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特表2024-502341デュアルモード放射性トレーサーおよびその療法
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  • 特表-デュアルモード放射性トレーサーおよびその療法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-18
(54)【発明の名称】デュアルモード放射性トレーサーおよびその療法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/12 20060101AFI20240111BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20240111BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240111BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20240111BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20240111BHJP
【FI】
C07F7/12 T CSP
A61K51/08 100
A61K51/08 200
A61P35/00
G01T1/161 B
G01T1/161 A
C07F5/00 H
C07F5/00 D
C07F5/00 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540896
(86)(22)【出願日】2022-01-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 EP2022050081
(87)【国際公開番号】W WO2022144463
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】21150122.6
(32)【優先日】2021-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504150162
【氏名又は名称】テクニシェ ユニバーシタット ミュンヘン
(71)【出願人】
【識別番号】520034716
【氏名又は名称】テクニシェ ユニバーシタット ミュンヘン-クリニクム レヒツ デア イーザル
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ウェスター,ハンス-ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ワーザー,アレクサンデル・ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】アイバー,マティアス・ヨハネス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C188
4H048
4H049
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084NA13
4C084ZB26
4C085HH01
4C085HH03
4C085KA09
4C085KA29
4C085KB02
4C085KB07
4C085KB10
4C085KB11
4C085KB12
4C085KB15
4C085KB39
4C085KB56
4C085KB61
4C085KB82
4C085LL01
4C085LL18
4C188EE02
4C188EE25
4C188FF04
4C188FF07
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB20
4H048VA32
4H048VA70
4H048VA85
4H048VB10
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ10
4H049VQ69
4H049VR23
4H049VR31
4H049VU06
4H049VW02
(57)【要約】
本発明は、式(1):
[式中、M3+が本明細書中で定義した通りである]の化合物;
およびそれらの薬学的に許容される塩、ならびにがん診断用薬または画像処理剤としてのそれらの使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
の化合物[式中、M3+は、キレート化放射性または非放射性金属カチオンである];または薬学的に許容されるその塩。
【請求項2】
3+が、Sc、Cu、Ga、Y、In、Tb、Ho、Lu、Re、Pb、Bi、Ac、ErおよびThのカチオンから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
3+がLu3+である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
3+177Lu3+である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
3+225Ac3+である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
3+がGa3+である、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
3+68Ga3+である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
【化2】
である、請求項1に記載の化合物、または薬学的に許容されるその塩。
【請求項9】
【化3】
である、請求項1に記載の化合物、または薬学的に許容されるその塩。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の1種もしくは複数の化合物を含む、医薬組成物または診断用組成物。
【請求項11】
がん診断用薬または画像処理剤としての使用のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物または組成物。
【請求項12】
がんの治療における使用のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物または組成物。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物または組成物を、がんの画像処理および/または診断を必要とする患者に投与するステップを含む、がんを画像処理するおよび/または診断する方法。
【請求項14】
がんが、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌または腎細胞癌である、がん診断用薬もしくは画像処理剤としての使用のためのまたはがんの治療における使用のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物または組成物。
【請求項15】
血管新生/血管形成の診断、画像処理または予防における使用のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の化合物または組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)結合部位、フッ化ケイ素アクセプター(SIFA)部分を含むリンカー基、およびキレーター部分を含む、PSMAに結合する化合物、ならびにがん診断用薬または画像処理剤としての化合物の使用に関し、SIFA部分は、ケイ素と18Fであり得るフッ素原子との間の共有結合を含む。
【背景技術】
【0002】
前立腺がん
前立腺がん(PCa)は、過去数十年にわたって、依然として、生存率が低く発生率が高い、男性において最も多く見られる悪性疾患である。前立腺がんのその過剰発現(Silverら、Clinical Cancer Research 3巻、81~85頁(1997年))により、前立腺特異的膜抗原(PSMA)またはグルタマートカルボキシペプチダーゼII(GCP II)は、PCaの内部放射線療法および画像処理用の高感度放射能標識薬剤の開発のための優れた標的としての適格性が証明された(Afshar-Oromiehら、European journal of nuclear medicine and molecular imaging 42頁、197~209頁(2015年);Benesovaら、Journal of Nuclear Medicine 56巻、914~920頁(2015年);Robuら、Journal of Nuclear Medicine、jnumed.116.178939(2016年);Weineisenら;Journal of Nuclear Medicine 55巻、1083~1083頁(2014年);Roweら、Prostate cancer and prostatic diseases(2016年);Maurerら、Nature Reviews Urology(2016年))。前立腺特異的膜抗原は、触媒中心が、架橋ヒドロキシドリガンドを有する2個の亜鉛(II)イオンを含む、細胞外加水分解酵素である。これは、転移性およびホルモン不応性前立腺癌において、大いに増加するが、その生理学的発現はまた、腎臓、唾液腺、小腸、脳において、および程度は低いが、健常な前立腺組織においても報告されている。腸において、PSMAは、プテロイルポリ-γ-グルタマートをプテロイルグルタマート(フォラート)に変換することにより、フォラートを容易に吸収する。脳において、PSMAは、N-アセチル-L-アスパルチル-L-グルタマート(NAAG)を、N-アセチル-L-アスパルタートおよびグルタマートに加水分解する。
