(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(54)【発明の名称】タイヤトレッド
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20240115BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
B60C11/00 E
B60C11/03 300A
B60C11/00 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537615
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2020047832
(87)【国際公開番号】W WO2022137317
(87)【国際公開日】2022-06-30
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】安藤 清輝
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA03
3D131BA18
3D131BB01
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC19
3D131EA06V
3D131EA06Z
3D131EA10V
3D131EA10Z
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB31V
3D131EB31X
3D131EC12V
3D131EC12X
(57)【要約】
本発明は、回転中に地面と接触することが意図された接触面を有するタイヤ用トレッドであって、複数の接触要素を構成する材料は60℃でMbの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgbを有し、接触要素の少なくとも1つは、少なくとも部分的に円周方向を向いている接触要素の側面の少なくとも1つを覆う被覆層を備えており、被覆層は、接触要素の外側に向く外側被覆層及び接触要素の内側に向く内側被覆層の少なくとも2つの層を含み、外側被覆層を構成する材料は、60℃でMoの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgoを有すると共に、内側被覆層を構成する材料は、60℃でMiの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgiを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中に地面と接触することが意図された接触面(2)を有するタイヤ用のトレッド(1)であって、前記トレッド(1)は、深さDpの少なくとも1つの主溝(3)と、前記少なくとも1つの主溝(3)が延びている方向に対して所定の角度で延びる深さDsの複数の副溝(4)とを備え、前記少なくとも1つの主溝(3)及び前記複数の副溝(4)は、複数の接触要素(5)の境界を定め、前記複数の接触要素(5)を構成する材料は、60℃でMbの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgbを有し、前記複数の接触要素(5)のうちの少なくとも1つの接触要素(5)は、少なくとも部分的に円周方向を向いている前記接触要素(5)の側面(7)の少なくとも1つを覆う被覆層(6)を備え、
前記トレッドは、被覆層(6)が、前記接触要素(5)の外側に向く外側被覆層(61)及び前記接触要素(5)の内側に向く内側被覆層(62)の少なくとも2つの層を含み、前記外側被覆層(61)を構成する材料は、60℃でMoの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgoを有し、前記内側被覆層(62)を構成する材料は、60℃でMiの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgiを有し、前記接触要素(5)を構成する材料の前記60℃でMbの弾性率G
*は、前記内側被覆層(62)を構成する材料の前記60℃でMiの弾性率G
*よりも高く、前記外側被覆層(61)を構成する材料の前記60℃でMoの弾性率G
*は、前記接触要素(5)を構成する材料の前記60℃でMbの弾性率G
*よりも高い、及び/又は、前記接触要素(5)を構成する材料の前記ガラス転移温度Tgbは、前記内側被覆層(62)を構成する材料の前記ガラス転移温度Tgiよりも高く、前記外側被覆層(61)を構成する材料の前記ガラス転移温度Tgoは、前記接触要素(5)を構成する材料の前記ガラス転移温度Tgbよりも高い、ことを特徴とする、トレッド(1)。
【請求項2】
前記被覆層(6)が面している前記主溝(3)又は前記副溝(4)の延在方向に対して垂直な方向で前記接触面(2)に平行な平面上で測定した前記被覆層(6)の厚さは、最大で2.0mmに等しい、請求項1に記載のトレッド(1)。
【請求項3】
前記被覆層(6)が面している前記主溝(3)又は前記副溝(4)の延在方向に対して垂直な方向で前記接触面(2)に平行な平面上で測定した前記内側被覆層(62)の厚さは、同じ平面上で測定した前記外側被覆層(61)の厚さより厚い、請求項1又は2に記載のトレッド(1)。
【請求項4】
