同等な方法で、左右の手の指で触れられる。この電極配置は、デバイスが、測定電極と心信号記録モジュールとを含む改良型携帯電話として実現される場合、又は、デバイスが、ケース又は交換可能な背面カバーとして携帯電話に取り付けられるデバイスとして実現される場合に適している。このような実施形態では、細長い電極は、携帯電話やタブレットのディスプレイを囲むフレームの一部であってもよい。
【0092】
幾つかの実施例では、片側に2つの電極を配置し、反対側に電極を配置する代替的な電極配置も、指の転換の必要性を回避する非対称性の要件を満たす。
【0093】
別の代替例では、デバイスは、記録電極と心信号記録モジュールを含む、タッチスクリーンを備えた改良型携帯電話である。手や指で押す為の3つの手電極は、携帯電話のディスプレイを覆う透明な層に組み込まれた透明な導電領域として実現され、好ましい実施形態における手電極と同じように配置される。スマートフォンのアプリケーションは、心信号記録アプリケーションがアクティブな場合、画面上の導電性領域を特別な色で表示する。
【0094】
別の代替実施形態では、デバイスは胸部電極を伴う自己粘着性パッチを含む。この自己粘着性パッチは、ユーザの胸部上に貼り付けられて、ベースライン及びその後の全ての診断記録について、上記のように同じ胸部電極位置を可能にする。代替的又は追加的に、装置(例えば、システム)は、本明細書に記載の電極を含むデバイスの何れかと接続する為のドッキング領域を有する、デバイスをユーザの胸部の同じ位置に接続する(又は、その為のフィデューシャル基準を提供する)為に使用され得るパッチを含んでもよい。例えば、ドッキング粘着パッチは、デバイス上の胸部電極をユーザの胸部の再現可能な位置に保持する為にデバイスに接続する嵌合部品又は領域を含み得る。幾つかの変形例では、ドッキング粘着剤はバンドエイドタイプの材料を含み、長期間(例えば、数時間、数日、数週間)に亘ってユーザに装着され、同じ基準位置を維持する為に別の粘着剤と交換されてもよい。
【0095】
図7は、所謂携帯電話用フリップケース又は財布の形態を有する、ケース又は交換可能な背面カバーのような、携帯電話への拡張部83として実現されるデバイスの別の実施形態を示し、デバイスの裏側に胸部電極A3及びB3が組み込まれ、左手及び右手の指電極C3、D3及びG3が携帯電話ケーシングのフリップ型電話ディスプレイカバー93に組み込まれている。
【0096】
図8は、本発明の好ましい実施形態によるAMIの自動検出方法のブロック図である。AMI(又は虚血)の自動検出の為の方法は、以下に説明するステップの全て又は幾つかを含み得る。先ず、ユーザの胸部の記録位置にデバイスを配置する。
【0097】
胸部におけるデバイスの最適な位置は、デバイスの中心が胸部の左側で、心筋の中心のほぼ上方である。この位置では、胸部電極は、従来のECGのV4電極と同じように、鎖骨の中点を通る垂直線である鎖骨正中線上に在り、下側の胸部電極は胸骨の下端の高さにほぼある。ユーザは、左手の指で1つの活性電極と1つの接地電極を押し、右手の指で1つの活性電極を、デバイスの前面で押す。
【0098】
本方法は又、最初の3リード心臓記録の取得と、処理装置への信号の伝達を含んでもよい。自動化AMI診断システムのユーザは、短時間(例えば、少なくとも30秒間、少なくとも20秒間、少なくとも10秒間、少なくとも5秒間等)デバイスを胸部に当てておくことによって、3リード心信号の記録を実行することができる。記録はデバイスのメモリに保存され、その後、商用通信ネットワークを介してリモートPCコンピュータに送信される。
【0099】
本方法は、最初の記録をベースラインとして処理装置のデータベースに保存することも含む。自身の心信号の最初の送信を行った後で、心信号の記録はリモートプロセッサに保存され、ユーザは診断システムに登録されてもよい。この最初の送信の前に、ユーザ又はその医師/看護師は、年齢、性別、心血管疾患の危険因子等の医療データを(専用のウェブサイトを介して)入力し、現在胸痛や虚血を示唆するその他の症状が有るかどうかを示すことができる。回答が否定的な場合、この最初の心臓の記録は、虚血を示唆する症状が発生する可能性がある場合に、それ以降の送信で比較の基準となるベースライン記録として診断用システムに保存される。
【0100】
本方法は、3リード心臓診断記録を取得するステップと、その信号を処理装置に伝達するステップを更に含んでもよい。ベースライン記録が受理され、データベースに保存された後の任意の後続記録は診断記録と見做される。自動化AMI診断システムのユーザは、少なくとも10秒間デバイスを胸に当てて、3リード心信号の診断記録を実行する。診断記録はデバイスのメモリに保存され、商用通信ネットワークを介して遠隔地のPCコンピュータに送信される。
【0101】
一般に、本明細書に記載の方法は、処理装置によるベースライン記録及び診断記録の保存信号の処理を含んでもよい。処理には前処理が含まれる場合がある。例えば、装置/方法は、Va、Vb、Vcを、デバイスを使用して記録された特殊3リードとするように構成され得る。解析を行う前に、心信号は電力線干渉、ベースラインワンダリング、筋ノイズのような妨害因子を「一掃」しなければならない。前者2つは夫々標準的な適応フィルタリングと3次スプライン法で除去できるが、後者は時間平均化中央値拍動法で抑制する。
【0102】
中央値拍動を生成する為に、心信号全体の線を描出してもよく、一組のフィデューシャル点S={P,P,...,P}をもたらし、ここで、Pi={Q、R、J、T、Tend}(又はこれらの位置に相当する点)はi番目の拍動のフィデューシャル点である。Sに基づいて、信号は同じ長さのn個の個々の拍動に分割される。最後に、相互相関(CC)を用いて個々の拍動を同期させ、各サンプルについて全n拍動の中央値を計算する。こうして、心信号全体が、最も代表的な1つの中央値拍動によって表現される。中央値拍動に関連する一組のフィデューシャル点P={Q、R、J、T、Tend}は、個々の拍動のフィデューシャル点の中央値として単純に計算される。
【0103】
中央値拍動以外の代表拍動を求める手法も使用され得る。各拍動のフィデューシャル点をもたらす心信号の描出は、ウェーブレット変換、サポートベクターマシン等のような異なる技法を使用して行われてもよい。
【0104】
ベースライン記録にも診断記録にも同じ前処理手順が使用される。
【0105】
左手と右手の間に記録されたリード、又は横方向の信号を捕捉している他のリードが反転している場合、ユーザは、正しい記録位置を使用して記録を繰り返すように警告される。
【0106】
処理は、ビートアライメントも含み得る。例えば、装置又は方法は、B及びDが夫々ベースラインECG及び診断ECGから抽出された中央値拍動を表し、PB及びPDがそれらに関連するフィデューシャル点を表すように構成され得る。ビートアライメントの目的は、BとDを同じ時間枠に収め、対応する点を正確に同期させることである。この為には、Bと呼ばれる変換されたBがDに最適に同期するように探し出すことが必要である。適用される変換は、Bの区分的な均一再サンプリングであり、PBとPDで夫々定義されるBとDの対応するセグメントが同じサンプル数を有するようにする。最適なアライメントは、アライメントを定量化するコスト関数又は類似度尺度(SM)を最適化するようなフィデューシャル点PBを探索することによって得られる:
【数1】
【0107】
次に、P を用いてBを変換することによって、Bを得る。
【0108】
本実施形態では、形状ベースのアライメント問題に一般的に使用されるSMであるCCを使用した。しかし、CCのみを用いた場合、BとDの形状が大きく異なる可能性がある為、誤ったアライメントに至る可能性がある。そこで、重み付け関数fwiを導入するが、それは、フィデューシャル点Pが正確に判っていると仮定される為、Pからの大偏差にペナルティを与える:
【数2】
【0109】
ここで、i=Q、R、J、T、Tendであり、ΔPBiはi番目のフィデューシャル点からの偏差であり、ciはフィデューシャル点に依存するスケール因子である。即ち、R点はECG信号の中で最も安定した基準である為、その偏差は最もペナルティを受ける。一方、JとTendは最も安定性が低い為、より大きい偏差が許容される。全体のSMは、CCと重み付け関数fwiの和との積として計算される:
【数3】
【0110】
最後に、式(1)に従って、式(3)で与えられるSMの最適値を求めることによりBを得る。
【0111】
