IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ドゥ ラ リュ インターナショナル リミティドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-19
(54)【発明の名称】光学装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/32 20060101AFI20240112BHJP
   B42D 25/328 20140101ALI20240112BHJP
   G07D 7/128 20160101ALI20240112BHJP
【FI】
G02B5/32
B42D25/328
G07D7/128
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541781
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(85)【翻訳文提出日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 GB2022050049
(87)【国際公開番号】W WO2022148977
(87)【国際公開日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】2100327.2
(32)【優先日】2021-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598151304
【氏名又は名称】ドゥ ラ リュ インターナショナル リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100202740
【弁理士】
【氏名又は名称】増山 樹
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ホームズ
(72)【発明者】
【氏名】フレドリック フォーニア
(72)【発明者】
【氏名】マリア キング
【テーマコード(参考)】
2C005
2H249
3E041
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005JA19
2C005JB09
2H249CA08
2H249CA28
3E041AA01
3E041AA02
3E041BA16
3E041BA17
3E041BB03
3E041BC04
3E041DB01
(57)【要約】
照明時に可変光学効果を示す光学装置を提供する。光学装置は回折構造を有する。回折構造は、回折構造の第1の回折領域11を形成するように配置され、第1の画像を符号化する第1のキノフォーム回折構造の一部と、回折構造の第2の回折領域13を形成するように配置され、第2の画像を符号化する第2のキノフォーム回折構造の一部と、を備える。第1の回折領域と第2の回折領域とは横方向に分離されており、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、ヒトの裸眼によって識別可能である。このほか、そのような光学装置の製造方法を開示する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明時に可変光学効果を示す光学装置であって、前記光学装置は回折構造を有し、前記回折構造は、
前記回折構造の第1の回折領域を形成するように配置され、第1の画像を符号化する第1のキノフォーム回折構造の一部と、
前記回折構造の第2の回折領域を形成するように配置され、第2の画像を符号化する第2のキノフォーム回折構造の一部と、を具備する、光学装置において、
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域とは横方向に分離されており、
前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれは、ヒトの裸眼によって識別可能である、光学装置。
【請求項2】
前記装置が照明されると、前記第1の回折領域は、視野角に応じて、前記装置の平面の前方にあると知覚されるか、前記装置の平面の後方にあると知覚され、視野角が変化すると、前記第1の回折領域に対応する第1の画像エリア内で移動すると知覚される前記第1の画像を示し、
前記第2の回折領域は、視野角に応じて、前記装置の平面の前方にあると知覚されるか、前記装置の平面の後方にあると知覚され、視野角が変化すると、前記第2の回折領域に対応する第2の画像エリア内で移動すると知覚される前記第2の画像を示す、請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の画像エリアは重なり合わない、請求項2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記第1の画像は、前記第1の回折領域からの入射光の回折によって実質的に完全に生成され、前記第2の画像は、前記第2の回折領域からの入射光の回折によって実質的に完全に生成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項5】
前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれが、150ミクロンを超えるサイズを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項6】
前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれが、1ミリメートル×1ミリメートルよりも大きい寸法を有し、好ましくは、前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれが、10mmから300mmまでの範囲内の寸法を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項7】
前記第1のキノフォーム回折構造の一部と前記第2のキノフォーム回折構造の一部が相補的である、請求項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記第1のキノフォーム回折構造の一部及び前記第2のキノフォーム回折構造の一部が、少なくとも1つの視野角では、前記第1の画像が前記光学装置の平面の一方の側にあると知覚され、前記第2の画像が前記光学装置の平面の反対側にあると知覚されるようになるものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項9】
前記第1のキノフォーム回折構造の一部及び前記第2のキノフォーム回折構造の一部は、前記装置を傾けると、前記装置が少なくとも1つの軸回りに傾いたときに、前記第1の画像と前記第2の画像とが、実質的に反対方向に移動すると知覚される、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項10】
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域とが互いに当接している、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項11】
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域とは横方向に離間している、請求項1~9のいずれかに1項に記載の光学装置。
【請求項12】
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域との間に位置する非回折部品をさらに具備する、請求項11に記載の光学装置であって、好ましくは、前記非回折部品は、前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれと隣接している、光学装置。
【請求項13】
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域とは、互いに交差していない、請求項1~12のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項14】
前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれは、実質的に隣接している、請求項1~13のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項15】
前記第1及び第2の画像は、記号及び英数字などの証印の形態である、請求項1~14のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項16】
前記第1のキノフォーム回折構造及び前記第2のキノフォーム回折構造のそれぞれは、バイナリキノフォーム回折構造である、請求項1~15のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項17】
前記回折構造は、前記回折構造の第3の回折領域を形成するように配置され、第3の画像を符号化する第3のキノフォーム回折構造の一部をさらに含み、
前記第3の回折領域は、前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域に対して横方向に分離され、
前記第3の回折領域はヒトの肉眼で識別可能である、請求項1~16のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項18】
照明時に可変光学効果を示す光学装置を形成する方法であって、前記方法は、
第1の画像を符号化する第1のキノフォーム表現の一部を提供するステップと、
第2の画像を符号化する第2のキノフォーム表現の一部を提供するステップと、
担体層内に回折構造を形成するステップであって、前記回折構造は、前記第1のキノフォーム表現の一部に対応する第1の回折領域と、前記第2のキノフォーム表現の一部に対応する第2の回折領域とを具備する、ステップと、を含む方法において、
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域とは横方向に分離され、