前記被覆層(6)が面している前記主溝(3)又は前記副溝(4)の延在方向に対して垂直な方向で前記接触面(2)に平行な平面上で測定した前記内側被覆層(62)の厚さは、同じ平面上で測定した前記外側被覆層(61)の厚さより薄い、請求項1又は2に記載のトレッド(1)。
【請求項5】
前記被覆層(6)の幅は、前記接触要素(5)の幅の35%に少なくとも等しい、請求項1から4のいずれか一項に記載のトレッド(1)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用トレッドに関し、詳細には、冬期路面での性能を維持しながら、非冬期路面での性能向上を実現するためのタイヤ用トレッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冬期路面での走行性能を有しながら、非冬期路面での高速走行性能を維持できる、いわゆる「オールシーズン」タイヤが普及し始めている。
【0003】
また、氷又は雪に覆われた冬期路面での走行に適した、いわゆるスタッドレスタイヤにおいても、冬期路面での性能を向上させながら、氷又は雪に覆われていない非冬期路面での性能向上が望まれている。
【0004】
冬期及び非冬期の両方で性能を向上させるためには、ブロックの側面に硬い層を導入することが有効であり、ブロックの側面に導入された硬い層はいわゆるエッジ圧を効率的に増加させる。
【0005】
国際公開第2013/088570号には、タイヤのトレッドの接地要素の側壁部に補強層6の設けられている空気入りタイヤ用トレッド及びそのようなトレッドを有する空気入りタイヤが開示されており、補強層は、0.5mm未満の平均厚さを有し、側壁部の少なくとも50%以上の領域にわたって設けられ、少なくとも200MPa以上の材料の弾性率を有している。
【0006】
特開平07-047814号公報には、冬期路面での性能を向上させるために、3つの細い切込みと1つの補助溝を備えたブロックにおいて、横溝と補助溝に面したブロック側壁にJIS A硬度が80から95度のゴムを用いた補強層を有するタイヤ用トレッドが開示されている。
【0007】
特開2010-105509号公報には、少なくとも-60℃に等しいガラス転移温度を有するゴム成分を30重量%以上含むジエン系ゴム100重量部に対し、カーボンブラック及びシリカの少なくとも一方を50重量部以上配合した組成物を備え、冬期路面及び非冬期路面の両方での性能を向上させるためにブロックの側壁に最大-30℃の脆化温度を有するゴムを用いた補強層を設けるタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/088570号
【特許文献2】特開平07-047814号公報
【特許文献3】特開2010-105509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの文献に開示された解決策では、良好なエッジ効果を提供する硬質/補強層が温度依存性を有するため、非冬期性能、特にウェット性能の改善は満足できるものではなく、特に冬期性能の改善をもたらすものは、低い路面温度でのウェット性能に悪影響を及ぼす。従って、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能の改善を提供することが望まれている。
【0010】
従って、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能の改善をもたらすタイヤ用トレッドが必要である。
【0011】
定義
【0012】
「半径方向/配向」は、タイヤの回転軸に垂直な方向/配向である。この方向/配向は、トレッドの厚さ配向に対応する。
【0013】
「軸方向/配向」は、タイヤの回転軸に平行な方向/配向である。
【0014】
「円周方向/配向」は、回転軸を中心とする何らかの円の接線方向にある方向/配向である。この方向/配向は、軸方向/配向と半径方向/配向の両方に対して垂直である。
【0015】
「タイヤ」は、内圧を受けるか否かにかかわらず、全てのタイプの弾性タイヤを意味する。
【0016】
タイヤの「トレッド」は、側面と、2つの主面(その1つはタイヤの回転時に地面と接触することが意図されている)とによって境界が定められた一定量のゴム材料を意味する。
【0017】
「溝」は、2つのゴム面/側壁の間の空間であり、2つのゴム面/側壁は別のゴム面/底面によって連結される通常の回転状態ではそれ自体接触しない。溝は、幅と深さを有する。
【0018】
「サイプ」とも呼ばれる「切込み」は、例えばナイフの刃のような形状を有する薄い刃によって作られたトレッドの表面から半径方向内側に向かって形成された狭い切り欠きである。トレッドの表面における切込みの幅は、溝よりも狭く、例えば2.0mm以下である。この切込みは、溝とは異なり、このような切込みはタイヤ接地面内で、通常の回転状態である場合に部分的に又は完全に閉じられる可能性がある。
【0019】
「タイヤ接地面」は,ETRTO、JATMA、TRAなどのタイヤ標準規格において識別される及び公称圧力及び公称荷重で膨張されるその標準リムに取り付けられるタイヤのフットプリントである。タイヤ接地面の「幅TW」は、タイヤの回転軸に沿ったタイヤ接地面の最大接触幅である。
【0020】
弾性率G