処理は、胸部電極の位置ずれの補正をも含み得る。ハンドヘルドデバイスの通常の使用中、胸部電極は毎回同じ場所に配置されるとは限らない為、病理学的な問題がなくても心信号の形状が変化することがある。この変化は、リード位置が一定であると仮定した場合、Va、Vb、Vcリードベクトル空間における「仮想」心電軸の偏位としてモデル化され得るものであり、心電軸はRベクトル-QRS複合体(又は本明細書で説明する3リード心信号における同等の領域)において大きさが最大となる瞬間の心臓ベクトル-によって表される。しかし、これは病理学的に誘発された変化が無いにも拘らず、差分信号ΔDが大きくなる為、望ましくない特性である。この問題を克服する為に、Dを変換してD=TDとし、その心電軸がBの軸と重なるようにする。変数Tは最小二乗法と、D及びBのQ-Jセグメント(QRS複合体)とを入力として用いて計算される。
【0112】
一般に、処理は、ベースライン信号と診断3心リード信号との間の変化を表す差分信号の計算も含み得る。差分信号ΔDは次のように計算される:
【0113】
【数4】
【0114】
最終的に、このような差分信号ΔDは病理学的に誘発された変化のみを反映することとなり、心軸偏位とは無関係である。
【0115】
心軸偏位角が大きくなるにつれてデバイスの位置ずれ補正の質は低下する為、角度変化が15度等の閾値より大きい場合、ユーザはベースライン位置に近い位置を選択するよう促される。
【0116】
本明細書で説明する処理方法及び装置は、虚血性変化の検出も含み得る。STEは虚血の場合に最も一般的なECG変化であり、通常J点又は最大80msec後に測定される。本解決法では、虚血性変化は、試験記録をベースライン記録と比較することによって検出される。好ましい実施形態では、虚血検出の為のパラメータ又は「マーカー」は、STVM(又は本明細書に記載の心信号における同等の領域)であり、J点の80msec後(J+80msec)における補正差分信号ΔDのベクトルの大きさを、0.1mV等の予め定義された閾値と比較したものである。
【0117】
他の実施形態では、他の時点におけるベクトルの大きさを、J点、J+60msec、Tmax等の虚血のマーカーとして使用してもよい。STセグメント(J点とJ+80ミリ秒点との間のECG信号セグメント、又は同様のもの)の形状を表す他のマーカーを使用してもよい。このようなマーカーは、J点とJ+80msec点との間のベクトル信号ホドグラフを包絡する球の半径として定義される「Clew」である。又、STVMマーカーとClewマーカーの線形結合を用いたロジスティック回帰等、他の複合マーカーを用いてもよい。
【0118】
経時的な信号形状の変化を補正する為に、ユーザが一定期間に亘って撮影した幾つかのベースライン記録を使用して、特殊3心リード(単一のベースライン記録が使用される場合は単一点の代わりに)によって定義されるベクトル空間内の3D輪郭を形成する基準を形成してもよい。このような3D輪郭基準を使用する場合、STベクトル差(STVD)は、ベースラインSTベクトルからの距離ではなく3D輪郭からの距離として定義される。虚血検出の為に複数のパラメータが使用される場合、そのような基準輪郭は、そのようなパラメータによって定義される多次元パラメータ空間における超曲面として構築されることになる。この場合、基準超曲面からの超距離は、前記パラメータ空間において定義されることとなる。
【0119】
間歇的な信号形状の変化を伴う心臓の状態を有するユーザでは、そのような変化の補正は、2つのグループのベースライン記録(少なくとも2つの記録)を形成して基準を定義することによって行われてもよく、1つは正常信号によるもの、1つは前記状態でのものである。これらの2つのグループは、ベクトル空間において2つの3D輪郭を形成し、比較の為の基準を形成し、STベクトル差(STVD)は、2つの3D輪郭上の最も近い点からの距離として定義される。虚血検出に複数のパラメータが使用される場合、そのような基準輪郭は、そのようなパラメータによって定義される多次元パラメータ空間内の2つの超曲面として構築される。この場合、基準超曲面からの超距離は、前記パラメータ空間において定義される。
【0120】
これらの方法及び装置は何れも、処理装置による情報をデバイスに伝達するように構成され得る。作成された診断情報は、リモートプロセッサ(例えば、PCコンピュータ、サーバ等)から商用通信ネットワークを介してデバイスメモリに送信されてもよい。本方法及び装置は、装置による診断情報を患者に伝達するようにも構成され得る。受信した診断情報は、特徴的な音、音声、グラフィック又はテキストの形態でユーザに提示され得る。
【0121】
更に、評価の為に、近似的な従来の12リードECG信号をユーザの医師に送信してもよい。この信号は、ユーザによって記録された特殊3心リード信号を変換することによって、従来の12リードの近似的な再構成として生成されてもよい。この再構成は、特殊3心リードと12×3の行列との乗算によって得られてもよい。一実施形態では、この行列は、従来のベクトル心電図を定義する為に先に説明したものと同様に、人体の表面上の電位分布の一般的な解を用いて計算により求めることができる。別の実施形態では、この行列は、母集団行列、即ち、個体の母集団において従来の12リードECGと特殊3心リードとを同時に記録することによって、得られる個々の行列の平均値又は中央値として計算される係数を有する行列として得られてもよく、各個々の行列は最小二乗法を用いて得られる。更に別の実施形態では、複数の行列を、性別、身長、体重、胸囲等、ユーザが容易に得ることができる体型及び身体構造の単純なパラメータによって定義される対応するユーザグループで使用してもよい。又、行列係数は、このような身体パラメータの連続関数として求めてもよい。
【0122】
粘着デバイス
上述のように、本明細書に記載の装置(例えば、デバイス)の何れも、被験者(例えば、患者)に粘着固定されるように構成されてもよく、上記のように配置された2つ以上の指電極と同様に、粘着側に2つ以上の電極を含んでもよい(ハンドヘルドの例と同様又は同一)。これらの装置は、説明したハンドヘルド装置の特徴の何れを含んでもよい。これらの粘着デバイスは「パッチ」デバイスとも呼ばれ得る。従って、本明細書で説明するデバイス及びシステムは、心臓の状態を検出する為に使用され得る12リードECG情報を受信して処理するように構成されたECGパッチを含み得る。これらのECGパッチは、長時間(例えば、24時間超)装着され得る。
【0123】
本明細書に記載のECGパッチは、従来技術の主要な制約に対処する。上述したように、12リードECGは、殆どの心臓の状態に対して、シングルリードECGよりも診断的に優れている。その為、12リードECGは専門的な医療用として標準的な治療法となっている。12リードホルター(例えば、図14参照)に関連する患者の不便さ故に、24時間超の装着が非現実的なものとなっている。従って、より長期の連続モニタリング機能と12リードECG機能とを組み合わせた数週間のモニタリング用のECGパッチが大きな価値を持つことが理解される。更に、パッチは、被験者がパッチを装着している間、有症状エピソードのモニタリングを可能にし得る。
【0124】
上述のように、一般に、本明細書に記載の方法及び装置は、実質的に直交する心電図リード、即ち心臓ベクトルのXYZ投影のセットを提供することができ、従って、患者が症状を経験している間、実時間又はほぼ実時間を含む12リード記録の合成を可能にする。本明細書で説明するウェアラブルパッチECG12リードECGセンサは、感知電極間に約5cm、好ましくは10cm以上の離隔を有し得る。パッチで心臓ベクトルのX、Y及びZ投影を記録する能力を達成する為に、パッチは、2つの指電極、並びにパッチのECG記録エレクトロニクス内部の抵抗ネットワークの追加を含み得る。これらの装置の何れもが、上述したような抵抗ネットワークを含み得る。
【0125】
例えば、図15は、本明細書に記載されるような12リード(又は12リードと3リードの両方)検出用に構成されたECGパッチ1500の一例を、粘着性胸部電極として示している。図15は、12リード検出用のECGパッチ1500の底面図を示す。一対の胸部電極1507、1509は、端から端まで少なくとも10cm離して一列に配置されている。粘着剤1501は、電極が被験者の胸の皮膚と電気的に連通するようにデバイスを固定してもよい。幾つかの実施例では、粘着剤は、デバイスを長期間(例えば、数日、数週間等)胸部に固定し得る医療用粘着剤である。幾つかの実施例では、電極上の領域は粘着剤を含まない。幾つかの実施例では、電極上の領域は導電性ヒドロゲルのような粘着剤を含む。