前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれは、ヒトの裸眼で識別可能である、方法。
【請求項19】
前記回折構造は、電子ビームリソグラフィ又は直接レーザ書き込みなどのマスクレスリソグラフィを使用して形成される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のキノフォーム表現の一部を提供する前記ステップは、前記第1の画像を符号化する第1のキノフォーム表現を提供するステップと、前記第1のキノフォーム表現の一部を選択するステップと、を含み、前記第2のキノフォーム表現の一部を提供する前記ステップは、前記第2の画像を符号化する第2のキノフォーム表現を提供するステップと、前記第2のキノフォーム表現の一部を選択するステップと、を含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のキノフォーム回折構造の一部及び前記第2のキノフォーム回折構造の一部は、少なくとも1つの視角にて、前記第1の画像が前記光学装置の平面の一方の側にあると知覚され、前記第2の画像が前記光学装置の平面の反対側にあると知覚されるようになるものである、請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記第1のキノフォーム回折構造の一部及び前記第2のキノフォーム回折構造の一部は、前記装置を傾けると、前記装置が少なくとも1つの軸回りに傾いたときに、前記第1の画像と前記第2の画像とが実質的に反対方向に移動すると知覚されるようになるものである、請求項18~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域とが互いに当接する、請求項18~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域とは横方向に離間している、請求項18~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の回折領域と前記第2の回折領域との間に位置する非回折部品を提供するステップをさらに含む、請求項24に記載の方法であって、好ましくは、前記非回折部品は、前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれと隣接している、方法。
【請求項26】
前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれが、150ミクロンを超えるサイズを有する、請求項18~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれが、1ミリメートル×1ミリメートルより大きい寸法を有し、好ましくは、前記第1の回折領域及び前記第2の回折領域のそれぞれが、10mmから300mmまでの範囲内の寸法を有する、請求項18~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記第1のキノフォーム表現の一部及び前記第2のキノフォーム表現の一部はコンピュータで生成される、請求項18~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記第1のキノフォーム表現及び前記第2のキノフォーム表現のそれぞれは、バイナリキノフォーム表現である、請求項18~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
請求項18~29のいずれか1項に記載の方法によって形成された光学装置。
【請求項31】
前記光学装置はセキュリティ装置である、請求項1から17又は30のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項32】
請求項31に記載のセキュリティ装置を具備するセキュリティ物品であって、前記セキュリティ物品は、セキュリティ文書用のセキュリティスレッド、ストリップ、フォイル、インサート、パッチ又は基板として形成されることが好ましい、セキュリティ物品。
【請求項33】
請求項31に記載のセキュリティ装置又は請求項32に記載のセキュリティ物品を具備するセキュリティ文書であって、前記セキュリティ文書は、好ましくは、紙幣、小切手、パスポート、身分証明書、真正性証明書、印紙、あるいは価値又は個人の身元を保証するための別の文書を含む、セキュリティ文書。
【請求項34】
前記セキュリティ文書は、透明窓部分を有する基板を具備し、前記セキュリティ装置又はセキュリティ物品は、前記透明窓部分内に少なくとも部分的に位置づけられる、請求項33に記載のセキュリティ文書。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置及びその製造方法を対象とする。本発明は、特に、セキュリティ装置の分野に適用可能であり、そのような光学装置は、紙幣又はパスポートなどのセキュリティ文書の真正性を判定する手段として使用される場合がある。
【背景技術】
【0002】
有価物、特に、紙幣、小切手、パスポート、身分証明書類、証明書及び免許証などの有価文書が、偽造者と、その不正複写及び/又はそこに含まれるデータの変更を実施しようとする人物の標的となることがよくある。典型的には、そのような文書は、物体の真正性を検査するためのセキュリティ装置として機能する多数の可視光学装置を備えている。「セキュリティ装置」とは、例えば、標準的に入手可能な複写機器又は走査機器を介して可視光複写を作成しても正確に再現することができない特徴を意味する。例として、マイクロテキスト、細線パターン、潜像、ベネチアンブラインド装置、レンズ状装置、モアレ干渉装置、モアレ拡大装置などの1つ又は複数のパターンに基づく特徴が挙げられる。パターンのそれぞれが安全な視覚効果を生成する。他の既知のセキュリティ装置には、ホログラム、透かし、エンボス加工、穿孔及び色ずれ又は発光/蛍光インクの使用が挙げられる。そのような装置全部に共通するのは、その装置によって示される視覚効果を、写真複写などの利用可能な複製技術を使用して複写することがきわめて困難であるか不可能であるということである。このほか、磁性材料などの目に見えない効果を示すセキュリティ装置を採用する場合がある。
【0003】
あるクラスの光学装置には、光学的に変化する効果を生み出す装置が挙げられる。これは、装置の外観が、異なる視野角及び/又は照明角度では異なることを意味する。そのような装置は、直接複写(例えば、写真複写)が光学的に変化する効果を生み出さないであろうことから、本物の装置と容易に区別することができるため、セキュリティ装置として特に効果的である。光学的に可変の効果を、ホログラムをはじめとする回折装置、ベネチアンブラインド装置などの視差に依存するモアレ干渉をはじめとする機構のほか、モアレ拡大装置、一体型イメージングデバイス及びいわゆるレンズ状装置をはじめとするレンズなどの集束要素を利用する装置など、さまざまな異なる機構に基づいて生成することができる。
【0004】
偽造技術がますます巧妙になるにつれ、セキュリティ装置のセキュリティレベルを向上させる必要性が高まっている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、照明時に可変光学効果を示す光学装置を提供する。光学装置は回折構造を有する。回折構造は、回折構造の第1の回折領域を形成するように配置され、第1の画像を符号化する第1のキノフォーム回折構造の一部と、回折構造の第2の回折領域を形成するように配置され、第2の画像を符号化する第2のキノフォーム回折構造の一部と、を備える。第1の回折領域と第2の回折領域とは横方向に分離されており、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、ヒトの裸眼によって識別可能である。
【0006】
本発明は、認証が簡単でありながら偽造が難しい可変光学効果を生成するために、キノフォーム回折構造の回折特性を利用する。このため、本発明は、セキュリティのレベルが高い光学装置を提供するという効果を奏する。
【0007】
「キノフォーム」とは、物体から「ホログラム面」への画像に伝播する電場の計算された位相φ(x,y)に従って入射電場を変更するレリーフ構造として説明することができる。キノフォーム回折構造では、照射されたときに、物体の再現された像を示すように、場の位相φ(x,y)が記録される。このようにして、キノフォーム回折構造がそれぞれの(回折)画像を「符号化」する。本明細書では、「キノフォーム」という用語と「キノフォーム回折構造」という用語を互換的に使用する場合がある。
【0008】
コンピュータ生成ホログラフィ(CGH)技術が、そのようなキノフォーム回折構造の生成に適しており、回折構造はコンピュータで生成されることが好ましい。計算技術を使用してキノフォーム回折構造を合成する場合、物体を複数の点光源に接近させ、各点光源のキノフォームを重ね合わせて物体のキノフォーム回折構造を形成してもよい。点光源のキノフォームは、フレネルレンズの形態を有しており、フレネルゾーンプレート(又は「バイナリキノフォーム」)によって近似されて、正と負の回折次数で再生光を均等に分配することができる。フレネルレンズの形態の点光源のキノフォームは、複数の構造奥行きを有するマルチレベル構造である。そのようなマルチレベル構造は、構造奥行きの閾値処理を使用してバイナリ構造に近似することができる。本発明では、再生光が正及び負の回折次数に均一に分布するため、バイナリ構造が好ましく、通常、第1のキノフォーム回折構造及び第2のキノフォーム回折構造(及び使用される任意の追加のキノフォーム回折構造)のそれぞれが、バイナリキノフォーム回折構造である。しかし、マルチレベル構造とバイナリ構造の両方を装置内で利用して、視野角の変化に対して異なる再生効果(例えば、奥行きと明るさ)を提供してもよい。
【0009】
CGH技術は計算集約的であるが、干渉光パターンを記録して回折構造を生成するために、物理的物体の存在又は複雑な光学配置を必要としないという利点がある。
【0010】