【0003】
前立腺特異的膜抗原(PSMA)
前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、前立腺がん上皮細胞において高度に過剰発現されるII型膜貫通糖タンパク質である。その名称にもかかわらず、PSMAはまた、様々な程度で、広範囲の非前立腺がんの新生血管(neovasculature)において発現される。PSMA発現を実証するために最も多く見られる非前立腺がんの中でもとりわけ、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、および腎細胞癌が含まれる。
【0004】
PSMA標的分子の一般に必要な構造は、P1’グルタマート部分に接続される亜鉛-結合基(例えば、尿素(Zhouら、Nature Reviews Drug Discovery 4巻、1015~1026頁(2005年))、ホスフィナートまたはホスホロアミダートなど)を包含する結合単位を含み、PSMAに対する高い親和性および特異性を保証し、通常、エフェクター官能基にさらに接続される(Machulkinら、Journal of drug targeting、1~15頁(2016年))。エフェクター部分は、より可動性があり、ある程度、構造上の改変に対して耐性がある。入口トンネルは、他の際立った2つの構造上の特徴を受け入れし、この2つの特徴は、リガンド結合にとって重要である。第1の特徴は、アルギニンパッチ、入口ファンネルの壁で正電荷を持つ領域およびPSMAのP1位で負電荷を持つ官能基の嗜好性についてのメカニズムの説明である。これは、リガンド-足場内の負電荷を持つ残基の好ましい取り込みの理由であると思われる。PSMAリガンドに対する正電荷の効果についての綿密な分析は、本発明者らの知る限りでは、今までのところ行われていない。結合後、アルギニン側鎖の協調した再配置は、いくつかの尿素ベースの阻害剤のヨード-ベンジル基を受け入れることが示されている、第2の重要な構造であるS1疎水性付属ポケットを開口させることができ、したがって、PSMAに対するそれらの高い親和性に寄与している(Barinkaら、Journal of medicinal chemistry 51巻、7737~7743頁(2008年))。
【0005】
Zhangらは、PSMAの遠隔結合部位を開発し、これは、二座結合モードに使用され得る(Zhangら、Journal of the American Chemical Society 132、12711~12716(2010年))。いわゆるアレーン-結合部位は、Arg463、Arg511およびTrp541の側鎖により形作られる単純な構造モチーフであり、GCPII入口蓋の一部である。遠位阻害剤部分によるアレーン結合部位の結合は、結合活性効果によりPSMAについての阻害剤親和性を大幅に増加させることができる。PSMA I&Tは、結合モードの結晶構造分析が利用可能ではないが、PSMAとこのように相互作用することを企図して開発された。Zhangらによる必要な特徴は、GCPIIの入口蓋のオープン構造を容易にし、それにより、アレーン-結合部位の接近容易性を可能にするリンカー単位(PSMA I&Tの場合におけるスベリン酸)である。リンカーの構造組成は、腫瘍標的指向化および生物活性に対してならびに画像処理コントラストおよび薬物動態(Liuら、Bioorganic & medicinal chemistry letters 21巻、7013~7016(2011年))、高い画像処理品質および効率的な標的内部放射線療法に不可欠である特性に対して多大な影響があることがさらに示された。
【0006】
PSMA-標的指向化阻害剤の2つのカテゴリーが、臨床の場で現在用いられている。一方では、PSMA I&Tまたは関連化合物のような放射性核種錯体化のためのキレート化単位を有するトレーサーがある(Kiessら、The quarterly journal of nuclear medicine and molecular imaging 59巻、241頁(2015年))。他方で、標的指向化単位およびエフェクター分子を含む小分子がある。
【0007】
選択的PSMA画像処理に最も頻繁に用いられる薬剤は、PSMA HBED-CC(Ederら、Bioconjugate chemistry 23巻、688~697頁(2012年))、PSMA-617(Benesovaら、Journal of Nuclear Medicine 56巻、914~920頁(2015年))およびPSMA I&T(Weineisenら;Journal of Nuclear Medicine 55巻、1083~1083(2014年))であり、これらは、主に68Gaで標識されている(88.9% β、Eβ+、max=1.89MeV、t1/2=68分)。これらの中でもとりわけ、68Ga-PSMA-HBED-CC(68Ga-PSMA-11としても公知である)は、PCaのPET画像処理用のゴールデンスタンダードとして、今までのところ考えられている。
【0008】
18F標識化
近年、いくつかのグループは、PCa診断用の新規な18F標識化尿素ベースの阻害剤の開発に焦点を合わせている。商業的に流通する68Ge/68Ga放射性核種ジェネレーター(68Ge;t1/2=270.8d)から得ることができる、放射性金属68Gaと異なり、放射性同位体18F-フッ素(96.7% β、Eβ+、max=634keV)は、その生成のためにオンサイトサイクロトロンを要する。こうした制限にも関わらず、18Fは、その半減期(t1/2=109.8分)が長いおよびその陽電子エネルギーが低いことにより、ルーチン的な取り扱いおよび画質に関して有意な利点を提供する。さらに、サイクロトロンにおける大量生成に向けての可能性があり、これは、より高い患者スループットおよび製造コストの削減のために有益であるはずである。18F-標識化尿素ベースのPSMA阻害剤18F-DCFPylによって、原発性および転移性PCa(Roweら、Molecular Imaging and Biology、1~9(2016年))の検出における有望な結果および比較試験における68Ga-PSMA-HBED-CCへの優位性(Dietleinら、Molecular Imaging and Biology 17巻、575~584頁(2015年))が実証された。PSMA-617の構造に基づいて、近年、18F標識化類似体PSMA-1007が開発され、これは、同等の腫瘍対臓器比を示した(Cardinaleら、Journal of nuclear medicine:official publication、Society of Nuclear Medicine 58巻、425~431頁(2017年);Gieselら、European journal of nuclear medicine and molecular imaging 43巻、1929~1930(2016年))。68Ga-PSMA-HBED-CCによる比較試験から、両トレーサーの類似の診断精度および18F-PSMA-1007の尿クリアランスの低下が明らかになり、前立腺のより良い評価を可能になった(Gieselら、European journal of nuclear medicine and molecular imaging 44巻、678~688頁(2017年))。
【0009】
18F標識を導入するための魅力的なアプローチとしては、フッ化ケイ素アクセプター(SIFA)の使用である。フッ化ケイ素アクセプターは、例えば、Lindnerら、Bioconjugate Chemistry 25巻、738~749頁(2014年)に記載されている。フッ化ケイ素結合を維持するために、フッ化ケイ素アクセプターの使用によって、シリコーン原子の周囲の立体的にかさ高い基の必要性が生じる。次に、これによって、フッ化ケイ素アクセプターが高度に疎水性になる。標的分子への結合、特に、PSMAである標的分子への結合に関して、フッ化シリコーンアクセプターにより提供される疎水性部分は、Zhangら、Journal of the American Chemical Society 132巻、12711~12716(2010年)に記載されている疎水性ポケットとの放射線診断用または放射線治療用化合物の相互作用を確立する目的のために活用され得る。しかし、結合前に、分子に導入された、より高度な範囲の親油性は、in vivo体内分布に適した、すなわち、非標的組織における非特異的結合が低い放射性医薬品の開発に関して深刻な問題をもたらす。
【0010】
疎水性問題の解決の失敗
多くの試みにも関わらず、フッ化ケイ素アクセプターにより引き起こされる疎水性問題は、従来技術において十分に解決されていない。
【0011】
さらに説明すると、Schirrmacher E.ら(Bioconjugate Chem.2007年、18巻、2085~2089)は、非常に有効な標識化シントンp-(ジ-tert-ブチルフルオロシリル)ベンズアルデヒド([18F]SIFA-A)を用いて、異なる18F標識化ペプチドを合成したが、これは、フッ化ケイ素アクセプターの一例である。SIFA技術は、予想外に効率的な同位体19F-18F交換をもたらし、HPLC精製を適用せずに、225~680GBq/μmol(6081-18 378Ci/mmol)の間の高い比活性において、ほぼ定量的収率で18F-シントンを生成した。[18F]SIFA-ベンズアルデヒドは、高い放射化学収率で、N末端アミノ-オキシ(N-AO)誘導体化ペプチドAO-Tyr3-オクトレオタート(AO-TATE)、シクロ(fK(AO-N)RGD)およびN-AO-PEG-[D-Tyr-Gln-Trp-Ala-Val-Ala-His-Thi-Nle-NH](AO-BZH3、ボンベシン誘導体)を標識するために、最後に用いられた。それにもかかわらず、標識されたペプチドは、(本明細書に記載した条件を用いてHPLC保持時間から取り込むことができるよう)高親油性であり、したがって、動物モデルまたはヒトにおいてさらなる評価に適していない。