*は、60℃における材料の動的せん断複素弾性率である。当業者には周知の動的特性である、G’で表される貯蔵弾性率及びG’’で表される損失弾性率は、生の組成物から成形した試験片又は加硫後の組成物と組み合わせた試験片を用いて、粘性分析器(マイクロアナライザ:Metravib VB4000)によって測定される。使用される試験片は、ASTM D 5992-96(2006年9月に公開された、当初1996年に承認されたバージョン)の
図X2.1(円形方式)に記載のものである。試験片の直径「d」は10mm(その結果、試験片は78.5mm
2の円形断面を有する)であり、ゴム組成物の各部の厚さ「L」は2mmであり、(ASTM規格の段落X2.4に記載されている規格ISO2856で推奨される比率「d/L」が2であるのに対し)比率「d/L」は5である。試験では、10Hzの周波数において単純な交互正弦波のせん断荷重を受ける加硫ゴム組成物の試験片の応答を測定する。試験中に課される最大せん断応力は0.7MPaである。試験は、ゴム材料のガラス転移温度(Tg)よりも低い温度であるTminから、100℃付近の最高温度Tmaxまで、1分間に1.5℃の割合で温度を変化させることにより行う。試験片は、試験片内の温度の良好な均一性を得るために、試験開始前にTminで約20分間安定させる。得られる結果は、所定の温度における貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G’’)である。複素弾性率G
*は、貯蔵弾性率及び損失弾性率の絶対値に関して、以下の式により定義される。
(式1)
【0021】
従って、本発明の目的は、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能の改善を実現するタイヤ用トレッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、回転中に地面と接触することが意図された接触面を有するタイヤ用のトレッドを提供し、トレッドは、深さDpの少なくとも1つの主溝と、少なくとも1つの主溝が延びている方向に対して所定の角度で延びる深さDsの複数の副溝とを備え、少なくとも1つの主溝及び複数の副溝は、複数の接触要素の境界を定め、複数の接触要素を構成する材料は、60℃でMbの弾性率G*及びガラス転移温度Tgbを有し、複数の接触要素のうちの少なくとも1つの接触要素は、少なくとも部分的に円周方向を向いている接触要素の側面の少なくとも1つを覆う被覆層を備え、被覆層は、接触要素の外側に向く外側被覆層及び接触要素の内側に向く内側被覆層の少なくとも2つの層を含み、外側被覆層を構成する材料は、60℃でMoの弾性率G*及びガラス転移温度Tgoを有し、内側被覆層を構成する材料は、60℃でMiの弾性率G*及びガラス転移温度Tgiを有し、接触要素を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*は、内側被覆層を構成する材料の60℃でMiの弾性率G*よりも高く、外側被覆層を構成する材料の60℃でMoの弾性率G*は、接触要素を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*よりも高い、及び/又は、接触要素を構成する材料のガラス転移温度Tgbは、内側被覆層を構成する材料のガラス転移温度Tgiよりも高く、外側被覆層を構成する材料のガラス転移温度Tgoは、接触要素を構成する材料のガラス転移温度Tgbよりも高い。
【0023】
この構成は、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能の改善を可能にする。
【0024】
接触要素の少なくとも1つが、少なくとも部分的に円周方向を向いている接触要素の側面の少なくとも1つを覆う被覆層を備えるので、被覆層は、特に冬期路面で良好なエッジ効果を発生させる。従って、冬期路面での性能を改善することができる。
【0025】
被覆層は、接触要素の外側に向く外側被覆層及び接触要素の内側に向く内側被覆層の少なくとも2つの層を含み、外側被覆層を構成する材料は、60℃でMoの弾性率G*及びガラス転移温度Tgoを有し、内側被覆層を構成する材料は、60℃でMiの弾性率G*及びガラス転移温度Tgiを有するので、被覆層は、異なる弾性率G*と異なるガラス転移温度の組み合わせにより特に非冬期路面で広い温度範囲に適応することができる。従って、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができる。
【0026】
接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*が、内側被覆層62を構成する材料の60℃でMiの弾性率G*より高く、外側被覆層61を構成する材料の60℃でMoの弾性率G*が、接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*より高いため、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができ、その理由は、外側被層61を構成する材料の60℃でMoの弾性率G*が、接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*よりも高いことで、特に冬期路面及び比較的低温の非冬期路面でエッジ効果を効率よく発生させることができ、さらに、接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