キノフォームに関する追加の背景が、「The Kinoform:A New Wavefront Reconstruction Device(キノフォーム:新たな波面再構成装置)」L.B.Lesem、P.M.Hirsch及びJ.A.Jordan Jr. IBMJ.Res.Develop(1969)に記載されている。
【0011】
照明が当たると、特定の画像を符号化するキノフォーム回折構造が、完全な視差運動を示すと知覚される画像を再生する。即ち、再生画像は、回折構造の「垂直」(南北)と「水平」(東西)の両方の傾きに応じて移動するように知覚される。さらに、再生画像は、視野角と、入射光が回折されるキノフォーム回折構造の特定の部分とに応じて、装置の平面の前方又は後方の平面に位置決めされていると知覚される。装置からの回折光線が収束して観察者の目で焦点を結ぶと、再生画像は装置の平面の前方に「浮いている」ように見えることになる。対照的に、光学装置によって回折された光線が観察者に向かって発散すると、再生画像は虚像として装置の平面の後方にあるように見えることになる。
【0012】
一般に、そのようなキノフォーム回折構造の各部分は、符号化された画像を再生することになるが、特定の部分に応じて異なる再生効果が生じる。
【0013】
本発明の光学装置は、第1及び第2のキノフォーム回折構造のそれぞれの一部を含む回折構造を有する。換言すれば、光学装置の一部は、それぞれの画像を符号化するそれぞれの「完全な」キノフォーム回折構造の一部である。例えば、第1のキノフォーム回折構造の一部は、第1のキノフォーム回折構造の半分(例えば、「上半分」)であってもよく、第2のキノフォーム回折構造の一部は、第2の回折構造の相補的な半分(例えば、「下半分」)であってもよい。このように、本発明のキノフォーム回折構造の一部は、それぞれの「完全な」又は「全部の」キノフォーム回折構造の一部であると考えることができる。「完全な」キノフォームは、画像物体から伝播する電場の完全な位相関数を含むため、そのように説明することができる。
【0014】
このように、本発明では、複製が困難な印象的な視覚効果を生成するために、キノフォーム回折構造の相対運動及び奥行き効果が、その特定部分の特定の再生効果と有利に組み合わされる。
【0015】
第1及び第2のキノフォーム回折構造の一部は、回折構造のそれぞれの第1及び第2の(例えば、連続した)回折領域を形成するように配置される。このため、第1の画像は、第1の回折領域からの入射光の回折によってほぼ完全に生成され、第2の画像は、第2の回折領域からの入射光の回折によってほぼ完全に生成される。第1及び第2の回折領域は、それぞれのドメインにわたって中断されていないという意味で、実質的に連続していると説明することができる。換言すれば、第1の回折領域と第2の回折領域は互いに交差していない。
【0016】
第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、ヒトの裸眼で識別可能である(このため、キノフォーム回折構造の各部分はヒトの裸眼で識別可能である)。換言すれば、第1の回折領域と第2の回折領域は両方とも、ヒトの裸眼で見え得るような寸法、即ち、拡大器具を使わずに見え得るような寸法を有する。このため、第1及び第2の回折領域は両方とも「巨視的」と説明することができる。このようにして、観察者は、装置を見るとき、配置された各回折部分によって再生された各画像のフルサイズを、その部分の特定の再生特性とともに知覚することができる。特に、第1及び第2の回折領域のそれぞれは、少なくとも再生画像の大きさの寸法を有し、それにより、使用される「完全な」キノフォーム回折構造の一部の再生特性に応じて、少なくとも1つの視野角で完全な画像を観察することができる。さらに、そのような「巨視的な」第1及び第2の回折領域を使用することによって、装置によって再生される画像は、例えば、交差した配置と比較して輝度が増大する。
【0017】
ヒトの裸眼では、観察距離が典型的な約30cmの場合、約150ミクロン未満の寸法を分解することができないと、一般に理解されている。このため、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、150ミクロンより大きいサイズ(例えば、150ミクロン×150ミクロン)を有することが好ましい。しかし、さらに好ましくは、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれ(ひいては、各部分の寸法)は、1×1ミリメートル(「1mm」)より大きい寸法を有し、好ましくは、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、10mm(例えば、2×5ミリメートル)から300mm(例えば、30×10ミリメートル)の範囲内の寸法を有する。このため、回折領域の典型的な単一寸法(例えば、「長さ」又は「幅」)が、1ミリメートルから30ミリメートルの間の範囲にあることが好ましい。このようにして、第1及び第2の回折領域によって再生画像は、観察者によって容易に知覚される。
【0018】
このようにして、装置が照明されると、第1の回折領域は、典型的には、視野角に応じて、装置の平面の前方にあると知覚されるか、装置の平面の後方にあると知覚される第1の画像であって、視野角が変化すると、第1の回折領域に対応する第1の画像エリア内で移動すると知覚される第1の画像を示し、第2の回折領域は、典型的には、視野角に応じて、装置の平面の前方にあると知覚されるか、装置の平面の後方にあると知覚される第2の画像であって、視野角が変化すると、第2の回折領域に対応する第2の画像エリア内で移動すると知覚される第2の画像を示す。回折領域のそれぞれが、少なくとも1つの視野角で完全な画像を示すことになることが理解されよう。他の視野角では、例えば、回折領域の外周を見るときに、画像の一部のみが表示される場合があり、その場合、画像は回折領域の縁部に対して切り取られて見える場合がある。
【0019】
第1の回折領域と第2の回折領域とは横方向に分離されているため、第1及び第2の画像エリア、ひいては第1及び第2の画像は重なり合わない。換言すれば、装置を見たときに再生画像が重ならない。
【0020】
いくつかの実施形態では、第1の回折領域と第2の回折領域との間に「隙間領域」が存在するように、第1の回折領域と第2の回折領域とは横方向に離間していてもよい。しかし、好ましくは、第1の回折領域と第2の回折領域とは互いに当接している。換言すれば、好ましい実施形態では、回折領域は共通の境界を共有する(このため、隣接しているものとして表現される場合がある)。
【0021】
考察したように、典型的には回折領域は隣接しているが、いくつかの代替実施形態では、第1の回折領域と第2の回折領域とは横方向に離間していてもよい。そのような実施形態では、光学装置は、好ましくは、第1の回折領域と第2の回折領域との間に位置する非回折部品をさらに備える。ここで、好ましくは、非回折部品は、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれと隣接している。このため、非回折部品は、第1の回折領域と第2の回折領域との間の隙間領域を「埋める」ことが好ましい。そのような非回折部品は、例えば、平面状の金属又はインク細工であってもよい。非回折部品は、典型的には、光学的に不変であり、(例えば、回折構造とは対照的に)あらゆる画角で実質的に同じ光学効果を示す。
【0022】
そのような「隙間領域」と、任意選択で非回折部品の使用とは、例えば、装置のセキュリティレベルを高めるために、第1の回折領域と第2の回折領域との間の境界で知覚された光学効果を制御するために有利に使用することができる。そのような非回折部品の使用はこのほか、キノフォーム回折構造の光学効果を増強するために使用されてもよい。
【0023】
第1の回折領域と第2の回折領域とが横方向に離間している実施形態では、第1の回折領域と第2回折領域との間の距離は、典型的には、2μmより大きく100μm未満であり、典型的には、5μmから50μmの間である。
【0024】
いくつかの実施形態では、第1及び第2のキノフォーム回折構造の一部は、それぞれの「完全な」キノフォーム回折構造の対応する部分であってもよい。例えば、第1の部分は第1の「完全な」キノフォーム回折構造の上半分であってもよく、第2の部分も同じように第2の「完全な」キノフォーム回折構造の上半分であってもよい。そのような配置は、表示された画像が対応する再生特性を示すことになることを意味するであろう。例えば、それぞれの完全なキノフォームの対応する部分が使用される場合、所与の視野角で、再生画像は、装置の同じ側にあると知覚される(例えば、装置の平面の後方にあるように見えるか、装置の平面の前で「浮いている」ように見える)ことになり、例えば、装置を傾けることによって視野角を変更すると、実質的に同じ方向に移動することになる。
【0025】
しかし、本発明の特に好ましい実施形態では、第1のキノフォーム回折構造の一部と第2のキノフォーム回折構造の一部は相補的である。換言すれば、それぞれの部分の回折特性は、再生画像の属性が相補的なものとなるようなものである。これは、それぞれの完全なキノフォーム回折構造の実質的に対向する部分を使用することによって達成される可能性がある。例えば、特に好ましい実施形態では、第1のキノフォーム回折構造の一部は「完全な」構造の上半分であってもよく、第2のキノフォーム回折構造の一部は「完全な」構造の下半分であってもよい。別の例では、第1のキノフォーム回折構造の一部は「完全な」構造の左半分であってもよく、第2のキノフォーム回折構造の一部は「完全な」構造の右半分であってもよい。しかし、それぞれの「完全な」キノフォーム回折構造の他の部分を使用して、異なる再生効果を達成してもよい。
【0026】
好ましくは、第1のキノフォーム回折構造の一部及び第2のキノフォーム回折構造の一部は、(例えば、このような部分の回折特性は、)少なくとも1つの視野角で、第1の画像が光学装置の平面の一方の側にあると知覚され、第2の画像が光学装置の平面の反対側にあると知覚されるようなものである。この相補的な効果は、特に顕著な効果をもたらし、画像の一方が装置の平面の前方の画像面に「浮いている」ように見え、画像の他方が装置の平面の後方の画像面にあるように見える。
【0027】