【0012】
Wangler C.ら(Bioconjugate Chem.、2009年、20巻(2号)、317~321頁)において、タンパク質(ラット血清アルブミン、RSA)の第1のSIFAベースのKit様放射性フッ素付加が記載されている。標識化剤として、4-(ジ-tert-ブチル[18F]フルオロシリル)ベンゼンチオール(Si[18F]FA-SH)は、放射化学収率(RCY)40~60%の単純な同位体交換により生成され、20~30分以内に、全RCY12%で、マレイミド誘導体化血清アルブミンに直接、生成物をカップルさせた。技術的に単純な標識化手順は、いかなる詳述された精製手順をも要さず、PETを用いたin vivo画像処理用のSi-18F化学の成功した適用の明快な例である。マウスの時間-活性曲線およびμPET画像によって、活性のほとんどが、肝臓において限局化したことが示され、したがって、標識化剤が、非常に親油性であり、in vivoプローブを肝胆道排出および広範な肝代謝に方向づけられることを実証した。
【0013】
Wangler C.ら(Bioconjug Chem.2010年12月15日;21巻(12号):2289~96頁を参照のこと)は、引き続いて、新たなSIFA-オクトレオタート類似体(SIFA-Tyr3-オクトレオタート、SIFA-Asn(AcNH-β-Glc)-Tyr3-オクトレオタートおよびSIFA-Asn(AcNH-β-Glc)-PEG-Tyr3-オクトレオタート)を合成し、評価することにより、SIFA技術の主な弱点、得られた放射性医薬品の高親油性を克服しようと努めた。これらの化合物では、親水性リンカーおよび薬物動態学的修飾因子は、ペプチドとSIFA-部分、すなわち、炭水化物と炭水化物を加えたPEGリンカーの間に導入された。コンジュゲートの親油性の尺度として、log P(ow)が決定され、SIFA-Asn(AcNH-β-Glc)-PEG-Tyr-オクトレオタートの場合0.96およびSIFA-Asn(AcNH-β-Glc)-Tyr-オクトレオタートの場合1.23であることが判明した。これらの結果から、SIFA部分の高親油性が、親水部分を適用することにより、わずかな補正ができるにすぎないということが示される。第1の画像処理試験によって、過剰な肝クリアランス/肝臓取り込みが実証されたため、第1のヒト試験に移行されたことがない。
【0014】
Bernard-Gauthierら(Biomed Res Int.2014;2014:454503)は、小型の補欠分子族(prosthetric group)および低分子量の他の化合物から、標識されたペプチドおよびごく最近のアフィボディ分子に及ぶ文献において報告されている、異なるSIFA種の重大な多血症を概説している。これらのデータに基づいて、SIFAベースの補欠分子族の親油性の問題は、今までのところ解決していない;すなわち、SIFA共役ペプチドの全親油性を、およそ-2,0より低いlog Dまで低下させる方法論は、記載されていない。
【0015】
Lindner S.ら(Bioconjug Chem.2014年4月16日;25巻(4号):738~49)において、特異的GRP受容体リガンドとしてのペグ化ボンベシン(PESIN)誘導体および特異的αvβ3結合剤としてのRGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸の1文字コード)ペプチドが、合成され、フッ化ケイ素-アクセプター(SIFA)部分でタグ付けされたことが記載されている。SIFA部分の高親油性を補正するために、様々な親水性構造修飾を、logD値を減少させるよう導入した。SIFA-Asn(AcNH-β-Glc)-PESIN、SIFA-Ser(β-Lac)-PESIN、SIFA-Cya-PESIN、SIFA-LysMe3-PESIN、SIFA-γ-カルボキシ-d-Glu-PESIN、SIFA-Cya2-PESIN、SIFA-LysMe3-γ-カルボキシ-d-Glu-PESIN、SIFA-(γ-カルボキシ-d-Glu)2-PESIN、SIFA-RGD、SIFA-γ-カルボキシ-d-Glu-RGD、SIFA-(γ-カルボキシ-d-Glu)2-RGD、SIFA-LysMe3-γ-カルボキシ-d-Glu-RGD。親油性を低下させることを目標として、すでに改善され誘導体化された、これらのペプチドのすべては、+2~-1.22の間の範囲のlogD値を示した。
【0016】
Niedermoser S.ら(J Nucl Med.2015年7月;56巻(7号):1100~5)では、新規に開発された18F-SIFA-および18F-SIFAlin-(SIFA=フッ化ケイ素-アクセプター)によって修飾されたTATE誘導体を、ソマトスタチン受容体を有する腫瘍の高品位画像処理用の現在の臨床ゴールドスタンダードである68Ga-DOTATATEと比較した。この目的のために、18F-SIFA-TATEおよび2つのかなり複雑な類似体、18F-SIFA-Glc-PEG1-TATE、18F-SIFAlin-Glc-Asp2-PEG1-TATEを開発した。これらの薬剤はいずれも、logD<-1.5を示さなかった。
【0017】
上記を考慮して、本発明の根底にある技術的な課題は、フッ化シリコーンアクセプターを含有し、同時に、好ましいin-vivo特性を特徴とする放射線診断および放射線療法を提供することに見出すことができる。
【0018】
WO2019/020831およびWO2020/157184は、リガンド-SIFA-キレーターコンジュゲートを開示している。
本発明では、原理証明が、標的として、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に高い親和性で結合する、特異的なコンジュゲートを用いて確立された。したがって、本発明の根底にあるさらなる技術的な課題は、がん、好ましくは、前立腺がんである医療適用についての放射線療法および放射線診断学の改善を提供することに見出すことができる。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、式(1):
【0020】
【化1】
【0021】
[式中、M3+は、キレート化放射性または非放射性金属カチオンである]の化合物;およびそれらの薬学的に許容される塩に関する。
本発明の化合物を含む医薬組成物または診断用組成物もやはり提供される。本発明の化合物は、がん診断用薬または画像処理剤としての使用のためであり得る。したがって、本発明の化合物または本発明の化合物を含む組成物を投与するステップを含む、がんの画像処理および/または診断の方法もやはり提供される。本発明の化合物または組成物は、がんの治療における使用のためであり得る。本発明の化合物または組成物は、血管新生/血管形成の診断、画像処理または予防における使用のためであり得る。本発明の化合物または組成物は、がん診断用薬もしくは画像処理剤としての使用のため、またはがんの治療における使用のためであり得る。本発明の化合物または組成物は、がん診断用薬もしくは画像処理剤としての使用のためまたはがんの治療における使用のためであり得、がんは、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌または腎細胞癌である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(A)rhPSMA-7異性体は、ジアミノプロピオン酸分枝単位(D-Dapまたは L-Dap)およびDOTA-GA-キレーター(R-またはS-DOTA-GA)におけるグルタミン酸ペンダントアームの立体配置(stereoconfiguration)が異なる。(B)いずれもDOTAキレーターを備えたrhPSMA-10.1(D-Dap)およびrhPSMA-10.2(L-Dap)も、分枝単位(D-DapまたはL-Dap)の立体配置が異なる。十分に確立されたPSMAアドレッシングリガンドPSMA-617(C)およびPSMA I&T(D)が、参照化合物とされる(Benesova Mら、J Nucl Med.2015年;56巻:914~920頁;Weineisen Mら、J Nucl Med.2015年;56巻:1169~1176頁)。
図2】A)[natLu、19F]rhPSMA-7.1~-7.4(白;n=3)、[natLu、19F]rhPSMA-10.1、-10.2(黒/白のストライプ;n=3)ならびに参照[natLu]PSMA-617および[natLu]PSMA-I&T(黒;n=3)の結合親和性(IC50[nM]、1h、4℃)を示す図である。B)参照リガンド([125I]BA)KuE)のパーセンテージとしてのLNCaP細胞(1h、37℃)による[177Lu、19F]rhPSMA-7.1~-7.4(白;n=3)、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1、-10.2(黒/白のストライプ;n=3)ならびに参照[177Lu]PSMA-617および[177Lu]PSMA I&T(黒;n=3)を示す図である。C)分配係数(n-オクタノール/PBS pH7.4におけるlog D7.4)として表した、[177Lu、19F]rhPSMA-7.1~-7.4(白;n=6)、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1、-10.2(黒/白のストライプ;n=6)、ならびに参照[177Lu]PSMA-617および[177Lu]PSMA I&T(黒;n=6)の親油性を示す図である。D)移動相においてHSAを用いたサイズ排除クロマトグラフィーにおいて決定されたヒト血清アルブミン関連により決定した[177Lu、19F]rhPSMA-7.1~-7.4(白)、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1、-10.2(黒/白のストライプ)ならびに参照[177Lu]PSMA-617および[177Lu]PSMA I&T(黒)の見かけの分子量(AMW)を示す図である。