【0126】
図16は、2つの指電極1603、1605を含む同じデバイス1500の上面図である。図示のように、これらの指電極は、12リード検出用のECGパッチの上面又は側面、例えば非粘着面に組み込まれている。この構成により、機能性及び診断性能(例えば、図13に示され、参照により本明細書に援用されるPCT/US2020/032556号に記載されたハンドヘルドデバイスに記載されたものと同様又はそれ以上)を確保することができる。図16において、パッチデバイスは又、上述した回路(例えば、抵抗ネットワーク、無線通信回路等)の何れかを収容し得る1つ以上のハウジング1611を含む本体部分を含む。デバイスは、別個の制御部を含まなくてもよく、例えば、制御部(複数可)は、指電極1603、1605であってよく、その結果、指電極に接触することによって、12リードECGの検出、ローカル(デバイス内)での処理、保存、及び/又はリモートサイトへの送信を含む、電極リードからの信号の記録がトリガされるようにしてもよい。幾つかの実施例では、電極からの信号は、後で12リード信号に変換する為を含め、後の分析及び/又はレビューの為に保存及び/又は送信されてもよい。システムは時刻を送信してもよい。幾つかの変形例では、システムは1リードECG信号(例えば、2つの胸部電極のみを使用)又は3リードECG信号を自動的又は手動で検出するように構成されてもよい。例えば、システムは、装着時に2つ(又はそれ以上)の胸部電極1507、1509からの電気信号を周期的に検出するように構成されてもよく、感知された電気信号及び/又は処理されたECG信号の何れかを保存及び/又は送信してもよい。代替的又は追加的に、デバイスは、シングルリード(又は3リード)ECG検出の測定をトリガする為の制御子又は入力(例えば、スマートフォン等のリモートデバイスからの)を含む。幾つかの実施例では、シングルリード(又は3リード)測定は、ユーザが指電極1603、1605の内の1つだけに触れた時にトリガされてもよい。幾つかの実施例では、ユーザ(例えば、患者)は、ユーザが複数の(例えば、両方、3つ以上等)指電極に十分な時間触れた時に、全てのリードからの測定及び/又は12リードECG信号を得る為の処理をトリガしてもよい。被験者が電極に触れている間、システムは信号を記録してもよい。幾つかの実施例では、デバイスは、例えば電極からのインピーダンスの変化によって、接触を検出してもよい。代替的又は追加的に、デバイスは、デバイスを「オン」にする、及び/又はスタンバイモードからアクティブモードに移行させるコントロール(ボタン、スイッチ等)を含み得る。幾つかの実施例では、指電極の一方又は両方は、デバイスをオンにし、及び/又はスタンバイモードからアクティブモードに移行させるスイッチ(例えば、圧力駆動スイッチ)をも含み得る。
【0127】
幾つかの実施例では、本明細書に記載の12リード検出用のECGパッチは、「XYZパッチ」デバイスと呼ばれることがある。一般に、これらの装置(例えば、デバイス、システム等)は、図16に示すように、パッチの上部の非粘着側に2つの指電極を含み得る。指電極は、被験者の右手の指と左手の指(右側は右手、左側は左手)に接触するように適合され得、身体の他の部分との偶発的な接触を防ぐ為に、皮膚表面より僅かに持ち上がっていてもよい。電極は、指の十分に大きい領域(例えば、直径5~15mmの間)に接触する大きさであってよく、円形、正方形等であってよい。
【0128】
図16は、左右の指電極を分離する(物理的に分離する)パッチの上側に在る封止コンパートメントも示している。図16において、XYZパッチの上面図は、前述したように、電源(例えば、バッテリ等)及び/又は抵抗ネットワークを含む信号取得及び処理電子回路並びに信号記憶及び通信回路を収容し得る1つ以上のハウジング又はコンパートメント1611を示す。
【0129】
図17は、患者が装着した状態のXYZパッチの一例を示している。パッチは、胸の右側に在る右手電極1603が、胸の左側に在る左手電極1605より僅かに上に在る配向で示されている。右手と左手の指を対応する指電極に置くことによって、測定値(有症状イベントを含む場合がある)が検出され得る。例えば、使用中、被験者は、イベントが発生している可能性が有ると判断した時に、両方の指電極に指を置いてもよい。被験者が好む、左右の手の対応する指のペア(例えば、人差し指(index)、人差し指(pointer)、小指、親指等)であれば、どのような指でもよい。幾つかの実施例では、「症状有り」ボタンがデバイスに含まれていてもよい。或いは、電極は、被験者が症状の存在を伝えていることを示す指からの接触パターンを検出するように構成されてもよい。幾つかの実施例では、患者(例えば、被験者又はユーザ)は、右手の指を高い位置に在る電極に置いてもよい。左手の指は、図18に示すように、高さの低い左手のもう一方の指電極に置かれる。
【0130】
幾つかの実施例では、パッチが胸部で適切な方向に配向していることを検出する為に、装置は1つ又は複数のセンサを含み得る。例えば、パッチは、加速度計のような、起き上がっている(又は幾つかの変形例では、横臥した)患者上のパッチの配向を検出するセンサを含み得る。更に、デバイスは、指電極を含む各電極との皮膚接触を検出するように構成されてもよい。
【0131】
幾つかの実施例の動作では、両方の指電極で皮膚接触が検出されると、デバイスは心臓ベクトルのX、Y、Z投影の記録を開始し、それによって有症状イベント期間に対応し得る12リードECG信号の合成が可能になる。少なくとも1本の指を指電極から離すと直ぐに、記録は停止し、場合によってはシステムはシングルリードモードで継続する。このように、指電極から指が偶発的且つ短時間に離されることによって症状セッションが早期に終了するのを避ける為に、指電極から少なくとも1本の指が少なくとも数秒間離されると記録が停止することがある。幾つかの例では、1本の指だけがデバイスに接触している期間、3リードECG測定が行われ、所定時間経過後に自動停止することがある。一部の実施例では、両方の指が取り外された後で、この情報が未だ診断的価値を有する可能性が有る為、一定期間、追加のシングルリード測定(例えば、シングルリードECG)を行ってもよい。
【0132】
図18は、2本の指がXYZパッチの上面の指電極に触れている状態での対症療法セッションの記録を示している。パッチは図5~8では特定の位置と角度で示されているが、心臓近傍の胴体上の任意の位置に配置されてもよく、好ましくは、一方の指電極が他方の指電極よりも目に見えて高い位置に在る。
【0133】
最大限の診断情報を伝える為に、XYZリードは可能な限り直交に近くてもよい(例えば、3つのベクトル軸が夫々90度の角度を持つ)。直交の反対は、3ベクトルが同一平面上に在る3共平面性ベクトルの場合であり、この場合、その平面に垂直な軸に対応する診断情報は完全に欠落する。
【0134】
2つの胸部電極と2つの指電極を有する上述の4つの記録電極構成は、高直交性の要件を満たす。上述したように、この要件を満たす簡単な方法は、横方向(左腕-右腕)、矢状(背面-前面)、下部(頭部-足先)の3つの主要な身体方向の信号を記録することである。例えば、横方向の信号は左手と右手の間のリードを測定することで得られ、下部方向の信号は2つの胸部電極間のリードを測定することで得られ、その際、胸部電極間の垂直距離は心筋の凡その直径よりも大きくなるように、少なくとも5cm(好ましくは約10cm超)であることが条件となる。理想的なケースでは、矢状方向の信号は患者の背中と胸の間で測定されるが、指と胸部電極のみを使用するという制約では不可能である。これを克服する為に、以下に説明するように、単純な抵抗ネットワークを使用して、心臓の電気的中心に近い基準点を作る。全体を参照により本明細書に援用する米国特許第10,117,592B2号も参照されたい。
【0135】
上記の説明は、記録された信号の直交性を最大にする為に、パッチの好ましい取り付け位置が、電極が互いの上方でほぼ直線になる位置(パッチの垂直位置)である理由を説明するものである。これは、前述したように、内蔵型加速度計を使用することによって確保され得る。患者の胴体上のパッチのこの位置は図19に示されている。XYZパッチはコンパクトである為、指電極はパッチの上面又は側面に配置されるが、幾つかの実施例では、指電極は胸部とパッチに取り付けられた別の一対の電極の一部になるように設計され得る。或いは、図21A~21Cで後述するように、追加の粘着電極を四肢に(四肢電極として、例えば、肩又は肩付近に)配置してもよく、指電極の必要無く使用してもよい。