光学装置の平面に対して再生された各画像の知覚された奥行きは、視野角が鏡面反射(0次)方向の一方の側からもう一方の側に移動するにつれて逆転することになる。鏡面反射の方向の「上方」の視野角に沿って光学装置を見ると、「正」(例えば、+1)の次数の回折効果が観察され、再生画像が装置平面に対して特定の奥行き関係を有すると知覚される。次に、鏡面反射の方向の「下方」に見えるように光学装置を傾けると、「負」(例えば、-1)の次数の回折効果が観察され、画像の知覚された奥行き関係が逆転する。
【0028】
さらに高い次数の回折(例えば、2次、3次)も再生されることになるが、典型的には、このような回折は、1次の効果に比べて強度が大幅に低下するため、主に知覚されるのは1次の回折効果である。典型的には、画像は、1次の回折内で約40度から50度の視野角範囲にわたって視認可能である。
【0029】
好ましくは、第1のキノフォーム回折構造の一部及び第2のキノフォーム回折構造の一部は、(例えば、このような部分の回折特性は、)装置を傾けると、装置が少なくとも1つの軸回りに傾けられるときに、第1の画像及び第2の画像が実質的に反対方向に移動すると知覚されるようなものである。この相補的な運動学的効果は、観察者に印象的な可変光学効果を提供する。例えば、装置を垂直に傾けると、第1及び第2の画像は、傾斜軸に実質的に直交する軸に沿って反対方向に移動すると知覚される場合がある(即ち、画像は南北軸に沿って反対方向に移動すると知覚される)。特に好ましくは、装置が2つの独立した、好ましくは、直交する軸の上に傾けられたとき、第1の画像と第2の画像とは反対方向に移動すると知覚される。例えば、画像は、垂直方向に傾けると南北軸に沿って反対方向に移動するだけでなく、装置を水平方向に傾けると東西軸に沿って反対方向に移動すると知覚される場合もある。装置が垂直方向と水平方向の両方の傾きの成分を含むさらに複雑な傾きで傾けられると、画像が反対の曲線軌道で移動することが観察される場合がある。このように、本発明の装置は、完全な視差画像を示すものとして説明することができる。
【0030】
しかし、上記で考察したように、装置を傾けたときに知覚される各画像の運動は、それぞれの画像エリア内に留まるように制約される。
【0031】
一般に、各回折領域を形成するために使用される「完全な」キノフォームの一部は、再生画像の相対的な運動と奥行きを規定し、回折領域の配置は、視野角が変化すると、再生画像が移動すると知覚される(個別の)エリアを定義する。装置の回折領域は、典型的には、実質的に同じ寸法を有する。装置の回折領域は、特に正確に2つの回折領域を含む装置では対称であってもよい。
【0032】
実施形態では、回折構造は、回折構造の第3の回折領域を形成するように配置され、第3の画像を符号化する第3のキノフォーム回折構造の一部をさらに備えてもよい。ここで、第3の回折領域は、第1の回折領域及び第2の回折領域に対して横方向に分離され、第3の回折領域はヒトの裸眼で識別可能である。このようにして、装置は、傾斜時にさらに複雑な奥行きと運動学的効果を示してもよい。典型的には、光学装置の所与の視野角では、再生画像のうちの2つが光学装置平面の反対側にあると知覚される。
【0033】
本発明の装置は、それぞれの回折領域に配置された4つ以上のキノフォーム回折構造の一部を備えてもよい。
【0034】
典型的には、第1及び第2の画像(存在する場合には、第3以降の画像)は、記号及び英数字などの証印の形態である。典型的には、第1の画像と第2の画像(存在する場合には、第3以降の画像)は互いに異なる。
【0035】
本発明の第2の態様によれば、照明時に可変光学効果を示す光学装置を形成する方法を提供する。この方法は、第1の画像を符号化する第1のキノフォーム表現の一部を提供するステップと、第2の画像を符号化する第2のキノフォーム表現の一部を提供するステップと、担体層内に回折構造を形成するステップと、を含む。ここで、回折構造は、第1のキノフォーム表現の一部に対応する第1の回折領域と、第2のキノフォーム表現の一部に対応する第2の回折領域とを備える。ここで、第1の回折領域と第2の回折領域とは横方向に分離され、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、ヒトの裸眼で識別可能である。
【0036】
結果として得られる装置は、すでに上記で考察したあらゆる利点を提供する。
【0037】
第1及び第2のキノフォーム表現は、典型的には、コンピュータで生成され、キノフォームを符号化するそれぞれのコンピュータファイルの形態になっている。各キノフォーム表現は、好ましくは、画像化される物体の各点光源のキノフォームを重ね合わせることによって生成される。典型的には、キノフォーム表現は、閾値化プロセスによってバイナリ表現に変換される。典型的には、第1のキノフォーム表現及び第2のキノフォーム表現のそれぞれはバイナリキノフォーム表現である(このため、結果として生じる各キノフォーム回折構造はバイナリキノフォーム回折構造である)が、いくつかの実施形態では、1つのキノフォーム表現がバイナリ表現であってもよく、1つのキノフォーム表現がマルチレベル表現であってもよい。
【0038】
「完全な」キノフォーム表現(キノフォーム回折構造として形成される場合)の長さ又は幅は、典型的には、2ミリメートルから30ミリメートルの間である。第1及び第2のキノフォーム表現の一部は、典型的には、回折構造を形成するために印刷ファイルに結合される。
【0039】
回折構造は、典型的には、単一の書き込みステップで生成される。回折構造は、電子ビームリソグラフィ又は直接レーザ書き込みなどのマスクレスリソグラフィを使用して担体層内に形成されることが好ましい。このような技術は、格子間隔が0.5ミクロン未満の回折構造を生成することができる。典型的には、キノフォーム回折構造の最大格子間隔(又は「細かさ」)が3ミクロン以上、好ましくは、5ミクロン以上である。典型的には、キノフォーム回折構造の最小格子間隔(又は「細かさ」)は、0.6ミクロン以下、好ましくは、0.5ミクロン以下である。キノフォーム回折構造の細かさ、即ち、「ピッチ」(例えば、構造の尺度及び構造分布)は、所望の画像再生の計算幾何学の結果として判定される。例えば、画像化される物体、その寸法、ホログラム面からのその距離、露光するホログラムエリアの寸法は、典型的には、事前に選択され、キノフォーム回折構造の「ピッチ」は事前に選択された幾何学的配列から生じる。一般に、所与のホログラムと物体の寸法について、物体がホログラム平面に近づくほど、キノフォーム回折構造の最も微細な構造がさらに細かくなる。
【0040】
回折構造は、光学装置を直接形成するために、装置基板上に設けられた担体層に直接書き込まれてもよい。しかし、さらに典型的には、回折構造は、光学装置の大量生産のための複製ツールを形成するために使用されてもよい。
【0041】
好ましくは、反射増強層を、装置の回折構造の輪郭に従うように付与する。回折構造の表面レリーフは、正弦波、長方形又は三角形の外形など、異なる外形を有してもよい。表面レリーフ外形の種類は回折効率に影響を及ぼす可能性がある。典型的には、格子要素を形成する表面レリーフの外形奥行きは1ミクロン以下、好ましくは、0.5ミクロン以下である。
【0042】
各キノフォーム表現の一部は、典型的には、事前に形成されるか、必要に応じて生成され得るそれぞれの画像の「完全な」キノフォーム表現から選択される。提供された「完全な」キノフォーム表現から各部分を選択することにより、装置によって示される所望の光学効果に従って各キノフォーム表現の特定の部分が選択され得るため、光学装置の形成の柔軟性を有利に向上させることができる。第1及び第2のキノフォーム表現の一部の選択は、「完全な」キノフォーム表現を符号化するコンピュータファイルを画像の形態で復号することができる暴露ソフトウェアを使用して支援されてもよい。
【0043】
このため、実施形態では、第1のキノフォーム表現の一部を提供するステップは、第1の画像を符号化する第1のキノフォーム表現を提供するステップと、第1のキノフォーム表現の一部を選択するステップとを含み、第2のキノフォーム表現の一部を提供するステップは、第2の画像を符号化する第2のキノフォーム表現を提供するステップと、前記第2のキノフォーム表現の一部を選択するステップとを含む。しかし、いくつかの実施形態では、第1及び第2のキノフォーム表現の一部が直接(即ち、最初に「完全な」表現を形成することなく)生成され得ることが想定される。
【0044】
第1のキノフォーム回折構造の一部及び第2のキノフォーム回折構造の一部は、好ましくは、少なくとも1つの視野角で、第1の画像が光学装置の平面の一方の側にあると知覚され、第2の画像が光学装置の平面の反対側にあると知覚されるようなものである(例えば、知覚されるように選択される)。第1のキノフォーム回折構造の一部及び第2のキノフォーム回折構造の一部は、好ましくは、装置を傾けると、第1の画像及び第2の画像が、装置を少なくとも1つの軸回りに傾けたときに実質的に反対方向に移動すると知覚されるようなものである(例えば、知覚されるように選択される)。
【0045】
第1及び第2のキノフォーム表現は、典型的には、上記で考察したようにコンピュータファイルの形態であるが、これとは別に、物理的な回折構造の形態であってもよい。次いで、回折構造は、物理的回折構造の一部を提供する(例えば、選択する)ことによって形成されてもよい。
【0046】
好ましくは、第1の回折領域と第2の回折領域とは互いに当接している。いくつかの代替実施形態では、第1の回折領域と第2の回折領域とは横方向に離間されてもよい。そのような実施形態では、方法は、第1の回折領域と第2の回折領域との間に位置する非回折部品を提供するステップをさらに含んでもよい。ここで、好ましくは、非回折部品は、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれと隣接している。
【0047】
好ましくは、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、150ミクロンを超えるサイズを有する。さらに典型的には、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、1ミリメートル×1ミリメートルより大きい寸法を有する。ここで、好ましくは、第1の回折領域及び第2の回折領域のそれぞれは、10mmから300mmの範囲内の寸法を有する。