図3】LNCaP腫瘍を有する雄のSCIDマウスにおける、24h p.i.での[177Lu、19F]rhPSMA-7.3、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1および参照[177Lu]PSMA I&Tの体内分布を示す図である。データは、1グラム当たりの注入量のパーセンテージ[%ID/g]、平均±標準偏差(n=5)(表2からプロットされたデータ)として表される。
図4a】LNCaP腫瘍を有する雄のSCIDマウスにおける、24h p.i.での[177Lu、19F]rhPSMA-7.3、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1および参照[177Lu]PSMA I&Tの腫瘍対臓器比を示す図である。データは、1グラム当たりの注入量のパーセンテージ[%ID/g]、平均±標準偏差(n=5)(表3からプロットされたデータ)として表される。図4aは大縮尺軸を示す。
図4b】LNCaP腫瘍を有する雄のSCIDマウスにおける、24h p.i.での[177Lu、19F]rhPSMA-7.3、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1および参照[177Lu]PSMA I&Tの腫瘍対臓器比を示す図である。データは、1グラム当たりの注入量のパーセンテージ[%ID/g]、平均±標準偏差(n=5)(表3からプロットされたデータ)として表される。図4bは小縮尺軸を示す。図4bは、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1についての腫瘍対腎臓比(5.52 SD1.91)が、7.3またはI&Tを超えることを示す。
図5】24h p.i.に屠殺し、採血直後に画像化し、VECTor4小動物SPECT/PET/OI/CTにおいて撮影時間が45分であった、LNCaP腫瘍を有するマウスにおける、177Lu-標識rhPSMA-7.3、rhPSMA-7.1およびrhPSMA-10.1の静止μSPECT/CT画像(最大強度投影)を示す図である。腫瘍重量および腫瘍中のトレーサーの取り込み(1グラム当たりの注入量のパーセント、[%ID/g])は、その後の体内分布試験から決定された。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、式(1):
【0024】
【化2】
【0025】
[式中、M3+は、キレート化放射性または非放射性金属カチオンである]の化合物;およびそれらの薬学的に許容される塩に関する。
本発明の1種もしくは複数の化合物を含む医薬組成物または診断用組成物もやはり含まれる。
【0026】
式(1)の化合物において、Fは、フッ素の任意の同位体であり得る。式(1)の化合物において、Fは、18Fまたは19Fであり得る。式(1)の化合物において、Fは、18Fであり得る。式(1)の化合物において、Fは、19Fであり得る。式(1)の化合物を含む組成物において、フッ素同位体の任意の組合せが存在し得る。式(1)の化合物を含む組成物において、18Fおよび19Fの任意の組合せが存在し得る。特に、本発明の化合物および組成物には、式(1)の化合物が含まれ、Fは、18Fまたは19Fである。診断用薬または画像処理剤としての使用のための本発明の化合物には、Fが18Fである式(1)の化合物が含まれる。治療薬としての使用のための本発明の化合物には、Fが、19Fである式(1)の化合物が含まれる。
【0027】
本明細書中の化合物において、M3+は、Sc、Cu、Ga、Y、In、Tb、Ho、Lu、Re、Pb、Bi、Ac、ErおよびThのカチオンから選択され得る。M3+は、Sc3+、Cu3+、Ga3+、Y3+、In3+、Tb3+、Ho3+、Lu3+、Re3+、Pb3+、Bi3+、Ac3+、Er3+およびTh3+から選択され得る。M3+は、Ga3+またはLu3+であり得る。M3+は、Ga3+であり得る。M3+は、68Ga3+であり得る。M3+は、Lu3+であり得る。M3+は、177Lu3+であり得る。M3+は、Ac3+であり得る。M3+は、225Ac3+であり得る。
【0028】
特定の化合物には、
【0029】
【化3】
【0030】
;およびそれらの薬学的に許容される塩が含まれる。
特定の化合物には、
【0031】
【化4】
【0032】
;およびそれらの薬学的に許容される塩が含まれる。
特定の化合物には、
【0033】
【化5】
【0034】
;およびそれらの薬学的に許容される塩が含まれる。
本発明の化合物または組成物は、がん診断用薬または画像処理剤としての使用のためであり得る。
【0035】
本発明の化合物または組成物は、がんの治療における使用のためであり得る。
本発明の化合物または組成物は、がんの治療における使用のためであり得、がんは、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌または腎細胞癌である。
【0036】
本発明の化合物または組成物は、がん診断用薬もしくは画像処理剤としての使用のためまたはがんの治療における使用のためであり得、がんは、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌または腎細胞癌である。
【0037】
本発明の化合物または組成物は、血管新生/血管形成の診断、画像処理または予防における使用のためであり得る。
本発明の化合物または組成物を、がんの画像処理および/または診断を必要とする患者に投与するステップを含む、がんを画像処理するおよび/または診断する方法が本明細書中でやはり提供される。
【0038】
以下の本化合物が提供される。
[Lu]rhPMSA-10.1
【0039】
【化6】
【0040】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
[Lu、18F]rhPSMA-10.1
【0041】
【化7】
【0042】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
[Lu、19F]rhPSMA-10.1
【0043】
【化8】
【0044】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
177Lu]rhPMSA-10.1
【0045】
【化9】
【0046】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
177Lu、18F]rhPSMA-10.1
【0047】
【化10】
【0048】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
177Lu、19F]rhPSMA-10.1
【0049】
【化11】
【0050】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
Luは、代替的には、Acであり得、例えば、225Acであり得る。
[Ga]rhPMSA-10.1
【0051】
【化12】
【0052】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
[Ga、18F]rhPSMA-10.1
【0053】
【化13】
【0054】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
[Ga、19F]rhPSMA-10.1
【0055】
【化14】
【0056】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
68Ga]rhPMSA-10.1
【0057】
【化15】
【0058】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
68Ga、18F]rhPSMA-10.1
【0059】
【化16】
【0060】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
68Ga、19F]rhPSMA-10.1
【0061】
【化17】
【0062】
およびそれらの薬学的に許容される塩。
以下の本化合物も開示される。
【0063】
【化18】
【0064】
【化19】
【0065】
【化20】
【0066】
【化21】
【0067】
【化22】
【0068】
【化23】
【0069】
【化24】
【0070】
本明細書中で示される化合物は、3つの別々の部分を含む。3つの別々の部分は、PSMA結合部分、フッ化ケイ素アクセプター(SIFA)部分を含むリンカー基、キレーター部分であり、SIFA部分は、ケイ素、および18Fまたは19Fであり得るフッ素原子との間の共有結合を含む。
【0071】
画像診断の場合、SIFA部分におけるフッ素原子は、18Fであり得る。18Fは、19Fとの同位体交換により導入され得る。