【0136】
パッチに指電極を取り付ける方法は、2本の胸部パッチ電極に加えて2本の指が使用される限り、如何なる方法が使用されてもよい。本明細書で説明するXYZパッチは、有症状イベンスのリアルタイム又はほぼリアルタイムの分析を可能にし得る。デバイスが患者の胸部から取り外された後に、複数週間の記録一式全体が分析の為に送られる先行技術のデバイスとは異なり、本明細書に記載の装置は、よりリアルタイムで操作され得る。これらの装置により、潜在的に有症状のイベントを検討する際に、分析及び可能な診断及び介入の為の最短時間を可能にし得る。幾つかの実施例では、記述及び対応するECG波形は、専門的な医療評価の為にリアルタイム又はほぼリアルタイムで無線送信されてもよい。本明細書で使用される場合、リアルタイムは、ほぼリアルタイム(例えば、数分以内)を含み得る。
【0137】
図20Aは、XYZパッチの一例に関するシステムフローチャートとして示されるシステムの一例を模式的に示す。図20Aにおいて、ECG信号サンプリング2001、処理2003、バッファリング2005及び/又は圧縮2007は、様々な電極対(胸部/胸部、胸部/左指、胸部/右指、中心点/左指、中心点/右指等)によって検出された信号(複数可)から任意の標準的な様式で行われてもよい。例えば、サンプル信号はオンボード回路(例えばメモリ)に保存及び/又は処理されてもよい。幾つかの実施例では、サンプルがオンボードフラッシュメモリに書き込まれる前に、サンプルは有症状エピソードの一部又はルーチンの無症状シングルリードECG記録セクションの一部として分類されることがある。サンプルが有症状エピソードの一部であるかどうかの判定は、患者が「症状有り」専用ボタンを押したかどうか、又は単に(図18に示すように)両指電極の皮膚接触を検出したかどうかに基づいて行われ得る。後者の場合、患者は、症状が存在する間、指電極に触れ、指電極上に指を維持するよう指示され得る(例えば、トーン等の音、1つ以上のLED等の信号によって)。患者の指が指電極に触れている間、システムは3チャンネル-心臓ベクトルのX、Y、Z成分を記録してもよい。代替的又は追加的に、幾つかの実施例では、装置は定期的又は連続的に患者をモニタリングしながら、危険な心臓リズムを検出できる(例えば、1リード電極のような2つ以上の胸部電極のみを使用して)。危険な、又は不規則な心信号(例えば、不規則なリズム、AMI、頻脈等)が検出された場合、装置は、以下で更に詳細に説明するように、(トーン、テキスト/SMS、振動等を介して)電極に姿形を置くように(「症状有り」2011を示す)ユーザに警告してもよい。従って、一般的に、これらの装置及び方法の何れもが、システムによる継続的な、定期的又は連続的なモニタリングを含み得る。
【0138】
幾つかの実施例では、デジタルサンプルはオンボードフラッシュメモリに書き込まれてもよい。フラッシュメモリがパッチから取り外されると、物理的又は電子的に、記録の全体が分析され得る施設と共有される可能性が有る。特に興味深いのは、有症状エピソードに関連した信号セクションである。これらのエピソードはXYZ信号を特徴とすることが有り、XYZ信号から12リードECG信号に変換され、分析される。
【0139】
全て又は一部のECG信号サンプルは、スマートフォン等の通信デバイスにリアルタイムでストリーミングされ、そのデバイスはサーバと通信するか、クラウドベースのサーバと直接通信する内蔵型通信モジュールに補助されて通信する。このシステムは、記録された信号全体をリアルタイムで転送することが可能である。上記で強調したように、特に興味深いのは、パッチで行われた記録の有症状エピソードである。
【0140】
例えば、図20Aに戻ると、本明細書に記載の方法は、上記2011で説明したように、2011で電極上に指が存在することを検出してもよく、信号が記録され、2013で、心臓障害のエピソードを潜在的に含むか否かのフラグが立てられていることを示してもよい(例えば、フラグ2015を立ててもよい)。前述したように、信号(複数可)は、注釈(例えば、日付、時刻、皮膚インピーダンスデータ等)を付けられ、デバイスメモリ記憶装置(フラッシュメモリ2017等)に記憶され、及び/又は前述したように2019で処理されてもよい。
【0141】
幾つかの実施例では、電力及び/又は時間を節約する為に、システムは、有症状エピソードに関連する全てのサンプルを専用のメモリセクタに保存するか、又は特定の有症状エピソードの固有のフラグに基づいてメモリから抽出できるようにしてもよい。これらのサンプルは2021でバッファリングされ、及び/又はオンボード(パッチへの)通信ハードウェア及びソフトウェアを介して2023でリアルタイムで送信されてもよい。例えば、パッチから患者のスマートフォンへのブルートゥース(登録商標)接続は、有症状セッション信号伝送及びクラウドへの転送の為に電話のインターネット接続の為に使用され得る。初期自動診断信号分析はクラウドで実行され、クラウドから分析施設に転送され、専門の医療スタッフがタイムリーに分析することができる。
【0142】
本明細書で説明する方法及び装置(例えば、システム)は、ECGをサンプリングし(及び幾つかの例では分析を実行し)、遅れて(例えば、2週間以上)全ての信号サンプルをダウンロードしてから分析の為に送信するのではなく、医師によるレビューの為にリアルタイムでサンプル(及び/又は分析)を転送し得る。このリアルタイムの有症状エピソード分析は、現在の慣行に対する改善である。
【0143】
有症状セッション毎に、患者は関連症状を報告するよう求められる。これは、音声記録及び/又は標準的な質問を含むフォーム、或いは患者がスマートフォンで書いた自由書式のレポートによって達成され得る。
【0144】
図20Aは、有症状エピソードのリアルタイム分析についても示している。有症状セッションで記録されたXYZ信号2025は、症状フラグを設定(例えば1に)することで、有症状としてマークされ得る。次のステップでは、それらはクラウドに送信され、そこで導出12リードECG2027に変換される。典型的には、クラウドで実行される自動診断分析2029に続く。代替的又は追加的に、12リードの導出と診断分析の両方が、患者のスマートフォンに常駐するソフトウェアによって実行されることもある。信号解析の一部分は、コンピュータ化された解析が行われた後に、訓練された医療専門家によって記録されたECG信号をレビューしてもよい。
【0145】
図20Bは、本明細書で説明する装置を操作する方法の別の例を示しており、特に、以下で更に詳細に説明する図21A~21Cで説明するような、1つ又は複数のアーム電極を含む粘着装着式装置を操作する方法を示している。これらの実施例では、12リードECG信号を導出する為に装置が指に接触する必要は無い場合がある。
【0146】
例えば、図20Bにおいて、装置は、粘着パッチ(図12A図12Cに示す粘着パッチのような)上の2つ以上の胸部電極及び1つ以上のアーム電極からの電気信号を周期的又は連続的にモニタリングするように構成され得る。一変形例では、システムは、ユーザが作動させた「症状有り」ボタンの作動をモニタリングし、その後、12リードECG信号に構築され得るECG信号を検出することができる。図20Bでは、図20Aについて説明したように、ECG信号サンプリング2051、処理2053、バッファリング2055及び/又は圧縮2057が、様々な電極対(胸部/胸部、胸部/左腕、胸部/右腕、中心点/左腕、中心点/右腕等)によって検出された信号(複数可)から任意の標準的な方法で行われ得る。例えば、サンプル信号はオンボード回路(例えばメモリ)に保存及び/又は処理されてもよい。幾つかの例では、サンプルがオンボードフラッシュメモリに書き込まれる前に、有症状エピソードの一部又はルーチンの無症状シングルリードECG記録セクションの一部として分類されてもよい。サンプルが有症状エピソードの一部であるかどうかの判定は、患者が「症状有り」専用ボタンを押したかどうかに基づいて行われ得る。
【0147】