【0048】
上記で考察したように、本発明は、コンピュータ生成ホログラフィ(「CGH」)技術の使用に適している。典型的には、第1のキノフォーム表現の一部と第2のキノフォーム表現の一部はコンピュータで生成される。しかし、本発明による光学装置を生成するために古典的なホログラフィ技術が採用され得ることが想定される。第1のキノフォーム表現は、記録媒体層を第1の画像物体からの光干渉パターンに暴露することによってホログラフ的に生成されてもよく、第2のキノフォーム表現は、記録媒体を第2の画像物体からの光干渉パターンに露光することによってホログラフ的に生成されてもよい。次いで、生成された「古典的な」キノフォーム回折構造の一部を選択して、上記で考察した方法で回折構造を形成してもよい。
【0049】
実施形態では、形成された光学装置が、「完全な」キノフォーム表現のそれぞれの部分に対応する3つ以上の回折領域を含むように、それぞれの追加のキノフォーム表現の1つ又は複数の追加の部分が提供されてもよい。
【0050】
特に好ましくは、本発明の光学装置はセキュリティ装置である。換言すれば、セキュリティ装置は、セキュリティ装置が付与される物品又は文書の複写又は偽造を防止するために使用されてもよい。典型的には、「セキュリティ装置」を、例えば、入手可能な標準的な複写機器又は走査機器を使用して可視光複写を作成することによって、正確に再現することはできない。
【0051】
本発明の第3の態様によれば、本発明によるセキュリティ装置を備えるセキュリティ物品を提供する。ここで、セキュリティ物品は、セキュリティ文書用のセキュリティスレッド、ストリップ、フォイル、インサート、パッチ又は基板として形成されることが好ましい。
【0052】
本発明の追加の態様では、本発明によるセキュリティ装置又はセキュリティ物品を備えるセキュリティ文書を提供する。セキュリティ文書は、好ましくは、紙幣、小切手、パスポート、身分証明書、真正性証明書、収入印紙、あるいは価値又は個人の身元を保証する他の文書を含む。典型的には、セキュリティ文書は、透明な窓部分を有する基板を備え、セキュリティ装置又はセキュリティ物品は、透明な窓部分内に少なくとも部分的に位置づけられる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
ここで、本発明の例示的な実施形態について、単なる例として、添付の図面を参照して説明する。
図1】本発明による複数の光学装置を担持するセキュリティ文書の平面図である。
図2a】単一の点物体のキノフォームを示す。
図2b】正方形パターンに配置された複数の点物体のキノフォームを示す。
図2c】単一の点物体のバイナリキノフォームを示す。
図2d】正方形パターンに配置された複数の点物体のバイナリキノフォームを示す。
図3a】上部視差視野でキノフォーム回折構造を見たときに知覚される可変光学効果を概略的に示す。
図3b】下部視差視野でキノフォーム回折構造を見たときに知覚される可変光学効果を概略的に示す。
図4a】完全なキノフォーム回折構造の上部及び底部を見たときに知覚される可変光学効果を概略的に示す。
図4b】完全なキノフォーム回折構造の上部及び底部を見たときに知覚される可変光学効果を概略的に示す。
図5】本発明の一実施形態による光学装置と、発揮される可変光学効果を概略的に示す。
図6図5に示す光学装置の概略平面図である。
図7図5及び図6に示す光学装置を傾けたときに発揮される可変光学効果を示す。
図8図5及び図6に示す光学装置を傾けたときに発揮される可変光学効果を示す。
図9】本発明による複数の光学装置を担持するセキュリティスレッドの形態のセキュリティ物品を示す。
図10a】本発明の実施形態によるセキュリティ装置の概略平面図である。
図10b】本発明の実施形態によるセキュリティ装置の概略平面図である。
図11】本発明の一実施形態による光学装置と、垂直傾斜時及び水平傾斜時に発揮される可変光学効果と、を示す。
図12】本発明の一実施形態による光学装置と、垂直傾斜時及び水平傾斜時に発揮される可変光学効果と、を示す。
図13】本発明による光学装置を製造する好ましい方法を示す流れ図である。
図14】古典的なホログラフィ技術を使用して本発明による光学装置を形成するために使用され得る例示的な幾何学的配列を示す。
図15】本発明によるセキュリティ装置をセキュリティ文書に組み込む一例を示す。
図16】本発明によるセキュリティ装置をセキュリティ文書に組み込む一例を示す。
図17】本発明によるセキュリティ装置をセキュリティ文書に組み込む一例を示す。
図18】本発明の追加の実施形態による装置の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、本発明による複数の光学装置100を備えるセキュリティ文書1000の平面図である。ここで、光学装置100は、文書(ここでは紙幣)のセキュリティレベルを高めるために使用されるため、セキュリティ装置である。セキュリティ装置100は、文書基板内に組み込まれたセキュリティスレッド105上に設けられ、文書基板の窓付き領域101内で視認可能である。各セキュリティ装置100は、視認可能であるように、対応する窓付き領域に位置合わせされる。文書基板は、紙などの繊維状物質であっても、ポリマー基板の形態であってもよい。
【0055】
この例では、スレッド110上に設けられた各セキュリティ装置100は、実質的に同一であり、その結果、それぞれが、実質的に同一の可変光学効果を示す。各装置は、英数字又は記号(ここでは記号「£」と文字「5」)の形態で2つの画像を表示する。2つの画像は、視野角を変えると相互に移動すると知覚される。紙幣1000の装置100は、典型的には、y軸に平行な線に沿って文書(ひいては各装置)と交差する表示面内で表示される。x軸(「垂直」又は「南北」)に平行な傾斜軸回り及び/又はy軸(「水平」又は「東西」の傾き)に平行な傾斜軸回りで観察者に対してセキュリティ文書を傾けることによって、視野角の変更を達成してもよい。
【0056】
さらに詳細には、垂直に傾けると、2つの記号は垂直(y)軸に沿って反対方向に移動すると知覚される。同じように、2つの記号は、水平に傾けると水平(x)軸に沿って反対方向に移動すると知覚される。さらに、この例示的な実施形態では、2つの記号は、光学装置の平面の反対側のそれぞれの画像面に位置すると知覚される。例えば、ある視野角では、記号「£」は、観察者に対して装置の平面の後方にある画像面内にあると知覚され、文字「5」は、観察者に対して装置の平面の前方にある画像面内にあると知覚される。異なる第2の視野角では、再生画像のそれぞれの奥行きが反転され、その結果、記号「£」が装置平面の前方に表示され、文字「5」が装置平面の後方に表示される。
【0057】
本発明のセキュリティ装置100をさらに詳細に説明する前に、まず、装置によって生成される可変光学効果の後方にある原理を検討する。
【0058】
単一の点物体(「点光源」)のキノフォームは、フレネルレンズの形態を有している。キノフォーム回折構造は多層構造であり、図2(a)に示される。マルチレベル構造のため、キノフォームの画像はグレースケール画像に似ている。単一の点物体のバイナリキノフォーム回折構造は、フレネルゾーンプレートの形態を有しており、図2(c)に示されている。図2(b)は、正方形のパターンに配置された4つの点物体のマルチレベルキノフォーム回折構造を示している。図2(b)のキノフォームは、図2(a)に示す単一の点物体のキノフォーム回折構造よりも実質的に大幅に複雑であるが、それでも、これが4つの単一点キノフォームの重ね合わせであると認識することができる。4つの点物体のバイナリキノフォーム回折構造を図2(d)に示す。バイナリキノフォームは、典型的には、マルチレベルキノフォームに対して閾値化プロセスを実施することによって生成される。本発明では、バイナリキノフォーム回折構造が優先的に使用される。
【0059】
図3(a)は、フレネルゾーンプレート(即ち、単一点物体のバイナリキノフォーム)の形態のキノフォーム回折構造1を照明したときに観察される視覚効果を概略的に示す。構造1は、その平面法線に平行な方向に沿って(即ち、O-O´に沿って)照明され、上部視差視野の視野角で観察される。
【0060】
回折構造の半径方向外側の区画に入射する光を、格子ピッチの差により、中心に入射する光よりも大きな角度で回折する。このため、上部視差視野(観察位置A)でキノフォーム回折構造1の上半分3を観察すると、回折光は観察者に向かって発散し、回折構造の平面の後方に虚像を形成する。このため、目の動きの軌跡により、ゾーンプレート1の平面の後方で移動する集光点の知覚が生じる。対照的に、上部視差視野(観察位置B)で回折構造の下半分5を観察すると、光が焦点に集められて構造の平面の前方に実像を形成する。このため、回折構造の下半分5を見るときに上部視差視野にて視野角を変更すると、回折構造1の平面の前方で移動する集光点の知覚が生成される。
【0061】
さらに、光点が構造1の平面の両側にあると知覚されるほか、視野角を変えると、焦点画像も反対方向に移動すると知覚される。これは、フレネル構造1に示す反対方向の矢印によって表される。ゾーンプレート構造の対称性により、知覚された画像は傾斜方向に対応する反対方向に移動することになる。例えば、垂直に傾けると、再生された光点は、(反対の矢印で示すように)垂直軸に沿って反対方向に移動するように見えることになる。同じように、水平に傾けると、光点は水平軸に沿って反対方向に移動するように見えることになる。構造が垂直方向と水平方向の両方の傾きの成分を含むさらに複雑な方法で傾斜すると、光点は構造の中心点を周回する反対の曲線軌道で移動するように見えることになる。
【0062】
ここで、「上部視差視野」に言及する場合、(鏡面反射の方向に対して、この場合はO-O´に沿って測定された)視野角は正、即ち、鏡面方向の「上方」であり、その結果、+1次回折効果が観察されることを意味する。
【0063】
図3(b)は、ゾーンプレート回折構造1を「下部視差視野」で見たときに知覚される光学効果を概略的に示す。ここでは、視角は負、即ち、鏡面方向の「下方」であり、その結果、-1次回折効果が観察される。構造1の上半分を見るとき(観察位置A)、移動の軌跡により、構造の平面の前方を移動する集光点の知覚が生じる。位置Bでは、回折構造1の下半分を観察するときに、目の動きにより、レンズ1の平面の後方で移動する光点の虚像の光学効果が生成される。