本発明の化合物は、PSMA結合部分に加えて親水性キレーター部分を要する。親水性キレーター部分は、SIFA部分の存在により引き起こされる化合物の疎水性の性質を低下させることを要する。本発明の重要な態様は、単一分子内でのフッ化ケイ素アクセプターおよびキレーター部分またはキレートの組合せである。これらの2つの構造要素、SIFAおよびキレーターは、空間的近接を示す。
【0072】
本発明の化合物は、SIFA部分で放射活性で標識され得る。SIFA部分で放射能標識されていない分子もやはり含まれる。
本発明者らは、親水性キレーター、例えば、DOTAGAまたはDOTAなどに隣接したフッ化シリコーンアクセプターの配置が、in-vivo投与に適した化合物に与える範囲で、化合物の全疎水性を変化させる程度まで、効率的にSIFA部分の親油性を、遮蔽するまたは補正することを驚くべきことに発見した。
【0073】
本発明の化合物のさらなる利点は、他のPSMA標的放射性医薬品、例えば、PSMA I&Tなどと比較した場合、マウスの腎臓において、それらの蓄積が驚くほど少ないことである。ある特定の理論により縛られることを望まないが、これは、腎臓において蓄積を予想外に減少させるキレーターとの、構造要素SIFAの組合せであると思われる。
【0074】
親油性/親水性の点から、logP値(時折、logD値とも称される)は、技術分野で確立された(art-established)尺度である。
用語「親油性」とは、脂質溶液に溶解される、またはそれに吸収されるまたは脂質様表面もしくはマトリックスで吸着される強度に関する。これは、脂質(文字通りの意味)についてのまたは有機もしくは無極性脂質についてのまたは水と比べて小型の双極子モーメントを含む液体、溶液または表面についての嗜好性を示す。用語「疎水性」は、本明細書中で等価な意味で用いられる。形容詞親油性のおよび疎水性は、上に記載した名詞に対応する意味で用いられる。
【0075】
2つの不混和性のもしくはほぼ不混和性の溶媒の界面における分子の質量流束は、その親油性によって支配される。親油性であるほど、分子は、親油性有機相に溶解しやすい。水とn-オクタノールとの間で観察される分子の分配係数は、親油性の標準尺度として採用されている。種Aの分配係数Pは、P=[A]n-オクタノール/[A]比として定義される。一般に報告される数値は、logP値であり、これは、分配係数の対数である。分子が、イオン化可能な場合では、複数の異なる微細種(分子のイオン化されたおよびイオン化されない形態)は、両相に原理的に存在することになる。イオン化可能な種の全親油性を記述する量は、比D=[すべての微細種の濃度の和]n-オクタノール/[すべての微細種の濃度の和]として定義される分配係数Dである。logPと類似して、頻繁に、分配係数の対数である、logDが報告される。しばしば、緩衝系、例えば、リン酸緩衝食塩水などは、logPの上で記載した決定における水の代替として用いられる。
【0076】
第1の分子における置換基の親油性の特徴が、評価されようとするかつ/または定量的に決定されようとする場合、それは、その置換基に対応する第2の分子を評価することができ、前記第2の分子は、例えば、前記置換基を第1の分子の残部に接続する結合を切断するおよびそれにより得られた自由原子価を水素に接続することにより得られる。
【0077】
あるいは、分子のlogPへの置換基の寄与が、決定され得る。分子R-XのlogPへの置換基Xの寄与πXXは、πXX=logPR-X-logPR-H[式中、R-Hは、非置換親化合物である]として定義される。
【0078】
1より大きいPおよびDの値ならびに0より大きいlogP、logDおよびπXX値は、親油性/疎水性の特徴を示し、一方で1より小さいPおよびDの値ならびに0より小さいlogP、logDおよびπXX値は、それぞれの分子または置換基の親水性の特徴を示す。
【0079】
本発明による親油基または分子全体の親油性を特徴付ける上に記載したパラメータは、実験的手段により決定され得、かつ/または当技術分野で公知の計算方法により予測され得る(例えば、Sangster、Octanol-water Partition Coefficients:fundamentals and physical chemistry、John Wiley & Sons、Chichester.(1997年)を参照のこと)。
【0080】
本発明の化合物のlogP値は、-5~-1.5の間である。logP値は、-3.5~-2.0の間であることが特に好ましい。
本化合物は、好ましくは、50nM以下、20nM以下または5nM以下である、IC50として発現される、好ましい親和性を有する高い親和性PSMAリガンドである。
【0081】
PET画像処理において用いるために、化合物は、陽電子放出原子を要する。これらの化合物には、医学的使用のための18Fが含まれる。
本明細書中で開示される通り、本発明の1種もしくは複数の化合物を含むまたはそれらからなる医薬画像処理組成物がやはり提供される。
【0082】
本明細書中で開示される通り、本発明の1種もしくは複数の化合物を含むまたはそれらからなる診断用組成物がやはり提供される。
医薬組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤および/または希釈剤をさらに含むことができる。適当な医薬担体、賦形剤および/または希釈剤の例は、当技術分野において周知であり、リン酸緩衝食塩溶液、水、乳剤、例えば、油/水型乳剤、様々なタイプの湿潤剤、無菌の溶液などが含まれる。かかる担体を含む組成物は、周知の定法により配合され得る。これらの医薬組成物は、適当な用量で対象に投与され得る。適当な組成物の投与は、異なるやり方で、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、皮内、鼻腔内または気管支内投与により行われ得る。前記投与は、例えば、膵臓中の部位または脳動脈中または直接脳組織中への注射および/または送達により行われることが特に好ましい。組成物はまた、例えば、膵臓または脳のような外部のまたは内部の標的部位への微粒子銃送達により、標的部位に直接投与もされ得る。投与量レジメンは、担当医および臨床学的因子により決定される。医学分野において周知の通り、任意の1人の患者用の投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与されようとする特定の化合物、性別、投与の時間および経路、身体全体の健康、および同時に投与される他の薬物を含めた、多くの因子に依存する。薬学的に活性な物質は、有効治療量で存在し得、この有効治療量は、用量当たり体重0.1ng~10mg/kgの間であってもよいが;この模範的な範囲を下回るまたは上回る用量が想定され、特に、前述の因子が考慮される。
【0083】
診断医学における使用のための、本明細書中で開示されている、本発明の1種または複数の化合物がやはり提供される。
医学における好ましい使用は、核医学、例えば、核画像診断など、また、指定された核分子画像処理、および/または患部組織における、過剰発現を伴う疾患、好ましくは、PSMAの標的放射線療法におけるものである。
【0084】
がん、好ましくは、前立腺がんを診断するおよび/またはステージ分類する方法における使用のための、本明細書中で定義されている、本発明の化合物がやはり提供される。前立腺がんは、PSMAを発現する唯一のがんではない。PSMA発現を示す非前立腺がんは、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、および腎細胞癌が含まれる。したがって、PSMA結合部分を有する本明細書に記載されている、任意の化合物は、PSMA発現を有するがんの診断、画像処理または治療において用いられ得る。
【0085】
好ましい指示は、がん、例えば、それだけに限られないが、高悪性度グリオーマ、肺がん、特に、前立腺がんおよび転移した前立腺がんなどのがんの検出またはステージ分類、中等度リスクから高リスクの原発性前立腺がんを伴う患者における転移性疾患の検出、および転移部位、さらに、生化学的に再発性前立腺がんを伴う患者における低血清PSA値の検出である。好ましい別の指示は、血管新生(neoangiogensis)の画像処理および視覚化である。
【0086】
がん、好ましくは、前立腺がんを診断するおよび/またはステージ分類する方法における使用のための、本明細書中で定義されている、本発明の化合物がやはり提供される。
本発明の1種または複数の化合物を含むもしくはそれらからなる医薬組成物または診断用組成物もやはり提供される。本発明の化合物は、がん診断用薬または画像処理剤としての使用のためであり得る。したがって、本発明の化合物、または本発明の化合物を含む組成物を投与するステップを含む、がんの画像処理および/または診断の方法もやはり提供される。本発明の化合物または組成物は、がんの治療における使用のためであり得る。本発明の化合物または組成物は、血管新生/血管形成の診断、画像処理または予防における使用のためであり得る。本発明の化合物または組成物は、がん診断用薬もしくは画像処理剤としての使用のため、またはがんの治療における使用のためであり得る。本発明の化合物または組成物は、がん診断用薬もしくは画像処理剤としての使用のためまたはがんの治療における使用のためであり得、がんは、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸直腸癌または腎細胞癌である。
【0087】