患者/ユーザは、2061で心臓イベントの症状を経験した時に、症状検出コントロール(「症状検出ボタン」)を起動してもよい。上述したように、装置は、装置を装着している患者を連続的又は周期的(例えば、数秒毎、10秒毎、15秒毎、30秒毎、1分毎、2分毎、5分毎、7分毎、8分毎、9分毎、10分毎、15分毎、30分毎等)にモニタリングし、不規則な心信号(例えば、AMI、頻脈等)を検出してもよい。場合によっては、装置が不規則な心信号を自動検出した場合、症状が存在する場合には、症状有りインジケータ(ボタン、コントロール、ダイヤル等)に触れるように患者に指示してもよい。或いは、前面指電極付きパッチを使用する場合、不規則な心信号の検出により、指電極に指で触れるよう患者に促してもよい(図18に示すように)。代替的又は追加的に、幾つかの例では、装置は定期的又は連続的に患者をモニタリングしながら危険な心臓リズムを検出することができる。危険なリズム(例えば、不規則なリズム、AMI、頻脈等)が検出された場合、装置は、特定の検出された信号に、症状を示す可能性が有るとしてフラグを立て(例えば、2065で症状フラグを動作させることによって)、及び/又は(トーン、テキスト/SMS、振動等を介して)介護者及び/又はユーザに警告を発してもよい。特に、図21Cに示すようなパッチは、AMIを検出する目的で患者の心臓活動を連続的にモニタリングする為に採用され得る。上述した直交リードシステムは、図21Cのパッチによって定期的又は連続的に容易に取得され得る。次に、本明細書に記載のアルゴリズムを採用して、AMIイベントの発生を検出し、適切な警告をトリガしてもよい。従って、一般に、これらの装置及び方法の何れもが、システムによる持続する、定期的又は継続的なモニタリングを含み得る。
【0148】
システムが不規則な心信号を検出しない場合、及び/又はユーザが症状有りボタンを操作していない場合、装置は2063で症状フラグを無効に設定することができ、場合によっては2068でベースライン信号を取得できる。ベースラインは、不規則な心信号及び/又は12リードECGの検出を改良する為に、患者固有の方法でシステムによって使用されてもよい。ベースライン信号は、何らかの頻度(例えば、1分毎、数分毎、2分毎、5分毎、10分毎、15分毎、20分毎、30分毎、45分毎、1時間毎、2時間毎、4時間毎、8時間毎、12時間毎、毎日、2日毎、5日毎、7日毎等)で決定されてもよい。
【0149】
前述のように、デジタルサンプルは、2067でオンボードフラッシュメモリに書き込まれ、及び/又は2073で送信されてもよい(例えば、バッファリング2071等の信号処理の後で)。フラッシュメモリがパッチから取り外されると、フラッシュメモリは物理的又は電子的に、記録の全体が分析され得る施設と共有され得る。特に興味深いのは、有症状エピソードに関連し得る信号の信号セクションである。この信号を使用して、記録されたリードのサブセットから2075で12リードECG信号を生成してもよい。信号解析は、心臓エピソードの検出を含めて、2077で12リードECG信号の解釈に使用されてもよい。これらのエピソードはXYZ信号を特徴とし得るものであり、XYZ信号から12リードECG信号に変換された後で解析される。
【0150】
全て又は一部のECG信号サンプルは、リアルタイム又は準リアルタイムで(又は保存後)、順番にサーバと通信する、又はクラウドベースのサーバと直接通信する内蔵通信モジュールに補助されて、2073でスマートフォン等の通信デバイスにストリーミングされ得る。このシステムは、記録された信号全体をリアルタイムで転送することが可能である。上記で強調したように、特に興味深いのは、パッチを用いて行われる記録の有症状エピソードである。
【0151】
例えば、図20Bにおいて、本明細書で説明する方法は、信号を検出して記録することができ、1つ又は複数の信号に、心臓障害のエピソードを含む可能性が有るとして2063でフラグを立ててもよい(又は、心臓障害を示さないとしてフラグを立ててもよい)。前述したように、信号(複数可)は、送信用に(例えば、日付、時刻、皮膚インピーダンスデータ等で)注釈を付けられ、及び/又はデバイスメモリ記憶装置(フラッシュメモリ2067等)に記憶され、及び/又は前述したように2069で処理されてもよい。
【0152】
幾つかの実施例では、電力及び/又は時間を節約する為に、システムは有症状エピソードに関連する全てのサンプルを専用メモリセクタに保存するか、又は特定の有症状エピソード固有のフラグに基づいてメモリから抽出してもよい。これらのサンプルは2061でバッファリングされ、及び/又はオンボード(パッチへの)通信ハードウェア及びソフトウェアを介して2063でリアルタイムで送信されてもよい。例えば、パッチから患者のスマートフォンへのブルートゥース接続は、有症状セッション信号伝送の為に使用され得るものであり、クラウドへの転送の為に電話のインターネット接続が使用され得る。初期の自動診断信号解析はクラウドで行われ得、クラウドから解析施設に転送され、専門の医療スタッフによるタイムリーな解析が行われる。
【0153】
患者がパッチを装着し終えると、数日間に亘る記録の全体像が様々な方法で分析され得る。有症状エピソードに関連する信号のリアルタイム伝送及び分析は非常に望ましいが、それは必須では無く、パッチが患者の身体から取り外される時まで延期することも可能である。
【0154】
前述のように、本明細書に記載のパッチ装置は、単純な抵抗ネットワークを使用して心臓の電気的中心に近い中心点(CP)を作ることができる。略矢状方向のリードを記録する為に、2つの手電極と2つの抵抗器を用いて得られる中心点(CP)に対する下側の胸部電極の電圧を記録する。2つの抵抗器は夫々約5kΩの等しいものでも、左手電極とCPの間に約5kΩの1つ目の抵抗器、右手電極とCPの間に約10kΩの2つ目の抵抗器のように不等なものでもよい。この非対称性は、胴体における心臓の左側の位置を反映しており、従ってCPは心臓のほぼ電気的中心に移動する。このようにして、実質的に直交する3リードのシステムが得られる。CPの有無に拘らず、他のリード構成も使用され得る。
【0155】
XYZパッチは、電極によって検出された信号を増幅する為の増幅器及びAD変換器を含む心信号記録回路、記録信号を記憶する為のデータ記憶回路(例えば、メモリ)、リモートプロセッサ(例えば、PCコンピュータ、パッド、スマートフォン等)と通信する為のGSM、WWAN、又は類似の電気通信規格で動作する通信回路、及び診断情報を視覚的及び/又は音声出力の形でユーザに伝達する為の回路(例えば、スクリーン、スピーカー等)を内蔵してもよい。
【0156】
特殊な電極構成を有するハンドヘルドデバイスは、3直交心リード信号を方向特異的な方法で記録し、これらの信号をプロセッサ(例えば、PC又は他のコンピューティングデバイス)に送信することができる。リモートプロセッサは、AMIを診断/検出し、診断情報をハンドヘルドデバイスに送り返すように構成され得る。
【0157】
リモートプロセッサには、受信した心信号を処理し、診断情報を生成し、診断情報を患者に伝達する為にハンドヘルドデバイスに送信する為の診断ソフトウェアが装備されていてもよい。デバイスは、3リードシステムに基づいて心臓の状態を自動検出することが可能であり得、専門家による処理された診断情報の解釈を必要としない場合が有る。
【0158】
信号処理及び診断ソフトウェアは、記録された心信号を処理して診断情報を生成する為に、ハンドヘルドデバイスのケーシングに一体化されたプロセッサ(例えばマイクロプロセッサ)上でも実行され得る。診断処理がリモートプロセッサによって実行される場合、マイクロプロセッサ上で実行されるソフトウェアのバックアップバージョンがハンドヘルドデバイスに一体化され、ユーザが無線ネットワークのカバレージの無いゾーンにいる状況で使用され得る。
【0159】
デバイスは、統合通信回路を介してリモートプロセッサと通信してもよい。リモートプロセッサは、統合通信モジュールを介してハンドヘルドデバイスと通信してもよい。作成された診断情報は、リモートプロセッサ(例えば、PCコンピュータ、サーバ等)から商用通信ネットワークを介してデバイスメモリに送信されてもよい。ハンドヘルドデバイスは、特徴的な音を発生する音響センサを介した特徴的な音、音声マッサージを介して、又はデバイスに統合されたディスプレイを介したグラフィック情報の形態で、診断情報を患者に伝達してもよい。
【0160】