【0064】
図4(a)は、装置の平面法線に沿った照明の下で、上側視差視野(位置A)と下側視差視野(位置B)の両方で回折構造の上半分3を見ることによって生成される視覚効果を概略的に示す。上側視差視野では、+1次回折によって生成された虚像Iが構造の平面の後方に視覚化される。逆に、下側視差視野では、実像Rが-1次の回折によって生成され、構造の平面の前方に「浮いている」ように見える。
【0065】
同じように、(図4(b)に示すように)回折構造1の下半分5を見ると、下側視差視野(位置B)にあるとき、虚像Iが構造の平面の後方に知覚され、上側視差視野(位置A)で見ると、実像Rが構造の平面の前方に知覚される。
【0066】
上記のこのような原理は、本発明のセキュリティ装置によって生成される光学効果を考察するために使用されてもよい。
【0067】
図5は、本発明の一実施形態による装置100を、知覚される光学効果とともに概略的に示す。この装置は、第1の回折領域11及び第2の回折領域13を有する回折構造を備える。この例では、2つの回折領域11、13は、上記装置の平面図である図6に示すように、垂直方向に互いに当接している(即ち、その結果、垂直方向に直交する方向に沿って共通の縁部を共有している)。このように、第1及び第2の回折領域11、13は、隣接していると表現することができる。
【0068】
第1の回折領域11は、第1の画像、この場合は、記号「£」を符号化する「完全な」又は「全部の」キノフォーム回折構造の一部の形態である。第2の回折領域13は、第2の画像、この場合は、文字「5」を符号化する「完全な」キノフォーム回折構造の巨視的部分の形態である。換言すれば、各回折領域は、完全なキノフォーム回折構造のサブ領域から形成される。「完全な」キノフォームのそのような部分は完全な画像を再生することになるが、選択された部分に応じて視認条件が異なる。図5の例では、第1及び第2の回折領域に使用されたそれぞれの「完全な」キノフォーム回折構造の部分は、特定の視野角に対して、2つの再生画像の相対奥行きが、画像の一方が装置の平面の前方にあり、他方の画像が装置の平面の後方にあるようなものであるように、選択される。この例では、バイナリキノフォーム回折構造が使用されている。
【0069】
説明を容易にするために、第1の回折領域11は記号「£」を符号化する完全なキノフォームの上半分から形成され、第2の回折領域13は文字「5」を符号化する完全なキノフォームの「下」半分から形成されると考える。このため、装置100によって生成される全体的な光学効果は、上記で考察した図4(a)及び図4(b)を参照して検討することができる。
【0070】
ここで、装置100によって発揮される全体的な光学的可変効果を検討することができる。照明源50によって照明され、(Sで示す)鏡面反射方向の上方の観察者Oが見ると、観察者は、装置100の平面の前方に浮かんでいるように見える「5」の画像と、それぞれの回折領域11、13からの入射光の+1次の回折により、装置100の平面の後方に現れる記号「£」の画像と、を知覚する。装置100を傾けると、図7及び図8に示すように、記号「5」と記号「£」とが互いに反対方向に移動すると知覚される。
【0071】
図7(a)及び図7(b)は、垂直(「南北」)に傾けて、図1の幾何学的配列のy軸に沿って装置と交差する視野平面で観察した場合に、装置100が示す知覚された可変光学効果を概略的に示す。図7(a)は、図5のように視野角が鏡面方向より上方である(このため+1回折次数の効果が見られる)場合を示し、図7(b)は、照明と傾斜が、視野角が鏡面方向よりも下方である(このため、-1回折次数の効果が見られる)ようになるものである場合を示している。図7(a)に示すように、装置100が鏡面反射(0次)方向から離れるように傾けられると、「£」と「5」の画像は垂直軸に沿って反対方向に離れる。この場合、「5」は装置100の平面の前方に現れ、「£」は装置100の平面の後方に現れる。
【0072】
視野角が0次方向よりも下方になるように装置を垂直に傾けると、再生画像は、+1次の回折の場合と同じ移動速度で垂直軸に沿って互いに反対方向に移動する。しかし、このような視認条件下では、画像の相対的な奥行きが逆転し、記号「£」が装置の平面の前方に浮かんでいるように現れ、文字「5」が装置の平面の後方に現れる。言い換えれば、画像の移動は鏡面方向に対して対称的である。回折次数が+1次から-1次へ変化するときに、記号の知覚された「奥行き」のみが逆転する。
【0073】
図8(a)及び図8(b)は、装置を水平に傾けて(「東西」に傾けて)、y軸に沿って装置と交差する視野平面内で再度見たときに、2つの再生画像の知覚された相対的な移動を概略的に示す。図8に示すように、内部で光が装置に入射する平面から装置が傾けられると、2つの記号は反対方向に離れる。図8(a)及び図8(b)の視野では、装置の垂直方向の傾きは、+1次の回折効果が再生されるようになるようなものであるため、記号「£」が装置の平面の後方に現れ、「5」画像が装置の平面の前方に浮かんでいるように現れる。回折効果は+1次のままであるため、再生画像の知覚された奥行きは、東西に傾けても変化しない。しかし、-1回折次数の効果が現れるように装置を垂直に傾ける場合、記号「£」及び記号「5」の知覚された奥行きは逆転することになる。
【0074】
このようにして、本発明の装置は、視野角の変化時に完全な視差可変光学効果を発揮する。垂直方向と水平方向の両方の傾きの成分を含むさらに複雑な方法で装置が傾いている場合、再生画像は反対の湾曲した(例えば円形の)軌道で移動すると知覚される。
【0075】
図7及び図8からわかるように、記号「£」及び記号「5」の再生画像の動きは、図6に示すように、それぞれの回折領域11、13に対応するそれぞれの画像エリア内に制限されている。換言すれば、この例では、記号「£」は、装置の上半分に対応する画像エリア11a内で再生され、文字「5」は、装置の下半分に対応する画像エリア13a内でのみ移動すると知覚される。図7(a)及び図7(b)では、記号「£」は視認エリアの上半分内でのみ垂直方向に移動可能であり、逆に、再生された「5」は視認エリアの下半分内で垂直方向に制限されていることがわかる。しかし、図8(a)及び図8(b)に示すように水平に傾けると、「£」と「5」の両方の画像が、装置の回折領域11、13の配置に合わせて視認エリアの全幅を横切って移動することができる。理解を容易にするために、図7及び図8に示す視認のいくつかでは、画像エリア11a、13aを破線で概略的に示している。
【0076】
画像がそのそれぞれの回折領域の境界に向かって移動していると知覚されると、再生画像が切り取られる。しかし、画像は回折領域の縁部で切り取られるため、反対の回折次数からの画像の一部が再生され、再び境界で切り取られる。これは、図7(a)にて鏡面反射方向に近づけて見た場合(視野A)に見られる。鏡面方向に傾けると、(平面の前方に現れる)文字「5」の上部は、「5」が画像エリア11aと画像エリア13aとの間の境界に向かって移動するにつれて切り取られ、文字「5」の下部は、他の回折次数で現れる(ひいては、装置の平面の後方にあると知覚される)。同じように、(平面の後方に現れる)装置の中心に向かって記号「£」が移動していると知覚されると、「£」の下部が切り取られ、「£」の上部が装置の平面の前方に現れる。これにより、図7(a)の視野Aに見られるように、画像がその形状に応じて重なっているという視覚的な印象が得られる場合がある。同じように、図7(b)の視野Bでは、「£」と「5」は、そのそれぞれの画像エリア11a、13a内に残っているにもかかわらず、各画像の追加の部分の再生により重なって見える。
【0077】
図9は、4つの実質的に同一のセキュリティ装置100を備えるセキュリティスレッド105を示す。セキュリティ装置は、それぞれが垂直傾斜時にわずかに異なる視野角で見られるため、再生画像(この場合は文字「5」と文字「0」)の異なる相対位置を再生する。図9の4つの装置100の再生は、セキュリティ装置の南北傾斜時の記号の相対的な移動を示す。図9のセキュリティスレッドは拡散光で照らされ、ひいては装置の複数のエリアが特定の視野角で同時に再生されるため、再生画像に多少の「ぼやけ」が生じる。コリメート(又は「スポット」)光による照明下では、複数のエリアが同時に再生されないため、再生画像はさらに鮮明に現れることになる。図9の上面図では、図7(a)及び図7(b)に関連して上記で考察した理由により、「5」と「0」が部分的に重なって見える。換言すれば、各文字がそれぞれの画像エリアの縁部に向かって移動すると、各文字の他の回折次数の一部が再生されて各文字が切り取られる。しかし、各画像はそれぞれの画像エリア内で再生される。
【0078】
図6に戻って参照すると、各回折領域11、13は、そのドメインにわたって中断されていないという点で連続領域である。このため、装置の回折領域を形成するために使用されるそれぞれの「完全な」キノフォーム回折構造の各部分は、連続部分である。
【0079】
装置100の回折部分11、13は、肉眼で見えるという点で巨視的である。各回折部分11、13は、好ましくは、少なくとも500ミクロン、さらに好ましくは、少なくとも1mmの最小寸法(例えば、図6の「高さ」h)を有する。回折部分の典型的な最小寸法hは5mmから10mmの範囲にある。このため、図6の装置100の「幅」wは、典型的には、10mmから20mmの範囲であってもよい。本発明の方法で巨視的回折領域を使用することにより、再生画像は有利なことに高い輝度を有する。さらに、そのような装置の製造の容易さは、例えば、異なる回折構造を組み合わせることと比較した場合に増大する。
【0080】