*が、内側被覆層62を構成する材料の60℃でMiの弾性率G*よりも高いことが、内側被覆層の60℃での比較的低い弾性率のおかげで、特に比較的高温の非冬期路面で、内側被覆層62で曲げを発生させることで、外側被覆層61によって高いミュー(mu)を発生させることを助けるからであり、及び/又は、接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbが内側被覆層62を構成する材料のガラス転移温度Tgiより高く、外側被覆層61を構成する材料のガラス転移温度Tgoが接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbより高いため、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができ、その理由は、接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbが、内側被覆層62を構成する材料のガラス転移温度Tgiよりも高いことが、内側被覆層の比較的高いガラス転移温度のおかげで、特に比較的高温の非冬期路面で、内側被覆層62で曲げを発生させることで、外側被覆層61を介して高いミュー(mu)を発生させるのを助け、さらに、外側被覆層61を構成する材料のガラス転移温度Tgoが、接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbよりも高いことが、特に冬期路面及び比較的低温の非冬期路面でエッジ効果を効率的に発生させることができるからである。
【0027】
別の好ましい実施形態では、被覆層が面している主溝又は副溝の延在方向に対して垂直な方向で接触面に平行な平面上で測定した被覆層の厚さは、最大で2.0mmに等しい。
【0028】
被覆層の厚さが2.0mmを超えると、接触要素の接触面における接触圧の分布が不適切になり、冬期路面、特に氷路面での性能の低下につながる。この被覆層の厚さを最大で2.0mmとすることで、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができる。
【0029】
被覆層が面している主溝又は副溝の延在方向に対して垂直な方向で接触面に平行な平面上で測定したこの被覆層の厚さは、好ましくは最大で1.5mmに等しく、より好ましくは最大で1.0mmに等しい。
【0030】
別の好ましい実施形態では、被覆層が面している主溝又は副溝の延在方向に対して垂直な方向で接触面に平行な平面上で測定した内側被覆層の厚さは、同じ平面上で測定した外側被覆層の厚さより厚い。
【0031】
この構成によれば、内側被覆層が、特に比較的高温の非冬期路面で、内側被覆層で曲げを発生させることで、外側被覆層によって高いミュー(mu)を発生させる能力を高めるので、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができる。
【0032】
別の好ましい実施形態では、被覆層が面している主溝又は副溝の延在方向に対して垂直な方向で接触面に平行な平面上で測定した内側被覆層の厚さは、同じ平面上で測定した外側被覆層の厚さより薄い。
【0033】
この構成によれば、側被覆層が、スクレイピング力(scraping power)及び接触面を増大させることにより特に冬期路面でエッジ効果をより確実に発生させるので、冬期路面での性能をさらに改善することができる。
【0034】
別の好ましい実施形態では、被覆層の幅は、接触要素の幅の35%に少なくとも等しい。
【0035】
この被覆層の幅が接触要素の幅の35%未満である場合、被覆層の不十分な体積に起因して、非冬期路面での外側被覆層を介した高いミュー(mu)の発生、及び、冬期路面及び非冬期路面でのエッジ効果の両方が機能するリスクがある。被覆層の幅を接触要素の幅の少なくとも35%とすることで、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができる。
【0036】
この被覆層の幅は、好ましくは接触要素の幅の少なくとも50%に等しく、より好ましくは接触要素の幅の少なくとも60%に等しく、さらに好ましくは接触要素の幅の少なくとも80%に等しい。
【0037】
(発明の有利な効果)
上述の構成によれば、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善するタイヤ用トレッドを提供することができる。
【0038】
本発明の他の特徴及び利点は、非制限的な例として、本発明の実施形態を示す添付図面を参照して以下に行われる説明から生じる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるトレッドの概略平面図である。
【
図2】異なる変形例(a)、(b)及び(c)における
図1の線II-IIに沿った概略断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態によるトレッドの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0041】
本発明の第1の実施形態によるタイヤ用トレッド1は、
図1及び
図2を参照して以下に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるトレッドの概略平面図である。