本明細書に記載されている化合物のいずれかの使用に関して、用語「治療」とは、問題の疾患または障害に罹患している、または罹患するリスクがある、または潜在的に罹患するリスクがある対象に化合物が投与される、介入の任意の形態を説明するために用いられる。したがって、用語「治療」は、予防的(preventative)(予防用(prophylactic))治療および疾患もしくは障害の測定可能または検出可能な症状が示されている場合の治療の両方を包含する。
【0088】
(例えば、疾患または状態の治療の方法に関して)用語「有効治療量」とは、所望の治療効果をもたらすのに有効な化合物の量を指す。
任意の化学用語は、別段示されない限り、(例えば、IUPAC Gold Bookに定義される通り)従来の意味で用いられている。
【0089】
記載されている化合物のいずれかがキラル中心を有する範囲内において、本発明は、ラセミ体の形態であろうと分解されたエナンチオマーの形態であろうと、かかる化合物のすべての光学異性体にまで及ぶ。本明細書に記載されている発明は、いかにしてそのように調製されたかにかかわらず、開示された化合物のすべての結晶形、溶媒和物および水和物に関する。本明細書に開示された化合物のいずれかが、酸または塩基性中心、例えば、カルボキシラートまたはアミノ基などを有する範囲内において、その場合は、前記化合物のすべての塩形態が本明細書に含まれる。医薬用用途の場合、塩は、薬学的に許容される塩と考えられるべきである。
【0090】
挙げることができる塩または薬学的に許容される塩には、酸付加塩および塩基付加塩、ならびにキレート化非放射性または放射性カチオンの存在によって生じる塩形態が含まれる。かかる塩は、例えば、場合によっては、溶媒中で、または塩が不溶性である培地中で、適切な酸または塩基の1種もしくは複数の当量との化合物の遊離酸または遊離塩基の形態の反応による、その後、標準的な技法を用いた(例えば、真空中で、凍結乾燥によるまたは濾過による)前記溶媒または前記培地の除去による、従来の手段によって形成され得る。塩はまた、例えば、適当なイオン交換樹脂を用いて、塩の形態の化合物の対イオンを、別の対イオンと交換することにより調製され得る。
【0091】
ルテチウムの他に、薬学的に許容される塩のさらなる例には、鉱酸および有機酸に由来する酸付加塩、ならびにナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムなどの金属に由来する塩が含まれる。
【0092】
酸付加塩の例としては、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アリールスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸)、アスコルビン酸(例えば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)ショウノウ酸、カンファースルホン酸、(+)-(1S)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸(例えば、D-グルコン酸)、グルクロン酸(例えば、D-グルクロン酸)、グルタミン酸(例えば、L-グルタミン酸)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)-L-乳酸、(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸((-)-L-リンゴ酸など(L-リンゴ酸)、マロン酸、(±)-DL-マンデル酸、メタリン酸、メタンスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸(例えば、(+)-L-酒石酸)、チオシアン酸、ウンデシレン酸および吉草酸で形成された酸付加塩が含まれる。
【0093】
また、化合物およびその塩の任意の溶媒和物もやはり包含される。好ましい溶媒和物は、本発明の化合物の固体構造(例えば、結晶構造)に、非毒性の薬学的に許容される溶媒(以下、溶媒和溶媒と称する)の分子を取り込むことによって形成される溶媒和物である。かかる溶媒の例としては、水、アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノールおよびブタノールなど)およびジメチルスルホキシドを含むことができる。溶媒和物は、溶媒和溶媒を含有する溶媒またはその溶媒の混合物を用いて本発明の化合物を再結晶させることにより調製され得る。任意の所与の場合において溶媒和物が形成されたか否かは、例えば、熱重量分析(TGA)、示差走査熱量測定(DSC)、およびX線結晶構造解析など、周知のおよび標準的な手法を用いて、化合物の結晶を分析にかけることによって決定され得る。
【0094】
溶媒和物は、化学量論的溶媒和物でも非化学量論的溶媒和物でもよい。ある特定の溶媒和物は、水和物であってもよく、水和物の例には、半水和物、一水和物、および二水和物が含まれる。溶媒和物に関するより詳細な議論およびその製造および特徴付けに用いられる方法については、Brynら、米国インディアナ州ウェストラフィエットのSSCI、Incにより刊行された、Solid-State Chemistry of Drugs、第2版、1999年、ISBN 0-967-06710-3を参照のこと。
【0095】
本発明の化合物は、1つまたは複数の同位体置換を含んでいてもよく、ある特定の元素への参照には、その範囲内にその元素のすべての同位体が含まれる。例えば、水素への参照には、その範囲内に1H、2H(D)、3H(T)が含まれる。同様に、炭素および酸素への参照には、その範囲内にそれぞれ12C、13Cおよび14Cおよび16Oおよび18Oが含まれる。類似の方法において、ある特定の官能基への参照は、別段文脈で示されない限り、同位体の変化をその範囲に含む。例えば、5個の水素原子がすべて重水素同位体の形態であるエチル基(ペルデューテロエチル(perdeuteroethyl)基)、または3個の水素原子がすべて重水素同位体の形態であるメトキシ基(トリデューテロメトキシ基)などの場合、例えば、エチル基のようなアルキル基、またはメトキシ基のようなアルコキシ基への参照は、その基中の水素原子のうちの1個または複数が重水素またはトリチウム同位体の形態である差異をも包含する。同位体は、放射性であっても非放射性であってもよい。
【実施例
【0096】
方法
概説
SPD-20A UV/Vis検出器を装備したShimadzuグラジエント系(Neufahrn、Germany)を用いて、分析および分取用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行った。分析用(MultoKrom 100C18、150×4.6mm、5μm)、ラジオ分析用(Multospher 100RP18、125×4.6mm、5μm)および分取用(MultoKrom 100C18、250×20mm、5μm)HPLCのカラムを、CS Chromatographie Service社(Langerwehe、Germany)から購入した。すべてのHPLC操作のための溶離液は、水(溶媒A)および水2体積%を含むアセトニトリル(溶媒B)であり、いずれも0.1体積%のトリフルオロ酢酸(TFA)を含有した。放射活性を、HERM LB 500 NaI検出器(Berthold Technologies社、Bad Wildbad、Germany)によって検出した。ラジオ薄層クロマトグラフィー(TLC)を、Scan-RAM検出器(LabLogic Systems社、Sheffield、United Kingdom)を用いて行った。エレクトロスプレーイオン化-質量スペクトルを、expression CMS(Advion社、Harlow、UK)で取得した。
【0097】
PSMAリガンドの合成
錯体化されていないラジオハイブリッドリガンドrhPSMA-7.1、-7.2、-7.3および-7.4を、文献のプロトコール(Wurzer Aら、EJNMMI Res.2020年;10巻:149頁)に従って固相/溶相混合合成戦略を適用して調製した。DOTA-GAキレーターをDOTAにより置換することによって、rhPSMA-10.1および-10.2を、rhPSMA-7異性体に類似した様式で得た。PSMA I&Tを、既報の手順(Weineisen Mら、J Nucl Med.2015年;56巻:1169-1176頁)に従って調製し、PSMA-617を、MedChemExpress LLC(Monmouth Junction、USA)から購入した。in vitro試験用の非放射性ルテチウムとの錯体化のために、PSMA阻害剤(1.0当量)のDMSO 2mM溶液をLuCl(2.5当量)の20mM水溶液と合わせ、95℃に30分間加熱した。Luキレート化PSMAリガンドの分析データを以下に示す。
【0098】
放射線標識
Lu-177による放射性標識を、PSMA標的リガンドについて確立された手順(Benesova Mら、2015年;56巻:914~920頁;Weineisen Mら、J Nucl Med.2015年;56巻:1169~1176頁)に従って行った。簡潔に言えば、前駆体(1.0nmol、10μL、DMSO中0.1mM)を、1.0M NaOAc緩衝液(pH5.5)10μLに加えた。続いて、20~50MBqの177LuCl(モル活性>3000GBq/mg、740MBq/mL、0.04M HCl、ITM、Garching、Germany)を加え、混合液を0.04M HClにより100μLまで充てんした。反応混合物を、90℃で20~30分間加熱し、放射化学的純度(RCP)を、iTLC-SGクロマトグラフィー紙(Agilent社、Santa Clara、USA)上の0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝液およびTLCシリカゲル60F254プレート(Merck Millipore社、Burlington、USA)上の1.0M NHOAc/DMF緩衝液(1/1;v/v)を用いた放射性-HPLCおよび放射性-TLCを用いて決定した。