図5から図9を参照して考察する例示的な装置100では、第1及び第2の回折領域は、それぞれの完全なキノフォームの上部及び下部として形成される。しかし、異なる視差効果及び運動学的効果を実現するために、それぞれの完全なキノフォームの異なる部分が使用される場合がある。これを図10(a)及び図10(b)に概略的に示す。図10(a)に示す装置100では、第1の回折領域11は完全なキノフォームの「左」部分から形成され、第2の回折領域13はそれぞれのキノフォームの「右」部分から形成される。図10(b)に概略的に示す装置100では、それぞれの完全なキノフォームの左上部分及び右下部分が、第1及び第2の回折領域11、13に使用される。図10(a)及び図10(b)に概略的に示す装置は、照明されると、両方とも完全な視差効果を示し、記号「£」と記号「5」が特定の視野角で装置の平面に対して異なる奥行きにあると知覚される。しかし、各再生画像の移動は、そのそれぞれの回折領域の配置に対応するそのそれぞれの画像エリア内で制限されることになる。さらに具体的には、図10(a)の装置100が照明されると、表示エリアにわたって「£」と「5」の両方が完全な垂直方向の移動を示すと知覚されることになるが、「£」は表示エリアの左側に制限されることになり、逆に「5」は表示エリアの右側内に移動するように制限されることになる。同じように、図10(b)を見ると、記号「£」は表示部分の左上のエリアに制限されることになり、「5」の運動は、回折領域の配置に従って右下のエリアに限定される。
【0081】
このため、各回折領域を形成するために使用される「完全な」キノフォームの選択された部分は、再生画像の相対的な運動と奥行きを規定し、回折領域の配置は、再生画像が視野角の変化時に移動すると知覚されるエリアを規定する。
【0082】
図18は、本発明の追加の実施形態による装置100の概略平面図である。図18の装置は、図6に示す装置とほぼ同じである。しかし、ここでは、2つの回折領域11、13は横方向に離間される。換言すれば、2つの回折領域は隣接しておらず、装置は回折領域11と回折領域13との間に「隙間領域」90を備える。この実施形態では、隙間領域90は、隙間領域を実質的に埋めるように位置づけられた平面磨き金属部品92を含む。このため、金属部品92は、回折領域11、13のそれぞれに隣接している。金属部品92は、表面レリーフ構造を含まないという点で平面であるため、非回折性である。この実施形態では、平面状の金属化部品が隙間領域内に位置しているが、代替の非回折部品、例えば、インク細工を隙間領域90内に位置決めしてもよい。隙間領域は典型的には非回折部品を含むが、いくつかの実施形態では、隙間領域にはそのような非回折部品が存在しなくてもよい。
【0083】
そのような実施形態では、隙間領域の典型的な寸法(例えば、回折領域間の距離d)が、典型的には、(回折効果を生じさせないように)2μmより大きく、100μm未満であり、典型的には、5μmから50μmの間である。
【0084】
これまで考察した例では、完全なキノフォーム回折構造の選択された部分は、再生画像の知覚された相対的な奥行きと、それぞれの相対運動と、が実質的に互いに反対であるという点で相補的である。例えば、記載の実施形態では、装置は、1つのキノフォーム回折構造の上部と、異なるキノフォーム構造の相補的な底部とを備えているか、それぞれの完全なキノフォーム構造の左側部分と右側部分とを備えている。しかし、代替実施形態では、それぞれのキノフォーム回折構造の選択された部分は、対応する部分であってもよい。例えば、装置は、それぞれの「完全な」キノフォーム回折構造の2つの上半分又はそれぞれの「完全な」キノフォーム回折構造の2つの左半分を備えてもよい。対応する部分が使用されるそのような実施形態では、再生画像の相対的な運動学的効果及び奥行き効果は、実質的に類似することになる(例えば、両方の画像が装置の平面の同じ側にあるように見え、傾けると同じ方向に移動することになる)が、画像と装置の平面との間の知覚された距離及び/又は画像の移動速度は異なる場合がある。
【0085】
図11及び図12は、3つの回折領域11、13及び15を備える、本発明の一実施形態による例示的な装置100を示す。第1の回折領域11は、星の像を符号化する完全なキノフォーム回折構造の一部であり、第2の回折領域13は、記号「£」の画像を符号化する完全なキノフォーム回折構造の一部であり、第3の回折領域15は、文字「5」の画像を符号化する完全なキノフォーム回折構造の一部である。
【0086】
図11は、装置を垂直に「南北」に傾けたときに発揮される光学効果を概略的に示す。装置を0次方向より上(+1次の回折)で見ると、星と「£」が上向きに移動して装置の平面の後方に現れ、「5」が反対の下向き方向に移動していると知覚され、装置の平面の前方に浮かんでいるように見える。0次方向より下(-1次の回折)で見ると、3つの記号の相対運動は+1次の場合と同じであるが、相対的な奥行きが逆転しており、その結果、星と「£」が装置の平面の前方に現れ、「5」が装置の後方に現れる。図11からわかるように、各記号は、それぞれの「完全な」キノフォームの一部が配置される回折領域の幾何学的配列に対応するエリア内で移動するように制約される。
【0087】
図12は、3つの回折領域を備える装置の水平(左右)傾斜時に発揮される光学効果を概略的に示す。光の入射面から離れるように左に傾けると、星と文字「5」は両方とも装置の平面の後方の右の方にあると知覚される。「£」は完全に見えるようになるが、装置の平面の後方にある星の再生画像は消える。しかし、回折領域11(ひいては、星の「完全な」キノフォーム回折構造の一部)の幾何学的配列により、装置の平面の前方に浮かんでいるように見える星の像が、装置の下半分に現れ、さらに左に傾けると左に移動する。装置の前方に浮かぶ「5」の画像は、その回折領域15の幾何学的配列の結果として左に移動し、左に傾けると視界から消える。
【0088】
逆に、右に傾けると、装置の平面の後方にある星の画像は、右に移動して見え、装置の平面の後方にある「£」の再生画像が消える。(回折領域11と対称である)回折領域13の幾何学的配列により、装置の平面の前方にある「£」文字の実像が装置の下半分に現れ、右に移動する。この場合も、回折領域15の幾何学的配列により、装置の平面の後方にある「5」の虚像は、右に傾けて消える直前に移動し始める。
【0089】
実際には、異なる格子領域を含む連続回折構造を装置100が備えるように、装置の回折領域は、典型的には、同じ製造ステップで(例えば、直接描画技術を介して)形成されるであろうことが理解されよう。ここで、図13に示す流れ図を参照して、本発明による光学装置を製造する好ましい方法について説明する。
【0090】
プロセスはステップS101で始まる。このステップでは、第1の画像(記号又は英数字など)を符号化する第1の「完全な」キノフォーム表現が提供される。キノフォーム表現は、第1の画像を符号化するコンピュータ生成表現であり、必要に応じて事前形成されても、生成されてもよい。ステップS102では、第2の画像を符号化する第2の完全なキノフォーム表現が提供される。第1のキノフォーム表現と同じように、第2のキノフォーム表現は、第1の画像とは異なる第2の画像を符号化するコンピュータ生成表現である。第1及び第2のキノフォーム表現は、それぞれの画像を符号化するそれぞれのコンピュータファイルの形態である。完全なキノフォーム表現は、典型的には、バイナリキノフォーム表現である。
【0091】
ステップS103では、第1のキノフォーム表現の一部が選択される。選択された第1の部分は、第1のキノフォーム表現の巨視的な部分であり、その結果、選択された部分は、(少なくともいくつかの視認条件下で)単独で見たときに第1の画像全体を再生することになる。ここで、第1の部分によって再生された第1の画像は、視野角に応じて、装置の平面の前方又は装置の平面の後方にあると知覚される。
【0092】
ステップS104では、第2のキノフォーム表現の一部が選択される。ステップS103と同じように、第2の部分は、単独で見たときに(少なくともいくつかの視認条件下で)第2の画像全体を再生することになるため、第2のキノフォームの巨視的部分である。第2の部分は、典型的には、再生された第2の画像の装置に対する位置が、再生された第1の画像の位置を補完することになるように選択される。換言すれば、第1及び第2の完全なキノフォーム表現のそれぞれの部分は、装置を見るときに、第1及び第2の画像が装置の平面の反対側にあると知覚されることになるように選択される。例えば、ある視野角では、第1の画像は、装置の平面の前方に「浮いている」と知覚され、第2の画像は装置の平面の後方に現れる。そして、第2の異なる視野角では、第1の画像は装置の平面の後方にあり、第2の画像は平面の前方に浮かんでいると知覚されることになる。
【0093】
このようにして、装置を傾けると、第1と第2の画像が反対方向に移動して見えることになるため、認証は簡単だが再現が難しい印象的な効果が得られる。
【0094】
ステップS105では、選択された第1及び第2の部分は、担体層に回折構造を形成するために使用される。回折構造は、典型的には、電子ビームリソグラフィ又は直接レーザ書き込みなどのマスクレスリソグラフィ技術を使用して形成される。リソグラフィ用の印刷ファイルを生成するために使用されるコンピュータソフトウェアを使用して、要望に応じて、第1及び第2の部分を、対応する第1及び第2の回折領域に配置し、回折構造を単一のプロセスステップで直接書き込む。第1及び第2の回折領域の配置は、再生画像の所望の位置決めに応じて選択される。
【0095】
ステップS105の回折構造は、例えば、装置基板上に設けられた担体層に直接回折構造を書き込むことによって、装置100自体を形成するために使用されてもよい。しかし、多数の装置を複製する場合には、ステップS105で生成された回折構造を使用して、完成した装置の回折構造を規定する複製ツールを形成することがさらに好ましい。その後、複製ツール(又は「マスター」)を使用して、エンボス加工及びホットスタンプなどの技術を使用して、そのような装置を多数形成してもよい。本発明の装置は主に反射して見るように設計されており、その場合、装置の回折構造には薄い反射金属又は高屈折率被覆が付与されることになる。しかし、代替配置では、本発明の装置を透過的に見るように設計してもよい。
【0096】
回折領域間に隙間領域が設けられる実施形態では、回折領域は、典型的には、上述したものと同じ製造ステップで形成される。非回折部品が隙間領域内に設けられる場合、この非回折部品は、典型的には、当技術分野で知られている技術を使用して、回折構造の形成とは別の製造ステップで設けられる。
【0097】