一般に、解析はベースラインの解析を含み得る。ベースラインECG(例えば、ベースライン心臓ベクトル)は、患者が最初に装置を契約及び/又は購入した時点で採取され得る。ベースライン信号はシステムによって吟味されてもよい。例えば、ベースライン信号は、予め定義された「正常な」パラメータの範囲内であることを確認する為に検査されてもよい。例えば、特許のベースライン信号は、信号収集デバイスの3直交リードから決定されたベースライン心臓ベクトルの微分ベクトル解析を行うことによって決定されてもよい。複数のベースライン測定を行い平均してもよいし、最良のものを選択してもよい。ベースラインが期待されるパラメータ内に収まらない場合、例えば、何らかの理由で不規則な心臓ベクトル(同時の未検出の心イベントを含む)を有する為に、患者は不十分な候補として拒否されることがある。システムはユーザに、更新されたベースライン信号を提供するよう定期的に促してもよい。
【0161】
幾つかの変形例では、アプリケーションソフトウェアは、信号(例えば、QCエージェント、ソフトウェアエージェント等)をチェックする品質管理(QC)を提供し、ベースライン心臓ベクトルが十分であるか否かを示してもよく、これはリアルタイムで行われ得るものであり、信号収集デバイスとモバイル通信デバイス(例えば、スマートフォン)の何れか又は両方で、及び/又はリモートサーバで行われる信号品質チェックの両方を含み得る。QCエージェントは、信号の明確さを調べてもよく、及び/又は患者が心臓発作を起こしていないことを確認してもよい。これは最終レベルの品質チェックの一部であってもよい。
【0162】
アプリケーションソフトウェア/ファームウェアは、患者から危険因子を取得してもよい。これは、有利には加入時に行われ得る。患者は、一連の質問で促されてもよく、及び/又は心臓障害(例えば、心臓発作等)に関連する危険因子を示す電子医療記録へのアクセスを提供してもよい。情報は、患者固有の情報(年齢、性別、体重、身長、民族性、コレステロールレベル(複数可)、血圧等)を含み得る。照会は、順序付けされ加重され得る。危険因子情報の最小限の入力(例えば、年齢のみ、年齢と性別のみ等)が許可されてもよく、最小限のものが入力されない場合、その患者は登録を許可されない。
【0163】
前述したように、アプリケーションは、メッセージ(SMS/テキストメッセージ)を、関連するアプリケーションソフトウェア(アプリ)又はアプリ無しで(リモートサーバから)送信することによって、定期的に(例えば、毎週、隔月、毎月等)ベースラインを更新するよう患者に促してもよい。
【0164】
幾つかの変形例では、医師への報告書が作成され、医師はその結果を、危険因子及び症状を含めて、手動又は半手動で解釈して、アプリを介することを含めて、患者に直接連絡してもよい。
【0165】
例えば、本明細書で説明するような、第1のコンパクトな未展開構成と第2の展開済み構成とを有するモバイル3リード心臓モニタリングデバイスは、心臓症状が発生した時に患者によって操作されるように構成され得る。このデバイスは、患者の心臓危険因子及び他のデータに関するデータを記憶する為の記憶装置(例えば、メモリ)と、患者の心信号を記録する為の心信号記録素子(例えば、電極、回路、コントローラ)とを含んでもよく、記録素子は、上述のボヨヴィッチ(Bojovic)他の国際公開第2016/164888A1号に開示されたものと同様であってもよい。患者関連データ(危険因子及び現在の症状)を入力し、グラフィカルユーザインターフェース(例えば、タッチスクリーン又はスクリーン及びキーボード等)をデバイスに装備することによって、診断メッセージが患者に伝達され得る。又、診断情報は、特徴的な音や音声メッセージを通じて、スピーカーを介しても患者に伝達され得る。この通信は、スマートフォンやタブレット等、ユーザが操作する別個のデバイスへの有線又は無線接続を介して行われてもよい。
【0166】
前述のように、幾つかの実施例では、4つの記録電極構成(例えば、2つの胸部電極と2つの指電極を有する)は、例えば、3つの主要な身体方向、即ち、横方向(左腕-右腕)、矢状(背面-前面)、下部(頭部-足先)の信号を記録することによって、高い直交性の条件を満たし得る。例えば、横方向の信号は、左右の手の間のリードを測定することによって取得され得る。下部方向の信号は、2つの胸部電極間のリードを測定することによって得ることができ、下部方向の胸部電極間の距離は、心筋の凡その直径よりも大きくなるように、少なくとも5cm、好ましくは約10cmを超えることが条件となる。理想的なケースでは、矢状方向の信号は、心臓の電気的中心に近い中心点(CP)を作る為に単純な抵抗ネットワークを使用して、患者の背中と胸の間で測定される。ほぼ矢状方向のリードを記録する場合は、2つの手電極と2つの抵抗器を用いて得られる中心点(CP)に対する下側の胸部電極の電圧を記録する。2つの抵抗器は夫々約5kΩの等しいものでも、左手電極とCPの間に約5kΩの1つ目の抵抗器、右手電極とCPの間に約10kΩの2つ目の抵抗器という不等なものでもよい。この非対称性は、胴体における心臓の左側の位置を反映しており、その結果、CPは心臓のほぼ電気的中心に移動する。こうして、実質的に直交する3リードシステムを得る。
【0167】
2つの胸部電極と2つの手電極の同じセットを使用する、同じCPを有する他の類似したリード構成も選択され得る。そのようなリード構成は、例えば、両方の胸部電極を用いて、CPでの基準極でリードを記録する場合に、実質的に直交し得る。CPを定義する別の可能性は、3つの電極を使用することであり、それは、2つの手電極と1つの胸部電極、及び、3つの抵抗器がY(星型)構成に接続されたものである。
【0168】
2つの胸部電極の信号を記録する構成や、左手電極に対して右手電極を記録する構成のように、CPを使用しない他のリード構成も使用され得る。抵抗器やCPを使用しないこのような構成は、例えば50~60Hzの電気ノイズに対してより耐ノイズ性が高いが、CPを使用した上記のものよりもリードの直交方向が少なくなる。一般に、同じ4つの上記電極を使用した他のリード構成(CP無しの合計20の構成)は、非平面的なリードとなり、それ故3方向全ての診断信号を捕捉するが、高度な直交性を欠く可能性が有る。しかし、これらの構成は、右手電極の使用に応じて、異なるレベルの直交性を持つ可能性が有る。右手電極が4つの電極の中で心臓から最も離れている為、3リードに対応するベクトル間の角度が最も小さくなるので、3リード全てにおいて右手電極を共通の基準極として使用する構成は、直交性が最も低くなる可能性が有る。しかし、直交性が最も低いこの構成は、非双極含量が小さい為、3リード信号に基づく12リードECGの再構成に最適である。それでも、この構成を用いて得られた信号は、12リード再構成の有無に拘らず使用され得る。
【0169】
記載された解決策の有効性は、デバイスの裏側に1つ又は複数の胸部電極が追加され、1つ又は複数の対応する追加リードが記録され、診断アルゴリズムで使用されても影響されない。又、前面電極が指の代わりに掌や指の他の部分で押されても、効果は影響を受けることは無い。
【0170】
例えば、急性心筋梗塞(AMI)、心房細動(AFiB)等の心臓疾患のリモート診断に、本明細書で説明する装置が使用され得る。特に、本明細書では、3直交心リード信号を方向特異的に記録し、これらの信号をプロセッサ(例えば、PC又は他のコンピューティングデバイス)に送信できる特殊な電極構成を有するハンドヘルド型デバイスについて説明する。プロセッサは、AMIを診断/検出し、診断情報をハンドヘルドデバイスに送り返すように構成されていてもよい。ハンドヘルドデバイスは、特徴的な音、音声メッセージ、又はグラフィカルディスプレイを介して診断情報を患者に伝えてもよい。プロセッサは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア等を介して構成され得るものであり、受信した信号を処理して差分信号を生成し、AMIの検出に確実に関連する情報(及び臨床的に関連する追加情報)を抽出してもよい。従って、これらの装置及び方法は、12LECG再構成の必要なく3リードシステムに基づいて、心臓疾患の自動検出を行ってもよく、典型的にそのような判断を医療関係者に委ねる従来技術のシステムとは違って、医療関係者がECGを解釈する必要性を軽減又は排除する。本明細書に記載の自動診断方法は、改良されたハンドヘルド心臓デバイスと共同して、他のシステムに存在するニーズ及び課題の多くに対処する。
【0171】
本明細書に記載のパッチデバイスは、デバイスの中心が心筋の中心のほぼ上方の左胸に位置するように胸部に配置され得る。この位置では、胸部電極は、従来のECGのV4電極と同じ鎖骨の中点を通る垂直線である鎖骨正中線上にほぼ位置し、下側の胸部電極は胸骨の下端の高さにほぼ位置する。左右の手の間のリードを測定することで、横方向の信号を得ることができる。下部方向の信号は、2つの胸部電極間のリードを測定することによって得ることができ、下部方向の胸部電極間の距離は、心筋の凡その直径よりも大きくなるように、少なくとも5cm、好ましくは約10cmを超えることが条件となる。