【0099】
親油性
177Lu標識化PSMAリガンドおよそ1MBqを、リン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.4)およびn-オクタノール(n=6)の1:1混合物(v/v)1mLに溶解した。懸濁液を3分間激しく混合した後、バイアルを15000×gで3分間遠心し、2層のアリコート100μLをγカウンターで測定した。最後に、n-オクタノール試料およびPBS緩衝液で検出された放射活性の比を算出し、分布比log D7.4として表した。
【0100】
ヒト血清アルブミン(HSA)への結合
177Lu標識リガンドのHSAへの結合を、アルブミン媒介サイズ排除クロマトグラフィー(AMSEC)により評価した。ゲル濾過サイズ排除カラム(Superdex 75 Increase 10/300 GL、GE Healthcare社、Uppsala、Sweden)を、移動相(室温で0.8mL/分の一定流速)として生理的濃度のHSA緩衝液(700μM、Biowest社、Nuaille、France)と共に用いた。較正のために、市販のタンパク質セット(GE Healthcare社、Buckinghamshire、UK)を用いた。これらのクロマトグラフィー条件下では、放射性リガンド(1.0MBq、10~20GBq/μmol)の保持時間は、HSA/リガンド相互作用の程度に依存し、したがって、前述のタンパク質セットによる較正によって、HSA結合の程度を定量化させるパラメータとしてAMW(kDaで表す)に変換され得る。検出ウィンドウは、2.3kDa([18F]フッ化物、HSA相互作用なし)~70.2kDa(HSAの実験分子量、HSAとの相互作用が最大)の間の範囲である。
【0101】
親和性決定(IC50)および内部移行試験
競合結合試験を、参照放射性リガンド(n=3)として(((S)-1-カルボキシ-5-(4-([125I]ヨード)ベンズアミド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸([125I]BA)KuE;1ウェル当たり0.2nM)を用いて、4℃で1hインキュベートした後、LNCaP細胞(1ウェル当たり1mL中1.5×10細胞)において決定した。放射性標識リガンド(1ウェル当たり1.0nM)の内部移行試験を、LNCaP細胞(1ウェル当たり1mL中1.25×10細胞)で37℃で1h行い、同時に参照として([125I]BA)KuE(1ウェル当たり0.2nM)により行った。データを、非特異的結合について補正し、参照(n=3)について観察された特異的内部移行に正規化した。実験手順の詳細な説明は、既刊であった(Wurzer Aら、J Nucl Med.2020年;61巻:735~742頁)。
【0102】
in vivo実験
すべての動物実験を、ドイツの一般的な動物福祉規制(2018年5月18日に改正されたドイツの動物保護法、Art.141 G v.29.3.2017 I 626、承認番号.55.2-1-54-2532-71-13)および動物の世話および使用に関する施設ガイドラインに従って行った。LNCaP腫瘍異種移植片を、前述の通り(Wurzer Aら、J Nucl Med.2020年;61巻:735~742頁)、6~8週齢の雄のCB-17 SCIDマウスにおいて確立した。
【0103】
体内分布試験。177Lu標識化PSMA阻害剤(2~5MBq;0.1nmol)を、イソフルラン麻酔下でLNCaP腫瘍を有する雄のCB-17 SCIDマウスの尾静脈に注射し、注射の24時間後(p.i.)に屠殺した(n=4~5)。選択した臓器を除去し、秤量し、γ-カウンターにおいて測定した。すべてのrhPSMAリガンドを、同じ期間(2020年第1四半期)中にマウスで評価し、一方で177Lu標識PSMA-617およびPSMA I&T(Wirtz Mら、EJNMMI Res.2018年;8巻:84頁)を、同一の細胞株、マウスモデルおよび実験手順を用いて予め評価した。
【0104】
μSPECT/CT画像処理。177Lu標識阻害剤の静止画像を、屠殺したマウスを採血直後24h p.i.に、HE-GP-RMコリメータおよびステップワイズ多断面ベッド移動を用いて、45分の撮影時間(acquisition time)で記録した。画像処理試験の場合、MILabs社(Utrecht、Netherlands)製のMILabs VECTor4小動物SPECT/PET/OI/CTを適用した。データを、MILabs-Recソフトウェア(バージョン10.02)およびPMOD4.0ソフトウェア(PMOD TECHNOLOGIES LLC、Zurich、Switzerland)を用いて再構成した。
【0105】
PSMA I&T
【0106】
【化25】
【0107】
結果
合成および放射性標識
錯体化されていないPSMAリガンドを、固相/溶液相合成戦略により得、HPLC(220nmにおける吸光度)により決定された化学純度は>97%であった。同一性を、質量分析により確認した。2.5倍のモル過剰のLuClとの錯体化により、それぞれのLu-PSMAリガンドを定量的に形成させ、in vitro試験用に用いた。標準的なマニュアル手順に従ってPSMAリガンドを177Lu標識した結果、放射性-HPLCおよび放射性-TLCにより決定したRCPは、>95%であった。
【0108】
その遊離キレーター形態のPSMA-10(1)を、WO2020157184A1およびWO2020157177A1に従って合成した。簡潔に言えば、tert-ブチル保護キレーターであるDOTA(tBu)を、HOAt(2.0当量)、TBTU(2.0当量)および2,4,6-トリメチルピリジン(6.7当量)の混合物を用いて、DMF中で2h、遊離N末端に結合させた。樹脂からの切断および酸に不安定な保護基の脱保護を、TFAで6h行った。RP-HPLCに基づいた精製後、rhPSMA-10(1)(18%)を無色固体として得た。RP-HPLC(15分でB10~70%):t=9.9分、K’=3.95。算出されたモノアイソトピック質量(C6095FN1223Si):1398.6;以下が見出された:m/z=1399.6[M+H]、700.6[M+2H]2+
【0109】
【化26】
【0110】
natLu-1および[177Lu]Lu-1の調製は、文献(WO2019/020831)で実施されたものと類似の手順に従った。対応するnatLu-錯体を、LuCl(2.5当量)の20mM水溶液と共にPSMA阻害剤(1.0当量)のDMSO 2mM溶液から調製し、95℃に30分間加熱した。冷却後、natLu-キレートの形成を、RP-HPLCおよびMSを用いて確認した。
【0111】
19F-natLu-rhPSMA-10(1):RP-HPLC(15分でB10~70%):t=9.9分、K’=3.95。算出されたモノアイソトピック質量(C6092FLuN1223Si):1570.6;以下が見出された:m/z=1572.2[M+H]、786.6[M+2H]2+
【0112】
in vitroでの特徴付け
すべてのrhPSMAおよび十分に確立された参照阻害剤PSMA-617(Benesova Mら、J Nucl Med.2015年;56巻:914~920頁)およびPSMA I&T(Weineisen Mら、J Nucl Med.2015年;56巻:1169~1176頁)のin vitro評価の結果を、図2および表1にまとめて示す。PSMA結合親和性(IC50図2、A)は、すべての[natLu、19F]rhPSMAリガンド(範囲:2.8±0.5~3.6±0.6nM)および2種の最新の参照阻害剤([natLu]PSMA I&T:4.2±0.8nM、[natLu]PSMA-617:3.3±0.2nM)に対して高く、低いナノモル濃度の範囲内であった。
【0113】
リガンド間のわずかな差は、LNCaP細胞へのPSMA媒介内部移行(1h、37℃)の場合に見出され、これは、参照リガンド([125I]BA)KuEの特異的内部移行のパーセンテージとして表される(図2B)。[177Lu、19F]rhPSMA-7.1および[177Lu]PSMA I&Tは、値がそれぞれ137±6%および145±14%と最も低い内部移行率を示し、他の異性体は、[177Lu]PSMA-617(203±10%)と同様に、およそ1.4倍高い内部移行率(範囲:177±15~206±8%)を示した。
【0114】
177Lu標識rhPSMA-7異性体ならびに参照PSMA I&TおよびPSMA-617が、高い類似した親水性を示し、分配係数(log D7.4;n-オクタノールおよびPBS pH7.4)として、-4.1±0.1~-4.3±0.3の間の値で表す。DOTAコンジュゲート[177Lu、19F]rhPSMA-10.1および-10.2は、log D7.4値が-3.8と、わずかに低い親水性を示した(図2C)。
【0115】