図13に示す好ましい方法では、完全なキノフォームが最初に生成されるか取得され、その後、そのそれぞれの部分がステップS103及びS104で選択される。これにより、回折構造を個々の場合に応じて再計算する必要がなく、所望の再生特性に応じて、「完全な」表現の異なる部分を選択し得るため、装置の生成に優れた柔軟性が得られる。しかし、代替実施形態では、第1及び第2の回折領域を形成するために使用される完全なキノフォームの所望の部分が、直接(即ち、生成された「完全な」キノフォームから部分を選択することなく)生成され得ることが想定される。
【0098】
図13の上述したステップS101及びS102では、第1及び第2のキノフォーム表現は、計算技術を使用して取得された。代替実施形態では、このような「完全な」キノフォームは、図14を参照してこれから考察するように、古典的な技術を使用して取得され得ることが想定される。図14は、古典的な技術を使用して「完全な」キノフォームホログラムを記録するための幾何学的配列の概略図である。平行光線が物体305(この場合は英数字「5」)に入射するように、物体ビーム301を先ず凸レンズ309を通して方向づけされる。物体305から生じる電場の位相情報は、本質的に物体ビーム内に含まれる。物体ビームは、その後、ホログラムプレート311上の感光性レジスト(ハロゲン化銀乳剤など)に入射する。(物体ビーム301と合致した)参照ビーム313で生成された干渉パターンは、物体305の像を符号化する古典的な「完全な」キノフォーム回折構造を形成するために、感光性レジストに記録される。次に、物理的キノフォームのそれぞれの部分を、図13のステップS103及びS104を参照して上記で考察したように選択してもよく、光学装置の回折構造を形成するためにそれぞれの回折領域内で結合してもよい。
【0099】
上記の種類の光学装置を、真正性検査が必要なあらゆる製品に組み込むか、付与することができる。この場合、光学装置はセキュリティ装置として機能する。特に、そのような装置は、紙幣、パスポート、運転免許証、小切手、身分証明書などの価値のある文書に付与されるか、組み込まれてもよい。完全なセキュリティ装置は、セキュリティ文書上に直接形成されても、セキュリティスレッド又はパッチなどのセキュリティ物品の一部として供給されてもよい。その後、セキュリティ物品は、そのような文書に付与するか、組み込むことができる。
【0100】
そのようなセキュリティ物品は、ストライプ又はパッチの場合のように、セキュリティ文書のベース基板の表面上に全体的に配置することも、例えば、窓付きセキュリティスレッドの形態で、文書基板の表面上で部分的にのみ目に見えるようにすることもできる。セキュリティスレッドは現在、世界の多くの通貨のほか、商品引換券、パスポート、トラベラーズチェックをはじめとする文書にも存在している。多くの場合、スレッドは、部分的に埋め込まれるか、窓付き様式で提供される。窓付き様式では、スレッドが紙の内外に織り込まれているように見え、ベース基板の片面又は両面の窓に見える。いわゆる窓付きスレッドを備えた紙を製造するための方法の1つが、欧州特許出願公開第0059056号明細書に記載されている。欧州特許出願公開第0860298号明細書及び国際公開第03/095188号には、部分的に露出した幅広のスレッドを紙基板に埋め込むための異なる手法が記載されている。追加の露出スレッド表面積により、現在開示しているような光学可変装置のさらに良好な使用が可能になるため、典型的には2~6mmの幅を有する幅広のスレッドが、特に有用である。
【0101】
セキュリティ物品は、文書の少なくとも1つの窓にて、完成したセキュリティ基板の両面から見えるように、紙又はポリマーベース基板に組み込まれてもよい。そのような方法でセキュリティ要素を組み込む方法が、欧州特許出願公開第1141480号明細書及び国際公開第03/054297号に記載されている。欧州特許出願公開第1141480号明細書に記載された方法では、セキュリティ要素の片面は、セキュリティ要素が部分的に埋め込まれている基板の一方の表面で全体的に露出され、基板の他方の表面の窓で部分的に露出される。
【0102】
セキュリティ文書用のセキュリティ基板を作成するのに適したベース基板を、紙及びポリマーを含む任意の従来の材料から形成してもよい。このような種類の基板のそれぞれに実質的に透明な領域を形成するための技術は当技術分野で知られている。例えば、国際公開第83/00659号には、基板の両面に不透明被覆を備える透明基板から形成されたポリマー紙幣が記載されている。不透明被覆は、基板の両面の局所領域では除外され、透明領域を形成する。この場合、透明基板はセキュリティ装置の一体部分であっても、別個のセキュリティ装置を文書の透明基板に付与してもよい。国際公開第00/39391号には、紙基板に透明領域を作成する方法が記載されている。紙基板に透明領域を形成する他の方法が、欧州特許出願公開第723501号明細書、欧州特許出願公開第724519号明細書、国際公開第03/054297号及び欧州特許出願公開第13/98174号明細書に記載されている。
【0103】
セキュリティ装置はこのほか、任意選択で一部が紙基板に形成された開口部に位置するように、紙基板の片面に付与されてもよい。そのような開口部を製造する方法の一例が、国際公開第03054297号に記載されている。紙基板の一方の面の開口部で視認可能であり、紙基板の他方の面で全体的に露出するセキュリティ要素を組み込む代替方法が、国際公開第2000/39391号に記載されている。
【0104】
図15図16及び図17は、上記の種類のセキュリティ装置が組み込まれたセキュリティ文書の例を示す。図15は、第1の例示的なセキュリティ文書、ここでは紙幣1000を(a)平面図及び(b)線Q-Q’に沿った断面図で示す。ここで、紙幣1000はポリマー紙幣であり、従来の方法で各面が不透明層103a及び103bで被覆された内部透明ポリマー基板102を備える。場合によっては、不透明層は基板102の片面にのみ設けられてもよい。不透明層103a及び103bは、ここでは正方形の形状を有する窓101を形成するための文書の領域では除外されている。窓領域101内には、上記で考察した実施形態のいずれかによるセキュリティ装置100が位置づけられる。セキュリティ装置100は、回折構造が形成される基板102上に適切なレジスト材料を塗布することによって形成されてもよい。これとは別に、セキュリティ装置100は、転写パッチ又は転写ラベルなどのセキュリティ物品上に別個に形成されていてもよい。この場合、セキュリティ装置100は、適切な接着剤を用いて窓付き領域101の内側の透明基板102に貼り付けられてもよい。付与を、ホット又はコールド転写法、例えば、ホットスタンプによって実現してもよい。
【0105】
不透明層103a及び103bが、内部透明ポリマー層102に(接着剤の有無にかかわらず)積層された紙層によって置き換えられる、紙/プラスチック複合紙幣を使用して類似の構造を達成することがあり得ることに留意されたい。紙層は、最初から窓付き領域から除外されてもよく、あるいは、紙は積層後に局所的に除去されることがあり得る。他の構造では、層の順序を逆にして、(窓付き)紙層を内側に、透明ポリマー層を外側にしてもよい。
【0106】
図15は、不透明層が除外された領域が位置合わせされている「完全な」窓の使用を示す。装置100は、例えば、不透明層103bが窓付き領域101を横切って存在した場合、「半分の窓」に付与され得ることが理解されよう。
【0107】
図16では、紙幣1000は、例えば、紙又は他の比較的不透明又は半透明の材料で形成された基板102を有する従来の構造のものである。窓付き領域101は、基板102を貫通する開口部として形成される。セキュリティ装置100は、パッチセキュリティ物品を文書基板102に接合するために接着剤を利用して、窓101の縁部に重なるパッチとして付与される。さらに、セキュリティ装置の文書への付与は、ホットスタンプをはじめとするさまざまな方法を使用して実現されることがあり得る。図16(c)は、窓101が除外され、装置100がホットスタンプなどの任意の便利な付与技術を使用して基板102の区画に単純に付与される変形例を示す。そのような配置では、装置100は、当然、セキュリティ文書100の片側からのみ見えることになる。
【0108】
図17は、セキュリティスレッド又はセキュリティストリップの形態のセキュリティ物品105が付与されたセキュリティ文書、ここでも紙幣1000の第3の例を示す。それぞれストリップ105上に担持される3つのセキュリティ装置100が、文書1000上に一列に配置された窓101を通して現れる。文書の2つの代替構造を、図17(b)及び図17(c)に断面図で示す。図17(b)は、文書基板の2つの部分102a、102bの間でセキュリティ文書1000内に組み込まれたセキュリティスレッド又はストリップ105を示す。例えば、セキュリティスレッド又はセキュリティストリップ105は、周知の技術を使用して製紙プロセス中に基板の構造内に組み込まれてもよい。窓101を形成するために、紙は製紙プロセスの完了後に、例えば、剥離により、局所的に除去されてもよい。これとは別に、所望の窓付き領域の紙を除外するように製紙プロセスを設計することがあり得る。図17(c)は、セキュリティ装置100を担持するセキュリティスレッド又はセキュリティストリップ105が文書基板102の片面に、例えば、接着剤107を使用して、付与される代替配置を示す。窓101は、基板102に開口部を設けることによって形成される。開口部は、ストリップ105の付与前に存在しても、あるいは後で、例えば再び剥離によって形成されてもよい。
【0109】
上記で考察した種類のセキュリティ文書を組み込むための多くの代替技術が知られており、使用されることがあり得る。例えば、上記の装置構造は、身分証明書、運転免許証、キャッシュカード、パスポートをはじめとする積層構造を含む他のタイプのセキュリティ文書上に形成されることがあり得る。その場合、セキュリティ装置は文書の多層構造内に直接組み込まれてもよい。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6
図7
図8
図9
図10(a)】
図10(b)】
図11
図12
図13
図14
図15(a)】
図15(b)】
図16(a)】
図16(b)】
図16(c)】
図17(a)】
図17(b)】
図17(c)】
図18
【国際調査報告】