【0172】
既述のように、図3Aの例は、2つの抵抗器を備えた単純な抵抗ネットワークを介して両手電極を接続することによって、中心点CPを得る為の単純な電気的スキームを示している。或いは、図3Bのオペアンプ方式が使用され得る。図3、4A~4Gに示され、上述されたものと同じ構成が、本明細書で説明される粘着性デバイスの何れにも使用され得る。例えば、ほぼ矢状方向のリードを記録する場合、中心点CPに対する下側の胸部電極Bの電圧は、手電極C、D及び2つの抵抗器R1、R2を用いて求めることができる。2つの抵抗器R1、R2は、各々ほぼ5kΩで等しくてもよく、又は、左手電極とCPの間でほぼ5kΩ且つ右手電極とCPの間でほぼ10kΩのように不等であってもよい。この非対称性は、胴体における心臓の左側の位置を反映しており、その結果、CPを心臓のほぼ電気的中心に配置する。こうして、実質的に直交する3リード構成が得られ得る。
【0173】
(実施例)
図21Aは、12リード等価ECGの長期モニタリング及び検出の為のパッチ(例えば、粘着性)装置の別の例を示す。図21では、全ての指電極が同じハウジングに結合されるのではなく、患者(又は介護者又は医療専門家)は、第2の指電極及び/又は腕電極2125を含む別個のパッチ2107に、胸電極2117、2119(及び1つ又は複数の指電極2121)を接続するワイヤ2108によって結合され得る少なくとも2つの皮膚接触(「胸部」)電極2105を有するハウジングを別個に取り付けることができる。幾つかの実施例では、別個のパッチは肩又は腕(例えば、左肩/腕)に粘着固定され、導出されたアームリードの代わりに使用される。この実施例における第2の指電極2123は省略してもよいし、基準として使用してもよい。
【0174】
図21Bは、一対の別個の指又はアームパッチ2107’、2107’’に一対のテザー2108、2108’を介して電気的に結合される中央、心臓、パッチ領域2105’を有するパッチデバイスの別の実施例を示す。この実施例では、各アームパッチは、指電極から導出するのではなく、各アームからのリードを測定する為に、被験者の肩又は腕に取り付けられ得る。オプションの指電極2123’、2123’’も含まれてもよい。図21A~21Bでは、パッチの厚さは縮尺通りには示されておらず、模式的に誇張して示されている。パッチは柔軟で比較的薄い材料で作られてもよい。
【0175】
幾つかの変形例では、2つ以上の別個の粘着パッチではなく、皮膚に粘着付着する単一ピースを含むことが有益であり得る。例えば、図21Cは、右腕と左腕(例えば、肩)の領域に腕電極を粘着固定する為の延長部(アーム、ウイング等)を含み得るパッチデバイスの例を示している。図21Cでは、デバイスの底部が示されており、胸部電極2117’’、2119’’、左アーム電極2123’’’、右アーム電極2123’’’’を含む電極が示されている。デバイスのハウジング部2135は、両アーム電極に対してオフセットされていてもよい(例えば、装着時に胸の心臓領域の上に位置するように)。幾つかの実施例では、デバイスは又、非粘着側(図示せず)に有り得る1つ以上の制御部、例えばボタンを含んでもよく、これにより、デバイスを記録するようにトリガさせるか、又は記録をイベントとして関連付けることが可能になる。図21A~21Cに示す実施例では、ユーザが指電極に触れることを要さずに、連続的又は周期的な12リードECG検出を可能にし得る。従って、ベースライン12リードECG測定値を取得し、測定値を使用して、正規化又は調整して精度を高めるこができる。図21Cに示すデバイスは、様々な所定のサイズ(例えば、小、中、大)で提供されてもよく、及び/又は調整可能であってもよい。
【0176】
図21Cに示す例は、アーム延長部2130、2132が、上述のように適用される中央胸部領域から延びる途切れないパッチである。前述したように、幾つかの実施例では、左アーム延長部2130は右アーム延長部2132よりも短くても長くてもよく、又は両延長部は同じサイズであってもよい。例えば、幾つかの場合には、左アーム延長部(患者の胸部の左側に装着する)をより短くして、胸部電極を心臓により近い位置に位置決めするようにしてもよい。胸部アーム延長部は、例えば、2~12インチであってよく、全長(左アーム電極から右アーム電極まで)は6~16インチ(例えば8~16インチ、6~15インチ、7~14インチ等)であってよい。
【0177】
上述のように、図21Cに示すもののような粘着パッチデバイスは、上記の図20Bで説明したように操作され得る。
【0178】
PCI(経皮的冠動脈インターベンション)手技中の冠動脈におけるバルーンの拡張によって誘発される心筋虚血を検出する為の上述の方法の診断精度を評価する為に臨床研究が行われた。図2Cに示すものと同様のデバイスを使用した。
【0179】
この実施例では、データは連続的に取得された。各患者から、バルーン閉塞の全期間中、及びその前後の短い期間、特殊3リードを追加した標準12リードECGからの連続データを取得した。バルーン閉塞の目標持続時間は、患者が安定していれば少なくとも90秒であった。各患者において、PCI手技開始前にベースライン記録を1回、手技中、最初のバルーン挿入前に前拡張記録を1回行った。各病変/インターベンション部位では、バルーンが収縮する直前に1回の拡張記録が取られた。分析されたデータセットには、66人の患者と120のバルーン閉塞(患者1人につき最大3本の動脈を拡張させた)のECG記録が含まれている。
【0180】
データを上述の方法(STVMと「Clew」マーカーの線形結合を用いた実施形態を用いる)で分析し、結果を、あらゆる臨床データに対して盲検化して、3人の経験豊富な心臓専門医(1人はインターベンション術心臓専門医、2人は心臓電気生理学者)による同じデータセットの解釈と比較した。拡張時の記録は全て虚血陽性とし、拡張前の記録は全て虚血陰性とした。検査データを、ほぼ同じサイズの2つのセット、学習セットと検査セット(乱数生成器を使用して)に分割した。虚血検出のマーカーが選択され、マーカー閾値を、アルゴリズムを検査セットに適用する前に学習セットに調整した。
【0181】
以下の表1は、自動スコアリングされた読影と、人間(例えば、心臓専門医)がスコアリングした読影とを比較した本研究の結果を示しており、訓練された人間の専門家のもの(人間の読影者の平均)と比較して、本明細書に記載された自動方法を使用した方が、成功率が高いことを示している。
【表1】
【0182】
表1に示された結果は、新旧のST逸脱を区別する為に、基準となるベースラインの心臓記録を利用することの優位性を示している。
【0183】
別の臨床研究では、心房細動の検出における3直交心リードに基づくアルゴリズムの診断精度を評価した。データセットには、肺静脈隔離後の25人の患者からの453の記録(洞調律の227の記録と心房細動の226の記録)が含まれていた。「Clew」マーカーがP波に適用され、一般的に使用されているRR間隔マーカーと組み合わされた。以下の表1はこの研究の結果を示している。
【表2】
【0184】
本明細書に記載の方法(ユーザインターフェースを含む)の何れも、ソフトウェア、ハードウェア、又はファームウェアとして実装されてもよく、プロセッサ(例えば、コンピュータ、タブレット、スマートフォン等)によって実行可能な命令セットを記憶する非一時的コンピュータ可読記憶媒体として記述されることがあり、その命令セットは、プロセッサによって実行された時に、表示、ユーザとの通信、分析、(タイミング、頻度、強度等を含む)パラメータの変更、決定、警告等を含むがこれらに限定されないステップの何れかをプロセッサに実行させる。
【0185】
本明細書において、或る特徴又は要素が他の特徴又は要素の「上に在る」と言及される場合、それは他の特徴又は要素の上に直接存在することができ、又は介在する特徴及び/又は要素も存在することができる。対照的に、特徴又は要素が他の特徴又は要素上に「直接」存在すると言及される場合、介在する特徴又は要素は存在しない。又、特徴又は要素が他の特徴又は要素に「接続されている」、「取り付けられている」、又は「結合されている」と言及される場合、他の特徴又は要素に直接接続されている、取り付けられている、又は結合されている、或いは介在する特徴又は要素が存在してもよいことが理解されるであろう。対照的に、或る特徴や要素が他の特徴や要素に「直接接続」、「直接取り付け」、「直接結合」されていると言及される場合、介在する特徴や要素は存在しない。1つの実施形態に関して説明又は図示しているが、そのように説明され図示された特徴及び要素は、他の実施形態にも適用され得る。当業者ならば、他の特徴に「隣接して」配置された構造又は特徴への言及は、その隣接する特徴に重なる又はその下に来る部分を有し得ることを理解するであろう。