図2は、異なる変形例(a)、(b)及び(c)における
図1の線II-IIに沿った概略断面図である。
【0042】
トレッド1は、寸法225/45R17を有するタイヤ用のトレッドであり、回転時に地面と接触することが意図された接触面2と、深さDpの少なくとも1つの主溝3(
図2に示す)と、少なくとも1つの主溝3が延びている方向に対して所定の角度で延びる深さDsの複数の副溝4(
図2に示す)とを備える。トレッド1は、少なくとも1つの主溝3と複数の副溝4とによって境界が定められた複数の接触要素5を備える。複数の接触要素5を構成する材料は、60℃でMbの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgbを有する。この第1の実施形態では、トレッド1は、線C-C’で示される中心線と平行な
図1における上下方向である円周方向に延びる少なくとも2つの主溝3を有し、複数の副溝4は、円周方向と直交する軸方向に延在する。
【0043】
図1に示すように、複数の接触要素5のうちの少なくとも1つの接触要素5は、少なくとも部分的に円周方向を向いている接触要素5の側面7の少なくとも1つを覆う被覆層6を備えている。この第1の実施形態では、被覆層6は、接触要素5の全幅を覆っている。
【0044】
図1及び2に示すように、被覆層6は、接触要素5の外側に向く外側被覆層61と、接触要素5の内側に向く内側被覆層62との少なくとも2つの層を含む。外側被覆層61を構成する材料は、60℃でMoの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgoを有し、内側被覆層62を構成する材料は、60℃でMiの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgiを有する。
【0045】
接触要素5、外側被覆層61及び内側被覆層62は、接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*が、内側被覆層62を構成する材料の60℃でMiの弾性率G*より高く、外側被覆層61を構成する材料の60℃でMoの弾性率G*が、接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*より高いように構成されている。
【0046】
また、接触要素5、外側被覆層61及び内側被覆層62は、接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbが、内側被覆層62を構成する材料のガラス転移温度Tgiより高く、外側被覆層61を構成する材料のガラス転移温度Tgoが、接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbより高いように構成されている。
【0047】
図1及び
図2に示すように、被覆層6が面している主溝3又は副溝4の延在方向に対して垂直な方向で接触面2に平行な平面上で測定した被覆層6の厚さは、最大でも2.0mmに等しい。
【0048】
図1及び
図2(a)に示すように、被覆層6が面している主溝3又は副溝4の延在方向に対して垂直な方向で接触面2に平行な平面上で測定した内側被覆層62の厚さは、同じ平面上で測定した外側被覆層61の厚さと等しい。変形例として、
図2(b)に示すように、被覆層6が面している主溝3又は副溝4の延在方向に対して垂直な方向で接触面2に平行な平面上で測定した内側被覆層62の厚さは、同じ平面上で測定した外側被覆層61の厚さより薄くすることができる、又は、
図2(c)に示すように、被覆層6が面している主溝3又は副溝4の延在方向に対して垂直な方向で接触面2に平行な平面上で測定した内側被覆層62の厚さは、同じ平面上で測定した外側被覆層61の厚さより厚くすることができる。
【0049】
接触要素5の少なくとも1つが、円周方向を向いている接触要素5の側面7の少なくとも1つを覆う被覆層6を備えているので、被覆層6は、特に冬期路面で良好なエッジ効果を発生する。従って、冬期路面での性能を改善することができる。
【0050】
被覆層6は、外側被覆層61と内側被覆層62の少なくとも2つの層を含み、接触要素5の外側に面している外側被覆層61は、外側被覆層61を構成する材料が60℃でMoの弾性率G*及びガラス転移温度Tgoを有し、接触要素5の内側に面している内側被覆層62は、内側被覆層62を構成する材料が60℃でMiの弾性率G*及びガラス転移温度Tgiを有するので、被覆層6は、異なる弾性率G*と異なるガラス転移温度の組み合わせにより特に非冬期路面で広い温度範囲に適応することができる。従って、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができる。
【0051】