トレーサーの見かけの分子量を、阻害剤の相対的なHSA結合力を比較するために決定した。興味深いことに、最新の参照のAMW、さらには、177Lu標識rhPSMA-7およびrhPSMA-10の単一異性体間でも、それぞれ顕著な差が見出された(図2D)。[177Lu]PSMA I&Tが、最も低いHSA相互作用(AMW=5.3kDa)を示し、続いて、[177Lu]PSMA-617(AMW=13.7kDa)であり、すべてのラジオハイブリッド阻害剤は、少なくとも1.5倍高いAMWを示し、その値は21.8~35.7kDaの間であった。ラジオハイブリッドの中でもとりわけ、2つのDOTAコンジュゲート[177Lu、19F]rhPSMA-10.1および-10.2は、それぞれ最も低いAMW(25.1kDaおよび21.8kDa)を示し、一方でD-Dapコンジュゲート[177Lu、19F]rhPSMA-7.1(MW=26.3kDa)および[177Lu、19F]rhPSMA-7.3(MW=30.4kDa)は、rhPSMA-7シリーズ内で最も低いAMWを示した(L-Dapを含む異性体のAMW:[177Lu、19F]rhPSMA-7.2=31.7kDaおよび[177Lu、19F]rhPSMA-7.4=35.7kDa)。
【0116】
in vivoにおける特徴付け
体内分布試験
全体的に見て、LNCaP腫瘍を有するマウスにおける177Lu標識PSMAリガンドの24h p.i.での比較体内分布試験では、腫瘍への取り込みが高く、バックグラウンド臓器から速やかに排出されるが、腎臓での活性保持の程度が変わる、極めて類似した分布パターンが明らかになった(図3、表2および3)。
【0117】
177Lu]PSMA I&T(15.9±12.0%ID/g)の場合に、腎臓での最も高い活性保持が見出され、一方で[177Lu、19F]rhPSMA-10.1(2.4±01.6%ID/g)は、最も速い腎クリアランスを示した。[177Lu、19F]rhPSMA-7.3の腎臓への取り込みは、11.4±1.4%ID/gであることが見出され、したがって、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1よりも腎クリアランスが遅いことがわかった。これらの差は、μSPECT/CT画像においてやはり十分に図示されている(図5参照)。腫瘍への取り込みは、すべての[177Lu、19F]rhPSMA-7異性体の場合に最も高く、11.6~12.7%ID/gの範囲であり、続いて、[177Lu、19F]rhPSMA-10.2(10.5±3.3%ID/g)および-10.1(9.8±0.3%ID/g)であり、一方で最新の参照である177Lu標識PSMA I&T(4.1±1.1%ID/g)は、より低い腫瘍への取り込みを示した。
【0118】
腫瘍対臓器比
興味深いことに、すべてのラジオハイブリッド阻害剤は、HSAに広範囲に結合しているにもかかわらず、大きなタンパク質よりも小分子に近い動態で血液プールおよび背景組織から除去される。すべてのラジオハイブリッドの中でもとりわけ、最も高い腫瘍/血液比および腫瘍/腎臓比は、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1(T/血液:9117、T/腎臓:5.5)、続いて、[177Lu、19F]rhPSMA-7.3(T/血液:4255、T/腎臓:1.64)で見出された。一方、[177Lu]PSMA I&T(T/血液:1288;T/腎臓:0.6)は、マウスにおいて排出がかなり遅いことを示した。
【0119】
すべての阻害剤は、低いナノモル濃度の範囲の親和性および高い内部移行率を有するPSMA発現LNCaP細胞への強力な結合を示した。驚くべきことに、HSA関連AMWに関して最も明白な差が同定された。[177Lu、19F]rhPSMA-7異性体が、最も高いAMWを示し、したがって、最も強いHSA-相互作用を示したのに対し、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1は、[177Lu、19F]rhPSMA-7.3より低いが、177Lu標識参照PSMA I&TおよびPSMA-617よりも高いAMWを示した。体内分布試験では、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1は、すべてのrhPSMAリガンドの中で、腎臓への取り込みが最も低く、血液プールからの排出が最も速かったが、高い腫瘍蓄積を保った。
【0120】
Lu錯体PSMA阻害剤の分析データ:
natLu、19F]rhPSMA-7.1:RP-HPLC(15分でB10~70%):t=9.7分、K’=3.85。算出されたモノアイソトピック質量(C6396FLuN1225Si):1642.6;以下が見出された:m/z=1643.5[M+H]、822.5[M+2H]2+
【0121】
natLu、19F]rhPSMA-7.2:RP-HPLC(15分でB10~70%):t=9.4分、K’=3.70。算出されたモノアイソトピック質量(C6396FLuN1225Si):1642.6;以下が見出された:m/z=1642.9[M+H]、822.0[M+2H]2+
【0122】
natLu、19F]rhPSMA-7.3:HPLC(15分でB10~70%):t=9.6分、K’=3.80。算出されたモノアイソトピック質量(C6396FLuN1225Si):1642.6;以下が見出された:m/z=1643.4[M+H]、822.3[M+2H]2+
【0123】
natLu、19F]rhPSMA-7.4:HPLC(15分でB10~70%):t=9.6分、K’=3.80。算出されたモノアイソトピック質量(C6396FLuN1225Si):1642.6;以下が見出された:m/z=1643.0[M+H]、822.3[M+2H]2+
【0124】
natLu、19F]rhPSMA-10.1:RP-HPLC(15分でB10~70%):t=9.9分、K’=3.95。算出されたモノアイソトピック質量(C6092FLuN1223Si):1570.6;以下が見出された:m/z=1571.8[M+H]、786.2[M+2H]2+
【0125】
natLu、19F]rhPSMA-10.2:RP-HPLC(15分でB10~70%):t=9.6分、K’=3.80。算出されたモノアイソトピック質量(C6092FLuN1223Si):1570.6;以下が見出された:m/z=1571.9[M+H]、786.6[M+2H]2+
【0126】
natLu]PSMA-I&T:HPLC(15分でB10~70%):t=7.2分、K’=3.32。算出されたモノアイソトピック質量(C6389ILuN1123):1669.5;以下が見出された:m/z=1670.5[M+H]、1113.8[2M+3H]3+
【0127】
natLu]PSMA-617:HPLC(15分でB10~70%):t=6.5分、K’=2.82。算出されたモノアイソトピック質量(C4968ILuN16):1213.4;以下が見出された:m/z=1213.6[M+H]、607.5[M+2H]2+
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
まとめ
177Lu、19F]rhPSMA-7の4つの異性体([177Lu、19F]rhPSMA-7.1、-7.2、-7.3および-7.4)を、最新の化合物[177Lu]PSMA I&Tおよび[177Lu]PSMA-617ならびに新規ラジオハイブリッド阻害剤[177Lu、19F]rhPSMA-10.1および-10.2と比較した。比較評価は、親和性試験(IC50)、LNCaP細胞における内部移行実験、ならびに親油性測定から構成された。LNCaP腫瘍を有するCB-17 SCIDマウスにおいて、注射の24h後、体内分布試験およびμSPECT画像処理を行った。
【0132】
体内分布の比較試験において、腎臓への取り込み値が明らかに異なることが観察された。本発明者らの内部参照であるD-Dap-S-DOTAGAによって構成された[177Lu、19F]rhPSMA-7.3が、24h p.i.に11.4±1.4%ID/gの腎臓への取り込みを示したのに対し、D-Dap-DOTA誘導体[177Lu、19F]rhPSMA-10.1の取り込みは、その値の20%(2.4±01.6%ID/g)に達したにすぎなかった。
【0133】
肝臓、筋肉および心臓のような重要な非標的臓器に関して、すべての阻害剤が、24h p.i.にほぼ同一かつ完全なクリアランスを示した。すべての阻害剤について、血液プール中で低活性レベルのみが見出されたにもかかわらず、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1は、調査したすべてのPSMAリガンドの中で最も良好なクリアランスを示し、これはまた、最も高い腫瘍対血液比(T/血液:9117)、すなわち、[177Lu、19F]rhPSMA-7.3と比較して2倍の値および[177Lu]PSMA-617と比較した場合7倍高い値によって表される。
【0134】
結果:ラジオハイブリッドの177Lu標識を、現在確立されているPSMA標的リガンドについての確立された手順に従って行った。すべての阻害剤は、低いナノモル濃度の範囲の親和性および高い内部移行率のPSMA発現LNCaP細胞への強力な結合を示した。驚くべきことに、HSA関連AMWに関して最も明白な差が同定された。[177Lu、19F]rhPSMA-7異性体が、最も高いAMWを示し、したがって、最も強いHSA-相互作用を示したのに対し、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1は、[177Lu、19F]rhPSMA-7.3より低いが、177Lu標識参照PSMA I&TおよびPSMA-617よりも高いAMWを示した。体内分布試験では、[177Lu、19F]rhPSMA-10.1は、すべてのrhPSMAリガンドの中で、腎臓への取り込みが最も低く、血液プールからの排出が最も速かったが、高い腫瘍蓄積を保った。したがって、化合物rhPSMA-10.1は、他の関連化合物と比較した場合、好ましい候補として浮上した。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
【国際調査報告】