【0186】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する為だけのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。例えば、本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数形も含むことが意図される。本明細書で使用される場合、用語「備える(comprises)」及び/又は「構成する(comprising)」は、記載された特徴、ステップ、操作、要素、及び/又は構成要素の存在を特定するが、1つ又は複数の他の特徴、ステップ、操作、要素、構成要素、及び/又はそれらのグループの存在又は追加を排除するものではないことが更に理解されるであろう。本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語は、関連する列挙された項目の1つ又は複数の任意の及び全ての組み合わせを含み、「/」と略記されることがある。
【0187】
「下(under)」、「下(below)」、「下部(lower)」、「上(over)」、「上部(upper)」等の空間的相対用語は、本明細書では、説明を容易にする為に、図に示されるように、1つの要素又は特徴の別の要素又は特徴に対する関係を説明する為に使用され得る。空間的相対用語は、図に描かれている向きに加えて、使用時又は動作時の装置の異なる向きを包含することを意図していることが理解されよう。例えば、図中の装置が反転している場合、他の要素又は特徴の「下(under)」又は「下(beneath)」と記載された要素は、他の要素又は特徴の「上(over)」に配向されることになる。従って、「下(under)」という例示的な用語は、上の向きと下の向きの両方を包含し得る。デバイスは別様に配向してもよく(90度回転、又は他の配向)、本明細書で使用する空間的相対記述子はそれに則して解釈される。同様に、「上向き(upwardly)」、「下向き(downwardly)」、「垂直(vertical)」、「水平(horizontal)」等は、別段に示さない限り、説明の為のみに本明細書で使用されている。
【0188】
本明細書において、「第1」及び「第2」という用語は、様々な特徴/要素(ステップを含む)を説明する為に使用されることがあるが、文脈が別様に示さない限り、これらの特徴/要素はこれらの用語によって限定されるものではない。これらの用語は、或る特徴/要素を別の特徴/要素から区別する為に使用されることがある。従って、後述する第1の特徴/要素は、第2の特徴/要素と呼ぶことができ、同様に、後述する第2の特徴/要素は、本発明の教示から逸脱することなく、第1の特徴/要素と呼ばれ得る。
【0189】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲を通じて、文脈上そうでなければならない場合を除き、「comprise」という語、及び「comprises」や「comprising」のような変形は、様々な構成要素が、方法及び物品(例えば、デバイス及び方法を含む組成物及び装置)において共同して採用され得ることを意味する。例えば、用語「を備えた(comprising)」は、任意の記載された要素又はステップを含むことを意味するが、任意の他の要素又はステップを排除することを意味しないと理解される。
【0190】
一般に、本明細書に記載の装置及び方法の何れも包括的であると理解されるべきであるが、構成要素及び/又はステップの全て又はサブセットは、代替的に排他的であってもよく、様々な構成要素、ステップ、サブ構成要素又はサブステップから「なる」又は代替的に「本質的になる」と表現されてもよい。
【0191】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、実施例において使用される場合を含め、特に明示的に指定されない限り、全ての数値は、その用語が明示的に現れていない場合であっても、「約(about)」又は「ほぼ(approximately)」という語が前置しているかのように読み取られてもよい。「約(about)」又は「ほぼ(approximately)」という語句は、大きさ及び/又は位置を記述する際に、記述された値及び/又は位置が、値及び/又は位置の合理的に予想される範囲内であることを示す為に使用され得る。例えば、数値は、記載された値(又は値の範囲)の±0.1%、記載された値(又は値の範囲)の±1%、記載された値(又は値の範囲)の±2%、記載された値(又は値の範囲)の±5%、記載された値(又は値の範囲)の±10%等の値を有し得る。又、本明細書で示される数値は、文脈上別段の指示が無い限り、ほぼその値を含むものと理解すべきである。例えば、数値「10」が開示されている場合、「約10」も開示されている。本明細書で言及される数値範囲は、そこに包含される全ての下位範囲を含むことが意図される。又、当業者によって適切に理解されるように、「値以下」、「値以上」、及び値の間の可能な範囲も開示されることが理解される。例えば、値「X」が開示されている場合、「X以下」だけでなく、「X以上」(例えば、Xは数値)も開示されている。本出願全体を通して、データは幾つかの異なるフォーマットで提供され、このデータは終点と始点、並びにデータポイントの任意の組み合わせの範囲を表すことも理解されよう。例えば、特定のデータポイント「10」と特定のデータポイント「15」が開示された場合、10と15を超える、以上、未満、以下、及び10と15に等しい状態も開示されると見なされ、又、10と15の間も開示されると見なされる。2つの特定の単位の間の各単位も開示されていることも理解される。例えば、10と15が開示された場合、11、12、13及び14も開示されている。
【0192】
様々な例示的な実施形態が上述されたが、特許請求の範囲によって記載される本発明の範囲から逸脱すること無く、様々な実施形態に対して多くの変更の何れかを行ってもよい。例えば、様々な説明された方法ステップが実行される順序は、代替の実施形態においてしばしば変更されてもよく、他の代替の実施形態では、1つ又は複数の方法ステップが完全にスキップされてもよい。様々なデバイス及びシステムの実施形態のオプションの特徴は、或る実施形態には含まれ、他の実施形態には含まれないことがある。従って、前述の説明は、主に例示的な目的の為に提供され、特許請求の範囲に規定される本発明の範囲を限定するように解釈されるべきでは無い。
【0193】
本明細書に含まれる実施例及び図示は、例示であって限定ではなく、主題が実施され得る特定の実施形態を示す。言及したように、本開示の範囲から逸脱することなく、構造的及び論理的な置換及び変更を行うことができるように、他の実施形態を利用し、そこから派生させることができる。本発明主題のこのような実施形態は、本明細書において、単に便宜上、「発明」という用語によって個々に又は集合的に言及されることがあり、又、複数の発明が実際に開示される場合、本願の範囲を任意の単一の発明又は発明概念に自発的に限定する意図は無い。従って、本明細書では特定の実施形態が図示され、説明されているが、同じ目的を達成するべく計算された任意の配置構成も、示された特定の実施形態と置き換えられ得る。本開示は、様々な実施形態のあらゆる適応又は変形を網羅することを意図している。上記の実施形態、及び本明細書で特定的に記載していない他の実施形態の組み合わせも、上記の説明を検討すれば当業者には明らかとなろう。
【符号の説明】
【0194】
1 システム
2 ハンドヘルドデバイス
3 ケーシング
4 リモートプロセッサ
32 ハウジング
1500 ECGパッチ
1501 粘着剤
1507、1509 胸部電極
1603、1605 指電極

図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21A
図21B
図21C
【国際調査報告】