接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*が、内側被覆層62を構成する材料の60℃でMiの弾性率G*より高く、外側被覆層61を構成する材料の60℃でMoの弾性率G*が、接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*より高いため、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができ、その理由は、外側被層61を構成する材料の60℃でMoの弾性率G*が、接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*よりも高いことで、特に冬期路面及び比較的低温の非冬期路面でエッジ効果を効率よく発生させることができ、さらに、接触要素5を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*が、内側被覆層62を構成する材料の60℃でMiの弾性率G*よりも高いことが、内側被覆層の60℃での比較的低い弾性率のおかげで、特に比較的高温の非冬期路面で、内側被覆層62で曲げを発生させることで、外側被覆層61によって高いミュー(mu)を発生させることを助けるからである。
【0052】
接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbが内側被覆層62を構成する材料のガラス転移温度Tgiより高く、外側被覆層61を構成する材料のガラス転移温度Tgoが接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbより高いため、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができ、その理由は、接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbが、内側被覆層62を構成する材料のガラス転移温度Tgiよりも高いことが、内側被覆層の比較的高いガラス転移温度のおかげで、特に比較的高温の非冬期路面で、内側被覆層62で曲げを発生させることで、外側被覆層61を介して高いミュー(mu)を発生させるのを助け、さらに、外側被覆層61を構成する材料のガラス転移温度Tgoが、接触要素5を構成する材料のガラス転移温度Tgbよりも高いことが、特に冬期路面及び比較的低温の非冬期路面でエッジ効果を効率的に発生させることができるからである。
【0053】
また、被覆層6が面している主溝3又は副溝4の延在方向に対して垂直な方向で接触面2に平行な平面上で測定した被覆層6の厚さは、最大でも2.0mmに等しいので、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができる。
【0054】
被覆層6の厚さが2.0mmを超えると、接触要素5の接触面2における接触圧の分布が不適切になり、冬期路面、特に氷路面での性能の低下につながる。
【0055】
被覆層6が面している主溝3又は副溝4の延在方向に対して垂直な方向で接触面2に平行な平面上で測定したこの被覆層6の厚さは、好ましくは最大で1.5mmに等しく、より好ましくは最大で1.0mmに等しい。
【0056】
被覆層6が面している主溝3又は副溝4の延在方向に対して垂直な方向で接触面2に平行な平面上で測定した内側被覆層62の厚さを、同じ平面上で測定した外側被覆層61の厚さよりも厚く設計する場合、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができ、その理由は、内側被覆層62が、特に比較的高温の非冬期路面で、内側被覆層62で曲げを発生させることで、外側被覆層61によって高いミュー(mu)を発生させる能力を高めるからである。
【0057】
被覆層6に面している主溝3又は副溝4の延在方向に対して垂直な方向で接触面2に平行な平面上で測定した内側被覆層62の厚さを、同じ平面上で測定した外側被覆層61の厚さより薄く設計すると、冬期路面での性能を改善することができ、その理由は、外側被覆層61が、スクレイピング力(scraping power)及び接触面を増大させることにより特に冬期路面でエッジ効果をより確実に発生させるからである。
【0058】
主溝3の深さDp及び副溝4の深さDsは、この第1の実施形態のように同じとすること、又は異なることができる。
【0059】
被覆層6は、円周方向に面していない側面7を含む他の側面7を被覆するように設けることができる。
【0060】
被覆層6全体、外側被覆層61又は内側被覆層62の厚さは、半径方向及び/又は軸方向に変化する場合がある。
【0061】
半径方向において、外側被覆層61及び内側被覆層62は、異なる長さを有することができる。好ましくは、被覆層6、外側被覆層61又は内側被覆層62の全体は、トレッド1の法定摩耗限度を示す手段に相当するレベルまで利用可能とすることができる。
【0062】
図3を参照して本発明の第2の実施形態によるトレッド21を説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態によるトレッドの概略的平面図である。この第2の実施形態の構成は、
図3に示す配置以外は第1の実施形態と同様であるため、
図3を参照して説明する。
【0063】
図3に示すように、トレッド21は、回転時に地面と接触することが意図された接触面22と、中心から肩部まで軸方向に対して斜めに延びる深さD(図示せず)の少なくとも1つの主溝23と、少なくとも1つの主溝23が延びる方向に対して所定の角度で延びる深さDs(図示せず)の複数の副溝24とを備える。少なくとも1つの主溝23及び複数の副溝24は、複数の接触要素25の境界を定める。複数の接触要素25を構成する材料は、60℃でMbの弾性率G
*と、ガラス転移温度Tgbを有する。
【0064】
図3に示すように、複数の接触要素25のうち少なくとも1つの接触要素25は、少なくとも部分的に円周方向を向いている接触要素25の側面27の少なくとも1つを覆う被覆層26を備えており、被覆層26は、接触要素25の外側に向く外側被覆層261と接触要素25の内側に向く内側被覆層262との少なくとも2つの層を含む。外側被覆層261を構成する材料は、60℃でMoの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgoを有し、内側被覆層262を構成する材料は、60℃でMiの弾性率G
*及びガラス転移温度Tgiを有する。この第2の実施形態では、被覆層26は、トレッド21の中央領域に配置された接触要素25の2つの側面27を覆う。
【0065】
図3に示すように、被覆層26の幅は、接触要素25の幅の35%に少なくとも等しい。
【0066】
被覆層26の幅は、接触要素25の幅の少なくとも35%に等しいので、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することができる。
【0067】
この被覆層26の幅が接触要素25の幅の35%未満である場合、被覆層26の不十分な体積に起因して、非冬期路面での外側被覆層261を介した高いミュー(mu)の発生、及び、冬期路面及び非冬期路面でのエッジ効果の両方が機能するリスクがある。
【0068】
この被覆層26の幅は、好ましくは接触要素25の幅の少なくとも50%に等しく、より好ましくは接触要素25の幅の少なくとも60%に等しく、さらに好ましくは接触要素25の幅の少なくとも80%に等しい。
【0069】
複数の側面27が円周方向に向いているとしても、被覆層26は、複数の側面27のうちの1つのみに設けることができる。
【0070】
本発明は、記載され示された実施例に限定されるものではなく、その枠組みを離れることなく、そこに様々な変更を加えることができる。
【実施例】
【0071】
本発明の効果を確認するために、本発明を適用した実施例の2つのタイプのタイヤと、参考例及び比較例の他のタイプのタイヤを準備した。
【0072】
実施例は、上記第1の実施形態に記載のトレッドを有し、接触要素は、接触面に開いており軸方向に完全に延びる切込みを備える。被覆層は、外側被覆層及び内側被覆層を含む。実施例1は、内側被覆層を構成する材料のガラス転移温度Tgiよりも高い、接触要素を構成する材料のガラス転移温度Tgbを有するように(Tgbは「=」、Tgiは「-」で表示)、及び、接触要素を構成する材料のガラス転移温度Tgbよりも高い、外側被覆層を構成する材料のガラス転移温度Tgoを有するよう(Tgbは「=」、Tgoは「+」で表示)構成されている。実施例2は、内側被覆層を構成する材料の60℃でMiの弾性率G*よりも高い、接触要素を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*を有するように(Mbは「=」、Miは「-」で表示)、及び、接触要素を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*よりも高い、外側被覆層を構成する材料の60℃でMoの弾性率G*を有するように(Mbは「=」、Moは「+」で表示)構成されている。比較例は、実施例2と同等であるが、内側被覆層を構成する材料の60℃でMiの弾性率G*よりも高い、接触要素を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*を有するように(Mbは「=」、Miは「-」で表示)、及び、接触要素を構成する材料の60℃でMbの弾性率G*よりも低い、外側被覆層を構成する材料の60℃でMoの弾性率G*を有するように(Mbは「=」、Moは「--」で表示)構成されている。参考例は、単一の被覆層を備えるタイヤである。実施例、比較例及び参考例の全ての内部構造は、上記以外、典型的なラジアルタイヤの構造と同じである。
【0073】
冬期性能試験:
【0074】
-雪上制動:
【0075】
2,000ccの前輪駆動車の4輪全てに新品の試験タイヤを装着した。直線路の圧雪路で、ABS(アンチロックブレーキシステム)による制動を時速50kmで行い、時速5kmまでの距離を測定した。
【0076】
結果を表1及び表2に示す。これらの表1及び表2において、結果は、参考例を100とする指数で表されており、数値が大きいほど性能が良いことを示す。
【0077】
非冬期性能試験:
【0078】
-ぬれた路面制動:
【0079】
2,000ccの前輪駆動車の4輪全てに新品の試験タイヤを装着した。直線路の深さ1mmのぬれた路面で、ABS(アンチロックブレーキシステム)による制動を時速100kmで行い、時速10kmまでの距離を測定した。
【0080】
同様に結果を表1及び表2に示す。これらの表1及び表2において、結果は、参考例を100とする指数で表され、数値が大きいほど性能が良いことを示す。
【0081】
【0082】
【0083】
表1及び表2から分かるように、実施例は、先行技術に開示されたトレッドでは達成できない、冬期路面での性能を維持あるいはさらに改善しながら、広い温度範囲で非冬期路面での性能を改善することを示す。
【符号の説明】
【0084】
1、21 トレッド
2、22 接触面
3、23 主溝
4、24 副溝
5、25 接触要素
6、26 被覆層
61、261 外側被覆層
62、262 内側被覆層
7、27 側面
【国際調査報告】